異端審問官「私は魔女だ」(180)
王宮
審問官「お初お目にかかります」
王「うむ、貴公が異端審問官か?」
審問官「はい」
王「……このような頼みは恥辱の極み、だがこうするしか手はないのだ」
王「我が息子、王子のことだ」
王「貴公ら異端審問官は魔女を裁く立場にあると聞く」
王「そこで頼みは、森に住む魔女のことだ」
審問官「森の魔女を裁いてくると?」
審問官「しかしながら中には人と助け合い生きている魔女もおります」
審問官「実害がないのであれば我々はなにもすることが出来ません」
王「まぁ待て、話は最後まで聞くがよい」
王「貴公に森の魔女を連れてきてほしいだけだ」
審問官「……?」
魔女の森
審問官「……いささか呆れ果てた」
審問官「息子が魔女に一目惚れだと?」
審問官「それだけならわかるが、自分で行動を起こさないとは……」
審問官「私も暇ではないのだがな……」
審問官「……近くにいるな」
?「貴女は誰?」
審問官「ん?」
?「あ、普通の人間には私の姿は見えないんだった」
?「ごめんなさいね」
審問官「いや、見えているぞ」
?「! ……どういうこと?」
?「貴女何者?」
審問官「私は異端審問官だ」
?「異端審問官……だから私の姿が?」
審問官「君は?」
?「私は……ここに住む魔女様の使い魔よ」
使い魔「異端審問官の方が何のようかしら」
審問官「魔女殿にお会いしたい」
使い魔「ダメよ、魔女様は人が嫌いなの」
審問官「人嫌い? なぜだ?」
使い魔「私が知るわけないじゃない、さぁ帰って帰って」
審問官「どうしてもダメなのか?」
使い魔「ダメ、ただの人間には結界で場所わからないし、魔女と使い魔、及び盟約を交わした人しか入れないの」
審問官「なら問題ない」
使い魔「ふん、だったら勝手にすればいいわ」
使い魔「逆鱗に触れて八つ裂きにされても知らないからね」
審問官「あいつはそんなヤツじゃないさ」
使い魔「魔女様をあいつ呼ばわり!?」
使い魔「信じられない、言い付けてやる!」
審問官「行ってしまったか」
審問官「人間嫌いか……」
審問官「私が生きているとは思わないだろうな……、いや今は急ごう」
魔女の住処
使い魔「魔女様ー!」
魔女「……」
使い魔「聞いてくださいよ、今そこに異端審問官ってヤツが……」
魔女「あぁぁもう!」
魔女「隣でキャンキャン騒がれると失敗するだろーが!」
使い魔「ご、ごめんなさい……」
魔女「錬成術は骨が折れるんだから静かにしてるんだ、わかったな?」
使い魔「は、はい……」
魔女「それと、いつからワタシの使い魔になったんだ? シモベだろう?」
使い魔「聞いてたんですか……」
魔女「お前を使い魔として召喚したのは間違いない」
魔女「が、肩書きはシモベだ、以後間違えるな」
使い魔「はい……」
魔女「ったく……」コポコポ
使い魔「って違うんです!」
魔女「うるっさい!」
魔女「ただの異端審問官だろう? 珍しくない、どうせ居場所なんかわからないさ」
使い魔「……ですけど」
魔女「ワタシに口答えするのか? もういい、向こうに行ってろ!」
使い魔「……」
魔女の森
審問官「これか」
審問官「高位の結界呪文だな」
審問官「……ふんっ!」
パリーン
審問官「だがお前の術は私には効果ないぞ」
審問官「おぉ、美しい森が広がっている……」
審問官「さて……」
魔女の住処
魔女「んー……」
魔女「ワタシほどの大魔女でも失敗は付き物だしな」
魔女「もう一度……」
審問官「おい」
魔女「!!」
魔女「誰だ!」
審問官「私は異端審問官だ」
審問官「魔女殿、わけは後で話す、私と来てくれないか?」
魔女「は、いや……何でここに入れた……?」
審問官「今は話せない」
魔女「答えろ……」シュン!
バシン!
魔女「なっ……」
審問官「私に魔女殿の術は聞かない、私と来てほしい」
魔女「くっ……オマエ人間なのか?」
審問官「さぁな」
審問官「別に処刑しようと言いに来たんじゃないんだ」
審問官「ただ、少しだけ付き合ってほしい」
魔女「……イヤだね、ワタシは人が嫌いなんだ」
審問官「そんなことはないはずだ」
魔女「オマエに何がわかる?」
魔女「それに、なぜ内容を伏せる? 疚しいことがあるからではないのか?」
審問官「ただの話し合いとして、王子と会話してほしいだけだ」
魔女「王子? あのボンクラ坊主と何を?」
審問官「それはわからない、頼む、来てほしい」
魔女「……」
魔女「いいだろう」
魔女「ただし条件がある」
魔女「ワタシは龍の髭で作ったスープが好物でな」
審問官「知っている、それはもう用意してある」
魔女「なっ……」
魔女「いや……ならばこの錬成をしてみろ、無理ならワタシは行かないぞ」
審問官「私は錬成術を学んでいない、だが魔女殿がいくばかやっても成功しないとあらば」
審問官「その原因は記述の見落としだ」
魔女「……そんなはず……」バサバサ
魔女「! ……材料不足……」
審問官「魔女殿のことなら何でも知っている、私と来てくれ」
お昼過ぎに再開します
魔女「……わかっ」
魔女「!」
審問官「どうした?」
魔女「誰かがワタシの森を荒らしてる……」
魔女「使い魔も一緒だ」
審問官「森を……?」
審問官「一体誰が何のために……」
魔女「おいオマエ、ワタシは急ぎこの問題を解決しなきゃならない」
審問官「ならば私も手伝おう」
魔女「へっ、魔法が効かないだけの異端審問官に何が出来る」
魔女「どうせ他の魔女や呪術師に貰った護符のおかげだろう」
魔女「さぁわかったら帰れガキ」
魔女は箒に跨がり森の奥深くへ向かった
審問官「ガキか……」
審問官「こう見えても200は越えてるんだがな」
審問官「あいつもそれくらいだろう……」
審問官「おっとこうしてはいられない」
審問官「早く追わないと……」
審問官「……」シュゥゥン
審問官「向こうか」
森の庭園
魔女「オマエら何してやがる!」
魔女「ここはワタシの縄張りだぞ!」
?「パパ! 来たよ!」
使い魔「ダメ……です……来ちゃ……」
魔女「使い魔!」
?「ねぇ、ねぇ、ホントに奥さんにしていいの?」
??「あぁ、いいとも」
魔女「オマエら……名を名乗れ!」
?「僕ちゃんは王子だよ! 君の花婿さ!」
王子「パパがいつまでたっても連れてきてくれないんだもん、来ちゃった」
王「すまぬな」
魔女の森
審問官「なぜ軍隊があそこに?」
審問官「まさかとは思うが……」
審問官「……! な、やめろ!」
騎士A「これはこれは」
騎士A「どうかなさいましたか?」
審問官「なぜ森に火を放っている!」
審問官「魔女がいるんだぞ!?」
騎士A「王様、王子様もいらっしゃいます」
審問官「な……さ、さらにわからん、なぜ火をつけたのだ」
騎士A「王子様曰く、魔女が守ってくれる、とのこと」
審問官「無茶苦茶だ……」
森の庭園
王子「これ可愛いね、ペットにしよう」
使い魔「うぅ……」
魔女「おい……」
王子「さ、僕ちゃんのお嫁さん、帰ろう!」
魔女「おい!」シュン!
