友奈「友太郎」 (46)

~☆

 昔々、とある寂れた山奥に、お爺さんとお婆さんが、とても質素に暮らしておりました。

 しかし、質素であるにもかかわらず、二人の生活は、決して楽ではありませんでした。

 身体が悪くほとんど寝たきりのお爺さん。

 お爺さんと自らのために、お婆さんが、毎日生きてゆくのに必要な家事やその他の用事を、一人でこなすしかなかったからです。

 ある日のことでした。

 お婆さんは、年のせいで上手く動かない足をどうにか引き摺って、山へ芝刈りに、川へ洗濯に、出かけようとしました。

 ところが、家を出てすぐのところに、幼い子供と、桃と、手紙が置いてあるのを目にして、その足を止めました。

 お婆さんは手紙を読みます。

 どうやら誰かが、幼い子供を、お婆さんたちの家の前に捨てていったようです。

 手紙に書かれた、子を捨てた親のむなしい謝罪の言葉と、ささやかながらせめてもの償いとして、
子どもの隣に置かれた大きくおいしそうに熟れた桃が、お婆さんの胸の奥をとても寂しくさせます。

 お爺さんとお婆さんは、かわいそうな子供を追い払うことができず、結局二人で育てることに決めました。


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東郷「あなたの名前は、なんと言うのですか?」

友奈「名前はありません」

東郷「そうですか。それならあなたは、今日から友太郎です」

東郷「世知辛い世間であるからこそ、そこでの絆を大切にできる、そんな人間におなりなさい」

友奈「はい、わかりました。おばあ様」

東郷「友太郎。そんな、他人行儀な呼び方はおよしなさい。私たちは、家族なのですよ」

友奈「わかりました。東郷さん」

東郷「これ、友太郎――」

 命名からすぐあと、友太郎が女の子であることがわかりましたが、あいにく友太郎は大変に頑固な子供だったので、
お婆さんに一度もらった名前を、意地でも変えようとしませんでした。

 その結果、お爺さんお婆さんからすれば仕方なくではありますが、女の子の名前は、友太郎で定着することとなりました。

 それから友太郎は、二人に大層可愛がられ、貧しいなかではありましたが、すくすくと健やかに育ちました。

 やがて、まっすぐなたくましい心を持つ少女となった友太郎が、ある日、お婆さんに言いました。


友奈「東郷さん」

東郷「なんだい、友太郎」

友奈「私、二人に、日頃の恩返しのマッサージをしたい」

東郷「そうかえ。好きにおし」

 そのときはまだ、家族の誰一人与り知らぬことではありましたが、友太郎の手には神が宿っていたのです。

 友太郎がゴッドハンドでお婆さんの足をしばらく触ると、お婆さんの足はみるみる良くなり、それどころか若返ったようですらありました。

 友太郎がゴッドハンドでお爺さんの足をしばらく触ると、ほとんど寝たきりだったお爺さんは、山を軽々歩き回れるまでに良くなり、
それどころか若返ったようですらありました。

