勇者「勇者の為の勇者?」(189)
勇者の父「そうだ。俺と母さんは、お前を産むために生かされてきた。」
勇者の母は「そしてお前は、お前の子を産む為に生かされているの」
勇者「僕には難しくてよくわからないよ……」
勇者の父「……いずれわかる日が来る。それまで旅を続けるのだ!」
勇者「よくわからないけどわかったよ!父さん!」
こうして、元気よく旅に出た勇者だった
数十年後……
勇者29歳「やべぇ、俺、童貞のままだ」
この数十年の辛い童貞の道程に心が折れていたのだった…… fin
王「馬鹿な…早過ぎる…!」
大臣「しかしながら占術師らが占いますに、魔王復活までの時間はあといくばくも無いと…」
王「ぬぅ…よりによってこのヘタレ童貞勇者の代にかちあうことになろうとは…!」
大臣「はっ…よもやこれほどまでに急激にとは…」
王「…勇者の父親はどうか?」
大臣「齢50を越えていてはさすがに…」
王「えぇい!ならば兄弟はおらんのか!?」
大臣「勇者はその時代に一人のみ…おりません」
王「…終わったか…」
大臣「せめて後20年あれば…」
王「………」
王「勇者よ、魔王が復活しようとしている話は聞いておるな?」
勇者「は、はっ!先日、噂で…」
王「ならば話は早い。行け!勇者よ!見事、魔王を討伐してまいれぃ!」
勇者「お、俺がですか!?」
大臣「他に誰がおりますか?勇者の血統を絶やさず、保護してきたのはすべてこの時のため…責務を果たす時がきたのです」
勇者「しかし…俺はこの通りのふがいなさで…とても魔王を倒すなんてことは…」
王「途中で力尽きるならばそれでもよい」
勇者「…え?」
王「時代に勇者は一人という。ならばそなたが死ねば新しい勇者が生まれよう」
勇者「それは…ど、どういう意味で…」
大臣「はっきり言いましょう。あなたは捨て石なのです」
勇者「捨て…石…」
勇者『………』
大臣「よろしいのですか?」
王「出陣式まで行ったからには逃げられはせん」
大臣「なるほど、魔物が代わりに手を下してくれると…」
王「滅多なことを言うな。それに腐っても勇者の一族…復活前ならばひょっとして魔王を倒すやもしれん」
大臣「はっ…」
王「…次の勇者を早く仕込ませるのだ」
大臣「御意にございます」
勇者の父『そうかお前の代で…』
勇者の母『貴方には平和な時代を生きて欲しかったのだけれど…』
勇者の父『勇者』
勇者『…はい』
勇者の父『顔をあげなさい。…お前は私達の子だ。きっと役目を果たすことが出来る』
勇者『………』
勇者の母『えぇ。そうですとも。…元気な姿でまた会える時を楽しみにしていますよ?』
勇者『父さん…母さん…』
・
・
・
勇者「…役目を果たすなんて簡単だって…玉砕すれば良いんだから…」
勇者「………」
カランッ…
親父「おう、いらっしゃい」
親父「なんだぁ?勇者じゃねーか」
勇者「…どうも」
親父「聞いたぜ?魔王討伐の旅に出るんだってな」
勇者「………」
親父「まさか勇者もどきだとか、勘違い勇者だとか呼ばれてるお前がなぁ…」
勇者「おやっさん、やめてくれよ」
親父「ああ、すまんな。勇者様」
勇者「…チッ…」
親父「しかし、旅に出るなら来る酒場を間違ってるぞ?仲間を集めるなら向かいの冒険者の酒場に…」
勇者「そんなことはわかってる!…景気付けに酒くらい飲ませろってんだ!」
親父「はいはい…」
親父『まぁ、せいぜい頑張れや。万が一魔王を討ち取りでもしたらうちの株も上がるかもしれんしな』
勇者『…万が一ってなんだよ…』
親父『万に一つでも足りないか?』
勇者『………』
親父『…せめてスライムに負ける、なんて恥ずかしい死に方は…』
・
・
・
勇者「言いたい放題言いやがって…人の気も知らずに…!」
カランッ…
女将「あら、いらっしゃ…」
勇者「仲間を探してる」
女将「えぇと…」
勇者「?」
勇者「仲間が集えないってどういうことだよ!?」
女将「それがねぇ…王様から御触れが出てね」
勇者「御触れ?そんなの俺は一言も…」
女将「魔王復活に伴って活性化する魔物を抑えるのに、名のある冒険者は強制徴兵されちゃったのよ…」
勇者「…なんだよ、それ…」
女将「残ってるのは自称冒険者の浮浪者ばかり…とてもじゃないけど魔王討伐の旅になんかついて行かせられないわ」
勇者「ほんとに…玉砕してこいって言うんだな…」
女将「…ごめんなさいね。私じゃどうにも…」
勇者「………」
町人A「おー!勇者様の出陣だぞ!」
勇者「………」
町人B「頼りねぇなぁ…討伐出来ないに10G」
胴元「おいおい…誰か討伐してくる方に賭けろよ。賭けが成立しねぇだろうが」
町人C「負けるってわかってて賭ける馬鹿なんかいるかよ?大穴にもなりゃしねぇ」
胴元「…はぁ…やめだやめだ」
町人B「ふざけんなよ!いまさら…」
胴元「どの町まで辿り着けるか?…に変更しねぇか?」
町人B「町か…良いぜ?そうだなぁ…」
勇者「………」
門兵A「来たか。逃げ出さなかったのは褒めてやるよ」
勇者「………」
門兵B「逃げられるわけねぇだろ?出陣式までしてよぉ?」
門兵A「旅人の服でか?…くくくっ」
勇者「…いいから早く開けてくれ」
門兵A「お?何コイツ…やる気満々って?勇者もどきのくせに格好だけは一人前ってか?」
門兵B「おい、止せ。関わるなよ。…どうせすぐにおっ死ぬんだ。格好くらい付けさせてやれ」
門兵A「わかったよ…開門!!」
ギギギ…
勇者「………」
門兵A「成仏しろよ?」ニヤニヤ…
門兵B「…だから相手にするなって。閉めるぞ?」
ゴゴゴ…
勇者「これから何処へ行こうか…」
勇者「…何処へ行っても同じか。結局、どのタイミングで死ぬかの違いしかない…」
勇者「………」ガサッ…
勇者「確か…ここから東に行った所に母さんの出身地の村があったっけ…」
勇者「祖父さん、祖母さんは死んでるみたいだけど…最後に見てくのも悪くはないかな…」
・
・
・
―街道―
勇者「このっ…!」
ミス!スライム にダメージを与えられない!
