樋口円香「橋と水切りとステージと」 (66)


――橋のそば

浅倉透「届くかな」

樋口円香「さすがに遠い」

透 「やってみないとわかんないって」

円香「川幅見ればわかるでしょ」

透 「ん?……」

ガチャガチャ ゴトゴト

市川雛菜「やは?。透先輩、何探してるの??」

透 「石」

福丸小糸「石? えっと、ここいっぱいあるよ……?」

透 「向こう側まで届きそうな、石」

雛菜「届きそ~?」

透 「えーと。あ」

ヒョイ

透 「こんな感じの石を、こう、ね」

円香「……」

透 「えい」

ヒュッ

パシャッ パシャ シャ  

ポチャン


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1607228304



透 「うーん、3回」

小糸「み、水切りだね」

透 「そう」

円香「やっぱり届かない」

透 「あー」

小糸「届かないって、む、向こうまで……?」

透 「うん。ずっと跳ねてくれれば、向こうまで届くかなって」

円香「投げるまでもないでしょ。ぱっと見、50m超えてる」

小糸「う、うん。この川はちょっと……」

雛菜「さすがに無理だとおもう?」

小糸「あっ、流石だけに?」

雛菜「へ??」

円香「小糸、解ってない」

小糸「ぴぇっ」


透 「ん~」

ゴソゴソ ガチャガチャ

円香(投げるまでも、石を探すまでもない)

円香「ん……」

カチャ

円香「浅倉。これ」

透 「お、いい形」

円香「使えば」

透 「え? 樋口が投げなよ」

円香「……はぁ」

スッ

透 「めざせ、向こう岸」

円香「無理」

ヒュッ

パシャッ シャッ パシャ シャ シャ  チャポン

円香「5回」

透 「いいね」

雛菜「円香先輩うま?い」

円香(今ので半分も行ってない。向こう側なんて、届くわけもない)

雛菜「雛菜もやる?」


雛菜「えーい」

ヒュッ    ポチャ

透 「あー、跳ねてない」

円香「ていうか普通に投げたら跳ねないでしょ」

雛菜「ふつーに投げるほうが、遠くまで投げられるでしょ~?」

円香「……あ、そ」

ガチャ ガチャ

透 「あ ……ふ、んっ……」ゴトッ

円香「……浅倉?」

透 「よっ、とっ…… この石どう? いい感じで円盤」

円香「両手で持ってる時点で大きすぎ」

小糸「み、みんな、そろそろ事務所行かないと……」

雛菜「あは~、変な形の石~」

小糸「お、おーい……!」

円香「無理。届いてない」

小糸「うぅ……」

透 「っとぉー」

ボッチャン


――橋

テクテク…

透 「はぁ~、石投げて遊ぶなんて久しぶりだった」

円香「高校生にもなってやること?」

透 「樋口も遊んだじゃん」

円香「1回投げただけ」

雛菜「でも~、1回は1回~」

円香「……」

小糸「あ、で、でも分かるよ。せっかく見つけた石、もったいなかったもんね」

円香「じゃあ、そういうことで…… なんで浅倉が投げなかったの」

透 「え? あー……」

透 「見つけたの、樋口だし」

円香「始めたの、浅倉でしょ」


円香「そもそも、なんで急に水切り?」

透 「うーんと……動画で見てさ。なんか、かっこいいじゃんってなった」

透 「それで、河の向こうまで届くかなって」

円香「狭い川ならできるだろうけど」

透 「すごい人だと40回とか跳ねるんだって」

小糸「へぇー……す、すごいね」

透 「なら、めっちゃ跳ねたらさ、行けると思わない?」

円香「思わない」

透 「えー」

小糸「た、多分だけど……遠くまで投げるだけなら、雛菜ちゃんのやり方がいいんじゃないかな」

小糸「水面で跳ねるたびに、勢い減ってっちゃうから……」

雛菜「あは~、雛菜だいせいかーい」

円香「……だって」

透 「へー」

円香(これは分かってないやつ)


