黒澤母「ルビィ! いつまで寝てるの!」
ルビィ「むにゃ……おかーさん? どうしたの?」
黒澤母「どうしたも何も……ルビィ、あなた今日から学校でしょう!!」
ルビィ「おかーさん……学校は来週からだよ、ルビィちゃんとスケジュール見て確認したもん」
黒澤母「どうせ、貴方が見たのはそこに転がってる浦の星の予定表でしょう? 今日からルビィが通うのは、駅前の方の学校よ!?」
ルビィ「あ……」サーッ
ルビィ「どうしよう!!遅刻しちゃう!あれ……おかーさん!制服のスカートどこ!?……わわっ!!」
ドタドタ……ガタン!!!
黒澤母「……はぁ……全く、あの子ったら…」
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【教室】
ルビィ「はぁっ……はぁっ……」
花丸「なるほど、それで、朝礼最中の教室に走って突っ込んで来たんだね」
善子「滅茶苦茶目立ってたわよ~、初対面の人も大勢いるのに」
ルビィ「うぅ……善子ちゃんの意地悪……」
花丸「まぁ……確かに思いっきりドア開けて視線を集めてから、教室の真ん中でずっこけるのは……確かに注目度ピカイチだったずら……」
ルビィ「花丸ちゃんまで……」
善子「ま、終わった事はしょうがないわよ、大切なのは次どうするかよ!次!」
ルビィ「なんで善子ちゃんはちょっとハイテンションなの……」
花丸「去年の自分みたいな苦労してて、ちょっと嬉しいらしいずら」
ルビィ「善子ちゃんの鬼!悪魔!」
善子「ふふっ、残念ね、私は悪魔よ!」
【教室】
ルビィ「はぁっ……はぁっ……」
花丸「なるほど、それで、朝礼最中の教室に走って突っ込んで来たんだね」
善子「滅茶苦茶目立ってたわよ~、初対面の人も大勢いるのに」
ルビィ「うぅ……善子ちゃんの意地悪……」
花丸「まぁ……確かに思いっきりドア開けて視線を集めてから、教室の真ん中でずっこけるのは……確かに注目度ピカイチだったずら……」
ルビィ「花丸ちゃんまで……」
善子「ま、終わった事はしょうがないわよ、大切なのは次どうするかよ!次!」
ルビィ「なんで善子ちゃんはちょっとハイテンションなの……」
花丸「去年の自分みたいな苦労してて、ちょっと嬉しいらしいずら」
ルビィ「善子ちゃんの鬼!悪魔!」
善子「ふふっ、残念ね、私は悪魔よ!」
善子「あら? ルビィ、スカーフが解けてるわよ?」
ルビィ「え?わっ……ホントだ……走って来るうちに緩んじゃってたのかな……」
花丸「よくある事ずら、後、くっついてるピンがどっかいっちゃたり……マル、三学期に二回もピンなくしたずら……」
善子「それはちょっとなくし過ぎよ……」
ルビィ「うんしょ……ええと……こうして……こうだっけ……」モタモタ
善子「……」
花丸「……」
ルビィ「…………できない」
善子「うそでしょ!? アンタ一年間スカーフ付けて登校してたわよね!?」
ルビィ「その……基本結ばれた状態だったからそのまま着けたり、朝時間が無いときはお姉ちゃんがパッと結んでくれてたから……」
善子「完全に過保護の弊害ね……」
花丸「もしかして……ダイヤさんってルビィちゃんに想像以上に……甘いずら……?」
善子「今更!?」
花丸「ダイヤさんは今いないから、とりあえずマルが直してあげるずら!!」
ルビィ「わわっ……花丸ちゃんありがとう、ふふっ……なんかちょっと、くすぐったいかも」
花丸「こうやって結んでると、旦那さんのネクタイを結んであげるお嫁さんみたいずら」
ルビィ「えへへ……もう、花丸ちゃんったら」
花丸「ええと……片側をめいっぱい長くして……ええと、右を細めにして……」
花丸「…………あれ?」
善子「いや、あんたも出来ないんかい」
花丸「自分のやつ結ぶのとは大違いずら……逆なだけでこんなに難しいとは……」
善子「もういい、貸しなさいよ!私がやってあげるわ!!」
善子「左右逆でこんがらがるなら後ろから手を伸ばせばいいのよ!」
ルビィ「わっ…!善子ちゃん、息がくすぐったいよ」
善子「……我慢しなさい、今バッチリ結んであげるから」
善子「ええと……こっちを持って……持って来たやつを後ろに回して……」
善子「……あれ?」
花丸「善子ちゃんもダメダメずら」
善子「う、うるさいわね! 背中越しだと手元が見辛いのよ!」
ギャーギャー
ルビィ「ル、ルビィを挟んだまま二人で喧嘩しないで……」
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ルビィ「ただいまー」