スライム「ピキィ?」
勇者「くそっ!なんで…!」
スライムの攻撃!会心の一撃!勇者に…
勇者「う、うわぁあ!?」
勇者 は目の前が真っ黒になった…
勇者(俺は死んだのか…?)
勇者(…情けない。酒場の親父の言った通りになっちまった。スライム一匹…倒せやしないなんてな)
『もし…』
勇者(…まぁ良いか…どうせ俺がいた所で次の勇者の邪魔でしかない。ならこうなることが…)
『もし…!』
勇者(…うるさいな。最期くらいそっとしててくれ。俺の役割はもう終わったん…)
旅人「…いい加減、起きろ!この野郎!!」ドガッ!
勇者「どうあぁ!?」
旅人「やっと目覚ましやがったか…」
勇者「あ、あれ?」
旅人「…お加減はいかがですか?」
勇者「生きてる…のか?」
旅人「どうやら良いようですね…」
勇者「…修業の旅を?一人でですか?」
女僧侶「はい。少し前に転職致しまして…自らを鍛え直すためにも、と」
勇者「そうですか…でも助かりました。スライムにてこずってしまって…」
女僧侶「…まぁ、最下級とはいえ魔物ですものね。一般人には少々荷が重いかもしれません」
勇者「…はい…」
女僧侶「それで勇者様はどちらまで?近頃は魔物の動きが活発と聞きます。よろしければ近くの町までご一緒して差し上げようかと…」
勇者「………」
女僧侶「…どうかなさいましたか?」
勇者「…いえ…じ、実は…」
女僧侶「冗談でしょう?」
勇者「いえ、本当のことなんです…」
女僧侶「スライムにすら負ける貴方が当代の勇者?…神への冒涜ですわ」
勇者「ほ、本当なんです!信じてもらえないかも知れないですけど、俺が…」
女僧侶「…勇者という者は魔王が蘇りし時に、その神より授かりし力を持って世界に平和を…」
勇者「…だ、だから一応、現役勇者である俺は旅を…」
女僧侶「……しろ…」
勇者「まぁ…死に場所を求めてってのが正しいのかもしれませんけ…」
女僧侶「いい加減にしろ!!」
勇者「えうっ!?」
女僧侶「テメェみたいなひょろひょろした奴が勇者だぁ!?ああ?女誘うにしてももう少しマシな嘘をつきやがれ!」
勇者「…え…あ…そ、その…」
女僧侶「このカスがっ!」
女僧侶「もう知らねぇ…勝手に野垂れ死にな!」
勇者「…お、女僧侶さん?」
女僧侶「軽々しく呼ぶんじゃ…呼ばないで頂けますか?」
勇者「す、すみません…」
女僧侶「ではわたくし、先を急ぎますので…」
勇者「あ…その…助けて頂いたこと、本当にありがとうございました…」
女僧侶「…ふんっ。聖職者として当然のことですわ」
勇者「………」
・
・
・
勇者「変わった人だったな…でも助かった…」
勇者「…で、また一人と…」
勇者「先に進むか…死ぬにしてもスライムなんかにやられるのはごめんだ。せめてもう少し先で…」
勇者「う…うぅ…?」
女僧侶「貴方、狙ってやってますの?」
勇者「お、女僧…貴女はさっきの…」
女僧侶「女僧侶で結構です。…町に戻りなさいと言いましたのに」
勇者「戻れとまでは…」
女僧侶「…ああ?」
勇者「す、すみません…」
女僧侶「まったく…仕方ありませんね。言っても聞かないのならば力づくで連れて行きます。野垂れ死にでもされたら神にお叱りを受けてしまいますもの」
勇者「…でもさっきは…」
女僧侶「ああ?いちいちうるせ…うるさいですわね」
勇者「す、すみません…でも…」
女僧侶「…次代の勇者のために死ぬ?」
勇者「はい…俺、本当に役立たずで…次の代を作ることも、自分で魔王を倒すことも出来ないから…」
女僧侶「…呆れましたわ。本当にグズなんですね…」
勇者「返す言葉もありません…自分で死ぬ勇気も無いし…だから王様に言われるがまま…なのにスライム相手にも死に損なって…」
女僧侶「そうではないでしょう?」
勇者「…はい?」
女僧侶「貴方はすべてを放棄しているようですが…ダメだと思うならば何故、努力をしないのです?」
勇者「…努力だってしましたよ。剣や魔法も習ったし、子を作るためにってお見合いだって…でもダメだったんですよ!」
女僧侶「………」
勇者「剣術と魔法はいつまでたってもドベ!お見合いは全部失敗!…どうすればよかったんですか!?」
女僧侶「知らねぇよ。そんなことは」
勇者「はあ!?…女僧侶さんから話させたくせに…そういう言い方って…!」
女僧侶「あたしが言いたいのは!今!あんたが何をしてるかだっていうんだよ!」
勇者「…今…?」
女僧侶「ぼけーっとその辺歩き回って、勝てもしないのにスライム小突いて…あんた一体何がしたいんだい?」
勇者「それは…」
女僧侶「それを努力って言うのかよ?」
勇者「………」
