沙紀「フルカラーに染められて」 (45)
・吉岡沙紀ちゃんのSSです
・前作(沙紀「ワルツ・ワルツ」 沙紀「ワルツ・ワルツ」 - SSまとめ速報
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その日は珍しく道を変えて事務所に向かってた。
特に理由なんてなくて、単なる気まぐれに任せて歩いてた。
変わらない毎日のちょっとした刺激だ。
それは近道だったり遠回りだったり、場合によっては全然知らない道を通ってみたりなんて。
そこで出会う新しい発見は、大なり小なりアタシの糧になる。
遅刻しそうになることもあったりするんだけど、なかなか簡単にやめられるものじゃない。
だけど、今日はどうだ。
この発見はプラスに働くものなのかな?
まず最初にアタシを襲ったのは驚きだった。
よくよく考えたらプロデューサーもいい大人で、別に見た目が悪いわけじゃないんだから、恋人のひとりやふたりいたっておかしくない。
街中で腕を組んで歩いたって、すこぶる健全だ。
随分仲良さそうに密着してたけど、付き合ってるなら普通のこと。
所詮他人でしかないアタシがどうこう言っていいものじゃない。
恋人同士なんだから一緒に服屋にだって入る。
なにもおかしいことはない。
ただひとつ気になってることがある。
どんな流れだったのかは忘れたけど、前にプロデューサーのことを聞くことがあった。
あぁ、そうだ、アイドルはファン商売だから表面的に恋愛はどうのって話だ。
そこからアタシがプロデューサーはどうなの? って聞いたんだ。
いまはそんなことを考える余裕がない、って、記入した書類のチェックをしながら答えてた記憶がある。
そのときは別に気にもしてなかったけど、昔聞いた言葉とついさっき見た光景がきれいに矛盾しちゃって、外はくらくらするくらいの青空なのに、アタシの胸の奥はどんよりした灰色の空が厚塗りされてた。
関係ないじゃん。
そう言っちゃえば終わることなのに、なんで言えないんだろう。
なんでもやもやが晴れないんだろう。
出口を探して迷路の中をひたすらぐるぐる回ってると、気づいたときにはレッスンが終わってて、いつも通り自主練を始めていた。
その日の反省点を踏まえて、そこを集中的にやるのに、それがわからないってどうしようもない。
困った。
「沙紀ちゃん」
突然名前を呼ばれて反射的に振り返ると、扉からひょっこり顔を出していたのはさっきまでレッスンをしていたトレーナーさんだった。
「今日はお休みにしときましょう、自主練」
「え、いや、大丈夫っすよ。体はまだまだ動くし、なにより動かしたいっす」
「だからこそ、ね?」
言い方も表情も優しかったけど、でもとか、だってとか、我を通すことはどうしてもできなかった。
わかりました、そう言うとトレーナーさんは「明日また頑張りましょう」って、柔らかい笑顔をアタシに向けてきた。
割れちゃいそうなくらい膨らんでた気持ちはみるみるしぼんでいった。
「じゃあ、お疲れ様」
「あ、あの」
「うん?」
「変なこと聞いて申し訳ないっすけど」
「はい、大丈夫ですよ?」
「なんで止めたんすか?」
「自主練を?」
「そう、そうっす」
「そうですね……」
なにか言葉を探すように視線を床に落として、数秒経ったあとに目と目が合った。
「楽しそうじゃなかったから、ですね」
*
おかしくなったきっかけははっきりしてる。
はっきりしてるんだけどどうしようもなくて、事務所のソファに意味もなく寝転がってみる。
誰かが買ってきたハート型のクッションを抱えて。
都合のいいものがあったもんだ。
いまのアタシにピッタリなそれは、笑っちゃうくらいいびつな形になって胸に収まっていた。
なんでそれで自分がこんなことになってるのかもわからない。
いままで経験したことのないもやもやが、頭の上からつま先までアタシを包み込んでるみたいな。
どれだけ体を動かしても、声を出しても、すっかり服に染み込んでしまった塗料みたいに落ちない。
本当にどうしちゃったんだ、アタシ。
「なにかお悩み?」
悩みがわからなくって悩んでる、というか。
「あら、大変。随分と重症みたいねぇ」
そう、なのかなぁ。
自分でもよくわからないんだよね。
「そういうときは誰かに話すとよかったりするかも」
うまく言葉にできなくて、どうかな。
まず誰にどう話せばいいのかわからない。
「そうね、例えば……私に相談してみたり?」
「そうっすね、私に……」
あれ、アタシ誰と話してんだ?