テクテク…

雛菜「相変わらず、この橋長いね~」

円香「長さ変わったら怖くない?」

雛菜「雛菜が渡るときだけ短くなってくれたら、楽でいい~」

透 「ふふ、いいね、それ」

円香「雛菜限定なの?」

雛菜「んー? じゃあ、みんな一緒に渡ればいいよ~」

小糸「そ、それなら助かる、ね」

雛菜「でしょ~? みんな雛菜に感謝~」

円香「何もないところから感謝生まないで」

雛菜「円香先輩は~、橋が長くなる~」

円香「……困るんだけど」

小糸「あははっ」

透 「……」ピタ

円香「……浅倉?」


雛菜「透先輩~? 立ち止まってどうしたの~?」

透 「ああ、うん。ちょうど真ん中だなって」

円香「真ん中?」

透 「柱2本あるじゃん。その、真ん中」

小糸「う、うん。……?」

透 「すごいなーって」

円香「なにが」

透 「橋」

円香「……?」

透 「向こう岸、いけるから」

円香「……」

透 「昔は川の向こうに運ぶって、大変なことだったんでしょ」

小糸「こ、この川、昔は暴れ川だったって、前にテレビで言ってたよ」

透 「でもいまは、歩くだけで向こうに行ける」

透 「楽、でしょ」


雛菜「楽になってこれかぁ~」

円香「なら、バス使う?」

雛菜「え~、お金払うのはやだ~」

透 「ふふ……でも、リッチになったらあるかもよ」

透 「アイドルやっていったら」

円香「……」

小糸「い、印税、とか?」

透 「っていうの?」

円香「はぁ……結局、今のところは歩かないと渡り切らないから。早くいって」

透 「はーい。今日なんだっけ」

雛菜「えーと? なんだっけ~」

小糸「ぼ、ボーカルレッスンだよ」

透 「なら、歌いながらいく?」

円香「いかない」

雛菜「あっ、カラオケいこ~?」

小糸「せ、せめてレッスン終わってからにしよう?」


透 「皆はあれできた?」

小糸「あれ?」

透 「えーと、ほら、あれ」

円香「……たぶん、発声のこと」

透 「それそれ」

雛菜「なんだっけ~。のどを開く?」

小糸「お、お腹から声を出す、だったよね」

透 「あー」

円香「腹式呼吸」

透 「あった」

雛菜「できたかどうかより、どうなったらできたことになるのか分かんないよね~」

小糸「そ、そうだよね……」

透 「まぁ、まだ始まったばかりだし」

透 「いけるいける」

円香「……」

透 「……」

透 「樋口」

円香「ん」


透 「どうかした?」

円香「え? ……何も」

透 「嫌なことあった時の顔してる」

円香「……」

円香「別に」

円香「何でもない」

円香(そう)

円香(何でもないこと)

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

円香(それは、事務所に入って間もない頃に言われた)

シャニP(以下P)「通る声だよな」

円香「……はい?」

P 「円香の声。よく通るなって」

円香「……それがどのような評価に繋がるかわかりませんが」

P 「変な意味はないよ。ただの感想」

円香「そうですか。別に、伝えてくださらなくても結構です」

P 「あ、ああ…… ええと、大きい声じゃないけど、低くてよく通る。声だけでファンになる人もいるかもな、ははっ」

円香「……」


P 「あー、こほん……それでこれが本題なんだけど、そこでちょっと苦労するかもしれない」

円香「……通る分には、都合がいいのでは」

P 「お、気になる?」

円香「いえ、特に」

P 「はは…… ボイトレでも言われると思うよ。声は通るけど細いから、そのまま歌っても喉を潰してしまう。喉に負担をかけない声を身に付けないといけない。発声っていうやつ」

P 「声や歌を使って表現をする人の、一歩目だ」

円香「はぁ」

P 「俺はレッスンの専門じゃないけど、そうだな……透も同じタイプじゃないかな」

円香「……」

P 「小糸は声は小さい……と見せかけて、大きな声も出せるんだよな。雛菜はそもそも、発声が割とできてる。天性かな」

P 「まぁ、まずは腹式呼吸からやることになるんじゃないか。円香は器用そうだから、実際やったらすぐにできるかもしれないよ」

円香「そうですか。まぁ、あなたの発言が的外れでないことを祈っています」


――レッスン室

トレーナー「たぶん歌とか演劇とか、しっかりやったことのある人はいない……わよね」

透 「えーと」

透 「いませーん」

トレーナー「じゃあ、まずは声を出す姿勢から。声が一番響くのはリラックスした時で――」

トレーナー「――で、姿勢ができたら腹式呼吸になるんだけど……最初は床に寝ながらやると楽ですよ」

トレーナー「息を吸う時に胸が上がらないように、横隔膜を下げてお腹を膨らませる。ゆっくりとしっかり大きく息を吸ったら、腹筋でキープ」

トレーナー「そしたら大きく口を開けて、息を吐ききるまで、あー」

ノクチル「「「「あーー……」」」」

トレーナー「腹筋で息をささえて。限界まで絞りだしてー」

雛菜「あーー……」プルプル

小糸「ぁぁーー……」プルプル

トレーナー「はい、楽にして息吸ってー」

小糸「はぁっ」

雛菜「ひゅ?」

トレーナー「OK、まずは何セットかやってみましょう」

雛菜「あは~、雛菜寝そう~」

円香(でしょうね)

円香(そんでもって浅倉は、下手すると寝てる)

チラ

透 「あーーー……」

円香(……)


トレーナー「うん、浅倉さんと樋口さんはいい声で通るけど、喉を使っているわね」

トレーナー「市川さん、福丸さんは声量ありますね。まだ喉にかかってるから、そのまま歌うと喉に負担がかかってしまいます。全員まず、基礎練として寝ながらの発声。慣れてきたら立ったまま、お腹から声を出す感覚を掴んでください」

小糸「お腹から声……」

トレーナー「声を、頭に響かせるようにとか、頭から通り抜けるようにとか、前に前に押し出すようにとか、人によっていろいろな言い方はあるけど」

トレーナー「私は、人に届けようとする声かなと思っているわ」

トレーナー「歌っていくとわかるけど、腹筋で息を支えることが重要になってくるから、そのためにお腹周りの筋肉は付けておきましょうね」

トレーナー「まぁ、あなたたちは技術も体力もまだまだ足りないんで、じっくり育てていくしかありません。結局はダンスで全身使うしスタミナもいるから、とにかくまずは体力を付けていきましょう」