女僧侶「最後まで諦めんな。それでダメだったなら…祈りのひとつもくれてやりますわ」
勇者「………」
勇者「…女僧侶さんって説教上手なんですね…」
女僧侶「転職したてとはいえ、僧侶ですもの。それなりには…」
勇者「おかげで少し楽になりました。…やるだけやってみます」
女僧侶「どうでしょうか…まぁ、まずはスライムくらい倒せる強さをどうにか身につけることですね」
勇者「あ、それなんですけど…」
女僧侶「はい?」
勇者「…今の俺じゃ一人ではどう頑張ってもスライム一匹倒せないんですよね…」
女僧侶「ですからスライムを倒せる程度の強さを…」
勇者「でも町にはもう帰れないし…今の状態でなんとかするしかないんですよ…」
女僧侶「…回りくどいですね。何が言いたいのですか?」
勇者「よ、よろしければ…い、一緒に…」
女僧侶「お断りします」
勇者「お願いします!お願いします!」
女僧侶「しつこい!なんであたしがあんたの世話なんか焼いてやんなきゃなんないんだよ!?」
勇者「一人じゃ無理なんですよ…!」
女僧侶「そんなこと知るかっていうんだ!!だいたい、いきなり他力本願ってあたしの話聞いてたのか!?」
勇者「自分の力だけじゃどうにもならないことだってあるでしょ!?お願いします!」
女僧侶「いーやーだっての!!…離せ!コラァ!!」
勇者「お願いします!これも仲間を集めるための努力ってことで…!」
女僧侶「テンメェ…!!」
勇者「お願いしますぅ!」
女僧侶「…で?まずはどこに行くのさ?」
勇者「ほ、本当に…ありがとう…ございます…でもまずは回復呪文を…」
女僧侶「役立たずに使うMPはないよ」
勇者「う…!」
女僧侶「…まぁ、あんたの強さだとせいぜい北の町くらいまでだろうね。…足手まといって意味だぞ?わかってんだろうな?ああ?」
勇者「は、はい…」
女僧侶「着くまでに多少はレベルアップするだろ。そんでどうしようもないなら…あたしが冥土に送ってやるよ」
勇者「…それ、聖職者が言う台詞じゃ…」
女僧侶「気合い入れろって意味だよ!本気で言うわけねぇだろ!ボケが!」
勇者「す、すみません…」
女僧侶「ドラァ!」ゴッ!
女僧侶 の攻撃!会心の一撃!
スライムA「ピキィ…!」
スライムA を倒した!
勇者「す、すげぇ…!」
女僧侶「頭出すな!ちゃんと身を守ってろ!」
勇者「わ、わかりました…!」
勇者 は身を守っている!
女僧侶「スライムごときが何匹出てこようがただの餌だっつーんだよォ!!」ゴッ!
女僧侶 の攻撃!スライムBに……
女僧侶「ふー…なぁ、ちょっとはレベルアップしたか?」
勇者「あ、ご苦労です…」
女僧侶「馬鹿にしてんのか?え?」
勇者「そ、そんなことは…」
女僧侶「だったらそれらしい態度ってもんを示しな」
勇者「…一体どうしろと…」
女僧侶「ああ?」
勇者「いえ…なんでもありません…」
女僧侶「そうやってうじうじと…まぁいいさ。後少しで北の町だよ。…気を抜くんじゃないよ?」
勇者「わ、わかってます!」
―北の町―
勇者「へぇ…これが北の町かぁ…」
女僧侶「あまりキョロキョロするとお上りさんと思われますよ?」
勇者「………」
女僧侶「なんでしょうか?」
勇者「いえ…口調がだいぶ違うので…」
女僧侶「こちらが地ですわ。…このような物言いだとナメてかかる馬鹿がいやがるか…おりますので」
勇者「はあ…そうですか…」
女僧侶「…おしゃべりは終わりです。無駄口叩いてるようなら宿を取ってきてください。…二部屋ですわよ?」
勇者「わ、わかってますよ…」
女僧侶「わたくしは買い出しをした後、教会に寄ってから帰りますので少し遅くなります」
勇者「はい、わかりました」
女僧侶「…夕食に手を出したら…許しませんからね?」
勇者「しませんよ…そんなこと…」
勇者「ふー…疲れたな…」ドサッ…
勇者「といっても身を守ってただけか…俺ってなんなんだろう…」
勇者「………」
勇者「と、ともかく!心強い仲間…いや、保護者さんか…」
勇者「…も見つかったことだし……」
勇者「はぁあ…情けない…」
・
・
・
―教会―
司祭「勇者とは何か、ですか?」
女僧侶「はい。近頃、魔王復活が噂されますが…」
司祭「それは私も聞き及んでおります。…もし、それで世界が闇に閉ざされることとなれば…恐ろしいことです」
女僧侶「はい。教典によれば、それを防ぐべく、勇者が現れると言うのですが…わたくしはまだ若輩者で…」
司祭「………」
女僧侶「真に勇者といった存在とはどのようなものなのか、司祭様の教えを請いたく…」
司祭「ふむ…」
司祭「教典によれば…勇者とは悪を打ち倒すべく、神が遣わす者、でしょうか…しかし…」
