魔族「いかがっすかー」(111)

魔族「とれたての新鮮な肉なんかありますよー」

人間「………」スタスタ

魔族「そこのお兄さん、見ていくだけでもどうですかー」

人間「…チッ」スタスタ

魔族「………」




魔族「…はぁ」



魔族「今日も稼ぎはなしか」モグモグ

魔族「商品は美味しいんだけどね」

ガチャッ

魔族「ん?」

騎士「今月の税を徴収しに来た」

魔族「すいません、今月も売り上げは0です」

魔族「いつも通り、そこに置いてある商品でお願いします」

騎士「………」

ガシャンッ

騎士(鎧のまま蹴ってもビクともしない……化物め)

魔族「すいません」

騎士「…お前など本来はここにいてはいけない存在だということを忘れるなよ」

魔族「わかっています」

騎士(王はなぜこんな野蛮な奴を…)

ガチャ バタン

魔族「ふぅ、やっぱ緊張するな」

魔族「明日も早いしもう寝よう」

森の中

「キイィ」

魔族「お、獲物」

ジャキン

「キィ!」ササッ

魔族「っ!」

ザシュ

「キイィ」バタン

魔族「よし」

魔族「今日はこんなもんでいいかな」

森の中の小屋の中

魔族「こんにちはー」

山賊魔族1「お、魔族じゃないか」

山賊魔族2「今日も商品探しかい、精が出るねぇ」

魔族「はい、これお裾分け」

山賊魔族1「いつも悪いね」グイッ

魔族「ん?それお酒?」

山賊魔族1「おうよ」

魔族「そんな高価な物、どうやって手に入れたの?」

山賊魔族1「ほら、森の奥の方に洞窟があっただろう」

魔族「ああ、人間の街じゃ立ち入り禁止になってるとこだね」

山賊魔族1「そこから地下に入るところがあったんだ」

山賊魔族1「さらに奥に入るとなんと酒が沸く湖があったって訳だ」

魔族「なんとも信じがたい」

魔族「でも危なくないの?」

山賊魔族2「俺たち二人が力を合わせれば怖い物なんてないさ」

魔族「なるほど」

山賊魔族1「けどそろそろ集めた酒はなくなってきたし、またとりに行こうと思ってるんだ」

山賊魔族2「どうだい、魔族も一緒にとりに行かないか?」

魔族「いや、やめておくよ」

魔族「高価な物置いてもどうせ売れないだろうしね」

山賊魔族1「そうか」

魔族「じゃ、そろそろ行くよ」

山賊魔族2「後でわけろって言ってもわけてやらないからな~」



魔族「商品並べて……よし」

魔族「いかがっすかー」






魔族「…ふぅ」

ザワザワ

魔族「…なんだか騒がしいな」

ザワザワ

騎士「国王がお通りなられるぞ!」

魔族「…お?」

国王「こらこら、そんなに騒ぐな。恥ずかしいだろう」

魔族「…国王様」

国王「おお、魔族。調子はどうだ」

魔族「…まぁ、ボチボチってとこですかね」

国王「ほう、それはよかった」

国王「こういう場を設けたかいがあったもんだ」

魔族「ええ、それには感謝しています」

魔族「…税をちゃんと払えていないのが申し訳ないですが」

国王「ん?税なら商業会に報告する時に勝手に引かれるであろう」

魔族(…ん?)

