魔女「その本を片付けておいてくれ」弟子「はーい」(206)

弟子「今度は何の研究をされているんですか?」

魔女「薬草より更に治癒効果を濃縮して引き出した回復薬だ」

弟子「もうちょっとあたし達の暮らしに役立つもののがいいんですがー」

魔女「町に売りに行けば役に立つだろう」

弟子「普段の暮らしで役立つものをって事ですよ」

魔女「ふーむ、そちらの方面は中々意欲が沸かないなぁ」

弟子「……」カチャカチャ

弟子「うん? ありゃ、砂糖がそろそろ切れるな」

弟子「うーん、やっぱりそろそろ行かないとだめかなぁ」

魔女「どうしたのだ?」

弟子「いくつか買出しの必要がありそうです」

魔女「では……そうだな、1の部屋に置いてある薬を見繕って持っていってくれ」

魔女「買ってきて欲しい物はこれだ」サラサラサラ

弟子「今回は少なめですね……鎌?」

魔女「少し自生している植物を使ってみようと思ってな」

旅人「私は旅をしている薬師です。よろしければ薬等は如何でしょうか?」


「いやーこの辺りは不思議と薬師さんが通るんで助かるわー」

旅人「この辺りの森は良い野草が生えていますからね」

「何時も皆さんそう言いますが森は止めたほうがいいですよ」

旅人「……」

「恐ろしい魔女がいるって話だもんな」

「ああ、近づいてきた人間をとって食っちまうだもんな」

旅人「それは恐ろしいですね」ピクピク

弟子「がああああ! 毎度毎度毎度! あいつらの態度が気に食わないぃぃ!!」

魔女「また言っているのか。どうでもいいじゃないか」

弟子「なんでお師匠様は怒らないんですか?! 言われ無き風評もいいところですよ?!」

魔女「それで害を被るわけでもあるまいし、何より静かな暮らしができるのだ」

弟子「むぅぅぅぅ! 嫌味の一つでも言ってやりたいぃ!」

魔女「お前もそれを飲み込んでおけ。口にし掛けた嫌味を飲み込んで腹を壊す事も無いだろう」

弟子「お師匠様は達観し過ぎなんですよ!」

弟子「……」ペラ ペラ

『中級回復薬の作り方
 下級回復薬とヒーリング草を混ぜ合わせる事で作れる。
 下級回復薬の材料、薬草の持つ○○○○がヒーリング草の××××と
 合わさる事で△△△△が生成され、これが神経修復機能を持ち……』

弟子(××××って他の植物からも抽出できような)ペララ

弟子(……やっぱり。じゃあこっちで抽出した××××使えば中級薬生成数も向上するな)

魔女「? ああ……それじゃ駄目だぞ」

弟子「へ?」

魔女「大方ククリー草から成分を抽出して、と考えているのだろう」

魔女「だがそれで抽出すると、▲▲▲▲という成分も加わる事になる。結果的に」

魔女「線溶作用を阻害し血栓が起こりやすくなってしまう。これでは使えんよ」

弟子「あー……えー? ▲▲▲▲を取り除けば……」

魔女「そもそも××××と▲▲▲▲が結合してしまっているからな」

弟子「××××と▲▲▲▲の分離……分離……」

魔女「中級回復薬を作るにはあまりにもコスト高だ。それ故にヒール草を用いるのだ」

弟子「む~~」

魔女「だがまあ、そういう向上心がこうした発明を生むのだ」

弟子「発明?」

魔女「私達にとってはもう当たり前の中級回復薬だが、その当時は画期的な発明だ」

魔女「そういう訳で頑張りたまえ」

弟子「はい、頑張ります!」

弟子「……」グツグツ

弟子「……」グツグツ

弟子「完成だ」グツグツ


弟子「お師匠様ーシチュー出来ましたよー」

魔女「おお、そうか。では夕餉としようか」

魔女「料理の腕なら一級なのだがなぁ」

弟子「ちゃ、ちゃんと課題は達成しているじゃないですか」

魔女「きわどい時があるだろう。特に爆発物は触らせられん」

弟子「ちゃんと火の扱いとかできますよ!?」

魔女「そういう意味じゃない」

弟子「計量もできますよ!?」

魔女「それだ。それなのに何故、火薬の量とかが大きく間違えるのか……」ハァ

商人「どうもー」

弟子「こんにちは。お師匠様ー商人さんがいらっしゃいましたよー」

魔女「君か、久しぶりだね。今日はどうしたんだい?」

商人「魔力上昇系の薬が大量に必要になりましてね。在庫、ありますかね」

魔女「三番の部屋……赤棚の薬を全部持ってきてくれ」

弟子「了解です!」パタタタ

魔女「変わりなくて何よりだよ」

商人「そちらこそ……もう十数年と経つのに本当にお変わりなく……」

商人「あの娘も随分と大きくなりましたな」

魔女「そうだな……私の自慢の娘だよ」

商人「……」

魔女「なんだ、その妙な顔は」

商人「いやいや、貴女でもそういう考えをされるのですな。良いものですなぁ」

魔女「ま、伝えた事はないがな」

商人「えー……言ってあげればいいのに。あの娘泣いて喜ぶと思いますよ」

魔女「今更そんなこそばゆい事を言える訳が無かろう」

弟子「お持ちしましたー」ガラガラ

商人「こりゃまた結構な数で」

魔女「そちらの必要数に足りるだろうか?」

商人「ええ、これだけあれば十分ですよ」

弟子「毎度ありがとうございます」

魔女「何か必要になったらまた来てくれ」

商人「そうさせてもらいますよ」

弟子「……お師匠様、思ったのですが」ガラガラ

魔女「どうかしたか?」

弟子「商人さんにお師匠様の事触れて回ってもらうだけでも、だいぶ環境が変わると思うのですが!」

魔女「その手間をかけてもらっても何も無いではないか」

弟子「お師匠様の地位向上!」

魔女「要らんし宣伝をされて買い手が増えられても、こちらの手が足らんだろう」

弟子「むぅぅぅ!」

魔女「今のままでいいではないか。私はな、お前がいてたまの来客でいて、こうしてゆったりと過ごす」

魔女「それが幸せだと思っているのだよ」

弟子「あぅぅ、そう言われると言い返せないじゃないですか」

弟子「ふう……だいぶ暑くなりましたね」

魔女「そろそろ夏野菜の季節か」ゴクリ

弟子「今年も良い調子ですよー。今日辺りトマトを収穫してみましょうか。良い色になってますし」

魔女「……」

魔女「ではミネストローネで」

弟子「あはは、分りました」

弟子「くっさむっしりーくっさむっしりー」パタパタ

弟子「くさくさむしりーくさむしりー」ガチャ

弟子「……」ペラ

弟子「エアカッター!」プスン

弟子「……」

弟子「スライサー!」ポスン

弟子「むぎぃぃぃ!」ダンダンダン

魔女「お前は何時になったら初級魔法を使いこなせるようになるのやら」

弟子「あたしだって努力はしてるんですよ?!」

魔女「だから不思議なのだよ……これが才能か」

弟子「無いって意味ですか?! 無さの才能ですか?!」

魔女「そこまでは言っておらんよ……ただ」フィ

弟子「なんですかそれ! 目を逸らさないで下さいよ!」

弟子「今日は冷製コーンスープです」カチャチャ

魔女「おお、良いじゃないか」

弟子「すぐ用意しますねー」

魔女「ああ、そうしてくれ」ゴクリ

弟子「~♪ ~~♪」カチャカチャ

魔女(この娘の才は間違いなく別方面なのだろうなぁ……)

弟子「え? なんでそんな神妙な顔をするんですか?!」

弟子「あ、あづい……」ジリジリ

魔女「ふむ……流石にこれは体に悪いな」

弟子「お師匠様! 冷凍系の魔法ー!」

魔女「この逆境を乗り越えて習得するのだ」

弟子「えええー!?」

魔女「と、言いたいが流石に暑いな」

弟子「ですです!」

魔女「仕方が無い、転移魔法!」ヒュン

弟子「……」ザザーン

魔女「うむ、良い海水浴日和だ」ザザー

弟子「うえええええええ?!」

魔女「どうした?」

弟子「海? 海?! 海なんですか、これ! 初めて見た! ていうか何の前フリも無く海に転移した!」

魔女「暑いじゃないか」

弟子「いやそうですけど! っていうかお師匠様海に来た事あるんですか?!」

魔女「無いぞ。転移魔法の標を商人から買い付けた事があるだけだ」

弟子「え……標って物理的な何かなんですか?」

弟子「気持ちいいーー!」ザバザバ

弟子「お師匠様も早く泳がぼ」ザボン

弟子「うげーー! ぺっぺっ! 凄い! 本当に塩辛い!」

魔女「全く凄いテンションだ事だ」チャプチャプ

弟子「だって海初めてですもん。お師匠様はこう、うおーとかならないんですか?」

魔女「私はもう年だからなー」ハハハ

弟子「年なんて関係ありませんよ! これだけ綺麗で壮大な物を見て何とも思わないわけがない!」

魔女「……そうだなぁ。正直に言えば少し言葉を忘れそうになったよ」

魔女「最も誰かの大声ですぐに意識が戻ったが」

弟子「あたしは気付け薬かなにかですか?」

魔女「悪く言っているつもりは無いよ。その騒々しさが私の日々を充実させてくれている」

弟子「だったらもうちょっとオブラートに包んで言ってもらえませんか? 遠まわしな嫌味かと思いますよ?!」

魔女「ははははは」

弟子「わぁぁぃ……」グッタリ

魔女「遊び呆けて脳まで溶けたか?」

弟子「遊び疲れただけですぅ……」

魔女「ま、4,5時間延々と泳いで潜っていれば疲れもするだろう」

魔女「で、どうだった?」

弟子「凄いです! ごつごつした岩が崖のように聳え立ってて珊瑚があって……」ガバッ

弟子「書物でしか知らなかった世界が広がっていて! 青や黄色、赤の魚がいっっっぱいいて!」

魔女「そうか、それは良かったなぁ」

弟子「はいぃぃ……」プシュー

魔女「我が家に到着だ」ヒュン

弟子「たらいまぁ~」ヘロヘロ

魔女「全力で遊びきったようだな」

弟子「えへへぇ~」

魔女「止むを得んか。さて、久々に私が料理をするとしよう」

弟子「やったぁ~」

魔女「お前より上手くは無いのだぞ?」

弟子「そんな事無いですよ~」

弟子「お師匠様の料理久しぶりだなぁ」ニコニコ

魔女「私としてはお前の料理の方が食べたいんだが、今日のところは仕方が無いか」

魔女「また明日から頼むよ」

弟子「はい!」

弟子「……明日からまた暑い日々かぁ」

魔女「だったら魔法をしっかりと覚えるのだ」

傭兵「ふぅ……暑いな」ジリジリ

傭兵(しかししまったな……一向にそれらしい所に辿り着かない)

傭兵(既に一晩この森で明かしているし……これは最早立派な遭難だな)

