【ミリマス】私とあなたで叶える魔法 (75)

ミリマスのSSです。
奇跡を起こすよ♪マジカル☆パワー!ガシャで登場した世界をイメージしたお話です。

上記ガシャ以外も含めたカードやコミュで演じた役柄をイメージした性格になっているため普段とは異なる性格、口調になっている子が多数います。
ご理解いただけますと幸いです。

補足:
誕生日ですが小鳥さんの出番はありません。小鳥さんごめんなさい。そしておめでとうございます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1599581638

「また勝手な事して! このニンゲン!」

「何よ! ちょっと試してみただけじゃない!」

もう何度目だろう。翼というこの人間界出身の素人が原因で実験に失敗したのは。

「試す前に基本から身につけなさい! まさかあなたの頭の中身はこのほっぺたと同じでからっぽのフニャフニャなの!?」

翼のほっぺたをぐりぐりとする。

「ふんだ。可奈のほっぺただってグニャグニャじゃない!」

「痛い! そういうこと言ってるんじゃないの!」

すると翼は私のほっぺたをつかんできた。

「ちょっと可奈、翼やめろってば!」

ジュリアが慌てている。またあの子は心配性なんだから。って

「やれやれ! やっちゃえ!」

「ちょっと! うるさいわよ! 麗花!」

翼の手を振り払ってヤジを飛ばす麗花をにらむ。

「えー、そっちのが盛り上がるよ?」

「私は翼がアホやるのをいい加減にしろって言ってるの! 喧嘩をしたいわけでもないしましてやあんたたちの見世物になりたいわけでもないの」

「ふうん。それならこっちにばっかり注目してていいの?」

抗議する私に麗花が後ろを指さす。

「いいのって何がよ! ……はれっ!? ああああああまたいない!?」

これだからもうあの子は嫌いなのよ!

余計なことをするわ、教えてあげようとしたらすぐ噛みついてくるわ。

そのくせ本気でやり合おうとしたらすぐ気まぐれでいなくなる。

何より納得いかないのが彼女が私のバディだってことだ。

―昼休み―

「まったくもう。お昼休みもほとんどないじゃない」

後片づけの手伝いを申し出たジュリアを帰らせ結局一人で後片付けをした私はある場所に向かっていた。

「よいしょっと」

校舎の隙間にある小さな花壇の前にあるベンチ。そこにお弁当とプチシューの袋を二つもって向かった。

小さな友達がいたらいいなと期待しながら。

「みゃーお」

「シッポいたのね。おいで」

黒猫のシッポ。この学園には何匹も猫の一匹で他の猫とよくケンカしてたところが最初の出会いだ。
気難しい子で最初はひっかかれたりしたもののどうにも放っておけずに餌をあげたりしてたら仲良くなっていた。

「はい、どうぞ」

シッポ用に持ってきたプチシューの袋を開いてシッポの前におく。
そして自分用の袋からプチシューを1つ食べる。
お弁当の後に食べる予定だったけれどせっかくシッポがいるんだし先にこっちにしましょう。

