勇者 「親の残した借金を返すために魔王退治」(324)

魔女 「……大変ね」

勇者 「君だって、あんな所で働いてたわけだし、似たようなものだろう?」

魔女 「……まあ、それもそうね」

勇者 「ああ、身体を売るような仕事なんて、ある意味魔王退治より大変だ」

魔女 「……本当に、その通り」

勇者 「……深くは聞かないけど、魔女にそんなことをさせた奴を、俺は許さない」

魔女 「……勇者」

勇者 「それにしても、魔女」

魔女 「……何?」

勇者 「君は本当に魔法が上手だ、連れてきて正解だったよ」

魔女 「……理由はどうであれ、よ」

魔女 「あんな薄汚れた場所から連れ出してきてくれたことには、感謝してる」

勇者 「どういたしまして」ニッコリ

魔女 「……掴みどころがないわね」

勇者 「そう思うかい?」



「キャアアーー!」

魔女 「……悲鳴?」

勇者 「近くの森からだ……」

勇者 「行ってみようか、魔女」

魔女 「人助けも勇者の役目ってことかしら?」

勇者 「……勇者かどうかなんてのは、関係ないよ」

魔女 「……本当に、貴方は優しいわ」

勇者 「ありがとう」 ニッコリ

森の奥

魔女 「……ねえ、勇者」

勇者 「なんだい?」

魔女 「悲鳴が聞こえたのは、もう少し手前の方じゃなかった?」

勇者 「……いや、こっちであってる」

魔女 「……」

魔女 「……声が聞こえなくなったわよ?」

勇者 「……このあたりでいいか」 ボソッ

魔女 「……?」

勇者 「……」 バシッ

魔女 「きゃッ!」

魔女 「ゆ、勇者……? なにを」

勇者 「……初めて会った時から、君のことが好きだったんだ」 チュッ

魔女 「な、何言って……んっ」

勇者 「これが、一目惚れって奴なのかな」

魔女 「だからって……、そ、そういうことをするのは……」

魔女 「は、初めて出会ってから、あんまり日も経ってないし……」

勇者 「ごめん、もう我慢できない……ッ」ガバッ

魔女 「ふ、服……、破かないでぇ」

魔女 「お願い、お願いだからやめて勇者……」 ボロボロ

勇者 「……愛しているからこそ」ムニュッ

魔女 「ひゃあっ!」

魔女 「やめて、やめて、よ、勇者、お願いだから……」

魔女 「今なら、まだ元に戻れるから……」 ボロボロ

勇者 「……」 ボロン

魔女 「……勇者も、男なんだ……」

魔女 「……男なんて、嫌い……」

勇者 「……」 グチュッ

魔女 「……ヒギッ!」

勇者 「……ハァ……ハァ……」

魔女 「痛い……心も……」 ボロボロ

勇者 「……出そうだ……うっ!」 ビュッ、ビュゥ

魔女 「中に……熱いのが……!」

魔女 「ああ……アアッ!」 ガクッ

勇者 「イった……、みたいだね」

魔女 「」

勇者 「さてっと」カチャッ

魔女 「」

勇者 「この剣……魔物はよく斬れるからね」

勇者 「人間だって……、斬れるはず」 グサッ

魔女 「痛ッ!」

魔女 「……え、血?」

勇者 「……ああ、起きた?」

勇者 「一思いにやれずごめんね、魔女」

魔女 「なに……して……」

魔女 「……あ、足は? 私の足は?」

勇者 「ああ、真っ先に斬らしてもらったよ」

魔女 「……な、何を言ってるの?」

勇者 「逃げられたら、困るから」 ニッコリ

女 「……なにを、言って」

勇者 「俺が魔女に近づいた本当の理由、教えてあげるよ」

魔女 「……?」

勇者 「君の力が、欲しかったんだ」

魔女 「な、何言って……」

魔女 「あんなに、優しかったはずなのに……」

勇者 「優しい、優しいか……」

勇者 「……ふふ、ふふふふ」

勇者 「俺は優しくなんかない」

勇者 「それは、さっきの行為でよくわかったろ?」

魔女 「……!」

勇者 「あれが俺の本性……」

勇者 「そう、俺は魔女の事なんて好きでもなんでもない」 ニッコリ

魔女 「……私を、もてあそんだってこと?」

勇者 「まあ、そうなるかもね」

魔女 「……殺してやる」

勇者 「凄い変わり身だね、助けてもらった恩も忘れて」

魔女 「こんな奴に拾われるぐらいなら……」

魔女 「ずっと、ずっとあの場所にいればよかった……!」

勇者 「怖い怖い」

勇者 「でも、その傷で魔法、唱えられるかな?」

魔女 「……ッ」

勇者 「その顔、最高だね!」

魔女 「……」

勇者 「感情が向きだしになったその顔!」

勇者 「最高だ! 最高すぎる!!」

魔女 「……なんで……、そんなに嬉しそうに……」

勇者 「そうだ、ついでにもう一つ教えてあげるよ」

魔女 「なにを……」

勇者 「君の身体に触れたかった、めちゃくちゃにしたかった」

勇者 「それは、本音なんだ」

魔女 「……」

勇者 「でも、勇者が娼館に入り浸ってるなんて噂が立ったらまずいからね」

勇者 「それも、非公認の」

魔女 「……」

勇者 「幸い王国非公認の娼館だったから、潰しても誰も文句は言わない」

勇者 「ついでに君を連れてこられた」

勇者 「周りや同じ娼館で働いてた子達からすれば、俺は英雄かもしれないね」

魔女 「……」



勇者 「さてと」

勇者 「魔女も意識を手放したみたいだし、そろそろ仕上げにかかろうか」

―――

女の子 「……はぁ、はぁ」

ゴブリン 「俺たちの姿をみたんだ、ただじゃおかねえ」

ゴブリンB 「ぶっ殺してやる!」

女の子 (逃げ切らなきゃ……、殺される!) タッタッタ



ムシャ、ムシャ

女の子 「……えっ?」

勇者 「……ん、子どもと、魔物か」

女の子 「……勇者、さん?」

勇者 「ああ、俺は勇者だ」

ゴブリン 「おいつめたぞ、人間!」

女の子 「どうして、そんなに血だらけなの……?」

勇者 「ああ、猪を捕まえてね」

勇者 「その肉を調理して食べてたんだ」

勇者 「中々美味しかった」 ニッコリ

女の子 「そ、そうなんだ……」

勇者 「……下がっててくれ、こいつらは俺が引き受ける」

女の子 「……うん」

ゴブリン 「……勇者だから、なんだ!」

勇者 「……燃え尽きろ! 火炎!」 ボアッ

ゴブリン 「……なんだこれ、熱い……」

ゴブリンB 「焼かれてるのか、焼かれてるのか……!?」

「ギャアアーーーー!」

勇者 「もう大丈夫だ」 ニッコリ

女の子 「あ、ありがとうございます」

女の子 「な、なにかお礼を……」

勇者 「お礼、お礼か……」

勇者 「それじゃあ、この血だらけの服を洗うのを手伝ってくれると助かる」

勇者 「こんな服で街に行ったりでもしたら、殺人鬼と間違えられそうだし」

女の子 「……? いいですけど……」

勇者 「助かるよ」

勇者 「それじゃあ、奥に湖があったはずだから、そこへ向かおうか」

女の子 「……はい」 タッタ

勇者 「……」

勇者 (魔女の魔力、魔法)

勇者 (うまく使わせてもらうよ)

勇者 (そして、必ず魔王を倒す)

勇者 (俺の自由のために)

これにて区切り

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-女の子の住む村-

女の子 「お父さん!」 ギュッ

女の子の父 「娘!」

女の子の父 「け、怪我はなかったか?」

女の子 「うん、勇者さんが助けてくれたの」

女の子の父 「勇者……」

女の子の父 「魔王を倒すために旅をしているという青年か」

女の子の父 「噂には聞いてたが、本当にいい人のようだ」

女の子 「うん、すっごくいい人!」

女の子の父 「勇者さんにお礼がしたいが……」

女の子 「……勇者さん、私をここまで送るとどこかに行っちゃった」

女の子の父 「そうか……、彼も忙しいのだろうな」

女の子 「うん……」

女の子 「あ、お父さんこれ!」

女の子の父 「これは……薬草!」

女の子 「これがあれば、お母さんも元気になるよね?」

女の子の父 「ああ、きっとよくなる」 ナデナデ

女の子 「えへへ……」

女の子の父 「でも、もうこんな無茶はするんじゃないぞ?」

女の子 「うん……」

-どこかの草原-

勇者 「……へっくしゅん!」

勇者 (そういえば、この前助けた女の子)

勇者 (目は細いし、顔も無駄に大きいあの子……)

勇者 (……将来はさぞ残念なことになるかもしれない、うん)

勇者 「まあ、助けたことには変わりない、か」

-情熱の街-

勇者 「さてと、最寄りの街に来てみたわけだけど」

男1 「女1、俺、実は君のことが好きなんだ」

女1 「……え?」

男2 「はい、あーん」

女2 「あーん」

ざわざわ ざわざわ

勇者 「……なんていうか、カップルの多い街だね」

少年A「お兄さん、お兄さん」

勇者 「ん? なんだい?」

少年A 「お兄さんは、一人なの?」

勇者 「そうだよ?」

少女A 「うわー、モテない系男子だ!」

勇者 「……君達は、その年で恋人同士なのかい?」

少年A 「うん! 羨ましいだろモテない系男子!」

勇者 「ああ、羨ましいよ」 ニッコリ

少年A 「……行こう」

少女A 「……うん」

勇者 「……人と一緒にいることが楽しい、か」

勇者 (……俺には、わからない)

勇者 (人と深く関わっても、面倒なトラブルや裏切りにこそあえど)

勇者 (こっちが得することなんて一つもない)

勇者 (金と名声のほうがよっぽど大事で、そして利用できる)

勇者 (下らない人間関係なんかよりも、よっぽど)

-宿屋-

宿屋の主人 「おや……、勇者様じゃありませんか」

勇者 「そう呼ばれるのが随分久しぶりに感じますよ」

宿屋の主人 「まあ、それもそうでしょう……」

宿屋の主人 「なにせここのバカップル共は、周囲に無関心な人間ばかりだ」

アッ、ソコ、モット///

マ、マッテ///

勇者 「……ああ、なるほど」

宿屋の主人 「この街は、平和ですぜ……」

勇者 「いいじゃないですか、平和」

宿屋の主人 「でも、バカップル共は平和を当たり前みたいに思ってる」

勇者 「……そんな世の中をつくるのが、俺の役目ですよ」 ニッコリ

宿屋の主人 「いいこというね、勇者様!」

宿屋の主人 「よし、今晩は無料で泊めてやるよ!」

勇者 「ありがとうございます」

-部屋-

勇者 「……それにしても」

ギシギシアンアン

勇者 「まあ、泊まるには手頃な値段みたいだしね」

勇者 「逢引きにはもってこいの場所……なのかな?」

勇者 「……そういえば、子どももこの宿を使っているみたいだけど」

勇者 「……無断外泊が許されるのはどうなのだろう……」

-次の日-

宿屋の主人 「きのうはよく眠れたかい? 勇者様」

勇者 「ゆうべおたのしみしていたカップル達のせいで、あまり」

宿屋の主人 「あいつら……、少しは自重してくれないもんかねえ」 ハァ

勇者 「……お気持ち、お察しします」

宿屋の主人 「なら、なんとかしてくれよ……」

勇者 「こればっかりは、俺にも」

宿屋の主人 「だよな……」

勇者 「……それにしても」

キャッキャウフフ

勇者 「……なんていうか、恋が溢れてるねぇ」

ダッダッダッ

勇者 「……ん?」

戦士 「……うおっ!」 ドガッ

勇者 「……痛い」

戦士 「お、おう、わりい……ん?」

勇者 「……ん、どうかしたのかい?」

戦士 「あ、あんた、勇者だろ!?」

勇者 「いかにも、俺は勇者」

戦士 「あんたの噂は聞いてるぜ」

戦士 「幾多の街や人を救ってきた、魔王を倒すべく一人旅してる青年だろ?」

勇者 「まあ……、訂正するほど間違ってはいないね」

勇者 (訂正する必要なんて、どこにもない)

