モバP「ユッコーヒーを飲んでみたいって?」 (22)



モバP「も……」

モバP「も、もう限界だァーッ!
こんな量の仕事をふたりで捌けるわけがないぃぃ!」


千川ちひろ「おうちにかえりたい」


モバP「誰か、誰でもいい、誰か助けてくれえ!」




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ガチャッ


堀裕子「私を呼んだのはあなたデースカー?」


モバP「ウワアアそのうえ事務所きってのトラブルメーカーが来やがった!」


裕子「お待たせしましたプロデューサー、助けに来ましたよ!
事務仕事なんか一切やったことのないこの私が、
サイキック頼みの一点張りで都合よく問題かいけつ!
任せてください!」


モバP「おお、嘘ついたすまん、誰でもいいと言ったがエスパーだけはダメ。
お願い、勘弁して!
100円あげるから向こうで遊んでて!」


裕子「えっ?うん、任せてください!」


モバP「話を聞いてー!」




裕子「よーし始めますよー!」ブワアアアアドサドサザバー


モバP「わああ書類の山があああ」


裕子「とくとご覧あれ!これがエスパーユッコのおおお!」ゴゴゴゴスポップツン


ちひろ「パソコンの電源があああ」


裕子「サイキックうううーーーー!」ババババドタドタガシャーン






裕子「ーーーー懺悔っ……!」ドワォ


モバP「バカヤローーーッ!」





裕子「プロデューサー」ぐるぐる


モバP「あ?」


裕子「生身の人間を洗濯機に入れたらいけませんよー」ぐるぐる


モバP「遠慮すんなよ、ほら肩まで浸かれ」グイー


裕子「あだだだだ足の裏が足の裏が。
このままでは身長が変わってしまう」ぐるぐる


モバP「次やったらドラム式に入れるからな」


ちひろ「まあまあプロデューサーさん。
ユッコちゃんは(一応)私たちを気遣ってくれたわけですし、
(今日のところは)その辺で」


裕子「何だか妙な間があるなあ」


ちひろ「一段落ついたし、休憩しましょう」

コトッ

モバP「おお、いい香りだ」


裕子「コーヒーですか?」


ちひろ「ユッコちゃんもどうぞ」

コトッ


裕子「おお……ほんとにいい香りですね。いただきます」ずず


モバP「うまい!」

裕子「うまいっ!」


ちひろ「ありがとうございます♪」



モバP「いい豆を使いましたね。キリマンジャロが2、モカが1、ブルーマウンテンが3ですね」


ちひろ「すごい、どうしてわかるんですか!?気色の悪い!」


モバP「ひでえ」


裕子「いまのはなんですか?」


モバP「コーヒー豆の種類と割合だよ」


ちひろ「そういうのが好きなんですって。鬱陶しいですよね」


裕子「へー……」


モバP「どんなに仕事が辛くてもコーヒーがうまければ救われますねー」


ちひろ「それはちょっとは分かりますけどね」


裕子「……」




ティン☆


モバP「うっ?いま何か不吉な音が?」


裕子「プロデューサー、コーヒー豆の名産地ってどこですかね?」


モバP「え?世界中にあるけど……
俺が好きなのは、マンデリンの豆かなあ。インドネシアだよ」


裕子「ふーん、そっかあ、マンデリン」


モバP「うん。……うん?ユッコ?」


裕子「なるほどぉ」


モバP「ちょっと……」


裕子「というわけで私……」


モバP「ダメだぞ……」


裕子「これで失礼しまーす!」ダッ


モバP「待てーっ!どこ行く気だーっ!」ダッ


裕子「大丈夫ですよプロデューサー!明日からオフですし!」だだだだ

モバP「そこじゃなーい!お前ひとりで外国なんて無理だー!」だだだ


裕子「お忘れですかプロデューサー、私の英語スキルを!
最悪の場合はサイキックで何とかしまーす!」しゅぱぱぱぱ


モバP「いやインドネシアは英語圏じゃ……って足はやーッ!
もう茜とつるむのやめろお前!」ヒーヒー


裕子「おみやげ期待しててくださいねー!」




――3日後



裕子「ただいま帰りましたー!」


モバP「ユッコ!」


裕子「プロデューサー!」


モバP「お前、よく無事で……」


裕子「プロデューサー……」


モバP「疲れたろう。こっちおいで」


裕子「はいエヘヘ」


モバP「さあ入って」ドン


