芳佳「昔の501は大変だったんですね」美緒「そんなことはない」 (62)

シャーリー「エイラー」グニーッ

エイラ「なんふぁー?」

シャーリー「ルッキーニ、知らないか?」

エイラ「しらふぇー」

シャーリー「そうかぁ。ありがと」

エーリカ「ペリーヌ、紅茶いれてー」

ペリーヌ「ご自分でどーぞ」

エーリカ「ぶー。ペリーヌの淹れた紅茶がいいのになぁー?」

ペリーヌ「……少々お待ちを」

芳佳「みなさん、今日も仲良しですね。ミーナ中佐っ」

ミーナ「少し前までは考えられなかったけどね」

芳佳「え?そうなんですか?」

ミーナ「こんなに笑顔が溢れる場所ではなかったのよ。こうしていられるのは全部、坂本少佐のおかげなの」

芳佳「坂本さんの?」

ミーナ「実はね――」

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~501基地~

シャーリー「おーい、ルッキーニ。いくぞー」

ルッキーニ「あーい」

バルクホルン「リベリアン」

シャーリー「あ?」

バルクホルン「勝手に車のエンジン等を改造しているらしいな。軍の所有物をなんだと思っている」

シャーリー「……お前になんか迷惑でもかけたか?」

バルクホルン「軍規違反だ。貴様、それでも軍人か」

シャーリー「行こう、ルッキーニ」

ルッキーニ「うん」

バルクホルン「上官命令が聞けないのか」

シャーリー「はなせよ」

美緒「何をしている」

バルクホルン「少佐。少佐からも言ってほしい。シャーリー中尉の素行には問題がありすぎる」

美緒「またか……」

シャーリー「少佐はエンジンの出力が上がるならいいって言ってくれてんだぞ?」

バルクホルン「なに!?少佐、それは本当か?」

美緒「あ、ああ」

バルクホルン「……」

シャーリー「残念だったな、バルクホルン大尉」

バルクホルン「……もういい!」

美緒「……シャーリー中尉。確かに調整等の許可はしたが、程々にとも言ったはずだ」

シャーリー「してますよ。それじゃ、ユニットの調整があるんで」

ルッキーニ「バイバーイ」

美緒「やれやれ」

ペリーヌ「坂本少佐」

美緒「どうした?」

ペリーヌ「エイラさんがまた勝手なシフト変更を希望していますわ。面倒ですからこの際、夜間飛行の専従班に加えてはどうでしょうか?」

美緒「そういうわけにはいかん。言ってこよう」

エイラ「なんでだ?」

美緒「お前が優秀だからだ。ネウロイ襲撃時、いつでも対応できるようにしておきたい」

エイラ「私はサーニャと一緒に夜間哨戒に出る」

美緒「エイラ」

サーニャ「エイラ、我侭は……」

エイラ「あのツンツンめがねがサーニャに向かって幽霊とか言ったんだぞ」

美緒「……」

エイラ「このままじゃサーニャが可哀相だろ。私が一緒にいれば、あいつだってそんなこと言わなくなるはずだ」

美緒「わかった。ペリーヌも悪いのだな」

エイラ「そうだ」

美緒「サーニャ、気を悪くしないでくれ。ペリーヌも……」

サーニャ「いえ、気にしてませんから」

美緒「そうか」

エイラ「今日の夜間哨戒には出るからな!だから、今から寝るっ!」

美緒「分かった。ミーナ中佐には伝えておこう」

美緒「……」

ミーナ「フラウ!!聞いているの!?」

エーリカ「……」

ミーナ「待ちなさい!!」

美緒「どうした?」

ミーナ「美緒……」

美緒「ハルトマン?」

エーリカ「なんでもないよー」

美緒「ならばいいが」

ミーナ「なんでもないことないでしょう?」

エーリカ「だから、私はトゥルーデと組ませてほしいって言ってるだけじゃん?」

ミーナ「できないわ。状況に応じてロッテは変えていくと何度も説明したでしょう?」

エーリカ「いいのか?今のトゥルーデ、いつか死ぬよ」

ミーナ「……」

エーリカ「それじゃ、よろしく」

美緒「ミーナ、エイラのシフトを変更したい」

ミーナ「……ええ」

美緒「やはり、各国のエースや厄介者が集まっているだけのことはあるな。互いの歯車がまるでかみ合わない」

ミーナ「奇跡ね。こんな状況でチームが成り立っているのが」

美緒「そうだな。個々の能力が高いからこそだろう」

ミーナ「でも、ハルトマンも言っていたようにいつか死人がでるわ。そうなったとき……」

美緒「なんとかできればいいがな」

ミーナ「無理な話ね。文化も思想も違うのだから、摩擦が生まれて当然よ」

美緒「そうだが……」

ミーナ「もうずっと笑い声なんて聞いていない気がするわ」

美緒「笑い声か」

ミーナ「……それじゃ、部屋に戻るわ。まだ書類整理が残っているから」

美緒「ああ」

美緒「ふむ……」

食堂

ルッキーニ「ごっはんだー、ごっはんー」

シャーリー「あー。今日もよくはたらいたー」

バルクホルン「黙って食べろ。耳障りだ」

シャーリー「なら、その耳切り取って来いよ」

バルクホルン「お前が黙れば済む話だ」

ルッキーニ「いっただきまーす」

ペリーヌ「……この味にも飽きてきましたわね」

エイラ「文句いうなら食べるなよ」

ペリーヌ「なにか?」

サーニャ「エイラ、やめて」

エーリカ「はむっ……」

ミーナ「はぁ……」

美緒(確かに憩いの場である食堂ですら、これではな。ミーナが不安に思うのも分かる)