黒澤母「あら、おかえりなさいルビィ、新しい学校はどうだった?」
ルビィ「うーん、あんまり変わらないかな……善子ちゃんも花丸ちゃんもいるし」
黒澤母「そう……明日からは遅刻しないようにちゃんと行くのよ?」
ルビィ「うぅっ……ごめんなさい……」
黒澤母「明日からはしっかりね。着替えは洗濯物に出しときなさいよ、放っておいて直ぐ皺にするんだから」
ルビィ「はーい」
自室に戻り、スクールバックを床に落とす。中身の詰まっていない通学鞄は、ぱさり、と軽い音を立てて絨毯の上に寝転んだ
スカートを下して同じく床に落とす、スカーフを引き抜きそのままベッドに倒れ込む。人の熱が逃げ切った布団は、肌にほんのり冷たさを残してくれて、心地が良い。
ルビィ「ふうっ……」
大した行動もしていないのに、自然とため息を吐き出してしまう。休み明けの登校は、いつだって、普段の何倍も億劫だ。
ふと、手に握られた布の感触を確かめる。さっきまで自分の首に巻き付けられていた、スカーフ。サラサラとして、手に伝わる感覚が心地よい。
浦の星女学院では、学年ごとに色の誓うスカーフを付けるのが校則で決められていた。学校が変わった今、それを強制する校則は無いにしろ、やはり、今まであったものをなくす、というのは何となく気持ちが悪いし、何より不格好だ。
リボンほど派手ではない、ネクタイほど地味でもない。静かに、一点、アクセントを残す布、スカーフ。
ルビィ「(そういえば、結局善子ちゃんが急拵えで結んでくれたっけ)」
あの後、始業を知らせるチャイムが鳴ってしまい、善子は急ぎで、簡易的な結びをルビィの胸元に作り上げてくれた
あの二人だから、笑って受け入れてくれたが、新しく同じクラスになった、見ず知らずの人に知られたら呆れられてしまうかもしれない。そう思うと、少し、気持ちが萎む。
ルビィ「(流石に、出来なきゃ……だよね……それに、何より)」
朝の一悶着の間に、何気なく発せられた言葉が、頭の中をぐるぐると回る。
花丸『ダイヤさんは今いないから、とりあえずマルが直してあげるずら!!』
お姉ちゃんは、いない。
いくら簡単な事でも、自分で出来ないとならない。人に頼らずに、自分の手で。
……その簡単な事を、出来ていないのだけれど。
ゆっくりとした動作でベッドから起き上がり、姿見の前に立つ、既にシャツの端々には少しだけ、皺が出来ていた。
スカーフを手に取り、首の後ろに掛ける。捻じれることの無いように手で戻していき、前で二つ揃える。
ルビィ「ええと……お姉ちゃんどうやって結んでくれてたっけ……」
幾度となく自分の胸の前で行われていた事なのに、構造が分からない。無理に揃えて合わせてみても、捻じれによる皺が目だって、何というか、不格好だ。
ルビィ「(うーん……だめ……出来ない)」
あてずっぽうにやってみても、布を一枚、頓珍漢の様に巻いているようにしか見えなかった。
手にしていたスカーフを床に放り出して諦め、ベッドに向かって倒れた。
直ぐに投げるのが、自分の悪い癖だと分かっていた、物も、物事自体も。
倒れ込むと、落下の勢いそのままに、腹に衝撃を受けた。
ルビィ「ぐえっ……!何!? ああ……携帯…」
痛みの感じる箇所を手で探ってみると、ベッドの上に投げ出されていたスマートフォンが、腹に刺さっていたことが分かった
ルビィ「(あ、そうか……スマホで調べればいいんだ)」
スマートフォンの検索窓を開き、簡易的な言葉を撃ち込む。普段散々弄っているのにも関わらず、普段調べない事には頭が回っていなかった。
ルビィ「(ダブルツイストチョーカー…? ライニング…?…そうじゃなくて、もう少しシンプルな……あった!!)」
制服に合わせるのに適した結び方のページを、被服店のホームページから見つけ出し、開く。写真付きで手順が書いてあり、これなら一ステップずつ確認しながら結ぶことが出来る。
ルビィ「ええと……まず角を中心まで折るって……下側も同様に……」
映し出される画面に指図されながら、素直に一手ずつ布を折り、首に巻き付けていく。
小一時間の格闘の末、スカーフを巻き上げることが出来た。
ルビィ「…………出来た!!」
姿見に映る自分の姿は、少しばかり誇らしげだった。少し形が崩れている個所もあるが、普段の生活では気付かれない範疇だろう。
ルビィ「これを後は……何も見ずに出来る様にしないと……」
一度結び付けたスカーフを、再度解き、首に掛ける。スマートフォンの画面をスリープモードにして、手順を一つ一つ思い出しながら、さっきまでそこにあった形を、創り上げていく。