 かつて、お婆さんは、その近隣では知らぬ者のいない女猟師でした。

 足が良くなったお婆さんは、また猟をするようになり、その折には必ず友太郎を連れて行きます。

 かつて、お爺さんは、その近隣では知らぬ者のいない占い師でした。

 身体の良くなったお爺さんは、山を歩き回り、夜空の星や、山の様子に、吉兆を見ます。

 友太郎は、遊んでいるときたまに山歩きをしているお爺さんに出会うと、占いなどについて教えてもらいました。 



 そして、三人の、幸せな日々が順調に過ぎてゆく中、ある日突然、友太郎がお爺さんとお婆さんに言いました。

友奈「東郷さん、そのっち。私、鬼ヶ島に鬼退治に行きたい」

東郷「バカを言うんじゃない、友太郎。絶対危ないじゃないか、そんなこと」

園子「どうしてゆーゆは、鬼退治に行きたいの~?」

友奈「だって、麓の人たちが言うには、鬼は人々に迷惑をかけ続ける、とても悪い奴らしいではありませんか」

友奈「それが本当なら、私はそれを、どうにかしたい」

東郷「なるほど、立派な心意気です」

東郷「けれど、山奥に住んでいる子供のあなたが、鬼をどうにかしなければいけない道理はないでしょう」

友奈「いいえ、あります」

園子「と、言うと~?」

友奈「私の名前の、友という言葉の意味です」

友奈「以前東郷さんは言っていました」

友奈「世知辛い世間であるからこそ、そこでの絆を大切にできる、そんな人間におなりなさい、と」

友奈「知った悪を決して見過ごさない、すなわち鬼をこらしめることも、絆を大切にすることに含まれる、と私は思うのです」

東郷「……はてさてそんなことを、私は言いましたっけね。もう年だから、そんな話はすっかり忘れてしまいましたよ」


 友太郎は大変に頑固な子供なので、一度決めたことを絶対に曲げようとしません。

 お婆さんは、なんやかんやのやり取りの末に、自分が友太郎の鬼退治について行くことで妥協しようとしました。

 けれども、いくらなんでも鬼ヶ島までの旅路を、年老いた足が耐えられないだろうということで、
更に激しいひと悶着を経たあと、友太郎を一人送り出すことを泣く泣く了解しました。

