【モバマス】二宮飛鳥が痴漢にあう話 (72)

プロローグ
ち‐かん【痴漢】
 女性にみだらないたずらを仕掛ける男。
ばかな男、おろかもの、痴れ者。

 現在においては密室、主に電車内で女性に性的な接触を図る男という意味で使われる言葉。まあ、どちらにせよ読んで字の如く、とても愚かしい行為には間違いない。
 しかし残念ながら、大して興味はないものの、こと現代日本社会においては日常茶飯事。ボクが時折忘れがちになる、日々の食事程度にはありふれている厄介事だ。
 朝のニュース、晩の速報、アンテナを張らずとも直接お目にかかる機会だって沢山ある。そのつど人生の終焉が発生していると言えば、少しばかりの非日常を感じる事も可能だろう。
 まったく、人生を捨てるリスクを背負って脂肪のカタマリを追っているわけで、それはどれほどの価値があるのだろうか。とりわけボクの様に捻くれたコドモには、ちょっとばかり理解が難しい。これは皮肉だけどね。
もちろん、事務所の仲間でもその被害にあったことのある者は大勢いた。だが、とりわけ華のあるヒト達だ、ある種の称号、手っ取り早い美の認定試験だなんて、傍で聞いて思っていたさ。
これは下らないイフの話。もしもボクが興味のない振りを止めて、思春期らしい友達思いの行動をしていれば防げたかもしれない、イフであって欲しい話だ。
後悔か……今となっては意外と気にならない、むしろ誰にでもある恥ずかしい過去の一つといったところかな? 
でも、今なら理解るさ。彼女たちの頬には涙の跡があったんだってね。

本番のたぐいは一切なく、ひたすら乳首開発を行う予定です。
遅筆かつエタる可能性が高いので期待せず傍観して下さい。

 初めてアイツに出会ったのは、恐らく六月の一日。
 一般的にはゴールデンウィーク、黄金週間とも呼ばれる多少長い連休が終わってすぐのことだったよ。
 アイドルになってからは休みなんてあってないようなもの、だけれども常夏の島での撮影は十分に忘れられない思い出として胸のうちに秘めてある。
まぁ……うっかりというか、プロデューサーに直接鼓動を確かめさせてしまったことは、少々はしゃぎすぎた気がしないでもないが……
ともかく、若干の疲れを残しつつもその日はとてもいい気分だったんだ。
学校についたらどうしよう。数少ない友人と思い出の交換でもするか、それとも無意味な難癖をつけるあの女子生徒に向けて、鼻持ちならない芸能人らしく嫌味でも返してやろうかなんて。
そしていつも通り、電車に乗ったんだ。七時十三分、七号車の後ろのドア、一般座席一番右端の手すりに掴まってね。
特になんてことはない、単に煩わしい移動時間をルーチン化しているだけの理由でね。
キミも知ってるようにボクが乗る時はやや空いているけど、二駅三駅もすればそうも行かない。下手をすれば足が浮いてしまうんじゃないかというほど混雑してしまうのさ。
約一時間、正確に言えば52分もの間そんな牢獄に閉じ込められるんだ、意識を音楽やらレディオショーやらに飛ばしてしまったって良いだろう?
その時は確か、日本人の選ぶ洋楽トップテンだかなんだかが流れていたよ。誰が選んだのかは知らないけれど、その内の何人が歌詞の意味を理解して選んだんだろうなんて、斜に構えながら楽しんでいたさ。
ああなるほど、いい曲だ、気に入った。歌詞の意味はわからないけれど、とね。
ん? ああ、別に今でもその曲は聞いているよ。さっきも言ったけどあまり辛く受け止めないでくれ。言葉にするには難しいが既に全部終わったことさ。