傭兵(不味いな……何時の間にか町の方角が崖になっているし、訳が分らないぞこの森)

傭兵「む……?」


弟子「お昼できましたよー」

魔女「昨晩のカレーか」

弟子「朝、冷たいのがいいってコーンスープにしたんですから、仕方が無いじゃないですか」

弟子「あれ? お客さん?」コンコン

弟子「はーい」ガチャ

傭兵「いきなり訪問失礼する。ここは魔女の家だr」グゥゥ

弟子「……」

傭兵「……」

弟子「あ、あはは……今昼食にするところですが、ご一緒にどうでしょうか?」

傭兵「む……かたじけない。世話になる」

魔女「君は旅をしているのか?」

傭兵「ああ、根無し草で傭兵をやって生きている」

弟子「お一人でですか? 今は魔物も多いですし大変じゃないですか」

傭兵「戦闘が多くなるが魔物がいてくれた方が助かるな」

傭兵「売れる物が手に入るし、何より食料に困らない」

弟子「ま、魔物食べちゃうんですか」

傭兵「そういえばここら辺は魔物はいないな」

傭兵「そちらの魔女様が皆殺しにでもしているのか」

魔女「その様な言い方は止めてもらいたいな」

魔女「昔は魔物もいたんだぞ」

弟子「あたしがここに来た時にはもういなかったですよね」

傭兵「昔と言っても魔王がこちらに魔物を送り出し始めたのが60年ほど前か」

魔女「そんな昔でもないがここに住んだ当初は魔物も多かった。がどうとでもなったから放置していたのだ」

弟子「まあ……お師匠様なら瞬殺ですもんね」

傭兵「流石魔女と言われるだけはあるな……」

魔女「そうしたらどうだ。畑が荒らされる事荒らされる事。三度目で流石の私も臍で湯を沸かして」

弟子(あ、本気でキレたんだ)

魔女「この一帯の森にいた魔物の殲滅。更にはこの森から3kmまでの範囲の魔物に自動で」

傭兵「徹底的だな」

魔女「光線魔法が放たれる陣を敷いて今尚稼働中だ」

弟子「あ、それ見た事あります。町に買出しに行ったらレイビームが飛んでいったなぁ」

傭兵「徹底的過ぎるだろう」

傭兵「しかし……その範囲だと町も守っているのか」

弟子「距離縮めませんか?」

魔女「あの町が潰えるとこちらの物資補給が面倒になるし、贔屓してくれている者も来辛くなるだろう」

傭兵「ふう……これほど美味い食事は久々だ。馳走になった」

弟子「そう言って頂けるとこちらもうれしいです。何せ食べるのは私とお師匠様だけですからねぇ」

魔女「して傭兵。君は一体何の用事でここまで来たのだね?」

傭兵「……悪しき魔女を討ってほしい。その依頼をこの先の町より受けた」

弟子「! あんのやろうどもぉぉぉ!」ギリギリギリ

魔女「ふむ……で、君はどうするのだね? 受けた命を務めるか?」

傭兵「それが無意味と分った以上、ここを出て町には帰らずとんずらするとしよう」

魔女「君がそう言うのならそれでもいいが……どうだね? 一戦交えてみないか?」

傭兵「は?」

弟子「だ、ダメです!」

傭兵「お、おお……?」

弟子「周囲の土地が更地になるだなんてダメです!」

傭兵「そういう事か?!」

魔女「馬鹿を言え。戦うのはお前だよ」


魔女「では両者、尋常にはじめ!」

弟傭「えっ」

傭兵「俺は子供に切りかかる趣味などないぞ」

魔女「安心したまえ。君は切りかかる事もできやしない」

傭兵「……ふむ。そこまで言われると試してみたくなるな。いいか?」

弟子「え! いや、あたしとしてはー……」

傭兵「煮え切らない反応だな」

魔女「始めないと私の方から両者に砲撃支援が飛ぶぞ」キィィィン

傭兵「許せ」バッ

弟子「いやー!」

弟子「……傭兵さんが怪我するから嫌なんですよね」ポソ

弟子「インパクト!」ドゥ

傭兵「ぐがっ!」ドゴォ

弟子「グラヴィティー」ズォ

傭兵「ぐおお!」ドドゥ

弟子「エクスプロ……は被害大きいからサンダーボルト!!」バシィ

傭兵「がああああ!!」バジジ

魔女「両者そこまで! フルヒーリング」パァ

傭兵「つ、強い……流石は魔女の弟子か……」フラフラ

魔女「但し未だに初級魔法のエアカッターが成功しない」

弟子「い、いいじゃないですか! 上級魔法使えるんだし!」

傭兵「むしろあれだけ魔法が撃ててエアカッターができないとは、何とも摩訶不思議な」

弟子「うー……」

魔女「ま、そんな訳だ。馬鹿な考えをしている者がいたら諭してくれ」

魔女「こちらも死者は出したくないからな」

傭兵「憎い奴でも止める事にするよ。そろそろ俺は行くとする。達者でな」

弟子「なんか嵐のように過ぎ去っていきましたね」

魔女「暴風の中心地はお前じゃないか」

弟子「お師匠様がそうさせたんじゃないですか」

弟子「そういえば……何時になったら魔王は討たれるんですかね」

弟子「場所によっては魔物の被害が大きい所もあると聞きますし」

弟子「いっその事、お師匠様が倒してしまっては?」

魔女「……」

魔女「超長距離型落石魔法……いや投石魔法か……ちょっと思いついた気がする」

弟子「ストップ、それは危険、っていうか実験段階でどれだけ被害作るつもりですか?!」

弟子「最近涼しくなってきましたね」

魔女「秋の訪れだな」

弟子「今年も北の山に行きましょうよ!」

魔女「リンゴパイが恋しいな」

弟子「腕によりをかけて作りますよー」

弟子「そうと決まれば今から色々と準備しないとですね」

魔女「うむ、そうだな」

弟子「……うぅぅ」

弟子「うわあああ!」ガバッ

弟子「はあ……はあ……」

弟子「夢……か……」

弟子「なんでまだ……こんな」

魔女「なんだ起きてるのか」ガチャ

弟子「ど、どうしました?」ビク

魔女「うむ、葡萄酒でもと思ったがやはり一人では味気ない。付き合え」

弟子「飲めませんって」

魔女「ちゃんと葡萄ジュースもあるぞ」

弟子「そう言われては仕方がありませんね」

魔女「うむ、良い月夜だ」

弟子「……」

魔女「どうした?」

弟子「……あの、いえ、何でもありません」

魔女「何でも言ってみるといい。言わなければ伝わらんし何も変わらんぞ」

弟子「……あたし、ここにいてもいいんですよね? ご迷惑じゃない、ですよね?」

魔女「もう七年近くここで暮らしていて何を言っているんだ」

弟子「……そ、そうです、よね」

魔女「……」

商人『あの娘泣いて喜ぶと思いますよ』

魔女「むう……」

弟子「……?」ビク

魔女「あー……うむ、そうだな。言わなければ何も伝わらんよな」

弟子「……!」ビク

魔女「弟子、よく聞きなさい」

弟子「……は、はい」フルフル

魔女「私はな、お前がいるこの生活を本当に幸せに思っている。お前がいるからこそ幸せだと思っている」

弟子「お師匠様……」

魔女「それにだな、私にとってお前は最初で最後の弟子だ。だがそれ以上にだな、そのだな」

弟子「……?」

魔女「私にとってだな。大切というか……目に入れても痛くないというか……」

魔女「自慢の、娘なのだ。私の事を誇りに思うのなら自分にも誇りを持て」

弟子「……」

弟子「……」ブワァッ

……
弟子「すー……すー……」

魔女「泣き疲れたか……」ナデ

魔女「もう七年か……早いものだ」

魔女「私は一体何なのだろうな」

弟子「~~♪ ~~~♪」

魔女「気落ちしているんじゃないかとも思ったが良かった良かった」

弟子「も、もう……あれは悪い夢の所為ですぅ!」

魔女「まあ、そういう事にしておくか。だが私の言葉はその場凌ぎで言ったつもりは無いぞ」

弟子「わ、分ってますよ!」

弟子「……お母さん」ポソ

魔女「ん……?」

弟子「な、なんでもないです!」パタタタ

魔女「……ああ、いかん。何故こうも口元が緩め……ええい、しゃきっとせんか私の顔よ」ニヘラ

弟子「うーん?」ゴソゴソ

弟子「あれー?」ガサガサ

弟子「しまったなぁ……素材の在庫切らしたかぁ」

弟子「お師匠様ー枝が切れましたー」

魔女「枝? ああ、細枝か。変化薬を持ってくるから調達してきておくれ」

弟子「はーい」

魔女「この間は南西だったか。今日は北側に行くといい」

弟子「……んぐ、んぐ、ぷはぁっ。分りましたー」

弟子「う、ぐ! きたぁ!」ボフン

猫「にゃあー」

魔女「……」

魔女「……」モフッモフッ

猫「みゃぁみゃぁ」
弟子(くすぐったいですよお師匠様ー)

弟子(お、見えてきた)シュタタタ

弟子(木々の枝が絡まるように伸びる籠の木)

弟子(この籠状の中心部の枝は細いけど強度があって良い素材になる)ヒョイヒョイ

弟子(けれど人の姿のままでは内部の枝を採取するのが難しいからなー)バキ パク

弟子(採取した枝を外に出しておいて、と)

猫「みやぁ~」
弟子(ただいま戻りましたー)

魔女「ん? ああ、おかえり。部屋は開けてあるよ」

猫「みゃあ」トテテテ
弟子(はーい)

弟子(そろそろかな)ボワン

弟子「服を着て素材取りに行かないと」ババッ

弟子「お師匠様ー素材収集終わりましたー」

魔女「部屋に置いておいてくれ」ペラ

弟子「はーい」パタタタ

弟子「ここらでいいかな」ガサゴソ

弟子「……?」パタタタ

魔女「……」ペラ

弟子(なに読んでいるんだろう?)ソッ

猫画集「にゃーん」

弟子(あたし? あたしの所為でスイッチ入っちゃった? 猫飼うの?)