王子「ギャアッ!」
王「おおい! 何をする!」
魔女「ワタシの使い魔を離せ、今ならまだ赦してやる」
王子「い、いいねぇ……強気な子大好きだよ」
審問官「王よ!」
王「お、おう貴公か!」
王「こやつを引っ捕らえてくれ!」
審問官「……なぜここにいるのですか」
王「貴公が遅いから、わざわざ出向いたのだ」
王子「あ、あっちの子も可愛い!」
審問官「黙れ」
王子「ヒッ……」
使い魔「うっ……ぐぅ……!」バタバタ
使い魔「魔女様ー!」ピョーン
魔女「無事か?」
使い魔「はい……ご迷惑おかけしました……」
王子「あ……僕ちゃんのペットが……」
審問官「……私は王の詰める、ボコボコにしてやろう」
魔女「ああ……」
王「おいなぜ我の前に立つ、目標はあっちだぞ!」
審問官「なぜこのようなことをなさったのですか」
審問官「木々の中にも生を受けた者達もおります」
王「それは……」
審問官「遅いと仰られましたが、夕刻にもなっておりません」
審問官「それに、我々異端審問官抜きでの魔女狩りは禁止されているはず」
王「狩りなどと滅相もない!」
王「我はただ……」
審問官「ただ?」
王「王子のためにと……」
審問官「……申し訳ないですが、少々根性の方を叩き直させてもらいます」
審問官「と言っても、少しだけ、感情制御と記憶を弄るだけですが」
王「なにを……」
異端審問官は右手を王の前に広げた
審問官「今の貴方に国を統括する資格はない」
青白い光が王を包み、瞬く間に少年の姿になった
少年「……ここは?」
審問官「君はね、父君の意思を継いで、世界を渡り歩いてるんだ」
審問官「さ、次は西の町と行っていたよ、行きなさい」
少年「父さんの……意思?」
少年「よくわかんないけど行ってみる、またねお姉ちゃん!」
審問官「次はまともに育つのだぞ」
少年「? うん!」
審問官「さて向こうは……」
王子「ごっ……ごべんな……ざい゛……!」
魔女「……」
魔女が右手を振る
王子「アッガァァァ!?」
王子「やべで……やべでぐだざい゛!」
魔女「もう一度チャンスをやる、正真正銘ラストチャンスだ」
魔女「この精神的苦痛から解放されて死ぬか、一生、目、耳、口が聞けぬ状態で生きるか」
魔女「選べ」
王子「どっぢも゛い゛や゛だ……!」
魔女「……そうか」
左手を振る、王子の様子が元に戻っていく
王子「かはっ……はぁはぁ……よ、よくも僕ちゃんを……!」
魔女は身の丈ほどの杖を取り出し、振るった
鋭い刃のついた車輪が5つ現れた
と同時に、王子を中にぶら下げる
魔女「いいか、オマエは絶対に殺さない」
魔女「ワタシの予備の魔力尽きるまでオマエの身体は回復し続ける」
魔女「代わりに、この刃がオマエを八つ裂きにする」
魔女「言っておくが、自害しようとしても無駄だからな」
魔女「予備の魔力は1ヶ月、せいぜい楽しめ」
王子「う、うそ……そんな……あ、あ、……来るな、来るなぁぁぁ!!」
審問官「……やりすぎではないか」
魔女「ワタシの家族をペット呼ばわりされ連れていかれそうになったのにか?」
魔女「飽きたら棄てられ餌にされようともか!?」
魔女「もうイヤなんだよ、ワタシから家族が消えるのは……」
審問官「……」
魔女「……あ、いや、コイツはシモベだ!」
魔女「勘違いするな!」
審問官「何も言っていない」
審問官「だが……あれは幻覚だろう?」
審問官「いっそ一思いに……」
魔女「バカだな、それでは楽しみがないだろ」
魔女「それより、ワタシはオマエに聞きたいことがある」
審問官「なんだ?」
魔女「オマエは何者だ?」
少し空きます
異端審問協会
「都市の方から連絡があったようだぞ」
「またか……」
「これで何度目だ」
「何で追放しないんだ?」
「ちゃんとやり遂げればこれ以上ない成績なんだ」
「エリートは何しても許されるのか」
会長「静かにしろ!」
会長「定例会議だ」
会長「何か報告はないか?」
「今現在、魔女の数が著しく減っているようです」
「魔女狩りが行われているのかと……」
会長「最近ではどこだ」
「氷雪地帯の氷の魔女が何者かに……」
「同時刻、複数の場所での魔女狩りが起きています」
会長「複数犯か……」
会長「しかしながら我々は一般人に手出しはできない」
会長「まずは魔女狩りの連中を調べてくれ」
「「「「はい!」」」」
魔女の住処
審問官「森に囲まれてお茶とは雅なものだな」
魔女「おい、いい加減答えろよ」
魔女「オマエは何者だ?」
魔女「王だかなんだか知らないが、ありゃ立派な魔術じゃねーか」
魔女「人体そのものに影響を与えられるのは高位の魔女のみ」
魔女「何なんだオマエ」
審問官「おいおいな」
魔女「ふざけるな、答えろ」
魔女「力ずくでもいいんだぞ?」
審問官「魔女殿の術は私には効かない、逆もまた然り」
魔女「……」
審問官「今は話せないんだ」
魔女「何か不都合でもあるのか?」
審問官「そうだな、殺されてしまう」
魔女「ふん、まぁいい」
魔女「だがオマエがここにいる理由はもうないだろ?」
魔女「とっとと帰れ」
審問官「数刻で王とご子息が消えたんだ」
審問官「ほとぼりが冷めるまで厄介させてもらう」
魔女「はぁ!? ふざけんな帰れ!」
使い魔「まぁいいじゃないですか、減るもんじゃないし」
魔女「増えるからイヤなんだよ! 帰れ帰れ!」
審問官「ではよろしく、魔女殿」
翌日
魔女「……なぁ」
使い魔「はい?」
魔女「いつまでもここだけと言うのはどうなんだろうな」
使い魔「と言いますと?」
魔女「領地拡大だ!」
魔女「ワタシはこんなところに閉じ込めておけると思うなかれ!」
使い魔「それはいいんですけどー……」
魔女「なんだ?」
使い魔「最近魔女狩りが激しいみたいで……」
魔女「だから?」
使い魔「いつここに来るかわからないから、防衛準備とかー……」
魔女「防衛など三流のすることだ、ワタシは攻める!」
使い魔「……」
審問官「帰ったぞ」
魔女「次はやはりだな……」
使い魔「でもそこ氷の魔女がいますよ?」
魔女「アイツか……」
魔女「……」
魔女「まぁなにも奪い取ればいいと言うものじゃないしな」
審問官「おーい」
魔女「ここに小さな集落がある、そこを支配するとか」
使い魔「そこって40年前になくなったような……」
魔女「あぁぁもう! ならどこがあるんだよ!」
審問官「無視するな!」
魔女「なんだノコノコ戻ってきたのか」
魔女「さっさと出てってくれ」
審問官「なぜそこまで私を邪険に扱うのだ?」
魔女「別にオマエだからではない、人間だからだ」
審問官「魔女殿も人間だろう」
魔女「ハッ、このワタシが人間だって?」
魔女「今回は赦してやる、次言ったら舌を引っこ抜くぞ」
使い魔「まぁまぁ……」
魔女「だがまぁ……」
魔女「本当にオマエが人間なのか、気になるところだが……」
審問官「どうだろうな」
審問官「一体何の話をしてたんだ?」
使い魔「領地拡大よ」
審問官「領地? ここだけじゃ不満なのか?」
魔女「当たり前だ! 魔女にとって領地の数と名誉は比例する!」
魔女「ゆえに偉大なワタシは多くの領地を持っていなければならない!」
審問官「……そうなのか」
審問官「いや待て、魔女殿はここだけしか持っていないのだろう?」
審問官「つまり?」
使い魔「ド底辺」
使い魔「」ピクピク
魔女「ワタシは孤独と静かな空間を愛する、故にワタシが領地を持っていなくても不思議ではない」
審問官「さっきと違うではないか」
魔女「ふん、オマエ、飯の用意をしろ」
審問官「命令するな」
魔女「オマエをワタシの家に置いていることだけでも感謝してもらいたい」
魔女「それと、オマエはどうするんだ、領地拡大に行くか?」
審問官「ほう、連れていってもらえるとは」
魔女「勘違いするな、留守の間盗みを働かれては困るからだ」
審問官「ふふ、なら私も行こう」
翌日
使い魔「いくわよー!」
審問官「どこへ?」
魔女「魔の海岸と呼ばれる場所だ」
魔女「と言うか……オマエ、異端審問協会には戻らないのか?」
審問官「心配ない、有給を3ヶ月取ってある」
魔女「……」
使い魔「ささ、開くわよー!」
審問官「開く?」
魔女「そんなことも知らないのか、無知なキサマに教えてやらんでもないが」
審問官「異空間を繋げて距離を短縮するのか?」
使い魔「せいかーい!」
魔女「チッ」
南の大平原
審問官「ここ……か?」
使い魔「ごめんなさい、何かが邪魔して……」
魔女「……うーん」
魔女「!」
審問官「ん?」
魔女「この気配……」
魔女「どこぞの魔女……か?」
使い魔「この近辺に魔女はいないはずだけど……」
審問官「噂の魔女狩りの奴等か?」
魔女「だとしたらこの魔女の魔力はなんなんだ」
審問官「知らん」
使い魔「あ、誰か来ましたよ!」
空きます
?「妾の尻尾はどこかえ?」
?「のぉ、どこかえ?」
付人「申し訳ございません、未だ発見いたしません」
?「妾の……妾の尻尾……」
付人「あぁ、またか……」
?「探せ、探すのじゃ」
?「妾の唯一にして無二の尻尾」
?「さもなければ次はお主が食われる番じゃ」
付人「なんとしても」
審問官「なんなのだあいつは……」
魔女「アイツもしかして……」
使い魔「お心当たりがありますの?」
魔女「確証はないが……恐らく……」
?「……いる、いるぞえ」
