【ストパン】土方圭助の憂鬱 その2【土方×もっさん】 (999)

こんばんは。
このスレはタイトル通りストパンこと「ストライクウィッチーズ」の二次創作SSスレです。
基本は土方×もっさん。
しかし安価でほかのウィッチ達との絡みも入れていきます。

土方についての公式設定はほとんどないのでこのスレでの土方はほとんどオリキャラです。
それを許容できる方のみご覧ください。

まさかの2スレ目突入に欠いてる本人が驚いてますw

それでは、このスレもよろしくお願いしますね。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1347892033

こんばんは。
台風が近づいてるみたいで雨がひどいことになってます。

本日分の投下を開始します。

「……な、なんだか落ち着かんな」
「何言ってるの。堂々としてなさい美緒」

ここは北部ガリアの、とある貴族の館。
テーブルの上に乗り切れないほどに並べられた世界各国の料理、色とりどりの衣装に身を包んだ貴族の子女たち。
ここ一帯の最有力者、と言った黒田中尉の言葉は誇張ではなかったようで、506の基地が無機質な箱庭に見えるほどのきらびやかな世界がそこにはあった。
そして私の目の前には二人の女性がいる。

一人は第506戦闘航空団の名誉隊長、ロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ少佐。
ガリアの方らしい見事な金髪と透き通るような白い肌に、白のドレスがよく似合っている。

「ね、土方くんも綺麗だと思うでしょ?」
「う…………み、見るな土方!」

そう言いながら私の視線を避けるようにグリュンネ少佐の陰に隠れようとしておられるのは、坂本美緒少佐。
いつもと違い、その黒髪を頭の後ろでまとめており、その髪の色に合わせたかのような黒色のドレスをまとった姿はこれもまた言葉にできぬほどである。
始めてこの姿の少佐を見たときは、思わず数瞬呼吸を忘れたほどであった。
事実、周りの男たちの視線はグリュンネ少佐と同じくらい坂本少佐に向いており、それ自体は誇らしい事ではあるものの、少々複雑な気分である。

「は。よ、よくお似合いかと」

思わず言葉がどもる。
少佐の姿を正面から見られない自分が何とも情けない。

「土方くんもよく似合ってるわよ。さすがは名家の出身、と言ったところかしら?」
「…………恐縮です」

グリュンネ少佐に言われ、自分の格好を省みる。
洋装はどうも慣れないが、こういう場である以上仕方あるまい。

「ほら、美緒も。土方くんにお褒めの言葉でもかけてあげなさい」
「だ、だから押すなというに…………」

うろたえている坂本少佐を、グリュンネ少佐は強引に私の前へと引き立てる。
落ち着かなげに視線をさまよわせているその姿は、いつもの自信に満ちた少佐の姿からは想像もできないものであり、思わず「可愛い」などと場違いな感想を抱いてしまいそうになった。
数度深呼吸をして暴れまわる心を何とか落ち着かせ、少佐の姿を正面から見る。
扶桑の女性らしい見事な黒髪に、これもまた黒一色のドレスがミステリアスさを引き立たせていた。

「坂本さん、よくお似合いですよ。とてもお綺麗です」

しかし、私の言葉を聞いた少佐はいっそう顔を赤くして後ろを向いてしまわれた。

「ばっ、馬鹿者!き…………貴様はいつも女にそう言うことばかり言っておるのだろう!」
「あら、そんなことないわよ。それとも土方くんのいうことが信用できない?」
「……そう言う聞き方は卑怯だぞロザリー」
「ふふ、それでも『信用できない』とは言わないのね。妬けちゃうわ」

グリュンネ少佐はそう言って笑うと、坂本少佐の手を取る。

「ほら、機嫌直して。ちょっとからかいすぎたのは謝るけど、貴女が綺麗なのは本当よ。もっと自信を持ちなさいな」
「うぅ…………」

まだそわそわしてはいるものの、覚悟を決めたのか坂本少佐はやっと会場内へと視線を向ける。先ほどよりは緊張も和らいでいるようだ。

「しかし何というか、こんな戦時下に暢気なものだな」
「…………美緒。気持ちはわかるけど今夜はそう言うのは言いっこなし」
「分かっている。分かっているが……」

そう言いながらも少佐の表情は曇りがちだ。
確かにあちらこちらで物資が欠乏している戦時下においてこういった催しを開くことには私も思うところがないではない。
しかし同時に、こういった催しもまた必要なものであることも理解している。
暗くなりかけた雰囲気を払うように、グリュンネ少佐が小さく手を一つ打った。

「まぁ、貴女はそんな難しい事を気にしないで楽しみなさいな。…………それじゃ、ちょっと土方くんを借りるわよ」
「あ…………そ、そう……だな」
「そんな寂しそうな顔しないの。すぐ返してあげるから」
「べ、別にそんな顔など…………」

そう言う坂本少佐の表情はやはり寂しげで、思わず駆けよりそうになるのを、グリュンネ少佐にひきとめられる。

「こーら。土方くんは今は私のパートナーなの。ほかの女の人を見ちゃだめ」
「は、も、申し訳ありません」
「もう、正直なんだから。なんだか私が悪者みたいじゃない」

そう言ってグリュンネ少佐は私の頭を軽く小突く。

「それじゃ、行くわよ」
「は」

グリュンネ少佐が差し出した腕に、軽く腕をからめる。
考えてみれば女性とこういう場に出るというのも久しく無かったことで、今更のように緊張が腹の底からせりあがってきた。

「今頃緊張してきた?」
「は。恥ずかしながら」
「私もよ。男の人とこういう場に来るって初めてだし」
「そうなのですか?」

グリュンネ少佐の意外な言葉に驚く。
少佐ほどの方ならばこういう場は慣れたものだと思っていたのだが。
そんな私の反応に、少佐は少し不満そうに頬を膨らませる。

「あら、そんなに節操のない女に見えた?」
「そ、そうではないのですが…………」
「ふふ、ガリアの女はね、軽いように見えるけど、生涯の恋は一つだけ。一度思ったら一途なのよ」

そうなのだろうか。
私の知っているガリア人女性というとペリーヌさんしか思い浮かばない。
思わずペリーヌさんの顔を思い浮かべていると、不意に脇腹をつねられた。

「いたっ」
「貴方の今日のパートナーは私だって言ったでしょ?ほかの女の子のこと思い出すの禁止」
「……は」

…………なぜ分かったのか、などと無粋なことは思うまい。

「これはこれは、世に名高きグリュンネ少佐とお近づきになれるとは光栄です……お隣の方は、扶桑の?」
「ええ。私のような田舎者でも、素敵な男性に引き立てて頂ければ少しはましになるかと思いまして」
「ご謙遜も度が過ぎますぞ。この会場の中で、少佐ほど気品にあふれた方はおりません」
「まぁ、お世辞がお上手ですこと。先ほどあちらのご婦人にも同じことを仰っておられませんでした?」

目の前ではグリュンネ少佐が群がる男性たちを如才なくかわしている。
黒田中尉が言ったことは誇張ではなかった証に、グリュンネ少佐の周囲に入れからり立ち代わり色々な男性がやって来ては話していた。
中には私に対して穏やかならざる視線を向けてくる方もいる。

「それでは、連れを待たせておりますのでこれにて」
「あ、少佐殿、よければ私と…………」
「失礼いたします」

まだ何か言いたそうな男を笑顔で遮ると、少佐は私のほうに歩いて来た。


「…………よろしいのですか?」
「いいのよ。呼ばれた分の義理は果たしたから。それに、貴方を美緒に返してあげないといけないし」

そう言って少佐は壁際に目を向ける。
そこには、手持ち無沙汰な様子の坂本少佐がちらちらとこちらに視線を送ってきていた。
腕を組み、落ち着かなさ気に足を小刻みに踏み鳴らしているその様子に、周囲の男たちも近寄ろうとする気配すら見せず、広い会場の中でそこだけ妙な真空地帯を作り出している。

「……ね」
「……………お心づかい感謝します」
「ふふ……ま、でも、私にも少しぐらい役得がないとね」
「しょ、少佐?」

そう言いながらグリュンネ少佐は私の手を取った。
それが合図になったかのように、会場の一角に陣取っていたオーケストラが緩やかな曲を奏で始め、会場に散らばっていた男女たちがめいめいに相手を見つけては中央のスペースに集ってくる。

「どう?ここまで我慢した私へのご褒美に、一曲お願いできる?」

そう言いながら片目をつぶって私の手を引っぱっていく。
一瞬、坂本少佐の事が頭をよぎるが、今日のパートナーはグリュンネ少佐であることを思い出す。
ここでこの誘いを断るというのも無粋な話だ。
私は少佐の手を取ると、恭しく一礼した。

「それでは、不調法者ではありますがお相手を務めさせていただきます」
「ふふ。よろしくね、土方くん」

緩やかな3拍子。
その曲をバックにホールの中央で私の手を取り踊る少佐の姿は、お世辞抜きに美しいものであった。
周りの男たちから感嘆と嫉妬の混じった視線が降り注ぐ。

「さすが上手ね。これまで何人の女の子とこうして踊ってきたのかしら?」
「……少佐こそ、さすがにお上手ですね」
「ま、貴族の嗜みってやつよ」

不当な評価はあえて聞かなかったことにする。
不意に、少佐は私の方へ体をもたれさせるように預けてきた。
突然の急接近に、覚えず心臓が大きく一つ拍を撃つ。

「…………こ、こういうことは……その」
「あら、私じゃ役者不足?」
「そうではなく……」
「ほらまたよそ見しようとする……ダメよ。この曲が終わるまでは土方くんは私のパートナーなの」
「は、はっ」

思わず坂本少佐の方に視線を向けそうになったところを強引に引き戻される。
そんな私の様子に、さすがにグリュンネ少佐も苦笑を浮かべていた。


「私が目の前にいるのに、心は上の空?…………なんだか自信なくすなぁ」
「い、いえ!そんなことは……少佐は十分に魅力的であられます」
「ありがと。でもその前に『坂本さんの次に』って付くんでしょ?」
「…………」
「ふふ、嘘がつけないその性格、私は好きだけど…………ちょっと残酷ね」
「は?」

少佐の最後の方の言葉は、急に音量を増した音楽にかき消されて私の耳には届かなかった。
曲はさらに激しさを増し、フィナーレの近さを感じさせるものとなっている。

「もうすぐ終わりね」
「は。そのようで」
「ちょっと寂しいな…………」

そう言って私から視線をそらす少佐の横顔は、今まで楽しそうに私をからかっていた方とは同一人物とはとても思えないほどに儚げで、目を離すとそのままどこかに消えていきそうであった。
そしてやがて、幾許かの余韻を残して曲は終了する。