小糸「は、はいっ」

円香「はい」

透 「はーい」

雛菜「ふわ~……大変そー」


雛菜「ねぇ先生?」

トレーナー「先生ではないですが……はい、市川さん」

雛菜「なんかもっと楽な方法ってあります??」

トレーナー「楽って……」

円香「どちらかというと、コツといったニュアンスですので、気にしないでください」

トレーナー「あ、ああ、なるほど……」

トレーナー「あまり近道があるものではないけど……舌を押し下げる感覚、って感じかな」

雛菜「ふ?ん?」

トレーナー「なんにせよ、まずは声を出してみるしかないです。自分での気付きが第一歩よ」

円香「……気付く、ですか」

トレーナー「そう。自分でやっても、これが正しいのかどうか、実感できない気がするでしょう?」

円香「ええ」

トレーナー「大丈夫、自分で気が付けるから。今までとは違う声がでているって、自分でわかるから」

円香「……」

トレーナー「発声は大事だけど、発声だけがレッスンじゃないですからね。他のこともどんどんやっていきますよ」

小糸「は、はいっ」


---

円香(……と言われてから2週間ほど。今だ発声が上手くできたか分からないまま)

円香(口を開けるだけじゃ足りない。口を開けることじゃない)

円香(たぶん一番最初にできたのは、雛菜だった)

雛菜「あのね?、喉が下がるんだよ?」

小糸「ど、どういうこと?」

雛菜「首のとこ触ってみて?」

雛菜「あー」

雛菜「から」

雛菜「あーー」

小糸「あっ、お、音変わった!」

雛菜「ほら、喉下がったでしょ??」

小糸「うーんと……こ、ここ?」フニフニ

雛菜「そこそこー」

透 「へー。私も」フニフニ

すいません、ここまで投下して気付きましたが、
雛菜によくつく「~」が化けちゃってますね(一部macで書いてたせいだ)
修正して投下し直します。

スレ立て直しはなんなんで、最初から投下し直します。
>>1から読んでいてくれた方にはすいません。
(次レスからまとめて頂けると幸いです)


――橋のそば

浅倉透「届くかな」

樋口円香「さすがに遠い」

透 「やってみないとわかんないって」

円香「川幅見ればわかるでしょ」

透 「ん~……」

ガチャガチャ ゴトゴト

市川雛菜「やは~。透先輩、何探してるの~?」

透 「石」

福丸小糸「石? えっと、ここいっぱいあるよ……?」

透 「向こう側まで届きそうな、石」

雛菜「届きそ~?」

透 「えーと。あ」

ヒョイ

透 「こんな感じの石を、こう、ね」

円香「……」

透 「えい」

ヒュッ

パシャッ パシャ シャ  

ポチャン


透 「うーん、3回」

小糸「み、水切りだね」

透 「そう」

円香「やっぱり届かない」

透 「あー」

小糸「届かないって、む、向こうまで……?」

透 「うん。ずっと跳ねてくれれば、向こうまで届くかなって」

円香「投げるまでもないでしょ。ぱっと見、50m超えてる」

小糸「う、うん。この川はちょっと……」

雛菜「さすがに無理だとおもう~」

小糸「あっ、流石だけに?」

雛菜「へ~?」

円香「小糸、解ってない」

小糸「ぴぇっ」


透 「ん~」

ゴソゴソ ガチャガチャ

円香(投げるまでも、石を探すまでもない)

円香「ん……」

カチャ

円香「浅倉。これ」

透 「お、いい形」

円香「使えば」

透 「え? 樋口が投げなよ」

円香「……はぁ」

スッ

透 「めざせ、向こう岸」

円香「無理」

ヒュッ

パシャッ シャッ パシャ シャ シャ  チャポン

円香「5回」

透 「いいね」

雛菜「円香先輩うま~い」

円香(今ので半分も行ってない。向こう側なんて、届くわけもない)

雛菜「雛菜もやる~」


雛菜「えーい」

ヒュッ    ポチャ

透 「あー、跳ねてない」

円香「ていうか普通に投げたら跳ねないでしょ」

雛菜「ふつーに投げるほうが、遠くまで投げられるでしょ~?」

円香「……あ、そ」

ガチャ ガチャ

透 「あ ……ふ、んっ……」ゴトッ

円香「……浅倉?」

透 「よっ、とっ…… この石どう? いい感じで円盤」

円香「両手で持ってる時点で大きすぎ」

小糸「み、みんな、そろそろ事務所行かないと……」

雛菜「あは~、変な形の石~」

小糸「お、おーい……!」

円香「無理。届いてない」

小糸「うぅ……」

透 「っとぉー」

ボッチャン


――橋

テクテク…

透 「はぁ~、石投げて遊ぶなんて久しぶりだった」

円香「高校生にもなってやること?」

透 「樋口も遊んだじゃん」

円香「1回投げただけ」

雛菜「でも~、1回は1回~」

円香「……」

小糸「あ、で、でも分かるよ。せっかく見つけた石、もったいなかったもんね」

円香「じゃあ、そういうことで…… なんで浅倉が投げなかったの」

透 「え? あー……」

透 「見つけたの、樋口だし」

円香「始めたの、浅倉でしょ」


円香「そもそも、なんで急に水切り?」

透 「うーんと……動画で見てさ。なんか、かっこいいじゃんってなった」

透 「それで、河の向こうまで届くかなって」

円香「狭い川ならできるだろうけど」

透 「すごい人だと40回とか跳ねるんだって」

小糸「へぇー……す、すごいね」

透 「なら、めっちゃ跳ねたらさ、行けると思わない?」

円香「思わない」

透 「えー」

小糸「た、多分だけど……遠くまで投げるだけなら、雛菜ちゃんのやり方がいいんじゃないかな」

小糸「水面で跳ねるたびに、勢い減ってっちゃうから……」

雛菜「あは~、雛菜だいせいかーい」

円香「……だって」

透 「へー」

円香(これは分かってないやつ)