付人「魔女でございますか?」
付人「しかしこのような場所に……」
?「連れてくるのじゃ、妾は休む」
付人「ハッ」
魔女「割れたな」
魔女「使い魔よ、開けるか?」
使い魔「それが……禁の碑石が近くにあるみたいで術が使えません」
魔女「こんなところに開いたのはそのせいか……」
審問官「禁の碑石?」
審問官「それは何かを封印するための物ではないのか?」
魔女「普通はな」
魔女「だが中には特殊な物もある、どっかの魔女自らが造り出したりとかな」
審問官「そうなのか」
魔女「オマエ無知すぎるぞ、少しは本を読め」
審問官「はは、お前が言うか」
魔女「? オマエ?」
審問官「失礼、魔女殿がそんなこと言うとは意外だった」
魔女「……」
使い魔「あーバレるー! こんな小さな岩じゃもう……」
??「オレの領地に何用かな?」
付人「あなたは……」
付人「砂漠の魔女……」
砂魔女「いかにも、オレは砂漠の魔女さ」
付人「砂漠の魔女がなぜこんなところへ」
砂魔女「オレだっていつも茶色な砂ばかりでは飽きるからな」
砂魔女「息抜き用さ」
魔女「チッ、厄介なヤツが出てきたな……」
審問官「何者だ?」
魔女「砂の魔女さ、歴代最年少で大魔女に成り上がったイケスかねぇ女さ」
魔女「まぁワタシの方がより優れ、もっとも若い大魔女だがな」
使い魔「自称ですよね」
魔女「うるさい!」
魔女「アイツらが乳繰りあってるうちに離れるぞ」
審問官「乳繰りあってはないだろう」
魔女「捕まれ、飛ぶぞ」
審問官「術は使えないんだろう?」
魔女「バカ言え、飛ぶこと自体に魔力はない、箒に魔力が込められてるんだ」
魔女「そしてこの禁の碑石は対人用、箒は外れる」
審問官「なるほど」
異端審問官が答えるや否や、魔女は空高く舞い上がりその場を離れた
砂魔女「……あれは……」
砂魔女「くふっ、落ちこぼれの森の魔女じゃないか」
付人「失礼ですが、お付き合い頂きたい」
砂魔女「いいよ、どこだい?」
付人「こちらです」
審問官「わわっ、落ちる!」
魔女「うるさい! 集中出来ん!」
使い魔「大変ね」
審問官「なぜキミは翔べるんだ!?」
魔女「オマっ、動く……どこ触ってんだ!」
魔女「あぁくそ!」
審問官「うわぁぁぁあ!!」
龍の洞窟
審問官「いたた……」
使い魔「大丈夫?」
審問官「私はな……魔女殿は……」
魔女「うっ……ぐぅ……」
審問官「魔女殿!? 私を庇って……?どこを打った!?」
使い魔「魔女様!」
審問官「いけない、水を汲んでくる」
審問官「少し待っていてくれ」
使い魔「でも……」
審問官「大丈夫だ、すぐ戻る」
魔女「だ、ダメ……だ……ここは……龍の……」
魔女「アイ……ツ……死ぬぞ……」
洞窟奥地
チョロチョロ
審問官「……音は聞こえるのだが……」
審問官「錬成術を学んでいれば……いや、素材がないから無理か」
審問官「……ん?」
審問官「……?」
?「キューキュー」
審問官「……これは龍……だが小さいな」
審問官「子竜か?」
審問官「……懐かしい、あなたたちは私の義理の親みたいなものだ……」
審問官「暫く使ってなかったが……龍の言葉はまだわかるか?」
子竜「お姉ちゃんだれ?」
審問官「良かった、覚えていた」
審問官「私は……旅の者だ、連れのために水を探している」
子竜「みず? みずならとーちゃんがいるとこにいっぱいあるよ」
審問官「案内してもらえないか?」
子竜「うん! ついてきて、ついてきて!」
審問官「頼んだぞ」
子竜「あ、でも……」
子竜「とーちゃん人間嫌いなんだ……」
審問官「あなたは平気なのか?」
子竜「うん、ご本でよく見たよ! 会いたかったけど……」
審問官「龍族が人目に触れたら騒ぎだからな……」
子竜「そうなんだ、でもどうしよう」
審問官「大丈夫だ、私なら」
子竜「ホントに? なら行こ! 行こ!」
龍の洞窟
魔女「くっ……自己回復魔法がこんな複雑だったとはな……うぐっ!」
使い魔「無理しないでください」
魔女「だがまずいぞ……アイツ食われてるかもしれん……」
使い魔「ここに何がいるんですか?」
魔女「龍だ、龍、子竜、古龍、それぞれ龍族が住まう洞窟……」
使い魔「そ、そんなところに……」
魔女「……昔ワタシのせいで……」
使い魔「?」
魔女「何でもない、……いてて……治り次第すぐいくぞ……」
使い魔「は、はい……」
空きます
大空洞
審問官「ここか……」
子竜「とーちゃん呼んでくる!」
審問官「わかった」
審問官「……」
審問官「「死なないで、ワタシの初めての親友なの、お願い」……あの言葉がなかったら今ここにいないだろうな」
ワァァァァ!
審問官「!」
審問官「何事だ!」
大空洞 横道
審問官「どうした!」
子竜「たすけて! たすけて!」
龍「フシュー……」
子竜「とーちゃんやめて! 痛い!」
審問官「この方が……」
龍「ダレダ……」
審問官「私は旅の者だ」
龍「ミノガシテヤル……サレ……」
審問官「生憎だがそういうのを黙って見過ごせないのでな」
龍「……フシュー」
子竜「違う! いつものとーちゃんじゃないよ!」
審問官「操られてるのか……ならば誰が……」
?「主かえ?」
?「妾の尻尾は主が持ってるのかえ?」
審問官「……さっきの……」
?「はよぅ返しておくれ、妾の尻尾」
審問官「……貴様がこの方を操っているのか?」
?「尻尾……」
審問官「……気は進まないが力ずくで聞きださせてもらうぞ」
?「妾と闘うのかえ?」
?「死ぬぞ? 主、死ぬぞえ?」
審問官「私は死なない」
洞窟奥地
使い魔「どこでしょう……」
魔女「……向こうに魔女の気配がある」
魔女「まさか砂魔女……?」
魔女「急げ!」
使い魔「ま、待ってくださいー!」
魔女「オマエ、今すぐ禁の碑石を探して壊してこい!」
魔女「いいな!」
使い魔「は、はい!」
大空洞 横道
審問官「はぁっ、はぁっ……」
審問官「しくったな……禁の碑石のことを忘れていたとは……」
?「返すのじゃ、妾の尻尾」
審問官「……!」
審問官「そんなに返してほしいか?」
?「! やはり主か、返すのじゃ!」
審問官「取り引きだ、まずこの龍の術を解け」
?「……尻尾が先じゃ」
審問官「いいや、龍だ」
?「ならよい、そこの小さき竜と共に死ぬがよい!」
子竜「いたいいたぁあい! やめて! やめて!」
龍「コロス、コロス」
審問官「な……やめろ!」
大平原 地下
砂魔女「この場所知っているなんて通だね」
付人「……いえ」
砂魔女「ところで、この禁の碑石は何のため?」
砂魔女「オレの領地で好きなことしないでほしいな」パキーン
付人「……」
砂魔女「あはは、悪いね、力入りすぎちゃった」
付人「いえ……しばしお待ちを」
大空洞 横道
審問官「!」
審問官「今なら……」
魔女「おい!」
審問官「! 魔女殿……もう大丈夫なのか?」
魔女「森の魔女をなめるなよ」
審問官「そうか、よかった……」
魔女「さて……禁の碑石は壊れてるな、使い魔か?」
魔女「おい居候、下がってな」
審問官「居候ではない」
魔女が右手を振ると、辺りが光に満ちた
?「妾の尻尾を返すのじゃ……妾の……妾の……」
魔女「間違いない、アイツは狐の魔女、呪われた魔女だ」
審問官「呪われた?」
魔女「古来の言い伝えだが……」
魔女「万物には極微量ながら魔力が流れ、それを認識し、受け入れた者は強大なる力を得られる」
魔女「アイツはそれの成れの果てだ」
審問官「……分かりやすく伝えてくれ」
魔女「現状の力より多くの魔力を欲し、器が耐えきれなくなった者は呪われるんだ」
魔女「その時、代償として体の一部が持っていかれる」
審問官「つまりあいつは失った尻尾を探して回ってると?」
魔女「元は動物から魔女になるのは稀だ」
魔女「意味もわからず魔力を求め、意味もわからず尻尾を持っていかれたのだろうな」
審問官「だがなぜ人になる?」
審問官「なぜ魔力の使い方を知っている?」
魔女「さっきアイツの側に男がそうだろうな、人間なるのは知らん」
審問官「し、しかし……」
魔女「だぁもう! 話はあとで聞く、今はアイツを倒すだけだ!」
審問官「待て、こっちが先だ」
子竜「あぐっ……あぅ……」
龍「グルルルル……」
魔女「放っておけ、心配ない」
審問官「なっ……」
魔女「ワタシを信じろ、問題ない」
審問官「……嘘だったらただじゃすまんぞ」
魔女「あぁ」
狐魔女「尻尾を返すのじゃああぁぁああ!」
地割れが起こり、足場が崩れる
異端審問官が腰に差さる剣を抜き、斬りかかる
魔女「剣なんて持ってたのかよ!」
魔女が杖を取り出し詠唱を始める
審問官「退魔の剣だ、職業柄人間相手ではないのでな」
魔女の術が狐魔女の足を止め、異端審問官が腕を切り落とす
狐魔女「あぁぁぁあぁあ!?」
魔女「次だ!」
審問官「ああ……っ!?」
魔女「おい居候!?」
審問官「がっ……!」
魔女「クソ、何がどうしたんだ!」
審問官(これは……会長の……!?)
会長「そこまでだ」
魔女「ああ!?」
会長が小さく何かを呟く
狐魔女「あっ!? あぁぁぁあ!?」
黄色い煙を巻き上げ消えて行く
魔女「なっ……」
魔女「何だオマエは!」
審問官「か、かい……ちょう……」
会長「……貴様が森の魔女か」
魔女「……だったら?」
審問官(! 術が解けた!)