美緒「よし」

ミーナ「美緒?」

美緒「はっはっはっはっはっはっは!!!」

シャーリー「な、なんだ?」

ルッキーニ「むぐっ!?」

エーリカ「え?」

美緒「はっはっはっはっはっはっはっは!!!!」

バルクホルン「どうした、少佐?」

ペリーヌ「坂本少佐?なにがそんなにおかしいのですか?」

美緒「はっはっはっはっはっはっは!!!サーニャ!!!」

サーニャ「は、はい?」

美緒「はっはっはっはっはっはっはっは!!ほーら、たかいたかーい!!」ギュッ

サーニャ「きゃっ」

エイラ「なにしてんだ、こらぁ!!」

美緒「はっはっはっはっはっは!!たのしいなぁー!!はっはっはっはっはっは!!!」

サーニャ「あ、あの……」

美緒「はっはっはっはっは!!サーニャ!!たのしいか!?はっはっはっはっはっはっはっは!!!」

サーニャ「……」

バルクホルン「少佐!!なにをしている!!食事中だぞ!!」

美緒「だからなんだ?」

バルクホルン「なに……?」

美緒「食事時こそ、こうして楽しまなければならんだろう」

サーニャ「少佐……あの……」

美緒「もっとか?よーし!はっはっはっはっはっはっは!!!」ブンブン

サーニャ「うぅぁ……」

エイラ「やめてくれー!しょうさー!!やめてくれってー!!」

エーリカ「……」

ルッキーニ「シャーリー……少佐がこわれたぁ……」

シャーリー「あ、あぁ、あまり関わらないほうがよさそうだ」

ミーナ「美緒……」

美緒(あまり反応がよくなかったな。私が笑えば釣られて全員が笑うと思ったのだが)

ミーナ「美緒、さっきのは何?」

美緒「ん?あまりにも空気が重かったので場を和ませようと思っただけだ」

ミーナ「やっぱり。でもね、あれだと怖がられてしまうわよ」

美緒「何故だ?」

ミーナ「唐突過ぎるからよ。今までの坂本少佐のイメージというものがあるでしょう?」

美緒「そういうことか」

ミーナ「あんな風に急に大笑いしてサーニャさんを持ち上げたって、なんの効果もないわ」

美緒「悪かったな」

ミーナ「私に謝られても……。ルッキーニさんが酷く怯えていたから、一応フォローはしておいたけど」

美緒「どういったのだ?」

ミーナ「今日は上層部から褒められて機嫌がいいって」

美緒「なるほど。助かる」

ミーナ「もうあんなことはしないでね」

美緒(しかし、逆に言えば、私がそういう人物であると認知させれば……)

美緒「……む」

サーニャ「……」

美緒「サーニャ」

サーニャ「は、はい?」

美緒「夜間哨戒の時間だな」

サーニャ「はい。今から言って来ます」

美緒「そうか。エイラはどうした?」

サーニャ「今、お手洗いに……」

美緒「先に格納庫で待っておくか?」

サーニャ「そのつもりです」

美緒「わかった。送っていってやろう」

サーニャ「え?ど、どうして?」

美緒「いつもサーニャに夜間哨戒を任せているからな。その礼も兼ねてだ。さぁ、私の背に乗れ、サーニャ!はっはっはっはっは!!」

サーニャ「……」

美緒「どうした、乗らんのか?」

サーニャ「いえ、そんな……少佐に乗るなんて……」

美緒「今は階級など気にするな」

サーニャ「で、でも……」

美緒「馬は嫌か。ならば、肩車がいいか?」

サーニャ「そういうことじゃなくて」

美緒「私が嫌いということか?」

サーニャ「ち、ちが……」

美緒「はっはっはっはっは!!サーニャに嫌われるとはな!はっはっはっはっは!!傷つくぞ!!」

サーニャ「うぅ……」

エイラ「あれ、サーニャ?先に行ってるんじゃなかったのか?」

サーニャ「エ、エイラ……」

美緒「エイラが来てしまったか。少々骨は折れるが、いいだろう。二人とも!!さぁ、乗るがいい!!はっはっはっはっは!!」

エイラ「……いくぞ、サーニャ」

サーニャ「う、うん」

美緒「……」

美緒(おかしい。御しやすそうなサーニャでも無理とは……。やはり501に生じた亀裂は深く長いものになっているのか)

美緒「これではミーナの不安を取り除くことができんな」

バルクホルン「少佐!!!」

美緒「バルクホルン?」

バルクホルン「今のはなんだ!!」

美緒「見ていたのか?」

バルクホルン「一部始終な。少佐!!あなたは立場がわかっていないのか!!」

美緒「……」

バルクホルン「下士官に対しての言動とはとても思えないぞ!!!」

美緒「そうか」

バルクホルン「貴女がそういうことをしていては示しがつかない!!もっと上官らしく!!戦闘指揮官らしくしてほしい!!!」

美緒「だが」

バルクホルン「返事!!」

美緒「はい」

大浴場

美緒(まさかバルクホルンに窘められるとはな……)

美緒「むぅ……」ブクブク

ペリーヌ「しょ、少佐?」

美緒「おぉ、ペリーヌか。どうした?」

ペリーヌ「あの、その……ご一緒してもよろしいでしょうか?」

美緒「ああ。無論だ。ここはそういう場所だと言っただろう」

ペリーヌ「で、では、失礼します」

美緒「……」

ペリーヌ「あの、少佐?」

美緒「ん?」

ペリーヌ「なにか、その……お悩みになっていることでもあるのですか?」

美緒「悩みか。確かに悩んではいるが」

ペリーヌ「わ、わたくしがお力になれるのなら、なんでもしますわ。仰ってください」

美緒(ペリーヌか……。ペリーヌに協力してもらうのも、ありかもしれないな……)

