【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【五輪目】 (1000)

このスレは安価で

久遠天乃は勇者である
結城友奈は勇者である
鷲尾須美は勇者である
乃木若葉は勇者である
久遠陽乃は……である?

を遊ぶゲーム形式なスレです


目的


・バーテックスの殲滅
・勇者部のみんなと生き残る
・猿候対策


安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります


日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2


能力
HP MP SP 防御 素早 射撃 格闘 回避 命中 
この9個の能力でステータスを設定

HP:体力。0になると死亡。1/10以下で瀕死状態になり、全ステータスが1/3減少
MP:満開するために必要なポイント。HP以外のステータスが倍になる
防御:防御力。攻撃を受けた際の被ダメージ計算に用いる
素早:素早さ。行動優先順位に用いる
射撃:射撃技量。射撃技のダメージ底上げ
格闘:格闘技量。格闘技のダメージ底上げ
回避:回避力。回避力計算に用いる
命中:命中率。技の命中精度に用いる

※HPに関しては鷲尾ストーリーでは0=死になります


戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%


wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに



前スレ
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【一輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【一輪目】 - SSまとめ速報
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【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【二輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【二輪目】 - SSまとめ速報
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【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【三輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【三輪目】 - SSまとめ速報
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【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【四輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【四輪目】 - SSまとめ速報
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√ 6月8日目  昼(学校) ※月曜日

01~10  風
11~20 クラスメイト(奇数:男 偶数:女)

21~30  友奈
31~40 
41~50  樹
51~60 
61~70 東郷

71~80 
81~90  夏凜
91~00  沙織

↓1のコンマ  


若葉「……どうやら、教室に友奈がいないようだ」

天乃「あぁ……うん。そう。どこにいるかわかる?」

若葉「声をかければ分かるが、かけない方が無難だろうな。私は制服こそ讃州中学だが、その実他校生だ」

冷静に分析する若葉に抱かれたままの天乃は

それ以前の問題なんだけどね。と、嘆息する

というのも、若葉がここまで連れてきた方法が問題だったのだ

準備を終えていざ行くかとなった時

当然、どうやって連れていくかの話になるかと思えば

さも当たり前のように

若葉は天乃をお姫様抱っこで抱えて行ったからだ

九尾達の援護―幻術・隠蔽―が一切ない状態で。

ともなれば、町の人々から中止されるのは必然だし

学校にきて誰一人として目撃されないというのも至難の業で

少なくとも、下級生には見られてしまったわけだ。抱きかかえられている姿を


夏凜「しっかし、天乃は一体何を考えてんのよ」

東郷「解らないけど……でも。あれが久遠先輩のすることだと思う?」

夏凜「悪戯となったらどこまでやるかが未知数だから何とも」

会話だけしか聞くことはできないが

声から察するに怯えていたりなんだりはしていないが

確実に呆れているであろうことだけは理解した天乃は

若葉の首に回していた両手のうち、右手を離して額に宛がう

天乃「頭痛がしてきた」

若葉「保健室に行くか?」

天乃「それほどじゃないし、たとえみたいなものだから」

今は。だけど

そう後付けした天乃は、ため息をついて目を瞑る

教室にいない友奈に加えて、二人の話

朝から登校している久遠天乃さんが

友奈に対して何かをやらかしたのだけは

まあ、確実とみていいだろう


若葉「二人の様子から察するに、友奈が危険にさらされたわけではないことだけは確かだな」

天乃「そうね、そこだけはひとまず安心していい……良いの?」

若葉「……大丈夫か?」

若葉の問いに天乃は苦笑いだけを返す

体調的に言えば何の問題もないが

今後の色々なことに関して

刻一刻と問題が積まれて行っている気がしてならないからだ

友奈が危ない目に遭ったわけではないのならやはり安堵すべきだが

久遠天乃さんのしでかしたこと次第では

はっきり言って、安心している場合ではない

「三好さん、不倫現場直撃した感想は!?」

夏凜「別に不倫じゃないし、そういう関係でもないわよ」

「……と、K・Mさんは語る。と」

夏凜「記事にするな!」

ぎゃあぎゃあと騒がしくなっていく教室の外

若葉は天乃を抱えたままふっと息を吐く

空は青く澄んでいるが、しかしどうやら状況的には曇天に近いらしい

若葉「どうする?」


1、3年生の教室へ
2、1年生の教室へ
3、保健室へ
4、部室へ
5、仕方がなく、二年生の教室に突入


↓2


天乃「ここにいても騒がしさが増すだけだろうし……」

最悪、夏凜が逃げ出してくる可能性があるから

そう言った天乃は、指を下に向けて、若葉に頷く

若葉「三年の……天乃のクラスだな」

天乃「ええ。夏凜が逃げ出す前に急ぎましょう」

夏凜は不倫だのなんだのと否定しているが

クラスメイトはただ冗談みたいに言っているだけで

東郷にまでその熱は飛び火している

暴発も時間の問題だと天乃と若葉は互いに顔を見合わせ

若葉は二歩後退って一気に廊下を素早く、しかし走らずに進み、

階段を下りて三年生の階、天乃のクラスへと向かう

若葉「……ドッペルゲンガーというものは。出会うと死ぬらしいが」

天乃「違うから大丈夫よ。それに、貴女は自信がないの?」

若葉「ふっ」

腕に抱く天乃の笑みに、若葉は小さく笑うと

そうだな。と呟く

若葉「少なくとも、この腕にあるものくらいは守り抜くさ。絶対にな」

支えるために肩に触れている若葉の手に、

少しだけ力が籠められ、体がより密着したのを感じて若葉を見る

それは状況が状況だからか。とても頼もしい騎士のようにも見えた


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




「久遠さんって今教室にいるんだっけ?」

夏凜「ん? そのはずだけど?」

「おっかしいなー、今さっきこの教室の前で見たことない人にお姫様抱っこされてたよ?」

園子「そのお話詳しく~」

「あ、うん。なんか凄く親し――って誰!?」

園子「細かいことは気にしない気にしな~い」


では少しだけ


01~10 
11~20  いない1
21~30 
31~40 いない2

41~50 
51~60 いない1
61~70 
71~80 いない2

81~90 
91~00  いない1

↓1のコンマ

※1 風がいる
※2 両方いない  


風「授業が始まったら、放してあげなさいよ?」

教室に近づくと、風の呆れた声が聞こえて

ばれないようにそっと教室を覗く

一番に見えたのは沙織で、次に呆れ顔の風

その前には、車椅子に座った桃色の髪の女の子と、赤髪の女の子

赤髪の方である友奈は、車いすに座っているというよりも

桃色の髪の方、久遠天乃さんに座っているように見える……いや、座っている

正しく言えば、座らされている

天乃?「授業なんていいじゃない。ね?」

友奈「え、いえ……その、授業は」

天乃の視界に映る天乃の言葉に

友奈は苦笑いしながら、困ったように溢す

本来の天乃ならば冗談だと言って笑ったり

授業が大切だと言う所だが……

天乃?「だめ?」

友奈「ぁぅ」

教室にいる久遠さんは

友奈の体をぎゅっと抱きしめると、下から見上げるように、問いかけた


天乃「なにやってんのよ……」

若葉「あの天乃はお気に入りみたいだが」

若葉は呑気な声でそういうが

しかし、その表情は険しさこそ無い物の真剣そのものだ

人間ではなく精霊

それゆえに、友奈からは何か感じるものがあるのかもしれない

風「駄目に決まってんでしょ? どうしたのよ。ほんとに」

天乃?「人肌恋しいの。別に、風が膝に来てくれるっていうなら。それで我慢してあげてもいいけど?」

にっこりと笑う教室の中にいる久遠さん(仮)

若葉は額に手を宛がって呻く天乃の心中を察して

けれども思わず苦笑すると

これからが大変だな。と、呟く

本当にだ。冗談ではない

そう言いたげな天乃は、ため息をついて顔を顰めた

天乃「誰よあれ。私あんなことしないし言わないわ」

若葉「冗談でなら言うだろう。本気ならばその限りではないが……しかし」

天乃「?」

若葉「あれを本気で求める天乃というのも、中々にいいのではないだろうか?」

天乃「はっ? ぇ……?」


若葉「あぁ、いや。私の個人的な意見だが」

それでも十分色々とあるのだが

驚きを見せる天乃から眼を逸らした若葉は

少しばかり頬を紅潮させながら

それよりも。と、あからさまに話題を逸らして

教室の様子をうかがう

風「あ、天乃……節操なくない?」

天乃?「私の設けた節度を取り除く貴女達の愛らしさが悪いのよ」

若葉の腕の中で「いやぁっ」っと、くぐもった悲鳴が上がる

腕の中では桃色の髪の少女が

自分ではない自分の発言のあまりの恥ずかしさに

赤くなった顔を手で覆っていて

若葉はさすがに心配そうな表情で、天乃を抱く力を少しだけ強くする

若葉「天乃が二人いるというのは一般人にはきつい……ここは引いておくか?」



1、そんなの九尾が何とかするから突撃して!
2、うん……部室に行きましょ
3、もういいわよ……それより、貴女はああいう私の方が良いの?
4、そうね……もう家に帰りたい。引きこもりたい
5、九尾、どこにいるの?


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼頃から





若葉単独ルート

天乃?「人肌恋しいの。別に、風が膝に来てくれるっていうなら。それで我慢してあげてもいいけど?」

若葉(人肌が恋しい……か)

若葉(しかし犬吠埼さんや友奈達に任せるのは迷惑だろう)

若葉(だ、だから……そう。これは迷惑をかけない為であって、自分がしたいわけでは決してないが)ガラッ

若葉「そ、その役目! 私でも構わないだろうかッ?」ドキドキ


では、少しずつ初めて行きます


天乃「うーっ、もうっ、九尾はどこにいるのよ」

あの久遠さん(仮)ならぬ

猿猴の対応の為に朝から行方不明になっていた死神と九尾

今最も話すべき方の九尾に対して

もはや羞恥心によって涙目な天乃が声を上げると

どこからともなく、女性体の九尾が姿を現した

九尾「八つ当たりならば、聞く耳は持たぬぞ」

天乃「なんで放っておいてるのよ」

九尾「そんなもの、面し……いや、危害を加えようとはしておらぬからじゃ」

天乃「ねぇ、今……」

一瞬、本音が漏れていた気がしたが

九尾は関せずと教室の中を覗く

九尾「それに、あやつらもまんざらでもない様子。急いで止める必要もあるまい」

天乃「呑気なこと言ってないで止めてよ。みんなの私のイメージが……」

九尾「逆に親しみやすくなるじゃろうて。あれの方がまだ子供らしいからのう」


くすくすと笑う九尾は

ふっと息を吐いて今日スつの中にいる天乃以外のみんなを見る

風、友奈、沙織、クラスメイト

全員にくまなく目を通し、その誰もが不思議そうなものを感じさせながらも

しかし、誰一人として嫌悪感を示すどころか

どこか親しみやすそうにしているのを感じて

九尾は天乃へと目を向ける

天乃「冗談じゃないわよっ」

九尾「くははっ、むくれるなむくれるな」

むっとした顔の天乃に、九尾はそう言って

天乃は深々とため息をつくと

頭が痛そうに額を抑えて、九尾を見る

天乃「それで? あの猿猴が普通に話せているのはなんで?」

九尾「きゃつは妾同様、幻術にたけておるからのう。自身の思い浮かべたことを周囲の人間に聞かせておるのじゃろうな」

天乃「……それで。したいのが友奈をひざ上に乗せることなの? それとも、私に恥ずかしい思いさせたいの?」

九尾「いや、単純にあやつの言う通り人肌恋しさであろう。主様や友奈を狙う理由もあるにはあるかもしれぬが」

九尾はそう言って首を振ると、また笑う

九尾「ああも強く。しかも複数の人間に触れやすい立場の人間も多くはあるまい。ゆえに、主様の姿を借り、触れておるのじゃろう」


九尾「あやつの頭に主様を辱めるなどという思惑などあるまい」

若葉「確かに、辱めるならもっといろいろやり方はあるか……」

そっと教室を覗いた若葉は、九尾の肩を持つように言いながら

天乃の体を少し強く抱いて姿勢を変えると

後ろを通る生徒に一礼して、息をつく

若葉「気づけば時間か……そろそろ出ている生徒が戻ってく――」

友奈「ひゃわぁっ!?」

そろそろ引くべきか

そんな話をしようとしたところで、友奈の悲鳴が教室から響いた

友奈「く、久遠先輩!」

天乃?「だから、友奈の引き締まり切ってないお尻が良いの。太腿もね。夏凜も鍛えてはいるけど、あれでは固すぎるの」

友奈「あ、あのっ、そんなさわ……ひぅっ」

教室の中では

自分の膝上に座らせた友奈の足に手を滑らせて、

自慢気に、嬉しそうな笑みを浮かべながら語る天乃と、それを見る引き気味の風が向かい合っていた

風「じゃ、じゃぁ……東郷は?」

天乃?「あれも悪くないわ。普段車椅子に座っているから、固くなっているように思われがちだけど。マッサージしているから十分な弾力があるのよ」


天乃「死神、九尾、あそこにバーテックスが」

若葉「ま、待て待て!」

教室入り口のドア部分をぐっと掴み

中に入り込もうとする鬼のような天乃を力づくで引き戻して抱き込む

お姫様抱っこでは二の舞になるから、

今度は赤子を抱くようにしっかりと。

天乃「放してっ、あれを何とかしないと私の学校生活がっ」

若葉「クラスメイトの目の前で自分を殺す気かっ、落ち着けッ」

大声にはならない程度に怒鳴りあって

若葉は抱く力……というよりも抑え込む力を込めて

九尾を見上げる

若葉「何とかできないか?」

九尾「出来ないとは言わないが」

そういう九尾は、また。覗く

天乃?「樹も丁度いいのよ? ただ、鍛えが足りない分。質感がね。風。貴女は逆に少し弛んでるわ」

風「ふ、ふふ太ってないし!」

天乃?「それはまぁ。ただ割合的に脂肪が多すぎるのよ。体型に文句があるわけじゃないけど、内容が、ね?」

風「いや、ね? じゃないでしょ。ね? じゃ」


沙織「じゃぁ、あたしはあたしは?」

勇者部へのコメントが終わったと判断したのだろう

沙織は自分のスタイルと中身に多少の自信があるのか

それとも、ただ評価を聞きたいのか

嬉しそうな声で猿猴扮する天乃に問う

天乃?「貴女は量が足りないわ。胸がそれなりにあるけど。それがなければスレンダーな印象ね」

沙織「そっか……」

天乃?「それ自体は悪くはないし、筋肉が多くない分比率的には良いのよ? いうなれば八分ってところかしら」

いうなればじゃないんだけどッと、

真横で唸る声が聞こえたが若葉は困ったように苦笑すると

各階で教室に戻ろうとしている足音が聞こえて、ハッとする

沙織「ところで、やりすぎると後が怖いから。そろそろ控えた方が良いんじゃないかな?」

天乃?「え?」

沙織「あはは、行きはよいよい。帰りは恐いっていうやつだよね」

そう笑う沙織を見ていた九尾は

なぜか満足そうに鼻を鳴らして、若葉を見つめ天乃の頭に手を置く

九尾「ひとまずここからは引いておけ。生徒が戻る」


1、部室
2、屋上
3、家に帰る


↓2


天乃「とりあえず……部室」

若葉「帰らなくて平気か?」

天乃「説明しなきゃいけないじゃない……もう、ああ、もう……っ」

ギュッとしがみ付いてくる天乃の肩をトントンっと叩き

若葉「少し揺れるからな」

そう優しくささやいてから、足音を聞き分けて

誰がどう近づいてきているのか

どう行けば誰にも会うことなく行けるのか

手洗い場や使われていない準備室などの教室を利用して移動した若葉は

天乃の持っている部室の予備キーを使って中に入り、鍵を閉めなおす

九尾はどうやらついてきてはいないようで

また、二人きりだ


若葉「とりあえず、椅子に座った方が良い」

天乃「……社会的に殺された気分だわ」

自分がそうなったわけではないから

安易なことは言えないと唇を噛み締めた若葉は

しかし、少なくとも酷く落胆していることを理解して、首を振る

何とかなると言えないのが可哀想だ

もちろん、その可哀想という言葉でさえ

何が分かるのかと言われそうで、口にはできないが

若葉「欲望のままにと言った感じだな……伊集院さんに触れてはいなかったから、ほかのみんなにも触ったというわけではなさそうだが」

だから問題ないわけではない

はっきり言って

あそこまでの発言をしたとなると、後日からの視線が怖いというものだ

若葉「だ、だが……なんだ。私はこれからも変わらず友人だぞ」

天乃「うん、ありがと」

若葉「……本当に、弱弱しいな」

天乃「恥ずかしくて死にそう。死にたい……少なくとも友奈の体触ってたし……」

ごんっと額を机に打ち付けた天乃は

そのままなにも言わなくなってしまった


√ 6月8日目  夕(自宅) ※月曜日

01~10 
11~20  友奈・東郷
21~30 
31~40 
41~50  夏凜・友奈
51~60 
61~70 
71~80 風・友奈

81~90 
91~00  久遠さん(仮)

↓1のコンマ  


友奈「あ、あれっ!?」

夏凜「あんた……風を撒いたの?」

ガチャガチャと扉が動いた後

カチャリと鍵が開き、ドアが開いたかと思えば入ってきた二人は

天乃を見るや否や、そう言った

しかも、夏凜は友奈を庇うように前に一歩進み出て。だ

天乃「風?」

夏凜「恍けてんじゃないわよ。あんたがやらかすからって風が一緒についてたはずよ」

厳しい口調の夏凜を

天乃は机に突っ伏したまま、無気力な目で見る

もはやどんなことになっているのか知りたくもなかった

天乃「まだHR終わってないんじゃないの? 夏凜と友奈こそ。東郷は?」

夏凜「東郷は日直」

夏凜は明らかに警戒する雰囲気で天乃から眼を逸らすことなく

後ろに控えた友奈の手を掴み、天乃とは離れた場所の椅子を指さしたが

友奈は首を振って、その場にとどまる


夏凜「友奈の体触りすぎなのよ。あんた」

天乃「そんなこと言われてもね」

まったく触っていない天乃は

深々とため息をつくと、ゆっくりと体を起こして

んっと体を伸ばす

体の揺れる動きが気になったが

夏凜は唇を噛んで、集中する

天乃が何をしだすか全くわからないからだ

天乃「夏凜の体にもさわったかしら」

夏凜「被害者は友奈だけよ。一応ね……って、あんたふざけてんの?」

まるで自分は関係ないと言いたげなものを感じたのか

夏凜は不快そうな目で睨み、態勢を完全な臨戦状態に切り替える


1、みんなに手を出したのは私じゃなくて聖霊よ
2、ねぇ友奈。触られるの嫌だった?
3、何よ夏凜。触って貰えなかったからってふてくされてるの?
4、私じゃないわよ……ほんと
5、そんなに睨まないで。私が一番の被害者なんだから


↓2


天乃「みんなに手を出したのは私じゃなくて精霊よ」

夏凜「はぁ?」

そんなはずないでしょと言いたげに声を漏らした夏凜だったが

友奈に手を引かれると

天乃を横目に、友奈にも目を向ける

友奈「で、でもね? 沙織先輩。私が向こうにいる時に一度も久遠先輩の名前を呼ばなかったんだ」

夏凜「それだけじゃ何の証拠にも――」

友奈「それに、いい加減にしないと後が怖いって言ってた。多分久遠先輩に怒られるからだったんじゃないかな……」

そう言った友奈は

天乃を見ると少し頬を紅潮させたが

すぐに首を振って笑う。けれども、やはり照れくささを誤魔化す笑顔になってしまう

夏凜「……友奈はもし仮に東郷がお尻触ったりしてきたら偽物だって気づく?」

友奈「あはは……東郷さんは冗談でもやらないからなぁ。久遠先輩は悪戯でやる可能性があるから」

天乃「なら、風ならどう?」

二人で話し込むその少し離れた場所から、

天乃は無気力さが見え隠れする声で言う

夏凜「やりかねない……ってかやるでしょ。風は」


普段はそんなことしない風だが、

しかし言動を考えればしかねないと思ったのだろう

否定することなく決めつけた夏凜は

疲れを感じるため息をついて、友奈を前に引っ張り出したものの

友奈は「わぁっ」っと声を上げて

またそそくさと夏凜の後ろに隠れる

夏凜「あの天乃とこの天乃が違うって言うなら、隠れる必要ないでしょ?」

友奈「えっと……あのね? その、別に久遠先輩が怖いからとかじゃ、ないから」

夏凜「はぁ?」

友奈「上手く言えないけど、あんまり見られたくない」

だったら部室に来ないで帰れと言いかけた夏凜だったが

天乃へと目を向け、両手を広げて首を傾げて、わけわからないんだけど。と態度で示す

夏凜「で、仮にあんたの話が本当なのだとして。精霊って何よ。九尾?」

天乃「ううん。猿猴っていう、少し特殊な精霊よ。もともとは獺だったんだけど、変わったらしいの」


夏凜「まぁ、信じられない話だし。色々あれだけどあんたの場合あり得るってのが困る」

呆れたように言う夏凜は

すぐに信じられないのはあんたのせいなんだから。と

少し不満そうに言って、またため息をつき

額に手を宛がい、真後ろの友奈を一瞥する

夏凜「今だって正直、あんたが罪から逃れるため嘘をついてるかもしれないって考えてんだから」

天乃「ええ……解ってる。夏凜の目を見ればそのくらい、分かってるわよ」

天乃はぎゅっと自分の手を握り合わせ、

泣きそうな目で、夏凜を見上げた

天乃「私の事、破廉恥だって夏凜が思ってる事くらい解って――」

夏凜「そこまで思ってないっての! ただ、悪戯ならとことんやりそうってだけ」

とはいえ

勇者部ならともかく

普通のクラスメイトまで巻き込んで続けるのかと聞かれれば

そうとも思わないというのも事実だ

夏凜「まぁ、本当なら時期に風がもう一人の天乃を連れてくるから。もう少し待つわよ」

天乃「ええ」


01~10  逃げた
11~20 
21~30  逃げた
31~40 
41~50 
51~60 逃げた

61~70 
71~80 
81~90 逃げた

91~00 

↓1のコンマ  


風「いい? 友奈に飛びつくんじゃないわよ?」

天乃?「この体で飛びつくのはさすがに無理よ」

そんな声が外から聞こえてきて

夏凜は「本当だったか」と零し

友奈はと言えば、

びくっとして夏凜から離れると

扉からも、天乃からも距離を取り、そして扉が開く

風「たのもーッ」

天乃?「たっのもーっ!」

風に合わせたのだろう

子供っぽく振舞う久遠さん(偽)は

入った瞬間、夏凜と共に見つめてくる主を見つけ、表情が凍った

風「あ、あり……?」

風は二人の天乃の間で視線をさまよわせ、

助けて欲しいと夏凜に目を向ける

夏凜「こっちが自称本物の天乃。そっちが破廉恥な天乃」

天乃「破廉恥な天乃ってなんか嫌なんだけどッ」

夏凜「はいはい。じゃぁ一号二号で」


風「あ、あーつまり? 元から部室にいた天乃は本物で。あたしが連れてきたのが偽物ってこと?」

夏凜「当人が言うにはそうらしいわよ。まぁ、言動で考えればそれは間違いないんじゃないの?」

天乃が二人いる以上

さっきまでの言葉を信じるしかなくなった夏凜は

そう言って天乃の方に目を向けると、少し罪悪感を感じさせる表情を見せ

またすぐに、遅れてきた東郷へと目を向ける

東郷「色々と言いたいことはあるけれど……とりあえず。久遠先輩だから。ということね?」

夏凜「そう」

天乃「納得しないでよっ」

珍しく立場が逆になった天乃を珍しいと東郷は見つめ

もう一人の二号に目を向ける

正直、何かがなければ見分けは付かないだろう

天乃「貴方、後で覚えておきなさいよ? 滅却してあげるから」

天乃?「ふふっ、私は別に。私の体で遊んでもいいのよ? それはそれで……美味しそうだもの」


友奈「久遠先輩が本当に二人いる……」

風「友奈はとりあえず持ち帰りされないように離れてなさい」

友奈「は、はい」

友奈は頷いて離れたものの

見られたくないという割には

その目はしっかりと天乃を見ている

その表情はやっぱり、どこか恥ずかし気だった

天乃「貴方、いい加減に戻りなさいよ。沙織にだって看破されたんでしょう?」

天乃?「沙織がそう言ったからって私が偽物だとは限らないじゃない」

二号はそう言うと

椅子に座る天乃の方にゆっくりと車椅子を近づけて

ぐっと身を乗り出し、天乃との距離をさらに縮める

天乃?「私ではなく、貴女が偽物の可能性だってある。違うかしら?」

天乃「何言って――ゃっ、ちょっ」

天乃?「私の体も。貴女の体も……とりあえず、みんなに見て貰う?」

天乃の胸元のリボン結び目に人指し指をかけた二号は

ぐいっと引っ張り、中指で寄り上げさせられた胸元を突く

天乃?「そうしたら。どこかに証拠があるかもしれないわ」

天乃「ふざけないで」

天乃?「あら。拒否するってことは……暴かれたら困ることでもあるのかしら」


天乃「いい加減にして」

ぱしっと手を弾いた天乃は

僅かに浮いていた体が椅子に戻った反動をものともせず

真っ直ぐに目の前の自分を見つめる

睨んでいないのに、睨みつけているような視線に、

周りは固唾を飲み、そして二号はにやりと笑って

弾かれた手を振る

天乃?「そういう強気な子。私は好きよ」

その手の人差し指を自分の唇に宛がうと

それをそのまま天乃の唇に押し当てて、ニコッと笑う

天乃?「この口にごめんなさいって、言わせるの……私、好きだから」

天乃「っ!」

前触れな口を開いて指を食いちぎろうとしたが

二号は一瞬を見つけて指を折りたたむと

天乃の鼻を指ではじいて、くすくすと笑う

流石に、素の状態の天乃と精霊とでは

反応速度にほとんど差はないらしい

もちろん、その差がほとんどない時点でおかしいのだが


天乃?「ふふふっ、ごめんなさい。怒った? でも、そういう顔も可愛いわ」

風「鏡を見ながら言ってると思うと、なんかちょっとあれに見える」

風がその場の率直な感想を漏らすと

二号の方はそれもそうね。と

愉しげに笑いながら

しかし、「でもね、風」と笑い声を切り取る

天乃?「少しくらい自分に自信がないと。周りの誰にも自分を認めさせることなんて出来はしないわ」

夏凜「あんたも一応は、天乃らしいこと言えんのね」

天乃?「それはそうよ。だって私は久遠天乃だもの」

夏凜の発言が間違っていると言いたげに笑うと

二号は天乃に目を向けてクスリと笑う

それは意図しているのかいないのかは分からないが

天乃にはとても挑発的に見えた

天乃?「さて、どうやって私が偽物だって示してくれるの? 偽乃さん」



1、とりあえず一発殴る
2、九尾。何とかできないの?
3、若葉を呼ぶ
4、もういい加減にして。それが貴方の力である以上。私では解除も出来ないんだから
5、何が目的なのよ
6、示すも何も。私はそんな破廉恥なことしないわよ!
7、良いわ。脱げばいいんでしょう?
8、どうせ、貴女にも私と共通の記憶があるんでしょう?

↓2


天乃「示すも何も、私はそんな破廉恥なことしないわよ!」

天乃?「つまり、自分を本物だって証明もできないってことよね?」

くすくすと笑う二号は

天乃を見つめたまま、愉悦に浸るような幸せそうな笑みを浮かべて

自分の口元に手を宛がうと

そのまま自分の胸元に手を下ろして、リボンを外す

自由になったことを喜ぶように

上着の部分が少しだけ、はだけていく

天乃?「だからあなたは、自分はこんなことをしないってだけしか言えない」

嘲笑を浮かべる二号を見つめていた夏凜は

まぁね。とため息をつくと

天乃の傍によって、苦笑する

夏凜「確かに、本物だって証明は出来てないわ」

天乃「なっ」

夏凜「でも、悪いけど……本物は無自覚だから。無自覚型破廉恥だから。あんたのような自覚型じゃない」

天乃?「えっ」

天乃「結局破廉恥ってことじゃないっ!」


夏凜「ということで、悪いけど。私はあんたが偽物に一票」

天乃?「なっ……本気で言ってるの? 私、夏凜の事一番――」

二号が何かを言おうとしている最中なのにもかかわらず

夏凜は「あのさ」と、言葉を割り込ませて、二号を見つめる

夏凜「ソレ。絶対に言わないわよ」

天乃?「ッ、貴女は私じゃないのにどうして言い切れるのよ」

夏凜「どうしてって言われても困る」

だから逆に聞きたいんだけど

と、夏凜は天乃へと一瞬だけ目を移してからなぜか笑みを浮かべ、

そしてまた、二号に目を向ける

夏凜「夏凜がそう言うのなら、それでいいわ。信頼させられなかった私の自業自得だから。って、天乃なら言うんじゃないの?」

風「……い、一理ある」

天乃?「でも……」

夏凜「しかも自業自得とか言いながら、気丈に振舞ってる笑顔。ほんっとありえない」

なぜか八つ当たりのように声を荒げた夏凜は

二号を見つめたまま、ぎゅっと拳を握り締める

夏凜「でも、それが今のあんたからは感じなかった。だから違う。私的にはそれが理由。文句があるなら聞くけど?」


天乃「夏凜……」

夏凜「あんたが天乃と同じもの見てきたなら、私がどういう立場の人間かってことくらい思い出しなさいよ」

夏凜はすぐ横の天乃から眼を逸らしながら、

呆れたように、ため息をつく

もちろん、呆れているわけではないが。

友奈に手を出した結果、鬼に出会い、大嫌いだとか恨みから始まった関係だ

しかしその時の苦汁をなめさせられた経験があるからこそ

自分自身の力に驕ることはなかったし

大赦が戦闘特化の完成型勇者だと言ったときには思わず鼻で笑ってしまったし

はるか先にその姿があるからこそ、戦うことだけではなく

目指すべきものを目指すという生き方ができるようになったし

それで、今まで以上に周りに目を向けることが出来るようになって

気づいたら、友人というくらいには変わっていて

自分以外に適任はいるはずなのに、なのに。弱ってしまったからと愚痴をこぼされるようにまでなってしまったのだ

そんな、立場になってしまったのだ

夏凜「はっきり言うけど、友奈達よりも天乃のこと分かるって自負してるから。私」

樹「夏凜さんが大胆な発言を……」

風「まさか、偽物!?」

夏凜「んなわけあるかっ!」


夏凜「ま、まぁ……今のはちょっと誇張したけど。さ」

夏凜は風達に茶化されたのが恥ずかしかったのだろう

勢いで言ってしまったことを悔いて

しかし撤回はすることなく、気恥ずかしさを持ったまま「見んな!」 と、声を上げる

天乃?「そんなのおかしい。真偽の疑惑がある中で一番信じて欲しい人に信じて貰えなかったことを嘆いちゃだめだなんて、そんなのッ」

そんなの……と

消え入るような声で漏らした二号の瞳からは

つーっと涙が伝い落ちて、ハッとした二号は両手で自分の顔を覆うと、見ないでというように

体を震わせて、前かがみに体を畳む

天乃「………………」

理解が出来なかった

目の前で泣いているのは偽物だ

それは間違いない

なにせ、本物は自分であると自分自身が分かっているからだ

しかし、目の前の自分が伝わせたそれは

確かに、本物のように思えたからだ


天乃?「そんなの……あんまりじゃない」

夏凜「っ……」

天乃?「少しエッチなことしたくらいで……信じて貰えなかった事嘆いたくらいで……絶対に偽物だ。なんてっ」

手の付け根の部分で目元を拭った二号は、それでもとあふれ出る涙を繰り返し拭って……諦めたのだろう

拭うのをやめた二号はその手を膝の上に落とし、スカート部分のの裾を握り締める

東郷「久遠先輩……」

正直に言って、破廉恥云々の話を引き合いに出せば

夏凜と同じ選択するのは間違いない

しかし、二号がそんなウソとは思えないような涙をこぼしたとなれば

一概に決めつけられなくなってしまった

しかし、それでも夏凜は唇を噛み締めて首を振ると

天乃の寂し気な手に触れて、首を振る

夏凜「私はあんたを信じる……さっきみたいにふざける余地がないなら。絶対に」



1、……ありがと
2、みんなは?
3、もうやめた方が良いわ。猿猴
4、本当になくなんて、意外だわ
5、恨んだりしないから。みんなも一応、どちらかについてくれない?


↓2



01~10  夏凜
11~20 
21~30 
31~40  天乃
41~50 
51~60 
61~70 夏凜

71~80 
81~90 
91~00  天乃

↓1のコンマ  


天乃「ありがと……」

夏凜「っ……べ、別に! 私は、ほら。思ったことを言っただけで」

自分もまた、

ほんの少しだけ泣きそうになっていることに気づいているのかは知らないが

そんな潤んだ瞳で見上げられた夏凜は

いつものように眼を逸らし、声を上げてお礼を弾く

きっと赤いだろう。と、自分のことを客観的に見ながら。

天乃?「……っ」

きぃっと

本当にごくわずかな音がした

いつも天乃がさせている音で

今は天乃ではない天乃がさせてしまっている音

それに天乃が気づいた時にはもう

車椅子は動いていて

すぐ目の前にいた夏凜に、自分とうり二つの少女が突進するのが見えた

夏凜「ぬあっ!?」

天乃「かり――」

天乃?「どうしても、私じゃなくてこっちを取るっていうなら……」


押し倒した夏凜の両手を

二号はそれぞれの手で抑え込むと

じたばたする足もまた、自分の足で抑え込んでいく

友奈「あっ、こっちの久遠先輩足が!」

樹「そ、そんなことより夏凜さんをっ!」

口々に何かを言い、夏凜を助け出そうとみんなが動き始めるころに

二号は自分を見る夏凜をそのまま見返して、顔を近づけていくと

後ろ一本に纏められていたポニーテールが

背中から首元に落ち、夏凜の顔の横に垂れ下がっていく

夏凜「あ、あんた……こんなことして許されると思――」

無関係だった

夏凜が何を言おうとしていようが

押し倒した彼女からしてみれば

信頼されていない時点で、聞く意味がなかった

どうせ、自分の味方ではないから

どうせ、恨み憎しみ怒りのどれかだから

だから、二号は夏凜に最後まで言わせることなく

唇をそっと重ね合わせると

そのまま長引かせることなく、姿を消した


夏凜「っ……」

倒れたままの夏凜は、

自由になった右手で唇の触れる

そこには、確かなものを感じ

確かなものをそこから持っていかれたからだ

東郷「夏凜ちゃん……大丈夫?」

迷いながらも声をかけてきた東郷に

夏凜はすこし間をあけてから、平気と答えて立ち上がると

服についた埃を軽く払って、天乃を見る

天乃「夏凜……私」

夏凜「別に気にすることでもないわよ。隙だらけだった自分が悪い」

夏凜は特に怒った様子もなく

平然とした笑みを浮かべると

これで問題は解決だわ。と、全員を見渡す

友奈「夏凜ちゃん、今の」

夏凜「掘り返さなくたっていいっての。考えようによっては天乃にして貰ったようなものだし」

天乃「なっ……ぅ」

ポンッと赤面する天乃に、夏凜は笑いかけただけだった


√ 6月8日目  夜() ※月曜日


1、自宅に帰る
2、夏凜と瞳の家へ


↓2


夏凜「はぁ? 家に?」

天乃「ええ。猿猴は夏凜を狙っている可能性が高いから」

そう言うと、夏凜はすこし顔を顰めたが

否定は出来ないと思ったのだろう

しぶしぶではあったが、天乃が家に来ることを承諾してくれた

瞳に関しては、何のためらいもなく大賛成だった

夏凜「言っとくけど、部屋は広くないから」

天乃「それは」

瞳「大丈夫ですよ。久遠様。夏凜ちゃんの部屋がありますから」

運転しながら

すごくうれしそうに言う瞳をミラー越しに睨んだ夏凜は

ふんっと、唸って腕を組み、天乃とは逆の窓から外を見る

その窓に映る夏凜は

気のせいかもしれないが、少し嬉しそうにも見えた


天乃「……本当に広くない」

夏凜「自分の家と比べんなっての」

バリアフリー重視で、かなり広めに作られている天乃の家と違い、

夏凜と瞳が住んでいるのはごく普通のマンション

それでも、一般の一人暮らしの女性が住むには

十分すぎるほどに広い部屋なのだが、やはり。天乃の自宅と比べると広くはない

瞳「夏凜ちゃんが来ないと、広くて寂しかったんですよね」

にも拘らず

そんなだだっ広くて家賃が高い場所を選んだのは

使ってもなくならないほどに給料が良いからだ

それもこれも、だれもやりたがらない仕事についているからだ

場合によっては休日返上なのだから、無理もない

天乃「でも、そう言えば。私の車椅子で上がって平気なの?」

瞳「問題ありませんよ。ここは久遠様専属である私の家ですよ? 車椅子を完備していないわけがありません」


天乃「瞳がいつも料理しているのね」

瞳「はい。こう見えて、私調理師免許も持っているんです」

と言っても

持っていなければこの先大変になると言われて取っただけで

別に取りたくて取ったわけではないのだ

もちろん、必要ならばと一生懸命に頑張るには頑張ったが

瞳「本当は、久遠様の為のお料理を作るはずでしたが。状態が状態ですので」

天乃「……………」

瞳「でも、今は夏凜ちゃんが食べてくれますし、美味しいと言ってくれるので満足してます」

取ってよかったと

適当に聞き流して取らないままでいたりしなくてよかったと

そう喜ぶ瞳から、夏凜が消えた夏凜の部屋へと目を向ける

この言葉は、この思いは

もう、伝わっているのだろうか

瞳「久遠様もお食事されますか? 一応、食べずに栄養だけは取れるモノもありますが……」


1、ううん。いただくわ
2、そう……ね。申し訳ないけど
3、夏凜が食べさせてくるなら
4、瞳が食べさせてくれるなら

↓2


天乃「そうね……夏凜が食べさせてくれるなら」

少しだけ考えて

すぐにそう言った天乃を見つめた瞳は

数秒間黙り込んで、

何かを納得したようにそうですか。という

瞳「3人分の食事と二人分のお箸。用意しますね」

夏凜「まてぇッ!」

初めから聞いていたのだろう

部屋から飛び出してきた夏凜は、怒鳴って

しかし瞳は嬉しそうに「待ちませーん」と笑って夏凜からまた距離を置くと

キッチンに戻ってびしっと敬礼

瞳「私が作って夏凜ちゃんが食べさせる。完璧ですよ」

夏凜「どこが完璧なのよ! なんで私が天……乃に……」

天乃「……………」

視線を感じて振り向くと

そこには、言葉にしてはいないが

とても寂しそうな子がいて

その子、天乃は首を振って笑った

天乃「瞳……私。お風呂借りるわね」

夏凜「分かった、分かったから!」

泊めるんじゃなかった。というのは、考えるには遅かった


夏凜「あんた、偽物の方じゃないでしょうね……」

天乃「今更疑う?」

隣に並んで座る天乃の笑みに

夏凜はため息を溢すことしかできず、額に手を宛がう

熱があるわけではないが、頭が痛かったからだ。精神的な意味で

本当に、苦手なのだ

寂しそうにされるのが。悲しそうにされるのが

耐え忍んで笑っているその姿を見ているのが

それを……見て見ぬ振りすることが

夏凜は、苦手だった

だから、気丈に振舞う中で、自分にだけは弱さを見せる天乃のことを

夏凜は――

夏凜「私が食べさせたところで。味なんて変わらないでしょ」

天乃「まぁ、それはそうなんだけどね」

夏凜「じゃぁ、なんでよ」


天乃「夏凜はデリカシーがないんじゃない?」

夏凜「あんたに言われたかないっての」

子供みたいに笑って

言い返しても、また、楽しそうに笑って見せる

そんな天乃を見る夏凜は

どうせ聞いても答えてはくれないだろう。と

ため息をついて「まあぁいいけど」と、言う

夏凜「瞳の料理は、ああ見えて美味しいのよ」

天乃「?」

夏凜「ほんと……私が食べたことなかった。美味しさだったと思う」

皮肉を言っているわけではなく

ただ、本当にそう思ったのだ

初めて口にした時に……そう感じたのだ

言いつつ嬉しそうな夏凜を

天乃は横目に見て笑みを浮かべる

天乃「そっか」

夏凜「ん」

天乃「……幸せそうで、何よりよ」


瞳「はい、出来ましたよ」

から揚げ、麻婆豆腐、生ハム巻サーモンサラダ、肉巻きサラダ

麻婆うどん、とろろうどん、卵焼き、白身魚の煮込み……etc

偏っているようで偏っていなようで、偏っている料理の数々が食卓に並ぶと

夏凜は明らかに、困り顔で

作った当人である瞳もまた

気づいたら作りすぎていました。と、苦笑いを浮かべる

夏凜「天乃より楽しんでない?」

瞳「愛娘が恋人を連れてきた心境ですから」

天乃「ふふっ、恋人なんて……でも。そう見える?」

夏凜「ちょっ」

グイッと体を寄せてきた天乃を何とか受け止めて

夏凜は文句を押し殺して、押し返す

夏凜「ちゃんと座りなさいよ。食べさせて欲しいんでしょ?」

天乃「……ん」

夏凜「ん? なんか言った?」

今日はいつも以上に迷惑をかけているから

放課後になっても、解放してあげていないから

なぜかどうしても、わがままを言ってしまっているから。ごめんねと

言ったつもりの言葉はとても小さく、届いてはいなかったらしい

天乃「ううん。言ってない」

首を振って、笑って見せた


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から





若葉「……恋人の件、否定していないが」

九尾「みなまでいうな」


では、初めて行きます


夏凜「…………」

天乃「何でこっち見ないのよ」

夏凜「ほら、デリカシーがない」

ついさっきの仕返しのように夏凜は言うと、

天乃の方に顔を向けたが、すぐにまた、目を逸らしてしまう

話すためにちらちらと目を向けるのなら問題はない

が、食べさせるためという新鮮な行動のためともなると

なんだか気恥ずかしかったのだ

夏凜「ほんとうにやるわけ?」

天乃「夏凜が嫌なら……良いけど」

求めたのは自分だ

夏凜は受けてくれたものの

それは瞳や自分のやや強引な流れに流されてくれただけで

本当にやりたかったわけではないはずだ

もっとも……やりたがる方が稀だろうとは思うのだが


夏凜「あんたねぇ……」

ふと、夏凜の呆れた声が聞こえて目線を上げると、夏凜の困り果てた表情が見えた

どうすべきかと迷っているというか、なんでそうなるのかと問いた気な瞳

なんの気もなく首をかしげると

それでも夏凜は僅かに苛立たしそうに自分の頭を人差し指で揉む

天乃「なんで怒ってるのよ」

夏凜「べつに怒ってるわけじゃないわよ。ただ」

天乃「ただ?」

夏凜「あんたは紛れもなく本物だって、確信しただけ」

相変わらず目を合わせようとはせず横目での確認ではあったが

動いた夏凜の手には、赤く濡れた豆腐をさらったスプーンが握られていて

天乃が思わず黙り込むと、夏凜は「どうすんのよ」と、急かす


夏凜「食べるの? 食べないの?」

天乃「……食べる」

こぼさないための配慮か

それとも上手く掬うことが出来なかっただけなのか

一杯の容量の少ないスプーンを、咥える

麻婆豆腐の鼻を突き抜けていく辛味と熱

それによって引き起こされる食欲は、しかし、失われた味覚によって満たされることはない

砂の城のように容易く崩れていく豆腐を舌上に、ピリッとした旨みを頬裏に

そして唇には、スプーンを引き抜こうとする優しい引力

夏凜「っ」

天乃「んっ」

いつの間にか閉じていた目を開くと

頬の紅い夏凜の瞳が見開かれ、天乃もつい、気恥ずかしくなって口元を手で覆う


天乃「んく……っ、な、なんでそんな見てるのっ」

夏凜「あ、あんたが見てって言ったんでしょ!」

天乃「そんなじっと見てなんて……言った覚えはないわ」

ふいっと顔を背けるその仕草を見せられて、

夏凜はやはり……と思ったが、軽く首を振ると息をついて思考を正す

夏凜「口、赤いの付いてる」

顔を背けたままではあるが、

自分の口元を指でつついて示した夏凜に従い、天乃は口元を指で拭う

そこには間違いなく、麻婆が紅く残っていた

天乃「夏凜が無理に引き抜くからよ……もう少し待って頂戴」

夏凜「あ、うん……ごめん」

伏し目がちに求め、指をぺろりと舐める

頬を紅潮させた友人のそんな仕草は、同性である夏凜にも

どこか艶かしさを感じさせて

夕方の本物と偽者の見分け方は

やっぱり間違いなかったのだと、誇らしさもなく思う


夏凜「…………」

天乃「…………」

心なしか、気まずくて

夏凜は目を向けない天乃から眼を逸らして

お茶碗を手に満面の笑みを浮かべる瞳を睨む

さっきからおかずが何一つ動いていないというのに

白米だけは食べ進めているのだから、睨みたくもなるものだ

自分らはおかずなのか。と

瞳「? お気になさらず……あっ、そういうことですね」

遅れて視線に気づくと

瞳は言葉ないものを理解したのだろう

キッチンの方に向かい、ガチャガチャと引き出しを漁って戻ると

夏凜の手からスプーンを受け取り、代わりのスプーンを渡す


夏凜「……なに、これ」

瞳「デザインが可愛くて買ったんですけど、なんとですね? 貴方を愛スプーンって商品名で。恋人がいる人用のアイテムだったみたいなんですよ」

確実に聞きたいのはそれではないのだが

瞳はそんな夏凜の視線に気づかずに、苦笑する

瞳「手料理と一緒に愛情を食べさせてあげましょう。貴女のあーん。でイ・チ・コ・ロって裏の説明見たときは捨てようかと思いましたが。取っておいて良かったです」

夏凜「どこも良くないんだけど」

吐き捨てた夏凜は、嫌悪感に満ち満ちた表情で

握らされたスプーンを見つめる

持ち手の部分が矢羽のようになっているそれは、鏃がハート形になっており、

まぁ、確かにそういう意図があって作られたというのは納得がいったが

しかし、今ここでこれを手渡すという瞳の神経が理解できない

そして、それが純度……言い換えれば善意しかないというのがまた、「嘘だ!」と叫びたくなるというものだ


天乃「次は、からあげにして」

夏凜「わ、分かった」

眼を逸らしながらも耳は逸らさなかったらしい

天乃は左手で前髪を押して軽く目隠しにすると

髪の隙間から見える右目で夏凜を見つめる

瞳「夏凜ちゃん、半分にしてあげてくださいね?」

夏凜「は?」

瞳「久遠様の小さな口にから揚げ一つ突っ込むのは虐めです。齧っても良いですから、減らしてあげてください」

なら切っておいてくれと言いかけたが

衣がハリネズミのようにあちこちに飛び出していなかったり

カリカリではなく、柔らかい衣で作ってあるほか一応は小さく作られている唐揚げは、

それなりに配慮をした結果に出来上がったものというのは、一目瞭然だった

しかし、一口目を見て、それでも大きすぎたのだと、思ったのかもしれない


夏凜「さ、流石に齧らないわよ?」

天乃「そんなこと、求めてないから言わなくていい」

フォークを刺すと、透明の油分

それもただの油ではなく旨味の詰まった肉汁がじゅっと漏れ出していく

刺し込んだフォークを強引に傾け、もう片方を箸でつまんで引くと

柔らかい胸肉は旅人の布袋のように容易く千切れて、中身を取り零し

落ちていったそれらは有象無象に紛れて失われ、真っ二つに千切られた出がらしだけがその場に転がる

もちろん、それだけでも十分なのだろうが、しかし。旨味の約80%が損なわれたことだけは確かだった

天乃「……どっちも私に頂戴。夏凜は、普通に食べられるでしょう?」

夏凜「うっさい」

天乃の申し出に声を上げた夏凜は片割れを箸でつまんで口に放り込むと

すぐにもう片方を摘まんで、天乃の口に突き入れた


天乃「んっぅ……」

夏凜「…………」

今度は箸を無理に引き抜くことなく、一瞬だけ引き

天乃に箸を抜こうとしていることを示してからまた引いていく

スプーンの時ような抵抗もなく、容易く抜け出した箸は艶かしさを引き立たせるように糸を引いていたが

夏凜はそれを無視して皿上に置いて、咳払いを一つ

夏凜「……なにこれ」

今までもそうやって介護してきたとか

両手が使えないとか、百歩譲って利き腕が使えないというのなら分かるが

そんなことのない同級生にスプーンやら箸やらで食べさせている

それでも充分に意味が分からないが、一番はその行為ではなく

その相手の仕草に逐一動揺していることが、良く分からなかった

少し前から、そんな気配はあったが。ここまであからさまなのは初めてだった


夏凜「……あ、あのさ」

天乃「うん」

夏凜「普通に、食べない?」

夏凜の唐突な申し出に

天乃はすこし驚いた顔をして、目を伏せる

確かに、普通に食べた方が良いのではないかと思う

夏凜の食事は進まないし、余計に時間がかかるし

ごはんも料理もどんどん、どんどん冷めていく

夏凜「正直、最初の一口だけで済むんじゃないかって、思ってたから」

天乃「……………」

夏凜「あんただって、最後までやって欲しいわけじゃないでしょ?」



1、うん。正直冗談だったわ
2、……うん。そうよ
3、夏凜に任せるわ。してもらうのは私だから。する貴女が決めて良い
4、して欲しいって言ったら。してくれる?
5、次、サラダが食べたいわ