異端審問官が魔女に駆け寄り、抱きかかえ逃げる
魔女「な、おい!」
龍の洞窟
審問官「早く……早く!」
魔女「離せ! 何するんだ!」
審問官「使い魔殿!」
審問官「使い魔殿は!?」
使い魔「……」ヒョコ
使い魔「ごめんなさい、禁の碑石見つかりませんでした……」
審問官「それより早く異空間を開け、帰るぞ!」
使い魔「え?」
魔女「おい! 説明しろ!」
審問官「うるさい! 少しは静かにしろ!」
魔女「お……おう」
魔女の住処
審問官「……あの龍族の親子には悪いことをした……」
魔女「ソイツの事はあとで教えてやる、なぜ逃げた?」
審問官「……」
審問官「あの人は私の上司であり、異端審問協会の会長であり」
審問官「私の祖父だ」
魔女「……祖父? 使ってたのは魔女の術だろ?」
審問官「魔術ではなく、呪術だ」
審問官「自分自身が永遠の苦しみを味わう代わりに、強力な術を使えるんだ」
魔女「ほーん」
魔女「で、なぜ逃げた?」
審問官「聞こえなかったのか?」
審問官「狐魔女だかに掛けた呪い……いや、広範囲に掛けた呪い、あれはその中で魔力が強い者から消される術だ」
魔女「ワタシの方が魔力弱かったってのか?」
審問官「違う、掛けられた者の回りから……だ」
審問官「狐魔女は生け贄と言うことだな」
魔女「つまり殺されないために逃げたと?」
審問官「……すまない」
魔女「ケッ……まぁいいさ」
審問官「協会では魔女狩りについての議題が上がっていたと聞く」
審問官「恐らくその件で来たのだろう」
魔女「府に落ちねぇな、呪われた魔女は人を襲うことはあれど、魔女を襲うことはない」
魔女「ちょっかいでも出されなきゃな」
審問官「つまり……」
魔女「まだ裏に誰かいるな……」
南の大平原
砂魔女「……」
付人「……申し訳ない、殺すつもりはなかったのだが……」
砂魔女「……」
付人「狐魔女も亡くなった、次は誰を触媒にしようか……」
魔女の住処
審問官「そ、それで……龍族の親子は……」
魔女「あぁ……残念だが、アイツらは当の昔に死んでいる」
魔女「かもしれない」
審問官「そ、それはどういうことだ?」
魔女「龍と言う種族は唯一魔法が効かない種族だ、だが操られていたと言うことは」
魔女「死んでいたか、その呪術とやらで操られていたか……だ」
魔女「ガキの方も一人じゃ生き抜けられない環境だしな」
審問官「なっ……」
寝ます
数日後
使い魔「あの人、元気ないですねー」
魔女「ふん、うるさい声を聞かなくてせいせいする」
使い魔「……それより魔女様、今日のことですけど」
魔女「あん?」
使い魔「忘れたんですか? 年に一度の魔女会談じゃないですか!」
魔女「ああ、だがなぜワタシが行くんだ?」
魔女「アイツらはワタシのことを魔女にしたくないのだろう?」
魔女「ワタシが行っても門前払いが関の山」
魔女「欠席する」
使い魔「そんな……」
使い魔「せっかく招待状が届いたのに……」
魔女「捨てておけ」
魔女「それより、今日は別の用がある」
使い魔「?」
魔女「異空間を開け、異端審問協会に行く」
魔女「どうも気に食わないことがある」
使い魔「と、仰いますと」
魔女「呪術とやらだ」
使い魔「呪術?」
魔女「少し調べたが……」
魔女「アレはそもそも最初から自分自身に呪いをかけるのではない」
使い魔「え?」
魔女「誰かの呪いをその身に引き受け、且つ魔力で従わせたものが呪術だ」
魔女「結果としては、呪術魔術が使え、強力な業を放てる」
魔女「代償に永久の苦しみを与えられる、諸刃の剣だ」
使い魔「どこが気に食わないんでしょうか」
魔女「祖父だと言っていたが、とても老体に耐えうる苦しみでない」
魔女「故に、呪術者と呼ばれる者は短命、と記してあった」
魔女「おかしくないか?」
使い魔「……たしかに、でも例外と言うことも……」
魔女「それを調べに行くんだ」
森の庭園
審問官「修復したのか……」
審問官「ダメ息子の姿はない、処分したのか?」
審問官「……」
―――――
瀕死の少女「いたい……いた……いよぉ……」
瀕死の少女「だれ……かぁ……ヒグッ」
古龍「……?」
古龍「……!」
瀕死の少女「うっ、うっ……ケホッ……」
―――――
審問官「……本当に申し訳ないことを……グスッ……」
審問官「……うっ……すまない……すまない……」
空きます
異端審問協会
「お、おい、魔女が来たぞ!」
「まさかカチコミか?」
魔女「おい、会長というヤツを出せ」
「な、あいつなに考えてんだ!?」
秘書「森の魔女様ですね、お待ちしておりました」
魔女「待っていた?」
秘書「こちらへ」
魔女「……」
使い魔「魔女様、これは一体……」
魔女「知らん、だがワタシという大魔女にガキ共の浅知恵は通じないさ」
使い魔「は、はぁ……」
会長室
秘書「会長、魔女様がお見栄になられました」
会長「ようこそ、下がっていろ」
秘書「では」
魔女「なぁ、オマエに聞きたいことがあるんだ」
魔女「わざわざ出向いてやったんだ、答えてもらうぞ」
会長「いいだろう、しかし、私の用件を先に聞いてもらいたい」
魔女「何でワタシがオマエの頼みを聞かなくちゃならん」
会長「ハッハッハ、噂に聞いた通り、自己中心的な方だ」
魔女「あん?」
使い魔「魔女様……あれ……」
魔女「退魔の剣……だったか、それがどうした」
使い魔「いえ……その……視線を感じて……」
魔女「思い過ごしだ、黙っていろ」
会長「だが、嫌でも聞いてもらう」
会長「都市に呪われた魔女がでたらしい、そいつを引っ張ってきてほしい」
魔女「あん? オマエがいけばいいだろう、何のための異端審問官だ」
会長「生憎だが、私には別の用があってね」
会長「他の者では心細い、だから頼みたい」
魔女「ケッ知るか」
魔女「それよりワタシの質問だ」
魔女「呪術者と言うものは短命のはず、なぜオマエみたいなジジイが生きてる?」
魔女「なぜあの時ワタシを殺そうとした?」
会長「それを聞いて、貴様に何か得でもあるのか?」
魔女「オオアリだね」
使い魔「魔女様ぁ……」
魔女「ワタシが殺されるような真似はしてないし、今後オマエみたいなヤツが出てきたとき役立つかも知れんからな」
会長「なぜ私が貴様を殺そうとしたか? 勘違いも甚だしい」
会長「私が殺したかったのは孫の方だ、貴様はついでにすぎん」
魔女「ついで……だと?」
使い魔「魔女様ぁ!」
魔女「うるさい! 今取り込み中なんだ!」
会長「そっちの小さな者の方が観察力は優れているようだ」
会長「そして私がなぜ短命ではないのか、それはこいつのおかげだ」
身の丈を裕に越える禍々しく、巨大な剣が魔女の前に塞がる
魔女「なっ……なんだこれは……」
使い魔「に、逃げましょうよ!」
魔女「バカ言え! ここで逃げたら……」
会長「私は鬼と契約して、毎日血を吸わせる代償として不死身の身体を手に入れた」
会長「と言っても、不老ではないがな、身体能力は全盛期以上だ」
魔女「くっ……」
会長「私の頼みを聞いてくれれば、何もせん」
魔女「……嫌だね」
天に手をかざすと、激しい轟音と共に雷が退魔の剣に落ちた
魔女「……足止め程度か……使い魔、開け、仕方ないが撤退だ」
使い魔「はい!」
会長「ハハハ、逃げるか」
会長「だが貴様はまたここにやってくる、絶対にな……」
魔女「そうだな、次あったら手加減なんざしねぇからな」
使い魔「魔女様!」
魔女「チッ」
会長「秘書はいるか」
秘書「はい」
会長「我が孫を見つけ言伝てを頼む」
秘書「畏まりました」
魔女の住処
魔女「くそっ、なんなんだアイツは!」
審問官「どこ行ってたのだ? 夕食の準備は出来ているぞ」
魔女「オマエの祖父はイカれてるな、鬼と契約なんぞ……」
審問官「……会ったのか?」
魔女「あぁ、気になることがあってな」
審問官「……そうか」
魔女「しっかし鬼なんてまだいたのかよ」
審問官「飼っているからな、地下で」
魔女「はぁ?」
審問官「ある一定の基準をクリアした異端審問官は、鬼と契約するんだ」
審問官「生身では魔女達に敵わないからな」
魔女「おかしな連中だ」
魔女「てことはオマエも鬼と契約してんのか?」
審問官「私はしていない、というか出来ない」
魔女「なぜだ?」
審問官「今は話せない」
魔女「またそれかよ……もういい、飯だ飯」
審問官「それより身体は大丈夫か?」
審問官「あの人に耐性のない者が会うと必ず身体を崩すのだが……」
魔女「ワタシは大魔女様だぞ? そんなわけがあるまい」
審問官「ならよいが……」
魔女「……早く飯だせ」
審問官「魔女殿はまだまだ子供だな」
魔女「腹が減れば誰でも不機嫌になるというものだ!」
空きます
夜 魔女の森
?「ここ……なのかな」
?「でも……朝から探してるのに見つからない……」
?「どこにあるのかしら……」
翌朝
魔女「魔女狩りねぇ……結局犯人は誰なんだ?」
使い魔「あの狐魔女が怪しかったですよね」
魔女「前も言ったが呪われた魔女は魔女を襲わない」
