P「律子。お前もアイドル、やるんだよ」 (106)

P「……」

P「…………」



俺がやっていることが、良い事か悪い事か

未来が誰にもわからないように

俺の起こした行動が、

結果として『良い事』になるのか、それとも『悪い事』になるのか

それは結局のところ、誰にもわからない


……誰にもわからないからこそ、

俺は俺の思う、『良い未来』のために

そして自分の考えだけでなく、彼女たちの希望と輝かしい将来のために

彼女達がもっとも輝く舞台を用意出来るように

彼女たちを導いてやらなければならない

それが『プロデューサー』という仕事なんだ……と、思っている



P「……」

P「律子……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377437490

春香「プロデューサーさん、正統派ですよ、正統派!」
春香「プロデューサーさん、正統派ですよ、正統派!」 - SSまとめ速報
(http://logsoku.com/thread/hayabusa.2ch.net/news4vip/1331564584/)

真美「真美は、どんなアイドルになればいいの~?」
真美「真美は、どんなアイドルになればいいの~?」 - SSまとめ速報
(http://logsoku.com/thread/hayabusa.2ch.net/news4vip/1331902325/)

真「AKB48……ですか?」
http://logsoku.com/thread/hayabusa.2ch.net/news4vip/1332504358


P「なあ伊織……アイドルを、『踏み台』にしてみるつもりはないか?」
P「なあ伊織……アイドルを、『踏み台』にしてみるつもりはないか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376060573/)

―――

ガチャ!

亜美「うぃ~! おっはよー、兄ちゃん!」

P「おはよう、亜美」

亜美「で、朝からどうしたのさ兄ちゃん?」

P「お前に話があったんだ。まあこっち来て」

亜美「真美と一緒じゃなくて亜美だけに……何のお話なのかな~?」ズイッ

P「近い! ソファあるでしょ、座って!」

亜美「……んっふっふ~、兄ちゃん亜美のミリョクにメロメロ~?」

亜美「まいいや、はいはい」ストン

P「……えー、で亜美……今すぐってわけじゃないんだけど……」

P「亜美の芸能界デビューのプロデュース案、俺から発表してみてもいいかな」

亜美「あ、へぇ~、今日呼ばれたのって……」

亜美「……え!?」

亜美「ぷ、プロデュースぅ!?」

亜美「うえぇ!? ……ま、マジでぇ!?」

P「マジで」

亜美「うっひゃ~……」

亜美「あ、亜美たちも遂に『げーのー人』の仲間入りだよぉ……」

亜美「どんなアイドル、何するの兄ちゃん!?」

P「……」

P「最初にな、一つ聞いておかなきゃいけないことがあるんだ」

亜美「なーにぃ?」

P「真美と一緒がいいか?」

亜美「はぁ? ……そ、そりゃもちろんそうっしょ」

P「ま、だろうな……」

亜美「……兄ちゃん?」

亜美「え、もしかして……」

P「あー大丈夫大丈夫、そんな顔するなよ」

P「最初から、亜美は真美と一緒に、双子のアイドルで活動してもらうつもりだよ」

亜美「……」

亜美「……そっか」

亜美「なぁーんだ……変なこと聞くから勘違いしそうになっちゃったじゃん」

P(……? なんか反応がおかしいな)

P(一緒での活動じゃないかも、なんて不安がるわりには……)

P(…………俺の気のせいか)

P「ああそうそう、それでただ、事務所入って最初の頃はさ、


『かわりばんこに一人のアイドルとして活動したい』


P「みたいなこと言ってただろ」

亜美「あーうん。言ってたね」

亜美「疲れちゃいそうだから、たまに入れ替わってどっちかは休憩、ってカンジのこと考えてたよ」

P「なんで二人一緒に、って考えに変わったんだ?」

亜美「えっと、ねえ……」

亜美「事務所入ったときに、デビューするときの名前、亜美ってことでいいよねって話してたんだけど…」


『なんかさ最近……自分も『双海真美』って名前で、アイドルやりたくなったんだ』

『かわりばんこに、じゃなくて…亜美と一緒に、歌ったり踊ったりさ。…どうかな?』


亜美「って真美が言ってきて」

亜美「って真美が言ってきて」

亜美「なんかそれ聞いたらさ、亜美も何でか嬉しくなっちゃってさぁ」

亜美「じゃあかわりばんこ辞めて、『亜美』と『真美』でやろっか……って話になったの」

P「へぇ~」

亜美「一つ聞いておかなきゃ、ってそれのこと?」

P「あ、いや、今のはちょっとした確認のつもりだったんだ」

P「本当に聞いておかなきゃなのは、今から言うこと」

亜美「なにさなにさ~」

P「亜美たちはどのくらいの期間、芸能界で活動するつもりがある? ……ってこと」

亜美「期間?」

P「芸能事務所に入ってきてくれたわけだから、芸能人として活動をしてもらう」

P「で、俺はプロデューサーだから、亜美たちのことと会社のことを両方考えなきゃいけない」

P「亜美や真美の意見を聞きながら、それに合うような、更に『売れっ子』になりそうな道を提案する」

P「うちの事務所ってどうしても貧乏だしさ、結果が出るようなアイドルになって欲しいから」

亜美「ふんふん」

P「亜美たちが『飽きたら辞めるよ』ってくらいのスタンスなら、短期間で売れっ子になれそうなプランを」

P「『ちょっとは長いことやってたいなぁ』と思ってくれてるなら、じっくりと活動できそうなプランを」

P「そんな風に、二人の希望に合わせて提案させてもらいたい」

亜美「ほぉーう……中々有能そうですなぁ」

P「……で、どのくらい活動したいのか、は、二人の間で話し合ったりしていたか?」

亜美「……兄ちゃーん、もしもしてなかったらさーぁ、ここで亜美だけで決めちゃうことになるんでないの?」

P「そうなっちゃまずい……よな」

P「そっか。まだしてないんなら、真美も呼んで、やっぱり二人一緒に話すことにするか」

亜美「……ふっふっふっふ」

亜美「実はぁ……しちゃってるんだよね~」

P「……あれ、そうなの?」

亜美「ホントホントぉ。二人でレッスンしながらさ、けっこーそういうこと話してるんだよ」

亜美「これもそーだね、最初は


『パーッとみんなの注目かき集めて、売れっ子になった途端に衝撃の引退!』


亜美「で、兄ちゃんとかファンの皆とか驚かせてやろーかなってカンジだったんだけど」

亜美「なんか亜美たちが思ってるより楽しそうだから、やれるとこまでやってみようかなって」

亜美「そんなこと話してましたー!」

P「そっか~、へぇー……」

P「……お前たちもその歳で、色々考えてるんだなぁ」

亜美「そりゃそうっしょー。だってこの双海亜美様ですから」

P「へいへい」

亜美「…軽い、反応が軽いよ兄ちゃん!」

P「ふふ……悪い悪い」

亜美「まったくもぉ~」

P「……とりあえずわかった。少しは長い期間、活動するつもりってことで、いいんだな?」

亜美「うん! ……あ、でもでも、亜美たちってすぐに売れっ子になっても、多分……」

亜美「……」

亜美「…………」

亜美「………………おぉ?」

P「な、なんだどうした? 急に考え込みやがって」

亜美「……」

亜美「……そっかぁ……」

亜美「……ふーん…………」

亜美「なるほど、ねぇ……」

P「な、何だよ、怖いよ亜美」

亜美「へぇ~……」

P「ぶ、ブツブツ言うなよ。何か気付いたんなら教えてくれよ」

亜美「いやぁ……兄ちゃんさーぁ……」

亜美「ひょっとして……ホントなら、亜美たちを別々に活動させたいんじゃないの?」

P「!?」

P「え、いや……え!?」

P「え、何で? 何でそう思ったの?」

亜美「……だからさ、亜美たちって二人でよく話してるんだよ」

亜美「げーのー界入ったらどうなるのかな、とか、そういうことも」

亜美「でさぁ、亜美たちってこーんなに可愛くて、しかも双子で珍しいじゃん?」

亜美「学校でも人気者だしぃ、げーのー界でもすーぐに人気者になれちゃうと思うんだよね~」

P「お、おぅ……」

亜美「でもさ、なーんか……危ないんじゃないかって」

亜美「そーゆーこと真美と話してたんだよぉ~」

P「危ないって?」

亜美「兄ちゃんが前に、そん時は真美いなかったから亜美にだけだったけど……言ってくれたよね?」

亜美「『マナカナ』って、双子の芸能人の先輩がいるって」

P「言ったな。小鳥さんと社長が


『この歳で双子のアイドルなんて……マナカナの再来みたいですよね』

『うむ。話題性だけ見ても、亜美くん真美くんは事務所トップクラスの注目人物だろうな』


P「って話してるの聞いてて、亜美はマナカナを知らなかったみたいだから、説明もしたな」

亜美「そん時の話だとさ、マナカナって人たちは、双子のアイドルで有名だったんだよね」

P「ああ。他にも同じようなタレントはいたけど、『双子』って部分でこれだけ有名なのは……」

P「あとは、『ザ・たっち』くらいのもんかな。あっちは芸人だけど」

P(おすぎピーコとか、他もいるけど、まあある程度若い人に絞ればその二組だろう)

