【男はつらいよ】『亀有交情篇』 (70)

~~イタリア共和国・シチリア島~~

とあるバーにて

バタン!

店員「キャア!!!!」

マフィア「騒ぐな!!何もしやしねえ!!」

マフィア「この店にガタイのいい四角い顔の男が入ってこなかったか!?」

店主「い、いえ……知りませんね……」

マフィア「そうか、邪魔したな……」

客「な、何なんです今の連中は!?」

店主「あんた、知らないのかい……あれが有名なシチリア・マフィアだよ……」

店主「ちょっといい男を見かけたらすぐに慰みものにしちまう、恐ろしい連中でね……」

店主「さっきのはいわゆる『男狩り』ってやつさ……」

バタン!

店主「!!」

寅次郎「ハア……ハア……」

寅次郎「すまねえが……一杯でいい、水をくれ……」

店員「はい……」スッ

寅次郎「ありがとよ……」ゴクゴク

寅次郎「プハーッ!!」

店主「あんた……追われているね?」

寅次郎「あぁ……道を歩いていたらいきなり変なのが追いかけてきやがった……」

店主「やっぱり、そうかい……」

寅次郎「……」

寅次郎「……さくらの奴、元気にやってるかな……」

店主「さくら……誰だいそれは?」

寅次郎「いやあ……日本に残してきた俺の妹よ……」

寅次郎「あんなワケの分かんねえ連中に捕まったら何されることやら……」

寅次郎「そう考えたら、ふとたった一人のかわいい妹のことが思い出されてなァ……」

店員「……お兄ちゃん?」

寅次郎「そうそう……こんな感じの声で……」

寅次郎「えっ!?そ、その声は!?」

さくら「まあ!!やっぱりお兄ちゃんね!?」

寅次郎「さ、さくらァ!?ど、どうしてここに……」

さくら「お兄ちゃんをシチリアで見たって言う人がいてね、探しに来たのよ」

さくら「でも途中でお金が尽きちゃって、それでこのバーで働いていたの……」

寅次郎「そうかァ……!心配かけたなァ……!」ギュッ

さくら「お兄ちゃん……!」ギュッ

寅次郎「さくら!いっしょに日本に帰るぞ!」

さくら「ええ!おいちゃんもおばちゃんも待ってるわ!」

店主「気を付けて行きなされよ!」

寅次郎「おう!ありがとよオーナー!」

寅次郎「妹が世話になったな!兄として礼を言わせてもらうぜ!」

ガチャッ

マフィア「話は聞かせてもらったぜ」

寅次郎「あっ!?!?」

マフィア「へへ……こいつが妹さんねぇ……」ガシッ

さくら「キャア!!!!」

寅次郎「ああっ!?さくら!?」

寅次郎「な、何しやがる!!さくらを離せ!!」

マフィア「おっと!妹の命が惜しかったらヘタな了見を起こすなよ!」

さくら「お兄ちゃん!!私のことはいいから逃げて!!」

さくら「この人たちに捕まったらお兄ちゃ……」

マフィア「うるせえ!!余計なこと言うんじゃねえ!!」バシッ!

