魔女『グリム童話に出てくるヒロイン全員激マブ』 使い魔「激マブて……」 (43)

使い魔「ご主人、何歳でしたっけ」

魔女『は?女の子に年齢の話する?』

使い魔「女の子って……」

魔女『例え300歳オーバーだったとしても、心と体はまだピチピチなのよ』

使い魔「ピチピチって……」

魔女『あー、もう、使い魔うるさい、今日はグリム童話の女の子達の話をするの!』

使い魔「はいはい……」

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~シンデレラ~


魔女「鏡よ鏡よ鏡さん、この町で一番可愛い女の子はだーれ?」

使い魔「はいはい、情報検索しますよ」

使い魔「えーと、この町で一番可愛いのは……シンデレラさんですね」

魔女「へー、どんな子?ちょっと写して見せて?」

使い魔「はい」


シンデレラ「……」


魔女「……」

使い魔「町外れの館に住んでる子みたいですね」

魔女「……」

使い魔「家は裕福みたいですけど、どうしてこんなボロを纏ってるんでしょう」

魔女「……」

使い魔「何か家庭の事情とかあるっぽいですね、まあ私達には関係ありませんけど」

魔女「……」

使い魔「ご主人?」

魔女「///」

使い魔「何で頬が赤くなってるんですか」

魔女「いや、この子、可愛くない?めちゃくちゃ可愛くない?」

使い魔「まあ、この町で一番可愛い子を選んでますから、当然可愛いですね」

魔女「ボロを纏って必死に床掃除してる様子、可愛くない?とっても可愛くない?」

使い魔「ですから可愛いですって」

魔女「掃除のせいで灰を被ったみたいに汚れてるけど、それに気づく事無く掃除に精を出してるの可愛くない?」

使い魔「しつこいなぁ……」

魔女「うん、決めた!」

使い魔「何をです?」

魔女「私、今日からこの子の守護をする!」

使い魔「はぁ」

魔女「そして、結婚適齢期になったら結婚してもらう!」

使い魔「はぁ?」

魔女「いっぱい、子供作る!」

使い魔「はぁ!?」

使い魔「いや、待って下さいご主人」

魔女「何よ」

使い魔「シンデレラさんは、女の子ですよ?」

魔女「そうね、とっても可愛い女の子ね」

使い魔「ご主人も女の人ですよ?」

魔女「そうね、私も女の子ね」

使い魔「女の子て……」

魔女「けど、愛に性別は関係ないのよ」

使い魔「子供生む場合は関係してくると思いますけども」

魔女「大丈夫!魔女の秘術を持ってすれば女の子同士で子供を作るのなんて簡単なんだから!」

使い魔「はぁ……」

魔女「ようし!それじゃあ手始めにシンデレラの家庭状況を調査するわよ!」

使い魔「はいはい……」

使い魔「調査してきました」

魔女「早いわね、因みにどうやって調査したの?」

使い魔「私は鏡の精ですから、シンデレラさんの館に出入りしてる業者の姿を模して直接乗りこみました」

魔女「おおう、行き成り核心を突きに行った訳ね」

使い魔「シンデレラさんの父と再婚した継母が悪女でして、彼女の家や財産を乗っ取ったらしいんです」

使い魔「因みに既に父親は死亡してます、何か陰謀を感じますね」

使い魔「シンデレラさんは現在、メイドみたいな扱いをされて継母やその子供達にこき使われてるようです」

魔女「……へぇ」

使い魔「ご主人、顔怖いですよ、因みにシンデレラさんにも話を聞く事が出来ました」

魔女「え、話したの?あの子と?ずるい!」

使い魔「ずるいって……」

魔女「どんな子だった!?私の未来のお嫁さんはどんな子だった!?」

使い魔「彼女は、本当に良い人みたいですね」

使い魔「継母とは行き違いがあるけど、優しく接していれば何時かは判ってくれるはずです……と言ってました」

魔女「ああ……尊い……シンデレラ尊い……」

