真姫「どんな願いも叶える水晶玉……?」 (80)
希「そうや。神社の蔵を掃除してたら出てきたんよ」
絵里「ほんとなの?それ……」
凛「うさんくさいにゃー」
希「神主さんが言ってたんやから間違いないで。この水晶玉を使って神様にお願いしたら、どんな願い事でも叶えてくれるんやて」
海未「どんな願いでも、ですか……」
穂乃果「信じられないけど、希ちゃんが言うとなんだかそれっぽいね」
希「ま、信じるか信じないかはみんな次第やけどね」
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真姫「何よそれ。馬鹿馬鹿しい」
希「ん?真姫ちゃんはこういうの全然信じへんの?」
真姫「当たり前じゃない。非科学的にもほどがあるわ」
希「……でも、世の中には科学では割り切れへんこともぎょうさんあるしなぁ」
絵里「そうね、何だかロマンチックだわ。じゃあ私は、音ノ木坂が廃校にならないようお願いしようかしら」
希「それはうちら自身の力でなんとかしたいところやけどね」
絵里「希は何かお願いしてみたの?」
希「うちはこんなのに頼らなくても、たいていの願い事は叶ってしまうんよ。だからみんなに使ってもらおうと思て……」
ことり「でも、どんな願いでもいいって言われると、意外と思いつかないよね……」
穂乃果「うーん、そうだよね……。穂乃果だったら何をお願いするかなあ」
凛「かよちんはどうにゃ?」
花陽「ふむむ……」
希「……信じる信じないは別として、真姫ちゃんは何かないん?」
真姫「べ、別にないわよ」
希「……ほんとうに?」
真姫「しつこいわね。それに、例えあったとしても、私はもっと合理的な方法で叶えるから」
希「理屈ではどうにもならんこともあるやろ?」
真姫「たとえば何よ」
希「うーん、せやね」
希「……恋、とか?」
真姫「!!そ、そんな願い事、あるわけないじゃない」
チラッ
にこ「……」
希「あれ?真姫ちゃん、赤くなった?ひょっとして……」
真姫「な、何言ってるのよ!赤くなんかなってないんだから」
希「……ま、それはともかく」
ゴトッ
希「明日まで、この部室に置いとくから。何か願い事がある人はいつでも使ってもらってええからね」
絵里「……じゃあ、ちょっと早いけど今日は解散としましょうか。最近、練習続きで疲れもたまってるしね」
一同「はーい」
絵里「にこも、それでいいわね?」
にこ「……」
絵里「にこ……?」
にこ「え……?ああ、ごめん。聞いてなかったわ」
絵里「やっぱり疲れてるのね。今日はもう解散よ」
にこ「……そう。わかった」
真姫「……」
絵里「じゃ、私と希は後片づけをしてから帰るから」
希「また明日ねー」
一同「お疲れー」
ゾロゾロゾロ
バタン
*
絵里「……希。どう思う?」
希「ん?」
絵里「最近、にこの様子、ちょっとおかしくない?さっきもボーっとしてたし……」
希「なんか、悩みでもあるんちゃうかな」
絵里「そうなのかしら……。私たちで力になってあげられることならいいけど」
希「それはどうやろね。それに……」
希「悩みを抱えてる子は、多分もう一人……」
ボソッ
絵里「え?何か言った?」
希「……いや。それより、絵里ちももう帰ってもらってええよ。あとは、うちがやっとくから」
絵里「そう?じゃあ、お願いしちゃおうかしら」
希「うん」
絵里「じゃ、また明日ね」
バタン
希「……」
希「さて、と」
ゴソゴソ
希「……」
―10分後。別室。
希「……」
カタカタタッ
希「……おっ。ちゃんと映るようやね」
希「部室に仕掛けた、隠しカメラの映像……」
希「あとは、うまくかかってくれるかどうか、やけど……」
カチャッ
希「おっ?さっそく部室に誰か戻ってきたようやね」
凛「かよちん、早く早くー!」
花陽「凛ちゃん、待って……」
凛「せっかくなんだから、水晶玉にお願いごとして行くにゃー!」
希「おやおや、あの二人がトップバッターか。どんなお願いするんやろね」
凛「じゃあ、凛からいくよ?」
花陽「うん……!」
凛「……どうか、お腹いーっぱい、ラーメンが食べられますように……!」
花陽「は、花陽は、白いご飯を……!白いご飯を、いやと言うほど、お願いします……」
りんぱな「……お願いします!」
希「ふふ。あの二人は、色気より食い気やね」