戦士 「お願いだ! 少しでいいから俺に協力してくれ!」

勇者 「……あのカフェで、話を聞かせてもらおうか」

「なにあれー」

「男二人とか、ありえなくない?」

「むせる」

「でも、片方は美男子だよね」

「……うん、ホモなのかな?」

勇者 「んー、やっぱり好奇の視線に晒されるね」

戦士 「……なんか、わりいな」

勇者 「いや、この店を選んだのは俺だから」

勇者 「店員さん、チョコレートパフェ二つ」

戦士 「お、俺もパフェなのか……」

勇者 「せめて口にするものぐらいは、まわりのカップルと張り合いたいのさ」

戦士 「な、なるほどな……」

勇者 「この街から東に進んだところにある、洞窟に眠るお宝が欲しい、か」

戦士 「おうよ、それをあいつに譲れば、俺は晴れてあいつ……」

戦士 「そう、戦女と結ばれる」

勇者 「なるほど、恋人のためというわけか」

勇者 「でも、危険じゃないのかい?」

戦士 「……ああ、体を鍛えまくった俺でも、生きて帰れるかどうかはわからん」

勇者 「……」

士 「そこで、だ」

戦士 「勇者、あんたの力を貸してほしい」

勇者 「……俺の?」

戦士 「噂に聞くあんたの力があれば、百人力だぜ!」

勇者 「……なるほど」

勇者 (人気のない、危険な洞窟か……)

者 「わかった、協力しよう」

戦士 「本当か!」

勇者 「得た宝は、全部戦士に譲るよ」

戦士 「……無報酬で、俺を手伝ってくれるのか?」

勇者 「ああ、なんだって俺は勇者だから」 ニッコリ

戦士 「あ、ありがてえ……」

勇者 「ああ、でも一つ条件がある」

戦士 「……何?」

勇者 「戦士が惚れたって言う女、俺にも会わせてくれないか?」

戦士 「……何故だ?」

勇者 「そうまでして結ばれようとする女性に、興味があるからさ」

戦士 「そ、そうか……」

戦士 「手さえ出さなきゃ、別に構わんが……」

勇者 「ありがとう」 ニッコリ

>>43の一つ前に追加

勇者 「……本題に入る前に、君の名前を聞かせてくれないかな?」

戦士 「俺か? 俺は、戦士だ」

勇者 「戦士……戦士、覚えた」

勇者 「よろしく、戦士」

戦士 「ああ、俺のほうこそ!」

勇者 (……短い付き合いに、なるだろうけどね)

訂正
>>44
士→戦士

>>45
者→勇者

ちょっと休憩

街のバー

カランコロン

戦士 「戦女、いるか?」

戦女 「あら、戦士と……、そちらは?」

勇者 「勇者、よろしく」

戦女 「ああ、貴方が噂に聞く勇者……」

勇者 「……随分、煌びやかな恰好なんだね?」

戦女 「女たるもの、自分をよく見せないといけないでしょ?」

勇者 「……かもしれないね」

戦士 「戦女は、そのままでも充分綺麗だと思うが……?」

戦女 「あら、ありがとう戦士」 ニコ

勇者 「……さてと、行こうか」

戦士 「おう! また後で会おうぜ!」

戦女 「ええ……」

勇者 「……」

戦士 「さてと、行くか!」

勇者 「……戦士は、先に向かってくれ」

戦士 「……?」

勇者 「少し、やり残したことがあってね」

戦士 「まあ、構わんが……」


勇者 「……そうだ、戦士」

戦士 「な、なんだ……?」

勇者 「その洞窟の位置が記された地図」

勇者 「もし持ってたら、しばらく俺に貸してくれないかな?」

戦士 「あ、ああ……これか?」

勇者 「ああ、ありがとう」

勇者 (……さて、と)

―――――

-夜のバー-

「戦女ちゃん、これ……」

戦女 「あら、ありがとう」 ニコ

「よ、よかった……」

戦女 「丁度ほしかったの、このアクセサリー」

勇者 「……なんていうか、色欲に塗れてるね」

「……だ、誰だ? この男は」

戦女 「……私の友達よ」

勇者 「ああ、別に深い間柄ってわけじゃない」

「そ、そうか……」

戦女 「……今日は、帰るわ」

「……送って行こうか?」

戦女 「大丈夫よ」

-夜の街-

勇者 「流石に、静かだね」

戦女 「……何の用かしら? 色男さん」

勇者 「……俺はこうみえて、疑い深い性格でね」

戦女 「……戦士のように、扱いやすくはないみたいね」

戦女 「で、告げ口する気?」

戦女 「私が、複数の男と関係を持ってることを」

勇者 「さあ、どうしようか」

勇者 「まあ、ただ告げ口しただけじゃ信じてもらえそうにないのは確かだね」

戦女 「そうね……」

戦女 「彼は、よくも悪くも直向だから……」

勇者 「直向な彼を弄んでる、君が言うのかい?」

戦女 「……幻滅したかしら?」

勇者 「いや……、寧ろ君みたいなタイプは好みだ」

戦女 「あら……、嬉しいことを言ってくれるわね」

勇者 「愛だのなんだの語らず、金のために動く人間は……」

勇者 「……ああ、嫌いじゃないよ」

戦女 「……褒め殺されても、あなたに靡いたりはしないわよ?」

勇者 「何故だい?」

戦女 「わからないもの、あなたという人が」

勇者 「金を積まれても、靡かないかい?」

戦女 「ええ、危ない橋は渡りたくないもの」

勇者 「……なるほど、残念だよ」

戦女 「本心から言ってるわけじゃないでしょうに」

勇者 「……ばれたか」

戦女 「……戦士、無事に戻ってこられるかしら?」

勇者 「心配なのかい?」

戦女 「……貴重な金づるなのよ、彼は」

勇者 「直向な金づる……、なるほどね」

戦女 「……他意はないわよ? 本当よ?」

勇者 「はいはい」

戦女 「ここでいいわ」

勇者 「……ん」 サッ

戦女 「……それじゃ」

勇者 「ああ、また会えることを願ってるよ」

勇者 「……」

勇者 「……」 チラッ

勇者 「……さてと、そろそろ行こうか」

勇者 「地図は……あったあった」

勇者 「場所を思い浮かべて……」

勇者 「…………」

勇者 「テレポート」 ビュン

これにて区切り

レス付けてくださる方ありがとうございます、燃料になります

-東の洞窟・入口-

戦士 「……」

戦士 (……俺は、あいつ……)

戦士 (そう、戦女に釣りあう男になるんだ)

戦士 (二人で堂々と、あの街を歩くために……)

戦士 (そのために、必要なのはお金……)

戦士 (……待っていてくれ、戦女)

「思いつめた顔をしているね」

戦士 「……魔法でも使いやがったか?」

勇者 「ああ、こう見えて魔法は得意なんだ」

戦士 「……男が魔法、なぁ……」

勇者 「魔法を使うのに性別は関係ないさ」

戦士 「……いや、そういうもんじゃないだろ」

勇者 「そうなのかい?」

戦士 「ああ、男は腕っぷしで、魔法を唱える女を守るもんだろ」

勇者 「力持ちの女の子だっているかもしれない」

戦士 「だとしても、女は女だ」

勇者 「……なるほどね」

-東の洞窟・内部-

戦士「ランタンみたいな使い方をするんだな、炎」

勇者 「便利だよ、この炎は」

戦士 「……俺も使えりゃ、暗い洞窟での探索が楽になりそうなんだが……」

勇者 「修行を積めば、案外すぐに身に付くかもしれない」

戦士 「勇者も、そうやってその魔法を会得したのか?」

勇者 「……ご想像にお任せするよ」 ニッコリ

戦士 「……不気味なぐらい、何も出てこないな」

勇者 「確かに……」

勇者 (……なにも起こらない、なんてことはまずありえない)

勇者 (……俺が調べた限りでは、この洞窟は……)

女盗賊(以後盗賊) 「……ここに財宝が眠っているのかい」

戦士 「……人の声、だと?」

勇者 「……どうやら、客人のようだ」

ちょこっと投下終了

盗賊 「……あんた達も、この洞窟のお宝を狙ってきたのかい?」

戦士 「……誰だ、あんた」

盗賊 「あたしは盗賊」

盗賊 「世界を又に駆けて金銀財宝を集めてる盗人とはあたしのことさ」

戦士 「盗人だぁ……?」

勇者 「集めているのは、財宝だけじゃないだろう?」

勇者 「例えば……貴族の財産だとか」

盗賊 「……だったらどうするってんだい?」

勇者 「……さあ、どうしようか」

勇者 「盗賊、その妙な面、やや小柄な体つき……手配書で見かけた覚えがあるよ」

盗賊 「……煩いよ」イラッ

勇者 「女性の身でありながら、猫のようなすばしっこさと、小手先の技で」

勇者 「幾多の財宝や財産を盗んできた、大泥棒だったね」

戦士 「……大泥棒? こんな華奢な女がか?」

盗賊 「ああ、その通りさ」

盗賊 「……見てくれだけで判断すると、痛い目見るよ」イライラッ

勇者 「……君をここで倒し王国へと引き渡すのも、俺の役目なのかもしれないね」

勇者 「今は、別に優先すべきことがあるわけだけども」

盗賊 「あんたが負けるなんてことは、これっぽっちも考えていないみたいだねぇ……」

盗賊 「……勇者」

勇者 「盗賊にまで、名前が知れてるみたいだね」

盗賊 「魔王を倒す旅のついでに困っている人を助けていく好青年」

盗賊 「どの街でも、決まってそんな噂を耳にする……」

盗賊 「忘れろなんて、無理な注文さね」

勇者 「手の届く限り、困っている人を助ける……」

勇者 「勇者として、当然の行いだよ」 ニッコリ

盗賊 「はっ! あんたのその胡散臭くて張り付いた笑顔、気に食わないね!」

勇者 「それは、残念だね」

盗賊 「……あたしも思い出したよ、あんたに纏わるもう一つの噂」

勇者 「聞かせてもらえるのかな?」

盗賊 「聞かせてやるとも、勇者」

盗賊 「あんた……、貴族の世界では『何でも屋』としても通っているようだねぇ」

勇者 「……」

盗賊 「……あたしにはわかるよ、勇者」

盗賊 「あんたのむかつく面の奥に隠された、ドス黒い本性が!」

勇者 「……」

戦士 「……勇者、あんた一体……」

勇者 「まるで、俺の心を見透かしているかのような口ぶりだね」ニッコリ

盗賊 「認めるってのか?」

戦士 「……勇者、あんた」

勇者 「……」

勇者 「ご想像にお任せするよ」

ちょっくら寝てくる

盗賊 「……で、あんた達の目当てはこの洞窟に眠る財宝かい?」

勇者 「ああ、その通り」

戦士 「おい、勇者……」

勇者 「隠し立てしたところで意味はないさ」

盗賊 「……さっさと回れ右して帰りな、そうすれば見逃してやる」

勇者 「……らしいよ、戦士」

戦士 「……冗談じゃねえぜ」

戦士 「俺は、あいつのために宝を持って帰るって決めてんだよ!」

盗賊 「大切な者のために力を振るう……、嫌いじゃないよ」

勇者 「……」

盗賊 「が、大切な人のために力を振るうのがあんただけとは限らない」

戦士 「何……?」 

勇者 「……戦士、ここは任せた」

戦士 「……おうよ、こいつの足止めは任せとけ!」

戦士 「そのかわり、奥の化け物と財宝は頼んだ!」

勇者 「ああ、化け物を倒して、宝を必ず持ち帰るよ」

勇者 「また、後で会おう」 タッタッタ

盗賊 「あんたみたいな井の中の蛙が、あたしを止める……?」

盗賊 「あはは、面白いことをいうねぇ?」

戦士 「俺は、本気だ」 ギロッ

勇者 (……俺のことを見透かしているみたい、か) タッタッタ

勇者 (人のために力を振るう、か)

勇者 「……あはは、ハハハハッ!」

勇者 「ああ……」

勇者 (笑いを堪えるのは、大変だった) タッタッタ

戦士 「喰らいやがれ!」 ブオン

盗賊 「……ッ!」 シュッ

戦士 「あんたがいかに速かろうと、俺の斧から逃れられると思うなァ!」

盗賊 「……やっぱり、正面突破は無謀かぁ」

盗賊 「……なら」

戦士 「なにを……」

勇者 (……ここを訪れる前に目を通した文献より)

勇者 (昔、あの恋多き街に一人の男が住んでいた)

勇者 (その男も、例外なく恋をしていた)

勇者 (が、その相手は人ではなく、金だった)