魔女「抱きしめてあげたい、そしていっぱい甘やかせてあげたい……」

使い魔「駄目ですよ、ご主人」

魔女「判ってるわよ、魔女が自分の家族以外の者に干渉する場合、取引を行わないといけない」

魔女「彼女が何かを望み、代償を支払わないと、魔法は使えない」

魔女「つまり、私が無条件で彼女を助ける事は出来ない」

魔女「忘れてないわよ」

使い魔「ならいいんですけどねー」

魔女「まあ、けど、取引なんて些細な会話からでも成立出来るから」

魔女「そこは魔女の力の見せ所ね?」

使い魔「あんまり無茶しないでくださいね」

魔女「任せてよ、私が何年魔女やってると思ってるの」

使い魔「そもそも何歳なんですか、私が生まれてから全然年食ってるようには見えませんけど」

魔女「えへへ、秘密~♪」

使い魔「えへへて……」

シンデレラ「ふぅ、やっとお仕事が終わりました」

シンデレラ「けど、こんな時間では夕食はもう食べられませんね」

シンデレラ「義母様から、21時以降に食事を取る事は禁止されていますし」

シンデレラ「朝まで、何とか我慢しましょう」


「シンデレラ、シンデレラ」


シンデレラ「あら?誰かが私を呼んでいますね」

シンデレラ「どなたですか?」


鼠「シンデレラ、シンデレラ、近くで見るとやっぱり可愛いなあ」


シンデレラ「まあ!鼠さん、あなた、お喋りができるの?」

鼠「ええ、私はいっぱい勉強したので人の言葉が喋れるの」

シンデレラ「へぇ……あなたは頑張り屋さんなのね」

シンデレラ「そんな頑張り屋さんにチーズでもあげたいけど……御免なさいね、今何も持っていないの」

鼠「……」

シンデレラ「鼠さん?怒ってしまった?」

鼠「……尊い」

シンデレラ「え?」

鼠「自分も御飯食べてなくてお腹空いてるはずなのに小さな鼠にチーズを与えようとするとかなんて優しいの」

鼠「しかも良い匂いがする凄く良い匂いが服も体も灰塗れみたいに汚れてるのに凄くイイ匂いが隠しきれてない」

鼠「まだ成長しきってないのに胸の膨らみは私よりもある気がする飛び込んで行きたい顔を埋めたいふへへへ」

シンデレラ「ね、鼠さん?」

鼠「あ、ごめんなさい、ちょっとボーっとしてたわ」

シンデレラ「そう、鼠さんもお腹がすいてボーっとしてしまったのね、可哀想に」ギュッ

鼠「あ……」

シンデレラ「今の私にできる事は、こうして胸に抱いて温めてあげる事だけです」

シンデレラ「一緒に、朝まで我慢しましょう、そうすれば、朝ごはんの残りを持ってきてあげますからね」

鼠「……」

シンデレラ「鼠さん?ひょっとして苦しいですか?力を入れ過ぎたのでしょうか」

鼠「シンデレラ、貴女、何か望みはない?」

シンデレラ「え?」

鼠「私はね、今、貴女に代償を貰ったの」

鼠「貴女から貰った体温は、私の心を温めた」

鼠「だから、貴女は望みを言う権利があるわ」

シンデレラ「まあ、可愛い鼠さんにそんな事を言われるなんて」クスッ

シンデレラ「けど、望みと言えば……そうね、鼠さんがお腹いっぱいになるくらいのチーズが、欲しいかしら」

鼠「では、取引成立ね」

シンデレラ「鼠さん?」


「かわいいかわいいわたしのあなた、あなたのねがいはわたしのいのり」

「わたしのわたしのかわいいあなた、わたしのいのりはあなたのねがい」

「あなたのねがいは、このてのなかに」

「わたしのいのりは、そのてのなかに」

「さあ!ひらいてみてみよう!」

シンデレラ「……あら、私、いつの間にこんな物を手に持っていたのかしら」

シンデレラ「凄く大きなチーズ」

シンデレラ「けど、良かった、これで鼠さんのお腹も膨らむでしょう」

シンデレラ「鼠さん?」

シンデレラ「あれ?鼠さん、何処へ行ったの?」


「私はちょっと用事を思い出したから」

「そのチーズは貴女が食べておいてちょうだい」