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



若葉「……恋人では、ないんだよな?」

九尾「気にしたら負けじゃぞ」

若葉「だ、だがっ」

九尾「自分の行いがどんな影響を与えているのか自覚していない。主様はそういう女じゃ」

球子(タマの時代ならあざといって言われる部類の……天然無自覚は貴重品だって杏が言ってたが。ここにあったか)


では、初めて行きます


天乃「夏凜に任せるわ。して貰うのは私だもの。する貴女が決めて良い」

夏凜「ほんと……」

ああ、ほんと。あんたはずるいやつだわ

夏凜の心にはそんな言葉が浮かび上がっていく

夏凜が苦手な言葉、苦手な反応

天乃が普段取る言動は、それそのものなのだ

だから呆れてしまう

だから、少し嫌な顔をしてしまう

けれど、だけど。だからこそ

夏凜「なら、やるって言ったのは私だし……一通り食べさせてあげるわよ」

天乃「いいの?」

夏凜「嫌なら、良いけど」

天乃「ううん……そんなことない」


恥ずかしさを残しながらも、首を横に振った天乃は

笑みを浮かべて、夏凜を見上げる

図らずも上目遣いな視線に夏凜は僅かに動揺して、目を逸らしかけたが

ぐっと堪えて、天乃を見返す

普段束ねられている髪は、解かれていて

背中に回っていたり、肩にかかっていたり、胸元に垂れていたりと様々

眼帯の下に隠してある赤い瞳も、今は何かを見つめている

夏凜「…………」

ずっと、目を合わせるのを避けてきたのだが

改めて見ると、白い肌も相まって人形のように思える

けれど、触れば温かい


天乃「夏凜?」

白くて紅い両頬の間、僅かにふっくらとした潤んだ唇が名前を紡ぐ

曖昧であるがゆえに可愛らしさを感じた一つ一つは

鮮明になっていくにつれ、美しさを感じさせるものに移ろう

夏凜「な、何でもないわよ!」

瞳の影響で小説を読むことの多い夏凜は

よくよく見る、【目を奪われる】というものがどういうことなのかをはっきりと経験した

格好いい人がいた。可愛い人がいた、綺麗な人がいた

スタイルのいい人がいた。だから、まじまじと見つめてしまった

というのは、目を奪われたというには幼稚なのだと、夏凜は思いながら

次の料理を探し、生ハムで巻かれたサラダを箸でつまむ


天乃「ん……」

夏凜の手が動いたのを見て

きゅっと一度唇を結んでから目を閉じた天乃は

逆に唇を緩ませ、開いて待つ

心から信頼しているからこそ見せられるそれにたいして

夏凜は小さく笑みをこぼし、その小さな口にひと巻のサラダを押しいれる

天乃「…………」

さっと目を開き口元を手で覆う天乃は

遠慮がちに口を動かしてごくりと飲み込む

それが心なしか早まったように思えた夏凜は

ついさっきも感じた疑問を掘り起こされて、口を開く


夏凜「味解らないのに、美味しいの?」

天乃「…………」

さっきはデリカシーがないと答えられた質問と

言葉選びは多少違うが含めた意味は近しく

黙り込んだ天乃を見つめて夏凜はまずったかもしれないと、奥歯を噛む

けれど、天乃は相変わらずの染めた頬。なぜか潤んだ瞳で見つめてきた

天乃「相変わらず、私の味覚は何も感じてはいないわ」

夏凜「天――」

天乃「でもね」

でも……。と

天乃は言葉を繋ぎ、夏凜の言葉を遮って目を伏せる

それは後ろめたさを表しているわけではないのだと

見ているだけの瞳でも分かった


天乃「いつも感じる寂しさを感じない」

九尾が作ってくれる料理

誰かがくれたお菓子や料理

それらも決してまずいわけではないと思うのだが

しかし、それらを食べたときに感じるのは圧倒的な喪失感、空虚感で

胃袋に入り満たされるものはあるが、しかし求めている何かは満たされてはくれない

今回だってそうだ。正直冗談半分だったし

なぜそんな冗談を言ったのか自分でも良く分かってはいなかった。だから

天乃「一口一口はいつもと変わらない味のない食べ物。だから、すぐにもう止めようって言えるのかなと思ったわ」

夏凜「…………」

天乃「でも……味が分からなくて良いって思えるの。それも仕方がないかなって思えるの。味の解らない一口が、なぜだかとても幸せなの」


天乃「……こうしている間は、味覚なんてあってもなくても変わらない。なぜだか、そう思えるの」

悲しさではない涙をこぼしそうな天乃は

しかし、儚さを携えた綺麗な笑顔を浮かべて

握り合った自らの両手を胸元に宛がう

夏凜は言い返す言葉を見失って

何か言ってあげないと。と思うのに、口から零れていくのは空気ばかりで

読み漁った小説、培った宥めの言葉。そんなものの無意味さを感じ

圧倒的な経験不足を実感し

夏凜は手に握る箸を握り締めて、ハッとする

夏凜「ほら」

天乃「?」

夏凜「さっさと食べないと、料理が冷めるわよ」

適当なものを箸でつまんで天乃の小さな口に押し込む

自分が今何をできるのか、何が言えるのか

何もかもが分からない

だから今は、天乃が求めていることをしてあげよう。そう、思ったからだ


天乃「んっ、んっ」

手で隠しながら口に入れられたものを食べていく天乃を見つめて

夏凜は思わず笑みを浮かべる

それはきっと、口元の見えない天乃の閉じられた瞳がとても嬉しそうに見えたからだ

餌付けだとか、介護だとか

そんな良く分からないことではなく、大まかに考えて相手が求めていることをして

それで喜んでくれていることが嬉しいと思った

自分がしたことで、相手を喜ばせることが出来ているというのが、幸せだった

夏凜「……狡過ぎんだっての」

聞こえないように呟く

目を奪われるというのは、その一瞬が空っぽになってその一つだけで埋め尽くされ

後になって綺麗だと、可愛いと、格好いいのだと

感想がにじみ出てくるようなことを言うのではないか

夏凜は、どこかにいるであろう九尾にその疑問、その答えをぶつけてみたいと思い

しかし、それはどうか明日であって欲しいとも思う

今は、ただ

夏凜「あんた、今日泊まっていくのよね?」

少しでも時間が長引くことを望んでいた

1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(異変)
・   犬吠埼風:交流有(偽物)
・   犬吠埼樹:交流有(偽物)
・   結城友奈:交流有(偽物、抱き込む)
・   東郷美森:交流有(偽物)
・   三好夏凜:交流有(偽物、そんなことしない、ファーストキス、接触、食べさせて、お任せ)
・   乃木若葉:交流有(異変、一緒に、逃げない)
・   土居球子:交流有(異変)
・ 伊集院沙織:交流有(偽物)

・      九尾:交流有(異変)

・       死神:交流有(異変)
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



6月8日目 終了時点

  乃木園子との絆 48(少し高い)
  犬吠埼風との絆 42(少し高い)
  犬吠埼樹との絆 39(中々良い)
  結城友奈との絆 57(高い)
  東郷美森との絆 41(少し高い)
  三好夏凜との絆 38(中々良い)
  乃木若葉との絆 37(中々良い)
  土居球子との絆 26(中々良い)
     沙織との絆 48(少し高い)
     九尾との絆 42(少し高い)
      死神との絆 38(中々良い)
      稲狐との絆 30(中々良い)
      神樹との絆 9(低い)

 汚染度???%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


夜の行動含むなので安価無し。では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から
諸事情でID被る可能性があります




瞳「幸せそうで何よりです」

若葉「あ、あんな破廉恥な……ッ」

ひなた「若葉ちゃんは、私と少し遊びませんか?」

若葉「え? ひな――」

ひなた「ふふっ」


では初めて行きます


√ 6月9日目  朝(夢路・三好宅) ※火曜日


夏凜「…………」

体が強く締め付けられる息苦しさと

押し付けられる体温の熱による暑苦しさ

それによって眠りから引き起こされた夏凜は

目を開いて、ふぅっと、息を吐く

夏凜「私は抱き枕じゃないんだけど」

目を覚ましても体に感じる狭隘感に

寝起きゆえの僅かな苛立ちと共に呻きながら上半身を起こすと

天乃の右手がベッドに落ち、

軽く呻いたのを横目に足に絡みつく天乃の足を取り外す

夏凜「ったく……こっちの天乃は寝相良く寝てるのに、なんで……」

寝癖が付いた髪をわしわしと掻く手が止まる

夏凜「は?」

自分の言葉を頭の中で繰り返し、左側と右側を交互に見ると

昨夜見たときとまったく変わらない穏やかな寝姿を見せる天乃と

自分に絡み付いていた天乃の二人が、視界に入った


夏凜「えっと……あぁ」

一瞬混乱しかけたけれど

昨日出てきていた偽者がもう一度出てきたのだとすぐに理解した夏凜は

ふと、視界に入った天乃の唇を見つめ、熱を帯びた自分の唇に触れる

考えようによっては、間違いなく天乃とのキスだったが

しかしそれはまったくの別物だ

精霊とやらは相変わらず天乃の姿だが、ずっとそのままでいて欲しいと思う

天乃が二人いるからではなく―それもないとは言えないけれど―その正体次第では、

今でさえ多少なりと……なファーストキスの喪失が

より嘆かわしいものになってしまうからだ

夏凜「べ、別に。そこまで気にしてないけど」

そんな考えが気恥ずかしくて

夏凜は無意味に意地を張ると、本物であろう天乃が目を覚ました


天乃「ん……」

左手をそっと動かして、隣で動く夏凜の手を掴む

寝ぼけてんの? と疑わしげな視線に対して笑って見せると

夏凜はどことなく理解したようにため息をついて眼を逸らす

天乃「私は寝起きの悪い子供じゃないわよ」

夏凜「でしょうね。むしろ寝相いいわ。あんた」

両足が動かせない分

寝返りを打ったりしにくいだけなのかもしれないが

今回、寝て起きるまでまったく姿勢の変わっていない天乃は

間違いなく寝相がいいのだと、夏凜は笑う

そして、自分のすぐ横を指差す


夏凜「また、出てきてるんだけど?」

天乃?「ん……ふふっ」

微動だにしない天乃の一方で

なにやら幸せそうな声を漏らして体を動かす天乃(偽)は

右手で夏凜の体を捜し、見つけるとぎゅっと掴んで引き寄せていく

夏凜を気に入っているのか、ただ何かを求めたのか

それは不確かだが、夏凜は昨日の事を思い出して

もしかしたら自分のことを気に入っているのではないだろうか。と、考えて

天乃へと振り返る

夏凜「この天乃の記憶とかどうなってるの?」

天乃「多分、私と同じようなものだと思うわ。学校に行けたりしたのを考えるとだけど」

適当な推測ではあるがその可能性は極めて高い

というのも、記憶の共有をしていないにせよ

精霊として付き添ったこの二年間を見てきているはずだからだ


天乃「詳しいことは本人か九尾あたりに聞かないとわからないわ」

夏凜「…………」

天乃「何?」

夏凜「……いや」

じっと見つめてきていることに気づき

夏凜に対して特に強い口調になることもなく聞いたが、

さっと目を逸らした夏凜はもう一人の天乃の方へと目を向ける

だから

とは思わないけれど、天乃はなんとなく、夏凜の寝巻きの袖を掴む

天乃「何かあったんじゃないの?」

夏凜「何もないわよ」

横目で見返して来た夏凜は、何かあるはずなのに何もないと答えて

けれど、何か思ったのだろう

いや……と、自分自身の言葉を否定するように呟き、口を開いた


夏凜「朝一であんたと顔を合わせるのは珍しい――」

天乃「ねぇ」

せっかく答えてくれているのに

なぜか、口を挟んでしまった天乃は

夏凜から視線を下げると、袖を握る手に少しだけ力を込めて見上げる

天乃「なんで、そっちは天乃で私はあんたなの?」

夏凜「え?」

特に意識して言い分けたわけではなく

普段通りに何も考えずその場で使いやすいものを選んだだけなのだろう

夏凜は急に何を。と言いたげに動揺した瞳で天乃を見て

天乃もまた、自分は何を言っているのかと……袖を離す

天乃「……ごめん。夏凜はいつもそんな感じ。よね」

夏凜「そう……だけど。気に障ったなら謝るわ。確かに、偽物を名前で呼んで本物を呼ばないのは失礼だった」


天乃「別に謝って欲しいわけじゃないわ。気にしないで良いから」

夏凜「気にしないでって言われても」

自分の右手を強く握る感触に目を向けた夏凜は

そのまま流れるように左隣の天乃に目を向ける

幸せそうな天乃の一方で、ほんの少し悲しそうな天乃

後者が偽物でも罪悪感はあったかもしれない

けれど、昨日の今日ということもあってそれは多少なりと。という程度だったかもしれない

しかし、それが本物だというのなら。話は別だ

罪悪感を抱く抱かない以前に

なぜだかとても、嫌な気分になる

昨日、夕食を食べさせているときとは正反対に

夏凜「天乃こそ謝らないで欲しいんだけど。実際悪いのは私なんだから」



1、うん……ありがとう
2、ごめんなさい。昨日から私……我儘ばっかり
3、じゃぁ、夏凜が悪いってことで解決ね。何かお願い聞いてくれる?
4、……夏凜は、昨日のキス。どう思ってるの?
5、そうね……とりあえずそっちの私を叩き起こしてあげて


↓2


天乃「……夏凜は昨日のキス。どう思ってるの?」

夏凜「デリカシーないんじゃないの?」

意表を突いた天乃の言葉だったが

夏凜は迷いなくストックしてあった言葉を切り出して、苦笑する

天乃に昨日言い返しはしたが

まだ少し、根に持っていた自分が少し馬鹿らしくも思えたからだ

天乃「そうよね、ごめ――」

夏凜「良いとも思ったし。悪いとも思った。はっきりしないけど、どちらでもあるって感じだわ」

謝りそうな天乃の言葉を遮った夏凜は

天乃に顔を向けながら、目だけはどこか別のところに向けて、言う

顔を合わせてしまうと、唇を見てしまいそうだったから

天乃「どうして?」

夏凜「天乃ははっきりして欲しいだろうけど。私自身、明確にこうだ。って答えが出せないのよ。ただ、そう思うだけ」

天乃「……ファーストキスだったんじゃないの?」

夏凜「まぁ、それはそうだけど」


ポリポリと人差し指で頬を掻いた夏凜は

照れくさそうに笑って、自分の唇に触れる

そうだ。ファーストキスだった

でも、それでもなぜだか喜ばしく思う一面があるし

やっぱり、悲しく思う一面もある

それはまるで一周して一つなのに、上下に分かれている唇のようで

夏凜は自分の唇から指を離して、首を振った

夏凜「それでも、私の答えは変わらない――今は。多分うやむやなままよ」

天乃「……………」

夏凜「ファーストだろうがセカンドだろうが。キスはキスだし、したことは変わらない」

だから、初めてだったからとかいう理由で

さらに背負い込んだりする必要はないのだと

夏凜は天乃に告げて、笑みを浮かべる

夏凜「それでも気にするつもりなら、この話は終わらせてもらえると助かる」

天乃「それでいいの?」

夏凜「むしろ頼むわよ。そんなことで悩むのは嫌だし。そんなことであん……天乃が変に気遣ってくるのも嫌だから。さ」


天乃「……解った」

夏凜がそこまで言うのだから

罪悪感を抱いているからこそ

その願いを聞き入れてこの話は続けないべきなのだと

天乃は答えを返して、笑みを浮かべる

けれどもそれは、やはりどこか無理が見えて

夏凜は思わず、天乃の頭をポンッと叩く

夏凜「気遣うなって言ってんでしょ」

天乃「すぐには無理よ……解ってないの? 私の性格」

困ったように笑う天乃を見つめて

夏凜は同じように困り顔になって、そうだった。と苦笑する

気にするなと言われて気にしないほど

天乃は簡単な人間ではない

夏凜「というか、こっちに責任取らせるべきでしょ。普通に考えて」

消えて逃げてそのまま雲隠れしたなら話は別だが

性懲りもなく、こうして姿を現してすり寄ってきているのだ

罰せられるべき者が罰せられるのが当然である

天乃?「ふふっ」

その当人は、まだ――夢の中だった


√ 6月9日目  朝() ※火曜日


1、学校に行く

2、行かない(自宅待機)


↓2



01~10  クラスメイト
11~20 
21~30  風
31~40 
41~50  友奈
51~60 
61~70 沙織

71~80 
81~90 クラスメイト
91~00 

↓1のコンマ  


※クラスメイトは一桁奇数男子 偶数女子


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




球子「天乃、嫉妬って知ってるか?」

天乃「? ええ、知ってるけど、それがどうかしたの?」

球子「なら……自分が嫉妬してるの知ってるか? 名前の時とか」

天乃「何言ってるのよ。偽物が呼ばれて本物が呼ばれないのが気に入らないのは当たり前でしょ?」

球子「えー……」

球子(そう来るか、きちゃうのか……)


では、少しだけ


「おはよう、あーちゃん」

天乃「おはよう」

天乃本人の公式な登校は、先日の戦闘以降これが始めてだが

昨日、猿候が天乃の姿で登校していたために

数日間の欠席による騒ぎはもう収まっているらしい

斜め前のクラスメイトは、変わらない挨拶を向けてきた

「今日は普通なんだね」

天乃「え?」

「覚えてない? やっぱり寝ぼけてたんだ」

くすくすとおかしそうに笑うクラスメイトに

天乃は話を飲み込めるわけもなく呆然として

すぐに「ねぇ、ちょっと」とクラスメイトに声をかける



天乃「私、何かしたの?」

「言動の一つ一つがなんというか……えっちだった」

クラスメイトの女の子はそういいながら頬を染めると

そのすぐ後ろ、天乃の左隣の女子生徒も、

確かに。と同調して笑う

「ついに好きな人でも出来たんじゃないかって噂が一瞬でたってたんだけどね」

その様子だと、昨日のはただ単に不調だっただけかな。と

クラスメイトの冗談めいた笑いが聞こえたが

しかし、天乃は冗談じゃないわ。と、額に手をあてがう

天乃「友奈に手を出してたのは聞いたけど……ほかは?」

「んーん。なんか友奈ちゃんがお気に入りだったみたい……って、本当に覚えてないの?」

クラスメイトの心配そうな声に

もう大丈夫だから、と笑って見せる

身体的にはなんら問題ない……とも言いがたいが、そこまで大事無い

けれど、精神的には早くも参ってしまいそうだった



「具合悪いとエッチになるんだね」

天乃「……まぁ、色々とね」

精霊が自分に化けていたといえるわけはないし

仮にいえたとしても、その証拠を見せるわけにはいかない

だからこその苦渋の嘘を、クラスメイトが信じてくれたことに、苦笑する

もちろん、周りを馬鹿にしているのではなく

そんな冗談みたいなことを信じてもらわなければいけないことが、おかしくて

「でも、やっぱり普段の久遠だよなぁ。見せ付けるエロさよりあふれ出るエロスであるべきだ」

「……うわぁ」

「な、なんだよ! そんな本気な声で引くなよ!」

気づけば、自分の周囲にはクラスメイトが集まってきていて

話しかけたわけでもないのに、自分に関する話が広がっていくのを聞きながら

天乃は困ったように、笑う

けれども、その【非日常】であるべき時間を愛おしく思う


それを微笑ましく見つめていると

少し遅れて登校してきた沙織が天乃の視線に気づいて、笑みを浮かべた

沙織「久遠さん、幸せそうだね」

天乃「そう見える?」

沙織「うん。見えるよ」

天乃が幸せなのが幸せだとでも言いたそうに

沙織は天乃の笑みに合わせて声を漏らすと

昨日の問題は片付いた? と、耳元で囁く

天乃「………」

沙織は大赦との繋がりがあるが

しかし、猿猴に関してはまだ大赦に報告はいっていない

そして昨日のあれが猿猴の仕業であるとも話してはいない

昨日の時点で沙織が察しているであろう可能性も考えてはいたが

はっきりと言われると、多少なりと驚いてしまうもので


沙織「久遠さんが二人いるのは、大赦的に良くないことだから、出来るだけ気づかれないようにね?」

天乃「ええ」

沙織の様子から察するに

沙織自身はもちろん、

夏凜も瞳も、風も友奈達も

みんなが大赦に対しての情報提供は行っていないのだろう

大赦としては、怠っていると言いたいだろうが。

天乃「ふふっ、みんな反逆罪じゃないの?」

沙織「ん~……もともと、あたしなんかは久遠さん側だから、反逆も反抗もないよ」

出会ったのは後だけれど

それでも、大赦側ではなく天乃側の人間だと沙織は言う

天乃「それも、聞かれたら不味い話よね」

そう笑った天乃は、ふと。考える

友奈や東郷は大赦繋がりではないから、そんな話は愚問だろうが

風や夏凜は、どうだろうか

風は少し前までなら大赦側だったとは思うが、今は……と考えてもいいのだろうか

そして大赦から派遣されてきた夏凜は

まだ出会ってひと月程度だから、まだまだ、大赦側の人間なのではないだろうか。と


天乃「……ねぇ」

沙織「うん?」

天乃「……ううん。やっぱり何でもないわ」

以前、叩きのめしたことはあるが

あれは殺し合うようなものではなかった

友奈を傷つけた夏凜への報復という目的はあったし

多少、本気になっていたことも否定できないが

それでも、殺すまではいかなかった

友奈がやられたことをやり返す。ただそれだけで充分だったこと

けれど、いつか

天乃「…………」

いつか、夏凜が自分を止めるために殺す勢いでぶつかってくるのではないか

もしくは、殺せと命じられてくるのではないか

天乃はそう考えて、何度も握りこぶしを作る右手を凝視して、息をつく

天乃「……そうなったら」

もういっそ大赦を潰せばいいか。なんて

物騒なことを考える自分に、天乃は思わず笑ってしまった


√ 6月9日目  昼(学校) ※火曜日

1、風
2、東郷
3、友奈
4、夏凜
5、沙織
6、東郷
7、クラスメイト
8、イベント判定

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日は恐らく投下は出来ません
また、今月は日曜日ではなく、土曜日が昼からとなる予定です






「……………」チラッ

天乃?「あら……ふふっ。見ているだけでいいの?」

「!」

天乃?「貴方が一言言えば少なくとも一回くらいなら。関わってあげる……そして、貴方が望むならもっと。ね?」

沙織(挨拶の事なんだろうけど、相手は多分そう思わないよね……本物の久遠さん、明日大丈夫かな)


では、はじめていきます


沙織「今日は結城さん抱いていなくて平気?」

天乃「止めてよ、思い出すだけで恥ずかしいんだから」

茶化す沙織に、天乃は照れくさそうに返して眼を逸らす

自分がしたわけではないが、周りからしてみれば久遠天乃の行為

友奈を抱いているだけならばいざ知らず

友奈の足を触り、誰の足がどうなのだと饒舌に講釈たれてくれたのだ

昨日のことをぶり返されるととてもではないが、羞恥心を揺さぶられずには済まない

沙織「あはは、でも。あれはあれで中々面白かったよ?」

天乃「なによ、昨日みたいな私の方が好み7なの?」

少し膨れつつ言うと

沙織は驚きに目を見開いて、楽しそうに笑う

それは面白おかしいというような、馬鹿にした笑みではなく

何かをとても、喜んでいるような笑顔

沙織「あれが本当の久遠さんの一部なら、それもひっくるめて好み、かな」



男子生徒が言うようなものではないが

しかし、表に出した魅惑的な言動もそれが天乃であるならば

沙織は受け入れられる。覚悟がどうのなど無関係に

沙織「あたしは久遠さんが好きだからね。そこに強い弱い、可愛い格好いい……どんな付加価値があっても、なくても」

天乃「……そう言うのって、男の子に言われると嬉しいやつじゃないの?」

自分に欠点があると思っていて、自己否定するヒロインに対して

主人公である男の子が、抱きしめたり、頭を撫でたり。あるいは、守るために背を向けながら

格好良く決める時のセリフ。の、ような気がして

天乃は笑みを浮かべて、沙織を見る。見えるのは右目だけ。眼帯に隠された左目は赤く、暗黒に染まっている

沙織「物語で言えば、久遠さんは姫騎士の素質があるよ。どこぞの一般兵に守られて、恋心を寄せちゃう。的な」

天乃「私はそんな軽くはないわよ……それに。一般兵に切り抜けられるピンチが私には無理だと?」

沙織「あはは。思わない思わない。むしろ、プロローグで久遠さんが主人公を助けるところから始まるよね」

沙織は楽し気に語っていく

プロローグで姫騎士が助け出した男の子は、姫に憧れ、いつか自分が守るんだと体を鍛えて入隊

圧倒的な力で戦い抜く姫騎士だったが、民を愛し見捨てられない姫の優しさを利用することで敵国は姫を捕らえることに成功する

死なない程度の暴力を加えられ、以前の高貴な美しさとは裏腹に、惨めで無残でみすぼらしい死を与えられる寸前で

その主人公である一般兵が介入して救い出す。それが一章なのだと

ほんの一瞬で終わるかと思えば、長く語ってきた沙織に

天乃は思わず唖然として間を置くと、くすくすと笑った

天乃「貴女、小説でも書いてるの? それとも読みすぎ?」

沙織「どちらかといえば、憧れ。かな」


沙織はすこし考えてから言うと、思いを馳せるような表情で首を傾げて見せる

答えになっていないはずなのに

なっていると自信を持っているようなそれに、天乃はただ笑みを見せるのみで

天乃「憧れって何? その姫騎士に?」

沙織「ううん……その男の子に。かな。頑張れば強くなれる。頑張れば、お姫様を守ってあげられる。そんな、遠いようで近い二人が、羨ましいよ」

本当に、羨ましいと思っているのだろう

沙織の表情には憧れがあって、羨望を感じて

そしてなにより、夢を見ているのだと

天乃は感じて、ほほ笑む

それを茶化すような人間ではないから

なぜ男の子に憧れるのかを分かってはいないのに

天乃はほほ笑むばかりで「そっか」と、嬉しそうに言う



1、それで、昨日のが偽物だって分かったのはどうして?
2、ねぇ、恋心ってどんな感じ?
3、最近、大赦はどう?
4、最近ね、夏凜に我儘ばっかり言っちゃうの……向こうは気にするなっていうけど。本心を知りたいの
5、先月出来なかったデート。する?
6、昨日のは猿猴っていう精霊なの


↓2


天乃「それで、昨日のが偽物だって分かったのはどうして?」

沙織「なんでって、言われても困るかな」

沙織は冗談でも、誤魔化すような様子もなくそう言って眼を逸らして

気恥ずかしそうな雰囲気で、

周りの喧騒から隔離されているかのように

沙織は小さく唇を結ぶと、天乃に目を向けなおす

沙織「信じられないような答えでも良いなら、答えてあげても良いよ?」

天乃「そんなオカルトチックな話?」

勇者だの精霊だの樹海だの

色々とあることを知っている以上、多少の空想的な現象なら信じられてしまう

それを知っているはずだと、天乃が笑うと

沙織は「そうだね」と、呟く

沙織「あたしの心が違うって感じたんだ。一目見た瞬間に、この人は久遠さんじゃないって思った」

天乃「直感?」

沙織「そうとも言えるし、違うともいえる」

沙織はそう言うと、自分の胸元に手を宛がい染めた頬を笑みで崩す

沙織「いつものようなドキドキがなかった。幸せを感じなかったんだ。だから絶対にと。確信が持てた」


好きな人のことだから

望んで止まないとても大切な時間だから

ほんの些細な違いに、心は違和感を覚えてしまう

なぜ、心なのか

なぜ、なんの変哲もない時間に

ドキドキしたり、幸せを感じたりしてしまうのか

それが自分へと向いていることを事前に言われていた天乃は

もしかしたらと、思って

しかし、沙織は苦笑して首を振る

沙織「……久遠さんは勇者だから。いつ消えるか怖いし、だからこそどうでもいい時間がとても幸せに感じる」

本当の一般人のように

とても信じられないような神の関わる話などせず

恋愛だったり、アニメやゲーム、漫画に小説

他愛のない話をする時間が、とても貴く思う

天乃「……私がバーテックスに負ける程度だと思ってるの?」

沙織「久遠さんは負けない。でも、勇者はその可能性がある。神樹様にも。そうなったとき、久遠さんは死んででも守るでしょ?」

出来る限り戦わない

犠牲にならないようにする

そう言ってくれはしたが、しかし、

どうしようもない時には犠牲になって「ごめんね?」とでも笑うのだと、思っているからこその言葉に

天乃は否定できず、目を伏せた


沙織「……嫌な話、しちゃったかな」

周りの騒がしさから自分たちが切り離され、

暗い空気になっているのを感じた沙織は

申し訳なさそうに言うと、天乃を一瞥して、席を立つ

天乃「沙織……貴女は良く分かっているわ」

沙織「まぁ、ね」

本当に痛いことはこんなことじゃなかったけれど

いっそ伝えてしまえばいいという誘惑には

抜け駆けしてしまえばいいという悪だくみには

賛成、出来なくて

それで天乃に暗い顔をさせてしまった沙織は罪悪感を抱いて離れていく

もちろん、入れ替わりに言ったこと、伝えた気持ちも

嘘ではないけれど。

一人残された天乃は、沙織がいた場所を見つめて息をつく

天乃「精一杯足掻くわ。でも……もしかしたらの可能性もあるから。ごめんね、沙織」

√ 6月9日目  夕(学校) ※火曜日

1、部室
2、クラスメイト
3、おとなしく帰宅
4、イベント判定

↓2


01~10 
11~20  1年生
21~30 
31~40 
41~50 
51~60 二年生

61~70 
71~80 
81~90 三年生

91~00 

↓1のコンマ  


樹「久遠先輩、こんにちは」

東郷「今日は……問題なさそうですね」

疑いもなく挨拶してくる樹の一方で

東郷は訝し気に目を細めて天乃を観察して、ほっと息をつく

昨日の一件が尾を引いているのは解ってはいたが

露骨に疑われると、流石に笑うしかなくて

友奈「こ、こんにちは」

友奈に関しては、まだ今まで通りというわけにはいかないらしく

東郷の陰に隠れて、ちらちらとみてくる

夏凜や風はそこまで実害もなかったからか普段と変わらない

そんな勇者部メンバーの中に

一人、知らない女子生徒が椅子に座っているのに天乃が気づくと

その生徒もまた、天乃を見上げて、眼を逸らす

夏凜「何してるのよ。天乃に用事があるからここに来たんじゃないの?」


「は、はいっ」

天乃「ん………」

女子生徒の緊張を感じる返事

合わせたいのに合わせられない瞳

結んだ両手とわずかな震え

一つ一つを見た天乃は女の子の目的

自分に頼みたい事

それらを察して小さく笑みを浮かべる

天乃「そんなに緊張しなくて平気よ」

「…………」

天乃「大丈夫、みんなが邪魔なら。ちゃんと出て貰うから」

だから言って? と、

天乃が言うと、女子生徒は一度ぎゅっと目を瞑り

そして、開いた瞳で天乃を見て、スカートのポケットから一枚の便箋を取り出し

「お願いします!」

天乃へと差し出す

それが恋ゆえのものであると、天乃のみならず

その場のみんなが気づいていた


天乃「えっと……」

ラブレターの推敲だろうか

それとも、誰かにとどけて欲しいのだろうか

今までならそう聞いてしまっていただろうけれど

夏凜達だったり、沙織だったり、同級生との、デートだったり

いろんな経験をしてきた天乃にはそう、安易に口にできなくて

天乃「もしかして、私に?」

「は、はい」

天乃「………」

確認のつもりで言ってしまった言葉を、気恥ずかし気に肯定された天乃が固まる中

その視界の片隅に映る夏凜は、なぜか複雑な表情で

そして、なにかを理解できないというような雰囲気で

風「と、とりあえず。ね?」

風に言われて手紙を受け取ると

女子生徒はもう一度お願いしますと言い、部室から走って行ってしまった




天乃「私宛……だって」

友奈「久遠先輩大人気ですから、全然不思議ではないですけど……」

東郷「確かに、以前から数少なかったこと自体がおかしいわね」

女子生徒から天乃へのラブレターという件に関しては

もはや気にする類のものではないらしく

友奈達にとっては同性間でのラブレターではなく、急にラブレターを渡されたことのほうが

重要な問題のようだ

風「天乃は最近になって欠席だの怪我だのが増えたから、みんな心配になってるのかもね」

天乃「……私が消えてしまうかどうか」

風の言葉で思い出すのは、二年前

三ノ輪銀を失ってしまった頃の話だ

その時は余裕もなかったし、だいぶないがしろにしてしまっていたが

思えば、周りからのアプローチは以前にも増していたような気がしなくもない

それはきっと、【不安や恐怖】があるからだろう

突然、目の前からいなくなってしまうのではないか。と

そこで、他を探すか伝えられるうちに伝えてしまうか

その人たちはその選択を迫られ、後者を選んだ結果が、手元にある手紙なのだ


受け取った手紙に手を付けることなく返却や処分ができる性格ではない天乃は

桜色を基調とし、和紙で作られたかわいらしい便箋の封を切り、折りたたまれた一枚の紙を取り出す

その紙もまた便箋と同様ので少し、ざらつく

そこには

女子生徒の心が詰まっていて

一つ一つの言葉がとても温かくて

天乃「……どうして」

一度も話したことはないのに

名前も顔も知らないようなものなのに

こんな、ボロボロの体なのに

好意を寄せて来てくれる事が、不思議で

そして、何よりも理解しがたいのが

女子生徒の心がつづられた手紙を読んで

当たり前のように【罪悪感】を抱いていることだった

いつ死ぬか解らないし、不安にさせ、おびえさせ、心配させてしまうからというのもあるかもしれない

けれども、これは【本当にそれだけ】なのだろうか?


ふと、目を向けた先にいる夏凜は視線に気づくや否や、睨むように見つめ返して

夏凜「どうすんのよ」

天乃「夏凜は、どう思う?」

どことなく怒りを感じる声に

天乃はなぜか冷静にそんなことを聞いてしまった

天乃「あ、えっと……」

場の空気が滞ったのを感じ、

天乃は手を振り首を振ると、「ごめんなさい」と言葉を放り投げた

天乃「夏凜に聞いても仕方がないわよね……つい、驚きすぎちゃって」

照れくさそうに笑い、手元の手紙をもう一度見た天乃は

それを便箋に戻して、深く息をつく

落ち着くためのその一息は、しかし、逆に緊張を高めてしまう

強く高鳴る胸の音をより大きく響かせる


1、風
2、東郷
3、樹
4、若葉
5、球子
6、今日のところは帰る
7、こういう時の沙織
8、瞳


↓2


少し早いですが、ここまでとさせていただきます
明日は通常時間(22時頃)の予定です





若葉(やはりこの二人は……)

風(気にしたら負けよ、若葉)

若葉(いや、しかし)

東郷(気にし過ぎない方が良いですよ。大雑把に生きましょう)

友奈(……東郷さんが諦めてる!?)


では、初めて行きます


天乃「ごめんね、残ってもらっちゃって」

沙織「ううん、久遠さんが珍しく用事があるって言ってくれたからね。再登校も厭わないよ」

ラブレターを受け取った天乃は勇者部メンバーではなく

沙織に連絡を取って、相談することにした

幸い、まだ校内に残っていたようだけれど

そうでなくとも、沙織は迷わずきてくれるというのは

嬉しいことではあるが、しかし、複雑でもある

天乃「私の優先度はそこまで高くなくていいのに」

沙織「あたしがそうしたいだけだから、気にしないで」

笑っていった沙織は、「それでどうしたの?」と聞いて

天乃は軽く頷いて、貰ったラブレターを差し出す

沙織「久遠さんからのラブレター……じゃ、ないよね」

天乃「1年生の子からよ。お願いしますって」

沙織は躊躇いながら便箋を受け取ると

そのうら側を見て、封が切られているのを確認する

沙織「それで? 久遠さんはどう思ったの?」

天乃「どうしてこんな私をって思った」

ぱっと見ただけでも、両足不自由で左目が見えないのはわかるし

それ以外にも片方の耳や味覚までも失われている

その全てを話したわけではないけれど、障害のある自分を選ぶ理由なんて

なぜだろうか。と

沙織「……知り合い?」

天乃「ううん、初めてよ。話したこともない」


沙織「それ自体は、不思議じゃないけど……」

一目ぼれしていたり、憧れを抱いてその姿を追ううちに

いつの間にか好意を抱いているというのは良く聞く話だ

もっと近くにいたい、そばにいたい、支える立場になりたい。と

天乃の不意に欠席したり、障害を負ってくる姿は

そう言う風に考える子を刺激してしまうのだから、なおさら

沙織「大事なのは、その子と居ることで久遠さんが幸せになれるかどうか。だよ」

天乃「あの子のそばに私がいても。私が幸せを感じられていなければ、ただ。あの子を傷つけるだけよね」

目を伏せた天乃の言葉に、沙織は「そうだね」と、答えてラブレターを天乃に返す

中身を検める必要なんてない

なにより、人の心をつづったものだ。向けられた人以外が見るなど、踏み躙るに等しいと思うからだ


沙織「相手の気持ちがわかっている久遠さんは、自分がそばに居てどう思うのかを考えなくちゃいけない」

それはきっと、一度も話していない相手

名前すら知らなかった相手

そんな人のままでは判断してはいけないもの

しかし、誰しもが受け入れることをせず拒絶してしまうこと

沙織「だから……」

沙織は言いたくないと思いながらも、唇を結んで天乃をまっすぐ見つめる

天乃の性格は良く解っているから

真摯に対応しようとするのは火を見るよりも明らかで

沙織「少なくとも一回、デートしてみたらどうかな。その時間で久遠さんが幸せを感じることが出来たなら。付き合ってもいいと思う」

一回のデートで全てを判断するには早いかもしれない

けれど、何もしないまま答えを出すというのは

きっと、真剣に悩んだであろう相手に、失礼な気がする


天乃「デート……した方がいいのね」

沙織「相手のことを知らないなら、そうだよ。まずは知ることから始めなきゃ」

沙織の笑みに、天乃はそれはそうだけど。とうなずく

恋愛経験は希薄だが、恋愛相談を請け負っている天乃としては

沙織の言い分も理解は出来るのだ

けれども、なぜだか不快に思う

なにが不快で、何が納得できていないのかはわからないが

しかし、ラブレターを渡されたときの

どこかから湧き出してきた【罪悪感】と似たようなものかもしれないと、思った

天乃「……ねぇ、沙織」

そんな気持ちがあったからか

天乃の声は酷く落ち込んでいるようにも思えるような明るさを損なったもので

天乃「沙織は、私がラブレターを貰ったことに関して、何かないの?」

紡がれた言葉はある意味。とても意地悪だった


沙織は驚いて目を見開くと

何かを察したように息をついて、笑みを浮かべる

沙織「そうだなぁ」

何かあって欲しいの? と、意地悪を返すこともできるが

しかし、「そういうわけじゃないけど」と、返されると分かっている沙織は

考え込むように小さく零して唸る

沙織「……純粋に、慕われてて良かったねって、思ってるよ」

天乃「……………」

嘘だ

本当は、もっと別のことを考えてる

とても沢山、言いたいことがある

けれど

告白をした人、告白された人

どちらもすごく悩んでしまうことだから

だから、関係者でしかない自分は相談を受けはしても

悩ませるようなことは言うべきではないと、自粛する

たとえそれが、相手にとって有利に進み、自分に不利なことだとしてもだ

天乃「そう……」

沙織「どうするかは久遠さんに任せるよ。もしも、その子とでは幸せになれないって解ってるならすぐに断っても良いと思う」


1、うん、ありがとう
2、……うん
3、とりあえず、デート。してみるわ
4、無関係な一般人と親密になること、大赦はどう思うのかしら
5、夏凜も……何も言ってくれなかったわ


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




天乃「とりあえず、デート。してみるわ」

沙織「うん、がんば――」

「それは許されないな!」

沙織「ひっ!?」

天乃(ぜ、全身タイツの変質者!?)


では初めて行きます


天乃「とりあえず、デートをしてみることにするわ」

相手のことを知ってから判断する

沙織が言うそれが大切なことだというのは、天乃もわかっているからだ

もちろん、相手がなにか企んでいる可能性もあるし

そう言った点を考慮した上でのデートになるが。

沙織「うん……恋人らしくじゃなく。友達同士の接し方からでいいからね?」

天乃「状況によるわ。普段の様子を見たいから」

天乃と一緒という時点でふだんの様子は無理ではないかと思った沙織は

しかしそれを言葉にすることなく、苦笑する

一歩譲歩してあげたのだ。そのくらいの黙秘くらい許して欲しい。と

少しばかり意地悪な笑みだったが、運よく視界から外れていたのだろう

天乃はそれに何も言うことはなかった


沙織「けど、これから大変になりそうだね」

天乃「?」

話が終わった後、そう切り出してきた沙織に、天乃は「どうして?」と、尋ねる

色々と問題が積み重なってきているのは事実だが

それは前からも続いてきていることで、これから。というのは当てはまらない

沙織「女の子が言い寄ったことで、他の女の子も来るかもしれないし、なにより。久遠さんを心配してる人は多いからね」

たとえば、普段あってるクラスメイトとか。と、沙織は言うと

だからね? と、繋げて笑う。少し、悪巧み顔だ

沙織「今まで以上に可愛くて守りたくなる久遠さんは、男女から求められるんじゃないかな」

天乃「……こんな私よ?」

沙織「もう、すでにそんな久遠さんに来てる人居るでしょ?」

それは確かにそうで

一概に否定は出来ない天野の小さな笑い声は消え入るように薄れて、ため息に変わる

天乃「本当にそうなったら、大変だわ」

沙織「うん。でも、そう言うのこそ、日常だよね。恋愛について悩むって、凄く。思春期の学生っぽいよ」

慰めなのか解らない沙織の言葉に

天乃はそう言うものなのかしらね。と、困ったように笑った


√ 6月9日目  夜() ※火曜日


01~10 
11~20  大赦
21~30 
31~40 
41~50  夏凜
51~60 追加

61~70 瞳

71~80 
81~90 
91~00  不審者

↓1のコンマ  


天乃「……………」

普段なら寝ている時間ではあるけれど

しかし、天乃は全く眠れずに外の世界を眺める

月明りに照らされる外の世界は、街灯といくつかの家の明かりは見えるが

とても、暗く思える

天乃「………はぁ」

一年生の女生徒からのラブレターを手に取り、ため息一つ

夏凜は何も言ってくれなかった

ただ、睨むように見つめてきて「どうするのか」と、答えを催促してきただけ

沙織もそうだ

手紙をもらったことに対しての疑問さえも抱きはしなかった

そこまで考えた天乃は、ふと目を見開いて首を振る

天乃「二人が何も言わなかったからって……なんなのよ」

意味も分からず不快感を覚え、嫌悪感を感じる

夏凜が猿猴扮する天乃を名前で呼び、

自分を名前で呼ばなかった時にも感じたそれは、僅かに痛みさえ伴う

それらを早く払拭したいと目をつぶった瞬間、端末が震えた


夏凜『……悪いわね。こんな時間に』

天乃「ううん、そんなことないわ」

電話してきたのは夏凜なのに

一言交わしただけで、会話は途切れて時間だけが経過していく

しかし、天乃もまた切り出す言葉を見つけることが出来ず

ただ、端末を握る手、なぜか胸元に置かれた手に力が籠る

天乃「……………」

言いたいことがあるはずなのだ

聞きたいことがあるはずなのだ

なのに、その【何か】は不明瞭なままで

夏凜『大赦は、一般人との付き合いに関してはむしろ推奨するそうよ』

夏凜は意を決したのだろう

息を飲む音に続いて、言葉が流れ込んできた

夏凜『理由は、言わなくても分かるわよね』


夏凜『……ふざけた話だった』

勇者や関係者ではなく

完全に部外者である一般人との関係が密接なものになることで

天乃が世界をより一層傷つけられなくなる。裏切れなくなる

そう、つまりは少女が【天乃の枷】になってくれるのではないか、と期待しているのだ

異性ではなく同性という問題もあるが、

そんなことは、世界の安全保障を得る為ならば小さな問題でしかない

しかし、そのような期待を抱いているというのは……

夏凜『大赦の全員とは言わないけど、でも……ほとんどが天乃を信用してないってこと』

天乃「そんなこと。それこそ、言うまでもない事だったはずよ。夏凜」

夏凜の声にも元気はないが

天乃にもまた、普段のような明るさはなく

いつもならば茶化しそうな流れでも重く苦しく何より切なげな空気は変わらない

天乃「貴女だって大赦の人間なのだから。忘れたわけではないでしょう?」

夏凜『覚えてはいるわよ。だからどうということもないけど』


夏凜『あんたの怖さを私は身に染みて感じたし、学んだ』

だから大赦がなぜ、それほどまでに天乃を恐れているのか

それを理解できないわけではない

けれどもそれと同じように、天乃の優しさを知って、感じた

それだけじゃない。大胆不敵に見える一方で弱さがあることも知った

だからこそ

大赦の恐怖を理解することは出来ても納得は出来ない

夏凜『……つまり、私は大赦の意見に左右されるつもりはないってこと』

天乃「そう……」

夏凜のその言葉は喜ぶことが出来るもののはずだが

しかし、天乃の声は晴れることなく沈んだまま平行線に進んでいく



1、話は、それだけ?
2、女の子とデートしてみることにしたわ
3、そんなこと、どうでもいいわよ
4、貴女の信頼は嬉しいわ。ありがとう
5、……なら。やっぱり、貴女も私があの女の子と親しくなるべきだと思うの?


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




天乃(電話……夏凜から!)

夏凜『大赦は、一般人との付き合いに関してはむしろ推奨するそうよ』

天乃「……そう」

天乃(問題にならないように聞いてくれたのは解るのに)

天乃(なんでかしら……凄く、嫌な気分になる)


では、少しだけ


天乃「……なら、やっぱり貴女もあの女の子と親しくなるべきだって思うの?」

自分の声がどんな風に夏凜に伝わったのか解らないけれど

不可解な緊張を感じて、体が小刻みに震えているのは解る

夏凜の答えが怖いのだろうか

怒鳴られるから? 夏凜に迷惑をかけてしまうから?

