【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【十五輪目】 (1000)

このスレは安価で

乃木若葉の章
鷲尾須美の章
結城友奈の章
―勇者の章―

を遊ぶゲーム形式なスレです


目的

東郷家、犬吠埼家への挨拶
伊集院家の説得
勇者部による演劇(文化祭)
元気な子供
進路決定



安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります


日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2
基本的には9月14日目が最終


戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%
※ストーリーによってはHP0で死にます


wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに

前スレ
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【一輪目】
【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【一輪目】 - SSまとめ速報
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【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【二輪目】
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天乃「それならぜひ参加させてもらうわ」

「良かったぁ、天乃ちゃんは子供にも好かれやすそうだから助かるわ」

天乃「スタッフとしては働かないわよ?」

「大丈夫大丈夫、いてくれるだけで多分大丈夫だから」

頼りにされてしまっているのは気のせいではないだろう。

自分ではほとんど何もできないからと否定する天乃だったが、

看護師としては天乃の存在がそこにあるだけで充分らしく

子供たちにとっての保育士のような存在足り得るとでも考えているのかもしれない

天乃「私、そこまでの母性はないと思うわ」

「天乃ちゃんは天乃ちゃんが思うよりも魅力十分よ。少しは自信持つべきだと思うの」

天乃「自身がないとは言わないけど……」

「私って魅力的な女よ。とか言っても嫌味にはならなそうな感じあるし」

天乃「夏凜に言ったら呆れられるわね」

魅力的な女を自称していないが、

似たようなことを自慢げに言う勇者部の某部長

それに対する夏凜の対応を思い出した天乃は笑みを浮かべて首を振る

天乃「それで、私は何に参加するの?」

「一通り参加できるわよ」

天乃「お菓子とかお話とか、勇者部でよくやっていることね」

「そうなの? そう言えば、勇者部の話を聞いたことあるかも……」


思い返そうと唸った女性看護師は、

そうそう。小さい子が特にね。と笑顔を浮かべて切り出す

「勇者部のおねーちゃん達はいないのー? って」

天乃「そこまで人気があるとは思わなかったわ」

小さい子供……特に幼稚園などで演劇や本の読み聞かせ、紙芝居を行ったり、

人通りの多い商店街などでの掃除の手伝いや、個人店の軽いお手伝い

猫や犬などの探しやお祭りなどのイベントのお手伝いなど多岐にわたって出向いているため顔が知られているのは当然だが……

「子供は基本的に遊んでくれる人が好きだからねぇ」

天乃「友奈が人気ありそうだわ。あと、風」

もちろん、樹たちもだが

特に同年代のようにはしゃいで遊びまわってくれそうな二人に対しては

より一層の好意が向けられているのだろうと天乃は思う

「勇者部って凄いわねぇ」

天乃「ええ。勇者だもの」

最近は依頼を行うこともほとんどできなくなってしまっており

たくさんの人を不安にさせてしまっているのかもしれないと考え、天乃は少し困った表情を浮かべる

元々車椅子の自分や東郷が出張れないのは仕方がないと割り切られるとしても

快活な友奈達がまったく出てこないというのがより不安をあおってしまっているだろう

天乃「……年末年始は巫女さんの真似事でもするしかないかしら」

「え?」

天乃「こっちの話」


「それじゃぁ、お昼ごろになったら迎えに来るわね」

天乃「ごめんなさい、よろしくお願いします」

「いいのよ。誘ったのは私だもの」

病室のドアが閉じ、一人が減った瞬間、一人が増える

若葉「……ハロウィンか」

女性看護師が病室を出て行ったのと入れ替わるようにして

どこからともなく姿を現した若葉は安堵したような

しかし、どこか申し訳なさを感じる表情を浮かべていた

天乃「若葉たちもこっそり参加する?」

若葉「そうだな……問題なければ紛れ込もうか……ふふっ、一種の怪談話だな」

いないはずの人がいる。10人しかいないのに数えると11人いる

そんなよくある怪談話のようだと苦笑する若葉は、

不意に笑みをかき消して「天乃」と名を呼ぶ

若葉「すまないな、本当は別の――」

天乃「良いわよ。もとはと言えば私が原因なんだもの」

ハロウィンのイベントを勇者部で行って楽しもう

そんな話も今の状況ではなかったことにするしかない

文化祭も、ハロウィンも

次から次へと楽しむはずの行事の約束を反故にしてしまうことを詫びる若葉に

天乃は優しく笑みを浮かべる

天乃「否定は、しないでね」

若葉「……嫌な命令だな」

天乃「じゃないと貴女、自分の力不足だって言い出すでしょう?」

優しい笑みから困った表情へ

緩やかに切り替えた天乃はふとため息をついて

天乃「そういうのって、結構面倒なのよ」

若葉「天乃が言うべきことじゃないぞ。まったく」

天乃「ふふっ、自覚したんだな? と、言いなさい」

若葉「威張るところじゃないな」


茶化すように威張って見せる天乃の笑みに若葉は手を焼かせる子供へと向けるような

呆れつつも元気のよさを喜ぶ笑みを浮かべて、考えを切り替える

ハロウィンを行おうという約束

それを反故にしてしまった罪悪感を持ち出しすぎると

かえって天乃に嫌な思いをさせてしまうからだ

若葉「大分調子も良さそうで何よりだ。一時はどうなることかと思ったが……」

天乃「夏凜たちのおかげでね」

若葉「ああ、彼女たちには本当感謝しているよ」

千景の暴走を止めてくれたり、

万事休すな状況でも諦めない心を持っていてくれて

若葉たちが消えることで天乃の体の不可を取り除くという、

ハイリスクハイリターンな方法をとらずに、自分たちを賭けてくれた

感謝してもしきれないと若葉は心の中に思って

若葉「夏凜達だが、順調に穢れが抜けてきているから11月上旬にも元通りになれるはずだ」

天乃「本当?」

若葉「順調に行けばだが……戦いは行っていないし、問題ないだろう」

推測ではあるがほぼ断定しても良いという若葉に

天乃は少しだけ期待しておくわね。と

少しではない満面の笑みを浮かべていて

若葉「少しだけだぞ」

若葉は祈る

彼女達に何も起こらないようにと

入れ替わるように、天乃へと不幸が訪れないようにと。


√ 10月14日目 昼(病院) ※日曜日

01~10 
11~20 友奈

21~30 
31~40 
41~50 千景

51~60 
61~70 風
71~80 
81~90 九尾
91~00 

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


ちょっとしたハロウィンイベント


では少しだけ


√ 10月14日目 昼(病院) ※日曜日


病院で行われるハロウィンの催しは

外などで行われているものよりも規模は小さい

だが、子供たちにとってはそれでも退屈な入院生活を楽しませてくれる一つの催しなのだろう

会場となっている広い部屋ではたくさんの子供たちが集まっていた

天乃「賑やかね」

「子供たちはこういう催し物は好きなんですよ」

天乃「ふふっ、確かにね」

幼稚園などで演劇を行う際も

テレビでやるようなヒーローもののものではなくても

子供たちはとても楽しんでくれる

男の子だけでなく、女の子もだ

樹「あっ、久遠先輩っ」

天乃「あらっ」

かけられた声に目を向けると、

帽子だけのものではあるが、細やかな仮装をした樹がタロットカードを片手に近づいてきた

樹「来てくれたんですね」

天乃「ええ、身体の調子も良いし。せっかくのお誘いだもの」

樹「良かったです。元気になってくれて」

嬉しそうに言う樹は昨夜に見せていた影のない笑みを浮かべていて

天乃もつられて笑みを浮かべる


天乃「樹は魔女の仮装よね? 全身じゃないのは残念だけど……かわいいわ」

樹「えへへ……」

照れ臭そうに頬を染めて幅広の唾を摘まんで深めに被った樹は

帽子の影から目を覗かせて、それでですね。と口を開く

樹「私は占いをやってるんですっ」

天乃「樹の占いは良く当たるって人気だものね」

樹「それほどでもないですけど」

そう答える樹の背後、

樹がさっきまで占いをやっていたであろう場所では何人かの子供―全員女の子―が集まっていて

その内容は聞くまでもなく、明白だった

天乃「恋占いね……ふふつ、私の運命の相手も占ってもらっちゃおうかしら」

樹「久遠先輩にはもういますよ?」

天乃「そうね。そうだけど……」

楽し気に笑った天乃は「そうなんだけど」ともう一度繰り返して、

帽子の隠れた樹の顔をしたから見上げて

天乃「私がいるじゃないですかって、言わないのね」

樹「っ!」

天乃「ふふっ、かわいい」

樹「か、からかわないでくださいっ」

飛ぶように後ろへと引き下がって声を上げる樹

その愛らしさを喜ばしそうに言う天乃へと樹はちょっぴり目を細める

天乃の運命の相手は自分ではなく夏凜だと思っているのだ

しかし、天乃はその視線に気づいていないのか笑顔で

天乃「私としては、貴女達みんなが運命の相手だと思ってるのよ?」


誰か一人欠けていてはここまでこれなかったかもしれない

ここまで来れていたとしても、誰かが欠けていたかもしれない

あるいは、ここまで生きていたいと

そんな願いを持つことはなかったかもしれない

だからこそ、天乃は思う

天乃「勝手に。だけどね」

樹「やっぱり、久遠先輩は久遠先輩ですね」

天乃「どういう意味か気になるんだけど――」

「お姉ちゃんお姉ちゃん、まだー?」

天乃「樹お姉ちゃんはまず、その子たちの相手をしてあげないとね」

樹「久遠先輩にお姉ちゃんって呼ばれるとなんだか照れちゃいます」

かわいらしく照れ笑いを浮かべる樹が子供たちに引っ張られ、占いへと戻っていくのを見送った天乃は

部屋の片隅で男の子を集める女性へと目を向ける

樹の占いや、折り紙でのかぼちゃやお化けなどの折り方など

いくつかの催しがある中の一つ

樹とは違って完全に魔女の衣装を着こんだ女性

光をきれいに反射させる輝きは美しく

魔女と言われても信じられるような姿

その女の人は子供たちに一定以上離れるように言うと、両手を合わせて離す

その瞬間――ボッっと小さな爆発のような音が鳴り、

女の人の手と手の中心に赤い光が輝いていた

子供たちの歓声と称賛

手品だなんだと楽しそうに聞こえる声を向けられる女性は

浮かぶ火の玉を右手の平に乗せて、くくくっと、悪戯っぽく笑う

九尾「南瓜提灯というものを知っておるじゃろう? これはそれの元になった光。どうじゃ、美しかろう?」


「すげーっ、どうやったの!」

「手品だよ手品」

「糸でつるしてるんだよ」

「でも糸なら燃えちゃうよー?」

九尾「くふふっ、妾は魔女じゃ。魔法を使ったのじゃよ」

そう言った九尾は

掌の上で踊る火の玉を手で包むと、ぎゅっと握り込んで

「やけどしちゃう!」

九尾「普通ならするが、魔法ではせぬ」

傷一つない掌を子供たちへと見せた九尾は

その手のひらを握ったりもんだり突いたり

何か隠しているのではないかと調べる子供たちの背後から感じる視線に気づき、

にこやかに笑う

九尾「眠り姫ではないか」

天乃「何してるの……貴女」

天乃が近づくと子供たちは九尾から離れ

九尾が出した火の謎について話し合いを始める

手品説を押す者

魔法を信じる者

子供たちにとっては楽しい催し物のようで

九尾はそんな子供たちを横目に答える

九尾「催し物には派手さが足りぬと思うてのう。ちょいと協力してやっているだけじゃ」

天乃「協力って……」

九尾「狐火を見せるだけじゃ。危害はない」


念のために離れるようにと指示していたし、

火力は最小限ですぐに消したことからも

それは解ってはいるのだが

九尾が自発的に行っているのが少し、気掛かりなのだ

九尾「何もせぬ。安心しておれ」

天乃「それは良いのよ。それは……」

気にはなるが

天乃が無意味な犠牲を好まない以上

天乃が元気になっている今余計なことはしないはずだ

それを天乃も分かっているからか、

悩まし気な表情を浮かべながら頷く

天乃「それで? なんで狐火なの? 南瓜提灯の元の光って言ってたけど」

九尾「正しくはあの光を現したのが南瓜提灯じゃな」

そう言った九尾はもう一度狐火を出すと、

狐火を代替として見せつつウィルオウィスプとジャック・オー・ランタンについての話をする

謎の光について話し合っていた子供たちも

九尾の披露する怪談にも似たお話は好みだったらしく、静かに耳を傾けていた

九尾「だから、これがもとになった。というように話したわけじゃ」

最後の最後でもう一度小さな火を出して、かき消す

九尾のパフォーマンスに子供たちは大喜びだった



1、風を探す
2、ねぇ、どうして貴女が西洋の文化に詳しいの?
3、あまりやりすぎないようにね?
4、友奈達のところに行く
5、夏凜のところに行く


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


天乃「トリッ――」

東郷「お菓子はありません!」バンッ

天乃「っ!?」

友奈「えっと、あ……えーっと……にょ、女体盛り? ならここに!」

天乃「東郷」チラッ

東郷「え、冤罪です!」

樹(この前パソコンで見つけたやつだ……)


では少しだけ


天乃「友奈達は……来てないのね」

「そのようですね。やはり、身体の症状的に出歩くのは難しいのかもしれません」

いつ、どこで、

何が起きてしまうのか、何をしてしまうのか

自分の理性だけではどうしようもない状況の友奈達は

病室から出ることは出来るかもしれないが、出てくる気にはなれないのだろう

見知らぬ人の前で高ぶって淫らな行為に没頭してしまう。

そんなことになったら、友奈達は二度と表を歩けないと思うかもしれない

それなら……と

天乃は考えて看護師の女性へと声をかける

天乃「友奈達のところに行きましょう」

「え……本気ですか?」

天乃「大丈夫よ。襲われたりするわけではないし……」

「ですが」

天乃「あのお菓子も持って行ってあげたいわ」

「…………」

忠告しようとしても受けようとしない天乃を見つめていた女性は、

どうしても行くのだろうと半ば諦めた様子で肩を落とし、お菓子を配る同僚のもとへと天乃を連れていく


天乃「あと二人分頂けないかしら」

「二人分?」

天乃「病室から出られない二人にも渡してあげたいのよ。駄目かしら?」

車椅子の少女の必然的な上目遣いを前に、

パンプキンパイを配る女性看護師は困ったように天乃の担当看護師へと目を向けて、

特に遮る様子もなくお願いします。と、むしろ求めてくるのを確認して笑みを浮かべる

子供に対しての、優しい笑顔だ

「お友達の分ね、はい。どうぞ」

子供に対するようなゆったりとした明るい言い方と、渡し方

この場での儀礼のようなものなのだろうが、

天乃は受け取ったお菓子の包みをじっと見つめてから、

渡す係の女性へと目を向ける

天乃「友達じゃないわ。恋人よ」

「えっ?」

天乃「恋人」

最初こそ驚いた女性だったが、

天乃の平常な物言いに冗談だと考えたのか、

ただ好意があるだけの相手だと考えたのか

冗談に乗っかったような笑みをこぼして「そうなのね」とつぶやく

「貴女みたいな子に好かれるくらいなんだから凄くいい子なのね」

天乃「ええ」

きっとよく分かっていないだろう女性に天乃は満面の笑みを浮かべて首肯すると

天乃「とても可愛い女の子よ」

「!?」

驚く女性を横目に、天乃は看護師の女性にお願いして

友奈達の病室へと向かうことにした


「あの、本当に行くの?」

天乃「デジャヴュを感じるわね」

「……………」

もうすでにハロウィンの会場を出て友奈達の病室へと向かって数分

あと少しでたどり着くというところになって、女性看護師は引き止めるような言葉をまた切り出す

前回、粗相をしてしまったということもあって、

やはり、心のどこかで怯えてしまうのだ

冗談でいざというときは天乃に責任を取ってもらうなどということを言ったが……

流石にそれを本当のことにするわけにはいかない

「天乃ちゃん、エッチな事をする為に行くの?」

天乃「それも半分くらい目的ではあるわ。もちろん、場合によってだけど」

看護師は知らないが、

友奈達が淫らな行為を行いたい衝動に駆られてしまう原因は穢れにあり、

それを早急に消してしまうために天乃は淫らな行為を行う

だからこそ、友奈達が昨日のような状態ではないのならば行う必要はない

天乃は会場でもらったパンプキンパイの入った包みを掲げて見せると

せっかくのハロウィンだから。と、笑みを浮かべる

天乃「少しでも共有したいって気持ちの方が強いわ」

文化祭を一緒にできなかったからこそ

その気持ちも余計に強いのかもしれない


天乃は全く戻ってきていないが、

友奈に関しては味覚の回復も少しずつではあるが順調に進んでいるだろうし、

味の感じられるお菓子を食べさせてあげたいという気持ちもある

本来なら、東郷の牡丹餅が優先的なのかもしれないが。

今はこの状況だ、ないものは出せない

いっそ作ってあげてもいいけれど。と思いつつ

味覚のない自分にはそれは無理だと考え直して、

天乃「貴女がどうしても駄目だというのなら、引き返しても良いわ」

「いいの?」

天乃「これは私の我儘だもの。ある意味で、貴女は被害者だから」

無理強いはしない

どうしても駄目、どうしてもいやだというのなら仕方がない

そう割り切って言う天乃の声に耳を傾け、足を止めた看護師の女性は

少しだけ躊躇いながら……また足を前へへと進めて

「するときは、部屋から出ていくからね」

天乃「……混ざっても良いのよ?」

「だーめ。中学生の女の子とエッチで盛り上がれるようになっちゃったら結婚できなくなっちゃう」

なるようになれ

そう言いたげな声色で適当に笑って見せる看護師は、

責任を取ってもらえるならそれでもいいけど。と、冗談ぽく、半分の本気を呟いた


01~10 
11~20 白熱中

21~30 
31~40 
41~50 ガンガン行こうぜ

51~60 
61~70
71~80 くんずほぐれつ 
81~90
91~00 たのしいぷろれす 

↓1のコンマ 


※空白は通常


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から行う予定ですが
もしかしたらお休みになるかもしれません



友奈「とりっくおあとりーと!」

天乃「はいどうぞ。じゃぁ、友奈」

友奈「はい?」

天乃「トリックオアトリート!」

友奈「ええっ!?」

東郷(子供が二人に見えるわ)


では少しだけ


天乃「友奈ー? 東郷ー?」

病室の扉を軽く叩いて、まずは声をかける

もしも万が一淫らな行為をしていた場合、大きなノックは驚かせてしまうし

訪問者がだれか分からないとどうするべきかに迷いが生じてしまうからだ

もちろん、

天乃だから関係なく没頭してても良いとは考えないだろうが。

天乃「は――」

返事がなく、もう一度声をかけようとしたところで扉が開いて

風を巻き起こしながら、何か白い物体が飛び出す

友奈「ばあっ!」

「っ」

驚いた……わけではなく。

おそらくは病室内の白いカーテンを被っただけのオバケに車椅子がぶつからないようにと身を引いたのだろう

車椅子が揺れたのを体に感じて言葉が一歩後退りした隙に、

オバケ―明らかに友奈―は白い手を差し出す

友奈「トリックオアトリートっ!」

天乃「あるわよ」

友奈「とりーと?」

天乃「ええ」

明らかに友奈だと

そう確信してにやりと笑みを浮かべた天乃は、

パンプキンパイの入った包みをちらつかせながら、口を開く

天乃「でも、幽霊はお菓子を食べられないから駄目よ。食べ物を粗末には出来ないわ」

友奈「食べられますっ」

案の定、自分でずるりと布を引きずり剥いで勢い有り余る様子で宣言する友奈が姿を現して

天乃はより一層悪戯っ子の笑みへと深めていく


天乃「知ってる? ハロウィンでは仮装をしないでお菓子を食べると自分自身がオバケのお菓子にされちゃうらしいわ」

友奈「えぇっ!?」

天乃「嘘よ」

友奈「久遠先輩っ」

本気にしちゃったじゃないですか。と

本気には見えない可愛らしい抗議の声を耳にして天乃は苦笑する

完全に穢れが抜けきったわけではないが、

若葉が言ったように本当に問題ないのだろう

顔色も、声色も何も問題なさそうな友奈を認めた天乃は貰ってきた包みを差し出す

天乃「はい。パンプキンパイよ」

友奈「わーい」

昨日の件に関しての負い目も抱えている可能性が少なからずあったが、その心配は要らないらしい

天乃はおばけの仮装を忘れて喜ぶ友奈をほほえましく見つめて、小さく息をつく

天乃「友奈、中に入ってもいい?」

友奈「あ、はいっ。大丈夫です」

受け取った包みの中をまじまじと眺める友奈に声をかけ、病室の中へと入っていくと、

昨日のような淫猥なにおいは微塵も感じなかった

ただ、窓が開いているというだけではない

おそらくだが、朝からさほど没頭することがなかったがゆえだろう

東郷「友奈ちゃん、仮装はやめちゃったのね」

友奈「幽霊だとお菓子は食べられないって久遠先輩が……」

東郷「そういう時は悪戯するって、言ってなかった?」

友奈「あっ……」

東郷「もう、友奈ちゃんったら」

友奈「えへへ」


天乃「調子は良さそうね」

東郷「昨日、久遠先輩お相手して貰えたからだと思います」

天乃「あながち冗談とも言えないのよね、それ」

力を有している天乃が行うことで、

東郷達の体に宿った穢れが多少なりにも天乃の方に引き寄せられるような形で

通常よりも多く抜けた。という可能性もあり得なくはない

もちろん、正確なことは不明だが。

天乃「ところで、座敷童さんは洋菓子でも大丈夫かしら?」

東郷「仮装しているつもりはないんですが……快く頂きます」

天乃「艶がかった長い黒髪に、陶器みたいに白く神々しい肌の日本人形の方がよかったかしら」

東郷「久遠先輩だって髪色以外は同じですよ……南瓜包みですか」

天乃の冗談に苦笑いを浮かべながら、東郷は差し出された包みを受け取って開封する

東郷は和食を好み、お菓子に関しても和菓子を好むという徹底ぶりを見せているが、

だからと言って一切口にしないというわけでもない

東郷「ん……おいしい。南瓜がまったりとした甘さで程よく溶けてくれてしつこくないのがありがたいわ」

天乃「喉にも配慮してあるんでしょうね。きっと」

東郷「病院で出されるものですから、そうかもしれません……ところで久遠先輩」

天乃「なに?」

呼びかけ、天乃のことを調べるように見つめた東郷は、

わざとらしく人差し指を立てて

東郷「久遠先輩は西洋版座敷童とかどうでしょう?」

天乃「私の身長的な意味で? うん? トリックしちゃう?」

東郷「そ、そこまでは言っていませんが」

半ば本気で悪戯を仕掛けようとしているように身を乗り出す天乃に、

東郷は慌てて答えを返して、否定する

……身長的に。と思ったのは事実だったが。


友奈「このパンプキンパイおいしいですっ」

天乃「そう。良かった」

一時は味覚が完全になくなってしまっていたからか、

味覚はむしろ敏感に反応しているのだろう。

入院患者に合わせて控えめに味付けされているであろうパンプキンパイも

友奈はとてもうれしそうに、美味しそうに頬張る

天乃「ふふっ」

天乃は味覚がない

だから食べてもなにも感じない

しかし、友奈が美味しそうに食べているのを見ていると

美味しいのだろう。ということだけは解るし

何となくではあるが、味が感じられるような気分に浸ることができる

まだみんなに味覚のことを秘密にしていた際に、

とても重宝していた日常の要素だ

天乃「あら」

友奈「?」

天乃「…………」

美味しそうに食べる分、口元についてしまったパイのひと欠片に気づく


1、教えてあげる
2、とってあげる
3、トリック・オア・トリートする

↓2


中途半端になるので、本日はここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


天乃「トリックオアトリート!」

友奈「!?」

東郷「久遠先輩の悪戯、私、気になります!」

風「嫌な予感しかしない」

樹「占いの結果は……うん、なんでもない」


では少しだけ


天乃「そう言えば、オバケの仮装をしていたんだもの。友奈は当然ハロウィンだってわかっていたのよね?」

友奈「はいっ、本当はもうちょっと色んなこともしたかったんですけど……出来なくて」

天乃「それでカーテンを使って仮装してたのね」

友奈「えへへ……だから前が見えなくてちょっと危なかったです」

パンプキンパイを美味しそうに食べる友奈はちょっとだけ手を休めて

少し困ったように笑みを浮かべる

ドアの直前ではなく、ベッドからかぶっていったのだろう

それは確かに危ないと注意して

天乃「それなら、友奈」

友奈「はい?」

天乃「トリック・オア・トリート」

友奈「えっ」

天乃「お菓子がないなら悪戯させて貰うわ」

嘘をついたり隠し事が苦手な友奈が驚きを露わにしたことにお菓子がないことを確信して

にっこりと。

天乃はちょっぴりの悪戯心を含んだ笑みを浮かべる

友奈「う……」

天乃「ハロウィンだって分っていたんだもの。あるでしょう?」

友奈「それは……その~」

ちらりと自分の手元、

天乃が渡したパンプキンパイへと友奈が目を向けた瞬間に

天乃は「あら?」と、わざとらしく声を漏らす

天乃「私があげたお菓子をそのままというのは、無しよ?」

友奈「うぅ……」

小さく声を漏らした友奈は残念そうに口をすぼめて、

観念したのだろう「持ってないです」と答える



友奈「……優しい悪戯にしてください」

天乃「そう求められると、少し優しくない悪戯をしたくなっちゃうわね」

友奈「そ、それならきつい悪戯をお願いしますっ」

天乃「言質を取ったわ」

友奈「あぅっ」

やってしまったと友奈が悲し気に声を漏らしたのを一瞥して、

天乃は「もちろん優しくするわよ」とほほ笑む

悪戯と言っても、流石に嫌がるようなことをする気はない

ハロウィンという楽しいイベントを壊すようなことはしたくないのだ

友奈「うぅ……どんとこいですっ!」

覚悟を決め、宣言する

そんな友奈に酷いことをすることはないだろうと、

隣のベッドに横になっている東郷はほのぼのとした笑みを浮かべながら見守る

その、前で。

天乃「ん」

友奈「っ!」

友奈の頬に、キスをする。

ついてしまった小さなお菓子の欠片を吸い取るように

優しくふわりと触れ合うような感覚で。

天乃「頬にお菓子がついてたから……ちょっとした悪戯よ? 優しかったでしょ?」


友奈「あっ、えっ」

本人にとっては

そう、【天乃にとっては】ほんの些細な悪戯が成功したことを喜ぶ無邪気な笑みの傍ら

呆然と声を漏らした友奈は見る見るうちに顔を赤く染め上げて行って、

パンプキンパイを食べるための小さなフォークを手から落とす

友奈「く、久遠先輩……っ!?」

天乃「うん?」

友奈「え、あ、い、今……今ッ!」

天乃「ほっぺにお菓子がついてたから取ってあげたのよ。口で」

にっこりと。

それはもう、悪意も悪戯心もない純真無垢な笑みを浮かべる天乃に

友奈は言うべき言葉を見失って「うーっ」と声を漏らして触れられた頬に手を宛がう

まったく意識していなかった不意を突いた頬へのキス

それが悪戯だというのなら、確かに大成功だったのだ

友奈「そんなのずるいです……」

天乃「嫌だった?」

友奈「そういうわけじゃ! た、ただ……ただ、その、全然そう言うつもりなかったので」

天乃が感じていないのに自分だけ感じている気恥ずかしさという温度差

その気にさせるだけさせてくるという天乃の本質を感じさせられた気がして

友奈は高鳴る胸に手を宛がう

友奈「……凄く、驚いちゃって」


東郷「……久遠先輩」

天乃「なに?」

東郷「私の頬にも――」

天乃「唇しかついてないじゃない」

東郷「唇がついていますが」

それじゃただのキスになるじゃない。

そう困ったように言う天乃に、東郷は「つければいいんですか?」と

食い下がって問う

もちろん、わざとつけても意味はない

無意識に付けてしまっていた友奈だからこそ

天乃も悪戯としてそれを行ったのだから

天乃「解ってたら悪戯にならないわ。残念ね」

東郷「つまり後ろから押し倒さないと驚かないってことですね」

天乃「それは前からでも十分なサプライズだわ」

友奈「……ん」

友奈はさっきまでとは打って変わって小さく切り出して丁寧に口へと運ぶ

零れないよう、落とさないよう、口周りに付かないよう気を付けて。

そんな友奈を認めて、天乃はちょっぴり申し訳なさげに眉を顰める

天乃「ちょっと驚かせすぎちゃったわね。ごめんね」

友奈「いえ、その、なんというか……」

いうべきかと悩んだ友奈は、

どうせ黙っていても仕方がないのだからと考えたのだろう

天乃を真っ直ぐ見つめて、答える

友奈「さっきので、ちょっとだけスイッチ入っちゃったかな~……なんて」


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


風「あーそうだった。こういうやつだったーっ!」

沙織「最近、色々あって忘れてたけど久遠さんはこういうところあるよね」

園子「私のことも忘れてるよね~」

園子「あれ~? お嫁さんじゃなかったかなぁ~?」

園子「ん~? 病んじゃっても良いかな? そろそろ」ニコッ

夏凜「少し落ち着きなさい。ね?」


では少しだけ


天乃「それは……ちょっと軽率だったわね」

友奈「い、いえっ、そんな。多分、穢れが関係なくてもドキドキしちゃってたと思うので」

意識的に行っていても恥ずかしいと思うことはあるが、

ある程度心の準備が出来ている分、余裕はあるのだ

だが、さっきみたいに不意を突かれてしまうと

心に余裕はないし、動揺もより酷く

そしてなにより、それに対しての本当の意味での素の部分が垣間見えてしまう

穢れによる影響で多少なりと誇張されてしまうが、根本的な部分は何も変わらない

友奈「……柔らかくて、ちょっとだけ潤ってて、久遠先輩の匂いがして」

天乃「そんな感想言わなくて良いからっ」

友奈「無意識だったから、じわじわ感じて、キスされたんだって思ったら熱くなっちゃって」

天乃「うん、うんっ、分かった。分かったからっ」

ちょっとやめて。と、制止する天乃に構わず友奈は呟く

吐露して熱を吐き出していかないと、

真っ赤な茹でダコになってしまいそうで

唇の触れた頬を手で押さえながら、友奈は言う

友奈「好きな人と握った手を洗いたくないって言う気持ちが少しだけ分かった気がします」

天乃「お願いだからちゃんと洗ってね?」

友奈「えへへ、久遠先輩とはいつも出来るのでちゃんと洗いますけど、でも、この感覚が無くなってほしくないなぁって思うんですよ」

東郷「洗っても思い出は消えないのに、消えちゃう気がするのね。解るわ友奈ちゃん」


天乃「そういうものなのねぇ」

東郷「見事な悪戯だったと思います。友奈ちゃんの可愛さも割り増しだったわ」

友奈「うぅ……」

東郷「私の可愛いところも見てみたくないですか?」

天乃「貴女も十分可愛いわよ。下手なことしなくても」

東郷「率直に褒められると純粋に気恥ずかしさを覚えますね……」

冗談に対して本心の笑みで答えられてはどうしようもないと

東郷はほんのりと赤みがかった表情で頷いて呟く

天乃は責められることに弱いが、

こと攻めることに関しては、意識的よりも無意識的にする方が強かったりもするのだ

もちろん無意識、ゆえに無自覚で本人はそうと思っていないのだが。

友奈「恋愛は羞恥心が無くては成り立たない。けれど、無いほうが良い時もある……」

東郷さん言ってたよね。と

友奈はいつかの東郷との会話を思い出して、

初耳である天乃は困惑したように東郷へと目を向ける

東郷「確かに言ったわね。多少の恥じらいがあってこそ一つ一つの仕草により愛らしさが芽生える」

けれど。と、続けて

東郷「羞恥心だけでは、想い一つも伝えることが出来なくなってしまうから」

恋をしている中で、そう思ったんですと語った東郷は

改めて自論を語るのはなんだかむず痒く感じますねと気恥ずかしげな笑みを浮かべる

天乃「でも解らなくは無いわよ? 恥ずかしがって口にしなかったり行動しなかったりすると何も出来ない何にもならないもの」

東郷の意見に同調して見せた天乃は、それにね? と、まだ頬の赤い友奈を一瞥しながら微笑んでみせる

それに気づいた友奈はまた、頬を赤らめて目を逸らす

その仕草に、天乃はより一層深い笑みを浮かべて

天乃「恥らう姿って、可愛くてドキドキするわよね」

友奈「からかってる笑い方じゃないですかっ!」


小さく笑い声を零した瞬間、少しだけムッとした友奈が抗議の声を上げる

ちょっぴり怒った―可愛らしさしかないが―というアクセントに天乃は驚いたふりをしてみせながら、

解ってきてるじゃない。と、茶化したように笑う

友奈「えへへ、そうです……じゃないですっ。ごまかされないですっ」

天乃「あら残念」

友奈「むぅっ」

断固講義しますとでも言いたげに頬を膨らませる友奈を一瞥した天乃は、

困ったものだわ。と、残念そうに息をつく。

それだけで友奈が不安そうにするのを視界の端に捉えて、やっぱり友奈は友奈なのだと思う

天乃「友奈をからかったのは本当だけど、謝るのは嫌だわ」

だって。と続ける

天乃「友奈を可愛いと思ったことは事実だもの」

友奈「久遠先輩は……」

天乃「なあに?」

友奈「っ」

目を向けられて、目を逸らす

淫らな行為をしているわけではないのに

それ以上に感じる胸の高鳴り

それはきっと純粋に天乃に好意があって、その天乃から心が弾むことを言われたからだ

冗談と本心の入り混じる天乃の言葉

けれど不思議と、疑うような気持ちはどこにもなかった

友奈「……やっぱり、ずるいです」


√ 10月14日目 夕(病院) ※日曜日

01~10 
11~20 風
21~30 
31~40 夏凜
41~50 若葉
51~60 
61~70
71~80 千景
81~90
91~00 園子

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「……」カタカタカタ

【急募】彼女に可愛いと言われる方法【言われたい】

園子「……」カタカタカタ

【会いたい】彼女に会いに来てもらう方法【入院中】

風「あんたら何やってんの?」


では少しだけ


√ 10月14日目 夕(病院) ※日曜日


楽しかった時間も過ぎていき、夕方になった病室

まだ一人部屋の天乃は、

少し前まで聞こえていた友奈達の声に浸るように目を瞑る

明るい声、元気な声

喜んだり、ちょっぴり怒ったり

感情の注がれた愛おしい音色

味わったからこそ失ったときの寂しさが増してしまう

もちろん、聞こうと思えば聞くことができるのだ

尾を引くようなことでもないのだが。

天乃「……んー」

来月になればまた、みんながだんだんと集まっていく

そう考え、ふと思い出したように引き出しから一枚の紙を取り出す

第一希望から第三希望までの空欄のある学校への提出物

天乃「進路希望調査票……来月末だったわよね」

本来なら10月末に提出の予定を、

天乃の身体的問題等を考慮したうえで11月末で構わないと言われたものだ

しかし……

天乃「私、来月に登校できる保証ないのよね」

それならそれでまた担任の先生が来てくれるのだろうが、

本当の問題は全く考えられていないということだ

天乃「全部結婚で埋めたら怒られるかしら?」


1に結婚、2に永久就職、3に主婦

指で文字をなぞって書いていく

沙織はきっと「真面目だね」と、大真面目にふざけたことを言うだろうし、

風はきっと、手伝うから高校行かない? と誘ってくる

担任ももう少ししっかり考えるべきだというはずだ

体のことを考えて進学を辞退するのは勿体ないと。

だが、天乃には子供もいる。

それを踏まえて考えるのならば、

数少ないものではあるが、通信制の高校という手段もなくはない

やはり、天乃とは状況が変わってくるが、

四肢のどこかが不自由であったり、

皮膚などの病気等で外出を控えるべきだと判断されている子供、

それ以外にも多岐にわたって様々な理由が感がえられるが、

そういう子供が利用する高校だ

天乃「車椅子に、子供。悪くない判断ではあるのよね」

みんなも否定はしないだろうし、

進学し、学生を続けることを喜ぶ声は多いだろう

だからといって、そうするとはまだ決めきれない

体の調子が良くなったとはいえ、

いつ崩れてしまうのかが分からない現状、簡単には決められないのだ

天乃「難しいわよね……」

子供を産んでからどうなるのかが、問題だろう


本格的に相談するべきだと天乃は考えて、思わず苦笑する

夏凜にしたところで、

あんたの進路なんだから好きにしなさいよ。と、言われてしまう姿があまりにも容易に想像できてしまったからだ

そしてきっと、こういうのだろうと。

あんたはあんたがしたいことをしたら良い。私達はどうせ、好き好んでそれを追っかけるんだから

天乃「……したいこと、ね」

では沙織に聞いたらどうだろうか?

そう思い、出てくる答えは身を乗り出しての「結婚しよう」だったが、

そういいつつも真剣に考えてくれるのだと天乃は思う

夏凜が考えてくれないというわけではないけれど

夏凜とはまた別の寄り添い方で考えてくれるのだ

天乃「来月末だからまだ、考える時間はあるけど」

だからと言って後回しにし続けていい話題ではない

ほかにも考えるべきことがある以上

考える時間があるのならばさっさと考えてしまうべきだろう

進路希望調査に関して言えば

とりあえずの予定を書けば良いだけなのだから


天乃「正直、進路よりも悩むべき若葉たちのこともあるし……」

それを除けば、子供の名前を考えるべきというのもある

考えることはたくさんあるのだと一人、病室でため息を吐いた天乃は

進路希望調査票をすぐ横の棚へと置き、

ベッドのリモコンを使って起こしていた体を寝かせて、布団を少しだけ引き上げる

ベッドの力なしには体を起こすのも寝かせるのも多少の労力を必要とする今

人の手の借りられない状況を選ぶということに、

天乃は少しだけ、抵抗を感じていた

天乃「甘えすぎるのが毒だと分かってはいるんだけどね」

そう簡単に捨てられることでもないと、天乃は困ったように苦笑いを浮かべる


1、九尾を呼ぶ
2、若葉を呼ぶ
3、沙織を呼ぶ
4、夏凜に会いに行く
5、風達に会いに行く(園子同中)
6、千景を呼ぶ

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


沙織「久遠さん一人きりの部屋に呼ばれた!」

千景「そう」

沙織「二人きりになる状況に呼ばれた!」

千景「そう」

沙織「これはもうセッ――」

千景「さっさと行きなさい」


では少しだけ


沙織「ご指名いただきました、沙織です」

天乃「何のおふざけなの? それは」

他人行儀……というよりは、

何処か営業めいた会釈をして姿勢正しく近くの椅子に腰かけた沙織に、

天乃は怪訝そうな表情で問う

仮装をしているわけではない沙織がハロウィンをしているとも思えない

ならば、何なのか。

気遣っているのか。

その考えを遮るように、沙織が答える

沙織「久遠さんの病室に呼ばれたから、こうした方がいいと思って」

天乃「どうして?」

沙織「どうしてって……これは所謂あれだよね? デリヘルだよね?」

天乃「うん、意味は分からないけど絶対に違うとだけは断言できると思う」

体もきれいにして準備満タンなのにーと、

悲し気に呟く沙織を一瞥して、ため息をつく

変わらない沙織の平常運転

呆れるべきか喜ぶべきか、持て余した言葉を飲み込む


沙織「だったら、それのこと?」

そう言い、指さされた棚の上

名前しか記入されていな進路希望調査票へと目を向ける

風もそうだが、

沙織も同学年というだけでなく、同じクラスの一人

当然同じ教師から同じ紙を貰っているだろうし

一番の親友―言われたかは定かではないが―の立場として

担任から何かを託されている可能性も無きにしも非ずだったのだが。

ちらりと目を向けて見えた沙織は言伝を思い出すようなそぶりなどみじんも見せずに「そうだねぇ」と呟く

沙織「久遠さんの好きでいいんじゃないかなって思うよ。もちろん、進学にせよ就職にせよ、主婦にせよ。ね」

天乃「そうはいっても」

沙織「誰かに迷惑をかけちゃうかもしれない?」

まだ何も言いきってはいない

だが、沙織は天乃が何を言うのかわかり切っているかのように遮って

沙織「それならこうしよう。久遠さんはあたし達と結婚して主婦になる。そして家でのんびり子育てする」

天乃「……家事のほとんどできないわよ?」

沙織「でも久遠さん中華料理だけは問題なく作れなかったっけ?」

掃除はあれでも洗濯は出来る

念願のマイホームは東郷邸のようなバリアフリー重視の家にしたらいい

沙織は次から次へと、語っていく


沙織「あたし的には、久遠さんさえよければそれで行きたいと思ってる」

むしろ個人的にはその路線しか考えていなかった。と

沙織はお茶らけた笑みを浮かべながら言う

……嘘だ

天乃が真剣な悩みを抱えているとき

沙織は真面目な時もふざけている時もあるが

必ず、真剣に考えてくれているのだ

だから、嘘だと天乃は思う

結婚して主婦のような立場で生活するという天乃の生き方を考えたことがではなく、

それしか考えていなかった。という点だ

沙織はほかのことも考えている

だが、天乃が誰かの迷惑になるだろうからと考えているから

それ以外のことを言わないのだ

天乃「…………」


1、進路のことは後でも良いわ。それより若葉たちのことなんだけど
2、沙織のご両親は? 経歴に厳しいんじゃない?
3、学校に関しては通信制も視野に入れてるわ。その場合、沙織とは別になっちゃうけど
4、本当はどう考えてるの?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日はおそらくですがお休みを頂くことになるかと思います


沙織「あたしの本心? それはもちろん、久遠さんの嫁かな」

沙織「別に夫役に不満があるわけじゃないんだけど」

沙織「でもやっぱり女の子として好きな人の子供が産みたいなぁって言う欲望があるわけで」

沙織「そこで思ったんだけど、敏感なところを擦り合わせて気持ち良くなれば」

沙織「久遠さんの甘い蜜が掛かって受精できたりしないかな。愛があれば出来そうじゃないかな?」

天乃「沙織、貴女疲れてるのよ」


では少しだけ


天乃「本当は、どう考えているの?」

沙織は本当の考えを隠した。

だからそれは聞かないべきなのかもしれないが、

天乃は関せずに問う

沙織が本来の考えを話さなかったのは、

結局、天乃の為に話さない方がいいと考えたと思うからだ

沙織の視線が天乃へと向く

何も言わない無言の視線

天乃もまた、促すように黙ったまま目を向けると

沙織は「そうだなぁ」と諦めたように呟く

沙織「本当のことを言うと、久遠さんには進学してほしいって思うよ」

周りへの迷惑を考えて進学しない。

そう考えている天乃をよけいに考えさせるかもしれないと思ったのだろう

沙織は我儘だけどね。と前置きして

沙織「久遠さん、人とかかわるの好きだよね。というか、人が好きだよね」

天乃「それは」

沙織「でも、勇者としての責務とかで久遠さんって中学校生活のほとんどを満足に楽しめなかったでしょ?」

今月に行われた文化祭だってそうだ

結局、一番大切な日に体調を崩して参加できずに終わってしまった

沙織「だから、楽しんでもらいたいなぁって思うんだ」

天乃「……でも、私はこんな体だから」

沙織「だから周りの負担になる。そう考えると思ったから、そう考えてるだろうから、あまり言わない方がいいかなとも思ったんだけどね」

沙織はちょっぴり悲し気に言うと、

でも聞かれたからには本当に考えたことを全部言っちゃうからね

後から文句言われても何も聞かないし知らないからね。

聞いたのは久遠さんなんだからね。と

言葉のバリケードを瞬時に組み立てて天乃に押し迫っていく


沙織「こほんっ。久遠さんは誰かの負担になるのが嫌だって考えてるけど、そんな人はまず出てこないから大丈夫だよ」

天乃「どうして?」

沙織「あたしが久遠さんと同じ学校に行くからだよ。むしろその他の高校に興味はないね。ノー久遠さんノーライフ」

もちろん冗談じゃないよ? と天乃が何も言わずとも答えた沙織は、

だから誰の負担にもなることはないんだよ。と、飄々とした笑みを浮かべる

一見ふざけているようにも思えるが、表情は至って真面目なもので。

沙織「だって、やりたくないなら久遠さんに力を貸す必要はないんだもん。おい、クラス委員長。久遠の世話をやれ。なんていう指示なんてまずない」

天乃「…………」

沙織「そう。だから久遠さんに近づいてくるというか、その手を貸してくれるのは負担と思わない人達。あたし達のように好意ある人だけ」

もちろん、場合によってはあたしが引き剥がすこともあり得るけれど。と

こればかりは冗談だったのだろう、

苦笑をこぼした沙織はすぐにそれはともかくと切り上げた

沙織「もしあたし一人じゃ人数的に不安だって言うなら、話せば乃木さんたちも入学させてくれるんじゃないかな」

天乃「九尾が?」

沙織「大赦が。多少反感は買うかもしれないけど、今以上に買うこともないだろうし」

天乃「……自覚はしてるつもりだったのだけど」

精霊。

それも西暦の勇者を学校に入学させるという我侭を通してなお

これ以上反感を買うことがないという久遠天乃の評価に

天乃は思わず顔をしかめたが、大して、沙織はそれはそうだよ。と笑う

沙織「今を生きてる子で数えれば、巫女1人に勇者7人も1人で囲ってるんだよ? 将来を考えればふざけんなって言いたいんだと思う」


沙織「だから東郷さんが……あれも本気みたいだけど。東郷さんが女の子同士での子供云々言ってるの聞いてるよね?」

天乃「え、ええ。少しは」

沙織「それを大赦でもどうにかしようと研究してるって噂だよ」

天乃「……本気?」

沙織「三好さんが力を引き継いでいたっていう前例があるからね」

久遠家という神樹様さえ屠ることのできる力を敵に回すよりは、

敵に回さずに要望を叶えた上で、天乃の強力な力を多くの人が手にすることが出来た方が良い

当然ながらリスクはあるが、リターンもあるからだ

沙織「残念ながら、実現するまでこの世界が保たれてるって保障はないけど」

天乃「外、何か起きてるの?」

沙織「久遠さん覚えてるかな。外の灼熱地獄」

天乃「ええ。もちろんよ」

肌に感じたあの熱量、目に見えた真っ赤に燃え盛る世界

一瞬たりとも忘れきれたことのない光景を思い浮かべ、天乃は頷く

バーテックスから世界を開放するためには、

いずれ、何とかしなければいけなかった問題だ

沙織「ちょっと、気になるところがあるって話が大赦では出てるみたいなんだ」

天乃「皆には?」

沙織「お呼びはかかってないし、かからないと思う」

現在、

星屑の存在は確認されているがバーテックスの存在までは確認されておらず、

星屑ならば対応できる芽吹達防人の存在もあるために、夏凜達勇者を無理に連れ出す必要はないと考えられているのだ

そもそも、今のボロボロな状況ではまともに戦えるかどうかも怪しい

沙織「だから、これは内密に。ね?」


唇に人差し指を充てる仕草をして見せた沙織に対して、

天乃は内緒ならどうして。と、問う

内緒ならば無理に言う必要はなかったはずで、

言われることがなければ何かが起こる不安を抱く必要もなかった

そう疑問に思った天乃に、沙織は困った表情を見せる

沙織「きっと、久遠さんに情報が流れることはない」

それが意味することは解るよね? と、沙織は疑問の矛先を捻じ曲げる

天乃に情報が流れることはない

だが、勇者部に情報は流れる事だろう

そして、それはやはり【天乃に情報が流れることはない】のだ

天乃を不安にさせないために

天乃を巻き込まないように

皆は内々に事を済ませようとする

あるいは、そこに首を突っ込んでいくことだろう

そうなった際に、蚊帳の外の不安にさいなまれるのは天乃なのだ

沙織「だからあたしは久遠さんに一つ先の情報を渡しておこうと思っただけ」

天乃「…………」

沙織「最も、あたしも伝え聞いた話でしかないから最新の情報というわけでもないんだけど……少なくとも今はまだ動いてないから平気だよ」


しかしだからと言って安心出来るわけではない

いずれ何かが起きることは確実だろう

バーテックスは完全に消え去ったわけではない

外の世界が解放されたわけでもない

だから、必ず。

それは今年かもしれないし、来年かもしれない

天乃の子供が成長した数年後かもしれない

いずれにしても、いつかきっと。

増えてしまう悩みに天乃が深く息を吐くと

沙織は「進路の話に戻るけど」と言う

沙織「ああは言ったけど、久遠さんが考えてなお進学しない道を選んでも否定はしないからね」

天乃「……その場合は、、沙織はどうするの?」

沙織「その時はその時でまた考えるよ。進路希望はあくまで希望だからね。変えられるから」

そう言った沙織は、

だから久遠さんもとりあえずで良いんだよーと、

軽い声で笑って見せた


√ 10月14日目 夜(病院) ※日曜日

01~10 水都
11~20 若葉

21~30 
31~40 
41~50 友奈

51~60 
61~70
71~80 九尾
81~90
91~00  千景

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



園子「わ~っ、天さんに孕ませられちゃう~」

風「こらぁっ! そんな言葉どこから仕入れた!」

園子「……」チラッ

東郷「……」フイッ

夏凜「壁見てどうすんのよ」

東郷「ごめんなさい、夏凜ちゃんと見間違えたわ」

夏凜「よーし表でろッ!」


では少しだけ


√ 10月14日目 夜(病院) ※日曜日


水都「伊集院さんが言っていたようにバーテックスの気配は全く感じられないですね」

沙織が天乃へと話をしていたのを聞いていたのだと隠さずに告白した水都は

少し考えてから、言う

水都「ただ、少しですけど活性化してるんです。それが熱くなっている原因で……」

そこまでは伊集院さんから聞いてますよね。と

確認の意味で繰り返した水都は、どうやら未完成型は出てきているみたいなんです。と、続けた

天乃「未完成型って御霊がないタイプのよね?」

水都「私達の中では旧型バーテックスって印象ですけど、その通りです」

天乃「それ、沙織には伝わってないのね」

水都「伊集院さんは目立っちゃうので、どうしても気づかれちゃうみたいで」

水都は苦笑して、

その点、私は目立たないのでと自虐意味に言ってパーカーの帽子をかぶるような仕草をして見せる

水都「潜入には向いてるんです」

天乃「無茶するわね」

水都「……少し、気になることがあったので」


水都「久遠さんは羽衣伝説と言うのをご存知ですか?」

天乃「羽衣伝説……? まぁ、良く聞く程度の知識ならあるわ」

羽衣伝説。

水浴びをしていた天女に魅了されてしまった人間が、天に戻るために必要な羽衣を奪ってしまう

地上に残った天女は知らずにその人間と結婚して子を生すが、

暫くして羽衣を盗んだのがその夫であることを知り、子と夫を残して天に帰ってしまうという話だ

水都「実は、その物語に登場する羽衣を用いての任務が防人に与えられるそうなんです」

天乃「羽衣を作って言うことは、天に……まさか生贄とか言わないわよね?」

水都「巫女が……あ、もちろん私や伊集院さんではないんですけど」

そう前置きしてから「巫女が外に出るということ自体は生贄と同等です」と、言う

もちろん、防人が護衛として傍にいるし、

巫女を外に放置したり、炎の中に身投げさせるといった作戦がとられるわけではないと水都は続ける

水都「実はこの羽衣伝説に登場する天女は、私達がもととなっている稲荷神の一部でもあるんです」

天乃「……トヨウゲヒメ。だったかしら」

水都「流石ですね。その通りです」


良くある話しか知らないと答えながら、

自分が言おうとしていた名前を言い当てられたことに感心したように笑みを浮かべた水都は

知識の差で少し優越感に浸ろうとしていたのかもしれないと

照れ臭そうに咳ばらいをする

なぜ天の神がバーテックスを作り出していると言われる中、巫女の装束に羽衣という名がつけられたのか

それが気になるという話を聞いたので、私も気になって考えたんです。と、水都は神妙な表情を浮かべる

天の神が敵だとするのなら、

天に帰るための羽衣という装束は不吉な印象を受けてしまう

にもかかわらず付けられた理由

それは確かに自分でも気になるかなと、天乃も頷く

水都「トヨウゲヒメは神饌の神として、天の神……天照大神に安らぎを与えるために御傍に呼ばれたという話があります」

なので。と、水都は続けて

水都「自分達には害がないことを知らせるための作戦。つまり、天の神の目を欺こうとしている可能性が一つ」

天乃「一つ。と言うことはもう一つあるのね?」

水都は静かに頷く

水都「もう一つは人類が天女と人間の間に生まれた子のように神と共に在るものであり、正当に神々に認められるべきであるとの主張」

天乃「……天の神がそれを認めると?」

水都「思えない」


水都にしては珍しくきっぱりと言い切ったのに驚く天乃の傍ら、

殆ど無意識な断言だったのだろう。

水都は付け加えるように思います。と小声で呟く

神の考えなど理解できるはずがないし、

想像の範疇に収まっているとも思えない

だからこそ、考えは断定すべきではない

水都「あとは単純に、トヨウゲヒメの力の一部としてそれを模している可能性があります」

むしろ作戦的にはその可能性が一番高いかもしれないですよと水都は誤魔化した笑みを浮かべる

いや、本当は……

そこまで考えを持った水都は、やはり、首を振って改める

生真面目に話題へと入ったは良いものの、

どれもこれも推測の域を出てくれてはいない

天乃と話せばその答えも搾れるかもしれないと思ったが、

思えば大赦中枢どころか、

だんだんと蚊帳の外にされ始めているのだ

重要な情報が伝わっていることはまずなかったのである

天乃「なるほどね……それで、貴女は私に気になる点を突いてほしいのね」

水都「え?」

天乃「違うの? 藤森さんの話し方的に、久遠さんはどう思いますか? って、続くとばかり」

水都「……それは」


1、詳しくは聞かない
2、作戦について聞く
3、大赦は何というか、もう少しろくでもないことを考えていそうだけどね
4、天の神をだましたりしたら今度こそ人類は滅ぼされるでしょうね
5、正直、私としては余計なことはしてほしくないわね