美緒「ペリーヌ」

ペリーヌ「は、はい!」

美緒「では、協力してくれ」

ペリーヌ「は、はいぃ!!よろこんで!!!それで、わたくしは何をすればいいのでしょうか!?」

美緒「そうだな……。ペリーヌは何をしているときが楽しい?」

ペリーヌ「え?そ、それは……その……こうして少佐のお傍にいられることが、わたくしの幸せですわ……」モジモジ

美緒「それは嬉しいが、参考にはならんな」

ペリーヌ「ど、どうして!?」

美緒「恐らくだが、私の傍にいて楽しいと思える者は希少だろう。私自身、愉快な人物ではないからな。それぐらいの自覚はある」

ペリーヌ「そ、そのようなことは……」

美緒「食堂でも怖かったのだろう?」

ペリーヌ「あ……あれは、唐突だったからでして……。これから、やるぞーっていってもらえれば……」

美緒「そうか。合図が必要だったのか」

ペリーヌ「は、はい!合図さえあれば、誰も少佐のことを恐れたりはいたしませんわ」

美緒「それはいいことを聞いた。ペリーヌ、感謝するぞ」

廊下

ルッキーニ「今日はどっこで寝ようかなぁ」

美緒「ルッキーニ」

ルッキーニ「うにゃぁ!?」

美緒「……やるぞ?」

ルッキーニ「な、なにをですか……?」

美緒「今から、笑い、そしてお前を抱き上げる」

ルッキーニ「え……?」

美緒「では、行くぞ。――はっはっはっはっはっはっは!!!ルッキーニぃ!!!はっはっはっはっはっはっは!!!」

ルッキーニ「うにゃぁー!!!こわいぃー!!!」

美緒「まてー!!ルッキーニぃ!!はーっはっはっはっはっはっは!!!」

ルッキーニ「やだぁぁー!!!」

美緒「あーっはっはっはっはっはっは!!!」

シャーリー「少佐、ちょっと待ってくれ」グイッ

美緒「ぐっ!?な、なんだ、シャーリー?」

シャーリー「ルッキーニが夜眠れなくなったらどうするんだ!!!」

美緒「……」

シャーリー「あんな風に追いかけましたら、怖がって当然じゃないか!!!」

美緒「しかし……」

シャーリー「ルッキーニはまだ精神的にも未熟なんだ!!トラウマになったらどうするつもりだよ!?」

美緒「うむ……私はただ、楽しんでくれたらと……」

シャーリー「楽しめるわけないだろ!!!」

美緒「そんなバカな」

シャーリー「少佐!!もうやめてくれ!!!」

美緒「……」

シャーリー「返事は!?」

美緒「はい」

ルッキーニ「シャ、シャーリー……一緒にねよ……」

シャーリー「ああ、いいよ。あたしの部屋に行こう」

ルッキーニ「うんっ……」

ペリーヌの部屋

美緒「シャーリーに怒られてしまった」

ペリーヌ「え……そう、なのですか……」

美緒「それにルッキーニも明らかに私の行動に恐怖していたようだ。合図は何も意味を持っていなかったようだ」

ペリーヌ「申し訳ありません!わたしくの所為で!!」

美緒「いや。冷静に考えれば確かに廊下で追い掛け回すのはよくないことだ。反省しなければな」

ペリーヌ「あの、少佐?どうしてこのようなことを?少佐は毅然としていればそれで……」

美緒「ペリーヌは今のままでいいか?」

ペリーヌ「な、なにがでしょうか?」

美緒「501だ。結成時から何も変わっていない。皆が思い思いに行動し、譲り合うこともせず、ただ我をぶつけ合うだけ」

ペリーヌ「少佐……まさか……」

美緒「ミーナの心労を取り除く意味でも、お前たちには非戦闘時ぐらい笑顔でいてほしいんだ」

ペリーヌ「そのような考えが……。わたくし……わたくし……」

美緒「だが、もう手詰まりだな。どうすれば奴らに笑顔を与えられるのか」

ペリーヌ「あ、あの……よろしいですか?わたくしに考えがありますわ」

翌日 格納庫

エーリカ「よっと。さ、いこっか」

バルクホルン「ハルトマン。ミーナから聞いたぞ。私とのロッテを固定化させるように申し出たそうだな」

エーリカ「何か問題あるの?」

バルクホルン「そのようなことをする必要がない」

エーリカ「私がトゥルーデとロッテを組みたいんだよぉ」

バルクホルン「しかし、戦況に応じて色を変えていかなくてはいけない。お前の力は誰の前でも、後ろでも発揮できるだろう」

エーリカ「いいじゃんべつにぃー。さ、訓練でしょ。いくよ」

バルクホルン「待て!」

ペリーヌ「少佐!お願いしますわ!!」

美緒「任せろ!!ペリーヌ!!!」

バルクホルン「なんだ?」

エーリカ「ペリーヌがリアカーに乗ってるね」

美緒「坂本号!!発進!!!はっはっはっはっはっはっは!!!!」ガラガラガラガラ

ペリーヌ「きゃー!」

バルクホルン「また少佐は何をしているんだ……!!」

エーリカ「……」

美緒「どうだ!!楽しいか!!ペリーヌ!!」

ペリーヌ「もっと速度が出れば楽しいですわ!」

美緒「もっとか!!はっはっはっはっは!!スピード狂め!!よぉし!!まかせろぉ!!!はっはっはっはっはっは!!!!」ガラガラガラ

バルクホルン「……行くぞ、ハルトマン!!」

エーリカ「はぁーい」

美緒「はーっはっはっはっはっはっは!!!音速をこえたぞー!!」

ペリーヌ「坂本号は世界一ですわぁー!!」

美緒「……ふむ。バルクホルンとハルトマンは興味を示さなかったか」

ペリーヌ「想定の範囲内ですわ。大尉と中尉を引き込めるのはもっとあとですから」

美緒「よし。では、次だな」

ペリーヌ「滑走路のほうに本命のシャーリー中尉とルッキーニ少尉がいましたわ。行きましょう」

美緒「よーし」ガラガラガラガラ

ペリーヌ「きゃーっ」

滑走路

ルッキーニ「走ったあとはどうしゅるー?」

シャーリー「そうだなぁ。メシ食ったら、またいつものようにユニットを……」

美緒「はーっはっはっはっはっはっは!!!」

ルッキーニ「うにゃぁ!?」

シャーリー「またか!?」

美緒「楽しいかぁ!!ペリーヌ!!はっはっはっはっはっは!!!」ガラガラガラガラ

ペリーヌ「潮風が心地よいですわぁ」

美緒「そうか!!たのしいなぁ!!ペリーヌ!!はっはっはっはっはっは!!!」

ペリーヌ「きゃーっ」

ルッキーニ「うじゅ……」

シャーリー「ルッキーニ、見ないようにするんだ」

ルッキーニ「うん……」

美緒「あーっはっはっはっはっは!!」

ペリーヌ「あっはっはっはっはっは!」

美緒「……ダメか」

ペリーヌ「想定外ですわね……」

美緒「やはり私ではダメか……。今までこんなことをしたことはないからな……」

ペリーヌ「そ、そんなことはありませんわ!!きっと今はルッキーニさんも戸惑っているだけで……」

美緒「いや、分かっている。私は軍人として生きてきた。他人にも厳しく、自分も律してきたつもりだ」

美緒「こんなことを突然始めても、気味が悪いだけだろう」

ペリーヌ「少佐……」

美緒「何をしても501が変わることはない、ということか。残念だが」

ペリーヌ「お待ちになってください!」

美緒「……」

ペリーヌ「少佐、諦めるのですか?」

美緒「現状を打破する術がない。501を変えることができるのは、私ではないんだ。その力を持っているのは見知らぬ誰かなのだろう」

ペリーヌ「違います!!少佐も十分にその力を持っていますわ!!」

美緒「……ペリーヌ」

ペリーヌ「まだ始めたばかりではありませんか、坂本少佐」

美緒「だが……」

ミーナ「坂本少佐、何をしているの?」

美緒「ミーナ中佐。見ての通りだ。ペリーヌを坂本号に乗せて連れ回していた」

ミーナ「シャーリー中尉から苦情がありました。ルッキーニ少尉の教育上よくないので、やめてほしいと」

ペリーヌ「そんな!!少佐は何も悪いことなんて……!!」

ミーナ「あの坂本少佐が笑いながらリアカーを押しているのが、気味が悪いと言っていたわ。ペリーヌさんもそう思うでしょう?」

ペリーヌ「そ、そんなわけ……」

美緒「そうか……気味が悪いか……分かってはいたが……」

ミーナ「もうしないでって言ったでしょう?」

美緒「私とて大事な仲間を、家族を失いたくはない。このままでは犠牲者が出るというなら、私は道化にでもなる」

ミーナ「結果はどうだったの?」

美緒「……ダメだった」

ミーナ「それなら、もう諦めて。できるだけ波を立てないように現状を維持していくのが私たちの務めでしょう?」

ペリーヌ「でも、それはずっとやってきたことのはずですわ。ミーナ中佐や坂本少佐が陰で支えてくれていても、軋轢は生じてしまう。わたくしだってどうしても立腹してしまうことが」