裕子「おやプロデューサー、ここは生身の人間が入るところでは」


バタン



  \うあーっ/
  ┌────┐
  │    │
  │ドラム式│
  │ 洗濯機 │ゴロンゴロン 
  │    │
  └────┘



モバP「反省したか?」


裕子「ひまひた」


モバP「しかしよく自力で帰ってこれたな。確実に大使館沙汰だと思ってた。
ホントにインドネシアに行ったの?」


裕子「失礼な!ちゃんと行きましたよ。
インドネシアのドドンガ共和国ってところに」


モバP「……」




モバP「どこそれ!?」


裕子「インドネシアのドドンガ共和国」


モバP「インドネシアの中に更に共和国は存在しねーよ!
どこだよ!?」


裕子「コーヒーはちゃんとありましたけどねえ?ほら」どさ


モバP「おお、なんかそれっぽい麻袋だな。コーヒー農園で直接買ったのか?」


裕子「ザンドバ族の酋長さんから貰いました」


モバP「始まったよもう!」




裕子「ザンドバ族はガリバダ砂漠に住む人たちで」


モバP「よし。しばらくスルーしよう」


裕子「イエスとノーしか言わない私をはじめは警戒してましたね」


モバP「うんうん」


裕子「彼らはガリバダ砂漠にだけ実を付けるガリバダコーヒーを、唯一の外貨獲得手段としていました」


モバP「ふーん」


裕子「そうですかあ、ください!
って言ったけど、責任者の酋長さんが頑固な人でして」


モバP「……」


裕子「仕方ないから酋長の座を勝ち取って、豆を持ち帰りました!」


モバP「酋長になっちゃったよ!部族の酋長になっちゃったよ!何考えてんだお前!」


裕子「うふふ、冗談ですよプロデューサー。ここからここまで冗談です!」


モバP「ジェスチャーされても範囲が分かんねーよ!具体的に言え!」


裕子「あっ、これはザンドバ族のみんなが作っている民芸品のiPhoneカバーです!あげます!」


モバP「ザンドバも変わったねえ!」


裕子「さあいよいよザンドバコーヒーを淹れますよー!」




渋谷凛「なんで私が呼ばれたの?」


モバP「ごめん。俺だけだと不安で」


凛「私がいないと不安ってこと?ふーん。ふーん。悪くないかな」


裕子「この日のために、腕あげてきましたよーっ♪」こぽこぽこぽ


凛「プロデューサーが良ければ別にいつも一緒にいていいんだけど。いや私は別にいいんだけど」


裕子「さあ、ごしょうみあれ!」

コトッ


モバP「見た目はふつうのコーヒーだな……」


フワッ


モバP「うっ?何だこの香りは?
いままで嗅いだことのない、強い旨味の香り……!」




裕子「ふっ。まあ飲んでみてくださいよお客さん」


モバP「味は……味はどうだ?」ずずっ


ざあーーーっ


モバP「さ……ばく、砂漠……!

やけた砂と凍えるような夜!

そこに息づく人々、彼らを潤す水、すべてを洗う砂嵐……。

口のなかで、砂漠そのものが渾然一体となって……営みを雄弁に語りかけてくる……!」


凛「プロデューサー、プロデューサーがそうなっちゃったら私は一人ぼっちになるよ。お願いだから落ち着いて」


モバP「まるでダシを選りすぐった吸い物の様な旨味……
今まで飲んだ、どのコーヒーにも似ていない。
これが、これが本当にコーヒーだっていうのか!?」


裕子「ふ。これこそザンドバの気候が育んだ奇跡のコーヒー豆……

……が熟して地面に落ち、そこに生えたキノコから抽出したスープです!」


モバP「じゃあスープじゃねえか!」


裕子「スープです!」


モバP「ふざkけんnるれろ」ぐらっ


凛「ぷ、プロデューサー!?」


モバP「rりん」


凛「だ、大丈夫?」


モバP「凛……」じっ


凛「やだなにプロデューサーその熱い眼差し。いいよ」


モバP「凛……いいだろ」


凛「うんいいよプロデューサー。いいって言ってるでしょ。早く。さあ早く」


モバP「凛」


凛「プロデューサープロデューサープロデューサー」




モバP「……はっ!俺は何を!?」


凛「おい!?!?!?」


裕子「ザンドバタケには強い催淫性がありますが1分で元に戻ります」


モバP「なに飲ませてんだお前!?」


凛「ちょっと裕子!いまの譲って!ねえ!」


裕子「本物のザンドバミックスブレンドがこちらになります」コトッ


 ちょっと裕子!裕子!


