【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【二十輪目】 (1000)

このスレは安価で

乃木若葉の章
鷲尾須美の章
結城友奈の章
  楠芽吹の章
―勇者の章―

を遊ぶゲーム形式なスレです


目的

結婚式
全員生存

安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります

日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2
基本的には9月14日目が最終
勇者の章に関しては、2月14日目が最終

戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%
※ストーリーによってはHP0で死にます


wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに

前スレ
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友奈「満開を使って逃げたら……なんていわれるかな」

若葉達は、怒るだろうか

夏凜達は、呆れるだろうか

そして、今ここには居ない天乃が知ったら……なんていうだろうか

友奈「戦わないと、駄目かな」

勇者ならば、戦うべきだと友奈は思う

隠してきた力を使って、逃げる?

そんなのは、勇者じゃなければ英雄でも何でもない

友奈「久遠先輩」

声が聴きたい

包み込んで欲しい

答えを教えて欲しい

勇気が欲しい

逃げる勇気、戦う勇気

自分が向かってもいいのだと言う、絶対的な信頼に触れたい


友奈「………」

満開なんて大それた力を使っていても、

結城友奈という少女が戦っていることに、変わりはない

神々しい力があろうと、

空を覆う敵は、それを容易に突破してくる

今までのように守ってくれる力はない

かすり傷一つで、想像を絶する痛みを伴い

爆風に巻き込まれただけでも

今はまだ残っている四肢の一つや二つは失う覚悟が必要だ

もう二度と、天乃に触れることも

一緒に歩むことが出来なくなる未来を受け入れる決心が必要だ

友奈「逃げる私を、久遠先輩はどう思いますか? 戦う私は、どう思いますか?」

聞いて答えてくれたら

どれだけ救われるかと、友奈は儚げに笑みを浮かべる


1、若葉と合流して撤退
2、攻撃を仕掛ける
3、一人で撤退

↓2


友奈「久遠先輩は……きっと」

友奈は入り組んだ深部から外に出ていくのを控え、踵を返すと

最期に聞こえた爆発音を思い出して、その場所を目指して飛ぶように跳躍する

満開の力をもってすれば、

多少の飛行能力も得られるだろうが、

今ここで飛んでも、殺してくださいと言うようなものでしかない

友奈「若葉さん……」

逃げることを、恥だとは思わない

生きるためだ、生き残るためだ

大切な人たちの、叶えたい願いのための逃走だ

それを馬鹿にする人も、悪く言う人も、

この戦いの場には居ない

天乃はきっと、満開を使ってまで撤退しようとしたことを知ったら、

無理をしたことには怒っても

逃げ出したことは絶対に咎めることはない

むしろ、それで戦いに行くことを許さないだろうと友奈は信じた


天乃はそういう先輩だ

勝利することよりも、

生き残ることを優先するような勇者だ

もちろん天乃なら、生き残るとはつまり勝利なのだが。

友奈「満開するまで無茶したことは、怒られちゃうよね……」

でもいい。

それでいいのだと、友奈は苦笑する

友奈「東郷さんに言ったら、変な風にとられちゃうかもしれないけど」

怒られたい

ビンタされてもいい、怒鳴られてもいい

正座もする、勉強もする

鍛錬だって、どれだけ長距離だろうと罰則分は絶対に走り切ろう

怒った声でも、聞くことが出来るのなら

その怒りに、謝罪が出来るのなら

それだけできっと、十分だと思うから。


爆発したと思われる場所の下部にたどり着くと、

その周辺を見渡した友奈の視界に、

根に寄り掛かるボロボロの装束の勇者が目に留まった

友奈「若葉さん!」

若葉「友奈……」

友奈「若葉さん、大丈夫ですか?」

若葉「ああ、まだ問題ない」

精霊だからか、

左腕を庇うようなしぐさを見せている若葉だが、

友奈のような出血は見当たらず、思っているよりも深刻なダメージは負っていないように見える

だが、精霊である若葉が腕を庇っている時点で、

予想以上の被害だと判断すべきだろう

若葉「ゆ――」

友奈「撤退します!」

若葉「な……なんだと……?」

満開をした友奈が戦いに行くとばかり思っていた若葉は、

瞬く間に困惑の色に塗れた表情で、友奈を見る

若葉「仕掛けるんじゃないのか?」

友奈「久遠先輩は、そんなことしたら絶交しかねないです」


これが傷つき、満身創痍になった体を動かすためなんかではなく、

戦いの最中、好機を見出すための満開であったならば

天乃も見逃してくれたかもしれない

だが、残念ながら友奈はボロボロになった体を動かすための満開

友奈「私……もう限界なんです」

若葉「………」

満開の装束は、

力によって形成されているおかげで、

満開以前のダメージは反映されていない

にもかかわらず、すでに所々に血が滲んでいる

真横からの爆発で酷いダメージを負ったのだろう

腹部は下腹部のあたりにまで血が流れ、

足の付け根の部分からは、装束を抜けて血が流れ出てきてしまっている

若葉「……分かった」

友奈「ごめんなさい」

若葉「いや、満開を使っての撤退は天乃なら喜ばないが褒めるはずだ。よく突撃しなかった。ってな」

それに、

抜けた穴は千景と風が埋めてくれることだろう

戦力低下の心配はいらないと、若葉は友奈を慰めた


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


友奈と若葉撤退前MAP
https://i.imgur.com/QkLfL0Q.png


では遅くなりましたが、少しだけ


夏凜「友奈!」

園子「ゆーゆ……」

友奈が満開を使ったことはすぐに夏凜達へと伝わった

力が迸る光は美しく、

だからこそ、夏凜達にとっては残酷すぎる命の輝きに見えてしまう

思わず叫んだ夏凜と、祈るように呟いた園子だったが

輝きが収まってなお、突出することなく

むしろ、若葉がいるであろう場所へと向かっていくのを感じて、園子が顔を上げた

園子「合流するつもりだ……でも、どうして?」

夏凜「若葉にも切り札を使わせるつもりなんじゃないの?」

園子「ううん、そんなことしてる余裕はないはず」

満開を使ったならば、一直線に攻撃へと転じるべきだ

じゃなければ、大事な場面で時間切れになってしまう可能性があるし

そうなれば、終わりだ

園子「……ご先祖様を回収して、撤退するつもりなんじゃないかな」

夏凜「満開を使って? ありえない」

園子「でも、満開を使っての突撃に、勝てる見込みがないとしたら?」

夏凜「生き延びる為に全力を尽くす……かもしれないわね」


園子の問いに答えた夏凜は、

自分の否定する考えを改めて、息をつく

夏凜「満開を撤退に使うなんてありえないけど、友奈なら……」

いや、天乃と一緒にいたみんなならば、

誰しもがそんなおかしなことをする可能性はあると、夏凜は思う

夏凜「ただ若葉達が撤退するとなると、手数が足りなくなる」

園子「風先輩たちが来てくれるから、その分は補えると思うよ」

夏凜「それは樹の分になるんじゃない?」

園子「二人抜ける方が優先だと思う」

自分の力に自信があるのか

それとも、見向きも不要な存在相手には

当然ながら進路を変えるなんてしなくていいのか

真っ直ぐ神樹様に向かっていく天の敵

園子「いっそ、今みたいな中途半端な位置取りを止めて、ちゃんとした鶴に生まれ変わるべきかもしれない」

夏凜「放射状の攻撃を仕掛けてくる可能性がある以上、下手に統率が取れるのはまずいと思うんだけど」

園子「とはいえ、分断させられたら最悪だよ」


本来ならば、

今孤立する形になってしまっている歌野や樹は非常に危険だ

単独で狙われ、被弾し、

友奈のように執拗に攻撃をされでもしたら、不味い

そう考えて、最低でも二人一組での行動を心掛けていたのだ

それでもなお、抑えきれないから

後方に控えていた風と千景が合流して前線に向かってきているのに

樹が離脱し、友奈と若葉まで負傷退場

そこから全員がバラバラになったらどうなるのか。

運が良ければ、

上手く狙いが分散されて時間が稼げるようになるかもしれない

だけど、運が悪ければ各個撃破で全滅だ

悪いことばかり考えていては前に進めないのは分かっているけれど……


1、園子達で攻撃して気を引く
2、全員散開
3、園子たちが友奈たちの方向に向かう


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


園子達のターン


では少しだけ


夏凜「……攻めるわよ。園子」

園子「それしか、無いね」

友奈たちの側に回って、

攻撃の対象を自分たちに変更させると言う手もあるにはあるけれど、

それだと、最悪四人纏めての範囲攻撃をされかねない

それを避けるなら、やはり今この場で攻撃に打って出るほかない

さっきのように様子見なんかをしていたら、

一番弱っている友奈たちが狙われる可能性があるために、

動かないという手は、無い

園子「威力が上がってきてる。気を付けないと、にぼっしーもただでは済まないよ」

夏凜「どの口が言ってんのよ」

園子「この口?」

夏凜「そういう冗談じゃなくて」

園子の腹部に目を向けた夏凜は、

何気なく手を伸ばして、優しく擦る

園子「ひょわぁっ!? な、なんばしよっと!?」

夏凜「……力、残ってないんだから余裕ないでしょ」

園子「……にぼっしー」

夏凜「なに?」

園子「別に? ほんと、天さん以外に興味ないんだねぇ」


夏凜「急になんの話?」

園子「急にお腹触るのは止めてって話」

夏凜「ごめん」

園子の意外に真面目な声色

意識的ではあったものの、

大して意識せずに触れた夏凜は礼儀にかけていたかもしれないと、

素直に謝って、刀の柄を握りしめる

夏凜「言っておくけど、天乃にしか興味ないわけじゃないわよ」

園子「そうかな~?」

夏凜「目が離せないって話なら、否定は出来ないけど」

刀を一振り、苦笑を交えて自分の力を再確認

多少の怪我はしてしまったけれど、まだまだ力は残っている

大丈夫。

他でもない自分にそう告げて、園子に目を向ける

夏凜「私にとっての天乃が、園子にとっての私とか言わないでよ?」

園子「少なくとも、今はそうだからここにいるんだけどね」

夏凜「……悪かったわよ。気を付ける」

園子「よろしい! じゃぁ、いっくよーっ!」


夏凜「ちょっ、園子!」

我先にと、槍を構えた園子が突貫していく

友奈たちに気を向けている――と思いたい天の神の力が降り注ぐまでには

多少の猶予があるとはいえ、無策に近い突撃は危険極まりない

けれど、その勢いこそが重要だと言う考えは、夏凜にも理解できる

躊躇いは、必要だが重要ではない

その逡巡は、良くも悪くも明暗を左右する重要な分岐点になり得る

だからこそ、迷いなき一刀を。

例え穿たれても、盾となることのできる園子が先を行く

夏凜「精霊の加護がないって本当に分かってるの……?」

傘のように展開することで盾として機能させることのできる武器を持っている園子だが、

精霊の加護がない以上、守られるべき存在のはずだ

だが、消耗する一方の精霊の加護と、勇者の武器

どちらの方が耐久に優れているのか

少しだけ考えた夏凜は、園子の背中を追う形になった出遅れた自分に歯噛みしつつ、足を速めていく


夏凜→???? 命中判定↓1 06~00 撃ち落とし 25~30 ぞろ目・06~12 CRT

園子→???? 命中判定↓2 06~00 撃ち落とし 41~46 ぞろ目12~21 91~96 CRT 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


ダメージ計算開始時、ダメージ次第でHP開示と久遠さん状況


では少しだけ


832+1170=2002ダメージ


夏凜「園子!」

園子「私が先に行く! にぼっしーは続いて!」

夏凜「園子……」

自分の力に自信があって

そして、守りたいと言う気持ちが強いからだろう

夏凜よりも早く駆け抜けていく園子は、

振り返ることなく指示を投げて、さらに速度を上げる

全盛期ほどの力がないとしても、

多くの精霊の力を宿し、最も神に近づいた園子に与えられた天乃の力は、

みんなよりも、多い

その差があるのだろう

天の神の気配の矛先が友奈たちから自分達

そして――園子へと向かっていくのを感じる

夏凜「あとで天乃に怒られろっ!」

園子は何も言わなかったが、

ほんの少しだけ雰囲気が和らいだように夏凜は感じた


園子「天さんに、かぁ……」

夏凜の怒号を背中に受けた園子は、

噛みしめるように笑みを浮かべながら、武器の感触をしっかりと確かめる

頬のように手を緩めたら、敵の猛攻を凌ぎきれない

だけど、怒られる自分の様を思えば

何ともなしに、笑みが零れる

きっと怒られる

夏凜の言うことだ。

園子が何を言おうが、無理をして……と、叱られることだろう

いや、もしかしたら、叱られるよりももっと、酷いことになるかもしれない

そんなことを考えて、考えて。

徐々に色濃くなっていく

天の神の気配にひりつく肌を、宥める

園子「大丈夫。大丈夫だよ……一槍報いるくらいの力は、あるはずだから」


槍を強く握りなおした園子は、

自分の心に優しく語り掛け、怯みかねない体を正して、踏み込む

踏み躙った樹海の根が抉れる

身長のせいか、

長めに持っていた槍の矛先が、少し離れた根をかすめていく

顔は天を仰ぎ、瞳は渦の中央を睨み、

走りこみながらも、

まったく上がっていない息を止め、大きく吐き出す

じりじりと、足元から音がする

手先に引っかかる感触が伝わってくる

来るなら来いと、待ち受けているような静寂がまとわりつく不快感を、飲み込む

園子「………」

夏凜の気配が後ろに迫る

紅蓮の勇者

猛き闘志は紅より蒼く、握る刀に宿すは願い

それを届けるためならば。

園子「少しの無理で、活路をこじ開けるッ!」

園子は勢いよく、無防備に跳躍した


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

園子と夏凜のターン終了後久遠さん


???? 94,801/100,000


この時間なので、本日はお休みとさせていただきます
再開は明日、お昼ごろから


では少しずつ


園子「数が多い」

一度目、二度目……と

同じような攻撃しかしてきていないが、

その数、その威力はだんだんと増してきている

普通には突破できない数の暴力

バーテックス単体に複数の勇者

その立場が大きく入れ替わってしまっている状況を前に、

園子は力強く槍を握る

園子「すでに、槍は投げられた」

後戻りはしない、出来ない

一直線に穿つだけ

右手を軽く引き、引き絞るように下がってきた矛先寸前に左手を添える

だんだんと速力を失う体に、力が加わっていく

園子「行くよ、どこまでもッ!」

火を纏うように力を纏った園子は、

力によって急激に増していく勢いを味方に、降り注ぐ火の粉を貫く


園子「っ!」

精霊の力がないせいか、

押し殺しきれない熱が装束を煤けさせ、

じわじわと肌が焼かれていくのを感じる

にじみ出ていく汗が、額を流れて目に染みる

それでも、園子は目を見開いた

力をより強く、

押し返さんとする爆風に負けじと、槍を握る

今、生きていられるのは銀のおかげだ

こうして、この場に居られているのは、天乃のおかげだ

多くはない、けれど、園子にとってはとても大きな犠牲があったからこそ、

戦う力が残されている

であるならば

園子「見てて、天さん、ミノさん」

添えるだけだった左手で槍を握り、

右手を滑らせ、柄の先に指を添える

手のひらではなく、人差し指と、中指

それで十分だった

園子「通すッ!」

左手で到達点を見定め、右手で放つ

投げるのではなく、射出されるように飛んで行った槍は、

爆発を退けて――神の瞳を破った


空が晴れる

まだ空を覆う悪意は多いが、

園子の作った道が、太陽へと続いている

その中央から園子は落ちていく

勇者の武器を手放し、あとはもう落ちていくだけだ

園子「にぼっしーっ」

園子は自分の方を見上げている夏凜に気付いて、

小さく歯噛みするように呟き、歯を食いしばる

身勝手に飛び出していった

それなのに、受け止めようとしてくれる優しさは嬉しい

けれど、だけど。

これは大事な一瞬だ

若葉の見せた希望、園子の作った確実な道

乃木家二代が作り上げた、逃してはならない一瞬

十数階分に達しそうな高さからの落下が、

精霊に守られていない身にとってどれほどのものか分かっているけれど。

園子「私にかまってないで、行って!」

園子は、それでも自分のことは救うなと――叫んだ


夏凜「あのバカッ!」

園子よりも数秒遅れた夏凜は、

追いかける足を止め、空を見上げる

紫交じりの淡い装束が風にはためいて

飛び上がったそれは、落ちかけたかと思えば、

灰よりも黒く、黒よりも白い何かに包まれていく

夏凜「天乃の力?」

その力はかつてほどの禍々しさはなく、

なによりも、弱弱しくて

けれども、その手に放たれた一撃は――空を穿つ

夏凜「っ」

貫き作られた道

その中を通って落ちてくる園子を受け止めるべきかと身構えた夏凜だったが、

それに気づいた園子の叫びに、下ろしかけた刀を握りなおす

夏凜「かまうな? 園子を見捨てて、行けって……?」

それが正しい

一瞬の躊躇いが、たった一つの過ちが

救えるはずだったものを、奪い去っていくのが現実だから

迷うことなく、勝つための選択をすればいい


刀を握り直す

息を吐いて、迷う自分を振り払う

すべきことは一つなのだから、

迷う必要など、そもそもの話ない

夏凜「……そうでしょ? 天乃」

軽く、問う

答えがないのは分かっているが、

体の中にその一部が流れているおかげか、

孤独を感じることはない

夏凜「あとで、お叱りは受けてやるわ」

勢いよく蹴りだした夏凜は、

すぐに足元へと刀を投げ放ち、爆発させる

その勢いを持って、加速して上空へと向かって――園子とすれ違う

園子「頑張って」

夏凜「良いから、身構えてなさい!」

園子が自分よりも下へと降りていくのを確認した夏凜は、

作り出した刀を一本、力強く投げ放ち、

数秒遅れさせてから、それよりも強い力でもう一本投げる


園子「にぼっしー!?」

自分を追い抜いた刀が目に見えた園子の悲鳴

察したであろうその声なら、大丈夫

何が起こるのか、ちゃんと分っているはずだ

園子の悲鳴から少し時間が経つと

園子を追い抜いた一本目の刀に、二本目が衝突して、爆発する

その爆風に園子が飲み込まれて、

体が僅かに浮力を得たのを見届けてから、夏凜は前を向く

天乃だけでなく、

園子にも文句を言われるだろうが、

救うためならば、致し方がない

みんなが望む、みんながいる未来を勝ち取るためならば、当然だ

夏凜「あんたの言い分……良く分かったわ」

天乃のことを思いながら、

夏凜は新たに召喚した刀を握り、構える


夏凜「もう少し!」

刀をまた一つ爆破させ、すぐに刀を補充

出しておける刀の数に限りはあるが、

力がある限り、出し続けられるようになっている今の力量に、夏凜は眉を顰める

どうせ、天乃の力を借りているからだ。と。

いつか、自分の力で辿り着きたいと思っていた

追い抜きたいと思っていた

でも、今は

夏凜「あんたの力を、借りておくことにする」

迫ってくる星屑に刀を突き立て、

間髪入れずに乗り上げ、そのまま飛びのき、爆発を利用して上へと昇っていく

一つ、二つ

潰した星屑の数だけ、距離が縮まっていく

夏凜「……やっぱり、あんたがいると楽だわ」

黒く染まっていく刀の柄をしっかりと握りしめ、手の届く距離にまで来た天を切り払った


勇者たちの攻撃を受け、

空気をひりつかせるような赤さに染まっていく空に背を向け、

着地した夏凜は勢いのままに体を転ばせて、

真っ逆さまに樹海の中へと落ちていく

何度か体をぶつけはしたものの、

大きなけがもなく深部へと逃げ伸びた夏凜は

すぐそばの根っこの部分に寄り掛かる園子を一瞥する

頬や足

露出気味な肌をやけどしている園子だが

裂傷などの傷はなく、星屑に食いちぎられたような形跡もない姿に安堵すると

丸焼きだったよ。と、声が聞こえた

夏凜「ああするしかなかったのよ」

園子「文句は言ってないんよ」

夏凜「かなり不満そうに聞こえたんだけど?」

園子「放っておいてって、言ったのに」

夏凜「放っておいたら、後で天乃に殺されるわよ」


実際に天乃がそんなことするわけがないのだが、

夏凜はそう嘯いて、苦笑する

殺されはしないが、確実に怒られる

それこそ、園子が大怪我でもしていたら

取り返しがつかないかもしれない

だからこそ、自分の判断は誤りだとは思わない

夏凜「そろそろ、動きが過激になってくるわ。警戒して」

園子「うん、分かってる」

友奈たちも着実に離れて行っているし、

入れ替わるように、千景たちが向かっている

一度理的には問題がないけれど、

敵の行動が変則的になれば、

また、状況は悪い方に転がってしまうかもしれない

夏凜「天乃……頼むわよ」

耐えることは出来るが、

耐えきることは出来ないかもしれないと、願った


判定 ↓1


1~0

※0に近いほど良
※ぞろ目は


√ 2月12日目  () ※日曜日


夏凜達の戦っている場所を遠く離れ

次元的に隔離された場所にまで潜ることとなっていた天乃は、

それでも繋がりを感じることのできる力を分けたみんなの気配を感じて、呟く

詳細まで把握しきることは出来ないが、

みんなが傷ついていることも含め、大まかなことは、分かる

天乃「陽乃さんは人を信じて、未来を託したわ」

だから。というつもりはないけれど、

天乃も人のことを信じたいとは、思っている

どれだけ、大赦に嫌な思いをさせられても

世界に苛まれてきたとしても

それだけは、捨てられなかった

それは、みんながいてくれたからこそだろうけれど。

天乃「神様がいなくても、人は生きていける。でも、信じられる相手がいないと、人は生きていけないわ」

だからこそ、

神樹様がいなくなっていいなんてことはない

みんながみんな、誰かを信じられるわけじゃない

姿なき万能なる存在は、そんな人々の心の支えにもなってくれる

これから、世界は大きく変わっていく

そこに放り出された人類がどうなっていくのか

神がいるのかいないのかは、とても大きなことだろうと天乃は思う


天乃「これからも、見守ってあげて頂戴」

人は愚かだ

争いもするし、みっともない姿をさらすこともある

神々にとってはくだらないことで、滅びの一途を辿ることだってあるかもしれない

けれど、人間はその失敗と過ちから学ぶのだ

過ちから過ちを犯したとしても

それを止めてくれる人がいる

そうではないのだと、諭してくれる人がいる

人は人と関わり続けることで

良くも悪くも変わり、成長し、また失敗と成功を積み重ねて、変っていく

それは、神にとっては疎むべき滅びの種族かもしれない

だけど、陽乃はそうではないと信じて未来を託し、

天乃はその未来を生き、勇者部のみんなと出会って、変っていった

その三百年という長く短い時間

そこに寄り添い続けた神樹様にも、信じて欲しいと、天乃は自分の胸に触れる


天乃の体の中に取り込んだ神樹様の種

それを依り代に神樹様の力を取り込んだ

天乃には神をも殺すことのできる穢れの力があるが、

溶け込んでいる神樹様の種を触媒とすれば、天乃の中で取り殺されるようなことにはならないはずだ

天乃「もし、駄目だと思ったら呪い殺してもいいわよ」

どうせ、穢れに蝕まれる身体だ

取り込んだ力による呪いなんて、穢れにかき消されてしまうだろう

もちろん、そんなことがないのが一番だけれど。

天乃「だから、一緒に生きましょう」

今まで、九尾達精霊とともに生きてきた久遠家

実家は神道に通ずる場所だし、神樹様を形成する神々が増えたところで今更だ

軽く、手を握る

踏みしめるような場所はないが、

足を動かすことに違和感はないし、問題はない

神様の世界にいるおかげか、来る前の不調が嘘のように好調だった

天乃「みんなが、待ってるから」

握った拳を解き、どこからともなく呼び出した刀を握って――空間を引き裂く


天乃「……足も、平気ね」

出て行った先で力強くかかとを地面にうちつけた天乃は、

まだ、勇者としての力を使っていないにも関わらず、

問題なく足が動かせることを確認して、息を吐く

神樹様に語り掛けていた時点で察しはついていたが、

喉の痛みもすっかり感じられない

それどころか、

かつて、絶好調だったころのようにみなぎってくる力を感じて

もはや、爆発寸前なのではないかと、天乃は苦笑いを浮かべる

刀を一振りすれば、天の神も樹海も

何もかも吹き飛ばせるのではないかとさえ、思えるほどの力だ

天乃「………みんな」

今ここに立つまで、どれだけの時間をかけてしまっただろうか

みんなの力は感じられるが、

酷く弱弱しい力が点々としている

天乃「急がないと」


1、友奈・若葉のところへ
2、東郷・球子のところへ
3、夏凜・園子のところへ
4、樹・歌野のところへ
5、千景・風のところへ
6、まっすぐ、天の神をぶん殴る


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日もできれば、お昼ごろから


久遠さんの全力全開の一撃、ダメージ判定はなし


遅くなりましたが少しだけ


みんなのことは気になるけれど、

落ち着くことが出来るようにと、天乃は真っ直ぐに天の神を目指す

心配するのは終わった後で良い

怒るのも、抱きしめるのも

天乃「っは」

地を蹴り、反り立つ根を踏み台にしてさらに長く跳ぶ

上に出るか出ないかの絶妙なラインを維持しながら、駆け抜ける

天乃「もう少し」

精霊とはまた違う力での急速的な体の回復のせいか

全力での疾走をわずかに抑え込む体に染み込ませていく

かつてのような全力を

あの時以上に確実な一撃を

自由な足に感嘆することもなく、出しうる速度を極限に近づける

蹴り飛ばした根がミシリと音を立てる

瞬く間に背後に消えていく景色

瞳を乾かす風を斬り払い、焦げ付く嫌なにおいを感じ取る

天乃「……良いわよ。リハビリに付き合って貰うわ」


急激に濁っていく空を一瞥した天乃は、

あえて、樹海の上部へと飛び出して、走る

だんだんと収縮していく雲がひび割れ、禍々しい気配を放つ紅玉を生み出していくのをよそに、

天の神を目指し続ける

来ないなら、辿り着くぞと。

差し迫る脅威など、自分には無関係のごとく堂々とした反逆

天乃「ほら、もっと速く」

産み落とされる傍から飛んでくる火の玉

背中に感じる温かな熱量を借り受けたかのように

一歩前よりも踏み込む足を素早く、力強く蹴り出して前へとと進む

近づかれるよりも近づく

天乃「そう、いい考えだわ」

天乃が向かう方角全域が濁り、紅く、断罪を意図した深紅の光が瞬く

生み出されていた火の玉が焼失し、

天の神の力が一点に集中するのを感じた天乃は、ようやく足を止めた


収縮した力が勢いよく放射されたのが目視で分かる迸る輝き

光線ともレーザーとも何とでも言われそうな赤き神罰を、天乃をは見つめる

天乃「避けたら、神樹様が吹き飛ぶわね」

言ってしまえば残骸のような神樹様だが、

それでも樹海を形成し、

今ある世界に生きる人々を守るための要石のような役割を担っている神々の依り代

破壊されるわけにはいかないと、静かに息を吐く

ゆっくりと右足を前に出し、右手を制止を求めるように突き出す

天乃「本当は、こういうためのものじゃないんだけど」

燃え尽きないようにと体に力を満たし、

突き出した右手に神罰が触れる瞬間に右手を引き、

左足を前に出しながら、左手ですくうように天の神の力を巻き上げていく

力と力の対消滅

それが起こらぬようにと巻き上げる傍から左半身を引き、

天の神の力を引き延ばし、

右半身を前にして右手でさらにすくいあげて余分に力を巻き込んだ瞬間――左足で踏みこむ

天乃「ふっ!」

巻き取った天の神の力をそのままに、左手で撃ち放たれたそれは

天の神の焼き尽くすような怒りと衝突しながら、中空で爆発して消滅する


天乃「本気を出される前に、急がないと」

攻撃の第二派が放たれる前に、天乃は勢いよく駆け出す

無理やりに攻撃を押し返したが、あれでは足止めをされただけだ

連続してやられれば、防戦一方

夏凜達が手を貸してくれるだろうが、

そうなれば被害が出るのは避けられない

そんなことになったら、力を借りてる意味がない

力を足へと集中し、

脚力以上の全力で駆け抜けていく

神をも殺す力を纏った蹴りに抉られた樹海の根が腐って落ちる

神の依り代となった体に疲労が出始める直前に、目指すべき力へと近づいたのを感じて

間髪入れずに、天高く跳躍する

天乃「っ!」

その瞬間、天の神の中心、瞳のような球体部分が輝き、

強力な一撃が、天乃めがけて放たれた


当たれば撃ち抜かれる天乃の一撃

それだけはさせまいとする全霊の抵抗

天乃「っ……」

それは、神の力を借り受けた天乃の力さえも凌駕するほどに熱く、

僅かに押し負けて、だんだんと高度が下がって――落ちる

天乃「うぐっ」

神をも殺す力をもってしても

殺しきれないほどに放出される天の神の力

樹海の根に叩きつけられた天乃は、

精霊の力によって軽減されたダメージを受けきって、

立ち上がる

天乃「これだから、神様なんて大嫌いなのよ」

弱り切った神樹様の力

それだけでは、打ち勝てない

ならば、どうすべきかはもう分かっている


天乃「……私の、私達の満開」

みんなには使わないでと求めておきながら、

自分だけが必要だからと行使するのは少しだけ気が引けると、天乃は苦笑する

これが最後だ。だから、許してね。と、夏凜を想う

天乃の満開は、周囲の力を根こそぎ消滅させる破滅の力

しかし夏凜達に分け与えられた天乃の力はその力を消し去ることなく奪い取って花開く

天乃「行くわよッ!」

信頼によって成り立つ力の譲渡は

神と人の力を織り交ぜて、より強力なものへと昇華させ

再度解き放たれた天の神の力を、天乃はその拳で突き破る

天乃「私達は……勇者部はッ!」

この身に宿るは神の愛

この拳に握るは人の愛

天乃「この名にかけて――終わらせるわけにはいかないッ!」

なれば、打ち破れぬものなど、ない

抵抗を撃払い、神の瞳を穿ちぬいた天乃の拳は、天の神の化身そのものをも打ち砕く

人々の悪意を身の待つような漆黒の輝きは、天の闇を払い除けて一際大きな力を放出させて全てを飲み込む

世界から、神が失われていく


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば、早い時間から


久遠=永遠ゆえに不滅


では少しだけ


天乃「………」

神樹様が枯れ、散っていくのが横目に見える

天の神の消え去った樹海の空は広く、幻想的で

いつものように散っていく花びらのような瞬きが世界を包み込んでいく

これで樹海は消え、

いつも通りのようで、新しい世界へと戻っていくことになるだろう

天乃「私の体……元に戻ったら動かなくなったりしないわよね……」

力を使った反動

それによる身体機能の喪失は

天乃や勇者部が常に経験してきたことだ

今回に限って言えば、

夏凜達が満開を使おうが身体的な代償は必要なかったが

天乃はその限りではないのが、勇者システムの例外ゆえのデメリット

もしもそうならば、

神樹様の依り代になる以前の状態に戻るだけで終わって欲しいと、

天乃は特に期待なく、思う

神は朽ち、天乃に宿った

自分自身に祈っても、それが叶うかどうかは自分次第

満開を使った今、それはもはや結果を待つだけだ


九尾「主様、また無理をしおったな」

ふわりと金色の毛並みが舞って、体が柔らかいものに包まれていく

九尾の声は優しく、どこか呆れたように感じる

天から落ちていく天乃は心配はいらないと、目を瞑って委ねる

天乃「最後の大盤振る舞いよ……貴女、手伝ってくれないし」

九尾「妾が手を出せる領域ではあるまい。向こうで、色々とみてきたのじゃろう?」

天乃「ええ、まぁ……そうね」

九尾「どうじゃった?」

天乃「どうもこうもないわ。霊的な力しか、無かったから」

九尾「ふむ……」

考え込む九尾の吐息

異を唱えたがっていると分かりやすいその仕草

分かっていてやっているのだろうと、

天乃はふっと、息を吐く

天乃「たった一言、聞かれたわ」

九尾「ほう?」

天乃「命を懸けてまで守る価値があるの? って」


不安定ではあったけれど、

神樹様の空間に介入してきたその人は、

顔を見せることなく、そう問いかけてきた

九尾「価値はあるかや?」

天乃「みんなが、いてくれるから」

九尾「笑われたじゃろう」

あやつはそういう意気地の悪い奴じゃから。と

楽しそうに笑う九尾の少し乾いた笑い声が、耳に残る

天乃「………」

九尾の言う通り、陽乃は笑っていた

とても楽し気に

それこそ、今の九尾のように

それは良かったわね。と、本心だと分かるような声色で言っていた

それを思い出した天乃は

九尾に体を預け切って、九尾に気付かれないように笑みを浮かべる

天乃「ずっと見守ってくれていたんでしょう?」

九尾「なんじゃ、急に。妾は常にいたじゃろう」

天乃「ええ、そうね」

光に包まれて、世界が元通りになっていく

被害がどれほどにまで広がってしまったのか

天乃は考えをその方向へと切り替えて、九尾への言葉を飲み込んだ


√ 2月12日目 昼  () ※日曜日

判定↓1


偶数 一人
奇数 合流


√ 2月12日目 昼  () ※日曜日


澄み渡ってはいないけれど、

晴れ間の見える空の下、

その昔、感じたことのある瓦の感触

久しく見ることのなかった中途半端な高さの世界を見つめながら

天乃は、元の世界に戻ってきたことを実感して、息を吐く

天乃「……みんなは」

天乃が持っている力の、本来あるべき満開を使ったせいか

すでに夏凜達との繋がりは途絶えてしまっていて

今、みんながどこにいるのかは分からない

天乃「端末……も、そういえば、ないんだった」

端末を通しての勇者と違い

体に宿す力を使っての変身では端末を使うことはなく

よって、手元にはない

そのうえ、精霊のほとんどが出払ってしまっている今、

身近に居るのは、九尾のみだ


九尾「久しいのう。昔はよく、登っておったな」

天乃「うん、そうだった」

天乃と九尾が戻ってきたのは、

久遠家の管理している神社の屋根の上

みんなが、普段のように学校の屋上に戻っているのなら

ここまで来てもらうのは、少し難しい

なにより、戦闘でのダメージがあるだろうから、

今すぐにでも病院に行ってもらうべきだ

天乃「ねぇ、みんなの状況は分かる?」

九尾「結城友奈が一番の重傷じゃな。次点で三好夏凜。精霊共は引っ込んでおるから数に入れんでも良かろう」

天乃「……大丈夫なの?」

九尾「三好は問題なかろうが、結城の方は少々危ういやもしれぬな」

天乃「どういうこと?」

九尾「あやつは友奈であるせいか、よくよく狙われおった。傷が深すぎる。ということじゃ」


天乃「そんっ……痛っ」

九尾「あまり派手に動くと、体を壊すぞ」

九尾の正直な言葉に、

起きかけた体に、重苦しい痛みが響く

九尾「神の依り代足る器ではあるが、残念ながら主様はひび割れておる」

天乃「だ、から……?」

九尾「しばし休む方が良い」

天乃「………」

今すぐにでも友奈のところに行きたい

その考えを分かってか

先手を打ってきた九尾をじっと見つめる

今までのように女性の姿ではなく

妖狐の姿のままの九尾は、真っ赤な瞳を、天乃へと向けた



1、分かってるわよ。とりあえずは病院に戻るわ
2、友奈のところ、行くわ
3、休めばいいんでしょ? なら、しばらくここにいるわ。貴女とも話があるし


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


友奈接触まで良ければ、判定


では少しだけ


天乃「友奈のところ、行くわ」

九尾「主様」

天乃「そんな声で呼ばれても、行くわよ」

呆れた声の九尾から目を逸らした天乃は、

状況に反して、やや明るい雰囲気を醸し出す

天乃「だって、友奈も病院行くでしょ?」

九尾「………」

九尾の細められた視線を感じて、

天乃はうっすらと笑みを浮かべると、横目に九尾を見る

天乃「どうしたの?」

九尾「主様という小娘は……」

天乃「あら、こういう話し方って貴女の得意分野じゃなかった?」

九尾「からかっておるのかや?」

天乃「別にそういうわけじゃないけど……」

体が痛まぬように、ゆっくりと

お腹を支えるようにしながら体を起こし、九尾へと体を預ける

天乃「もしかして、すっごく心配してくれてた?」

九尾「……からかっておるな?」

天乃「ううん、感謝してる。ありがと」


九尾「……病弱な主様の方が、妾はありがたがったがのう」

天乃「嫌な主人で悪かったわね」

九尾「本当じゃ」

ふんっと鼻を鳴らした九尾のしっぽがパタパタと動く

言葉とは裏腹の優しさに体を預ける天乃は

ゆったりと、目を閉じて――

天乃「そろそろ病院連れて行ってくれない? 死にそう」

九尾「血が足りておらぬな」

天乃「……分かってるなら、早く」

顔色が悪くなっていく一方で

口元から滴る血が神婚に用いた装束を赤く染めていく

九尾「良かろう。しばし休め」

天乃「うん……頼りにしてる」

九尾「まったく、嫌な奴じゃな」

完全に委ねられた九尾は

悪態をつきながら天乃を包み、霧のように揃って姿を消した


√ 2月12日目 昼  (病院) ※日曜日


01~10
11~20 左足
21~30
31~40 右手
41~50
51~60 右足
61~70 左足
71~80
81~90 左手
91~00 左目


↓1のコンマ


※被害状況
※範囲内で数値が高ければ高いほど大(例:11(被害小) 20(被害大) )
※HP6割減 被害率60%


√ 2月12日目 昼  (病院) ※日曜日


天乃「友奈……」

友奈「………」

友奈は満開を使ったが、

満開の効果が切れた後の精霊による加護の無い状態でのダメージは、

撤退したこともあって負うことはなかった

しかし、それ以前のダメージが重かったこと

撤退の為に無理をしたということもあって、

戦闘中に最も酷使してしまった左足はボロボロだった

一番初めの状態なら、捻挫で済んだかもしれない

けれど、捻挫を庇う歩みは骨折を招き

骨折した状態でのダメージによって複雑化し、その足の酷使は、靱帯までをも損傷させた

それでも、切断にまでは至らなかったのは、

運が良かった。と、言ってもいいかもしれない

その分、急を要した手術で麻酔を使われた友奈は、眠っていて

手当された体は、包帯に包まれている部分を除いても

隠し切れない生傷が、残ってしまっている


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


20なら左足切断


では少しだけ


天乃「こんな、怪我するまで……」

手甲で守られていた手は、比較的傷が浅く、

天乃は自分の左手を布団に沈みこませて包み込むように、友奈の左手に触れる

柔らかな少女の手

生気の温もりは僅かに薄れ

死の淵に立った弱弱しさが、嫌なほどに感じられる

普通の人が見たら、事故にでもあったと思うだろうか

ちらりと聞いたニュースを鵜呑みにすれば、

その可能性は十分にあるかもしれない

そんなことを頭の片隅に置きながら、右手で友奈の前髪を払う

眠る瞳は穏やか、けれど、痛烈さの残る眉間

そうっと頬を撫でると

眠りの中で苦しみから逃れられたのか

ちょっとだけ、落ち着いた寝息がこそばゆく耳に残る


つい、数時間ほど前までは自分が見舞われる側だった

なのに、半日も経たずに立場が入れ替わってしまったのは、

少し、嫌な気分になる

任せて欲しいと、友奈たちは言った

任せると、天乃は言った

だとしても、ここまで傷だらけで帰ってこられると

感謝の言葉よりも、後悔が先に出てきてしまいそうになる

でも、生きていてくれたのだ

勇者の切り札である満開を、逃げるためだけに使うという暴挙とも取れる手段を用いながら

生き延びることを、選択してくれたのだから

後悔するのは間違いだろうと、天乃は悔やみの滲む笑みを携えて、友奈を見つめる

天乃「……けほっけほっ」

友奈「…………」

天乃「重傷なのは、間違いなく友奈なのにね」

口を押えた右手が、赤くなっていく

ぽたりぽたりと、また、装束が血塗られて

天乃は困ったように、友奈から離れる

天乃「こんなところ、見せられないからもう行くわね。ちゃんと、休むのよ?」

九尾に聞かれたら主様が言うな。とでも言われそうだ

危うい足取りで出口まで向かった天乃は、引き戸を軽く引いて手放すと

九尾を呼んで、身を委ねた

√ 2月12日目 夕  (病院) ※日曜日


01~10 風
11~20
21~30 夏凜
31~40
41~50 歌野
51~60 園子
61~70
71~80 樹
81~90
91~00 東郷


↓1のコンマ


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「えっ? 久遠先輩の体に神樹様が!?」

天乃「ちょ、ちょっと! ズボン脱がそうとしないで!」

東郷「神樹様の具合を――」

天乃「ないっ、そこにはないからっ!」


風「あー……」

夏凜「私を見られても困る」


では少しだけ


√ 2月12日目 夕  (病院) ※日曜日


天乃「はぁ……」

瞼は重いけれど、喉が焼けつくような痛みはない

全身がまるで他人のものであるかのようなふわっとした感覚

まだ完全に覚めていないのだと、眠ったままの頭で考える

天乃「……動く、わね」

右手を上げようとすると、一拍遅れて右手が上がる

眠ったおかげで多少なりと回復してはいるけれど

やはり、神樹様の依り代となった影響はまだ残っているらしい

穢れがそうであるように、

神樹様の力もまったくの影響を及ぼさないまでの吸収は出来ないかもしれないと

僅かに震える手を見て思う

問題は、その神樹様の依り代になったことによる影響だ

汗が樹液になる……などということはないはずだが

穢れが天乃に負荷をかけているように

神樹様の力もまた、天乃に何らかの負荷をかける事にはなってくるだろう

穢れと神樹様の力の対消滅などという希望的観測は、さすがにできない


天乃「………」

両手は動くし、右足も動く

それは元々、神樹様の種を宿したことで取り戻したことだが、

神婚に入る前は動かすことのできなかった左足も、動かせる

恐らく、神樹様の依り代となったことで、

身体的な部分に関しては、満足に動かせるようになるはずだ

だとすれば、何があるのだろうかと、天乃は目を閉じる

ゆっくりと、大きく胸を膨らませて、

静かに、息を吐き出していく

少しずつ時間をかけた深呼吸のうちに、力の流れを感じ取る

前々から流れている穢れの力

そして、強みを増した神樹様の力

交わることはないが、衝突することもない力は

牽制しあっているようにすれ違って体を巡る

天乃「……これ」

ふと、目を開く

あげた右手は震えを除けば、異常はない

だが、目を閉じると……違和感がある


天乃「神樹様の力……かしら」

感じる違和感は、目には見えない力の流れだ

元々ある穢れの力が

天乃の体の中から湧き出ている泉のようなものであるのだとすれば

神樹様の力は、外側に漂う空気

天乃「………」

穢れを抑え込むかのごとく際限なく体に流れ込んできている

もしかしたら、神樹様の力が染み込んだこの土地そのものが

穢れにとっての天乃であり、神樹様の力にとっての源なのかもしれない

だとすれば、戦闘による被害がその延長線上として体を弱らせている可能性もある

そこまで考えた天乃は、

神樹様がどのようなものだったのかを考えて、息をつく

天乃「神樹様……そう、そうよね」

神樹様は世界だった

その世界の依り代となったのだから

土地が荒れれば、体調に影響が出てくることだってある

それが、神樹様を受け止める代償と言えるかもしれない

天乃「私、このまま不老不死になりました。なんてことは、無いわよね?」

神様の依り代となったことで、

人間ではなく神に近しい存在となってしまっていたら

そう思うと、まったく、喜べるものではない

神樹様の置き土産としては、申し訳ないが迷惑だ



1、九尾
2、歌野
3、千景
4、水都
5、イベント判定


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば、通常時間から



九尾「神樹を取り込んだことで不老不死じゃと?」

九尾「何を世迷言を」

九尾「元々、穢れの影響で半神化した数年前から何もかも止まっておるじゃろうが」

樹「でも胸は大きく……」

東郷「やっぱり人の希望が詰まってるのね!」

園子「わっしーが気力に満ち溢れてて何よりだよ~」


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「……藤森さん、出てこられる?」

天乃の力についてであれば、九尾に聞くべきかもしれないが、

神樹様の力も含まれるとなると、豊穣の力を継承している歌野か水都の方がいいと、

天乃は水都に声をかける

水都「は、はいっ」

天乃の状態を心配してか、やや緊張した声で出てきた水都は、

出てきた傍から、天乃の手を取って、握る

天乃の体から感じる穢れの力

それとは別の、なじみのある神樹様の力

際限なく流れ込んでいく神樹様の力を

少しだけ、自分の方へと取り込んでいく

水都「神樹様の力が、強いですね」

天乃「分かる?」

水都「久遠先輩、みんなに力を分けてから回復しきってないんですよ」

それくらいは分かってますよね。と

水都は困ったように天乃の汗を拭う


力を回復しきる前に取り込んだことで、

今はどちらかと言えば神樹様の力が勝っている状態だと、水都は言う

水都「体の不調もそれが原因だと思います」

天乃「土地の被害が影響してる可能性は?」

水都「そうですね……」

神樹様の力を借りている勇者の傍に居た経験はあるが、

当然ながら、神樹様の力そのものを宿している状態など初めてだ

だが、巫女として神樹様とのつながりを持っていた水都は、

少し考えて、頷く

水都「神樹様自身だと考えれば、その可能性はあるかと」

天乃の本来の精霊である水都だが

巫女と神樹様とのつながりに似たものを、今の天乃に感じているからだ

神樹様自身を取り込んだこと

神樹様の力が天乃の力を上回っていること

それが影響し、人としてではなく、神様としての存在になってしまっているからだろう

それゆえに、神樹様が本来担っていた戦闘の影響までもが、

天乃の体に出てきてしまっているのではないかと、水都は考える


水都「久遠さんの場合、神様の力との親和性が高すぎるんですよ」

天乃「穢れの影響?」

水都「それ以前に、久遠家代々の巫女としての力だと思ってます」

久遠家は、

天乃や初代の陽乃などが勇者として戦っていたが、

そもそも、久遠家は巫女としての家系だ

それもあって、神様を降ろす器として適任で、

天乃の場合、受け入れることのできる力の容量が他の比ではないために、

余計な部分今で、その影響が出るようになってしまっているのだ

水都「大地の衰えが久遠さんに大きく影響することになるとおもいますが、その逆で、助けにもなりますよ」

大地が潤えば、天乃も元気になる

それなら、穢れによって蝕まれていた分を補っても余りあるし、

今までのように穢れで寿命を削られていくことに怯える必要もなくなる

デメリットはあるが、メリットもある

良いこと尽くめよりは安心できると、水都は軽く笑いながら呟く

水都「それと、不老は分かりませんが、不死ではないかと」

天乃「……聞いてたのね」

水都「聞いちゃいました」


水都「久遠さんは神樹様を取り込む以前から、神様に近い存在だったんです」

身長などがまったく変わらない点については、黙秘を貫くものの

水都は天乃から感じている生命力的な部分が、

他の人々と比べても、力の影響を除いて衰えることがないと続ける

普通なら、歳を重ねていくうちに衰えていくもののはずなのに

天乃は、それが一切感じられない

生命力に衰えがないのなら、

不死でもあるのでは。と、天乃は思うが、

水都は少し難しい顔をして首を振る

水都「穢れの力があるので、不死になることは無いかと」

天乃「老いはしなくても、死ぬのね?」

水都「神樹様の力だけならわかりませんけど、汚れの力があるなら。恐らく」

断言してしまうのはいかがなものかと思いながらも、

水都はそれを口にして、天乃を見る

器として完成するために不老となってしまったとしても、

穢れだけでは、瞬く間に生命力が食い尽くされる

その一方で、生命力を維持できるほどの力が得られている天乃は、

人並か、それよりも少し長く生きることになると、水都は推測する


時間がかかってしまいましたが、ここまでとさせていただきます
明日もできれば、通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日もお休みになってしまう可能性がありますが
出来れば通常時間から