亜美「うん、ザ・たっちは亜美も知ってる~」

亜美「真美と一緒に『ゆ~たいりだつ~』ってよくやるし」

P「それがどうかしたのか?」

亜美「ああ、でさぁ、双子で凄かった、双子で凄かったってみんな言ってたけどぉ」

亜美「なんか、亜美たちで言うならさ、『双海亜美がどうだった』って、みんなあんま言わないよね」

亜美「みーんな、二人一組での話しかしてくんないんだもん」

P「!? そ、そう…だな……」

亜美「真美にはマナカナって人たちのことは言ってないけど、それとなく話はしてるんだ」


『真美が自分もアイドルになりたいって言ってくれたから、二人で活動する気持ちになった』

『でも、だったら……二人で一人前、じゃなくて、亜美と真美…それぞれが一人前になれるようにしたいよね』

『よく間違われて、それはそれで面白いけど……みーんなに亜美と真美の違い、覚えてもらいたいよね』


亜美「……ってさ」

亜美「ま、亜美が言うまでもなくぅ? 真美もそのつもりだったみたいだけどぉ?」

P「…………」

P「おま、お前たち……本当に凄いな……」

P「もうそんなことまで……話し合ってたのか……」

P「……俺、要らないんじゃないか?」

亜美「ふっふ、そりゃあこの双海亜美様ですから!」

P「……いや、今回に限っては本当に脱帽だよ。……流石の亜美様だな」

亜美「へっへ~♪ 亜美たちが本気でとりくめば、ざっとこんなもんよ」

P「……まだ取り組んではないだろ。それでもそこまで先のことを見越せるのは凄まじいけど」

亜美「あ、そっか。アイドルで活動はこれからすんだっけか」

P「……で、つまり…亜美たちは、何を危ないと思ってるんだ?」

P「もう大体は理解したけど、亜美の口から教えてくれ」

亜美「うんうん。亜美たち、双子でパーッと売れっ子になっちゃえそうだけど……」

亜美「それだと、みんな亜美と真美のこと、一人前だって思ってくれないんじゃないかなってね」

P「……ふむ」

亜美「『亜美と真美』の二人一組で、やっと覚えてもらえるんじゃないかって……それは何かヤだからさぁ」

P「そっか」

亜美「うん、そーなの。それが危ないんじゃないかって」

亜美「……でもさぁ、それがヤだからって別々に活動するもヤだしぃ」

P「真美とは、そこまで話はしてないのか?」

亜美「うん。真美には『二人一緒でも、二人の違いをわかってもらいたいね』ってとこまでしか話してないんだ」

亜美「だからさ、なんかエラソーなこと言っといてアレなんだけど……」

亜美「どうするかって具体的なとこまでは、なーんも考えてないんだよね」

亜美「真美にはちゃんと言ってないからモチのロンでなんだけど、亜美の方もね」

P「……」

P「どうするか決めてない、けど、別々の活動はしたくない」

亜美「うん」

P「かと言って双子として活動すると、自分たちをちゃんと覚えてもらえなそうで、それはイヤ」

亜美「……うん」

P「……」

P「いやぁ……凄いよ、亜美」

亜美「へ? 何が?」

P「俺が亜美に言おうと思ってたこと、全部言われちゃったよ」

亜美「言おうと……って……」

亜美「…? つまり、どゆこと?」

P「亜美と真美を双子のユニットで活動させること自体は賛成なんだ」

P「でも亜美が言ってくれたように、『双子』って部分でインパクトが強すぎる」

P「だから二人の名前は覚えてもらっても、二人の違いにまでは気付いてもらいにくくなる」

亜美「そーだね」

P「短期間で売れっ子になるんなら、逆にそこだけを積極的にアピールすればいい」

P「亜美が言うように、可愛くて歌も上手い、しかもまだ中学生…で、双子」

P「こんだけテレビ受けする要素の多い亜美たちを、メディアが放っておくわけがない」

P「『マナカナ』って偉大な先輩がいるから、常に彼女らと比較される立場になる可能性もある」

亜美「うぁー、それもなんかヤだなぁ」

P「ただな、彼女らも成長して、双子の子供って時代は昔のことになってる」

P「だから双子=マナカナ、のイメージを逆に利用して『次世代のマナカナ』としてアピールすんのもいい」

P「ただでさえアピールポイントが多い中で、明確なキャッチコピーが作れるから事務所もテレビも売り出しやすいんだ」

亜美「もし短期間で売れっ子、って方を選んでたら、そういう活動になってたの?」

P「そのつもりだったな」

P「そこまで露骨に、マナカナの二匹目のドジョウを狙いに行こうとすんのもアレなんだけど」

P「でも注目度は間違いなく高いし、売れっ子にもなりやすかったろう」

亜美「でもそれってなんかさぁ~……」

P「……ああ、絶対に二人は良い思いしないだろうから、それはイヤだと言われると思ってた」

P「もし二人が許すなら、本当に露骨にバリバリとアピールしても良かったけど」

P「まあそれは望み薄だしこっちも何か違うと感じてたから、『次世代の双子アイドル』ってカンジで」

P「比較されやすい立場なのは相変わらずだけど、マナカナの名前を出さなきゃ、イメージも薄まる」

P「短期間で売れっ子になりたいなら、『双子』をバンバンアピールすれば、それで大丈夫ではあったんだ」

亜美「で、亜美たちはそういうんじゃない……ってことっしょ?」

P「そう、そういうこと」

P「長く活動する場合は、最初は『双子』の部分を強く見せない必要がある」

P「その理由は……そう、亜美が全部言ってくれたな」

亜美「へっへ~♪」


『双海亜美と双海真美の違いを覚えてもらいたい』


P「……という亜美たちの希望を汲む場合、一緒に活動する時間が多いと…」

P「どうしても、双子であるというインパクトのせいで、個々の違いにまで目を向けてくれなくなる」

亜美「そうそう、それをどーにかしたいんだよね」

P「……」

P「亜美たちがその解決策まで自分たちで考え出したら、いよいよ俺も本気で要らなくなるとこだったよ」

亜美「ってことは、兄ちゃんには何か考えがあるの?」

P「一応な」

亜美「どんな?」

P「……二人で別々の活動しかできない……というわけじゃない」

亜美「?」

P「二人に別々の活動をしてもらいつつ、双子のアイドルとしても活動する」

P「俺が考えてたのはそんなプランだな」

亜美「……してもらいつつ……?」

亜美「ん、あ~…最初に『真美と一緒がいいか?』って聞いたのはそのことかぁ」

P「お前……ほんと鋭いなぁ。流石の亜美様すぎるぞ」

亜美「ぬふふ、そう褒めんでも……でさぁ、別々の活動もしながら…って、何すんの?」

P「こっちがぼんやり考えてたのは、真美には『ジュニアモデル』で活動してもらおうかなーってな」

P「亜美と真美、ペアルックが多いけど……着てく服を考えるのは真美の方なんだろ?」

亜美「そだよー。うん、亜美よりは真美の方がオシャレに気ぃ使ってるかな」

亜美「……ふむ、真美がモデルか……そー考えると、兄ちゃん中々良い線いってるね」

P「ありがと」

亜美「じゃあ亜美は?」

P「ああ……」

P「お前には、『子役』として活動してもらう」

亜美「……」

亜美「……こ……」

亜美「子役……?」

書き溜めるなんて前スレで言っといて全然溜まんなかったです。すみません!
結局は、じわじわと書いていってじわじわと終わらせることになりました
というわけで今日はここまでです。明日書ければ、また明日