魔女「付人らしき男を見つけることが先か……」
使い魔「でも手掛かりは……」
魔女「うーん……」
審問官「魔女殿、行き倒れを見つけた」
魔女「行き倒れ? そんなものをワタシの屋敷に連れ込むな」
審問官「いやしかし……」
使い魔「こ、これは……」
魔女「……なんだ? どうしたんだ?」
審問官「魔女殿はお伽噺は読まないのか?」
魔女「あんなの、子供騙しだろう」
使い魔「昔から難しそうなのしか読まなかったんだよ」
使い魔「読めないくせに」
審問官「だろうな」
魔女「シモベのくせに生意気言うな、アレは敵を欺くためだ」
?「ん……ん」
審問官「起きたようだ」
使い魔「それにしても……」
審問官「本の中だけだと思っていたが……」
審問官「いや、妖精が闊歩してるんだ、不思議ではないのか……?」
魔女「ワタシ抜きに話をするな!」
審問官「魔女殿、この者は所謂神と呼ばれてる者だ」
魔女「……?」
使い魔「いやでも……神様ってあり得ないよね……」
審問官「だが……諸説あるお伽噺の中で、最も代表的な姿形をしているし……」
使い魔「うーん……」
魔女「神……?」
審問官「え?」
審問官「まさか知らない……?この世は神により創られたのだぞ?」
魔女「いや違う」
魔女「全て森羅万象の理により成り立つ」
魔女「コイツが神だかグミだか知らないが、さっさと放り出せ」
使い魔「ちょちょ、魔女様……」
審問官「と言うかどの本にも神やら天使やら出てくるだろう」
魔女「それはその者がつけた名前ではないのか?」
審問官「……」
使い魔「ねぇ、あなたはだれ?」
?「わた……し?」
審問官「水をやった方がいいんじゃないか?」
魔女「世界の創造をした神とやらが水だと?」
使い魔「ま、まぁまぁ」
?「ふぅ、ありがとう」
?「わたしはさっきあなたたちが言っていた神様よ」
?「正式には水の神」
水神「助けてくれてありがとう」
魔女「神とやらにも種類があるのか?」
水神「うん、細かく分けるとね」
審問官「まさか本物だったとはな……」
魔女「ダメだわからん」
魔女「使い魔よ、シモベに頼るのは癪だが神とやらについて説明してくれ」
使い魔「はい! 本とか含めて説明させてもらいます!」
審問官「水神様がここに何用だ? 神様は皆貴殿のような姿なのか?」
水神「わたしの姿はね、最も信仰があり、信者の想像してる姿が反映されるの」
審問官「なるほど、確かに一番大切にしてるものは水だからか……」
水神「今日はちょっと依頼があってきたの」
審問官「神様が森の魔女殿に?」
水神「うん……いくら神といえどもわたしに出来るのは水を操るくらい」
水神「だからね」
審問官「他に頼れる神様は?」
水神「火の神は粗暴だし、風の神は自己中だし、雷の神は気まぐれだし」
水神「地の神は見つからないし……そこで魔女様に頼ろうと思ったの」
水神「ここらで一番魔力が強いのがここだったからね」
審問官「全ての神を合わせたのが魔女殿なのだが……」
審問官「受ける受けないは別として、内容を聞かせてもらいたい」
水神「うん」
審問官「あ、いや、その前になぜ行き倒れを?」
審問官「確かに結界は張ってあるが神様は例外だろう?」
水神「実はその事なの……」
魔女「全て理解した!」
魔女「神の知識ではワタシの右に出るものはおらん!」
使い魔「飲み込みが早くて助かりました」
魔女「それで以来と聞こえたが?」
水神「……わたしの魔力を取り戻してほしいの」
水神「報酬はあなたたちの知りたいことを1つだけ教えてあげること」
水神「ダメかしら……」
審問官「そうか、いくら神様でも魔力がないならただの信仰のある人……」
魔女「魔力だぁ? んなもんどうすることも出来ないだろ」
魔女「それにワタシの知りたいことをオマエが知っているとは思えん」
水神「わたしたち神にはね、自分以外の未来予知が出来るの」
水神「だから……」
魔女「未来予知? だからそもそもわからないのに未来を見たってわからないままの未来だろう?」
水神「そうとも限らないの、もし未来が何もない状態だったら、それとは違う行動をすればいい」
水神「そして運命は常に2択、あるかないか」
水神「だから必ず知りたいことが知れるはず」
魔女「大きく分けて、だろう? 細かく見たら何年先にわからない」
水神「そうならないよう、わたしも手伝うわ」
魔女「……わかった、そこまで言うなら依頼を完遂し、オマエの未来予知とやらを聞こうではないか」
審問官「よし、ならば早速準備しよう」
魔女「魔力を取り戻す、つまり誰かに奪われたと言うことだな?」
水神「うん、この世界の裏側、鏡の世界とも言われてるとこにあるわ」
魔女「どうやって行くんだよ」
水神「わたしが連れてく」
魔女「そうか、で、誰が相手だ?」
水神「大精霊よ」
審問官「精霊? あの温厚なもの達がそのようなことを?」
水神「それが……どうも様子がおかしくて、近況を聞きにいったら……」
魔女「……操られていたか?」
水神「そんな感じがしたわね、でも大精霊を操るなんて……」
魔女「こりゃワタシ達にも関係がありそうだな」
魔女「オマエら仕度しろ! 可及的速やかに事を解決する!」
空きます
北の迷宮
魔女「ここか?」
水神「そうよ、この最奥に大鏡があるの」
異端審問官「待て、先客がいるようだ」
魔女「あん?」
魔女「……ゴーレム?」
?「……」
?「……」
ゴーレムの姿をした者は短く呪文を唱えると霧が辺りを包み始めた
魔女「何しやがった?」
審問官「魔法のようだったが……」
魔女「魔力を使った気配はない、別の何かだ」
水神「恐らくだけど、あれは呪術の類いじゃないかしら」
魔女「また呪術か……」
審問官「呪術? しかしあれは……」
水神「普通呪術って言うのは、相手に害をなす、もしくは自己保身のみの術」
審問官「あぁ……」
魔女「派生があるのか?」
水神「うん、1つだけ例外があるわ」
水神「呪術の発祥が魔法よりも前と言うのは知ってるかしら」
審問官「そんなはずはない」
審問官「私も少しなら知っているが、呪術と言うのは鬼の血を媒介に出来たと言われている」
魔女「だからジジイは鬼との契約で?」
審問官「そうだ、元は鬼、力を結べば本来の力が手にはいる」
審問官「もっとも、鬼の少ない今となっては短命が多いとされているがな」
審問官「そして、鬼の災厄から民を救ったのが魔法使いと言うことだ」
審問官「つまり呪術が先に出来たとは言えない」
水神「半分当たって、半分違うわ」
水神「あなたが話したのは表の歴史、神と、極一部の者しか知らない事実があるの」
魔女「それはなんだ?」
水神「昔々のお話よ」
在るところに一人の女性がいた
その女性はとても可憐で、おしとやかな者だった
そんな彼女が恋をした、相手は若く真面目な青年であった
二人は惹かれ合い、やがて一緒となった
魔女「どこかで聞いた話だが……使い魔、知っているか?」
審問官「使い魔殿は留守であろう」
魔女「チッ……忘れてたな」
何事もなく、順風満帆な日々を過ごしていた彼女達に、悲劇が起こる
夫である青年が不治の病で倒れてしまった
ありとあらゆる方法を模索したが、それは見つかることはなかった
彼女は嘆き悲しみ、ついには外へ出なくなった
審問官「……よくあるような悲しい話だが……」
魔女「ダメだ、思い出せん」
魔女「その女はそれ以来出なくなったのか?」
水神「彼女は世界に害をもたらす大魔女として、世界に福をもたらす呪術師として出てきたわ」
審問官「それは……」
やがて彼女は禁忌を犯した
それしかないと悟ったのか、ただただ方法を探していたのか……
禁忌、それは今までやる者はおらず、確かでさえもなかった
数多の人々を殺害し、感情を捨て、地に埋める
そして別の地で慈愛に満ちた感情で相手に奉仕をする
これを繰り返すことで、人ならざる力を手にする
審問官「あり得ない、不可能だ」
魔女「仮に可能だとしても、身体が持たないはずだが」
水神「心の底から愛する人を失った彼女は、壊れてしまったのかもね」
水神「常人には出来ないけど、異常者なら遂げてしまう、少ないけど例はあるわ」
審問官「……」
いつしか彼女は恐れられ、また、崇められた
世界に害をもたらす大魔女として、世界に福をもたらす呪術師として
しかし彼女にそのような大層な力は与えられなかった
禁忌を犯し、愛する夫を亡くし、彼女は壊れていった
審問官「……しかしこれからどうやって」
魔女「全くもって魔法関連は関係ないな」
水神「そうね、ここからお話は大きく転がるわ」
水神「私達神様の登場よ」
ある夜、彼女は万物に命が宿ることを知った
きっかけは他愛もない、ただの妄想だった
妄想が妄想を生み、確信へと変わっていった
物を異常なまでに大切にし、保管した
独り言のように「あなた……あなた……」と呟く
それから数百年が経ち、九十九神が現れた
審問官「九十九神か……」