では少しだけ


水都「ただ、久遠さんはみんなよりも……長く生きることになるかもしれません」

天乃「みんなって、夏凜達のこと?」

水都「はい」

天乃の力と神樹様の力はほとんど同じで、

今は元々不足していた分、穢れよりも神樹様の力が上回っている状態

しかし、

大地より供給される力は、戦いの被害によって弱く

天乃自身から湧き出ている穢れの力の方が、それよりも勝っている

次第に力同士が拮抗し、打ち消しあうようになって、均衡を保つだろう

そうなれば消費と充電を行い続けるバッテリーが急速に消耗していくように

天乃自身が消耗していくことになる

不老の身とはいえ、魂という霊的に重要な要素が消滅してしまうと

流石に、生きていくことは出来ない

それでも、人並か人よりも長く生きていくことになる可能性があるのだから

天乃の体は依り代としての完成度は相当なものだ

普通なら、自分と相反する力を取り入れた副作用で死ぬだろうし

万に一つ入れられたとしても、内部の対消滅で精神的か肉体的に崩壊するだろう

水都「久遠さんは特別です。特別過ぎるんです。人が決して辿り着くことのできない領域にまで、踏み込んでしまっているんです」

天乃「……神樹様を、助けたせいね」

水都「普通は、助ける事なんて出来ませんよ」


笑いながら呟く天乃に、

水都は呆れを交えたため息を混じえて、答える

本当に、普通は不可能だ

それを、みんなに頼まれたからというだけの理由でやり遂げてしまうのだから

天乃は特別という言葉には収まりきらないほど、特例なのだ

巫女であり、勇者であり、穢れた血族

だからこそ。

力に苦しみ、悩み、常人ではありえないほどに早くに寿命を迎えてしまい、呪われた一族だと虐げられて

なのに、

人類が信じ、崇め続けてきた神樹様を救うことが出来た

それがなぜなのか、

水都はただ特殊というだけではない理由があるように思えた

思えただけで、はっきりとは言えないが。

水都「とにかく、久遠さんはもはや神様です。でも、ちゃんと……人ですよ」

天乃「否定しにくいわね。貴女達に言われると」

水都「久遠さんだって、そう認めてくれているじゃないですか」

天乃「だから、否定できないの」


水都や若葉達天乃の精霊

人ならざる者である彼女たちを、天乃は人だと言い切った

その精霊である水都に天乃は人間だと言われてしまうと

天乃は否定することが出来ない

もっとも水都はだからと、そう言ったわけではないが。

水都「久遠さん、少し辛抱してください。しばらくすれば、体調も良くなると思います」

天乃「そういわれてもね……」

水都「結城さんですか? お子さんですか?」

天乃「両方」

水都「結城さんも久遠さんのように療養が必要です」

数日数週間ではなく、数ヶ月というレベルで

リハビリできるようになるまでも

長い時間が必要になってくるだろう

水都「お子さんの方は、今のところは大丈夫ですよ。ただ、久遠さんの母乳が少し、足りてないと思います」

人工乳を呑まないということはないので

空腹に苦しむようなことにはなっていないが、

水都達のように、力まで確認できる存在からしてみれば、

そっちの方がやや不足気味のように感じられるのだ


1、ねぇ、外の世界はどうなってる?
2、現実の神樹様はどうなったの?
3、なら、貴女が絞って持って行って
4、子不幸な母親よね。私


↓2


天乃「現実の神樹様は、どうなったの?」

水都「………」

黙り込んで、目を瞑る

あからさまに良くないことを言う前兆の仕草を横目に見た天乃は、

天井を見つめて、水都の次の言葉を待つ

水都「現実の神樹様は、枯れました」

天乃「……そう」

水都「でも、神樹様が失われたわけじゃないですよ」

神樹様は、あの御神木から天乃に移った

それによって、力の失われた御神木は枯れたのだ

その分、天乃に活力が与えられているというだけの話

その体の内に宿った神樹様は、ちゃんと残っている

水都「大丈夫です。久遠さんはちゃんと神樹様を救えましたよ」

天乃「それは、分かってるんだけどね」

内輪的な問題として、

神樹様が死せず天乃の中で生き続けているということについては

体調的な不安があるものの、良しとすることは出来る

だが、現実的な話

神樹様とされてきた御神木が枯れてしまった衝撃はいかほどのものか。

テレビをつければ……いや、ラジオでもその騒ぎは相当なものだろう


人にとって神樹様は重要なものだと天乃は思っていたし

だからこそ、絶対に救わなければならないと思っていた

しかし、その象徴たる神樹様が失われてしまった

それでは、天乃からして救えたといっても

人類から損なわれてしまったということであり、

それは結局、救うことは出来なかったのと同義ではないかと、目を瞑る

さてどうするか。

そう考えたとき、もし人類の精神的な主柱足る神樹様の存在を優先するならば

天乃は自身にその力を宿したことを大赦に伝えなければならない

そうしなければ

神樹様の死は天乃の穢れが引き起こしたものとして断罪されるかもしれない

天乃「あぁ……もう……」

水都「久遠さん?」

天乃「とても面倒くさいことになったわ」

水都「神樹様が枯れたから。ですか?」

天乃「ええ」

考えが間違っていて欲しいと言いたいほどに

確実に面倒なことになると、天乃はため息をついた


天乃「大赦はほぼ確実に、神樹様が枯れたのは私のせいだって考えるわ」

水都「それは……」

天乃「神樹様の依り代になりましたって正直に話して、仮に信じて貰えたとして……どう扱われるか」

水都「面倒くさいって言った理由が、分かりました」

天乃「どう転んでも、私の立場は最悪」

神樹様を殺した大罪人か、神樹様をその身に宿す人類の支えたる神の巫女として崇められるか

どちらにせよ最悪で、面倒で

悪態をつく天乃を見つめる水都は、

その心中お察ししますと心の中で噛みしめて、まだ震えの残る手を握る

天乃「ねぇ、私が人として生きていく方法。どうにか見つけられないかしら」

水都「それ、九尾さんに言えば最短で最低な方法で実現しそうですね」

天乃「そうね……大赦の人間がこの世から消えるかもしれない」

九尾なら大赦の人間全員を殺すか、消すか

どちらも似たようなものだが、その最短で確実な方法で面倒事を消し去ることだろう

天乃「頼っちゃおうかしら」

水都「せめて、もう少し色々手を打ってからにしませんか?」

天乃「春信さんもいるし……少しだけ、考えてみるわ」


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「久遠先輩が久遠先輩じゃなくなればいいのでは?」

天乃「つまり?」

東郷「姓を東郷に変えましょう。東郷天乃、結城天乃も可です!」

友奈「えぇっ!?」


風「東郷ってあんなに馬鹿だったっけ?」

夏凜「天乃と友奈のことでは一番馬鹿だと思うわ」


では少しだけ


水都「少しじゃなくて、しっかりお願いしますね」

天乃が滅ぼしてしまえと言えば、

九尾は迷いなく滅ぼすことだろう

たとえ、ほんの気まぐれ程度でしかない呟きであったとしても

鬱屈とした空気を孕んだ、物憂げな吐露でも

水都「三好さん達がいますし、私達もいますから」

天乃「……分かってるわ」

水都「私達精霊は、久遠さんと一生を共にします。恐らく、お子さんも」

天乃「子供も?」

水都「はい。久遠さんの子であり、神野悪五郎……魔王とも呼ばれるほどの妖怪の子でもある双子は、単刀直入に言えば、半妖です」

半妖であるがゆえに、

人間よりはるかに長い寿命を持っていることは確実だと水都は考えている

赤子である今はまだ判断付けることは出来ないが、

場合によっては、不老に近い性質もある可能性がある

その辺りは、妊娠した段階の天乃の体質のどれだけを引き継いでいるかによるが、

霊的能力を双子で分け合ったことで、一人を考えた場合は天乃に劣ることだろう

しかし、双子それぞれが単体の能力に特化しているとすれば

それのみで考えた場合、天乃を凌駕してしまう可能性が非常に高く

それが双子ゆえの特殊な繋がりによって強く共鳴するのであれば、天乃以上に危険な存在成り得るのではないか。

水都はそんな、胸中に抱く不穏な考えを飲み込む

水都「久遠さんを、独りぼっちにはしませんよ」


水都「なので、どうか……何があっても世界を見限ったりしないでください」

天乃「不穏なお願いだわ」

水都「そうですか?」

天乃「まぁ……大丈夫よ。私の子供だもの」

水都「………」

ね? と、笑って見せる天乃を見た水都は、

飲み込んだはずのものを見透かされてしまったのかと、困り顔で笑う

天乃のこと、世界のこと

これからのこと、子供たちのこと

それが、不安ばかりであることを、察して

それでも天乃は大丈夫と言ったのだ

自分の子供だから、大丈夫と。

それは、天乃が自分の神や妖としての部分だけではなく

人としての部分まで、子供たちはしっかりと受け取ってくれると信じているからだ

天乃「きっと、我儘な子になるわ」

水都「双子で我が強い子と弱い子で別れるかもしれませんね」

天乃「でも、強い子は弱い子を一人にはしないの。弱い子は、本当に大事だと思う場面ではしっかりと主張するの」

水都「そう思います」

天乃「名前……考えてあげなきゃ」

水都「そうですね。そのために、今はゆっくり休んでください」

ゆっくりと静まっていく天乃の声

握ったままの天乃の手を撫でるようにしながら、

水都は穏やかに、天乃を見守った


√ 2月12日目 夜  (病院) ※日曜日


01~10
11~20 東郷
21~30
31~40 大赦
41~50 千景
51~60
61~70 園子
71~80 樹
81~90
91~00 風


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


夏凜「天乃の方が長生きする……ね」

九尾「なんじゃ」

夏凜「いや、別に」

九尾「ふんっ女々しいやつじゃな。死ぬまで生きるとでも言えばよかろう」

夏凜「出来ないことを言う気はないわよ。さすがに……そんな無責任なことは言えない」


東郷「死んでも精霊になればいいのでは?」

樹「あの……一応真面目な話をしてるので」


では少しだけ


√ 2月12日目 夜  (病院) ※日曜日


天乃「………」

目を覚ますと、眠ってしまう前にいてくれた水都の姿はなく、

カーテンから差し込んでいた夕暮れ時の光も今はなく

恐らくは水都がつけてくれたであろう人工の霞んだ光が仄かに部屋を明るくしているだけ

中途半端に眠ってしまった頭痛を感じて、額に手を宛がう

天乃「……ん」

手の震えが、消えている

まだ浮ついた自分のものらしくない違和感は残っているが、

動かそうと思えば問題なく動く程度には、

もう、馴染んできてくれている

天乃「藤森さん……あと、歌野も。かしら」

水都が手を握ってくれている間だけ

力がかなり安定していたことを思い出して、呟く

傍に居てくれていないことだけは不服だが、

流れこむ神樹様の力を一部引き受けて制御してくれていたことを思えば、

ずっと傍に居られないのも仕方がないと、落ち着く


天乃「っ……はぁ……」

軽く唇を噛んで、深呼吸には満たない中くらいの吐息を漏らす

東郷に見られでもしたら、誘ってるんですかと言われかねない仕草だが

熱のこもった体を少しでも楽にするには仕方がなかった

力と力がぶつかり合っている影響だろう

張り付く肌着から、体温が普段よりも何度か高いと目を瞑る

高熱とまではいかないが、平熱とは到底言えない程度

浅く早くなりつつある呼吸を整え、

また、わずかに深い息を吐いて、唾を飲む

天乃「妊娠しているときよりは、楽だけど」

あの経験がなければ、

これでも弱音を吐いていたかもしれないと、

母の強さはそういうところにもあるのだろうかと、

不安なことから逃れるように、考える

天乃「あの子達……元気、らしいけど」

ほんのわずかしか会えていない

看護師さんに頼んで持って行って貰ってはいたが、

水都が足りないという程度にしか、母乳を与えることも出来ていない

それで母親と胸を張れるのか。と

溜まるだけの母乳による胸の張りを感じて、顔を顰める


天乃「名前……」

妊娠中も、産まれた後も

色々ありすぎて、考える暇が全くなかった

忙しいからとはいえ、

産まれてから早くも二ヶ月経過した段階で

名前を決められていないのはいかがなものかと、

天乃は親としての自覚がないのではないかと、思う

天乃「夏凜達に言うと、怒られるかしら」

だが、自分たちも似たようなものだから。と、

天乃だけの責任ではないと言うかもしれない

天乃にせよ、夏凜達にせよ

手一杯で名前を考えてあげられなかったことに、変わりはない

赤ちゃんは赤ちゃん用の部屋が用意されており、

他の子と取り違うことがないようにとネームプレートが必須になってくる

今は、想いの籠った名前が書かれたネームプレートが寄り添う子供たちの中、

取り違い防止目的でしかない、親の名前が書かれたネームプレートに寄り添われているだけだ


世界のこと、自分の立場

本当にやるのであれば、みんなとの結婚もある

そして、双子の娘の名前

細かく考えずとも出てくる目先の問題を前に、

天乃は瞑っていた瞼を開いて、誰も座っていない来客用の椅子を見る

親を呼ぶのが早いかもしれない

だけど、そうやすやすと呼べる状況ではなく

その場合の妥協案としては九尾になるのだが。

真っ当な答えをくれるかと言えば、くれない可能性が非常に高いと言わざるを得ない

年齢で言えば風や千景、沙織辺りに声をかけたほうが良いが

引けを取らないほどに良い意見をくれそうなのは樹や友奈だし、夏凜や東郷、園子達だってちゃんと考えてくれるはずだ

天乃「……もしかして、優柔不断?」

誰に意見を求めようか。

それだけで無駄に悩もうとしている自分に気づき、天乃は呆れたように呟いた


1、九尾
2、千景
3、歌野
4、沙織
5、イベント判定


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「名前ですか……」

風「双子定番で言えば、対比だったり繋がりのある名前よね」

友奈「久遠先輩のおうちの場合、海や地を入れたり地理? を使いますよね」

球子「安直に言うなら、月と太陽が対比だけど、それはちょっと違うか?」

千景「それなら、星と空で互いが互いを見ている方がいいように思うけれど」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
その分、明日は出来ればお昼ごろから


遅くなりましたが少しずつ


天乃「沙織……ねぇ、沙織」

眠っているのなら起こさないようにと、押し殺した声で呼びかける

子供たちのように純粋なものではないが

沙織もまた、妖怪である猿猴の力を受け継いだ半妖

かつ、天乃の精霊として指揮下に入っている

子供たちや、若葉たちよりもやや特殊な立場にある沙織は、

天乃の呼ぶ声を聞き届けてか、

精霊のように、どこからともなく姿を見せる

沙織「思ってたより、悪そうだね」

天乃「……藤森さんから聞いた?」

沙織「うん」

天乃「神樹様なんて助けなくてよかったのに……とか、思ってるでしょ」

沙織「そのせいで体調不良だけど、そのおかげで早死にが回避できるなら、仕方がないよ」

むしろ良かったんじゃないかな。と、沙織ははにかむ

ありえないほど早く死ぬよりは、

多少、人より長く生きてしまう方がいいと、沙織は思う

そう思えるのは、自分たちが精霊なり、半妖であるからだろうが。


沙織「もう時間も時間だし、ゆっくり寝てたほうが良いと思うよ」

天乃「寝ちゃったの」

沙織「じゃぁ、寝るまで無駄話でもする?」

怖い話とか、恋のお話とか

これまでのこととか、これからのこととか

適当に、下らなく

だんだんと落ち着かせるように、ゆっくりと。

本を読み聞かせるみたいな沙織の声

けれど、目が覚めてしまっているせいか

まどろむこともなく、天乃は沙織を見つめる

天乃「無駄話もいいけど、色々……話しておきたいことがあるわ」

沙織「子供たちと、半妖半霊の話とか?」

天乃「ええ」

沙織「確かに、名前を全く考えてないのは、駄目な親だよね」

天乃「言い訳はしないわ」

沙織「それに関しては、あたし達も出来ないけどね」


直接的な血縁関係には―残念ながら―無いが、

それでも天乃の子供であるのなら、沙織たちの子供でもある

であれば、責任は負うべきだ

例えどれだけ理不尽な理由があるとしても

沙織「名前……名前ねぇ」

天乃「思いつく?」

沙織「パッと直感的なのなら」

天乃「たとえば?」

沙織「久遠さんの天とあたしの織で天織―あまり―ちゃん!」

天乃「双子よ?」

沙織「もう一人は、沙と乃で沙乃―しゃのん―ちゃんだね」

直観的と言いつつ、

あらかじめ考えていたようにはっきりと、沙織は言う

どちらも、天乃と沙織の名前を使った名前

沙織と二人きりの関係ならば、

それも悪くはないが、そうではないし、みんなもそれぞれ思うところがあるだろう

それでも、天乃がそうしようといえばそうなるだろうけれど。


天乃「いつから考えてたの?」

沙織「約三年前」

天乃「それって――」

沙織「今回の子供のための名前ってわけじゃない」

そういった関係になる前から、

少しだけ、そういう関係になったとしたら……なんてことは考えていたのだ

天乃と最も親しいとされていたせいか、沙織に声をかける人も少なからずいて

もし、自分がそういう立場になることが出来たら……なんて。

その時期を思い出してか、沙織は照れくさそうに笑って目を背ける

沙織「色々ね、多感な時期だった」

天乃「それで誤魔化せる事じゃないでしょ」

沙織「久遠さん、人が良いから頼めば付き合ってくれるんじゃないかって馬鹿なこと言う人もいたよ」

天乃「そうね……間違ってはなかったかも」

沙織「えっ」

天乃「私は、そういうの断れなかったもの」

特に銀を失って間もない頃の天乃だろう

その後悔と、罪悪感と、喪失感と精神的に負う傷が大きく

頼み込まれれば、まず断らなかった

それが災いしてか、男子生徒との間で夏凜が激高するような事態に陥ることもあった


今更になってもはや言葉もないが

告白をされていながら答えられていない相手もいる

もしかしたらもう悟っているかもしれない

全てが終わってから答えても、遅すぎると叩かれるかもしれない

それは甘んじて受けるべきだが、

受けたら受けたで、またひと悶着あるだろう

天乃「……そのころの置き土産も、なんとかしなきゃ」

沙織「置き土産?」

天乃「返事待ちさせてるの」

沙織「あ……」

呆けた声を漏らして、椅子に深く座り込む

考え込むように額に手を宛がうと

すぐに天乃へと目を戻して、額の手は口元に下がっていく

沙織「あれって断ったんじゃないの?」

天乃「夏凜が突っぱねた男の子とは別よ。女の子」

沙織「………」

天乃「そんな目で見られても困るわ」


軽蔑を感じる目を向けていた沙織は、

笑い交じりのため息をつく

沙織「たらしだよね」

天乃「最近、自覚したわ」

沙織「どうするの?」

天乃「どうすべき……かしらね」

あの後輩の女の子には、

バーテックスとの闘いのことなど

ある程度踏み込んだことまで話してしまった

今回の一件で

それが事実であると証明されたことだし

それがなくとも信じると言っていた彼女は

もしかしたらまだ、諦めていないかもしれない

沙織「久遠さん、問題ばっかりだね」

天乃「寝込んでたんだから、大目に見て」


1、子供の名前を考えたいわ
2、ねぇ、半妖ってどんな感じなの?
3、沙織なら、数ヶ月待たされたらどう思う?
4、友奈はどう? 大丈夫だと思う?
5、若葉は平気?


↓2


天乃「そっちは何とかするから、子供の名前を考えたいわ」

沙織「難しいよね……」

天乃「ご神託は?」

沙織「久遠さんがくれないと」

沙織が手のひらを差し向けると、天乃はぺしっと弾いて苦笑する

沙織と同学年のはずだが、比べて小さすぎる手

つい最近までは酷く弱弱しかったその力は神樹様のおかげか力強さを取り戻しつつある

弾かれる痛みに思わず顔をほころばせると

天乃の怪訝な表情が沙織の目に映った

天乃「なに喜んでるのよ」

沙織「日常だなあって」

下らない。だからこそ、幸せだと言える

切羽詰まっているときには味わうことのできない浪費感が

沙織には、心地よかった

もちろん、大変なことはまだまだあるが

少しくらいはかまわないだろう

沙織「三好さんが良く言ってるけど、やっぱり……久遠さんには笑っていて欲しいね」


沙織の手が、天乃の頬に触れる

何度も傷だらけになった肌は

それが嘘だったかのように綺麗で、整っている

天乃「どうしたの?」

沙織「……暫くご無沙汰だったから」

天乃「子供の名前は?」

沙織「考えたら、ご褒美?」

おあずけをされた子犬のような顔を居瞬だけ見せた沙織は、

すぐに満面の笑みを浮かべたが、天乃は微笑んで首を振る

天乃「考えなくてもあげるけど、考えて」

沙織「久遠さんのそういうところ、好き」

押し込む抵抗はないが

沙織は自分から身を引いて、天乃の頬を撫でる

沙織「好きな子で好子ちゃんと愛している子で愛子ちゃんは?」

天乃「沙織の候補は、それでいいの?」

沙織「……もう少し考える」


では、本日はここまでとさせていただきます
明日もできれば、お昼ごろから



天乃「ちなみに、ほかに考えてたことはないの?」

沙織「月のように優しい温もりをってことで、優月」

天乃「どうして月なの? 陽乃さん?」

沙織「久遠さんは、あたしにとっての太陽だからだよ」


では少しずつ


沙織「子供の名前の考え方って、色々あるんだよね」

天乃「特別な意味を込めるとかでしょう?」

沙織「そうだね、久遠さんのお兄さんやお姉さんは自然に関してつけられてるよね」

天乃「そうね。私も一応、天だし」

天乃のつぶやきを耳に残しながら、沙織は考え込む

憧れている人、天乃

自然に関して、天乃

別に、天乃の名前を使うことに一切の抵抗はないが

それはみんなも同じで、みんなも考えることだろう

天乃の子供というだけで愛するには十分な理由があるが、

その名前が自分の考えたものなら、

どれほど母として喜ばしいものかと、沙織は思う

沙織「出来る限り難しい感じは避けたいよね」

天乃「そうねぇ……沙織はどうだった?」

沙織「練習してたから大丈夫だったよ。それでも、最初は沙と織の大きさの差が凄かったけどね」


天乃「出来る限り簡単で、でも意味のある名前にするべきかしら」

沙織「どう育って欲しいかって意味だとやっぱり健康的に?」

天乃「元気よく」

沙織「えっちに」

天乃「こらっ」

迫力のない怒った声に沙織は悪びれもなく謝りながら笑う

天乃の子供だ

エッチな子になってしまうのはもはや性かもしれない

沙織「たとえば、元気な子にって願いと久遠さんの子供って意味で康乃―しずの―ちゃん」

天乃「私の名前は絶対なの?」

沙織「力を受け継いでるからね、それに負けないようにって意味でも名前を継ぐのをあたしはお勧めしたい」

天乃「なるほど」

沙織「八割くらいは、あたしの好みだけどね」

天乃「そんなに好き?」

沙織「大好き」

天乃「……無理に漢字じゃなくてもいいのよね」

沙織「照れ隠しに目を逸らすのも好きだよ」

天乃「話を逸らさないの」


沙織「じゃぁ、まじめな話。久遠さんの名前は使ったほうが良いと思う」

天乃「引き継ぐという意味を持たせるのね?」

沙織「そう。天乃……っ」

天乃「にやにやしないの」

沙織「えへへ」

照れくさそうに笑った沙織は、自分の手で頬をぐにぐにと押し揉む

それでもほころんでしまう頬を、口に押し当てた手で隠す

沙織「みゅふふ」

天乃「呼びたいなら、名前で呼んでもいいのに」

沙織「ん……それは姓が変わってから楽しむよ」

天乃「それならそれでいいけど」

笑みを浮かべる天乃に笑みを向け

中々整わない表情筋にため息一つ

追い込むようにつばを飲み込む

沙織「双子だから、天と乃を分けてそれぞれに」

天乃「二人で力を分け合ったから、二人で私なのね」

沙織「うん、久遠は姓になるからね、分けるなら天乃の方になる」


沙織「もちろん、絶対にそうしなければだめって理由はないよ」

天乃の名前を分けるのは、あくまで願掛けでしかない

それが実際に効力があるのかどうかは、不明だ

沙織「言霊というものもあるし、陽乃さんが決めた名前なら相応の効力があると思うしね」

天乃という名前は、

久遠家の中で最も力があるとされる子につける名だ

力が強いから、天乃という名前を付ける

聞いた話では、天を取り戻す存在となるための名前ということだが、

それは、力を持っているというだけで十分だろう

沙織「なんにせよ、久遠さんの思いが込められてれば力はあると思うけど」

天乃「私、優柔不断なのに任せるの?」

沙織「一緒に考えるよ。少し、時間頂戴」

天乃「みんなで考える時間を作ろうかしら」

沙織「それが良いかもね」

友奈のこともある。

友奈が万全に回復してから……というのが望ましいが

それは時間がかかりすぎる

せめて、会話できるほどには回復してからが良いかもしれないと、沙織は悩ましくつぶやいた


沙織「二文字じゃなくて、三文字の名前もいいんだよね」

天乃「私の名前に拘らなければ、樹達みたいに一文字もあるけど」

沙織「その辺りは、東郷さん達が考えてくれると思う」

天乃「沙織は考えないの?」

沙織「あたしの現代文の成績、分かるでしょ?」

天乃「数学と同じだったって覚えがあるわ」

沙織「余計に悪くなってる」

天乃「……絶望的ね」

沙織「留年したら退学する」

天乃「それ以前に、テストをちゃんと受けてなかったんじゃないの?」

沙織「……子供の名前を考えようよ」

逃げるように話を変えると、

天乃は追及するように目を向けて、瞼を閉じる

天乃「勉強できそうな名前にしようかしら」

沙織「久遠さんの子供なら、まず間違いなく出来るから大丈夫だよ」

天乃「だと良いけれど」


1、とりあえず、私の名前を使うのは良いと思うわ
2、沙織は誰なら良い案出してくれると思う?
3、考えすぎてもダメよ。今日は休みましょう


↓2


天乃「考えすぎてもダメよ。今日は休みましょう?」

沙織「眠れないんじゃないの?」

天乃「ええ……だから、傍に居て」

沙織「……そういうところ、悪いと思う」

天乃の差し伸べる手を掴んで、

引っ張られているかのように、ベッドへと体を寝かせていく

布団の上からでもその温かさが感じられる

眠らせるつもりが、微睡んでしまいそうな安らかさ

沙織「もう、ほかの女の子にはやらないでね?」

天乃「こんなことしないわよ」

沙織「似たようなことするから久遠さんは放っておけないんだよ」

誰にだって、優しい

誰にだって、甘い

それは天乃の良い所でもあるのだが、

一線踏み込んだ立場になってみると、

それがどれだけ危険な行為なのかと、不安になってしまう

その蜜のような甘さは癖になる

欲しくなってしまう


沙織「ねぇ、あたしがもしそういう関係じゃなくてもこういうことする?」

天乃「……どうしたのよ」

沙織「妬いてます」

天乃「どうして急に」

沙織「久遠さんがたらしだから」

顔をムッとさせた沙織は、天乃の体を踏まないようにと気遣いながら

その上に跨る

ゆっくり腰を下ろすと温められる下腹部が、心地よかった

沙織「誰とでも、する?」

天乃「流石に、誰とでもするほど節操ない人間だとは思ってないわ」

沙織「頼まれたら?」

天乃「今なら、断る」

沙織「どうしてもって言われたら?」

天乃「どうしたのよ」

沙織「答えを間違えたらエッチなことします」

天乃「私を殺す気?」

沙織「そんなつもりはないよ。大丈夫」


沙織「久遠さん、どう?」

天乃「どうって、言われてもね」

沙織の目をじっと見つめた天乃は、

その目が猿猴に囚われているものではないことを確認して、息を飲む

少なくとも、沙織は正気だ

ただ、悪戯ではない

天乃「そんなに心配?」

沙織「これからは、その優しさが救いになってしまう」

天乃「救い? 誰の?」

沙織「この世界に生きてる人の」

神樹様による加護は次第に薄れ

人が人の力で生きていかなければならなくなるだろう

そんなところに、天乃のような人がいたら

心の支えにしたくなってしまう

天乃がどう思っていようと、なってしまう

沙織「久遠さんは優しすぎるんだよ」


1、大丈夫よ。特別な人にしかなしないわ
2、そういう関係じゃなくても、沙織になら
3、優しさを損なうつもりはないわ


↓2


天乃「そういう関係じゃなくても、沙織になら」

沙織「もーっ!」

天乃「っ」

猛った牛のように唸った沙織の手が、天乃の頭が置かれた枕の両端を叩き潰す

圧迫された空気が天乃の頭を少しだけ持ち上げて、抜けていく

天乃「沙織……?」

沙織「そういうところ、そういうところがダメなのっ」

今にも涙が滴りそうな潤んだ瞳

怒っているように見える眉の一方で、耳が赤い

沙織「なんでっ普通さっ、普通さ? 特別な人にしかしないとか、大丈夫とかそう言うよねっ!?」

天乃「さ、沙織……消灯時間……」

沙織「心はカンカン照りだよっ」

天乃「落ち着いて、ね?」

天乃の引き目がちな表情を見つめた沙織は、

天乃に任せそうになっていた腰を浮かせて、枕から手をどける

ドキドキと早鐘を打つ胸を押さえて、深呼吸

沙織「どうして、そんなこと言うの?」

天乃「そうなる前から、貴女が特別だったからに決まってるでしょ?」


沙織「……そのころに告白してたら?」

天乃「困っていたかもね」

沙織「独り占めしてた?」

天乃「さぁ? いなくなるのが嫌で、待たせ続けることになってたかも」

沙織「久遠さん、ほんとう……そういうところどうにかするべきだと思う」

天乃「待たせるのはやめるわ」

沙織「そこじゃないよ。分かってるよね?」

天乃「……ごめんなさい」

ぐっと、沙織の顔が近づいて

天乃は困り果てた表情で、ため息をつく

沙織が言いたいことは分かっているが、

天乃は別に何か謀っているわけではなく

聞かれたことに素直な気持ちを返しただけだ

沙織ではなく、同級生と言われればまた答えは違ったが

沙織が対象であれば、特別なことには変わりない

どうにかするべきと言われても、どうするべきなのかと言い返したいと、

天乃は飲み込んだ言葉を、頭に響かせる

言ったところで、状況が悪化するだけだと分かっているからだ


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば、通常時間から



沙織「なんでっ普通さっ、普通さ? 特別な人にしかしないとか、大丈夫とかそう言うよねっ!?」

千景「久遠さんが言うわけないわ」

東郷「絶対に言わないですね」

友奈「久遠先輩にとって特別なのは変わらないもんね」


沙織「あれ……味方がいない?」

夏凜「残念だけど、天乃への聞き方が悪かったわね」


では少しだけ


沙織「久遠さんは優しくて、凄くえっち」

天乃「えっちは余計だわ」

沙織「でも、事実だよ」

ゆっくりと腰を下ろしていくと、微かにベッドが軋む音がする

沙織の動きを警戒してか、天乃の足がもぞもぞと動く

布団の上に出ている天乃の手は、沙織の体を押し返す準備を進めているかのように胸の上

それが好機とばかりに、

沙織は天乃の脇の部分に手を置いて、力一杯に布団を沈み込ませる

少し厚めの布団が天乃の体に密着し、圧迫して

おぼろげながら、天乃の体を露わにする

天乃「待って、待って沙織……苦しい」

沙織「男の子は、もっと強引だよ」

天乃「分かる、それは分かってるわ」

天乃の手が沙織の腕に触れる

抵抗感はあるが、強い拒絶を感じない力に、

沙織は複雑な表情を浮かべると、そうっと手を引いて天乃の手を握る

沙織「突き飛ばさなきゃ」

天乃「出来ないわ」

沙織「そういう、ところだよ」


沙織「強くいけば、久遠さんは抵抗しきれない」

握った手を放し、静かに膝を立てる

天乃に覆いかぶさるような姿勢を取った沙織は

そうっと頬に触れると、優しく唇を重ねた

情欲に塗れていない接吻

名残を惜しむように、微かに淫靡な音が部屋に落ちる

ほぅ……っと、

思わず零れた吐息がぶつかって、また、唇が近づく

唇が閉ざされ合うのと同時に、瞼が閉じる

性的欲求に昂らない体は冷静で、頭も冴えている

けれど、相手を求める欲求は地に縛る引力のように天乃と引き合わせようとする

天乃「っは……はっ……だめ……駄目よ……」

沙織「そういう、切なそうな顔がね。久遠さんはえっちぃんだ」

天乃「っ……」

体のことを思えば、拒否しなければならない

けれど、心はどうしようもなくまぐわうことを求めていて

春潮のような温もりが体に満ちていく

沙織とて、これがしてはいけないことであると理解はしている

だが、心落ちた溶け込む飴色の瞳には抗えない


沙織「っふ……」

離れると、喉が鳴る

渇きを癒そうと唾を飲んだ先から渇く

それではだめだ、それは違うと体が訴える

同学年でありながら、二年下の樹にさえ抜かれるほどに小柄な天乃

しかしながら、胸元の膨らみは子供ではないことを強く示している

今は布団に覆われているが、

その都度、目にしてきた沙織にとっては布団など、あってないようなもので

けれど、そのはっきりとした境界線が

沙織の欲求に最後の一歩を踏みとどまらせる

唇が触れ合うと、熱くなる

もう少し、もうちょっと……そう、心がざわめく

胸の奥に巣食う妖怪の血が、悪魔のようにやってしまえと頬杖を突きながらにやにやと笑うのが見える

天乃が拒絶しないことが嬉しくて、拒絶してくれないことが、恐ろしい

唇が触れ合うたび、その浮足立っていた不安が落ち着きを取り戻すのを感じ

それ以上の多幸感に満たされて、ふわふわとした心地よさに惑わされそうになる

沙織「好き……大好き……好きなの……久遠さん……っ」

沙織の悲痛な想いが零れ落ちていく

点々とした痕を布団に染み込ませて、消えるそばから上書きする



1、私もよ……私も好きよ
2、ごめんなさい、不安にさせるつもりなんてなかったの
3、私があまりにも優柔不断だったから……怖かったのね
4、そっと、抱きしめる
5、頬に触れる
6、何もしない


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



友奈「久遠先輩が他の誰かに盗られちゃうんじゃないかって不安、分かる気がする」

樹「そんなことはない、絶対に傍に居てくれるって、分かってるんですけどね」

友奈「久遠先輩、押しに弱いというか……少し我慢すれば救えるならって考えちゃうから」

樹「今回は沙織さんが相手だからってだけだと思いますけど」

夏凜「流石にもう、自己犠牲的な考え方はしないでしょ」


風「……さて、どうだか。千景辺り差し向けてみる?」

千景「お願いだから巻き込まないで」


では少しだけ


天乃「沙織……」

天乃はそうっと声をかけると、沙織の肩に触れ

撫でるように滑らせて、沙織の体をゆっくりと抱き寄せる

膝をついている抵抗感はあるが

それ以上の抵抗は一切なくて、簡単に体が重なる

灰茶色の髪が鼻先を掠める

清潔感を上塗りしたようなシャンプーの匂い

沙織の体の震えが腕の中から響いて

胸元をきゅっと握る弱い力が布団を引き絞って集めていく

沙織「久遠さん……」

天乃「沙織、そうね……そうよね」

くぐもった沙織のつぶやき

答える代わりに抱く力を少しだけ強めて、背中を擦る

天乃「ずっと、貴女は見てきたのよね」

沙織の涙は、何も、恋愛的なものだけではないはずだ

夏凜達だって見ていてくれたが、

それ以上に、沙織たち精霊は感じてくれていた

そして、精霊ゆえの繋がりは

天乃の死を、強く感じさせたことだろう


天乃「怖かったのよね」

いつ、死に絡めとられてしまうか不安で仕方がなかった日々

それはようやく終わりを迎えたけれど、

誰かに奪われてしまうかもしれないという心配は、これからも絶えることはない

沙織の好意を受け止めてくれる生きている喜びと

沙織の行為を阻もうとしない寛容さへの恐怖

天乃はただ、沙織が特別だからと受け止めているにすぎないが

それでも、沙織にとっては耐え難かったのだ

もう大丈夫、でもだからこそ。

天乃「確かに、私は貴女達が不安になるほど不器用だわ」

自覚しているなんて余計にたちが悪いと思われるだろうが、

自覚していても、それでどうにかできることではない

天乃「さっきも、貴女のことを想ってた。ただそれだけだった。それ意外に考えてることなんてなかったのよ」

沙織と深い関係でなくても触れ合うことは出来るのか。

沙織は、容易には触れ合えないとでも言ってほしかったのかもしれないけれど、

天乃にとって、沙織は特別な存在だ

ずっと支え続けてくれていた、傍に居てくれた

その沙織が求めるのなら、断る理由なんか無い。

そもそも、深くはない関係であること自体が、天乃には考えられなかった


天乃「もう少し、ちゃんと考えてあげるべきだった」

それでどうにかなるのかと言われれば、

どうにもならないと、山びこさえ逃げ出しそうではあるが。

相手の好意に気付くことは出来るし、それを断る術も今ははっきりと浮かぶ

天乃「でもね、私は本気よ。特別に思ってる。ずっとね。ずっと」

一言一言、はっきりと口にする

会話の流れを啄むようで不安定にはなるが、

今の沙織に聞き留めて貰うことを優先する

抱きしめる沙織の温もりが、体を包む

傍に居てくれること、触れることが出来る事

感じる温もり、満ちる匂い

その大切さと尊さは、

奪われてしまう可能性を知っている天乃にも重く、込み上げてくるものがある

天乃「だから、貴女のことなら私は何度だって同じように言うわ」

言うと思う。とは言わない

言うのは絶対だ。その自信がある

そういうところだと沙織は思うかもしれないけれど

それが天乃なのだから仕方がない


不器用だから、甘いから。

もしかしたら、誰かが求める言葉を囁いてしまうことはあるかもしれない

それが引き金になって、距離を詰めようとする人も現れるかもしれない

だけど。

天乃「それを、誰にでも許すわけないじゃない」

沙織「でも」

天乃「その気持ちは、嬉しいけどね」

信じて。ではなく、嬉しいと、微笑む

それは、沙織の想う気持ちがとても強く大きくて

沙織の、誰もが同じような気持ちになるだろうという天乃という存在への自信ゆえの不安を感じるからだ

天乃は頬を染めそうな羞恥心を押し込んで

胸にうずまる沙織の顔を少しだけ、持ち上げる

天乃「沙織は、ほかの誰にでも出来る?」

沙織「っなぃっ」

必死な否定は言葉らしい言葉ではなく、

悲しさに溺れた声はみっともなく沈む

けれど、天乃は笑みのままで、沙織の体をもう少しだけ抱き寄せて、

頬に頬が触れ合うほどに距離を縮める

天乃「私もよ……なんて、いっぱい相手がいる私が言えたことじゃないけど」

でも。と、沙織の体を抱く右手の一方、左手で頭を撫でる

天乃「そのみんな以外には、出来ないし、したくない」

沙織「久遠さん……」

天乃「でも、それっぽいことやらかすかもしれないし、その時はお仕置きも甘んじて受けるわ」

出来る限り悲しませないようにするけど。

そうは言いつつ、やらかさないと自信を持って言えない自分に、

天乃は苦い笑いを浮かべた


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


沙織「お仕置きしていいの?」

天乃「されるようなことしちゃったらね」

沙織「多少きつくても?」

天乃「ええ、仕方がないわ」

少しだけ気を取り戻した沙織の調子のいい声に

天乃は柔らかく答える

後の自分が困りそうなものだが、

沙織の悲しむ姿を見た後では、それだけのことをしたのなら

多少、きついお仕置きだって仕方がないだろうと天乃は思う

天乃「その方が、私も軽率なことは控えると思うし」

沙織「……どうだろうね」

天乃「どうかしらね」

沙織の背中を擦ると、子供をあやしているような気分になる

沙織にそれを言うと、ちょっとむくれるか逆に喜ぶか。

どちらでもあるので、聞くほかないが天乃は口を閉ざす

答えは得られるが、得があるとは思えない


天乃「落ち着いた?」

沙織「……ごめん」

天乃「嫌われてないだけで、充分よ」

沙織からのアプローチは多いのに、

天乃はそこまで応えられていないし、しっかりと返せているわけでもない

むしろ、沙織に嫌われる可能性さえあった

そんな中で、想いが爆発した衝動的なキスと、叫び

唐突で、体のことを考えて拒否もしたが、

沙織が謝るようなことではない

それこそ、自分が謝るべきだろうと、天乃は沙織に首を振る

天乃「私の方こそ、体のことがあったとはいえ蔑ろにしすぎてたと思う」

沙織「そんなことないよ……久遠さんは頑張ってくれた。体のことがあるのに、一生懸命応えてくれた」

沙織自身、物足りないと思うこともあるが、不満があるわけではない

今回のことだって、別に天乃を困らせたかったわけじゃない

天乃の体がちゃんと動くから、そこにいると感じられるから

高まった気持ちは温まったまま、

天乃が奪われてしまう不安にまで、飛び火した

沙織「なのに、あたし……凄い我儘言った」

天乃「好きなことくらい、我儘で良いじゃない」

沙織「そういうところ……そういうところなのっ!」

もし、天乃に恋人がいると分かっていながら恋をしてしまった人がそんなことを言われたら

諦められることも、諦められなくなってしまう

沙織「久遠さん全然わかってなぃぃ」

嗚咽をこぼす沙織は、さっきよりも強く天乃に向かって頭を押し付けた

1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(戦闘)
・   犬吠埼風:交流有(戦闘)
・   犬吠埼樹:交流有(戦闘)
・   結城友奈:交流有(戦闘)
・   東郷美森:交流有(戦闘)
・   三好夏凜:交流有(戦闘、神樹様を救う)
・   乃木若葉:交流有(戦闘、責任とって)
・   土居球子:交流有(戦闘)
・   白鳥歌野:交流有(戦闘)
・   藤森水都:交流有(戦闘)
・     郡千景:交流有(戦闘)
・ 伊集院沙織:交流有(戦闘、特別)

・      九尾:交流有(戦闘)
・      神樹:交流有(共に朽ちるまで)


2月12日目 終了時点

乃木園子との絆  109(かなり高い)
犬吠埼風との絆  135(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  118(かなり高い)
結城友奈との絆  149(かなり高い)
東郷美森との絆  146(かなり高い)
三好夏凜との絆  170(最高値)
乃木若葉との絆  114(かなり高い)
土居球子との絆  60(中々良い)

白鳥歌野との絆  58(中々良い)
藤森水都との絆  51(中々良い)

  郡千景との絆  63(中々良い)
   沙織との絆  149(かなり高い)
   九尾との絆  81(高い)

    神樹との絆  ??()