希「こんなドッキリみたいなことして、申し訳ないけど……。食べ物やったらまた今度うちがおごってあげるし、堪忍やで」
希「さて、お次は……」
カチャッ
穂乃果「……やっぱり、私たちの願い事はあれしかないよね。海未ちゃん、ことりちゃん」
海未「ええ、そうですね」
ことり「うん……!」
希「……あの三人か。まあ、どんな願いをするかはなんとなく想像つくけどね」
穂乃果「……神様。どうかμ'sがラブライブに出場して……」
海未「……満員のお客さんを感動させるようなライブができますように」
ことり「そして、ラブライブが終わった後も、ずっと穂乃果ちゃん、海未ちゃん、そしてμ'sのみんなと、一緒にいられますように」
ことほのうみ「お願いします……!」
希「うふふ。あの三人は、やっぱりブレへんね」
穂乃果「……ちょっと欲張りすぎかな?」
海未「でも、どんな願い事でも構わないということですし……」
ことり「ことりたちの本当に叶えたい願いなんだから、きっと大丈夫だよ!」
ゾロゾロ
バタン
希「……そうや。大丈夫やで」
希「あなたたちの願いは、水晶玉なんかなくても、必ず叶うはずやから……。それはうちが保証するよ」
希「……さて。本題はここからや」
希「水晶のパワーなんか信じへんって大見得を切ってたけど、乙女心はそんな単純やないからね……。おっ!?」
カチャッ
真姫「……」
キョロキョロ
真姫「……誰もいないみたいね」
真姫「べ、別に水晶玉なんか興味はないのよ?」
真姫「ただ、いんちき水晶を信じてる人なんているのかどうか、それを見に来ただけなんだから……」
真姫「……」
真姫「誰もいないということは、みんな信じてないのか……」
真姫「それとも、もう願い事を済ませちゃったのかな」
真姫「……」
希「何やらブツブツ言ってるようやね」
希「でも、ここに戻って来たということは……」
真姫「……ほんとに誰もいないの?」
キョロキョロ
真姫「……」
真姫「こ、これは独り言で、別に願い事とかそんなのじゃないんだけど」
ゴホン
真姫「……最近、にこちゃんが何だかよそよそしいの」
真姫「前は二人で一緒に帰ったりもしてたのに、この頃はそっけないって言うか……」
真姫「廊下ですれ違っても、声もかけてくれないし」
真姫「もしかしたら、私、避けられてるんじゃないか、って……」
真姫「べ、別に、だからどうこうってわけじゃないのよ」
真姫「でも、やっぱり気になるの」
真姫「私、何か嫌われるようなことしたかしら?とか……」
真姫「知りたい……。にこちゃんが、何を考えてるのか」
真姫「私のこと、どう思ってるのか……」
真姫「にこちゃんの気持ちが、知りたい……」
真姫「!!い、今のは、お願いとかそんなんじゃないんだからね!!」
真姫「……誰かに聞かれなかったわよね」
キョロキョロ
希「ふふっ。まったく一人で賑やかなことやね」
希「でも、誰も聞いてない時くらい本音と向き合わへんと、そのうち自分でも分からんようになってしまうよ、真姫ちゃん……」
希「……」
真姫「……ああ」
真姫「なんだろう。自分でも、ほんと嫌になるわ」
真姫「信じてないとか言いながら、こんな水晶玉相手にあたふたして……。滑稽よね」
真姫「……私、自分でもよく分からないの。どうしてにこちゃんのことが気になるのか」
真姫「考えてみれば、前だって別に仲良しってわけじゃなかったのよね」
真姫「よく一緒にいたって言っても、大抵にこちゃんが私のことをからかって……」
真姫「私も、ついムキになって言い返してみたり」
真姫「むしろ、ケンカしてた時間の方が長いかも知れないわね」
真姫「でも、この頃は……」
真姫「この頃のにこちゃんの態度は、そんなのとは全然違って……」
真姫「……苦しい」
真姫「そう……私、苦しいの。にこちゃんのことを考えると、何故だか分からないけど、胸が……」
真姫「こんなこと、ここで話してみたところで……仕方ないのかも知れないけど」
真姫「……」
真姫「理屈ではどうにもならない願い、か……」
ボソッ
真姫「!!ば、馬鹿じゃないの私ったら。よりにもよって、何を考えてるのよ」
真姫「にこちゃんのことを、そんな風に……なんて」
真姫「……」
真姫「……水晶玉さん。私は、あなたのことなんてこれっぽっちも信じてないけど」