魔女「それはアレか? 大切にされた物が擬人化すると言う」
水神「そうよ、彼女の意思を継いだ九十九神が生まれた」
彼女の全てを引き継いだ九十九神は、生まれ変わりと言っても良かった
九十九神は村から村へ足を運び、信者を増やしていった
そして殺戮の限りを尽くした村へは、同じように恐れられ、恐怖の象徴とされた
信仰が高まった九十九神に出来ないことはなかった
愛する人を亡くした者へ不思議な力で前を向かせたり、己も同じような道へ進ませないため
不思議な力を託したり
審問官「なるほど」
審問官「反対に、虐殺をした村へは全く逆のことをして不思議な力を託したと」
魔女「反骨神を育てたってことか?」
水神「そう、だから」
水神「在るものは力を福として扱い、在るものは力を害として扱った」
魔女「ちょっと待て」
魔女「なら同時期に出来たと言うのが本当ではないか?」
審問官「恐らく、不思議な力とは両方とも呪術のことだろう」
審問官「虐殺を促し実行させるほどの強大な力、精神に働きかけるほどの強大な力」
審問官「同じだ」
魔女「……」
水神「そこから先はもうないわね」
水神「次々と力の使い方がわかるものが派生を広げ、こうなった」
魔女「魔法は?」
水神「言ってしまえば、呪術の派生よ」
魔女「そうか……」
審問官「だが自らを永久の苦しみにさせるのは本末転倒ではないか?」
水神「今ほど力を欲するものがいないから、そんなことは起きなかったのよ」
魔女「……ケッ、まぁそんなことはどうでもいい」
魔女「遅くなったが先へ進むぞ」
審問官「だがゴーレムがいる」
魔女「あんなヤツ、ワタシが殺してやる」
審問官「……手の内もわからんのではどうしようもないだろう」
審問官「他の入り口を探そう」
魔女「ヤダね、ワタシはワタシが行くといったらいくんだ」
水神「……やるなら気を付けて、私が前来たときにあんなのはいなかったから……」
魔女「誰にものを言っている、ワタシは大魔女様だ!」
審問官「なら私もだ、行くぞ」
魔女「足引っ張るなよ」
お待たせしました
久々なので口調が変だったり矛盾があるかもしれないです
空きます
霧で視界が曇っていたが
それは相手も同じこと
魔女が右手を振りかざし落雷がゴーレムらしきものに直撃
?「……」
魔女「効いてない……?」
審問官「岩相手に雷は意味がないだろう」
異端審問官が腰から剣を抜き斬りかかる
審問官「!」
?「…………」
審問官「……これは」
魔女「おい! なに突っ立ってるんだ!」
審問官「待て、幻影だ」
魔女「あん……?」
審問官「手応えがない」
魔女「……この霧が原因か?」
審問官「恐らく」
審問官「しかし……」
魔女「どうした?」
審問官「確かに手応えはない、幻影のはずだ」
審問官「だが確かにここにいる」
魔女「オマエ何言ってるんだ? ついに狂ったか?」
審問官「……」
水神「どういうことかしら……」
審問官「わからない」
魔女「ケッ、なにもしてこないなら進むだけだ」
審問官「あ、おい!」
魔女が入り口に入ろうとすると、突然ゴーレムらしきものが呟きだした
審問官「! まずい離れろ!」
直後、あたりに爆発が起こる
?「……」
魔女「間一髪か……」
審問官「そうか、こいつは番人だ」
審問官「この迷宮の、番人だ」
魔女「番人だって?」
審問官「この霧の特性は、敵意の無いものに攻撃は通じない」
審問官「だから私は幻影だと思い込んだ」
審問官「だが実際にはいるんだ」
魔女「つまり戦闘にはならいだと? どうすりゃいいんだよ」
審問官「さっきの爆発を見ただろう、瞬間的だがあいつは敵意を出す」
審問官「狙い目はそこだ」
審問官「私に援護は任せてくれ」
魔女「……フン」
審問官「だが、絶対に私の方を振り向かないでくれ、水神様も」
水神「わかったわ」
魔女「どうだろうな、約束はできんぞ」
審問官「頼む」
―――魔女ちゃん、頼むよー!
魔女「! ……(なぜアイツとコイツが被るんだ……)」
魔女「メンドくさいのは嫌いだ、早く済ませるぞ」
審問官「あぁ」
魔女が入り口に近づくと、番人が呟きだした
魔女「クッ……」
するとどうだろう
魔女と異端審問官以外の全ての時間がスローになった
魔女「これは一体……居候か?」
審問官「チャンスだぞ」
魔女「やっぱりオマエには聞くことがたくさんあるようだな」
審問官「料理なら他に聞けよ」
魔女「ケッ」
番人の回りに魔方陣を作り、火柱が上がる
番人「アァァアアァガァァアアア!!」
悶え苦しみ、やがて煙となり消えた
霧は晴れ、太陽が顔を覗く
水神「あ、あれ?」
水神「何が起きたの?」
審問官「さぁ、行こうか」
魔女「……まぁいい」
魔女「この奥はどうなってるんだ」
水神「へ? あ、あぁ……えーっと」
水神「ひたすら真っ直ぐ進むだけよ」
水神「何が出ても、誘惑されても」
審問官「気を付けよう」
魔女「ハッ、ワタシの魅力で誘惑し返してやる」
審問官「お粗末な胸では無理があろう」
魔女「成長期なんだよワタシは!」
空きます
北の迷宮 迷路
魔女「なんだここは」
審問官「真っ直ぐとは言ってもどこが真っ直ぐなのかわからないな」
広い空間には右側に2つ、左側に2つ、大きな扉があった
水神「真っ直ぐよ、扉がなくとも、真っ直ぐ」
魔女「ぶつかるだろうが」
水神「変人を近寄らせないための加護なのよ」
水神「私には常に正解の道が見えるから、ついてきて」
審問官「にわかには信じがたいな……」
恐る恐る正面の壁に触れると、感触はなく、吸い込まれるように進んでいった
審問官「これは魔法なのか?」
魔女「魔法だ、敵を欺くときに使う防衛術だな」
魔女「ワタシは偉大なる森の魔女だから使うことはないが」
審問官「しかし魔法は魔法で気付かないのか?」
魔女「当たり前だ、つぎはぎの術ならともかく、敵を欺く術を敵にバレたら意味がないからな」
審問官「それもそうか……」
水神「待って」
水神「何かがおかしいわ……」
魔女「何がおかしいんだ」
水神「道が見えないの、誰かが邪魔してるみたいで……」
審問官「誰かが?」
水神「おかしい……前来たときにこんなことなんか……」
魔女「ごちゃごちゃ考えても仕方ないだろう」
魔女「先に邪魔してるヤツを消す、場所をいえ」
水神「だ、ダメよ! 一度道を違えたら二度と出れなくなるかもしれないのよ!?」
魔女「おい、ワタシをそこらの雑魚と一緒にするな」
審問官「私達は先に進まないといけないし、その程度の危険なら日常茶飯事だ」
水神「でも……」
魔女「早く言え、気は長い方じゃないんだ」
空きます
審問官「待て、真っ直ぐ進めばいいのではないのか?」
魔女「オマエはバカか?」
魔女「誰かが正面の道を塞いでるんだろう、例え先客がいたとしても妨害されてなければ進めるはずだ」
魔女「このチンチクリンがわざわざ言い出したのは進めなくなったと解釈するのが定石だろう居候」
審問官「……」
水神「わかったわ、ただ場所が複雑すぎて詳しくはわからないの」
水神「いえ、場所まで行く道筋が、といった方がいいわね」
魔女「ここ全体に加護魔法が掛けられているのか?」
水神「ええ」
審問官「仕方あるまい、手探りで進もう」
北の迷宮 空洞
魔女「さて、ここから次はどうやって進むんだ」
水神「戻るわよ」
魔女「は?」
審問官「まさかとは思うが……」
審問官「ここの部屋というか空間はそれぞれ繋がってはいないのか?」
魔女「切り離された空間をワープしてると?」
水神「そう、だから二度と出れなくなるかもしれない迷宮」
魔女「そういうことか……」
北の迷宮 闇
審問官「な、何も見えない……」
魔女「ケッ、灯りがないなら出すまでだ」
魔女が手を振りかけると水の神に止められた
水神「ダメ、ここは魔法を使うとたちまち地獄に落とされるわ」
審問官「じご……」
魔女「地獄? なんだそれは」
審問官「神様のことを教わったのではないのか?」
魔女「神とやらのみだ」
審問官「……地獄と言うのは生前悪事を働いたものが落ちる、言わば魔界のようなところだ」
魔女「魔界だと? 一体何千年前の話をしている」
審問官「恐ろしいところだと思ってくれ」
魔女「それに死んだものは地に還り転生するものだ」
審問官「どう説明したら……」
水神「私達神様がいるように、反対に悪魔と名乗る悪い奴等もいるの」
水神「地に還り、転生する間に魂を奴等の住処に連れていってしまう」
水神「そして生前犯した罪に比例した罰を与えられる場所、そこが地獄よ」
魔女「なるほどな」
水神「そしてここはその悪魔が好む闇を造り出した空間」
水神「気に障ることをすればつれてかれるわ」
魔女「死んでないのにか?」
水神「……半分死んでるようなものよ」
審問官「そ、それは……」
水神「手を繋いで、ゆっくり行くわよ」
北の迷宮 龍
水神「もう少し……のはず」
審問官「アレは……」
魔女「懐かしいな、子供の頃空を翔けていた古龍ではないか」