「…………」
「……少佐?」

曲が終わっても俯いたまま私の腕を離そうとしない少佐に、さすがに心配になって声をかける。
私が声をかけると、少佐は伏せていた視線を上げ、取り繕うように笑顔を向けてきた

「あ、ごめんね。私らしくもなく感傷的になってたみたい」
「お気分がすぐれないようでしたら……別室へお連れしますが」
「それは…………誘ってるの?」
「い、いえ、そのようなっ!」
「ふふ、冗談よ……そろそろ貴方のお姫様がお怒りみたいだし、優しい騎士さんを返してあげないとね」

そう言って少佐は私を強引に振り向かせる。
振り向いた先で、先ほどと同じ体勢でこちらを伺っている少佐の視線とぶつかった。
ポン、と背中を押される。

「ほら、何してるの。お姫様のもとに駆けつけるのは騎士さんの務めよ」
「…………本日はありがとうございました」
「何言ってるの。お礼を言うのは私の方よ」

そんなグリュンネ少佐の声を背中に聞きつつ、私は坂本少佐のもとにはせ参じるべく歩調を速めた。

以上です。
グリュンネ少佐もキャラが分からんので勝手にキャラ付してしまいましたw
本当はもっと天然お嬢様キャラにするつもりだったんですが……なんか妙なことにw

それでは。
また来週。

こんばんは。
今週も投下しにやってまいりました。
楽しみにしてると言ってくださった方、ありがとうございます。

それでは。
今回から原作第5話「私のロマーニャ」に突入です。

「あれ?」

いつものように厨房で夕食の支度をしていた宮藤さんが頓狂な声を上げる。

「どうしました?」
「お米が……なくなっちゃったみたいです」

そう言いながら宮藤さんは手に持った袋の口を開けて見せて下さった。
……確かにその中には一粒の米も見当たらない。

「扶桑料理が評判いいからって作りすぎちゃいましたか……」
「うぅ……ごめんなさい」

申し訳なさそうに肩を落とす宮藤さん。
ここ欧州では米はそれほどメジャーな食材ではなくそれほど備蓄もなかったところに、厨房に主に立つのが宮藤さんと私と、ともに扶桑の人間であったことが災いしたようだ。
我ながらなんとも迂闊であった。
ちょうどそこを通りかかった坂本少佐に、宮藤さんは縋りつくように声をかける。

「坂本さーん!お米なくなっちゃったみたいですー!」
「何?…………ああ、そうか貴様も土方も扶桑料理が得意だったな」

一瞬驚いたような顔をした坂本少佐だが、すぐに我々と同じ結論に達したようだ。

「うむ……しかし確かに…………全員が一度に揃うなどとは想定していなかったしな」
「なるほど」

坂本少佐の言葉にうなずく。
確かに世界中に散らばっていた501のウィッチ達があの時アドリア海で一挙に全員集合するなどだれも考えないであろう。
色々な意味で規格外な方たちが集まっていると改めて実感させられる。

「どうしましょう?」
「ちょうどいいわ。ほかに色々揃えたい物もあるし、一度街に買い出しに行ってもらいましょう」

宮藤さんの言葉に横から顔を出したのはヴィルケ中佐が答える。

「ということで、臨時の補給を実施します」

翌日の朝、ブリーフィングルームでヴィルケ中佐が説明をしている。

「大型トラックを運転できるシャーリーさん、それと、ローマに土地勘のあるルッキーニ少尉の二人にこの任務はお願いします」
「「了解!!」」
「よっしゃ!久しぶりの運転だ!」
「やたーーー!ローマ!ローマ!」

ヴィルケ中佐の言葉に二人が抱き合って喜ぶ。
いつネウロイの襲撃があるかわからない状況の中、簡単に基地を離れることもできないウィッチの方々にとってこういう任務は数少ない息抜きの機会となるのだろう。
ルッキーニ少尉などは飛び跳ねて喜んでいる。

「ほかに、宮藤さんとリーネさんも同行します」

しかし、指名されたビショップ軍曹の反応は意外なものであった。

「あの…………やっぱり私は待機で」
「えー!どうしたのリーネちゃん」

おずおずと申し出たビショップ曹長に宮藤さんが意外そうな顔で答える。
確かこの任務が決まった当初は顔を輝かせていたはずだが…………
宮藤さんもどこかがっかりしたような表情になっている。

「そう……でもさすがに3人じゃ大変でしょうし…………」
「じゃさ」
「うわっ!」

ヴィルケ中佐が考え込む。
…………と、不意に横合いから首根っこをつかまれた。

「土方の兄さん連れてっていいかな。やっぱり男手はあったほうがいいしさ」

私の首に手をまわしつつヴィルケ中佐にそう具申しているのはシャーリーさんだった。

「けーすけ兄ちゃん!一緒に買い物行こうよ」

ルッキーニ少尉も甘えるように私のシャツの裾をつかんでくる。
考え込んでいたヴィルケ中佐がこちらに視線を向けてきた。

「ふむ……そうね。じゃ土方兵曹。貴方もシャーリーさんたちに同行してちょうだい」
「は」

ヴィルケ中佐の言葉に敬礼を返す。
こういう場面でしかお役に立てないのであればむしろ望むところだ。

「よろしくな、兄さん」
「やたー!兄ちゃんと買い物―!」
「私も嬉しいですよ」

シャーリーさん、ルッキーニ少尉、宮藤さんの3名もそれぞれの表現で喜んでくださっている。

「それじゃ、何かあったらシャーリーさんの指示に従ってね」
「は」
「それじゃ、何か欲しいものがある人は言ってください」
「欲しいものか…………」

ヴィルケ中佐の言葉に最初に反応したのは意外なことに坂本少佐であった。
坂本少佐の欲しいものか…………プレゼントすれば喜んでいただけるであろうか。
……いかんいかん。
これは任務であった。

「新しい訓練器具とか……」

しかし続いて出てきたのは何とも坂本少佐らしいお言葉であった。
苦笑気味にミーナ中佐がツッコミを入れる。

「あのねぇ……そう言うのじゃなくてみんなの休養に必要なものを言ってちょうだい」

そんなヴィルケ中佐の声にビショップ曹長がおずおずと手を上げる。

「あ、あの……私、紅茶が欲しいです」

ブリタニアの方らしい意見に、初めてヴィルケ中佐の表情が綻ぶ。

「そうね。ティータイムは必要だわ。じゃ、私はラジオをお願いしようかしら」
「カールスラント製の立派な通信機があるじゃないか」
「そう言うのじゃなくて、この部屋に置いてみんなで音楽やニュースを聞くためのラジオよ」

相変わらずの坂本少佐にヴィルケ中佐が呆れたように返す。

「なるほどな。そう言うことなら賛成だ。頼んだぞ、土方」
「は」

そう言いながらメモを取る。
紅茶に……ラジオか。
これはウィッチの方々全員に御用聞きをして回る必要がありそうだな。

そう思って振り向いた時であった。

「圭助よ、ちょっと借りるぞ」
「あ、少佐…………」

横合いから伸びてきた手が私の手からメモ帳を奪い取った。
振り向いた先ではウィトゲンシュタイン少佐がメモ帳に何やら熱心に書きつけている。
そのリストが2ページ、3ページと増えて行って5ページを超えようとしたところでさすがに止めに入った。

「しょ、少佐……少々多すぎるのでは」
「まぁ待て。まだあと30品ほど…………代金なら心配するな。十分に持っておる」
「はいはい。ちょっと自重してね少佐」
「あ、こら!何をするかミーナ!」
「もう……服だの化粧品だのこんなに…………確かに息抜きになるものをとは言ったけど個人的な買い物を頼み過ぎよ」

少佐の手からメモ帳を取り上げたヴィルケ中佐は、少佐の書きつけたリストを見てため息をつきながら破り捨てる。
しばらく恨めしそうにヴィルケ中佐を睨みつけていた少佐であるが、大きく息をつくと私に向き直った。

「ふぅ…………まぁよい。圭助よ」
「は」
「貴様のセンスに任せる。妾に似合いそうなものを何か買って来い」
「え……」

今度はあまりのおおざっぱすぎる注文に私が呆れる番であった。

「貴様が妾に贈りたいと思うものを買ってきたらよいのじゃ」
「い、いえ、しかし……」
「楽しみにしておるからの」

そう一言言い残すと少佐は、呆然とする私を残してブリーフィングルームより出て行かれた。

「ふむ…………」

不意にかけられた声。それはこれ以上なく聞き覚えのある声で――――

「さ、ささささ坂本さんっ?」
「どうした土方?」

急にどもった私に坂本さんは不思議そうな表情になる。
先ほどのウィトゲンシュタイン少佐とのやり取りも特に何とも思われてはいないのだろうか。
ほっとする半面、少し寂しいなどと思ってしまうのは……
私は頭を振って埒もない考えを頭から追い出した。

「あ、坂本さんも何か欲しいものがあれば……」
「そうだな…………訓練に役立ちそうな、と言いたいところだが先ほどミーナに釘を刺されてしまったしな」

苦笑しつつ考え込む少佐。
少佐は中々自分が楽しむものという考えに至らないのだろう。
……まぁ、その気持ちは少しわかる気がする。

「……やはり急には思いつかんな」
「そうですか」
「それより貴様はどうなのだ。貴様もこの基地の一員なのだから好きなものを買ってよいのだぞ」
「はぁ…………」

急に話を振られ、私は考え込む。
確かに急に言われても思いつかない。
強いて言えば少佐に何か…………しかし少佐はどのようなものを好まれるのであろうか……

「……そこまで考え込まなくてもよかろうに」

目を上げると少佐が呆れたような表情を向けてきた。
どうやら自分が思っているより深刻な顔で考え込んでしまったようだ。

「はは、好いた女子に物を送るでもあるまいに」
「あ、いえ、そ、そうですね…………」

少佐の言葉に、先ほどからの心中を言い当てられたようで思わずどもる。

「まぁよい。さっきも言ったが私は特にいる物はない。気にせずに楽しんでくるといい」
「は」

そう言い残すと少佐は部屋を出て行かれたのだった。

一通り聞き終えた私は、先ほどまでペリーヌさんと話しておられた宮藤さんに声をかけた。

「宮藤さん……御用聞きは終わりましたか?」
「あ、はい。あとはハルトマンさんだけですね」
「そのハルトマン中尉はどちらに?」
「ハルトマン……また寝ているな!」

その私の問いかけに答えたのはバルクホルン大尉であった。
……そう言えば先ほどから姿が見えなかったが…………まぁ何ともあの方らしいと言える。

「…………土方、宮藤。すまんが奴を叩き起こすのでついてきてくれ」
「「は、はいっ!」」

バルクホルン大尉が怒りの表情でブリーフィングルームを出ていく。
私と宮藤さんは一瞬顔を見合わせると、すぐさま慌てて大尉の後を追いかけていった。



「おいハルトマン!いつまで寝ている気だ!さっさと起きんか馬鹿者!」
「ん~~あと90分…………」
「何をたわけたことを言っている!何度も言うが貴様には軍人としての自覚が足りない!兵は神速を貴ぶという言葉を知らんのか!」
「しらないよぉ……だからあと120分……」