 友太郎旅立ちの日、お婆さんは、家の戸口で風呂敷包みを友太郎に渡しながら、言いました。

東郷「この風呂敷包みの中には、私がとびきりの愛情を込めたぼたもちが、山となって入っています」

東郷「既に渡しておいた我が家に伝来する短刀と共に、きっと友太郎の役に立ってくれるはずです」

友奈「はい、東郷さん」

東郷「いいですか、あなたはまだ子供です。鬼退治を一人でこなせるなどと、思い上がってはなりません」

東郷「まずは頼れる仲間を見つけなさい」

友奈「はい」

東郷「友太郎」

友奈「はい」

東郷「……必ず、無事に帰って来なさい」

友奈「はいっ!」

園子「行ってらっしゃいゆーゆ~!」


 友太郎は旅立ちました。

 友太郎は、お爺さんの教えのおかげで、空を見たりなどして、自分が今どの方角に向かって歩いているのか知ることができます。

 山の麓で聞いた情報を頼りに、友太郎は歩き続けました。

 野を越え、山を越え、旅も一週間を優に過ぎた頃、友太郎緑豊かな林道を歩いていた時のことです。

 茂みでガサガサと何やら物音がしました。

 足を止めて、友太郎が茂みを眺めていると、茂みから子犬がひょいと飛び出してきます。

樹「わ、わんわん!」

友奈「こんにちは」

樹「あっ、こんにちは」

 友太郎が頭を下げると、子犬も慌てて礼を返してきました。

 礼儀正しい者のようです。

 友太郎は、そのままそそくさ立ち去ろうとした子犬を呼び止めて、子犬にこう話しかけました。


友奈「もしもし、子犬さん」

樹「はい、なんでしょう?」

友奈「私と一緒に、鬼ヶ島へ鬼退治に行っては下さいませんか?」

樹「え、ええ!?」

 友太郎には、お爺さんに鍛えてもらった、鋭い直感がありました。

 その直感が告げていたのです。

 この子犬は信用に足る者であり、鬼退治を正しい形で成しとげるにあたって、必要な存在である、と。

 しかし、子犬は済まなそうな顔をしてこう答えました。

樹「ご……ごめんなさい。私には他に、今しなければいけないことがあるのです……」

友奈「そうなんですか、残念です。子犬さん、お忙しい中お引止めして、申し訳ありませんでした」

樹「しかし、鬼退治……ですか。お若いのに」

友奈「ええ。鬼が、人々を困らせていると耳にしましたので」

樹「そうですか……うーん……」


 しょんぼりと俯く子犬。

 友太郎は、子犬がこちらの風呂敷包みに、何やら熱い視線を送っていることに気付きました。

友奈「この包みが、どうかしましたか?」

樹「え? あ、実は私、食べ物を探しているところなんですけど、ちょうどいい匂いがしたものですから」

友奈「そうなんですか。では、この中のぼたもちを、いくつか持っていってください」

樹「……いいんですか?」

友奈「ええ。困ってらっしゃるのでしょう?」

友奈「でしたら、この中にはまだたくさんありますから、ぜび幾つか持っていってください」

樹「あ、ありがとうござじます!」

 ペコリ、ペコリ、と何度もお礼をして、子犬は去っていきました。

 これで一つ、誰かの役に立つことができた。

 鬼退治がどうなるにせよ、私が旅に出た意味はあったということだ。

 友太郎が満足顔で林道を抜け、草根をかき分け、平野を通り、いつしか砂浜に差し掛かった時です。

 砂浜に、女の子が一人倒れていました。


友奈「大丈夫ですか……!?」

夏凜「……み……ず……」

 友太郎は、手持ちの水筒を開け、水をわけてやりました。

 それから、ゴクリゴクリと少女が水を飲む間、彼女のお腹がぐぅと音を鳴らすのを聞きつけて、友太郎は風呂敷包みを開けました。

夏凜「あり……がと」ボソッ

友奈「食べて」グイ

夏凜「……え?」

友奈「お腹、空いてるんでしょ?」

夏凜「私は――」

夏凜「私は、大丈夫だから……」

友奈「ううん、食べて、お願い」

 問答無用で友太郎は、少女を抱きすくめ、手に持ったぼたもちを、彼女の口元に押し付けました。

 真剣なまなざしで、抵抗する少女の瞳を見つめます。

 だいぶ弱っていた少女の抵抗はか弱く、おいしそうなぼたもちの誘惑の力もあってか、それほど時間がかからぬうちに塊に口をつけました。


夏凜「おいしい……」

友奈「そっか。なら、良かった」ニコッ

夏凜「ッ!」

友奈「?」

夏凜「…………ここまでしてくれなくて、良かったのに」

友奈「なんで? 嫌だった?」

夏凜「ううん、嫌じゃないけど、私、大丈夫だったから」

夏凜「助けの手は、他にも予定があったの」

夏凜「水は、確かに今すぐ欲しかったけど、お腹が減ってるのは、まだまだ我慢できたから……」

友奈「なーんだ、それなら、ぼたもちを今あげられてよかった」

夏凜「?」

友奈「だって、他に助かる予定があっても、より早く助けられるなら、そっちの方が良いに決まってるもん」

夏凜「…………」


 友太郎の直感が告げていました。

 この子は良い子だ、と。

 子犬さんには断られてしまったけど、この子はどうかな?