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



沙織「天女が人類とか何言ってるのかわからないよ」

東郷「同感です」

沙織「でも、男の人が羽衣盗む気持ちには、ちょっとなってみたいよね」

東郷「久遠先輩、ちょっと露しゅ……水浴びに行きませんか?」

天乃「うん、貴女達は頭を冷やした方がいいわ」


では少しだけ


天乃「それで、藤森さんその作戦っていうのはどういったものなの?」

水都「作戦自体は、近畿地方に向かうといったものです」

天乃「近畿地方……? あれよね? たしか、西暦時代の地方名」

授業で学んだ程度の知識しかない天乃は、

どうしてそんなところに行くのかと不思議そうに首をかしげる

西暦時代が終わってから300年

バーテックスの脅威を悟らせないために湾曲されたり省略されてきた外の世界の情報には

危険を冒してまで近畿地方へと理由がないのだ

水都「そうです。そこに陣地を築くために、羽衣をまとった巫女が道筋を作るんです」

手元にはないんですがといった水都は、

代わりの植物の為―歌野持参―を掌で転がし、力を宿した同様の種を植えていくのだと言う

巫女が道筋を作り、近畿地方にて陣地を築く。それが作戦なのだと水都は改めて要約する

天乃「近畿地方に、種を植えて……羽衣……?」

水都「流石にこれだけじゃ、何もわからないですよね」

天乃「情報がまばらと言うか、私が近畿地方について知らなすぎるだけだとは思うのだけど……」

考え込むように息を吐いた天乃は、もどかしそうに眉を顰める

決してつながりのない話ではないはずなのだ

必ず、理由があってそうなっている

それだけは確定しているからこそ、天乃はもどかしく思う

情報さえ出そろえば、何か答えを見出せそうなものなのだが


水都「伊集院さんも流石に近畿地方についての詳しい知識はなかったみたいで」

もちろん、一般人に比べて多くの情報を所持してはいるが

それでもある程度の隠ぺいは行われているのだろう

神世紀を生きる天乃達ではこの問題の答えにたどり着くことは難しいかもしれない

天乃「となると、あとは若葉達西暦のみんなに話を聞いてみるしかなさそうね」

水都「そうですね……ただ、うたのんはちょっと力になれないかもです」

そう言った知識に乏しいので。と、水都は冗談めかしたように笑う

勉強が完全にできないというわけではないのだが、

そういった神話に通じるマニアックな話となると難しい

だが、それを言ったら西暦世代も殆どが力になれないだろう

勉強が出来るから神話を知っているというわけではない

その特定の分野に興味を持って突き詰めてこそ得られる知識だからだ

天乃「近畿地方ねぇ……有名どころで何か知ってることはある?」

水都「そうですね……」

うーんとうなって長考した水都はおもむろにそういえば。と手を叩く

水都「天橋立という観光名所があったはずです。確か、有名なパワースポット」

天乃「パワースポットって言うことは何らかの力があるかそういった繋がりを持たせられる場所って事なんだろうけど……」

水都「西暦時代は結構無理やりな繋がりというか、爪先引っかかればコラボOKみたいな風潮もあったので微妙なところですけど」

そう苦笑いを浮かべながら頬を掻くと、

田舎者にはそんなに関係ない話なんですけどね。と自嘲する

水都「でも、天橋立はちゃんとした名所だった記憶があります」


長野にいた水都にとって、

東京といった都会や、そういった離れにある場所というのは興味があったのだ

弱い自分を変えたいと思っていた水都はなおさら、

そういったパワースポットという不思議な場所には惹かれたのである

水都「もう少し詳しく調べておけばよかったですね……」

天乃「まさかこんな知識が必要になるだなんて思わないもの、仕方がないわ」

水都「それはそうですけど、うたのんみたいに突き詰める根気があれば……」

天乃「歌野は歌野。藤森さんは藤森さんよ」

水都「そうですね」

あこがれる相手の全てを完璧に模倣することは出来ない

それを認めるように頷いた水都は天乃をじっと見つめる

その典型的なパターンが天乃だからだ

もちろん、天乃が超人的といってしまえばそれまでだが、

天乃の言動や人に対する接し方は模倣するだけでは上手くいかない

彼女の人柄でこそ、成立するものなのだ

天乃「……? どうかした?」

じっと見つめていると、不思議そうに小首を傾げて聞いてくる

心の優しさと、それゆえの辛苦を感じる大きな瞳

数々の想いを紡ぎ、紡がれた程よくふっくらとした唇

身体の不満足さを露にし、今は見つめられることに恥らってか赤くなっている白い肌

天乃「藤森さん?」

水都「あっ……い、いえ」

唇が動き、名前を呼ばれ

思いのほかまじまじと観察してしまっていたことに気付いた水都は慌てて目を逸らす


天乃「何かあった?」

水都「いえ、なんでもないです」

天乃「でも」

水都「ほんと、大したことじゃないので」

本当に大したことではないし、

今話していたことにも関係がない

だから、水都は手を振りつつ否定する

少し気になってしまったことがあるだけで

今までと何の変りもないことだったから

水都「それより、久遠さんも早く休んだ方がいいと思いますよ」

天乃「何か誤魔化したわね」

水都「言わないと寝ないとか言われても困りますよ」

ぐっと天乃の体を押してベッドへと寝かせて、冗談めかして呟く

大したことではないからと。

もう一度繰り返して、気にしないようにと忠告するように言い残して

水都は姿を消した


√ 11月01日目 朝(病院) ※月曜日

01~10 
11~20 夏凜
21~30 
31~40 樹
41~50 千景
51~60 
61~70 東郷
71~80 友奈
81~90
91~00 風

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
10月14日目まとめは明日


……11月の始まり。

では少しだけ


√ 11月01日目 朝(病院) ※月曜日


振り返れば辛苦に満ち満ちていた10月

乗り越え月の変わった11月が始まって、勇者部の面々にも少しずつ変化が起きていた

満開の後遺症によって失っていた味覚を取り戻しつつある友奈は穢れの影響も薄まっており、

風に関してはまだ完全に握力が戻ってきていたわけではないが、今月中の回復も可能であると判断され

友奈と樹、沙織と共に登校を再開する

東郷に関しては両足の機能および右腕の機能も回復に近づいてきており、リハビリを開始

松葉杖を用いてのリハビリを兼ねた登校を申請したが、

右腕に不安があること、両足の機能もまだ不安があるということで却下され、

病院でのリハビリを継続

夏凜に関しては発症直後に比べてかなり落ち着きを取り戻しているが、

時折、少しだけ体調を崩すような天乃と比較的近い状態であるため入院は継続

病室は勇者部共同の部屋へと戻っている

園子についても動くことのなかった心臓が動き、

皮膚上の問題や身体的機能も回復に向かい、

簡単な手作業程度なら少しずつ行えるようになってきており、

座りながら足を動かすリハビリなども行うなど順調ではあるが、やはり、入院は継続している

そして、天乃だが。

看護師に言われたように穢れによる影響も収まり、つわりによる体調の変化も落ち着いたことで安定期に入ったと判断され、

みんなの病室へと戻ってきていた

一ヶ月近く経ってようやく、また、普通に会話が出来る所まで戻ってこれたのだ

天乃「長かったわね」

風「長いどころの話じゃなかったわよ、ホント」

ちょくちょく体調を崩していた期間も含めれば、天乃の体調不良の期間は長い

その間の精神的な疲労感を吐き出すように風は溜息をつく

妊婦として体調を崩すことはなくなったという安心感

元勇者として、久遠家の人間としての不安

間に挟まれるような感覚を風は感じてm、苦笑いを浮かべる

少なくとも、今は安堵してもいいのだと。

風「あとは天乃が元気な双子を産めば終わりでしょ?」

天乃「そのあとまた子育て期間があるけどね」

有名な話、夜泣きというものがあるのだと話すと

元気な証拠だし別にいいっての。と風は笑いながら一蹴する


赤ちゃんの夜泣きがストレスになってしまうという話は耳にするが、

そんなことよりも神経を使わなければいけないことが多々あったのだ

風としても、勇者部としても、沢山。

だからこそ、夜中や早朝に赤ちゃんが大泣きしようが、

それはむしろ元気であり、何の変哲もない日常の一風景なのだ

喜びこそすれ、煩わしく思うことなどありえない

風「とにかく、元気な子供を産むために暫く登校できないからって、ハメを外さないようにすること」

特にそこで寝てる人。と、ベッドで横になっている夏凜を指した風は、

あとそっち。と、園子の方に目を向ける

園子「そのっちで~す」

風「そのっちじゃなくてそっち。溜まってるからって天乃の事襲わないように」

園子「……ちなみに襲うの範囲はどの辺りからでしょうか、わっしー先生」

東郷「合意じゃないと発覚したらダメよそのっち」

園子「つまりバレなきゃセーフだね」

風「アウトにきまってるでしょーが!」

不安だと愚痴る風は無造作に天を仰いで溜息をつくと天乃へと振り返る

どうすべきかと迷っている表情、不安な表情

だが決して切羽詰っているわけではないという日常的な不安を抱いている姿に、

天乃は苦笑して

天乃「大丈夫よ。園子だって優しい子だもの」

風「それは解ってるけど」

零しつつ、風の瞳はちらりと東郷を一瞥する

風「不安しかない」

夏凜は抑制が効くだろうという安心感―襲いかけたことを知らないため―があるが

東郷とずっとじらされ続けていた園子に関してはやや不安が残る

園子の身体機能は回復途中であり、まだまだ非力

しかし、東郷は違う。

風「やっぱ、あたし残ろうか?」

天乃「大丈夫だから学校行って。みんなだって心配してるんだから」


天乃「風は三年生組の中では友奈的な立ち位置なんだから」

風「友奈の?」

天乃「馬鹿は風邪引かない的な」

風「はぁ……風だけに?」

天乃「……あ、うん」

風「やめて! そんな目で見ないで!」

どこか呆れたような表情で、

仕方がなくそのノリに乗ってやろうという仕草で言う風に冷ややかな視線を浴びせた天乃は、

そんな冗談のつもりはなかったのだが、

思いのほか和んでくれた空気を含んで照れ隠しに顔を覆う風へと微笑む

天乃「私達の代わりに宜しくね?」

風「はいはい。解った。その代わり天乃は安静にしておくこと。東郷と園子もよ。特に東郷」

東郷「少しは信頼してください、風先輩」

風「むしろ信頼してるから言うのよ」

東郷「酷い話です……」


1、風は進路希望調査票書いたの?
2、風、悪いけれどみんなによろしくね
3、勇者部の活動はどうするの?
4、東郷なら大丈夫よ、きっと
5、気を付けてね

↓2

ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
もしかしたらお休みいただく可能性があります


友奈「でも、東郷さんがえっちなことしようとするって言うことは久遠先輩が健康ってことだから。そういうところは信頼できるよ」

東郷「友奈ちゃん!」

樹「えっちな人って部分の否定はしないんですね……」

東郷「人が必ず持つ欲求の一つで秀でていることを恥じてしまったら、それはもう人間であることを否定したことになってしまうわ」

風「樹に変な事覚えさせるなーっ!」


では少しだけ


天乃「それで風、勇者部の活動のほうはどうするの?」

風「あー……」

考えてはいた。

だが、勇者部の事を考え、

依頼に来るみんなの事を考え、

中々答えを出すことは出来ていなかったのだ

風「それ悩んでたのよねぇ」

みんながどうにも出来ない状況ならば迷いもなく拒否できるが、

樹や友奈は活動自体の支障はない

勇者部が健在であるというアピールによる周囲への安心感を考えれば

活動すべきではないか。という考えも生まれてしまう

しかし……

風「友奈と樹は身体的には問題が無いといってもいいでしょ?」

天乃「そうね」

風「だから多少は部活も再開して良いのかなぁとは思うんだけど」

天乃「何か問題があるの?」

風「何があるか分からないでしょ? 友奈の体もそうだけど、樹海の方で」


天乃「もしも樹海化したらっていうところが心配なのね……」

風「そういうこと」

天乃「でも、今は勇者に変身する機能のない端末じゃないの?」

風「天乃が端末要らない変身できるから、あたし達も必ずしも必要ない可能性もあるし」

天乃が特例なだけ。と言う可能性が非常に高いけれど、

万に一つと言うものもある上に

友奈に至っては天乃から穢れを請け負った体なのだ

樹海化した場合、引きずり込まれてしまう可能性は十分ある

そうなった時に、

皆との距離が離れてしまっていることが不安なのだ

今のこの集まりもまたばらけない為。というものがあるのも理由の一つ

風「考えすぎかもしれないけど、やっぱりね」

天乃「…………」

風は困ったように笑みを浮かべて

解るでしょ? と言いたげな笑みを浮かべる

風もまた、全部終わったとは思えていないのだ


風「友奈達はどう思う?」

友奈「やりたいです。みんなあまり会えなくて心配してると思いますから」

樹「出来ることは限られるけど、勇者部としてしっかりやりたい」

友奈と樹

今勇者部として活動できる二人はそろって臨む

運動部系、文化部系、商店街などの一般からくる依頼

その一つ一つを少しずつ行っていくことで

勇者部の健在をアピールしたいと樹は言う

自分と似たような考えを持つ樹へと

風は嬉しいような、困ったような

少し複雑な笑みを浮かべて

東郷「こちら側に来てる依頼の内容は私が確認と管理できますし、無理させる心配はないですよ」

風「んー……」

樹「大丈夫だよ、お姉ちゃん」

風「樹」

樹「もしも樹海化したとしても私と友奈さんの二人なら、そうじゃなくて一人だったとしても、みんなのところに行くまでの力はちゃんとあるよ」

誰かの力に頼り切らなくても

自分には出来ることがあるのだという樹の表情に

風は認めるように頷いた


√ 11月01日目 昼(病院) ※月曜日

01~10 
11~20 夏凜
21~30 
31~40 東郷
41~50 
51~60 千景
61~70 
71~80 園子
81~90
91~00 若葉

↓1のコンマ 


遅くなってしまいましたが、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


樹「料理だって、お姉ちゃんが教えてくれたから一人でできるようになってきた」

風「樹……」

樹「えっちだって東郷先輩のおかげで上達した」

風「樹……?」

樹「だから久遠先輩をあえg――」

夏凜「やめろ! 風の精神はもう死んでる!」


では少しだけ


√ 11月01日目 昼(病院) ※月曜日


友奈や風達が学校に行き、

東郷と夏凜がリハビリのために病室を出て行ってしまった病室

残ったのは天乃と園子の二人

その静かな空間に割って入ったのは、千景だった

千景「久遠さん、少し良いかしら」

天乃「? どうかしたの?」

千景「この前の大赦の件で話があるのよ」

天乃「聞いてたの……?」

先月の話だ

樹海に起きている異変

大赦がとろうとしている作戦

沙織や水都から聞いた話の続き

千景「藤森さんから話を聞いただけよ。一応、藤森さんには話したけれど、私から伝えた方が分かりやすいだろうからって」

任されてしまったのよ。と

どこか困ったように言う千景の一方、

天乃は千景の陰に隠れるようになってしまっている園子へと目を向ける

天乃「園子はいても平気なの?」

千景「彼女知っている人間は多い方がいいと思うわ。強力な力を持っているのなら、なおさら」


千景「それに、久遠さん一人に教えておくと後々問題がおこりそうだわ」

天乃「そんなことはないけど……」

千景「その冗談は面白くないわ」

天乃だけをのけ者にするという情報のやり取りにも千景は異を唱えるつもりだが

だからと言って、天乃だけに重要な情報が伝わっていくというのも

それはそれで否定したいと千景は思う

少なくとも、今までの天乃の生き方的に

それは確実に間違った流れのはずだからだ

千景「それに、藤森さんたちは同意してくれているのよ」

天乃「私の事を信用してないのね」

千景「信じてるからこそ、嫌なのよ」

天乃が無茶するという信頼と言う皮肉ではなく

天乃ならばなんとかできてしまうという信頼

それがあるからこそ、集中させてしまうことを恐れる

今の勇者部にとって、

天乃が【妊婦】であり、病室で横になっていることは日常の象徴

それが壊れる可能性は一つでも多く排除したいのだ

千景「だから、園子にも聞いて貰うわ」


天乃「…………」

千景「……なに?」

じっと見つめる視線に怪訝な目を向けた千景は問う

不思議そうで、どこか残念そうな天乃の表情が気になって

もしかしたら、園子を巻き込むという話に異論があるのかもしれないとさえ思って

けれど、天乃の吐息交じりの答えに千景はその考えを瞬時に捨てた

天乃「園子は園子なのね。乃木さんは?」

千景「乃木さんはもう一人いるわ。二人を混同するのは面倒よ」

樹と風に対するのと同じだ

沙織だって、二人で使い分けているのだ、千景がしていてもおかしいところなど一つもない

しかし、天乃は「それなら」と言う

天乃「陽乃さんと私がいるでしょ? 久遠さんで混ざらない?」

千景「彼女はここにいないわ」

首を振り、悲し気に零す。

若葉や球子と語ることができたように、

陽乃も居れば過去の過ちに向かい合うことができたかもしれないと考えていたからだ

それが望みすぎていることだと分かっていても、

後悔する記憶のある千景は少しだけ悔やんで、息を吐く

千景「だから久遠さんは久遠さん。そう呼ぶだけだわ」

天乃「そう……」


1、いつか名前で呼んでくれると嬉しいわ
2、名前で呼んでくれてもいいのに
3、じゃぁ、私はちーちゃんと呼ぶわね
4、話がそれてごめんね。続けましょうか
5、恋愛ゲームならこういうときって、じゃぁ呼んでやろうか? とか選択肢出てくるものじゃないの?
6、……ねぇ、できれば園子は巻き込みたくないわ


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



千景(自分はそういう疑問があるのに)

千景(藤森さんがその疑問を抱いているってなぜ思わないのかしら)

千景(久遠さん、身近な人で唯一彼女だけ苗字呼びだって気づいてないの……?)

千景(もしかして……性的な対象だけ名前呼び……?)チラッ

天乃「?」

千景(……ないわね。そんな考え持てそうな人じゃないわ。モテるけれど)


では少しだけ


天乃「話を逸らしちゃってごめんね? 続けましょうか」

千景「園子に話す件については了承と取っていいのね?」

天乃「今更よ」

すでに興味深々な視線は千景に注がれているし、

ぜひとも。と言いたげな雰囲気をびしびしと感じる天乃は諦めて頷く

それに千景が言うことにも一理ないとは言えない

一人で無理をしないという約束は出来るが

その約束を破らないという約束は出来ないからだ

園子「天さんは人を巻き込むことを覚えたのです」

天乃「外に投げ出しても良いのよ?」

園子「ふっふっふ……動けるようになった完成型そのっちに勝てるかな~?」

手をワキワキと動かして襲うようなそぶりをして見せた園子は、

千景の不機嫌そうな視線に委縮したのだろう

苦笑いを浮かべながら「ごめんなさ~い」と身を縮める

千景「別に怒ったわけじゃ……ただ、貴女が乃木さんの子孫とはとても思えなかっただけよ。気にしないで」

園子「気になるよ~」

千景「あとでにして。話が進まないわ」

ぴしゃりと言い切った千景

余計な言葉を慎み頷く園子

黙って見つめる天乃

ふざけてるときは賑やかな二人の厳粛な雰囲気に挟まれた千景は

初めからそうしてくれればと息を呑む

もちろん、あの空気も嫌いではないのけれど。

千景「まず園子にはどこまで話が進んでいるのかだけ、伝えておくわ」


園子「ふむふむ~なるほどなるほど~」

千景「ここまでが、今久遠さんに伝わっている状況」

千景は沙織や水都から天乃へと伝わった外や大赦の情報を分かりやすく掻い摘んで説明した。

園子は特に質問なく首肯を重ねて説明を聞き終えて

園子「ちかっちはその近畿地方の天橋立ってところを目指す理由が分かるんだよね?」

千景「ちかっ……ちかっちは止めて」

不意に聞き馴染みのない呼ばれ方をされた千景は驚きに頬を赤くしたが

照れ隠しに悶えることなく冷ややかな目を園子へと向ける

園子「え~かわいいのに~」

千景「可愛くないわ」

園子「じゃぁ、シンプルにちーちゃん?」

無邪気に。

若葉の子孫とは思えないような軽快さで接してくる園子の姿勢

耐えかねた千景は震える手に戦うための大鎌を出現させ、振りかぶる

その一太刀は普通の人間には効果の薄い代物で、

血が出るような大けがを負うどころかかすり傷もつかないが

園子ほど体の供物をささげてしまった場合にはかなりの致命傷にもなり得る

千景「……神殺しの一振りを――」

園子「わーっ! 千景さん、郡様~っ!」

ぱんぱんっと手を合わせて祈るように頭を下げる園子を見てなお、

千景は鎌を振り下ろすようにして――鎌を消す

園子「っ……うぅ……怖かったよ~」

天乃「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。可愛いわよ? ちかっち」

千景「そういう呼ばれ方は好きじゃないの……似合わないから」


千景のあだ名は西暦時代にもあった。

憎たらしい、忌まわしい

思い出したくもないような時期につけられた虐めるためのあだ名

そして、唯一心を許せると思った彼女が勘違いゆえに呼ぶあだ名

その彼女のことを想起して、彼女の声が紡いだ自分の名を心に震わせて

園子の申し訳なさそうな声に、我に返った

園子「あ~……ごめんね。えっと……郡、さん。話を戻ろう?」

千景「……ええ」

言いにくそうに、残念そうに。

それが分かりやすい園子の表情を横目に捉えた千景は、

園子のその気遣いを受け取って一息つく

今は昔のことを思い出している時ではない

千景「この天橋立というのは天に続く橋とされていたのよ。イザナギやイザナミが降り立つために用いられたともいわれていたわ」

そしてなぜ、大赦は近畿地方へと向かわせる巫女に羽衣を纏わせたのかについても

千景はおそらくだけれど。と、続ける

千景「一説では、羽衣は天への道を開くためのものとされているのよ」

天にある国で作られたその羽衣を身に纏うことで、

自らは天の国の存在であるということの証しとして天への道、天橋立が立て掛けられるという説

ゆえに、天への帰還という不吉にさえ思える羽衣を纏わなければいけない

それがなければ、近畿地方にたどり着いたとしても、道が開かれることはないのだ

千景「大赦はそこを通過点として、天の神への攻撃へと転じようとしている可能性が高いわ」


天乃「園子。貴女はどう思う?」

園子「……想像の域を出ない。でも、このままだとじり貧なのは確かだから……」

天乃「攻めに転じようとしているってところは合ってる?」

園子の首肯に天乃も同意見だと頷いて目を瞑る

聞いた話を整理してみれば、殆どが想像での語りだ

しかし、現状得られている情報

確実だと分かっている状況

それらを加味して考えれば、向かう近畿にて天橋立を通り天へと攻め入る可能性は非常に高い

このまま待っていても神樹様の力が尽きて人々は敗北するのならば

勝利を掴みに行くしかないのだから

園子「また、わっしーやゆーゆ達が戦うことになるかもしれない」

千景「防人では手に余ると思うわ……その場合、勇者が出されることは確実でしょうね」

天乃「……私もね」

千景「…………」

園子「そうだね……むしろ、天さんを放り込もうとする可能性が一番高いかも」

妊娠していることで力を使うことが出来なくなってしまっている天乃だが、

子供が産まれれば多少なりと髪を殺すことのできる力が使えるようになるだろう。

その力は人類に問って最高峰の力

本来ならば温存するべきそれも、時間がないとなっては即日投入での即時終戦を望まれるのが道理

もしそれで、天を討ちきれなくとも、疲弊した天の神に勇者をぶつければ勝率は非常に高い

なら逆でも良いのではと思うが

万全である神と勇者では弱らせるまで行けない可能性

天乃が終戦まで持っていけない可能性

ゆえに半ばで折れてしまう可能性があるために、難しい


そして何より……と

千景と園子が二人そろって命の宿る場所へと目を向けて、天乃の手が優しく撫でる

天乃「力の継承者は産まれてくる。残りかすは使い捨てても構わない」

園子「天さん……」

天乃「もちろん、そんなのは極端な言い方だって分ってるわ。大赦だって根っからの悪いところではないし……」

でも散々たてついたから、厄介払いが出来る上に人類解放が出来るのなら

それほど喜ばしいこともないでしょうねと、天乃はわざとらしく笑う

千景「……もちろん、そんなことは私達がさせないわ」

園子「そうだね……天さんの子供が出来たから天さんを犠牲にするなんてそんなのあんまりだよ」

天乃「解ってるわ、冗談よ」

二人の優しいフォローに天乃は笑みを浮かべて、

ありがとうね。と、言う

だが、自分がそこで無理をしなければいけない可能性は捨てきれない

むしろ、何もなくこのまま進んでしまったらきっと、そうなることは免れないと天乃は思う

神をも穢す力。それをここで用いないなど、ありえないからだ

千景「ただ、今防人が行っている作戦がうまくいけばの話だから、そうならない可能性もあるわ」

園子「樹海が今活性化してるって話だよね……少し力を借りてると言っても防人には荷が重い可能性もある……か」

活性化した樹海化

そこで生まれる星屑やバーテックスモドキによって

防人が負傷、あるいは……

そう言ったことの重なりによって作戦そのものがとん挫することもあり得るだろう

天乃「いずれにしても、覚悟はしておいた方がいいんでしょうね」

園子「……私も、リハビリ頑張らなきゃ。だね」

千景「経過から察するに今月半ばには確実に普通に動けるはずよ。無理はしない方がいいわ」


園子「お医者様はまだまだかかるかもしれない~って言ってたよ~?」

千景「医学的にはそうでしょうね。でも、神樹……様の力を借りている貴女達には適応されない」

園子「じゃぁ、頑張りしだいでは?」

千景「場合にもよるけれど、登校できる可能性もあるわ」

最初のうちは松葉杖を使う必要があるかもしれないが、

時期にそれも必要なくなるだろうと千景は言う

これも憶測ではあるが、神樹様の力を感じ取ることのできる九尾達での考えだ

確実とは言い切れなくとも信ぴょう性は高い

園子「わーい頑張ろ~」

天乃「そんなに学校行きたいなんて、園子は勤勉ね」

園子「……学校よりも行きたい場所があるんよ~」

天乃「そうね……銀のお墓参りとか」

園子「そうだね~、今月だもんね~」

切なげに言う天乃に頷いた園子は、

今は亡き銀の姿を思い出して笑みを浮かべると、言葉を飲む

園子「……でもそうじゃなかったんだけどなぁ」

天乃「ほかに行きたい場所があるの? イネス?」

園子「糠にくぎを打ち込むとはこのことだよ~」


残念そうに俯いてぼやく園子を困ったように見つめた天乃は、

ご両親にも会いたいわよね。と、大真面目な言葉を返して

園子「それもあるよ、あるけど、天さん……」

天乃「あ……ごめんね、私もご挨拶に行かなきゃ」

園子「娘さんをくださいっていうやつだね、結婚には必要だからね」

確かにそれも必要だよね。

一緒にあいさつに言ってどうしても結婚がしたいんですって思いを語って

思いをはせる乙女のように頬を赤らめながら語った園子は

緩んだ頬を引き締めるように首を振って、でもね。でもでもだよ~? と呟く

園子「それ以外にもあるんよ~」

天乃「それよりも大事なところ……?」

銀のお墓参り、実家、学校

それらと同じくらいに行きたいところがあるという園子をじっと見つめた天乃は

考えて、考えて

天乃「そっか……忘れてたわ……」

園子「うんうん!」

天乃「美味しいおうどんが食べたいわよね」

園子「襲っちまうぞこのやろ~っ!」

天乃「えぇっ!?」

千景「今のは久遠さんが悪いわね。ずっと相手にしてあげられなかったでしょう」

周りから話を聞くだけ、聞かされるだけ

自分で慰めることもできない苦痛の日々

それを生きてきたのだ、めったに聞くことのない声を上げるのも仕方がない

園子「目の前のベッドに行きたいんよ。限りなく近く限りなく遠いその場所に行きたいんよ~」

天乃「園子……」

園子「そして溜まりに溜まった性欲のすべてを一夜にしてぶちまけるんだぜ」

天乃「そこまでとは……ごめんなさい、思ってなかったわ」

園子「あはは……本気にされても困るんよ~」

でも、少しは私もいちゃいちゃしたいな~って。

そう気恥ずかしそうに言った園子は、照れ隠しの笑みを浮かべていた


√ 11月01日目 夕(病院) ※月曜日

01~10 
11~20 夏凜

21~30 
31~40 
41~50 東郷

51~60 
61~70 
71~80 園子

81~90
91~00 若葉

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



園子「お話と書いて」

東郷「猥談」

園子「お遊びは」

東郷「性行為」

園子「真面目な時は」

東郷「子作り」


夏凜「頭散華してんじゃないの?」

千景「残念ね、正常よ」


では少しだけ


√ 11月01日目 夕(病院) ※月曜日


園子「天さん」

天乃「なに?」

園子「ん~……天さん」

天乃「どうかしたの?」

園子「えへへ」

何かをしたわけでもなく、

ただ名前を呼部だけで満足気な笑みを浮かべる園子は

緩む頬をムニムニと自分で押さえて

園子「動けないのはもどかしいけど、声をかけることが出来て、答えて貰えるっていいよね」

天乃「……そうね。その気持ちは私も解るわ」

園子「天さんも一人になっちゃうことが多かったもんね」

天乃がそうだったことで、

園子もまた呼ぶことも答えて貰うこともできなかったのだ

もっとも、

そもそも眠っていることの多かった園子は呼ぶこと自体が出来なかったのだが。

天乃「でも、これからはちゃんと答えてあげられるし、話すこともできるわね」


園子「でも、天さんは学校……あと2か月くらいしか通えないんだよね?」

天乃「場合によってはむしろ短くなるまであるわね」

早くて12月の出産、

遅ければ1月に入ってからの出産となっており、

出産してすぐの登校と言うのは体の関係上出来ないため、

早くて1月中旬、遅ければ2月に入ってからの登校となる

となれば、卒業する3月まではほんの1か月程度しか時間はないのだ

園子「残念だなぁ……天さんと一緒の学校生活を過ごすの、楽しみにしてたのに」

天乃「そうだったの」

園子「うん。おんなじ部活に入ったり、先輩だから勉強教えて貰ったりとか……」

わっしーは絶対にありえないって言ってたけど。と、

ベッドで眠る東郷へと目を向けて、園子は苦笑いを浮かべる

園子「生徒会、とか、やっちゃったりして」

天乃「…………」

園子「文化祭とか、体育祭とか、いろんなこと。一緒にしたかったんよ~」

やりたいことが沢山あったのだ

してみたいことが沢山あったのだ

そのすべてが、

もう、通り過ぎてしまったのだと今更ながら実感する


園子「天さん、浪人生になったりする?」

天乃「留年ではないのね」

園子「そうだったら嬉しいけど、天さんの休みは免除されるし学力は問題ないから」

天乃「それで浪人なのね」

産んだ子供と健康のことを考え、

高校に入るのは1年遅らせるという流れ。

1年もたてば子供のお世話に関して少しは安心できる部分も出てくるだろう

園子「でもそうしたら先輩ではなくなちゃうね」

天乃「そうねぇ、園子も敬語をやめなくちゃいけなくなるわね」

園子「天さんじゃなくて、くーちゃんとか、あまのんとか?」

天乃「ふふっ、そうね」

園子「それはそれで嬉しいかもしれない……」

悩むなぁ。と呟く園子は、

その状況を想像しているのか嬉しそうに笑みを浮かべながら、

一人、楽し気な雰囲気を醸し出す

園子「えへへ、そうしたら授業中も一緒にいられるんよ~」

天乃「一緒なら、授業も寝ないでいられるかしら?」

園子「努力しまーす」


1、でも残念、私は浪人する気はないわ
2、園子は、私が高校には通わないって決めてたらどうする?
3、私もね、みんなでの学校生活は楽しみにしてたのよ
4、園子は、今ある問題が解決してもみんなが無事だって自信があるのね


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


園子「ほかにもいろいろしたいことがあったんよ」

東郷「夕暮れの教室、風邪に揺れるカーテンを纏った接吻」

東郷「体育倉庫での秘め事」

東郷「人気者の久遠先輩へとどうお菓子を渡すか胸を高鳴らせる2月14日……!」

夏凜「一つだけ普通で逆になんかこわいんだけど」

風「なんか入ってそうよね」


では少しだけ


天乃「そこはしっかりしますって言ってくれないと不安だわ」

とはいっても、

授業態度的な意味で不安があるだけで、

園子自身の学力に不安はなかった

ぼんやりしてはいるが、

園子は十分できる子だと天乃は良く知っているからだ

天乃「……でも、貴女は今ある問題が解決してもみんなが無事だって自信があるのね」

園子「それ以外なんて、嫌だからねぇ」

そうなる確証なんてどこにもない

天乃が言うように自信があるわけでもない

ただ、そうなってほしいという願いがあるだけだ

それ以外は嫌だという思いがあるだけだ

しかし、状況は刻一刻と悪い方向へと進んでいく一方で

園子「ミノさんを失っちゃったけど、だからこそ、残ったみんなはちゃんと無事でいたいって思うんよ」

天乃「…………」

園子「さっき、天さん言ったよね。お墓参りにもいかないと~って」

天乃「ええ」

園子「そこでね、ミノさんが守ってくれたからって、報告したいんだ」

ミノさんのおかげで。

あの時、身を挺して守ってくれたから

みんなは今も無事なんだと

尊い日常を生きていけるんだと、報告したいと園子は思う


天乃「そうね……銀に良い報告できないのは嫌だわ」

園子「だから、誰かを犠牲にしないといけないなんて考えたくない」

笑みを浮かべ、そう言った園子はゆっくりと口を閉ざして首を振る

そのために自分が思っていること

それを口にしてしまうべきかと悩んだからだ

そして、園子は意を決して口を開く

園子「だから、防人さん達には酷いって解ってても、成功してほしくないな~って思うんよ」

天乃「園子……」

園子「だって、そうなったら郡さんが言ってた流れになるのはほぼ確実だもん」

守ってばかりではじり貧

そんな状況を打破する行動と言えば、攻めに出るくらいだろう

そして、攻めに出るために必要なのは勇者だ

園子「勇者部の誰かがいなくなっちゃったら、天さんにとっての日常はもうなくなっちゃうよね」

天乃「それはもちろん、そうね」

園子「だけど、天さんがいなくなっちゃうのも、みんなにとっては許せないことだから」

攻勢に出た際に出る被害の一つも許容できない

だが、被害を出さないということは不可能

そんな状況になりつつあり、

そこにもっていきかねないのが、大赦の作戦なのだ

だから、園子は失敗してほしいと思ってしまう


それは決して、大赦が間違っているわけではないこと

個人ではなく、全体として見るならば

自分たちの願っていることこそが悪手であり我儘であることくらい分かっている

それでもだ

それでも、嫌だと思ってしまう

失敗してほしいと望んでしまう

お役目だから仕方がない。二年前は思えていたことも

今は思えなくなってしまっていた

園子「……もっと別の方法があるんじゃないかなって思うんよ」

本当にあるかもわからない答えを求める希望的観測でしかない言葉

自分が間違っていると分かっている考え

だが、世界にとって間違いであっても

自分が信じる者にとっては間違いではないと園子は信じる

園子「それはもしかしたら、誰か一人じゃなくて、みんなが辛い思いするものかもしれない」

でも、だけど。

それでもだ

園子「100の辛いをみんなで分けることができれば、ただ、大変だったね。で、終われるんじゃないかなって思うんだ」

天乃「貴女、まさか必要ならまた勇者になるって言いたいの?」

園子「えへへ~子供がいながらまた戦いに行きそうな天さんには、批難する権利はないのです」

浮かべる笑みは一見、ふざけているものだが園子は本気だった

本気で、また自分の命を懸けようとしているのだと

天乃は察して、首を振る

だが、園子と同じことを

いや、むしろ園子よりも負担の大きいながら命を懸けることも厭わない天乃は、

全員で負担を軽減するという園子の案を容易に批難できなかった


√ 11月01日目 夜(病院) ※月曜日

01~10 
11~20 夏凜

21~30 
31~40 
41~50 友奈

51~60 沙織
61~70 
71~80 園子
81~90
91~00 若葉

↓1のコンマ 



ではここまでとさせていただきます
明日は出来れば昼頃から


園子「お昼は真面目な話」

園子「そして」

園子「夜にも真面目な話」

天乃「何を話すの……?」

園子「天さんがMって話、ほんと~?」ニコッ

天乃「えっ? なにそれ?」


では少しずつ


√ 11月01日目 夜(病院) ※月曜日


天乃「今日1日ずっと園子と関わってる気がするわ」

園子「今日は園子づくしだよ~」

弱弱しい力で触れてくる園子に笑みを見せた天乃は、

その手に優しく触れて、握る

一度は、天乃の家で一緒に過ごす可能性もあったがすぐに話はご破算となり、

そのせいもあって、この病室に来るまでずっと

同年代の誰かと一緒にいられる機会は本当にまれだっただろうし、

ここに来てからも、みんなの体調のこともあって、園子は一人になることが多かった

天乃との関係に限って言えばもっと少なかったことだろう

その抑圧もあってか

園子は少しだけ甘えるように、身を寄せてくる

園子「ぽかぽかする~」

天乃「まだ少し体温が高いからかしらね」

園子「お母さんだねぇ」

天乃「園子は妹を待つ長女みたいだわ」

妹がいる母親のお腹に触れながら、

まだかまだかと期待と不安に揺れる笑みを浮かべる長女のような園子の姿

そんな想像を口にすると、

園子は少しだけ複雑そうな表情を見せた

園子「天さんの子供は嬉しいような悲しいような……うーん」

天乃「あら、どうして?」

園子「他人じゃないと出来ないことがあるし、子供じゃないと出来ないこともあるから」


園子「もちろん、どっちも嫌じゃないよ」

産まれたときから家族だったら。

妹だったら、姉だったら。娘だったら

まだ銀が生きていたころにも、考えたことがある

いつも遅刻してきたりすることの多い銀のことを不審に思った須美が、

こっそり見に行こうという提案をして見に行った時の話だ

弟がいる銀を見て、

自分たちには兄弟も姉妹もいないから

誰かをお姉さんと考えてみようという話になって

園子「わっしーはねぇ、天さんがお姉さんだったら心労で大変だって言ってたんよ」

天乃「そんなに心配かけてたかしら……あの頃は普通だったと思うけど」

園子「天さん悪戯好きだから」

天乃「あぁ……」

園子「わっしーが良く怒ってたの今でも私は覚えてるよ」

話をしているときに余計な茶々を入れて

イネスでちょっとしたものを食べているときに横からつまみ食いをして

園子「でもね。一緒だったらきっと、飽きないだろうなぁって、退屈はしないだろうなぁって。そう言ってた」


園子「その時から、あ~わっしーはそうなんだ~って、なんとなく思ってた」

天乃「それ、勝手に言っちゃっていいの?」

園子「今のわっしーはもう天さんの傍にいるから」

きっと、望んでいたよりもずっと近くにいるから

そう言った園子は自分の事のようにうれしそうな笑みを浮かべながら、

天乃の体を変に刺激しないよう気遣った距離感で寄り添う

本当はお腹の大きくなっている天乃の体を考えれば、

添い寝しているような状況は避けるべきではあるのだが……

園子「そして私も傍にいるんよ~」

天乃「体大丈夫なの? 一人用じゃなくて平気?」

園子「天さんは小さいから平気だよ。えへへ」

天乃「横幅の問題よ」

園子「こうしてれば、関係ないよ」

横になっている天乃に対して、左半身を寝かして寄り添う園子は笑う

その姿勢が体の負担になっていないのかと、聞いているのに


1、学校行けるようになったら、園子は学校に行く?
2、園子のご両親は私達の事、なんていうかしら
3、園子も普通にしていたら、私より大きいのよね
4、貴方、そんなに甘える子だったかしら
5、園子はどうなの? お母さん? お姉さん? それとも、妹?


↓2


天乃「園子も普通にしてたら、私より大きいのよね」

園子「小学生のころから少しだけ大きかったけどね~」

天乃「……それは言わないで」

園子「わっしーも大きかったから、ミノさんと天さんの背比べで」

天乃「みんなが大きかったのよ」

園子「そうかなぁ」

小学校高学年にもなれば、

男の子はもちろん、女の子も身長は伸びてきている子は伸びてきており

天乃よりも背の高い子はいたと、園子は思う

園子「天さん、今でも身長変わってないんだよね?」

天乃「なに、馬鹿にしたいの?」

園子「ううん、私との約束」

天乃「園子との約束……?」

園子「ほら、一番最後の戦いの前にした約束、覚えてない?」

人差し指を立てて言う園子は、

天乃の困惑した様子に笑みを浮かべて「ほらほら~」と言う

園子「無事戦い終えたら、神樹館の制服でもなんでも着てくれるって話だよ~」


天乃「そんな約束したかしら……」

園子「天さんに一度着てみて欲しいってミノさんも言ってたよ?」

天乃「それはまぁ、確かに銀が言ってたのは覚えてるけれど」

園子「……クラスの子だって、なんで制服着てないの~って」

天乃「あれはただの勘違いでしょっ」

天乃が初めて神樹館の前まで一緒に行った時のことだ

登校する小学生達に同年代だと思われ

持っているカバンの違い、服装の違いから転校生かとまで言われたのだ

天乃「そんなくだらないことまで覚えてたのね。忘れていいのに」

園子「えへへ~忘れないよ」

自分より年下の子

その悪意のない勘違いからの言葉にどう言おうかと迷い

小学生に間違われた気恥ずかしさから赤い顔をして

少し、おろおろとしていた姿

園子「……からかわれ慣れてない天さんは、すごくかわいいな~って思ったんよ」


天乃「可愛いって……あの時そんなこと考えてたの?」

そんな素振りも見せず、

ただ、違うよと否定して、付き添いで来てくれただけだと説明していた園子

そんなに小学生に見えると聞いた時

そんなことないよ~と、いつもの笑顔を浮かべていたのに

天乃「園子も、私のこと小学生みたいだって思う?」

園子「ううん。そんなこと思わない」

天乃「でも、ほとんどの人がそう見るのよ?」

園子「天さんは可愛いけど、かっこいいから。見た目だけじゃないよ」

本心を語っているのだと言いたげな幸せを感じる笑みで言う園子は、

頬をすりすりと天乃の体に寄せて、「むふふ~」と怪しげな声を漏らす

エッチなことをしようとはしない

けれど、その存在を少しでも身近に感じようとしているのだろう

少し厚めの布団を扱っているが、

11月の気温などものともしない人肌の暖かさを感じて、ほんのりと汗ばむ

園子「私は、天さんが血の繋がった誰かならお姉さんが良いな~って思ってた」

背が低くても、小学生みたいに見えても

男の子のように悪戯が好きでも

園子「私にとって、天さんはずっと憧れの先輩だったから」


優しいだけでも、厳しいだけでもなく

優しい時もあれば厳しい時もあって、

それでいてとても楽しませてくれる理想の姉

想像するしかない園子にとっては、

天乃はそんな空想の姉にベストマッチな存在だった

園子「ずっと好きだった」

先輩として、女性として

友人とは違う、憧れからくる好意

この人がいてくれたらという安心感

いなくなってしまった不安と焦燥感

園子「……やっと、触れることができた」

失ってしまった2年前

自分からは何もできなかった2年間

求めて止まなかった感覚に、園子は悲し気な笑みを浮かべて

園子「久遠先輩」

天乃「園子……?」

ずっと、やや強引に体を持ち上げる園子の顔は、

見覚えのある、近さだった


1、頭を撫でる
2、抱きしめる
3、あえて何もしない

↓2


自分よりも大きくとも華奢に感じる園子の体を出来る限りの力で抱きしめる

大した力の入らない腕では満足いく抱擁感もないかもしれないが

少しでも、感じられるようにと。

園子「天さん……」

もぞもぞと園子の手が動き、

視界の端で躊躇うように留まって天乃の体に絡んでいく

園子「天さんの匂いがする」

天乃「……今日だけ許してあげる」

園子「うん……」

体を縛る園子の腕に力がこもる

再会を喜ぶ抱擁感は2年間を取り戻すかのような力強さがあった

園子「前は、何言ってるのって許してくれなかったけど」

天乃「また拒否するわよ」

園子「今は、私の方が力があるんよ」

少しだけ押せば、しがみつく

そんなじゃれ合いにも満たないやり取りの中

園子は唇を少しだけ引き締めた

園子「……好き」

この感触が、この匂いが

この確かな命を感じられることが。

思いを込めて、園子は呟く


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(大赦の作戦、すべてが終わっても、普通にしていたら、抱きしめる)
・   犬吠埼風:交流有(勇者部の活動)
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流無()
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流有(大赦の作戦)
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


11月01日目 終了時点

乃木園子との絆  70(高い)
犬吠埼風との絆  97(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  86(とても高い)

結城友奈との絆  105(かなり高い)
東郷美森との絆  115(かなり高い)
三好夏凜との絆  135(最高値)
乃木若葉との絆  94(かなり高い)

土居球子との絆  40(中々良い)
白鳥歌野との絆  42(中々良い)
藤森水都との絆  35(中々良い)

  郡千景との絆  41(中々良い)
   沙織との絆  115(かなり高い)
   九尾との絆  63(高い)

    神樹との絆   9(低い)


√ 11月02日目 朝(病院) ※火曜日

01~10 夏凜
11~20 
21~30 友奈
31~40 
41~50 園子
51~60 樹
61~70 
71~80 沙織
81~90
91~00 若葉

↓1のコンマ 


√ 11月02日目 朝(病院) ※火曜日


夏凜「あんた、もう完全に調子は良さそうね」

天乃「そう見える?」

夏凜「そりゃ、まぁね」

何処か呆れたような笑みを浮かべる夏凜の視線の先にいるのは

天乃に抱き着くようにして寝息を立てている園子

園子と密に触れ合っていても体調を崩さずに目を覚ませたのだ

多少の外部干渉で体調を崩さなくなってきたのかもしれないと、

夏凜は考えつつ呟く

夏凜「来月か再来月だったっけ? 出産予定日」

天乃「そんな範囲になると、予定日と言うよりは予定期間ね」

ひと月半ほどの期間、その間に生まれるかどうか

その我が子を撫でた天乃は流れるように園子の頭を撫でる

園子「んふふ……」

天乃「園子も元気そう……貴女も、東郷のリハビリに付き合っているけど、どう?」

夏凜「ガチの戦闘はまだ少し不安はあるけど、ぼちぼち鍛錬再開する予定よ」

病院のリハビリとは別に、夏凜独自の基礎鍛錬

勇者としての役目があろうとなかろうと

それは続けていくつもりだと夏凜はにやりと笑う

夏凜「何があっても平気なようにね」


天乃「勇者として戦う必要が無くなったら、鍛える意味もなくなっていくんじゃない?」

夏凜「いやいや、十分必要でしょ」

例えば。

夏凜はそう続けて何かを言おうとしたが、

天乃と抱き着く園子を一瞥すると、諦めたようにため息をつく

夏凜「あんたの為によ。日常的に力必要でしょ?」

天乃「それは……」

夏凜「それに、女の子とはいえ子供と遊ぶってなったら多少体力必要になってくるだろうし」

天乃「そういうものかしら……?」

天乃や夏凜

先代である園子たちは鍛錬してきたこともあり

そういった体力が必要な子供時代だったが、

普通の家庭で育つ女の子が必要なのだろうか。

そう考え、否定する

この双子もまた、脅威に対抗すべく多少の鍛錬が必要なのだと。

天乃「そういうものよね……時が来たらきっと、この子たちも戦う日が来る」

夏凜「出来れば、そんな日なんて来ないでほしいけど」

それとは別に運動能力は高めてやりたいのよと、

夏凜は楽し気な笑みを浮かべる


夏凜「あんたの子供とか、巻き込まれ体質と言うか何でもかんでも首突っ込んでいくだろうし」

天乃「そんなことないわよ」

夏凜「いやいやいや」

天乃「必ずしも私と同じ性格になるとは限らないし」

夏凜「あんたの周りにいる人間考えてみなさいよ」

解んないの? と呆れながら言った夏凜の視線につられて辺りを見渡すと

制服に着替え終えた友奈達が目に入って

夏凜「お母さん達はどんな人?」

天乃「…………」

夏凜「私達も人助けするーっ! 勇者になーる!」

どうせそう言い出すに決まってるでしょ。と

夏凜は決めつけて言うと、友奈を指さす

夏凜「特に遊び相手になりそうな友奈。触発されて絶対に勇者目指すわよ」

天乃「それは否定できない……」

夏凜「ま、そういう汗臭いの嫌。とか言ってくれたらそれはそれで面白いけどね」

そうならないだろうと夏凜は思う

母親である天乃がこんな状態なのだ

きっと、手助けしたいと頑張る事だろう

心優しい子供になる事だろうから

夏凜「っ絶対、あんたみたいなやつになるわよ。そこは保証するわ」


1、……そこまで考えてくれているなら、万が一のことがあっても安心ね
2、遊び相手なら風もなりそうだわ。樹も……今は鍛錬とか興味あるだろうし
3、親の責任は、親がしっかりと解決するべきよね
4、ねえ夏凜、後で話があるの。付き合ってくれる?(昼:大赦の作戦について)
5、夏凜は本当にもう勇者としてのお役目がないと思ってる?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