「決して残しては駄目よ」

「そんな事をしたら、チーズを作った私が悲しいわ」

「約束よ?」


シンデレラ「鼠さん……」

シンデレラ「……鼠さんがどうやってこのチーズを作ったかはわかりませんが」

シンデレラ「きっと、私の為に用意して下さったのですね」

シンデレラ「ありがとう、優しくて賢くて可愛い鼠さん」

シンデレラ「ありがとう……」

鼠「……」トコトコトコ

使い魔「あ、ご主人、お疲れ様です」

鼠「……」

使い魔「中々うまくやったじゃないですか、シンデレラさん喜んでましたよ」

鼠「……」

使い魔「ご主人?」

鼠「……」ボワンッ

使い魔「あ、変身が解けた」

魔女「……やわらかかった」

使い魔「え?」

魔女「シンデレラの胸、柔らかくて暖かくて凄い良い匂いがした……」

使い魔「はぁ」

魔女「んあああああああ!あんな事されたら今晩寝られないよぉぉぉぉ!」

魔女「シンデレラシンデレラシンデレラ!ダイスキィィィィィィ!」ゴロンゴロンゴロン

使い魔「ああ、折角格好良かったのに、台無しですね」

魔女「んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ゴロンゴロンゴロン

使い魔「で、あれから数年経ちましたね、ご主人」

魔女「長かったわね、そろそろシンデレラが結婚適齢期よ」

魔女「しかし……あれからも何度か鼠や鳥の姿でシンデレラの手助けをしたけど」

魔女「あまり環境が改善されてないのよね」

魔女「出来ればあの継母達を始末してしまいたかったけど……シンデレラがそれを望まないし」

使い魔「まあ、ご主人とシンデレラさんが婚姻を結んで家族になれば、どうとでもなりますよ」

使い魔「彼女が婚姻を飲めば、ですけど」

魔女「ふっ、そりゃ当然飲むわよ」

魔女「今まで私は何度もシンデレラを助けてるのよ?」

魔女「好感度はかなり上がってるはず」

魔女「あとはロマンチックな状況でプロポーズすれば、もう、私はシンデレラに抱きしめられて無茶苦茶にされるはずよ」

使い魔「ああ、ご主人って受けなんだ」

魔女「今度、城で舞踏会があるのよ、その時がチャンスね」

シンデレラ「……はぁ」

鼠「シンデレラ、どうしたのため息なんて付いて」

シンデレラ「あら、貴女は賢い鼠さん、お久しぶりね」

鼠「……鳥の姿とか猫の姿で随分会ってるのだけどね」

シンデレラ「え?」

鼠「いえ、こちらの話よ……それで、どうしたの」

シンデレラ「ええ、実は今度、お城で舞踏会があるの」

シンデレラ「私の家にも招待状が来たのだけど、その日は別のお仕事が出来てしまったので」

シンデレラ「私は、舞踏会に行けそうにないの」

シンデレラ「いいえ、そもそも、私にはドレスも靴も馬車もないのだから」

シンデレラ「最初から行く事なんて出来ないのですけど……」

鼠「……ふーん」

シンデレラ「そうだ、鼠さん、今日はたまたまお菓子が手に入ったの」

シンデレラ「義姉様達が床に落ちてしまったお菓子を、私にくれたのよ」

シンデレラ「きっと、とても美味しいわ、一緒に食べましょう?」

鼠「シンデレラ」

シンデレラ「なにかしら?」

鼠「貴女は、舞踏会に行きたくないの?」

シンデレラ「……えっと」

鼠「仕事があるのは、判ったわ、ドレスや靴が無いのも」

鼠「けど、そんな事は関係ないの」

鼠「貴女の気持ちを聞いているの」

鼠「貴女の願いを聞いているの」

鼠「貴女が本当はどうしたいのかを聞いているの」

シンデレラ「……」

鼠「私は、人間じゃないわ、ただの小さな鼠」

鼠「だからね、隠す必要なんてないの」

鼠「私にだけは、本当の事を言ってもいいの」

鼠「誰も、誰も怒らないわ」

鼠「だから」

 



「貴女の願いをきかせて」




 