「こんにちは」
聞いたことがある声だなっておもってた。
でもそれは知り合いじゃなくて、そう、例えばテレビやラジオで聞き慣れてる、耳にすうっと入ってくる優しい声で。
ソファの背もたれからアタシを見ていたのはまさかの人で、一瞬アタシの時間がぴたりと止まった。
「多分はじめまして、よね?」
柔らかいソファに預けてた全身を急いで起こすも、はじめましてって声を出したいのに開いた口がふさがらない状態になってしまって、ひどくおかしな格好を晒してしまった。
初めて壁にペンキを塗ったときよりも心臓はバクバクって動いてて、見えない糸で引っ張られたみたいに背筋はピンと伸びる。
「まずは自己紹介よね。高垣楓です。よろしくね」
いや、あの、知ってる、知ってるっす。
「吉岡沙紀ちゃん」
「なんで名前を……」
ようやく出た声はすごい変で情けない音をしてた。
「ふふ。お話は沙紀ちゃんのプロデューサーさんからいろいろと」
いろいろ、いろいろってなんだろう。
あの人のことだから、きっと余計なことまで言ってる。
ていうか、こんなところであの高垣楓に会うなんて。
いや、ここは事務所だから当たり前なのか。
アイドルってものに詳しくないアタシでも、この人の名前と顔は完璧に一致する。
モデル業から歌手活動、最近ではバラエティでも見ることが多くなってきたトップアイドル。
前からプロデューサーには、運が良ければ会える、なんてレアモンスターみたいに言われてたけど、現実なんてこんなにあっけないものなのか。
「隣いいかしら?」
「は、はいっ、どうぞっす」
「そんなに緊張しなくても」
布とソファのこすれる音が左耳に届いて、なんて例えたらいいのかすごくいいにおいが鼻をくすぐってきて、頭がぽわーっとした地面からちょっと浮いた感覚に襲われた。
ソファに座ってるはずなのに船酔いした気分って変な感じだ。
「それで」
顔がぐいっと近づけられてにおいが強くなった。
触れたくなるくらい綺麗で白い肌に、吸い込まれそうな瞳はアタシをそこに閉じ込める。
心臓は落ち着くどころかいまにも口から飛び出しそうなくらい激しく動いてる。
「お姉さんに話してみて?」
「え、いやぁ」
「私、こう見えても口が堅いから大丈夫よ?」
流れる動作でウインクを飛ばしてきて、あぁ、これがアイドルなのかなんておもったり。
「え、えっと……」
口ごもるアタシに構わず、肩が触れる距離にいる人は素敵な笑顔をこっちに向けてくる。
こんな美人が隣にいたことなんて生まれてきてからいまのいままでまったくなくて、慣れない体験に頭の処理が追いついてない。
「大丈夫?」
どこに置くことが正解なのかわからない目線、びっしょりかいた手汗、言葉だけ健忘状態ってなんて都合のいい。
「すごい汗」
例えば楓さんとの握手会があるとして、ファンの人はこんな気持ちでこんな状態になってるんだろうか。
なんだったっけ、神秘の女神、だったかな。
「大丈夫? お腹痛い?」
少しひんやりした感覚が頬に触れて、おもわずひっくり返った声をあげてしまった。
突然のことになにが起きたのかまったくわからない。
落ち着かせるように何度か強くまばたきをして、目の前の状況を整理する。
アタシの反応にびっくりした楓さんが大きな目を丸くしてこっちを見てる。
そして左手には若緑のハンカチがあって、もしかしなくてもそれで汗を拭こうとしてくれた?