真姫「もし、あなたが本当に不思議な力を持っているのなら、教えて欲しいものだわ」
真姫「私の……私の、願うべきことを……」
真姫「私はいったい、あなたに何をお願いすればいいの……?どんな願いが叶えば、この苦しさから自由になれるの……?」
真姫「教えて……」
希「真姫ちゃん……。もう、自分の気持ちには気付いてるんとちゃうの……?」
希「でも、なかなか素直になれないんやね……」
希「さて、と」
希「真姫ちゃんも帰ったことやし、あとはにこっちが来るかどうかやけど……」
カチャッ
にこ「……」
希「来た来た……」
希「それにしても、神妙な顔つきやね」
にこ「……」
にこ「……お願いしたいことがあるの」
にこ「聞いてもらえるかしら……?」
にこ「それはー」
希「!!」
希「……なるほど。それが、にこっちの願いなんやね」
希「にこっちの性格らしい、お願いやけど」
希「さて、どうしたもんか……」
希「……」
―翌日。部室。
凛「ねーねー、練習行かないのー?」
希「その前に、今日はみんなに見て欲しいものがあるんや」
絵里「見て欲しいもの……?」
真姫「何よ一体。今度は、魔法の絨毯でも取り出すの?」
希「まあまあ。見てのお楽しみや」
ゴトッ
海未「プロジェクター……?」
穂乃果「あっ、この部室が映ってるよ」
ことり「これ、いつだろう ?誰も部屋にはいないみたいだけど……」
花陽「あ、あれ?真ん中に映ってるのって……」
凛「昨日の水晶玉だにゃー!」
真姫「!!」
希「その通り。実は昨日、この部屋に隠しカメラを仕掛けていたんでしたー!!」
りんぱな「えーっ!?」
ことほのうみ「えっ、隠しカメラを……!?」
真姫「ゔぇぇぇぇぇぇっっっっ!!?」
希「みんながどんな願い事するんか、どうしても知りたくてな」
真姫「そんな、そんなのって……!」
海未「あっ、誰か部室に入ってきたみたいですよ」
ことり「あれは……凛ちゃん、花陽ちゃん」
凛「かよちん、凛たちが映ってるよ!」
花陽「あわわ……」
『凛「ラーメンが食べられますように!」』
『花陽「白いご飯が……」』
穂乃果「ちょっとちょっと、花陽ちゃんたち、いつもと同じこと言ってるよ!」
ことり「あはは」
凛「の、希ちゃん、ひどいにゃー!」
花陽「ひどいです……!」
希「いやぁ、堪忍かんに……」
真姫「そ、そうよ!いくらなんでも、これは酷すぎるわ!!」
花陽「!!真姫ちゃん……?」
真姫「勝手に隠し撮りするなんて……。重大なプライバシーの侵害よ……!」
凛「ぷらいばしー……?」
真姫「そうよ。プライバシーの侵害!凛、もっと怒りなさいよ。そして早くこんな映像はストップさせないと……!」
凛「うーん。そういう難しいことはよく分からないけど……」
真姫「え……?」
凛「それより希ちゃん!凛たちは、ほんとにラーメンや白いご飯がお腹いっぱい食べられると信じてたのに……」
花陽「ただのドッキリだったなんて、あんまりです……!」
穂乃果「あ、そっちなんだ……」
希「うふふ、二人とも。水晶玉のご利益は別に嘘やないで。ちゃんと願いは叶うはずやから」
凛「ほんとかにゃー……?」
希「何やったら、隠し撮りのお詫びに、うちが今度おごったげる」
花陽「ほんとですか……!?」
希「うん。約束や」
凛「だったらOKだにゃー!!」
真姫「ちょ、ちょっとあなたたち?そんなことで誤魔化されてていいの?隠し撮りされてるのよ!?」
凛「それは別に……」
真姫「だ、だめよ!希、私は断固抗議するわ!」
花陽「でも、真姫ちゃんはこんなの信じないって言ってたし、お願いもしなかったんでしょ……?どうしてそんなに怒ってるの?」
真姫「わ、わ、私は別に、自分のために言ってるわけではなくて、あくまでプライバシーの観点から……」
海未「あっ、私たちですよ。穂乃果」
ことり「何だかこうして自分たちで見ると恥ずかしいね」
絵里「でも、あなたたちの願いはいつも変わらないわね」
穂乃果「もちろん!それに私たちの夢は、μ'sの夢だから……!」
海未「穂乃果……」
ことり「うん……!」
絵里「そうね。みんなで頑張って、叶えて行きましょう……!」
真姫(な、何よこの流れ。なんかいい話みたいになって来てる……)
真姫(なんとかして止めないと、私の恥ずかしい一人語りが)
真姫(あんなの、にこちゃんに聞かれようものなら……!)