使い魔「ご主人、おかえりなさい」

魔女「……」

使い魔「ちゃんとシンデレラが舞踏会に行けるよう取引出来て、良かったじゃないですか」

使い魔「代償で貰えたのは、床に落ちたお菓子でしたけど」

魔女「……」

使い魔「……えっと、その、何と言っていいのか」

魔女「……お城の舞踏会に」

使い魔「はい」

魔女「行って……」

使い魔「はい」

魔女「王子様と踊りたいって……」

使い魔「はい、言ってましたね、シンデレラさん言ってましたね」

魔女「……シンデレラ可愛いもん、王子だって惚れるに決まってるじゃない」

使い魔「まあ……元気出して下さい」

魔女「……いや、けど」

魔女「まだ、チャンスはあるはず」

魔女「あの可愛らしいシンデレラがドレスアップにより更に可愛くなったとしても」

魔女「王子様がもしかしたらホモでシンデレラを見ても全く恋愛感情湧かない可能性も」

魔女「僅かにはあるはず!」

使い魔「あ、はい」

魔女「私はその可能性に賭ける!」

魔女「そして失恋したシンデレラを慰めて、その果てにプロポーズする!」

魔女「結婚する!」

魔女「子供いっぱい作る!」

 
 
王子様はシンデレラと恋に落ちました。


しかし、シンデレラにかけられた魔法は0時で解けてしまうのです。

お城から立ち去り、何処かへ消えてしまうシンデレラ。

王子様は、彼女が落としたガラスの靴を拾い、探しました。

その靴に会う女性を。

自分が愛した女性を。


そして……。


「貴女が、シンデレラだったんですね」

「王子様……」


2人は再び出会い、結ばれましたとさ。

めでたし、めでたザザッ


 