ハルトマン中尉のお部屋の中ではもはや恒例となった二人のやり取りが行われている。

ちょんちょん。

入り口からお二人の様子を呆然とみているだけだった私の背中が何者かによってつつかれる。

「……はい?」
「ちょっと」
「何で…………うわっ!」

返事をする間もなく、後ろから首根っこが強い力で引っ張られた。

「枕だ!」
「え、エイラさん…………?」

振り返った先に見えたのは至近距離にあるエイラさんの顔。
鼻と鼻がくっつきそうなその至近距離からかけられた唐突な言葉に、私は意味が分からず沈黙する。
そんな私の態度に苛立ったような口調でエイラさんは話を続けた。

「だーかーらー!枕だって枕!買ってくるの!」
「は、はいっ!」

彼女の剣幕にやや腰が引けつつもポケットからメモを取り出す。

「色は黒で……赤のワンポイントがあるといいな。素材はベルベットで、無かったら手触りのいいやつな。中綿は水鳥の羽で、ダウンかスモールフェザー……」
「す、少しお待ちを」

次々に繰り出される注文を何とか書き留めていく。

「じゃ、頼んだ。サーニャにあげるプレゼントなんだからな。ちゃんと選ぶんだぞ」
「は」
「もしいい加減なもの選んできたらスオムス原産のものすっごく臭い魚の缶詰をお前の部屋に投げ込むからな」
「は、はっ!」
「よろしく」

最後にエイラさんは念を押すように再び顔を近づけてくると、手を振りながら去って行かれた。

そんなエイラさんの背中に声をかける。

「あ、あの!」
「…………何だよ」
「エイラさんご自身は何かいらないのですか?」
「私…………?」
「は」

私の言葉に意外そうな表情になるエイラさん。
少し考えるように視線を宙にさ迷わせるが、返ってきた答えはにべもないものであった。

「いらない。そんなことより枕、絶対忘れんなよ!」
「承知いたしました」

そして今度こそ本当に去って行かれる。

「…………圭助さん?」
「あ、よ、芳佳」

ふいにかけられた声に振り返ると、宮藤さんが不思議そうな表情をして立っておられた。

「エイラさん、何か欲しいものあったんですか?」
「はい。何でもリトヴャク中尉へのプレゼントだとか」
「サーニャちゃんに…………エイラさんらしいなぁ」

そう言って宮藤さんは笑う。

「そう言えばハルトマン中尉はどうでした?」
「あ、はい。ハルトマンさんは『おかし~~』とか言ってたんですけど、バルクホルンさんが『貴様に必要なのは目覚し時計だ』って」
「はは、それは…………」

あまりにお二人らしいやり取りに宮藤さんと顔を見合わせて苦笑する。

「結局目覚まし時計と……お菓子、ですかね?」
「…………そうなるでしょうね」

宮藤さんの問いかけに肩を竦めつつ答える。
なんだかんだ言ってバルクホルン大尉はハルトマン中尉に甘いのだ。

「これで全員分でしょうか?」
「あ、はい。そうですね」
「では、出発しましょうか」

私のその言葉が合図になったかのように玄関口からシャーリーさんとルッキーニ少尉の声が聞こえてくる。

「おーい!宮藤に土方の兄さん!こっちは準備できたぜ」
「早く行こうよー!」

私と宮藤さんはその言葉にはじかれるように、玄関口へと駆けだしていった。


ところが、である。

「あれ?リーネちゃん」

玄関口に止まっているトラックの側には、意外な人物が立っていた。
先ほど居残りを自ら申し出たはずのビショップ曹長である。

「あ、あの、芳佳ちゃん…………」
「どしたのリーネちゃん?何か注文し忘れでもあった?」
「そ、そうじゃないんだけど……」

そう言いながらビショップ曹長はしきりに何かを言い出そうとしては口を噤んでいる。

「リーネちゃん?本当に何かあったの?」
「え、えっと…………その」

「おーい!なにやってんだ宮藤?早く出発しようぜ」
「よしかー!兄ちゃーん!はーやーくー!!」

トラックに乗っているシャーリーさんとルッキーニ少尉が焦れたように声をかけてきた。

「あ、はーい!…………ごめんねリーネちゃん。私行くね。圭助さんも行きましょ」
「あ…………」

そう言い残し宮藤さんがトラックの方へと走って行かれる。
後に残されたのはビショップ曹長と私の二人。

「あ、あの……ビショップ曹長…………」
「ご、ごめんなさい!」

声をかけようとした私を避けるように、ビショップ曹長は基地の方へと駆けて行かれてしまった。
…………私だけでなく男性全般が苦手な曹長の事、こういう反応も致し方ないと頭では分かっていても些か傷つく。

「おーい!!兄さーーーん!」

再びシャーリーさんが声をかけてくる。
これは……これ以上悩んでいてもシャーリーさんの機嫌を損ねるだけだろう。
そう思い直した私は宮藤さんに続くようにトラックへ向かって駆け出した。

「芳佳ちゃん…………無事に帰って来てね……」

そんなビショップ曹長のつぶやきに気付かないままで。


以上で本日の投下を終わります。
やっぱり原作あると進みが違うわw
まぁ506編も書いてて楽しかったですがw

それでは。
また来週。

1です。
すみませぬ……ちょっと本日は忙しくて最後の見直しができておりませぬ。
明日の夕方頃には何とか投下いたしますので今しばらくお待ちくださいませ。

こんばんはー。
遅くなりまして申し訳ございません。
ただいまより投下開始しますー。

「~~♪~~♪」

そんな鼻歌を歌うシャーリーさんの運転する大型トラックは北部ロマーニャののどかな風景の中をローマに向けて南下していた。
全ての道はローマに通ず、との言葉を残したロマーニャ人だけあって石畳で舗装された道路は、今の我々が通っても何の不便もない。

「しかし、ずいぶん荷物が多いですね」

助手席から、運転をしているシャーリーさんに話しかける。
この任務のためにミーナさんが引っ張り出してきたのはかなりの大型トラックで、予想される補給の規模を考えても大きすぎると思っていたが、何やら大型の荷物を積み込んでおり、空きスペースはそれほど大きくなかった。
宮藤さんとルッキーニ少尉のお二人は荷台のその空いたスペースに座っておられる。
最初は私が荷台に乗ろうかと申し出たのだが、トラックの荷台に乗るという経験が珍しかったのか、宮藤さんたちにここに押し込まれてしまった。

「ああ、私とルッキーニ、宮藤のストライカーを積んでるからな」
「え…………そうなんですか?」

何でもない事のように言うシャーリーさんの言葉に驚く。
ネウロイの襲撃が予想されるという情報でも入ったのだろうか。
そんな私の表情に気付いたのか、シャーリーさんは苦笑しながら手を振る。

「あ、いやいや。もしもの時のための保険だって坂本少佐がね。私だってこんな息抜き……じゃなかった任務の最中にまでネウロイの事なんぞ考えたくもないけどさ、扶桑の言葉でなんていうんだっけ……?その、そなえ…………」
「備えあれば憂いなし、ですか」
「そうそう。まぁ今のところネウロイの出現は北部ロマーニャにとどまってるし、こんな遠く離れたローマまでくりゃしないと思うけどね」
「は」

そう答えながら私は一抹の不安を拭い去れずにいた。
こういう風に「まさかそんなことはないだろう」とか言っていると「そんなこと」が起こるという…………

「どうしたんだい、兄さん?」
「い、いえ、何でも……しかし、のどかな風景ですね」

あまり要らぬことを言って余計な心労の種を増やすこともなかろう。
そう思った私は話題を転換するべく窓の外に目をやった。
車は大きな湖のそばを過ぎ、花が咲き乱れる田舎の一本道を走っている。

「ああ、そうだな。ロマーニャってもっと不毛の大地が続くのかと思ってたけど、そうでもないみたいだ」
「…………ルッキーニ少尉が聞いてなくてよかったですね」
「だな」

そんな冗談に顔を見合わせて笑う。
坂本少佐と話しているときとはまた違った気安さがこの方にはある。
ルッキーニ少尉と一緒になって悪ふざけばかりしているように見えるが、その実501のウィッチ、ひいては私のような一兵卒の事のことまでよく考えて下さっている事を私は知っている。
だからこそバルクホルン大尉も口では悪しざまに言いつつもその実力は認めているのだろう。

そんなことを考えるともなしに考えていると、突然雰囲気をがらりと変えたシャーリーさんのつぶやきが聞こえてきた。

「…………前方視界よし。対向車なし」
「シャ、シャーリーさん?」
「あ、兄さん。ちょっとここからはおしゃべりは封印な。口を閉じてないと舌噛むぞ」
「な、なにを…………」

不吉なものを感じた私は恐る恐る声をかけてみるが、返ってきたのは胡散臭い笑顔と言葉であった。

「いくぞっ!」
「うひゃあっ!」

そんな掛け声とともに一気に踏み込まれたアクセル。
思わず間抜けな声と共に後ろの背もたれに体が押し付けられた。

「ぐ…………」
(え?え?きゃああああああああーーー!)
(きゃはははははーーーーー!)

荷台の方から宮藤さんのものと思わしき悲鳴とルッキーニ少尉のものと思われる歓声が聞こえてくる。

(な、何?何が起こったの?)
(あははははっ!たーのしーーーー!)

そうこうしているうちに道はいつの間にか山道に差し掛かり、山肌を申し訳程度に削って造られた細い道が見えてきた。
しかしシャーリーさんはスピードを落とすことなくそのまま突っ込んでいく。
い、いくらなんでもこの道をこのスピードでは…………
隣に座るシャーリーさんに抗議の声を上げようとするものの、ひっきりなしに揺れ動く車内で自分の位置を確保するのに精いっぱいでとてもそんな余裕はありそうにない。
やがて車は急カーブに差し掛かった。
下すら見えないほどの千尋の谷が目の前に迫ってくる。

(お、落ちる――――!)
(きゃはははははは!)

