渋谷凛「GANTZ?」 その2 (978)

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前スレ
凛「GANTZ?」
凛「GANTZ?」 - SSまとめ速報
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1479649614

豪雨となり、所々に雷が落ち続けている池袋。

どこからか降って来た巨大岩石にビルは崩壊し、謎の火災爆発により付近の車は吹き飛び建物のガラスは全て割れている。

あちこちで起きる異形の姿の化け物が人間を襲い、その化け物と戦う黒いスーツの人間達。

あるものは人を助けながら化け物を倒し、あるものは人に構わず化け物を駆逐して行っていた。

池袋は今、戦場となっており、無関係の人々はただ逃げ惑うばかりであった。

その戦場の中心地。

黒いスーツの人間達と3メートル近い背丈の鬼が対峙していた。

鬼が動く度に大気中に放電が発生する。

鬼から放たれる圧倒的な重圧はその場にいる者を飲み込み、動くことさえ出来ずにいた。

黒いスーツの者たちに近づくにつれ鬼は言葉を発する。

「ハンターーーー!! 俺を止めれるか!?」

鬼から電気がほとばしる。

「止めれるものなら、俺を止めてみろォッ!!」

周囲に落雷が再び落ちる。

その落雷は地に落ちるかと思う瞬間に、その軌道を変え、吸い寄せられるように鬼の手におさまった。

鬼の手には雷電が渦巻き眩い光を発している。

明らかに致死量の電撃、その電撃を手に宿して鬼は平然としている。

それどころか、その電撃は徐々に大きくなっていく。

「まずは貴様等を見せしめに殺す!! その後は貴様等の仲間を一匹残らず殺す!!」

鬼は電撃を宿した右腕を天高く上げた。

すると、その手の電撃は形を変化させ、まるで槍の様な形状に変化を始める。

「貴様等が終わッたら、この街の人間を全て殺す!! この街が終わッたら次の街だ!!」

雷の槍は3メートルは越える巨大な槍となり、大気中に放電が起き続ける。

「最後の一匹まで殺し続ける!! 全人類だ!! 貴様等人類を絶滅させる!!」

鬼が雷の槍を振りかぶったその瞬間、鬼を討つべく動く者達の攻撃が迫った。

いつの間にか鬼の周囲に接近していた6つの黒球。

すでにロックオンをしていた凛が動かした6つの黒球から閃光を生み出す。

それと同時に、加蓮が両の掌を鬼に向け、ハードスーツから閃光を生み出す。

その後方で、玄野がZガンの銃口を向け、鬼のいる場所に重力の奔流を生み出す。

3人同時の攻撃だった。

一瞬たりとも目を離さずに、全員が同時に鬼の虚を突く形で繰り出した攻撃。

全ての攻撃が鬼に当たった。

そう見えた。

だが、攻撃が当たるその瞬間、鬼の姿は忽然と掻き消え、全員が鬼を見失ってしまう。

凛「!?」

加蓮「なっ!?」

玄野「どッ、どこだッ!?」

全員が見失った鬼。

その鬼がどこにいるのかはすぐに分かる事になった。

上空から巨大な雷の槍を撃ち込まれた事で。

レイカ「きゃあああッ!!」

桜井「うッわァッ!?」

鈴木「あぐッ!」

今の攻撃で凛と加蓮と吉川以外の人間全員が同じ衝撃を体感した。

まずは衝撃。雷撃が落ちた衝撃をその身に受ける。

その後に感じるのは若干の痺れ。

豪雨によって、足元は水で満たされている。

その水に濡れた地面を伝い、雷撃は等しく全員に通電する。

そして、凛と加蓮と吉川以外の全員は、自分のスーツから異音と共に、ゲル状の液体が流れ出す瞬間を目にする。

それにいち早く気付いたのは玄野。

玄野「やッ、べェ!!」

全員のスーツが破壊された事に気付いた玄野は、即座に叫んだ。

玄野「全ッ員ッ! 逃げッろォ!! スーツがッぶッ壊れてンぞ!!」

凛「ッ!!」

その声にいち早く動いたのは子供を抱えた風。

次に稲葉と負傷した武田を連れた神奈川チームが撤退を始める。

その場に残ったのは、今だスーツが無事な凛と加蓮と吉川、スーツが壊れてしまった玄野・坂田・桜井・鈴木・レイカ、そして状況を飲み込めていない新人4人。

今だ数は12人と多かったが、すでにまともに戦える人間は凛と加蓮だけとなっていた。

一瞬でスーツを破壊された事実に玄野たちは顔を青ざめる。

だが、着地した鬼の手に先ほどと同じ巨大な雷の槍があるのを目にしてさらに顔を青ざめた。

玄野「2発目かよッ!?」

レイカ「ウ、ウソッ!?」

鈴木「ど、どうすれば!?」

焦る玄野達を尻目に、凛と加蓮は鬼を討つ為に攻撃を仕掛けるが、

凛「くっ! 動きがっ! 速過ぎるっ!」

加蓮「何これ!? 動きが見えないじゃん!!」

ロックオンをしていても当たる寸前で回避されて銃撃は地面に炸裂し爆発する。

凛と加蓮の攻撃を回避した鬼は、再び上空から雷の槍を投下した。

だが、その雷の槍は空中で何らかの力によって分解され、雲散する。

「何ッ!?」

それを見て驚愕を顕にする鬼。

そして、雷を分解した力を持つ男達、坂田と桜井は鬼との距離を数メートルまでの位置まで近づいており。

坂田「桜井ィ!! ヤツを空中で固定するぞッ!!」

桜井「はいッ!!」

鼻や目から血を流しながら手を上空に上げて、超能力を発動した。

「何だッ!?」

鬼は坂田と桜井の超能力によって空中で身動きが取れなくなり、何が起きたのかと自分の身体に目をやる。

その鬼の身体に4本の黒剣の切っ先が襲い掛かった。

それぞれの剣は凛と吉川と玄野が伸ばす剣。

吉川「何が何だかワカらねェが、喰らえッ!!」

玄野「今だッ!! 撃て撃て撃てェ!!」

凛「……ふっ!!」

無防備な状態の鬼に4本の剣が突き刺さる。

「ガッ!!」

剣が刺さると共に、加蓮がトドメの一撃を加えようと飛び上がり鬼に接近し掌を向けて閃光を……。

放つ間際に鬼の身体に落雷が直撃した。

加蓮「うあっ!?」

至近距離で落雷の閃光と直視し、轟音を聞いてしまった加蓮だったがハードスーツの防御性能のお陰で目にも耳にも影響は無かった。

だが、落雷の衝撃は加蓮の身体を吹き飛ばし落雷が落ちた場所から押し出される。

そこで、加蓮は見た。

鬼の身体が雷と一体化し、雷その物となる瞬間を。

それを全員が目にした。

吉川「炎のヤローと一緒か……」

先に同じような現象を見ていた吉川は鬼が雷に変化しても特に動揺はしなかった。

だが、他のメンバーは雷と変化した鬼に呆然としている。

桜井「な、なんだ……これ……」

坂田「……カミナリサマ……ッてやつか」

レイカ「く、玄野クンッ! どうッしよう!?」

雷となった鬼は悠然と空中で凛達を見下ろしている。

すでに坂田と桜井は超能力を鬼に使用していない。

それなのに、鬼は空中に静止している。

雷と変化した肉体から電撃を迸らせながら。

「ふッははははははははは!!」

鬼は笑いながら雷と化した腕を天高く上げて何かをしようとする。

それを見て玄野に寒気が襲い掛かり鈴木とレイカを見た。

そして、玄野はレイカに剣を手渡して、

玄野「抱えて伸ばせッ!!」

レイカ「えッ? えッ!?」

玄野「おっちゃん!! 逃げろォ!!」

鈴木「!!」

レイカは玄野の言葉に従い、剣を抱えるようにして伸ばした。

すると先ほど吉川が剣による無茶な移動と同じように、レイカの体は剣によって後方に押し出される。

玄野と鈴木は全力で走り出すが、

その直後に玄野達に落雷が直撃した。

玄野「ギッ!!!!」

鈴木「ウグッ!!!!」

凛「くぅっ!?」

加蓮「きゃぁっ!!」

吉川「うッぐァッ!?」

坂田「うッおおお!!」

桜井「うぁぁぁぁぁ!!」

落雷はこの場にいた全員に等しく落ちた。

だが、レイカだけは回避できていた。

剣による水平移動によって元のいた場所に雷は落ち、直撃を免れていた。

レイカ「あ、あぁぁ……」

直撃を免れたレイカは、移動する際に、玄野達を見ていた。

雷の直撃を受けながらもすぐさま立ち上がり行動しようとしている凛と加蓮。

直撃を受けて吹き飛ばされる吉川、そのスーツからは液体が流れ出している。

顔中の穴という穴から血を噴き出しながらも、手を上空に上げて超能力を発動しているであろう坂田。

同じく顔中を血に染めて超能力を発動している桜井。

レイカ「い、嫌……嫌ッ……」

そして、雷の直撃を受け、倒れ付す玄野と鈴木、新人4人。

レイカは玄野に駆け寄り、動かない玄野に触れ涙を零す。

玄野はうつ伏せに倒れたままピクリとも動かず、息もしていない様子だった。

レイカ「嫌ァッ!! 玄野クンッ!!」

玄野に縋り付いて泣き始めるレイカだったが、雷の音に身体を震わせる。

レイカ「ダメ……ここにいちゃ……また玄野クンに雷が……」

玄野を抱き起こしてレイカはこの場から移動を始める。

レイカ「ヤダ……ヤダよ……玄野クン……死んじゃ嫌……」

レイカは離れた位置の木の下で玄野を優しく降ろして、心臓マッサージを始める。

ここまで運んでくる間に玄野はすでに息もしておらず、心臓さえも止まっている状態だという事に気付いていた。

しかし、レイカは諦めなかった。

玄野が死ぬわけ無いと思いながら蘇生を試み続ける。

心臓マッサージと人工呼吸を続ける。

涙でグチャグチャになった顔で玄野に処置を続けていた。

そして……。

玄野「…………コハッ」

レイカ「!!!! 玄野クン!? 玄野クンッッッ!!」

玄野は奇跡的に息を吹き返した。

レイカ「しッかりしてッ!! 起きてッ!! 玄野クンッッッ!!」

薄っすらと目を開ける玄野は、ぼやけて見えるレイカの姿を誰かに重ねるように呟く。

玄野「タ…………エ…………ちゃ…………」

レイカ「ッッッ!!」

その言葉を言わせないようにレイカは玄野の口を奪い言葉を遮る。

数十秒そうして玄野を抱きしめながら、玄野の唇を奪い続け、レイカは玄野が気を失ってしまった事に気付きその唇を離す。

小さく呼吸をしながら玄野は気を失っているようだった。

その玄野を見ながら、レイカは手に剣を持って立ち上がる。

レイカ「玄野クン……待ッてて……」

レイカ「あたしが……すぐにあの星人を……殺して終わらせるから……」

雷鳴が轟く戦場に臆すことなく強い視線で前を見るレイカ。

スーツは壊れ、手に持つ剣の重量感を感じながらも、レイカは戦場に戻る。

愛するものを救うために、レイカは死地に向かって駆け始めた。

凛と加蓮は敵の能力に息を呑んでいた。

天から雷を落とす、回避することも出来ない攻撃。

すでに自分たち以外は雷の直撃によって戦闘不能……背後の数人にいたっては恐らく死んでいるであろう。

それに加えて、雷へと変化した鬼の肉体。

先の炎人間と同様に、剣での攻撃も銃の攻撃も何一つ通用しない。

それどころか、まず敵に攻撃が当たらない。

動体視力や超反射で敵の動きを捉える。それすら不可能なほどの高速の動き。

まさに雷の速度で動く鬼の動きをこの場にいる誰も捉えることができなかった。

落雷をこのまま喰らい続ければ凛と加蓮のスーツもすぐに限界が向かえるであろう。

加蓮「~~~っ! 凛!! どうするの!?」

凛「今っ! 考えてるっ!!」

加蓮「早くっ! しないとっ! いくらハードスーツって言っても! 壊れちゃうよ!」

凛「だからっ! 今考えてるっ!!」

落雷を浴びつつも、雷と化した鬼に攻撃を当てようとする凛と加蓮。

だが、狙いをつけることすら間々ならず、雷撃を受け続けている。

加蓮「もうっ!! この雷を何とかしないとどうしようもないって!!」

凛「雷…………っ!!」

凛は加蓮の言葉を受け、上空を見上げる。

その凛達に雷が何度目になるか分からない雷が直撃した。

凛「……加蓮、5分……ううん、3分くらい時間を稼ぐことって出来る?」

加蓮「時間を稼ぐって!?」

凛「アイツの気を引いてほしい、3分あればあの上の雷雲を何とかしてみせる。雷雲さえなくなればこんなに連続で雷を落とすこともできなくなる……はず」

凛の発言に加蓮は凛が何するかも聞かずに返答をする。

加蓮「3分でも5分でも稼ぐよ! すぐ行って!!」

凛が何をするかも分からないが、加蓮は凛に全てを託す。

このままだと埒が明かない、ただただ消耗し、確実な敗北が見えていたから。

凛は加蓮の迷い無い言葉に頷いて足に全神経を集中させて力を込め始める。

凛の足の筋繊維が大きく膨れ上がり、力がたまり始める。

そして、凛は力を解放して、地面に大きなクレーターを作り、上空に飛翔した。

凛と加蓮とは少し離れた位置。

坂田と桜井は持てる力を全開で使い、落雷を防いでいた。

顔中から血を撒き散らしながらも、何度も落ちる落雷を防ぎ続ける両者。

だが、二人の限界は目に見えていた。

幾度も落雷を防ぎ、落雷をかき消していた二人だったが、後数度の能力行使で限界が迎えるであろう事を感じていた。

そのときには、すでにスーツが壊れいてる以上、雷の直撃を受け死ぬという事も。

桜井「師匠ォッ!! もッ、もう、これ以上ッはッ!!」

坂田「………………」

桜井「しッしょォッ!! どうッすればッ!!」

坂田「……桜井、スキャ……ンしろ……」

桜井「!?」

雷が落ちるが、桜井は先ほどまでと違い今回の雷は全く衝撃がなかった事に疑問を抱くが、その疑問は坂田が今まで以上に血を吐き出している事によって理解する。

桜井「し、師匠!? まさか俺を守ッて!?」

坂田「俺が……雷を止める……お前は……空をスキャンしろ……」

桜井「ど、どういうことなんスか!?」

坂田「……あの雷野郎……体の中で……電気が渦巻いて……やがる……」

坂田「スキャンして……電気を……掻き消せ……そうすりゃ……」

血を吐き出しながら呟くように話す坂田の言葉を聞き、桜井は空を見上げて目から血を噴き出させながら能力を行使する。

今までに無い規模の透視能力。

見上げる空全体を透視する桜井の目に人型の雷が映った。

100メートル近く上空に位置する場所。

鬼は空に飛び立った凛を見て、その凛を迎撃する為に動きを止めている。

桜井はその鬼に能力を使用すべく手を向けるが、目に激痛が走り生み出そうとしていた力が掻き消えた。

その桜井に、誰かの手が支えられる。

坂田「桜井……奴は……どこだ……?」

桜井「し……しょう……」

桜井は鬼の位置を見上げる。

坂田もその場所を見る。

そして、二人は同時に手を上空に、鬼に向けて。

鬼の体内に渦巻く雷を消滅させた。

鬼は身体を雷と化したことで雷の速度で動き続けていた。

雷化したことによって、物理攻撃は一切通用しなくなったが鬼は一切の油断をしていなかった。

自分と同じ力を持つ、炎のオニ星人。

彼も一切の物理攻撃を通す事はなかった筈だが、最終的にはハンターの剣によってその命を絶たれた。

鬼がこの戦場に現れて、炎のオニ星人の死体を見たときに、鬼の中にあった油断は消え去った。

そして鬼は確実な戦法を選んでいた。

落雷を落とし続け、ハンターどもに攻撃の機会を与えずに封殺する。

鬼にとって幸運にも、この戦場には巨大な雷雲が発生して、自分の能力を100%引き出せる状態になっている。

先の戦闘ではハンターに味方した雷雲は、今、鬼に味方をしてハンターに牙を向け続けている。

鬼はこの好機を逃さずに確実にハンターを殺せる戦法を取り続ける。

雷化は相応のエネルギーを使うが、エネルギーは上空に腐るほど轟いている。

鬼にとって、絶対に負けることが無い好条件の戦場。

その鬼はハンターの一人が上空に飛び上がる瞬間を目にする。

そのハンターに雷を落とすが、ハンターは雷をもろともせずに飛翔し続ける。

鬼は何かを感じたのか、そのハンターを追うべく移動しようとするが。

鬼の身体の雷化が強制的に解除され、鬼は空中を落下しながらも驚愕に目を見開く。

「な、何だッ!? 何が起きたッ!?」

空中を落ちながらも地上を見やる鬼に二人のハンターが映った。

ハンターたちは血に濡れた顔で手だけを向けて不適に笑っていた。

鬼は理解する。この二匹が自分の雷化を解除したのだと。

「小賢しい真似をォォッ!!」

再び鬼は雷化をすべく、手を上げ自分に雷を落とそうとするが。

上空に上げた鬼の手が切断された。

それを成したのは数十メートル近く伸ばした剣を振り下ろした姿で地面に突っ伏しているレイカ。

数十メートルという長さの剣はレイカにとって支えきれるものではなかった。

剣は自重によって速度を増し、鬼の腕を切断し地面にめり込む。

雷化していない鬼は空中で身動きが取れずにレイカの一撃を喰らってしまった。

その一撃は鬼の行動を遅らせて、別の手で雷を落とそうとした鬼に黒い影が接近していた。

加蓮「貰ったぁっ!!」

「グガッ!!」

接近した黒い影、加蓮は鬼の胴体を切断し、二つとなった鬼の肉体に掌の閃光を撃ち込んだ。

鬼は残った太い片腕で頭を守ろうと防御するが、加蓮はお構いなしに閃光を撃ち続ける。

鬼の肉体は加蓮の閃光によって削り取られて、頭だけが地に落ち転がった。

それと同時に、大きな落雷が戦場に落ち、その落雷が落ちた瞬間、

上空で大爆発が発生して、池袋の空を包んでいた雷雲は跡形も無く消滅した。

戦場にいた全員が上空を見上げた。

上空数キロの位置で爆発が起こり赤い光が空を包む。

降り注いでいた雨は途絶え、轟いていた雷雲は消滅した。

少しの時間を置いて熱風が戦場を吹き荒れる。

大爆発の余波。加蓮はこの大爆発を起こした人間が誰かを察し、呆けながら空を見上げていた。

そして、しばらくして空から黒い人影が落ちて来た。

その人影は、満身創痍の坂田と桜井のそばに落ち、地面を陥没させて地響きを鳴らす。

その衝撃で坂田と桜井は倒れふすが、すぐに駆け寄ってきた凛によって抱き起こされる。

凛「っ!! 酷い…………ねぇっ、生きてる!?」

坂田「…………あァ……生き……てるよ……」

桜井「…………うぅ」

凛「よかった……」

二人の無事を確認し、ほんの少しだけ緩める凛だったが、すぐさま意識を警戒態勢に戻し、敵の位置を確認すべく周囲を見渡す。

その凛に加蓮が近づいてくる。

加蓮「凛……一体何をやったの、アレ」

凛「ロボットを自爆させただけ。それよりも敵は何処!?」

凛の回答に、また自分の知らない道具を使って、あの大爆発を起こしたのかと呆れる加蓮。

その加蓮はすでに倒した鬼の首が落ちた場所を指差すが、

加蓮「あそこ…………え?」

その場所に鬼の首が存在しなかった。

凛「加蓮!! アイツは何処に行ったの!?」

加蓮「ウソ……まさか……」

トドメを刺したと思った。

先に戦った再生タイプと違い、再生するそぶりも無く確実にしとめた感覚があった。

それ故に加蓮は油断した。

自分の感覚、何度も経験した命のやり取りによって培われた感覚が、加蓮に鬼を殺したと錯覚させた。

凛の視界に何かが映った。

加蓮の背後に光り輝く何かが現れた。

凛は加蓮を反射的に殴り飛ばす。

加蓮も気付いていた、何かが自分の背後に現れ、自分を殺すべく攻撃を繰り出した事に。

咄嗟に回避の体勢に移行した。

それと同時に凛に殴り飛ばされて、本来回避できるはずも無い攻撃を回避することが出来た。

だが、加蓮は目にする。

自分を攻撃してきたその攻撃は、自分を殴り飛ばしたままの体勢で固まる凛の顔に吸い込まれていく瞬間を。

それは放電する光の拳。

凛はその拳を無防備で受ける。

いや、無防備ではなかった、その拳が凛の装着するバイザーを破壊したその刹那、凛は拳の威力を少しでも減らすために首を動かし始める。

首を動かし、仰け反り始めたその時、加蓮は凛のスーツからゲル状の液体が零れ落ちるその時を見た。

落雷を幾度も受け、さらには雷雲に飛び込み電撃の嵐に晒され、最後には雷雲を吹き飛ばすためのロボットによる自爆の大爆発を至近距離で受けた凛のスーツは限界を向かえていた。

ゴキンッ!!

加蓮にはその音が生々しく聞えた。

そして見てしまう。

首が捻じ曲がり、生々しい音と共に凛の首が180度回転し、凛の頭が凛自身の背中に打ち付けられて、凛の頭が振り子のように揺れるその瞬間を。

今日はこの辺で。

凛の身体が力なく崩れ落ちる。

加蓮は、無残な凛の姿を見て、その身体を支えようとした。

叫びを上げてその身体を支える為に手を伸ばそうとした。

だが、加蓮はその想いを振り切り、自分に、凛に攻撃を仕掛けてきた雷化した鬼を討つべく全力で拳を振りぬく。

まだそこに居る。

すぐに殺せば凛はまだ助かる。

凛と出会って、まだ時間は1時間と経っていない。

だけど、加蓮は凛に何かを感じていた。

生涯の友になれるかもしれないと感じた。

もっと話をして、凛の事を知りたい。

何も知らずにこれが永遠の別れになるのは……。

加蓮「絶対に嫌ッッッ!!!!」

加蓮の想いを乗せた全力の拳は、

雷化した鬼にかすりもせず空を切り、

加蓮が繰り出した拳とは反対の方向に鬼は現れて、

加蓮に光り輝く拳を叩き込んだ。

加蓮「うッぎぁっ!!」

ハードスーツのヘルメットがはじけ飛び、加蓮は水平に吹き飛ばされていく。

そのまま数十メートルは吹き飛ばされるであろう勢いだったが、

数メートル吹き飛んだ加蓮に追いつき、鬼は拳を叩き込み加蓮を大地に叩き落す。

加蓮「ごっ……」

加蓮のハードスーツは破壊されたが、いまだに通常のスーツは無事。

だが、地中深くに押し込められた加蓮に鬼の攻撃を避けるすべはなく、鬼の一撃を貰うその瞬間、

坂田「うッ! オオオオオッッッ!!」

坂田が鬼に飛び込んできた。

しかし、雷化した鬼に、スーツの壊れた坂田が触れるという事は、

坂田「ガァッ!?」

坂田は全身に雷撃を受けてその場に崩れ落ちる。

鬼は無意味な突撃を行った坂田をゴミを見るような目で見る。

そうやって、鬼が坂田に意識を取られたその一瞬が、この場にいるもう一人の超能力者の力をまともに食らってしまう一瞬となった。

桜井「しィィィしょォォォォ!!!!」

桜井は雷化した鬼をスキャンして再び鬼の体内の雷を散らせるように能力を使用した。

坂田も桜井もすでに気付いていた。

この鬼の力の源が雷だという事を。

首だけになった鬼が元に戻ってしまったのも最後に落ちた雷を使って雷の力を吸収したからだと。

どんなに攻撃しても、雷と変わられてしまったら、全てが無駄になってしまう。

この鬼の体内にある雷を消してしまえば、もう雷雲も無い以上再生もされない。

再生されなければ、銃も剣も届く。

坂田と共に銃を撃ち込み倒すことが出来る。

桜井「アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

桜井は能力を全開にして鬼の体内にある雷のエネルギーを散らし、半分近く消し飛ばしたところで、

「このッ! 下等生物がァッ!!」

桜井「…………ぐぱっ」

鬼に胸を貫かれ、貫かれた際に全身に電撃を流され、最後の抵抗をすることも出来ずに絶命した。

桜井の死体を忌々しげに投げ捨てた鬼は自分の肉体を見て怒りを顕にしていた。

「ヌゥアアアアアア!! このッ!! ゴミが一度ならず二度までも俺の身体をッ!!」

鬼の肉体は光り輝いていた雷化の状態を解除され、最初にこの場に現れた時と同じ状態となっている。

それは凛達が今まで行った行動が何一つ鬼に通じていないと言っても過言ではない状況。

雷雲は消えたが、鬼は変わらず怒気を発して叫び、戦えるものはすでにいないかと思われた。

だが、まだスーツが壊れていない少女。

加蓮は鬼に対して、最後の武装、黒い剣を伸ばして斬りかかった。

気配を消しての攻撃、それでいて全身の筋繊維は盛り上がり、今繰り出せるであろう最速の斬撃を鬼に繰り出し、

その一撃は、鬼の左腕を斬り飛ばす。

「ウッガァッ!?」

加蓮は振りぬいた剣の刀身を空中で返し、再び鬼に向かって振り下ろした。

目にも留まらぬ速度の返しの剣は、

鬼の脇腹を浅く切り裂いただけに終わり、

剣を振りぬいた体勢で固まった加蓮の腹に鬼の太い腕が触れ、

加蓮の細い腹を、鬼の腕が貫通して鮮血が舞った。

加蓮「ごっ……ぽっ……」

桜井と同じく、トドメに電撃を流されるその刹那、

ギョーン!! ギョーン!!

「ぐガッ!?」

鬼に銃撃が襲い掛かる。

それは地に伏した坂田が銃と手だけを向けて鬼に撃ち込んだ最後の攻撃。

坂田の銃撃は鬼の背中の一部を吹き飛ばし、最後に使用した超能力で鬼の体内にあった雷のエネルギーをさらに消し飛ばすが、

「オオオオオオオァァァァァアアアアアァァァアァ!!」

加蓮を投げ捨てた鬼の右拳が、坂田の頭に迫り、

坂田の頭は鬼の拳によって潰されて地面に赤い花を咲かせた。

この場にはすでに戦えるものは誰一人として残っていなかった。

坂田と桜井は死に、加蓮は胴体を貫かれその命の灯火は僅かしかない。

鬼は左腕を失うも、身体からほんの少しだけ電気を発しながら、両の足で立っていた。

背中と脇腹に傷もあるが、死に至る傷ではない。

勝ったのは鬼……。

だが、その鬼はある一点を見ながら微動だにしない。

「……出て来い、そこに居るのは分かッている」

鬼が何も無い空間に向かって語りかける。

視線を前に向けたまま鬼は動かない。

鬼の正面の空間に歪みが生じる。

バチバチと音を発しながら、長髪長身の男が姿を現した。

左手にはZガンを持ち、右手には黒い剣を持っている。

その男、和泉は戦場を見渡しながら薄く笑った。

和泉(あの女は……死んでいる……)

和泉(玄野も死にかけている……)

和泉(あのデカいスーツの女も腹を貫かれてもう死ぬだろう……)

和泉(奴等はコイツに敵わなかった……)

和泉(コイツさえ殺れれば、俺は……)

和泉の目に鬼の姿が映る。

凛を玄野を加蓮を、それだけではなくハンター全てを戦闘不能状態にした鬼の姿が。

和泉に高揚感が湧き上がる。

この鬼さえ殺せば、自分は間違いなくあの部屋の人間で最強。

凛も玄野も加蓮も倒せなかった相手。

凛が十数回クリアをしていようが、この鬼を倒せなかった。

つまりはこの鬼を倒す事は、十数回クリアに相当するという事。

和泉は高鳴る鼓動を落ち着かせながら呼吸を整える。

鬼を殺して証明する。

自分こそが、誰よりも強く、そして優秀であることを。

和泉はZガンを鬼に向け、その引き金を引いた。

戦場の中心から離れた場所。

そこで3人の少女は空を見上げている。

先ほどまで雷雲が立ち込めていた空は、謎の大爆発によって真っ赤に染まり、今は静寂に包まれている。

3人の少女、卯月、未央、奈緒は焦りを隠せずにいた。

今回は異常なことが起こりすぎている。

違うガンツチームとの合同ミッション。

明らかに異常な点数の中ボス。

天高く立ち昇る炎を生み出したであろう敵。

落雷が自然現象とは思えないくらい連続で落ち続けた。

そして、謎の大爆発。

卯月「わ、私たちも行きましょう……何か……すごく嫌な予感がするんです……」

未央「う、うん……私も、嫌な予感……する……」

奈緒「ああ……転送が始まらないって事は、まだボスが倒されていないって事だ……何かが合ったのかもしれねぇ……」

奈緒は手に持ったコントローラーを使いレーダーを起動してそのレーダーを凝視する。

奈緒「な、なんだ、こりゃ……」

未央「どうした……何、これ?」

卯月「真っ黒な点ですか……?」

今まで見た事の無い光点が表示されている。

3人にさらに不安が募る。

未央「し、しまむー! 早く行こうっ! しぶりんが心配だよっ!」

卯月「は、はいっ! 二人とも私の手を掴んでください!」

奈緒「加蓮……無事でいてくれよ……」

卯月は未央と奈緒の手を取り、空に浮かび上がる。

空を進むに連れて、3人の鼓動は激しくなっていく。

嫌な予感が止まらない。

闇夜で視界は悪い。

街の明かりは先ほどまでの雷や爆発の衝撃で消えてしまっている。

3人が漸く動くものを視界に捉えたときに卯月と未央は目を見張る。

その動く影は長い髪の女性のシルエット。

卯月はそれを見て速度を上げて影に近づくと、

その黒い影は凛ではなく、レイカであった。

レイカは上空の卯月達に気付かないくらいに必死な顔をして前に走っている。

この先に何かがあるのかと3人は視線を前にやると、

そこで見てしまった。

卯月「え……?」

未央「あ、れ?」

卯月と未央は何かを見て、疑問を浮かべた。

誰かが座っている。

顔が見える。

違和感はその顔が逆さまに見えることだ。

卯月はもう少しその何かに近づく。

高度を落とし、漂うように近づき、その何かが3人の目に飛び込んできた。

それを見て、卯月は二人の手を離して自分の顔を覆う。

未央は落下しながらも足を動かしそれに駆け寄ろうと空中で足掻く。

奈緒は顔を顰めてそれを見続ける。

それは座っていた。

正座をするような姿勢で座っている。

だが、その身体の背中に位置する場所に頭があった。

首はぶら下がるように伸び、流れるような髪の先を地につけ、

虚ろな目をした凛の瞳は、3人の姿を鏡のように映し出していた。

卯月「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

未央「し、しぶ、しぶ、やだ、うそ、ちがっ、こんなっ、いやっ」

奈緒「……くそっ」

未央は着地して、何度も転びながら、漸く座る凛の前までたどり着く。

未央「し、ししし、しぶ…………」

手を伸ばそうとしたが無残な凛の姿に手は空中で止まり震え続ける。

卯月は、顔を覆いながら手の隙間から凛を凝視している。

手の隙間から見える目は限界まで見開かれて血走っている。

その3人に、レイカが追いつき、

レイカ「本田さ……うぅッ!?」

レイカも見た。

とても生きていると思えない凛の姿を。

レイカ「し、渋谷さん……」

それだけではなかった。

その付近では、

レイカ「さ、桜井クン……それに坂田……さん?」

胸を貫かれて死んでいる桜井と、頭がない死体。

それを見て吐き気がこみ上げるレイカだったが、さらにもう一人の姿が目に入ったところで、視線の先に奈緒の背中が映りそのもう一人が誰なのかを判断できなかった。

奈緒は覚束ない足取りで歩く。

見てしまった。見覚えのある横顔、仰向けで倒れているその少女の姿を。

奈緒「…………加……蓮」

腹に風穴を空けて止め処なく血を流し続ける加蓮の姿を。

奈緒は膝から崩れ落ちて、加蓮の身体に触れた。

そのときだった。

加蓮「……な……ごぽっ」

奈緒「!! 加蓮っ!! 生きてるのか!?」

まだ加蓮は生きていた。

加蓮「…………つ…………は」

奈緒「喋るな! 喋んじゃねぇよ!」

加蓮の瞳が動く。

その瞳が動いた方向に目を見やると、そこには巨大な鬼の姿があった。

鬼はスーツの男を殴り飛ばし、スーツの男は身体を回転させながら奈緒たちの傍に叩きつけられうめき声を上げる。

和泉「うッ……ぐぁッ…………」

スーツの男、和泉は地面に叩きつけられて首の骨を折ったようで身動き一つとれずに奈緒達を見ていた。

奈緒は和泉を見ずに鬼だけを睨みつけていた。

加蓮をこんな状態にしたのはこの鬼だという事が分かったから。

奈緒「加蓮!! 死ぬなよ!! あたしがあの野郎をぶっ殺して終わらせるから!!」

奈緒はショットガンタイプの銃を構え鬼に向かって駆け始めた。

それと同時に、未央も鬼を見る。

巨大な鬼、だが恐怖感は無い。

未央にあるのは純粋な怒りの感情。

凛をこんな目にあわせた鬼に対する怒り。

未央はレイカが持っていた小銃を奪い取り、Y字銃と小銃を構えて鬼に向かって跳躍した。

未央「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

そして空中で浮かんでいた卯月。

手はもう顔を覆っていない。

ゆっくりと下りていく卯月の両手はホルスターに伸び、剣と小銃を持ち血走った目で凛を見続ける。

卯月「……りん、ちゃん」

卯月の視線はそのまま動き、鬼を見据える。

卯月「りん、ちゃんを……」

卯月の視界が真っ赤に染まる。

卯月が始めて抱いた感情は視界に映る鬼に全て注がれていた。

卯月「凛ちゃんを返してぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

殺意を滾らせながら、卯月は恐ろしい速度で鬼に襲い掛かった。

鬼はハンターの男を殴り飛ばして深く息をついた。

大きな銃で自分を狙っていたハンター。

大きな銃の銃撃を回避して、殴りつける寸前に右腕を浅く斬られた。

ハンターは明らかに大きな銃を使い慣れていないようだった、もしも最初から剣で攻撃をされていたらもう少しは苦戦したかもしれないと思う。

ハンターを吹き飛ばした鬼は殆ど失ってしまったエネルギー、雷のエネルギーを得るべく行動を開始しようとした。

だが、その鬼に上空から突風と共に黒い影が襲い掛かった。

その黒い影は銃撃を撒き散らしながら、剣で鬼の足を切り裂いた。

「グガッ!?」

銃撃はロックオンもされていなく、鬼には当たらず地面に炸裂し鬼の周囲が爆発した。

だが、その斬撃は鬼の右足を深く斬り裂き、鬼は片膝をついて黒い影を見る。

その黒い影は卯月。

空を飛翔してとてつもない速度で再び襲い掛かってくる。

そして、鬼に襲い掛かってくるのは卯月だけではなかった。

鬼の側面から奈緒がショットガンを構え鬼に襲い掛かり。

卯月とは別方向の上空から未央がY字銃と小銃を構えながら襲い掛かってくる。

3人同時の攻撃。

先の卯月の攻撃で体勢を崩している鬼はその3人を見ても動かない。

すでに体内に残っている雷のエネルギーは2割を切っている鬼。

もう雷のような速度で動くこともままならない。

恐らくは今の卯月のほうが速い。

鬼にとって絶体絶命のこの状況。

だが、鬼は笑う。

「ぶははははははははははははッッッ!!」

鬼は3人が突っ込んでくるその瞬間、

体内に残ったエネルギーを全て外側に放出し、

襲い掛かってきた3人に電撃を直撃させ吹き飛ばした。

卯月「いぎっ!!」

未央「あがぁっ!!」

奈緒「がはっ!!」

3人のスーツは空中で液体を撒き散らしながら破壊され、3人はそれぞれ別方向に吹き飛ばされ地面に叩きつけられて意識を失う。

「グッ……グゥゥゥ…………クソがッ!!!!」

憤怒の表情で吐き捨てる鬼。

鬼も満身創痍。

エネルギーも切れた。

一刻も早く雷のエネルギーを手に入れ回復しなければならない。

最高の状態で戦闘を始めてここまで追い詰められるとは鬼は考えていなかった。

それ故に苛立ちを隠せずに足を引きずりながら歩き始める鬼。

その鬼の前に、銃を構えたレイカが立ちふさがる。

レイカ「ハァッ、ハァッ! く、玄野、クンッ!」

鬼はレイカを、レイカの構える銃を見て身体を無理矢理捻った。

ギョーン!!

レイカ「ハァッ! ハァッ!」

レイカは引き金を引いた。

そのレイカの身体を鬼の右腕が殴り飛ばす。

レイカ「あぐぅ!!」

レイカが数メートル吹き飛ばされて、

「ウッガァッ!!」

鬼の右腕も爆発した。

その場で崩れ落ちる鬼。

その顔は悪鬼のごとく見るもの全てを恐怖させるような顔に変化していた。

「クソッ!! クソがッ!! 何てザマだッッッ!!」

すでに鬼には両腕が存在せずに、背中と脇腹と右足に深いダメージを受けている状態。

一刻も早く雷のエネルギーを得て、雷と一体化をして、肉体を再構成せねば危険な状態となっていた。

鬼は立ち上がり、己の腕を吹き飛ばしたレイカに近づきその身体を蹴り飛ばす。

レイカ「うッげぇッ!」

血反吐を吐きながら紙くずのように飛ばされたレイカは地面を数回バウンドして意識を失った。

レイカを蹴り飛ばした鬼は蹈鞴を踏んで、全身の痛みを感じる。

「グゥッ」

それと共に、鬼もバランスを崩し地に伏せる。

気力を振り絞っての攻撃、鬼の限界も間近であった。

鬼は辺りを見渡して、数十メートル先に横転した車を目にする。

「ハァッ……ハァッ……クソッ……」

鬼は応急処置で車に積まれているバッテリーから雷のエネルギーを得る為に動き始めた。

その動きは遅い。

何度も転倒しながらも、確実に車に近づく鬼。

その鬼が、背後で気配を感じた。

ジャリッ……ジャリッ……。

足を引きずるような音。

人の気配。

鬼は振り向く。

その振り向いた先には。



左手で己の髪を掴み、歩くたびに頭を揺らし、恍惚とした表情の凛が鬼に向かって近づいてきていた。



今日はこの辺で。

――――――――――――――――
――――――――――――
――――――――
――――
――


「…………ちゃ……」

「……ぶ…………て」

…………何?

「…………い、……ん……きろ……」

「……う、凛……った……」

……声が聞こえる?

「凛ちゃん! 起きてくださいっ!」

「しぶりん! おきろーーっ!!」

「凛~、もうそろそろ起きないとヤバイって」

「本番前なのによく寝れるよな……凛!! 起きろって!!」

凛「……ん…………?」

私は閉じていた目を開く。

どうやら眠っていたようだった。

薄っすらと光が入り込む視界に、4人の女の子の姿が映し出された。

凛「……卯月? 未央に加蓮、奈緒…………あれ?」

卯月「あっ! おはようございます、凛ちゃん!」

未央「しぶりーん、まだ寝ぼけてるの?」

凛「え? あれ?」

奈緒「駄目だこりゃ……本当に寝ぼけてるぞ」

加蓮「凛~~……今日は何の日か分かる?」

凛「何? 何、これ?」

4人はそれぞれ綺麗な衣装を着ている。

卯月はピンクを基調とした、桜をイメージさせるドレス。

未央は黄色のドレスで、星が煌くような輝きを見せている。

加蓮は清楚な白のドレス、加蓮が醸し出す儚さげな印象もあいまって神聖さが垣間見える。

奈緒は漆黒のドレス、吸い込まれるような漆黒は神秘的でミステリアスな印象を際立たせていた。

4人全員、これ以上無いと言えるほどの美しさを際出せる衣装をその身に纏っていた。

凛「なんで、みんなそんな格好をしてるの……? 私達は…………あれ?」

私達は、何をしていたんだっけ?

奈緒「おぉーい!? 本当にどこまでなんだよ!? 今日は凛の晴れ舞台の日だろ!?」

凛「えっ? えぇ?」

加蓮「凛~~~、シンデレラガールがそんな調子でどうするの?」

凛「し、シンデレラガール?」

未央「かみやん、かれん……しぶりんは346プロのアイドルの頂点に君臨した女帝! いわばこれは王者の貫禄ってやつなのだよ!」

凛「み、未央? 何言ってるの?」

みんなが何を言っているのかが分からない。

私達は…………をしていたはずなのに。

卯月「ほらっ! 凛ちゃん、立って下さい! 今日の衣装を見れば思い出しますよっ!」

凛「わわっ!? う、卯月、ちょっと…………え?」

卯月に立たされて私は今どこにいるのかに気がつく。

大きな楽屋、その楽屋に取り付けられた一面の鏡の前に立たされて、私は今自分がどんな格好をしているのかに気がついた。

蒼と白のドレスを着ている。

雲ひとつ無い空を連想させる蒼。

新雪が降って来たかのような白。

幻想的なドレスを私は着ている。

頭にはいくつもの宝石であしらわれたティアラ。

星の輝きのような宝石はドレスにもちりばめられている。

まるで童話のお姫様のような姿の自分が鏡に映し出されていた。

凛「…………あ」

奈緒「何だよ反応? 本当に大丈夫か?」

加蓮「シャンとしないと! もう時間ないよ!?」

未央「みんなが盛り上げたステージ、大トリなんだから集中しないと!」

卯月「凛ちゃんっ、ほら、行きましょう! シンデレラの舞踏会、楽しんでいきましょうっ!」

凛「あっ」

私はみんなに手を引かれ楽屋を出て走り始める。

思い出してきた。

今日は346プロの最大級の企画、シンデレラの舞踏会に私は出演しているんだった。

今の今まで、何もかもを忘れていたような気がする。

こんな大事な日にこの有様、みんなに呆れられても仕方ないや。

駄目駄目、集中しないと。

これから、今日の大一番、シンデレラの舞踏会の最後の大トリを勤めるのは私たちなのだから。

私たちはステージの様子が見えるモニターのある控え室に来ていた。

モニターからは、  と  の姿が。

……あれ?

未央「うはぁ~、この控え室にもお客さんの歓声が聞えてくるようだよ!」

うん、画面越しにも伝わる熱気、今ステージに立つ二人が会場中のお客さんの心を掴んでいる。

卯月「愛梨さんと、蘭子ちゃん、流石ですっ!」

そうだ、愛梨と、蘭子、ステージ上の二人の名前。

何で二人の名前が出てこなかったんだろう?

奈緒「凛! ボケボケしてると前任のシンデレラガールに全部持ってかれちまうぞ!?」

そうだ、二人はシンデレラガール。

346プロのアイドルは年間を通してファンからの人気投票を受け、その結果がこのシンデレラの舞踏会で開票される。

トップの投票数を獲得したアイドルはシンデレラガールと呼ばれ、名実共にその年の最高のアイドルとして認知される事になる。

初代が十時愛梨、2代目が神崎蘭子、そして今年のシンデレラガールが。

加蓮「ほら、シンデレラガールの渋谷凛さん? そろそろ目が覚めた?」

凛「うん」

そう、私だ。

今日の最後は私のステージ。

ううん、私だけのステージじゃない。

私を支えてくれたファンのみんな。

沢山のスタッフの人たち。

シンデレラプロジェクトのみんなや、沢山の仲間たち、

それに、ずっと一緒にやってきてくれた、

卯月、未央、加蓮、奈緒。

私にとって特別な4人。

私達5人のステージ。

本来ならソロステージになるはずだったけど、私が頼み込んで今日の最後のステージは5人で立つことが実現した。

それなのに、さっきまで何もかも忘れていた。

はぁ……私って本当に駄目だなぁ。

凛「ごめんね、みんな、こんな時にボケボケしちゃって」

奈緒「おっ、やーっと戻ってきたか!」

加蓮「このまま寝ぼけてステージを台無しにしちゃうんじゃないかってハラハラしたよ?」

卯月「加蓮ちゃん、凛ちゃんは今日の為に毎日頑張っていたんですから。ちょっとだけ疲れていたんですよ!」

加蓮「ふふっ、わかってるって」

未央「おっ! とときんとらんらんのステージもそろそろ終わるみたいだよ!」

モニターが振動するくらいの大歓声がステージに巻き起こっている。

二人のステージが終わったようだ。

私達はそれを見てステージ裏まで移動する。

未央「うぅ~~、緊張してきたぁ~~!」

奈緒「その割には、笑ってるじゃん」

未央「緊張はするけど、それ以上に今日のステージが楽しみだからね!」

加蓮「そうだね。凛が作ってくれた、私達トライアドプリムスとニュージェネレーションが競演するステージ」

卯月「しかも、それがシンデレラガールになった凛ちゃんのお披露目と一緒にできるんにですから!」

ステージ裏まで来た私達を待っていてくれた人がいた。

その人の姿を見て私は顔がほころんでしまう。

凛「プロデューサー」

P「渋谷さん、皆さん、いよいよですね」

凛「うん」

私をずっと支えてきてくれた人。

私にアイドルの道を示してくれた人。

最初は変な人だと思った、しつこくアイドルに勧誘してくる変な人。

でもあの時、この人と出会っていなかったら、今私はこの場にいなかったのかもしれない。

この人と出会っていなかったら、私はずっと何も見つけられないままだったのかもしれない。

今日、この場所にいられる感謝を、

私は今からのステージでこの人に伝えてみせる。

凛「プロデューサー、見てて」

私の想いを込めた言葉。

P「もちろんです。私はあなたのプロデューサーですから」

プロデューサーも私の想いを受け止めてくれた。

今までアイドルをやってきた万感の思いを胸に、

私は、私たちは、光り輝くステージに向かって歩き始めた。




――――待って。



その声に私は振り向く。

そこに居たのは…………黒いスーツを着た…………私?

――アンタが行く場所はそっちじゃないよ。

凛「な、何? わ、私?」

――そう、私はアンタ、アンタは私。アンタの居場所はそこじゃない。

凛「居場所……わ、私の居場所はここ! プロデューサーやみんなが私を……」

――違うよ、それはまやかし。そろそろ目を覚ましなって。

怖い、何かが私の中に入ってくる。

黒いスーツを着た私はいつの間にか私の背後から抱きしめるように私の首に手を回している。

首元が熱い、熱いだけじゃなくて、すごく、キモチイイ。

凛「い、嫌……怖い、止めて……止めてっ!!」

私は私を振り払う……けど、どんなに強く振り払っても、私に抱きつく私は離れてくれない。

――世話をかけるよね私って、ほら、もっと感じなよ。

凛「っっっ!!」

また感じた。すごくキモチノイイ何かを、怖い、頭の中が何かに塗りつぶされていく。

――そう、早く目を覚まして、そうしないと……。

凛「嫌っっっ!!!!」

私は私を無理矢理突き飛ばした。

そして、あの人に、みんなに助けを求めて、

凛「み、みんな、助け…………」

私の視界には5人の黒いスーツを着た私が映し出されていた。

――はぁ……。

――多少無理矢理でも。

――戻ってもらうよ。

――アンタの居場所は。

――こっちなんだから。

私は私自身に引きずられてステージから離れていく。

どんどん離れていく。

頭の中に何かが入ってくる。

ステージが離れて……離れて…………。

首が、熱い。

キモチイイ。

頭が、沸騰しそうだ。

あっ、あっ、あっ、そうだった。

私は。


――
――――
――――――――
――――――――――――
――――――――――――――――

凛の瞳に光が戻る。

凛がまず感じたもの。

それはとてつもない快感、自分の首から全身に広がるように快楽の波が走り抜ける。

凛「~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!」

凛の瞳がぐるりと回転し、白目になり全身を振るわせ続ける。

その状態が続き、凛は悶絶を続けていた。

全身が震えるたびに、首から恐ろしいほどの快感が伝わり続ける。

凛はこの何物にも変えがたい快感を貪っていた。

何度も何度も絶頂に達しながら、凛の体感では永遠に感じられる最高の時を通り過ぎ、漸く凛に思考する余裕が戻ってきた。

凛(ンッ……はぁぁン……な……ぁん……これ……)

チカチカと火花が散るような視界が逆さまになっている事に気がつき、凛は首を動かそうとするが。

凛(ひぃぁぁっ!? ま、った、ぁぁっ!)

首は動かずに、ただ快感だけを凛に伝えていた。

その状態がしばらく続き、凛は自分の首に異変が起きている事に気がつく。

凛(さ、さっき、から……声、でな……い。私の、首……折れてる?)

凛は壊れた人形のように腕を動かして自分の頭を支えた。

おかしな位置にある頭、背中部分にある頭を両手で支えてゆっくりと持ち上げる。

動かすたびに快感が走るが、優しく丁寧に凛は頭を持ち上げ、いつもの視界が確保できる位置に持ってきて理解する。

凛「……けふっ……こほっ」

凛(やっ、ぱり、首、折れてる……何で、生きてるの? 私……)

凛は自分の首が折れていると思っていたが、実際のところ、凛の首は折れていなかった。

幾重にも重なった幸運。

鬼の拳は凛のスーツを破壊した、だが凛のスーツは鬼の拳の威力を8割方殺した上で限界を向かえた。

だが2割残った威力でも凛の細首を粉砕する威力はあったが、粉砕を免れたのは凛が自ら首を動かしてさらに拳の威力を殺したため。

首を捻り、仰け反り、拳の威力を落とし、さらに威力を落とそうと仰け反ったところで、凛の首の骨が外れた。

骨は折れず、神経系は無事なままだったが、外れた衝撃と、首が伸びきり神経を圧迫されて凛は気を失った。

凛が目を覚ましたときには、通常ならば激痛で動くことすら出来ないほどの痛みを発する首が、凛の脳内から生み出された異常な量の脳内麻薬によって全てが快感に置き換わり、今に至る。

凛は頭を持ったまま、焦点が合わない目で辺りを見ていた。

まず凛の目に入ってきたのは、レイカを蹴り飛ばす鬼の姿。

自分をこんな目に合わせた鬼の姿。

凛(……あい、つ)

ボロボロとなっており転倒する鬼を見て、少しだけ思考がクリアになる凛。

凛(……まだ、終わって、ない)

凛(……あいつ、を殺さ、ないと)

凛は自分の武装を確認するが、スーツは破壊されて、掌の閃光を打ち出すことが出来ない。

バイザーは破壊されて黒球を動かすことも出来ない。

大剣2本はかなり遠くに飛ばされているようだった。

Zガンは吹き飛ばされたのかどこにも見当たらない。

通常の銃も今回は持ってきていない。

武装が何も無い状態だった。

凛(……何か……落ちて、ないの……?)

首が折れていると判断した凛は首を無理に動かそうとせずに視界に映る武器になりそうなものを見定める。

凛(銃…………見当たらない。剣…………駄目、ない)

そこで目にした。

破壊されたハードスーツ。

肘部の刃が折れて地面に突き刺さっている。

凛(…………あった)

凛はそれを手にする為に、頭を抱えながら立ち上がる。

凛(動け……る、でも…………んぁぁっ……)

動くたびに感じてしまう。

少しの振動が凛に快感を感じさせる。

今の凛にとって、痛みは快感になっている。

動くたびに感じて達してしまう今の状態はある意味地獄であった。

凛(……はぁっ……んんっ……も、うっ……)

いつの間にか髪を握り締めながら凛は刃の元にたどり着く。

刃を引き抜きながら右手にジワリと快感が走る。

引き抜いた際に手の平を刃で切ってしまったようだ。

その感覚を感じて、凛は何を思ったのか、

折れた刃を立て、手の平をその先端に這わせて、ゆっくりと自分の右手に突き刺し始めた。

凛「ンア゛ッ!」

ズブズブと凛の手に埋没していく刃、押し込むたびに手から本来伝わるはずの痛みが快感へと変化し、凛は口から唾液を零しながら刃を押し込み続ける。

やがて折れた刃は凛の右手の中に埋没する。

凛は右手から血を滴らせながら足を震わせて立ち上がった。

おぼろげな意識の中で、凛は鬼に向かって近づき始める。

凛「…………ぶきをぉ……かくしてぇ……」

足を引きずりながら歩くたびに感じ続ける。

凛「……ゆだん……させてぇ……」

髪を掴んで頭を持ち上げているため、歩くたびに頭が左右に揺れる。

凛「あいつにぃ……ぶすっとぉ……さしちゃおぉ……」

恍惚な笑みを浮かべながらジリジリと鬼に近づく。

その距離が数メートルとなったところで鬼が振り返り凛に気がつく。

鬼の顔に驚愕に近い表情が浮かぶ。

先ほど殺したはずの人間の女。

その女が自分の頭を支えながらゾンビのように近づいてくる。

その表情は快楽に溺れきった顔。

焦点の定まっていない眼が目まぐるしく動き、最後に鬼に視点が定まる。

「何だ…………貴様は…………」

鬼は得体の知れない感情に固まってしまう。

凛を見て、攻撃をしてくるそぶりも見せないハンターに、鬼は今まで抱いたことも無い異様な感情を抱いて、凛を見たまま静止する。

その鬼に、凛は優しく抱きついた。

正面から、まるで恋人の胸に飛び込むように。

鬼にはその凛を支える力も無かったようで、押し倒されるように倒れこむ。

凛は鬼に足を絡ませ、頭を支えていた左手も、刃を隠した右腕と一緒に鬼の背中に回す。

凛の頭がぐらりと落ちそうになるが、凛は目の前にあった鬼の首に全力で噛み付いてその頭を固定する。

「グゥッ!?」

鬼は凛の噛み付きで漸く意識を戻し、凛を振りほどく為に動こうとするが、

すでに遅すぎた。

鬼の背後に回った凛の右腕が裂け、中から刃が突き破って現れ、

凛の腕から飛び出ているその刃を左手で掴み、凛は鬼の背中を、

思いっきり突き刺した。

「グハァッ!?」

凛(ンッ、はぁぁンッアァァ!!)

鬼の胸から突き出た刃は、凛の胸にも浅く刺さる。

刃から伝わる鬼の血が、凛の身体に伝い、刺さった傷口に触れたときに凛は幾度になるかも分からない絶頂を向かえ、

噛み付いた鬼の首を噛み千切った。

「ゴフッ……」

凛の頭がゆっくりと凛の背面に落ちぶら下がるのと、鬼の身体がゆっくりと大地に沈みこむのは同時だった。

凛は鬼に馬乗りになって妖艶な表情で全身を痙攣させていた。

鬼はすでに致命傷を負い、動くことすら出来ない。

ただ凛の行動を見ることしか出来ない。

何度も痙攣していた凛が、ひと際大きく痙攣し、再度動き出す。

凛の視界には鬼の姿は映っていない。

首があらぬ方向にある為に凛は鬼が倒れ付した事に気がついていない。

そして、凛は、左手に持った刃を、

鬼がいるであろう場所に、鬼を突き刺すために振りぬき、

自分の腹部を突き刺した。

凛「ひっ、アァアァァ!?」

凛の口から血が吐き出される。

朦朧としながら何かが起きた事を悟る凛。

攻撃をされたのかもしれない、そう思った凛は、

自分の腹部から刃を引き抜き、鬼がいるであろう場所に再び刃を振りぬき、

自分の腹部を深々と突き刺す。

凛「ン゛ン゛ン゛ア゛ァ、あ、ぁぁぁぁ、ぁ、……ぁぁ……」

それを繰り返す凛。

おびただしい量の血を吐きながら、何処までも幸せそうな顔で、自分の腹を突き刺し続けていた。

グチュリ、グリュリと突き刺し続け、

転送されるまでの間、凛は自分の腹を刺し続け桃源郷を彷徨っていた。

静寂に包まれた戦場後に艶めかしい凛の声が響き渡っている。

凛の声が小さくなり始めて転送が始まった。

倒れ付す、卯月、未央、奈緒が転送されていく。

3人は気を失ったまま、戦いの結末を見ることなく転送される。

続いて加蓮とレイカが転送されていく。

2人も意識を失ったまま、加蓮は命のともし火が尽きる寸前に転送された。

次に少し離れた場所の玄野と吉川。

撤退した風と稲葉と子供、武田を含む神奈川チームも転送されていく。

誰一人、今回の結末を見たものはいない。

だが、一人だけ、

意識を失わずに全てを見ていた人間がいた。

首をぶら下げたまま未だに自傷行為を続ける凛を見る唯一の男。

和泉は一部始終をその眼で見続けていた。

凛のその尋常ではない行動を凝視していた和泉の瞳は、

恐怖の色に染まり、誰かに助けを求めるような色をしていた。

今日はこのへんで。

誰もいないガンツの部屋。

部屋に鎮座するガンツから光線が伸び、人を転送し始める。

始めに転送されてきたのは、卯月。

卯月「うわああああああああっ!! ああああああっ!!」

卯月「うぁぁぁ………あ……あれ?」

卯月は剣と小銃を前に構えながら状況を飲み込めずにいた。

荒い息をつきながら、ガンツの部屋に戻ってきた事に気がつき、

卯月「終わった、の……?」

その場に座り込む。

そして、ミッションが終わった事に対する安堵感ではなく、転送される前に見てしまったあの光景を思い出し涙を零し始める。

卯月「うっ……うぅぅっ……りん、ちゃん…………」

卯月「えぐっ……りんちゃぁん……うぇぇぇ……ひぐっ……」

首がへし折られて、瞳に何も映していなかった凛の姿。

卯月はその場に蹲って泣き続ける。

そうしている間に、次の帰還者が現れる。

未央「ああああああああああああ!!」

必死な形相で両手に銃を構えて戻ってきた未央。

未央「ああっ!? 何!? 何なの!? どこここ!?」

自分がガンツの部屋に戻ってきた事に気がつかず辺りを見渡した未央は蹲って泣いている卯月の姿を目にして、自分がガンツの部屋に戻ってきたのだと悟った。

未央「私……あっ……しまむー……」

その声に卯月は顔を上げて未央を見る、瞳から大粒の涙を零しながら。

卯月「みおちゃぁぁぁん……りんちゃんが、りんちゃんがぁ……」

未央「あ…………あぁぁ……」

未央も思いだしてしまう。

悲惨な姿の凛を。

未央「うぁぁぁ…………」

未央もその場に崩れ落ち、卯月と同じように涙を零し始める。

未央「しぶ、りんが……やだ……やだよ……うぅぅっ……」

卯月「えぐっ、ひっく、うぅっ……」

未央「やだ、やだやだ、やだぁぁぁ!!」

卯月「うぁぁぁぁぁぁぁん!!」

二人はお互いを抱きしめあいながら泣き続けた。

死んでしまったであろう凛の事を想って。

少しして二人の傍にレイカが転送されてくる。

レイカ「はぁっ! はぁっ!」

レイカ「お、オニ星人は!?」

レイカの目に黒い球体が飛び込んできて、今回のミッションが終わったのだと気付くと、レイカは胸に手を当てながら息を深くついた。

自分の傍で泣きじゃくっている二人に気がつき、声をかけようとするが。

レイカ(あ……渋谷さん……)

レイカも凛の姿を思い出す。

そして二人がここまで泣いているのも、凛が死んでしまったことが原因だという事も気付く。

レイカ(いつも3人一緒だッたし……島村さんも本田さんも何か話すときは渋谷さんの事をよく話題に出してた……)

レイカ(二人にとって大事な友達が死んじゃッた……)

レイカ(どう声をかけてあげればいいの……)

レイカは気を落としながら視線を二人から外して、部屋に自分たち以外誰もいない事に気がついた。

レイカ「えッ? 玄野クンは……?」

一気に顔を青ざめ始めたレイカだったが、そのレイカの前に転送されてくる人間が現れる。

レイカ「!!」

顔の輪郭が見えた。

転送されてきた人間は玄野だった。

玄野「あ……レイカ……さん?」

レイカ「玄野クンッ!!」

玄野「終わッた……のか?」

レイカ「よかッた……よかッたぁ……」

玄野「えッ!? えぇッ!?」

玄野に近づき、手を握り涙ぐむレイカに玄野は顔を赤らめながら戸惑いを隠せずにいた。

レイカ「玄野クン……死んじゃう寸前だッたんだよ? 心配したんだから……」

玄野「えッ!? 死ぬ寸前ッて……そ、それより、近い、近いッて!」

レイカ「あッ! ご、ごめんなさい」

玄野はレイカに密着されて挙動不審になっていると、玄野の反応に気付いたレイカは慌てて距離を取る。

心拍数を大きく上げた玄野は、レイカの顔を見続けていたが、すぐに卯月と未央の泣き声に気がつき二人に目をやる。

玄野「島村さんに本田さん、泣いてるのか?」

レイカ「あッ……」

玄野「何かあッたのか……?」

卯月と未央は玄野達が帰ってきたことにも気付かないくらいに、ただただ泣き続けていた。

レイカ「……渋谷さんが死んじゃッたの」

玄野「………………はぁ?」

レイカが言った言葉、玄野はその言葉を理解するのに1分近くかかってしまった。

渋谷さんが死んだ。

凛が死んだ。

玄野「は? ウソだろ?」

レイカ「ウソじゃないよ……渋谷さんが首を折られて死んでる所、あたしも見たから……」

玄野「い、いやいや、ありえねーだろ? アイツが死ぬッて、ありえねーッて!」

笑いながら否定する玄野だったが、暗い顔をするレイカと泣き続ける卯月と未央たちが冗談を言っているものではないと理解して、数歩後ろに後退してそのまま座り込んだ。

玄野「ウ……ソ、だろ……」

千手観音やチビ星人、自分の敵わなかった星人を屠ってきた凛。

何回も何回もクリアをし続けて、この部屋の狩りを好きだといっていた凛。

最初はその容姿に目を奪われたが、凛の事を知るうちにそういった感情は消え去り、今ではこの部屋で一番長い付き合いとなった戦友としか見れなくなった。

気兼ねなく話せる戦友、そしてこの部屋で絶対の信頼を置いていた人間。

だが、その凛が死んだ。

それを意識した玄野の目から一筋の涙が零れ落ちる。

レイカ「玄野クン……」

玄野「ンだよ、これ……」

涙を拭いながら、自分が抱いた悲しみも心の奥にしまいこむ玄野。

玄野はこの部屋の事を凛の次に知っている人間。

凛が死んだ事による悲しみはあったが、全てを解決する方法を思いつくのは一瞬だった。

玄野「大丈夫だ……何とかなる、俺が何とかしてみせる……」

レイカ「玄野、クン?」

玄野は泣き続けている二人に近づいて、二人の肩に触れながら話し始めた。

玄野「島村さん、本田さん、聞いてくれ」

卯月「ひぐっ……玄野……さん?」

未央「うぅぅっ……」

玄野「渋谷の事は俺に任せろ、アイツは俺が絶対に生き返らせる」

卯月「生き返……らせ……あああっ!!」

未央「ひ、百点!!」

レイカ「玄野クン!?」

玄野「今日、俺はかなりの量、星人を倒している。恐らく100点……もしくは100に近い点数になってるはずだ。今日が無理でも次に絶対渋谷を生き返らせる」

卯月と未央は玄野を見続けている。

二人の頭に浮かぶ光景は、先のミッションでレイカを生き返らせた玄野の姿。

二人に希望の光が差し込み。

卯月「お、おねがいしますっ!! 凛ちゃんを、凛ちゃんを生き返らせてくださいっ!!」

未央「お願いっ!! しぶりんを、しぶりんを助けてあげて!!」

玄野「うわッ!? わ、わかッてるッて!」

玄野は必死の形相で迫る二人をなだめるように引き離し、

玄野「俺が渋谷を絶対に再生する。うまくいけばこの後の採点で100点メニューを選べるはずだ。だから二人とも落ち着いてくれ」

卯月「はい……はいっ。ありがとうございます!」

未央「本当に、本当にありがとう、くろのん……」

卯月と未央は玄野の手を握りながら涙目で礼を言い続ける。

玄野は自分に密着してくる二人を落ち着かせながら引き離す。

やがて卯月と未央は採点が表示されるガンツの前に移動してお互いの手を繋ぎ、目を閉じ祈り続ける。

玄野が100点を取っているようにと。

その二人の間を抜けるように、ガンツから光線が伸び新たな帰還者が現れる。

風「…………!?」

玄野「風、か……」

風は転送され、戻ってくると同時に何かを探し始めていた。

風「……玄野、あの子供はどこや?」

玄野「子供? イヤ……まだ戻ってきてないぞ」

風「ッ!」

玄野の回答に焦り始める風。

だが、風が全身を転送され、風の足が転送され始めたときに、ガンツの光線が重なるように伸び始め。

風の足に抱きついたまま戻ってきた子供の姿を目にする。

「きんにくらいだー!」

風「……ふゥ」

安堵の息を吐き、風は抱きついてくる子供を受け止め表情を和らげていた。

風と子供が転送されきって、少し送れて稲葉が転送されてくる。

稲葉「…………」

転送された事に気付き稲葉はその場にへたり込んで震え始めた。

玄野「大丈夫か?」

稲葉「…………」

玄野が声をかけるが、稲葉はその声が頭に入っていないのか、完全に無視して、手を動かし体を引きずりながら壁に背をあずけ、膝を抱えて震え続ける。

玄野は震え続ける稲葉は、今何を言っても無駄と判断して残りの帰還者を待つことにした。

玄野「あとは、おっちゃんと……坂田と桜井……和泉に、今回の新人達か……」

玄野が零した言葉にレイカが反応する。

レイカ「あの……玄野クン……」

玄野「どうした?」

レイカ「鈴木さんや坂田さん、桜井クンも……死んじゃッたよ……」

玄野「!!」

レイカが見た坂田と思われる死体と胸を貫かれて死んでいる桜井。

玄野を運んだ後に、鈴木と新人達も目にしたが息をしている様子もなく、応急処置もしなかった以上すでに死んでいるとレイカは考える。

玄野はレイカから3人の死を聞いて、下唇を噛みながら険しい表情をして呟く。

玄野「……渋谷も、おっちゃんも、坂田も、桜井も…………」

玄野「加藤もッ! 岸本もッ! 全員ッ! 全員生き返らせてやるッ!!」

玄野「俺が全員ッ! 絶対にッ!!」

玄野の呟きは何時しか叫びに変わっていた。

その目から涙を流しながら玄野は叫ぶ。

その玄野に触れる手があった。

レイカ「玄野クン、あたしも手伝うよ」

玄野「ッ!」

レイカ「玄野クンがみんなを再生するッて言うならあたしにも手伝わせて」

玄野「なッ!? 何を言ッて……」

レイカ「あたしも今回沢山の星人を倒したから、もしかしたら100点を取れてるかもしれない。そのときは玄野クンが誰かを生き返らせてあげて」

玄野「い、いや、だッて、自由になれるんだぞ!? それなのに……」

レイカ「あたしの命は玄野クンに貰ッた命。あたしの命は玄野クンの為に使うッてもう決めたの」

玄野はレイカが発する強い視線に気おされる。

レイカ(……玄野クンが誰かを助け続ける人だッていう事はもう分かッちゃッた)

レイカ(それなら、あたしは玄野クンと一緒に誰かを助け続ける)

レイカ(玄野クンがこの部屋を出るまで、ずッと……)

レイカ(その間だけは、この部屋にいない玄野クンの彼女よりも、玄野クンの傍にいれる……)

レイカ(そうやッているうちに、もしかしたらあたしの事を……)

玄野「ま、待てッて、考え直せよッ!」

レイカ「もう決めたことだから」

玄野「決めたことッて、俺は君にそんな事をしてもらうために生き返らせたわけじゃないんだよ!」

玄野がレイカを説得している最中、ガンツから光線が伸び始める。

その光線は人の姿を形成していく。

その転送されてきた人物を見て、玄野はレイカの説得を止めてその人物を怪訝な顔をして見やる。

和泉「ハァッ!! フゥッ!! ハァッ!! ハァッ!!」

玄野「和泉……?」

玄野がレイカの説得を止めてまで、和泉を気にしたのは、和泉の表情にあった。

和泉の表情は、恐怖の表情。

玄野は和泉がこのような表情を浮かべている事に何があったのかと考えてしまう。

ガンツの部屋に戻る為に、無関係の人間を何百人も殺した男。

表情一つ変えずに、襲撃してきた吸血鬼を何十人も殺した男。

ミッションにおいても、日常においても、和泉が恐怖することなど見たことも無かった。

和泉の事を良く知っている玄野だからこそ、和泉のいまの状態に違和感が止まらない。

転送されてきた男、和泉。

彼は頭脳明晰であり、自分の理解できないものなど今まで存在しなかった。

だが、彼は初めて、自分の理解の及ばないナニカを見てしまう。

和泉(アレは何だ……)

和泉は見た。

首の骨をへし折られた人間が、ぎこちない動きで頭を掴み、背部に垂れ下がった頭を持って立ち上がる瞬間を。

和泉(アレは一体何なんだ……)

和泉は見た。

動き始めたナニカが地に突き刺さる刃を引き抜き、自分の手に押し込みながら笑っているその様を。

和泉(分からない……理解が出来ない……)

和泉は見た。

自分が手も足も出なかった相手に喰らいつき、あっという間に殺した後、そのナニカは自分の肉体を傷つけ始めた。

和泉(何なんだ……何なんだアレは……)

和泉は見た。

真っ赤に染まったナニカ、口から血を吐き出し、腹部や貫通した背中から血が零れ落ち続けたが、ナニカは淫靡な表情で行為を止めなかった。

和泉(アレは狂ッてる……アレはコワれてやがる……)

和泉は見た。

ナニカは死に向かって突き進んでいるのに、ナニカは死を受け入れるように自分を壊し続けていた。

和泉(アレは死ぬことが恐ろしくないのか……? 理解できない……俺には何一つ理解できない……)

和泉は生死をかけた戦いで生きている実感を得ていた。

何事もうまく行き過ぎる人生、その人生が退屈で退屈で、生きる実感を得る為に、興奮を求めてガンツの部屋に居場所を求めた。

その和泉が目にする、死をも厭わないナニカ。

生きている実感を得る為に戦いの場に身を置く和泉には、死を受け入れるようなナニカの行動は何一つ理解できるものではなかった。

それ故に恐怖する。

得体の知れないナニカに恐怖する。

和泉(イカれてやがる……理解したくもねぇ……)

和泉(あんなものを理解するなんて……無理だ……)

和泉は全身を転送されて息を落ち着かせながら、その場で立ち尽くしていた。

その和泉に違和感が感じられる。

自分の背後に何かが転送されてきている。

和泉は部屋を見渡して、アレがいないことに気がついた。

和泉の視界には、玄野、レイカ、風、子供、稲葉、卯月、未央が映る。

玄野達には、和泉の身体が影になって誰が転送されてきているのかがわからない。

そのため、誰が転送されているのか、誰も名前を呼ばないためわからない。

だが、このタイミングで転送されてくる人間、それは……。

和泉は全身を硬直させながら、後ろを振り向いた。

そこに居たのは、

全身を痙攣させながら涎を垂らし、焦点の定まっていない目で和泉を見る凛が転送されきってその場に存在していた。

和泉「うッ、うぉぉおおぉおおぁあああぁぁぁあああああぁぁッッッ!!!!」

その凛を和泉は全力で突き飛ばし、

凛は壁に叩きつけられて、

凛「ンッ、ァンッ!」

そのまま床に落ち、

うつ伏せで倒れこみ、その場で痙攣し続けていた。

卯月と未央が和泉に突き飛ばされて、その場に伏せた人間が凛だという事に気がつき、凛に飛びつくように駆け寄ったのと、

採点を開始する音が部屋に響き渡るのは同時だった。

今日はこの辺で。

『ちーーーーーん』

『それでは ちいてんを はじぬる』

ガンツに点数が表示される。

だが、部屋にいる全員はガンツを見ずに、転送されてきて、和泉に吹き飛ばされて崩れ落ちた凛を見ていた。

凛を突き飛ばした和泉は顔を真っ青にしながら部屋の隅に移動し、意識的に凛の姿を視界から外す。

卯月「り、り、りんちゃぁぁん!!!!」

未央「嘘っ、嘘っ、しぶりんなのっ!?」

崩れ落ちた凛に駆け寄り、抱き起こす二人。

うつ伏せの状態から、抱き起こし凛の顔を見たときに、二人は安堵の涙を流す。

卯月「凛ちゃん、凛ちゃんです……生きててくれた……」

未央「よかった……よかったぁ……ひっく……」

死んだと思っていた凛が生きていて、二人は凛を強く抱きしめようとするが。

凛の様子がおかしい事に気がつく。

卯月「り、凛ちゃん、どうしたんですか!?」

凛は全身を痙攣させている。

視線は定まっておらず、だらしなく空いた口からは涎が滴って、その口から震える舌が覗いている。

顔は紅潮し、熱い吐息を吐き出し続け、凛の身体から発せられる何ともいえない甘い匂いが部屋に漂い始める。

未央「しぶりん!? ど、どうしよう、もしかして怪我の後遺症があったりするの!?」

卯月「凛ちゃんっ! 凛ちゃんっ!!」

明らかに様子がおかしい凛に対して、首を折られてしまった事による後遺症かと考えた二人は再びパニックになり凛に呼びかけ続けた。

するとやがて、

凛「……んぁ……あれぇ……うづき? みお?」

卯月「凛ちゃんっ!!」

未央「しぶりん!!」

凛「んっ……あれ? ここって……」

凛は上体を起こし、頭を振って顔に手を添える。

凛「私……確か……顔を殴られて……」

凛「それで……首が折れて……あっ……」

はっとした表情で顔を上げる凛。

そこで自分がガンツの部屋に戻ってきている事に気がつく。

凛「あぁ……アイツを殺れたんだ……」

凛は首に手を回して、別の手で自分の腹を触る。

凛(今回……凄かった……)

凛(今までの狩りの中でも一番気持ちよかった……)

凛(頭がおかしくなるくらいの快感……最後なんか目の前がキラキラで満たされていて……)

凛(気持ちよくって楽しくてどこまでも幸せな気分になれた……)

凛(私が感じたような感覚、二人は感じることができたのかな?)