テクテク…

雛菜「相変わらず、この橋長いね~」

円香「長さ変わったら怖くない?」

雛菜「雛菜が渡るときだけ短くなってくれたら、楽でいい~」

透 「ふふ、いいね、それ」

円香「雛菜限定なの?」

雛菜「んー? じゃあ、みんな一緒に渡ればいいよ~」

小糸「そ、それなら助かる、ね」

雛菜「でしょ~? みんな雛菜に感謝~」

円香「何もないところから感謝生まないで」

雛菜「円香先輩は~、橋が長くなる~」

円香「……困るんだけど」

小糸「あははっ」

透 「……」ピタ

円香「……浅倉?」


雛菜「透先輩~? 立ち止まってどうしたの~?」

透 「ああ、うん。ちょうど真ん中だなって」

円香「真ん中?」

透 「柱2本あるじゃん。その、真ん中」

小糸「う、うん。……?」

透 「すごいなーって」

円香「なにが」

透 「橋」

円香「……?」

透 「向こう岸、いけるから」

円香「……」

透 「昔は川の向こうに運ぶって、大変なことだったんでしょ」

小糸「こ、この川、昔は暴れ川だったって、前にテレビで言ってたよ」

透 「でもいまは、歩くだけで向こうに行ける」

透 「楽、でしょ」


雛菜「楽になってこれかぁ~」

円香「なら、バス使う?」

雛菜「え~、お金払うのはやだ~」

透 「ふふ……でも、リッチになったらあるかもよ」

透 「アイドルやっていったら」

円香「……」

小糸「い、印税、とか?」

透 「っていうの?」

円香「はぁ……結局、今のところは歩かないと渡り切らないから。早くいって」

透 「はーい。今日なんだっけ」

雛菜「えーと? なんだっけ~」

小糸「ぼ、ボーカルレッスンだよ」

透 「なら、歌いながらいく?」

円香「いかない」

雛菜「あっ、カラオケいこ~?」

小糸「せ、せめてレッスン終わってからにしよう?」


透 「皆はあれできた?」

小糸「あれ?」

透 「えーと、ほら、あれ」

円香「……たぶん、発声のこと」

透 「それそれ」

雛菜「なんだっけ~。のどを開く?」

小糸「お、お腹から声を出す、だったよね」

透 「あー」

円香「腹式呼吸」

透 「あった」

雛菜「できたかどうかより、どうなったらできたことになるのか分かんないよね~」

小糸「そ、そうだよね……」

透 「まぁ、まだ始まったばかりだし」

透 「いけるいける」

円香「……」

透 「……」

透 「樋口」

円香「ん」


透 「どうかした?」

円香「え? ……何も」

透 「嫌なことあった時の顔してる」

円香「……」

円香「別に」

円香「何でもない」

円香(そう)

円香(何でもないこと)

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

円香(それは、事務所に入って間もない頃に言われた)

シャニP(以下P)「通る声だよな」

円香「……はい?」

P 「円香の声。よく通るなって」

円香「……それがどのような評価に繋がるかわかりませんが」

P 「変な意味はないよ。ただの感想」

円香「そうですか。別に、伝えてくださらなくても結構です」

P 「あ、ああ…… ええと、大きい声じゃないけど、低くてよく通る。声だけでファンになる人もいるかもな、ははっ」

円香「……」


P 「あー、こほん……それでこれが本題なんだけど、そこでちょっと苦労するかもしれない」

円香「……通る分には、都合がいいのでは」

P 「お、気になる?」

円香「いえ、特に」

P 「はは…… ボイトレでも言われると思うよ。声は通るけど細いから、そのまま歌っても喉を潰してしまう。喉に負担をかけない声を身に付けないといけない。発声っていうやつ」

P 「声や歌を使って表現をする人の、一歩目だ」

円香「はぁ」

P 「俺はレッスンの専門じゃないけど、そうだな……透も同じタイプじゃないかな」

円香「……」

P 「小糸は声は小さい……と見せかけて、大きな声も出せるんだよな。雛菜はそもそも、発声が割とできてる。天性かな」

P 「まぁ、まずは腹式呼吸からやることになるんじゃないか。円香は器用そうだから、実際やったらすぐにできるかもしれないよ」

円香「そうですか。まぁ、あなたの発言が的外れでないことを祈っています」


――レッスン室

トレーナー「たぶん歌とか演劇とか、しっかりやったことのある人はいない……わよね」

透 「えーと」

透 「いませーん」

トレーナー「じゃあ、まずは声を出す姿勢から。声が一番響くのはリラックスした時で――」

トレーナー「――で、姿勢ができたら腹式呼吸になるんだけど……最初は床に寝ながらやると楽ですよ」

トレーナー「息を吸う時に胸が上がらないように、横隔膜を下げてお腹を膨らませる。ゆっくりとしっかり大きく息を吸ったら、腹筋でキープ」

トレーナー「そしたら大きく口を開けて、息を吐ききるまで、あー」

ノクチル「「「「あーー……」」」」

トレーナー「腹筋で息をささえて。限界まで絞りだしてー」

雛菜「あーー……」プルプル

小糸「ぁぁーー……」プルプル

トレーナー「はい、楽にして息吸ってー」

小糸「はぁっ」

雛菜「ひゅ~」

トレーナー「OK、まずは何セットかやってみましょう」

雛菜「あは~、雛菜寝そう~」

円香(でしょうね)

