メイド「冥土にお送りいたします」主人「かかって来い」(260)

<寝室>

主人「ん……」


若き主人が目を覚ました。

めざまし時計のベルによってではなく、強烈な殺気によって。

ドスッ!

ベッドに包丁が突き立てられた。

が、その位置に横たわっていた主人はいない。かわしたのだ。


メイド「おはようございます、ご主人様」

主人「おはよう」

メイド「冥土にお送りいたします」

主人「かかって来い」

包丁を振りかざし、メイドが主人に襲いかかる。

主人はすかさず机の上にあった万年筆を、メイドの眼球めがけて投げつける。

ビュッ!

飛んでくる万年筆を冷静に包丁でハジくメイド。

ガキンッ!

しかし、弾丸のような万年筆をハジいたため、包丁も砕けた。


主人「………」

メイド「………」

主人「食事にしよう」

メイド「リビングに用意してあります」

<リビング>

主人「今日の朝食はキノコスープか」

メイド「はい。ぜひご賞味下さいませ」

主人「ワライタケ、ベニテングタケ、ドクツルタケにコレラタケ……」

主人「実に美味そうだ」ニコッ

メイド「ありがとうございます」

主人「うん、これは美味しい」ジュルリ


主人は大量の毒キノコを煮詰めたスープを全て平らげた。


主人「君もコーヒーでもどうだい。淹れてあげよう」

メイド「ありがたくいただきます」

主人はコーヒーを淹れると、

メイドの目の前でコーヒーカップに青酸カリのカプセルを入れた。


主人「俺はコーヒーにはうるさいんだよ」

主人「さ、どうぞ」スッ

メイド「ご主人様のコーヒーを堪能できるなんて、光栄ですわ」ゴクゴク


メイドは青酸カリ入りのコーヒーを全て飲み干した。


メイド「美味でございました」

メイド「私、これほど美味しいコーヒーを飲んだのは生まれて初めてでございます」

主人「君に喜んでもらえると、とても嬉しいよ」

テレビ『民家に飲酒運転をしていた大型ダンプカーが突っ込み~』

テレビ『世界的に暗躍しているテロリストが、日本に潜伏したという情報が~』

テレビ『連続殺人事件を起こした犯人は現在も逃走中~』


どんなに物騒なニュースも主人とメイドにとっては脅威ではない。


主人「君は料理の天才だよ」

メイド「ご主人様こそ、このコーヒーなら今すぐにでも喫茶店を開けますわ」


二人にとって、もっとも脅威となるのは目の前にいるお互いなのだから。

メイド「では、そろそろ洗顔などいかがでしょうか?」

主人「水を用意してもらえるかな?」


ザバァッ!

メイドはバケツ一杯に入った硫酸を、主人めがけて浴びせかけた。

ジュワァ~……

主人は硫酸をジャンプでかわしていた。

だが、メイドは空中に逃れた主人のスキを見逃さない。

ビュバババッ!

メイドは大量の爪楊枝を、散弾のように投げつけた。


主人(これは、かわせないな……やむをえん!)

ドドドドドスッ!

主人は全身の筋肉を硬直させ、爪楊枝を受け止めた。

ほとんど刺さっていないので、ダメージはないに等しい。


主人「ふう、今のは少しヒヤッとしたよ」

メイド「あれでダメージ無しとはさすがです、ご主人様」

主人「ハハ、ちょっとチクッとしたけどね」

主人「さて、そろそろ本当に準備するか」

主人「あの退屈な時間も、この生活を維持するのには必要だからね」

メイド「かしこまりました、すぐに着替えを用意いたします」

ヒゲを剃り、洗顔し、歯を磨き、髪を整え、主人はメイドのところに向かった。

メイドの用意したスーツに着替える主人。


メイド「いつもながら、見事なスーツの着こなしにございます」

主人「ありがとう」

主人「ところで、ちょっと後ろを向いてもらえないかな?」

メイド「かしこまりました」クルリ

主人「………」シュルリ


グイッ!

主人はネクタイを外すと、それで後ろからメイドの首を絞めた。

もちろん全力で、である。

主人「君のか細い首には、この色のネクタイがよく似合う」グググ…

主人「窒息で済ませるつもりはない……首をヘシ折る」グググ…

メイド「………」


メイドはネクタイに指をかけると──

ブチッ

ネクタイを引きちぎり脱出した。


主人「ヒュウ、さすがだね」

メイド「私にはもったいないお言葉ですわ」

主人「さて、そろそろ俺は出かけるよ」

メイド「かしこまりました」

<玄関>

メイド「ご主人様」

主人「ん?」

メイド「どうかお気をつけて」

メイド「くれぐれも……私以外の者に冥土に送られてしまうことがないよう」

主人「分かっているよ」

主人「もっともこの地球上で単独で俺を殺せる可能性があるのは、君くらいのものだろ」

主人「じゃ、行ってくる」

メイド「行ってらっしゃいませ、ご主人様」

主人を見送ると、メイドは後片付けを始めた。

砕けた包丁、穴のあいたベッド、折れた万年筆、割れた食器類、

床にぶちまけられた硫酸、同じく散らばった爪楊枝、ちぎれたネクタイ……。

全てを猛スピードで片付け、可能な限り元通りに修復する。

淡々と作業をこなしながらも、メイドの頭にふと今朝の攻防がよぎる。


メイド(爪楊枝攻撃は……惜しかったですわ)

メイド(あれが包丁やナイフだったなら、ダメージを与えられたかもしれないのに)

メイド(しかし、今更悔いても仕方ないこと)

メイド(その後のご主人様の首絞めは、なかなか強烈でしたわ)

メイド(私の頸動脈に食い込むネクタイの感触……十分に死を予感させるものでした)

メイド「さすがは、私のご主人様……」


メイドはぽつりと、そう漏らした。

<会社>

主人は若手ナンバーワンの社員だった。

いや、もはや能力は会社でナンバーワンといえた。


課長「いや、まさかあの契約を取ってくるとは!」

課長「君はすばらしいよ! ハッハッハ!」

主人「ありがとうございます」

課長「それにしても君は入社以来ミスといえるミスが一度もない」

課長「いいかたは悪いかもしれんが、まるで機械のようだね」

主人「ハハハ、さすがに機械にはかないませんよ」

主人は機械以上だった。

なぜなら機械は命令以上のことはしないが、彼は命令以上のこともこなすのだ。


同僚「ふんふ~ん」カチャカチャ

主人「おい、そこ計算間違ってるぞ」

同僚「あっ、ホントだ! いっけね!」

同僚「わりぃわりぃ、サンキュー。よく気づいたな」

同僚「ずっと資料と格闘してた俺が気づかなかったのに」

主人「岡目八目ってやつだよ」

OL「いえ、あの課長や部長も席を外してまして……」

OL「あ、いえっ、はいっ!」

OL「しょっ、少々お待ち下さい」カチャ

主人「どうかした?」

OL「ものすごい怒鳴り声で変なクレームが入ってて……」

OL「上司がいないんなら、社長を出せとか、もうメチャクチャなのよ……」

主人「代わるよ。こっちに電話回して」

OL「う、うん……」


主人はみごとにクレーマーを鎮めてみせた。

主人(退屈だ……)