凛は少しだけ期待を込めて二人の瞳を覗き込むように顔を見る。

今回はイレギュラーが多すぎて、当初の予定をやり遂げることが全く出来なかった。

恐らくは二人とも自分と同じような快感を得てはいないだろう。

だけど、もしかしたら。

その期待を込めて二人を見るが、

卯月「凛ちゃんっ! どこか痛いところがあるんですか!?」

未央「無理に起きないでっ! 横になっててよ!!」

二人はその凛を案じ、横になるように促してくる。

凛「わわっ、う、卯月、未央、わ、私は大丈夫だって」

卯月「大丈夫なんかじゃないです!! 凛ちゃん、あんな目にあったんですよ!?」

未央「そうだよ!! もしかしたらまだおかしいところがあるかもしれないんだからしぶりんは安静にしていないと!」

凛「ちょ、ちょっと、二人とも」

凛は身体を起こしていたが、卯月と未央によって再び横にされた。

卯月は凛に膝枕をして、未央は凛の全身を確認し怪我が無いか見ている。

凛(やっぱり……駄目かぁ……)

凛(私の事を心配してくれているのは嬉しいけど……)

凛(二人とも私と同じように……私みたいになってほしいのに…………)

凛(…………私、みたいな人間?)

その時、凛の頭の中にある人物の影が浮かび上がった。

その凛の思考を遮るように、玄野から声がかかる。

玄野「渋谷……お前無事だったんだな」

凛「え? あっ、うん」

玄野「ふぅッ……やッぱりお前が死ぬわけねーよな」

玄野の表情が若干緩まるが、未だに険しい表情をしている。

その顔を見た凛は何かがあったのかと思い玄野に尋ね始めた。

凛「……もしかして、誰か戻って来れなかったの?」

玄野「……ああ、坂田と桜井、それにおっちゃんが帰って来れなかった」

凛「あの人たちが……」

玄野「……」

無念の表情を浮かべる玄野。

凛もあの3人が死んでしまった事を聞き気分を落とす。

何度か訓練を行い、3人の人なりも知っている。

凛(ミッションで人が死ぬ瞬間を何度も見てきてるけど、やっぱり知り合いが死んでしまうのは辛い……)

凛(あの人たちは悪い人たちじゃなかった……出来れば100点を取って解放されてほしかった……)

凛は視線を玄野から外して、動かした視界にあるものを映し、視線をとめた。

そこにあったものはガンツ。

全員が点数を見ていなかったが、凛はその表示された点数を見て小さく声を漏らした。

凛「あ……」

ガンツに表示されていたものは、

『クレイジーサイコりんさん 285てん』

『Total 304てん 100点めにゅーから選んでください』

凛の点数採点画面であった。

凛の視線に玄野も振り向く。

凛「クレイジーサイコ? よくわかんないけど……私の点数表示だよね」

玄野「ッ! さ、304点……」

レイカ「すごい……」

風「…………」

卯月「あ……」

未央「しぶりんが……」

凛「……300点、3回100点メニュー選択が出来る……」

凛は少しだけ考えながら、画面表示を見続けていた。

玄野は凛の呟きに反応したが、出掛かった言葉を飲み込んで凛の発言を待っていた。

凛は考えが纏まったのか、卯月と未央の顔を見て、二人に問いかけ始めた。

凛「未央、卯月も、私と別行動をしたあとに敵を倒したり送ったりする事はできた?」

卯月「え……? で、できてないと思います……」

未央「う、うん。私も……」

凛「そっか……」

凛はその言葉に頷くと、身体を起こし立ち上がり、ガンツの前に移動する。

卯月「あっ……」

未央「……」

そして、凛は、

凛「全部3番で。今回戻って来れなかった、鈴木さん、坂田さん、桜井君を再生してもらえるかな」

未央「ちょっ!?」

卯月「り、凛ちゃんっ!?」

玄野「えッ!?」

凛の言葉にいち早く反応したのは卯月と未央。

未央「待って!! ガンツ!! 今のなし!! 取り消して!!」

卯月「凛ちゃん!! どうして1番を選ばないんですか!?」

凛「……ずっと言ってるでしょ。出るときはみんな一緒。今回は二人とも100点を取れてないと思う、二人を置いてこの部屋を出る事は絶対にしないから」

未央「何言ってるの!? しぶりんはあんな目にあったんだよ!? 私達に構わないで自由にならないと!!」

卯月「そうですっ!! 死ぬ寸前だったんですよ!? 凛ちゃんはもう自由になってくださいっ!! お願いですからっ!!」

凛「…………」

凛は二人に抱きつき、二人の背に手を回して呟く。

凛「……二人とも、ありがとう」

凛「……でも、私の事は心配しなくても大丈夫だから」

卯月「大丈夫じゃないですっ!! どうしてですか!?」

未央「そうだよっ!! しぶりんは怖くないの!? あんな目に合わされて、またあんな目に合うかもしれないんだよ!?」

凛「……うん。怖いかもしれない」

未央「だったら!!」

凛「……でも、それ以上に二人が死んでしまうのが怖い。今ここで自由になって二人が私の知らないところで死んでしまうって考えたら、1番を選べなかったんだ」

卯月「凛、ちゃん……」

凛「それに、もう取り消しも出来ないみたいだしね」

ガンツから3本の光線が出ていた。

その光線は人の形を作り出し、

鈴木「あッ」

玄野「……おっちゃん」

坂田「何……だ?」

桜井「あれ? あッ、師匠」

鈴木と坂田と桜井の3人が再生されて部屋に戻ってきた。

卯月「うぅ……凛ちゃん……」

未央「しぶりん……しぶりんは馬鹿だよ……私たちなんかの為になんで……」

凛「それだけ二人は私にとって大事な存在だってこと」

卯月・未央「!!」

凛「ずっと一緒だよ。卯月、未央」

凛が強く二人を抱きしめると、二人も負けないくらい強く抱きしめ返してくる。

二人はこらえきれずにすすり泣き始める。

そして、二人とももう二度と凛に無茶をさせないと心に誓う。

卯月(もう二度と凛ちゃんをあんな目に合わせない)

未央(しぶりんは私が守ってみせる)

卯月(凛ちゃんも未央ちゃんも戦わなくていいように)

未央(しぶりんもしまむーも私が絶対に守る)

卯月(私が全部やってみせる。宇宙人をやっつけることも、宇宙人を動けなくして二人に点数を渡すことも、二人が危ない目に合わないようにすることも、全部)

未央(二人とも私が守る、そのためなら、なんだってやってやる。どんなことだってやって二人を絶対に守るんだ)

二人は強く強く凛を抱きしめ続けた。

再生された鈴木たちは困惑していた。

ミッションが終わって部屋に戻ってきたと思えるこの現状。

だが何か釈然としない。

玄野「おっちゃん……坂田……桜井……」

鈴木「玄野クン? 終わッたの?」

坂田「……俺は、確か……」

桜井「あれ? あの雷のオニ星人に……俺は……」

困惑している3人に、玄野は説明を始めた。

玄野「あの、な。3人とも今回、星人にやられちまッて、戻って来れなかッたんだ」

鈴木「えッ!? で、でも、それじゃあなんで……」

坂田「……誰かが俺たちを再生してくれたのか?」

いち早く現状に気付いた坂田が問いかける。

玄野「ああ、渋谷がみんなを再生してくれたんだ」

桜井「し、渋谷サンがですか?」

桜井の問いに頷くことで答える玄野。

3人は凛を見るが、凛は卯月と未央に抱きつかれ、抱きついている二人は泣いている。

桜井「も、もしかして、あの二人も渋谷サンに再生してもらッたんスか?」

玄野「いや……あの二人は渋谷が死んじまッたと思い込んで、渋谷の事を心配してあんな状態になッてる。今回は渋谷もヤバかッたみたいで、死にかけたッて話だ」

鈴木「死にかけた……そこまでして稼いだ点数で私たちを……」

坂田「…………」

3人は卯月と未央を抱きしめている凛の傍まで近づく。

凛は鈴木達に気付き、視線を上に向けて3人が無事再生された事にほっとした表情を浮かべ微笑む。

凛「よかった。ガンツに再生してもらえたみたいだね」

その凛に一番に問いかけたのは坂田。

坂田「死んだ俺たちを再生してくれたのは、アンタなのか?」

凛「うん。今回かなりの点数を稼げたみたいで3人とも再生することが出来たよ」

坂田「なんでだ? アンタはなんで俺たちを……」

凛「……なんでって言われても。再生されたくなかったの?」

坂田「いや、再生してもらったことには感謝している。だけどアンタは100点を取った場合、人を再生するよりも強い武器を選ぶものだと思ってたからな」

凛「……私、そんな風に思われてたの?」

坂田「…………ああ」

坂田の問いかけに悲しそうな顔をする凛。

その表情を見て少しだけ言葉を詰まらせる坂田。

桜井「師匠! どうしたんスか! 俺たち渋谷サンに助けてもらったのにそんな、渋谷サンを責める様な感じで言うなんて!」

坂田「腑に落ちないところがあッてな……いや、すまない、感謝しないといけないのにこんな事を聞いちまうなんてな……」

凛「…………」

坂田「俺たちを再生してくれた事に感謝するよ。アンタにはデカい借りを作ッちまった」

凛「……ううん。感謝してもらう必要なんて無いよ」

坂田「?」

凛「……今回は私一人の力じゃクリアできなかった。私一人だったら、気を失ってしまったときに殺されてたと思うから」

凛「……チームで勝てた今回のミッション、私一人の点数じゃないから、あなた達に返したって思ってもらえればいいよ」

坂田「……」

凛「それに、あなた達には生きてこの部屋を出てもらいたいと思ったから、さ」

凛の顔を見ながら、凛の言葉を聞き続ける坂田。

坂田は今まで凛の事を警戒していた。

このガンツの部屋で何度も何度も繰り返しミッションを行う少女。

凛が恐ろしい力で星人を蹂躙する姿を見て坂田はその力が自分たちに牙を向く日があるのではと警戒していた。

そのため、今回再生されても、感謝するより前に何故という感情が湧いて出てきていた。

こうやって面と向かって凛と話をして、凛の内心までは分からなかったが、凛が最後に言った言葉だけは何故か本心を言っているのだと感じた。

坂田「……すまねぇ、俺は色々アンタの事を誤解していたみたいだな」

凛「え?」

坂田「いや、なんでもない。本当に感謝するよ、俺たちを再生してくれて」

坂田が膝をついて凛に頭をたれる。

凛「だから、別に感謝する必要なんて無いって、私は私の為にやってるだけなんだから」

鈴木と桜井も凛に感謝をし続けていた。

それを玄野は涙目で見ていた。

そして、気がつく。

ガンツの点数表示が自分の表示で止まっていることを。

『くろの 80てん』

玄野「あッ……」

『Total 101てん 100点めにゅーから選んでください』

それに皆が気がつく。

桜井「あッ!! リーダーも100点を!!」

レイカ「玄野クン……」

玄野「100点……取れていた……」

玄野の脳裏に過去の記憶が呼び起こされる。

この部屋で出会った少女、一度は恋焦がれた少女を。

この部屋で出会った一夜限りの恋人、自分を受け入れてくれた女性を。

そして、あの男の事を。

正義感が強く、この部屋でリーダーシップを発揮していた男。

自分の幼馴染で、この部屋に来るきっかけになった男。

玄野は目を瞑り、息を深く吸い込んで、言葉を発した。

玄野「3番」

玄野「…………加藤……加藤勝を再生してくれ」

その言葉と共に、ガンツから光線が生み出される。

光線は人の形を成していく。

頭を形成し、その顔を見た玄野は泣き笑いの表情でその再生されてきた男に近づく。

玄野「はは……す、げぇ……」

男は玄野を見ながら、何が起きたのかわかっていない様子で呆けた顔をしている。

玄野「加藤……加藤ッ!!」

男は完全に再生されて、その場に立ち尽くし、玄野に今何が起きているのかと問いかけた。

加藤「計……ちゃん……」

加藤「計ちゃん……千手は……?」

加藤の問いかけに、玄野は涙を拭いながら、

玄野「もう終わッたんだ」

加藤「終わッたッて……」

そして加藤は部屋を見て、玄野以外の人間を見て、自分の知っているメンバーが玄野と凛しかいないという事に気がつく。

加藤「どうなッてるんだ……」

玄野「あの寺から……もう何ヶ月も経ッてるんだ……」

加藤「何ヶ月も……ま、待ッてくれ、どういうことなんだ、わかんねェ……」

加藤「他のメンバーはどうしたんだ? ケイちゃんと渋谷さん以外の人たちは一体……」

玄野「……全員、死んだよ」

加藤「ッ!? 死んだッて……待て、待ッてくれ……」

加藤の脳裏に浮かぶのは、自分を庇って死んだ岸本の姿。

岸本だけじゃない、あの部屋にいた人間、殆どが死んでいる姿が思い出される。

そして、自分自身、千手によって身体を焼ききられた瞬間を思い出した。

加藤「俺……死んだよな?」

玄野「ああ……」

加藤「なんで、俺……」

玄野はガンツを指差し、

玄野「こいつは100点を取れば、死んだメンバーを生き返らせることが出来るんだ」

加藤「なッ!? そ、そうなの、か……」

驚愕に包まれる加藤だったが、死んでしまった自分が今ここにいる事が、その証拠だと理解し思考を整理し始める。

加藤「外の世界では……俺は、何ヶ月もいなくなっていたのか……?」

玄野「ああ……そうなる、な……」

加藤「そうか……」

目を閉じ天を仰ぐ加藤。

加藤「……俺を生き返らせてくれたのは、ケイちゃんなのか?」

玄野「ああ」

玄野が再生してくれた事に薄々気付いていた加藤だったが、玄野の口から聞いた事によって、大粒の涙を流しながら玄野の手を握る。

加藤「ケイちゃん……ありがとう……ありがとうっ……ケイちゃんのお陰で俺は帰ることが、今ここに生きていることが出来る……」

玄野「……気にすンなよ。一緒に生き残って、いつか自由になろうぜ!」

加藤「ああっ、宜しく頼む!」

玄野と加藤は固い握手をして笑いあう。

加藤(ケイちゃん……本当にありがとう……ケイちゃんのお陰で俺は歩のところに帰ることが出来る……)

加藤(俺の憧れの男……やっぱりケイちゃんはすごい男だ……)

加藤(何も変わッちゃいない……俺が憧れたケイちゃんのままだ……)

加藤(俺もいつか、ケイちゃんのような男に……)

加藤は子供の頃に見ていたように、玄野に熱い視線を送り続け、

玄野が自分を再生してくれた事に感謝をし続けた。

今日はこの辺で。

玄野達の様子を全員が見る間にも採点は続く。

『しまむー 0てん やる気はみとめる』

『Total 10てん あと90てんでおわり』

卯月「0点……」

卯月は点数を見て唇を震わせながら俯いてしまう。

『ちゃんみお 0てん やる気はみとめる』

『Total 10てん あと90てんでおわり』

未央「…………」

未央も手を握り締めて俯く。

二人とも敵を倒していない以上点数が加算されない事は理解していたが、0点という現状を突きつけられてしまった。

点数が取れていない以上、この部屋から解放される時間も先となってしまう。

その間は確実に自分たちの、そして自分たちを守ろうとするであろう凛の命の危険が増す。

自分たちが何も出来なかったせいで、凛の命が危険に晒される。

今回のミッションで二人の考えは完全に変わった。

そして、二人は寸分たがわず同じ思考をしていた。

卯月(凛ちゃんは私たちが100点を取らないと部屋を出てくれない……)

未央(どんなに自分の命が危険に晒されようとも……今回みたいに死にかけても私たち為にこの部屋に残ってしまう……)

卯月(もう……甘えた事を言ってられない……)

未央(宇宙人を撃つことを躊躇なんてもうしない……)

卯月(どんな事をしてでも100点を取らないと……)

未央(そして、二人に危険がありそうなら……)

卯月(私が、二人の身代わりになってでも……)

卯月と未央は凛の胸中を知らずに決意していた。

今回、死にかけてしまった凛の姿を思い出して。

もう二度と凛をあんな目にあわせないために。

凛の為にその身を犠牲にする覚悟を。

採点は続く。続いてレイカ。

『レイカ 73てん』

『Total 73てん あと27てんでおわり』

レイカ「……73点、もう少しだッたのに」

レイカは玄野を見るが、玄野は点数を見てはおらず、加藤と話している。

少し頬を膨らませるレイカだった。

続いて、稲葉。

『ヘタレ 0てん 泣きすぎ やる気なさすぎ ビビりすぎ』

『Total 0てん あと100てんでおわり』

点数表示も見ずに震え続ける稲葉。

続けて和泉。

『和泉くん 45てん』

『Total 95てん あと5てんでおわり』

和泉「……クソッ」

点数を見た和泉は凛の姿を見ないように部屋から玄関に移動してまだ開かないドアを忌々しげに蹴りつける。

和泉の行動に疑問を浮かべていた玄野だったが、次の点数採点を見る為にガンツに視線を戻す。

次に子供。

『タケシ 0てん おうえんしすぎ よろこびすぎ』

『Total 0てん あと100てんでおわり』

子供の名前はタケシという様だった。

タケシ「きんにくらいだー、これはなんですか?」

風「点数採点や」

不思議な顔をしてガンツの点数採点を見るタケシだった。

そして、次に、

『きんにくらいだー 180てん』

『Total 210てん 100点めにゅーから選んでください』

タケシ「あ!! きんにくらいだー」

桜井「うォッ!?」

加藤「ひ、180点?」

風「100点……か」

凛「…………」

風はガンツを見ながらも、視界に入るタケシを横目に考え続けていた。

タケシ「?」

風「……」

タケシは何も理解していないのか、風が考えている姿を不思議そうに見ている。

風は言葉を発する直前にタケシの顔を正面から見据え、何かを決するように話しはじめる。

風「……玄野。他に誰か生き返らせたい奴はいるか?」

玄野「生き返らせッて……自由になんないのか?」

風「ああ」

玄野「まだ……この部屋に、居たいのか?」

風「……ああ、俺はまだここにいる」

玄野「……戦いが好きなのか?」

風「……いや、…………」

タケシ「きんにくらいだー?」

玄野の問いにタケシを見続けて沈黙する風だった。

玄野はそれを見て察したのかそれ以上追求はせずに別の問いを風にする。

玄野「2番とか選べるんだぞ。この部屋に残るつもりなら強い武器を手に入れたほうがいいんじゃないか?」

風「……俺に銃は使いこなせん」

玄野「そ、そうか……」

風「……」

沈黙しつつも視線で選べと急かす風。

玄野「……本当にいいのか?」

風「構わん、お前はまだ生き返らせたい奴がおるんやろーが」

玄野「ッ!!」

玄野の叫びを聞いていた風は、玄野がまだ誰かの再生を望んでいることを気付いていた。

風は何も知らないタケシを不憫に思いこの部屋に残る事を決めていた。

自分には銃は向いていない。

強い武器を使うよりも、己の肉体を信じる。

1番も2番も無いならば、消去法で3番。

しかも、すでに心のどこかで認めている男、玄野が誰かを生き返らせたいと望んでいるのならと考えると3番の選択肢しかなかった。

風「3番。玄野……誰か選んでくれ」

玄野「ありが、とう……」

風「……」

玄野は2回誰かを生き返らせれる権利を貰い、一人目を即答で答えていた。

玄野「岸本恵を……再生してくれ」

加藤「!!」

凛「……岸本さん」

それに反応したのは、この部屋で岸本を知る二人。

加藤は自分を庇って死んだ岸本を思い出したのか表情を曇らせている。

凛は接点は少なかったが、この部屋で数度話した同年代の少女を思い出していた。

他の全員は、玄野の昔の仲間なのだと考えどんな人間が再生してくるのかを先ほど再生された人たちが出てきた場所を見る。

光線が徐々に人の形を作り出していった。

玄野「岸……本……」

加藤「おぉぉ…………」

玄野と加藤は再生されている人間の顔を見て、涙を零しながら近づき、

再生をされていた当の本人は何が起きているかも分かっていないようで、加藤を見て目を見開いていた。

再生されてきた人間が女だという事に気がついたレイカは少し表情を曇らせて玄野を見ている。

全身が再生されて、岸本は左右に首を振りながら、目の前にいる加藤の胸に頭を預ける。

岸本「加藤君……あれ……? あたしは……?」

加藤「すまないッ……俺のせいで……すまないッ!」

岸本「え? あれ?」

玄野「はは……岸本……よかッた……加藤も、岸本も戻ッてきた……はははッ」

岸本は自分が死んだという記憶があったにもかかわらずこうやって戻ってきている事が不思議でならなかった。

その岸本の疑問に答えるように加藤が話す。

加藤「岸本さん、俺が不甲斐ないばかりに君を死なせてしまッて本当にすまなかッた……」

岸本「えッ!? 死んだッて……ウソ、それじゃあ……」

その言葉に、ここは天国で加藤も死んでしまったのかと思い泣きそうな表情になる岸本だった。

岸本「加藤君も……死んじゃッたの?」

加藤「……ああ」

岸本「そッか……ここ、天国なんだ……」

加藤「いや、俺達は一回死んだけど生き返ッたんだ」

岸本「?」

加藤の言葉が理解できない岸本。

ただ加藤を見つめて、加藤の言葉を待っていた・

加藤「俺もあの夜……あの寺で死んでしまッた……だけど、ケイちゃんが俺たちを生き返らせてくれたんだ」

岸本「えッ?」

その言葉に漸く加藤から視線を外し、横にいた玄野の顔を見る岸本。

玄野は加藤と岸本を見て、その目から涙を流し続けて笑っていた。

岸本「玄野君が……生き返らせたッて……?」

加藤「あの黒い球、ガンツは100点を取ることで、この部屋のメンバーを誰か一人自由になるのと引き換えに生き返らせることが出来るらしいんだ。俺達はケイちゃんのおかげでいまこうやッて戻ッて来れたんだよ」

岸本「100点? 生き返らせれる?」

未だに理解ができない岸本だった。

玄野「加藤ッ、岸本を生き返らせたのは俺じゃねぇよ。風ッ! こッちにきてくれ!」

玄野に言われるが、動こうともしない風。

玄野「んだよもう! 岸本ッ、君を生き返らせてくれたのはあのデカい男だ。あいつがお前を生き返らせてくれたんだよ」

ガンツの前にいる風に近づき、玄野は風の肩を叩く。

そして、ガンツの100点メニューを見せながら岸本に説明をした。

岸本「100点メニュー……ウソ、それじゃあ、本当に……?」

加藤「ああ、俺達は生き返ったんだよ……」

漸く実感が湧いてきたのか、岸本も目に涙を滲ませながら加藤の元を離れ、風に近づき、

岸本「あ、ありがとう、ございます」

風「…………ああ」

玄野「風ッ……本当に感謝するよ、お前のおかげで岸本も戻ッてくることができた」

風「……いい」

加藤「ありがとう、本当にありがとうございますッ」

風「……」

3人に感謝され続ける風はそっぽを向き、玄野にもう1回の権利を使うように促す。

風「玄野、もう一人選べ」

玄野「ッ!!」

岸本「もう一人?」

加藤「ああ、あの人は200点取ッたみたいで、100点メニューを二回選べるんだ」

岸本「ええッ!?」

そこで玄野は止まる。

玄野の頭の中にはもう一人。

一夜限りの恋人の姿が思い浮かぶ。

だが、玄野は即答せずに固まっていた。

玄野「……」

目を瞑って考え続ける玄野は、呟くように声を出した。

振り返って、凛を見ながら。

玄野「なァ……渋谷」

凛「?」

玄野「今回……他のチームと一緒にミッションを行ったことや、俺達の姿が一般人に見える理由はお前も分からないんだよな?」

凛「うん、分からないよ」

玄野「そうか……」

玄野はまた何かを考え、さらに凛に問いかける。

玄野「……お前はどう思う? この状況、これからどうなッていくか……予想できるか?」

凛「……さぁ?」

玄野「お前が前に言ッていたカタストロフィ……それに近づくにつれて状況が変わり続けるような気がするんだが……お前はそう思わないのか?」

凛「……なんとも言えない。カタストロフィが何なのかも分からないんだから」

玄野「お前にも分からない……か」

玄野が考え続ける姿を見て、凛は顎に手をあて何かを思いながら発言する。

凛「……もしかしたら、あの西って中学生だったら何か知ってるかもしれない」

玄野「……アイツか」

加藤「……あの中坊」

凛「……私がカタストロフィの事を知ったのもあの中学生からだったし、あの子は私たちより前からこの部屋にいて、まだ何かを知っているような感じもした」

玄野「……」

凛「……私も知らないこと、今回の状況を説明することも、あの子ならできる……かもね?」

玄野「そう、か」

玄野はもう一度目を瞑り深く考え、考えが纏まったのか目を開きガンツに触れて再生する人間の名を発した。

玄野「……西を、あの中学生、西を再生してくれ」

凛「…………」

それを見て凛はほんの少しだけ口元に笑みを浮かべた。

もう見慣れた光景。

ガンツから伸びた光線が人を生み出していく。

再生された人間、西は部屋を見て訝しげな顔をしている。

西「なん……だ?」

西は部屋にいる人間で見知らぬ顔を見つけてさらに疑問が浮かび上がる。

西「……ハァ?」

その中で見知った顔を見つける。

西「玄野……」

そして、凛の顔を見た西は何かを思い出したのか。

西「あ…………」

玄野「西……あの、な……」

西「チッ……まじかよ……」

玄野「?」

西「俺……死んじまッたのか……」

現状を悟る西、今まで再生された人間と違い状況をあっというまに飲み込んだ西を驚きながらも玄野は西に話しかける。

玄野「ああ……」

西「ああッ、くッそ……だッせェッ! ちくしょうッ!」

頭に手をやり、自分が誰かに再生されたことを、自分が死んでしまった事を許せないと言った感じで西はぼやき続ける。

しばらくして感情が落ち着いてきたのか西は玄野と凛を見ながら問いかけた。

西「で……誰? 俺を再生したの……もしかして渋谷か?」

玄野「いや……」

玄野は視線を動かし風を見やる。

風が西を再生させたことを伝えるように。

西「……わかんねぇな。何が狙いだ?」

何故自分を再生したのかが理解できない西は単刀直入に玄野に聞く。

玄野「今、お前がいたときから状況が変わってきてるんだ……星人も俺達も街の人間に見えるようになッてしまッたし、時間制限も無くなッた。他のガンツチームのメンバーとも合同でミッションも行ッた」

西「ハァ?」

玄野「これからどーなッてくのか、わからなくなッてきている。どんどん法則が変わッていッてる」

西「……」

玄野「この中の誰もそのことについて説明できないんだ……お前なら何かを知ッていると思ってな……」

西「……なるほどね、納得」

不敵な笑みを浮かべながら西は続ける。

西「しッかし情けねーな。死んだ俺にアドバイス求めるッて、お前ら誰もこの部屋のことを調べよーとしなかッたのか?」

玄野「……」

西「つーか、渋谷! お前には色々話してやッたのに、お前もこいつ等と同じようにただ流されるままこの部屋の事を調べようともしなかッたのかよ?」

凛「……」

西「はァ……俺の見込み違いかよ……ガッカリだぜ…………ん?」

凛に落胆をする西だったが、その凛の姿が自分の知らない形状のスーツになっている事に気が付きピタリと止まる。

そして、凛の顔をもう一度マジマジと見る。

視線を絡ませるように、凛を見続ける西は、

西「…………渋谷、お前そのスーツはなんだ?」

凛「100点のクリア報酬」

西「……お前、100点取ッたのか?」

凛「うん」

西「……」

凛「……」

お互い無言で見つめあう凛と西。

西はさらに何かを聞こうと口を開きかけたが、それを遮るように凛は西に問いかける。

西「おま……」

凛「それで、どうなの? アンタはこの状況どうなっているのか分かる?」

西「あ?……知らねーよ。俺達が見えるようになッてるッて、今までそんな事も無かッたし、他のガンツチームもそんな事言ッてなかッたし」

凛「そう。それならこの状況はいったい何なのか予想できる?」

西「つーか、待て。死んでた俺に質問しすぎじゃね? 予想しようにも何も、色々調べてみねーと何もわからねぇよ」

凛「そっか」

凛はそこで区切るようにして、玄野に向けて話しはじめる。

凛「どうしようもないみたいだね」

玄野「……ああ」

凛「……採点も終わったみたいだし、今日はもう帰って、西には今回の状況を調べてもらうっていうのはどうかな?」

玄野「!」

西「ハァ? 何で俺がそんなことしなきゃなんねーの?」

凛「……だって、アンタ独自の情報網をもってるんでしょ?」

西「だから、何で俺がお前らの為にそんなことしなきゃなんねーんだよ?」

凛「……みんなが生き残る為には情報が必要なの。全員でこの部屋を出るためには少しでも多くの情報が必要だから……お願い」

西「……」

西は凛の顔を見たまま何も言わずに何かを考える。

西は特に肯定も否定もせずに何かを考え続けた。

その西を問い詰めようとする玄野を凛は止める。

凛「……西から情報を聞きだすのは私がするよ。アンタだとまた昔みたいにケンカになりそうだし」

玄野「わかッたよ……」

凛と玄野が話をまとめ、部屋から人が出て行く。

凛に礼を言いながら鈴木、桜井、坂田が部屋を後にし、他のメンバーも凛に声をかけて部屋を出て行く。

奥の部屋で凛、卯月、未央は着替え、3人一緒に帰ろうとしたところで、凛は立ち止まる。

卯月「凛ちゃん?」

未央「どうしたの?」

凛「……ごめん、今日は先に帰って貰っていいかな? ちょっとこの子と話したいことがあって」

部屋に残る西を指差して凛は二人に先に帰るように促す。

二人はしぶしぶと言った感じだったが、凛に手を振って部屋を後にする。

二人を玄関で見送った凛は、部屋に戻りガンツの横に立つ西に近づく。

凛「ふぅ……」

西「……」

凛「あらためて、久しぶりだね。アンタが死んでもう半年以上経ったのかな?」

西「質問、いーか?」

凛の軽い挨拶にも特に返しをしようともせずに質問をぶつけてくる西に対して凛はクスクスと笑った。

凛「いいよ。ふふっ、昔と立場が逆だね。何が聞きたいの?」

西「まずはお前のことだ。お前は100点を取ったんだよな?」

凛「うん」

西「1番を選ばなくて2番を選んだんだよな?」

凛「そうだよ」

西「もしかして、お前、吹ッ切れた?」

凛はその問いに満面の笑みで答える。

その笑みを見て西は数歩後退してしまう。

凛「アンタが言っていた生き物を殺して興奮するっていう感覚、私にも理解できちゃったんだよね」

凛は床に落ちていた剣を手にして、刃を短く伸ばしてナイフ状の剣を手の平で躍らせるように回転させる。

凛「宇宙人をこの剣とかでぶすっと刺したり、銃で潰したりするとすごくイイ気持ちになれちゃうんだ」

弄んでいた剣を握り、凛は自分の手の平に刃を這わせて少しだけ押し込む。

凛「痛っ……うーん。今は駄目かぁ……」

手の平から滴る血を舐めながら西を見つめる凛。

西はさらに一歩後ずさる。

凛「最高にキマってる時は、自分の身体の傷もすごくキモチイイんだよ。アンタにも分かるよね?」

西「……お前、メチャクチャ変わッたな」

凛「そう? 素直になっただけなんだけど?」

西「変わりすぎだッつーの……」

頭を掻きながらようやく納得したように西はため息をついた。

西「ハァ……お前からなんか変な感じをしたと思ッたけど、そーいうことね。納得」

西「で、さッきはお前、全員が生き残るだとかどーとか言ッてたけど、あれは演技か?」

凛「演技をしてたのは半分くらい? 全員で生き残れればいいって実際に思ってるし」

西「よくワカんねーな……半分ッてなんだよ、半分ッて」

凛「私が宇宙人を殺して興奮する人間だって事は隠してる、最近はそういうのを色々とばれない様にする為に演技をしてるってこと」

西「……ああ、加藤の馬鹿とかに何か言われでもしたのか?」

凛「違うよ、あの人は今日まで死んでたし」

西「ハァ? ……ま、あんな奴の事はどうでもいいか。それで何で隠してんの? 隠す必要あるの?」

凛「さっき私と一緒に女の子が二人いたでしょ?」

西「ああ」

凛「あの子達に変な目で見られたくない」

西「……ますますワケわかんねーよ」

凛「あの二人は普通の女の子だから、今私の本性を知られちゃったら距離を置かれるかもしれない。そんなのは嫌だから隠してる」

西「俺はお前が何を言ッているのか、サッパリ理解できねーんだけど」

凛「あの二人は私の大事な親友。親友に嫌われたくないって事」

西「やッぱり理解できねー」

そのやり取りは少し続いたが、西が無理矢理終わらせて、次の質問に移った。

西「お前のことも分かッた、わけわかんねー形で仕上がッてるけど、とりあえず俺と同じような人間だッたッて認めたッてことだよな?」

凛「まあね」

西「そうか……」

凛「うん」

しばしの沈黙を経て、再度西が問いかける。

西「で? お前のほうから何か俺に聞きたいことがあるんじゃねーの?」

凛「あれ? わかった?」

西「顔に書いてある」

凛はその言葉にガラスに映る自分の顔を見ながら話し始めた。

凛「アンタさ、あの二人の事をどう思う? さっき私と一緒にいた女の子二人」

西「どう思うッて……どーとも思わねぇけど」

凛「あの二人は私みたいになれると思う?」

西「何言ッてんだ?」

凛「私はあの二人と一緒に狩りや殺しを楽しみたいんだよね」

西「……はァ」

凛「あの二人を私たちみたいにするにはどうすればいいと思う?」

西「あァー……えーッと……」

西は凛の問いかけに頭を抑えながら考え込む。

考え込んで出てきた言葉は。

西「オマエ……歪んでんなァ……」

引きつった顔をした西は搾り出すように言った。

凛「そう?」

西「ああ。……まさかとは思うが、あの二人を殺してガンツの部屋に連れて来たッてわけねーよな?」

凛「……そんな事するわけないでしょ。怒るよ?」

西「いや、だッてお前の言う事聞いてるとそう思えるぜ?」

凛「本当に怒るよ」

西「悪りィ」

何故か星人と戦うときと同じような寒気が襲い掛かった西は反射的に謝った。

目を細めながら西を睨んでいた凛はもう一度話を戻して西に問いかける。

凛「それで、どう思う? あの二人に殺しの楽しみを覚えさせるにはどうすればいいかな?」

西「……知らねーよ」

凛「真面目に答えてよ。私苦労してるんだからさ、二人にばれないように色々カモフラージュもしていて、今回も折角の点数を怪しまれないように再生に使ったり、発言にも気をつけたり」

西「はァ……」

凛「あの二人も私と同じようになれば色々隠していることも全部さらけ出して話すことも出来るんだから、アンタも自分と同じような仲間が増えると思ったらそう悪い気はしないでしょ?」

西「! 仲間、ねェ……」

凛「そう、仲間」

西「……仲間か、悪くねェかもな」

西はこうして誰かと気兼ねなく話すことを今までの人生の中でしたことがなかった。

誰もが西の人格を疑い、西を否定し、西にとって自分以外の他人は相容れない存在。

唯一の例外は母親だったが、その母親もすでにこの世にはいない。

その西が、母親以外に始めて自分の人格を否定されずに、むしろ自分の人格を受け入れられていた。

凛が発した仲間という言葉に強く引かれる西。

こうやって自分を受け入れてくれる仲間が増えるという事を考えると、西が今まで抱いたことの無いような暖かい気持ちが生まれる。

西「いいぜ、俺も考えてやるよ」

凛「本当!?」

西「ああ、まずは犬か猫でも殺して……」

凛「ふざけんな!! アンタ頭おかしいんじゃないの!?」

西「はァッ!? 何キレてんだよ!?」

凛「殺すのは宇宙人か私達を殺そうとする敵だけ! アンタもこれからはそうするように、犬とか猫を殺すなんて私が絶対に許さないからね」

早速前言を撤回して逃げ出そうかと考える西。

だが、初めての仲間との気兼ねない会話をどこか楽しんでいる西だった。

今日はこの辺で。


凛「ン゛ン゛ン゛ア゛ァ、あ、ぁぁぁぁ、ぁ、……ぁぁ……」

西「ママァ――ッママァ――ッ」
和泉「ママァ――ッママァ――ッ」
ぬらりひょん「ママァ――ッママァ――ッ」

ガンツの部屋で凛と西は話し合っていた。

いや、最初は話し合いだったが、今は言い合いとなり怒鳴りあっている。

西「だから言ッてンだろーがよ!! 何でもいいからぶッ殺して、殺すことに慣れさせりゃその内喜んで何でも殺すようになるッつーの!!」

凛「何でもって、あんたやっぱり頭おかしいでしょ!? どうして何でもかんでも殺そうとするの!? 敵じゃない生き物を殺すのは間違ってるって!!」

西「頭がおかしーのはお前のほうだろ!! 星人はよくて犬が駄目ッてなんなんだよ!? どッちも変わんねーじゃん!!」

凛「変わるに決まってんでしょ!? 宇宙人はカンペキに敵、放っておいたら一般人も殺そうとするんだよ!! 犬とかはそんなことしないでしょ!?」

西「あー、頭が痛てぇ……お前の思考がまッたく、これッぽッちも理解できねぇ」

凛「奇遇だね、私もそう思ってたところ!」

お互いにらみ合い牽制し合っていたが、どちらともなく大きくため息をついて言い合いをとめた。

西「ラチがあかねぇ、この話はまたあらためてするッてので終わらねぇか?」

凛「そうだね、これ以上はいい案もでないだろうし……」

西「オーケー、……ったく、本当にお前、ワケのわからねぇ頭のおかしい奴になッちまったんだな」

凛「自覚してるけどそういうの面と向かって言わないでよ。ムカつくから」

西「自覚してるッて……まァいいや」

西は話を切り替えるように、凛を指差して指摘をする。

西「そーいやお前さ、さッき点数を再生に使ッたとか言ッてたけど、100点クリア2回もやッたのか?」

凛「?」

西「俺が死んでから半年とか言ッてたけど半年で2回ッてやッぱお前才能あッたんだな」

凛「2回じゃないよ?」

西「あ? まさか3回とかクリアしたのか?」

凛「えっと……今日で3回だったから、17回かな」

西「…………は?」

凛「今日までで17回、内2番を14回、3番を3回選択したよ」

西「…………」

額に手を当て難しい顔で沈黙する西。

西はもう一度確認するように凛に問いただす。

西「17回? 100点を?」

凛「うん」

西「半年ちょいで?」

凛「うん」

西「いやいやいや、おかしーだろ。ありえねーッて!」

凛「ありえないって……本当なんだけど」

西「ありえねーよ!! 俺は1年かけて90点取るのがやッとだッたんだぞ!? それを半年で17回ッてどーすればそんなことできんだよ!?」

凛「アンタが死んだ狩りから少しして数ヶ月毎日一人で狩りをしてたからね。その時に点数を沢山稼いだんだよ」

西「毎日? 一人?」

凛「あぁ、後は最近の狩りってかなり厳しくって、今日の狩りも80点オーバーが数匹いたし、ボスなんか100点だったし、よく考えたらこの二回で6回もクリアしているね」

西「また頭が痛てぇ……何一つ理解できねぇ……一つずつ説明してくれ……」

凛「えっと……」

凛は西に今までの狩りを思い出しながら、自分の経験を話しはじめる。

それによって手に入れた武器や、その使い方も詳しく西に説明していた。

最初は普通に話していた凛だったが、少しずつその時の事を思い出してきたのか徐々に饒舌に、目を輝かせながら語っていた。

凛「それでね、今回のボスを殺したときなんか、私すっごくさぁ!」

西「あァー、もういいよ。よくわかッたから」

凛「……何? 折角話してあげてるのにそんな冷めた顔して聞くなんて」

西「いや、俺、結構引いてるから。お前、本当に頭がおかしー女になッちまッたんだなーッて」

凛「はぁ?」

西「だッて自分の身体がバラバラになッたり、半分潰されたりして気持ちよくなるッてありえねーだろ」

凛「……」

西「それに一人で毎日ミッションをこなすッて、普通に無理だろ。お前どこのバトルサイボーグだよ? 人間止めちゃッてンだろ?」

凛「……」

西「さらに武器も巨大ロボットとか飛行ユニットとか転送システムとか重力フィールドとか、お前一人でアメリカに勝てんじゃねーの? 兵器だよ兵器! お前、人間じゃなくて人型決戦兵器ッて奴だ!」

凛「……そろそろ、怒るよ?」

西「……悪りィ」

青筋を立て、剣を伸ばし始めた凛に素直に謝る西。

凛「はぁ……アンタなら分かってくれるって思ったんだけど、その感じじゃアンタも私の気持ちを理解してくれなさそうだね……」

西「ワカるわけねーだろ。イカれてんのか?」

凛「……あのさ、さっきから失礼だと思わないの? アンタ口悪すぎ」

西「お前がイカれた事を言い続けてるからこーなッてんだろーがよ」

凛「…………やっぱり私にはあの二人しかいないみたいだね。未央と卯月ならこんな私も受け入れて理解してくれると思うし」

西(無理だろ)

その言葉だけは言わないようにした西。

伸ばした剣を手に持った凛が恋する乙女のように目を輝かせて夢想していたからだ。

西の危機感知能力が全力で言葉を声に出すことを防いでいた。

凛「あ、そうだ」

西「ん?」

凛「試さないといけないことがあったんだった」

凛は奥の部屋からパソコンを持ってくる。

100点武器で手に入れたパソコン、そのパソコンを持ち、ガンツの傍においてパソコンを起動させる。

凛「えっと……このケーブルでいいのかな?」

ガンツの内部にいる人間に接続されているケーブルの一本を外し、手に持つ凛。

凛の突飛な行動に驚き、静止の声をかける西。

西「お、おい! お前なにやッてんの!?」

凛「ガンツを制御しようと思って……ああ、ここに刺せるんだ」

西「制御ッて……マジかよ……」

凛「これで……起動……っ!!」

凛がケーブルをパソコンに繋ぐと、パソコンの画面に文字と数字の羅列が表示された黒い画面が次々に現れる。

凛「何これっ!? え、えっと……」

凛はその画面をどうすることも出来ずにただただキーボードに這わせた指を震わせながら、次々に表示される画面を目で追うことしか出来なかった。

凛「くっ……次から、次へと……」

パソコンに表示された黒い画面は、パソコンのモニターを埋め尽くす数になっており、凛はそれをただ見続ける。

何も出来ずに、凛が何も理解することもできずに、諦めようとしたその時、

西「少し、いいか?」

凛「え? う、うん」

凛の後ろでモニターを見ていた西が、凛が触れていたパソコンを奪うように自分の前にもって行き、キーボードを操作し始めた。

カタカタと淀みなく黒い画面に文字と数字と記号を打ち込み始める西。

何度も規則性のある文字を入れて、西が少し強くエンターを叩くと、一つの画面が消えた。

すぐに浮上した画面に休みなくキーボードを操作し打ち込み続ける西。

それを呆けた顔で見ていた凛は。

凛「……もしかして、わかるの?」

西「……なんとか、なッ!」

またモニターの黒い画面が一つ消える。

それを見て凛は西が本当にこの意味不明な文字と数字の羅列を理解して、解析しているのだと知る。

それからは凛は西の行動を黙って見続けていた。

西は少しずつ独り言が多くなり、その独り言が多くなるにつれ処理速度が上がっていく。

モニターの黒い画面はどんどん消えていき、残り数画面となったところで。

西「ッ!?」

凛「どうしたの?」

西「……ダメだ、これ以上、アクセスできねぇ」

その言葉にモニターを見てみると、SYSTEM ALERTと表示されている。

凛「アクセスできないって……それ以上はアンタも分からないってこと?」

西「いや、そうじゃない……これ以上進むには何か条件が必要らしい、意図的にブロックされちまッてる……」

凛「条件?」

西「ああ……クソッ……ダメだ、それを調べるのも手間取りそうだ……どれだけかかるかわからねぇ……クソッ」

忌々しげに歯軋りをしながらもキーボードを叩き続ける西。

画面を開いたり消したり、何かを入力したりと、最初よりも高速に解析をしている西だったが、どうにも芳しくないようだった。

凛はその様子を見続けて、膝を抱えて体育座りの体勢になって解析し続ける西を見続けていた。

ガンツの部屋には西の独り言のみが響き渡り、凛はその様子をじっと見続け、かなりの時間が経過し西が怒声を上げ床を殴りつけたところで声をかけた。

西「クッソッ!! ンだよこれ!!」

凛「……ねぇ、少し休憩したら?」

西「あァ!? もう少しで突破できンだよ!! 少し黙ッてろ!!」

凛「……だって、もう朝になるよ?」

西「あァ?」

西が窓の外を見ると、空に白み始め日の光が差し始めていた。

凛「……アンタ結構疲れてるみたいだし、少し眠ったほうがいいって」

西「……チッ」

西は凛に指摘されて、自分がかなり疲弊している事に気付く。

この疲れた状態でまともな思考が出来ないと判断した西は、その場で横になり始める。

凛「ちょっと! ここで寝るの!?」

西「少ししたら起こしてくれ、その後続ける」

凛「ちょっと、ねぇっ! ……もう寝てる」

横になってすぐに寝息を立て始めた西を呆れた目で見ながら凛は窓の外を見てため息をつく。

凛「はぁ……まさか朝になっちゃうなんて……どうやって言い訳しよう……」

凛「部屋を出たら鍵が閉まっちゃうから、このまま部屋を出る訳にも行かないし……」

穏やかな寝息を立てる西を見て、小さく欠伸を上げる凛。

凛「ふぁ……眠い……」

凛「仕方無い……私もここで少し眠って、気が済むまで付き合うとするかな……」

凛「元はといえば私がガンツの制御を試そうとしたからだし……」

凛「はぁ……夏とはいえ朝は少し寒いし、着替えるかな……」

凛は奥の部屋に入り、スーツに着替えてガンツの部屋に戻り、壁にもたれるようにして座り頭を膝に乗せて目を閉じた。

すぐに凛は睡魔に襲われて意識を飛ばす。

凛が目を覚ますのはそれから数時間が経過して、物音を聞いたときだった。

西が寝返りを打って薄っすらと目を開けたと同時に凛も顔を上げて西と目が合う。

それからは西がすぐ起こせと言ったのにと文句を言いながらも解析作業を開始するも、数時間がたち一向に解析できず、西が癇癪を起こしたところで解析作業も終わる事になった。

夜から何も食べずにいた二人には夕方にさしかかろうとした時点で限界が訪れて、解析する事は諦めて部屋を出ることとなる。

西「おい、渋谷! そのパソコン貸せ!」

凛「え?」

西「遠隔で解析できッか調べるから貸せ!」

凛からひったくるようにパソコンを奪い取ると西はそのまま歩き始める。

凛「ちょっと待って」

西「あン?」

凛「調べるのはいいけど何か分かったら連絡頂戴、それが貸す条件」

西「……あぁ、分かッた」

凛「後、未央と卯月をこちら側に引き込む案も考えておいてね」

西「……はいはい」

凛「それじゃ連絡先教えるから」

凛は西に連絡先を教えてその場を立ち去る。

西の携帯は電池も切れていて操作も出来なかったので、凛は紙に自分の電話番号を書いて西に手渡した。

西はその紙を握りながら、凛の姿が見えなくなるまでその場で凛の後姿を見続けていた。

7.訓練 + オニ星人編 おしまい。

今日はこの辺で。

8.GANTZ:O 編


先のミッションが終わり、家に戻った私を待っていたのは、これでもかというくらい不機嫌そうな顔をしたお父さんと、困った顔をしたお母さんだった。

家についてすぐに私はお父さんとお母さんに呼びつけられて説教をされた。

ここ最近、夜中に特訓をする為に出歩いていたこともばれていたみたいで、かなりクドクドと説教をされた。

お母さんは殆ど口を挟まず、お父さんが私に今回の朝帰りの件も含めて問い詰めてきた。

やれ年頃の女の子が夜に出歩くなとか、悪い人達と付き合い始めたのじゃないかとか、まさか男が出来たのかとか。

流石に言いくるめれ無さそうだったので、ここは素直に謝ってしばらくは昼間の特訓時間を家の手伝いに当ててお父さんのご機嫌取りをすることにした。

お父さんは私が家の手伝いをして、私と一緒にいるとき、機嫌が悪くなる事はまったく無い。

夏休みの間はお父さんのご機嫌取りをして、ほとぼりが冷めるのを待ち、今後は部屋から出るときも細心の注意を払わないといけないなと考える。

そんな事を考えていると、店のほうから声が聞こえてきた。

「……あの、すみませーん」

どこかで聞いたような声。

お客さんと考えたお父さんは足早に店のほうに向かっていった。

それに私も続き、店に向かうと。

加蓮「……あの、渋谷凛さんはこちらのお店の娘さん…………えっ?」

奈緒「……加蓮? …………え?」

凛「あ……」

その二人の姿を見たときに私の胸の鼓動が高まった。

あの日見た二人が店先に立っている。

私を見てその顔を驚愕のものと変化させて。

奈緒「お、お、おい! な、なんで生き…………」

奈緒の口を加蓮が塞ぎ、奈緒が発そうとした言葉を押さえ込んだ。

そのまま加蓮は片手を上げて私に声をかけてくる。

加蓮「やっ、久しぶりー、ちょっと話があるんだけど、今忙しい?」

私にアイコンタクトを送ってくる加蓮、昨日の事を聞きたいんだけどと目で言っている。

ガンツ関係の話しだし、お父さんがいる前で話せない。

とりあえず話をする為にも……。

凛「……久しぶり、中学以来だったよね? 今日はどうしたの?」

加蓮「大事な話、少し時間ほしいんだけどさ」

加蓮がそういって私を見つめてくる。

私は視線をお父さんに向けると、加蓮と奈緒の視線もお父さんに向かう。

その状態でお父さんに、

凛「ごめん、お父さん、中学卒業して久しぶりに会う友達なんだ。少し話がしたいから店番は明日でもいい?」

「……ああ」

凛「ありがと」

お父さんに許可を貰った私は二人を連れて私の部屋に移動した。

二人を部屋に招いて、ドアを閉めてやっと一息。

凛「ふぅ……」

奈緒「ふぅ、じゃねえよ! お前、昨日死んだのに、なんで……」

落ち着く間もなく奈緒から質問だ。

凛「死んだ? 誰が?」

奈緒「お前だよ、お前!」

加蓮「奈緒、ストップ」

奈緒「なんだよ!? っていうか、加蓮は何でそんなに落ち着いてるんだ!? 凛が生きてるんだぞ!?」

加蓮「誰かに生き返らせてもらったんでしょ、3番の再生」

奈緒「……あ、そうか」

冷静な加蓮、確か加蓮は7回クリアして、その内の1回を誰か再生している。

私を誰かが再生したと思っているみたいだけど……。

凛「えっと、私そもそも死んでないけど?」

奈緒「はぁ!? どう見てもあの時死んでたじゃねぇかよ!? お前首折れて頭がとんでもないところにあったんだぞ!?」

凛「折れ所が良かったみたいであの後意識も取り戻したよ」

奈緒「お、折れ所が良かったって……そんなレベルの折れ方じゃなかったような気がするんだけど……」

加蓮「そっか、そうだったんだ」

奈緒「加蓮!? お前何納得してるの!?」

加蓮「だってアタシもお腹を貫かれても生きてたし、凛も首を折られたけどギリギリ生きて戻ってこれたって考えれば納得でしょ?」

奈緒「……ま、まあ、それもそうか……」

何か納得した二人。

どうやら加蓮も結構危ない状態だったみたいだ。

凛「加蓮も危なかったみたいだね」

加蓮「うん、正直昨日のミッションはキツかったからね。最後なんて記憶がなかったし……死んでもおかしくなかったよ」

凛「そうだったんだ……」

奈緒「危なかったっていうか、お前達二人とも死んでたようなもんだろ……」

加蓮「まあ、それもそうだね。誰かは分からないけど、あの100点のボスを倒してくれなかったら確実に死んでたし」

奈緒「ああ……誰だかわからないけど、感謝しないといけないよな」

凛「別に感謝しなくてもいいよ」

加蓮「え?」

奈緒「ん?」

凛「?」

奈緒「感謝しなくてもいいって……え?」

凛「うん、私は最後のトドメをさしただけだから。アイツ、かなり弱っていたから私じゃなくても最後のトドメはさせたと思うし」

加蓮「……えっと、凛がアイツを倒したの?」

凛「そうだけど」

今度は加蓮も驚いた顔をしている。

奈緒に至っては口をパクパク開いたり閉じたりして私を指差している。

奈緒「……いやいやいや、首折れて瀕死の状態だったんだろ?」

加蓮「……だよね。私が最後に見たときも酷い状態だったし、あの状態でどうやって……」

凛「折れ所が良かったみたいで、頭を支えれば動く事はできたから、落ちていた刃を使って油断させて倒したよ」

奈緒「…………」

加蓮「……そっか、折れ所が良かったんだ……それなら出来るかも……」

奈緒「いや、出来るわけ無いだろ!? どう考えてもおかしいだろ!? 人が首折られてギリギリ生きてるのは納得できるけど、動いてあんな奴を倒すなんてできるわけないだろ!?」

凛「出来ないって言われても……出来ちゃったものは出来ちゃったんだし……」

奈緒「出来ちゃったって……信じられねえよ、もう……」

奈緒は頭を抑えながらブツブツと呟き、加蓮は首を押さえて「折れたらどこまで動けるものなんだろう」って呟いている。

少し話が途切れたし、何で二人が私の家に来たのかを聞いてみよう。

凛「ねぇ、何で二人とも私の家に来たの? 私を訪ねてきたみたいだけど」

その質問をすると二人は顔を見合わせて、何か変な表情をしている。

説明しづらそうな雰囲気を出している。

奈緒「……えーっと、その、あれだ」

凛「?」

加蓮「アタシ達、凛が死んだって思っててさ、なんだか……こう……胸にすっぽりと穴が空いたような気分になっちゃってて……どうしようもないのは分かってたけど、凛の家を調べて、気がついたらここに来てた……」

凛「……何それ?」

奈緒「何それって言われてもさ……今は凛の顔を見てそんな気持ちも吹っ飛んじゃったよ。とにかく昨日からさっきまであたし達はものすごくせつない気分だったって事、すげえ説明しづらい」

二人とも私が死んだと思って何かを感じた?

出会って1時間も立ってなかったはずの私が死んだと思ってせつない気持ちになった?

私の胸の鼓動が大きく跳ねる。

凛「あ、えっと、私が死んで悲しかったってこと、なのかな?」

加蓮「……悲しかったのかな? もう凛と会えないって考えたらすごく胸が締め付けられる気分になって……やっぱり悲しかったんだろうね」

奈緒「あたし達泣いちゃってたしな……多分、悲しかったんだと思う。碌に会話もしてないし出会って間もなかったはずなのに、なんでか分からないけど……」

凛「そっか……」

さっきから私の心臓の音がうるさい。

未央や卯月と初めて会ったときもこんな感じだった。

この二人ともっと話したい、もっとこの二人のことが知りたい。

凛「二人ともさ、確か千葉のガンツでミッションをこなしてるんだよね?」

加蓮「ガンツ? もしかして黒球さんのこと? 黒球さんってガンツって言うの?」

凛「あ、正式には分からないけど、私たちはガンツって呼んでる」

加蓮「ガンツか……なんだかしっくり来るし、何時までも黒球さんって名前もアレだし、アタシたちもガンツって呼ぼうかな」

奈緒「ガンツねぇ……凛は東京だっけ?」

凛「うん」

奈緒「東京かぁ……もしかしたら加蓮もそっちにいたかもしれないんだよなぁ……」

凛「? どういうこと?」

加蓮「アタシ、元々東京に居たんだけど、病気が酷くなって千葉に移ったんだ、それでそのまま千葉の病院でぽっくりと死んじゃったけど、そんなアタシを助けてくれたのがアタシ達のガンツってわけ」

凛「ぽっくりって……加蓮は病死だったの?」

加蓮「まぁね。末期は結構ヤバかったよ~、何でアタシだけこんな目に会わなきゃいけないのって、アタシの身体はどうしてこんなにアタシ自身を苦しめるのって、毎日世界や自分の身体、アタシを世界に産み落とした両親、テレビとかに映る元気な人たちを呪っていたっけ」

奈緒「でたよブラック加蓮」

加蓮「うっさい。ま、そうやって何もかもに絶望しながら死んでいったアタシを救ってくれたのがガンツ。最初は驚いたよ~、物心ついた頃からずっと感じていた倦怠感がなくなって身体の痛みも何も感じない、苦しみからぜーんぶ解き放たれたんだからさ。あの時は天国は本当にあったんだって号泣したね」

加蓮「その後、ガンツに表示された文字を見てアタシはこれってもしかして神様なのって思ってたっけ。何の疑問も抱かずにその後に表示されたやっつける対象を見て、ああ、この変なのをやっつけなきゃいけないんだって思ってそのまま実行したんだよねぇ」

一番最初の狩り……。

あのネギ星人、今思えば本当に弱い宇宙人だった。

あの時は、死ぬのが怖くて、ネギ星人を殺したことも怖くって……。

凛「……怖くなかったの?」

加蓮「え?」

凛「あっ、あれ? えっと……」

何を言っているんだろう。

昔を思い出して、考えていたことが口に出ていた。

加蓮「一番最初の狩りのこと?」

凛「あ、……うん」

加蓮「別に怖くなかったよ」

凛「え?」

加蓮「だってさ、その時は怖いっていうか、天国に来たアタシが神様にお願いされて、お願いされたことをやらないといけないって事しか考えてなかったし、もしかしたらアタシは神様に選ばれて、天使になったのかなっても思ってたし」

奈緒「でたよ脳内お花畑加蓮」

加蓮「うっさい。まあそんな感じで狩りが怖いなんて思わなかったし、星人を倒すこともとくに抵抗はなかったかな」

凛「そうなんだ……」

奈緒「問題なのはそれからだよな?」

凛「?」

加蓮「問題って……何が?」

奈緒「何がじゃないだろ……お前、あんなとんでもない狩りを自分から進んでやり続けてさぁ」

凛「っ!!」

自分から進んで?