使い魔「はい、残念でしたねご主人」

使い魔「まあ、今回は運が悪かったと思って諦めましょう」

魔女「……」

使い魔「ご主人?」

魔女「……何か、嫌な気配がする」

使い魔「嫌な気配って?」

魔女「バッドエンド臭がする」

使い魔「バッドエンドって、どう見てもハッピーエンドじゃないですか」

魔女「……継母は?」

使い魔「え?」

魔女「継母は、どうなったの?」

使い魔「えっと、確か結婚式に呼ばれてお城に向かったはずですけど」

魔女「じゃあ、それだ、貴女、少し先の未来くらいなら写せるでしょ」

魔女「ちょっと、見せて」

使い魔「……いいですけど」

ザザザザッ



   お城  

     継母とその子供達は


  シンデレラを苛め 

           だから


 シンデレラの

        白い鳩が


 まっすぐ   彼女達の眼をくり抜き


   まるで大きな二つの穴のように


   継母達は悲鳴を

            何処かへ転がって行って




 「その目玉がもう二度と見つかりませんように」



ザザザザザザッ



使い魔「……」

魔女「……」

使い魔「……なんです、か、これ」

使い魔「何でこんな……というか」

使い魔「最後の言葉は、あの声は、もしかして……」

魔女「シンデレラの声、ね」

魔女「優しい彼女だって、人間なのよ」

魔女「酷い扱いをされれば、傷つく」

魔女「心の奥に、傷は溜まって行く」

魔女「普段は、強い理性と信じる心でそれを抑えていたのでしょうけど」

魔女「王子と言う幸せを得てしまった今は、抑えがきかなくなったんでしょう」

魔女「だって、今の彼女は幸せで無敵だもの」

使い魔「そ、そんな……」

魔女「……けど」

魔女「やっぱり、嫌だな、私が好きだったシンデレラが、ああなっちゃうのは」

使い魔「ご主人?」

魔女「だからね、アレ、無かった事にしようと思うの」

使い魔「え?」

魔女「だって、気に入らないじゃない、こんな終わり方」

魔女「だから、まあ、捻じ曲げてあげるわ」

使い魔「ま、待って下さい、取引も無しにそんな事をしたら」

魔女「知ったこっちゃないわよそんな事は」

「かわいいかわいいわたしのあなた、あなたのザザザッはわたしのいのり」

「わたしのわたしのかわいいあなた、わたしのいのりはあなたのザザザッ」

「あなたのザザザッは、このてのなかに」

「わたしのいのりは、そのてのなかに」

「さあ!ひらいてみてみよう!」

ふと、気がつくとシンデレラは何かを握っていました。

それは小さな丸い石でした。

綺麗な丸い石が二つ、手の中に収まっていたのです。


「まあ、何でしょうこれは」

「綺麗ですね、どなたかから頂いた、お祝いでしょうか」


そう、今日はシンデレラと王子様の結婚式です。

2人は、幸せそうに笑っています。

お城の人々も、幸せそうに笑っています。


「まあ、義母様と義姉様も、来て下さったんですね」

「ありがとうございます、こんなにお祝いしていただいて」

「私は、とても幸せです」

「これからも、皆さんと一緒に、ずっと幸せでいたいです」


皆は笑いました。

けれど。


あの時、私を助けてくれた、鼠さんや鳥さんや猫さんは。

結婚式に来てはくださいませんでした。

それが、シンデレラにとって、最後の「悲しい出来事」になりました。

だって、彼女の未来には、もう幸せしか広がっていないのですから。


めでたし、めでたし。

~ラプンツェル~


魔女「んあー、目が痛い目が痛い目が痛いよー」ゴロゴロゴロ

使い魔「だから言ったじゃないですか、取引もなしに魔法を使うと、代償として身体の一部を支払う事になるって」

魔女「だって、あのままだと、可愛くて可憐だったシンデレラがなんか悪女になっちゃってたじゃん」

魔女「そんなの嫌だよ、やっぱり」

魔女「私と結ばれなかったとしても、彼女には幸せに何の不安もなく暮らしていてほしかったしさ」

使い魔「……まあ、暫くは両目がただの穴ぼこになってるはずですから、療養してください」

魔女「はーい……」

使い魔「確か、隠れ家の庭で栽培してた薬草はまだありましたよね」

魔女「ああ、そろそろ収穫の時期のはずね」

使い魔「じゃあ、勿体ないですけど、ちょっと収穫してそれ使っちゃいましょう」

使い魔「治療は無理でも、痛みくらいならなくなると思いますから」

魔女「えー、けど私はいま目が見えないんだけど」

使い魔「私が眼の代わりになりますから、ちゃっちゃと取りに行きましょう」

魔女「うえーい……」


ビービービー


魔女「え、何この音」

使い魔「庭に設置していた警報装置ですね、誰か侵入してきたんでしょうか」

魔女「へえ、魔女である私の隠れ家に侵入してくるなんて……私を討伐しに来たのかしら」

魔女「どっかの騎士?それとも魔法使い?」