「みゃーみゃー」

「だーめよ。あなた、クリーム食べたらお腹壊しちゃうでしょ」

私の分のプチシューにも前足を伸ばしてくるのをメッっと軽くたたいて止める。
猫にとって私たちが食べる生クリームはあまりよくないらしい。

だから私の分とシッポの分は別に作ってある。

「みゃー」

それにしても今日はやたらおねだりするわね。
シッポはプチシューが特にお気に入りだからそれ用に準備しているけどお弁当も半分くらいは猫が食べられるものを入れてある。

こっちも分けてあげようかしら。そう思ってお弁当箱に手をかけたけれど

「ふ~ん♪ ふ~ん♪ ふ~ん♪」

「みゃ!?」

「あ! シッポ!」

突如聞こえてきたヘタクソな歌声。それにびっくりしてシッポは逃げて行ってしまった。

「あれ、こんなところに花壇なんてあったんだ。きれいー」

私たちの憩いの時間を邪魔した音痴の正体は翼だった。
しかも不愉快なことにここを目指してきたわけじゃなくてたまたま辿り着いたらしい。

「あれ、可奈? それ、お昼ごはん? 早く食べないと午後の授業始まっちゃうよ?」

「あなたが失敗した後始末してたから今まで食べられなかったのよ!」

「ごめんごめ~ん」

人に迷惑かけといてまともに悪びれもしない。
ほんっとイラっとする。

「お昼は静かに食べたいの。ヘタクソな歌は迷惑だからどっか行ってくれない?」

「ヘタじゃないもん!」

「何度も同じ手は聞かないわよ!」

また人のほっぺたをつかもうとする手を払う。

「むううううう!」

「だからムダよ!」

むきになってまたつかんで来ようとするのを再度払い、おでこを突っつく。

そんな応酬をしばらく続けていくが

キーンコーンカーンコーン

「あ、行かなくちゃ。じゃあね!」

翼はまた一瞬で切り替えて去っていく。

「あー、もう! お昼食べそこねたああああ!」

最悪だ。

―放課後―

私は寮監の先生に相談をお願いしたものの今は忙しいとのことで時間つぶしをするために図書館に向かっていた。

「あの子、やっぱりバカですね。杖を壊したどころか忘れてって」

「前から気にくわなかったしちょうどいいですわね。隠すのはこのあたりでいいかしら」

廊下を歩いていると実験準備室から妙な会話が聞こえた。

壊れた杖? そういえばあの実験の時、確か翼の杖が折れてたけど……まさかね。

「何やってるのよ」

「あ、可奈さん。翼のやつ杖を教室に置き去りにしてたんですよ」

「あのニンゲン、生意気でしょう? 可奈にも噛みついてばかりですし。たまには痛い目見せてやらないと」

実験準備室に入ると2人のクラスメイトが翼の杖をもってロッカーを物色していた。
翼の忘れた杖を隠して慌てる様子を見てやろうとでも考えていたのだろう。

ったく好き勝手やってるくせに隙だらけだからこんなことになるのよ。

「くだらないことはやめなさい」

「え? どうしてですか?」

「可奈だってあのニンゲンのこと嫌いでしょう? 実はそうでもないとでも仰るのかしら」

翼がキライかって? そんなこと考えるまでもない。

好き勝手やって人に迷惑かけて。

「確かにね、私はあいつのことはダイッキライよ」

「でもね。そういう裏でこそこそやってるのはそれ以上に気にくわないのよ!」

「はあ?」「えっ?」

驚く二人に続けていう。

「そもそもね。あいつに痛い目を見せるだけなら魔法でやり合えば簡単なのよ」

「けどねニンゲン相手になら勝って当然でしょ。そんな勝ち方もせっこい嫌がらせも何の意味もないわ」

「わかりましたわ」

「ごめんなさい」

大人しく反省する二人。
置きっぱなしの杖を見て衝動的にやってしまっただけで本来悪いことをするタイプじゃないのだろう。素直に聞き入れてくれた。

「杖を持ったまま翼と顔を合わせたら気まずいでしょう? 私が教室に戻しておいてあげる。渡しなさい」

翼の杖をかっぱらって実験室を出ていく。

「ここでもダメかー」

「やっと見つけた。翼」

「可奈? どうしたの」

しばらく歩き回り、校舎の隅にある落とし物預かり場の前で翼を見つけた。

「これ、落ちてたわよ」

「あ、私の杖! 教室に忘れてたのかと思ってた。ありがとう」

本来なら私が盗んだとか疑ってもいいだろうにそんな素振りは微塵も見せない。

少しは警戒心を持ちなさいよ。

「ニンゲンにはわからないかもしれないけどね、杖って大切なものなのよ。粗末にするんじゃないわよ」

「ん? 大切だよ」

無駄だと思いながらも注意だけしてみたところに予想外の答えが返ってきた。

「だから、直してもらいたいなって。杖の修理屋さん探してたんだ」

よく考えたらお昼休みに出会った花壇も授業のためには来る必要がない場所だ。もしかして一日中修理屋さんに探してた?

そういえばこの先は購買部だ。探しているのならここだろうと落とし物預かり場に来たけど翼が見つかったのはたまたま?

ってことは杖がなくなっていたころにすら気が付いてなかったの?