そういえばそうだ、加蓮は7回クリアしてる。

ハードスーツを手に入れているし、ずっと2番を選び続けている。

1回は再生を選んだみたいだけど、2番のほうが圧倒的に多い。

ということは、もしかして加蓮も……。

凛「もしかして、狩りが楽しいの?」

加蓮「え?」

奈緒「はぁ?」

凛「……」

加蓮「楽しいって……別に楽しいとは思わないけど……」

凛「……なら、何で加蓮は狩りを続けてるの?」

加蓮「ガンツのお願いだから」

凛「?」

加蓮「アタシを救ってくれたガンツがアタシにお願いしてくれてるんだから、それに答えないといけないでしょ?」

奈緒「……信じられるか? 加蓮はマジメっていうか、ガンツがお願いしてくる以上、解放を選ばないって言ってるんだよ。あたしがどんなに説得しても無駄、あんな命がけの狩りを自ら進んでやり続けてるわけ」

凛「……」

違った……かぁ。

もしかしたらって思ったのに。

加蓮「命がけって言っても、アタシは一回死んだし、一回死んだアタシを助けてくれたのはガンツ。そのガンツの為に頑張って何が悪いの?」

奈緒「ほら、これだよ。堅物加蓮」

加蓮「堅物って言ったら奈緒もそうでしょ、アタシがあの部屋にいる限りは自分も残り続けるなんて言ったでしょ」

奈緒「うっ……」

凛「どういうこと?」

奈緒「……だってさ、あんな狩りを続けてたらいつか加蓮死んじゃうだろ? あたしがいればもしかしたら加蓮がピンチのときに助けてあげられると思ってさ」

加蓮「ほら、こんな事言ってるんだよ? しかもさ、奈緒は1回星人に殺されちゃったのにこんな事を言い続けてるんだよ、アタシより奈緒のほうが堅物だと思わない?」

凛「殺されたって……」

加蓮「アタシを庇って頭を吹き飛ばされて即死。あの時は流石にアタシも堪えたよ、病気のときと同じくらい心臓が痛かったし、心が張り裂けそうだった」

奈緒「昨日の狩りで腹に大穴を空けた加蓮を見たときはあたしもそんな気持ちになったよ」

加蓮「だから、次100点取ったら解放されなって言ってるでしょ?」

奈緒「絶対嫌だ。あたしが解放されるときは加蓮と一緒にだ」

加蓮「アタシはガンツのお願いを聞かないといけないから無理」

奈緒「それじゃあたしも加蓮を助ける為に残り続ける」

二人は同時に私を見て、お互いを指差して「頑固でしょ」って言ってくる。

頑固だと思う、だけど羨ましいとも思える。

私が理想とするには少し違うけど、あの戦いの舞台に一人じゃなくて二人で上がっている。

お互いの本音を隠さないで本心をぶつけ合いながら。

私もいつか未央や卯月とこんな関係に……。

加蓮「はぁ……何百回やったかもわからないこのやり取りは後にして、凛は東京のガンツで狩りを続けてるんだよね?」

奈緒「14回だっけ? 加蓮以上にクリアしてるなんて信じられないけど、凛も加蓮と同じようにお願いを聞き続けてる感じなのか?」

凛「……ま、そんなところかな」

また嘘をついてしまった。

二人とも少し変わっているけど、私みたいに完全に頭がおかしくなっている人ではない。

多分私の本心を話したら二人とも引くだろう、私を変な目で見るだろう。

未央や卯月からそんな目で見られたくないのと同じで、この二人にも変に思われたくない。

本心は話せない。

加蓮「それならもしかして、凛も病気で死んじゃったの?」

凛「ううん、私は交通事故。トラックにはねられたところをガンツに助けてもらったんだ」

奈緒「交通事故か……普通だな」

凛「……普通って何?」

奈緒「いや、あたしや加蓮みたいに絶望しながら死んでいったのとは違って一瞬で死んだんだなーって思ってさ」

凛「……奈緒はどうやって死んだの?」

奈緒「あたしの直接の死因は餓死」

凛「が、餓死?」

奈緒「そ、メチャクチャきついぞー、2ヶ月くらいかな? 水だけ飲んで、最後にはその水もなくなってそのまま死亡」

凛「水だけって……何か虐待でも受けてたの?」

奈緒「ああ、違う違う。あたし人気の無い森の古い井戸に落ちちゃってさ、誰にも気付かれずに助けられることもなく死んじゃったんだ」

凛「うわ……」

奈緒「それもさ、ストーカーに追われて逃げた先の森でだよ? まったく気がつかなかったなー、あんな木の葉に隠されて落とし穴みたいになってるところ」

奈緒「しかも酷いのはそのストーカー! あたしが落ちたのを見てさ、一度は覗き込んだんだよ、あたしは助けてって叫んだのにそいつはそのまま知らん振りして逃げていってさ」

凛「……」

奈緒「あたしはすぐに携帯で人を呼ぼうと思ったんだけど、落ちたときに携帯壊れちゃって呼ぶことも出来なくて、助けを呼ぼうと叫び続けたんだけど、誰も来てくれなくてさ、その辺りから本格的にやばいって思ったっけ」

奈緒「1日叫び続けて喉も潰れちゃったけど誰にも気付いてもらえなくて、もう1日叫び続けて助けを求めたけど誰も気付いてくれなくて、次にその井戸をよじ登ろうって考えたんだ」

奈緒「何度も何度もよじ登ろうとして、爪が割れて、指がずたずたになっちゃったけど結局何十回目かで指が折れちゃったと同時に諦めたんだ。この辺りからあたしの頭に死の恐怖が浮かび上がり始めてさ」

奈緒「上る事を諦めたあたしは何とかならないかって考えて、井戸を掘り始めたんだよ? 木の葉が積もって柔らかかったし、もしかしたら井戸の底に川が流れていて外に通じているかもしれないなんて考えてね」

奈緒「でも、必死に掘り進めて、出てきたのは石造りの井戸の底。川なんて何もなくてさ、本当にこの時は絶望したなー、この時点で1週間は経過してて飲まず食わずでもう井戸の底のみに希望を見て掘っていたのにこれだもん、その場で動けなくなって気を失っちゃったよ」

凛「……」

奈緒「でも、その日、雨が降ったみたいでさ、石造りの窪んだ場所に泥水がたまってたんだ。目を覚ましたあたしは1週間ぶりの水分を見て、その泥水をすすってたんだよね。もう無意識だった、喉を潤したくてさ」

奈緒「そうやって、動けなかったけど雨が定期的に降って水分だけは得ることが出来て何とか生きていられたんだけど、1ヶ月くらい経ったときかな? あのストーカーがやってきたんだよね」

奈緒「井戸を覗き込んであたしの姿を見たときにすごい顔してた、あたしは最後の力を振り絞って叫んだんだけど、あいつそんなあたしになにをしたと思う?」

凛「……えっと、わからないよ」

奈緒「井戸に蓋をしたんだよ」

凛「…………」

奈緒「いやぁ、あの時は本当に目の前が真っ暗になったな。いろんな意味で」

加蓮「笑えないって」

奈緒「ツッコミありがと! そんなわけで雨も入ってこなくなって水分も何もなくなって、真っ暗な井戸の中であたしは絶望しながら、あたしをこんな目に会わせたあのストーカーを呪いながら死んでしまった訳です、おしまい」

凛「……重い」

奈緒「でも、死んだあたしが一番最初に目にした加蓮の姿は今でも鮮明に覚えているぜ、ここは天国だ、女神様があたしを迎えに来てくれたんだって」

加蓮「あの時の奈緒、顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしてアタシに飛びついてきたよね」

奈緒「し、しかたないだろ? あんな目にあった後なんだし」

加蓮「そうねぇ、あの後アタシから抱きついて離れなくて、そのまま奈緒を抱えながら狩りしてたのも仕方無いよねー」

奈緒「も、もう、それ忘れてくれよ!」

加蓮「忘れませんー、あの奈緒はずっと震えてアタシの事を女神様助けてくださいって呟き続けていたことを……」

奈緒「あーもうっ!! やめてくれよっ!」

奈緒が加蓮の口を塞ごうと飛びかかっていった。

二人とも楽しそうにしている。

でも、二人ともさっき聞いたみたいにとんでもなくキツイ死に方をしてガンツの部屋にやってきたんだ。

こうしていることが奇跡みたいに。

そうやって考えていると、部屋のドアがノックされた。

ドアを開けると、お母さんが部屋を覗き込んで、私たちに聞いてくる。

「凛、もう遅い時間になるけど、お友達も夕飯を一緒にするの? 今から準備をするけど」

凛「あ……二人ともどうする?」

奈緒「うわ、なんだかんだでこんな時間かよ、家に着くの遅くなっちゃうな……」

加蓮「ほんとだ、いつの間にこんなに時間経ってたんだろ? すみません、アタシ達帰りますのでお構いなく」

「あら? そう?」

凛「うん。そういうわけだからちょっと二人を送っていくね」

「またそのまま遊びにいっちゃダメよ? 今日はすぐ帰ってくるのよ」

凛「はいはい、わかってるって」

少しだけ小言を言われかけたけどすでに帰り準備をしている二人を連れて店先まで一緒に歩く。

今日はここで見送ろう、後ろでお父さんの目も光っていることだし。

凛「二人ともまたね」

奈緒「おうっ! またな……って、折角なんだし連絡先交換しようぜ」

凛「あ、うん。そうだね」

すでに携帯を取り出してニコニコしている加蓮とその加蓮に遅いぞーっていわれている奈緒と連絡先を交換して私たちは別れた。

その日から、毎日のように私たちはチャットツールや電話でお互いの事を話すようになった。

数日もしないうちに、私たちは未央や卯月も一緒にもう一度会う約束をしたのだった。

今日はこの辺で。

私は今訓練場の一つに向かっている。

前回のミッションから数日空いたが、今日からまた特訓を再開する為にこうして出向いた。

時刻はまだ朝の5時。

空は薄暗く太陽の日がやっと昇ってきた頃。

夜遅くに訓練を行うのはお父さんの目があって少し厳しくなっているから、これからはこうやって早朝訓練に切り替えることとなった。

朝早く起きる事は苦じゃない。

低血圧でもないし、今までの毎日の訓練のおかげか私の身体は健康優良。今まで夜の訓練に当てていた時間を睡眠に当てて朝にその時間を持っていくだけ。

ついでに言うと、朝早くの訓練ならハナコの散歩も一緒に出来る。私はもっと早くこうしておけばよかったなんて思いながら、抱きかかえたハナコと共に訓練場に到着した。

凛「うわ、霧がすごい……」

早朝の山奥、視界は濃霧といってもいいくらいの霧で満たされて視界はすごく悪い。

でもこの霧は訓練に使えそうだ。

視界が悪いときの対処法、慣れておくに越したことはない。

そうやって、訓練方法を考えていると、私の腕の中のハナコが小さく鳴き声をあげて私を呼んだ。

ハナコをみると、目をパチパチさせて何かを期待するようなまなざしを私に向けている。

凛「わかってるよ、今日はいつもの散歩コースじゃないし、ワクワクしてるんだよね」

ハナコは知らない場所に行くのが好きだ。

散歩をするときもいつもの散歩コースじゃないところに行くと尻尾を振りながら先に先にと走り出す。

今日は散歩コースどころか、最初は空を跳んで、ハナコが見たこともないような山の中にきているのだから興奮もするだろう。

私はハナコを優しくおろすと、ハナコは私の周りを元気よく駆け始め、飛び跳ねている。

凛「今日から毎日色々なところに連れて行ってあげるからね」

訓練場はこのほかにも何個もある。

毎日ローテーションを組んで訓練する場所をかえながらハナコの知らない場所に連れて行ってあげよう。

私の言わんとしている事が分かったのか、ハナコは大きく鳴いて私に飛びついてきた。

凛「ふふっ、それじゃあ、今日の散歩を一緒にしようか」

「ワンッ!」

そうやってハナコと一緒に散歩をしようとした矢先。

私とハナコの近くに霧の中から何かが近づいてくるのが見えた。

距離が数メートルくらいになってその二つの影が誰なのかわかる。

数日振りに会う未央と卯月。

凛「あ、二人ともおはよう。まだ時間まで結構あるのに早いね」

今日は6時から訓練を始めようと約束して卯月・未央・加蓮・奈緒の4人を呼んでいる。

あの狩り以来この4人で集まるのは初めてだ。

数日前、加蓮と電話したときにお互いの訓練方法を話す機会があったので、その流れでどうせならみんなで集まって訓練をしようという事になった。

今日はその初日。

未央と卯月は私に声をかけてくるが……。

未央「おはよ、しぶりん」

卯月「おはようございます」

凛「未央、卯月……?」

なんだろう、未央と卯月に違和感を感じる。

この数日顔を合わせていなかったからかな?

いや、違う、何か変。

凛「未央? 卯月? 何かあったの?」

未央「え?」

卯月「何かって……なんですか?」

凛「いや、だって……二人とも何か雰囲気が……」

ああ、そうだ。

雰囲気が変なんだ。

表情にもそれが浮かび上がっているからそう感じたんだ。

二人ともいつもはもっとゆるい感じが出ているのに、今日はなんというか……そう、二人ともいつになく集中している感じがする。

まるで二人とも、いつか見たステージの本番前のような……。

凛「すごく真剣な表情をしてるよ。これからステージが始まる前みたいな感じが二人からするんだけど」

未央「……ステージ前かぁ。……うん、そうかもね」

卯月「……私たちこれからは、アイドルの仕事以上に、訓練を頑張って強くならないといけないって覚悟しましたから」

凛「えっ?」

アイドルの仕事以上にって……。

それって一体?

未央「あのさ、しぶりん。私たち、今週末のサマーフェスに出たらしばらくアイドル活動を休止しようって決めたんだ」

凛「!?」

卯月「本当はサマーフェスも出ずに休止するって考えていたんですけど……みんなに、サマーフェスに向けて頑張っているみんなに向かってそのことを言うことができませんでした……」

凛「ちょ、ちょっと、どういうことなの?」

アイドル活動を休止するって……。

二人ともあんなにアイドルに拘っていたのに。

卯月は自分の長年の夢だって言っていたし、未央もどこまでも楽しくなれる最高の道だって言っていた。

その二人がなんで……。

未央「しぶりんはさ、いつだって私たちを助けてくれていたよね」

卯月「私たちがあの部屋に来てからずっと……そして、私たちのせいであの部屋に残り続けてますよね……」

凛「……」

未央「私たちさ、ずっとしぶりんに甘えてた……この前の戦いでそれを痛感したんだよ……」

卯月「凛ちゃんはあんな目にあったのに、それなのに変わらずに私たちを守ろうとしてくれてる……」

未央「しぶりんみたいな人は……誰かの為に自分を投げ出せる人は、あの部屋にいちゃいけないんだよ……」

卯月「はい、凛ちゃんはこのままだと、いつか必ず死んじゃいます……そんな事になる前に、凛ちゃんはあの部屋から出るべきなんです……」

未央「そのためにも、私たちは覚悟を決めた」

卯月「凛ちゃんが一日でも早くあの部屋から解放される為に」

二人とも本気だ。

本気でアイドルという道や、その仲間たちよりも、私の事を優先して考えていてくれている。

二人の中での一番は私。

それがたまらなく嬉しい。

凛「二人とも……いいの?」

未央「いいもなにも、もう決めたんだ」

卯月「私たち、みんなであの部屋を出る為ならなんでもします、どんなことだって……」

凛「……」

沸きあがる喜びと共に、ほんとうに小さく残念な気持ちが浮かぶ。

二人は私を選んでくれた、だけどそれはガンツの部屋から解放される為にという目標の為。

私の本心と限りなくズレてしまっているこの状況。

何とかして二人を私と同じように、私と同じく狩りを楽しみ殺しの気持ちよさを知って、みんなで同じ目標に向かって突き進んでいきたい。

でも、それは普通にやっていると訪れない未来になってしまった気がする。

ガンツの部屋から解放される為に、アイドルの活動を休止する覚悟を決めた二人。

二人は狩りをするにしても楽しむより先に解放されるという事を考えて狩りをするだろう。

それじゃあ、駄目だ。

二人とも私のように、狂ってしまわないと…………。

「ワンッ」

凛「ハナコ……?」

思考をめぐらせていた私の思考を無理矢理中断させたのは、私の足に噛み付いてきたハナコだった。

ずっと大人しく私の足元で小さくなっていたハナコ。

そのハナコが急に、まるで私の思考を邪魔するように足に噛み付く。

未央「……あれ? 今日はハナコもつれてきたの?」

凛「う、うん。散歩もしようと思って一緒に連れてきたんだけど……こらっ、ハナコ、噛むのを止めて」

卯月「ハナコちゃん、どうしたんですかね……」

本当にどうしたんだろう。

いや、ハナコがこうやって何かをするときは決まってハナコ自身が何かを感じたときだ。

ハナコは普通の犬よりも頭がいい。

人の喜怒哀楽というものを理解している節がある。

私が喜んでいるときや、辛いときはその時に合った行動をしてくる。

それなら今は一体?

私の気を引いて思考を中断させた……。

二人を私と同じように狂わせようと考えたときに思考を中断させられた。

凛「……ハナコ?」

もしかして、そんな事をするなって言いたいの?

「ワン」

凛「っ!?」

私の考えを読まれたように鳴き声を上げたハナコに驚いてしまう。

私の足を離したハナコは今度は急に後方に走り出した。

凛「ちょ!? ハナコ!?」

私はすぐにハナコを追いかけ始める。

すでに霧も晴れ、日も昇り視界は良好な状態。

ハナコが走る先は、まだデカ銃で押しつぶしていない木々が生い茂った森。

その森に入る寸前でハナコは立ち止まり、その場で尻尾を振りはじめた。

凛「ハナコ、そっちは危ないからいっちゃ駄目だよ!」

私がハナコを捕まえて抱きかかえると、私の目に二つの人影が映し出された。

加蓮と奈緒、二人が森の中から草木を掻き分けて現れたのだ。

凛「あ……」

加蓮「あっ、おはよー、凛」

奈緒「ぜぇーっ……はぁーっ……ぜぇーっ……はぁーっ……」

二人ともスポーツウェアのいでたちで、加蓮は額に玉のような汗を浮かべていたが、すごくいい笑顔で私に朝の挨拶をしてくる。

それとは逆に、今にも死にそうな顔をして、息も絶え絶えで汗だくの奈緒は私の顔を見るなり、最後の力を振り絞るように森の中から身を投げ出して私の足元に転がって仰向けになった。

凛「お、おはよう、加蓮。奈緒も……っていうか、大丈夫?」

奈緒「だ、大丈夫、でも、ちょっと休ませてくれ……」

凛「……何があったの?」

仰向けになって息を落ち着かせている奈緒は私の言葉に薄く目を開けながら、加蓮を指差して答えた。

奈緒「あそこのバ加蓮が、夜通し登山をしようとかバカな事を言ってきて、この有様」

加蓮「バカって何よ。ひどくない?」

奈緒「バカはバカだこのバ加蓮!! 登山するにしても何でスーツまで脱いで、本来の自分の力のみでやらないといけないんだよ!?」

加蓮「えー? だって、アタシ登山初めてだったし、始めてやる事はスーツの力を使わないでやってみたいと思わない?」

奈緒「思わねえよ!」

加蓮「ちぇー。ねぇ、凛はそう思うでしょ?」

凛「ごめん、状況がよくわからない」

どうやら二人ともスーツを着ずにこの山を登ってきたらしい。

……ここ、結構な山奥だし、麓からもすごい距離があるんだけど。

凛「二人ともスーツを着てないみたいだけど……まさか歩いてここまで来たの?」

加蓮「うん、そうだよ」

凛「……えっと、家から?」

加蓮「あっ、違う違う! この山の麓まではスーツを着て走ってきたよ。山を登る時だけスーツを脱いだんだ」

凛「……何の為に?」

加蓮「……ホラ、アタシって病弱だったって話したでしょ? そんなアタシが昔に見たテレビで登山の特集がやってたんだ。その時、登山って素晴らしいものなんだなって知ってからは、登山が私の夢に……」

奈緒「凛、騙されるなよ! こいつ、登山をすれば足腰を鍛えられるって考えただけだから! 今のこいつは身体を鍛えることが一番の趣味なんだからな!」

凛「あぁ……」

そういえばこの数日やり取りした中でそんな話も少し聞いたような気がする。

今の加蓮は病弱で動くことも出来なかった頃の鬱憤を晴らすように、毎日とにかく身体を動かしているらしい。

身体を動かして、自分の身体を鍛えると、それだけ今まで出来なかったような動きができるし、どんどん体調も良くなる。それに気付いた加蓮は自分の身体を鍛えることが楽しくてたまらなくなって毎日身体を鍛えているらしい。

加蓮「あらら、バラしちゃった」

凛「えーっと……足腰を鍛える為にここまでスーツも無しで来たの?」

加蓮「そうだよー」

凛「何時間かけたのさ……」

加蓮「2時間くらい? それくらいだよねー、奈緒?」

奈緒「バカ!! あたし達がこの山の麓に来たのは昨日の夜だろ!? もう10時間は登りっぱなしだったんだぞ!?」

加蓮「そうだったっけー?」

奈緒「……お前、絶対に確信犯だろ? そうじゃないとあんな時間にあたしの家に呼びに来ないよな……」

10時間って……。

この二人、何考えてるの……。

凛「ふ、二人とも、お疲れ様」

奈緒「本当に疲れたよもう……」

加蓮「ありがとー、流石にあたしも疲れちゃった」

加蓮はそうやって奈緒の横に腰を下ろして、背負っていたリュックからスポーツドリンクを取り出して奈緒に渡した。

そうやって二人を見ていると、私の腕から再びハナコが逃げ出して、別方向にかけ始める。

凛「あっ、またっ!」

加蓮「どうしたの?」

奈緒「犬?」

ハナコは少しだけ走って、私たちの様子を伺っていた卯月と未央の前で止まり尻尾を振りはじめた。

私たちの視線がそれぞれ交差する。

加蓮「あ、この前の」

卯月「あっ、確か……」

奈緒「おおっ、ニュージェネの二人だ」

未央「北条加蓮ちゃんと、神谷奈緒ちゃん、だよね?」

あの夜出会った5人がこの場に集まった。

それぞれお互いを見合わせているが、その全員の視線が、私が抱きかかえたハナコが大きく鳴いたのと共に私に視線が集まる。

卯月、未央、加蓮、奈緒。

そして、ハナコが私を見ている。

凛「あ……」

最近、こんな光景をどこかで見たような気がする。

まったく思い出せないけど、どこかで……。

この4人のほかに、もう一人、誰かがいたような……。

私は何気なく振り向く。

逆光で一瞬黒い人影が見えたような気がした。

だけど、それは気のせいだったようで、振り向いた先には誰もいない。

それが言い様にも無いくらい残念だと感じたのは何故だろう。

この不思議な感覚が私を包み込んでいる。

「ワンッ!」

今度は私を見ながらハナコが鳴いた。

ハナコのつぶらな瞳が私を映している。

その瞳を見ていると懐かしい記憶が呼び起こされる。

数年前、ハナコが私の家に来た時の事。

小学生だった私が、赤ちゃんだったハナコをこうやって抱きかかえてその瞳を見た時の事。

あの時は小さなハナコが本当に可愛くて、それでいてこんな小さなハナコは私が守らなきゃいけないなんて思ったんだっけ。

懐かしい記憶、その時の感情が蘇って、さっきの不思議な感覚にミックスされる。

その暖かくも不思議な感覚は、今の私の心に染み込むように広がる。

すこしの間ぼうっとしていた私は、みんなの声でまた意識を戻して、私をこんな不思議な感覚にさせるみんなに視線を戻し口を開いて会話を始めた。

今日はこの辺で。

未央「しぶりん? どうしたの?」

凛「あ、ごめん。なんでもない」

加蓮「それで、今日はこの子たちとも一緒に特訓をするって話だけど、この子達ってアイドルなんだっけ?」

卯月「あっ、そうです。……しばらくは活動を休止する予定ですけど」

奈緒「えぇっ!? なんで!? あたしニュージェネのラジオとか結構好きなんだけど……」

未央「私たちの番組、聞いてくれてるんだ……うぅ……」

凛「あー……なんだか収集つかなくなりそうだし、まずお互いの紹介をするよ」

みんなの事を知っている私がそれぞれに紹介する事にした。

とりあえずは、加蓮と奈緒のことを。

凛「未央、卯月、この前のミッションで一緒になった千葉のガンツチームの二人、覚えてるでしょ? この前二人とも私の家に来てくれて、それから連絡取り合って一緒に訓練しようかって話になったんだ」

加蓮「この前は挨拶もそこそこだったよね、アタシ、北条加蓮。よろしくー」

奈緒「か、神谷奈緒。よろしくな」

卯月「あっ、私、島村卯月です。よろしくおねがいします」

未央「本田未央。よろしくね」

奈緒だけ少し緊張してる感じがする。

ま、奈緒は最初はこうだけどすぐに打ち解けていくだろうし大丈夫かな。

凛「加蓮、奈緒。見てもらってわかると思うけど、ここが私たちの秘密の訓練場。他にも何箇所かあって、いつも私たちはこんなところで訓練してるんだ」

加蓮「へぇ、こんな場所が何箇所もあるんだ……」

奈緒「おい……次は絶対にスーツ着て移動するからな。もう登山はしないぞ」

加蓮「えぇ~? 奈緒はさっきの登山楽しくなかったの?」

奈緒「楽しいわけないだろ! 懐中電灯一つだけで、碌な装備も無い登山なんてもうこりごりだ!」

未央「あれ? 二人ともスーツ着てないの?」

加蓮「着てないよー」

卯月「す、スーツなしでこの山奥まで来たんですか?」

加蓮「まぁねー、やっぱり初めての登山は自分の力でやりたいって思うし」

奈緒「あたしは思ってないけど、加蓮がどうしてもって言うから……」

凛「登山は置いておいて、今日の訓練は、私が夜に動くのがちょっと難しくなっちゃったからこうやって朝にしたんだけど、みんな大丈夫だった?」

卯月「私たちは大丈夫ですよ。この数日、朝も夜も個人的に特訓をしてましたから」

卯月の言葉に未央が頷く。

加蓮「アタシは基本的に朝早いから全然問題なし。っていうか、いつもこの時間は走りこみをしてるし」

奈緒「あたしは、まぁ……大丈夫」

凛「ありがと。それなら早速今日の訓練を……」

もう日が昇ってきて、視界は良好、絶好の訓練日和となった。

だけど、加蓮から待ったの一声が入った。

加蓮「待って、えっと……卯月と未央でいいかな?」

卯月「あっ、はい」

未央「うん」

加蓮「それじゃ、凛、卯月、未央。あなた達、朝ごはんは食べた?」

「え?」

私たちは3人そろって声を上げてしまった。

朝ごはん?

凛「えっと……食べてないけど」

卯月「私も食べてないですけど……」

未央「私も」

私たちの返答に加蓮はやれやれといった表情で首を振っている。

奈緒はあさっての方向を向いている。

一体何なの?

加蓮「3人とも、訓練する前に朝ごはんを食べて、エネルギーを補給するよ!」

そう言って加連は自分のリュックから何かを取り出した。

まずはビニールシート。

その上に、色々食べ物が置かれていく。

おにぎりにサンドイッチ、プリンやシュークリーム、いろんな果物にお茶やジュース。

5人で食べても余るくらいの量。

というかこれだけの食べ物をリュックに入れてここまでスーツを使わずに来たの?

凛「え、えっと、訓練の後でもいいんじゃないの?」

加蓮「何言ってんの!? 朝ごはんを食べて訓練するのと食べないで訓練するのは全然違うんだよ!? 身体を動かすのに必要なエネルギーを先に十分とって、それから訓練を行うと筋肉のつき方も違うし、怪我もしにくいし、何よりも健康になるんだよ!」

あ、これめんどくさいやつだ。

このままだと加蓮の話が長くなると予想した私は、加蓮の謎のポリシーを特に聞こうともせずに大人しく加蓮が用意してくれた朝ごはんに手を伸ばした。

凛「あ、うん。それじゃあ、いただくよ。好きなの貰っていいの?」

加蓮「あれ? そこはアタシに色々と聞いてくるところじゃないの? 健康な食事方法とか、身体を鍛える為に必要な食べ物は何なのかって」

やっぱりめんどくさいやつだ。

絶対に長くなる。

触れちゃダメなやつだ。

凛「えっと、このおにぎりとかサンドイッチって加蓮が自分で作ったの?」

奈緒「そうそう! それ加蓮が作って持ってきたんだよ!」

私の目を見て私の考えていることを察したのか、奈緒が私の質問を拾ってくれた。

なんとなくだけど、こういったやり取りがかなりあるみたいだ。

キーワードは……健康とか身体を鍛えるとかそこらへんかな?

病弱だった過去の裏返しでそのあたりに敏感になってそうだ。

触れると長くなりそうだし、極力触れないようにしていこう。

凛「へぇ、未央、卯月。これ美味しそうだよ」

卯月「……朝ごはんを食べて訓練すれば、少しでも強くなれますか?」

凛「!?」

奈緒「!?」

卯月!? なんでそこで会話を拾っちゃうの!?

未央「……私たち、強くなれるんだったら、何でもするよ」

未央まで……。

私は恐る恐る加蓮をみると。

加蓮はニコニコしながら卯月と未央に、それはもう嬉しそうに語り始めた。

加蓮「強くなれるよ! 私が保証する! まずは朝ごはんを食べる事によって現れる効果と、健康について、それと理想的な身体の作り方についてだけど……」

そうやって加蓮先生の講義が始まってしまった。

加蓮が未央と卯月に色々と講義をしている間、私と奈緒は一歩引いて小声で話し始めた。

凛「……奈緒、加蓮っていつもあんな感じなの?」

奈緒「……いや、あいつ身体を鍛えることに関して妥協を許さないから、そこらへんが絡んでくるとああなっちまうんだ」

凛「……やっぱり。奈緒、結構苦労してるっぽいね」

奈緒「……加蓮と付き合っていく以上避けては通れない道になってるからもう諦めたよ」

凛「……そっか」

私はドヤ顔で講義する加蓮と、それを真剣に聞いている卯月と未央を見ながらおにぎりを口に運ぶ。

凛「あ、おいしい」

奈緒「うまいだけじゃないぞ。中の具とかも、栄養満点なものをバランスよく入れてるから何個か食べるだけで一日に必要な栄養素を無駄なく取れるんだ。少しカロリーは高いから動かないと後が怖いけどな」

凛「へぇ……すごいね」

そうやって奈緒と話しているうちに、加蓮が持ってきた食べ物を結構食べてしまった。

お腹も満たされたし、そろそろあっちのほうも終わったかなと視線を向けてみると。

加蓮「ほら見て。アタシの腹筋、すごいでしょ?」

卯月「す、すごいです……。引き締まってて、腹筋が割れてます……」

加蓮「力を入れると、ほら」

未央「うわぁ……8つに割れてる……すご……」

凛「……」

ウェアを脱いで、上半身をスポーツブラだけの姿になった加蓮が二人に向かって自分のお腹を見せていた。

何をやってるんだ……。

凛「何やってんの……?」

加蓮「この1年で鍛えあげたアタシのボディを見せてあげているの」

そういってポーズをとる加蓮。

引き締まった身体が朝日に照らされて輝いている。

凛「……そっか。それで話は終わったの? そんな事やってるなら終わったんだよね?」

加蓮「むっ、何? そんな事って、身体を鍛えることの有用性と、その結果もたらされる肉体美っていうのを教えてあげていたのに、そんな事って言っちゃうの?」

ああもう……。

本当にめんどくさいなぁ……。

凛「ごめんごめん。加蓮の身体はすごいよ、元病弱とは思えないくらいの身体をしてるよ。それで、そろそろ訓練も始めたいんだけど」

加蓮「なにそのテキトーな感じ。……ま、いいか。こっちも話ながら朝ごはんも食べたことだし、そろそろ訓練を開始しますか!」

凛「うん。それじゃあ……」

加蓮「それじゃ、卯月、未央、凛もスーツを脱いで」

凛「……は?」

今度は何を言い出すんだ……。

凛「えっと……。なんで?」

加蓮「卯月と未央に聞いたけど、凛達はスーツの力に頼っての訓練が多すぎだって思うんだ」

凛「まあ、訓練するときは基本スーツを使っているけど……」

加蓮「それだとまだまだだよ。本当の訓練は自分の肉体も鍛えて、スーツの力も制御して使いこなす、両方をこなしてやっと本当の訓練って言えるんだよ」

凛「ふぅん……」

加蓮「基礎となる自分の肉体を鍛えれば、スーツから生み出される力も底上げされるんだから自分の肉体は鍛えておいて損はないよ。っていうか、身体、鍛えようよ」

なんだか最後に本音が出ているような気がしたけど、加蓮のいう事にも一理ある。

加蓮も歴戦の猛者って言える力を持っている。その加蓮の訓練方法を取り入れるのも悪くないと思う。

凛「ん。分かった、今日は加蓮に訓練メニュー作成をお願いするよ」

加蓮「えっ! ホント?」

凛「うん。どんな訓練かも興味あるし」

加蓮「やった! よーっし、気合入れないとねっ!」

凛「お願い。私たちは着替えてくるからさ」

私たち3人は着替える為に持ってきた荷物を置いていた場所に歩き始める。

一応着替えも持ってきている、スーツの上にはジャージを着ているけど下着を着けないと色々キツイ。

そうやって3人で歩いているといつの間にか私たちの後ろにいた奈緒が小さい声で話し始めた。

奈緒「お、おい。何考えてんだよ? 加蓮の訓練に付き合うって本気か?」

凛「え? うん、本気だけど。ね、未央、卯月」

未央「うん、私たちは強くならないといけないからね」

卯月「はい。さっき加蓮ちゃんに色々教えてもらって、身体の鍛え方が足りないって実感しましたし」

奈緒「か、加蓮のやつ気合入っちゃってるんだぞ? 今ならまだ間に合うから加蓮に任せるのはやめろって!」

凛「何をそんなに嫌がってるの?」

奈緒「嫌って言うわけじゃなくて、あたしはあんた達の事を考えて……」

加蓮「はーい。そこまでー」

奈緒「ゲッ!? か、加蓮……いつの間に……」

加蓮「せっかくみんな気合入ってるのに邪魔しちゃダメでしょ。あっ、奈緒の事は気にしないでねー。この子、いつもこうだから」

加蓮「それじゃ、みんな着替えてきてねー、あっちで待ってるから」

終始笑顔の加蓮に引きずられて奈緒は連れて行かれた。

……今更だけど、何か嫌な予感がする。

いつもハードな訓練をしているから加蓮がやっている訓練もこなすことができるだろうと思って特に考えもせずにまかせたけど、奈緒のあの嫌がりようを見ると……。

凛「あの、さ。二人とも大丈夫? 急にスーツを使わないでの訓練になっちゃったけどさ」

未央「私は大丈夫、さっきも色々教えてもらって、あの子のいう事は的を得ていたし、今の私は確かに身体を鍛え切れていない気もするから」

卯月「私も大丈夫です。加蓮ちゃんの訓練を真剣にやります」

凛「そっか。……ま、いいか」

嫌な予感を押さえ込んで私たちはスーツを着替えて加蓮と奈緒の元に戻った。

戻ってきた私たちを加蓮は溢れる笑顔で迎えてくれた。

それに対して奈緒はすごく嫌そうな顔をしている。

やっぱり嫌な予感がする。

加蓮「それじゃあ、まずは準備体操! それが終わったら走りこみをするよ!」

卯月「はいっ」

未央「うん!」

凛「あれっ?」

加蓮「この訓練場のあそこからここまでを10往復! 足腰を鍛える事は大事だからね!」

あれ? 思っていたより普通だ。

距離として片道50メートルも無いから10往復でも1キロも走らない。

結構楽な気がするんだけど……。

そう考えながら加蓮に視線を移すと、加蓮は準備体操を急かしながら柔軟運動をしている。

うわ、すごく柔らかいな。体操選手顔負けってくらいだ。

私たちもそれぞれ準備運動をして、準備が整う。

凛「それじゃ、走ればいいのかな……あれ?」

いざ走り始めようとしたら加蓮がいない。

どうしたんだろうと思ったら、加蓮は自分のリュックから何かを取り出して準備をしているようだった。

奈緒「……」

卯月「あれ? どうしたんですか?」

未央「何やってるの?」

私たちの声に反応して加蓮が顔を上げる。

手にはなんだろう……剣とそれにベルトみたいなものが……。

加蓮「あ、準備運動終わった? それじゃ、これ着けて!」

加蓮がベルトを腕に通し、リュックサックを背負うようにして両肩に引っ掛ける。

背中のベルトが交差するところから丈夫そうなロープが伸びていてその先には雁字搦めにされた剣がある。

何、これ?

加蓮「ほらほら、ぼーっとしてないで着ける着ける!」

加蓮が私に同じようにベルトを装着させて、卯月や未央もそれを見て同じようにする。

一体何を……。

加蓮「それじゃ、その先についている剣を10メートルくらいにして伸ばしてね」

奈緒「……」

凛「は?」

卯月「えっ?」

未央「へ?」

そう言うと加蓮は剣を伸ばして、伸びた剣は土にめり込むように沈み込んだ。

加蓮はそれを全員分行って、手を叩く。

加蓮「はい、これで準備完了! それじゃ、走りこみ開始するよー!」

凛「待って。ちょっと待って」

加蓮「どうしたの?」

凛「あのさ、この剣って10メートルも伸ばすと50kg近くなるんだけど」

加蓮「知ってるよ?」

凛「……もしかしてなんだけど、これを引きずって走れっていう事?」

加蓮「せいかーい♪」

凛「…………」

私が奈緒の顔を見ると、奈緒は諦めきった表情で肩にかかるベルトを直している。

卯月と未央は呆然としていたが、気を取り直して真剣な表情になっている。

誰も突っ込まないの?

凛「えっと、これを引きずりながら10往復?」

加蓮「うん」

凛「ちょっときつくない?」

加蓮「そんな事無いって、慣れだよ慣れ」

凛「…………」

加蓮「まあ、無理そうならもう少し軽くしてもいいよ。最初から重過ぎるのは怪我の元だからね」

加蓮の中では50kgは重い部類に入らないようだ。

加蓮「さぁ、いくよ! よーい、どん!」

加蓮の掛け声と共に、私以外の全員が走り出した。

加蓮は剣を引きずりながら速度は遅いが確かに走っている。

奈緒は歯を食いしばりながら足を踏ん張って一歩ずつ進んでいる。

卯月と未央は……。

卯月「へぶっ」

未央「あぶっ」

前に進もうとして、その場で足を縺れさせて地面にキスをしていた。

凛「だ、大丈夫?」

卯月「だ、大丈夫です」

未央「へ、平気、私たちに構わないでしぶりんは走っていていいよ」

走るって言われても……。

息を止めて全力で足を踏み込んで前に進もうとする。

数メートルだけ前に進んで、膝が折れた。

それを数度繰り返して、ようやく10メートルくらい。

凛「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

えっと、これをあとどれだけやればいいの?

私の汗がぽたりと地面に落ち染み込んでいった。

凛「ぜぇーっ! はぁーっ! うぁぁぁっ!」

震える足を踏ん張りながら私は最後の一歩を踏み出してようやく10往復を完遂した。

そのまま地面に倒れこんで新鮮な空気を取り入れようと呼吸を荒げた。

加蓮「お疲れー、卯月と未央ももうすぐゴールできそうだね」

腕立て伏せをしながら加蓮が私に近づいてきた。

返事を返す余裕が無い、息が整わない。

返事が出来ない私に加蓮はため息をついて言って来た。

加蓮「20kgに落としてそれじゃあ、やっぱり普段から身体を鍛えれてなかったってことだよ。スーツを使うのもいいけどやっぱり自分の身体を鍛え上げないと」

そう、最初の数メートルで私たちは剣の重さを軽くした。

50kgを超える剣を引きずって歩くなんてスーツの力を得ていない私たちに出来るわけがなかった。

段階的に落としていって、20kgくらいの重さでようやくまともに歩くことが出来て、それを引きずって10往復。

はっきり言って、もう動けない。

訓練を開始してまだ1時間くらいだけど、もう1歩も動くことが出来ない。

そんな私を無理矢理起こさせて、身体につけたベルトを外して加蓮は私を立ち上がらせる。

凛「か、加蓮、待って……わ、私、動けない、って……」

加蓮「駄目だよー、肩貸してあげるから少し歩いてクールダウンさせないと。その後はマッサージしてあげるから」

凛「ま、待って、もう、少し、休ませて」

加蓮「駄目ー。あっ、奈緒ー、卯月と未央がゴールしたら同じようにクールダウンさせてあげてね」

奈緒「……あいよー」

生まれたての小鹿のような私の足を支えながら加蓮は歩き始めた。

誰か、助けて。

それから少しして、私は加蓮にマッサージを受けていた。

凛「あぁ……気持ち……いい……」

加蓮「でしょ? 結構勉強したんだよ」

今私は足を重点的に揉み解されている。

加蓮「筋肉に負荷をかけたままにしてると痛みとかが残っちゃうからね。少しクールダウンしてストレッチをしながらマッサージをして筋肉をほぐせば次の日にも残らないんだよ」

凛「そー……なんだぁ……」

加蓮が何かを言ってるけど、とにかく気持いい。

何も考えられないくらい……。

奈緒「おーい、加蓮ー。こっち手伝ってくれよー」

加蓮「あ、わかったー」

加蓮「凛。アタシ、卯月と未央のマッサージしてくるから、これで終わりね。痛いところとかある?」

凛「え……? あぁ……えっと……大丈夫」

加蓮「そっか、それなら行って来るねー」

凛「うん……」

加蓮が私のマッサージを終えて、少し先で動くことも出来ずに地面に突っ伏している二人の元に歩いていった。

私は身を起こして立ち上がると、さっきまで疲労困憊だった身体が少し足元が怪しいけどほぼ問題なく歩ける状態になっている事に驚いた。

そのまま歩いて、4人のところに到着すると。

卯月「あっ、あっ……」

未央「うぁ~……」

加蓮と奈緒にマッサージを受けている卯月と未央が気持ちよさそうな顔をしながらされるがままになっていた。

どうやら奈緒も加蓮並のマッサージを習得しているようだった。

しばらく時間もかかりそうだし、私は少しハナコの散歩でもしようかと思い、私の荷物の傍でジッとしているハナコの元に向かう。

私が近づくとハナコは尻尾を振りながら私に飛びついてきた。

どうやら散歩が待ち通しかったみたいだ。

ここの訓練場に来てもう結構時間が経っているし、その間ずっと大人しくしてたからもう我慢が出来なかったみたいだ。

凛「よしよし、待たせちゃったね。少し散歩しようか」

「ワン!」

しばらくハナコと一緒にゆっくりと歩いていると、

4人のマッサージも終わったようで、みんなが私の元に向かってきていた。

それからはまた加蓮の滅茶苦茶な訓練をみんなで行って、気がついたらもう昼に差し掛かる事になっていた。

スーツを使わずの訓練がここまでキツイもの……いや、加蓮の訓練がここまでキツイものだとは思ってなかった。

だけど、卯月と未央はまた明日もお願いしますって言って、この訓練に乗り気だ。

二人が乗り気なら私も続けようと思う。

二人とも私の為に頑張っているんだと思うから、私も一緒に二人と頑張ろうと思う。

こうして私たちの朝の訓練は加蓮が訓練メニューを作って行っていくこととなった。

それから数日後。

凛「はぁーっ! はぁーっ!」

卯月「ぜぇっ、はぁっ、うっぷ……」

未央「ぜーっ、はぁーっ、うぇっ……」

私たちは昼を向かえる頃、とある山の山頂でへばっていた。

今日は、山の麓から頂上まで一直線に駆け上がる訓練をした。

今回は変な重りも何もなし、だけどとにかく一直線に駆け上がる。

どんなに険しい道でも関係なく一直線に、垂直な岩肌も剣を刺してよじ登った。

今日は全身が鉛のように重たい。

動く事はもうできない。

そうやってへばっていると、山頂の岩肌からひょっこりと顔を出した加蓮がニコニコしながら近づいてきた。

加蓮「お疲れー、でも遅いよ? 4時間もかかってるようじゃまだまだだよ」

凛「うっ……さい……、私たちは……アンタたちみたいな……化け物じゃ……ないんだから……」

この数日で嫌というほど分かってしまった。

加蓮は化け物だ。

体力お化け。

元病弱? そんなの絶対嘘だ。

普通の女の子は何十キロの重りを背負って跳ねるように山を登ることなんて出来るわけが無い。

未央「み、みず……」

卯月「おみず、ください……」

奈緒「ちょっと待ってな。ほら、ゆっくり飲めよ」

あっちにも体力お化けがいた。

加蓮よりは劣るかもしれないけど、加蓮の訓練メニューをへばらずにこなす体力お化け。

加蓮「はい、凛も少し水分補給。あんまり飲みすぎちゃ駄目だよ」

凛「!!」

加蓮からひったくるように私はスポーツドリンクを受け取り、その水分を口に含む。

凛「んっ、んっ、んっ……ふぅぅぅ……」

加蓮「一気に飲んじゃ駄目だって!」

乾いていた身体にスポーツドリンクが染み渡る。

一口目の甘さはとろけるような味わい。

こんなに美味しいものがこの世にあるのかと思えるくらいの味。

一気に飲むなといわれてもそんなの無理。

私の身体が水分を欲してるんだ。

ようやく息が落ち着いてきた私は加蓮にマッサージを受けながら心地よい風を受けて山頂から下を見下ろした。

凛「あんな所登ってきたんだ……」

未央「うわぁ……よく私たちあんな岩肌をよじ登れたね」

卯月「殆ど垂直な壁を剣を刺してよじ登ってきたんですよね……信じられないです」

スーツの力もなしによくもまああんな崖を上ってきたものだ。

私たちも少しずつ加蓮の領域に近づいていってるんじゃないのかな……。

いや、加蓮と奈緒は垂直な崖を剣を使わずに手と腕と足の力で全身を支えて登っていったんだ。

こんな化け物二人組みにはまだまだ程遠い……。

そうやって、加蓮のマッサージを堪能していると、何気なく奈緒が私に問いかけてきた。

奈緒「そういえば、明日のサマーフェス、何時に集合すんの?」

凛「え?」

卯月「あっ……」

未央「あぁ……」

加蓮「卯月と未央が出るアイドルフェスだよね。会場で落ち合うのもいいし、どこかで集まっていくのもいいけど……どうしたの?」

凛「えっと、私は行かないって言うか、そもそもそのサマーフェスのチケット買ってない……」

奈緒「はぁ? 何で?」

凛「え、と……」

元々私は二人のライブにだけは行かないようにしていた。

私の心が揺れ動かないようにする為に。

二人もライブに来てほしいって今まで言ってこなかったから特に気もとめていなかったけど……。

加蓮「てっきり凛も行くものだと思ってたんだけど……卯月、未央。チケットって余ってないの?」

卯月「えと、その……」

未央「余ってないよ」

奈緒「未央?」

未央「余ってないから……」

加蓮「そう? それだと仕方ないかぁ……」

なんだろう……。

二人とも、何か……少し辛そう。

二人の様子が少しおかしいと感じたが、未央はあからさまに話を変えるように加蓮と奈緒に色々と聞き始めた。

結局サマーフェスのことはそれから話題には上がらずに、私たちは訓練を終えて帰路に着いた。

その夜、ベットの上でスマホを触れて、サマーフェスの事を調べていた。

346プロのアイドルがほぼ全て出演するビックイベント。

そして、未央と卯月がこのステージを最後にアイドル活動を休止する。

最初に聞いたときは、私の事を一番に選んでくれたんだって嬉しかったけど、

気になったのは今日の二人の表情。

辛そうな表情。

二人がアイドル活動を休止するんだから辛いと思っているのかもしれないけど、それ以外にも何かありそうな感じがした。

私に対して何かを言い出せないような、そんな感じ。

それが気になってしまって、頭から離れない。

私の指が二人のユニット紹介画面でピタリと止まる。

凛「……二人とも、楽しそうに笑ってる」

そういえば最近……前回の狩りから二人はあまり笑わなくなってしまったような気がする。

必死な表情が多くなったような気がする。

凛「……ライブだと二人は楽しそうに笑うのかな?」

私はスマホを消して目を瞑る。

明日は朝の訓練は無しにしてある。

未央と卯月は朝早くから準備があるらしいから。

明日は何をしよう……。

明日は……。



朝、目を覚ました私は、スーツの上に顔が隠れるくらいのパーカーを着て、透明化を起動させ今日行われるサマーフェス会場に向かった。

今日はこの辺で。

私の耳に風切り音と蝉の鳴き声が届く。

サマーフェス会場は山の麓にステージが設けられた野外フェス。

会場に向けて私は空を駆け続ける。

もう慣れ切ってしまった浮遊感を感じながらも、私は行かないと決めていた二人のライブにこうやって向かっていることを考えていた。

凛(未央と卯月は以前と変わってしまった……)

凛(二人ともあまり笑ってくれない。いつも真剣な表情で訓練を続けている……)

凛(加蓮や奈緒は二人の変化を知らないから何も違和感を感じずに二人と接しているけど、私には未央と卯月の間に距離が出来てしまったような感じがしてならない……)

凛(それに、この前、今日のライブの話になった時に見せた辛い表情……)

考えている間に、私の耳は小さな音を拾った。

前に進むにつれ、音は大きくなり、その音が音楽だという事に気がつき、私は今日の目的地に辿りついたのだと気付く。

凛(もう着いてしまった……)

凛(二人のライブを見に行かないって決めていたのに……)

凛(でも、このライブで二人とも私と一緒にいるときと違って楽しそうに笑っていたら……)

凛(…………)

私は軽快なリズムで流れる音楽を聴きながら、ライブ会場の人気が無い場所に降り立ち、透明化を維持しながら二人のステージを待った。

二人のステージを待っている間、私はこのサマーフェスのライブを見続けていた。

様々なアイドルたちが自分たちのステージに立ち、観客を沸かせている。

どの子達もみんな一生懸命、それでいてとても楽しそうに歌って踊っている。

そのアイドルたちの笑顔が未央と卯月の顔に重なる。

しばらく見ていない未央と卯月の楽しそうな笑顔が重なって見えて、また何か重たい気分になってくる。

そうやっているうちに、ステージには以前に二人がバックダンサーをつとめたアイドル、城ヶ崎美嘉が立っていた。

予定では、彼女の後に未央と卯月の所属するシンデレラプロジェクトメンバーのステージが始まるはずだ。

早く二人のステージを……と考えていた私だったが、ふと空の雲模様がおかしい事に気がついた。

今にも雨が降ってきそう。

と思っていたのもつかの間、ぽたりぽたりと小さな水が降り始め、それはあっという間に豪雨となってしまった。

山の天気は変わりやすい、訓練をしているときもよくあることだったが、今日は少しまずい。

透明化を使っているため、私に雨が降られると、その部分が浮き上がって見えてしまう。

誰かに気がつかれる可能性もあるので、私はステージ横の大きなテントに入り、入り口付近の目立たない隅っこに身体を隠す。

雨が止むまではここで隠れていよう、そう思っていたが……。

未央「雨、かぁ」

卯月「すごい雨ですね……」

テントの奥から未央と卯月が外の様子を見にやってきた。

思わず声が出そうになったが、私はこらえてその場を動かずに二人を見ていると、

二人と同じようにテントの奥から前に見た男の人、二人のプロデューサーが現れて二人に声をかけていた。

P「これは……島村さん、本田さん、しばらく控え室で待機していてもらえますか。この雨では一時中断となってしまいますので」

卯月「あっ、はい……」

未央「うん、わかった……」

凛(…………)

私は二人の顔を見ている。

二人の表情に笑顔はなかった。

それどころか、この前よりも辛そうな表情が浮き出ている。

……よかった、私の前だから笑っていないわけじゃないんだ。

何故かほっと胸をなでおろした私。

二人がテントの奥に消えると、それを黙ってみていたプロデューサーが先ほどまでステージに立っていた城ヶ崎美嘉に話かけられている。

美嘉「……あの二人、今日のこのステージでもあんな感じかぁ」

P「はい……」

美嘉「ホントにどうしちゃったんだろ? 今日のサマーフェスあんなに頑張るって言っていたのに、1週間くらい前からあの二人どこか辛そうに、何かを言い出せないような雰囲気をだしちゃってさ……」

P「……」

美嘉「本番前でもどこか上の空……緊張しているようなわけでも無さそうだし、何か悩んでるのかな……」

P「……」

美嘉「もうっ! 黙ってないで何か言ってよ! アンタ、あの子たちのプロデューサーでしょ? あの子達、一体どうしちゃったワケ?」

P「……わかりません」

美嘉「……わからないってさぁ、そんな無責任なこと言わないでよ……」

P「……理由を聞いても、話してもらえませんでした。島村さんも本田さんも何か、大きな何かを抱え込んでいるようでして……」

美嘉「大きな何かって……」

P「……それがわからないのです。仕事以外の何か……彼女達のプライベートなのは間違いないのですが、私としてもどこまで踏み込んでいいのかと決めかねているのが現状です」

美嘉「そっか……ちゃんとあの子達のこと、見ててくれたんだね」

P「ええ」

美嘉「アンタ、あんまり喋らないから担当アイドルのこと本当に見てるのか心配だったけど、アタシの早とちりだったね。ゴメン」

P「……」

美嘉「ま、プライベートで悩んでるって事なら、少しアタシがハッパをかけてきてあげるよ。この雨じゃ、再開までまだまだ時間がかかりそうだし、ステージ再開までにあの二人のお悩みもこのアタシがバッチリ解決してきてあげる」

P「すみません……」

Pは城ヶ崎美嘉に頭を下げて、そのPに手を振りながら城ヶ崎美嘉はテントの奥に進んでいった。

私は気配を消して、物音を立てずに城ヶ崎美嘉の後を追う。

城ヶ崎美嘉が進む先、簡易的な控え室に私も一緒に歩いていく。

透明の状態で、物音も、気配も殺しての移動。

城ヶ崎美嘉には気付かれていない。

私たちは未央と卯月のいる控え室にたどり着いて、控え室を覗きこんだ城ヶ崎美嘉はすでに視線をこちらに向けていた二人と目があったようだ。

美嘉「やっほー、二人ともちょっといい?」

卯月「美嘉ちゃん……だけですか?」

未央「あれ……? もう一人気配を感じたんだけど……」

美嘉「え? どうしたの?」

凛(……)

城ヶ崎美嘉には気付かれなかったけど、二人には気づかれてしまった。

今までの訓練の成果って所もあるのかもしれないけど、今はばれるのはマズい。

もしも見つかって、こうやって透明化した状態で二人の事を見に来るなんて事、どんな言い訳をすればいいかわからない。

私はその場を動かず、空気と同化するように気配を極限まで薄れさせる。

未央「……気のせい、かな」

卯月「……ですね」

美嘉「?」

未央「ごめん、なんでもないよ。それで美嘉ねぇはどうしたの? 私たちに何か用?」

美嘉「んん、こほん」

卯月「?」

美嘉「アンタ達、二人ともちょーっとそこに立って」

未央「え?」

美嘉「いーから早く!」

卯月「は、はい」

美嘉「よーっし、それじゃ、今日のステージの最終リハ、始めるよ!」

未央「え? リハって……」

卯月「リハーサルはもう通しでやりましたし……」

美嘉「あれをお客さんに見せるつもり? アンタ達、自分たちが今どんな状態か分かってる?」

未央「え、ええっと……」

美嘉「何を悩んでるのか知らないけど、ステージ前だって言うのに心ここにあらずって感じでまったく集中できてない! そんな腑抜けた顔でステージに立たれたら他のみんなにも迷惑かかるって分かってるかな?」

卯月「っ!」

未央「腑抜けてるって……私たちは……」

美嘉「腑抜けて無いなら証明して見せてよ。アタシにアンタ達の力を見せ付けてみなよ。アタシを納得させるような歌を、ダンスを今ここで見せてみなよ」

美嘉「それができなかったら……アンタ達のプロデューサーに言ってアンタ達は今日のステージの出演中止……なんて考えてるんだけどね」

卯月「!?」

未央「そ、そんなっ!?」

美嘉「それが嫌だったら、アタシを納得させてみな。アンタ達の全力を今出しつくすつもりでね」

卯月「そんな……今日のステージは……」

未央「出られない……そんなこと……」

城ヶ崎美嘉の言葉に二人は顔を真っ白にして震え始める。

その二人を見て、慌てて城ヶ崎美嘉は声をかけようとするが、

美嘉「ちょ、ちょっと、どう…………」

声を発した瞬間、近くに落雷が落ちたようで一瞬辺りは光に包まれた。

落雷の轟音と、眩い光に、城ヶ崎美嘉は悲鳴を上げてその場にしゃがみこんだ。

美嘉「キャアッ!?」

それとは対照的に、未央と卯月はその場に立ち尽くしている。

落雷の光と音を聞いて、二人の表情が変わった。

目を限界まで見開いて、両手を握り締めながら立ち尽くしていた。

卯月「……」

未央「……」

美嘉「あ、アンタ達、大丈夫?」

卯月「美嘉ちゃん。ごめんなさい、私たち美嘉ちゃんの言うように全然集中できていなかったです」

美嘉「え?」

未央「ずっとさ、この数日悩んでたんだ。しぶりんがあんな目にあったのに、私たち、まだアイドルを続けながら、みんなで解放される道があるんじゃないかって」

美嘉「……どうしたの? アンタ達……」

卯月「誰よりも強くなって、凛ちゃんを守れるくらいにならないといけないのに……そのためにはアイドル活動を休止して、強くなるための訓練をしないといけないのに……」

美嘉「う、卯月、アンタ今……」

未央「それなのにさ、心のどこかで未練があったんだよね。だから今日も、今日で終わりたくない、もっとアイドルを続けていたいなんて考えてた……」

美嘉「み、未央、アンタもさっきから一体……」

卯月「でも、思い出しました。あの時の事を、あの時の気持ちを」

未央「吹っ切れた。ここまで来てやっと吹っ切れた。もう迷わない」

美嘉「ねぇっ! どうしたのよアンタ達!?」

未央「美嘉ねぇには先に言っておくよ」

美嘉「な、何を?」

卯月「私たち、今日を最後にアイドル活動を休止します。みんなにも、プロデューサーさんにも今まで言えませんでした。だけど、今日のステージが終わったら話します」

美嘉「!?」

未央「私たち、最後のステージだと思って全てをぶつける。美嘉ねぇも見ててよ」

美嘉「ちょ、ちょっと!! アンタ達何を言ってんの!?」

城ヶ崎美嘉が二人に問いただそうとするが、二人は城ヶ崎美嘉の前に並ぶ。

卯月「美嘉ちゃん、最終のリハーサル、ですよね」

未央「美嘉ねぇにも納得できるダンス、今なら出来る」

美嘉「ちょっと!! 話を……」

未央がスマホを操作して、スマホからメロディが流れ始める。

この曲は、二人のデビュー曲。

メロディは小さいものだったが、そのメロディに乗せて二人の歌声が小さな控え室に響き渡る。

城ヶ崎美嘉は最初は二人に話しかけていた、先ほどの真意がなんなのかという事を。

だけど、二人の歌声と、ダンスのステップを、そして二人が織り成す本番さながらの動きを目にするうちに話しかけることも忘れ、二人の演技に見入り始める。

それは私も同じだった。

凛(何、これ……)

さっきまで見ていたアイドル達のダンスが子供だましに思えるくらいのキレ。

激しいはずなのに流れる水のようなステップ、そんな動きをしているとは思えないくらいのまったくブレない歌声。

凛(すごい……)

最近、二人のダンスや歌を私は見ていなかった。

アイドルより戦いの道に引き入れる為に、二人のアイドル活動が疎ましく思い始めた頃からまともに見てはいなかった。

だけど、今日こうやって生で二人の動きを見て、私の心は激しく揺さぶられた。

凛(すごい、すごい……そんな動き……どうなって……)

一体なんなの? 二人から目を離せない、二人の動きを見続けてしまう。

何度も聞いたはずの歌なのに、心地のいい浮遊感みたいなものが私の胸を満たす。

続きが気になる小説のように、二人の動きの先を見る目が離せない、次はどんな動きをするのかが気になってしまう。

凛(もっと、もっと見たい……もっと聞いていたい……)

終わりが近い事が分かる。

何度も聴いている歌だ、もう数十秒で終わってしまう。

だけど、ずっと二人の歌を聞いていたい、ダンスを見ていたい。

凛(あぁ……終わっちゃう……)

最後のフレーズで二人の動きは最高潮を見せた。

ステップ、ジャンプ、ターン、私は二人が動くたびに頭を動かして、身を前に乗り出して食い入るように凝視する。

最後の締め、左右対称のポーズをとって終わった。

凛(…………)

終わった。

終わってしまった。

もっと、もっと、ずっと見ていたかったのに、もう終わってしまった。

卯月「どうですか、美嘉ちゃん?」

美嘉「え……? あぁ……」

未央「私たち、合格?」

美嘉「う、うん」

城ヶ崎美嘉はいつの間にかへたりこんで二人を見上げていた。

多分、私と同じような状態になっているんだろう。

今は何も考えられない、もう一度二人の演技を見たいという事しか考えられない。

美嘉「も、もう一回」

卯月「……はい」

未央「……わかった、美嘉ねぇが納得できるまで何度でもやるよ」

再び二人の歌声が響き渡る。

どれくらい時間が経ったのだろう。

私はただただ二人の歌声とダンスに酔いしれていた。

何回も何十回も見ているうちに私は二人の動きにどこか既視感を覚えていた。

二人の動き、どこかで、誰かが……。

凛(!!)

気付いた。

二人の動き、それは私がよく訓練中に織り込む踏み込みやステップだ。

それ以外にも、私と一緒にやった訓練の動きが二人の振り付けに組み込まれている。

日々の訓練で培った動きもダンスに取り入れているようだった。

それに気付いたときに、二人のカンペキだと思われた動きに違和感を感じた。

それは、見ているうちにどんどん大きくなる。

だけど、その違和感は二人のダンスを阻害するものではなく、更なる魅力を引き立たせるようなものだった。

この違和感は、二人のダンスをまだ未完成に思わせる。

さらなる高みがあるのかと、これ以上魅せることが出来るのかと心臓の鼓動が止まらない。

違和感を感じてから数度私は見続けた。

その違和感を感じられる部分を見ているうちに気がついてしまった。

違和感の正体、この二人のダンスに足りないものを。

それは、

凛(…………私)

二人とも、明らかに三人で動くことを意識している。

見えない誰かと二人は踊っている。

意識すると、二人と一緒に踊っている誰かが分かってしまう。

私が一緒に踊っている。

見えてしまった、透明な私がそこにいるのを。

それから、私は二人の演技を、二人と私の演技をただただ呆然と見続けていた。

私の耳に、二人の歌声以外の声を拾った。

P「島村さん、本田さん、そろそろ……」

二人は歌とダンスを止めて入ってきたPを見やった。

私も、城ヶ崎美嘉も同じように頭を動かしてPを見る。

P「どうしましたか……?」

美嘉「え、えっと、あの……」

P「雨も上がり準備も整いました、お二人ともスタンバイをお願いします」

Pが声をかけるが、二人は城ヶ崎美嘉を見つめて、返答を待っていた。

城ヶ崎美嘉はその視線を受けて、

美嘉「が、頑張って二人とも」

卯月「はいっ」

未央「うん」

二人はその言葉を聞き、今まで何十回も歌って踊っていたような疲れを見せずに控え室を飛び出していった。

その二人を見てPは城ヶ崎美嘉に礼を言う。

P「ありがとうございます、島村さんも本田さんも今までに無いくらい集中されています。これなら今回のステージも大成功になるでしょう」

美嘉「あ、あれ……えっと……」

P「どうされましたか?」

美嘉「あっ! そ、そうだっ! あの子たち!!」

ようやく意識が戻ってきた城ヶ崎美嘉が二人を追うように控え室を出て行くが、私は遠くの方で二人の掛け声を聞いた。

――生、ハム、メロン!

二人のステージは始まり、私はそのステージを見るべくテントの外に出て、ステージ全体を見渡せる鉄柱の上で見続けていた。

日は落ち始め、今日のライブの最後の全体曲が終わった。

ずっと私は今日のステージを見続けていた。

全ての行程を見終えた私が感じたのは、やはり今日のライブはあの二人が誰よりも輝いていたという事。

あの後すぐに二人のステージを見た私、二人のステージだけ今回のライブでも異質だった。

最初は声援がすごかった。だけど、曲が進むに連れて声援が小さくなり、会場にいる観客は食い入るように見続けてた。

そして、曲が終わると同時に爆発するような声援が巻き起こり、アンコールの嵐。

結局二人はその後に数回アンコールに答え、最後の全体曲でも同じようにアンコールに答えていた。

ライブが終わって会場の話題はニュージェネレーション一色。

会場にいる観客たちも私が感じたように、未央と卯月の歌と踊りに引き込まれたのだろう。

本当にすごい。すごいとしか言えない。

ずっと二人のステージを見ていたいと思った。

もっともっと色々な歌を踊りを見てみたいと思う。

そうやって気がつく。

凛(…………私、何を考えてるの?)