さくら「キャア!!!!」

寅次郎「あっ!!さくら!!」

マフィア「妹の命が惜しかったら黙って脱げ!!」

寅次郎「くっ……畜生ォ……!!」

寅次郎「これで文句はねえだろ!?早くさくらを離せ!!」スッパダカ

マフィア「いい体つきだ……こっちに来て後ろを向け」

寅次郎「こ……こうでいいんだな!?」

マフィア「よっしゃ、挿れるぜ……」

寅次郎「な、なにィ!?」

寅次郎「やめろォ!俺にゃソッチの趣味は……」

ズボッ

寅次郎「ンアッーーーーっっ!!!!」

~~電車内~~

寅次郎「ンアッーーーーっっ!!!!」

乗客「!!」ビクッ

寅次郎「……はっ!?」

アナウンス「まもなく金町 金町」

寅次郎「ふう……夢か……」

乗客「……」

寅次郎「……わっかんねえなぁ……なんであんな夢を見たんだろうなァ……」

乗客「…………」

http://i.imgur.com/lXBgWYX.jpg

~~葛飾柴又・とらや~~

つね「はい社長さん、茶と団子でもどうぞ」

社長「あっ、こりゃどうも……団子もいいんですかぁ?」

つね「いいんだよ!いつも博さんが世話になってるんだから!」

博「そうですよ社長、遠慮は要りません」

社長「あっ、そう?」

社長「それじゃあ、お言葉に甘えて……」団子パクッ

社長「うん!うまい!」団子モグモグ

社長「……ところで、きょうは土曜日なのに静かですねぇ?」

つね「ああ、満男はさくらちゃんに連れられて動物園に出かけてるんだよ……」

社長「動物園かぁ~!いいねぇ~!」

竜造「朝早くから行ったから、そろそろ帰ってくる頃だろ……」

社長「へぇ……」団子ムシャムシャ

満男「ただいまー!」

竜造「おっ、噂をすれば影だ……」

博「おかえり!どうだった動物園は?」

満男「うん!面白かったよ!」

竜造「そうかぁ!そいつぁ良かったなぁ!」

社長「……」茶ゴクゴク

つね「何か珍しいもんは見られたかい?」

満男「うん!でっかいライオンがオス同士で交尾してた!」

社長「ブーーッ!!!!」茶フキダシー

さくら「ちがうわよ満男!あれは虎よ!」

満男「どっちでもいいよぉー」

さくら「満男ったら、その檻のそばからなかなか離れようとしなかったのよ……」

さくら「本当にもう、わたし呆れちゃったわよ」

竜造「いいじゃないか、満男もそういうのに興味をもちはじめる年頃ってことだよなぁ」

満男「うん!」

さくら「うんじゃないの!」

満男「へへ……」

博「虎といえば……義兄さんどうしてるかなぁ?」

竜造「えっ?」

社長「そうだっ!そういやァ年中発情してるタイガーがここにもいたなぁ!」

つね「そういえば……どうしてるのかねぇ寅ちゃん……」

竜造「まったく……連絡もよこさねえで何やってんだかね……」

さくら「お盆には帰ってくるわよ、きっと……」

満男「おじさん、オバケみたいだね」

さくら「こらっ!満男!変なこと言うんじゃないの!」

竜造「まったく、困った旅がらすだよあの野郎は……」

竜造「いつまでもぶらぶらしてないで、そろそろあいつにも身を固めてもらいたいもんだ……」

つね「本当にねぇ……でも相手がいなきゃね……」

竜造「いつも不釣り合いな美女にばっか惚れて……身の程を考えろってんだよなぁ……」

竜造「……どうしてこんな話になったんだっけか?」

つね「やだねぇお前さん、オス同士の虎の話から始まったんじゃないか」

竜造「ああ、そうか……」

竜造「動物園の虎……か……」

竜造「どうしても相手になってくれる女がいないんなら、男同士って手もあるか……」

つね「何言ってんだいお前さんは!そんな手はありゃしないよ!」

竜造「……やっぱり駄目かなぁ?」

博「美女と野獣どころか、野獣と野獣になっちゃいますよ」

社長「野獣と野獣……ねぇ……」

社長「……ブフッ」

社長「アーーッハッハッハ!!!!」

さくら「ンフフッ……いやねぇ……」クスクス

社長「フゥ……あーあ、笑いすぎて腹痛いよ」

博「しかし……こんな話を義兄さんに聞かれたら怒るだろうなァ……」

竜造「……ハッ!」

さくら「どうしたの?」

竜造「何だかいや~な予感がしてな……」

博「いやな予感って言いますと?」

竜造「ほら……こういう話してると決まって寅のやつが現れるだろ……」

竜造「おい、表を見てみろ!寅のやつがいるかもしれねえぞ!」

博「どれどれ……」ガラッ

竜造「どうだい、いるかね博くん……?」

博「いないみたいですよ」

竜造「分かんねえぞ……あいつは突然ひょっこり現れるからな……」

さくら「心配しすぎよ、おいちゃん」

つね「そうだよお前さん!そんなに心配することないよ!」

社長「ハハハハハ!!こりゃもう寅さん恐怖症だね!!」

社長「……さーてと!そんじゃ俺はちょっと用事があるから!」スクッ

博「あっ、出掛けるんですか社長?」

社長「ウン、これから会合があってね……」

社長「おばちゃん!団子うまかったよ!」ガラッ

つね「あいよ!行ってらっしゃい!」

ピシャッ

つね「社長さんもああ見えて案外忙しいんだね」

さくら「そりゃそうよ、何といっても経営者なんだもの」

~~

ガラッ!