ミーナ「分かっているわ。だからってこんなことをしても、ただ501を恐怖のどん底に突き落とすだけでメリットはないでしょう?」

ペリーヌ「そ、そんな……」

ミーナ「扶桑の坂本美緒がこんなことをしても、イメージを壊すだけ。そうなったら、今以上に雰囲気が悪化しかねない。違う?」

美緒「……」

ミーナ「ほら、行きましょう。デスクワークだってあるのよ?」

美緒「そうだな……」

ペリーヌ「あ……」

ミーナ「ありがとう、わかってくれて」

美緒「ミーナ。一つだけ聞かせてくれ。お前はこのままでいいのか?笑い声一つしない今のままで。それが嫌なのだろう?」

ミーナ「……」

美緒「軍人である以上、馴れ合う必要はない。しかし、銃を持っていないときにも緊張していてどうする?」

ミーナ「そうだけど。どうしようもないでしょう」

美緒「私はペリーヌに言われた。諦めてどうする、坂本美緒には変えるだけの力があるはずなのにとな」

ミーナ「美緒……」

美緒「もう少しやらせてくれ」

ミーナ「……好きにして」

美緒「すまんな」

ミーナ「ふんっ」プイッ

ペリーヌ「よ、よかったのですか?中佐、怒っていたようですけど」

美緒「どうしてもして欲しくないときはミーナも引き下がることはしない。譲ってくれたということは、私に期待してくれたということだ」

ペリーヌ「そうですか」

美緒「さてと、作戦の練り直しだな。どうすれば全員を楽しくさせることができるのか……」

ペリーヌ「そうですわね……」

美緒「いっそのことワライタケでも食事に混入させてやるか?それなら全員笑い出して、服を脱ぐことになるし」

ペリーヌ「少佐。やはり味方が必要ですわ。わたくしと少佐だけでは勝ち目がありませんもの」

美緒「うむ。だが、誰も私に近づいてこないのだが」

ペリーヌ「やはり、ここはサーニャさんから懐柔するしかありませんわ」

美緒「サーニャか?サーニャには最も気味悪がられていると思うが……」

ペリーヌ「やり方を変えましょう。もっと自然に振舞ってサーニャさんを落すしかありませんわ」

美緒「自然にか」

ペリーヌ「少佐ならできるはずですわ」

サーニャの部屋

サーニャ「すぅ……すぅ……」

「サーニャ。起きているか?」

サーニャ「ん……?あ、はい……」

美緒「すまんな。疲れているところ」

サーニャ「なにか……?」

美緒「サーニャとゆっくり話がしたいと思ってな」

サーニャ「はぁ……」

美緒「サーニャ。今の501をどう思っている?」

サーニャ「……」

美緒「正直に答えてくれ」

サーニャ「よくわかりません」

美緒「わからない?」

サーニャ「生活のリズムがみなさんとは逆なので……まともにお話もできないし……」

美緒「……」

サーニャ「本当は仲良くなりたいんですけど、結局はいつもエイラに頼ってばかりで」

美緒「そうか」

サーニャ「だから、どう思っているかと訊かれても困ります……」

美緒「すまん」

サーニャ「いえ……少佐の所為では……」

美緒「サーニャ」

サーニャ「はい?」

美緒「そんな悩みにすら気づいてやれなかった。本当にすまない」

サーニャ「少佐……」

美緒「そうだな。淡々と任務をこなしているように見えても、そういう悩みを持って当然だ。……そうか。そういうことか」

サーニャ「なんですか?」

美緒「私の不甲斐無さが原因か。この惨状は。言われてみればそのとおりだ。私はお前たちに対してなんのフォローもしてこなかったからな。能力が高いが故に放任してきた」

サーニャ「……」

美緒「サーニャ、何か不満や不安があるなら遠慮なく言ってくれ。できる範囲で手を貸そう。私もお前の悩みを共有したい」

サーニャ「はい。ありがとうございます」

美緒「っと。すまんな。時間を取らせて。ゆっくり休んでくれ」

サーニャ「坂本少佐?」

美緒「なんだ?」

サーニャ「エイラの相談も受けてあげてください。エイラ、私以外とはあまり話してないみたいだから……」

美緒「そうだったのか。指揮官として失格だな。そんなことすらもわかっていないとは」

サーニャ「いえ、エイラはあまり気にしてないようですから」

美緒「それはそれで問題があるか」

サーニャ「だから、少佐もエイラのことを気にかけてほしいんです」

美緒「了解」

サーニャ「……」

美緒「どうした?」

サーニャ「あ、いえ。その……坂本少佐って、優しいなって……。今まで、少し勘違いしてました……」

美緒「気持ち悪い眼帯の女と思っていたか?傷つくな」

サーニャ「ちがいますっ!」