弟子「……」アミアミ

魔女「籠の方はどうだ?」

弟子「明日には全部出来上がると思います」

魔女「後は魔法をかけて対となる籠を何処に置こうかな」

弟子「台所に置いたら大惨事になっていましたし、貯蔵庫の方がいいんじゃないでしょうか?」

魔女「持っていく籠に入れれば家に置いてある籠に移るのは楽なのだが、如何せん部屋の状況が分らんのがなぁ」

弟子「台所の床一面リンゴ畑は笑えましたけどね」

弟子(今年はドライフルーツも作ってみようかなぁ)ペラ

魔女「本当に料理が好きだな」

弟子「ま、魔道書もちゃんと読んでますよ!?」

魔女「え? いや、そういうつもりで言った訳じゃ……」

弟子「や、薬学も調合資料もちゃんと!」

魔女「だからそういう意味じゃないと」

弟子「フラン!」プスン

弟子「フランベ!」プスン

弟子「サンクト・ペテル!」プスン

弟子「スライサー!」プスン

弟子「ボム!」ドゴォン

弟子「ベノムダスト!!」ズオォォォ

弟子「インフェルノ!!!」ズゴォォォォ

魔女(派手系と闇系、相手を苦しめる魔法に特化、と)カキカキ

弟子「今凄い不当な評価を受けた気が!」

魔女「む、魔物か」

弟子「この周囲に張られている陣って、敵意が無い魔物には効かないんでしたっけ」

魔女「うむ、残念ながらな」

魔女「だが生態系を狂わしたり、畑を荒らされる事は変わらんからな」

魔女「フランボワイエ」キュィン ッドォォォン

弟子「容赦の無い消し炭」

魔女「当然だ」

弟子「へっくしゅ」

魔女「冷えてきたか……そろそろ本格的に冬の準備をしないとだな」

弟子「薪割り場に筋力増強の陣を張っておいて下さいよー」

魔女「いや……肉体労働しなくていいように魔法を学べとあれほど」

弟子「風魔法とか意味が分かりません。何であれでできないのか」ブツブツ

魔女「理解を深めるのだ」

弟子「ちぇー」

弟子「エアカッター!」プスン

弟子「あー……これじゃ何時まで経っても薪の準備が」

弟子「せめて火の魔法がしっかりと使えていれば薪だって」ブツブツ

弟子「あ! エクスプロージョン!!」カッ


弟子「薪いっぱいできましたぁ!」ブスブス

魔女「馬鹿者が」

魔女「今日日、魔物でもこんな事はせんだろう」

弟子「ぶー……」

魔女「さて、私は少し出かけてくるとするか」

弟子「珍しいですね。今日中にお帰りになりますか?」

魔女「ああ、扉の鍵は開けておいてくれ」

弟子「了解ですっ」

魔女「と言っても、北の洞窟に素材を取りに行くだけだがな」

弟子「また北……あたしも行きたいですぅ」

魔女「原生種の魔物が蔓延っているのだ。無闇に殺すわけにもいかんし、来たければインヴィジブルを覚えろ」

弟子「ぶー!」

魔女「……」スタスタ

男「お……やっと見つけられた」ハァ

魔女「どちら様で?」

男「私の事などどうでもいい。さあ、魔王様の下へ」

魔女「貴様、魔族か!」バッ

魔族「? なるほど、そういう事か」

魔女(何故、陣があるのに……いや魔法に耐えた? かわした? 何れにせよ危険だ……)

魔族「手荒な真似などご法度ですが……ここを無事に出るのも難しい」

魔族「ならば、この命に代えてでも貴女を!!」

魔女「それ以上動くな。動けば殺す」チリ

魔族「!」ビリビリ

魔族「しかし、私にも使命が!」バッ



ドゥゥン ポカラン
弟子「?! きのこ雲?! お師匠様何してるんだろう……」

魔女「しまった……捕らえて尋問すれば良かった」

塵「」

魔女「ま、仕方が無いな。それにしても魔王か……私の魔力が目当てだろうか?」

魔女「もう少し陣も強化しておかないといけないな……」

魔女「! まさか弟子の身も!!」

魔女「ああ、何という事だ……どうする? どうしたらいいんだ!」

魔女「ああ……」

魔女「家が吹き飛んでいないといいのだが……」ハラハラ

弟子「ん?」

大鼠「チチィ!」

弟子「これって魔王軍が偵察に使っている非戦闘魔物だったよなぁ」

大鼠「チュチュィ?」

弟子「うーん、こっちおいで。そうそうそうやって外に来て、ボム」

大鼠「ヂュッ」バフッ

弟子「あーやれやれ。後片付けする身にもなってほしいよー」ブツブツ

魔女「ただいま」

弟子「おかえりなさい。何かあったんですか?」

魔女「魔王軍が私を連れ去ろうとした」

弟子「なるほど……こっちは偵察用の魔物が来ましたね」

魔女「その程度で済んだか。良かった……家が吹き飛んでいるんじゃないかと心配したのだぞ」

弟子「だったら転移魔法で戻ってくればいいのに」

魔女「洞窟までは歩かなければならんからな。また一時間の道のりを歩くのはなぁ」

魔女「……因みにその魔物はどうした?」

弟子「外に連れてってボム」

魔女「えぐい」

弟子「リンゴ狩り~リンゴ狩り~」

魔女「今年も豊作だな」

弟子「ですね~……うあああおいしそー」カプッ

弟子「わはーー♪」シャクシャク

魔女「平然とつまみ食いを……まあこれだけあるのだし、今日はいいとするか」ゴシゴシ シャク

魔女「うん、今年も良い味だ。パイの方も期待しているぞ」

弟子「かしこまり!」シャクシャク

魔女「そろそろ帰るか」

弟子「帰ったらリンゴを樽に移しておかないとですねー」


貯蔵庫「改めリンゴ部屋」

魔女「しばらくはリンゴだけ生きていけるな」

弟子「またやってしまいましたね」

魔女「片付けるか」

弟子「はーい」

弟子「で、まあ当然細枝がもう無いんですよね」

魔女「行って来てくれ」スッ

弟子「行って来ますね」グビッ


魔女「……」モフモフモフモフ

猫「にゃあにゃあ」
弟子(お師匠様、目がマジです!)

猫「……」トテテテ
弟子(今日は北西にしようかなぁ)

弟子(お)

白スライム「」ポヨンポヨン

弟子(害意の無い魔物かぁ……魔法陣が効かない襲ってくる事は無いとは言え)

弟子(後でお師匠様に報告しておかないとだな)

弟子(最近多いな……野良魔物討伐とかやった方がいいのかなぁ)

弟子(そういえば白スラって効果延長の魔法を使うんだっけ……支援型だとか)

白スライム「」プルプル

白スライム「」ポァッ

弟子(……)キュォン

弟子(え?)

白スライム「」ポヨンポヨン

弟子(あ、あれ? もしかしてあたし魔法かけられた? 自然解除までだいぶ伸びた?)

弟子(細枝を外に引っ張り出したらお師匠様に解除魔法使ってもらわないと)ダラダラ

野犬A「」スンスン

弟子(え?)

野犬B「グルルル……」

弟子(え? え? 何これ厄日?)

猫「ふにゃああああ!」ダダダダ

野犬A「ガウガウガウ!」ドドド

野犬B「バウバウバウ!」ドドド

弟子(こ、殺され! 死ぬ死ぬ! どっか登れそうな木は!)


魔法「おや、あれは?」

戦士「猫が犬に追いかけられているな」

僧侶「あ……」

勇者「全力で助けるぞ!」ゴゥッ

野犬AB「キューン」ぐったり

勇者「さーもう大丈夫だぞ」ヒョイ

猫「にゃーん」
弟子(た、助かったぁ! 九死に一生とは正にこの事!)

弟子(にしてもこの人たち何なんだろう? 初めて見るなぁ)

魔法「全く、勇者は本当に猫が好きね」

勇者「うへへへ、めんこい奴め」モフモフ

猫「みゃぁ」
弟子(むお、この人上手、あふ、気持ち良ぃ)

勇者「そりゃそりゃぁ!」モフモフモフフフフ

猫「みゃぁみゃぁ」
弟子(ちょ、そこは、あう、だめ、あん!)

戦士「やれやれ……こうなったらしばらく足止めだな」

僧侶「あ、あはは」

勇者「とりゃああああ!」モモモモモフフフフフ

猫「みゃおみゃおみゃぁ」
弟子(これ以上、あ! こんな! あん、あ! だめぇぇ!)

勇者「ふう……」

戦士「ご満悦だな」

猫「みゃぁ……」
弟子(あふ、ぅ、ん)ビクンビクン

戦士「一段落着いた事だし行くぞ」

勇者「えー」

魔法「ほらほら、ショートカットするって言ったのは勇者でしょ」

僧侶「あまり野宿もしたくないですし……」

勇者「ぐ……仕方が無いか。達者でな」

猫「にゃー……」
弟子(野犬なんてそうは見ないのに……という事は他にも群れがいるかも。であれば)

猫「……」トテトテ

勇者「?」

勇者「……」スタスタ

猫「……」トテトテ

戦士「勇者?」

勇者「……」ヒョイ

猫「みゃぁ」
弟子(さ、流石に投げ捨てて置いていかれる……?)

勇者「お母さん、この子飼ってm」

魔法「元の所に返してきなさい」イッラァ

勇者「いいじゃんいいじゃん!」ブーブー

魔法「圧し折るわよ」

勇者「その杖振りかざすものじゃないよ?!」

戦士「むしろ何処を圧し折るつもりなんだ」

猫「みゃぁ」スリスリ
弟子(一先ずこの勇者さんに媚を売っておけばしばらくは……)

勇者「うぐぁ」ブシュッ

僧侶「勇者様?! 何故鼻血を?!」

魔法「にしても随分人慣れしているわね。近くの町から逃げ出したのかしら」

僧侶「それでは町までで。飼い主さんがいてもいなくても、ですかね」

戦士「ああ、そうだ。町行く前にちょっとこの森を探索したいだが」

勇者「ここを……? こんな広大な森をか?」

戦士「ああ、何でも魔女の家があるらしくてな」

魔法「それ、見つけていいものなの?」

戦士「悪い噂が多いらしいが、ここの森に入って帰ってこないという者も聞かんしな」

勇者「おっさんがそう言うのなら俺は構わないぞ」

魔法「野宿したくないんだけどもなぁ」

僧侶「虫、多そうですもんね」

弟子(にしてもこれは思わぬ偶然。これで安全に家に帰れそうだ)

勇者「とりあえず向こうの方角見てみようか」

弟子(あ、真逆)

戦士「手がかりが無いのが難点なんだよな」

弟子(ま、不味い! 何時になったら帰れるのかも分らないし、明日の昼ぐらいまでに帰らないと薬の効果が)

弟子(って切れたらあたし裸じゃん! そ、それだけは阻止しないと!)ジタバタ

勇者「え? うわ!」

猫「にゃーん」
弟子(こっちこっち)

勇者「ほらはぐれたら危ないからこっちに」ヒョイ

猫「みゃ……」
弟子(あー……)

野犬A「ガウ! ガウ!」

野犬B「バウバウ!」

猪「フゴー! フゴー!」

戦士「魔物はいないがこういうのは多いな」

勇者「君は俺の後ろに隠れていろ!」ザッ

猫「みゃぁ」

僧侶「そんな……人を守るような」

勇者「馬鹿やろう! 猫も人も同じ命だ! 俺はこいつを守ると決めた! それだけだ!!」

魔法「言っている事まともそうだけど」

僧侶「ちょっとおかしい気が」

戦士(人の命が猫の命と同等になったのかその逆か……むしろ人の命を超えていそうだな)

猫「みゃぁ……」
弟子(……)

勇者「あー猪肉うめぇー!」

戦士「流石に上手くは捌けなかったがな。勘弁してくれ」

魔法「あら、そうかしら?」

弟子(……あたしならもっと上手に捌いて上手に調理できる)

勇者「さーて、食後の運動だ!」ガシ

猫「みゃあ!」
弟子(ふぁっ!)

