未知との遭遇(12)

地球人と彼らの邂逅からおよそ百年ほど経っていた。
銀河同盟と称される異星人達は前触れもなく地球に現れたのだ。
当時の人達の困惑するばかりだった。

地球を侵略しにきたのか、友好的な異星人なのか、それとも単純に訪れただけなのか。
様々な考察がされたが、それらは全て杞憂に過ぎなかった。

異星の人々は地球人類に対して友好的に接してきたのだ。
圧倒的な科学技術の隔たりがありながら、また全く姿の異なる人類に対する姿勢に人々は感動した。

「やはり、星間航行が可能なほど技術を会得した異星人が、侵略なんて蛮行など考えないのだろう」

やがて交流が始まった。
地球上に存在しない姿の異星人達は、時として嫌悪感を地球人達に与えた。

しかし、それは異星人も同じであると人々は考え直し、次第に姿の違いも気にしなくなっていった。
時折彼らの姿を見て狂気に駆られる者もいるが、取り押さえて事なきを得ている。

「彼らの振舞いを見ていたら、何だか争うのが馬鹿馬鹿しくなったな」
「我々も彼らの仲間になるため、より理性的に生きるべきだ」

交流を始まると僅かずつだが、人類同士の争いが減少していった。政府が強い働きをしたのもあるが、
人々が異星人達の姿勢を見て、争い続ける事の虚しさを理解していったのだ。

こうして、地球人類と異星人達の交流は続けられていった。
異星人の彼らは地球に頻繁に訪れたが、自身の星に案内することはなかった。
代わりに彼らの技術や知識を地球人にもたらした。



しかし――

「全く理解できない……根本的に我々の科学知識が間違っていたのか?」
「彼らから受け取ったこれらの資料だが、これでも幼年期に教えられる簡単な部類らしい」
「やはり、大きな知識の隔たりがあるな」

「だが、彼らとの邂逅から百年余り。小さな争いが続くが、戦争はなくなっている」
「人種差別もなくなりつつありますね。彼ら異星人の方々と会う内に、人種差別など馬鹿ばかしく思える」
「おかげで我々地球の科学は発展しています」

「とはいえ、まだまだ異星人の技術や知識がなかなか理解できませんが……」

多くの学者や研究者達が顔を突き合わせて唸っていた。
百年経っても異星人達の知識や技術には驚かされるばかりだ。
地球人類が築き上げてきた科学技術とは大きな隔たりがあったのだ。


こうして、未知なる遭遇を果たした人類は、今日もまた頭を悩ましている。

「駄目だ、全く理解できない……」

銀河同盟の会議の場で、多くの異星人達が顔を突き合わせている。
異なる母星、異なる銀河で生まれた彼らは、確固たる一つの真理を元に結束しているのだ。

だが、それを揺るがす存在を前にして異星人達は動揺を隠せなかった。


「地球人と接触して、錯乱した者が……」
「またか。まあ無理もない。何度見ても地球人類の姿はおぞましいからな」
「言わないで下さい。思い起こすだけでも吐き気がこみ上げてくる」
「しかし、参りましたね。我々は姿も考えも情報伝達も異なりますが、唯一つの真理に辿り着いたと
思っていたというのに……」

会議の場では時折地球人類を滅ぼすべきだと興奮して訴える者がいた。
だが周囲の者に宥められて何とか衝動的な発作を抑えている。
しかし、抑えた者達もその心情は理解できていた。

とにかく美的感覚が異なっていた。地球人類を始めとして、地球の生命体がおぞましい姿に映る。
また視覚がない、聴覚やテレパスなどが発達した異星人達も地球の音や感覚は怖気が走るものと訴える。


だが、それらはさほど問題ではなかった――彼ら自身の真理を揺るがすものに比べれば。

「……今回も地球人類の技術、知識が理解できなかった」

彼ら銀河同盟に所属する異星人達は、唯一つの真理を基に和解し、結束していた。
すなわち宇宙を支配する法則――『科学』は普遍的なものであると。

しかし、地球に訪れてそれは崩壊した。地球人類が扱う技術、知識は全く理外の代物であった。
地球人類達はそれを『科学』と称していたが、銀河同盟で発見されたものとは正反対の性質だったのだ。


「あのような技術、まるで寓話に出てくる魔法のようだ」
「馬鹿な! 魔法なんてあるわけないだろう! あれは、あれは未発見の『科学』だ」
「ですが物理法則も科学的見地も理論も、何もかも我々の科学と真っ向から反するものですよ」
「私は少なくとも、あれらを科学とは認めたくないですね」

そう言って一人の異星人が地球の教本を手にした。義務教育で習うごく初歩的な教本だ。

文字や言葉を解することが出来たものの、そこに記載されている法則などは全く理解できない。
銀河同盟を代表する知識人達が一堂に会しているにも関わらず、百年余り解析できなかった。

その教本に記されている実験を行っても、教本どおりにならなかった。
そもそも自分達の法則とはかけ離れていた。実験途中で何人もの研究者達が発狂した。

判ったのは、地球の科学は銀河同盟の科学とは全く異なる法則で成り立っているというものだった。

「幸い宇宙へは完全に飛び立つ段階ではないが……」
「だが彼らを攻撃する場合、我々は地表に降り立つ必要がある」
「彼らの軍事技術の発達は異常だ。地表に降り立っての戦闘は危険すぎる」


「ああ、全く厄介なものと遭遇してしまった……こんな星とは関わるべきではなかった」



こうして、未知なる遭遇を果たした異星人達は、今日もまた頭を悩ましている。

おしまい
読んでくれた人乙です

異星人との出会いで、大体我々地球人が異星人の技術や身体能力に驚く
そんなパターンで描かれるのが多い

でも、異星人も実際には地球人の技術や身体能力、文化や知識に驚くのではないかと思った
そんな考えで書いた短編です

まあ本当に異星人がいたら、いきなり接触しないで観察すると思いますが

方向性はやや異なるけど、筒井康隆の「農協月へ行く」を思い出したよ
互いが理解不能であることは争いの原因となりやすいけど、あまりに理解を絶した場合は
争いすら起こせなくなる、という発想が面白かった

人類の最高の知性を集めて100年経ても理解不能な、異性人の"科学"とは一体、どんなもの
なのか……うん、やはり全く想像がつかないなw

星 新一さんの短編読んでるみたいだった。

誤字が無ければ何れかの短編集から抜粋されたものと紹介されても違和感が無い。
これに多少のべらんめぇ調子が入るとパーフェクト(笑)。
乙。

地球人を攻撃するなら地表に降り立つ必要はないのでは?
大気圏外から攻撃すればいいだけのような

ダインスレイブ乙。

物理法則まで違うのか…

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