女僧侶「しかし…?」
司祭「私は勇者という者が神がたった一人の人間を祝福し、遣わすものとは思いません」
女僧侶「………」
司祭「戒めのひとつに汝、内なる邪悪に屈することなかれとあります」
女僧侶「…はい」
司祭「邪悪とはすなわち悪に染まる心の弱さ。その弱さを打ち破ることが出来る者こそ、真に勇者と呼ぶのだと私は思いますよ?」
女僧侶「………」
司祭「人は皆、神に愛されているのですから…」
女僧侶「…ありがとうございます。勉強になりました」
司祭「いえ…私も今だ勉強不足。神の御心はまだまだ伺い知れるものではありませんね…」
女僧侶「………」
勇者「…あ、おかえりなさい」
女僧侶「ここは家ではありませんよ?」
勇者「そ、そうですね…すみません…」
女僧侶「明日は少し町を回ってみましょうか。…いつまでもボロ布を纏っているわけにもいかないでしょう?」
勇者「…ボロ布…」
女僧侶「…まぁ、とりあえずは食事とお風呂ですわね。スライムの体液でベトベトですもの…」
勇者「あ、夕飯なら取っておきましたよ!」
女僧侶「当然です」
勇者「じゃあ食べましょう!」
女僧侶「…まだ食べていなかったんですか?」
勇者「先に食べるのは気が引けて…俺、何もしてないし…」
女僧侶「なら明日以降、頑張って頂きます。…いつまで蝸牛じゃ困りますからね」
勇者「は、はい…」
女僧侶「………」
勇者「あ!夕飯、取ってきますね!」
女僧侶「…司祭はああ言ってたけど、仮にも勇者って言うからには何か特別な資質でもあんのかね?…とてもそうは見えないけど…」
女僧侶「………」
女僧侶「まぁ良いか。乗りかかった船だし、レベル上がるまでの暇潰しにもなるってね…」
勇者『女僧侶さんー?』
女僧侶「うるさいね…今行くってん…今行きますわ」
宿屋の親父「テーレレレレッテッテー♪昨晩はお楽しみ…」
女僧侶「あ?」
宿屋の親父「さ、昨晩は…」
女僧侶「ああ?」
宿屋の親父「…ご利用ありがとうございました…」
女僧侶「それで良いんだよ、ハゲ。変にウケなんか狙うんじゃないってんだ、ボケが!」
宿屋の親父「…は、ハゲって…俺はまだそんなに…」
女僧侶「そのテカった額はハゲじゃねぇってのかよ?え?」
勇者「女僧侶さん、準備が終わり…どうかしましたか?」
女僧侶「なんでもありませんわ。ちょっとお話を…」
勇者「そうですか?」
女僧侶「…そんなことより遅いですわよ?女性を待たせるとは関心しませんね…」
勇者「す、すみません…」
カラン…
宿屋の親父「…なんつー僧侶だよ…」
武具屋の店主「いらっしゃい!良いのが揃ってるよ!」
勇者「どうも…」
武具屋の店主「おやまぁ…あんた駆け出しだね?でも今時、旅人の服なんてナンセンスだよ?」
勇者「は、はあ…」
武具屋の店主「そんなあんたにはコレ!鋼の鎧!流行を先取りしたナウイな逸品だ!…買うかい?」
勇者「え…えーと…」
女僧侶「どうせ身動きとれなくなるのがオチですわよ?革鎧にしときなさい。そうねぇ…」
勇者「は、はい…あの、また今度に…」
武具屋の店主「革鎧とか…おたくねぇ、戦士ならまずは見た目を飾らなきゃ…剣振り回すしか能がないんだよ?そんなんじゃあ…」
女僧侶「…ちょっと黙っててくださる?」
武具屋の店主「おいおい…女、しかも僧侶に武器、防具の何がわかるってんだよ?やめときな姉ちゃん、怪我す…ひっ!?」
女僧侶「あたしは黙ってろって言ったんだ。この小汚い短剣…その臭い口ん中に突っ込んでやろうか?あ?」
武具屋の店主「…すみません…すみません…!」
勇者「うわぁ…」
女僧侶「軽戦士ならこんな所でしょうか…」
勇者「な、なんかちょっと強くなった気がします」
女僧侶「使いこなせなけれはどんな装備品もただの飾りです」
勇者「…はい…」
女僧侶「では行きましょうか。…失礼します」
武具屋の店主「お、お買い上げありがとうございました…」
―酒場―
女僧侶「エールを二つ…いえ、紅茶とエールをお願いしますわ」
親父「あいよ」
勇者「…女僧侶さんって冒険慣れしてるんですね」
女僧侶「いまさらですか?…まぁ、僧侶の道を選ぶまではいろいろありましたからね」
勇者「前は何してたんですか?」
女僧侶「戦士ですわ。…ありがとうございます」
親父「ほい、エール」
勇者「ありがとう。…なるほど通りで…」
女僧侶「…がさつとか言ったらぶん殴りますわよ?」
勇者「い、言いませんよ…そんなこと」
―街道―
勇者「でゃあ!」
勇者 の攻撃!スライムに5のダメージ!
スライム「ピキィ!」
勇者「う、うわわわ…!」
女僧侶「オラ!!」ゴッ!