東郷「護国思想を――」

夏凜「無しで」

東郷「では保健体育を」

風「あんたは親戚のおっさんか!」

東郷「なら私は一体何を教えてあげればいいんですか!」

友奈「大丈夫だよ東郷さん、いるだけで立派な反面教師だよ」

樹「ついに友奈さんが辛辣に!?」


では少しだけ


天乃「……そこまで考えてくれているなら、万が一のことがあっても安心ね」

夏凜「万が一?」

天乃「世界とか、私とか」

夏凜「世界は良いわよ。守ってやるから。でも、あんたの体に起こることは私達には対処しきれないことが多い」

陽乃が想定しておいてくれたおかげか、

それとも単なる偶然か

今回天乃の体に起きた異常は夏凜達で何とかすることができたが、

毎回、今回のようにうまく事が進むとは限らない

だからこそ、

なせば大抵なんとかなるこの世界のことよりも、

天乃の事の方が、不安は大きかった

夏凜「なによ、あんた何かあんの?」

天乃「ここまで色々大変だったから、出産もきっと大変でしょ?」

夏凜「そりゃ、初出産はどこの誰も大変って聞くわよ」

天乃「でも、私はこんなだからね」

それにもやはり個人差があり、

辛く苦しい人と、意外とすんなり行ける人とがいるのだが……

境遇的にも条件的にもすんなりいくことはないだろうという天乃の考えに、

夏凜は頷いて答える

夏凜「確かに、あんたの体に双子の出産は過負荷だわ」

天乃「でしょ? だから万が一のことも――」

夏凜「嫌よ」


天乃「え?」

夏凜「嫌っつったのよ。そんなこと考えさせるんじゃないわよ」

天乃「だけど、今回凄く困ったでしょう? やっぱり、ある程度は最悪のパターンも考えておくべきだと思うの」

夏凜「そりゃ、あんたが言うことが正しいってのは解るわよ。けど……」

そこまでの最悪のパターンをまた考えなければいけないのかと思う

握りしめ、爪の食い込む掌の痛みが噛みきった唇の痛みを彷彿とさせて……

夏凜は天乃の瞳を見つめる

そんなことを考えさせることを悔いている目だ

罪悪感を抱いている目だ

夏凜「気持ちで負けてちゃ、どうしようもない」

天乃「……夏凜らしいわね」

夏凜「…………」

天乃「迷惑かけてる私自身がこんなこと言うなんて不躾だって分ってはいるのよ」

でも。と、繋ぐ

天乃「思ってた通り、言わなきゃ考えようとしてくれないでしょう?」

夏凜「考えたい話じゃない」

天乃「それでも」

夏凜「……ここまで頑張ってきたあんたが、それでも結局居なくなるってのは、考えられない」

天乃「子供を産んで死ぬのなら、それは日常に起こり得る一つの出来事のはずだわ」


夏凜「あんたね……」

天乃「例えの一つよ」

夏凜「あんたが死ぬ可能性の一つでもあるんでしょ。どうせ」

ため息をつきながら言う夏凜は、

問のような投げかけをしたにもかかわらず、

答えを待たずに口を開く

開いた瞳はどこか、怒りを感じるもので

夏凜「生きることを諦めないって考えるようになったのに、出産が辛くて死ぬかもしれないなんて悲観する? その妄想を押し付けようとする?」

天乃「だから、子供が」

夏凜「ありえない」

天乃「っ」

夏凜「少し前のあんたなら、そんなこと考えてても私が否定したらそうね。頑張れば大丈夫よね。とか言ってたわよ」

天乃「それは、もちろんそう思いもするけど、こんなこともあったわけだから」

夏凜「そう簡単には割り切れないって言いたいの?」

つわりが酷くなった原因である穢れも関わってくるのはほとんど確実であり

それでなくとも中学生の体に双子の出産と辛い条件が重なってきているのだ

その考えも分からなくはないかもしれない

夏凜「…………」

考える為に口を閉ざし、

怪訝そうな厳しい視線を天乃へと向けていた夏凜は、

おもむろに深く息を吐いて、眉間を指でつまむ


夏凜「あんた、またなんかやろうとしてるわけじゃないわよね?」

天乃「こんな状態じゃ出来ることはないわ。力もないし」

すぐそばにある夏凜の手を全力で握りしめて、

こんなものよ。と苦笑する

身長と同様、小学生と同程度の握力

ふざけているのかと言いたくもなるが、

これが本当に今の天乃の全力なのだ

天乃「力が子供に持っていかれちゃってるのよ。貴女も知ってるでしょ?」

夏凜「知ってるけど……まぁ、力が使えないってことは九尾も若葉達もはっきり言ってたし……」

嘘ではないって信じてはいるから。と、言った夏凜は、

それでも不安そうな視線を天乃へと向ける

夏凜「あんたの出来る限りって無理ではないけど無茶ではあるから怖いのよ」

天乃「この体じゃ無茶もできないわよ。今はね」

夏凜「後でするみたいな言い方止めなさいよ。不安になるから」

天乃「ふふっ、確かにね」

夏凜「天乃……なにかあるなら言いなさいよ? 私達に何かあるとかそういうのは考えなくて良いから」

天乃「またそういうこと言って……私が苦手だって、分かってるのに」

呆れたため息とともにそう言うと、

夏凜は少しだけ笑みを浮かべて「だから言ってんのよ」と、言い放った


√ 11月02日目 昼(病院) ※火曜日

01~10 東郷

11~20 
21~30 
31~40 園子

41~50 
51~60 
61~70 若葉

71~80 
81~90
91~00 九尾

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
もしかしたらお休みを頂く可能性もあります



夏凜(ま、とか言ってどうせ嫌なこと考えてんでしょ)

夏凜(ったく……こういう時って大体、なんか隠してんのよね)

夏凜(天乃が死ぬ可能性……考えたくはないけど考えるしかない)

夏凜(もちろんそうなった場合じゃなくて、そうならないためにだけど)

夏凜(はぁ……だから首突っ込むような子供が産まれてくんのよ)


では少しだけ


√ 11月02日目 昼(病院) ※火曜日


若葉「天乃はどう思う? 園子は私の子孫に見えるか?」

天乃「……? どうしたの急に」

若葉「昨日からさっきまで。ずっと甘えきりだっただろう?」

天乃「そうね」

若葉「千景はどうも、私とは似ても似つかないと言っていてな」

球子も同じ意見だったと困ったように漏らす。

それで何か弊害があるわけではないはずなのだが。

同じ乃木の名を持つものとして

子孫である可能性がある子が自分とは全く違うというのは

何となく、思うところがあるらしい

若葉「天乃も園子は私とは似ていないと思うか?」

天乃「そうねぇ……」

この場合、

似てると言えば若葉も甘えん坊だということになってしまう

それが分かっているのだろうかと様子をうかがった天乃は、

考え込むようにゆったりとした瞬きをする

天乃「若葉は似ていないと嫌?」

若葉「いや、園子にも園子の人生があったんだ。私とは違う性格になるのが道理だろう」

天乃「ならそれでは駄目なの?」

若葉「駄目ではない。駄目ではないが……その、やはり全く似ていないと言われるとなんだかこう、もどかしいじゃないか」


若葉「それでなにかがあるわけでもないんだが……」

天乃「自分たちが本当に生き残れたかどうかが不安になる?」

若葉「そんなことはない……といえば、嘘になるかもしれない」

九尾から記憶を得ている為、自分たちの戦いの結果は解っている

だが、それが本物なのか疑わしく思ってしまうのだ

そんなことがないと信じていても

心のどこかで、疑いを持ちかけてしまう

だが、若葉はそんな考えを振り払うように首を振って、苦笑する

若葉「そんな重い話じゃないんだ。ただ単純に園子と私は似ているかどうかを聞きたくてな」

天乃は園子とかかわりが深いだろう?

そう言った夏凜は軽い検査として連れ出されていない園子のベッドを一瞥して、

照れ臭そうに頬を描く

若葉「やっぱり子供と自分が似ていると血のつながりが感じられて嬉しいじゃないか。自分の生きた証と言うか。そういうのがあって」

天乃「そういうこと言うと、私は嘘でも似てるって言うけど」

若葉「なっ」

天乃「ふふっ、久遠天乃っていう人間をもう少し勉強した方がいいわ」

切羽詰まった重い話ではないという前置きはされていても

皆に似ていないと言われた後で、似ていると言われるとうれしいと気持ちを説明されてしまっては

その気持ちを汲んで似ていると言ってあげたくなるのだ

もちろん、相手がものすごく真剣な悩みを抱えており

それに対してのアドバイスと言うのならば、容赦はしないが。


天乃「ちなみに貴女はどう思うの? 園子を見てみて」

若葉「そうだな。まぁ、話し方や性格的に言えば似ていないな。どちらかと言えばひなたの方が近い」

ふんわりとした口調と穏やかさのある性格

かつての親友を思い浮かべた若葉はそう答えて、苦笑いを浮かべる

若葉「移っていく中で、いつしかひなたの子孫と私の子孫が交わった可能性もあるな」

天乃「そうね。300年間も続いているんだもの。ないとは言い切れないわ」

巫女であるひなたの家系を易々と絶やしてしまうことは考え難いため、

乃木の一族に加わってもなお上里が存続できる状況に限られるが、

兄弟姉妹、子供が二人いる世代ならば不可能ではない

少なくとも、久遠家が現存するよりははるかに容易い条件ではあったはずだと天乃は思う

久遠家は基本十数年で死ぬため、天乃と同様かそれ以上に早くに子供を求められる

例えその年齢に達していても、子を産める体になっていなければ残すことが出来ないため

色々と条件が厳しいからだ

若葉「だから正直なところを言えば……あまり似ていないと自分でも思うな」

天乃「あら」

若葉「だが、園子を良く知り私のことも良く知る天乃ならば別の答えになるかもしれないだろう? どうだろうか」

天乃「そうねぇ」


1、似てるんじゃないかしら
2、あまり似てるとは言い難いかもしれないわね
3、確かに似てないわね
4、逆に私と陽乃さんはどう思う?

↓2


天乃「じゃぁ、逆に私と陽乃さんはどう思うの?」

若葉「急だな……」

天乃「質問で返すのはあれかもしれないけど、似た問題でしょう?」

若葉「ふむ」

園子と若葉を知る天乃と、天乃と陽乃を知る若葉

確かに条件は同じだと頷いた若葉は、

天乃の伺うような笑みに押し負けて考え込む

目の前にいる天乃と、かつて前にいた久遠陽乃と言う人物

二人を比べて子孫だと言える共通点はあるのかどうか。

能力などを上げてしまえば共通点ばかりだが、

それを除いてあるのかどうか。

若葉「すでに証明されきってるというのは悪条件だな」

天乃「能力とかの話でしょう? 性格的には? 容姿的には?」

若葉「容姿は髪や顔つきを抜けば殆ど似てないぞ?」

解ってはいると思うが。と付けたす若葉に、天乃はそれは解ってるけど。と

ちょっぴり膨れて零す

天乃と違い、陽乃の身長は普通に高かった

記憶で見て、写真で見てはっきりと分かる違いだ


若葉「だが、性格は……半々だろうな」

皆からはもう聞いているだろうし知っているかもしれないがと前置きした若葉は、

懐かしむ笑みを浮かべながら言う

陽乃は天乃のように常に優しい態度ではなかったし、

母親のような慈愛に満ちた言動も殆どない

千景にかかわることは多かったが、天乃のように上手く接することは出来なかった

そして、と一緒にいる事よりも、一人でいることの方が多かった

けれど、優しい人ではあったのだ

相手を想う気持ちのある少女ではあったのだ

若葉「陽乃は人とかかわるが、奥に入り込もうとはしないタイプだった。自分の内面に触れられたくなかったんだと思う」

その一方で

天乃のように人に対する愛情が抜けきれなかったから、関わってしまう

その中途半端さが、千景を救いきれなかった要因でもだろう

若葉「最初の反抗期の強さは……ふふっ、いや、似ているかどうかの話だったな」

道がそれそうだと首を振り、笑みを浮かべながら頷く

辛い過去でも一部は楽しいものだったと受け入れている笑みだ

若葉「どちらかと言えば似ている。だが、似ていない部分もあるというのが私の答えだな」

天乃「答えのようで答えじゃないわね」

若葉「なら似ていると答えよう。陽乃も心優しい人だったからな」


若葉「それで、私達はどうだ?」

天乃「そうね……似ている部分はあるわ」

若葉「そ、そうか?」

天乃「ええ」

満面の笑みで答える

若葉が嬉しそうだから。

からかうことが出来そうだから。

天乃「若葉、最初に甘えきりだって言ってたじゃない?」

若葉「ああ、言ったな」

天乃「若葉も上里さんに対して凄く甘えてたでしょう?」

若葉「……はっ!?」

天乃「大丈夫、似てるわ」

唖然としている若葉に囁くように言うと、

いやいやいやと慌ただしく首を振る

素直に認める園子とはやはり反応に差はあるが、

その愛らしさは似ていると天乃は思う

若葉「ま、待ってくれ! それは違う」

天乃「違わないでしょ? 若葉だって……ね?」

ポンポンっと足を叩く

かつて、上里ひなたがそうして見せたように


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


天乃「膝枕、してあげようか?」

園子「え? 良いの~? わ~い!」

ひなた「若葉ちゃん、どうぞ」

若葉「ああ、ありがとう」


千景「……ほら」

若葉「い、いや待て! これは何かの間違いだ!」

千景「まるで浮気した旦那のような言い草ね」


ではすこしだけ


若葉「それは……」

天乃「する?」

若葉「……いや、今の天乃には負担が大きいだろう」

天乃「負担がなかったらする?」

若葉「意地が悪いな」

苦笑いを浮かべる若葉は軽く頷いて天乃を見つめる

子供を宿していても、華奢に見える母体

だが、力はしっかりと秘めている少女の体

若葉「そうだな、恋人なんだ。そのくらいは求めても問題ないだろう?」

天乃「ええ、えっちなことするよりもずっと健全だわ」

若葉「…………」

小さく、息を吐いて。

若葉「天乃の言う通り、私もひなたに甘えている節があった。その点では似ていると言えるな」

天乃「でしょう? やっぱり、園子と若葉は子孫と先祖だわ。私と陽乃さんのようにね」

似ていない部分があるからと、

似ている部分があるからと

そこに繋がりがあるとは言えないし、ないとも言えない

天乃「どうしても心配ならDNA検査でもして貰うといいんじゃないかしら?」

若葉「精霊の私からDNAが検出できるわけないだろう。髪の毛を抜いたとしても消滅するだけだ」

天乃「ふふっ、冗談よ」


天乃「そこまで細かいことしなくても、感じるものがあるはずだもの」

若葉「そうだな」

天乃「球には二人で外にでも行ったらいいんじゃない? リハビリにもなるはずだわ」

若葉「……あまり、親密になるのはな」

天乃「…………」

天乃が黙り込むのを横目に若葉は「すまない」と呟く

若葉に落ち度はなかった。

だが、その一言が天乃を黙らせることになったのは事実で

若葉「失言だった。これは私個人の考えだ……別に、天乃の選択に余計な迷いを生じさせるつもりはない」

天乃「でも」

若葉「確かに私が残るか否かが不確かである以上、園子と親密になりすぎるのは互いに困ると思っているのは事実だ」

しかしだ。と、若葉は首を振る

若葉「それで天乃自身の考えをゆがめる事だけはしないで欲しい。君自身の体にも関わる事なんだ、君の為の選択をしてくれ」

天乃「私の体……? 待って、貴女」

若葉は知らなかったはずの事を知っているのかと聞こうとした天乃に、

若葉は少し困った笑みを浮かべながら首肯する

若葉「天乃の穢れへの対策として力の返還をしようかと議題に上がったときにな……だから、安心して決めて欲しい」

天乃「安心してって……そんな」

これ以上話になるのを避けようとしたのだろう

顔を上げたときにはもう、若葉の姿はそこになかった


√ 11月02日目 夕(病院) ※火曜日

01~10 東郷
11~20 
21~30 風
31~40 
41~50 友奈
51~60 
61~70 樹
71~80 
81~90 沙織
91~00 

↓1のコンマ 


√ 11月02日目 夕(病院) ※火曜日


夕方になると、リハビリに行っていた東郷が戻ってきて、

勇者部の部活動としてボランティアを行う風達

そのサポートとしていないみんなの分を補う沙織からは

少しだけ帰りが遅くなるという連絡が届く

学校のみんなの不安を完全に払拭できたわけではないだろうが

少しずつ日常が取り戻せているのだという実感がわいてきて、

天乃は少しうれしそうな笑みを浮かべる

だが同時に感じるのだ

それを失う可能性の非常に高いことがこれから起こってしまう予感を。

それを止めるには自分の体を張るしかないというのも

天乃「…………」

首を振って考えを振り払う

ここにはみんながいるのだ。

下手に顔や言葉にしてしまうと、みんなには気づかれてしまう

夏凜には特に

天乃「まぁ、もう気づかれてそうな感じはしたけど」

朝話した感じでは、

少なくとも何かあるというのは解っていた

そしてきっと、隠し事をしているということも夏凜は気づいていただろうと天乃は思う

天乃「不器用なくせに、鋭いんだから……」

惚れた女の強さと言うものなのかと、冗談めかして苦笑する


そして、若葉達のことも考えなければいけない

天乃の体どころか命にまで関わることとなっては流石に黙っていられなかったのだろう

千景は若葉達が借り受けている力を返還することで天乃の身体機能は戻るということを話したらしい

それでもなお、強要することなく安心して考えて欲しいと言ってくれたのには感謝すべきかもしれないが

園子との関係を前に親密になるのは……と。

そう零した若葉の寂し気な表情を見せられては易々と頷けるものではない

みんなの幸せが自分の幸せであると今でも思う

だが、自分の体が九尾の力を借りる以外でもう完全に動かせなくなってしまうのだ

もちろんそんなことを口にしたら最後、袋叩きにされるだろうが

自分のことを二の次にしてしまうのは天乃の専売特許、ある意味代名詞ともいえる

ゆえに、若葉達を残した結果強い後悔が残ることはないだろう

しかし、若葉達を納得させる理由がなければいけない

天乃「難しいものね……どれもこれも」

まだ不確定な壁の外のことにしてもそうだ

相談したとしたら最後、天乃は徹底隔離されていき、

問題解決はやはり、勇者部が行おうとすることだろう

天乃「でも、それは……」

認めていいことでは、ない


園子たちが天乃をこれ以上傷つけさせたくない、苦しめたくないと思うのと同じように

天乃もまた、みんなの事をこれ以上苦しめたくないと思うからだ

だから、そうなってしまう可能性のある選択は極力したくないというのが事実

でも、相談せずにこのまま進むのは非常にリスクがあるともいえる

そう考えて、園子もこの話題に組み込んだのだが。

天乃「……誤った。可能性もある」

園子も結局は夏凜達側の人間なのだ

天乃以上に満開を繰り返して体をボロボロにしてしまったにもかかわらず、

また、苦しむ戦いに手を出そうとしているのだから。

天乃「…………」

夏凜はひとまず、余計な踏み込みをする素振りはない

園子も周りに広めるような様子はない

天乃「ふぅ……」

下手に考えこもうとすると、

お腹の痛みがまた増幅されてしまいそうな気がして、息をつく


1、園子
2、東郷
3、夏凜
4、精霊組(再安価)
5、イベント判定


↓2


1、若葉
2、千景
3、球子
4、歌野
5、水都
6、九尾


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



球子「つ、ついに……ついにこの時が来たのか」

球子「前はそんなことしないと言ってたけど」

球子「女の子を食い漁ると噂の――」

天乃「だからそんなことしないって言ったでしょう」

天乃「貴女に聞きたいのよ。これからについてね」


では少しだけ


√ 11月02日目 夕(病院) ※火曜日


天乃「ねぇ、球子。貴女私の事避けてない?」

球子「さ、避けてなんてないぞ」

天乃「じゃぁなに? 単純に嫌いなの?」

球子「そんなわけないだろっ!」

天乃「なら、どうしてそんなに離れようとするの?」

そもそも。だ

水都の件もあって姿を見せにくい歌野はともかく、

球子が姿を見せる頻度は極めて少ない

関わりの深いみんなに遠慮していると言われればそれまでだが

きっと、それだけが理由ではないのだろう

天乃「私が何話したいのか分かってるのね」

球子「それは……」

天乃「だから、その話をしないために避けてるんでしょ?」

球子「…………」

だまり込んだ球子は言い淀む言葉をかみ砕くように口元を動かして、天乃から目を逸らす。

図星だったのだ

球子「に、苦手なんだっ……そういう、シリアスな話」


球子「それに、まともな話は若葉達がするだろ? タマが話すことなんてないじゃないか」

天乃「貴女の思いは貴女にしか語れないわ」

球子「……それは、そうだけど」

天乃「参考までに聞かせてくれない?」

願うように見上げる視線に極力目を合わせないようにと抗う

合わせてしまったら最後、折れてしまうと球子自身自覚があるからだ

しかし、逃げて、避けて数分間

そう……と、寂し気な一言が鼓膜を震わせて

球子「あーもう、分かった! 分ったから!」

叫ぶように声を上げる

皆の目が天乃と球子へと向けられ、

球子は何でもないと取り繕って、天乃を連れ出す

別にこれと言って連れ出す意味はないが、

球子としては、生真面目に話す自分と言うのはあまり見られたくないらしい

天乃「真面目な球子はかっこいいと思うわよ?」

球子「そーいう問題じゃないっ」

天乃「伊予島さんなら放っておかないんじゃない?」

球子「話すの止めるぞ」

天乃「ふふっ、ごめんなさい」


球子「こ、ここならだれも聞いてないな?」

天乃「別に聞いてても良いけど……神経質になりすぎよ」

球子「タマはスパーポジティブシンガーで通ってるんだ。太陽の子なんだ」

天乃「うん……?」

歌野あたりから言われたのだろうか

どちらにせよ少し間違っているきがするし、曲解していそうな気もするが。

気に入っているならいいだろうと考えを振り払う

天乃「それで、ここまで来たのだから話してくれるのよね?」

球子「うー……ま、まぁ、そうだな」

ここまで来ちゃったしな。と

球子は気恥ずかしそうに頬をポリポリと掻いて、息をつく

球子「それで、聞きたいのはなんなんだ。タマが一応、居なくなることに賛成してるって言うのは、もう聞いてるよな?」

天乃「ええ」

球子「なんでいなくなることに賛成したのかか? それとも、タマ達を残した時の言い訳づくりか?」

天乃「……聞いてたの?」

球子「だから逃げたかったんだ」

天乃「まったく」


1、賛成理由
2、残したいと言ったら、貴女はどう思う?
3、私がもし、自分のことよりも貴女達のことだけを考えて選択したら、どうする?
4、でもね。それよりも聞いておきたいの。私が今後命を懸けることになった時、手を貸してくれるかどうか


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「土居さんが久遠先輩を連れ出した」

東郷「でも、その寸前に土居さんは久遠先輩に分かった。と声を荒げていた」

東郷「そこから導ける答え。それは。土居さんもついにせ――」

夏凜「てぇがすべたぁぁぁぁぁぁぁッ!」ヒュンッ

東郷「ぐふっ」

樹「凄い勢いで枕が東郷先輩を撲殺した……」


では少しだけ


ふっっと息を吐いて、気持ちを切り替える

今からするのは真面目な話

球子のペースというわけでもないが茶目っ気のある空気になるのはあれだろうと思ったからだ

天乃「そうね、私が聞きたいのは貴女が消滅することに賛成した理由よ」

球子「だよなぁ……やっぱり、それ聞くよなぁ」

天乃「言えないような理由なの?」

球子「そういうわけじゃない。ただ、うまく言える気がしないんだ。タマはこういうの、キャラじゃないからなっ」

困った困ったと言いながら後ろ髪を掻く球子は、

救いを求めるように笑い声をあげる

だが、天乃がつられないと分かったからだろう

渇いた笑い声を小さく零して、ため息をついた

球子「詳しく聞くなよっ、説明できる自信ないからなっ」

天乃「貴方自身の考えなのに?」

球子「全部が全部説明できるとは限らないだろ? 色々あるんだ」

天乃「…………」

球子「タマは、天乃や若葉達のように賢くはないからな……」


冗談で言ったわけではない

逃げるつもりがあるわけでもない

ただ、本当に自信がないのだ

自分の気持ちは球子自身にとっても複雑で。

球子「……天乃。タマは別に、今の暮らしがな。嫌いなわけじゃない」

これだけは説明しておこうと、言葉を紡ぐ

球子にしてはたどたどしい口調

本当に考えながら話そうとしているのが分かる困った表情

天乃は挟もうとした口をつぐみ、球子を真っ直ぐ見つめる

球子「でも、時々あるんだ。こう、なんていうか……」

天乃「嫌になる事?」

球子「ううん、そうじゃない。そうじゃない……えっと」

自信なさげに話す自分をみじめに思ってか、

悲し気な笑みを浮かべる球子は天乃から目を逸らして

誰かがいるようで、誰もいない

窓の縁をじっと見つめる

球子「時々、感じるんだ。杏はここにいないんだよなって」


球子「勇者部は賑やかなんだ。それはすっごく良いんだ。でも、だから……思うんだ」

ここに杏もいたらよかったのに。と

戦いばかりの西暦時代

戦いのない時間も確かにあった

けれど、ここまで強く安らげるような時代ではなかった。

周りがとても暖かい。そんな、平和と自信をもって言い切れるようなものではなかった

球子「一緒に、こんな賑やかな場所にいたかったなって」

天乃「…………」

球子「……天乃は何も悪くない。みんなが嫌いなわけでもないんだ」

賑やかで好きだ

優しくて好きだ

暖かくて好きだ

安心できるから好きだ

でも、それでもだ

球子「……すごく辛いんだ。この場所がタマにとって大切で、幸せで、大好きであればあるほど」

強く、こぶしを握り締める

みっともなく泣いてしまいそうなのを堪えるために唇を噛み、瞼を強く閉じる

それでも、滲むものはあった

球子「杏の傍にいてやれないことが。杏子に感じさせてやれないことが……どうしようもなく」


球子「それはきっと、若葉も一緒なんだ。千景だって、きっと」

人の深層心理まで理解できるわけがない。

それは自信をもって言える。

しかし、感じるのだ

同じく西暦時代を生き

同じく大切な存在をあの時代に持ち

同じく、その大切な存在を置いてきてしまったからこそ。

球子「みんな、この時代が嫌いじゃない。みんなのことだって好きだ。好きなんだ。大好きなんだっ」

天乃「球子……っ」

球子「でも、タマは杏が大切だ。大好きだった。守ってやりたかった。ずっと、死ぬまで一緒にいてやりたかったんだ」

天乃「っ」

球子「この世界に呼んだ天乃は悪くない。本当だ。むしろ感謝してる。でも、役目が終わったら……自分と同じくらいに大切だって、好きだって言ってくれた……」

言葉に詰まる

泣いているのだと分かる

天乃が答えを躊躇っているのが分かる

困らせることになると分かっていた

だから言いたくはなかった。

けれど、もう口火は切られてしまったのだ

球子「タマ達には……夏凜達にとって天乃が帰るべき場所なように、タマ達にも……一緒にいてやらなくちゃいけない大切な仲間がいるんだ」

だから。

球子「役目が終わったら、タマ達は帰るべき場所に帰りたい。そう思った……だから、賛成した」


天乃「……使って」

球子「…………」

天乃は車椅子に常備されているハンカチを球子へと差し出す

紡ぐべき言葉が見つからなかったというのも、あった。

球子は冗談で太陽の子だなんだと言っていたが

とてもポジティブで明るい子であることは事実だった

だからと言って、思慮の浅い子だと軽視していたわけではない

しかし、ここまで深く思いを抱えているとは思っていなかった

だが、分からないわけではない

天乃にだって大切な人たちがいる。

もしも自分が西暦時代にタイムスリップしてしまったら

あるいは、どこか別の世界に呼び出されてしまったら

役目を終えた後には元の場所に戻ることを望む

天乃「だって、そこには私と同じくらいに私を愛してくれている人たちがいるから」

それは、例え死んだ後でもそうだ

今の西暦組のように数百年後の未来に呼ばれたとしても、

そこでだれかに愛されるようなことがあっても

自分には帰るべき場所があるのだと、そう口にしたことだろう

天乃「ああ……」

そう、つまりだ。

みんなの立場に自分を当てはめて考えてしまえば

この答えなど考えるまでもなかったことなのだ


球子「ごめんな、困るよな……」

天乃「ううん、そんなことないわ」

球子「でも、タマ達を消滅させて力を返還することは天乃にもデメリットがあるだろ」

戦力として純粋なことを言えば、

単純に戦闘メンバーが大きく削がれることになる

千景や若葉、球子に歌野

巫女としての力を含めれば水都に沙織

現在の約半数が損なわれることになる

そして、最も大きな弊害が

返却した力が天乃へと与える影響だ

球子「天乃がまだ苦しんでるときに聞いた話だけどな、力を返した場合、天乃がそれに耐えられない可能性があるんだ」

天乃「……そう」

球子「力を手放して長い。そのうえ子供に持っていかれて抵抗力は極限まで下がってる……そんな時に戻されたら体、どうなるか分からないんだ」

天乃「…………」

黙り込む天乃を見つめた球子は悲し気に目を細めて、首を振る

追い詰めてしまうのが嫌だった

困らせるのが、悲しませるのが嫌だった

でももう、遅い

球子「タマのは我儘だからなっ、気にするなっ……なっ!」

カラ元気だと分かる

それでも球子は無駄に元気よく声を上げて

天乃の車椅子を押して、病室を目指した


√ 11月02日目 夜(病院) ※火曜日

01~10 友奈
11~20 
21~30 夏凜
31~40 
41~50 沙織

51~60 
61~70 
71~80 千景

81~90 
91~00 樹

↓1のコンマ 


では少し早いですがここまでとさせていただきます
明日はもしかしたらお休みを頂くかもしれません

大事な場面での誤字……


千景「話したのね」

球子「ああ」

球子「怒るか?」

千景「土居さんは聞かれたことに対して自分の気持ちを語っただけ」

千景「たとえそれが久遠さんの選択に大きな影響を与えるのだとしても……決めるのは、久遠さんだわ」


では少しだけ


√ 11月02日目 夜(病院) ※火曜日


球子から自分たちの存在を消してしまうことに賛成していた理由を聞いた。

……聞いてしまった。

それは考える前から分かっていなければいけないことなのに

考えていなかったこと。

大切な人の、喪失感

それを天乃は良く分かっていたはずなのに

天乃「っ……」

天乃は過去、三ノ輪銀という大切な人を失った。

それが自分にとってどれほど大きな喪失だったのか

精神だけでなく人格にどれほどの影響を与えたのか

天乃「忘れて良いはずがなかったのに……っ」

両手で顔を覆うと、滲むような熱さが手頸にまで流れていく

自分だけが幸せであっていいはずがない

大切な人を犠牲にして生きたのなら、

その人の分まで全力で命を懸けるべきであると。

その考えを天乃は持っていたはずなのだ

いつから、考えなくなってしまったのかと天乃は歯を食いしばる

夏凜達勇者部と、沙織

皆とかかわっていくうちに酷く甘い考えを持つようになってしまったのだろうか

戒めるべき自分を許し、許されたと勘違いして、

甘えて、我儘を言って幸せになっていいなどと……

天乃「私は……」

最低だと、呪詛が心に突き刺さる


大切な存在が欠けてしまった喪失感を覚えていたのならば、

球子たちがその喪失感によって苦しむことは解っていたはずだし、気づいていたはずだ

この平和な世界にいていいと言われてなお、

自分たちの存在を消してしまおうと考える理由を悟り、認めてあげるべきだったのだ

それなのに、残すかどうかなどと悩んで答えを先延ばしにして

余計に球子達を苦しめてしまった

故意に考えなかったのなら最低だ

けれど、考え付くことすらなかったのはもっと酷い

それだけ、相手の理解がなかったということなのだから

少なくとも、天乃はそう思ってしまう

そう考えてしまう

きっと、それを球子は避けたかったのだ

天乃が優しい子だと分かっているから

人一倍傷つきやすい子だと分かっているから

天乃「…………」

ぽたりぽたりと、布団が水玉模様に湿っていく

罪悪感と、嫌悪感に心が蝕まれる

誰かを失う悲しみ

二度と感じさせたくないと思っていたことを

感じさせてしまっていたことを恨む

球子は天乃は悪くないといった。

呼んでくれたことに感謝しているとも言った

だが、それでも天乃は許せなかった

素直に言葉を受け止めたくなかった

球子が気をきかせてそう取り繕ったのではなく、

喪失感を抱えているという真実と同様に本心を語ったのだと分かっていても

それ以上の後ろめたさが天乃にはあったからだ


ごめんなさい。そう謝って許されることではない

若葉も、千景も、球子も、歌野も

西暦に生きたみんなはきっと、謝る必要はないというだろうし、

天乃が悪いわけではないと笑ってくれるだろう

それでも天乃は自分が間違っていたという考えを改めようとは思えない

その強い喪失感を経験したことがあるからこそあってはならないことだったと、

天乃は思うからだ

天乃「……でも」

球子が言ったことが確かならば

球子達を解放することで天乃は出産後も死ぬほどの苦しみを味わうことになるし

最悪、死ぬ可能性もある

もちろん、そんなことしなくても死ぬ可能性は十分にあるのが現実なのだが。

天乃「私が死んだら、若葉達も消えるのよね……」

答えを決めずにうやむやなままで終わらせて死に至り、

若葉達を消してしまうのだけは避けるべきだろう

天乃の体が酷く傷つくことになると勇者部が知ったら、どう答えるだろうか

夏凜や樹は元から反対していたため、より一層反対するだけに留まるかもしれないが

東郷や風、揺らいでいた友奈の答えはどうなるのか

天乃「みんなには……」

相談しない方がいいかもしれない

球子達の考えを聞く前の相談ではあったが、

すでに相談はしてあるのだから、この後に相談せずに決めてもおかしくはない

仮に相談するとしても、

少なくとも命が危険にさらされるということは伝えない方がいいはずだ



1、勇者組
2、精霊組
3、若葉達の消滅を承諾する
4、若葉達の消滅を拒否する
5、イベント判定
6、考えるのをやめる


↓2


√ 11月02日目 夜(病院) ※火曜日

01~10 風
11~20 友奈
21~30 沙織
31~40 夏凜
41~50 樹
51~60 東郷
61~70 若葉
71~80 千景
81~90 九尾
91~00 園子

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から


東郷「傷心中、ベッドの上」

東郷「何もしないわけがなく――」

風「起きる起きないじゃなくてするしないなのね、東郷……」

東郷「はい……? 当事者が語るのなら当たり前では?」

風「何その常識ですけど? みたいな顔。殴りたい」


では少しだけ


√ 11月02日目 夜(病院) ※火曜日


東郷「……久遠先輩」

夜這いを仕掛けようと思ったわけではない

ただ、少しだけ気になってしまったから。

勇者部にはあまり関係ないことだが、

入院患者同士のプライベートも若干だが守ってくれるカーテンを開いて、東郷は声をかけた。

天乃「!」

驚いた表情を見せ、はっと気づいたように布団をかき寄せる天乃

普段なら欲求不満の可能性も視野に入れる仕草だが、

今回ばかりは絶対に違うと、東郷は余計な思考を即遮断して息を呑む

東郷「どうか、したんですか?」

天乃「別に……」

東郷「土居さんとの話……ですよね?」

天乃「球子は関係ないわ」

東郷「…………」

はっきりとした返事は本当に無関係に思わせてくる

しかし、それは嘘だと東郷は思っていた

夕方の球子の反応

二人で出ていき、戻ってきたときの様子

そして……今目の前の天乃の様子

明らかに無関係ではない


天乃「貴女、車椅子は?」

東郷「この程度の距離であれば松葉杖でもなんとかなりますし、軽い訓練にもなるんです」

自分が車椅子に座らずに松葉杖を支えにしていること、

その状態でここまで来ている理由

聞かれそうなことも含めて答えた東郷は、

それより。と、続けて

東郷「顔を見せてください」

天乃「嫌よ。不意を突いてキスだなんてされたら困るもの」

東郷「それは……確かに、私なら可能性は否定できませんが」

思ったより淫らな好意の印象があるのかと苦笑いを浮かべ、

すぐさま息を吐いて感情を整える

冗談めかした空気に持っていかれてはいけないのだ

東郷「しないと誓います」

天乃「そう言われると余計――」

東郷「心配させるから見せられないんですか?」

天乃「…………」

東郷「正直に話しますが、顔を見せない時点で何かあるということくらい分かっているんです」


泣いているのかどうか

その断定は東郷には出来ないが

不意を突いて声をかけた後に顔を上げないままでいるのは天乃にしては不自然だったのだ

ゆえに、どちらかと言えば泣いているのではないかと東郷は傾く。

あるいは、泣いていたのではないか。と

天乃「せめてカーテン開ける前に一声欲しかったわ」

薄く笑みを浮かべながら上がった顔

涙の跡がある頬は僅かな光のせいで良く目立ち、

東郷の余計な手出しへの困った表情は悲しげだった

東郷「やはり……」

天乃「急に来るからどうしようもなかったのよ。ずるいわね、貴女」

東郷「それに関してはすみません。でも、どうにかされたら誤魔化されると思ったので」

素を見ておきたかったのだと、東郷は改めて口にする

東郷「それで久遠先輩……何があったんですか?」


1、球子もね、残る意思がないって強く言われちゃって
2、ちょっと、嫌な夢を見ちゃって
3、また少し痛みがあって、球子に連れ出してもらったのよ……見られたくなかったわ
4、正直に話す


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から、公共回線使用中につき出来ない場合もあります
※返還時の生命危機は話しません。


天乃「――かったの」

東郷「え?」

天乃「……自分で触っても気持ち良くなかったの!」

天乃「ばかっ、東郷のばかっ! 言わせるなんて最低だわ!」フイッ


東郷「この可能性も!?」

風「ねーよ」


では少しだけ


天乃「分かったわ……でも、あまり大きな声を出さないでね?」

東郷「はい」

天乃「じゃぁ、ベッド座って。こっちに来て」

東郷「分りました」

素直に頷き、従ってベッドへと腰かける

頼りにしていた松葉杖をベッドわきに立て掛けて天乃との距離を詰めていく

出来る限り小声で、ひそかに。

そうしなければならないような話なのかと東郷は息を呑む

天乃「球子に言われたのよ。自分が西暦時代大切に思っていた人がそばにいないのが辛いって、寂しいって」

東郷「それは……」

天乃「貴女も分かるでしょう? 銀のことを思い出した貴女なら」

そう言われた東郷は大きく目を見開き、絶句する

東郷は元々球子達の意思を酌むべきであると考えていた側ではあるが、

しかし、

天乃が今言ったような考えを持っていたかと言われれば、話は別だ

銀のことも考えた

だが、それはあくまで復活させたのが銀だったら。

という個人的なものでしかなかった

意思を酌むべきだと言いながら

その本質までは考えられていなかったのだ

東郷「今なら……わかります」


東郷「それで、久遠先輩は……」

続ける言葉を模索するように詰まらせた東郷は、

悲し気な表情のままの天乃を一瞥して、少しだけ目線を逸らす

東郷「考えてあげられなかったから、罪悪感をかんじているんですね……」

原因さえ聞いてしまえば、推測は簡単だった

天乃は非常に優しい性格で

自分よりも他人を優先してしまうような人で

なにかがあったとき、人一倍傷つきやすい人だから。

そんな天乃のことを知っていれば、

どんなにお茶らけた性格していてもわかるだろうとさえ、東郷は思う

東郷「泣いてしまう、ほどに」

天乃「……馬鹿みたいだって思う?」

東郷「優しすぎるというか、自分に厳しすぎるのでは……とは思います」

けれど、馬鹿みたいだとは思いません。と、東郷はっきりと明言する

天乃「ずいぶんとオブラートに包んでくれるのね」

東郷「あまり卑下しないでください」

天乃「球子達のことを何もわかってなかったのよ? 銀のことがあるのに、気持ちは嫌と言うほど味わったのに」


天乃「それがどういう意味か分かる?」

東郷「……っ」

天乃「自分で言えば、銀のことをきれいさっぱり忘れていたようなものなのよ」

天乃が浮かべる薄い笑みには感情が宿っているようで、宿っていないようで

そこはかとない恐怖を感じる東郷は一目向けてしまった自分を食い止めるように手に力を込めていく

気圧されてはいけない

受け止めきってはいけない

かといって、流されるわけにもいかない

東郷「それは、それは久遠先輩……言い過ぎでは」

天乃「ううん、そんなことない。だって、覚えていたのならちゃんとそのことも考えられるはずだもの」

東郷「心身共に限界が近い身の上ででも……ですか?」

多少の猶予はあったとはいえ、

自分のことで殆ど手一杯だったはずだし、

戦いを終えているのだとしても、

自分の代わりに過熱する戦いへと赴いていた勇者部のことで心労は増す一方だったはずだ

それでなお、考えが足りないことを責めるのであれば……

東郷「それでも。と言うのなら、久遠先輩」

天乃「なに?」

東郷「私のことを叩いてください。罪の重さに比例する力で」


天乃「何言ってるの?」

東郷「さっき、言いましたよね? 貴女も分かるでしょう? と」

天乃の言い方に極力寄せて聞き返した東郷は、

天乃が答えるよりも先に口を開く

反論を聞くのは無駄だ

東郷「分かります。分かっています」

いえ、そうではなく

あえて区切り、強調し、気を引いて

視線がより強く注がれていくのを感じ取る

東郷「分かっていなければいけなかったんです。久遠先輩と一緒に」

天乃「…………」

東郷「自分のことがひと段落して若干の余裕があったのならなおさら」

そう言い、東郷は笑う

自分のことを馬鹿にするような、嘲笑的な笑顔

東郷「あの時の私が何を言ったか覚えてますか? 意思を尊重したい。ですよ? その気持ちも分かっていなかったのに」

戯言にもほどがあるとは思いませんか?

不適切極まりないとは思いませんか?

続けざまに自分を罵倒し、天乃を圧倒して

東郷「分かったような口を利くなど言語道断、厚顔無恥も甚だしい。ただ気づかなかったよりも重罪です。切腹すべきだわ」

天乃「と――」

東郷「止めないでください。心身疲労の著しい久遠先輩が悪なら私は最悪です。情状酌量の余地は皆無のはず……違いますか?」


では途中ですがここまでとさせていただきます
今月中はしばらく休みの日が増えることになるかと思います。



東郷「叩いてください」

天乃「ちょ、ちょっとま――」

東郷「お尻を」ズパァァァァァァァン

東郷「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

風「まだ満開残してるんだけど? ん? ほら、出しなさいよ」

東郷「もっ、申し訳ありませんでした。自重します!」


すみませんが本日はお休みとなります
可能であれば明日、通常時間から行う予定ですが、
場合によっては出来ない可能性もあります


では少しだけ


天乃「やめて」

東郷「嫌です」

天乃「東郷」

東郷「嫌です」

天乃「……東郷ッ」

少しばかり、語感が強まる

だが、東郷は全く動じなかった。

睨むような視線を浴びせられても関係ない

苛立ちにすり替わりつつある悲しさを感じる声

それを受けてなお、東郷の口はゆっくりと動く

東郷「嫌です」

あくまで、東郷は冷静だった

自分のことを責めたい気持ちがないと言えば嘘になる

だが、それで冷静さを失ったわけではないのだ

天乃「東郷、いい加減に――」

東郷「久遠先輩」

小さく、強く、確実に

そこからにじみ出ていくような恐ろしさを含ませて

東郷「また全部、自分の責任にしようとすることはいい加減しなくていいんですか?」

東郷は酷く落胆したように問う


東郷「久遠先輩は銀のことを忘れてしまっていたと言いますが、本当に忘れているのはそれだけですか?」

嫌なことが沢山あった

辛いこと、苦しいこともたくさんあって

それはやっぱり、忘れたくなるようなものだっただろう

けれど、忘れていいことではなかったはずだ

それがどういう影響を及ぼしたのか

天乃と勇者部、東郷には何があったのか。

東郷「…………」

過去、自分が知らずに苦しめていたことを思い出して

噛み切れてしまいそうなほどに強く唇を噛む

東郷「支え合うのはもう、やめたんですか?」

天乃「忘れては、ないけれど……」

東郷「それなら、久遠先輩の責任の半分を私に下さい」

もしもそれでも重いというのならば

それでも抱えきれないというのならば

きっと、同じ喪失感を味わったかつての仲間である園子も共に支えてくれるだろうと東郷は思い、

距離の近い天乃の手に手を重ねて優しく握っていき、

指を絡めていく

東郷「自分が負うべき責任を負わせてしまう悔しい気持ちは……もう嫌なんです」


いわれなければ銀を失った悲しみと似た思いが球子達にあるとは気づかなかった。

理解できるはずのことを理解できなかったという恥ずべき考えをしていたと、

悔やむことも何もなかったはずだ

それは、東郷の心にもわずかながら傷をつけることになったが、

しかし、東郷は【言わなくてよかったのに】とは思わない

むしろ、そのリスクがあってなお話してくれたことに感謝さえする

東郷「あの時もそうだった……良かれと思っていた牡丹餅が酷く久遠先輩を苦しめていたのを教えてくれた時です」

言われた後ならどこかしらに怪しむ点はあったように思えるが

いわれなければ気づくことはなかった。

ずっとずっと、悪意なき善意による拷問を続けていただろう

天乃には言わなかった罪があり、東郷には気づかなかった罪がある

それとこれとは、東郷にとっては似たようなものなのだ

東郷「久遠先輩は全部自分で抱えようとした。今もそう」

天乃「…………」

東郷「良いんですか? それで」

間違ってないですか?

正しいと思いますか?

勇者部の存続さえ危ぶまれるような状況にまで発展してしまったその選択

東郷「本当に、それでいいんですか?」

努めて優しく、東郷は訊ねる

天乃の心が疲弊しきっているのは解っているし

ここで突き放してしまっては余計辛い思いをさせてしまうだけであることも理解しているのだ

東郷「久遠先輩……妻だけが子供の責任を負うべきだと思いますか? あるいは、夫だけが子供の責任を負うべきだと思いますか?」


1、それとこれとは話が違うわ
2、答えない
3、……それは
4、でも、実父ではなかったらどう? 再婚……だったかしら。そういう立場で、子供の過去の責任だったら?