後ろから聞こえてくる宮藤さんの声が一層大きくなる。
ルッキーニ少尉はこんな時でもどこか楽しそうだった。
ある意味大物なのかもしれないが、私はそこまで落ち着いていることができそうにない。
運転席のシャーリーさんはと言えば完全に目が据わっており、私の声など耳にも入っていない様子である。

やがてカーブは刻一刻と迫ってくるが、シャーリーさんはブレーキを踏む気配も、ハンドルを切る気配もない。


落ちる――――


思わず目をつぶった瞬間であった。

「いっけーーーー!」

シャーリーさんのそんな気合いとともに体が重力から解き放たれる感覚。
まさか…………
考える間もなく訪れる衝撃。
思わず背中からずり落ちてしまいそうになり慌てて立て直す。

「…………決まった」

ハンドルを握りながらやり遂げた表情のシャーリーさん。
その表情を見た時私は今日初めて、ビショップ曹長が今回の任務を辞退した本当の理由を理解したのだった。

「どうだい兄さん、スリルあっただろ?」
「…………スリル以前に生きた心地がしませんでした」
「あははっ、そりゃ悪かったね」
「うう、きぼぢわるい…………」

やがてローマ市内に到着するとさすがにシャーリーさんもスピードを控えて走っている。
休憩時に荷台から少しはましな助手席に移ってきた宮藤さんは私の隣でぐったりと涙目になっていた。
その隣には久しぶりの故郷にはしゃいだ表情のルッキーニ少尉がいる。

「ほらほら芳佳芳佳!ローマだよ!!」
「……え?」
「なっつかしいなー!」
「うわー!すごーーい!」

のろのろと体を起こした宮藤さんはそれでも、初めて見るローマの街の光景が珍しいのか徐々に気力を取り戻しつつあるようだ。
あちらこちらに見える珍しい古代の建物に興味をひかれたようで、いろいろ指差しては少尉に尋ねている。

「あれは?」
「古代の闘技場だよ」
「ふーん…………じゃあ、あれは?」
「昔の公会堂」

それは宮藤さんにとって聞きなれない言葉であったようで、宮藤さんは首をかしげる。

「こうかいどう……ってなに?」
「えっと…………なんだっけ兄ちゃん」
「え?わ、私ですか?」

ルッキーニ少尉がいきなり私に振ってくる。
…………いきなりの無茶ぶりはやめていただきたい。

「あ、その、学校とか、裁判とか、商取引とかとにかくなんにでも使われた公共の広場みたいなところだったらしいです。ローマ帝国建国の祖であるユリア・カエサルが建てたものだとか」
「へー。あ、カエサルって人は学校の授業で聞いたことがあります」
「そうそう。すごい人だったんだよー!」
「……よく知らないくせに偉そうにすんなよルッキーニ」

シャーリーさんが笑いながら突っ込む。

「じゃあ、あれは?」
「あれはね、聖天使城(カステル・サンタンジェロ)って言うんだよ」
「え、お城なの?」
「えーと…………どうだったかな、兄ちゃん」

……だから一々私に振ってこられても。
私とて学校で学んだ程度の知識しかないというのに。

「聖天使城はローマ帝国皇帝のハドリアヌスが建てたもので、当時は霊廟、つまり自分の墓として建てたみたいです」
「えー!あんなにおっきなのがお墓なんだ!」

ルッキーニ少尉までが驚いておられるのはどうなんだろうか。

「しかし、その作りが堅固であったので軍事施設として使われるようになり、この聖天使城という名前もその頃に付けられたそうです」
「お墓をお城にしちゃうなんて…………なんだか不思議ですね」
「ここは『トスカ』ってオペラの舞台としても有名だよな、兄さん」

そう言って話を続けてこられたのは意外なことにシャーリーさんであった。
確かに「トスカ」のクライマックスで恋人を失い絶望したヒロイン・トスカが身を投げるのが、ここ聖天使城であったはずだ。

「あ、トスカは知ってるよ!『歌に生き恋に生き』とか学校で習ったもん」
「ああいうドロドロした恋愛もの好きだよなロマーニャ人って」

シャーリーさんの軽口を聞きながら、私は意外な表情を抑えきれなかった。
あのシャーリーさんの口からオペラなどという言葉が出て来るとは。
そんな内心が表情に出てしまったのか、私の方を振り返ったシャーリーさんに睨まれた。

「…………何だよ。私がそう言うこと知ってちゃおかしいか?」
「い、いえ、そういう訳では……」
「ふふん。女はいつでも男の知らない一面を持ってるもんさ」

自慢げな表情をするシャーリーさん。

「でも、圭助さんていろんなこと御存じなんですね!すごいです」
「あ、いえ…………」
「だよねー!ローマに住んでた私でも知らなかったのに」

宮藤さんとルッキーニ少尉から過剰なお褒めの言葉をいただき、いささか気恥しい。
そんな私をシャーリーさんがにやにやしながら眺めているのに気付き、私は慌てて咳払いを一つすると表情を引き締めた。

そんな会話をしているうちに、車は一つの雑貨店の前で止まった。

「…………ここでいいのか?」
「うん。ここ大抵のものそろってるんだ」

さすがはルッキーニ少尉である。
少尉の後について、私たちも雑貨店の扉をくぐった。


「うわ~~すご~い!」

店内を見た宮藤さんが歓声を上げる。
確かにそれほど広くない店内にもかかわらず食品から衣類・更に簡単な電気機器まであらゆるものがそろっていた。
ルッキーニ少尉の言葉もあながち誇張ではないということか。

「それじゃ、手分けして探すとするか」
「は」
「りょうかーい」
「はいっ」

シャーリーさんの号令一下、我々はそれぞれ店内へと散って行ったのだった。


「ふむ……やはり米はあまりありませんか」
「申し訳ございません……」

目の前では店員の女性が申し訳なさそうに頭を下げている。
確かに欧州では米はそれほどメジャーな食材ではないし、野菜の一種という認識だから大量に購入するものなどそれこそ任務で来ている扶桑軍人ぐらいしかいないのだそうだ。
これはルッキーニ少尉にほかの店を見繕っていただく必要があるかもしれない。

「分かりました……この店にあるだけの米を頂きたい」
「は、はいっ」

私の言葉に、女性は頭を下げて奥へと入っていく。

店内を見回すとシャーリーさんたちもめいめいに店内を見回っているのが目に入った。
衣料品のコーナーでは宮藤さんがピンク色の服をもって眺めている。
そんな宮藤さんにシャーリーさんが声をかけた。

「似合うじゃないか。それ買うのか?」
「あ、いえ…………これはバルクホルンさんに頼まれて」
「「ええっ」」

思わずシャーリーさんと重なるように小さく叫んでしまった。

「あ、あいつがこの服を…………?も、もうだめ……あはっ、あはははははっ!」

あの服を着た大尉の姿を想像でもしたのか、こらえきれないように笑い出すシャーリーさん。
真面目一筋のように見える大尉であるが、このようなものを好まれる一面もあるのだろうか。

「ち、違いますよ!これは妹のクリスさんへのプレゼントです」
「あはははは……い、息が…………できな…………あははははははは!」

…………なるほど。
そう言うことであったか。
しかしシャーリーさんには宮藤さんの声は届いていないようで、時折息をつまらせつつ笑い転げている。

「もう……圭助さんもダメですよ。そんなに驚いたら失礼です」

私の声が聞こえてきたのだろう。
宮藤さんが非難がましい視線を向けて来た。

「す、すいません」
「よろしい…………なんて、ふふ」

すぐに表情を改めて笑顔になる宮藤さん。

「それじゃ、私はもう少し選んでますね」
「は」

宮藤さんと別れ、再び店内に目をやる。
すると、退屈そうな表情で窓際の椅子に腰かけて窓の外を眺めているルッキーニ少尉の姿があった。

「少尉」
「あ、けーすけ兄ちゃん」
「買い物は終わったのですか?」
「うん。私とハルトマンのお菓子。いっぱい買ったから後で兄ちゃんにも分けてあげるね」

そう言って笑う少尉。
その手には先ほどシャーリーさんから預けられたバッグが握られている。

「兄ちゃんは?」
「私は食料品を…………」

そこまで言って気が付いた。
ここでルッキーニ少尉に米が買えるお店を聞いておかねば。
そう思って口を開いた時だった。

「……!兄ちゃん外見て外!!」
「え?」

ふいに少尉が真剣な表情で窓ガラスに顔をくっつけた。
その少尉の視線の先には―――

「あれは…………」

黒服を着た二人の男が一人の少女を車に押し込もうとしている場面であった。
ここまで白昼堂々とは…………
思わず外に飛び出しそうになるが、少尉の行動はさらに迅速であった。

「兄ちゃん!これお願い!」

どさり。

不意に両手にかかる重み。
よく見れば先ほどまで少尉が抱えておられたバッグが私の両腕の上に乗っていた。
思わずたたらを踏むものの、何とか持ちこたえる。
目を上げた先ではすでに店を飛び出した少尉が二人組の男に向けて駆け出しているところであった。

(…………あの方はっ!)