書けるとこまで

亜美「え、子役って……『芦田愛菜』ちゃんみたいな……えっ?」

P「あの子じゃ比較対象として小さすぎるだろ」

P「……何か、勘違いしてないか?」

亜美「え、でも……子役ってその歳くらいの子じゃんよ」

亜美「亜美はもう中学生なんですけどぉ!?」

P「……やっぱり勘違いしてる」

P「そりゃあ最近は小学生くらいでも、演技が上手い子がたくさんいるけどさぁ」

P「『子役』って中学生相手にでも使う言葉なんだぞ?」

亜美「……あれ、マジで?」

P「マジで。春香くらいの歳になると『若手俳優』なんて言われ方もするけど……」

P「亜美の年齢でもその言われ方になるかもしれんけど、基本的には『子役』扱いだよ」

P「だから、演技の仕事をして欲しい…って意味で、子役って言ったんだよ」

亜美「なぁ~んだ……」

亜美「まさか兄ちゃんに、『ランドセル背負った娘の役をやってね~』とか言われんのかと思ったよ」

P「……去年までしてたのに……」

亜美「中学生になったら、亜美はもう小学生の気分じゃいられないの!」

P「わかったわかったよ。……ま、まあ一回整理しよう」

P「真美には、モデルとして活動してもらうつもり」

P「で、亜美にはこや……えー、『役者』として活動してもらう」

P「それぞれで経験を重ねて、それぞれの分野での知名度をあげながら……」

P「アイドルとしては、『双子』で二人で、歌って踊って活動する」

P「アイドルじゃない所で二人の立場に明確な違いが出るから、区別してもらいやすくなる」

P「それが、俺がうっすら考えていたプランだな」

亜美「ふぅ~ん」

亜美「……」

亜美「…………」

P「どうよ?」

亜美「……うん」

亜美「悪くないんじゃぁないの?」

P「……さいですか、亜美様」

亜美「うん。……そっかー、そうだよね~」

亜美「二人で活動はしたいけど名前も覚えてもらいたいんだったらさーぁ」

亜美「そうそう、兄ちゃんが言うみたいに、別々のお仕事しながら、二人で一緒にアイドルすればいいのか」

P「そういうこと」

亜美「……で、さぁ」

亜美「真美がモデルってのは似合ってると思うし、いいんだけど」

亜美「なんで亜美はお芝居なの?」

P「亜美にそういう仕事を回そうと思ったのは……」

P「お前と真美の違いを考えたときに、亜美の方が役者に向いてると思ったから」

亜美「なんで?」

P「つっても……お前たちはほんとによく似てんだ」

P「俺でもたまに危ういし、今気付いてる違いなんて、成長とともにすりかわってることだって有り得る」

P「『真美の方が大人びてる』とか今言ってても、数年後には亜美の方が大人っぽいだなんてことも十分考えられる」

亜美「今はね~、みーんな真美の方が、って言うけどね。……そうそう、未来はどうなるかわからんよ兄ちゃん?」

P「そうなんだよ。……だからさ、『亜美にはこっちの方が向いてる』なんて言葉も、全部を真に受ける必要なんて無いんだぞ」

P「今まで見てきて、それで亜美の適正を把握してるつもりだけど……それを自分の全部だと思わないで欲しい」

亜美「……? なんかちょっと難ちいね」

P「よーするに……『亜美は明るいのが取り柄です』なんてことを例えば言われた時に」

P「自分は明るくなくちゃいけない、なんて思わないでくれ」

亜美「……ほうほう」

P「確かに俺自身も、亜美にはいつでも底抜けに元気でいて欲しいけど」

P「その亜美の取り柄に囚われて、無理して明るく振舞ったりもしないで欲しい」

P「辛かったらいつでも言って欲しいし、泣きたい時や苦しい時は、正直に話して欲しい」

亜美「……ふふっ」

亜美「欲しい欲しいって、兄ちゃん亜美を欲しがりすぎっしょー」

P「……真面目な話なんだってばぁ」

亜美「んっふっふ~♪」

亜美「だいじょぶだって。んなこと、亜美だってわかってるもん」

P「そう?」

亜美「もちろん」

亜美「そりゃあ亜美、暗いよりは明るいほうが好きだけどさぁ」

亜美「でも亜美が暗いなーって気分の時に無理して明るくなろうとしたって、結局は心の中は暗いままだもん」

亜美「そーゆー時は、真美とか兄ちゃんとか、他の人と一緒に明るくしてもらう方が良いよね」

P「そこまで自分で考えられるなら……まあ要らない心配だったかな」

P「……ってことで、あくまで全部を受け止めたりはしないで、亜美の方が役者に向いてると思った理由を聞いてくれ」

亜美「んあ、あ、そっか。そういう話だったっけか」

亜美「兄ちゃんは、真美とどこらへんが違うと思うの?」

P「えーと、色々あるけど……まあさっきあんなこと言っておいて非常に申し訳ないんだけど……」

P「真美よりも元気ではっちゃけるとこ」

亜美「ブフッ……に、兄ちゃん!」

亜美「亜美に無理でも元気でいたりするな、なんて言っといて……兄ちゃん、コラ!」

P「や、だから、亜美がその考えに囚われすぎるな、ってつもりで言ったんだよ」

P「違いをあげろってなったときに、どうしてもそこは、今の時点では一番わかりやすいんだ」

亜美「それはいいけど……なんでそれが役者に向いてるの?」

P「別にな、真美には演技の仕事が出来ないってんじゃないんだよ」

P「でもその歳の子だったら、子供らしい役をやるってなったときに、子供らしさが前面に出せる方が良い」

P「子供らしさって何だ、ってなると、やっぱり元気さだったり明るさだったりになる」

亜美「へぇ~。……やっぱ亜美でも、ドラマとか出れんの?」

P「出てもらうつもりだぞ。まあ勉強もあるからガッツリとってわけにはいかないけど、それは真美も同じだな」

P「あ、そうそう。それと亜美の方が向いてると思った理由はまだある」

亜美「お、どこどこ?」

P「今の亜美は真美以上に物怖じしない、自分の意見をはっきり言う」

P「そういうのを一言で言うと『度胸』がある」

亜美「おうおう、いいね、度胸」

P「ドラマに出たりする場合、自分よりも年齢が上の人と一緒になることが多い」

P「でも亜美は俺だろうが小鳥さんや社長だろうが、ていうか知らない人相手にでも気軽に話しかけたり、イタズラしたりする」

P「イタズラはまあ置いといて……どんな人と一緒だろうと、ペースを崩すことが無い」

P「『KY』なんて悪い言われ方もあるけど、亜美に関してはそれは大きな武器だと思ってる」

亜美「んも~KYなんかじゃないよぉ」

P「まあまあ。空気が読めないっていうか、亜美に関しては『空気なんか関係ない』って感じだしな」

P「亜美はそのままいるだけで、空気を自分のものにしちゃうから」

亜美「そうそう、そっちそっち。亜美様にかかればKYも関係ないってことでさ」

P「そうだな。あとはイタズラん中で、前に嘘泣きされてすっごい焦らされたことがあったが……」

亜美「……えへへ、あったねそんなことも」

P「あの嘘泣きが上手すぎたから、俺が騙されたってことでもある。つまり素の演技力も普通に高い」

P「で、泣く演技が上手いってことは、シリアスな演技も行けるってことだ」

P「もちろん今言ったこと、亜美の方がその傾向が今は強いってだけで、真美にも当てはまる」

P「そんで亜美が成長することで、そういう要素が薄れて、新しい魅力が開花することだってある」

亜美「ふむぅ」

P「ずっとアイドルや役者を続けていこう、と思ってくれることはこっちとしても嬉しいことだが…」

P「亜美たちは事務所の中でも一番若い。考えや人となり、適正が変わっていっても当然だ」

P「だから変わっていったその時は、遠慮なくその時の考えや自分の意見を俺にぶつけてくれ」

亜美「ふーん……」

亜美「そーんな簡単に、亜美が自分の意見を変えたりはしないと思うけどぉ……」

亜美「んま、りょーかい! 兄ちゃんがそう言ってくれるわけだし、存分に甘えちゃおっかな」

P「おう、甘えてくれ甘えてくれ」

P「じゃあ真美には後で話すとして……亜美個人には、役者の仕事を回していこう」

亜美「おっけー!」

P「……真美と一緒に双子のアイドルとして、活動は出来る」

P「でもさっき言ったように、最初は個々人の活動をメインにする」

P「そうでないと……」

亜美「わーかってるよぉ。そうやって一人ひとりで活動しないと、亜美たちの名前覚えてもらえないもんねー?」

P「そう。そーゆーこと」

P「だから真美と一緒じゃないからって、あんま駄々こねたりすんなよ?」

亜美「こねないってばぁ」

P(……フゥ……)

P(これは……思った以上にスムーズに行ったな……)

P(真美は亜美よりも、思慮深い面が今は目立つ)

P(一緒に活動できるけど、そうじゃない時間もあるよ、くらいのこの活動プランなら)

P(文句を言いつつも、まあしょうがない、と折れてくれるだろうとは思っていた)

P(だから……亜美の方が何て言うかわからなくて、不安視していたんだが……)

P(……信じられないなぁ)

P(何だったら、『あのプラン』ですら受け入れてしまえそうだ……)

P(……一番の要因は、亜美が自分の中で『双子で活動する』ことに執着しなくなったからだ)

P(まあもちろん、双子での活動はしたがってるんだけど……それだけじゃダメだ、と思えていた)

P(そして一人ひとりでの芸能活動にまで視野を広げていたから……亜美がそこまで考えていたから……)