円香(そんでもって浅倉は、下手すると寝てる)

チラ

透 「あーーー……」

円香(……)


トレーナー「うん、浅倉さんと樋口さんはいい声で通るけど、喉を使っているわね」

トレーナー「市川さん、福丸さんは声量ありますね。まだ喉にかかってるから、そのまま歌うと喉に負担がかかってしまいます。全員まず、基礎練として寝ながらの発声。慣れてきたら立ったまま、お腹から声を出す感覚を掴んでください」

小糸「お腹から声……」

トレーナー「声を、頭に響かせるようにとか、頭から通り抜けるようにとか、前に前に押し出すようにとか、人によっていろいろな言い方はあるけど」

トレーナー「私は、人に届けようとする声かなと思っているわ」

トレーナー「歌っていくとわかるけど、腹筋で息を支えることが重要になってくるから、そのためにお腹周りの筋肉は付けておきましょうね」

トレーナー「まぁ、あなたたちは技術も体力もまだまだ足りないんで、じっくり育てていくしかありません。結局はダンスで全身使うしスタミナもいるから、とにかくまずは体力を付けていきましょう」

小糸「は、はいっ」

円香「はい」

透 「はーい」

雛菜「ふわ~……大変そー」


雛菜「ねぇ先生~」

トレーナー「先生ではないですが……はい、市川さん」

雛菜「なんかもっと楽な方法ってあります~?」

トレーナー「楽って……」

円香「どちらかというと、コツといったニュアンスですので、気にしないでください」

トレーナー「あ、ああ、なるほど……」

トレーナー「あまり近道があるものではないけど……舌を押し下げる感覚、って感じかな」

雛菜「ふ~ん?」

トレーナー「なんにせよ、まずは声を出してみるしかないです。自分での気付きが第一歩よ」

円香「……気付く、ですか」

トレーナー「そう。自分でやっても、これが正しいのかどうか、実感できない気がするでしょう?」

円香「ええ」

トレーナー「大丈夫、自分で気が付けるから。今までとは違う声がでているって、自分でわかるから」

円香「……」

トレーナー「発声は大事だけど、発声だけがレッスンじゃないですからね。他のこともどんどんやっていきますよ」

小糸「は、はいっ」


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円香(……と言われてから2週間ほど。今だ発声が上手くできたか分からないまま)

円香(口を開けるだけじゃ足りない。口を開けることじゃない)

円香(たぶん一番最初にできたのは、雛菜だった)

雛菜「あのね~、喉が下がるんだよ~」

小糸「ど、どういうこと?」

雛菜「首のとこ触ってみて~」

雛菜「あー」

雛菜「から」

雛菜「あーー」

小糸「あっ、お、音変わった!」

雛菜「ほら、喉下がったでしょ~?」

小糸「うーんと……こ、ここ?」フニフニ

雛菜「そこそこー」

透 「へー。私も」フニフニ


雛菜「あーー」

小糸「舌、下げてるの?」

雛菜「ん~、そんな感じかも~?」

小糸「あー…… ん? あーー」

小糸「できてる? 気がする!」

小糸「あっ、これあれだよ、あくびする時みたい」

雛菜「あぁ、そうかも~」

円香「……」

円香(喉の奥を……あくびの時みたいに……下げる)

円香(……)

円香(……こう?)


円香(これで声を出せば)

円香(声を出せば……)

円香「……」

円香(レッスンでいいか)

---

ノクチル「「「「あーー……」」」」

トレーナー「うん、みんなOKですね。そのまま慣れていけば、発声はOKです」

円香(その日のレッスンで、私たちは全員、最初のステップをクリアしたそうだ)


――バス車内

円香(季節は移り、雨の多い季節になった)

