浅倉透「透レンタル」 (16)

透「――あ」

P「ん?」

透「あー……ほら、あそこ」

P「あそこ? ……レンタルビデオショップか」

透「うん。最近、行ってないなー、って」

P「最近はネットか」

透「だね。楽だし。配信されてないのとかもあるから、行くには行くけど」

P「俺もそんな感じだな。プレーヤーを死蔵させておくのがもったいないってのもある」

透「配信でも十分良いしね。画質とか、他にも」

P「それで満足できなかったりしたら買うとこまで行くからなぁ」

透「映画館は?」

P「それはまた別じゃないか?」

透「そうかも。……行く?」

P「ここに入るかって? まあ、時間はあるけど……」

透「そっちじゃなくて」

透「……でも、うん。入ろっか」


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――レンタルビデオショップ

P「お、これもうレンタル始まってるのか。早いもんだな……」

透「観た?」

P「観てない。透は?」

透「私も。……どうだろ」

P「どうだろうなぁ……。CMとかで見た感じだと面白そうだったけど」

透「らしいね。借りる?」

P「うーん……どうしようか。見る時間があるかどうかが問題だ」

透「ないの?」

P「ないこともない。が……なんだかんだ、他のことをしちゃいそうな気がするんだよな。映画館とかだったら、逆に他のことができないからいいんだが」

透「上映中はマナーモードにするか、電源をお切りください」

P「そういうことだな」

透「家でもそうして見たら?」

P「いや、それは…………アリか?」

透「アリなんだ」

P「ただ、もしもの時のことを考えるとな……映画館ほどの『言い訳』にはならない」

透「言い訳ね。誰への?」

P「主に自分への、かな。例えば……透が何か急を要する連絡をくれたとき、映画館だったらちょっと後悔するくらいだけど、家だったらめちゃくちゃ後悔するだろうし」

透「『映画館だから仕方ない』っていう自分への言い訳がなくなっちゃう、か。……気にしすぎじゃない?」

P「気にしすぎかもしれないが、気になるんだから仕方ない。気にしないようにって思っても気にしないことなんかできないからな」

透「そういうものなの?」

P「そういうもんだ」

透「じゃあ、借りない?」

P「それは悩むところなんだよな……せっかく入ったんだから何か借りたいような」

透「プロデューサーはコンビニに入ったら何か買わなきゃいけないって思う人?」

P「あー……そうかもしれない」

透「何か借りたいものとか、ないの? ……あ、私、出てよっか」

P「ん? どうして」

透「ほら、男の人だったら、あのカーテンの向こうとか」

P「カーテン、って……透は俺のことをどう思ってるんだよ」

透「興味、ないの? 私はあるけど。あの向こうってどうなってるのかなーって」

P「ないことはないけど、最近は配信で済ませるから――って、いや、うん。まあ、とにかく、利用しません」

透「……ふぅん」

P「……なんだよその目は」

透「配信かー、と思って。……ちなみに、どういうのが好きなの?」

P「はい! 俺はさっき話してたこの映画を借ります! この話はこれで終わりな! 出よう、透!」


――

透「……出ちゃった」

P「出たな。……透も何か借りたかったか?」

透「んー……プロデューサーが借りたのとか、ちょっと、興味ある」

P「じゃあ、透も見るか?」

透「――いいの?」

P「ああ。俺が見たら……いや、スケジュール的には先に透に見ておいてもらったほうがいいかな。それなら……どうした? 透」

透「……どうしたんだろうね」

P「……? まあ、とりあえず、渡しておくよ」

透「うん。……忘れるかも」

P「忘れられたら困るな」

透「だよね。忘れられたら困るよね」

P「……お、おう」

透「……」

P「……」

透「……ふふっ」

透「なんか、こういうの、いいね」

P「俺は良くなかったかな……」

透「そっか。ごめんね?」

P「いや、こちらこそ」

透「謝る心当たり、あるんだ」

P「いや、ないから。……思い出せないから、それが心当たりかな」

透「そっか。じゃあ、私はそれが『なんかいい』かな」

P「……どういうことだ?」

透「ふふっ、ほんと、どういうことだろうね」

P「あー……まあ、透が楽しそうで良かったよ。そこに関しては、俺も良かった」

透「そう? ……やっぱり、久しぶりにレンタルのお店に入ったからかな」

P「透は何も借りてないけどな」

