樋口円香「百合の間に割り込まないで」 (38)


アイドルマスターシャイニーカラーズの二次創作SSです

百合に感じられる描写があるかもしれませんが、百合とも違うかもしれません

よろしくお願いします

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──

円香(色がキレイだったから。陳列が丁寧だったから。装飾が好みだったから)

円香(表紙の女の子が少し透に似ていたから──)

円香(色々と理由はあったんだと思う)

円香(とにかく私は、たまたま寄った本屋でたまたま見かけた漫画本を買ったのだ)

円香(その漫画が、百合漫画だとも知らずに)


──透の部屋──

ガチャ

透「……あれ、樋口だ」

円香「……」

透「いたんだ。ていうか……何読んでるの?」

円香「漫画」

透「へぇ。そんなの持ってたっけ」

円香「この間買った。1人で帰ったとき」

透「ふーん、そう。……面白い?」

円香「まぁ、面白いけど……」

透「?」

円香「面白くない」


透「……ふふっ、何それ。支離滅裂じゃん」クスクス

円香「……」

透「ねえ、読み終わったら私にも読ませてよ」

円香「やだ」

透「えっ、なんで?」

円香「……なんとなく」

透「ふぅん……そう。まぁ、別にいいけどさ」

円香「……」ペラ

透「……寝るわ。10分経ったら、起こして」

ストン


──

円香(小さい頃からずっと一緒だった同性の幼なじみ)

円香(主人公が幼なじみに抱く感情は、友情でも対抗心でもなく、恋心だったと自覚する──)

パタン

円香「……あ、起こすの忘れてた」

透「すー。すー」

円香「浅倉、起きて」ユサ

透「すぴー」

円香「はぁ。起こしてって言ったの浅倉でしょ」ユサユサ

円香「こんなところで寝たら……ってここ浅倉の部屋か」

透「……」スー…

円香「……私、先に帰るから。じゃあね──


──透」

透「……!」バッ

透母「わ、やっと起きた」

透「……お母さん?」

透母「円香ちゃん帰っちゃったよ。透が寝てるから、後はよろしくって言って」

透「……」

透母「透? どうしたの、なんだか悲しそうな顔してる」

透「……ううん」

透「なんでもない」


──事務所──

P「困ったな……こんな仕事、うちのアイドルにさせられないぞ」

ガチャ

透「おはようございます」

円香「……」

P「あぁ、おはよう透、円香」

透「プロデューサー、悩んでるって顔してるね。何かあったの?」

P「はは……ちょっと無茶な依頼をされちゃってな。大手出版社からなんだが、無碍にするわけにもいかなくて」


透「ふーん? ちなみにどんな依頼なの?」

P「ざっくり説明すると、番組内で漫画の話題を振るから、それとなく出版社が指定するタイトルを読んでるって言って欲しいって依頼」

透「? 変な依頼だね。質問と返答の順序が逆な気がする」

円香「変も何も、単なるステマの頼みでしょ」

P「お、おいおい、めったな言葉を使うんじゃない。事前にその漫画を読んでいれば、別に嘘をつくわけじゃないんだし」

円香「……」

P「……ごめん、無理があるよな。円香の言う通りステマだよ。だからこそ俺も悩んでるんだ」


透「悩むくらいなら断ればいいじゃん」

P「そう簡単にはいかないよ。番組のスポンサーがその出版社なんだから」

透「ふーん……じゃあステマするしかないってこと?」

P「そうもいかない。アイドルのみんなに嘘の片棒は担いでもらいたくないし、このネットの時代にステマはバレた時のリスクが高すぎる」

P「今考えてる作戦はこうだ。幸いなことにどのアイドルに宣伝して欲しいかの指定はないから、うちのアイドル全員にその漫画を配って、その中から素直に面白いと言ってくれた人に番組に出てもらう。この方法ならうちもリスクを背負わずに済むし、出版社の顔も立つからな。それから……」