「ご、ごめんなさいっ。変な声出しちゃって」
「ううん、私が勝手にやろうとしたことだもの。こちらこそごめんなさい」
「いやいや、アタシの方が」
「これじゃ堂々巡りね」
そう言って笑った楓さんはハンカチを目の前に差し出してきた。
「これ使って」
「だ、大丈夫っす。服で拭いとけば」
「ダメ。女の子なんだからそこはちゃんとしないと。ね?」
少しだけ強い言葉に、めくろうとした服の裾から手を離してハンカチを受け取った。
顔に近づけるとほのかに甘いかおりがした。
「無理に言わなくても大丈夫」
「え?」
「沙紀ちゃんが話したいときに話したい人に言えばいいから。今日はたまたま私がここにいたってだけ」
「は、はい」
「でも、沙紀ちゃんの顔を見てたらなんとなぁく、どんなことで悩んでいるのかわかるかも」
「そ、そんな顔に出てるっすか?」
「ふふ、どうでしょう」
猫みたいに目を細める楓さん。
女のアタシでも色っぽいなっておもった瞬間、触れられた頬がじんと熱を帯びた気がした。
「あ、あの……」
「うん?」
「うまく言葉にできないとおもうっすけど」
「うんうん」
「聞いてくれるっすか?」
「もちろん」
それからアタシはゆっくり、ときどき言葉に詰まりながら事のいきさつを語った。
事実と現状。
それを口を挟むこともなくただただ聞きながら、適度に相槌を打ってくれるだけだった。
「ということっす……」
話が終わって、ひとつ大きく息を吐く。
緊張からかそれとも話し続けてたからなのか、口の中はカラッカラになっていて、机の上に置いてあったペットボトルのお茶を流し込んだ。
改めて、こういうことを自分から言うのは慣れない。
見えなくたって顔が赤いのがわかる。
「ふんふん。なるほどねぇ」
楓さんは八分咲きの笑顔のまま、こっちを見てゆったりとした間隔で何度かうなずいた。
その意味がよくわからなくて、頭の上にハテナマークを浮かべてると「そうねぇ」って話を切り出してきた。
「私の勘違いかもしれないんだけれど、それはね」
それは?
「それはきっと恋よ」
*
楓さん曰く、どうもアタシは恋してるらしい。
しかも相手はプロデューサーだって。
「……よくわからないなぁ」
誰に届けるわけでもない言葉を二酸化炭素と一緒に事務所の天井に向けて吐き出す。
一日経っても楓さんが出してくれた答えがなんでそういうものになったのか、まったくわからない。
というか余計にもやもやが濃くなった気がして、いつもより睡眠不足だ。
プロデューサーとは会ってどれくらいだろう。
二ヶ月くらいかな。
ちゃんと数字にしてみるとそんなに経ってない。
知らないことがまだまだあるし、それはむこうだって同じだとおもう。
いや、それ以前にアタシがどうかって話で、プロデューサーはきっとどうともおもってない。
まずアタシの気持ちがわからない。それが恋なのか、なんて。
「恋、恋って……恋ってなんだ」
なにもない宙に指で描いてみたり、うわ言みたいに繰り返しても、恋という単語をうまく反芻できない。
あの人のことを好きか嫌いかで言ったら、そりゃ好きを選ぶに決まってる。
嫌いな人だったらアイドルなんてとっくに辞めてるし、辞めないにしてもこんなに考えることなんてない。
出会いはともかく、いまの印象は悪くない。
ていうかむしろいいんじゃないのかな。
少なくとも信頼できる人だ。
「おだやかじゃない言葉が聞こえてきたけど、どうしたんだ」
「……なんでもない」
「なんでもないことないだろ」
机を挟んだ先でプロデューサーは手にした雑誌から視線を外さずに、湯気の上がったマグカップをゆっくりと口元に運んでいった。
「熱いな」
本当にアタシはこの人に惹かれてるの?