女僧侶 の攻撃!会心の一撃!スライム を倒した!
女僧侶「やるならきっちり潰せ!中途半端な攻撃で手傷を負わせた方が危ねぇんだよ!」
勇者「す、すみません…」
勇者「あの、町では聞きそびれたんですけど…」
女僧侶「なんですか?…ひぃ…ふぅ…みぃ…ふん。所詮はスライムですわね。小銭にもなりませんわ…」チャリチャリ…
勇者「…女僧侶さんはなんで僧侶になろうと思ったんですか?」
女僧侶「僧侶に転職した理由ですか?そんなことを聞いてどうするんです?」
勇者「…俺、いままで自分の意思ってのを持ってなかったから…そういうのがちょっと気になって…」
女僧侶「今も、の間違いでしょう?装備はともかく、行き先までもわたくし任せで…」
勇者「は、はい…」
女僧侶「…まぁ、いままでの境遇を考えれば仕方ないのかもしれませんね。それに、意識を持ち始めたことは良い兆候だと思いますよ?」
勇者「………」
女僧侶「そうですね…わたくしが僧侶を目指した理由ですか…」
女僧侶「わたくしが以前、戦士の職業についていたことはお話しましたね?」
勇者「はい、聞きました」
女僧侶「実は…その前はわたくし、盗賊だったのです」
勇者「えっ!?」
女僧侶「…なんですか?」
勇者「い、いや…まさか前々職があったとは…」
女僧侶「まぁ盗賊からはすぐに転職しましたけどね。あの頃は日々の糧を得るために必死でしたから…」
勇者「………」
女僧侶「…話を戻しましょうか。わたくしは盗賊、戦士としてさまざまな経験を積みました」
勇者「………」
女僧侶「依頼を受け魔物を狩ったり、傭兵として戦場にも…でもある時、いままで自分が行ってきたことに対する罪の意識を持ったのです」
女僧侶「剣では傷付けることはできても助けることは出来ない。…ですから僧侶という職業に転職したのです」
勇者「………」
女僧侶「どうかしましたか?」
勇者「いや…なんかすごいなぁって思って…」
女僧侶「人は大なり小なりの違いはあれど、悩みながら…しかしそれでも答えを出し、生きているのです。何も特別なことはありません」
勇者「は、はい…」
女僧侶「それがなかった貴方はある意味で不幸と言えるでしょう。…いままでは」
勇者「………」
女僧侶「早く出せとは言いません。悩みもまだ漠然としたものでしょう。でも…いつか必ず答えを見つけるのです」
勇者「…はい」
休憩おわた…
5時頃また来ます
勇者「…昨日からいろいろとありがとうございます」
女僧侶「なんですか?急に…」
勇者「うまく言えないんですけど…女僧侶さんの話を聞くと道のようなものが見えてくる気がして…」
女僧侶「………」
勇者「叱るって言うか…諭してくれる人、俺には…」
女僧侶「…おい」
勇者「え?」
女僧侶「甘ったれてんじゃねぇよ。テメェの場合、叱る以前の問題だろうが…」
勇者「は、はい…」
女僧侶「あたしが本気で躾ようとしたらこんなんじゃすまねぇつーんだ。わかってんのか?ああ?」
勇者「す、すみません…」
女僧侶「………」
女僧侶「あと少しですわね」
勇者「西の村ですか…何があるんですか?」
女僧侶「墓地です」
勇者「ぼ、墓地…?」
女僧侶「西の村の先には霊峰vip山がありますでしょう?…地図を見てごらんなさい」
勇者「あ…ほんとだ…」
女僧侶「まったく…目的地の周辺情報くらい先に頭に入れておいて下さい」
勇者「…すみません」
女僧侶「とにかく、天に最も近い場所。つまりこの山を登って魂は天へと向かう、と昔から考えられていたのです」
勇者「あ、それなら聞いたことあります」
女僧侶「ですから峰から山頂に至るまで墓標、墓標、墓標…死の山なんて呼ぶ方もおりますね」
勇者「あれ?霊峰じゃ…」
女僧侶「そこかしこに死体が埋まっているのですよ?中には天に昇ることを拒み、不死者となる馬鹿もいます」
勇者「…不死者…ゾンビとかスケルトンとか?」
女僧侶「えぇ。以前は山頂に教会があって巡礼者もいたらしいのですが…近年はますます不死者が増えたようで…」
勇者「…魔王の影響でしょうか」
女僧侶「それはわかりませんが…多少はあるかもしれませんね」
勇者「そうですよね……でもなんでそんな所に?」
女僧侶「自らを鍛え直すためと言ったでしょう?死してなおこの世をさ迷う魂に安らかなる眠りを…」ジャラ…
勇者「…要は鉄球制裁ですか」
女僧侶「理を説いても納得しないからこの世にしがみついてるんでしょう?言って聞かないならぶん殴るしかないじゃないですか」
勇者「は、はあ…」
女僧侶「ゾンビもスケルトンと鈍重です。スライムに攻撃を当てられるならば後れは取らないでしょう」
勇者「でも…良いんですか?死んだ人にそんなことして…」
女僧侶「ただの遺体ならば手厚く葬りましょう。しかし、不死者は自然の理に反した存在です」
勇者「…はぐれ者ってわけですか」
女僧侶「魂の循環という面から見れば…その輪から外れているでしょうね」
勇者「………」
女僧侶「しがみつく肉体を破壊し、その魂を輪の中に戻すことで不死者は新しい生を得ることができるのです」
勇者「新しい生、か…」