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


風「ねー東郷。この勇者の章見てどう思う?」

東郷「……………」

東郷「それとこれとは話が別です。そもそも私が神樹様に存在を概念と呼べるほどの範囲での消滅を望んだ証拠はないので」

夏凜「つまり神樹様には全責任負わせるのね、あんた」


東郷「物事は常に臨機応変に対応するべきよ。夏凜ちゃん」


では少しだけ


天乃「……それは」

それは、そう思わない

子供に関しては二人が担うべきで、支え合うべきで

どちらか一方に押し付けるのも、

どちらか一方のみが全てを持っていくのも、違う

天乃「それは、でも。東郷……」

東郷「多少話は変わるかもしれませんが、似たような話です」

互いに関わっている事柄に対しての責任

それは誰が負うべきなのか

そもそも、【誰が】の時点で違うのだが。

東郷「それとも、そんなに勇者部は……私は……頼りないですか?」

天乃「そんなことないわ。ただ、根本的な責任は私にあると思うだけ」

東郷「安易な考えで決められるようなことではないのに、考える場を用意できなかった私達も少なからず原因では?」

そして

東郷「やはり、同じく喪失感に関して気づくことのできなかった私は同様に背負うべきだと思います」

天乃「…………」

東郷「否定は、させません」


天乃「………」

東郷「………」

黙り込む天乃をじっと見つめる

以前は何を考えているのかわからないというより、あまり表に出してこなかったのだが

最近はそこまでの余裕がないのだろう

黙っていても何を考えているのかは分かりやすくて

顔に書いてあるという表現がどのようなものなのかよくわかったと、

東郷はひそかに思って笑みを浮かべる

困った人だ

東郷「いわなければよかったとか考えるのは止めて貰っていいですか?」

天乃「考えてないわ」

東郷「今の久遠先輩では、嘘はついても騙せないですよ」

天乃「……そんなことない」

東郷「別に、このまま押し倒して何も考えられなくなるくらいに朝まで乱れさせても良いんですよ?」

どうせ登校するわけではないし、リハビリは努めるべき事であって義務ではない

多少復帰が遅れることにはなるかもしれないが

天乃に悪いことを考えさせ続けないようにすることができるのならば正しい選択だろう

東郷「時間があればあるほど念入りに、広く、深く、解けていくようにすることができるので」

天乃「分かった。考えないようにしておくわ」

東郷「……それは残念です」


残念だといいつつ、東郷は嬉しそうに笑みを浮かべながら

ゆっくりと天乃から離れていく

ずっとそばにいたいと思うし、抱きしめてしまいたいとも思うが

それでは天乃が休めない

母体にも子供にもあまり良くはない

だから。

東郷「…………」

離した手を、そうっと天乃の頬にあてがい、

撫でるようにしながら持ち上げて目線を絡めて

優しく唇を触れさせる

性的な気持ちのない、ただの接触

優しさと、温もりと

自分の思いを伝えるためだけの接吻

天乃「…………」

今度こそ離れる東郷を真っ直ぐ見つめ続ける天乃は、

自分の唇に触れ、息を吐く

天乃「これだけでいいの?」

東郷「それが目的だったわけではないので……それに、少し自粛します」

球子達の件もある

天乃の体のこともある

それゆえに身を引いた東郷は少し考えて

東郷「久遠先輩。明日はもう、泣かないでくださいね」

小さく願った


√ 11月03日目 朝(病院) ※水曜日

01~10 
11~20 風
21~30 
31~40 樹
41~50 
51~60 若葉
61~70 友奈
71~80 
81~90 夏凜
91~00 千景

↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日はおそらくお休みとなります
一日のまとめは再開時


風「とっ……東郷が自粛ぅ!?」

樹「そんな驚かなくても……」

夏凜「とはいえ、あの東郷が自粛ってのはなんか違和感あるわね……」

東郷「ふふっ、みんな正座して?」ニコッ

東郷(決意を鈍らせたくない……私が行かないと沢山の生贄が必要になってしまうから)


すみませんが、
本日は再開予定でしたが、諸事情によりお休みとさせていただきます
明日は出来る限り再開予定ですが、今月中は再開できない日が多いかと思います

一日のまとめのみ、出します


1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流有(正直に話す、罪の在処)
・   三好夏凜:交流有(万が一があったとしても)
・   乃木若葉:交流有(園子と若葉、天乃と陽乃)
・   土居球子:交流有(消える理由)
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


11月02日目 終了時点

乃木園子との絆  70(高い)
犬吠埼風との絆  97(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  86(とても高い)

結城友奈との絆  105(かなり高い)
東郷美森との絆  115(かなり高い)
三好夏凜との絆  135(最高値)
乃木若葉との絆  94(かなり高い)

土居球子との絆  40(中々良い)
白鳥歌野との絆  42(中々良い)
藤森水都との絆  35(中々良い)

  郡千景との絆  41(中々良い)
   沙織との絆  115(かなり高い)
   九尾との絆  63(高い)

    神樹との絆   9(低い)


失礼しました。こちらですね


1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流有(正直に話す、罪の在処)
・   三好夏凜:交流有(万が一があったとしても)
・   乃木若葉:交流有(園子と若葉、天乃と陽乃)
・   土居球子:交流有(消える理由)
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


11月02日目 終了時点

乃木園子との絆  70(高い)
犬吠埼風との絆  97(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  86(とても高い)

結城友奈との絆  105(かなり高い)
東郷美森との絆  117(かなり高い)
三好夏凜との絆  135(最高値)
乃木若葉との絆  96(かなり高い)

土居球子との絆  42(中々良い)
白鳥歌野との絆  42(中々良い)
藤森水都との絆  35(中々良い)

  郡千景との絆  41(中々良い)
   沙織との絆  115(かなり高い)
   九尾との絆  63(高い)

    神樹との絆   9(低い)


※夏凜は変わりません


√ 11月03日目 朝(病院) ※水曜日


天乃「夏凜も学校行くの?」

夏凜「ん? いや、今日のところはまだ行かないわよ……あんたと一緒ね」

そう言った夏凜はいたって健康そうにえみを浮かべて

手を軽く振る

天乃の穢れを背負ったおかげで体調を崩した夏凜だが、

それ以外の体の問題はないのだ

明日か明後日になっても体の調子が悪くならないのであれば、

通常通り登校できるようになるかもしれない

東郷にしても天乃のもとへ松葉杖で近づいていくことが出来るくらいには歩けるようになっているし、

両腕が自重を支えられるようになってきているため、

先日聞いたように園子が今月半ばにでも動けるようになるというのは間違いないし

東郷はもう週末辺りにはもう満足に動けるようになっているかもしれない

夏凜「なによ。寂しい?」

天乃「別に、貴女には貴女のするべきことがあるもの。寂しいだなんて思わないわ」

そもそも朝は病院、夜も病院

夕方も部活がなければ病院と基本的には天乃と一緒にいるのだ

寂しいだなんてないはずなのだ

天乃「ただ、このまま戻って勉強大丈夫なのかなって」

夏凜「余計なお世話だっての」


夏凜「そりゃまぁ、多少遅れてるって自覚はあるけど」

色んなことがありすぎて

授業的な遅れはもちろんのこと

少し前の勉強内容がちょっぴりあやふやな感覚もあるが

それでも取り戻せないレベルではないと夏凜は言う

東郷「そうですね……幸い、学校の授業の遅れは同級生がある程度教えてくれているみたいですし……」

友奈「そこまでで少し分からないこともあるけどね」

風「それは友奈の勉強不足でしょー? 勉強しなさーい」

友奈「えへへ……」

勇者としての問題や、天乃の事

色々抱えていた問題も少しずつ解消されていき、

学生としての部分を多く持ちことが出来るようになってきたのだろう

勇者と言うよりもそんな一面を強く感じる夏凜達

天乃「確かに二年生だものねぇ……まだまだ余地はあるわよね」

天乃はどこか遠くに感じてしまう心を隠すように笑みを浮かべて

天乃「進級できる?」

夏凜「中学で留年とかあんの?」

風「あたしなら経験してるだろう的な目で見んのやめて貰っていい?」

夏凜「悪かったわ」

風「そ――」

夏凜「風は浪人だった」

風「んー? 夏凜ちゃーん?」


樹「あはは……あ、あのっ。勉強なら園子さんはどうですか?」

園子「ん~?」

会話が流れてきたのだと気づいた園子は、

ゆったりと間延びした様子で考え込むそぶりを見せると

少しは動かせる手でぐっと親指を立てる

園子「ばっちぐーだぜー」

暇すぎてやることなかったんよーと

壮絶だったであろう日々を何気ない入院生活だったかのように笑い飛ばす

天乃達のことも気にかけていた園子だが

毎日毎日そこで気を張っていたわけでもない

いつかきっと。という考えを捨て去ることが出来なかったからこそ、

勉強をしていたのだ

それに、このままでは小学校中退で人生が終わってしまう

園子「なんならふーみん先輩に勉強を教えることだって……!」

風「あーいや、それは大丈夫……うん、大丈夫、問題ない」

天乃「目を逸らしながら言われても、不安になるわ」

風「まだ11月だから! そう、まだ11月だから大丈夫!」

断ち切る勢いで言い放った風に目を向け、天乃は少しばかり困ったように苦笑する

風は元々勉強が出来なかったわけではないのだ

まだ11月だからというのが冗談ではないならいざ知らず

冗談で言えているうちはまだ平気かもしれない

そして、このまま勇者としての活動もなくなれば……

天乃「…………」


1、勇者組
2、精霊組
3、ねぇ、みんなは勇者関連についてなにも聞いてないわよね?
4、ねぇ、もしも勇者関係でなにかあったら教えてね?
5、このまま……このまま日常に戻れるといいわね
6、球子達の想いについて話す
7、イベント判定


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「教えると言えば、久遠先輩には先生……特に家庭教師してほしいわ」

東郷「それっぽいからとかける伊達眼鏡! 無意識に近い距離感!」

東郷「あまりにもできない時にはご褒美に何でもしてあげるという約束……あざとい、あざといわ!」

天乃「えっと……そういうプレイ……? だったかしら、あるの?」

東郷「お教えしま――」バコンッ

夏凜「させるかッ!」

では少しだけ


天乃「ねぇ、みんなは勇者関連についてなにも聞いてないわよね?」

友奈「勇者関連ですか……?」

そんなことは頭になかったのが良く分かる友奈の反応に続き、

なぜそんなことを言うのかと言いたげに風は顔を顰めた

妙な勘繰りと言われればそれまでになってしまうかもしれないが、

受け取り方次第では【自分は聞いたが、みんなは聞いていないか?】というようにも取れてしまう

対面に近い位置にいる夏凜がその表情、考えを巡らせているのを横目に、

風は「んーと」と、少し大きな声で呟く

風「それはどういう意味で? なにか不安な事でもあるわけ?」

天乃「勇者として役に立たない私には通ってこない話があるんじゃないかなって思っただけよ」

沙織「あえて付け加えるなら、危険であれば危険であるほどみんなは久遠さんに伝えないだろうなーってやつだね」

天乃「そうね」

友奈「でも、出来る事はないかなぁ」

東郷「端末が手元にないという点を除いたとしても今の私達の状態では出来ることは非常に限られるかと」

夏凜「その限られた出来る事をやらされるんじゃないかって話じゃないの?」

それが危険にしろ、安全にしろ

関係なくやらされる―秘密裏に行う時点で前者だが―のではないか

天乃はそう聞きたいのではと夏凜は探るように天乃へと目を向けて

夏凜「そうなると、あんたにはその程度の話が伝わってるってことになるわけだけど」


樹「でも、出来る事なんてあるんでしょうか?」

夏凜「戦力として数えられるだけでも十分じゃない?」

風「そりゃねぇ。樹はもうちょっと自信もっていいのよ?」

樹「えへへ……嬉しいけど、そうじゃなくて」

樹は無傷ゆえに満開しても後遺症の被害はみんなと比べれば少ないし

端末が返却された場合に最も自分本来の戦いがしやすいのは間違いない

だが、今のところ防人での対処に問題はなく

勇者の力を借りなければいけないほど切迫した状況ではないはずなのだ

もしもまた勇者部の力が戦力として必要になってきているのだとしたら

当然、樹海化が起きるはずだしその予兆を感じていてもおかしくない

それらのないまま、力を貸してほしいと来るのなら

それは想像もつかないような特殊な事例の可能性が高い

樹「なんというか、あのね? えっと、勇者として戦うようなことじゃないと思う……欲しいのは」

東郷「つまり……そうね……」

樹が悩みながら絞り出した言葉を受けた考え込む

樹自身、自分が伝えたい言葉を完全に言葉には出来ていないのか渋い表情を浮かべていて

完璧に考えが読めたわけではないと、東郷は自分を抑えて口を開く

東郷「樹ちゃんが言いたいのは、力としての私達は求められていないんじゃないかって言うこと? 極端に言えば数合わせ的なもの?」

樹「そんな感じ……かもしれないです」


風「自分が出来ないような部分に代理として置かれるか……うーん……」

友奈「でも、久遠先輩や勇者部がどうなるのかなって大赦の人たちも考えてくれると思う」

そんな意味不明な助力を求めたら

そんな自力で危機回避できるかも分からないような状況に引きずり出して

なにか、良くないことが起きてしまったら

その場合、天乃が巻き込まれたら勇者部が黙っていないし、

勇者部が巻き込まれたらほかのほかの友奈達勇者部や天乃が黙っているはずがない

沙織「それでもなお招集かけてきたときは、要注意なんだろうね」

そう言った沙織は、

皆も分かってるだろうけど。と、繋いで

沙織「みんなといないところで協力を求められたらまず良くないことだって考えた方がいいと思う」

朝や夕方、夜といった一日の大半をみんなで過ごす勇者部だが

一人の時間がないわけではない

その時間に出会い、話を持ち掛けられる

そんなことがあったとしたら、それは悪いこと―天乃達にとってはだが―だろう

沙織「皆は、言われてないんだよね?」

夏凜「なんにも」

やや呆れ交じりに言い放った夏凜は東郷へと目を向けて頷く。

東郷も夏凜も学校に行かない分リハビリを行っており、基本的に一緒なのだ

そんな密談をする余裕はなかったのは確実といっても良い


ではとちゅうですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

可能であれば切りのいい部分までは先行して行う可能性もあります


では少しだけ


沙織「つまり今のところは……心配はないわけだ」

東郷「そう、ですね。現状では大きな問題は、ないかと」

沙織はきっと天乃がまだ何か言いたいのではと考えて目を向けたのだろうが、

東郷は昨日の件もあってだろう

球子から言われたことを言わないのかと言いたげな視線を感じた天乃はちらりと目を向けただけで

苦笑いを浮かべた

天乃「そう。ならいいのよ。ごめんなさい」

夏凜「そういうあんたはどうなのよ」

天乃「こんな状況……というより、誰かと常に一緒にいる以外ない私に秘密があるって?」

夏凜「ありそうなもんだけど」

訝し気に

やや冗談めいた声色で答えた夏凜は小さく肩をすくめて

夏凜「で、学校は?」

風「がっ……あーっ!」

樹「あっ、瞳さんが待ってますっ!」

友奈「わーっ!」

バタバタと。

騒がしい朝の一風景だった


√ 11月03日目 昼(病院) ※水曜日

01~10 
11~20 夏凜
21~30 
31~40 東郷
41~50 
51~60 若葉
61~70 
71~80 千景
81~90 
91~00 園子

↓1のコンマ 


すみませんが昨日の続きだったので今日はここまでとなります
明日は出来れば少し早め再開、今日分と合わせて進行できれば。

少なくとも来月からは通常運行可能かと思います


交流無し、天乃単独、


では少しだけ


√ 11月03日目 昼(病院) ※水曜日


下手な事は言うべきではないと、今更思う

昨日夏凜と話した時もそうだ。

夏凜がよくよく子供のことを考えてくれているからと、

自分に何かがあっても安心だなどと、言ってしまった

元々体が弱ってきていることもあったが、

大赦がやろうとしていること、

天乃がやらされる可能性のある事

それを知ってしまったからこその発言は夏凜に不信感を抱かせた

天乃「……なにかあるって絶対思ってるわよね」

昨日の時点で感じていたことだろうが、

今さっきのことでもう、確信に変わったと言っても語弊は生じないだろう

検査やリハビリのために自分以外いない病室を見渡して、

今にも破裂してしまいそうな自分の腹部を優しく撫でる

天乃「っ……」

本来なら軽く歩いたりするべきだが、両足の動かない天乃には当然できるわけはなく

腰にかかる負担、その痛みは尋常ではない

天乃「はぁ……っ」

精神的にも身体的にも痛みのある今は

ただただ、辛いものばかりだと心は沈む一方だった


天乃「一人で考えてるせいではあるんだろうけど……」

気落ちするのも、良い考えにならないのも。

状況が悪化の一途をたどるばかりだったり、

好転する兆しが見えないという状況であることも一因ではあるのだろうが、

やはり、その状況下でありながら一人きりで思い悩んでしまうからだろうと天乃は思う

だが、それが分かっていても簡単に口にしていいことではないのだ

皆が天乃を巻き込まないために勇者としてのことに口を閉ざそうとするのと同じように、

天乃が抱えていることは簡単に口にしていいことではないのだ

西暦勇者から力が返還されることの利害

天乃が持つ、勇者が関わってくるであろう大赦の作戦

主要な問題といえるそれらはどちらも天乃にとって害あることだからだ

天乃「痛っ……ぅ……はぁ……体が砕けそう」

枕元のリモコンを操作して、身体ごとベッドを横にしていく

その比較的体への負担が少ない動きでも痛みを訴えてくる体に、

天乃はたまらずため息をついて、目を閉じる

出来る限り悪いことは考えないようにしたい

球子の件を話した東郷、大赦が行おうとしている件を共有した園子の二人はともかく、

夏凜にまで悟られてきているのだ

ほんの些細な変化にでも、きっと気を使わせてしまう

天乃「なら話せばいいじゃない……」

そう呟いて

天乃「それが出来たら苦労しないのよ……馬鹿ね」

自分自身に吐き捨てた


1、精霊組
2、ゆっくり休む
3、大赦
4、イベント判定


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

大赦呼び出し、交流


東郷「私達にも子供が出来ないのは、今後においてやや問題になってくるわ」

東郷「両親が認めてくれているとはいえ、それはやっぱり勇者として戦っているからこそ」

東郷「普通なら血が絶たれることに非難が集まり反対させるのは必然……はっ!」

東郷「そうだわ! 久遠先輩のお兄さんの種を頂いて射精機能付き疑似男性器で久遠先輩に妊娠させて貰えばいいのよ!」

東郷「それなら久遠先輩との子供も作れて処女も捧げられて周りの反対理由も解消出来て問題が起こらないわ」

夏凜「いきなり何言ってんのあんた」


では少しだけ


天乃「呼び出してごめんなさいね。でも、どうしても気になったのよ」

「……そうですね。私達としても、聊か気になるところです」

検査という名目で病室を離れた天乃は大赦が行おうとしていることについて。と、

やや伏せた文言で連絡を取り、大赦を呼び出したのだ

ここ最近の情報はあまり共有していないが、

以前に協力を要請したこともあってか、大赦にも思うところはあるのだろう

久方ぶりの仮面の奥、探るような視線を感じて天乃は顔を顰める

天乃「私がどうして貴女達が行おうとしてることを知っているのか気になるの?」

「いえ。なぜ、そのようなことを言われたのかと」

天乃「そういう疑問を抱いてる視線じゃなかったわ」

天乃はもう、大赦が秘密裏に行おうとしていることを知っているが、

大赦は天乃がそれを知っていることは知らない

だから、行おうとしていることについて。といわれたからと

なぜそれを知っているのかなんて聞くわけにはいかなかった

言えば、何かあるのだと教えることになる

そして、それを知られればさらに根元まで聞かれることになると思ったからだ

天乃「別に隠すことないじゃない。私だって勇者は勇者よ? それに壁の外のことだって知ってるんだから」

「防人の件……ですか。それは久遠様には関係のないことです」


天乃「防人に加わった楠さんは元お世話係なのに」

「その件とこの件は話が別です」

天乃「楠さんが関わっていることに違いはないわ」

「彼女については、今現在も問題なく防人としての役目を全うしております」

そう答えた大赦の遣いは少し考えようとしたのだろう

数秒だけ黙り込んで「そうですね……」と小さな声で言う

天乃に向けたものではないのか

それとも無意識な発言なのか

仮面の奥の口は続けて言葉を紡ぐ

「彼女は私達が想像していた以上に良い働きをしてくれています」

天乃「でしょうね。真面目な子だもの」

「それも関係しているとは思いますが……やはり、久遠様方と接したことが大きいのかもしれません」

天乃「あら」

思わぬ称賛―皮肉ではない―に思わず声を上げた天乃は

子供っぽく笑みを浮かべて珍しいと呟く

自分と関わるのは毒に触れるような行いであるとまで警戒されていると思っていた天乃としては、

芽吹に僅かにでも反抗心を抱かせた関わり合った時間に意味があったと言われるとは考えていなかったのだ

むしろ

余計なことをさせなければよかったと憎まれることさえ視野に入れていたほどに。


「元々、彼女は成績こそ優秀ではありましたが、我が強く惜しい存在でした」

だからこそ、天乃と接触させても変に歪になることなく

また、ほだされることもないだろうと世話係に任命されたのだが。

しかし、我が強いからこそ天乃との相性は色々な意味で悪かった

「今もその名残は失せていませんが、勇者よりも力が劣る分、連携を要とする防人での隊長としての彼女は非常に頼りにされているようです」

天乃「…………」

「本来、防人は入れ替わりが激しいものだと想定されていました。しかし……」

それは星屑との戦いによる負傷等の離脱だったり

精神的なものであったりと理由は様々だが、

楠芽吹率いる防人は負傷することはあっても死者はなく、精神的な離脱も起こってはいない

「彼女の存在によって離脱は最小限に留められ、団体としての能力は非常に優秀です」

ゆえにチームワークは向上し

各個人は経験を重ねて能力の向上もしていくという好循環

大赦としてはとてもありがたいことだった

「彼女は着任した当初、こう言ったそうです。私は隊長には向いていない。少なくとも、彼女のような存在にはなりえない」

そして、こう続けたのだ

「それでも、任命された以上は隊長として貴女達を精一杯サポートする。だから、貴女達は私をサポートしてほしい。と」

天乃「そう……あの子がそんなこと……」

天乃はそう呟くと、意地っ張りなわが子の優しい一面を垣間見た母親のような穏やかな笑みを浮かべる

心から嬉しそうに、喜んでいる表情

仲良くしきれなかったはずなのに、懐柔しきれなかったはずなのに、大赦が用意した第三者としての存在であったはずなのに。

「……やはり、彼女にとって久遠様との接触は正しかったようですね」

活躍を聞いて喜び

成長していると褒められて嬉しそうにする

偽りではない天乃の芽吹への愛情を感じて、大赦の遣いは関わらせたのが正しかったと再度思い、そして

「とても、非道だった」

そう、確信した


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日はおそらくお休みをいただきます


夕海子「久遠さんという方はとても愛されていますのね。そして芽吹さんはお慕いしていると」

芽吹「彼女は色々な意味で尊敬できる人だとは思います」

夕海子「本心は?」

芽吹「それ以上も以下もありません。彼女はただの……そう、ただの友人です」

雀「め、メブーがデレてるーっ!?」

芽吹「はぁ……そう思いたければ勝手に思ってていいわ。もう」


では少しだけ


天乃「非道……? どういうこと?」

「あ、いえ……」

天乃に問われ、否定しようかと考えた遣いだったが、

聞き間違い、言い間違いでは逃れられないだろうと天乃の視線で察し、逡巡する。

そして

「久遠様はお優しい方ですから。傷つきやすい、失われやすい防人に友人を持たせてしまったことは非道ではないか。と」

天乃「そうねぇ……」

少し困ったような反応だった。

やり過ごせたのかと大赦の遣いが思ってしまうような薄い笑み

だが、天乃は考えつつ言葉を選ぶように緩やかに使いへと目を向けて。

天乃「それだとまるで、大赦は元々そうする予定だったみたいね」

「え……あ、はい。そのとおりでございます」

すでに告げていたように、

芽吹は戦闘技術ならば夏凜にも劣らない好成績だったのだ。

防人という役割を考えられた時から、そのメンバーの一人として候補に挙がっていたし、

それは天乃とかかわらせるよりも先に考慮していた部分だ

「楠芽吹が防人に加わることはあらかじめ予定されていました」

天乃「うん、それはそうなんだけど」

「なにか気になることでもございますか?」

天乃「楠さんが危険になれば、私達が力を貸すだろうとか考えていたりするのかしらって、思ったの」


すみません、まぎれもなく寝落ちしました
本日も少しだけやっていきます


まさかね。と、

自己否定するかのように笑みを浮かべる天乃は「流石にないわね」と呟く

独り言のはずなのに、問われている気がして

しかし、まともに答えれば認めてしまうのではないかと、大赦の遣いは苦笑に留める

仮面の奥に隠した素顔が湿気に蒸れる

緊張感に浮かんだ冷や汗が伝う

その狭い視界に見える少女は真っ直ぐ、見つめて

天乃「ねぇ」

「は、はい」

思わず声が震える

威圧されているわけではないのに、

なにかが天乃を恐れて震えさせるのだ

天乃「そんなに怖がらなくても良いんじゃない?」

「恐れているわけでは……」

天乃「そう?」

天乃にはもう、戦う力はないと聞いている

神への冒涜、穢らわしい力はないはずだ

だとしても、収まらない

例え、目の前の少女が笑みを浮かべていようと。


1、近畿地方の件、うまくいったらどうするの?
2、近畿地方の件、うまくいかなかったらどうするの?
3、防人はこれからどうするの?
4、貴方達、私に言うこととか、ない?

↓2


天乃「それなら本題に入っても平気そうね」

「っ」

変わらない笑顔を浮かべたまま手をパンっと叩いた天乃は、

聞きたかったことがあったのよ。と、最初と同じことを繰り返す

天乃「貴方達、私に言うこととかない?」

「い、言うことなど……」

天乃「そうなの?」

「………」

大赦からの遣い―声色からして女性―は息を呑んで黙り込む

本当に言うことがないのかもしれないが、

言うことはあるが、言えることではないのだろうと天乃は思う

最も、大赦が隠していることを知っているからこそそう思うのかもしれないが。

天乃「何もないの? 勇者に関して、防人に関して、私の力に関して、私の交際関係に関しても……なんにも?」

不思議そうに問う天乃の声

不思議がっているようで、どこか煽るような空気を含んでいるようにも感じてしまうのはきっと、

後ろめたさがあるからだろう

「は、はい」

天乃「そう……」


それはあまりにも失望した声だった。

浮かんでいた笑みも急激に沈んでいく太陽のように陰っていく

自分の発言が軽率だったのではないかと、一瞬でも思わせる天乃の素振り

「ぁ……」

だが、女性は自分のさらなる軽率な発言をすることはなかった

言葉を飲み、息を止め、

落ち着いてと自分の胸元に手をあてがって、ため息をつく

天乃は色々な意味で要注意すべき人間だと伝えられているが、

こういった点においても、忠告は受けているのだ

気を引いたり、情に訴えかけるような言動

少女ゆえに強い説得力のあるそれらに騙されてはいけないと。

「現状では……特に久遠様にご報告するような案件はございません」

天乃「まぁ、私は力が使えないものね。何かあっても役立たずよね」

むしろ。と、続けて

天乃「夏凜達勇者の力を借るようものなら余計な口挟むし、邪魔よね」

「じゃ、邪魔などと……そんな恐れ多いことなど思いません」

天乃「別に思ってても怒ったりしないわよ? 貴方達の立場で言えばそうだろうとは思うもの」


他愛ない話をしている女学生の雰囲気に戻った天乃の笑みに、

大赦の遣いは安どの息をついて胸をなでおろすと、

仮面の奥で苦笑いを浮かべて、ぎゅっと握りこぶしを作る

仮面がなければハンカチででも顔を拭きたい

そんなことを考えて。

「久遠様は、確かに、大赦からは要注意人物とされておりますが、そのようなことまで思いません」

天乃「ふふっ、そうなの」

「え、あっ、よ、要注意人物というのは」

天乃「ええ、ええ。良く分かっているから良いわ」

天乃は笑う。

大赦が隠していることを分かっていながら。

女性は笑う。

天乃が怒っていないと本気で信じて。

天乃「私には神様さえも傷つける力があるんだもの。仕方がないわ」

「申し訳ございません。何かございましたらご報告いたします」

お話は無事に、終わった


√ 11月03日目 夕(病院) ※水曜日

01~10 夏凜
11~20 
21~30 友奈
31~40 
41~50 東郷
51~60 
61~70 千景
71~80 
81~90 若葉
91~00 風

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「そう言えば、久遠先輩は壁……ドン? なるものをされたら靡いてしまうのかしら?」

風「いやぁ……天乃の場合、相手がイケメンでもどうしたの? とか心配するだけだわ」

樹「でも、夏凜さんがしたら喜びそうじゃないですか? 真剣な顔でしたらもうドキドキです」

夏凜「つっても、天乃なんて今ほぼ寝たきりでしょ?」

園子「ひらめいた! ねたきりならあれだよ~、ベッドン」

友奈「ゼットン?」

夏凜「ピポポポポ……ってアホか!」バンッ


では少しだけ


√ 11月03日目 夕(病院) ※水曜日


風「ただいまーのん、お帰りのハグぅ」

帰ってくるや否や、疲れ切った様子で天乃のベッドへと近づいてきた風は、

天乃に抱き着くようなそぶりを見せながら寸前で膝から崩れ落ちて、ベッドに肘をつく

明らかに何かあった様子に、天乃は心配そうに問う

天乃「……どうしたの?」

風「あたしだって……あたしだってやればできる子なのよ……」

天乃「うん?」

風「この封印されし右手さえ解放出来れば……」

的を射ることができない風の呟き

どういうことなのと言いたげに天乃が眉を顰めると、

一緒に学校に行っていた友奈が笑みを浮かべて

友奈「剣道部の助っ人があったんですけど、風先輩……夏凜ちゃんの方が強いって言われちゃったみたいで」

天乃「あらら」

風「本気を出せば夏凜になんて勝てるんだからーっ! このっ」

夏凜「いや、そんな睨まれても困るんだけど」


風「うぅ……」

天乃「まぁまぁ、誰にでも向き不向きはあるわよ」

風「つまり夏凜には勝てないって?」

天乃「剣道では難しいんじゃないかしら」

二刀流で戦っている夏凜だが、そもそも得物が剣道部が使う竹刀と同系統のもので

扱い方に関してははるかに分があるし、技能面でも夏凜は上だ

比べること自体が間違っているかもしれないと天乃は思うが、

風自身、それは解っているはずで。

天乃「調理部とかなら、風に分があるでしょう? それと一緒よ経験の差があるんだもの、仕方がないわ」

風「それはそうだけど、なんか悔しいのよねぇ。三好さんの方が手ごわかったみたいなこと言われたりすると」

夏凜「そこで私を睨まないでもらいたいんだけど?」

風「全快したらどっちが上か決着をつけるわよ夏凜!」

夏凜「剣道で?」

風「料理で」

夏凜「おいこら」

冗談冗談と笑う風は、

落ち込んでいたこと自体が冗談だというかのように明るい笑みを浮かべて、天乃の手に触れる


風「それで……天乃はどうだったの?」

楽し気な日常

他愛もない喧嘩のような情景

その空気を割くような風の声に、天乃は目を向けた。

天乃「どうだったって何? 検査の事?」

風「それ以外にないでしょ?」

学校に行っていたはずの風が検査を知っている辺り、

夏凜達のうちの誰かから連絡がいったのだろう

下手に恍け通さない方をえらんだ自分にちょっぴり感謝して、天乃は苦笑する

今日は別に検査をしたわけではなく、大赦の人を呼び出して話をしただけだ

聞きたいことはほとんど聞けなかったが、芽吹の事は聞くことが出来た

しかし、それを風達に言うべきなのかどうかと、迷う

本当は検査ではなく大赦の人たちに話を聞きに行ったと言っても内容的にさほど怒られることはないはずで、

そこは正直に話しても問題はないだろう

ただ、なぜ話をする必要があったのか、序盤に嘘をつく必要があったのか

そう問われたとき、大赦がしようとしていることを話しても良いのだろうか?

何もないと白を切るか、芽吹達が健闘しているという話を聞いたと答えるか、大赦の作戦含めて話してしまうか。


1、それなんだけど、風。少し場所を変えない?(後ほど再安価)
2、何もないと白を切る
3、芽吹達の話をする
4、大赦が行おうとしていることを話す


↓2


ではここまでとさせていただきます
あすもできれば通常時間からですが、お休みの場合もあります

一応、オマケページに犬吠埼姉妹と天乃のものを追加しました
練習のものになりますので、クオリティは低めです


天乃「実は――」

友奈「そんなっ」

樹「どうしてまた……」

東郷「よろしい、ならば戦争よ!」ガチャッ

園子「わ~車いすから武器が出てきた」

風「あれはまさか! ストライk――」

夏凜「やめろッ」


では少しだけ


天乃「ちょっと……ね。大切な話があったのよ」

もっとも、大赦から遣わされた人自身から直接その話を聞くことは出来なかったのだが、

それでも、天乃は「その話がしたかったのよ」と前置きを付け加えて

天乃「どうやらね、大赦がまた新しい作戦を考えているらしいの」

風「新しい作戦?」

天乃「そう。今のままでは神樹様が弱り切って人類が敗北することになるというのは、みんなも分かってるわよね?」

そう問いかけ辺りを見回す

最も近くにいる風はもちろん、夏凜達も不安気な表情を浮かべながら、頷く

神樹様の寿命が尽きてしまう日は近い

それはみんなも分かっているが、勇者としての力を一時的に喪失している現状

勇者部には出来ることなどないのだ

そのうえでの作戦というのが、不気味だった

友奈「また、私達が勇者として戦う……とかですか?」

天乃「ううん。まず確定しているのは、楠さん達防人が壁外へと出て近畿地方のある場所に行き、そこから攻めに出る。というところね」

東郷「近畿地方……ですか」

樹「そこに何かあるんですか?」


天乃「これは推測だけど、展開に通じるとされる天橋立と呼ばれるものが昔にあったらしいのよ」

夏凜「そこからバーテックスの基礎って話の天の神を討つってわけ? 防人が?」

夏凜は嘲笑するかのような苦笑いを浮かべながら言うが、

防人達の力を低く見ているわけではない

しかし、それでも勇者に満たない力しか与えられていない防人には無謀だと夏凜は思う

本丸ともなればその守りは強固かつ、相手陣地ゆえに強化も施されている可能性がある

そのうえ、神樹様からの力が弱まる可能性もあるのだ

無謀を通り越して自滅に近い

風「そこから先は勇者様がよろしくってやつじゃないの?」

樹「でも、なにも話は聞いてないよ……?」

東郷「まさか、断れない段階に来てから話に来るつもりでは?」

東郷の冗談ともとれるが取りにくい発言に、

病室の空気は急速に沈み込んでいき、そして

夏凜「あんただけがこの話を聞かされたわけじゃないでしょうね?」

天乃「ええ。そもそも、大赦情報じゃないからそこは嘘偽りないわ」


夏凜「でもそれにしては最近様子おかしいわよね、あんた」

天乃「それは……」

球子達の件。

だが、今言うべきはそれではないし、

それに関しては少なくとも今しばらくはしないと決めたのだ

口をついて出そうになった言葉を飲み込み、天乃は代わりに息を吐く

天乃「これは大赦が確実に行うといったことじゃないわ。あくまで推測。それを踏まえたうえで聞いてくれる?」

樹「なんだか怖いです……」

友奈「嫌な予感がする……久遠先輩に関係すること、かな」

不安を口にする友奈達の一方、

考え込んでいた東郷がおもむろに口を開いて

東郷「流れ的に、久遠先輩が戦いに行かされるのでは?」

風「いや、まさかっ」

夏凜「神樹の力を必要としない、それに再生力をものともしない神に通じる破壊の力」

風「……マジ?」

恐る恐る訪ねてくる風に、天乃は静かにうなずいてから、

もう一度「推測だけどね」と、念押しした


では途中ですが、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

このあと勇者部対策会議


東郷「天橋立……」

風「なにか気になる事でもあった?」

東郷「いえ、天橋立って久遠先輩の名前が入っているじゃないですか」

東郷「なので、もしかしたら起動……といいますか、道を開く鍵は久遠先輩なのではないかと思いまして」

樹「それを言う場合、天の神も久遠先輩が――」

夏凜「だからこそ天乃なんでしょ。通じるどうこうじゃなくて、対等な存在になることができるから」

夏凜「天乃は天乃なのよ。力的な意味でも、そうじゃなくてもね」


すみませんが、諸事情で本日はお休みとさせていただきます
明日可能であれば昼頃から


では少しずつ


東郷「あり得ません」

凍り付いたような空気の中、真っ先に口を開いたのは東郷だった。

大赦に対する怒りを感じさせる瞳、鋭くとがった刃のような声

傍から見ても激昂していると分かる東郷を横目に、

友奈は小さく息を呑んで、手を上げる

友奈「で、でも! でも、推測……なんですよね?」

天乃「うん。確証があるわけではないわ。そもそも、天橋立に向かっているというところも私達の推測でしかないもの」

夏凜「要するに、まぁ……私が言ったのが悪いっちゃ悪いけど、最悪の可能性としてそれがあるかもってだけよ。東郷」

暗に落ち着けと言われたのだと察したのだろう

東郷はなおも不安げな表情を見せながら目を伏せ、頷く

東郷「そうね……早計だったわ」

風「とはいえ、最悪の可能性だとしてもそれがあるってのちょっと問題よねぇ」

樹「私達がまた勇者として戦うことになる……という程度で終わってくれる話ではないんですよね?」

園子「そうだねぇ~……神樹様の寿命の件を考えると大きな手を打つ必要があるのは間違いないんよ」

友奈「それが。久遠先輩が戦うこと。なんですか?」

東郷「そこに関しては夏凜ちゃんが挙げた利点のとおりね。久遠先輩は神の国に対して言えば対国兵器のようなもの。絶大だわ」

園子「今の天さんでは分からないけど……多分、全盛期の天さんが本気で満開したら消えてなくなるんじゃないかなぁ」

天乃「そんなことしたら私の命まで消えてなくなるんだけどね」

樹「それは、絶対に阻止しないといけないですね」


冗談めかして言ったことに対し、

樹でさえ思いのほか真面目に返してきたことに内心躓いた天乃は苦笑して誤魔化す

もちろん、詰みの詰みになるまでそんな盤を引っ繰り返すようなことをする気はないが

そんな気持ちが欠片でもあると知られれば確実に大騒ぎになるだろう

樹「えっと、まず確実なのは楠先輩……防人が近畿地方に行くって言うことなんですよね?」

東郷「近畿地方……当然ながら。というと寂しい気持ちはありますが、軽く検索するぐらいでめぼしい情報は得られないわね」

夏凜「気になるのは、大赦が本当にやろうとしてることよね」

友奈「それは、バーテックスに大ダメージを与えるってことじゃないのかな」

風「それはそうだけど、夏凜が言いたいのはうどんを茹でるのは良いけど、作りたい料理は何なの? って話だと思うわ」

夏凜「合ってるけどうどんで例えるか普通ッ」

園子「それなら、スパイスは近畿地方、神樹様の寿命、大打撃、種を植える、羽衣、天の神というあたりかな?」

夏凜「それで続けんの……? まぁ、良いわ」

一人疲れたようにため息をついた夏凜は、布団の上に指で何かを書いていく

それらが繋がっていることは間違いないが、確実に答えにたどり着くには決定的な情報が足りない

そんな穴を感じて夏凜が握りこぶしを作る隣で、樹が口を開いた

樹「料理なら大赦の人達にも参考にしてるレシピがあるんじゃないでしょうか」

東郷「なるほど、創作料理にせよ、原型となった料理があるということね」

友奈「スペシャルミックスジュースも元々はちゃんとした飲み物だもんね」

夏凜「原型……って言うと、安易かもしんないけど神様ならやっぱり神話がもとになってるんじゃない?」


園子「神話……そうだね。そうだよ! にぼっし~! 神様だもん、ないはずがないんよ~!」

夏凜「でしょ! 絶対……! ぁ……こほんっ」

風の茶化すような視線、樹や友奈達の嬉しそうな表情を感じて、

夏凜は知らず知らずのうちに声高になっていたことに気づき、目を逸らす

一息ついて呼吸を整え、頬が上気する程度の熱は残して――

風「べっつに恥ずかしがらなくたっていいじゃない」

夏凜「うっさい、余計な話はしなくて良いわよっ!」

天乃「可愛いのに」

夏凜「あんたの為に話し合ってんだけどッ!?」

東郷「夏凜ちゃん、落ち着いて」

怒鳴る夏凜を一瞥した東郷は冷静に手を叩いて場を鎮める

普段なら止めずにいるが今回ばかりはと首を振る

東郷「とにかくまずは大打撃等や寿命等は抜きにして、向かう方角と天の神が関係する原型を探し出しましょう」

風「異議なし、学校の図書館や街の図書館はアタシたちで回るわ」

友奈「あと、おじいちゃんおばあちゃんにも話を聞いてみる!」

東郷「では……PC上の情報は私と樹ちゃんで探ります」

樹「頑張って探します」

園子「大赦が答えてくれるかは別にして、探ってみるんよ~」

夏凜「私も読書は趣味の一つだし、瞳の手も借りて調査するわ」

勇者部は誰一人として、諦めるつもりはないのだ

そう言うものだと受け入れるつもりもないのだ

最後の最後で悪あがきだったと嘲笑されるのだとしても、

結果が出ていなければ過程の中に可能性は必ずあると信じているからだ

天乃「……貴女達は」

風「なせば大抵なんとかなる。それが勇者部のモットー。でしょ?」

天乃の困った表情に気づいた風は、

にこやかな笑みを浮かべながら、胸を張って言い切った


√ 11月03日目 夜(病院) ※水曜日

01~10 夏凜
11~20 
21~30 若葉
31~40 
41~50 友奈
51~60 
61~70 千景
71~80 
81~90 九尾
91~00 

↓1のコンマ 


√ 11月03日目 夜(病院) ※水曜日


友奈「久遠先輩、まだ……起きてますか?」

こっそりと忍び込んできた友奈は、大きくなりすぎないようにと慎重な声をかける

皆のベッドの周囲のカーテンは閉められており、

寝ているのか起きているのか確証は持てないが、一応、起こさないようにと気を使ったのだ

天乃「……どうしたの? えっちがしたくなった?」

友奈「いえ……その、そう言うわけじゃないんですけど」

先刻の話の延長線上であり、緊急性のある話ではないし、

天乃が言ったように体が疼いてしまったから解消したいという話でもない

言ってしまえば、明日になってからでも済む話と言えば、そうなのだ

しかし、今言わなければいうことが出来ないような気がして、

友奈はそっと、天乃の傍に近づく

友奈「話してくれて、ありがとうございました」

天乃「感謝するのは――」

友奈「違うんです。えっと……久遠先輩は、私達がああいうことにかかわるのはすごく嫌がると思ってたから……」

だから。と、友奈は小さく呟く

幼さと、精神的な成長ゆえの大人びた雰囲気の重なった表情は整っていて、綺麗で

思わず目をそむけたくなる友奈だったが、

しっかりと見定めてくる天乃の視線を前に、逃げるわけにはいかないと見返して

友奈「久遠先輩が相談してくれて嬉しかったんです」


ましてや、友奈や夏凜達が無茶をしたばかりで

皆が今回の件の一部でも知らされているならともかく、

何も知らされていないということを確認したうえで、話してくれたのだ

断言はできないが、

以前なら、もう少し先になるか誰かに悟られるまで言わなかったかもしれない

だからこそ、友奈は嬉しそうに笑みを浮かべつつも

本当に喜ぶべきかを迷った複雑な表情を見せた

友奈「本当に頼って貰えたんだなって……その、失礼かもしれないですけど、思って」

天乃「……結構、頼り切りになっちゃってると思うんだけどね」

友奈「もちろん久遠先輩は頼ってくれてますけど、危ないことは頼ってくれないから……」

天乃「出来得る限り巻き込みたくはないのよ……私の体の件もそうだけど、貴女達平気で無茶するじゃない」

友奈「それはそうですけど」

天乃「だから怖いし巻き込みたくない。なんでもしてくれるから、諦めないで立ち向かおうとしてしまうから」

それはとても勇敢で、間違っていないことなのかもしれないけれど。と

天乃は話を続けて

天乃「引き際というものを貴女達は考えてない。結果が見えるまでやり尽くそうとする。その結果、失わなくて良いものまで失いそうだから嫌なのよ」

友奈「久遠先輩が助かるのが引き際……だと思います。それが一番大事で、頑張った意味になるんです」

救えなければ頑張った意味などない

救えないまま諦めて島あたら、これからの意味がなくなる。これまでの意味もなくなる

だからこそ、

友奈達にとって天乃の存命こそが最低ライン、引き際なのだ


1、二兎を追う者は一兎をも得ずということわざを知らないの? まずは自分たちを一番に考えなさい
2、そう……でもお願いだから自分のことも大切にしてね? 私は嫌よ?
3、でも、貴女達の誰かが欠けてしまったら、私を助けた意味はなくなるわよ?
4、それじゃ、私も貴女達の存命を最低条件として奮闘しようかしら
5、ふふっ……ほんと。貴女達は優しい子ね


↓2


天乃「…………」

そういった考え方をしている天乃は友奈達のその気持ちが分からないわけではない

しかし、その考えを持っているからこそ、誤りだとも思ってしまう

どこまでも優しい勇者部だからこそ、深追いしてしまうから

天乃「二兎を追う者は一兎をも得ずということわざを知らないの? まずは自分たちを一番に考えなさい」

友奈「か、考えてますっ」

天乃「そうね。私がいないと幸せとは言えない。とか?」

友奈「う……」

天乃「私が一番最初に考えた言い訳よ。その人がいなくなった後のことを考えられない。そのあと幸せになれる気がしない。だから本心で言える事よね」

友奈が軽く頷くだけで答えたのを見て

少し酷いことをしてしまったかなと、天乃はちょっとだけ悔いて息をつく

今も自分はその考えを持っている

これだけ言っているのに、みんなを止めて、みんなに止められているのに

それでもなお、その考えを捨てきれずにいる

そんな自分が言うなど、酷いにもほどがあるだろう

天乃「でも、私は何度も死にかけたし、いつ死んでもおかしくないような存在なのよ。そこまで尽くすのは駄目だわ」

友奈「それは、おかしいです」

天乃「ううん。私の死は力を使うことによる疲弊と考えればある意味寿命のようなものだもの。老衰の邪魔はしちゃいけないわ」


友奈「違う。違います……っ、そんなの全然違います」

力を使うことによる疲弊だから、老衰?

そんなことは絶対にないと友奈は否定する

難しい考えなんて苦手だ。あれやこれやと複雑な解決方法だってすぐには思い浮かばない

今回の相談事だってそうだ

自分だけだったらあんなにスムーズに考えていけなかったと友奈は思う

だが、だからこそ友奈は率直に言い返すこともできるのだ

友奈「そんなの全然寿命なんかじゃないです」

難しく考えられないからこそ単純な答え

難しく考えすぎて、絡まってしまう思考を解く素直な意見

友奈「普通なら力なんて使わなくて良いじゃないですか。普通だったらこんな、こんなことになんてなってないじゃないですか」

天乃「この世界にとっては、これが普通なのよ」

友奈「普通じゃない世界を基準にしないでくださいっ」

天乃「…………」

我慢しきれず、怒ったような表情

けれど、高ぶってしまったことに罪悪感を抱いているのだろう

申し訳なさと悲しさの入り混じった驚きはとても複雑に歪む

友奈「すみません……でも、普通じゃないと思います。普通だったら……きっと」


きっと。そう言って、友奈は言葉を止める

その先は言いたくなかった。

考えに追いついてしまった友奈の口が次に紡ぐのは

今、自分たちはこうしていないはずだということ。

それはつまり、天乃達は入院などしていないし

当然、天乃に子供なんているはずがなくて

体の穢れが強くなって体調を崩すようなことも一切なくて、肉体関係が必要になることもなく、

友奈はもちろん、勇者部の面々と交際するようなこともきっとなくて、

もしかしたら、勇者部なんていう存在そのものが必要とされなかったかもしれなくて

友奈「普通に、中学生だったと思います」

天乃「…………」

友奈「でも、きっと久遠先輩は優しいからどこかで人助けをして、私達の誰かがそれを見て手伝って……最初は人が足りないからボランティア同好会みたいなのが出来たりするんです」

今の勇者部ような状態にはなることが出来ないかもしれないが、

それでもきっと、みんながそれぞれ引き込まれていくんだと友奈は笑みを浮かべる

友奈や樹は天乃のその姿に憧れて

夏凜は剣道部か何かで戦って、強さの究明をしようとか考えて

風や東郷は樹や友奈からの繋がりで興味を持って

園子はボランティア部なんていう一風変わった名前に興味を持ったりして

友奈「とにかく、きっとみんな集まってたと思います……関係は違うけど、きっと、みんな今くらいに仲良しになれてたと思います」

それが普通なのだと、友奈は呟く


天乃「そんな世界だったら、よかったんだけどね」

残念ながら、そうではない

友奈が言う普通の世界

それは神樹様に頼り切っていたり、勇者という存在が必要のない世界のことだ

今ある世界とは全く別種のお話

ゆえに、やはり普通なのはこの世界だと天乃は揺るがない

それがどれだけ歪であろうと、

現実はその歪曲あってこそ普通の世界としているのだから

天乃「……でも、本当の意味で普通ではないってことまでは否定しないわ。別に、貴女が間違ったことを言っているとも思わない」

友奈「それなら」

天乃「だけど、やっぱり現実は現実なのよ。その普通の世界は夢物語」

これはきっと理想と現実の平行線

だからこれ以上続けてもどちらかに統一することはないだろう

そう考えて、天乃は友奈に目を向ける

天乃「友奈が私の寿命を寿命と思わないのは良いわ。でも、その為に貴女や夏凜達が命を削ろうというのなら、私は許さないわ」

消えてしかるべき命

それを延命させるためだけに本来生きられた者が潰えるのは許されないし許していいことではないと、

天乃は思うからだ


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(大赦からの通達、大赦の作戦)
・   犬吠埼風:交流有(大赦からの通達、大赦の作戦)
・   犬吠埼樹:交流有(大赦からの通達、大赦の作戦)
・   結城友奈:交流有(大赦からの通達、大赦の作戦、頼ったこと、無理をしないで)
・   東郷美森:交流有(大赦からの通達、大赦の作戦)
・   三好夏凜:交流有(大赦からの通達、大赦の作戦)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(大赦からの通達、大赦の作戦)

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


11月03日目 終了時点

乃木園子との絆  72(高い)
犬吠埼風との絆  98(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  87(とても高い)

結城友奈との絆  106(かなり高い)
東郷美森との絆  118(かなり高い)
三好夏凜との絆  136(最高値)
乃木若葉との絆  96(かなり高い)

土居球子との絆  42(中々良い)
白鳥歌野との絆  42(中々良い)
藤森水都との絆  35(中々良い)

  郡千景との絆  41(中々良い)
   沙織との絆  117(かなり高い)
   九尾との絆  63(高い)

    神樹との絆   9(低い)


√ 11月04日目 朝(病院) ※水曜日

01~10 九尾
11~20 
21~30 千景
31~40 
41~50 若葉
51~60 
61~70 東郷
71~80 
81~90 夏凜
91~00 

↓1のコンマ 


※曜日ミス、木曜日です

√ 11月04日目 朝(病院) ※木曜日


千景「……大丈夫なの?」

天乃「うん? 何の話?」

どこからともなく姿を見せた千景の唐突な問いに天乃は驚く事もなく平然と答える

話が分かっているはずなのに白々しい対応

だが、そんな態度はいつものことで

千景は呆れた息を吐き捨てて横目に見つめる

千景「貴女、もう一つ大切なことを話していないでしょう?」

天乃「……話さなくて良いことよ」

千景「なら、精霊は存在させたままにするということでいいの?」

天乃「それはまだ答えを出せてないわ」

千景「土居さんの一件で簡単に答えを出せなくなったのは解るわ。けれど、だからといってデメリットを語らなくて良い理由にはならないはずよ」

天乃「語ることでデメリットしかないのよ? 昨日の話とはわけが違うの」

千景「だから黙って苦しもうと言うの?」

球子の気持ちをみんなに知らせれば、

当然、答えは球子達の魂を開放する方に動くことだろう

そうなった場合、天乃は戻ってくる力に苦しむことになるし

その結果死に至る可能性もなくはないのだ

千景「呆れた話だわ。結城さんが聞いたら本当に怒りそうね」


千景「仮に魂を解放したとして、貴女が死ななかったとして……でも、苦しんだことに対して結城さんたちはどんな反応をするのかしら」

人生で換算すればまだ長い時間とも言い切れない機関ではあるが、

その濃密さを考えれば容易く想像できるはずだと千景は言う

自分たちが勧めた選択

その結果が天乃が苦しむことになったのだと知った時の友奈たちの反応

それはきっと、とても悲しいものだろうと千景でさえ思うのだ

天乃が分からないはずがない

天乃「言われなくてもそのくらい分かってるけど……」

千景「…………」

言っても言わなくても、結局デメリットしかないのだ

それが、友奈達に対してのデメリットなのか

球子達に対してのデメリットなのか。というだけ

良い意味での救いはない

天乃「私が死ぬかも。とか言えばみんなは反対するわよ? でも、言わなければみんな辛い思いをする」

しかし、天乃が苦しむ可能性を話せば皆は無理強いを避けて天乃に託し、

穢れによる影響を少しでも軽減する方法を模索するだろう

そして、今回天乃の穢れを軽減したのと同じ方法を試そうとすることだろう

天乃「その結果はどうなると思う?」

千景「……結城さんや東郷さんは体内での消化をし耐性がついたとはいえ、食い破られて脆くなった部分もある。五分五分といったところね」

天乃「夏凜は?」

千景「三好さんに関しては……どうかしら。元々持っている部分が再度刺激されたら大変なことになるとは思うわ」


天乃「ね? 分るでしょう?」

千景「…………」

要するに、八方塞がり

デメリットのスパイラル

嘲笑するように笑いながら肩をすくめて見せた天乃は、

ふと息をついて首を振る

苦笑いを浮かべる表情は寂し気で

どうしようもなく慰めの言葉を投げかけたくなる

だが安易な慰めなど、気休めにすらなり得ない

天乃「昨日友奈にあんなこと言われちゃったから……こういうとあれだけど、余計にどうしようかなって考えちゃうわ」

相談して貰えてうれしい

そう言ってくれた友奈に対し、相談するだけで悩ませ、苦しませるようなことを言っても良いのかどうか

気軽に相談してねと言ってくれた友人に対して

貴女の恋人に恋をしました。というほどの―事の重大さは除いて―ものだと天乃は思う

天乃「千景も当事者の一人だから、こんな優柔不断でふわふわしたままの私に苛立つ気持ちもわかるんだけどね」

千景「苛立っているわけではないわ……ただ、いえ……確かに、冷静なつもりなだけかもしれないわ」


1、ごめんなさい。でも、ちゃんと決めるから
2、ちなみにあなたはどっちがいいと思うの? やっぱり、話した方がいい?
3、言っても言わなくても解放するなら苦しむ。解放しないなら球子達が苦しむ……嫌な話ね
4、貴女はどうなの? やっぱり、高嶋さんがいないのは寂しい?
5、やっぱり、いるべき場所に還してあげるべきよね……