解らないけれど、でも。近頃頼りすぎていることだけは確かだ

天乃「…………」

夏凜の無返答による沈黙は、ただ、不安を募らせていくばかりで

悩むこと、考えることが次々に負を孕んでいく

いつものように「何真剣に考えてるの? 冗談よ」って笑って見せようか

それかいっそ、電話を切ってしまうのもありかもしれない

そう考え始めた矢先、電話の先で溜息が聞こえた


夏凜『……天乃はどうなのよ』

天乃「私は……」

夏凜『もし仮に私が付き合わないでとか。関わらないでとか言ったら。あんたはそうしてくれんの?』

夏凜の呆れているように聞こえる声が紡いだ言葉は間違っていない

結局、決めるのは自分だ

他の人のああして欲しい、こうして欲しいなんていうのは参考程度に聞くだけでいい

なのに、天乃の問いはその範疇に収まっていない

天乃「…………」

夏凜『私だけじゃない。他の誰にだって、あんたの今後を決める権利なんかないのよ』

電話だから姿が見えない。顔色をうかがうことが出来ない

それでも、天乃は夏凜の声から微かな怒りを感じて

けれど、だからどうだとか。考えられなかった


天乃「そんなこと、解ってるわよ……っ」

決めるべきは他人ではなく自分だなんてことは

受けてきた人生相談や恋愛相談で散々言ってきた言葉だ

そんなことは言われるまでもなく、解っている

でも、解っていても……

天乃「っ」

この件に対する答えを渇望してしまう

空腹を訴える胃の痛みのように、知りたくて、聞きたくて胸が鈍く痛む

夏凜『……解ってるなら。自分で考えなさいよ』

天乃「どうしても、夏凜は何も言うつもりはないのね」

夏凜『これは天乃が――』

天乃「もう良い……もう聞かないわ。ごめんなさい、無駄な時間を使わせて」


夏凜が言い終える前に一方的に電話を切った天乃は

端末を取り落として、それに見向きもせずに目を瞑る

天乃「……どうして」

布団を強く、強く握り締めて

風吹けば消えてしまいそうな声で呟く

六月とはいえまだ少し涼しさのある夜

けれども、体の熱、目頭の熱は冷めることを知らなくて

天乃「教えてくれたっていいじゃない……馬鹿」

横になっても中々寝付くことは出来なくて

恨みを込めたつもりの一言は酷く悲しげで

目を覆うようにあてがった手の甲に……ほんの少しの水滴を感じた


1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(ラブレター)
・   犬吠埼樹:交流有(ラブレター)
・   結城友奈:交流有(ラブレター)
・   東郷美森:交流有(ラブレター)
・   三好夏凜:交流有(昨日のキス、ラブレター、夏凜の意見)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(見破れた理由、ラブレター、デートをしてみる)

・      九尾:交流無()

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



6月9日目 終了時点

  乃木園子との絆 48(少し高い)
  犬吠埼風との絆 42(少し高い)
  犬吠埼樹との絆 39(中々良い)
  結城友奈との絆 57(高い)
  東郷美森との絆 41(少し高い)
  三好夏凜との絆 40(少し高い)
  乃木若葉との絆 37(中々良い)
  土居球子との絆 26(中々良い)
     沙織との絆 49(少し高い)
     九尾との絆 42(少し高い)
      死神との絆 38(中々良い)
      稲狐との絆 30(中々良い)
      神樹との絆 9(低い)

 汚染度???%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


√ 6月10日目  朝(自宅) ※水曜日

01~10  若葉
11~20 
21~30 
31~40  球子
41~50  見かけたら110番した方がよさそうな人
51~60 
61~70 悪五郎

71~80 
81~90 
91~00 夏凜


↓1のコンマ  


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




ネタを入れると当たるようです
このイベント後、何事もなければ朝または昼で強制的に女子生徒交流
夕方に交流となる予定です

……何事もなければ


では、初めて行きます


朝、ふと目を覚ます

いつも通りの何も変わらない目覚めではなく

視線を感じるがゆえの不快感が心地よさから意識を引き出すような……覚醒

天乃「………」

天乃はベッドの上に体を収め、眠りからは覚めつつも

瞳を開くことなく、眠っている振りを続けて

視線の主を感覚的に追いかけていく

カーテンの閉められた窓側から感じる太陽の熱

部屋の中に漂う空気の呼吸による流れ

些細な動きすら逃さず捉えた天乃は、

カーテン側に向けて目を開くのと同時に体を起こし、カーテンを力いっぱいに開く

天乃「逃げな――」

天乃の部屋は二階にあるため、その窓に影が映る。という時点で不可解ではあるが

けれども、近くに木がそびえているし、

それなりの身体能力があれば覗くことも不可能ではない

だから球子や九尾だったりが悪戯の為に朝から頑張っているのではないか

昨日の件もあるし、不器用な夏凜のことだから九尾に唆されたりしたのではないかって

いろんなことを考えていたし、身構えていたつもりだった


けれど、視界に映ったのはそんな想定を遥かに超越し

身構えていた心を塗りつぶすように、白く

その姿は――一片の乱れもなく、タイツだった

天乃「い……いやぁぁぁぁぁぁぁッ!」

窓は締まっていたがそんなことも関係ないといわんばかりに

天乃の拳はガラスを撃ち貫いて粉砕し、不審者の顔面を捉える

「ふごっ」

木ではなく、どこかから調達してきたはしごで上ってきていたソレは

堪えきれずバランスを崩し、一足先に脚立が倒れ、殴られた反動で僅かに後退し

そのまま自由落下していったが、着地の瞬間、受身を取ってダメージを回避すると

真後ろにある木をけり上って枝先に立つ

「良い拳だ。実に素晴らしい」

天乃「な、なんなの……誰!?」

砕けたガラスで切らないように破片の散った布団を丸めて床に避け

割れた窓をはさんで向かい合う不審者を睨む

全身タイツの男は、良く見れば目と口の部分に切り込みが有り

視界や呼吸くらいは確保できているようで

瞳がしっかりと自分を見つめているのだと解ってしまった天乃は、総毛立つのを感じて身震いする


天乃「警察呼ぶわよ!」

「どうぞ。好きに呼んでくれ」

脅しのつもりではない。むしろ本気で言った

にも関わらず、声から察するに男であろう変質者は

そうしてくれと、手を広げながらむしろ推奨して、笑い声をこぼす

「ただし、呼んだ瞬間から警察が来るまで精一杯の悪戯をして捕まることにする。それでいいならだが」

天乃「ぅ……」

「足が動かない状態で俺を退けることが出来る? ほら、呼ぶんだ。呼んで襲わせてくれ!」

明らかに頭のねじが飛んでいる

お酒で酔っているとかどうとかいうレベルではない

それが当然のような壊れ方をしているのだと天乃は思い、唇を引き締めていく

相手は明らかに本気だ。色々な意味で

だから、簡単に行動は出来なかった


「そう怖がらなくていいぞ。俺のことは親しみを込めてタイツさんと呼んでくれ」

天乃「呼ぶわけないでしょう……変態」

「……グッド」

天乃「ひぃっ!」

侮蔑したつもりなのに、相手の声が余りにも嬉しそうで

見えないはずの表情がなぜか恍惚としているように思えて

流石の天乃も間の抜けた声を漏らして、体がビクビクと恐怖に揺れる

天乃「な、なにが目的なの……」

ドキドキと緊張に高まっていく鼓動を感じ、胸元に手をあてがった天乃は

じっとりとした汗を握り締め、ごくっと喉を鳴らす

変態の実力は、過小評価しても一般人より遥かに上だ

というのも、脚立の上で殴り飛ばされてから

問題なく受身を取って、ノーダメージで居るのだから、当たり前だ

付け加えれば、おそらく。殴ったダメージもない


「目的というかなんと言うか、だな。今日はたまたま見つかっちゃったのさ」

天乃「え? た、たまたま……?」

「普段はこんなことはないんだが。相手は女の子とはいえ、デートするとか言う話になって動揺しすぎたか」

うん。きっとそうに違いない

そんな風に納得してうなずいた不審者を見ていた天乃は

ちょっと待って、待って、お願い、待って。と

心が激しく拒絶するのを感じて体を強く抱きしめる

何でそんなことを知っているのか

いや、知りたくない。聞きたくない。と

「そんな怖い顔するなって。俺は味方だ」

天乃「貴方みたいな味方なんていないわよ! むしろ要らない!」


「はっはっは。照れるな照れ――!」

嬉しそうに笑っていた変質者は、何かに気づいたように口を噤んでしゃがむ

その瞬間、鞘に納まったままの刀が男の頭上を通り抜けて、黄金色の髪を靡かせた若葉が姿を現す

若葉「まだだ!」

「!」

振りぬいた腕が戻るのを待たずに左足を曲げ、容赦なく男の顔面を蹴り上げる

いや――蹴り上げたつもりだった

しかし、変質者は枝から滑って怠け者のようにぶら下がってそれを回避すると

わざと上を見上げてにやりと笑い、

そのまま地面へと降りたって、困ったように首を傾げる

「ん~白なのは評価するが、妹香がない。その時点で失――」

若葉「はぁぁぁぁぁッ!」

余裕綽々に語る変質者目がけて飛び降り、刀を振り下ろす。が

「っと!」

男は二歩後退りして回避する

けれど、若葉はそれと同時に着地すると

負けじと追撃の踏み込みで地を蹴とばして刀を真横に振りぬく

「甘い」

若葉「当てる!」

男はもう一歩引き下がって回避したが

若葉は振りぬいた反動を利用し、

右足で力強く踏み込んで一気に距離を詰めると

そのまま左肩で変質者の胸部を打つ――はずだったが

男は若葉の肩甲骨のあたりを押し弾いてそれを回避して、両手を広げる

「残念だが、それでは絶対に当てられないな」

煽っているようにしか思えない言葉

しかし、それは決して間違っていないと思わせる実力差が、二人にあった


若葉「なんなんだお前は……」

若葉は鞘に収めた刀をタイツ男に向け、睨む

自分の実力が誰よりも勝っているなどと思ってはいないが

しかし、それでも一般人には勝っていると思っていた

たとえ男が相手で力が劣っていようと技術で賄うことが出来ると思っていた

それが、どうだ

天乃を守ることを優先したがゆえの不可視の太刀を躱され、下着を見られ

居合ではない一閃、その追撃

全てを軽く躱されて、なおも余裕を見せられて……

絶対に当てられないだろうという男の言葉を、

あろうことか受け入れてしまいそうな自分がいる

そのことに目を見開き、激しく首を横に振った


若葉「普通の人間では……ないのか?」

「フッ」

この姿を見て普通の人間だとでも思うのか

そう言いたげに鼻を鳴らして笑うと

不審者は若葉を指さしてクイックイッっと、招く

向かってこい、かかってこい

そう、挑発するように

「あいつを守りたいなら、俺を倒せ。じゃなきゃ……守り切ることなんて出来ないぞ」

若葉「あくまでも、天乃に手を出す気なら。これ以上手は抜かない」

左腰に刀を付け、右足をゆっくりと引き

左手で鯉口のあたりを掴み親指で僅かに唾を押す

一般人相手に抜刀など愚の骨頂

しかしながら、これはただの人間ではない

本来の力を発揮できる居合ですら届くことすら不安にさせるほどの相手

だから若葉は、殺意をもって目を向ける

若葉「その代わり、これを抜く」

「勝ったら、天乃を好きにしていいのか?」




1、やめなさい、若葉!
2、天乃も参戦する
3、見守る
4、そんなわけないでしょう!
5、勝って、若葉!
6、助けて、夏凜!

↓2


01~10  勝利
11~20 
21~30 介入

31~40  勝利
41~50 
51~60 
61~70 介入

71~80 
81~90  介入
91~00 

↓1のコンマ  


空欄敗北


偶数 夏凜
奇数 変質者の同類だけど味方の方


↓1 コンマ


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


夏凜参戦


タ  ただ
イ  妹と
ツ  付き合いたいだけの人生だった


では、はじめていきます


天乃「勝って、若葉!」

もはや意味の薄れた窓を開け、庭で変質者の討伐を請け負う若葉に願いを叫ぶ

若葉は動かない、目さえも向けない

それほどに余裕がないのだろう、それほどの緊張感が高まっているのだろう

戦いなれた天乃も、ソレは感じている

けれども、底知れない不安から願いは零れ落ちてしまったのだ

そして、その不安が伝わったのかもしれない

若葉は緊張を解くように居合いの姿勢を解くと、

深呼吸をして、相手をまっすぐ見つめる

若葉「……私は弱い。それは認めるほかないだろうな……」

「…………」

若葉「だが、なればこそ――目の前にあるただ一つだけは絶対に護りぬく」

そう決めたのだと、若葉は男に対して鋭く目を向けた


さっきと同じ構え、だが、硬さがない。迷いもない

清流のように穏やかで、滑らかで、乱れがなく

しかし、一瞬にして激流へと変貌しかねないその姿を前に

変態は、自分の余裕を捨ててにやりと笑う

力量差はあるが、この本気に対して手を抜くというのは、

自分が一番認められなかったからだ

「俺が勝ったら。天乃とチュウしちゃうから……頑張ってくれ」

若葉「いくぞ!」

男の言葉に激高することなく、地面を蹴って足を滑り出した若葉は

その初動で一気に距離をつめるのと同時に鍔をはじき、刀を抜き出して斬り出す

ヒュッ! っと音がした

何の抵抗もなく、ただ風だけを斬った音

若葉は体を止めず、すぐに右腕を強制的に動かすと

振り返るよりも先に背後の空間を切り裂く

ほんの僅かな感触を手に感じ、振り返りながらもう一度横一閃になぎ払って、間を埋める


若葉「素手であることに、感謝する」

ヒュンッと音を鳴らして刀を納めた若葉は、真っ白タイツの一部が切れた男を見つめ

もう一度、居合いのための型に収まっていく

若葉「でなければ、私のこの刃の間合いに入ることすらなかっただろうからな」

一瞬に全てを込めるため、精神の全てを集中させる

素手相手に刀というのは、プライドがやや赦せないが

しかし、それほどの相手なのだ

意地を張って収めたままには出来ないし

抜刀してなお、皮一枚裂くことが出来ただけで、怪我一つない

若葉「次は、当てる」

ゆっくりと姿勢をかがめながら威嚇するように囁き――地を蹴る


足が掠った小石がじゃりじゃりと弾け跳び、巻き上げられた砂塵が渦巻く中

若葉と退治する変質者は左半身を前にした体制のまま動くことなく待つ

それは余りにも不気味だった

余裕があるからという安易なものではなく

そうしておけば良い、向かってきたものを打ち払えばいいというような雰囲気

……カウンター狙いか

そう判断した若葉は、片隅に別の可能性も控えさせた上で、直進

相対する瞬間に軸足で地面を強く蹴って勢いを殺して後退し、もう一度距離をとる

若葉「……速い」

気づけば、男の左手が若葉の本来の到達地点に置かれており

迷わず攻めていたら。と、若葉は目を見開いて、しかし深く息を吐いてもう一度地面を蹴りだす

ここまで、相手は殆ど逃げているがその速度には一度も追いつけていない

翻弄され、スカートの中を覗かれて……恥ずかしい思いをさせられた

だが、だからこそ攻めなければいけない。相手に攻めさせてはいけない

なぜなら、【攻められたら躱せない】からだ


若葉「ふっ――はぁッ!」

気合と共に瞬動、地面から数センチ程度の飛行とも言えない超々低空飛行で距離を詰めた若葉は

足全体が着地する前につま先で強制的に着地し、地面を抉る勢いで踏み込み――抜刀

若葉「!」

刀から伝わってきた衝撃に若葉は目を見開き、唇を噛み締める

刃ではなく、その側面を打たれたからだ

「まだ、遅い」

変質者は刀身を打ち止めた左肘を伸ばし、若葉の右手を掴むと

そのまま力業で引き寄せて手首を逆に捩じり、力が一瞬抜けた隙を狙って鍔を内側から打って刀を奪う

若葉「くっ」

「これでキ――」

逆刃、逆手で刀を持った変質者は、そのまま若葉へと刀を振り抜こうとした瞬間

何かに気づいたように後ろに飛びぬく

それとほぼ同時に男を追うように石が落下し、

赤いリボンによって一つに束ねられた髪を靡かせて、それは介入する

夏凜「させるかぁぁぁぁぁぁッ!」

いつもの学生服を着込んではいるが、しかし、勇者のように両手に一本ずつ木刀を持つ


夏凜「天乃には触らせない!」

高く叫び、介入の勢いそのままに男へと肉薄した夏凜は

左の刀を振るって回避させると、そのまま一直線に男へと突撃する

それが回避されると判りながら、わざとらしく一直線に

全力をもって刺突を試みる

「甘いな」

変質者は右の刀を蹴り飛ばすと、引き下がるのではなく、

バランスを崩した夏凜に向かって距離を縮め、拳を強く握りしめて夏凜の下顎を狙い穿つ

だが

夏凜「甘く見るんじゃないわよ!」

夏凜は態勢を立て直すことなく、踵で地面を蹴り

逆に男の顎を狙ったが、しかし

「!」

男はその足を手で受けて後ろに飛ぶ

「……さすが、あいつの愛弟子だ」

男は小刻みに震える右手を一瞥し、余裕の見える笑みを浮かべる

「オーケー、サレンダーだ。さすがに、夏凜とそっちの子を一人で相手にするには手が抜けない」

若葉「手が抜けない、だと?」

「怪我をさせに来たわけじゃないんだ、悪いが。本気で相手するわけにはいかないからな。許せ」


両手を上げてひらひらと振った男は、

二歩後退って容易く外壁に上って、窓から心配そうに見ている天乃を見上げて、指さす

「次こそはハグさせてもらうぞ! 絶対にだ」

天乃「絶対に嫌!」

夏凜「とのことだから――」

天乃の拒絶が叫ばれた瞬間

音もなく地面を蹴とばした夏凜は誰にも悟らせずに男の眼前へと肉薄

夏凜「帰れ!」

皹の入った木刀を全力で振り下ろす

しかし、次の瞬間には男の姿はすでに消え、外壁に接触した木刀が砕け散る

天乃「夏凜……」

夏凜「……天乃」

二階と一階の庭、離れた二人は互いに目を向けて、相手に届くはずもない小さな声で名前を呼ぶ

昨晩、酷い別れ方をした

天乃は最後まで話を聞くことはなかったし

夏凜は天乃の言葉に答えては上げなかった

その後ろめたさから何も言うことのできない二人を、若葉は戸惑ったように見つめ、息をつく



1、とりあえず、上がったら?
2、貴女は、さっきの人を知ってるの?
3、なぜ、ここにいるの?
4、ありがとう……でも、帰って


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




天乃「なぜ、ここにいるの?」

夏凜「わ、私がどこにいようが関係ないじゃない」

天乃「ここじゃなければの話よ。ここは私の家だから、聞く権利がある」

夏凜「……昨日はもう聞かないって、一方的に電話切ったくせに」

若葉(分かりやすいな……本心)


では、少しだけ


男が去って、静けさが戻ってくる

それでも、嵐が爪あとを残すように彼の存在感もまた色濃く残り、

どこかへ消えたが、気づけば目の間に居るのではないかという不安が募るが

しかし天乃の目は、若葉を助けた女子生徒へと向く

どうして、ここに居るの? 夏凜

そう聞きたい気持ちを抑えるように目を伏せた天乃は

窓から下を覗いて、夏凜に声をかける

天乃「貴女、さっきの人知ってるの?」

夏凜「あんな変質者知りたくないわよ。まぁ……」

外と中、上と下で別れているせいで、夏凜の言葉は最後まで聞くことは出来なかったが、

表情から呆れていたり、不服そうであることは察して、言葉を噛み潰す


もっと、言いたいことある。もっと違うこと

今日、デートしてくるからって……ううん、そうじゃなくて

天乃「っ」

昨日の電話でのやり取り

夏凜に非はなくて、一方的だったのは自分なのだと解っている

だから自分が気をつければ取り繕うことは出来るはずなのに

また同じ会話になるかも知れないと、言葉が萎縮する

その心を悟ったわけではないのだろうが、夏凜は木刀を拾うために少しだけ歩くと

土埃を払いながら、息をつく

夏凜「別に、私が来たくてきたわけじゃないわよ」

天乃「そうなの?」

夏凜「うちに居るでしょ。こういうのに煩いやつ」


呆れるように言った夏凜は、木刀を袋にしまうと

天乃を見上げてなにかを言いたげに唇を引き締める

何か言いたいことがあるの?

何かしたいことがあるの?

そう聞くことが出来ればいいのに、天乃は出来なくて

ただただ見つめ合った夏凜は、若葉に向き直ってそのまま歩き去っていく

若葉「良いのか?」

夏凜「            」

若葉「だが、悔しいが私一人でヤツを抑えることはできない」

夏凜は若葉の言葉を受けて天乃に振り返ったが

すぐに首を横に振ると、若葉を見る

夏凜「             」

若葉「それは昨日の天乃だろう。今の彼女を見てなおそうだと思うのか?」



夏凜の言葉は遠い上に小さくて聞こえないが

若葉はわざとらしく大きな声で話してくれるおかげで断片的には聞こえる

昨日……私が突っぱねたから。よね

きっと、そうに違いないと天乃は二人を見下ろしていた瞳を細める

その表情はどことなく、苦しそうで

若葉はそれを視界の端に収めながら、夏凜の前に立ちふさがった

若葉「本当に、それで間違いないと言えるのか?」

夏凜「           」

それでもやっぱり、夏凜の声は聞こえない



1、夏凜、一緒にいて
2、ごめんなさい……昨日は私が悪かったわ
3、貴方がそうやって何も言わないから。何もしてくれないから。私は!
4、何も言わない
5、若葉。夏凜の邪魔をしないで上げて


↓2


天乃「か……」

若葉が何かを言ったせいなのだろう

もう一度振り向いた夏凜と目があった天乃は、思わず言葉を詰まらせて

ぐっと唇を噛み締めると、ずっと自分を見つめ返してくる

どこか悲しさをにじませる表情の夏凜に、きっと。自分も似たような表情をしているのだろうと

天乃は思って、窓枠を掴む手に力を籠め、夏凜を見返す

天乃「一緒にいて、夏凜」

夏凜「             」

夏凜の声は届かなくて

けれども、何かを言ったのだと気づいた天乃は

表情が険しく厳しいがゆえに、夏凜は自分に憤っているのだと、思ってしまう

しかし、夏凜は拳を強く握り、天乃を見上げると

夏凜「――しょうがないわね! あんたは!」

そう叫んで、呆れ交じりにため息をつくと

天乃を見つめたまま、困ったように笑って見せる

その呆れは、天乃に対してというよりも

自分自身に向けているようだと、若葉は感じて、苦笑した


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば昼頃から
逆に日曜日は恐らくできません




一方的に電話を切られたことにご立腹ながらも
頼られると受けてしまうようです


では、はじめていきます


√ 6月10日目  朝(学校) ※水曜日


天乃「おはよう、ごめんなさいね。呼び出して」

「い、いえ……特に、何もしていませんでしたし」

天乃は学校につくと、さっそく一年生の女子生徒を呼び出した

昼休みでも良かったのかもしれないが

遅ければ遅いほど、不安にさせるし、期待させてしまう

その結果が、とりあえずは関わってみてから。というのは

お断りよりは穏やかかもしれないが、少し、可哀想な気がしたからだ

天乃「…………」

「っ」

凄く、緊張してるのね……目を合わせたいのに、磁石のように遠ざかって

何を言われるのかが知りたいと渇望するのと同時に、激しく拒絶していて、震えちゃってる

きっと、貴女のような人こそ……恋をしているのだと、言えるのかもしれない

そう思う天乃は、同じ思いを抱いていない自分はきっと

この子にはまだ恋をしていないのだろうと、悟って

天乃「まだ、私は貴女のことを知らないわ」

「……はい」

天乃「だから、まずは貴方のことを知りたい。知ってから、ちゃんと考えて答えを決めたいと思う」


天乃「何も知らないまま、こうだと思うから付き合うなんて言って、勝手に期待してから幻滅するのは失礼だし」

その逆に、何も知らないまま、勝手にこうだと決めつけて付き合えないというのは失礼だと思う

だから、まずは知ることから始めたいと思う

そのことを伝えると、女子生徒は不安そうな顔から一転して、嬉しそうな笑みを浮かべると

震えていた体を治め、泣きかけていた瞳で天乃を見つめる

「ありがとう、ございます」

幸せを感じる声色に天乃は困ったように微笑む

そのあとに振られるかもしれないのに……

恋をするというのは人を元気にさせる事もその逆もできてしまうのね

天乃「ふふっ、お礼を言われるようなことはしてないわ」

「あ、えっと、その!」

天乃「?」

「まずは……お昼。一緒にどうですか? 一つ解放されてる空き教室を知ってるんです。そこで、その……二人で」


1、良いわよ
2、お昼は……ごめんなさい用事があって「
3、事情があって、一人連れていたいの。夏凜もいていいかしら


↓2


天乃「いいわよ」

「あ、有難うございます!」

本当に、心から

見ている人も、ただ偶然見かけた他人も

思わず笑顔になってしまいそうなほど嬉しそうな姿を、女子生徒は見せる

ただ、お昼ご飯の誘いを受けたという

友人やクラスメイト、部活の仲間などなら至極当たり前のように行う

何の変哲もないことを、とても――

「あっ……」

HR開始の鐘が鳴り出すと、女子生徒は残念そうに声を漏らして

お昼、楽しみにしてます! と、去っていく

天乃「……誰かを好きになるって、やっぱり。幸せなことなんでしょうね」

私は、それをできるのだろうか

ううん、それ以前に

あれほどの幸せを感じられる相手を、私はまだ知らない

夏凜にも、沙織にも……あんな態度。だから

天乃「羨ましいわ。貴女が」

恋する乙女の後姿を眺め、天乃はそう。溢した


√ 6月10日目  昼(学校) ※水曜日

01~10 
11~20  夏凜
21~30 
31~40 
41~50  風
51~60 
61~70 
71~80 
81~90 
91~00  友奈

↓1のコンマ  


「こ、こんにちは。久遠先輩いますか……じゃなくて、いらっしゃいますか!」

3年生のところには行き辛いだろうと迎えに行く途中

そんな心配が的中したのか、階段の踊り場で行くか行くまいか躊躇い

一人でそんな劇を披露する女子生徒を見つけて、天乃は小さく笑って声をかける

天乃「久遠先輩なら、すぐそこにいるわよ」

「ひゃっ、はい! ありが、じゃな……久遠先輩っ!」

天乃「ふふっ、午後になっても元気いっぱいなのは。学生として評価できるわ」

褒めたつもりだったが、女子生徒は顔を赤くして目を伏せる

その恥ずかしそうな表情に、天乃はもう一度声なき笑みを浮かべた

後輩で、幼さがあるというのもあるのかもしれない

でも少しだけ、可愛いと思う

自分もこの子を好きになったりしたら。そんな愛らしい姿を見せることが出来るのかしら

……うん、それはちょっと。無理だわ

天乃「空き教室まで連れて行ってもらってもい――」

風「天乃ー? 何してるの?」

「あっ」

風「ん? あぁ……これからお昼なら、一緒に食べる?」


風「ん? どうしたのよ。そんな呆れた顔して」

天乃「すごいわね。貴女」

褒められてる気がしないんだけど? と

納得いかない顔をする風に対して、天乃はため息をつくと

すぐそばにいる女子生徒へと目を向ける

二人きりが良いと思っているんでしょうね

でも、先輩の言葉だから。それを嫌だと言ってはいけないみたいな縛りを感じて

とても、辛そうな顔をして……

天乃「全く……」

風「?」

天乃「悪いけれど、私は先約があるの」

風「一人くらい追加したって、いいんじゃない?」

天乃「貴女は名前の通り空気をどこかへと吹き飛ばしてしまうのね」

遠慮なく言う風に、天乃は軽く睨みを聞かせて言うと

行きましょう。と、女子生徒を促す

「で、でも」

天乃「良いの。今日は貴女と食べる。そう決めていたから」

後ろめたさを感じる女の子の肩を軽く押してもう一度促して振り向くと

なぜなのかわからないと言った表情で佇む風は、不意に怒りを感じり瞳で女子生徒を見ると

そのまま、階段を下りて行った


「……ここです」

案内された教室は、普段使っている教室と比べると狭く

清潔に保たれてはいるが、机や椅子などの半分、物置という状態で

解放されているという割には、誰もいなかった

天乃「解放されているという割には、誰もいないのね」

「はい。本来なら鍵がかかってるはずなんですけど。少し手を加えると鍵が開くようになっているんです」

それはつまり壊れているということなのだが

天乃はその点を指摘するよりも、女子生徒の浮かない顔を見つめて、息をつく

さっきの風の介入が響いているのね

後輩というのは、こう言う所に弱い

それが、慕う相手の知り合いなのなら、尚更

天乃「………」

とはいえ、さっきの風はすこし気になるわね……でも

今はこの子を、元気づけてあげないとね



1、そんな顔してると。私も楽しめないわ
2、風の事は気にしなくていいわ。貴女と約束していたんだから
3、手に触れる
4、いつまで風の事を考えているの? 私のことは、考えてくれないの?


↓2


「っ!」

後ろからそっと手に触れると

女子生徒は驚いて身をはねさせて振り返り

天乃へと目を向ける

その目を、天乃は見つめ返す

嫌悪感は感じない。ただ、驚いただけ

そんな当たり前のことを思い、天乃は驚いたそぶりを自分も見せると

ため息をつくように笑みを浮かべて、手を引く

天乃「誘ってくれたのは貴女と風」

「それは……」

天乃「けれども、私が選んだのは貴女よ。もしも風に嫌な思いをさせたのだと罪悪感を感じているのなら。償うべきは、私」

そう言うと、女子生徒は何かを言いたげに口を開いて

けれど、口を閉じて唇を噛み締める

その表情はより一層、悲し気に見えた


天乃「風から差し伸べられた手を払ったのは私なのだから」

きっと、それで妬まれるのはこの子

けれど、その責任そうさせた原因は私

だからこそ、その償いは私がすべきこと、悩むべきは私

天乃「……狡い言い方しか出来なくて、ごめんなさいね」

「いえ、そんな……」

それはつまり

女子生徒が悩めば悩むほど、天乃への責任を積み上がっていくということ

ゆえに、女子生徒も下手に口を挟むことは出来ず、この話はここで終わらせるべきだと、切り替えるほかなくなる

「……………」

女の子は天乃に背を向けたまま、自分の胸元に手を宛がい、

静かに、深呼吸をする

誰かを好きになるのは、誰かと付き合いたいと思うのは

そのために、行動するということは、

こういうことの連続だって、覚悟はしていたはずで

だから、気にするのはこれで最後にしなければいけない

つみ上げてきた道徳、世のため人の為であれ。争うこともなく、共に生きるというものは

恋愛に適応することなどできはしない

「実は、お弁当作ってきたんですっ」

だから、女子生徒は気持ちを切り替えて、お弁当を差し向けた


天乃「あら……ありがとう」

九尾が作ったお弁当があるというのもあるが

しかし、味覚がないから正当な評価をしてあげることは出来ないから

天乃は困ったように笑って、けれども悲しませないようにと

差し出されたお弁当を受け取る

天乃「早起きしたんじゃない?」

「えへへ……少し。でも、辛くはなかったです」

苦笑しながら、幸せそうに言う女子生徒を横目に

天乃はお弁当の中を見て、ほほ笑む

まだ味を知ることはできないが、努力だけは感じる

冷凍食品のような正確さのないハンバーグ、ほんのり焦げかけのウインナー、

出来立てはやや半熟目だったのか、黄身のしみ出した卵焼き

細かく刻まれ収まりの良いミニサラダ、ほうれん草の浸し

どこにも、残り物や冷凍食品と言った手抜きがない

残り物は当たり前に減点対象だとしても、冷食くらいなら。多少は許せるというのに

全てを手作りに収めたそれは、まさに、女の子の愛情そのものだ


天乃「どれも、美味しそうね」

だが、味を感じてあげることはできない

ただただ、愛情を感じるばかりで

それに対して気持ちを返してあげることはできない

一般人だから、何も知らないから……生れる弊害

「実は、お母さんから色々と教えて貰っていたんです」

天乃「厳しい人なの?」

「いえ、真逆です。優しいです。好きな人が出来たら、まずは胃袋を掴むべしっ! って」

ぐっと拳を突き上げて見せた女の子は

照れくさそうに笑って手を引っ込めると、優しくて熱い人なんです。と、続けた

「容姿や身分に頼らず、努力をもって勝利を勝ち取る。それが、一流の女なんだって」

天乃「それはそれで、立派な考え方だと思うわ」

「……だから、食べてみてください。そこにあるのが。私の努力、私の心です」


天乃「努力と、心……」

本当に、眩しく思える

今までも似たように恋する人々を見てきたし

その人たちを何度も導いて、時には成就させ、時にはつなげられずに悲しみを慰めることもした

だけれども、それらはすべて客観的に見ていた

まるで自分の事のように語り、感じ

しかしながら、結局は他人事だと、心は強く揺らぐことはなかった

なのに

痛みを孕むであろう心を抱きながら

その一瞬を、ひと時を、幸せに、喜びに満ちた表情で生きている目の前の少女が

今はどうしようもなく、羨ましく思える

天乃「…………」

そして、だからこそ、申し訳ないと思う



1、いただきます
2、ごめんなさい。私には……味覚がないの


↓2


天乃「ごめんなさい。私には……味覚がないの」

これが彼女の努力であり、心だというのなら

そしてそれに対して嘘偽りのない評価をしてあげられないのだというのなら

好意を向けられているものの責任として、

いずれ瓦解する希望を与え続けるわけにはいかないと、天乃は決意して、告げる

天乃「貴女の好意に嘘をつきたくない。その努力と心を裏切りたくない」

「そんな……そんなっ、なんで……なんでそんな」

両足が動かせないのはずつと知っていた

入学した時から車椅子に乗っていたから、だから。そうなんだろうと知っていた

左目が見えなくなったのはつい最近だ。3年生の先輩たちも大赦のお役目のせいだと不敬なことを言い出しているのを耳にした

お役目で学校を休むことが多くなった。もしかしたら不治の病に侵されているのではないか

そのことを悟らせないように、大赦のお役目だなどと?をついているのはないか

そんなうわさが流れ始めた

それを……嘘だと。信じてこなかったのに

「病気……なんですか?」

天乃「……………」

「足が動かなくなって、左目が見えなくなって、味覚が無くなって……治らない。病気なんですか?」


そこまで、重いものではないというべきか

むしろ、それと似たようなものだというべきか

一般の人間であるこの子は

勇者やバーテックスという現実を知ってもなお

今まで通りでいられるのだろうか

天乃「……あぁ、やっぱり」

以前、男子生徒の告白に対して言ったように

自分と一般の子達ではすむ次元が違う

味覚の件を話して

左目の件が幸いにも。というべきか

病気だと思ってくれたけれど……

「久遠先輩……私」

天乃「?」

「私じゃ、駄目ですか! おそばにいるのは……私では。力不足ですか?」


自分がどうしても普通の側にはなれないと

所詮、自分の日常は非日常であるのだと

そう、諦めを感じて目を伏せた天乃の手を取り、女子生徒は声を張り上げて

私を見て欲しいと、胸元に手を宛がう

「介護も、なにも……まだ。経験はありません。でも、努力します。だから……」

天乃「貴女は……」

そこまでの好意を、なぜ抱くことが出来たの?

話したこともないような、私に

病気が真実ではないけれど

でも、治る可能性が乏しく失われることが容易なこの身を

そうと思いながら、なぜ。そこまで言えるのか

天乃「いや、それこそ……恋というものなのかもしれない」

「久遠先輩……」



1、私が今年中に死ぬ可能性があるとしても。愛することが出来ますか?
2、私と貴女とでは。生きる次元が違う……世界は、常に死と隣り合わせよ
3、ごめんなさい。やっぱり、貴女と付き合うことはできないわ


↓2

※2は勇者とバテクスに関して明かします


その気持ちはどれほど大きなものなのだろうか

客観的に見ることが出来ていたそれは

その時に使っていた尺度は、もう。役には立たない

だから、自分よりも背の高い後輩を見上げ、問う

天乃「私が今年中に死ぬ可能性があるとしても。愛することが出来ますか?」

とても残酷なことを

それが現実になるかどうかも分からないのに

しかし、最も可能性の高いことだから

彼女の瞬き一瞬のうちに、死してしまう可能性さえあるから

だから、訊ねた天乃を少女は見つめて、自分の胸元に置かれていた手を握り締めて、首を横に振る

「愛することはできません」

天乃「なら――」

「だって。私はもう、久遠先輩を愛していますから」

死の可能性を思い、嘆き、しかし捨てきれない希望を抱く少女の頬を

涙は静かに流れていく

「私が絶対に、久遠先輩を来年に連れていく。そしたら、再来年。そしたらまた次に」

天乃「………………」

「祈るだけじゃ何も変わりません。だから、私は行動したい。死んでしまう可能性があるのなら。生きられる可能性に、しがみ付きます」


天乃「まだ一年生なら、もう少し――」

「だからこそ。私は夢が見たいんです」

一年生の男子が、良く口にすることがある

雑誌に載っているようなアイドルの女の子たちを見て

付き合えたらいいよな。と

そのたびに言う。馬鹿なこと言うなよ。現実見ろ。と

中学生になってからというもの、夢を語るということが少なくなって

何かをするには勉強が必要だったりお金が必要だったりと

現実を知って、それについて考えていかなくてはいけなくなった

それがきっと、成長するということで

それこそが、大人になるということなのだろうと少女は思う

だけど

「恋愛だけは。夢を見てもいいじゃないですか。大好きな人との未来を。0.1%の幸せな未来で考えていたっていいじゃないですか」

少女は願い、悲しみに膝を折って床につくと

天乃の手を握り、目を見つめる

死んでしまうという最悪な別れの可能性を告げられたからこそ、

より、愛は深いものになっていく

天乃「っ………」

愛は絶望さえも糧に育ち、希望に向かって伸びていくものなのではないかと

天乃は初めて、思った


天乃「私が死ぬかも知れないという言葉が嘘だと疑わないの?」

「そんな体で……嘘だと言えますか?」

浮かない表情の天乃の言葉に

女子生徒は涙ながらの笑みを浮かべて首を横に振る

「それが冗談だったらいいなとは思います。でも、今の久遠先輩は嘘だって言うのが嘘にしか聞こえません」

天乃「……まぁ、そうでしょうね」

二年前の健康な時期を知っていようが知るまいが

両足が動かせない状態で迎えた今年、半月を過ぎた段階で左目までも失ったうえに

欠席することが増えているのは事実

もはや、死にぞこないというのも嘘ではなくなりつつある

問題はないという方が、信じられない話だ


1、……で。味の評価をしなくてよければ、お弁当食べて良い?
2、貴女の気持ちは分かったわ。でも、私は貴女を悲しませたくない
3、なら、私が勇者という存在で。バーテックスという敵と戦い。その結果こんな障害を負っているという言葉も信じられる?
4、恋をすると、どこまでも無謀になってしまうのね



↓2


では、今回は早いですがここまでとさせていただきます
明日は出来れば行いますが、なければ明後日。通常時間からとなります





(バーテックスや勇者。私の知らなかった世界、真実。そんな場所で、久遠先輩は……)

神樹「直ちに樹海化警報発令、部外者を排除してください」

「え……ぁ――」


では、少しだけ

天乃「……なら」

この子の心は本物だ

伊達や酔狂だと他人は思うかもしれないけれど……いや

ここまで一途な姿を見せられたら、他人でさえもそうとはいえなくなるかもしれない

だけど。だからこそ

天乃「私が勇者という存在で、バーテックスと呼ばれる敵と戦い。こんな障害を負っているという言葉も信じられる?」

知るべきではないこと

信じることなんて到底無理な、飛びぬけた非日常を伝える

私という人間と近づく為に、受け入れなければいけないことだから

「……突然。ですね」

女子生徒は平静を装うとしているが

頬に見える僅かな汗が、驚嘆を表して伝い落ちる

天乃「そうね……まるで。貴女をコケにしているみたい」

「……………」

不敵な笑みを浮かべる天乃を少女は見つめて、悲しげに目を逸らす


顔を見ても考えていることがわからない

手先を見ても、感じていることがわからない

まだ中学一年生という幼さが、その経験不足が

少女と天乃の差を浮き彫りにしていく

「っ」

体が焼け焦げてしまいそうなほどに、尽くしたいと思うのに

その熱は、行く当てもなく彷徨うだけで……ただただ、痛くて苦しい

「それが、大赦のお役目。ですか?」

だから、考える。だから、思い出す

好きになってしまったこの人が、どんな状況下にあるのか。どんな目にあっているのか

この学校で見聞きした全てを、茶化したような言葉に当てはまるかを試していく

天乃「どうかしら」

「以前、忽然と姿を消したって。話を聞きました」

しっかりと目を見て、動揺しないかと探りを入れる

「その勇者という名前が共通している勇者部の皆さんが、です。だからもしかしたら、私達の知らない何かがあるのかもしれない」

一つずつ、言葉を選んで紡ぐ

常識的に考えてばかげていると思うようなこと

けれども、天乃の言葉を信じるとすれば、その妄想的な考えが正しい

「それは、常識では考えられないような事……たとえば、勇者とバーテックスの戦い。とか」


天乃「信じるの?」

「クラスの男子がそれを言ったら。何馬鹿なこと言ってるのって言うかもしれません」

でも。と、女子生徒は言葉を続けて

ゆっくりと立ち上がると、教室の窓から見える、霞んだ遥か遠方を見つめる

「私は久遠先輩のことを信じたい。それに、厳重に立ち入り禁止とされてる壁の外の真実」

天乃「………」

「蔓延したウイルスがバーテックスだとも考えられます。護るのが物理的な壁なら、ウイルスも、対するワクチンも。形があってもおかしくない」

女子生徒は、自分が知っていることを一生懸命に繋ぎ合わせ

それらしい物語を考えたに過ぎない

しかし、そこには天乃の言葉が偽りではないという信頼

真実であるという前提がある。要するに、少女は天乃の言葉を疑っていないのだ


天乃「どうして私を信じるの?」

「久遠先輩が好きだから」

条件反射のようにそう言った女子生徒は

自分自身の言葉に恥じらうことはなかったが

徐に「それだけじゃないですね」と、少し悲しそうにつぶやく

「今の私にはできる事なんて全然ないから。だから、少なくとも。信じる事だけはしたいんです」

天乃「こんな、ばかげた話でも?」

「馬鹿げていても。久遠先輩がそれが本当だっていうなら信じます」

揶揄っている可能性だってないわけじゃない

それでも、信じたいのだ

誰かに話しても馬鹿げていると否定されることだから

嘲笑されかねないことだから

もしもそれが真実だった時、抱え込んでいるものを少しでも手伝うことが出来るように

「あ……食べそこなっちゃいましたね」

いつの間にか時間が経っていたらしく、昼休みが終わりの鐘が鳴ると

女子生徒は残念そうにそう言って自分の手を付けていない弁当を鞄にしまう


「すみません、私が余計な話をさせちゃったから……」

天乃「ううん、話を続けたのは私だから」

手元にある、すっかり冷めきってしまった彼女の手作りのお弁当

目を向けた天乃は小さく息をつく

彼女の努力、彼女の心

それはきっと、このお弁当のように簡単に冷めることはないだろう

……味覚、返して

体の一部が犠牲になることは解っていたし、それを承知で力を使った

それで失ったものを惜しんだことは、殆ど無い

それで傷つけてしまったものもあるけれど

でも、守れたものがあるからだ

けれど今は……今だけでも、一瞬でも、たった一口でも。味覚が欲しいと思った


「久遠先輩……?」

天乃「…………」

どうするべきなのだろうか

普通なら食べ終えているものだけれど

こうなってしまった時、普通の人なら

がっついて食べるのだろうか、後で美味しくいただきますと預かるのだろうか

前者は味わって欲しい人からのものな場合、愚策

後者がとても妥当な策ではあるのだが、しかし

天乃には【美味しく頂く事】が出来ない

彼女ならばそんなこと気にすることなく

むしろ気を使わせてごめんなさいと受け取ろうとするだろうし

美味しく食べられない理由が嘘偽りなくあるのだから

申し訳無いと返すことだってできるはずだ

けれども、天乃の気負う性格は……それをしかたがないことだとは思わない

だから、迷い躊躇う


1、ごめんなさい……お弁当は返すわ
2、ごめんなさい……でも、後でしっかり頂くわね
3、一口食べる
4、これは後で頂くわね。ところで、夕方は空いてる?


↓2


天乃「ごめんなさい……お弁当は返すわ」

「……はい」

女子生徒は残念そうだったが、

それもやむなしと思ったのだろう

文句や野次一つ飛ばすことなく弁当箱を受け取ると

それを自分の鞄の中にしまって、天乃を見る

味のない食べ物を食べる苦痛は知らないが

少なくとも、不味い食べ物を食べるような簡単な事ではないのは、分かる

だから、味覚がないのなら仕方がないと女子生徒は思う

そう思うから、罪悪感を強く感じている天乃を放っては置けない

知らなかったとはいえ、何も言わずに作ってきた自分に非があるとも思うからだ

「そんな顔しないでください。私が勝手にしたことですから」

むしろ、迷惑かけてすみません。と

女子生徒は頭を下げた


天乃「ううん、私も黙っていたから……」

「でも、久遠先輩はそのみんなに黙っていることを、話してくれたんですよね?」

味覚の事だけでなく、

足や左目、味覚などの件が

全て大赦のお役目、バーテックスと戦う勇者というお役目による影響であるということも

それを女子生徒が笑って言うと

天乃は驚いた表情で、女子生徒を見つめた

天乃「本気で信じるの?」

「私の気持ちは変わりません。みんなの力になれる先輩の、力になりたいから」

少女の笑みに、天乃はしばらく唖然として

不意に眼を逸らすと、くすくすと笑って、息をつく

本当に見事だわ……恋愛とは、恋とは

ここまで人を愚か者に出来るものなのね

どこからともなく、勇気を湧き出させるものなのね

天乃「……そう」

いつか、彼女と同じ気持ちになれるのだろうか

一言一言に熱を帯びて、悲しさと、切なさを抱いて喜びに弾む。その声を

私はいつか、口にできるだろうか

天乃「他言はしないでね。一般の人はまだ。貴女にしか、話していないんだから」

「話すはずないですよ。久遠先輩と、私の。大事な秘密ですから!」

その笑みは春の日差しのように、心を温かく抱きしめてくれた


√ 6月10日目  夕(学校) ※水曜日

01~10 
11~20  夏凜
21~30 
31~40  女子生徒@いない
41~50  風
51~60 
61~70 友奈

71~80 
81~90  樹海化
91~00 

↓1のコンマ  


√ 6月10日目  夕(学校) ※水曜日

1、風
2、東郷
3、友奈
4、夏凜
5、沙織
6、東郷
7、クラスメイト
8、部室へ
9、女子生徒に会う
0、イベント判定

↓2


では、ここまでとさせていただきます。
明日もできれば通常時間から



夏凜「なによあんた、あっちは良いわけ?」

天乃「うん。とりあえずはね」

夏凜「……嬉しそうね」

天乃「そうかしら……?」

夏凜「そんなたのしかったなら、向こう行けば良いじゃない……」

夏凜(嬉しそうに笑って……ッ)


では、初めて行きます


夏凜「一緒に居てって言ったくせに、教室行ったら一年生に会いに行ったとか。面白い冗談だったわ」

天乃「ごめんね。あの子のことも見極める必要があったから」

呆れて言う夏凜に、天乃は申し訳程度の罪悪感を抱いて言う

その表情には僅かな謝罪と微かな笑みが混在していて

ふざけるなと張り倒そうかと考えて、ため息をつく

夏凜「あんな空き教室初めて知ったわ」

天乃「来てたの?」

夏凜「廊下で待機してたのよ。あんな変質者が出たばかりだけど。邪魔。するわけにもいかないと思ったし」

本当は知らないふりをして乱入しようとも考えた

けれど、普通に話をするのかと思えば

お弁当の話になって、味覚の話になって、とても大切な話になったから

割り込むことが出来なくなって壁に寄りかかったまま、

廊下で昼食をとりつつ話を聞いていたのだ


夏凜「あのまま、夕方も約束取り付けるもんだと思ってたわ」

天乃「それも考えたけど……申しわけなくて」

そういって笑みを浮かべながらも

表情に影を差している天乃を見つめ、夏凜は薄く鼻を鳴らすと目を伏せた

相変わらずの性格だからだ

抱えないで欲しいと女子生徒は思っただろうに、こう、抱えてしまっている

その女子生徒の気持ちを知っているのに

そう言う性分なのだから、仕方がないともはや諦めるしかないのかもしれない

夏凜「色々泣き叫んでたけど。聞いてた限りじゃ、満更でもなさそうだったわね」

天乃「そうね……真実を話したこと。怒ってる?」

夏凜「大赦も流石にそんな軽率な真似はしないだろうって高をくくってたでしょうね。伝わったら大変そうだわ」

大赦には報告済みだと思っていたけれど

言葉を聞く限りでは、まだ……いや、少なくとも夏凜からは伝えてないというように聞こえる

天乃「伝えなかったの?」

半ば深刻そうな天乃に対して

夏凜は面白おかしそうに笑って見せると、その視線に気づいて、呆れた目を向けた


夏凜「そんなこと見逃したって知られたら私が怒られるっての。下手に広めない限りは、3人だけの漏洩問題で済むし」

天乃「ふふっ、大赦の勇者として失格よ?」

どうしても見上げなければいけない天乃は、見上げるのを止めて口元に手を当てて笑う

それは笑みの通りに嬉しそうで。

なぜだか、自分までも嬉しくなってくる

夏凜「うっさいわね……大赦の勇者なんてつまらない肩書き要らないわよ」

天乃「そんなこと言ってる時点で、怒られるんじゃない?」

夏凜「あんたが告げ口しなきゃ平気」

天乃「じゃぁ、2人の秘密ね?」

その微笑が、嬉しそうな顔が

揺れ動く体と髪が、微かに広げていく清潔な匂いが

なぜだかいつもと違うように思えて

冷めていたはずの体が、熱くなっていく

夏凜「ったく……」

だから、目を逸らす。見ていられなくて、見られたくなくて

一言一言に、どうしようもなく喜んでしまう自分の顔を

それをただ、無邪気に話しているだけの子供のような友人を

視界の外へと追いやって、笑みを飲み込む


夏凜「悪くないやつだと思ったわ」

天乃「?」

夏凜「あんたのことちゃんと考えてて。本気で尽くそうとしてくれてるじゃない」

唐突に切り出されたのが、突然ではなく

つながりのある女子生徒のことだと気づいた天乃は「そうね」と、呟いて前を向く

昨日は何も言ってくれなかったのに、今日は言ってくれるのね

そう思う心の悲しさを感じ、痛みを覚えて、目を瞑る

その理由が、解らなくて。

夏凜「あんただってそう思――」

天乃「夏凜だって、尽くしてくれてると思うけど」

夏凜「は、はぁ? そ、それはほら……仲間。だし」

天乃「……殆ど名前は呼んでくれないけど」

夏凜「それは……」

一旦は感謝するように述べながら、

解消できないもやもやへの八つ当たりのような言葉をつなげて、

驚いた夏凜の瞳に映る自分はどんな表情なのかと、夏凜へと目を向ける


夏凜「なんか、そっちの方が呼びやすいのよ」

天乃「友奈達は名前で呼ぶのに?」

夏凜「別に意識したわけじゃなくて、あん……嫌ってるわけでもないけど。なんか、気づいたらそっちで呼んでんのよ」

つい最近も言われて直した

でも、そう呼ぼうとしていないとすぐにまた「あんた」と、呼んでしまう

言ったとおりに言いなれてしまったのか、それとも……

天乃「ごめんなさい、ちょっと。八つ当たりしただけだから」

夏凜「いや、私も気をつけるはずだったのに。気を抜いてたら世話ないわよね」

夏凜も自分の非を認めるように言うと、困ったように笑う

嫌いなわけじゃない。わざとそう呼んでからかっているわけでもない

本当に、ただ、そう呼んでしまう

理由はきっと、どことなく湧き出す気恥ずかしさ

それでも頑張って、息を呑む

夏凜「それで、あ、天乃は、どうするつもりなのよ。色々」

天乃「な、なんで緊張してるのよ。私までなんかこう……ドキドキするじゃないっ」


夏凜「う、うっさいわね! いいから話進めなさいよ!」

天乃「そんなこと言われたって」

夏凜「部室行かないで呼んだのだって、理由があんじゃないの?」

照れくささを隠すように、声を上げる

呼んだ夏凜も、呼ばれた天乃も

互いに喧嘩するように声を上げて、睨むように見つめ合って

だんだんと下がっていく熱、正反対にあがっていく熱

それぞれを感じながら、目を逸らす

天乃「それは」


1、あの子(女子生徒)に関して話がしたかったの
2、変質者がまた来るかもしれないから、一応合流しておきたかったの
3、お昼にね? 風が少しおかしくて
4、別に……いいじゃない。大した理由がなくても
5、夏凜には好きな人とか居る?