考えている時間はなかった。
ルッキーニ少尉がウィッチであるとはいえストライカーを穿いていなければただの13歳の少女でしかないのだ。
シャーリーさんに報告する、そんなわずかな時間すら私には惜しく、バッグをしっかりと肩にかけなおすと私はルッキーニ少尉の後を追って店を飛び出していた。

ということで以上です。
ここまで書いてまだアイキャッチにすら到達していないという……

あ、冬コミ受かりました。
夏に出した海上自衛隊本の続き書きます。

こんばんは。
11月30日と言いましたが結局こんな時間になりましたことをお詫びします。
それでは、只今より本編投下、開始します。

――――ヒスパニア広場(Piazza di Hispania)――――

路上にカンバスを広げ絵を描いている画家。
観光客に小銭をせびる浮浪児。
階段下のワゴンで営業しているジェラートの屋台。
ヒスパニア広場は多くの人であふれかえっていた。

「ここはね、ヒスパニア広場っていうんだよ」
「あ、ここは知ってます。近くにヒスパニア大使館があるからそう言う名前になったんですよね」
「え、えっと…………そうだっけけーすけ?」
「は。そのように聞き及んでおります」

困ったような表情を向けてくる少尉に、私はうなずいて見せる。
……しかし、このマリアという少女、考えれば考えるほど妙なところが多い。
ローマの人間なら日常的に目にしているであろうコロッセオに感動したかと思えば、むしろマイナーな知識に属するであろうヒスパニア広場の名前の由来については知っていたり。

「……あ!あそこにジェラートの屋台があるよ!」
「じぇ、じぇらーと、ですか?…………こ、こんな風に売っている物なんですね」
「…………え?ジェラートって屋台で食べるものじゃないの?」
「……えっと、あ、そ、そうでしたね!」

そしてロマーニャでは一般的なお菓子であるはずのジェラートの食べ方を知らない。
それほどまでに箱入りで育てられた、と考えれば頷けなくもないが……

「ほらっ!けーすけもっ!」
「…………あ、は、はいっ」
「一緒にジェラート食べよー」

考え込んでしまった私に対し、少尉が焦れたように手を伸ばしてくる。
その手を取ると、少尉は私とマリアさんを屋台まで連れて行って下さった。

「うわぁ……色んな種類があるんですね」
「うん!このお店のジェラートはすっごくおいしいよ」
「へぇ…………」

マリアさんは物珍しそうに屋台の色とりどりの氷菓に見入っている。

「好きなの頼んでいいからねっ」
「…………は、はい」

ルッキーニ少尉の言葉に、マリアさんは真剣な表情で選び始める。
そんなマリアさんを横目に、私はある懸念を問いただすべくルッキーニ少尉をマリアさんから見えない場所へと引っ張って行った。

「あの…………ところで」
「どったのけーすけ?」
「…………まさかとは思いますが、シャーリーさんから預かったお金を使うつもりではないでしょうね」

私の問いかけに対する少尉の表情は、残念なことに私の心配が的中していたことを示すものであった。

「……ダメ?」

可愛らしく首をかしげて見せるルッキーニ少尉。
そんな少尉の態度に、私はため息をつくしかできなかった。
それは完全に公金横領だ、と諭す代わりに私は懐より札入れを取り出すと、そのまま少尉に渡す。

「はぁ……仕方ありません。これをお使いください」
「え?で、でも…………これ、けーすけの……それに、こんなに…………」
「いいんですよ。どうせ使うあてのないものですし。少尉のためでしたらこの程度」
「う…………ずるいよ。そう言うこと言うの」

何故か少尉が少し恥ずかしそうに頬を染める。
実際、基地の中にいれば衣食住すべてが保証される生活の中で、使う宛のない金が貯まりすぎて些か持て余していたのも事実であった。
しかし少尉の方もさすがに気が咎めるのか、手元の札入れと私の顔を交互に見比べている。
そんな膠着状態を破ったのは、マリアさんの声であった。

「あの、ルッキーニさーん!」
「…………ほら、呼んでますよ、フランチェスカお嬢様」
「うじゅー……」

少尉の肩をポン、と押す。
少尉はそれでもしばらく迷っていたが、やがて大きく頷くと、私に笑顔を向けてきた。

「じゃ、じゃあ遠慮なく使わせてもらうね!」
「ご自由に」

そう言って少尉はマリアさんのもとに駆けていくと、二人であれこれと悩みながらジェラートを選んでいる。
そんなお二人の姿は、勢い私に埒もない連想を抱かせた。

…………もしも。
ルッキーニ少尉に魔力などなく、普通の少女として生きていたならば。
あのように友人たちと買い食いなどを楽しむ生活を送っていたのだろうか。
そう考えると、改めてあのような少女たちに戦いを強いる自分たち男の立場に忸怩たる思いが湧きあがってくる。


「…………はい、どうぞ」
「あ、ありがとう姉ちゃんたち!」

聞こえてきた聞きなれぬ声に思考を中断してお二人の方に視線を向けると、マリアさんは周りにいた浮浪児たちにジェラートを分け与えている。
…………まずい。
世間知らずなお嬢様にありがちな施し型の善意だ。
その気持ち自体は尊いものだとは思うが、しかし、こういう思いつきの善意は下手をすると……

「お?なになに?……なーなー姉ちゃん俺も俺も!」
「あのお姉ちゃんがジェラート食べさせてくれるんだって!」
「ほんとかよー!よっし、みんな呼んで来ようぜ!」

案の定、その光景を見つけた周囲の浮浪児たちがお二人を中心に集まり始めている。
さすがにこの事態は予想外だったのか、マリアさんも戸惑った表情になっていた。

「お嬢様、こちらに!」
「え?ひ、土方…………さん?」
「にひひっ!マリア、いっくよー!」

浮浪児の群れをかき分け、マリアさんの手を取って強引に連れだす。
少尉はと言えば、マリアさんの行為にこの結末は予想していたようで、マリアさんのもう片方の手をつかみつつ、いち早く私の開いた通路から輪の外へと駆けだしていた。


「…………ふぅ……ふぅ……」
「にゃははー!ちょっと面白かったねー♪」
「お嬢様、少し御戯れが過ぎます」

広場から数キロ離れた路地裏。
ルッキーニ少尉に導かれるように網の目のような路地を抜けててたどり着いたそこで、我々はやっとひと息着くことができた。

「あの、ル……」
「マリア」

ルッキーニ少尉におそるおそるといった態で声をかけたマリアさんであったが、その言葉は少尉の厳然たる口調に跳ね返された。

「…………ダメだよ。ああいうことしちゃ」
「で、でもあの子たちが私たちのジェラートをすごく欲しそうに見てて、それで」
「うん。その気持ちはわかるよ。マリアが純粋にあの子たちが可哀想って思ってああしたのは。でもね…………」

そこでいったん言葉を切り、少尉は私たちから視線をそらす。
まるで我々にその言葉を発する時の表情を見られるのを恐れるかのように。

「…………覚えておいてね。中途半端な善意は、かえって相手を傷つけることもあるんだよ」

その少尉の言葉はマリアさんには重く響いたようだ。
言葉もなく絶句する彼女。
空気が重くなりかけるが、その雰囲気をいともたやすく壊すのもまた、ルッキーニ少尉であった。
少尉はその次の瞬間、まるで何事もなかったかのような笑顔で振り返るとマリアの手を取った。

「それじゃ、ローマ一日観光の続き、行ってみよー!けーすけもちゃんとついてくるんだよ!」
「え?え?ちょ…………る、ルッキーニさ……わわっ!」
「…………はいはい、仰せのままにお嬢様」

そのまま彼女の手を取り再び駆けだす少尉。
私は苦笑を浮かべると、少尉の後について走り出したのだった。

(Yoshika's Side)

「いませんねぇ…………」

シャーリーさんの運転するトラックでローマ市内を走り回ること小一時間。
ルッキーニちゃんと圭助さんの姿は見えない。
もしかして、何か事故にでも巻き込まれていたりしないだろうか。
心の中に微かな不安が芽生える。

「うーん…………こりゃ警察にでも……おっ!」
「み、見つかりましたか?」
「あそこのカフェのケーキ、すっごく美味そう!」
「…………」

シャーリーさんの言葉に、全身の力が抜けそうになる。
……でも、まぁ、しかし。
確かにシャーリーさんの指差すカフェのケーキは美味しそうだった。

「…………宮藤」
「…………シャーリーさん」

どちらからともなく顔を見合わせるシャーリーさんと私。

「…………ルッキーニ達もしばらく見つかりそうもないし、まぁ、ちょっと休憩にするか」
「…………はいっ」

シャーリーさんの提案に私は、真剣な表情でうなずいたのだった。
これは決してサボりなんかじゃない。
ルッキーニちゃんと二人で姿を消したりする圭助さんが悪いんだ。

…………圭助さんの、バカ。

そう小さくつぶやいた私を、シャーリーさんがにやにやとした表情で眺めていたのに、私は気づかなかった。

(Hijikata's Side)

それから私と少尉とマリアさんの3人でローマ市内の色々な観光地を回る羽目になった。
私としては店に残してきたシャーリーさんや宮藤さんの事が気になるのだが、心から楽しそうにルッキーニ少尉と観光を楽しんでいるマリアさんの姿に、どうしてもその一言が言い出せないでいた。
それに、正直に告白すると、私自身もこの二人の少女との観光を少し楽しんでいたところがあった事を認めねばならないであろう。


―――「真実の口(Bocca della Verita)」――――


「これは『真実の口』って言って、嘘つきが手を入れると噛み千切られるんだよ~~」
「そ、そんな……は、早く他に行きましょうルッキーニさん!」
「だいじょーぶだいじょーぶ!迷信だってそんなの…………」

そう言いながら少尉は口の中に手を入れる。

「あれ?…………んしょ、あ、あれ……ぬ、抜けない」
「しょ、少尉!」
「ルッキーニさん!」
「…………うわっ大変!手が!手が!!」
「る、ルッキーニさん!」

そう言いながら口から引っこ抜かれた少尉の手は手首から先がなかった。
最初は本気で焦った私であったが、さすがにここまでやられるとさすがにいつもの悪ふざけだと気付く。
しかしマリアさんは本当に手が噛み千切られたと信じているようで、その表情は蒼白になっていた。

「……お嬢様、さすがに悪ふざけが過ぎますぞ」
「あれ?気づいちゃった?…………ごっめーん」

私の言葉に、流石にばつの悪そうな表情で舌を出す少尉。
観念したように袖口から手を出してみせる。

「もう!本当に心配したんですから…………ルッキーニさんなんて知りません!!」
「だからごめんって」

流石にマリアさんもからかわれたと気付いたようで、怒ったような表情になるマリアさんと必死に謝るルッキーニ少尉。
そんな姿に、私も思わず笑みがこぼれるのを抑えきれなかった。

―――「トレビの泉(Fontana di Trevi)」――――

「この泉に、こうやってコインを投入れると……」

そう言いながら少尉は、泉に背中を向けて後ろ向きにコインを投入れる。

「またローマに来られるんだって」
「そ、そうなんですか」

そう言って得意そうな顔をする少尉。
…………ローマに住んでいるはずのマリアさんに、「またローマに来られる」も糸瓜もあるまい、などとツッコむのは野暮というものだろう。
しかしマリアさんは存外真剣な表情で手に持ったコインを眺めている。
やがて大きく頷くと、マリアさんは大きく振りかぶって―――

「……マリア!」
「危ない!」

私とルッキーニさんが警告の言葉を発するのはほぼ同時であった。
あまりに大きなモーションでコインを投げたがために、バランスを崩して池に転落しそうになるマリアさん。
それを支えようとしたルッキーニさんもまた、つられるように泉に向かって落ちている。
それを見た瞬間、私の体は自分でも驚くくらい素早く動いていた。
倒れ行くお二人のに向かって手を伸ばす。
間一髪、泉に落ちる前に腕をつかむことができたのは僥倖であった。