これは紛れも無い本心、だけど私の本心って……。

凛(……二人と一緒に戦いの道を、殺しの道を……)

これも本心……みんなと一緒に何かを、戦いと殺しをみんなで一緒に……。

凛(でも、戦いの道に二人が来たらもう、このステージを見ることが出来ない……)

頭が痛い、思考がまとまらない。

私はその場で頭を抱え込んで蹲り、何も考えられないまま時間だけが経過していった。

私は甲高い少女の声を耳にして意識が戻ってきた。

日は沈み星が空を満たし、観客もはけて会場の片づけが始まっている。

顔を上げると、ステージ上に十数人の人影が見える。

そのステージの上に未央と卯月の姿が見えた、そしてその二人に詰め寄っている少女達の姿も。

一番に突っかかっている少女、確か前川みく。

他の子たちもシンデレラプロジェクトの子たち。

みく「どういうこと!? 説明してほしいにゃ!!」

未央「だから、私たちはアイドル活動をしばらく休止するって言ってるの」

李衣菜「休止って……なんで急にそんな事……」

卯月「少し前に決めたんです。このサマーフェスが終わったら休止するっていう事を。フェスの前に言っちゃうとみんなに心配かけちゃうと思って……」

みく「納得行かないにゃ!! 決めたってどういうこと!? なんでそんな大事なこと誰にも相談しないで決めるの!?」

未央「言えない事……だから」

みく「言えないってなんなんにゃーー!! 白状するにゃーーー!!」

卯月「……ごめんなさい」

李衣菜「みく、落ち着いて」

みく「これが落ち着いていられるかにゃ!! みくたちに言えないことってなんなの!? みくたちに何で隠し事をするんにゃ!?」

李衣菜「卯月ちゃんと未央ちゃんにも何か理由があるんだよ。そうでしょ?」

卯月「……はい」

未央「……うん」

前川みくは多田李衣菜に口を押さえられて暴れている。

二人の胸倉を掴む勢いだった前川みくを引き離して、別の子が二人に問いかけ始めた。

みりあ「ねぇ、本当は冗談なんだよね? みくちゃんと李衣菜ちゃんがいつも解散解散って言ってるのと同じで本当は休止なんてしないんでしょ?」

莉嘉「うんうん! アタシたちを騙そうとしたってそうはいかないんだからねー」

未央「冗談じゃないよ……」

莉嘉「えぇ……」

卯月「私たち、本気なんです」

みりあ「そんなぁ……」

かな子「えっと、それじゃあ、二人ともどれくらい休止しちゃうの?」

卯月「……わかりません」

智絵里「で、でも、戻って来るんだよね?」

未央「絶対、戻ってくる」

卯月「はい、絶対に」

二人の瞳は嘘偽りのない澄んだものだった。

力強く絶対に戻ってくると断言する二人に、暴れていた前川みくも大人しくなり、他の子たちもそれ以上二人に詰め寄る事はなくしばしの無言の時間が生まれる。

それを打ち破ったのは、ひと際小さい少女と大きな少女。

杏「それなら杏にも休みをくれー! 杏は休みを要求するー!!」

きらり「もーっ! 杏ちゃん! みんな真剣に話してるんだからそんなこと言っちゃだめだにぃ!」

杏「いいじゃん、卯月ちゃんも未央ちゃんもちょっぴりだけ休むんだから、杏やみんなもちょっぴりだけ休めばみんな一緒にまたやれるでしょ? みんな一緒に休めば怖くないぞー!」

かな子「杏ちゃん……それは流石にマズいんじゃないかな?」

智絵里「そ、そうだよ。プロデューサーさんにも迷惑かかっちゃうよ……」

緒方智絵里の発した名前に全員が一斉にPの姿を見た。

Pは難しい顔をして未央と卯月を見ている。

美波「プロデューサーさんはこの事を知っていたんですか?」

P「……」

アーニャ「卯月と未央の事、私たちに黙っていた、ですか?」

蘭子「我が同胞たちが黄昏の……卯月ちゃんと未央ちゃんはどうしてお休みをするのか教えてほしいんです……」

P「……それは」

卯月「待ってください、私たちプロデューサーさんにもこの事は黙っていたんです」

未央「うん、だからプロデューサーを責めないで……」

美波「……誰にも話さないで決めちゃったの?」

卯月「はい……」

アーニャ「理由、教えてもらえない、ですか?」

未央「ごめん、話せないんだ……」

蘭子「うぅ……」

その場に思い空気が漂い始めた時、Pがおもむろに立ち上がり、ステージの端に置いてある箱を取って未央と卯月の前に移動する。

二人はその箱を覗き込み、Pが中身が何かを答えた。

P「これは、皆さんに宛てられたファンレターです。それと会場で配布していたアンケート。読んでみて下さい」

卯月「……」

未央「……」

二人は手渡されたそのファンレターを開き読み始める。

無言で何枚も何枚も未央と卯月はファンレターとアンケートに書かれた文章を読んでいるようだった。

P「本日、お二人のステージは素晴らしいものでした」

P「アンケートにはお二人のライブをもう一度……いえ、何度でも見たいといった内容が連なっています」

P「お二人の事を応援してくれている人がこんなにも大勢いるのです。そして、私自身もファンの方同様、お二人を応援しています」

P「お二人が休止される理由、私にも打ち明けていただけませんでしたが、もう一度考え直してもらえないでしょうか?」

二人ともただ黙って手紙を見ながらPの言葉を聞いている。

俯いたまま、顔を上げずに手紙を見ていた二人に変化が訪れた。

卯月「うぅ……うぅぅぅ……」

未央「ズルいよ……なんで、こんなの、見せるのさ……」

P「島村さん? 本田さん?」

顔を上げた二人の瞳は涙に覆われていた。

未央「この人、私たちのファーストライブからずっとファンなんだって……」

卯月「この人は、私たちの歌を聞いて、辛い事を乗り越えたって……」

未央「今日の会場に来てくれた人も、初めて私たちのステージを見てくれた人も、みんな感動したって……」

卯月「私たちのステージ、もっと見たいって……もし明日ライブがあったら絶対に参加するって言ってくれてます……」

未央「すごいうれしい……ほんとに……こんなに私たちを応援してくれているファンがいるって分かってすごくうれしい……」

卯月「でも……今……こんなの見せられたら……私たち、また迷っちゃいます……決めたのに……もう決めたのに……」

未央と卯月は見ていた手紙を元の箱に戻して立ち上がった。

P「し、島村さん、本田さん!」

卯月「ごめんなさいっ」

未央「うぅっ……」

そして二人はその場から走り去ってしまった。

涙を拭いながら、ステージを飛び降り走り去る。

私はそれをただ見ていただけ。

動けずにその場で硬直していた。

凛(二人とも……あんなに辛そうに泣いてた……)

凛(これって、結局私のせいだよね……)

凛(二人は私の為にアイドル活動を休止するって決めたけど、あんなに未練を残して……)

凛(私が二人を戦いの道に引き込もうと考えなければ、もしかしたら前回の狩りで二人とも解放されていたのかもしれない……)

凛(私が、二人を苦しめて……)

ズキリと頭と胸の奥が痛む。

考えれば考えるほど鈍い痛みが私を襲う。

私は痛みから、様々なことから逃げる為に、この場を飛び立ち、無意識に家に戻りベットに潜り込んで目を閉じた。

アイドルを続けてほしいと、二人のステージを見たいと思った。

でも一緒に殺し合いを楽しみたいとも思った。

二人の辛そうにしている顔を見たくないと思った。

そして、二人に辛い思いをさせてしまったのは私だと思って最悪の気分になった。

色々な想いが私の頭に痛みを残し、私は意識を闇に落とした。

凛が会場から飛び立ったと同時刻。

サマーフェス会場で二人の少女が星空を見上げながら寝転がっていた。

奈緒「すごかったなー、加蓮」

加蓮「うん。ハッキリ言ってものすごく感動した! 何ていうんだろう、もうあの二人から目を離せないって言うか、ステージ上の二人に引き込まれたって言うか!」

奈緒「そうだな、あたし達もそうだけど、会場にいる人たちみんな魂ごと持っていかれたような顔してたぜ? 曲が終わった途端にあたしも加蓮も他の人たちも歓声を上げ続けるしか出来なかったもんな」

加蓮「それ! びっくりしたよ、こんなにもアタシが夢中になれるものがあったなんて気がつかなかった! これは明日からあの二人との接し方が変わっちゃうかもしれないなー。卯月さん! 未央さん! アタシ、アナタ達のファンになっちゃいましたぁ! って」

奈緒「ぷっ、なんだよそれ。あー……でも、あの二人、今日でアイドル活動しばらく休止するんだったっけ?」

加蓮「あ……そういえば……」

奈緒「ま、あたし達はいつもの訓練が終わった後にでもダンスとか見せてもらえたりするかもな」

加蓮「あっ、それいいアイディア! アタシ達だけのアイドルって感じでいいよね!」

奈緒「はは、加蓮、本当にあの二人の歌と踊りに感動したんだな」

加蓮「え?」

奈緒「だって、訓練や鍛錬以外でそんなに目を輝かせる加蓮始めてだもん」

加蓮「そんなに分かりやすい?」

奈緒「うん」

加蓮と奈緒はお互いの顔を見合わせて笑っていた。

そんな二人の近くに、独り言を呟く人間が近づいてきた。

「ったく、出口はどこだ? 迷ッちまッたじゃねーか」

二人とも上体を起こして、近づいてくる人影に視線を向ける。

「やッぱ、慣れない事をするもんじゃねーな……勝手がまったくワカらねぇ……どーやッて出りゃいいんだよ」

奈緒「? 出口探してるのかな?」

加蓮「っぽいね……あれ?」

加蓮はその人物を見て目を細める。

どこかで見た事がある。

つい最近、見た気がすると、加蓮は思った。

加蓮がその人物を見ていると、その男も加蓮と奈緒に気付いたようで、声をかけてくる。

「ああ、ちょッといいか。出口を探してんだけど、どッちに行けばいーのか教えてくれねぇか?」

加蓮「あ!」

「?」

奈緒「加蓮? どうした?」

加蓮「あなた、この前の二刀流の人」

「あァ? この前のッて……」

奈緒「……加蓮、もしかして」

加蓮「うん。この人この前のミッションで一緒に闘った人、炎の星人に剣で突っかかっていた人だよ」

「……お前ら、まさか」

短髪の男が加蓮に問いただそうと口を開く直前、また別の人間の話し声が聞え短髪の男は口を紡ぐ。

「彪馬さん! マジヤバくなかッたッすか? ニュージェネの二人、マジハンパなかッたッすよね!?」

「ああ、あそこまで歌と踊りに引き込まれたのは初めてだ。こんなライブなら毎回観てみたいな」

「観てみたいじゃなくて、観るんすよ! 俺、もうカンペキにあの二人のファンになッちまいましたよ!! もう絶対に次のライブも行きましょうよ!!」

短髪の男は、近づいてきた5人のうち、長髪の男を見て声を上げた。

「あァ? お前……武田だったか?」

武田「……アンタ、この前の……吉川?」

吉川「オウ、何やッてんだこんなところで?」

吉川と武田は記憶にあった名前を呼び合い、偶然にこうやって出会った事に驚いていた。

そこにさらにもう二人男女の声が近づいてくる。

「玄野クン……あの……あッちで少し話したいことがあるんだけど……いいかな?」

「えッ!? あッ、ああ……その、ほ、ほら! もう片付けも終わるし、加藤や岸本もバイトが終わるだろうから、アイツ等を迎えに行かないとッ!」

「お願い……少しだけ、あたしの話を……」

「え、えッと、その、ちょ……」

その声が聞こえる方に全員が目を向ける。

そして、その男女と目が合う。

吉川「お前……何だこりゃ、この場で黒球部屋の連中の懇親会でも始めようッてのか?」

武田「君は……東京の玄野? それと、レイカさん……」

玄野「えッ!? あッ! あんた達は……」

レイカ「ッ! …………」

加蓮「奈緒、なんか変な事になりそうだよ」

奈緒「えっと……もしかしてこの人たちも全員他のガンツチームの人たち?」

玄野「ッ!? ガンツって……君達は……?」

満点の星空の下、何かに導かれるように東京、神奈川、千葉、群馬のガンツチームのリーダー達がその場に集った。

今日はこの辺で。

10人の男女、お互いがお互いの顔を見て思考していた。

先の戦いで見た顔もあれば知らない顔もある。

だが、この場にいる全員があのガンツの部屋の住人だという事を全員が理解していた。

そして、沈黙を破ったのは吉川。

その場に胡坐を掻いて座り、加蓮と奈緒に向かって問いかけ始めた。

吉川「そこの嬢ちゃん達、お前らも先の狩りに参加していたな?」

加蓮「ええ」

奈緒「か、加蓮……」

加蓮「大丈夫、この人は間違いなく違うガンツで狩りをしている人、ガンツの事を話しても問題ないよ」

奈緒「わ、わかってるけどさ……」

吉川「炎の星人の事を知ッてるッつー事は、お前、もしかしてあのデカいスーツの女か?」

加蓮「そうだよ」

吉川「やッぱそーか……」

吉川は加蓮の顔をマジマジと見て、ニヤリと笑う。

吉川「俺は吉川海司。25歳、群馬のチーム最後の一人だ。お前は?」

加蓮「アタシは北条加蓮。16歳、千葉チーム……って言っても、こっちの神谷奈緒と二人だけなんだけどね」

吉川「北条だな、あらためてあの時は助かッた。お前が加勢してくれなかッたら、俺はあの全身火ダルマヤローにバーベキューにされちまッてたはずだ」

加蓮「ああ、気にしなくていいよ。殆どあなたがアイツの攻撃を凌いでたし、アタシがやったことは奇襲で足止めさせただけ。決定打は凛が作ったんだから、お礼を言うなら凛に言って」

吉川「凛? 誰だそいつ?」

加蓮「小さいガンツ玉みたいなのを浮かべたバイザーをしてる女の子いたでしょ。その子だよ」

吉川「あぁ……いたな。わかッた、そいつにはアンタから礼を伝えておいてくれ、知り合いみてーだしな」

加蓮「オーケー、伝えておくね」

吉川はそれを聞いて満足したのか、立ち上がり他の面々を見やる。

玄野と武田にも軽く手を上げて、

吉川「お互い生き残れてたみてーだな」

武田「ああ、ギリギリだッたがな」

玄野「アンタも無事でよかったよ」

吉川「ふッ」

吉川は玄野と武田に挨拶もそこそこで歩き出す。

玄野「お、おい。どこ行くんだよ」

吉川「あン? 腹も減ッたし、どこかで飯食ッて帰るんだよ」

玄野「帰るッて……少し待ッてくれないか?」

吉川「あァ?」

玄野は吉川を止めて、先に話していた加蓮と奈緒にも声をかけた。

玄野「君達は千葉のガンツチームの人間ッて言ッてたよな」

加蓮「そうだけど」

奈緒「ああ……」

玄野「俺は東京のガンツチームの人間で、名前は玄野計。君達とも少し話したいんだけど、大丈夫?」

加蓮「いいよ。っていうか、東京ってことは凛達と一緒のチーム?」

玄野「……渋谷のこと知ッてんのか?」

加蓮「知ってるっていうか、毎日一緒に訓練してるけど」

玄野「そ、そーなのか」

加蓮「うん」

玄野「アイツ、そんな事一言も…………まぁ、いいや。アンタ等、神奈川チームも少し大丈夫か?」

武田「俺達も問題ないが……おいお前ら! レイカさんが困ッてるだろ!」

神奈川チームの4人はレイカに握手をせがんだりと、玄野達のやり取りなど一切聞いていないようだった。

吉川「で? 俺たちを呼び止めて一体何をするつもりなんだ?」

玄野「……何の偶然かは分からないけど、こうやッて別々のガンツチームが集まッてるんだ。お互いのチームの情報交換をしないか?」

玄野「お互いが知ッていることを話し合えば、前回のミッションのような説明のつかないことを予想立てするくらいは出来るかもしれない。それに、もしかしたらあの部屋から解放される方法を見つけることが出来るかもしれない」

吉川「ほォ……」

武田「ふッ……」

加蓮「……」

玄野「どうだ? 情報交換をしてお互い損をすることはないはずだ」

玄野が全員に問いかける。

吉川は満更でもなさそうに、武田は口元に笑みを作りながら玄野に言う。

吉川「構わねーぜ。お前らが何を知ッてンのか興味がある」

武田「俺もだ。むしろ俺達は情報を得る為にここに来たんだから、願ッてもないことだ」

玄野「? どういうことだ?」

武田「俺達は先日のミッションで出会ッた君達を探していたんだ。他のチームは俺達にも知らないことを知ッているかもしれない、今君が言ッたことそのままだな」

武田「それで別のチームで完全に顔が分かッている3人。レイカさんかニュージェネの2人に会おうと考えて、丁度今日ライブに出ると分かったニュージェネの2人に会おうと思ッて来たんだ」

玄野「そーいうことか」

玄野「なら、神奈川と群馬の面々は問題ないとして、千葉の二人はどうだ?」

加蓮「アタシ達も大丈夫だけど……」

玄野「どうした?」

加蓮が少し言い澱んでいる事に疑問をうかべ問う。

加蓮「アタシ達が話せる事って、凛から聞いた情報以上は知らないから、東京のチームと知ってる事は大差ないと思うよ」

玄野「渋谷から色々聞いてるのか……」

加蓮「まぁね、殆ど聞いているだけになっちゃうかもしれないけど、それでもいい?」

玄野「ああ、大丈夫だ。あんた等も問題ないよな」

武田「ああ」

吉川「構わねーよ」

全員の同意が完了したところで、吉川が口を開く。

吉川「そんじゃーよ、話するにしてもメシ食いながらにでもしねーか? 俺、朝から何も食ッてねーんだよ」

玄野「ああ、それなら少し待ッてくれないか? もう二人連れがいるし、もう一人呼びたい奴がいるんだ。そいつ等と合流してから行きたい」

吉川「あァ? お前らどんだけ大所帯なんだ?」

玄野「チームの人数は今の時点で15人だな」

玄野が携帯で誰かに連絡を取りながら吉川に人数を言う。

吉川「……多いな、毎回何十人集まッてくるんだ?」

玄野「いつも15人くらいか? ……クソッ、でねーな」

吉川「……」

玄野「駄目だ、肝心のヤツにつながらねぇ……北条さんだッたよな? 君から渋谷に連絡ッて取れないか?」

加蓮「凛に? ちょっと待って」

加蓮が携帯で凛に連絡を取り始めると、再び吉川から疑問の問いが発せられる。

吉川「なァ……さッきからよ、その渋谷凛ッて奴か? 名前が良く出るがそいつは何モンなんだ?」

玄野「あぁ、東京チームで一番強いヤツだッて思ッてくれればいい」

吉川「ほォ……」

加蓮「駄目、電話に出ない。店の手伝いでもしてるのかもしれないね」

玄野「店? ……繋がらないなら仕方ないか、加藤と岸本を待ッて行くか……」

その後、会場でバイトをしていた加藤と岸本が合流し12人となった各々は神奈川チームの車に乗り込んで近くのファミレスに移動した。

玄野達はファミレスに到着して、それぞれ二つのテーブルに分かれて座った。

玄野、加藤、武田、吉川、加蓮、奈緒の6人と、レイカ、岸本、神奈川チームの6人と分かれている。

詳しい話を聞くのにそれぞれのチームのリーダー格と話そうと考えて玄野は席を割り振ったが、レイカは酷く不満そうな顔で玄野に物申していた。

レイカ「あたし……玄野クンの隣がいいんだけど……」

玄野「と、隣ッても、もう座れないし……」

加藤「あ、俺代わろうか?」

玄野「か、加藤! お前には色々聞いてもらいたいッつーか、お前はリーダーなんだから絶対に聞いてもらわないと駄目だッて!」

加藤「??? リーダーはケイちゃんだろ? 何言ッてんだよ」

レイカ「そうだよ、玄野クンがあたし達のリーダーでしょ?」

玄野「~~~ッ」

加藤「それにさ、再生されて間もない俺より、レイカさんに色々聞いてもらったほうがいいと思うんだ。あの部屋のことを何も知らない俺よりさ」

玄野「……」

加藤「それに、レイカさんはケイちゃんの彼女だろ? 彼女を差し置いて俺がケイちゃんの隣にいるッてのもどーかと思うし」

レイカ「!?!?」

玄野「か、か、彼女ッて!? ちげーよバカ!!」

加藤「違うのか?」

玄野「違うッて!! なッ、そうだろレイカ!!」

レイカ「…………………………ウン、違う」

加藤「そうなのか? お似合いだと思ッたんだけどな」

岸本「加藤君、どうしたの?」

加藤「あッ、岸本さん……いや、ちょッとケイちゃんとレイカさんと話を……」

吉川「オイ! 俺は腹減ッてんだよ、さッさと座れよ!」

眉間に皺を寄せた吉川がグダグダと話し続ける玄野達に横槍を入れて無理矢理話を終わらせて座らせる。

結局玄野の隣にはレイカが座り、レイカが来ると思っていた神奈川チームの4人はレイカの変わりに席に座った加藤を見てがっくりと肩を落とす。

加藤は岸本と仲良くメニューを選び注文していた。

吉川「俺、ステーキセット、ライス大盛りな」

武田「俺はパスタにするかな……」

レイカ「玄野クンは何にする?」

玄野「え……それじゃ、このAセットで」

レイカ「それじゃ、あたしも同じの」

武田「……」

早々にメニューを決めた4人だったが、加蓮と奈緒は、いや加蓮はメニューを開いて動かない。

加蓮「……どうしよ奈緒、アタシ、ファミレス初めてなんだけど……」

奈緒「はぁ? って、そういえば元気になってからはずっと自炊してるんだよな」

加蓮「……栄養バランスとかどうなってるんだろう……?」

奈緒「知らねえよ……」

吉川「オイ、何やッてんだ。さッさと選べ」

加蓮「ええと……奈緒、どれがいいかな?」

奈緒「肉とサラダでいいんじゃない? 今日は訓練してないけど、どうせ後で何かするんだろ? 肉でも食って力蓄えておきな」

加蓮「それもそうだね」

吉川「すンませーン! 注文いいッすかー?」

注文後すぐに出てきた料理を食べながら、玄野が今日の主旨であるガンツについてを聞き始める。

玄野「それじゃ、聞いていくか。ええと、まずはこのメンバーは全員前回のミッションに参加していたッてことでいいか?」

加蓮「うん、そうだね」

玄野「北条さんと神谷さんの顔を俺は見てなかッたんだけど、吉川と話してた限り、北条さんはあのデカいスーツの人間と同一人物なのか?」

加蓮「そうだよ」

玄野「……あのスーツって確か100点クリア6回目の報酬だよな? 君は何回クリアしてるんだ?」

加蓮「アタシはこの前のミッションで8回目達成。こっちの奈緒は1回クリア」

玄野「……8回、渋谷みてーな奴はどこにでもいんのかよ……」

吉川「8回かよ、スゲーな。何年あの部屋で戦ッてんだ?」

加蓮「1年だけど」

吉川「はッ! マジか? 1年で800点ッて、千葉には星人が腐るほどいンのか?」

武田「おい……いくらこの席が店の奥だッて言ッても、誰かに聞かれる可能性もあるんだぞ。少し声のトーンを落とせ」

吉川「あァ……そうだな」

武田「しかし、8回なんて信じられないな。俺の知る限り3回クリアした人間も相当な男だッたが、それ以上なんて……しかも君のような女の子が……」

加蓮「アタシよりもクリア回数が多い女の子はまだいるよ。凛は17回クリアしてるし」

吉川「17回? ンだそりゃ? それもさッき言ッてた渋谷ッてヤツか?」

玄野「言ッたろ? 東京チームで一番強いヤツだッて」

武田「……この前のあの話は冗談じゃなかッたのか?」

玄野「冗談じゃないぞ。というか冗談だと思ッてたのか?」

武田「当たり前だ……」

玄野「……まぁ、アイツ見た目はテレビに出てるアイドルと遜色ないし、線も細いから強そうには見えねーから仕方無いわな……」

加蓮「見た目で判断しないほうがいいと思うよ? ミッションでもそうでしょ? 弱そうなのがとんでもないバケモノだったりすることもあるんだから。……あっ、アタシも凛もバケモノじゃないからね? か弱い女の子だからね」

吉川「何言ッてやがンだ。面構えからしてか弱い女の子ッてタマかよ。そもそも俺より多くクリアしている奴が何を言ッてんだか」

玄野「アンタは何回クリアしてるんだ?」

吉川「俺は4回、お前は?」

玄野「俺は2回。武田、アンタは何回だ?」

武田「……1回だ」

玄野「そうか、どうやらこのテーブルの人間はレイカさん以外は全員クリア経験者みたいだな」

レイカ「……」

玄野「全員があの部屋で何回もミッションを行ッている。つまり色々と調べて情報を得ているはずだな」

吉川「まぁ、な……」

武田「分かる範囲で調べはした」

加蓮「アタシ達はさっき言ったように凛から聞いた情報以上の事は知らないよ」

玄野「……それじゃあ、武田、吉川、アンタ達はガンツの事をどれだけ知ッてるんだ? そしてこれからどうなッていくと思う?」

玄野の問いにまずは武田が答える。

武田「俺達はあの黒球……ガンツでいいか。ガンツは日本、いや、世界中にガンツがあると睨んでいる。色々調べているうちにこの10年以内で、ガンツの武器による破壊痕が世界各地で発生していることを突き止めた。それが一切ニュースにならないのは、誰かが手を回しているか……それかガンツ自身が何かをやっているのかと考えているのだが確証はない」

玄野「世界各地か……渋谷もそう言ッていたし、それは間違いないだろうな」

武田「実際のところ、ガンツについてはそれくらいの予想しか付けれていないのが現状だ。だからこそ君達から情報を得ようと考えていたわけだな」

玄野「そうか……」

武田「後これからどうなるかッて事は、ハッキリ言ッて想像もつかない。前回のようにこれからは別のガンツチームの人間と合同でミッションを行うのか、それとも元に戻ッて俺たちだけでミッションを行うのか……姿が見えていたことも、ハッキリ言ッてわからない……」

玄野「……」

玄野は口元を押さえながら考え込む。

武田の知っている事は自分たちも知っていることだった。

これだと吉川もと、吉川に視線を向けると、吉川は肉を口にしながら軽い口調で玄野達に衝撃を与える言葉を出した。

吉川「お前ら、ガンツをコントロールできるッて知ッてるか?」

玄野「……はぁ?」

レイカ「ガンツを……?」

武田「コントロール……だと?」

奈緒「……マジ?」

加蓮「できるの……?」

吉川「ああ」

玄野「ど、どういうことなんだ!?」

吉川「俺達も偶然見つけたんだけどよ、あのガンツの中にいる人間を引ッ張り出そうとして奴についてるケーブルやらコードを外してたら、パソコンに強い奴が気付いたんだよ。奴についているケーブルがパソコンに接続できるッて事を」

吉川「それで、俺のクリア報酬のパソコンをそいつにつなげてみたら、そッからはゲーム画面みてーなのが沢山でてきてよ、俺はまッたく理解できなかッたが、そのパソコンに強い仲間が色々とやッて、ガンツをコントロールできるッつー事を見つけたんだ」

玄野「ど、どこまでコントロールできたんだ!?」

吉川「……別のガンツチームに通信を行うことが出来た」

玄野「ほ、他のガンツチームと通信!? 他に何かできる事は無いのか!?」

吉川「……」

玄野「なァ! おいッ!?」

吉川「……他にか、もう少しそいつが生きてたら色々出来たのかも知れねぇなァ……」

玄野「あ……」

吉川「俺達群馬チームはよ、この前のミッションで俺以外のメンバーは全員戻ッて来れなかッた。まァ、そーいうこッた」

玄野「そうか……」

吉川「ああ。俺はパソコンに疎いし、もうコントロールする方法もわからねェ、お前らにそーいうのが得意な奴がいるんなら試してみるのもいいんじゃねーのか」

玄野は全員を見渡して、誰かパソコンの操作に自身があるものがいるか聞くが、全員が首を振るだけだった。

全員がどうしたものかと考え込んでいると、レイカが吉川に問いかける。

レイカ「あの……そのガンツをコントロールできる人を再生して、色々調べてもらッたらどうなんですか?」

吉川「……再生、か……簡単に言ッてくれるじゃねぇか……」

レイカ「簡単ッて……あなたはもう4回もクリアしているんですよね? そんな人なら……」

吉川「……俺もアイツ等を再生してーのは山々だが、次も新しい奴等があの部屋に来るはずだ。その中には戦う力も持たないガキとかもいるんだ、そんな奴等に点数を優先させなきゃならねぇ」

武田「あんたは……」

加蓮「……」

奈緒「……」

玄野「……加藤みたいなヤツもどこにでもいるんだな……」

吉川「そんなわけだ、恐らく次俺が100点を取るのは半年かそれ以上先になると思う、色々簡単にはいかねーつーことだ」

玄野「……わかッた、コントロールの方法はこちらでも調べてみる。ケーブルを100点報酬のパソコンに繋げばいいなら、渋谷に頼んで……」

玄野が少し考え始めるが、今度は逆に吉川や武田が玄野に色々と質問を始める。

それは主に東京チームが知っているガンツの内容。

玄野は自身が知る限りの情報を話し、その情報量に武田と吉川は驚きを隠せないでいた。

その中でもカタストロフィという言葉に二人とも関心を示した。

武田「カタストロフィ……一体何なんだそれは?」

吉川「人類が滅びるねェ……眉唾モンだが、何が起きるかッてのはお前らでも知らねぇンだよな?」

玄野「……ああ、だけど今、渋谷がそのカタストロフィの情報を聞きだしたヤツから情報を引き出しているところだ、何かが分かッたらアンタ達にも教えるよ」

吉川「そーか……しかし、その渋谷ッてヤツはどんなヤツなんだよ。17回もクリアをしてお前らのチームで最強で、ガンツの情報にも詳しくて、容姿はアイドル並だッたか? 話を聞いている限り完璧すぎやしねーか?」

玄野「……言われてみるとそうだな、だけどアイツは性格に問題が……って、最近はブチ切れてイカれた行動も発言もしねーし、それどころか前回はおっちゃん達を再生してくれたし、アイドル二人をいつも守る為に行動してるし……アイツのこと色々誤解してたのは俺なのか?」

加蓮「? 性格って?」

玄野「イヤ、昔にアイツがあの部屋でのミッションが楽しいッて言ッた事がずッと引ッかかッていてさ……でも、最近のアイツはそんな感じじゃねーし」

奈緒「ミッションが楽しい? あの凛が?」

加蓮と奈緒は顔を見合わせて頭を悩ませ始めた。

まだ出会ってそこまで経っていないが、凛の人なりを見てきた二人。

卯月と未央と共に3人でガンツの部屋から解放される為に日々訓練を頑張っている凛。

加蓮「あの子はミッションを楽しむより、卯月と未央を守る事を最優先にしてる感じがするけど」

奈緒「そうだよな。それにいつもあの二人と一緒にガンツの部屋から解放されたいって言ってるし、何かの聞き間違えでもしたんじゃないのか?」

玄野「……そッか」

玄野は思い出す。

チビ星人と戦ったときには確かに凛は完全に狂っているとしか思えない行動を取っていた。

だが、最近、いや、卯月と未央が凛と行動を共にするようになって、そういった素振りがまったく無くなった。

凛はあの二人に出会って、変わったのだと玄野は結論付ける。

自分自身が多恵と出会い変わったのと同じように。

玄野の中から凛に対する最後に残った小さな警戒心も消えることとなった。

武田「それで、どうする? もう粗方話は済んだが、他に何か聞く事はあるか?」

玄野「あ、そうだな……」

玄野「……全員の連絡先を教えてもらッていいかな? 今後こちらで情報を得た場合全員に伝えるからさ」

武田「わかッた」

そして、玄野は全員の連絡先を得て、今回の話し合いは終わり、ファミレスを出て全員が車に乗り込もうとしたとき、加蓮と奈緒だけがその場に残る事を告げる。

玄野「どうした? 帰らないのか?」

加蓮「ううん、アタシ達はここからは走って帰るよ」

奈緒「……」

武田「走る……駅までは結構な距離があるぞ? しかもこんな遅い時間に女の子二人で夜道を走るのは……」

加蓮「あ、違う違う。家まで走って帰るだけだし、普通の道を通らないから変な人にも絡まれないから安心して」

奈緒「……」

玄野「家までッて……君達は千葉だろ? ここから50キロは離れてるんだけど……」

加蓮「ま、気にしないで、アタシ達の特訓だから! それじゃあね!」

奈緒「……」

玄野達が呼び止めるより早く加蓮は奈緒の背中を押して暗い山道を登って行った。

玄野や武田はそれを見て追いかけようとするが、すでに二人の姿を見失い、どうすることも出来ずにその場に残った全員が車に乗り込んだ。

玄野達が神奈川チームに車で送ってもらっている最中。

東京チームの面々が車の中で話していた。

加藤「ケイちゃん、レイカさん、今日は本当にありがとう。これである程度金がたまッたし俺もやッとアパートを借りることが出来そうだよ」

玄野「そッか、そりゃよかッた」

加藤「ケイちゃんとレイカさんがいなかッたら本当にどーなッてた事か……感謝しても仕切れないないぜ」

玄野「俺は何もしてねーよ。礼ならお前等のバイトを紹介してくれたレイカさんに言ッてくれ。いろんなコネを使ッてくれて毎日のようにお前等のバイトを持ッてきてくれたんだからさ」

レイカ「玄野クンの親友ッて言うから頑張ッただけだから……お礼はやッぱり玄野クンに言ッて」

玄野「いやいやいや、何言ッてんだよレイカさん。俺は何もして無いだろ?」

玄野とレイカのやり取りを聞いていた岸本が玄野の顔を覗き込むように見て、加藤に小声で耳打ちを始める。

岸本「……加藤君。やッぱり、玄野君すごく変わッたよ」

加藤「……岸本さん、何度も言ッてるだろ? ケイちゃんは何も変わッて無いよ。俺が憧れ続けているヒーローなんだッて」

岸本「……ううん。玄野君、加藤君みたくなッたと思う……。昔と全然違う、あたしのことも……その、優しい目で見てくれるし。ヘンな目で見ないし」

加藤「……ケイちゃんは優しくて強い男だからな。も、もしかしてケイちゃんに惚れてしまッたとかじゃ……」

岸本「ち、違うよ! あたしは加藤君の事を!」

玄野「岸本?」

レイカ「?」

岸本「あ……」

そのまま赤面して小さくなる岸本を玄野達は不思議そうな顔をして見る。

その岸本にレイカが話し始めた。

レイカ「えッと、岸本さんは加藤君と一緒のアパートに住む予定なんだよね?」

岸本「あ、うん。レイカさんのマンションからももう少しで出ないといけないよね」

そう、岸本はレイカのマンションに先のミッションの日から住まわせてもらっていた。

最初は玄野が加藤と岸本を何日か自分のアパートに泊めると言ったのだが、それを聞いたレイカが岸本は女性だからと自分のマンションに来てもらうように話したのだった。

岸本は少し躊躇したが、加藤にもそのほうがいいと言われ、しばらくの間レイカのマンションに住むこととなった。

そして、レイカの部屋に泊まっている間に、加藤への想いなども全てレイカに話していた。

加藤「岸本さん、いいのか? 俺なんかと一緒に住むッて」

岸本「いいよ! むしろ住みたいッて言ッたのあたしだし!」

加藤「弟もいてかなり狭い部屋なんだけど……」

岸本「大丈夫! 弟君とも仲良くするし、狭い部屋でもあたし平気だから!」

加藤「そ、そうか」

戸惑いながらもどことなく嬉しそうな加藤と幸せそうな表情で加藤に笑いかける岸本。

玄野は二人を見ながら、目が潤んで涙がこぼれそうになるのを必死にこらえる。

玄野(加藤、岸本……)

玄野の脳裏にあの仏像と戦った日の光景が蘇ってくる。

転送される前、加藤と岸本が照れくさそうに話していた光景が蘇ってくる。

玄野(あの時は、嫉妬していた……)

玄野(だけど、もうそんな事を感じもしない……)

一度失ってしまったこの光景をもう手放したくないと玄野は思う。

玄野(加藤も岸本も必ずあの部屋から解放させてやる……)

玄野(レイカも、あいつ等も、全員……)

レイカを見て想う玄野に、頬を赤らめてレイカは玄野の視線を受け止める。

レイカはその玄野に、玄野の体温を感じれるくらいに身を寄せて手を重ねようとした。

だが、玄野の視線がどこか遠くに向けられた事によってその手が止まる。

玄野(そして、いつか俺もタエちゃんの元に……)

レイカは玄野の横顔を見ながら唇を噛み締めて視線を落とす。

レイカ(玄野クン……また、あの女の事を考えてるんだ……)

レイカ(小島多恵さん……玄野クンの彼女……)

レイカ(羨ましいよ……羨ましい……)

レイカはそのまま目を瞑り、玄野の肩に寄りかかるようにして頭を当てる。

玄野「あッ、れ、レイカさん?」

レイカ(玄野クンの温もり、玄野クンの鼓動、玄野クンの息遣い……)

玄野「寝ちゃッたのか……」

レイカ(暖かいな……ずッとこうしていたい……)

レイカはそのまま玄野の体温を感じながら徐々に睡魔に誘われていった。

サマーフェス会場の最寄り駅。

人がはけてがらんとしたホームのベンチに二人の少女が座っていた。

二人とも暗い顔をして座っていた。

未央「……しまむー」

卯月「……なんですか、未央ちゃん」

未央「……私、また迷ってるよ」

卯月「……私もです」

未央「……ほんの少し、数ヶ月くらい休むだけ、それだけなのに」

卯月「……なんで割り切れないんでしょうね」

未央「……しぶりんや私たちの命とアイドル活動、どっちが大事かって分かりきっているのに」

卯月「……分かりきっていることにこんなに悩んで迷って……本当に最低です……」

二人はベンチに座りながらずっと考え込んでいた。

前回の狩りで見た、首がへし折れて悲惨な姿をしている凛の姿を思い出す。

一時は完全に迷いを断ち切り、ガンツの部屋を解放されるその日まで、アイドルの事は考えないようにするつもりだった。

だけど、今日のライブで、今までの全てを出し切るようなステージを出来て、会場中の人間の声援をその身に受けて、仲間達の懇願と、ファン達のメッセージが二人の心に再び迷いの火を灯らせた。

それが二人を苦しめていた。

迷いを断ち切った上でのこの感情。どこまで自分たちは優柔不断なのかと自己嫌悪に陥り続ける。

二人がそうやって頭を抱えて座っていると、誰もいないホームに人の声が近づいてくる。

「……師匠、島村さんと本田さん、すごかッたスよね!」

「……そうだな。ありゃ、トップアイドルって奴になる器だ。さッさとあの部屋から解放されてほしいもんだ」

「……大丈夫ッスよ! あの二人には何てッたッて、渋谷さんが着いてるんッスよ! 渋谷さんがいる限りあの二人に手を出せる奴なんてどこにもいないッスよ!」

「……あぁ、そーだな。渋谷の姐さんがいりゃなんとでもなるだろーからな」

聞き覚えのある声に卯月と未央は顔を上げる。

視線の先には、坂田と桜井が階段を下りてきてベンチに座る二人に気付かずに近づいてきていた。

今日はこの辺で。

卯月と未央は近づいてくる坂田と桜井に目を向けた。

坂田達は物陰になっているベンチに座っている二人に気がつかず、その前を通り過ぎようとしたときに、暗い目をした二人にようやく気がついた。

坂田「うォッ!?」

桜井「師匠? どーしたんス……うわァッ!?」

卯月「……」

未央「……」

桜井「し、島村さんに本田さんじゃないスか。ど、どーしたんスか? そんな暗い顔して」

坂田「お、おいおい、ユーレイかと思ッちまッたぞ……」

卯月「……坂田さん、桜井君……」

未央「……偶然だね」

坂田「お、おう。本当にどうしたんだ……?」

桜井「な、何かあッたんスか?」

卯月「……なんでも無いです」

未央「……うん、気にしないで」

そう言って再び項垂れる二人。

坂田と桜井は二人を見ながら何かがあったのだと察しどうしたものかと頭を悩ませ始めた。

しばらくして坂田が自販機からコーヒーを買って二人の前に差し出す。

卯月「……?」

坂田「飲みなよ、苦ッがいブラックだ」

未央「……今、何かを飲みたい気分じゃ」

坂田「それでも飲みなよ。今の君達、すんげぇ顔してんの。私たち悩んでますッて。そういう時は何かで気を紛らわせないとどんどん深みにハマッてくわけよ。少し気分を変えないとな」

卯月「……」

未央「……」

桜井「そういえば渋谷さんはどーしたんスか? 姿が見えないッスけど……」

卯月・未央「っ!」

凛の名前を出したと同時に二人の身体がびくりと跳ねた。

それを見て坂田と桜井は凛と何かが会ったのだと理解する。

坂田「渋谷の姐さんと何かあッたのか?」

卯月「……」

坂田「もしかして、ケンカでもしたのか?」

未央「するわけないでしょ!?」

坂田「おッ、おお……そりゃすまねぇ」

声を荒げた未央は自分がただ行き場の無い感情を坂田にぶつけてしまったのだという事を自覚して押し黙ってしまう。

押し黙って俯いた未央を見て、坂田は二人の近くに地べたに座り、買ってきたコーヒーをちびちびと飲み始めた。

桜井もその横に座り、暗い顔をした二人をちらちらと見ていた。

しばらく無言の時間が過ぎ、坂田が再び口を開く。

坂田「……何があッたのかはわからねぇけど、そうやッて抱え込んでてもいいことなんて何も無いぞ」

卯月「……」

未央「……」

坂田「俺も昔、誰にも相談できない悩みッてやつを抱え込んで自殺寸前まで追い込まれたことがある……」

卯月「え……」

未央「っ!」

桜井「師匠……」

坂田「今の君達の顔見てると、追い込まれ始めた頃の俺の顔を思い出しちまッてさ……どーしても放ッて置けないんだよな」

坂田「良かッたら話してくれないか? 君達が悩んでることを」

卯月と未央は顔を上げて坂田を見やる。

真摯な表情で、自分たちを見る坂田。

本当に自分達の事を想って聞いてきてくれているのだと二人とも感じていた。

そんな坂田に二人の心は揺さぶられた。

先のミッション……凛が死にかけてしまった姿を見てから、不安定だった二人の精神。

このライブによって、CPの仲間や、Pと話してさらに不安定になってしまった二人。

そんな二人に優しく気遣ってくれた坂田に卯月と未央は塞き止めていたものが押し出されていくように、

誰にも相談するつもりも無かった自分達の心の内をぽつりぽつりと話し始めていた。

卯月「……私達、あの部屋に来て、凛ちゃんにずっと助けてもらってるんです……」

卯月「……私達の為に、あの部屋の道具の使い方を教えてくれて……」

卯月「……私達の為に、自分の時間も作らずに私達の時間に合わせて、私達の特訓をしてくれて……」

卯月「……私達を守る為に、あんな怖い宇宙人に向かっていって……」

卯月「…………私達のせいで、この前、凛ちゃん、死にかけて…………」

卯月「…………それなのに、私、自分のやりたい事を、ちょっとでも止めたくないって思って、自分の事しか考えないで、私のせいで未央ちゃんも、凛ちゃんも、死にそうになっているのに…………」

今まで抑えていたせいか、卯月はそのまま両目から涙を溢れさせながら、ごめんなさいと呟き続け両手で顔を覆ってしまった。

その卯月を見て、未央が続ける。

未央「……私達さ、しぶりんがあんな目に会っちゃってるのに、アイドル活動を休止する事に抵抗があってさ……」

未央「……レッスンの時間を特訓に当てて、少しでも強くなれればしぶりんが無茶をすることもなくなるし、あの部屋から出られる可能性も高くなるってわかってるのにそんな事考えてるんだよ」

未央「さっきもさ、アイドルの仲間やプロデューサーと話しているうちにどんどんアイドル活動をこのまま続けたいって気持ちが大きくなってさ、もう少しなら続けてもいいんじゃないかって考え始めてるんだよ?」

未央「ほんっと……最悪だよ……自分のことしか考えられない……嫌になってくるよ……」

卯月は顔を覆って泣き続け、未央は苦虫を噛み潰したような顔で自己嫌悪に陥っている。

桜井「し、師匠……」

坂田「……」

坂田はほんの少しだけ、視線を二人から外して、桜井を見て、最後に空を見上げた。

二人の悩みを聞くと言ったものの、聞いてみて自分が解決できるような悩みではなかった。

自分や桜井のようにいじめを受けていて、そのいじめの加害者をどうにかすれば解決すると言った悩みではなく、完全に二人の精神的な葛藤。

あの部屋にいる限り、解決しない悩み。

それならばと、坂田は二人の前にしゃがみこんでサングラスを外して二人に視線を合わせて言った。

坂田「次、だな」

卯月「……次ですか?」

坂田「ああ、次のミッションで君達3人全員解放。それで君達の悩みは解決だ。渋谷の姐さんも君達もあの部屋から出れて、君達は悩むこともなくなりアイドルを再開できる」

坂田「まァ……次のミッションまでッて考えれば休止するにしても少しは気が楽になるんじゃないか?」

未央「……でも、次に私達3人がみんなあの部屋から解放されるって確証は……」

坂田「俺が君達をサポートする」

卯月「……え?」

未央「サポートって……」

坂田「俺の力は星人を行動不能にするのに適している、行動不能にした星人の点数は君達が持ッていッてくれ」

卯月「そ、それじゃあ、坂田さんに点数が入りませんよ……?」

坂田「俺は君達が100点を取るまでは、サポートに徹するよ。君達が解放されたら俺も100点を目指してやッていく事にする」

未央「な、なんで坂田さんが私達に協力を……?」

坂田「何で……ッて言われたらなぁ……」

卯月と未央は何故坂田が自分たちの為に動いてくれるのかが分からなかった。

何度か話した程度、あの部屋での仲間とはいえ、接点は殆ど無い。

その坂田が自分達の為に動いてくれる理由。

その答えを坂田は3本の指を立てながら話し始めた。

坂田「まずは、前回俺は渋谷の姐さんに再生してもらッた。渋谷の姐さんにはデカすぎる借りがある。それを返したいッてのが一つだ」

1本指を折り曲げる。

坂田「次に、俺は君達のファンになッちまッたんだよな。今日のライブでマジで完璧に見惚れちまッた。だから早く次のライブを見たいッてのがもう一つだ」

もう1本折り曲げる。

坂田「そして、最後に、悩んでいる女の子を助けるのに理由なんていらないだろ?」

そう言い、坂田は卯月と未央に優しく笑いかけた。

卯月と未央は目を点にして坂田を見続けていた。

恐らくは最後に冗談を言ったつもりで自分達の反応を待っているようだった。

だが、卯月と未央は坂田の顔を見続けて、対照的に自分の台詞に突っ込みも入らずに見られ続ける坂田の顔は赤くなっていた。

坂田「ま、まあ、そんな訳だ。俺は君達を助ける理由がある」

そう言ってサングラスをかけなおしそっぽを向く坂田に、卯月と未央はここしばらく感じていた鬱屈とした気分が少し晴れるようにほんの少しだけ笑っていた。

卯月「あの、ありがとうございます、坂田さん……話したら本当に少し気分が良くなったみたいです」

未央「うん……あのままだと本当に私達、ダメになってたかもしれないから……」

最初の暗い表情ではなく、少しだけ表情を明るくした二人は坂田に礼を言い続ける。

卯月「私達、もう一度、アイドルの仲間のみんなと話してこようと思います」

未央「今度は逃げ出さずにちゃんと話すよ。少しの間だけ休むって、だけど必ず戻ってくるから待っていてほしいって」

二人の中でまだくすぶっているものはあったが、二人とも切り替える事にした。

アイドル活動を休止するのは嫌だった、だけどそれを引きずったままだとさっきまでのように陰鬱とした気分になってしまう。

坂田に打ち明けた事によって、少し気分が変わった。

自分達の悩みを聞いてくれて、さらには自分たちを助けてくれると言ってくれ、自分達のファンになってくれたという坂田。

単純だが、ファンの代表として坂田が自分たちを励ましてくれたような気がしたと感じる二人。

それならば自分たちがする事は1日でも早く、あの部屋から解放されて励ましてくれたファンの前にアイドルとしての姿を見せること。

中途半端な気持ちでステージに立つことはしない、自分たちを励ましてくれるファンにも失礼だから。

そう気持ちを切り替えて、二人はガンツの部屋から解放されるための行動をするという事、1点に集中する。

坂田「そうか、それなら次のミッションでは気合を入れてやらないといけないな。俺の力をフルで使ッて……」

卯月「それは駄目ですよっ!」

未央「うん、坂田さんは私達のファンなんだから、私達と一緒にあの部屋から出て、私達のライブをちゃんと見てもらわないといけないんだから」

卯月「はい、次のミッションで、みんな全員で解放されましょう、それが一番です!」

坂田「お、おいおい。それは……」

未央「出来るって考えよう。私ももう頭を切り替えたよ。そのためにアイドル活動は休止! 私達は少しの間だけ強くなるための訓練に全力を尽くして、次のミッションでお終い!」

卯月「毎日訓練をすれば、レッスンの時間を全部訓練に当てれば、絶対に私達強くなれるはずです。頑張って、頑張って、あの部屋から出る為に頑張れば絶対に……」

坂田はそんな二人を見て、とりあえずはこれでいいかと一息ついた。

最初のように暗い顔はもうしていない、少し意気込みすぎているような感じもするが、悩みを振り切ったのは間違いない。

そうやって、二人を暖かく見守っていると、今まで話を聞いていた桜井がぽつりと言葉を零す。

桜井「師匠……島村さんと本田さんに、力を教えてあげるのッてどーですか? 二人が力を使えるようになれば、単純に力を得た分だけ強くなれるッて思うんですけど」

坂田「ッ!!」

卯月「力……って、超能力、ですか?」

未央「えっ? 教えてあげるって……私達も使えるの?」

桜井「それは……俺も師匠に教えてもらッたんで……師匠、どうなんスかね? 島村さんや本田さんも力を使うことッてできるんですかね?」

坂田「……」

先ほどとは違い渋い表情をする坂田に、卯月と未央は駆け寄った。

卯月「あ、あのっ! どうなんですか? 私達、超能力を使うことってできるんですか!?」

未央「坂田さん! できるなら教えて! 私達、少しでも強くなりたいの!」

先ほどまであれだけ強くなりたいと言っていた二人に気を使ってか、単純に強くなる方法を桜井が思いつきで話した。

それに二人は食いついてしまう。

坂田と桜井の超能力は何度か見ていた。

その中でも特筆する力は、対象を浮かばせる力。

飛行能力を持たない星人なら行動を著しく制限できることが簡単に出来る。

他にも様々な力がある事を卯月と未央は知っていた。

手に入るならほしい。

その力があれば少しでも生き残れる可能性も上がるし、凛を守ることも出来ると考えて。

坂田「……教える事は……できるし、使うことも出来るだろう」

その言葉に目を大きくして、ならば教えてほしいと言い放とうとした二人を制して、坂田は続けた。

坂田「……だが、俺達の、この力には相応のリスクがある」

桜井「えっ?」

坂田「桜井……お前に力を渡すときには知らなかッたことだ、今更こんな事を言ッてすまないと思ッている」

そのまま坂田は自分の腹部に触れて、

坂田「力を使うたびに自分のカラダに相当な負荷がかかるんだ……簡単に言えば力を使うたび寿命が減る。命を削ッて使う力なんだよ……」

その言葉に桜井は驚いた表情を見せるがすぐに平静に戻る。

坂田「俺の内臓はもう老人と変わらない状態らしい……5年かそこらでこんな状態になッちまうんだ……」

桜井「師匠……それ、マジなんスか……」

坂田「ああ、だからお前ももう極力、力を使うな。本当に今更だけどな……」

桜井「……」

坂田「そういうわけだ、君達もこんな力ほしいと思わないだろ?」

そうやって卯月と未央に向き直った坂田は自分が失言をしてしまったことに気付く。

使うたびに寿命が減る力など、誰がほしがるかと。

さらに長年力を使っていて、この力の使える程度を知っている坂田にとって、寿命を引き換えにしてでもほしい力だと考えていなかった。

だが、卯月と未央にとっては違った。

二人とも、今はどんな小さな力でも欲していた。

そして、それが手に入ると知ってしまった。

二人は強い視線で。

卯月「それでも、教えてほしいです」

未央「私も、超能力、ほしいよ」

坂田「お、おいッ! 聞いていなかッたのか!? 使うごとに寿命が減るんだぞ!? しかも寿命が減るに対して出来ることなんか少ない力なんだ!」

卯月「でも、その力があれば、危ないときにもしかしたら助かるかもしれないです」

未央「うん。その場で死んでしまうより、少し寿命を削って助かったほうがいいよね」

坂田「ッ!!」

固い意志を持った二人は坂田に詰め寄っていく。

坂田は二人を説得しつつも、この原因となった桜井を睨みつける。

桜井「……すいません」

坂田「いや……」

だが、この状況を作り出したのは自分の発言もあった事を思い出し頭を抱える。

それから、しばらく坂田は二人を説得し続けた。

電車が何本か通過する間、必死に説得をしたが、二人の意思は固く、最終的には坂田が折れることとなってしまった。

いくつかの条件を出して。

坂田「わかッた……教える。降参だよ」

卯月「本当ですかっ!?」

坂田「ああ、だけど条件付でだ」

未央「何!? 何でも言ってよ!」

坂田「まず一つ目は……力の使い方は教えるが、ある程度使えるようになッたら、それからは力は使わないようにすることだ。使うときは、力がないとどうしようもない時、それ以外は封印してくれ」

卯月「はい」

未央「うん」

坂田「次だ、君達が力を使える事は誰にも話さないでくれ。もちろん渋谷の姐さんにもだ」

卯月「え……」

未央「どうして……?」

坂田「もしも渋谷の姐さんに力を使うことによッて、寿命が縮まるなんて知られた日には、俺はどんな目に合わされるか分からないからな……」

卯月「どんな目にって……何も無いと思いますけど……」

未央「そうだよ」

坂田「……いいからこの二つを呑んでくれなければ俺は君達に力を渡さない。できるか?」

卯月「……はい」

未央「わかった……坂田さんの言う事を守るよ」

坂田「……よし」

坂田は二人の了承の言葉に頷くと、おもむろに立ち上がりポケットからライターを取り出して二人に見せる。

坂田「じゃあ……力の使い方、教えるぞ」

卯月「あっ、はい」

未央「う、うん」

坂田「まずはこのライターの火を見てくれ」

坂田はシュボッとライターに火をつけて、二人に見せる。

10秒ほど良く見せて、一旦ライターの火を消した。

坂田「どうだ? 火の残像は見えるかな?」

卯月「残像……ですか?」

坂田「ああ、今消した火の残像だよ」

未央「……ちょっとだけちらちらと、見えるかも……」

坂田「よし。それじゃ、こういッた光の残像を何でもいいから動かせるようになるんだ。それが最初のステップだ」

卯月「……光の残像」

坂田「指を回して、光が纏わりついてくるように」

未央「……指を」

坂田「最初は質量0のものから始めて、徐々に重くしていくんだ。軽いものほどイメージはしやすいからな」

卯月「……」

未央「……イメージ」

坂田「こうやッて指に纏わりつかせて、回転させるんだ。光を自分の意思で動かすように」

卯月「……」

未央「動かす……動く……」

坂田「出来ないと思わないことだ。人はあらゆることが出来ると考えるんだ、できると思いながら…………何?」

坂田が何度もライターの火をつけたり消したりしながら光の残像を動かしていると、坂田の指の周りを動いていた光の残像が、ゆっくりと移動して卯月の指に止まるように重なる。

卯月「……」

未央「えっ……今……」

桜井「島村さんのほうに、動かしたんスか?」

坂田「いや……」

卯月は未だに集中して坂田の手にあるライターを見ている。

坂田はもう一度ライターに火をともし、その火を消すと、火のついていた場所にあった残像が今度は先ほどより早いスピードで卯月の指元に移動してくるくると動き始めた。

卯月「……」

それを恐ろしく集中した目で見続ける卯月。

未央「こ、これって? 坂田さん?」

桜井「ま、マジっスか?」

坂田「……おいおい、マジかよ……」

やがてその回転していた残像が消えて、卯月は再びライターを見ようとするが、坂田の手はすでに下りており、ライターを見失った卯月は顔を上げて、そこで全員に見られている事に気がついた。

卯月「あれ? どうしたんですか?」

坂田「……今、君は力を使ッていたんだ」

卯月「え……」

卯月は呆然としながら坂田の声を聞いた。

自分が力を使った?

卯月「えっ、で、でも、私、ただ集中していただけで」

坂田「……もしかしたらこれもイケるかもしれないな」

坂田はポケットからティッシュペーパーを一枚取り出して、卯月の手に乗せた。

卯月はそれを見て、もう一度坂田の顔を見る。

坂田「それを動かしてみなよ。君のイメージで、想像して見るんだ、動いている所を」

卯月「えっ、あっ……はい」

戸惑いながら手に乗っているティッシュを見て、卯月は集中を始める。

すると……。

未央「!? う、浮いた!!」

桜井「す、すッげェ……」

風に漂うようにふわふわと浮かぶティッシュはやがて意思を持ったかのように卯月の身体の周りを回り始めた。

坂田「……信じらんねぇな……」

風に吹かれているとは思えない軌道をするティッシュはこれが卯月が動かしているのだと全員に認識させた。

ひとしきり動かした後に、ティッシュは卯月の手におさまり、それを呆然とした表情で見る卯月。

卯月「わ、私……」

未央「す、すごいよしまむー! どうやったの!?」

卯月「え、えと、イメージして……集中していたら、できちゃいました……」

桜井「お、俺、丸一日かかッたのに……」

坂田「……君は何かそういう訓練とか受けたりしたのか?」

卯月「訓練ですか?」

坂田「ああ、今みたいに何かを強くイメージして、それを現実に置き換えるといッた訓練だ」

卯月「え、えっと……イメージトレーニングはいつものレッスンで自分の理想の動きとかを考えながらやっていますけど……そういうのなんですかね?」

坂田「イメージトレーニングか……」

卯月「はい。私、よく失敗しちゃうんで、頭の中ではいつも完璧な自分を考えてレッスンをしてるんです。昔から、アイドルに憧れた子供の頃からレッスンともいえない踊りの真似事をしてるときから……」

坂田「……なるほどな」

ガンツの部屋に来る前まで普通の女の子と大差ない卯月が他のアイドルよりも圧倒的に秀でていたものはその精神力だった。

同期のアイドル候補生が止めていったり、デビューしていったりする中で卯月は一人養成所でレッスンを続け、ついにはアイドルデビューを果たした。

その間、卯月は毎日レッスンを行う上で、自分がステージに立った姿をイメージし続けてレッスンを行い続けていた。

そして、それはデビュー後も続く。他のアイドルよりもダンスが不得意な為に卯月はずっとイメージしながら続ける。

それがガンツの部屋に来て、スーツの力と日々の特訓の効果もあり、徐々に自分のイメージと身体が一致していった。

さらに、飛行リングの力の一つである自分の理想の動きをトレースできる機能が卯月の考える力を強化し、一日中イメージトレーニングをするに至っていた。

それらのすべてが絡み合い、卯月が本来持ち得なかった才能が今花開く。

超能力という、思考能力が大きな影響を与える力という形で。

坂田「桜井も才能があると思ッたが、君はそれ以上だな……君なら俺や桜井よりも強い力を得ることができるかもしれないな」

卯月「私が……ですか?」

坂田「ああ」

卯月は自分の両手を見て、その両手を握り締める。

その手に未央の手が重ねられて、卯月は未央を見た。

未央「しまむー、すごいよ! 超能力をこんなに簡単に使うなんて!」

卯月「超能力……私の、力……」

純粋に自分の力を喜んでくれる未央に卯月は笑いかけた。

そして、この力をもっと使いこなせるようになろうと決心した。

体温を感じる未央の為に。

そして、この場にはいない凛の為に。

今日はこの辺で。

真っ暗などこかに私はいる。

意識はまだハッキリしていない。

だけど、世界から私だけが切り離されたような、そんな薄ら寒い感覚がこみ上げてきている。

ここは一体どこ?

そう意識すると、真っ暗な場所にスポットライトが2本照らし出された。

1本は私の頭上。

私の姿が映し出されて、自分が今どのような格好をしているのか気がついた。

蒼と白のドレスを纏っている。

煌びやかだけど、儚い印象のドレス。

すごく綺麗なドレスでお姫様になったような気がしてしまう衣装。

私が自分の格好を気にしていると、もう一本のスポットライトが照らされる場所から声が聞こえてきた。

――何、これが私? みたいな顔してんの?

目を向けると、そこに居るのはガンツスーツを纏った私。

ハッキリとしていなかった意識が急速にクリアになっていく。

凛「アンタは……」

――誰? 何て聞かないよね?

凛「まあ、ね」

こうやって意識すると良くわかる。

ここは私の心の中。

その中でもとても深い場所。

そしてこの私はガンツの部屋に来て私自身が生み出した人格……みたいだ。

真っ黒な私とでも言っておこうかな。ガンツスーツの色も相まってそう見えるし。

そんな真っ黒な私と相対しているのだけど、私は特に慌てることもなく冷静にこの状況を受け入れていた。

この場所に来て分かる、私は一度ここに来ている。

前回のミッションで死にかけたときに、あの時にこの場所でこの真っ黒な私と会っている。

――そう、あの時もここで会ったよね。でもこうやってアンタの意識がハッキリしているときに会うのは2回目かな?

凛「2回目?」

――ほら、仏像と戦ったときに色々話したでしょ?

凛「ああ……あの声……」

――あの時は、アンタが壊れる寸前だったからここじゃなくても会えたけど、基本的にはここじゃないと私達は会えないからね。

凛「そう……」

その真っ黒な私は私を指差してため息混じりに言い放つ。

――アンタ、最近不安定だよ。

凛「不安定……まぁ……色々思うところ、あるし……」

――私が苦労してアンタを作り上げたんだから、簡単に壊れてもらったら困るの。

凛「作り上げたって……」

真っ黒な私は私を作り上げたと言っている。

深いところで繋がっている私達はお互いの思考も繋がっている。

真っ黒な私が、私にやったことも流れ込んできた。

凛「アンタ……私の頭の中、弄くったの?」

――まぁね。

真っ黒な私が私にやったことを鮮明に思い出すことが出来る。

私の恐怖を感じる感情に蓋をしている。

逆に私の憎しみや怒りと言った感情をより強く感じれるように恐怖の感情の蓋の上に乗せられた。

私が痛みを感じる神経を快感に変わる神経に繋いでいる。

私が楽しいと感じる感情に……殺戮衝動を植えつけている。

そしてその殺戮衝動を満たすと快楽を得れるようにしている。

私の頭の中にメスで手術をするように、真っ黒な私はガンツの部屋に来てからゆっくりと私を作り変えていったのだ。

――嫌だった?

凛「別に……」

そう、真っ黒な私は理由もなしにこんな事をしているのではなかった。

すべては生き残る為に。

恐怖で竦まないように感情に蓋をして、

敵に一切の躊躇をしないように怒りや憎しみの感情を湧き上がらせて、

私が傷ついたり、敵を殺すことによって快楽を得られるようにした。

すべてはあの部屋で生き残る為に。

――そうして無いと、アンタどこかで壊れてただろうしね。

凛「……そうかもね」

昔の私の神経でガンツの部屋の戦いをここまで続けていたらどうなっていただろう。

恐らくどこかで確実に壊れるか死んでいただろう。

人の生き死にに嘆いて。

宇宙人とはいえ、自分の手で生きている生物を殺し続けなければいけない行為に精神を病んで。

人と変わらない姿をした宇宙人を前に躊躇して。

あらゆる場面で私は簡単に死んでいただろう。

だけど、この真っ黒な私が、私を変える事によってそれを防いでくれた。

――あと少しで、カタストロフィっていうのが来るんだから、そこまでは何とかして持たせてよ。

凛「カタストロフィ……か」

真っ黒な私はカタストロフィを警戒していた。

ガンツの部屋から解放された場合、カタストロフィで私は死んでしまうと考えていた。

最初に西から聞いたときからずっと真っ黒な私はカタストロフィに備えて私を作っていっていた。

強い武器を集めて、経験を積ませて、どんなことがあっても生き残れる私を作り出そうとしていた。

それは順調に進んで、私は真っ黒な私の思い描くとおりに行動をしていたのだが……。

その私にバグが発生した。

真っ黒な私が作り出そうとした私に生まれたバグ。

そのバグの名前は、卯月と未央。

真っ黒な私が作り出そうとしている私には不要なものだった。

――本当にあの二人には困ったものだよね。アンタここ最近かき回されすぎだよ、あの二人以外にも新しくまた追加されちゃったみたいだけど。

凛「加蓮と奈緒……」

――あの二人はどちらかというと協力して戦力になりそうだからいいけどさ、未央と卯月は戦力的にも、カタストロフィまでにどうしようもなくない? ハッキリ言って足を引っ張るだけだと思うけどね。

凛「戦力的には……でしょ? 私は友達として、あの二人と付き合っているし、あの二人と一緒に何かをしていきたいって思っているんだから」

――その結果が、アンタのその格好ってわけ?

凛「……」

このドレス姿の私。

あのライブを見て、二人のアイドルの姿をもっと見ていたいと思った。

そして、二人が、私と一緒にステージに立つことを考えていることがわかってしまい、私の中に生まれてしまったこの気持ちが大きく反映されているのだろう。

アイドルのステージであの二人と共に立ってみたいと。

――1度はその感情も押さえ込めたんだけどね……まさかあの二人もガンツの部屋に来てしまって、こんな事になるなんてさぁ……もうアンタのその感情、押さえ込むことが出来ないんだよね。

凛「そっか……」

――他人事みたいに言わないでよ。このままだとアンタの精神がさらに不安定になって、折角弄くった感情の部分が元に戻って、アンタ戦えなくなっちゃうかもしれないんだよ? 最悪今までのツケが回ってきて、精神が壊れるって可能性もあるからね?

凛「でも、どうしようもないじゃん……未央と卯月を切り捨てることなんて出来ないし」

――それだから、私も困ってるの。

真っ黒な私は心底困った顔をしている。

それが少し可笑しくて笑ってしまった。

――何笑ってんの?

凛「ううん。アンタもやっぱり私なんだなって思って」

――それはそうでしょ……もう私達は同じ存在なんだから。

凛「みたいだね……」

そう、元は私がこの部屋に来て最初の狩りでネギ星人に殺された人たちのバラバラ死体を見て恐怖して、ネギ星人を殺し、取り返しのつかない事をしてしまったと後悔したときに生まれたこの真っ黒な私。

恐怖と後悔と絶望から生まれたこの真っ黒な私は、私の心を侵食すると共に、私と同化していった。

私と真っ黒な私を照らしていたスポットライトはいつの間にか一本のライトとなり、私達を照らしている。

私は真っ黒な私の隣に腰を降ろして、あの二人の歌を口ずさみ始めると、真っ黒な私も一緒に歌いだす。

自分同士のデュエット、不思議な感じもするが、私達で歌い終わるとお互い前だけを見て話しかける。

凛「ねぇ、どうすればいいと思う?」

――何が?

凛「未央と卯月。二人はやっぱりガンツの部屋から解放されたほうがいいのかな?」

――私はそのほうがいいとずっと思ってる。だってあの二人がいると、アンタがどんどん戦いづらくなるだろうし。

凛「でも、二人とも殺し合いを楽しめるようになれば……」

――そんなのは無理だってアンタが一番分かってるんでしょ?

凛「……」

――アイドルのステージで輝いている二人を見てどう思った?

凛「あそこが二人の居場所なんだなって……」

――ま、そうだね。私もそう思ったよ、初めて生ライブを見て、あの二人の居場所はあのステージの上なんだなってわかったからね。

凛「たった一回……たった一回の二人のステージを、この目で見てしまうことで、こんなにも心が揺さぶられちゃうなんてね……」

――あんなに私達、あの子達と一緒に、殺戮の道を歩んで行きたいって思っていたのにね……。

凛「……私達、か」

――まぁね。

私達の前に新しくスポットライトが照らし出された。

スポットライトに照らされて歌い踊っているのは卯月と未央。

私達はその姿を眺めていた。

――すごかったよね。

凛「うん」

いつの間にか、私達の周りには顔の無い観客が沢山いる。

ステージの上に立つ二人を全員が見ている。

今日のライブで見た光景だ。

――二人がさ、踊って、歌うたびに、見ている人は二人の姿に釘付けになってさ。

凛「歌い終わった後には、会場の人たちの大声援が地響きのように鳴り響いてたよね」

私達の周りの観客が大声援をあげる。

興奮の最高潮を感じられるこの感じ、今日のライブと寸分たがわず同じ光景。

――こんなライブ、また観たいんだよね?

凛「……そう、だね」

――なら、もうアンタのやるべき事は決まってるよね。

凛「うん」

二人を、解放する。

今度は本当に。

――これ以上、私達みたいな魔女にお姫様を奪われたままだと、王子様も可哀相だしね。

凛「何それ?」

――そんな感じしない? 私達はとても悪い魔女。その私達に囚われているお姫様が二人。王子様や同じ国の仲間たちはお姫様が帰ってくるのを待っているの。

凛「ふふっ……童話のお話?」

――そうだよ。そんなお話の結末はお姫様はみんな王子様や仲間の元に帰ってめでたしめでたし。お姫様は悪い魔女の元にはいられないって言うのが常だからね。

凛「それじゃあ、私達みたいな悪い魔女はどうなっちゃうの?」

――私達は悪い魔女はもっともっと悪い魔物をやっつけに旅立つんだよ。お姫様が悪い魔物に狙われないようにね。

凛「……お姫様を攫うのは悪い魔女の特権だから、お姫様を狙うような悪い魔物はやっつけるっていうこと?」

――そうそう、そんな感じ。

凛「ヘンなお話だね」

――私もそう思う。

さっきまでステージの上で踊っていた二人は、いつの間にかお芝居の劇に出演している。

私達が今話していたような、変なお話の劇。

二人は目つきの悪い王子様と、同じ衣装を着たお姫様達に囲まれて幸せそうに笑っている。

私達はそれを見て立ち上がって、ステージとは逆方向に歩き始めた。

――はい、これ使う?

凛「ありがと」

真っ黒な私から、剣を受け取り、私はドレスの裾をなびかせながら目の前の沢山の魔物……宇宙人たちに構える。

――難しい事は考えないで、こうやって悪い奴等を殺すことを考える。それが一番楽でしょ?

凛「そうだね」

――あの子達はあっちの世界で、私達はこっちの世界で生きていく。あの子達がこっちの世界に間違えて足を踏み入れちゃったけど、私達はあの子達をあっちの世界に戻してあげれば全部が元通り。

凛「最初はそのつもりだったんだけどね」

――私達は悪い魔女。悪い魔女は気変わりもよくする。綺麗なお姫様を手元においておきたかったけど、気が変わってお姫様を元の場所に返してあげたくなった。それだけだよ。

凛「それなら、また気が変わらないうちに、お姫様を帰してあげないとね?」

――違いないね。

私達は光り輝くステージを背に、真っ暗な闇の中へ駆け出した。

その日、私はこの夢を忘れることなく目を覚ました。

目を覚ました私に、昨日まで感じていたあの最悪な気分はなくなっていた。

恐らくあの真っ黒な私がまた何かをしたのかもしれない。

もしくは、二人を解放するということを決めて、これ以上二人から笑顔が消えずにすむと考えて気分が楽になったのかもしれない。

新たな気持ちで、今日の訓練の準備をしようとスマホを見てみると、着信が沢山ある事に気が付いた。

玄野に加蓮からも、あとは……卯月と未央からもメッセージが入っている。

今日の朝訓練に参加できないと行う連絡。

昨日の疲れもあるのだろう、メッセージに分かったよと一言入れて加蓮や玄野にも連絡を返す。

だけど、どちらも繋がらなかった。

玄野はともかく、加蓮は朝早くから起きているはずなのにと思いながら、とりあえずは今日の訓練は中止にしようと考えた。

加蓮と奈緒にもその旨、メッセージを入れておいて、朝ごはんを食べて、朝一から店の手伝いをすることにした。

そうやって、店番をしていると、一人のお客さんが訪ねてきた。

「ここか……」

凛「いらっしゃいませ」

そのお客さんは花を見ることなく、店番をしている私に近づいてきて、

「君、しぶやりん、さん……かな?」

凛「はい……そうですけど?」

……何か以前にもこんな事があったような気がする。

「少し聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

そう言って私に名刺を差し出してくる。

その名刺には。

凛「フリーライター……菊地誠一……さんですか?」

名刺を渡した男、菊地という男は私の顔をジッと見つめ続けていた。

今日はこの辺で。

凛「えっと……あの……」

菊地「1時間くらい、時間をもらえたらありがたいんだけど、大丈夫かな?」

凛「ええと……私、今店番をしているんですけど……」

菊地「ああ、そうか。それなら店番はいつ頃終わるかな? 時間をあらためてまた来るから」

凛「……」

何この人?

時間をあらためて来るって……。

私に用がある……っ!!

そこで気が付いた、私を探っている人間、あのちょび髭の関係者?

そうなってくると、この男もあのちょび髭の仲間?

私に直接会いに来るって一体……。

「如何されましたか?」

私が思考していると、お父さんが私達の様子を見に近づいてきた。

すると、この男はお父さんにも名刺を渡して、ちょっとした取材を私にしたいと言って話を始めた。

だが、いきなり来た怪しい男が、私に取材を行うなんていうことをお父さんが許すはずもなく、男は追い返されていった。

凛(あの男……お父さんにも普通に話そうとした?)

凛(ガンツ関係の話をするのに一般人のお父さんがいる前で……?)