↓2


天乃「別に……いいじゃない。大した理由がなくても」

夏凜「……え?」

天乃はどこか遠くを見ていた目を夏凜へと向ける

理由がなければいけないのか

それがなければ会うのも呼ぶのも駄目なのか

天乃「夏凜が迷惑だっていうなら、やめるけど」

夏凜「…………」

誰かが開けっ放しにした窓から、風が入り込んでくる

廊下を駆け抜けていくそれは

天乃の髪を撫で、夏凜の頭を優しくなぞって去っていく

天乃「やっぱり。迷惑?」

罪悪感を抱いて

申し訳なさそうに笑って見せる表情が

どうしようもないほどに、視界を奪っていく

そのあとに続く言葉を、まだ聞いてもいないのに頭は考えて

勝手にそれを言われるんだろうと、心を締め付ける

意味が分からない。理不尽だ、ふざけるな

虐げられる心がそう叫ぶ。けれども、どこかで誰かが分かっているはずだと言う

けれど、夏凜にはそれがまだ。分からなくて

夏凜「あんたの迷惑なんて、今に始まったことじゃないでしょうが」

出てくる言葉はやっぱり【あんた】で

夏凜「それを嫌がってるやつが、今ここにいるかっての」

言葉はどうしても強くなってしまう

けれども思いは中途半端に伝わって

驚きに目を見開いていた天乃は潤みかけていた瞳を閉じて笑みを浮かべる

夏凜「ったく……」

その表情に惹かれるように。ため息をついた夏凜は、目の前にある桃色の髪を。頭を。優しくなでた


では、ここまでとさせていただきます
明日は恐らくできません。
次回は明後日のすこし早めの時間。大体19時頃を予定しています





夏凜「ったく……」ナデナデ

天乃「ん……」

「……………」

(三好先輩と、久遠先輩……あんなにくっついて……私にはあんな顔。見せてくれないのに)

(三好先輩……三好先輩も、なんですか……?)


では、はじめていきます


天乃「なによ……子供扱いして」

頬を染めて僅かに膨らませながら、言葉のみを不服そうに言う天乃は

自分の頭に触れる夏凜の手を取って、夏凜に目を向ける

天乃「私は貴女の先輩なのよ?」

夏凜「なんか子供っぽいのよ。天乃は」

車椅子に座っている天乃と

立っている夏凜では、当然ながら身長差があって

見下ろしているからかもしれない

ずっとそう感じるわけではないが

夏凜には時々、天乃が子供っぽく思える時がある

普段はとても大人びているように見えるのに

言動が、たった一つだけしか違わないとは思えないような時もあるのに


夏凜「よく、わからないけど」

じっと見つめてしまっていることに気づいた夏凜は

誤魔化すようにそういって天乃から目を逸らすと

やり場のない手をじれったそうに動かして、横目で天乃を見る

天乃「ん?」

夏凜「っ」

その姿を不思議に思った天乃の仕草に

夏凜はまた、歯噛みして俯くと「そこら辺が子供っぽいのよ」と呟く

無垢というべきか、無邪気というべきか

純粋さを感じさせる表情が子供っぽく思わせるのだろうと夏凜は思う

それは友奈にも言えることなのだから、

こんな気恥ずかしさを覚える必要はないはずなのだが……


時折子供っぽいといわれることがある天乃としては

そこまで珍しいことでもない

というのも、悪戯したりからかったりしていれば、そういわれるのも仕方がないからだ

天乃「夏凜は子供っぽい私と大人っぽい私。どっちがいい?」

夏凜「はぁ?」

いつも以上の呆れた声

何を言っているんだこいつは。とでも言いたげな訝しさを感じる瞳

それを受けた天乃は少し寂しそうに眉を潜めて

天乃「そう言うのの好みってやっぱりあるだろうし、せっかくだから参考までに聞いてみようかなって」

夏凜「何の参考になるのよ……」

夏凜はやっぱり呆れたように言うと

天乃をチラッと見て、困ったようにため息をつく

天乃「なにか、かも」

それでも聞いてみたかった。どっちの方が好ましいのか

わけもわからずに答えを求める胸の奥の高鳴りと、微かな熱を感じて

無意識に期待を込めた眼差しを向ける


夏凜「あくまで私個人的なものでいいなら、答えてあげても良いけど」

天乃「うん、それでいいから」

夏凜「そう期待されても困るけど……」

夏凜はその期待を感じたのだろう

そういいながら、気まずそうに眉を潜めて、目を逸らすと

ふっと息を吐いて、空気を切り替え雰囲気を変える

お遊びのような質問にそぐわない、とてもまじめな雰囲気だった

夏凜「馬鹿みたいな夢を見る子供の方が私はいい。誰一人、本当の意味で誰一人欠けない未来を夢見てくれるなら。そっちがいい」

天乃「……それは、私だって」

夏凜「解ってるわよ。でも、あん……天乃は大人だから。いざというときは仕方がないって考えてるじゃない」

見透かしたように、悲しげに

そう言った夏凜は愁いを帯びた瞳を天乃に向ける

大人だから、いざというときは仕方がない。そう考えて犠牲になる覚悟をしている

子供だったら、どこまでも夢と希望にまっすぐで絶対に誰も犠牲にならない道を求める

そう思うから、夏凜は言う


夏凜「昼休み、話を聞いてて思った」

天乃「…………」

夏凜「天乃が後輩だったら。同級生だったら。もっと子供だったらって」

そうしたら、今みたいな自己犠牲精神に溢れた人間ではなかったかもしれない

100%の幸福を求めてくれていたかもしれない。と

それを語りながら、しかし、嘲笑するように笑う

天乃ではなく、

そんな叶うはずもないことを思う自分自身に呆れて

夏凜「でも、大人な天乃だからこそ。私達はここまでこれた。いざこざを起こしながらも、強くなろうとしてる」

らしくないと思ったのだろうか

驚いた顔をする天乃に対して夏凜は鼻を鳴らして、目を逸らす

夏凜「全部、無茶するあんたに無茶させないため」

天乃「頼んでない」

夏凜「私達も頼んでない。むしろ、無理すんなって頼んでるんだけどね」


笑いながらそう言った夏凜は、そこにないなにかを追うように顔を上げると

ふと、思い至ったように天乃へと目を向けて「だから」と、続ける

夏凜「私は時々馬鹿で、時々まじめな天乃のままで良いと思ってる」

天乃「ばかって……」

夏凜「天乃が気を張ってると、こっちまで気疲れすんのよ」

ちょっとした質問への長い答え。本気な気持ち

最後まで聞いた天乃は茶化す言葉を探して

見つけたそれを、飲み込んで目を逸らす

天乃「何まじめに答えてるんだか」

夏凜「知らないわよ。なんとなく、今言っておかないとって思ったのよ」

天乃の言葉に照れくさそうに返した夏凜は

それに。と、続けて

夏凜「言っても天乃は守らないから、せめてやろうとしたときに怒る理由付けくらいしておくべきでしょ」

天乃「みんなが怒るの? それとも、夏凜?」

夏凜「さぁ? その時に隣にいるやつでしょ」

そう言った夏凜は天乃の車椅子を押して、階段の踊り場へと運ぶ

夏凜「部室行くわよ。依頼があるかもしれないし」

天乃「うん」

今はまだ、きっと。このままだろう


√ 6月10日目  夕(学校) ※水曜日

01~10 
11~20  依頼 夏凜
21~30 
31~40  依頼 
41~50 
51~60 
61~70 依頼 天乃 恋

71~80 
81~90 
91~00  依頼

↓1のコンマ  


夏凜「来てやったわよ」

天乃「連れてこられたわ」

友奈「夏凜ちゃん、久遠先輩も」

部室へと入るや否や、

友奈は少し困ったように名前を呼び、

目を向けた先にいる東郷は天乃達に目を向けて一礼すると

東郷「間が良いのか悪いのか。判断付けにくいわ」

そうぼやく

その隣でパソコンの画面を見ていた風は

やっぱり、困った様子で天乃を見る

風「天乃、天乃にはちょっと大変かもしれないけど。いける?」

天乃「内容がないと何とも」

主語のない問いかけに

天乃も困ったように笑って言う

けれど、その時点ですでに

自分にとってはあまりよくないことだと言うのは

薄々、感じていた


樹「久遠先輩に恋愛相談が来てるんです。それも、3年生の……久遠先輩の隣のクラスの教室に来て欲しいって」

風「この簡易的な文面から察するに、対象は天乃の可能性もあるのよね……だから」

樹の言葉につなぐように言った風は

天乃を心配するように見つめて

風「今日の昼休みだって、教室にいなかったけど。ラブレターの子に付き合ってたんでしょ?」

夏凜「確かに、さっと見切りつけられるならともかく、長々と考え込んで真面目に付き合うとなると多人数はきついわ」

なぜ大変なのかを悟った夏凜は

天乃の後ろ、車椅子の持ち手を握ったままそう言うと

振り向いた天乃に、目を向ける

天乃「見切りをつけるなんて、そんな適当なこと」

夏凜「出来る人間じゃないでしょ。あんた。だから大変だって言ってんのよ。もしあれなら、私が代わりに断ってやってもいいけど」

そんな代理返答すら、認められる質じゃないでしょ? と

夏凜は呆れたように言う

東郷「どうしますか? 久遠先輩……と言っても。選択肢なんてあってないようなものかもしれませんが……」



1、一人で教室に行く
2、夏凜と教室に行く
3、風と教室に行く
4、樹と教室に行く
5、友奈と教室に行く
6、夏凜に代理を頼む
7、少し考えたいという


↓2


では、ここまでとさせていただきます。
明日もできれば通常時間から




死神「!」

九尾「どうかしたのかや?」

死神「タッタ、シボウフラグガタッタ!」

悪五郎「縁起でもないな……俺が言えたことではないが」


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「そうね……無下にするわけにもいかないから」

天乃はそう言うと、後ろに控えた夏凜へと目を向けて

天乃「夏凜、付き合ってくれる?」

笑顔で言う。断らないでくれるだろうと確信しているように

夏凜は「はぁ?」と言いたげに眉を潜めたが

その代わりにため息をつくと「解ったわよ」と、呟く

風「なんか、東郷と友奈が二人になった気がするわ」

樹「そうだね、久遠先輩と夏凜さんなのは解ってるんだけど、凄く仲が良いから」

嫌がっているような態度を取りつつも結局は付き合う夏凜と

そうなると解っているからか、その優しさに甘えている天乃

二人の相性は友奈と東郷のように丁度いいのかもしれない。と

風と樹は友奈と東郷を見て、天乃と夏凜を見て

楽しげに、笑みを浮かべる

最初の出会いは正直、凄惨なものだったはずなのに……と


夏凜「何ニヤついてんのよ。風!」

風「べっつにぃ~?」

夏凜「全然別にって感じがしないんだけど」

風「べっつにぃ~?」

夏凜「繰り返すなぁっ!」

ニヤニヤと笑う風に対して怒鳴る夏凜を、天乃達は微笑ましく見つめて

その笑い声に、夏凜はまた、笑ってんじゃないわよ。とぼやく

天乃「べっつにぃ~?」

夏凜「あんたも繰り返すな……っていうか、待たせてんだからさっさと行くわよ」

天乃「あっ、ちょっと――みんなまt」

ピシャリと扉が閉められて、静けさの戻った部室で

残された四人は余韻を感じ終えて、誰かというわけでもなく小さく笑う


東郷「本当、夏凜ちゃんは久遠先輩が絡むと楽しそうですね」

友奈「うん。なんだか嬉しそう」

樹「怒鳴ってても、それがなんとなく伝わってきますから」

その三人の言葉に続けて、風は「だからからかいたくなっちゃうのよねぇ」と

意地悪な笑みを浮かべる

樹「やりすぎちゃだめだよ。お姉ちゃん」

風「解ってる解ってる」

解っているのかいないのか

解りにくい風の笑みに、東郷と友奈はほんの少し困った笑みを向け合う

それでも、天乃のからかいよりは優しいのかもしれない。と

樹は困った様子で夏凜の無事を願う

樹「夏凜さんも大変ですね」

風「そうねぇ」

東郷「半分は風先輩ですよ?」

願わくばこのままの平穏が続いてくれますように。と

護りきることが出来ますように。と

神に祈ることなく、思い、願い、東郷は楽しげな友奈たちを見て、笑みを浮かべた


三年生の教室の前にたどり着いた天乃は

後ろの夏凜に振り返ると、何も言わずに扉へと向き直って一息つく

自分への告白だと決まったわけではないが

その可能性が拭えない以上、返事を考えなければいけなくて

夏凜「今から悩んでどうすんのよ……悩みたいなら時間が欲しいって言えばいいだけじゃないの?」

天乃「でも……」

夏凜「待てないなんて急かす根性なしなら、私がぶっ飛ばす」

半ば本気で言う夏凜に、天乃は苦笑して

胸を撫で下ろすようにため息をついて「うん」と、うなずく

天乃「付いてきて貰って良かった」

夏凜「まだ何もしてないけど」

天乃「夏凜といると変に緊張するのが馬鹿らしくなるのよ。にぼしの匂いって目立――」

夏凜「せめて存在って言え」


天乃の言葉遮って言った夏凜は、天乃の横から手を伸ばして

けれど、天乃は「大丈夫」とその手を止め、自分で扉を開く

天乃「ごめんなさい、待たせちゃったわよね」

「いや、呼び出したのはこっちだから気にしなくて良いよ。それよりも……」

そこで言葉を切った男子生徒の目が、天乃ではなく

その後ろにいる夏凜へと向いているのを察して、天乃が振り向く

天乃「いないほうが良い?」

「そう……だな。久遠にだけしか関係ないことだし。聞かれたくもないことだからな」

天乃「そうよね……」

夏凜「じゃ、外にいるから」

男子生徒の言葉を聞いた夏凜は、一瞬目を瞑ると天乃の肩を叩いて

一言告げてあっさりと教室の外へと出て行く

その後姿を見送った天乃は、ふっと息を吐いて、男子生徒と視線を交わす


後ろの存在感

それがないだけで、ほんの少し不安になる

自分はこんなにも弱かっただろうか

扉一枚隔てただけなのに、こんなにも心細くなるものなのだろうか

そう思った天乃は、息を呑んで。目を瞑る

誰かから向けられる好意を知ってしまったから

告白をされ、事情を聞いてもなお愛せる人もいると知ってしまったから

そう――私は不安なのね。きっと

誰かに愛してもらえるかどうかじゃなくて

その人が求める愛を与えてあげられるのかどうか

その人のことを、幸せに出来るのかどうかが――不安なのだ

愛してくれる分だけ、愛してあげられるのか。幸せに出来るのか

夏凜には聞かれたくない事、自分にしか関係ない事と言われたことで

それを考えなければいけないことだと言うのが殆ど確定してしまったから


後ろの存在感

それがないだけで、ほんの少し不安になる

自分はこんなにも弱かっただろうか

扉一枚隔てただけなのに、こんなにも心細くなるものなのだろうか

そう思った天乃は、息を呑んで。目を瞑る

誰かから向けられる好意を知ってしまったから

告白をされ、事情を聞いてもなお愛せる人もいると知ってしまったから

そう――私は不安なのね。きっと

誰かに愛してもらえるかどうかじゃなくて

その人が求める愛を与えてあげられるのかどうか

その人のことを、幸せに出来るのかどうかが――不安なのだ

愛してくれる分だけ、愛してあげられるのか。幸せに出来るのか

夏凜には聞かれたくない事、自分にしか関係ない事と言われたことで

それを考えなければいけないことだと言うのが殆ど確定してしまったから


天乃「……大丈夫」

きっと悩むことだから

時間が欲しいと言えば良いだけ

それが駄目なら、夏凜がぶっ飛ばしてくれるから。と

天乃は自分の胸に手を宛がって息をつくと

男子生徒を真っ直ぐ見る

天乃「それで、私だけの用事って。なに?」

「ああ……俺と久遠はクラスも違うただの同級生でしかないけど」

天乃「……うん」

「一年のころからずっと……その、な。好きなんだ」

男子生徒はそう言うと、天乃へと近づき、手を差し伸べる

「たとえこれから久遠がさらに体を悪くしたとしても、ずっと……だから。良ければ付き合ってくれ」

少しばかりの気恥ずかしさと、溢れんばかりの好意を受けて

天乃は驚いた様子もなく、ゆっくりと目を伏せて

やっぱりそうなのね。と、意外にも落ち着いた心で思う

体を悪くしても好きでいてくれるというのは

もちろん、嬉しいことではある

理由はまだ明かせてはいないが、これからまた一層と体調を崩してしまう可能性があるし

それでも「こんな障害持ちとは付き合ってられない」と、見限られない可能性があるということだからだ

けれど、やはりすぐに答えてあげられる気がしなかった

女子生徒の時もそうだが

良く知らないままに、付き合えないと断言するのは彼に失礼だろうと考えてしまうから

天乃「私が体調崩すようになったから?」

「あと一年足らずだからな……卒業までにはって、ずっと考えてたんだ」

そう言って笑みを浮かべる男子生徒に、天乃は目を向けた


1、貴方は、私を守ってくれる?
2、すこし考えさせて
3、そうね……まずは友達からでお願いできない?
4、貴方は、私が今年中に死ぬとしても。愛してくれるの?


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日(31日)は出来れば昼頃に少しだけ。出来なければ翌々日(1日)





天乃「貴方は私を守ってくれる?」

「当たり前だろ」

タイツさん「ほう。守れるかどうか。見せて貰おうか」

「!?」

夏凜「出たわね変質者!」


では、微速前進


天乃「なら、貴方は私が今年中に死ぬとしても愛してくれるの?」

「今年中……!?」

女子生徒にも訊ねたことを繰り返す

当然ではあるけれど、その二人の反応は全く違っていて

天乃はそうよ。と、頷く

天乃「貴方がどれだけ私に尽くしてくれても。私はその分の愛を貴方に返せないかもしれないということよ」

「それは、久遠が俺の事を好きにはなれないってことか?」

天乃「現時点で私と貴方はただの同級生だから。その可能性もある」

冗談にはならないことだし、全くの冗談ではないから

男子生徒には少々酷い言葉だと理解したうえで

天乃ははっきりと答える

今後の交流に左右されるのはもちろん

それが報われる可能性と報われない可能性があり

頑張ってきたこと、費やした時間

それらが無駄になる可能性があるのだから

簡単に平気だと言える話ではないはずだ

それを平気だと言わせてしまうのが恋心というものなのかもしれないが


「でも、絶対じゃないんだろ? その今年中にっていう話」

天乃「そうね……あくまで可能性の話」

死ぬことはなくても

今以上に障害が増えていって、学校に来ることが出来なくなったり

会うことすら、話すことすら、存在を認識することすら

彼の存在を覚えていることすら、出来なくなる可能性さえあるのだけれど

天乃「貴方はその無駄が耐えられる? もしも愛し合った後で私が死んだ際にまた普通の生活に戻ることが出来る?」

「お前……」

男子生徒は何かに気づいたのか、

驚いたように見開いた瞳で天乃を見ると

悲しそうに息を漏らして、眉を顰める

「久遠が心配なのは久遠がいなくなった後の事なんだな」

天乃「……………」

「自分の事なんてほとんど心配してない……そんなに、危ない状況なのか?」


今年の傾向を知っていれば、そんなことは聞くまでもなく明白だと言っていいレベルで

それでなくとも、今年中に死ぬ可能性があると言うほどなのだ

聞かずとも察してくれていいと天乃は思いながらも、

男子生徒の聞いてしまうその気持ちを理解して、笑みを浮かべる

天乃「自分の死後を心配するくらいには」

「!」

その笑みはとても綺麗に見えた

花火が散る事で輝くように、花が散り際こそ美しいように

その表情はとても切なげで

死ぬということに対してのわずかな諦めさえ感じる

だから

「今からそんなこと言うなよ!」

天乃「っ」

男子生徒は声を張り上げて、天乃へと詰め寄った


√ 6月10日目  夕(学校) ※水曜日

01~10 
11~20  夏凜介入
21~30 
31~40  樹海化
41~50 
51~60 
61~70 手

71~80 
81~90  体
91~00 

↓1のコンマ  


「まだ助かる可能性だってあるんだろ!?」

天乃「それは……」

眼を逸らす。そんな可能性があるかどうかなんて

それこそ、神のみぞ知る。というものだからだ

ただの病気だったらいくらだって治療法を模索できるだろう

けれど、そうじゃない

守りたいものを守った代償として

神様に自分の身体機能の一部を持っていかれる満開と散華

それが勇者にはあって、天乃にはさらに

満開と同等の力を得られる分

たった一回の被弾が死に直結する状態があり

いずれにしろ、守るための犠牲は避けられないのだ

障害を負うか死ぬか。死ぬのが絶対ではないにせよ

侵攻してくる勢力次第では、その究極の二択も選ばなければいけない

「なんで、そんな顔するんだよ」

天乃「……ごめんなさい」

「その可能性すらないって言うのか?」

天乃「…………」


自分のことを想ってくれているのは痛いほどに良く分かる

けれど、助かるかもしれないなんて希望的なことは言えない

もし死なずに済んだとしても

彼のことを覚えていない可能性すらあるからだ

それゆえに悲し気な顔をする

それを見る男子生徒はただの同級生でしかないから

大胆な行動をとることが出来ないもどかしさに歯噛みして

強く握りこぶしを作る

「だったら、俺が生きたいって思わせてやる」

天乃「私は」

「久遠が嫌な可能性なんてちっとも考えられなくなるくらいにする……だから。俺と付き合ってくれ。久遠」

今度は照れくささなど微塵も感じさせない決意に満ちた表情で

差し出された手、向けられる瞳はまっすぐに天乃に向く



1、友達からではだめ?
2、ごめんなさい……考えさせて
3、例えば、どんなことをしてくれるの?
4、それは無理よ。この世界からウイルスという驚異が無くならない限りね


↓2


天乃「なら、例えばどんなことをしてくれるの?」

生きたいと思えるようなこと

今でも思っていないわけではないが

より強く思わせてくれそうなことを言う男子生徒に

天乃は期待を込めた眼差しと、笑みを送る

気持ちを煽ったり茶化したのではなく

純粋にその行動あるいは言葉を見せて貰いたかった

「そう言うかもしれないって、分かってたはずなんだけどな」

男子生徒はそう言うと

困ったようにはにかんで髪を掻く

「今ここで出来る事なんて言ったら、これくらいだ」

天乃「これって――」

最後まで、言えなかった

自分から止めたわけじゃない

止めさせられた……ううん、違う。止められた

言葉だけでなく、呼吸も、思考も

その重ねられた一瞬は――何も考えられなくなった


それはすぐに離れてくれたが

全く予想していなかったことに放れてしまった心は

戻ってくるまでにしばらくの時間を要して

天乃「っ……」

心よりも先に涙が伝う

その一瞬に対する感情を失っていた天乃には

それの理由が分からず、自分自身の涙に目を見開き

人差し指で拭って、目を瞑る

「わ、悪い……そんな、泣くとは」

天乃「私……」

自分でもなぜ泣いているのか分からない天乃は

ただ、キスされてしまったことが原因であることだけは……解って


1、ごめんなさい。と、退室する
2、急にするなんて……恋人でもないのに。酷いわ
3、何も言わずに退室する
4、最低……
5、選択肢を使用しない


↓2


天乃「最低……」

涙声でそう溢した天乃は、

そこから動くことなく、自分の手で顔を覆って伏せて

それを見ているしかできない男子生徒は

もう一度「悪かった」と頭を下げる

天乃「私……っ」

初めてだった。と、思う

それをあんな形で奪われてしまったのだと

後から続々と様々な感情が湧き上がってきて

おさまったはずの涙はまたさらに溢れて聞きてしまう

天乃「なんで」

「その……」

天乃「なんで……っ」

「悪――」

天乃「本当にする必要なんて、なかったはずなのにっ」


どんなことをしてくれるのかと聞いたのは天乃だ

けれども、それは聞いただけで

実際に行動に移し、フリではなく一瞬とは言え重ねてしまったのは男子生徒だ

手前で止まる手もあったはずなのに、

そんなことなど考えることなく、してしまった

その責任は自分にあると男子生徒は飲み込んで天乃を見つめる

最低なことをした

好きになって貰える可能性なんて潰えたかもしれない

けれど、それでも

「俺が悪かった……許してくれなんて言わない。償わせてくれ」

天乃「っ」

フルフルと、天乃は首を振って

しかし、顔を合わせることなく、俯いたままで

男子生徒はそれ以上天乃には何もできなくて

こんこんっと、ドアがたたかれ

男子生徒の目が向く

夏凜『まだ終わらないの?』


「あ、も、もう少し待ってくれ!」

夏凜『……なんで私があんたに聞くのよ』

男子生徒のとっさの返答に、

夏凜は半ばあきれた声でそう返して、ため息をつくと

天乃。と、名前を呼んで、間を置く

天乃「…………」

それに対する返事がなく、沈黙が続き

夏凜はもう一度「天乃」と名前を呼ぶ

夏凜『まだ、時間がかかるほどの話?』

ここに来るまでに

難しく考えたりしなくていいと

どうせ悩むのなら、時間を欲しいと言えば良い

そう言ったにも拘らず

時間がかかっているからだろうか

夏凜の声は男子生徒に対するものと比べて、少し不安が感じられた


1、もう帰りたい
2、助けて、夏凜
3、大丈夫……けど。もう話は終わったわ
4、何も言わない

↓2


天乃「助けて……夏凜」

夏凜『……はぁ』

天乃の声を聴いて、夏凜はため息をつくと

それ以上は何も言うことなく扉を開けて中に入る

その目は天乃を一瞥しただけで男子生徒へと向かう

夏凜「あんたは、天乃が助けてって言うのがどれだけの事か知ってる?」

「いや……」

夏凜「でしょうね。ま、参考程度に言うと。うどん好きの人間が蕎麦を頼むくらいに稀なのよ」

何か面白いことがあったのか

思い出したように鼻で笑った夏凜は天乃に目を向けて

夏凜「だから覚悟は良い?」

「……悪かった」

夏凜「謝れば済む程度なら、天乃は助けてなんて言わないのよ」

問いへの答えに落胆を示しながら

夏凜は確かに男子生徒へと近寄って

夏凜「ふ――ッ!」

あと数歩と言ったところで床を踏み抜く勢いで蹴り飛ばすと

顔面目がけて拳を突き出し――拳圧だけで男子生徒を殴る


「ッ……な、殴らないのか?」

夏凜「刃ぁ?」

心底呆れたように言い捨てて男子生徒を睨んだ夏凜は

握り締めたこぶしをパッと開いて振ると

天乃に振り返って近づき、その肩を軽く叩く

夏凜「あんた、本当に天乃の事が好きなわけ?」

「な、そんなの――」

夏凜「当たり前なら!」

「!」

男子生徒に目を向けることなく夏凜は怒鳴って

両手で顔を隠して伏せていた天乃も、それに驚いて顔を上げた

夏凜「……当たり前だって言うなら、絶対に助けてなんて言わせんな」

天乃「かり――」

夏凜は天乃に向けて申し訳なさそうな笑みを浮かべると

その瞳には映らないように顔を上げて、車椅子を出口へと向かわせる

夏凜「あんたは私が認めない。絶対に」

そしてそのまま、男子生徒には何も言わせずに天乃を連れ帰った


01~10 
11~20  夏凜継続
21~30 
31~40 
41~50  夏凜継続
51~60 
61~70 
71~80 夏凜継続

81~90 
91~00  夏凜@頑張る

↓1のコンマ  


√ 6月10日目  夜(自宅) ※水曜日


天乃は夏凜が同乗しなかった車で自宅へと返されたときの

運転手である瞳のもの言いたげな視線を思い出す

夏凜から何か言われたのだろうか。と

天乃「…………」

端末には夏凜やそのほかの誰からも連絡はこなくて

夜と言う静寂が、唇に受けた感触を思い返させる

天乃「っ」

思い出してしまっただけなのに

今、唇に触れているのは指なのに

なぜか、嗚咽が零れ始めて――

園子「天……さん?」

天乃「ぁ」

園子「泣いてるの?」

園子の優しい声が聞こえた


1、大丈夫よ。ごめんなさい
2、今日、告白されて……キス。されちゃったの
3、一緒に寝ても良い?
4、キスって、必ずしもいいものではないのね
5、ううん。気にしないで


↓2


天乃「今日ね……男の子に告白されて。キス、されちゃったの」

園子「……そっか」

それがまったく喜ばしいキスではなかった事

聞くまでもなく察した園子もまた

その返事はとても悲し気で

動かすことの出来ないからだ

そのもどかしさ、その苛立ち。それらを感じて目を瞑る

天乃「私もね……何ができるのって聞いちゃったから。責めることはできないとも思うの」

園子「そんなことないんじゃないかな。いきなりするのはマナー違反だよ~」

声こそ、普段通りを取り繕っているが

内心、悲しさに満ち満ちている園子は天乃の声から感情を感じ取り

決して知ることのできない天乃の悲しみを少しでも身に受けようと、耳を傾ける

天乃「それで。なぜか……泣いちゃって。男の子に最低って……夏凜に助けてって……言っちゃったの」

園子「仕方ないよ。大事なことだもん。嫌なことだったんだもん。にぼっしーだって。迷惑だって言わなかったよね~?」


天乃「……うん」

園子と話しながら、あの時見えた夏凜の表情を思い浮かべる

強い苛立ちと、強い悲しみ

それの混在させたあの表情は

早々に忘れられるようなものではなくて

天乃「今も……それを思い出したら。なぜか。ね」

園子「天さんはきっと、心のどこかでそのキスをしたい相手がいたんじゃないかな」

天乃「え?」

園子の言葉に、

天乃は間の抜けた声を漏らす

そんな覚えはない

誰かとキスをしたいと思ったことはもちろん

恋人になりたいだなんて思ったこともない

だから園子の言葉には驚きしか感じない

そのはずなのに、

心はなぜか――ドキッとした


√ 6月10日目  夜(自宅) ※水曜日


01~10 
11~20  直
21~30 
31~40 電

41~50 
51~60 
61~70 直

71~80 
81~90 
91~00  電

↓1のコンマ  


では、今年もよろしくお願いします
明日は出来れば通常時間付近から





夏凜「…………」

夏凜(天乃が喜ばない。それを分かってたはずなのに)

夏凜(本気で殴りそうだった……)

夏凜「私怨で殴るなんて、どうかしてる」


では、すすめていきます


天乃「キスをしたい相手って……それ、私が誰かを好きだってこと?」

園子「そう言うことになるのかな~?」

天乃「そんな相手……」

好きな相手がいないなんてことはない

けれども、それはキスがしたいという特別な好意のそれとは違う

しかも、仮に今わかるその好意の相手がキスしたい相手だと言うのなら

夏凜、沙織、園子、風、樹、友奈、東郷に瞳

みんながみんなその対象ということになるわけで

流石にそれはないと、天乃は首を振る

天乃「そんな相手いないわ。第一、突然キスされたら誰だって……だから。そうとも限らないでしょう?」

園子「でも……」

天乃「私はみんなの事好きよ。でも、キスをしたいなんて特別な想いは抱いたことはない」

そのはずだと、天乃は断言する

みんながみんな女の子だということは抜きにしても

キスがしたいということは特別な想いを抱いているということで

それを自分の内側に抱いた覚えのない天乃には、園子の言う可能性は

全く、想像できなかったのだ


園子「天さんは、誰かを好きになるのが嫌なんだね」

天乃「……別に。そういうわけでもないわ」

そう否定しながら、しかし、その通りなんだろう。と

天乃は園子の言葉を内側で認める

女子生徒の気持ちを聞いて、いつかそんな気持ちを持てればいいなと思ったし

憧れたりだってしていた

けれど、愛してしまったら愛されたいと思ってしまうのが当たり前で

そんな、誰かの大切な人の中で、それ以上に特別な存在になるということは

自分に万が一のことがあった時に

とてつもない悲しさを味わわせてしまうということで

決して同じと言うつもりはないが

同様の悲しみを味わった天乃としては、自分のせいでそれを誰かが経験することを

強く嫌っているし、まったく望まない


しかし、にも関わらず寄り添おうとしてくる人々を拒絶しきれない優しさがあるから

余計に苦しく、辛い思いをしてしまう

それを園子は理解しているが、いったところで治すことが出来るものではないから

下手に刺激することが出来ない

園子「でも、とりあえずその男の子とは、嫌だったんだよね?」

天乃「嫌だった……の、かしらね」

泣いてしまったことを考えると、それで間違いないのかもしれないが……

園子「なら、とりあえず……私としてみるのはどうかな~?」

天乃の不安を感じる声に対して

園子は唐突に、そう言った


1、え……・? なに、言ってるの?
2、園子は、良いの?
3、なんでそうなるのよ
4、大丈夫だから。そんな、園子は気にしないで


↓2


天乃「園子は、良いの?」

園子「あはは……」

分かっていたこととはいえ

流石に笑わずにはいられなくて、笑みをこぼす

面白いとか、楽しいとか

そう言う笑みというよりは

呆れて笑うしかないというような、感じで

園子「天さん、駄目な人が言うの?」

天乃「私は……それで慰められるならって、すると思う」

園子「みんながみんな、天さんみたいな聖人君子じゃないよ。それは、私も例外じゃない」

園子の声は普段と変わらず

色の微かに失われた瞳を天乃へと向ける

園子「ただ、私は天さんのように動けないから。天さんにして貰わなくちゃいけない」

だからこそ

嫌なのかどうかが確かめられるんだよ~と

のほほんとした声で、そう言った


天乃「そんな、体を張るようなこと……」

天乃はそう言いかけて

途中で言葉を止めて首を横に振る

園子にとっては、それが体を張るようなことではなく

むしろ、心穏やかに受け止められることであるのだろう

だから、その言葉は不適切だと思ったのだ

……みんながみんな私と同じじゃない

聖人君子って言うのは、流石に私には不釣り合いな言葉だとは思うけれど

自分を犠牲にしてでも誰かのために。そう考えるわけじゃないのなら

園子は、私とのキスを……

天乃「園子が、したいの? 私と」

園子「それを聞いちゃうんだね~」

天乃「あ、えっと」

照れくさそうに笑みを浮かべた園子は

仕方ないなぁ。と、小さく呟いて

園子「そうだよ~、私が、したい」

はっきりと言いってしまった


1、する
2、しない


↓2


天乃「……解った」

園子「良い、んだね?」

躊躇うというよりは

その行為の仕方を知らないがゆえの戸惑いを感じる天乃の仕草を見て

園子は優しく声を漏らす

慎重というよりも、臆病で

丁寧というよりも、不安で

そんな天乃はゆっくりと園子に近づき、

その四肢の投げ出されたベッドに手をつく

過負荷ゆえのキシッっという音が鳴る

近づいたことで感じる園子の匂いは

自分と全く変わらないものを使っているのに

どこか、違うもの。妖艶さを感じる

天乃「優しくするけど、初めて。だから」

園子「うん」


園子に近づくために使った車椅子が動かないようにブレーキをかけて

腕に力を込めて自分の体を車椅子から起こす

動くことが出来ず待ち構える園子は、天乃に微笑みかけると目を瞑る

天乃「……っ」

夜ゆえの仄暗さと静けさ

それがまた、キスという行為の淫靡さを増していくのを感じ、

天乃は思わず息を飲む

男子生徒に突然されたキス。その時に感じたものとは全く違う

状況が違うからだろうか……それとも

園子「……いいよ」

左手に体重を預け、園子の左頬を包むように右手で触れる

その手に感じる微かな体温

弱弱しく、しかし力強い命だ

左手全体から、手の平そして指

重心を移動させながら体を傾け、支える園子の口元を親指で撫でる

天乃「……園子」

ごめんねと言おうとした唇を噛み、園子の唇の位置をしっかりと脳裏に焼き付けてから

目を閉じつつ、しっかりと距離を縮めて――重ね合わせる

天乃「んっ」

園子「っ」

ほんのりと乾きを感じる園子の唇は、けれども女の子らしい柔らかさと弾力があって

なにより、意図していないキスではないという優しさと穏やかさが、堪らなく心地よくて

園子「――もう少し。長くても良いんだよ?」

ゆっくりと唇を離すと、園子は優しい瞳で。求めた


彼の唇にも優しさはあったし、愛情もあった。と、思う

ただ、それを感じるだけの余裕はなかった

でも、今は違った

優しさも、心も感じることが出来て

近づいた園子の匂い、温もり、唇の感触も間違いなく身に染みた

これが、しっかりとした初めてのキス

嫌悪感以前に、涙すらないキス

天乃「もう一回……」

誘われ、視線を向けた園子の唇は

どちらとも言えないぬめりを受けて、微かな明かりを受けてつやつやと輝く

園子「天……さん」

その唇は名前を紡ぎ、怪しく誘う



1、続ける
2、続けない


↓2


園子の頬をわずかに傾け、唇を重ねる

今度は、乾きのない接触

唇同士が押し付け合い、もまれて滑り

互いの上手く組み合う形に収まっていく

普通なら、鼻で呼吸するものなのかしら

そう思う天乃に答えるように、園子の呼吸は止まっていた

天乃「ん……」

そうよね。そう

それはとても苦しい事

けれど、でも。だからこそとても強く深く感じることが出来る

頬に触れている手からは園子の温もりを

重ね合わせた唇からは、園子の優しさと愛情を

狭められた間隔は、今感じるものをより強く刺激的にしてくれる

だから、天乃も呼吸を止めて瞳を閉じる

園子「ん」

天乃「んっ……ぅ」

ぬるりと伸びてきた園子の舌が唇に触れても

驚きはあっても、嫌悪感はなくて

一瞬の呻きに慄いたそれは、落ち着いたのを見計らって、天乃の舌先に触れる


園子「………」

園子には、その先の知識があった

経験があったわけではないが、

この体になってからというもの、何かを見る・読むという事くらいしか娯楽と言える娯楽がなかった園子は

もちろん、過激すぎるものこそ、大赦によって阻害されてはいたが

それなりの好意というものは文章という形で脳裏にはあった

その文章を頭の中で自分と天乃に置き換えて丁寧になぞっていく

天乃「んんっ、く……ぁ」

頬に触れる天乃の手がかすかに揺れて

唇が僅かに離れていくと、

隙を見つけたどちらのものとも言えない唾液が伝い落ちて

熱っぽい吐息が漏れる

天乃「はぁ……ぅ……んっ」

こくりと飲む天乃の喉の動き

息を飲んだのか、唾液を飲んだのか

想像掻き立てるその動きに、園子は艶かしさを覚えて……

園子「天さん、顔……ほんのりと赤くて。えっちだね」

天乃「っ……ばか」

その照れ隠しに顔を隠すしぐささえ、園子はたまらないほどに愛おしさを覚えた


園子「これ以上は、私が我慢できないや……」

天乃「え?」

園子「動けないから、ね」

園子は安易に進めない不可視の境界線を見つめて、悲し気な笑みを浮かべる

体が自由ではないからこそ

舌を伸ばす程度の暴挙で済んだ

体が動いたら、どうしていただろうか、何していただろうか

今なお艶かしさと淫らさを混在させて赤面しながら

園子の言葉にきょとんとする愛らしい人を見つめ、園子は思う

きっと我慢できなかったはずだ

手を掴み、ベッドへ引き倒すか押し倒すかして唇を奪っていただろう

園子「天さん……どう? 私とは、違う?」

天乃「えっと……男の子とは、全然。でも……」

キスをしたい相手ではないかどうか

それではないのかどうかを考えると判断に迷う

体に燻る微かな熱、唇に感じた交わりと、口腔に入り込んできた園子の心

どれも、嫌な思いはしなかった。それどころか、もう少し。と

思っていないと言えばにさえなるかもしれない

それが初めて故の戸惑いか、場の雰囲気に流されたのか

天乃にはまだ。判断できなかったからだ

天乃「なんて言えば良いの。かしら……ただ。あえて言えば」

天乃は赤面したまま自分の唇に触れると、

天乃「すこしね……気持ちよかった」

園子「!」

照れくさそうな笑みを浮かべて、そう言った


では、ここまでとさせて頂きます
明日は可能であれば、昼頃から。出来なければ通常時間付近
再開時に、10日目のまとめ




若葉「……あれは狙っての言動か?」

九尾「はっ、主様がそんな器用なわけなかろう」

球子「なん……だと……?」

悪五郎「なんて恐ろしい女だ」


では、すこしずつ初めて行きます


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(キスされて、園子は良いの?、キスする、続けて)
・   犬吠埼風:交流有(部室)
・   犬吠埼樹:交流有(部室)
・   結城友奈:交流有(部室)
・   東郷美森:交流有(部室)
・   三好夏凜:交流有(タイツ男について、一緒にいて、女子生徒と行動、理由がなくても、一緒に、助けて)
・   乃木若葉:交流有(勝って)
・   土居球子:交流無()
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



6月10日目 終了時点

  乃木園子との絆 51(高い)
  犬吠埼風との絆 42(少し高い)
  犬吠埼樹との絆 39(中々良い)
  結城友奈との絆 57(高い)
  東郷美森との絆 41(少し高い)
  三好夏凜との絆 45(少し高い)
  乃木若葉との絆 38(中々良い)
  土居球子との絆 26(中々良い)
     沙織との絆 49(少し高い)
     九尾との絆 42(少し高い)
      死神との絆 38(中々良い)
      稲狐との絆 30(中々良い)
      神樹との絆 9(低い)

 汚染度???%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


√ 6月11日目  朝(自宅) ※木曜日

01~10 
11~20  園子
21~30 
31~40  猿猴
41~50  猿猴
51~60 
61~70 
71~80 園子

81~90 猿猴
91~00 

↓1のコンマ  


夏の近づいた温い空気を感じ、目を覚ます

何気なく動いた指は昨夜園子と重ねた唇に触れる

天乃「…………」

キスをした

自分の意思で。何かしらの強迫観念もなにもなく

誘われ、自分から唇を重ねてしまった

園子「すーすー……」

だからだろう

少し離れたところで穏やかな寝息を立てる園子の顔が

微かに動く唇が、視界から逸れては入り、逸れては、入り

唇が仄かな熱を発する

天乃「……私」

昨夜のキスは温かいものだった

重ねるたび、交わるたび感じる園子が心地よかった

天乃「私は……」

今、何を思っているのだろう

窓に映る赤みがかった自分の頬に触れ、天乃は目を伏せる

天乃「……………」



1、九尾
2、死神
3、若葉
4、悪五郎
5、稲荷
6、園子
7、球子
8、イベント判定
9、勇者部の誰かに連絡 ※再安価

↓2

※9は電話

1、風
2、東郷
3、友奈
4、夏凜
5、沙織
6、東郷
7、一年生女子生徒

↓2


まだ、少し早い時間

けれども、彼女ならば起きているだろう。と

端末を手に取って、電話を掛ける

夏凜『どうしたのよ。べつに不審者が来てるわけじゃないでしょ?』

天乃「うん……来てないとは思……う?」

窓から不審者が覗いている様子はないし

窓から見える限りの庭にもその姿は――

夏凜『こっち見んな』

その姿は、ないけれど

その近くの歩道には見慣れた制服を着込み、見覚えのある顔をした女子生徒が

端末を片手に、天乃のいる窓を見上げていた

夏凜『……勘違いすんじゃないわよ。早朝トレーニングのついでなんだから』

天乃「制服で?」

夏凜『制服型ウェアよ』

天乃「無理、あるんじゃない?」


電話に出るのみならず

まさか、家の前に来ているとは思わなくて

それに驚くのと同時に、声は心なしか弾む

馬鹿みたいに分かりやすい嘘をつく

その声が、言葉が、堪らなく愛おしい

窓一枚、十数メートルの高低差

その取るに足らない隔たりが、なぜだか煩わしく思う

天乃「どうしているの?」

夏凜『昨日……変質者がいたからよ』

天乃「心配、してくれてるの?」

夏凜『いちいち聞くな』

電話を切って、訪ねてきたらいいのに

そう思う天乃に反して、夏凜は自分の存在が気づかれてなお

その場から動かず、窓から感じる視線に目を向ける

夏凜『……理由がないと、いたら駄目なわけ?』

天乃「ううん……」

それは私が言ったことだった気がする

でも、そんな言葉を口にするよりも、なぜだか感じる安心感に身を委ねてしまう

天乃「嬉しい」

考えずに零れた気持ちは、窓に映る表情さえも。綻ばせる


夏凜「昨日は朝から夕方まで色々あったから、油断できないと思ったわけ」

天乃「やっぱり、心配してきてくれたのね」

夏凜「一応、大事な戦力でもあるんだから。当然でしょ」

照れ隠しのようにそう言った夏凜に対して

天乃は笑みを向けて、「そうね」と、呟く

夏凜「で、あんたはなんで電話してきたのよ」

天乃「え?」

夏凜「え? じゃなくて」

なぜ電話してきたのか

なぜ、電話したのか

そう聞いてくる夏凜に、天乃は


1、声が聴きたくて
2、キス……する気はない?
3、園子ともね? キス、したの
4、園子曰く、私にはキスしたい相手がいるんじゃないか。って
5、別に、理由なんてなくてもいいじゃない
6、夏凜の心配通り。不審者が来るかもしれないから、一緒にいて欲しいの


↓2


天乃「夏凜の心配通りよ。今はいないけど、来るかもしれない……」

だから、一緒にいて欲しいの。と

天乃は夏凜から眼を逸らすことなく、願う

力を使えば、夏凜なんていなくても問題ないくらいには実力者である天乃だが

普通の人間としている状態の天乃は、両足が動かないうえに、左目が見えない

若葉や夏凜と互角に渡り合う変質者が相手ともなれば

苦戦を強いられるどころか、最悪、破廉恥なことをされてしまいかねないのだ

夏凜「そんなこと言われなくても、付き合ってやるわよ」

天乃「良いの?」

夏凜昨日、あんたの同じ言葉を受け入れた時点で。私はあいつが消えるまでは付き合ってやるつもりだったわよ」

夏凜はいまさら何言っているのかと言いたげで

自分自身の言葉、その心に気恥ずかしそうにしながら

天乃を横目に見る

夏凜「じゃなきゃ、律儀に昼も夕方も。あんたに付き合ってないっての」

天乃「……優しいのね。夏凜は」

夏凜「うっさい、ばか」


微かに頬を染めながら

嬉しそうな笑みを浮かべる天乃から眼を逸らした夏凜はそう言って、自分の手をぎゅっと握りしめる

すぐそばで寝息を立てる園子は、まだまだ起きそうにない

現実的には3人いる室内だが

どことなく二人きりのような気がしてならない夏凜は

昨日のことを思い出して、息をつく

夏凜「もう、昨日のことは平気なの?」

天乃「男の子との、事?」

夏凜「ん」

詳細を語らなかった天乃に倣って

夏凜は軽く頷くことで肯定したが

その天乃の頬がより一層赤くなって

なぜか、視線が園子の方に向いたのを感じて目を開く


1、あれは、もういいわ
2、うん。男の子の件はもう平気
3、園子がね。キス。させてくれたの
4、園子曰く、私にはキスしたい相手がいたらしいの。そのせいで、泣いちゃったんだって
5、夏凜も、気にしてるの?