美緒「はっはっはっは。冗談だ。ではな」

ペリーヌ「……あ、少佐」

美緒「なんだ、ペリーヌ。聞き耳でも立てていたのか?」

ペリーヌ「そうではありませんわ。少し気になって……」

美緒「サーニャと話して理解できた。私がするべきことは笑いながらリアカーを押すことではなかったことをな」

ペリーヌ「どうされますの?」

美緒「まずはエイラと話してみるか」

ペリーヌ「エイラさんと、ですか?」

美緒「サーニャに頼まれてしまったからな。エイラの相談相手になってほしいと」

ペリーヌ「そ、そんなのサーニャさんが女房役として……」

美緒「サーニャだけでは受け止められないこともあるのだろう。エイラよりも年下だからな」

ペリーヌ「そうかもしれませんが」

美緒「心配するな。自然体でいけばなんとかなるはずだ」

ペリーヌ「……少佐を信じます」

美緒「ああ。信じてくれ」

エイラ「ない」

美緒「一つもか?」

エイラ「話すような悩みはない」

美緒「何かあるだろう」

エイラ「強いて言うなら、最近少佐の様子がおかしいことだな」

美緒「む……」

エイラ「サーニャだって心配してたんだぞ。何かおかしなモノでも食べたんじゃないかってな」

美緒「お前たちと同じものしか口にしていない。おかしな言いがかりはやめてくれ」

エイラ「分かってるけどさぁ。いきなり笑い出されてもどう反応していいのか分からないダロ」

美緒「反省している。あれはやりすぎだった」

エイラ「なんで、あんなことしてたんだ?」

美緒「エイラ、サーニャから聞いたことなのだが。隊の者とあまり話さないらしいな」

エイラ「え……」

美緒「何か理由でもあるのか?」

エイラ「別にない。喋る必要がないだけだ。それに必要最低限の会話はしてるかんな」

美緒「誰か気に入らない者でもいるのか?」

エイラ「そういうわけじゃないって」

美緒「お前たちのことを私は何も知らなくてな。今更で恐縮だが、こうやって話を聞くことで何か欠片でもお前たちのことを知れたらと思っている」

エイラ「……」

美緒「思うところがあれば、言ってくれ」

エイラ「……ルッキーニ」

美緒「ルッキーニ?」

エイラ「ルッキーニのやつ、サーニャの胸を触ったんだ。そのことがあってからはまともに話してない」

美緒「ほう?」

エイラ「だから、ルッキーニにはむかついてるし、仲良しのシャーリーとは話さない。バルクホルン大尉とハルトマン中尉は話しかけづらいしな」

美緒「ペリーヌは?」

エイラ「あんなの問題外だ。サーニャのことを幽霊なんて言っちゃうやつなんて、話す価値もないナ」

美緒「それでエイラはサーニャ以外と話さないのか。ふむ。ところでルッキーニは何故、サーニャの胸を触ったか分かるか?」

エイラ「さぁな。知らない」

美緒「ならば、教えてやろう。あいつは触るのが趣味みたいなものだからだ。私も何度か揉まれたことがあるぐらいだぞ」

エイラ「なに!?少佐もなのか!?」

美緒「ルッキーニの被害者は501の全員だろう。バルクホルンもハルトマンもミーナも餌食になっている」

エイラ「私はまだだけど」

美緒「そうか。よかったな。はっはっはっは」

エイラ「そういうことなのか……」

美緒「そういうことだ」

エイラ「……いい趣味してんな」

美緒「そうだな。大きい胸ほど好んでいるようだ。故にシャーリーにはべったりのようでな。無論、それだけが理由ではないが」

エイラ「少佐は怒んないのか?」

美緒「怒りはするが気にするほどでもない。胸を揉まれたぐらいではな」

エイラ「へぇ……」

美緒「なんだ?」

エイラ「なら、ちょっとだけ……いいか?」

美緒「……」

エイラ「実は私も興味があったんだ。少佐の……」

美緒「……まぁ、ルッキーニの行動に腹を立てるのは分かる。だが、注意したところで改善しないからな。半ば放置している」

エイラ「いてぇ……おこらないって、いったのにぃ……」

美緒「正面から揉むな。馬鹿者。ルッキーニはもう少し要領良く動いていたぞ」

エイラ「そうなのか?」

美緒「ああ。あの身体能力には目を見張るばかりだ」

エイラ「……」ピコンッ

美緒「だからエイラも――」

エイラ「ふっ!」

美緒「甘いっ!!」バッ

エイラ「ムリダナ!」ギュッ

美緒「なっ……!?エイラ……!?魔法を……!!」

エイラ「ふっふっふっふ……。ルッキーニもこうやって少佐の胸を……なるほど……」モミモミ

美緒「……」

エイラ「少佐はこうなってるのかぁー。勉強になるなぁー」モミモミ

美緒「……ふんっ!!!」ゴンッ!!!