↓2


天乃「ねぇ、意地悪なことを聞いてもいいかしら?」

千景「好きにしなさい」

少し突き放すような言い方ではあるが、

本心では受け入れているのが分かる表情に天乃は小さく笑みを浮かべて飲み込む

茶化すことよりも、今は質問するのが先だ

聞いたところで答えが大きく変わるわけではない

しかし、当事者の一人としての答えは聞いておくべきなのだ

天乃「貴女はどうなの? 高嶋さんがいないのは寂しい?」

千景「…………」

一瞬、驚いた表情を見せて

次に躊躇い、考え込んで、息を吐く

天乃から目を逸らした千景は心なしか、自分の体を抱きしめるように腕を組んで

千景「本心を言えば、イエス。結城さんがいるとはいえ、やっぱり高嶋さんと結城さんは違うから」

むしろ、ほとんどの部分が似ていて

友奈の一挙一動に高嶋友奈の姿を感じてしまうのだから

傍にいないと空虚に感じる球子よりも、千景は思う部分が多かった

事あるごとに、高嶋友奈の影を見る

ほんの些細なことで、やはりいないのだと感じる

結城友奈の優しさに触れ、その空間になじむ自分を見つめるたびに、

どうしてあの時こうすることが出来なかったのかと悔いてしまう

千景「……結城さんと触れ合うたびに、勇者部の暖かさに触れるたびに精神が削られていく気分だわ」


薄く笑みを浮かべる千景は悲しんでいる様子はなく、

むしろ日々感じるその辛さを受け入れているような瞳だった

千景「でも、それが私自身の戒めになるとも思っているわ」

天乃「千景……」

千景「あの時自分が愚かにも損なったのは、台無しにしてしまったのは、壊してしまったのは何なのかを知らしめるのよ」

天乃「なら、貴女にとってこの世界は……そういうことなの?」

千景「ある意味ではそうね……けど、同時に天国のようだとも思う。大罪を犯した私に償う機会を与えてくれた世界だもの」

天乃「貴女は強いのね」

千景「一度折れて短くなっただけで、強くはないわ」

自分に対する皮肉としてそう言った千景は笑みを浮かべて天乃を見つめる

この世界に残ることは辛い分、喜ばしいこともあって

この世界から解放されることは戒めから解かれるということであり

救われる部分があれば救われない部分も千景にはあるのだ

千景「だから、私に関しては貴女に委ねるという部分は何も変わらないわ。どちらでも私は救われる。毒にも薬にもならない回答で悪いわね」

天乃「ううん、そう言ってもらえただけ救いだわ」

語弊が生じることを覚悟で言えば、

どちらを選択したとしても、一人は必ず救われる人がいる

それは選択する天乃にとって、確かな救いだった


千景「きっと」

天乃「?」

千景「きっと、結城さんたちにデメリットを離してもデメリットにはなりきらないと思うわ」

天乃「どうして?」

千景「結城さんたちはそれに対しての話し合いをすることができる。そして、仮に打つ手がないのだとしても……覚悟を決めることができる」

これはあくまで千景の意見だ

自分だったらどうなのかを考えただけで、

友奈達が本当にそれで留まるかどうか確証があるわけではない

しかし、デメリットに対する覚悟が出来る事

それについてタイムリミットまでしっかりと考え続けることができるというのは

やはり、メリットがあると言っても過言ではないと千景は言う

千景「だから私はやっぱり、言うべきだと思うわ」

天乃「…………」

千景「問題が積み重なっている現状、無理に今すぐ言えとは言わないけれど」

天乃「考えておくわ」

千景「悩ませてばかりで申し訳ないとは思っているわ。でも、一つ一つ丁寧に考えていくなんて悠長なことは多分、言っていられないでしょう?」

天乃の体の事、神樹様の寿命の事、この世界のこれからの事

並行して考えていかなければ時間が足りないかもしれないのだ

千景は罪悪感を感じながらも「頼むわね」と、もう一度囁いた


√ 11月04日目 昼(病院) ※水曜日

01~10 園子
11~20 
21~30 東郷
31~40 
41~50 夏凜
51~60 
61~70 九尾
71~80 
81~90 若葉
91~00 

↓1のコンマ 


では、少し中断します
再開は通常時間:22時ごろからを予定しています


ではもう少しだけ


√ 11月04日目 昼(病院) ※木曜日


天乃「話しておくべき……ね」

千景と話し合って、確かにデメリットだけではないという言い分も分からなくはないと天乃も思った

だが、今の状況でさらに周りを心配事に引きずり込むというのは、気が引ける

大赦が行おうとしている作というのは重大だが、

千景達精霊を残そうかどうかというのもまた、友奈達にとっても重要な案件だ

大きな難題二つを同時に考えろというのは無茶であると

実際に考えさせられている天乃が思うのだから、出来るわけもなく

天乃「はぁ」

園子も東郷もリハビリへと向かい、

今朝言っていたように夏凜は瞳と共に調査

病室に1人きりの天乃はため息をついて枕へと頭を落とす

せめて、最初に話した大赦の件が片付いてからにするべきだろうか、

しかし、難題が済んだ瞬間に新たな難題

しかも最悪の可能性まで覚悟しなければいけないとなると

そこもまた簡単に決められないというのが正直なところだった

天乃「頭痛い」

ぶつけたわけでも熱があるわけでもなく

妄想的に痛みを感じた天乃は額に手を宛がって……またため息をついた


夏凜達は神話の中の何かがもとになっているという結論に達し、

その情報を集めるべく奔走するということになったが、

神社の中で力を引き継いだ娘として、天乃にも多少の知識はある

しかし、ここで問題になってくるのが満開による影響

家族から教えて貰ったこと、あるいは家族とともに学んだことに関して

ボロボロに抜け落ちた記憶となってしまっていることだ

これに関しても曖昧だが、

学んだのは小さいころということもあって独学ではなかったらしく

今回の件に引っ掛かりそうな知識はない

だからといってみんなのように自由に動けるのかといえば……それも不可能

天乃「……厄介ごとを持ち込むだけなのは、ちょっと、精神的につらい」

8割の罪悪感と2割のもどかしさ

こんなことでさらなる厄介な難題を問いかけても良いのかと

天乃は余計な悩みを抱えて気落ちする

もちろん、子供が悪いというわけではないのだが、

どうしても今の自分の体が煩わしく思えてしまう



1、精霊組
2、夏凜の枕を盗み出してギュっとする
3、考えるのは止めて休息する
4、イベント判定


↓2


再開が遅くなってしまったので短くなりましたが、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


天乃「………」チラッ

天乃「ん……っと」グイッ

天乃「…………」ギュッ

天乃「……夏凜の匂いがする」スンスン

若葉(わ、私というものがありながら……ぐぬぬっ)

若葉「実家に帰らせていただく!」バンッ

天乃「えっ!? わ……えっ!?」ビクッ


では少しだけ


動かせない足を両手で無理やり動かして、隣のベッドへと目を向ける

綺麗にたたまれた布団の上、ポツンと置かれた枕に手を伸ばす

天乃「んっ……ぅ……」

普通の病室のベッドの間隔よりは近いとはいえ、

下半身が動かせない状況では果てなく遠く

指先が掠める事すら出来ない

ずりずりと足を引きずり身を投げ出すように手を伸ばして――

天乃「っ」

ようやく、爪先が掠る

天乃「…………」

布団がぐちゃぐちゃになる可能性

枕が床に落ちてしまう可能性

それらを踏まえたうえで、天乃は自分の枕を掴んで夏凜の枕を叩く

1回……2回……3回

バンッ、バンッ、バンッっと病室に音が響き、

夏凜のたたまれた布団が揺れて、枕が微妙にズレる

折り目をきっちり揃えられた布団も合わせて乱れ、

先端がずるりとはみ出し、枕を連れ出す

天乃「……んっ!」

絶対に落ちることがないように細心の注意を払って手を伸ばし、

数回空を切った指先で夏凜の枕の端を摘まん……で一気に引いた


天乃「はぁっ……は……ふぅ……んっ」

おかしな姿勢と大きな体のせいか

些細な運動でも息が上がって動悸が激しくなってしまう貧弱さが浮き彫りになったのを感じながらも

天乃はそれを考える余裕もなく呼吸を整えることに集中する

それでも、頑張って手に入れた夏凜の枕はしっかりと腕に抱く

天乃「…………」

日曜日に新しくされ、今日で約4日半

夏凜がしみ込んだ枕は存在を確かに感じて

満足げに横になって少しだけ強く抱いて顔を埋める

安心する匂いだった。

包まれているような気分になれて

一人ぼっちの寂しさも紛らわせることが出来た

天乃「……弱い」

心が弱い

体が弱い

何もかもが弱くて惨め

まるで創作物のヒロインのようだと天乃は自虐する

だとしたら、ヒーローを兼ねた主人公は夏凜になるのだろうかと考えて

ちょっとだけ想像する


白馬の王子様を夢に見る天乃ではないが、

いつもの勇者装束と装備から連想するに戦場に立つ武士のような格好の方がいいのだろうかと悩む

武士となるとやや渋さも感じるが、夏凜の凛々しさと愛らしさを隠しきることは出来なくて

颯爽と歩く姿は様になっているのに、格好いいというよりも可愛らしく感じてしまう

そして、通りすがりに笑ってしまうと不満げに「なによ」と足を止めるのだ

自分にはその恰好が似合っていないと考えていて

しかし、くノ一のようなものはより性に合わないと拒否する夏凜は馬鹿にするなら斬ると言う

天乃「う……ん……」

そんなことを言われる自分はヒロインなのだろうか

そこから好意に切り替わっていくようなことはあるのだろうか

もしかしたら、次に不敬を働いたら斬り捨てると見逃され

そこからしばらくして自分は何者かに襲われ……夏凜に救われるのだろうか

天乃「…………」

それはまさしく、弱者と強者の構図

今の自分たちのような状況

救われるだけの存在と、救う存在

それは、対等だと言えるのだろうか

天乃「ん……」

考えに没頭していくうちに閉じた瞼は開かなくなって

だんだんと意識が遠のいていく

ふと、遠くて近い曖昧などこかで「なにやってんのよ……」と誰かの声が聞こえた気がした


√ 11月04日目 夕(病院) ※木曜日

01~10 
11~20 A

21~30 
31~40 
41~50 B

51~60 
61~70 
71~80 A

81~90 
91~00 B

↓1のコンマ 

※別ルート、AorB 空白は無


√ 11月04日目 朝(病院) ※木曜日


ほんの少し、声が聞こえる

照れくさそうで、怒っているようで、でも不満は感じない不思議な声

それに続く優しい感触

気遣いと愛情と、温もりを感じるそれは穏やかなリズムを刻んで触れてくる

天乃「ん……」

元々引き起こされつつあった意識はそれらに釣られるようにして覚醒に向かい、

小さな声を漏らして、天乃はゆっくりと目を開ける

すぐ近くゆえに大きく見える誰かの体

だから言ったのよ。と飛んでいく声と、囁く優しい謝罪の言葉

天乃「ん……ぅ」

別に。と声を発したつもりでも寝起きのせいか全く口は動かない

それでもぼんやりとした視界はだんだんと現実に近づいていき、

目の前にいるのが夏凜だという認識が出来るようになって。

夏凜「起こしたわよね……ごめん。もう少し寝てても良いわよ」

天乃「………」

夏凜「消灯までに枕を返してくれれば、それで」

天乃「っ!?」

夏凜の困った声と滲む羞恥心

天乃は自分が何を手にしたままなのかを思い出して、一気に目を覚ました


天乃「……ごめんなさい」

夏凜「いや、謝る事じゃないから」

天乃「でも」

夏凜「驚きはしたけど……まぁ……べつに」

ポリポリと頬を掻いて目を逸らす

他人の枕を抱きしめて何をしているのかと最初は驚いたが

東郷とは、違う

それに、安心しきった表情で寝息をたてられていては怒る気にも邪魔する気にもならない

それでも風に唆されて頭に触れた途端、これだ

自分には謝る理由があるが、天乃にはないと夏凜は繰り返し言って、ちらりと天乃を見る

夏凜「変なこと言うようだけど、嬉しかったわ」

天乃「え?」

夏凜「も、もちろん変な意味じゃないわよっ、誤解しないでよね」

天乃「うん……?」

夏凜「あんた、最近色々あって疲れてるくせに、それなのにあんま吐き出さないじゃない。だから、その……あれよ」

ちょっとだけ語気を強めた夏凜だったが、

すぐに声は収まって、優し気なものへと落ち着いていく

夏凜「形はどうであれ、あんたの意思でこういうことしてくれたってのは素直にうれしい」

天乃「…………」

夏凜「本当はもっと甘えたっていいのよ」


困った表情は相変わらず

けれど年相応に喜びを感じる笑みを浮かべる夏凜を見て、

天乃は自分が余計に枕を抱きしめていることに気づく

もっと甘えたって良いと夏凜は言ってくれているが

そんなことは許せないと思う反面、甘えたいと思う自分もいる

だから、枕を抱いたのだ

息切れする様な無茶をしてまでベッドから奪ってまで。

天乃「私は」

夏凜「前にも似たようなこと言ったと思うし、言われたとは思うけど。あんたはもう充分頑張ったのよ。休んだっていいのよ」

いつから勇者としての意識と志を持って取り組んできたのか正確な部分を夏凜は知らないが

それでも長く分厚いものであるということだけは分かる

どれだけ辛かったのか、苦しかったのか

少なくとも安易に同情して良い程度の話ではないと分かっている

夏凜「あんたはあんまりそういうことしてこなかったから、もしかしたら精神的に休むなんて弱いって思うのかもしんないけどさ」

寂しさが混じった

悲しさが混じった

そして、自分自身を皮肉るような笑みが夏凜から漏れる

夏凜「そんな、強がったりしなくたっていいんじゃないの? はっきり言って馬鹿みたいだし」


天乃「馬鹿みたい?」

夏凜「少なくとも私はそう思うって話」

弱いと思われるのが嫌だった。

低くみられるのが嫌だった。

優しさを捨てきれないくせに、強く当たったりもして

頼ること、甘えることは弱者だと考えることもあった

だから勇者部に思っていたことの一つを夏凜は笑い話の一つとして言う

夏凜「あんたにボコられてなかったらまぁ、私はまず鍛錬命、お役目命な感じだったわよ」

勇者部に関わらないことは不可避ゆえに繋がりは持っていたかもしれない

しかしあんな活動などくだらないままごとで、勇者とお役目には無関係で、無意味

そんなことしている暇があったら鍛錬しろ、自覚を持て。なんて

母親みたいなこと言い出してたかもね。と、夏凜は苦笑する

夏凜「本心のどこかでは、気になってるくせにね」

天乃「…………」

夏凜「私はその気になってたのに無視してた部分を選んだからここにいるし、それは結局間違いじゃなかった」

そんな道に進むのは弱いと思っていたのに、

そう思っていた自分など比ではないほどに強くなれたとさえ思う

夏凜「要するに、全力で頑張り続けるよりも休憩挟みつつ頑張った方が絶対に得られることはあるってことよ」


1、それは同意するけど、私は平気よ
2、何言ってるのよ。私は十分甘えさせてもらってるわ
3、私はヒロインになりたいわけじゃない。そんな、救われるだけなんて絶対に嫌
4、一緒にしないで
5、なら……今夜は一緒にいてくれるってことよね?
6、うん。ありがとう


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「私とは違う……?」

東郷「なにかおかしいような」

友奈「夏凜ちゃん的にはそういう風に思われてるってこと……じゃないかな……」

東郷「友奈ちゃん、どうして目を逸らすの?」

友奈「だ、大丈夫だよ東郷さんっ! 私は東郷さんが真面目にえっちになろうとしてるって解ってるから!」グッ

東郷「うん、何も大丈夫じゃないかな」ニコッ


では遅くなりましたが、少しだけ


天乃「なら……」

考える。

どの程度の甘えなら、夏凜の許容範囲なのかどうか

冗談を言っていると思われたり、単純に拒否されてしまわないかどうか

文化祭一日目の夜、誘ってお断りを食らった天乃としては

今回は断られたくないと慎重で、抱きしめる夏凜の枕にも力が入る

天乃「なら……今夜は一緒にいてくれるってことよね?」

何をするとも言わず、ただ今のように傍にいてくれるのかと天乃は問う

気づけば目線は伏せがちで、心臓が高鳴る

夏凜の返事までの間が、少しだけ怖くて

夏凜「いっつもすぐ横にいるようなもんだとは思うけど……ま、いいわよ」

天乃「良いの?」

夏凜「ほんの数時間離れただけで枕抱きしめちゃうあんたの事、放っておけないし」

天乃「これは別に何でもないから」

夏凜「はいはい。分かってるわよ」

笑いながら言う夏凜だったが、馬鹿にしているような雰囲気は感じられなくて

天乃は怒るにも怒れずもどかしく顔を顰める

枕を抱きしめて、嗅いだ匂い

その時に感じた優しさと温もり、安心感がそこにはあったからだ


夏凜「で、少しは休めたの?」

天乃「ええ」

疲れによるものではないため、身体の重さが抜けるわけはないのだが、

少しだけ体が軽くなったようにも感じるし、

悩むべき多くの事、それによる不安も今は強く感じない

天乃「夏凜のおかげで落ち着けたわ……ありがとね」

夏凜「別に私は何もしてないわよ」

天乃「傍にいてくれたでしょ?」

夏凜「枕がね」

天乃「そのあと」

鮮明に覚えているわけではないが、

枕を抱きしめて意識が遠のいていく間にほんの少しだけ、夏凜を感じたのだ

枕を抱きしめている天乃を見つけてから、今この時までの数時間

触れることは控えていたにせよ、ずっとそばで見守ってくれていたのは枕ではなく、夏凜自身

天乃「いてくれたんでしょう?」

夏凜「………」

あえてしらを切っても天乃は流してくれるだろう

だが、ただ自分の僅かばかりの羞恥心が刺激されるくらいならと、

夏凜は「まぁね」と、苦笑いを浮かべて天乃の手元を見る

夏凜「枕取られてちゃ、寝れもしないし」

天乃「枕があったら寝てたの? 可愛い私が無防備に寝てるのに」

夏凜「ん? 襲ってやっても良いわよ? 私だって一応、そう言う部分もないわけじゃないんだから」


天乃「ふふふっ、何言ってるのよ」

可愛いと自称するいつも無防備な恋人は、

普段襲うことなんて絶対にない夏凜の冗談に楽しげに笑う

疲れ切っているときに見せる笑顔とは全然違う笑顔

夏凜が好きな、天乃の笑顔……だから夏凜も、笑って見せる

夏凜「可愛い女を放っておくほど、私もできた女じゃないってことよ」

天乃「何言ってるの、本当……沙織たちじゃあるまいし」

聞こえない程度の声だったはずなのだが、

少し離れたところから「どういう意味かな」と差し迫る声が聞こえて、天乃と夏凜は困ったように笑う

聞こえないと思ったのに

あんたに関しては地獄耳だから

そんな、冗談を繰り返して……ふと、夏凜の笑い声が途絶える

目の前から消えたわけではない

満開で声を奪われたわけでもない

ただ、夏凜は真剣な眼差しを天乃へと向けていて

天乃「夏――」

柔らかく接触して、言葉が消え失せた

驚きに戸惑いながらも心は状況を理解してドクンっと跳ねる

ほんの一瞬の接触から離れた夏凜は余韻を味わうように、どこか大人びた笑みを浮かべて

夏凜「ほら、甘く見てるから痛い目見たじゃない」

ほんの少しだけ頬を上気させながら、忠告した


√ 11月04日目 夜(病院) ※木曜日

01~10 
11~20 別室用意してもらうに決まってるでしょ?

21~30 
31~40 
41~50 何言ってるんです? して言い訳ないじゃないですか

51~60 
61~70 
71~80 まぁ、そうだよね。邪魔が入るよね

81~90 
91~00 

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「夏凜ちゃんだけいつも恵まれてる気がするわ」

友奈「夏凜ちゃんはいつも譲ってくれるからだと思う」

樹「久遠先輩のこと、本当に大切に考えてますから」

風「まぁ、夏凜は大事にしすぎて結婚するまで処女のままとかしそうだけど」

沙織「それだけ恵まれてても、あんまり手を出さないのがまた……久遠さんを安心させるんだろうね」


では少しだけ


√ 11月04日目 夜(病院) ※木曜日


天乃「ねぇ、私は確かに夏凜に一緒にいて欲しいって言ったわ」

夏凜「言ったわね、うん」

天乃「でも……別室用意してなんて一言も言ってないわよ?」

夏凜「そりゃそうでしょ。これは私が勝手に用意したもんだし」

それはそうだ。そうしかない。だが天乃が言いたかったのはそれではない

夜になって、夏凜が行くわよ。といって車椅子を用意し始めたときは、

消灯が近いのにどこに行くんだろうとか、夜一緒に寝る前に軽いデートでもするのだろうかとか

少し心が躍った天乃だったのだが。

蓋―実際には扉―を開けてみれば視界に入ったのは大きなベッド

それも、天乃が普段使っているサイズよりも大きく作られたもので、天乃とほかに二人がいても問題なさそうなほど。

ベッド脇の呼吸器関連の装置などがいくつもあることから、

ここが本来は複数の入院患者が利用するための大部屋だということもすぐにわかった

それをわざわざ借り受けて、専用の大きなベッドを用意して

天乃「どうしたのよ。なんだか今日は気合入ってない?」

夏凜「別にそうでもないわよ。普段から向こうの病室で隣にいる私としては、こうするべきかと思っただけで」

天乃「つまり?」

夏凜「やらないならやらないで良いけど、やる場合は迷惑になるから場所変えとこうってだけ」


天乃「……そんなにうるさい?」

夏凜「向こうでやられてた時はほんと、怒鳴りつけてやろうかと少し思った」

我慢しているというのは精いっぱい伝わってきたが

紙に書いたようにギシギシと、ピチャリピチャリと、はぁはぁと。

心地よさに染まった桜色の声

思い出すだけでも鮮明に聞こえるそれらを感じる体は少しだけ震えて。

夏凜「あんた達は熱中してて気づかないかもしれないけど、さらに別の場所で盛り始める人だってたまにいんのよ? 分かる? そこに挟まれる気持ち」

天乃「えっと……誘った方がよかった?」

夏凜「そうじゃない」

困ったように答えた天乃に即否定する

分かっていてボケているならともかく、本気で誘えばよかったのかと考えるから責め立てにくい

夏凜「せめて場所くらい別に用意してやってくれって思うわけ。まぁ、別に行為に関係ないやつがいるわけじゃないし良いって言えば良いけど」

天乃「頑張って我慢してたんだけどね」

夏凜「あんた弱いのよ。すぐ責め負けて声上げるでしょ」

天乃「だって……気持ち良くしてくれるから」

ぎゅっと下腹部の辺りを手で押さえつけるようにした天乃は、

恥ずかしそうに身を縮めて、夏凜とは目が合わないように逃げる

聞かれていることは解っていたが、改まって言われると羞恥心も再燃してしまう

それで体が熱くなってくるのだから……救いようがないと天乃は思った


夏凜「ってわけで、まぁ一応用意したのよ」

天乃「そう……なのね。うん、納得はしたかな」

天乃の体の為に必要な行為であり、夏凜にとっても全く不要というわけではない行為

だからといっても今日も必ずしないというわけではないけれど、

するとなったら我慢する必要のないお膳立てを、夏凜はしてくれたのだ

夏凜「…………」

夏凜は黙々と天乃をベッドの上に座らせると、車椅子を折りたたんで端に避ける

広い部屋なら収納までする必要はないはずだが、

放っておくと天乃が勝手に車椅子を使うかもしれないという警戒ゆえだろう

そんな夏凜の姿をちらりと見つめた天乃は息を吐く

周りに誰もいない、本当の意味でに二人きり

広い部屋の中の一つのベッドというのはどこか寂しい気もするのに

不思議と……嫌な感じはしなかった

夏凜「さて、と……なにしてんの? 横になれない?」

天乃「え、あ……えっと……」


1、大丈夫よ
2、夏凜が押し倒すのかなぁって
3、ねぇ……夏凜はしなかったの? 私がエッチなことしてる隣で
4、ねえ、夏凜はしたいって思わないの?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



「えっ、ベッドメイキングですか?」

「またあそこの……?」

「はぁ……なんなんですかもう、ここはラブホテルじゃないんですよ!?」

「いい加減にしてもらえないですかね」

「はぁ? 狐? 何言ってんのあん――」


ガチャ


「あれ? 主任? しゅにーん? おかしいなぁ、声が聞こえたんだけど」キョロキョロ


遅くなりましたが、少しだけ


天乃「か、夏凜はしなかったの……?」

夏凜「は?」

天乃「う」

夏凜「しなかったのって、アレ? あんた達が盛ってる隣でってこと?」

天乃「言葉っ」

普段の腹いせなのかもしれない

夏凜は天乃に遠慮することなくオブラートにも包んでいない率直な言葉を投げかける

そもそも聞く予定ではなかったのだが

聞いたら聞いたでもう少し優しい言い方をしてくれると思っていた天乃は

想像に易い光景を思い浮かべて、赤面する

それを横目に見る夏凜はため息をついて

夏凜「なんで私がそんなことすんのよ」

呆れたように、答えた

天乃「え?」

夏凜「え? って……いや、あんた、分かるでしょ」

天乃「……魅力がない?」

夏凜「はぁ?」


天乃「だって、夏凜っていっつもそうじゃない。あんまり構ってくれないし、エッチなことだってしようとしないし」

しょんぼりと、俯きがちに天乃は言うが

すぐにはっとして口をふさぐ

感情が考えよりも先に口を突いて出てしまっただけではあるけれど、

それではまるで、エッチなことがしたいみたいだと。

恐る恐る夏凜へと目を向けて息を呑む

天乃「今のは、違うの。ごめんなさい……勘違いしないで欲しいんだけど――」

夏凜「勘違いしないでって、どの部分が? 私が何を勘違いするって?」

天乃「な、なによ。怒ってるの?」

夏凜「怒ってない」

天乃「怒ってるでしょ、雰囲気でわかっ」

反論しようとして――言葉が潰された。

押し倒されたのだ

肩に強い力が加えられた天乃はなすすべなくベッドへと押し倒されて、

柔らかい布団の中に体が沈んだのを感じた

だけど、身体に痛みはないし、お腹に対しての圧迫感などの危機感もない

しかし、夏凜の雰囲気は怒っているように感じた

夏凜「雰囲気で分かる? あんた本気で言ってんの?」

天乃「う、うん……」

夏凜「今実際読み外してるんだけど、そのあたり分かったうえで言ってるわけ?」


天乃「怒って、ないの?」

夏凜「あんたねぇ……」

天乃「ほら、怒ってるじゃないっ」

明らかに怒った表情に、声と雰囲気

間違いなく怒っていると分かる夏凜を前に天乃は少しだけ不安そうな表情を浮かべる

暴力的なことをされるだなんて思ってはいないのだろうが、

何の抵抗もできない今の自分が夏凜を怒らせてしまったこと

何が引き金になったのかを分かっていないからだ

それを夏凜は察して、雰囲気を柔らかく持ち直しつつ……やはりため息をつく

数か月前までの癖が戻ってしまったように。

夏凜「そりゃ怒るわよ。あんたなんて言った?」

天乃「……えっちなことしようとしないとか、構ってくれない」

夏凜「その前」

天乃「魅力がない」

夏凜「さらにその前にあんた、自分たちがしてる横で夏凜はしなかったの? とか聞いたでしょうが」

天乃「それで怒ったの?」

夏凜「これだから空気読めないってのよ……ったく」


夏凜「あんたがやってる横で私がやってみなさいよ。間違いなく仲間入りさせられるじゃない」

天乃「それは……そうだと思うけど。嫌なの?」

夏凜「嫌って言うか、なんかこう……あれなのよ。関係を認めてるとはいえ、いや、だからこそ……」

言葉が消えていく。

言ったら引かれないだろうかと不安になる

だけど、どうせここまで言ってしまったんだからと、

夏凜は一度歯を食いしばって、天乃から目を逸らす

流石に、目を合わせるのは気まずかったのだ

夏凜「その……自分の彼女がほかの人とエロいことしてることが自分の快感ポイントって感じがすんのよ」

天乃「っ」

夏凜「も、もちろん違うわよ! あんたのエロい声って言うか、匂いっていうか……あーいや、これは何でもないっ」

天乃の体を抑え込む手を放して、頭をガシガシと乱れさせていく

余計なことを言った。わけわからないことを言った

そう言う自覚が中途半端にあって。

夏凜「と、とにかく! 変な趣味になりたくなかったのよ! それ以上でも以下でもないっ」

天乃「じゃぁ、魅力がないとか」

夏凜「思わないし、構うし、ヤっていいならヤってるから安心しろバカッ!」

もはややけくそになって、夏凜は真っ赤な表情で怒鳴った


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
場合によってはお休みいただく可能性もあります



沙織「いいね、そこだよ、押し倒せ!」

園子「いったーっ!」

沙織「これは三好さんの強気責めが見られるかもっ?」

園子「いやいや、意外と天さんの逆転構ってあげるえっちがくるかもっ?」

ゴスッ、ゴスッ

風「はーい、2名様急患よー」ズルズル


では少しだけ


天乃「そ、そうなの?」

夏凜「そうよ……悪い?」

天乃「悪いとは言わないけど……恥ずかしい……かな」

夏凜のおかげで陰って見えるが、

それでも天乃が色濃く赤面してしまっているのは良く分かる

元々色白な肌というのも関係しているのかもしれないけれど

それを差し引いても、今回は特に強い

夏凜ではないが、東郷達からのセクハラのような発言、行為は良くあることで

以前に比べれば耐性がついてきているはずなのに

だが、それはきっと

天乃「でも……嬉しいわ」

夏凜「っ……」

桜色の長髪が鮮やかに彩ったベッドの上

母体として変化を続ける体は少しだらしなく……けれど、

その分の大人びた蠱惑的なものがそこにはあって

朱に染まった顔は困り果てているのに、幸せそうな笑みを浮かべている

それでいて、「嬉しい」と、呟くのだ

夏凜「……あんたは、ほんと。救いようもない大馬鹿だわ」


夏凜「今、あんたは抵抗できないのよ? 分かってるわけ?」

天乃「そうね。夏凜にされるがままね」

夏凜「……そ」

天乃が本当に分かっているかどうか、関係ないと夏凜は思ってしまった。

今の一言が、分かった上での冗談であるのだとしても、

もう、自分には関係ないと思った。

天乃の顔を真っ直ぐ見つめて、距離を詰めていく

夏凜。と、呼ぶ声が聞こえたが無視をする

夏凜「あんたが悪いんだから」

吐息が触れ合い、

心音さえも届きそうな距離で夏凜は囁き――口付けをする

天乃の答えなど待たない

どんな表情、感情。それも関係ない

目の前に、どうぞ。と、差し出されたのだ

夏凜「――っふ」

受け取らないはずがない

夏凜「んっ……っは……」

天乃の体、宿る命

それにだけは絶対に害がないようにという理性だけは残したまま

夏凜は天乃と唇を重ねる

何度も、何度も、繰り返し

息苦しくなっても、ならなくても

夏凜だけの勝手な判断で、キスをする

やがて、数分が経過したかというところで

夏凜は重ねるのを一度、止めた


天乃「っは……はぁ……」

夏凜「はっ……はぁ……」

近すぎる距離は二人の呼吸が重なる旅に、

僅かに互いの体を触れ合わせる

熱が重なって、艶やかな息が交わって

天乃「んっ」

夏凜「っふ……」

言葉は要らない

二人にとって、いま必要なのは言葉ではなく

それよりもずっと、心が分かる触れ合いだった

性的に刺激的なところに触れるわけでもない

ただただ、互いに焦らし合うように唇だけの感触を伝えていく

夏凜「はふ……」

天乃「……んくっ」

二人が交わった唾液が夏凜の唇から滴り落ちると、

天乃は挑発するように喉を鳴らして持ち去っていく

そしてまた、キスをする

体の昂ぶりは十分だった。

熱っぽさも極まっていて寝間着など邪魔で、息苦しさを感じつつあった

それでも、夏凜も天乃も脱ごうとはしない。

脱がせようとはしない

二人にとってはまだ、始まりでしかないのだ


夏凜「っは……ふ、ふふっ……あんた、いつもより頑丈じゃない」

天乃「夏凜が弱いって言うから本気を出してあげてるのよ」

夏凜「なるほど……じゃぁ、そろそろ本番に入っても平気ってわけだ」

にやりと笑って誘う夏凜を見つめて、天乃は笑みを浮かべる

正直なことを言って、受け側である天乃には夏凜の責めに耐えるすべがない

頑丈になったなんて大ウソだ

本気を出しているなんてはったりだ

体は愛情を強く求めてしまっている

キスするたびに、夏凜の本気なんだという心が伝わってきて、

一歩引いた時、次に進むんだろうなと感じたとき

心が躍った

胸が痛いほどに鳴って、下腹部が疼くのを感じた

それはもしかしたら、

共通する力を持つからこその共鳴なのかもしれない

けれど、天乃もまた、関係ないと思った

天乃「いいわ……夏凜。来て……ちょうだい」

両手を差し向けて、抱くように

天乃は夏凜のことを、求めた



1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流有(夏凜の枕、夜は付き合って、エッチな気分)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流有(高嶋さんがいないと)
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


11月04日目 終了時点

乃木園子との絆  72(高い)
犬吠埼風との絆  98(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  87(とても高い)

結城友奈との絆  106(かなり高い)
東郷美森との絆  118(かなり高い)
三好夏凜との絆  140(最高値)
乃木若葉との絆  96(かなり高い)

土居球子との絆  42(中々良い)
白鳥歌野との絆  42(中々良い)
藤森水都との絆  35(中々良い)

  郡千景との絆  42(中々良い)
   沙織との絆  117(かなり高い)
   九尾との絆  63(高い)

    神樹との絆   9(低い)


√ 11月05日目 朝(病院) ※金曜日

01~10 沙織

11~20 
21~30 
31~40 水都

41~50 
51~60 
61~70 九尾

71~80 
81~90 
91~00 若葉


↓1のコンマ 


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

本番に入ると言いましたが、あれはウソです。


園子「ふーみん先輩のせいで続きが見れなかったよー」

風「ちょ、こらっ、アタシが悪いみたいに言うな!」

樹「夏凜さんの行為は規制が必要なほど激しいのかも」

東郷「はっ……そのための栄養剤!? そのためのつっこ――」ゴスッ

バタッ

風「ったく……おとなしくしてれば一番頼りになるって言うのに」


では少しずつ


√ 11月05日目 朝(病院) ※金曜日


陽の光眩しく見える病室の中、

寂しく置かれたベッドの上には二人の少女

目を覚ました一人、天乃は小さく体を伸ばしてすぐ横を見る

昨日、散々エッチなことをしたのだ

夏凜も疲れ切っているのだろう、鍛錬の為に目を覚ます様子はない

けれど、顔つきは穏やかだった

天乃「なんで起こさなかったのって、言われそうね」

夏凜もいよいよ、来週から学校に戻っていく

それだけではなく、今日、明日、明後日

日に日にから次第に馴染んでいき、動かせるようになっていく東郷や園子も

もしかしたら、来週から学校に戻ってしまうかもしれない

そうしたら、天乃は病室で一人きりだ

もちろん、精霊はいるのだが

それでもやはり、一人きりになってしまうというのは変わらない

天乃「……少しでも長く一緒にいたい。そう言ったら、貴女は受け入れてくれるかしら」

起こさなかった理由

それを言えばどうなるのかと考えつつ、天乃は夏凜の頬を優しく撫でた


九尾「――病むでないぞ」

天乃「え? あ、九尾……いつ出てきたの?」

どこからともなく姿を現した九尾が声をかけた瞬間、

驚いて体を起こそうとした天乃を制すると、

九尾はどこか悲し気な表情で答える

九尾「先刻、のう。様子を見ておった」

天乃「ごめなさい、気づかなかったわ」

九尾「無理もあるまい。主様はもう、感じ取れなくなっておるのじゃからな」

樹海化にさえも気づかない

例えば、今瞬きした瞬間にも

隣にいる夏凜の姿は消えてしまうことだってあるのだ

それと同じように、

九尾達に声をかけて貰えなければ

天乃は出てきたことに気づくことができない

以前から続いてきていることだが、

天乃はもう、完全に普通の少女と変わりなくなってきていた

違うことと言えば、15歳で妊娠しているということくらいだ


天乃「そうねぇ。もしかしたら精霊のみんなのことも見えなくなっちゃうかもしれないわね」

九尾「ふむ……」

ちょっとした冗談を呟いたつもりの天乃だったが、

九尾は存外真剣な表情を浮かべると、天乃へと目を向ける

九尾「主様の精霊は問題なかろう。最も、主様の体を借りている者達や妾は。という程度ではあるがのう」

天乃「例えば、義輝なんかは見えなくなっちゃうの?」

九尾「無論。その力が無くなったならば見えなくなるじゃろうな」

すぐそばにいる夏凜

その精霊である義輝や、友奈の牛鬼など

天乃の関与していない精霊はすべて見えなくなるという

しかし……だ

天乃「なら、大赦は私の事を天の神を攻める道具にはしないのね?」

九尾「そうじゃのう。役には立つまい」

天乃「つまり、みんなが戦いに出ていくということになるのね」

九尾「人間の考えていることは良く分からぬ。どこまで手を出そうというのか、妾のあずかり知れぬところじゃ」

正直に……というのかは断言できないが、

困った様子でそう零した九尾は、

夏凜達が戦いに行かない可能性がある。ということも含めて、推測に過ぎないという

それはそうだろう

九尾はあくまで過去から現在までのことを知り

そこから行うことを推測したり、感じ取ったりしているに過ぎない

神樹様や天の神が動いたのならいざ知らず、

大赦が独自に動いている部分に関してまで、熟知しているわけではないのだ


九尾「ただし、以前にも言うたが、贄としては有効じゃぞ」

天乃「贄ね……考えたくないことだわ」

九尾「主様が勇者部の連中に頼り切るならば、考える必要もなくなるのじゃがな」

天乃「そうは言われてもね」

自分のこともあれだが、

やはり、一番はみんなの事を考えてしまう

それが夏凜達にとって辛い方向の考えなのだとしても

今までの強い考え方はそう簡単に変わってくれるわけではない

一番いいのはこのまま天乃も、勇者部も誰も

戦いに戻ることなく、勝手に戦いが終わってしまうことだ

しかしもちろん、そんなことがあるはずもない

天乃「ねぇ九尾、少し聞いてもいいかしら」

九尾「昨日の主様の情事の内容の良し悪しかや?」

天乃「そんなわけないでしょ。茶化さないで」

くつくつくつと怪しげに笑う九尾を横目に、

天乃は「まったく……」と呆れたため息をついて


1、今回の大赦の作戦について
2、球子達精霊の処遇について
3、結婚式について
4、自分のこれからについて


↓2


天乃「これからの事よ。色々と相談したいの」

九尾「妾よりも、適した娘がおるじゃろうに」

夏凜達の事を言っているのだろう、

九尾は天乃ではなく夏凜の方に目を向けて言うと、

それでも自分に聞くのかと言いたげに視線を移す

天乃のこれからに一番関わってくるのは夏凜達かもしれないが

その前に、天乃には不安が多いのだ

天乃「まずね。一番聞きたいのが、私がいつまで生きられるかよ」

九尾「…………」

天乃「私、以前に貴女に聞いたわよね? 私の寿命について」

九尾「うむ。聞かれたのう」

天乃「その時、貴女は私が死ぬ可能性について話してくれたけれど、寿命については全く話してくれなかったわ」

今さっき話したことと同じようなことを、

九尾は寿命に絡めて語っただけで

実際に天乃がいつまで生きていられるのかを語ってはいなかったのだ

友奈には言ったが、

実際、天乃は力が抜けたことによって日に日に弱って言っているのを感じている

鍛錬を出来なくなったというのも大きいかもしれない

だが、それだけではないと天乃は思う

天乃「ねぇ……私の体は、いつまで持つの?」

だからこそ、問うのだ


九尾「ふむ……」

天乃「誤魔化さないで、教えて」

そうでなければ、今後のことは何も決めることができない

進学するのかどうか

皆との結婚の話だってまだ完全に許可を貰えたわけでもない

やりたいことややるべきことはたくさんある

だからこそ、

自分がいつ死んでしまうのかを知る必要があった

1年か、3年か、5年か、10年か、

それとも、もっと長く生きていくことができるのか

九尾「そうじゃのう。子供産んだ時点で死ぬ可能性がある……というのは理解しておるかや?」

天乃「あまり考えたくはないけれど、それはね……仕方がないことだわ」

これは力を持っているいないにかかわらず、

普通の人間にも起こり得る話なのだ

出産によって憔悴し、そのまま亡くなってしまうというケース

天乃の場合はその可能性が非常に高い

というのも、まだ幼さの残る15歳の体で双子を出産しなければならないからだ

ただし、これに関しては帝王切開を行えばまだ……救いはある

問題は力が引き抜かれてしまうという点

これが他の人にはない、天乃のリスクであり、手術で取り出したとしても変わらないことだ


九尾「そして主様が聞きたいのは、それを乗り越えた後の話じゃろう?」

天乃「子供を無事に産んで、退院……そもそもできるのかどうかも知りたいけれど」

九尾「そこまで妾に分かるわけなかろう」

きっぱりと否定する九尾に、天乃は苦笑しながら「そうよね」と呟く

九尾とは言え、全知全能ではない

知っていること、分かる事を話してくれる

あるいは、そこから推測してくれるにすぎないのだから

ただでさえ不安定な天乃の未来など、そう簡単には分からない

九尾「主様の体の回復能力は極端に落ちるのはまず間違いない。おそらく、人間以下にまでなるはずじゃ」

天乃「それはまたどうして?」

九尾「力が抜かれるからじゃ。今まで依存していた分の力が無くなる以上、落ちることは必然じゃ」

天乃「なるほどね……子供を産んだ後も完全に無事とはいかないなんて」

酷い話ね。と天乃は失望して呟く

恵まれている人生だとは思っていなかったが、

とことん。それこそ死ぬまで呪われているという具合に

天乃は恵まれていなかった

いっそ、呪い続けるためにあえて死なせない方向性に固めて欲しいとさえ思う


天乃「それで? そう言うのを乗り越えたとして……私はどれだけ生きられるの?」

九尾「ふむ……そうじゃな」

久遠家の力の継承はしっかりと行われてきた

過去から現在へと、少なくなってしまった寿命はだんだんと延びてきて

天乃の祖母もまだ50代で健在

しかし、それはあくまで力を消費せず、なおかつ完全な適正体とならないままでの結果だ

天乃は先祖の久遠陽乃と同等熱いはそれ以上の力を持っていたと言っても良い

しかしそれはつまり、天乃もまた寿命が尽きるのが尋常ではなく早いということに他ならない

陽乃と違って双子を

それも、人と人とではない子供を産むのならば、なおさらのこと

九尾「のう、主様や」

天乃「ここにきて、実は分かりませんとか言うつもり?」

九尾「精霊の力を返還させるつもりはないかや? 力の適合が不安ならばそこの娘もおる。多少は安定もするじゃろう」

天乃「なんで今それを言うの? 私の寿命に関係していることよね? それなのに」

思わず、笑みがこぼれてしまう

何言ってるの? 冗談でしょ? と

あり得ないことを聞いて嘲笑しているかのような、笑みだった


天乃「おかしいじゃない、そんなの。それじゃまるで……」

九尾「うむ。主様の要望に反することじゃが、この際じゃ。はっきりと言わせてもらう」

九尾はそう言うと、静かに口を開いた。

真面目表情だった

だけれど、悲し気な表情にも見える

そして何より、苦しさを感じた

九尾「主様は数年のうちに死ぬ。それも、1年生き延びれば奇跡的じゃろうな」

天乃「1年……? 待って、待って……貴女、それは」

九尾「言うたであろう? 主様の体は回復する力を大幅に失うと」

それは、物理的な接触による怪我などもそうだが、

天乃が今まで体に負った通常では治すことのできない霊的な損傷も含まれる

天乃が血反吐を吐いたりするようになっていたのも

その部分の回復が間に合わなくなったことで、内側から蝕まれていった結果だ

九尾「戦わなくなったことで主様の体は落ち着きを取り戻し、少しずつ回復に向かっていたが……覚えておるじゃろう?」

天乃「穢れが酷いせいで私の体が蝕まれていた……そう言う話……あれは、そう言う話だったの?」

九尾は黙って頷く

九尾が寿命の件を誤魔化したのも、語らなかったのも

全ては真実を語らないためだった

九尾「少なくとも、子を産んで死ぬことがなければ暫くは生き長らえることができるはずじゃ。それまで、考えておくがよい」

呆然とする天乃を残していく

そのことに後ろめたさを感じながらも、九尾は姿をかき消した



01~10 
11~20 有

21~30 
31~40 
41~50 有

51~60 
61~70 
71~80 
81~90 有

91~00 

↓1のコンマ 

※有なら少し分岐



√ 11月05日目 昼(病院) ※金曜日

01~10 
11~20 夏凜

21~30 
31~40 
41~50 園子

51~60 
61~70 
71~80  若葉
81~90 
91~00 千景



↓2


では、一旦ここまでとさせて戴出来ます
再開は21時頃を予定しています

コンマなのに↓2になったのはミスですが、そのままで進めていきます
失礼しました


ではもう少しだけ


√ 11月05日目 昼(病院) ※金曜日


あり得ないと思った

信じたくないと思った

けれど、これは紛れもなく……真実なのだ

もしかしたら、

あの時悪五郎との子供を為す前からこの運命は決まっていたのかもしれない

あるいは、もっと別の理由

神樹様からの干渉だったり、何か別の要因があるのかもしれない

けれど、

何もしなければ数年、あるいは1年

そんな短い命で終わってしまうのだ

天乃「でも……何が出来るの?」

こんな弱り切った体で

自分で歩くことの出来ない体で。

結局、夏凜達を頼らなければ問題の解決は出来ないのだ

精霊から力を返還してもらう以外では。


天乃「でも、まだ時間はある」

まず初めに、出産時の苦しみに耐え抜くというものがあるが

それは気合と根性で何とかできる分野だ

そこから先、疲弊しきった体は回復しきることが出来ずに

そのまま力尽きて死んでしまうというのが今回のケースだろう

なら、身体の霊的部分の回復が出来るようになりさえすれば、

この問題の解決できるのだ

その解決策の一つとして

最も手っ取り早く、確実なのが若葉達精霊による力の返還なのだろう

しかし、問題なのは

天乃が望まないであろうその選択を九尾があえて勧めて来たことだ

つまり、

九尾からしてみればそれ以上に安全かつ確実な回避方法がないということである

あるいは、

ここまで体がボロボロになってしまっていることも

九尾からしてみたら想定外だったという可能性もなくはない

天乃「どうしたら……良いのかしら」


風や友奈達は今いないが、

夏凜や東郷の入院組は今すぐ話をすることができる

せめて、みんなに声をかけて解決策を一緒に探してもらうというのが

天乃にとっての最善策だろうか

もしくは、

勝手に久遠家へと出向いて助けを乞うか

天乃「……勝手に出かけたら夏凜に怒られるわね」

おまけに、確実に何かがあったと悟られる

それでは詰みだ

何も良いことがない

それなら初めからみんなに話してしまった方がいい

あとは、夏凜や園子など

個人的に相談するにとどめるか。だ

皆に相談してもメリットはあるが、暴走しかねないというデメリットもある

一方で、個人的な相談なら暴走をする可能性は説得しやすいから収めやすい

天乃「今までで一番……自分のことで悩んでる気がするわ」


1、精霊組
2、勇者組
3、イベント判定
4、いや、ここはもう少し自分で考えよう

↓2



01~10 若葉
11~20 園子
21~30 球子
31~40 東郷
41~50 歌野
51~60 夏凜
61~70 千景
71~80 大赦
81~90 水都
91~00 夏凜

↓1


夏凜「なんだ、起きてんじゃない」

天乃「えっ、夏凜……? どうしたの? なにかあった?」

不意に声を掛けられて思わず驚いた反応を見する天乃に、

夏凜は楽し気に笑いながらそう言うわけじゃないけど。と答える

夏凜「昨日は枕取られちゃったから、とられないようにしたかったのよ」

天乃「なんだ、そんなこと」

もう取ったりしないと天乃は言う

夏凜の冗談に合わせてなのか、苦笑いを浮かべて

だから、夏凜は切なげに目を細めて

天乃の意識の外から頬に触れた

天乃「え……?」

夏凜「…………」

天乃「夏凜? どうしたの? また、したくなったの?」

何も答えない夏凜の反応に、少しだけ不安を覚える

何を言われるのか、何をされるのか

そんなことばかりが頭をめぐって、天乃は目を瞑る――が

夏凜「――それで、あんたは何があったのよ」

夏凜はやっぱり、そう問いかけるのだった


天乃「どうしてそう思うの? そう見えるような態度取ったかしら?」

夏凜「そう聞く時点であったってことでしょうに……はぁ」

天乃の抱えている悩みを知らないからだろう

夏凜はいつものようにあからさまなため息をつくと

天乃の頬から手を離して、

すぐ正面、自分のベッドへと腰かけた

夏凜「私は100%あんたを理解してる自信はないけど、100%あんたのことを理解できるようになろうとは思ってるわけ」

天乃「そんなこと公言されても……」

夏凜「だから、少なくとも私が一番好きなものだけは絶対に見間違えたくないって思ってるわけ。それ見間違えたら死ぬ覚悟あるくらいに」

天乃「私の事?」

夏凜「さらっと言うわねあんた」

そこでさらに「違うの?」と捨てられる子犬のような瞳で言えるのだから

大したものだと夏凜は思う

普段なら茶目っ気のある事でも交えるが、今はそうはいかない

夏凜「あんたはあんたでも、あんたの笑ってるところよ。それさえ見間違えなければ、百発百中で悩みがあるかどうかわかるわ」

天乃「そんなに顔に出てるかしら?」

夏凜「そりゃ……あんた。自分が好きになった理由だし、あれは違うこれは違うってちょっとの変化でも気づくに決まってんじゃない」


勝ち誇ったように胸を張る夏凜だけれど

頬の紅潮は隠せていない

自分が思っていることを正直に。

それは夏凜が自分で掲げたポリシーだが、

やっぱり、恥ずかしいことは恥ずかしいのだ

天乃「似たようなこと繰り返してばっかりね……私」

夏凜「ま、あんたはそう言う性分だししゃーないんじゃないの?」

天乃「そうはっきり言われても困るんだけど、少なくとも貴女に隠し事は無理そうだわ」

夏凜「笑わなかったら私にも見破れないわよ? 私はせいぜい、あっこれ本当にうれしい笑顔じゃないって感じるだけだから」

天乃「それでも十分よ。まったく」

さも大したことがないように夏凜は言うけれど、

天乃はかなわないわね。と心に思って苦笑する

笑わなければ見破れないのだとしても、

その時その時に天乃が笑わないという時点で何かがあったのは確実だ

だからこそ、夏凜には嘘をつくことはできない

それは、天乃が顔に出やすいタイプかどうかではなく

嘘をつくことに後ろめたさを感じ、それが本心からの笑みをつぶしてしまうからだ

ただただ、天乃は優しすぎるのだ


1、九尾と話したことを話す
2、九尾と話したことを話し、球子達の件もすべて話す
3、でも、みんなを集めてからでいい?(夕方イベント固定)

↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


今回、久遠さんは頑張りすぎたので死にかけてますが
なんだかんだ夏凜が気づくようなのでなにも問題なく生き残ると思います


では少しだけ


天乃「分かったわ。話す……どうせ、いつかは知られちゃうことだろうしね」

夏凜「悪いわね。急かしたみたいで」

天乃「ううん。夏凜が来てくれなかったらずっとどうするか迷ってるだけだったと思うわ」

天乃はそう言って薄く笑みを浮かべる

これがきっと、夏凜が好きに慣れない笑みなのだろうと窓を見ると

心の中で自分の表情を思う

天乃「私の体が弱って行ってるのは貴女も知ってるでしょう?」

夏凜「ええ。鍛錬してないって以上に衰えてるのは解ってる」

天乃「それは結局、子供の件もあるけど今までの無理が祟って霊的な部分のダメージが酷いかららしいのよ」

夏凜「つまりどういうことよ」

天乃「このままいくと、子供を産んで生き残れたとしても長くて数年それも、一年生きて要られたら奇跡的だって九尾に言われちゃったのよ」

夏凜「は……?」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

数年? 一年? 何が?