ザァーー…

  『はい、発車します』

プシュー ブロロロ…

透 「あー」

透 「いくらだっけ」

雛菜「ん~? 駅まで~?」

透 「うん」

小糸「た、たしか250円」

透 「250円かぁ」

円香「……アイス2つ」

透 「うーーん……」

円香「もう乗っているんだから、いまさら」

雛菜「だから雨の日きらーい」

透 「もうちょっと雨が弱かったら、歩いても行けたけど」

円香「さすがにレッスン室ついてびしょ濡れは嫌でしょ」


透 「そう言えば、聴いた?」

円香「なに?」

透 「曲」

雛菜「もらったやつ~?」

透 「それ」

小糸「き、聴いたよ! 歌詞もだいたい覚えたし」

透 「お、いいね」

円香「一応みんなで聴いたでしょ。事務所で」

透 「その後、家とかで」

円香「まだ、歌詞を少し見ただけ」

雛菜「雛菜はね~、ずっと流してた~」

円香「……周りに聞こえるのマズくない?」


透 「これ、たくさんの人の前で歌う時が来るのかな」

雛菜「やは~、楽しそ~」

小糸「そ、そうだね……!」

円香「……楽しみにしてばかりもいられないでしょ」

円香「浅倉と雛菜はまだ音取り甘いし。ダンスも課題……私もだけど」

円香「まだ及第点出せるレベルには遠そう」

小糸「う……」

雛菜「む~。そういうの嫌い~」

透 「ふふ。いいね、及第点」

円香「……まぁ、ほどほどにね」


ドザーー

雛菜「わ~。雨だと川すごい~」

小糸「増水してるね……」

透 「河原も見えないや」

小糸「あ、あのね。レッスン室使えない時の練習ってどうしてるのか、プロデューサーさんに聞いたことがあって」

小糸「イルミネーションスターズの人たちはよく、公園とか河原で練習してたりするんだって」

透 「河原ってあそこ?」

小糸「あ、ど、どこかは聞かなかった……ごめんね」

円香「別に、謝ることじゃないけど」

雛菜「公園で練習とか、青春って感じ~」

透 「ふふっ、やる? 自主練」

雛菜「え~」

透 「いいじゃん、青春。ねぇ、樋口」

円香「知らない」

小糸「わ、私はやってみたい、かも……」

円香「……」


透 「だってさ。自主練って、何やればいいの?」

円香「私たちは、まず体力作りからじゃない?」

透 「あ~」

円香「前に放クラの人たちの練習見て、2回連続で曲やっても息上がってなかった」

小糸「す、凄いね……やっぱり体力要るなぁ」

雛菜「振付で変わらない~?」

円香「それだけじゃない。私と浅倉は声量も足りてないし」

透 「え、そう?」

円香「トレーナーさんが言ってたでしょ」

小糸「こ、声、奥の客席まで聞こえなきゃいけない、とかあるのかな」

円香「マイクあるからそこまではいいと思う。でも最低限の……」

円香「…………」

円香「……まぁ、レッスンの後レッスン場が空いていたら、とかでいいんじゃない」

透 「あー。いいね」


円香「あとは、雛菜がやる気になるかどうか」

小糸「う……ど、どう、雛菜ちゃん?」

雛菜「ん~、自主練~? 雛菜はいいや~」

小糸「そ、そう……」

円香「現実的な所、3人でやることになりそう」

雛菜「あは~、じゃあそれ~」

円香「……雛菜がいいならいいけど」

小糸「あぅ……」

透 「で、具体的なメニューは」

円香「……なんか丸投げしてない?」

透 「してないしてない」

小糸「え、えっと……」

雛菜「プロデューサーか~、先生に訊けばいいんじゃない~?」

小糸「あ、そうだよね。メニュー組んでくれるかもしれないし」


小糸「じゃ、じゃあ、部屋の申請とメニューのこと、私がプロデューサーさんに話しておくねっ」

透 「ふふ、よろしく」

円香「……レッスン室なら、はづきさん」

小糸「ぴゃっ、そ、そうなの?」

円香「うん……メニューのこともはづきさんにしておけば、トレーナーさんに通してくれると思う。……確か」

小糸「わ、わかった」

円香「……」

透 「よろしく」

小糸「う、うんっ」

円香「……」

透 「ふふ」

円香「なに」

透 「なんも」

円香「……」

円香(それから雨は)

円香(数日続いた)


――橋のそば

ザァーー…

透 「雨あがったのに、水位すご」

円香「夜のうちに止んだくらいだから、まだ水引いてないでしょ」

透 「川の色、めっちゃカフェオレ」

円香「美味しくはなさそう」

透 「わー……いつもの河原とか、どこいったんだろうって感じ」

円香「ちょっと。危ないから、あんまり近寄らないで」

透 「大丈夫。……あ」

円香「うん?」

透 「石。みて」

円香「なに」

透 「ほら、すごくいい形」


透 「よく跳ねそうでしょ」

円香「この川に投げるつもり?」

透 「まぁ、見てなって」

円香「……」

ヒュッ

円香「……」

パシャッ  ジャポ

透 「おー」

透 「1回だけ跳ねた」

円香「……そんなもんでしょ」


透 「樋口は投げないの」

円香「え?」

透 「……」

円香「いい」

円香「向こう岸まで届くわけないし」

透 「届くかもしれないよ」

円香「……」

円香「無限に跳ねるわけじゃない」

透 「……投げるかな」

円香「え?」

透 「石が無限に跳ねたら、川に石、投げるのかな」

透 「って、思っただけ」

円香「……」

透 「樋口は」

透 「――――――――」


円香(それは)

円香(この前、まだ雨の降っている日に言われた)

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

――事務所

P 「そういやさ」

円香「……」

P 「声、出るようになったな」

円香「はい?」

P 「発声出来てきたんじゃないか」

円香「……トレーナーさんに聞いたんですか」

P 「え? ああ、トレーナーさんに聞いたわけじゃなくて、前にレッスンに寄った時とか、あと事務所で普通に会話している時とか」

P 「声が出るようになっているなって、聞いてわかったよ」

円香「……」

P 「まぁ、どのレベルまでできるようになったとかは、聞いた方が早いだろうけど」

円香「そう」

P 「ちゃんと身についていってるんだなって」

円香「……ええ、まぁ。やっている以上は、少しは伸びるんじゃないでしょうか」

P 「違いないな。ははっ」

円香「……」


P 「曲も上がってきて、いま振り付けのベースも考えてもらっているところだ。実際は合わせながら、皆がやりたいことを盛り込んだりして形にしていくから、なんか思うところがあったら振り付けの先生に言うといいよ」