真姫(!!そういえば、にこちゃん……。にこちゃんは、願い事をしなかったのかしら……?)
チラッ
にこ「……」
真姫(あまり動揺してる気配はないようね……)
真姫(何も願い事なんてしなかった……?)
真姫(それとも……)
穂乃果「さあ、次は誰かな?真姫ちゃん、それともにこちゃん……?」
凛「ワクワク!」
真姫(!!も、もうダメ……!)
プツン
ことり「あれ?」
海未「動画が終わってしまいましたね」
真姫「……!」
希「どうやら、機械の調子がおかしかったようやね。録画はここまでや」
凛「なーんだ」
真姫(た、助かった……)
希「残念やねえ。まだ誰かさんが、水晶玉にお願いに来てたかも分からへんのになあ」
チラッ
真姫「!!」
絵里「……はいはい。座興はこの辺で終わりにしましょう。そろそろ練習を始めるわよ」
一同「はーい」
希「ほーい」
真姫「……」
―練習終了後。部室。
カチャッ
真姫「……希。話があるわ」
希「あれ?真姫ちゃん、まだ残ってたんやね。うちに何の用?」
真姫「さっきの隠し撮り映像、機械が壊れたなんて嘘でしょ。本当は……わ、私が部屋に来ていたところまで、ちゃんと見てたんじゃないの」
希「あれー?おかしいなあ」
真姫「……」
希「確か真姫ちゃんは、水晶玉なんて非科学的なもの、信じてなかったんちゃうの?それなのに、うちに見られる筈なんてないと思うんやけどなぁ」
真姫「と、とぼけないで!!」
希「……」
真姫「希……。あなた、本当に憎らしい人ね。一体、何を企んでいるの……?」
希「企むやなんて……。うち、そんな怖いことようせえへん」
真姫「!!まだそんな……」
希「それに、とぼけてるのは真姫ちゃんの方ちゃうの?」
真姫「わ、私……?私がいつ……」
希「……いつまで、自分の気持ちから目をそらしてるつもりなん?」
真姫「!!」
希「うちなんかより、にこっちと話した方が……ええんとちゃうの?」
真姫「に、にこちゃんは関係ないでしょ!」
希「せやろか」
スッ
希「ほんまに関係ないかどうか、水晶玉に聞いてみてもいいけど……。真姫ちゃんは、自分の胸に聞いた方が早いかも知れへんね」
真姫「……」
ガクッ
真姫「……あなたにはかなわないわね、希」
希「……」
真姫「私、どうしたらいいか分からないのよ」
真姫「にこちゃんと話そうにも、あまり口をきいてくれなくて……」
希「にこっちには、にこっちの悩みがあるみたいやね」
真姫「!!そうだ、にこちゃんは……にこちゃんは、何か願い事をしたの?」
希「……」
コクリ
真姫「な、何を……何をお願いしたの?にこちゃんは……」
希「それは……言われへん」
真姫「……!」
希「にこっちの口から……直接、聞いてみることやね」
真姫「……」
希「うちに言えることは、それだけ」
真姫「……何よ」
希「?」
真姫「何よ。自分はこそこそ覗き見してた癖に……。希一人だけ、何もかもお見通しってわけ?」
希「……それは違うよ。真姫ちゃん」
真姫「何が水晶玉よ。何が願いを叶えるよ。私は、にこちゃんの気持ちが知りたいってお願いしたのよ!?なのに、なんにも教えてくれないじゃない!」
希「真姫ちゃん」
真姫「本人に簡単に聞けるくらいだったら苦労しないわ!それが出来ないからお願いしてるんじゃない!なのに……なのに……」
ガッ
希「……!」
真姫「何よ、こんな水晶玉。やっぱりいんちきじゃない。こんなもの……!!」
ガシャーン!