P「いやぁホント……」

P「流石の亜美様すぎるよ……」

亜美「ふっ……兄ちゃんってばぁ」

亜美「あったりまえっしょー♪」



亜美編おわり

あとはりっちゃんだけ……
今日はここまで

超個人的なイメージなんだけど、
亜美が役者として活動するってことを考えたときに
頭の中に浮かんだ芸能人は

『キッズウォーの井上真央』

でした
亜美の歳で当時のキッズウォーを見てるとは思えないんで
SSの中でそれについて言及するのは止めましたが

キッズウォー以降も花男とかで勝気なキャラクターのイメージが強いんで
厳密に亜美と共通点が多いわけではないです

でも素の性格と、演じやすい役柄が違うってのもよくある話なんで、
亜美が役者として成長していったら、
ひょっとしたら新しい一面が垣間見えたりするのかもしれません

出来るとこまで

P「……じゃ、そういうわけで」

P「最初に言ったと思うけど、すぐに活動始めるわけじゃないからな」

P「もうちょっとレッスンして、それからだ」

亜美「わーかった~」

P「そんで


バンッ


P「!?」ビクッ

亜美「うひゅ!?」ビクゥ


律子「…………」

律子「…………見つけましたよ」

亜美「び……ばびったぁー……」

亜美「りっちゃん、そんな勢いよくドア開けないでよぉ」

P「……」

P「…………やあ、律子」

律子「……」ギロッ

亜美「うひ!? り、りっちゃん目が怖いよぉ」

P「……そう、だな」

P「亜美、悪いけど……律子と話すことがあるんだ」

P「な?」

律子「……ええ」

P「そういう訳だから、お前はもう帰っていいぞ。時間使わせて悪かったな」

亜美「え…あ、う、うん……」

亜美「わ、わかった……じゃあね兄ちゃん。りっちゃんも」

律子「……またね亜美」

P「じゃあな」

亜美「う、うん……」


パタン

律子「……」

P「……」

律子「……どういう、つもりですか?」

P「って言うと」

律子「わかってるでしょう? どういう、つもり、なんですか!?」

P「……フゥー」

律子「いい加減にしてください!」バンッ

律子「……」ワナワナ

律子「私が……私がどんな思いで……」

P「……」

P「律子の思いの全部をわかってる……とは言わないが」

P「俺の話を聞いてくれないか?」

律子「…………」

律子「……ハァー」

律子「私だってね、もとからそのつもりですよ」

律子「やられたことが許せないとか、そういうこともありますけど……」

律子「ただ私のジャマをするためにしたんじゃない……ってことくらいはわかります」

律子「……もう一回聞きますよ? どういうつもりなんですか?」

P「……社長から聞いたよ」

P「自分のプランに『確信』が得られなかったそうじゃないか」

律子「……」

P「俺が社長から聞いたのは、律子が計画を建てていたグループのメンバー」

P「それと、そのグループのイメージ楽曲となる、SMOKY THRILLのデモテープの存在」

P「その二つだった」

律子「それが……何だって言うんですか」

P「律子が何をどう考えて、あずささん、伊織、亜美の三人でグループを作ろうと思ったのか」

P「それは律子本人じゃないから、本当のとこはわからない」

P「……でも俺は考えた。律子が何を意図して、この三人を選んだのか」

律子「……で、わかったって言うんですか?」

P「……」

P「正解かどうかは、律子が判断してくれ」

律子「……フゥ」

律子「いきなり話をはぐらかされた感じですけど……まあ、聞いてあげようじゃありませんか」

P「悪いな」

律子「……いいから話してくださいよ」

P「おう」

P「このグループ、というか三人を選んだ意図は何なのか」

P「俺が勝手に考えてた個別のプランと比較して考えた時に……」

P「意外と、単純なことなんじゃないか、と思った」

律子「……」ピクッ

P「律子は多分、伊織やあずささんを独自にプロデュースするつもりだったんだろう」

P「それと亜美や真美、あと……グループの候補には入ってなかったが、美希や春香」

P「事務所の中でも、今言った娘たちを特に気にかけてたな」

律子「……まあ、そうですね」

律子「プロデューサーとしての勉強をしてみて……」

律子「個人的に仲が良い、とかもあるけどそれだけじゃなく」

律子「芸能人の卵としてみんなを見て、その中でも特に自分が育ててみたいと思った」

律子「……春香や美希も含めて、そういう人たちですね」

P「だよな。律子がそう考えるとすると、それ以外のメンバーを選んでいない理由もなんとなくわかる」

P「千早や真が特に顕著だが、その人のイメージから得られる芸能人像がハッキリとしている」

P「自分が力添えをする必要がないのではないか、と思うくらい将来像が想像できる」

P「律子はそう考えたんじゃないか、と俺は推理した」

律子「……」

律子「全部が正解、とは言わないですけど……遠くは無いですね」

P「そうか……続けるぞ」

律子「ええ」

P「で、自分がプロデュースしたいと思った人のプランを考えた。考えた時に……」

P「ひょっとしたら……俺と同じことを感じたかもしれない」

律子「……何ですか?」

P「あずささんは、本人が一人で活動することに乗り気ではない」

P「伊織は、『アイドル』としてのイメージが強すぎて、マニアックな路線に行く危険性がある」

律子「……」

P「俺はそれでも、それぞれソロのプランで行けるようと考えはしたが……」

P「実はそんなことするまでもなく、律子が限りなく正解に近い答えを導き出していた」

P「俺が二人に提案した、不確実なプランよりももっと確実なものを」

また明日

P「……それが『グループ』だった、ってわけだ」

P「正直な話、俺自身は事務所のみんなを『ソロ』で売り出すことしか考えてなかった」

P「亜美真美を除いて」

律子「……そうですか」

P「一つの考えに凝り固まってたとも言えるが、そんなときに、律子のグループプランを検証してみた」

P「するとどうか……」

P「あずささんは本人の個性こそ多少薄れるが、一人じゃない分、不安を抱かせずに活動しやすい」

P「あずささんのマイペースさは、本人がのびのびと活動することで発揮される」

P「それに誰とでもよく馴染むから、他のメンバーへのフォローと魅力の拡大にも役立ってくれる」

P「……んじゃないかと思うが……どうかな?」

律子「……」

律子「あずささんは……」

律子「……あずささんは、『私なんかが本当にアイドルとしてやっていけるのかしら』って、よく零してました」

律子「確かに他のメンバーの個性が際立てば、あずささんは影が薄くなるかもしれません」

律子「でも……あずささんの不安が無くなるのなら、あずささんらしさが出せるのなら」

律子「あずささんのファンになってくれる人が、間違いなくたくさんいる」

律子「プロデューサーがやったみたいに、あずささんの自信を引き出してソロで活動させる」

律子「そんなことは思いもつかなかったけど……私なりに考えて、あずささんをグループに入れようと思ったんです」

P「……」

律子「プロデューサー」

律子「伊織は……伊織のことは、私がどう思ったかわかってるんですか?」

P「ああ」

P「何だったら、伊織をグループに入れようとした意図はもっとわかりやすい」

P「伊織はアイドルとしての素質が突き抜けすぎている」

P「アイドルらしさが前面に出るから、ソロだと男性ファンに人気が集中しすぎるだろう」

律子「ええ、そうですね」

P「だがグループだと……役割が一変する」

律子「……そう、そうなんです」

P「可愛らしい容姿はそのままに、人を導く『リーダー』の素質を発揮させられる」

P「他のメンバーを統率したり、逆に個々人に見せ場を与えたり」

P「家族のお兄さんやお父さんもそういう立場にいるらしいし、伊織にもそういう特長が受け継がれてるんだろう」

P「可愛らしい面だけが強調されやすいソロと違って、リーダーとしてのしっかりした面を発揮できる」

P「グループの一員になるだけで、伊織の魅力の両側面を確実に見せ付けられる」

P「これなら女性からの憧れも抱かせられるし、人をまとめる、という立場になることで家族へのアピールにも繋がる」

P「もちろん他のメンバーの支えがなければ、負担が大きくなりすぎて潰れてしまうかもしれない」

P「そういう意味でも、母性で包み込むあずささんとの組み合わせは良いよな」

律子「……」

P「そういうこと……なんじゃないか?」

律子「そうですね……」

律子「ええ……それに関しては、どこもズレることなくそのまんまです」

律子「伊織本人には決して言ってませんでしたが、本人の目標を考えたとき、可愛いのが足枷に成り得た」

律子「プロデューサーはそれでも強行してソロのプランを薦めたみたいですけど……」

律子「伊織のやる気を出す、という意味では十分でも……不確実な要素が強すぎます」

律子「だから個人的にはまだ納得行ってませんし……だから私は、グループでのプランを考えていたんです」

律子「……亜美は?」

P「亜美は……ああ、まず亜美のことを考える前に……」

P「さっき言ったあずささんと伊織、のペアでのことを考えた」

P「この二人なら相性は悪くない。見た目にも対照的だから、インパクトもある」

P「ただ、ペアでとなった時に歌ったり踊ったり……そうなると、『バランス』はあまり良くない」

律子「……はい」

P「対照的だからこそ、どっちかの特長に歌を合わせれば、そのどっちかにイメージが引っ張られすぎる」

P「あずささんに合う落ち着いた曲調も、伊織には合うだろうが……あずささんのイメージが強くなりすぎる」

P「その逆も然り、だな」

律子「ええ……そう、ですね」

P「だからメンバーを増やすという選択肢が出てくる」