主人(早く家に帰りたい)

主人(メイドとの攻防に比べ、仕事のなんと退屈なことか)

主人(彼女との戦いは一瞬のミスも油断も許されない)

主人(ひとたびミスをすれば、負傷し、その先に待ち受けるのは死だ)

主人(一方、仕事は考える時間がたっぷりある)

主人(はっきりいって、ミスりようがない)

主人(仮にミスったところで怪我するわけでも、死ぬわけでもない)

主人(たまにわざと会社の存亡に関わるようなミスをしたくなる衝動に駆られるが)

主人(それは俺のポリシーに反する)

主人(俺は雇われている身だし、他の社員に迷惑がかかるからな……)

主人(ああ、早く帰りたい……)

<居酒屋>

仕事が終わり、主人は課長たちと酒を飲んでいた。


課長「ウィ~、ちゃんと飲んでるか?」

主人「もちろんですよ~、課長~。焼酎最高!」

同僚「しっかしホントお前って顔赤くならないよな」

OL「ホントよね~。でもたまにこういう人っているけどね」

主人「顔は赤くならんけど、酒自体は弱いよ。もうグデングデンだもん」ヨロッ

課長「ハハハ、おいおいしっかりしろよ」


主人は全く酔っていなかった。

毒が通じない人間が、酒(アルコール)で酔えるわけがない。

酔ったフリがうまいだけだ。

<自宅前>

主人(ふぅ、今夜はすっかり遅くなってしまったな)

主人(だが感じるぞ……)

主人(このドア一枚へだてた向こう側から……)

主人(俺の帰りを待っていたメイドの強烈な殺気を!)

主人(待たせて悪かったな)

主人(今、開けるから──)


ガチャッ

<玄関>

メイド「お帰りなさいませ、ご主人様」

主人「ただいま」

メイド「冥土にお送りいたします」

主人「かかって来い」


ヒュヒュヒュヒュッ!

メイドが主人の顔面めがけて道具を投げた。

ハサミ、刃の出たカッターナイフ、ボールペン、マイナスドライバー。


主人(マイナスドライバーなんて家にあったんだ……)


などと考えつつ、主人は四つ全てをキャッチしてみせた。

主人は負けじと近くにあった靴ベラを取り、メイドめがけて殴りつける。

ブオンッ!

メイドはバク宙でこれをかわした。

ドガァッ!

主人が振り下ろした靴ベラがぶつかった廊下が、砕けた。

たとえ靴べらでも力と速度を伴えば、立派な鈍器だ。


メイド「すばらしい一撃ですわ。さすがはご主人様」

主人「君こそ、マイナスドライバーなんてどこで見つけたんだい?」

メイド「ところでお風呂が沸いておりますので、どうぞお入り下さい」

主人「ありがとう、入らせてもらうよ」


<風呂場>

浴槽には大量の氷が浮かんでいた。

水温はおそらく5℃とないだろう。

もちろん、主人はためらうことなく入る。

ザバァッ


主人「ああ、いい湯加減だ。心も体もポカポカだよ」


外にいるメイドが答える。


メイド「ありがとうございます、ご主人様」

主人「ところでどうだい? せっかくだし、背中でも流してもらえるかな?」

メイド「よろしいのですか?」

主人「今更遠慮する仲でもないだろう」


主人は浴槽に浮かんでいる小さな氷を口に含み、噛み砕いた。

そして、一番大きな氷の塊を手に取った。

ガラッ


メイド「では失礼いたし──」

主人「──プププゥッ!」

主人は口の中で噛み砕いた大量の氷を、メイドめがけて吹きかけた。


メイド「!」

主人(よし、さすがに怯んだか!)


すかさず主人は、浴槽から飛び出す。

主人は右手に持っている大きな氷塊でメイドの頭を殴りつけた。

ガゴンッ!


主人(クリーンヒットォ! ……いや、これは──)

メイド「危ないところでしたわ」


メイドは石鹸で氷をガードしていた。

主人はパジャマに着替えると、風呂場での攻防の感想を述べた。


主人「さっきは鳥肌が立ったよ」

メイド「氷水に浸かったからではありませんか?」

主人「いや、さっきの連続攻撃は我ながら完璧だと思ったんだが──」

主人「アレを瞬時に石鹸でガードしてみせた君に、鳥肌が立ったんだ」

主人「君の冷静さに比べれば、氷水などぬるま湯にも等しい」

メイド「ありがとうございます」

主人「では、今夜はもう休むとするよ。おやすみ」

メイド「おやすみなさいませ、ご主人様」


主人は寝室に入っていった。

主人が眠りにつくと、朝と同じくメイドは後片付けを始める。

投げつけた道具の数々、砕けた廊下、びしょぬれの風呂場などを

猛スピードでまるで戦いなどなかったかのように清掃・修復する。

これが終わると、彼女も就寝することになる。


メイド(先ほどのご主人様の攻撃は見事でしたわ)

メイド(私が作った氷風呂を逆に利用するなんて……)

メイド(石鹸でのガードが間に合わなければ、頭部打撲は避けられなかったでしょう)

メイド「さすがは、私のご主人様……」


メイドはぽつりと、そう漏らした。

このようにして、この家の一日は終わりを告げる。

<町中>

ある日の午後、メイドは買い物をしていた。

すると──


少年「あ、ボールが道路に転がっちゃった」

母「ダメよ、飛び出しちゃ!」


ブロロロロロッ


少年「あ」

母「イヤアアアッ!」


少年の目前に、大型トラックが迫っていた。

それを見つけたメイドは走った。

ダダダッ! パシッ!

メイドは目にも止まらぬ速さで子供をキャッチし、トラックの走行コースから離脱した。


メイド「お怪我はありませんか?」

少年「ご、ごめんなさい……。お姉ちゃん、ありがとう……」

母「本当にありがとうございます! なんとお礼をしたらいいか……」

メイド「いえ、それには及びません」

メイド「買い物途中ですので、これで失礼いたします」


何事もなかったかのように、メイドは買い物に戻った。

メイドはさっきの大型トラックと普段の主人との攻防を比較した。


メイド「………」

メイド(やはり、ご主人様の足元にも及びませんわね)


メイドにとっては高速で突っ込んでくるトラックよりも、

毎日の主人との戦いの方がよっぽどスリリングであった。

<駅 プラットホーム>

ある日の夜、主人は帰りの電車を待っていた。

すると──


サラリーマン(なんということだ。リストラされてしまうとは……)

サラリーマン(妻よ、子よ、許してくれっ!)


バッ!

一人のサラリーマンが線路の中に飛び込んだ。

もう電車は目前まで迫っていた。

シュバッ!