真姫「いんちきよ!水晶玉も、希、あなたも……何もかも、いんちきじゃない!」
ダッ
希「真姫ちゃん!」
ハァハァ
真姫「馬鹿にして……馬鹿にして……!」
―屋上。
真姫「……」
真姫「水晶玉、壊しちゃった……」
真姫「神社の宝物だったのよね、あれ」
真姫「でも、希がいけないのよ。人を……人の心を弄ぶようなこと、するから……」
真姫「……」
カチャッ
真姫(あ、誰か来た)
にこ「……」
真姫「!!に、にこちゃん?」
にこ「……どういうつもりよ。こんなところに呼び出して」
真姫「……?」
にこ「話って、なに」
真姫「え?」
にこ「希から聞いたわよ。ニコに話があるんでしょ?」
真姫「……!!」
真姫(希、余計なお節介を……!)
真姫「わ、私は……別に……」
にこ「……?用もないのに呼び出したの?」
真姫「!あ、いや、その」
真姫(せっかくにこちゃんと二人きりになれたんだから、うまく話をしなきゃ……)
真姫「……えっとね、その……そ、そう、水晶玉よ」
にこ「……水晶玉?」
真姫「う、うん。ほら、さっき部室でみんなのお願いを見たじゃない?にこちゃんは、何かお願いしたのかな、って……」
にこ「そんなこと聞くために、わざわざ屋上に?」
真姫「え、いや、だからそれはね」
アタフタ
にこ「……まあいいわ。別に急ぐ用事があったわけでもないし」
真姫(……ホッ)
真姫「……にこちゃんはあまり水晶玉の話に興味はなさそうだったけど……どうなの?」
にこ「したわ」
真姫「!!そ、そうなんだ……」
にこ「……」
真姫「な、何を……お願いしたの……?」
にこ「……それを聞いて、どうするわけ?」
真姫「!!そ、それは……ええと……ええとね……」
モジモジ
にこ「……」
真姫「じ、実は……わ、私も、お願いごとをしてみたの……」
にこ「……そうなんだ」
真姫「でも、上手く言葉に出来なくて……自分でも何をお願いしたいのか、分からなくなって」
にこ「……」
真姫「私の願いは……にこちゃんにも関係のあること、なんだけど、……」
にこ「……」
真姫「そ、それで、ね。もし、にこちゃんの願い事を教えてくれたら、私も、自分の願い事を言っちゃおうかなって……」
真姫「それとも……わ、私から、言った方がよければ……」
にこ「やめて」
真姫「……!」
にこ「あんたの願い事を聞くわけにはいかないわ。もし聞いちゃったら、たぶん……」
真姫「……?」
にこ「……ニコの願いが叶う邪魔になるから」
真姫「!!」
にこ「だから、それ以上は言わないで」
真姫「そ、それ、どういう意味……?」
にこ「……そのままの意味よ。あと、ニコの願いは、真姫には……関係のない事だから」
真姫「……!!」
真姫(そ、そっか。そういうことね)
真姫(にこちゃんには、他に好きな人がいるんだ)
真姫(そして、その人のことを水晶玉にお願いしたんだ)
真姫(きっと私の様子を見て、私の気持ちに気づいて……)
真姫(だから、私の言葉を聞くわけにはいかないんだ)
真姫(!!ひょっとしたら、もっとずっと前から、私の気持ちは見抜かれてた……?)
真姫(だからあんなにそっけなく……)
真姫(ああ、馬鹿みたい。それなのに私……)
真姫(もしかしたらにこちゃんも、水晶玉に私のことをお願いしてくれてるかも……なんて)
真姫(馬鹿みたい……)
にこ「……?真姫?」
真姫「……」
にこ「大丈夫?急に黙りこんじゃって」
真姫「……ふふ。うふふ」
にこ「!!……ど、どうしたのよ」
真姫「に、にこちゃんは何か勘違いしてるんじゃないかしら。私の願い事はたぶん、にこちゃんが思ってるようなものじゃないわよ……?」
にこ「え……?」
真姫「私はね、ただ、もっと歌が上手くなりたいって、そうお願いしたの。今でも上手な真姫ちゃんだけど、もっと、ずーっと上手くなりますように、ってね」
にこ「!!……そ、そうだったの……?」
真姫「そうよ。でも、ただでさえにこちゃんの歌唱力とはずいぶん差があるのに、これ以上私が上手くなっちゃったら困るじゃない……?」
真姫「だから、にこちゃんがくだらない願い事をしてるようだったら、ちゃんと歌が上達するようにお願いしろって、そう言ってやるつもりだったのよ」
にこ「……そう。なるほどね」
真姫「まあ、あんな水晶玉なんて別に信じてないけど、にこちゃんの歌唱力がちょっとでもマシになるなら……」
にこ「……」
真姫(あ、あれ……?)