 友太郎は、訊いてみることにしました。

友奈「ねえ――」

夏凜「あなた、名前はなんて言うの?」

友奈「え?」

夏凜「だから、名前」

友奈「友太郎だよ」

夏凜「は?」

友奈「友太郎」

夏凜「……変な名前ね」


 変な名前、と言われて、友太郎はむっとしました。

 友太郎にとって、この名前は、お婆さんに名づけてもらった、大切な名前なのです。

友奈「じゃあ、そういうあなたの名前は?」

夏凜「……」

夏凜「――」

友奈「え?」

夏凜「にぼっしー」

友奈「……?」

夏凜「にぼっしー」ムスッ

友奈「…………へ、変な名前だね」

夏凜「うるさい!」

 友太郎に手渡された追加のぼたもちを無意識に口に運びながら、にぼっしーは真っ赤な顔で、そう答えました。

今日はここまで
……風先輩登場まで書こうと思ってたのに、思ってた以上に長編化しそうな気配を肌に感じて、ビビってる
要所要所の展開しかまだ決めてないけれど

お伽噺なので、ぼたもちがかなり優秀な保存食となっていることに突っ込んではいけない



あと、一応言っておくと、これ、話のオチがある意味約束された、ゆゆゆ桃太郎パロ?です


 それから、にぼっしーの空腹がある程度癒えたころ、柔らかに言葉を交わす二人の元へ、駆け寄ってくる者があります。

樹「……えっと……あの」

夏凜「あっ、イッつん」

友奈「!」

 二人の前に姿を見せたのは、友太郎がぼたもちをあげた子犬でした。

 口には、友太郎があげたぼたもち以外にも、何か食べ物を入れているらしい包みを垂れ下げています。

友奈「二人は、お知り合いなんですか?」

樹「え、ええ……まあ」

夏凜「私の家の居候の一人よ」

友奈「なるほど」

 頃合いを見計らい、友太郎は二人にお願いをしました。

 鬼退治についてきてはくれまいか、と。

 にぼっしーはあっさり承諾しました。

 するとイッつんが驚いた顔をします。


樹「いいんですか?」

夏凜「ええ」

夏凜「犬先輩を回収したら、それから友太郎について行っても問題ないでしょ」

樹「いや、そうじゃなくて――」

夏凜「私たちはぼたもちをもらった」

夏凜「その恩返し、するべきじゃない? こういうときってさ」

友奈「えっと、つまり、一緒に来てくれるの?」

夏凜「ええ、そのつもり」

友奈「やったぁ!」

 そんなこんなで、ひとまず犬先輩とやらを探すことになった二人と一匹。

 彼女たちは野を越え山を越え――ということはなく、あっという間に犬先輩は見つかりました。

 飢えたにぼっしーのための食糧を探し、近隣をうろついていただけだったからです。


風「モグモグ……。ふーん、なるほど……。鬼退治ねえ……」

夏凜「そうよ」

友奈「よ、よろしくお願いします」

風「……ん? なんか良いにおいがするわね?」

友奈「ぼたもちですか?」

風「そう、それ。一個くれないかしら」

友奈「いいですよ」

風「ん、ありがと。……モグモグ。うっ、うまい!?」

 犬先輩は大型犬でした。

 そして友太郎は、これまで中型犬に見えていたイッつんが、
実はまだまだ成長途中の大型犬であることを知りました。

 犬先輩とイッつんは、仲良しこよしの姉妹だったのです。


 無事に仲間を得ることができた友太郎は、鬼ヶ島を目指して、二人と二匹、野を越え山を越えます。

 鬼ヶ島へ最短距離で向かえる道を知っている、と夏凜が強く言うので、みんな彼女の先導に続きます。

 それは、人のいる村や里を一切通らない、なかなか険しい道のりでした。

 しかし、それでも友太郎は挫けることなく、旅慣れぬ足に鞭打ち、一刻も早い鬼ヶ島への到達を目指しました。

 早く用事を済ませ、家に帰り、お爺さんとお婆さんを安心させてあげたかったからです。

 鬼ヶ島にそろそろ辿りつくか。

 そんなある日のことでした。

 夜、燃える薪を囲んだ彼女たち。

 にぼっしーが、眠る二匹を傍に置き、友太郎へ話しかけます。

夏凜「ねえ、友太郎」

友奈「なに?」

夏凜「あんたはどうして、そこまで熱心に鬼を退治しようとするの?」

友奈「どうして?」


夏凜「ええ」

夏凜「友太郎個人に、鬼に対する恨みはないんでしょう?」

友奈「……そうだね。にぼっしーの言う通り、私は鬼になんの恨みもない」

 友太郎は、にぼっしーたちとのこれまでの旅を内心振り返って、
それももはや終わりに近づいていることへ寂しさを覚えつつ、噛みしめるように一語一語言いました。

友奈「だから、あえて言うなら、誰か、困ってる人……その人を助けてあげたいから、かな?」

夏凜「…………そう、あんたらしい答えね」

 にぼっしーは、納得した顔で笑顔をこぼしました。

 夜は朝に。朝は夜に。

 それから、旅はいよいよ大詰めに入り、一行はついに鬼ヶ島へたどり着きました。

 木の小舟を、船着き場に付け、友太郎がまず陸地を踏みしめます。


友奈「綺麗……」

 思わず声がこぼれました。

 太陽は明るく、背後の水面、前方の白い砂浜や、明るい緑に満ちた森を輝かせています。

 それはごく何気ない光景でしたが、そのこじんまりとした辺りの様子は、山育ちの友太郎の心を打ちました。

夏凜「何ぼさっとしてんの。早く行きなさいよ」

 促され、友太郎が先頭を歩き、鬼ヶ島を巡ります。

 しかし、人っ子、いえ、鬼っ子一人見当たりません。

 鬼はどこにいるんだろう?

 友太郎は首をかしげます。

 やがて彼女たちは、誰かが住んでいたらしい家を一軒、ぽつりと島の奥に見つけました。

 とはいえそこは、寂れて、くたびれていて、本当にこんなところに誰かいたんだろうか?