主人は線路の中に飛び込むと、サラリーマンを担ぎ上げ、

瞬く間に線路から脱出した。

その一秒後、急行電車が高速で駆け抜けていった。


サラリーマン「はぁ、はぁ。す、すいませんっ……!」

主人「大変な勇気です」

主人「死にたくないばかりに、毎日見苦しく格闘している俺には到底できない芸当です」

主人「それほどの勇者であるあなたに感動し、つい余計なマネをしてしまいました」

主人「ジャマをして申し訳ありませんでした。では……」

サラリーマン「あ、いえ……」ハァハァ

サラリーマン(行ってしまった……。いったい何者だったんだろう、彼は……)ハァハァ

サラリーマン(私が勇者……か……)ハァハァ

サラリーマン(もう一度……私も立ち上がってみるか……)

主人は先ほどの電車の迫力とメイドの殺気とを比較した。


主人「………」

主人(やはりメイドには到底かなわないな)


主人にとっては迫りくる電車の前に飛び込むことより、

殺意に満ち満ちたメイドに立ち向かう方がよほど恐ろしいのである。

<リビング>

そしてこんなことがあった日であっても──


メイド「今日は、トラックにひかれそうな子供を助けました」

主人「偶然だね。俺も電車に飛び込んだサラリーマンを助けたよ」

メイド「やはり、人間の幸福とは生きてこそ、でございますわ」

主人「ああ、死んでしまっては、戦えないからね」

メイド「冥土にお送りいたします」

主人「かかって来い」



二人は戦う。

バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン
バン       バンバンバン゙ン バンバン
バン(∩`・ω・)  バンバンバンバン゙ン
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
    \/___/ ̄
  バン    はよ
バン(∩`・д・) バン  はよ
  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/   
 ̄ ̄\/___/
    ドゴォォォォン!!
        ; '     ;
     \,,(' ⌒`;;)
   !!,' (;; (´・:;⌒)/
  ∧_∧(;. (´⌒` ,;) ) ’
Σ(* ・ω・)((´:,(’ ,; ;'),`
 ⊂ヽ ⊂ ) / ̄ ̄ ̄/
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     . ∵ ./  ./|
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   (ノ゚Д゚)ノ   |/
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ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ
ポチ     ポチポチポチポチポチポチ
ポチ(∩`・ω・) ポチポチポチポチポチ
 _/_ミつ/ ̄/_
      /_/

<会社>

ある日、主人と同僚はお互いの住居の話をしていた。


同僚「お前、若いのにマイホームとかすげぇよな。俺なんかアパートだぜ」

主人「両親のおかげだよ。自分の力でも何でもない」

同僚「しかも、メイドさんを雇ってるんだったよな?」

主人「親の紹介でね。よく気が利く人で、助かってるよ」

同僚「その人と恋愛関係になったりしないのか?」

主人「そういう対象として見てないし、今後も見ないだろうな」

同僚「ふぅん、そんなもんかね」


主人は真実と嘘をうまく織り交ぜて話した。

同僚「なぁ、今度家に遊びに行ってもいいか?」

主人「もちろんいいよ」


すると、ずっと耳を傾けていたOLも会話に参加してきた。


OL「あ、私も行きたーい! メイドさん見たーい!」

主人「いいよ。ぜひ来てくれ」

同僚「よっしゃ、じゃあ今度の日曜に寄らせてもらうよ」

主人「分かった」

主人「駅からの道がけっこう分かりにくいから、最寄駅についたら連絡してくれ」

同僚「オッケー」

<リビング>

その日の夜も、主人とメイドは死闘を繰り広げた。

グシャグシャになったフライパン、散らばったパスタ、へこんだ壁、

真っ二つになったテーブル、天井に突き刺さった包丁とカミソリ……。

これらが二人の死闘の凄まじさを物語っている。

死闘に一段落ついた時、主人がメイドにいった。


主人「今度の日曜、客が来る。俺の会社の同僚たちだ」

主人「悪いが、おもてなしを頼むよ」

メイド「かしこまりました、ご主人様」

次の日曜日──

<主人の家の前>

同僚「悪いな、駅まで迎えに来てもらっちゃって」

OL「ホント、ごめんなさいね」

主人「駅からここまで、微妙に道が入り組んでるからな」

同僚「──にしても、けっこういい家じゃんか」

OL「キレイねー」

主人「ま、何もないけど入ってくれよ」


ガチャッ

<玄関>

メイド「ようこそいらっしゃいました」

同僚&OL「!」

メイド「さ、どうぞ。お上がりになって下さい」

同僚「は……はい」

OL「お邪魔……します」


同僚とOLは主人に家で働いているというメイドを、はっきりいってナメていた。

そこらにいる女性がメイドの格好をしただけなのだろうと──

からかってやろうとさえ思っていた。

しかし、メイドの気品と優雅さにあふれる佇まいを目の当たりにし、

これらの考えは吹き飛んでしまった。

<リビング>

同僚「こ、こんなに美味い紅茶を飲んだのは初めてですよ……すげぇ」

OL「わ、私も……」

メイド「ありがとうございます」

同僚「まったく、お前にはもったいないメイドさんだな、おい」

主人「ハハハ、まったくだよ」

主人「彼女に家のことは全て任せてあるから、俺は仕事に集中できるのさ」

同僚「そうか、だからお前は仕事ができるんだな」

同僚「俺もメイドさん雇えば仕事できるようになるかな~……なーんてな」

同僚(たしかに彼女を恋愛対象としては見られないな……)

同僚(なんというか、下心アリで彼女と接すること自体に罪悪感を覚えそうだ)

しばらくすると、すっかり四人は打ち解けていた。


OL「へぇ~……ご両親同士がお付き合いがあって、知り合ったんだ」

メイド「えぇ、この方の一人暮らしの世話をするように、と」


ウソである。

そしてメイドは対外的には主人を主人として扱わない。

主人が自分のことを、あくまで「住み込みで家事をする人」と紹介しているのを

知っているからだ。

このため、「主人」ではなく「この方」「あの方」などと呼ぶことになる。


同僚「やっぱり、家事の修業みたいなのをしたわけかい?」

メイド「ええ、数年間」

同僚「だよなぁ~。さっき食べた料理もプロ級の腕だったもん、すごいよ」

メイド「もったいないお言葉ですわ」

やがて、二人は帰っていった。


メイド「楽しい方たちでしたね」

主人「ああ。仕事は退屈だが、俺も彼らといるのは楽しいよ」

主人「しかし……君は退屈だっただろう。日曜日は、いつも一日中殺し合ってるからな」

メイド「いえ、私も楽しかったですわ」

メイド「またいつでもお訪ね下さるよう、お伝え下さい」

主人「ありがとう」

主人「しかし、ウソをつくってのは面倒だな」

メイド「仕方ありませんわ。私たちの本当のことを話してしまえば」

メイド「あの方たちがショックを受けることは間違いありません」

~ 回想 ~

主人は平凡な家庭に生まれた。

両親はもちろん平凡であり、当然主人も平凡であると思われた。

しかし、主人は強かった。

他の人間に比べ、あまりにも強すぎた。

猛獣よりも強く、毒も通じず、おそらく銃弾もある程度は耐えられるだろう。

もしその気になれば、オリンピックの全種目で金メダルを取ることも

たやすいほどの身体能力。

だが、主人は自制した。


主人(俺の存在は……社会を壊す)

主人(だから、力を誇示してはならない……)


本能的に、こう自覚していたからだ。

このため、彼はそのあり余る力を発揮することなく生きてきた。

発揮するのはせいぜい、

飛び込み自殺をしたサラリーマンを助けた時のような場面くらいだった。

もちろん、これではフラストレーションが溜まるに決まっている。


主人(戦いたい……)

主人(戦いたい……)

主人(戦いたい!)