女僧侶「…貴方、この期に及んでまた妙なこと考えてるんですか?」
勇者「え!?そ、そんなことはないですよ!」
女僧侶「………」
勇者「ほ、ほんとですって!」
―西の村―
勇者「…ここに来るまでお墓ばっかりでしたね」
女僧侶「だから言ったでしょう?墓地だと」
勇者「気が滅入りますって…」
女僧侶「まぁ、わからなくはないですけれど…」
老婆「おやぁ?そこの若いお二人さん…親御様でも亡くなられたかえ?…ひひひ」
勇者「うおあ!?…で、出たな!不死者め…」
女僧侶「お馬鹿。これはただの干からびた人間です。…まったくどこに目をつけているんですか」
勇者「な、なんだ…人間か…」
老婆「…あんたらずいぶんなこと言ってくれるのぅ。わしのぴゅあーはーとは傷付いたぞぇ…」
女僧侶「シワの間違いでしょう。…行きますよ?」
勇者「シワとか…なかなか上手いですね」
女僧侶「えぇ。まさしく会心の一撃ですね」
ザッザッザ…
老婆「…村の説明くらい聞かんか…最近の若いもんはこれだから…」ブツブツ…
女僧侶「登るのは明日からにしましょうか。いろいろと準備もありますし…」
勇者「そうですね。じゃあ俺、宿の部屋取ってきます」
女僧侶「お願いします」
・
・
・
宿屋
勇者「なんか…量多くないですか?」
女僧侶「当たり前でしょう?しばらく篭るんですから」
勇者「篭るって…山に?」
女僧侶「修業とはそういうもの。…と、東洋から来たサメラーイという武人に教わりました」
勇者「………」
女僧侶「うるせぇな…!何が問題だっていうんだ!?あ?」
勇者「だって周りに不死者がいるんですよ!?あと、お風呂とか寝る場所とかどうするんです!?ずっと野宿ですか!?」
女僧侶「…んなわけねーだろ!?中腹に巡礼者用に小屋があるんだよ!」
勇者「…しばらく巡礼者はいなかったんでしょ?ゆ、幽霊がいたりしませんかね?」
女僧侶「それを相手にすんだろ?なんでゾンビがよくて幽霊がダメなんだよ?」
勇者「…剣じゃどうにも出来ないじゃないですか…」
女僧侶「………」
勇者「…俺…どうしたら良いんですか…?」
女僧侶「それは…」
勇者「………」
女僧侶「…考えといておきますわ」
勇者「…よろしくお願いします」
あぶ
勇者「枯れ木も山の賑わいとは言いますけど…」
フォオ…
勇者「この景色はただただ不気味ですね…」
女僧侶「墓標は死を連想させますからね。あまり深く考えないことです」
勇者「は、はい…」
ガサッ…
勇者「!」
ゾンビ「うぅあ…ぅ…」
勇者「で、出たな!…やりたくはないが、これも救いだと言うの…」
女僧侶「ちょっとお待ちなさい。いきなり何をするんです?」
勇者「は、はあ?」
女僧侶「不浄なる者よ――…」
勇者「………」
女僧侶「…――あるべき場所に還れ」
ゾンビ「…ぁ…あはぁ…」
女僧侶「ディスペル!」
パァア…
ゾンビ「あぁぁぁ…」
勇者「おお…」
女僧侶「ふぅ…まずはこうやって対話による救いの手を差し延べるのです。…言ったでしょう?言って聞かないならばぶん殴る、と」
勇者「…最初から不死者はぶん殴るって聞こえましたけど…」
女僧侶「普通はそうなるのです。今回はうまく行きましたが、しがみついてまでこの世に残ろうとする連中なのですよ?」
勇者「なるほど…」
女僧侶「まずはディスペル。ダメならフルぼっこ。こんな感じで進んで行きましょう」
勇者「は、はい」
ご飯とお風呂
勇者「…ここですか?中腹の小屋って」
女僧侶「思いの外、しっかりした造りですね」
勇者「こっちの建物は教会みたいですね…」
女僧侶「附属していたのでしょう…さて、中はどんな感じで…」ギィィ…
勇者「………」
女僧侶「何をぼーっとしてるんですか?」
勇者「え?待機ですけど…」
女僧侶「…後ろの警戒をお願いします。というよりそれくらい気づいてくださいよ、ボケナス」
勇者「わ、わかりました…」
女僧侶「こんな所ですか…いや、ちょっと違うかしら?…んんっ?」
勇者「さっきから何やってるです?」
女僧侶「魔除けの結界を張ろうとしてるんですけど…ややこしくてよくわかんねぇん…よくわからないのです」
勇者「…ちょっ…!」
女僧侶「この法陣に重ねる…のかでしょうか?でもこれじゃ打ち消し合うって習った気がすんですけども…」
勇者「そのくらいちゃんと覚えてきて下さいよ!?」
女僧侶「転職したてだと言ったでしょう?それに結界なんか張るつもりもなかったんです」
勇者「昼夜ノーガードで殴り合うつもりだったんですか…?」
女僧侶「そのくらいでないと心身の鍛練にはならないでしょう?」
勇者「………」
女僧侶「連れが幽霊に対処出来ないなんて…とんだ誤算ですわ」
勇者「…女僧侶さん…ありがとうございます…」
女僧侶「まったく…」
・
・
・
―1時間後―
女僧侶「無理だな。止めだ、止め止め…」
勇者「お、女僧侶さんんー!?」
勇者「ちゃんと張って下さいよ、結界…」
女僧侶「うるせぇな!出来ないもんは出来ないんだよ!」
勇者「俺に努力しろだなんだって言っといてそういうこと言うんですか!?そりゃないんじゃ…」