透「映画がいっぱい並んでるあの感じがいいの。本屋さんとかも、あの空間がいいって言わない?」

P「透も本屋でそう思うのか?」

透「あんまり」

P「……そうか」




透「……今ってさ、色んなレンタル〇〇みたいなの、あるよね」

P「確かに昔よりもレンタルサービスは増えてる気がするな。気がするってだけで、昔から色々あったのかもしれないが」

透「あー……私も、アイドルになってから色々知ったかも」

P「……そんなに知ったか?」

透「……ちょっとは?」

P「どっちだよ」

透「ふふっ、わかんない」

P「ははっ、わかんないか。まあ、衣装のレンタルとかは利用してるし、他にも色々あるけどな」

透「そうなんだ。……レンタルプロデューサーとか?」

P「ないだろ。いや、一時的にってことならあるのか……?」

透「プロデューサーはレンタルしてる?」

P「残念ながら売約済みとなっております」

透「貸し出し不可かー」

P「俺が貸し出されてても誰が借りるのかって話だけどな」

透「私は借りるかも」

P「なんでだよ。と言うか借りるまでもなく俺は透のプロデューサーだって」

透「……今の、なんか、いいね。『俺は透のプロデューサー』って」

P「いいか?」

透「私はプロデューサーのアイドルだよ、って言われたらどう思う?」

P「……いいな」

透「でしょ」

透「……レンタルアイドル、ってあるのかな」

P「……なんか、それ、ちょっと変なサービスみたいだな」

透「変なサービス?」

P「……なんでもないです」

透「そう? ……変なサービスと言えば、レンタルおじさんとか、あるよね」

P「あ、あー。あるな。ああいうのも面白いよな。目の付け所がすごいと思う」

透「レンタル彼女とかもあるよね」

P「それも聞いたことあるな。確か、それを題材にした漫画とかもあったって聞いたような……」

透「そうなんだ。誰から聞いたの?」

P「ふ――あー、誰だったかな。仕事先の人だったか……メディア化もしてるらしいから、そういう話の流れで出たのかもしれない」

透「そうなんだ。……レンタル彼女、プロデューサーは?」

P「どういう意味だよ」

透「利用、したい?」

P「わかってるから聞き直さなくてもいい。……興味がなくはない、かな」

透「そうなんだ。……レンタル、してみる?」

P「なんで担当アイドルにレンタル彼女の利用を勧められてるんだよ俺は」

透「……レンタルアイドルは」

P「レンタルするまでもないんじゃなかったのか?」

透「じゃあ、レンタル透は?」

P「いつレンタルサービスを始めたんだよ」

透「んー……今?」

P「じゃあ今すぐ営業停止してくれ」

透「開店したばっかりなのに」

P「なら俺が借りるから。永久に貸し出し中ってことで」

透「永久就職?」

P「そうなるな。アイドルとして頑張ってもらうよ」

透「……アイドル以外は?」

P「契約内容に含まれておりません」

透「含んでもいいのに」

P「よくないだろ……」

透「透レンタルは『なんでもする』をウリに営業させてもらってるので」

P「早めに永久レンタルしといてよかったよ」

透「だね。私もプロデューサーに買われてよかった」

P「……その言い方はやめてくれないか?」

透「なんで?」

P「ほら、だって……いかがわしい感じだから」

透「……いかがわしいこと、したい?」

P「…………したくない」

透「ん、ちょっと迷った?」

P「迷ってません」

透「えー。ほんとに?」

P「本当に」

透「……じゃあ、いっしょに映画を観る、とかは?」

P「映画? ……まあ、それなら、したい」

透「なら、今日借りたの、いっしょに観る? ほら、感想とかすぐ言い合えるし」

P「……そうするか」

透「……あ。でも、ひとつ、条件」

P「ん? なんだ?」

透「上映中は、マナーモードにするか、電源を切っておくこと」

P「言い訳は?」

透「んー……アイドルのご機嫌取りで」

P「左様で。それは映画館と同じくらい守らなくちゃな」

透「でしょ。じゃあ、約束ね」

P「ああ。約束だ。……レンタル代に、ジュースでもどうだ?」

透「レンタル代、安くない?」

P「ケチな雇い主で申し訳ない。それで?」

透「欲しいな。プロデューサーのおすすめで」

P「それはまた難しいものを。……確か、ここにも売ってるって円香が――」



透「……」

透「……もうちょっと長い映画でも良かったかも」

透「…………プロデューサーレンタル、88分」

透「……短いなー」




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