「けーすけ?」
「ひ、土方…………さん?」
「お二人とも失礼します!」

そのままお二人が泉に落ちる前に後ろへ向かって放り投げるように引っ張る。
何とか泉に落ちることは阻止できたものの、勢いをつけすぎた私の体までは止まることは出来なかった。
そして、大きな水しぶきが上がる。

「…………けーすけ、その」
「あ、あの……ご、ごめんなさい」
「いえ、お気になさらず。それよりどこか怪我等はされなかったでしょうか?」
「うん。けーすけのおかげだよ」
「私もです…………その、あ、ありがとうございます」

びしょ濡れになった私に、お二人が心配そうに声をかけてくるが、私は気にしないようにと笑顔を向ける。
私としてはお二人が無事であっただけで御の字である。
どうせこの陽気だ。
歩いているうちに服も乾くだろう。

「うーん…………」
「…………」
「……そうだ!」

そんな私をじっと見つめるお二人。
流石に少々照れ臭く、思わず目をそらした私に、少尉はよいことを思いついたとばかりに手をポン、と打つ。
マリアさんと何事か確認するかのように顔を見合わせて頷くと、私の方に向き直った。

「けーすけ、ちょっとついてきて」
「い、いえしかし、私たちはそろそろシャーリーさんたちと合流…………」
「い・い・か・ら!ちゃんとついてくるんだよ」
「……は」

よく分からない少尉の迫力に押されるように、私は少尉に手をひかれるままに歩き出した。

「じゃーん!ここです!」

少尉に手をひかれるままに歩くこと数分。
私はとある大きな男物の衣料品店の前に来ていた。

「せっかくだから私とマリアでけーすけの服を見立ててあげるよ」
「あ、あの私たちのせいでこんなことになっちゃったので…………せめてもの償いをさせてください」
「い、いえ、わた」
「遠慮しなくっていいから!けーすけっていつも地味な軍服じゃん。たまには他の服着たとこも見てみたいよ」

反論しようとする私の声は少尉の声にかき消され、かくして私はお二人につれられるままにブティックのドアをくぐることになったのであった。

「うーん……どれがいいと思う?」
「土方さん、背も高くて体つきもがっしりしてらっしゃいますから、こういう堅苦しいフォーマルなものよりも……」
「えー?でもこういうのも似合いそうな気がしない?」
「…………そ、それは、そうですけど」
「だよねー!この際だからいろいろ試してみようよ!」

先ほどから当事者である私をそっちのけにしてお二人による品評会が開催されている。
私の前には、お二人によってえらばれた服が小さな山を作っており、時とともにその山は高さを増していっていた。

「あ、あの……」
「もうちょっと待っててね!あと2~3着選んだらとりあえず試着してみようか」
「す、すいません…………あの、あとちょっとですから」

その言葉に、私は浮かしかけた腰を再び椅子へと落ちつける。

…………しかしその日、私は一つの教訓を得ることになった。


――――女性の買い物の「あとちょっと・もうちょっと」は信用してはいけない。


…………と言うことで今日はここまで。
先だっても申しあげました通り冬コミ準備のため更新速度が落ちますことをお詫び申し上げます。
次は15日ごろには必ず。
筆が進んだ場合はその前の週の週末に来るかもですが。

それでは。

こんにちは。
何とか完成しました。
投下しますね。

「けーすけ!すごく似合ってるよ」
「はい!すごくお似合いですよ」

優に小一時間は悩んだ末にお二人が選んだのは無難なジャケットにネクタイというカジュアルな服。
お二人は褒めて下さったものの、着慣れない服装であるには変わりなく、どうも街行く人々の視線が私に集まっているようで居心地が悪い。

「…………そう?」

そのことを告げても、少尉はわれ関せずとばかりに私とマリアさんの前を歩いている。

「きっとけーすけがすごくかっこいいからつい見ちゃうんだよ」

そう言って悪戯っぽく笑うと、少尉は振り返って私とマリアさんの手を取った。

「それじゃ、最後に私のとっておきの場所に案内するね!」
「…………はい!」
「……は」

少尉の笑顔に、つられるように私とマリアさんも笑顔になる。
こういった天真爛漫なところは少尉の得がたい魅力であろう。
私はマリアさんと顔を見合わせて笑顔を交わすと、少尉に引っ張られるようにして再び走り出した。

そして少尉に導かれるようにして最後にたどり着いたのは、バチカン市国内のサン・ピエトロ大聖堂であった。

「どうマリア?ここから見る景色が、一番私は好きなんだ」
「…………美しい」

マリアさんが感極まったかのように呟く。
少尉が得意そうに胸を張るだけはあるといえるだろう。
確かにこの場所からはローマの街が眼下に一望でき、その眺めは言葉を失わせるに十分であった。

「…………家に帰らないで、ずっとこの場所に居たいです」

何気なく呟いたマリアさんの一言に、出会ってから感じ続けていた違和感が再び鎌首をもたげる。
この方の仰った「家」という言葉は、何かもっと大きな意味を含んでいるように私には思われた。

「じゃあ、ずっといればいいじゃん」
「……ふふ、そうですね」

ルッキーニ少佐の無邪気な言葉に微笑むマリアさんの表情はどこか寂しげで。

「この街を、ローマを守ることが、私にできるでしょうか…………」

続けてポツリとつぶやいたマリアさんの一言。
その言葉に、私の記憶巣はさらに強く刺激された。

ローマを、守る…………
ただの一少女がつぶやくにはあまりに重い言葉である。

(まさか…………)

数分間の記憶の検索の後、私は一つの名前にたどり着いた。
それは俄かには信じがたい名前ではあるものの、改めて今までのマリアさんの言動や振る舞いを思い出してみると、私の推測を否定するどころか補強するものばかりであることに気付く。

(信じがたいが……おそらくは…………)

「あれ?けーすけ、マリアの事じっと見つめちゃってどったの?」
「あ、い、いえっ、何でも」

私の思考を中断したのは少尉のお言葉であった。
ついつい思考に没入するあまり失礼なほどに視線を向けすぎてしまったようだ。
……まぁ、私の推測が真実である保証もないし、仮に真実であっても本人は絶対に名乗らぬであろうから私がとやかく言うことでもないだろう。
しかし、続いての少尉のお言葉は私の予想の斜め上を行くものであった。

「…………さては惚れたな?」
「……え、ええええっ?」

目を上げると、にやにやと笑う少尉と戸惑ったようなマリアさんの姿が飛びこんでくる。
思わぬ方向に話が飛躍し、思わず声が一オクターブほど高くなった。

「あ、い、いえ、そ、そのようなことは…………」
「いっけないんだー。坂本少佐が聞いたら怒るよー」
「で、ですからそういうことでは」
「ふふ、分かってる分かってるって。坂本少佐には言わないでおいてあげるから。そのかわりこの後ピザおごってね」
「いえ、その」

坂本少佐という名前に覚えず顔が赤くなる。
そんな私の態度に、少尉にマリアさんまでもがおかしそうに笑っていた。
ひとしきり笑った後、少尉はマリアさんに切り出した。

「……ね、本当はもう一つ、見せたい景色があるんだけど」
「それはぜひ見てみたいです!」

ここからの眺めに匹敵する景色か。
それは私も見てみたいものだ。
マリアさんも同じ気持ちのようだったが、そんなマリアさんの答えに少尉の方はやや困ったような表情になる。

「あ、でも今はちょっと…………」
「………そうですか?では、またの機会に」
「うんっ!」

マリアさんの言葉に、少尉がそう答えた時であった。



ウウウウウウーーーーーーーッ!!



晴れた空を劈くように、サイレンの音が響き渡った。

(Yosika's Side)

「うっそだろ!奴らローマにまで南下してきてるのかよ!」

不意に響き渡ったネウロイ警報に、今までおいしそうにケーキをほおばっていたシャーリーさんの表情が引き締まる。
ここローマはロマーニャの中でも南の方に位置する。
ここまでネウロイが南下しているとなると…………私たちの基地も安心してはいられないのかもしれない。

「まさかの時のために持ってきたユニットが役に立つとはな……宮藤、乗れ!」
「はいっ!」

シャーリーさんの言葉に我に返った私は、あわてて動き出したトラックに飛び乗る。

「ルッキーニ……こんな時にあいつは何をやってんだ全く」
「…………」

シャーリーさんが苛立ったようにハンドルを叩く。
こんな風に苛立っているシャーリーさんを見るのは初めてかも知れない。
そんな風に考えていると、急にシャーリーさんがこちらを振り向いた。

「宮藤!地図だ!」
「え、え?ち、地図ですか?」
「ああ。ユニットを発進させるにはある程度開けた場所が必要だ。こんな街中で発進させたら周りの建物に被害が出ちまう。発進できそうな広場を探してくれ」
「は、はい!」

シャーリーさんの言葉に、私はダッシュボードより地図を取り出して眺め始める。
今いるところがここで…………こっちに向かってるから……
数分間地図と格闘した後、私は一つの広場に赤鉛筆で丸を付けた。

「シャーリーさん、ここです!」
「サン・ピエトロ広場か…………よし!……しっかりつかまってろよ!」
「は、はい……きゃっ!」

私がその言葉に反応するのも待たず、シャーリーさんが大きくアクセルを踏み込んだ。

(Hijikata's Side)

「……早く逃げないと!」

ネウロイ警報を聞いたマリアさんはそう言って少尉の手を引こうとする。
しかし、少尉はその手を柔らかく振り払うと、マリアさんに笑顔を向けた。

「マリアは逃げて。私は…………行かないと」
「え?行く?」

驚いたような表情になるマリアさんに、少尉は自分の帽子を握らせる。
それは先ほど私とともに洋服店に行ったときに買ったものであった。

「これ持ってて」
「あ、あの、ルッキーニさん、貴女は……」

「ルッキーニちゃーーーーん!圭助さーーーん!」

その時であった。
マリアさんの言葉を遮るように、下の広場の方から声が聞こえてくる。
下を見ると、宮藤さんが見覚えのある大型トラックの窓から手を振っているのが見えた。

「芳佳!ナイスタイミング!」

弾けるような笑顔でそう言うと少尉は柵を乗り越え、寺院の丸屋根の上に立つ。

「る、ルッキーニさん、危ないですよ!」

焦るマリアさんに、少尉は笑顔を向ける。
それは今までの無邪気な笑顔ではなく、祖国を守る覚悟を負った一人の戦士の笑み。

「私…………行かないと。……ウィッチだから!」
「ウィッ……チ…………?」

俄かに明かされた真実に驚いた様子のマリアさん。
そんなマリアさんから、少尉は私へと視線を移した。

「じゃ、けーすけ兄ちゃん、マリアを安全なところに連れてってあげてね」
「は。少尉殿」

私は少尉の言葉に敬礼を返す。
そんな私に向けて小さく頷いて見せた後、再びマリアさんに向けて小さく手を振った少尉は、勢いよく屋根を滑り降りていく。
…………相変わらず桁外れの身体能力である。