√ 2月13日目 朝  (病院) ※月曜日


01~10 沙織
11~20
21~30 風
31~40
41~50 樹
51~60 夏凜
61~70
71~80 園子
81~90
91~00 千景


↓1のコンマ


√ 2月13日目 朝  (病院) ※月曜日


カーテンの隙間から、明るい日の光が入り込んでくる

昨日の大きな災害がまるでなかったかのように清々しい朝

昨日から続いている状況把握のための調査の音が各所から届く

まだ、目にすることは出来ていないが、

神樹様が天乃に取り込まれたことで世界を囲んでいた壁はなくなり、

勇者によって天の神の化身が討たれたことにより、

閉ざされていたかつての世界が外には広がっているだろう

天乃「考えなきゃね……」

隣で眠る沙織の髪をふんわりと撫でながら呟く

当然ながら、一般の人々も外に調査に行くだろうが、

天乃の精霊である若葉達も外に行く予定だ

今の世界に生きる人々より、若葉達西暦の勇者の方が外には詳しい

特に、壊れた後の世界を、実際に目にしてきた若葉達は

残されている資料以上に把握している

沙織「……ふふ」

天乃「ふふっ」

起きていないのに、嬉しそうな声を漏らす沙織

天乃は微笑んで一瞥すると、扉の方へと目を向ける

天乃「入って大丈夫よ」

はっきりと届く声で呼びかけると、

思いがけずかけられた声に驚いて引いた足音が天乃の耳に届く

コンコンっと小さなノックが聞こえ、樹が入ってきた

樹「お邪魔しま……あっ」

天乃「いらっしゃい。沙織がいるけど、気にしないでね」

樹「いいんですか?」

天乃「ええ、大丈夫」


大丈夫と言われても……と、申し訳なさそうに沙織を気にしながら

樹は来客用の椅子を起こして、座る

少しぎこちなさを感じる樹の仕草を横目に見ると、

天乃は沙織に触れていた手を休め、樹へと目を向けて微笑む

天乃「夜に呼んだのよ」

樹「よ、夜……ですか?」

天乃「ええ」

樹「夜、ですか……」

問いかけるというよりは、思案するような呟きを零すと

樹はポッと顔を赤くして、体を縮こませる

樹はまだ中学一年生と勇者部の中でも最も幼いが、

それなりに性的な知識を会得している

それだけなら姉である風よりも上になりそうな樹は、ごくりと息を飲む

樹「し、したんですか?」

天乃「した……? キス? なら、したけど?」

樹「あ、はい」

疑問符が浮かんでいるのが目に見えた樹は、

天乃の反応からして、まずそこにたどり着いていないと察して、すんっと背筋を伸ばす。

一人先走っていたことに気付いたせいか、顔はより一層赤くなっていた

樹「すみません、何でもないです」


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



東郷「着衣に乱れがないからそれはないわ。大丈夫」

東郷「不安なら、匂いがあるはずだから部屋に入ったら深呼吸するの」

東郷「消臭や芳香剤の匂いがしたら、隠したいにお――」

風「いや、来客があるときは大体やってるから偏見もいい所よ、それ」


夏凜「じゃぁ園子、よろしく」

園子「えっ?」


では少しずつ


樹「久遠先輩、お体大丈夫ですか?」

天乃「樹の方こそ大丈夫なの? 呪いは?」

樹「消えた……と、思います」

左手で自分の胸のあたりに触れた樹は、

ボタンをいくつか外して、肌着の襟首を伸ばして見せる

樹「刻印は、もうなくなってるんです。昨日の戦いの後も、ここに来るときも何もありませんでした」

天乃「そうね……確かに」

じっと目を凝らす。

樹が言うように、天の神からの刻印のようなものは見えないし

樹からは、その類の穢れた力は感じられない

勇者として神樹様の力を授かっていたころの神聖さもない

本当に……ただの少女でしかなくなっていると天乃は感じた。

天乃「呪いはないわ」

樹「久遠先輩が見て大丈夫なら、大丈夫ですね」

天乃「嘘をついてるって、思わないの?」

樹「嘘をついても解決することじゃないですから」


伸ばした襟を戻してボタンを閉めると

樹はじっと見つめる天乃の目を見つめ返す

ここで大丈夫と嘘をついても、何か解決するわけじゃない

樹を安心させるために嘘をついて、

他のみんなで何とか解決しようとしている可能性もないわけではない

けれど、そんな解決方法を天乃が取ると、樹は考えなかった。

樹「久遠先輩は優しいですけど、そういう優しさじゃないですよ」

天乃「そうかしら」

樹「そうじゃなかったら、みんながみんな久遠先輩を好きにはなれなかったと思います」

特に、夏凜はそうだろう

厳しい現実から相手を庇い続けて、

何事もなかったかのように終わらせてしまう

そんな、独りよがりな優しさだとしたら、

少なくとも、夏凜は顔を顰める

樹「久遠先輩は、言葉を選ぶかもしれないですけど……ちゃんと教えてくれる人です」

まだ救われてはいないと。

まだ問題は残されていると。

けれど、何とかするから大丈夫。

みんながいるから、みんなで考えましょう。と

そのうえで共に糸口を探そうとしてくれる優しさだと、樹は思っている。

樹「だから、大丈夫だって信じます」


実際、出歩いても問題はなかった。

戦いの前の息の詰まるような苦しさもなければ、

出歩いているときの不安もない。

だから大丈夫だろうと安心はしていたが、

素人目で大丈夫だから絶対に安心できるというわけもなく、天乃に見て貰ったのだ。

もちろん、樹がここに来た一番の理由としては天乃の体調だが。

樹「それより、久遠先輩は大丈夫なんですか?」

視界の端に沙織を捉えながら、問いかける。

沙織が、天乃と夜を共にして何もしなかったというのが不穏だった。

助かったことに喜ぶあまり何もなかったのかもしれないし、

それならそれで――

樹「っ」

ぱんっとほほを叩く

だとしたらどうなのかと明後日に駆け抜けてしまいそうな思考を痛みで止める

樹「久遠先輩が大丈夫なら、沙織さんがキスだけで終わるとは思えないので」


1、ふふっ沙織をもう少し信じてあげて
2、あんなことがあったばかりだから、それだけで諦めて貰ったの
3、あら、樹はそれだけで満足してくれるの?
4、今度何かあったらきついお仕置きもして良いって条件付きだもの


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


風「さて、問題です。いっつんは次の内、どれを言うでしょーか」

風「1、そんなことしなくても大丈夫です。2、そうですね、大丈夫です。3、……分からないです」

園子「はいはーい! モジモジしつつ、頬を赤らめて目を逸らしながらの3番!」

風「はい残念、正解は――」

東郷「知りたければ教えますよ。体に。と言って押し倒す。でした」

園子「ふぉーぅ! ありだよわっしー!」


風「とめて」

夏凜「言い出しっぺが悪い」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば、少し早い時間から


では少しずつ


天乃「あら、樹はそれだけで満足してくれるの?」

樹「久遠先輩次第ですね。して良いか聞くかもしれませんが、駄目ならしません」

しっかりと答えてくれた樹だが、

勉強せずに埋め込んだテスト用紙のような正答率に、天乃は樹を見る

瞳は伏せずに、見返している

しかし、その強かさとは裏腹に、唇は【間違った】と固く結ばれた

樹「………」

天乃「満足は……できない?」

樹「その、えっと……」

樹は少し考える素振りを見せたが、

天乃から目を放すと沙織を見て苦笑する

樹「満足できるかできないかで言えば……そうですね。出来ません」

天乃「樹にも、我慢させちゃってたのね……」

樹「いえ、それは仕方がないことだと思いますから」

天乃がその時必死だったのは樹も良く分かっているし、

死ぬかもしれないという状況下で溜まった欲求の清算など求めるというのなら、

そんなの、愛しているとは言えないと、樹は思っている

樹「それとこれとは、別です」

天乃「別……?」


天乃の困惑に満ちた呟きに、樹は頷く

外の明るさが陰ったように錯覚する厳粛さのある空気が満ちる

樹はふっと息を吐くと、沙織に落としかけた視線を天乃へと向ける

恐らくは、沙織の同じ気持ちなのではないかと空想し、口を開く

樹「緊張が解けたというか……いえ、解けてはいないんですけど、解いてもいいくらいには、取り戻せたじゃないですか」

天乃「そうね……供物も、世界もようやく」

樹は満開を使わなかったおかげで供物として持ち出されたものはなかったが、

東郷達が持っていかれた供物としての身体機能を取り戻すことが出来た

神樹様の力があってこそだが、天乃の体も取り戻せた

そんなみんなの頑張りで、西暦時代に奪われた世界を取り戻すことが出来た。

ならば、そろそろ重いお役目から解放されても誰も文句はないだろう

樹「だから、その……わ、笑わないで欲しいんですけど」

緊張感に勝る恥ずかしさに頬を染めた樹は、

小栗と喉を鳴らすと、わずかに捩った太腿の上の手をきゅっと握る

樹「……解放的な気分になりたいんです。やっと終わったんだって、もう大丈夫なんだって」

天乃「それって――」

樹「それが一番感じられて、幸せな気持ちになれるのって、やっぱり……そういうのじゃないですか」


恥じる樹が愛らしいと思う一方、

普通にデートするのではやっぱり満足できないのかなと、

天乃は自分との感覚の違いを感じて目を細める

穢れによる過剰な性的欲求が収まった反動なのか

そもそも、そこまで体を求めるほどのものではなかったのか。

それとも……やりすぎてしまったか。

倦怠期に入るには若すぎる天乃は、それじゃなくちゃダメなの? という言葉はかみ砕いて飲み下す

天乃「そうね、私もキスするの好きよ。温かいし、生きてるんだって感じられる」

自分の唇に触れた手を胸元に落とす。

酸素も、食事も

全てが喉を下って胸の奥に届くからか、

天乃にとって、キスは胸の内にある心臓に良く届く。

天乃「ドキドキすることも、落ち着くことも出来て……それを感じることのできる幸せが嬉しくなる」

樹「久遠先輩……」

天乃「そうね。分かるわ……全部終わったのにキスの一つもできないんじゃもどかしい」

天乃は笑みを浮かべると、

胸の上の手を沙織に下ろして、髪を撫でる

天乃「満足できるか。なんて、失言だったわね」

樹「……いえ」

答えは否。

それは分かり切っていたことだった。


天乃「失礼を承知で聞きたいんだけど、樹がそうならみんなもそうだって思う?」

樹「絶対とは言えませんが、そう思う人も少なくないと思いますよ」

ただ、夏凜はどうだろうかと樹は悩む。

夏凜は性的な接触よりも、天乃と寄り添うことに重きを置いている

もしかしたら、一緒に鍛錬をしようと誘うだけで十分かもしれない

それで、無理は体に響くなんて言いながら、プライドで押し殺した嬉しさの滲む笑顔を見せるのだ

樹「……別に、私もエッチなことじゃなくちゃダメなんてことはないです」

天乃「普通に映画を見に行くとか?」

樹「学校に行くだけでもいいです。一緒に登校して、お昼は部室に集まって――」

天乃「樹……」

樹「放課後は部活、下校、それで……うどんを食べて……」

心に嘘をついているわけじゃないと、目元を拭う

先輩後輩として、出来るはずだった当たり前のことを

学生として、日常であるはずだったたったそれだけのことを

――したかった。

それが出来たのは、ほんの短い間で、

せっかく満足に出来るようになったのに、天乃はもう学校からいなくなってしまう

樹「ごめんなさいっ、ちがぅっ……違うんですっ」


1、ありがとう
2、頭を撫でる
3、じゃぁ、それは高校生活の楽しみにしましょう
4、OGとして、学校には行かせてもらうつもりよ

↓2


天乃「じゃぁ、それは高校生活の楽しみにしましょう」

樹「え……でもっ」

天乃「為せば大抵なんとかなる。でしょ?」

推薦や一部選抜試験はとうに終わってしまった

場所によっては、今日が合格発表だったところもあるだろう。

しかし、まだ一般が残っている

なんなら、来年以降だってある

病気などの理由で入学が遅れた生徒を嘲笑するような人はいないし

いたとしても、天乃はともかくその周りが許さないだろう

天乃「一緒の高校に行けば、またできる。部活は……そうね。また作りましょう」

樹「駄目ですっ、それはっ、だって……子供がいるんですよ?」

天乃「なんとかする」

樹「出来ませんっ」

天乃「出来る出来ないじゃない、するのよ」

樹「っ……」

天乃「当然、子供にだって嫌な思いなんてさせない。寂しい思いなんて……絶対にさせないわ」


我儘、強欲

けれど、天乃はそうすると言い切る

産んでからというもの―体調のせいではあるが―子供には殆ど接することが出来なかった

母乳だって、搾乳するというやや強引な手段で与える程度で、

水都の感覚では不足していると言われてしまうような始末

子不幸な駄目親だが、これからは子供にそんな思いはさせたくないし

看護師をママ。となんて呼ばせたくない

それでいて、みんなの望みを叶えようというのだ

無茶が過ぎるのではないかと、思うが。

天乃「ようやく戻れたのよ? 私だって、学生らしい青春したいわ」

学生の前に母親であることはもちろん、忘れずに。

学業との両立が出来るのかどうかは分からないが、考えてみればいい

たとえば、家から一番近い高校にする。

高校のすぐそば……それこそ、隣接した場所に借りるか建てるか。

それで、ちょっとした時間に戻ればいい

天乃「部室で食べるのは……ちょっと、難しいかしら。学校にお願いして、赤ちゃんを……ううん、それはさすがに危険だわ」

樹「……本気、ですか?」

天乃「冗談では言わないわよ。さすがに」


天乃だって、それが難しいことだということくらいは分かっている

少なくとも、想像で出来るかどうか語るだけで済ませていいようなことではなく、

入念な想定と、確認をして

必要な準備をそれこそ、余計なくらいにして

それでようやく実行に移すべきことだと、天乃は思っている

けれど、それで諦めるようなら、

ここに来るまでに絶望して、死んでいる

天乃「私達は絶対に無理だって思えるようなことを、やり遂げたのよ」

運が味方をしてようやく。と言ったところでもあるのだが、

それでも、乗り越えることが出来た

だからといって慢心する気は毛頭ないが

人間として―普通であるかはともかく―起こり得る苦難から逃げる理由はもっとない

天乃「普通の人なら諦めるかもしれない。でも、私達は諦めないからここにいる。でしょう?」

樹「なるべく、諦めない……ですか?」

天乃「ええ」

樹「無茶苦茶です」

天乃「そうね」

樹「でも、だから今があるん……ですよねっ」

無茶苦茶で、無謀で

でもだからこそ。

いや、だとしても。と、思い続けたからこそ手に入れた勝利が、目の前にあるのだ。

樹「諦める前に……みんなで、考えてみましょう」

天乃「ふふっ、我儘で悪いわね」

樹「ほんとです」

樹は素っ気なさそうに返しつつも、困り顔の笑みを浮かべて見せた


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日は出来れば、お昼ごろから



風「……ん? 待って、嫌な予感がする」

夏凜「これで風が落ちたら笑えるわ」

風「止めてっほんとっ、落ちる気しかしない! 来年、来年にしましょ!」

夏凜「同級生になるけど?」

風「あっ」


友奈「……そうしたら、久遠先輩じゃなくて、天乃先輩でもなくて……あ、うっ、うぅっ」

東郷「想像して赤くなる友奈ちゃんも可愛いけど、いずれは先輩じゃなくなるから、慣れないとね」


では少しずつ


樹「でも、久遠先輩は大丈夫かもしれませんが……お姉ちゃんが」

天乃「風だって馬鹿じゃないわ。大丈夫よ」

樹「勉強できていない期間が長すぎると思います」

二年生から三年生に上がってすぐだ。

勇者と学生を兼任するようになって

戦闘のダメージや、満開による後遺症などによって、

次第に学生としての本業から遠ざかることになってしまっていた

そして、ようやく勉強出来るという段階で発生した巫女の生贄問題に、

それによって被った、天の神による呪い

気付けば二月

長く見積もっても一ヶ月あるか無いか

樹「お姉ちゃんは大丈夫って言ってますが、多分……難しいかなって」

お姉ちゃんには言えませんけど。と

樹は苦笑いのまま、目を伏せる

嫌味でも皮肉でもなく

現実的に、進学は難しいと樹は思っているのだ

もちろん、受験する高校のランクを最大限落とせばどうにでもなるだろうが、

それが、風の望む結果じゃないことは明白である


樹「久遠先輩は、お姉ちゃんと同じ高校に行くんですか?」

天乃「そうねぇ……考えてないのよね」

樹「この時期に何も考えてないって言ったら、怒られますよ」

状況的に仕方がないけれど。

樹はそれが分かっているからか、

皮肉と愛らしさを混ぜ込んだ呟きをこぼすと、

すぐ横の沙織に目を落とす

樹「沙織さんは進学するんでしょうか?」

天乃「さぁ? 精霊でもあるから……なんて、私の後を追いかけると思うわ」

樹「冗談ですか? 本気ですか?」

天乃「半分本気」

冗談っぽく笑いつつ、

沙織なら実際にそうしかねないだろうと、天乃は沙織を見る

今だって、実は起きていて話を聞いて進学に切り替えていこうとしているかもしれない

樹「バラバラに、なっちゃうかもしれません」

天乃「進学って、そういうものじゃない……のかしら。ごめんね、分からないわ」

進路で悩み、

友人、恋人、その他もろもろ

色んな関係を含めて進路を悩む学生らしさを、天乃は知らなかった


樹「一年生は、まだ……特に考えてる人はいませんでした」

天乃「そうね、私の頃もそうだったわ。二年生になっても、まだうすぼんやり」

考えてる人もいるには居たが、

大半が、まだ完全に定まっているという様子はなかった。と、

天乃はあまり色濃くない二年生時代の学校生活を探る

天乃「でも、そうねぇ……みんなで部活は、みんな一緒の必要があるわ」

樹「久遠先輩は、みんなが一緒の方がいいですか?」

天乃「難しいことよね」

我儘だけで言えば、

みんなが一緒の方が良いかもしれない

けれど、学力的な問題も含め

それはとても難しいし、どうしようもないことだってある

樹「頑張ったり、少し諦めれば何とかなるかもしれないですけど、それでいいんでしょうか?」



1、そこはみんなで考えましょう
2、それぞれ、望むように進むべきなのかもね
3、ちなみに樹ならどう選ぶ?
4、良くないと思うわ


↓2


天乃「そこはみんなで考えましょう」

樹「そうですね」

そうですね。と樹は言ったが、

みんながなんていうのかは、大体想像がついている。

中学時代に、あれだけ男女問わず目を向けられた人が、

高校生になって目を向けられないはずがない

だから、沙織は言うだろう

同じ学校に行きたいと。

夏凜も、東郷も、友奈も、園子も

心配だからと、同じ進学先を目指すことだろう

枝分かれする将来ではあるが、

きっと、いくつも絡み合ったものになる

天乃「どうかした?」

樹「いえ、んとなくみんなの答えがわかる気がして」

天乃「あら、事前に教えて欲しいわ」

樹「考えればわかることですよ」

天乃「……情報は出揃ってるってわけね」

樹「多分、久遠先輩には難しいですけど」

頭の良し悪しではなく、

ただ単純に、それを向けられる側の人間だから、難しいのだ


天乃「意地悪なこと、言うのね」

樹「嫌味のつもりはないです」

天乃「嫌味っぽかった」

樹「ムッとしないでください」

天乃「馬鹿にされた」

樹「……久遠先輩」

嫌味のつもりはなかった―皮肉ではあった―が、

ムッとした顔をされると、謝りたくなくなる

わざとらしくそっぽを向いて、

布団の上の手が、力が籠ったせいか布団を押し込む

押し込められた布団は天乃の着込む患者衣を巻き込んで、ただでさえ主張の激しい胸部をより大きく見せる

樹「……そういうところなんだけどなぁ」

天乃「そういうところ?」

樹「えっ」

聞こえない程度に呟いたはずなのに、返って来た反応

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった樹を、天乃は楽しそうに見つめる

天乃「耳が良いのよ。忘れてたでしょ?」

樹「あ、はい」

ムッとしてから一転、満面の笑みを見せる天乃に、

樹はバレないようにと心の中でため息をつく

天乃は無防備なのだ。とても

だから、みんなが放っておけない。色んな意味で


樹「ちなみにですけど、体の調子はどうですか?」

天乃「話逸れてない?」

樹「本筋です」

天乃「……怒ってる?」

樹「体調が悪いの隠してたら、怒ります」

茶目っ気の少ない樹の目を見つめる

嘘は言っていない

ただ、不満を感じた天乃はふと息を吐く

天乃「体調は悪くないわ。本当よ」

樹「眠いとか、怠いとかもありませんか?」

天乃「うん、前みたいな感じはない」

水都達の助力もあってか、力の安定感も悪くない

激しく動くことは避けるべきだが、多少なら問題はなさそうだ

樹「そうですか……それは、良かったです」

樹は少し考えて、手を引く

沙織がいなければ分からないが、いるからやらないべきだ

沙織も参加することに不満はないが、二人分は天乃が死にかねない

樹「沙織さんがいて、良かったです」

天乃「ん?」

樹「久遠先輩に、寂しい想いさせなくて済んだので」

本当は手を出さずに済んだからなのだが、

樹は取り繕い、笑みを浮かべた


√ 2月13日目 昼  (病院) ※月曜日


01~10 千景
11~20
21~30 大赦
31~40
41~50 夏凜
51~60 友奈
61~70
71~80
81~90 東郷
91~00


↓1のコンマ


√ 2月13日目 昼  (病院) ※月曜日


天乃「……まったく」

天乃が世界的に特別な存在だとしても、病院食が質素であることに変わりはない

二年も味覚のなかった天乃にとっては、

それでも十分すぎるほどに味の濃い食事ではあるが、

辛い物を好む感覚は、刺激に飢える

天乃「麻婆豆腐が食べたい」

愚痴を零しつつハンバーグを一口分削って箸で摘まむと、

精霊らしくなく、扉の方から千景が入ってきた

千景「不満そうね」

天乃「食べてみる?」

千景「ただでさえ足りないのが、さらに足りなくなるわ」

天乃「……そうね」

ハンバーグを一口含み、かみ砕いて飲み込むと

千景へと目を向ける

天乃「それで、どうしたの?」

千景「樹達から、見ておくようにって言われたわ」

天乃「どうして?」

千景「私なら、手を出さないからって」


千景「この数時間で何をやったのよ」

天乃「なにもした覚えはないわ」

千景「その何もしていないのが、問題なのかもしれないわ」

天乃「一人だけ特別扱いは、違うでしょ?」

それは確かにそうだ。

一人しか相手がいないなら問題はないけれど、

天乃のように複数人の相手がいる場合、

一人相手にしたら、それだけで済むわけがない

その波状が、結局はせっかく良くなった天乃を瀕死にする

天乃はそれを避けたいし、みんなも当然避けたいことだ

だからこそ、ここに千景が突き出されたのだが

それとこれとは、話が違う。

特別扱いしなかったことが問題なのではなく、

なにもした覚えがないという、無自覚さが問題なのだ

千景はその場にいなかったから見ていないが、

樹の「千景さんなら大丈夫」と、謎の安心感を押し付けられて大体察した

千景「苦労するわね、みんな」

天乃「そうね……戦いが終わっても、全てが元通りなわけじゃないもの」

千景「でしょうね」


千景「進学することにしたって聞いたわ」

天乃「ええ」

千景「共学? 女子校?」

天乃「そこまで決めてないわ」

千景「勢いだけで決めたんでしょう?」

天乃「やりたいって思ったの」

言い訳に聞こえるが、本心だ

千景が天乃を見ると、

天乃は千景を一瞥して、食事の手を先に進める

手の動き、腕の動き

口の動きも、上半身の動きも、

動かすことに違和感があるような感じはしない

千景「なら良いけれど、あまり皆を困らせない方がいいわ」

天乃「進学反対?」

千景「するなら、困らせない方がいいって話」


1、何を気を付けるの?
2、千景はどうするべきだと思うの?
3、みんなで同じ学校に行くのってどう思う?
4、学校がバラバラになったら、どうなるかしら


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば、お昼ごろから



千景「貴女達も苦労するわね」

夏凜「承知の上よ」

千景「進学、どうするか相談するつもりらしいわ」

東郷「満場一致の答えが返るだけですね」


風「樹、怒ってるでしょ」

樹「怒ってないよ。いつもの……天乃、さん? 先輩ってつけちゃダメかな?」

園子「学生の内は良いんじゃないかな」


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「学校がバラバラになったら、どうなるのかしら」

千景「私達も、学校はバラバラだったわ。乃木さんと上里さんのように同じ学校もあったけど、基本的にはね」

天乃「西暦時代のみんなよね? でも、勇者になってからは同じ場所だったんじゃなかった?」

千景「ええ。そう――だけど、私はともかく、高嶋さん達は仲良くできていたわ」

勇者になってからの寄せ集めで

最初は、そう、不和を齎す自分のような存在もいたし、

最期は、あんなことになってしまったけれど

でも、学校が違うからどうにかなってしまうなんてことはないと、千景は思う

千景「学校は関係ないわ。貴女達が、どうしたいかよ」

天乃「千景……」

千景「学校も、学年も別。だからお別れ。久遠さんは、貴女達はその程度の間柄じゃないわ」

天乃「それはそうだけど、でも、そう……かしら」

千景「みんなが自分を捨てるって?」

天乃「そんなことは思ってない。だけど、バラバラになったらみんなで一緒の学校生活は出来ないでしょう?」

千景「そうね。だけど、貴女の質問に答えるなら、どうにもならない……いいえ、スキンシップがもう少し激しくなるって言えるわ」


千景「貴女達の関係からして、進学先の違いで切れるような縁じゃない」

そもそも、最終的に結婚までするわけで

今までのように同じ家に住むことになるはずだ

そうなれば朝も夜も、休みの日だって一緒

だから、学校の中で過ごせない分のツケが夜に回ってくる程度だろうと千景は顔を顰める

千景「ただの部活仲間、ただの友人なら、学校が違ったら関わらなくなるかもしれないけれど、貴女達はない」

天乃「そんな強く――」

千景「断じて、ないわ。絶対にありえない」

天乃「……なに? なんで、みんなそんな怒ったような――」

千景「怒ってない」

天乃「じゃぁ、不満がある?」

ふぅ……とため息をついた千景は、天乃へと目を向ける

一目で不安だと分かる天乃の伺うような―意図しているかどうかはともかく―上目遣いの視線

見ていられなくて、目を背ける

千景「……不満もないわ。ただ、それくらい強く言わないと、久遠さんは本当に? って、陥りそうだと思っただけよ」

天乃「疑わないわよ。千景の言葉だもの」

千景「………」

千景に向けているようで自分に対しての呟きのような優しい声色

にじみ出て感じる嬉しさは安心感があって、千景は半歩下がってしまう

その場にいたら手を握られそうで、抱かれてしまいそうで

怖くはないが、それは何かしらがいけないと、思って。

天乃「千景?」

千景「……貴女は、人を信じすぎるわ」


千景「陽乃さんと違って、人を突き放そうとしない。受け入れてくれる。それは良いことだけれど……危ないわ」

天乃「だって、出来るだけ仲良くしたいじゃない?」

千景「その気持ちは……分からなくもないわ。けれど、貴女の接し方は人を誤解させる」

天乃「貴女も、沙織みたいなこと言うの?」

誰かにとられるだとか、どうとか。

千景はその関係の輪の中にいるわけではないため、

そこに固執するような考えは持っていないが、

関係者としては……少々微妙な気持ちになる

天乃自身にその気がなくても相手は抱く

とはいえ、下手なことを言っても

天乃はぎこちなくなるだけで、より悪化してしまうかもしれない

千景「出来れば、誰かと同じ学校に行くことを薦めるわ」

天乃「あら、どうして?」

千景「久遠さん一人じゃ不安だから」

天乃「……誰かを誘惑するとか思ってるわね?」

千景「するとは思ってないわ。してしまう。とは思ってるけれど」

天乃「同じようなことじゃないっ」

千景「っ!」


笑いかけ、瞼が閉じかけた千景の手を、天乃が掴む

手を引かれる形になった千景は、

天乃を引き摺り倒すことだけは避けようと、天乃の方へと倒れこんで、ベッドに手をつく

千景「あっ……ぶ、ない……でしょう?」

天乃「ごめんなさい、倒すつもりはなかったの」

千景「……倒れたのはわざとよ」

千景は天乃の手に触れると、

放すように促して、ゆっくりと体を起こす

手を置いた先が天乃の体のすぐそばだったせいか、裾を引っ張ったのだろう

天乃の上半身を覆う患者衣は少し、着崩れてしまっていた

千景「偶然を装えば、久遠さんに触れられるから」

天乃「……千景?」

そうっと手を上げた千景は、

天乃のはだけた首筋を撫でるように、頬に触れる

悪い手つきは、沙織たちの観察学習済みだ

天乃「あの……」

千景「久遠さん」

天乃「っ」

人差し指から、小指まで

親指以外の指で下あごのあたりを撫でながら、親指で唇の端をぐっと押す

僅かに唇が開くと、千景は静かに顔を近づけた



1、目を瞑る
2、駄目ッ
3、肩を押す
4、受け入れる

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



風「ドッキリプレートは?」

樹「ここにあるよ」

園子「突入カウント入りま――」

沙織「てりゃァッ!」ドゴンッ

東郷「後方支援は任せて!」


夏凜「誰かあの二人にドッキリだって話した?」

風「あっ」


では、遅くなりましたが少しだけ


天乃「ぁ……」

千景「……」

天乃の唇が動いたのを見て、千景は動きを止めたが

少しだけ体を引いたものの、

天乃は突き放すことも、飛びのくように離れることもしない

瞑るか開くか躊躇う瞼が揺れて――閉じる

千景「……そう」

天乃「んっ」

千景「受け入れてくれるのね」

耳元で囁いているような静かな声

ぶつかり合う吐息が、正確な距離感を感じさせる

天乃は唇を巻き込むように閉めて、舌で軽く潤す

恋人ではない千景ですら受け入れてしまうのは

沙織に言ったように、元々特別だからなのかと逃避すべく考える

思えば、千景とはこれが初めてではない

半年近く……正確には四ヶ月も前の話だ

あの時も、唐突だった

心構えが出来ているわけではないが、不意を突いて触れてきているわけではないからか、

不思議と――自覚できている受け身だった


千景「……」

目の前で、目を瞑る天乃

鮮やかな朱色に変わりつつある白い頬

みんなの助力で整えられている眉

本来は元気な唇は閉じていて、舐めたばかりの艶が隙間に覗く

本当は少し、驚かすだけのつもりだった。

こういう場面になったらどうするのかと、かつての事故を思い出させようと。

けれど、いざこうして近づいてみると受け入れてくれているようで

自分は違うのに良いのかと……踏み込んでしまいそうになる

誰にでも、そうするだろうか?

沙織への答えが嘘ではないなら、しない

なら――いや、だから、問題なのだ

それなのに受け入れられる自分はいったい、何なのか。

ぐっと、息を飲む

暑くないのに、汗が頬を伝うような感覚を覚えて

千景は少し、体を引こうかと考える

冗談よ。そう、言えば良いだけ。

たったそれだけの、初めから考えていたはずの言葉が中々出て行かない


01~10 する
11~20 しない
21~30 九尾
31~40 しない
41~50 しない
51~60 大赦
61~70 しない
71~80 する
81~90 しない
91~00 しない

↓1のコンマ  

ぞろ目、特殊


千景「……っ」

天乃の頬に触れていた手を肩へと撫で下ろして、押す

押し倒してしまわないように気遣った弱い力は、中途半端な距離を開ける

千景「冗談、よ」

天乃「……」

千景「冗談、だから」

自分の体へと戻るほどの力もない手が布団の上へと垂れ、引き摺る形で戻っていく

千景はそんな力のない手を眺めながら、唇を噛む

顔を見れないのは、なぜなのか。

天乃「……しない、の?」

千景「冗談って、言ってるでしょう?」

その気にさせてしまったせいか、天乃の声は寂しそうで

申し訳なく思うけれど、してしまったら何かが崩れてしまいそうで、したくはなかった

千景「まさか、貴女がその気になるとは……思わなかった」

天乃「それは……」

千景「……違う」

戻って来た手を、もう一方の手で握って、抱える

千景「その気にさせて、悪かったわ」

流石に軽率だったと、千景は顔を伏せた



1、何も言わない
2、千景も、私にとっては特別よ?
3、ううん、その気にさせたのは私――でしょ?
4、一度、したことあるから……


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から


では少しだけ


天乃「千景も、私にとっては特別よ?」

千景「またそう言うのね」

天乃「またって」

千景「誰にでもって言ったほうが良い?」

天乃「そんな……」

呟きをこぼしながらも、

否定しきらなかった天乃を、千景はゆっくりと見上げた

沙織にも言って、千景にも言って

たった二日で二度も言っている天乃は、それを知ってか苦い顔をしている

千景に限って言えば、完全な浮気だ

天乃「……私っ」

千景「分かってる。久遠さんは解っていてやる人じゃない。そんな、愚かじゃない」

天乃「……浅はかだわ」

千景「正直……」

千景は意気消沈した天乃を細く見つめると、

唇の端をきゅっと絞める

千景「そういう気持ちにさせた私が悪いわ。そんなことないって久遠さんは思うだろうけれど、させなければ言わなかったのだから」


千景「でも、久遠さんは間違えやすいのよ。ギャルゲー……と言っても分からないわよね」

天乃「ええ……ごめんなさい」

千景「言葉の選択肢を間違えてるのよ。全部が全部、というわけでもないけど」

ある意味では全く間違ってはいない、

しかし、こう言っていいのかは分からないが、

他人の妻である久遠天乃という女性が言うのは、間違っている

千景「好感度を満遍なく上げていたら、いつか後ろから刺されるわ」

天乃「刺されるほど弱ってはいないつもり……だけど、そうね。さっきも油断が過ぎたわ」

千景「……そうじゃない」

天乃「違うの? あの男の子の時みたいになるかもしれないって話でしょう?」

千景「違……わない……けど、待って」

その通りではあるが、そうじゃない

確かにあの件の男子生徒にされてしまったようなことや

あの男子生徒のような存在を作りかねないという意味ではそうなのだが、

千景が言いたいのはそうではなく―言葉を選ばなければ―見境がなくて刺されそうなのだ。物理的に

もちろん、この時代にそんな危うい人が一般人に紛れているかは別だけれど

男子生徒のふいうちがそっち方面に傾倒してしまわないとも限らない


千景「……そう、そう。あの悲劇を繰り返すことになる。かもしれない」

なんていえばうまく伝わるか。

悩んだ末に出した答えはあまりにも自信がなさそうで

千景は笑いそうになる口元を手で押し込む

結婚予定の恋人が―複数―いるし、子供もいる。

けれどまだ15歳になったばかり

しかし、子供は養子ではなくしっかりと血の繋がりがあって、経産婦

だが……天乃は純粋だ

相手の気持ちが分かっているのに分かっていない発言をしてしまう

千景「今回は私だけど、それがクラスメイトだったら? 進学先の先輩だったら?」

天乃「そこまで軽率なことは――」

千景「しかねないのよ。貴女は」

天乃「……そんなに?」

千景「そんなに」


困ったように言い返した千景は、

天乃が申し訳なさそうな表情を浮かべたのを見て、

自分が悪いと言っておきながら、天乃を責めてしまっていたと、顔を顰める

千景「やっぱり、久遠さんは誰かと一緒の方がいい」

天乃「……そうね」

千景「別に、貴女のすべてが悪いわけじゃない。切っ掛けが、無ければ……平気よ」

目を伏せる天乃から目をそむけた千景は

歯切れ悪く、応えて息を吐く

完全に、やりすぎた

樹達に任された手前、ただ、見守っているだけで良かったのに。と

進路の話をして、誰かと一緒の方がいいといって

その理由を……

千景はそこまで思い返して、首を振る

やはり、そこで軽率な一手を取った自分のせいだ


では途中ですが、ここまでとさせていただきます
明日もできれば少し早い時間から


では少しずつ


千景「勘違い、しないで」

天乃「私が特別でも千景は違うって話?」

千景「違うわ……うまく言えないけれど、久遠さんのその受け止める優しさはなくすべきじゃない」

天乃「沙織みたいに不安にさせて、千景みたいに困らせるのに?」

千景「でも、それで救われた人がいる。そうだったからこそ、救えたものもある」

天乃が言うように、不安にさせるし困らせることもあるだろう

けれど、それは一線を越えた先で行われるからであり、

そこに来るまでのことであれば、悪いことでもない

天乃の相手を想うばかりに、隣の的を射るような発言は注意が必要だけれど

それに対していちゃもんをつけて、頭ごなしに否定をして

天乃の長短両立する部分を崩すべきではない

それは、一線を越えてるみんなが対処すればいい話だ

千景「……正直に、言えば良いかしら」

千景は悩みつつ、零れ落ちる自分自身への問いかけを拾うように手を握り閉める

一度は、言うまいとしたが、

天乃相手に、その嘘は悪影響になるかもしれない


千景「私が困ったのは、久遠さんに相手がいるからよ」

天乃「そうよね、当然だわ」

千景「だけど、相手がいないなら……その、良いと思った」

相手がいないなら、あのまま流れに身を任せていただろう

注意喚起、悪戯

どちらが発端になるかは分からないが、

あの状況に至ったなら、拒否しない

千景「久遠さんはみんなを受け入れる。それは、とてもいいと思うわ」

出来もせずに言う人もいた

ただ、甘く囁くだけで誑かし、弄ぶ目的しかない人もいた

だけど、天乃は違う

誑かすし、甘く囁くし、優しく触れてくる

それで誘われてきた人を、天乃はちゃんと受け止めようとする。

有言実行、それはいい

千景「でも、貴女の時間も体も限りがある。無理をして欲しくないの」

天乃「千景……」

千景「私にとっても、久遠さんは特別よ。特別だからこそ、擦り減っていく貴女を見たくない」

そうならないように、止められる自分でありたいと、千景は想う


千景「特別と言って貰えたのは嬉しかった」

天乃「本当に?」

千景「嘘はつかないわ。分かるでしょう?」

天乃「……ええ」

天乃が頷くと、

千景は少し微笑んで握りしめていた拳を解く

千景「落ち込まないで、悩まないで。貴女は間違ってない。私が、受け入れてくれる方に動いてしまっただけ」

天乃「千景は悪くないわ。自分を責めないで」

千景「久遠さんこそ、自分を責めたりしないで」

天乃「………」

千景「………」

天乃が仕方がないと言いたげな表情を浮かべると

真似るように、千景も表情を見せて

天乃「いなくならない?」

千景「私は久遠さんの精霊よ。貴女の力が尽きるまで、私は貴女の傍に居る」

精霊ではなかったらどうなのか。

その愚問を天乃は問わず、千景は語らず

ただ、互いの目を見合わせた

けれど――キスは、しない


√ 2月13日目 夕方  (病院) ※月曜日


01~10 東郷
11~20
21~30 九尾
31~40
41~50
51~60 夏凜
61~70 友奈
71~80
81~90 大赦
91~00


↓1のコンマ


√ 2月13日目 夕方  (病院) ※月曜日


天乃「……」

千景はこれ以上、恋人は増やさないべきだと言った

力のせいかおかげか、

長寿になるだろう天乃に時間的制約があるのかは分からないが、

みんなにはあるし、体にも限りがある。

千景一人なら増えても大丈夫かもしれないけれど、

一人なら大丈夫。

そうやって増えていくことを、千景は止めてくれたのだ

天乃「ギャルゲー……だっけ?」

千景が初めに言った、ゲームのこと。

天乃は、それをやってみれば少しは間違いを犯さなくなるだろうかと、考える

相手を思う言葉をかけるのは間違っていない

しかし、かけすぎると……駄目になる

その境界線を知ることは出来るだろうか?


天乃「……千景に言えば、見繕ってくれるかしら」

恋人がいて、結婚もするのに

関わり方を知りたいからギャルゲーを選んで欲しい。

そんなこと言われたら千景も困惑するだろうと、天乃は苦笑する

天乃「でもきっと、仕方がないとか言って、選んでくれるのよね」

ただ、目先の問題と言えば、

やはり子供の名前についてだろう

みんなに聞こう聞こうと思いながら

別のことに頭がいって、話すことが出来ていない

まだ一人で歩くのには不安は残るけれど、

せっかく、動けるようになったのだ

手を借りて、無理のない範囲で、病室に行くのもありだろう

子供に会いに行くことだって、不可能じゃない



1、勇者組
2、精霊組
3、子供に会う
4、イベント判定


↓2


01~10 東郷
11~20 大赦
21~30 九尾
31~40 球子
41~50 歌野
51~60 夏凜
61~70 友奈
71~80 お兄、お姉
81~90 大赦
91~00 芽吹


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


どうしようかと考えていると、なじみの浅い足音がいくつか廊下を進んでくるのが聞こえて、身構える

夏凜達の足音は分かるし、

天乃の病室に来る医師も看護師も決まりがあるため、例外はない

だからこそ、聞き覚えがあるのかどうか迷う足音が聞こえた天乃は、

精霊をすぐに呼べるように息を飲んだが

扉を叩く音に続いた言葉に、誰が来たのかを察して眉を顰めた

天乃「良いわよ。入って」

「失礼いたします」

一人が仮面でくぐもった挨拶をし、後ろの数人が頭を下げる

病院にそぐわない装束を着込んだ団体

信仰対象である神樹様を失った大赦の面々だ

「か――」

天乃「そういうの要らないから、用件だけお願い」

「……かしこまりました」

天乃の見るからに不機嫌な表情が見えているのだろう

委縮した空気が、病室に流れて、天乃はより不快そうな目を向けた


「久遠様はお分かりかと思いますが、神樹様が失われました」

神婚をした場合にも、失われるような結果にはなる

しかし、その時は人々は神の眷族として認められ

これ以上、天の神によって苦しめられるようなことはなくなるはずだった

だが、天乃は神婚をせず神樹様を説得して、

眷族となるどころか契約をして自分の中に取り込んだ

「神樹様が人々の生きる灯となることを望むかのように、跡地は油田となったのです」

天乃「……一応、その辺りの情報は聞いているわ」

「久遠様は神樹様を説得なされた……私達が数百年かけてなお、果たすことのできなかった対話が、出来たのですね」

天乃「貴女達が出来なかったわけじゃなくて、私が出来るだけの話でしょ」

「久遠様は慈悲深いのですね」

天乃「……馬鹿にしてるの?」

「滅相もございません」

椅子に座らず、床に跪く神官達は地に頭をつけるほどに深く頭を下げる

謝れと言ったわけではない天乃としては、その仰々しい姿がより不快だった


天乃「結局、貴女達は何を言いに来たの?」

自分たちが出来なかったことを出来た

けれど、それは大赦の意に介さないことだったわけで

良いか悪いかだけで言えば、悪い方に傾くことだろう

だから長い前置きに興味はないし、

話を逸らすような無駄話を聞くつもりも全くない

天乃「用件って言ったのが悪かったわ。要点だけ話して」

「……では」

頭を下げていた代表らしき人が頭を上げ、天乃を見る

穴の見えない仮面なのに、はっきりと……視線を感じる

「久遠様、人々の導となる巫女となっていただきたいのです」

天乃「っ」

「世界を守護していた神樹様の壁が失われ、三百年前に失われたはずの土地が現れました」

静かな語り口調

押し付けるようなものではなく、懇願のように弱弱しい

「見慣れぬ汚染されたはずの土地、失われた神樹様という拠所……このままでは、世界は混沌の中に沈んでしまいます」

だから。と、すべての神官の目が向けられる

「どうか、人々をお救い下さい」



1、………
2、嫌よ
3、どうして、私なの?
4、狡いわ……最低よ


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は出来れば早い時間から


夏凜「……どうするの?」

風「天乃が嫌って言ったんだから、する事なんて一つでしょ」

樹「ようやくここまで来たんだよ。信念を貫くべきだと思う」

東郷「樹ちゃんもいい顔をするようになったわね……そう、その通り」

友奈「………」

東郷「友奈ちゃんだってきっと、そう言うはず」


では少しずつ


懇願する大赦の神官をじっと見降ろす

天乃からしてみれば嫌なことばかりだったが、

大赦はいつも本気だ

本気でそれが正しいと思って行動している

これだって、人類のためを思えばこそ……だろう

だが、天乃はゆっくりと目を閉じると、首を横に振った

天乃「嫌よ」

「久遠様!」

天乃「巫女って、今まで見てきたようなものじゃないでしょう?」

神樹様の神託を受けて、それをみんなに伝える。

それが簡単とは言わないけれど、

神樹様がいない今、そんな優しい話のはずがないのだ

天乃「巫女というより、教祖のような立場になるんじゃない?」

「……そう、言うこともできるかもしれません」

天乃「あら? 不本意? なら、導師様とでも言ったらいいの?」

人々の導となる立場と言うならば、

教祖様と同じくらいには適切だろう

もっとも、どちらにせよ、そんな立場になることはお断りだが。


天乃「私はね、高校に通いたいの。讃州にはろくに通えなかったけれど、今度はちゃんと学生をしたいのよ」

「久遠様、お言葉ですが今の世界には久遠様の御力が必要不可欠です」

天乃「だから、私は普通に生きようとしちゃいけないの?」

「久遠様……」

我儘を言わないで欲しい。

そう求めているかのような声だ

普通に生きたいというのは我儘で、特別

高校に通いたいなんてもってのほかで

どこか、宗教染みた部屋の中で一人空虚に生きているのが

久遠天乃にとっての普通だと言うのか

天乃「中学生になってから、さんざん譲歩してあげたじゃない。頑張ったじゃない。なのに、まだ、貴方達は物足りないの?」

「人類が救いを――」

天乃「人類? 人……そうね。分かる。分かるわ。困っているのも、苦しんでいるのも、理解が追い付かないことだってあるでしょうね」

「それがお解り頂けているのでしたら、久遠様、どうか」

天乃「……」

必死に求め、頭を下げる神官達を見つめながら

天乃は手の下にあった布団を固く握りしめる

天乃「嫌よ。絶対に嫌」

「久遠様!」


天乃「久遠様なんて言わないで!」

「!」

天乃「止めて、これ以上……お願い」

「………」

天乃の力強い声に驚いた神官たちは、

そこに怒りを感じてか、頭を上げたまま体を震わせる

天乃は神官達を見ていない

俯いて足元の方を見たままで、手は……血が止まりそうなほどに強く布団を握りしめている

天乃「後悔、したくないの……これで良かったんだって、終わりにしたいの」

「………」

久遠様。と、声をかけそうになった神官は、

その言葉を飲み込んで、喉を鳴らす。

なんて声をかけるべきか、迷う

これ以上怒りに触れれば願いは絶対に叶えて貰えない

そうなれば、人類は混沌の中に沈んでいく可能性が高い

神樹様に頼りきりだった神世紀という生き方が、今になって……首を絞めている


「……申し訳ございません。しかし、どのような経緯があったにせよ、人類が滅びずに済んだのは皆様のおかげなのです」

また怒鳴られたら。そう畏怖する神官は無駄に潤う喉に唾を流し込んで、

目もくれない天乃をしっかりと見据える

自分は神官だ

大赦の言いつけで、仮面は外すべきではないとされている

だが、相手がそれを望まないのならと、代表であろう神官は自分の顔を覆う仮面を外す。

仮面が自分を大赦の神官とするのならば

仮面のない自分は大赦ではなく、人類の中の取るに足らない人間だ

後ろに控える神官たちの動揺が背中から伝わってくる

禁忌を犯していると動揺している囁き声も聞こえてくる

けれど、代表の神官だった女性は仮面を戻すことなく床に置き、天乃を仰ぐ

「真実を知るからこそ、私は久遠様を久遠様と呼ばずにはいられません。それ以外の言葉など、ありえません」

天乃「それで?」

「……久遠様?」

戦いが終わった。

傷ついた勇者はいるが、命を失った勇者のいない最後の戦いだった。

それは勝利と言えるはずで、喜ぶに足る成果だったはず。

けれど、天乃はとても悲しそうな目をしている

力強かった声は弱く、儚い。

手で仰げば聞こえなくなってしまいそうなほどだ

天乃「それで、貴女の目には何が見えてるの? 神様? 仏様?」


「………っ」

本当の目で天乃を見て、問われ、息を飲む

自分の目に見えているのは、世界を救った勇者の一人である、天乃

神様のような力を持つが、神様ではない

当然ながら、仏様でもない

「久遠さ――」

天乃「良いわよ。別に、初めから分かってることだから」

察したことを察してか、天乃は拒否する

大赦は人類を救って欲しいと願い、導く存在となって欲しいと願った。

天乃は【人類?】と、呟いた

笑みはまるで含まれていなかったが、吐き捨てるように、馬鹿にするように

天乃「私の答えは聞いたでしょう? 出て行って」

「く――」

「失礼致しました」

仮面を外したせいか、後ろの一人が引き継ごうとした言葉に代表だった女性は声を被せて立ち上がる

「出直しましょう」

女性が仮面をつけなおして病室から出ていくと、ほかの神官たちも後を続く

天乃はその後姿を一瞥もせずに、一人になった病室で布団を抱きしめた


√ 2月13日目 夜 (病院) ※月曜日


01~10 友奈
11~20 球子
21~30
31~40 東郷
41~50 千景
51~60
61~70 夏凜
71~80
81~90 九尾
91~00


↓1のコンマ


√ 2月13日目 夜 (病院) ※月曜日


運び込まれた食事に手を付けることもなく

ただじっとしている天乃の前に、それは突然姿を見せた

看護師らしくナース服を身に纏ってはいるが、

金色の長い髪は纏められておらず、帽子の中にしまわれてもいない

その看護師は紅い瞳を天乃へと向けると、ゆっくりと口を開いた

九尾「……殺すのも、やぶさかではないが?」

天乃「だめ」

九尾「主様は気に食わぬのじゃろう? 人類を救ったことを後悔してしまうほどに」

天乃「……そんなこと言ってない」

九尾「言うておったではないか。後悔したくない。と」

無理をいい、余計な怪我を負いながらも成し遂げたこと。

それを後悔したくないと言ったのだと、九尾は言う

九尾「そうならぬように、主様の縁者となる小娘共以外は消してしまえばよい」

天乃「駄目って、言ってるでしょう」

九尾「では、巫女となるかや? きゃつらはそれを望むじゃろう。現に、外は騒々しい」


自分が人の姿を取っていることを忘れているのか、

九尾は獣らしく歯をむき出しにして喉を鳴らす

大赦の神官がさせていたようなものではなく、

苛立たしさを感じるような唸りだ

九尾「神官が言うておったように、導く人間が必要じゃろうな」

天乃「………」

九尾「主様」

天乃「貴女まで、諦めろって言うの?」

九尾「主様はどう取る。妾がどう考え、何を言うか。分かっておるのかや?」

試すように問いかける九尾は、

怪しげな笑みを浮かべて見せる

真面目に相手しても、しなくても

九尾は大して気にしないだろう


1、私が嫌がることを言うんでしょう?
2、貴女は、大赦の考えをどう思う?
3、どうしたらいいの?
4、私が巫女になれば、本当に救えるの?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「……」カチャッカチャンッ