↓2


天乃「園子がね。キス……させてくれたの」

夏凜「は……?」

え? 何言ってんの? と

冗談言ってるんじゃないわよ。と

夏凜は戸惑い交じりの笑みを浮かべながら言って、天乃と園子を交互に見つめる

相変わらずの寝顔の園子は解らないが

照れくさそうな天乃の表情は、真に迫っているように思えてならない

夏凜「園子に、無理矢理した……」

わけがない。

天乃が何かを言う前に夏凜は自分の言葉を否定する

無理矢理されて悲しんだ天乃が、誰かに無理やりするわけがないと。思ったから

夏凜「じゃぁ、本当に……」

天乃「ええ……その。色々と前置きはあったのだけど。園子がしたいって」

夏凜「あんたも?」

天乃「……うん」

躊躇いがちに頷く天乃から、夏凜は眼を逸らした

男子生徒に無理矢理された唇

園子と合意の上で重ねた唇

艶かしさを感じてしまうその場所に、心が奪われてしまわないように……


01~10  なんで、昨日私には言わなかったのよ
11~20  それで……どうだったのよ
21~30  据え膳食わぬは勇者の恥
31~40  な、なんでする必要があったのよ!
41~50  足が滑ったとかいう、言い分け
51~60 どっちから、言い出したわけ?

61~70 あと一押し足りないのが、夏凜ちゃん

71~80 
81~90  だったら、私がしても良いって言ったら……するわけ?
91~00  なにそれ……馬鹿じゃないの?

↓1のコンマ  


夏凜「それで、どうだったのよ」

天乃「どうって、それは……」

聞かれるかもしれないと分かっていたのに

いざ聞かれると、恥ずかしさがふつふつと湧き上がってきて

天乃の顔は解りやすく真っ赤になっていく

天乃「っ」

園子との初めてのキス

二度目のキス、割り込んできた舌のうねり

鮮明によみがえるのは記憶だけではなく

熱くなっていく体を抱きしめた天乃は、火照りに潤んだ瞳を夏凜へと向けて

天乃「無理……無理っ、感想なんて言えるわけないじゃないっ!」

声を上げて首を振る天乃に

夏凜は、なぜだか嫌悪感を感じて

そんな自分に驚きを隠せなくて自分に痛みを感じさせるために強く拳を握り締める

夏凜「助ける必要は、ない……わけね」


かろうじて零れたのが、それだった

昨日、男子生徒にされて泣いていたのに

園子として、嬉しそうに恥ずかしそうで

それで良いはずなのに

その嬉しそうな姿が、夏凜にとっても良いことなはずなのに

なのに、嬉しさ以外の感情が心の中にあるのを感じて

夏凜は戸惑いの色を浮かべたまま……息をつく

それでも、心は落ち着かない

夏凜「園子として、嬉しいのね」

天乃「っ……」

夏凜「園子として、幸せだったのね」

天乃「だから言わな――」

一瞬だった

それは吹く風のように素早く

掃き集めた木の葉を消し去るように容易く

手を引くように強引で、導くように優しい

天乃「ぁ……」

そんな、刹那にも満たない接吻の後に零れた声

否応なく、二人は見つめ合って――夏凜はもう一度、天乃に唇を重ねてしまった


天乃「ま、待って……夏りっ」

最後まで言わせてもらえないまま、さらに唇を奪われて

天乃は自由な両手を夏凜の胸元に当てて強く押す

夏凜「っ!」

夏凜の体は容易くつき飛ばされ、

すぐ後ろにあった椅子に背中をぶつけ、そのまま転がるように倒れこむと

膝から崩れ落ちたかのように座り込んだ体制のまま、夏凜は俯いて動かない

天乃「なんで……」

夏凜「……………」

天乃「なんで、こんな……っ」

夏凜は目を合わせない

泣かせたと分かっているから

悲しませたと分かっているから

嫌な思いをさせたと、分かっているから

天乃「こんなキスは嫌だって……夏凜なら分かってくれてるって信じてたのにッ!」

夏凜「ならあんたは……園子とキスして喜んでるところ見せられる私の気持ちが解んの?」

天乃「それは……」

無関係だ。分かってた

そう言うのが嫌だって、無理矢理されたくなんかないんだって

ちゃんとわかっていたのに。我慢できなかった

嫌な気持ちが膨らんできてしまっていて、どうしようもなくて

夏凜「ごめん……誰か別の護衛を呼んで。私には、無理だわ」

夏凜は顔を合わせることなく、そう言って部屋から出ていってしまった


では、少し中断します。20時までには再開できればと思います


では、遅くなりましたが進めていきます


天乃「っ……」

夏凜のいた名残を感じる唇に触れ、天乃はほほを伝う涙を拭う

男子生徒の時と似ているようで、何かが違う

でも、園子とのキスとも全く違う

嫌だった、悲しかった

でも、ただ嫌で悲しいのではなく、なにか。思うものがあって

呆然とする天乃の傍らで、「天さん」と、声がした

天乃「園子……起こしちゃった?」

園子「あれだけ大声で話してたら、さすがに起きるかな~」

自分のせいでの喧嘩

それを目の前で見せられ、聞かされた園子は

しかし、普段通りの声色で話す

胸中穏やかではないのかもしれないが

それでも、笑みは崩さない

園子「にぼっしーも大胆だねぇ」

天乃「……私が悪いの。園子じゃない」

園子「私はそんなこと言ってないよ?」


責められたわけでもないのに

自分が悪かったと言う天乃に、園子は困ったように言う

天乃「でも、夏凜は園子と私のことで怒ってたから……園子、優しいから自分のせいでもあるって考えようとするでしょ?」

園子「自己紹介、かな?」

困惑を交えた笑みを浮かべて溢す

優しいから自分のせいだと罪をかぶってくれるなど

天乃が言うと自己紹介としか思えないからだ

天乃「自己紹介じゃなくて……私が下手なこと言っちゃったから」

園子「それで、どうだった?」

天乃「え?」

園子「にぼっしー……三好さんに無理矢理された気持ちは。男の子と同じ状況だったよね?」

園子の心配しながらも

昨日話した内容のことを考えての一言に

天乃は自分の唇に触れて、目を伏せる


良く分からないのだ

嫌だったのも、悲しかったのも事実

なのに、心のどこかでは園子の時に感じた心地よさを感じていた

無理矢理で不快だった。そのはずなのに

そんな理解の出来ない状況に困惑した様子の天乃を見つめ

園子は声に出さずに笑いを溢すと、目を閉じる

園子「そっか。なら、とりあえずキスをしたらいいんじゃないかな」

天乃「どうしてそうなるのよ……私達は――」

園子「無理矢理された仕返しにキスして、嫌でしょって……にぼっしーに分からせよう」

本気でそう考えていると思わせるような園子の表情に

天乃は「そんなことしたって」と、こぼす

そもそも、そんなことをできる余裕があるのかどうか

音沙汰ない端末を手にし、窓から外を眺めた天乃は

ついさっきまで自転車が止まっていた場所を見て、微かに悲しさが押し寄せてくるのを感じる

園子「勇者は、時間の解決を待てないんだよ?」

天乃「ええ……そんなこと。分かってるわ」

その悲しみを握り締めて、園子の生真面目な声にそう答えた


√ 6月11日目  朝(学校) ※木曜日

01~10  1年生の女の子
11~20

21~30  3年生の男子B(昨日の方)
31~40  風
41~50  夏凜
51~60  3年生男子A(模擬デートの方)
61~70 夏凜

71~80 
81~90  友奈
91~00 

↓1のコンマ  


風「おはよ、天乃」

天乃「おはよう、珍しいわね。一人で下駄箱にいるなんて」

普段、風は樹と一緒に登校しているから

必ず、樹と居る

にも拘らず、今日は樹と一緒ではなくて

風が日直ではないし

日直だとしたらこの時間では遅いだろうと判断した天乃の瞳に

風はすこし困った様子で、苦笑する

風「わたしにだって色々あるのよ。まぁ、べつに喧嘩してるわけじゃないから心配いらないわよ」

天乃「ついに樹にも反抗期が来たのね……中学生だから」

風「いや、だから違うって」

天乃の一見真剣そうな声色にも

慣れているからなのか、風は笑ってやり過ごす

風「それより心配なのは夏凜の方よ」

天乃「っ」

風「さっき見かけたんだけど、すっごい仏頂面でねぇ……何か知らない?」


天乃「夏凜なんて知らないわよ。別に」

風「あ、そう……天乃なら何か知ってると思ったんだけど」

無関係だと認めたようなことを良いながら

疑うような視線を向けた風は

天乃が頑なに唇を閉ざしてるのを見て

呆れたようにため息をつくと

風「そっ」

軽く笑って、「なら仕方がない」とつぶやく

風「あとで、夏凜にも話してみるか」

本人に聞くのは可能であれば避けたかったのだろう

風は気乗りしないと言いたげに言う

風「所で、昨日の告白は大丈夫だった?」

天乃「全く……貴女は」



1、無理やりキスされちゃった
2、それは置いておいて、今日のお昼なら付き合えるけど?
3、ねぇ。風にはキスがしたい相手っている?
4、風は、無理矢理キスされたとして、嫌なのにどこか心地よさを感じるのってどう思う?
5、まぁ、色々とね。多分……あの子とは付き合わない


↓2


天乃「…………」

まだまだHRまでに時間はあるけれど

通る人の少なくなった生徒玄関口

辺りを見渡した天乃は、自分と風以外の人がいないことを確信してから

小さく息をつく。彼にとって、これを広めてしまうのは申し訳ない気もするが……

天乃「無理矢理ね……キス。されちゃったわ」

天乃は風に正直に話して、「彼だけが悪いわけではない」と、区切る

風「いや、どう考えても男子が悪いわよ。それ」

天乃「でも。誘っちゃったのは私なのよ?」

風「キスしたいって?」

天乃「ううん、そこまで率直に求めてはないけど」

何をしてくれるのか。

それを聞いてしまったのだと言うと、

風は深々とため息をついて「あのね」と、言う

どこかしらの教室から聞こえてくる喧噪

それがかき消えてしまうほど、風の放つ雰囲気はまじめだった

風「好き合ってないならキスはNG。これが恋愛の基本だから。一方的なキスが許されるのは少女漫画だけよ」


風「つまり、男の子がキスしたのは少女漫画を読んでいるから……ッ!?」

天乃「馬鹿言わないの」

ハッとした表情で

急に声を上げていく風の馬鹿げた言葉に

天乃が苦笑しながらツッコミを入れると

風も嬉しそうに笑って

風「そうそう。それでいいのよ」

天乃の肩をポンポンっと叩く

待ち望んでいたことが起きた

そんな喜びを感じる目だ

風「さっきからずっと、なんか思い詰めてる顔してたわよ。天乃」

天乃「そう……だった?」

風「そうよ? 不意打ちでキスしてやろうかと思うくらいにね。ま、しないけど」

そう言った風は、笑ってる方が可愛いんだから。と

余計なことを言って、天乃が行くのとは逆方向に歩いていく

天乃「……なんでそっちに?」

風「乙女の秘密ってやつよ。気にしないで。ちゃんと教室行くから」

企んででいるように笑う風を見送ってから教室に向かうと

階段で多少手こずってしまったからか、教室に到着するころには

もう、すでに風が教室についていた


√ 6月11日目  昼(学校) ※木曜日

1、風
2、東郷
3、友奈
4、夏凜
5、沙織
6、東郷
7、クラスメイト
8、昨日の男子生徒
9、一年生の女子生徒
0、イベント判定

↓2



01~10 
11~20  通常
21~30 通常

31~40 
41~50  通常
51~60 
61~70 通常

71~80 
81~90  通常
91~00 

↓1のコンマ 


※空白は特殊 


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば、昼頃から
出来なければ通常時間付近から




風「さて……とりあえず。大赦に報告して転校させよう」

風「男子だけの学校に」


では、すこしずつすすめていきます


天乃「…………」

昼休み、天乃は部室で一人目を瞑る

放課後騒がしくなる部室も、昼休みとなっては穏やかで

普段はある背後の存在感も感じない現状に

天乃はすこしばかりの不安を感じた

このまま、誰も戻らないのではないか

背後に立ち、連れ歩いてくれる人、導いてくれる人はもう

金輪際現れないのではないか。と

天乃「……本当。弱くなった」

前はそれでいいと思っていた

そうあるべきだと思っていた

孤軍奮闘、孤立無援

それでこそ、穢れた勇者のあるべき姿であると

なのに、気づけば背中を預ける相手を作っていた

その存在を感じられないことに

振り向けばみられる顔がないことに不安になるほど弱くなってしまった

そんな自分に失望したように呟く背後で、扉が開く


夏凜「そんな不用心に背中を向けてて、平気なわけ?」

聞き間違えるはずもなく、夏凜の声だ

そもそも、片方の耳しか機能していない天乃の聴覚は

一般人のそれと比べて、収音能力というか、聞き分ける能力に長けている為

部室に近づく足音だけで夏凜が来ていることには気づいていた

と言っても、天乃がメールで呼び出したのだが

天乃「平気……じゃないかもしれない」

呼び出したから、聞こえていたから、分かっていたから

だとしても、今朝襲ってきたばかりの相手に背中を向けたままだったのは確かに不自然だ

けれども、天乃にとってはそれが普通だった。当たり前だった

そう、今までの二人にとっては。

天乃「正直に言えば、夏凜に押し倒されて……嫌なことされる可能性も考えた」

夏凜「……でしょうね」

天乃「でも。それを考えること自体が嫌なことだった。だから、こうすることで疑っていないって思おうとした」

けれど、現実はそう甘くはなくて

肩掛けのあたりを掴む手は、かすかに震えていた


天乃「……でも。貴女は襲わなかった。普通に声をかけてくれた」

夏凜「あれはある意味、私の意思。暴走したわけじゃない」

天乃にとっては酷いことかも知れないが、

夏凜はっきりとそう告げると

後ろ手に扉を閉めて、カチャリと、鍵を閉める

それだけでも天乃の体がびくっとしたのが見えて

夏凜「朝、あんなことがあったのに。良く呼びせたわね」

天乃「うん……園子が言ったのよ。勇者は時間の解決を待てないって」

それは天乃も理解していることだった

現在は最前線で戦うことを控えるようにすると決めた天乃だが

しかし、いつ、話すことが出来なるのか分かったものではない

死に別れもそうだが、記憶を失うなんてこともあり得るのだから

天乃「だから、すぐにでもこうして話すべきだと思った」

でもきっと

園子にそう言われただけでは……ない。のよね

天乃は自分の胸元に手を宛がうと。心の中でそう囁く



夏凜「もし、私が躊躇なく襲ってたら?」

天乃「……その時は諦めたわ。今度こそ、誘ったのは私だから」

悲しそうに、諦めのこもった表情で言う天乃を見つめ夏凜は深く息をつく

そう言われては、襲いたくても襲えなくなってしまう

もちろん、今回は襲うつもりなど毛頭なかったが

夏凜「それで、なんの用よ」

夏凜はそう言うと

言っておくけど。と、続けて

夏凜「このまま護衛を再開するつもりとかは、ない……私だってあんたを襲いたいわけじゃないんだから」

天乃「そうよね……」

あれはなかったことに出来るものじゃない

仮に、天乃がなかったことにしたとしても

夏凜自身が、それを無かったことにするなんて許せないからだ



1、不意打ちキス
2、もう一度。普通にキスをしてくれない?
3、どうして、私と園子が認められないの?
4、さっき。あれは貴女の意思だと言ったわよね? どうして?
5、どうしたら戻ってきてくれるの?
6、園子としたときは優しかった。温かかった。気持ちよかった


↓2


天乃「貴女はそう言うんだろうなって。思ってた」

天乃はそう言うと、

車椅子のブレーキを解除して、力いっぱい上体を起こす

ブレーキのかかっていない車いすに

そんな力を加えたら後ろに下がってしまうのは分かっているはずなのに

夏凜「何やってっ!」

当然、車椅子は天乃を弾くように後ろに引きさがって

足の動かせないその体を投げ出す

その瞬間、夏凜は溜まらず声を上げて天乃の体を受け止める

護衛なんてしない。そう言ったのに

出来る限り近づくのは止めようと距離を置いていたのに

いとも容易く仮止めの意思は崩れ落ちる

夏凜「動かなくても膝を打ったら折れることだってあんのよ……?」

天乃「うん。知ってる」

後ろに下がった車椅子が近くのパイプ椅子にぶつかった音がして

天乃は、自分を抱きとめてくれている夏凜の両肩に手を乗せて、ぐっと体を起こして

夏凜「だった――」

夏凜と目を合わせずに、言葉を聞き終えずに

その唇に唇を重ね合わせた


夏凜「な……ん……」

唇だけのとても浅いキス

だと言うのに、それは深く根を張ったように力強い

天乃の力が強いのもあるかもしれない

けれど、夏凜は天乃の体を突き放せなかった

天乃「っ……」

自分から、無理矢理に

しかも、車椅子から飛び出すような危ない手を使って近づいて

こんなことをしてきたというのに

視界に映る天乃の瞳は固く閉じられ、プルプルと震えていて

心なしか、繋がれている唇も緊張に揺れている

夏凜「………」

キスという行為を良く分かっていないのだと感じた

夏凜自身も良く分かっていない

けれど、それ以上に分かっていないのかもしれない

いや、違う

肩に感じる天乃の手の力強さ、一生懸命に離れまいとする唇

そして……

夏凜「……っ」

夏凜は悲し気に目を細めると

天乃の力を受け入れたうえで、その抱きしめている体を床へと押し倒す


夏凜が押し倒し、体が下になったために

唇は離れて、肩を掴んでいた両手も床に投げ出すように倒れた天乃は

目の前で見下ろしてくる夏凜から顔を背ける

天乃「っ……嫌、でしょう……っ?」

夏凜「……………」

天乃「無理矢理されて……」

夏凜「馬鹿じゃないの?」

強引にキスをしてきたのは、天乃のはずなのに

頬を涙で濡らして、無理矢理された夏凜よりも悲しんでいるその姿に

夏凜は呆れたように言って、その頬を指で拭う

夏凜「なんで、あんたが泣くのよ」

天乃「知らない……解らない……っ」

そう言いながらも、天乃の瞳からあふれ出ていく涙は

留まることを知らずに次から次へと

頬に触れる夏凜の指を巻き込んで濡らしていく

夏凜「あんたが一番嫌がってるようにしか見えない」

天乃「私は……っ」

夏凜「そんなに……嫌なら。園子とだけしてなさいよ。私となんかじゃなくて……園子とッ」


天乃「解らないのよ……っ」

夏凜に無理矢理された時

とても悲しくなったのと同時に、こんなのは嫌だと言う嫌悪感があった

それは無理矢理されるのが嫌だったという理由があって

それで納得がいくのに

今、こうして夏凜に無理やりキスして

とてつもない悲しさと嫌悪感に心が蝕まれていく

その理由が天乃には全く分からなかった

解らないままに、涙が溢れていく

天乃「解らないの……ごめんなさい……」

自分から無理やりキスをしてきたくせに

床に下ろしてみれば嗚咽を溢す天乃を見て

夏凜は唇を強くかむ

自分との行為がそんなに嫌か

そんなに泣くほど悲しい事か。と

怒りが増して、嫌悪感が強くなっていく


01~10 
11~20  踏み止まるが勇者の意地
21~30 
31~40  夏凜ちゃん流石! ヘタレの伝道師!
41~50 九尾

51~60 夏凜ちゃん@頑張る
61~70 沙織
71~80 タイミング悪く来る。それが風先輩の底力

81~90 
91~00  夏凜ちゃん@頑張る

↓1のコンマ 

※空白は駄目、絶対 


夏凜「っ……」

夏凜はまだ何もしていないというのに

床に倒れている天乃は嗚咽を溢している

普段絶対に見せないその弱弱しさが

夏凜にはとても艶かしく映る

けれど、夏凜は目を瞑って深呼吸をして

夏凜「天乃、こっちを見ろ」

天乃「嫌」

夏凜「良いから!」

天乃「っ」

強く声を上げて、

目を合わせようとしない天乃の頬に触れた夏凜は

すこし強引に自分の方へと目を向けさせる

泣いている姿は、ただの女子生徒にしか見えない

普段の力強さ、明るさ

そこからの激しい違いに戸惑いを禁じ得ないが

けれども、夏凜は天乃の姿をしっかりと見つめる


なぜ泣いているのか

どうしてこんな弱弱しくなってしまったのか

それは解らない

もしかしたら、自分を苛立たせている理由

自分との行為への嫌悪感が事実なのかもしれない

夏凜はそう考えながら、絶え間なく流れていく天乃の涙を拭う

泣いて欲しくない

悲しんで欲しくない

笑っていて欲しい

そう思うのは、なぜだろうか

園子とキスをして

それがとても喜ばしいものだと語る姿に

形容し難い感情を抱いたのはなぜだろうか

夏凜「……はぁ」

躊躇うな。迷うな。考えるな

後後どうなるのかなんて言うことは


何もかもを考えないで、夏凜は頭の中を真っ白にする

夏凜「これで無理矢理されるのは二度目……あんたと同じく二度目」

天乃「っ……」

夏凜「でも。私はまだ。あんたと違って普通のやつをしてない」

夏凜はそう言うと、

戸惑いの色を見せる天乃の橙色の瞳を見つめる

夏凜「…………」

すこし遠回しだっただろうか

分かりにくい言い方だっただろうか

気恥ずかしさに掻き立てられる夏凜は

頬を赤く染めながら

だから。と、言葉を続ける

夏凜「あ、天乃が嫌じゃなければ……というかそれ前提だけど」

天乃「え……?」

夏凜「園子としてあんたが感じたもの。私にも……感じさせて欲しいっていうか」



1、夏凜は……良いの?
2、夏凜からして欲しい
3、……解った
4、何が言いたいかわからないわ
5、


↓2


天乃「……解った」

夏凜は嫌じゃなければと言った

それに答えるように、天乃は素直に頷く

無理矢理じゃない。普通にしていい

そう思うと、涙は自然と収まった

胸の奥の痛みが消えて、熱を帯びていくのを感じて

天乃は「でも」と、気恥ずかしそうに言う

天乃「このままだと、私……出来ないから」

夏凜「……わ、解った。車椅子に」

天乃「ううん、このまま入れ替わって欲しいの」

押し倒された天乃と倒した夏凜

その上下を入れ替えて欲しいのだという天乃に

夏凜は軽く息を飲み、天乃の体を抱きしめると

そのままぐるりと床を転がって、上下を入れ替える

戸惑いがないと言えば嘘になる

>>561修正


天乃「……解った」

夏凜は嫌じゃなければと言った

それに答えるように、天乃は素直に頷く

無理矢理じゃない。普通にしていい

そう思うと、涙は自然と収まった

胸の奥の痛みが消えて、熱を帯びていくのを感じて

天乃は「でも」と、気恥ずかしそうに言う

天乃「このままだと、私……出来ないから」

夏凜「……わ、解った。車椅子に」

天乃「ううん、このまま入れ替わって欲しいの」

押し倒された天乃と倒した夏凜

その上下を入れ替えて欲しいのだという天乃に

夏凜は軽く息を飲み、天乃の体を抱きしめると

そのままぐるりと床を転がって、上下を入れ替える

戸惑いがないと言えば嘘になる

けれど今は――天乃の感じたもの。園子が感じたもの。それを、感じたい


天乃「……んっ」

夏凜の両脇に手をつく天乃だが

その下半身には全く力が入っておらず

夏凜の足の付け根辺りに座り込む形になっているのを申し訳なく感じたのか

重くない? と、恥ずかし気に問う

夏凜「私の二年間の特訓舐めんな……あんたなんて、片手で抱えてやるわよ」

天乃「なら、もう少しだけ……」

ゆっくりと体を前のめりに倒していくと

体の小ささゆえ、大きく思える胸が夏凜の体に触れ、圧し潰されていく

夏凜「っ」

僅かな羨ましさをいろんな意味で胸に感じながら

夏凜は天乃を真っ直ぐ見る

天乃「園子と同じように……やる。から」

夏凜「ん」

天乃「驚いて噛んだりしないで、ね?」

夏凜「ん――ん?」

肯定しかけた一瞬

なぜかむのかと疑問符を浮かべた夏凜だが――遅く

天乃は羞恥心に染めた顔を近づけて、夏凜に唇を重ねた


まずは軽く唇を押し付け合うような優しさで

今度は、唇同士を組み合わせるように僅かに角度を変えて

天乃の口からねっとりとした唾液が溢れて夏凜の唇をつやつやとぬめらせる

天乃「んっ……」

夏凜「っは……んんっ」

一旦離れて、また唇を重ねる

言葉はいらない、その代わりに唇を交わらせて

互いの唾液を交わらせて

ぴちゃぴちゃと

学びやにふさわしくない淫らな音を立てながら

唇を何度も重ねていく

そのたびに、体の熱が抜けてはまた温まって

その入れ替わりの寂しさが、切なさが、心地よさが二人を快楽に浸す

夏凜「んんっ」

何度目かの接吻の後

ねっとりと忍び込んできたものに驚いたが

夏凜はそれが天乃の舌だと気づいて噛むのを堪えて、舌を絡ませる


ただ唇同士を接触させるだけではなく

一歩進んだ大人の交わり

二人のそれはあまりにも不慣れなものだった

天乃はたった一度、園子から受けただけ

夏凜はたったの一度も経験はない

しかし、不慣れゆえに、無知ゆえに

二人にとってそれは、代えがたい心の交わり

天乃「ふ……んっ……ぅ……」

夏凜「っぁ……ん」

艶かしく、淫らな音を立てながら離れた二人を

交わりの糸が細く繋ぐ

それはとても儚く、容易く途絶えていく

しかし、昼休みを終える鐘の音さえ聞こえない世界で見つめ合う二人は

熱っぽい吐息を漏らしながら、どちらからとも言わず、唇を触れ合わせる


何も手にしていなかった夏凜の手

床に触れているだけだった天乃の手

二つは引き寄せられるように交わり、重なって紡がれる

強く、固く、何よりも優しく

互いの心が離れたくないと。言うように

夏凜「っ、はぁ……ぁ」

絡み合うたび、内側から火をかけられているように体が熱くなっていく

痛いほどに、苦しいほどに

けれども、それらを包み込むほどの心地よさを唇に、舌に感じて

天乃「んんっ!」

天乃の舌を無意識に吸いながら、思う

天乃がなぜあんなにも嬉しそうだったのか

なぜ、あんなにも幸せそうだったのか

そして、願う

――私とのキスでも、同じように。できるのなら。それ以上に。幸せであって欲しいと


√ 6月11日目  夕() ※木曜日

※開始地点を選択することが可能です


1、夏凜と自宅
2、夏凜と瞳と二人の家
3、部室
4、教室  単独

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば通常時間
出来なければ翌々日に通常時間





園子「二対一だよ~天さん」

天乃「え?」

夏凜「覚悟しなさい」

若葉「待て!」

天乃「若葉……っ」

若葉「三対一を所望する!」

天乃「若葉ッ!?」


では、少しだけ


夏凜「………」

天乃「………」

お昼の件があってか、約二時間の授業のあとでも

天乃と夏凜は二人して気まずさを感じて、口を閉ざす

何から話せば良いのか、言葉が見つからない

まるで他人になってしまったようにも思えるが

互いに無知な他人と、これとではわけが違う

夏凜「あま――」

天乃「かり――」

ふと、言葉を切り出そうとした二人だったが

意図せず重なって「あっ」と声を漏らすと、また黙り込む

車椅子を押すキュルキュルという音だけが二人の間に響く

各教室や、体育館等

生徒の話し声や部員の掛け声等がせわしなく聞こえてくるが

二人の沈黙は昼間の部室のことを彷彿とさせるのだろう

天乃は頬を紅く染めて、夏凜は一際小さく思える天乃の後ろ姿から、目を逸らす

抱きしめたこと、キスした事。一歩進んだキスをした事

どれもこれもが鮮明で、唇にはまだ。生々しい感触がじわじわと残っている

夏凜「…………」

昼間のキスの後、沙織からの着信を受けた天乃の端末

友奈から着信を受けた夏凜の端末その二つの振動に世界から連れ戻された二人は

互いに顔を合わせられないまま「戻らないと」と言って以降、何も話せていない

そろそろ何か、些細なことでも話せればと思う一方

夏凜は、嬉しく思ってくれただろうか、幸せになれただろうか、気持ちよさを感じてくれただろうか。と

聞くべきではないと思うことを聞きたくて堪らなかった


天乃「ね、ねぇ……夏凜」

夏凜「ん?」

天乃「貴女が良ければなんだけれど……今日は家に帰らない? 私の、方」

相変わらず夏凜の方に振り向こうとしない天乃だが

元々色白なせいか、赤みがかった耳は解り易く

その体が微かに震えているのも夏凜には解った

夏凜「そんなの――」

天乃「っ」

夏凜「…………」

園子に謝る必要もあるから、言うまでもない。と答えようとしたのだが

最初の出だしでびくついた天乃に、夏凜は軽くため息をつく

そんな怖がらなくても良いのに。と


天乃「そんなの……嫌?」

夏凜「いや」

天乃「そう、よね」

夏凜「いや、そうじゃなくて」

溜めたわけでも苛めたわけでもない

夏凜は天乃の車椅子を押すのをやめると、頭にぽんっと手を置く

夏凜「少し考えんの止めろ。聞いたんなら、聞け」

天乃「……っ」

ただでさえ俯いている天乃がさらに頭を下げたのを感じながら

夏凜は「行くわよ」と、答える

夏凜「園子が聞いてたかもしれないし。流石にアレは、謝るべきでしょ?」

天乃「……じゃぁ、風達に連絡入れるわね」

微かに弾んだように聞こえる声

相変わらず耳は赤いが、自分はどうなのだろうか。と

夏凜は廊下の途中の鏡から目を逸らす

見たら熱気で鏡が割れるかもしれない。そんな意味解らないことを考えて

冷たい手を、顔に宛がった


6月11日目 夕(自宅) ※木曜日


夏凜「悪かったわ。本当」

園子「ううん、気にしてないよ~」

夏凜の素直な謝罪に、園子は笑顔で答える

喧嘩していたら何か言って治めようかとも考えていた園子だが

二人揃って帰ってきて、見せ掛けだけの仲直りの様子も微塵も感じられない以上

この件に関して、何か余計な水を差す気はなかった

園子「それで、天さん」

天乃「?」

園子「したの?」

天乃「……なんのこと?」

園子の意地悪な問いに、

天乃は平常心を保ちながらそう答えたが、園子はニコニコと笑って

園子「そっかぁ~」

嬉しそうに、呟く

どうしたこうしたとか聞いていないし、

変に違和感のある受け答えもなかったが、

天乃の耳が微かに紅いままなのを、見逃すはずがなかったからだ


園子「むふふ……天さんがいると本当に捗るよ~」

夏凜「輝いてるわね、あんた」

園子「今なら必殺技が撃てるかもしれないね」

夏凜の半ば呆れたような表情に、園子は変わらず満面の笑みを浮かべて言う

必殺技が撃てるとか言うのは冗談でしかないが

それぐらいには気分が良かったし

園子的必殺技ゲージは問答無用で満タンだった

もちろん、叶うことなら。と思わないといえば嘘になる

けれど、

ずっと不幸で救われない大好きな人を幸せにしてくれるなら

誰でも構わない。何でも構わない。そう思ってそう願う

そしてそれが、自分と近しい人で、信頼に足る人なら、なおさら


園子「にぼっしーは謝るためにわざわざ来てくれたの?」

天乃「私が呼んだのよ。来てくれない? って」

園子「……お散歩行こうかな~」

天乃「なに言ってるのよ」

聞いた瞬間、園子はにやりと笑う

天乃はそんな笑みに呆れたように言って

夏凜へと目を向けて、苦笑する

天乃「夏凜の家のほうが良かったかしら」

夏凜「うちにだって瞳がいるわよ。動ける分、あっちの方が厄介」

それもそうかもね。と二人揃って笑う

朝との違いに園子もまた、嬉しそうに笑った


1、ところで。今日、風と話したりした?
2、女の子の件、どうしようかなって思って
3、男の子の件、どうしようかなって思って
4、そろそろ。告白されることの対処すべきなんじゃないかなって思うの
5、ねぇ、夏凜。最近、大赦からの連絡とか来てる?
6、夏凜、今日は軽く模擬戦に付き合って欲しいの



↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




天乃「男の子の件……どうしようかなって」

夏凜「あぁ、それなら心配いらないわよ」

天乃「え?」

園子「今は(壁の外で)清掃ボランティア中だよ~」


では、少しだけ


天乃「実は、男の子の件で相談しようと思ったのよ」

身近な人の中で、男子生徒にキスされてしまったことを話しているのは

夏凜と園子、そして風の三人だけだ

相談するなら風も呼ぶべきだったかもしれないが

話を聞いていない樹たちにまで、

余計な心配等をかけてしまう可能性もある為、今回は夏凜と園子のみ

もちろん、それだけでなく

キスしあった相手ということもあるが……

天乃「どうしようかなって」

夏凜「どうするもこうするも、悩む必要があるってこと自体。私は理解できないわよ」

呆れたように言う夏凜は、

一瞬閉じていた目を開くと、横目に天乃を見る

夏凜「嫌な事してきた相手と付き合うかどうかなんて。普通考える?」

それは当然だ

普通は考えないだろうし、その場ですぐにお断りするだろう

後日、何かしらの関わりを持って、そこから発展していく……というのも

絶対にありえないとはいえないが。

少なくとも、被害者がその加害者との交際云々で悩むのは普通ありえない


けれど、そこでそうね。と認められないのが久遠天乃という少女なのだ

男子生徒の行為に関しても、最低だと責めはしたが

誘ってしまった自分にも非はあるなどと考えてしまうのだから

流石にそれは優しさではなく愚かさだ。とも言いたくなるというもので。

しかし、今回の件にはやはり思うところもあるのか

複雑な表情をする天乃を一瞥した園子は、夏凜へと、目を向けて

園子「ん~でも、にぼっしーは最初、天さんがすっごく嫌がることしたよね?」

夏凜「それは掘り返すな! ……っていうか、なんで私達が出て来るのよ」

園子「えへへ~言った方がいい?」

夏凜「言わんでいい!」

怒ったからか、恥ずかしいからか

顔赤く、声大きくなった夏凜を、天乃は困ったような笑みで見送る

天乃「そんなこともあったわね、あの時はこの生意気な生徒は再起不能にしてやろうかしらなんて考えてたんだけどね」

満面の笑みでいう天乃から静かに視線をフェードアウトさせた夏凜は息をついて胸を撫で下ろす

天乃の実力なら再起不能は余裕だろうし、

あえて手加減して一生モノのトラウマを植えつけて生き地獄にさせるのも可能だと思っているからだ

普段の甘さや優しさを知らなかった最初期は、キレている部分しか知らなくて

平然と喧嘩を売って、明目張胆に立ち向かっているつもりだったが

そこに込められた思いの強さを感じる立場となった今は、なんて見事な自殺願望者だったのだろうかと思わざるを得ない

夏凜「あれは全面的に私が悪かったわよ。話に聞いてたのと違って弱かったから……色々」

天乃「最初に私と戦ってたら、もう少し優しく挫折させてあげられたんだけど」

夏凜「挫折はしてないわよ。今だって、あんたにいつか勝とうって思ってんだから」

今はまだ。でもきっと

そう思う夏凜に、天乃は嬉しそうに笑みを浮かべて「頑張って」と、言った


園子「それで、天さんはその男の子をどうしようと思ってるの?」

天乃「どうするもこうするも、それを考えたいなって」

園子「う~ん……」

悩ましそうに声を漏らした園子だが

それを見た夏凜は言わないならと言いたげに目を逸らして「私は」と、切り出す

夏凜「本心を言えば、考えなくて良いと思う。というか、考えずに忘れて欲しい」

天乃「夏凜……」

色々と複雑な理由があるのだろう

夏凜は何かを言いたそうに口ごもると、複雑な表情を浮かべて

夏凜「でも、あんたの意思を酌むのならもう一度会ってから見極めた方が良いと思う」

襲ってくるような相手は危険だといいたいが

それは自分も同じだから言えない

だから、考えた上で夏凜は続ける

夏凜「その会う方法がなんにしても。相手が今回の件で一言も謝れないようなやつなら……考える価値すらない」

園子「私はね~天さん。男の子のことよりも、自分のことを考えるべきだと思うかなぁ」

きつく言う夏凜を横目に笑みを見せた園子は

微笑むようにそう言うと、目をしっかりと開いて、天乃を見定める


園子「男の子のことも大事だと思うよ~? でもね、やっぱり。自分が幸せになれる相手を選ぶべきだと思うから」

夏凜「ま、でしょうね。その男子と一緒にいることがあんたの幸せだって言うなら。私だって……」

天乃「心配しなくて済む……わよね」

夏凜の物憂げな表情に、天乃は申し訳なさそうに言うと

ごめんね。と呟く

園子は言いたいことはそうじゃないんじゃないかと思いつつ夏凜へと目を向けて

視界に入った夏凜の困り果てた表情には、流石に同情を覚えた

さっき、園子が夏凜を茶化したときもそうだが致命的にズレているところがあるのだ

本人は大真面目にその部分を考えて発言しているのだろうけれど……

園子としては、夏凜が少し不憫に見えてしまう

夏凜「あの一年の後輩か、その男子か。それ以外か……決めかねてるってんなら。とりあえずは関わるしかなさそうね」

夏凜の言葉に、園子は同意して頷いた



1、その中で私が幸せになれる人を選ぶのね……
2、それ以外ね……模擬デートした男の子のことも。ちゃんと考えてあげなきゃ
3、その二人のどっちかだと、先が楽そうね。私だけが幸せを感じる相手だと。片思いになっちゃうし
4、そういえば、二人は相手に女の子がいることに関して特にないの?
5、なんだか夏凜。不満そうね
6、恋愛マスターの風先輩にも話を聞いておくべきだったかしら
7、幸せってどういうものなのかしら。キスの時感じるようなもの?

↓2


天乃「なんだか夏凜、不満そうね」

夏凜「……そりゃ、もう関わって欲しくないやつに関わろうとしてるんだから当然でしょ」

むしろ、不満にならないやつがいるのか。と

夏凜は心底不満そうに笑う

人を馬鹿にしているのかとでも言いたげに

夏凜「加害者とはいえ、悪く言うのはあんたが好まないだろうから控えるつもりだったけど、この際言わせてもらうわ」

夏凜はそう言うと

天乃のことを見据える

その瞳には、不満とわずかな怒りそして不安が入り乱れていた

夏凜「私はあいつ、大嫌いよ。はっきり言って――」

園子「にぼっしー!」

夏凜「園子。天乃が不満そうだって言ったのよ」

園子の介入に対して、夏凜は言葉を途絶えさせてまで答える

その表情は呆れ顔で

園子が不安そうにしているというのが、天乃にもまた、動揺を誘う

園子「でも」

夏凜「だから、言う」

夏凜はそう言った後、ゆっくりと目を閉じて「いや、言いたい」と、続けて

夏凜「はっきり言って、あいつとだけは祝福してやれる気がしない」

そう、吐き捨てた


天乃「夏凜……」

夏凜「私もあんたを泣かせた。だから、言える立場じゃないと思った。でも、ここまで来たら言わせてもらう」

夏凜は押し隠していた苛立ちを現すかのように

強く、強く握った拳を震わせて歯を噛み締める

夏凜「あんなやつのこと考えるなら、わた……」

天乃「夏凜……?」

不満を口にする夏凜の複雑な表情に対し

心配そうに、不安そうな表情を見せる天乃

その二人を見つめる園子は

夏凜あ口ごもってしまったのを見て、小さく笑うと

仕方ないなぁ。と、心の中で呟く

それは、誰かに言うつもりのない言葉かもしれない

しかし、天乃と同じく自分を優先できない自分への呆れかもしれない

そう考える園子は、やはり。笑って

園子「そんな人のこと考えるくらいなら、ねぇ。天さん」

天乃「え?」

園子「キスした三好さんとか、私とか。候補に入れてくれてもいいんじゃないかな~?」

二人の会話に、あえて口出しをした


天乃「え……?」

夏凜「は? はぁっ!? ちょ、あんた何言って!」

園子「うーん? 候補に入れて貰うくらいいいんじゃないかな~? 嫌な人よりは」

園子のにやにやとした笑みに

夏凜は何を言っても無駄だろう事は理解して

照れ隠しのようにため息をつくと

天乃へと目を向ける

夏凜「ま、まぁ……信頼できる人間って言えば。間違いじゃない」

天乃「そんなこと言われても……」

困る。と言いかけた天乃だが

キスをして起きながら、まったく考えないのもおかしな話だと改め直して、眼を逸らす

天乃「そうね……一応。候補になら」

園子「むふふ~」

夏凜「なによ……」

園子「これは男の子よりも女の子よりもにぼっしーよりも! 同棲してる私が優勢だねぇ~?」

夏凜「あんたねぇ」

楽しそうな園子と呆れかえった夏凜

その二人に話の輪から放りだされた天乃は

勝手なこと言わないの。と、困ったように言った


1、なら。今日は泊まっていく?
2、瞳と夏凜が来る分の部屋ならあると思うけど……
3、冗談言って夏凜を虐めないであげて
4、ごめんね、夏凜。でも、やっぱりちゃんと考えてあげたいから


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば、通常時間から




若葉「なぜ天乃はあそこまで綺麗に読み間違えるんだ」

球子「自分が相手を困らせてる。嫌な思いさせてる。そう考えちゃってるんじゃないか?」

九尾「ただの朴念仁じゃぞ。主様は」


では、はじめていきます


天乃「なら、泊まっていく?」

夏凜「明日学校なんだけど……まぁ、瞳が平気なら」

夏凜は天乃の突然の提案に顔をしかめたが

ニヤニヤとした笑みを浮かべたままの園子が視界に入った途端

小さくため息をついて、電話をかける

メールでもいいのかもしれないが、返事は早く貰っておきたいからだ

夏凜「いちいち言いなおさなくていいわよ。今更なんだから」

夏凜は困ったように言うが、その表情はどことなく嬉しそうで

その相手と話すことが出来ること自体が

夏凜にとっては幸せなことだと、解る気がして

夏凜「迎え? いや、そう言うことじゃ……いや、そうね。でも、迎えは明日の朝に頼みたいのよ」

夏凜の端末から漏れてくる声は

電子的な乱れもあって聞き取ることは出来ないけれど

夏凜「あんたね……いや、間違ってはないけど」

瞳としては、泊まることについては問題ないであろうことくらいは

瞳の電子音声から感じる喜びから容易に想像できた


園子「どう~?」

夏凜「今から着替え届けに来るって」

電話を終えた夏凜は、なんなのよこの行動力。と、

戸惑い混じりに呟いて端末をポケットにしまう

夏凜「泊まることに関してはまったく問題ないらしいわよ」

天乃「じゃぁ、決まりね」

ぱんっと音を立てて手を合わせた家の主へと目を向けて

夏凜は小さく息をつく

夏凜「…………」

自分のことはどれだけ解っているのだろう

今、自分がどんな声で、どんな表情か

それを解っているのだろうか、それがどんな感情、心ゆえなのか

解っているのだろうかと、夏凜は思って

園子「嬉しそうだね、天さん」

天乃「ふふ、まぁね」

心を察したかのように聞いた園子への答えで

解っているのだと解ってしまった


だから

夏凜「そんな喜ぶほど珍しいことでもないでしょ。普段会ってるんだから」

夏凜は思わず、照れ隠しのように言ってしまう

隠し切れない嬉しさで頬を染めて、慌しく視線を泳がせる

それはまるで、燃え盛る炎のように美しく。園子の瞳に映る

天乃「朝昼夕って会えるけれど、夜もって言うのは少し新鮮よ」

夏凜「……あっそ」

それでも嬉しそうに言う

その心が知りたくて、けれども言う勇気が足りない

返した言葉は少しだけキツい言葉

それでも「そうよ」と、しりとりのように返すその笑みが

夏凜は少しだけ嬉しく、もどかしい

夏凜「私だって……ちょっとは。その」

園子「…………」

ちらっと目を向けた園子は何も言わず

けれど、解っているように微笑んでいて

夏凜は園子や天乃から目を逸らしたまま、ため息をつく

さっきからずっと、助けられてばっかりだ。と

夏凜「まぁ、嬉しくないことも……ない」

天乃「明日は良かったって、言われるおもてなしをしないとね」



嬉しそうな表情で、楽しそうに言う

それはきっと夏凜を思い、夏凜のためのもので

夏凜は強く歯を食いしばって

夏凜「評価は出来ないわよ。比較対象ないし」

園子「天さんのおもてなしが評価基準になるんだね~責任重大だぁ」

天乃「……あえて評価を落としてみんなの礎にならないと」

にやりと笑う二人に、夏凜は「ふざけんな」と、声を上げる

けれどもその声とは正反対に

表情はとても嬉しそうなものだった

基準になるとかならないとかそう言う話ではなく

正直に言えば、漫才のボケ担当二人を相手にするという

気疲れのようなものを早くも感じているのだが。しかし

それ以上に喜楽を感じられるこの場所が

そして、なによりも……

天乃「冗談よ、お客様」

夏凜「笑顔は接客の基本、忘れたら減点するわよ」

天乃「私の愛想笑いならタダだけど、気持ちが欲しいなら有料よ?」

夏凜「ツケで」

天乃「お帰りくださいませ、お客様」

家族以上に心置きなく楽しむことの出来る相手が

勇者であること、非日常であること

それらを片時でも忘れさせて、幸せを感じさせてくれるこの時間が好きだからだ


6月11日目 夜(自宅)  ※木曜日


1、夏凜と交流 ※単独
2、園子と交流 ※単独
3、3人で恋のお話。続き
4、変質者について
5、キスについて
6、精霊の誰か ※再安価
7、イベント判定


↓2


夏凜「恋バナの続きって、あんたねぇ……」

園子「私は良いと思うけどな~」

夜、食事も入浴も終えたあと

天乃と園子の部屋で3人集まって、

天乃は「恋バナの続きをしましょう」と提案したのだ

園子はもちろん乗り気で

夏凜はやっぱり、乗り気ではない

天乃「嫌?」

夏凜「嫌も何も、何を話すってのよ」

天乃「それは」

夏凜「私達も候補なんでしょ?」

椅子に座った夏凜の呆れた言い方に

天乃は困った様子で

それを見る園子はいつも通りのほほんとした笑い声を溢して

園子「天さんだって、私だって。にぼっしーだって、女の子なんだからいいんじゃないかなぁ?」

夏凜「そりゃ、まぁ。けど、天乃の候補者には私達もいるんだからだめでしょ」


自分たち以外の候補者に関しても考えているのか

それとも、ただの照れ隠しか何かなのか

その判断は付きにくいが夏凜の目は、天乃へと向く

天乃「だけど、色々と話したいじゃない」

夏凜「話すって何を?」

天乃「夏凜や園子の好きなタイプとか、どういうのが恋愛なのか。とか」

夏凜「あー……」

園子「にぼっしー?」

夏凜「とりあえず一発殴――」

園子「どうどうどーだよ」

園子のちょっとばかり焦った言い方に

流石の天乃も驚いて夏凜へと目を向ける

けれども天乃の表情は悪戯心も悪意も何もなく

ただただ純粋な戸惑いだけが感じられるもので

夏凜は握った拳を解いて、ため息をつく

本当に。大真面目で分かっていないのだ。この人は


夏凜「どっちかだけ適当に答えてやるわよ」

天乃「両方は?」

夏凜「喧嘩売ってんの?」

天乃「……ふふっ、私が勝ったら両方で良い?」

満面の笑みを浮かべる狂戦士に

夏凜は自分が悪いわけでもないのに「悪かったわよ」とぼやいて眼を逸らす

はっきり言って、笑っている状態の物騒な言葉程恐ろしいものはないのだ

もちろん、天乃が半ば冗談であることは分かっているのだが

勝ち目がないのだから、退くほかない

天乃「素直でよろしい」

くすくすと笑って、息をつく

窓の外はもうすでに暗い時間

世界はとても静かで

本来なら部屋の中も二人の寝息が聞こえるだけだからか

こうして普通におしゃべりできていること自体が

天乃にとっては嬉しいことで

これが幸せを感じることなのかなと、ほほ笑む



1、好きなタイプについて
2、どういうのが恋愛か
3、付き合えたらしたい事
4、女の子との恋愛
5、男の子との恋愛
6、相手を選ぶこと


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




沙織「久遠さんは解らないんじゃない。そう考えられないんだ」

九尾「お主……ここにいるということは」

沙織「あはは。大丈夫、まだ。平気」

九尾「……そうか」


では初めて行きます


天乃「じゃぁ、好きなタイプに教えてくれない?」

夏凜「好きなタイプ……?」

天乃「ええ。理想とかでも良いから」

夏凜はどんな人が好きなのだろうか

園子はどんな人が好きなのだろうか

友奈たちに関しても気にならないといえば嘘になる

自分の理想の相手の姿がまったく無い天乃としては

個々に存在するその理想を知ることで

少しでも、自分が求めているであろう存在を考えてみたいからだ

夏凜「理想……ねぇ」

園子「私は優しい人かな~? こんな私でも、優しくて、大切にしてくれて。一緒にいると楽しくなれる人」

ちょっと理想が高すぎるかな~と

園子は普段と変わらない声色で言って、困ったように眉を潜める

夏凜「園子と天乃に関しては大赦から完璧な介護付きだろうから、その点は気にしなくて良いんじゃない?」

園子「でも、部屋で寝たきりで料理も作ってくれないのは流石に」

天乃「……? 同居前提なの?」

天乃の困惑した声に

園子はそういえば確かにそうだね~とお茶らけた様子で笑う

園子「会いにいけないから、会いに着てくれる人が良いな~」

夏凜「なんでそこで私を見んのよ」



園子「にぼっしー達なら、来てくれるからね~」

夏凜「そりゃ、関係者だから当たり前だっての」

天乃「関係者じゃなかったら来てくれないの?」

夏凜「さぁ? 少なくとも、今の私達は泊まるような間柄でしょ」

答えに困ったのか

逃げるように言った夏凜は苦笑いを浮かべて、目を逸らす

天乃「そうね、無関係がどうなのかなんて考えなくて良いわよね」

けれど、天乃は逃げたなんて感じなかった

視線はそらされてしまったけれど、言ってくれた言葉が嬉しくて

思わず、笑みがこぼれる

園子「それで、にぼっしーは?」

夏凜「私は理想なんて考えたこと無いわよ。今までずっと鍛錬漬けだったし」

それが嫌だったわけではないけど。と後付しながらも

夏凜の表情はどこか悲しげで、寂しそうで

しかし、天乃達がそれに何かを言う前に、苦笑する

夏凜「それでも、今考えられる限りで言うなら……付き合っててつまらなくない奴ね。多少鍛錬に付き合えるならなおよし」

天乃「鍛錬に付き合えないとダメなの?」

夏凜「完全についてくるなんてその辺の柔な奴には無理だろうし。ま、せめて私の型とか見て助言とか出来るレベルではあって欲しいわね」


それは言い換えれば、多少なりと趣味を理解してくれる相手が欲しい。ということだろう

夏凜の趣味が鍛錬なのかは別にしても

それが日課として行われていることは間違いないし

そう言うのに付き合ってくれるというのは

夏凜からしてみれば高ポイント。なのかもしれない

園子「型かぁ、私は解らないけど、天さんなら多少わかるんじゃないかな~?」

天乃「わ、私?」

園子「天さんも二年前は鍛錬に明け暮れてたからね」

悪戯心を感じる園子の笑みに、天乃は「もう……」と

困ったように声を漏らして、息をつく

けれど

園子が言っている事は間違っていない

二年前は一部記憶が欠落してしまっているが

残った大部分が鍛錬に明け暮れる日々で

一般的な付き合いというのは学校で少しする程度だったと思う程だ

夏凜「話には聞いてたわよ。手合わせしたくない中学一年生の話」

天乃「そんなこといわれてたの?」

夏凜「だからこそちょっと傷ついたわ。三好様くらいならまだ、相手できますって言われてね」


天乃との鍛錬、手合わせのおかげで

一般人の中では飛躍的に能力面で優れていたのかもしれない

だから、一般人の中では鍛錬にて秀でていたとしても

問題なく相手が出来てしまうし

強い相手と手合わせした分、夏凜との手合わせは物足りなささえ、感じてしまったことだろう

天乃「ごめ――」

夏凜「その必要は無いわよ。手合わせしてわかったから」

あいつらは間違ってなかった。夏凜は認めて笑みを浮かべると

そう言って天乃を見つめる

夏凜「だから今度付き合いなさいよ。少しは成長してるってとこ、見せてやるから」

天乃「……ん。楽しみにしてる」

園子「…………」

見詰め合う二人を見ていた園子は

何かを思いついたのか、悪戯心満載の笑みを浮かべて

園子「にぼっしーが告白してるよ~っ!」

夏凜「え? ちょ、は、はぁぁ!? な、なに言って、っていうか勘違いすんな!」

天乃「今の告白……なの?」

夏凜「だから勘違いすんなぁっ!」



声を荒げた夏凜に、天乃は堪らず身を引いて

天乃「ごめんなさい」

園子「せんせー三好さんが久遠さんを苛めてる~」

夏凜「告げ口か!」

園子の挟んだやんわりとした空気に

夏凜は困ったように言って、天乃も小さく笑う

それをみた夏凜はふっと息を吐く

安心か、疲れか。それだけでは区別のしようはない

夏凜「別に告白じゃ……ないから」

天乃「う、うん」

夏凜「……怒鳴ってごめん」

天乃「ううん。平気……」

夏凜の視線を感じていても

天乃は夏凜と目をあわせることを避けて俯き、胸元に手をあてがう

ドキドキとした

怒鳴られたからか、なんなのか解らないけれど

今もまだそれは治まっていなくて、

平気と言いつつも、平気ではなかった



1、でも。そう言う告白の仕方もあるの?
2、思ったけれど。私達はバーテックスとかの件を受け止めてくれる人じゃないとダメよね
3、私は告白でも良かったんだけどね
4、私も園子と似たようなものよね。味覚も何もアレだし。だとすると私も一緒にいて楽しい人かしら
5、じゃぁ……夏凜はどんな告白するの?



