猪突猛進な騎士がいた (39)


猪突猛進な騎士がいた。



ひとたび突撃命令が出ると、一番に駆け出し、敵軍に向かっていった。



赤い鎧を身に付け、突進していくその姿は、さながら闘牛のようであった。


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しかし、彼は剣の腕が特に秀でているというわけではなかった。

むしろ剣の試合をさせれば、腕前は騎士団でも下から数える方が早いほどだ。



突っ込んだはいいが、大抵の場合はがむしゃらに立ち回ってるうちにあっという間に敵に囲まれ、
窮地に陥るというのがお約束であった。


そこへ駆けつけるのが、騎士団のエース、青い鎧を身に付けた騎士である。



敵に囲まれた猪突猛進な赤い騎士を、巧みな剣捌きと馬捌きで颯爽と救い出す。



これもまた、お約束であった。


「へへへ、また助けられちまったな」

「まったく、いつもいつも考えなしに突っ込むな」

「へいへい、分かってまーす!」

「やれやれ……」



戦いの後は、だいたいこんなやり取りをする。もちろんこれもお約束である。


赤い騎士はいつだって猪突猛進だった。



相手が何者だろうと、数がどれだけいようと、どんな布陣を敷いていようと、
行くと決めたら迷わず突撃した。



そして、たちまちピンチになり、青い騎士に助けられるのだ。


突撃精神旺盛な劣等生と、それを華麗にフォローする優等生。

騎士団の仲間たちはこのコンビを、ある者は苦笑しながら、またある者は冷ややかに眺めていた。



「あいつまた、一番に突っ込んで助けられてたぜ」

「あの光景もすっかり見慣れたな」

「なんであいつはいつも真っ先に突っ込んでいくんだ?」

「きっと知能が牛レベルなんだろ」


実際に苦言をぶつけられたこともあるが、赤い騎士は決まって、


「なにしろ俺って、脳みそが牛並みだからよぉ~」


と自虐も交えたユーモアを飛ばし、呆れられた。



誰もが彼の心の中は、鎧と同じでシンプルな真っ赤なんだろうな、と解釈した。


だが、実際には――

猪突猛進の赤い騎士の心にあるのは、深い深い“闇”であった。





彼は騎士の家系に生まれ、彼自身もまた騎士になることを義務付けられた。

幼い頃から、両親や家庭教師から乗馬や剣の訓練を受けた。


ところが、彼の武人としての素質はお世辞にも優れているとはいえなかった。


剣も槍も、馬の操り方も、平凡の域を出ていない。
おそらくは一生死に物狂いでやってようやく二流に届くかどうか、というところであった。
彼自身、それはよく分かっていた。



だから彼は、騎士として一流になる道を諦め、道化師(ピエロ)になることを選んだ。
おどけ、笑い、積極的にユーモアを飛ばし、バカにされることにも耐えた。


騎士として見切りをつけられてしまった以上、自分の居場所を見つけることに必死だったのだ。


騎士団に入団しても、それは同じだった。



まともにやれば、彼が騎士団で居場所を築くことは難しい。

かといって、騎士団に道化師は相応しくない。



だから赤い騎士は、猪突猛進の騎士になる道を選んだのだ。


敵を見て命令が出れば、誰よりも先に突撃する。



もちろん怖くないはずがない。
だが、彼にとっては死ぬよりも、誰からも必要されなくなり、居場所を失うことの方が怖かった。



だからこそ、猪突猛進の騎士で居続けることができた。


騎士団のエースである青い騎士が、自分を助けてくれるようになったのは嬉しい誤算だった。
おかげで、突撃しても怪我をすることが少なくなった。

いつしか彼はそれを期待するようにすらなっていた。


「俺は……卑怯者だ……」


しかし、分かっていてもどうしようもない。

彼は今日も突撃するしかないのである。


そんなある日、騎士団の駐屯所にて赤い騎士が通路を歩いていると、こんな声が耳に入ってきた。



「お前さー、もうあいつ助けるのやめろよ」

「そうだぜ! そろそろ思い知らせてやった方がいいんだよ!」



自分の話題であることはすぐに分かった。

居場所を失いたくないということは、それだけ自分に対する視線に敏感だということを意味する。


騎士数人が赤い騎士を酷評する。


「別になにもあいつを見捨てろってわけじゃないんだ。
 ただ、あいつにはもっと痛い目を見せるべきだと思うぜ。
 あいつ、きっと自分は死なないんだ、なーんて思ってるぜ」