天乃「余命一年。それが私の一つ目の悩み」

呆然と、目の前の天乃を見つめる

切なさの滲む表情

散り逝くことが運命づけられた華のような儚い美しさ

ああ、そういうこと。と、夏凜は感じ取って、爪を立てた指で腕の皮膚を傷つける

ここで感情的な叫び声をあげるのが普通だろう

だが、だけど……それで何かを変えられるわけじゃない

樹が天乃の為に力強くあれる自分を生み出そうとしているように

三好夏凜もまた、天乃の為にあれる自分を生み出したいと思うのだ

夏凜「っ……一つ目ってことは、ほかにもあるってことよね? なんなのよ」

腕の傷を手で隠しながら、努めて冷静に天乃へと先を促す


天乃「それを解決する方法が一つだけあるの」

夏凜「なるほど……大方、それでさらに問題が発生するってところか」

天乃「うん、大正解」

小さく笑い声をこぼす天乃は、楽し気に笑っているんだと分かる

けれど、本心からではないのだ

心の底から楽しいと思っているものではない

その、微かなズレが夏凜には痛々しく思えてしまう

もっと別の、嫌いなものを食べた。美味しくないものを食べた

でもせっかくだから美味しいと笑って見せた

そんな理由だったら夏凜も見逃すことを厭わない

けれど、これはそんなに可愛い理由ではないのだ

天乃「精霊による力の返還。それをすることで私は救われるかもしれないの」

夏凜「でも、若葉達がいなくなると」

天乃「ええ。それによって私の動かなくなった体の機能も返って来るらしいんだけどね」

夏凜「メリットの方が大きいように聞こえるんだけど?」

天乃「でしょ? でも、今の体に穢れを主とした力が帰ってくることがどういうことだかわかるでしょ?」

夏凜「また、あの苦しみを味わう……いや、私が感じたのなんかほんの一部。死ぬほどの苦しみをあんたは味わうことになるのか」

天乃「まぁね。でも、その問題も夏凜達の力を借りればもしかしたら解消できるかもしれないから、良いと言えばいいのよ」


天乃は笑う。本心で喜んでいない笑みだ

それはそうだろう

若葉達のことを自分の為に消さなければならない

自分の為に、また夏凜達を傷つけなければいけない

それで自分が助かるのだと言っても

天乃が本気で喜べるような人間ではないと、夏凜は良く知っている

夏凜「若葉達は消えることに反対はしてないんでしょ?」

天乃「ええ……球子なんかはむしろ、過去のみんなに会えないことが寂しいって言っていたわ」

夏凜「だったら……って、まぁそうよね。友奈達は悲しむでしょうね」

事情を話せばみんな承諾してくれる

けれど、

天乃の体の為に。という、問答無用な理由で行うことになってしまう

夏凜「なら、私からあんたに一つ聞いても良い?」

天乃「……うん」

夏凜「あんたは球子達をどうしたい? このまま残したい? それとも、還してあげたい?」

天乃「それは」

夏凜「これはあんたが決める事よ。そして、あんたの悩みを解決するために重要な事でもある」

天乃「………」

夏凜「教えて、天乃」


1、残してあげたい
2、還してあげたい


↓2


※分岐点※


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


※以後、精霊組は残す方向で物語は進みます※



歌野「私はみーちゃんがいるからオールオッケーだけど、土居さんは辛いわね」

球子「でも、天乃が寂しいって言うなら仕方がないさ」

球子「それに、タマの魂が全部ここにあるわけでもないしな。きっと杏のところにもタマはいるから」

若葉「そうだな。私達は皆がいた意味を、守ったものを見守って生きて行こう」

千景「それが……SGの選択……ね」

園子「こおりん、こおりん。白衣着て白衣!」


では少しだけ


天乃「……残してあげたいって思ってるわ」

夏凜「球子達が寂しがっていても?」

天乃「我儘だっていうのは解ってるわ。でも、やっぱり、私達にとってはみんながいるのが日常なのよ」

球子達の気持ちが分からないわけではないけれど

しかし、西暦時代に苦しみを味わったからこそ、

報われる人生というものにも触れて欲しいとも思う

天乃「日常というものに触れて欲しい。自分たちが守ったものに触れて欲しい、命を懸けた意味があるんだっていうこと知ってほしいの」

夏凜「そう……それがあんたの答えなのね?」

夏凜の冷静な質問に対して、天乃は頷く

やっぱり考え直させてなんて言うことは二度と言えない

だけれど、天乃にとってみんなはかけがえのない存在だ

我儘が許されるのであれば、消えて欲しくない

それは、例え自分の体が治らないのだとしてもだ

天乃「でも、みんなを消さないと私の寿命は――」

夏凜「あんたは若葉達を消したくないんでしょ?」

天乃「え?」

夏凜「だったら、それでいいじゃない。あんたは若葉達を消したくない。でも死にたくない。そう言えばいいのよ」


天乃「待って夏凜、貴女自分が何を言ってるか分かってるの?」

夏凜「馬鹿にしてんの?」

天乃「簡単な事じゃないのよ……? 方法も何も、全然わからないの!」

九尾が匙を投げるようなこと

それが、どれだけ難しいことかを夏凜だって分らないはずがないのに

なのに、夏凜は平然と言うのだ。「だから?」と

夏凜「難しかろうが何だろうが、それがあんたの望みなんでしょ?」

天乃「それはそうだけど……でも、だからって」

夏凜「だったら、あんたはお願いって言えばいいのよ」

夏凜は冗談っぽく笑いながら言って、

天乃の頬に手を触れる

キスするかのような仕草だが、天乃はまったく気にせず夏凜を見つめて

天乃「そんな簡単に言わないで!」

夏凜「なるべく諦めない!」

天乃「っ!?」

夏凜「成せばたいてい何とかなる。そう考えて今まで何とかなって来たんじゃない」

天乃「夏凜……」

夏凜「そうして頑張ってきたからこそ、私達勇者部がいるのよ」


夏凜「あんた、言ったわよね? 自分の体が弱ってるのは今までの無理が祟ってるからだって」

天乃「ええ……そう言われたから」

夏凜「でも、その無理が今の私達の強さになったのよ。ただ無駄に消費しただけじゃないってことを、私達が証明してあげるわ」

天乃の体が弱った分、夏凜達は強くなった

その体を支えてあげられるように、その心に寄り添うことができるように

勇者としても、人間としても

みんながそれぞれの目的をもって成長を遂げてきたのだ

夏凜「勇者部全員でやれば、あんたの無茶な我儘の一つや二つ、簡単に解決して見せる」

天乃「見栄張っちゃって……出来なかったら死んじゃうわよ? 私」

夏凜「だからこそ出来るって自信があるのよ」

天乃が死ぬというリスクは誰にとっても見逃すことのできないリスクだ

だからこそ、勇者部は必至で模索することだろう

一つ一つの可能性に向かって全力で手を伸ばすことだろう

夏凜「……任せなさいよ。久遠先輩。あんたはもう、部活引退する時期なんだから」

そうっと身を乗り出した夏凜は、天乃の体を優しく抱き込んでいく

望みは叶える。絶対にだ

だからと言って、自分たちが死ぬようなこともしない

それはとても難しい道ではあるけれど……夏凜は少し悩まし気に笑う

夏凜「その望み……絶対、叶えてやるわ」

夏凜には一つ、心当たりがあったからだ


√ 11月05日目 夕(病院) ※金曜日

01~10 風

11~20 
21~30 
31~40 東郷

41~50 
51~60 
61~70 友奈

71~80 
81~90 
91~00 樹


↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


夏凜「私に考えがあるわ」

天乃「何をするの?」

夏凜「バーテックスの刺身を食べる」

天乃「それは本気で言ってるの?」

夏凜「為せばたいてい――」

天乃「何にもならないわよ、馬鹿凜!」


では少しだけ


√ 11月05日目 夕(病院) ※金曜日


東郷「久遠先輩、ちょっといいですか?」

天乃「どうしたの?」

松葉杖を使いながら歩いてくる東郷は、

以前に比べて問題なく足も動かせているようで、

時期に完治することも叶いそうな様子だった

東郷「実は、来週から投稿できるんじゃないかという話になりまして」

天乃「それで、私を寂しくさせるんじゃないかって?」

東郷「いえ、そう言うわけでは……」

困ったように笑った東郷は、

そう言うわけではないんですよ。と改めて言う

東郷「ただ、何と言うか……だらけすぎてしまったなって思うんです」

天乃「どういう意味?」

東郷「今までは日中でも久遠先輩にいつでも会うことができたじゃないですか。それが出来なくなるのは、こう、寂しいなと」

常に、気軽に

会いたいときに会えた入院生活から学校に戻るのは

少し億劫になると、東郷は呟く


天乃「貴方にしては珍しいんじゃないの? そんなこというなんて」

東郷「そうでしょうか?」

いつもより元気のない、寂し気な声

東郷は天乃のすぐそばに座ると、

目を逸らし、少し悩んでから天乃へと目を向ける

東郷「いつでも手を伸ばせば届くところにあるというのは、存外特別なものなのだと気づいただけです」

天乃「私はいつでも、ここにいるけどね」

子供が生まれるまではもちろん

子供を産んだ後もしばらくは体調等のことを気遣って入院は長引くことだろう

最悪、生きていられる一年間の一部分が病院での入院生活になる事さえ、あり得る

天乃「部活がない日は今日みたいに夕方から会うことができるし、普段だってお昼はリハビリでいないでしょう?」

東郷「それはそうですが……同じ院内にいるのと学校と病院では話が違います」

天乃「端末があれば、連絡を取り合うことくらい出来るし」

とはいえ天乃の場合は、

常に病院内にいるということもあって、端末の支給がされていないので

大赦等に申請して、新しく用意してもらわなければならないのだが。

そのくらいの我儘くらいは、許してくれるだろう

天乃「大赦だって、その為の用意くらいはしてくれるはずだわ」


東郷「それは、そうなのですが……」

天乃「………」

東郷は落ち込んだように呟く

普段の東郷なら、

こんな悩みを抱えたとしても

夜に誘ってくるか、夜に襲ってくるかで自己解決にもっていったり、

その時に、来週からは学校に行くので、堪能させてください。とでも言うものだと天乃は思う

鷲尾須美としての記憶を取り戻して自重を覚えてはいるはずだが、

天乃の体の負担軽減の方法と

一度、負担が重くなりすぎて大変なことになってしまった過去がある以上

東郷は積極的に近づいてきてもおかしくはないのだ

天乃「なにかあるの?」

東郷「その……」


少し後ろめたさがあるような雰囲気

言いたいけれど、言っていいのか迷っている表情

なにか、あったのかもしれない


1、夏凜から聞いたんでしょう? 別にいいのよ? どうせ私から話すつもりではあったんだから
2、全く……夏凜も口が軽いんだから。あとで叱っておかないとね
3、もしかして、エッチがしたいけど、私の体を気遣ってるの?
4、何よ。はっきりしないなんて貴女らしくないわね


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


天乃「夏凜から聞いたのね……」

東郷「はい……濃密な性の時間を過ごしたと!」

天乃「えっ」

東郷「夏凜ちゃんだけずるいわ! 私も一人で久遠先輩と濃密な時間を過ごしてみたいです!」

天乃「あの……」

東郷「今夜! 今夜から明日の朝にかけてまでの10時間みっちり私と付き合ってください」

天乃「じゅ、10時間……? え? 寿命の話は……?」


では少しだけ


東郷の表情を見つめていた天乃は、不意に小さく笑い声を零して、

なるほど。と、聞こえるように呟く

東郷「え?」

天乃「夏凜から聞いたんでしょう?」

東郷「っ……すみません」

天乃「別にいいのよ。どうせ私から話すつもりではあったんだから」

もう少し、分からないように行動しようと考えていた東郷は、

その思いとは裏腹に体は解り易くなってしまった

天乃があと一年と少しで死んでしまうと聞かされてはどうしても、じっとしていられなかったのだ

天乃「それなら、若葉達に対してのことも……」

東郷「はい。伺いました」

天乃「東郷は反対?」

東郷「そうですね……やはり、還してあげて欲しいという気持ちがないと言えば嘘になりますが、寂しくないと言っても嘘になるので」

東郷は困った話ですね。と苦笑をこぼす

眠るべき魂だからという考えを持っていた東郷だが、

これまで仲間や友人として確かな関係を築き上げていたのだ

別れが惜しくないなどとは、本心から言える言葉ではない

東郷「久遠先輩の言葉を免罪符にする気はありませんが、それでよかったんだと思います」


東郷「寿命の件に関しては、私達できっと何とかして見せます」

天乃「……うん。頼りにしてるわ」

天乃の穏やかな微笑みを目にした東郷は

嬉しさをかみしめるような笑みを浮かべて、目を伏せる

自分が照れくささに顔を染めているのが分かっているからだ

東郷「夏凜ちゃんから話を聞いた時は、本当に衝撃的でした」

天乃「でしょうね。だって、助けたと思ったらまだ死にかけてるんだもの」

東郷「笑い事じゃないんですよ。久遠先輩」

天乃「そうね、ごめんなさい」

まるで質の悪い冗談を言っただけのような雰囲気を感じさせる天乃だが

本当に冗談ではないのだから勘弁してほしいと東郷は思う

だが、逆にこんな雰囲気で天野がいるのも悪くはないと東郷は思っていた

東郷「久遠先輩が本当に頼ってくれているというのが分かるので、嫌ではないですが」

天乃「…………」

東郷「だから、こんなことを言うのは不謹慎だとは分かっていますが、あえて言うなら……嬉しかった」

天乃「あら酷い」

東郷「こんなにも、重要なことを私達に委ねてくれている。自分一人で背負おうとはしないでくれている。それが、何よりもうれしい」

そして。と、東郷は続ける

東郷「だからこそ、私達は何が何でも久遠先輩のことを助けたいと思う。たとえ選択の一つが、世界を敵に回すようなことになるのだとしても。絶対に」


天乃「頼もしいとは思うけれど、でもね? あまり無理はして欲しくはないわ」

夏凜の時から感じる、無茶なことをしでかしそうな雰囲気

天乃の我儘であり、

それが無謀すぎる要求だからこそ

多少の無茶は覚悟しなければならないと分かっているが

それでも、天乃はそれを言わずにはいられなかった

天乃「私は貴女達に無理を知ろと命令した覚えはないんだから」

東郷「はい。それはもちろん、分かっているつもりです」

しかし、そもそも天乃の味方でいること自体

大赦からしてみれば敵対行為のようなものである以上

これ以上の無茶な行為は世界を敵に回す行為になってしまうというのも事実

東郷「出来得る限り穏便に済ませられるように、夏凜ちゃん達とはよく話し合っていますから」

天乃「神樹様を切り倒すとか、バーテックスの親玉を倒しに行くとか。そう言うのは止めてね?」

東郷「いえ、それも必要があれば行うかと」

天乃「東郷……」

東郷「もちろん、最終手段ですからご安心を」

天乃「最終手段でもだめ。こういう場合の最終手段は若葉達を諦めてしまうことだわ」


天乃「出来れば、そうしたくはないけど……ね」

東郷「なら、責任重大ですね」

天乃「そうよ。だから、まだ時間はあると思って慎重にお願いね」

東郷「……はい」

東郷は軽く頷いて、息をつく

時間があると言ってもたった一年

しかも長くて一年だというのなら、半年や数ヶ月という可能性もあるのだ

あまり悠長なことは言っていられないと、東郷は思う

しかし、かといってむやみやたらと手を出していても正解にはたどり着けないのは事実

だからこそ、と。東郷は決心がついたような表情を浮かべて

天乃の手を握る

東郷「そのことは私達に任せて、久遠先輩は子供を無事に産むことだけを考えてください」

天乃「うん……ねぇ、東郷」

東郷「はい?」

天乃「無理はしちゃだめよ?」

東郷「分かってますよ」

不安気な表情を見せる天乃に、

東郷は笑みを浮かべて、答えた


√ 11月05日目 夜(病院) ※金曜日

01~10 風
11~20 
21~30 友奈
31~40

41~50 樹 
51~60 
61~70 
71~80 千景

81~90 
91~00 若葉

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


友奈交流


では、少しだけ


√ 11月05日目 夜(病院) ※金曜日


消灯時間になって、明かりの消えた病室

白さゆえか少し発光しているようにも見えるカーテンから、友奈が顔を覗かせた

友奈「あの……少し良いですか?」

天乃「少しだけで良いの?」

友奈「…………」

天乃「大丈夫よ、こっちおいで」

リモコンを操作して上体を起こした天乃は、

カーテンから覗いたまま動こうとしない友奈に笑みを浮かべて、手招きする

それに安堵したのか、

友奈は枕を抱きながら、カーテンの中へと入ってきた

友奈「すみません」

天乃「良いのよ。まだ寝ていなかったし……寝苦しかったし」

友奈「っ! ま、また具合がっ」

天乃「大丈夫よ、ごめんなさい」

大慌てな反応を見せる友奈に、天乃は少し罪悪感を抱く

なぜここに来たのかわかっているのに、

体に関してのことを言ってしまったからだ

あと一年ということを知らされているのだ。友奈が慌てるのも無理はない


友奈「でも、一応――」

天乃「本当に大丈夫だから、落ち着いて」

大丈夫と言ってもナースコールに手を伸ばそうとした友奈を制して

天乃はごめんね。と、声をかける

いくら友奈でも、心穏やかにいられる案件ではない

天乃「仰向けで寝てるとどうしても体に重みが来るの。ただそれだけだから」

友奈「……はい」

天乃「少なくとも、子供を産むまでは絶対に大丈夫だから安心して」

友奈「安心なんて出来ないです」

散々苦しむ天乃を見てきたのだ

辛い思いをし、不幸に見舞われてきた天乃を見てきたのだ

ほんの些細な事であっても、

安心することなんて不可能だった

友奈「すみません」

天乃「友奈……」

友奈「夏凜ちゃんから、聞いちゃって」

天乃「うん」

友奈「本当……なんですね」


元々、夏凜が天乃のことでそんな嘘をつくことはないと分かっていた

だから、天乃が冗談だと言ったり、否定したりしなかったとしても

仮に、そうしてくれたのだとしても、友奈の気持ちが変わることはない

天乃「友奈は、どっちにも属してなかったけど、やっぱり精霊を還した方がいいって思う?」

友奈「分かりません。久遠先輩の体は治してほしい。でも、だから若葉さん達を犠牲にするって言うのも違うような気がするんです」

天乃「…………」

友奈「はっきりしなくちゃいけないなって、思うんですけど、でも……上手く答えを出せなくて」

友奈は小さく笑みを浮かべる

葛藤し、それでも答えを見つけられない自分への苛立ちを誤魔化しているような

そんな、あまり良くないものを感じさせる笑み

友奈「あの……久遠先輩」

天乃「なぁに?」

友奈「もしも……もしもですけど、その……どうしても肉うどんが食べたくて、でもお肉がなくて」

天乃「?」

友奈「お店に行ったら別の人が買おうとしてたら、譲って貰いますか?」



1、そうね。お話はするかもしれないわね
2、どうかしら……そのお肉がどうしても必要ならすると思うわ
3、その人だって必要だから買うんでしょう? なら、諦めるわ
4、それは私がどうしたいかより、貴女がどうしたいかじゃないかしら。お肉の重要性は個人で違うもの
5、諦めて麻婆豆腐を食べるわね


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日も出来れば通常時間から


千景「結城さんはかなり真面目に聞いたと思うのだけれど」

若葉「いや、あれはあれで天乃の真面目な答えだあろう」

沙織「そうだね。あれは真面目な時の久遠さんだから大丈夫だと思う」

千景「どうやって判断しているのよ」

沙織「匂い。かな」

千景「聞いた私が馬鹿だったわ」


では少しだけ


天乃「なんだか不思議な問いかけね」

天乃が少し困った様子で笑みを浮かべると、

友奈はすみません。と小さく言って、部活のやつで似たようなのがあってと、嘯く

天乃「そう……」

部活に関係することだというのが嘘だというのはわかったが、

かといって、友奈が悪ふざけで聞いているわけではないというのも、天乃は分かる

そのくらいには見てきたつもりだし、曲がりなりにも恋人なのだ

天乃「そうねぇ、私なら諦めて麻婆豆腐を食べるわ」

友奈「えっ!?」

天乃「あら、別にそう言う選択が駄目だなんて言われてないわよ?」

友奈「そ、それはそうですけど……っ」

友奈は困り果てて、慌てる

そんな答えを返されるとは思っていなかったのだ

考えが甘かったと言われればそれまでかもしれないが

天乃なら真面目な答えを返してもらえると思っていたのだ

それなのに……

友奈「っ……」

天乃「あらあら……何も泣かなくたって」


友奈「すみませっ……っ……うぅ」

天乃「本当……分かりやすい子なんだから」

友奈「だ、だって」

天乃「…………」

泣きだしてしまった友奈の頬を拭いながら、

天乃はまるで自分と夏凜のようだと思って、苦笑する

夏凜は分かると言っていたが、まさかこんなにも分かりやすくはないよね。と

少しだけ不安にさえ感じてしまう

だが、今はそんな考えをする時間ではない

天乃「私は別に茶化すつもりはないのよ?」

友奈「え?」

天乃「だって、実際に貴女は答えに制限をつけなかったわ」

友奈「それはっ」

天乃「あのね友奈。現実の問題は学校のテストのように限られた答えではないのよ」

散々一つの選択のみに絞り続けていた自分が言うのは白々しいと思う天乃だが

その狭い選択のまま居続けていることが誤りだと勇者部が教えてくれたからこそ

今度は、自分が言うべきだとも思う

天乃「今見えている答えのほかにもきっと、答えはあるのよ。ただ、焦っているからそれしかないと考えてしまっているだけ」

友奈「うぅ……」

天乃「ゆっくり考えるの。ぎりぎりまで時間を使って誰も不幸にならないようなことがないかを考えてみるのよ。それが、貴女の理想でもあるんでしょう?」


天乃「大丈夫。きっと大丈夫だから」

友奈「久遠先輩……っ」

中々泣き止まない友奈のことを引き寄せて、抱き寄せて、

優しく、優しく、慰めるように頭に触れる

きっと、寿命に関しての悩みなのだろうと天乃は感じた

言われたわけではないがそうなのだろうと感じた

そしてそれはきっと、

友奈にとってあまり望まない方法をとるのだろうとも思った

だから、それ以外の可能性があるかもしれないと言う

天乃「……ごめんね」

もしかしたら、そんなものはないかもしれない

ぎりぎりまで考えても定まった答えしかないかもしれない

ある意味、天乃の問題はそのくらいに限定された条件の中にあるのだ

友奈「分かりました……頑張ってみます」

天乃「うん、頑張ってみて」

天乃から離れた友奈は、

少し泣きはらした顔を枕で隠して、ちらっと天乃を見る

友奈「あの……それで、あの……」

天乃「なぁに?」


何が言いたいのか分かりやすいのだが

友奈の恥じらっている姿が愛らしくて、

天乃はあえて、分からない素振りを見せた

友奈「……一緒に、寝ても良いですか?」

天乃「駄目って言ったら大人しく帰っちゃうの?」

友奈「迷惑は、かけたくないので」

天乃「ふふっ、なら良いわよ。おいで」

ベッドは少し狭くなるが、天乃のベッドは通常のベッドよりは広めに作られているため

あと一人一緒にいても何とかなる

特に友奈くらいの大きさ―どこがとは言わないが―なら

問題なく一緒にいられるだろう

友奈「失礼します」

天乃「うん。おいで」

ただし、忠告されてしまったので

夏凜の横ではエッチなことは出来ないけど。と

友奈に耳打ちすると、ただでさえ赤かった顔は真っ赤に染まった

天乃「可愛い」

友奈「っ!」

少しだけ、抱きしめた


√ 11月06日目 朝(病院) ※土曜日

01~10 園子
11~20 
21~30 友奈

31~40 
41~50 
51~60 千景

61~70 
71~80 
81~90 風

91~00 樹

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日はできればお昼ごろから
まとめは明日、再開時



風「真面目な話を茶化された友奈は?」

東郷「泣きました」

風「真面目な話を茶化した天乃は?」

東郷「喘がせます」

夏凜「あんたほんとブレ無いわね」

東郷「だって、これが最後になる可能性があるんでしょう? 孕むわ」

夏凜「それは無理」


では少しずつ


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(寿命一年、精霊残留)
・   犬吠埼風:交流有(寿命一年、精霊残留)
・   犬吠埼樹:交流有(寿命一年、精霊残留)
・   結城友奈:交流有(寿命一年、精霊残留、答えは複数)
・   東郷美森:交流有(寿命一年、精霊残留)
・   三好夏凜:交流有(寿命一年、精霊残留)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流有(天乃の体)
・      神樹:交流無()


11月05日目 終了時点

乃木園子との絆  72(高い)
犬吠埼風との絆  98(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  87(とても高い)

結城友奈との絆  108(かなり高い)
東郷美森との絆  118(かなり高い)
三好夏凜との絆  142(最高値)
乃木若葉との絆  96(かなり高い)

土居球子との絆  42(中々良い)
白鳥歌野との絆  42(中々良い)
藤森水都との絆  35(中々良い)

  郡千景との絆  42(中々良い)
   沙織との絆  117(かなり高い)
   九尾との絆  63(高い)

    神樹との絆   9(低い)


√ 11月06日目 朝(病院) ※土曜日


天乃「ん……」

友奈「すぅ……」

天乃「風邪ひくわよ」

いつもとは違って友奈の寝顔がすぐ真横に見えた天乃は、

自分の方に多く引き寄せられた布団を友奈の方にかけなおして、小さく笑みを浮かべる

寝相が悪いなんていうことはないのだが、

天乃の方が身長は低くても妊婦ということもあって幅をとってしまうのだ

その分布団は天乃の方に引っ張られていて

半身はみ出ていたせいか、友奈は可愛らしく、くしゃみをする

天乃「……もっと近づけばよかったのに」

天乃の体に負担をかけることを恐れて離れた結果、

天乃の周囲には一応、十分なスペースはあったけれど、友奈は落ちる寸前

寝返りを逆に打てば落ちるという場所でとどまっていられるのはむしろ、

起きているのではないかと思うほどに

天乃「無理させたわね」


友奈からのお願いではあったけれど

抱き寄せてあげるとか、少しくらい距離を詰めてあげるべきだったと天乃は思う

夏凜のせいにする気は毛頭ないが

エッチなことは出来ないという風に言ったのも少しは影響したかもしれない

天乃「あれで距離とったものね……」

可愛いと言って抱きしめた後、

駄目ですって言いながら友奈は距離を取ったのだ

ちょっぴり、残念そうに

あの仕草というべきか、表情は非常に愛らしかったが、

やっぱり、少しくらいなら許してあげるべきだったかもしれないと今は思う

天乃「…………」

友奈「すぅ……すー……」



1、勇者組
2、精霊組
3、友奈に悪戯
4、友奈を起こす
5、イベント判定
6、勇者部と話す

↓2


友奈に悪戯する


1、頭を撫でる
2、頬むにむに
3、お目覚めのキス
4、欲求不満解消 ビギナー
5、欲求不満解消 プロフェッショナル
6、少し脱がしてみる


↓2

※3以外はコンマ70~00 で起床


天乃「……さて、どうしたものかしらね」

友奈は良く寝ているし、夏凜はさっき起きた音がしたのでいないはず

昨日少しはやりたがっていた……かもしれない友奈の希望を叶えても

隣から怒られることはないだろう

天乃「なんて、言い訳しなくても……ね」

少しくらいなら悪戯しても許されるのではないかと、天乃は企む

普段、あまりその気を見せない天乃ではあるが

自覚した今となっては、人並みにそういう気分になることもあるのだ

ゆえに、

隣で自分の愛らしい嫁が無防備に寝ているのをじっと見ているのももどかしく感じてしまう

天乃「夏凜達が言うのって、こういう感じなのかしらね」

相手のことを考えれば駄目だと思うのに

手を出したいと思ってしまう

今日は土曜日だけれど、学校はない

だから、朝からエッチなことをして疲れたのだとしても許されるだろう

天乃「少しだけ、だからね」


基本的に受けに回っている天乃は、

どこまでが過剰なのかは知っているが、どの程度ならちょうどいいのかまでは知らない

だからこそ、自制は保つべきだと口にして布団を少しだけめくる

天乃「…………」

年相応の胸のふくらみは寝間着に隠れてしまっているけれど

可愛らしさのある体つきに目を向け

天乃はそうっと友奈の体に手を這わせていく

友奈「んっ……」

呼吸で動いている胸周りは触り方の強弱が難しいし

そこまで邪魔になることはないだろうが

呼吸の邪魔になりかねないので、スルーする

ではどこに触れるのか

天乃「普通に考えて、ここよね」

友奈の口から零れる小さな声に気を向けながら

わき腹の辺りをさっと通過して、お尻の辺りに手を回す

友奈「!」

天乃「……起きないでね」

友奈と東郷二人を相手にしたとき

沙織が寝ているときにやらかしてしまったことの記憶

それを教訓に、天乃は手を回していく


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



天乃「もう少し、友奈を楽しませて貰うわ」

夏凜「あんた、やりすぎないようにしなさいよ?」

天乃「ふふっ、どこまで言ったらやりすぎなのか熟知してるから大丈夫よ」

天乃「もちろん、一番もどかしくなる部分もね」

東郷「あ、悪魔だわ……でも、味わいたい」ポッ

風「せんせー、頭の方で急患でーす!」


すみませんが、本日はお休みとなります
出来れば明日、早めに再開して二日分


遅くなりましたが、少しだけ


服を脱がすことなく友奈の臀部を優しく撫でながら

右手で友奈の体を少しずつ仰向けに変えていく

自分の方に向かれているのも嫌ではないが、

やるなら仰向けの方がやりやすい

もちろん、対面でも不可能ではないし、その方がお尻の方にも手が届くので

悪いというわけではないのだが……

天乃「私に体の自由は殆ど無いしね」

それがあれば……と、天乃は思いながら、

友奈の体が仰向けになるにつれて左手を引き抜く

天乃「……謝らないからね」

沙織の時は精神的にも色々あって我ながら大変なことになった、と

天乃は自分自身に悪態もつくが、

今回ばかりは色んな意味で許されると、自己弁護する

天乃「建前だけど……ふーっ」

自分の手に息を吹きかけて、自分の足と足の間に挟んで擦り合わせる

そのまま手で触って驚かすのも可愛らしい反応が見れていいのだが

今回の目的はそうではない

だから、素肌に触れるために温める必要があるのだ

天乃「……このくらい?」

自分の頬に充てて、確認

もう一度足で挟んで温めてから、友奈の寝間着の裾から静かに手を入れていく


友奈「っ……」

友奈の体がピクリと反応する

だが、天乃は手を止めることなく裾から左手を差し入れていき、

右手で一番下のボタンをゆっくり、僅かな反動もないようにと外して左手で腹部を優しく撫でる

おへそを中心に、指先で擦るように

微妙なくすぐったさともどかしさを覚えるような感じで

天乃「患者衣だったら、もっと楽だったんだけどね」

あるいは、浴衣など。

違うのだから仕方がないと、

天乃は上半身を起こして、指先の触れるわき腹の辺りを刺激しすぎないように注意しながら

程よく鍛えられた腹筋を解すようにマッサージしていく

それでいて、呼吸の邪魔にはならないようにと、友奈の表情の変化を見つめる

苦しそうにしたら緩めて、優しく、

変化がないのなら、少しだけ力を入れて

友奈「っ……はっ……」

掌に感じる友奈の腹部がほんのり汗ばんで、

吐息が少し荒々しくなっていくのを見送る

天乃「そろそろ、ね」


友奈の体温が上がり始めたら、肌になじませるようにゆっくりと布団をめくっていく

温まりすぎても寝苦しさで起きるが、

だからといって一気に冷めてしまうような空気に触れさせてしまっても起きやすい

だから、少しずつ、冷えた空気を友奈の温まった肌に馴染ませていくのだ

天乃「ここからは慎重に、ね」

左手を引き抜き、おへそが見える程度には寝間着をめくった天乃は

右手を友奈の胸に平行になるように浮かべて、少しずつおろしていく

友奈の胸の上下を阻まないように

天乃「まずは触れさせる」

友奈の胸が膨らんだ時に自分の手が当たるように調整して、

胸が下がっていくのに合わせて自分の手も下げる

そして、友奈の呼吸の上下だけで手が動くように乗せる

友奈「ん……」

天乃「………」

手を、布団のようなものだと勘違いさせていく

触れられること、動くこと

それが眠りを妨げるようなものではないと思わせていく

天乃「さて……」


1、悪戯はここまで、起こす
2、一回くらいお漏らしさせたい


↓2

※2はコンマ65~00だと失敗し(起き)ます


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


久遠さんの容赦ない性的攻撃


では少しだけ


天乃「手を出したなら、引くも進むも結果は同じだわ」

最後までやってしまうというのは少しばかり罪悪感も感じるが、

事ここに至っては、もどかしいままで終わらせる方が可哀想だろう

現実でエッチなことをされている友奈はの夢は今、どうなっているのだろうか

乱されてしまっているのか、変わらないのか

そんなことを考えながら、天乃は友奈の慎ましやかな胸を愛撫する

呼吸の上下に合わせ、流れを阻まないように。

友奈「っ」

撫でるのではなく、揉むのではなく、滑らせる

呼吸でズレていく布団のように、

それでいて、身体にしっかりと感度を与えていく

友奈「っ……んっ」

声を聞く

吐息を左手で受けて、熱と早さを確かめる

熱っぽくなっていくまで胸に触れつつ、左手でお腹を撫でる

おへその辺りを重点的に、圧し揉むような感覚で。

友奈「は……ん……っ」


元々可愛らしい声にちょっぴり熱が絡みついて色っぽさを増していき、

健康的な肌は心地よさゆえの紅色に染まりつつある

天乃「……本当なら、キスの一つでもするんだけどね」

天乃としては、それが性行為の始まりというイメージがあるし

スイッチの入れどころはどちらかと言えばそこだ

だから、少しだけ寂しさを感じてしまう唇を巻き込んで舌で舐める

天乃「その分、楽しませてもらうから」

そう呟いた天乃は、

もう一度友奈の呼吸を確かめ、まだ起きそうにないことを確認してから、

下腹部へと手を伸ばしていく

中心よりは、少し横

一番敏感な部分を極力避けて、寝間着の上から中指で触れる

友奈「っ!」

ぴくっと、身体が揺れる

小さな声が友奈の口から洩れる

天乃「おっと……もう少し慎重に」

自分の心臓の音がはっきりと聞こえるくらいに息を鎮めて

高鳴る心臓をそのままに心を落ち着けながら、友奈の胸を撫でて

そうっと、下腹部に中指を触れさせる

受け入れてくれる部分のすぐ横、足の付け根との一筋に挟み込むように


友奈「っ……はっ……んっ」

天乃「……あまりやりすぎると起きちゃうわね」

足の付け根、僅かな窪みに中指を這わせながら、

人差し指で割れ目に沿って指を動かす

性体験は幾数回

けれど、まだまだ未成熟に感じる敏感な部分にはまだ、刺激のないような触れ方

天乃「…………」

友奈「んっ、っは……ぁっ」

ビクビクと、友奈が反応を見せる

少しずつ、感度が高まっていく

敏感な部分に触れて欲しいと体が疼く

自分だったらそうなっていると天乃は自分にあてはめながら

友奈の口元に垂れていく涎を右手で拭ってほほ笑む

天乃「……あと少し」

指で擦るペースをあえて落とし、力を籠める

早く浅く行っていたことを、遅く深くに変えていく

指が少しだけ沈む

耳をすませば焦らされている悲しさが聞こえてきそうなほどのすんなりとした指の動き

天乃「ふふっ」

撫でるように左手を離した天乃は、

自分の足に手を挟んでもう一度温めなおすと、今度は友奈のズボンの中に手を差し込む


僅かに開いた隙間から逃げ出した淫靡な匂い

焦らされたもどかしさによる催促

天乃は少し悲し気に、

けれど、それ以上に楽しんでいるような笑みを浮かべると

下着の上から、指を触れさせる

友奈「!」

天乃「……うん、準備は良い」

まだ友奈は最高潮に達してはいないけれど

下着はもうしっとりとしていて、

十分に感じさせられているのが分かる

天乃「……一回だけね」

友奈の縦の割れ目に対し、天乃は人差し指をぐるり、ぐるりと円を描きながら

情欲の液漏れを起こしてしまった脆い部分に刺激を与えていく

友奈「っ、んっ……ぁっ」

漏れる声が入りっぽさを増す

体の僅かな動きが催促するようないやらしい動きに移ろっていく

けれど、天乃は小さな笑みを浮かべて首を振ると

友奈の割れ目に沿って指を這わせつつ、敏感な部分を爪弾く


軽く強く、優しく淫らに

友奈の体を責めていた天乃は

友奈の表情が強く変化していくのを横目に頷く

あと少し。だから、最後の激しさを

そう考えた天乃は爪先が下着越しに隆起した部分を擦ったのをそのままに、

下着の中へと指を忍ばせる

手首によって開く隙間から聞こえる音、漂う匂い

あの時、あの部屋とは比べ物にはならないけれど、

それでも十分に感じさせてくれるにおいで

天乃「……少し、気持ちは分かるわ」

責め手であれる理由、自分よりも相手を優先させられる理由

それを察した天乃は忍ばせた指を一つ、友奈の奥へと忍ばせていく

友奈「ぁっ……」

天乃「友奈が好きなのは、ここよね」

飲み込まれた指先をくいっっと曲げて、擦る

削ってしまいそうな強さ

痒みを抑えるような穏やかさ

その接触は友奈の高ぶった体を大きく感じさせて

友奈「ぃぁっ……んっ!」

一際強く身悶えて、覚醒へと近づいた友奈の瞳が開く

天乃「……あら、起きちゃったのね」


友奈「へ……え?」

まず見えた天乃の笑顔、ふわふわとしていてつかみどころのない体の感覚

上手く状況が判別できずに間の抜けた声を漏らした友奈は、

自分の寝間着が変にはだけていて、

天乃の手が逃げるように自分の下腹部から離れて行ったのに気づいて……見る見るうちに赤面する

友奈「あ……」

天乃「おはよう」

友奈「ぅ……く……久遠せんぱぁいっ!」

天乃「朝から元気ね」

友奈「げ、元気なのは久遠先輩じゃないですか……っ」

汗と淫らな液体にべっとりとした気持ち悪さを感じる友奈は、

閉じようにも閉じられない足を開いて、右手で触れる

友奈「うぅ……正夢……」

天乃「やっぱりエッチな夢を見たの?」

友奈「それは……っ、お、おしえませんっ!」

ふんっ。と、

可愛らしくむくれた友奈はベッドから降りると、

あからさまに何かあったのが分かる不自然な歩き方を誤魔化すように枕を抱きしめて

友奈「久遠先輩のえっち……駄目って言ってたのに」

文句を言いつつ少し嬉しそうな

ちょっぴり複雑な表情で、カーテンを開いて出て行った

√ 11月06日目 昼(病院) ※土曜日

01~10 風
11~20 
21~30 夏凜
31~40 
41~50 樹
51~60 
61~70 千景

71~80 
81~90  若葉
91~00 

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


友奈「………」テクテクテク

風(やられたわね)

夏凜(やられたんでしょうね)

東郷(喰われたわね)グッ

樹(なんでガッツポーズなんですか東郷先輩……)


では少しだけ


√ 11月06日目 昼(病院) ※土曜日


今朝、友奈の寝込みを襲ったことに関しては、

むしろ襲っても良いと言わんばかりの人を除いても

特別、叱られるようなことはなかった

もちろん、相手がそれをされても平気なら。という条件だと風は言ったのだが

されて嫌な人は恐らくだが、この病室にはいないだろう

時と場合によって、風と夏凜が拒否するくらいで、

今まで自分から動くことが出来ず、そのせいで中々相手にしてもらえなかった園子なんかは

むしろ望むところ。といったことだろう

天乃「はぁ……」

ゆえに、その寝込みを襲われることや

隙をついた行いを警戒したわけではないのだろうが、

病室には、天乃一人しかいなかった

天乃「まぁ、混ぜられないというのも一理あるにはあるんだけどね」

リハビリの付き添いという建前で出て行った勇者部の面々

だが、天乃はもちろんそうだとは思ってない

天乃の寿命、それの対策についての話し合いだというのは言われるまでもなく察しが付く

なぜなら、

学校が休みだというのに、天乃一人を放ってみんなでいなくなるなど、大層な理由がない限りはまずありえないからだ


天乃「散々我儘な条件を叩きつけた以上、文句を言えることではないって解ってはいるけど」

しかし、不安を感じずにはいられない

夏凜や友奈達を信頼していないわけではないが、

どうしても、切羽詰まっているように感じてしまうのだ

夕方に来た東郷、夜になって来た友奈

どちらも答えこそ変わっていたが、大元の問題は同じ

つまり、勇者部の中で迷っているか、あるいは意見が分かれているということになる

天乃「…………」

東郷はどちらかと言えばすでにある問題の解決方法を選択しようとしているように感じたが、

友奈はやっぱり、それでいいのかどうか躊躇いが生じていたように見えた

天乃「あの例え方からしてもそう……誰かを不幸にするとまではいかなくても、何かありそうなのよね」

友奈の肉うどん

少し分かりにくいたとえではあったが、

要約して考えればそう、解決の鍵を勇者部以外の誰かが握っており、

それを取るかどうか悩ましいというところだろう

天乃「さらに深読みするなら、その主婦役の人もお肉が必要だって話になるのよね」

それでもなお、先に手にしている人から受け取るべきかどうか

天乃「……交渉決裂なら、どうする気なのかしらね」


天乃が不安に感じるのはそこなのだ

誰とどのような交渉をするつもりなのか

その交渉が決裂した場合には、どんな行動に移るつもりなのか

率直に聞いても、きっとはぐらかされるだけだろう

天乃「大丈夫だから。とかね」

友奈あたりに情に訴えて問いかければ

一番聞きたいところも聞き出すことはできるかもしれないが

やはり、我儘を言ってしまっているというのが大きい

もちろん、何か無関係な人を巻き込むことになるなら自分は望まないと天乃が言えば

多少、考え直してくれるはずだが……

天乃「若葉達の犠牲を望まない以上、その代償は必ずどこかに出てくる」

それは、天乃の体が満足に動かせないだけに留まってくれるかもしれないし

そこに留まることなく、犠牲を防ぐ代償の犠牲として誰かが選ばれてしまうかもしれない

勇者部、あるいは第三者

天乃「望まないとか、そう言うレベルの話ではないのだけど……」

少なくとも、勇者部の誰かが死んでしまったりするようなことはないはずだが

それ以下のなんらかの犠牲までも受け入れないというのは、流石に我儘かもしれないと天乃は思う

天乃「難しいわね……色々」


1、精霊組
2、イベント判定


↓2


01~10 千景
11~20 園子
21~30 若葉
31~40 樹 
41~50 沙織
51~60 友奈
61~70 夏凜
71~80 球子
81~90 東郷
91~00 風

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


沙織「ねぇ、忘れてた?」

沙織「あたしがいること忘れてた?」

天乃「何言ってるのよ。三日前に話したばかりでしょ?」

沙織「いいや、一ヶ月前だよ」

風「実はゲームの世界なのよ。現実は十倍の速さで動いてるってわけ」

天乃「え……?」

夏凜「あんたまでボケるな、ツッコミに回れッ!」


遅くなりましたが、少しだけ
恐らく安価は明日になります


沙織「久遠さん、ずいぶんと悩んでるみたいだね」

天乃「沙織……話は終わったの?」

沙織「あたしからみんなに言えることは大してないからね」

忍ぶように病室へと入ってきた沙織は、

天乃に近づきつつ、苦笑いを浮かべる

何処か呆れたように見える表情ではあるが、

言っていることはどちらかと言えば信頼ゆえのものなのだろう

そこに文句をつけるつもりはないらしい

沙織「私が一番大事にしてるのは久遠さんのことだからね。それをみんながないがしろにするとは思えないよ」

天乃「でも、逆に自分たちの事を多少とも犠牲にするんじゃない?」

沙織「するだろうね」

沙織はオブラートに包むことなく

はっきりと断言して、笑う

沙織「そもそも、数人規模あるいは人一人の命を救うために傷つくようなことさえするなって言うのは無理な話だよ」

天乃「手厳しいわね……けど、間違ってないわ」

沙織「それが精神的なものであれ、身体的なものであれ。甘んじて受け入れる必要があるとあたしは思うんだよね」

天乃「……貴女がそうだったように?」

沙織「まぁ……ある意味ではあたし自身のことでもあるかな」


沙織「久遠さんだって解ってるはずだよ」

天乃「…………」

沙織「十人十色の解釈があるとはいえ、勇者部が見てきたのは自分の背中なんだって」

あたしだってそうだからね。と、

内容に反して軽い口調で話す沙織は、

逡巡すると思い立ったように「そうだね」と呟く

沙織「それが反面にせよ、正面にせよ、久遠さんの生き方はみんなにとっての教師だったわけだからね」

天乃「その捉え方が、勇者部の中での対立だって言いたいの?」

沙織「……面白いよね」

天乃「うん?」

沙織「だって、今勇者部のみんながやっていることって今まで久遠さんが一人でやってきたことなんだよ?」

一人で抱え込んで、悩み、

猪突猛進に複数の道の中から立った一つだけを突き進んできた天乃

それと同じことを勇者部はしている。だから面白い

沙織はそう言って

沙織「どちらも久遠さんの生き方を反映したうえで議論してる。二人の久遠さんがいるみたいじゃない?」

天乃「貴女のその例え方の方が面白いけれど」

沙織「そうかな? 見てれば感じるんじゃないかな……あぁ、この子達は久遠さんの後輩なんだなぁって」


沙織「だから、あたしも任せていいかなって思った」

笑顔を浮かべたまま言う沙織を一瞥した天乃は

何の気なしに真逆、窓側へと顔を背けると、小さくため息をつく

窓を通して、沙織と目が合う

天乃「やっぱり、貴女はみんなが何をしようとしているか把握しているのね」

沙織「うん」

天乃「そして、それを私に告げ口する気は――」

沙織「ないよ」

天乃「情報は通してくれるって言う話だったような気もするんだけどね……」

断言されてしまっては続ける言葉もない

困ったように呟くしかなかった天乃は窓に見える沙織の表情が変わらないのを見て、

またため息をつくと、沙織へと振り向く

天乃「友奈からの話で大体の内容は把握してるのよ」

沙織「あはは……結城さんは隠せないからね」

天乃「それでも頑張って例え話をしてくれたわよ?」

沙織「頑張りすぎたからこそ、余計に分かりやすかったのかな」

その光景を想像してか

沙織はくすくすと声に出して笑う

沙織「外面だけを取り繕いすぎて、本質を曝け出しちゃったんだね」


沙織「そうだね、久遠さんが考えていることで間違いはないと思うよ」

天乃「私がどう考えてるって?」

沙織「結城さんが相談した内容なんて聞かなくてもわかるよ。そこから推測したなら間違いじゃない」

天乃の続けようとしている言葉を察しているかのように答えた沙織は、

友奈達の先輩としての優し気な笑みを浮かべて、天乃を見る

勇者部としての選択

それがたとえどんなものであろうとも

自分は受け入れる。そう言いたいように天乃には見えた

沙織「初めに言ったはずだよ。犠牲を出さないなんて無理な話だって」

天乃「その選択が第三者を傷つけるようなことだとしても?」

沙織「仮にそうなったとしても、それがどういうことの引き金になるか分かってないわけじゃないと思うよ」

少なからず感情で動いてしまう部分もあるとは思うが、

みんなで頭を悩ませている以上

必ず、ちゃんとした考えを持ち、その先のことまで考えているはずなのだ

それが誰に、どんな影響を与えてしまうのかということも

沙織「だからこそ、東郷さんは自分の覚悟を決めるために、結城さんは自分なりの答えを導くために。久遠さんに会いに来たんだから」

天乃「…………」

沙織「久遠さんに相談すれば気づかれるということも考慮の上でね……少なくとも、東郷さんはそのうえで声をかけたはずだよ」


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


若葉「……沙織が真面目、だと?」

千景「悪いものでも食べたのかもしれないわ」

歌野「バッドな状態ならむしろ悪化するはずじゃ……」

球子「いやいや、タマにならあるだろ。タマになら」

水都「久遠さんのことだから、当然だと思う」


では少しだけ


天乃「なら、それこそ話してくれても良いと思うのよ。憶測だけじゃなくてね」

沙織「聞かれれば、きっとみんなは答えてくれるんじゃないかな」

もちろん、嘘をつかずにだよ。と沙織は優し気に答える

勇者部との関わりはまだ長いとは言えないが、短いとも言えない

そして、勇者部の考えを知り、思いを知っているから沙織は確信する

沙織「皆は久遠さんから言われることで、本当の意味で罪を背負えるんじゃないかな」

天乃「……それは、甘い話だわ」

沙織「…………」

天乃「私に言われなければどうするの? 私が気づかなければどうするの? なんの罪悪感も抱くことはないの?」

沙織「そんなわけないって解ってるくせに」

例え天乃からなにも言われなくとも、

勇者部が罪悪感を抱かないなんて言うことはない

自分の行いの一つ一つの責任から目を逸らすはずがない

沙織「言わないことが、一番苦しいことだと思うよ」

天乃が何も言わない、何も聞かない

そのままに行動を起こした結果、救うことができたとしても

天乃の姿を見るたびに、犠牲にしたものと隠し事をしてしまったことに戒められる

あれだけ、自分たちがいるのだと散々言いながら

大事なことを打ち明けなかったのだから

天乃「そう……でしょうね。やっぱり」


天乃「出来る限り巻き込みたくはない。でも、全く伝えないでいるなんて言うことも出来ない」

沙織「……だとしたら?」

天乃「考えが、甘いわね」

天乃は不服に感じる悲し気な表情を浮かべながら、呟く

完全に隠しきる事は出来ない

だけど、すべてを話すことが出来るわけでもない

本当に甘い、本当に浅い

まだ、覚悟が浮ついているという証拠だと天乃は思う

沙織はその考えが分かっていたのだろう

驚いた様子もなく、ただ笑みのままに「厳しいね」と零す

天乃「中途半端でいることが一番駄目なのよ」

沙織「どうして?」

天乃「あの時こうしておけばよかったって後悔が強くなるから」

確実に一つの道を選択したとしても

その先に失敗があった場合、人は過去を振り返り悔いることもあるだろう

けれど、しっかりとした芯のある答えの先にある失敗であるのならば

それを受け止めるくらいの強さがその人にはあるはずなのだ

あやふやだから、確かなものがそこにないから後悔によって挫折する

心が折れて歩みを止めてしまうことになる

自分は間違っていたのかもしれない、だけど、今はこうすべきだと次のことに目を向けることが出来なくなる

天乃「それは他人に委ねるべきことではないわ。自分たちで決めるべきことなのよ」

沙織「そうだね。そして、久遠さんにもそれはあるわけだね」


沙織「東郷さんたちに託される形で」

天乃「ええ、そのとおりよ」

気付いてしまったことを、友奈達に問うか否か

迷っていても答えは決まらない

もちろん、今目の前にいる沙織にどうするのが良いのかを聞き

そのうえで自分の行動を決めるというのは間違いではないが

考えたままあやふやになって聞くべきタイミングを見逃してしまっては、

今さっき自分で批判したことをそのまま行ってしまうことになる

沙織「今回はかなり難しい問題だもんね、口を挟むのも中々に出来る事じゃないよね」

天乃「そうなのよね。そんな問題と言うか、我儘を投げ渡した私が言うのも憚られるけれど」

今回の達成するべきことは、非常に難しい問題であり

沙織が何度か言ったように、犠牲を出さないことはまず不可能だと言っても良い

そして、天乃の深刻な問題を解決するのにはそこらの安っぽいものではまず不可能だ

天乃「……沙織」

沙織「うん? 内容は教えないよ?」


1、タイムリミットは?
2、貴女なら、どうする?
3、みんなを集めて貰えない?
4、貴女は私の為なら世界を捨てることはできる?
5、……そうね。こればかりは私は口を挟むのをやめるわ