心配して損した。

「はーああ」

思わずため息がもれる。

「どうしたの?」

「なんでもないわ」

それにしても修理屋の場所くらい誰かに聞けばすぐわかっただろうに。

いつも考えるより先に動くのよね。この子は。

「私の杖、直せるよね?」

珍しく心配そうにしている。杖だけ渡して終わりのつもりだったけど仕方ない。

「ブラックスミスのロコさんのところに行きなさい。あの人なら大体のものは直してくれるわよ」

羊皮紙に簡単な地図を描いて渡す。

「ほんとー!? よかったー!」

「壊したり、置き去りにしてるような杖を直せることがホントにうれしいの?」

「うれしいよ! こんな素敵な世界に私が来れたことの証なんだから!」

ああもう調子狂うなあ。やる気あるんだかないんだかわからない。

「じゃあさっさと直してもらってきなさい。もうすぐお店の時間終わりよ」

「はーい。行ってきまーす」

杖を抱えてまるで飛び跳ねるように杖屋に向かう翼。

またヘタクソな鼻歌を歌いながら。

っとそろそろ先生のところに行かないと。ったく本の一冊も読めなかったわ。

―寮監室―

「待たせてごめんなさいね。可奈ちゃん」

翼に杖を渡した後、私は寮監を務める歌織先生の部屋に来ていた。

「それで、要件は何かしら?」

「単刀直入に言います。翼とのバディを解消してください」

「あら。そんなに翼ちゃんと組むのが嫌だった?」

「……はい」

杖が直せると聞いた彼女の笑顔が浮かんで一瞬返事が遅れる。

「どんなところが嫌だったのかしら?」

「元々実力がある私と素人のあの子が組むのがおかしいんですよ。しかも私の言うことも全然聞かないで好き勝手やって失敗するし」

ちょっとだけわいた迷いを振り切るように強く言う。私はこんなんじゃダメなんだ。

「私はあんな子のために無駄に時間を使ってる余裕なんてないんです!」

それに私にグチグチ言われてるよりももっと近い技量の子と一緒に失敗しながらワイワイやってる方がいいはずだ。

私とぶつかり合ってるせいで生意気な子だという印象まで抱かれてしまってる。

魔法世界に来れたことを喜んでるあの子はきっと私とじゃなければもっと楽しくみんなとやれているはずなんだ。

って違う! あいつのことなんて関係ない。

「余裕がないってのは『魔王』についてよね?」

「はい」

『魔王』、数百年前に突如この大陸に現れ暴虐の限りを尽くした最強の魔法使いにしてこの世界の災厄。

圧倒的な魔翌力に加えて再生の固有魔法で致命傷を受けても蘇り誰も倒すことができなかった。

ただ一人私のご先祖様が命を賭した魔法で『魔王』を封印することに成功することでこの大陸の平穏をもたらしたのだ。

けれどそれからも数十年に一度魔王は封印を破り復活している。

そのたびに再封印を行っていて最後にそれをしたのは私の祖母、やよいおばあちゃんだ。

おそらく次に世界を救うのは私の役目。

そのためには一刻も早く封印魔法を完璧に身に着けないといけない。

それにもう一つ私の原動力はある。

>>17の修正

「余裕がないってのは『魔王』についてよね?」

「はい」

『魔王』、数百年前に突如この大陸に現れ暴虐の限りを尽くした最強の魔法使いにしてこの世界の災厄。

圧倒的な魔力に加えて再生の固有魔法で致命傷を受けても蘇り誰も倒すことができなかった。

ただ一人私のご先祖様が命を賭した魔法で『魔王』を封印することに成功することでこの大陸の平穏をもたらしたのだ。

けれどそれからも数十年に一度魔王は封印を破り復活している。

そのたびに再封印を行っていて最後にそれをしたのは私の祖母、やよいおばあちゃんだ。

おそらく次に世界を救うのは私の役目。

そのためには一刻も早く封印魔法を完璧に身に着けないといけない。

それにもう一つ私の原動力はある。

「あなたが一族の使命を大切にしていることを知っているわ。でも、予言を知っている?」

あくまで噂レベルだけどとある魔法使いが最後に詠みあげたとされる予言があった。

今から14年前の夏に生まれたある少女が魔王を完全に滅ぼすと。

この学園に入ってからちょっとずつ調べていくうちに私はその予言が実在するものだと確信していた。

予言が指し示す『選ばれし少女』は誰? 