ならば格闘技でもやればいい、と思うかもしれないが、彼はこれも自制した。

なぜなら彼は、自分の実力は他の選手全員を相手にしても楽勝してしまうほどだと

分かっていたからだ。

そんなある日、主人は一人の女性と道ばたで出会った。

電流が走った。

すぐにお互いは理解した。

彼(彼女)も、自分と同じような人生を歩んできた者なのだと。


主人「あの……」

主人「初対面の人にこんなこというのは、大変非常識かもしれないが……」

主人「今から俺を殺すつもりで……いや、俺を殺すために俺と戦ってくれないか?」

メイド「………」

メイド「あなたを……」

メイド「冥土にお送りいたします」

主人「かかって来い」


二人は殺し合った。

決着はつかなかった。

主人「君は素晴らしい」

主人「一緒に……メイドとして暮らしてくれないか。そうすれば毎日戦える」

主人「どちらかが死ぬまで……」

メイド「喜んで」

メイド「ようやく私はお仕えするべきご主人様を見つけたようです」

メイド「必ずや、ご期待に応えてみせましょう」


二人は抱き合った。

いや、サバ折りをやり合った。

ギュウウゥゥゥ……


主人(俺とほぼ互角のパワー……! ああ、やっと俺はパートナーにめぐり会えた)

メイド(一瞬でも気を抜けば、私の背骨はたちまち砕けるでしょう。素晴らしい力……)

しかし、二人が本気でやり合えばすぐに通報されるに決まっている。

巻き添えを出してしまう恐れもある。

なので、まず主人は競馬で儲けて、二人の戦闘に耐えられる家を建てることにした。

「強さ」のパラメータの一つである観察力が存分に発揮された。


主人(天候、気温、湿度、地面、観客の出す騒音、レースの距離……)

主人(馬の骨格、筋肉、呼吸、スタミナ、気性、体調……)

主人(騎手の身長、体重、技量、モチベーション……)

主人(これら全てが、どの馬がどういう順位でゴールするか教えてくれる)


主人は万馬券を連発し、あっという間に大金を儲けた。

ただし、今後二度と競馬を始めとしたギャンブルはしないと誓った。

主人の「自分の力は社会を壊す」という理念に反する行為だったためだ。

主人が家を建てる際に業者につけた条件は、三つ。

・とにかく頑丈なこと。
・音が絶対に外に漏れないこと。
・なおかつ外見は普通の家であること。

こうして出来あがったのが今の家である。

おそらくどんな災害、いや核爆発にすら耐えるかもしれない。

もっともこのくらいの家でなければ、二人の戦闘にはとても耐えられない。

二人は喜び合った。


主人「さあ、今日からは思う存分戦おう!」

メイド「よろしくお願いします、ご主人様」


彼らの戦いのルールは、これまた三つ。

・全力を尽くすこと。
・互いのおもてなしには、誠意をもって応えること。
・出来る限り規則正しい生活をすること。

~ 現代 ~

<リビング>

主人「君と出会えたことは、本当に幸運だった」

メイド「私もですわ」

メイド「私の人生においての夢は二つございます」

メイド「一つは、ご主人様のような方と出会うこと。これはすでに叶いました」

メイド「そしてもう一つは、この手でご主人様を冥土に送ることでございます」

主人「ぜひとも叶えてもらいたいね」

主人「もっとも俺は死ぬのが死ぬほど嫌いだから、そう簡単にはいかない」

主人「さて、昔話もこれくらいにして、そろそろやろうか」

メイド「かしこまりました」


主人はゴルフクラブを、メイドは包丁を手に取った。

同僚とOLは、主人の家にちょくちょく遊びに来るようになった。


OL「いつも食べさせてもらってばかりだから、今日は私が料理を作ってきたの」パカッ

同僚「メイドさんの腕にはとてもかなわないだろうけどな」

OL「なによー」

メイド「いえ、とても美味しいですわ」モグッ

主人「これはホントに美味いよ。OLには才能がある」パクパク

同僚「うん……まぁまぁかな」モグモグ

主人「よーし、じゃあ俺もみんなにコーヒーでも淹れようかな」

同僚「お前、コーヒーとか淹れるんだ」

OL「へぇ~楽しみだわ」


主人とメイドは、二人を心から歓迎していた。

彼らが来ると殺し合いの時間は当然減ってしまうのだが、その分内容は濃密になった。

<電車内>

同僚たちが家を訪ねるようになって、しばらくしてのことだった。

主人は少し遠い取引先のところから、電車で帰社する途中だった。

ヒマなので、携帯電話でテレビのニュースを見る。


ニュース『現場から中継でお伝えいたします』

ニュース『先ほど、反体制グループ“熱湯弁慶”がビルに立てこもり~』

主人(熱湯弁慶……)

主人(たしか日本のトップに立つべきは我々ネット住民であるべき、とかなんとか)

主人(訳の分からん思想を掲げてる連中だったか……)

主人(インターネット上でギャーギャーわめいてるだけの集団と記憶してたが)

主人(ビルに立てこもるとは、大層なことをしたもんだな)

主人(そんな行動力があるなら、普通に政治活動しろって──ん?)

主人(このビル……俺の会社じゃないか!)

ニュースで事件の概要は分かった。

事件は主人が会社にいない昼休み直後に発生した。

銃などで武装した熱湯弁慶が、突然集団で押し寄せ、瞬く間に会社ビル内を占拠。

会社に残っていた者全員がビルの最上階に集められ、人質になっている。


主人(もし俺がいれば、この程度の奴らの襲撃は防げたかもしれないが……)

主人(今からじゃどうしようもないな……。あれだけ機動隊がいるし)

主人(ビルを囲んでいる警察の手腕に期待するしかないか……)

<会社 最上階>

最上階は主に会議や行事用の大きな部屋になっている。

30名近い人質たちにマシンガンの銃口を向ける『熱湯弁慶』のリーダー。

そして、もう一人。


リーダー「こうしてあっという間にこのビルを制圧できたのも」

リーダー「君の指導と、調達してくれた武器のおかげだよ。ありがとう」

テロリスト「なぁに、熱湯弁慶の統率力と戦闘力が優れていただけのことだ」

リーダー「そう、ぼくたちは生まれ変わったんだ!」

リーダー「ネットの世界から羽ばたき、この国を支配下に置くんだ!」

リーダー「フハハハハッ!」

人質の中には課長、同僚、OLもいた。


課長「あ、あわわ……」

同僚(くそぉ、なんなんだよこいつら……突然乗り込んできやがって)

同僚(あのバカ笑いしてる奴はともかく、もう一人の奴はただもんじゃない)

同僚(目の前にライオンでもいるかのような緊張感だぜ……)

OL(だれか、助けて……)ガタガタ

テロリスト「外に、警官や野次馬がだいぶ集まってきたようだ」

テロリスト「そろそろ主張や要求などを突きつけてはどうだ?」

リーダー「よ、よしっ! スピーカーを貸してくれっ!」


リーダーは窓を開け、スピーカーを使って叫ぶ。


リーダー「聞け、愚民どもっ!」

リーダー「我々の要求は、国会議事堂をぼくたち“熱湯弁慶”に明け渡すことだ!」

リーダー「今後、この国の政治はぼくらネットエリートが行う!」

リーダー「要求を飲まなければ、ここにいる人質がどんどん死ぬことになるよ!」

リーダー「フハハハハッ!」

同僚(またバカ笑いしやがって……。てか、ネットエリートってなんだよ)

同僚(こんなバカげた要求、通るわけがねえ)

同僚(くそっ、死にたくない……)

OL「怖いよ……」ガタガタ

同僚「大丈夫だ、俺がついてる」ギュッ

OL「うん……」ギュッ


同僚はOLをそっと抱き寄せた。

<電車内>

主人の携帯電話からも、リーダーのバカげた要求を見ることができた。

しかし、主人が注目したのはリーダーではなく、その奥に映るもう一人の人物。

主人はすぐに分かった。


主人(こいつが、黒幕だ!)