円香「そうですか」

P 「披露の場はまだ日程も決まっていないけど……でも、4人の曲を届けられるステージを用意するつもりだ」

円香「はい……」

P 「あれだけいい曲ができたからさ、俺も楽しみだよ」

円香「…………」

P 「ん? ……なにか、気になることでもあったか?」

円香「……」

円香「はぁ……」

円香「……届けるって」

P 「うん?」


円香「届けるって、どんなことだと思いますか」

P 「届ける?」

円香「……声とか」

P 「声とか、か。……ああ、声が聞こえていてもその人には届いてないこととかあるよな」

円香「……それくらいの察しの良さを、普段から発揮してほしいものです」

P 「はは…… けどそうか、そういうことなら……自分の意識を乗せることかな」

円香「……」

P 「ほら、発声って口を開けるだけじゃないだろ。俺はいまいち上手くできないんだけど、呼吸とか、喉の開きとかで成立する」

P 「想いを届けるのも、声を大きく出せば届くわけじゃない。そういう方法ももちろんあるけど、声を出すことが意識を、想いを届けることにはならない」

P 「届けようとする意識を声に乗せることが、届けることそのものだと思うよ」


円香「届かなかったら、それは乗せる意識が間違ってる、と言うこと?」

P 「それが原因の場合もあるし、正しく意識を込めていたとしても、それが正確に届くかは分からない。結局は、受け取った側の問題だから」

円香「……」

円香「まぁ、言いたいことは分かりました」

P 「こんな説明で分かってくれたなら」

円香「と、同時に絶望しますね」

P 「え」

円香「当然じゃないですか。私にはそういう届けたい意識がないので」

円香「乗せる意識がないなら、なにも届かない。どんなに声を出そうとも」

P 「……まぁ、そうだな……いくら大きな声を出しても、意識が乗っていなければ、振り向く人は少なくなるだろう」

P 「でも、それなら」

P 「円香の課題はあと、意識だけなんじゃないかな」

円香「……」


P 「意識を正しく乗せたなら、大きな声は必要ないよ」

P 「例えばだけど、キッチンの方から透とか雛菜が、小声で『ちょっとちょっと』なんて呼んでる。そしたら、向かうだろう? 意識が届いているわけだから、なんなら声もいらない」

円香「……」

P 「必要な意識を必要な声量で。みんな日常で、無意識にやってるんだよ。それを意識してやれたら……それはどちらかって言うと役者さんとかの特技かもな」

P 「円香は届けたい意識が無いなんて言ったけど、それは嘘だ」

円香「……は?」

P 「円香は嫌がるかもしれないけど……俺に質問したことそのものが、円香にそういう、伝えたい意識があるって証明してる」

円香「……」

P 「とても小さいかもしれない。自分ではまだ気づかないかもしれない、でも」

円香「もういいです」

P 「……円香は」

円香「やめてください」

P 「……」

円香「やめて」

P 「……」


円香「……」

P 「変に意識する必要はない。円香の魅力はそれだけじゃないから」

P 「思うようにやってみて欲しい。反応は、出してみないと分からない」

円香「……無責任ですね」

P 「ははっ、そうかもしれないな」

P 「さっき言った通り、確実に成果が返ってくるとは限らない世界だからさ」

P 「それでも届けるんだ、って声をあげ続けよう。きっと、円香の想像もしない反応が返ってくる」

円香「まるで賭け事」

P 「だろ。だから楽しいんだ」

円香「そう簡単には乗りません。ミスター・ギャンブラー」

P 「はは、そう言われると……でも、円香にも分かるんじゃないか」

円香「はい?」

P 「自分の想いを、意識を正しく届けるのは難しいことだって分かったんだろう? もしそれが自分の思い通りに相手に伝わったら、ファンに届いたら」

P 「それはもう最高だって、きっと思うよ」

円香「……」


円香「分からないですよ」

円香「こんなにも価値観が違うんですから」

P 「そうか?」

円香「ええ」

P 「……まぁでも、確かにそうか。その円香の感覚は正しいよ」

円香「……は?」

P 「やることの結果が分かってないと、動けないっていうのは普通かもなって」

P 「じゃあそこまでの道を準備するのも、プロデューサーの役目だな」

円香「……」

円香「……ギャンブラーは少し違っているみたいなんで、訂正します」

P 「うん?」

円香「イカサマ師の方がお似合い」

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

透 「投げるかな」

円香「え?」

透 「石が無限に跳ねたら、川に石、投げるのかな」

透 「って、思っただけ」

円香「……」

透 「樋口は」

透 「結果が分かってないと、石を投げないんだ?」


円香「……」

円香「さあ」

円香「届きそうなら、投げるんじゃない」

透 「届かないなら投げないか」

円香「……普通でしょ」

透 「あー」

透 「うん、まぁ、そうか」

透 「そうかな? わかんないや」

透 「投げないと分かんないからさ」

透 「届くかどうかなんて」

円香「……」

円香「やな感じ」

透 「えー。なんで」

円香「そういう人を、彷彿とさせるから」

透 「どういう人?」

円香「そういう人」

透 「ふーん……あ」

円香「どうかした?」

透 「二人だ」

円香「うん?」

透 「あっち、ほら」

円香「ああ。うん」


透 「小糸ちゃーん。雛菜ちゃーん」

ブロロォン…

透 「……声届かないや」

円香「雨上がりだから、車うるさい」

透 「うん」

円香「けど、届くでしょ」

透 「え?」

円香(深く息を吸い込んで、空気をお腹に入れる)

円香「すぅ……」

円香(喉の奥を下げて、口も大きめに開けて)

円香(声を届ける、という意識)

円香(その気持ちが)

円香(声に、乗る)

