ルビィ「前略、スカーフを結ぶのが上手くなりました」 (20)

黒澤母「ルビィ! いつまで寝てるの!」

ルビィ「むにゃ……おかーさん? どうしたの?」

黒澤母「どうしたも何も……ルビィ、あなた今日から学校でしょう!!」

ルビィ「おかーさん……学校は来週からだよ、ルビィちゃんとスケジュール見て確認したもん」

黒澤母「どうせ、貴方が見たのはそこに転がってる浦の星の予定表でしょう? 今日からルビィが通うのは、駅前の方の学校よ!?」

ルビィ「あ……」サーッ





ルビィ「どうしよう!!遅刻しちゃう!あれ……おかーさん!制服のスカートどこ!?……わわっ!!」


ドタドタ……ガタン!!!


黒澤母「……はぁ……全く、あの子ったら…」


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【教室】

ルビィ「はぁっ……はぁっ……」

花丸「なるほど、それで、朝礼最中の教室に走って突っ込んで来たんだね」

善子「滅茶苦茶目立ってたわよ~、初対面の人も大勢いるのに」

ルビィ「うぅ……善子ちゃんの意地悪……」

花丸「まぁ……確かに思いっきりドア開けて視線を集めてから、教室の真ん中でずっこけるのは……確かに注目度ピカイチだったずら……」

ルビィ「花丸ちゃんまで……」

善子「ま、終わった事はしょうがないわよ、大切なのは次どうするかよ!次!」

ルビィ「なんで善子ちゃんはちょっとハイテンションなの……」

花丸「去年の自分みたいな苦労してて、ちょっと嬉しいらしいずら」

ルビィ「善子ちゃんの鬼!悪魔!」

善子「ふふっ、残念ね、私は悪魔よ!」

【教室】

ルビィ「はぁっ……はぁっ……」

花丸「なるほど、それで、朝礼最中の教室に走って突っ込んで来たんだね」

善子「滅茶苦茶目立ってたわよ~、初対面の人も大勢いるのに」

ルビィ「うぅ……善子ちゃんの意地悪……」

花丸「まぁ……確かに思いっきりドア開けて視線を集めてから、教室の真ん中でずっこけるのは……確かに注目度ピカイチだったずら……」

ルビィ「花丸ちゃんまで……」

善子「ま、終わった事はしょうがないわよ、大切なのは次どうするかよ!次!」

ルビィ「なんで善子ちゃんはちょっとハイテンションなの……」

花丸「去年の自分みたいな苦労してて、ちょっと嬉しいらしいずら」

ルビィ「善子ちゃんの鬼!悪魔!」

善子「ふふっ、残念ね、私は悪魔よ!」

善子「あら? ルビィ、スカーフが解けてるわよ?」

ルビィ「え?わっ……ホントだ……走って来るうちに緩んじゃってたのかな……」

花丸「よくある事ずら、後、くっついてるピンがどっかいっちゃたり……マル、三学期に二回もピンなくしたずら……」

善子「それはちょっとなくし過ぎよ……」

ルビィ「うんしょ……ええと……こうして……こうだっけ……」モタモタ

善子「……」

花丸「……」



ルビィ「…………できない」

善子「うそでしょ!? アンタ一年間スカーフ付けて登校してたわよね!?」

ルビィ「その……基本結ばれた状態だったからそのまま着けたり、朝時間が無いときはお姉ちゃんがパッと結んでくれてたから……」

善子「完全に過保護の弊害ね……」

花丸「もしかして……ダイヤさんってルビィちゃんに想像以上に……甘いずら……?」

善子「今更!?」

花丸「ダイヤさんは今いないから、とりあえずマルが直してあげるずら!!」

ルビィ「わわっ……花丸ちゃんありがとう、ふふっ……なんかちょっと、くすぐったいかも」

花丸「こうやって結んでると、旦那さんのネクタイを結んであげるお嫁さんみたいずら」

ルビィ「えへへ……もう、花丸ちゃんったら」

花丸「ええと……片側をめいっぱい長くして……ええと、右を細めにして……」



花丸「…………あれ?」

善子「いや、あんたも出来ないんかい」

花丸「自分のやつ結ぶのとは大違いずら……逆なだけでこんなに難しいとは……」

善子「もういい、貸しなさいよ!私がやってあげるわ!!」

善子「左右逆でこんがらがるなら後ろから手を伸ばせばいいのよ!」

ルビィ「わっ…!善子ちゃん、息がくすぐったいよ」

善子「……我慢しなさい、今バッチリ結んであげるから」

善子「ええと……こっちを持って……持って来たやつを後ろに回して……」

善子「……あれ?」

花丸「善子ちゃんもダメダメずら」

善子「う、うるさいわね! 背中越しだと手元が見辛いのよ!」

ギャーギャー


ルビィ「ル、ルビィを挟んだまま二人で喧嘩しないで……」

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ルビィ「ただいまー」