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


皆を集めますが、みんなのリハビリの関係上夕方交流を消化します


では少しずつ


天乃「ええ、内容は教えて貰わなくて良いわ……ただ、みんなを集めて貰えるかしら」

沙織「……なるほど、分かった」

至って穏やかな表情のまま頼み事をする天乃を一瞥した沙織は、

心の内を理解したように頷く

沙織「夕方で良いよね? ここに集まるように話しておくよ」

天乃「自分で動けたらその必要もないのだけど……悪いわね」

沙織「みんなのところに連れて行ってっていわない辺り、久遠さんは少し変わったなぁって、感じるよ」

沙織は嬉しそうに言うと、席を立つ

沙織「動けないのもあるかもしれないけど、みんながちゃんと集まってくれるって信じてるからかな?」

天乃「今も昔も信頼してるわよ。ただ、視野が広がっただけ」

沙織「それは……うん、良かったね」

天乃の表情は変わらない

沙織の表情も変わらない

視線を交わすことなく答え、満足したように沙織は踵を返す

目先の答えに飛びつき、ただただ自分がこうすべきという答えに駆け抜けていた天乃

その目に見えていた道が増えて悩むことも増え、重くもなった

けれど、だからこそ立ち止まることもできるようになったのだと、沙織は思う

沙織「今の久遠さんなら、もう無茶はしないって信じる気になれる気がするよ」


天乃「今までは信じられなかったのね」

沙織「信じられるわけがないよ。どこまでも、久遠さんは久遠さんだからね」

茶化すように呟き、笑う

沙織はそのまま歩き出して、病室の外へと向かう

本当に、信じられなかった

心から信じ、愛し、思いを寄せていたのだとしても

その一点だけは絶対に信じることは出来なかった

信じてるよ。と、嘘をついて

目の届かないどこかに消えてしまった後に、何度こぶしを握ったのか

沙織「…………」

今は精霊としての力も持ったことで、

そんな思いもあまりしなくなってきていたが、

この力を手放せばきっとまた、有事の際にその心は不安に満たされるだろう

沙織「……だとしても」

どれだけ不安になるのだとしても、

どれだけ恐怖に身を焦がしてしまうのだとしても

それが、可能性の一つになるのならば。

沙織「……ごめんね。はっきりとは言わなかったけど、あたしは賛成してるんだよね」

扉を背に、沙織は何げなく呟くと

数秒間身じろぎも瞬きもせずにとどまって……唐突に、また歩みを進めた


√ 11月06日目 夕(病院) ※土曜日


そして夕方、本来なら鍛錬だったりリハビリだったりを継続して行ったりもする時間だが

天乃からの呼び出しということもあり、みんなが病室に残っていた

朝、天乃から悪戯された友奈も

この時ばかりは恥じらいを感じさせる様子はなく、真剣だった

風「天乃、全員集まったわよ」

天乃「うん、ありがとう」

東郷「…………」

見渡せば見える勇者部の顔

周囲に集まった風達の表情には何処か不安を感じるものの

しっかりとした意志のようなものも感じられて

天乃は小さく、息をつく

天乃「集まってもらった理由は……解ってるのかしら?」

夏凜「……まぁ、友奈と東郷が会いに行ったって時点で察しはついてるわよ」

友奈「ごめんね」

夏凜「良いわよ別に。話されて困る事でもないし」

友奈の申し訳なさそうな言葉も気にせず、

夏凜は腕を組んだままちらりと天乃を見る

夏凜「私達が……というより、私が何を提案したのか。知りたいんでしょ?」


樹「話すんですか?」

夏凜「話す必要がありそうな感じでしょ、これは」

樹「でも……」

不安そうな表情を見せる樹に、風が首を横に振る

勇者部の中でも、

必ずしも話すべきである。。という意見ではないらしい

最も、天乃が来るか来ないか、声をかけるか否かに委ねられたのだと感づいた時点で

天乃としてはそのあたりも織り込み済みではあったが。

園子「いっつんの気持ちも分かるけど、こうなった以上は話す。そういう話だから」

天乃「せめて、私に委ねないでもらいたかったけれど」

東郷「……すみません。どうしても決められなかったので」

風、友奈、夏凜、東郷、樹、園子

沙織や精霊たちが内容を話すことについて賛否を拒否したのであれば、

以前、精霊達を返すか否かで話し合った時と同様に意見が分かれ決着がつかなくなってしまうのも想像に易い

東郷と友奈ですら、それぞれ分かれることもあり得なくない

天乃「…………」

少なくとも、その程度には悩むべき手段ということだ


1、さて、教えてもらうわよ。夏凜
2、勘違いしているようだから言うけれど、私は何も聞かない。そう伝えたかっただけよ
3、難しいお願いをしたのは自覚しているわ。だから、私は全部任せるわ


↓2


天乃「さて、夏凜……話してもらうわよ?」

夏凜「…………」

周囲にいる大切な者達

その中でただ一人、夏凜へと目を向けた天乃は口を開く

天乃「何をしようとしてるのか」

夏凜「……ま、あんたは知らぬが仏とはいかないわよね」

むしろ、それこそ罪だとでも言うでしょうし。と

夏凜は呆れた物言いながら、

まったく雰囲気を変えずに閉じていた瞳を開くと

天乃を見つめ、静かに答える

夏凜「芽吹達から神樹様の種を奪うのよ」

天乃「……それがどういうことか分かってて言ってるの?」

夏凜「最悪、世界が滅ぶ可能性もある。分かってるわよそんなことは」

天乃の雰囲気が少しだけ揺れ動き

友奈達が畏怖を感じるようなものになったとしても、夏凜は動じない

真っ直ぐに天乃と向かい合う

夏凜「でもね。それは可能性があるだけでしかない。あんたは違う。死ぬ可能性があるんじゃない、死ぬのよ」

天乃「……つまり私を救う代償に、貴女達はこの世界を選んだって言うことなのね」

園子「それは少し違うよ天さん。世界を救う可能性の一つを借りるだけ。犠牲になるって決まったわけじゃない」


風「神樹様にも寿命があって、もうすぐ尽きるかもしれないってことも分かってる。だけど……」

夏凜「神樹の種なら、天乃の体を十分に癒すことができる可能性があるのよ」

天乃「私の体は穢れに冒されているのよ? 拒絶反応を起こすかもしれないわ」

夏凜「今の弱った状態ならそれを塗り潰すことだってできるかもしれない。本当の意味で、久遠家の呪縛からあんたを解放できるかもしれない」

代々呪われてきた久遠家の血

それが極限まで弱ってきている今こそ、

神樹様の力を蓄えた種を用いることでそれを完全に拭い去ることができるかもしれない

それは可能性だ

実験が出来なければ立証されているわけはなく、確証もない

成功の可能性があるように失敗の可能性もある

しかし、神樹様の寿命が尽きかけているからこそ

行わなければ次のチャンスというものは訪れない

夏凜「あんたはこの世界を守ってきた。そのために命を削ってきた……なら、少しくらいこの世界にも命を懸ける義務があるはずだわ」

天乃「関係ない一般の人たちの命まで懸けさせるの?」

夏凜「必要なら」

天乃「私がそんなことは望まないって解っていても?」

夏凜「……それでも」

夏凜の視線はぶれてはくれない

それは、確かな芯のある答えであるという証明

何があろうと譲る気はないという夏凜の意志

夏凜「私達はあんたのいる世界を守るために、あんたのいなくなる可能性がある世界を犠牲にするわ」

例え、その果てに滅びがあるのだとしても

大切な人たちさえいてくれるのであれば、その滅びにでさえも、抗うことは出来るから

覆すことのできる可能性が、生まれるから

夏凜「あんたが拒否しようと私はやるわ。それであんたに嫌われるのだとしてもね」


天乃「……楠さんたちは譲ってくれるの?」

夏凜「そんなわけがない」

天乃「…………」

友奈の話はつまり、そう言うことだったのだ

話して譲ってもらうのかどうか

本当に答えて欲しかったのは譲ってもらえなかった場合の話

奪うか否か、そのレベルの話なのだ

天乃「夏凜……」

夏凜「このまま野放しにして種を外で使わせたらあんたがまた引っ張り出される可能性だってあるんでしょ?」

天乃「なるほど……それもあって、あなたたちはそれに賛成してるってわけなのね……」

夏凜以外の勇者部部員

風達をめぐるように天乃が見渡すと、それぞれが思い思いの感情を滲ませた目を向ける

だが、誰も弱くはない

皆強い瞳をしている

それが世界にとっての悪であり、すべきことではない行いであると理解してなお

そんな瞳を見せている

東郷「世界の可能性を借りて久遠先輩の可能性とし、それをもって新たに世界の可能性を生み出すんです」

天乃「上手くいくと?」

樹「確証はないです……でも、踏み出さなければ運命を変えることは出来ないと思います」


天乃「それは確かにそうだけれど……」

死に至る運命に絡まれた久遠の人生

それを解消できる可能性があるのならば、

確かに、手を伸ばしたいという気持ちはある

しかし、夏凜達が行おうとしていることは極めてリスクが高い

神樹様や大赦等の関係者のみならず、

この世界に住まう一般の人たちを見危険に晒す行為

なおかつ、この世界を敵に回してしまうことに他ならない

夏凜達だけでなく、その両親、その関係者

どこまで敵であると判断されるのか分かったものではない

はっきり言ってしまえば

それはあまりにも【幼稚の考え】だと、天乃は思う

もちろん、みんな子供だ

自分たちで手一杯、自分が守りたいものを守るので限界

それが当然であり、むしろそれを子供の考えであると否定する天乃が異常なのだ

可能性を信じ、僅かな光を求めて奔走する少女たちは

ある意味では間違っているとは言い切ることはできない



1、それは駄目よ。許されないわ
2、考えが幼稚すぎるわ。貴方達だけの問題ではなくなるのよ?
3、そんなことをさせるくらいなら、私は精霊のみんなに頭を下げて力を返してもらうわ
4、楠さん達を説得して、なおかつ世界を確実に救うことができる? 誰一人欠けることなく、犠牲にせずに


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


若葉「ここで幼稚だと批判されたら球子ならどうする?」

球子「だったらタマ達の命を代わりに賭けるっていうかもなぁ」

千景「私なら、幼稚で何が悪いって怒るかもしれないわ。全てを救いたい。その目標こそが最も子供らしい願いだから」

水都「三好さんは、なんていうんだろうね」


では、少しだけ


天乃「……はぁ」

緊張感をさらに増してしまうと分かっていながら深くため息をついて

天乃は夏凜へと目を向ける

見極めようとしている厳しい視線にも

夏凜は動じることはなかった――が

天乃「考えが幼稚すぎるわ」

夏凜「!」

その一言には、強く反応を見せた

天乃「貴方達だけの問題ではなくなるのよ? それを分かってるの?」

園子「幼稚って……天さ――」

夏凜「良いわよ。別に」

否定しようとした園子を制した夏凜は

ついさっき揺らいだ雰囲気をすでに持ち直していて

夏凜「確かに幼稚かもね。希望的観測に縋って、自分たち以外の誰かのことなんか後回し」

樹「夏凜さんっ」

夏凜は薄く笑う

その空気に何かを感じたのか樹は声を上げたが

夏凜は我関せずと、表情は変わらない

夏凜「親とか、クラスメイトとか、部活で関わった人とか全員を危険に晒すことも厭わない。自分勝手で我儘な作戦」

天乃「なら――」

夏凜「それのどこがいけないのよ。私達は大人じゃない、万能でも天才でも神様でも何でもない、ただ勇者になれるだけの子供」

友奈「…………」

夏凜「それでも、全部を救いたいってお願い一つの為に危険で残酷で、余裕のない綱渡りでも渡ってやろうって覚悟決めてんのよ」

それは。

その願いは、周囲の損害を考えずに望みへと直進する危険な考えよりもずっと

はるかな高望みをしてしまった子供の我儘

天乃「っ」

風「子供だからこそ自分たちで手一杯、それが終わってからじゃなきゃ周りのことなんか考えてられないのよ。天乃……悪いけど、アタシ達は天乃のように大人じゃない」


東郷「久遠先輩が言いたいことが間違っているなんて思いません」

むしろ、大小問わず言うのであれば正しいことなのかもしれません。と

東郷は切なげに答えて、首を振る

正しいと理解できるのと、この話は別なのだ

東郷「ですが、道をそれなければ得られないこともあるんです」

友奈「私は、やっぱり……芽吹ちゃん達と争うのは良くないと思うし、世界が大変ことになるのもできれば避けたいです」

樹「ですが、そこに手を伸ばさなければ二度と救うことは出来なくなってしまうかもしれないんです」

天乃の体を蝕んでいるのは、

形こそ穢れとなっているが、神聖なちからであることには変わりない

それゆえに、癒せるのはやはり同等の神聖な力のみ

神樹様の寿命が近づいており、攻勢に出るための力を削ぐのはご法度だとみんな理解していることだ

しかし、限界であるからこそ、

次のチャンスというものは望めないし、それを失すれば樹が言うように絶望的なのだ

友奈「やらないで後悔するより、やって挽回する方法を考えるべきだと思うんです」

天乃「…………」

風「だからアタシ達は夏凜の提案に賛成したのよ。あの時手に入れておけばよかった。そんなことにはなりたくないから」


夏凜「幼稚だって思われたって良い、嫌われようが、世界を敵に回そうが関係ない……まずは、一番救いたいものを救うために死力を尽くす」

天乃「園子、貴女もそういう考えなのね?」

夏凜から流れるように自分へと視線を向けられたのを感じた園子は、

しかし、いつものような緩い笑みを浮かべることなく、真剣な面持ちで頷く

園子「これ以上、失うのは嫌なんよ」

他にも方法があるのではないか。

そう思わないというわけではないけれど

しかし、悠長に考えていられるほど余裕のある話でもない

やはり、神樹様がネックなのだ

園子「それに、あれだけ尽くした久遠さんのことだよ? 神樹様だってきっと許してくれるんよ」

天乃「そう、上手くいくとは思えないわ」

夏凜「だからって諦めんの?」

天乃「そういうわけじゃないけれど……」

そう零した天乃を一瞥した沙織は、

小さくため息をついて、天乃を見つめる

夏凜はすでに言ったが、聞こえていなかったのか

それ以外の言葉に押し流されてしまったのか

一番受け取るべき大切な言葉を、沙織は紡ぐ

沙織「久遠さんがいてこそ、あたし達の日常、あたし達の世界だって言うことを忘れないで。他所の世界の為に自分たちの世界を犠牲になんてできないよ」

天乃「沙織……」



1、分かったわ……でも、世界を救えませんでしたじゃ許されないわよ
2、……それでも、やっぱり駄目だと思うわ


↓2


ではここまでとさせていただきます
あすもできれば通常時間から
所用でお休みはありますが、可能な限りは通常通り行っていく予定です


勇者部の大反逆ルート


では少しだけ


天乃「…………」

それぞれ、僅かに違う考えを抱いてはいるのかもしれないが、

それを実行しようという意思に変わりはないのだろう

誰に目を向けても、この提案を取りやめようという姿勢を見せる者は一人もいない

そんな視線に囲まれる天乃は目線を手元へと移し替えて、目を瞑る

先ほども言ったように、天乃からしてみればこれは幼稚な作戦だ

自分の目的以外のものを排してしまう子供の考え

だが、その元凶たる天乃の我儘こそ、最も子供っぽい願いであることも事実

天乃「……ふぅ」

ため息をつき、ほんの少し強くこぶしを握り締めて

天乃「分かったわ」

夏凜の提案に頷く

天乃「でも、世界を救えませんでしたじゃ許されないわよ。それは肝に銘じておいて頂戴」

東郷「善処します」

園子「今までほとんど何もできなかったからね~、頑張るよ~」

天乃の許可を得ても大きく喜ぶような素振りを見せることはなく、

最低限度の嬉しさを感じさせる笑みをみんなは浮かべる

許可がなくてもやるつもりだった。けれど、貰えるのともらえないのとではわけが違う

それは当然、軽くなるわけではない

天乃に大罪を意識させた分だけ、重みが増すのだ


夏凜「それじゃ、予定通り行動は月曜日。異論は?」

樹「ありません」

風「オッケー……というか、その日に向こうさんが動くんだから異論も何もないわよー」

月曜日、つまり明後日が行動ということだろう

考えている時間などなかった

悠長に構えている暇などなかった

場合によっては、これは考えを誤った早とちりにもなる可能性があったのだが

それだけ期限が迫っていたのならば、ある意味では英断と言えるかもしれない。と

天乃はこっそり安堵の息をつく

友奈や東郷が話を聞いたそのすぐ後に接触を試みてきた時点で想定できたことかもしれないが。

夏凜「友奈、穏便に済ませられるかどうかはあんたにかかってるんだから、しっかりしなさいよ?」

友奈「うん……頑張る」

天乃「説得は友奈がするの?」

樹「一応……私達もいるんですが、夏凜さん的には、その……絶対に無理だからって」

夏凜「天乃と世界。芽吹が天秤にかけて選ぶのは世界の方に決まってるわよ。そこまでして救うほどの感情はないと思うし」

園子「そもそも、防人という役割についたのだってぶっきーなりの理由があってだもんね~……簡単に歪められることじゃないと思う」


それは例え短くとも付き合いがあったのだとしても

あの時、友人と呼ぶことのできる立場になっていたとしても

やはり、そう簡単に譲渡できる事柄ではない

だからこそ、互いの力をぶつけ合う必要があるのだと夏凜は思うのだ

夏凜「説得が出来なければ予定通り実力行使になるだけよ」

天乃「けど、今貴女達端末はないはずよね? どうするの?」

流石に大赦に問い合わせても渡して貰える可能性は極めて低い

そもそも、メンテナンスが終了しているかどうかでさえ、怪しいのだが

夏凜は余裕綽々といった様子で笑みを浮かべた

夏凜「その点に関してはもう手は打ってあるわ」

天乃「瞳に頼んだの?」

友奈「流石に瞳さんでもそこまでは出来なかったので……別の人に頼みました」

樹「それに瞳さん、仕事が首になっちゃいますのであんまり協力して貰うわけにもいきませんでしたし」

風「まぁ、そのあたりも問題なく整ってるから大丈夫よ」

樹と友奈を一瞥した風は遮るように入れ替わって答え、苦笑いを浮かべる

なにか良からぬ手を使ったのか

協力者が名前を出されることを嫌がったのか

すでに相当な案件を語り合っているために隠す必要はないと言ってもいいので、前者はない

では、後者ならばだれが協力者なのか……だが。

天乃「……まぁいいわ深くは聞かない。とにかく、くれぐれも忘れないでね」

夏凜「解ってるわよ。助けた後、結局世界が滅びました――なんて、そんなくだらない結末があっていいわけないっての」

夏凜の皮肉めいた物言いに、風達は苦笑いを浮かべて「それはそうだ」と、頷いた


√ 11月06日目 夜(病院) ※土曜日

01~10 九尾
11~20 若葉
21~30 
31~40 夏凜
41~50 
51~60 樹
61~70
71~80 風
81~90
91~00 千景

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



瞳「私、名前だけですか?」

安芸「名前すら暫く出ていない人もいますし……仕方がないのでは?」

瞳「これが、モブの宿命……!」

安芸「実は、奉火祭によって消えてしまった。という流れでここはひとつ」

瞳「死んでるじゃないですか!」


では少しだけ


√ 11月06日目 夜(病院) ※土曜日


樹「あの、少し良いですか?」

天乃「あら……貴女も来たのね」

昨夜の友奈と似たような時間に尋ねてきた樹に目を向けた天乃は、

ベッドの右脇が少しだけ空くように体をずらして、手招きする

一緒に寝るかどうかはともかく、

椅子を出すよりはベッドに座らせてしまった方が色々な意味で楽なのだ

天乃「協力者のことでも話す気になったの?」

樹「それは……その、教えないことが条件というか、似たようなことがあるので駄目なんです」

天乃「私に知られたら困る人なのね……九尾かしら」

勝手に潜入して強奪。という話にせよ、なんにせよ

多方面に力を扱える九尾が一番有力だった

自分のことを離さないという条件に関しても

あんな話をしてしまった手前、協力しているということが知られるのは気まずいという可能性も無きにしも非ず。

樹「それより、身体の方は大丈夫そうですか? なにか変化とか、良いとか悪いとか」

天乃「以前に比べたらだいぶ調子良いわよ。時々、なんだか動いているような感じもするくらい」

樹「普通の妊娠に比べて、成長が早いんですよね……」

天乃の腹部をちらりと見た樹は以前の樹とは変わった少し大人びた笑みを浮かべて、

そうっと手を伸ばす

樹「触って良いですか?」

天乃「優しくね」

樹「はい」


樹「…………」

破裂寸前の水風船に触れるような感覚で、

樹は慎重に手を触れさせる

ほんのわずかにでも圧迫しないように天乃の呼吸による動きを見極めて、

まずは重ねて、横に流すように触れる

人によっては禁止されることもあるのだが、

天乃の場合は禁止こそされなかったものの、

双子がいるということもあり、

押し出すような上下の撫で方や、左右から狭めるような撫で方はしないように言われているのだ

樹「……静かだと、少しだけいるように感じますね」

見えないけれど、重ねた手には天乃とは別の命を感じるのだと、

樹は幸せそうに笑みを浮かべる

そんな樹を見つめる天乃は過去の姿を思い浮かべて

天乃「変わったわね、樹」

樹「色々、大変だったからかもしれないですね」

そんなことないですよ~。と、

以前の樹なら恥ずかしそうにしながら否定していたかもしれない

けれど、少し前に自分の非力さを嘆いていた時に告げたように

樹はもう充分なほどに力を蓄えているのだ

勇者としても、そうではない部分であっても

だからこそ、自分自身のことも少しは認められるようになったのだろう


樹「それに、久遠先輩の子供ということは私達の子供、つまり私の子供みたいなところもあるので、しっかりしなきゃなって」

天乃「なるほどね……子供が産まれたら樹も最年少じゃなくなるものね」

樹「そうなんですよ。なので勉強も次のテストではせめてクラスの中では上の方の成績になれたらなぁって思ってます」

それは難しいかもしれないですけど。と

ようやく普段の照れ笑いを見せた樹は、静かに笑い声を抑え込んで息を吐く

樹「……あの、久遠先輩」

天乃「うん? どうかしたの?」

樹「久遠先輩は子供が産まれた後も勇者になれるのなら、勇者になりますか?」

天乃「あまり、聞かれたくない質問だわ」

そう零した天乃は「答えにくいわけじゃなくてね」と、

自責してしまいそうな樹にフォローを入れて、唇を固く結ぶ

単なる質問でしかないのかもしれないが

その時になってもまだ、すべてが終わっていない可能性を彷彿とさせるので、

天乃としては、あまり関わりたくない話題だった

もっとも、神樹様の寿命が尽きかけている状況下で

そこからの逆転劇に出ようとしているその道の路上の石ころになろうとしてるのだ

終わっていると考える方が難しいだろう


1、必要ならね。当然よ
2、リハビリもあるし控えると思うわ。出来る限りはね
3、そもそも使えるようになるのか微妙なところだもの。心配しても仕方がないわ


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


風「時期部長は悩みどころよねぇ……園子と東郷はあり得ないとして夏凜は悪くない」

東郷「風先輩?」

風「ん~……」

東郷「あの」

風「仕方がない。この戦いが終わったら、時期部長を決めるわ」

東郷「それは止めてください、死んでしまいます!」


では少しだけ


天乃「必要ならね。当然、なれるのなら勇者になるつもりよ」

樹「悩まないんですね」

天乃「悩む必要はないと思うの」

樹「それはそうかもしれないですけど……」

そう言われるのは分かっていた樹だったが、

全く悩むことなく言われたのは、少しばかり気になってしまう

今後もまだバーテックスの脅威に晒されることになるため、

必然的に勇者の力が必要となってくるのは分かるが、

天乃はもう、子持ちなのだ

樹「子供の為にもう戦わないという選択はないんですか?」

天乃「それを言われると弱いけれど……でも、必要になった場合は仕方がないわ」

天乃の力がどうしても必要

そんな状況ならば、子供やみんなの為に勇者の力を使う

それなら当たり前のことじゃない? と、天乃は笑みを浮かべる

樹「……それなら、私達で十分な場合は勇者の力を使わないってことですよね?」

天乃「そう……ね。そもそも産んだからってすぐに退院できるわけでもないから頼る方が多いと思うわ」


樹「なら、もっと強くならないとだめですね」

樹は一瞬、とても嬉しそうな表情を見せたが、

すぐに取り乱しかけた雰囲気を整えて、小さく収まった考えを述べる

樹「バーテックスを一人で……なんて、出来たらいいんですが」

天乃「千景に手を借りれば何とかなるかもしれないわよ」

樹「千景さんがハードワークになりますよ、それだと」

完成されたバーテックスは各々が自然に治癒する能力を保有しており

そのため、倒すために破壊しなければならない御霊への到達が非常に困難なうえに

満開で強引に打ち破るという手もあるが、それでは体がもたない

かといって、基礎能力を上げたとしても限界がある

樹「せめて、二人一組で迎撃できるようになれるといいかもしれないですね」

天乃「ねぇ樹」

樹「はい?」

天乃「……私を戦わせないために無茶をする。というのだけは止めて頂戴ね?」

何度も話していること。

だから、本当に言いたかったのはそれではない

樹海で何かあったのではないか、実はもう、すでに樹海化したことがあるのではないか

だから、そんなことを言い出したのではないか

そんな不安があって、聞きたいと思った

けれど、ここまできてそのたぐいのことを言わないということは、きっとただ気になっただけ。なのだろう

天乃「皆が傷ついていくのを見るのは、嫌だわ」


樹「もちろん、傷つかないためにも強くなるつもりですよ」

強ければ、天乃を戦いに出さなくてよくなる

強ければ、傷つくようなこともなくなる

強ければ、天乃を心配させるようなこともなくなる

樹「それに、強ければ久遠先輩も安心できると思うので」

樹海化していなくなってしまったり、

戦いに出て行くことになったとしても、

必ず帰ってきてくれる。という余裕くらいは心に与えられるだろうと樹は思う

樹「それと、強ければ無茶も減るので一石二鳥です」

天乃「けれど、強いからって慢心したら駄目なのよ? ろくなことにならないわ」

強くなったから

対抗できるようになってきたから

その余裕、油断が致命的な失敗につながることもある

それだけは、避けなければならない

樹「…………」

不安そうな表情

何を考えているのか、悲し気な雰囲気

握り合う天乃の両手

目を向けた樹は口を開くも声はなく、ゆっくりと閉じて首を振る

樹「大丈夫です。私達は勝つことを目的にしてるわけじゃないですから」


樹「久遠先輩のところに戻るために戦うんです。だから、それまでは道路の水たまり一つにも気を抜きません」

樹は本気でそう考えているのだと感じる笑みを浮かべる

些細な怪我の可能性一つにも細心の注意を払う

完全に倒しきるまで、

樹海化が解除されるまで

それまでは例え親玉を討伐したとしても、気を抜くことはない

死角からの一撃

それで昏睡状態にでもなろうものなら、最悪だからだ

樹「……久遠先輩」

小さく息を吐き、樹は口を開く

樹「きっと、私達が種を奪うことで勇者はまた戦うことになると思います」

もしかしたら今まで以上に辛い条件だったり、過酷な状況になるかもしれない

それでも、何かが失われることがないようにしたいと、樹は思う

今日、この時間に態々こんなことを聞きに来たのも、

問題の引き金となる日がもう目前まで差し迫っているからだ

分かり切った天乃の答え

だとしても、自分達の大小関わらないミスが、行いが

自分たちにとってどれだけの被害をもたらすのかを確認するために

樹「久遠先輩の傍からは誰一人として奪わせたりしません。たとえ、何かがあったとしても、私の力で繋ぎとめてみせます」

剣でも拳でも銃でも槍でも鎌でもなければ、歌野のような鞭とも少し違う光

それはきっと、繋ぎとめるためのもの。だから、樹は誓う

樹「だから、久遠先輩は心配せずに待っていてください」

天乃「そこまで仰々しく言われると、逆に不安になっちゃうんだけどね」

苦笑いを浮かべながらそう言った天乃は、それでも「解ってるわ」と、優しく答えた


√ 11月07日目 朝(病院) ※日曜日

01~10 夏凜
11~20 
21~30 風
31~40 
41~50 千景
51~60 
61~70 若葉
71~80 
81~90 園子
91~00 九尾

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

一日のまとめは再開時に



奉火祭「奪わせたりしないって言われると奪いたくなる」


では少しだけ


1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(夏凜の提案、失敗は許されない)
・   犬吠埼風:交流有(夏凜の提案、失敗は許されない)
・   犬吠埼樹:交流有(夏凜の提案、失敗は許されない、戦えるのなら)
・   結城友奈:交流有(悪戯、夏凜の提案、失敗は許されない)
・   東郷美森:交流有(夏凜の提案、失敗は許されない)
・   三好夏凜:交流有(夏凜の提案、失敗は許されない)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(勇者部の考え、夏凜の提案、失敗は許されない)

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


11月06日目 終了時点

乃木園子との絆  74(高い)
犬吠埼風との絆  100(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  91(とても高い)

結城友奈との絆  110(かなり高い)
東郷美森との絆  120(かなり高い)
三好夏凜との絆  144(最高値)
乃木若葉との絆  96(かなり高い)

土居球子との絆  42(中々良い)
白鳥歌野との絆  42(中々良い)
藤森水都との絆  35(中々良い)

  郡千景との絆  42(中々良い)
   沙織との絆  120(かなり高い)
   九尾との絆  63(高い)

    神樹との絆   9(低い)


√ 11月07日目 朝(病院) ※日曜日


夏凜達との話し合いから一夜明けた、日曜日

周りから感じる空気は大切な事を話し合ったに関わらず、

何一つ変わったような感じは見受けられない

元から賛否問わず実行予定だったからなのかもしれないが

沙織が言っていたように、

話し合うことも視野に入れていたというのが大きいのだろう

天乃「……みんなは」

自力では開きにくいカーテンの向こう側の世界

皆の動きを天乃は耳で感じ取る

他愛もない話、今日の予定

そんな日常的な会話を繰り広げて、時間を消費していく

明日、世界を敵に回すことが嘘のような緩ささえ感じ、

あれが実はドッキリだったのではないかとさえ、思いそうなほどに。

天乃「あくまで、自分たちにとっての日常って言うことなのかしらね」


天乃の移動や、食事などの日常生活に加えて、

勇者として守り戦うこと

それがもしかしたら、勇者部にとっての日常になっているのかもしれない

だから、いつだって変わらない

もっとも、

あんな話をした後で弱っているような空気を感じさせたら

それこそ天乃を不安にさせてしまうだろうし

そんなところは見せられないというものもあるだろうが。

天乃「……本気だって言うのは、良く分かったわ」

昨日で十分に思ったことではあるものの

改めて、天乃はそう思ったのだ

そこまで想われているのは嬉しい反面、

少しだけ申し訳なくも思う

もちろん、そんな考えに苛まれるつもりはないが

天乃「明日、なのよね……」

心配には、なってしまう



1、勇者組
2、精霊組
3、イベント判定

↓2


1、風
2、友奈
3、樹
4、夏凜
5、東郷
6、園子


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば昼頃から

園子と交流


園子(天さんから呼び出し……)

園子(きっと決戦前の願掛け的な事されちゃうんよ~)

園子(そして、最後の最後で天さんから受け取った何かで力を得て私は立ち上がるのさ)

園子(むふふ~自由になってきたこの体で、堪能させてもらうぜ~、天さん)


すみませんが、本日は所用でお休みとなります
可能であれば、明日19時頃から今日の分含めて再開できればと思います


では、少し遅くなりましたが少しだけ


天乃「園子」

園子「ん~? おぉっ」

目の前のベッドにいる園子に向けて手招きをすると

最初こそぼんやりとした反応を見せていた園子は嬉しそうに呼んでいた本を閉じて

素早くベッドから降りる

リハビリを頑張ったのか、神樹様の力ゆえか

少し前まで全身が動かせなかったなんて言うことが嘘のような滑らかな動きで

足取りも非常に軽やかだった

躓くことも、躊躇うこともなく、真っ直ぐ天乃の方へと近づいて、

園子「えっへへ~、ちゃんと歩けるんよ~」

天乃「立場が入れ替わっちゃったわね」

園子「私が自由で天さんが不自由……でも、前も天さんはそこまで自由じゃなかったから、一緒にはならないんよ」

自分の自由を喜ばしく思う反面、

不自由さの苦しさを痛いほどわかっている園子は悲し気に言うと、

でも。と呟いて

園子「子供の為だから、悪いことじゃないのは救いだよね」

天乃「……そうね」

園子「どっちも女の子だったっけ~?」

天乃「双子だからね。確か、二卵性とかなら話は別らしいけれど……まぁ、私に限っては女の子よ」


園子「天さんの力を引き継いだ男の子とか、どこの小説だよ! って感じだからねぇ」

天乃「安倍晴明?」

園子「いやいや、ヤングだよ。ヤングカルチャー」

それじゃオールドだよ。化石だよ。と

困ったように言う園子は「カルチャーショックだ」と独り言ちる

天乃がそう言った本にあまり興味を示さないこと

そんな流行りなどに心から触れる時間などなかったこと

園子はそれを余計に感じて、おもむろに手を叩く

園子「そうなると、天さんの息子はハーレムを築くのさ。前作主人公のゆーゆ達ともくんずほぐれつの――」

天乃「親の妻を横取りする主人公が今の流行りなの……?」

園子「あくまで一例というか、ラッキーな展開があるっていうだけで、実際は同年代の女の子とするんよ」

天乃「そこはかとなく、嫌な感じのする物語ね。それ」

男の子が女の子。というだけであって、

それとあんまり変わらないところに到達しようとしている天乃の言えたことではないのだが、

園子は軽く笑うだけで話を流す

言えたことじゃないよね。とか言っても丁寧な説明をしないと気づいては貰えないからだ


余計な話で気を紛らわせて、一息

ふんわりとした空気を取り払った園子は夏凜達の方を一瞥する

園子「……楠さんたちが気になる?」

短いとはいえ、関係のある芽吹達との取り合い

互いにとって譲れないものの取り合いである以上、

戦いの火蓋が切って落とされる可能性は極めて高い

その心配があって天乃は呼んだのかと園子は言いたいのだ

天乃「友奈が説得してくれるんでしょう?」

園子「うん」

天乃「……園子はどう思う? 上手くいかないと思う?」

園子「向こうも譲れないものだとおもんよ」

天乃「そうよね……」

夏凜と同様、園子も説得は失敗に終わること

その結果戦うことになるという方向になるとみているのだろう

少し、申し訳なさそうに眉をひそめた



1、出来る限り、優しくしてあげてね
2、でも、上手くやってくれるって信じてるからそれはいいの。それよりも、来週の銀の誕生日なんだけど……
3、ねぇ、園子はどう思うの? 種を奪ったあとの大赦の動きとか
4、端末の手配が出来るなら、種も持ってきてもらえばいいのに
5、この際だから無茶するなとは言わないけれど、無理はしないでね?


↓2


天乃「でも、楠さんたちに対しては、みんなも上手くやってくれるだろうから……」

戦うことになったとしても。

完全な手抜きこそ出来ないかもしれないが、

命を奪ってしまうようなことや、

体が不自由になってしまうようなことにまではしないだろうと天乃は思う

いくら何でも、そこまで出来る子達ではないはずなのだ

天乃「それよりも、園子は大赦や神樹様がどう動くと思う?」

園子「樹海に入ってからの作戦になるから、防人の報告次第になると思うんよ」

天乃「なんかしらの方法で見られている可能性は?」

園子「それもあるね~」

二年前も、銀が撮影した写真は撮れていなかったにもかかわらず

大赦は戦闘時の映像などを記録することが出来ていたのだ

何かしらのそういった監視するような設備が整えられている可能性はなくはない

だとすれば。

園子「間違いなく、天さんに接触してくると思う」

天乃「検査っていう名目で連れ出されて尋問。とかね」

園子「あながち間違いじゃないと思う。天さんの場合、検査だったりなんだりで連れ出せるし、ここで話すのは難しいから」

天乃「そのあたりも考えておかないと、後々面倒なことになりそうなのよね」


一番簡単なのは、自分には関係のないことだと言い

むしろ、その報告に驚いて見せて、作戦とは関わっていない素振りを見せたうえで、

自分の寿命が近いことを話したせいかもしれない。と嘯くことだ

以前、天乃が学校に長く通うことが出来なくなった際に、

勇者どころかクラスメイトが反旗を翻したのだ

その説得力はけして小さなものではないだろう

園子「最悪、逆に天さんを奪われる可能性もあり得るかな……」

天乃「みんなに対する人質……有効かしら」

園子「良し悪し問わなければ」

天乃「間違いなく、暴動を起こすわよねぇ」

自分が引き金になっていることではあるのだが、

天乃はたまらずため息をついて苦笑いを浮かべると、

頭を抱えるようなしぐさを見せる

実際問題、大赦にとっても重要なものを奪うのだから、変換要求は来るだろう

それが替えの効かないものであるならば、

形振りかまっていられず天乃を人質にする可能性は大いにあるのだ

そして、そんなことをしたが最後、勇者部は荒れるだろう

天乃「そうなった場合、種を返してあげてって言ったら返してくれる?」

園子「唯一の希望だから、難しいと思う」


園子としてはそんな事態になってしまった場合は返還し、

まずは天乃の身の安全を確保するべきだと思うのだが

かといって、貴重なアイテムを手放してしまったらもう二度と救う手立ては見つからなくなってしまうかもしれない

何もかも可能性

それも、嫌な方向ばかりの可能性に満ち溢れた作戦

本来なら、こんな手を選ぶべきではないとも思う

しかし……現状で打てる手はそれ以外には見つからなかった

園子「出来れば、天さんは関わってないことにした方がいいと思う。じゃないと、天さんに危害が加えられる可能性もあるんよ」

天乃「まぁ、さすがの大赦も無関係ではない無関係な妊婦に危害を加えようとは考えないものね」

ただし、時と場合によっては。だ

それがそうせざるを得ない状況出れば話は別

そして、今回の話はそうせざるを得ない状況の可能性もある

天乃「最悪、今後私は監視され続けることになるのよね……」

園子「私の時と似たような状況になるのは子供に悪いけど」

天乃「……私も私で、説得を試みるべきかもしれないわね」

園子「天さんの寿命の件、信じて貰えるかどうか……かな」

天乃「それを信じて貰えればまだ……ううん、だとしても、世界と人ひとりの命……上手くはいかないでしょうね」


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


園子「最悪大赦を破壊するんよ」

風「破壊工作員1番!」

東郷「破壊工作員2番!」

友奈「止め――……ないよ?」

夏凜「止めろぉッ!」


では少しだけ


天乃「まぁ、なるようになるというか、出来るようにやるしかないってところよね」

流れに身を任せていたら、

天乃の寿命の一件のように最終的には絶望的な状況に陥ってしまっている。という可能性がある

ならば、問題が提起される前に出来る限り考え、行動しておくべきだろう

天乃「高校の受験と同じような感じね」

園子「天さん、進路決めてなかったような~」

天乃「それはそれ。これはこれ。まず目先の問題から片付けないと勉強なんてしてられないわ」

もちろん、ほぼ一日中暇を持て余している状態の天乃は、

みんなとかかわっていなかったり、空いた時間には一応勉強をしてもいるのだが。

受験するかどうかということに関してはまだ明確に決めていないというのが正直な話である

先月期限の進路希望調査を今月末まで延長してくれた先生には悪いと天乃も思うものの

寿命だったり勇者だったり子供だったり。

天乃もただの学生と比べてはるかに余裕がないのだ

天乃「とにかく、大赦の動向に関しては気を付けて欲しいわ」

園子「うん、目をぴかーんってさせておくんよ~」

天乃「バレるからやめなさい」

園子「ふっふっふ……ダンボールさえ被れば余裕だぜ」

天乃「監視とか盗聴とか、そう言うことにまで手を出してたら取り返しがつかないわ。必要以上にやらなくて良いのよ」

冗談だろうけどね。と天乃は苦笑して、園子の顔を見上げるように見つめた


天乃「皆のことをよろしくね」

園子「……今回限りなんよ」

天乃「前にも、お願いしたことはあったけれど」

園子の容態が悪化する原因ともなったあの戦いだ

その時に比べて、勇者部のみんなも精神的・戦力的に飛躍的に強くなっているだろう

精霊がかなりの数いた園子は、

その分、そして、二年前からの経験というのもあって比較的能力は上だが

しかし、それでも勇者部全員の頂点に立てるのかと言えば、それは微妙なところだと園子は思う

それぞれに強みがある

園子は万能だが、一転特化させた部分を超えられるとは思わない

真面目に考えて、そう思う

園子「それはそれ。これはこれ」

にやりと言った園子は、小さな笑みを零して息をつく

園子「天さんのことは精霊のみんなが見てるから、誰もいないからって無理は禁物だからね?」

天乃「解ってる。そもそも、こんな体じゃ出歩こうにも出歩けないわ」

せめて足が動けば話は別なのだが、無いものねだりをしても意味はない

天乃「だから、無事に帰って来て頂戴。お腹の子供に悪いから」

園子「うん、約束~」

天乃のお腹を優しく撫でて、園子はにこやかに答えた


√ 11月07日目 昼(病院) ※日曜日

01~10 風
11~20 
21~30 球子
31~40 
41~50 千景
51~60 
61~70 夏凜
71~80 
81~90 若葉
91~00 九尾

↓1のコンマ 


√ 11月07日目 昼(病院) ※日曜日


千景「難しいことを言ったわね」

天乃「千景……」

千景「確かに、上手くいけば得られるものは多いけれど……だからこそリスクもあるのに」

園子たちが、明日の為の最後のリハビリへと向かったのを見計らってか姿を現した千景は

少し厳しく言いつつも、強く言うつもりはないのだろう

語尾にため息一つ付け加える

千景「でも、よくそんなことを考えたとは、思うわ」

天乃「貴女達は誰も考えなかったの?」

千景「久遠さんの体に神樹様の力を加えるのはリスクが高いわ。分かるでしょ?」

天乃「…………」

千景「寿命が近いというのもあって私達の誰もまずリスクを背負わせるという考えは持たなかった」

ある意味では先入観にも似たようなものだ

それをしてしまったら天乃は助からないと、勝手に考えて怯えて竦んでしまう

千景「なんのリスクもない休載。そんなことがあり得るはずもないのに」

天乃「……みんなを残したいって願ったことに言いたいことがあるの?」

千景「任せると言ったのは私よ。貴女がどんな決定を下そうとそれを否定する気はない」

どんな答えであろうと受け入れる。それが委ねた者が背負う義務。と、

千景は答えて、窓際に腰かける

千景「ただ欲を言えば、自分の命がかかってるならそれこそささっと斬り捨てる思い切りの良さも欲しかったわ」


そうできない優しさも貴女の良さではあるけれど。

そう続けた千景は思い浮かんだ何かを払うように眼を閉じくすりと笑う

千景「乃木さん……園子が言っていたけれど、私達はここに残るから安心して良いわ」

天乃「大赦からの干渉に警戒するためよね。でも、みんなは樹海に出るんでしょう? 大丈夫なの?」

勇者部の力を信用していないわけではないが、

それ以上に心配にはなってしまうし、

バーテックスだって神の産物のようなものなのだ

今までの比にならないようなことをしてきてもおかしくはない

千景「戦力的には問題ないと思うわ。それに、万が一何かあっても防人と敵対行動を続けるような愚かな人はいないわ。私と違ってね」

天乃「自虐に使わないの」

千景「普通に思い出してもあれには苛立ちを禁じ得ないのよ。だから、笑い話にしておきたいわ」

笑顔を見せつつも真剣な語り口調を使う千景は、

それは別にいいから。と、自分のことをどこかへと放り投げる

千景「残る一番の理由は九尾よ」

天乃「なにかあったの?」

千景「何もない。けど、何かするかもしれない」

天乃を危険に晒すことになる種の強奪あるいは説得を行う勇者部に対してか、

または、それによって天乃の周囲に誰も居なくなったとことで接触を図ろうとする何かに対してか。

今回の一件に同行することはないらしい九尾が何をするか分からないというのも、

ここに精霊組が残る理由の一つでもあるのだ


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



「そしてもう一つは、貴女も精霊組で美味しくいただくためよ」

千景「変なこと言わないで、乃木さん」

園子「違うの~? きもちいいよ~?」

千景「…………」

千景「……あぁ、園子だったわ」

若葉「聞き捨てならないんだが?」


では少しだけ


天乃「体を気遣っている分、九尾も手段は選ばないのかしらね」

千景の言うことをうのみにするわけではないし、

九尾のことを完全に疑うわけでもないが、

九尾は妖怪の一種であり、温厚である面があれば冷酷な面がある

初めて出会ったときからその両面を併せ持っていた九尾

大切に思うであろう天乃の体の事ともなれば、

手段も結果も何も考えずただ障害を排除し続けることもあるだろう

天乃「あまり、危ないことはしてほしくないんだけど……」

千景「人に対して? それとも、九尾自身?」

天乃「両方よ。片方が無事なら良いってわけではないわ」

千景「そう言うと思ってたわ」

だからこそ、精霊組全員で残るのだ

九尾を止めるためというのもあるし、大赦を止めるためでもある

本来ならば、天乃側の人間として、

大赦側の人間のみを排除するだけでいいのだが。

千景「……私も甘くなったわね」

天乃「貴女は元々、けして悪い子ではないでしょう?」

天乃の考えをすんなりと受け入れている自分に対して、

思わずつぶやいたことに返された千景は、

少し驚いた反応を見せて、首を振る

千景「そうでもないわ。甘ければもう少し、頑張れたはずよ」


今更後悔する気はないし、

ぐちぐちと考えても仕方がないことだ

自分の過ちを笑い話として作り替えてしまうほどには、

もう離れていると千景自身も思う

だが、忘れるつもりも千景はない

その過ちがあるからこそ、自分がいるのだから

千景「…………」

小さく、息を吐く

背中の触れた窓が僅かに軋む

千景「……少しだけ、私は期待していたのかもしれないわ」

天乃「なにに?」

千景「貴女が、それでも精霊の存続を選ぶこと」

何も言わない、任せる

そうは言ったものの、やはり千景は口にする

千景「高嶋さん達が守った世界……あやふやなままでいなくなるのが気が引けるから」

バーテックスを完全に倒しきれていない以上、不安は残る

それは天乃がいても居なくても変わらないことだ



1、本当は勇者部に毒されたんでしょう……嬉しそうだもの
2、そうね……絶対に去らなくちゃいけないとしても、せめて救うまでは残りたいわよね
3、なら、全部終わった後に高嶋さんの守った世界をもっと見て回りましょうか
4、ほんとう……良い顔をするようになったわね



↓2


では短いですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では、遅くなりましたが、少しだけ


天乃「……本当、良い顔をするようになったわね」

千景「…………」

満足げに、

そして感慨深く言う天乃へと目を向けた千景は、

ゆっくりと瞬きすると、笑みを浮かべる

天乃に対して……というよりは、

その言葉に対しての答えのような無声の表情

千景「そうさせたのは、貴女達だわ」

否定しない、意味はない

自分があの頃と比べて大幅に変わったのは事実

今もできるものがあればゲームに触れることもあるが、

他人との関わりを絶とうという考えはないし、周りを見ることも多くなった

それは間違いなく勇者部と天乃のせいであり、おかげだ

千景「嫌でも一人にはならない。必ず誰かがいる……そうなると、心にも余裕があるから」

天乃「……そうね」

千景「それでも、余裕が無くなる人もいるのだけど」


皮肉を呟く千景は天乃を横目に一瞥する

なにかあったの。という問いには答えず苦笑して

千景「最近は良く打ち明けるようになってくれたからよかったわ」

天乃「私?」

千景「さぁ、どうかしら」

茶化して、笑う

明日に迫っていること、

この世界に迫っていること

けして、余裕があるわけではないのだが、

それでも笑うくらいのことは出来る今の自分を確認して、

千景は首だけを動かして、窓に映る自分を見る

笑っている。本当に良い笑顔を見せている

あの頃、周りが見せてくれていた中に溶け込んでも違和感のない姿

千景「……前に」

天乃「うん?」

千景「一昨日くらいに寂しさもあると答えたけれど」

でも。

千景「それは西暦時代のことを考えればの話。この時代に関しては、十分満足しているわ」


別に聞かれなかったから言わなかったことだけど。

そう後付けするように続けた千景は窓縁に預けていた体をぐっと起こしてスカートを叩く

あんまり長居していると、必要のないことまで言ってしまいそうで。

それは友奈達のような恋愛的なものではないけれど、

友人的な関係にしては、少しばかり親密が過ぎているような気がして。

千景「……だから、久遠さん」

それでもこれだけはと、千景は口を開く

千景「貴女には、貴女達には感謝しているわ……ありがとう」

天乃「私も感謝しているわ。ありがとね、千景」

千景「っ……」

お礼を言われ慣れていないのか

言うこと自体が恥ずかしかったのか、

千景は顔を仄かに赤く染め上げていくと、

首を横に振って天乃に背を向け――そのまま姿を消す

天乃「……照れるようなことじゃ、ないんだけどね」

その微笑ましさに笑みを浮かべた天乃は、

天乃「明日も、晴れればいいんだけど」

千景がいた窓際へと目を向けて息を吐いた


√ 11月07日目 夕(病院) ※日曜日

01~10 九尾
11~20 
21~30 風
31~40 
41~50 若葉
51~60 
61~70 球子
71~80 
81~90 夏凜
91~00

↓1のコンマ 


ではここまでとさせて頂きます
明日は出来れば17時までには


風「……アタシか」

夏凜「…………」

夏凜「……風」

風「ん? どしたー?」

夏凜「いや……なんでもないわ。忘れて」

風「変な夏凜。じゃ、ちょっくらフラグ立ててくるかね!」グッ

千景「犬吠埼さん。今は貴女が戻らないフラグが立ってるわよ」

風「!?」


遅くなりましたが、少しだけ


√ 11月07日目 夕(病院) ※日曜日


夕方……と、言っても

もうすでにだいぶ日が落ちてしまっている時間

読みかけの本を閉じた天乃は、ふと息を吐いて来訪者の名前を呼ぶ

天乃「……どうかしたの? 風」

風「足音? 気配?」

天乃「匂い」

風「なんですと!?」

襟首を軽く引っ張って確かめつつ、

風は一歩後退りして左手で軽く自分を仰ぐ

鍛錬をしてきたわけではないし、夏場でもない

それでも防ぎきれないものもあるのかと、少し不安になって。

天乃の小さな笑い声が聞こえた

天乃「ふふふっ、ごめんね。冗談、冗談よ」

風「そーいう冗談はキツイからやめてよね。来年から高校生だから色々変わるだろうし」

天乃「別に悪い方の匂いとは言ってないのに。ただ、窓に映ったのが見えただけよ」

風「なら良いけど……」

冗談と言われてももう一度確かめて、一息つく

風「気配で感じ取るのは、やっぱり難しいのね」


風「これを機に普通の母親になっちゃえば?」

天乃「樹ね?」

風「直接的に聞いたわけじゃないわよ? ただ、そう言う世界になったらいいねって言うもんだから」

ちょっぴり呆れたように

それでも嬉しそうに

風は苦笑いを浮かべながら軽く腕を組む

風「何か言われたってことくらいは分かるもんよ。これでも姉ですから」

天乃「私だって、似たような考えているわけだけどね……貴女達も普通の額k制に戻れないのかなって」

風「全部終わるか、光景が見つかるまでは無理だと思うわよ」

まぁ……と、

少し考えながら呟いた風は思いついたように笑みを浮かべる

風「テレビアニメの魔法少女的な感じで中学生まで。とか限定でもされてくれれば解放されるかもしれないけど」

天乃「あるいは母親になれば、ね」

風達とは状況が違うため一概には言えないが

天乃は母親になったことで力が使えなくなっていっている

ゆえにその可能性もないとは言い切れなかった

天乃「貴女も母親になってみる?」

風「天乃の子供なら産んであげても良いわよ~?」


天乃「何言ってるのよ」

風「それは天乃でしょ。生えてるわけでもあるまいし」

天乃「生えてるって……」

風「じゃなきゃ天乃以外の誰かとやらなきゃいけないでしょ? それは中々ねぇ」

天乃がそれを……もちろん

天乃自身が望んで行ったことであり、

それを酷く言うつもりこそないが

しかし、出来得る限り避ける事であると風は思う

風「東郷が同性で云々とか凄いこと考えてはいるけど、そんなの今すぐ出来るわけじゃない」

だったら、今は全員が生き延びることを第一に

戦っていくべきだろう

風「なら、バーテックスとの戦いをどうやったら終わらせられるのかを考えるべきでしょ」

天乃「でしょうね。私は意外に強欲だから……ほかの人に貴女達をとられたら暴走しちゃうかもしれないし」

以前の天乃ならば、

それが風達の考え導き出した答えなら受け入れるという答えになるのだが……

その違いもまた、子供が出来たことに関係しているのかもしれない


1、楠さん達のこともちゃんと守ってあげてね?
2、もしも私が男の子だったら私と付き合ってた?
3、風は上手くいくと思ってる? 今回の作戦
4、それじゃ、風はどうすればバーテックスとの戦いが終わると思う?