勇者「そーら!」モフモフモフフフフ

猫「みゃぁみゃぁ!」
弟子(あっあぅ! あっんっあ~~~っ!)

勇者「……」ナデ ナデ

猫「……」
弟子(~~♪)

戦士「すっげぇフラグ立ちまくりだな」

魔法「ちょ、嫌な事言わないでよ!」

僧侶「そ、そうですよ! 嫌ですそんなの!」

魔法「魔王を倒した勇者が猫を娶って暮らすとか、倫理的に駄目すぎるでしょう!」

僧侶「え? あ? そっち……そ、そうですよ!」

戦士(僧侶……全く異性として得点稼げていない事に気付いていない? それとも諦めていないだけか?)

魔女「……遅い」

魔女「何かあったのか? えーとあの娘につけた探査魔法の標は……これか」キィィン

魔女「? 薬の効果が切れていない? なんだ? 人が数名いるのか」

魔女「昼までに帰ってこなかったら迎えにいくか……」

魔女「……」

魔女「……ここはこんなにも静かだったのだな」

勇者「朝一充電!」モフフフフ

猫「みゃぁぁぁ」
弟子(朝一でまっ、あぅっ! やぁっ!)

魔法「じゃれてないで朝食の準備手伝ってよ」

戦士「全くだ」

僧侶「今日中に魔女の家に着けるといいですね」

魔法「どうかしら……何らかの結界があるっぽいし、魔力を探るのもできないわ」

猫「みゃぁみゃぁ」
弟子(だからこっちだってばー……)

勇者「はいはい、危ないからこっちに」

魔法「もしかしてあの猫、魔女の家に案内しようとしている?」

僧侶「え?!」

戦士「示す方角は同じなのか?」

魔法「大雑把でしかないけどもそうっぽいのよね」

勇者「よっしゃあ! ついて行ってみようぜ!」

戦士「ま、他に手掛かりないしな」

魔女「む……」

魔女「……」スタスタ ガチャ

猫「みゃぁ~~~!」バッ
弟子(お師匠様~~~!)

魔女「ああ、おかえり。無事で何よりだ」ナデナデ

勇者「……ぉぉぅ」

魔法「ガチで凹んでるわね」

僧侶「き、綺麗な女性です」

戦士「いきなりですまないが、貴女がこの森に住む魔女だろうか?」

魔女「如何にも。この娘をここまで連れて来てくれた事、本当に感謝する」

魔女「薬の効果を解いて上げたいので少々待ってはもらえないか?」

戦士「ああ、分っ……薬?」


魔女「お前からもお礼を言いなさい」スッ

弟子「こ、この度はお助け頂き本当にありがとうございます」

僧侶「お、女の子……?」

戦士「……」

魔法「……勇者、あんた確か」

勇者「……」サー

弟子「……勇者、さん」

勇者「は、はい!」

弟子「責任、とってもらえますよね?」キッ

勇者「あばばばばば」

魔女「待て待て何が何やら。……どうかしたのか?」

弟子「この人は猫の姿とは言え、体中をまさぐり弄り倒してきたんです!」

魔女「なんだと!? 私でもそこまでした事無いのに!」

弟子「されても困ります!」

弟子「と、とにかくあたしは勇者さんの手で蹂躙されたも同然です!」

勇者「ま、待て待て待て! 確かに悪かったとは思う! だが所詮猫に対するスキンシップだろう!」

弟子「……ました」ボソ

勇者「え?」

弟子「そのスキンシップとやらで……イ……イカされ続けました」ゴニョゴニョ

勇者「」サー

魔法「変態」

僧侶「最低」

戦士「ペド野郎」

勇者「おっさんが一番辛辣だ!」

魔女「勇者、君だったかね」

勇者「う、は、はい」

魔女「仮にもこの娘が決めた事だ。私からとやかく言う事は無い」

魔女「が、君の身勝手でこの娘が泣くような事があったら、分かっているだろうな」ゴァッ

勇者「ひぃぅ!!」

戦士「なんだこの威圧感……失禁ものだな」

魔僧「……」ガタガタ

弟子「お、お師匠様!」

魔女「お前は少し休んでいなさい。薬の効果が今まで続いていたのなら、身体の負担はかなりのはずだ」

弟子「で、でも命の恩人ですしお客様ですし、お茶出しとかやらな」

魔女「スリーピー」

弟子「あぅ、ぁー……」コテン

魔女「すまない、今少し待っていただけないか?」

戦士「ああ、こちらは構わんさ」

勇者「……」ガタガタ

魔法(未来に絶望している……)

僧侶(勇者様……)

魔女「さて……改めて礼を言わせて貰う。本当にありがとう」

戦士「いや、おかげでここに辿り着けたんだ。こちらも感謝している」

勇者「あ、あの……その、あの娘の年って……」

魔女「ふむ……少しその辺りは説明しておくべきか」

勇者(幼そうに見えてただの童顔低身長! まだワンチャンあるで!)

魔女「あの娘は今年で12歳になるな」

勇者「うっひょーう!」

魔法「はいアウトー」

魔女「あの娘はな、元々孤児院で暮らしていたのだよ」

魔女「だがそこは虐待が酷いところでな……」

戦士「……」

僧侶「そんな……」

魔女「七年ほど前にあの娘は逃げ出してここに辿り着いた。名目上、弟子として迎え入れたのだ」

魔女「まあ……さっきの私の態度で分っているとは思うが、あの娘は私の大切な娘だよ」

勇者「……」

魔女「勇者君、君の人となりは風の噂で十分に知っている。加えてここの暮らしは暇だからな」

魔女「時たま、君達の動向を魔力を通して見ていたりもした」

魔法「あら……?」

僧侶「今さらっと凄い事を……」

魔女「ゴホン。だからこそ、あの娘が君の何に惹かれたのかも、何となくは察しがついている」

勇者「え? お、俺の?」

魔女「あの娘の事、よろしく頼む……」

勇者「……」

魔法「19と12」

戦士「ばれたら未来永劫語り継がれるな。ロリコン勇者。良かったな、ペドにはならんぞ」

勇者「お前ら……」

勇者「……」

魔法「珍しく勇者が物静かだわ」

僧侶「もんもんと悩んでいるようですね……」

戦士「そういや、あんたは一体何時からここに? そもそも魔女というが人間なんだよな?」

魔女「……いや、人間ではないのだろう」

僧侶「と言いますと?」

魔女「私はな、気付いたらこの森にいたのだ。それ以前の記憶が無い」

魔女「それも30年ほど前の話だ」

戦士「そんなにか……」

魔法「とてもそうには……30前後くらいにしか見えないわね」

魔女「何でもここの森は昔はもっと小規模だったという。恐らく、何らかの理由で私は自らの魔力を使い」

魔女「ここの森をこうも大きくしたのだろう。その反動か何かで記憶を失っている。そう解釈している」

戦士「そんな事ありえるのか?」

魔法「規格外過ぎて分らないわよ」

魔女「だろうな。私とて仮説も何も、辻褄を合わせているだけだ」

魔女「だが何者なのかは分らない。あれから全く年を取っていない訳ではないが」

魔女「明らかに人間ではない……恐らく魔族なのだろうな」

僧侶「そうやって……あの娘がここに来るまでお一人で?」

魔女「初めの内は町の人々も悪くはしてくれなかったが、五年も経って不審に思われ」

魔女「八年も経てば化け物扱いだ」

魔法「ま、そりゃあそうよねぇ……」

戦士「……辛くなかったのか?」

魔女「記憶が無いのが幸いだな。大して辛くは思わなかった……が、退屈な日々ではあったな」

弟子「ふぁ……」

勇者「!」ビクッ

魔女「お早う、体の調子はどうだ?」

弟子「見ての通りです!」ムン

魔女「なら、今晩の料理は任せるぞ」

弟子「はい!」

勇者「……」オロオロ

魔法(背筋伸ばせ)ヒソ

僧侶(オドオドしない)ヒソ

戦士(ロリコンネタで強請ったりしないからドーンと行け)ヒソヒソ

勇者(おっさん……)

魔法(GO! GO!)ドン

勇者「おうぅ」

弟子「な、なんですか?」

勇者(無茶振り過ぎる!)

勇者「えー……えっと、その髪留め似合ってるよ」

弟子「……」

勇者「あー……その服似合ってるよ、凄い可愛いよ」

弟子「……」プルプル

勇者(怒ってる?! 怒られる?!)

魔法(12歳に罵られる19歳なるか?)

戦士(なに青い顔してんだ? そこはご褒美だ、ていうキャラだろうがお前は)

僧侶(勇者様、すっごい汗)

弟子「……」カァァァ

勇者「え?」

弟子「……」バッ ダダタタタ..

魔女「ははは、あの娘も異性という立場の相手は初めてだからなー」

勇者「~~~!」カァァァ

戦士「こいつもこいつで異性っていう意味では耐性がないからなぁ」

魔法「? つまりあの娘を異……変態だぁ!」

魔女「そう言えば、君達は何の用事があってここまで来たのだ?」

戦士「用事と言うか秘薬的なものがあればと思ってな」

勇者「魔女の薬……おお、なんだか力が漲りそう」

魔法「せめて魔力が滾るイメージになってほしいのだけど、この脳筋どうしたらいいのかしら」

魔女「あるにはあるぞ?」

魔法「あるの?!」

魔女「服用後三十分は身体能力倍増。但し効果切れ後三時間は行動不能」

勇者「うおぅ……」

魔女「短期決戦がいいのなら累乗強化という薬もある」

勇者「なにそれ格好良い」

戦士「効果は?」

魔女「2の累乗分身体能力強化。2乗で持続時間三十秒、効果後硬直三分」

僧侶「なんだか使いやすそうですね」

魔女「以下累乗事に持続時間は五秒減。硬直は累乗されていくよ」

勇僧「????」

戦士「なんかやばそうな気がするんだが」

魔法「相当やばいわよ……メリットもデメリットも」

魔法「持続三十秒の硬直三分。これが2の2乗、4倍のパワーね」

勇者「ふんふん」

魔法「8倍パワーは持続二十五秒、硬直九分。16倍は二十秒の二十七分」

僧侶「ふむふむ……え?」

魔法「32倍は十五秒の八十一分、64倍は十秒の二百四十三分……四時間ね。ちなみにこれが6乗よ」

勇者「なにこの硬直時間のインフレ」

僧侶「デメリット過ぎます……」

戦士「64倍つっても身体能力だ。生命力が倍になるわけじゃないからな」

魔女「しかし凄まじいぞ。あの娘が木々を薙ぎ倒していくからな」

勇者「なにやってんの?! 大事な娘って言ってなかったっけ?!」

戦士「6乗だったか? 64倍パワーを十秒以内に魔王ぶん殴れれば相当なもんだよな」

魔法「……凄い寒気がしてきた」

勇者「でもそれなら4でも5でも良さそうだけど……五秒の差か」

僧侶「的確に隙に入り込めれば6乗……いえ7乗でぶつかれば」ゴクリ

魔女「まあ、2の5乗でも大したもんだったよ」

魔女「斧を振るえば一太刀のもと、木々が倒れゆく様鬼神の如く」

戦士「おお……」

魔女「一方私は魔法を使った」

勇者「ちょ……」

魔法「待って、流しそうになっていたけどあの娘、魔法使えないの?」

戦士「もうちょい負担の少ないものってないのか?」

魔女「身体能力系は今の二種類だけだな。魔力増幅系ならもっと副作用の少ないものがあるが」

魔女「ドリンク剤で一本で一時間。一日一本までだ」

僧侶「え、栄養ドリンク」

魔法「どのくらい増幅するの?」

魔女「服用者の魔力を1.4倍にしてくれるぞ」

勇者「魔法使いが使ったら凄そうだな」

魔法「そうね……いくつか貰っておこうかしら」

魔女「傷薬はどうだ? どんな致命傷でもたちまち治るものもあるぞ」

僧侶「えぇ?! 凄い!!」

魔女「まあ副作用と三時間は破壊衝動に駆られてバーサーカーと化すが」

戦士「使いづらいな……」

弟子「夕食の支度が整いましたよー」


勇者(うんあれ?)