↓2


天乃「私は告白でも良かったんだけどね」

嬉しそうな笑顔

けれど、絶対に分かってはいない笑顔

園子「また、天さんはそうやって……」

天乃「え?」

だから、流石に園子も困った表情を見せる

自分も夏凜をからかってはいるが

それはさすがに可哀想なのではないか。と、思って

天乃「そうやって……なに?」

夏凜が大げさに否定するものだから

面白半分につついてみようと思った

けれど、それだけじゃなく

なんとなく、それでもよかったと言った反応が知りたいと思った

だけど

夏凜「……あんた、そんなだから男子にキスされるって解んないの?」

天乃「私はただ……」

夏凜「告白でも良かったって、それじゃ、あんたが告白してるようなものなんだから」


天乃「そう言うのも告白……なの?」

確かに告白という言葉を使った

けれど、相手に対して好意を示してはいなかったから

何の問題も疑問も何も感じることはなかったのに

夏凜に自分が告白しているようなものだと言われて

それはつまり自分が夏凜に告白したようなものであると

解らないくせに分かってしまう頭は悟って

天乃「ちが……私、告白、は……」

火にガスを吹き付けたかのような爆発力で熱くなっていく顔に手を宛がう

見ていられなくて、見られたくなくて、俯く

夏凜「天乃……?」

天乃「ちが、違うから。私……そんなつもりじゃ」

園子「……………」

告白してしまったということが

なぜだか強く、心に来る

強引にしてしまったキスとはまた違う、何か別の嫌悪感が湧き出てくる

夏凜「解ってるわよ、あくまで例えってだけだから」

園子「にぼっしー……」

夏凜「強引なのはもうしない。私はそう決めたのよ」

目を伏せて見えなくなった二人の会話を聞きながら

天乃は自分自身の心の内に迷う

自分の理想はどんな人なのか

自分はどんな相手といるのが楽しく、嬉しく、幸せなのだろうか。と


間違いなく、勇者部のみんなと居るのは楽しく嬉しい

非日常とはいえ、普通の学生という時間を歩むことが出来て幸せだ

けれど、その勇者部という大きな存在に抱く好意は、愛情は

きっと恋愛というものに当てはまるものではない

けれど……細かく分けたら

そこに、その中に。思いを寄せてしまった人がいるのだろうか

夏凜「ゆっくりでいいのよ」

天乃「……え?」

夏凜「天乃はこれからも。まだまだ他の奴らと変わらず生きていける。私が、そうさせてやる」

だから、ゆっくり悩めばいい

ゆっくり考えればいい

それで、間違いなく幸せだと思える選択をしてくれればいいのだと

夏凜は笑う。恥ずかしさを押し隠して。

夏凜「なんて」

天乃「…………」

生きていけるの?

守ってくれるの?

何も言えない。夏凜ではなく、漂う空気が言葉を使わせない

照れ隠しの笑みは、なぜだか。不安になる

園子「三好さん、無茶は。めっ! だよ~」

それを代弁するかのように、園子はそう言った



01~10 
11~20 継続

21~30 
31~40 
41~50 ×

51~60  継続
61~70 
71~80 
81~90  継続
91~00 

↓1のコンマ 

※奇数継続→夏凜
※偶数継続→園子


園子の仲介のような言葉に、解ってるわよ。と

夏凜が返した後、なぜだか続けにくい空気になってしまった三人は

そのまま寝ることにした

天乃と園子は言わずもがなベッドで

夏凜は隣接するように並べた、床敷の布団で

名静まったような静寂の空気の中

不思議にひんやりとした空気を感じる夏凜は、目を開く

園子の寝息は聞こえるが、天乃の寝息は聞こえなくて

夏凜「まだ、起きてるわけ?」

何気なく体を起こして声をかけると

天乃「起こされた」

天乃は閉じていた目を開いて、不満そうに笑う

勿論、不満なんてなさそうだが。

夏凜「完全に起きてたやつの反応しておいて何言ってるんだか」

天乃「だって……眠れないんだから仕方ないじゃない」


普段なら目を瞑れば、

毎回差はあるが、しばらくすれば眠気に誘われて落ちていくというのに

今日に限ってはその気配がまったくなくて

困ったように言う天乃から園子へと目を向けた夏凜は

小さく申し訳なさそうに息をつくと、天乃の方に顔を近づけた

夏凜「天乃」

天乃「?」

きょとんとした赤と橙の瞳

どちらも綺麗に見えるが、赤い方は少し濁っていて

その痛々しさに歯を食いしばる

夏凜「私はあんたに幸せになって貰いたいと思ってる」

月明りに照らされて妖艶さを増す桃色の髪

それを撫でるように視線を巡らせて

これは気の迷いなんかではないのだと

逃げ出したりなんかするなよと

心を何度も何度も。強く押し出して


夏凜「だって」

天乃「夏凜?」

夏凜「だって私は……っ」

止めてしまいそうになる体を、

誤魔化してしまいそうな心を、押しとどめて

夏凜「幸せそうに笑ってる天乃が――好き。だから」

夏凜はその言葉を口にする

天乃「それって」

夏凜「……候補者の言葉。それだけで察しなさいよ。馬鹿」

何かを言おうとした天乃に

夏凜はそんな悪態をついて布団に戻ると

そのまま掛け布団一枚を被って「寝る」と言い残して声を押し殺す

天乃「……候補者の」

今まで通りの天乃の考え方でも

それが、普通の好きとは違う。少し特別なものであるということは理解できて

天乃「っ」

痛むほどに激しさを増す心を抑えるように胸元を抑えた天乃は

横になったまま、月を見上げる

天乃「……私も、幸せそうな貴女が。貴女達が。好きよ」

綺麗な月だ。怪しくも美しい光だ

惑わすようなそれを見つめて、天乃は息をつく

二つの寝息を聞きながら、天乃の夜更かしはもう少しだけ。続いた


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば昼頃から


再開時に11日目のまとめ





九尾「そろそろかや?」

若葉「本当に平気なのか?」

九尾「その時が来なければ何とも言えぬな」

九尾(じゃが、これは恐らく……)

九尾「成せばたいてい何とかなる……それを信じるほかあるまい」


では、少しずつ進めていきます



1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(泊まって、恋バナ、好きなタイプ、告白でも良かった)
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流有
   (一緒にいて、園子とのキス、キス①、キス②、頑張る、キス③、男の子の件、

             不満、泊まって、恋バナ、好きなタイプ、告白でも良かった、SP)

・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



6月11日目 終了時点

  乃木園子との絆 53(高い)
  犬吠埼風との絆 42(少し高い)
  犬吠埼樹との絆 39(中々良い)
  結城友奈との絆 57(高い)
  東郷美森との絆 41(少し高い)
  三好夏凜との絆 55(高い)
  乃木若葉との絆 38(中々良い)
  土居球子との絆 26(中々良い)
     沙織との絆 49(少し高い)
     九尾との絆 42(少し高い)
      死神との絆 38(中々良い)
      稲狐との絆 30(中々良い)
      神樹との絆 9(低い)

 汚染度???%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


√ 6月12日目  朝(自宅) ※金曜日


01~10 
11~20 樹海化

21~30 
31~40  奴(変態の方)
41~50 
51~60 
61~70  樹海化
71~80 
81~90 
91~00  奴(精霊の方)

↓1のコンマ 


いつも通りの時間に目が覚める

目覚まし時計を使っているわけでもないのに

習慣になった覚醒は無理矢理にでも引き起こさせる

天乃「…………」

夏凜「……起こした?」

天乃「ううん、私はいつもこの時間よ。絶対に……何もなければね」

以前の昏睡状態

あのようなことが無ければという物言いに

夏凜は「そりゃね」と、呟く

夏凜「瞳でさえグースカ寝てる時間だってのに、暇つぶしも楽じゃないんじゃないの?」

天乃「園子の寝言を聞くのも意外と楽しいのよ? たまに変なこと言うけど。笑えるから」

天乃の嬉しそうな声に、夏凜も笑みを浮かべる

園子が来るまでは一人だっただろう

寂しかっただろう。辛かっただろう

それをなんとなく感じて、けれど。今ある幸せを感じるから

夏凜は笑みを浮かべることが出来る

夏凜「起きてても寝てても、おかしな奴ってことね?」

天乃「ううん、楽しんでるのよ。その一瞬を全力で」


夏凜「………」

ふと、園子へと目を向けた夏凜は

その痛ましい姿からは想像出来ないような穏やかな寝顔に

確かにね。と、同意するのと同時に笑みをこぼして息をつく

幸せそうだ。こんな体になってしまったのに

それはきっと。天乃が隣にいるからだ

天乃「園子にキスしちゃだめよ? 同意の上なら、まぁ。良いけど」

夏凜「しないわよ。キス魔でもあるまいに」

天乃「……昨日は、特別?」

聞く予定はなかったのに

なぜか、当然のようにその言葉は漏れて、驚いた夏凜の表情が視界に入る

天乃が自分の発言に頬を染めて眼を逸らすと、

夏凜も照れくさそうに眼を逸らす

夏凜「特別に決まってんでしょ……あんなの。気の迷いと勢いの状態異常だから」

天乃「……そっか」

夏凜「なによ。したいとか思ってるわけ?」


天乃「そ、そんなこと思わないわよ。どれだけ破廉恥な子だと思ってるの?」

夏凜「……唇以上にやってくるくらいにはそう思ってるけど」

天乃「ぅ……」

園子に教えて貰った……というか、園子にされたキス

それを訳も分からず真似ただけだが、行ったのは事実で

それを否定することが出来ない天乃は思わず呻く

二人の視線は重ならない。交わらない

なのに、見えない何かはしっかりと。紡がれる

天乃「…………」

夏凜「…………」

自分の心臓の激しさに

どこかで爆発でも起きてくれないだろうか。なんて

物騒なことを考えて

夏凜「……鍛錬行くんだけど」

天乃「え?」

夏凜「あんたが平気なら、行く?」


1、邪魔にならない?
2、夏凜がいいなら
3、うん、後ろからついていく
4、九尾が力を貸してくれれば……平気。かも
5、私は重いわよ?


↓2


天乃「夏凜がいいなら」

きっと邪魔になる

何の役に立つわけでもない

だから、天乃は聞き返してしまう

夏凜は天乃のそんな性格を分かっている

もう、呆れるほどにされてきたことだから

だから、夏凜は困ったように笑う

夏凜「なら、さっさと準備していくわよ」

天乃「ええ」

文句を言う意味も理由もなく

夏凜は当たり前のようにその言葉を返すと

天乃の手を取って、車椅子へと導く

夏凜「大赦の連中には、何か言う必要あるの?」

天乃「そうね、こっそり抜け出してもいいんだけど……」

夏凜「可哀想だから止めてあげなさいよ」

嬉しそうに言う天乃に

夏凜は困ったように返してため息をつく

ここに常駐している職員は大丈夫なのかもしれないが

大赦の中には天乃を良く思っていない人たちがいるのだ

自ら敵を増やすなんて、認められるわけがない


天乃「解ってるわよ。勇者だから死なないとはいえ。毒を盛られたら苦しいからね」

夏凜「冗談じゃないっての」

大赦職員からの裏切り。それの一部であり得ることを呟いて

夏凜の素に戻った声に苦笑して、「そうね」と返す

守りたいものを守っただけで大勢から嫌われることになった天乃は

本来なら、そんなのは理不尽だと怒っても良いはずだ

けれど、それを受け入れている

傷つけることになってしまったのは事実だからと。受け入れている

夏凜「監視とかもついてくる?」

天乃「どうかしら、朝って基本的にはこの部屋から出ないから」

その優しさが

あるいは、その無謀さが

夏凜はとても不安で恐ろしい

最終的に何もかもを包み込んで、奪い去ってしまいそうだから

夏凜「仮にいたとしても、置いてってやるわ」

天乃「目を付けられるから止めなさい。二人でいられなくなるから」

夏凜「……はぁ」

なんの謀りもなくこういうことが言えて、無自覚だと言う所も。恐ろしい



01~10  海岸
11~20  公園
21~30  学校
31~40  特殊
41~50  公園
51~60 学校

61~70 海岸

71~80  公園
81~90  学校
91~00  海岸


↓1のコンマ

※ぞろ目 特殊

一桁4で闖入者



天乃「ここ……」

夏凜「目的地があった方が、走り込みはやりやすいのよ」

天乃「だからって学校なの? もうちょっと、海とか公園とか」

いい場所あるんじゃないの? という天乃の言葉に

夏凜は「まぁね」と、笑う

そういう選択肢もあったにはあったのだが

それでは二人きりということもあって

昨日のような空気が漂ってしまうと思ったのだ

正直、連日ああいう空気は、夏凜にはまだ早い

まだ。何も定められていない今は

乃木園子という優しい繋がりを置いてはいけない

夏凜「まだ教師すら来てなさそうな時間の学校ってのも。珍しいでしょ?」

天乃「休みの日なら当たり前じゃない?」

夏凜「…………」

……確かに

夏凜「で、でも休みの日に来たいって思う?」

天乃「思わないけど……ううん。夏凜のセンスではこんなものよね」

夏凜「おい」


風情も何もない場所に連れてきた夏凜のセンス

それを小ばかにするように笑った天乃は

しかし、馬鹿にしているからではない喜びを感じる笑みで

夏凜はむっとして声を上げながらも、まったく。嫌な気はしなかった

天乃「静かな学校は、なんとなくだけど。頑張ろうっていう気持ちになれる」

夏凜「?」

天乃「解らない?」

夏凜「まぁ……」

困った顔の夏凜に、笑みを向ける

そう簡単には、理解できるものではないかもしれない

だって、この考え方は悪い意味でひねくれているのだから

静かな学校、誰もいない学校

それは、とても嫌な喪失を彷彿とさせる

それと同時に、そうなって欲しくないという強い想いが生まれて

そうならないようにしなければいけないという強い意志を感じて

そのために頑張らなければいけないと、思わせてくれる

だから、そういう気持ちになれるのよ。と

天乃は言葉にせずほほ笑んで

夏凜「なによ」

天乃「ううん、言ったら怒るから言わない」

夏凜「無駄なとこで正直になんのね……」



満面の悪戯な笑みに、夏凜は困ったように笑う

言ったら怒る。それはどんなことを考えているのだろうかと考えて

静かな学校が思わせてくれる頑張ろうという気持ち

その繋がりがまだ簡単には解らない

夏凜「……園子なら、共感出来る?」

天乃「どうかしら。でも、園子は適当にそうだね~とか返すんじゃない?」

冗談ぽく言う天乃だが、夏凜は園子ならそうなのかもしれないと共感して

でもきっと、理解したうえでそう言うのだろう。と、思う

まだ一ヶ月と少しの付き合いの自分が、二年以上の付き合いがある二人と同列であるなど

全くもって思えなくて

夏凜「……天乃とは違う意味だろうけど」

天乃「?」

夏凜「頑張ろうって気には、なれた」

まだまだ遠く及ばないかもしれない

けれど、そこで諦めようとは思えない。眼を逸らそうとも思わない

夏凜「何をするにも。目標があった方が頑張れるから」

それをしっかりと認めたうえで、それ以上になってやるのだと努力を積み重ねていく

それが、敗北を知った三好夏凜の生き方だから

だから、夏凜は頑張ろうと思えた



天乃「……」

夏凜は少しばかり残念そうで

けれど、活気に満ちた瞳をしている

諦めていない、言葉通りに頑張ろうとしている

それがはっきりとわかる、光を感じる瞳

どこまでも頑張ることが出来るだろうそれは

自分がいなくなってもなお、続いてくれるのだろうか

そう考えた天乃は、首を振る

夏凜「そろそろ戻るわよ。天乃」

天乃「……ええ」

そうならない為に、みんながいる

みんながそれぞれ強い意志を持って頑張ってくれている

なら、自分は信じてあげているべきだと思うから

天乃はそれを、思考の奥底へと放り投げる

天乃「……どうしようかしら」

せっかく泊めたのに

せっかく二人きりになれたのに

センスのかけらも何もない学校に連れてこられてしまった天乃は

本来の目的を考えて、息をつく

……海とかなら。誕生日おめでとうって言うのも。ロマンチックだと思ったのに



1、とりあえず言っておく
2、後でにする



↓2


天乃「帰りましょうか」

今は言わない。また後で

そう決めた天乃は夏凜に振り返ることなく、声をかける

夏凜「車椅子を押しながらだと、いつもよりも筋力を使うわね」

天乃「面倒だったら背負ってもいいのよ?」

夏凜「そうなる理屈が分からないんだけど」

いずれにしろ、ただ走るだけというのよりは鍛錬になると言うか

筋力的な負荷になる

背負うのなら、車椅子を押すよりも

やや早く走ったりもすることが出来るから

今回もそうする方が良かったのかもしれないと夏凜は考えて、息をつく

夏凜「次があったら、そうするのもありね」

天乃「次もあるの?」

夏凜「余裕があったら、だけど。次はセンスの良い場所に……っ」

ちょっとは傷ついていたのかもしれない

夏凜はちょっぴり膨れた表情で言いながら、車椅子を少しだけ強く押して

天乃「きゃぁっ!?」

聞こえた悲鳴に目を見開いて、冷汗を拭う

夏凜「ち、ちなみに、背負ったら思いっきり走るから今みたいに――」

天乃「つ、次やったら。次やったら一か月前のトラウマ再発させるわよ!」

安全装置も何もない車椅子でやられたからだろう

瞳の端に涙をため込んだ天乃は、振り返りざまに怒鳴る

夏凜「悪かったからそれだけは許して!」

申し訳ないと言う気持ちもあるが、ほんの少しだけ。可愛いと思ってしまった


√ 6月12日目  朝(学校) ※金曜日


01~10 
11~20 一年の女子生徒

21~30 
31~40  三年の男子生徒
41~50 
51~60  沙織
61~70 
71~80 風

81~90 
91~00  ?

↓1のコンマ 

※イベントがなければ昼に移行


天乃「…………」

夏凜「何してんのよ。まだ履き替えてないの?」

夏凜も一緒に泊まったため、当然二人一緒に登校してきたのだが

いつまでたっても下駄箱の前から動かない天乃に

夏凜は怪訝そうな顔で問う

またしてもラブレターが届いたのではないか

そう思うと、やはり。少し嫌な気分になる

けれど、天乃は首を横に振って、下駄箱を指さす

天乃「私の上履きがないのよ」

夏凜「はぁ? じゃぁ、入ってるのが誰の靴か――」

天乃「ううん、誰の靴もないの」

そんな馬鹿なことがあるわけない

そう思いながらも

天乃の困り果てた表情に、夏凜は不安を感じながら下駄箱を覗く

誰の靴もない。上履きも、何も

そこは使われていないようにもぬけの殻で

しかし、その下駄箱の上部には間違いなく久遠天乃と記されている


夏凜「どういうことよ、いったい」

天乃「……私のことを好きな人が持って行っちゃったとか?」

夏凜「そんな気持ち悪い事……あ」

する奴なんていないと言いかけたが

間違いなくいることを思い出した夏凜は言葉を途中で止めて……眼を逸らす

もし本当に持ち帰ったのなら、返ってくることは期待しない方が良いだろう

天乃「冗談は抜きにしても、靴下のままなんて……スリッパ借りに行くの手伝ってくれる?」

夏凜「ん、まぁいいけど」

それ以外方法がないから仕方がないと職員室へ向かおうとした時だった

「あれ?久遠さんこんなところで何してるの?」

天乃「え?」

クラスメイトの女子生徒から、声をかけられた

しかも、その女子生徒は天乃がこの場にいるのがおかしい。とでも言いたげな表情で

夏凜「どういうことよ」

「どういうことも何も、ついさっき上で隣のクラスの男子呼び出してたから……んん~?」

天乃「呼び出してって……それ」

「車椅子だったし間違いないと思ったんだけど、気のせいだったか」


一人で笑ったり困惑したりと

忙しないクラスメイトの一方、二人は困惑一色、呆然としていたが

女子生徒が職員室へと入ろうとした瞬間、夏凜が女子生徒の腕を掴む

夏凜「待って」

「なに?」

夏凜「本当に天乃が上にいた? 車椅子で、この髪で、この顔で、この声で」

「顔は見てないけど、それ以外は間違いなかったと思うよ? まぁ、ここにいるんだから気のせいなんだろうけどね」

呼ばれてるからごめんね。と

女子生徒は夏凜の手から抜けて、職員室へと消えていく

天乃「…………」

夏凜「…………」

もし見間違いではなく、勘違いではなく

上の階に久遠天乃が存在しているのであれば

それは間違いなく、猿猴だろう

夏凜「どうする? 混乱を避けるために私一人で行く?」



1、任せる
2、一緒に行く
3、九尾、力を貸して
4、死神さん、力を貸して
5、若葉。一緒に行って
6、ううん、ここは様子を見ましょう


↓2


天乃「ううん、ここは下手に動かないで様子を見ましょう」

夏凜「様子を見るって……私が行かないで誰が」

天乃「忘れたの? 誰よりも私を知ってる強い味方がクラスメイトにいるってことを」

天乃の自信を感じる声

諦めを感じない表情

だから、きっとそれは嘘ではないのだろう

けれど、そんなクラスメイトは誰だろうか

風? いや、違う

誰よりも天乃を知っているのだとしたら、一人しかいない

夏凜「沙織……?」

天乃「ええ。沙織は前回の入れ替わり時にも、最初から見抜いていたわ」

夏凜「…………」

天乃「そして、今回も」

天乃はそう言って端末を夏凜へと向ける

そこには、【精霊がやんちゃだね。学校でも巫女としての仕事は辛いな~】と、

やや不満を感じるメールが表示されていた


夏凜「……私だって、見抜けるわよ」

天乃「なに対抗してるのよ」

夏凜「別に」

明らかにおかしい言動なら見抜く自信はあるが

普段と変わらなかったり、いつものような揶揄っているという感じで満ちた言動だったら

多分……見抜けない

だから、何もなくても見抜くことのできる沙織

その繋がりに深さに、夏凜は嫉妬をする

天乃「とりあえず沙織が様子を見てくれるから、私達は外に行きましょ。倉庫裏とか」

夏凜「外って……まぁ、仕方がないか」

どこかにいて誰かに見られると厄介だ

それなら、人目につかないような場所に隠れているのが得策だろう

天乃「後で沙織には何か奢ってあげないと」

夏凜「奢るだけで済めばいいけど」

天乃「沙織はそんな意地悪じゃないわよ。でも。一緒に出掛ける件もずっと果たせてないから。それくらいは求めてくるかも」

笑っていられる状況ではないのだろうが

しかし、天乃は沙織に対して申し訳なさそうに笑う

夏凜「ったく……とりあえず行くわ。教師に見つかるのも面倒だから。少し早いわよ」

天乃「ええ」

夏凜は天乃の返事を聞いて、一目散に外へと飛び出した


天乃?「悪いわね、呼び出しちゃって」

「いや……」

呼び出しに応じたものの、男子生徒はどこか気まずそうで

天乃?はそんなこと気にすることなくただ、艶かしく笑う

車椅子と徒歩、天乃?と男子生徒

二人はHRが近づく中、

少しずつ、減少していく人の気配を感じ取り、

さらに校舎の中を進んでいく

そして、天乃?はゆっくりと、男子生徒に目を向けた

天乃?「貴方はしたくてしたんじゃないの?」

「……っ」

天乃?「あれは貴方がしたこと。貴方が犯した罪。貴方はそれを……恥じているの?」

その二つの瞳は男子生徒を見定める

答えを急がせるように、鋭く

しかし、久遠天乃という人間のやさしさ、穏やかさを感じさせるような雰囲気で

男子生徒は息を飲み、見返す


「あんなに嫌がってたのに」

天乃?「そうね。私はきっと貴方に酷いことを言いさえしたと思う。けれど」

天乃?は自分の唇に指をあてて、なぞる

男子生徒の自分を見る視線がそこに誘われるように、ゆっくりと見せつけるように

柔らかい唇を指で押して、その弾力を、感触を。男子生徒が思い出すことが出来るように

天乃?「私はそれが、貴方の強い想いだと思った。こんなボロボロな私を。愛してくれる人だと思った」

「く、久遠……」

天乃?「それは……私の勘違いだったの?」

男子生徒の強い想いを信じているかのような官能的な笑みを浮かべていた天乃?は

一転してとても物悲しそうに、寂しそうに、視線を逸らして、俯く

逃げることを許さない。誤魔化すことを許さない

そんな、見えない束縛を男子生徒は感じて、息を飲む

けれどもそれは緊張ではなく、魅惑的なものに憑りつかれたものの瞳

天乃?「教えて……? 言葉ではなくても良いから。もう一度、私に」

「お、れは……」

男子生徒は僅かにふらつき、膝をつくと

そのまま天乃の体へと吸い込まれるようにもたれ掛かる


「あんなに嫌がってたのに」

天乃?「そうね。私はきっと貴方に酷いことを言いさえしたと思う。けれど」

天乃?は自分の唇に指をあてて、なぞる

男子生徒の自分を見る視線がそこに誘われるように、ゆっくりと見せつけるように

柔らかい唇を指で押して、その弾力を、感触を。男子生徒が思い出すことが出来るように

天乃?「私はそれが、貴方の強い想いだと思った。こんなボロボロな私を。愛してくれる人だと思った」

「く、久遠……」

天乃?「それは……私の勘違いだったの?」

男子生徒の強い想いを信じているかのような官能的な笑みを浮かべていた天乃?は

一転してとても物悲しそうに、寂しそうに、視線を逸らして、俯く

逃げることを許さない。誤魔化すことを許さない

そんな、見えない束縛を男子生徒は感じて、息を飲む

けれどもそれは緊張ではなく、魅惑的なものに憑りつかれたものの瞳

天乃?「教えて……? 言葉ではなくても良いから。もう一度、私に」

「お、れは……」

男子生徒は僅かにふらつき、膝をつくと

そのまま天乃の体へと吸い込まれるようにもたれ掛かる


それは急な出来事

にも拘らず、天乃?はそれを予期していたかのように

驚くこともなく胸で受け止め、男子生徒の体を抱きしめると

艶かしさを感じる笑い声を溢す

天乃?「さぁ……教えて?」

「……………」

男子生徒の肩を押し、いったん距離を作った天乃?は

男子生徒を見つめて、怪しく笑う

それはとても危ないけれど、とても美しい笑み

天乃?「……ふふっ」

「久遠……俺は」

またゆっくりと近づいていく二人

それを陰から見守る沙織は、険しい表情で端末を握り締める

あのまま放置するのは男子生徒が危険だ

最悪……あのまま消えてなくなる

しかし、巫女であっても戦う力のない沙織には止める術など……


01~10  お兄ちゃんは不純異性交遊なんて認めませんよ
11~20 
21~30  飛び出す
31~40  九尾
41~50 大声を上げる

51~60  お兄ちゃんは不純異性交遊なんて認めませんよ
61~70  九尾
71~80 
81~90  お兄ちゃんは不純異性交遊なんて認めませんよ
91~00  大声を上げる

↓1のコンマ 


※空白見逃し


沙織「……ごめんね」

どうしようもない。ただ、見ているしかできない

普通の精霊であれば、巫女としての仕事の範疇で済ませることが出来たかもしれない

けれど、あれは。あそこまで、進んでしまったものに対しては

沙織一人の力では、どうしようもない

ホームルームの鐘が鳴り響く中

沙織の瞳に映る二人は、唇を重ね合わせる

天乃?は男子生徒の肩に

男子生徒は天乃?の頭に

それぞれ手を宛がい、どちらかとも言えないキスをする

深く、強く、そのまま永遠の時を過ごそうとでも言うかのように長く

身動き一つすることなく、鐘の音をものともせずにキスをして

離れると、天乃?は恍惚とした表情で

男子生徒の口元から伝い落ちるどちらかの唾液にキスをして吸い上げると

また、男子生徒と唇を重ねて――そして、天乃?が離れた瞬間

男子生徒は糸の切れた人形のように、その場に倒れ込む

天乃?「ふふっ、ご馳走様……これが、そう。なのね」

「………………」

倒れ込んだ男子生徒を見下ろす天乃?は

不敵な笑みを浮かべると、そのまま男子生徒だけを残して一瞬で姿を消す


沙織「っ……!」

天乃?が消え手からしばらく様子をうかがった沙織は

天乃に化けた精霊、猿猴が本当にどこかへ消えたのだと判断して飛び出し、

男子生徒の口元に手を当て、胸元を見る

沙織「良かった……生きてる」

呼吸はしっかりとしていて、ただ眠っているようにも見えるが

しかし、きっとそんなことはない

沙織は端末を手に取ると、大赦の霊的医療班を手配し、

教師に紛れ込む大赦職員の一人に男子生徒を委ねる

沙織「……早急に手を打たないと、嫌な予感がする」

教室には猿猴扮する天乃の姿はなかったため、

とりあえずは戻ってきても良い事

男子生徒がキスをされて倒れてしまったことを天乃にメールし

ごめんなさいと、付け加えて送る

沙織「……次は何としてでも。止めなきゃ」



天乃の行動選択



1、男子生徒の元へ
2、とりあえずは沙織と合流
3、試しに猿猴を呼ぶ
4、九尾に猿猴を見張るように言う


↓2


※4は沙織と合流もします







天乃「九尾、いるんでしょう?」

九尾「……うむ」

天乃の真剣そのものの声と表情に

九尾尾は普段の空気を乱すような言動すべてを控えて、姿を現す

天乃は言いたいことは色々あったが

けれど、九尾に聞いても、言っても

全て仕方がないことだと飲み込み、首を振る

天乃「猿猴を見張って頂戴」

九尾「了主様」

天乃「……なに?」

九尾「やつは常にどこかに潜み、妾らには見つからぬようにしておる……ゆえに、監視できるとは限らぬ」

九尾は悔しそうに歯噛みすると

冗談ではないのだと、天乃と夏凜に目を向けて、首を振って

九尾「先日の校舎の階段付近および、下駄箱とやらで接触したのは奴じゃと分かっておったのに……すまぬ。まだ事は起こさぬと過信していた」

天乃「…………」

九尾が言う接触時、何かしらの違和感は感じていた

なのに、それを気にすることを怠ったのは、自分も同じだ

だから、天乃は九尾を責めることなくただ。お願い。と、言った


夏凜「階段と下駄箱って?」

天乃「風と話した場所……私も違和感はあったのだけど。ほんの些細なことだったから」

風に階段での様子について聞くべきだったかもしれない

あとで夏凜と話すと言っていたから

夏凜に会ったときに風について聞いておくべきだったかもしれない

けれど、いまさら後悔しても遅いことだ

夏凜「風と……つまり、その精霊が風に化けてたってことよね?」

天乃「ええ。私だけじゃなく、誰にでも化けることが出来るみたい。だから、少しでも違和感を感じたら注意が必要になるわ」

天乃の複雑そうな表情に、夏凜もまた不快そうに眉を顰めて、首を振る

注意が必要ということは

誰かを。そして、知り合いを、勇者部を

疑わなければいけないということになる

それは、人が好きな天乃の心をどれだけ苦しめるのだろうか

天乃「!」

夏凜はそれを考えて……後ろから天乃を抱きしめた

夏凜「私だけは……信じてていいわよ」

天乃「夏凜?」

夏凜「こうやってそばにいれば、疑う余地なんてないでしょ?」

天乃「……ありがと」

自分の体に触れる夏凜の腕

それを優しく包み込むように触れた天乃は小さく。お礼を言った


沙織「……ごめんね」

天乃「ううん、謝らないで」

授業と授業の合間HRの時間

天乃と夏凜は、沙織と一緒に部室に来ていた

夏凜「医療班からの連絡は?」

沙織「それなんだけど、直前の記憶が欠落している以外。特に異常はないだろうって」

天乃「異常がない? じゃぁ、猿猴は一体何をしたの?」

ただ、天乃の姿で男子生徒とキスをすることで

色々な方面で天乃を陥れようとしたのだろうか?

しかし、それなら男子生徒を教室から呼び出すことなくk

そのまま大勢の目の前で行えばよかったはずだ

天乃「……そんなことされたら、不登校になる自信があるけど」

夏凜「最悪、九尾に何とかしてもらうしかないんじゃない? その時は」

天乃「そうね……でも、そうしなかったのはなぜ?」

沙織「キスはただの手段で、もっと別の何か。普通では気づかない何かを仕掛けたか奪ったんだと思う」

夏凜「……話が進む気がしないわね」


圧倒的な情報不足

それゆえに、あれはどうかこれはどうか

憶測ばかりが行きかうだけで

そして結局、【何か】という不特定多数に食い殺される

夏凜「X+Y=Z。この数式を埋めなさい。的なウザったい問題だわ」

沙織「キス+気絶=Z?」

天乃「Z=酸欠。なんて、そんなはずがないから……微妙な所ね」

三人そろって深くため息をつくと

授業開始前の予鈴が校舎に響き渡る

本来なら、普通に授業に出ている場合ではないし

大赦にこの件は伝わっているのだから

お役目ということにでもして

欠席分は後々の補習か何かになるか、免除してもらえるはずだ

沙織「どうしよう。あたしは……戻っておいた方が良いかな」

夏凜「…………」


1、沙織含めた勇者部全員を欠席
2、勇者部のみ、欠席
3、夏凜、天乃は欠席
4、夏凜、天乃、沙織は欠席
5、欠席しない

↓2

※5の場合、夏凜のみ欠席します


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から






大赦職員「猿猴の行動、ですか……」

大赦職員「援交するのではないでしょうか? 猿猴だけに」

大赦「明日から来なくていいですよ。冷房は間に合っていますので」

大赦職員「!?」


では、はじめていきます


天乃「そうね……沙織には悪いけど。教室に戻って欲しいわ。また出てこないとも限らないから」

沙織「解った。風さんにも一応話しておく?」

夏凜「それについてはこっちからメールしておく。友奈たちにも知らせる必要があるから」

沙織「うん、解った」

いつにも増して真剣な面持ちで頷いた沙織は

部室の扉に手をかけたが、足を止めて夏凜と天乃に振り返る

その表情からは

現状への不安と何かへの失望を感じて

天乃「大丈夫よ。なせば大抵なんとかなる」

沙織「うん……えっと」

安心してと笑みを浮かべる天乃の一方、

沙織は少し微笑んで、夏凜を見る

沙織「よろしくね。三好さん」

夏凜「任せなさい」

二人のそんなやり取りを見守っていた天乃は

不思議な仲の良さを感じて笑みを浮かべて見送ると

沙織がいなくなってから、夏凜へと目を向けた


天乃「……沙織と仲良かったのね」

夏凜「そうでもないわよ。ただ、似たもの同士ってだけ」

天乃「沙織と夏凜が?」

夏凜「まぁね」

夏凜は天乃が理解できないのを悟ると、自慢げに鼻で笑う

勝ち誇ったようなその笑みに少しむくれた天乃だが

仲がいいのなら。と、嬉しそうな笑みを浮かべて

天乃「悪さだけはしないでよね」

夏凜「あんたじゃあるまいし。悪巧みはしないわよ」

状況が状況だけに

相変わらず緊張を解くことは出来ないけれど

しかし、天乃も夏凜も普段通りに笑い声をこぼして、授業開始の鐘を聞く

部室で二人、笑い声の静まった教室、鐘の音

昨日と同じ空気を感じた天乃はそうっと夏凜に目を向ける

夏凜も似たようなものを感じているようで

後ろ手に手を組み、横目に天乃を見るとふいっと顔を逸らす


夏凜「め、面倒なことになったわね」

天乃「そうね……」

夏凜「……………」

天乃「……………」

おかしな話だが、天乃は居心地の悪くない気まずさを感じて、目を瞑る

昨日のことを思い出す

朝、無理矢理キスされたこと

昼、無理矢理キスをしたこと

昼、どちらともなく重なり合ったこと

いつものような恥ずかしさゆえの燃え上がるようなものではなく

ゆっくりと温められていく感覚を全身に感じた天乃は声に出さず微笑む

男子生徒と二人で会った時に感じたのとは正反対の感覚

思えば、あのときに直前まで一緒にいたのは夏凜だ

いなくて不安だと、寂しいと。そう思ったのも夏凜がいなくなったからで。

天乃「もしも私が猿猴だったら、どうする?」

夏凜「朝から一緒なんだから、疑う余地ない」

天乃「昨日から――」

夏凜「そう、昨日も一緒だった」


言う意味がない。そんな茶化す言葉も必要ない

そういわんとばかりに遮った声に天乃は一瞬、驚いた表情を見せたが

すぐに「そうね」と、言う

精霊である猿猴が問題を起こしてしまって

その警戒をすべき状況で、安心なんて出来ないはずなのに

心は、どうしようもなく安堵する

なのに、鼓動は早まるばかりで

天乃「本当、疑う余地がない」

夏凜「だから言ったじゃない。私だけは信じてて良いって」

天乃「……そうね。もしも夏凜が猿猴に成り代わっていたら。私は心が折れるかもしれない」

夏凜「平気な顔して物騒なこと言ってんじゃないわよ」

うっすらと、儚げな笑みを見せた天乃に

夏凜は呆れたようにそう言って、笑みを浮かべる

夏凜「あんたの心は、そんなに弱くないでしょ」

天乃「どうかしら」


最近は、とても弱くなってしまったように思えてならない

夏凜が後ろから消えたあの告白の場

無理矢理キスをされたとき

無理矢理キスをしたとき、どうしようもなく。弱くなったのを実感した

だから、天乃は冗談めかした笑みを浮かべるだけで

それ以上は何も言わない

……頼りすぎているんでしょうね

だから、不意に支えがなくなった時に倒れかけて

不安になる、寂しくなる、満たされなくなる

根本的なものは変わっていないのに

夏凜「なんにしても、私が入れ替わることだけは絶対にないから安心しなさい」

天乃「自信あるのね」

夏凜「沙織にも任されたんだから仕方がないでしょ。ミスったら沙織がどうなるかわかったもんじゃないわ」

普段もやや感情的な一面を見せている沙織だが

本当の本気で激怒したらどうなるのか

天乃は沙織が怒ったのを見たことがある。というか怒らせたことがあるが

本気の本気での激怒はきっと、あれほど生易しいものではないだろう


天乃「もしかしたら私よりも怖いかも」

夏凜「勘弁して」

天乃以上に恐ろしくなる

そんな凶悪なものを想像した夏凜は

身震いすると、肩をすくめて苦笑いを浮かべる

まだ名前も教えあっていないころの体育館での戦い

あれ以上なんていうのは、もはや人間ではない

もっとも、それ自体が夏凜の体感では人間ではなかったが。

本気で言う夏凜に、天乃は冗談よ。と、返す

天乃「…………」

夏凜「…………」

そして不意に会話が途切れると

グラウンドから「パス!」、「止めろ!」と

体育で盛り上がっているどこかのクラスの男子生徒の声が響く


1、猿猴の目的はなんだと思う?
2、男の子が直前のこと思い出したら。私、付き合ってることになるのかしら
3、ねぇ……夏凜。する?
4、夏凜、お誕生日おめでとう……大したものではないけれど。これをあげるわ
5、ねぇ、夏凜はどうして恋してるなって思ったの?


↓2


天乃「ねぇ……夏凜。する?」

何を。とは言わなかった

ただ、するかと問いかけて。目を向ける

夏凜は目を向けると、何かを言いたげに口元を動かす

けれど、そこから零れ落ちたのはため息

体育の喧騒が段々と遠くなっていくにつれて

どこかの教室では席を動かす音が聞こえる

けれど、二人は沈黙し、静寂を纏って。ただ、視線を交わらせていく

夏凜「……天乃が。それを言うとは思わなかった」

天乃「意外?」

夏凜「予想はしてなかった」

天乃「想像はした?」

夏凜「……少し」

夏凜は照れ隠しをする様子もなく

達観しているかのように平然とそう言って笑うと

ポケットから端末を取り出して、机に置く


夏凜「私のことは、昨日話したわよ?」

天乃「ええ……そうね」

天乃のことが好きだと言った

喜んでいる顔、嬉しそうな顔、幸せそうな顔

それらが好きだと言った

天乃「ちゃんと、どういう意味であるのかも理解しているつもりよ」

夏凜「あれで出来てなかったら。さすがにふざけんなって話よ」

候補者の言葉。なんて遠回しな言い方をしてしまったが

それでも十分理解できるくらいの話を、ちゃんとしていたから

だから夏凜は苦笑する

夏凜「で、それでも。あんたはそれを言ったわけね」

天乃「ええ。間違いないわ」

夏凜の一転して緊張感を持たせる表情に

天乃もまた、茶化すことのない真剣な面持ちで答える

これは、必要なことだから


天乃「どうしても、確かめたいことがあるの」

天乃は表情に影を落としながら、自分の唇に触れると

思い悩む瞳を彷徨わせて、瞼を閉じる

思い浮かぶのは、男子生徒とのキス

園子とのキス、夏凜とのキス

沙織が大切にすべきだと言ったファーストキスは無残にも奪われて

嫌悪感が基準となってしまった中で、心地よさを感じさせてくれた二人

その片割れである夏凜に、天乃はゆっくりと目を開いて

天乃「どうして泣いたのか。どうして最初は駄目だったのか。慰めでないこの触れ合いでわかる気がするの」

夏凜「……本気で言ってるわけ、か」

天乃「間違いなく本気よ。この結果次第では多分……私は夏凜達の助言に基づいて貴女に謝らないといけない」

天乃の言葉に、驚きはなかった

ただ、それもそうだと思って

なぜだか笑みを浮かべて「……そう」と

頭の中とは裏腹に、寂しげな声が零れ出す


その謝罪。そのごめんなさいは

昨夜の夏凜への答え。その返事

それはつまり、気持ちを受け止めてあげることはできないということ

片思いの時は知りたくて仕方が無いのに

そのひと欠片を結んでしまっただけで、知りたくないと臆病になってしまう

つまり、ここで嫌と言えば

夏凜はまだまだ夢を見ていられる

まだ、楽しく幸せな関係でいることが出来る

それはなんて――魅力的なのだろう

夏凜「あの時と似たシチュの今は、最高の場面ってわけか」

天乃「そうね……図らずもうまく重なったわ」

そう言った天乃は

軽く息をつくと、夏凜へと目を向けて

天乃「どう……?」

一握りの不安と希望を持って、問い直す


01~10  友奈
11~20 猿猴の問題が片付いたら

21~30  沙織
31~40  いいわよ
41~50 女子生徒

51~60  猿猴の問題が片付いたら
61~70  友奈
71~80 良いわよ

81~90  猿猴の問題が片付いたら
91~00  一皮むけた夏凜ちゃんは自分からキスをする

↓1のコンマ 


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から




夏凜「なんか死亡フラグ立ちそうだから、猿猴の問題が片付いたらにしましょ。そうしたら、キス。で」

天乃「……そうね。今はそれを考えないといけないわよね」

若葉(それこそフラグというやつでは……)

球子(1、キスして死ぬ 2、夢を見て死ぬ  だな)

若葉(やめろ!)