「恋って、好きな人でもいるのか」
「どうなんすかねぇ」
「どうって、自分のことなのに?」
「わかんないっす、そういうの」
これは紛れもない本心。
自分のことだからって全部が全部わかるわけじゃないし。
「まさか初恋がまだだとか言わないよな」
「言われてみれば、まだかも」
「マジか」
「ウソついてどうするんすか」
そういうのが嫌なわけじゃなくて、考えたことがなくていまのいままで生きてきたんだなぁって、他人事みたいだ。
「したことないって……いや、俺の世代とはまた違うしどうとも言えないけど」
「プロデューサーはしてたの?」
「そりゃ普通に」
「そのときもチャラそうっすもんね」
「それは関係ないし、俺は過去も現在も硬派だ」
「軟派の塊っすよ」
認めたくない、わけじゃないけど、なんか納得できない。
「そういえばさ」
「茶はやらんぞ」
「この前、一緒に歩いてた女の人は恋人?」
そう言うと、読んでいた雑誌が閉じられて机の上に置かれた。
そしてアタシの方を向いたプロデューサーはわざとらしく鼻をすすった。
「いつ?」
「昨日」
「昨日の夕方か」
「そうっすね」
「服屋」
「腕組んでた」
「確かに組んでた」
「仲良さげに見えたっす」
なんだ、一度スタートを切ってしまったらあとは体が勝手に動くみたいにすらすらって言えるじゃないか。
「吉岡」
「まぁ、年齢も年齢だから驚かないっすよ、別に」
「大きな勘違いをしてる」
「アタシが言いたいのは仕事中にそういうのをするのはどうかってことっす」
「ちょっと待て」
「言い訳っすか?」
「止まらないみたいだから言うぞ。あれは妹だ」
弁が立つプロデューサーのことだからどんな言い訳をするんだろうっておもってたら、なんてチープな自己弁護なんだ。
ソファから滑り落ちそうになったのは大げさでもなんでもない。
「写真とかないから証明するものはないけど、もう一度言う。あれは妹だ」
もっとまともなこと言いなよ、って舌の先まで出かかっていたのにそれを口にしなかったのは、いままで見たことないくらい真面目な顔を目の前の人がしていたから。
アタシをスカウトしたときも、練習を見ててくれたときもそんな表情をしてなかった。
それはそれで問題だけど。
「確かにあれはアタシだねー」
「そうだ、確かに伊吹……」
覚えがあるんだけどどこで知ったのかわからない声が頭の上から聞こえてきた。
その方向を見てみると、どれくらいぶりだろう、懐かしいふたつのおさげがすぐそこにあった。
「えっ、伊吹?」
「沙紀、ひっさしぶりー! いやぁ、まさかこんなとこで再会するなんてね!」
意外な場所で懐かしい仲間との再会におもわず立ち上がって手を取る。
いつから会ってないんだろう、久しぶりに声に出した彼女の名前をもう一度言うと、むこうも同じようにアタシの名前を呼んでくれた。
小松伊吹。
グラフィティをしてたときに出会ったストリート仲間のひとりで、アタシにダンスを教えてくれた、言うなればダンスの師匠みたいな存在だ。
理由はわからないけど、いつかしら見なくなって、それ以来の再会になる。
そういえば、妹って言った?