モバP「今度はちゃんとコーヒーなんだろうな……」ずず


ぱあっ


モバP「んっ!?」


裕子「ふふ」




モバP「これは、なんだ……

鼻腔いっぱいに跳ね回るアロマ、

舌の上を転がる甘味、

甘味が過ぎる直前に姿をあらわす芳醇な苦味は重く深くかさなり、

ぜんぶが消えたあと、しっかりした渋味が顔を出して、消えてしまった甘味と苦味をかみしめる……

しかしこの香り、まず飛び込んでくるこの香りを、俺は知っている……」


凛「またどっかいっちゃったよ」


モバP「そうだこれは子供のころ、日曜の朝、おふくろが親父のために淹れたコーヒーの香り。

なんていい匂いだと思って一口もらうけど、早すぎた大人の味。

今日はどこに遊びにつれていってくれるんだろうという胸の高鳴り……思い出……」ポロ


凛「とうとう泣き出した」


モバP「このコーヒーは、人生、俺の生きてきた人生を表現していた……。
そうだなユッコ」ボロボロ


裕子「はて、私は、コーヒーをお出ししたまで……」


モバP「ブレンドは、ザンドバが7として、マンデリンが2。香りを産み出す残りの1は……」


裕子「……」


モバP「わかった、わかったぞユッコ、のこりの1、それは……」ボロボロ


裕子「それは?」


モバP「サイキック……だな……」


裕子「さすがです、プロデューサー」



凛「……」



凛「何とかまとまったあ」




裕子のコーヒーの噂はプロダクション中を駆け巡り、たちまち評判を呼んだ。

とくに、正体の知れない疲れを心に抱える年長組に、需要が集まった。

事務所のテーブルでコーヒーを飲んで、嗚咽しながら涙する妙齢のアイドルたち。

彼女らに手を添えてうなずく裕子も止めどなく泣いていて、もう手が付けられない。

それでも最後はみんな、晴れ晴れとした笑みをこぼして帰っていく。

もっと沢山のみんなに飲んでほしいなあとため息をつく裕子の前に、



ガチャバターン!



千川ちひろ「話は聞かせてもらいましたよ!」




販売店の構想、設計、誘客ルートの開拓、裕子に頼らないコーヒー抽出システムの構築。

それを一手に引き受けたちひろさんの強力すぎるバックアップに引き摺られるかたちで、

「ユッコーヒー」は開業した。

たくさんのひとを笑顔に出来るならと、裕子もしぶしぶ了承した。

芸能界の担い手を主要顧客として供されたユッコーヒーは莫大な利益とコネクションを産み出し、

私たちのCGプロは、結社以来最大の権勢を手にした。

しかしここに、重大な問題が発生する。




ザンドバ豆の供給がストップしたのだ。

存在自体が奇跡と称されるザンドバ豆は、裕子が謎のルートで細々と仕入れているだけの限定生産品であり、

膨らみ続ける顧客に対応できるだけのキャパシティを、元来持ち合わせていない。

製法を変えてあらたに売りだそうとする経営陣と、
「そんなのはユッコーヒーではありません!それでは人は笑顔になれないのです!」
と主張する社長、つまり裕子の対立は深まり、

取締役会において、裕子は社長の座を追われてしまった。

「ユッコーヒー」はその名も実態も効能も変え、芸能界の奥深くに根をはり、いまも大きなお金を動かしているという噂だ。

しかしそれは、いちアイドルの知るところではない。

事務所からはユッコーヒーの名残が消え、その深い甘味と苦味と郷愁は、年長組の記憶にだけいきづく感傷へと移ろいだ。


一方、裕子は……。









新人P「聞いた話が本当なら、ここの路地にあるはずだけど……」


新人P「ここかな……?」

キィ


「あっ、いらっしゃいませ!」


新人P「あの、ここはコーヒー屋さんだと聞いて来たんだけど」


「お客さん、運がいいですね!滅多に開けないんですよここ!」


新人P「ああ、聞いていた通りだ!コーヒーを貰えるかな?」


ざっざっ


「お客さん、芸能関係のかたですか」


新人P「わかりますか」


「……疲れていらっしゃるんですね」


ごりごり


新人P「え?うん、まあ」


しゅんしゅん


「永遠に片付かない書類、まとまらない企画、いくら下げても足りない頭……。
芸能界は、大変ですよね」


こぽこぽこぽ


新人P「……うん」


「でも」



「コーヒーが美味ければ、なんだか救われるものです」


コトッ



おわり



一番大事なことを書き忘れました!

限定堀裕子は今日までです。急いでください。

では依頼を出してきます。

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