では、はじめていきます


夏凜「いや……猿猴の問題が片付いたらにしましょ」

天乃から言ってきてくれたことは嬉しかった

出来るなら、この話に乗ってキスをしてしまいたいと思った

けれど、今はそう言う状況ではない

現を抜かしている場合ではないのだ

似たもの同士。本当ならこの場に居たかったであろう人から

よろしく。と、頼まれたのだから

夏凜「天乃の考えも理解できる。けど――」

天乃「ううん、夏凜がそう言うなら。待てるから平気よ」

夏凜「……あんたは」

本当はしたかっただろうに……と、自信過剰に言うわけではないが

そうであろうとなかろうと

勇気を出して言ってくれたであろう事を拒否した自分に対して

そんな発言を出来る天乃が、やはり夏凜には魅力的に見える

きっと、男女問わず。誰からでも

天乃「貴女にも貴女の考えがあるんでしょう?」

夏凜「まぁ……ね」


夏凜の嬉しさを感じる微笑に

天乃は何も言わず、笑みを浮かべて息をつく

気持ちを伝えてきた夏凜は……いや

それ以前から、大分変わってきたと思う

積極的な部分があって、強引な部分があって、

ほんの少しだけ、大人びた印象を受ける場面だってある

夏凜だけじゃない

友奈や樹、風に東郷。みんなだってそう

自分との関わりゆえだと言う気はないけれど

しっかりと、成長を感じさせてくれる

天乃は、それが何よりも嬉しかった

自分がいなくなっても平気だから。なんて

みんなが怒るような理由がないといえば嘘になるけれど

でも、やはり。友人として、先輩として、

成長していく姿を見られたのが、感じられたのが、嬉しいのだ


天乃「でも」

夏凜「?」

天乃「猿猴の件が片付いてからなら、はやくそれを片付けないとね」

夏凜「なんでよ。そんなにしたいわけ?」

夏凜の嬉しそうに困った表情に

天乃はクスクスと笑いながら、首を横に振る

もっとも、したいということ自体が間違っているわけではないが

天乃「心のもやもやを晴らしたいの。恋する上で、きっと必要なことだから」

夏凜「…………」

言っていることは、なに言ってるの?と茶化されそうなものだが、

天乃の表情はいたって真面目で、真剣で、本気で

そんなことを許さない雰囲気で

祈るように胸元にあてがわれた手が、一瞬。強く握り合ったように見えた


夏凜「……天乃のそれがなんなのか解らないけど」

あの時の涙は、当然。今も鮮明に残っている

きっと、何年、何十年経ったとしても。このまま進んだとしたら鮮明な後悔として残るだろう

夏凜は天乃と目を合わせることなく、

何かを追いかけるように目線を上げて、下げて

まるでついでに言うかのような仕草を見せたが

ふと、首を振って天乃へと目を向けた

夏凜「でも。私とするのが嫌だった。なんて事ではないって思いたいわね」

天乃「大丈夫よ」

そう。きっと大丈夫。そんな気がするのだ

だけど、それを確信めいたものにしたい。だから、改めてのキスがしたいのだと

天乃は言葉にすることはなく笑みを浮かべて

夏凜は不明瞭なままに大丈夫だという天乃に対して困ったように笑って

夏凜「嘘だったら承知しないわよ」

そう言った


√ 6月12日目  昼(学校) ※金曜日


01~10 風 
11~20 
21~30 
31~40  友奈
41~50 大赦職員

51~60  東郷
61~70 
71~80 樹

81~90 
91~00  沙織


↓1のコンマ 



√ 6月12日目  昼(学校) ※金曜日


1、勇者部全員とSNS
2、夏凜と交流 ※猿猴について
3、沙織に連絡
4、若葉を呼ぶ
5、死神を呼ぶ
6、球子を呼ぶ
7、イベント判定

↓2


1、部室にきて
2、大赦からの連絡は?
3、現状報告
4、沙織はなぜ、あの子が襲われたか知ってる?
5、沙織の好きなタイプって、どんな人?


↓2


天乃「ごめんね? 今平気?」

沙織『うん、全然平気だよ』

電話の奥からは、昼休みゆえのクラスメイト達の声が聞こえる

どれもこれも明るくて、楽しそうな声

その中には、沙織の名前を呼ぶ声もあった

沙織『ごめんね、ちょっと電話が来てるの』

沙織はそう言って教室を出たのだろう

騒がしさは遠のいて、沙織の小さなため息が聞こえた

沙織『それで、どうしたの?』

天乃「現状報告、私のところは問題ないけど。沙織の方はどうかと思って」

沙織『こっちにも久遠さんは姿を見せてないよ。他の人も』

沙織はそう言うと

思い出したように、「あ、そうだ」とつぶやいて

沙織『久遠さんは一応、お役目で早退したことになってるみたい』

天乃「それが妥当でしょうね……姿を消しちゃったわけだし」

沙織『そうだね』


この学校自体から姿を消している場合、外で何か悪さをしている可能性があるということだからそれはない。と、思いたいが……

もっとも、この学校の外で知り合いと言えば

瞳と園子。あとは大赦職員くらいで、その二人でなければ、さほど怖いことはないし

二人にも猿猴の件は連絡がいっているから、合流および警戒はしておいてもらえているはずなので

心配はそこまでしていないが。

沙織『結城さんや犬吠埼さんの方でも、現状問題はないって報告が来てるけど、それは久遠さんにも来てるよね?』

天乃「ええ。端末で連絡取り合っていれば、誰かがここに来た時にすぐ真偽が定められるからね」

沙織『でも、あたしには電話なんだね』

天乃「貴女は声を聴いた方が安心するから」

沙織『え……?』

天乃「猿猴が一番戻りやすい教室にいるし、近しいから。レスポンス待機は不安になるわ」

不安に揺れた天乃の声を聴き、

沙織は「だよねー」と、心なしか不服そうに呟いて

しかし、すぐに笑い声を溢した

沙織『久遠さんらしいね』

天乃「……真面目に言ってるのよ?」

沙織『解ってるよ。あたしは』


ほんの少し茶化されたような気がして

目には見えていないだろうけれど、天乃が少しばかり不快そうに言うと

沙織は解り切ったような声色で返す

沙織『解ってる。久遠さんが凄く心配してくれているんだって』

それはもちろん、声を聴いた方が安心すると言われて

ちょっとばかり特別な方ではないかと考えてしまったが

そうではないことは、ちゃんとわかっていた

沙織『こっちには風さんもいるから平気だよ』

だから、安心できるようにと優しい声で言う

心配しなくていいと、諭すように

天乃「そうね……そっちには風がいるのよね」

沙織『うん、クラスメイトもいるから。大丈夫。極力風さんと離れな――あ』

風『離れないとか言いつつ離れたのはどこの誰かしらね~?』

天乃「……ふふっ」

教室を出たすぐの廊下にいたのだろうけれど

それでも、心配したのよ。と本心を感じる声で叱る風の声が聞こえて

天乃は思わず、笑みをこぼす

本当に、とりあえず心配はなさそうだ




1、放課後、男の子のところに連れて行って
2、放課後、沙織も部室にきて
3、ねぇ、沙織は恋をしてる?
4、ねぇ、猿猴が急に動き出した理由。分からない?
5、風、沙織のことをよろしくね



↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日はお休みする可能性がありますが
出来れば通常時間から


では、少しだけ


天乃「放課後、沙織も部室に来てくれる?」

沙織『解った……って言いたいけど。大赦に確認取って平気だったらになるかな』

沙織は嬉しそうに言い出したものの

大赦。の辺りから残念そうにトーンを落として、息をつく

男子生徒の件か、それとは別の何かが沙織にはあるらしい

天乃「何かあったの?」

だから、あえて不特定多数を指して問う

男子生徒の件かと聞くと、嘘でもそうだと答えるだろうし

本当に男子生徒の件なら、それもやっぱり男子生徒の件と答えてくれるはずだ。迷いなく

しかし

沙織『えっと……私が目撃者だから。一応ね』

沙織は今考えたように言う

それは思い出したようにも感じるが、どこか不安定だと天乃は感じて

天乃「そう……出来れば一人にはなって欲しくないのだけど」

沙織『うん、だから要相談だよね。多分、反対されないとは思うけど……』


天乃の言葉が沙織一人になるということではなく

勇者部の誰とも行動しないという一人きりなのだと佐織は察して、苦笑する

何が起こるかわからない現状、強力なボディガードになり得る勇者部の面々から

所属する巫女一人を連れ出すなど、危険だというのは解るだろうから

おそらく、大赦もそんなことはしないはずだ

天乃「反対されたら沙織が反対しなさい。私が許可する」

沙織『あはは、頼もしい後ろ盾だね』

正直、生きていたいなら大赦よりも天乃に付くべきだろうし

そうでなくとも、沙織としては天乃に付いていきたい気持ちがあった

けれど

沙織『それはダメだよ』

天乃「どうして?」

沙織『これ以上、久遠さんの立場を悪くしたくないから……ね。だって、先日の精霊の事件でただでさえ悪くなってるんだよ?』

先日。といって割りと昔のような気がするが

その精霊というのは、猿猴ではなく、悪五郎のほうの二人の大赦職員が行方不明になった件だ

結局保護され体調等も今では問題なくなっているが、それでも。問題といえば問題で

それが天乃の評価に繋がっているのだ


そこに、この猿猴の事件

今のところ被害に遭ったのは男子生徒一人で、精神面、身体面共に問題はない為に

そこまで大きく問題視されてはいないとは思うが、これ以上増える可能性があるという懸念が有り

今までの件、今回の件を考えて……という意見は多い

沙織『あたし達はできるだけ、久遠さんに普通の生活を経験して欲しい。あっちの世界を日常だとするその考えを変えて欲しいって重ってる』

天乃「……それは」

沙織『久遠さんには難しい話だってわかってる。でも、あたし達は久遠さんに孤独になって欲しくないから』

同じところを歩いているのに

足音が聞こえるのに、声が聞こえるのに。なのに

姿が見えない、触れることが出来ない。そんな次元格差のような状態を無くしたい

沙織『だから、出来るだけその足を引っ張るようなことはしたくないんだ』

天乃「別に、このくらいなら平気よ」

沙織『大は小を兼ねるけど、結局。大は小から作られているからね。塵を積もらせるわけにはいかないよ』

天乃に対して、沙織は強く言う

押し負けられない。負けて良いことじゃない

これだけは、折れて上げられない。そんな意志を示すように


沙織『もうすぐ昼休みも終わるから。また後で……かな? 大赦が意地悪じゃなければ』

沙織は冗談めかして言うと、笑い声を漏らして「またね」、と、電話を切る

天乃「大赦は意地悪よ……私に対しては」

一部例外も居るけれど。しかし、基本的に厳しいのは事実

被害を出してしまう力があって

世界を滅ぼすことが出来る力がある

だから、それを恐れてのことだというのも理解できなくはないのだが

やはり、快く思えないのは当然で

夏凜「あんまり考えない方が良いわよ。余計に疲れる」

天乃「大赦の勇者がそんなこと言って良いの?」

夏凜「良いのよ。別に」

拾って貰った恩はあるが、しかし。その感謝は瞳にすべきで

天乃を目の敵にしているような組織に対しては、返すものもない

夏凜「沙織や瞳もそうだけど。私達はもう、天乃サイドって認識だから」

夏凜は苦笑しながら言って、「呆れるでしょ」とため息をつく


天乃はそんな夏凜に対して

少し、申しわけなさそうに笑みを向けて、「ごめんね」と言ったけれど

夏凜はそれこそ気に食わなかったようで

夏凜「別にあんたのせいじゃないっての」

天乃「……私の味方になると大変よ?」

夏凜「あっちもこっちも大変なら、自分の居たい場所に居たいのよ」

気にするなというように

今の立場を好ましく思っていると示すように

夏凜は満足げな笑みを浮かべて

天乃はその反応に少し驚きながらも

ただ「どうなっても自己責任だからね」と、茶化すように笑った


√ 6月12日目  夕(学校) ※金曜日


天乃「……そう」

結局、大赦から許可は下りなかったようで

沙織はHR終了後に呼ばれているからと、部室にはくることなく風に伝言を頼んで

そのまま学校を出て行ってしまったらしい

伝えられた天乃は気落ちしたため息をつくと

すぐに「仕方がないわね」と、切り替えて

天乃「とりあえず、各自問題なかった?」

風「あたしは別に良いけど。あたしと沙織が行くまで樹はトイレ行けなかったのよ」

樹「うぅ……」

風に言われ、気恥ずかしそうに身を縮ませた樹は

紅く染めた頬、潤んだ瞳で風を見る

樹「言わないでよぉ」

夏凜「別に漏らしたわけでもないなら良いじゃない」

樹「それはそうですけど……」

夏凜の言葉はもっともだが

しかし、恥ずかしいことは恥ずかしいのだろう

樹は顔を伏せて、黙り込んでしまった


そんな様子を見守っていた東郷は、「良いですか」と前置きして

みんなの反応を確認してから、天乃のみに目を向ける

東郷「数日なら構いませんが、しばらくこの状態が続くというのは好ましくないかと」

友奈「そうだよね……私や東郷さんは同じクラスでいつも一緒だから変わりないけど」

樹「でも、明日と明後日はお休みですよね?」

東郷は「そう。そこで」と

樹の言葉に明るく答えて続ける

東郷「対策も考えられて各自対応もしやすくするため、全員で一箇所に集まりませんか?」

風「なるほど……って言っても。現状でもあたし達、友奈と東郷。夏凜と天乃で近くに居るのよねぇ」

夏凜「私は近くないわよ。普通に離れてるから」

風の言葉に夏凜が口を挟むと

風は「そうだっけ? 同居してなかったっけ?」と、茶化すように笑う

夏凜「してないわよ」


そんな風の態度にも

夏凜は毅然と対応して一息つくと、

周りに気づかれないように、天乃へと目を向けて

なぜか目が合うと、すぐに逸らす

天乃「……?」

どうかしたのかしら?

面倒なことになるから、泊まったことは言うなってこと?

天乃「そうね……休みなりの対策も必要かもしれないわね」

今の風なら追求してきたり

茶化してくることはほぼ間違いないからと

天乃は夏凜と風のやり取りには口出しせずに

考え込むように東郷へと目を向けて

天乃「ただ、全員で一箇所は少し難しいというか面倒かもね」

友奈「何かあるんですか?」

東郷「乃木さんの件。ですよね?」

友奈「あっ……そうだ。動けないんだよね」


申し訳なさそうに言う友奈に

天乃は笑みを浮かべて「それは気にしなくて良いわ」と

やさしく宥めてから、目を伏せる

天乃「私の家から園子は動かせないわけだけど。家には常駐の大赦職員が居るから」

風「そんな狭かったっけ?」

天乃「広いわよ。ただ、大赦に監視されるというか。向こう。男性職員も居るから気を使うわ」

職員はもちろんだが、

泊まりに来る友奈たちに関しても、気を使う必要が出てくる

そうなると、ただでさえ猿猴に警戒したりなんだりしなければいけないのに

さらに気を使わなくてはいけなくなるため、余計に生活しにくくなるのだ

樹「それは……でも、久遠先輩達はその中で生活しているんですよね?」

天乃「まぁね。でも、監視慣れしてる私は良いけど。してないとちょっとのストレスではないわよ?」

満面の笑みでおかしなことを言う天乃に

夏凜は困りきったため息をつく

それはそうなのかもしれないが、笑い話ではないからだ

夏凜「とはいえ、纏まった方が良いのも事実。天乃的にはどうすべきだと思うのよ」


1、夏凜と瞳と沙織が私の方に来てくれると助かるわ
2、見られて平気なら、私の家に集まる?
3、夏凜のところで沙織を預かれない?
4、部長に任せるわ

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では、すこしだけ


天乃「私の意見で良いの?」

夏凜「というか、むしろあんたの意見を聞くべきなのよ」

全員で集まる場合、天乃の家に集まることになるし

そうではないにしても

園子が居るとはいえ、あの状態だ

空いている夏凜を連れて行くかどうか

それもやっぱり、天乃の家になるか。天乃が動くか

結局、天乃の決定が必要になる

友奈「久遠先輩の力なら、問題はないとは思うけどね」

樹「でも、万が一を考えておくべきです」

風「まぁ、むしろ。夏凜が心配よねぇ~?」

風はニヤニヤとした挑発的な笑みを浮かべていて

夏凜は流石にイラッとしたのか

拳をわなわなと震わせながら、風に向かって怒りを感じる笑みを浮かべた


夏凜「その喧嘩……いくらよ」

風「ちょ、冗だ――」

天乃「夏凜の実力を疑ってるわけではないけど、心配なのは事実よ」

お怒りな夏凜と、夏凜に迫られて身を引いている風は

二人揃って天乃へと目を向ける

天乃は誤魔化したり茶化したり仲裁したりといった様子はなく

ただ、真剣に考え込んで風を見つめ返す

天乃「現状、猿猴は私の知り合いに化けて私の知り合いを襲った。というか、接触してる」

ゆえに、単独行動していた場合

向こうから接触してくる可能性は飛躍的にあがるだろうし

そうなるまで、どこかで待ち伏せしている可能性さえあるわけで

いくら実力者とはいえ、身内を本気疑うだとかは心苦しいものだろうし

そこで隙が出来ないとは言い切れない。それは、天乃も同様に

天乃「だから、沙織にだって単独行動させたくなかったのに……」

友奈「お、落ち着いてください」

怒りに紛れて憎しみのような怖いオーラを感じた友奈は宥めるように言って

天乃「ふふっ心配しないで。それよりも、だからこそ夏凜と瞳、沙織にはうちに来て欲しいと思ってる」

夏凜「全員集合じゃなくて私達、ね。まぁ、そこら辺が妥当か」


少なからず大赦に監視される上、

男性職員という、他人の異性に普段の生活を見られるというストレス

友奈たちには適応するというのは難しい話だろうが

沙織や夏凜は当然慣れているし、瞳に関しても同じ職員ということもあって友奈たちほどの問題はないからだ

夏凜「なら、瞳にそう連絡しておくわ。沙織にも回しておく」

天乃「え、よろしくね」

当然のごとく拒絶する姿勢を一切見せずに承諾した夏凜は、言うや否や素早く端末を取り出して

沙織と瞳に同時に今回の決定の連絡を送る

瞳からは数分足らずで了解の返事と持ち出すものの希望のメールが届いたが

沙織からは、返事はこない

樹「伊集院先輩、何の用事なんですか?」

風「んー特には言ってなかったけど。男の子の件があるから~って」

友奈「第一発見者だったんですよね」

東郷「…………」

そのときを想像したのだろう、不安そうな顔をする友奈の一方で

東郷はなにやら悩ましげに眉を潜めていて

それに気づいた夏凜が「東郷?」と、呼ぶ


夏凜「どうしたのよ」

東郷「ううん、なんでもないわ」

東郷は笑みを浮かべてそう言ったけれど

何かが有りそうなのは目に見えて明らかだった

ただ、男子生徒が襲われた事に自分達を照らし合わせて

どう対策するかとかを考えていただけかもしれないけれど。

風「本当に何もないの? 東郷。今は何か不安要素があるなら解決しておいた方がいいんじゃない?」

東郷「いえ、ただの思い過ごしだと思うので……」

東郷は改めて否定したが、「いえ」と、言葉を繋いで首を振る

その表情は不安と恐れに満ちた表情で

天乃「どうしたの?」

東郷「気にしすぎだと思いたいんですが……大赦はあえて伊集院先輩を一人にさせたのではないか。と思って」

天乃「そんなことして何になるの?」

夏凜「……猿猴が釣れる。園子を樹海に引き込ませない結界を作れるんだから。捕らえる結界も用意してる可能性はある」

夏凜はいたって真剣な面持ちでこぼすと

沙織からの返事の来ない端末を少しだけ強く握る

樹「そんなの危ないよっ」

友奈「で、でも! でも、本当にそんなことしてるとは決まってない……よね?」


樹の上げた声に、友奈は不安そうな表情ながら

天乃の様子を伺うように目を向けてから、東郷へと視線を向け直す

東郷は「そうね……」と頷いたが、けれど。そうではないと決まったわけでもなくて

風「正直、大赦がそんな自殺するようなことするとは思えないけど……」

夏凜「でも。沙織なら」

風の慌てたような言い方に、夏凜は口を挟む

夏凜「沙織なら、天乃がこれ以上悪く思われないためにって考える可能性はあるわ」

そうでしょ。と、言葉にせず目を向けた夏凜に

天乃が沈んだ表情を向けるのを躊躇ってそむけると、

天乃の掴む車椅子の肘掛のスポンジ部分が嫌な音を立てる

天乃「そうね……ある。沙織なら。その作戦自体を言い出す可能性さえある」

樹「そんな……」

東郷「こればかりはおそらく。大赦を問い質しても無駄……ですね」

夏凜「そう……あぁ、いや。余計なことはしなくて良いわよ。さっさと準備して」

そう言って端末をポケットに仕舞った夏凜は息をついてみんなを見回すと

首を横に振って

夏凜「瞳もそんな話は聞いてないらしいわ」


天乃「……そう」

連絡係の瞳が聞いていないから平気。ということはない

瞳もまた、天乃寄りであることは周知の事実である為

そういった天乃が気にしそうな事柄に関しては

伝えずに済ませてもおかしくないからだ

勇者に満開の後遺症等を伝えていなかったのと同じように

友奈「だ、大丈夫だよ。大赦の人たちだってきっと。頑張ってるはずだから!」

風「友奈、問題はそこじゃないのよ」

友奈「で、でもっ」

樹「確認する手段がない以上、どうしようもないです……」

東郷「ひとまず、予定通りに解散しましょう。それからまた、みんなでマメに連絡を取って確認です」

東郷の仕切りに各々が頷く

仕方がないものは仕方がない

大赦に直接連絡をとっても

沙織に電話やメールをしても、きっと

天乃「…………」

夏凜「天乃。瞳ももうすぐ着くって着てるから。行くわよ」


1、大赦のところに行きたいわ
2、ねぇ、夏凜。海に行きましょう
3、公園に寄り道しない?
4、そうね。行きましょ


↓2


天乃「そうだわ……ねぇ、夏凜」

夏凜「ん?」

天乃「ちょっと、海に寄り道しない? 貴女が鍛錬で使ってるところで良いから」

夏凜「寄り道って」

今がどういう状況なのか分かっているのかと言いかけたが

恋愛に関してならともかく

こんなまじめなことを分かっていないはずもなく

夏凜「瞳が平気なら、良いけど」

天乃「本当? なら、乗るときに聞いてみるわ」

夏凜「…………」

沙織の件から一転して

嬉しそうな笑みを浮かべた天乃に、

夏凜は少し戸惑いながらも、笑みを浮かべて

樹「夏凜さん!」

鞄を用意していた樹は

そんな夏凜に横から声をかけると、プレゼント用にラッピングされた袋を差し出す

夏凜「うん?」

樹「色々とあってちゃんとしたものは用意できなかったんですけど。お誕生日おめでとうございます」

夏凜「ん……んん!? きょ、今日だっけ?」


お祝いか、プレゼントか、あるいはその両方か

全く想定していなかったのだろう。少し遅れて驚きの声を上げた夏凜は

樹の差し出した袋を気恥ずかしそうに受け取って

夏凜「べ、別にこんなもの用意しなくたって……」

友奈「友達のお祝いだもんね」

樹の隣からひょっこりと顔をのぞかせた友奈も

教室でたまに本読んでるから。と、花弁の多い花ゆえか

少しふっくらとした押し花のしおりを夏凜に手渡す

友奈「ローダンセっていう花だよ。本当はもうちょっと綺麗にできる予定だったんだけど。えへへ」

夏凜「膨らんでちゃ本が歪むっての……使えないじゃない」

文句を言いながらも、その顔はやはり嬉しそうで

その使えないという言葉も

役に立たないという意味ではないと分かったのだろう

友奈は「ごめんね」と照れくさそうな笑みを浮かべた


東郷「ごめんね、夏凜ちゃん。私は用意できなかったの。でも、今度渡すわね。おめでとう」

風「あたしもサプライズ考えてたからなぁ……まぁ、でも。夏凜。おめでとー」

東郷と風も

プレゼントを用意することは出来なかったらしいが、夏凜の誕生日を笑顔で祝う

その言葉だけでも、夏凜は嬉しかった

今までまともに祝って貰ったことなんかなかった

祝って貰っているのを見るくらいしかできなかった

だから、どう対応すべきかを躊躇って、飲み込んで

夏凜「あり、がと……」

こういう時は一言。ただ感謝すればいいのだと

瞳から教えられていたことを

恥ずかしさに赤く染めた顔で

しかししっかりと喜びをあらわに言う

その一方で、天乃は少し残念そうに笑みを浮かべると

夏凜の後ろから「おめでとう」と、声をかけてちゃんとした笑みを浮かべる


一番に言えなかったのは残念だけれど

それでも、夏凜が生まれてきたこと

その誕生日を祝うこと、それが嬉しい事、幸せであることには変わりがない

天乃「良かったわね。祝って貰えて」

風「本当はかめやにでも集まってからってのも考えてたんだけどね」

樹「でも、こんなことになっちゃったから」

樹の残念そうな声に、友奈はでも嬉しいことだよ。と

明るい声で言って、天乃へと目を向ける

友奈「久遠先輩、夏凜ちゃんと美味しいケーキ食べてくださいね」

天乃「ねぇ、私そのかめやが云々って聞いてないんだけど」

東郷「久遠先輩にも伝えようと思ったのですが、風先輩が教えたらバレるから。と」

風「なぁっ!」

あっさりと理由を告げた東郷に風は溜まらず声を上げて

満面の笑みを浮かべた天乃は

風に詰め寄ることもなく、ただ「そう、そうなのね」と、呟く

それだけなのに

風「ほんと、すみませんでした」

本気の声で風は謝罪を口にした


√ 6月12日目  夕(砂浜) ※金曜日


01~10  沙織
11~20 
21~30  男女
31~40 
41~50 沙織

51~60 
61~70 
71~80 女性

81~90 
91~00  男性

↓1のコンマ 


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


久遠さんの最速お祝いは無


では、初めて行きます


天乃「なによ、貴女まで知ってたの?」

瞳「すみません、移動係なので。事前に知らせを受けていたんです」

ミラーに映る天乃のむっとした表情と声に

瞳は困ったように笑いながら答える

天乃と夏凜だったり、天乃と東郷だったりを車で送迎する立場の瞳は

夏凜の義姉としての立場でもあるため、そう言う件は必ず聞いているようだ

瞳「久遠様にもお話しようかとは思ったのですが」

天乃「風に口止めされたんでしょう?」

瞳「はい、まぁ……久遠様が黙秘できないとは思えませんでしたが、近しいので悟られるのでは? と」

それならむしろ瞳にも黙っておくべきなはずだが

それはやはり、立場的なものなのだろうか

天乃「次は教えてね?」

瞳「はい。仰せのままに」

冗談めかしてそう言った瞳は

目的地が視界に入って「もうすぐですよ」と車を減速させていく


夏凜「正直、何もないと思ってたわ」

天乃「え?」

夏凜「誕生日。瞳もそんなことはちっとも言わなかったから」

瞳と暮らすまでは、誕生日を祝われるなんていうことさえなかったし

瞳とお祝いをするようになってからも

家で、二人きりで。正直に言えば、夏凜はそう言うものだと割り切っていたのだ

けれど、違った

勇者部のみんなからおめでとう。と言われ、

手作りではないけれど鍛錬で、と、タオルを貰ったし

本を読むからと、手作りのしおりを貰った

だからこそ、夏凜は呆れたように良いながら

物思いに耽る、嬉しそうな表情を見せる

そんな夏凜を天乃はほほえましそうに見つめて

天乃「これからは、毎年祝ってあげるわよ」

夏凜「……それ、約束しなさいよ? それがあんたからのプレゼントとして受け取ってあげるわ」

夏凜は天乃の言葉に少し驚いていたが

気づいたような笑みを浮かべながら、そう言って

天乃は何かを言いたげな表情をしたけれど

苦笑すると、「それが私へのプレゼント?」と、呟く


護るためなら死ぬ覚悟もある

でも、出来るならば死にたくない。生きていたい

誰かが望んでいないとしても

普通に生きていたいと天乃は思っている

出来るならば、叶うならば。そう、祈っている

そしてなにより、夏凜には、無事に生きていて欲しいと願っている

そして

夏凜は生きていて欲しいと思っている

バーテックスの件が解決するという確証はないが

それでもこれからもずっと……

隣ではなくて良い。ただ生きていてくれればそれで良い

でも、出来るなら、叶うなら。と願っている

だからこそ

夏凜は【来年も祝う】それを約束して欲しいと言う

天乃は【来年も祝える】それを約束して欲しいと言う

瞳「プレゼント交換はお済ですか? つきましたよ」

見詰め合う二人に

ほんの少し遠慮しながらも、瞳は嬉しそうな笑みを浮かべながら言う


気づけば確かに車は停まっていて

夏凜ははっとしたように「早く言いなさいよ」と

瞳への文句を呟くと、天乃の車椅子の安全装置の確認して

車を降りると

後ろから天乃を車椅子ごと引き出す

瞳「八つ当たり……仕方がない夏凜ちゃんですね」

夏凜「うっさい」

クスクスと悪戯な笑い声をこぼす瞳に

夏凜は照れくささを隠すために顔を伏せながら声を上げて

行くわよ。と、天乃の車椅子を押す

6月の砂浜

天気は晴れと少しの雲

時々見える鳥が高らかに鳴いて

応えるように吹く風が、水面を揺らす

平穏な日常、ちょっと悪いことをしている気分になれる寄り道

そんな穏やかなものを感じる天乃と夏凜は

ふと、視線を感じて目を向けると

沙織「……まっすぐ帰らないとダメだよ。危ないよ?」

大赦に呼び出され、一足先に帰ったはずの沙織が佇んでいた


夏凜「あんた、こんなところで何してんのよ」

沙織「なんとなく、静かなところにいきたいなぁって思って」

天乃「夏凜から連絡着てたはずよね? どうして返事返さないの?」

偽者だとしても、天乃の制服や車椅子程度なら問題なく誤魔化せていたため

今目の前に居る沙織が制服を着ているというだけでは、本人確認にはなりえない

だからこそ、ただ持っているだけ。誤魔化すだけでは意味のない端末の件を持ち出す

所持していないなら、より疑わなければいけないし

逆に所持していた上、連絡の件を見せられたなら、それは本人確認になるからだ

沙織「連絡……?」

沙織は最初、困惑したようにそう言ったが

夏凜が眉を潜めたことに気づいたのか、それとも本当に覚えがなかったのか

あぁ、そういえば。と、ポケットから端末を取り出す

沙織「邪魔にならないよう電源切ってたんだ」

電源を入れた沙織は、メールを受け取ったのか

軽い振動を手に感じながら「きたよ」と、笑みを浮かべて

沙織「三好さ――えっ、久遠さんの家に泊まれるの!?」

夏凜「忙しいやつだわ。ほんと」

天乃「ふふっ、そうね」

メールを見るまではいたって普通のテンションだったのに

メールを見て、天乃の家に泊まるというのが解るや否や

とても嬉しそうな笑顔で、声で、喜んで見せるのだから


そして、その人間らしさと

なによりも沙織らしい反応に、二人は安心したように顔を見合わせて、ほっと息をつく

そしてそのまま合流して、家に帰って

そうなっていたと思う

九尾「待て、主様」

天乃が朝、九尾を差し向けていなければ

九尾がそれを何も言わず請け負っていなければ、きっと

そのまま連れ戻していただろう

天乃「九尾……?」

けれど、それはさせない

そうはならない。黙って、見逃すことはない

突然姿を現した九尾は

二人と沙織を阻む壁のように立ち、沙織へと目を向ける

九尾「きゃつは沙織であって沙織ではない」

夏凜「どういうことよ」

九尾「夏凜。旧世紀の勇者は、精霊を具現化せず、己らに宿していたことを知っておるか?」

沙織は、沙織ではないからだ


九尾の場を乱すことのない緊張感のある声に

天乃も夏凜も、何を言いたいのかを察して

不安げな天乃を一瞥した夏凜は

奥歯を強く噛み締めて、「九尾」と、言う

夏凜「つまり、沙織は……」

九尾「猿猴を宿した――正確には憑依させておる」

天乃「だったらお祓いしないと」

九尾「無駄じゃ」

九尾は天乃の当然の言葉に

非情な言葉を投げかけて、首を振る

なぜかと問いた気な厳しい視線を感じながら

しかし、九尾は変わらない声で「主様」と、続ける

九尾「祓う場合、憑かれた者が憑き物を拒絶していることが前提条件だからじゃ」

天乃「なっ」

九尾「それが無きままに、祓えばその結びを引き千切ることになる。器とて、ただでは済まぬ」


天乃「……なんで?」

九尾「契約じゃ。これは沙織自身も同意の上じゃ」

天乃「そんなことを聞いてるんじゃ――」

声を張り上げようとした矢先、

沙織ではない沙織は「久遠さん」と、まったく変わらない声で名前を呼ぶ

違うと言われても、そう解っても

そうではないと思えない、優しい声で

沙織「あたしがお願いしたんだ」

天乃「っ」

沙織「久遠さんにこれ以上迷惑かけて欲しくないから。この体を貸してあげるから。誰も傷つけないでって」

沙織の言葉だ

そこに、沙織の気持ちも感じるといえば感じる

けれど、それが沙織本人の言葉なのか

本気でそう思っての言葉なのか、もはやわからなくて


夏凜「それは大赦から命令されたことじゃないの?」

沙織「違うよ。もっとも、あたしがこれを決めたのは、大赦のせいかもしれないけど」

九尾「危険な精霊を使役している主様は世に出すべきではない。即刻、休学させ外出を禁じるべきだ。大赦はそう言っておった」

沙織の言葉を続けるように言った九尾

それは間違いないことなのだと示すように、沙織は悲しげな笑みを浮かべて頷く

それは、本当に伊集院沙織のものなのだろうか

沙織「だから、あたしはそれをしない代わりに猿猴を止める事を約束したんだ」

その方法が、猿猴を沙織が憑依させること。

元々、大赦は天乃と近しい存在である沙織を単独行動させることで

猿猴をおびき出して、数人の巫女の手を借りてその動きを封じようとしていたが

憑代を扱わない方式のため、封印は出来てもどれくらい続くのかが不確定で不安定だった

それならはじめから憑代を用意するべきではと疑問に思った夏凜に

九尾は首を振って

九尾「憑代は人道的に許される行為ではないぞ。憑き物が悪意あるものならば、なおのこと」

沙織「だから、大赦も最初は渋ったけど……どうしてもって」

そうしなければ、天乃が独りぼっちになってしまう

みんなの下から連れて行かれてしまう

日常からまた遠くなってしまう。それが、沙織には認められなかったのだ


沙織「……ごめんね。久遠さん」

天乃「なんで、謝るのよ」

謝るなら、謝るくらいなら

それなら初めからやって欲しくない

そんなこと、望んですらいない

なのにどうして。と

怒りと悲しみの入り混じった苦悶の表情を浮かべて

天乃「沙織……」

九尾「そして猿猴が沙織の願いを聞き入れ、密接に繋がっておるのが現状じゃ」

天乃「…………」

どうすれば良いのだろうか

そんなことを望んでいないことは沙織もわかっていたはずで

それを言ったところで、今の繋がりを絶ってくれるだろうか

きっと、それはない

夏凜「…………」


1、猿猴は害ないの?
2、貴女は沙織? それとも、猿猴?
3、私はそんなこと望んでない。願ってない!
4、九尾、何とかできないの?
5、私の体をあげるから。だから、お願い……沙織から出て行って
6、何も言わない


↓2


天乃「私はそんなこと望んでない。願ってない!」

沙織「うん、知ってるよ。でも、これは娘の我儘なんだ」

天乃の悲痛な叫びを聞いてなお

沙織は不敵な笑みを浮かべると

感慨深そうに自分の胸元に手を宛がって、天乃を見つめる

その瞳は、沙織のようで沙織ではなかった

沙織「怒りを感じても。なお、あたしはあたしのしたことを間違いだとは言いたくない」

夏凜「……あんた、ふざけてんの?」

沙織「真面目だよ。あたしには、あたしの想いが分かる。何かの為の捧げる覚悟。これが、誰かを想うって事だよね」

嬉しそうに、幸せそうに

恍惚とした笑みを浮かべる沙織は、自分の胸元に当てた手で握りこぶしを作る

心に抱く思いを強く握るように、優しく、ゆっくりと

しかし、とても力強く

沙織「久遠さんだって、娘が望まないことをしようとしていたよね? あたしは言ってたよ。久遠さんだって無茶をするからって」

天乃「私は良いの……私はっ、勇者だから。守る力があるから。でも、沙織は」

沙織「想いだけでは何もできない。うん、分かってるよ。ずっと、痛かったから」

でも、だからこそ。と沙織は続けて

沙織「あたしの巫女としての力が、この器が力になれる事。守れること。その選択をしたんだよ」


夏凜「天乃が望んでないことをして……泣かせて。何を守るって言うのよ!」

自分が傷つくならいくらでも耐えることが出来るだろう

けれど、誰かが傷つくこと

知り合いが傷つくこと

何よりも大切にしている人たちが傷つくことで

優しいがゆえに、愛しているがゆえに精神的に強く深い傷を負いやすい天乃は

沙織の自己犠牲の精神には耐えられず、涙をこぼして

それを見た夏凜は、怒りの声を張り上げる

夏凜「あんたも、天乃も……どいつもこいつも!」

沙織「力があるなら使わずにはいられないよ。あたしも、久遠さんも。そして、三好さん達も」

そうだよね? と、問う沙織の笑みに

夏凜は違うとは言えなかった

それは全く間違っていないことだからだ

夏凜だけではなく、友奈や樹、風、東郷

みんながみんな、すでに幾度となく満開している天乃に無理をさせるくらいなら

自分たちが満開してでも戦いを終える。そういう考え方を持っているから


沙織「それに、あたしは娘を傷つける気はないよ」

天乃「なら、出ていって」

沙織「それは出来ないよ。だって、あたしはまだ。目的を終えていないから」

沙織は悲しそうに言う

けれどもそれは、沙織ではなく猿猴の悲しみ

何かを求めて、しかし、達成できていないのだ

夏凜「あんたの目的はなんなのよ」

天乃「それをかなえれば、沙織を開放してくれるの?」

沙織「あたしが望めばだけどね」

そう言った沙織は、九尾には目もくれず

何もしないから。と小さく告げて天乃と夏凜の元に近づくと

夏凜を一瞥してから、天乃に向き直る


沙織「あたしが知りたいのはただ一つ。あたしがあたしになるときに久遠さんから流れてきた力にこもっていたこの気持ちだよ」

天乃「気持ち……?」

沙織「そう。あたしには言葉に出来ない。でも、この体にはそれを感じる。だからこそ、あたしはあたしの願いを聞いた」

酷く抽象的な言葉ゆえ

夏凜は理解できなくて、困惑する

当事者の天乃に関しても

あたし――猿猴になる際に力を流してあげた覚えはなく

精霊ゆえに勝手に持っていかれたのだろうが

とにもかくにも、そこに込められていた想いなど

知らないから知らないし、知らないから解りようがなかった

夏凜「あんた、分かりにくいからあたしって言うの止めろ」

沙織「小娘風情が……あたしとの契約がなければ、その尻から生き胆を引き抜いてるよ?」

夏凜「な゛……このっ」


どうやら、沙織の中にいる猿猴は情緒不安定なようで

沙織との契約ゆえに暴れることはないだろうが

満面の笑みで脅迫するくらいのことはするようだ

沙織「とにかくあたしは娘との契約に応じてここにいる。この心を知るまでは、返さないよ」

天乃「沙織は、沙織の人格は……」

沙織「あたしはあたしの心も知りたいと思ってるからね。消したりはしない。それは駄目だとそこの女が言った」

沙織は言いながら九尾を指さして天乃と夏凜の目が、九尾へと向く

そこにはなぜ止めなかったのかと言いたげな雰囲気を感じたが

九尾は一礼して、首を振る

九尾「神聖な術式の最中の上、娘の強き願いじゃ。それに……何かへの無謀な行いがどのような影響か。主様に学ばせたかった」

天乃「……………」

沙織「あたしは娘との約束は守るよ。久遠さんの迷惑にはならない。ただし、この体は好きに使う。それが契約だから」

沙織ははっきりと意思を述べる

その瞳はゆるぎなく、その心を示す

だからこそ、天乃は自分がここで何を言おうと

猿猴は沙織の体を出ていくことはないのだと……気づいてしまった


1、分かった……でも。出来る限りそばにいて
2、流れた私の気持ち。大体で良いから教えて
3、だめよ。沙織は私の大切な人なの……下手なことされたらそれこそ。迷惑
4、男の子を襲ったのはなぜ? なにをしたの?
5、本当に、傷つけるようなことは何もしないのね?



↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


早ければ6月中に猿猴は片付く、かもしれないです


では、少しずつ初めて行きます


天乃「流れた私の気持ち。大体で良いから教えて」

天乃の目元にはまだ、零した涙の名残があるが

その表情には、怒りにも似た強い思いを感じて

夏凜も、九尾も、沙織も言葉を控えて、目を向ける

天乃「じゃないと、解決できない」

沙織「何かに対する強い感情だよ。あたしが久遠さんの為に器となることを躊躇わないような」

天乃「それはただの蛮勇よ」

沙織の言葉に

天乃は変わらず厳しい表情と口調で返す

沙織と猿猴の約束がある以上、それを無碍にするわけには行かない

けれども、さっさと沙織を解放してほしいからだ

沙織「……かもしれないね。あたしもそう思っていると感じる」

沙織は自分の内側に押しこんだ本当の沙織の気持ちに触れるように胸元に手をあてがうと

五感を束ねるためか、目を瞑って静かに言う

沙織「でも、あたしはそれに似たものを久遠さんから受け取った」

夏凜「なら、それはそういうこと――」

沙織「ううん、違うと思う」


夏凜が蛮勇であることを繰り返そうとすると

沙織はそれを遮って否定する

沙織が天乃の為に自分を犠牲にすることさえ厭わず尽くそうとする

それは確かに蛮勇と呼ばれるものなのだろう

しかし、そこに抱いていたものはそうではないはずだ

天乃が独りぼっちにならないように

天乃が日常の中で生きていけるように

それを、壊されることが無いように

そう強く祈っていた沙織の想い

沙織は自分の胸元に手をあてがったまま

天乃達に目を向けること無く砂浜を見つめて

沙織「あの男の子からもそれを感じたよ。あたしと同じように似たものを感じたんだ」


それはどこか嬉しそうな様子で

その感じたものに心地よさを覚えたのかもしれない

沙織は幸せそうな笑みを浮かべていて

けれど

それが沙織と同様のものであるとしても、天乃はいつものような穏やかさを一切見せることなく

眉を顰めて

天乃「……男の子が倒れたのは貴方がキスをしたから」

沙織「そうだね。あたしの力は普通の人間には辛かったんじゃないかな」

沙織は困ったように笑う

沙織――猿猴としては

もしかすると気絶させるまでするつもりはなかったのかもしれない

何度も言っているように

知りたいことがあって、近しいものを見せる男子生徒から

それを見せて貰おうとしただけなのかもしれない


天乃「でも……っ」

強く握りこぶしを作った天乃は

動けるならば、沙織でなければ

殴りとばしてしまいそうな怒気のこもった瞳を沙織に向ける

天乃「貴方はその子を傷つけた」

沙織「そうだね。傷つけたよ。でも、悪いことをしただなんて思ってないよ。男の子が貧弱だっただけだからね」

天乃「沙織はそんなこと言わない」

沙織「知らないよ。娘がそうだとしてもあたしには関係ないからね」

体のみならず、声はもちろん思考や記憶と言った部分まで共有しているであろう猿猴は

しかし、天乃の言葉が理解できないと言うように、首を傾げる

沙織「あたしは間違ってるかな? だって、人間が弱すぎたから倒れただけだよ? あれくらいで倒れるなんてどうしようもないと思う」

天乃「ふざけないで」

沙織「ふざけてないよ。あたしは男の子が久遠さんにしたことの再現をして、男の子が感じていた物を感じたかっただけだから」


天乃「いい加減にして……それ以上沙織の顔で。沙織の声で。私をイラつかせないで」

猿猴の入り混じった沙織の浮かべる疑問、笑顔

それらには総じて悪意が感じられない

だから本気で理解が出来なくて、本気で戸惑っているであろうことは天乃も分からなくはないが

しかし、現状沙織の体を奪っているのは事実だ

沙織から言い出したのだとしても猿猴が余計なことをしなければ

こんなことにはならなかった

そしてなにより自分が……と、考えだしたところで

夏凜のため息が聞こえた

夏凜「でも結局、あんたはそれでは満足しなかった」

沙織「そうだね。だからあたしはこの娘についていくことにした。娘が見ていることは知っていたからね」

天乃が信頼している人間で、親しくしている人間で

大切にしている人間だと分かっているから

だから、猿猴はあえて近づくことにしたのだ

もちろん、大赦が小細工を用意しているということなど、解ったうえで


天乃「どうして?」

沙織「あたしには久遠さんの記憶がある。久遠さんの記憶の中のあたしは。男の子に似ていた。そう感じたから」

深く考えてのことではない

そう感じたから、そう思ったから

そう言う猿猴のいい加減さによって

沙織が契約しなければいけなかったのかと思うと

苛立ちは、募るばかりで

沙織「……ところで。あたしは家に行っても良いの?」

夏凜「あんた……」

沙織「駄目なら駄目で、あたしは構わないよ」

沙織は少しばかり残念そうに言うと

天乃から九尾へと目を移し、夏凜へとさらに移していく

猿猴は常に観察しているのだ

自分、または沙織、またはそれ以外の何かに対して

天乃達がどのようなことを思い、感じ、動こうとするのか

それを見ることで、知ることで、自分の知りたい答えを得ようとしているのだろう


沙織「でも、駄目なら三好さん」

夏凜「私?」

沙織「もう一回だけ……キス。させてくれないかな。三好さんとのキスは得るものが多かったから」

天乃「え?」

夏凜「は、はぁっ!? な、なんで私なのよ!」

沙織「知らないよ。でも、あたしはあの時にそう思った。だから、したい」

あの時、夏凜とのキス

それは沙織ではなく、猿猴が天乃の姿を借りて部室に来た時の話だ

あの時の猿猴はあれが標準なのかと思ったが

あれ自体が、知るための演技だったというのなら、猿猴はもしかしたら意外に努力家なのかもしれない

夏凜「したいって、それは沙織の」

沙織「それがどうかしたの? この体は自由に使っていいと言う約束だから……」

沙織はそう言うと、自分の下腹部を撫でるように触れながら

スカートを少しずつめくりあげて

沙織「肉体の交わりも許されてるよ。三好さんがその方が良いって言うなら、それでも構わないよ」

夏凜「なっ、ちょっ」

ぐっと距離を詰めた沙織は

しかし、夏凜の体を押し倒すことなく抱き着く

身長は沙織の方が高く、胸に顔を埋める形になった夏凜は息苦しそうにもがく


沙織「どうかな? 三好さん」

天乃「どうかな、じゃないわ。いい加減にして」

沙織「……さっき以上に怒ってる感じがするね。久遠さん」

天乃の声に邪魔されても

不満そうではなく、好奇心を感じる明るい声で天乃に振り向く

なぜ怒っているのか

そこに興味を持って、知りたいと思っている

そんな子供じみたい何かだと傍観する九尾は思った

沙織「三好さんにキスしようとしてるから? あたしが久遠さんにしないから? それとも……この体と肉体的な交わりをしたいのは久遠さんなの?」

天乃「違うわ。沙織にも夏凜にも迷惑だから言ってるのよ」

本当にそうなのだろうか

この不快感は、この嫌悪感は

それだけで説明がつき、納得できるものなのだろうか

悩ましく思う天乃は、浮かない表情だった

沙織「だったら放っておいてよ。あたしは三好さんとしたい。三好さんの答えを待ってる状態。部外者は口を挟まないでよ」

天乃の答えがつまらないと思ったのだろう

その程度かと思ったのだろう

沙織は興味を失ったように冷たい声で言うと

胸に手をついて自分から距離を置く夏凜をまっすぐ見つめる

夏凜「く……」

偽物の体なら好きにぶん殴れるが

沙織本人の体ということもあって、手荒な真似は出来るはずもなく――


1、夏凜に……任せるわ
2、分かった。家に来て良い。良いからやめて
3、私がしたいの!
4、私の事なら好きにしていいから夏凜にまで手を出さないで!