円香「……アホらし」

スタスタ

透「樋口、どこ行くの」

円香「薄汚い大人のやりとりに巻き込まれる前に帰る」

P「ちょ、ちょっと」


円香「浅倉はどうするの?」

透「んー。……私も帰ろうかな。ごめんねプロデューサー。そういう水面下でのやりとりって、何か私たちっぽくないからさ」

P「……無理強いはしないよ。こっちこそごめんな、朝っぱらからするような話じゃなかった」

透「うん」

P「はぁ……本当に偶然その漫画を読んでいる人がいたら、それが一番なんだけどな」

P「○○って漫画。最近わりと流行ってるみたいなんだ。もし今度本屋で見かけるようなことがあったら教えてくれ」

ピタッ

円香「……え」

透「○○? それって樋口が読んでたやつじゃん。この間私の部屋で」

円香「ちょ、浅倉」

P「そ、それは本当か!?」バッ

円香「……はぁ。最悪」


──社用車──

ブーン…

P「いやぁ助かったよ円香。デリケートな話なだけに、正当な解決策が見つかって本当に良かった」

円香「ステマの片棒を担ぐ気はありませんよ」

P「分かってるよ。円香は嘘偽りなく、あの漫画を読んだって言ってくれればそれで良いんだ」

円香「……」

P「しかしこう言ってはなんだが、円香があれを読んでるっていうのは意外だったな」

円香「は?」ギロ

P「い、いや、はって……」

円香「あなたもあの漫画を読んだんですか?」

P「え? そりゃあ読んだよ。内容も確認しないで仕事を頼めないだろう。まぁ、まだ1巻だけしか読めてないんだけどな」

円香「……本当、最悪」


P「俺はよく知らないんだけど、ああいうジャンルのことを『百合』って言うんだよな」

円香「……」

P「ネットで色々調べたよ。BLや百合といった同性愛は、今や漫画におけるジャンルとして確固たる立ち位置を築いてるんだって」

円香「そうですか」

P「出版関係には疎かったんだけど……畑違いではあるが俺もプロデューサーとして、そういうマーケティング手法はどんどん勉強していかないとな」

円香「……マーケティング、ね」

P「円香?」

円香「……本屋に寄ってから帰るので、次の信号で下ろしてもらえますか」

P「お、本屋か。だったら俺も付き合うよ」

円香「嫌です。1人がいいです」

P「そ、そうか。分かった……」


──

円香(本屋で百合漫画の2巻目を買った。1巻に続く展開はこうだ)

円香(主人公が片思いする幼なじみには、すでに好きな男の子がいて)

円香(鈍感な幼なじみはその気持ちを恋だと分かっておらず、ただただ信頼を深め、心の距離を近くしていく……)

円香(主人公は幼なじみにその気持ちの正体を教え、彼女の恋が成就することを応援しようか、苦悩する)

円香「……」ペラ

小糸「ま、円香ちゃん。次の撮影、そろそろ始まるよっ」

円香「え? もうそんな時間?」

小糸「ほら、急いで円香ちゃんっ」

円香「ん。ありがと」

タタタ…


──撮影所──

オツカレサマデシタ-

円香「……ふぅ」

P「お疲れ円香」スッ

円香「はい。お疲れ様です。次の予定は何でしたっけ?」

P「次は上の階で雑誌の取材だ。時間が押してるから早歩きしながら話そう」

スタスタスタ

P「エレベータは混んでるから階段で行くぞ。それで、取材の質問についてだけど……」

円香「ちょ……歩くの早い」タタッ

P「あっ、ごめん」

円香「全く、身長差を考えてください。──って、きゃっ!」グラッ

P「ま、円香!」


ギュッ!