同級生で私に勝るどころか並ぶ人すら誰もいない。

何より私は英雄の末裔だ。

当然私に決まっている

ご先祖様が、おばあちゃんが成し遂げられなかった悲願は必ず成し遂げるんだ。

だから必死に技を力を磨いてきた。

「災厄を終わらせる『選ばれし少女』のことですか?」

ここで話すということはやっぱり。確信を真実に変えるチャンスだわ。

「やっぱり知っていたのね。なら話が早いわね」

けれど次に続いた言葉は私の期待していたものではなかった。

「彼女が、翼ちゃんがその子なのよ」

「翼が『選ばれし少女』?」

ワタシジャナイ?

目の前が真っ暗になる。

「14年前の夏、人間界で生まれた魔翌力を持つ金髪の少女だけが魔王を永久に滅する。そういう予言が出たの」

崩れそうな体を意思でつなぎ止める。

「魔王なら私が!」

「あなたにできる可能性があるのはあくまで封印でしょ。私たちは魔王を殲滅したいのよ。魔王が復活するたびに人々が恐怖に慄くのなんてもう終わりにしたいの」

そうだ。私たちの一族に伝わる魔法はあくまで封印術。予言を希望に磨いてきたけれどいまだにそのきっかけすらつかめていない。

「けれど人間界出身の翼ちゃんが一流の魔法使いとなるのは困難なことよね」

「そうです。だからあんな子に任せるなんて!」

「だから可奈ちゃんみたいな優秀な子に彼女の見本となって教えてあげてほしいのよ。今は言うことを聞いてくれなくても失敗していくうちに目の前に正解があれば成長も早いでしょう?」

それって翼の踏み台になれってこと?

冗談じゃない。

「そんなっ――」

「英雄の子孫として、ね。まさか自分が世界を救えないならどうでもいいなんて思ってないでしょう?」

「っ!」

私は!

「失礼しますっ!」

気が付いたらその場から逃げ出していた。

>>21 修正
「14年前の夏、人間界で生まれた魔力を持つ金髪の少女だけが魔王を永久に滅する。そういう予言が出たの」

崩れそうな体を意思でつなぎ止める。

「魔王なら私が!」

「あなたにできる可能性があるのはあくまで封印でしょ。私たちは魔王を殲滅したいのよ。魔王が復活するたびに人々が恐怖に慄くのなんてもう終わりにしたいの」

そうだ。私たちの一族に伝わる魔法はあくまで封印術。予言を希望に磨いてきたけれどいまだにそのきっかけすらつかめていない。

「けれど人間界出身の翼ちゃんが一流の魔法使いとなるのは困難なことよね」

「そうです。だからあんな子に任せるなんて!」

「だから可奈ちゃんみたいな優秀な子に彼女の見本となって教えてあげてほしいのよ。今は言うことを聞いてくれなくても失敗していくうちに目の前に正解があれば成長も早いでしょう?」

それって翼の踏み台になれってこと?

冗談じゃない。

「そんなっ――」

「英雄の子孫として、ね。まさか自分が世界を救えないならどうでもいいなんて思ってないでしょう?」

「っ!」

私は!