↓2


天乃「さて、ここから真面目な話ね」

風「ん?」

天乃「貴女はどうしたらバーテックスとの戦いが終わると思う?」

風「また難しい話を持ってくるわねぇ……」

切り替わっていく空気に合わせるように息ついた風は、

天乃に背を向ける形でベッドに軽く腰かける

バーテックスとの戦いを終わらせる方法

そんな大赦が、自分たちが。

願って止まないそれを簡単に導き出せるのかどうか

風はそれを考え、首を振る

風「向かってくるバーテックスを打ち払うくらいしか考えつかないわ」

天乃「降りかかる火の粉を払うだけでは火が消えることはない……雨乞いをするのなら話は別だけれど」

風「雨乞い……雨乞いねぇ……」

バーテックスを生み出す親玉とされている天の神

それを淘汰することなど到底不可能な話だ

ましてや、何かしらの軌跡が起こる事だけを祈るなど無意味に等しい

行動しなければ何一つ変わることはない

風「今考えられてる対策は大赦のあれでしょ? 奇跡を起こすに足り得ると天乃は思う?」

天乃「それを判断できるのは、種を正しく扱えてからになるわね。それに対し相手がどう出てくるのか」

無視をするのなら脅威ではないだろうし、そこから不意を突くことができるようになる可能性も出てくる

それを無視することなく追い詰めてこようとするのであれば、

向こうにとって、目に余るなにかだということになる

それが打開策につながると言い切れるわけではないが……

天乃「それも今回の私達の行動で水の泡になるから、一応それ以外のお方法を考えなければいけないわ」


風「……撃退し続ける以外なら、攻勢に出る以外ないわ」

撃退し続けるということは、神樹様の結界の中に引きこもって

向かってくる敵だけを相手にしていくということであり、

神樹様の寿命もつきかけている今、それは得策ではない

むしろ愚策と言えるだろう

ならば、反対に戦いに出ていくしかないだろう

かといって、無策で戦いに行くのも愚の骨頂というものだ

風「天乃はその辺り、何かいい作戦でもないの?」

天乃「人間様の魂ってやつを見せつけてやるとか?」

風「なにそれ」

天乃「例え天の神であろうと、ただでは済まないぞってことを見せつけてあげる的な?」

もちろん本気で言っているわけではないけれど

一つの策としては完全に捨てきれることではない

神とて、下手に火傷しようという考えは持たないはずだ

しかし、それも簡単なことではない

天乃「正直に言うとね、神を退ける一手なんて、どう打てばいいのかさっぱり分からないのよ」

風「人間の魂って言うけど、それだって全力で戦えばいいってだけなら先代が成し遂げてくれてるからね」

天乃「……ええ」

風「どう転んでも一筋縄ではいかないか」

天乃「転んだら絡まっちゃうから」

風「そう言う話じゃない」


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
諸事情で遅れたり休載もありますが、出来る限り三日に一回のお休みに抑えていく予定です



風「打開策……あっ」

天乃「なにかいい方法でもあった?」

風「ふふっ、聞いて驚かないでよ?」

風「天乃のハーレムの一員に加えちゃえばいいのよ! その神様ってやつを!」

天乃「うん、それは無理ね。却下で」

風「……ですよねー」


遅くなりましたが、少しだけ


風「……なんにせよ。アタシ達の作戦行動は外に出てからになる。そこでバーテックスがどう出てくるかによるわね」

壁の外の状況は刻一刻と変化しており、

あまり良くはない状況であるという話は聞いている

大赦による作戦行動の影響と、風達の作戦行動による影響

それらが神々にとって、【人間の業】となるのであれば

事態は確実に推移することだろう

それが悪いことなのか、良いことなのか

それは起こってからでなければ分からない

天乃「推測は出来ても断定はできない、ましてや人とは違う思考をするのなら――」

風「推測は下手な考えに陥るだけって可能性も出てきちゃうか」

天乃「そもそも、中学生程度の頭で考えたところでどうなのという話でもあるけどね」

つんつんと自分の指で頭を突いた天乃は苦笑いを浮かべると、

ため息混じりに口を開く

天乃「大赦だってある程度のことは考えているはずだわ」

風「…………」

天乃「それも結局、あるいは所詮人の導き出したものであるけれど、私達よりは多くを考えていると思う。というより、そう信じたい」

大人である以上、ある程度の思考的な縛りがあるのは仕方がないことだけれど

個人個人のことを考慮しつつも、小を持って大を生かそうというある意味では合理的な考え方をしてくれている

それは、犠牲になる存在を除けば非常に有効的な生きるための戦略と言えるだろう

いつかは滅びることにつながるのかもしれない、破綻するのかもしれない

だが現状を維持すること、生き長らえることにおいては効力があるともいえる

天乃「私達はその大人たちの考えを、阻むのよ」


勇者部の皆が軽視しているとは言わないし

もちろん、そのことに関してもしっかり考えたうえでの行いであることも天乃は信じている

それrでも天乃は改めて、今回の作戦の重大さを告げる

それは、天乃の命がかかっているかどうかという小規模の話ではなく、

世界の存亡と、大人の考えた現実的な生存戦略を挫くという大規模な話なのだと。

天乃「私は別に自分の命を軽く見るつもりはないわ。だけどね、それでも天秤は傾くわ」

風「個人的な考えを置いておけば、ね」

天乃「ええ。私達は私達の身勝手な我儘で大人の希望を絶ち、世界の生命線を断つ」

風「……十分、理解してることよ」

天乃が続けて口を開くよりも先に答えた風は、

皆がいるであろう方向へと目を向けて、また天乃に戻す

風「今度は、自分たちからその責任を背負う」

天乃「…………」

まだあいまいだった、なし崩し的なものだった

はっきりとそうだと認識してのものではなかった

だが、これからはもうそんな軽んじた姿勢ではいられない

風「アタシ達が、この世界を救うんだってしっかりね」


天乃「……解ってるとは思うけど」

風「ん。死ぬほど無茶はしないわよ」

死ぬ気で無茶はするかもしれないが。

当たり前の話ではあるけれど、死ぬ気は毛頭ない

風「はぁ……なんかこう、肩こるわねぇ」

天乃「老けたわね」

風「真面目な話続きだから」

語気を強めて訂正を促した風は、

同年代の癖に。と、少し呆れたようにぼやいて、

伏し目がちに天乃を一瞥する

母親になった天乃と、なってはいない自分

同年代ではあるものの、年期は違って見えた

風「母親、ねぇ」

天乃「うん?」

風「……いや、せめて結婚式に招待されるべきだろうなぁってね」

成人した後、いつになるかは分からないが

天乃の子供にもそう言う時がきっと訪れる事だろう

その時に、母親の席が空席であるべきではない

風「世界を守るつもりではあるけど、大前提は天乃の生存だから。そのあたりは譲れないわよ」

早くに両親を失ってしまったからこそ、

親を失ってしまった子供の悲しさを、苦しさを、辛さを

風は痛いほどに理解しているから

風「天乃は生きるのよ。絶対にね」

改めて、そう言った


√ 11月07日目 夜(病院) ※日曜日

01~10 九尾
11~20 
21~30 樹
31~40 
41~50 球子
51~60  沙織
61~70 夏凜
71~80 
81~90 若葉
91~00

↓1のコンマ 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


風「そう、何があってもあんたは生きないとダメ」

風「子供を残して母親が死ぬなんてのはアタシが絶対に許さない」

風「それは」

風「それだけは、何が何でも阻止して見せる」

遅くなりましたが、少しだけ


√ 11月07日目 夜(病院) ※日曜日


天乃「……はぁ」

友奈が来たときもそうだったが、

寝苦しさゆえに目を閉じても一向に眠ることが出来そうにない天乃は、

下半身が動かないもどかしさにやや苛立ちを覚えながら、

傾く程度の寝返りを打って、背中の方に新鮮な空気を送る

少しばかりひんやりとした空気

カーテンを突き抜けて感じる仄かな月明かり

何となく耳を澄ましてみても

周りから話し声が聞こえたりする様子はない

明日に備えて早く寝よう。

夕食を終えた後に風がそう言ったとき

誰も反対しなかったし、頷いていたのだ

もう、眠ってしまったのかもしれない

天乃「…………」

自分勝手に眠らないわけではないが

けれど、みんなを起こすのはと躊躇う


天乃「…………」

妊娠してるとは言っても、

下半身が自由に動かすことができるのであれば、

ほんの少し風にあたってくるだとか、水を飲むだとか

そう言ったことが普通に出来るのだが……

それも出来ないからこそ、苛立ってしまう

迷惑を極力かけたくないと思っても、迷惑をかけることになってしまう

天乃「っ……」

明日、みんなは大事なことがあるのだ

それも、天乃の為に世界に喧嘩を売るような大きなこと

なのに、

寝付けないというだけで眠りを妨げていいのだろうか

精霊のみんなならば答えてくれるだろうけれど、

それが結局、だれかを起こしてしまうのではないかと不安になる

天乃「……なんか、駄目ね」

悪い考え、嫌な方向での考えになってしまうのは、

一人きりの思考だからというだけではないだろう


天乃「……寝ないと体にも悪いのだけど」

ごろん。っと

寝返りの一つでも打てれば少しは楽になれるのかもしれないけれど

そうするわけにもいかなくて。

天乃は一息つくと、

天井へと手を伸ばして、見つめる

少しやつれたようにも見えてしまう細くて小さな手

元々大きくはなかったが、鍛錬が出来なくなったこと

車椅子での移動も殆どできなくなってしまったこと

力が抜けてしまっていることなどによって

すっかり子供になってしまったのだ

握力を付けるための道具ですら、ろくに握れないのだからより酷いのかも知っれない

天乃「…………」

樹には戦うと言ったものの、

実際に戦場に出て戦えるのかどうかは、非常に怪しかった



1、精霊組
2、夏凜に声をかけてみる  ※隣限定
3、イベント判定
4、ハンドグリップでも使う


↓2


1、沙織
2、九尾
3、千景
4、若葉
5、球子
6、歌野
7、水都

↓2


では、ここまでとさせて頂きます
明日もできるかぎり、通常時間から

あまりにも遅くなりそうな場合は、休載となります


では、少しだけ


天乃「…………」

呼ぶかどうか迷った天乃はふと息を吐いて、目を瞑る

あんな話をして、結局その願いを聞き入れることはなかった

恨むだろうか、怒っているだろうか

それとも、もっと別の感情があるのだろうか。

そんなことを考えながら、目を開く

天乃「……球子」

静かに名前を呼んで、数舜

天乃「まだ起きているなら、出てきてもらえないかしら」

自分の我儘だから気にするな。

球子はそう言ってくれていたが、

それでも、思うところはあったはずで

呼ばれたからと出ていくか。そんな反応さえ身構える天乃の前に、彼女は姿を見せた

球子「…………」

天乃「…………」

球子「…………」

気まずそうに、口をつぐんで

ちらりと互いに目を向けてはいても中々前には進めなくて

暫くして、球子が口を開いた


球子「あー……その、なんだ。タマは別に気にしてないぞ」

天乃「…………」

球子「言ったろ、我儘だって」

困った様子で

何もないと微笑みながら、球子は言う

本心と嘘の入り乱れた表情は

全く気にせずにいられているわけではないのだと、

そう、言っているのが分かるもので

天乃は少し口を開き、逡巡して、閉じる

球子も気遣って言ってくれているのだ

それを下手に崩していいのかどうか、躊躇うのだ

天乃「……ええ、貴女は我儘だって言ってくれたわね」

球子「そうだ。だから」

天乃「球子……」

自分一人の感情のこもった願い

それに強く左右されやすい性格であると知っているから

もちろん、それ以外にも理由はあるのかもしれないが、

殆どは、それがあるからこその、付け足したような一言だったはずで。


天乃「今回は、私の我儘だわ」

球子「だから、なんでも言っていいって言うのか?」

天乃「言いたいことがあるなら」

球子「…………」

止める理由はないし、

むしろ聞く責任が自分にはあると天乃は思う

あれだけの想いを語られてなお、自分の我儘を貫いたのだから

球子がそう言う性格ではないことは承知の上だが

たとえ罵倒されるのだとしても、聞かなければならないのだと。

球子「それなら、朝に呼んで欲しかったぞ。こんな時間じゃ大声も出せない」

天乃「それは……そう、ね……ごめんなさい、気が回らなかったわ」

球子「って言っても、明日のこともあってか天乃も忙しかったからな。仕方ないけどな」

天乃自身がどうこうすることはなくても

周りから近づいてくることはあったのだから、仕方がない

そういう球子は笑顔だった

球子「なぁ、天乃は悪いと思ってるのか? 我儘を突き通して」


1、悪いとは思ってないわ。でも、選んだ責任があるから貴女の気持ちを聞いておきたいの
2、ええ。貴方の願いを聞かなかったんだもの。悪いと思っているわ


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


自分の判断に対して罪悪感を抱いているのか、いないのか
それにたいしての球子の反応。


では少しだけ


天乃は球子と視線を交わらせると、軽く頷く。

肯定だ

天乃「ええ、貴女の願いを聞かなかったんだもの。悪いと思っているわ」

むしろ、天乃からしてみれば悪いと思わない方がおかしかった

願いを聞いておきながら、踏みにじった

たとえ自分の我儘だから気にするなと言われていても

自分の好きなように決めていいのだと言われていても

それでも、無慈悲に押しのけたようなものなのだから。

球子「……タマは、あんまり難しい話は得意じゃないって、知ってるよな」

天乃「それは……頷いても良いことなの?」

球子「んー、まぁ、自覚はしてるからな」

聞き返されると思っていなかったのだろう

球子は真面目な面持ちを崩して苦笑いを見せると、

頭を軽くかいて、息を吐く

球子「だから、タマなりに考えてのことだから。天乃の答えも欲しい。いいか?」

天乃「ええ」

なら、聞くぞ。

あえてそう前置きをした球子の瞳は天乃を見る。

真っ直ぐ、自分なりに真偽を確かめようとしているような

見定める視線だった

球子「タマに悪いって思ってるってことは、その、なんだ……後悔、してるのか?」


天乃「え?」

球子「だってそうだろ? やったことを悪いって思うのは後悔してるってことじゃないのか?」

天乃「それは……」

難しく考えるのは苦手、だからこそ単純な考え方をする

それはある意味では、難しく考える人よりも最も答えに近いことだって導き出せるということでもある

急がば回れとは言うが、常に迂回しろというわけではないのだから。

球子「だったら、タマ達は嫌だぞ」

天乃「…………」

球子「確かに、言いたいこと言いもしたけど、でも、みんな、天乃にどうするか決めて欲しいって丸投げしたんだ」

ここに来てからのことや、以前の自分たちのこと

その環境における違いと、それに対する自分たちの思い

それらを語ることで、多少なりと天乃の選択に影響を与えはしたかもしれないが

最終的な決定権は天乃に委ねた

つまり、その選択の責任のすべてを押し付けたようなものなのだ

球子「それは……いや、その、聞かれたからって正直に全部打ち明けたことが関係してるんだろうなーって言うのは分かるぞ」

でも。と、一瞬大きくなりかけた声に気づいた球子は踏みとどまって体をのけぞらせると、

首を横に振って、改めて口を開く

球子「それは、天乃に後悔してほしくなかったからだ」


球子「タマ達の考えを知らないまま決めてたらきっと後悔する。そう思った。そう言われた」

俯きがちに零した球子は、

天乃を見ていることに耐え切れなかったのか、

窓の方へと顔を逸らす

まだ泣いてはいない、けれど、悲しさを含んだ表情だと

天乃は感じた

球子「考えも、思いも、悩みと変わらない。口にしなければただのブラックボックスでしかないんだからって」

天乃「……千景?」

球子「さぁなー」

飄々と嘯いた返事を返した球子の口元は柔らかく綻ぶ。

きっと、天乃の言った通りなのだろう

球子「天乃がそう言う責任とか人一倍大事にする奴だってのは分かるけど、でも、大事なことを決めたんなら、胸張ってこうしましたが何か? って感じの方がいい」

天乃「…………」

球子「天乃が楽しく、幸せに。そのためにタマ達は任せたんだからな。そうじゃなきゃタマ達も後悔するし、嫌だ」

天乃「なるほど……そういうことね」

難しいことはあんまり考えたくないし、良く分からない

だから、自分の言ってることはh間違っているかもしれないと思いながらも、言う

それは、自分の我儘を叶えて貰えなかった球子の、我儘だ

そう感じて、天乃は見えないほどのささやかな笑みを浮かべる


球子「責任だのなんだの、前にも似たようなこと言ってるやつがいたなー」

思い出したように笑い声をこぼした球子は、

不意に警戒するそぶりを見せ、声を潜める

誰のことを言ってるのかは、非常にわかりやすかった

球子「まぁ、無理にとは言わないぞ。その責任感の強さだって天乃のいいところだと思うし」

天乃「強すぎるのも考えもの……ね」

球子「…………」

天乃「…………」

千景「だけど、最終的にはそうしてよかったって、言ってもらえると助かるわね」

黙り込んでしまった二人、

その中間のような位置に姿を見せた千景は、

半ば呆れたような笑みを浮かべながら、言う

千景「いつまでも悔やまれていたんじゃ、明日叩きのめされる土居さんがいたたまれないわ」

球子「なっ、聞いてたのか!?」

千景「声が大きい」

球子「ぐぬぬぅ……」

千景に掴みかかろうとしたものの、

撥ね退けられた球子は悔しがって、姿を消す

千景「貴女が人一倍の責任を抱えてくれるから、周りが抱え込まずに済む。分担する大切さを教えてくれる。いい反面教師ね。久遠さん」


皮肉を言ったのだと。

そう告げるような笑みを浮かべた千景は軽く手を振って

千景「もう休みなさい。体に障るわ」

そう言って、球子を追うように姿をかき消す

皆の想いを委ねられ、

大切な選択権を委ねられ

そして、天乃はその意にそぐわないであろう選択をした

けれど。

それは、天乃がそう思っていただけなのかもしれない

確かに、最良の選択ではなく

本当に願っていたことではないのかもしれない

しかし、それもまた球子達にとっては悪いことではなくて

良かったと、言えることなのかもしれない

天乃「……私が、後悔をしなければ」

こうしておけばよかったと。

そんな後悔をしていては球子が言ったように、

委ねた球子たち自身まで後悔をすることになるのだから

天乃「…………」

ゆっくりと、目を瞑ると

漂うような微睡の中、身を委ねて落ちていく


では、ここまでとさせていただきます
明日も出来れば通常時間から

一日のまとめは再開時


若葉「解ってるな?」

球子「な、何のことでしょうか」

若葉「たーまーこーッ!」

球子「ひぃっ! 和ませるための軽口じゃんかーっ! うわーんっ、歌野~っ!」

歌野「ソーリー、今手が離せないわ」フイッ

球子「裏切り者~ッ!」


では少しだけ



1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(大赦について)
・   犬吠埼風:交流有(バーテックスとの戦い)
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流無()
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流有(罪悪感)
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流有(良い顔をするようになったわね)
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


11月07日目 終了時点

乃木園子との絆  75(高い)
犬吠埼風との絆  101(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  91(とても高い)

結城友奈との絆  110(かなり高い)
東郷美森との絆  120(かなり高い)
三好夏凜との絆  144(最高値)
乃木若葉との絆  96(かなり高い)

土居球子との絆  43(中々良い)
白鳥歌野との絆  42(中々良い)
藤森水都との絆  35(中々良い)

  郡千景との絆  44(中々良い)
   沙織との絆  120(かなり高い)
   九尾との絆  63(高い)

    神樹との絆   9(低い)


√ 11月08日目 朝(病院) ※月曜日


夏凜「……………」

朝、天乃がベッドから起き上がるよりも早く夏凜達は準備を終えていた

大赦が行おうとしている作戦の内容の大体は把握しているが、

どの位置から、どの時間帯に行うかというのは、当日になるまで曖昧なのだ

それも、ただ考えが甘いわけではなく

外の世界が慌ただしくなってきているがゆえの影響

活性化した外の世界で場0-テックスが誕生しないとは言い切れず、

誕生し、対峙したならば少なからずの人的被害を覚悟しなければならないからだ

そこに慎重になるのは、

むざむざと死に追いやったことが天乃の耳に触れることを恐れている。というのも、

無い話ではないかもしれない

もちろん、そんなことなど関係なく慎重であるべきだとは思うが。

風「……準備は良い?」

夏凜「問題なし」

樹「うん」

東郷「問題ありません」

友奈「問題ない……ですけど、夏凜ちゃんは、良いの?」


夏凜「何が?」

友奈「夏凜ちゃんだけ、あんまり久遠先輩とお話してないから」

東郷「そう言えば、今回の件に入ってから夏凜ちゃんはあまり久遠先輩と二人きりになってないわね」

夏凜「最初に話したのは私だし、全員で話し合ったんだからその必要もないでしょ」

友奈「それはそうかもしれないけど……」

夏凜のすぐ横、

天乃の姿を覆い隠しているカーテンの方へとちらりと目を向けた友奈は、

夏凜のことを見つめなおす

だが、夏凜の表情は変わらなかった

話すことはないし、必要もない

そう思っていると言い現わす様子だった

夏凜「これでも緊張感は持ってるし、集中してんのよ。気を削がれたくないわ」

風「まぁ、下手なこと話してフラグ立てるのも問題よねぇ」

夏凜「フラグとかそう言うのは別にどうだっていいわよ」

そんなものは思い込みみたいなものだし、

その余計なことを考える気の緩みが隙を作ってるだけなんだから。と

夏凜は自論を述べて

夏凜「寝てるなら邪魔したくないし、起きてるなら起きてるで、行ってらっしゃい。とか見送ってくれるんだろうけど、あんま良い顔しそうないから」


薄く、切なげな笑みを浮かべて天乃の方を一瞥すると

夏凜は「さて」と、極力抑えた声をあげベッドから降りる

夏凜「もう一度確認しておくけど、最悪防人との戦闘もあるわ。行ける?」

樹「拘束は任せてください」

東郷「撃つのは得意だから」

風「血の気が多いわねアンタたち……」

ちょっぴり呆れたように言いながら、頷く

普段からそれならば問題はあるが、

こういう必要な時に割り切って行動してくれるのは

普通の女の子から離れてしまっているのかもしれないけれど、

頼りになると、風は思う

それも、天乃とかかわったからか勇者になったからか、両方か

風「……起きてるんだか、寝てるんだか」

カーテンの奥にいる天乃へと、

返事を求めてないない声をかけてみる


1、答える
2、答えない


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日はおそらく確実にお休みになって、明後日の再開になるかと思います
出来れば、来月からは通常運行の予定



夏凜(ま、どうせ起きてるんだろうけど)

夏凜(今のあんたを見ると、きっと早く帰らないとって焦りそうになる)

夏凜(遅くなればなるほど不安にさせるだろうから、早めに蹴りつける事には変わりないけど)

夏凜(友奈の説得で上手く終わってくれればいいんだけど……ま、無理な話か)


では、遅くなりましたが少しだけ


天乃「…………」

夏凜達が準備をしている段階ですでに目を覚ましていた天乃は、

ゆっくりと瞬きをする

風の声はもちろん聞こえた

だが、夏凜のあの言葉を聞いた今、

確かにと頷ける部分もあって、迷う

そして――

天乃「起きてるわ」

しっかりと呼吸を整えてから、声を返す

手元のリモコンでベッドを動かして体を起こしたのと同時に、

風がカーテンを開く

風「やっぱり起きてたわね」

天乃「おばあちゃんの朝は早いのよ」

風「何言ってるんだか」

適当な冗談を呟き、笑う

普段明るい友奈も、そしておふざけに加担する東郷も、

間を取り持つことが増えてきたような樹も

皆が、真剣な面持ちで。

夏凜だけは、そっぽを向いたように目を向けなかった


夏凜「なにもすることがないんだから寝てなさいよ」

天乃「することがなかったら、返事はしなかったかな」

夏凜「…………」

天乃「…………」

目を合わせようとしなかった夏凜は、

嫌味のような答えのあとに訪れた沈黙に流されるように、天乃へと目を向ける

何を言ってんのよ。と、言いたげな視線だと天乃は思って、にっこりとほほ笑むす

夏凜「何笑ってんのよ」

天乃「んー、嫌そうな顔してるなって」

夏凜「……起きてたなら、私が言ってたこと聞いてたはずなんだけど」

寝ているなら、寝させてあげたい

起きていたとしても、見送られても

その時の天乃はあまりいい表情していなさそうだから

その夏凜の言葉を思い返して、天乃は眉を顰める

天乃「ごめんね、聞いてなかった」

夏凜「聞いてたくせに」


小言の言い合い、喧嘩しそうな雰囲気

だけれど、周りの誰も止めに入るような素振りを見せず

それどころか、肌に感じる【日常】を貴く感じているように瞼を下ろし、息を顰める

喧嘩しそうでも、空気はピリピリとしていない

緊張感なんてどこにもない、どこかに走り抜けていく風のように柔軟だった

守るべきもの、見守るべきもの

これからもずっと、日々の中で感じていたいこと

友奈達はそれを改めて感じ、

これから自分たちが行おうとしていることの重要さを心の内に宿し、

それでも、微笑む

夏凜「あんたほんと自分勝手だわ」

天乃「我儘を言ってほしいってお願いされたもの」

夏凜「それは頼る頼らないの話でしょ。あんたはもともと自分勝手って言う意味では我儘だったでしょうが」

天乃「えっ……う、うん」

夏凜「そのわざとらしい驚いた顔やめろ」




1、だって、今は夏凜がそんな感じだったんだもの
2、いいじゃない別にお見送りしたって。世間一般では行ってきますのキスだってする時代なのよ?
3、どうしたの夏凜ちゃん、そんな不機嫌そうな顔して。えっちする?
4、まぁ、ね。冗談はともかく、肩の力を抜いて行ってきなさい。初めから臨戦態勢なんて高校の面接でだって落とされるわよ
5、無理はしないでね。体じゃなく、心でも


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

真面目なことを言うか、悪ふざけで通すか


天乃「世間一般では行ってきますのキスだってする時代なのよ?」

風「……」チラッ

東郷「…………」ウズウズ

東郷「それは下の――」

友奈「ゆうしゃぁぁぁぁぁぁパーンチ!」トウゴンッ

東郷「そんな……っ、壁は壊してないのにっ!」

樹「東郷先輩の常識の壁に穴が開いてるんです」


では、遅くなりましたが少しだけ


天乃は少し考える素振りを見せると、夏凜に向けて小さな笑みを浮かべる

からかおうとしているのだと、夏凜はすぐにわかった

天乃「いいじゃない別にお見送りしたって。世間一般では行ってきますのキスだってする時代なのよ?」

夏凜「どこの一般常識だっての、東郷か」

東郷「 まさか私が破廉恥なのは遺伝だったの?」

風「あ、自覚はしてるんだ」

夏凜「はぁ……」

あきれ果てたため息を吐く夏凜の一方、

友奈と樹は顔を見合わせて、同情するように苦笑いを浮かべた

夏凜「それとこれとは話が別だし関係ないわよ。あんただって本気で全員にして見送ろうってわけでもないんでしょ?」

天乃「それでみんなの運気が上がるなら、やぶさかでもないわ」

お守りだとか、おまじないだとか

そこまで効能のあるものだとは思えないが

しかし、気分的には高揚感も得られることだろう

そうすれば、何かがあった時の一瞬の判断を的確に行えるかもしれない

東郷「ちなみに、その接吻はどこからどこまでなら見送りの範疇に収まりますか?」

天乃「えっ?」


東郷「特別気にするようなことではないかもしれませんが、しかし念のために線引きするべきだと思うんです」

数人いるということもあるが時間と密度、深さ……など

それは朝の挨拶ではなく、夜の方だろう。という異論も少なからず出てくる可能性はある

東郷「ほんの些細なことで夜の方だなんていう人もいるかと思いますから」

風「んー?」

東郷「少し舌を絡めるのも許されないなんて、中学生にお子様定食与えてどうするのかと――」

友奈「……東郷さんが本調子に戻っちゃった」

樹「喜ぶべきか悲しむべきか複雑ですね」

ぐっと握りこぶしを作り熱く語る東郷を横目に、園子は楽し気に笑う

内容に目を瞑りさえすれば、

その一瞬一瞬に心から触れ、楽しんでいるだけなのだ

それが出来なかった

それが許されないと思っていた側としては、喜ばしさが勝る

夏凜「深いも浅いも長いも短いもなしに決まってんでしょうが。これから何するか分かってんの?」

風「まぁ、夏凜の言い分も間違いじゃないし東郷は極端すぎるけど、肩の力は抜くべきだって思うわ。ちょっちピリピリしすぎてんじゃない?」

夏凜「…………」

東郷「抜くのはせ――」

樹「違うのでご静粛にお願いします」


天乃「柔軟な発想力も大切だと思わない?」

夏凜「一理はあるわ。けど、だからって」

天乃「別に必ずキスしなくちゃいけないなんてわけでもないのよ」

それは一つの参考的なものでしかない

気を張りすぎず、かといって抜きすぎず

仲間であるみんなの事をちゃんと認識するためのことでしかない

良くある行動を例に挙げれば、別に円陣を組むだけでも良いのだ

天乃「目的とかける思いを再確認して、頼れる仲間を感じることができるなら、それで」

友奈「キスだと、帰るべき場所……ですね」

何が何でも目的を成し遂げようという意志を再燃させるが、

同時に、何が何でも戻らなければならないという思いも抱く

そして、そのためにどうすることが良いのかと考えれば、

自然と仲間のことも頭の中に戻ってくる

風「防人を相手にするのはあんただけじゃないのよ。夏凜」

夏凜「っ」

風「その覚悟は、もう出来てる」

夏凜を軽く小突いた風は優しくほほ笑む

立案者だからと言って、自分だけで責任を取るべきではないと


夏凜「……そ」

そっけなくも感じるような短い一言を呟いた夏凜はぎゅっと唇を巻き込んで食いしばり、顔を伏せる

周りにいる風達には見えないが、天乃にはその表情が見えた

天乃「誰もが通る道だもの。恥じるようなことではないわ」

その責任を担うべきは自分であるとすること

深くかかわっているからと大部分を担おうとすること

それが正しい場面もあり、決して間違いではないのだから。

今回ばかりはそれではいけなかったのだと諭されたからと言って、

恥じる必要はないのだ

天乃「自分がその立場になると、案外。分からなくなっちゃうものだもの」

夏凜「あんたにだけは、言われたくなかった」

天乃「一番言われた私だからこそ、言えることもあるのよ」

皮肉っぽく自慢げな表情を見せることもできたが、

天乃は穏やかに笑みを浮かべるだけに留め、その目を向けられた夏凜はちらりと見返して

天乃「んっ……!」

手早く、天乃の頬に手をあてがって整えキスをする

ほんの一瞬、触れ合ったという程度の軽いキス。

驚きに目を見開く天乃の一方で、夏凜は自分の唇に指をあてて、笑う

夏凜「行ってくる」


天乃「あ……うん。うん、行ってら――」

東郷「何言ってるんですか、まだ5回残ってますよ」

天乃「えっ」

園子「にぼっしーだけ特別扱いは許されることと許されないことがあるんよ~」

にっこりと。

明らかに普通の笑顔とは違う何かを含んだ満面の笑みを浮かべる東郷達から

夏凜へと天乃は目を向けたが

夏凜は「よろしく」というように手を振って歩き出す

夏凜がいた場所にはすぐさま東郷が入り込み、園子、風、樹と続く

天乃「…………」

風「口は災いの元……ってね」

東郷「風先輩はしないそうなので二人分でお願いします」

風「ちょっとぉっ!? 東郷美森さん!?」

東郷「口が災いなら接吻はしない方がいいのでは?」

風「それはそれ、これはこれ!」

友奈「……先にしちゃうね?」

隣で勝手に勃発した取り合いの傍ら、

友奈達はそれぞれ、おまじないを求めて天乃に触れる

とても大事なことを行うからこその、願掛け

神に願うわけではないけれど、だからこそのご利益があるような気がした


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



園子「キスは?」

東郷「挨拶」

園子「ディープキスは?」

東郷「お子様定食」

園子「貝合わせは?」

東郷「酔い覚まし」

風「え?」

東郷「え? 蜆汁が出――」

風「アウトォ!」


では、少しだけ


分岐


1、久遠さんサイド
2、勇者部サイド


↓2


√ 11月08日目 昼() ※月曜日


夏凜「……そろそろね」

大赦から支給されている普通の端末で時間を確かめた夏凜は辺りを見渡してポケットにしまうと、息をつく

勇者になることが出来るのであればすぐにたどり着くことが出来るが、

そうではない現状、壁までの道のりは遠い

それを埋めるために頼んであるのが、瞳の車だった

巻き込むことは少しためらったけれど、

時間も限られている今、背に腹は代えられなかった

風「来た」

いつもの天乃送迎用の車ではなく、普通のワゴン車

ガラスを通して見える運転席の瞳を確認した風が声をかけ、全員の目が向けられる

もともとそんなことをするつもりはないが、

これでもう、後戻りすることは出来なくなった

瞳「お待たせしました、勇者ご一行様」

夏凜「アレは?」

瞳「預かって来てる。中身も確認してあるから大丈夫」

ぐっと親指を立てて見せる瞳に頷き、

夏凜を含め、全員が後部座席の方へと乗り込んでいく


後部座席に一つに置かれたアタッシュケース

その中に、みんなの端末が入っていた

瞳「動かしますよ」

友奈「お願いします」

瞳「はいはーい」

僅かに車が揺れてゆっくりと曲がっていき、

病院の指示に沿った流れで車道へと向かっていく

東郷「……また、手にすることになるなんて」

園子「でも、また必要になるとは思ってたんよ」

東郷「…………」

友奈「久遠先輩のことがなかったとしても、私達は多分、また勇者になってたと思う」

端末を手に複雑な表情で呟かれた東郷の言葉に、

園子たちも対する考えを述べる

天乃のことがなかったとしても、

バーテックスとの決着が完全についたわけではないのだから

結局似たようなことにはなっていただろうと思う

それはみんなが感じていたことであり、思っていたことだ

樹「早くなっちゃったか、遅くなっちゃったか。協力か反乱かみたいな違いはありますけど」

風「状況的には早まった感あるわよね。本来の流れが反乱かどうかは考えても仕方がないし」


夏凜「天乃がいなくたって、誰かの犠牲は必要だったんじゃない?」

生贄として

あるいは、かつての勇者のような戦闘による死者として。

神という超常的な相手である以上、

何の被害もなくという結果はまず難しいだろう

夏凜達が今行おうとしていることだって、

何の被害もなく終えようとしているわけではない

その被害、その負担を全員で分け合って軽減しようというものでしかない

友奈「それでも、私達はこうしてたと思う」

園子「ふーみん先輩やにぼっしー、ゆーゆやいっつんにわっしー……誰がその役割になっても、きっと」

天乃がいない分、みんなの関係は今と少し違うかもしれないけれど、

それでも、この繋がりは損なわれることはなかったはずだ

東郷「そうね……でも、私達には久遠先輩がいるわ」

夏凜「確かに意味ないこと言ったわね、ごめん」

素直に謝罪を口にした夏凜にみんなが頷く

それはやっぱり、天乃がいたからこその変化であることは間違いなかった

後ろからの声が途切れたのを感じた瞳は、

小さく笑みを浮かべると、ミラー越しに夏凜達を確認する

瞳「みんなに注意があるからよく聞いてね」


瞳「今回の勇者システムは新しく調整されたものだから以前のものとは少し勝手が変わってるんです」

ある意味では劣化であり、

ある意味では進化ともいえるの。と、前置きした瞳は、

信号が赤なのを確認してから説明を続ける

瞳「以前、満開を使うためにはそれなりに手順が必要だったのは覚えてます?」

夏凜「大赦は経験値って言ってたけど」

瞳「うん、今回はそれが必要なくなって初めから使うこともできるようになってるの」

風「それは……って、喜べるようなことじゃなさそうね」

初めから切り札を使うことができる

戦ううえでこれ以上にないほど安心できるものだが、

ポジティブに考える友奈ですら、嬉しそうな声を上げることはなかった

友奈「なにがあったんですか?」

瞳「詳しくは私にも分からないんですよ。すみません」

そう言った瞳は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべると、

聞いた話ですが、と、車を動かしながら説明を続けた

瞳「以前はその都度神樹様から力をお借りするという形でしたが、今回は初めから一定量の力を借りた状態という形になるそうです」

東郷「つまり、分割払いから一括払いに切り替わったということですか?」

瞳「そうなります……ね。その結果、限度額を超えた利用ができなくなりました」

要するに、借金が百万円で満開が百万円必要だったとしたら、所持金は0円となって満開は出来なくなります。と続けた瞳は

さらに、と強調する

瞳「身を守るバリアも同じく力を消費するため、一回十万円のバリアだとしたら十回しか防げず、生身に傷を負うことになります」


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
設定は独自の解釈と久遠さん世界ということで変わっている場合もあります



瞳「ちなみに、満開費用は百万円ではなく、所持金全額です」

夏凜「……つまり、満開を正しく使うほどの力は貸せなかったってことじゃないのそれ」

園子「言い換えれば、神樹様のヘソクリだね~」

風「バリアは有限で満開は最初から使えるけど、使えばバリアが張れなくなる……か」

友奈「でも、前も久遠先輩の為に怪我を避けようって頑張ってたから」

友奈「満開が出来るようになっただけで、変わらないって考え方もできるんじゃないかな」


すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
出来れば明日、少し早い時間からの再開を予定しています


遅くなりましたが、少しだけ


園子「つまり、二年前の機能に回数限定の守護機能が付いた感じだよね~」

瞳「そうですね、園子様、久遠様、東郷様から見ればそのような形になります」

園子「……過去と現在のいい塩梅?」

友奈達の世代からしたら劣化しているように感じるが

園子たちの世代からしてみれば、十分に進化していると言える形だ

夏凜「で、満開を使った時の代償はあるの?」

瞳「生傷を負うことになりますが、前回のように体の一部を供物としてささげると言ったことは起こらないと聞いています」

詳しいことが判明しているわけではないが

全身が生粋の人間であったのに対し、

今は幸か不幸か体の一部が神樹様によって賄われている状態なのだ

おかげで、神樹様の力を用いることによるペナルティがない。らしい

樹「………」

東郷「あまり生傷を負うのも良くはないのよね……久遠先輩に見られたら心配させてしまうわ」

友奈「今までと同じでも、新しくなっても、簡単に使えないことには変わりないってことだね」

風「それどころか、アタシ達からしてみれば簡単に攻撃を受けることも許されなくなったってわけだ」


園子たちの世代に比べれば生易しい話になってしまうかもしれないが、

正直に言えば、精霊に守られていたからこそ、命が助かったという場面は多々あった

それでなくとも生身の状態でバーテックス

それ以前に星屑の攻撃を受け得ようものなら、身体の一部を失ったり、

使い物にならなくなってしまう覚悟も必要だろう

芽吹との争いが起きても流石にそこまで凄惨な被害は出ないかもしれないが

万が一、バーテックスが襲ってきた場合には、それを踏まえたうえでの戦闘が必要になってくる

だが……

樹「でも、受けたら負け。だったよね」

夏凜「……ま、確かにね」

それを認めれば、今までの自分たちの戦いは敗北しかないことを認めることになるが、

試合に負けても勝負に勝つ。という言葉があるように

負けたわけではないのだから、問題はなかったと言えるかもしれない

東郷「でも、これからは被弾さえ許されないというのが辛いところだわ。もちろん、学んだことを活かせば良いだけですが」

そうはいっても一筋縄ではいかないだろうし、

今までと同様では、勝負に勝つことも出来なくなってしまう

ダメージを積み重ねればバリアは消滅し、

そして、本当に大事な場面でその効力がないばかりに命を落とす可能性もある


皆が緊張に息を呑む

もっと酷い時代を経験している園子はともかく、

夏凜達は厳しい状況は覚悟の上だったが、それでも、想像以上に厳しい状況だった

瞳「こんなことを言うのもあれかもしれませんが、出来る限り戦わずに逃げて頂きたいと思います」

夏凜「バーテックスから逃げろって、そんなの……」

風「ただ壁の外に出たあとに襲撃されるって言うならまだ退くのも分からなくはないけど」

樹海化した状態で逃げ帰ったりなどしたら、

本末転倒という言葉ですら引き合わない残念な状況に陥ってしまう

樹「出来れば、逃げたくはないです」

友奈「壁の外でも、見逃したらそのバーテックスが襲ってきちゃうかもしれないから」

かもしれない。ではなく、確実だろう

バーテックスに士気というものが存在するのかは分からないが、

あるのだとしたら士気は上がるだろうし、その分勢いも増してくることだろう

夏凜「…………」


1、為せば成る。それも、みんなでなら、たいてい何とかなるんじゃないの?
2、怖いなら、退いても良いわよ。誰も責めたりしないでしょ
3、上等よ。そもそも、裏切る相手の力を借りるってんだから、守られるだけ儲けもんだわ


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から
場合によっては行えない可能性もあるのでその場合は少し早めに一報入れる予定になります


瞳(そうですよね)

瞳(逃げるわけがない……ですよね)

瞳(……勇敢と無謀は違う。けれど、みんなにとってこれは無謀ではない)

瞳(夏凜ちゃん……みんな……)


昨日は失礼しました
本日は進めていきます


夏凜「満開は一回限り? 守って貰えるのも回数制限? 上等じゃない」

皮肉を言うかのような笑みを浮かべながら零した夏凜へと、みんなが目を向ける

その視線を感じながら夏凜は委縮することなく、

はっきりと口を開いて考えを述べる

夏凜「そもそも裏切る相手の力を借りるってんだから、守られるだけ儲けもんだわ。違う?」

風「ん――」

友奈「夏凜ちゃんの言うとおりだと思う」

夏凜に目を向けられた風が答えるよりも早く、

近くにいた友奈が力強く答えて、ぐっと体に力を込めた

友奈「少ししか守って貰えないんじゃなくて、神樹様に悪いことするのに守って貰えるんだ……」

だからもしかしたら。と友奈は続けて

友奈「神樹様は久遠先輩と私達、それとこの世界……ううん、大赦と防人の人達を試してるのかもしれない」

樹「試してる……ですか?」

友奈「うんっ!」

東郷「人間同士互いに必要なものがあったとき、どのような行動をするのか。ね」

園子「話し合いで解決するのか、戦い奪い合うのか」

風「だとしたら、なおさら説得を上手くいかせる必要が出てくるわね」


風「ただ、楠さんの性格的に、はいどうぞってなる気がしないのよねぇ」

夏凜「まず間違いなく断るし、武器を向けてくるでしょ」

芽吹はそういうやつだから。と

夏凜は芽吹のことを良く知っているような口ぶりで答えながら、

そのことを悪く思っていないと感じる笑みを浮かべて見せた

園子「にぼっしーはなにか考えがあるの~?」

夏凜「向かってくるなら叩きのめす。そんな考えしかないわよ」

けど。と、首を振る

夏凜「冷静に考えてみれば、ぶつかることが必要なこともあるのかもしれない」

樹「夏凜さんも、一番初めはそうだったんですよね」

東郷「友奈ちゃんを襲って、久遠先輩を怒らせて……」

風「マジギレした天乃に体育館で徹底的に叩きのめされて」

友奈「でも、今はこうやって……久遠先輩のためにってみんなで協力してる」

園子「互いの思いをぶつけあってこそ、より濃厚なものが出来上がるんだよね~」

懐かしい思い出を語り合い、

楽し気な笑みを浮かべる者もいれば、苦笑いする者もいて

その傍らにいる園子だけは、また違った怪しい笑顔で呟いた


互いに嫌がらせをするつもりはない

ただ、互いの意思、守るべきものの為に力を尽くすだけだ

神様がそれを見て、何を思うのか感じるのか

それは分からないけれど

夏凜「芽吹は世界の為に、私達は私達の世界の為に為すべきことを為すだけよ」

恰好をつけたわけではないが

自分の考えを述べた夏凜をじっと見つめていた園子は不意に茶化すような笑い声をこぼす

園子「むふふ~」

夏凜「な、なによ。変な笑い方――」

園子「天さんっぽいな~って、思っただけだよ~」

夏凜「は?」

園子「天さんなら、きっとそう言うと思うんよ。ぶっきーと戦うことになったとき、天さんはきっとそう言って笑うと思うんだ~」

風「で、勝った後にこういうのよね。大丈夫よ楠さん、世界は私が守って見せる。それが、打ち勝った者の責任だもの。とか言って手を差し伸べる」

東郷「想像に易くて困りますね……」

樹「楠先輩まで嫁にする勢いなのに、久遠先輩には全くそんな考えないんですよね」

夏凜「芽吹がいなくなる時にもっと親密になりたかった的なこという奴だし、今更でしょ」


夏凜達は天乃がいないのをいいことに、呆れたように語る

もっとも、天乃がいても居なくても

似たようなことを話したりはするのだろうが。

風「アレには困ったもんよ。嫁代表三好さんはどう思います?」

夏凜「なによ代表って……言って治るようなもんじゃないでしょアレは」

そもそも悪いことをしているわけではないし、

樹が言ったように本人は口説いたりなんだりしているという自覚はなく、

ただ、負うべき責任、かけるべき言葉などを考えての言動でしかない

注意する様な部分が口説くような言動は控えろ。という

もはやヤキモチのような理由になってしまうので、言えるわけもない

東郷「久遠先輩は自由にしている時が一番輝いていると思うわ」

友奈「うんっ、だから好きなこと一杯させてあげたいなっ」

樹「そのために、これから頑張るんです」

風「ある意味不純かもしれないけど……アタシたちにとっては、これ以上ないほどに純粋な戦う理由よねぇ……」

園子「神樹様や天の神がそれをどう思うかなんて関係ない」

普段ののんびりとした口調を抑えた園子は、みんなの手が届く位置に手を伸ばして

園子「成し遂げるんよ、ここにいるみんなで」

それぞれの手が重なっていく

その力強さ、心強さを感じ、園子は自分のいなかった二年間の厚みをより重く感じた


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【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【十六輪目】 - SSまとめ速報
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コンマ判定のみになりますが、続きは次スレで行います

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