魔法(勇者だけ一品多い)

僧侶(あれ? 勇者様のおかず?)

戦士(分りやすいデレ方だな)

魔女(私にはそういう事をしてくれなかったのに)ムスゥ

魔女「君達はこれからどうする?」

戦士「買える物は買ったし、俺達は明日にでも発とうと思っている」

魔女「そうか。これが町までの地図だ」

戦士「助かる。魔王を倒したら礼をしに寄らせてもらうよ」

魔女「対価は受け取っているのだが……まあいいか」

魔法「というかあたしはここで魔法や薬学教わりたいぐらいなのよねぇ」

魔女「すまないが弟子はあの娘だけと決めているんだ」

魔女「それにしても、まるで君がリーダーのようだな」

戦士「年長者つーか、もうおっさんだしな」

勇者「夕食、凄い美味かったよ」

弟子「え、あ、ありがとうございます」カァ

勇者「そのさ、片付け、俺も手伝うよ」

弟子「え、そんな!」

勇者「いや手伝わせてくれ、そのなんだ、あれだあれ、あれだから」

弟子「え? へ??」

勇者「あー……俺は君の事、全く知らないからさ。少しでも一緒にいたいんだ」

弟子「あ、う……」カァァァ

戦士「あっちはあっちで仲睦まじい様だし何よりだな」

魔女「お? 二人の事を応援してくれるのか? 母としても嬉しいな」

戦士「俺にしてもあいつはガキの頃から知っているからな」

魔女「ははは、随分と似た境遇だな」


僧侶「な、なんでしょうかこの二組……」

魔法「完全に蚊帳の外ね……」

勇者「……」ピク

勇者(待てよ……この娘は俺の事を慕っている、んだよな)

勇者(つ、つまりこれはあれか合法ロリというやつか!)クワッ

戦士(ちげえ)

勇者(か、軽いスキンシップ……くらいは)ナデ ナデナデ

弟子「!」ビク

弟子「な、何ですか、いきなり撫でないで下さいよ」カァァ

勇者「いや、その……可愛いなと思って」

弟子「~~~~! サンダー!」バリバリィ

翌日
戦士「それでは俺達はこれで」

魔女「ああ、達者でな」

僧侶「魔女さん、お弟子ちゃん、お元気で」

弟子「はい!」

魔法「じゃあね。ま、薬が必要なったらまた来るわ」

魔女「ああ、何時でも来るといい。待っているよ」

勇者「……」

弟子「……」

勇者「君の事とか、まだ頭の中がごちゃごちゃしていてどうしたらいいか分からない」

勇者「だけど君との事はちゃんと考えるつもりだ。だから、せめて魔王を倒すまで待っていて欲しい」

弟子「勇者、さん……」カァ

弟子「はい……あたし、何時までも待っています」

勇者「……うん?」

戦士(見方によってプロポーズ)

魔法(あれ……何時の間にかプロポーズになっている)

僧侶(え? そんな……勇者様)

魔女(この娘確実に勘違いしているな……後でフォローしなくては)

弟子「……」

魔女「行ってしまったな。もしかしてついて行きたかったか?」

弟子「何言ってるんですか。あたしなんて戦力にならないじゃないですか?」

魔女「……」

魔女(エクスプロージョンはどのくらいだったかな……宮廷魔法使いが皆唱えられる訳じゃなかった様な)

弟子「だいたい、あたしみたいな子供じゃ勇者さん達の旅についていけないですし」

魔女「……」

魔女(一人で山の方の生薬採取に出かけたりするよな。頻繁に)

弟子「どうかしました?」

魔女「……いや、無知というか世間を知らない事は恐ろしいなと思ってな」

魔女「それとだな。さっきの勇者君の言っていた事だがな」

魔女「あれはお前と付き合うから待っていてくれ、じゃないからな?」

弟子「へ? そりゃそうでしょう。どうしたらいいか分からないって言ってたじゃないですか」

魔女「? そうか……勘違いしたのは私の方だったか」

弟子「何時までもと言ったって、何十年先って事もないですし」

弟子「むしろここから後何年もかかるって、多分勇者さん生きてらっしゃらないんじゃ……」

魔女「まあ……敵の幹部の数の事やら考えれば、勝敗がどうであれお前の言う通りだな」

弟子「……」ペラ

魔女「……? な! お前が未だ一度も成功しない系統の魔法書に、苦手な調合の本を読んでいるだと!?」

弟子「凄い具体的に貶された気がする! あたしの事、娘だと思っているって言ってくれたのに!」

魔女「いやいや、驚きと共に自発的に苦手分野を克服しようとする。物凄い成長で涙する事も禁じえないぞ」

魔女「そこまで育ってくれて私は……私は」グッ

弟子「本当に涙された!?」

弟子「今日は山菜とか取りに行ってきますね」

魔女「ああ、任せるぞ」


弟子「ん~! いい散歩日和! さぁて山菜に茸に果実に……うー楽しみ!」

弟子「うーん、こっちは梅雨時の土砂崩れで倒木が多いなぁ」

弟子「あの白い塊は……ヤマブシダケ!!」


籠「」カタカタ

魔女「……?」

籠「白いボンボンがログインしました」モコココ

魔女「!?」ビクッ

旅人「すまないがこちらの調合を頼みたい」

魔女「この程度、王都であればできるのではないか?」

旅人「ああいった所では費用が馬鹿にならないんだよ」

弟子「お茶、どうぞー。それって竜樹草ですか?」

魔女「うむ、これから強い対魔防御を得られる薬が作れるのだ」

魔女「ただ工程が面倒だったり、少しだけ難しくミスが許されないところがあるから嫌われているな」

弟子「これ、煮出してお茶にすると美味しいんですよねー」ゴクリ

旅人「お、お茶?! 希少なこれを?!」

魔女「正確には竜樹の傍に生える為竜樹が希少なのだ。が、この森の奥に群生地があるからなぁ」

弟子「え? 十束いくらですか?」

旅人「草そのままだと五千ぐらいはするな」

弟子「」

魔女「調合済みだと場所によっては一万くらいになるかな」

弟子「売りましょうよ! 森のアレ! 少し位平気ですって!」

魔女「そうはいってもな」

弟子「うあああああ! 百束とか平気でお茶にしていたぁぁ!」

旅人「百?!」

魔女「何にせよ私はこれから2,3日篭るから家の事は任せるよ」

魔女「食事は適当に置いておいてくれ」

弟子「三日もかかるんですか?」

魔女「手間隙が無駄にかかるのだよ」

旅人「俺は一旦町に行ってくる。五日後ぐらいにまた訪ねる」

魔女「そうするといい。ここは何分、人々には暇なところだからな」

魔女の部屋「」ガタタガタンガタン

弟子「おぉ……凄い音が。やっぱり大きい設備使うのかな」

弟子「とすると、本当に三日近くはお師匠様は篭りっぱなしか」

弟子「うーん、その間どうしようかなぁ」

弟子「前の回復薬の調合、もう一度見直してみようかなぁ」

弟子「ククリー草の成分を抽出する為には……」ペララ

三日後
魔女「ふう……やれやれ。これでゆっくり長風呂に……」ポンッポンッ

魔女「弟子は調合中か?」ガチャ

弟子「……ふむふむ」

調合器具「」グツグツ ポンッポンッ ピチョンピチョン

魔女「な、なんだこの大掛かりな装置は。なんの調、合? 実験か?」

弟子「この間の中級回復薬の件でちょっと実験をしています?」

魔女「自分で疑問符をつけるな」

魔女(分離する為に加えた生薬の余分な成分を分離する為に更に生薬を……これはどう見ても無限ループだ)

弟子「あと少しな気がするんですけどねー」

魔女「何処をどう見てそう……まあいい。爆発だけはさせないように。私は風呂に入ってくる」

弟子「はーい」

魔女(とは言え、少なくとも見た限りでは最短で分離させようとはしている)

魔女(あの娘は本当に、アホなのか天才なのか……そうか、発想力が飛びぬけているのかもな)

魔女(……やはり料理人としての方が有望な気がするなぁ)

弟子(うーん、あと少しだと思うんだけどな)

弟子(えーとこれとこれの成分は……あ、これで……ふむふむ)