この時点で私はあのちょび髭の仲間ではないと感じていた。

あのちょび髭はこれほど間抜けな行動をする人間を仲間にすることはないだろう。

何せ一般人の前でガンツの情報を話そうとしたのだ、自殺志願者くらいしかそんな事はしないだろう。

ならあの男は……取材って言っていたけど一体……。

お昼になって今日の店番が終わった私は、ハナコの散歩をする為に家を出た。

少し歩いていると、さっきの男が交差点を渡ってくるのが見えた。

明らかに私が行動するのをどこかで見張っていたんだろう。

近づいてくる男に気付かないフリをして私はハナコと一緒に歩く。

この男がさっきお父さんに追い返された後、少しだけ考えてみて、この男は恐らくは一般人だという事が予想できた。

早とちりをしたけど、この男はあのちょび髭の仲間でない事は間違いない。

さらにはガンツの関係者である可能性も、一般人のお父さんの前で話そうとしたことからしても可能性はほとんど無い。

ならば、取材と言っていた事は本当の可能性が高い。フリーライターという肩書きもそう。

それらから考えられるのは、この男は、前回の狩り……あの池袋で私の顔をみた一般人という線が強そうだ。

あの狩りでは、私達の姿は一般人に見られていた。この男もあの日池袋で私を見たのだろう。

さて、私の予想はどうなのだろうか……と、私の前にまできた男に視線を向けて、男が話しだすのを待つ私だった。

菊地「おッ、君は……」

凛「……」

菊地「こんなところで偶然だね、ほら、さッき取材をお願いした菊地だよ」

凛「あ……どうも……」

菊地「何をしてるんだい? って、犬の散歩か、そのワンちゃん可愛いね」

凛「はぁ……」

あくまで偶然通りかかった事を装うのか……。

ここはあまり変な雰囲気を出さずに、相槌を打つだけにしておこう。

この男の目的は取材と言っていたのだから、勝手に話し出すだろう。

菊地「そうだ! こうやッてまた会えたんだ、さッきはできなかッた取材をさせてもらう事はできないかな?」

……いきなり来た。

凛「取材?」

菊地「そう。少しでいいんだ、君に聞きたい事があってね」

凛「別にいいけど……」

菊地「本当かい!? いやー、ありがとう! さッき、君のお父さんに追い返されて正直もう話を聞く事はできないかなッて思ッていたんだけど、こうやッてまた君に会えた上に、話を聞いてくれるなんて。本当に僕は運がいいな!」

凛「はぁ……」

菊地「それじゃあ……おッ、あそこの公園で話そうか、立ち話もアレだしね」

私はこの男について行く。

公園内のベンチで話すことにしたみたいで、私は座るように促され鞄から何かを取り出している男を横目にベンチに座った。

男は何かの雑誌とパソコンを取り出しているようだった。

パソコンを取り出した男は電源を入れながら私に話してくる。

菊地「TVで連日やッてるから知ッてると思うけど、先日の池袋のテロ事件、君は何か知ッていたりするかな?」

……やっぱり、前回の狩りのことか。

確かにテレビでもかなりニュースになっているけど、ガンツ関係には一切触れられていない。

私達や他のガンツチームの事も。

ただのテロ事件としか……いや、日本史上最大最悪のテロ事件として犯人を追っていると表向きはなっている。

国ぐるみの隠蔽工作、真相が表に出ることなどない。

それならば、私の回答は。

凛「えっと……色々テレビで見たけど、ビルが爆発して崩れたって話だよね? 亡くなった人も多いって聞いたけど……」

菊地「他に何か知ッていることッてあるかな?」

凛「知ってることっていわれても……特集を毎日見てるわけでもないし……」

菊地「そッか……それなら仕方ないか」

その事を聞きにきただけ?

そう思った矢先、男はパソコンを操作しながら私に問いかけてくる。

菊地「その日に君は池袋にいたりしなかッたのかな?」

この男……やっぱり私を見ていた……と思った私に、男はパソコンの画面を見せてくる。

そこには、私の姿が映された画像が映されていた。

菊地「これ、君だよね?」

……なんでこんな画像があるの? いつ撮られた? 写真に撮られたことで頭の爆弾は? いや、前回の狩りで見られても爆弾は作動していない。ならこの写真に撮られたことも問題ないはず。

頭に巡った様々な思考が、私の回答を遅らせた。

その反応を見た男は、さっきまでのどこか陽気さを感じさせる表情から、鋭く獲物を狙うような表情に変化させて続ける。

菊地「やッぱり……ようやく本命にたどり着いたッて訳だ……」

凛「えっと……何この画像? 私?」

菊地「とぼけても無駄だよ。君は間違いなくこの画像に映された本人だ。最初に見たときからピンと来ていた」

凛「えっと……本当によくわからないんだけど……」

菊地「そうかな? 君の視線、この画像を見ているようで違う場所を見ている。最初に画像を見てすぐに視線を外して君は考え始めた。もしも君が本当に何も知らないならこの画像を見続けながらわからないと言うんじゃないかな?」

凛「……そんな事で決め付けようとしないでよ」

菊地「いいや、間違いない。君は間違いなくこの画像の少女。そして、君は宇宙人を殺すことを趣味としている少女だ」

凛「は?」

おかしい、画像を取られた事は前回一般人にも見えていたことで誰かに取られた可能性は考えられる。

だけど、この男が言う私の趣味……宇宙人を殺すことを知っているのは腑に落ちない。

その事を知っているのは……と考えたところで、前にもこんなやり取りをした事を思い出した。

和泉が私の学校に来た時、あの人も私の事を、そしてガンツの事を知っていた。

私の知らないどこかで、ガンツの情報が漏れている。

そして、それは……ほぼ間違いなく西が何かをしたのだろう。

そして、私の考えは間違っていなかった。

この男が、パソコンでとあるサイトを開いた事によって答えが出た。

菊地「黒い球の部屋ッてサイト、ここに君の事が書かれている」

凛「……」

菊地「ねぎ星人を笑いながら剣で真ッ二つにして、田中星人をスーツが壊れているにも関わらずに笑いながら何匹も殺していッたと」

菊地「この管理人の中学生も何かを壊したり、生き物を殺したりするのがたまらなく好きだという事だが、君には負けると書いている。君がいつか100点を取ッて、その時どんな選択をするのかが楽しみだとも」

西ぃぃぃ!!

アイツ何勝手にこんなサイト作ってんの!?

しかも、かなり誇張しているし!!

私はあの時はまだ狩りを楽しんでいなかったし!!

それに、なにこれ!? 『田中星人のミッションではボスを倒すだけじゃ飽き足らずに、仲間であるガンツメンバーに襲い掛かり、あの女は狂笑しながらガンツメンバーの返り血を浴びていた……』

あること無いこと書いて……絶対に今度会った時に文句を言ってやる……。

……っていけない。今はそんな事を考えてる場合じゃなかった。

食い入るようにこの黒い球の部屋というサイトを見てしまった事により、私を見る男の目は確実に私がこのサイトに書かれた「しぶやりん」と同一人物だと確信してしまったようだ。

その現状に、私は冷たい汗が背中を伝っていくのを感じた。

頭の爆弾はどうなる? 前回一般人にも見えるようになっているから、一般人にガンツの情報がばれても大丈夫なのか? それとも、これ以上何かこの男に情報を与えるような事をしてしまったらアウトなのか?

私は表情には出さずに、高速で思考を続けていた。

今日はこの辺で。

私が考えている間も、男は私に質問を続けてくる。

菊地「このサイトには、固有名称で書かれている名前が二人だけいる。ひらがなで「しぶやりん」それと「くろのけい」ネットの掲示板でもこのサイトの内容と池袋で起きたテロの際に目撃された黒いスーツの人間たちは繋がッているんじゃないかッて騒がれている」

菊地「多くの人間がこの「しぶやりん」と「くろのけい」を探し始めていて、このサイトの掲示板では、アップされる星人との戦いの小説を検証して、東京近郊にこの二人がいるのではないか? と予想立てている人間もいる」

菊地「実際、僕もそう思い様々な情報網を駆使して、東京近郊における「しぶやりん」と「くろのけい」を探した」

菊地「特に苦労したのは「しぶやりん」のほうだ。渋谷ッて苗字は東京近郊だけでも1万人近くいたからね。黒野は数百人程度だッたから調べやすいッて言えば調べやすかッたよ」

菊地「探し始めて数ヶ月。「くろのけい」……「黒野啓」という少年は比較的早く見つかッて実際にあッてみたけど、どこにでもいるような普通の少年だった。完全にハズレだったよ」

菊地「だけど、君は違う。会ッてみて確信した。君は明らかに普通の少女じゃない。職業柄色々な業界の人間を見てきたが、君が発するオーラというものはそのどれにも属さない不思議な輝きだ」

菊地「さて、そろそろ君の話も聞かせてくれないかな? 黒い球の部屋の住人の渋谷凛さん」

凛「……えっと」

凛「アンタが言っている事、意味わかんないんだけど」

菊地「……シラを切るつもりかい?」

凛「シラを切るって言われても、分からないものは分からないし、勝手に決め付けられてすごい迷惑なんだけど」

菊地「決め付けているんじゃない。君は間違いなくこのガンツメンバーの一人。この画像の黒いスーツを着た君をどう言い訳するつもりなんだい?」

凛「こんな服着たこともないし、別人だよこの人」

菊地「……それは厳しい言い訳だよね?」

凛「事実だから。知らないものは知らない」

菊地「……あくまでシラを切り通すつもりか……」

凛「話はそれで終わり? それなら、私、もう帰るけど」

菊地「……いくら出せば話せるかな?」

凛「あのさ、そろそろいい加減にしてほしいんだけど」

菊地「……金じゃ話せないッて事かな?」

凛「いい加減にしてって言ってるでしょ? これ以上、何かを話すことはないし、アンタの妄想に付き合うのも嫌なの。さようなら」

菊地「……話せない。口止めされているッてことかな……話してしまうことによッて、何かペナルティを課せられるッてところか?」

凛「……」

菊地「今日はこれくらいで引き下がるよ。また君が話してもいいと気が変わッたら、渡した名刺の電話番号に連絡をしてくれ!」

私は男の呼びかけに無視して、ハナコを連れて公園を後にする。

完全に知らないフリをして逃れたけど、下手をしたらあの男これから私を監視しだして、どこかでスーツを着た姿を撮られてしまうかもしれない。

訓練に出かける朝、透明化を使って家を出るにしても窓を開けたら勝手に窓が開いたように見えてしまう。もし監視カメラで撮られていたらアウトだ。

どうする……。脅すにしても、私の姿を見られてしまったら自白するようなものだし……。

今の段階で爆弾が作動していないけど、これ以上知られてしまったら作動するかもしれない。

ばれない様に生活するのは、普通の生活をしていればいいだけだけど、そうすると訓練が出来ない……。

そうやって考えながら家までの道を歩いていると、家の前で見知った二人の姿を見つけた。

凛「あ、加蓮。奈緒」

加蓮「やっほー、凛ー」

奈緒「……おっす」

凛「どうしたの? というか、奈緒はすごく疲れてるように見えるけど……」

奈緒「……また夜通しの登山とマラソンをやってきた」

凛「……そ、そっか」

加蓮「昨日卯月と未央のライブに行ってて、そこから走って帰ってきたらこんな時間になっちゃった」

あそこから走って……スーツも着ていないのに……。

私は相変わらず頭のおかしい行動をとる加蓮に唖然としながら、昨日連絡を貰っていたことを思い出した。

凛「そういえば、昨日電話貰った? 昨日早く寝ちゃって気が付かなくてさ」

加蓮「あ、うん。昨日……って、凛の部屋で話してもいい?」

凛「! わかったよ」

少し言いよどんだってことは、おそらくガンツ関係の話。

この場所だと店の前だし、人通りも多い。

何より、さっきの男がどこかで聞き耳を立てているかもしれない。

私は二人を部屋に通して、今までフルマラソン以上の距離を走ってきた二人に冷たい飲み物とお菓子を用意して話し始めた。

加蓮「昨日さ、卯月と未央のライブで偶然別のガンツチームの人たちと一緒になってさ、情報交換会をやってたんだ」

凛「え? そうなの?」

奈緒「そうそう。凛と一緒の東京チームの人とか神奈川チーム、群馬チームの人もいたぞ」

加蓮「それで、凛のチームの玄野って人が、凛も呼んで話をしたいって言ったから連絡したんだ」

凛「玄野が……」

確かに玄野からも連絡が入っていた。そういうことだったんだ・

でも、神奈川、群馬って、加蓮と奈緒も入れたら千葉も入って、関東近郊のチームがあそこにいたんだ……。

それから、情報交換した中身を二人から聞いた。

ガンツをコントロールできるという話を二人がしたときに、私は対して驚かなかったから不思議な顔をされたけど、実はコントロールできるという事を知っていたと話すと二人とも残念そうな顔をしていた。

そのほかに、群馬チームの人が前回の狩りで見た二刀流の人だという事を聞いたり、卯月と未央のライブがすごかったと話が脱線していったりして、やがて私は二人にさっきあった男の事を話していた。

加蓮「フリーライターねぇ……写真を撮られた上にそんな人に絡まれるなんて凛も災難だね」

凛「ほんとだよ、もう……これから付きまとわれる可能性もあるし、そうなったらいちいちどこか行くにも周りを気にしないといけないし……」

奈緒「……」

加蓮「あっ」

凛「? どうかした?」

はっとした顔の加蓮は奈緒を見ている。

その奈緒は何かブツブツと小さな声で呟いていた。

奈緒「………………付きまとう…………ストーカー…………いつもいつもいつも…………あたしを…………凛にまで…………」

凛「奈緒?」

突然奈緒は薄ら笑いを浮かべて私に提案した。

奈緒「凛、そのストーカー、ぶっ殺そうぜ」

凛「え……す、ストーカーって?」

奈緒「だからさ、凛に付きまとってるストーカー。さっさとぶっ殺さないと、凛があの真っ暗な世界に閉じ込められちゃう……暗くて、寂しくて、怖くて……」

ヤバい。奈緒の目、すごいことになってる。

凛「な、奈緒。ストーカーじゃないから、あの男はフリーライターで……」

奈緒「凛。騙されんなよ。ストーカーってのはいろんな手段であたし達を油断させてくるんだ。その肩書きも嘘の肩書きだ、そいつは今も凛の事を見ているはずだ!!」

急に奈緒は立ち上がって、カーテンを閉めて、バックの中から取り出した機械をもって部屋を調べ始めた。

凛「えっと……何してるの?」

奈緒「盗聴器やカメラが付いてないか調べてる」

凛「そ、そうなんだ」

真剣に部屋中を調べ始めた奈緒は数十分後、少しほっとした表情になり、

奈緒「よかった……まだどっちも仕掛けられてないみたいだ」

どうやら私の部屋にそういった類の機械は無かったようだ。

凛「あ、ありがとう」

奈緒「よし! それじゃ、今から全員スーツに着替えて、透明化を使用した後に、凛の家の付近にストーカーがいないか探すぞ! 見つけたら速攻捕まえて、人目の付かない場所でぶっ殺してやる!」

凛「ちょ、ちょっと!?」

そう言って、バックの中からスーツを取り出して、着替え始めた奈緒。

剣と銃も装備して、殺る気満々だ。

まずい、完全に我を忘れてる。

そういえば、奈緒が死んだ原因を作り出したのはストーカー……追い回されて井戸に落ちて、その井戸の蓋を閉められて、奈緒を餓死に追い込んだ……。

……こうなっても無理ないか。

私は目を据わらせて今にも飛び出していきそうな奈緒を落ち着かせようと立ち上がると、私より先に、加蓮が奈緒に近づいて、奈緒を抱きかかえた。

奈緒「か、加蓮!?」

加蓮「はーい、ちょっと落ち着こうねー」

加蓮は奈緒を両手で抱きかかえて……所謂お姫様抱っこの状態で、奈緒の顔を見続ける。

見つめられている奈緒は顔を真っ赤にしている。

奈緒「か、加蓮! 下ろしてよ!」

加蓮「ダメー。奈緒が落ち着くまではこのままだよ」

奈緒「や、止めろって! は、恥ずかしいだろ!?」

加蓮「顔真っ赤にして、やっぱり奈緒は可愛いなぁ」

奈緒「かっ!? 可愛い言うな~っ!!」

凛「えっと……」

しばらく加蓮が奈緒を弄り倒しているうちに、奈緒は顔をトマトのように真っ赤にしていたがさっきよりは格段に落ち着いたようだ。

加蓮「ごめんね、凛。この子、たまーにこんな感じで暴走しちゃうから」

凛「そ、そうなんだ」

加蓮「奈緒も、ちゃんと話聞こうね。凛に付きまとっているのはストーカーじゃなくて、フリーライター。記者だよ記者」

奈緒「わ、わかってるって。さっきはちょっと、その、頭に血が上って……」

加蓮「知ってる。だから落ち着かせてあげたんだから」

奈緒「うぅ~……」

先ほどまで、加蓮の腕の中にいた事を思い出したのか、まだ顔を赤くする奈緒。

もう暴走する気配も無い。

凛「えっと、奈緒、大丈夫?」

奈緒「うん……ストーカーが凛を狙ってるんだって考えたら頭がカーッとなっちゃって……もう落ち着いたから」

私の事、心配してくれたんだ。

奈緒が私の事を考えて行動しようとしてくれたことには嬉しくなってしまう。

加蓮「それじゃ、奈緒も落ち着いたところで、そのフリーライターって人をどうするか考えようか」

凛「どうするか……あっちは私の事を完全にガンツメンバーだって考えているだろうから、絶対にまた私に会いに来るだろうし……」

奈緒「凛は知らないフリをしてやり過ごしたんだよな? ずっとそんな感じで知らぬぞんぜぬを貫けばいいんじゃないか?」

凛「それが一番いいと思うんだけど、監視とかされ始めたら、私がガンツの武器を使って訓練するのが厳しくなっちゃうんだよね。もしもスーツとかを着ているところを見つかったらアウトだし……」

加蓮「……うーん」

奈緒「やっぱりストーカーと変わんないじゃん……ぶっ殺してしまえば……」

加蓮「出来もしないこと言わないの……あのストーカーも最終的には殺せなかったのに……あっ」

加蓮が何かを思い出したかのように手を叩いた。

加蓮「そうだ! 思いついたよ!」

奈緒「?」

凛「思いついたって……」

加蓮「その記者を逆に監視するの。透明化を使って四六時中行動を監視すれば、凛が監視されているかどうかも分かるよね」

奈緒「あ……」

凛「四六時中監視って……そんな事できないでしょ」

確かに加蓮の言うようにあの男を四六時中監視していれば、私が監視されているかどうかは分かるだろうけど、そんな事現実的じゃない。

加蓮「大丈夫、できるよ。だって、前にやったことあるから」

凛「え?」

奈緒「まぁ、あの時は出来たよな」

凛「どういうこと? やったことあるって……誰かを監視したことあるの?」

加蓮「うん。奈緒を追い詰めて殺したストーカーにやったんだ」

加蓮はそんな事をあっけらかんに言い放った。

奈緒を追い詰めたストーカーって……。

奈緒を見てみると、奈緒は加蓮の言葉を肯定するようにコクンと頷いた。

凛「えっと、ちょっとよくわからないんだけど……なんでまたそんな事をしたの?」

加蓮「最初から話すとさ、奈緒が死んでガンツに助けられて2週間くらい経ったとき、偶然奈緒が道でそのストーカーを見つけたのが始まりだったんだ」

加蓮「あっちは奈緒に気付いてなくて、奈緒はそいつを見てさっきとは比べ物にならないくらい暴走しちゃってさ、鞄に入れていた銃を持って追いかけて殺そうとしたわけ」

加蓮「だけど、人の目もあるところで、そんな事したら完全にアウトでしょ? アタシは何とか奈緒をなだめて、そのストーカーが一人になるまで監視してそれから殺そうって提案したんだよ」

加蓮「それで、透明化して、そのストーカーを追いかけて、一人になって殺すチャンスが出来たんだけど、いざというときに奈緒が引き金を引けなくってさ」

奈緒「……今なら引けるし」

加蓮「はいはい。ま、そんな感じで奈緒が殺せないのにアタシが殺すなんてことも出来ないし、それでもこのままこのストーカーに仕返しもせずに帰るなんて嫌だって考えてたら、アタシ閃いちゃったんだ」

凛「閃いたって?」

加蓮「ストーカーにストーカー行為がどれだけ怖いのかってのを実体験させてやろうってね」

凛「?」

加蓮「その日から、そのストーカーを四六時中監視して、色々と嫌がらせをやり始めたってわけ」

凛「ああ……そこで監視したんだ」

加蓮「家とかもつきとめて、いろんな嫌がらせをやってやったよ。郵便受けにお前を見ているぞって手紙を山ほど入れたり、無言電話をかけまくってやったり、そのストーカーを撮った写真を家のドアに貼りまくってやったり」

凛「うわぁ……」

加蓮「ま、そこらへんの嫌がらせも途中で奈緒が嫌な顔をするから止めたんだけどね」

奈緒「……加蓮がストーカーになったみたいでほんっっっとに嫌だったから」

加蓮「で、それからは、ちょっと趣向を変えて嫌がらせを続けたんだ。それは奈緒も手伝ってくれたんだよ」

凛「……どんな嫌がらせ?」

加蓮「心霊現象。最初はラップ音とか、ストーカーの周りにあるものを投げつけてやって意識させて、途中から主役の奈緒がそいつの前に姿を見せて驚かせてやったんだ」

凛「え……そんな事して大丈夫だったの?」

加蓮「何が?」

凛「ほら、奈緒を追いかけていたストーカーの前に奈緒が出て行くなんて……」

加蓮「ああ、大丈夫大丈夫、仕込みもしておいたし。奈緒の声で助けてって録音した電話を何回もしたりしてね。あっちは奈緒が死んだって考えてるから本物の心霊現象だって途中からノイローゼになってたし。それにその時の奈緒の姿見たら凛も腰を抜かすかもしれないよ?」

凛「腰を抜かすって……」

私は奈緒を見て首をかしげる。

奈緒がどんな格好をしても怖いなんて思えないような気がするけど……。

加蓮「あ、疑ってる。それなら少しみてみる? その時の奈緒の姿」

凛「写真とかあるの?」

加蓮「ううん。その時の服持ってるから」

奈緒「!? な、何で持ってんの!?」

加蓮「じゃあ、凛は少し部屋を出てて。用意が出来たら呼ぶから」

奈緒「お、おいっ!」

私は加蓮に押されるように部屋の外に出された。

完全に話しが脱線してるよね……。

というか、加蓮は奈緒を弄りたくてたまらない感じだった。

少し寂しい気持ちになりながらも、十数分待つと部屋に入ってもいいよと加蓮から声がかかった。

私が部屋に入ると、部屋には誰もいなかった。

カーテンは閉められて、さらにシーツをカーテンに重ねていて光があまり差し込んでいない、部屋の中は薄暗くて視界が悪い。

電気をつけようと思ったけど、手を止めた。

折角二人が演出してくれているんだ、演出を壊さないようにしてあげよう。

どんなことをしてくるのかも気になるし。

私は自分の部屋を見渡してみる。

どこかに二人はいるはずだ。

隠れているのか、それとも透明化しているのか。

そうやっていると、違和感を見つけた。

ベットの下。

白い何かが見える。

違う、白い手だ。

……ベットの下から足でも掴んで驚かせるつもりだったのかな?

よくみたらベットのシーツに膨らみがあるのを見つけた。

誰かがいるベットに近づいたら、足を掴まれるってドッキリか……。

加蓮……奈緒……流石に大雑把すぎじゃない?

私はため息混じりに、足を掴まれようとベットに近づきベットシーツをめくりあげる。

……あれ?

膨らんでいたはずなのに誰もいない。

透明化している?

でも、透明化しているなら触れたら分かるはずだ。

本当に誰もいない……。

そこで、私は足元にあった白い手に違和感を感じた。

見えにくかったけど、ここまで近づいて見てみると爪がある部分がおかしい。

すべての爪が、捲れ上がり、血が出ている。

背筋にゾッとした悪寒が走る。

その手は、私の足を掴まずにズルズルとベットの下に引き込まれていった。

凛「な、奈緒? 手が見えたよ?」

何故か声を出して、私はベットの下を覗き込む。

さっきから心臓の音が激しい。

私がベットの下を覗き込むと、

そこには、

白い手も何も存在していなかった。

凛「……」

ピチャリ。

凛「っ!?」

背後から聞えた水音に反射的に振り向く。

カーテンに重なったシーツが真っ赤に染まっていた。

シーツから赤い水が……血が滴っている。

凛「…………」

私はごくりと唾を飲み込んでカーテンに近づく為に歩き始めると。

バチ、バチ、バチ……。

また背後から音が聞えた。

今度は気配がする。

私の後ろに、誰か、いる。

何故か首が動かない。

振り向いた先には、奈緒と加蓮がいるのだろう。

だけど、身体が動かない。

言う事の聞かない身体を無理矢理動かして、私は自分の背後を見た。

そこにいた存在を視界に入れて私は完全に凍りついた。

元は白だったのか、赤黒い染みでボロボロになったワンピースを着た女がいる。

ボサボサの髪が顔を覆っていて顔が見えない。

だけど、その女の手はさっきベットの下で見た手、爪がはがれて血がピチャリピチャリと流れ出ている。

奈緒とも加蓮とも違う真っ白な肌、だけどその肌には抉られたような傷がありそこからも血が流れ出ている。

私が固まって動けずにいると、その女は徐々に顔を上げて、ボサボサの髪の間からその表情が見えた。

顔色は肌と同じ白、だけど眼球は真っ黒に染まっていて、そこから大量の血が流れ出ていた。

凛「なっ、なな、ななな……」

表情は絶望に歪んでいて、ごほりと咳き込んだ口からさらに血を吐き出し、苦しみの叫びを上げた。

「あ゛ぁぁあ゛あ゛ぁああ゛、だ、すぅぅけでぇぇぇえ゛え゛え゛ぇぇ」

凛「ひぃうっ!?」

私はその場で腰を抜かして崩れ落ちて尻餅をついてしまう。

逃げようと四つんばいで振り向いた私の目に飛び込んできたのは、

真っ白な顔の女。

私をその見開かれた目で凝視する女が目に飛び込んできて、

私は全身をビクリと震わせ、その場で完全に硬直した。

ガチガチと歯を鳴らしている私に、私の目の前の真っ白な女はクスリと笑い始めた。

私の後ろからも笑い声が聞こえる。

そこでようやく気が付く。

凛「か、かかか、か、加蓮?」

加蓮「はーい、加蓮でーす」

目の前の真っ白な顔の女は、加蓮だった。

それじゃあ、後ろの女の人は……いや、あの顔は奈緒の顔だった。

ギギギと首を動かして後ろを見ると同時に部屋の電気がついて、さっきのホラー姿の奈緒が近づいてくる。

凛「ひっ!?」

奈緒「あ、あたしだよ、ほら!」

奈緒は大きな黒目のコンタクトレンズを外して、ボサボサだった髪を括って私の前でしゃがみこんだ。

真っ白な顔にまだ血の……赤色の液体の跡があるけど、さっきのような恐ろしい表情ではなくていつもの表情だ。

加蓮「どうだった? 奈緒の幽霊バージョン」

凛「あ、あぁ……う、うん」

加蓮「って、その様子なら聞くまでも無いよね。奈緒ー、凛も怖がらせれたよ!」

奈緒「いや、明らかにやりすぎだろ……凛、ほんとに腰抜かしてるぞ……」

加蓮「奈緒がやったんでしょ? アタシは最後しか顔見せてないしー」

奈緒「うっ」

加蓮はクスクスと笑うと、私を抱き上げてベットに座らせると、床に零れ落ちた赤色の液体を拭き取り始めた。

私の横には奈緒が座って苦笑いをしながら私に謝ってきた。

奈緒「ごめんな、こんなに凛が驚くって思わなくて本気で演技しちゃったよ」

凛「ほ、本当に怖かったんだけど……そ、その手とか、顔とか、どうやって……」

奈緒「ああ、この爪はネイルだよ。加蓮の特技の一つ、すごいリアルだろ?」

よく見てみると、確かにネイルだ。

完全に爪がはがれているようにしか見えない……。

奈緒「顔とか手はメイク。上手いもんだろ?」

傷跡に見えたところも明るいところでみると確かに書いてあるだけ、でもさっきみたいに薄暗いところだと、雰囲気もあいまって傷口にしか見えない……。

奈緒「この服も加蓮のお手製だよ。前にストーカーを追い詰めたときの服」

服は本当に不気味さが出ている。こんなの夜とかに見たら……。

って、この姿でストーカーを追い詰めたんだよね?

先に聞いていた私がこんなに怖かったのに、まったく知らないストーカーがこんなのを見たら……。

凛「ち、ちなみに、そのストーカーってどうなったの?」

加蓮「あまりの恐怖でその場で失神、その後はごめんなさいしか言えなくなって精神病院に隔離されちゃってるよ」

凛「そ、そっか」

奈緒「今更謝られたって、許すわけ無いっての」

哀れなストーカー、でも奈緒がされた事を考えてみると同情の余地無しだ。

加蓮「そんな感じで、アタシは誰かを監視するって経験があるから、凛の事を追っている記者も監視するよ。それで何か動きがあったら凛に連絡する。そうすれば、凛も少しは気が楽でしょ?」

凛「確かに、今見られているんじゃないかって考えないだけでも気分は楽かもしれないけど……それをやるのって加蓮だよね? 流石に私の為にそこまでしてもらうのは……」

加蓮「アタシだけじゃなくて、奈緒も一緒にやるから大丈夫。ね、奈緒?」

奈緒「……加蓮がやるなら、あたしもやるよ。……それに凛のためだしな」

二人とも簡単に言ってくれるけど、流石に申し訳なさ過ぎる。

私が生み出した問題なんだから、私が何とかしないといけないのに。

凛「……あのさ、やっぱり私が我慢するよ。ほとぼりが冷めるまで目立った行動を取らなければ大丈夫だと思うし、そのうちあの男も諦めるだろうから」

加蓮「ダメダメ、もうアタシ達やるって決めちゃったからね。今更凛が拒否ってもダメでーす」

奈緒「そうだぞ。それに凛がその記者ストーカーのせいで酷い目に合うかもしれないんだから、防ぐためにもあたし達で何とかしないとな」

駄目だ、二人とも乗り気だ。

加蓮「それじゃ、メイクを落としてさっそく行こうか。まずはこの名刺の住所に潜入して、その記者がいるか見てくるよ」

奈緒「それじゃ、あたしは凛の家の付近を捜してみるかな。もしかしたらいるかもしれないし」

凛「ちょっと! 二人とも、そんなに簡単に決めていいの!? 1日中監視するっていっても二人ともやることとかあるでしょ!?」

加蓮「アタシは監視しながら筋トレやってればいいし? それに監視するっていうのも集中力のトレーニングになるんだよ」

奈緒「やることっていっても、殆ど加蓮と一緒に行動してるし、自分でやりたいことって最近特に無いしなぁ……」

……二人の中でもう決定しちゃってる。

どうしたものかと頭を悩ませ始めると、加蓮と奈緒はとても軽い口調で、

加蓮「ま、凛は大船に乗ったつもりでいればいいよ。凛が困ってるのに見て見ぬフリはできないからね」

奈緒「そうそう、あたし達が凛を守ってやるからな! 凛はあたし達に任せてドーンと構えていればいいんだ!」

と、私の事を思って言ってくれる。

何でここまでしてくれるのか……と考えが口に出てしまった。

凛「……なんでそこまでしてくれるかな? 他人事なのに……」

加蓮「え? 他人事って、凛とアタシ達は友達じゃないの? 友達だって思ってたのはアタシ達の思い込み?」

凛「と、友達だよ!」

奈緒「それなら深い理由はいらないよな? 困ってる友達を助けるのはトーゼンのことなんだし」

凛「加蓮……奈緒……」

私は結局二人に、あの男の監視をお願いしてしまった。

その日から加蓮と奈緒はローテーションで監視を続け、私に状況を連絡してくれている。

二人が監視についてからは、朝の訓練も二人が参加できなくなってしまうから、私は未央と卯月にお願いして、しばらく個人訓練を行う形にした。

未央と卯月がアイドル活動を休止した矢先の出来事で、二人には悪いと思ったけど、二人とも個人的にやりたい訓練もあるらしく特に問題は無かった。

それから2週間、加蓮と奈緒から貰う情報で色々と分かった。

あの男は、私がガンツチームのメンバーだという事を確信しているが、今すぐに私に如何こうすると考えていないこと。

私という存在を見つけた事によって、あのサイトの事を真実だと確信して、もう一人の「くろのけい」……玄野を探していること。

私からは情報が得にくいと考えたあの男は、玄野を探し出して、玄野のほうからガンツの情報を聞き出そうとしていることを。

そして、他にもガンツに関するあらゆる事を調べていた。

私だけに拘らずに、あらゆる角度から調べている。

それが分かって、私は加蓮と奈緒にあの男の監視を終わってもらう事を提案した。

私に拘って調べてきてもいないし、監視されるというわけでもなさそうだったから。

そして、何より、新学期が始まって二人とも学校に行かなければならないと考えたのだが、その事を聞いて見ると。

加蓮「アタシ、学校行ってないよ? ほら、病気で中学もまともにいけなかったんだから、高校なんていけるわけないじゃん」

奈緒「あたしは休学中。加蓮が学校に行くって言うなら復学しようかな」

二人とも学校に行っていないと言い、もうしばらくは監視をするって言ってくれた。

こうして、私達3人は日々連絡を取り合っていくうちに急速に仲が良くなって、私にとって加蓮と奈緒も、未央と卯月と同じくらい大切な存在になっていた。

今日はこの辺で。

凛の作った訓練場に、4人の男女がガンツスーツを着て佇んでいる。

4人の目的は、この2週間で使えるようになった力、坂田が卯月と未央に与えた超能力をどこまで使いこなせるようになったかを確認する為にこの場に来ていた。

坂田「それじゃあ、本田ちゃんからどれだけ使えるようになッたか見せてくれ」

未央「はいっ! 師匠!」

坂田「……君も俺の事を師匠ッて……まァいいや……」

未央は自身の力を使用する為に、バックからリンゴを取り出して手に持った。

そのリンゴに集中し始めると、リンゴは未央の手から離れて、未央の頭より少し上空に浮かび上がり停止した。

未央「……」

未央がさらにそのリンゴに集中すると、リンゴの表面に裂け目が入り、すぐに割れた。

割れたまま空中に静止しているリンゴはふわふわと空中を漂いながら、坂田、桜井、卯月の前に移動して再び静止する。

未央「こんな感じかな。あっ、食べる?」

少しだけたれ流れた鼻血をティッシュで拭きながら、割れたリンゴを3人に勧める未央。

それを手にとって、食べながら坂田は未央に確認した。

坂田「リンゴを割ッたのは能力の調整をしてか? 潰したりはできるのか?」

未央「うん、リンゴくらいなら潰せるようになって、さっきは調整して割れるように力を使ってみたんだ」

坂田「そうか。ちなみに、浮かばせることが出来るのはリンゴくらいの重さまでか?」

未央「浮かばせるだけなら10キロくらいのものなら……それ以上になると正直持ち上がんないかな……」

坂田「なるほどな」

未央「……私、才能ないのかな?」

坂田「イヤ、2週間でここまでできれば十分だ。重いものを浮かばせるのは慣れもあるからな」

未央「それじゃ、慣れるまでこの力を使えば、その内……」

坂田「待ッてくれ。何度も言ッてるが、この能力は寿命を削ッて発動をしている。使い続けるのはそれだけ寿命が減り続けているという事を考えてくれ。リンゴを潰せるくらいの能力なら、星人にもある程度の効果があるはずだ。スキャンをして脳や心臓といッた重要器官を潰せば倒すことも出来る。ここらで力を使うのは止めたほうがいい」

未央「ある程度じゃ……だめなんだよ……」

坂田「……」

未央「せめて、今のしまむーくらいの力を使えるくらいになれば……」

坂田「島村ちゃんか……」

全員の視線が卯月に向けられる。

卯月「あっ、わ、私ですか?」

未央「しまむー、師匠に見せてあげてよ」

未央に急かされるように卯月は一歩前に出た。

坂田も桜井も、卯月の力を見るのはあれ以来になる。

坂田が二人に力を渡し、すぐに力を使って見せた卯月。

恐らくは超能力の才能はこの中の誰よりも上と理解しているためか、坂田と桜井は卯月の力を固唾を飲んで見る事にした。

卯月「それじゃあ、いきます」

全員の視線を受け、卯月は俯きながら自然体で手を広げた。

すると、次の瞬間、3人に浮翌遊感が襲う。

坂田「!!」

桜井「えッ!?」

3人はそのまま3メートル近く浮かび上がり、空中を漂い始める。

そこで顔を上げた卯月は、先ほど未央がリンゴを取り出したバックに向かって右手を向けた。

すると、バックの中からリンゴが浮かびあがり、それぞれの手におさまって、ゆっくりと3人は地上に降ろされた。

未央よりもかなり多い鼻血を出し、それを拭きながら卯月は「どうですか?」と坂田に問いかけた。

坂田「3人同時に……さらに能力を細かく使いこなして……」

桜井「し、島村さん、すごいッスよ!」

未央「はぁ……やっぱしまむーに比べると、私の力弱すぎ……」

卯月「み、未央ちゃん……えっと、その……」

未央「あっ、僻んでる訳じゃないから、しまむーには色々アドバイスを貰ってやってるのに中々うまくならない自分が悔しいだけでさ」

少しへこんでいる未央に声をかけながらおろおろする卯月。

その様子を見ながら、坂田は眉を顰めながら卯月に話す。

坂田「……島村ちゃん、君はもう能力を使うな」

卯月「えっ?」

坂田「君は今、俺達3人とリンゴ3個、それぞれを別々に操作していたな?」

卯月「はい……」

坂田「ハッキリ言ッて、君の能力はもう俺を超えている。俺は一人浮かせるのが限界だし、細かい調整もそこまで得意じゃない」

卯月「坂田さんの力より……私のほうが?」

坂田「ああ。だが、それは決していいことじゃない……君の能力は強すぎて、今の時点でどれだけ寿命が減ッているかも分からない。これ以上の能力を使うと、もしかしたら俺より早く身体にガタが来てしまうかもしれないんだ。君もそんなのは嫌だろ?」

卯月「……」

坂田「……最初に言ッたよな? この能力を教える条件で、ある程度能力を使えるようになッたら、それからはいざというときまで封印するッて」

卯月「……はい」

坂田「君の力はもうそのある程度の域を超えている。これ以上は絶対に使わないでくれ」

卯月「……わかりました」

坂田「本田ちゃんも、島村ちゃんの能力の域まで持ッて行こうとするのは絶対にやめてくれ。その間にどれだけの寿命が削られるかなんて分かッたもんじゃない。君ももう力を使うのはやめておくんだ」

未央「うぅ……」

坂田「……頼む。君達に能力を教えたことを後悔したくないんだ」

坂田はすでに卯月と未央に力を教えてしまった事を後悔していた。

たったの2週間で、未央もかつての自分と同じほどの力を得ており、これから力を使い続けてしまったら自分と同じようにあっというまに寿命が来てしまう。

卯月はもう論外といえるほど、力を使いこなしてしまっていた。

最初に二人に力を教えようと考えたときには、ここまで二人とも才能を持っていると思わなかった。

脳血管を潰せるくらいの力を得た時点で二人に力を使用させることはとめるつもりだったのだが、自分の浅はかな考えに坂田は歯軋りをしてしまう。

卯月と未央も坂田が悲痛な表情で自分達に能力の使用を止める姿を見て、

卯月「……わかりました」

未央「……うん。最初に約束したもんね……」

素直に自分の説得を受け入れてくれた二人に安堵の表情を見せる坂田。

桜井もほっと、身体の力を抜いていた。

二人に力を進めたのは桜井。

まさか寿命を削って使っていたなんて考えていなかった桜井はあの時二人に勧めなければよかったと思っていた。

坂田と桜井はお互い二人がこれ以上力を使わないといった事に安堵する。

そして、4人はその後ある程度話をするとそれぞれ訓練場を後にした。

卯月と未央は坂田達と分かれると、一旦卯月の家に行き、スーツを脱いで走り込みをする為に準備を始めた。

加蓮から、素の肉体を鍛える重要性を説かれ、律儀に実践している二人。

ここ2週間、毎日二人は早朝からスーツを着て訓練を行い、昼からはスーツを着ないでの訓練、そして夜に超能力の訓練を行っていた。

今の時間帯はスーツを着ずに訓練、二人とも準備が終わると一緒に走り込みを始めた。

そうやって走っている間にも、未央は超能力について考えていた。

未央(師匠にはああいわれたけど、やっぱりもう少し超能力の特訓をしよう)

未央(どれだけ使うとどれだけ寿命が減るのかはわからないけど、せめてしまむーの力くらいまで使えるようになりたい)

未央(今のままじゃ……また守ってもらうだけになっちゃう……)

未央(そんなのは嫌だ……私が二人を守ってあげないといけない……)

未央(しまむーもしぶりんも……二人とも、私の大事な大事な、友達なんだから……)

未央(少しでも強くなって……)

未央がそう考えて走り続けていると、隣を走っていた卯月が急に立ち止まってしまった。

それに気付いた未央が振り返り、卯月に尋ねると。

未央「しまむー? どうしたの?」

卯月「未央ちゃん、あそこ……」

未央「? ……あっ、あの人は」

視線の先、噴水のあるそこそこ大きな公園に小さな子供をつれた大男がいた。

大男は風、子供はタケシ。

風は噴水の前で、何かの拳法の型を行っている。

その巨躯からどうやって動かしているのかというくらいの流れるような動きに二人は釘付けになっていた。

風の動きが、肉体が、とてつもなく高いレベルで完成されていることを理解してしまった。

二人がここしばらく自分の肉体を鍛えているからこそ、風の肉体とその動きの凄まじさがよくわかってしまった。

未央「す、すご……」

卯月「あんなに大きい体で……」

未央「あの動きも風さんのやってる格闘技の動きなのかな…………っ!」

卯月「未央ちゃん?」

風の動きを見ていた未央はふとある事を思い出す。

玄野達とも一緒に訓練をした時の事、風は銃の練習をせずに今と同じように何かの拳法の動きを行っていた。

それを玄野に聞いたところ、「アイツは銃を使おうとしねーんだよ。まァ、アイツの場合は銃を使うより殴ッたり蹴ッたりするほうがつえーんだろうけどな。最初、スーツを着ないで星人を殴り殺したんだぜ、アイツ」と言っていた。

銃を使わずに、己の肉体のみで星人を屠る男。

そして、前回、銃を使わないというのに180点もの点数を取った男。

未央の頭に一つの考えが浮かび上がった。

未央(今の私は、しまむーにもしぶりんにも敵わないくらい弱い……)

未央(しまむーは超能力。しぶりんはガンツのミッション経験)

未央(私にはしまむーのような才能もなければ、しぶりんみたいな経験も無い……)

未央(それじゃあ、二人を守れるくらいまで強くなるにはどうすればいい?)

未央(……二人ができない事を覚えて、二人がやれないことを出来るようになればいい)

未央(そして、あの人は、二人ができない事を出来る人)

未央(銃も剣も使わずに、宇宙人を自分の腕っ節で、自分の技で倒せる人)

未央(あの人の、風さんの技を、教えてもらう)

未央は公園のフェンスを飛び越えて、風の元に向かい駆けて行った。

卯月「み、未央ちゃん!?」

公園の風はタケシが見よう見まねで自分の型を真似しているのを見て、優しく笑いながらタケシの頭を撫でていた。

そこに息を切らした未央が現れた。

突然に現れた未央に、風もタケシもただ未央を見るだけだったが、未央は風に向かって大きく頭を下げて。

未央「風さんっ! 私に風さんの格闘技を教えてください!」

風「……なんば言ッとるね?」

未央「お願いしますっ! 私、強くならないといけないんです!」

風「あ、頭ば上げんや!」

未央「お願いしますっ!!」

土下座をする勢いで頼み込む未央。

普段はこういった女の思いつきで発した様な言葉は完全に無視をする風だったが、真剣かつ必死な眼で頼み込む未央を邪険に出来なかった。

すでに手を地面について、殆ど土下座になっている未央を風は慌てて頭を上げさせた。

風「は、話ば聞くけん、頭上げんか! はよっ!」

未央「本当ですか!?」

目を輝かせて顔を上げた未央。そして、その場に卯月も現れて、未央は風と卯月に話し始めた。

自分が強くなる目的と、強くなる為に風の格闘技を教えてほしいと言う事を。

風も卯月も黙って未央の話を聞いていた。

取り分け卯月は未央の気持ちが分かってしまうため、何も言えずに未央の話をただ聞き続けていた。

己の心の内を吐き出すように話した未央に風はぼそりと言葉を零す。

風「……誰かば、守る為に、強くなる……」

そのままタケシを見て、今までの自分を少しだけ省みる風。

風(今までの俺は一番強い奴を倒すことしか考えてなかッた……)

風(だが、タケシと出会ッて、それが何かくだらんことのように思えてきた……)

風(小さくて、俺以外に頼るものが何も無いタケシ……俺をただ信頼して頼ッてくれるタケシ……)

風(こいつを守るためなら、強い奴を倒すことなど……誰が強いなど……)

未央「あの……風さん?」

風「っ!」

未央「それで、私に風さんの格闘技、教えてもらえますか?」

風「……」

思考を中断して、目の前の未央に自分の技を教えるといった話を考える。

風(……女に俺の技を教える?)

風(……)

少しだけ、一瞬だけ考えて出た結論。

無理。

教えるとして、どうやって教える? 女の身体に触れて教えるのか?

無理だ。

そもそも体格からして違いすぎる。自分が知っているのは自分の肉体のみ。こんな華奢な身体の女が扱える技など自分は知らない。

すぐに出た結論だったが、風は回答を躊躇していた。

それは未央の瞳に映る覚悟の色を見て。

この女は生半可な覚悟で自分に頼んでいるわけではない。

本当に、守りたいものの為に強くなりたいのだと、そのためならばどんなことでもやり遂げる覚悟のある眼。

無碍には出来ない。自分も今、タケシを守る為に戦うことを自分の道だと考え始めているからだ。

そうやって、長い沈黙と思考の上、風が出した結論は。

風「……教える事ばできん」

未央「そんな……」

風「……が、俺の技ば、盗んでよか」

未央「えっ? 盗む、ですか……?」

風「見て、真似て、覚えれ。俺に教える事ばできん」

未央「あ……」

風の考えが未央に伝わった。

教える事はできないが、自分の技を見て使う分には構わない。

今まで風に話しかけてもここまで会話を続けることが出来なかった未央は、これが風なりにかなり歩み寄ってくれた結果の回答だと理解する。

その風に感謝の気持ちと、これから風の技を覚えさせてもらう意味で、

未央「ありがとうございますっ! 風師匠!」

と、深く頭を下げた。

今日はこの辺で。

学校帰り、真っ直ぐに帰宅した私。

今日は、加蓮と奈緒があの記者を監視し始めて1ヶ月。

そう、すでに1ヶ月もたってしまった。

その間、加蓮と奈緒は本当にあの記者を交代で1日中、私の為に監視をしてくれたのだ。

おかげで、私があの記者に監視されているのではないかという不安は、二人が逐一連絡してくれるおかげでなくなったと言ってもよかった。

そして、今、あの記者はドイツに調査に行き、今日本にいない。

ドイツであの記者は様々な人物や企業を調査するらしい。

そして、その中には、あのちょび髭から聞いた、マイエルバッハという企業の名前もあった。

何も無いところからそこまで調べるなんて、あの記者は相当優秀な人間だと思ったけど、同時にマイエルバッハを調べるという事を聞いて、もう監視する必要もなくなったと私は考えた。

あの記者は明らかにガンツの真相に近づきすぎている。

恐らく、ドイツでマイエルバッハを調べるという行動を取った時点で、もうあの記者は日本に戻って来れないだろう。

あの記者は口封じに殺されてしまうのだろうが、ガンツの事を調べすぎた末路ともいえるだろう。

とりあえず問題が一つ無くなったと肩の荷が下りた感じがする。

加蓮と奈緒にも監視を終わってもらえるし、私もこれ以上二人に迷惑をかけたくないと思っていたから。

私は二人に何かお礼をしないといけないなと思いながら、制服を着替えていると携帯から着信音が流れ始める。

知らない番号。

誰だろうと思いながらとってみると。

凛「もしもし?」

「渋谷か?」

凛「そうだけど……あ、その声」

聞き覚えのある声、西の声だった。

そういえば、あの時連絡先を教えたし、何か分かったら連絡してと言ってたっけ。

連絡してきたって事は、何かが分かったのかな?

……って、それよりも言わないといけないことがあったんだ。

凛「アンタ、黒い球の部屋ってサイトって知ってる?」

西「あ? いきなりなんだよ? そんな事より……」

凛「いいから。あのサイトを作ったのってアンタじゃないの?」

西「んだよ……まァ、そーだけど、それがどーかしたのか?」

やっぱりコイツが犯人!

凛「どーしたもこーしたもないでしょ!? アンタのせいで、私変な記者に付きまとわれて大変だったんだからね!? それに何? あのサイトに書いてある小説!! 私だけ何であんなに酷く書かれてるの!?」

西「はァ? 記者ッてなんだよ……それに小説? ……ああ、そういえばお前のこと、結構書いたな。うん、書いた書いた。でも、ひでーことッて何のことだ?」

凛「あること無い事書いてるでしょ! 人の事を生血をすする悪魔とか、戦闘の後は黒いスーツが返り血で必ず赤く染まるとか、人間を銃で吹き飛ばして笑い転げていたとか……」

西「えッ? やッてたじゃん、オマエ」

凛「やってないから!!」

コイツの眼は何を見てるんだ。

流石に、私もそこまで狂ってはない。

ある程度の線引きはしてる……と思う。

西「えーッと……そンで、お前、記者がどーとかッて言ッたけど、もしかしてあのサイトの名前から身元バレたの?」

凛「そうだよ! 何で私の本名を書いたの!?」

西「イヤ、まァ、なんとなく」

凛「はぁ!?」

コイツのなんとなくであんなに私達は苦労したの!?

ヤバい。爆発しそう。

西「あッ」

何? いきなり、何かに気付いたような声を出して。

今ムカつくこと言われたら間違いなくキレちゃう。

西「渋谷ァ……お前、犬とか猫は駄目だけど、人間は殺しても平気ッて、やッぱどッかネジぶッ飛んでンのな……」

凛「……はぁ?」

西「いや、だッて、その記者を殺したんだろ?」

凛「殺してないし!」

西「おいおい、嘘つくなよ。だッて、ガンツのことバレたのにお前が死んでねーのッておかしーだろ? それなら、その記者が肝心なことを言う直前に、お前がその記者の頭をバーンってやッてぶッ殺したんだろ?」

凛「私は何も言わなかったから無事だったの! あの記者の質問も全部知らぬ存ぜぬで無視したから!」

西「イヤイヤ、そんなわけねーはずだ。どーせ最近星人を殺せなくて欲求不満になッて、丁度いいのが寄ッて来たから殺ッちゃッたンだろ? 白状しろよ、なッ?…………ブチッ」

私は携帯を切って、ベットに放り投げる。

これ以上はいけない。

一旦落ち着こう、頭に血が上っちゃってる、血管浮き出てるのが分かっちゃう。

そうやって、気分を落ち着かせているのに、私の携帯はアイツからの着信を拾ってしまう。

一旦深呼吸。それを数度。

よし、大分落ち着いた。

凛「……何?」

西「何じゃねーだろ!? いきなり切るんじゃねーよ!」

落ち着こう、落ち着いてコイツが電話してきた理由を聞こう。

凛「……それで? 連絡してきたって事は何か分かったんだよね? 何が分かったか教えて」

西「ンだよ……まァいいか。俺もそのつもりで電話したんだしな」

本題とばかりに西は声色を変えて話し始める。

西「まず、今から会えるか? 直接見せたいものがある」

凛「今から? ……別にいいけど」

西「よし。それじゃ、場所は……」

西から指定された場所を確認すると、私はスーツに着替えて準備をする。

西が見せたいというもの、恐らくは遠隔でガンツの制御が出来るかどうか試すと言っていたし、それかもしれない。

もしくは、未央と卯月を私達の様にする方法を考えてくれたのかもしれないけど、二人を解放すると決めたし、それを考えてくれたのなら悪いけど考えが変わったって説明しないといけない。

そんなことを考えながら、私はあるマンションに到着した。

凛「えっと……」

見上げてみると、10階ほど上のベランダから顔を出す見知った顔があった。

私は透明化を保った状態で、その部屋まで駆け上がる。

外を見ていた西は、私がベランダに降り立った物音を聞いて、

西「渋谷か?」

凛「お待たせ」

私は透明化を解除して西に前に姿を現した。

私の姿を見た西は、少しだけ不敵に笑うと、すぐに部屋に入るように促す。

ここは西の家なのだろうかと思いながら、部屋に入るとかなり広めのリビングの机の上に私のパソコンが置かれていた。

やっぱり、今回呼ばれたのもガンツの制御についての話かな? と思いながらも。

凛「それで? 見せたいものってなんなの?」

問いかけると、西はさらにニヤリと笑みを浮かべ。

西「それだ、お前から借りたガンツPC、それを見てみろよ」

凛「?」

私のパソコンを指差す西。

私はその言葉にしたがい、パソコンを見てみると。

凛「え……これって……」

パソコンの画面には軽量化後のハードスーツの画像が表示されていて、その所々に英語で注意書きみたいなものが書かれている。

読めないことはないけど……えっと……。

凛「……ハードスーツの性能、搭載武器、使用方法……」

西「ふッ、読めるンだな?」

凛「まあね。これもしかして、ハードスーツの使い方を説明してるの?」

西「いや、違う」

凛「? だったら、何なの?」

私の問いに、西はさらに笑みを濃くしてパソコンを操作し始める。

西「見てろ」

凛「?…………えっ!?」

西がパソコンを操作し終えると、西の身体に何かが転送され始めた。

それは、私が身につけている軽量化後のハードスーツ。

画面にも表示されているハードスーツと同一のもの。

通常のハードスーツとは異なり、腕の部分がかなり細い。肘の部分の刃も無い。

通常のスーツと大きさはほぼ同じだけど、背部からケーブルが延びている。

私と同じハードスーツ。9回目の報酬であるはずのハードスーツを何で西が……。

西「驚いてンな?」

本当に愉快そうに笑う西。そして私は西の言うとおり驚いていた。

私の胸中が収まらない内に、西は再びパソコンを操作し始める。

西「それだけじゃねーぞ? 見てろ」

西がパソコンを操作して、次に転送されてくるものを見て私は固まってしまう。

凛「で、デカ銃? そ、それも何でこんなに……」

リビングには10丁ものデカ銃が転送されてきていた。

西が行っているであろうこの武器の転送を見て私は感づいた。

凛「あ、アンタ、もしかして、100点メニューの武器を自由に転送できるようになったの?」

西「お前が手に入れた分だけな」

凛「私が手に入れた……?」

西「ああ、お前が100点メニューで解放した武器は全部転送できる。それも何個でもだ」

凛「!?」

西の言葉に愕然としてしまう。

私の手に入れた武器……ハードスーツもそうだけど、ロボットにバイザーに飛行リング、それに双大剣も出せるって言うの?

私も武器を転送させる事は、転送システムを使ってやれるけど、100点武器は1個しか転送できない。

100点武器を何個もって……。

私はすぐに他の武器もと言うと、西はパソコンを操作して武器を転送してくれた。

目の前に転送されたのは、双大剣が3セットにバイザー、飛行リングは2個。

凛「嘘……」

西「どーよ? すげーだろ?」

凛「う、うん。すごい……」

私の返答に西はさらに上機嫌に笑い出して、パソコンを操作し始める。

西が何か操作し終わると、私を自分の元に近づかせるように手招きをする。

西「見てみろ、他にもこんなものを見つけた」

西がキーボードを操作すると何か先ほどとは違う画面が表示された。

今度は文字となっている、それも英語だったが。

凛「……解放条件……?」

西「ああ」

凛「えっと……クリア回数に応じて……システム解放が可能……?」

西「その通り」

私が読むと西がスクロールをしてさらに文字を表示させた。

凛「クリア回数以外の解放条件?」

西「そうだ」

凛「……時期? !! カタストロフィに近づくに連れて解放されるシステムが多くなってる!」

パソコンに表示されていたのは紛れもなくガンツのシステムにアクセスする為の条件だった。

西「見てみろ、カタストロフィの時点で10回クリアで全システム解放だ」

確かにそう表示されている。

解放されるシステムは何個もあるけど、そのなかでも私の目を引いたのは。

凛「すごい……頭の爆弾を取り除くことも、人の再生も何度でも……」

でも、再生や爆弾解除はカタストロフィまで解除されないようだった。

それもそうか、これが出来てしまった場合、ミッションの賭けが成立しなくなることも考えられる。

爆弾が解除されれば、ミッションの放棄を考える人間もいるだろうし、今置かれている立場を公表する人間もいるだろう。

再生に関してもそうだ。賭けの種類で誰が生き残るかを賭けている場合もあるかもしれない。

そう考えると、カタストロフィまで解除されない事は理解できる。

だけど、逆に考えると、カタストロフィが来たらそれらを解除できるようになる……。

ミッションによる賭けが成立しなくなるようなシステムをガンツメンバーが使用することが出来る……。

こうやってシステムに干渉する人間が多いとは思えないけど、それでも世界中にあるガンツで狩をする人間の中にはここまでたどり着く人間はいるだろう。

そうなると、それができるようになるという事は……。

ガンツの狩りは、カタストロフィで終わってしまう?

凛「っ!!」

その可能性に気付いた私は愕然としてしまう。

狩りが終わる? もう殺し合いが出来ない?

西「おい? どーした?」

そんな事、駄目。

私が唯一輝ける舞台がなくなってしまうなんて絶対に嫌だ。

私は何か方法はないのかとパソコンを凝視する。

西「おーい。どーしたんだよ?」

すると見つけた。

ガンツの機能の中に私の目的をかなえる機能が。

凛「あった……狩りのターゲットを見つけ出す機能……」

西「あン? 星人を見つけ出すシステムか? それがどーしたんだ?」

凛「これを使えば自分でいつでも狩りを楽しむことが出来る……ふ、ふふっ」

西「……」

凛「よかった……カタストロフィが来たらもう狩りが出来ないのかって思っちゃったよ……」

西「オマエ、本当にイカれてんのな」

凛「え?」

西「いや、なんでもねェよ」

西がまた何か私に対して失礼な事を言ったような気がするけど、私は狩りができなくなるのでは? という不安が杞憂のものであると分かってほっとしていた。

その私に西はまた不敵な笑みを浮かべながら言ってくる。

西「ここまで解析すンのに滅茶苦茶苦労したンだぞ。1ヶ月もずーッと解析作業をやり続けてよーやくここまで来たぜ」

素直にすごいと思う。

私だとこんな事はできない。逆立ちしてもあの文字と数字の羅列を解読するなんて無理だった。

それをここまで調べ上げるなんて……。

凛「本当にすごいよ。よくあんなのを理解して調べることが出来たよね」

西「ふッ、当たり前だろ? 少しだけ手こずッたけど、俺の腕がありゃこれくらい楽勝だ」

あ、すごい嬉しそう。

そんな顔もするんだ。なんというか歳相応な感じ。

今まで見てきた生意気な西じゃない子供っぽい西がそこにいた。

でもすぐに、いつもよりもなんというか何かを企んでいるような悪い表情で。

西「これを見てみろよ。どんなところでもいける転送機能、巨大ロボットの遠隔操作なんてこともできる。さらに人間を登録して頭に爆弾を入れることもできる! 爆弾を入れた人間を脅して兵隊にでもすれば……世界を支配することすら可能だ!!」

……コイツは何を馬鹿な事を考えてるんだ。

凛「……えっと、世界を支配する?」

西「ああ! これだけの事ができるんだ! この力を使ッて、この世の最高権力者に俺はなるンだよ!!」

凛「えーっと……」

かなり興奮しながら語る西に、私は頬をかきながらどう返したものかと迷っていた。

凛「最高権力者って……夢見すぎじゃない?」

西「夢じゃねーッて! ガンツの力を使えば可能なんだよ!」

凛「いや、だって、ガンツの力って……」

西「ああ、俺が最高権力者になッた暁には、お前は俺の片腕として世界を支配していくのを手伝ッてもらうぜ?」

……話を聞いてくれない。

っていうか、勝手に私をアンタの片腕にしないでよ。

そもそも、ガンツの力って、マイエルバッハって会社の力なんだから……あ、そういえばそのことを話してなかった。

凛「あのさ、ガンツってドイツのマイエルバッハって企業が作ったものなんだから、世界を支配する前にその企業に対策されちゃうと思うよ?」

西「……? なんだッて?」

凛「だから、ガンツって……」

西「お、おい。ドイツの企業が作ッたッて……ガンツをか?」

凛「うん」

西「……確証は?」

凛「ガンツの事を知る別のチームの人間に聞いた。その男は結構深いところまで知ってるみたいで直接そのマイエルバッハの会長に聞いたって」

西「……マジ、かよ……確かに人為的な物だッて予想していた奴もいたけど……あれだけの技術を人間が作れるのかよ……」

私の話を特に疑いもせずに信じた西は、さっきとは打って変って渋い表情になった。

まあ、大方自分の考えていた世界征服を出来なくなって悔しいと考えているんだろうけど。

西「チッ……やッぱ、カタストロフィ待ちだな……カタストロフィで世界がひッくり返ればその時に乗じて世界を支配して……」

やっぱり。

……でも、何でそんなに世界を支配するとか考えるんだろ。

凛「あのさ、何でそんなに世界を支配したいわけ?」

西「あ?」

凛「男の子の夢って言われたらそれまでだけどさ、世界を支配して何をしたいの?」

西「……お前はこんなクソみてーな世界に満足してンのか?」

凛「満足って……」

西「法律や社会に縛られて、俺達が好き勝手しよーとしたらそれだけで異常者扱い、誰も彼も俺達の事を否定してきやがる……」

凛「……アンタ」

西「否定された後はそろッて排除しようとしてくるンだ。俺達はこの世界では異物だッてな、俺達の居場所はこの世界にはどこにもないッてな」

凛「そんなこと、ないよ」

西「フン……お前は今までうまく隠してきたからそー言えるんだろうな……だけどよ、これから、お前も絶ッてーに俺と同じ事を考えるようになるぜ」

凛「……」

西「だから俺は世界を支配してこの世界の価値を変えてやるンだ。俺が否定されたこんな世界はこの俺がぶッ壊して新しく作り上げる」

凛「そっか……」

はっきり言って西の言っている事が理解できない。

でも、西はすごく辛い顔をしながら吐き出すように言い続けている。

それがとても苦しそうで、悲しそうに見えて。

凛「……私でよかったら、アンタの話を聞こうか?」

西「……え?」

凛「アンタ、どうせ今まで他人なんて自分とは違う異物だって考えて碌に人と話をしようともしてこなかったんでしょ?」

西「……」

凛「私もさ、何だかんだでアンタと同じような人間だけど、アンタみたいに世界がどうだとか思わないし、今のこの世界で生きてることに満足してる」

西「……お前は悩みがねーからそう言えるんだ」

凛「……私結構悩むんだけどな」

西「……」

凛「ま、悩んでることって結構すぐ解決したりするんだよ? 自分で解決したり、人に聞いてもらったり、人から言われて気付いたりして」

西「……」

凛「だからさ、色々と聞くよ。一人ぼっちで抱え込むのって辛いでしょ?」

西「……フン」

西は結局、私に何かを話すことは無かった。

それどころか見せたいものは見せたからもう帰れといってくる。

だけど、最後に、

西「……たまに電話してもいーか?」

私を見ようともせずに背中を向けて西は言ってきた。

可愛くない奴だなと思いながらも、

凛「いいよ」

と、言って西の家を飛び出した。

私と同じ人間、本当の意味での仲間。

未央や卯月、加蓮に奈緒とも違う、私の本性を知っている仲間。

色々と悩んでいるみたいだから、相談に乗って上げよう。

あ、それと今日見せてもらったガンツの制御関係についても考えないと。

100点武器の転送、特にハードスーツは西に頼んでみんなに装備できるようにすれば死ぬ確率もグンと減るだろうから最優先事項だ。

他のシステム制御系はカタストロフィまで解放されないものも多いし、今後使えるものを見極めて戦闘に使えるようなら使っていかないといけない。

それには西の力が不可欠……。

また電話をするって言ってたけど、私のほうから色々連絡を取らないといけないかな。

透明な私は夕日が照らす空を駆けながらも、思考を巡らせながら帰路についた。

今日はこの辺で。

西の家から帰ってきて。

夜、寝る直前にその電話がかかってきた。

凛「……? なにこれ、通知不可能?」

謎の着信が私の電話にかかってきている。

不気味な感じがしたが、10秒ほどその表示を見て、私は電話をとった。

「久しぶりだな」

凛「!」

この声、あのちょび髭という男の声。

この男と会ってからもう2ヶ月が経つ。

最後に言っていた私を仲間に勧誘したいという言葉を受けて何も回答をしていなかった。

痺れを切らして電話してきたのかな……。

凛「久しぶり。ええと、ちょび髭さん、だったよね」

「ああ、そうだ。あれからかなりの時間が経過した。君の回答ももう固まッていると考えて連絡したのだが」

やっぱりそうか。

でも……どうしよう。ハッキリ言って、ずっと迷っている。

この男の目的も、カタストロフィに向けての戦力を集めているっていう事しか分からない。

この前聞いたカタストロフィの内容が、超巨大隕石の衝突か宇宙人との全面戦争だとすると、この男はそれを何とかする為に仲間を集めているという事だよね。

その私の思考を遮るように男は私に提案を持ちかけてきた。

「……その様子ではまだ回答を決めかねている、という事か。……君にとッて悪い話ではないはずだ。何をそこまで迷う必要があるのだ?」

「君の友人二人も一緒で構わない。君が知りたがッている、ブラックボールに関する情報も我々の同士となることですべてを知ることが出来るだろう」

凛「……えっと」

「他に条件があるならば言ッて貰いたい。君が提示する条件のすべてをこちらは呑む事を約束する」

凛「……」

本当になんでここまで私に拘るんだ。

確かにミッションクリア回数は私が一番多いのかもしれないけど、スーツや武器が無かったら私はただの女子高生。

この男も今日、西が見せてくれたように100点武器を何個も転送することが出来るのだろう。

だったら、私のような女子高生なんかより、……例えば、あの風さんみたいな人に100点武器を装備させたほうがよっぽど戦力になるはずだ。

この男が考えていることがまったく見えない。

それが、私に回答を渋らせている最大の要因なんだと思う。

これ以上モヤモヤするのも嫌だ。もう直接聞いてみよう。

凛「あのさ、聞いてもいい?」

「何かね?」

凛「私をそこまでしてアンタ達の仲間にしたい理由。それが分からなくてずっと悩んでいるし、ハッキリとした回答が出来ないの」

「以前に話しただろう? 君はブラックボールランキングの1位で、現状誰よりもミッションの経験を得ている。君の力を戦力として得たいと考えていると」

凛「それ。なんだかそれが嘘っぽいんだよね。アンタ、私の事戦力として見るよりもっと違う何かとして考えてない?」

「ふむ……何故そう考える?」

凛「戦力ならさ、私じゃなくてもいいでしょ? ガンツの制御が出来るアンタ達なら100点武器を何個でも転送することも出来るんだから、私みたいな女子高生よりも、鍛えてあげた男の人とかに装備させたほうが戦力になるんじゃないの?」

「……何?」

凛「100点武器フル装備なら、同条件の男の人と私とじゃかなり差はあると思うよ? 私がいくら狩りの経験を持っていたって、武器さえあれば戦力的には私とそこまで大差なくなるんだから…………あっ」

自分で言っていて気が付いてしまった。

この男の目的って、私の武器なんじゃないか、と。

西も言っていた。転送できる武器は2番を選んで解放した100点武器だけだと。

それなら納得がいく。私を仲間に引き込むことで、私が手に入れた武器を仲間全員に装備させることが出来るようになる。

この男はこの前見たときには7回のクリアだった。

それに対して私は武器を選んだ回数14回。

私が仲間になることで、100点を取らずとも7つの武器を手に入れることが出来ると考えると私に拘る理由も分かる。

この予想を私は男に問いただしていた。

凛「……ねぇ、今気がついたんだけど、アンタの目的って私の武器なんじゃないの?」

「……」

凛「私が仲間になることで、私の持っている100点武器をアンタ達は苦労せずに手に入れることが出来る。100点武器を転送できるようになったら私はお払い箱になるんじゃないの?」

「……待て。少し待ッてくれ」

凛「何? やっぱり、私の予想通りってわけ?」

「いや…………」

凛「?」

「……君はまさか、ブラックボールの制御をすることが出来たのか?」

凛「ある程度は」

まあ、私がしたわけじゃないけど。

「……馬鹿な。まだ2ヶ月……そんな短時間で……信じられん……」

明らかにうろたえ始めた男。

何をそんなにうろたえているんだと考えていると。

「……制御が出来たというのならば、ブラックボールの中枢システムの解放条件も知ッているのか?」

中枢システム? なんだろう……。

でも、解放条件ってたしか。

凛「カタストロフィの時点で10回クリアをしていると全システム解放だったよね? それのことかな」

「…………」

男はそれから急に押し黙り、何かを考え始めた。

どうしたのかと声をかけるが反応はなく、長い沈黙の後に出た言葉は。

「……本当に、ブラックボールの制御をしてしまったというわけか……」

凛「アンタが教えてくれたんでしょ? ガンツの制御は誰にでも出来るって」

「……そうだな。言ッた……が、ここまで短期間で中枢システムの解析にまで到達するとは考えていなかッた」

凛「?」

「…………こうなッてくると……中枢システムを制御できるブラックボールはカタストロフィで2つ出来る事になる……うまくいけば奴等の目も欺いて……」

凛「ちょっと……何をブツブツと……」

何かを考えるように呟いていた男は、ある程度考えが纏まったのか私に言ってくる。

驚いたのは、男が出した声色だった。

この男が今まで出してきた冷たい声質ではなく、どこか人間臭さを感じ、懇願しているような声質に私は男の言葉に耳を傾けてしまう。

「……君ともう一度話をしたい」

凛「話って今してるでしょ?」

「電話ではなく直接会ッてだ……直接君に話したいことがある…………頼む」

凛「えっと……」

本当に何かを頼みたいといった様子だ。

断ってもいいけど……。

でも、この男の態度が今までと何かが違うと考えた私は。

凛「……いいけど。どこで話をするの?」

「……以前、君が作ッてくれた交渉の場所。明日、同じ場所、同じ時間で、同じように話をしたい、構わないかな?」

以前と同じ? あの山の中にロボットを透明化させてコクピットで話したときのこと?