↓2


天乃「……夏凜に任せるわ」

抱き合う……と言っても沙織から一方的に抱き着いているだけだが

そんな様子の二人から眼を逸らした天乃は

小さな声で答える

沙織は部外者は黙っててと言った

だから、夏凜に言う。けれど確かにそれは二人のことだ

この場にいる人間で、沙織と夏凜が親しい人で

どれくらい嫌悪感があって、不快感があっても

それでも……部外者と言われれば部外者で

だからこそ、天乃は顔を伏せたまま、任せると言った

夏凜「任せる……ねぇ」

夏凜は追い詰められている立場でありながら

不意に、普段の調子を取り戻したかのように茶化すような声色で呟いて

笑みを浮かべる

ほんのりと怒りを感じる苦笑いだ


夏凜「沙織が元に戻る手助けになるって言うなら。それが天乃の助けになるかもしれない」

天乃「………………」

一度奪われてしまっているわけだから

もはや割り切って、人命救助とでも考えて

キスだろうが何だろうがやってしまってもいいのではないかと思わないこともない

だけど

夏凜「けど、悪いけどそれはパス。家に来て構わないから。それはなし」

沙織「……どうして?」

夏凜「そんなの、沙織があんたに体を貸したのと同じで有難迷惑ってやつにしかならないからよ」

それが天乃の何の助けになるのだろうか

勢いで考えてみれば

天乃が助けたい沙織を助けられるのだから助けになっていると思えるが

冷静に考えて、自分たちのすぐ近くの少女を見てみればそんなことはないと一目瞭然だ


夏凜「家に来るかキスかなら。前者を選ばせてもらう」

……もっとも。色々と複雑な取捨選択があったんだけど

そんなもの、そんな顔見せられたら考えるまでもなく一本道だっての

夏凜は毅然と答えながら

内心、呆れたため息をつきながら横目で天乃を見る

相変わらず、目を合わせようとはしてくれない

沙織「三好さんからも、娘や久遠さんと似たようなものを感じる……益々したくなった」

夏凜「なっ」

沙織「でも、やめておくよ」

沙織はそう言うと、警戒した夏凜を手放して数歩下がると、困ったように笑う

襲われると思っていた夏凜は

それでも気を抜かずに身構えた

沙織「あたしとの契約に基づいて、断られたなら手は出さない。それは久遠さんにもその関係者である三好さんにも迷惑だから」


夏凜「騙そうって……わけ?」

沙織「まさか。あたし達にとって契約は守るべきものだよ。たとえ下等な人間であれ。契は絶対。そこの狐も、分かるよね?」

九尾「……………」

目を閉じ口を閉ざす九尾に

沙織は「いいけど」とほほ笑んで、天乃へと向き直って

沙織「宜しくね、久遠さん。もしも力が必要になったらちゃんと貸すよ。それも娘との契約だから」

天乃「必要ないわ。私はしばらく戦わないから」

沙織「そうかな。そうだと良いね。あたしもそう思ってると感じるよ。でも、そこにはとても強い、恐怖を感じるよ」

沙織のすこし謎めいた言い方に天乃は問いただそうとしたが

それは沙織が抱いているものだからと、猿猴は答えをくれることはなかった

九尾「……………」

天乃「九尾?」

九尾「ふむ。猿猴も嘘は言っておらぬ。手は出すまいよ」

天乃「そう……でも、沙織はまだ」

九尾「純潔は知らぬが、守ることは守るじゃろう。案ずるな」

とは言われても

全く、安心できるはずがなかった


√ 6月12日目  夜(自宅) ※金曜日


01~10  夏凜
11~20 沙織

21~30 
31~40 
41~50 夏凜

51~60 
61~70 
71~80 園子

81~90 
91~00  沙織

↓1のコンマ 


沙織「ねぇ久遠さん、ちょっといいかな」

人気のなくなったリビングで

そんな声をかけられた天乃は、声を出すことなく頷く

目の届かない場所に行かれるくらいなら

目の前にいてくれた方が安心だからだ

沙織の体で、女性職員や男性職員

園子や瞳、夏凜に手を出されたらたまったものではない

天乃「なに?」

沙織「そんな警戒しないでよ。久遠さんには合意の上でしか手を出さない」

天乃「……沙織との契約だから?」

遮ってそう言った天乃に

沙織は少し驚いたような表情を見せて

すぐに苦笑すると「流石久遠さんだね」と、呟く


笑い方、話し方、仕草。どれをとっても沙織そのものだ

けれど、それはやはり。どこかが違うのだ

何もかもが似通っているのに、ただ一つ。何かが多いような少ないような

そんな違和感が、今の沙織にはある

沙織「そう。だからあたしは久遠さんに手を出さない。もちろん、三好さん達の代わりにって言い出したなら別だよ?」

天乃「それを誘ってるの?」

沙織「少しだけね」

沙織は笑う

自分の思惑を見抜かれて、包み隠すこともなく正直に答えるその表情は

天乃にも、何を考えているのかがまったくわからない

いや、ある程度分かるからこそ、逆に分からないと言う方が正しいかもしれない


沙織「久遠さんは誰とキスがしたい? そう見せることもできるよ?」

天乃「しない。少なくとも、貴方とは」

沙織「そっか、それはすごく残念だよ。瞳さんなら、させてくれるかな?」

天乃「……貴方、それが目的?」

夏凜や瞳たちの名前を出して

彼女となら出来るだろうかとわざわざ告げて、阻止させるために天乃がやらせてくれないか

それを期待しているのではないか、それを狙っているのではないか

そう尋ねた天乃に対して、沙織はやはり笑う

沙織「少しだけね。でも、今のはただの疑問だよ」

天乃「お願い……それは沙織の体なの。大事にして」

沙織「勿論だよ。娘が傷つけばあたしだって痛い」

天乃「そうじゃなくて!」

帳の下りた夜。それであることも忘れかけた天乃の声に

沙織は困ったように笑みを浮かべると「夜だよ」と、囁いて

力を使ったのだろう

今のは聞こえなかったことにしておくからねと、ほほ笑む

天乃「そうじゃなくて……キスとか。肉体の交わりだとか簡単に言わないで」

沙織「どうして? あたしは積極的に協力すると言ったし、久遠さんだって三好さんや乃木さんとしてるのに」

天乃「それは……っ」

沙織「自分から押し倒して、唇を重ねて、唇同士を包み込むように絡ませて。零れる唾液を舐め合って追い求めるように舌を伸ばして……」

天乃「っ、や、やめて……」

悪いことだと一切思っていない沙織は満面の笑みで言って

天乃の真っ赤になって逸らした顔を微笑ましく見つめて息をつく

天乃「見て……たの?」

沙織「三好さんに見せて貰ったんだよ。海辺で抱き着いた時にね……あはは。あれはほんと、濃密で……甘くて、でも。とてもしょっぱいキスだった」


沙織はまるで自分がしたことのように語り、

恍惚とした笑み、つり上がる口元、そこから零れ出す涎を指で拭う

それは生々しく淫らに艶やかな

とても沙織とは思えないらしくない仕草で

沙織「でも、すごくドキドキとした。三好さんとキスをすればこんな思いが出来るのかなって……余計にしたいと思った」

天乃「っ!」

沙織「……あはは。その顔。それだよ。あたしが声をかけた理由」

激しい嫌悪感、不快感それを抱きながら

その意味、その理由、それの正当性を見いだせずにいる複雑な表情

喜ばしそうに指さされた天乃は思わず逸らして拳を握る

殴ることなんて、出来はしないのに


沙織「それはどこか、あの日、三好さんに選ばれなかった時にあたしが感じたものと似てる」

天乃「…………」

沙織「それはどういうものなの? 久遠さん。久遠さんが今抱いているもの。それは何?」

段々と好奇心が強くなって大きくなっていく沙織の声は天乃に訊ねたまま途絶える

そして、天乃が答えるまでもなく沙織は呆然と口だけを動かす

沙織「不安……恐怖。希望、なんだろう。あれは……あぁ、三好さんとキスがしたい。したい、したい……」

目を見開いたままぶつぶつと言い続ける沙織は

もはや沙織だ猿猴だなどと関係なく恐ろしさを感じさせるものだが

天乃はそんなことを気にすることなく「それは駄目、絶対にやめて」と、言う

沙織「解ってる。契約、契約があるから……」


1、私なら……代わりにしても良いわ
2、沙織に聞けば、分かると思うわ
3、貴方の件がなければ、私だって……
4、瞳を呼びましょう
5、……………


↓2


天乃「私なら……代わりにしても良いわ」

沙織「え?」

天乃「だからお願い。夏凜には。他の人には、手を出さないで」

沙織の契約を乗り越えてしまいそうな衝動を目の当たりにした天乃は

緊張と恐怖と不安

嫌悪感と不快感を唾と一緒に飲み込んで、沙織に言う

それはただの言葉ではなく、契約だ

自分のことを使う代わりに

他の誰にも手を出さないようにして欲しいという契約

それを分かったうえで、天乃は願う

天乃「キス……したいならしたらいい」

沙織「本当にさせてくれるの?」

天乃「……良いわ。でも、そうしたら誰かに頼んだり誘導したり全部止めて貰う」

沙織「その代わりに、全てを久遠さんにしていいんだね?」


沙織の問いに、天乃は小さく頷く

沙織のことは大切に思っているし、好きだ

でも、怖い、嫌だ。止めて欲しい

そんな不安と不快感と嫌悪感が心に渦巻く

だって、これは沙織ではない

沙織で会って沙織ではない猿猴との交わりだ

先日部室で夏凜を押し倒してまで行ったあのキスのように

何の喜びもない、辛いだけの……

天乃「っ」

強く瞑った瞼に感じる熱を、頬を包む何かがそっと拭って

開いた瞳に、沙織の顔が大きく映る

いつの間にか近づいた沙織は、天乃の顔を両手で包んで

そっと、顔を近づけていく


天乃「ぁ……ぅ」

思わずいびつな声が漏れて、

瞼を強く閉じると、涙が零れ落ちて沙織の指が拭う

沙織の息遣いがさらに近づいてくるのが分かる

相手の呼吸が、吐く息が自分のそれとまじりあうほどに近くなっていくのを感じる

天乃「ん……」

泣いちゃダメ、嫌がっちゃダメ

我慢して、我慢して……沙織だから。これは沙織とのものだから

強く、強く

それが猿猴によるものであることを誤魔化し、願い、押し付けて

そして沙織は天乃の唇に唇を近づけて

沙織「あたしは、久遠さんのその願いを――」


01~10  若葉
11~20 夏凜

21~30 
31~40 
41~50 夏凜

51~60 
61~70 
71~80 瞳

81~90 
91~00  九尾

↓1のコンマ 

※ぞろ目で樹海化


天乃「ん……」

優しく唇同士を触れ合わせるだけで離れて

すぐに、今度は少し圧し潰すように唇を重ね合わせて

また離れて、沙織は自分の顔を少し傾けて角度を変えると

自分の唇を舌で舐めて潤わせ、天乃の唇を咥えるようにキスをする

天乃「っ」

唇を抓むようにしながら距離を置き、

重ねる時は押し開くように重ね合わせて

そしてまた、一定の距離に立ったら抓むように離れていく

唇で唇と戯れながら

ぴくぴくと藩のする天乃の手を、沙織は握る

より近く、より密接に

何かが覚えている道を辿るように、天乃との交わりを深める


天乃の唇に自分の唾液を上書きした沙織は

薄く目を開いた天乃に笑みを浮かべて「まだ」と、囁く

キスをしている間呼吸の出来なかった天乃の乱れた吐息を奪うように

沙織はまた唇を重ねる。押し広げるように重ね

今度は離れることなく、天乃の唇の隠れている部分に舌を這わせて

天乃「ん!」

びくっとした天乃の手を強く握り、天乃の飲み込めていない唾液を舌で掬い、

引き延ばして天乃に見せつける

天乃「はぁ……ぁ……」

つぅっと伸びていくそれが重力に負けて歪み、途切れると

沙織はまた唇を重ねて、中途半端に閉じかけていた天乃の口腔へと

舌を忍ばせて、舌と下を触れ合わせる


沙織の視界に涙をこぼす天乃の顔が映ると

沙織は天乃の口の中を蹂躙することなくただ、全てを奪い去って、離れる

もう一度、透明の糸が二人を繋いで――断ち切れる

天乃「はぁ、はぁ……んん」

こくっと喉を鳴らした天乃は

まだわずかに整わない呼吸のままに、沙織を見つめる

天乃「沙織?」

沙織「……なるほど。久遠さんが泣いた理由が。分かってきたよ」

沙織は変わらない平坦な声でそう言ったが

そこには戸惑いとわずかな喜びが含まれていて

けれども、沙織の瞳からは涙が零れ落ちていく

沙織「嫌、なんだね。こういうのは、こんな形では。あたしは、そう言うのを望んでいないんだね?」


天乃「…………」

沙織「そうだ。男の子も、違うと感じたのはこれのせい……」

沙織はハッとしてそう言うと、自分の唇をなぞり

天乃へと目を向けて、

沙織「男の子は、久遠さんに愛を伝えたいから、愛されたいからキスをした。好きだから、キスをした」

でも自分はどうだろうか、天乃に好意を抱いてキスをしたのだろうか

愛されたいと思ってキスをしたのだろうか

愛していると伝えたいからキスをしたのだろうか

否、どれも違う。何も違う

ただただ、

キスという行為で得られるものを得ようとしただけ

沙織「三好さんとのキスとは違う」

天乃「駄目……するなら私にして。契約、絶対なんでしょう?」


夏凜へと矛先が向かいそうだと判断した天乃は

すぐさま声を上げ、沙織の注意を引き付ける

それだけは許さない。こうしている理由、させた意味

それを無に帰すことは絶対に許可できない

天乃「物足りないなら……この体を扱っていい。貴方の言う肉体の交わり。それだってさせてあげるから」

沙織「…………」

天乃「何でもしていい。何でもする。だから、夏凜には手を出さないで」

そう言いながら、胸元のボタンをはずそうとする天乃の手を

沙織はおもむろにつかんで、首を振る

沙織「それは駄目だよ。久遠さん。そこまでしちゃだめ……三好さんが大事なのはわかるけど。でも、それはしたら駄目」

その声は、その瞳はさっきまでとは何一つ変わらない

けれど、身に纏う雰囲気が、猿猴の時とは明らかに違っていて

沙織は涙ながらに微笑むと「ごめんね」と、囁く


天乃「沙織……沙織、よね?」

沙織「うん……考え込んでるうちに少しだけね」

天乃とのキス、夏凜とのキス、それ以外の情報

それらがうまく組み合わせられなかったのか、猿猴は考えこんでしまっているようで

そのすきに、沙織は表に出てきたらしい

沙織「猿猴に流れてきたのは久遠さんがずっと心の奥にしまい込んでたもの。だから、久遠さんにも猿猴にもそれが分からない」

天乃「どうして、そう言えるの?」

沙織「ずっと見てきたから。ずっと、その気持ちを向けて欲しいと思ってきたから。だから、あたしにははっきりとわかる」

沙織はそう言うと、天乃の目元の涙を指で拭い、ほほ笑む

もう話すことはできないと思っていた

二度と、会えないのだとあきらめかけていた

けれど、九尾のおかげで消えずに済んだ。完全に奪われずに済んだ

だからこその再会に、沙織は猿猴を受け入れてから感じた猿猴の求めているもの

それを伝えようと、口を開く

沙織「それは、誰かに愛されたいという願い。誰かを愛したいという願いだよ」


誰からも好かれることはないと見限っていた天乃は

男子生徒との模擬デートをきっかけに、愛されていること、好意を持たれていること

それを少しずつ感じ取れるようになってきたが

でも、決して特別な意味で愛そうとはしなかった

それは、その人の為に生きたいと思ってしまうから

今みたいにみんなの為に出来るなら。ではなく、何としてでも生き残りたいと

そう思って、力が必要な時に力を出せず失ってしまうことを恐れているからだ

でも、心は誰かを愛したいと思っている

いや、もうすでに好意を抱いているからこそ

より一層強い願いとなって、猿猴に流れ込んでしまったのかもしれない

沙織「猿猴も誰かを愛したい。だから、あたしの心をもって久遠さんに酷いことをした時に辛い思いをする」

それは、そんな形でしたくなかったと、心が悲しくなるからだ

そしてなにより

沙織「久遠さんを好きなあたしの心だからね。こんな形じゃないってすっごい怒っただろうね」


沙織は冗談めかして笑うと

呆然とする天乃の頬を軽く撫でて

沙織「だから、必要なのは久遠さんが気持ちに正直になること。本当は好きだ。愛したい。愛されたいんだって」

天乃「そんなの……」

沙織「きっといる。きっとわかってる。考えないようにしてるだけで。きっと。だから……みんなをもう少しちゃんと。見てあげよう?」

沙織はそこまで言うと

がらりと雰囲気を変えて、自分が何をしていたのか、どこにいるのか

確かめるようにあたりを見回して、視線が天乃に落ち着く

沙織「そういうことだから」

天乃「え?」

沙織「三好さんとは違うって感じた。だから、もうしない。もちろん、契約は守る」

猿猴なのだろう

同じ声、同じ表情

なのに全く違うものを感じさせる沙織は

天乃を残して部屋へと消えていく


一人取り残された天乃は

沙織の後を追っていた視線を自分の手元へと向けて

その手を、胸に宛がう

天乃「愛したい、愛されたい? 私が……?」

そんなことをすれば、願えば

本当に限界が来た時に、それを乗り越えてまで力を使えなくなってしまうかもしれないのに

また、銀のように誰かを失うかもしれない

風と樹の両親のように、無関係な人を殺してしまうかもしれないのに

なのに……

天乃「みんなをもう少しちゃんと見る……見てあげてるわ。言われなくたって」

けれど、沙織の言葉だ

最も親しいと言える沙織の言葉

ずっと見てきた、見せてきた

だからこそ、それは考えなければいけないことだった


1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(部室)
・   犬吠埼樹:交流有(部室)
・   結城友奈:交流有(部室)
・   東郷美森:交流有(部室)
・   三好夏凜:交流有(鍛錬、欠席、する?、同居、海へ、任せる)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(調査、部室へ、同居)

・      九尾:交流有(調査)

・       死神:交流無()
・       稲狐:交流無()
・      神樹:交流無()



6月12日目 終了時点

  乃木園子との絆 53(高い)
  犬吠埼風との絆 43(少し高い)
  犬吠埼樹との絆 40(少し高い)
  結城友奈との絆 58(高い)
  東郷美森との絆 42(少し高い)
  三好夏凜との絆 60(高い)
  乃木若葉との絆 38(中々良い)
  土居球子との絆 26(中々良い)
     沙織との絆 51(高い)
     九尾との絆 43(少し高い)
      死神との絆 38(中々良い)
      稲狐との絆 30(中々良い)
      神樹との絆 9(低い)

 汚染度???%

※夜の交流で稲荷と話せば、汚染度が判明します


では、いったんここまでとさせていただきます

再開は20時頃を見込んでいます


では、始め行きます


√ 6月13日目  朝(自宅) ※土曜日

01~10 
11~20  樹海化
21~30 
31~40 
41~50  沙織
51~60 
61~70 樹海化

71~80 夏凜

81~90 
91~00  九尾

↓1のコンマ  


昨夜以降、沙織は変わらず猿猴が入り込んだままで

沙織らしさは感じられるが、やはり違和感はある

と言っても、普段から接触することのない大赦職員はもちろんのこと

瞳も、説明するまでは気づかない程度には馴染んでいるらしい

園子は何の疑問も抱かずに即刻看破したが。

天乃「…………」

夏凜「……なによ」

天乃「ううん、別に」

沙織の忠告を聞き入れて

夏凜のことをまじまじと見つめていると

視線を感じた夏凜はやや不機嫌に目を向けて眉を顰める

夏凜「猿猴ならそっち」

天乃「ええ、それは解ってる。気にしないで」

夏凜「気にしないでって……」

沙織はもう少しみんなを見てあげてと言った

それがどんな意味なのか、どこをどう見るのか

それが分からないまま見ているだけでは

なにも変わることはないのかもしれない


天乃「みんなを見る……」

見るよりも前に誰かと話すべきかもしれない

けど、何をどう話すべきなのだろうか

園子「天さん、悩み事?」

悩んでいるように見せたつもりはなかったけれど

天乃とは対照的に左目を向けた園子は、口元でわかる笑みを浮かべる

悩んでいるのか。と聞いているのに

笑っているのはきっと、それが決して悪いことではないと悟っているからだ

天乃「悩んでるっていうか、考え事よね。そう難しいことではないと思ったんだけど」

そもそも、常日頃から行っていることだ

難しいも何もないし、改めてやるようなことでもない

……そう、思ったのだけれど。

園子「難しくないことって言うのは、案外。難しいことなのかもしれないよ~」

天乃「例えば?」

園子「呼吸すること。とか。だって、ただ息を吸って吐くのだって。頭の中、体の中で色んなものが動いてしてるわけだからね~」

天乃「それはそうかもしれないけど」

聞きたい話とは、少しズレている気がする


でも、園子らしい考え方だとは思う

当たり前のことだが

何か一つとっても人によって考え方は様々で、見方は様々だ

だったら、沙織が言った見て欲しいと言うのも

沙織なりの何かの見方、考え方の結果その言い方になっただけで

見る。という事だけにとらわれ過ぎるべきではないのかもしれない

天乃「……まったく」

正直解らない

沙織とは長い付き合いだけれど

考え方は意外と違う

以前、恋愛について話した時もそう

ファーストキスは大事だなんだって

天乃とは対照的にすごく、ロマンチストだった

もっとも、本人は全く意識していないが、

意外に、天乃は天乃で乙女チックな人間ではある

天乃「悩んだら相談……それも必要よね」

園子「うんうん~、私にしてくれてもいいんだよ~?」


1、じゃぁ、沙織にもっと相手をよく見てあげてと言われたんだけど、意味わかる?
2、園子は、私が愛し愛されたいと思っているように見える?
3、久遠さんには好きな人がいるように見える?
4、その他の誰かと話す 


↓2

※4は再安価


天乃「なら、園子」

園子「なにかな?」

天乃「沙織にね? 相手をもう少し見てあげてと言われたの。その意味、分かる?」

天乃から相談されるというのが嬉しいのか

園子はニコニコとした笑みでその話を聞いて

ん~? と、相変わらずな呑気な声を漏らす

園子「さっぱりだよ~、せめて。こんな話の流れで~とか知りたいな~」

天乃「まぁ、そうよね」

流石の園子でもそれは無理だったようで

困ったように言う園子に、天乃は当然のごとく呟く

それでわかるのだとしたら、少し悔しく思ったかもしれない

天乃「恋愛に近い話だったわ」

園子「恋愛か~、それなら天さんは相手の好意に気づけてないよーってことなんじゃないかなぁ?」


天乃「ぅ……」

園子「私はもちろん、にぼっしーのにも気づけてなかったからね~」

天乃「聞こえてたの?」

園子は天乃の恐る恐るな質問に「えへへ~」と嬉しそうに笑って見せる

それは要するに聞こえていた、聞いていたということで

天乃はさっと眼を逸らす

自分の告白ではないが、されているのを聞かれているというのも

それはそれで気恥しいものだからだ

園子「でも、さおりんが言ったならそんな簡単な話でもない気がするなぁ」

天乃「え?」

園子「なんというか、その好意に気づいたその先に注目して欲しい。みたいな」

園子自身も自分の言葉が上手く理解できていないようで

少し待ってと考え込み、

流石さおりんだなぁ。と、楽し気に笑って

園子「つまり、その人から向けられる好意。それに対して自分はどうなのか。それを考えて欲しいんだと思う」

天乃「好意に対する自分の気持ちってこと?」

園子「うん。きっと、さおりんはその第一歩が出来ていない天さんに、まずはそこからって意味でよく見るように言ったんだと思うよ」


天乃「言い返したいけど言い返せない……」

園子や夏凜、それに沙織

それ以外の男子生徒や女子生徒達

みんなから言われて初めて、その好意に気づいた

ううん、気づいていたかもしれないけれど

そんなことはない、それは違うと否定してきた

そして、沙織はそこに新しく、

私は人を好きになってはいけないと決めつけて

自分の気持ちを押し隠していると言った

天乃「私の気持ち……」

園子「うん」

天乃「みんなと……というのは駄目なのかしら」

園子「解らない状態で言われても分からないけど、接着剤がしっかりしていれば。全部くっつけることもできるんじゃないかな~」

半ば適当に

でも天乃の疑問にはしっかりと答えを出した園子は

相変わらずの笑みを浮かべていた


√ 6月13日目  昼(自宅) ※土曜日


1、九尾
2、死神
3、若葉
4、球子
5、園子
6、夏凜
7、沙織
8、瞳
9、その他 精霊 ※再安価
0、勇者部の誰かに連絡 ※再安価
11、イベント判定

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



夕方か夜。あるいは14日目


でははじめていきます


天乃「あれからどう?」

夏凜「あれからどうって?」

天乃「沙織……というか猿候。何かしてきたり、してたりしない?」

天乃は車椅子ゆえ、

基本的には自室で園子と二人きりで居ることが多い

その一方で、夏凜や沙織、瞳は各部屋を自由に動き回ることが出来る為

天乃の目の届かないところに居ることが多いのだ

もちろん、猿候は契約があるからと我慢してくれているのはわかるが

だからといって安心できるわけではない

すでに前科があるからだ

夏凜「今のところは特に……って言っても」

夏凜は何か気になることがあるのだろう

物思いに耽るように視線をさ迷わせる

夏凜「今日はなんかぼうっとしてんのよ。なに考えてるんだかわかったもんじゃない」


天乃と契約し、キスをした沙織は

三好さんとのキスとは違う。と言い、何かに気づいた様子で

そして、考え込んで、表に沙織が戻ってくるというようなことにまでなった昨夜

呆然としているのはその件がまだ、片付いていないからかもしれない

夏凜「だから、少なくとも悪さはしてないわよ」

天乃「そう……なら安心。なのかしら」

契約があるから手を出したり出来ない

だから解決も出来なくて悩んでいるのかもしれないが

だからといって、天乃は契約破棄をするつもりは無い

それをしたら、みんなが被害に遭うからだ

当然、今目の前に居る夏凜も……

夏凜「それで?」

天乃「え?」

夏凜「え? じゃ無いわよ。あんたもでしょ。様子がおかしいのは」


見透かしたわけではないとは思う

けれど、今朝見つめてしまっていたせいか疑問を抱かせてしまったらしい

夏凜は見定めるように眉を潜めると

はぁ……とため息をついて呆れたように顔をそらす

夏凜「どうせ、昨日何かあったんでしょ?」

天乃「どうしてそう思うの?」

夏凜「どうしてって、それは……」

天乃の問いが真面目であることは解っているが

気恥ずかしさを拭うことは出来なくて、頬を掻く

どうして平気でそう聞いてこれるのか

あんな顔して、あんなことを言われて

色々と考えてしまうこともあったのに

それなのにそんなことを言われたら

まるで自意識過剰な女の子みたいではないか


夏凜「……天乃の事だから。ほかの人には手を出すなって言いかねないじゃない」

しかも、自分の事は好きにして良いから。というオプション付きで。

それはあくまで、夏凜にとっては想像だ

取ってつけた代替台詞といっても良い

本当は、自分の為に猿候と話をしたのではないか。なんて

柄にも無く、あるいは当然に。考えていたからだ

しかし、天乃という人間が誰かの為に力を尽くそうとする

そう言うものであると考えている夏凜のそれは残念ながら、的中している

そうとも知らずに

天乃が少しは変わってくれていることを嬉しそうに

しかしまだまだと言いたげに、夏凜は苦笑して

夏凜「天乃は本当、いろんな意味で目が離せないったらないわ」


1、ごめんね、夏凜……貴女のそれ、間違ってないわ
2、ねぇ、貴女から見て。私は恋をしているように見える?
3、ねぇ……夏凜。今は園子もケアで居ないし……ダメ?
4、沙織がね? 私は誰かに愛されたい、誰かを愛したいって思ってるんだって
5、夏凜はどうして、恋だと思ったの?
6、ふふっ。ごめんね


↓2


天乃「夏凜はどうして、恋だと思ったのかなぁって」

嘘だ

本当に思っていたこと、考えていたこと

それはそんなことじゃない

動いた手が、照れ隠しのように唇に触れてそう示す

けれど、

夏凜は怒るだろう。もしかしたら、悲しむだろう

だったら、沙織との契約のことに関しては伏せていた方が良い

天乃はそう考えて、驚きの表情を見せる夏凜に、ほほ笑む

天乃「なんで驚いてるのよ。良いじゃない教えてくれたって」

夏凜「あんたねぇ……何も知らないからって。ほんと、調子乗ってんじゃないわよ」

天乃「?」

夏凜「その何言ってるのって顔が……あぁぁぁぁっ」

怒鳴っても仕方がない

冗談で言っているならともかく

天乃はいたって真面目に【理解できていない】のだから


とはいえ、好意があると伝えてきた相手に

そう思ったのはなぜかなどと聞く神経は

はっきり言って理解が出来ない

それはもはや無神経としか言いようがないし

多分、聞く相手がいないけれど、知りたくて聞いたのだろうが

そうだとしても、流石に夏凜も簡単には答えてあげられない

そんなの「私のどこが好き?」なんて聞かれたのに近いからだ

天乃「夏凜……?」

唐突に悶絶しだした夏凜を前にして

慌てふためく天乃は恐る恐る名前を呼んで

ピクリと反応した夏凜は身もだえるのをやめて、天乃へと目を向けた

夏凜「夏凜? じゃないっての! そんなこと言えるわけないでしょうが」

天乃「でも……」

夏凜「私が園子だとか友奈だとか沙織だとか。そっちにその……アレなら答えるのも吝かじゃないわよ」


もちろん、それでも十分恥ずかしいが

相談する、されるとなったら話すこともできるはずだ

けれど

そうではない。今疑問を投げかけてきている相手

それこそがこの気持ちの相手なのだ

なれば、答えることなど容易なはずもなく

天乃「そう……よね」

天乃もそれを全く分かっていなかったわけではない

けれど、夏凜なら教えてくれるのではないか

そう思ってしまった。つまり、甘えてしまった

表情に影の差した天乃は

それを振り払うように首を振って笑みを浮かべる

天乃「ごめんなさい、聞くべきじゃない事だって。分かってるはずなのに」


恋愛相談も請け負ってきた天乃としては

客観的にであれば、恋愛について考えることも難しいことではない

だけれども、いざ自分のこととなると全く分からなくなってしまう

客観的な意見を自分に当て嵌めても

あれは違う、これは違う。と

パズルピースの不一致のように次から次へとエラーが重なっていくのだ

だから、言動がまるで初心者のようになる

もっとも、恋愛未経験者という点においては

それで全く相違ないのだが。

夏凜「……………」

天乃「……………」

沈鬱としたその空気を肌に感じ

夏凜はしばらく眼を逸らそうとしていたが

おもむろに息を飲んで、天乃を見る

……本当に、仕方がない奴

でも、そんな奴を自分は。好きになってしまったのだ


夏凜「正直、私は沙織のようなロマンに満ちた言葉なんて扱えない」

だから、魅力的ではないし

恋愛においての例えとしては不適切である可能性さえあるが

それでも、夏凜は困ったような笑みを浮かべて

でも。あえて言うなら……そうね。と、切り込みを入れて

夏凜「一緒に居たいって思って、幸せな顔が見たいと思って。そのためならと。どこからともなく得体のしれない活力が湧き出てきたからかしらね」

天乃「……得体のしれない活力。それは、私がみんなのためなら死んでもいい。というのとはわけが違うのよね?」

夏凜「それはボケで言ってんの?」

夏凜の少しばかり怒りを感じる瞳は本気だった

だからそう、その二つは似ていることすらなく、まったく違う思いなのだろう

夏凜「ま、参考になるだなんて思ってはいなかったけど」

天乃「そんなことないわ。だって、夏凜はつまり。その人のことを自分が幸せにしたいって思ったってことでしょう? そのための活力がわいたってことでしょう?」

天乃はいつものように自分ではなく

夏凜と誰か。そんな風に客観的に考えて理解し、言葉を紡ぐ

その、天乃の喜ばしそうな表情には

若干名、怒りを覚えてしまうのだが

夏凜は握りこぶしを作るだけで、息を吐く


夏凜「あんたはいないわけ? こう……一緒にいると熱くなれるというか幸せになれるような、やつ」

天乃「私……には」

いるのだろうか?いや、いると言えばいる

熱くなれるのかどうかは別として

友奈達や沙織と一緒にいる時は日常を感じられて、幸せを感じるし

園子といる時はほのぼのとした穏やかさを感じられるのが好きだ

夏凜といる時はいつもより甘えてしまう、喜怒哀楽が激しくなってしまう

けれども、そう……決して不幸せではない

その中の誰かが好きなのだろうか

その中にいる誰かを愛したいと思っているのだろうか?

それとも……


1、いるけど。恋愛としては。どうなのかしら
2、友奈達。かしら
3、園子かしら
4、沙織かしら
5、貴女……かも?
6、どうかしら、良く分からないわ


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から





沙織「それにしても、若葉さんからは懐かしい匂いがするよ」

若葉「なに……?」

沙織「あたしの左腕が疼く、とても強く……そっか。そうなんだ……」

若葉「な、なにが……」

沙織「若葉さん、中にアレを飼ってるね?」


では、はじめていきます


天乃「貴女……かも?」

夏凜「は?」

天乃「うん、そう……なのかも」

疑問系で答えた天乃は

夏凜の驚きには目もくれることなく

もう一度考え込むように目を伏せて、うなずく

沙織や園子、友奈達と居るのももちろん楽しいし

みんなが幸せそうにしているというのは、見ていて嬉しく思う

それはやはり、幸せというものではあるのだろうし

温かい気持ちになることも出来る

護れているんだと、救えているんだと。安堵することが出来る

しかし、

そこには天乃の贖罪が少なからず含まれてしまっている

どこか遠いのだ

友奈たちの幸せと、それを見る自分の幸福というのは。

天乃自身、好きなたとえ方ではないが

幼子を見る老夫婦のような、そんな近くて遠い感覚

その子の未来に自分は居ないであろう事を知りながら

しかしその子の幸福を願い、喜ぶ。そんな、感覚


それはつまり、【一緒に居て】幸せなのではなく

そこに【自分が居なくても】幸せな気持ちになれるということ

それは、夏凜が聞きたいこととは違う

そう考えたとき、誰と一緒に居るのが幸せなのかと考えたとき

思い浮かんだのが、夏凜だった

もちろん、いろんなことがあって、一緒に居たすべてが楽しいとか幸せだとか

そんなとても恵まれたものではないけれど、でも

友奈達の日常に自分という異物を感じる中で

夏凜の存在はそこに自分達のグループを作ってくれたのだ

それは意識なんてしていないだろうし、本人が望んだことではきっと無い

しかし大赦のため、勇者になるため

ただただ鍛錬に時間を費やしてきた三好夏凜というイレギュラーは

天乃にとっては、無くてはならない存在だった

少なくとも。日常になった非日常を肯定する久遠天乃では無く

非日常になってしまった日常をまだ、夢見ている久遠天乃という少女には。


だから、一緒に居ることが楽しいと思えた

傍に居てくれることが心強く、傍から消えてしまうことが心細い

一緒に居ることで【その空間の】自分を含めた幸せというものを感じることが出来る

でも、果たしてそれが恋心というものなのだろうか?

これが、恋愛的な好きという気持ちなのだろうか?

ドキドキとしない、血が沸き立つような熱も無い

悪く言えば淡々としたこれが、恋なのだろうか?

いや、違うはずだ

そう思うからこそ、天乃は戸惑う。困惑する

ならば結局、自分は誰に恋をしているのだろうか?と

天乃「でもね? 恋ではないような気がする……」

夏凜「え?」

天乃「この一緒に居ると幸せだって気持ちは。多分、恋をしてない」


戸惑いのままに言う天乃に

期待させられ、期待を打ち砕かれた夏凜は

同様に困惑した様子で天乃を見つめ、眉を潜める

答えを知りたい。はっきりして欲しい

そう思わないといえば嘘になるけれど

無理強いしたところで、欲しい答えを得ることなどできはしないだろう

夏凜「無理する必要はないんじゃないの? 別に、今すぐ答えが欲しいとか。思ってないし」

天乃「でも……」

夏凜「良いから。無理すんな」

本当は気になっているだろう

聞きたいだろう

それでも、ほんの少し困ったように笑うだけで夏凜は気遣ってくれる

それがとても嬉しくて、

体の奥底で、心の中で燻るものを感じて

天乃はそっと眼を逸らす

天乃「何よ、夏凜の癖に」


1、……ねぇ。する?
2、ありがと。もう少し。考えてみる
3、でも、貴女がいてくれて助かったのは事実よ
4、そんな貴女だから。私は幸せになれるのよ
5、今ちょっぴり。ドキッとしちゃった


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


あと一歩、それで決定


では、少しだけ


天乃「……ねぇ、夏凜。する?」

夏凜「は……な、なに言ってんのよ。あんた」

驚きながらも、満更でもなさそうな夏凜を見つめ、天乃はそっと。夏凜の袖を掴む

仕草に悪戯心はあれ、本心では本当にしてみたいと思っていた

無理矢理ではなく、同意の上で、悲しさの無い、普通のキスを

天乃「ドキドキするから。温かさを感じるから。したら、少しは得られる物がある気がするの」

夏凜「っ……」

キスが好きになったわけではない。と思う

昨夜のキスを拭って欲しいわけでもない

けれど

誰かとのかかわりの中で、ドキドキすることは色々とあったが

そのどれにも属さない高揚感のようなものを得られたのが、キスだった

最初はとても辛くて、悲しいキスだった

でも、園子や夏凜、沙織とすることで

そんな辛さや悲しさだけでなく、心地よさもあると知った

それが、今まで客観的にしか見てこなかった、感じてこなかった

恋愛感情というものなのかどうかはまだ定かではない

だからこそもう一度

同意の上で、唇を触れ合わせてみたいと思った


天乃「……だめ?」

夏凜の戸惑っている表情、困っている表情

断られそうな雰囲気が、なぜか不安になる。なぜか、怖い

その動悸を胸に感じて恐る恐る見上げて問うと

夏凜は躊躇いのわかる表情で目を伏せる

夏凜「本当に、良いわけ?」

天乃「え?」

夏凜「だから! だから……その、何かがあったからとかじゃなくて。純粋に、あんたが……」

声は次第にフェードアウトしていき

夏凜自身、それを自覚したからか

なにをやっているのかと苛立たしげに顔をしかめて、息を吐く

夏凜「……純粋に、あんたがそう、思ってんの?」

天乃「そうって、ドキドキするかどうか? それなら――」

夏凜「いや、その前」


疑問符を浮かべながら応えようとする天乃に

夏凜は少しだけ調子を取り戻した表情で、訂正する

……その前?

少し考えて、間をおいて

天乃「温かさ?」

夏凜「進んでる」

天乃「するかどうか?」

夏凜「それ」

呆れ交じりの満足げな表情

やれば出来るじゃない。とでも言いそうな表情

夏凜のそれを見ながら、天乃は自分の唇に触れる

天乃「そうね……」

昨夜のキス。それはとても鮮明で

辛く、苦しく悲しいものだった

けれど

天乃「私は純粋に。夏凜とキスがしたい」

だからといって拭うためにキスをするのではないと

天乃は確信を持って、言う


天乃「言ったでしょ?」

袖を手放して、ゆっくりと離れながら

そよ風のように穏やかな声を発する

ひとまず断られていないという安堵が、心を落ち着けてくれるからだ

天乃「得られる物があるかもしれないって。でも。それは、貴女がしたくない状態じゃダメだと思うの」

そう言って、自分が言っていることが

夏凜にとっては好意を利用されようとしているようなものだと気づく

だけど、夏凜にキスを求める時点で

夏凜の気持ちを知ってしまった時点で

なにを言おうと、現段階では利用するようなものだから

天乃「……貴女にとっては利用されるようなものかもしれない。でも」

天乃は無意識に申しわけなさを抱いて、

切なげで儚げな表情で夏凜を見つめる

……利用する気なんて無い

私は、私はただ知りたいだけ。教えて欲しいだけ

天乃「お願い、私に恋を教えて」


夏凜「そこまで……思いつめる事かっての」

そんな天乃に対して、

夏凜は困ったように笑うとベッドに下りた天乃の手に手を重ねて

そっと、顔を近づけていく

上手く出来ているだろうか、これは正しいことなのだろうか

色々と考えてしまうことがある

そんな邪魔なものをすべて

頭の中から払い除けて、目の前に見える天乃の顔を記憶にとどめ

鍛えて得た気配を辿って、より近づけていく

天乃「………ん」

近づく夏凜がゆっくりと目を閉じて

それでも近づいて来るのがみえた天乃は

触れられた手から感じる熱とともに高まりつつある鼓動を感じて

こういうことなのかな、これがそうなのかな

そう考えながら、しかし、今は。と目を瞑って夏凜との接触を待つ


それから、時間を置くこともなく唇に感触を感じて、

重なり合った左手と右手、正反対に寂しい右手と左手を

二人ともそうしたいと思っていたように

まるで、目に見えているかのように

二人で一人であるのかと思わせるように

迷うことなく繋ぎ合う

夏凜「……っ」

天乃「は……」

5秒、10秒

短くて長い接触をした二人は

熱っぽい吐息をぶつけ合いながら離れると

何も言わずにもう一度、唇を触れ合わせて

握り合った手に込めた力を少しだけ強くする


もう少し強く繋がりたい

もう少し長くこうしていたい

もう少し、もう少し

そう催促する心を感じる天乃は唇だけを離す

すると、夏凜はそれを追いかけるように顔を近づけて

けれど、唇はつけることなく額と額をぶつけ合う

天乃「ん……」

夏凜「……どう?」

天乃「ドキドキする」

夏凜「体は?」

天乃「少し……」

極限まで近い夏凜の視界には僅かに天乃の顔色が見えるが

そうでなくても額から伝わる熱を感じて

夏凜は自分との交わりによって見いだせていることが嬉しくて

夏凜「……する?」

ほんの少しだけ、欲を持つ


1、する
2、見られるかもしれないから、やめておく

↓2



01~10 園子
11~20 沙織

21~30 
31~40 
41~50 園子

51~60 
61~70 
71~80 瞳

81~90 
91~00  大赦

↓1のコンマ 


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から





瞳「園子様……?」

園子「しー、今いいところだよ~」

沙織「?」

園子「邪魔は許さないよ」

沙織「う、うん……」


では、初めて行きます


天乃「……ん」

うん。とか、する。とか。言葉にするのが恥ずかしくて

言葉にせず頷くと、夏凜は何も返すことなく

応えるように天乃の手に重ねる右手で、左手を掴む

離れないで、このままで居て

そんな気持ちが伝わってきたような気がして、目を瞑る

夏凜「天乃」

ボソッっと耳元で囁かれた名前が鼓膜のみならず、心を振るわせる

それがまた、不思議なくらいに温かい

ドキドキとする。全身から沸き立つような熱

不安のない、暗闇、きっと。きっと。そう、これが……そう

天乃「んっ」

唇が重なる。今度は少し力強く

夏凜の押し付けるような力に反抗せずに

逃げることなく、支えるように受け止めながら

ゆっくりと体を寝かせていくと

夏凜の手と繋がった右手がベッドに置かれて

少しずつ、丁寧な重さがのしかかってきてベッドが軋む


温かい日差しを注ぐ太陽さえも

邪魔をするなというように、通りすがりの雲が目隠しをする

昼間とは思えない薄暗さ。けれど、二人には関係ない

天乃の右目には夏凜しか映っていないから

夏凜の両目には、天乃しか映っていないから

その手に、その体に感じるのも、互いの体温だけ

天乃「ん……んぅ」

夏凜「っふ……」

名残を惜しむように、ほんの少しだけ離れて空気を取り込む

そしてまた同じように。少しだけ角度を変えて唇を重ね合わせる

唇の端までもしっかりと密着させたい。そんな、欲張りな思いを抱く夏凜の動きを

天乃はただ、黙って受け入れる


昨夜のキスは普通に接触させるものから、

夏凜のように角度を変えたり、舌を入れてきたりと

情熱的で激しく淫らなキスだった

しかし、強引で、無理矢理で悲しいキスだった

けれど、今こうして夏凜としている交わりは

内容こそ、少しばかり似通っているのに

似て非なるまったく別種のものだと、感じていて

天乃は沙織が言った【違う】という言葉の意味が少しだけ、わかった気がした

天乃「っ」

夏凜「んっ」

密着し、付着しかけた唇が離れていくと

ちゅぷりと小さな音がして、どちらが言うまでも無くもう一度重ねる


体が熱い、苦しくなりそうなほどに熱い

なのに、重ねあうのをやめられない

もっと、もっと。もう少し、もう少しと、際限なく心が切望する

重なるたびに瞳を閉じて、相手の想いと熱を感じ

離れるたびに瞳を開いて、相手に思いを伝えようとする

……もう、終わり? と

繋ぎあった手は

離れるたびに強く、密着するたびに弱くなる

天乃「っ……夏凜……」

夏凜「こんな状況で、呼ぶな」

視界に広がる光景は

夏凜の記憶の中にある言葉では言い表せないほどに幻想的に思えた

春に舞う桜吹雪のように広がる髪

冬に積もり積もった雪のような肌

それらを輝かせる陽の光のように、上気した頬

美しかった。繊細だった。

そこには好きという感情は湧くことなく、ただただ、愛おしさを感じる


夏凜「天乃」

天乃「……うん」

重なり合う二人は、ただただ自分を見てくれと思うから

声に集中して欲しいと無意識に思うから

漏れ出す声は、囁き

擽るような優しさで、布団のような温もりで

天乃は思わず照れくさそうに笑みを浮かべて

夏凜は

……これが、本当に恋をすることか。と、

目を開いたままの天乃の唇にキスをして、耳元に口を近づける

夏凜「私の心臓の音……あんたなら聞こえてるんじゃない?」

夏凜は自分の体の奥底から

激しい心臓の音を聞いて、もしかしたらそれで伝わるかもしれないと、問う

けれど、天乃は小さな声で「ううん」と、笑みを浮かべて

天乃「だって……私自身が、凄いんだもの」

夏凜「……ばか、じゃないの」


熱すぎて涙をこぼす天乃の頬を握り合わせた手で拭って

もうすぐ園子が戻ってくる

見つかったら少し面倒なことになってしまう

夏凜はそれがはっきりと解っているのに

なのに

夏凜「痛い?」

天乃「……痛い」

夏凜「なら」

天乃「うん……」

もう少しだけなら許して欲しいと

誰かに祈るわけでもなく、思い、願って

天乃と唇を重ね合わせる

唇は離れることなく、動かすことなく

ただただ、密着しあって――互いを強く感じあった


※園子達合流のため、中断


√ 6月13日目  夕(自宅) ※土曜日


01~10  沙織
11~20 
21~30 樹海化

31~40 
41~50 大赦

51~60  死神
61~70 
71~80 樹海化

81~90 
91~00 九尾

↓1のコンマ 


【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【六輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【六輪目】 - SSまとめ速報
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では、中途半端になりそうなので続きはこちらになります



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