「私、ウィッチだから!ロマーニャを守らないと!」
「…………っ!」

下から聞こえてきた少尉の言葉に、はっとした様子のマリアさん。
その様子は、先ほどの私の推測は確信に変わっていた。

(やはり、この方は…………)

私はマリアさんの前に跪くと頭を垂れる。

「ここは危のうございます。どうか安全な場所にご避難を。不肖私、土方がご案内申し上げます」
「…………土方、さん」

私の態度の急変に、マリアさんも何か気づくところがあったのだろう。
マリアさんの纏う雰囲気ががらりと変わるのが分かった。
私は視線を上げぬままに言葉を続ける。

「初めて御意を得ます。ロマーニャ公国第一公女、マリア・ピア・ディ・ロマーニャ殿下。私は扶桑海軍横須賀鎮守府所属、土方圭助兵曹であります」
「……いつから気づいておられたのです?」
「確信が持てたのはつい先ほど。しかし今までの殿下の言動に、いくつか違和感を覚えていたのも事実です」
「そうですか…………」

そこで言葉を切ると、今までとは違った凛とした口調でマリア……殿下は言った。

「では土方兵曹。ロマーニャ第一公女として命じます」
「は」
「貴方が先ほど言った、私の身分を忘れなさい。ここにいるのは貴方とルッキーニさんに助けていただいた、マリアという人間です」
「…………へ?」

時が止まった、というのはあのようなことを言うのだろう。
あまりに予想を裏切る殿下の言葉に、私は思わず間抜けな声を上げる。

「聞こえませんでしたか?私の身分を忘れなさい、と言ったのです。これ以上は繰り返しません」
「……は、ははっ」

どうにかそう答える。
その返事を待っていたかのように、私の目の前に小さな白い手が差し出された。

「……これは?」
「ではお立ち下さいな。それに、あなた方も私に嘘をついていたのでしょう?」
「…………は。申し訳ありません」

その言葉に非難するような調子は含まれていなかったが、それでも背中に一筋の冷や汗が伝うのは仕方のないところであろう。
マリアさんは言葉を続ける。

「その、ルッキーニさんの本当の身分を教えて頂けません?」
「ロマーニャ公国第4航空団第10航空群第90飛行隊所属……そして今は第501戦闘航空団に出向しておられるフランチェスカ・ルッキーニ少尉です」
「501……あのストライクウィッチーズの一員だというのですか?」
「はい」

マリアさんの声に微かな驚きが混じる。
どうやら、ここロマーニャにもストライクウィッチーズの名は広まっているようだ。

「そうですか……フランチェスカ・ルッキーニ少尉…………」

確かめるようにつぶやきつつ、マリアさんは視線を空へと移す。
視線の先では、ストライカーユニットを穿いたルッキーニ少尉が宮藤さんやシャーリーさんと合流してネウロイへと向かっていくのが見えた。
しかし、まさか本当にストライカーユニットが役に立つ事態になるとは。

「…………土方さん」
「は」

そのまま視線をそらすことなく、マリアさんは私に声をかける。
そして彼女の口から紡がれたのは、ある意味私の想像通りの言葉であったた。

「ここでルッキーニさんのこと見ててもいいですか?」
「…………殿下のお心のままに」
「『殿下』は無しですよ。さっき言ったじゃないですか」
「……これは失礼を」

そこまで言うと、私とマリアさんはどちらからともなく顔を見合わせて笑ったのだった。

…………というところで投下終了です。
中々話が進まなくて申し訳ないです。
次あたりで「私のロマーニャ」は終わらせたいのですが。
次に控えるのがエイラーニャ回の「空より高く」なので無駄に気合が入りそうな悪寒w

それでは。
次でお会いしましょう。

こんにちは。
コミケも終わり何とか書き終えることができましたので投下します。
コミケに来て下さった方、ありがとうございました。


「…………すごい。あれが伝説の魔女達」

殿下は上空で繰り広げられるネウロイとの空中戦にそんな感嘆の言葉を投げる。
眼前では宮藤さん、シャーリーさんと共にネウロイ相手に優勢に戦いを進めるルッキーニ少尉の姿があった。
しばらく感嘆して眺めていた殿下であったが、やがて視線はそのままに、ポツリポツリと話し始める。

「土方さん」
「は」
「今までの私は、不自由な身分を嘆くばかりでした。ロマーニャ第一公女なんて見栄えのよいお人形みたいなもの……こうしてローマ市内を散歩することすら供の者なしにはできない。こんなことでロマーニャの民を守ることができるのか、いつも自問してきたと言っていいでしょう」
「…………」

堰を切ったように始まる殿下の独白に、私は返事を返さない。
それは私に話しかけるというよりむしろ、眼下に広がるローマに住む市民、ひいてはロマーニャ全土の民に向けられたものであったように思えたから。

「でも、ルッキーニさんの姿を見て、そうして実際に民たちの生活に触れて気づかされた気分です。今までの私は『何もできない』のではなく『何もしようとしなかった』んだって」
「…………」

いつのまにか殿下の視線は私の方に向けられていた。
その姿は、506基地で見かけたヴィスコンティ大尉のお姿と重なる。
どちらも自分の手で祖国を守れないことへの悔しさを吐露しておられた。

「出来るとか出来ないじゃない、するかしないか。ルッキーニさんは何の迷いもなく言い切りました。『行かなきゃ』って」
「殿下……」
「だったら私も考える前に行動してみようと思うんです。私にしかできないことを。……『ノーブレス・オブリージュ』って陳腐な言葉ですけど、やっとその言葉の意味が実感できた気がします」

再び殿下は視線を上空に転じる。
戦いは終盤を迎えており、ルッキーニ少尉のバリアをまとった体当たりによりまさにネウロイのコアが破壊されようとするところであった。

「私、ルッキーニさんと土方さんにお会いできてよかったです」
「は」

そう言ってこちらに笑顔を向けてくるマリア様。
その時であった。

「マーリアーーーーー!」

ネウロイを撃破したルッキーニ少尉がそう言いながら一直線にこちらに飛んでくる。

「ルッキーニさん、すごかったです」
「ありがと。…………それとマリア。今から見せてあげるね」
「…………え?え?な、何を?」

戸惑うマリアさんを横抱きにすると、少尉は一路空へと駆け上がっていった。
…………なるほど。
少尉のおっしゃっていた「見せたいもの」とはこれのことか。
坂本少佐に抱えられて「空を飛んだ」時のことがよみがえる。
もうひと月も前のことであるが、今でもあの時の光景は脳裏に焼き付いている。
願わくばこの体験が、殿下の心に何らかの印象を残すことを願わずにはいられなかった。

「よ、土方の兄さん」
「圭助さん」
「宮藤さんにシャーリーさん…………その」

ふいにかけられた声に振り向くと、宮藤さんとシャーリーさんがストライカーユニットでホバリングしつつ私の側に来ていた。
買い出しの途中で持ち場を放棄してはさすがのお二人も怒っておられるだろう。
謝罪の言葉を発するため口を開きかけるが、その言葉はシャーリーさんの言葉によって遮られた。

「いいよ…………まぁ兄さんが訳もなく任務放棄するような人じゃないってのは分かってる。それよりあの女の子は何者だい?」
「そうです!それに、ルッキーニちゃんと今まで何やってたんですか!」

宮藤さんの言葉にシャーリーさんがにやにやとした笑みに変わる。

「お、それは私も興味あるな」
「あ、いえ、それは…………」

まさか本当のことを正直にいう訳にもいかず、それからしばらく、私はお二人の質問を必死でかわし続けるはめになったのだった。

「…………一人で帰れる?」
「はい。今日はとても素晴らしい一日でした」

夕方。
予定していた買い物も終わり、殿下とルッキーニさんが別れの挨拶をしていた。

「土方さんも、ありがとうございます」
「は」

そう言って殿下が頭を下げる。
公女殿下ともあろう方に頭を下げられるというのは何とも面はゆいものだが、ここで表情に出しては宮藤さんたちに要らぬ疑念を抱かせることになる。
結局宮藤さんとシャーリーさんのお二人には殿下のご身分は隠してほぼありのままを話すこととなってしまった。

「…………そりゃまた大した大冒険だったな」
「なんだか映画みたいですね」

私の話に、お二人はそう言ったのみで特にそれ以上の追及はしてこなかった。
…………もしかしたらシャーリーさんあたりは何かに気付いておられたかもしれないが。

「私は、私のなすべきことに気付きましたから」
「…………そっか。頑張ってね。マリア」
「はいっ!」

少尉には殿下のお言葉の意味はおそらく分からなかったであろう。
でも何か憑き物が落ちたようなその表情に何かを感じ取ったのか、少尉は詳しく聞くことなく笑顔で頷いたのであった。

「ばいばーい!マリア!まったねー!」

トラックの荷台から、遠ざかっていく殿下に手を振る少尉。
殿下の姿が見えなくなるまで手を振り続けると、少尉は急に私に向き直り、私の財布を差し出してきた。

「あ、そう言えば兄ちゃんのお金、返すね」
「…………これはどうも」
「ごめんね。結構使っちゃった。いつか返すよ」
「いえ、お構いなく」
「うー…………それじゃ私の気がすまないよ」

どうせ使う宛もなかった金である。
私の返答に少尉はやや不満そうに眉をひそめるが、やがてどこか悪戯っぽい笑みを浮かべると、

「じゃあさ、兄ちゃん」
「は」

その笑顔のまま急に私の方に顔を近づけてくる。
不意に視界に現れた少尉の顔に思わず心臓が大きく跳ねた。

「これから……一生かけて返していくってのはどう?」

「…………え?それはどういう」
「しらなーい。自分で考えなさいっ。…………今日は疲れちゃった。もう寝るから着いたら起こしてね」

そう答えると少尉はそのまま荷台の縁に凭れて眠り込んでしまい、あとは私がいかに声をかけようと起きることはなかった。

「シャーリーさんたち、お疲れ様でした。まさかネウロイと戦うことになるとは思わなかったけど…………どうやら問題なかったようね」
「まぁ私たちにかかれば楽勝だよ。な、ルッキーニ!」
「うん!」