社長「ゼエ……ゼエ……」

博「あれっ?どうしたんです社長?」

博「まだここを出てから数分しか経ってませんけど……」

社長「と、ととと、ととら……」

つね「どうしたってんだい、はっきり言ってくれなきゃ分かんないじゃないか」

寅次郎「いよぉ!!ただいま帰ったぞ!!」

竜造「あっ!?!?と、寅!?!?」

寅次郎「いよぉ!元気かいおいちゃん!」

竜造「あ、ああ……」

寅次郎「そうかい!そいつぁ良かった!……おーい!こっちだこっち!」

はるみ「こんにちわぁ、はるみと申しまぁす!」

つね「あ、ああ……いらっしゃい……」

博「また美女を連れてきたみたいですよ……」

さくら「お兄ちゃん、どなた?」

寅次郎「おう、ついさっき知り合いになったばっかりだけど、すっかり意気投合しちまってなァ……」

社長「お、おばちゃん……ちょっと耳を……」

つね「なんだい……?」

社長「じつは……寅さんが連れてきたあの人……駅の裏にあるオカマバーの……」

つね「えぇ……(困惑)」

博「社長……何でそんなこと知ってるんです……?」

社長「そ、それは……アハッ(甲高い声)」

さくら「とにかく、お兄ちゃんはそのことを知ってるのかしら……」

博「知るわけないよ……義兄さんは生粋のノンケなんだから……」チラッ

寅次郎「きたねえ店でわりいけど、まあゆっくりしてってくれよ!」

はるみ「あらぁん♥!!優しいのねェ寅さん♥!!嬉しいワ~ン♥!!チュッ♥!!」

寅次郎「よ、よしてくれよ……///」

博「……(目をそらす)」

さくら「ねえ……お兄ちゃんに伝えておいたほうがいいんじゃない……?」

つね「そうだねぇ……でも、本当のことを知らせたら寅ちゃん、腰を抜かすかもしれないよ……」

つね「社長さん、たのむよ……」

社長「えぇーーっ!?なんで俺が!?」

~~

社長「寅さん、寅さんよぉ……」

寅次郎「あぁ?なんだぁタコ、ひとがせっかく楽しく話をしてるってのによぉ……」

社長「寅さん……いいから耳を貸せったら……」

社長「……じつはその人さ、駅の裏のオカマバーの……」ボソボソ

寅次郎「なっ、なに!?!?オカマだぁ!?!?」

はるみ「どうかしたァン?」

寅次郎「い、いや……このタコんちのオンボロなお釜がぶっ壊れたんだとよ……」

はるみ「フゥ~ン……」

寅次郎「と、ところで……悪いけどちょっと俺、急用を思い出しちまってさ……」

はるみ「あらぁ、急用って?」

寅次郎「ウン……こいつがどうしても、新しいお釜を買うのについてこいって言うから……」

社長「えっ……?」

寅次郎「とにかく、また今度……ウン……悪いね……」

はるみ「えっ、あの、ちょっと寅さん!?」

寅次郎「悪いね……ほんとうに悪いね……」