 友太郎は、ためらいます。


友奈「……だ、黙って入っちゃっていいのかな?」

夏凜「バカ。鬼退治に来たんでしょう? なら入りなさいよ」

 友太郎たちは家に入りました。

 鍵はかかっていませんでした。

 友太郎は家の中を捜索します。

 けれども、誰も見つかりません。

 それどころか、ここしばらく誰かが暮らしていた気配すら感じ取れません。

 あるのは、かつてここに誰かが住んでいたことがあるという証拠だけ。

友奈「誰も……いないね」

夏凜「いないわね」

友奈「鬼の話、嘘だったのかな……?」

夏凜「いいえ、鬼はいるわよ、ここに」

友奈「え?」


 友太郎が、背後に立っていたにぼっしーの方へ振り返るよりも早く、
イッつんと犬先輩が友太郎に襲い掛かりました。

 犬先輩が友太郎にのしかかり、イッつんが友太郎の短刀を素早く奪います。

 にぼっしーは、ゆったりとした動きで、さも手慣れた様子を漂わせつつ、
部屋のどこかから手枷、足枷、そして首輪を持ってきました。

 にぼっしーは、友太郎を捕まえました。

友太郎「に、にぼっしーちゃんっ! ど、どうしてこんなことをっ!?」

夏凜「にぼっしーちゃん、じゃないのよ」

友太郎「え?」

夏凜「私の名前は、赤鬼の野伏……」

夏凜「それを、つたなく言い換えて、にぼっしーなんて言ってただけ」

夏凜「野伏、のぶっし、にぶっしー、にぼっしー」

夏凜「まあ、里や村の奴らが勝手にそう呼んでたにすぎないから、この際にぼっしーでもいいけど」


 野伏からにぼっしーは、いくらなんでも無茶があるのでは? と友太郎は思いましたが、
思いがけぬ真実を告げられてすぐ、不思議な薬を嗅がされてしまったため、何も言えぬまま眠ってしまいました。

 それからしばらくののち、友太郎が眠りから覚めると、捕まった際つけられた手枷や足枷はなくなっていましたが、
首輪に頑丈な縄が繋がれ、その先はにぼっしーの手のひらで握られていました。

 友太郎は、犬先輩、イッつんに続く、にぼっしーにとって三匹目の犬になってしまったのです。

夏凜「起きたのね」

友太郎「……ねえ、にぼっしーちゃん」

友太郎「どうして、こんなことをするの?」

夏凜「どうして、かしらね……」

 にぼっしーははぐらかします。

 そしてただ、こう言いました。

夏凜「――ここでずっと、私と一緒にいましょう、友太郎」

今日はここまで 
書き溜めはあるので前回から今回までみたいな間は空かないはず
次回完結させる

「にぼっしー」と書くべきところを「夏凜」ってつい書いてて慌てながら修正したり
これ予想外になかなか難易度が高いなとか投下しながら思った


 日々が過ぎます。

 それはもう穏やかに、まるで時間が止まってしまったかのように。

 率直に言って、にぼっしーによる友太郎への待遇は、まったく悪くありませんでした。

 むしろ食べ物に乏しいこの島の中でよくぞこれほど、というもてなしがなされるので、
友太郎がほどよく遠慮してにぼっしーのぶんを確保してやらなければならないほどです。

 一方、二匹の犬たちは、好き勝手に食事を摂り、友太郎と違い縄に繋がれてはいないため、
毎日辺りを自由に駆け回り、そして少しむくれていました。

 飼い主が新入りにいつもべったりで、彼女と一緒にいることしか考えていないからです。

 ある日、犬先輩がイッつんにこんなことを言い始めました。


風「ぼたもちが食べたい」

樹「え?」

風「友太郎が持ってたぼたもち、あたし、あの味が忘れられない」

風「だから食べに行く」

樹「え、ええっ!?」

 二匹は、飼い主を置き去りに、ぼたもちを目指す旅に出てしまいました。

 そのため島には、にぼっしーと友太郎だけが残りました。

 にぼっしーは二匹が突然いなくなったことを残念に思いましたが、
それでもあまり長くは悲しみませんでした。

 隣には、縄につないだ、友太郎がいたからです。


 時が過ぎます。

 二匹は野を越え山を越え、友太郎に聞きかじっていた情報を頼りに、お婆さんとお爺さんの家を突き止めました。

 犬先輩は、門口から訪ねることなどせず、家の外からいきなり大きな声で横柄に呼びかけました。

 頭を下げて頼むつもりなどありませんでした。

 彼女はぼたもちを作った人物を無理やりに働かせて、
もう食べられないと思うくらいたくさん食べるつもりだったのです。

 これは、他の犬の何倍も食べる犬先輩が、この世界で生きていくために身に付けた、
その体格と才覚を存分に発揮することをためらわない荒々しさ、もっと単純に言うと図々しさなのでした。