風「東郷、なにしてるの?」

東郷「車の車輪を破裂させます」

東郷「久遠先輩を泣かせたんです……血くらい、流して貰わないと」


園子「わっしー、それはやばいんよ~」

東郷「大丈夫、このまま問題を起こさなければ……大丈夫」


では少しだけ


天乃「貴女が何を言うか? そうね……私が嫌がるようなことを言うんでしょう?」

九尾「結果的に、主様が好まぬことになってしまっておるだけじゃ」

天乃「何が結果的に、なのよ」

九尾「……妾は、主様がもっとも被害の少ない最善の策を取ろうとしているにすぎぬ」

それが、天乃が望まない方法であろうと関係ない

天乃に関する犠牲がなければそれでいい

天乃が抱えている問題が解決してくれれば、それで問題ないのだ

九尾「大赦とやらの有象無象も同じじゃろう。人間共が最も確実に救われる策を練っている」

天乃「だから、なんなの?」

九尾「妾が練った策を、主様は受け入れたかや? それしかないと、実行に移すことがあったかや?」

九尾は珍しく、穏やかに問う

九尾らしくない大人の女性のような声色に、天乃は思わず目を向ける

九尾「そうではないからこそ、今があるんじゃろう?」

天乃「貴女……」

九尾「妾の策も、きゃつらの策も、主様にとっては好ましくない。ならば、どうする?」


天乃「……どうするも、こうするも、ない」

九尾「いかにも」

天乃の言葉が分かっていたのだろう

九尾は間を開けることなく返して、笑みを浮かべる

たとえ一時的な損失があるとしても、

結果的に有益であれば天乃以外の多く犠牲をいとわない九尾の思考は、

本来であれば、天乃のその考えは肯定するべきものではない

九尾「理解しているならば、苦悩は必要なかろう。求めるのじゃ。主様」

天乃「貴女らしくないわね」

九尾「それでも成し遂げられるということを、主様らが、示してきたのじゃろう?」

ならば、異論はない

天乃がやりたいようにやらせよう

それで、もしも万が一不利益を被る結果

あるいは、天乃が失われるような結果が確定したのなら、すべてを壊してしまえばいい

九尾「示せ。それが、主様と神々との誓いであろう?」


天乃「ほらやっぱり、貴女ってば……私の嫌がることを言う」

九尾「くふふっ、そうかや?」

天乃「だって、貴女の言い方だと、まるでそれがとても簡単だったみたいに聞こえる」

九尾「それが、妾じゃからのう」

天乃の困った笑みを見ると、

九尾は満足げな笑みを浮かべて、天乃の頬に触れる

嫌なことを言う、挑発する

それが、代々久遠家の傍に居た、九尾という精霊だ

九尾「大赦の策は人類を救済するやもしれぬ。じゃが、それでは……今までと何も変わらぬ」

ただ、信仰の対象が変わっただけに過ぎない

人が神から解放され、

人が人として生きていくことが出来るなどと、逆立ちしても言えないだろう

それでは駄目なのだ

それでは、天乃の今までが無駄になる

それは、九尾にとっても望むことではない

ゆえに、そうなるのならば――策は一つ

九尾「妾の尾がうねる前に、解決してみせるのじゃ」

天乃「だから……そんな簡単に言わないで」


九尾「小娘共に話を聞けばよかろう」

天乃「それでどうにかできることじゃないでしょ」

九尾「くふふっ、主様らは勇者部であろう?」

天乃「……部活、やれって言うの?」

九尾「それが、混沌の中で小娘に出来る最善ではないかや?」

そのいつも通りが、

その子供でありながら、一日一日を直向きに前へと進もうとする姿勢が、

きっと、時間はかかるかもしれないけれど、広がっていくはずだ

九尾「子供は子供らしく、それでよいではないか」

天乃「……貴女、進学に異論はないのね」

九尾「構わぬよ。それは主様の生きる道じゃ」

天乃「そう……私達は私達らしく」

では、どうするか

それを、みんなと話し合うべきなのかもしれない


1、ありがとう。貴女が貴女で良かったわ
2、みんなで話し合ってみたいけど、友奈は?
3、大赦はそれで納得してくれないでしょうね
4、勉強と部活、両立しないといけないのが、辛いわね


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「九尾さんって、結局悪い精霊なのかしら」

風「悪いというか、嫌というか」

東郷「間を取って、いやらしいというのはどうでしょう?」

夏凜「それは東郷のことでしょ」

東郷「えっ」


千景「純粋悪」

樹「純粋悪……?」


では少しだけ


天乃「みんなで話し合ってみたいけど、友奈は?」

九尾「あの娘が死ぬことはなかろう。じきに目も覚ますはずじゃ」

天乃「……そう」

怪我による昏睡ではなく、麻酔による眠り

だから、このまま目を覚まさないかもしれないとまでは思っていない

ただ、しばらく歩くことが出来ないのは変わらない

部活をやるとは言うけれど友奈にはかなり難しいだろう

天乃「歩けるようになるのよね?」

九尾「そこまでは判断できぬ」

天乃「戦闘での負傷でしょう? どうにかならないの?」

九尾「手を貸すことくらいは可能じゃが、それで解決する話ではあるまい?」

至って冷静な九尾の声が、天乃の感情の起伏を抑え込む

ここで九尾を問い詰めることも騒ぐことも無意味だ

それで何か良い方に転ぶわけでもない

九尾「言えるとすれば、無理をさせれば二度と歩けなくなるということくらいじゃな」

天乃「それは分かってる」

九尾「ならばよい。妾が手を貸しても無理をさせることに変わりはないからのう」


九尾「以前の主様のようなものと考えておけばよい」

天乃「私は全くダメだけど、友奈は……無理さえすればどうにかできちゃうでしょ?」

九尾「そうじゃな」

天乃「早くどうにかしなきゃ、そう思った時の友奈は私と同じかそれ以上よ」

九尾「良く分かっておるではないか」

嫌味ったらしく、

くつくつとした笑い声を零した九尾は口元を手で覆い隠す

口の隠れた瞳だけの笑みは、嘲笑っているようにさえ見える

天乃「リハビリ頑張り過ぎちゃわないか心配だわ」

九尾「それを妾に言うのは、見張れということかや?」

天乃「貴女の場合、止めるよりも煽てそうで不安よ」

九尾「くふふっ」

何笑ってるのかと、その心の内を察しつつ天乃は目を向ける

からかわれているのは分かるが、

それに合わせていたら、余計な疲労がたまるだろう

九尾「あの娘には過保護な東郷もおる。主様の経験もあって、そう易々と無理はさせぬじゃろう」


天乃「九尾って、私を主人と思ってないでしょう?」

九尾「はて……久遠家の力の継承者こそが主。それに変わりはない」

天乃「その小ばかにした感じ、敬う気持ちがちっとも感じられないわ」

それこそが九尾ということもあって、

天乃は横目に九尾を見ながら苦笑する

完全な主従関係を意識させるような九尾がいたとしたら

それは、偽物か四月の産物だ

天乃「貴女にとって、陽乃さんが全てなんでしょう?」

九尾「………」

天乃「でもそれでいいわ。だとしても、私達を気遣ってくれてるから」

九尾「主様は、愚かじゃな」

天乃「どうせ愚かよ私は。だから、これからも助けてね?」

天乃の純真な言葉を受けて

九尾は少しばかり驚いた表情を見せたものの、

すぐにいつもの調子に戻ると、怪しく笑う

九尾「妾に救いを求めると怪我をするぞ?」

天乃「怪我をしてるから助けを求めるのよ。一度傷口を開いたほうが、治りが早いこともある」

九尾「それもそうじゃな」

九尾はそう言うと、承諾するように頷く

九尾ははっきりとは言っていないし、誤魔化すことも多いが

天乃が言ったように気遣ってくれる精霊だ

出なければ、さっきのようなアドバイスは出てこない

天乃「……頼りにしてるわ」

九尾「ほどほどに」

天乃の呟きと、九尾のささやき

互いに向けていないような言葉は部屋の中でぶつかって混ざる

目を向けない。けれど心はしっかりと向いている

天乃と九尾には、それで十分だった


√ 2月14日目 朝 (病院) ※火曜日


01~10 球子
11~20
21~30
31~40 夏凜
41~50
51~60 東郷
61~70 若葉
71~80
81~90
91~00 友奈


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「……はて? 何か祭りの日だったような気が」

風「あーバレンタインね。バレンタイン。無理。そんな余裕はないッ」

夏凜「……」ガサゴソ

風「そこ、煮干しを持ってどこ行くのかなー?」


園子「うへへ」

樹「……園子さん?」


では少しだけ


√ 2月14日目 朝 (病院) ※火曜日


世間の状況に反して、カーテンの隙間から入り込んでくる陽の光を遮るものはない

何とか動く足を横にスライドしてカーテンを開くと、眩い太陽が空に昇ろうとしている

天乃「はーっ」

窓に吹きつけるつもりで息を吐くと、

ガラスよりも先に、吐息が白く染まる

まだ二月、神樹様が解放されようがされまいが

この世界は寒いらしい

天乃「……冷たい」

窓に触れた手が、結露で濡れる

さっと戻すと……外側の冷えた布団の冷たさを感じる

天乃「今日って……確か」

バレンタイン

いつもなら、沙織が飛んでくる

クラスメイトからの等価にならない交換要求

そわそわした男子達の警戒と好奇心と、期待

学校という場所が、ふわふわした空気に包まれる日

だけど、今日はそうならないだろうと

天乃は安寧に浸りつつ、退屈なため息をついた


天乃「流石に、今日は東郷も牡丹餅を持ってこないわよね」

去年も持ってこられてしまったが、あの時は何も感じられなかった

高くても、安くても

成功してても、失敗していても

食べられもしない

食べても何も変わらない

そんな数々の想いが、

ようやく、感じ取れるようになったのに

天乃「……そんな余裕もないだろうし」

こういうのは求めるものじゃない

そもそも、天乃だって渡す側だ

この状況では、用意も何もできたものじゃないが。

天乃「そんなことより、受験、そんなことよりも子供の名前」

問題というと悪いことのように思えてくるが、

受験はともかく、子供の名前を考えるというのは悪いことじゃない


相談しよう。

そう考えていたのに、全く出来ないまま一日が経過してしまった

そこに、大赦からの懇願

人類の為に代表の巫女になれと言われて……

天乃「九尾に相談して、良かったかもしれない」

もし、相談しないまま朝を迎えていたら、

どうしよう、どうしよう

そう悩んでどうにもならなくなっていたかもしれない

天乃「重い悩みが、一つ減った」

解決したわけではないけれど

どうすればいいのかという道しるべがあるだけで、落ち着く

無理に突き進まなくていい安堵がある

天乃「どうしようかしら……なんて、考える余裕がある」

天乃は誰もいないことを良いことに、

一人、楽し気な笑みを浮かべる


1、勇者組
2、精霊組
3、子供
4、イベント判定

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



東郷「……ママ」

樹「違う」

東郷「真面目な話、久遠先輩はママなのかパパなのか。決めませんか?」

夏凜「真顔でそれを口にできる東郷ってやっぱり凄いわね」

東郷「褒めても母乳は出ないわ」


樹「お姉ちゃん、留年して」

風「なんで!?」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から


では少しだけ


天乃「……ごめんなさいね、わがまま言って」

「お母さんが赤ちゃんに会いたいと思うのは我儘じゃないですよ」

天乃「そうかしら」

「そうですよ」

九尾達とは違うが、

流石に顔なじみとなってしまった看護師の優しい言葉

振り返る看護師の携える笑みに応えるように、

松葉杖を少しだけ前へと動かす

昨日に比べればだいぶましになっているが、

いつ、倒れるか分からない以上は松葉杖を外せない

「ゆっくりどうぞ」

天乃「貴女はそれでいいけど、そろそろ胸が痛いの」

「だから車椅子にしたほうが良いって言ったんですよ?」

天乃「意地悪なら終わってからにして」

「そんなつもりは、ありませんよ」


看護師は本当に意地悪なつもりなんてないのだろう

携えた微笑みは変わらず柔らかで、

一歩ずつ慎重に進む天乃を見守って、もどかしそうに口を動かす

本当の意地悪は呑み込んだ、【頑張らなくてもいいんじゃない?】という言葉だ

一昨年を含めれば、約二年間を通して久遠天乃という名前を見た

その短くも長い期間の中で

どれだけ弱っていく姿を見たか

どれだけ……悪い方向に変わっていくのを見たか

たった15歳での妊娠と出産

それが、どれだけ重いことか。

本当の事情までは知りえていない看護師だが

幾度も訪れる大赦と、

今回の世界の変化と彼女と関わりのある少女たちの入院

そこまでくれば、嫌でも察しがついてくる

「……久遠さんは、もう少し楽に生きてもいいと思いますよ」

天乃「何の話?」

「その歳で二児の母っていうのも含めた話です」


「もう少し、人生ゆっくりでいいんじゃないですか?」

天乃「……そうね。それもいいかなって思ってる」

出来るならそれが良いけれど、

動き出した時間を止めることは不可能だ

子供がいる以上、その育児でゆっくりはできない

普通の親よりは頼れる相手が多い分、楽になるかもしれないが

普通の学生よりは忙しい

天乃「まずは、進学するわ」

「行先は決めてるんですか?」

天乃「今考えてるの……おかしい?」

「ううん、良いと思いますよ。大事なことですからね」

近づいてきた天乃に手招きした看護師は

天乃の苦労を察してそれを否定し、肯定する

「でも、子供の名前を考えてあげてくださいね」

天乃「分かってる」

松葉杖を看護師に預けた天乃は、

手すりを頼りに、赤ちゃんの集まる部屋の中へと入っていく


「抱きあげるのは、一人ずつにしてくださいね」

天乃「ええ、分かってる……」

以前に来た時と比べると、赤ちゃんの数が減っている

別の赤ちゃんになっているベッドもある

それだけ、時間が経っているということなのだろう

天乃「……分かる?」

そっと顔を覗かせて声をかける

元気な双子の赤ちゃんは天乃の顔を見るや否やきゃっきゃきゃっきゃと愛らしく声を上げて、小さな手を伸ばす

まだ薄かった桃色の髪が、ほんの少しだけそれっぽく生えてきている

天乃「ごめんね、会いに来てあげられなくて」

双子の伸ばした手が握れるように

左右の手をそれぞれに向けて、人差し指を握らせる

弱い力が指を握り、愛おしい力が引く

天乃「うん、ママも会いたかったよ」

泣いたりせず、

ただ、母親が来てくれた嬉しさを表すように、明るい声が部屋に木霊する

その穏やかさを耳にして、

看護師はこっそりと、笑顔を浮かべた


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「これからは、毎日会えるよ」

まだ、言葉を放すことも出来ないほど幼い赤ちゃん

けれど、ちゃんと笑顔を見せてくれる

心を伝えようと、声を出してくれる

生きているのだ、ちゃんと。

その笑顔を両の目に映し、

愛おしさを湧き立たせる声を耳に通し、

温もりを感じさせる手の力を指に感じる

天乃もまた、ちゃんと生きているのだ

「久遠さん……」

天乃「大丈夫、ごめんなさい……心配いらないわ」

赤ちゃんの弱弱しい力を解けなくて

首だけを動かして、肩のあたりで目元を拭う

双子の声が、少しだけ心配そうなものになるを感じて

天乃は笑みを見せる

大丈夫、悪いものじゃない

いい意味での、そう……喜びゆえの涙だ


天乃「ちゃんと産めて良かった、元気で良かった。私……何もしてあげられなくて」

「久遠さん」

天乃「産んで、まともに会えたのは一度くらいで……」

「これから愛してあげれば良いんです」

看護師は限りなく優しく声をかける

なにがあったのか詳しくはない

けれど、辛く苦しいことがあったことだけは分かっている

だから、誰も母親としての彼女を責める人はいないだろう

あの赤ちゃんはいつまで。あの赤ちゃんの母親は。

そんな話題がナースステーションであがることもない

ただ、母親が無事であれば。戻ってきてくれるまでは。と

母親のように。あるいは、それよりも厚く愛情を注いで守ってきた

「自分を責めない方がいいですよ。赤ちゃんは、案外、そういうところに敏感なんです」

天乃「……そう、なのね」

「そうですよ。久遠さんの健康状態も良くなってきましたし、同室が可能です。もちろん、退院されるならご一緒にすることも可能です」

だから、これから愛してあげて欲しいと。看護師は言う

今までだって愛していたと思うが、それ以上に。


天乃「抱いて、良いのよね?」

「ええ、大丈夫ですよ」

天乃「……ごめんね」

そう声をかけると、二人が同時に手を放す。

何をしてくれるのか

何をしたらいいのか

それを、分かってくれているのだろう。

天乃「ありがと」

声をかけると、可愛らしい笑顔が返ってくる

どちらを先に抱こう

足が覚束なくなければ、二人とも抱けるのに

天乃はそれを悔やみつつ、左側にいた赤ちゃんに微笑む

前に聞いた通りに、優しく

手を布団に沈みこませながら、ゆっくりと

頭にまで手を通して、落ちないようにと、力を入れ過ぎないようにと抱き上げる


産まれてから、まだ二ヶ月程度の女の子

平均的な体重は4キロ~5キロだが、

天乃の赤ちゃんは3キロ後半とやや痩せ気味だ

身長も50cmにギリギリ届いているという程度で、

未熟児とは言わないが、平均には届いていない

けれど中学生、双子、受け継いだ力

特殊な状況にある天乃の子供で考えれば、順調な成長だといえるかもしれない

天乃「まずは、貴女からね」

名前を考えてあげられていたら。

そんなことを考えながら、

看護師の手を借りて、抱き上げた子供の為に胸を出す

天乃「飲んで、ゆっくりね」

赤ちゃんの顔の方に近づけてあげると

赤ちゃんは慎重に手を伸ばして天乃の胸に触れて、乳頭を咥えこむ

その慎重さとは真逆に、吸う力は強く……少しだけ痛みを感じる

天乃「ゆっくりね。そう、なくなったりしないから、焦らないで」

その痛みを、幸せに思って

天乃は一人目が満足した後に、二人目にももう一方の胸で母乳をあげた


天乃「……久しぶりだったけど、うまくできたかしら」

「初めてよりは大分上手だったと思いますよ。ほら」

天乃「そうね……」

看護師に促されるように目を向けた双子の赤ちゃんは、

来た時とは変わって満足そうな寝顔を晒している

授乳して、えずいたりなんだりしないかと心配だったものの

双子は思っていた以上に大人しい

大きくぐずったのは、先日の神樹様が消えてしまった日くらいで

それ以外は特段、困らされるようなことは一切なかったと、看護師は口にする

「でも、これからは忙しくなるかもしれませんね」

天乃「どうして?」

「お母さんの元気な姿が見れたから、安心してやんちゃするかもしれませんから」

天乃「学校通えると思う?」

「簡単ではないと思いますが、出来るとは思いますよ。ただ……そうですね。1年は子育てに専念するというのも、一つの選択です」

天乃「それは看護師として?」

「そうです。あと、ずっと久遠さんを見てきた女として」

にこやかな笑みを見せた看護師は、

逡巡すると、赤ちゃんから天乃へと目を向ける

「諦めるとはいかなくても、どちらか一つは置いてまた後で。というのも大切ですよ。と、私は思います」


「いい歳して独身ですから? 憶測ですけど? 多くのお母さんを見てきてますから。参考までに」

天乃「所々怖いのだけど」

「それはもう。みっともないくらいに妬んでますから」

天乃「笑顔で言われても、信じられないわ」

幸せになって欲しい

少しは肩の荷を下ろして、楽になって欲しい

だから、こうしたら楽なのではと思うことを提案する

天乃「でもありがとう。参考にさせて貰うわ」

「はい。そうしてください」

看護師は天乃の笑顔を嬉しそうに見ると、

少しだけ自分が学生だったなら……と、考えて苦笑する

そうじゃないから、長く見てこられたのかもしれない

「ところで、赤ちゃんはどうしますか? 安定していますし、そろそろ、同室されては? 退院するならそれでもいいと思いますが」

天乃の足に不安はあるが、

退院できないほどではないし、要望があれば退院できるはずだ

大赦が介入してくる可能性もあるけれど、

一番大事なのは本人の意思だ



1、そうね。同室。出来るなら
2、退院したいけど……みんなと一緒が良いわ ※子供同室
3、もうしばらく、赤ちゃんをお願い。何があるか分からないから
4、退院、して良いなら。出来たら、あの子たちも一緒に


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「退院したいけど、みんなと一緒が良いわ」

「ですよね……結城さんはもうしばらく時間がかかると思いますが、三好さんはそう時間はかからないかと」

風や樹、東郷

それに、天乃に次いで症状が重かったはずの園子でさえ、

今週中には問題なく退院できてしまうほどだ

「お二人は、ご一緒で良いですか?」

天乃「ええ、この子たちは……もう、私と一緒で大丈夫だから」

「承りました。そういう風に手配しておきます。そうですね……夕方までには」

天乃「急がなくていいのよ?」

「準備はしてあるので、久遠さんのお部屋さえ整えればすぐですよ」

準備が完了するまでは、

天乃の病室が少しばかり忙しなくなる

けれど、それさえ終われば晴れて……子供と一緒の生活だ


「今までと打って変わって、赤ちゃんと同室になるので大変なことも多いかと思いますが、無理せず頼ってくださいね」

家に自分一人という状況ではない

ここは病院で、手慣れた看護師たちがいる

中には出産を経たその道でのベテランだっているのだから。

頼れる時にめいいっぱい頼って欲しいと、看護師は思う

「私達は最後まで、久遠さんをサポート致します」

天乃「ええ……よろしくね」

そう何度も来るべきじゃない

けれど、仲良くなってしまった看護師に目を向けると、

天乃は少し困った顔をして、頷く

自分が子供だからここまで親切なのか

患者だから、親切なのか

それとも……

天乃「私、まだ初めてだから……教えてね」

「その歳で経産婦は、なかなか無い話ですからね」

大丈夫ですよ。と、看護師は笑みを見せた


「お二人は、夜泣きとかしないんですよ。とても大人しいです」

双子で、通じ合えているから……というわけではないだろう

天乃との血縁以外の繋がりが、あるのかもしれない

子供なのに子供らしくない

そんなところが受け継がれているのかもしれない

「普通の赤ちゃんよりは苦労も少ないかもしれませんよ」

それは天乃が大変だったからで

救われた今、

関係ないと言わんばかりにやんちゃするかもしれないが

その時はその時である

「では、戻りましょうか。お昼に間に合わなくなってしまいますよ」

天乃「そうね……最近は美味しいわ」

「それは良かったです」

美味しいという天乃の笑みを、看護師はほほえましく見つめる

普通の好みな食事をしてきた人が、病院食を美味しいというのは珍しい

けれど、天乃はその普通から外れていたのだと

看護師は唇を噛んで、飲み込んだ

「退院したら、思う存分……もちろん、健康には気を付けて、食事を楽しんでくださいね」


√ 2月14日目 昼 (病院) ※火曜日


01~10 夏凜
11~20
21~30 若葉
31~40
41~50 球子
51~60
61~70
71~80 東郷
81~90
91~00 友奈


↓1のコンマ

√ 2月14日目 昼 (病院) ※火曜日


看護師が言っていた通り、

天乃の病室には赤ちゃんと同室にするための設備が次から次へと運び込まれ、準備が進められていく

本来なら赤ちゃんとの同室が可能な病室は別にあるのだが

天乃が特別な看護対象であるために、新しく準備しなければならないのだ

天乃「……この感じなら、夕方かしら」

準備は滞りなく進んでおり

赤ちゃんを連れてくる準備はもう完了に近づいてきている

天乃「でも、ようやくなのね。やっと……」

一時期退院することは出来たが、

妊娠もあって再入院が必要となって

気付けば年を越してなお、入院が続いてしまった

クラスのみんなは凄く心配しているだろうし、

面会できないことについての憤りも昂らせているかもしれない

何もなければいいけれど。と

天乃は少し不安げに窓の外を眺める


天乃「……それにしても」

同室するにまで進んだというのに

いまだに赤ちゃんの名前が決まっていない

これは非常によろしくない状況だ

どうにかしないとと思うけれど

かといって、簡単に決められることでもなく。

子供に会いにいった際に

看護師に一つ相談するのも手だったかもしれないと

今更ながらに思う

天乃「どうするべきかしらね」

同室はもう数時間後に迫り

退院だってあと数日中にはできるかもしれない

そんな中で全く考えられていませんは、問題だ


1、勇者組
2、精霊組
3、イベント判定
4、名前を考えてみよう


↓2


1、風
2、樹
3、友奈
4、東郷
5、夏凜
6、園子

↓2


松葉杖か、車椅子か

前者を選択して、壁に備え付けられた手すりを頼りに廊下を進んだ天乃は、

結城友奈と名前の書かれたプレートのある病室の前で立ち止まる

天乃「……入って良いかしら」

友奈『くおっ……久遠先輩……大丈夫ですっ』

軽く扉をたたいて声をかけると、返事が返ってくる

麻酔での眠りだった友奈は、もうとうに目を覚ましているが

戦闘でのダメージのせいか、いつもより弱弱しく感じる

部屋に入ると、真っ先に見えるのは吊るされ固定された左足

困り顔の友奈は、

あんまり見ないでください。と、申し訳なさそうに目を逸らす

天乃「体はどう? 左足が一番ひどかったって話だけど」

友奈「見られちゃった通りです……」

天乃「傷は? 痛まない?」

友奈「……はい。大丈夫です」


落ち込む友奈の手に触れると、ビクッと震えが伝わってくる

怪我の痛みはないだろう

力が強すぎたわけでもない

……罪悪感ね。と、天乃は眉を顰める

天乃「お医者さまと話は?」

友奈「しました。数ヶ月かかるって……あははっ、さすがに、やりすぎちゃいました」

天乃「そうね」

友奈「……久遠先輩、そのっ」

申し訳なさそうな顔をする

天乃がしてきたことを見てきたから

自分がしてしまったことも理解している

笑っても、意味はない

ただ、謝ってどうにかなるとも思っていないのだろう

友奈は巧く言葉を選べずに、口を閉ざす


天乃「足は痛む?」

友奈「へっ、あっ……はっ、はい……ちょっとでも動いちゃうと、凄く」

天乃「そう……でも、なら、なくなったわけじゃないのね。良かった」

痛みさえ感じることが出来なくなっていた天乃としては、

痛みが感じられるのならば大丈夫だと思えてしまう

痛みを感じる友奈にとっては嫌なことかもしれないけれど

天乃にとっては、喜ばしいことだと思える

天乃「私は感覚全くなかったのよ? 骨折しようが何しようが、もう、自分の足じゃないみたいにね」

友奈「それはっ」

天乃「話は聞いたわ。ちゃんと動かせるようになるって」

リハビリは必須だし、長く時間をかけなければならない

無理をしたらすべてが水の泡で、駄目になってしまうかもしれない

けれど、動かせるようになる

天乃「なら、大丈夫ね」


1、満開を使って逃げることに徹したこと、英断だったわ
2、ごめんね、遅くなって
3、ありがとう。私の我儘に付き合ってくれて
4、私ね、ようやく子供と同室になれたのよ


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「子供の名前、どうしましょう?」

風「二人とも女の子だしねぇ。双子だから特別にしなくちゃいけないなんてこともないだろうけど」

樹「陽乃さん。でしたっけ? 久遠先輩のご先祖様と久遠先輩二人のお名前からとるのはどうでしょうか?」

園子「偉大なご先祖さまと天さん……良いとは思うけど、乃以外は中々ねぇ~」

夏凜「あら意外。園子ならすぐに思いつくと思ったけど」


園子「天って、意外と難しいんよ~。まぁ、候補がないわけでもないけどね~」


では少しだけ


天乃「友奈。満開を使って逃げることに徹したこと、英断だったわ」

友奈「そんなこと、無いです……」

天乃「私だってやらない。ううん、きっと、そんなことは出来ないわ」

天乃はあえて友奈に目を向けることなく、

自分が今までしてきた戦いへの客観的な独り言のように呟く

浮かべている笑みは、少しばかり嘲笑じみていた

天乃「満開は切り札だから。命懸けだから死ぬ気で突撃してる。それで、倒そうとしてた」

友奈「それは久遠先輩だからですよ。倒せる力があって、対抗できる能力がある久遠先輩だから」

天乃「私の満開が、友奈と同じ力であれ私の判断は変わらないのよ」

自分が引くわけにはいかないと

たとえ、死ぬような目にあうのだとしてもその一撃が可能性に繋がるのなら。と、

振り返り、目に見えぬ友の姿を心に抱いて拳を握る

天乃「分かるでしょう? 私って、そういう人間なの」

友奈「それは……分かります、けど」

天乃「だから、貴女の判断は英断だった。間違いなく正しい行動だった」

だって。と、天乃は友奈に目を向ける

友奈の左手に重ねていた手を肩の方にまで伸ばし、

自分の体を、友奈の方に近づける

天乃「だからこそ、こうしてお話が出来ているんだもの」


友奈「怒らないんですか?」

天乃「もし、貴女の満開が攻めに転じるためのものだったら怒ってたわ」

それこそ、自分のことを棚に上げてもだ

あれだけ言ってきた友奈たちが

自分たちの命を失う覚悟で満開をするのは言語道断である

天乃「友奈は、叱られたいの?」

友奈「叱られたいわけじゃないです……でも、こんな、ボロボロで」

天乃「ボロボロでも、生きていてくれればそれで充分よ。それに、ちゃんと治るでしょ?」

友奈「………」

天乃「そんな顔されると……責任感じちゃうわ」

友奈「あっ」

天乃「ふふっ、ごめんね。狡い先輩で」

友奈の驚いた頬に手を当てて、優しく撫でる

とても狡い言葉だけれど、事実

友奈が自分を責める必要はないし、罪悪感を覚える必要もない

もし、罪悪感があるのならば

その責任は、任せっきりにした天乃にもある

それを感じさせてしまう言葉を使ってしまったことに、

天乃は申し訳なさを含めた笑みを向けた


天乃「でもね。本当に友奈は良くやってくれたわ。貴女が一番被害を受けたのに、こうして生きていてくれた」

それだけで充分なのだ

みんなの中で一番重いダメージではあったが、

リハビリには時間がかかるものの、ちゃんと治る範囲で耐えてくれた

それは友奈が満開を逃げるために使ったからこそで

もし、そうしていなかったらと思うと考えるのも嫌になってしまう

天乃「ありがとう」

友奈「っ……」

足が動かせない

安静にしていなければならない

だから、顔を背けられない友奈は唇をきゅっと結ぶ

友奈「久遠先輩は、狡いです」

天乃「そうね」

友奈「怒られるなんて思ってなかった。ただ、悲しませると、思ってました」

天乃の我儘を叶えるため

天乃が来るまでの時間稼ぎのため

こんな怪我をしてしまって。

友奈「なのに……英断だった。なんてっありがとう。なんて……っ」


天乃「……お疲れ様」

だんだんと俯いていく友奈の頭を、軽く撫でる

かける言葉はそれでいい、それで充分

本当なら抱きしめてあげたいけれど、体を思えばそれは出来ないから

だから、たった一言の労いの言葉

死を覚悟しなければならない戦い

そして、帰ってきてからの苦悩

それは、もう終わりで良いのだと、天乃は友奈に微笑む

友奈の目は向いていないが、心は伝わるはずだ

ぽろぽろと落ちる涙が布団を濡らす

強く握られた拳が布団に皺を走らせていく

天乃「お帰りなさい。それと……ただいま、友奈」

友奈「久遠先輩……狡い……」

天乃「ええ、そう。だって九尾なんて悪名高い狐を従えてる家系なんだもの。狡くないわけがないでしょ?」

友奈「そう、ですね……えへへっ」

涙とともに零れた笑い声

天乃は持ってきていたハンカチで、友奈の目元を拭った


1、私ね。進学しようと思ってるの。
2、悩むなら、子供の名前を悩んでくれない?
3、頑張ったご褒美。何が良い?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


天乃「頑張ったご褒美は何が良い?」

友奈「ご褒美なんて、そんなっ……こうして貰えてるだけで、十分です」

少しずつ消えるようになっていった友奈の声

感情を表す手は、握り合おうとしている

頭を撫でるのは久しぶりで、

きっと、友奈が喜んでいるのはそれなのだろうと、察する

天乃「……もうちょっと、欲張ってもいいのよ?」

友奈「欲張っても、今の私には何もできないので」

友奈が出来ないのはもちろん、

天乃から友奈にしてあげられることも少ない

天乃「そうねぇ……私にできる事なら何でもいいのよ? 別に、今すぐじゃなくてもいい」

友奈「今すぐじゃなくても……」

天乃「ついでに言うなら深く悩まなくてもいいからね?」


友奈「で、でもっ何でもいいんですよね?」

天乃「ええ」

友奈「どんなことでも?」

天乃「出来る事なら」

友奈「………」

目を向けてきたかと思えば、

はっとしたように顔を背けて考え込む

そこまで真剣にならなくてもと思う天乃だけれど

友奈にとっては、それだけのことなのだ

さっきはあんなにも簡単に答えたのに。

友奈「久遠先輩は……学校はどうするんですか?」

天乃「進学したいって考えてはいるけど、どうかしらね。子供優先が母親のあるべき姿よね」

学業との両立が可能ならしたいとも思うけれど、

二ヶ月も放置気味になってしまったのだ

自分の一年くらい、子供の為に使うべきではないかとも思う

看護師が言っていたように、一年子育てに専念し、

多少の落ち着きを得てから、学業に戻る

それも良い選択だ


友奈「………」

天乃「一緒の学校に行きたい?」

友奈「そんな、ことは……」

天乃「あら、違うのね」

笑みを浮かべて、察した答えを飲み込む

樹が願ったのと全く同じなのかまでは分からないが、

一緒の学校に行きたいというのは、友奈の願いでもあるらしい

だけど、子供のことを言ってしまったせいか、

友奈はそれを望む気はないらしく……悩む

友奈「リハビリに付き合ってくれませんか? 可能な限りで良いです。でも、治るまで……何度か」

天乃「良いわよ」

友奈の頬に、振れる

傷ついた柔らかい頬の温もりを感じる手に、そうっと力を込める

親指だけで、なぞる

何度も、なぞって――滑らせた人差し指で友奈の唇を押し込む

天乃「貴女は、求めてこないのね」

友奈「ひゅへっ!?」


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


天乃「……あぁ、ごめんなさい」

さっと指を引いた天乃は自分自身の言動に困ってか、

立てたままだった人差し指をもう一方の手で折り込んで握る

友奈の驚きは本当に求めていないからこそのもの。

必ずしもそれを求められるなんて思っていたわけではないが、

沙織たちがそうだったから……なんて安直な発想に苦笑いを浮かべる

天乃「友奈も、そういう子よね」

友奈「い、いえ……その……私は、別に」

天乃「今回に限っては、友奈が大丈夫なら。かしらね」

キスくらいなら出来るけれど、

本格的なことは友奈の足が治らなければ難しい

機能を奪われた天乃と、壊れた友奈では安静にすべき重さが違う

天乃「リハビリ……ね。いつから始められそうとか、話は?」

友奈「まだ、全然です」

天乃「少し歩いても問題ないくらいに回復するまでは、駄目よね」


友奈の足は切断までいかなかったものの

捻挫の上に骨折し、靱帯までもを損傷してしまっている

そのせいで、目を覚ましたら。数日後には。

そんな簡単にリハビリは不可能だ

天乃「でも、良いわ。いつからでも、いつまででも。ちゃんと付き合わせて貰うわ」

友奈「別に、毎日とか必ずじゃなくても大丈夫ですよ?」

忙しいだろうから。

その気遣いを向けてくれる友奈に笑みを浮かべ、天乃は頷く

天乃「何言ってるのよ。付き合うわ」

出来る限りになるけれど、絶対に。

一から百までリハビリの時間全てとはいかないかもしれないが

途中まででも、途中からでも

天乃「ちゃんとね」

友奈「……はい」

天乃「友奈は私の大事なお嫁さんだもの。治る前から、治った後まで。サポートするのは当然だわ」


だから正直に言ってしまうと、

友奈の「リハビリに付き合って」というご褒美はご褒美になりえないのだけれど

それを言っても友奈を困らせるだけだろう

友奈「お、お嫁さん……ですか?」

天乃「ええ」

友奈「お嫁さん……」

照れ隠しに顔が背けられたけれど、

緩んだ口元、赤らんだ頬は良く見えている

友奈「えへへ」

天乃「………」

友奈へのご褒美はこっちで考えておこう

天乃はそんな考えを頭の片隅に置いて、友奈のまだ初々しい愛らしさを見守る

本当に、お疲れ様

本当に、ありがとう

今まで貰った分の想いを返すのではなく、

同じくらいあるいは以上に与えて行こうと、心の中で想いを温めた


√ 2月14日目 夕 (病院) ※火曜日


01~10
11~20 夏凜
21~30
31~40
41~50 風
51~60 歌野
61~70
71~80 東郷
81~90
91~00 園子


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日はお休みをいただくことになるかと思います。

再開は明後日、通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ


√ 2月14日目 夕 (病院) ※火曜日


お昼の後、少ししてから準備の終わった病室には、

ずっと離れていた双子の赤ん坊の嬉しそうな声が小さく聞こえている

すぐ隣のベッドに横になっている天乃は、

その声、その顔を穏やかに見守る

まだ名前のない幼子は、

そんなことを気にも留めていないかのように、元気だ

天乃「無邪気な顔、見せてくれるのね」

どちらも似た顔、似た大きさ

けれど、先に産まれたであろう赤ちゃんを天乃は判別して、頬に触れる

例え、この双子の容姿、声、仕草、考え……見せ得るすべてのものが同じであるのだとしても

与えた力が別たれている以上、

天乃が双子を見間違えることは絶対にありえない

天乃「ねぇ……みんなは、ちゃんと分ると思う?」


天乃は力を感じ取れているから判断付くが、

果たして、共に二人を育てていく勇者部のみんなは気付くことが出来るだろうかと、

天乃は少しばかり悪い顔をする

成長の止まった天乃と、これから成長していく二人

どれだけ悪五郎の因子が反映されるのかは不透明ではあるが、

面影としては、完全に天乃寄りだ

であれば、今の天乃と同じ年頃になったら、

三つ子のようにさえ見えるかもしれない

雰囲気的なものは天乃が飛びぬけてしまうだろうし、

流石に、天乃と子供を見間違えるようなことはないだろうけれど。

どちらが先か、後か

みんなは分かるのだろうか?