使い魔「んんんんー……何か、一般人ッぽいですね」

魔女「んー?迷子?」

使い魔「いや、庭の薬草を取ろうとしてるみたいですから……泥棒ですね」

泥棒「はぁ……はぁ……よ、よし、これくらいあれば十分かな」

泥棒「あとは魔女に見つからないうちに……」

魔女「なんだ、男じゃん」

泥棒「ひっ!?」

使い魔「男性ですね」

魔女「うーん、じゃあ、いらなーい、始末しといて~」

使い魔「了解です」

泥棒「ま、待ってくれ、悪気は、悪気はなかったんだ……」

使い魔「変身、ギロチン」ボワンッ

泥棒「私は、ただ、私はただ……」

使い魔「はい、では真っ二つです」

泥棒「私はただ!身重の妻の為にラプンツェッルを食べさせてやりたかっただけなんだ!」

使い魔「せーのっ……」

魔女「……待って」

泥棒「ひ、ひぃぃぃ」ガクガク

使い魔「なんですかご主人」

魔女「……うーん、この旦那さんを殺すと、悲しむ女性がいるのよね」

魔女「だったら、殺せないなぁ……」

泥棒「……」ガクガク

魔女「ねえ、旦那さん」

泥棒「は、は、はい……」

魔女「妻の為、って言うのは、嘘じゃないよね?」

泥棒「は、はい!」

魔女「あそー、じゃあ、行っていいわよ、二度目は許さないけどね」

泥棒「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」ドタバタドタバタ

使い魔「……いいんですか?口から出まかせ言ってるだけかもしれませんよ」

魔女「いいのいいの、匂いは覚えたから」

魔女「しばらくしたら、様子を見に行きましょ」

魔女「もし、嘘をついているなら……」

魔女「盗んだラプンツェルの代償を支払わせるだけだから」

使い魔「……って出来事が半年くらい前にあったんですけど、覚えてます?」

魔女「えへっ♪すっかり忘れてた♪」

使い魔「えへって……」

魔女「だ、だって仕方ないじゃない、男の事なんて最優先で忘れるようにしてるんだから」

魔女「けど、思い出したからには確認せずにはいられないわね」

魔女「ちょっと、あの男の家の様子を映してみて?」

使い魔「はいはい……」



ザザザザザッ


母親「どうしましょう、このままでは家族全員飢え死によ……」

父親「なら、もう一度魔女のラプンツェルを取りに行こう、そうすれば」

母親「駄目よ、今度見つかったら何をされるか判らないわ……」

父親「だったらどうしろって言うんだ、もう財産の家財も殆ど残ってないんだぞ」

赤子「オギャアオギャアオギャア!」

母親「ああ、この子もお腹がすいているのね、困ったわ」

父親「……」

母親「よしよし、ごめんね、母乳はもう、出ないのよ……」

赤子「オギャーオギャーオギャー」

父親「この子さえ、この子さえ生まれていなければ、何とかなったはずなんだ」

父親「この子さえ……」


ザザザザザザザッ

使い魔「ああ、随分切羽詰まった状況になってるみたいですね」

使い魔「ご主人、どうします?」

魔女「……ないわ」

使い魔「ご主人?」

魔女「私が魔力を込めて作ったラプンツェルは、栄養価が高くて軽い治癒能力さえ発揮させる代物なのよ」

魔女「食べただけで一年は寿命を延ばすことができるの」

魔女「それなのに、飢え死にしそうって」

魔女「ないないないない、あり得ない、そんな状況で死ぬなんて無いから」

魔女「いや、けどこの女の人は本当に顔色悪いし、やっぱりラプンツェルはこの旦那が独り占めしたんじゃないの」

魔女「ぐぎぎぎぎ……使い魔!ちょっと出かけるわよ!」

使い魔「はいはい……」

使い魔「その後、憤ったご主人は鷹の翼を生やすと、超高速で隠れ家を飛び立ち、そのまま男の家に」

使い魔「着弾しました」

使い魔「問答無用です」

使い魔「屋根は吹き飛び、家具は破壊され、破片を浴びた男はひっくり返りました」

使い魔「それは見事な先制攻撃だったといえるでしょう」

使い魔「ご主人は四肢の形態を再構成させ、猛禽類のような手で男を引き裂こうとしました」

使い魔「が、出来ませんでした」

使い魔「男の妻が、ご主人に縋り付いて命乞いをしたからです」

使い魔「どうか、夫と子供を助けてください、私はどうなっても構いませんから、と」

使い魔「そうなると、もう、ご主人は手出しできません」

使い魔「化け物みたいな身体になってたご主人は、みるみる人間の姿に戻っていきます」

使い魔「因みに、着弾の衝撃で家は酷い有様でしたが、妻と子供は無傷でした」

使い魔「ご主人ってすごいなあ」

使い魔「男の妻から聞いた話は、次の通りです」

使い魔「ラプンツェルを持ち帰った男は、妻にそれを食べさせました」

使い魔「その甲斐あって、妻の健康状況は格段に改善され、無事、元気な子供を生むことが出来ました」

使い魔「流石はご主人が育てたラプンツェルですね」