P「誰を入れるのか……律子が気にかけていた娘たちの中だったら……」

律子「……」

P「これは確信めいた憶測だったが、まず美希は絶対に無いだろうと思っていた」

律子「!? ……ど、どうしてですか?」

P「律子が普段から怒ってるように、まだアイドルになる心構えも何も未成熟だし」

P「それに多分、律子はそれでいても美希のことは認めているんじゃないか…ってな」

律子「……」

P「色々なものが備わっていない今の状態でデビューさせるよりは、更に力を蓄えさせる方が良いんじゃないか」

P「才能だけを頼りにするんじゃなく、確固たる実力をつけさせてから、美希をデビューさせようとするんじゃないのか…と」

P「だから、今考えているグループのプランには入れないだろう、と思った」

律子「……ふふ」

律子「それは……そこまでは買いかぶりすぎですよ」

律子「私がそんな……単純に、美希をデビューさせるのはまだ早すぎる」

律子「そう思ったから、グループの中に入れようとは思わなかった」

律子「……」

律子「ええ、それだけですとも」

P「……そっか」

律子「はい、そうです」

P「……そう、それで、じゃあ誰を入れるのか」

P「これを考えた時に、あずささんと伊織では担えない立場や役割を持つ人が、適任なんだろうと感じた」

P「大人であり、みんなを暖かくサポートしてくれるあずささん」

P「リーダーになれる素質を持ち、さらにグループの華々しさを引き上げられる伊織」

P「ここで足りないものは……春香の持つ安定感や、真美の持つ純情さ、健気さでは無く……」

P「亜美の持つ、底抜けの明るさと元気、そして子供らしさ」

P「……だったんじゃないだろうか」

律子「……」

P「亜美と真美、両方入れることになると、『双子』のインパクトが強すぎて全体のバランスが崩れる」

P「だからどちらか一人を入れるとなった場合に、真美よりも亜美の方がより役割を持てるんじゃないか」

P「今の時点でまだ元気で子供っぽさが残る亜美の方が、グループに馴染みやすいんじゃないか、と思う」

律子「何故、そう思うんですか?」

P「……15歳の伊織と、20歳のあずささん」

P「ここに13歳かつ、歳相応の子供らしさを残している亜美が入ることを仮定しよう」

律子「ええ」

P「二人だと『対照的』だった部分が、伊織より下の亜美が入ることで年齢の『グラデーション』となる」

P「一番下の亜美と、一番上のあずささん」

P「この二人に挟まれる形で、リーダーの伊織が存在する」

P「こうすれば、バランスが取れる上に各々の個性がより際立つ」

P「伊織以上にバラードのイメージがない亜美がグループにいるから……」

P「伊織が中継点となることで、バラードを歌ってもあずささんだけにイメージが引っ張られない」

P「逆に可愛らしい弾けたポップスを歌っても、亜美と伊織がリードする形で、あずささんが歌うことにも無理が生じない」

律子「……プロデューサー……どこまで……」

P「……だから亜美が必要だったんだじゃないか?」

P「伊織、あずささん、亜美」

P「この三人のグループで活動させようと最初から決めていたんじゃなく」

P「伊織とあずささんのユニットに誰かを入れるとなった時に、入れた三人目も含めて、全員の個性が増幅されるような組み合わせ」

P「それを考えた結果、亜美を入れる結論に至った」

P「……ということだったんじゃないか、ってな」

律子「……」

律子「どこまで……わかってるんですか?」

P「え?」

律子「……今言ったので、全部ですか?」

P「ん? ああ……俺が考えた、律子がこのグループを組もうと思った理由、は全部だな」

P「で、どうだ?」

律子「……」

律子「……あまり認めたくはありませんけど……」

律子「亜美を入れた理由も、最初は伊織とあずささんだけで組ませようと思っていたことも」

律子「そう、ですね……大体は、プロデューサーが言ったようなことが理由です」

P「……そうか」

律子「……も、もちろん、亜美を入れるってなった場合の、真美のプランも考えてましたよ」

P「……」

律子「さっきも言いましたけど……あずささんはともかく、伊織のプランについては納得行ってないんです」

律子「だってそうでしょう? アイドルとして成功できるかどうかもわからないのに、コメンテーター?」

律子「そりゃあアイドルの素質があるのは認めますし、コメンテーターとして発言しても大丈夫なくらい常識と知識もあるでしょうよ」

律子「でも……それでも、いくらなんでも理想論が過ぎます」

P「……理想論ね」

律子「そうですよ、私はそこまでのギャンブルはしたくありませんし、する気もありません」

律子「だからより確実な方法をと思って……考えていたのに……」

律子「ハァ……」

律子「プロデューサー、結局……何がしたいんですか?」

P「……」

律子「そこまで、私がグループを作ろうとした理由を把握しておいて……」

律子「なのにグループのプランを潰して、それぞれソロで活動させようとして」

律子「……私にはまだ、プロデューサー業は無理、って……言いたいんですか?」

P「ん~……」

P「今すぐには無理だろうな」

律子「!? な、なんで……」

P「だってお前、『確信』が無かったんだろ?」

律子「!?」ドキッ

P「それはつまり、上手く行かなかったらどうしよう、グループが失敗したらどうしよう、ってことだろ?」

律子「そ、それが……?」

P「……律子の考えたあずささんや伊織の案ってのは、それが全てなのか?」

律子「は、はい?」

P「グループでなきゃ、その二人はプロデュース出来ないのか?」

律子「……そ、そんなことは……ない、ですけど」

律子「でもやっぱり、亜美も入れて、三人でやるのが……」

P「……でもそれが成功するかどうか、自分でも信じきれてない」

律子「……しょ、しょうがないじゃないですか! 初めてのプランで、不安だらけで……」

律子「ぷ、プロデューサーみたいに口八丁でみんなのやる気を上げることだって出来ませんし」

律子「そんなポンポンと、夢物語みたいな案が次々出るわけでもありませんし……!」

P「……ハァ」

P「そりゃ、もし自分のプロデュースが失敗したら、プロデュースした娘たちには悪いだろうよ」

律子「あ、当たり前じゃないですか!」

P「……でもな、最初に考えたプラン、その娘の希望のプランが、一番の正解だなんてことは無いんだ」

P「確かに律子が言うように、俺の伊織へのプランは不確実かもしれない」

P「俺自身は、それでも伊織なら成功するだろうという自信を持って薦めてはいたが……」

P「でも伊織にも言った。もし仮にこの案が失敗したとしても、次に繋げることが出来る。それが水瀬伊織という人物だと」

律子「……次に……」

P「みんなが認めるような完璧なプランか、本人が従いたくないような強引なプランか」

P「プランによって各人のモチベーションも変わって、それによって結果が変わることもあるだろう」

P「でも結果的に成功するかどうか、本人がその結果に満足するかどうかは、全くの別問題だ」

律子「……そ、それは……」

P「初めに提示したプロデュース案が上手く行かない、失敗だ」

P「……でもそれで終わりじゃない。テコ入れ、方向転換、キャラ替え」

P「言い方は悪いかもしれないが、挽回の方法はいくらでもある」

律子「……」

P「その時の状況や本人の意見を合わせて、少しでも良い方へと改善案を出してやる」

P「最初の希望とは違っても、結果として本人が納得して笑顔でいられる」

P「完璧な、というわけじゃないが……それだって芸能人、プロデューサーとしては成功なんだ」

P「……だから、常に完璧に成功する、そのことばっかりを考えるのがプロデューサーじゃない」

律子「……」ギュッ

P「失敗したときに、自分の案が悪かったと反省して、次に繋げられるように更なる案を出す」

P「……それも、プロデューサーの仕事なんだ」

P「成功したときのことしか考えられない、失敗したときのことを考えて躊躇いが出る」

P「そんな今の律子には、プロデューサー業は荷が重いだろう」

律子「……」

律子「……ふ、ふふ……」

律子「……失敗したときのことを考えられない……」

律子「なるほど……今の言葉、自分でも痛いくらいに理解できましたよ」

P「そうか」

律子「……じゃあどうすれば良いって言うんですか?」

律子「私のプランを潰してまで、プロデュース業の心構えを教える」

律子「それ自体は、なんとなく意図がわかってはきましたけど……」

律子「それじゃあプロデューサーは、私に何をさせるつもりなんですか?」

P「……」

P「なに……簡単な話さ」


P「律子。お前もアイドル、やるんだよ」


律子「……」

律子「……はい?」

P「だから、お前もアイドルとしてデビューするの」

P「な、簡単な話だろ?」

律子「……」

律子「……ほ、本当にプロデューサー……なに考えてるんですか……?」

今日はここまで

行けるとこまで

P「……」

P「……そうだなぁ」

P「じゃあさ、考えてみてくれよ」

律子「……はいぃ?」

P「なんで俺がそんなこと言い出したのか、なんで俺が律子がアイドルやらせたいのか」

P「自分なりに考えてみなよ」

律子「……じ、自分なりにって……」

律子「……」

律子「あーも~~……」

律子「……ハァ」

律子「……少しだけ……」

律子「少しだけ、時間くれますか?」

P「いいぞ」

律子「……」


………


律子「……」

P「……」

律子「2分くらい……ですかね。多分、わかりました」

P「じゃあ言ってみて」

律子「はい」

律子「……私にアイドルをやらせたがる理由…ですよね」

P「ああ」