魔女「なぜここにいるのかは知らんが」
水神「知ってるの?」
魔女「ずっと昔な、目の傷には覚えがある、ワタシがつけたんだ」
水神「彼は偉大な古龍だったわ」
水神「力の半分を人間に与え魔女として育てたことが、災いしてここに封印されたのだけど」
審問官「……」
魔女「フン、人間が魔女になれるはずないだろう」
魔女「アレは才能か、魔女と盟約の儀を交わさない限りな」
審問官「そろそろか?」
水神「うん、ここを抜けたらひたすら上へ向かうわよ」
北の迷宮 天
水神「確認だけど、空は飛べる?」
魔女「当たり前だ」
水神「速さは?」
審問官「期待しない方がいいだろうな」
水神「……最高時速で飛んでね、追い付かれたら終わりよ」
魔女「追い付かれたら?」
審問官「?」
水神「飛んで!」
水の神が一瞬で豆のような大きさになるほど天へかけ上った
反射的に魔女も箒を出し空へ飛んだ
水神「遅い! もっと速く!」
魔女「何を焦ってるんだ?」
審問官「魔女殿! 魔女殿! 影が! 人が!」
魔女「はぁ?」
下を見ると、人の形をした影が無数に追ってきていた
審問官「ひぃぃっ!」
魔女「ビビりすぎだ」
水神「捕まったら仲間入りだからね!」
審問官「速く!」
魔女「急かすな! いくら大魔女と言えど苦手分野はあるんだ!」
それなりのスピードは出ていたが、まだ遅かった
異端審問官が箒を軽く撫でる
するとあっという間に水の神を抜き去り大広間に出た
魔女「おぉ?」
審問官「死ぬかと思った……」
魔女「なんだなんだ……いきなりスピードと安定感が……」
水神「なにはともあれ助かって良かった……」
水神「さぁきを引き締めて」
水神「敵は目の前よ」
審問官「まだ敵とは……」
魔女「??」
審問官「魔女殿、行くぞ」
魔女「???」
審問官「魔女殿!」
魔女「うるさい! 箒がおかしくなったかもしれないんだぞ!」
審問官「大丈夫だろう、行くぞ」
空きます
北の迷宮 大広間
?「……なぜ君がここにいる」
審問官「ん?」
魔女「チッ」
魔女「誰かと思ったら氷の魔女様じゃないか、オマエが犯人か?」
氷魔女「犯人?」
魔女「オマエが大精霊を操った犯人かと聞いたんだウスノロ」
氷魔女「ふふ、随分と偉くなったもんだね」
氷魔女「君が僕の領域でさまよってたのを保護したのは誰だっけ?」
魔女「誰も助けろなんて言わなかったはずだが」
氷魔女「そりゃあそうさ、あれだけボロボロだったんだから口も聞けるはずない」
審問官「魔女殿、あちらの小さい方は?」
魔女「いけすかない野郎だ」
氷魔女「野郎なんて言わないでおくれよ、これでも僕は純潔のままなんだ」
審問官「と、とにかく、貴殿はなぜここに?」
氷魔女「知りたいかい?」
魔女「3秒以内に答えろ、じゃなきゃ殺してやる」
氷魔女「君の師匠に敵うとでも? 思い上がりも甚だしいね」
審問官「師匠?」
氷魔女「僕がここに来たのは各地で広がっている魔女狩りの調査さ」
魔女「こことなんの関係がある」
氷魔女「秘密さ、じゃあね」
身も心も凍るような冷たい風が辺りに吹き、氷の魔女は消えた
審問官「行ってしまったか……」
審問官「だが氷魔女殿が犯人ではないようだな」
魔女「言いたいことだけ言って消えやがって」
水神「あれ……邪魔がなくなったみたい……」
魔女「不可思議なことをしたのはアイツだったようだな」
審問官「では進もうか、戻れるのか?」
水神「ええ、何とか……でもこの中から外へ出るなんて不可能のはずなんだけど……」
魔女「このデカイのがいつからあるか知らんが、アイツは古代の魔法術を中心に使う」
魔女「古代魔法による抜け道があるのかもな」
審問官「一体何者なんだ……」
水神「とりあえず行きましょ」
北の迷宮 迷路奥
審問官「氷魔女殿に拾われたとはどういうことだ?」
魔女「覚えてないな、そんな昔のこと」
審問官「満身創痍の出来事を忘れたのか」
魔女「アイツのとこではそれが茶飯事だったからな」
魔女「アイツに感謝してるのは使える魔法の幅が広がったくらいだ」
審問官「ほう」
魔女「氷の魔女のくせに炎だの雷だの使えるからな、おかしなヤツだ」
審問官「魔女殿にも出来なかったことはあるんだな」
魔女「出来ないんじゃない、やらないだけだ、以後気を付けろ」
水神「次で最後よ」
北の迷宮 誘惑
水神「闇の所でもそうだけど、ここは次に気を付けてほしい場所よ」
水神「取り込まれないで」
審問官「それは……?」
水神「この中で……神である私は除外だけど、あなた達二人の中で心の闇が広い人に誘惑がかかるわ」
水神「それに負けたら一生元には戻らない、気を付けて」
審問官「……」
魔女「ワタシに闇なぞ……っ!?」
審問官「魔女殿! ……っ!」
魔女と異端審問官がその場に倒れた
水神「!? 二人とも!? ……そんなどういうこと?」
水神「……理由はわからないけど、無事戻ってね……」
森の魔女side
「いたた……なんだなんだ……」
「心なぞ言うから精神的かと思いきや……」
少女「魔女ちゃん、どうしたの?」
「!」
「お、オマエは……」
少女「私には名前があるんだから、もう変なアダ名つけないでよー」
「どういことだ……なぜオマエがここに……」
「オマエはあの時!」
少女「起きてよー!」
?「うー……うるさいなー……」
「これは……昔の私か?」
小魔女「あねきからにげてくたびれたんだ、寝かしてくれよ……」
少女「ダメ!」
少女「私とあそぶやくそくしたもん!」
小魔女「あしたー……」
少女「いーまー!」
小魔女「わかった、わかったからー……グー」
少女「ねーるーなー!」
「……ワタシの過去を見せ付けて何がしたいんだ」
森の丘 花畑
小魔女「わー!」
少女「きれいでしょー、この前見つけたんだ」
小魔女「スゴイスゴイ!」
少女「私たちの秘密の場所だよ?」
小魔女「うん!」
小魔女「そうだ、見つからないよう魔法をかけようかな」
少女「ほんと!?」
小魔女「うん、待ってて……」
小魔女が一生懸命詠唱すると、綺麗なベールが一帯を包んだ
小魔女「これでよし!」
「……そうだ、このあとだった」
「……」
異端審問官side
「……いつつ」
「ここは……」
小魔女「トンボ、遊びにいこ」
「!」
「魔女殿……?」
少女「私トンボじゃないもん!」
「おぉ、昔の私だ……」
小魔女「だってトンボつけて寝てたし……」
少女「勝手についただけ!」
少女「ふんだ!」
小魔女「おこっちゃった? ごめんね?」
少女「ふーん」
「懐かしいな、大体何が起きて何をされるか読めたが見てるとしよう」
少女「私もうあそばないもん!」
小魔女「あ、待ってよー!」
「行き先は確か……あの花畑か」
森の丘 花畑
小魔女「少女ちゃーん!」
小魔女「どこー?」
「……私が早く出ていけばあんなことにはならなかったんだ」
森の魔女side
?「ねぇ、少女ちゃんがいなくなったみたいなの」
?「あなた今朝遊びに誘ってたわよね」
小魔女「フン、あんなヤツもうしらない!」
小魔女「トンボって言っただけでおこっちゃうんだもん」
?「……最後に見たのはどこ?」
小魔女「しらない」
?「答えなさい」
小魔女「……私達の秘密の場所……」
?「……よく遊びにいってる花畑ね?」
?「ついてきなさい」
「そうだ、あの時怒って帰らなければ……」
「……」
森の丘
?「見当たらない……どういこと?」
小魔女「……」
?「あなた魔法をかけたの?」
?「今すぐ解きなさい」
小魔女「ワタシ悪くないもん!」
?「わがまま言わないで、早く解いて?」
?「取り返しがつかなくなるかも知れないのよ?」
小魔女「…………悪くないもん」
?「……まず魔法を解いて、それからにしましょう?」
小魔女「……」
小魔女が短く詠唱し、ベールが剥がれる
「……この時にワタシに力があれば……」
空きます
異端審問官side
「そうだ、私はずっとここにいたんだ」
「見つけてくれると信じて」
少女「……こない……」
少女「もうおそとくらい……かえろうかな……」
少女「……もう少しだけ……」
「…………」
不意に背中が熱くなり、激痛が少女を襲う
少女「っ!?」
少女の10倍、いやそれ以上の大きさの怪鳥・グリフォンが鋭い爪を血で湿らしていた
少女「あっ……あぁっ……げほっごほっ!?」
グリフォンは大きく前足をあげると少女の顔の横を叩きつけた
少女「ひっ、やっ……あ……」
すると奥から聞き慣れた声が聞こえた
小魔女「はなせばけものぉぉ!」
小さい身体には合わない 大きな杖を持ち、魔法をかける
だが火の玉のような魔術しか出なかった
「いくらあいつでも、苦手はあるもんな」
「このあとは本当に奇跡としか言えなかったな」
森の魔女side
ベールが剥がれると、目の前に広がったのは怪鳥が少女を襲っているところだった
?「!」
?「た、大変……人を呼んでくるわ!」
?「私には魔法は使えない、だからこれはお守りよ」
?「すぐ戻るから」