盗賊 「……」

戦士 「さっきの見逃してやるって言葉、そっくりそのまま返してやるよォ!」 バシュッ

盗賊 「……」 ニヤリ

戦士 「避けられた……!?」

盗賊 「あんたのそれ……」

盗賊 「化け物みたいな斧を避けるのは確かに苦戦した……」

盗賊 「けどねぇ……」

盗賊 「斧を振りかざす時に生じる隙さえ見切れば、こっちのものさね!」グサッ

戦士 「ッッ!」

勇者 (その男は、生まれながらにたった一つ欠けていた

勇者 (……そう、容姿)

勇者 (その醜さは、みた人すべてを不快にさせてしまうらしい)

勇者 (容姿のせいで馬鹿にされ、恋した相手からも裏切られる)

勇者 (それも、最悪の形で)

勇者 (そうして自信を失った男は、やがて人間不信に陥った)

士 「か、体が、思うように動かねぇ……!」

盗賊 「当然、なにせ毒を盛ったナイフで一突きだからねぇ」

戦士 「な……」

盗賊 「別に死ぬような毒じゃあない」

盗賊 「あの胡散臭い勇者にでも、助けてもらうんだね」 タッタッタ

戦士 「く、くそう……!」

戦士 (済まねぇ……、勇者)

戦士 (戦女……) ガクッ

勇者 (男には才能が備わっていた)

勇者 (というのも、男は人を扱い商売するのが上手かった)

勇者 (顔さえ見せなければの話だけどね)

勇者 (懐は潤う、けど人恋しいことには変わらない)

勇者 (やがて人に好かれることを諦めた男は、自分を裏切らないし嫌わない……)

勇者 (そう、金や、価値のあるモノに恋をした)

勇者 (晩年、男は遺書を残し、誰にも看取られることなくこの洞窟で息を引き取った)

勇者 (恋をしたお金に囲まれて、一人孤独にひっそりと)

勇者 (けれども、そのお金に抱いた思いや、人々に対する怨恨と魔法が合わさった結果)

ゾンビ 「……アア……、アアアアア……」

勇者 「死してなお、金やモノと共にこの世界に留まり続けているというわけだ」

―――――

盗賊 「……意外な展開だねぇ」

勇者 「俺のしたことが、迂闊だったよ」 ポタ

盗賊 「名の知れた勇者に目に見えるほどの傷を負わせる……」

ゾンビ 「……アア、アアア……」

盗賊 「……宝を掠め取って、さっさとずらかるのが吉かねぇ」

勇者 「かもしれないね」

盗賊 「勇者、あんたは傷だらけになりながらも」

盗賊 「知り合ったばかりの男に力を貸すつもりかい?」

勇者 「……まさか」

盗賊 「何?」

勇者 「宝石一つだけでも回収できたからね、充分さ」

盗賊 「……この宝は、全部あたしに譲るってのかい」

勇者 「ああ、俺にとっての宝はこんなものじゃないからね」

勇者 「……テレポート」 ビュン

盗賊 「……潔いっていうのかねぇ」

ゾンビ 「カネ……アアアアア!」

盗賊 「死人に金なんざ!」

戦士 「……」

勇者 「やあ」 ビュン

戦士 「……ゆう、者か」

戦士 「どう、したんだ、その体中の傷……」

勇者 「ドジを踏んだだけさ」 ポタ

戦士 「……宝は、どうなった?」

勇者 「宝石はどうにか回収できたよ、価値もある」

戦士 「そう、か……、よかった……」

勇者 ああ」

勇者 「だから、安心して……」






勇者 「死ね」 ニッコリ

戦士 「……!?」

勇者 「男は趣味じゃないんだけど、君のその腕力が魅力でね」チャキ

勇者 「磨けば間違いなく素晴らしいものになる」 グサッ

勇者 「そう、俺の血肉にふさわしいものにね」 グサグサッ

戦士 「ゆ、勇者……!」

勇者 「肢体は切断させてもらった、これでもう君はなされるがままだ」

勇者 「君が無抵抗なのを見るに、盗賊がうまくやってくれたようだね」

戦士 「と、盗賊だと……!?」

勇者 「ああ、俺が盗賊の仲間ってわけじゃないよ?」

勇者 「ただ、利用させてもらったってだけの話さ」

戦士 「……あんたは、最初から」

勇者 「情けは人のためならずってね」 ニッコリ

戦士 「……そう、か」

戦士 「なら、これは遺言だ、勇者……」

勇者 「受け入れるのが早いね、戦士」

戦士 「どうにも……ならないから、な……」

戦士 「戦女、あいつは、ああ見えて、脆い……」

勇者 「男友達は沢山いるみたいだけどね」

戦士 「……」

戦士 「なら、安心、か……?」

勇者 「……心の底から愛しているみたいだね、戦女のことを」

戦士 「あいつは……、好かれるために必死なんだ……」

戦士 「少しでも自分を……、よく見せるために……」

勇者 「道理で化粧が濃い気がしたわけだ」

戦士 「昼間のあの街を……、二人で……、歩くために……」

勇者 「なるほど」

戦士 「そのために……、あいつは金を……」

戦士 「けどな……、俺は……、ありのままのあいつが……」

グサッ


勇者 「ごめん、飽きた」 ニッコリ



ムシャムシャ

盗賊 「……あの男も、勇者もいないみたいねぇ」

盗賊 「……それにしても、この血痕」

盗賊 「まさか、ね」

盗賊 「……? この写真……」

-情熱の街・夜・戦女の家の前-

戦女 「……端整な顔が台無しね? 色男さん」

勇者 「ここまで逃げるのに苦労させられたのさ」

戦女 「……戦士は?」

勇者 「……」

戦女 「……そう」

勇者 「これだけしか、守れなかった……」 ガサゴソ

戦女 「……生首だけを残す化け物だなんて、悪趣味ね」

勇者 「ああ、俺もそう思うよ」 シミジミ

勇者 「ああ、忘れていた」 ガサゴソ

戦女 「……?」

勇者 「あの洞窟の宝石だよ」

戦女 「……これが、洞窟の財宝」

勇者 「俺には必要のないものさ」

戦女 「……」

勇者 「確かに渡したよ、それじゃ」 タッタ

戦女 「……」

戦女 「……私のしてきたこと、貴方は知っていたのかしら?」

戦女 「……無視するなんて、酷いわ」

戦女 「ねぇ、戦士……」

戦士 「」

―――――

勇者 「……それにしても」

勇者 「戦士と一緒に写っていたあの娘……」

勇者 「眼鏡をかけていて、身なりもみすぼらしい彼女……」

勇者 「所謂地味で根暗で、誰にも好かれなさそうな女の子」

勇者 「あれがもし戦女だとすれば……」

勇者 「……女は変わるものだね」

勇者 「それにしても……」

勇者 「俺の傷が癒えることの遅いこと遅いこと」

勇者 「次は、もっと治療に特化した力を手に入れたいところだね」

勇者 「……打倒魔王までの道のりは、険しそうだ」




勇者 「……夜も明けたみたいだ」

勇者 「今日も、雨一つ降らない清々しい朝だね」 ニッコリ


おしまい?

物語的な意味でも区切り

続くかどうかは気まぐれ次第、ネタも募集中

―――――

-山道-

勇者 「こうも山道を抜けることに苦労するぐらいなら……」

勇者 「……空を自由に飛びたいよ」

勇者 (テレポートを使おうにも、あれは俺が一度訪れた場所でなければ使えない……)

勇者 (正確な座標を思い浮かべないと、壁の中に入ることになるからね)

勇者 (それにしても、実に疲れる坂道だよ……)

「……」 ガサゴソ

勇者 「……ん?」

? 「……」 ガサゴソ

勇者 「お嬢さん」

? 「なんでしょう?」 ガサゴソ

勇者 「何をしているんだい?」

? 「山菜を採集しているのです」 ガサゴソ

勇者 「何故だい?」

? 「節約です」 ガサゴソ

勇者 「なるほど、切実だね」

勇者 「手伝おうか?」

? 「……見ず知らずの方の手を貸していただくわけには」

勇者 「別に気にしなくてもいいよ」

勇者 「なにせ、俺は勇者だから」

? 「……」 ピタッ

? 「貴方が、勇者……」 ジィー

勇者 「……幻滅したかい?」

? 「いえ、貴方の目が笑っていないものですから」

勇者 「俺の目が、かい?」

? 「はい、その目は自分を偽っている人間の目です」

勇者 「心外だね、俺はいつも笑っているよ」

? 「……そうですか」

勇者 「しかし面白いね君、名前は?」

? 「名前、ですか……?」

僧侶 「僧侶、です」

勇者 「僧侶……覚えたよ」

これにて区切り

気まぐれで再開、レスありがとうございます

勇者 (……布切れ同然の服装から察するに、金がないというのは嘘じゃない)

勇者 (だが、小顔かつ均衡の取れたバランスに、大きく開いた二重)

勇者 (……いわゆる美人の条件を、彼女は果たしている)

勇者 (肉付きはお世辞にもいいとは言えない、どちらかと言えば小柄だね)

勇者 (けれども、磨けば光るだろう)

勇者 (金がないなりに手入れが行き届いているように見受けられる、黒く艶やかな黒髪も素晴らしい)

勇者 (その上、彼女から感じる魔力は治療系に特化している)

勇者 「……空を自由に飛べなかった事に、感謝だね」

僧侶 「……勇者さん?」

勇者 「いや、なんでもないよ」

「ん、僧侶ちゃんじゃないか!」

僧侶 「あ……、おじさん」

勇者 「……?」

おじさん 「今日も山菜採集か? 偉いなぁ!」

僧侶 「日課ですから、おじさんもですか?」

おじさん 「いや、俺は隣町に用事があるんだ」

僧侶 「そうでしたか」

おじさん 「で、僧侶ちゃんの隣のそいつは彼氏か?」

僧侶・勇者 「まさか」

勇者 「俺は、ただの通りすがりの勇者ですよ」

おじさん 「勇者……あんたが勇者なのか!?」

勇者 「お恥ずかしながら」

おじさん 「こりゃたまげた……、こんな線の細いのが勇者たぁな……」

勇者 「はは……、よく言われます」

おじさん 「でもおまえさん、腕は立つんだろう?」

勇者 「まあ……、それなりに」

おじさん 「人は見かけに寄らねえな、たくよ……」

おじさん 「……いいこと思いついたぜ」

僧侶 「……?」

おじさん 「僧侶ちゃん、勇者様を街に招いてやったらどうだ?」

僧侶 「勇者さんを……?」

勇者 「……」

おじさん 「ああ、勇者様はか弱い者の味方なんだろう?」

僧侶 「……そういえば、そんな噂を聞いたことがありますね」

勇者 「……か弱い者の味方、か」

おじさん 「勇者様なら、俺たちの街の地主をどうにかしてくれるかもしれないだろう?」

僧侶 「……見ず知らずの方の手を煩わせるわけにはいきません」

勇者 「……まあ、手を差し伸べるかはともかくとして、招待してくれるのならよろこんで」

勇者 (……なるほど)

勇者 (このあたりの地域にはそう伝わっているんだね)