ピシャッ

寅次郎「フゥ……驚いたなァ……」

さくら「驚いたのはこっちよ、連絡もしないでいきなり帰ってくるんだもん」

博「お帰りなさいお義兄さん」

寅次郎「さくら!!博!!元気でやってたかぁ!?」

社長「いやぁ~、さっきちょうど寅さんの噂話をしていたところなんだよ」

寅次郎「へー、俺の?どんな噂だい?」

社長「あっ……」

竜造「言わなくてもいいことをわざわざ……バカだねぇ……」

さくら「お兄ちゃんはいまどこにいるのかしらって話をしてたのよ、ね?」

博「そうそう、そうですよ。ねぇ社長」

社長「ウ、ウンウン」

寅次郎「怪しいなぁ……お前たち、俺に隠れて陰口でも叩いてたんじゃねえのか?」

さくら「そんなことないわよ……」

寅次郎「じゃあ他にはどんな話してたんだ?」

博「どんなって……それだけですよ」

満男「いっそおじさんのお嫁さんは男の人でもいいかっていう話して笑ってたじゃない」

さくら「み、満男!!!!」

寅次郎「へ、へぇ……俺の嫁が……男ねぇ……」

博「……」

社長「……」

さくら「ごめんね……こんな話をしてたなんて知ったら、お兄ちゃんきっと怒ると思って……」

博「義兄さん、どうもすみません……」

寅次郎「……」

さくら「……」

(とらや、気まずい空気になる)

社長「……あっ!!こんなことしてる場合じゃなかった!!急がないと会合の時間に遅れちまう(逃亡)」

寅次郎「……待てよタコ」

社長「えっ?」

寅次郎「ところでお前よぉ、なんであれがオカマバーの店員だなんて分かったんだ?」

社長「うっ……そ、それは……」

寅次郎「へへへ……まァさかお前、しょっちゅうオカマバーなんかに入り浸ってるんじゃねぇだろうなァ?」

社長「……う、うん……あんまり大声じゃ言えないけど、じつは時々……」

寅次郎「てめえ!!よくも今まで黙っていやがったな!!」グイッ

社長「うっ……!!な、何するんだよ寅さん!!」

寅次郎「さてはお前、俺のこともそういう目で見てたんだろ!!」

社長「えーーっ!?!?」

社長「じょっ、冗談じゃないよ!!!!」

社長「確かに俺はオカマバーの常連だけど、それは男が好きだからってわけじゃ……」

寅次郎「へっ、言い訳はよせよタコ!!分かってんだよ俺にゃ!!」

社長「や、やつあたりはやめてくれよ寅さん!!!!」

社長「仮に俺が男が好きだとしても、誰が寅さんなんかをそんな目で見るもんか!?!?」

寅次郎「何だと!?そりゃあどういう意味だこの野郎!!!!」

社長「あいたっ!!!!」

社長「な、何しやがんだこの野郎!!!!」

社長「もう勘弁ならねえ!!!!上等だ!!やってやろうじゃねえか!!」

(寅と社長、取っ組み合いの喧嘩が始まる)