律子「おそらく……プロデューサー的には、私がプロデュース業をするのに足りないもの」

律子「それを身につけさせようとして、そういう提案をしているんじゃないですか?」

P「……」

律子「さきほど『確信』が足りないとプロデューサーが仰って、まあ自分でもそれは確かに思います」

律子「だからもし、私自身が芸能界で活動して、多くのファンを生み出すことが出来たら……」

律子「それが私の中で『成功』なんだとしたら、その成功の確かなイメージと、成功したという事実に対して生まれる私の『自信』」

律子「この二つを身につけられるようになるんじゃないかってことですね」

律子「プロデュース業を行うにあたって、理論だけでなく実践で身に付けた経験を活かせるようになりますからね」

P「なるほどなるほど」

P「……」

P「……それで、終わりか?」

律子「……」ニヤリ

律子「まさか……考えるだけだったら、私だってもうちょっと出来ますよ」

律子「おそらくプロデューサーが見越しているのは、『成功』ではないパターン……」

律子「私の活動が、自分の中で『失敗』になった時のこと……じゃないですか?」

P「……続けて」

律子「……もし自分の芸能活動が、自分の中で『失敗』なんだと認識したら……」

律子「先ほどプロデューサーが仰ったように、『改善案』を考えなければならない」

律子「まあほら、私なんてルックスも平凡だし歌も下手な方ですし」

律子「仮に芸能人になったとしても、真正面からスターダムにのし上がれるなんてさらさら思ってもいないわけですよ」

P「……ほぉ~」

律子「プロデューサーが私の最初の売り出し方を考えるのか、それとも私自身のセルフプロデュースなのか」

律子「まあどっちでもいいんですけど、他のみんなならともかく、私がデビューしても最初は失敗すると思います」

P「……」

律子「そこで、最初の案の問題点を現状から見抜いて、上へと昇るのに必要なものは何かを見極める」

律子「可愛い系の曲の評判が良くないけど、ダンサブルな曲だといつもよりも売れている」

律子「例えばそういう結果だったのなら、ダンス楽曲中心に、私自身もダンスのスキルを上げていく……とか」

律子「プロデューサーが私に提案したのは『アイドルをやる』ってことだけですから……」

律子「私に『成功しろ』って言ってるわけではないですものね?」

P「……ん? あ、あぁ、まあ……」

律子「失敗したときのことを考えて足がすくむなら、いっそ実際に失敗して、何がいけなかったのかを考察する」

律子「これもまた実践から得た『経験』ですから、十分糧になってくれる」

律子「……それを見越して、提案したんじゃないですか?」

律子「ふふ……私が考えたのは、そんなとこですかね」

P「……」

律子「で……どうですか? 当たってます?」

P「……」

律子「……」

P「…………」

律子「…………」

律子「……」

律子「プロデューサー……喋ってくださいよ」

P「……」

P「う~~~~~~ん……」

律子「……喋れとは言いましたけど唸られても困ります」

P「……律子よぉ」

律子「はい」

P「う~~~ん…………65点……くらい?」

律子「……」

律子「は……え?」

P「いやもう、65点が低いのか高いのかもよくわからん」

P「とりあえず完全正解ではない、うん」

P「でも当たってるとこもあるし、外れてるとこも大ハズレってわけじゃない」

P「う~~~~~ん……律子がそんなに……う~~~~~ん」

律子「……な、なにをうんうん唸ってるんですか」

律子「65点……は置いといて。外れてるとこってどこですか?」

P「えーとな、経験を積ませたいってとこはそのまんま、当たり」

P「実際に律子が芸能活動を経験することで、俺の頭でっかちなプランを凌ぐ、更なるプロデュースが出来るようにもなるかも」

P「でだな、実践の中で改善案を考えていくってのもそれでいい」

P「自分ならどうするか、他の人を相手にしている場合はどうなるか、この状況で取るべき策は何か」

P「現状から更に上へ、次へと繋げられる知識と経験、両方を自分のものに出来る」

律子「……」

律子「え、ちょ……ぷ、プロデューサー!」

律子「どこも外れてないじゃないですか! しかもそれだけ当たってて80点とかですらなしに65点ですか!?」

P「だってさぁ……律子にあまりにも『自信』と『確信』が無いんだもの……」

律子「はい?」

P「……そりゃあ失敗したときのことも考えろとは言ったよ、言ったけど……」

P「プロデュースをしている最中は、少しでも成功へと繋がるように色々と考えておくもんだよ」

P「その中で良くない事態、現状では打開できない事態が起こったときのために、改善案を出せるようにしておくんだ」

律子「……そ、それが何か?」

P「律子は違うだろ、最初から『私はどうせ失敗する』って考えてる」

律子「!?」ギクッ

P「失敗したときのために備えるのも大事だけど、もっと大事なのは本人の『成功したい』って意識とイメージだ」

律子「成功したいってイメージ……そうか……」

P「『過信』にならない程度の十分な『自信』、今の律子にはそれすらもない」

P「成功のイメージを描けるようになる自信と、失敗という不測の事態に対処できる柔軟さ」

P「その二つを身に付ければ、俺なんかよりもよっぽど凄い稀代の名プロデューサーにだってなれる」

P「でも律子が考えるようなそんな活動方法で、確固たる『自信』がつくとは思えない」

律子「ぐぐ……」

P「……ていうかな、俺が律子のプロデュース案を考えたんだけど」

P「……俺は、はなっから成功させるつもりでいるぞ」

律子「!? ど……」

律子「どうやって……?」

今日はここまで

行けるとこまで

P「どうやっても何も、律子は芸能界には結構向いてる方だと思うぞ」

P「売り出し方は、俺の考え以外にもいくらでもある」

律子「……そ、そりゃあ、毎年アイドルなんて腐るほどデビューしてますけど……」

律子「ただの平凡なアイドルってんじゃなくて、その中で成功できるって言うんですか?」

P「成功したいかどうかは、さっき言ったように最終的には律子のやる気とも繋がる」

律子「……」

律子「……聞かせて見せてくださいよ。私のやる気が上がるかもしれませんし」

P「ああ、望むとこだ」

P「……まずな、律子は自分に対して過小評価しすぎ」

P「スタイルだって結構良いし、歌声も特徴的で、曲によっては事務所の誰よりもハマってることもある」

P「それに可愛いし」

律子「……ほほぉ~、そうやってご機嫌とってやる気上げようってことですか?」

P「違うって。そりゃ美希とかあずささんのスタイルに比べたら劣るかもしれないけど」

P「仮にグラビアアイドルって路線で考えるにしても、十分アリなくらい良い」

P「自分に自信が無いと、次第に外見にも表れてきてしまう。だからそういう面でも自信持って欲しいんだよ」

P「それに持っている武器を活かす方法も、自分がそれを『武器』だと認識して初めて考えられるようになる」

律子「……ほほぉ。それは確かに、一理ありますね」

P「例えば律子の外見的な特徴の一つって言ったら、事務所メンバーの中で唯一かけてる『メガネ』とか」

P「アイデンティティとして自分らしさの象徴と捉えても良いし、そうじゃなく商業的に表現させようとしても良い」

P「知的なイメージを演出するためのもの、もしくは単にメガネフェチの男性に訴えかける道具とか」

P「打算的な話で言えば、眼鏡屋のCMなんかも見越せたりな」

律子「……なるほど」

律子「メガネを『メガネそのもの』じゃなく『武器』や『特徴』だと思えば、そうやって色々と考えることが出来る」

律子「ふふ、この時点でも結構参考になりますね」

P「でだ、律子にはもちろん、『アイドル』としてステージに上がってもらう」

律子「……」

律子「……今までの話を総合すると……」

律子「『メガネアイドル』、ってとこですか?」

P「……え?」

律子「ほら、私も『東方ぁみ』とか以前いたの知ってますけど、例えばそんな風に」

律子「下手に正統派狙って埋没するよりも、個性派としてニッチな方面に絞って……」

律子「そのジャンルのコアなファンを獲得する形で、太く短く活動するような」

P「……えーと、あー……」

P「まあ……うん」

P「……そうだな、うん。アイドルとしての活動は、そっちでも全く構わないと思う」

時東ぁみ

だった。さっきまでジョジョ読んでたせいで間違えた

律子「? どういうことですか?」

P「いや、俺自身は所謂普通ので行こうかとも思ったんだけど、そっちのプランもあるにはあったんだ」

P「ただコアな方面で、となるとその需要に応えるのに、無理なキャラ付けが過ぎる場合もある」

P「『ギャル曽根』本人はそれを歓迎しているけど、大食いアイドルとしてとにかく食べる仕事ばっかり来たり……とか、そういう感じで」

P「だからただでさえ乗り気じゃない律子が、それを受け入れるかって問題があったんだが……」

律子「ははぁ……ま、でもメガネアイドルとして個性が行き過ぎるってのも、限度があるでしょうし」

律子「よっぱど変なのかけさせられるなら別ですけど、問題無いと思いますよ」

P「アイドルとしては多少マニアックな路線でも良いのか?」

律子「ええ」

律子「……私だって、いざデビューして成功したいって言うなら、少しの不満くらいは飲み込みますよ」

P「……わ、わかった。頼もしくて何よりだ」

律子「……アイドル『としての』ってのは、どういう意味なんですか? 他に何かやることでも?」

P「あ、あぁ。そうそう」

P「伊織はアイドルの立場から、それを利用してステップアップするような活動方針だったが」

P「律子はアイドル活動と並行して、共存するようにそれをやってもらうような形になるな」