弟子(となると蒸留装置も増やさないと)カチャカチャ

弟子(あ、そうするとあれとこれも……)ゴソゴソ


魔女「部屋二つに跨る調合設備を初めて見たぞ」

弟子「いやーあはは」

魔女「うー寒い」ブル

弟子「おはようございます」

弟子「紅葉もすっかり落ちちゃったし、そろそろ本格的に寒くなりそうですね」

魔女「寒いのは好かんのだがなぁ……」

弟子「今、紅茶淹れますね」

魔女「熱々にしてくれ」

弟子「今日は寒いし何を作るかなー」

弟子「お鍋かなぁ……そうだな、鍋だなぁ」

弟子「何のお肉があったっけ~♪ ありゃ、鮭しかないか」

弟子「鮭、鍋、鮭……何か聞いた事あるような」ペララ


魔女「なんだこの鍋は?」

弟子「北国の郷土料理なんだそうです。ほら、この間買ってきたお味噌あるじゃないですか」

弟子「あれで作る鍋なんですよ。いやー余り余ってて困っていましたが大助かりですね」

旅人「これとこれとこれを下さい」

店員「あいよ! しかし旅人さんなのに、定住しているかのような買い方だな!」

店員「そういやあここに来る旅人って結構そういう人多いな。皆宿屋で自分で料理しているんか?」

旅人「さ、さあ? 他がどうかはちょっと」


旅人「ふー……そろそろ怪しまれそうだなぁ。というか宿屋の客入りとか調べられたら」

旅人「しばらくは早朝に寄って、そのまま出発するって体にした方がいいのかなぁ」

旅人「それだとお肉とか買いにくいなぁ……うーん」

魔女「む……」

弟子「どうかされました?」

魔女「広域に張ってある魔法陣の一部が破壊されたな」

弟子「えぇ?! なんでですか?」

魔女「これは……どうやら魔物の侵攻だな」

弟子「魔王軍!」ブル

弟子「そんななんで……やっぱりお師匠様の魔力が狙い?」

魔女「町を通らず森に入ってくるな。やはり私が狙いなのだろうな」

魔女「連中の耳と同調してみるか」

弟子「さらっと凄い事言い出した……そんな事できるんですか?」

魔女「まあ任せておけ……」キィィン


「この森にいる……人間に組す……な魔力を持った」
「恐ろしい薬を作……滅魔法の研究だとか……分子は排除……」


魔女「ふむ……どうやら私は魔王を討つ手助けをする者だと勘違いされているようだ」

弟子「それ、どう転んでも超危険視されていますよね」

魔女「それもそうだが……だとするとこの間現れた魔族は一体?」

弟子「とととにかくどうにかしないと!」アワワワ

魔女「お前ほどならそうは負けんだろう」

弟子「実戦経験なんてなにもないんですよ?!」

魔女「なら今日は積ませるか。どれ、一人で行って来い」

弟子「うええええ! 死ぬ死ぬ死ぬぅ!」


魔物達「」ジュゥゥゥ

弟子「か、勝てた……」

魔女「ヘルフレイムを7連発した時は鬼かと思ったぞ」

弟子「にしても今のって雑魚の集まりだったんですかねー」

魔女「上級火炎魔法だぞ……耐性が無ければボスクラスでもない限り今ので倒せるだろう」

弟子「へーあんなもんか」

弟子「……」

弟子「あ、あれ? これってあたし達だけで魔王倒せるんじゃ……」

魔女「こちらは物理攻撃能力が低いからなぁ」

魔女「2の7乗をぶち当てられれば、分らんかもしれんな」

弟子「最大累乗?! たった五秒で半日動けないじゃないですか! しかも五秒って……無理じゃないですか」

魔女「ふむ……じゃあ活動時間がもうちょいタイプがいいか?」

弟子「そんなのあったんですか?」

魔女「副作用がきついから彼らには教えていないのがな」

弟子「ぐ、具体的に……」

魔女「3の累乗型だ。3の2乗で持続三十秒、硬直六分だ。以後、累乗毎に持続三秒減、硬直累乗」

弟子「へー……」

弟子(5乗でええと、6の6で36、4乗で216分……)

魔女「21時間半ほどだ」

弟子「うへぇ……」

魔女「まあなんにせよ、私達が出しゃばる訳にもいくまい」

弟子「今更戦うぐらいならって言われちゃいますもんね」

弟子「あれ? じゃあ見てみぬ振りしている今も色々と……」

魔女「本当に私達の力が必要ならば、とっくに王国なりどことなりから使者が来ているであろう」

弟子「やーあたし達の事、そこまで知られていない可能性もあるじゃないですか」

魔女「ならば仕方が無い。私達は救世主でも何でも無いのだ」

魔女「世界全てを考える必要は無い。違うかね?」

弟子「うーん、独善的というかなんというか」

魔女「どこかで割り切り自己保身に走らねば、その人生を世の為に捧げねばならない」

魔女「度合いの差はあれどそういう事だ」

弟子「うひゃあ……雪降ってきちゃった」

魔女「くあ……寒い寒い。やはり冬眠魔法を完成させるべきだったか!」

魔女「弟子よ……私はもうだめだぁ……」

弟子「このぐらいの寒さで何言っているんですか。暖炉に火を入れてきますので、待っていて下さい」

魔女「ううむ……」ブルブル

弟子(お肉もあるし、今日は豚汁にしようかなぁ)

弟子「えっほ、えっほ」ガッショガッショ

弟子「後はここに野菜を入れて、と」モソモソ

弟子「ふいー完成! 早く食べたいなー」

弟子「雪下キャベツはあーまーいー♪ あ、ロールキャベツにしようかな」ガチャ

弟子「うーさぶさぶ。暖炉暖炉ー」

魔女「おかえり。仕込みはできたか?」

弟子「ばっちりです! あ! 越冬させた野菜でお鍋するのもおいしそーだなー」

弟子「お鍋……お鍋……今日は何にしよう。お肉あんまり無いしなぁ。野菜ごった煮? うーん」

弟子「暖炉暖かいなぁ……残ってるお魚を暖炉で焼くかぁ」

魔女「え? なんでそんなアウトドア風なのだ?」

弟子「んん……」ガタガタガタ

弟子「ふあ……うわぁ凄い吹雪。こりゃあ明日は雪かきかなぁ」ビョォォォ

弟子「というか止むのかな……これ」


魔女「む、凄い雪だな」ガタガタブルブル

魔女「うぅ……魔法が切れて部屋も冷えてるし」

魔女「ファイヤーピン」ポポポポポポポポ

魔女「ふう……20個も火の玉があればすぐ温まるだろう」モゾモゾモゾ

弟子「……」ザッザッ

弟子「ふあー……こんなもんでいいかなー」

魔女「雪かき終わったか?」ノソノソ

弟子「何ですかその格好……雪だるまみたいに」

魔女「お前と違って私は寒いのだ」

弟子「というかお師匠様も冬場、もうちょっと手伝って下さいよー!」

魔女「ならばお前ももっと魔法を覚えないか!」

弟子「なるほど! エクスプロ」

魔女「サイレンス」キィン

弟子(勇者さん達、今どこら辺にいるのかなぁ)ボケー

魔女「外など見てどうした?」

弟子「いやーちょっと考え事を……」

魔女「……ほほう、意中の彼の事を思っているとな」

弟子「なんで分るんですか……まあそうなんですけども」

弟子「こんな寒い中でも旅をしているんですよね……」

魔女「もうそろそろ魔王城あたりだろうか」

弟子「場所知っているんですか?」

魔女「私が異質な存在である事は自覚しているからな。気付かれたらどういう形であれ干渉されるだろう」

魔女「敵か味方か分らずとも、調べておくに越した事はないからな」

弟子「……なんかあたしの知っているお師匠様はこの森に引きこもっているイメージですけど」

弟子「以前は凄い活発にあっちこっち移動していたんですか?」

魔女「あー……お前が来た当初は付きっ切りだったからな。やはり昔は一人ゆえの暇を持て余していたのだ」

魔女「今はお前がここにいるからな。遠方に用事を見つけに行く必要が無いのだ」ナデ

魔女「む……」ビリ

弟子「……な、なんなんですかこれ」ビリビリ カッ

魔女「大気が震えるほどの魔力が……散った」オオォォォォン

弟子「み、見て下さい! 北西の空に凄い光が……!」

魔女「……魔王が死んだのだろうか」

弟子「やー……これで死んでないとかは」

魔女「例えば聖剣の封印が解き放たれた、とか」

弟子「壮大すぎますね」

魔女「……」

魔女(先ほどのあれの所為か勇者君達の様子が見られんな)

魔女(まさか木っ端微塵に玉砕した、などという事ではないだろうが……)

魔女(あの娘には黙っておくか。買出しも早めに行かせないと……先延ばしにしたとしてどうしたものか)


弟子「……」

弟子(またここに寄るって言っていたし、早く来ないかなー)ワクワク

弟子「~♪ ~~♪」

魔女(……上機嫌だ。加えて彼らの同行は未だ分らないし)

魔女「はあ……」

弟子「どうされたんですか?」

魔女「ちょっとなぁ……」

弟子「珍しいですね。薬出してきましょうか?」

魔女「体調的な問題ではないから気にする事は無い」

一週間後
弟子「~~♪ ~~~♪」ワクワクドキドキソワソワ

魔女「……」

二週間後
弟子「~♪ ~♪」ワクワクドキドキ

魔女「……」

三週間後
弟子「~♪」ワクワク

魔女「……」

四週間後
弟子「……」

魔女「……」ダラダラ

魔女(やはり問題を先延ばしにするべきでは……いや、そもそも彼らが玉砕した訳では)

魔女(しかし依然、彼らの消息は分らない……というか分からない事だらけだ。一部の魔法そのものが使えない)

弟子「お師匠様?」

魔女「あ、ああ……何でもない」

弟子「……」

魔女「……」ダラダラ

弟子「お師匠様、そんな顔をしないで下さいよ。まだ勇者さん達が討ち死にしたという訳じゃないんですから」

魔女「お前……気付いていたのか」

弟子「あたしだってそれぐらい分りますよ」

魔女「……正直に言うと、私でも彼らの動向が分らないのだ」

弟子「あの日からですか?」

魔女「……あれほどの魔力、魔王によるものなのだろう。その影響と言うか」

魔女「魔力の伝達が阻害されているように思える。しかし、それにしては効果が長い」

魔女「であれば何かしらの問題があると考えるべきだ」

弟子「……それがもしかしたら」

魔女「……」

魔女「可能性が無い訳ではないが、別に理由も存在している」

弟子「?」

魔女「一部魔法が使えなくなっている」

弟子「そうなんですか?」

魔女「転移魔法や伝達魔法等、補助魔法が使えなくなっているのだ」

弟子「へー? お師匠様の相手の様子を見るっていう魔法、勇者さん達以外はどうなんです?」

弟子「ほら、魔物が侵攻した時に同調がどうのって言ったじゃないですか。あれとか」

魔女「ああ、それも使えなくなっている。かと思えば、全ての補助魔法が使えない訳でも無い」

魔女「一体何が何やら、といったところだ」

弟子「なんだか長距離に作用する魔法がダメなんですかね」

魔女「……。!」ガタッ ドダダタタタ..

