1939年、今では第2次ネウロイ大戦と呼ばれる、世界中を巻き込んだ大戦争が始まった。
20年以上も姿を見せなかった怪異=ネウロイが突如として黒海に出現し、圧倒的な火力と物量で欧州の国々を瞬く間に占領していった。通常兵器が通用しないそれを相手に、人類はかつてない苦戦を強いられた。
でも、ぼくたちにはたったひとつだけ切り札が残されていた。
鋼の具足で天地駆け、呪法の弾丸引き放ち、魔を撃滅せん浄の少女――それこそが人類唯一の希望『ストライクウィッチーズ』!
彼女らの活躍によって、人類は劣勢だった形勢を5分にまで盛り返した!
それから5年後の1944年。
欧州の戦争はまだまだ終わりそうにないけど、今日はぼくにとって何より嬉しい記念日。
2年間に渡って教練を積んだ扶桑海軍の養成学校を卒業し、ついに憧れのウィッチとして実践部隊に配属されることになってる。
教官から命じられた配属先は「機械化航空歩兵大隊第187小隊」。
なんとなく教官の歯切れが悪かったのが気になるけど、気のせいでしょ。
それから数日後。
ぼくは期待を胸に、187小隊が置かれている基地へと向かう列車に乗り込んだ。
いつか見たあのウィッチみたいに、ぼくも皆に憧れられるウィッチになってやる!
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地元の駅から電車に揺られバスに乗り継ぎ、時刻はお昼を大幅に過ぎた頃。ようやく辿りついたのは、太平洋からの潮風が吹き抜ける綺麗な海軍基地だった。
「お~ここかぁ……いいじゃん!」
門前で監視中の兵隊さんに事情を説明して、基地に足を踏み入れる。
とりあえずはここの司令官にお目通りしないといけないけど、いかんせん広いのと初めての土地なのと相まってどこに行けばいいやらさっぱり分からない。
きょろきょろと辺りを見回しながら、それっぽい施設を探す。
「病院、銀行、郵便局、プールとかテニスコートまで併設されてるんだ……じゃなくて!」
あっちに行ったりこっちに行ったり、ぼくの足取りは傍から見れば怪しいものに見えたかもしれない。
ぼくとしては困ってます感を多分に出してたつもりで、あわよくば誰か助けてくれないかなと思っていた矢先のこと。
「ちょっとあんた!」
不意に背後から聞こえた女性の声。
もしかしたら先輩ウィッチかも! ラッキー!
「はいっ! あの……」
渡りに船とばかりに振り向いたぼくの前に立っていたのは、予想通り海軍ウィッチの装備を身に纏った女の人だった。
ひとつ予想外だったのは、その人がぼくに向けたのは優しい笑顔ではなく、一振りの扶桑刀だったことだ。
「勝手に入って……何者だ?」
その人は鋭い目でぼくを見据えながら、ぼくに突きつけた刀をくっと揺らして見せた。
たじろぐぼく。
突然のことに悲鳴も出なかったけど、ここで黙ってたらヤバいと思い、なんとか喉の奥から声を絞り出す。
「あ……あの、ぼく、溝口怜少尉です。今日からここに配属されてて、でもどこに行ったらいいかわかんなくて……」
こちらのたどたどしい返答はちゃんと届いただろうか?
少しの沈黙のあと、彼女は刀を下ろし鞘に納めた。
ふう……良かった。
「新兵ってわけ? それじゃ50分くらい迷ったって着かないでしょ」
そう言うと、彼女はくるっと背を向けて歩き出してしまった。
ぼくは慌てて呼び止める。
「ま、待ってください!」
「大佐のとこに行くんじゃないの? さっさと着いてきなさい、私はお腹がすいたの」
肩越しにぼくに一瞥をくれると、再びさっさと歩を進める先輩(らしき人)。
うん……最初はびっくりしたけど、結構いい人かも知れない。
これからお世話になるんだから、ぼくが使えるやつだってアピールしないと。
「はいっ!」
ぼくは小走りで先輩の後を追いかけた。
「こ↑こ↓」
先輩に連れられてやってきた執務室前。
この奥にこの基地の司令官がいるんだと思うと、ただの木の扉も異様な威圧感を放っているように感じる。
「あとは自分で話をつけなさい」
「はい! ありがとうございました!」
ぼくはペコォ~ッと頭を下げ、去っていく先輩の姿が見えなくなるまでそうしていた。
それからさっと扉に向き直り、深呼吸をひとつ。
紆余曲折あったけど、これからぼくのウィッチ人生が始まる。その第一歩を今から踏み出すんだ。
緊張で少しだけ震える手でノックを3回。
「おう、入りや」
当たり前のことなのに、司令官の返事が聞こえた瞬間、心臓が大きくどくんと跳ねた。
「失礼致します!」
ぼくは意を決してドアノブを回し、扉を引いて執務室へ進入した。
薄暗い室内の奥に立つ人影。表情はよく見えないけど、その佇まいは間違いなく幾多の戦場を経験してきた戦士のものだ。
押しつぶされそうなオーラに一層緊張しながらも、必死で姿勢を正し声を張り上げる。
「報告致します! 1505、溝口怜少尉、着任致しました!」
すると司令官はくわえていた煙草を灰皿にぐりぐりと押し付けて火を消し、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
今、ぼくの緊張はピークを迎えた。
「よう来たな。あたしがここの隊長やらせてもらってる、永田や。ウチには大佐はあたししかおらんから、大佐でええ」
大佐はぼくの肩をぽんぽんと叩いてはにかんだ。
「怖いやろ? でもあたしが管轄してるからな、安心しろよ」
怖いのはネウロイじゃなくてあなたなんですけど……
もちろんそんな思いはおくびにも出さず、「はっ」とだけ答えた。
「とりあえず皆への紹介は夕飯の時にでもな。それよりも少し休みたいやろ、お前の責任者を呼ぼか」
そう言うと大佐は机の上に備えつけられた電話機をとり、何処かと話を始めた。
「宇月おるかー? よーしおるな? 来いや!(SINUUNY)」
一方的にまくしたてた後、向こうの返事を待たずに通話を終了する大佐。
その様子にやっと緩みかけたぼくの緊張が再度甦る。
「今呼んだ奴に基地の案内をしてもらい。宇月中尉、お前がここに馴染むまで世話んなる先輩や」
「はっ!」
「よし。この部屋に来るように言っといたから、外で待っとき。ご苦労さん」
「はっ、失礼致します!」
ぼくは大佐に一礼をして部屋を出る。
扉を閉めた瞬間、緊張の糸が一気に切れた。
「はぁぁぁ……」
大きな安堵のため息をつき、直後に後ろの部屋に大佐がいることを思い出して口を塞ぐ。
怖かったけど、とにかく第一歩は上手くいった。よく頑張ったぞ、ぼく。
とはいえまだまだ油断は禁物だ。
大佐がぼくの責任者と呼んだ宇月中尉、彼女にいろいろ教わるためにも第一印象から良くしていかないと。
両手で頬をぴしっと叩き、気合を入れ直す。集中、集中。
しばらくすると、廊下の向こうから声が聞こえてきた。
「ア~リ~ス~、なんで私が新人の面倒なんか見なきゃならないんだ? 面倒くせぇマジで」
「あら、まりなだってここに来たばかりの頃は少佐にお世話になったじゃない」
「それはそうだけどさぁ……」
「ほらほら、先輩になるんだから頑張って! 私も着いてくから!」
「うん、頑張る!(単純)」
今夜は終わり!閉廷!
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