大きな被害になる前だ、お恥ずかしい話だがボクはまだ性に関して未成熟なんだろうね。
話を戻そう。そうして意識を飛ばしていたから気が付かなかったんだ。いつの間にやら体の前を腕が一本横切っていた。
ほら、入り口直ぐ側にも手すりがあるだろう? 白いワイシャツを着た手はそれを掴んでいたのさ。丁度ボクの胸の前で。
吊革を掴み損ねたんだろう、辛そうな体勢でご愁傷様だなんて思ったかもしれないな。
それから10分も経った頃か、徐々に違和感……言ってしまうと、胸にその、腕が当たるようになってきたのさ。
あまり快適とはいえない路線だ、揺れないようにしても限界がある。それに、こんな慎ましやかなものを好んで触るとも思わなくて放って置いたわけだ。
ただなんというかな、その腕が微妙に動いている気がした。
理解るかな、こうボクの胸に触れる瞬間を狙って上下にブレさせて……ん、そう、そんな感じだ。
衣替えをサボっていたから夏服に変えたばかりで対応ができていなくてね。その時適当なスポーツブラを選んだのが運の尽きさ。
まあキミなら職業柄知っているだろうけど、カップのついていないタイプのものでね……
ああいや、これからもっと過激な話をするんだ、これくらいで恥ずかしがっていたら趣旨にそぐわない。
白状すると、薄い布切れ2枚越しでもそれなりに反応してしまうくらい、ボクの肉体は鋭敏だったようだよ。多感なお年頃? それは所謂セクシャルハラスメントというやつかい。

ふふっ、いいさ今更だ。
まああれだ、そこをいじるという事は、知識で知っていても実行に移したことだなくてね。最初は何をしているのか良くわからなかったよ。
だが20分近く腕を擦り付けられているうちに、少しずつ変わっていったんだ。
腕が上手いこと胸の先に当たると、なんだか焦燥感とも掻痒感ともつかないもどかしい感覚が生まれたのさ。
一度意識してしまうともう元には戻れなかった。腕から逃れようにも力を抜いたら前方に押しやられるような混雑具合でね、なによりボク自身がその刺激を心地よく思ってしまった。相手の顔が見えなかったせいか、まだ完全に覚醒していなかったせいもあるだろうけれど、電車の揺れは不快ではなかったよ。
 そこからは我慢半分、まどろみ半分という感覚さ。
 後二駅で学校、これを降りたら全部おしまいにしてやろうと考えていたよ。ああ、警察に突き出すという気にはならなかったな。こんな姿は主観的に好ましくないからね、一味変わった社会体験の一つとして処理してしまえばいいと思ってた。
 ただ、その時は忘れてたんだが、ちょうどそこはビル街にあってね。つまりは出社する企業人達が一斉に降りていく駅なんだ。
 ああ、覚悟してたより早く終わったな、明日から気をつけようと一息ついたその時……胸を服の上から指で撫でられたんだ。
 いや、撫でるというよりはひっかくみたいなイメージだな。今でもその時の衝撃は思い出せるよ。
 ショックと言えばショックだったね……なんせ、その時初めて自分の乳首が固くなっていることに気がついたんだ。性的快楽でこういう反応を起こすということはもちろん知っていたが、まさか痴漢行為で知ることになるとはね。正真正銘、生まれて初めての出来事だったよ。
 でも大変だったのはその後の方さ。なんせ数十分かけて中途半端に蓄積されていったもやもやが一向に消える気配がないんだよ。
クラスメイトと話していても授業を聞いていても、常に胸の先がチリチリしていて集中なんて出来やしない。もし、誰かがボクの体の変化に気がついてしまったらと考えると、すぐさま早退してやりたくて仕方がなかった。体育がなくて本当に助かったよ。
流石に午後には収まっていたし短縮授業だったからね、家に帰る前に下着を買いに行ったわけだ。

さて、これがその日の出来事だよ。ふふっ、なんだ、随分変な顔をしているぞ?
差詰め、犯人に対する怒りとボクの口から聞いていることへの罪悪感、そして少しばかりの欲求不満か。
 安心してくれ、これはまだほんの序章にすぎない。これからもっと愉快になる……だからそうだな、まずはコーヒーでも淹れてこようじゃないか。
砂糖は2つ、ミルクはなし。キミもそれでいいだろう?

なんじゃこりゃあ……

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