女僧侶「誰もお前を見捨てるとは言ってねーだろうが!?結界なんかなくたって返り討ちにすりゃ問題ねぇってことだよ!」
勇者「…どうやって?」
女僧侶「あたしが殺る」
勇者「…やっぱり力技ですか」
女僧侶「うるせぇな…」
勇者「だって…」
女僧侶「ああ?」
勇者「…よろしくお願いします…」
女僧侶「というわひぇへ…」モグモグ…
勇者「…食べるか喋るかのどっちかにしてくださいよ」
女僧侶「…いつ襲われるかもわかりません。食事の時間は最小限です」ジャラ…
勇者「結界張れてればこんなことには…」
女僧侶「…あ、それなのですけど」
勇者「?」
女僧侶「わたくしがカバーすると先程言いましたが…部屋が別れていると対処しにくいので、本日から同室でお願いします」
勇者「…え?ど、同室ってつまり…」
女僧侶「無いとは思いますが…わたくしの体に触れるようなことがあれば浄化いたしますので、お忘れなく」
勇者「…えぇと……」
女僧侶『何かあったら起こしてください。…くだらないことで眠りを妨げるようなことはやめてくださいね?』
勇者『は、はい!』
・
・
・
女僧侶「くだらないことで起こすなと…」
勇者「い、いや!今確かに白い何かがこう…フワッと…」
フワッ…
勇者「う、うわぁあ!?」
女僧侶「………」
勇者「ね?ほら今…」
女僧侶「お馬鹿。それは破れたカーテンの切れ端です…ほら」
勇者「………」
女僧侶「このボケナス」
勇者「す、すみません…」
王「そろそろ勇者が旅立って一ヶ月になるか…まだ頑張っておるのか?」
大臣「はっ…それが…」
王「ふむ?」
大臣「二週間ほど前の西の村での目撃情報を最後に消息はぷっつりと…」
王「おお勇者よ…力尽きるとは情けない…」
大臣「それはまだわかりません。連れの僧侶と共に大量の食料を持って山へ足を踏み入れたと…」
王「では武者修業というヤツか?…無駄なことを…その程度の鍛練で勝てる相手ならば勇者などいらぬわ」
大臣「…では」
王「まぁ待て。もうしばらくは様子見でもよかろう」
大臣「御意にございます」
王「いくら逃げたとて結果は同じであろうに…」
女僧侶「ディスペル!」
スケルトン「………」ズズズ…
カシャーン…
勇者「お見事!」
女僧侶「…見ている方は楽で良いですわねぇ」
勇者「いきなりの物理攻撃は無しって言ったのはそっちじゃないですか…」
女僧侶「まぁ、そうなんですけど…」
・
・
・
―中腹の教会―
女僧侶「やはり少しおかしいですわ…」
勇者「何がです?」
女僧侶「ここに来てから三週間ほど経ちますが…上手く行き過ぎです」
勇者「上手く行くに越したことはないんじゃ…ディスペルで天に昇ってってくれる方が良いんでしょう?」
女僧侶「それはそうです。しかし…」
女僧侶「しかし…不死者の現世への執念とはこんなものではないはずなのです」
勇者「………」
女僧侶「ここの連中はむしろ滅びたがっているようにも感じます…」
勇者「確かに奇襲とかも少ないですね…でも天に昇りたい、昇らせてあげたいと思うからこの山に埋葬するんでしょ?」
女僧侶「………」
勇者「なら簡単に諦めてもおかしくないんじゃないですか?」
女僧侶「それならばそもそも不死者となる必要がないでしょう?」
勇者「そりゃそうですね…」
女僧侶「…明日はもう少し上を目指してみましょうか」
勇者「上ですか…」
女僧侶「えぇ。山頂付近にもここと同じような教会があるはずですから…」
勇者「うおっ…けっこう寒い…」
女僧侶「…天界とは常春の陽気であり、一年中花が咲き乱れる理想境である」
勇者「は、はあ…?」
女僧侶「教典を要約するとそんな風に書いてあります。それなのに上に行くほど寒くなるなんて…ちょっとおかしいとは思いませんか?」
勇者「言われてみれば確かに…」
女僧侶「まぁこれについても記事があって…登るほど寒くなるのは魂を清めるためだそうです」
勇者「へぇ…」
女僧侶「………」
勇者「………」
女僧侶「…だから少しは我慢しなさいということです」
勇者「…回りくどいですよ…」
勇者「あ!…あれかな?」
女僧侶「たぶんそうですね」
勇者「で、何をするんです?」
女僧侶「古い教会ですし、もしかしたら歴史書のようなものがあるかもしれません」
勇者「歴史書?」
女僧侶「稀に土地の因縁に縛り付けられて死霊となる場合があると聞いたことがあります。例えば…戦場跡とかですね」
勇者「へぇ…」
女僧侶「仮にもここは聖地ですから、そのような因縁はないと思うのですが…念の…」
ズズッ…
勇者「…女僧侶さ…」
女僧侶「わかってる!」
スケルトン「………」
スケルトン「………」
スケルトン「………」
・
・
・
スケルトン「………」
勇者「か、囲まれちゃってますよ?」
女僧侶「…くそったれ!なんでこの場所、このタイミングで沸いてくんだよ!?こんなもんまるで罠……罠!?」
カシャン…カシャン…
勇者「な、なんか思い当たったんですかぁ…女僧侶ささん?」
…カシャン…カシャン…カシャン…
女僧侶「…ネクロマンサー…?」
勇者「く、来るな!!ちょっ待っ……あぇ!?な、なんです!?」