-貧富の街-

兵士 「おらおら、さっさと働け!」

男性 「へ、へぃ!」

兵士B 「うほっ、いい女」

女性 「い、いや……!」

勇者 「……すごいね」

僧侶 「……」

勇者 「ところで、この武装している人たちは?」

僧侶 「地主さんの私兵です」

僧侶 「表向きには魔族から人々を守るために配備されたことのことです」

勇者 「……表向きには、か」

僧侶 「……はい」

兵士C 「よう、ねえちゃん」 グヘヘ

僧侶 「……」

兵士C 「ねえちゃんの孤児院、今にも潰れそうなんだってな」ニヤニヤ

僧侶 「……それがなにか?」

兵士C 「俺が、手を貸してやってもいいんだぜ?」 サワッ

僧侶 「不要です、人様に迷惑をかけるわけにはいきませんから」 バシッ

兵士C 「……んだとゴラ」

兵士C 「いつもいつも、俺の善意を無下にしやがって、許せねェ!」 ギロッ

勇者 「おっと、女性に暴力を振るうと嫌われるよ?」 ガシッ

勇者 「それも、こんな街中で」

兵士C 「……誰だあんた、このねえちゃんの男か?」

勇者 「……もうなんでもいいよ」

勇者 「ともかく」

勇者 「ここは俺の顔に免じて、手を引いてくれないかな?」 ニッコリ

兵士C 「……生意気なガキだな、おい」

勇者 「ガキって歳じゃないと思うんだけどね」

勇者 「いや、でもオジサンに比べれば、俺もまだまだガキか」 ニッコリ

兵士C 「……あんまり調子乗ってんじゃねえぞ!」 バシッ

勇者 「それはこっちの台詞だってば」 カキン ビビッ

兵士C 「」

勇者 「さあ、案内を続けてくれるかな?」

僧侶 「……一体、なにを」

勇者 「彼の体に微量の電流を流しただけだよ、命までは奪っていない」

僧侶 「……そうですか」

-孤児院-

男の子A 「……あ、お姉ちゃん!」

女の子B 「おかえり、お姉ちゃん!」

僧侶 「ただいま、お利口にしていましたか?」 ニコニコ

女の子B 「うん!」

勇者 「ひぃ、ふぅ、みぃ、ざっと数えて3人ぐらい……3人?」

女の子 「……お兄ちゃんは、外の怖い兵士さん……?」 ジィ-

男の子 「……」

勇者 「いや、俺は違うよ」

女の子 「……本当に?」

勇者 「ああ、神に誓って」

僧侶 「……」

女の子 「……」 ジィー

男の子A「とりゃ!」

勇者 「おっと」 カキン

男の子A 「……まだまだ!」

勇者 「隙だらけだよ」 パシン

男の子A 「……痛ッ」

勇者 「筋は悪くないと思うけど、力み過ぎてるね」

女の子A 「僧侶お姉ちゃん、勉強、教えて……?」

僧侶 「こら、台所に入ってきたら危ないです」

女の子A 「だって……」

僧侶 「夕ご飯を済ませた後なら、いくらでも教えてあげますから」 ナデナデ

女の子A 「ほんとに?」

僧侶 「はい、ですからもう少しだけ待っていてくださいね?」ニコニコ

―――――

子ども達「いただきまーす!」

男の子A 「美味い!」

女の子C 「僧侶お姉ちゃんの作ったにくじゃがは、やっぱり美味しいね!」

女の子A 「……」 コクコク

僧侶 「お世辞でも嬉しいです」 ニコニコ

勇者 「いや、確かに宿での夕食にも引けを取っていないと思うよ」

僧侶 「……そうですか」

勇者 「ああ」 ニッコリ

勇者 「ところで、聞いてもいいかな?」

僧侶 「なんですか?」

勇者 「ここ、確か孤児院だったね?」

僧侶 「そうですが……、それがなにか?」

勇者 「いや、孤児院にしては子どもが少ない気がしてね」

「……」

勇者 「……まずかったかな?」

女の子A 「……」 グスン

男の子A 「……」

女の子C 「……旅人さんの馬鹿」

勇者 「……気をつけるよ」

僧侶 「……この街を支配している主と、その私兵のせいです」

子ども達 「……」

勇者 「……また今度、ゆっくりと聞かせてもらうよ」

勇者 「食事時に暗い話題なんて、似合わないからね」

次の日

-街/大通り-

僧侶 「昔……といっても、ほんの数十年ぐらいのことなんですけどね」

僧侶 「この街の小さな教会が、貧しい子どもや捨てられた子ども」

僧侶 「身寄りのない子どものために、小さな孤児院を建てました」

勇者 「どこか、他人事だね」

僧侶 「……わたしも拾われた身ですから」

勇者 「なるほど……」

侶 「わたしと妹と子ども達は、神父やシスターに育てられました」

勇者 「……妹がいるのかい?」

僧侶 「言ってませんでしたか?」

勇者 「初耳だね、それで?」

僧侶 「この街では昔から、地主が力を振るっていました」

僧侶 「この街をうろついている兵士も、街の貧困さも……」

僧侶 「すべては、その地主がお金を使い込んでいるせいなのです」

勇者 「なるほどね」

僧侶 「それから月日は流れて、わたしも気付けば18でした」

僧侶 「わたしは、貧しい教会の運営の手伝いをしつつも……」

僧侶 「思うところがあり、治療魔法の会得に精を出していました」

僧侶 「……こんな貧しく希望のない街です、救いを求める人たちは沢山いました」

僧侶 「ですがある日、わたし達の教会に兵士がやってきました……」

―――――

僧侶 「……今日の仕事はこれぐらいで……」

「……このような寂れた教会に、何のようですかな?」

「地主の命令だ、この教会の建て壊しならびに、神父、貴様を連行する

「……随分と、乱暴な方たちですな」

「……余裕ぶるのもいい加減にしとけよ爺さん」

「この教会が信者と結託して地主に反逆を企てている……」

「俺たちは、そう聞いてきたんだぜ?」

僧侶 (……嘘だ)

神父 「……根も葉もない噂ですわい、どうぞお引き取り下さい」

屈強な兵士 「そういうわけにはいかないんだよ、こっちとら仕事で来てるんだ」

華奢な兵士 「……さあ、神父、こちらへ」

神父 「……子ども達には、どうか手を出さぬよう……」

屈強な兵士 「アンタの態度次第だよ、爺さん」

「……神父を苛めるな!」

「そうだそうだ!」

「何勝手に神父を連れて行こうとしてんだ!」

屈強な兵士 「……あん?」

「僕たちの家族を連れてかないで!」

「私達の大事な人に、手出ししないでよ!」

屈強な兵士 「……ひい、ふう、みい、二桁はいやがるぜ」

華奢な兵士 「仇名す者には死を、子ども達であろうとそれは変わらない」

神父 「……止しなさい、お前たち」

「なんでだよ!」

「神父は、なにも悪いことしてない!」

神父 「……」

屈強な兵士 「……なあ、こいつら殺っちまってもいいよな?」

華奢な兵士 「神父の首さえ持って帰れば、地主も満足だろう」

神父 「……子ども達だけは、どうぞご勘弁を」

屈強な兵士 「喧しいぜ」 ドカッ

勇者 「……」

僧侶 「その時、教会に居合わせなかった子達は見逃されました」

僧侶 「……わたしは、物陰に潜んで、やりすごそうとしていました」

僧侶 「……がくがくと震えながら、その一部始終を目の当たりにしていました」

僧侶 「みんな、斬られたり引きちぎられたりしました」

僧侶 「慰み者にされてる子もいましたっけ」

勇者 「……助けには、入らなかったのかい?」

僧侶 「……足が竦んで、動けませんでした」

僧侶 「ただただ、震えてました」

勇者 「……」

僧侶 「彼らが立ち去った後」

僧侶 「わたしは、失意のままに孤児院へと向かいました」

僧侶 「……妹は、そんなわたしを罵りました」

僧侶 「その日以来、わたしは妹の姿を見ていません」

勇者 「……なるほどね」

―――――

勇者 「今日はありがとう、それなりに楽しませてもらったよ」

僧侶 「そう、ですか……」

勇者 「引き留めないのかい?」

僧侶 「引き留める必要なんてありません」

勇者 「……ところで、僧侶ちゃん」

僧侶 「なんでしょう?」

勇者 「どうして、俺にあんな話を?」

僧侶 「勇者さんが聞きたいと仰ったからですが、それが何か……?」

勇者 「……本当に、それだけなのかい?」

僧侶 「と、言いますと?」

勇者 「一連の出来事を話している時の僧侶ちゃんは、苦しそうだった」

僧侶 「……」

勇者 「普通、見ず知らずの人間の好奇心を満たすためだけに」

勇者 「己を苦しめるような話を、人にするかい?」

僧侶 「……それは」

勇者 「……仇を、討ってほしいんだろう?」

僧侶 「……言ったはずです」

僧侶 「見ず知らずの人の手を煩わせるわけにはいかない、と」

勇者 「……勇者は人に使われて勇者なんだ、気にしなくてもいいのに」

僧侶 「……貴方以外なら、そうしていたかもしれませんね」

勇者 「……はは、信用ないな俺」

僧侶 「……やはり、貴方の目は笑ってませんね」

勇者 「僧侶ちゃんだって、俺の前では滅多に笑顔を見せない」

僧侶 「愛想笑いは苦手でして」

勇者 「……君はあくまで、俺の手は借りないというんだね」

僧侶 「……」

勇者 「そうか、なら俺は行くよ」

僧侶 「……そうですか」

勇者 「冷たいことで」

勇者 「……別れにはもってこいの夕暮れだ」

僧侶 「……もう、日没でしたか」

勇者 「……時間が経つのは早いね、本当」

僧侶 「ええ……、では」 タッタッタ

勇者 「……」

勇者 (……諦めないよ、俺は)

勇者 (そう、最後に笑うのは、俺だ)

勇者 (……)

勇者 (テレポート) ビュン

ちょっくら飯食ってくる

-街・裏路地-

屈強な兵士 「ああ、だりぃ」

華奢な兵士 「……減給されるぞ」

屈強な兵士 「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」

華奢な兵士 「……俺ならいいのか」

屈強な兵士 「お前は告げ口するような珠じゃねぇだろ」

華奢な兵士 「……ふん」

屈強な兵士 「付き合い長げぇからな、俺らも」

華奢な兵士 「ただの腐れ縁だろう」

屈強な兵士 「……はっ」

華奢な兵士 「貴様は、今のこの現状を良しとしているのか?」

屈強な兵士 「聞くまでもねぇ」

屈強な兵士 「最高じゃねぇか、権力を盾に町人共を好き勝手にできるなんてよ」

屈強な兵士 「……まあ、制約もあるけどよォ」

華奢な兵士 「……そうか」

屈強な兵士 「お前は気に入らなそうだ」 ケラケラ

華奢な兵士 「……」

屈強な兵士 「そういやお前は元々……」

華奢な兵士 「その話はよせ」

屈強な兵士 「へいへい、そうカリカリするなって」

屈強な兵士 「さてと、俺はそろそろ見回りに戻るか」

華奢な兵士 「そうか」

屈強な兵士 「……そういやお前」

華奢な兵士 「……?」

屈強な兵士 「さっき、ローブで顔を隠してた奴となんか話してたな」

屈強な兵士 「そして、なんか受け取っていた」

屈強な兵士 「……なにか企んでやがるな?」

華奢な兵士 「……貴様には関係のないことだ」 タッタ

-薄暗い路地-

華奢な兵士 「……」

「やあ」

華奢な兵士 「……俺に手紙を寄越したのは、貴様か?」

「恰好が違うだろう?」

華奢な兵士 「……なら、あのローブは誰だ」

「……世の中には、知らないほうが幸せなことだってあるはずだよ」

華奢な兵士 「……ふん」

「君に手紙を送り届けたのは、こんなくだらない話をするためじゃない」

華奢な兵士 「……なに?」

「君にいい話があってね」

華奢な兵士 「……随分と胡散臭いな」

「……あの子といい君といい、心外だね」

華奢な兵士 「……」

「まあ、そんなことはどうだっていいか」

「……俺と契約して、この街を救わないかい?