主人(こいつが熱湯弁慶に武器と戦い方を与え、こんな事件を起こしたんだ!)

主人(そしてこいつは……おそらくは俺と同類!)

主人(おそろしく強い……。その上、殺しを日常にしている人種だ)

主人(こういうテロ活動をしょっちゅう実行してきたに違いない……)ハッ


テレビ『世界的に暗躍しているテロリストが、日本に潜伏したという情報が~』


主人(もしや、あの時のニュースのテロリストが、あいつか!?)

主人(俺と同類だとすれば、警察では歯が立たん! 俺が行かなくては!)

主人は電車内の通話可能なエリアに移動し、家に電話をかけた。


主人「もしもし、俺だ」

メイド『ご主人様、どうされましたか?』

主人「俺の会社がテロ集団に乗っ取られた。おそらく同僚たちも人質にされた」

主人「俺は今電車にいて、あと30分ほどで会社の最寄り駅に到着する」

主人「そしたら、会社に乗り込むつもりだ」

主人「しかし、相手の中に俺たちと同類……がいる」

主人「もしかしたら、俺は死ぬかもしれない」

主人「俺が死んだら、自動的にその家と俺の資産は君のものになるようになっている」

主人「後は任せたよ」

メイド『かしこまりました』

主人「君になら安心して任せられるよ」ピッ


意外なことに、主人の心の中にあったのは強敵と戦える喜びではなかった。

同類として、己の強大な力を悪用する黒幕(テロリスト)に対する怒りだった。

<会社 最寄駅>

主人が電車から降りると、駅周辺は騒然としていた。

なにしろ近くで本格的な立てこもり事件が起こっている最中なのだ。


主人(あのテロリストに思想なんてものはない)

主人(ただ戦闘とスリルを求めているだけ……)

主人(きっと今までも世界中のテロ組織に身を置き、助力し)

主人(戦闘と殺戮を行い、飽きたら別の国へ……というのを繰り返してたんだろう)

主人(熱湯弁慶は、奴にとってはただの道具に過ぎない)

主人(あの単純そうなリーダーに武器を与えて、そそのかしたんだろう)

主人(俺の会社を狙ったのも理由なんかない)

主人(熱湯弁慶の規模でも制圧可能な小さなビルを、適当に選んだだけだろう)

主人(同僚、OL、課長……みんな。必ず俺が救い出してやる)


「ご主人様」

主人「!」


主人の前には、家にいるはずのメイドがいた。


主人「どうして君がここに……!」

主人「まさか俺を助けに──!?」

メイド「勘違いなさらないで下さい」

メイド「ご主人様を冥土に送ることができるのは、この地球上で私のみ」

メイド「私はご主人様の力量を疑ったことは一度もありません」

メイド「私がこうして参ったのは、ご主人様のご友人方のためです」

メイド「同僚様とOL様も、人質にされているのでしょう?」

メイド「ご主人様のご友人は、私にとっても友人です」

メイド「あの方々が危機とあらば、動かないわけには参りません」

主人「なるほど、君らしい理由だ」

主人「じゃあ行こうか」ザッ

メイド「かしこまりました」スッ

<会社周辺>

機動隊が熱湯弁慶の説得に当たるが、リーダーはまるで聞く耳を持たない。


リーダー「国会議事堂はまだぼくらのものにならないのかい!?」

リーダー「早くしないと人質殺して、死体をポイッと窓から投げちゃうよ!?」

リーダー「ぼくらは生まれ変わったんだ!」

リーダー「ネットと現実を支配する、ダブル王者になるんだ!」

リーダー「人殺しぐらい、なんてことないんだ! フハハハハッ!」



隊長「……参ったな。まるで話が通じんよ」

隊員A「えぇ、このままじゃ本当にやりかねません」

隊長「かといって奴ら、ああ見えてかなりの重装備な上、統率もとれている」

隊員A「うかつに突入はできませんね……」

隊員B「あ、あの……」

隊長「どうした?」

隊員B「変な二人組がこっちに歩いてきてるんです」

隊長「変な二人組?」

隊員B「スーツ姿のサラリーマンと……メイドなんですが」

隊長「な、なんだそりゃ?」


ザッ


主人「皆さん、すいません。ここから先は俺たちに任せて下さい」

メイド「私とこの方で、立てこもり犯を退治いたします」

機動隊長は二人を見た瞬間、寒気を覚えた。

主人とメイドは自分たちよりも遥か上位にあると本能的に察した。

とはいえ、一般市民に事件解決を委ねるわけにはいかない。


隊長「冗談はよしてくれ! 君たちになにができる!?」

主人「これくらいのことはできます」


主人は機動隊の一人から盾を奪うと──

グシャンッ!

力む表情すらせず腕力だけで丸めてみせた。


隊長(私は夢でも見ているのか……?)

主人「おっと失礼」

主人「器物破損で捕まりたくないからな。すぐ直してくれ」

メイド「かしこまりました」


メイドはグシャグシャに丸まった盾をこれまた腕力で引き伸ばし、

形を整え、元通りに修復してみせた。

機動隊員たちは言葉を失ってしまった。


主人「ビルの中にも一人、これくらいのことができる人間がいます」

主人「他の人間はともかく、そいつは俺たちでなきゃ倒せないでしょう」

主人「行こう」ザッ

メイド「かしこまりました」スッ

歩きながらの作戦会議。


主人「裏口から侵入しよう。俺の会社のビルは七階……」

主人「一階につき30秒でカタをつければ、3分で最上階にたどり着く」

メイド「もし侵入を最上階に察知された場合、人質の方々は大丈夫でしょうか?」

主人「それは大丈夫だ。ただしテロリストが俺の考えているような奴であれば──」

主人「一人死ぬことになる」

<会社 裏口前>

主人「武器はいらないのかい?」

メイド「はい。私は武器や道具を用いない方が、戦いやすいので」

主人「ほぉ、つまりいつもは手加減をしてくれてたのか」

メイド「いえ、そうではありません」

メイド「ご主人様ほどの相手に切り札(素手)は見せたくありませんでしたので」

メイド「確実にご主人様を冥土に送れる、と思った時に素手で攻撃しようと……」

主人「まあ俺も似たようなものだ。素手で戦う方がやりやすい」

主人「家での戦いで道具を使うのも、君と同じような理由だ」

主人「さて、おしゃべりはここまでだ」

主人「入ろう」

メイド「はい」バキンッ


鍵のかかったドアを強引にこじ開け、二人は中に突入した。

<会社 一階>

中にいた熱湯弁慶の武装兵たちは面食らった。

突然、外からサラリーマンとメイドのコンビが侵入してきたのだから。


熱湯兵A(な、なんだっ!?)