明日は休日、時間は取れる。

凛「わかった。それじゃ、あの時と同じように場所を作っておくよ」

「すまない……では、明日、あの場所で……」

そして、そのまま電話は切れてしまった。

次の日、以前と同じように山の中腹に透明化を施したロボットを転送させてちょび髭を待っていた。

約束の時間、正午より少し早くあの男は姿を現して、以前と同じようにロボットのコクピットに入りコクピットを閉じた。

ちょび髭は以前とは違いかなりラフな格好をしている。

帽子を被り、雰囲気が前回あったときと違い、一見ちょび髭だと分からなかった。

凛「……ちょび髭さん? だよね?」

「ああ」

凛「何だか前回と印象が……」

「変装だ……今日、こうやッて君と会う事は誰にも知られるわけにはいかないのでな……」

凛「?」

ちょび髭はそのまま私に向き直り。

「唐突な呼び出しに答えてくれて感謝する」

そうやって深く頭を下げてきた。

凛「……何だか、かなり下手に出てくるようになったけど、そんな事されてもすぐに仲間になるっていう事を決めれないよ」

「違う。その話はもういい」

凛「え?」

「むしろもう君を仲間にするという事は考えていない」

凛「……」

一体どういうこと?

武器を手に入れる為に私を引き込もうとしていたんじゃないの?

私が疑問を浮かべていると、ちょび髭は声のトーンを落として語り始める。

「……君に頼みがある」

頼み? 一体何を……。

「……俺の所属している組織……奴等の計画を止めてほしい」

凛「え? どういう意味……?」

「奴等の計画……奴等はカタストロフィに乗じて、この世界の主導権を握ろうと企んでいる。そのために助けることの出来る命を見殺しにして……だ」

主導権って……何だか西のような事を言い出した。

だけど、助けることの出来る命って?

「カタストロフィ……以前に話した事を覚えているか?」

凛「……確か、超巨大隕石の衝突、それか宇宙人との全面戦争だよね?」

「そうだ、どちらが起きるにせよ、人類は未曾有の危機に直面する……一般人の被害はどこまで広がるか予想もつかない」

……それもそうだろう。

確か恐竜が絶滅したのって隕石のせいなんだっけ?

そんなのが地球にぶつかったらそれこそ人類滅亡の危機。

それに宇宙人との全面戦争なんか、どこまでの規模になるかも分からない。

被害の大きさを考えていた私にちょび髭はそれを覆すような事を言ってきた。

「だが、どちらも未然に防ぐことが出来るのだよ。ブラックボールの力があれば」

凛「え?」

「君もブラックボールの制御に成功したのならば分かるだろう。ブラックボールの力があれば、武器を何度でも出せ、人間を何度でも再生することができ、いかなる場所にも転送をすることが可能なのだと」

凛「……そっか、カタストロフィではガンツがある限り死ぬことが無くなるんだった……」

確かにそれなら、宇宙人との戦争は絶対に負ける事はない……。

けど、隕石は……。

その回答はちょび髭が言ってくれた。

「極端な話、死ぬ覚悟を持ッた人間が数十人いれば、カタストロフィを止める事が出来る。あの巨大ロボットに搭乗して、隕石、もしくは敵宇宙船に張り付かせるように転送し、自爆する。それを幾度となく繰り返せば隕石も敵宇宙船も破壊することが出来るだろう」

……なんて事を考えるんだ。

確かに、武器を何度も出せる、人を何度も再生できる、どこにでも転送することが出来る、そのシステムが解放される以上、今ちょび髭が言った作戦は出来るだろうけど……。

ロボットの自爆は私が前回やったことでその破壊力は身をもって味わっている。

あの1発でハードスーツの耐久が殆ど削られたようなものだ。

それを何発も、搭乗者が死んでもいい覚悟でやり続けたら……。

「だが、この作戦は奴等に受け入れられることは無かッた……奴等は現在の地球にある列強国が崩壊するまでは行動に移さないと……」

凛「あの、ちょっと待って」

「……何だ?」

凛「私の勘違いじゃなかったらさ、アンタは自分の組織のメンバーに不信感を抱いてる?」

「ああ、その通りだ」

凛「……えっと、アンタって私をその組織に勧誘してなかったっけ?」

「言いたい事は分かる。だが、俺には選択肢が無い状態だった」

凛「どういう事?」

私が問いただすと、ちょび髭は表情を歪め始めた。

鋭い目線が釣りあがり、その表情は怒りに染まっている。

「俺の家族が奴等の人質になっている」

凛「……え?」

今日はこの辺で。

ちょび髭は唇を噛み締めながら震えている。

演技……ではなさそう。

ちょび髭から発せられる怒気というものが私に伝わってくる。

「俺は奴等に逆らッた場合、妻と娘は殺される……何の関係もなく、何も知らないというのに関わらずだ!」

凛「……」

ちょび髭は口調を強くし、握り締めた拳を壁に叩きつけていた。

この男は冷たい印象しかなかったのに、ここまで感情をむき出しにするなんてやっぱり本当のことなのだろう。

凛「……その、さ。家族を人質にされているって言うけど、何度そんな事をされているの? アンタはそいつ等の仲間じゃないの?」

「……仲間、そんなものではない。俺は奴等の奴隷だ。奴等の計画を実行する為の奴隷にすぎん」

どうやらちょび髭の組織はとんでもなく危ない組織みたいだ。

言う事を聞かせる為に家族を人質にとるなんて普通じゃない。

もしも私が安易に仲間になるって承諾していたら、私の家族も人質とかにされていたのかもしれない。

少しというか、かなり怒りが湧き上がってきてしまう。

凛「……アンタさ、そんな組織に私やあの子達を入れようと誘っていたの?」

「……返す言葉も無い。君が怒るのも承知の上全てを話している……」

今度は本当に申し訳なさそうな顔をしている。

……調子が狂う。

「言い訳に過ぎないが、俺は奴等に逆らうことが出来ない……君を取り込む為に動いたのも奴等の命令だからだ……」

凛「命令……やっぱり私の武器狙いって事?」

「いや、奴等は君の武器に興味はない。君がミッションを行ッているブラックボールを狙ッていたのだ」

凛「私の、ガンツを?」

「君はすでに10回クリアを達成している。君さえ取り込めばもうミッションを無理に行わなくてもカタストロフィで中枢システムを制御できるブラックボールが手に入る。それが最大の狙いだッたのだ」

そういう事か。

ちょび髭の仲間はもうガンツの制御に成功して、システムの解放条件も知っている。

全システム解放できる条件が整っているガンツがほしかった、ということね。

「だが、君を取り込む事はあくまで保険として。メインはやはり俺のブラックボールを全システム解放できるようにすることだッた。いざ君のブラックボールを手に入れたはいいが、今現在制御できている俺のチームのブラックボールと勝手が違い制御できない、なんてことも考えられたからな」

凛「メインって……まさかアンタって、そいつ等に命令されて10回クリアを目指しているの?」

「ああ。絶対に、何としてでも10回クリアを達成しなければならない……」

凛「それって、さっき言った家族の為に?」

「そうだ……10回のクリアを達成できなかった場合、妻も娘も殺される……」

凛「……」

家族を盾に……。

私もお父さんやお母さんやハナコを人質にされてしまったら言いなりになるしかなくなるだろう……。

「俺はカタストロフィまでに10回のクリアを達成しなければならない。家族は奴等に捕らわれて、どこにいるのかも分からない……。奴等に従うしかなかッたのだ…………そう、今までは」

凛「今まではって……」

「君がブラックボールを制御できるようになッて状況が変わッた。君が協力してくれればカタストロフィ自体を俺が食い止めることが出来る。カタストロフィさえ起きなければ、奴等の計画も頓挫する。計画が潰れるとも考えていない奴等は面食らい隙が出来るはずだ……その隙に俺の家族も助け出す」

えっと、この人短絡的過ぎないかな……。

私が協力するだけでカタストロフィを防ぐことが出来るって考えてるみたいだけど、巨大隕石の衝突や宇宙人との全面戦争を二人でどうしろっていうの?

それに、隙が出来るから家族を助け出すって……どこにいるかも分からないのにどうやって……。

凛「あのさ……アンタが言ってる事って、私と二人でカタストロフィを止めるっていう事だよね?」

「ああ、その通りだ……君にとッては、碌に知りもしない人間からの頼み……俺の頼みなどを聞く義理も無い事は承知している……だが、頼む。俺には他に道が無いんだ……」

そうやって私に土下座をしてくるちょび髭。

まさかの行動に私は慌てて、

凛「ちょ、ちょっと! そんな事しないでよ! 頭上げてって!」

私よりかなり年上のちょび髭が、恐らくはプライドを捨ててまでこんな事をしてくる。

ちょび髭の言っている事は全て真実で、本当に私以外に頼るものがなく頼んできているのだと理解してしまった。

凛「話聞くから! だからそんな事止めて!」

「……」

凛「もうっ! わかったから! 話も聞くし、出来ることなら協力するから頭上げてって!」

「……すまない」

ちょび髭はやっと土下座を止めて私に向き直った。

もう……変な汗でちゃうよ……こういうのは勘弁してほしい。

凛「それでさ……私が協力することでカタストロフィを止めるって言ってるけど、そんな事無理でしょ? 二人しかいないんだよ?」

「二人ではない、数十人……いや、数百人でカタストロフィを止める」

凛「……数百人?」

「ああ」

凛「アンタ、もしかして仲間がいるの?」

「違う。ブラックボールの再生機能を使うことによッて、数百人単位の俺のクローンを作り出してもらう」

凛「…………は?」

今、何て言ったの?

数百人単位のクローンって……。

凛「あの……それって、どういう事なの?」

「気付かなくても無理はない……ブラックボールの再生機能、あれは同一人物を何人でも再生することが出来るのだ」

凛「嘘……」

「本当だ」

ちょび髭の言葉に耳を疑ってしまう。

同一人物を何人でも?

何なのそれ……。

「数百人単位の俺が、巨大ロボットに搭乗して自爆する、カタストロフィを引き起こすであろう巨大隕石だろうが巨大宇宙船だろうが、こッちは死なない特攻隊だ。勝負は目に見えている。目標が消滅するまで俺は人間爆弾として特攻し続ける覚悟だ」

「そして、それと同時に、別のクローン体の俺が家族を探すために動く。どこにいるかも分からない……だが、ブラックボールに登録された俺の生体情報に近い生命体を見つけ出すことが出来れば、それが俺の娘だ……見つけたら転送することも出来る」

そんな事までできるのか……。

「今こうやッて君と話している俺は、奴等の計画を遂行するように見せかけ、奴等の目を引き付けて、君とクローン体の俺の行動を支援する。そして、カタストロフィを食い止め、家族が助かッたことを見届けた後は、奴等全員道連れに自爆するつもりだ」

凛「じ、自爆って……」

「クローン体の俺が命をかけてカタストロフィを止めるのだ。俺自身、命をかけて奴等を始末しなければならないだろう。奴等は計画が破綻した時点で、ブラックボールの力を使い戦争を起こしかねないのでな……」

凛「……」

滅茶苦茶だ……。

作戦も何もごり押しの力任せ……。

凛「とてもうまくいくとは思えないんだけど……」

「…………無理も無い。だが、俺には他に道はない。このまま奴等のレールに沿ッて動かされ続けれ、奴等の計画が成されれば俺も用なしとなり始末され、俺の家族も殺されてしまうだろう……」

凛「……」

「俺には他に手はないのだ……どんな無茶な作戦だろうと、カタストロフィを食い止め、家族を救う……1%も無い可能性だろうと、俺はそれに賭けるしかないのだよ」

凛「……」

ちょび髭が辛そうに顔を歪ませている。

多分ちょび髭も理解しているんだろう、かなり無理のあることを言っている事に。

それでもやらなければならない。その気持ちは伝わってくる。

……正直、ちょび髭を信用したわけではない。

言っている事は真実だと思うけど、いきなりこんな事を話されてすぐに信用するほど私はお人よしじゃない。

でも、一つだけ、カタストロフィを食い止めるという考えだけは私も同意できる考えだ。

何が起きるかはまだ分からないけど、恐らくは今のこの世界がひっくり返るようなことが起きてしまうんだろう。

その時には、この世界は今のように平和な世界じゃなくなってしまうのかもしれない。

そうなったら、未央と卯月のステージを見ることが出来なくなってしまう。

未央と卯月に危険が及ぶかもしれない……。

あの子達だけじゃなくて、お父さん、お母さん、ハナコにも……。

それなら、もう答えなんて決まっている。

凛「わかったよ。私もアンタに協力する。アンタが言ったカタストロフィを止める作戦に全面的に協力するよ」

「ッ! すまない……本当に感謝する……」

凛「感謝なんてしなくていいよ。私もカタストロフィなんて何が起きるかも分からないような事なんか事前に止めたいし」

「それでもだ……。君が協力してくれることで俺に新たな道が開けたのだ……感謝してもしきれない……」

……もう、最近こうやって年上の人にお礼をされることが多くなった気がする。

私は私の為にやってるんだから、それに対して感謝なんてしないでほしい。

凛「もういいから。えっと、それじゃ、作戦って言うのをもう一度纏めたいんだけどさ」

「ああ、わかッた」

それから少しだけ、カタストロフィを阻止するための作戦を練ることとなった。

基本はちょび髭のクローン体を作り出し、ロボットに搭乗し人間爆弾としてカタストロフィを発生させる原因を破壊する。

その際に、ちょび髭の家族も見つけ出して保護をする。

ここまでを私にやってもらいたいといわれたところで、私はちょび髭に言った。

凛「……あのさ。私に色々とガンツの制御を頼もうと思っているみたいなんだけど……実は私がガンツの制御に成功したわけじゃないんだ」

「……何、だと?」

凛「私のチームの仲間に私のパソコンを貸して調べてもらったんだよ。私自身は制御をすることが出来なかったから……」

「……その君の仲間にも協力してもらうことは出来るのか?」

西が協力……。

アイツがまったく知らない人間の為に何かをする……。

……難しいかも。

凛「頼んでみる。後はカタストロフィまでに私がガンツを制御をできるかどうかも試してみるよ」

「頼む……」

西にガンツを制御する方法を色々聞いてみよう。

……今後狩りをしていく上でもガンツを制御する事は必須になってくるしね。

そうやって少し考えていると、ちょび髭が話を再開し始めた。

「それでは、次会う時までに君はその制御を出来る仲間に協力を取り次いでくれ。俺は奴等の目を欺く為に様々な工作を行う」

凛「わかった。それで、次に会う時っていつなの?」

「……カタストロフィの1週間前にこの場所で合流する形を取りたい」

凛「い、1週間前って……1週間しか時間がなくて大丈夫なの?」

「これ以上、君と接触をすると奴等に感づかれる可能性もある。ギリギリのところで、奴等の作戦も何もかも動かせない段階に入ッてからこちらが動かないと何かの対策も打たれてしまうかもしれん……」

凛「随分と警戒してるんだね……」

「当たり前だ。奴等の事は俺が一番良く知ッている……」

凛「……わかったよ。それじゃ、カタストロフィの1週間前。今日と同じようにこうやって場所を作るから、その時までにお互いの出来ることをしよう」

「ああ」

話を終えて、お互いこれからすることを考えながらその場を離れる。

私はロボットを引き上げて空を駆けながらも考え続けていた。

凛(カタストロフィまで後約2ヶ月半)

凛(それまでに出来ることをやって、カタストロフィを止めないと……)

凛(西にも協力してもらいたいけど……アイツはこのことを誰かに話すかもしれない……)

凛(あんなサイトにガンツの狩りのことを書いていたんだ。他にも同じようなことをしてるのかもしれない……)

凛(そんなところから、ちょび髭の組織の人達にばれてしまったら……)

凛(やっぱり、私がガンツを制御できるようになることを目標として、それでも出来なかったときに西に協力を頼もう……)

私は西に協力を頼む事は後回しにし、まずは自分でガンツを制御できるようになる為ことを第一目標とする。

それから一月月日が流れる。

私は、西のマンションで机に突っ伏していた。

凛「駄目…………全然わからない…………」

西「なンでわかンねーんだよ。オラ、もう一回やッてみろ」

凛「休憩させて……頭パンクしそう……」

私の頭の中は現在文字と記号と数字で埋め尽くされている。

頭がガンガンする。軽く吐き気もするくらい。

西「はァ……それにしてもよー、自分で狩りをする方法を覚える為に、1ヶ月毎日のように俺のとこに来てガンツの制御を学ぶなんて、お前ッて本当にイカれてンよな」

一応西には私がガンツの制御方法を覚える理由として、自分でガンツの狩りを出来るようにしたいからって言ってある。

嘘ではないし、今後やれるようにならないといけないんだけど……。

1ヶ月経っても殆どガンツの制御方法を理解する事はできなかった。

西「カタストロフィが来るまではその機能も解放されねーんだしよー、そんなに焦る必要ッてあんの?」

凛「……」

西「なー。おーい。聞いてるか?」

凛「聞いてる……頭痛い……」

西「ったくよォ……ほら、これでも食ッて目ぇ覚ませよ」

西が突っ伏している私の顔の横に箱を置いた。

小さい箱。甘い匂いがする、高級チョコレートの箱。

私は箱を空けて、中に入っていたチョコレートを口に運んでとろけるような甘さに舌鼓を打った。

凛「美味しい……」

頭痛や吐き気があっという間に無くなった。

ゴクンとチョコを飲み込み顔を上げた。

甘さが頭に染み渡って、完全にフリーズしていた思考が動き始める。

凛「元気でた。ありがと」

西「……フン」

凛「んん~~……でももう今日は限界かな。頭が回ってないって自分で分かるし」

西「そーか」

頭を切り替えるように、私は西にここ数日お願いしていることを話し始めた。

凛「そういえばさ、考え直してくれた?」

西「……あ? またあの話かよ……」

凛「そんなに意固地にならないで、次の狩りでは玄野や加藤さんとかにハードスーツや100点武器を転送してあげてよ」

西「嫌だッてんだろ」

凛「……もう、何でそんなに嫌っているのかな……」

そう、西には他のメンバーにハードスーツや100点武器を装備できるようにお願いをしていた。

西「お前の友達とか言うあの女二人は別にいい。俺が知らねーメンバーもお前の頼みなら転送してやッてもいい。だけどあのバカ共だけには絶てー嫌だ」

こんな感じで玄野、加藤さん、岸本さん……一番最初のメンバーをかなり毛嫌いしているようでどうしても聞いてくれない。

卯月や未央には装備を転送してくれるって言っているから、私もそこまで焦ってはいないけど、出来れば全員がフル装備になってもらうことが望ましい。

最近の狩りはどうも難易度が高くなっているような気がするから、ハードスーツを装備しておかないとあっさりと死んでしまう場合がある。

だけど、どんなに説得をしても西の考えは変わりそうにもなかった。

凛「はぁ……アンタも…………っ!?」

西「なッ!?」

その時だった。

私の首筋に寒気が走ったのは。

凛「まさか……」

西「……お前も感じたのか?」

西も同じ反応。

やっぱり転送。狩りの始まり。だけど……。

凛「今、昼間だよね……?」

西「ああ……」

凛「今まで必ず夜に来ていたのに……」

西「ちッ……お前の言うとおり法則が完全に変わッてやがンだな……」

まだ日はかなり高い。

こんな時間の狩りなんて……。

いけない、そんな事を考えているより。

凛「アンタ、スーツは?」

西「着てる。お前は?」

凛「大丈夫」

お互いの状況を確かめ合いながら、私達の頭頂部から転送されていくのが目に入った。

やっぱり狩りが始まる。

その実感が沸き、私の思考が切り替わる。

前の狩りからもかなりの時間が経った。

今回で未央と卯月は解放させる。

西が二人をフル装備にしてくれれば、ある程度の敵は相手にならないだろう。

敵の点数を見て、二人が確実に100点を取ったら、それからは私の時間。

二人は安全なところに避難してもらい、私は狩りを楽しむ。

前回みたいな狂ってしまいそうな快感をまた得ることが出来たら……。

そう考えていると自然に笑みがこぼれてしまった。

いけないいけない。まずは未央と卯月に100点を取ってもらう事に集中しないと。

私の視界は完全に切り替わり、ガンツの部屋に転送された。

山の中の訓練場の一つで、卯月と未央が風を相手に組み手をしていた。

スーツを着て、二人がかりで風に接近戦を挑んでいる。

二人の動きは目にも止まらぬような速度で動いていたが、風はその全ての攻撃をかわしていた。

攻撃しても攻撃しても当たらない状況に、未央は卯月の姿を隠すように前に出て、風に猛攻をかけ始める。

突きの連打、当てることだけを考えた速度重視の突きを未央は繰り出すが、その突きですら風は回避し、未央の拳は空を切っていた。

だが、その未央の背後から、卯月が宙を舞って風に飛び蹴りを繰り出した。

流石の風も死角から飛び出してきた卯月の攻撃を回避することはできなかった。

しかし、その卯月の攻撃も風の右手に掴まれ防がれていた。

その時だった。風が卯月の攻撃を防いだ瞬間、未央が風の懐に潜り込んで、その半身を翻し、背中を風に密着させて、未央は足を踏み込み、全身を使い、渾身の鉄山靠を風に放つ。

その威力は、風の巨体を宙に浮かせ、10メートル近く吹き飛ばし、風は地面を削り着地した。

未央「ハァッ! ハァッ! や、やった!」

卯月「はぁっ……ふぅっ……未央ちゃん……すごいです……」

風を吹き飛ばした未央はその場で荒い息をつきながらへたり込んでいた。

卯月ともども、全力で力を出し切ってやっと風に一撃を食らわせることが出来、二人はその場で力なく笑いながらお互いの手をハイタッチする。

タケシ「きんにくらいだー!!」

そして、タケシは吹き飛ばされた風に駆け寄ったが、風はタケシの頭を撫でながら何事もなかったかのように立ち上がり、二人の元に歩み寄る。

風「よか一撃ばい」

未央「あっ、ありがとうございます!」

卯月「ありがとうございますっ!」

風「もう俺が教えるこつは無い。お前ら二人は十分強か」

未央「……いや、まだです。まだまだ私、強くならないと……」

風「十分やと思うがな……」

卯月「加蓮ちゃんにもまだまだ敵わないんです、もっと強くならないと凛ちゃんを守れないですから……」

風「守る……か。あの女を……」

風が思い出すのは、黒服連中を蹂躙する凛の姿。

ビルのエントランスで100人近い黒服を瞬く間に殺しつくした凛の姿。

風「……」

風は何も言うまいと沈黙を保つ。

この二人がこの1ヶ月、どれだけ凛の事を想っているのか聞かされ続けた。

凛が自分たちの為にどれだけの事をしてくれているのか。

自分たちのせいで凛はあの部屋に残り続けていると。

二人とも凛の事を信頼しきっている。

そこに自分が何かを言うべきではない。

未央「師匠、もう一本お願いします! やっと師匠に攻撃が当たるようになったんですから、その感覚を忘れないうちに」

風「……わかッた」

卯月「ありがとうございますっ!」

そうして、再び組み手を始めようとする未央達全員に同じ感覚が訪れた。

首筋の寒気、転送のサイン。

未央「……え?」

卯月「今……」

風「……」

タケシ「ん? なんだこれ。くびがゾクゾクする」

顔を見合わせて、全員が同じ感覚を感じたことに気がつくと、

未央「ちょ、ちょっと。あの部屋に呼ばれるのって夜じゃないの!?」

卯月「や、やっぱり、これって呼ばれるときの……」

風「タケシ……こッちに来い」

タケシ「きんにくらいだー?」

風がタケシを抱きかかえ、その場で胡坐をかいて座り込んだ。

タケシを抱え、頭を撫でながら心配ないと語っている。

それを見て未央と卯月も、お互いを見合わせて。

卯月「……未央ちゃん」

未央「……うん」

卯月「今日で、終わらせましょう」

未央「うん。そのために今日までやってきたんだからね」

頷きあいながら二人は手を繋ぐ。

お互いの体温を感じながら、二人は転送されていった。

今日はこの辺で。

ガンツの部屋に転送された凛が目にするのは、玄野、加藤、岸本、レイカ、鈴木、坂田、桜井の姿。皆、困惑した顔で話し合っていた。

少し離れた位置で稲葉が頭を抱えて震えている。

凛が転送されてきたと同時に、和泉は凛を視界に入れないようにガンツだけを見ている。

玄野達は、凛が転送されている事に気付き近づき問いかけた。

玄野「あッ! 渋谷! 丁度よかッた、これは一体どういうことなんだ?」

凛「いきなりだね……どういうことって、昼間に転送されたって事?」

玄野「ああ、今まではずッと夜だッたのに、まだ昼の2時だ。もしかしてこれから何時間も待つのか?」

凛「私にもわからないよ……」

玄野「そう、か……」

玄野は凛の回答に頭をかきながら、またいつもと法則が変わってしまった事に一人ごちていた。

凛がそうして転送されきると同時に、隣に西も転送されてきた。

西は手にパソコンを持ち、部屋を見渡して、凛がすぐ隣にいる事に気がつくと、

西「よォ、やッぱこのままミッションが始まるみてーだな」

凛「うん。そうだね」

西「今日はお前の狩りッてのをじッくり見させてもらうぜ?」

凛「はぁ? なんでまた……」

西「17回クリアしたお前がどンだけパワーアップしたのか見てーンだよ」

凛「勝手にしなよ……」

西「OK、勝手にするぜ」

西はそのまま部屋の隅に移動して、凛のパソコンを操作し始める。

すると凛の身体に軽量ハードスーツとバイザーが転送され始め、凛の周囲にも凛の手に入れた100点武器が転送された。

凛「そういえば100点武器フル装備って、卯月に飛行リングを上げたから、今回が始めてかも」

突然転送されてきた武器に全員が驚くが、前回のミッションで同じような光景を見ていた玄野が凛が行っていると勘違いをして呟く。

玄野「なッ? ッて、渋谷がやッてんのか……」

加藤「ぶ、武器が転送されてくる?」

岸本「えッ? えぇッ?」

玄野「大丈夫だ、ありゃ渋谷の仕業だ」

加藤「……渋谷さんが?」

玄野「ああ、話しただろ? アイツはもう17回もクリアしてんだ。アイツがやることにいちいち驚いていたらキリがねーよ」

加藤「いまだに信じられないよ……そんなこと」

岸本「ウン……あたしも……」

そうこうしている間にも、新たな転送者、卯月と未央、風とタケシが部屋に転送されてきた。

凛「未央、卯月」

未央「しぶりん……」

卯月「凛ちゃん……」

凛「どうしたの二人とも?」

卯月と未央はガンツの部屋に転送されたことで前回の凛を思い出していた。

死にかけた凛。しかし、今自分たちの前にいる凛はそんなことを微塵も感じさせず、それどころか笑顔で自分たちを迎えてくれた。

卯月と未央の決意がさらに強いものになる。

今日、絶対に凛だけはこの部屋から解放させて見せるという決意が。

そして、その凛は二人を見て、西に何かを頼んでいた。

凛「西、未央と卯月をフル装備にしてあげて」

西「あいよ」

卯月「?」

未央「フル装備?」

西が操作すると、卯月と未央にも凛と同じように軽量ハードスーツとバイザーが転送され、その周囲に凛と同じ100点武器が転送されていた。

卯月「えっ? これって、凛ちゃんの……」

未央「何? しぶりんが何かしてくれてるの?」

卯月と未央に武器が転送されるのを見て、凛は西に軽く言う。

凛「ありがとね」

西「おう」

凛「それじゃあ次は他の……」

玄野「ちょ、ちょッと待て! 渋谷! お前、もしかして追加武器も転送できるようになッたのか!?」

凛「ちょ、ちょっと」

それを見て玄野が凛に掴みかかるように問いただす。

玄野が以前に凛から聞いていたのは、転送できる武器は部屋にある武器だけ。

100点の追加武器は1つしか転送できないと聞いていた。

それなのに、明らかに100点武器が複数存在している。

これを問いただそうと、凛に掴み寄ったのだが、その直後に部屋の中央にあるガンツから歌が流れ始める。

いつもの歌、ラジオ体操の歌が流れ始めたのだが……流れ出してすぐに異変が起きた。


『あーたーーああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』


凛「!?」

玄野「な、なんだ!?」

レイカ「ッ!?」

西「……なんだこりゃ」

壊れたスピーカーから出るような重低音の音が部屋に響き渡り続けていた。

それもやがて止まり、浮かび上がってきたターゲットの画面にも異変が起きていた。


『てててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててててて』


文字が重なり合うように表示され、さらにターゲットの画像も重なり合うように表示されていて情報が読み取れない。


『ぬらぬらひょひょぬらぬらぬらんんんんらぬらりりりひょりりりりりりぬらぬらひょひょひょひょひょりんんんんぬらぬらひょひょんん』


『特特つつつつおおおおおおおおおお』


『タバ茶好き好きタバタバタバババババババババ茶茶好』


『ぬーーーーーーーーーーらりーーーーーーーーーーひょーーーーーーーーーーひょんんんんんんんんんんーーーーーーーーーー』


そこまで表示されて。

ガシャッ。と、ガンツが開き中の武器とスーツケースが収まっている両脇後部がいつものように解放され、静寂が部屋を包む。

全員がただ呆然とそれを見ていた。

今までとまったく違う、不気味な表示に言葉を失いただ見続けていた。

誰も言葉を発することも無かったが、一人だけ、小さな声で呟き始めた者がいた。

それはずっと頭を抱えて震え続けていた稲葉だった。

稲葉「だ、だめだ…………終わりだ…………死ぬ……確実に死ぬ……」

稲葉「だめだ! ここで! 絶対! 俺はこのミッションで死ぬ!! あああああああッッッ!! 嫌だッッッ!!」

鈴木「い、稲葉君? 大丈夫?」

突然立ち上がり叫び始めた稲葉を鈴木が落ち着かせようとするが、稲葉は構わずに取り乱し叫び続けてしまう。

稲葉「予感がする!! やばい!! 死ぬッ!! 俺はもうすぐ死ぬッッッ!! ちッくしょう!!」

鈴木「稲葉君、ちょっと落ち着こう、大丈夫だから!」

稲葉「嫌だッッッ!! 死にたくねぇッッッ!! うッ……うゲェェェェェッ!!」

極度の不安だろうか稲葉はプレッシャーに耐えられずに吐き始めた。

この数回のミッションで稲葉の心は完全に折れていた。

黒服達に殺されかけ、落雷によって一瞬でスーツを破壊され、自分の命は虫けらのようになくなってしまうのだと思い知らされて。

そして、今回の明らかにいつもとは違うこのミッション。

抱えていた不安がついに爆発してしまった稲葉は取り乱し続けてしまう。

桜井「稲葉サン……」

坂田「確かに……今回は何かヤバそうな感じだな……追加のメンバーもいねーみたいだし……」

それを見て逆に冷静になる桜井と坂田。

タケシ「き、きんにくらいだー……」

風「大丈夫や。お前は何も怯えることはなか」

不安な表情を見せるタケシを安心させる風。

和泉「……」

目を瞑り何も見ようとしない和泉。

岸本「か、加藤君……あたし、怖い……」

加藤「大丈夫……大丈夫だ。なァッ! 大丈夫だよな! ケイちゃん!!」

レイカ「く、玄野クン……」

玄野「フーッ…………」

加藤とレイカの視線を受けて玄野は深く息を吸い込んで吐き続け、視線を強く持ち。

玄野「大丈夫だッッ!! 俺達は誰も死なないッッ!! どんな奴が来ようとも俺達は絶対に負けないッッ!!」

玄野「一人も欠けることなく、全員で戻ッて来る!! 信じろ!! 俺達の力をッッッ!!!」

加藤「ケイちゃん……そうだ、そうだよな!!」

レイカ「うんッ……あたし達は戻ッてくる……絶対に……玄野クンと一緒に戻ッてくるんだから!!」

玄野の一声で部屋に蔓延っていた何かが吹き飛ばされて、不安を感じていた者の顔に生気が舞い戻った。

それは、先ほどまで取り乱し続けていた稲葉も例外ではなかった。

稲葉「お、お前、よく、こんな状況で……」

鈴木「稲葉君……大丈夫。私達は全員で戻ッてこれるから……」

稲葉「す、鈴木さん……」

そして、それを見ていた西は冷めた表情で、

西「なんだこのノリは……アホか……」

と呟き、凛を見ようとしてその顔を驚きに染める。

西「何ッ!?」

西の視界には部屋の全員が見えていた。

そして、その全員が同時に転送されていたのだ。

今まで一人ずつ転送されていたのに、また法則が変わった。

その西の表情を見た凛は、西が転送され始めているところを目にする。

凛「っ!? もう転送が始まった!?」

明らかに早い転送タイミング。

咄嗟に卯月と未央に触れようとして振り向くが、振り向いた先、凛の視界はすでに部屋ではなく外だった。

人通りの激しい場所に凛は転送されているようだった。

「おわッ!? な、何やコイツ!?」

「首!! 生首や!!」

「き、きゃああああああああああ!?」

凛「くっ!? こんなに早く転送されるなんて……でも、未央と卯月に触れていれば一緒に………………」

凛は転送されている間も卯月と未央に触れようと手を伸ばしていた。

見えないが身体がまだ転送されきっていない今、手を伸ばせばすぐ傍にいるはず、そう思い手を伸ばしていた。

だが、凛は人ごみの中に何かを見つけてしまう。

群集は転送されてくる凛を見て、写真を撮ったり叫びを上げて逃げ始めている。

だが、凛から少しだけ離れた位置にいる存在は背中を向けていた。

凛はその存在を見て、身体中に電撃のような痺れが走るのを感じる。

その存在はゆっくりと振り向き、凛の姿を捉えると、


「なんぞ?」


と、首をかしげ呟いた。

凛「っっっ!!!!」

凛は卯月と未央に触れてこの場に転送させてしまうことを拒否し、その手に双大剣を持ち、転送されきると同時に小さな老人から全力で距離を取った。

今日はこの辺で。

凛は小さな老人から視線を一切外さずに、後方に跳躍し、地面を削りながら姿勢を低く着地して大剣を構える。

凛(何、コイツ!?)

凛(絶対にヤバイ、感じる、この前の鬼と同じ感じ!)

見た瞬間から感じ続ける痺れ。

凛の危機感知能力が全力で叫んでいた。

前回のミッションで戦ったオニ星人、それとこの小さい老人は同様、もしくはそれ以上の力を持っていると。

「なんぞ? なんぞ?」

老人は凛を見続け、しきりに首をかしげ「なんぞ?」と呟いている。

一見小さく力も持たないような外見の老人、だが凛には感じられる、この小さな老人から、とてつもなく大きな巨人のような圧迫感を。

即座に凛は敵の戦力を分析して、その情報をバイザーの内側に表示させた。

凛(やっぱり、100点っ!! アイツと同じっ!!)

凛(弱点……不明!!)

凛(いきなりボスって訳!?)

思考をめぐらせながらも老人から一瞬も視線を外さずに警戒し続ける凛。

老人が何を行ってきても対応できるように、老人に全ての意識を集中して老人の一挙一動を見逃さずにいた。

だが、その凛と老人の間に、若い男が数人立ち入ってきた。

「なんやコイツ」

「オイ、オマエや、オマエ」

「けったいな格好してからに、コスプレかぁ~?」

「はははは、めっちゃウケるわ。なんやコイツ」

凛「なっ!?」

老人との間に割り込んできた男達に凛は激しく動揺する。

こうやって戦闘中に邪魔されるような事は無い訳ではなかった、だが一般人が何の危機感も抱かずにこうやって自分を邪魔してくるなど一度も無かった。

それは戦闘が始まる前だから起きてしまった事、そして男達によって老人を見失うといった隙を作ってしまった凛の顔に汗が流れ落ちると共に、もう一度後方に地面を抉りながら跳躍した。

「おウわアッ!?」

「なんやッ!?」

突然地面を爆発させ後方に飛び去った凛を驚きと共に見る若い男達。

凛を見ていたその男達の背後からしゃがれた声が聞こえた。

「ほう、なるほど、こうか?」

聞えたと同時、男達は全身に衝撃を受け空を舞った。

その男達を吹き飛ばしたのは老人。

老人は凛のように、地面を抉るように踏み込み、地面を爆発させて凛に急速に接近する為に動く。

凛「!!」

凛が見たのは自分に向かって飛びかかってくる老人の姿。

そして、凛は意識するよりも早く身体を動かしていた。

低く構えた姿勢から左手の大剣を老人に振りきった。

高速の斬撃、だがその斬撃を老人は空中で軽い身のこなしで回避し、凛の左手の一撃は完全に空を切った。

と、同時に、老人の身体に凛の右腕の大剣が食い込む。

回避した瞬間を狙った斬撃、左よりも遥かに早い一撃は老人の身体に食い込み、その胴体を輪切りにして吹き飛ばした。

二つに分かれた老人の肉体を凛はロックオンし、掌からの閃光を銃数発撃ち込んだ。

爆発音と共に老人の身体ははじけ飛び、閃光に焼かれ小さな肉片を残し消滅した。

凛「はぁっ……ふぅっ……」

小さく息をつきながら、凛は手を老人の肉体があった場所に向けながら立ち尽くしていた。

手ごたえはあった、剣で切り、肉体を破壊しつくした。

だが…………最初に感じたあのプレッシャーは消えない……どころか、より大きなものとなっていた。

凛「……ちっ、再生してきそう……」

凛は小さな肉片が蠢いている事に気付いていた。

その肉片はすぐに大きく膨張し、数メートルはあろうかという大きな肉の塊となり凛の眼前に現れた。

それを今度こそ消し去る為に、凛は黒球を6つ展開し、掌を向けて肉の塊に打ち込もうとしたとき、

「うわッあああああッ!?」

「なんやこれ!? なんやねんこれ!?」

「こ、コイツ、人殺したで!? だ、誰か警察よべっ! 警察!」

「な、なんや……肉かこれ?」

パニックが始まった。

凛「なっ!?」

逃げ惑う人々や逆に凛を取り囲もうとする人々。

野次馬のように写メを撮り、肉の塊を囲む人々を見て凛は叫んでいた。

凛「アンタ達! 早く逃げて!! ここは今から戦場になるからっ!!」

「はァ? 何を言うとんのや?」

「こ、コイツ、人殺しやで! はよ逃げなッ!!」

「アホちゃうか?」

凛「っ!」

凛の攻防を見ていた人間は逃げようとしているが、一瞬の攻防だったため殆どの人間は何が起きているか理解できていなかった。

凛を見る人々の視線は、昼の大通りの真ん中で叫ぶ妙な格好をした変人を見る視線。

大勢の人間が凛を見る中、肉の塊に変化がおき始めていた。

「お、おい……」

「な、なんやありゃ……」

肉の塊は徐々に形を変化し、塊の中から艶めかしい肉体の女性が這い出てきた。

その女性と同じような女性が何人も肉の塊から這い出てきて、重なり合うようにしてその肉体を絡めあっていく。

その女性たちは何人も何十人も重なり合い、まるで巨人のような姿に変化して立ち上がった。

「う、嘘やろ? なんやこれ……」

「写メ、とっとこ……って、うわァ!?」

そして、その巨人は近くにいた一般人を掴みとると。

頭の部分に空いた、口のような穴に投げ込むと、

「ちょ、ちょい待ち、やめ……ぎゃあああああ!!」

一般人を食べ始めた。

「ちょッ!? やばないかアレ?」

「おいおいおい!! やばいて!! やばいで!! うッわァ!?」

「た、たすけ……助けぇ!! ぎゃッ……」

掴んでは口に運び一瞬で圧迫して一般人はその身体を潰されて吐き捨てられる。

その光景を見て、野次馬の一般人も漸く気がつく。

この場にいることの危険性、そして今自分たちの命は風前の灯であるという事が。

そして、パニックは加速してしまった。

「わァッ! わぁあああああぁぁぁぁ!!」

「ひぃッ!? いやや!! いやああああああああああああ!!」

「逃げ、逃げへんと!! あああああ!!」

凛「くっ!」

それを見て、凛は動いた。

大剣を伸ばし、一般人を掴んでいた巨人の腕を切り飛ばす。

だが、切り飛ばされたかに見えた腕は重なり合った女性体が伸ばすそれぞれの腕を掴み元に戻る。

凛(何!?)

凛はすぐさま剣ではなく黒球を動かし、今度は巨人の足に狙いをつけ6つの球体から閃光を照射した。

剣とは違い閃光は巨人に効果があった。

その閃光は巨人の足を焼き、巨人は足を吹き飛ばされて崩れ落ち、凛はさらに追い討ちをかけるように、巨人の手に掴まれた一般人に閃光を当てないように手以外の部分を焼き始める。

凛「このまま……っ!?」

だが、凛が攻撃していなかった巨人の手の部分が膨張をはじめ、掴んでいた一般人を潰しながら凛に向かって膨張した肉から女性体が襲い掛かってきた。

女性体が凛と1メートルまでの距離に迫り、凛に覆いかぶさるように広がったその時。

凛は大剣の重力フィールドを展開し、襲い掛かってきた女性体を全て押しつぶした。

凛「次から次に、キリが無い……一気に叩かないと駄目ってわけ?」

巨人は完全に狙いを凛に定めたのか一般人にはもう目をくれず、凛の閃光に焼かれながらも近づいてきていた。

凛は近づく巨人の足を常に焼いていたのだが、巨人は焼けた足をすぐさま再生し、ゆっくりと凛に近づき続ける。

凛は重力フィールドを展開しつつ、左手の大剣を地面に突き刺し、バイザー内で転送システムを起動させて、手にZガンを転送する。

閃光で焼き尽くすには再生スピードが速すぎるため、凛はZガンを使い一気に押しつぶすという決断に達した。

重力フィールドの重力に耐えられなかった巨人、それならばZガンも効果がある。

その考えは正しく、凛が手にZガンを転送すると同時に、巨人に重力砲を放ち、巨人はあえなく潰され、地面に円状の破壊痕内に巨人の肉体だったであろう大量の血のみがその場に残された。

「い、いなくなッた?」

「な、なんやねん……なんやねんこれ……」

逃げ惑っていた一般人は突然姿を消した巨人に、今起きている現象に理解できず呆然としていた。

だが、巨人が消えた事によって、先ほどまでおきていた悪夢が終わったのだと安堵し始める。

それとは正反対に、凛はその顔に数滴の汗を流し、唾を飲み込んでいた。

さらに強くなったプレッシャーを感じながら。

凛(まだ、終わってない)

破壊痕の血液に盛り上がりが生じる。

凛(っ!! やっぱり再生してきた!!)

盛り上がった血液の中から、巨大なその姿が見え始めた。

凛(前回の奴と同じ……ううん、全然違う、コイツは前回の奴と違って再生するごとに強くなってる!!)

巨大な身体に、爬虫類のような鱗と尻尾。

凛(このままだと殺れない、コイツの再生条件を見つけないと、イタチごっこになってしまう!)

身体に鱗だけではなく、体毛も見え、その頭には大きな角。

凛(それに、このままコイツが強くなり続けたら……)

その顔は肉に覆われていなく、骨。

先ほどまでの人間の姿は微塵も無い、完全な化け物がそこにいた。

逃げ遅れた一般人は微動だにせずにその化け物を見続けていた。

あるものは失禁しながら、あるものは全身を震わせ涙を流しながら。

この場にいる凛以外の全員がこの化け物に恐怖していた。

そして、化け物は凛を見て、

凛「!?」

凛の周囲の重力フィールドが解除されると共に、凛の身体と凛の周囲に不可視の衝撃波が走り始める。

その衝撃波は凛の周囲を破壊し、凛が持ったZガンもその衝撃波に耐え切れずに破壊されてしまった。

凛「み、見えない攻撃!?」

しかし、双大剣は破壊されず、凛自身もハードスーツの防御性能のおかげか無事。

凛(動けないほどの衝撃じゃない……でも、ずっと喰らっていたらどうなるかわからない……)

凛(早くコイツの再生条件を見つけないといけないけど……)

凛(この場所だと、一般人に被害が出すぎてしまう……強力な攻撃をしただけで一般人を殺してしまう可能性も……)

凛(コイツはもう私をターゲットとしてみている。私がこの場所を離れればコイツも追ってくるはず……)

そう考え、凛は手足にあるものを転送し始めた。

凛の手足に転送されたのは飛行リング。

凛「使うのは最初に試したとき以来……」

凛の身体が空中に浮き、化け物に剣を向ける。

凛「追えるものなら追ってきなよ!」

そのまま凛は上空高くに飛び上がり、上空から化け物に閃光を撃ち始めた。

化け物は閃光に焼かれながらも、凛を見上げ、その身体を変化させ始める。

体毛に覆われた翼が背中に生み出され、化け物は凛を追う様に地面を破壊し空中に飛び上がった。

それを一般人は、ただただ呆然と凛と化け物が消え去った空を見続けていた。

凛が上空へ上空へと飛び上がり、飛び上がりながらもロックオンをした化け物に向かって黒球から、掌から閃光を撃ち続け、凛は雲の上にまで上昇していた。

眼下には一面の雲海。

通常では見られないような光景が凛の視界に映っていた。

だが、その光景を楽しむことなど今は出来ない。

凛は雲海を突き破って追ってきた化け物を見て少しだけ笑う。

凛「ここなら邪魔は入らないし、私も思う存分強力な武器を使うことが出来る」

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

凛が双大剣を交差させるように構え、黒球を展開し、化け物を再度バイザー内でロックオンをする。

太陽に照らされて、凛と巨大な化け物は遮るものも何もない空で対峙する。

凛(……さっきから見た感じ、コイツは肉片が残っている限り再生する可能性が高い……)

凛(肉片一つ残さず消滅させれる武装……)

凛(コイツを剣でバラバラにした後、全部の肉片もロックオンして黒球と掌の閃光で消滅させる)

凛(それか、ロボットを転送して至近距離での自爆)

凛(……後は、やりたくないけど、この大剣のフィールド同時起動であの消滅現象を引き起こす)

3通りの方法を考え、凛は最初に考えた剣でバラバラにする方法を実行する事に決めた。

凛(視界の利くここなら、肉片一つ見逃すことも無く消し去ることが出来るからまずはバラバラにしてやる)

決めたと同時、凛は大剣を伸ばし、化け物に振るい、

大阪の街の遥か上空で、凛と化け物の第二ラウンドが始まった。

今日はこの辺で。

ガンツの部屋から外に転送された玄野は商店街の真ん中にいた。

突如現れた玄野に商店街の一般人は奇異の視線を向けている。

その視線から逃れるように、玄野は路地裏に入りその身を隠していた。

玄野(ンだよこれ……やッぱり俺達の姿はもう普通の人間にも見えるようになッてんのかよ……)

玄野(前回もそうだッたけど、これからどーなッちまうんだよ……頭の爆弾は本当に大丈夫なのか?)

装備のチェックをしながら、レーダーを確認して玄野はレーダーの画面に表示された敵の数に固まる。

玄野(ンだよ……この数……)

レーダーには1キロ四方に埋め尽くさんばかりの光点の数。

あまりの多さに玄野は動揺するが、すぐさま頭を切り替え、この敵の数ならば今回で部屋の人間全員を解放できると考えた。

玄野(……好都合だ。こンだけ敵がいるなら全員であの部屋から解放されることも夢じゃない……)

玄野は行動を開始する。

玄野(まずはアイツ等を探さねえと。今回は全員がどこかに飛ばされちまッたみてーだし)

いつもは全員が近い場所に転送される。

だが、今回玄野の周囲には誰も転送されてこなかった。

今、玄野は一人。

そして、それは全員に言えること。

玄野(この敵の数だ……一人でいるのはヤバイ)

玄野(早く合流をして、全員で行動をしねーと……)

玄野はそう考え、裏路地を飛び出し、奇異の視線に晒されながらも商店街を走り出す。

人ごみを掻き分け、走り続けていた玄野は少し先で歓声が上がっている事に気がついた。

かなりの人間が集まって何かを取り囲んでいる。

玄野は最初に通り過ぎようとしたが、そこから聞えてくる声に足を止めて振り向く。

「すッげ! レイカやん!!」

「ホンマもんのレイカや! 何なん? 撮影!?」

「ちょ、どいて……どいてください!」

「おい! 逃げるんだ! ここは今から戦場になるぞ!」

「戦場? やッぱ撮影か! うッおお!! テレビやん!!」

「やッば! この服ダサくないか? アカンわー、こんなことならもッといい服着てくれば良かッたわー」

玄野「この声……」

すぐにその人だかりを掻き分けていくと、野次馬に取り囲まれた中心にレイカと加藤と岸本の姿を発見した。

玄野「加藤ッ!」

レイカ「玄野クンッ!!」

玄野の姿を見つけすぐさま駆け寄るレイカ、そして加藤と岸本。

加藤「計ちゃん! 助けてくれ! 身動きがとれないんだ!」

玄野「助けてくれッて……」

そうこうしている間にもいつの間にか玄野も野次馬に囲まれて動く隙間もないくらいに人々が群がっていた。

その目当てはレイカ。加藤達は無理に振りほどこうとして怪我をさせてしまうことを恐れ動けないでいた。

そして誰にも止められることもない野次馬たちはレイカに触れようとさらに押し寄せてくる。

玄野「か、加藤! 岸本を連れて飛べ!」

加藤「あッ? あ、ああッ!!」

玄野がこの状況から脱出する考えを告げると、すぐに加藤にもその考えが伝わり玄野はレイカを、加藤は岸本を抱きかかえ数メートル近い大ジャンプを行い、野次馬の頭上を飛び越えていく。

野次馬たちは急にとてつもないジャンプを行った玄野達を信じられないものを見た顔で見上げて着地するまで視線を追った。

玄野「よしッ! みんな! 走るぞッ!」

加藤「ああッ!」

岸本「う、うん!」

レイカ「…………」

玄野「レイカさん! どうした!?」

レイカ「うう、う、うんッ! な、なんでもないよッ!!」

玄野「? 今は早く逃げるぞ! 走ッてくれ!」

玄野に抱きかかえられて、身体を密着した状態からずっと顔を赤くして固まっていたレイカは玄野に呼びかけられてやっと我に戻った。

玄野は気付いていなかったが、レイカを抱きかかえて密着しているときにレイカの豊満な胸を掴んでいたのだった。

人ごみから逃げ出すためにまったく気がつかずに行った行動はレイカの思考を完全に停止させるのに十分だった。

玄野に言われるがままに走り始めたレイカ、そしてそれを見て玄野は人が少なく、星人が反応する場所に向かって走り始める。

走っている間に玄野は加藤や岸本に質問されていた。

加藤「なァッ! どーなッてんだよこれ!」

岸本「あ、あたし達、見られてたよね!?」

玄野「見えてンのは前回のミッションからだ! お前らがいた時とはもう法則が違うんだ! それより他の連中がいないか見ながら走ッてくれ!!」

加藤「他の人達……!!」

走りながら加藤は周囲に目を向けていると、ある事に気がつく。

加藤「け、計ちゃん! あれ見てくれ!」

玄野「? ……道頓堀?」

加藤が指差した先には道頓堀の看板。

それはこの場所がいつもミッションを行っている東京ではなく、大阪だという事を示していた。

それに気付き玄野はスピードを落とし立ち止まってしまう。

玄野「東京じゃない……? 大阪か? ここ……」

加藤「大阪……」

岸本「あれ? 玄野君、あの人達ッて……」

玄野「どうした? あッ」

岸本が指差す方向には、子供を肩に乗せた風と、坂田と桜井がいた。

玄野達が気付くのと同時に、坂田達も玄野に気付いたようでお互い駆け寄り合流する。

坂田「リーダー、探したぜ」

桜井「玄野サン! レイカさん達も!」

玄野「ふぅッ……大分合流できてきたか……」

部屋の大半のメンバーと合流できて玄野はやっと落ち着き始めた。

法則が変わり続け、内心焦りで満たされていた玄野。

だが、無事に集まり続ける仲間たちを見てその焦りが薄れていく。

日々の訓練を共にし、そして今まで生き残ってきた仲間たちが玄野に余裕を与え始めていた。

玄野「まだ合流できてないのは……渋谷におっちゃん、島村さんと本田さんに稲葉。後は西と和泉か……」

加藤「渋谷さんに、渋谷さんの友達……計ちゃん! 探さないと!」

玄野「いや、大丈夫だ。アイツは問題ない、多分もう島村さんと本田さんと合流して俺達とは別行動で何かしてるはずだ」

加藤「な、何言ッてンだよ!? 合流したッて女の子3人なんだぞ!?」

玄野「いい加減理解してくれよ……アイツは俺達より強いんだッつーの。お前を殺したあの千手を倒したのもアイツ。前回でた100点のとんでもねー雷野郎を倒したのもアイツ。お前が知らないとんでもねー化け物とかも全部アイツが倒してんだ。アイツの心配をするより俺達が生き残ることを考えないといけねーんだよ」

加藤「そんな事……言ッたッて……」

加藤は再生されて玄野達と訓練する上で、凛のことも散々聞いてきた。

玄野が話す事は俄かに信じられなかったが、他のメンバーも口を挟まず、ただただ真剣に説明され続け、頭では凛があの部屋で最強だという事を理解した。

だが、加藤の記憶に残る凛は、田中星人のボスと戦ったときに下半身を吹き飛ばされて瀕死になりながらも必死に生きようともがいていた凛の姿。

何かを呟きながら、手に持った銃を前に向けて泣き笑いの表情で必死に生きようとしていた姿が目に焼きついている。

一度死ぬ寸前に追いやられている凛を見ている加藤には、玄野のように割り切って考えることがどうしても出来ないでいた。

加藤の心の葛藤は表情に表れて、その悩み続ける表情を見た玄野は、

玄野(コイツは本当に変わンねーな……)

玄野(どんな奴でも分け隔てなく思いやッて……)

玄野(そりゃ、岸本も惚れるわな……カッケーもんコイツ……)

玄野(俺もコイツに憧れてンのかもしれない……いや、コイツを手本にガンツの部屋を生き残ろうッて考えたときから憧れてンだろーな……)

玄野(コイツのようになりてーッて。コイツみたいな奴に……)

玄野(コイツみたいに…………)

尚も悩み続ける加藤に玄野は問いかけた。

玄野「なァ、加藤。お前はどーしたいんだよ?」

加藤「えッ? ど、どーしたいッて……」

玄野「……」

加藤「……全員合流して、誰一人欠けることなく戻りたい。それだけだよ……」

玄野「そーか……わかッた」

加藤「計ちゃん?」

玄野は全員に向かって叫ぶ。

玄野「みんな! これからまだ合流してない連中を探すぞ! レーダーを見て星人を避けながら安全を確保して移動する! 渋谷やおっちゃん達と合流してから全員で戦おう!」

加藤「!!」

玄野「全員であの部屋にもう一度戻る為に、一刻も早くあいつ等を探し出すぞ!!」

玄野の言葉に反対するものなど無く、全員が頷く。

そんな中加藤だけは玄野を見続けていた。

全員が駆けはじめる中、立ち止まって玄野の背中を見続けていた。

岸本「加藤君? どうしたの?」

加藤「あッ、いや……」

走る玄野の背中を見続けながら、加藤も駆けはじめる。

その背中に不思議な感じを受けながら。

加藤(計ちゃん……)

加藤(今の計ちゃんは子供の頃と少し変わッたような気がする……)

加藤(負けることを考えない……粘り強く最後までどうやッたら勝てるかを考え続けていたころよりも、もッと色々なことを、色んな人たちのことも守りながら勝ち残ることを考えるようになッてる……)

加藤(すげーよ……やッぱ、計ちゃんはすげーよ……)

少し涙を滲ませながらも玄野の後を追い始める加藤。

子供の頃のように、玄野の背中を追い続け、今もその背中を目指して走り続ける加藤。

走る加藤はいつしか玄野と距離を詰めて、並ぶように大阪の街を駆け抜ける。

想いを同じくした二人、お互いを認め合った二人の姿は今までよりもどこか大きく見えた。

玄野達は大阪の街を駆けつづけ、しばらくはぐれたメンバーを探していたがその姿は一向に見当たらなかった。

レーダーにはこの先にかなりの敵の反応、この先は迂回して行こうと進路を変えようとしたその時、玄野達の前に見慣れない顔のスーツを着た人間が現れた。

加藤「なッ!?」

岸本「えッ!?」

玄野「…………まさか」

「なんや?」

「どないした……なんや? こいつら?」

「なんでスーツ着とんねん……」

玄野達の前に現れたのは、長身で坊主の男を先頭にしたガンツスーツを来た集団。

その姿を見て、玄野は何となく考えていたことが現実になったと悟ってしまう。

この大阪に飛ばされてきたのは、前回の自分たちのミッションに他のチームが共同で戦うこととなったのと同じ。

今度は自分たちが違うチームのテリトリーに飛ばされ、そこでミッションを行うこととなったという事を。

坂田「おい、リーダー……こいつらまさか……」

玄野「ああ、多分別のガンツチームの人間だ。言葉からして大阪の人間か?」

桜井「大阪……ッてことは、今度は俺らがこの場所で、この人たちと協力して戦うんスか?」

「どーなッとんねん? これ……」

「東京弁やな……おまえら東京モンか?」

「いや、星人やないか? 怪しいでこいつら」

大阪弁の人間が放った言葉で、一瞬で緊張感が張り詰めた。

星人ではないか? という疑心暗鬼は一気に広がり、玄野達は銃を向けられてしまう。

玄野「お、おいッ! 待て! 俺達は星人じゃない!!」

「やッぱこいつら星人やで! 怪しすぎるわ!!」

加藤「ま、待て! 銃を下ろせ!」

「どーすんのやノブやん! 撃ッてええんか!?」

坂田「おいおいおい!? ふざけんなよ!?」

「撃つで!! 撃ッてまえ!! 星人や!!」

レイカ「ま、待ッて! あたし達の話を聞いて!」

一触即発の空気の中、レイカが叫んだことにより場の空気が一変した。

「ん? んん!?」

「ちょい待ちィ!! ちょい待ちぃや!!」

「レイカ!! ホレ! レイカやん!!」

叫んだ人間がレイカだと気付いた一部の人間が、銃を下ろしてレイカに近づき始める。

黒人のような男はまだ銃を構え続けていたが、レイカに顔を赤らめて近づくくせっ毛の男を見ると銃を構えるのもバカらしくなったのか銃を下ろして明後日の方向を向いた。

レイカに一番最初に近づいたくせっ毛の男はぶつぶつと呟きながら。

「うッわ……めッちゃ巨乳……すッげ……なんやねんこの乳は……」

と、視線をレイカの胸に向けながら。

「あの、握手して……ください」

そうやってレイカに手を差し出してきた。

レイカは胸に突き刺さる視線を受けながらも、どうしたものかと玄野を見続けていた。

レイカの存在によって、同士討ちという事にならずにすみ、玄野達はこの大阪弁のチームと話をすることが出来ていた。

「で、おまえらは東京チームちゅーことか?」

玄野「ああ、そうだ。俺達は前回他のチームと合同でミッションを行ッた、恐らく今回俺達はアンタ等のテリトリーに飛ばされてしまッたみたいだ」

「なんやねんそれ? 他のチームと? おまえら東京モンは自分らだけで狩りもできんのかいな?」

玄野と話すのは長身坊主の男。

少し話して、やはりこのチームは大阪のチーム。そしてこの男は大阪のチームの中でもかなりの実力者であることが玄野は感じていた。

その男は玄野達を完全に馬鹿にした目で会話を続ける。

「そんで、おまえら、今回は俺らの狩場に来て何するつもりや? まさか獲物を奪うつもりやないやろーな?」

玄野「……仲間を見つけてから、アンタ達と協力して敵を倒したい」

「はァァァァ????」

その玄野の言葉に、坊主の男は心底哀れな視線を飛ばす。

坊主の男だけじゃなかった、大阪チームの殆どの人間が玄野の言葉を理解できないようにまるで動物園の猿を見るような視線を飛ばす。

その中でくせっ毛の男だけは、レイカを凝視しながらも岸本の胸を見続けていた。

「仲間を見つける? 協力?」

玄野「……ああ。アンタ等にも損はない話のはず……」

「アホちゃうか? おまえ、何言うとんの?」

玄野「ッ!?」

「仲間や協力て……おまえら一人で狩りもできんのかいな? いくらなんでも情けなさすぎて涙出てくるわ……」

坊主は玄野に哀れみながら、大阪チームの人間に声をかけ始めた。

その顔は「この東京者はこんなアホなことを言うとるが、どないすればええのや」とありありと浮かんでいた。

「おーいおまえら、この東京の坊主は、一人で狩りをすることもできんから、俺らに助けを求めとるらしいでー? どないするよ?」

「ノブやん、そのボーズの師匠になッたれや。戦い怖いーッてなに言うとんのや! ッてツッコミいれてなー」

「アホ、俺はマジメに聞いとんのや、この坊主ホンマに冗談無しで言うとんのやで?」

「ノブやん、助けてあげーよ。その子かわいそうやでー」

「なんで俺がそんなことせなあかんのや」

玄野「……」

加藤「計ちゃん……」

好き放題言われ続ける玄野を見かねた加藤が前に出ようとするが、玄野は加藤を手で制して再度坊主の男に問いかける。

玄野「……頼む、俺達は全員で帰りたいんだ。外から来た俺達だと勝手もきかない、仲間を探すにしてもアンタ達の協力があるとないとじゃ全然違うんだ……」

「…………ぷッ」

玄野「……」

「クックックック、はははははははははははは」

「フン…………」

坊主と黒人の男が笑い始めると共に大阪チームで爆笑が巻き起こる。

それは玄野が大阪チームのメンバーにとって、どこまでも情けない懇願をし続けるように見えたから。

大阪チームの人間はここまで臆病な人間を見たことが無かったから、玄野のその姿が滑稽に見え笑いが止まらなかった。

そんな大阪チームがひとしきり笑い終え、坊主の男は玄野に、

「あー……笑ッたわー、なんやねん。東京モンでも笑いのイロハを知ッとる奴がおるやんけ」

玄野「……」

「おうおう、そんな顰め面なさんな、わかッた! わかッたから! 笑かしてくれた礼に、おまえのチームの迷子になッた奴等を見つけたらお前らがここにおるッて話しといてやるから!」

「ノブやん、やさしー!」

「せやろ? 後おまえらの為に弱いッちい雑魚も残しといてやッからなァ、俺らが楽しんだ後におまえらが雑魚を掃除しといてくれや」

「ノブやん、アンタはホトケか!?」

玄野「……協力してくれるッて考えていーんだな?」

「おう。せやけど、ボク達はここから動いちゃアカンで? 俺らがいいッて言うまではここでジーッとしとるんやで? そーすりゃ怖いことなんかなーんもないからのォ」

玄野「……」

「室谷……ええ加減はよせえ、待ちくたびれたわ……」

「スマンスマン。ほな、おまえらまた後でなー」

そうして大阪チームは玄野達から離れ、レーダーの星人が密集する場所に向かって行く。

くせっ毛の男だけは最後までレイカと岸本を凝視しながら向かって行った。

その姿を見ながら玄野達はその場に留まっていた。

坂田「気にいらねーな……」

桜井「……なんなんスか、アイツ等」

風「……」

タケシ「きんにくらいだー……」

全員が大阪チームに不快感を抱いていた、見世物小屋の動物を見るような目で見られ、レイカと岸本はある男に舐め回されるようにその身体を見続けられて、リーダーである玄野に暴言とも言えるようなことを言われて。

だが玄野は大阪チームが去った後、すぐにレーダーを確認し、全員に次の行動を示し始める。

玄野「アイツ等の向かッた先、それとは逆方向でまだ行ッていない場所を探すぞ。アイツ等はここに俺たちがいると伝えてくれると言ッてくれた。あまり別行動はしたくないが、ここに残るチームと探すチームに分けて行動しよう」

桜井「玄野サン……好き放題言われて悔しくないんスか?」

玄野「……悔しいとか悔しくないッて考えるよりも今は他の連中の安否だ。些細なことを考えるのは後でいい」

加藤「計ちゃん……」

岸本「玄野君……」

玄野「それに……あの程度であんな連中から協力を取り次ぐことが出来た。今回はアイツ等が危険なボスを倒してくれるッていう事だ、全員で生き残る確率がグンと上がッたな」

少しだけ不敵に笑う玄野を、坂田は苦笑しながらも、

坂田「……まァ、リーダーの言うとおりだな」

レイカ「……」

玄野「それじゃ、チームを分けるぞ!」

そうして玄野は居残り組みと捜索組みにチームを分けて行動を開始した。

居残り組みには岸本、風、タケシ、桜井。

捜索組みには玄野、加藤、坂田、レイカ。

戦力がほぼ均等となるように分けて行動を開始する。

この場にいないメンバーを探すため、大阪の街を再び駆け始めた。

どこか遠いところ、空の上から花火のような音が何度も木霊するのを聞きながら。

今日はこの辺で。

大阪の街のどこかのビルの屋上に手を繋いだ二人の少女が転送されていた。

二人の少女は咄嗟に振り返ろうとした凛を見ながら、突如切り替わった視界に困惑していた。

卯月「えっ? あれ?」

未央「外?」

二人は各々が触れていたZガンを手に、全身が転送されきりお互いを見やる。

普段のスーツとは違い、凛と同じ装備。

軽量型ハードスーツにバイザーを装備している。

卯月「もう、転送されたんですか……?」

未央「そうみたいだね……」

二人は困惑していた。

いつもならば転送されるときには凛が自分たちの手を掴み3人同時に転送されていた。

だけど、今回は凛は自分たちの手を触れずに転送されきってしまった。

この場合どうなるのだろう? その考えが二人に浮かび上がった。

卯月「未央ちゃん……凛ちゃんは、どこですか?」

未央「……いつもなら私達と一緒に転送されるのに……」

二人は姿の見えない凛を待つ事にした。

すぐに転送されてくるのかもしれない、今回はいつもとは違う、少しだけ転送が遅れているのかもしれないと考えながら。

だが、5分経っても凛はこの場に転送されてくることは無かった。

二人に焦燥感が募る。

前回は凛とはぐれてしまい、再び見たときにはすでに凛は変わり果てた姿になっていた。

今回は凛から片時も離れないつもりでいたのに、最初から凛の姿を見失ってしまった。

二人の脳裏に最悪の想像が浮かび上がる。

それを考えてしまった二人は同時に立ち上がり、

卯月「もう待ってられないです、凛ちゃんを探しましょう」

未央「しまむー、しぶりんを探そう、これ以上待ってらんないよ」

二人同時に提案し、二人とも同じ考えであることを悟った後、頷きあって卯月は未央の手を取り空を飛ぶ。

飛行しながら卯月と未央は見える街並みに違和感を覚える。

東京と同じようにビルが立ち並んでいる。

だが、繁華街には東京では見られないような派手なオブジェが取り付けられた看板が目に付く。

そして、大きな川を進んだ先に見た、とても有名な巨大なグリコ看板。

未央「あれ……? もしかして、ここ、大阪?」

卯月「あ……あの看板、見たことあります……」

未央「……そんな事はどうでもいっか。はやくしぶりんを探さないと……」

卯月「……そうですね」

大阪の地に自分たちがいる事は些細なことと判断し、再び空から見下ろす卯月と未央。

見下ろしていると、下に見える人々が自分たちを指差して写真を取っているようだ。

そんな一般人は気にせず、二人はただ凛の姿のみを探し続けた。

そうやって、空を飛び周囲を見渡しているうちに、卯月が眼前に何かを感じ目を凝らし始めた。

卯月「あれ……?」

未央「どうしたのしまむー?」

卯月「あそこ……何か変じゃないですか?」

未央「え?」

卯月が指差す方向に未央も目を向ける。

そこには卯月の言うように何か変な現象が起きていた。

道頓堀の川の流れが何かに遮られるように濁流している。

その場所に小さく放電が巻き起こり、一瞬なにか機械の様な物が見えた。

卯月「!! 未央ちゃん!!」

未央「見えた! あれってしぶりんの!!」

二人はそれが凛が持つ武器の一つである巨大ロボットだと当たりをつけた。

何度か見た事のある概観、機械のホースや無数の機材が取り付けられた概観。

それと同一のものが一瞬だけ見えた。

二人はそこに透明化したロボットと、それに登場する凛がいると確信し、飛行スピードを上げてその場所へと近づいた。

卯月が凛のロボットと考える何かがいる場所にたどり着き、大声で叫んだ。

卯月「凛ちゃん!! そこにいるんですよね!!」

未央「しぶりん! どこ!? 姿を見せてよ!!」

そうやって叫ぶ二人に地上の一般人は目を向け始めた。

空を飛ぶ黒い人間と思える何かが叫んでいる。

次第に人の目は二人に集まっていき、周囲の人間全てが二人に注目し始めた時、二人の目の前の空間から男の声が聞こえた。

「…………おまえら、静かにせぇ…………」

卯月「えっ!? お、男の人の、声?」

未央「だ、誰……? しぶりんじゃ、ないの?」

「…………目立ッとるやないか…………ちぃとばかしこッちに来い…………」

二人は言われるがままに少しだけ近づくと、何かを触れた感じがした。

すると、二人が今まで見えなかった何かが二人の視界に入ってくる。

それは二人が予想していた通り、ガンツの巨大ロボット。

だが、凛のロボットとは違いコクピットが吹きさらしとなっており、そのコクピットに軽量化前のハードスーツを纏った人間が二人にヘルメットに覆われた顔を向けていた。

卯月「あ、あれ? 凛ちゃん……じゃない……?」

未央「かれん……? でも、さっきの声は……」

「…………おまえら何モンや?」

卯月「!!」

未央「やっぱり、しぶりんでもかれんでもない!?」

「……何モンやと聞いとるんやけどな……」

二人は凛だと思って近づき、ロボットを見てほぼ確信していたのだが、こうやって凛でない人間を前にして驚きを顕にする。

それに対して、ハードスーツの男は二人に掌を向けながら質問をしていた。

おまえたち二人は一体何者なのかと、警戒を崩さず、隙を見せずに。

「もう一回聞くで? おまえらは何モンや?」

未央「え、あ……私、本田未央だけど……」

卯月「あ、わ、私は島村卯月です……」

岡「…………岡八郎や」

二人が名乗ると、ハードスーツの男も律儀に名乗りを返して来た。

少しだけ無言の時間が訪れる。

岡「……ッて、違うわ。俺の聞きたい事はなァ、おまえらの名前やなくて、おまえらは一体どッから沸いて出てきたのかつーことや。おまえら大阪の人間やないやろ? しかもその格好……俺よりクリア回数上とちゃうんか?」

卯月「え……? どこからって……私達は東京からですけど」

未央「クリア回数って……私達まだクリアしてないけど……」

岡「…………」

二人の回答に、岡は少し考えているようだった。

岡「……ようわからんな。おまえらさッき空飛んどッたやないか、俺の知ッとる装備に空飛べる装備は一つしかあらへん、それにそのスーツに顔に付けとるモン……全部俺の知らん装備や」

卯月「え、えっと……」

未央「そんなことより、岡さんだっけ? 岡さんは私達みたいな格好の女の子見なかった!?」

卯月「あ……」

岡「……おまえらみたいな格好?」

未央「そう、私達みたいな格好の、黒髪の長い女の子。渋谷凛って子。どこかで見てない!?」

岡「……知らんな」

未央「そっか、ありがとう。しまむー、行こう、こんな事してる場合じゃないよ」

卯月「はい、そうですね」

二人は当初の目的を思いだし、こんな事をしている場合じゃないと、凛を探すために再び飛び立とうとした。

だがその時、突如大きな地震がおき、3人はロボットから振り落とされそうになった。

岡はコクピットに置いていたパソコンを掴みながら、ロボットから伸びるケーブルを掴み持ちこたえる。

卯月と未央も、その場で膝をつきながらも振り落とされるのを防ぐ。

地震はしばらく続き、自身の揺れと共に、3人の眼前に巨大な何かが川を割って現れる。

卯月「な、なんですか、あれ……」

未央「う、牛? でっかい……牛? で、でも、足は蜘蛛みたいで……うぇっ……」

岡「ほォ……こいつは、まさか……」

全員が乗るロボットの先100メートルほど前方に現れたのは、下半身は蜘蛛、頭は牛の姿を持った巨大な化け物。

その大きさは十数メートルはあろうかという巨体。

牛鬼と呼ばれる妖怪その物が現実に現れた瞬間だった。

「ヴォォォモオオオオオオオオォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!」

卯月「っっ!?!?」

未央「うわぁっ!?」

岡「……」

牛鬼の咆哮が空気を振動し、周囲のビルのガラスを全て破壊される。

振動はそれだけに収まらず、辺りの軽いものを吹き飛ばし、一般人も軒並み吹き飛ばされて川に落ちたりするものもいた。

振動は3人にも伝わる。その衝撃を受けた卯月と未央はたじろきながら後ずさっていた。

だが、岡はパソコンを操作しながら、パソコンから延びるケーブルを繋いだXガンを牛鬼に向けてトリガーを引いた。

パソコン画面には点数表示の画面。

岡は牛鬼の姿とその表示された点数を見て手を叩く。

岡「久しぶりやなァ! 待ッとッたでェ!」

突如叫んだ岡に、何があったのかと卯月と未央は岡に視線を向けると、パソコンの画面が目に飛び込んできた。

そこには、点数表示、100点の表示がされた牛鬼が映し出されていた。

今日はこの辺で。

大阪のアーケード商店街を走りぬける一人の男がいた。

恐怖に歪んだ表情で、涙と吐瀉物を撒き散らしながら走り続けていた。

稲葉「ハァッ!! ハァッ!! ハァッ!!」

稲葉は転送されたあと、ただひたすらに逃げ続けている。

自分以外の誰も付近に転送されなかった事を理解してから必死に足を動かし続け、いつ襲ってくるかも分からない星人から逃げる為に逃げ続けていた。

運もよく今まで星人に出会わず走り続けていた稲葉だったが、その稲葉の視線の先に奇妙な顔の人間が映る。

般若の面を被った着物を着た人間。

稲葉はその人間に向かって走り続け、その人間が被っている面が面ではない事に気がつき全力で走っていた足を止めた。

稲葉「う…………あ……」

その般若面の人間は面を被っておらず、その顔その物が般若の顔だった。

稲葉は気付いてしまう、こいつは人間じゃない。

自分を狙っている星人だということを。

稲葉「うワァッ!! ああああッッ!!」

稲葉は般若から逃げようと来た道を逆走しようと振り向いた。

だが、その振り向いた先に、般若と同じような姿の小面の面を被ったような存在を目にしてしまう。

どう見ても仮面ではなく、小面の顔。般若と同じ星人。

挟み撃ちの形となり稲葉はそのまま立ち尽くしてしまった。

どこか逃げる場所はないかと首を動かすが、来た道と進む道以外は壁しかない。

逃げる場所がない。

稲葉「うあ、うあうあああぁぁ…………」

稲葉は現状を理解してしまい、その場に膝をつき頭を抱え蹲ってしまった。

稲葉「い、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」

ザリッ、ザリッ、と足音が稲葉の耳に届く。

それは己の死刑執行までのカウントダウンのように聞え、稲葉は発狂寸前に追い込まれるが。

ドンッ! ドンッ!