エイラ「いてぇ……」

美緒「貴様もルッキーニと同類か。全く」

エイラ「だって……」

美緒「ルッキーニとは気があうのではないか?一度話して来い」

エイラ「え……」

美緒「まぁ、お前が過去のことを水に流せるほど大人ならばの話だが」

エイラ「……」

美緒「サーニャはお前にどうしても頼ってしまうと言っていたのがな」

エイラ「サーニャが?!」

美緒「それは何故か。自分の胸に手を当てて考えてみろ」

エイラ「うーん……」

美緒「行くか?」

エイラ「……そうだな。ちょっと行ってくる」

美緒「それがいい」

エイラ「あー。まぁ、私はルッキーニより大人だかんなぁー。そろそろ許してやるかぁー」

格納庫

美緒(あいつらも色々と抱えているな。私がこうだから、素直になれないところもあったのだろう……)

シャーリー「あ!?こら!!」

美緒「……ん?」

ルッキーニ「エイラもすきなんじゃーん!!なんで、あのとき怒ったのぉー!?」モミモミ

エイラ「いきなりサーニャに触るからだろ!」モミモミ

ルッキーニ「謝ったじゃん!」

エイラ「だから、もう許した!」

ルッキーニ「にひぃ!」

エイラ「正直さぁ、ルッキーニが羨ましかった。こうしていつもシャーリーのを触れるんだから」

ルッキーニ「これからはエイラも触っていいからね」

エイラ「話がわかるなっ!ルッキーニ!」

ルッキーニ「あたしは話が分かる女なのだー」

シャーリー「揉みながら和解するなって。くすぐったいんだからさ。触ってもいいけど、順番にしてくれ。頼む」

美緒「……シャーリー。悪く思うな」

食堂

エーリカ「ふわぁぁ……」

バルクホルン「大口を開けてはしたないぞ、ハルトマン」

ミーナ「ふぅ……」

バルクホルン「ミーナ?疲れているようだな」

ミーナ「当たり前でしょ。任務だけならこんなことはないのだけど」

エーリカ「少佐のこと?」

ミーナ「それもあるわ」

エーリカ「大変だね」

バルクホルン「何を他人事みたいに言っている。お前の命令違反も多分に含まれているのだぞ」

エーリカ「えー?1割もないでしょー?」

ミーナ「5割は貴女の所為よ」

エーリカ「5割も!?」

美緒「ここにいたか」

ミーナ「……坂本少佐。なにかしら?」

美緒「なにをプリプリ怒っている?」

ミーナ「なんでもないわ。私のいうことを聞いてくれない人が多いから少し不機嫌なだけ」

美緒「そうか。……バルクホルンはダメか」

バルクホルン「何がだ?」

美緒「では、やはりハルトマンしか適任者はいないな」

エーリカ「え?なにが?」

美緒「ちょっとこい」

エーリカ「なんだよぉ」

美緒「ハルトマン。バルクホルンとのみ親交を深めても意味はないだろう?」

エーリカ「なにが?だから……」

美緒「バルクホルンの現状についてはそれなりにミーナから聞いている。あれはお前一人でどうにかなるものでもない」

エーリカ「だから、せめて私だけでもトゥルーデの傍にいないと。いつか暴走して……」

美緒「分かっている。しかし、バルクホルンを守ることができるのはお前だけというわけではないだろう?」

エーリカ「……」

美緒「私もミーナもいる。ペリーヌやシャーリー、ルッキーニ、エイラでもいい。お前は他の者を信じていないのか?」

エーリカ「そういうわけじゃないけどさぁ」

美緒「ならば、バルクホルンのことは我々に任せろ。心配するな。何があっても奴は守る」

エーリカ「……で、私に何をさせたいわけ?」

美緒「お前にはサーニャを見て欲しい」

エーリカ「え?サーニャ?」

美緒「話したことは?」

エーリカ「多少はあるけど」

美緒「ならば、問題ないな。サーニャは他の者とできるだけ仲良くしたいようだ」

エーリカ「なんで、私?」

美緒「シャーリーはルッキーニとエイラ、バルクホルンはあの状態、ペリーヌはサーニャと少しばかり問題があるようでな。ミーナにこれ以上の負担は強いることができない」

エーリカ「少佐は?」

美緒「私は既にサーニャの相談相手を買って出ている」

エーリカ「それじゃだめなの?」

美緒「サーニャは全員との会話を望んでいると言っただろう」

エーリカ「……まずは手が空いてる私からってわけ?」

美緒「お前もそろそろ501に馴染め」

エーリカ「馴染む必要なんて……」

美緒「空での気配りを、地上でもやって欲しいということだ」

エーリカ「……」

美緒「頼む」

エーリカ「……めんどうだなぁ」

美緒「サーニャはいい子だ。ただ傍にいてやればいいさ」

エーリカ「はぁーい」

バルクホルン「おい、ハルトマン。どこにいく?」

エーリカ「ちょっと、用事」

バルクホルン「……そうか」

エーリカ「トゥルーデ」

バルクホルン「なんだ?用事があるなら早く済ませて来い」

エーリカ「……なんでもなーい」

バルクホルン「相も変わらずおかしなヤツだ」

ミーナ「坂本少佐、ハルトマンに何を言ったの?」

美緒「ん?いや、ハルトマンもそろそろ新たな友を見つけてもいいころかと思ってな」

ミーナ「え?」

バルクホルン「あいつと友人になれる奴などいないだろう」

美緒「それはまだ分からんぞ。どのような僚機とでも空を翔ることができる者に苦手な相手などいないだろうからな」