律子「……? 何ですか?」

P「二つほど、やって欲しい」

P「……一つ目は、『アシスタント』」

律子「アシスタント……」

P「バラエティ番組とかで、MCの横にいる人な」

律子「……成程」

P「アイドルとしての活動で知名度が上がれば、そこからバラエティ番組への進出はラクな方だ」

P「そこでひな壇に座りトークする、リアクションをする、レポーターをやる、ゲームをする」

P「仕事は番組によって色々あるんだが、律子には小さな番組でもいいから、アシスタント役を経験して欲しい」

P「理想の最終形としては、それこそ司会業にも挑戦してもらったり」

P「アシスタントを推す理由はわかるか?」

律子「……」

律子「まあ……今までの話から考えれば、容易に」

律子「お茶の間に、名前と個性を多くの手段で伝えられるから、アイドル活動とバラエティ番組は切り離せない存在ですよね」

律子「そんなバラエティ番組での経験を積むこと自体が、既に糧になるはずですし」

P「うん」

律子「何よりアシスタントは、演者や番組を回して、司会者のサポートをする、対応力の必要な役割です」

律子「単に自分が目立てば良い、という訳ではなく、それぞれの演者の個性を把握したり、司会者との相性を考えたり」

律子「それって他人をプロデュースすることに近い……って私が思いましたけど、多分プロデューサーもそう思ったから、推してるんでしょうね」

律子「……まあ、そういうのを考えない、置物みたいなアシスタントも結構いますけど」

P「……じゃあ、そうじゃないアシスタントって言ったら、例えば誰が思い浮かぶ?」

律子「アシスタントとして、するべき仕事をしている人……ってことですよね……」

律子「……」

律子「……無難ではありますけど、例えばテレビ局の『女子アナ』なんかそうじゃないですか?」

律子「アナウンサーって職業柄、速報性のあるニュース番組に出ることもあるからこそなんでしょうけど」

律子「司会者との連携だったり、出演者への話題の振り方だったり、進行のスムーズさだったり」

律子「そういう所は、アシスタントとしての仕事をきっちりこなしていると思いますね」

P「……うむ。良いとこを突いたな」

P「アシスタントを推した理由は、律子が言ったようなことほぼそのまんまだ」

P「そして律子が挙げてくれた、女子アナのような対応力を持ったアシスタントになってもらいたい」

P「……それに付け足すとしたら、アシスタントという立場上、色々な芸能人やスタッフとの交流が多くなる」

律子「……それで?」

P「わかんないか?」

律子「? 何がですか?」

P「プロデューサーってのは、人との繋がりやコネが大事なんだ」

P「俺も社長を通じて色んな人に会ってきたけど、もし律子がアシスタントとして番組に出演したら……」

P「司会者やゲストの大物芸能人、現場のスタッフ……俺が会えない多くの有力な人と会うことが出来るようになる」

律子「……! そ、そうか……」

P「権威のある人に媚を売れ……ってんじゃないぞ」

P「年上の人、目上の人には敬意を払いつつ、そうでなくても共演者やスタッフは訳隔てなく接するべきだ」

P「そういう行動は人間的に考えてもそうすべきだし、嫌らしく打算的に考えた場合だってそう」

律子「? もちろんそんなことする気は無いですけど、どういう意味ですか?」

P「下っ端のADが、出世して人気ディレクターになったりってこともあるからだよ」

P「実際、元おニャン子の『国生さゆり』は、アイドル時代にスタッフにキツく当たっていたらしい」

P「……で、月日が経って、昔現場で当たっていたスタッフが出世して」

P「当時のことがあったせいで、一時期は番組に出演させてもらえず、業界内で干されかけていたんだ」

P「彼女はその経験をよく話すし、それを反省してか若いアイドルたちによく、スタッフを大事に、と注意するらしい」

律子「……言いたいことはわかりますけど、その件は、彼女の自業自得でしょう」

P「そりゃそうだけど……打算的に見てもスタッフや共演者とは良い関係を築くべきってことだ」

律子「……しかし、そこは全く気付きませんでしたね。流石はプロデューサー殿」

P「いやま、大物芸能人やスタッフに会ったからって、全員と友好になれるかはわからんけど」

P「そういった人たちと、プロデューサーとして活動する前から交流を持てる」

P「いざアイドルからプロデューサーに転向、となったとき、そのアドバンテージは計り知れないものがあるな」

律子「はい、理解できました」

P「アシスタントが出来そうな番組の仕事も取ってきていいか?」

律子「ええ、もちろん」

律子「人を動かす、その人の個性を見つける、どう番組に反映させるか考える」

律子「芸能活動しながらプロデューサーのような経験ができるんですから、願ったり叶ったりじゃないですか」

P「……そう言ってもらえるなら有難い」

律子「……で、二つ目って何ですか?」

P「覚えてたか」

律子「もちろんですよ」

律子「ただ私からしたら……アイドルとアシスタントの両立だけでも十分だと思いますけどね」

律子「これ以上、何の付加価値を見つける必要があるのか、興味があります」

律子「私が芸能界で向いてそうな役割ってことですか? それとも、プロデュース業に応用できる役割ってことですか?」

P「そうだなぁ……」

P「どっちも、ってとこかな」

律子「ふふ……じゃあ早く教えてくださいよ」

P「ああ。律子……アイドル、アシスタント」

P「そしてお前のもう一つの仕事は……『ラジオパーソナリティ』だ」

今日はここまで

キリのいいとこまで

律子「ラジオ……パーソナリティ……」

律子「……」

P「……そのまんまだな、ラジオの番組のMCとして活動する人」

P「小さくてもいいから、長く続けられるようなラジオ番組を一つ持っておきたいな」

P「ラジオはテレビ以上に、『話術』が何よりも重要視される世界だから」

律子「……そう、でしょうね」

P「ラジオパーソナリティをして欲しい理由はわかるか?」

律子「ええ。さっきのアシスタントと、恐らくは本質的には似たようなことかと」

律子「リスナーを惹き付ける話術と、会話を途切れさせない対応力」

律子「どっちとも芸能活動でも、人を導く立場でも必要になるものですね」

P「ああ。将来を見越すだけでなく、芸能人として腕を磨くのにも、うってつけの場所だ」

律子「……それに……ラジオは芸能活動の基本でもあり、独自の文化とファン層を築いている一大メディア」

律子「だから場合によっては、テレビでの活動に左右されない、全く別の『基盤』にもなりえる」

P「そうそう、それも理由の一つ」

律子「ええ、ですから無視することは絶対に出来ない存在……ですけど……」

P「……だけど?」

律子「それでも……ラジオパーソナリティは……盲点でした」

P「盲点?」

律子「はい。……確かに活動内容や、私の伸ばすべき適正なんかを考えると、妥当かとも思います」

律子「でも……そう、一大メディアなんて言っておいて……私、ラジオ番組のことを全く考えていなかった」

P「って言うと?」

律子「……もしも今回のようなことが起こらずに、私がプロデューサーとして活動していたとしたら……」

律子「そうしたら恐らくは、どこかで伊織たちの出るであろう、ラジオの企画も考えていたかもしれません」

P「……いいじゃないか、それならそれで」

律子「……いえ、違うんです」

律子「……」

律子「結局の所……私は今になって初めて『ラジオで自分の番組を持つ』っていう選択肢に気付きました」

律子「ルックスに自信が無い、歌も上手くない、なんて自分で言っておいて……」


『じゃあ仮に、顔を出さなくても芸能活動が出来る場所はないか』

『喋りはまだ得意な方だけど、それをアイドル活動にどう活かすか』


律子「……私のことなのに、それを考えることもしないで、アイドル=テレビってことしか頭に無くて」

律子「うん……もちろん、気付いたらラジオパーソナリティを目指してたか……って言われたら違うかもしれませんけど」

律子「でも、今のこの場で、私自身がそれに気付けた……それが、何よりも嬉しくって悔しいです」

P「律子……」

律子「ふぅ……伊織へのプラン、やっぱり納得はしてません。してませんけど……」

律子「……私が未熟で、まだまだするべきことがたくさんある」

律子「と言うより、あなたを超えるプロデューサーになれるように、私にはするべきことがある」

律子「……それを心から、実感しました」

律子「だから……」

律子「私はプロデューサーの考えに、乗ってみたいです」

P「……!」

P「り、律子……」

P「……ってことは……まず基本は、個性派の『メガネアイドル』として活動だ」

律子「ええ、そしてテレビ番組はバラエティを中心に」

P「お、おぉ、そうそう」

律子「初めっからイヤだなんて言ってませんけど、グラビア活動もいいですよ」

律子「メディアへの露出を増やすのは、アイドルを売り出すのに必要なことですからね」

律子「……で、そうですね。最終的にはアシスタントやMCになれるように、テレビ番組、業界の立ち回りを覚える」

P「……それと……」

律子「はい……ラジオパーソナリティとして、自分の番組を持つ」

律子「ある意味ではテレビ以上の修行の場として。あとそれとは別に、自分のもう一つの活動の場として」

P「……ってことで、いいのか?」

律子「ふふっ、当たり前ですよ」

律子「まだまだ勉強不足ですからね、私」

律子「やるからには……全力で、行かせてもらいますよ」

P「そう、か……そうかそうか……」

律子「……しっかし、よくそんなにポンポン思いつきますね~」

律子「ま……自分に合ってる気がする、なんとなくその活動で、活躍している姿が思い浮かぶ」