つね「ひ、博さん!!早くあの二人を止めとくれよ!!!!」

博「落ち着いてくださいよ義兄さん……!!」

さくら「お兄ちゃん!!!!もうやめて……キャア!!!!」

寅次郎「どいてろ!!さくら!!」

博「義兄さん!!!!やめてください義兄さん……!!!!」

社長「あいたぁっ!!いつつつつ……!!」

寅次郎「帰れ!!二度とそのつら見せるんじゃねえ!!」

社長「あ……あんまりだ!!!!あんまりだよチクショウ!!!!(涙目)」

竜造「いい加減にしねえか寅!!!!」

寅次郎「な、何だよおいちゃん!?!?」

竜造「さっきから黙って聞いてりゃ何だ、社長になんてこと言いやがるんだお前は!!!!」

つね「そうだよ!!社長さんが男も女もいけるからって、だれにも迷惑かけてるわけじゃないだろ!!」

竜造「その通りだ!!人様に迷惑かけっぱなしのお前がとやかく言えた義理じゃねえ!!」

寅次郎「なんだいなんだい、そんなに怒らなくたっていいじゃねえか!!!!」

寅次郎「なあさくら、お前だってそう思うだろ!?」

さくら「……」

寅次郎「……さくら?」

さくら「……どうして?どうしてお兄ちゃんはいっつも帰ってくるなりこうなるのよ……(女の涙)」

寅次郎「…………」

つね「うっうっ……」

寅次郎「……そうか……俺は、帰ってこないほうが良かったんだな……」スック

さくら「……お兄ちゃん?」

寅次郎「……もう二度と帰ってくることはねえだろう……」

寅次郎「あばよ、さくら……」

さくら「お兄ちゃん!?」

さくら「ちょっ、ちょっと待ってよお兄ちゃん!?」

寅次郎「…………」

~~葛飾亀有~~

桜が、咲いております。

東京の空気はひどく汚いとか申しますが、

このような汚い空気でも、桜はめげることなくりっぱに花を咲かせるのであります。

……私が降り立ちましたのは、柴又から目と鼻の先にある、東京は亀有でございます。



寅次郎「さてと……東か西か、ここからどっちに行ったもんかねぇ……」

寅次郎「しっかし、ハラへったなァ……旅立つ前にどっかでメシでも食ってくか……」

~~

寅次郎「ふう、食った食った……」

寅次郎「おい、親父!!お勘定たのむよ!!」

店主「あいよ!!300円ね!!」

寅次郎「300円……ん?」

寅次郎「しまった、財布がねえ……どっかで落としたかなァ……」

店主「なんだって!?冗談じゃない!!ちょ、ちょっと来てもらうよっ!!」

寅次郎「な、何すんだよ!!」

店主「何って……決まってるじゃないか!!金がないんなら派出所に突き出すんだよ!!」

~~公園前派出所~~

寅次郎「いてて!!そんなに引っ張らなくたっていいじゃねえか!!」

店主「ほら!!いいから入った入った!!」

ガラッ

店主「あっ……(絶句)」

中川「じゅぽ……ここが気持ちいいんですか戸塚先輩?」

戸塚「おう……いいぞ中川……」

店主「ちぇっ……この派出所の連中ときたら、勤務中になにをやってるんだ……」

両津「むっ……☆鍋島定食のオヤジじゃないか!いいところにきた!」

店主「えっ?」

両津「ひとり足りないからフェラチオできなくて困ってたんだ!」ガバッ

店主「ぎゃあーーっっ!!!!」

店主「い、いきなり何するんですかっ!!やめてくださいよっ!!」

――わたくしには目の前の光景が現実のものとは思えませんでした。

この連中をこうして見ていますと、まるでホモが普通で

おかしいのは自分であるかのような錯覚に陥ってしまったのでございます。

両津「なんだ、いつもは乗り気なくせに……」

店主「きょうはそういう目的で来たんじゃないですよっ!!このひとが無銭飲食を……!!」

両津「なに……無銭飲食だと……?」

両津「ほう……」ジロジロ

寅次郎「……」

じろじろと舐めまわすように見られているうちに、

何やらこの胸の奥がポッポッと火照ってくるような気がして参りました……。

両津「うむ!なかなかいいカラダつきしとる!」

寅次郎「そ……そうかい?」

店主「どこを見てるんですか……ちゃんと取り調べてくださいよ……」

両津「ちぇっ……うるさいやつめ……」

~~

両津「ほう!実家は柴又か!」

両津「すると帝釈天の近くってわけだな!」

寅次郎「おうよ!生まれも育ちも葛飾柴又、帝釈天で産湯を使った江戸っ子よ!」

両津「わしの実家も浅草寺の近くだぞ!つくだに屋やってるんだがな、これがさっぱり……」

寅次郎「へーえ!こりゃ奇遇だねぇ!俺んとこもチンケな団子屋よ!」

店主「ああもう!!待っちゃいられないよ!!」

店主「打ち解けて話なんかしてる場合じゃないでしょうっ!!無銭飲食の件はどうなったんですかっ!!」

両津「うるさいっ!!ひとが盛りあがってるときに邪魔をするんじゃないっ!!」

店主「ふん!!もういいですよっ!!」ピシャッ

両津「よし、やっとうるさいのがいなくなったか……」

両津「さて……どうだ?本官とやらんか?」

寅次郎「えっ?」

――唐突な彼の言葉にわたくしは驚かされました。

しかし……どういうわけだかこの男にわたくしは親近感を覚えたのでございます。

嫌だと拒めぬどころか、不思議とこの男ならばいいかという妙な気持ちになっておりました。

その後のことはあまり覚えておりません。

ただ、わたくしはこの日晴れて男になり、そして女になったということは、確かなのでございます。

~~

戸塚「わはは!!寅さんといっしょにいると退屈しねえな!」

寅次郎「旅してりゃ面白いことがいっぱいあるからな、話のネタは尽きねえよ!」

中川「どうです?いっそ警察官になってここに留まったら」

両津「おおっ!!そりゃいい考えだ!」

寅次郎「なにぃ!?馬鹿言っちゃいけねえよ!んなこたぁ俺には……」

中川「先輩にだって務まってるんだから大丈夫だと思うけどなあ……」

両津「そうそう……なに……★?」

両津「この野郎!!ひとのことがいえる勤務態度か!!」ポカッ

中川「あいたっ!!!!」

両津「話をもどすが……わしらのコネがありゃ採用まちがいなしだ!」

両津「警察はいいぞ!何でもかんでもやりたい放題だ!」

寅次郎「何でもかんでも……!?」

両津「うむっ!勤務中にあそぼうが男同士でナニしようが自由だぞ!」

戸塚「食ってあそんでりゃ親方日の丸から金がもらえる!まさに極楽だぜこの稼業は!」

寅次郎「(唾を飲む)」

寅次郎「よぉし……決めた!覚悟を決めたぞぉ俺は!」

両津「へへ……よし!そうこなくっちゃ!」

両津「中川、どこかに採用の案内書があっただろう……さがしてこい」

中川「あっ、はい!」

両津「あれに本官のメモをちょっと書きくわえておけば……」

寅次郎「両さんよぉ!ちょっと電話を貸してくれねえか!?」

両津「ああ、いいぞ!」

寅次郎「さくらたちにもこのことを報告しておかねえとな……」

両津「さくら?だれだそりゃ?」

寅次郎「へへっ……俺のたった一人のかわいい妹よ……」

~~とらや~~

黒電話「プルルルル……」ガチャッ

さくら「もしもし、とらやです……お兄ちゃん!!」

(一同、電話の方を見る)

竜造「寅のやつみたいだぞ」

つね「言われなくったってあたしにも聞こえたよ」

さくら「今どこ?えっ、亀有?だったらすぐそこじゃない!!」

社長「さくらさん、ちょっと俺に代わってよ」

さくら「あ、はい、どうぞ」

社長「……もしもし寅さん?俺だよ!」

寅次郎「おう、タコか!」

寅次郎「いやぁ~、このあいだは思いっきりぶん殴って悪かったな!!」

社長「俺も悪かったって思ってたんだよ、俺だって寅さんにひどいこと言ったもん」

社長「亀有にいるんだって?近いんだから早く柴又に戻っておいでよ」

寅次郎「まあ、そのうちにな!その時は寝かさねえぜ!」

社長「えっ?」

寅次郎「まあ何でもいいや、さくらに代わってくれ」

寅次郎「さくらの奴に大事な話があるんだよ」

社長「さくらさんに大事な話?」

さくら「もしもし、代わったわよお兄ちゃん」

さくら「なあに?大事な話って」

寅次郎「さくら、実は俺なぁ……ポリスマンになろうと思うんだ」

さくら「……えっ?」

さくら「ごめんお兄ちゃん、よく聞こえなかった。もう一回言って」

寅次郎「だからよ、ポリスマンになることに決めたんだ」

さくら「ポリスマン?お巡りさんのこと?」

寅次郎「そう、まあ世間じゃそういう呼び方をしているようだな」

さくら「……お兄ちゃん、本気で言ってるの?」

寅次郎「本気も本気よぉ、この俺が今までウソついたことあったか?」

さくら「……」

さくら「お兄ちゃん、簡単に言うけどお巡りさんってそう簡単になれるもんじゃないわよ」

寅次郎「こっちでいまお巡りにならねえかって誘われてんだよ」

さくら「誘われてるって……お兄ちゃんが……?」

さくら「……あれ?ちょっと、お兄ちゃん!?」

さくら「……切れちゃった……」

博「お巡りさんがどうこう言ってたけど……何だって?」

さくら「お巡りさんになるんですって」

博「誰が?」

さくら「……お兄ちゃんがよ……」

つね「えっ!?!?寅ちゃんが!?!?」

社長「寅さんがお巡りさんだって!?無理無理!!」

つね「さくらちゃん、聞き間違えたんじゃないのかい?」

さくら「そんな事ないわよ、確かにそう言ったもの」

博「あの義兄さんが警察官だなんて、いくらなんでも無謀すぎるよ」

社長「そう!もし寅さんを採用するようならこの国はもうおしまいだよ」

社長「……本当の本当にそう言ったのかい寅さんは?」

さくら「えぇ……」

竜造「……なぁに考えてやがんだ、あのバカは……」

つね「何も考えてないんじゃないかねぇ……」

社長「……ブフッ」

博「フフッ……そりゃ義兄さんがあんまりですよ……」

(一同の笑い声)

【翌日】

~~川の土手~~

寅次郎「いやぁ!しかし警察ってのは楽な稼業だねぇ両さんよぉ!」

寅次郎「こうやって外で寝っ転がってりゃカネがもらえるなんて思ってもみなかったぜ!」

中川「まあ、この平和な時代に警らなんかやる必要ないですからね……!」

両津「おっ、夕日が沈んでいくぞ……」

両津「みろよ寅さん、帝釈天はちょうどあの夕日の下あたりじゃないか?」

寅次郎「何ぃ!?ここから帝釈天が見えるのかよ!?」

中川「そういうことじゃありませんよ……」

~~公園前派出所~~

戸塚「どうだ寅さん?ちったぁ俺たちの仕事がわかったか?」

両津「うむ!わしがバッチリおしえたから大丈夫だろう!」

寺井(じゃあダメだろうな……)

両津「ん?なんだ寺井その目は?」

寺井「い、いや……べつに!」

寅次郎「それじゃ!お疲れさん!」ガラッ

両津「おう、あしたもこいよ寅さん!今日と同じ時間にな!」

寅次郎「分かってらぁ!」

【翌日】

~~公園前派出所~~

寅次郎「いよぉ!労働者諸君!おはよ……」ガラッ

両津「口ですればいいんですね部長♥」

大原「うむ」

寅次郎「」ドサッ

(カバンが手から落ちる)

寅次郎「ハァ、ハァ……」ピシャッ

寅次郎「な、何だぁ今のは……!?」

戸塚「ふあ~あ……」

中川「ずいぶんと大きなあくびですね戸塚先輩」

戸塚「ゆうべ任侠映画をおそくまで見ていたからな……眠くて警らどころじゃねえぜ……」

中川「予定よりかなり早く派出所に戻ってきちゃいましたね」

中川「……あれ?」

戸塚「ん?どうした中川?」

中川「ほら、派出所の前にだれか立ってるみたいですけど……」

戸塚「おっ、ありゃ寅さんじゃねえか?」

戸塚「いよぉ!寅さんじゃねえか!」

寅次郎「お、おう(挙動不審)」

中川「どうしたんです、中に入らないんですか?」

寅次郎「い、いや……今日はやめとかぁ!」

中川「そうですか?じゃあ、また……」

寅次郎「あっ、ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

中川「えっ?」

寅次郎「な、中で、中で……(派出所の戸を指さす)」

中川「中で?どうかしたんですか……?(戸のガラス越しに中を覗く)」

両津「ちゅ……んちゅ……♥」

大原「んちゅ……れろちゅ……」

戸塚「おっ、今日もおっ始めやがったなあの二人」

寅次郎「あの偉そうなちょびヒゲの野郎は、い、いったい誰なんだい(震え声)」

戸塚「ありゃうちの部長だぜ」

寅次郎「なにぃ!?そんなの知らねえよ俺は!?」

中川「そういえば寅さんはまだ部長に会ったことがないんでしたっけ」

戸塚「おっ、部長のがあいつのケツの中に入っていくぞ……」

両津「おほぉ♥!!」

中川「みてくださいよ先輩のあの顔……」

中川「あーあ……先輩ったら、まるで女みたいなだらしない表情して……」

戸塚「ま、じっさい両津は部長の女みてえなもんだからなァ……」

寅次郎「」ポカーン

中川「……あれ?どうかしたんですか寅さん?」

寅次郎「い、いやぁ……べつに……」

ガラッ

大原「そんなところで何をやっとるんだお前たち、みたいなら中に入ってみればいいだろう(連結中)」

両津「ホモトレイン恥ずかしいぃ……♥」

中川「あっ、部長」

中川「いえ!ぼくらは入ろうとしたんですが、寅さんが……」

大原「ん……?どちらさんかな?」

寅次郎「……」

中川「紹介します、この人は寅さんといって……」

寅次郎「……どうも……」

中川「さあ、挨拶もすんだことですし入りましょうよ寅さん」

寅次郎「いや、その……」

寅次郎「……今日は別れの挨拶に来ただけでな……」

両津「……なに?別れ?」

寅次郎「おう……また旅に出ようと思ってな……」

中川「旅に出るですって!?じゃあ警察のほうはどうするんですか!?」

寅次郎「考え直したんだ……やっぱり俺にゃ向いてねえよ……」

両津「旅って……どこに行くんだ?」

寅次郎「……そうさな……今度は西の……若狭のほうかな」

両津「……そうか……本当に行っちまうんだな」

寅次郎「ああ……ちょっと会わなきゃならねえ人ができちまってな……(嘘)」

寅次郎「……中川、戸塚……そして両さん……」

寅次郎「みじけぇ間だったが、世話になったな!!あばよ!!」ダッ

両津「あっ!!待ってくれよ寅さん!!」

大原「こら!!逃がさんぞ両津!!」パンパン

両津「ちょっ……待ってくださいよ部長……おっ♥!!おっ♥!!お~~っ♥!!」アヘアヘ

寅次郎「……(黙って去りゆく)」

(主題歌・幻の歌詞)

あても無いのに あるよな素振り

それじゃあ行くぜと 風の中

止めに来るかと あと振り返りゃ

誰も来ないで 汽車が来る

男の人生 一人旅

泣くな 嘆くな

泣くな 嘆くな 影法師 影法師

       〈 ̄ヽ
 ,、____|  |____,、
〈  _________ ヽ,
 | |             | |
 ヽ'  〈^ー―――^ 〉   |/
    ,、二二二二二_、
   〈__  _  __〉

      |  |  |  |
     / /  |  |    |\
 ___/ /  |  |___| ヽ
 \__/   ヽ_____)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年12月10日 (土) 19:20:39   ID: 7OqAoz2i

なんだこりゃあ…たまげたなあ

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