熱湯兵B(ここの社員か!? ……とメイド!?)


彼らはテロリストから「誰か入ってきたらかまわず撃て」と命じられている。

テロリストからいわれた通り、マシンガンを構える。

──が、すでに二人の兵の意識は体から抜け落ちていた。

二人の突きで、一瞬にして昏倒させられてしまったのだ。


主人「あと数人いるな。撃たれる前に、倒そう」

メイド「はい」

<会社 二階>

一階の兵を全滅させた二人は、二階に上がった。


熱湯兵C「な、なんだ、こいつら──」


すでにメイドは兵Cの後ろに回っていた。

そしてチョークスリーパーをかける。

兵Cも必死に逃れようとするが、無駄な努力だった。


熱湯兵C(な、なんだこの女の力は……ビ、ビクとも……し、ねぇ……)ガクッ

メイド「ご安心を。ご主人様以外を冥土送りにするつもりはありませんので」スッ


二階の兵が全滅するのも時間の問題だった。

<会社 最上階>

主人とメイドはほとんど無音で熱湯弁慶を退治していたが、

テロリストだけは侵入者の気配を察知していた。

そして、極上の来客であると理解していた。


テロリスト(凄まじい強者が二人、この階に迫っている……!)

テロリスト(すごい……すごいぞ!)

テロリスト(私が標的にこのビルを選んだ理由は、二つ)

テロリスト(一つは小さい組織である熱湯弁慶でも、制圧可能な大きさだからだ)

テロリスト(もう一つは、このビルを襲えば最上級の獲物に会えると予感したからだ)

テロリスト(私の予感は正しかった!)

リーダー「どうした? 同志よ」

テロリスト「侵入者だ……それも極上のな」

リーダー「な、なんだってっ!?」

同僚(警察が突入してきたのか!? ──のわりに、それっぽい物音はしないが……)

OL(私たち助かるの!? それとも死ぬの!?)


リーダー「国会をぼくたちに明け渡さず、突入してくるとは! 警察めえっ!」

リーダー「こ、殺すっ! 人質殺してやるぅっ!」ジャキッ

テロリスト「待ちたまえ。彼らはこれから始まるショーの生き証人となる」

テロリスト「この私が強力な侵入者二名を仕留めるという究極のショーのね」

テロリスト「殺すことは許さん」

リーダー「なんだと!? なにがショーだ! ふざけるなよ、どういうつもりだっ!」

テロリスト「思い上がるなよ、熱湯弁慶」

テロリスト「キサマらなど、私がスリルと戦闘を楽しむための道具にすぎんのだ」

リーダー「なんだとぉっ!?」

リーダー「君がぼくたちなら日本のトップに立てるというから、ぼくらは──」


シュバッ!

ゴロン…

リーダーは、手刀で首をハネられた。


テロリスト「バカが……」

テロリスト「ビルに立てこもったくらいで国を獲れるなら、だれも苦労はしない」


課長「うわぁぁぁっ!」

社員A「ひぃぃぃぃっ!」

社員B「首が、首がっ!」

同僚(おいおいマジかよ、仲間を殺しやがった! どーなってんだ、これは)

同僚(しかも今、チョップでやったよな!? んなことできるのかよ!)

OL「やだ……もういやだぁ……!」

同僚「!」

同僚「大丈夫だ、俺が守ってやる……! もう、なにも見るな!」ギュッ

OL「う、うん……」

<会社 六階>

メイド「少々眠っていただきます」


ストトトトトンッ

メイドはかろやかに宙を舞うと、武装兵たち5名の首に手刀を当て、

同時に気絶させた。


主人「おーしくらまんじゅう、押されて泣くなーっと……」

熱湯兵たち「お、押されっ──!」


グイッ!

主人も武装兵5名を壁に押しつけ、圧力で失神させた。


残るは最上階のみ──

<会社 最上階>

バァンッ!

ドアを蹴破り、大広間になだれ込む主人とメイド。


テロリスト「ようこそっ!」

主人(やはり……“一人死んだ”か)


首と胴体が離れたリーダーを見て、主人はため息をつく。

主人はテロリストの性質を見抜いていた。

弱者を殺すことに興味は薄く、

なおかつ自分の戦闘(強さ)をより多くのギャラリーに見せたがる。

そして用済みになったり目障りになったりした者は、容赦なく殺すタイプ……。

できれば死人を出したくなかったとはいえ、ここまでは想定通りだった。

主人「ヤツとは俺が一対一(サシ)でやる」

主人「君は人質を守ってくれ」

メイド「かしこまりました」

テロリスト「フフフ……分かる、分かるぞ」

テロリスト「キサマらも生まれながらに強すぎる力を持った者だろう?」

テロリスト「選ばれし者なのだろう!?」

テロリスト「私は世界中を渡り歩いてきたが、まさか同類に出会えるとは!」

テロリスト「それも同時に! 二人も! この国に来た甲斐があった!!」

主人「力で悪意をばら撒くようなバカが、俺らと同類?」

主人「ふざけるなよ」

主人「もっと早くに出会っていれば、いい好敵手になれたかもしれないが──」

主人「いや、やめておこう」

主人「お前とは分かり合える気がしない」

メイドが人質たちの盾になるように、待機する。


OL「メイドさん、どうしてあなたがここに!?」

同僚「それにアイツ、武器も持たずにアレと戦うつもりか!?」

同僚「死んじまう! 知らないだろうがあの男、素手で人の首をハネたんだぞ!」

メイド「大丈夫。あの方は勝ちます」

メイド「必ず」

同僚(無理だ!)

同僚(そりゃあ、たしかにアイツ、ちょっと人間離れしてるとこあったけど……)

同僚(あのテロリストは人間離れ、どころじゃない)

同僚(正真正銘の怪物なんだ!)

テロリスト「コイツは邪魔だな」ドカッ


テロリストはリーダーの死体と首を窓の外に蹴り出した。

そしてマシンガンを構える。

が、すぐに主人に間合いを詰められ、蹴りでマシンガンは破壊された。


テロリスト「やはりこんなオモチャは通用せんか」ポイッ

主人「来い、一対一だ」スッ

テロリスト「よかろう。久々の上客だ、楽しませてくれよ」ザッ

テロリスト「──はあっ!」


ドゴォッ!

テロリストの前蹴りで、主人は吹き飛び、壁に叩きつけられた。

さらに倒れた主人を掴み上げ、頭から床に叩きつける。

ガゴンッ!

壁と床に大きなクレーターができたことは、いうまでもない。

主人「くっ……!(やはり俺と同類──いや俺以上か!)」


主人も次々に拳を繰り出すが、かわされる。

足払いで転ばされ、顔面を踏みつけられる。

グシャッ!


主人「ぐぉっ……!」

テロリスト「すばらしい。常人ならば最初の蹴りで体がバラバラになってるところだ」

テロリスト「今の踏みつけも、常人なら脳みそが頭蓋骨ごとハジケ飛んでいただろう」

テロリスト「これほどの獲物に出会えるとはな……」

主人「なめるなっ!」


バゴォッ!