P「……ふぅ。大丈夫か円香?」

円香「……! は、離して!」

P「離してって……今離したら円香が落ちちゃうよ」

円香「落ちる方がマシ……って、どこ触ってるの!」

P「どこって……い、今は円香の身体が最優先だ。ほら、身を起こして」

円香「……。…………」

──

P「良かった。どこも怪我はしてないな?」

円香「……はい」

P「手を見せてくれ。強く握ってしまったから、痕になっていたら大変だ」

円香「……」


透「ねぇ、何してるの」

円香「……!!」

P「透」

透「こんな人気のないところで握手……じゃないよね。なんか、服もぐちゃぐちゃだし」

P「円香が転びそうになったところを助けてたんだ。な、円香」

円香「……」

透「そうなの、樋口?」ジロ

円香「……!」


小糸「あ、こんなところにいた! もうっ、記者さんが待ってますよ。雛奈ちゃんが今1人でお相手してくれてますっ!」

P「おおっと、すまん小糸! 円香、透、上の階に急ごう!」

タタタタタ…

透「……」

円香「……」

透「……行こっか」

円香「帰る」

透「え?」

円香「私は帰る。後は好きにやって」クル

ダッ

透「ちょ、樋口……」


──円香の家──

ジャーッ

円香「……」

円香母「円香、いつまで手を洗ってるの。洗面所そろそろ使いたいんだけど」

円香「……今出る」

バタン

透「あ、出てきた」

円香「は……?」

円香母「あ、言い忘れてたけど、透ちゃん来てるから」

円香「……報告の順序おかしいでしょ」

透「ふふ。来ちゃった」

円香「来ちゃった、じゃないから。呼んでないし」


透「呼ばなくても私の部屋に来るじゃん、樋口だって」

円香「……」

透「部屋、上がって良い?」

円香「……別に。好きにすれば」

スタスタ バタン

透「……」

円香「……」

透「……ごめんね」

円香「……。何が?」


透「ううん。何か言ってみたかっただけ」

円香「はぁ……。意味わかんないし」クス

透「あ、笑った」

円香「……笑ってない」

透「絶対笑ったじゃん。嘘つきは泥棒の始まりだよ」

円香「泥棒は、勝手に部屋に上がり込んでるの浅倉でしょ」

透「だから、それはお互い様だって」

円香「……ふふ」

透「ふふふっ」


透「……何かいい匂いがする」

円香「え……?」

透「石鹸のいい香りがする」

円香「あぁ。だって、さっきまで手を洗ってたから」

透「ねぇ、嗅いでもいい?」

円香「え……」

透「手、触らせてよ」

円香「……好きにすれば」


スッ

透「……」

円香「……」

透「……。……ごめん」

円香「……だから、何を謝ってるの」

透「あんな目で見て、ごめん」

円香「……!」

透「……」

ギュッ

透「樋口の手は清潔だね」

円香「……よく洗ったから」

──


──テレビ──

司会「さあ、生っすか出張版! 今日はアイドルの樋口円香さんに来ていただいています!」

円香「よろしくお願いします」ペコリ

司会「円香ちゃんは現役JKなんだってね~。学校とアイドルの両立は大変でしょ!」

円香「ええ、まぁ」

司会「今の高校生って、どんなものが流行ってるのかなっ?」

円香「さぁ。私はそういうのには疎いので」

司会「えーそうなの~? 例えばさ、アニメや漫画とかって学生に人気あるんじゃない?」

円香「あーそうですね。好きな子はいるんじゃないですかね」


司会「でしょでしょ。ちなみにさ、円香ちゃんは漫画とか読んだりするの~?」

円香「ええ、まぁ」

司会「おーっ! ちなみにちなみに、どんな漫画を読んでるのかな!?」

円香「……○○という漫画です」

司会「キタコレ! 僕も知ってるよその漫画~! 女の子同士の恋愛を描いた傑作だよね。『この漫画が凄すぎ!』にもノミネートされてる、今大注目の一作なんだよねっ!」

円香「……」

司会「あの漫画、すごく面白いよね~。円香ちゃんもそう思うでしょっ?」

円香「……はい、面白いと思います。だけど」

司会「ん? だけど?」


円香「面白くないですね」

司会「……へ?」

円香「あの物語からはリアルさが微塵も感じられません。フィクションで塗り固められた嘘の匂いしかしません」