黒澤母「あら、おかえりなさいルビィ、新しい学校はどうだった?」

ルビィ「うーん、あんまり変わらないかな……善子ちゃんも花丸ちゃんもいるし」

黒澤母「そう……明日からは遅刻しないようにちゃんと行くのよ?」

ルビィ「うぅっ……ごめんなさい……」

黒澤母「明日からはしっかりね。着替えは洗濯物に出しときなさいよ、放っておいて直ぐ皺にするんだから」

ルビィ「はーい」

自室に戻り、スクールバックを床に落とす。中身の詰まっていない通学鞄は、ぱさり、と軽い音を立てて絨毯の上に寝転んだ

スカートを下して同じく床に落とす、スカーフを引き抜きそのままベッドに倒れ込む。人の熱が逃げ切った布団は、肌にほんのり冷たさを残してくれて、心地が良い。

ルビィ「ふうっ……」


大した行動もしていないのに、自然とため息を吐き出してしまう。休み明けの登校は、いつだって、普段の何倍も億劫だ。

ふと、手に握られた布の感触を確かめる。さっきまで自分の首に巻き付けられていた、スカーフ。サラサラとして、手に伝わる感覚が心地よい。

浦の星女学院では、学年ごとに色の誓うスカーフを付けるのが校則で決められていた。学校が変わった今、それを強制する校則は無いにしろ、やはり、今まであったものをなくす、というのは何となく気持ちが悪いし、何より不格好だ。

リボンほど派手ではない、ネクタイほど地味でもない。静かに、一点、アクセントを残す布、スカーフ。

ルビィ「(そういえば、結局善子ちゃんが急拵えで結んでくれたっけ)」

あの後、始業を知らせるチャイムが鳴ってしまい、善子は急ぎで、簡易的な結びをルビィの胸元に作り上げてくれた

あの二人だから、笑って受け入れてくれたが、新しく同じクラスになった、見ず知らずの人に知られたら呆れられてしまうかもしれない。そう思うと、少し、気持ちが萎む。

ルビィ「(流石に、出来なきゃ……だよね……それに、何より)」

朝の一悶着の間に、何気なく発せられた言葉が、頭の中をぐるぐると回る。


花丸『ダイヤさんは今いないから、とりあえずマルが直してあげるずら!!』


お姉ちゃんは、いない。

いくら簡単な事でも、自分で出来ないとならない。人に頼らずに、自分の手で。

……その簡単な事を、出来ていないのだけれど。

ゆっくりとした動作でベッドから起き上がり、姿見の前に立つ、既にシャツの端々には少しだけ、皺が出来ていた。

スカーフを手に取り、首の後ろに掛ける。捻じれることの無いように手で戻していき、前で二つ揃える。

ルビィ「ええと……お姉ちゃんどうやって結んでくれてたっけ……」

幾度となく自分の胸の前で行われていた事なのに、構造が分からない。無理に揃えて合わせてみても、捻じれによる皺が目だって、何というか、不格好だ。

ルビィ「(うーん……だめ……出来ない)」

あてずっぽうにやってみても、布を一枚、頓珍漢の様に巻いているようにしか見えなかった。

手にしていたスカーフを床に放り出して諦め、ベッドに向かって倒れた。

直ぐに投げるのが、自分の悪い癖だと分かっていた、物も、物事自体も。

倒れ込むと、落下の勢いそのままに、腹に衝撃を受けた。

ルビィ「ぐえっ……!何!? ああ……携帯…」

痛みの感じる箇所を手で探ってみると、ベッドの上に投げ出されていたスマートフォンが、腹に刺さっていたことが分かった

ルビィ「(あ、そうか……スマホで調べればいいんだ)」

スマートフォンの検索窓を開き、簡易的な言葉を撃ち込む。普段散々弄っているのにも関わらず、普段調べない事には頭が回っていなかった。

ルビィ「(ダブルツイストチョーカー…? ライニング…?…そうじゃなくて、もう少しシンプルな……あった!!)」

制服に合わせるのに適した結び方のページを、被服店のホームページから見つけ出し、開く。写真付きで手順が書いてあり、これなら一ステップずつ確認しながら結ぶことが出来る。

ルビィ「ええと……まず角を中心まで折るって……下側も同様に……」

映し出される画面に指図されながら、素直に一手ずつ布を折り、首に巻き付けていく。

小一時間の格闘の末、スカーフを巻き上げることが出来た。

ルビィ「…………出来た!!」

姿見に映る自分の姿は、少しばかり誇らしげだった。少し形が崩れている個所もあるが、普段の生活では気付かれない範疇だろう。

ルビィ「これを後は……何も見ずに出来る様にしないと……」

一度結び付けたスカーフを、再度解き、首に掛ける。スマートフォンの画面をスリープモードにして、手順を一つ一つ思い出しながら、さっきまでそこにあった形を、創り上げていく。