天乃「……後も先も。そういうのが嫌な子かな?」

つんっと頬を突くと

時間的には姉である赤ん坊は元気な声できゃっきゃと、天乃の指を握る


天乃「ふふっ」

握ってくれる、小さな手

天乃の手でも、二本か三本で握り返せてしまいそうなほどで

簡単に折れてしまいそうな繊細さに、

天乃は緊張しつつ、揉むように摘まみ返す

「ぁっあぅ……ぁ~ぁ~」

その一方で、

時間的には妹の方は天乃の手を求めてか、

寂しそうな声を上げて、手足をばたつかせる

触れてくれなければ泣いちゃうぞ。

そんなことを言っているかのような赤ん坊の目に、

天乃は「ごめんね~」と解した声をかけて、小指を差し出す

天乃「小指でも、ママの方が強いのよ~?」

小指を握って嬉しそうな赤ん坊

その手の中でぐにぐにと小指を動かしてあげると、

おもちゃか何かと思ったのか、ひと際明るい声が病室に響いた


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「ふふっ」

ただ何も考えず、指を動かしてあげているだけ

それだけで、赤ん坊は大喜び

その単純さ、その純粋さが心を癒してくれる

状況は複雑で、とても大変

解消できていない問題はまだ積まれたまま

それがどうでもよくなるわけではないけれど

切羽詰まったときの深呼吸のように、穏やかにしてくれる

天乃「今の世界は大変なのよ。すっごい大変」

言葉は軽く、指はその分激しく動かしてあげる

双子はちょっとだけ驚いて手を放したけれど、

その指が天乃のものだと再確認したからか、またきゅっと握ってくる

天乃「そう、それがね、大事なの」

驚くこともあるだろう

大変なこともあるだろう

けれど、それでも希望にしがみ付いて前を向く

天乃「なぁんて。まだわからなくていいんです~」

弱い力に包まれながら、手を翻す

勇者部のみんなよりも小さな手で、もっと小さな手を覆い、笑顔を向けあう


上からではなく、対等に。

そうあれているのかは分からないけれど、

勇者部として出向いた幼稚園などでの接し方を、掘り返す

母親の立場になって思う、園児との触れ合い経験の有難み

どうしたら話を聞いてくれるのか

どう話を聞いたら、続けてくれるのか

何となくだが、イメージは出来る

天乃「少しずつ、覚えてね」

そう声をかけると、

双子は知ってか知らずか、きゃっきゃっきゃっきゃと、笑い声をあげる

天乃「約束? そう、約束してくれるのね?」

そんなこと言っているようには聞こえないけれど、

天乃は茶化すように、そう言ってみた


1、勇者組
2、精霊組
3、イベント判定
4、遊んであげる
5、話しかけてあげる

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ころから


東郷「そういえば、久遠先輩って子供好きでしたね」

風「好きというかなんというか……年下を甘やかすタイプだから好かれやすいのよねぇ」

友奈「でも、いっつも楽しそうに相手してたから好きなんだと思う」

樹「そうですね、そう思います」



園子「好きだよ~天さんは」

夏凜「事情通みたいな顔しちゃって」

園子「知ってるんよ。小さい子を抱いてる天さんを、何度も見てるから」


では少しずつ


天乃「みんなにも会いたい?」

天乃と、この子たちと

限りある時間を尽くしてくれるであろうみんな

天乃「それとも、パパに会いたいかな?」

天乃も、会えるのならもう一度、と、思う

父と母のようなことをした

けれど、父と母の関係ではない相手

その力のすべてを持って、天乃の命を守り、新たな命を生み出した

天乃「パパはね? 五郎くんって、言うのよ」

「ぁぅぁぁぅ?」

五郎という発音はまだまだできないのだろう

母音だけの単純な声が、疑問符を引っ張っているのを感じて

天乃は「難しかったかな?」と微笑む

天乃「かっこ……かっこいい……かな? うん、かっこういいパパさんだった」

男の子を性的な要素として異性と認識したことは早々経験がない天乃にとっては、

比べる相手など数えるほどもおらず、

頼りにならない基準を基に、悪五郎を格好いい男の子だと、認識する

どんな感じかと言われると、おぼろげだけれど。

天乃「でも、格好いいって部分なら、夏凜達も格好いいの」


赤ん坊はきゃっきゃっきゃっきゃと高い笑い声を上げながら、

少しだけバタバタと体を動かす

ぐずったりしているわけではなく、嫌がっている様子もない

天乃「あら、どうしたの?」

「あぅぁ~ぁっ」

天乃「ふふっ」

言葉で何が伝えたいのかは分からない

けれど、嬉しそうなのは感じる

天乃「ママ? ママも嬉しい」

ようやく、子供と触れ合うことが出来るようになった

ようやく、日常に戻っていくことが出来るようになった

なにより、それを取り戻した結果、勇者部の誰かが失われてしまう

あの時のような結果に至らなかったことが、嬉しかった

天乃「嬉しいよ」

指を握られたまま、頬を突いてあげる

楽しそうな声が止んで、天乃の突いた指をくわえようと唇が動く

天乃「だーめっ」

届かないように指を引く

汚れているなんてことはないけれど、

触れられるのはともかく、指を咥えさせるのは駄目そうな気がしたのだ


天乃「そんなに求めてもダメ」

バタバタと動く手が、

天乃の手を引っ張ろうとしている

でも駄目だとその手を引く力に反発して、微動だにしない

天乃「指が良いの? おっぱいじゃだめ?」

赤ちゃんの目の前で、人差し指を左右に振ってみる

おっぱいと言われても分からないかなと、

ごめんねと声をかけ、赤ちゃんの手を解いて胸に触れる

天乃「違う? おっぱい要らない?」

「ぁぅぁぁぅ~」

天乃「おっぱいでもいいのね」

バタバタしていた手が、求めている動きに変わったのを見て、ほっと一息

母乳を上げる時間が決まっているわけではないし、

求めているのなら、あげても問題はないはずだ

天乃「ベッドの上なら、ママは二人相手でも大丈夫よ~」

上の寝間着のボタンを手早く外し、肌着を胸の上にまで捲りあげる

二人を自分のベッドの上、胡坐をかいた足の間に下ろす

天乃「今あげるからね~」

足の上から抱き上げて、胸に近づける

空いている手がない分少し心配ではあったけれど、

赤ちゃんは問題なく、天乃の乳房に触れぱっくりと先端を咥えこんだ


天乃「んっ……」

比較してはいけない気もするが、友奈たちとは感触が全く違う

強く激しく、遠慮がない

自分の欲求だけに素直で、純粋

天乃「無くならないから、ゆっくりね」

背中をベッドの端をつけた壁に預ける

赤ちゃんの体が下手に動かないように気を付けながら、

自分の体勢も楽になるよう整える

天乃「っ」

母乳を吸われるたびに、体の中に宿していた力が吸い出されていく

それが、二人分だ

体に感じる倦怠感は無視できない

天乃「あー……これ、そっか」

今までは搾乳があるとはいえ、

直接持っていかれるのは一日に一回あっただけ。

だが、今日はすでに、看護師とともに会いに行った際に与えていて、二回目

閉じそうになる瞼を無理やりに開ける

天乃「……あと、ちょっと、だけ。ね?」


満足するまで与えたいけれど体がそれを許してくれない

まだ、完治までは程遠いのだ

天乃「おいしい?」

母乳を飲む双子に問いかける

んくんくと吸い出す双子は笑顔のままで

その愛らしさに天乃は笑みを浮かべる

赤ちゃんを支える手を少しだけ動かすと

赤ちゃんは気付いたように天乃へと目を向けて、胸から手を放し、口を放す

「ぁぅ、ぁぁぅ?」

二人が、問う

言葉になり切れない、身を案じる問い

天乃「大丈夫だよ~。でも、ちょっと、眠いかな」

赤ちゃんを専用のベッドに戻して、頬を撫でる

母乳を途中で離したのにも関わらず、ぐずるようなことはない

本当に、大人しい赤ちゃんだ

天乃「あっ」

服を戻そうとしたところで

乳頭からわずかに垂れる母乳に気付いた天乃は指で拭うと口に含む

……美味しいとは感じなかった

天乃「……はぁ」

服を着て、息を吐いて、布団を体に被せる

軽く目を瞑っただけで、意識は簡単に飲み込まれていった


√ 2月14日目 夜 (病院) ※火曜日


01~10
11~20 夏凜
21~30 双子
31~40
41~50 風
51~60
61~70
71~80 若葉
81~90 九尾
91~00 千景


↓1のコンマ


√ 2月14日目 夜 (病院) ※火曜日


若葉「ようやく、連れてくることが出来たんだな」

天乃「わ――」

若葉「静かに。な」

夜の帳の下りた時間

もう、消灯時間になろうかというところに姿を見せた若葉は、

すやすやと眠る赤ん坊を横目に、自分の唇に人差し指をたてる

若葉「回復に時間がかかった。すまない」

天乃「ううん、いいわ。無事なんでしょう?」

若葉「完治した。と、いいたいところだが、それにはもう少し時間がかかるな」

若葉達精霊は、

ダメージを負った場合の回復は自然治癒に委ねるほかない

その自然治癒は与えられた天乃の力で行うことになる

当然ながら、ダメージが酷ければ酷いほど、治るための時間は必要になる


若葉「だが、絶対安静という域は脱した」

天乃「だからって出てこなくてもいいのに……ゆっくり体を治すべきだわ」

若葉「考えたが、やはり顔は見せておくべきだと思ってな」

天乃「……子供に?」

若葉「意地悪な質問だ」

悪い笑顔を見せる天乃に、若葉は困った笑みを返す

子供と言っても、天乃と言っても

天乃は意地悪な返答をするだろう

責めるような物言いで、そのあとにすぐ前言を取り消すのだ

若葉「子供の前だぞ」

天乃「こういうやり取りが、子供の抱く親の優先順位になるのかしら」

若葉「だとしたら子供に悪影響だろう?」

天乃「そうねぇ……でも、あれこれ気にして遠ざけるのも逆に良くないと思うわよ」

若葉「そうか?」

天乃「そう思うわ。私はね」


若葉「今のうちに教育方針の言い争いでもしておくべきか……」

天乃「あら、それならそれでいいけど言い訳で私に勝てると思わないでね?」

若葉「言い訳とはなんだ。言い訳とは」

ニヤリと笑う天乃を見つめていた若葉は、

その時点で天乃に呑まれていると、はっとする

言い訳かどうかはともかく、

追い込まれていない状態での天乃は論争では一枚上手だろう

少なくとも、鍛錬に人生の大半をつぎ込んできた自分よりは。

若葉「口論は辞退させてくれ。嫌な予感しかしない」

天乃「ふふっ、そう」

若葉「……ああ」

楽しそうに笑う天乃を、若葉は優しく見守る

それこそが、守るべき世界だった

これこそが……守りたい世界だった


1、ねぇ、若葉は子供の名前って考えられる?
2、若葉は大赦からの要請については聞いた?
3、進学か子育てか、その両立か悩んでるのよねぇ
4、いつ、ここから出ていくの?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


天乃「若葉はもう聞いているかもしれないけれど、進学か子育てか迷ってるのよ」

若葉「なるほど……就職という話なら、私達に任せておけと言いたいが、進学ではな」

天乃「就職にせよ、任せきりなんて――」

若葉「そのくらいは任せて欲しいというのも……いや、男ではないが、意地がある」

若葉は自分を男として扱う発言をしてしまったせいか

はきはきとした口調に反して、気恥ずかしそうな表情を浮かべる

若葉「もっとも、それは私ではないかもしれないが」

天乃「そうね。冒険に出かけちゃうんでしょ?」

若葉「冒険ではないが、似たようなものだな」

天乃「でも就職と進学は違う」

若葉「勉学であれば、補うことも不可能ではないが通うことに意味もある。天乃はどうしたい?」

天乃「私は……」

若葉「天乃の選択がどうであれ、その選択は私達が支えよう。子供を思う気持ちは理解する。だが、かといって諦める必要はない」

天乃「甘やかさないで、生意気になっちゃう」

若葉「少しくらい生意気な方が、良いと思うぞ」


考えているのかいないのか

きっと深くは考えていないであろう若葉の発言に、

天乃は内心嬉しく思いつつ、ため息をつく

天乃「本気にしちゃうわよ?」

若葉「してもかまわないと言ってるんだ」

つい先ほど天乃が言ったように、

若葉達は戦いが終わった今、奪い返した過去の世界へと旅立つことを決めている

しかし、天乃が自分の進みたい道を選択し、

そこに自分たちの手を必要としているならば、

出来得る限り、手を貸すつもりではある

若葉「天乃はそうして貰えるだけの努力をしたんだ。誇っていい」

天乃「最後まで頑張って……ううん。付き合ってくれたからよ」

若葉「……まったく」

自分の功績を受け取ってくれればいいものの

それを易々と受け取らない天乃の返しに、若葉は苦笑する

若葉「少しは自分のことを考えたっていいと思うが」


若葉「子供と接している天乃は幸せそうだった……と、思う」

天乃「みてたの?」

若葉「もちろん、見ていたよ」

嬉しそうな天乃と、子供

まだ不慣れなあやし方に思えたが、

子供は満足そうだったし、天乃も楽しそうだった

若葉「子供、好きか?」

天乃「ええ」

若葉「だったら、子育てに集中したらいい。だが友奈たちの希望もあるだろうし、そればかりというわけにもいかないのだろうな」

天乃「そうね」

若葉「だからこそ、好きにしたらいいんじゃないかと私は思うぞ。この子達だって、天乃の幸せを願っているはずだ」

天乃「…………」

若葉は考え込む天乃を見つめて、微笑む

天乃は割と優柔不断なところがある

誰かのためという一手があればすぐにも決められるのに、

自分に答えを委ねられてしまうと、とたんに答えを出せなくなってしまう

だが、それも悪くない

少なくともここに、命はかかっていないのだから

若葉「私は天乃に幸せになって欲しい。だから、その悩みには好きにしたらいい。としか言えないな」


天乃「意地悪なんだから……」

若葉「どちらにせよ天乃が幸せになるのは分かってるからな」

天乃「それはそうかもしれないけれど、少しは助けて貰いたいものだわ」

若葉「散々助けてきたじゃないか。どちらを取っても幸せになれる悩みなら、その手を取らないこともある」

天乃のムッとした表情に笑みを返す

良い悩みだ

これからもきっと、子供か夫か―夫ではないが―で悩むことがあるだろう

その時の答えが出せるように、無理に手を引くつもりはない

天乃「私がどっち選んでも文句は無しよ?」

若葉「言わないよ。私はな」

天乃「夏凜達は?」

若葉「さぁ? どうだろうな」

くすくすと笑うさまはまるで九尾のようで、

精霊ゆえに引かれ合うものがあったのだろうかと

天乃は訝し気に若葉を見つめた



1、参考までに、若葉はどうする?
2、じゃぁ、みんなに聞いてから決めるわ
3、そうね……私は。看護師さんの案もありだと思う


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


天乃「じゃぁ、みんなに聞いてから決めるわ」

若葉「それが良い」

天乃「……何笑ってるのよ」

若葉「いや、別に」

みんなに聞いたところで、答えが得られるのかどうか。

こうして欲しいという願いは各々持っているだろうが

それを抑えてでも叶えたいことが、一つだけある

若葉「良い答えが得られると良いな」

天乃「そのあからさまに思っていない顔は何なのよ……想像はつくけど」

若葉「だろう?」

天乃の納得済みの困り顔に、若葉は笑顔のまま首肯する

当たり前だ

若葉があんな答えを出すのだから

若葉以上に天乃のことを考えているみんなだって、考える

天乃「みんなも、どうせ私の好きにしてっていうわよ」

若葉「言わないかもしれないじゃないか」

天乃「言うわよ。まず間違いなく」


みんなに聞いてからと言いはしたものの、

みんなが若葉と似たようなことを言ってくるだろうという確信が天乃にはあった

開口一番、幸せに感じるのはどちらですか。と。

どっちも幸せになれると思う

どちらを選んでも、勇者部と双子

どちらとも永別するわけではない

一日の中の数時間、会うことが出来ないというだけでしかない。

学校生活を犠牲にすることにはなるが

その分、貴重な子供との時間を過ごすことが出来るし、

逆に、子育てを少し周りに委ねるだけで、

天乃が望んでいた普通の学生としての生活を歩むことが出来る

天乃「でも、きっとね。きっと……でも私はって自分の意見をくれると思う」

若葉「もしも叶うなら、こうして欲しいという願いはあるからな」

天乃「貴女にだって、あるんでしょう?」

若葉「そうだな、あるかないか。なんて無駄口は必要ないか」

若葉はふっと苦笑を飲むため息をつくと、天乃を見る

若葉「私としては、子供を愛してやって欲しいと思っているよ」


若葉「現世に至るまで、久遠家は子を愛する時間を少しずつ持つことが出来るようになってきたはずだ」

しかし其の実、久遠家はお役目と穢れに苛まれ続け

本当に安心とともに愛する時間を得られたのはほんの一握り。

それは、天乃の症状を改善するために久遠家に残されていた文献からも明らかだった

なにより、若葉は陽乃の最期を看取った友であり、

その時の、陽乃の子供に対する与えることの叶わなかった愛情と後悔を知っている

若葉「だが、やはり……その手で抱き、その手で育ててあげてはくれないだろうか?」

天乃「私にとってもこの子たちにとっても、この瞬間はこの時しかないものね」

若葉「ああ。看護師さんの提案していた一年でもいい。たった一年、されど一年。その触れ合いは三人にとってかけがえないものになる」

いつの間にか双子へと目を降ろしていた若葉の表情は、明るくも儚い

自分の子供を見ているような顔をしているのは、

かつて、自分も同じ経験をしたという確証があってこそだろう

若葉「園子を娘と言う気はないが、この子たちを見てて思うんだ。園子にもこんな時があったと。そして、過去の私にそれがあったのだと」

天乃「若葉……」

若葉「その時を知らない空白が当然だとしても、結果が目の前にいるのだとしても……寄り添いたかったと思うものだ」

若葉の憂う笑みなどつゆ知らず穏やかな寝顔の双子

木々の枝のような手が布団をずらし、若葉の手が即座に直す

若葉「なにより、子が求める温もりは両親が与えてやるべきだと思う」

深く息を吐くようなトーンでつづけた若葉は、

薄く幸せを感じる笑みを唇で露わにして、複雑に眉を湾曲させる

若葉「まだ処女の小娘の戯言……いや、理想論だが少しは参考になっただろうか?」


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から


では少しだけ


天乃「小娘じゃないでしょ、若葉も」

若葉「この世界の私は子孫を残したが、この私はまだ未経験だからな」

天乃「なら、私の子供でも残してみる?」

若葉「……ほう」

強ち悪くはないと言うような

含みを感じる呟きを重ねた息を吐いた若葉の目を、天乃は見返して眉を顰める

言ったのは天乃だが、それを本気にされては困る

天乃も若葉も女の子

今の技術に、同性間の子供という選択はない

天乃「冗談よ?」

若葉「本気でも困る。もっとも、それを望む人もいるには居るだろうな」

天乃「東郷とか?」

若葉「誰とは、いえないな」

口よりも語る若葉の仕草

目は天乃から彼方へと逸れて、頬をかく指先がひそかに濡れたのが見えた


若葉「天乃はどう思うんだ?」

天乃「どうって、なに? 自分が女であること? それとも、女同士であること?」

若葉「後者の方」

天乃「最初は色々思うところもあったけど、ここに来てまで悩むことじゃないと思ってるわ」

そんなことで悩むくらいなら、

あの子もこの子も。なんて、

勇者部の中で満遍なく手を出すなんてことはなかったはずで

かりに付き合うことになっていたのだとしても、

体を許すことはなかったはずだ

残念ながら天乃の体質を考えると、体については天乃自身も自信は持てないけれど。

天乃「そもそも、男の子だったら出会ってすらいなかった可能性もあるし、私やみんなが私達だったからこその今の関係だもの」

もし自分がこうだったなら。

そんな考えは必要ない

それでも聞きたいと言うならば、「それでもきっと出会ってた」と、言うだろう


天乃「若葉の話、ちゃんと心に止めておくわ」

若葉「あくまで私個人の意見だ。それを優先するんじゃないぞ?」

天乃「分かってる」

若葉の忠告に笑みを向けると

仕方がないなと言いたげな雰囲気で、若葉も笑みを浮かべていた

若葉「それならいい。ただ、無理はしないようにな」

天乃「うん」

若葉「体が動くようになったからって、一人で出ていくようなことはしないように」

天乃「分かってるってば……もう、貴女は私の保護者なの?」

若葉「保護者ではないが、守護霊ではあるぞ」

天乃「屁理屈言っちゃって」

若葉「おかげさまでな」

天乃「またそういうこと言うんだから」

してやった里奈顔をする若葉を、

天乃は優しく見つめて、自分の手を握り締める

空気は冷たいけれど、寒いとは感じなかった




√ 2月15日目 朝 (病院) ※水曜日


01~10 夏凜
11~20
21~30 風
31~40
41~50 樹
51~60
61~70 東郷
71~80
81~90 沙織
91~00 園子


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

今回の周はもう少しだけ続きます。


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば早い時間から


遅くなりましたが、少しだけ


√ 2月15日目 朝 (病院) ※水曜日


戦いから早くも二日と少し

数時間というものを除けば三日も経過するようになってくると

友奈を除く勇者部のみんなは自由に活動するだけの余力が出てくるのだろう

一番満開の症状が重かったはずの園子は、松葉杖を手にしながらではあるが天乃の病室を訪れた

園子「わは~っ、聞いた通りなんよ~っ」

天乃「寝てるんだから、静かにね」

園子「………!」

口を左手で押さえ、右手でグッドサイン

黙っていてもうるさい園子は、見開いた瞳を輝かせながら、

猛獣が目の目にいる事も知らず穏やかに眠りこける双子を見下ろす

園子「……ずっと、会ってみたかったんよ」

天乃「園子は会ったことなかったのね」

園子「供物を返してもらってからも、会いに行く余裕がなかったから」


園子「絶対に天さんに似てかわいい子になるんよ」

天乃「五郎くんに似たらどうする?」

園子「男の子っぽいイケメン女子でモテモテだね」

今の天乃も似たような状態ではあるけれど、

優しさと厳しさ、纏う雰囲気

そこに好意を持たれている天乃と違い、

容姿からして好意を持たれるだろうと、園子は思う

体つきがどうなるのか

天乃を参考にしてしまうと背の低いおっぱいの大きな女の子だが

そこは、久遠家の血筋ゆえだ

解放されたとは思えないけれど、

その束縛の緩んだ双子なら、身長は天乃を超えるかもしれない

園子「天さんよりも背が高くなりそう」

天乃「陽乃さんなら、私よりもずっと背が高かったわ」

園子「おっぱいが大きくて背の高い女の子……男の子は好きなのかな~?」


中学校生活に乏しい園子の記憶としては、須美が参考になるはずだが、

須美は嫌われていないものの好意的な対象としてはやや色物のような扱いとなっていて、

天乃の子供の参考にはならない

まだ大人ではない男の子は自分よりも女の子の方が大きいのはプライド的にNGかもしれないし、

だとすれば、やはり、天乃は最も理想的な存在だったかもしれない

小さくて、大きくて、優しくて……でも、厳しい部分もちゃんとあって。

天乃「園子?」

園子「う~ん……分からないねぇ」

園子は答えを出せずに悩まし気に眉を顰めると

ほっと息を吐いて、考えを引き出しの奥にしまい込む

男の子による取り合いが起こる可能性はあるが、女の子による取り合いだってないとは限らない

その時、自分の子供が多妻を求めたときの天乃の反応の方が興味がある

園子「でも、きっと天さんに似ると思うんよ」

天乃「そう?」

園子「寝顔がもう、そっくり」

天乃「……私、こんな顔してる?」

園子「これをもう少し大人にして、可愛くしたら天さんだよ」


天乃「大人にして可愛くしたらってどうなのよ?」

園子「天さんはいつまでも可愛いんよ」

天乃「あら、ありがと」

しっかりと動く両手両足

無理のない微笑み

お腹を痛めて産んだ愛らしい双子を傍においている

取り戻せたその世界、その喜び

嬉しそうに微笑む園子を、天乃はじっと見つめる

天乃「私はやっぱり、笑顔の園子が一番好きだわ」

園子「天さんだって、その方がいい」

天乃「!」

園子は前触れなく、天乃に抱き着く

子供が起きないように気遣ったのか

音もないそれは天乃の体を背中まで抱きしめて、ベッドが揺れる

軋んだ小さな音は、双子の耳には響かない

園子「その方がいい、その方が良かった……そんな天さんが、私達は大好きなんよ」


かつて、まだ銀も生きている頃のこと

明るく賑やかで、銀と一緒に須美を困らせていた人

けれど、有事には頼れるお姉さんだった

いつも笑顔で、ずっと笑顔で

けれど、銀を失ってから酷く変わってしまった人

それでも優しくて、辛そうで

天乃「園子……?」

園子「良かった、ほんと……良かった」

抱き着いているというよりもしがみ付いているような力で、

性的な接触を求めている感じはしない

園子「天さん、幸せになって欲しい」

天乃「園子だって、幸せになって欲しいわ」

園子「悩んでるって聞いたよ。進学か子育てか」

天乃「若葉ね……」

園子「私は、出来なかった学校生活を天さんと一緒に取り戻したいと思う」

でも。と、園子は続ける

園子「天さんは学生じゃなくて、お母さんなんよ」


では、遅くなりましたがここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


では少しずつ


園子「子供を見てる天さんは可愛くて、優しくて……凄く、幸せそうで」

自分の見てきた乃木の母親の顔

覗き見た、弟をあやす銀の顔

それにとても似ていた

園子「今の天さんには、そっちの方が良さそうだよ」

天乃「………」

園子「みんなのことを考えようとしてくれてるのは嬉しい。けど、きっと、家に置いてきた子供のことを、天さんは忘れられない」

忘れて良いことではないから、それは正しいことだといえるだろう

けれど一人の学生として、

学校生活を楽しむことが出来ないのなら、学校よりも子供を優先するべきだ

その方が心に優しいし、より幸福な人生となる

園子「天さんが私達の幸せを考えてくれているのと同じように、私達も天さんの幸せが一番なんよ」

天乃「それは、分かってるけど」

園子「だったら、天さんがしたいことを言おう」

それが自分たちにとって好ましいかそうではないか

それをみんなで考えて、嫌なら嫌って言うし

それが良いと思うのなら、そうして欲しいと言うだろう


園子「私達は天さんの幸せが一番だよ」

天乃「園子は良いの? それで」

園子「園子は良いの。それが」

天乃の言葉を真似るように、答えて微笑む

一緒の学校生活、それは小学生だったころに抱いた憧れ

そう出来たはずなのに、学校に通うことさえできなくなってしまった二年間

ようやく取り戻した世界で、銀はいなくなってしまったけれど

みんなで通うことが出来るのなら、どれだけ幸せか。

でも、天乃の幸せが別にあるのなら

それが優先されるべきだ

園子「天さんは今まで頑張ってくれたから、天さんがしたいようにしてほしい」

天乃「……やっぱり」

園子「んー?」

天乃「そう言うと思ってた」

園子「そう言うよ。だって、みんなにとっての一番だからね」


園子にとっては天乃が子供と一緒にいる事が一番で、

天乃とみんなで学校に通うことは二番目だ

天乃が心から幸せに生きているだろうから

みんなが幸せに生きていけるだろうから

だから、どちらでもいいし、出来るだけ天乃が幸せな方がいい

その方が、みんな幸せだろう

天乃「いつものように、緩く話さないのね」

園子「真面目な時は真面目に。それが、天さんの見せてくれた生き方」

天乃「そっか」

園子「うん。私が、私達が見てきた背中」

それがあったからこそ、戦えた

天乃は「自分がいなくたって大丈夫だと思う」と、あの日に言ったが

でも、会ったからこそ変わったこともあった。

得られたものは大きい

変えられたものも多い

園子「いつまでも、天さんは私達の憧れ」


1、抱く
2、ありがとう。私のことも考えてみるわ
3、みんなが好き。でも、子供のことも好きなの
4、園子は、子供のことも大事にしてくれる?


↓2


今までの苦い記憶があるからか、

困り顔の微笑みを携えている園子を、天乃は抱きしめる

自分の体に回っている園子の力よりも、ほんの少しだけ強く

天乃「だから、私は頑張れたのよ」

園子「天さん……」

天乃「私を見ていてくれるみんながいてくれたことが、私の生きる理由だった」

死んでもいいと。

そう、覚悟を決めてはいたけれど

ただでは死ぬまいという力になって。

それがいつしか、死なないための理由になった

天乃「ありがとね、園子」

園子「っ……」

しがみ付く園子の力が強くなる

声を出すまいとしている分の力だ

ずっと、ずっと求めていた

天乃が、幸せになれる世界を

天乃「園子は、別れたあの日からもずっと……私のことを考えてくれていたのよね」


天乃「だからこそ、私はみんなにも幸せになって欲しいって思う」

満開を使用したことで、自由を奪われた天乃を。

久遠の血の穢れによって、ままならなくなった生活を。

支え続けてくれたみんなこそが、

もっとも幸せになるべき者達だと、天乃は考える

だが、そのみんなは天乃が幸せになるべきだと考える

どちらも相手に救われ、相手を想っているからこそ。

天乃「園子は、私が幸せな方が幸せなのね」

園子「……うん」

天乃「そっか」

みんなもそうだ

若葉の嘲笑じみた笑い声を思い出して、天乃は眉を顰める

ほら言った通りじゃないかと言いたげな空気を感じるが

あえて無視して、息をつく

抱きしめた園子の温もりは、患者衣を通してでも色濃く伝わってくる

天乃「どうしよう」

園子「天さんの好きにして、良いと思う」


天乃「そればっかり」

園子「それしかない。それだけでいいんよ」

選択肢は数あれど、選ぶべき選択肢は一つしかない

結局幸せになれてしまう悩みだから。

その言葉を口の中で転がす園子のもごもごとした頬の動きが、胸元に響く

温かく、柔らかな女の子の体

病院ゆえか、清潔な匂いは変わらないけれど

園子の匂いには、ほんのりと甘みを感じる

天乃「子供を優先するなら、我慢しないとね」

園子「ふぇ?」

天乃「えっちなこと。見せられないもの」

園子「!?」

天乃「別の部屋でやればいいとか考えないの。声を聞かせたくないし」

目を見開く園子の、そんなところまで考えていなかったという表情に、

天乃は楽し気な笑みを向けて、頭を撫でてあげる

天乃「我慢するのは私も一緒よ。安心して」

園子「なにも安心できない~」


園子「うぅぅ~」

天乃「よしよし、泣かないの」

園子「うへへ~」

すりすりと。

頬ずりをする園子の嘘泣きが止む

嬉しそうな濁りのある声

不真面目だが、喜びを感じる

天乃「ねぇ園子」

園子「?」

天乃「抱っこしてあやしてあげようか?」

園子「……うん。もう少し、万全になったら」

かつて、

園子が銀に向けたちょっとしたお願い。

それを覚えていたことにちょっとだけ反応の遅れた園子は

すぐに求めて、下心なく天乃に抱き着く

温かい、柔らかい

同じ清潔な匂いと、懐かしみを感じる匂い

心が休まる天乃に体へと、負担がないように体を預けた


園子「これからだよ」

天乃「………」

園子「これから、私達の楽しい人生が始まる」

苦しい思い、辛い思いをしてようやく取り戻した世界

そして、始まる本来の生活

望み、願い、倒れるほどに強く伸ばした手で掴んだのだ

もう、失いたくはない

園子「だからもう、無理はしないでね」

天乃「ええ」

園子「私達を頼ってね」

天乃「信頼してる」

優しい声が、病室に木霊する

園子の動いた布の擦れる音が小さく聞こえ、

胸に埋めるようにしていた園子の顔が、天乃を見る

園子「好き」

天乃「……私もよ」

よじ登るように体を伸ばした園子は、

小さく言葉を紡いだ天乃の唇に、唇を重ねた


√ 2月15日目 昼 (病院) ※水曜日


01~10 九尾
11~20
21~30 千景
31~40 沙織
41~50 風
51~60
61~70 樹
71~80
81~90 東郷
91~00


↓1のコンマ


√ 2月15日目 昼 (病院) ※水曜日


天乃「ふふっ」

園子が病室を去ったあと、

目を覚ました双子に母乳を与え、ベビーベッドへと戻す

母乳を飲んで満足したのか、母の顔が見られるからか

嬉しそうな顔を見せてくれる双子は可愛らしい声を病室に響かせる

天乃「ママ。ま、ま」

「ぁ、あ」

天乃「ふふっ、うん。マ、マ」

まだはっきりとしない言葉だけれど、

ちゃんと呼ぼうとしてくれているのは、分かる

その愛らしい我が子に触れようとした瞬間、

扉を開くことない侵入に空気が震えた

沙織「ママ……」

天乃「貴女は違うでしょ。沙織」

沙織「ばぶぅ」

天乃「違う」


天乃「子供の教育に悪いわ」

沙織「今なら、それが自然じゃないかな」

天乃「それはそうだけど、違うでしょ?」

沙織「……そうなんだけどね」

沙織は天乃の子供ではない

子供よりも繋がりは浅く、しかし深い間柄だ

とはいえ、赤ちゃんをあやし、母乳を与え、

母としての幸せそうな笑顔を見せられれば、

自分もそうされてみたいというのが、沙織の考えだった

天乃に対しては、

して貰えるかどうかは重要ではない。

そんな希望もある。ということを知って貰うことが重要なのだ

要求……欲求があれば、「仕方がない」と、やってくれるかもしれない

沙織「赤ちゃん、元気そうだね。向こうの部屋にいる頃よりも幸せそう」

天乃「そうかしら」

沙織「そうだよ。幸せなのが見てるだけで伝わってくる」


沙織「世界は変わっても、子供は変わらないよね。可愛いまま」

天乃「二ヶ月。気付けば髪も生えてるのよ」

沙織「そうだね。じき、久遠さんをママって呼んでくれるよ」

今はまだたどたどしいけれど、

いずれははっきりとした言葉を話すようになって

ママ、お母さん……と、なっていくことだろう

沙織「可愛いよね。楽しみだよね。たった二ヶ月で成長できちゃう赤ちゃんが、一年、二年。それでどうなっていくのか」

天乃「……そういうこと」

沙織「あたしの答え、久遠さんなら察しがついてるはずだよ」

園子の後に入れ替わるようにして訪れた沙織

沙織が若葉から聞いていた時点で想像はつくことだが、

園子と同じ病室にいたみんなが、天乃が話したいとしていたことを聞いている

そして各々が考え、その答えを伝えようとしている

沙織「久遠さんはもう、子供じゃない」

元々高みにいた人

それがより遠くなったのをその心に感じて、沙織はくっと唇を噛む

沙織「お母さん、なんだ」


沙織「乃木さんは学校に通いたかった。結城さんだって、東郷さんだって。あたしもそうだよ」

バーテックスの侵攻が開始され、

まず間違いなく普通の学校生活を送ることは出来ないだろうという覚悟をしていた

園子が難しいと思い、願った学校生活

沙織も同じように願っていたのだ

沙織「進学先を悩んで、学力に悩んで、一緒に勉強して、頑張って、穏やかじゃないドキドキに急かされながら受験番号を探す」

天乃「普通なら、そうしてた」

沙織「そう。だからそうしたかった」

天乃「……なら、貴女は」

沙織「だけど、違う。久遠さんは違う。進学を悩むのはあたし達のため。その目は初めから、子供を見てる」

天乃は悪くない

母親として当然のことだ

言葉通り、死を覚悟して子供を産んだのだから

沙織「それでも学校を選んでくれたら。なんて、思わないと言えば嘘になる」

ちらりと双子に目を向けた沙織は、一瞬だけ眉を顰めて天乃へと向き直る

ぺろりとなめた唇が少しだけ潤う

沙織「子供相手に何をって思うけど、自分が一番だって思えてちょっと嬉しくなるよ」


天乃「私、そんなに子供優先しているように見える?」

沙織「それ、みんなに聞くつもり?」

天乃「………」

沙織「お母さんなんだよ。もう」

沙織はそう言うと、微笑む

天乃にはそんな自覚なんてなさそうだけれど、母親だ

それは、園子や沙織だけでなく

みんなが思っていることだ

沙織「久遠さん的には、学校生活も悪くないと思ってそうだけどね」

元々、普通の日常生活に戻ることが天乃の望み

ゆえに、学校生活を取ったとしてもそれが本心だと言えるかもしれない

沙織「子供の名前、決めなくていいの?」

天乃「話が早いわね」

沙織「どれだけ久遠さんを見てきたと思ってるのかな……これでも、片思いは樹ちゃんよりも長いんだよ?」



1、私が後輩になっても、沙織は私を好きでいるの?
2、なら、沙織が思う私の答えは?
3、子供の名前、考えてくれてるの?
4、止めてよ。貴女達のこと考えちゃうわ
5、私も、普通に学校に行きたかった。普通の学生になりたかった

↓2


天乃「子供の名前、考えてくれてるの?」

沙織「そうだねぇ、やっぱり色々考えるよ」

三日前にも、似たような話をした。

あの時に話した名前も別に冗談ではなかったが、

天乃の名前を入れるのか入れないのか

それ次第で難しさは変わってくる

沙織「沙乃とか、天織とか。久遠さんが選んでくれるならそれでもいいんだけど」

天乃「沙織がこの前言ってたのよね?」

沙織「うん。久遠さんの名前はいれた方がいい。だけど、乃はともかく天を混ぜるのは難しいんだ」

意味だけを考えるならば、こじつけてしまえばいい

とはいえ、子供の名前でそんなことはしたくない

沙織「そこで天と書いて、そらと読み、陽と書いてはると読む。あたし的には、犬吠埼さんのような一文字もありだと思った」

天乃「私の名前と、陽乃さんの名前を二人に?」

沙織「そう。神樹様の力は久遠さん、穢れの力は陽乃さん。それぞれが最も結びが強いからね」

天のように広い心で人に寄り添える子であるように

陽のように温かく、優しい子であるように

沙織「なにも、久遠さんだけの名前じゃなくていい。久遠家代々引き継がれる名でもいい。そう思ったんだよね」


では、ここまでとさせていただきます
明日は恐らくお休みをいただくことになるかと思いますが
可能であれば通常時間から


沙織「陽と天……つけるならひらがなの方が良いかもね」

天乃「巫女的な姓名判断は大丈夫なの?」

沙織「大丈夫。なせばなるってさ」

天乃「またそうやって、適当なこと言うんだから」


遅くなりましたが少しだけ


沙織「もちろん、決めるのは久遠さんだよ」

天乃「それは、そうなんだけど……」

沙織「難しい?」

天乃「ええ」

沙織が言うように、

母親である天乃に最終的な決定権がある。

天乃がみんなで決めよう。と多数決を持ち出せばそれで決まることになるけれど、

そうではないならば、沙織たちも決めることが出来る

だが、沙織はあくまで、自分達は提案のみに止めようと考えているらしい

沙織「変えようとしない限り、ずっと残るものだもんね。その気持ちは……少しわかる」

天乃「でも、いつまでも有耶無耶にはしたくないわ」

沙織「そうだね」

いつまでも名前を呼ばないままでいるのは子供が可哀想だ

せめて、今月中には決めるべきだろう


沙織「今はまだあれだけど、そろそろ言葉もちゃんと受け答えするようになってくる」

天乃「うん。その時に、一切名前を呼ばれないなんておかしいものね」

なにより。と、天乃は自分を戒めるような表情を見せる

天乃「散々寂しくさせちゃったんだもの。出来ることは出来る限り尽くしたいわ」

沙織「……だろうね」

天乃「沙織の考えは盲点だったわ。悪くない……ううん、良いと思う」

沙織「はるちゃんとそらちゃん?」

天乃「うん。漢字で書いても書きやすいし、陽乃さんの名前を継ぐのは考えてなかった」

天乃の「乃」という文字は陽乃から引き継がれているため、

それを使えば、必然的に引き継ぐことになるのだが、それとは違う

天乃「そらとはる。天と陽……陽乃さんが遺した天乃という名前が取り戻せという意味なら、その証にもなる」

沙織「久遠さんの場合は、双子がお祖母ちゃんになっても生きてそうな気がするけどね」

天乃「沙織は?」

沙織「多分、あたしも生きてるんじゃないかな」


沙織「半霊だからね。どこまでも一緒」

もしかしたら、

天乃が死んでも与えられた分の力が延命となって

それを見届けることになるかもしれない

天乃と一緒に死ぬというのは、簡単ではない

沙織「ただ、お役目からの解放という意味も込めてあえて名前を引き継がないのも間違いじゃないと思うよ」

天乃「悩ませること言わないで」

沙織「子供のためだよ」

天乃「子供をたてにするのは、狡いわ」

天乃は一瞬ムッとしたものの、

沙織の二つの提案は間違っていないと、頷く

天乃「考えておく……けど、沙織はどっちがいいの?」

沙織「そうだねぇ」

深々と息を吐くように言う沙織は、

一人納得したようにうんうんと頷いて、ニヤリと天乃を見る

沙織「やっぱり、名付け親になれるって特別な気がするよね」

天乃「そう言うと思った」

沙織としては、「はる」と「そら」をお勧めしたいらしい


沙織「みんなも同じこと考えてるよ。きっと」

天乃「みんながみんな企んでるわけじゃないでしょ」

もっとも、企んでいる子もいるだろうけれど、

別に、悪いことをしようというわけではないのだから、

それを咎める必要はないだろう

下心があるのなら話は別だが、それも大丈夫なはずだ

天乃「将来についても、この子達についても、色々参考になったわ」

沙織「うん、いくらでも頼ってくれていいんだからね?」

天乃「ええ」

沙織「あたしだけじゃなく、みんなのことも」

天乃「もう、ちゃんと分ってるつもりよ」

沙織の釘を刺すような言葉に笑みを返す

もう言われ慣れた

もう、言われる必要はない……と、天乃は思う

天乃「一人で抱え込む問題じゃないわ」

自分の将来も、子供たちのことも

自分だけのものではないのだから


√ 2月15日目 夕 (病院) ※水曜日


01~10
11~20 東郷
21~30 九尾
31~40
41~50 夏凜
51~60
61~70 千景
71~80 樹
81~90
91~00 風


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


沙織「名付け親って特別な感じするよね」

夏凜「そりゃ、基本的には親かその親が付けるもんだし」

風「夏凜は何か考えてないの?」

夏凜「私は――」

東郷「母乳が出せれば……育て親と胸を張れるかもしれない。と?」


園子「そういえば今回の戦いの後遺症でゆーゆに生えたんだよね」

樹「適当なこと言うと、千景さんに怒られちゃいますよ」


では少しだけ


√ 2月15日目 夕 (病院) ※水曜日


九尾「構わぬのではないかや? 沙織の案であれ、主様が良いと言えばそれが答えじゃ」

天乃「他人事だと思ってる?」

九尾「思ってると言ったらどうする?」

嫌味ったらしい笑みを浮かべる九尾の問い

天乃が答えずに見つめていると、

九尾はおもむろに鼻を鳴らして、顔を逸らす

胸の前で組んだ腕が、少し動く

九尾「赤子に是非の判断など出来ぬ。なれば、名など親の自己満足でしかなかろう」

天乃「そんなことないわ」

九尾「ほう? 主様にはそれ以外の何かがあると?」

天乃「子供にとって……ううん、人にとって、大事なことよ」

九尾「そうかや? 妾にはわからぬな」

くすくすと。

本当は分かっていそうな笑い声を零す九尾の瞳は、

それでもしっかり、子供へと向けられている


九尾「主様が産まれた頃とそっくりじゃな」

天乃「貴女は知ってるのよね。私がこのくらいの頃のことも」

九尾「主様に限らぬ。妾は常に久遠の傍に在ったからのう。主様も、陽乃もそれ以前も。妾は見てきた」

最初こそ、毛頭興味のない有象無象の誕生だった

それが、陽乃が産まれてから世界は大きな戦禍に包まれ

神々に囲われた世界へと退化し、冗長な怠惰を拠り所にした生と死を繰り返す魂に触れるようになった

九尾「だが、陽乃に似ているのは主様が一番じゃ。育った結果は大きく違うが」

天乃「本質は変わらなかったんじゃない? 私だって、裏切られ続けたら信じることも嫌になる。でも、変らなかったと思うわ」

裏切られたからといって周囲を見捨てられるわけではない

心が強い、心が弱い

人によっては二分されるだろうが、

結局、穢れのように染みついた甘さは抜けないだろう

天乃「それで? 貴女の目から見て、この子たちはどう育ちそう?」

九尾「ふむ……主ら次第じゃろう。子は親を見る。親を見る余裕のなかった娘共は世界を見ることで荒んでおったぞ」


くつくつとした笑い声は、嫌に響く

本当に馬鹿にしているのか、ただの冗談なのか

九尾の性格ではどちらでもあり得るのが悩ましくて

天乃は九尾の表情を窺うのを止めて、子供を見る

天乃「貴女も、子供の傍に居るべきというのね」

直接的な表現ではない

しかし、九尾が言いたいのはつまり「傍に居てやれ」ということだ

親は子の傍にあるべきだと。

天乃「貴女は親のいない子供たちを多く見てきた。それが、どんな思いで生きてきたのかも」

勇者としての力がなくとも、

久遠家のしがらみ、受け継がれた穢れは絶えることなく

寄り添い続けた九尾は子供たちのすべてを知っている

だからこそ、皮肉のように、嫌味らしく、荒んだ。と

天乃「そんな思いを、この子たちにさせたくないのね」

九尾「妾はそんなこと言うておらぬが」


1、貴女は変わったのよ。陽乃さんのおかげで
2、そうでしょう? 陽乃さん
3、貴女のそれは、そう言ってるのと一緒なのよ
4、なら、陽乃さんはどうしたいって言うと思う?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「あら? でもそういうことでしょう? 陽乃さん」

九尾「何を言うておる。妾は九尾じゃぞ。呆けたか?」

天乃「ずっと不思議だったのよ」

子供から、九尾へと

流れるように動いた視線を感じ取った九尾の細い瞳がさらに細くなる

ルビーのような赤色が、かすかに淀んだように見えた

天乃「死神や稲荷、穿山甲とか私の精霊のほとんどが西暦勇者の魂を込められてた」

にもかかわらず、

火明命と九尾だけが何ともない

稲荷や死神は久遠家由来

穿山甲などの少し特殊な精霊は、

西暦勇者の魂を込める際に混入した陽乃の力が引き寄せられた結果かもしれないが、

火明命と九尾は死神たちと同じく久遠家由来

その二人が、何もないというのは奇妙なのだ。あまりにも。

天乃「貴女には、陽乃さんの魂が込められているんじゃないの?」


九尾「ふむ……」

なぜだか、九尾は考え込む。

わざとらしく口に出した思案の声

ため息のような吐息は瞬く間に空気に溶けていく

九尾「あやつの魂の一滴を妾が受け取ったのは事実じゃが、残念ながら妾は陽乃ではない」

天乃「若葉達みたいに密度が足りない?」

歌野達や球子、千景や若葉

みんなを後世に遺したのだ

陽乃が自分を遺すことが出来ないなんてありえなかったし

その方法がないと諦めているわけがない

九尾「いかにも。陽乃は残る久遠の血の者の打開の術として力を遺したが、自らが召喚されることは望んではおらなかった」

天乃「どうして?」

九尾「自分は不要だと。生きたいとは望まなんだ」

天乃「私とは真逆だったのね」

九尾「そうじゃな……友に恵まれなかったわけではないと今なら思う。じゃが、それでもあやつは拒んだ」


天乃「若葉だって、最後は敵視していたわけじゃない。高嶋さんも」

千景たちは、敵視というか良く思っていないというのは記憶の断片でも感じられるほどだ

だが、陽乃は信頼していなかったわけではない

言葉は強く、嫌味を含んではいたが

しかし、だとしても背中を預けていた

それが、仲間だと認めていた証拠だともいえる

それでなくとも、子供を委ねただけで十分だ

天乃「それでも陽乃さんが嫌がったのはどうしてなの? 力を最も理解していたのは陽乃さんでしょう?」

九尾「そうじゃな。力の発端ゆえ、妾以上に理解していたやもしれぬ」

九尾はそう零すと、細めた視線を下げる

子供も天乃も見ていない瞳ははるか遠くを見ているように感じる

九尾「悔しいが、妾にはあやつの心を読む力はないが、きっと、友と信ずることが出来たからこそ拒んだと思うておる」

天乃「……託す当てが出来たから。もう大丈夫だって? だから、死ぬとしても笑顔で?」

九尾「うむ」

天乃「久遠家が苦しい歩みになると解っていて、それでも。そこに手を差し伸べてくれる人がいると信じたから?」

裏切られたのに?

家族も、何もかもを奪われるほどの絶望と怒り、憎しみがあって

それでなお、絶対的に信じられると?