「いやいや、なんでお前がいんだよ!」
「なんでって、そりゃ用があるからに決まってんじゃん」
「俺には用がない」
「アタシもないよ」
「おう、だから帰れ帰れ」
「かわいい妹にひどくない? どうおもう?」
いきなりアタシに振ってこられても困るって。
「ここがどこかわかってるのか」
「芸能プロダクション」
「よくわかってるな。ゴーホーム」
「いやいや、だから用があるんだってば! ホラ、これ!」
雑誌の上に叩きつけるように置かれたものは名刺ほどのサイズの、というか名刺そのもので、そこには事務所の名前ともうひとつ、見覚えのない人の名前が書かれてた。
プロデューサーはそれを手にとってまじまじと眺めると、裏から、横から、そして電灯に向けて掲げてみたり。
「先輩の名刺、確かに本物だ……」
「ニセモノ持ってきてどうすんのさ」
「まさか盗んだな」
「スカウトされたんですぅ」
「いや、おかしいだろ」
「ダンスがすごいって言われてね」
「だってお前、かわいくないじゃん」
「沙紀、聞いた? ひとりしかいない妹にこういうこと言う人なんだよ?」
いや、だからアタシに振られても。
「お前のそういうところが……ちょっと席外す」
立ち上がってポケットから携帯を取り出すのを見るに、誰かから連絡があったみたいで、自分のデスクに向かっていった。
「ほんとにこんなところでまた会えるなんてねー。すっごい嬉しい!」
「急に見なくなって心配したんだから」
「ごめんごめん」
「でも、また会えてアタシも嬉しいっすよ」
「そーだね! ところで、ここにいるってことはもしかしてさ」
「実感ないっすけどね。そういうことっす」
アタシの言葉を聞いて伊吹は「ほー」ってひと言だけ漏らして、ニコニコというよりはニヤニヤしながら、あっちからこっちから眺めてくる。
言われてみれば笑った目元の部分とか似てるのかもしれない。
「ふぅん……しっかし、また変な人に惚れちゃったねぇ」
「惚れたって、なにがっすか」
「うちのアレに」
アレって。
親指の先にいる人は頭を抱えながらまだ電話してるみたいだ。
「いやいや、ないっす」
「だってばすっごいかわいい嫉妬じゃん、それって」
「……ほんとに伊吹だったんすか?」
「髪ひとつにくくってたけど……ほら、こうやったらあのときと同じでしょ?」
ふたつのおさげを解いて、それをひとつにまとめてくるりと背中を向けた。
確かにあのときプロデューサーの隣にいた後ろ姿そのもので、それがわかるとなんだか急に恥ずかしくなった。
それと一緒にどこで様子を伺ってたんだ、安心って感情が心の真ん中にすっとスライドしてきた。
なんでほっとしてんだ、アタシは。
「伊吹の言ってることは事実だったみたいだな……」
数分前の兄妹で言い合ってたときのテンションは電波に乗ってどこかに消えたんだろうか。
いつも以上に声のトーンが低いプロデューサーがため息をつきながらソファにどかっと座った。
そして天井に向かってもう一度、大きく息を吐き出した。
「外にいるからお前が相手しておけって……小松って名字は多いから、普通は兄妹だっておもわないよな……俺も妹がいるって言った覚えはないし」
うなだれて、今度は地面に向かって落胆を口から出した。
こんなに弱ってる姿も初めて見る。
「ほーら、兄貴みたいにすぐ口から出まかせ並べないし」
「人を常にウソつきながら生きてるみたいに言うな」
「アタシも興味がなかったわけじゃないし、なによりここで沙紀と会えたのも運命感じちゃうし!」
「そうっすね、偶然にしては出来すぎかな」
「ちょっと顔洗ってくる」
言葉も足取りも弱々しいプロデューサーの背中が扉の向こうに消えると、机の上に置かれた携帯が一度鳴った。
電話じゃなくてメールみたいだったし、そのままにしておくことにした。
「沙紀ってさぁ」
次に伊吹が言う言葉はわかる気がするし、できるならそれを聞きたくない。
わーって声を出してごまかしてみたけど、伊吹はいたずらっぽい笑顔のまま、構わず口を動かした。
楓さんの言葉が頭の中でしつこいくらいにディレイする。
もう一度携帯が鳴って、それにまでなにか言われてるみたいな気がした。
「兄貴のこと、好きなんだ」
バーミリオン、オレンジ、イエロー、グリーン、コバルトブルー、ネイビー、パープル。
いろんな色がパレットの上でパーティーを始めた。
おわり
ライブツアーお疲れ様でした。
皆さんもフリトレなどで沙紀を是非入手してください。
ありがとうございました。
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