「失礼しますっ!」

Side 歌織

「ずるいこと言うじゃないか、歌織」

可奈ちゃんが出ていくのを見送った後、声がして振り向くと昔なじみがいた。

「リオ、盗み聞きとは趣味が悪いわよ。エルフってのはもっと品性のある生き物じゃなかったかしら」

「今の私がそんな柄じゃないのもわかっているだろう?」

昔は堅物だったのにどうしてこんなことになったことやら。

「あの子は自分の血筋に誇りを持っている。それを盾に取られたら不満の一つも言えないに決まってるじゃないか」

「だったら親友が死ぬのを目の前で見せつけられて、その孫まで死にに行かせろって言うの?」

そんなこと絶対認められるものですか。

「別にあの子を死なせろってわけではないさ。予言にすがる気持ちもわかる。たださっきのお前は教師としてあの子に向き合っていたか?」

リオは私の両肩に手を置いて諫めるように言う。

確かにさっきの私は私はあの子の祖母、やよいの友人として向き合っていた。

けれどその指摘が正しいからこそ、私はこの気持ちを抑えられない。

「私はもう誰も魔王の犠牲になんてなって欲しくないのよ!」

「それは私も同じだ」

肩に置かれた手に力が入った。

「あっ」

そうだ。やよいを救えなかったことを悔やんでいるのは私だけじゃないんだ。

あの時関わったみんな、ずっと後悔し続けてる。

「今夜は付き合うから少し落ち着け。あずさが酒場に予約を入れてくれているんだ」


Side 歌織 END

―翌日―

「なんであいつが」

「どうした、可奈? 元気ないな」

「悪いけどほっといて。何でもないから」

「かーなちゃん。花火大会しない? 空に打ちあがるのも楽しいよ!」

「そんな気分じゃないわ勝手に……え? 打ち上げるじゃなくて打ちあがる?」

「あわわ? また爆発しちゃった!」

「マンゴドラの根っこは鍋を火にかけてから2分40秒後に入れるの。火をつける前に入れたでしょ。次は気を付けて」

「あれ? 怒らないの?」

「別にもう慣れたわよ、こんなの」

あの日歌織先生のところに行ってから私はからっぽだ。

ただ最低限の義務感で動いているだけ。

「みゃーお?」

「心配してくれてるの? ありがとうね」

いつもの花壇で膝に座るシッポの顎を撫でる。

「やるやるやるぞ~♪私は魔法使い~♪」

けれどそんな憩いの時間はまたあのヘタな歌声に壊される。

できれば他の人と顔を合わせたくないのにあのニンゲンは。

「あ、いた! 可奈!」

「何よ」

どうやら私を探していたらしい。何か手に持っている。

「もう私の相手なんてする価値もないと思ってるんでしょ! 勝負よ!」

何を言い出してるの? この子は。

「勝負よ! 私が勝ったらもうちょっと真剣に私に向き合って」

自分はさんざん適当にやっておいて勝手すぎやしない?

「勝負って何をよ」

「ああ、忘れてた。これ!」

手渡してきたのはホウキレースのチラシ。そういえば今月末に開催するんだっけ。

どうせ今の翼じゃ相手にならない。適当にあしらってあげましょうか。

「いいわ。けちょんけちょんにしてあげる。ただし私が勝ったら二度とここには来ないでね」

「分かったわ! 負けないからね」

どさくさに紛れて条件足してみたけど本当にわかってるのだろうか、この子は。

ホウキレースは案の定私の独走。

魔法の仕様は許可されているがそんな必要もない。ただ普通にホウキを操るだけでも私はこの学園の誰にも負けない。

一方翼は障害にぶつかりまくってボロボロ。

ギリギリ豆粒くらいに見える位置にいるだけ頑張ってはいるけれど残るは長い直線と急激な曲がり角、そこをこえたらすぐにゴールだ。

「ぜーったい負けないんだから! 【ロケットスター☆】!」

勝負が決まったと完全に油断していた私の耳が呪文を唱える声と風を強く切る音をとらえた。

「えっ!?」

振り向いた私が見たのはどんどん迫ってくる翼だった。

途中にいた他の生徒もみんな抜き去っていき、私と翼の間には誰もいなくなっている。

「くっ! 冗談じゃないわ!」

このホウキレースで初めて魔力を込めて加速する。

けれど

「離せない!?」

「もうちょっとだよ! 可奈!」

もうすぐ曲がり角だけど追い付かれる!? 