国王「どうかしたか?」

魔族「あ、いえ、なんでもありません」

国王「そうか、ならいいが」

国王「では私も何か買っていこうとするか」

騎士「国王!あまり軽率な行為は…」

国王「何を言うか」

国王「商いから商品を買って何が悪い」

騎士「しかし…」

魔族「…国王様からお金を頂くなんて恐れ多いです」

魔族「どれか一つ、ただで差し上げます」

国王「いいのか?」

魔族「はい、国王様には多くの恩がありますので」

国王「そうか、ならそうするとしよう」

国王「恩を売っておくといいことがあるものだな」

魔族「買いすぎた気もしますがね」

国王「はっはっは」

国王「何、買いすぎた物は物を売って取り返せばいいのだ」

魔族「まさに今がそうですね」

国王「そうだな」

国王「では、何かお勧めはあるか?」

魔族「お勧めですか」

魔物「こちらの肉なんかは生でも食べられて美味しいですよ」

国王「ほう」ヒョイ

騎士「生でも…?」ピクッ

国王「パクッモグモグ」

魔族「あっ…」

騎士「あぁー!!」

ザワザワ

国王「ほう、城で食べる物とは違って弾力があるな」

国王「うまい」

騎士「うまいではありません!勝手な行動は謹んでと今さっき!」

国王「何を騒ぐ必要がある」

騎士「騒ぎもしますよ!」

騎士「こんな素性も知れない薄汚い魔族の売る物を!」

騎士「何の警戒もなく口に入れるなど!」

騎士「毒でも入っていたら…」

国王「それ以上は慎め」

騎士「……!」

ザワザワ

国王「この者は私自身が信用し、この場を与えた」

国王「それだけでは駄目か?」

騎士「………」

国王「まだ何かあるか?」

騎士「…いえ、ご無礼をお許しください」

国王「悪かったな、魔族よ」

国王「気を悪くするな」

魔族「大丈夫です」

魔族(慣れてるし)

国王「ではそろそろ戻るとするか」

魔族「本当はこちらからお伺いしないといけないのに、すいません」

国王「忙しいのだろ?ならよい」

魔族「…はい」

ザワザワ

騎士「国王がお通りになられるぞ!」

国王「だからそれやめろと」

魔族(…何しに来たんだろう)

ザワザワ

人間達「………」チラチラ

魔族「いかがっすかー」

魔族(いくら国王様が食べたって言っても信用ならないかな)

魔族(種族の壁は厚い)

少女「………」テテテ

魔族「ん?」

少女「…わんちゃん」

魔族「…わんわん」オスワリ

少女「えへへ」ナデナデ

ザワザワ

母親「あの…」

魔族「わんお?」

母親「お肉を…一つだけ頂けますか」

魔族「お………」

魔族「はい!」タチアガリ

少女「あ~」ピョンピョン



魔族「はぁ……」

魔族「目標にはほど遠いけど初めての収入だ」

魔族「ちょっと嬉しいな」




魔族「明日も早いしさっさと寝るか」

一ヶ月後

人間「皮なんかも売ってるんだな」

魔族「はい、まぁ低級な物ばかりですが」

人間「いいや、ここらじゃ上等だよ」

人間「一つ貰おうかな」

魔族「ありがとうございます!」

魔族(あれから徐々にだけど客が来るようになった)

魔族(これで税の支払いもしっかりとできるかな)



魔族「…よし、これだけあれば税も払えるだろう」

ガチャ

騎士「今月の税を徴収しに来た」

魔族「はい、これが今月の税です」

ジャラ

騎士「………」

ガシャンッ

魔族(やっぱ蹴られるのか)

魔族(まぁ今まで未納同然だったしなぁ)

騎士「………チッ」

ガチャ バタン

魔族「ふぅ…」

魔族「これで国王様に喜んでもらえるかな」

魔族「だったら嬉しいな」

魔族「満足したし寝よう寝よう」



魔族「いかがっすかー」

魔族(今日は客足が悪いな)

魔族(こういう日もあるか)

ザワザワ

魔族(でもなんか凄く見られてる気がする)

「…最近街の外で妙な魔族が暴れてるんだよな」ヒソヒソ

「ああ、人間を食べちまうらしい」ヒソヒソ

「おー怖い」ヒソヒソ

魔族「………」

人間1「化物が…!化物がぁー!」ダダダ

ザワザワ

人間2「なんだ、どうしたんだ」

人間1「はぁ…はぁ…っ化物が…街の中に…」

人間2「はぁ!?城の兵達は!?」

人間1「なんか……演習がどうとか言って取り合ってくれなくて……」

人間2「なんだそれ!?」

ザワザワ

人間「ゾンビだぁー!街の中にゾンビが入って来たぞー!」

ザワザワキャーキャー

魔族(…ゾンビ?)