バルクホルン「ふんっ。どうだか」

美緒「……さてと。あとはお前だけだな」

バルクホルン「なんのことだ?」

美緒「……」

バルクホルン「……私は何も問題はない。失礼する」

ミーナ「トゥルーデ!」

美緒「やれやれ。あれはまだまだ時間がかかりそうだな」

ミーナ「それで美緒?上手くいったの?」

美緒「さぁな。それはこれからだ。だが、ミーナの不安を軽減させることはできそうだ」

ミーナ「ほ、本当に?」

夜 廊下

サーニャ「……」

美緒「サーニャ」

サーニャ「あ、坂本少佐」

美緒「どうした、眠そうだな」

サーニャ「お昼からずっとハルトマンさんとお話していたので……」

美緒「なに?こんな時間までか!?」

サーニャ「はい……それで……ちょっと眠くて……」

美緒「加減をしらないのか、奴は……。すまんな。今日はもう夜間哨戒はやめておくか」

サーニャ「いえ。平気です。行きます」

美緒「しかし」

サーニャ「何を話したのかはよくわかりませんでしたけど、楽しかったのは覚えてます」

美緒「……」

サーニャ「今はとても嬉しくて。疲れはありません。眠気はありますけど」

美緒「ちょっと待っていろ」

格納庫

エーリカ「なんで、わたしまでぇ……」

美緒「確かに話せとはいったが、やりすぎだ。サーニャの体調も考慮しろ」

エーリカ「だって、サーニャは半分寝てたんだもん……」

サーニャ「すいません」

エーリカ「ああ、いいのいいの。おかげで今まで誰にも言えなかったミーナとトゥルーデの秘密を喋れたし」

サーニャ「え!?」

美緒「ハルトマン。しっかりとサーニャのサポートをしてやれ。サーニャ、ハルトマンのことを頼む」

サーニャ「了解」

エーリカ「りょーかぁい」

美緒「行ってこい」

サーニャ「行きましょう、ハルトマンさん」

エーリカ「サーニャぁん、おんぶしてよぉー」

サーニャ「うふふ。ダメです」

エーリカ「えぇー?おちちゃうよぉ」

美緒「……」

エイラ「……少佐」

美緒「エイラか。すまんな。お前に頼んでもよかったが」

エイラ「いや、いい。サーニャがあんな風に笑ったの久しぶりに見たし」

美緒「私は初めて見たな」

エイラ「少佐、ありがとな」

美緒「当然のことをしただけだ。なぜ、こんな簡単なことができなかったのだろうな」

エイラ「……」

美緒「すまんな」

エイラ「いや、私もその……少佐のことは……ちょっと怖かったし……」

美緒「そして突然笑い出すから気味が悪かったか?」

エイラ「それは……まぁ……」

美緒「はっはっはっは。いや、私もどうしていいのかわからなかったんだ。結成したときは必死だったからな。周りが見えていなかった」

美緒「エイラ。サーニャだけでなく、私やシャーリーのような年上も頼れ。長く生きている分だけ、助言できることも多いだろうからな」

エイラ「うん。そうする。ありがとっ」

大浴場

美緒「ふぅー……」

美緒(これでサーニャとエイラの問題は解決できたか?あとはペリーヌやシャーリーからも色々と……)

シャーリー「少佐、ちょっといいですか?」

美緒「おぉ……。ルッキーニにトラウマが生まれたか?」

シャーリー「いや。エイラから聞いたよ。少佐がエイラにルッキーニと仲直りするように勧めたって」

美緒「その通りだ」

シャーリー「そっか。ほら、ルッキーニはああだからさ、その、みんなからどう思われてるのかは心配だったんだ」

シャーリー「バルクホルンもハルトマンもそういうことは口にしないから」

美緒「ルッキーニが嫌われているかもしれないと考えていたのか」

シャーリー「ルッキーニは他人の評価になんて興味がないから、余計にね」

美緒「安心しろ。少なくともお前とエイラは好意を持っているではないか」

シャーリー「それが分かって、嬉しいんじゃないですか。あたしだけだったら、どうしようって。なんだか心が軽くなったっていうか」

美緒「そうだったのか。ではもう一つ耳寄りな情報を渡しておくか。実はな、お前の目の前にもいる。ルッキーニに好意をもっている者がな」

シャーリー「ははっ。サンキュ!少佐!背中、流してあげましょうか?」

廊下

美緒(シャーリーの悩みは自然と解消されていたのか。何にせよ、結果がよかったのだから喜ぶべきか)

ペリーヌ「あの、少佐?」

美緒「なんだ、まだ起きていたのか。早く寝ろ」

ペリーヌ「いえ、あの……。少佐、エイラさんに何か言いましたか?」

美緒「エイラに?いや、特になにも言っていないが」

ペリーヌ「そう、ですか。ありがとうございます」

美緒「こら」

ペリーヌ「な、なんでしょうか?」

美緒「何があったのか言え」

ペリーヌ「そ、それが……先ほど、今まで酷いことを言ってごめんと謝られて……」

美緒「ほう?それでペリーヌはどう答えた?」

ペリーヌ「それは勿論、私のほうこそと」

美緒「はっはっはっは。では、何も問題ないな。早く寝ろよ」

ペリーヌ「あぁ……うーん……。でも、どうして急に……。わかりませんわ……」

翌日

美緒(今日はルッキーニとハルトマンと話をしてみるか。二人と腹を割って話したことなどないからな。一見悩みなど無さそうは二人ではあるが……)