天乃「滅ぶなら滅べ。そう思っていた節もあるんじゃない?」

むしろ、そうなってしまえと思っていたかもしれないと、

天乃は断片的な記憶の中にいる陽乃の姿を探す


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から


では少しずつ


九尾「否定は出来ぬ。が、あやつは三好に力を分け与えた。それが、いつか久遠家の力になるじゃろうと」

天乃「そうだったわね」

九尾「もし、主様らが救われることない世界なら滅んでも良い。あやつはそういう賭け事を好む娘じゃ」

天乃「陽乃さんって、ギャンブラーだったの?」

九尾「欺騙は得意じゃったな」

やや強引に連れ出されたカード遊びでは、

純真な友奈をイカサマで大敗に追い込んだりしていたのだ

それでよく、千景が一対一で勝負を挑んでいたと九尾は思い出す

今のように仲が良かったわけではない

ただ、仲介に立った友奈の強引な手引きが繋いでいただけだ

しかし、今思えばそれも

純真すぎる友奈に対し、こういう人間もいるのだという教育をしたかったのかもしれないと、思う

九尾「いずれにせよ、陽乃は主様の世代に遺すべきものを遺した。それが答えじゃろう」

天乃「……そうね」


天乃「でも、陽乃さんがいてくれたらもっとうまくできたように思うわ」

九尾「それを考えても仕方がなかろう」

天乃「ねぇ、今回の戦い。陽乃さんならどうしてた?」

九尾「陽乃ならば、手など借りぬと単身で終わらせていたじゃろう」

そもそもの話、勇者部みんなの信頼を勝ち得るような行いをしてきたかどうか疑問だ

少なくとも、ボランティアを行う勇者部に所属することはないし

人付き合いをしようという気概も一切見せないことだろう

それは、最も迫ってくる友奈に対してでもそう

突き放して、拒絶して

問題は自分の中に止めておくはずだ

九尾「たとえ、それで自分の命が尽き果てるのだとしても。あやつは、己の身を代償として安寧を齎したはずじゃ」

天乃「自分の周りに誰もいなくても?」

九尾「そんな奴に、声をかける愚か者がいるからじゃろう」

信じない、頼らない

そう口にしておきながら、本心では信頼している。頼っている。

自分がいなくなった後の世界を、託そうとしている

九尾「間違いなく言えるのは主様だからこそ小娘共は幸せになれる。ということじゃな」


天乃「貴女がほめてくれるなんて珍しいこともあるものね」

九尾「成し遂げたからのう。貶すほど妾も落ちぶれてはおらぬ」

九尾の見せるほほえみは企みなどはなく優しいもので

本当に心から思っていることなのだろうと、少しだけ信じられる。

九尾「主様よ。存分に悩むがよい。それは、人間として然るべきことであろう」

天乃「………」

九尾「悩み、問い、それを持って答えとする。それでよかろう」

柔らかな瞳、穏やかな声色

それが企みゆえならば、内心に感じるほほえみがあるはずだが、

今の九尾からはそんなものは一切感じない

天乃「ねぇ、貴女は……残るのよね?」

九尾「力はある。妾が消滅することはない」

天乃「そうじゃなくて。もう、終わったからっていなくなったりしないよね?」

九尾「……これからの主様に、妾は有用ではなかろう」

天乃「家族に、有用も無用もないと思うわ」

九尾「愚か者め」

天乃「陽乃さんの子孫だもの」


九尾はくつくつと笑うと、

天乃の子供を見つめて、微笑む

取り戻した記憶の中にある母の笑みだ

九尾「手に余るのなら、妾が預かってやるが?」

天乃「貴女に預けるなら、お母さんたちに預けるわよ」

九尾「妾も、母の経験はあるのじゃが」

天乃「信頼の問題よ」

別に九尾のことが信頼できないわけではないけれど、

流石に、母としての信頼は実母に劣る

九尾「ふむ。家族の記憶はない方が良かったかのう」

天乃「嫌なこと言わないで」

九尾「くふふっ。妾に奪う力はない。安心するがよい」

九尾の伸ばした手に、小さな手が伸びる

九尾にとっては有象無象……では、もうないのだろう

九尾「妾に触れるとは、勇気があるのう」

九尾は穏やかに声をかけると

その小さな手を許し、微笑んだ


√ 2月15日目 夜 (病院) ※水曜日


01~10
11~20 樹
21~30
31~40 千景
41~50 風
51~60 球子
61~70
71~80 夏凜
81~90
91~00 東郷


↓1のコンマ


では本日はここまでとさせていただきます
明日は出来れば昼頃から


では少しずつ


√ 2月15日目 夜 (病院) ※水曜日


天乃「なぁに? お腹すいた?」

小さな声を精一杯出して呼びかけてくる双子に答える

頬に触れてあげると、嬉しそうな声を出す

温もりが欲しかったのだろうか

天乃「ふふっ」

可愛い子、愛しい子

二人が歩む世界はどのような世界になるのだろうか

二人は、この世界にどんな影響を与えることになるのだろうか

守ってあげるべきだろう

だけど、守るではなく、あえてその厳しさに触れさせるべきかもしれない

天乃「……でも、そこまでに何年かかるかしらね」

少なくとも、園子達が勇者として戦った小学校の6年生

その辺りでなければ、自分の判断というのも難しいだろうから、それまでは守るべきだ

天乃「それよりも前に、今のことよね」


九尾も、沙織たちも

みんなが望んでいるのは子供と一緒にいることだ

でも、内心では一緒に学校に通いたいとも思ってくれている。

看護師の意見である、一年だけ子育てに集中し、

離乳食を口にできるようになってから復学するというのがベストかもしれない

ただ、子供の状況、天乃の心境次第ではそのまま母となることもあり得るだろう

天乃「……確かに、私はもうお母さんだわ」

子供を産んだという意味でも

子供の愛らしさに心を癒されるという意味でも

普通の少女として生きていきたかったが、

今は、置いて行くことになってしまう子供の身を案じてしまう

母として当然のことだが、まだ15の少女としては当然のことではないだろう

ゆえに、身も心も母なのだ


1、精霊組
2、勇者組 ※部屋を抜け出します
3、イベント判定
4、はる、そらで呼んでみる

↓2


1、友奈
2、園子達(夏凜、風、樹、東郷、園子)

↓2


※判定20~29 看護師 40~49 大赦


天乃「……んっ」

端に足を降ろすと、布団の中との空気の違いに身震いする

せめて靴下だけでも履くべきだろうか

そんなことを考えていると、

どこからともなく白い手が伸びて天乃をベッドへと押し戻す

千景「なにを、しているのかしら」

天乃「あら、こんばんは」

千景「こんばんは。で?」

困り顔の千景は挨拶を素直に返しながらも、

天乃へと詰め寄る

天乃の体は治ってきているとはいえ本調子ではなく、

そもそも消灯時間も近く、

急ぎの用事でもない限り、出歩くのは避けるべきだ

天乃「みんなのところに行こうと思って」

千景「子供を置いて?」

天乃「連れて行きたいけど……難しいから」

千景「だったら呼んだほうが良いんじゃない?」

天乃「戦いの疲労もまだ抜けていないだろうし、負担はかけたくないわ」


千景「それは貴女も同じことでしょう……まったく」

天乃「千景?」

もう何度聞いたかもわからない呆れ混じりのため息

仕方がないと千景の表情が語る

千景「流石に、あの距離を歩かせたくないわ。子供も置いて行くんでしょう?」

天乃「ええ……だから、そんな長くは出ないつもり」

千景「だったら車椅子ね。異論は?」

天乃「そんな威圧的に言わなくても」

千景「貴女の体と子供のことを考えれば当然でしょう?」

むしろ、絶対にダメだと制止しないだけありがたいと思って欲しい

天乃の体は絶対安静ではないにせよ、安静を推奨するべきで

まだ幼い双子を思えば、置いて出ていくなどすべきではない

天乃「……怒ってる?」

千景「怒ってないわ。ただ、もう少し……貴女は貴女が貴女だけのものではないと自覚するべきだと思うわ」

天乃「貴女じゃなくて、天乃で良いのに」

千景「久遠さんだけのものではないと自覚するべきよ」

天乃「いけずね」

千景「………」

天乃「ふふっ、ごめんなさい。分かってるからそんな顔しないで」


千景のムッとした頬に触れて、微笑む

本気で怒らせるのもあれだからと、体を起こす

天乃「園子たちのところに行きたいの。連れて行ってくれない?」

千景「なら車椅子を用意するから、少し待って」

体を冷やさないようにという気遣いだろう

布団を天乃にかけると、

松葉杖とならぶ車椅子のロックを外し、ブレーキを確かめる

天乃「……手慣れてるわね」

千景「見てたから」

友奈や夏凜達がやっていたのを見ていたとはいえ、

実際に慣れて見えるのは、ただ見ていただけではないからだろう

千景も、夏凜達に及ばないとはいえ手を貸してくれていたのだ

天乃「迷惑かけるわね」

千景「気にしなくていいわ。私達がしたくてしていることよ」

天乃「ありがと」

千景「……ええ」

千景の背中しか見えないが、

それでも、声に感じる嬉しそうな色に

天乃は子供へと、「ね?」と、優しく微笑む

子供は、若葉達に見ていてもらうことにした


東郷「久遠先輩……会いに来て下さるのは嬉しいですけど、あまり無理は」

天乃「大丈夫。そのための千景よ」

風「千景も大変ねぇ」

千景「この程度、戦うことに比べれば大したことじゃないわ」

風の茶化すような物言いにさらりと答えた千景の手に押された車椅子が、病室の中央に止まる

友奈がいない分、寂しいベッドがあるものの、

東郷達5人は各々のベッドの上にいる

布団に入っていた東郷の体から、起き上がった分の布団がずり落ちた

夏凜「それで? わざわざどうしたのよ。聞いた話、病室に子供入れたんでしょ?」

天乃「ええ。入れたわ」

夏凜「置いてまで来たってことは、それほど急な話ってわけ?」

東郷「あるいは、会いに行かない人がいるから。とか」

夏凜「仕方ないじゃない。私だって安静にする必要があったのよ」

樹「子供の名前ですか? 将来のことですか? それとも……大赦に言われた件ですか?」


天乃「大赦のこと……誰から聞いたの?」

東郷「沙織先輩です」

天乃「精霊の繋がりね……」

告げ口というよりは、警戒のための報連相

それを受けて、沙織は念の為にと根回ししておいてくれたのだろう

ありがたいとは思うけれど、

少しばかり過保護ではないかと、天乃は目を瞑る

それだけ心労をかけてきたということだろうか

風「言っておくけど反対だからね」

東郷「風先輩だけじゃなく、総意です」

樹「これ以上、久遠先輩が世界の為に頑張る必要はないと思います」

天乃「貴女達……」

夏凜「良くある話だけど、一難去ってまた一難だっていうなら……そうね。全面戦争も受けて立ってやるわ」

神樹様の加護が失せ、

夏凜達に勇者としての力はない

しかし、鍛錬に費やした時間までもが失われたわけではない

長年費やした人間には付け焼刃かもしれないが、それなりの戦いは出来るだろう



1、その話は、断ることに決めているわ
2、そうじゃないわ。将来についてよ
3、そんなことどうでもいいわよ。断るし。問題は子供の名前よ

↓2


天乃「その話は断ることに決めているわ」

夏凜「大丈夫なの?」

天乃「大丈夫も何も私の人生だもの。一生縛られるなんて嫌よ」

東郷「違いありませんね」

そもそも、天乃は生まれてからずっと死命に縛られてきただろう

厳しい戦いに勝利してまで手に入れた世界で間で縛られるなど、

断じて許せることではない

それを強要しようものならば……と

今はもう握ることのできない銃を握るように布団を握りしめる

東郷「久遠先輩が受けると言い出したらどうしようかと……」

風「羽交い絞めにするんだっけ?」

樹「四六時中目を離せないとしか言ってなかったよ」

天乃「私だって、色々反省してるのよ」

言いたい放題の風達を一瞥して、息を吐く

確かに、以前の自分だったら受けようかと考えていたに違いない

嫌だけど、仕方がないことだから。と


夏凜「でも大赦は認めてないんでしょ?」

天乃「また来るでしょうね」

拒絶したにもかかわらず、

神官は出直すと言っていた

一日二日程度で再訪するなんてことはさすがにしなかったようだが、

来ると言った以上は来るだろう

来ると言わなくても来るのだから

樹「久遠先輩を神樹様の代行に仕立て上げるなんて、おかしな話だとは思わないんでしょうか?」

風「今まで神樹様の敵だってしてきたくせにね。なりふり構っていられない状況なんだろうけど」

夏凜「九尾に門前払いして貰えば?」

天乃「帰さないわよ。九尾は」

九尾にどうにかしてと頼むことは出来るけれど、

それをしたら、使者として送られてきた人々は帰らぬ人となるだろう

千景「門前払いなら私達が引き受けてもかまわないけれど、解決にはならないと思うわ」

天乃「でしょうね」


とはいえ、

嫌ですと拒んではいそうですかと受け入れてくれるわけでもない

学校のことを前に出して拒否したが、

子供のことを口にしたら納得してくれるだろうか?

いや、してくれるはずがない

大方、その乳母や手伝いを用意するので。とでも提案するだろう

天乃「神樹様は人としての力を信じようとしてくれた。なのに、その残滓に縋りついていたら呆れられるわね」

東郷「それを神託とするのは?」

夏凜「天乃寄りの神託を受け入れるとは思えないんだけど」

樹「それこそ神樹様の名前を出すべきかと」

風「なるほど、神樹様を出されたら、そんなはずはないなんて言えないか」

天乃「……脅迫みたいね」

夏凜「穏便に済ませたいけど、すべて穏便に済ませるのは無理でしょ」

夏凜の言葉は厳しいが、その通りだろうと天乃は思う

多少は脅迫のようなことを交えなければならない

東郷「ただ、念のため傍に誰かいたほうが良いと思います。それと、向こうに来られるよりこっちから呼び出すべきかと」


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「久遠先輩が受けるつもりならしようと、亀甲縛りを習得したのに」

風「布団の中でごそごそやってたのはそれかぁ……」

樹「てっきりえっちなことしてると思ってました」

風「えっ」

夏凜「無垢で良かったじゃない」


園子「……さて、そろそろ私の出番だね」

風「やめて」


では少しだけ


天乃「呼び出したほうが、ペースを掴めるかしら」

東郷「それもありますが、こちらの意思をはっきりさせられるかと」

夏凜「確かに東郷の言う通りかもね」

相手が来たからと拒絶するよりは、

自分から、はっきりと断ってしまうべきだ

相手の言葉を聞く前に断るのであれば気も引けるものだが、

すでに、向こうの一手は打たれている

ならば呼び出してお断りするくらい許されるだろう

そうでなくとも

大赦との関係を考えれば門前払いも仕方がないほどだ

園子「天さんが呼び出す時点で察しはつくだろうし。それで引かないのなら、強硬手段も考えないといけないかもしれないね」

天乃「強硬手段は、ちょっと」

風「天乃は甘いのよ。ガツンと言ってやりなさい。ガツンと」

千景「これでも、大赦から話が来た時は結構な塩対応だったわ」

樹「久遠先輩がですか?」

天乃「私だって、言うときは言うのよ? 知ってるでしょ?」


風「そういえば、どこかの誰かがぼっこぼこにされてなかったっけ?」

夏凜「さぁ?」

東郷「久遠先輩は優しいですけど、厳しい時もあるのはみんな知ってますよ」

特に、身近な人を傷つけられることを強く嫌悪している

それゆえに、友奈を傷つけた夏凜との反発もあったのだが

今ではとても仲のいい二人だ

それは風もそうで……だから、きっと。と、風は思う

風「今ここで反発したとしても、いつか手を取り合えるようになるわよ」

天乃「風……」

風「それはあたし達が保証してあげる」

夏凜「それは私達だったからでしょ」

園子「なるほど~にぼっしーはたとえ何があろうと天さんを愛していたと~」

夏凜「そんなこと言ってない」

園子「そう言ってるようなものなんよ~」

ニコニコと笑う園子へと悪態をつく夏凜は、

それでも否定まではせずに、悩まし気な表情を見せる

夏凜「まぁ、神樹様もいなくなったわけだし、なるようになるだけなんじゃない?」


園子「良い方向に進めば、それは必要なかった。悪い方に進めば、手を貸してくれないからだと」

単純かつ極端な話だが、

もしもそうなるようなら、それまででしかない

だが、もしも利己的なだけではない人々が集った大赦であるならば、

どちらからともなく、手を取り合うことが出来るようになるだろう

園子「信じてみても良いんじゃないかな? 大丈夫だって」

天乃「………」

大赦の要請を受け入れるつもりはない

けれど、その結果がどうなってしまうのか

そこに不安が残る

でも、それはどんなことにだってあるはずで

成功もあるし、失敗もある

夏凜「大赦がどうこうじゃなくて、人を信じるか信じないか。ってことね」

天乃「神樹様は人を信じたわ……信じようとしてくれた」

樹「なら、信じて貰いましょう。神様が信じた子供たちは、この世界でも生きていけるんだって」

風「……そうねぇ。天乃の力がなくても、神様の導きがなくてもあたし達とこれからの子供達が何とか出来るってところを見せてやろうじゃない」

東郷「これからは大人ではなく、子供。ですか」

大人が作った過去を子供が歩み、それが未来を作る

300年間の過去から踏み出す時が来たのだと、東郷は小さく頷く

東郷「なんというか、子供子供って。みんなしてお母さんになったみたいだわ」

園子「育ての親という便利な言葉があるんだよ。わっしー」


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


樹「……なら、まずは復活させないとですね。勇者部」

夏凜「風も沙織も天乃もいなくなるのに?」

樹「だとしても、続けるべきだと思います」

夏凜の否定ではない問い

対する樹には迷いがなく、はっきりと答える

いつから考えていたのか分からないそれは、

逡巡する程度の時間、病室を静まり返らせた

東郷「私達は3年生になる。樹ちゃん一人になっても続けられる?」

樹「一人では難しいと思いますが、そうならないようにできればいいのかなって思ってます」

千景「むしろ、一年後に独りになってしまうような状態なら、望みは薄いと思うわ」

勇者部という名前に負けてしまうからと引く者も少なからずいるかもしれないけれど、

だとしても、自分も力になりたいと

出来ることがあるのならと思い、行動に移せるような人を生み出せなければ、

この世界はそう遠くない未来に朽ちるだろうと千景は考える

天乃「………」

そもそも、学校の部活としてではなく

一個人の活動として発足させればいいのではと天乃は思うが、

それを口にするのは無粋なのかもしれない


風「勧誘すれば集まってくれたりするんじゃない? ほら、意外と有名だし」

夏凜「それが二番でしょうね」

風「一番は?」

夏凜「自主的に集まってくれること」

夏凜は勇者としての活動がメインでの入部で

友奈と東郷、樹は勧誘したからで

園子は自主的ではあったが、

天乃達が所属しているからというのが強いし、

そもそも、ほとんど活動休止状態での入部だ

夏凜の言う一番は確かに一番だが、それは難しいだろう

悪く言ってしまえば高望みだ

樹「活動してればついてきてくれる人がいるかもしれない……なんて、難しいですよね」

園子「始める前から諦めてたら駄目だよ。本当、難しいと思うけどね」


園子の穏やかな声色には茶化す素振りは感じられず、

それだけ真面目なのだという意志が強く伝わってくる

それゆえに、余裕を感じることのできない不安を覚える

どうするべきかと。

悩まし気な視線は前を見ることが出来ない

戦うことだって簡単ではなかったけれど、

天乃を傷つけさせないために、救うために

そして、倒すべき敵がいた

そんな明確さがあったからこそ、がむしゃらでも突き進むことが出来た

しかし、これからの世界に敵はいない

なのに、それでいいのだろうかと……思慮深くなっていく

樹「っ」

天乃「………」

久遠先輩は。

そう言いたげな目が一瞬だけ向けられた

目は合っていないから、気付かなかったことにして委ねることも出来るかもしれない


1、気付かなかったことにして、委ねる
2、私は何も言うつもりはないわよ。そうするべきと思ったなら、そうしてみなさい
3、樹。貴女がどうしてそうするべきだと思ったのか。それが大切よ
4、誰だって最初の一歩は恐ろしいものよ。だからこそ……ね?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


天乃「………」

天乃は卒業し、樹たちを残していく側の存在だ

これからどうするべきかと【未来】を悩む樹たちにとって、

過去である天乃の言葉は必要ないかもしれない

だから気付かなかったことにしても良かったのだが。

天乃は小さく笑みを浮かべると

自分を見てはいない樹へと目を向ける

天乃「樹、貴女がどうしてそうするべきだと思ったのか。それが大切よ」

樹「どうして……ですか」

どうしてそうするべきだと思ったのか。

それだけを口にするのなら簡単かもしれない

樹「私は、お姉ちゃんや歌野さん達……それと、やっぱり久遠先輩がいてくれたから、ここまでこれた」

それは多分、勇者部がなくても作られていた関係だ

はっきり言おう。必要なのは勇者部ではない

自分の前を歩んでくれる誰かの背中だ

自分がそうありたいと、そうなりたいと憧れる誰かの姿

それが最も分かりやすく、明確にできるのが勇者部なのだ

樹は、胸の奥でつっかえる言葉を押し出すように胸元に拳を押し付ける

樹「私に出来るのかは分からないけど、私にとっての久遠先輩たちのような存在があれば大丈夫な気がしたんです」


だから、一つでも先輩のしてきたことを踏襲したい

別の思惑があったにせよ、

作り上げられた勇者部という存在は大きく

勇者部がしてきたことは、人が最も大切にすべきことであると樹は思う

少なくとも自分にとっては必要なことで、とても大切なこと

樹「神樹様がいなくなって、知らない世界が広がって……でも、だからこそ、小さなことから一つずつやっていくべきです」

事の重大さも、何もかもも比にならないかもしれないけれど

両親を亡くしてからの数年間

通いなれた小学校の卒業と、初めての中学生

それと、似たようなものだ

樹「私はそうして来たし、それでよかったと思ってます。それだけは、自信がある」

夏凜「……異議なし」

勇者候補の時代から、

鍛錬を積み重ね続けてきた夏凜としては、

樹の言う積み重ねる事、小さなことも切り捨てずにやっていくことの大切さは分かっているつもりだ

夏凜「ただ何となくだったらあれだけど、それだけ言えるなら支持するわ」

東郷「もう少し素直に言ってもいいんじゃない?」

夏凜「そういう東郷はどうなのよ。いつもの反論してみれば?」


夏凜の思わぬ反撃を受けた東郷は、樹を見ると笑みを浮かべる

樹には不安がない。

何を言われるのかという恐れもない。

それだけ、自分の経験に自信があるということだろう

東郷「異論はないわ」

すでに一度、樹の言葉が口先だけではないと見せつけられたことがある

天乃が苦しみ続けるのは神様が悪いのだと

失うくらいなら、壊してしまおうと

世界の敵になりかけた東郷に、樹は道を示してくれたのだ

それを経て、今

力のある姿を見せられて異論などあるはずもない

園子「私も異議なーし! いっつんなら大丈夫なんよ」

樹を見てきた時間はみんなの中で最も短いけれど、

だからこそ、今の樹なら大丈夫だと園子は断言できる

樹は小さくて、妹らしくて、一見弱弱しいけれど

それでも怖気づくことなく歩む姿を見せてくれるとしたら、どれだけの力になるか。

園子「たとえ迷ってもその自信を忘れなければ、絶対に大丈夫」

迷ったとしてもその意志がある限り、膝を屈することはあり得ないからだ


風「いつの間にか大きくなったわね。樹」

樹「そんなしんみりするようなことじゃないよ」

風「そうね」

夏凜も東郷も園子も異論はなく、

きっと、友奈だって異議を唱えることはないだろう

樹は大きくなったし強くなった

普通ではありえない勇者としての戦いがあったこともそうだが、

やっぱり、目指すべき者がいたことが大きかったのかもしれない

風「言い出したからには成し遂げる。分かってるわね?」

樹「もちろん、その時に大事なことだってちゃんと分ってる」

風「そう……」

無理をし過ぎないこと。

ひとりで抱え込んだりしないこと。

弱音を吐いてもいい、迷ってもいい

それでもしっかりと歩み続けていけば、辿り着けるのだと今この瞬間が教えてくれている

風「よろしい」

風はどこか寂し気に

けれどもとても嬉しそうな笑顔を浮かべて、大きく息を吸い込む

風「では、新部長に樹を任命します! 異論あれば挙手!」

部屋に響く風の声

遮るもののない沈黙、それは間違いなく肯定だった

風「……成し遂げて見せなさい。樹」

優しい姉としての言葉に、樹は力強く頷いて答えた


天乃「………」

友奈を除くみんなが納得している

その友奈だって、樹が部長になることに嫌悪感を抱くことはないだろうし

むしろ、応援するだろうから大丈夫かもしれないが

念のために保留として、友奈に話を聞くべきだろうか?

今までの友奈を鑑みれば、その必要はなさそうだけれど。

天乃はそんなことを考えて、樹を見る

自信を感じるし、大丈夫だろうと思わせる雰囲気がある

最初はだれもいなくても、

最後はきっと、多くの人がそのあとに続いているだろう

樹は二年生になり、天乃は卒業してしまう

学校でその姿を見ることが出来ないのは少しだけ残念だ


1、頑張りすぎないようにね。樹
2、夏凜、貴女が副部長なんだからしっかりとサポートしてあげなさい
3、貴女はもう十分、立派だわ
4、私に出来ることがあったら言いなさいね。可能な限り、何とかするから


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


すいませんが本日はお休みとさせていただきます
明日も場合によってはお休みをいただく可能性があります。

明後日の再開は出来るだけ早い時間から


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「私に出来ることがあったら言いなさいね。可能な限り、何とかするから」

樹「はいっ」

風「そこは、お姉ちゃんに頼るって言うところでは……?」

夏凜「頼れないし」

風「えっ!?」

東郷「そこで私を見られても……」

驚きと戸惑いの表情を向けられた東郷は、

困り切った返しをしつつ夏凜を見る

夏凜の【頼れない】がどういう意味なのかは察しがつくし、

樹が何を頼りたいのかも不真面目ではなく分かっているつもりだ

東郷「部長としては、十分頼りにされると思いますよ」

風「そ、そうよね……お世辞、じゃなく?」

東郷「嘘はつきませんよ」

そう。部長としては。

もちろん姉としても頼りにされるだろうが、

先輩として頼りにするのは天乃の方だろう

好意も相極まって、そこは譲れないのだ


園子「風先輩も自信もっていいと思う」

風「妹の贔屓込みで負けると自信も木っ端微塵になるわ」

落ち込んだ様子もない風はあっけらかんとした表情でぼやくと、天乃を一瞥する

頼られるべき立場の人が頼りにしている相手だ

勝てないのも無理はないだろう

姉としては勝っているだろうと風は考えているが

それ以外の面では……どうだろうか

樹が口に出さずともどこかで求めていただろう母性は

もはや天と地の差だ

風「天乃……だけに」

天乃「うん?」

樹「お姉ちゃんも頼りにしてるから、大丈夫だよ」

風「樹……」

園子「いっつん、大人の対応」

東郷「そのっち空気読んで」

風「そんな深刻に考えてないわよ。大丈夫」

親離れしていく子供とはこういうものなのかと

それを見送る親の心とはこういうものなのかと。

風「ほんと、もう大丈夫」

少しだけ感じる胸の奥の寂しさは、すぐになくなった


夏凜「部活はそれでいいとして、天乃と風は進路どうすんのよ」

東郷「久遠先輩にはお子さんがいますし、そっちに注力するという選択もありますが……」

風「いやいや、あたしにだってまだ進学出来る可能性はあるから」

樹「それがもう諦めてるような感じなんだけどね」

風「樹ぃ~っ」

とはいえ、正直な話。と、風は呟く

本来の中学生であれば、何らかの問題がない限りは進学一辺倒であるべきで

ただ、どこの学校にしようと考えて、友達がいるからとか近いからとか。

あとから思えば、もう少し真面目に考えておけばよかったなと笑うような適当さで考えるもの

しかし、犬吠埼家には親がいない

今まであった大赦のサポートも、神樹様が失われた今、

成人まで続いてくれるのかは分からない

風「天乃はどう?」

天乃「私は……」

風「中卒で出来る仕事あると思う?」

東郷「あるにはあるかと。ただ、どれだけ稼げるかは分かりませんが」

園子「外への調査要員とか臨時で募集されたりするかも~」


言い淀んだ天乃の代わりに話が進んでいく

天乃と一緒になるなら、進学を含めた将来的な不安要素は取り除けるはずだ

しかし、そこに頼り切ってよいものか。

そもそも。

あの兄も、あの姉も

そんなことは気にしなくてもいいと全面的に協力してくれると思うけれども。

……けれども。

夏凜「なんなら、天乃の家業を継ぐって考えもあるんじゃない?」

樹「そうだよっ。久遠先輩もすぐに戻ることは難しいし、久遠先輩がやるはずだった分もやるのも良いと思う」

東郷「公立なら、アルバイトで学費は何とか出来るのでは?」

風「……学力的問題がね」

真剣に考えてくれるみんなの口から気付いた声が漏れる

勇者として戦い始める前の二年生の成績は問題なかったが、

今年に入って―もう去年だが―からは酷い状態だった

そこは天乃も似たような感じ……かと思えば、

入院中にこそこそしていた分、天乃が上だ


1、とりあえず、進学で考えてみたら?
2、留年しちゃえば?
3、浪人して、もっと上を目指しました。感を出してみたら?
4、巫女は絶賛募集中よ
5、専業主婦がいてくれると、結構助かるのよね


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「とりあえず、進学で考えてみたら?」

風「そうしたいのはやまやまなんだけどねぇ」

天乃「そんなに勉強してなかったの? 私よりも学校行ってたのに?」

風「うっ」

東郷「学校に行けたからといって、そっちに集中できたかと言えば……そうでもなかったので」

黙り込んでしまった風を横目に、

東郷はフォローを含めて、言い訳を答える

東郷だけじゃない、友奈たちだってそうだ

学校に行けたけれど、天乃は学校に行けずに入院中

しかもいつ体調が悪化するのかもわからないような不安を常に感じていれば、

勉強など頭に入るはずなどなかった

夏凜「勉強に集中して欲しかったんだろうけど無理言うなって感じよ」

樹「そもそも、私達だけじゃなかったですからね。集中できていなかったのって」

天乃「そこまで影響あったの?」

風「暴動を起こさせる程度にはね」

夏凜「クラスで妊娠公表するからそうなんのよ。ほんと、毎日毎日……」

大丈夫なのか、ちゃんと産めるのか

あんなに小さいのに、同い年のまだまだ子供なはずなのに

みんな、そればっかりだった

だからこそ、文化祭は大成させよう、楽しんでもらおう

そんな想いが強く込められていたが、それは言わない方がいいだろう


夏凜「風、一ヶ月で追いつく自信は?」

風「付け焼刃が、一年の努力に追いつけるとでも?」

天乃「300年を終わらせることのできた勇者なら、あるいは可能性もあるんじゃない?」

確かに、努力した時間も量も重要だし、

そこにかけた情熱が強いのならば、風がそれを追い抜くことは難しいだろう

だけど、別にそこでなくてもいい人はいる

とりあえずだとか、近いからとかではなく、

絶対にそうでなければならないという信念を持って臨むような人が決して多くはない年代だ

天乃「為せば大抵なんとかなるんでしょ? それで世界を救って見せた勇者様が、受験なんかで諦めないで」

風「そりゃぁ、でも、いや……うん」

救ったのは天乃だなんて、言うのは無意味

天乃が打ったのは最後の一手

それまでに持ちこたえてくれた風たちがいたからこその勝利だ

風「出来ると思う?」

天乃「私はそう信じてるわよ。必要なら、魔法の言葉もあげるけど?」


死ぬ気で

それこそ、今日から受験までの期間を一睡もせずに勉強し続けてしまいそうな魔法の言葉

思いついた天乃の笑みは悪だくみをしているのだと分かりやすくて

それを聞きたいと思いつつ、

聞いたら取り返しがつかなくなりそうで、風は笑って首を振る

風「信じてくれるだけで十分」

天乃「そう」

風「うん、それで頑張れる」

天乃「無理はしたらダメよ。それこそ水の泡になりかねないんだから」

夏凜「経験者の言葉ね」

天乃「そこまではいってなかったわよ」

唐突に口を挟んだ夏凜の一言にむっとして言い返す

けれど、止められなかったら確実にいってたと、天乃は思う

天乃「でも、感謝してる」

夏凜「っ」

天乃「ありがとね」


夏凜「べっ、べっつに……見てられなかっただけだし」

天乃の嬉しそうな笑顔から、夏凜は目を逸らす

ずっと見たいと思っていて

それのために頑張ってきて、

だけど実際に目にしてしまうと、その声を聞いてしまうと

どうにも上手な対応が出来なくなって、顔を背ける

東郷「照れた? 夏凜ちゃん、照れた?」

夏凜「んなっ」

園子「良いダシでてるよ~」

夏凜「ダシなんか出ないわよっ!」

茶目っ気の強い東郷と園子に救われて

内心の感謝を込めて言い返して、天乃へと目を向ける

そんな自分たちを見てか嬉しそうな天乃に、

夏凜は言葉を探して、ふと気づいたように笑みを向ける

困った笑顔だけど、幸せを感じる笑み

向けあう二人はそれぞれ察するだけで、何も言い合わなかった


千景「それで、久遠さんは進学じゃなく子育て集中で良いの?」

天乃「進学も考えてはいるんだけどね」

東郷「子育て集中したほうが良いのでは? 将来の収入が心配なら、私達が養いますし」

園子「そこは、懸念してないんじゃないかな~?」

夏凜「世帯年収で言えば相当な金額になるでしょ。私達」

ちゃんとした職にありつければ。の話だが

そもそも天乃は久遠家の神社を継ぐか継がないのかの話もあるだろうし

継ぐなら余計に収入の話は無縁なくらいにはなる

天乃「私って学生よりも母親な感じがするんでしょ?」

東郷「母性に満ちてますね」

樹「実際にお母さんですし」

風「母乳だってまだまだ出るんでしょ?」

園子「ママ……」

千景「真面目に話す気あるの?」

冗談めかしてはいるが、真面目なのだろう

浮つく呟きを漏らした園子はその瞳を真剣に向ける

園子「私の気持ちは話したからね。それでも、天さんが進学したいのなら私はそれを応援するし、全力で支えたいって思う」

樹「そうですよ。あれはあくまで私達の意見ですから。久遠先輩が実際にどうしたいのか。それが大事です」


自分がどうしたいのか。

それを悩んでいるからこそ、まだ答えを出していない天乃は、

意図したわけでもなく夏凜へと目を向ける

夏凜は冗談にも乗らず、ただ天乃を見ていた

さっきまでの照れた赤色はなく、目を逸らすことはない

向けられた真剣さは、本気で考えてくれているからこそだ

夏凜「今大事にするべきなのはどっちなのよ。どうとでもできる学校生活か。母親の愛情を求めてる子育てなのか」

天乃「……夏凜は」

夏凜「私は後者よ。別のことに夢中だった家族を知ってる。それが、子供にとってどんなものだったのかも知ってる」

だからこそ、夏凜は断言できるだろう

ここで勉強を選ぶのは良くないと

自分達を選んでくれるのは、嫌なんだと。

天乃が子供を愛さないわけがないし、みんなだっているし自分もいる

誰かのように愛されない苦しさを感じ、承認欲求に駆られて身を粉にするような人生にはならないはずだ

夏凜「まぁ、天乃の人生だし? 学校以外の時間を費やすだろうから絶対にダメとも言わないけどね」

天乃「みんなそうやって選択肢をくれるから迷うんじゃない」

風「……つまり、あたしが一緒に浪人しようって誘うのもありってこと?」

樹「お姉ちゃんは頑張ろうよ……」

夏凜「好きでいいのよ。天乃」



1、子供を大事にしたいわ
2、学校に行きたい……みんなも協力して
3、風を甘えさせたくないし、子育てに集中するわ
4、あと、友奈にも考えを聞いてから決めるわ。一応、ね


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


夏凜「ところで、魔法の言葉ってなんなの?」

天乃「ん? あぁ、あれは……失敗したら絶交する。ってだけよ」

園子「天さんならやらないって安心感があるにはあるけど……だからこそ言われたことの絶望感が」

風「言われたら死ぬ」

天乃「泣きそうな顔で言わないで。本当はなんでも言うこと聞いてあげるって、言おうとしただけだから」


夏凜「分かってて言ってる?」

千景「この人が分かってるわけないでしょう。常識で考えて」


では少しだけ


天乃「……私は子供を大事にしたいわ」

学校に行きたい気持ちもある

樹達が押し込めようとした想いに応えてあげたいとも思う

けれど、天乃としては。

二児の母として出てくる答えはそれだった

天乃「私もね。なくなってしまった経験があるから」

失ったというよりは、奪われたというのが正しい

銀を亡くし、

戦いの果てに家族の記憶を失くして

園子と別れ、讃州中学へと通い続けた

風がいて、沙織がいて、友奈がいて、東郷がいて

完全にすべてを奪われてしまったわけではないけれど

その喪失感は、今も覚えている

天乃「あの子たちに寂しい思いはさせたくない。辛いことも、悲しいこともあるだろうけど……でも、寂しいだなんて言わせたくない」


天乃「やっぱり、私はお母さんになっちゃったのね」

子供の笑顔を見てしまったから

弱すぎる力に触れられてしまったから

容易く失われてしまうそれを失いたくないと、強く思う

そして、子供の幸せを感じられること、温もりに触れられること

それがとても、幸せに感じる

天乃「私はあの子たちを幸せにしてあげたい」

風「そんな申し訳なさそうに言うことないわよ。天乃」

天乃「……そんなつもりは」

樹「私達よりも子供を選んでるみたいだって、思ってますか? 思いますよね、久遠先輩は」

樹は一番幼いながらも、どこか大人びた笑みを浮かべる

天乃はそういう人だ

何も悪くはないのに、相手の想いに応えてあげられないことに罪悪感を抱く

東郷「私達にとっては久遠先輩の幸せが一番なんです。久遠先輩もそうだとは思いますが……そこは許して貰えませんか?」

園子「子供を愛してる天さんは可愛いんよ~大丈夫、大丈夫。そのっちは大満足なのです」


真剣な東郷の裏で、

園子のふやけたのんびりとした声が場を和ませてくれる

別に重苦しく考える必要はないと言いたげな柔らかい表情

天乃の子供を優先する考えに反論などあるはずもないとする園子の目は、天乃を見つめる

園子「そうしたいからそうする。それが良いからそうする。それでいいんよ」

夏凜「私達がイエスマンじゃないのは分かってるでしょ?」

天乃「っ」

夏凜「嫌だったら嫌だって言うし、駄目だって思うならダメだって言うわよ」

今までだってそうしてきたのだから、

子供を優先されるのが嫌なら嫌だって言う

もちろん、子供を愛したいという母親の想いを非難するなどありえない

特に、夏凜はずっと天乃の笑顔が見たくて寄り添ってきたのだ

自分たちを選んでくれたら嬉しいは嬉しいけれど、

それが母親として子供を愛したい気持ちを押しつぶしてのものだとしたら、認めたくない

東郷「そもそも、久遠先輩には子供を選んで欲しかったんですよ」


天乃の後輩としては一緒の学校に通いたいし

そうしてくれた方が嬉しいと思うけれど、

それはあくまで、学生としての考え

東郷美森……いや、天乃と共に生きることを決めた美森達は

血の繋がりがない双子を我が子として受け入れる心構えは十分だ

ゆえに、母親である天乃が子供を選んでくれることを望む

それが天乃の幸せにつながるだろうことは、見ていて良く分かった

風「天乃が母親なら、籍を入れるつもりのあたし達はどうなると思う?」

天乃「……母親?」

風「そ。産みの親じゃないし、血が繋がってるわけでもないけど母親になる」

東郷「私は父親でも構いませんが」

園子「わっし~……」

夏凜「とにかく、私達だってそうなんのよ。分かる? それが、子供よりも貴女が大事なんて言われて喜べると思う?」

喜べる人もいるだろうけれど、夏凜達はそうではない

それこそ自分たちのせいで子供が愛されないのではと悩ましくなる

夏凜「子供を心配してる天乃の顔なんて、もう見飽きたのよ」

身籠っている間

自分が死んで、子供を遺してしまうのではないか

そもそも、子供を無事に産むことは出来ないのではないか

そんな状況にあった天乃を間近で見て、凄惨な場面に立ち会うことさえあった夏凜は、もうあんなことはごめんだと首を振る

夏凜「頼ることは多いけど、子育ての手伝いは私達もするから。それを見て、学校をどうするか決めたらいいんじゃない?」

子育てと学業の両立

それがどれだけのものなのか。

ほんの一部ではあるかもしれないけれど、今年の受験を見逃すのならまずは一年

じっくりと悩んだらいいと、夏凜は付け加える

夏凜「不慣れ同士、助け合っていきましょ。天乃」


では、途中ですがここまでとさせていただきます。
明日もできれば通常時間から


すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
明日はできれば通常時間から


すみませんが本日もお休みとさせていただきます

諸事情で厳しいので、早ければ土曜日の再開を考えておりますが、
場合によっては日曜日にずれる可能性があります。


では、少しずつ


樹「もちろん、私達も全面的に協力させて貰います」

東郷「体も動かせますし、今までサボらせて頂いた分何でもさせてください」

何でもですよ。と付け加えて天乃を見るが、

天乃は東郷のそんな視線に気付いて、苦笑する

天乃もたまに使う言葉だけれど、東郷が言うと裏の意図が感じやすい

天乃「なら、安心ね」

風「安心できる要素あった?」

樹「今のうちにおむつの変え方とか覚えておいた方がいいよね」

東郷「離乳食のレシピも考えないとね」

夏凜「あと2、3か月で一応離乳食になる予定なんだけど」

まだ考えてなかったのかと言いたげな夏凜の呟きに、

東郷は当然のように首を横に振る

樹も嫌味とは思っていない

樹「もうそんな経つんですね」

風「離乳食か……まぁ、そのくらいならあたしが何とか出来るわよ?」

樹「お姉ちゃんに全部任せてたら、みんなでやる意味がないよ」

園子「今のうちに当番表でも作っておく?」


いずれ出て行ってしまう精霊である若葉を抜いても

夏凜、樹、東郷、友奈、風、園子、沙織

一日一人の割合で振っても、一週間を使いきてっしまう

それでは天乃が何もできなくなる

双子だから、一日に二人……三人

ローテーションしていくと考えれば、何とかなるだろう

夏凜「天乃って、料理はどの程度できるの?」

天乃「味覚がなかった時期もあるし……そこまでうまくは出来ないかもね」

一応、味覚を失う前はそれなりに料理もしていたし、

判断基準にならない兄と沙織の言葉だが、美味しいとも言われた

姉である晴海も言っていたのだから、嘘ではないと思いたいが。

東郷「料理担当、おむつ等雑務担当、あと久遠先輩担当でどうかしら?」

風「後ろ一つは却下ね。雑務は多いし、おむつだって処理と替えで一人ずついたほうがあたし達は安心でしょ」

大人や、慣れている人ならば簡単に替えてしまえそうなものだが

双子だし、別に慣れているわけではないのだ、一人に一人でやると考えたほうが良い

二人同時にするなんてないとは思うけれど、念のためだ


樹「でも、それってもう久遠先輩のお手伝いの範疇を超えちゃってるんじゃ……」

夏凜「天乃がどこまで手を借りたいかに寄るわね」

天乃「わたしだって素人だもの。手を借りれるに越したことはないわ」

東郷「質問良いですか?」

すっと手を上げた東郷は

天乃が頷いたのを見て一度口を開こうとしたあと、

とても真剣な表情で考えこんで、逸らした目を向ける

東郷「子育てに教育方針は含まれるんでしょうか?」

風「いきなり話跳んでない?」

園子「遠足のバナナ理論だねぇ」

夏凜「理論でも何でもないでしょ、それは」

子育てにどこまで含まれるのかと聞かれると、天乃も困る

読んで字のごとく子供を育てることであるなら、

子供が育つうえでの要素と言えるであろう教育方針も含まれるはず

東郷「よく聞く話では、含まれてると考えて良いと思いますが……」

天乃「何か心配事でも?」

東郷「私たち全員の意見を聞くのは無理があるのでは?」


園子「あ、私は口出しする気はないよ~」

東郷「そのっち!」

園子「私的には、自由を尊重したいんよ」

出ばなを挫いた園子は意見を変えずに笑みを見せていて、

いっても仕方がないと判断した東郷は眉間にしわを寄せたものの

ついたのは小さなため息だけにとどまった

樹「正直、教育方針を語れる年齢ではないかと」

風「まだ赤ん坊だしね。考えておくに越したことはないと思うけど」

夏凜「今のご時世で、それに意味があるのかってところよね」

天乃「夏凜も自由派?」

夏凜「勉強も良いけど、鍛錬もさせたいわね。有事に備えて鍛えたい」

勇者として育てる気はないけれど

それを経験した身としては、ある程度戦える子になって貰いたいらしい

天乃「確かに、東郷の言うとおりね」

教育方針を揃えるのは難しい

もっとも、天乃が決めればそれが全てになるのは変わらないけれど。

天乃「それは、子供がもう少し大きくなってから悩みましょう。子供と一緒にね」

親の一存で決めるべきではないことだけは、確かだ


千景「そろそろ戻る?」

東郷「子供がいるなら、一緒にとは言えませんね」

せっかく来たのだから、

消灯時間も過ぎてしまったし、

どうせなら一緒の寝床に……とでも言いたかったが、

子供を待たせているのならそうもいかない

風「わざわざ悪いわね。本当なら出向くべきなのに」

天乃「来たかったから来たのよ。悪いことなんてないわ」

樹「夏凜さんが会いに来ないからでは?」

天乃「それもあるけど」

夏凜「……はいはい」

お手上げだと手を上げる夏凜を見て、病室に活気が満ちる

天乃がいて、普通に話していて、笑っていて、

それだけで、とても明るい

天乃「それじゃ、また明日ね」

夏凜「明日の朝は行くわ。気が向いたらね」

天乃「どうせ来ないんでしょ? まったくもう」

困ったように笑いながら、千景に連れられて行く天乃を、夏凜は見送った


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(子供、抱きしめる)
・   犬吠埼風:交流有(子供)
・   犬吠埼樹:交流有(子供)
・   結城友奈:交流有(子供)
・   東郷美森:交流有(子供)
・   三好夏凜:交流有(子供)
・   乃木若葉:交流有()
・   土居球子:交流有()
・   白鳥歌野:交流有()
・   藤森水都:交流有()
・     郡千景:交流有()
・ 伊集院沙織:交流有(子供の名前)

・      九尾:交流有(久遠陽乃)
・      神樹:交流有()


2月15日目 終了時点

乃木園子との絆  115(かなり高い)
犬吠埼風との絆  139(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  122(かなり高い)
結城友奈との絆  153(かなり高い)
東郷美森との絆  150(かなり高い)
三好夏凜との絆  170(最高値)
乃木若葉との絆  117(かなり高い)
土居球子との絆  63(中々良い)

白鳥歌野との絆  61(中々良い)
藤森水都との絆  54(中々良い)

  郡千景との絆  66(中々良い)
   沙織との絆  153(かなり高い)
   九尾との絆  84(高い)