基地のブリーフィングルームにて。
ヴィルケ中佐よりねぎらいの言葉を受けるシャーリーさんたちを横目に、私はエイラさんに頼まれた枕を渡す。

「エイラさん、どうぞ」
「言ったものはあったか?」

エイラさんに枕を渡す。
ネウロイを倒してから夕方まで時間があったため、隊員の皆様から頼まれた買い物も済ませることができたのは僥倖であった。

「それと、これは私からエイラさんに」
「…………へ?」

私のさしだすもう一つの包みに、エイラさんが怪訝そうな視線を向けてくる。

「リトヴャク中尉とお揃いにしておきました」
「…………ああ」

続く私の言葉に、しばらく無言で包みを見つめていたエイラさんがやっと理解したように小さく声を上げる。

「べ、別に私の分はいいって言っただろ?」
「でも、ついででしたので…………」
「エイラ、ダメだよ。せっかく土方さんが買ってきてくれたものに文句つけるなんて」
「う…………」

リトヴャク中尉に窘められ、言葉に詰まるエイラさん。
何だか母親に叱られるやんちゃな娘といった風である。

「……何がおかしい」
「あ、いえ、その、別に」

どうやら表情に出てしまっていたらしい。
エイラさんに睨まれてしまった。

「……でも、ま、その、礼は言っとく。…………ありがと」
「いえ、どういたしまして」

私から視線をそらしてそう言ってくるエイラさんの頬は赤く染まっていた。

「――――さて、本日初の公務の場である園遊会にお出ましになったロマーニャ公国第一公女、マリア殿下からお言葉です」

ブリーフィングルームの中央に置かれたラジオがノイズ交じりにアナウンサーの言葉を伝えている。
電波状況は問題なさそうだ。
アナウンサーの声も鮮明に聞こえてくる。

「昨日、ローマはネウロイの襲撃を受けました。しかし、そのネウロイは小さなウィッチの活躍によって撃退されたのです。その時私は、彼女からとても大切なことを教わりました。この世界を守るためには、一人一人ができることをすべきだと。私も、私にできることでこのロマーニャを守っていこうと思います。ネウロイを撃退して下さった501戦闘航空団だけでなく、現在このロマーニャを守るために全力を尽くして下さっている504,506の戦闘航空団、多くのウィッチの皆様方に、心からお礼を申し上げます」

ラジオから聞こえてくる公女殿下の声は凛として落ち着いているが、それでもその声にはローマで出会った「マリアさん」の面影を感じることができた。



「驚いたな」

私の隣でそのように声を上げたのは私と共にラジオを聞いていらっしゃったウィトゲンシュタイン少佐。

「まさか公女殿下が我ら506の名を出して下さるとは」
「そ、そうですね」

――――だったら私も考える前に行動してみようと思うんです。私にしかできないことを。

そうおっしゃった公女殿下の口調と表情が脳裏によみがえる。
…………これがその答えという訳か。
思わず口元が綻んでしまう。

「…………まぁよい。これで506への評価も少しは変わるであろう。公女殿下は中々にできたお方のようだな」
「は。それは保証いたします」
「ん?貴様がそのように人に肩入れするなど珍しいの」

返答する声に必要以上に力がこもってしまったようだ。
少佐が不審そうな目を向けてくる。
しかし、それも数瞬のうちに消え、少佐はにやりとした笑みを浮かべると私に近づいてこられる。

「それはそれとして…………妾の頼んだもの、買ってきたかや?」
「…………は」

「妾に似合いそうなものを主が選べ」という随分な無茶ぶりだ。忘れるはずもない。

「うむ。では早速よこすがよい」
「は」

そう言って包みを渡す。
正直気に入っていただけるかは神のみぞ知るというところだが。

「これは…………帽子か?」
「はい。少佐のお綺麗な髪に似合うかと思いまして」

私が選んだのは白い毛皮のついた円筒形の帽子であった。

「…………お綺麗な髪、か。貴様も言うようになったの。506に派遣したのは間違いではなかったか」
「きょ、恐縮です」
「そう畏まるな。貴様からの贈り物を妾が気に入らぬわけがなかろう…………似合うかや?」

早速帽子を頭に載せ、感想を聞いてくる。
少佐の銀髪と白の帽子は見事にとけあっており、私も一瞬見とれてしまうほどであった。

「その態度が何よりの返事じゃ。ありがたく受け取っておくぞ」
「は」

少佐はそうおっしゃると、満足そうに去って行かれたのであった。

「……ルッキーニから聞いた。ずいぶんな冒険をしてきたようだな」

坂本少佐が苦笑交じりに声をかけてこられる。
振り返った視線の先では、ルッキーニ少尉が自分の冒険譚を2割増しほどの脚色を加えて皆に話していた。
少尉の話の中では少女を守るために私と少尉がマフィアと銃撃戦を繰り広げたことになっている。
少尉らしいその様子に、私の方もつられるように苦笑する。
しかし、話がネウロイのことに及ぶと少佐は不意に表情を引き締めた。

「しかし、ローマにまでネウロイが南下してきているというのは見逃せんな。この基地の防御も強化しておくべきであろう。土方、疲れておるところを済まんがこの後付き合ってもらうぞ」
「は」
「しかし、今の公女殿下のお言葉には感服した。あのような形で感謝の言葉を述べられては我々も発奮せざるを得んな。公女殿下はお若い方と聞くがなかなかの方のようだ」

ウィトゲンシュタイン少佐と同じお褒めの言葉に、再び綻びそうになる口元を引き締めると、私は本日最後の、そして最大のミッションを果たすべく坂本少佐に相対した。

「あの…………坂本さん」
「どうした?」
「その、お、お気に召しますかわかりませんが…………これを」

そう言いつつ懐から一つの包みを差し出す。
坂本少佐に贈るものである。
十分に選んだつもりではあったが、いざ気に入ってもらえるかどうかというと自分自身のセンスにいまいち信を置けぬところがあった。

「なに…………?」

不意を突かれた様に沈黙する少佐であったが、私の差し出すものと表情に気付くと、怒ったような笑ったような中途半端な表情になって視線を逸らす。

「ま、全く貴様は…………何もいらんといったのに……妙に律儀な奴だ…………まぁその、一応礼は言っておこう」
「その…………お気に召していただければ光栄です」
「う、うむ」

そう答えると少佐は受け取るのももどかしく包みを破り捨てる。

「これは…………髪飾りか?」
「は。その、ほ、本当は……簪などがあればよかったのですが、ロマーニャではそれもままならず……しかし、黒髪には似合うと店員も言っておりましたし…………」
「そ、そうか……うむ。その、こ、こういうものは持っていなかったしな…………感謝する」

そんな少佐の言葉に、私も顔を赤くして沈黙するしかなかった。

(Minna's Side)

「…………何やってんのかしらあの二人」

まるで子供のように顔を赤らめている二人を見て思わずため息をつく。
隣でシャーリーさんがわれ関せずとばかりに笑っていた。

「いいじゃん。見てて面白いし。もう少し見守っていきたいぜ」
「はぁ。美緒と土方くんの事だし、何もないようなら要らない口出しをする気もないのだけど…………」
「なるようになるさ。な、宮藤」

そう言ってシャーリーさんは傍らの宮藤さんへと視線を転じる。

「ぐぬぬ」

宮藤さんは宮藤さんで意味不明の唸り声をあげながら土方くんと美緒の方を見つめていた。
シャーリーさんは相変わらずにやにやとそんな宮藤さんに生暖かい視線を送っている。
そんな二人の様子に私は、もう一度ため息をついたのだった。
その時、私の思考を中断させるかのように、ラジオからノイズ交じりの声が再び聞こえてくる。


「最後に、私の大事な友人である第501戦闘航空団のフランチェスカ・ルッキーニ少尉と、土方圭助兵曹に個人的な感謝の言葉を述べさせていただきます。本当にありがとうございました」

「「えええええええーーーーーーーっ!!」


シャーリーさんと宮藤さんの驚きの声が、ブリーフィングルームに響き渡った。

「ひ、土方…………なぜ公女殿下が貴様の名を?」
「あ、いえ、それはその」

視線を転じた先では美緒が怒ったような戸惑ったような表情で土方くんに詰め寄っている。

――――また、騒がしくなりそうね。

心の中でそう思いながら、私は本日何度目かになるため息をついたのだった。

……と、言うことで新年最初の投下、終了です。
前話からかなりお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

これで「私のロマーニャ」は終了。
次はエイラーニャ回の「空より高く」です。
無駄に気合が入りそうな予感ですが、笑ってお付き合いくだされば幸いです。

それでは。

こんばんは。
長く間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
第6話の導入を投下します。

「……どうぞ」
「ありがとうございます」

目の前で微笑んでいるリトヴャク中尉に一礼し、彼女が淹れて下さった紅茶に口をつける。
先日の補給によって紅茶が手に入ったことで、501の食卓も彩りを増してきていた。
午後のティータイムに一番熱心なのはやはりビショップ曹長であるが、意外なことにこのリトヴャク中尉も紅茶好きなようで、ティータイムに彼女が紅茶を淹れる姿を何度も見かけている。
……その姿をハラハラしながら眺めているエイラさんの姿もまた定番であったのだが。
リトヴャク中尉が淹れられる紅茶は、いわゆるオラーシャ式というもので、砂糖を入れるのではなく苺やマーマレードのジャムを小鉢に用意し、それを舐めながら飲むというものだ。

広い食堂には現在、私とリトヴャク中尉の姿しかない。
ネウロイ出現の報によりその他のウィッチの方は迎撃に出かけておられ、基地で指揮を執る必要のあるヴィルケ中佐と夜間哨戒に出る必要のあるリトヴャク中尉のみが基地で待機することとなり、さしあたってすることのないリトヴャク中尉に誘われる形でティータイムのご相伴にあずかることができたというわけだ。
再び沈黙が降りる。
ビショップ曹長ほどではないものの、リトヴャク中尉もやや人と接するところが苦手なところがあるようで、このように私と普通に会話ができるようになったのはつい最近の事であった。
とりあえず当たり障りのない話題を振ってみる。

「……今回のネウロイは小型のもののようですね。エイラさんが活躍されそうな相手ですが」

リトヴャク中尉と仲の良いエイラさんは「未来予知」が使えるそうで、ネウロイの軌道を予測して行う「見越し射撃」の正確さは501随一だという話だ。
だから、大型のネウロイ相手より小型で数の多い、射撃の正確さが問われるような相手の方が相性がいいのだとご本人がおっしゃっていた。
エイラさんの話に、中尉はわずかに顔をほころばせる。

「そうですね…………エイラ、いつも『私は実戦でシールドを使ったことがないんだ』って