真姫(な、何よ。神妙な顔しちゃって……)
真姫(!もしかして……言い過ぎちゃった?)
真姫「あ、あの、にこちゃん……」
にこ「……確かに、あんたの言うとおりね。真姫」
真姫「え……?」
にこ「あんたに比べて、ニコは何にも持ってないんだもの……。ニコの方こそ、そういうお願いをすべきだったんだわ」
真姫「ち、違うの。私、別にそんなつもりじゃ……」
にこ「でも、ちょっと意外ね。真姫がそんな願い事をするなんて」
真姫「意外……?」
にこ「だって歌うことにかけては、あんたは絶対の自信を持ってるじゃない。実際、それだけの才能に恵まれてるわけだしね」
真姫「……」
にこ「……悔しいけど」
真姫「!な、何よ。そんな言い方……」
にこ「本心から言ってるのよ。……この際だから言うけど、何度、あんたのことを羨ましいって思ったことか」
真姫「そんな……嘘でしょ?」
にこ「どうして?」
真姫「だ、だって、にこちゃんこそ、いつも自信に溢れてて……自分のスタイルを強く信じてるって言うか」
にこ「ふふ」
真姫「……にこちゃん?」
にこ「そうね。確かにそうだわ。でも、それは……そうするしかなかったからよ」
真姫「……?」
にこ「ちょうど、今の真姫くらいの頃だったかしらね……。ニコの身体は、もうこれ以上成長しないんだって、諦めるようになったのは」
真姫「!!」
にこ「今でこそ、この体型を活かしたキャラづくり……なんて、前向きに捉えられるようにもなったけど」
にこ「音ノ木坂に入ったばかりの頃は、卒業までにはもっともっと手足も伸びて、モデルみたいな体型になれるかも……なんて思い描いてたのよ」
真姫「……」
にこ「でも現実は御覧の通り……。まったく、笑っちゃうわよね」
真姫「にこちゃん……」
にこ「歌だってそう。もっと高い声が出たら、もっときれいな声で歌えたら……ずっとそう思ってやってきたわ。なのに……」
真姫「……」
にこ「なのに、あんたは初めから全部持ってるんだもの。ニコが欲しかったもの、全部……。やってらんないわ」
真姫「それは……」
にこ「……神様はきっと、真姫のことが好きなのね。だからたくさん贈り物を貰えたんだわ」
真姫「そんなこと、ない……」
にこ「ニコもね、昨日だけは神様を信じてみようと思ったの。あんたがくだらないって笑った、水晶玉にお願いしてみたの。でも……」
にこ「ニコの願いは、また叶わなかったみたい……」
ボソッ
真姫「……」
にこ「……じゃあね。他に用がないなら、もう行くわ」
真姫「……待って」
にこ「え……?」
真姫「待って。まだ行かないで。私の話は終わってないわ」
にこ「真姫……?」
真姫「……私は、神様なんて信じてない」
真姫「でも、もし本当にそんなものがいるんだとしたら……きっと神様は、私のことが嫌いだと思うわ」
にこ「は……?何言ってるのよ。あんたが嫌われてるってんなら、ニコなんか……」
真姫「……確かに私は、歌が得意よ。自信もあるし、歌っている時は本当に楽しいと思うわ」
にこ「……」
真姫「踊るのだって好きだし、容姿もまあ……悪くないと思うの。μ'sに入って、自分の好きなこと、得意なことを思いっきりやれる今は……最高に幸せだと思う」
にこ「だからそれは……」
真姫「でも……いくら歌が好きでも、いくらμ'sでいることが幸せでも……私はいずれ、全部やめなくちゃいけないのよ?」
にこ「……!!」
真姫「医学部に行かなきゃいけない私が音楽をやっていられる時間は、きっとそんなに長くはなくて……」
真姫「だから私は、みんな、何もかも、置いてかなくちゃならないのよ……!」
真姫「歌も、踊りも、μ'sの思い出も……こんなに大好きな、何もかも……」
にこ「真姫、あんた……」
真姫「神様の贈り物……?確かにそうかも知れないわね。でも、だとしたら酷く残酷で意地悪な神様よ。だって、最後には全部取り上げるつもりでいるんだもの」
真姫「だったら、初めから何もくれない方が、よかった……」
グスッ