弟子「……ぇー」

魔女「流石だよ。やはり私は発想が凝り固まっていていけないな」

弟子「距離に関係しているんですか?」

魔女「その線で実験したがどうやら違う側面があるようだ」

弟子「似て非なる、という訳ですか」

魔女「うむ、正確には持続時間だ」

弟子「???」

魔女「……転移魔法や伝達魔法は発動直後即座に作用しているわけではない」

魔女「ある程度の範囲内でのタイムラグの後、その場所に移動したり、相手や場所に伝達させている」

弟子「物質の移動の場合、時空のうねりみたいな所にいて、時間経過を体感できないんでしたっけ」

魔女「その通りだ。で、今回の本題だが、短い間隔で魔力を阻害する強力な魔力が発せられている」

魔女「というのが今の所の見解だな」

弟子「……」

弟子「あのー……あたしの知る限り、そんな馬鹿みたいな魔力って魔王以外って思いつかないんですが」

魔女「そこが謎なのだ。あるいは装置的な何か……とすると失われた古代文明という話になってしまうが」

魔女「魔王が討たれた事によって放たれたであろう魔力、それに共鳴するかのように作動したという可能性」

魔女「あるいは魔王と似た魔力を持つ者が、魔王の魔力に共鳴して発している可能性……」

魔女「最も、後者に至っては元々がかなりの魔力を持った者に限定するからなぁ」

弟子「魔王と言わずともそれぐらい破格の魔力を保持する人かぁ」

魔女「そもそもあれが魔王が死んだ事によるものかも分らんしな」

弟子「?」

魔女「もしも装置なら意図があった上で魔力を発した……そうかあれが、装置の起動によるものかもしれんな」

弟子「……もう机上の空論ですね」

魔女「判断材料が乏しいからな」

魔女「さて……もうしばらく私は自室に篭るとするか」

弟子「今度は何をされるんですか?」

魔女「魔力の発生源を探す。流石にこれでは不便でならんしな」

魔女「発生源を確認次第排除を行う」

弟子「何か手伝える事はありますか?」

魔女「まだまだ寒いからなぁ……暖かい物を作ってくれ」

弟子「了解です!」

数日後
魔女「うーむ」ガササ

弟子「珍しく凄い顔ですね」

魔女「方角の測定を行っているのだが、これがなんともなぁ」

弟子「へー……あれ? 方角がしっちゃかめっちゃかですね」

魔女「うむ……高速で飛び回っているのか。いやあるいは、転移魔法を使いながら発しているのか」

魔女「だとすればやはり装置説のが有力だな……厄介な代物だ」

弟子「次は距離の測定ですか?」

魔女「うーむ……こう向きが変わられるとなぁ。方角なら波紋のように広がる魔力を拾うだけだからいいのだが」

数日後
魔女「???」

弟子「今度はどうしたんですか?」

魔女「恐らく測定失敗なのだろうが、かなり近い位置を示している」

弟子「どれぐらいですか?」

魔女「1km圏内だ……」

弟子「……えぇ~」

魔女「距離の測定とかもっと簡略化できんものか……また設置からか」

魔女「むぅぅぅ」

弟子「うわぁ……今日も測定できなかったんだ」

弟子「それにしても1km内かぁ……」

弟子(まあ確かにここの森でそんなものがびゅんびゅん飛んでても分らないよなぁ)

弟子(おまけに謎魔力を発していると……)

弟子(細かく転移魔法使って遠方に行って、そっから魔法使ったらどうなんだろう)

弟子(というか魔力の発生源ってお師匠様だったりして……まっさかー)

魔女「……」

弟子「どうしたんですか?」

魔女「どうやっても1km圏内の結果になる」

弟子「やっぱりお師匠様が原因だったりして」

魔女「やっぱりだと?」

弟子「いやー規格外の魔力で思い当たるのがお師匠様だけですからね」

魔女「馬鹿を言え……いや、だとしたら私は一体」バタン

男「……はぁ……はぁ」

魔女「なんだ?」

弟子「お、お客様ですか?」

男「もっと早く、気付いていれば……」

弟子「あのー?」

男「貴女が魔女と謳われる方ですね」

魔女「そうだが、君は誰なんだ」

男「やはり覚えて……私は魔王様に仕えている……いえ、仕えていた者の側近です」

弟子「ま、魔王!?」

魔女「……今の言動から察すると、私は魔族側の人物か」

側近「魔族側など……貴女様は魔王様の第一子であられるのですよ!」

弟子「! !」パクパク

魔女「……」

側近「魔王様が憎き勇者どもに討たれた今、貴女様が魔王の座について頂かねばなりません」

弟子「ま、まま、魔王?! お師匠様が?! 長女?! 魔王?!」

魔女「……」

側近「記憶を無くされていて戸惑うかもしれませんが」

魔女「ふ、ふふふ、ふはははははは!」

弟子「お、お師匠様……」

魔女「どうしようか! 魔女から魔王という思わぬクラスチェンジに、流石の私も興奮を隠せないぞ!」

弟子「え? そっちですか?」

側近「さあ、一緒に来て下さい」

魔女「とは言え、そう言われてもなぁ」

弟子「そ、そーだそーだ!」

魔女「もう私は魔女としての人生を歩んでいる。今更魔王の娘で、今すぐ継いでくれというのは無理のある話だとは思わんか?」

側近「姫様の事はずっと探していました。ただ消息が掴めず……ここ一体の魔物の殲滅率」

側近「並びにこの地域で、消息不明になる部隊があまりにも多い」

側近「やっと……やっと姫様の居る可能性の高い場所を見つけたのですよ!」

弟子「や、力説してるけどぶっちゃけこっちは知らんがなって話ですよね?」

魔女「全くだ」

魔女「だいたい何故私はこんな所にいたんだ? 何かしらの経緯は知っているんじゃないのか?」

側近「そ、それは……姫様は人間との和解を望んでおられていて、掌握を望む魔王様と対立をしていまして」

弟子「え? まさかただの家出?」

魔女「壮大な家出だな。つまりここの森は私自身の隠れ蓑の為に魔力で成長させたというところか」

弟子「うわ、ここの成り立ちが凄いしょうもなくなった」

側近「と、とにかく! 今は記憶を無くされているとは言え、貴女様は魔族なのです!」

魔女「というか私自身を苦しめていたあの魔法障害の魔力は私自身だったのかぁ……」

弟子「自覚が無いって事は改善も難しいんですか?」

側近「あ、あのー?」

魔女「まだ何とも分らんな。ただ調査対象が自分になるだけだからな。やり易いと言えばやり易いな」

弟子「でも、魔法障害だなんて原理的に考えられるものなんですか?」

魔女「全く無いわけではない。魔力の伝達を阻害する為だけに放つ魔力と言うのはある」

魔女「勿論かなりの技術力は必要となるし、こんな短い間隔で打ち出し続けるなんて、今までの私では無理だ」

魔女「というか何処までの範囲があるのかが測定が難しすぎるのは一つの難点ではあるな」

弟子「あたしだけどっかに飛ばして測定するとか」

魔女「それにはまず、魔力が放たれる感覚を掴まなくてはな」

側近「む、無視しないで下さい!」

魔女「まだいたのか。帰tt」ガチャ

勇者「どうもー……」フラフラ

戦士「全く、魔法使いが役に立たなくなるたーな」

魔法「あたしじゃなくて魔法そのものよ!」

勇者「だって攻撃魔法とかは使えるじゃん……もう敵がいないのに」

魔法「もう一度燃して差し上げようかしら?」

僧侶「お、落ち着いて下さい」

弟子「……魔王城からって事ですよね」

魔女「うーむ……大陸の三分の一が覆えそうだな」

側近「ゆ、ゆ、勇者! は、ははは! ここが会ったが百年目! 姫様! この者どもを!」

勇者「あれ? どっかで見たような」

戦士「こいつ魔王の側近じゃなかったか?」

魔法「あら……逃げ出したと思ったらこんな所に居たのね」

僧侶「え……姫様?」

魔女「どうも私の事らしい」

勇者「ええぇぇぇ!!」

側近「姫様! 例え魔王に就任なさらずとも、この者達を殺して下さい!」

側近「この者達は貴女の父君の敵なんです!」

魔女「いや、だから私は君達に加担しないぞ。魔王がどうのというのもな」

側近「え?」

魔女「私はこの森に住む魔女だ。父がどうのとか親戚がどうのとか」

魔女「魔族も人間も無い」

勇者(凄い込み入った話中だった?)

戦士(記憶が無いとか言っていたしな)

魔法(あたし達、外に出たほうがいいのかしら?)

僧侶(かなりデリケートな話ですよね……)

魔女「と言うかだな、今更魔王軍に組する訳にもいかんだろ」

弟子「相当な数の魔物を殺しましたもんね」

魔女「だなぁ……その為にこの一帯に、対魔物魔族に攻撃する魔法陣も敷いていた訳だし」

側近「……しかし! そんな……!」

魔女「私はな、魔女であり周囲の人間から畏怖されている」

魔女「それと同時にこの娘の師であり母である。それ以上でも以下でもないのだ」

魔女「そしてそれが何より幸せなんだ。帰ってはくれまいか?」

魔女「君が、いや如何なる者であろうと、私のこの幸せを奪うというのであれば、私は容赦なく叩き潰そう」ゴォ

側近「!!」ブルブル

勇者(うおぁ!)ガタガタ

戦士(魔力やべぇ!)ブル

側近「……」

側近「分りました。姫様がそう仰るのであれば……例え記憶を失くされていても」

側近「我々にとっては姫様です。貴女が貴女の幸せをそう望むのであれば……今後、我々は二度と接触いたしません」

魔女「そうしてくれるとありがたいな」

側近「ただお忘れのないよう。貴女は魔族、それも魔王様の血筋。人間などと矮小な者達と歩む事を止めはしません」

側近「ですが……人間の一生は短いですよ」

魔女「そんなもの……心得ている」

弟子「あー……寿命縮めたり伸ばしたりする薬がやたらと研究されているのはそれかぁ」

魔女「……」ギク

弟子「確かに聞く話の限りじゃ、あたしが二百歳くらいまで生きても、お師匠様生きていそうだしなぁ」

魔女「うー……頃合いを見て話をしようと思ったのに」

弟子「完成しているんですか?!」

魔女「後5年で完全に完成できるぞ」

側近「姫様……貴女と言う人は記憶を失くされても変わらないご様子で……」

弟子「お姫様やっている時からこんなだった?!」

魔女「流石だな私」フフン

弟子「威張れる事、か? いやでも、待って待って」

戦士「ツッコミが追いつかなくなってきたようだし」ズィ

勇者「よく分らんけども、魔王軍はまだ健在しているようだし」

魔法「戦力的も勝っているようだし」

僧侶「詳しい話を聞かせて頂きましょうか」

側近「え……あっ」

魔女「こらこら、こんな所で暴力沙汰は止めてもらえんか?」

勇者「いやでも、こいつ敵軍の幹部なんですよ?」

魔女「側近だったな。今後、魔王軍はどうなる?」

側近「……魔王様には他の子がいません。王家として没落、いえ消滅の形になります」

側近「次の王位をかけて他種族が争う事になるかと思います」

戦士「今の残存戦力でか? 自己消滅のカウントダウンじゃないか?」

側近「私もそう思います。だからこそ姫様には……ですが、もう」

側近「私は魔界に帰ろうと思います。主無き今、人間との戦争もこの地に留まる事も意味を成しません」

魔女「それがいいだろう。どの道、この世界に残る魔物、魔族達は淘汰される一方だろうし」

勇者「というか全員連れて帰ってくれよ。もう軍として機能していないんじゃないの?」

魔法「こいつ以外の幹部、全員倒したものね」

弟子「紅茶淹れますねー」

戦士「とりあえず、あいつがどんだけ他の奴ら引き連れてってくれるかだな」

僧侶「できればもう戦う事がないといいのですが」

勇者「ま、難しいだろうね」

魔法「でもこれで残って内輪揉めって……王宮魔術師達だけで事が済みそうね」

魔女「ま、そうなるだろうな。つまり君達がこれ以上働く必要も無い訳だ」

勇者「やったぜ!」

魔法「え? 遊んで暮らす気?」

勇者「いやまあ、そこまで堕落するつもりはないけどさ」

勇者「というか仕事かーどうしようかな。というかここ、どうやって生計立ててるの? 立てられてるの?」

弟子「顔見知りの商人さんの依頼や、各地で卸す薬の買い付け」

弟子「後は風の噂でやってきて買っていく……勇者さん達スタイルですね」

弟子「他は各地の町だったり近場だったりで薬を売っています」

勇者「基本、薬かぁ」

弟子「?」

勇者「いやさ、ここで暮らす事を視野にいれなきゃというか」ゴニョゴニョ

弟子「!」カァ

魔女「おお、となれば勇者君への仕事の振り方も考えねばなぁ」

魔法「あんた……本気なんだ」

勇者「そりゃさ、その、異性としてってのはまだ難しいけど」

勇者「傍には居てやりたいよね……」

僧侶「あ……勇者様も孤児、なんでしたっけ」

弟子「そうだったんですか?」

勇者「昔の話しだし、弟子ちゃんに比べれば裕福なもんだったけどさ」

魔女(うんうん、いい感じだなぁ。この娘の花嫁姿を見るのもそう遠く無さそうだなぁ)