女はそういうと駆け足で丘を下る
託されたお守りは死んだ祖母が使っていたと言う大杖
小魔女「こ、これなら……」
「……こんなものを見せて何がしたい……」
小魔女「はなせばけものぉぉ!」
詠唱すると小さな火の玉が怪鳥めがけて飛ぶ
少女「うあっ……あぐぁ……」
少女はもう虫の息だった
少女を横目に、怪鳥を連続して狙う
小魔女「はなれろぉぉぉ!」
対象が小魔女に切り替わる
だがここで悲劇が怒った
怪鳥は連続して飛ぶ火の玉を避けた
そして少女の近くに落ちた
小さい爆発音と共に少女は渓谷へと落ちていった
「…………クソ!」
異端審問官side
『お前は恨んでいるだろう?』
『自分を見捨て、罪悪感からか戻ってきたにも関わらず、止めを差されかけたあいつに』
「……やっと終わりか?」
「さて、貴公の考えは勘違いも甚だしいな」
『なに?』
「私は彼女を恨んだ覚えはない」
「そもそもだ、人間と魔女がいつまでも共にいるなど不可能だ」
「彼女の最後の魔法で渓谷へと落ちても、私の中では感謝している」
「普通に生きてたら学べないことも、学べたしな」
『だがあいつさえいなければもっとマシな人生を送れただろう』
「たらればの話をここでする気はない、それに彼女がいない人生なんぞ、無に等しい」
「言いたかったのはそれだけか?」
『クク……お前に効果はなかったようだが、あいつはどうかな?』
「さぁな、だが、私はもうお別れなしに離れないと決めている」
森の魔女side
少女「お前が殺した」
「やめろ……」
少女「お前が私を奈落に突き落とした」
少女「まだ生きたかったのに」
少女「まだ死にたくなかったのに」
少女「魔女から見たらたかが数十年、その数十年を奪った、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し」
「やめろ……やめろ……」
「どうにもできなかったんだ……やめてくれ……」
少女「人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し」
『全てはお前と出会ったせいだ』
少女「お前と会わなければ私は幸せだった」
『他人の人生を奪い』
少女「自分の人生を謳歌し」
『罪悪感に苦しむ振りをする』
少女「死ねばいいのに」
「……違うんだよ……違うんだよぉ……うっ……グスッ……」
『泣けば終わると思うな』
少女「お前が死ぬまで終わらない」
「うっ……うぅっ……」
「どうすれば……どうすればいいんだよ……」
『死ね』
少女「死ね」
『死ね、死ね、死ね』
少女「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」
「……………………………………………………………」
審問官「いつまでクヨクヨしてるんだ魔女殿、戻るぞ」
空きます
魔女「オマエ……なぜここに……」
審問官「おい貴様、あらぬ嘘を吹き込むな」
審問官「その可愛くて綺麗な少女は生きている」
魔女「なんだと……?」
魔女「なぜオマエがそれを知る、なぜオマエがソイツを知っている……」
審問官「何故だろうな、だがこんなところでモタモタする気はない、行こう」
『……お前はそれを望むのか?』
少女「お前から日常を奪ったそいつを赦すのか?」
審問官「二度同じことを言わせるな」
魔女「……?」
審問官「さっさとこのくだらない幻視を解け、さもなくば実力行使も吝かではないぞ」
『クク……いいだろう』
少女「お前の強き心は見事我らを打ち破った」
『戻るがいい』
空間が歪み、渦のように辺りが回る
審問官「魔女殿に悪いが、まだ時期ではないのでな」
審問官「見たことをいじらせてもらう」
魔女「ま、まて……オマエ……まさか……」
一点の光もなくなり、二人の意識は現在へと引き戻された
北の迷宮 誘惑
審問官「……戻ったか……」
魔女「……何が起きたんだ?」
審問官「よくわからない」
魔女「重大な事を知った気がするんだが……」
水神「二人とも戻ったのね!」
審問官「もう、大丈夫なのか?」
水神「ええ、病み上がりでもうしわけないけど行きましょう」
魔女「……まぁいい、者共、ワタシに続け!」
北の迷宮 大鏡の間
水神「ここから先は今まで神と選ばれた者しか立ち入ることは出来ない空間」
水神「気を引き締めてね」
魔女「フン」
審問官「大精霊を操る人物か……」
審問官「……もしかして古代魔法とやらで可能じゃないのか?」
魔女「有り得ん、操作系の魔術はあれど、対象は意思を持たぬ物などだ」
審問官「そうか……」
水神「推測だけど、これも呪術が関係してるのかしら」
審問官「呪術の常識ではあり得ないが、入口の件もある、否定は出来ない」
魔女「ウダウダ言ってないで行くぞ、シモベ共」
審問官「神までシモベか……」
亜空間
鏡を抜け、目の前に広がるはお伽噺に出てくるような幻想的風景だった
審問官「おぉ……」
魔女「……」
審問官「魔女殿はこのような場所はお好きか?」
魔女「キライだ」
審問官「そ、そうか」
水神「確かに今でも綺麗よね、でも空を見上げて」
見上げると、紅くドス黒い空が広がっていた
審問官「これは……」
魔女「大精霊の影響か、義理などはないが急ぐとしよう」
可憐な花や美しい泉の道を進んでいると、何やら人影があった
亜空間の番人・キメラに教われてるようだった
?「た、たすけてほしいだー!」
審問官「!」
審問官「魔女殿!」
走ろうとする異端審問官を魔女は止めた
魔女「待て、おかしいぞ」
審問官「おかしい?」
魔女「ここは選ばれた者しか立ち入ることは出来ない、だろ?」
魔女「精霊達の姿は知っている、あんな小汚なくなどない」
水神「その通りよ、もしかしたら誰か操っている人の仲間かも、番人が動いているし……」
?「ひぃーっ! だれがー! だれがたすけてくんろー!」
審問官「しかし……」
魔女「はぁ……」
魔女が姿隠しの術を小さく唱える
?「だれ……ん?」
?「消えだ……?」
?「逃げちまっただべか」
人影はそう呟くとキメラを首を掴んでどこかへ行ってしまった
―――――
審問官「なっ……」
魔女「ほう」
魔女「あの化け物は元から死んでたのを魔法で操ってたのか」
水神「あ、ありえない……番人を殺すなんて……」
魔女「なんだ、死なないみたいな言い方だな」
水神「数多の世界と繋がっている彼を殺すのは不可能なのよ……」
審問官「では一体どういう……」
魔女「直接聞けばわかる話だ、追うぞ」
魔女「この術では動けない、解いたら心して進めよ」
そういうと魔女は姿現しの術を唱えた
空きます
亜空間 教会
?「何をしてるだ?」
付人「いえ、他愛もないことで」
付人「いかがですか、調子のほうは」
?「お前さんからもらった力はいいんだべ」
?「だども、なしてこのキメラさ仕留めただ?」
?「キメラは多空間に点在する碑石を壊さないと死なないって聞いただべ」
付人「だから、壊したのですよ」
?「可能だべか?」
付人「ええ」
付人「……気を付けてくださいね、元召使いさん」
召使い「元なんかつけなくていいべ、おいらそれが性にあってるんだ」
付人「では」
付人はゆっくりと外に向かい歩きだした
教会前
魔女「おい今の」
審問官「いつだかの狐魔女の付人だったやつか」
魔女「しかも今の発言、ワタシ達に気づいたようだったな」
水神「それって物凄く危ないんじゃ」
魔女「だがヤツは存在をしらせなかった」
審問官「うーん……」
魔女「そしてキメラを倒したのがあの薄汚いおっさんじゃないと言うことは、恐るるに足らん相手だろう」
審問官「いやだが会話の中で力がどうのこうのと言ってたぞ」
水神「番人を殺せるほどの力を持った者から渡された何か」
水神「様子を見ましょう」
魔女「ヤダね、待ったところで何も起きん」
審問官「……ん? 動き出したぞ」
魔女「あん?」
教会
召使い「……」
召使いは床に手をつき、呪文は唱え始めた
小さく火花が起こり、手を離すと可愛らしい小人が数人姿をだした
召使い「いいだべか? この空間に侵入者がいるべ」
召使い「見つけて、ここにつれてくるだ」
「「「「イー!!」」」」
小人達はせっせかと移動を開始する
教会前
魔女「あれは……錬金術……?」
魔女「いやだが……違うな、別の何かだ」
審問官「魔女殿、ここにいては見つかってしまう、移動しよう」
水神「いい場所があるわ、ついてきて」
魔女「……素材もなしに使い魔を?」
魔女「イヤ無理だ、契約として大切なものを捧げることが前提だ」
魔女「それに一回に複数なんて……」
審問官「恐らくアレは使い魔などではない、式神と呼ばれるものだ」
審問官「時間がない、急ごう」
魔女「あ、あぁ…………式神……」
魔女達は箒に跨がり、天に届きそうなほど成長した大樹に向かった
空きます
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