ミーナ「美緒!!」

美緒「どうした、ミーナ。何かあったか?」

ミーナ「食堂に来て!!早く!!」

美緒「ちっ。やはり根本的な問題解決には至っていないか……!」

ミーナ「見て」

美緒「ん?」


シャーリー「エイラ、ほらっ」

エイラ「あ、ありがと。シャーリー」

シャーリー「なんだぁ?もっとしっかりお礼をいったらどうだぁ?」グニーッ

エイラ「いっふぁふぁろぉ!やふぇろふぉー!」

シャーリー「あはははは」

ルッキーニ「にゃははは。エイラー、変な顔ー」

エイラ「ふぁらふはー!」

ペリーヌ「ちょっと!食事中ですわよ!お静かに!」

エイラ「シャーリーが悪いんだろぉ」

シャーリー「メシを取ってやったんだろぉ」

ルッキーニ「にひぃ。だよね」

エイラ「はいはい。私が悪かったよ」

シャーリー「おぉ。随分、素直だな」

エイラ「私は大人だからな」

シャーリー「なんだそりゃ」

エーリカ「サーニャはまだ起きてきてないのか」

エイラ「まだムリダナ。でも、中尉と夜間哨戒ができてよかったって言ってたぞ」

エーリカ「そっか。なら、また私がやろーかなぁ」

エイラ「やめろぉ。中尉は昨日だけ!昨日だけ特別だかんな」

エーリカ「さぁー。それはサーニャに聞いてみないとねぇ」

エイラ「まてよぉ。今、サーニャは中尉のことばかり話すんだから。そういうことはやめてくれー」

ペリーヌ「……まぁ、多少賑やかなぐらいがいいですけど」

ミーナ「……美緒?」

美緒「どうした?」

ミーナ「その、ありがとう……」

美緒「私は何もしてないさ。あいつらが勝手に作った壁を、勝手に取り壊しただけの話だろう」

ミーナ「そんなことないわよ」

美緒「それにまだ問題児は残っているだろう」

ミーナ「……」

バルクホルン「おはよう、ミーナ。少佐」

ミーナ「トゥルーデ……」

バルクホルン「……なんだ?」

美緒「いや。もう少し時間がかかるなと言っていただけだ」

バルクホルン「そうか」

ミーナ「……トゥルーデの場合は、501とは直接関係がないことだから」

美緒「奴を救える者が来てくれたら助かるのだがな」

ミーナ「今度、ブリタニアから501に送られてくる予定のリネット・ビショップ軍曹がトゥルーデの救世主となってくれたら一番だけど……」

ルッキーニ「あー!少佐だぁー!」

美緒「元気だな」

ルッキーニ「ねえねえ、少佐ぁ。ペリーヌと一緒に遊んでたアレってまたやってくれたりするの?」

エーリカ「……」ピクッ

美緒「ん?坂本号のことか?」

ルッキーニ「そうそう!!それそれぇ!!あれ、楽しそうだったしぃ」

ペリーヌ「ルッキーニ少尉はシャーリー中尉にやってもらえばいいでしょう?」

ルッキーニ「ぶぅー!」

美緒「はっはっはっはっは。どうする、シャーリー?」

シャーリー「ルッキーニが少佐にやってほしいっていうなら、少佐がやってあげるべきですよ」

美緒「そうか……。確かにペリーヌだけにするのは、またいらぬ摩擦が生じてしまうか。よし、いいぞ。暇ができればな」

ルッキーニ「やったぁー!!」

エイラ「いいなぁー。私もやりたいゾー」

バルクホルン「……全く、下らないな。食べ終わったらいくぞ、ハルトマン」

エーリカ「あ、うん。わかったよ」

~501基地 格納庫~

芳佳「――そんなことがあったんですか」

ミーナ「ええ。そして宮藤さんが私たちにとって最後の棘となっていたバルクホルン大尉を救ってくれた。これでようやく501はきちんと機能し始めたのよ」

芳佳「そんなぁ。私なんて……」

ミーナ「宮藤さんとリーネさんには感謝しているわ」

芳佳「え?」

ミーナ「棘が無くなったあとも、貴方たちのおいしい料理はその後の関係を良好にし続けるだけのものだったから。やっぱり食事が美味しいと自然と笑顔になるでしょ?」

芳佳「あはは。そうですね」

ミーナ「だから、貴女とリーネさんには本当に感謝しているわ。501に来てくれて、ありがとう」

芳佳「そんなことないですよ。坂本さんがいなかったら……」

ミーナ「そうね」

美緒「何の話をしている?」

芳佳「あ、坂本さん!昔の501は大変だったんですね」

美緒「ん?はっはっはっは。そんなことはない。皆、いい奴ばかりで困るぐらいだ。まぁ、もう少しミーナの命令は聞いて欲しいがな」

ミーナ「……それはその通りね」

芳佳「それはそうと坂本さん!!お願いしますっ!」

美緒「はっはっはっは!!行くぞ!!宮藤ぃ!!501名物!!!夕刻の坂本号発進だぁ!!!」ガラガラガラガラ

芳佳「ぅわーい!!」キャッキャッ

ミーナ「名物にしちゃって……。まぁ、みんなに人気だもね……」

エーリカ「トゥルーデぇ!!発進しろよぉ!!はやくぅ!!宮藤がいっちゃったぞぉ!」

バルクホルン「なんで私がお前をリアカーに乗せて走らねば……ならないんだぁぁぁぁ!!!!」ガラガラガラガラ

エーリカ「たのしいからにきまってるじゃーん!!」キャッキャッ

ルッキーニ「あぁー!!坂本号、また芳佳にとられてりゅう」

シャーリー「あははは。残念だったな。今日もシャーロット号にしとけ」

ペリーヌ「また……あの豆狸ぃ……!!!いい加減にしてほしいですわ!!!」

リーネ「でも、あんなに楽しそうですし。見ているだけで幸せになれるというか」

エイラ「宮藤ー!!終わったら代わってくれよー!!サーニャも楽しみにしてんだかんなぁー」

サーニャ「それ、エイラのこと」

美緒「はっはっはっはっはっはっは!!!!たのしいなぁー!!宮藤ぃ!!!はっはっはっはっはっは!!!!」ガラガラガラガラガラ

芳佳「はいっ!!はっはっはっはっは!!!」


おわり

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