√ 2月16日目 朝 (病院) ※水曜日


01~10 大赦
11~20
21~30
31~40 東郷
41~50
51~60 夏凜
61~70 水都
71~80
81~90 球子
91~00


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「久遠先輩担当、要らない?」

樹「無くてもいいじゃないですか」

東郷「あればその日中傍に居られるのよ?」

風「なければ好きな時に一緒でしょ」

夏凜「天乃はそこら辺拘りないからどうにもできるし、気にしなくていいでしょ」


園子「私は抱いて寝てくれればそれでいいよ~」

東郷「それは駄目」


遅くなりましたが少しだけ


√ 2月16日目 朝 (病院) ※水曜日


天乃「……よく眠ってる」

赤ん坊用の小さなベッドで寝息を立てる双子へと目を向けて、

起こさないようにと、触れようとしていた手を引っ込める

夏凜も見に来てくれたらいいのにと天乃は思うが、

夏凜は会いに行くと言いつつ会いに来てくれない

目的を果たした今、そこまでの好意はなくなった。なんてことはないだろうけど。

天乃「会いに来てくれたっていいと思わない?」

すやすやと眠る双子は、

天乃の問いに答えてくれるような様子はなく穏やかだ

答えを期待したわけじゃない天乃は困ったように笑って、手元の布団を握る

手持ち無沙汰だ

体が治ってきているし、

リハビリするのも悪くない

天乃「鍛えなおしてぼっこぼこにしてやるべきかしら」


むふーっと息を吐いた天乃は、一度、強く握り拳を作ってみる

全盛期に程遠い力は、

かつての女子学生よりも弱い力よりは回復に向かっているのを感じる

戦えるほどじゃない

でも、鍛えれば元に戻すことも出来るはずだ

天乃「友奈はどうかしら」

勇者としての力を失った友奈の回復力は一般人程度

靱帯を損傷してしまった友奈はまだしばらく動けない

その間に、どれだけ衰えてしまうのか。

両足の機能を失っている間、

最低限の低下に止められるようマッサージなどを行っていた天乃とて

そこまでしっかりとした力は残っていない

天乃「そのケアを手伝うのも、アリよね」

暇だからというわけではなく、

今までして貰った分を返すためにも。

友奈の体は傷ついていて、丁重に扱うべきだが、

そのあたり、天乃は慣れている


友奈の今の体を考えると、自分でやるのは少し大変だ

ただ、

東郷や風が天乃の代わりにすでに手伝いにいってくれているはず

だからといってそれを苦に思ってないだろうし

別に、天乃が手を貸す必要はないかもしれない

天乃「………」

そもそも、天乃だって力がそこまで出るわけじゃない

そのうえ、足はリハビリ中

傍に居ることは出来るけど

それ以上のことをするのは、まだ早い気もする

なら、昨日話していたように大赦を呼び出して話をするべきだろうか

向こうに来られるよりは呼ぶべき

そこには同意できる

断ることは決めたわけだし、

打つ手が決まったのなら早急に手を打ってしまうべきかもしれない


天乃「でも……友奈に話してからにするべきかしら」

方針を決めたとはいえ、

それについて友奈を蚊帳の外にして良いのだろうか

友奈の体の状況からして、

話から外れてしまうのは致し方ない部分もあるけれど。

天乃「友奈は別に気にしないと思うけど」

そうなんですね。というだろうか

いや、それは友奈にしては素っ気なさがある気がする

友奈のことだから「気にしなくていいですよ。久遠先輩たちで決めたことですよね」と、

自分の意見はみんなの言葉に含まれているようなことを言うだろう

そしてきっと、笑顔を見せてくれる

天乃「お世話になった瞳に声をかけるのも悪くないけど」

どうするか。


1、友奈
2、大赦を呼ぶ
3、瞳
4、勇者組
5、精霊組
6、大人しくしておこう
7、イベント判定


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


久しぶりの瞳


では少しだけ


天乃「最後は……そういえばそうよね」

数日前の戦いの日、

天乃をあの場所まで運んでくれた車の運転手は瞳だった

若葉が刀を抜こうとしたり、

ちょっとだけ大変だったことは、胸の内にしまっておいてくれている

こう言ってはあれだが、

瞳は天乃の送迎係としての仕事を全うしてきたため、

大赦として任せられる大きな仕事はないだろうし、

会いに来てくれてもいいのにと思わなくもない。

少なくとも仕事はあるだろうから

仕方がないことではあるのだけれど。

天乃「……出てくれるかしら」

朝というには少し遅い

けれど、ちゃんとした大人なら起きている時間

天乃「若葉、千景。ちょっと協力して」

千景「乃木さんも?」

天乃「電話をかけたいの。良いでしょ?」

若葉「ああ」

子供を千景に託して、

若葉と一緒に電話ができる場所まで出て行ってから電話をかける


瞳『おはようございます。久遠さん』

天乃「おはよう……早いわね。出るの」

瞳『いついかなる時であろうと出られるようにしておくのが務めですからね』

大赦的には、

世界を容易く崩壊に追い込める怖い存在だ

機嫌を損ねたりするなど言語道断という感じだったのだが、

それでいてやっているのがあれなのだから、

救いようがなかったのかもしれない

瞳『退院する話は聞いていませんが、何か御用でも?』

天乃「そんな畏まらなくていいじゃない。私達は」

瞳『そうするべきだってお話があったんですよ。どうします?』

天乃「やめて」

瞳『そういうと思ってました』

電話の奥から聞こえる笑い声はどこかに反響しているかのように響く

部屋ほどの広さではない……なら、車だろうか

天乃「運転中?」

瞳『いえ、待機中です。久遠さんが逃げ出したいと言えば逃げ出せるように』

天乃「みんなを置いて行くほど、私は自分本位にはなれないわ」


瞳『そうですか……そうですね。夏凜ちゃんが逃げろと言っても逃げませんよね』

天乃「言ってたりする?」

瞳『まさか』

この状況では逃げる理由が思い当たらない

無理にこじつけるとしたら、大赦に無理やり連れて行かれそうになっているかもしれないくらい

今の大赦もさすがにそれでは意味がないことは分かっているだろうし

それをするつもりなら先日来た時に実行に移していたはずだ

そのくらいには、状況は芳しくない

神樹様の加護が失われてしまったことで

世界に満ちていた豊穣の実りはなく、今まで以上に地道な努力の積み重ねが必要で

何もしなければ食料は日に日に失われていくことだろう

瞳『巫女様になるつもりはないんですよね?』

天乃「貴女は、なって欲しいの?」

瞳『そんなつもりは毛頭。私が一番見てきた勇者様は特に望まない人ですからね』

天乃「あぁ……そうよね」

瞳『夏凜ちゃんには会いました?』

天乃「ええ、元気にしてるわ。連絡取ってるんでしょ?」

瞳『定期連絡みたいなものですけどね』


瞳『久遠さん、夏凜ちゃんはどうですか? 最初と比べて見違えたのでは?』

天乃「みんな見違えたわよ。夏凜もだけど、樹とか」

瞳『ふふっ、夏凜ちゃんも同じこと言ってました。負けていられないって』

まるで、自分の大切な人を褒め合うように、

共通の話題をつついて楽しむ午後のひと時のように

天乃と瞳は楽し気に会話を弾ませる

瞳にとって夏凜は家族の次に……もしかしたら、

家族以上に夏凜の姿を見てきたかもしれない人だ

その成長を実感できるのも

夏凜がしてきたことを喜ばれることも、だからこそだ

瞳『夏凜ちゃんは勇者ですか? 女の子ですか?』

天乃「難しい質問ね」

瞳『夏凜ちゃんには言えないと思いまして』

天乃「……確かにね」

瞳『わたしから告げ口しませんよ。それとも、言われずとも自分から言いたいですか? 夏凜ちゃんに』


1、勇者よ、夏凜は
2、まだ女の子よ。私に勝つまではね
3、
4、そうね。それがベストだわ


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日はお休みをいただくことになるかと思います。

再開は明後日、通常時間から


では少しだけ


天乃「勇者よ。夏凜は」

瞳『そうですか……夏凜ちゃんは久遠さんの勇者様ですか』

天乃「貴女にとってもでしょう?」

瞳『そうですね』

瞳は明るく答えると、笑いを交えながら「そうですか」と続ける

天乃にとって夏凜は変わらず勇者であると

それが嬉しかったのだろう

呑み込むのに苦労しているのが、電話越しにもわかる

瞳『夏凜ちゃんの努力も報われます』

天乃「そうね。でも、夏凜はまだまだ、努力し足りないみたい」

瞳『久遠さんがいる限り、夏凜ちゃんが努力を怠ることはないと思います』

天乃「子供も喜んで鍛えるつもりよ」

瞳『備えあれば憂いなし。でしょうか? それとも、まだ、それしか知らないのでしょうか』

解り切っているように茶化すような声が電話から零れてくる

夏凜を見てきた瞳は

夏凜がその点を変えようとしていない理由を分かっている

瞳『夏凜ちゃんの傍に居てあげてください。からかってもいいです。もう大丈夫なんだってことを、教えてあげてください』

天乃「流石に辛い経験をさせ過ぎたわ」

瞳『そうですよ。だから、お願いします』


髪の揺れる音がした

大人ゆえか、大赦ゆえか

一礼したと分かる音をさせて、瞳の言葉が続く

瞳『夏凜ちゃんをよろしくお願いしますね』

天乃「夏凜にとって、貴女は大事な家族の一人のはずよ」

瞳『私にとってもそうです。たった一年ですが、とても心労のかかる幸せな時間でした』

天乃「なのに、それでいいの?」

瞳『もともとそういう契約なんですよ。勇者としてのお役目がある間だけ私が夏凜ちゃんを預かるという契約』

鷲尾が東郷美森を鷲尾須美として預かったのと似たような話だ

瞳の苗字である夢路という名に力があるわけではないから、

三好夏凜は三好夏凜のままだったが

勇者である三好夏凜をサポートする名目で、瞳は夏凜を傍に置いて置くことが出来たのだ

勇者としての戦いに終止符が打たれた以上

元通りに、三好家へと戻るのが普通なのだ

天乃「夏凜には?」

瞳『一緒に暮らすときに伝えてます。ほら、ああいう子ですから、一年だけですからお願いしますって最初に言ったんです』


努めてつまらない顔で「勝手にして」とでも返したのが目に浮かぶ

本当の肉親にはあまりいい触れかたをして貰えなかった夏凜にとって

瞳との関係は別段特別でもなく

勇者としてのお役目についた一般人―実際は特殊だったが―への監視のようなものにしか思っていなかったかもしれない

だけど、次第に本当の家族のように打ち解けていって

定例の報告は団らんでのひと時のような温もりを含んだものになっていただろう

年上として、頼っていただろう

瞳『私と夏凜ちゃんの関係はこれで終わりです。私と久遠さんとの関係ももう終わりです』

天乃「私達は一般人よ。離れる必要はないわ」

瞳『私が一般人じゃないんです。有象無象の血筋であれ、大赦である以上は果たすべき務めがあります』

これまで子供に頼り切っていた分、

超常の関わらない事柄には大人が率先して動くべきであるという働きかけがすでに大赦の内部にもある

久遠家の責務、三ノ輪家の犠牲、鷲尾須美という少女がいたという過去

それ以前のことも含めて、大赦だって一枚岩ではない

天乃を神の御使いとして扱おうとする一派がいれば、その逆も当然ながら存在する

瞳『夏凜ちゃんがこれからも一人なら、考えるべきことですけど、久遠さん達がいるなら憂いもありません』


天乃「夏凜は何も言ってない?」

瞳『何か言うと思いますか?』

天乃「今の夏凜は素直な子だから」

瞳『その分、大人になったんですよ』

瞳は嬉しいのか、嬉しくないのか

感情を押し隠した静かな声色で返す

瞳という運転手ではなく、大赦の一員というイメージが強い声

仮面はないが、電話という不鮮明さがそれを増長させる

瞳『我儘だって分かってるんですよ。そのくせ、定期連絡を建前に連絡してきますし、問い合わせと称した相談もある』

天乃「貴女を頼っても良いって」

瞳『久遠さんに頼られたら断れませんからね、大赦としては』

天乃「夢路瞳としては?」

瞳『だとしても。ですね』

愚問だと言わんばかりの切り返し

笑いの混じった声は明るさを取り戻している

大赦になり切れないところが、瞳らしい

園子達の担任だった先生とは境遇が違うのも大きいだろうか

瞳『どうぞ、お幸せに』


天乃「皮肉?」

瞳『そんなことないですよ』

天乃達に関わるようになってからずっと、願ってきたことだ

自分も若いと思っているが、

それ以上に若い子供たちが常に死と隣り合わせの闘いの日々

子供としての時間を使いつぶして鍛錬を重ね

それでも抗えない絶望に直面し、足掻き、乗り越えた先で挫折を味わい

それでもなお……屈せずに突き進んできた姿を見てきた

瞳『大赦は慌てていますが、私としてはこの程度で狼狽えてどうするんですかって失笑も禁じえませんよ』

天乃「クビになるわよ?」

瞳『底が知れますね』

天乃「言うようになったじゃない」

瞳『お手本がいましたから』

すんなりと返してくる瞳がひと呼吸置く

天乃も言葉を切って、目を瞑る

次に何と言われるのか、想像に易かった

瞳『久遠さんさようなら。大赦なんて忘れて、どうか心より楽しい人生を』


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「貴女には迷惑をかけたわ」

自由の利かない車椅子という立場でありながら、

勇者部としてあっちこっちに移動していたし

その移動手段として、瞳に車を出して貰っていた

休みも何もないような生活は大変だったはずだ

天乃「運転手としての役割が必要なくなるのは分かってたんだけどね」

瞳『久遠さん?』

天乃「ごめんなさい、正直考えてなかったのよ」

瞳の運転手としての役割が無くなることくらい、

少し考えれば分かっていたはずなのだが、

そんなことこれっぽっちも考えていなかったし

それで瞳が別れを告げることになるなど思ってもいなかった

言われてようやく、そうなることを思い出したのは、

頼りきりだった身としては、いささか失礼が過ぎる気がする


天乃「瞳がいてくれるのがあたりまえだって、思ってたのよ」

運転手としての役割を求めることが無くなっても、

好きに連絡出来て、夏凜の実家のようになっている家に向かえば、

そこで、普通に会うことが出来ると。

夏凜だってそんな素振りは全く感じさせなかったし、

瞳を頼って良いとまで言っていた

だから、そんなこと……

瞳『もしかして、寂しいっておもってくれてますか?』

天乃「そう言ったら、考え直すの?」

瞳『言ったら、久遠さんはどうであれ思ってるって言うじゃないですか』

天乃「流石に居て欲しくなかったら言わないわよ」

もはや答えのような気もしたけれど、

瞳の笑みを感じる声に、苦笑を伴って返す

なりふり構わず「思ってる」というのは事実だ



1、貴女がそれが良いと思っているなら私は良いわ
2、今生の別れじゃないんでしょう?
3、大赦なら、不安要素の双子くらいに見に来なさい
4、寂しくなるわ。私も、夏凜も


↓2


天乃「寂しくなるわ。私も夏凜も」

瞳『夏凜ちゃんもですか』

天乃「夏凜は言わないけれど、そう思ってると思うわ」

勝手に代弁したと知られたら

そんなことないと否定されるだろうけど

でも、夏凜にとって瞳が肉親のような存在だったことに変わりないだろう

それを失うなんてとんでもない

瞳は任せられる。大丈夫だなんて言うし

夏凜は何も問題がないようにふるまっているが、

何もないはずなんてない

天乃「ねぇ瞳。私達がなんて言ったって、大赦としてするべきことは変わらないんでしょう?」

瞳『ええ。変わりませんとも。もちろん、久遠さんが巫女として納めてくれるなんて言葉も無用ですよ』

天乃「………」

瞳『自負しませんが、久遠さんなら夏凜ちゃんのためにもそんなこと言いそうですからね』

嘘は聞き抜かれるだろう

けれど、互いに分かっていることが分かっている以上

無駄なことにはならないはずだと瞳は思う

なにより、天乃には大事にすべき子供がいる

一時の感情で子供の人生を狂わせるようなことはしないはずだ


瞳『嬉しいです。久遠さんと夏凜ちゃんに気に入って貰えて』

天乃や夏凜が勇者や神の御使いとしての立場に至れるような存在だということなど関係なく、

敵対に近い行為を行っていた組織の一員である自分が、

別れを寂しいと言って貰えるようになれたのは純粋に喜ばしいことだった

気難しいと言われていた二人と心を通わせられたということだし

良好な関係を築けていたということだから

瞳『久遠さんが大赦に一言いえば、どうにかなる。でも仕事としてお付き合いしていくようなことにはなりたくないと思ってる』

天乃「何も言わないでって言うの?」

瞳『交換条件を出されるのがオチですよ。正直言って時間の無駄です。子供との時間を大事にしてください』

天乃「貴女が申請してどうにかなることではないの?」

瞳『お話したほうが良いですか?』

天乃「したくないなら良いわよ。別に」

強制はしない

夏凜だって強制する気は毛頭ないと断言できる

瞳の意思を尊重したうえで、精一杯自分の意思を伝える手段が定期連絡の夏凜だ

察しろと言うのは意地悪だが、夏凜を知っている人ならば誰だって察せるだろう

天乃「人生の先輩に偉そうなこと言うつもりはないけれど、二児の母親として一つ言うのなら……」

目を瞑り、息を飲む

瞳は数年先に生まれ、すでに成人した大人だ

天乃の親ほどの世代から見れば子供だろうが、先人は先人である

そんな相手に語れることなど多くはない

天乃「子供が何を望んでいるのか汲み取って応えてあげるのが親の務めだと思うわ。まだまだ未熟ものだけど、私はそう思ってる」

瞳『全肯定はすべきではないと思いますが、一理あります。夏凜ちゃんとお話……するとしましょうか』


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば少し早い時間から


遅くなりましたが少しだけ


天乃「私から夏凜にも話しておく……必要はないわね」

瞳『そうですね。大丈夫です』

天乃「夏凜について色々お願いしたいことがあるけど、瞳なら言う必要も無いのよね」

本当は優しい心の持ち主であること

それに素直になれない不器用な性格なだけであること

人一倍努力家であること、一生懸命な子であること

それ以外にだって色々あるけれど、

夏凜のことなら天乃よりも分かっているかもしれない

瞳『そんなことないです。私の知らない夏凜ちゃんなんてたくさんありますよ』

天乃「付き合ってるわけじゃないから?」

瞳『ええ。その関係だからこそ、見えることもあるのでは?』

天乃「と言っても夏凜はあんまり積極的じゃないからね」

みんなと比べて一歩引いたような姿勢の夏凜は、

どちらかと言えば消極的で

付き合っているからこそ見えてくるなんてものは殆どない

天乃「だから、瞳には夏凜とちゃんとお話しして欲しいわ」


天乃「貴女が知らないことがあるように私にだって知らないことはあるのよ」

夏凜はこう考えるだろうと推測して、

それを伝えることは出来るけれど、

それ以上深く心に隠している想いについては天乃でも代弁できる自信がなかった

それを本人に直接言うと、笑われるだろう

瞳『夏凜ちゃんは久遠さんと同じ意見のような気もしますけど』

天乃「自分よりも私の方が付き合いが長かったとでも思ってそう」

瞳『それは事実じゃないですか』

夏凜を引き取ったのは夏凜が勇者として選ばれる頃になってからで

不自由になってしまった天乃の送迎係を担っていた瞳の期間は長い

瞳『夏凜ちゃんも私のしたようにしたらいいって言うと思うんです』

瞳の言う大赦としても責務

それを全うするのがすべきことであると本当に考えているのなら、

それでいいと、夏凜は言うのではと瞳は思っていた

天乃もそれは否定できない


天乃「それが本心なら良いんだけど」

瞳『本心じゃない可能性もありますからね』

夏凜が好きにしたらいいと言う可能性はあるが、

本心からの言葉ではない可能性も十分あるのだ

血縁者よりも仲良くなれた相手

その人のやるべきことだとはいえど

完全に離れ離れになってしまうというのは許しがたいのではないだろうか

夏凜はその点、気丈に振舞いがちだが

端々に喪失感が滲むことだろう

瞳『夏凜ちゃんも分かってはいると思いますし、変らずに話してみようかと思います』

ごくありふれた、日常的な会話

電話をする時点で聊か違和感がうまれてしまうけれど

でも、家族としてならばそれは普通のこと。

今みたいに距離のある時はメールでの定期連絡がメインだが、

家に帰っていた時は直接口頭だったし場合によっては電話連絡も行っていた

瞳『血は繋がっていませんが、家族として』

天乃「ええ、悔いだけはないようにね」

どちらかと言えば夏凜に言うべきだけど、

天乃はあえて瞳にそれを伝えると、

宜しくね。と、声をかけて電話を切った


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


今年も残すところ少しですが、少しだけ


天乃「瞳、どうすると思う?」

若葉「なぜ私に聞く」

天乃「過去の英霊がどうだからっていなくなろうとした誰かと似てると思わない?」

若葉「………」

ちらりと向けられた視線を受けた若葉は、

目を向けるべきかと悩んで、「そうだな」と零す

天乃の表情も声も穏やかで

責めるつもりがないのは明白だった

若葉「瞳さんは大赦というより、大人として果たす責務があると考えているんだろう?」

天乃「そうね……」

若葉「瞳さんにとって、夏凜が他人なのかどうかが重要だろうな」

血縁的に言えば、当然赤の他人だ

しかしそれは若葉達西暦組と天乃達と手同じこと

血の繋がりがあるかどうかではなく、相手と出会ってから

どのような関係にまで至ることが出来たのかが大事なのだ


若葉「使命は大事だ。だが、それよりも大事なものは当然あるだろう?」

天乃「瞳の場合、だからこそ離れる事を選ぶんじゃないかしら」

若葉「そこは私もそうだが、今もここにいるじゃないか」

天乃「結局は、夏凜の気持ち次第ってことね?」

若葉「そうだな……いかに、素直に話せるかだ」

夏凜は素直に話すようになってきているけれど

瞳と天乃が話し合っていたように、

夏凜は瞳のことを考えて、

自分の本心を語ろうとしないかもしれないのだ

だが、それでは瞳は別れを選ぶだろう

もちろん、夏凜達のことを想って

若葉「瞳にどうして欲しいのか。夏凜が素直に求めればちゃんと考えてくれるかもしれない」

天乃「夏凜が求めると思う?」

若葉「天乃次第だと思うぞ。私は」

天乃が夏凜のことを考えているのと同じように

夏凜も天乃のことを考えているだろうと、若葉は思う


若葉「瞳さんがいつ話すのか分からないが、彼女について話してみるのも悪くないんじゃないだろうか?」

天乃「瞳がいなくなっちゃうことは話さない方がいいわよね」

若葉「夏凜が察しているのなら、どちらでも良い」

天乃が瞳の話をする時点で、

その話がどのような形であれ天乃に伝わったのだと夏凜は理解するはずだ

そうなれば、夏凜は瞳がいなくなることを前提として話してくれるだろう

天乃相手で気丈に振舞う理由もないし

散々言い聞かせてきた我儘になれということを疎かにはしないなら

本心からの言葉で語ってくれる

それに対し、天乃がどう答えるかが非常に重要になってくる

天乃と同じように

夏凜とて天乃の全てを代弁することが適わないのだから

夏凜の気持ちを聞きつつ、天乃の気持ちを語るというのは重要だ

若葉「瞳さんには必要ないと言っていたが、二人にとっては必要なことだろう?」

天乃「屁理屈だわ」

若葉「でも事実じゃないか」

天乃「ええ、そうね」

√ 2月16日目 朝 (病院) ※水曜日

1、夏凜と話す
2、夏凜と話さない

↓2


ではここまでとさせていただきます。
明日もできれば通常時間から


昨年は何度か休載を頂くなどありましたが、
もうしばらく続きますので、今年もよろしくお願いします。


では少しだけ

安価は次回になるかと思います


天乃「夏凜と話すわ」

若葉「そうか……二人きりの方がいいか?」

天乃「みんなも無関係じゃないけど……」

二人きりの方が良いと言いかけた天乃は、

その言葉を飲み込むと、くっと唇を噛む

近しい人の話だから二人きりでの話にするべきだ

それが正しいかもしれないが、

そこで隔離してたら今までと変わらないような気がするのだ

無関係ではないのなら、

風達にも話を聞いてみたほうが良いような気がする

だけど……と首を振る

これは夏凜の気持ち次第で変わってくる話

夏凜の本心たる優しさが

みんなの考えに左右されてしまっては元も子もない

そこまで考えた天乃の額にとんっと衝撃が加えられて

はっとして顔を上げると、若葉の指と顔が見えた


若葉「眉間にしわを寄せるんじゃない」

天乃「若葉……」

若葉「私も人のことを言えないが……ふふっ。五箇条、今は六だったか。それを学んだ私には権利があるぞ」

自慢気な表情を見せる若葉は清々しい

悩んだら相談

それを指していると分かる若葉の言葉を受け止めて、

天乃はふと息を吐く

自分だけの問題ではないのに、

自分一人で考えているなんて無意味も良い所だ

天乃「とりあえず二人きりで良いと思う」

若葉「みんなは良いのか?」

天乃「みんなの答えは決まってるもの。後悔しないためにも、私達で話し合うべきだわ」

若葉「そうか……」

天乃「若葉としては駄目?」

若葉「いや、良い判断だ」

夏凜の気持ちを無視するのが悪手

天乃はそれをしかけていたのだ

それを二人で話し合ってからとしたのなら、英断だろう

若葉「なら天乃は部屋で待っていてくれ――」

球子「夏凜ならタマが呼んできてやるぞ」

若葉「球子聞いていたのか」

球子「みんな聞いてるぞ。心配しなくてもみんな同意の上だからな。胸を張っていい」


二っと笑って見せた球子は天乃が答える前に背中を見せて、姿を消す

任せろと言いに来ただけなのか、

言うだけ言って消えてしまった球子に残されてしまった二人は

暫く黙り込んでいたが、おもむろに顔を見合わせて苦笑する

任せろというのなら任せてもいいだろう

若葉「部屋まで送ろう」

天乃「ええ、お願い」

若葉「……華奢だな」

ぎゅっと抱き寄せた若葉の呟き

思わず零れたであろう本音に本人が気づいていないのか

天乃の見上げる優しい顔は変わらない

天乃「私、お母さんらしい?」

若葉「どうだろう」

天乃「違うの?」

若葉「なんて言えば良いか……ふむ……」

むぅっとうなった若葉はふと足を止める

若葉「私にとっては女性だ。唯一無二の、たった一人の女性だ」

答えのようで答えではないような若葉の言葉

けれど、若葉にとっては精一杯らしく、

すぐに誤魔化す笑い声を零して歩みを進める

その耳元が赤くなっているのを見た天乃は、若葉には見えない笑みを浮かべながら

少しだけ、若葉へと体を預けた

天乃「……なら、守ってね」

若葉「ああ」

抱く力が少しだけ強くなる

病室までの距離は、あっという間に過ぎ去った


球子に声をかけられた夏凜が天乃の待つ病室に向かうのにそう時間はかからなかった

天乃が寂しいってさ。などという理由で呼ばれたからというのもあるが

千景や沙織

あるいは若葉ではなく球子が来た時点で

たったそれだけの理由ではないことは何となく察しがついていたからだ

夏凜「……入るわよ」

軽くノックをすると、病室から天乃の声が返ってくる

一段弾んだように聞こえる声は扉に隔たれているからだろう

天乃「パパが来てくれたよ~」

夏凜「パパ言うな」

双子を抱いて笑みを浮かべる天乃の傍らには、

普段いるはずの精霊の姿はない

全幅の信頼を置いているのか、姿を消している

天乃「ママは私よ」

夏凜「……まぁ、だとしたら私がパパか」

天乃「夏凜パパ」

夏凜「風パパと樹パパと美森パパと園子パパと友奈パパと沙織パパに若葉パパもいるのよ」

普段よりも早い口調で並べ立てた夏凜は、

赤ちゃんの頬を指の腹でムニムニと押して、愛らしそうに微笑む

夏凜「……多くない?」

天乃「半分ぐらいママで良いような気もしてきた」

夏凜「……ママ要素って?」

天乃「胸の大きさ?」

夏凜「勝ち目がないわね、それ」

きゃっきゃきゃっきゃと手をばたつかせる赤ん坊に笑みを浮かべるママの夏凜は、

天乃の手から姉の方を抱き上げて、ゆりかごのように体を揺らす

夏凜「……で、そんな話するために呼んだんじゃないでしょ?」

子供への優しさはそのままに、夏凜は天乃へと目を向けた


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


風「夏凜が指名されたわね」

東郷「やっぱり欲求――」

樹「夏凜さんの雰囲気的に真面目な話では?」

園子「……お風呂に入りにくいから体を拭いてって求めるのかも~」

風「よくあったやつだわ。それ」


園子「天さんってもしかしてみんなの前で恥じらいがない?」

樹「一般的な人に比べればないと思います。脱ぎ慣れてますし」

東郷「言い換えればヤリ慣――」ガタンッ


では少しだけ


夏凜「子供のことなら良いけど、どうせ違うんでしょ?」

天乃「球子に何も聞いてないの?」

夏凜「聞いてない。天乃が呼んでるとしか言ってなかったわ」

多少余計なことは言われたが、言葉の通り余計なことだった

天乃がなぜ呼んでいるのかは

実際のところ、何も教えてはくれていない

夏凜「それでも、天乃がマジなこと話したいってくらいは分かる」

天乃「……やるわね」

襟首のあたりをぎゅっと掴んでは、引っ張る姉の方に応えて頭を下げてあげる夏凜は

添える左手を外して、赤ちゃんの手を包む

夏凜「それなりに見てきたつもりだし……瞳のこととか?」

天乃「ええ。そう」

誤魔化す必要はないと肯定して、

天乃は腕の中で眠る妹の方を一瞥し、微笑む

赤ちゃんの寝顔が愛らしいからか

夏凜が分かってくれていることが嬉しいのか。

天乃「瞳と電話したのよ。それで聞いたわ」


夏凜「やっぱり、いなくなるつもりだって?」

天乃「それが分かっているのに、何も言う気はないの?」

夏凜「元々そのはずだったから」

瞳も言っていたように

そういう契約での付き合いだった

その契約期限が過ぎた今、

瞳がするべきと思って行うことに異を唱える権利はないのではと思う

夏凜「大赦だって言うのは気に入らないけど、私達に敵対するわけでもないし、良いんじゃない?」

天乃「本当に良いの?」

抱いていた赤ちゃんをベッドに戻して、夏凜を見る

落ち着きを取り戻した赤ちゃんの閉じるかどうかの瞼を一瞥した夏凜と目が合う

夏凜「瞳がそうするべきって言うなら、それでいいわよ」

天乃「夏凜……」


1、私は、寂しいわ
2、夏凜にとって瞳はどんな人だったの? 契約だから。それで終わるようなものだったの?
3、……そう。夏凜はそれでいいのね?
4、子供の前で嘘はつかないって誓える?


↓2


では短いですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


天乃「ねぇ、夏凜。子供の前では嘘つかないって誓える?」

夏凜「……急に何?」

天乃「教育上良くないから。夏凜の方が詳しいだろうけど、もうこんな小さい時から学習してるって話だし」

夏凜「………」

胸元をぎゅっと掴んだまま、夏凜の腕の中で眠る赤ちゃん

天乃の腕の中で眠る赤ちゃん

二人とも眠っているが、その耳を通して脳の中には刻まれている

表向き記憶に残らないだろうが、深層心理にそれは残るかもしれない

夏凜「嘘なんてつかないわよ」

子供が眠ったからか、

夏凜は動きをだんだんとゆっくりにしていく

夏凜「瞳がそうするべきだって思ってるならそれでいいって考えてるのは本当」

天乃「……そっか」

夏凜「でも……寂しくは、なるかもね」

瞳との付き合いが終わる以上

瞳が暮らしている家に帰ることはなくなる

ここに瞳がいたはずなのになんて喪失感を感じることはないが

一つ一つの所作に対する瞳のコメントは二度と聞けなくなるし

こうしていたらこう言われたなぁ。と、思い出すことはあるだろう


夏凜「兄貴は気付いた時には家からいなくなってて……あんな家に一人になって」

兄からしたら、

自分と比べられることに辟易していた妹を解放したい一心だったかもしれない

だけど、大赦などという組織の一員に加わったことは特別極まっていて

夏凜の扱いは大して変わらなかったのだ

あの兄の妹なのだから。という期待

あの兄の妹なのだから。という重圧

むしろ嫌なことが倍になってしまったともいえる

そんな中で選ばれた勇者候補

それならばと突き詰めた夏凜は共に競った芽吹達を差し置いて勇者となって

手のひらを返した両親を横目に、大赦所属で天乃の送迎を担当しているという理由から

瞳預かりとなった

大して期待していなかった関係は少しずつ頼る割合が増えて

親ではないが、近親者と言えなくもない所にまで上り詰めていた

夏凜「正直に言って、風には悪いけど……せめて母親が瞳だったらと思うわ」

天乃「なら一緒に居たいんでしょう?」

夏凜「一緒は望まない。瞳には瞳のしたいことがあるはずだし、そのためには私がいないほうが良いことだってあるはず」

でも。と、呟く

夏凜「せめて繋がりは残したい。兄貴みたいに本人かもわからないようなやり取りしかできなくなるのはなんかね」


気恥ずかしさからか、

子供へと視線を下げた夏凜は苦笑いを浮かべる

夏凜「大赦としてはそんなことさせられないのが現実」

天乃「検閲は入るわよね」

夏凜「酷ければ代理とかになるかもしれない」

電話は無理でも、

メールのやり取りなら文体が大赦ゆえのお堅いものだとしても

大赦だからで押し通すことが可能だ

それで元勇者のご機嫌を取れるならば安いものだろう

天乃「沙織なら巫女に忍んで確認できるわよ」

夏凜「アサシンか何かよね。もう」

姿を消せて、壁抜けが出来て

巫女と精霊の力を併せ持っているハイブリット暗殺者

天乃が言えば実際に成し遂げそうなところが怖い

天乃「でも、言ってみたら? せめて繋がりは残して欲しいって」

夏凜「そんなこと言ったら困るでしょ」

天乃「そう思ってた時期もあったわね。私」

夏凜「はいはい、私達のせい」


静かに歩いて赤ちゃんをベッドへと下ろした夏凜は

抱いていた感触の残る手を見て、赤ちゃんを見て、天乃へと目を向ける

何か思うところがあるのか、ふと息を吐く

夏凜「天乃は? 寂しい?」

天乃「今まで付き合ってくれていた人よ」

敵ばかりの大赦の中で、

監視役としての役目を担いながらも味方してくれていた人

瞳の存在は、大赦との付き合いをするうえで非常に重要だったと言える

天乃「送迎して貰うことはなくなるけど、でも、寂しくなるわ」

夏凜「……そう」

零れ落ちるような呟き

天乃に向けたわけではないその呟きを追うように夏凜の瞳が動く

夏凜「確かに、付き合ってくれていたのよね」

我儘ではないが、扱いの難しい二人

その二人と、それ以外の勇者たちと

長く付き合ってきてくれた人

夏凜「分かった。最後くらい、困らせてみるわ」


ではここまでとさせていただきます
明日はできれば少し早い時間から



東郷「……送迎が必要なくなったから外されるんですよね?」

天乃「ええ、それもあるわ」

東郷「送迎が必要なら別れる必要はない?」

天乃「絶対とは言い切れないけど、でも私の体は治ってきてるのよ?」

東郷「つまり、私達が何とかして久遠先輩を孕ませれば……?」


風「友奈ーっ! カァムバァァァック!」

樹「でも出来たらいいとは思うよね。子供」

風「えっ」


では少しだけ


天乃「今日中か明日には瞳から連絡があると思うわ」

夏凜「連絡するって?」

天乃「ええ。してくれるって」

夏凜「するつもりなかったのね……瞳」

元々の契約で決まっていたことなら、

メールで終了の通知を送るくらいで済ませてもいい

連絡するつもりのなかったことに対して、不満はあるが文句はないと、

夏凜は口に含んだ言葉を飲み込む

夏凜「天乃が連絡したからなんでしょ? ありがと」

天乃「お礼なんて」

電話をしたのは夏凜のためではなかった

契約でここでお別れになると知ったのも偶然だ

霊を言って貰うようなことをしていないと否定する天乃に

夏凜は「理由はどうあれ」と困った笑みを見せる

夏凜「結果的に助かったことに変わりないんだから、素直にどういたしまして。とでも笑ってなさいよ」


夏凜「それはそれとして、名前は決めたの?」

天乃「沙織がね、はるとそらはどうかって提案はしてくれたんだけど……」

夏凜「気に入らない?」

天乃「そんなことないわ。全然いいと思う」

正直、自分で全く浮かんでこないのが申し訳ないくらいに。

とはいえ、みんなに聞くことなく決めてしまうのはどうかとも思うわけで

そう言っていたら、時間がどんどんどんどん過ぎて行ってしまった

天乃「夏凜はどう? 何か良い案ある? それとも、沙織の案が良い?」

夏凜「そうねぇ……」

子供の名前に関しては語彙力なんてものは役立たずだ

たくさん本を読んでいるからと言って、

子供の名前がすんなり出てくるわけではなく

出てきたとしても作中の登場人物からの引用が多い

夏凜「名前に意味を込めるって言う点なら咲とか華……優しい子で優子とかあるけど」

天乃「けど?」

夏凜「私のそれって結局読んできた小説の登場人物なのよ。できればそこに頼りたくない」


夏凜「それで言えば、沙織のはるとそらは良い案だと思う」

天乃「それだって、陽乃さんの陽と私の天を使った名前よ?」

夏凜「その発想の転換というか、うまく当てはめるセンスがね……」

困り果てた唸り声を漏らした夏凜の眉間にしわが寄る

本気で悩んで浮かんでないだろう夏凜は

ちらりと天乃の腕の中を見る

すやすや眠る妹、ベッドに置いたばかりの姉

二人の名前は、どうするべきか

夏凜「陽乃は太陽、天乃は天そのものをイメージしてるんでしょ?」

天乃「お姉ちゃんは晴海で……海、お兄ちゃんは大地で地だよ」

夏凜「太陽、天、海、地……なら、星。星乃とかどう? それと、月乃」

天乃「あら、星と月?」

夏凜「そう。陽乃の太陽はともかく、天乃の天は天の神に対しての挑発というかそういう部分があるし」

星座をモチーフとしたのは大赦だが、それに通ずる姿をしたバーテックスに対するものとして

星を冠した名前を付ける

太陽に相対するものとして月の名前を冠する

夏凜「やっぱり……なしね。なんか違うわ」


夏凜は自分で言って自分で却下する

久遠家が代々行ってきた天地空海の用いての名付けにあやかったもの

考え方としては間違っていないし、

陽乃の陽と乃は特別なものとされており、

今までの先祖には天乃以外にその言葉は一つたりとも使われなかったはずだ

天乃の子供であり、力を確実に引き継いでいる双子なら

その名前を用いるに十分な素質がある

星と月だって、

並び立つ双子の名前としては決して悪くはないはずだが夏凜は気に入らないらしい

天乃「何が気に入らないの?」

夏凜「……いや、感覚と言えば良いのかセンスと言えば良いのか分からないけど、はるとそらの方が可愛くない?」

天乃「私の名前は、可愛くない?」

夏凜「う゛」

言葉に詰まった夏凜はじっと見つめてくる天乃から目を逸らすかどうか逡巡し、

どうにもならなくて息を飲む

夏凜「か、かわいい……って、思ってるけど」

天乃「じゃぁ月乃ちゃんと星乃ちゃんだって決して悪くはないんじゃない?」

夏凜「……狡いわよ。そういうの」

天乃「ふふっ、私ってそういうところあるのよ。知らなかった?」

にっこりと笑みを浮かべる天乃に、

夏凜はどちらかと言えば知ってた。と、呆れたように返した


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日はできればお昼ごろから

そろそろ名前決め


では少しずつ


夏凜「天乃は考えられたわけ?」

ベッドの端の方に腰かけた夏凜は、

天乃の足の位置を確かめるように擦って、天乃の腕の中にいる子供に手を伸ばす

まだ幼く、双子

そのせいもあって完全に瓜二つな妹は、触れてみると違いを感じる

感触は同じ

しかし、触れたものを察知しようと無意識に動く力が姉のそれとは違う

夏凜「名前は大事よ。ほんと」

天乃「うん。そうね」

言霊というものもある

迷信めいたものだが、与えられる名前というものは

名付けられたものが一生を通して持ち続けるものだ

変えることも出来る。が、変えたとしてもその名前で生まれてきたという過去は消えない

簡単に決めて良いものじゃない。自分たちの勝手にしてはいけない

込めるべきは祈りであって望みではない

天乃「夏凜は、春信さんのこともあるし四季を引用した名前よね」

夏凜「6月は季節的に夏だからそうなっただけでしょ」

天乃「でも、凜はそうじゃないでしょう? だからきっと、夏凜の名前だってしっかりとした意味が込められていたと思うわ」


夏凜「……だと良いけど」

どこかへと吐き捨てるように言った夏凜は、

はっとしたように、天乃の子供へと目を向ける

閉じていたはずの瞼は開いていて、

小さな小さな手が、触れてくる夏凜の指を握ろうと頑張っている

「ぁぅ」

夏凜「ごめん」

触れているせいで感じ取れてしまうし

子供は元々そういったことに敏感だという話もある

陰った感情を持って触れるべきではないと、

夏凜は困った笑みを浮かべて、その小さな手を指先で握る

夏凜「天乃に子供が産まれて、名前を付ける必要があるだろうって思った時に調べた」

赤ちゃんとつながっているからだろう

夏凜の目は子供に向いたままで

口元は緩く結ばれていて、怒哀の感情は感じられない

夏凜「夏凜は明るく元気に、けれど相手への思いやりを持つ勇気ある子でありますようにって意味があるって」

天乃「信じなかったのね」

夏凜「信じられるわけがない。あの親が、そんな意味を持たせるはずなんてない。そう思った」


夏凜「でも、今がそうであるように産まれたばかりの赤ちゃんにはただ、そうあって欲しいと思うだけ」

名前だってそうだ

ただの名前、されど名前

そうあって欲しいという祈りが込められただけの名前。

夏凜の両親だって、

最初から春信と比較していたわけではない

春信がそういう風に育っていったから、夏凜もそうだろうという期待をしてしまったのだ

天乃「………」

天乃は夏凜をじっと見つめる

赤ちゃんを見つめる夏凜の口元は少しだけ強く結ばれている

夏凜がどうして自分で考えた名前を取り下げたのか

そこに理由があるような気がして、天乃は口を開く

天乃「夏凜とお母様は違うわ。私とお母さん。お母さんとお祖母ちゃんがまるで違うように。何もかもが同じになるわけじゃない」

夏凜「天乃……」

天乃「貴女はそれが嫌なことだって分かってるんでしょう? それがどうなってしまうか分かっているんでしょう? それでも、繰り返すの?」


夏凜「そんな風に言われてもね。そればかりは分からないわよ」

天乃「私がいても?」

夏凜「……っ」

赤ちゃんの手よりもしっかりとしていて、大きい

けれど、自分よりも小さく、華奢な手が腕を掴む

それでも。

そんな言葉は言う気はないけれど、

あったとしても言えなくなるような瞳が向けられる

天乃「目を合わせたわね」

夏凜「狡くない?」

天乃「狡いわよ。知ってるんでしょ?」

夏凜「あんたねぇ……」

「あっあぅ~あっあっ」

夏凜に伸びた天乃の腕を掴む小さな手

私も私もと言いたげな声と笑顔に、夏凜は言葉を失って息を吐く

夏凜「信じてるわよ。天乃のことも、みんなのことも」

天乃「うん」


夏凜「とはいえ、私の方の名前は使わなくても良いんじゃない?」

天乃「冬と秋ならどっちも私の名前に合うんだけど」

夏凜「私が言ってるセンスはそういうやつじゃない」

天乃「秋乃ちゃんと冬乃ちゃん」

秋乃は穏やかで優しく落ち着きのある子に

冬乃は澄んだ清さのある温もりのある子に

そして、冬は秋から続き秋冬は夏から続く

天乃「どう? 夏凜」

夏凜「どうって、言われても……いや、あんた」

天乃「ん?」

夏凜「………」

それではまるで、二人の子供のようではないかと。

天乃が分かっていなさそうな名前の意味を、グッと喉元にため込む

夏凜「天乃の名前の候補はそれくらいなわけ?」

天乃「そうねぇ……」

1、今思いつくのはそれくらいかしら
2、他にもあるわよ。一応

↓2


※2は再安価。名前募集


天乃「今思いつくのはそれくらいかしら」

夏凜「そ、そう……」

天乃「どうしたの?」

夏凜「いや……別に」

それは違うと分かっている

けれど、その名前は自分と天乃の関わりが強く

それしか思いつかないと言われてしまうと、

天乃に限って言えば裏の意味なんて全くないと分かっているのに

少し、紅くなってしまう

夏凜「友奈たちの名前を使う気はないわけ?」

天乃「友奈たちの名前って四季とか空みたいに近しい言葉が思いつかなくて……その点、夏凜は夏だからわかりやすいし」

夏凜「そういうてきとう――」

天乃「もちろんちゃんと考えた上でよ? そもそも、近しい言葉で名付けること自体ちゃんとしてるんだから」

夏凜「繋がりを感じられるから?」

天乃「ええ。分かってるじゃない」


嬉しそうに笑う天乃の笑顔を、夏凜は見守る

胸の動きがあるからか、

抱かれる赤ちゃんはすっかり目を覚ましているが、同じく笑顔だ

天乃「名前を引き継ぐのだって、私の名前に関しては力を受け継ぐ意味合いもあるの」

夏凜「四季は?」

天乃「難しい言葉は使いたくないよねって意見があってね。四季はそれ自体にイメージが乗ってて子供にも伝えやすいじゃない?」

夏凜「………」

ふふんっと自慢げに話す天乃だが、

話していることは確かにそうで、一理ある

変な意味もないし、

秋乃と冬乃という名前は夏凜の個人的な羞恥心を除けば、

反対する理由がなかった

動く唇は薄い桜色

苦しさを感じる汗は流れて折らず、表情も柔らかい

顔色は落ち着いていて、白く澄んでいる

天乃「夏り――」

窓が締まっているはずの病室で、空気が勢いよく揺れる

中々軋まないベッドが軋んで、夏凜の足から抜け落ちたスリッパが床に落ちて音を立てた

天乃「夏凜? どうしたの?」

力が入っていないのは子供が間にいるからだろう

子供を挟む優しい抱擁

腰と首元に回った手が、その存在を確かめるように動く

夏凜「……ごめん」

天乃「良いけど、子供だけは気を付けてね」


夏凜は天乃を抱きしめて、

首筋に落ちた頭を少しだけ起こす

夏凜「……楽しそうだったから」

天乃「嬉しくなった?」

夏凜「聞くな」

天乃「夏凜達が頑張ったからよ」

子供がいるから両腕ではできないが、

子供の体を自分へと傾ければなんとか使える左手で、夏凜の頭に手を添える

言葉はなく、優しく撫でる

天乃「子供の名前を考えられているのだって、そのおかげ」

繋がりを大切にしたいのは、

その繋がりが容易く絶たれてしまうものであることを知っているから

世界は決して甘いものでも優しいものでもないことを知っているから

夏秋冬、四季を用いた名前を考えたのは、

別れがあれば再会があるように、四季もまた巡り戻ってくるものだからこそ。

天乃「温かいでしょう? 私」

夏凜「そうね、もう……冷たくない」

血を吐いて、血塗れになって、

血が抜けた分死人のように体温の下がっていたあの頃とは違う

強く抱きたい想いを赤ちゃんの柔らかさで制して、そっと体を引いた


夏凜「ほんとごめん。勢いが出た」

天乃「別にいいわよ。この子も嬉しそうだし」

夏凜と天乃に挟まれている間静かだった赤ちゃんは、

夏凜が離れた途端にその手をバタバタとさせて、夏凜の服を掴もうとしている

離れて欲しくなかったとみてわかる動きに、

天乃は思わず苦笑しながら、夏凜の方に体を寄せる

天乃「もう一回抱く?」

夏凜「抱かない。そんなことより名前を決めるんでしょ」

天乃「みんなにも相談しないと」

夏凜「天乃としては今までの中で何が良いのよ」

天乃「今までと言っても、まだ沙織と夏凜にしか教えて貰ってないわ」

夏凜「その中では?」

天乃「………」

沙織か、夏凜か

それとも自分で考えた名前か


1、はるとそら
2、星乃と月乃
3、秋乃と冬乃

↓2


天乃「私の個人的な意見で良い?」

夏凜「良いから聞いてるんだけど」

天乃「じゃぁ……夏凜の意見」

夏凜「は?」

天乃「夏凜の考えた名前」

夏凜「いや、あれは……なしって」

天乃「私は却下してませーん」

悪戯っぽく笑う天乃だが、

その考えは真面目なようで、本気でその名前が良いと考えているらしい

夏凜としては、天乃の考えた名前とか

沙織の考えた名前の方が良いと思う野田が。

夏凜「本気?」

天乃「天に輝く星と月。太陽とも繋がりがあって、すてきだと思うわ」

夏凜「けど」

天乃「どういう意味があるの?」

夏凜「………」

星乃は空に輝く星。あるときは人の導きとして、あるときは心穏やかな輝きのように

月乃は空から降る光。優しく穏やかな光は癒しを与えられるように

夏凜「だ、だけど沙織たちの方がいいんじゃない?」

天乃「私は夏凜の方が好きよ」

夏凜「はっ!?」


天乃「沙織のも分かりやすいわ。陽乃さんと私の名前を使ってるのも良いと思う。でも、夏凜の考えた名前の方が好き」

夏凜「あぁ……そう」

けれど、力を継ぐことに集中するあまり、

夏凜や天乃が考えていたような祈りらしい祈りが欠けてしまっている

それが悪いとは言わないが、

やはり、名前を付けるのなら、そういうものも重要だろう

それを考えれば、

天の神に対する思い、力を受け継ぐことへの想い

そして、自分の子供に対しての祈り

それらが備わっている夏凜の考えた名前が良いと、天乃は思ったのだ

天乃「夏凜はいや?」

「ぁぁぅぁぅぅ?」

夏凜「……なんなのよ」

天乃の言葉に続いて言葉にならない声を出して夏凜を求める赤ちゃん

ベッドの上に居た姉の方も、いつの間にか目を覚まして夏凜を見ている

天乃が言った【子供の前では嘘をつかないと誓えるか】それをまた問われているような気がした


夏凜「嫌じゃない……嫌じゃ、ないわよ。分かるでしょ」

自分がお腹を痛めた子ではないけれど、

自分の子供となる双子の名前の候補として自分の考えたものが選ばれた

それも、母親である天乃に選んでもらえた

嫌なわけがないし、嬉しくないわけない

「ぁぁぅ?」

夏凜「嬉しい……」

赤ちゃんの頬を撫でながら、

夏凜は諦めを含む笑みを携えて答える

まだそうなると決まったわけではないけれど

もしそうなったら、本当に父と母のようで。

天乃「だったらいいでしょ? 私の候補は夏凜の考えた名前。それでいいわよね?」

夏凜「駄目とは言わせないくせに……良いわよ」

天乃が推すのは夏凜の案

天乃がそれを言った瞬間にそれで決まってしまうのが勇者部だが。

子供が嬉しそうなのを一瞥した夏凜は、

それでも良いかと、赤ちゃんへと微笑みかけた



√ 2月16日目 昼 (病院) ※水曜日


01~10 夏凜
11~20
21~30 東郷
31~40
41~50
51~60 樹
61~70
71~80
81~90 千景
91~00


↓1のコンマ


では少し中断します
再開は19時頃を予定しています


ではもう少しだけ


√ 2月16日目 昼 (病院) ※水曜日


子供の誘いに負けて病室に残っていた夏凜は、

昼食が運び込まれてくる時間になってようやく、そろそろ。とベッドから立ち上がる

天乃「お願いしてこっちに持ってきてもらったら?」

夏凜「流石にそんな我儘は言えないって」

勇者である夏凜達の扱いは最優先事項とされていて

多少の融通は利かせて貰えることになっている

昼食を天乃と取りたいという我儘なんかは、

症状的に軽くなってきている夏凜と天乃であれば

許可して貰えるはずだ

天乃「もう勇者じゃないからダメなの?」

夏凜「そうじゃないけど、居座りすぎたのよ」

天乃「風達なら文句は言わないでしょ?」

夏凜「………」

分かってるのかと眉を顰めた夏凜は渋った目を天乃へと向ける

以前なら何かあるのと疑問符を浮かべていただろうけど

その辺りは学習してきているらしい


夏凜「文句は言わないけどからかわれるのよ」

ようやく素直になったのかとか

やって来たのかとか

結局寂しかったのかとか

嫌なことをされたり言われたりはしないけれど、

羞恥心的に辛抱ならない

天乃「子供の為に一緒に居てくれてるんだから別にいいと思うけど」

夏凜「子供のためだけならね……ここだけの話、一緒に居たいのは事実だから」

天乃「……そっか」

夏凜「……ばか」

言ったのは夏凜だが

ちょっぴり赤くなって声が小さくなった天乃を見てしまった夏凜は

思わず悪口を呟いて目を逸らす

断じて寂しかったわけではない

夏凜「前は良くなってきたところに一緒に居たら体調崩して……不安だったのよ」

天乃「あったわね。そんなことも」

夏凜「でももう大丈夫そうだし、それなら――とか思うのよ」


夏凜「だから東郷はともかく、風とか園子の言葉は結構痛い」

天乃「誇ってみれば? そうだけど悪い? って」

夏凜「はぁ?」

天乃「貴女がそうやって怖気づくからその言葉に意味があるの。だからなんなんだって胸を張って見せれば治まるはずよ」

夏凜「そりゃ一理あるけど、出来たら苦労しないわよ」

夏凜は困り顔でぼやく

頭で考えられても、それが実行できるわけではない

やっぱり天乃のことが大好きなんじゃない。とでも言われたら、

まず間違いなく声を張り上げる……しかも裏返った声で。

天乃「やっぱり、私のこと一番好きなんじゃない」

夏凜「はぁっ!?」

引き込む吐息に巻き込まれた間の抜けた語尾

見開いた瞳は驚きが露わになっていて、

ほんのり赤い頬が可愛らしい

天乃「ふふっ」

夏凜「っ、急に何言ってんのよ……」

天乃「ふふふっ、ふふっあふっ」

夏凜「笑うなぁっ」

天乃「ごめんなさい、ふふっ……あはっふふっ図星、なのねっ」


夏凜「あんたねぇっ」

天乃「素直になったらいいんじゃない?」

夏凜「押し倒すわよアンタ」

本気ではないのか

呆れた声色の夏凜は心を落ち着けるためか、子供の方へと顔を向けて

その優しい横顔に天乃は微笑む

素直に好きだと言えればからかわれることなんて何ともないはずなのに

そうできる勇気があるはずなのに

夏凜はしようとしない

いや……してくれない。だろうか

夏凜「子供についての話するなら病室にいるよう話しとくけどどうする?」

一息ついて、何事もなかったように夏凜は問う

友奈がいないのは仕方がない

だけど、いるはずの子がいない状態での話は二度手間だろうという配慮


1、そうね。お願いできる?
2、ベッドに横になる
3、押し倒してくれないの?
4、好きって、言ってくれないの?