「あれ? うわあああああ」

そう思った瞬間、翼の身体はホウキを離れあらぬ方向に飛んでった。加速しすぎたホウキを制御できないまま曲がろうとした結果慣性に流されてしまったのだ。

「っ!」

とっさに杖を抜き速度と衝撃を和らげる魔法を翼にかけた。

翼がゆっくり落ちてくのを回りで飛んでいた先生が受け止めるのを確認してからゴールする。

「可奈、優勝おめでとう」

「やっぱり可奈さんはすごいね!」

「ええ。ありがとう」

みんなが私の優勝を褒める。だけど私は一番じゃなかった。

ろくに制御できていなかったとはいえ、あの子は確かに私より早かった。

私は誰にも負けないと、心のすみで歌織先生の見立ては間違いであってほしいと思っていた。

だけど本当にあの子は『選ばれし少女』なんだ。

一旦ここまで

今から24時間以内には完結する予定です。できれば今日(9/9)の範囲目標で

―一か月後―

ホウキレースの後も執拗に勝負を挑んでくる翼を適当にあしらい続けていた。

根本的な技術がないから相手になっていない。

それでも必要な事は教えているし数年もたてば私も抜かされているだろう。

魔王の復活まで後数十年はあるだろうし翼の才能なら十分間に合うはず。

そんな中途半端なスタイルでいたから罰が当たったのだろうか。

「魔王城!?」

宙に浮く漆黒の城塞。

魔王の復活とともに蘇るといわれていた恐怖の象徴が空に浮かんでいた。

魔王城から魔王の眷属であろう数多の魔獣が学園に向かって降りてくる。

「みんな、ここにいなさい!」

「絶対に学校から出ちゃだめからね」

校長のあずさ先生を筆頭に先生たちが学園を守るため次々と学校の外へと出ていく。

「歌織先生!」

「可奈ちゃん。ちょうどよかったわ。魔王は私たちがどうにかするからみんなを安心させてあげて」

「私も行きます!」

翼はまだ魔王を倒せる腕前なんてない。だったら私が封印するしかない。

実力不足でご先祖様に比べたら短い期間しか無理だろうけど。それでもせめて翼が一人前になるまでの時間稼ぎにでもなれば。

「ダメよ! お願いだからもう私の目の前で犠牲になろうとなんてないで」

もしかして先生はやよいおばあちゃんと...?

「あっ!?」

そんなことを一瞬考えてしまった間に歌織先生はすでに遠くに行ってしまい、更に学校全体を覆う結界を作っていた。

これじゃあ追いかけられない。

―教室―

こうなったらもう先生たちが打倒してくれるのを祈るしかない。

せめて言われた通りみんなの様子でも見に行こうと避難先として放送されていた大講義室へ私は向かった。

そして扉を開けた瞬間に一瞬、教室中が漆黒に染まった。

「まさか!?」

その闇が拡散すると一人の女が現れる。

「魔王!?」

「うそ、なんで!?」

二本の角、赤き瞳、漆黒の翼、伝承と何一つ変わらぬ魔王の姿。

「教師どもよ。まんまと我が策にかかりおったな。これで彼奴らも当分戻ってこれまい」

そうか。派手な襲撃は最初から囮。先生たちのいない間に学園を落とす気だったんだ。

「そんなに先生が怖いんだ。魔王ってのもたいしたことないのね」

絶望的な状況に足が震える。

だけどせめて他の子が逃げる時間くらいは稼がないと。気を引くために魔王を挑発しながら、指でジュリアに指示を出すと頷いてくれたのが見えた。

「いい加減封印されるのもうんざりだし完全に滅ぼされるのも勘弁でな。英雄の末裔と『選ばれし少女』とやらを先に仕留めてからその他の有象無象はじっくり料理することに決めた」

「え?」

目的は私と翼?

まずいまずいまずい。油断している隙を狙えばとか思っていたけど最初からターゲットにされてるんじゃそんなもの期待できない。

「貴様が英雄の末裔だな。手始めに先祖のツケを清算してもらおうではないか」

睨まれただけなのに体の芯まで凍りついていくのを感じた。

一次的な封印くらいできる? バカか。私は。

本気で魔王の敵意を向けられたらどうなるかということを私はわかっていなかった。

だめ! 動け! 恐れるな私!

魔王が指に魔力を込めていくのが見えて、必死に自分の身体に命令する。

それなのに逃げることも杖を抜くこともできない。

「さて――」

「ちょっと待ったあああ!」

魔王がいよいよ魔弾を放とうとしたそのとき、緊張感のない声が割り込んできた。

「じゃじゃじゃじゃーん! 魔王を倒す翼ちゃんでーす」

バカ丸出しの登場。けれど問題はそこじゃない。

うそでしょ?

あの子、自分が魔王を倒すために呼ばれたことを知ってたの?

てっきり知らないからあんなにお気楽でいたと思っていたのに。

そんな重いものを背負わされてそれでも私たちの世界を素敵な世界だと言ってくれていたの?