人間「俺が見ただけでも二体のゾンビがいた!」

人間「こっちに向かってくる!早く逃げろー!」

ウワーキャーキャーザワザワ

魔族(こんな緑の多い場所でゾンビなんて珍しい)

魔族(というか本当に兵士は何をやってるんだろう)

母親「きゃあー!」

魔族「!?」

少女「ぅう……」ビクビク

ゾンビ1「うあー」

ゾンビ2「あうあうあー」

母親「誰か助けてー!!」

魔族「今助ける!」ダッ

ゾンビ1「うあー」ガバッ

ゾンビ2「あうー」バガァ

魔族「…っ!」ガシッガシッ

少女「ぁ……わんちゃん……」

魔族「だいじょう…!?」

魔族(この二人…山賊魔族…?)

ゾンビ1&2「うあー」ガブッ

ゾンビ1「ぉぉぉ」ボロボロ

ゾンビ2「ぅぅ」ボロボロ

魔族(腐ってて噛み付いたそばから崩れていってる…)

魔族(……ごめん、二人とも)

ザシュ

ゾンビ1&2「んぼぼ」バラバラ

母親「ああ、大丈夫!?」ダキッ

少女「あ……うん、わんちゃんが助けてくれた」

魔族「怪我はない?」

少女「うん、ありがとう!」

母親「ありがとうございます…!」

ザワザワ

騎士「騒ぐな!静まれ!」

魔族(随分とタイミングのいい登場で)

騎士「何があったか誰か説明しろ」

人間「あーだこーだ」

騎士「なるほど、わかった」

騎士「………」キッ

魔族「………」メソラシ

騎士「…民は各自被害の確認をしろ」

騎士「女子供は自宅待機だ」

ザワザワ

騎士「…お前も今日は家で大人しくしていろ」

魔族「…はい」



魔族「…はぁ」

魔族「あれはどう見ても山賊魔族だったよなぁ」

魔族「でもなんでゾンビなんかに…」

魔族「…次森に行った時に小屋に行ってみよう」

次の日

騎士「お前は今日限り、いや、今すぐにこの国から出て行ってもらう

魔族「…はい?」

騎士「魔族のくせに耳が悪いのか」

騎士「お前は国外追放だと言った」

魔族「…意図が読めませんが」

騎士「昨日の騒動、魔族が暴れたというではないか」

魔族「いや、あれは…!」

騎士「危険因子を置いておくほど、この国は豊かではない」

魔族「こ、国王様は!?」

魔族「国王様はなんて言ってるんですか!?」

騎士「………」

騎士「これは国王様の決定だ」

騎士「俺の言葉に従わないというのならそれは国王様に逆らうということになる」

魔族「………」

騎士「本来なら処分されるほどのことだ」

騎士「国王様のお慈悲に感謝するといい」

魔族「………わかりました」

騎士「ああ、それでいい」

騎士「こんな夜中にすまないな」

騎士「だが、できるだけ夜が明ける前に出て行ってくれ」

魔族「……はい」

街中

魔族(本当のことが伝わってるかどうかさえ怪しい様子だった)

魔族(…いや、それでも国王様がそう言ったのなら)

魔族(………うん)スタスタ

魔族(夜中だし誰も周りにいないな)

魔族(この時間に外出ることはないから新鮮だな)

魔族(……魔族は魔族らしく暗いところがお似合いかな)