ルビィ「三角に折る、片方をもう一度少し折って……そのまま重ねる……」
姿見の前でのひとりぼっちの反復練習は、洗濯物のスカートを拾いに母が来るまで続いた。
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黒澤母「ルビィ! 起きなさい、また遅刻するわよ!……って」
ルビィ「おはよう、おかあさん」
黒澤母「……おはよう、もう起きてたのね」
ルビィ「えへへ……ルビィも偶には、ね」
黒澤母「その調子がずっと続けばいいけど……朝ごはんの準備、もう出来てるから、着替えたら下に着なさいな」
ルビィ「はーい」
上下のパジャマを脱ぎ、腰回りにスカートを付け、気持ち上の方で留める。
横着して、ボタンをはずしていないシャツを頭の上被り、頭と袖を同時に通す。おかあさんが新しく卸してくれた物らしく、パリッと糊が利いていて気持ちがいい。
上下の服を素早く着替えて、ベッドの上に置かれたスカーフを無造作に掴み、姿見の前に立つ。
ルビィ「……よし」
なんとなく、ほんの少身構えてしまう。荒い鼻息が出してしまって、自分で少し、笑ってしまった。
なめらかな布地を首の後ろにかけ、眼前で紡ぎ合わせる。
ルビィ「(そういえば……おねえちゃんにやってもらった時も、こんな感じだったかも)」
胸元で繰り広げられていた光景に、その手の動きに、私は見覚えがあった。
ルビィ「出来た……」
驚くほどあっけなく、その形は完成した。
ルビィ「……お姉ちゃんも、こんな風にきっちり着てたっけ」
ハリの有る自分の制服姿で、何故か、お姉ちゃんのことを思い出した。
お姉ちゃんはいつだって、皴一つない制服に身を包んで背筋を伸ばしている人だった。
そんなお姉ちゃんを、私は、「凛としている」という表現が、世界で一番似合う、なんて思うくらい、素敵だと思っていた。
ルビィ「あれ…?」
姿見に映る自分の姿を、覗き込むように見つめてみる。見られたはずの自分の見た目にちょっとした違和感を感じた。
悪いものじゃない、むしろ、いい。まっすぐ伸びたスカーフも、皴一つないシャツを羽織る姿も。
何ていうか、ちょっと、キマってる気がする。
ルビィ「……」クルッ
冗長して、姿見の前でくるり、と一回転。うん、悪くない。去年までのが、「制服に着られていた」と感じるほど、綺麗に着られていた。
ルビィ「 えーと……ケータイ、ケータイは……あった……あー、昨日充電し忘れてた……」
冗長ついでに、一枚、携帯のインカメでパチリ、とやる。
自撮りはそれほど得意な訳ではないけど、外カメラで自分を一生懸命撮ろうとしていた花丸程ではなく、それなりには写すことが出来る。スクールアイドル時代は、衣装を着た時なんかによく撮っていた。
ルビィ「……うん、いいかも」
ただの制服なのに、ちょっと、いい。なんというか、「正しく」着られている。気持ちがすっと抜けていいく春風のようで、心地よい。
多分、今だけは、お姉ちゃんみたいにきっちり、やれてると思う。
ルビィ「あ!そうだ!」
ひとつ、いいことを思いつきました。
取ったばかりの画像をメッセージアプリの空白の部分に添える。自撮りというものを面と向かって送るのは恥ずかしいけど、見てもらいたい気持ちが、ちょっとだけ勝ちました。
そう言えば、お姉ちゃんとは四月から連絡を取っていない。
よく考えてみれば、私の高校生活が始まっているのなら、東京の大学なんて、とうの昔に始まっているはずだ。
ルビィ「ちょっとだけ画像を明るくしてっと……ええと、言葉は……」
無題で画像を送り付けるのは、さすがに少し、気恥ずかしい。何か少しは、言葉を添えたい。
少しの間逡巡すると、これだ、というのが浮かんできました。
ほんの一行、短い言葉を件名のテキストボックスに打ち込む。画像の後ろに、ちょっとだけ近況を載せて、すぐに送信ボタンを押した。
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ピロン!!
ダイヤ「ん……ふわぁ……今何時…?…ええと、今日は……二時間目からだからまだ余裕ですわね」
ダイヤ「……あら、ルビィからメッセージ?」
ダイヤ「今送って来たって事は、一応ちゃんと朝起きてるみたいですわね……ええと……」
ダイヤ「……制服の写真、ですね…ええと、件名は…」
ダイヤ「……ふふっ……全く、あの子ったら…」
「前略、スカーフを結ぶのが上手くなりました」
おわり
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