「くらいなさい! 【Believe my change!】」

飛び込んでくる前から魔法の準備をしていたのだろう。

翼の杖先にはバカでかい魔力が収束しており、それを一気に魔王に打ち込んだ。

でもそれじゃダメ。

「予言もあてにならぬのもしれぬな」

「なんで!?」

翼の魔法はまるで効いていなかった。

当然だ。

さっきの翼の魔法は発動直後だけは確かに強大だった。

けれど結合が弱く撃ったそばから拡散している。元がどれだけ凄くても届くまでに威力は拡散しきっている。

それに脆い結合は簡単に崩される。私だって可能だ。

翼には強大な魔法を扱いきるだけの技術がまだ足りてないんだ。

「さてと」

「きゃああああ!」

魔王が軽く放った魔法で翼の身体が吹き飛んだ。

「他愛無い、次は――」

「余所見してるんじゃないわよ!」

私の方へと向かおうとする魔王。それを立ち上がった翼が引き留める。

「ほう。度胸だけはあるようだな。だが、それだけだ」

魔王が翼の方へと手を向けると触れてもいないのに翼の身体が宙に浮かんでいく。

「は、な、せ」

翼が苦しそうに首を抑える。よく見ると黒い影のような手が翼の首を絞めつけていた。

「さて、仕舞じゃ」

翼が意識を失うのを見てから魔王が手を開く。すると影の手は消え去り翼が地面に落ちていく。そしてそこへ追撃の魔弾が飛んでいく。

これから見える惨劇に私は目をそらしそうになる。

「【流星群】!」

「【FIND YOUR WIND!】」

けれど当たる直前で魔弾はそらされて、更に翼を支えるように風が吹き、静かにその身体を床へと運ぶ。

「まだ羽虫が残っていたとは思わなかったぞ」

「なんで戻ってきてるのよ、あなたたち!」

魔王は嗤い、私は驚きに叫ぶ。

「あたしらを守ろうとしたダチを置いて逃げてられるかよ」

「可奈ちゃんも翼ちゃんもいなくなったらつまんないかなって。」

他の生徒と一緒に逃げたはずのジュリアと麗花がそこにはいた。

「たった二人の寿命をわずかに伸ばすために屍を倍に増やしに来るとは傑作じゃ」

魔王が嘲る。その中で私は私に問いかける。

翼は予言に選ばれていたとしてもただの人間界出身の素人。それなのに魔王相手に立ち向かった。

ジュリアと麗花は魔王と何の因縁もない。だけど逃げずに私たちを助けるために戻ってきた?

私は何?

世界を救った英雄の末裔でしょ。それが一人怯えて何もできないの?

違う。私は誓った。ご先祖様みたくみんなを守るんだと。

だからたとえ選ばれてなくても……滅ぼすことができなくてもみんなを守る!

「【Welcome!!】 来い!」

無理やり身体を動かし杖を抜きながら叫ぶ。

唱えた呪文は呼び寄せ呪文。

まだ足はまともに動かない。だったら飛べばいい。私は魔法使いなんだ!

飛んできたホウキにつかまり魔王に突っ込む。

「可奈!? そんな無謀だ!」

「破れかぶれの突撃か? 無駄に決まっておるだろう」

張られた防御魔法に阻まれて魔王に触れることもできない。けれど近くに行ければそれでいい。

「ジュリア、麗花! 私とあいつを魔王城まで飛ばすから手伝って! 後は私一人でやる!」

魔王の防御魔法。それに阻まれながらも魔法を構成し始める。

「でも!」

私一人を送り出すことにためらうジュリア。見捨てられないと戻ってきてくれたのにそんなことしたくないよね。

ごめん、でもこれしかないんだ。

「お願い!」

「やろう。ジュリアちゃん!」

「麗花っ! くそっ! わかったよ!」

私の頼みに加えて麗花が珍しく真剣な顔で呼びかけるのを見てジュリアも覚悟を決めてくれた。

「たかだか学生の魔力3人分で我を飛ばせるとでも?」

「私たちだけの力でやるなんて言ってないわよ」

結界が張られている学校の内部へ魔王が来られた。

つまり今この場は魔王を学園と魔王城の間で移動させる魔法が発動された痕跡があるはずだ。

そしてここには魔王の魔力が充満している。さっきから準備していた魔法はそれを利用するためのもの。

魔王の魔力を使って魔王を飛ばす魔法を逆再生する。

足りない分は2人の魔力と私自身を使って。

「「「【Flyers!!!】」」」

ジュリアと麗花と私の3人の魔法が発動する。

それならやっぱり私の命をかければ再封印のチャンスはある!