ルビィ「三角に折る、片方をもう一度少し折って……そのまま重ねる……」




姿見の前でのひとりぼっちの反復練習は、洗濯物のスカートを拾いに母が来るまで続いた。


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黒澤母「ルビィ! 起きなさい、また遅刻するわよ!……って」

ルビィ「おはよう、おかあさん」

黒澤母「……おはよう、もう起きてたのね」

ルビィ「えへへ……ルビィも偶には、ね」

黒澤母「その調子がずっと続けばいいけど……朝ごはんの準備、もう出来てるから、着替えたら下に着なさいな」

ルビィ「はーい」

上下のパジャマを脱ぎ、腰回りにスカートを付け、気持ち上の方で留める。

横着して、ボタンをはずしていないシャツを頭の上被り、頭と袖を同時に通す。おかあさんが新しく卸してくれた物らしく、パリッと糊が利いていて気持ちがいい。

上下の服を素早く着替えて、ベッドの上に置かれたスカーフを無造作に掴み、姿見の前に立つ。

ルビィ「……よし」

なんとなく、ほんの少身構えてしまう。荒い鼻息が出してしまって、自分で少し、笑ってしまった。

なめらかな布地を首の後ろにかけ、眼前で紡ぎ合わせる。

ルビィ「(そういえば……おねえちゃんにやってもらった時も、こんな感じだったかも)」

胸元で繰り広げられていた光景に、その手の動きに、私は見覚えがあった。

ルビィ「出来た……」

驚くほどあっけなく、その形は完成した。

ルビィ「……お姉ちゃんも、こんな風にきっちり着てたっけ」

ハリの有る自分の制服姿で、何故か、お姉ちゃんのことを思い出した。

お姉ちゃんはいつだって、皴一つない制服に身を包んで背筋を伸ばしている人だった。
そんなお姉ちゃんを、私は、「凛としている」という表現が、世界で一番似合う、なんて思うくらい、素敵だと思っていた。

ルビィ「あれ…?」

姿見に映る自分の姿を、覗き込むように見つめてみる。見られたはずの自分の見た目にちょっとした違和感を感じた。

悪いものじゃない、むしろ、いい。まっすぐ伸びたスカーフも、皴一つないシャツを羽織る姿も。

何ていうか、ちょっと、キマってる気がする。

ルビィ「……」クルッ

冗長して、姿見の前でくるり、と一回転。うん、悪くない。去年までのが、「制服に着られていた」と感じるほど、綺麗に着られていた。

ルビィ「 えーと……ケータイ、ケータイは……あった……あー、昨日充電し忘れてた……」


冗長ついでに、一枚、携帯のインカメでパチリ、とやる。
自撮りはそれほど得意な訳ではないけど、外カメラで自分を一生懸命撮ろうとしていた花丸程ではなく、それなりには写すことが出来る。スクールアイドル時代は、衣装を着た時なんかによく撮っていた。


ルビィ「……うん、いいかも」


ただの制服なのに、ちょっと、いい。なんというか、「正しく」着られている。気持ちがすっと抜けていいく春風のようで、心地よい。



多分、今だけは、お姉ちゃんみたいにきっちり、やれてると思う。

ルビィ「あ!そうだ!」

ひとつ、いいことを思いつきました。


取ったばかりの画像をメッセージアプリの空白の部分に添える。自撮りというものを面と向かって送るのは恥ずかしいけど、見てもらいたい気持ちが、ちょっとだけ勝ちました。

そう言えば、お姉ちゃんとは四月から連絡を取っていない。

よく考えてみれば、私の高校生活が始まっているのなら、東京の大学なんて、とうの昔に始まっているはずだ。

ルビィ「ちょっとだけ画像を明るくしてっと……ええと、言葉は……」

無題で画像を送り付けるのは、さすがに少し、気恥ずかしい。何か少しは、言葉を添えたい。

少しの間逡巡すると、これだ、というのが浮かんできました。

ほんの一行、短い言葉を件名のテキストボックスに打ち込む。画像の後ろに、ちょっとだけ近況を載せて、すぐに送信ボタンを押した。

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ピロン!!


ダイヤ「ん……ふわぁ……今何時…?…ええと、今日は……二時間目からだからまだ余裕ですわね」


ダイヤ「……あら、ルビィからメッセージ?」

ダイヤ「今送って来たって事は、一応ちゃんと朝起きてるみたいですわね……ええと……」

ダイヤ「……制服の写真、ですね…ええと、件名は…」




ダイヤ「……ふふっ……全く、あの子ったら…」








「前略、スカーフを結ぶのが上手くなりました」

おわり

>>3
不要
>>13
着なさいな→来なさいな

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