使い魔「しかし、問題はその後です」

使い魔「健康体になったはずの妻が、みるみる弱り始めたのです」

使い魔「最初は出産で体力が落ちたからだと思っていたようですが」

使い魔「数ヶ月経過しても改善されません」

使い魔「財産を投じて医者の治療を受けましたが、効果はありませんでした」

使い魔「それと平行して、生まれた赤ん坊におかしな点が見受けられるようになります」

使い魔「まず、成長が異様に早い事」

使い魔「……因みにこの子は生後半年のはずですが、既に二歳児並の体格になっていますね」

使い魔「次に、髪が緑色であること」

使い魔「最後に、子供の周囲で物が浮遊したり何かが割れたりする現象が時々起こること」

使い魔「これらの事から、男は妻の健康状況悪化の原因が、子供にあるのではないかと予想したようです」

魔女「なるほど、話はわかりました」

魔女「どうやらプレゼントしたラプンツェルの魔力がお子さんに宿ってしまったようです」

魔女「アレには成長促進の効果と、周囲の魔力を吸収して蓄える能力が備わっていましたので」

魔女「おっぱ……いや、授乳の時にきっと、貴女の生気も吸われてしまっていたのでしょう」

魔女「仮に私が再びラプンツェルを貴女に与えて体力回復を図ったとしても、数ヵ月後には同じことが起きるでしょうね」

妻「そ、そんな……せっかく健康な子供が生まれたと思ったのに……」

魔女「……」

夫「やっぱり、その子供が原因だったのか……」

魔女「だまれ」

夫「ひっ」

妻「ま、魔女さん、何とか、何とかならないのでしょうか……」

妻「私が死ぬのは構いません、しかしそれだと、私を糧にしているこの子も死んでしまう……」

魔女「やだ、この子献身的過ぎるでしょ……」

妻「え?」

魔女「こほん……方法は、まあ、無いこともありません」

魔女「貴女が私に子供を差し出せばよいのです」

妻「え……」

魔女「その代償を支払うことが出来るなら、対価として、子供が成長するまで面倒を見ましょう」

魔女「ラプンツェルを育てる術を知る私ならば、その子供を育てることが出来ますから」

妻「そ、それ……は……」

夫「……判った、その子を連れて行ってくれ」

妻「あなた!?」

夫「酷いことを言っているのは判っている、だがこのままだとお前を失ってしまうんだ」

夫「そんな事は、そんな事は絶対に耐えられない……」

夫「きっとその子だって、このまま死んでしまうより、魔女さんの所で生きたいと思ってるさ」

妻「……」

魔女「どうしますか?」

妻「……」




使い魔「彼女は、数十秒の沈黙の後、ゆっくりと頷きました」

使い魔「こうして、私達はその子供を育てることになったのです」

魔女「めんどくさい」

使い魔「え?」

魔女「私、子育てとか面倒くさい」

使い魔「めんどくさいって……」

魔女「使い魔が育ててよ、ほら、畑の手入れだって半分は使い魔がやってたんだし、出来る出来る」

使い魔「いやいやいや、ご主人が言ったんですよね、この子を引き取るって」

魔女「だって、あのままだとお母さんの命が危なかったし」

魔女「子供を捨てろって言っても、きっと聞いてくれなかっただろうから」

魔女「消去法で仕方なく……ね」

使い魔「ご主人が女性偏重主義者なのは知ってますけど……この子供だって女の子ですよ?」

子供「ばぶ」

魔女「いやあ、私のストライクゾーンは5歳から死後までだから」

使い魔「死後って……」

魔女「もうちょっと成長したら、きっと世話する気になると思う~」

使い魔「……判りました、判りましたよ、ご主人みたいな人に育てられたらこの子が歪みます」

使い魔「私が、ちゃんと、最後まで育てますから」

魔女「よろしきゅ~」

使い魔「そう言えばこの子って名前なんて言いましたっけ」

魔女「さあ?」

使い魔「聞いてこなかったんですか?」

魔女「うんっ」

使い魔「うんって……」

魔女「名前なんて適当でいいんじゃない?」

魔女「そだ、ラプンツェルの魔力を宿してるから、ラプンツェルって名前にしよ」

魔女「決定ね?」

使い魔「……まあ、使い魔は主には逆らえませんし、それでいいですけど」

子供「……」

使い魔「緑の髪の可愛い貴女、貴女の名前はラプンツェルです、どうぞ、よろしくお願いしますね」

子供「ばぶー」

使い魔「返事をしましたね、こちらの言葉を理解している様子」

魔女「偶然声が出ただけなんじゃない?」

使い魔「いいえ、いいえ、この子はちゃんと私の目を見て声を出しました、そこには意思が感じられます」

使い魔「言葉を扱えるようになれば、ちゃんとした意思疎通が出来そうです」

使い魔「意思疎通が出来れば、私のような使い魔でも、きっと子育てが出来るでしょう」

使い魔「きっと、きっと」

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