風「やいやい! 友太郎のお爺さんにお婆さん! あたしにもぼたもちを作れ! ガウガウ!」

樹「お、お姉ちゃん、手荒なことは――」




園子「わ~、お客さんだ~」

東郷「……友太郎?」


 犬先輩は、お婆さんに調教されてしまいました。

 食べたい、と思っても我慢できるように。礼儀正しい淑女となるように。

 イッつんは、姉に振り回されてばかりでしたが、元々大人しい犬だったので、お爺さんに可愛がられるばかりでした。

 他方、犬先輩の毎日は本当に辛く、彼女が何度逃げ出そうと思いそれを阻止されたかわかりません。

 しかし、最終的に犬先輩は、お婆さんの躾を乗り越え、見違えるほどの女子力を犬なりに得たのでした。

東郷「それでは二匹、案内しなさい。友太郎を迎えに行きますよ」

園子「出発進行~!」

 友太郎に関して、犬先輩に洗いざらいのことを、彼女の主人として吐き出させたお婆さん。

 お婆さんは、お爺さんと犬たちを連れ鬼ヶ島へ旅立ちました。

 その道のりには、主にお爺さんとお婆さんの年齢が原因の苦労が様々ありましたが、
その傍を守る二匹の犬たちが、二人を守り安全に彼らを導きました。


 ところ変わって鬼ヶ島。

 にぼっしーは、友太郎を船に乗せて、漁村をその傍に有するとある海岸へ向かっていました。 

 島の食料が尽きて、外で調達する必要に迫られてのことでした。

 にぼっしーは、ひもじさに耐えられなくなると、度々こうして島を出ていたのです。

 島の食糧の減りは、友太郎がやって来たことによって、一時的に加速していましたが、
代わりに犬先輩たちがいなくなったことにより改善されました。

 単純に、島が生産できる食糧の絶対量が、幾つもの要因から枯渇し始めているということです。

 にぼっしーは食糧調達にあたり、友太郎を置いていきたい、と考えましたが、
彼女をこの島に一人残す、彼女から離れる不安を思うと、どうしてもこのような形で連れて来ざるを得ませんでした。




子供たち「やーい! 亀ぇ! 亀ぇ!」ゲシゲシ

亀「…………」


 友太郎たちは、海岸で子供たちが亀をイジメているのを発見しました。

 怒った友太郎が動くより早く、にぼっしーは子供の一人に掴みかかると、こう啖呵を切りました。

夏凜「何しとんじゃワレェ!?」

子供達「うわー! 赤鬼が出たー! 逃げろー!」

 大泣きして逃げていく子どもたちには目もくれず、竜宮城へ招待してくれた亀の誘いを断り、
それより新鮮な海の幸がたくさん欲しい、と願い出ることで大量の戦利品を獲たにぼっしー。

 彼女は友太郎を引きつれ、漁村やその他の場所に行くことなどまったくせず、ほくほく顔で島に戻りました。

 その夜のことです。

 友太郎が、二人で共に使っているかび臭い布団の中で、かたわらに身体を横たえるにぼっしーに問いました。

友奈「にぼっしーちゃんって、本当に赤鬼なんだね」

夏凜「だからそうだっていつも言ってるでしょ」

友奈「こんなに可愛いのに」

夏凜「か、可愛い言うな!」


夏凜「……この額に垂れた角が、紛れもなく私が鬼である証よ」

友奈「にぼ毛、可愛いのに」

夏凜「にぼ毛も言うな!」

友奈「でも、どうして、にぼっしーちゃん、あんなにみんなから怖がられてるの?」

夏凜「……当然よ」

夏凜「だって、本当に飢えてどうしようもなくなったら、人里から食べる物を無理やり盗ってるもの」

夏凜「いくら口でお願いしてもダメだった。私は鬼だから、石のつぶてをもらうのが関の山」

夏凜「……名前が広がったのは、一時期犬先輩が、その暴食っぷりに任せて、
   ちょっとでもお腹が空けば、食べ物があるとわかったところを無差別に襲いに行ってたからでしょうけど」