↓2


天乃「……押し倒してくれないの?」

夏凜「え、は、いや、あれはっ」

天乃「ただの冗談?」

夏凜「もしかして、まだ効果が残ってる?」

夏凜は答えずに問い返した

つい数秒前と違う天乃の雰囲気

以前にもあった天乃の穢れによる情欲衝動

それの再発を警戒したためだ

天乃「どうして何もなかったみたいに話を変えるの? 本当は嫌い?」

夏凜「ちょっと待って。待って天乃落ち着いて」

物語に出てくるような

面倒くさい系彼女に通ずるものがある天乃の言葉

天乃がそんなものを嗜んでいるはずがあるわけがない

天乃「落ち着いてないように見える?」

夏凜「穢れの力が暴走してるかと思って……」

天乃「私がそういうの求めたら変なの? 抱いてって言ったら穢れのせいだって仕方がなくするの?」

夏凜「そんなわけない」

天乃「だったら――」

夏凜「子供の前でできるわけないでしょうがっ」


思っていたよりもあった勢いを受け止めたベッドが軋む

華奢だと感じた天乃の細腕を抵抗などさせない力で抑え込む夏凜の結んだ二束の髪が

天乃の顔の横へとカーテンのように垂れて

明るさをかき消す暗い影の中、深い色の瞳がじっと天乃を見下ろす

夏凜「押し倒すって、こういうことなのよ?」

天乃「うん……分かってる」

抵抗できない力でベッドに押さえつけられて

その圧迫感と無力感からくる怖さに息を飲むものなのだ

夏凜「解ってないでしょ。こういうことしないの? とか」

力でねじ伏せるのは好みじゃないが

ベッドに散らばる桃色の髪、膨らんだ乳房の柔らかさが目に見える潰れ具合

呼吸するたびに微かに揺れて、僅かに開いた唇、宝石のように輝く橙色の瞳

前髪が横に流れて見えた眉

布団がなければより隅々まで見ることのできる姿勢

夏凜「このまま、唇にキスできる。首筋に痕をつけることだってできる」

天乃「うん」

夏凜「受け入れるの?」

天乃「受け入れるというか……夏凜がそういう痕つけたいなら、別に」

夏凜「付けたくないわよ。傷みたいなものなんて」

でも、つかない程度になら。

そう考える夏凜の横で、元気な声が上がる

夏凜「………」

天乃「………」

隣の並んだ小さなベッドから聞こえる愛娘達の楽し気な声に緊張感が削がれ、

夏凜は天乃を押し倒したまま、目を瞑る

夏凜「……せめて人がいないところに行かないと」

天乃「連れ出してくれてもいいのよ?」

夏凜「さては思ってた以上に欲求不満ね?」


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「四季……?」

東郷「それなら東西南北方角だって有効では?」

樹「久遠西乃や南乃だと、なんだか外国での和名の読み方みたいですけど良いんですか?」

東郷「はっ!」


園子「にぼっしーの案は良かったよねぇ」

風「同級生なんだから逃避しないで」

久遠星乃(くおん ほしの)
久遠月乃(くおん つきの)
かと思われる

夏凜ちゃん奥手だから久遠さんの誘い受けが光るぜ


では少しだけ


天乃「別にそういうわけじゃないけど……」

夏凜「だとしたら、東郷にでも毒された?」

天乃「ううん、違う」

夏凜「………」

天乃「夏凜が急に抱きしめてきたから、ドキドキした」

すぐ隣から聞こえてくる子供の声

全力を出しても敵わない夏凜の力

その抑止力もあって、天乃は夏凜を見つめるだけに止める

夏凜「……あれはそういうのじゃないから」

天乃「分かってる。私だって別に夏凜とエッチなことがしたいわけじゃない」

夏凜「だったらなんなの?」

天乃「感じたいの。感じていたいの」

夏凜「………」

天乃「分かってよ。貴女も女の子なら」


それがずるい言葉だということは分かっていて、天乃はそれを口にした

男の子であれ、女の子であれ

心のすべてを察しろなんて無理な話

自分で求めて、それでも蔑ろにされて初めて嫌味を言うべきだ

夏凜は問えば答えてくれる

求めれば応えてくれる

だから、そんな言い方なんてする必要はなくて

なんでそんなこと言うのか。

どうしてそんなこと言われなければいけないのか

反論があってもおかしくなかったが、

夏凜は驚いた表情を鎮めると、目を逸らす

夏凜「悪いけど、その辺の女子力の無さには自信があるわ」

天乃「自信を持たないで」

夏凜「風の方が女子力がある。友奈や樹の方が察しが良い。天乃になんて言われようとそれは断言できる」

鍛錬に努めてきた人生だ

恋をして、頑張って勉強してみたけれど

それはやっぱり付け焼刃

振り払ってきた乙女心なんてまだ一握りほどもない


夏凜「男だったらきっと、みっともなさすぎて死にたくなる」

自分より優秀な人がいると自覚している

追いつこうと変わろうと努力して

それでも手が届かない未熟者だと思い知らされて。

夏凜「だから、パパは無理。私にはその資格がないと思う」

天乃「……卑屈ね」

夏凜「そう言ってくれるから、好き」

そんなことはないよ。と、甘い言葉を囁ける場面だ

私は十分あるよと寄り添える場面だと思う

だけどそうせずに、困った笑顔で卑屈と言う

その厳しい優しさが好きなのだ

夏凜「でも、本当にそう……謙遜じゃなくて、卑屈」

夏凜は自分への嘲笑のように笑うと

天乃へと向き直って、眉を顰める

夏凜「だから、悪いけど私に女の子ってものを教えてくれない?」

天乃「……私だって、普通の女の子じゃないわ」

夏凜「普通かどうかなんてどうでもいい。私は、久遠天乃って女の子のことが知りたいだけよ」

隣のベッドからの声がだんだんと遮断されていく

双子の視線を遮るように、天乃の手と自分の手で壁を作って

こっそりと、唇を重ねる

質素な病室の色合いがなぜだか鮮やかに感じて

桃色の匂いは甘く、溶け込んでしまいたくなる温もりに満ちている

夕暮れ時の人気の薄れた教室でこっそりとキスするラブロマンスの描写が、ようやく感じ取れた気がした


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日はできれば通常時間から


では少しだけ


夏凜「っふ……」

子供がいる場所でできるのはこれが精いっぱいだ

作っていた壁を取り除き、

天乃にのしかかっていた圧迫感を持ち上げて離れると

夏凜は重なるために閉じていた瞼を開く

夏凜「これで少しは我慢――って、何顔赤くしてんのよ! 私の方が恥ずいんだけど!」

天乃「だ、だって……」

夏凜「あぁもう……っの」

悲しくないのに涙が零れそうなほどに潤んで見える天乃の瞳

陶器のように白かった肌は白桃のように鮮やかさに染まり、

甘さのある唇の余韻も相極まって、目の前には果実が落ちているようにしか見えなくなってしまいそうで

夏凜は誤ってもしないようにと、自分の手首を口に押し当てる

夏凜「そんな顔されたら、先に進みたくなる」

天乃「ごめん」

夏凜「いいって、言わないんだ」


天乃「ぇっ!? だ、だってっ!」

夏凜「子供がいるから……でしょ? それはそうだわ」

天乃「夏凜?」

夏凜「でも、天乃は求めてきた」

夏凜の瞳は穏やかだが、冗談ではなさそうだと天乃は息を飲む

流石に、自分で子供がいるからやるべきではないと渋っていたのに

無理やりしてくることはないはずだけど。

夏凜「その気持ちが少しわかったわ」

天乃「……余計なことさせちゃった?」

夏凜「いや、我慢できなくなるわけじゃないし……」

今の天乃を押さえつけていたらどうなるかは分からないが、

そうしない程度の理性はある

夏凜「ねぇ天乃」

天乃「うん?」

夏凜「やっぱり、好き」

天乃「ここでそれを言わないで……抱いて欲しくなる」


性的なことではなく、

ただ単純にその温もりを感じさせて欲しい

それも、子供の前では距離感的に近すぎて

教育上悪いというわけではないけれど

恥ずかしいわけでもないけれど

なぜだか、遠慮してしまう

夏凜「……馬鹿ね」

天乃「仕方がないじゃない」

夏凜の困った笑みに、天乃は似たような笑みを返す

人の温もりが好きだ

一人は嫌だ

その感触で、安心できる

だから、欲しい

でもそれは求めすぎだと天乃はかみ砕く

けれど――

夏凜「あんたじゃない。私がよ」

夏凜の優しい声

布団の中で、何かが天乃の手を握る

夏凜「一緒に居て大丈夫なら、一緒に居たい。そう思っちゃってる……ほんと、鍛錬漬けの脳筋はだめだわ」

あたかも自分が悪いという口ぶりで

自分の我儘だと苦笑して

握ってくれる手は、離さないでと引き寄せるように指を絡めてきた


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日はできれば通常時間から


園子「脳筋だから力加減が分からない」

園子「夏凜はそう言うと、天乃の体を引き寄せて抱きしめる」

園子「脳筋だから嫌がってるかどうかなんてわからない」

園子「夏凜はそう言うと、天乃の頬を包んで――」


東郷「そのっち、脳筋なら三大欲求である性交渉に一直線だと思うわ」

樹「えぇ……」


遅くなりましたが、少しだけ


夏凜「……ねぇ、もし進路なんかどうでもいいから一緒に居たいって言ったらどうする?」

天乃「なにそれ」

夏凜「たとえばよ。例えば」

笑いながら、夏凜は言う

他愛もない会話の一片とでも言いたげな夏凜の表情

ベッドに座る天乃と夏凜の視線は、

身長の分低い天乃が見上げる形になってしまう

天乃「本気でそう思ってるでしょ」

夏凜「まぁ、讃州に通ったのだって勇者部があればこそだったから」

本当なら通うつもりなんてなかった

勇者の素質上、勇者達と合流する場合は学校に行く必要があったはずだが

それでも、授業に参加したりする必要がないと言えばないし、

放課後にだけ合流すれば話は出来る

今のような仲の良さに至れなかっただろうけど……それはあくまでその場合の話

結果的には讃州に通い、勇者部に入り天乃と付き合うことになっている

夏凜「だから、私は別に……高校に通いたいわけじゃない」


学校に通いたくても通えない天乃の前で

それはとても酷い言葉だろうと夏凜は後から思い至って、首を振る

夏凜「ごめん」

でも、それはつまり本心だ

みんながそうであるように、夏凜は天乃と一緒に居たいと思う

違うのは、一緒に学校に通いたいわけではないということ。

今まで遠慮していたツケが今更回ってきてしまったか

それとも、子供を愛し育てることを優先しようとしている天乃を見て

自分も、その心に従うべきだと思ったのか。

あるいは。

夏凜は傍らのベッドへと目を向ける

二人の子供、薄いオレンジ色の丸い瞳が見返す

夏凜「……出産に立ち会ったからかしらね。考えがどうであれ、意識的には父親なのかも」

天乃「育児休暇って高校にはあるのかしら」

夏凜「ないでしょうね。まず間違いなく」


夏凜「天乃はどう? 学校に行かずに一緒に居る私と、ちゃんと学校に行って一緒に居ない私」

天乃「難しいことを聞いてくるのね」

一緒に居ることを求めたくなる状況で、

学生として不真面目ではあるが、一緒に居てくれるのと

真面目ではあるが、一日のほとんどを一緒に居られないのと

どちらが良いのかと聞かれると困る

もっとも、自分の感情を無視してしまえば答えは簡単なのだが。

天乃「……私がどちらか決めたら、貴女はそうするの?」

夏凜「自分でも分からない」

どちらが正しいのかなんて

長い目で見て、しっかりと考えればわかることなのに

目先のことを考えてしまう可能性を否定できない

夏凜「正しいのは、学校に行ってちゃんと勉強して仕事する事なのは理解してるけど」



1、そうよ夏凜。そうして頂戴
2、私、養われるつもりだから。薄給な人はお断りよ
3、……何か方法が無いか、調べてみる?
4、手を離す


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日はお休みをいただくことになるかと思います
再開は明後日、通常時間から


園子「あるよ。たった一つの冴えたやり方」

東郷「……夏凜ちゃんが望むなら、教えてあげても良いわ」

東郷「本当はわ――友奈ちゃんのために調べたんだけど」

樹「私も知ってますよ。お姉ちゃんが留年する可能性もあるので」


風「樹ーっ!?」


遅くなりましたが少しだけ
時間も時間なので安価は出さない予定です


天乃「……何か方法が無いか、調べてみる?」

夏凜「方法、ね」

天乃「なに? 不満?」

夏凜「いや、ごめん……実はもう調べたのよね。これがさ」

赤ちゃんのことを調べて、

子育てについて専門のサイトを巡り、個人の生々しいブログを巡り

そのどれもが成人を終えた人の経験でしかなかった

けれど、多少の誇張もあるのかもしれないが

大変でしたと、旦那の協力が不可欠だったと

そう、書かれていて

夏凜「若葉達が出ていくって話したでしょ?」

天乃「そうね」

天乃は大丈夫だと笑うだろう

朝も夕方もいる。

だから、お昼だけ一人で頑張ればいいと言うだろう

だけど産まれたのは双子で、天乃の体は特殊で……なのにまだ15歳の幼さだから

夏凜「誰か残ったほうが良いんじゃないかとか、考えたのよ」


天乃「貴女ねぇ……」

夏凜「くくっ、はははっ」

考えていた時に、真っ先に思い浮かんだこと。

呆れたように顰めた天乃の表情

まさにそれが目の前で作られて、夏凜は思わず笑ってしまう

夏凜「そう。その顔」

天乃「なによっ、私は――」

夏凜「そういう顔されても言い勝つために調べたのよ」

誰か残るべきだ

学校を中卒で終え、あるいは中退で終えて子育てを手伝う

そうして欲しいと頼まれたわけではないけれど

子供を想う気持ちを心労が上回ってしまわないように

疲れが、何かを疎かにしてしまわないように

なにより、幾度となく蝕まれてしまったその体が倒れてしまうことがないように

――なんて、言い訳を重ねて

夏凜「ちゃんと将来については考えてる。だから、認めてくんない? って、自信を持って言おうと思ってさ」


笑いながらの夏凜の言葉は、

普段よりも親しみを感じる砕けたもので

天乃は顰めていた表情を解くと、息をつく

夏凜はそれなりに調べている

少なくとも、簡単に言い負かされてはくれないだろう

天乃「それで? 夏凜が見つけた勝つ方法は?」

夏凜「それなんだけど、高校を卒業していなくても高校卒業と同等の資格があるらしいのよ」

天乃「なるほど」

夏凜「それを取れるよう家で勉強するなら、子供の傍に居られるし、それを取るなら高校にだって……」

天乃「行く必要はないのね」

まず、夏凜が中学校中退は可能か不可能かで言えば可能だ

天乃と子供に気を張るべきだがそれどころではない大赦ならば、

その世話を担うためと言われれば精神安定にもってこいの夏凜を中退させるのはむしろ推奨してくる

資格を取る勉強だって努力家の夏凜なら絶対に突破できるし

天乃だってそこは抜け目がないから問題はないだろう

天乃「でも……高校生になりたいわ」

夏凜「制服なら――」

天乃「制服が着たいんじゃない。通いたいの。みんなと」


夏凜「……それを言い負かす自信がなかったのよ」

天乃のそれは願いだ

みんなが同じ学校になれるとは限らない

だが、みんなが別の制服を着ていたとしても

みんなで家を出て

誰かが途中で分かれるとしても、

帰りにはどこかに出かけるとか学校の枠を超えた部活を行うとか

色々と、出来ることはある

夏凜「天乃が学校に通いたいだけなら、大学でも良いでしょって言えたけど……そうじゃない」

天乃「夏凜は嫌なの?」

夏凜「学校に通う意味があるとは思うわ。でも、天乃と子供を置いて通うほどの価値はないと思ってる」

東郷達に言えば批判が返ってくるかもしれない

だけど、夏凜はそう考えているしその考えを改めようとは思わない

子供がいなければまだ余地はあったかもしれないけれど。

夏凜「進路だけを考えれば、高校に通う必要はない。勉強を頑張れば卒業程度の資格があって、それがあれば大学に行ける」

高校の三年間があれば、子供も十分に育ってくる

一日中目をはなして良くなるわけではないが、お手伝いさんがいれば何とか出来る程度にはなってくる

それなら、気兼ねなくとは言えないけれど学生生活に戻ることが可能だ

夏凜「……天乃は、私が学校を辞めるから学校に行って良いって言われたって認めないでしょ?」

天乃「そんなの当り前じゃない」

夏凜「なら、妥協案として……私が讃州を中退することを認めてくれない?」


ではここまでとさせていただきます
明日はできれば少し早い時間から


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「……ご両親にはどう説明するの?」

夏凜「あの人たちには中退したことは言わなくていいと思うわ」

天乃「嘘をつくの?」

夏凜「必要なら」

夏凜の目は本気だ

勇者として選ばれたこと

その特例を使っての中学校中退

嫌悪している大赦の力を使って、公的には卒業したことにすることになるだろう

正式な卒業時期までは在学中として扱い、

卒業したら、卒業だ

夏凜の両親が授業参観などの行事に来訪することはないから

騙しとおせるだろうけれど。

夏凜「天乃、私は本気よ」

天乃「それで貴女は良いの? 貴女は幸せになれるの?」

夏凜「なれるわよ。なりたいから、そう望んでるんだから」


夏凜「……何かの為に頑張るのは少し、休みたいのよ」

認められたくて、頑張った

勇者になれるようにと努力して

勇者になれたら、生き残れるように努力して

ずっと気を張ってきた一年間

夏凜「もちろん、子供の世話もあんたのことも。私にとっては頑張ることなんかじゃないから心配はいらない」

天乃「でも、大変だって分かってるんでしょう?」

夏凜「それ以上に大変だったのを、見てきたから」

夏凜には妊娠の経験がない

それがなければ産む苦しみだってまだ未経験だ

だけど、夏凜が唯一見てきた妊婦は、常に死と隣り合わせだった

彼女が特別だと言われても否定はしない

しかし、特別であるのだとしても

それが辛く苦しいものだったことに変わりはない

夏凜「あんな姿を見てたら……普通の人が大変ってぼやく程度のことを大変だなんて言えないわよ」

天乃「でも」

夏凜「それに、神樹様の種と力を借り受けてるとは言え天乃の体から不安の種が消えたわけじゃないでしょ?」


子育てを天乃がすると言ったって

誰も手を貸さないわけではない

必要ならお手伝いさんを用意できるだろうし、

天乃の家族はもちろん、

東郷や鷲尾、乃木や結城など

天乃に好意的で、力を惜しみなく貸してくれる家族は決して少なくない

だから、夏凜の不安は誰かが解消してくれる。

けれど、出来るなら触れたい

自分が経験できなかったことのすべてを、

自分は、子供に与えてやりたいと思う

今までの苦しみのすべてを分かち合うことは出来ていない

けれど、その一部でも心に焼き付けてきた夏凜は

天乃に好きと言わせた責任と、自分が好きと言った責任を取りたいと思う

多少無茶苦茶なことを言っていると自覚はある

けれど。

夏凜「私は、天乃を幸せにするために出来ることは何でもしたい……これが、私のわがまま」

子供がいるから、接触は控えめに

その分、布団の中で握る手は強く、橙色の瞳をしっかりと見つめる


1、後悔しない? こんな私の為にそれをして、間違っていたと思わない?
2、駄目よ。夏凜。貴女はちゃんと学校に通うべきだわ
3、馬鹿ね……私のためなんかに人生を棒に振ろうだなんて
4、私を幸せにしたいなら学校行きなさい。友奈たちと、一緒に
5、なんでそんな素直なのよ……ばか


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日はできれば早い時間から


では少しだけ


天乃「私を幸せにしたいなら学校に行きなさい。友奈たちと、一緒に」

夏凜「天乃っ」

握ってくれる手の温もり

その先へと目を向けて、夏凜の顔をじっと見る

どうしてと問う瞳は悲し気で

天乃は夏凜の手を優しく握り返すと、微笑む

天乃「夏凜の気持ちは嬉しいわ。ほんと、凄く……嬉しいのよ?」

どれだけ強く想ってくれているのか

その一部が子供のためのものであったとしても、

感じる愛情は紛れもなく本物

だからとても、嬉しいのだ

天乃「でもね? 夏凜には学校に行って欲しいの」

夏凜「なんで?」

天乃「私が得られなかったものを、夏凜に得て欲しいから」

夏凜「それで、天乃は幸せになれるの? 置いて行かれるのよ?」

天乃「良いのよ。ずっと会えなくなるわけじゃないから」


本当なら、自分が通えていたはずなのに

本当なら、自分も外に出ていくはずなのに

見送り、待つ時間

それは苦じゃないのかと、案じてくれる夏凜

身を寄せようとしても、寄りかかれる距離ではないのが少しさびしく感じる

天乃「それにみんなもだけど、夏凜だってお話してくれるでしょう?」

夏凜「……聞くだけじゃ、切なくなるだけの人もいるって聞くけど」

天乃「そうね。そうできたのにって、思う気持ちは強くなるかもしれないわ」

修学旅行も体育祭も……行事の大半が不参加だった

やりたかったなぁ……と

演じることのできなかった文化祭のことは、今でも胸の奥に残っている

天乃「けれど、夏凜にその気持ちは感じて欲しくないし、友奈達にも心の底から楽しんでもらいたいのよ」

夏凜「………」

天乃「優しい夏凜なら分かるでしょう? 自分のそれを友奈達がやっているときの気持ち」

自分たちはこうしていて良いのだろうか

自分たちも、もっと協力するべきではないのか

優しいからこそ抱く思い

それはきっと、大切な時間を黒くしてしまう

天乃「私は、みんなが好きよ。楽しそうにしているみんなが……大好きなのよ」


天乃「行ってらっしゃいって見送って、お帰りなさいって出迎える。それでね? こんなことがあったって、聞くの」

ちゃんと帰ってきてくれること、

みんながその分楽しんできてくれていること

それが分かってさえいれば、見送ることなんて寂しくはない

待っている数時間なんて寂しくもなんともない

むしろ今日はどんな話が聞けるだろうかと……恋をしてしまうかもしれない

天乃「みんなが楽しそうにしていれば、それがとても良かったことなんだって感じられる」

ふさぎ込んでいたり、言いづらそうなことがあったりしたら

それは悩みがあるんだと分かる

問題の大小はあれど、それが学生であるゆえの悩みであれば好ましいものだ

天乃「……同年代というより、母親みたいかしら?」

夏凜「ええ、そう思う」

天乃は本当に楽しそうに理想を語る

まだ経験していなくても、それが幸せだと分かっている微笑み

しかし、そこにあるのは子供のものではない

子を持つ母親が願う親としてのものだ

夏凜「天乃がようやく母親になった瞬間を目の前で見てたのに……私はまだ、何が一番幸せか考えられてなかったのかも」


自分じゃなくてもいい

誰かが傍に居てくれることも、天乃にとって幸せなことだろう

けれど、それは幸せなだけで

天乃が最も幸福に感じられるものは別にある

天乃は子供ではなく母親なのだ

元々精神的に年齢を上回っていたのが

母親となったことで……それらしく変わっていった

夏凜「本当に寂しくない?」

天乃「大丈夫」

夏凜「大変だったり、辛かったり、苦しかったり……何かあったら学校に居ても連絡する?」

天乃「お手伝いさんを呼ぶから大丈夫よ。でも、ちゃんと連絡する」

手が少し強く握られる

指に絡むような動きをして、しっかりと

夏凜はうつむきがちで、天乃を見ていないが、

口元は笑みを感じさせて、瞳は柔らかい

夏凜「……あんたが心配。だって、あんなにまでボロボロになることもあるんだから」

天乃「ええ。だから遠慮なく私のことを抱いて欲しいの。もうそうならないって、夏凜が安心できるまで」


布団の中に隠していた手を引く

ゆっくりとズレて言った布団は床へと落ちて

遠かったはずの距離は意外に遠くはなかったのが露わになる

子供たちの元気な声はなく

静かに眠る柔らかい吐息が二つ、聞こえるだけ

天乃「抱くことを怖がらないで」

夏凜「っ」

天乃「確かに、今の私は華奢だけれど……壊れたりはしないから」

苦痛に呻いたりしない

血を吐いたりしない

この体から、熱が失われていくことはない

指が絡む手を離すと、夏凜の小さな声が漏れる

その些細な落とし物を拾い上げるように天乃は夏凜を見上げ、両の手を広げる

天乃「おいで」

夏凜「……あんた」

それは子供への言葉のかけかただと、夏凜は思わず笑う

壊れてしまうかもしれないという緊張感も、失せて

夏凜はため息をつきながら天乃へと近づく

夏凜「信じるわ。大丈夫だって」

開いた手に甘んじて、母親でありながら自分よりも小さな体に手を回す

柔らかく、温かい人の体

夏凜「あんな思いをして母親になった天乃を、私は弱いとは思わない」

抱き返される力は弱く、愛おしい

確かに聞こえる心臓の音、少しずつ高まっていく体温

それは自分ものか天乃のものか、それとも二人のものか

いずれにしても二人が生きているからこそだと、夏凜は目を閉じた


√ 2月16日目 夕 (病院) ※水曜日


01~10 瞳
11~20
21~30 千景
31~40
41~50 樹
51~60 大赦
61~70
71~80 風
81~90
91~00 東郷


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日はできれば通常時間から


夏凜パート終了


では少しだけ


√ 2月16日目 夕 (病院) ※水曜日


そろそろ電話も来るだろうしと部屋を離れた夏凜と入れ替わるようにして、その足音は近づいてきた

小さくて、静かな足音

天乃「この感じは、樹ね」

目を瞑るとよりはっきりとする

体重は軽いが足早なせいか、時々擦れる音が天乃の耳に届く

走っていないのは病院だからか、緊急ではないからか

焦燥感のある吐息は聞こえない

少しして、軽いノックが数回

樹『入っていいですか?』

扉を隔てた伺う声に了承の返事を返すと、

樹は恐る恐るといったようすで部屋の角から顔を覗かせる

樹「あれ……?」

天乃「夏凜ならいないわ。部屋を出て左の突き当りのところで電話をしてるはずよ」

樹「ずっと戻ってこないから、久遠先輩と一緒に居ると思ってました」

天乃「夏凜に何かされてないか心配でもしてたの?」

樹「そ、そんなことは……あははっ、はいっ。ちょっとだけ」


天乃「夏凜は私が嫌がることなんてしないわ」

天乃の言葉に、樹は笑みをこぼす

夏凜は忍耐力のある女の子だ

それは樹も分かっている

けれど、だからこそ我慢しすぎているはずで

平和を勝ち取った今

その気が緩んでしまうのではないかと、思ってしまったりもしたのだ

樹「夏凜さんは本当に何もしなかったんですか? それはそれで心配になるんですが」

天乃「樹が同じ立場だったら何かする?」

樹「そうですね。ちょっと迷うかもしれませんが、どうにかすると思います」

天乃の視線が子供に移ったのを見て、

樹は逡巡すると、子供へと声をかけるような優しさで答える

子供の目に映るのは気恥ずかしいが

それを気にして何もしなくなったら、どちらかが……寂しいだろうから

樹「たとえば、こっち側に腰かければ背中で見えませんし」

子供のベッドに何かがないように気を付けながらベッドへと腰かけた樹は

自分の影に覆われる天乃を見下ろす

寄り掛かり気味で、斜めの天乃は樹の座高よりも低い


樹「ここからなら、久遠先輩にキスできます」

天乃「するの?」

樹「見上げないでください……しちゃいますよ」

天乃「無理言わないで」

樹にとっては、大好きな先輩

その言動と雰囲気が大人びているのとは真逆に

背は低く、胸を除けば小柄だ

勇者部の中で最年少の樹でも、その体を抱くのは容易で

覆いかぶさるのは簡単で

先輩だと知らなければ同学年だと思って……いや、思いたくはなかっただろうか

樹「……ドキドキする」

綺麗な顔立ちと、可愛らしい矮躯

橙色の瞳は輝かしく、艶のある唇は血の薄く通った桜色

見下ろしている分、自分が勝っているように思えてしまう

樹の手が、そうっと天乃の頬に触れた


1、目を瞑る
2、樹の手に手を重ねる
3、樹の頬に手を触れる
4、夏凜は私が誘わないと、してくれなかったのよ?


↓2


ではここまでとさせていただきます。
明日もできれば通常時間から


園子「いいよ~いいよ~捗るよ~いっつん」zzz

園子「いけーっ、そこだ~っ」zzz

風「……何してると思う? あれ」

東郷「気を付けないと布団を汚しちゃうんですけど、そのっちなら大丈夫ですよ」


風「え? いや、えっ?」

風「何を言ってるのか分からないあたしが駄目なの? 友奈……」グスッ


では少しだけ


天乃「………」

ゆっくりと目を瞑ると、樹の小さな手の温もりを感じ

普段よりも少し乱れた呼吸が聞こえる

吐息はだんだんと近づいて、頬に触れていた手は撫でるような動きで、

そうっと、天乃の顎を上へと向けていく

数秒の間をおいて、唇が重なる

樹の前髪が鼻先を掠めて

病院で慣れたシャンプーの香りが流れ込む

柔らかい唇の接触

潤いを感じ合うほどの時間の余裕さえなく、

それは離れていく

天乃「いつっ――」

そして、もう一度

天乃の開いた瞼が大きく開く

その瞳には樹の瞳が映る

緩んだ唇に優しい圧迫感

唇の表面ではなく、全体を覆う樹の愛情

樹「――っふ」

名残を惜しむように伸びた艶めかしさを、樹の細い指が絡めとる


目の前で目を瞑った天乃は、とても綺麗だったのだ

白い頬はほんのりと温かくて、

動いた指先に引かれた肌が滑ると、桜色の唇が動いた

整えられたまつげ、閉ざされたのではなく、降りている瞼

キスをしてもいいのだと、させてくれるのだと

高揚感が湧いて

近づくのではなく、体を倒していくと、

少しでも多く感じたいとする体がそれ以外のすべてを排除したのだろう

風はなく汗ばんでもいないのに、病院のシャンプーと天乃の匂いが強くなった

唇を重ねると、体が熱くなるのを感じた

きゅんとする、胸の内

早まる鼓動を差し置いて冷静な頭

すぐに離れて、考えるまでもなくもう一度。と、体が動いてしまった

二度のキス

了承の一回と、無断の一回

樹「……つい……そのっ、我慢、できなくて」

樹は天乃の顔を見れずに呟くと、付け足すように「ごめんなさい」と言った


天乃「良いのよ。別に」

樹「っ……」

天乃は自分の唇に人差し指を触れさせると

その指先を一瞥して、樹へと微笑む

潤いすぎた唇から滴らないかの確認なのは分かる

けれど、今の樹には……やや刺激が強い

天乃「一回だけだと思ってたから、驚いたけど」

唇が動く

キスしたばかりの、甘い唇

何ともないような様子なのに、嬉しかったのか照れくさかったのか

白かった頬はほんのりと赤い

樹「っ、うっ」

押し倒してしまいたい心

それはダメだと正義感の壁

子供の吐息に背中を引っ張られるような感覚になる

天乃「どうかした?」

樹「えっ……えっと……」

天乃「もしかして、もう一回?」


少しだけ、黙り込む

見つめ合うわけでもなく沈黙して、数秒間

天乃は樹が何も言わないのを見ると、ペロッと唇を舐める

天乃「……なんて、さすがにないわよね」

夏凜ならしないと振り払うところだが、樹達は夏凜とは違う

二度あることは三度あるとも言うし

したいと望むのならさせてあげてもかまわない

というよりも……少し。

そう思って、樹を見つめる

動きを止めた樹は見るからに赤い顔をしていて

迷い子のように行先を見失った樹の手は、自分の手を握る

緑色の瞳は天乃を見るまいとしているようで、それてしまう

天乃「樹?」

体の中にある力が伝わってしまったのかと

不安そうに伸ばした手を、樹ははっとして振り払う

樹「だっ、駄目ですっ……駄目ですよ。久遠先輩」

天乃「えっ」

樹「今、そんなことされたら我慢する自信がない自信しかないです」


天乃に「もう一回?」と言われた瞬間に、樹はまずいと思った

ちょっと弾んだ声と、楽しそうな表情

色気づかせる朱色の天然化粧

無理をしているわけではないけれど、

無理をしているように見えてしまう華奢さ

綺麗よりも可愛らしい

可愛らしいよりも愛おしい

して良いのなら何度でもしたい

してもいいのなら――押し倒してしまいたい

瞬く間にヒートアップしていく思考回路など

いっそショートしてしまえばいいと思う樹の前で、

天乃はちょっぴり心残りを感じさせる呟きを零したのだ

やってしまえと動いた手を抑え込んだのに、今度は天乃から手を伸ばしてきて……

樹「夏凜さんみたいに優しいとは限らないんですよ?」

天乃「でも、樹達は優しくしてくれるじゃない」

樹「とっ、当然です……けど。やり方が優しいだけで程度が優しいとは限りませんっ!」

何を言ってるんだろう

自分の発言に困惑する樹を、天乃は優しい笑顔で見つめていた


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日はできれば通常時間から


所用で三日ほどできませんでしたが、
日曜日の再開はお昼ごろからを予定しています


では少しずつ


天乃「子供の前ではよろしくない感じになりそうなの?」

樹「今の久遠先輩ならわかると思いますが、えっちなことを始めちゃったらまず止めたくないです」

穢れの影響を抑えるための性的接触

今もうその必要はなくなってしまったが

その経験も、そのために学んだ知識も無くなったわけではない

それを知ってしまった以上は

それが、心に感じられるものだと分かってしまった以上は……手放しがたい

天乃「そっち、するの?」

樹「……しちゃいますよって、話です」

一度のキスは挨拶

二度目のキスは、確認

なら三度目は……と、樹は天乃の頬に触れる

このまま顔を近づけてしまえば後戻りはできない

樹「三回目なんです。三回目は、始まりなんです」


樹「そのまま離れる自信がないです」

天乃「なるほど」

樹「なるほど。じゃないですっ」

やっていいならやりたい

そんな気持ちもある中で

しないの? と、誘われてしまうと困る

ここが二人きりの場所なら

久遠先輩が悪いんですよ? とでも微笑むだけで済む―すまない―が

ここには子供がいる

子供には見せられないからという配慮までしているのに

それを取り払っての大暴れはさすがに不味い

少なくとも、

親の淫靡な声など子供に聞かせるわけにはいかない


樹「いいですか久遠先輩。誘うのは良いです。むしろ……その」

誘ってくれていると言うことは受け入れてくれているということ

本心を言えば嬉しい

けれど、ちょっぴり残る羞恥心が抑圧するが

天乃はそんな樹の目から察してか、

頬に残る樹の手に手を重ねる

樹「っ」

天乃「私は誘って貰えたら嬉しいわ。みんな、意外と遠慮しがちだから」

樹「ず、狡くないですか!?」

天乃「狡いかしら……確かに、遠慮してたのは私自身の問題のせいだものね」

穢れの影響でその行為を必要としていたのに、

穢れに加え、妊娠もあって体調が酷く不安定だった

その気にさせておきながら相手をすることが出来なかったこともしばしばあったし

離れ離れになっていることが多く

こうして、触れ合う機会だって少なかったのだ

誘ってくれなかった……というのは聊か嫌味に思える

天乃「でも、これからはそれなりに大丈夫よ。常に大丈夫とは言えないけど……子供がいない場所なら」

樹「その子供が今私の後ろにいるんですけど」


天乃「そうねぇ……だからもう一回は冗談みたいなものだったのよ」

樹「冗談でも誘ったことに違いはないですよ?」

天乃「ないわよねって、否定したのに」

樹「本気ですか? 本気ですよね……久遠先輩の場合」

もう一回? というだけでも確かに誘い文句だが

そんなことはないわよねと、言うのはただの追撃であって否定ではない

そこで引く人もいるだろうけれど

それは常日頃から満足出来ている人か、ただのヘタレだ

ヘタレではないものの、満足できていない樹としては

そんなことはないわよね。と言われたら、そんなことないですよ? と唇を重ねたくなる

推測だが、他6人中5人が確実に乗る

乗らない一人だって、

そういうことするとこうなるぞ。というくらいの脅しをするはずだ

樹「もうちょっと気を付けてくださいね? 子供を部屋に連れてきてて正解です」

天乃「え、ええ……」

樹「居なかったら今日は寝られませんでしたよ。きっと」

天乃「そんなことになるほどなの……?」


樹「東郷先輩たちと押し掛けたほうが良いですか? 子供は夏凜さんに任せれば大丈夫ですし」

天乃「押し掛けられても困るわ。でも、夏凜は確かに任せられるわね」

みんながダメなわけではないが、

特に夏凜は子供を大切にしようとしてくれている

樹達にも任せられるけれど、誰か一人に任せる―それは避けたいが―事態になったら夏凜だろう

戦力的にも愛情的にも間違いなく夏凜だ

天乃「夏凜って離乳食作れるのかしら」

樹「軽い離乳食ならみんな一通り作れますが……それは別の話です」

今しているのは子供を預けられるかどうかじゃない

やろうと思えば天乃と子供を別の部屋にして、

一晩中相手にして貰うことだってできる。という話だ

樹「久遠先輩も言ってたじゃないですか遠慮がちだって。もう大丈夫だって」

天乃「ええ」

樹「それはみんな分かってるので安心してください」

天乃「それは……安心して良いの? 寝られなくなるんでしょう?」

樹「程度は弁えているつもりですよ」

樹はそう言って微笑むと、天乃から離れる

今回みたいなことが、二人きりあるいは子供がいない状況でなければ。の、話だが。

二人きりだったり、人数が多いけれど子供がいないと言う状況だったらどうなるかは語れない


天乃「この子たちを一日中任せるわけにはいかないし、お願いね?」

樹「……はい」

程度の話をしてのお願いに、樹は困った顔で返事する

片方が程度を弁えていたとしても

もう片方がその限りを分かっていなければ意味がない

近いうちに大変なことになりそうな気がしたが、

バーテックスに襲われたり、

大怪我や体調不良に繋がるようなことではないだろうし

一回くらいなら良いかと、樹はため息をつく

天乃「どうしたの?」

樹「どうもしてないです」

どうもしていないけれど、

どうにかしたいと思うが……簡単ではなさそうだ

天乃「……?」


1、それはそうと子供の名前なんだけど……
2、今日は一緒に寝る?
3、ごめんね? 本当ならまだ、そこまで性的な気分になるはずじゃなかったのに
4、本当に夏凜に頼んで半日くらいなら時間作れなくもないわよ?

↓2


天乃「ごめんね? 本当ならまだ、そこまで性的な気分になるはずじゃなかったのに」

樹「それは……そうかもしれないですね」

今でこそ性的な知識が豊富な樹達だが、

どんなことがそれに繋がるのか

ふんわりとした曖昧なものであれば、漫画などで知ってはいたけれど

天乃があんなことになるまでは全くの無知だったと言ってもいい

けれど、樹は「でも」と続ける

樹「こういうのも経験だと思うので、まったく知らないままでいるよりは全然よかったと思います」

天乃「けど、色々支障があるんじゃない?」

樹「そうですね……時々、したいなぁってなることもあります」

樹は困ったように笑う

恥ずかしそうに赤く染まった頬

目はそらしていないが、左手は所在無さげに右手を握る

樹「ドキドキするいい雰囲気なはずなのに、ちょっぴりムラムラしてることもあったりとか」

天乃「……大丈夫なの?」

樹「大丈夫ですよ。我慢するか自分でするか、東郷先輩たちとするか迷うけど……大丈夫です」


樹「だから、今も何とかなりますよ」

天乃「でも」

樹「一人でするのにも結構慣れてきたんですよ。流石に部屋ではできないですけど」

天乃「それを自慢させちゃう辺りに罪悪感を覚えるわ」

樹はそろそろ二年生だが、まだ中学生だ

一人での致し方に手慣れてきたと言われてしまうと、

本当にそれでよかったのかと思わざるを得ない

必要で仕方がなかったこととはいえ、

自分が親であれば、子供が覚えるには早すぎるのではと思わなくもない

樹「けど、必要なことだったから仕方がないと思います」

天乃「仕方がないで済ませたら駄目よ」

樹「遅いか早いかの違いですし、それだけに没頭してるわけでもありませんから」

やや入れ込み過ぎている人がいなくもないけれど

その人だって節度がある

言葉だけは過剰だが、内ではしっかりと考えているので

天乃が下手に受け入れない限りは暴走することもないはずだ


樹「むしろ、必要なことだったからこそ念入りに調べたりしたんですよ?」

何をどうしたらいいのか

痛そうなことにはならないように、

無駄に長引いたりしないように

ちゃんと心身ともに満足できるように

徹底的に調べたりしたのだ

ただの好奇心だったら、そこまで丁寧にはならなかった

樹「ちゃんと学べたのは久遠先輩のおかげです……だから」

そうっと、天乃に触れる

さっきの余韻が残っているせいか

ドキドキする気持ちに勝る気分があるけれど

それでも、絶対に傷つけない自信はある

樹「謝ったりしないでください」

天乃「樹……」

樹「東郷先輩や園子さんには謝っちゃだめですよ?」

なら責任とってください。と、押し倒される光景しか想像できない


樹「でも、どうしてもなら……久遠先輩」

天乃「なに? 出来る事ならするわ」

樹「………」

樹への信頼もあるのだろうが

躊躇のない受け入れ態勢に、樹は困った様子で天乃を見る

とはいえ、それなら話が早い

樹「それなら……久遠先輩からして貰えませんか?」

天乃「私から?」

何をとは聞く必要はないだろう

樹からするのは、我慢が効かなくなると言うけれど

天乃からしても大丈夫なのだろうか

天乃「大丈夫? 言っておくけれど……樹にも力負けする自信があるわよ私」

樹「え……」

天乃「抵抗できても簡単に抑え込まれちゃうから、樹がダメだったらどうしようもないわ」

樹「えっと……あの」

それは子供さえいなければ、「家に親がいないから」みたいな発言なのだと

樹は漫画の中の知識を思い出して、口を閉ざす

樹「そこは……何とかします」


次スレ
続きは次スレで行います

【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【二十一輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【二十一輪目】 - SSまとめ速報
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