「どこへ行くんだ?」

魔族「………?」クルッ

魔族「…国王様?」

国王「こんな時間に外出とは」

国王「やっぱり魔族っていうのは夜行性なのか?」

魔族「…殆どそうかもしれません」

国王「そうか」

国王「それで、どこへ行くんだ」

魔族「……国王様こそ、こんな時間に護衛なしに無用心ですよ」

国王「質問に答えろ」

魔族「………」

魔族「商品調達です」

国王「そうか、では私も付き合おう」

魔族「はい!?」

国王「何、剣の心得くらいはある」

魔族「いや、そうではなくて…」

国王「何だ、嫌なのか?」

国王「邪魔をする気はないぞ」

魔族「そ、そうでもなくて…」

国王「で、どこまで行くんだ?」

魔族「……魔族の国まで行こうかと」

国王「そうか、それは楽しみだな」

魔族「………」

国王「………」

国王「全て調べたぞ」

魔族「………?」

国王「お前の処遇、民からの評判、家臣の所業」

魔族「…あまり言っている意味がよく」

国王「お前の元に税の徴収と言って騎士が出向いていたな」

国王「あれは家臣が自分の懐を肥やす為に行っていた全くの出鱈目だ」

魔族「………」

国王「それから昨日の騒動の主犯はお前ではないらしいな」

魔族「それも調べたのですか?」

国王「…民はいつでも素直だぞ」

国王「それから、本物の騒動の主犯は家臣と言っていいだろうな」

魔族「あれは…」

国王「ああ、森にいた魔族だろう?」

国王「洞窟の中にある酒も家臣の肥やしだったんだろう」

魔族「じゃあ…」

国王「きっと見つかって魔法でもかけられたんだろうな」

魔族「………」

国王「さて、いい加減埒が明かないぞ」

国王「私を連れて行ってくれるか?」

魔族「…勝手に出て行ったら城の人が悲しみますよ」

国王「もう城には私の味方はいない」

魔族「家族は…」

国王「母も父もいない」

魔族「……え」

国王「こんな地位だからな、命を狙われることは多い」

魔族「………」

国王「…魔族達に殺されたんだ。正確にはちょっと違うがな」

魔族「…!」

国王「いや、別にお前を恨んでいるとかそんなんではない」

国王「だったらこんなところで商売なんかさせないだろう」

魔族「じゃあなんで」

国王「お前も目の当たりにした通り、城内は少し荒んでいてな」

国王「父と母、そして私は家臣にはめられたんだ。この地位欲しさにな」

国王「魔族達の地に放り出された私たちは成す術なく魔族達に追われた」

国王「父と母は魔族達に殺された。残った私は岩陰で震えるしかなかった」

国王「しかしそこに一人の魔族が現れた」

国王「私は死を覚悟したんだが、その魔族は脅える私に手を差し伸べてくれた」

国王「戸惑いながらも差し出された手を掴むと笑顔を返してくれたよ」

魔族「………」

国王「それで私はこうして息をしていると言う訳だ」

魔族「…どういう訳ですか」

国王「まぁ最後まで聞け」

国王「魔族でも悪い奴もいれば良い奴もいるってことだ」

国王「まぁ勝手に領地に入った人間に対してする行動に良いも悪いもないかもしれんが」

国王「そこで考えた訳だ」

国王「ずっとただ野蛮で傲慢なだけかと思っていた魔族達の中にも人間のような優しさを持った者がいると」

国王「逆に人間の中にも汚い者もいる」

国王「種族なんか関係ないんじゃないのかと」

国王「だから、嫌いあっているだけでは意味はないと」

国王「そこでお前だ」

魔族「………」

国王「お前を通して私は人間と魔族の共存を願った」

魔族「でも、何も成果は出ませんでした」

国王「いいや、お前はいい働きをしてくれたよ、なぁ!」

人間「あ、もう出てきていいっすか」

母親「」ペコッ

少女「スースー」

魔族「…!」

国王「しかし、私の考えは少しだけ甘かったな」

国王「まさかお前を秘密裏に追い出すとは、城の者は腐りきっていた」

魔族「あ、やっぱり国王様の決定ではなかったのですか」

国王「当たり前だ」

魔族「それで…ついてきてどうするおつもりです?」

国王「もちろん、魔族達の地で共存を唱える」

魔族「……難しいかと思いますよ」

国王「それは既に承知の上だ」

国王「民もそれを理解してなお、この場にいる」

ソウダソウダーザワザワ

国王「自分の思い通りにならないということは既に身をもって体験した」

国王「人間の国で共存が難しいなら魔族達の地で共存をしようではないか」

魔族「どっちにしろ難しいじゃないですか」

国王「何事も経験だ」

魔族「…取り返しのつかないことになっても?」

国王「そうならない為に、お前がいる」

魔族「えっ」

国王「きっと人間だけで押し寄せても無意味だろう」

国王「取り合ってもらえるように、お前に頼みたい」

魔族「…重役ですね」

国王「はっは、そうだな」

魔族「いいですよ、わかりました」

国王「おお、そうか。ありがたい」

魔族「一国の王様に頼まれては断れませんよ」

国王「それはよかった。では、出発するとするか」

人間達「おおー!!」

魔族「少しだけ、長い旅になると思うので、あまり気張らないようにお願いしますね」

国王「魔族の少しだけはあてにならなさそうだな」

魔族「はは、そうかもしれませんね」

魔族「では、行きましょうか」



おわれい

ごめん即行で書いてたから疲れた

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