女僧侶「そうか…!だからあんなに簡単……!?」
スケルトン「………」
カシャン…
勇者「…あれ?」
女僧侶「………」
勇者「こ、これはどういうこと…なんでしょうか?」
スケルトン「………」
女僧侶「教会まで来いとさ…ご丁寧にガイコツどもで道まで作ってくれやがって!悪趣味な野郎だな…!」
勇者「このスケルトン群れの真ん中突っ切れと…?冗談じゃないよ!?襲われたら…」
女僧侶「…後ろも塞がれてる。行くしかないよ」
勇者「………」チラッ…
スケルトン「………」
勇者「はぁ……ん?」
赤いスケルトン「………」カシャン…
女僧侶「道案内させるってか?…ほんっとに趣味の悪りぃ…!」
赤いスケルトン「………」カシャン…カシャン…
勇者「女僧侶さん…」
女僧侶「………」
勇者「…なんで山頂目指そうなんておもっちゃったんですか…」
女僧侶「そう言わないでくださいまし…昨日のわたくしに会えるならばぶん殴ってでも止める所だっつーの…ですわ…!」
勇者「…落ち着いてますね。流石です…」
女僧侶「…どこがだ…ですか!?」
勇者「…口調を整える余裕があるじゃないですか」
女僧侶「……て…撃」
勇者「……?」
女僧侶「…せめて一撃ぶち込んでやらねぇと死んでも死に切れねぇだろうが…!だからなんとか自分を抑えて機会を…!」
勇者「…そ、そうですか…」
―山頂の教会―
ギィイ…
勇者「………」
女僧侶「………」
赤いスケルトン「………」
勇者「動かなくなっちゃいましたけど…」
女僧侶「後はわたくし達で探せということでしょう」
勇者「…今のうちに逃げるってのは…無理、か…」
スケルトン「………」
スケルトン「………」
女僧侶「どうあっても逃がさないというわけですね…」
コツコツ…
勇者「…一体何の用があるんですかね…」
女僧侶「中腹あたりで散々ディスペルしましたからね。その報復では?」
勇者「………」
女僧侶「もしくは…新鮮な死肉が必要だとか。山頂まで埋葬にくるなど今はもうありえませんし…」
勇者「…全部女僧侶さんのせいじゃあ…」
女僧侶「…危ないと思っていたのなら、止めて下さればよかったではないですか」
勇者「…止めようとすると睨むじゃないですか」
女僧侶「そ、それは…」
勇者「………」
ギィイ…
勇者「はい、外れ…にしてもほんとにここに人が住んでるんですか?どこもかしこも埃まみれですけど…」
女僧侶「………」
勇者「…女僧侶さん?」
女僧侶「…悪かったよ…あたしが調子に乗ってた」
勇者「…え?」
女僧侶「だから!…悪かったって…」
勇者「………」
女僧侶「…人が謝ってんだ。…なんか言えよ?」
勇者「お、女僧侶さんが諦めちゃってたらお、俺、どうすれば良いんですか!?」
女僧侶「…あのなぁ」
女僧侶「いつまでもあたしを頼ってんじゃないよ。剣の腕は多少マシになったけど…その辺は全然成長してないね…」
勇者「は、はい…」
女僧侶「はいじゃないんだよ」
ギィイ…
女僧侶「このボケナ……?」
勇者「……?」
『ああ…やっと来たか…』
女僧侶「へぇ…図書室が当たりってわけだ…行くよ!?」
勇者「は、はい!」
女僧侶「何を考えてあたしらを招き入れたんだか知らないけどね!頼みの綱のスケルトンは教会の外だよ!」
勇者「…そ、そうだぞ!こ、コノヤロー!」
『………』
女僧侶「だんまりかい…勇者、左だ。あたしは右から…」
『…そういきり立つことも…あるまい…?』
勇者「…なにを…?」
キュラキュラ…
『わしはおぬしらを…どうこうする…つもりはない…』
女僧侶「…どうだか。そうやって油断した所を後ろからザックリ…なんて奴らをあたしは何人も見てきてるんだけどね…」
老人『…これを見ても…そう思えるかな…?』
キュラ…
老人『ご苦労…腐乱人形…』
少女「………」
勇者「なん…だ…あれ…?」
女僧侶「………」
老人『この通り…わしにはもう四肢が…ない…すべて腐れ落ちて…しまった』
女僧侶「…醜悪そのものだね…手足どころか身体も腐ってんじゃないのさ」
勇者「ううぇえ…!」
老人『…ああ…生きた人間と…会話をするのは…いつ以来か…よもやこのような…躯となって…』
女僧侶「感傷に浸ってるとこ悪いんだけどさ。いつまでもこの腐敗臭の中にいたくないんだよ。…要件だけ話してとっととくたばりな」
勇者「お、女僧侶さ…うぇ…そんなストレー…おぇえ…!」
老人『用件か…そんなものは…ない』
女僧侶「なんだって?用もないのにあたしらを呼んだってのか?ああ?」
老人『女…そのような…態度で自身を…奮い立てることは…できぬ…恐怖は拭えぬ…』
女僧侶「……!」ギリッ…
老人『わしは…ただ話がしたい…この躯が崩れ落ちる…前に…今一度…同胞と』
勇者「…うっ…ど、同胞…?」
女僧侶「…お前、生きたまま…自分に死霊術をかけたのか…?」
老人『いかにも…結果は…この通りだが…』
勇者「…あ、あれを自分でやったっていうのかよ…」
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