華奢な兵士 「……なんだと?」

華奢な兵士 「……俺は兵士だ」

「ここ地主の私兵は、基本的にこの街の外の人間」

「かつ、暴れることしか能のない脳筋が多く選ばれている」

華奢な兵士 「……」

「どうやら、ここの地主にとっての私兵の役割は……」

「あくまでも、地主の権力を民に誇示するためのものらしい」

華奢な兵士 「……」

「けれども、君は数少ない例外だ」

華奢な兵士 「……」

「この街の生まれで、かつ理的でありながら」

「その並みの兵士を寄せ付けない実力と、雰囲気を買われて兵士に選ばれた、君はね」

華奢な兵士 「……どこまで知っている」

「傍から見ればかろうじで街の体裁は保っているぐらいは知っているよ」

華奢な兵士 「……この街に立ち寄れば誰しもが理解できることだ」

「そうなのかい?」

華奢な兵士 「……」

「……君は、地主によって親や友人を失っている」

「彼らやその仲間が、かつて今の独裁的な地主に意を唱えたせいで」

華奢な兵士 「……」

「本来なら、君も一緒に処刑されるところだろう」

「でも、君はこの街中の兵士の中でも一・二を争う才能を備えている」

「だから、地主に生かされた」

「地主に忠誠を誓うことを条件にね」

「復讐しようとどれだけ力を磨いても、人間の範疇を越えられない君は数の前には敵わない」

「それに、上には上がいる」

「だから、君は諦めてしまった」

華奢な兵士 「……誰から聞いた」

「君のことを疎ましく思っている同じ街の住人さ」

華奢な兵士 「……」

「まあ、どこまでが真実かは知らないけどね」

「同じ街の住人からは、裏切り者と罵られる」

「生きるために強者に尻尾を振る行為なんてのは、こんな世の中じゃ当然のことなのに」

華奢な兵士 「……」 ギュッ

「兵士の暴力行為が人々を傷つける様を、指を咥えてみていることしかできないことへの罪悪感」

「従順な犬の振りをして、憎き地主に仕えなけばならない屈辱」

「従順な犬の振りをしなければならないのだから、この街の人々が傷つく様も」

「さも当然であるかのように見守らなければならない」

「時には、自分で手を下さなければならない」

華奢な兵士 「……」

「辛いだろう、悔しいだろう」

「君も親が生きていた頃は、それなりに街を愛していたのだから」

「人のために生きようとしていたのだから」

「人並みの正義感を抱いていたのだから」

華奢な兵士 「……貴様に、何がわかるというのだ……!」 シャキッ

「剣を向けた、か……」

「俺を殺す気かい?」

華奢な兵士 「……」 ブオン

「斬られでもすれば左腕を持っていかれそうなものだ」

「でも、当たらなければどうということはない」 ニッコリ

華奢な兵士 「……」 ブオン、ブオン

華奢な兵士 「……」 ゼェゼェ

「もう終わりなのかい? だらしない」

華奢な兵士 「……ただの旅人ではない、な……」

勇者 「世界を救うために、鍛えてますから」 ニッコリ

華奢な兵士 「……勇者、なのか?」

勇者 「だったらどうする? 俺と契約を交わしてくれるのかい?」

華奢な兵士 「……話を、聞かせてもらおう」

これにて区切り

支援、保守ありがとうございます
落ちない限りは続けます

魔王「てか私と組んで世界制服しようよ!」

勇者「ば、バカにするな!!俺はお前を倒し封印する!」

魔王「ふ~ん 封印したらもう私の身体触れないよ?」

魔王「折角好き放題できるのに....」

勇者「..........」

勇者「駄目だ!誘惑には負けない!!」

魔王「ちょっとさっき考えたでしょ」

勇者 「俺はここの地主を殺して、この街を革命することを約束する」

勇者 「その代わり、君は俺の頼みを一つ聞く」

勇者 「たったこれだけさ」

華奢な兵士 「……勇者が人を殺してもいいのか?」

勇者 「人殺しっていうのはなんだかな……」

勇者 「せめて、悪党を懲らしめる正義のヒーローってことにしてくれるかな?」

華奢な兵士 「……殺さずとも、地主を追放するという手もあるはずだ」

勇者 「ああ……、確かに島流しにするほうが死体の処理を考えなくていい分楽か」

華奢な兵士 「……」

勇者 「いや、でもそれで足が付いて、あらぬ噂が立つのもなんだしなぁ……」

華奢な兵士 「……革命を起こし、貴様がそれを成功させるとしてだ」

華奢な兵士 「その後、どうするつもりだ」

勇者 「うん、やっぱり地主の息の根を止めるのが一番確実かな」

華奢な兵士 「……聞いているのか?」

勇者 「地主を殺せるかってことなら、愚問だね」

勇者 「でも、そこから先は俺の関与する問題じゃない」

華奢な兵士 「……」

華奢な兵士 「……俺に頼みがあるらしいな」

勇者 「ああ、忘れるところだった」

勇者 「ええっと……誰だっけ?」

騎士 「騎士、だ」

勇者 「騎士……覚えたよ」

勇者 「それじゃあ、騎士」

勇者 「この街の孤児院のことは知っているね?」

騎士 「……かつて俺と兵士で壊した教会が管理していた孤児院のことか」

騎士 (兵士は気づかなかったようだが、あの場に居合わせた女が一人いたことは覚えている)

勇者 「察しがいいね、その通り」

騎士 「孤児院がどうした……?」

勇者 「俺の頼みは、その孤児院を……」

勇者 「壊してほしいんだ」 ニッコリ

騎士 「……正気か?」

勇者 「俺は正気そのものさ」

騎士 「街を救うことと、なんの関係もない」

勇者 「その通り、だからこれは俺の個人的なお願いさ」

騎士 「……」

勇者 「ああそうそう、子ども達は皆殺しで頼むよ」

騎士 「……何故、殺さなければならん」

勇者 「秘密」

騎士 「……」

勇者 「別に拒否したって構わない」

勇者 「そしたら、この話はなかったことになる」

勇者 「ただそれだけだからね」

騎士 「……」

勇者 「正義の味方になれるチャンス……、君は無下にする気かい?」

騎士 「……結局は、他者の力を借りなければならないのか」

勇者 「街を救うのは、俺の力じゃない」

勇者 「君の英断が、この街を救うんだ」

騎士 「……」

――――

「騎士」

「……父さん?」

「大きくなったな、騎士」

「どうしたの? 武器なんて持って」

「うちの前にも人が集まってきてるし、なにかあるの?」

「……私達は、これからこの街に戦いを挑む」

「……どうして?」

「街の人たちが苦しんでるからだよ」

「……苦しくても、そこそこ平和に暮らせてる」

「……それでは、ダメなのだ」

「どうして?」

「このままだと、この街はいつかダメになる」

「……え?」

「……騎士よ」

「騎士と言う名に恥じぬような」

「正義に準じる、立派な男になるのだぞ……」

「……父さん!」

騎士 (……正義、か)

騎士 「……これは、正義となりえるのか?」

勇者 「ああ、君が今まで重ねてきた罪を帳消しにして余るぐらいの正義だ」

騎士 「……そう、か」

騎士 「わかった、契約を交わそう」

勇者 「……契約成立、だね」

勇者 (……さて)

-夕方-

僧侶 「今日も沢山山菜が取れました」

僧侶 「売れば、幾らかお金にできるでしょうか?」

僧侶 「でも、全部は売れません」

僧侶 「ちゃんと、あの子たちの分は別に分けておかないと」

僧侶 「そう、ちゃんと……」

――――

「……この地主様になにか用か?」

「どうして、教会を襲ったんですか」

「かつて、愚かにも俺に立ち向かってきた愚民がいてな」

「だが、連中は案の定我が兵士の物量の前には返り討ちだ」

「それで傷ついた連中を匿ったのが、あの教会だったのだ」

「……そんな話、聞かされてません」

「お主がどう思おうと、こちらで確認は取っておるのだ」

「慈悲の精神とやらが裏目に出たな、がッはッは!」

「……」

「あれは見せしめでもあるのだ」

「見せしめ……?」

「愚民共は土地をを貸し与えられていることに、もう少し感謝すべきなのだ」

「俺様も、こう見えて地主としての仕事はしてるわけだから」

「……まあ、気に喰わなければ別の街に移り住めばよい」

「もっとも、あの山道を無事に抜けられればの話だがなぁ」

「……」 グッ

「用はそれだけか?」

「……」

「……ついでに言っておいてやろう」

「……え?」

「あの教会が関わった施設や愚民……」

「近いうちに、それら施設をすべて建て壊し、並びに愚民の処刑を執り行う」

「……な、何故……」

「あの革命運動に関わったすべての人間は、例外なく死刑だ」

「これもまた、見せしめということなのだ」

「……どうか、それだけはご勘弁を」

「愚民の娘如きが、この地主様に指図するのか?」

「……ッ」

「……まあ、その願いを聞き入れてやらんこともない」

「……本当、ですか?」

「ああ、ただし……」 サワッ

「……ッ!」 ビクッ

「この地主様に誓え、犬になると」

「……」

「お前は美しい、どの愚民よりも輝いている」

「故に、慈悲をくれてやろうというのだ」

「……」

「もしも犬になると誓うのならば、お前の孤児院は見逃してやろうぞ」

「もしも『犬』になると誓うのならば、孤児院は見逃してやろうぞ」

「犬だからと言って、この場所に束縛したりもせん」

「俺様が呼んだ時に、傍にいればよい」

「それでいて、俺様に奉仕すればそれでよいのだ」

「悪い条件ではなかろう?」

「……」

「……誓うのならば、靴を舐めよ」

「……ッ」

「……できないというのならば」

「……」

「……」 ペロッ

「……クックック、それでよい」

僧侶 「……」 ブルッ

僧侶 「……嫌なことを思い出してしまいました」

僧侶 「あれは、いつのことだったでしょうか」

僧侶 「……あの子たちの笑顔のためなら、わたしはなんだってします」

僧侶 「せめて、あの子たちが自立するまでは、わたしが……」

僧侶 「……待っていてくださいね?」 フラフラ

-孤児院-

男の子A 「今日も遅いな、僧侶お姉ちゃん」

女の子A 「お仕事だから、仕方ない……」

女の子C 「山菜を売りつけたり、取ってきたり、大変そう」

男の子A 「……ほんとに、それだけか?」

女の子A 「……わから、ないけど」

女の子C 「そんなことはどうだっていいよ」

女の子C 「今は、少しでも僧侶お姉ちゃんの負担を減らすために、あたしたちができることをしよ?」

男の子A 「……片付けぐらいは、俺にだってできる」

女の子A 「残ってる食材で、夕飯の支度ぐらいはできる……」

女の子C 「よし、それじゃあ今夜も頑張ろ!」

バキッ

子ども達 「!?」

騎士 「……」ギロッ

僧侶 「……すっかり、暗くなってしまいました」

僧侶 「……子ども達は、まだ起きて……!?」

静まり返った孤児院

荒らされて廃墟同然の部屋

乱暴に壊された扉

僧侶 「……あの子たちは?」

僧侶 「孤児院の子ども達は?」

僧侶 「どこですか? どこに行ったのですか?」

僧侶 「……ああ、もしかしてかくれんぼですか?」

僧侶 「派手に散らかして、わたしの目を逸らそうとしたんでしょうね」

僧侶 「……それとも、隠れる場所を確保するためにこんな真似を?」

僧侶 「そうだとしたら、ちゃんと叱らないといけません」

僧侶 「ほら、早く出てきてください?」

僧侶 「早く、出てきてください?」

カタン、カタン

騎士 「……俺がここを訪れた時よりも、荒れている?」

僧侶 「……あらかた探し回ってみましたけど、見つかりません」 ドシャッ

僧侶 「どこに隠れたんでしょうか?」グシャッ

騎士 「……女か」

僧侶 「あ、丁度よかったです」

僧侶 「子ども達を探す手伝いをしてくれませんか?」

騎士 「……俺はへい」

僧侶 「誰だって構いませんよ」

僧侶 「早く見つけ出さないと、日が昇っちゃいますし」 バリッ

僧侶 「散った部屋だって、ちゃんと片付けさせないといけないのに」

騎士 「……おい」

僧侶 「……そろそろ出てきてくださいよ」

「……僧侶ちゃん、危ない!」

僧侶 「?」

騎士 「……ッ」 カキン

勇者 「この子には、指一本触れさせない」

騎士 「……勇者、か」 タッタッタ

勇者 「行ったみたいだよ、僧侶ちゃん」

僧侶 「あれ、戻ってきていたんですか? 勇者さん」

勇者 「ちょっと忘れ物をしたんだけど……、酷い有様だね」

僧侶 「子ども達が散らかしたみたいです、悪い子達ですよね」

勇者 「……よく見るんだ、僧侶ちゃん」

僧侶 「なにをですか?」

勇者 「……壁についている傷、派手に壊された扉」

勇者 「それに、所々に染みついた血痕」

勇者 「……これは、この孤児院が誰かに襲われたということを証明しているんじゃないだろうか?」

僧侶 「違いますよー、あの子たちがわたしを脅かそうと仕掛けただけですって」

勇者 「僧侶、ちゃん?」

僧侶 「襲われたはず、ないじゃいですか、何言っているんですか、あははは」

僧侶 「あの子たちが、殺されたわけないじゃないですか」

僧侶 「違うにキマッてますよ、あはは!」

僧侶 「ははああはああはははは!」


バタン

これにて区切り

僧侶編はもう少し続きます

華奢な兵士 「……」

屈強な兵士 「……なァ、てめえ」

華奢な兵士 「……なんだ」

屈強な兵士 「てめぇ、なに勝手に孤児院を潰してんだ?」

華奢な兵士 「……」

屈強な兵士 「越えちゃならねえ一線があるってのは、地主から聞かされてるだろ?」

華奢な兵士 「……孤児院には手を出すな、か」

屈強な兵士 「何でも、あの孤児院の女との取り決めらしい」

屈強な兵士 「あの地主が惚れるほどの女……、まさに魔性の女だよなァ」

華奢な兵士(騎士) 「……地主、地主か」

屈強な兵士 「……なんだぁ?」

華奢な兵士 「……地主が倒れれば、この街は活気を取り戻すか?」

屈強な兵士 「そんなことをすりゃあ、俺や下っ端の兵士が黙っちゃいねぇよ」

「……なら、兵士がいなくなればどうなるかな?」

屈強な兵士 「……な」

ドカッ

騎士 「奴の意識のみを奪ったのか」

勇者 「電流は便利だね」

勇者 「人間に対しては、だけど」

騎士 「……」

勇者 「さてと、気付かれる前に立ち去ろうか、騎士」

騎士 「どこへ行くつもりだ」

勇者 「行けばわかるさ」

入り組んだ路地-

勇者 「このあたりなら、人も寄り付かないかな?」

騎士 「……あの娘、よかったのか?」

勇者 「ああ、君のお陰で助かったよ」

勇者 「「俺が手を掛けなくても、事が運びそうだからね」

騎士 「……何が目的だ」

勇者 「あの子は容姿もさることながら、治療魔法に長けているからね」

勇者 「その力が欲しかったのさ」

騎士 「……欲しい、だと?」

勇者 「ああ、でも僧侶ちゃんは孤児院や子供達に病的なまでの愛情を抱いているらしかった」

勇者 「だから、彼女は俺の前でも気丈でいられた」

勇者 「毅然とした態度で、俺を突き放すことができた」

騎士 「何故、そう思う」

勇者 「理由かい?」

勇者 「彼女も、本当は街に復讐したいはずだ、薄汚い地主のことを殺したいほど憎んでいるはずだ」

勇者 「でも、復讐してどうなる? もしそれで己の平穏が失われるとすれば?」

騎士 「……」

勇者 「こう考える根拠は、彼女は俺の提案を聞くまでもなく押しのけてしまったことだね」

勇者 「尽くすことにおいて、あの子は強いよ」

勇者 「君と違って、あの子は我慢強いらしい」

騎士 「……何?」

勇者 「それにしても、愚かな女だよ」

勇者 「あの時俺の提案を素直に聞き入れておけば、子ども達まで巻沿いにせずに済んだものを」

騎士 「……すべては貴様の手のひらの上だとでもいいたいのか?」

勇者 「俺は神様じゃない」

騎士 「……なら、なんだと言うのだ」 ギロッ

勇者 「俺はどんな人間よりもほんの少しだけ欲深いだけの、ただの人間さ」 ニッコリ

騎士 「……化け物の間違いだろう」

勇者 「化け物、化け物か……」 ササッ

勇者 「……懐かしい響きだね」 ギロリッ

騎士 「……!?」

勇者 「……炎よ」

ボアッ

ムシャムシャ

―――

勇者 「……敵から受ける傷を最小限に抑える程度の才能、か」

勇者 「兵士の服装は……これだね」

勇者 「……さてと、うまく立ち回ってみようか」

勇者 「……もうすぐ、世が明けるみたいだし、ね」

勇者 「約束通り、街は救ってあげるよ」

勇者 「……騎士」 ニッコリ

これにて区切り

-翌日-

兵士A 「……妙に静かだなぁ」

兵士A 「思えば、今日は街の住人に会ってない」

兵士 「兵士A! まずいことになった!」

兵士A 「その恰好は俺たちと同じ兵士か……、なにがあった!」

兵士 「何者かの手によって、兵士たちが次々と殺されている……!」

兵士A 「……嘘だろ?」

兵士 「マジらしい」

兵士A 「……まさか、悪い冗談だよな」

兵士 「今日、お前は俺以外に兵士を見かけたか?」

兵士 「それだけじゃない」

兵士 「地主の屋敷のまわりに人が集まってきている」

兵士 「だが、兵士は誰もそれを止めようとしない」

兵士A 「……確かに、妙だ」

兵士A 「よし、なら……」

「それは当然だよ、なにせ」

兵士達 「!?」

グサリッ




勇者 「俺がいるのだから」 ニッコリ

-地主の屋敷・玄関-

兵士? 「……」

衛兵 「む、その恰好は兵士……なのか?」

兵士? 「……」

衛兵 「いつ、この屋敷に来た……?」

兵士? 「……」

衛兵 「……まあいい、今は一刻を争う事態だ」

衛兵 「これは命令だ、貴様はこれより街へ赴き、人間達の暴動を止め――」

グサッ

衛兵 「……な、に」

兵士? 「俺は、兵士じゃないよ」 ニッコリ

衛兵B 「……む、なんだ、今の音は」

兵士? 「……地主に気づかれては、なさそうだ」

衛兵B 「衛兵!?」

兵士? 「……凍結魔法」

サァーッ

衛兵B 「」

兵士? 「砕けて」

パリーン

兵士? 「……衛兵ごと砕けたね」

兵士? 「魔力への耐性に欠ける人間の相手は楽だよ、本当」

兵士? 「さて、忍び足で行こうか」

―――――

地主 「さて、納品物の確認をだな……」

「地主様!」

地主 「……なんだ、騒がしい」

「街の者どもが、暴動を……!」

地主 「……なんだと?」

「兵士共にはもう懲り懲り!」

「税を減らしやがれ!」

「あんたの気分一つで、街のルールを変えやがって!」

「このタイミングで暴動を起こせばよかったんだよな!」

「革命だーーー!」

地主 「……兵士は、兵士はどうなっている!」

「……わ、私を残して……」

地主 「……なんだと?」

地主 「この街の者どもにそのような芸当ができるはずがあるか!」

「……如何いたしましょう、地主様」

地主 「命令だ、あの騒ぎを鎮圧するのだ!」

「……仰せのままに」 ニッコリ

グサッ

地主 「……な」 ポタポタ

「この屋敷に兵士の振りして忍びこむまでが大変だったよ」

「兵士を全滅させないといけなかったからね」

「なにせ、飼い主の手を離れた犬は、なにをしでかすかしれたものじゃない」

地主 「……ガハッ、貴様、何者だ……!」

勇者 「愛と正義の使者こと、勇者だよ」 グサグサグサッ

地主 「」

勇者 「……ん、もう死んじゃったか」

勇者 「しかし、俺の変装に全く気づかないとはね」

勇者 「仮にも、彼は地主なのに」

勇者 「余程、、頭に血が上っていたのかな?」 ニッコリ

「勇者さん! よくやってくれた!」

「あんたはこの街の英雄だ!」

勇者 「いえいえ、困っている人がいるなら助ける」

勇者 「正義の味方を謳う者として、当然のことをしたまでです」

「礼は弾むぜ、なんでも持っていってくれ!」

勇者 「なら……」

-孤児院前-

僧侶 「……」 スゥ、スゥ

「あの地主のお手付きでいいのか?」

「こんな薄汚れた奴よりも、勇者様にお似合いの女はいくらでもいるだろうに」

勇者 「……」

「そういえば孤児院を経営してたわねぇ、この子」

「神父さんがいなくなってから、ずっとこの子が子ども達を育ててたのよねぇ」

「……あんな子に育てられるなんて、子ども達が可愛そうだわ」

「ええ、若いからって私欲のために地主に身を売る、身勝手な女だったわ」

「でも、その子ども達はもう……」

勇者 「……では、後のことは任せました」

勇者 「テレポート」 ササッ

―――

勇者 「……人気者は辛いね」

勇者 「そう思わないかい? 僧侶ちゃん」

僧侶 「……」 zzz

勇者 「ぐっすりと眠っているね、もう起きてこないんじゃないかと思うぐらいに」

勇者 「僧侶ちゃんの力、今すぐにでも手に入れたいところだけど……」

勇者 「……ここじゃ人目に付く」

勇者 「もう少し、歩いてからにしようか」

僧侶 「……ごめん、なさい」zzz

勇者 「……それは、俺に対する謝罪なのかな?」

僧侶 「……」 zzz

勇者 「だとすれば、必要ないよ」

勇者 「なにせ君は軽い、だから担ぐのは楽だ」

勇者 「……まあ、彼の力がなければ、話は変わってくるのかもしれないけど、ね」

勇者 「それにしても、今日も天気がいいねぇ」

勇者 「そうだと思いませんか、おじさん」

おじさん 「……あんたか、勇者様」

勇者 「お久しぶりです、また会いましたね」 ニッコリ

勇者 「隣町への用とやら、済ませましたか?」

おじさん 「あ、ああ……」

勇者 「……荷台に乗せているのは、孤児院の子ども達ですか?」

おじさん 「ああ、偶然見つけたんだけどよ」

おじさん 「しかし、なんたってこいつらはあんな山で寝てやがったんだ……?」

勇者 「……なるほど」

勇者 「ああ、そうでした」

勇者 「約束通り、街は救ってみせましたよ」

おじさん 「へぇ、さすが勇者様ってところ……待て」

勇者 「……?」

おじさん 「その子を、どうするつもりだ?」

勇者 「力づくで聞き出してみますか?」

おじさん 「……ッ」

勇者 「聡明なご判断です、それでは」 タッタッ

ビュン

おじさん 「……消えやがった」

おじさん 「……」

おじさん 「…………」

-滅ぼされた街・周辺-

勇者 (……あの子ども達は、彼の良心だったのかな?)

勇者 「……」

勇者 「まあ、いいか」

勇者 (どうせ、彼らはなにもできやしない)

勇者 (まだ、俺のほうに分がある)

勇者 「そう、俺が焦る必要はどこにもない」

勇者 「そう、そのはずなんだ……」






ポタ、ポタ

勇者 「……雨、か」

つづく?

物語的にもこれにて区切り

続くかどうかは体力と気力と時間次第

――――

勇者 「雨はまだ止まないのかな?」

僧侶 「……」 zzz

勇者 「……このあたりがいくら険しい街道で人っ気も少ないと言っても」

勇者 「雨ざらしになりながらというのは、さすがに気が進まないね」

勇者 「……どこかに洞穴でもあればいいんだけどね」

「おや、もしや旅の方ではなのではありませんかな?」

勇者 「……ええ、おっしゃる通りです」 ニッコリ

-のんびり村-

村人 「さあさあ、こちらをお付けください」

勇者 「……これは?」

村人 「旅人であることを証明する腕輪でございます」

勇者 「……なるほど」 カチャッ

「あら、旅人さんかしら」

「お客様だ、頭を下げるのだ!」

「あ、旅人さんだー!」

「こんにちは、旅人さん」

勇者 「……」 ニッコリ

僧侶 「……」 zzz

-村人の家-

「どうぞどうぞ、歓迎しますよ、お連れの方も」

勇者 「なにからなにまで、ありがとうございます」 ニッコリ

「濡れている上着をお脱ぎくださいませ、風邪を引いてしまいますから」

勇者 「では、お言葉に甘えて」

僧侶 「……んにゃ?」 ムニャムニャ


-個室-

勇者 「まさか、部屋まで貸してくれるなんてね」

僧侶 「……」

勇者 「この村の住人は優しい人たちばかりだ」

勇者 「……そう思わないかい? 僧侶ちゃん」

僧侶 「……見覚えのない部屋です」

僧侶 「……って、誰ですか、貴方は」

勇者 「俺のこと、忘れてしまったのかい?」

僧侶 「……ああ、勇者、さん」

勇者 「そう、俺は勇者だ」

僧侶 「……わたしはなにを……そうでした」

勇者 「……」

僧侶 「わたしはかくれんぼをしていたのでした、彼らを探さないと」

勇者 「どうやら、子ども達は街の外に出てしまったみたいだ」

僧侶 「……本当ですか?」

勇者 「……信じるも信じないも、君次第さ」 ニッコリ

僧侶 「そうですか、なら探さないといけませんね、そう、探さないと」

僧侶 「まったく、手間を掛けさせられる子ども達です、本当に……」 ウルウル

勇者 「……」っハンカチ

勇者 「……」っハンカチ

僧侶 「……なんですか、これ」

勇者 「俺はこの村の情報収集も兼ねて、少し外の空気を吸ってくるよ」

僧侶 「……なら、わたしも」

勇者 「大丈夫、子ども達は俺が探しておくよ」 ニッコリ

僧侶 「……はあ、そうですか」

勇者 「まあ、そういうわけだから僧侶ちゃんはしばらく休んでなよ」 スタスタ

僧侶 「……はい」

バタン

僧侶 (……かくれんぼをしているだけのはずなのに、どうして)

僧侶 「どうして、こんなにも胸が痛むのでしょうか……」

これにて区切り

レス、支援感謝です


-村の広場-

「待ってよー!」

「捕まらないよーだ!」

「あ、旅人さんだ!」

「こんにちは、旅人さん!」

勇者 「うん、こんにちは」 ニッコリ

勇者 (……それにしても、のどかな村だ)

勇者 (兵士一人見当たらない、魔物一匹見つからない)

勇者 (……こんな村もあるんだね)

「……そこの貴方」

勇者 「……なにか御用ですか?」 ニッコリ

「その腕輪、貴方も余所者なのではありませんか?」

勇者 「貴方もということは、もしや……」

旅人 「ええ、私も旅人なのです」

勇者 「ほう、世界を旅するのは大変でしょう?」

旅人 「ええ、まぁ……」


旅人 「この村とは、私が行き倒れていたのを助けてもらって以来の付き合いになりますかねぇ」

勇者 「……というと、もうあなたは旅をお止めに?」

旅人 「あまりに居心地がよいものですから、つい……」

勇者 「……なるほど」

旅人 「今は旅をやめて、この村の人たちの手伝いをしています」

旅人 「なにせこの村の人たちは皆、非力な方ばかりですから」

勇者 「……」

旅人 「では、私はそろそろ行くとしましょうか」

勇者 「なにかご予定が?」

旅人 「私を待つ人がこの村にいるのです……」

旅人 「私に従順で、決して私を裏切らない人がね……それでは」 スタスタ

勇者 「……」

勇者 「……裏切らない人、か」

勇者 (たまにいるね、そういう人)

勇者 (……中年男性といった風貌で、少し暗い印象を受けた)

勇者 (重そうな体して、幸せ太りというやつなのかな?)

勇者 (……旅は面白いんだけどね、人によるだろうけど)

勇者 「……さて、もう少し歩いてみようか」

勇者 「……歩いた先には人がいないか」

「お兄さん、旅人のお兄さん」

勇者 「……なにかな?」 ニッコリ

女の子 「村長さんに言われたの、旅人さんに優しくしてあげなさいって」

勇者 「優しく……というと?」

女の子 「ん……、こんなことをしたり?」 ギュッ

勇者 「……生憎、間に合っているよ」

女の子 「……断られたら、わたしが怒られちゃうんだけど」

勇者 「……わかった、すこし歩こうか」 ニッコリ

展望台-

勇者 「村やその近辺の森まで一望できるのか、凄いね」

女の子 「魔物の襲撃を人々に知らせるためにあるの」

勇者 「なるほど、道理でそこの男たちが血眼になってるわけだ」

「なにか動きはあったか?」

「いや、なにもない」

女の子 「……邪魔しちゃダメだよ、怒られるから」

勇者 「心得ているよ」

-女の子の家の前-

勇者 「さて、この村をぐるっと一周したわけだけど」

女の子 「面白かった?」

勇者 「この村の住人達は、みんな体形が細いんだね」

女の子 「……貧しい村だからね、ここは」

勇者 「……旅人をもてなす余裕なんてないはずだ」

女の子 「この村の人たちは優しいの」

勇者 「……君はどうなんだい?」

勇者 「見たところ多感な年ごろみたいだけど」

女の子 「……正直言うと、迷ってる」

勇者 「迷ってる?」

女の子 「……寒いから、中に入ろう?」 ニコッ


-女の子の家-

勇者 (……ボロボロな家だね、雨漏りしそうだ)

女の子 「ここなら、誰にも聞かれない」

勇者 「……両親は、どうしたんだい?」

女の子 「一年は凌げるだけの食料だけ置いて、どこかに行っちゃった」

勇者 「……そうか」

女の子 「……謝らないんだ」

勇者 「謝ってほしいのかい?」

女の子 「……別に」

勇者 「暇つぶしになりそうなものはなさそうだ」

女の子 「……わたしが暇つぶしの相手になるわけだし」

勇者 「……貧困は辛いね、まったく」

女の子 「……さっさとはじめようよ」

勇者 「いや、遠慮させてもらうよ」

女の子 「……やっぱり、変わった人」

勇者 「世の中は広いのさ」

勇者 (好みじゃないしね)

女の子 「……ねえ、旅人さん」

勇者 「なんだい?」

女の子 「奉仕することを嫌がるのって、おかしなことなのかな」

勇者 「……何故嫌なんだい?」

女の子 「……痛いし、なんだか吐き気がするの」

勇者 「……他の子は、なんとも思わないのかい?」

女の子 「うん、寧ろ喜んで取り組んでる」

勇者 「……やめることはできないのかい?」

女の子 「無理だよ」

勇者 「……何故だい?」

女の子 「なんの取り柄のない、お金もないわたしみたいな女の子はみんな」

女の子 「……この仕事をさせられるもの」

勇者 「仕事、か」

女の子 「うん、仕事」

勇者 「……この村に住む余所者は、さぞ楽しい暮らしができることだろうね」

女の子 「旅人さんもここで暮らしたら?」

女の子 「旅人さん面白いし、かっこいいし」

勇者 「……生憎、俺は魔王を倒すという使命を背負っていてね」

女の子 「魔王を?」

勇者 「そう、魔物を使役する存在さ」

女の子 「……勝てるの?」

勇者 「勝てるさ、何故なら俺は――」

「た、大変だー!」

「魔物だ、魔物が襲ってきたぞー!」

勇者 「……さて、出番らしい」

女の子 「この村のために戦ってくれるの?」

勇者 「ああ、君の顔に免じてね」 ニッコリ

女の子 「……わたし、なにもしてないよ?」

勇者 「俺の暇を潰してくれたじゃないか、興味深い話でね」

女の子 「……ありがと」

勇者 「どういたしまして」 ニッコリ

紫ゴブリン 「なあ、こんな辺鄙な村を襲ってなんになるんだ?」

黄緑ゴブリン 「どんな辺鄙な村であっても……」

黄緑ゴブリン 「俺たちの侵攻の足掛かりにできるのだから、手に入れておくべきだ」

赤ゴブリン 「チッ、そうかよ」

黄緑ゴブリン 「……我々の目的のためには、止む得ない」

線の細い村人「こいつら、何言ってんだ?」

旅人 「気味の悪い声をした化け物が……!」

赤ゴブリン 「……けどよォ、一筋縄ではいかなさそうだぜ?」

黄緑ゴブリン 「……」

旅人 「この村の恩義に報いるためなら、私は……!」

赤ゴブリン 「しつけえなおい!」 ドカッ

旅人 「ゴフッ……」バタン

赤ゴブリン 「おいおい、もう終わりかよッ!」 ドカッ

旅人 「ガアッ! 私の腕も、衰えたものだ……」 ガクッ

赤ゴブリン 「……死ねよや!」

「……人間様の土地で我が物顔しないでくれるかな?」 ニッコリ

赤ゴブリン 「……な」

グサッ


赤ゴブリン 「」 バタン

紫ゴブリン 「赤ゴブリン!?」

黄緑ゴブリン 「奴の体を突き刺したというのか!」

黄緑ゴブリン 「そんな、粗悪な刃で……!」

勇者 「俺にかかれば、どんな刃物だってたちまち名刀に早変わりさ」

黄緑ゴブリン 「……お前、我々の言葉が解せるのか」

勇者 「さあ、どうだろうね」 ニッコリ

「さっさとやっちまってください!」

「応援していますわ!」

勇者 「……まったく、彼らは俺を何だと思っているのかな?」

勇者 「まあ、なんだかんだ言って」

勇者 「俺は彼らの期待に応えてみせるわけだけど」

紫ゴブリン 「ブツブツとわけのわからないことを!」 タタッ

勇者 「なにせ俺は――」 ボアッ

紫ゴブリン 「ひ、皮膚が爛れて……アアアツイ――ッ!」

黄緑ゴブリン 「む、紫ゴブリン!!」

勇者 「――勇者、だからね」 ニッコリ

グサッ

これにて区切り

レスありがとうございます、燃料になります

―――――

「お、お見事です」

「まさか、貴方が伝説の勇者だったとは……」

勇者 「伝説とやらの勇者と俺が同一の存在だとは、限りませんけどね」

「しかし、貴方様は現にこの村を救ってくださった」

勇者 「まあ、自称勇者ですから」 ニッコリ

「ずっとこの村にいてくださったなら、どれだけ心強いか……」

勇者 「……残念ですが、それはできません」

「な、何故ですか!」

「勇者は人々の――」

勇者 「確かに人々の悩みを解決するのも、勇者の役目です」

勇者 「ですが、勇者にはそれよりも優先すべき使命がありますから」 ニッコリ

「……」

勇者 「あの旅人はまだ息があります、手当てをすれば助かるでしょう」

勇者 「……もっとも、彼はもう戦えないでしょう」

勇者 「怖いですね、平和ボケというのは」 スタスタ

―――

-女の子の家-

勇者 「ただいま」

女の子 「おかえりって言うべき?」

勇者 「お好きに」

女の子 「……じゃあ、おかえり」


女の子 「……ねえ、わたしも旅に連れて行ってくれない?」

勇者 「どうして?」

女の子 「こんな村にいるのは、もういやなの」

勇者 「……自由に生きたいのかい?」

女の子 「うん、無理やり決められた仕事をする日々はもういや」

勇者 「……旅は楽ではないよ?」

勇者 「例えば、さっき村を襲った魔物を退治しなきゃならない」

女の子 「……」

勇者 「死んだら、そこで終わりだ」

勇者 「……俺はそろそろ行くよ、なにせ外が暗くなってきたからね」

女の子 「どこに行くの?」

勇者 「一応、俺は部屋を貸してもらっている身でね」

女の子 「……ふーん」

勇者 「……」 ナデナデ

女の子 「……な、なにして」

勇者 「体と心と命さえあれば、どんなことも成し遂げられる」

勇者 「そういうわけだから、体には気をつけるんだよ」

勇者 「それじゃ」ニッコリ

女の子 「……」

バタン

女の子 「……行っちゃった」

女の子 (……わけ、わからないよ)

女の子 (……結局、連れて行ってくれないんだ)

女の子 「……うう、寒い」

-外-

勇者 「……星空は綺麗だ」

勇者 (今、この村にいて戦える余所者は俺だけか)

勇者 (……さて、どうするか)

~♪

勇者 「……」 スタスタ

「いたいっ」 ゴツン

勇者 「ん……?」

ふわふわした女の子 「あ、ごめんなさい……」

勇者 「構わないけど……、ちゃんと前は見て歩くんだよ?」

ふわふわした女の子 「はい……」

勇者 「……嬉しそうだけど、なにかあったのかい?」

ふわふわした女の子 「……聞いてくれますかー?」

勇者 「ああ、あまり時間はないけどね」

ふわふわした女の子 「ふふっ、なら聞いてくださいー」

ふわふわした女の子 「今日、ごちそうが食べられるんですよー」


勇者 「……ごちそう?」

ふわふわした女の子 「はいっ、旅人のおじさんに優しくしてあげたご褒美だそうです」

勇者 「……ご褒美?」

ふわふわした女の子 「ご褒美ですー、あとおじさんともついにお別れですー」

勇者 「……お別れ、か」


ふわふわした女の子 「あとですねぇ、兵士を雇うみたいなんですよー」

勇者 「……兵士?」

ふわふわした女の子 「はいっ、お金ができるからだそうですー」

勇者 「……ならここが魔物に襲われても、安心だね」

勇者 「そうでなくとも、働き手になる」

ふわふわした女の子 「そうですねぇー」

これにて区切り

支援保守レスありがとうございます
質のいい燃料になります

-村人の家・個室-

勇者 (大分暗くなってきた)

勇者 (……そろそろ、出発の準備をしなければ)

勇者 「……さて、と」

勇者 「お金は身につけている、非常食も数日分小袋に」

勇者 (貯金や荷物として持ち歩くとかさばる必要なものは)

勇者 (別の街の俺の金庫にしまってある)

勇者 (それらはもしも必要になれば、テレポートを使って取りに行けばいい)

勇者 (後は、最低限の荷物を適当に身につけておいて)

勇者 「……有事に備えるとしようか」

~♪

~♪

「ば、化け物!?」

勇者 「…………」

「……あれ、勇者さんじゃないですか」

勇者 「……また寝ていたのかい? 僧侶ちゃん」

僧侶 「すみません、如何せん疲れが溜まっていたものですから」

勇者 「謝らなくてもいいよ、君はゆっくり疲れを癒すといい」 ニッコリ

僧侶 「……そうはいきません、子ども達を探さないと」

僧侶 「わたしの住んでいた街からいなくなってしまった、子ども達を……」

勇者 「そうだ、そうだったね」

僧侶 「……手がかり、ありました?」

勇者 「……この村にはいなさそうだ」

僧侶 「……そう、ですか」

僧侶 「……ところで、勇者さん」

勇者 「なんだい?」

僧侶 「勇者さんって、歌……お好きなのですか?」

勇者 「まあね、それがどうかしたのかい?」

僧侶 「い、いえ……」

僧侶 (……き、聞くに堪えませんよあの……歌?)

勇者 「……下手なのは、わかっているさ」

勇者 「魔物の呻き声だの、歌で魔物を退治できるんじゃないかだの……」

勇者 「……よく言われる」

僧侶 「……な、なんだかすみません」

勇者 「いや、いいんだ」 ニッコリ

「お二人様、夕食のご用意ができました」

勇者 「だってさ、僧侶ちゃん」

僧侶 「……あまり人に気を遣わせるのは」

勇者 「せっかく用意してもらった夕食を捨てるのかい?」 ニッコリ

僧侶 「……それも、そうですね」

村人の家・居間-

僧侶 「お、おいしい!」

勇者 「シチューとパン、ですか」

村人 「このようなもてなししかできませんが……」

勇者 「いえいえ、お構いなく」 ススッ

僧侶 「はい、まともな食事がとれるだけで幸せものです」 ニコッ

勇者 「……おいしそうに食べるね、僧侶ちゃん」

僧侶 「ええ、こんなに濃厚でお肉が沢山入ったシチューならいくらだって……」

勇者 「……」

僧侶 「……あれ? なんだか、眠く……」

僧侶 「おかしいな、あれだけ眠ったはずなのに……」

村人 「きっと旅の疲れが出たのでしょう、そのままお休みください」

僧侶 「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて……」 フラフラ

村人 「……勇者様、あの娘とはどういったご関係で?」

勇者 「ただの連れですよ、それ以上でもそれ以下でもありません」

村人 「……ご戯れを、あのような若い娘を連れまわしておいて、ただの連れなどと」

勇者 「まだ会って間もないですからね、お互い」

村人 「お互いを知ってから、と?」

勇者 「いえ、あの子がもう少し健康的な体つきになるまで取っておこうかと」 ニッコリ

村人 「……?」

勇者 「……どうやら、俺も昼間の疲れが溜まっているらしい」

勇者 「少し、横になっても?」

村人 「ええ、構いませんとも」

勇者 「……では、お言葉に甘えて」 スタスタ

村人 「……」 ニヤリ

―――――

ガタッ、ガタッ

-???-

「……さん、勇者さん!」

勇者 「……あと五分ぐらい寝かせてくれないか」

「そんな悠長なことを言っている暇はないんですって!」 バシッ

勇者 「……痛いよ、僧侶ちゃん」

僧侶 「乱暴に起こしたくもなりますよ!」

勇者 「……状況は?」

僧侶 「……いやに落ち着いていますね」

勇者 「心積もりはしていたからね」

勇者 「……大きな揺れ、手足に感じるひんやりとした金属の感触」

勇者 「……俺たちは檻に入れられて、どこかに運ばれているようだ」

勇者 「檻に入れられているということはつまり、彼らに売られでもしたのかな?」

僧侶 「そうだとしたら一大事ですよ……!」

「……彼らは、優しい人たちではなかったのか……」

勇者 「やはり、ただより高いものはありませんね」

勇者 「ねえ、旅人さん」

旅人 「……」

僧侶 「知り合いですか? 勇者さん」

勇者 「まあ、知り合いといえば知り合いだね」

ガタッ、ガタッ

勇者 「……さて、逃げ出すとしようか」 ニッコリ

―――――

ガタッ、ガタッ

黒服 「……ふぅ」

黒服B 「あんまり無理しなさんな、旦那」

黒服 「……そうはいかない」

黒服 「俺には守らなければならない家庭があるのでな」

黒服B 「……それは、しってやすが……」

黒服 「……それに、もうすぐ子どもが生まれるのだ」

黒服B 「子ども!?」


黒服 「俺もこんな仕事をしている手前、家内には仕事を偽っているが」

黒服 「……そろそろ、引き際かもしれんな」

黒服B 「もったいないですぜ! 旦那ほどの腕のいい商売人とあろうものが……」

黒服 「ここで養った商売人としての経験や技術」

黒服 「……と金は、地元で生かすつもりだ」

黒服 「……子どもには、こんな薄汚れた仕事に関わってほしくない」

黒服B 「だ、旦那……」

バキッ

黒服 「……!?」

黒服B 「旦那、馬車が……!」

勇者 「ただの人間なら、あんな粗悪な檻でも俺を閉じ込められただろう」

勇者 「でも、俺は勇者だよ?」 ニッコリ

黒服 「手枷も足枷も、引きちぎったというのか……!」

勇者 「鍛えてますから」 シャキッ

黒服B 「ひ、ひぃ!」

勇者 「剣で貫かれたら痛いよ……?」 ニッコリ

黒服 「……ちっ、ここは見逃してやろう」

勇者 「見逃すのは俺のほうさ」

黒服 「……」

勇者 「君達に売られた人間の中に、一人女性がいただろう?」

黒服 「……あのやつれた女か」

勇者 「そう、彼女を開放するんだ」

勇者 「そうすれば、君達を見逃してあげるよ」

黒服 「……断ったら?」

勇者 「……わかってるくせに」

黒服 「……ちっ、おい!」

黒服B 「へ、へい!」

僧侶 (……勇者さん)

旅人 「……思えば、私の人生ロクなことがなかった」

旅人 「友人もできず、人を信じても裏切られて」

旅人 「あげく故郷にうまく適応できなかったせいで、人からは下に見られて」

旅人 「彼らから逃げるようにして旅に出て」

旅人 「……旅に出ても結局、人との関わり合いは避けられなかったが」

旅人 「……長い苦しみの果てに、ようやく幸せを掴めたと思った矢先にこの様か」


僧侶 「……」

旅人 「……同情しているのか」

僧侶 「……似ている気がしたのです、私と」

旅人 「……似ている、だと?」

僧侶 「不器用だから、無力だから、失ってばかりの人生……」

僧侶 「わたしを心から好きでいてくれた人たちを、失ってばかりの人生……」

僧侶 「……わたしそのものです」

旅人 「……いや、お嬢さんと私は違うよ」

僧侶 「……?」

旅人 「私は、まともに人に好かれたことがないからね」

旅人 「……失うものといえば、己のちっぽけな自尊心ぐらいなものだ」

僧侶 「……あれ、失った? わたしが?」

「おい、女!」

僧侶 「……!」

勇者 「……まだなのかい?」

黒服B 「旦那!」チャキッ

僧侶 「……!」

勇者 「その子に刃物を向けるなんて、どういうつもりなのかな?」

黒服 「……大人しく馬車に戻れ、そうすればこの女の顔も、体も綺麗なままだ」

勇者 「……人質ってわけか」

僧侶 「……ッ」

黒服B 「おっと、大人しくしてろよ?」 チャキッ

黒服 「悪いが、こちらにも譲れないものがある」

黒服 「……こんな薄汚れた仕事でも、仕事は仕事だ」

勇者 「……お手上げかな、これは」

黒服 「……武器を捨てて、両手をあげろ」

勇者 「……テレポート」 ビュン

黒服 「……消えただと!?」

僧侶 「……えっ?」

グサッ

黒服B 「が、ハァッ!」

僧侶 「……勇者、さん?」

勇者 「瞬間移動の魔法……」

勇者 「一流の魔術師ですら、本来は唱えるだけで魔力が殆ど枯渇してしまうそうだね」

勇者 「その上、魔法の会得難易度の高さ故に使い手も非常に限られている」

勇者 「また、転移させる物質の質量の合計と魔力の消費量が比例するといった諸々の制約から」

勇者 「交通手段としては広く普及しなかった」

僧侶 「……なぜ、そんな強力な魔法を使っても、貴方はなんともないんですか」

勇者 「勇者だからね」 ニッコリ

僧侶 「それで片付けられる話じゃ……!」

黒服 「おい、返事をしろ、おい!」

黒服B 「」

勇者 「……返事がない、ただの屍のようだ」

黒服 「……ッ」

勇者 「次は、君の番だよ?」 ニッコリ

黒服 「――ッ」


グシャッ

―――――

「旅人たちを売って得られた資材はどうなっている」

「はっ、こちらに」

「ほう……、大漁だな」

「勇者を名乗った男と一緒にいた女が上玉だから、サービスとのことです」

「……しばらくはこの村も安泰か」

「久しぶりに、家族に美味いものを食わせられます……」

「……我々にも力があれば、な」

「それは言わない約束でしょう」

「……」

「……村長さん!」

「……なんだ」

「ば、化け物が、これまでにない数の化け物が……!」

「なんだと!?」

女の子 「……外が騒がしいなぁ」

「や、やめてくれ!」

「あ、アアアアッ――――!」

女の子 「……な、なに、これ」

女の子(た、確かににわたしはこの街があんまり好きじゃなかった、けど……)

女の子 (お母さんもお父さんも、仕事や魔物との戦いとかで死んじゃった、けど……)

魔物 「……ニンゲン、まだいたのか」 ギロッ

魔物 「我らに似た声が、聞こえたのだが……」

女の子 「……こっち見てる!?」

女の子 (き、気味の悪い呻き声を上げて、なにか言ってる?)

女の子 (って、な、なんでこんなに沢山魔物が……)

女の子 (……そ、それよりも)

女の子 「……今は、逃げないと!」 タッタッタ

女の子 (……逃げる?)

女の子 (……どこに?)

女の子 (……逃げて、どうするのだろう?)

-どこかの山道-

勇者 「……それにしても、ここはどこなんだい?」

僧侶 「……わかりません、ずっと眠っていましたから」

勇者 「……彼らの身なりや言動から察するに、人の目を気にする仕事なのだろうから」

勇者 「このあたりに人っ気がないのは、当然か」

僧侶 「……」

勇者 「……もう少し、歩いてみようか」

僧侶 「……はい」

勇者 「さてと僧侶ちゃん、次はどこへ向かう?」

僧侶 「……子ども達、どこに行ってしまったのでしょう」

勇者 「……さて、ね」

僧侶 「……みんな、生きてますよね?」

勇者 「……俺に聞かないでくれ」

僧侶 「……勇者さん」

勇者 「……?」

僧侶 「あの村、許せません」

勇者 「……まあ、俺たちは世話になった身だから」

僧侶 「とは言いますが……売られたんですよ?」

勇者 「終わりよければすべて良し、さ」

勇者 「……ああ、でも」

僧侶 「?」

勇者 「天罰ぐらいは下るかもしれないね」

僧侶 「……何故ですか?」

勇者 「勇者を売ろうとするなんて、いくらなんでも罰あたりだ」

僧侶 「……なんだ、勇者さんも怒ってるじゃないですか」

勇者 「だとしても、俺が直接どうこうしようとは思わないさ」

僧侶 「何故ですか?」

勇者 「疲れるし、逃げられると面倒じゃないか」 ニッコリ

僧侶 「……勇者さん」

勇者 「どうかしたのかい?」

僧侶 「あれだけのことをしておいて、どうして平然としていられるのですか?」

勇者 「あれだけのこと?」

僧侶 「……人を、殺したことです」

勇者 「ああなんだ、そんなこと」

僧侶 「そんなこと?」

勇者 「彼らは悪人だ、加減する必要なんてない」

僧侶 「悪人とはいえ、彼らは人ですよ?」

勇者 「虫も人も、俺の前では等しく平等な命だよ」

僧侶 「……その命を、貴方はいとも簡単に奪い去った」

勇者 「そうだね、でも人々は俺に味方するはずさ」

僧侶 「何故ですか?」

勇者 「人を売ることが彼らの仕事だとしても」

勇者 「己の意志ではなかったとしても」

勇者 「彼らが人を売っていたという事実は変わらない」

勇者 「……勇者として正義を成したのだから、文句をつけられる筋合いはない」


僧侶 「……やはり、信じられません」

勇者 「……なにがだい?」

僧侶 「……勇者さんは悪人を裁くために人を殺したといいますが」

僧侶 「……本当に、それだけですか?」

勇者 「ああ、それだけだよ?」

僧侶 「なら、貴方は、あの時どうして……」

僧侶 「そう、彼らの体に刃を突き刺したとき、どうして……」


僧侶 「貴方は、笑ってたんですか?」

つづく?

寝る。支援レスありがとうございます、光子力エネルギーになります。

やる気と時間と体力とスレがあれば多分続きます

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