「うんうん、あいつ、お前が助けてくれるからって調子に乗ってるの分かるし」

「勇敢を気取ってるが、結局無謀なだけなんだよ、あいつは」



結論からいえば、どれも的外れである。

赤い騎士は、自分が死ぬ可能性を常に考慮しているし、
青い騎士に助けられることをむしろ申し訳なく思っているし、
勇敢でも無謀でもなくただ自分の居場所がなくなることを恐れる小心者なのだ。


むろん、ここで「お前ら好き勝手いいやがって!」と飛び込んでいく度胸なんてない。


やがて、青い騎士は静かに口を開いた。



「お前たちは、突撃する時のあいつの顔を見たことがあるか?」


「私にはあいつがなにを背負っているのかまでは分からないが、
 お前たちが今いったのんきさなど欠片もない。必死に何かを求めている男の顔をしている」


青い騎士は厳しい口調で続ける。


「それにお前たちもあいつに寄りかかっている部分があるんじゃないのか?」

「な、なんだと!?」

「あるわけないだろ!」

「あいつが先陣を切るおかげで、騎士団全体の負傷率が減っているのは事実だろう?
 あいつが罠や伏兵に真っ先に突き進んでいくおかげでな。
 あの突撃が、部隊を盛り上げる役割を果たしているのも確かだしな」

「ぐぐっ……!」

「だけど、あいつはただ突っ込んでるだけじゃねえか!」


「ならばお前たちは明日からあいつと同じことをしろといわれて、それができるのか?
 あいつはたとえ敵が何百人何千人いようと突撃していくんだぞ」



青い騎士のこの言葉に、他の騎士たちはなにも言い返せなくなってしまった。


これを聞いていた赤い騎士は己を恥ずかしく思った。



「違う……違うんだ。俺はそんな立派なもんじゃないんだ……」


数日後、周囲に誰もいない時を見計らって、赤い騎士は騎士団のエースに声をかけた。


「……よう」

「おお、どうした?」

「実はさ……俺、こないだお前が俺のこと話してるの聞いちゃったんだ」

「あ……」


「お前は俺のことをずいぶん買ってくれているようで、嬉しかった。でも、本当は……本当は違うんだ」


赤い騎士は首を振り、自分の生い立ちを洗いざらいぶちまけた。


「俺はただ、騎士団に自分の居場所が欲しいがために、猪突猛進を演じてたに過ぎない……。
 みんなのため率先して、とか全然そんなことじゃないんだ……」


すると、青い騎士はこう答えた。


「……私だってそうさ」


「正直にいおう。私も……お前のことを利用していたんだ」

「え?」

「いつも真っ先に敵陣に飛び込んでいきピンチになるお前を、後から助けて皆から称賛される……。
 はっきりいって、私自身とてもいい気分だったんだ。
 自分の剣技や馬術を、よりドラマチックにアピールすることができたしな……」


青い騎士は赤い騎士に頭を下げた。


「すまなかった……」

「い、いやっ! なにもそのぐらいで……」

「それに、私がお前を助けてたのには他にも理由がある」


「私とお前はほぼ同期だが、初陣の時を覚えているか?」

「初陣……たしか数人の騎士で野盗退治に向かったんだっけ」

「その通り、今から考えれば赤子の手をひねるような任務だが、あの時私は本当に恐ろしかったんだ。
 野盗どもに睨みつけられた瞬間、私の手足は完全にすくんでしまった」


誰もが認める騎士団のエースは照れ臭そうに笑う。


「だが、お前は真っ先に野盗に立ち向かっていった。お前のあの姿、私の目にはどれだけ勇敢に映ったことか」

「いや、俺は……ただ居場所が欲しかっただけで……」

「理由は問題じゃないさ。とにかく……あの時のお前は本当に本の中の英雄かなにかに見えた。
 だから、いつも真っ先に突撃するお前の姿に、私は本当に憧れていたんだ。
 だから、死なせたくなかったんだ」

「……ありがとう」


弱みを明かし合った二人は、苦笑いをした。





しかし、その笑みはどこか爽快感をも含んでいた。


これを機に、二人は大きく躍進することになる。


赤い騎士は強迫観念からではなく身をもって勇気を示すために突撃を繰り返し、

青い騎士は功名心を捨てることで剣技はさらに上達し、それを華麗にサポートし続けた。





やがて、青い騎士は騎士団長となり、赤い騎士はやはり戦い方が災いして大きな傷を負い、
志半ばで騎士団を退くことになったが、二人の友情は生涯続いたといわれている。


この二人の騎士は、今も銅像となって騎士団領を見守っている。



華麗に剣を振るう騎士と、その一歩前を走る猪突猛進な騎士として――






<おわり>

以上で完結となります

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