「ちょこまかとした動きは得意なようだな。ならまずはそこから封じようか」

魔王が空に魔力を飛ばすと空の様子が一変する。雨が降り、雷が、雹が降り注ぐ。

「それを待っていたのよ」

天候干渉。恐るべき魔法だけど、魔王がそれを好んで使うことは伝承で知っていた。

「天候全部を支配するなんて芸当っ! 私にはできないけどっ! そういうのを捻じ曲げる技術ならっ!」

磨いてきてるのよ、と最後まで言い切ることなく呪文を唱える。

「【Singin' In the Rain Together!(あめにうたおう♪)】」

降り注ぐ雨を無害な音符に変える変化魔法。

対策に練習していた呪文の一つ。

攻撃翌力こそないけれど視界を奪うことくらいはできる。

「どこに行った!?」

そしてこの一瞬にすべてを賭けるんだ。

「―青き炎よ螺旋を描き今羽開け― 『Eternal Spiral』!

それは魔王と戦う前のやよいおばあちゃんに持つように言われたもの。

幼いころの私、いや少し前までの私はそれをちゃんと理解してないままだった。

それでも不完全なままでもみんなを守りたいと小さいころから磨き続けた。

災厄をはねのける私の魔法を。

そして選ばれてなくてもいいと本当は臆病だと認めたうえでまた立ち上がれた。変われたことで完成した。

「【The Charm(おまじない)】!」

「負けないわよ!」

「わたしだって!」

魔王が倒れる前に私が負けたら失敗、魔王じゃなくて私と翼で競い合うおかしな光景。

私たちはぶつかりあうだけで支え合うことなんてできないけれどそんな私たちだからこそ辿り着ける!

「くそおおおおお!」

魔王は私の魔法を破ろうとするもののそうすると翼の魔法をノーガードで受けることになる。かといって翼の魔法を弾けば弾くほど翼の魔法の密度は上がる。

既に魔王は打つ手がなくなっていた。

そして限界まで集約された翼の魔法に私の魔法が飲み込まれながらも最後に一度だけ弾いて完成する。

「「【STANDING ALIVE】!」」

ええ話だった、可奈覚醒後のコミュとか好きだったし奇跡を起こすよ♪マジカル☆パワー!ガシャで書いてくれて感謝
乙です

>>2
可奈役 矢吹可奈(14)Vo/Pr
http://i.imgur.com/DCHPo4q.png
http://i.imgur.com/V2e307c.png

翼役 伊吹翼(14)Vi/An
http://i.imgur.com/mie5cEN.png
http://i.imgur.com/OdQhp9c.png

>>3
ジュリア役 ジュリア(16)Vo/Fa
http://i.imgur.com/zAwcDIw.png
http://i.imgur.com/pTQNoec.png

麗花役 北上麗花(20)Da/An
http://i.imgur.com/d7E4wce.png
http://i.imgur.com/mjWz14U.jpg

>>5
シッポ役 北沢志保(14)Vi/Fa
http://i.imgur.com/F5TR3kN.png
http://i.imgur.com/4s2FnME.jpg

>>15
歌織役 桜守歌織(23)An
http://i.imgur.com/vMM1ZnF.png
http://i.imgur.com/HAO7vrU.png

>>23
リオ役 百瀬莉緒(23)Da/Fa
http://i.imgur.com/pulW1Hj.jpg
http://i.imgur.com/0yDBjEg.png

>>28
「ロケットスター☆」
http://www.youtube.com/watch?v=k2D3TuakVKs

>>39
「Believe my change!」
http://youtu.be/PjT37P4HfyM?t=95

>>41
「流星群」
http://www.youtube.com/watch?v=Hstu1RmC0BU

「FIND YOUR WIND!」
http://www.youtube.com/watch?v=g3SIc6VwaVU

>>43
「Welcome!!」
http://youtu.be/mv1UDSZI6kM?t=97

>>45
「Flyers!!!」
http://www.youtube.com/watch?v=Frh5-k6SvVI

>>49
「あめにうたおう♪」
http://www.youtube.com/watch?v=KabTHBernx8

>>50
「Eternal Spiral」
http://youtu.be/8bqWDBTHRTA?t=108

>>62
「おまじない」
http://www.youtube.com/watch?v=QtKJ1W3R2Z8

>>66
「STANDING ALIVE」
http://youtu.be/ArkzdJspB4Q?t=88

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom