千歳「耳かきはいかが?」 (29)


<夜 鎮守府 執務室>


提督「……千歳」

千歳「はい、提督」

提督「君には何が見える?」

千歳「提督の机の上に未整理の書類が山を成している様に見えます」

提督「あぁ。俺にもそう見える」

千歳「……」

提督「何と書いてある?」

千歳「締め切りは今晩まで、と」

提督「現在時刻」

千歳「フタヒトヨンマル」

提督「書類の量は」

千歳「両手に一抱えより余る程」


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提督「……」

千歳「……」

提督「……投げ出したい…………」

千歳「駄目ですよ。色々な評価が下げられてしまいます」

提督「……増援の艦娘は……?」

千歳「それも駄目です。機密の問題でこの書類を扱えるのは私と、精々大淀さんだけですし」

千歳「そして、大淀さんは既に別の仕事中なので、増援は不可能です」

提督「……」

千歳「……一緒にやれば、ギリギリ終わらない量じゃありませんよ」

提督「……そうだな……こうしていても仕方ないし、やるか……」

千歳「そうですよ。仕事が終われば、ご褒美の一杯が待っていますよ」

提督「俺酒はダメなんだよ……」

千歳「おっと……そうでしたね」


――カリカリ……ペタンッペタンッ……


提督「酒って、そんなに良いものなのか?」

千歳「……陳腐な表現ですけど、呑んでる時はこの一杯の為に生きてるって感じがしますね」

提督「そうか……」


――ペタッペタッ……カリカリ……


千歳「……味はともかく、提督にとっては酔えないというのも困るのでは?」

提督「嫌な事を酔って忘れるっていうアレか? まぁちょっと憧れるな」


――カリカリ……カリカリ……


提督「……ただ隼鷹やポーラを見てるとあんな風になるっていう心配が……」

千歳「……一応、あれは極端に酷い例ですから……」

千歳「自制しながら飲む事ができればあそこまでにはなりませんよ」


――カリカリ……ペタンッ……カリカリ……ペタンッ……


提督「実はな、俺、アルコール自体には強い方なんだよ」

千歳「そうなんですか?」



提督「あぁ。そのせいで滅茶苦茶飲まされる事が多くてな……苦手な理由の半分はこれかも知れん」

提督「しかし相手が本部の偉い人達とあっては無下にもできんし、潰れないからガンガン飲まされるし……」


――カリカリカリ……ペタッペタッ……


提督「飲めるというだけで別に美味いとは思わないものを大量に飲まされるのは、決して楽しいものじゃないぞ」

提督「そうだな……千歳の感覚からすると、青汁とか、昔の肝油とかを強制的に飲まされてる様なモンだろうか」

千歳「あぁ……それはちょっと辛いですね……」

提督「だろう? 酒の味がしない酒があれば俺も楽しめるんだろうか……」


――ペタッペタッ……カリカリ


――カリカリカリ……ペラッペラッ……


提督「しかしだ。本当に酔いたいだけならアルコールを静脈注射でもすれば良いはずなんだ」

千歳「かなり極端な話ですけど、まぁそうですね」

提督「しかし、誰もそんな事はしない。という事は、やはり口から飲んで味わうからこその酒なのだろう」


――ペタンッ、カリカリ……


提督「味覚の問題……考えてみると、俺の舌は子供のまんまだな」

千歳「確かに提督、お酒に限らず苦いもの辛いものは全般的に苦手ですよね。カレーの好みも駆逐艦並みに甘めですし」

提督「かにみそなんかもいつかは美味しく食べられる様になるのかと思ってたが、遂に食べられないままこの歳だよ」

提督「それこそ駆逐艦の様な子供ならともかく、こんなオッサンが大人っぽさに憧れてるとは情けない……」


――コトッ……コトッ……カリカリ……


千歳「提督もまだそんなお歳でないでしょう?」

提督「二十歳超えた男はオッサンさ」

千歳「…………」


――――

―――

――


<……日付変更直前>


――ブゥーン……

千歳「今の航空機に括り付けたので全部ですね」

提督「お、終わったぁ……」グデー

千歳「これからは、こんな事にならない様に注意してくださいね?」

提督「そうするよ……こんな思いはもう御免被る……」

千歳「……それでは、頑張った提督にご褒美です」

提督「……え?」

――……ポスン…………スッ……

千歳「さぁ、どうぞ……?」ポンポン

提督「お? 膝枕してくれるのか」

千歳「はい♪」


――ス……


提督「お……おぉ……」

千歳「いかがですか?」

提督「……膝枕なんてされるのは初めてだが……結構良いもんだな……」

千歳「ありがとうございます♪ それにしても……」

提督「ん?」

千歳「女の子に膝枕させるなんて、中々オトナっぽいんじゃないですか?」

提督「そ、そうか……? どっちかって言えば……」

千歳「小学生の子供がお母さんにしてもらうのと――」

千歳「成人した男性が、家族以外の女性にしてもらうのは別ですよ」

提督「…………そう、かもな……」

千歳「じゃあ折角なので、もう少しだけオマケを付けちゃいましょうか」

提督「オマケ?」

千歳「更にもう少し、オトナに踏み込んでみましょう」

提督「そ、それは……」ドキッ


――
―――


ギュッ……ギュッ……
ゴシゴシ……ゴシゴシ……

千歳「提督ぅ……こういう所を綺麗にするのも身嗜みですよ?」

ググッ……ゴシゴシ……
ギュッ……グググッ……

提督(いつの間にか俺は千歳に耳掃除に持ち込まれていた……)

提督(別に拒否する理由も無いので流される事にしたが……存外良い……)

ジュワッ……ジュワッ……
ギュッギュッ……

提督(ウエットティッシュが……耳たぶのしわの一つ一つを拭いていく……)

提督(穴の中の掃除がお預けを喰らったのはもどかしかったが……これも結構気持ち良いもんだ)

ギュッギュッ……キュッ
グイグイ……キュッキュッ


提督「……そんなに汚れてるのか?」

提督(確かに最近耳掃除はしていなかったし、ましてや耳たぶは意識して掃除した事などほとんどなかったが……)

千歳「ちょっとこれは……溜め過ぎですね。耳掃除し過ぎは良くないですが、これはこれで問題です」

ギュッ、ギュッ、ギュッ……
グイグイグイ

千歳「やっぱり、耳たぶの裏側の裏側も相当溜まっていますね」

千歳「私達の事には細かな事まで気付くのに……自分の事にも気を付けないとですよ」

提督「……そうだな……」

ギュッギュッ……ギュッ……
ゴシゴシゴシ

千歳「さぁ、耳たぶの掃除はお終い。耳の穴に入って行きますよ」

提督「おぉ……やっとか……」


――スゥ……

千歳「痛かったら、すぐ言ってくださいね……」

……カツッ……パリ
パリッ……パリパリ

提督「うおっ……」

カツカツ……パリッ
スーッ……

パリパリペリッ……
ススーッ

提督(耳かきの先……もう少し奥まで入ると思ったが……まだ穴に入ってすぐじゃないか……)

スリッ、スリッ……
パリパリ、ススーッ

提督(耳垢が取れて、耳の穴が広がって行くのが見える様だ……)

カリッ、カリッ、コリリリッ
サリサリ、パリッ、パリパリ
スーッ

提督(こんな所まで溜まってたら、外から見えてたんじゃないのか……?)

提督(千歳の言う通り……こういう身嗜みにも気を付けないとだな……)


ミリミリ……パリパリ
スッ、スッ……

千歳「力加減、どうですか?」

提督「あぁ、丁度いい……」

千歳「では、これくらいのままで……」

ググッ……メリッ
パリパリ……ミリッ

提督(段々……奥に進んで行っている……その度に、耳の奥の方がじんじんと……)

グシッ……クシクシ……
ゴシゴシゴシ……

提督(かと思えば、また少し戻って……掻いた跡を、また……)

グッグッ、グッ
ゴシゴシゴシ、グググッ

提督(じんわりと残った痒みが……引いていく……気持ち良い……)



グリグリ……
ゴシッ、ゴシッ

千歳「この辺りで、痒いところはまだありますか?」

提督「いや、もう大丈夫……先に進んでくれ……」

千歳「それでは……」

スーッ……



……ゴリュッ!

提督「ぅおぉっ!?」ビクッ!