重い衝撃音と共に足音が消え、人の声が聞こえた事により稲葉は抱えていた顔を上げて前を向いた。

「よけた!! アイツらよけた!!」

「やッぱ足から潰すでッ」

「セオリー通りやなッ」

そこにはサングラスをかけた3人の男達。

Zガンを向けて近づいてきている。

男達のターゲットは先ほどまで稲葉の前後にいたはずの般若と小面。

般若と小面はいつの間にか男達に近づくように歩いており、その手には長い刀を構えていた。

「刀持ッとるやんッ!!」

「じゃあ刀やなッ!?」

「うォーーーーッ!! 切り合いカッケーーーーッ!!」

男達は持ったZガンを手放して、ガンツソードを伸ばし般若達に挑もうとしていた。

それを見て稲葉は、もしかして助かるのではないのか? という思考が頭に浮かび上がってきた。

あの3人は見たこともない人間。

だが、あの武器は確か凛という少女が持っていた武器と同じ。

何度もクリアしている少女と同じ武器を持っているという事はあの男達もかなりの実力者だという事。

そう考えた稲葉は、男達と般若達が交錯し、切り合いになるその瞬間を見届けようと、あの星人達が男達に切り殺される瞬間を見る為にその瞳を動かした。

ガスッ、ガスガスッ。

しかし稲葉が目にしたのは、くるくると放物線を描き自分の座る場所まで飛ばされ突き刺さったガンツソード。

「あらッ?」

「何やッとんねん……ッて、俺の腕どこや?」

「あッははははは! 何斬られとんねん! アホウッ!!」

「アホッて……お前は首斬られとるやんか! アホウ!!」

「お前もや、何死んどんねん!!」

「あ、あらら? 俺ら、全員、首斬られとらんか? コレ?」

稲葉が再び男達と般若達を見ると、そこには首がなくなったガンツスーツの男達と、自分に向かって振り向く般若と小面の姿を目にし、稲葉はその場で膝から崩れ落ちた。

稲葉「ダメだ……俺、死ぬ……死んじまう……絶対に死ぬ……」

今度は般若達から視線を逸らさずに稲葉は絶望に浸っていた。

「弱い弱い弱い……ははははははははッ」

「バカバカバカ……ふふふふふ……ほほほほほほほッ」

何かを言いながら近づいてくる般若達に抵抗する気力すら残っていなかった。

稲葉にあるのは絶望感のみ、もう命を諦めてすらいた。

だが、その稲葉の背後から、銃撃音と必死な叫び声が聞えてきた。

鈴木「イナバ君ッ!! 逃げてッ!!」

稲葉「え、あ? 鈴木、さん?」

鈴木「諦めちゃダメだッ!! 立ち上がッて逃げるんだッ!!」

稲葉「あ、うああううあ……」

鈴木「最後までッ!! 希望を捨てちゃダメだッ!!」

銃を般若達に乱射しながら鈴木は稲葉の前に立ちふさがり、稲葉に檄を飛ばし続ける。

しかし、稲葉は動けなかった。

動けずに、その場で座り込み、ただ成り行きだけを見続けて、

鈴木の両腕が肘から斬り飛ばされる瞬間を見てしまった。

鈴木「あぐゥッ!!」

稲葉「あぁァッ!?」

それを見て、稲葉のへし折れたはずの心に小さな火が灯った。

だがその火は、稲葉の身体を動かす事は敵わず、まだその場から動くことすらできない。

稲葉(す、鈴木さん……腕、斬られて……俺のせいで……)

般若と小面は鈴木に向かって剣を振り上げている。

稲葉(だ、駄目だ。やめてくれ……その人は俺を庇って……)

いつの日か、鈴木にかばわれた瞬間が稲葉の脳裏にフラッシュバックする。

稲葉(そうだ……この人は、あの時も俺を庇って……いつも俺を気にしてくれていて……)

稲葉の脳裏に今まで鈴木がずっと自分の事を気にかけていてくれたことが浮かび上がる。

稲葉(この人だけだ……俺のことを気にしてくれていたのはこの人だけだッた……)

その時、稲葉に鈴木の叫びが届いた。

鈴木「イナバ君ッ!! 君だけは逃げるんだッ!! 諦めるなァッ!!」

稲葉「!!!!」

その叫びは、稲葉の心の小さな火を燃え上がらせて、

今まで動くことの無かった稲葉の身体を弾けるように奮い立たせ。

突き刺さったガンツソードを両手に握り、鈴木の前に躍り出て、般若と小面の剣戟を受け止めていた。

稲葉「死なせねェ!! この人は死なせねェッ!!」

「ほうほうほう……ははははは」

「ふふふふふ、ほほほほほほ……」

稲葉「うおおおああああああアアアアアアアアッッッ!!」

稲葉の二刀流は無茶苦茶な太刀筋であった。

だが、速かった。

恐ろしいほどのスピードで繰り出される滅茶苦茶な剣戟は般若と小面の着物を切り裂いていく。

最初は余裕の素振りを崩さなかった般若と小面だったが、稲葉の振り回す予測も出来ない剣戟にその顔色を変えていた。

「ほおぉぉぉ、これは、中々……」

「ひょほ、ひょほほほほほ! 中々どうして、これはまた!!」

般若と小面も攻撃を繰り出し始める。

目にも留まらぬ速度の剣戟、だがそれを稲葉は回避しカウンターで薙ぎ払い小面の腕一本を斬りおとした。

「何をやッておるかッ!!」

「ほあああッ!?」

さらに稲葉は腕を斬られ硬直した小面の胴体を斬り抜くと同時にもう一本の剣で般若に斬りかかるが、その剣は般若の剣に防がれ、剣を絡め上げるように回転させられて弾き飛ばされてしまった。

「きええええィッ!!」

般若の渾身の振り下ろしを稲葉はもう片方の剣で受け止める。

だが、受け止めた衝撃で稲葉はもう一本の剣も弾き飛ばされてしまい、自身も吹き飛ばされ、腕を斬られた鈴木の元に転がった。

般若はその面のような表情をさらに歪めて、稲葉と鈴木、二人もろとも一刀両断にする為に最後の一撃といわんばかりに飛び上がり、剣を振り上げて。

稲葉がごろりと身体を仰向けにして、その手に持った、先ほどまで鈴木が持っていたショットガンの光る銃口を目にしてしまった。

稲葉「あああああああああああああああああああああ!!!!」

ギョーンギョーン!!

般若の振り下ろした剣は、稲葉の右目を切り裂いた。

その切り裂かれた稲葉は、振り下ろした姿勢のまま固まる般若を睨みつけながら、数秒後に頭と身体が破裂するまで睨み続けていた。

別行動を取っている玄野達はレーダーを確認しながら街を駆ける。

なるべく星人を避けながらも移動していたのだが、玄野達の前方から一般人が血相を変えて走ってくるのを見て走る速度を緩めた。

「や、やばいでェ!! 巨人やァ!!」

「く、食われる、早よ逃げんとアカン!!」

逃げ惑う人々と聞えてくる情報、そしてレーダーに示される光点がこの先に星人がいることを告げていた。

そして、この先の星人が一般人を殺していることも玄野達は悟ってしまう。

加藤「け、計ちゃん!!」

玄野「ああ、大阪のチームがまだ倒してない奴がいるみたいだな……」

坂田「どーすんだ? 避けていくか?」

加藤「なッ!?」

玄野「……いや、見過ごせない。このまま進んで、星人を倒そう」

レイカ「わかッたよ!」

坂田「……しゃーねーな」

玄野の言葉に加藤は表情を和らげる。

自分の思考と同じ事を考えている事に嬉しく感じる。

喜色を浮かべながら駆け抜けた加藤の表情が変わるのは一瞬だった。

そこには巨人が一般人を掴み、その頭を食いちぎる瞬間。

巨人の周囲には溶かされた人間や、食いちぎられた人間が何十人も横たわっている。

それを見て、加藤はYガンを構えて叫ぶ巨人に向かい突撃した。

「だおがえせええええええええええ」

加藤「計ちゃんッ!! 援護頼むッ!!」

玄野「おいッ!! クッソ!! レイカ、坂田、アイツの援護をするぞッ!!」

加藤がYガンのトリガーを引き、Yガンから光るワイヤーが発射され、巨人の身体を拘束する。

一瞬で巻きついたワイヤーは巨人を完全に拘束した……ように見えた。

加藤「なッ!? そ、んな!?」

そのワイヤーは巨人によって引きちぎられて、巨人はその大きな頭を加藤に向けて叫びをあげる。

「だをかえぜええぇぇえぇえええ」

叫びと共に降り注ぐのは巨人の拳。

高速で飛来した拳を加藤はギリギリのところで避ける。

加藤「ハァッ、ハァッ! くそッ!!」

突き刺さった腕を抜き、もう一度加藤に殴りかかろうとした巨人だったが、その顔が数度爆発しその動きを一瞬止めた。

それを行ったのはレイカと坂田。

二人の撃ちこんだ銃撃は、巨人の顔の一部を吹き飛ばして、その注意をひきつけることに成功した。

巨人は離れた位置にいる二人に、口の中から大量の液体を吐き出して攻撃するが、その液体が吐き出される直前に、巨人の足元まで潜り込んでいた玄野が、その両足を切断する事により転倒し、吐き出そうとしていた液体は全て巨人自身に降りかかってしまった。

「ぎゃあああごごおおあおああああああああ!!」

玄野「加藤ッ!! 今だッ!!」

加藤「!!」

玄野の言葉に再び加藤はYガンを巨人に向けて、今度は連続でトリガーを引き続ける。

ワイヤーは巨人の身体を雁字搦めに縛っていき、何重にも縛られて漸く巨人は動きを止めて、加藤のYガンによってその肉体をどこかに転送された。

巨人を倒した玄野達は、その場で生存者を探していたが、生き残っているものは0、死体の山しかその場には残されておらず、加藤は悲壮な表情で死者を弔っていた。

加藤「くそッ……こんなに沢山の人が……」

坂田「……酷えもんだな」

玄野「……」

レイカ「玄野クン……」

玄野「……もうこの場所から離れよう、探す場所はまだある……」

玄野が仲間を探すために動こうとする。

坂田もレイカも玄野について走り出すが、加藤はまだその場で唇を噛み締めながら唸っていた。

玄野「……加藤、行くぞ。俺達は探さないといけない仲間がいるんだ。立ち止まッている事はできない」

加藤「ああ…………」

加藤はその場にあった死体をずっと見ていた。

小学生くらいの少年の死体、目を見開いて下半身がなくなっている少年の死体を。

加藤はその少年の目を手で閉じてやると、玄野の後を追う様に走り始める。


玄野達が走り去って、一人のスーツを着た女性が顔を覗かせた。

「うッわ……ひッどいなァこれ……」

戦場の後、一般人の死体の山を見てその女性は整った眉を歪めて、目を背けていた。

もう見たくはないといった顔で、女性は玄野達が走り去った後を追い始める。

「しッかし、あの東京の人ら、結構やるやん」

「あんなデカブツをあッちゅー間にやッつけるなんて、うちのドS3人組くらいの実力あるんちゃうかなー?」

「最初はなッさけない子達やなーッて思ッたけど、ちょい見直したわー」

「でも、あのでッかい男の子、ずゥーッと泣きそうな顔しとッたなァ」

「もうちょい見てたら泣いちゃうかもしれへんなー」

「臆病な男の子の涙……ええわぁ……」

「観察しよーッと♪」

女性は玄野達には気付かれないような距離を保ちながらその後を追い続ける。

その視線を加藤に向けながら。

玄野達は尚も仲間を探して駆け続けていた。

すでに路上に一般人の姿は殆ど無く、昼間だというのに無人のアーケード商店街を駆け抜ける。

レイカ「く、玄野クン、あれッ!!」

玄野「ッ!? あれはッ!!」

レイカが見つけたのは倒れているスーツの人間たち。

一人だけ動いているが、後の人間はまったく動いていない。

それどころか、倒れている内の三人は首がなく絶命している状態だった。

玄野達はすぐさま駆け寄るが、首が斬られていた3人は自分たちの知らない男達であった。

首だけで目を見開いたまま絶命している男達に顔を顰めつつも、その先の倒れている人物を目にして玄野は目を見開いて叫んでいた。

玄野「おっちゃん!!」

倒れていたのは鈴木、その鈴木の腕は斬り離されて両腕が肘からない状態だった。

その鈴木はまだ意識があるのか、玄野を見つけると。

鈴木「……あぁ、玄野クン、やッと合流できたね……」

玄野「お、おっちゃん……大丈夫……なわけねーよな……」

鈴木「……私は大丈夫だよ。稲葉君がすぐに手当てをしてくれたからね……」

玄野「稲葉が……?」

鈴木の腕を見てみると、何か着物の切れ端のようなものでかなりきつく縛られて血はあまり出ていなかった。

だが、そのまま放っておいたら出血多量になってしまうほどの出血は未だにしていた。

そして、少し先で動いていたスーツの男、稲葉は先にいたであろう星人を切り裂いて倒したことを確認すると、走って戻ってきた。

稲葉「鈴木さんッ!! 無事か!? 意識はまだあるか……く、玄野!!」

玄野「稲葉、これは一体……」

稲葉「玄野ッ!! 頼む!! 鈴木さんを助けてくれ!! このままだと鈴木さんは出血多量で死んじまう!! そうなる前に何とかしてくれよッ!!」

玄野「お、おい、落ち着けよ」

鈴木「……そうだよ。私はまだ大丈夫、意識もしッかりしているし……」

稲葉「だ、駄目だッ!! 鈴木さんは血を流しすぎてんだよッ!! 一刻の猶予もないんだッ!!」

パニックになっている稲葉を見て玄野は逆に落ち着いてしまった。

鈴木は確かに重症を追っているが、意識もハッキリしているしまだ余裕もありそうだ。

玄野は稲葉を落ち着かせ、何が起きたかを聞き、自分たちが鈴木と稲葉を探していたことを告げた。

鈴木「……そッか、大阪のチームの人達と協力を……」

玄野「ああ、奴等強そうな連中だッたから、今回のボスは奴等が倒してくれるはずだ。それまで何とか持ちこたえてくれよ」

鈴木「……はは、頑張るよ」

少し青い顔をしながらも笑う鈴木。

その顔色を見て、加藤がこれ以上血を流すのはマズイと考え、血を止める方法を玄野に提案した。

加藤「計ちゃん、何か火を付けれるもの……ライターとか持ッてないか?」

玄野「いや、持ッてねーけど……いきなりどうしたんだ」

加藤「何か燃やして、剣を炙ッて傷口を焼く。出血を今止めないと後でヤバイことになるかもしれないから……」

玄野「! なるほどな……レイカさん、坂田、稲葉、持ッてないか?」

その言葉に全員が首を振る。

それを見て、加藤は立ち上がり、

加藤「さッきの商店街の店なら置いてあるところもあるはずだ! すぐ取ッて来るから待ッててくれ!」

言うと同時に加藤は走り出し、来た道を逆走し始める。

するとすぐに、見知らぬ顔のスーツの女性を発見した。

「ひゃァッ!?」

加藤「うわッ!?」

正面衝突する寸前で立ち止まり、加藤はその女性を見ながら、

加藤「す、すまない、急いでて……」

「えッ、う、ウン……」

加藤「!! そ、そうだ! ライターとか持ッてないか!?」

「え? 持ッてるけど……」

加藤「本当か!? すまないが貸してくれないか!?」

「あ、ウン」

加藤は女性からライターを受け取るとすぐに玄野達の元に戻っていく。

女性はあっけにとられていたが、すぐに加藤の去った方向に向かって走り始めた。

そうやって少し走っていると、女性の目に首が切り離された死体が飛び込んできた。

それを見て、見知った3人だと気がついて、

「うッそ!? 何コレ!?」

そうやって叫びを上げて、死んでいる3人を信じられない目で見続けていた。

「ウソやん……こいつら死んでしまッたん? 信じられへん……」

玄野達は知らなかったが、3人とも1回クリアをしている人間たち。

ちょっとやそっとじゃ死ぬわけがないと思っていた3人が死んでいることに動揺している女性に加藤が気付き近づいて話を始めた。

加藤「あの……この人たちは、君のチームの?」

「う、うん」

加藤「そうか……」

加藤はチームの仲間が死んでしまいショックを受けているのだと考え、言葉を考えていた。

加藤「仲間が死んでしまッて辛いと思う……だけど……」

「は? 辛い? 何言うとんの?」

加藤「……は?」

「このドS共が死んどるのはビックリしたけど、辛いとかそんなこと思うわけないやん。こいつらにそんな感情は一切湧かんわ」

加藤「……」

吐き捨てるように言う女性に加藤は固まってしまう。

それと同時に、女性のほうから加藤に質問が始まった。

「なぁ、あッちで何やッとんの? キャンプファイヤー?」

加藤「え? あ……仲間の応急処置を……」

「はァ? 仲間ッて……そー言えばあんたら仲間を探すとかどーとか言ッとたな。ケガしたん?」

加藤「ああ、腕を斬られてしまッた……」

「そろいもそろッて、ケガした人を囲んで……あ、わかッた! その子、女の子やろ! めッちゃかわいい子なんやろ!!」

加藤「あッ」

そのまま女性は、取り囲まれている鈴木の顔を見ようと近づいて、倒れている人間が年配の男性という事を目にして信じられないものを見た顔に変化した。

「は…………? オジサン?」

加藤「お、おい。どうした……」

「あのー……あの人達家族かなんかなん?」

加藤「いや、違うけど……」

「……ようわからんわ、なんであんな頑張ッて助けようとしとるん? 普通あれくらいのオジサンは邪魔になるし戦えんわで放置にするもんやないん?」

加藤「そ、そんな事できるわけないだろ!? 仲間なんだぞ!?」

「あはははははは!! 仲間ッてほんまに言うとるん!? あんたらみんなそんな考えなん!?」

加藤「当たり前だッ!」

「ありえへん!! ありえへんわーー!! アホちゃうの!?」

加藤「…………」

「わかッた!! あんたらあれやろ!! 全員そろッて、ギゼンシャ星人!!」

指差して笑い涙を浮かべながら馬鹿にしてくる女性に、加藤は流石にカチンと来たのか女性の言葉に反応する事はなくなってしまった。

「あれ? おこッた?」

加藤「…………」

そうしている間に、鈴木の切断された腕を炙った剣で焼き血を止めた玄野達は加藤を呼んでいた。

玄野「加藤! おっちゃんの血を止める事ができたぞ! お前のおかげ……誰だその人?」

加藤「……大阪チームの人みたいだ。さッきライターを借りたんだ……」

玄野「そうなのか?」

玄野は加藤と女性に近づき、借りたライターを女性に返して礼を言った。

玄野「助かッたよ。コレのおかげで何とか応急処置が出来た。おっちゃんももう血を流してないししばらくは大丈夫のはずだ」

「ぷ、ぷぷッ、ど、どーいたしましてー、ぷぷッ」

玄野「? えッと、俺ら今からさッきの場所に戻ろうと思うんだけど、君も一緒に来るか? こんなところで一人は君も心細いだろ?」

「ぷーーーッ! くすくすくす……あ、あかん、この子、あんなに情けないことノブやんに言うとッたのに……キリッとした顔で……ぷぷ……」

玄野「ど、どうしたんだ?」

山咲「い、いや、なんでもないんよ、なんでも。あ、それと君ッて言うのやめてーな。うちは山咲杏、こう見えても23歳やで?」

玄野「うェッ!? す、すいません……」

山咲「えーのえーの、けッこー若く見られたッてことやからなー。お姉さんうれしいわー、ぷぷぷッ」

レイカ「…………」

加藤「……計ちゃん、早く戻ろう、後見つかッていない渋谷さん達が心配だ……」

山咲「あはははッ! まぁた言うとる! ホンマもんやな君らー!」

加藤「…………」

玄野達はそのまま来た道を引き返し始めた。

負傷した鈴木は稲葉が背負い、残してきた仲間たちのいる場所に全員で戻っていく。

山咲「あッ、そうや!」

山咲は先ほどの首を斬られた男達の付近にあった武器の存在を思い出す。

Zガンが3丁、玄野達はその存在を目にしてはいたが、鈴木の処置に意識をとられて、回収することを忘れていた。

山咲は碌な装備を持っていない東京チームを哀れに思ったのか、

山咲「おーい、キミらー、これ持ッてきーな!」

Zガンを抱えて、玄野達の下に走っていった。

今日はこの辺で。

玄野達は最初に大阪チームと遭遇した場所まで戻ってきていた。

玄野達を出迎えたのは岸本。

岸本は真っ先に加藤の元に駆け寄り、その胸に飛び込んだ。

岸本「加藤君ッ!! よかッた!!」

加藤「あッ……き、岸本さん」

やれやれといった感じでそれを見る玄野は、残っていた風と桜井に誰かが戻ってきたかと問いかけていた。

玄野「どうだ? 誰か合流できたヤツはいるか?」

風「いや……」

桜井「まだ、誰もこの場所には……玄野サン達は稲葉さんと……す、鈴木さん、腕がないじゃないッスか!?」

桜井に力なく笑いながらも、鈴木はまだ大丈夫だと言って、桜井に心配をさせまいと振る舞っていた。

玄野は一旦鈴木と、目を負傷している稲葉をこの場所で待機してもらうことにして、再度見つかっていないメンバーを探すためにレーダーを確認する。

玄野「……もう、探してない場所はさッき大阪チームが向かッた先くらいしかないな」

レイカ「敵の数、大分減ッてるよ? 今ならあの先に行ッても大丈夫じゃないかな?」

玄野「……そうだな」

確かに最初に見たときに比べ、敵の光点はかなり少なくなっている。

それでも、玄野は気を抜かないでいた。

敵が少なくなっているが、その中に前回のような100点の化け物がいたら、1体でも全滅に追い込まれてしまうかもしれない。

事実、前回は1匹にほぼ全員がやられてしまったようなものだったから。

玄野「全員気を抜くなよ、まだミッションは終わッてない、前回みたいな化け物がまた出る可能性もあるんだ、ヤバイと思ッたら全力で逃げてくれ」

玄野の言葉に全員が頷く。

そうして再び捜索チームの玄野、加藤、坂田、レイカは移動を始めた。

居残り組みにZガンを一丁渡して。

玄野達にずっと付いて回っている山咲は加藤にしきりに話しかけていた。

山咲「なぁ、さッきの子彼女? かわいい子やッたなぁー」

加藤「……なんで俺にばッかり話しかけてくるんだよ」

山咲「えー? だッて、あんたが話していて一番面白そうなんだもーん」

加藤「なんだよそれッ」

山咲「あれッ? 自覚ないの? あんためッちゃ変なんやで? 見てて飽きないくらいになー」

加藤「……はァ」

山咲「そんでどーなん? あの子彼女? 付き合ッてどれくらいなん?」

加藤「……一緒に住んでる」

山咲「うッそ!? あんた17歳とか言うてなかッた!?」

加藤「……色々事情があるんだよ」

山咲「へェー、ふゥーん」

加藤「なんだよ……」

山咲「別にィ~~」

捜索する間、ずっと山咲は加藤に話しかけ続け、加藤はそれに仏頂面で返し続けていた。

そして、玄野達は少し開けた広場で大阪チームの面々と再会する事になった。

それも戦闘中の大阪チームと。

大阪チームは巨大な老婆と蛇が一体化した妖怪と戦闘を行っていた。

玄野「ッ!!」

レイカ「な、何、あの星人……」

坂田「……おい、リーダー、ヤバくねぇか?」

蛇の頭は縦横無尽に動き回り、何個かの頭にスーツを着た人間が捕らわれ、その全員が頭に穴を空けられ死んでいた。

そして、広間には数人のスーツを着た人間の死体。

本体と思われる老婆の動きも尋常ではない速度で大阪チームのメンバーに襲い掛かっていた。

加藤「なんだ……あれ……」

山咲「うッわ……なんやあれ……動きがまったく見えへん……」

その妖怪と戦っているのは、長身坊主と黒人、そしてスーツを半分脱いでいるくせっ毛の男と中性的な顔立ちの美青年。

それともう一人。

長髪長身で蛇の頭を事ごとく切り捨てている男、和泉。

全員が尋常ではない速度の攻撃を見切りながら老婆に攻撃を加えていた。

山咲「うッそやろー……あの4人が苦戦しとるんか……?」

大阪チームの4人は明らかに余裕を見せていない。

老婆の攻撃をギリギリで避けてはいるが、何度か掠ってはバランスを崩している。

このままだといつかは攻撃の直撃を貰ってしまう、そんな未来が見える戦闘だった。

山咲「こんな所におッたら巻き込まれてまうわ……キミらも離れんとヤバいでー?」

山咲はもっと離れた位置に避難しようと促すが、玄野達はその場から動こうとせずに、逆に剣や銃を構え臨戦態勢に入る。

山咲「ちょッと! 何やッとるん!?」

玄野「……このデカ銃は使えねーな。アイツ等も巻き込んじまう」

加藤「この銃ならあの星人も拘束して動きを止める事が出来るかもしれない……」

坂田「それだな。あのスピードで動かれてる間は狙いを定めることすら出来ねーよ」

レイカ「なら加藤さんの銃で狙ッて……」

逃げるどころか戦おうと作戦を立て始める玄野達に、山咲は再度玄野達に避難を勧めた。

山咲「ちょッとちょッと!! ホンマに何やッとるん!? あの4人が苦戦するほどのヤツなんやで!? キミらじゃどーしようもないッて!!」

加藤「……あのままだとアイツ等のうち誰かが殺される可能性がある。助けられる命があるんなら助けたい」

山咲「はァッ!? あんたホンマに何考えとるん!?」

そのまま加藤は銃を構え、星人に近づいていく。

山咲「ちょッ!? アホーッ!! ホンマにあかんッてェ!!」

だが、加藤が近づき始めたその時、戦況に変化があった。

老婆の攻撃が更なる速度を持って戦っているメンバーに襲い掛かろうとしたが、大阪チームの全員が一瞬の隙を付いて落ちていたZガンを装備して老婆に向けた。

老婆はそれを見るやいなや、蛇の頭をそれぞれに向けて鞭のように振るった。

その蛇の鞭は視認できるスピードではなく、全員のZガンを吹き飛ばしたかのように見えたが、一つの頭だけ切り裂かれており長身坊主に届くことは無く、長身坊主の撃ち出した重力砲が老婆を押しつぶした。

長身坊主はそれだけでは終わらず、何度もZガンの引き金を引き、老婆の身体が完全に潰れるまで引き続けていた。

加藤「あ……」

山咲「……はァーーーッ、助かッたわ……」

加藤は完全に潰れきった星人を見て、持っていた銃を下げ、それを見て山咲は深いため息をついていた。

戦闘が終わったが大阪チームのメンバーは誰一人笑うことも無く不機嫌な顔をしながら、和泉に詰め寄っていた。

「オイッ! おまえ何なんや!? 獲物に手ェだすな言うたやろーが!」

和泉「……」

「……何とか言ッたらどうや?」

和泉「……」

詰め寄られていた和泉は視線動かし、玄野達に気付くと、その姿を消してその場から消え去った。

「ッ!! 消えやがッた……」

「何やねん……ほんま腹立つやつやなー……」

和泉が消え、大阪チームの面々がそれぞれタバコのようなものを吸い始め、Zガンの上に座って一息を入れる。

大阪チームは玄野達にも気付いていたが、完全に無視をして話し合っていた。

中性的な美青年は、遠く離れた場所で少しだけ顔を出している眼鏡をかけた少年を呼出していた。

「おい! 点数見せてみぃ!」

「は、はいッ」

眼鏡の少年はパソコンを持って全力で走り、美青年にパソコンの画面を見せる。

それを、大阪チームのメンバーは全員が覗き込んでいた。

「85点……やッぱそれくらいあッたか」

「……こいつが今回のボスかァ?」

「いや、ちゃうやろ……今回はおるで」

「俺もそう思うわ。今回はおるな。いつもとちゃう」

大阪チームが話し合っている間にも山咲は加藤の無茶な行動を咎めようとその小さな口から大音量の罵声をぶつけていた。

山咲「あんたなーーッ!! ホンマにアホちゃうの!? あのまま近づいていッとッたらあんた間違いなく死んどッたで!?」

加藤「…………」

山咲「聞いとんの!? さッきのヤツの点数聞えたやろ!? 85やで85!! そんなんに近づいたらあッというまにミンチやミンチ!!」

加藤「…………」

山咲「あんたは分かッてないやろーけど、生き残ッてクリアする方法はヤバいヤツからは逃げて弱ちぃのをやッつけるしかないんやで! あんな無謀なことしとッたら命がいくらあッても足りんわ!!」

加藤「…………」

山咲「もうッ!! 聞いとるんかいな!?」

加藤「聞いてるさ」

山咲「……はァ、もうええわ……」

自分の忠告を聞いているのかいないのか分からない加藤に山咲はがっくしと肩を落とした。

どこまでもアホな行動をする加藤は長生きしないと山咲は思ってしまう。

そんな加藤をなぜか放っておけずに、山咲はもう一度加藤に忠告をする。

山咲「あんた、自分は死なないとか思ッてへん?」

加藤「……いきなりなんだよ」

山咲「だッて、行動がトチ狂ッたアホにしか見えんのやもん。さッきもあいつら助けるーゆーて行こうとしたやん。あんな事するんは、自分は死なないッて考えてるアホくらいなもんやろ」

加藤「……死なないなんて考えてないさ。俺だッて死ぬのは怖い」

山咲「……ホンマにわけわからんわ。死ぬのが怖いのになんであんな事するん?」

加藤「言ッたろ? 助けられる命があるなら助けたいッて」

山咲「助ける……はァーーーーーーーーッ…………」

加藤の言葉に深く深くため息をつき、今度はかわいそうな目で加藤を見る。

山咲「あんなぁ、あんたが助けるゆーたヤツらの事教えたげるわ」

そう言い、山咲はまず長身坊主の男に指を刺して。

山咲「あのボーズの背の高いんが、室谷信雄」

山咲「あいつは4回クリアや」

加藤「!」

山咲「我が強くてむちゃくちゃやりよるけど、みんなあいつをリーダーだと思ッとる」

加藤「4回……」

その次に、黒人の男を指差して。

山咲「あの黒人。あいつみんなからはジョージッて呼ばれとるけど……本名は島木やッたッけな?」

山咲「あいつは3回クリア。中ではあんまいちびッてアホやらん方」

加藤「3回か……」

山咲「そんで……」

くせっ毛の男を指差して続ける。

山咲「あのスーツを半分脱いどるアホが、桑原和男」

山咲「あいつも3回クリア。ド変態のサイテー野郎だけど強さはホンマもんや」

加藤「……ド変態?」

山咲「星人でも女やッたら犯す超ド級変態。セックス依存症。ホンマもんのサイテー野郎。以上や」

加藤「は、はぁ……」

最後に中性的な美青年を指差し。

山咲「そんであの女見たいのが、花紀京」

山咲「あいつは2回クリア。ヤク中で頭ん中までヤク漬のジャンキー」

加藤「や、ヤク……薬か?」

山咲「せや。どいつもこいつもぶッとんだヤツばッかで、フツーとは違う人種。そんでもッて全員複数回クリア経験者。そんなヤツらを助けようとしてたんやで?」

加藤「……」

山咲「あんた、クリア回数は?」

加藤「……ない」

山咲「せやろなぁ、あんたみたいなんはクリアしたらこんな所に残るわけもないやろーし」

加藤「……」

山咲「そんなクリア回数も0回の子が、あいつらを助けよーとしてたんやで? どーやッても足ひッぱッて死ぬのがオチやで」

加藤「……」

山咲「ま、ええわ。ゆッくりクリアのコツ言うのを教えてあげるで、あんたもこれからは自分の命を大事にして…………」

その時、その場にいる全員が地面から伝わる振動を感じ取った。

その振動は大きくなり、大地震といえるほどの揺れとなり揺れ続ける。

その地震と共に、その場にいる全員が目にする。

十数メートルはあるビルよりも大きな牛型の星人が現れる瞬間を。

加藤「なッ、んだ……あれは……」

山咲「…………ウソやろ」

玄野「……デケェな」

レイカ「……何、あれ……」

坂田「はッ……どーするよ、リーダー……」

東京チーム全員がただ呆然とその星人を見上げるだけだった。

大阪のチームも同じく見上げてはいたが、

桑原「……おッたな。間違いないわ」

島木「ああ、間違いないな」

室谷「100やな。どー見ても100や」

花紀「おいメガネッ! 点数はどーなッとるんや!?」

「え……あ?」

花紀「貸せッ!!」

眼鏡の少年からパソコンを奪い取り花紀は牛鬼にトリガーを引く。

そして、その表示された点数を見て、

花紀「100や……アイツが……」

室谷「やッぱ100か」

桑原「……ノブヤン。どーすんの? アレ」

室谷「そうやな……」

桑原「先に言ッとくが、俺はやる気ないわ。岡に任せとかんか?」

室谷「…………島木、お前はどうや?」

島木「…………」

全員が見上げる中、牛鬼は行動を開始していた。

叫びながら何かをして周囲の建物が粉砕されていく。

その様子を見ながら、牛鬼が何かに吹き飛ばされるところを全員が見る。

加藤「なんだ!?」

玄野「いきなり……吹き飛ばされた?……!! まさか渋谷かッ!?」

凛の仕業かと玄野は予想し、大阪チームは別の人間の仕業だと考える。

桑原「あー、もうやッとるわ。岡がもうやり始めたわ」

室谷「……残りの雑魚を片付けるか」

島木「フン……」

大阪チームはレーダーを見て残りの雑魚を倒して終わりと判断し始める。

それは絶対的な信頼を置く男が、あの巨大な牛鬼と戦い始めたからと考えているから。

あの男が負けるという事を微塵も思っていないからそうやって何気なくレーダーを見た。

すると、レーダーの表示に奇妙な表示が発生していた。

少し離れた位置、牛鬼がいる場所に黒い光点。

そして、自分たちのいる場所に黒い光点が二つ。

室谷「あ? なんや? 黒い点があるで?」

室谷が声を出したその瞬間だった。

その場にいる全員にとてつもない圧迫感が襲い掛かり全員が空を見上げた。

そこには、山伏の服装をした天狗。

高鳥帽子を被った人型の犬が降って来て、大阪チームと東京チームの眼前に舞い降りた。

玄野「ッ!!」

加藤「うッ!? おぉッ!!」

玄野達は前回感じた、あのオニ星人と同じ感覚をこの2体から感じ取り、その身体を硬直させる。

坂田も、レイカも、加藤も同じだった。

まったく動けない。動いた瞬間に自分たちの首は宙を舞っているのではないかと錯覚する。

山咲「あ、あぁ……あぁぁぁぁぁ…………」

山咲は隣にいた加藤の腕を掴み全身を震わせていた。

今まで感じたことの無い本能的な恐怖感が山咲を包み込み、今まで馬鹿にしていたはずの加藤に助けを求めるようにその腕を強く掴み震え続けている。

大阪チームは東京チームとは違いその額に汗を浮かべてはいたが、

桑原「……おい、何やねん。コイツら……」

室谷「……コイツらも、100か?」

島木「かもな……」

花紀「…………」

桑原「ノブヤン、ダンナ、どないすんの? なァッ!?」

室谷「……全員や、全員でかかるでッ!!」

桑原「やるわけやね……」

大阪チームの全員がZガンを構え、それを天狗と犬神に向けようとしたときに、大阪チームの眼鏡の少年が叫んでいた。

「う、上ッ!! なんか、ヤバいッ!!」

それは牛鬼の頭の上にあった。

牛の角から何か黒いエネルギーが発生して、牛鬼の頭上に黒い球体が放電していた。

その球体の放電は球体の周りを回り始め、収束し球体の中に入った瞬間。

黒い球体から、レーザーが発射され、そのレーザーは牛鬼の前方にあった何かを貫くと、横薙ぎに照射され、レーザーが通った場所は大爆発を起こし、その場にいた全員が爆風に巻き込まれて吹き飛ばされた。

大阪の街に巨大なきのこ雲が発生し、崩壊が始まる。

今日はこの辺で。

パソコンの表示画面を見ていた卯月と未央。

100点の星人という事に気付き、視線をパソコン画面から眼前に圧倒的な存在感を放つ牛鬼に映しその身を震わせてしまう。

十数メートルはあろうかという巨体はその身に恐ろしい力を宿していることを見ただけでも理解させられ、下半身が蜘蛛という異形は生理的嫌悪感を二人に呼び起こさせていた。

卯月「う、うぅ……」

未央「あ、あんなのを、どうやって……」

牛鬼の存在に畏怖しながら、徐々にその足が後退していく二人に対し、岡は少し弾む声色でロボットを操作し始めた。

岡「俺は今からアイツと遊び始めッから、おまえらははよ逃げんと死ぬでー?」

卯月「あ、遊ぶって、あんなに大きな牛とですか!?」

未央「む、無茶だよ!!」

岡「はッはッはッ、なんや、心配してくれるんか?」

卯月「あ、あたりまえですよ!」

未央「そうだよっ! 馬鹿なこと言ってないで早く逃げないと!」

3人が話している間に牛鬼に動きがあった。

周囲に何かを撒き散らし、その何かが当たった場所は人だろうが地面だろうがはじけ飛び、連続的な破壊音が鳴り響き始めた。

その何かは、岡の駆るロボットにもマシンガンのように打ち込まれ、それは吹きさらしのコクピットにいる3人にも降りかかった。

岡「ぬぅッ!?」

卯月「!!」

未央「なんっ!?」

牛鬼から打ち込まれたそれは3人に野球の剛速球のような速度で降り注いだが、3人はそれぞれ対処をし始める。

岡は掌からの閃光を連続で照射し降り注ぐものを蒸発させていく。

卯月は流れるような動きでそれを悉く避け、未央は避けつつもその何かを叩き落していた。

卯月と未央に最後に顔面に向かって飛んできたそれは、卯月は未央に、未央は卯月がそれぞれ飛んできたそれを掴み取っていた。

そして、二人は飛んできたものを見て、親指と人差し指で摘むように掴み取ったそれをみて叫びを上げた。

卯月「く、クモ!?!?」

未央「うわあぁっ!?」

二人が見たこともないような大きさのクモに触れてしまって咄嗟に投げ捨てクモを触ってしまった手にえもいえない感覚を覚えてしまう。

二人とも特訓を行ってきて高速で飛来する弾丸を受け止められるまで強くはなっていても、精神的には普通の女の子と大差はない。

そう、二人には大型の虫に対する耐性がほとんどなかった。

卯月「うぅ……背中がゾクゾクしてます……」

未央「なんか手に感触がのこってる……かさかさしてて、ぶにゅって柔らかくて……」

卯月「や、やめてください!!」

未央「ゴメン……自分で言ってて気持ち悪くなってきた……」

卯月と未央はクモを触った手を振りながら、掴んだときの感触を忘れようとしていたが、その傍らに岡がヘルメットの部分、顔を抑えながら唸っていた。

二人はそれに気がつき、

卯月「お、岡さん?」

未央「ま、まさか、さっきのクモが顔に当たったの!?」

二人は岡に近づき、心配しながら岡の顔を覗き込むと。

岡はその手に飛んできて捕まえただろうクモを持ちながら。

岡「アイツの弾丸を目で受け止めたんや」

そう言い、クモを二人に見せて投げ捨てた。

卯月「!? こ、こっちに投げないで下さいっ!!」

未央「ちょっと!? なにするの!?」

岡「……なんや、ノリ悪いのお。そこはツッこむところやろ?」

未央「意味わかんないんだけど!?」

岡「ま、ええわ。そろそろアイツも待ッててくれへんみたいやしな」

岡は牛鬼を見据えながら、ロボットを操作し始めた。

牛鬼は地響きを立てながら、その巨大な身体を動かし、岡のロボットに近づいてきていた。

その牛鬼を迎え撃つかのように、岡のロボットは牛鬼に向かって一歩踏み出した。

牛鬼と岡のロボットは距離を詰めていく。

その間も牛鬼は叫びをあげ、クモを飛ばしているのか周囲の建物は破壊されていく。

その飛ばされてくるクモは吹きさらしのコクピットにも撃ち込まれていたが、その全てを岡は掌の閃光で迎撃していた。

岡「なんや? その程度か? 他になんか持ッとらんのか?」

ロボットを操作しながら器用に撃ち込まれるクモを迎撃する岡。

あくまであの巨大な牛鬼に立ち向かおうとしている岡を見て二人の意識が徐々に変わり始めていた。

卯月「……岡さんはあの大きな怪物を倒そうとしてるんですよね」

岡「ん? せやで。……ッておまえらまだおッたんかいな。さッさと逃げんと死ぬ言うたやろ?」

未央「あんなのを倒す……でも、あれを倒さないと、帰れないんだよね……」

岡「そうやで、戦ッて勝たな終わらんのや、俺が全部やッたるから女子供はどッかで隠れとき」

卯月「……未央ちゃん」

未央「うん……」

卯月と未央は一歩踏み出し岡の横に立つ。

そして、牛鬼を眼前に捉えながらも臆することも無く言い放った。

卯月「私達も戦います」

岡「……ん?」

未央「あの化け物を何とかするの、私達も手伝うよ。あれが今回のボスなんだよね?」

岡「……はッはッはッ、手伝う言うたかー、こりゃまいッたわ」

岡は二人の言葉を耳にして呆れ半分で二人を見た。

顔はバイザーに覆われて見えないが、声や体つきからしてまだ10台と思われる少女。

そんな子供が俺を手伝うだ、100の敵相手に戦うだなにを言っているのかと。

だが、次に二人を見たときに岡の考えは変わる事になる。

岡「ほぉ……」

二人とも岡の横に立っている。

その佇まいは自然体でありながら岡であっても隙を見つけることが出来ないほど。

眼前に100の敵を映しながらも、少しも怯む事も無く、二人から感じられるのは何か強い意志のみ。

そんな二人に興味を持った岡は。

岡「嬢ちゃん等、ほんまに何モンや? ガキのクセにヤレる雰囲気だしとるやんけ」

卯月「私達、ですか?」

岡「そうや、何かやッとるんか? 空手とかピンポンとか」

未央「? やってるって言ったら…………私達、アイドルやってるよ。……休止中だけど」

その言葉に岡はピクリと身体を震わせて、

岡「お、おまえら、中々おもろいやんけ……」

未央「え?」

岡「アイドルは想像もせんかッたわ! 中々鋭いボケ見せてくれるのぉ!」

卯月「ぼ、ボケって……私達本当にアイドルなんですよ?」

岡「そんなわけあるかい! 見とッたわ、銃の弾丸並みの速さで飛んできたものを受け止めれるアイドルがどこにおるねん!」

非常に愉快そうに突っ込む岡はさらに続ける。

岡「嬢ちゃんらほんまおもろいわ、笑いのセンスあるで」

岡「アイツ倒したら、もッと笑えるネタ披露してくれや」

岡は二人に言うと、ロボットの操作を始める。

前進するだけだったロボットは、その速度をあげ、ズシンズシンと走り始めると、牛鬼を殴りつけてその巨大な身体を吹き飛ばした。

吹き飛ばした後も、追い討ちをかけるようにロボットを操作し、牛鬼の頭を何度も踏みつけて牛鬼の頭は足蹴にされるたびに地面に埋め込まれる。

ロボットを自在に操り、一方的にあの巨大な敵を蹂躙する岡に二人は驚愕を隠しきれないでいた。

卯月「す、すごいです……」

未央「め、めちゃくちゃだよ……」

岡「まだまだこんなもんやないで!」

岡は踏みつけて地面に埋まった牛鬼からロボットの足を離し、次にロボットの腕を動かし埋まった牛鬼の頭に近づける。

さらにロボットの操作を行うと、岡の駆るロボットの腕から5メートルはあろうかという巨大な装備が現れた。

その装備は円筒になっており、一見バズーカのような装備だったが、岡がその装備を牛鬼の頭に接触させて操作すると。

岡「まずは一発や!!」

円筒の発射口から巨大な黒い杭が牛鬼の頭に撃ち込まれた。

所謂パイルバンカーという武装だった

パイルバンカーが撃ち込まれると同時に地面が揺れる。

ズンッと鈍く重い揺れが大地を動かし、撃ち込まれたパイルバンカーの威力が相当なものだという事を卯月と未央は理解する。

岡「まだ終わりやないで!!」

岡はさらに操作をして、連続でパイルバンカーを撃ち込みはじめた。

その連続の攻撃は大地を揺らし続け、辺りは煙が立ちこみ始める。

一撃一撃が必殺の一撃。

恐らくはZガン十数回分に匹敵するであろうパイルバンカーの一撃。

それを連続で岡は牛鬼の頭に撃ち込み続けていた。

連続で執拗に、何度も何度も。

すでに牛鬼は動きを止めてしばらく経っている。

そろそろ死んだか? と、岡がロボットを動かし距離を取る。

煙に覆われた中、動くものは何もないかと思われたが、

土煙の中から、頭に多少の傷を負った牛鬼が叫びながら立ち上がってきた。

「ヴォォォゴアアアアアアアァァァアアアアアァァァァァァァァアアアアアアグオオオオオオオオォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!」

致命傷どころか、小さな傷しか負っていない牛鬼を見て、岡も流石に声を出していた。

岡「アレだけやッてあんなもんしかダメージ与えられんのか……ドンだけ硬いんや……」

未央「ウッソでしょ……」

卯月「…………」

流石に信じられないと未央は牛鬼を見ていたが、卯月は牛鬼を見ながら目を凝らしていた。

その鼻から小さく血を流しながら。

すると牛鬼は急に卯月を見たかと思うと、その頭部に変化が生じた。

岡「……なんや?」

牛の角から黒いエネルギーが放出され始める。

それはあっという間に黒い球体となり、エネルギーは球体の周りを回り収束し始める。

そのエネルギーを見て全員が顔を青ざめた。

岡「オイオイオイ、なんやねんそれは!?」

未央「やっ、ばい!! しまむーーーー!!!!」

卯月「~~~~~っ!!」

岡と未央は全力で逃げた。

岡は全力で跳躍し、未央は最後まで牛鬼に手を向けて何かをしていた卯月を抱きかかえて道頓堀の川に飛び込む。

次の瞬間、牛鬼の頭上の黒い球体から光と共にレーザーが発射され、岡のロボットはアメ細工のように切り裂かれて爆発を起こした。

岡のロボットを切り裂いたレーザーはそのまま弧を描くように大阪の街を照射し、レーザーが通った後は大爆発を起こし数百メートルほどの範囲が軒並み吹き飛ばされた。

それを岡は空中を吹き飛ばされながら見続ける。

岡「んなアホな……なんやねんコレ……」

空中で体勢を立て直し、牛鬼から離れた場所に降り立つと岡は崩壊した大阪の街を呆然と見ながら、

岡「……ワレ、なにやッとんねん」

苛立ちを感じさせる口調で、掌からの閃光を牛鬼に照射し始める。

それに気付く牛鬼。

ロボットを破壊したが、その中身は今閃光を撃ち込んで来ている男という事も。

他にも自分の肉体の内部に何かをしようとした存在は今見当たらない。

現状、この男が一番危険だという事を牛鬼は理解し、岡を目標に動き始めた。

岡「……俺はなー、何だかんだ言うて、地元が好きやねん」

十数メートルもあろうかという牛鬼にハードスーツを来た2メートルにも満たない岡が対峙する。

岡「それをこんなめちゃくちゃにしおッて……」

岡は手を広げ、牛鬼に向かって構える。

岡「そうや、お前の相手は俺や、こッちにこんかい。俺がこの手でブチ殺してやるからのー」

足を踏み込み、腰を落とし、

岡「今の俺に、スキがあッたらなー」

牛鬼にヘルメットの奥から鋭い視線を飛ばし、

岡「どッからでもかかッて~~~~~~」

岡は息を溜め、爆発させるように叫びを上げた。



岡「こんかい!!」

今日はこの辺で。

岡はその巨体を揺らしながら襲い掛かってくる牛鬼に閃光を撃ち込みながら考える。

岡(コイツ、アホみたいに硬いわ。掌ビームもマトモに喰らッとんのに傷ついとる気配もない)

岡(そらそうやわな。あのロボの撃ち込みですらあんだけちょびッとのダメージや、正攻法でやッとッたらどれくらいかかるかわからんわ)

岡の放つ閃光は牛鬼に全て着弾していたが、当たった場所は少しだけ焼けた後はあったがほぼ無傷。

ハードスーツの閃光がダメージを与えられないことなど岡の記憶には無かった。

それはロボットによるパイルバンカーの連続攻撃もそうだ、通常の生き物ならばあの攻撃を喰らえば圧殺されて生きてはいない。

岡はこの牛鬼が今だかつて経験したことのないほどの防御力を持っていると判断していた。

そして防御力だけではなく、街を一瞬で吹き飛ばすほどの攻撃力。

攻防、どちらをとっても岡の記憶にないほどの星人。

だが、岡はその牛鬼と対峙しながら、襲いかかってくる牛鬼の一つの特徴を見つけ行動を始める。

岡「お前はなァ~~~~」

牛鬼に向かって一直線に走り出す岡。

岡が近づいてくることを確認した牛鬼は岡に攻撃を加えようとその拳を上空から振り下ろす。

だが、その拳を大きく跳躍して回避する岡。

岡「遅いんじゃ! ボケェッ!!」

さらに振り下ろした腕を駆け上がり、岡は牛鬼の肩に到達して、至近距離でその牛鬼の頭を確認する。

岡「攻撃力も防御力もアホみたいに高かろーがなァ」

岡「そんなスットロい動きで俺をどうにかできると思ッとんのか!」

岡は振り落とそうと動き始める牛鬼の身体にしがみ付きながら、

岡「そうやなァ、こない近づかれたら、オマエはそうやッてガキが駄々こねるみたいに暴れまわるしかないわなぁ?」

牛鬼は至近距離まで接近されてしまった事により、岡に対する攻撃手段を失っていた。

己の手で岡を叩き落とそうとするが、岡は軽い身のこなしでそれを避け続ける。

岡は牛鬼の弱点というものを分析し、その弱点を突くように行動をしていた。

それは巨体ゆえに小回りが利かないこと、そして岡よりも数段遅い行動速度。

岡に攻撃するにしてもその初動は岡が見てから行動しても回避できる速度であった。

それでも、牛鬼が鈍重というわけではなかった。

その巨体に見合わない速度で攻撃をしていたが、岡はその巨大な腕を振り回す攻撃を難なく回避し牛鬼の死角、後頭部に張り付くことに成功した。

岡「どうや、次はどーすんのや? さッきのワケわからんビームで攻撃するか? できんわなァ、自分ごと吹ッ飛ばしてまうからな」

岡は牛鬼の後頭部で尚も暴れまわる牛鬼に問いかけていた。

岡「暴れてももう無駄や、オマエをがッちりホールドしとるからのォ」

牛鬼がどれだけ暴れようが振り落とされない岡。

岡の左手は牛鬼の頭部にある傷口をしっかりと固定していた。

その傷口は先ほどロボットの攻撃で出来た傷。

頭に裂け目が出来て、中から青みがかった体液があふれ出してきていた。

岡「血かなんかようわからんが、オマエの頭に傷口が空いて、中から液体が溢れてきとる」

その傷口に岡は右手を添えるようにあてがい、

岡「表面は硬くても中身はどーなッとんのか…………試したるわァッ!!」

岡が右手から閃光を生み出し、その生み出された閃光は牛鬼の傷口から頭の中に吸い込まれていった。

それを連続で数発。

さらに牛鬼の動きは激しくなるが、岡は構わず撃ち続ける。

連続で打ち続けるうちにその傷口から液体が大量に溢れ出す、他に出来た浅い傷口も同じように液体が噴き出していた。

それを見て岡はヘルメットの中で口元を歪め勝機を確信した。

やはり、内部の強度はそこまで高くない。

そして、徐々に動きが止まり始める牛鬼。

岡「コレで、終いや!!」

岡はホールドしていた左手も離し、両手で傷口に閃光を撃ち込む。

百を超える数の攻撃。

その攻撃は、牛鬼の動きを完全に止めて、

「ゴボァッ!!」

牛鬼の目は内部からの圧力で両目とも飛び出し、その口からは青みがかった液体が大量に吐き出される。

牛鬼が叫びをあげていた口から液体が逆流するくぐもった音を出し、それと同時にその巨体はゆっくりと大地に沈み込んだ。

道頓堀の川から卯月と未央が這い上がる。

未央「けほっ、けほっ……だ、大丈夫? しまむー?」

卯月「はぁ、はぁ……は、はい。なんとか……」

川の中は爆風によって渦巻いており、二人は川の流れに巻き込まれていた。

卯月の手をずっと握っていた未央は、川の底を蹴り上げて卯月と共に氾濫する川から抜け出す。

そして、二人は崩壊した街を見ることとなった。

卯月「な、なんなんですか……これ……」

未央「ま、街が……」

先ほどまでビルが立ち並んでいた街並みはどこにも無く、見渡す限り瓦礫の山。

唯一存在感を放っているのが上半身が牛で下半身が蜘蛛の巨大な星人。

その星人も地に伏した姿でピクリとも動いていない。

卯月「まさか……さっきのあれでこんなことに……?」

未央「信じらんない……こんな……」

破壊されつくした後の光景、二人とも信じられない思いで立ち尽くしていたが、すぐにその脳裏に凛の事が思い出される。

一瞬でここまで破壊された星人の一撃。

もしも、あの近くに凛がいたのなら?

その可能性に気付き、二人は顔を青ざめて飛び上がる。

卯月が未央の手を持ち、数十メートル飛び上がると数百メートル四方が瓦礫に多い尽くされていた。

破壊の範囲の広さに、二人に思い描いてしまった最悪のイメージが現実味を帯びてしまう。

凛も爆発に巻き込まれ、この瓦礫の下に埋まってしまっているのではないか、と。

そう考えてしまった二人は、上空から瓦礫の山に向かって叫び始めた。

卯月「り、凛ちゃーーーーーん!! どこにいるんですかぁぁぁっ!!」

未央「しぶりーーーーん!! 返事をしてぇぇぇ!!

その二人を見上げる、星人の頭にいる男。

岡「……あの嬢ちゃんら、生きとッたんか……せやけど、一体何やッとんのや……?」

先ほどこの星人が撃ち出した、とてつもない威力の光線。

岡は二人もあの一瞬で回避していた事に感心しつつも、空を浮きながらも叫び続ける二人に疑問を浮かべていた。

人を探しているようだが、あの光線に巻き込まれたのか? それならば生きているわけないだろうと思い岡は星人から飛び降りる。

岡「はァ……ほんま、なんやねんこれは……」

飛び降りた岡は瓦礫の山を見てため息をついていた。

岡「……これ、どーすんのや? 戻ッたら元に戻る訳もないやろうし……」

その場で腰を下ろし、頭を抱え始める。

岡「……明日、職場は地獄やな……」

そして、岡は訪れるであろう激務の予感を感じながらも転送を待っていた。

カサ……。

岡「!?」

音がした。

星人から確かに何か動くような音。

岡「……まさかオマエ」

岡は立ち上がり、星人に目を向ける。

牛の頭は青みがかった血を吐き出して動く気配はない。

念のためにヘルメットで星人の頭を透過して見てみるが、骨は健在だが、脳は無い。

中にあったであろう脳は消し飛んで消滅している。

この状態で生きているはずが無い。

岡「…………」

岡はさらにその巨大な星人の肉体を透過していく。

上半身、内臓のようなものがある。

さらに透過すると管のようなものが見えた。

恐らくは血管だろうか? その管には未だに流れが続いている。そう、血液の流れが未だに続いていた。

岡「なんやて!?」

岡が驚愕と共にその血管の流れに目を動かしたときに、星人の身体にも動きがあった。

牛の上半身は動いていない。

だが、その下半身。

蜘蛛の下半身が、8本の足を伸ばしその巨体を再び動き始めた。

岡「……そッちが本体か」

岡のヘルメットの内部に映し出されるもの。

蜘蛛の腹の部分に巨大な脳と、血液の流れが集中している心臓と思われる器官があった。

岡がそれに気が付くと共に、巨大な蜘蛛は岡に向けて数本の足を高速で伸ばし攻撃し始める。

先ほどの牛の上半身のパンチとは違い、その足から繰り出される突きは凄まじい速度だった。

そして、その先端は鋭利な刃物を思わせるように尖っており、岡はその足に貫かれたように見えた。

岡「あッぶないのォ~~~~……」

その攻撃を岡は紙一重で避け、蜘蛛の足の僅か数センチ横に立ち。

岡「行儀の悪い足は、一本もらッとくで!!」

ハードスーツの肘から伸びたブレードを蜘蛛の足へ斬りつけた。

ガンツソードと同じ切れ味を誇るそのブレードは今までどんな敵でも斬り裂いてきた。

しかし、そのブレードは蜘蛛のごつごつとした足の表面に接触すると共に、

バキンという音を上げてへし折れてしまった。

岡「なッ!?」

一瞬の驚愕が岡に隙を生む。

数本上空から振り下ろされた足を岡は完全に避けることができずに、

ヘルメットを切り裂かれ、ハードスーツの腕を破壊され、その左腕に浅くない裂傷を刻み込まれてしまった。

岡「グッ……」

岡はさらに襲い掛かる足から逃れるようにハードスーツから煙を噴射し視界をくらまし、ハードスーツを抜け出すと、地面を転がり距離を稼ぐ。

岡が元いた場所は、蜘蛛が主のいないハードスーツを貫き続けていた。

それを見て、ハードスーツの防御性能でも意味が無いことに苛立ちながら、岡はホルスターのガンツソードを装備して体勢を立て直した。

岡「……左手は……あかんな、全く動かん……」

だらんと垂れ下がっている岡の左腕は肘の部分を深く切り裂かれて多量の血が流れていた。

岡「……刀でもヤツの攻撃を受けることはできんな、あの足のほうが刀より強度も鋭さも上」

岡が目にした蜘蛛の足はごつごつとしていたが、刃物のような鋭さも持っていた。

ハードスーツのブレードでもへし折られた以上、ガンツソードでも同じことだろう。

岡「…………なるほどな、やッぱり、そッちが本体に間違いなさそうやな……」

岡は蜘蛛の腹の下からその全体を見た。

すると、今まで死角になっていた部分、牛鬼の上半身からほんの少し下に複数の眼球と大きな口を発見してしまった。

その口からは先ほど牛鬼の角に渦巻いていた黒いエネルギーが吐き出されていた。

岡「……はッはッはッ、なんや、まさかその口からさッきのビームを吐き出すんやないやろうな?」

岡が口に出したその問いに答えるように、蜘蛛の口にエネルギーが渦巻き収束し始める。

岡「…………」

岡の眼前のエネルギーは再びその力を解放し、レーザーとして岡に向かって撃ち出された。

空に浮かぶ卯月と未央は再び動き出した巨大な星人を見てその顔を青ざめていた。

空から見た星人は牛の頭は目玉もなく、口から液体を吐き出していたグロテスクなものだった。

それが急に動き出して、二人の浮かぶ高さと同じ位置にそのグロテスクな頭が持ち上がり、二人はそれをまともに視界に入れてしまった。

卯月「う、うぇぇぇ……」

未央「な、なんなのもう!? 死んでるんじゃないの!?」

その星人は二人には目もくれずに足元で何かをやっているようだった。

それに気が付いた未央はその足元に目をやると、そこには蜘蛛の足に貫かれる岡の姿を見てしまう。

未央「あっ……」

その視線を追う様に卯月も目を追うと、そこには左腕から血を流しながらガンツソードを構える岡の姿。

卯月「お、岡さん、酷い怪我を……」

未央「ま、まずいよしまむー、あの人助けないと!」

明らかに星人に狙われて重症を追いピンチに陥っている岡。

このままだと殺されてしまうと二人は考え、岡の加勢に行こうとしたその時、

星人から異様なプレッシャーを感じ、二人とも弾けるようにその視線を星人に向けた。

するとそこには、先ほど見た黒いエネルギーが星人の一部に渦巻いており、そのエネルギーは岡に向けられるように渦巻いていた。

未央「うっそ!? あ、あれってさっきの!?」

卯月「っ!!」

そのエネルギーが収束し、撃ち出される瞬間、卯月は未央と共にさらに上昇すると共に、片手を下に向けて、その超能力を発動した。

岡は星人からレーザーを撃ち込まれる直前、その身に急激な浮遊感を感じる。

次に気が付いたときに、岡は自分が空中にいる事に気がつく。

岡「な、なんやッ!?」

自分に起きている現象に思考を回す間もなく、地上から巻き起こった爆発が岡に衝撃をもたらす。

地上から数十メートルの位置だが、巻き起こった爆風は岡に衝撃を与え続けるが、岡は吹き飛ばされることも無くその場に留まり続けていた。

岡「グゥゥッ……」

その岡の傍に卯月と未央が飛んでくる。

二人とも地上で巻き起こっている大破壊に唖然としながらも、岡の安否を気遣っていた。

卯月「だ、大丈夫ですか!?」

未央「し、しまむー、早くその人つれてもう少し上に逃げないと!」

岡「……空、か?」

未央の言葉に卯月が岡の手を取り、さらに上空に飛びあがろうとすると、

岡「待て、ちょッと待てや」

卯月の手を振り払い、行動に静止をかけるように岡が卯月に質問を始める。

岡「嬢ちゃん、さッき俺を空に飛ばしたんはおまえか?」

卯月「そ、そうです! 今も浮かばせているんです、早く手を取ってください、能力で飛ばすよりこれで飛んだほうが早いんです!」

焦りながらも岡に手を差し出す卯月を見て少し考える岡。

そして、ほんの少し、何かが纏まったようで岡はその髪をかきむしるように乱暴に頭を掻くと。

岡「俺、おまえらに助けられたんか?」

岡はかなりその顔を顰めながら卯月に問う。

卯月「そ、そんなことより早く手を取ってください!」

未央「し、しまむー! ヤバイ! 気付かれたよっ!!」

その岡の問いに二人は答えず、星人に気付かれてしまった事に焦りを見せていた。

卯月は無理矢理にでも岡の手を取ってさらに上昇しようとするが、岡はガンツソードの刃を完全に縮めて地上にいる星人に向き直った。

そして、岡は卯月に言う。

岡「嬢ちゃん、降ろしてくれんか?」

卯月「な、なんですか!?」

岡「だからなァ~、この空に浮かばせとる状態を解除してくれ言うとんのや」

岡の発言に卯月は耳を疑ってしまう。

岡は確かに降ろしてくれと言っている、それは今だ爆風が巻き起こる地上に、

そして、その爆風をもろともせずに存在し、こちらを見上げている星人の元に向かうと言っている。

卯月「な、何言ってるんですか!? 死んじゃいますよ!?」

岡「死にそうなのは、今この瞬間じゃ……自分が情けなさ過ぎて死にたくなるわ……」

未央「何言ってんの!?」

岡「この気分をどーにかするには、アイツをブチ殺さなどーしようもないわ、ほんまあかんわ、なんやねんこれ……」

岡は自分が助けられてしまった事に泣きそうになっていた。

下手したら自分より一回りは年の離れた少女たち。

その少女達に助けられる事は岡のプライドに大きな傷をつける。

未央「馬鹿なこと言ってないで早く捕まってよ!」

卯月「そ、そうですよ! はやく……え? 何、やってるんですか?」

焦る二人を尻目に、岡は空中で体勢を変化させて、頭を地上に向ける。

その足の裏を、二人の足の裏に重ねるように動かして星人をその視界に入れて、

岡「足に力入れとき、俺が0言うたら蹴るんやで」

卯月「え……え??」

未央「ちょ、ちょっと?」

岡「3、2、1ーー0!」

岡はカウントダウンを流れるように言った後、二人の足の裏を蹴り星人に向かって弾丸のように飛び去った。

岡の無茶苦茶な空中移動により、二人はさらに上空に押し上げられ、岡は推進力を得て星人に突撃をする。

空中を飛ぶ岡は先ほどまで感じていた感情を怒りに変換して全て眼前の星人へ向けていた。

岡「ほんまオマエ何やねん!? 街はメチャクチャにするわ、俺をガキに助けさせるわ……オマエをブチ殺さんと気がすまへんわ!!」

空から飛来した岡は最初に破壊した牛の角に手をかけて牛の頭の頭頂部に降り立った。

すぐに蜘蛛の足が2本岡に向かって襲い掛かるがそれを紙一重で回避して、岡は右手にガンツソードを装備して、頭から牛の口に移動した。

岡「オマエ外は硬いみたいやけど、中はそうでもないッちゅーのは確認済みや」

動く気配の無い牛の口を無理矢理こじ開けて岡はその中に入り込む。

岡「オマエの中をぐちゃぐちゃにしたるさかい、覚悟しとけや」

岡はそのまま星人の体内に侵入を開始した。

視界は効かないが、先ほど透過した時に体内がどうなっているか記憶している。

岡は手に持ったガンツソードを短剣サイズに伸ばし、星人の内部を切り裂き進む。

下半身の蜘蛛の部分にある脳と心臓を破壊する為に。

未央「あ、あの人、あの怪物の口に入っていったよ?」

卯月「し、信じられないです……」

上空から二人は岡の行動を目撃していた。

牛の頭に張り付いたかと思ったら、その口をこじ開けて中に入っていった。

恐らくは自分の意思で、その一連の行動をとった岡を信じられないと見続ける二人。

しばらく呆然としていた二人は、急に今までよりも激しく暴れ始めた星人を見てその意識を取り戻す。

未央「な、何?」

星人はその足を伸ばし激しく暴れまわっていた。

その巨体が暴れまわり、足を何度も地面に突き刺し地上は大地震のような振動が生み出され、突き刺された場所は陥没しクレーターが発生する。

だが、その動きは徐々に小さなものになってきた。

暴れまわっていた足は震え始め、数本の足が折れ曲がって星人は転倒する。

卯月と未央はそこで星人の下半身、蜘蛛の部分を見ることとなった。

そして、その顔色を真っ青にする。

その口から発射寸前の真っ黒なエネルギーが自分達に向いている事に気付き。

卯月「うっああああああああああぁぁぁぁぁ!!」

卯月は全力で前進した。

その直後、卯月達のいた場所に黒いレーザー光が貫き、その光は遥か上空に消え去った。

そして、そのレーザーを撃ち出した星人はそれが最後の断末魔だったのか、転倒した状態で完全に動きを止め、その眼球から光を消して完全に活動を停止した。

今日はこの辺で。

遥か下に雲が存在する上空。

空を飛べる生き物でも到達する事はできないほどの上空に二つの存在が対峙していた。

一つは真っ黒なスーツを身に纏い、両手の双大剣を下に向け、6つの黒球を頭上に展開し、顔を覆うそのバイザーの下から眼前の敵を油断無く睨みつける凛。

もう一つの存在は、全身が鱗に覆われて、両腕から触手を伸ばし、大きな翼をはためかせ空に浮かぶ、まるで悪魔のような化け物。

両者はお互いの存在をその視界にいれ、言葉を交わすことも無く戦闘を開始した。

凛(まずは先手を取る!!)