戦士「……」

戦士「あんたはそういうのはいいのか?」

魔女「私か? ははは、私みたいな者を誰が好き好むというのだね?」

戦士「少なくとも俺は一目惚れしているがな」

弟子「え?!」

勇魔僧「ブゥッ!!」

勇者「げっほごっほげほ、ぅおっさん!」

魔法「ふぅふぅ……まさかそんな直球」

僧侶「そ、そうですよ! いくらなんでも」

魔女「はっははははは! 面白い事を言うなぁ!」

戦士「……」

魔女「はっははは、はぁ、はぁ……ふぅ。そうかぁ……まさかなぁ。恋慕を抱かれたのは何十年ぶりだろうか」

弟子「あるにはあったんですね」

魔女「人間だと思われていた、思っていた頃にな」

魔女「ふむ……貴方自身は信頼に足る方だというのは認識しているが、そうした想いがある訳ではない」

戦士「時間をかけるさ。俺だって今日の明日にどうなるとは思っていないし、一先ず別の場所に居を構えるつもりだ」

勇者「あれ? 俺非常識者?」

弟子「え……あたしは勇者さんと一緒にいたいんですけど」

魔女「いやいや、勇者君はここに居たまえ。この娘も喜ぶし」

魔法「あのさ……盛り上がっている所悪いんだけど、王都に帰るのと別の任務があるでしょ?」

魔女「別の?」

僧侶「恐らくですが、移動魔法が使えなくなっているのでそれの調査が……」

弟子「あー……」

魔女「すまん、それは私が原因だ。何とか事態収拾に努めるからそちらは心配しないでくれ」

戦士「なにやらかしたんだ?」

魔女「魔王の魔力の所為だがこれから本格的に調べるところだ」

勇者「あ、じゃあそれ手伝ってから王都に帰ればいいじゃないか? だってこのまま徒歩で戻るのもだるいし」

戦士「凄いぶっちゃけたが実際そうだから困るな」

魔法「あんた達ね……」

僧侶「あの……差し支えないようでしたらどうでしょうか?」

弟子「測定するのも人手があった方が楽ですよね」

魔女「確かに……。まさか私が依頼する立場になる日が来るとはな」

勇者「……今の凄い発言な気がするんだけど」コソ

弟子「あー……多分、依頼しにいくアテとか遠方に行く用事が無いって意味だと思いますよ」

一ヵ月後
魔女「転移魔法」

勇者「これで成功したらちゃちゃtt」ヒュン


五分後
魔法「伝達魔法」ピピン

勇者<<いきなり海に飛ばされたんだけど新手のイジメ?>>

魔法「成功ですね」

魔女「そうかそうか。これでやっとこの件は片付いたな」フゥ

弟子「あの、お師匠様?」

魔女「おっと、彼を向かいにいってやらないとだったな、転移魔法」ヒュン

戦士「それじゃあちょっくら王都に帰るか」

勇者「やる事やって戻ってくるからね」ナデナデ

弟子「はい!」

魔法「でもそう簡単に戻ってこれるのかしらね」

勇者「転送石貰ったし、いざとなったらこれで逃げ出すさ」

魔女「多くの国から引っ張りダコになるだろうからなぁ」

戦士「……お前、大丈夫か?」

僧侶「……ここまで完敗なら諦めもつきます」フフ

……
弟子「今日も暖かくてい~天気!」ホーホケキョ

弟子「お、ウグイス」

弟子「そうかぁもうそんな季節か。暖かいもんな~」

勇者「お、いたいた」

弟子「勇者さん! お城のほうはもういいんですか?」

勇者「いや~駄目だったんだけど面倒だから抜け出してきちゃった」

弟子「本当に転送石使って逃げてきたんですか……」

勇者「そりゃあね。おっさ、戦士もその内のこの先の町で暮らし始めるってさ」

弟子「戦士さんはまだお城に?」

勇者「俺まで逃げ出したら不味いだろ、ってさ」

弟子「なるほど……」

勇者「弟子ちゃんは、戦士の事をどう思っている?」

弟子「え? うーん、お師匠様とは違ったタイプですけど、大人だなぁって感じですかね」

勇者「いや、そうじゃなくてさ、もしもナニがナニしてナンとやらと言うか……」

弟子「ああ、お師匠様と結婚したら、ですか? うーん、あんまり考えた事無いですけども」

弟子「お父さんってどんな感じか分らないですけど、ああいう人なら信頼できるかなぁ」

弟子「それしても何でそんな事を?」

勇者「何て言えば良いのかな。君にとっては魔女さんは母でもあると思うんだ」

勇者「そんな人物があまり知らない男性と付き合う事をどう思っているんだろうってさ」

勇者「いや、君と俺も似たようなもんだけどさ。戦士もずっと俺の親代わりしてくれていて」

勇者「誰かと付き合ったり結婚の話も無かったみたいだし……俺としては幸せになってほしいというか」

弟子「……」

弟子「あっははははは!」

勇者「え、嘘。笑われた?」

弟子「そ、そうじゃないんですけど、可笑しくって……」

弟子「だって皆が皆お互いの幸せを願っているんですもん」

勇者「え?」

弟子「戦士さんが勇者さんの幸せを願っているなんて見ていて分ります」

勇者「まあ……結構厳しく育てられたけど」

弟子「勇者さんからもそう。あたしだって……そう願っています」

弟子「今の生活で十分幸せだってかわされますが」

勇者「あ、それ何となく分かる」

弟子「そして……お母さんもあたしの幸せを望んでいてくれてます」

勇者「……」

勇者「……うん、そうだね」

弟子「だからなんだか、可笑しくって」

勇者「はは、確かにそう考えると可笑しいな」

魔女「おお、来ていたか」

勇者「あ、お邪魔してます!」

魔女「んー……いや、もうただいまでいいだろう。これからここに住むのだろう?」

勇者「……はい! ただいま戻りました!」

魔女「にしても良かった……あまりにも喋る声が聞こえるから、頭の中まで春になってしまったかと心配したぞ」

弟子「酷くないですか?!」

魔女「そうだな、すまない。何時だって七分咲きだものな」

弟子「え? そう思われていた?!」

魔女「庭の掃除はいいから夕餉の支度をしなさい」

弟子「今から?!」

魔女「今日は豪勢にしていいぞ」

弟子「腕によりをかけて作ります!」ダダ

魔女「ふふ、相変わらず騒がしいな」

勇者「あの……」

魔女「どうかしたかね?」

勇者「……彼女から今の生活が幸せだと聞きました。俺や戦士の存在は、その……」

魔女「来たるべく変化が訪れただけだ。それに君達の事は信頼できる。ならば今、この変化を受け入れるべきだ」

魔女「どうなるかなんて私にも分らん。だからこそ未来を良くしようとするものだ」

魔女「勿論今まで生活を懐かしみ、恋しく思う時もあるだろうが」

魔女「この先、四人の家族になった時、今の三人の家族の時期をそう思えるようになればいい」

魔女「大半の記憶が無い私が言うのもなんだが、そうして前に進むしかないのだよ」

魔女「時間は止まってはくれないのだからね」

勇者「……」

魔女「……へ、変だったか?」

勇者「いえ、凄い大人な事を言われて……何ていうか、うん凄いな」

魔女「君の義父もう似たような事を言うんじゃないか?」

勇者「いやー面と向かっては……ああそうか、そういう事か。ははは、後で弟子ちゃんに話してみよう」

魔女「? あ、待て待て、あの娘にこんな事は言ったりしないぞ、言わないでくれ恥ずかしい」

勇者「ああ……美味しかった。こんなに美味い物、旅の間そうそう食べられなかったからなぁ」

弟子「王宮でいっぱい食べたんじゃないんですか?」

勇者「あれは……高級食材ってだけで味は普通に美味いだけでよく分らないな」

勇者「言ってしまえばよく分らないだな。ほんとにそう。だけど弟子ちゃんのはほんとに美味しい」

勇者「だしがきいているのもよく分るし……うんうん、本当に美味しかった」

弟子「あはは、そう言ってもらえると凄い嬉しいです」

勇者「おっさんが町で暮らし始めたら夕食に誘ってやってもらえると嬉しいなーなんて思ったり……」ゴニョゴニョ

弟子「そうか。そうすればお師匠様と戦士さんの接点も増える……よーし! 勇者さんも協力して下さいよ」

勇者「へ……? おう! じゃあまずは好きな料理をまとめるか!」

弟子『皆が皆お互いの幸せを願っているんですもん』

勇者「はっははは」

弟子「どうしたんですか?」

勇者「いや、本当そうだなって思ってさ」

弟子「???」

弟子「明日から忙しくなるなー」ワクワク

勇者(あれ……今凄い良い雰囲気じゃないか?)

弟子「ん? でも人手は増えてるし、仕事量は減る? うーん?」

勇者(異性としてはとは言ったが……時折見せる仕草が大人びているというか艶かしいというか)ゴクリ

弟子「ま、やれる事をやるしかないか」

勇者(す、少しくらいなら)ギュ

弟子「~~~~~~!」カァァァ

弟子「エクスプロージョン!!」

勇者「えっ」カッ


      魔女「その本を片付けておいてくれ」弟子「はーい」   終

弟子「今日はひつまぶしです!」

魔女「ひつ、ひまつ……なんだって?」

勇者「なんだこれ? 魚かな?」

戦士「鰻の丼、か……それにしても薬味が多いな」

弟子「東の国のとあるお店のものらしいです」

弟子「まあひつまぶしって言うと怒られるらしくて、他所ではひつまむしって言われているそうですけども」

魔女「鰻か……聞いた事はあるが初めて見るな」

勇者「これ、この大きい器から小さいほうに移すのか?」

弟子「そうです。二杯目からは薬味を加えたり、お茶を注いだりするそうですが、緑茶が手に入らなかったんですよねー……」

魔女「ふむふむ。では」ゴクリ

魔弟勇戦「いただきます」
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