千歳「い、痛かったですか!?」

提督「そ、そうじゃない……痛くはないんだが……な、何かヘンな音がした!」

千歳「変な音、ですか?」

提督「そうとしか形容できん……紙を手でクシャクシャにするのを、鼓膜の前でやられている様な、変な感覚だ……」

提督「カリカリでもコリコリでもない、聞いたことの無い音だった……大きいのが剥がれかかってるんじゃないか?」

千歳「見た所……その様なものは見当たりませんが……」

提督「無い……? それなら仕方ないか……続けてくれ」

千歳「分かりました」


カリカリカリ……ペリッ
ペリッ、ペリッ……スーッ

提督(……普通に、耳垢が剥がれて行く感じの音……気のせいか……?)

カリカリカリ……
カリッ、コココ……

……ガリュッ

提督「うわ、まただ!」

千歳「今当たってますか?」

提督「あ、あぁ!」

千歳「……あ、もしかしてこれかな……?」

ツツ……ガリュッ!
ガリュッ、ガリュッ! ゴリュッ!

提督「うわぁぁあ! それ、それだ!」

千歳「やっぱり。ちょっと待ってくださいね」

ツツーッ……

ガリュ、グリュグリュ、ゴリュッ!
グ、グググッ、ガリュッ!

提督(大物が耳の中で暴れてる感覚とは少し違う……何なんだろう……)


グリュリュ、ガリュッ……
ゴリュゴリュ……ググググ……

千歳「もうすぐ、取れますよ……」

グリュッ、ガグググ……

ズルルッ……!

提督(ぬ、抜けた……! 中で暴れていたのが、出て来た……!)

提督(耳垢が取れた跡も合わさって……解放感が凄い……!)

千歳「ふぅ……取れましたよ。これです」

提督「どれどれ……? ……ってこれは、髪の毛!? これだったのか!?」

千歳「はい。他よりちょっと太目ですね。これが耳の奥で悪さをしていたんだと思います」

提督「確かにこれだけ太ければな……しかしこんなことがあるのか、耳の中に髪の毛なんて」

提督「とにかくこれだけでもすごいスッキリした……」

千歳「まだ残っているので、もう少し続けますよ?」

提督「あぁ、頼む……」


――
―――


千歳「はい、これでこちら側はお終いです。反対側をするので転がってください」

提督「あぁ……」クルリ

カリ……ツツーッ
パリパリパリ、ペリッ

提督(……あれ、この姿勢、ちょっとマズくないか……?)

スーッ
パリ……パリパリ、ペリッ
ピリピリ、ペリッ

提督「千歳……今俺思いっ切り千歳のお腹に顔埋めちゃってるんだが……」

千歳「別に構いませんよ?」

提督「おいおい……」

カカッ、カツッ……
カリカリカリ……

提督「ぅ、お……」

千歳「ふふ、どうしてもと言うなら動かしても良いですよ?」


ペリッ、ペリッ、パリパリ
コリコリコリ、カリッ、コリッ

提督(……と言いつつ、全然耳かきを止めないから、姿勢を変える暇がない……というか、変えさせないつもりなのか……?)

カツッ、コ、ココッ
ペリッ、パリッ、パリパリパリ

提督(……よしんば、そうでなくても……耳かき、気持ち良過ぎて……頭が動かない……)

千歳「ふふふっ……」

コ、ココッ、カリカリカリ……
クイクイッ、クッ、クッ、クッ……コリッ!
スーッ

提督(千歳め……楽しそうに……)

カツッ、カツッカツッ、コツッ……
クシッ、クシクシクシ……

ゴコ、ゴコココッ……ゴ……ゴソッ……

提督(……まぁ、良いか……)


……ゴグッ

提督「ぅおぅっ……」ビクッ

千歳「奥の方に……大きいのがありますね……」

ゴツッ、ゴツッ……

提督(耳かきの先端が当たる音か、これは? さっきまでと、少し感じが違う……)

グッ、グッ、ゴツッ

提督「取れそうか?」

千歳「大丈夫です、取ってみせますよ」

グッ、ググ……
ゴゴゴゴ、ガッ、ガググッ……
ゴッ、ゴッ、ゴッ……

提督(音が……音が、凄い……深い所まで入ってるのがよくわかる……)

ゴツッ、ガッ、ガツッ……
グ、グリッ……ゴゴッ、ゴッ、ゴリッ……

グーッ……ググッ……

提督(相当硬いみたいだな……それまでのと違って中々剥がれた感じがしない……)

ゴリッ、ゴリッ、ゴゴゴゴ……

グーッ……ググッ……
ゴグッ、ググーッ……グッ……


ガリッ、ゴリッ、ゴゴゴゴゴゴ……
グリグリグリ……グッ、グッ……

ググーッ……

……ベリッ

提督「ぅぉっ……」

千歳「ふぅ……もうすぐですよー……」

ガリリッ……バ、バリ……リ……
パリッ、バリバリ……

グッ……グググッ……

……ベ……リンッ!