友奈「そ、それは――」

夏凜「ええ、わかってる。私が躾けるべきだったって言うんでしょ、わかってる」

夏凜「だけど、無理よ」

夏凜「だって、あの子たちに嫌われたら、私、生きていけなかったもの……」


友奈「にぼっしーちゃん……」

夏凜「友太郎は、ここで、私とずっと一緒にいてくれるわよね?」

友奈「……ううん、それは無理」

ゆうな「だって、東郷さんとそのっちのところに、いつかは帰らなきゃだから」

夏凜「…………そっか」

友奈「にぼっしーちゃんも、一緒に行こう?」

友奈「東郷さんとそのっちなら、にぼっしーちゃんのこと、受け入れてくれるはずだよ」

夏凜「いいえ。私はここにいるわ。友太郎と一緒にね」

夏凜「竜宮城も、他の人たちも、他の場所も、みんないらない」

夏凜「友太郎がいてくれたら、それでいい」

友奈「にぼっしーちゃん……」

夏凜「ずっと離さないわ、友太郎」

夏凜「ずっと、ずっとね……」


 にぼっしーの思惑通り、友太郎とにぼっしーは、二人だけの楽園で、つつましく暮らしていました。

 しかし、あくる日のことです。

 島に猟銃を持ったお婆さん、銀の斧を持ったお爺さん、犬先輩、イッつんが現れました。

 友太郎を家の柱にくくりつけて、にぼっしーは言います。

夏凜「ここで待っていて、友太郎」

 にぼっしーは一人、壁に飾られていた木刀を腰に差し、駆け出してゆきました。

 友太郎は、彼女を外から呼ぶ声を聞いていました。

 お爺さん、お婆さん。

 友太郎は、手間取りながらではありますが、自らを縛りつけるものから脱出しました。

 逃げ出すためではありません。

 戦っているにぼっしーとお婆さんたちをとめなければならない。

 そういう意志に動かされてのことでした。


 野外に出ると、勇猛果敢に立ち回るにぼっしーの姿が目に付きました。

 けれどいくらなんでも多勢に無勢。

 お婆さんの冷たく鋭い目が、彼女を射すくめています。

 にぼっしーの命は、すぐにも刈り取られる運命、風前の灯火であるように見えました。

友太郎「もう、やめてっ!」

 友太郎が、戦いの場に割って入りました。

 お婆さんの構えた猟銃の射線を遮るように、にぼっしーを抱きしめます。

東郷「友太郎っ!?」 夏凜「友太郎!?」

友太郎「みんなが戦う必要なんて、どこにもないはずだよっ!」

 友太郎は、力いっぱい叫びました。


夏凜「友太郎……」

 にぼっしーは、立ち尽くします。

 その隙を見て、犬先輩とイッつんが、彼女を取り押さえます。

 にぼっしーは、地面に倒されました。

友太郎「にぼっしーちゃん」

 友太郎が、近づきます。

 そして言いました。

友太郎「――みんなと一緒に、行こうよ。ね?」

 にぼっしーは、何度も首を横に振ります。

 にぼっしーは、取り押さえられてなおしつこく抵抗しました。

 しかし、それでも最終的には、無理やり船に詰め込まれて、お婆さんたちにお持ち帰りされてしまいました。

 むすっとした顔で、帰り道、にぼっしーは誰とも口をききませんでした。





 ところが、家に着いて、みんなで初めて食卓を囲み、
お婆さんが用意した食事を一口噛みしめた瞬間、彼女はそっとこう言いました。





夏凜「みんなで家に揃って食べると、ご飯って、こんなにおいしいのね……」


 それ以来、にぼっしーは犬先輩とイッつん、そして友太郎をきっかけに、
お婆さんやお爺さんと徐々に打ち解けていきました。

 彼女が大人に対して抱いていたらしい強い敵意は、どうやら自然と解消されていくようでした。

 そして、にぼっしーは、友太郎と、お爺さんお婆さんと、犬二匹と一緒に仲良く暮らしました。

 これが友太郎の鬼退治の果てです。

 結局友太郎は、当初の目的とは違い、鬼をこらしめることをしませんでした。

 しかし、その代わりに、大切な友達を一人と二匹、新たに得ることができたのでした。

 お婆さんの教育の結果、以前は近隣に迷惑をかけていた犬先輩は、
今では誰に見られても恥ずかしくない立派な女子力を振りまいています。

 イッつんは、そんな姉の姿を毎日見ては嬉しそうにしています。

 にぼっしーは、友太郎と二人だけで鬼ヶ島にいたときとは違い、とても眩しい笑顔でよく笑うようになりました。

 つまり友太郎は、鬼をこらしめることよりもっと価値のある大切な宝物を、鬼ヶ島から持ち帰ることができたのです。



 めでたし、めでたし。

~☆



園子「……ふい~。書き終わったよ~」

園子「手直しは、みんなに一度見せてからだね~」


園子「…………」



園子「次の勇者部の劇の脚本、私の脚本が採用されたらいいな~」




おわり  

だいぶ放置してしまった

今のところ次はがっこうぐらし!とのクロスSS投下すると思うけど
いつになるかは全くの未定 数か月後かもしれない

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