主人渾身の右ストレート。

しかし、テロリストは微動だにせず、鼻血を流すだけ。


テロリスト「フフ、いい一撃だったよ」ペロリ

飛び膝蹴りが、主人の顔面にめり込む。


主人「──ぶぉっ!」

テロリスト「君は先ほど私を『力で悪意をばら撒くバカ』と表現してくれたが」


肘鉄が、主人の脳天に突き刺さる。


主人「がっ……!」

テロリスト「君はおそらく自制をして生きてきたのだろう」


アッパーカットで主人が天井に叩きつけられる。


主人「ゴハァッ!」

テロリスト「分かるよ」

テロリスト「私も最初は思ったものさ。この強すぎる力は隠さねばならない、とね」

テロリスト「だがね、やはり我慢というものは体によろしくない」

テロリスト「だから私は幼少の頃より、思う存分戦闘と殺戮を楽しんだよ」

テロリスト「無能なくせに国を変えようなどと夢想するバカどもに力を与え」

テロリスト「ある程度殺戮を楽しんだら、風のように去っていく」

テロリスト「こんなことを延々と繰り返してきたんだ」ドガッ


主人の顔面に、強烈な左ストレートが突き刺さった。


テロリスト「もう分かっただろう?」

テロリスト「発散し続けている私と、抑制し続けた君」

テロリスト「力を思う存分使った者と、使わなかった者」

テロリスト「もしぶつかったらどちらが勝つか……いうまでもない」

テロリスト「私だ」

バギャッ! ドゴォッ! ズギャアッ!

テロリストの猛ラッシュ。

主人は歯を食いしばり、ガードを固め、耐え続ける。

主人は大人になりメイドと出会うまで、自分の力をほとんど使わなかった。

テロリストは子供の頃から、自分の力をフル悪用してきた。

この時間(キャリア)の差は、あまりにも大きい。


テロリスト「残念だな、もっと苦戦できるかと思っていたのに!」

主人(くそぉ……どうにか決定打を浴びずにいるので精一杯だ!)

メイド「………」パシッ パシッ


主人とテロリストの戦いで飛び散る破片を防ぎ、人質たちを守るメイド。


同僚(すげぇ、すげぇよアイツ……)

同僚(あんなに強かったんだ……)

同僚(俺だったら仮に命が百個あったとしても、もうとっくに全部使い切ってるだろう)

同僚(だが……あのテロリストの方がやはり強い!)

同僚「メイドさん!」

同僚「多分だけど……あなたも強いんだろう!? 頼む、アイツに加勢してやってくれ!」

メイド「………」

メイド「あの方……いえ、ご主人様は必ず勝ちます」

メイド「なぜなら」

メイド「ご主人様を冥土に送ることができるのは、この私だけだからです」

同僚「え……(メ、メイドに送る?)」

ドガァッ!

凄まじい横蹴りで、壁に叩きつけられる主人。

衝撃で、口から大量の血が飛び出た。


テロリスト「いい戦いができた。だが、もう君に私を楽しませる力は残っていまい」

テロリスト「君の命を終わらせ、次はあのメイドを可愛がるとしよう」スッ


テロリストがニヤつきながらトドメの拳を振り上げた──瞬間。

主人は脚力を総動員させ、テロリストの顔面に頭突きを放った。

ガツンッ!


テロリスト「──ぬおぅっ!?」

主人「メイドを可愛がる……だと?」

ガゴォッ!

さらに主人はラリアットで首に渾身の一撃を与えた。


テロリスト「ごあっ! ──キ、キサマ、どこにそんな力が……」

主人「どこにそんな力が? そんな台詞が出るということは、お前──」

主人「油断したな?」

主人「たしかに、戦闘経験やくぐった修羅場の数はお前の方が上だろう」

主人「だが俺はここ数年、ずっと自分と互角の人間と殺し合ってきた」

主人「俺に油断はない」

主人「少し優位に立ったくらいで油断しちまうお前如きが……」

主人「俺のメイドを可愛がるなんて──」

主人「百年早い!!!」


主人がテロリストの顎を蹴り上げる。

ガゴンッ!

ドサァッ!

初めてテロリストがダウンした。

例えば、同じ威力のパンチを受けるとしても、

戦闘態勢にある者とない者が受ければ、当然ダメージの大きさには差が出る。

超人同士の戦いでは、そのダメージ差はより顕著に表れる。


テロリスト(あ、あの頭突きで形勢が……!)

テロリスト(ウソだ……この私が、押されている!?)

テロリスト(ありえない……)


テロリストは「選ばれし者」同士の戦いで、

もっともしてはならない「油断」をしてしまったのだ。

彼にとって戦闘とはゲームであり、快楽である。苦戦するのも大歓迎だ。

だが、敗北の可能性がほんのわずかでもある苦戦となると話は別だ。

テロリストの精神が急速に崩れていく。

テロリストはキレていた。


テロリスト「おのれぇぇっ! 私の方が上なんだっ! 殺してやるっ!」

主人「来い」


メイドを“可愛がる”権利があるのはこの世に自分だけである。

主人もキレていた。

主人の猛反撃が始まる。

テロリストの力任せのパンチをさばき、顔面にヒジをぶち込む。

グチャアッ!


テロリスト「あがぁ~……っ!」


金属バット10本も楽々へし折るローキックが、テロリストの足にヒット。

ドギャアッ!!

そして、大砲にも匹敵する右ストレートが、テロリストのみぞおちに着弾した。

ドゴォン!!!


テロリスト「おごァッ!」

形勢は一気に逆転した。

能力は完全に上をいっていたテロリストが、一分足らずで満身創痍になった。

しかも、主人に油断は微塵もない。


テロリスト「バカなぁ……こんなバカなぁ……!」ハァハァ

主人「俺の会社を狙ったのが運の尽きだったな、今トドメをくれてやる」

テロリスト「う……ぐぬぅ……!」

テロリスト(俺の会社……?)

テロリスト(そうか、コイツは私と戦いに来たというよりはむしろ──)

テロリスト(仕事仲間を助けに来たということか!)

テロリスト(なら──人質が有効だということだ!)


ダッ!

テロリストは人質めがけて走った。

しかし、主人は冷ややかにそれを見送る。


主人「一対一を放棄したのは、お前の方だぞ……」

主人「あとは任せた」

メイド「かしこまりました、ご主人様」

テロリストの前にメイドが立ちはだかる。


テロリスト(ちぃっ、そういやこのメイドがいたんだった!)

テロリスト「どけぇっ!」


ドゴォッ!

テロリストの拳がメイドの腹に直撃した。


メイド「……っ!」

主人(どうして当たった!? あんな単純なパンチ、彼女ならかわせたはずだ!)

テロリスト「アバラ数本砕いた感触があったぞ……くくくっ……」

テロリスト(こいつも私のように“油断”をしていたようだな……バカめ)

メイド「……安心いたしました」

メイド「この程度の突きでは、ご主人様を冥土送りにするなど到底不可能ですから」

メイド「しかし私、少々怒りを覚えております」

メイド「ご主人様とあなた様の戦いを拝見している最中──」

メイド「ほんの一瞬ではありますが、ご主人様が冥土に送られてしまうのでは……と」

メイド「不安がよぎりました」

メイド「ご主人様を冥土に送っていいのは、私だけです」

メイド「許せません」

テロリスト(なんなんだ、コイツは……? いや、コイツらは……!?)