律子「そういうプランだから、三人ともプロデューサーの考えに乗ったんでしょうけどね」

律子「……もう春香とか響とか、ひょっとして全員分のプラン、あったりするんですか?」

P「……ん? あ、あぁ、一応考えてはいた、けど……」

律子「?」

P「律子のグループのプランを見て、学ぶべき所がいくつもあった」

P「グループでのバランスの取り方、相乗効果」

P「ソロでの売り出し方しか考えてなかった俺からすれば、目の醒めるようなことだらけだったよ」

P「アイドルグループでの案を、新たに考えてみる必要があるかもしれないな」

律子「……ふふっ、今回のあずささんたちのグループはしょうがないですけど……」

律子「全員プロデューサーに任せたりは、させませんよ?」

P「……」

律子「ちゃんと、私がプロデュースできるように……残して、って言っていいのかしら」

律子「まぁいいわ……新人の娘でも何でも、プロデューサーが片っ端からデビューさせたりはしないでくださいよ?」

P「…………」

P「律子」

律子「はい?」

P「……これから話すことが、俺から律子にして欲しい、最後のことだ」

律子「……?」

律子「何ですか、改まって」

P「事務所のメンバー、一番最初に入ったのが、律子とあずささんだったな」

律子「そうですね」

P「で、その後に他のメンバーが次々入ってくれて……」

P「最後に入ったのが、亜美真美だった」

律子「……ええ、そうですけど」

P「……律子よ」

律子「はい?」

P「お前が芸能界で活動して、自分の中でその活動が『成功』だと確信できるようになった時……」

P「お前に、あずささん、伊織、亜美のグループをプロデュースしてもらいたい」

律子「……」

律子「…………」

律子「は……はいぃ!?」

P「……お前に足りないのは確信できるだけの自信と、経験だ」

P「俺にだってアイドルの経験なんて無いが、一応は確信はあった」

P「あとは……みんなが夢持って活動にやる気出してもらえるようにするための……口先と情熱?」

律子「や……え、えぇ!?」

P「本人たちが、俺のプランに乗ってくれた。それは素直に嬉しいことだ」

P「でも律子、それは俺が確信と情熱と、あとは口先でもって、みんなを奮起させたからそうなったんだ」

P「俺があずささんに対して、グループよりもソロで行って欲しいという考えをぶつけたのと同じように……」

P「律子のプロデュースしたいという情熱で、俺のプランをへのやる気を上書きすることも出来るんじゃないのか?」

律子「!? な、そ……そんなこと……!」

P「……実はこれは、極めて論理的な話でもある」

P「言っても俺のプランは、まだ実践されていない。成功するかもしれないが、成功しているわけではない」

P「だけど少しみんなのデビューを遅らせる形にはなるが……」

P「実際に芸能界で『成功』した律子が、プロデューサーになれれば」

P「経験者、成功者を前に俺はきっと、そうなった時、律子ほどの説得力を持てていないかもしれない」

律子「……」

P「確信が無いから踏み切れない、経験があることでプロデュース業に応用できる」

P「それもそうだが、最後の最後で決め手になるのは、この人をプロデュースしたいという『情熱』」

律子「……情熱……」

P「俺自身は、実際にそれぞれをデビューさせるつもりで、本気でプランを考えて提示した」

P「そうでなきゃ、伊織なんかは絶対に納得してくれなかっただろうしな」

P「……まあ、三人には『選択を迫る』という形で、少し苦しい思いもさせるかもしれんけど……」

P「でも恐らく、律子のプランの本当の意図と、どうしてもこのグループでやりたいんだっていう熱意を伝えれば……」

P「きっと……俺のプランに対するやる気をも凌駕してくるはずだ」

律子「…………」

律子「……あなたって人は……本当に……」プルプル

律子「口八丁の夢物語……まさかここに来てそれが……」

P「あずささんがグループに埋もれる可能性があるって言うなら、俺が提示したようなソロでの女優業にも力を入れさせればいい」

P「伊織がそれでもコメンテーターに前向きなら、本人のやる気に任せるのもいいだろう」

P「亜美が真美と活動できなくなるかもしれないが、『派生ユニット』という形で双子で活動させてもいい」

P「グループだからって、俺の考えが全部却下されるわけじゃないしな……そういう形で、みんなのやる気を延長させてもいいんだ」

律子「……わ、私のプランを……潰すってつもりじゃあ……」

P「……違うな。芸能界で経験と自信を積んでもらいたかった」

P「だから、一先ずはプランという考えそのものを頭から消してもらおうと思った」

律子「そ、そんな……」

P「……俺は律子に、俺以上のプロデューサーになってもらいたい」

律子「!」

P「しっかりと考えられた理論とアイドルたちの観察力」

P「そこに加わる、芸能界で培った様々な能力」

P「そして最後に、俺の考えをそもそもから上書きできるほどの情熱」

P「全部が合わさったその時こそ、律子の考えたグループ活動は、最高に輝いてくれるはずなんだ」

律子「……だ……だから……」

律子「だからこんな……回りくどい……」

P「……そうだな。散々遠回りさせてすまなかった」

P「律子には俺と一緒の立場……プロデューサーになってもらいたい」

P「そして、俺の『夢物語』のようなプランを、一緒に考えても、それを超えるプランを考えてももらいたい」

律子「一緒に……ですか」

P「ああ」

P「事務所のみんなを笑顔にしたい、だからみんなを輝かせられるようなプランを作りたい」

P「……そしてどれだけ彼女たちを輝かせることができるか……勝負、してみたいじゃないか」

律子「勝負……」

P「どうだ?」

律子「……」

律子「…………フゥ」

律子「わかりましたよプロデューサー殿……」

律子「未来のプロデューサー、現アイドル研究生の私、『秋月律子』が……」

律子「そのプランにも、乗ってあげようじゃありませんか」

律子「私がさっさと芸能界で『成功』してみせて……」

律子「三人のグループも、あっという間に売れっ子にしてみせますからね!」

P「……ああ、望むところだ!」








律子編 おわり

P(……)

P(とりあえず……現状ですべきことは全てやった)

P(あずささん、伊織、亜美の三人には、デビューが遅れることを話しておかなきゃな)

P(あずささんがデビューの時期が更に遅くなるのは申し訳ないが……)

P(まあ、律子がデビューして、律子がその三人をデビューさせて)

P(その後、他のメンバーを、ってとこだから……問題ではない……だろうと思う)

P(まぁ後は、やる気だしてくれた伊織が、文句を言うかもしれないけど……)

P(……それも俺が何とかしなきゃな)

P(……)

P(……そう、だな……)

P(一番は……亜美……というか、真美か……)

P(……)


『もしも、律子のプロデュースするグループが予想以上の売れっ子になったら』

『それによって亜美が、真美と一緒の活動が出来ないくらい、忙しくなったら』


P(……)

P(うん……)

P(律子の活動と考えが全て上手く行って、その上で更にプロデュース業も……)

P(そんな奇跡のような誤算があった上で起こり得ることだが……)

P(……ふふっ、その時は……俺が全ての悪者になればいいだけか)

P(奇跡のような誤算を起こした、律子の実力)

P(俺がそれをサポートする形で、他のみんなを導いて行かなければならない)

P(きっと、そういうことなんだろう……)

律子「? プロデューサーどうかしましたか?」

P「ああ、いや何でもない」

P「……アイドルもプロデュースも、期待……してるぞ?」

律子「! ……ふ、任せてくださいよ。美希ほどじゃないですけど、本気出したら結構やりますよ」

P「……ああ!」


―――


社長「……それで、話というのは?」

P「ええ社長。……『竜宮小町』が、軌道に乗ってきたじゃないですか」

社長「そうだね。とても喜ばしいことだ」

社長「まあ、短期間で目覚しい活躍をしていた律子君が、急にプロデューサーに転向してしまったのは……」

社長「そういう道を目指していたのは知っていたが、あまりに突然で驚いてしまったな」

社長「……ただ、そのプロデュース業すらも自分のものにしてしまったからな、流石は律子君だな」

P「そうですね」

社長「……ふふふ。もしかして、私が君に促した『アドバイス』が効いたのかもな?」

P「どうですかね~?」

社長「……あぁ、それで、それがどうかしたのかね?」

P「……それで社長、事務所の他のメンバーも、この機会にデビューさせてみませんか?」

社長「春香君たちもかね?」

P「ええ。ちゃんと、全員分のプランも考えてあるんです」

P「……二組ほど、グループでのプランも」

社長「ほほぅ……」

社長「確かにわが社も、この勢いに乗らない手はない、か……」

社長「……ひとまず、その全員分のプランとやらを聞かせてくれないかね?」

P「……はい!」








おわり

これで本当に終わり
長々くどくどと続けてしまいましたが、
最後まで見てくれた人がいたら本当にありがとうございました

あずささん編書いた最初の時点では
「まあパラレルワールドってことでいっかー」
とか思ってたんですけど、途中から
「あれ、これ上手くやれば繋げられるかな?」
と欲が出て、結果的に最初に繋がるような構成になりました

途中から軌道修正したから、
矛盾とかミスとかフツーにあるかもしんないけど
生暖かい目で見て、脳内変換してくれれば幸いです

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