提督(剥が……れた……!)

ズズッ……ズゴゴゴ……
ズルッ、ズルッ

提督(少しずつ……外へ、掻き出されて……)

ズッ、ズルルルルッ……
ゴゾッ、ゴゾッ、ゴゾゾゾゾ……

ズ……ルンッ……!

提督(出た……! 抜けて、出て来た……! まるで耳の中に入った水が、抜け出て行った様に……)

提督(痕が、ジンジンする……心地いい感覚……)


千歳「わぁ、これは大物ですよ」

提督「何……おぉ、これは確かにデカい……」

提督(ティッシュの上に乗ったそれは、耳かきの匙より大きいサイズだった。こんなのは、見た事がない……)

千歳「さぁ、仕上げですよ」


スー……ズズズズズ……

モフッ、モフモフモフッ
フワッ、フワッ

クルックルッ

ゾフッゾフッ、モフモフモフ

フワッフワッ、フワッ……


提督(綿毛……動き回ったり、くるくる回ったりしてる……)


モフモフモフ
フワフワフワッ

ふーっ……


提督(お……おぉ……)

千歳「……眠くなってきましたか?」

提督「……少しな……」

千歳「じゃあ、このままどうぞ」

提督「ありがたい……」

提督「…………zzz」

千歳「…………ふふっ。おやすみなさい、提督」ナデ


――

―――

――――


提督「ど、どうだ?」

千歳「おぉ、似合ってますよ提督! 大人っぽいです!」

提督「そうかぁ!」

千代田「……何やってんの、提督。それに千歳お姉も……」

提督「ん? 大人っぽい髪型の研究。試しにオールバックにしてみた」

千代田「あぁ、そ……」

提督「どうだ千代田、どう思う? 千歳には好評だったが」

千代田「まぁ、良いんじゃない……?」

提督「そうかそうか!」

提督「よぉし! この調子で新境地開拓だ!」

千歳「おぉー♪」

千代田「ハァ……」







おしまい


耳かきSSと千歳のステマでした。皆々様ありがとうございました。
千歳の時報では膝枕「する」シチュである事は重々承知の上であります。

作者は少量の酒であっという間に酔い潰れてしまうので色々と気を付けたい所です。
あと、千歳の様な見目麗しい女性に優しく誘われるならともかく、
強引に酒の席に付き合わせる中年男性はメチルアルコールの川で溺れててほしいです。



以下、過去作のステマ。
扶桑「耳かきを致しましょう」
扶桑「耳かきを致しましょう」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424854470/)
足柄「耳かきしてあげる!」
足柄「耳かきしてあげる!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426496669/)
名取「み、耳かきを、します!」
名取「み、耳かきを、します!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428488576/)
天龍「フフフ……耳かきしてやろう」【ウエット型向け】
天龍「フフフ……耳かきしてやろう」【ウエット型向け】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436952046/)
古鷹「耳かきしましょうか?」
古鷹「耳かきしましょうか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431421173/)
比叡「気合い! 入れて! 耳かきします!」
比叡「気合い! 入れて! 耳かきします!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445157232/)
雲龍「耳かきしてあげる」
雲龍「耳かきしてあげる」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449654692/)
間宮「耳かき始めました」
間宮「耳かき始めました」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474274747/)
天龍「耳かきしてやる」 龍田「えっ?」【艦これ】
天龍「耳かきしてやる」 龍田「えっ?」【艦これ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1488787530/)
伊勢「耳かきしてあげよっか?」
伊勢「耳かきしてあげよっか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490602264/)



そろそろ駆逐艦で誰か書きたい所です。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年12月05日 (火) 20:47:05   ID: umcitX4j

いいですねぇ

2 :  SS好きの774さん   2017年12月06日 (水) 09:54:29   ID: sx65Np5t

素晴らしい!

3 :  SS好きの774さん   2018年01月19日 (金) 00:31:38   ID: hepwxWgi

もうこの人pixivで書けよ。

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