円香「小糸ーーー! 雛菜ーーー!」

透 「!……」


雛菜「?」

小糸「!」

小糸「ま……ーん! とお……ん!」ブンブンブン

円香「気づいた」

透 「……」

円香「なに?」

透 「声、めっちゃでた」

円香「ああ…… うん」

透 「やるじゃん」

透 「届きそう。奥の客席まで」

円香「……通るんだって」

透 「え? なに、私?」

円香「違う」

円香「私の声がよく通るんだって、言われた」

透 「へー。誰に?」

円香「……」

円香「トレーナーさん」


円香「浅倉も言われてたけど。覚えてないの」

透 「えーと。うん」

円香「はぁ……」

雛菜「あは~、透先輩たち、なにしてたの~?」

透 「水切り」

小糸「こ、この河に……?」

円香「私はやってない」

透 「そうだっけ」

小糸「?」

透 「とりあえず、事務所いこっか」

雛菜「はーい」


――橋の上

ザーー…

雛菜「ようやく晴れたね~」

小糸「っていう話をしてて」

円香「うん、こっちもだいたい同じ」

透 「……」ピタ

円香「……浅倉?」

透 「え? ああ」

円香「なんか考えてた?」

透 「うん。橋、すごいなーって」

円香「向こう岸いけるから」

透 「あれ……言ったことあったっけ」

円香「前に聞いた」

透 「そっか」

小糸「全く同じ場所で言ってたよ、透ちゃん」

透 「そうだっけ」


透 「でもほら」

透 「この橋を作るにも、いろんな人がいろんな事考えて、いろいろやって作ったんでしょ」

円香「情報量皆無なんだけど」

小糸「え、えーと、橋げたの基礎作って、支柱を作って」

透 「そうそう、そんな感じ」

小糸「あ、じゃあ」

小糸「プロデューサーさんみたいなお仕事だったんだね」

透 「え?」

円香「え」

雛菜「え~?」

小糸「ぴゃっ…… へ、変なこと言っちゃった……?」


円香「まぁ、変」

小糸「あぅ……」

雛菜「へん、かもしれないけどー」

透 「ふふ、うん、ちょっと、わかる」

小糸「そ、そう?」

透 「うん」

円香「……無理やりこじつけた感あるけどね」

小糸「えぇっ」

雛菜「そのお仕事がライブだとすると~、この橋がステージ?」

透 「観客は?」

小糸「お、おさかなさんっ」

雛菜「スタッフさんが足場を組んで~」

小糸「舞台袖で出番を待って……」

透 「うるさいくらいの川の音は」

雛菜「楽屋にも聞こえるファンの歓声~!」

円香「……」


透 「じゃあ、立ってみる?」

小糸「え?」

透 「ステージがあるなら、歌うんでしょ。アイドルって」

円香「ここで?」

透 「ここで」

透 「ステージみたいじゃん。橋の真ん中」

円香「……ひとりでやって」

雛菜「え~。円香先輩もやろ~」

円香「え……」

円香「……」

透 「自主練みたいなもんだよ」

小糸「だ、誰もいないよ、円香ちゃん」

円香「……」

小糸「せっかく曲もらったんだし……」


円香「……はぁ……」

円香「レッスンで合わせればいい話なのに」

透 「これから、どれくらいの人の前で歌うか分かんないじゃん」

円香「人が来たらやめるから」

透 「へーきへーき」

円香「なにが……」

小糸「く、車に乗ってる人は、気付かないよ」

雛菜「ほらほらはやく~」

円香「……」

円香「……一回だけだから」

透 「はーい」

透 「じゃあ…… ……あれ、立ち位置どうする?」

小糸「ふ、振り付けはまだだよ……」

透 「じゃあ、音合わせだけ」

円香「……向かい合ったままで?」

透 「いいでしょ」

円香「……わかった」

透 「せーの」



https://www.youtube.com/watch?v=xZtiRGMGsig



  「ひかーりあつーめて」

  「ひーびけとおーくへ」

  「「せーの」」

  「「――――」」

  「「――――」」



円香「……」

透 「……」

雛菜「だーれも通らなかったね~」

円香「……別にいいでしょ。見られた方が恥ずかしい」

透 「あ」

円香「?」

透 「最初のせーの、いらなかった」

小糸「あ、歌い出し、透ちゃんだけだもんね」

雛菜「やは~、透先輩気づいてなかった~」

透 「うん。気づいてなかった」

円香「……」

小糸「あっ、ま、まだ収録もしてないけど、外で歌ってよかったのかな……」

透 「……あー……」

透 「ま、いいじゃん」

円香「よくはない」

円香「……けど、大丈夫でしょ」

円香「誰も聞いてなかったし」


雛菜「あーっ」

小糸「?」

雛菜「晴れた~」

小糸「雲から光が差し込んで……」

透 「光ったね」

円香「……太陽、眩し……」

小糸「な、なんかまるで」

透 「スポットライトみたいだね」

雛菜「あは~、わかる~」

円香「……」

小糸「円香ちゃん?」

円香「……」

円香「……うん」

円香「わかる」







おわり



お読み頂きありがとうございました。途中不手際失礼しました。
シャニマスでよく出てくる橋、最初は府中四谷橋の府中市側かなと思ったけど、書いている途中で多摩市側の岸じゃないかと気付きました。
透のコミュで出てくるバス停が永山なので、透たちの高校は事務所まで橋を渡る必要もないはず……
とか思いましたが、この話が根底から覆されそうだったので気にしないことにしました。

直近(半年以上前)SS よろしければどうぞ。

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