ベキィッ!

メイドは困惑するテロリストの右膝にカカトをぶつけ、砕いた。


テロリスト「ギャアアアアアアアッ!」

メイド「許せません」


ボキィッ!

さらにもう片方の膝も砕いた。

バキィッ! ベキィッ!

両腕を砕いた。


メイド「最後は首ですね」ガシッ


メイドはテロリストの首に手をかけた。


テロリスト「や、やめ……てぇ……!」

メイド「さようなら」


メキ…


主人「よせ」

メイド「ご主人様……!」

主人「心配かけてしまってすまなかった」

主人「そんな奴なんかに、君に冥土送りにされる権利はない」

主人「その権利があるのは、地球上でたった一人……俺だけだ」

テロリスト「あぐ……う」

主人「こんな奴には一言こういってやればいい」

テロリスト「!」

主人「お前は弱すぎる」

テロリスト「!!!」

テロリスト「*p0&:r@:1>¥・おjど+kfr~~~~~~~~~~!!!」


主人に追い詰められ、メイドに両手足を壊され、あげく弱いと断ぜられた。

プライドを完全粉砕されたテロリストは絶叫し、

涙、鼻水、汗、唾液、小便、ついでに屁を出し、白目のおまけつきでぶっ倒れた。


主人「これでもう、再起はできないだろう……」

メイド(四肢を砕いても意識を保っていた、あのテロリストの心を)

メイド(たった一言で破壊してみせるなんて……)

メイド「さすがは、私のご主人様……」


メイドはぽつりと、そう漏らした。

もはやこの会社に敵は残っていない。

いるのは主人とメイドの戦いを、呆然と見つめていた人質(社員)たちだけ。


主人(幸い重役連中は外出でもしてて、いなかったようだが……)

主人(これほどのことを起こしてしまったんだ)

主人(もうこの会社にはいられないな……)

主人(今日のところはひとまず帰り、改めて退職届を持ってこよう)

主人「課長」

課長「え!? ……な、なにかね?」ビクビク

主人「ただいま取引先から戻ったんですが、この様子じゃ今日はもう仕事は無理ですね」

主人「早退しても、よろしいですか?」

課長「あ、ああ……いいとも」ビクビク

主人「ありがとうございます……。じゃあ、帰ろう」

メイド「皆さま、ごきげんよう」

同僚「………」

同僚「お疲れー!!!」

主人「!?」

同僚「今日はありがとうな、助かったぜ!」

同僚「俺たちが一人も怪我せずに済んだのは、みんなお前とメイドさんのおかげだ!」

同僚「色々警察の調査とかも入るだろうし、すぐ会社再開できるか分からないけどよ」

同僚「また一緒に仕事頑張ろうぜ!」

同僚「あと、またOLと家に遊びに行くからさ、茶菓子用意して待っててくれよ!」

OL「………」ハッ

OL「ええ、また遊びに行くわ! 本当に今日はありがとう!」

OL「メイドさん、今度料理を教えてね!」

課長「………」ハッ

課長「早退するからって、寄り道して飲んだりしちゃいかんぞ!」

課長「今度、君にはおごってやらにゃいかんな、ハッハッハ!」

すると、他の社員も一斉に口を開いた。


「ありがとう!」 「お疲れさまー!」 「二人とも、一応病院行った方がいいよー!」

「サンキューな!」 「ありがとうございました!」 「気をつけてなー!」


まるで目の前で起きた死闘などすっかり忘れてしまったかのように──

普段の調子で、帰る二人を見送ってくれた。


主人(俺には過ぎた仲間たちだ……)


主人はいつも心の中で

「仕事が退屈」「早く家に帰りたい」「わざと大きなミスをしたくなる」

などと考えていた自分を心の底から恥じた。

そして、会社に残ろうと誓った。


メイド「ご主人様、どうぞハンカチを」スッ

主人「ありがとう……」

とはいえ、これだけの大事件である。

事件に関わった人たちが落ち着くのには、しばらく時間がかかった。

ようやく時間がいつものように動き出した頃──


<会社>

同僚「いつも行ってばかりじゃ悪いから、今度俺のアパートに遊びに来ないか?」

主人「喜んで行かせてもらうよ」

同僚「よければメイドさんも一緒に」

主人「きっと彼女も喜んで行くと思うよ」

次の日曜日──

<同僚のアパート>

主人「ここか」

メイド「キレイなアパートですね」

主人「ああ、意外だった(正直ボロアパートを想像してたよ)」


二人が部屋を訪ねる。


同僚「よっ。お、メイドさんも来てくれたか」

OL「いらっしゃい、二人とも」

主人「なんだOLも来てたのか。いってくれりゃ、待ち合わせしたのに」

メイド「お二人とも、こんにちは」

同僚「お二方の家に比べると狭いけど、ま、くつろいでくれ」

主人「キレイにしてるじゃんか。もっとグチャ~としてるかと思ってた」

メイド「ええ、整理整頓が行き届いてますわ」

同僚「そりゃいくら俺だって、友人が来るって時くらい掃除するさ」

OL「この部屋以外は汚いまんまだったしね」

同僚「バラすなよ」

同僚「──で、まぁ、今日は重大発表があるんだ」

OL「重大ってほどでもないけどね」

主人「ほお」

メイド「なんでしょうか」

同僚「俺たち──今度結婚するんだ」

主人&メイド「!」

同僚「元々俺とOLは付き合ってるような、そうでないようなって感じだったんだけど」

同僚「あの会社が占拠された事件、あったろ?」

同僚「あれ以来、急速に仲が進展しちゃってな」

OL「うん、あの時の同僚はかっこよかったわ。今は見る影もないけど」

同僚「うるさい」

同僚「……そしてこうして俺たちが結婚できるのも、お前とメイドさんのおかげだ」

同僚「改めて礼をいわせてもらう。ありがとう」

OL「ありがとうね、二人とも」

主人「ハハハ、なんか照れるな。どういたしまして」

メイド「お二人のご結婚を、心から祝福いたしますわ」


その後、四人は会話に花を咲かせた。

その夜──

<リビング>

主人「すっかり驚かされたな」

主人「付き合ってるんじゃないかとは思ってたけど、まさか結婚とはな」

メイド「私も驚きましたわ」

主人「ま、同僚はいい奴だし、OLもできた子だし、幸せになれるだろう」

メイド「ええ、私もあの二人を応援したいと思います」

主人「……さて!」

主人「二人を祝福する意味も込めて、今夜もやるか!」

メイド「かしこまりました」

メイド「冥土にお送りいたします」

主人「かかって来い」


テロリストの事件以降、二人は道具を使うことが少なくなった。

そしてそれは、より戦いが激しくなったことを意味する。

主人の拳が、メイドの蹴りが、主人の手刀が、メイドのヒジ打ちが──

家の中を乱舞する。



今宵の二人の宴は、いつもより長くなりそうだ。

                                   ~おわり~

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