にこ「……」
真姫「私……音楽をやめたくない。ずっとみんなと……にこちゃんと一緒に歌っていたい。私、私……」
ボロボロボロ
にこ「真姫」
ギュッ
真姫「!!にこちゃ……」
にこ「いい歳して、ボロボロ泣くんじゃないわよ。みっともないわね……」
真姫「にこちゃん、私、私……」
にこ「あんたってほんとに不思議な子ね、真姫。自信家かと思えば、急に怯えて見せたり、強いかと思えば、子供みたいに泣き出したり」
真姫「だって、だって……」
グスッ
にこ「まあ、そんな真姫だからこそ、好きになったんだけどね」
真姫「……」
グスッ
真姫「……え?」
にこ「……聞こえなかった?」
にこ「なら、もう一度言うわ。……好きよ、真姫」
真姫「……!!」
にこ「好き。大好き……」
真姫「にこちゃん……!」
にこ「よかった。ちゃんと言えた……」
真姫「ど、どうして……?」
にこ「どうしてもこうしてもないわ。ただ、あんたが好きなの。真姫……」
真姫「で、でも……にこちゃんには、他に好きな人が……」
にこ「え?」
キョトン
にこ「……誰がそんなこと言ったのよ」
真姫「だ、だって、さっきにこちゃんは、私の願いを聞きたくないって……にこちゃんの願い事は、私には関係ないって……」
にこ「それがどうして「他に好きな人がいる」って解釈になるわけ?」
真姫「そ、それは……」
にこ「……何だかよく分からないけど、あんたの早合点よ、真姫。ニコの願い事は、誰か他の人に捧げたわけじゃないわ」
真姫「じゃあ、一体なにを……?」
にこ「ニコはね、こうお願いしたの。答えを恐れず、好きな相手に想いを伝える勇気が欲しいって……」
真姫「!!」
にこ「……ずっと、苦しかったわ。誰にも言えない想いを抱えて……」
真姫「にこちゃん………」
にこ「自分の気持ちに気付いた時は、戸惑ったりもしたけれど」
にこ「もし真姫に気持ちを知られたら、嫌われちゃうんじゃないかって、いつも怯えてたけど」
にこ「でも、希の水晶玉のおかげで、こうやって想いを伝える勇気が持てた……」
ギュッ……
真姫「だ、だけど……。だったら何で、私には関係ないなんて言ったのよ……!」
にこ「だって、ニコがあんたに告白する勇気を持てるかどうかは、ニコ自身の問題でしょ。真姫には関係のないことだわ」
真姫「それは……じゃ、じゃあ、どうして私の願い事を聞こうとしなかったの?」
にこ「……そこは、ニコの早合点だったわ」
真姫「早合点……?」
にこ「あんたの様子がなんだかおかしかったから、ひょっとしたら、真姫もニコを想って願いをかけてくれたんじゃないか、なんて……虫のいいことを考えちゃったわけ」
真姫「!!」
にこ「告白する勇気を下さいって神様にお願いした以上、先にあんたの気持ちを聞くわけにはいかないでしょ。だから……」
真姫「そういう……わけだったのね……」
にこ「まあ、全部ニコの勘違いだったわね。あんたの願い事が歌のことだって聞いて、ちょっと、気持ちが挫けて……やっぱり、想いは秘めたままにしようとも思ったんだけど」
真姫「!!あ、そ、それは」
にこ「真姫がそこまで歌うことに想いを持ってたなんて、ね。神様からタダで何でも貰ってるみたいに言って、悪かったわ。あんたはあんたなりに必死だったのよね」
真姫「……」
にこ「そういうところも全部ひっくるめて……あんたのことが好きよ、真姫」
真姫「にこちゃん、私……」
にこ「でも、安心して。ニコのことを好きになってくれとは言わないから」
真姫「!!」
にこ「あんたは、残された時間、歌や音楽に全ての情熱を捧げなきゃいけないんだもんね。まあ、さっきみたいに泣きたくなった時くらいは、ニコのことも思い出して欲しいけど」
真姫「に、にこちゃん、違うの。私は……」
にこ「……今日はありがとう、真姫。ニコの想いを聞いてくれて。これでもう……」
真姫「お願いにこちゃん、私の話を聞いて!」
にこ「……!?」
真姫「さっきの話……あれは、嘘なの」
にこ「え?嘘……?」
真姫「……」
コクン
にこ「……どういうことよ?」
真姫「歌や、μ'sを愛してることは、もちろん本当よ。でも、私が希の水晶玉にした願い事は……違ったの」
にこ「……」
真姫「私、ずっとにこちゃんに嫌われてると思ってて……それで苦しくて、でもどうしたらいいか、わからなくて……」
にこ「!!」
真姫「だからこう言ったの。にこちゃんの気持ちを知りたいって……そして、私はどうすればこの苦しさから逃れられるのか、それを教えて、って……」
にこ「真姫、あんた……」
真姫「ついさっきまで、あんな水晶玉なんてこれっぽっちも信じてなかったわ。でも、一つ目の願い事が叶って、二つ目も……」
にこ「……」
真姫「に、にこちゃん。わ、私も今から、私の願いを叶えるわ。いい……?」
にこ「……」
コクン
真姫「……好きよ、にこちゃん」
真姫「私、にこちゃんのことが……好き」
ギュッ……
にこ「真姫……」
真姫「にこちゃん……」
ボロボロ
にこ「やだ、何で泣くのよ……」
真姫「だって、嬉しくて……すごく、嬉しくて……」
にこ「……どれくらい?」
真姫「大嫌いだった神様に、歌を捧げたくなるくらい……」
にこ「自分より歌が下手くそで、自分よりチビな先輩だけど……それでもいいの?」
真姫「……自分より背の高い、生意気な下級生を好きになるより、マシ……かもね」
にこ「もう。相変わらず口が悪いのね……」
真姫「にこちゃん。大好き……」
ギューッ
にこ「ニコも好きよ。真姫……」
にこまき「……」
―物陰。
希「……どうやら、うまくいったようやね」
絵里「こういうことだったの……希が怪しげな水晶玉なんて持ち出した時は、何事かと思ったけど」
希「あの二人やったら、水晶玉の力なんてなくても、きっとこうなってたと思うけどね」
絵里「それにしても、凄いご利益ね。私ももっと何かお願いしてこようかしら」
希「実は、あの水晶玉はさっき真姫ちゃんが割っちゃったんや」
絵里「え?神社の宝物を……?」
希「あれは嘘。ほんまは、その辺の骨董品屋で1,000円で買うてきたガラス玉やから」
絵里「!!呆れた……!希、あなたったら……」
希「二人の気持ちをちょっと後押ししたくて、な」
絵里「……でも、こんなにうまく行くなんて、あの水晶玉にはやっぱり不思議な力があったのかもしれないわよ?」
希「そうかも知れへんなあ」
絵里「割れちゃう前に、願い事をしておくべきだったわね」
希「ふふっ。言ったやろ?あんなのに頼らなくても……」
ギュッ
希「……うちの願い事は、こうしてもう叶ってるんやから……」
絵里「ちょっと、希……!誰かに見られたら……!」
希「大丈夫や。うちらの他にこの屋上にいるのは……」
チラッ
希「今はお互いのことしか見えない、あの二人だけやから……」
希(真姫、にこっち……。幸せにね)
希(たった1,000円のガラス玉で二人がうまくいくなら、安いもんや……)
―翌日。
希「ちょ、ちょっと二人とも……?お店の人も呆れてはるし、その辺で……」
花陽「何を言ってるんですか希ちゃん……!」
凛「そうだよー。これからが本番だにゃー!」
花陽「ということで、ライスおかわりお願いします!」
凛「凛も替え玉追加だにゃー!」
希「ああ……」
店員「へいお待ち!」
りんぱな「いただきまーす!」
希「せ、1,000円で済むと思ってたのに、とんだ出費になってもうた……」
希「にこっちと真姫ちゃんには今度おごってもらわんと、割が合わへんわ……」
花陽「ふう。じゃあそろそろ……」
希「!!せ、せやね。そろそろ行こか」
凛「……二軒目に行くにゃー!」
希「神様……!」
りんぱな「希ちゃんの水晶玉、すごいご利益だね!」
希「神様……どうか、うちを助けて……」
ーーおしまいーー
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
このSSまとめへのコメント
にこにーに真姫 ちゃんづけして欲しかった