円香「色味はキレイだし装丁も丁寧。ストーリーも起承転結がしっかりしていて……画力も表現力も素晴らしいと思います」

円香「だけど残念ながら、あれは嘘の物語です。現実の人間はあんな風にものを考えないし、あんな風に単純明快じゃない」

円香「幼なじみへの気持ちが恋慕だった? バカ言わないで、そんなわけないでしょ」

円香「幼なじみの恋を応援したい? アホみたい。何を勘違いしてるんだか」

円香「何もかもが見当違い。そのくせキャラクターの機微を描いているみたいな煽りを入れて、ほんと失笑がいいところですね」


円香「そんなんじゃないんです。人が人に抱く感情っていうのは、すぱっと定規で測れるようなものじゃなくて」

円香「もっとドロドロしていて、もっと底知れなくて、それでいて……透明で無色で清潔で」

円香「少なくとも『百合』なんて一言では片付けられないし、片付けられたくもありません」

円香「ジャンルとか、マーケティングとか、ステマとか……本当に本当にいくだらない」

円香「勘違いしないで、そんなんじゃない。私たちはそんなんじゃないし、私とあなたはそんなんじゃない……」

円香「……はぁ。色々と言ったけど、私が伝えたいことは実はたった1つだけなんです」

円香「百合の間に割り込まないで」

司会「……」ポカーン

シーン

P「あ、あわわわわ……」


──事務所──

プルルルル プルルルル

P「はいっ、その件につきましては先日も説明させていただいた通り、こちらの伝達に問題があり……」

P「円香に悪気はなく、はい、そちらのご意見もごもっともだと思うのですが、私どもとしましても……」

ガチャ

円香「……」

P「あ、円香……はい、後日ご説明に伺います。では、失礼いたします……」

ピッ

円香「……ミスター・長電話。今日の予定は何でしたっけ」

P「ま、円香。その前に言うことがあるんじゃないか?」

円香「言うこと? あぁ、おはようございます」

P「そうじゃないっ! な、なんだこの前の受け答えは!」

円香「言ったはずですよ、ステマの片棒を担ぐ気はないと。それにこうも言われました、嘘偽りなく言ってくれれば良いって」


P「そ、そんな屁理屈を……」

円香「今日の予定は質問攻めですか? 興味ないので帰らせてもらいますね」

P「ま、円香──」

バタン

円香「……ふぅ」

透「お疲れ、樋口」

円香「え、何でここにいるの?」

透「何でって、アイドルだから?」

円香「……今は事務所に入らない方がいいよ。あの人、気が立ってるから」

透「ふふっ。まるで自分には関係ないみたいな言い方じゃん」

円香「……私が出た番組、見た?」

透「うん。録画して3回は見た」クス


透「いい感じに支離滅裂だったね」

円香「そりゃそうでしょ。あれはステマを台無しにするために、適当なこと言っただけなんだから」

透「そうかな?」

円香「まぁ、それとあの人への意趣返しっていうのもある。セクハラされたことに対するね」

透「え? セクハラされたの?」

円香「……」

透「あ、階段の時のやつか。……でも、何をされたかは知らないけど、多分プロデューサーはそういうことをわざとする人じゃないよ」

円香「……知ってるよ」

透「ふぅん? じゃあなんで?」

円香「さあ。それを浅倉は知りたいの?」

透「んー。……別にいいや」


透「樋口が分かってれば、それでいい」

円香「……」ドキ

ゴソゴソ

透「はい、これ」

円香「……何これ?」

透「漫画の3巻だよ。ほら、まだ読んでないでしょ?」

円香「は? いや、読みたいとも思ってないんだけど」


透「なんで? 続き気にならないの?」

円香「気にならない」

透「ふーん……じゃあ私が読んじゃお、もったいないし」

円香「え? 3巻からいきなり?」

透「名作はどこから読んでも面白いから。……あ、キスシーンだ」

円香「……」

透「……ねぇ樋口」


透「誰と誰がキスしたと思う?」



おわり


お疲れさまでした

見てくださった方、ありがとうございました


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