凛は双大剣を数十メートル近く伸ばし、化け物に斬り付ける。

凛の大剣は驚くほどあっけなく化け物の身体に届き、化け物はその肉体を分断させられた。

だが、すぐさま半分に割れた肉体がくっ付き元通りになり凛に襲いかかる。

近づかれるたびに距離を取りながら凛は化け物との距離を一定に保つが、徐々に化け物の速度が上がっていく。

凛(くっ……再生スピードがとんでもなく速い……剣でバラバラにしてから焼き尽くそうと考えていたけど、このままじゃそれもできそうにない……)

凛(黒球を動かしてアイツに攻撃をしようにも……空を飛ぶ思考と黒球を動かして攻撃する思考を同時にするのがきつい……)

地上ならば黒球を動かしながら剣で攻撃する事は可能だった。

だが、今、この空のフィールドで空を飛ぶ制御と黒球を動かして攻撃する制御を同時にする事は今の凛には出来なかった。

凛(こんなことなら卯月にお願いして飛行リングの練習をさせてもらうんだった……)

卯月に飛行リングを上げた事には何の後悔もなかったが、空を飛ぶ練習をさせてもらえればよかったと考える凛。

そうやっているうちにも化け物はまた一つ速度を上げて凛に迫ってくる。

そこまで来て、剣では埒が明かないと理解し、掌の閃光での攻撃に切り替える。

凛(ロックオンは完了している、撃てば全弾アイツに当たる)

凛(さらに上空から狙い撃ちをして、肉片一つ残さずに消し飛ばしてやる)

凛は急上昇してさらに上空に移動しながら、大剣を一旦終い両手をフリーにして飛びながら閃光を発射し始めた。

連続で発射される閃光は空中で起動を変化させながら流星のように化け物に降り注いだ。

化け物はその閃光に焼かれながらも瞬時に再生を行い続けていた。

だが、上空から降り注ぐ閃光はその数を増し、やがて化け物に降り注ぐ閃光は視界全てを覆うほどの数となっていた。

眼下の化け物が動きを止めて再生を始めだすと同時に、凛も上昇を止めてその両手を化け物に向けてさらに連続で撃ちこむ事に専念する。

しばらくは凛が撃ち込み、化け物が再生し続ける状態が続いた。

だが、その均衡は徐々に化け物の再生スピードより凛の閃光を撃ちこむ速度のほうが勝り、化け物の肉体は少しずつ削り取られていった。

凛(よしっ! いけるっ!)

削り取られて小さくなっていく化け物に追撃を続けこのまま押し切ろうとする凛だったが、化け物の肉体が上半身のみとなったところで、凛の閃光がまともに化け物に着弾し、化け物はその肉体を四散させた。

凛(!!)

そこで凛が化け物に行っていたロックオンが解除される。

目標が無くなり解除されたのだが、凛は四散した肉片にさらにロックオンをかけ閃光を撃ち込み続ける。

視界に入る全ての肉片をロックオンしようとするが、落下していく肉片の一部が視界から消えてしまった事に気がつき凛は慌てて急降下を始めた。

凛(まずい……今、確かに小さい肉片がロックオンすることが出来ずに落ちていった……)

凛(まだ、間に合うはず、早く追いかけて焼き尽くさないと、また……)

凛は追いかけてその肉片を発見する。

いや、すでに肉片ではなく、数十センチの肉の塊となってそれは落下していた。

凛はそれが最後の肉片だという事が分かり、ロックオンをして最後の一撃を撃ちこんだが、

凛「っ!?」

その肉の塊から人間の腕が伸び、その腕の掌からハードスーツの閃光と同様の閃光が発生し凛の閃光を相殺した。

凛「ちっ」

凛はさらに連続で閃光をその腕と肉の塊に撃ちこむが、その撃ちこんだ閃光は全て相殺されて腕と肉の塊は無傷。

それどころか、肉の塊からもう一本腕が発生し、凛に向けて閃光を撃ち始める。

凛は自分に向かってくる閃光を全てロックオンして打ち消した。

そして、閃光を打ち消した凛が再び肉の塊を見ると、もうそこには肉の塊ではなく、全裸の男の姿があった。

その男は、最初に見た老人の顔だったが、その肉体は老人のそれではなく、若く筋肉質な肉体。

その男はどうやっているのか、翼も使わずに宙に浮き、腕を組んで凛を見上げていた。

「興味深い…………ひじょうに…………」

凛「…………」

先ほどの化け物の姿から一変して人間の姿に変化した星人。

だが、その身から放たれるプレッシャーはさらに強いものとなり、凛の額に一筋の汗が流れ落ちた。

凛は片手に大剣を装備しなおして、男に構えを取り、

「ほう……」

左手から閃光を撃ち出しながら、右手で大剣を伸ばし男に攻撃を開始した。

男は凛が撃ちだす閃光を全て相殺しながら、その剣を回避し続ける。

「ほほう、そうかそうか」

凛の剣の速度はすでにハードスーツの力も合わせ、今繰り出される全速の剣戟だった、だがそれも男には届かず回避され続ける。

凛「くぅぅ……」

凛は剣を回避し、閃光を相殺しながらも徐々に距離を詰めてくる男に焦り始めていた。

このままの戦法だと確実に見切られて接近されてしまう。

できれば接近させたくない、今のこの状態で接近戦は恐らく自分が不利。

そう判断した凛は剣を振りながらも別の戦術を考えていた。

凛(このままだとジリ貧……剣も閃光も届かないって、アイツの学習能力が速すぎる……)

凛(片手で振りぬける限界速度で打ちこんでいるのにかわされる……二刀流で全身を使って剣を振りぬけば多分まだ当てることができる……)

凛(あの手を斬り飛ばして連続で閃光を撃ちこめれば今度こそ肉片一つ残さず消し飛ばせるはずだけど……)

凛(二刀流で閃光を撃ちながらの攻撃は……掌の閃光は剣を手放してしまう可能性もあるし……やっぱり黒球をどうにかして動かして攻撃をするしかないけど……)

凛(空を飛びながらじゃ……どうしようも……)

凛(飛びながら…………?)

そこで閃いた。

凛(そうだ、別に飛んでいなくてもいい)

凛(落下しながらなら、飛行する思考もしなくていいし、黒球を動かすことに集中できる)

それは自由落下しながらの攻撃するという考え。

空を飛んでいる状態で、自由に黒球を動かせないのならば、空を飛ばなければいい。

あの男の上空から、落下しながらならば黒球を動かして攻撃をすることも可能、二刀流で戦うことも可能。

思い立ったが即断、凛は両手に双大剣を装備して上空に飛翔し、男とある程度の距離を空けて飛行リングの制御を完全に手放した。

飛行していた凛はその身を自由落下に任せて落ち始める。

男を見ながら6つの黒球を男の周囲に移動させて、黒球から閃光を発射した。

「おっ……」

男は黒球の閃光を掌から照射する閃光で相殺しようとするが、6つの閃光を相殺しきれずに再びその肉体を焼かれ始める。

だが、それもつかの間、男は黒球から生み出される閃光を全て相殺し始めた。

「うん、なるほど。そうかそうか」

高速で腕を動かし全ての黒球からの閃光を相殺する男。

あっという間に凛の黒球の攻撃に対応した男だったが、閃光を相殺する為に全身を動かしていた為に、上空から襲い掛かってきた二つの刃を避け切ることができずに、その腕を斬り裂かれてしまった。

「おぉッ?」

斬り飛ばされて空中を舞う手は、まるで意思を持ったように動く黒球に閃光を照射されて燃え尽きた。

「ほう、そうかそうか」

男は腕を一瞬で再構築し始めたが、その身にまたも上空から凛の双大剣襲い掛かった。

今度は斬り裂かれずに回避したが、男の背後に回りこんでいた黒球が男を撃ちぬく。

「ぬッ?」

その黒球が撃ち抜いた場所は風穴が空いたまま再生されず、男は閃光に撃ちぬかれた衝撃で固まってしまった。

その固まった男を、凛の剣が完全に捕らえた。

凛「貰った!!」

空中でその身を回転させながら凛は剣を振り回す。

剣で男の身体は半分になり、さらに返す剣で男の身体は4分割され、その男の肉体を凛は斬り刻み続けた。

縦横斜めと斬り付け、バラバラとなった肉片を黒球の閃光で焼き尽くす。

今度は一遍の肉片も残さないと、凛は全神経を集中させて男を分解し閃光を撃ち込み続け、その肉片一つ残さず完全に消し飛ばした。

凛は上空で男を完全に消し飛ばしたことを確認すると、少しだけ警戒を解いていた。

凛(完全に消し飛ばした、肉片一つ残さずに)

いくらなんでも肉片一つ残さず消滅してしまったら再生するも何もないだろう。

倒した、100点の敵を単騎で。

その実感が沸き、凛の脳内に快楽物質が生み出され始めたときにそれは起きた。

凛の真下、地上から響く大きな衝撃音、そしてビリビリと響く衝撃波。

凛「え……? 今の何?」

雲海に阻まれ地上の様子は見えない、だが確かに何かが起きた。

凛「下で、何かが起きているの?」

この上空まで届く衝撃波、明らかにただ事ではない。

何かとんでもないことが起きていると直感した凛は地上に向かって急降下を始めようとした。

その凛に、今まで感じもしなかった寒気が襲いかかる。

凛「っ!?」

突風と共に、霧状の何かが舞い上がっている。

雲のような煙のような霧状の何かは凛の眼前で形を形成し始め、

凛「嘘……まさか……」

徐々に霧状から泡立つように骨格が現れ、その骨格に肉がへばりついていく。

へばりついた肉は人の形状に変化して行くが、人間の姿にはならずに、顔は肉に覆われず髑髏顔のまま、肉が形成された場所も神経や筋肉がむき出しとなっており、その背からは無数の骨が翼のように突き出ていた。

凛「うぅ……」

今まで様々な星人を見てきたが、凛はこの星人がそのどれとも違う異質な星人だという事を直感的に理解していた。

恐怖の感情に蓋をしているはずなのに、恐ろしいと感じる。

本能的なものが逃げろと叫んでいる。

少しだけ感じ始めていた快感も消し飛んで冷たい汗と恐ろしいほど早く鼓動する心臓音が聞える。

今までに無い精神状態、凛は自分の精神を元に戻そうと必死になっていた。

そして、その凛に、目の前の化け物は、

「ふーっ……ふーっ……おもしろい……ふーっ……よもやこれほど……ふーっ……興味深い……ふーっ」

凛(……ヤバいかも、何なのコイツ……)

化け物が言葉を放つと凛の全身に冷たい汗が噴き出して、さらに全身がビクリと震えた。

明らかに自分は恐怖している。

今まで、いや、星人との戦いを自分から受け入れてから、星人に恐怖することなど一度も無かったのにだ。

それだけ、この化け物は今までの連中とは格が違うということ。

そして、この化け物をどうにかして倒さない限り誰一人生きて帰れないという事を理解してしまった。

凛(もう出し惜しみも何もない、私のできる最大の攻撃をコイツに喰らわせるしかない)

凛(この双大剣の消滅現象。これを使うしかない)

凛(さっきも消し飛ばしたはずなのにこいつは再生してきたから、消滅現象でも再生する可能性もある……)

凛(いや、閃光での攻撃は消滅というよりは焼き尽くして消し飛ばす方法、こっちは恐らく完全消滅させる……はず)

凛(さっきは多分細胞が残っていて再生された……? 細胞一つ残さず消滅させれば倒すことも出来る……?)

凛(駄目、不安になっている。考えがまとまらない、このままだと撃ちこむ前に殺されてしまう……)

凛(私の心臓、うるさい……少し黙って……私の恐怖の感情、邪魔……)

凛の精神状態が急速に冷めていく、それと同時に全身の汗が止まり恐ろしいほど高鳴っていた鼓動が小さく、微弱な鼓動に変化する。

「ふーっ……まだ何か見せるか……ふーっ……そうか……ふーっ……」

凛は両手の大剣をだらりと下げて持っていた。

構えとも呼べない完全に脱力した状態で軽く握っている。

凛(アイツの動きを完全に止めて、消滅現象を引き起こす)

凛(さっきみたいな攻撃は恐らくもう通じない、コイツの学習能力は尋常じゃない)

凛(そうなるともう、接近戦)

凛(バラバラにして、肉片が散らりきらない一瞬で決める)

凛(アイツの攻撃を避けきり、私の攻撃を叩き込む)

凛(単純だけど、確実にしとめられる方法はもうコレだけ)

凛(アイツも待ってくれないし、他の作戦を考えている暇もない)

凛(やるしか……ない)

凛が決断をしたときにはもう凛の身体は動いていた。

イメージは最速で最短に敵の懐に入り攻撃する。

そのイメージは飛行リングに余すことなく伝わり、凛の動きは残像を残すほどの速度に達し敵の懐に潜り込んだ。

そして、懐に潜り込んだ凛は軽く握った剣を振り切った。

その一撃は完全なノーモーションでの攻撃。

無駄な動作が全て無い無拍子の一撃は確かに化け物の肉体を斬り裂いた。

そして、その斬り飛ばした凛の眼前に、丸い骨の球体が現れる。

その骨の隙間から閃光が生み出されるその瞬間を凛は見た。

その球体は凛の黒球を模して作った化け物の武器。

その閃光を凛は至近距離で目撃し、

凛の胸に閃光が照射された。

凛「がっ! はぁっ!?」

閃光が照射され凛は吹き飛ばされる。

唾液と肺の息を吐き出しながら空中を回転しながら数百メートル吹き飛ばされて空中で静止した。

凛「がはっ!? げほっ!!」

凛は胸を押さえて、その胸部に大きな窪みができている事に気がつき目を向け、胸部がへしゃげた軽量ハードスーツを見て戦慄する。

凛「こほっ……一発で……ハードスーツが……」

全壊までには至っていなかったが、ハードスーツはすでに異音を発しており次の一撃で確実に破壊されることが予想された。

体勢を立て直す凛の視界に、6つの球体を浮かべながら高速で接近する化け物の姿が入る。

先ほど凛が斬り裂いた部分はもう再生が完了し、化け物は無傷で襲い掛かってくる。

凛はハードスーツも半壊し、次の攻撃で完全にスーツを破壊されると判断し、

両手の剣のフィールドを同時起動させた。

敵が凛の射程距離に到達するまで数秒。

凛(時間が……足りない……)

消滅現象を引き起こすには最低でも5秒、それまでに敵は襲い掛かってきてしまう。

凛(まにあわ…………)

高速で襲い掛かる化け物が凛の眼前、十数メートルに差し掛かかった。

凛の眼に、髑髏の顔が大きく映りこみ先ほど凛を吹き飛ばした球体が映りこんだかと思った瞬間、

化け物の半身が突如、雲海を割って立ち昇る黒いエネルギーに飲み込まれ消滅した。

凛「っ!?」

黒いエネルギーは空を貫き、さらに上空に突き抜けていった。

何が起きたのか一瞬理解できなかった凛は、化け物の半身がゆっくりと落下していく様子を見て我にかえった。

今まで一瞬で再生していたのに、再生する素振りも見せずに落下していく化け物。

もう少しで自分を攻撃して殺せたはずなのに、それもせずに無防備に落下していく。

それは凛に一つの予想を連想させるに十分な光景だった。

凛(再生しない? 何故? 今の謎の攻撃を喰らったから?)

凛(いや、違う。再生しないんじゃなくて……できない? 私の攻撃だとこんな事は無かった。今の攻撃……完全な不意打ちになる攻撃を喰らって…………っ!!)

凛(そうか……見えた! アイツの再生条件!)

凛は直感する。

あの化け物は見えないところからの不意打ちが有効。

凛(チャンス!! 今なら完全にアイツを消滅させることが出来る!!)

そして、不意打ちを喰らった今、化け物は無防備な状態で抵抗できずに自分の攻撃を叩き込むことが出来る。

細胞一つ残さずに消滅させることが今なら可能。

凛は落下していく化け物を追う様に、急降下し化け物の下半身に双大剣を突き刺し重力と無重力のフィールドを同時発生させた。

消滅現象が発生するまで5秒。

凛(このまま、消し飛ばす)

4秒。

凛(大丈夫、動きもしない、このまま消し飛ばせる)

3秒。

凛(このまま……このまま、お願い……)

2秒。

凛(まだなの……? 早く……)

1秒。

消滅現象が発生する1秒前。

その最後の1秒で、凛の右手にどこからか現れた腕が触れた。

凛「っ!?」

その腕は凛の右の二の腕にそっと触れたかと思うと、その掌から閃光を生み出し、凛の右腕はハードスーツあらぬ方向にへし折れた。

凛「ぎぃっ!!」

その衝撃で凛は大剣を一本手放してしまった。

もう1秒あれば消滅現象を引き起こせていたはずなのに、その1秒が足りなかった。

そして、接近した状態で凛は急速に再生していく星人の姿をその眼に映してしまった。

残っていた下半身から上半身が形成されていく。

今度は血管や筋肉が浮き出ておらず、皮膚も形成されていく。

真っ白な透き通るような白い肌。

丸みを帯びたボディラインは女性の肉体であると一目で分かった。

その肉体はさらに形と大きさと美しさ、その全てを備えた女性の象徴の双房を作り出し。

最後に頭部が形成され、黒く輝く腰ほどまである黒髪の女性の姿を象って星人は完全に再生を果たしてしまった。

その星人の姿を見た凛は攻撃をする手を止めて、ただ呆然と、

凛「わ、私?」

自分と同じ顔の星人を見ながら呟いていた。

顔は凛その物といってもいいほど瓜二つ。

だが、その肉体は完全な別物。

凛が未成熟な果実だとすると、星人の肉体は完全なる旬の果実。

真っ白で透き通るような肌、豊満なバストと官能的なボディラインを太陽に照らされ、見るもの全てを虜にするほどの肉体を惜しげもなく晒していた。

その凛の顔を持った全裸の星人をただ凛は見続けていた。

そして、星人は凛に首をかしげながらも、

「次は何を見せるのだ?」

「おまえは興味深い、まだ何かを持っているな?」

「見せてみろ、おまえの全てを」

凛「…………」

「どうした? 来ないのならばこちらから行くぞ」

凛「くっ!」

凛は動かなかった、いや動けなかった。

今の状況でこの星人を倒す方法がなかったから。

凛(右腕は折れて使い物にならない……これじゃ二刀流も出来ない……)

凛(不意打ちの攻撃をしようとしても、今のコイツにそんな隙なんか無い……さっきみたいな完全なイレギュラーが無い限りどうしようもない……)

凛(私一人じゃ……勝てない……)

凛の脳裏に浮かぶのは共に訓練をしてきた4人の顔。

凛(未央、卯月、加蓮、奈緒……みんながいてくれたら……)

凛(私一人じゃなくて、みんながいてくれたら、こんな状態にはなってなかった……)

凛は初めて戦いで弱音を吐き出していた。

昔は一人でどんな敵でも狩りつくしてみせると考えていた凛だったが、この数ヶ月で自分の心を揺れ動かす4人と共に過ごしその思考が変化していっていた。

4人との絆を深めることによって、凛は弱音を見せるほどまでにその精神性を弱めていた。

その凛に手を向ける星人。

星人の手にはいつの間にか凛の持つ大剣のような武器が握られており、それを凛に向けて叩きつける。

それを左手の大剣で受け止めるが、凛はそのまま後方に吹き飛ばされた。

星人は吹き飛ばされていく凛に一瞬で追いつき、今度は両手に武器を生み出し、凛に叩きつけるように振り下ろした。

その攻撃も凛は防ごうとするが、あまりの攻撃の重さに大剣を弾き飛ばされて、追撃の一撃をまともに喰らってしまった。

凛「うぐっ!?」

星人の一撃を喰らった凛はそのまま地上に落下していった。

星人の一撃で飛行リングの一部を破壊されてしまい空中を飛ぶことも制御することもできずに雲を突き抜け隕石のごとく地上に落下していく。

上空数キロ地点からものの十数秒で地上に到達し、凛は瓦礫の山に叩きつけられて、凛の落ちた場所は大きく陥没し、その中央で凛はスーツ越しに伝わった衝撃で肺の中の空気を全て吐き出していた。

凛「がはぁっ! げほっ! ごほっ!」

目の前が真っ白になっている。

ハードスーツは今の衝撃で完全に破壊されたようでパーツが飛びちっていた。

スーツ自体はまだ無事なようだが、キュウウンという異音が聞え、もう限界が近いという事を示している。

動くことすらままならない凛に、星人が雲を割って襲いかかってきた。

星人は地上に落ちた凛を見つけると、その頭上に浮かんだ6つの球体と掌から閃光を生み出し凛に撃ちこんだ。

それを凛はただ見ている。

地面に埋め込まれて動くことが出来ない状態で見続けていた。

凛(……まずい、アレを喰らったら死ぬ……)

凛(……1発でハードスーツを半壊に持っていかれた攻撃……ハードスーツが壊れてしまった今、確実に死んでしまう……)

凛(……避けないと……避けて距離を……)

凛(…………動け、ない……体が動かない……)

凛(………………死ぬ? 私、死ぬの……?)

星人の閃光が眼前にまで迫ってきて凛は死を覚悟した。

動けない、防御も出来ない、対処も出来ない。

完全な詰み、間違いなく死ぬ。

凛はその眩い光を目に焼き付けながら、

ズンッ、ズンッ、ズンッ、ズンッ!

自身を焼き尽くすであろう光が重い音が何度も発生すると共に掻き消えた瞬間を目にして思考が停止した。

凛「…………え?」

そして凛は聞きなれた声を耳にする。

「凛、危なかったねー」

「間一髪ってとこだな」

バチバチと凛のすぐ傍で放電が起こり、何も無い空間に人の姿が現れた。

「凛がそこまでボロボロにされるなんて、今回のボスは相当な奴みたいだね」

「……この街の状況を見ても、とんでもない敵がボスだって言うのは間違いないよな」

透明化状態を解除したその二人は、両者ともZガンを構えていた。

凛はその二人の名前を搾り出すように呼んだ。

凛「加蓮……奈緒……」

加蓮と奈緒は凛を守るように一歩前に出て、

加蓮「凛、ここはアタシ達に任せて」

奈緒「凛をそんな目にあわせた奴はあたし達がぶっ飛ばしてやるからな」

ボロボロとなった凛に共に戦う仲間が合流し、星人との最終ラウンドが始まった。

今日はこの辺で。

凛は自分の目の前で自分を守るように立つ二人を呆然と見ていた。

自分がやられる寸前、本当に死ぬ寸前にタイミングを合わせたかのように現れた加蓮と奈緒。

幻でも見ているのかと考えた凛だったが、二人の放つ怒気をその肌で感じ取り本当に二人は幻でも何でもなくここに存在するのだと実感した。

その二人の放つ怒気、それは凛をここまで傷つけた星人に対して向けられる怒り。

親友である凛が殺される寸前だった。

それだけで二人の怒りのボルテージは頂点にまで上り、

加蓮「凛をこんな目にあわせた奴は……あれね。空から悠々と降りてきて……潰してやるかな……」

奈緒「……凛が傷ついた分をそっくりそのままあの野郎に返してやる」

空から降りてくる存在に二人の怒りがそのままぶつけられ、二人とも身を低く沈め、飛びかかろうとしていた。

だが、それに待ったをかけたのは、凛。

凛「ま、待って……二人とも、待って! 行かないでっ!!」

加蓮「……凛?」

奈緒「どうしたんだ……?」

必死な声色で自分たちを止める凛に二人とも振り向いた。

凛から切羽詰った雰囲気を感じ、二人とも熱くなった思考に少しだけ冷たい風が通り抜けた。

凛は二人の状態が危ういものだとすぐに気が付いた。

怒りに身を任せて冷静な判断が出来ていない。

二人とも凛がボロボロに傷ついている姿を見てしまったからこそ、そのような状態になっているのだが、今あの敵に冷静な思考を欠けて、無策で飛び込んでしまったら一瞬で殺されてしまう事は明白だった。

今まであの敵と戦っていた凛だからこそ、あの敵の恐ろしさを理解した凛だからこのままだと二人とも殺されてしまうという事が分かってしまった。

凛は加蓮と奈緒を止める。

だが、その静止は今からの戦闘を止めるものではなかった。

凛「二人とも……聞いて……」

折れた右腕を押さえながら凛は立ち上がった。

加蓮「凛、無理しちゃ駄目。怪我は右手だけじゃないでしょ?」

奈緒「そ、そうだぞ、そんなボロボロの状態で無理して起き上がるのは……」

凛「私は大丈夫。今、痛みは殆ど感じてないから」

加蓮の言うとおり、凛の怪我は右手の骨折だけではなかった。

空の上から落下した衝撃はスーツ越しにも十分伝わり、凛の全身は軽くない打撲を負っていた。

だが、その痛みを凛は現在感じていなかった。

死ぬ寸前までに追いやられた凛の脳内からは脳内麻薬が分泌され、全ての痛みを一時的に消しさり、その集中力の鋭さも今まで以上になっていた。

奈緒「痛みを感じてないって……」

凛「戦いで追い詰められるとよくなるんだよ。……そんな事より、アイツは今までの敵とは別格の敵。二人が何も知らない状態で挑んだら多分殺されちゃうよ」

加蓮「……もしかして、今回も100点?」

凛「うん、そう」

奈緒「マジかよ……」

100点の星人。前回のオニ星人の姿を思い出す二人。

怒りで渦巻いていた頭に前回味わったあの圧倒的なまでの絶望感が二人に襲い掛かる。

だがそれもつかの間、加蓮と奈緒に並ぶように隣に足を運んだ凛を見て二人は凛を止めようとする。

加蓮「ちょっと凛! 無茶しちゃ駄目だって!」

奈緒「そうだって! 凛は戦いが終わるまでもう動くなよ!」

二人の制止に答えず凛は星人の特徴を告げ始めた。

凛「聞いて。アイツは再生タイプ……多分アイツが認識している攻撃は全部再生される。倒せるとしたら、アイツが認識も出来ないような完全な不意打ちくらいしか手段はない……と思う」

凛は自分の状態を確認しながら説明を続ける。

凛「加えて学習能力が尋常じゃない。再生するたびにこっちの攻撃を学習して似たような攻撃をやってくる。私がもう何回もアイツをバラバラにしたけどそのたびに再生して、私の攻撃はもう殆ど通じない状態」

右手は完全に折れている。だけど痛みはない。全身の打撲もそうだ、痛みは感じない。

武器は吹き飛ばされたときに全て手放してしまっている。

ハードスーツも壊れた、バイザーも衝突した衝撃でどこかに吹き飛ばされた。

通常のスーツのみの状態。

凛「形状は不定形。再生するたびに姿を変えてきてる。化け物の姿から人間の姿、男女の区別も付かない、そして今のアイツは……」

凛の視線の先の星人の姿が二人にも映る。

加蓮「り、凛?」

奈緒「え、えっ? なん……」

凛の顔を持った豊満な肉体の女性。

星人は両手に剣状の武器を持ち、頭上に6つの球体を浮かべ凛達にゆっくりと近づいてくる。

最初は凛の顔をした裸の女性に戸惑いを感じた加蓮と奈緒だったが、その星人から発せられる威圧感をその身で感じ思わず数歩後退していた。

凛「アイツの特徴はこんなところ。それじゃ、加蓮、奈緒、私がアイツの気を引きつけるから、二人は身を隠してアイツに不意打ちを食らわして倒しちゃって」

加蓮「ちょ、ちょっと! アレを引き付けるって……そんな身体で無茶だよ!」

奈緒「そ、そうだって! あたし達が何とかするから凛はもうこの場を離れて……」

凛「気遣ってくれるのは嬉しいけど、アイツは私を標的にしてる。私がおとりになれば不意打ちの成功率はかなり高くなるはず」

視線を星人から外さずに凛は二人に言った。

途轍もない威圧感を放つ星人に、その傷ついた身体で立ち向かおうとしている凛。

最初は無茶だと考えていた二人だったが、凛のその佇まいが怪我をしていると思わせないほど洗練されており、その表情は怯むこともなく、小さく笑みまで浮かべていた。

二人とも何度も戦闘経験を経て、相手の実力を把握する能力を培っていた。

近づいてくる星人は二人が怯むほどの存在、だが、今この横にいる凛もそれと同じくらいの力を持った存在だという事を二人は感じ取っていた。

加蓮と奈緒は先ほどまで考えていた凛への気遣いを頭の外に追いやった。

怪我をしている、だが凛は万全の状態。

ならば自分たちのする事は?

万全の状態の凛と共に、あの規格外の星人を打ち倒すこと。

加蓮と奈緒はお互いの顔を見合わせ、どちらとも言葉を発することなくお互いの感情を理解しあっていた。

そして、その加蓮に凛は声をかけた。

凛「加蓮、剣を貸してもらえる?」

凛は星人に向かい一歩踏み出す前に、ガンツソードを加蓮から譲り受ける為に手を出す。

加蓮は凛の頼みに答え、凛にガンツソードを手渡した。

そして、加蓮も凛の隣に立ち、持っていたZガンを奈緒に渡し、ハードスーツを完全に装着して拳を握りこんだ。

加蓮「凛、アタシもおとりになるよ」

凛「……おとりは私だけで十分だって。不意打ちを成功させるには二人とも隠れてチャンスを狙ったほうが……」

加蓮「逆だよ凛。おとりが多いほうがそれだけチャンスは増える、アタシと凛がおとりになって奈緒が完璧な攻撃をアレに撃ち込む。それがベスト。オーケー?」

凛「加蓮……」

加蓮「そういうわけで、奈緒。アタシ達がアレを完璧に引き付けるから、完璧な一撃を決めちゃって」

奈緒「簡単に言って……責任重大すぎるだろ……」

あの星人に完璧な不意打ちを成功させる。

恐らくは命を賭しておとりを引き受ける二人には攻撃を当てないように不意打ちを成功させる。

それがどれだけ難しいことなのかと奈緒は考えていた。

その奈緒に加蓮はあっけらかんと絶対の信頼を感じさせる口調で、

加蓮「できるでしょ?」

奈緒は加蓮から問いかけられるその言葉に一呼吸だけ置いて、力強く答えた。

奈緒「任せとけ!」

加蓮「うん、任せた」

その言葉に満足そうに頷き加蓮は隣に立つ凛に右拳を突き出す。

加蓮「そういうわけで、おとりはアタシと凛。フィニッシュは奈緒。アタシ達は奈緒が決めてくれることを信じてアレの足止めをする」

その右拳に凛はやれやれといった感じでガンツソードを握ったまま左拳を合わせる。

凛「もう……」

そして、その拳から伝わる存在感が、万全な精神状態となっていた凛をさらに押し上げた。

凛「頼らせてもらうよ。加蓮、奈緒」

加蓮と合わせていた左拳を回転させて親指を立て奈緒に向ける。

それを見た奈緒は小さく笑いながら、両手にZガンを装備して戦闘準備を完了する。

奈緒「よし、あたしの準備は出来た……いや、凛! 剣を伸ばしてくれ!」

凛「了解」

凛はそのまま左手に握られたガンツソードのスイッチに親指を這わせてガンツソードを伸ばした。

凛は背後から何かカチャカチャと音を耳にして、奈緒が何かをしているのだと気付いて声をかける。

凛「奈緒? 何をしてるの?」

眼前の星人から目を離すことが出来ない凛は奈緒の行動を問いかけるが、

奈緒「ちょっとした思い付き……だけど、うまくいけば完璧な不意打ちを撃ち込める魔法をかけたんだ」

凛「へぇ……」

加蓮「どんな思いつきなの?」

奈緒「それは……」

奈緒が答えようとしたその時、すでに十数メートルまで近づいて来ていた星人が動きをみせた。

その身を低く屈みこみ、地面を砕きながら超速で接近する星人。

3人はそれを見た瞬間、同時に飛び出した。

凛は星人に向かい剣を構えて。

加蓮は凛と星人を飛び越えるように上空に。

奈緒は両手にZガンを構えたまま後方に。

――みんな。

――絶対に。

――勝つぞ!

凛と星人が交錯し、戦場に轟音が鳴り響いた。

星人が凛に詰め寄り、上段から二刀の振り下ろしを仕掛けてきた。

その一撃は重く、通常のスーツならば押しつぶしてしまうであろう威力の一撃。

その一撃を凛は、左手のガンツソードを斜めに構え、力の向きを変えて受け流す。

「ほう?」

受け流されて地面に突き刺さった星人の剣はすぐに地面を粉砕しながら斬り上げられた。

しかしその振り上げられた剣は凛を真っ二つにする事はなかった。

それどころか、凛はその振り上げられた剣の刀身に乗り、軽く跳躍して星人の背後を取るという曲芸師も目を見張るような軽業を見せた。

「なんぞ? それはなんぞや?」

くるりと振り向く星人に凛は攻撃する気配も無く、小さく息を吐きながら星人を見続けていた。

右腕をだらりと下げながら左手の剣を正眼に構える。

それに対して星人は無造作に剣を横薙ぎに振るう。

無造作ながらもその速度は眼にも留まらぬ速度の一撃。

だが、その一撃を凛は一歩後退することで避けていた。

凛(……見える)

凛は星人の攻撃をまるでコマ送りの映像を見るように捉えていた。

再び星人からの攻撃、今度は二刀を交差させるように繰り出してくる。

その攻撃も凛にはまるで止まって見えていた。

踵に重心を置き回転させるように身を動かし星人の攻撃を回避する。

凛(この感覚……何度も経験したことがある……)

凛(そう、死ぬ寸前のあの感覚……)

凛は気付く。

今のこの状態は、死ぬ寸前にいつも感じる全てがスローモーションになる感覚。

極限状態に置ける一種の特殊な感覚を今の凛は操ることが出来ていた。

それは先ほど死ぬ寸前に追いやられた事が引き金となった。

死の瞬間を垣間見て得た感覚、そしてそれと共に今までに無いほど高まった集中力が合わさり今この瞬間のみ凛は死の瞬間の感覚を自在に操る術を手にしていた。

今の凛には全てが止まって見える。

星人の攻撃も全て止まって見えていた。

どんなに速い攻撃だろうとその全てを凛は回避し続ける。

星人の繰り出す攻撃は全てが視覚できないほどの攻撃で、超高速で繰り出されるその連続攻撃は凛と星人の周囲を破壊しつくしていった。

それを遠巻きで見る加蓮は自分が入っていくことすら出来ない戦いを瞬き一つせずに見続けていた。

加蓮(とんでもない速さ……凛も信じられないくらい無駄のない動きで避け続けてる……)

加蓮(だけど、このままだと……)

加蓮はこのまま凛が星人の攻撃を避け続けれないと判断していた。

星人の攻撃は一撃を受けただけでスーツごと持って行かれてしまうほどの攻撃。

一発でも攻撃を喰らったら終わり、その圧力の中永遠に避け続けることなどできるわけがない。

しかも星人の速度は心なしか徐々に速くなってきている。

このままだと凛は捕まってしまう、そして捕まった凛の未来は確実な死。

加蓮の心臓の鼓動が大きく跳ね上がった。

加蓮(ふーーーっ)

ドクン、ドクンと凄まじい速度でなり続ける鼓動。

何度落ち着かせようとしても鼓動は弱まるどころか強くなり続ける。

張り裂けそうな胸の鼓動と共に加蓮は凛と星人の繰り広げる死の舞台に足を踏み出す。

加蓮(凛は完璧に避けているけど、攻撃をしていない)

加蓮(伝わってくる、凛は攻撃をしないんじゃなくて、できない状態なんだ)

加蓮(あの星人、凛を攻撃しながら学習している。その攻撃を避けながら攻撃をするなんて余裕は凛にはない)

加蓮(それなら、凛が攻撃を出来ないなら)

加蓮は足を進め、暴風のような攻撃の嵐の範囲内に入り込んだ。

そして、加蓮の精神状態は一つ上の段階に切り替わった。

凛は星人の攻撃を避け続けながらも決定的な攻撃を繰り出せないことにほんの少しだけ苛立っていた。

死の間際の感覚、通常の何百倍にも匹敵する体感時間を以っていても、動かせる肉体の限界はある。

凛の今の精神状態に肉体がついてこない、その状況に凛は少しだけ苛立ちを感じる。

だが、その苛立ちは凛の視界に加蓮が映る事によって露と消えた。

――加蓮!!

――凛、合わせるよ!!

お互い声を発していない。

だが何を考えているのかが理解でき、その声が伝わってくる。

幻聴とも感じられるその声は確かに二人が考えていることだった。

凛が星人の攻撃を避ける。

その刹那、星人の肉体は背後から繰り出された加蓮のハードスーツの刃により皮一枚を残して輪切りにされた。

「ぬっ?」

星人の千切れかけた胴体は回転しながら加蓮の姿を捉え、球体を動かして加蓮に照射した。

だがその球体から放たれた閃光は加蓮を焼くことは無く、凛のように一切の無駄のない動きで紙一重で回避していた。

「ほう、もう一人か?」

背後から攻撃された部分を直さずに星人は地面にその頭をつけて、凛と加蓮に攻撃を始めた。

先ほどよりも苛烈に、両手の剣と6つの球体から閃光を撃ち出しながら攻撃をし続ける。

その不規則な攻撃は予測することも困難な攻撃であったが、二人ともその全てを避けきり、再び視線を交差させた。

――加蓮、超高速の攻撃合わせれる!?

――今なら何でも出来る気がするよ、やって!!

お互いの思考が分かる。

極限までに高まった精神状態が成せる現象なのか、二人はそれを不思議とも思わずに受け入れていた。

お互いの息遣いも、張り裂けそうな鼓動ですらも感じられるほど同調した二人。

その二人が星人を圧倒するほどの攻撃を見せた。

まず凛が左手に持っていたガンツソードをあえて折れた右腕に持ち変える。

二の腕からへし折れたはずの右腕だったが、痛みを感じていない凛は右手にガンツソードを握り締めて振り抜いた。

凛の骨が折れた部分は一瞬で伸びきり凛の右腕は長くなったように見えた。

そして、振るわれた右腕はまるで鞭のようにしなり、凛の右腕の間接は全て外れ凛の右腕は3メートル近い長さになっていた。

そして、その右腕を、ガンツソードをしっかりと握り締めた右腕を凛は鞭のように振るい斬撃を繰り出した。

その速度は学習した星人を以ってしても知覚することも出来ずに、音を置き去りにして星人を袈裟懸けに分断した。

「おっ、おぉぉ……」

斬り裂かれた星人だったがその頭上の球体を凛と加蓮を焼く為に動かす。

肉体は地面に這いつくばってはいたが、まだ二人を殺しえる武器は宙に浮き二人を焼きつくさんと動き始めた。

だが、その球体が動いたその時。

凛が再び右腕を振るいその一つを切り裂いた。

切り裂かれた球体は浮力をなくし地に落ちる。

しかし、凛が切り裂いた球体は一つだけ、残りの五つは今も二人を焼き尽くそうと閃光を生み出そうとしていた。

そうして閃光を生み出す瞬間、激しい金属音が鳴り響き宙に浮かぶ二つの球体が切り裂かれた。

それを成したのは加蓮。

あろうことか加蓮は凛の繰り出した音をも置き去りにする斬撃を弾き、軌道を変え球体に向かわせて切り裂かせたのだった。

音速の一撃を合わせられたのも全てはお互いの精神状態によるものだった。

凛がどこに攻撃するかさえも加蓮は手に取るように分かった。

そして、それは凛も同じ、加蓮がどう動くのかが見える。

お互い何をするかが分かっているからこその神業、今この瞬間だけの奇跡の業だった。

――やるね。でも、まだまだいくよ? 目を回さないでね

――任せて、全部受け止めてあげるよ。

凛が繰り出した音速の斬撃は球体を斬り裂き、さらにその軌道を加蓮が変えて全ての球体を斬り落とした。

だが、それに留まらず、二人の舞は苛烈さを増し続ける。

すでに星人の肉体は原型を留めていない。

音速で繰り出される連続攻撃に成すすべもなく星人は斬り裂かれていた。

だがこれではこの星人を倒すことは出来ない。

このまま攻撃を続けていても再生されてしまう。

そう二人が考えた直後、今まで斬り裂かれていた肉片が集まり一つの肉塊が生まれた。

その肉塊から何かが生れ落ちようとしたその瞬間、

二人はどこかからか聞えてきた声を聞いた。

――凛!! 剣を刺して飛べっ!!

――奈緒!? 分かった!!

凛は後方に飛びのきながら肉塊にガンツソードを投げつけた。

音速で肉塊を貫いたガンツソードはそのまま地面に突き刺さり肉塊を固定する。

そして……。

凛と加蓮から分かれた奈緒はZガンを持ちながら大きな瓦礫に背を預け目を瞑っていた。

目を瞑りながら奈緒は己の張り裂けるような心臓の音を聞きながらも、その時を待っていた。

奈緒は視覚を遮り聴覚に全神経を注いでいた。

瓦礫の影から身を出して星人に気付かれないために。

少しでも自分の姿を晒してしまったら気づかれてしまうのではないかというその一抹の不安が奈緒に全神経を聴覚に注ぐ要因となっていた。

だが、星人の姿を見ることも無く不意打ちをかける、そんな事は不可能。

しかし、奈緒には一つの策があった。

それは、凛に手渡したガンツソードに仕込んだ策。

奈緒はZガンのロックオン機能を使い、凛に手渡したガンツソードをロックオンしていたのだった。

奈緒は凛が星人にガンツソードを突き刺すその瞬間を狙っていた。

本当は凛に説明してガンツソードを突き刺す事に専念してもらいたかった、だが時間が無さ過ぎて説明することも出来なかった。

しかし、奈緒には不思議な感覚があった。

説明をしていない、だけど凛と加蓮は自分のしたいことを理解してくれている。

確証も何も無かったが何故かその感覚を奈緒は信じる事にした。

自分の心臓の鼓動と共に、二人の息遣いや二人の鼓動、そして二人の会話が頭の中に聞えてくるその感覚を信じ。

そして、奈緒は目を瞑りながら自分の感覚を高め続ける。

目を瞑っているが奈緒には二人の位置が分かった、二人の行動が分かった、そして二人の思考が手に取るように分かっていた。

二人は今あの星人を信じられないような連携攻撃で追い詰めている。

バラバラにして原形もとどめないほどの状態にしている。

だけど、これだと倒せない。

そしてこの状態だとガンツソードを突き刺そうにも刺すことができない。

奈緒は気配を殺し、感覚を研ぎ澄ませ、二人の戦いを感じながらその時を待っていた。

確実に訪れるであろうその時を。

そして、その時は来た。

凛と加蓮が何かを見つけた。

それを感じた瞬間、

――凛!! 剣を刺して飛べっ!!

奈緒は二人にだけ伝わるくらいに気配を発し心の中で叫んだ。

奈緒のその心の叫びに、

――奈緒!? 分かった!!

凛の声が返ってきた。

加蓮もいる、感じる、みんな繋がっている。

凛も加蓮も飛びのいてくれた。

凛はガンツソードを星人に突き刺して固定して逃げられないようにしてくれてる。

奈緒はその両手にもったZガンの引き金を絞り込み。

奈緒(あぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁああぁぁ!!!!)

その引き金を何度も何度も何度も引き続けた。

凛と加蓮が飛びのいた瞬間それは起きた。

ガンツソードが突き刺さった星人が潰れた。

Zガンの破壊痕、それは一度ではなく二度三度四度とガンツソードを中心に発生し続けていた。

星人であった肉塊は数度のZガンの攻撃で完全にその形を失い潰れきっていた。

だが、それでもZガンの重力波は終わらずに十数度発生した時点で地面は崩壊しガンツソードは弾き飛ばされてくるくると宙を舞った。

そのガンツソードに尚もZガンの重力波が発生し続ける。

ガンツソードを中心に破壊痕が発生し、ガンツソードが吹き飛ばされるとさらに違う場所に重力の奔流が生み出される。

凛と加蓮は十分に離れてその破壊の嵐を見続けて、数分間、視界の全ての瓦礫の山が更地になるまで見続けていた。

凛「はぁっ……はぁっ……」

加蓮「ふーっ、ふーっ……どう?」

凛「……気配は……ない」

加蓮「それじゃ……」

その時、二人の背後に何かが着地する音が聞えた。

二人ともその何かに視線を向ける。

いや、視線を向ける前からその何かを二人とも認識していた。

両手にZガンを持った奈緒が着地して身を屈めた状態で二人に小さく笑みを見せていた。

凛「奈緒」

奈緒「へへっ」

加蓮「ふふっ」

その奈緒の笑顔を見て凛と加蓮も表情を崩しお互い笑みを見せる。

3人ともこの場にいるのは自分たちだけだということを感じていた。

先ほどまで感じていた圧倒的な圧力は消えている。

凛「倒した……私達の勝ち」

加蓮「うん……間違いないね、倒せた。アタシ達みんなで倒したんだ」

奈緒「は、ははは、信じられないけど、あたし達、あの化け物をやっつけたんだ……」

そして、糸が切れたようにまず凛がその場に座り込み、空を見上げるように仰向けになった。

凛「ンッ…………はぁぁぁっ…………」

全身を震わせながら、二人に悟られないように快感を享受する凛。

今回は快感よりも3人で倒したという達成感のほうが勝っており、凛は100点の敵を倒したにも関わらず正常な思考を続けることが出来ていた。

加蓮「キツかった……けど、なんだかすごい状態になってなかったアタシ達?」

ハードスーツのヘルメットを外して凛と同じように寝転んで空を見上げながら話す加蓮。

奈緒「それ、あたしも思った! なんかあたし達考えてたことお互いに感じ取ってなかったか!?」

少し興奮気味に二人に詰め寄る奈緒に凛は身を起こしながら、

凛「気のせいじゃなかったみたいだね。なんだったんだろう、あれ?」

奈緒「あたし達の絆が生んだ奇跡ってやつだろ!!」

加蓮「ふふっ、言えてる、奇跡かも」

奈緒「かもじゃないって! 絶対そうだって!」

興奮が収まらないのか奈緒は凛と加蓮に抱きついた。

それを凛と加蓮は受け止めて、

凛「奈緒」

凛は左手を上げて奈緒に向けた。

それに気が付いた加蓮は右手を凛と同じように上げて奈緒に向ける。

キョトンとしてそれを見る奈緒だったが、やがて二人の意図に気付くと。

3人はお互いの手をハイタッチして生き残れたことを笑いあった。

3人の交わした手の音は色鮮やかな波紋のようにキラキラとひかる眩しい空に響き渡った。

今日はこの辺で。

完全に静止した巨大な蜘蛛を上空から見下ろす卯月と未央。

岡が蜘蛛の上半身である牛の頭から進入し、数分が経過した。

ピクリとも動かない下半身の蜘蛛。

だが、その上半身である牛の頭、その口から数分前に侵入した岡が青みがかった血に全身を濡らし体内から脱出した。

岡「ッあ~~~~!! くッさ!! くッさーーーー!!」

牛鬼の血の臭いに鼻を摘みながら唾を吐き続ける岡。

そして、牛鬼の体内から生還した岡を見て、卯月と未央は岡に近づき声をかけた。

卯月「あ、あの。だ、大丈夫なんですか?」

岡「大丈夫なわけあるかい! 鼻がひん曲がる臭さやで!! 今日一番の攻撃やでこいつは!!」

未央「だ、大丈夫そうだね」

鼻を摘みながら卯月と未央に返す岡。

その返しを受けて二人はほっとするが、岡の状態は酷いものだった。

左腕は全く動かないようで垂れ下がっており、スーツは異音が鳴っており限界寸前。

だが、それをおくびにも出さずに岡は何食わぬ顔でその場に腰を下ろした。

そして、懐から煙草を取り出そうとして、血で濡れ駄目になった煙草を見ると小さく舌打ちし投げ捨てた。

岡「ほんまに最悪やで、一服もできんのかいな」

岡「おい、嬢ちゃん達はタバコかなんか持ッとらんか?」

岡の問いかけに同時に首を振る二人。

岡「そらそーやわな。戻るまでお預けやな……」

大きくため息をつきながらも岡はコントローラーを取り出して操作を始める。

100点のボスを倒したのにまだ転送されない。

つまりまだ星人の生き残りがいるという事。

だが、岡がコントローラーを確認してその動きを止めた。

岡「…………なんやて?」

固まる岡、卯月と未央はその様子にどうしたのかと声をかける。

卯月「あの……どうしたんですか?」

岡「…………まだおる」

未央「え?」

岡「…………100のヤツがまだ2匹残ッとる」

卯月「なっ!?」

未央「ど、どういうことなの!? ボスは倒したでしょ!?」

未央が完全に沈黙した蜘蛛を指差しながら叫ぶが、岡は難しい顔をしながら返す。

岡「……たまにあるんや。ボスが複数おる時がのぉ」

未央「そ、そんな……」

卯月「で、でも、100点がまだいるってどうして……」

岡「これ見てみーや」

岡は二人にコントローラーの画面を見せる。

そこには少し離れた位置に黒い光点が二つ表示されている。

岡「通常、星人の表示は赤や。だが、今回は黒、こいつは100のヤツの表示や」

卯月と未央は前回のミッションを思い出す。

あの時、100点のボスは確かに黒く表示されていた。

その事実に気付き二人とも硬直する。

まだ先ほどの牛鬼と同じレベルの敵が2体も存在するということを理解して。

岡「……流石に今の状態で100を2匹はリスクがでかすぎるわな……」

ぼやきながらも残りの星人をどうするかと考える岡。

ハードスーツも破壊され、通常のスーツも限界。武器はガンツソード1本。

左腕は動かず、全身の疲労もかなりのもの。

岡「……考えててもしゃーないわ。まずは武器を見つけんとな」

未央「ちょ、ちょっと! 立ち上がってどうするの!?」

岡「吹ッ飛ばされた武器を探すんや、刀1本でどーにかなると思えんからのー」

卯月「ま、まだ戦おうって考えてるんですか!?」

岡「せやで」

未央「そんな酷い怪我なのに無茶だよっ!」

岡「こんなもんツバつけとけば治るわ」

卯月「治りませんよっ!!」

岡は先ほどロボットが破壊された場所に向かい歩き始めた。

Zガンやコクピットの飛行バイクがまだ無事なのではないかと考えて。

だが、そうやって進んでいても横から話しかけられ続けていた。

卯月「腕千切れかけてるじゃないですかっ! 手当てをしましょうよっ!」

未央「そんな状態で行っても死んじゃうって! ねぇっ!」

岡「チンタラしとる暇はないんじゃ、もう俺等以外は全員死んどる可能性もあることやしな」

卯月「……は?」

未央「……何?」

卯月と未央は岡の発した言葉に今までの雰囲気を消し去って、無表情になり岡に再度聞き返した。

そのあまりの変化に岡も歩みを止めて二人に向き直る。

卯月「もう、死んでる?」

岡「どないしたんや?」

未央「嘘だ。死んでるわけが無い」

岡「なんや? ああ、そういえばおまえ等誰かを探してたんやッたな」

卯月「そんなわけ無い、凛ちゃんが死んだなんて、そんなわけ無い」

未央「生きてる、絶対に生きてる、しぶりんが死ぬわけ無い」

卯月と未央はお互いの手を硬く握りながら呟き続けた。

不安と恐怖が二人の心を染め上げていく。

卯月「凛ちゃんをもう二度とあんな目に会わせないために強くなったのに……」

卯月の脳裏に首がへし折れた凛の姿が浮かび上がる。

未央「しぶりんは私が守るんだ……しぶりんもしまむーも私が……」

未央の脳裏に凛の笑顔が浮かび上がり、隣にいる卯月の顔を見てその手を強く強く握りしめる。

未央「しまむー、行くよ」

卯月「未央、ちゃん?」

未央「しぶりんは死んでなんか無い、どこかで隠れてるんだ。だからしぶりんに危険が迫る前に100点のヤツってのを私達で倒して終わらせる」

卯月「あ……」

岡「おい、ちょい待てや」

岡は急に様子が変化した二人が突然100点の星人を倒しに行くと言い出し静止をかける。

しかし、二人は岡に意識を向けることなく手を繋ぎ頷きあう。

卯月「……そうですよね、1秒でも早く星人をやっつけて戻ればどこかにいる凛ちゃんともあの部屋で会うことが出来るんですよね」

卯月の身体が浮かび上がり、未央と共にゆっくりと上昇を始める。

未央「私達二人のチカラがあればどんなヤツにも負けっこない。そのために強くなったんだから」

卯月と未央はコントローラーを使って星人の位置を確認しようと考えたところで、バイザー内に位置表示が浮かび上がった。

それを見て卯月は上昇を止め黒い光点の位置に向かって空を飛翔する。

岡「待てやッ!!」

卯月達が飛び去る直前で岡も卯月の足を掴み3人は風となった。

見渡す一面瓦礫しかない元大阪の街。

その瓦礫の下から、瓦礫を押しのけ数人姿を現した。

姿を現したのは大阪チームの4人。

室谷、島木、桑原、花紀。

桑原「うォッ!? なんやねんこれは!?」

島木「マジかいな……」

室谷「ウソやろ……街が……」

花紀「…………」

4人とも崩壊した街を見て言葉を失う。

4人が4人、常識知らずの人種だったが、この惨状を見て流石に唖然としていた。

その4人から離れた場所で地面が爆発して土煙が上がった。

全員が一斉にその場所を見やると、そこには先ほど目にした100点と思われる天狗の姿。

天狗は4人に気付くと、瓦礫を吹き飛ばし一歩踏み出し始めた。

桑原「オイオイオイ! 来るでェ!?」

島木「チッ」

桑原と島木はZガンを手放してしまったのかガンツソードを取り出して構える。

二人が刃を伸ばしたその時、二人の後ろにいた花紀が大きく跳躍し天狗に向かって飛びかかった。

花紀「アアアアアァァああああああッ!!

手にZガンを持ち、天狗に狙いを定めZガンの引き金を引いた。

それを見た天狗は、どこかからか取り出した羽団扇を頭上に掲げる。

その場に立ち止まり、羽団扇を構え動かない天狗。

そして、その立ったままの天狗に何度も何度も引き金を引き続ける花紀。

花紀が着地するまでに10を超える数、Zガンは天狗に向かって撃ち出された。

着地した花紀は口元に笑みを浮かべながら天狗が潰れるその瞬間を待つが、

花紀「何や……?」

その時は一向に訪れず辺りは静寂に包まれた。

その様子を他の3人も見続けている。

室谷「どういうことや?」

島木「……壊れたんやないんか?」

桑原「イヤ、なんかヤバイで……」

重力波が一向に発生しない状況に花紀は再びZガンを構えようとするが、その前に天狗に動きがあった。

天狗は頭上に掲げた羽団扇をゆっくりと動かし始める。

その羽団扇に淡い光が纏っている事に気が付いたのは一番近くにいた花紀。

そして、その淡い光が消えると共に、羽団扇も振り下ろされ、

そこまで見た花紀は頭上から襲い掛かる重力の奔流に飲み込まれ、

潰れて、死んだ。

桑原「なッ!?」

島木「……」

室谷「……撃ち返したんか?」

全員が冷や汗を流していた。

3人の持つ武器で最高の攻撃力を誇るZガンが通じないどころか、威力をそのままに撃ちかえされてしまった。

Zガンは使えない、今までほとんどの星人を屠ってきたZガンが使えないという事実は3人の余裕を完全に奪うのに十分だった。

桑原「おい……来るでッ……どないすんのやッ!?」

一歩ずつ近づいてくる天狗にガンツソードを構えながらも室谷と島木に確認する桑原。

島木「室谷、刀や。全員、刀で切りかかるで」

島木は視線を天狗から外さずに室谷と桑原に言う。

室谷「……せやな、銃はアカン、3人同時に刀や、それしかないわ」

室谷もガンツソードを伸ばし構えを取る。

3人同時の攻撃、そう決断するや否や、雄たけびを上げて3人同時に天狗に向かいガンツソードで切りかかった。

「せーーーーのォッ!!」

その攻撃は天狗の肉体に届いた。

高速で繰り出される3人の刃は確かに天狗の肉体に届いたのだが、

桑原「ウソやろ……」

肉体に差し込まれた刃は天狗のはち切れんばかりの筋肉に受け止められ、皮膚一枚以上押し込むことが出来なかった。

ソードでも致命傷を与える事は不可能だといち早く判断したのは桑原。

桑原は一撃を喰らわせて通じないと見ると、全力で後方に跳躍して着地する。

桑原以外の二人はさらに追撃を加えようと天狗に刃を繰り出そうとしたが、天狗が羽団扇を振り上げたと同時に発生した巨大な突風に巻き込まれて数十メートル上空に吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。

室谷「グハッ!!」

島木「ガハッ!?」

桑原「……あかん、無理やわ、コレ」

さらに天狗は空中に飛び上がり無傷の桑原に向かって羽団扇を凪いだ。

すると巨大な火炎が羽団扇から生み出され、まるで蛇のように桑原に向かって襲い掛かる。

桑原「ちょい待てやァーーーー!? 何やねんそれはァァァ!?」

軽い身のこなしでバック宙を行い火炎を避けそのまま全力で後方に走る桑原。

だが、桑原の行く手を遮るように氷の壁が現れる。

桑原「うッおォォ!?」

氷の壁に突っ込む瞬間、桑原はギリギリで止まることができたが、後方から襲い掛かる恐ろしい熱量の火炎がすぐ傍まで来ている事に気付いていた。

桑原「ふッざけんなやァァァ!!」

咄嗟に氷壁にガンツソードを差込み、それを足場にして桑原は大きく跳躍した。

その桑原が空中で見たものは巨大な岩石。

どこからか現れた岩石が桑原を捕らえ、隕石のごとく桑原ごと地面に落ち地響きを上げた。

巨大な岩石は地面に落ちた衝撃でひび割れ、粉砕し、細かい岩と砂と変わりその場に積もっていく。

その中からズボリと手が現れて、桑原が姿を見せた。

桑原「何起きとるんや……」

桑原が状況を理解できないまま空を見上げると天狗が空中で羽団扇を回転させながら、渦巻く火炎に数百はあろうかという鋭い切っ先を見せる氷の刃、そして荒れ狂う竜巻に巨大な岩石を上空に作り出し自分たちを見下ろしていた。

桑原「……はッ、ワケわからんわ……何やねんそれは……」

室谷と島木もガンツソードを構えて立ち上がったがその光景を目にしてガンツソードを持つ手を下げてただ見上げ続けていた。

どれもこれも十数メートルは巻き込むであろう攻撃。

避けるビジョンが浮かばずにただ見上げていた3人は天狗のさらに上空に何か黒い点が存在する事に気が付く。

その黒い点は急激に大きくなり、3人の視界にその存在の姿が映し出される。

室谷「岡……」

島木「岡や……」

ガンツソードを構えた岡が超高速で飛来して天狗の脳天に向かい剣を突き入れる。

桑原「よッしゃ!! 勝ッたァッ!!」

桑原が岡の姿を見て喜色を浮かべ握りこぶしを作った。

だが、岡の一撃は天狗の脳天には突き刺さらずに弾かれ、ガンツソードは彼方へと吹き飛ばされてしまった。

桑原「何……やと……」

桑原の表情が固まり、作られた握りこぶしが開いて腕が下がっていく。

どう見ても必殺の一撃。だがそれも通じずに天狗の頭からは小さく血が流れるだけ。

上空に巻き起こる現象は未だに留まっており、それどころか先ほどよりも火の勢いは強くなり氷の刃の数は数え切れない数となり風は吹き荒れ岩石は空を覆いつくそうとしている。

それでも、岡が来た、それだけで3人は戦意を取り戻すが、岡の姿を見て絶句する。

全身が液体にまみれ、左腕は動かないのか垂れ下がっている。

満身創痍といった状態の岡。

今まで見た事が無い岡のその姿に3人は固まる。

しかし、岡はそんな3人を尻目に動く右手を伸ばし、

岡「誰でもいいわ、武器よこせ」

桑原「あ……ああ……」

桑原がガンツソードを岡に投げ渡す。

岡「刀しかないんか? デカ銃はどーした?」

室谷「アイツにデカ銃は効かん……跳ね返されるで……」

岡「ほぉー……」

室谷のその言葉で状況を完全に理解する岡。

Zガンが通じない星人、以前の100のヤツもそうだった。先ほど戦った牛鬼もそうだった。

岡(あかんな……不意打ちも効かんかッたし、非常にまずいわ)

あの一撃で倒せていればよかった、だが星人の身体は想像以上に硬くガンツソードも通用しなかった。

そして現在手元にあるのは、その効かなかったガンツソードのみ。

流石の岡もこの状況に打つ手なしと考えるが、その岡の思考は次の光景を目にして変わることとなった。

桑原「んなッ!?」

岡を含めて地上にいる全員の視界から、天狗が作り出していた火氷風土の現象が掻き消えた。

渦巻いていた火炎は雲散し、氷の刃は水に変わり、風は消え、岩石は砂と変わり消えた。

そしてその現象が消えたと同時に上空から天狗に目がけてスーツの人間が飛来した。

その人間は超上空から急降下してキックを天狗に打ち込んだ。

その威力は凄まじく、天狗はそのキックが着弾すると同時に地面に叩きつけられて、瓦礫を粉砕し地中深くに沈み込んだ。

天狗に一撃を喰らわせた人間はそのまま空中で静止し、地上を見下ろしながら天狗が埋まった場所を見続けていた。

室谷「……誰や?」

島木「……」

桑原「……あー、もうええわ、俺いちぬけた。理解が追いつかんわ」

岡「あのガキ……やるやんけ」

空中で静止する人間、未央に同じく上空から高速で飛来した卯月は声をかけて未央と同じように地上をみやる。

卯月「未央ちゃん……大丈夫?」

未央「私は平気。しまむーこそ大丈夫? 結構広い範囲で能力使ったよね?」

卯月「大丈夫ですよっ! へっちゃらですっ!」

卯月はバイザーの下で大量の鼻血を流しながらもいつもの声色で未央に言う。

すこし頭痛はあるが何も問題はない、こんな事で心配させるなんて駄目だと考えながら。

室谷「岡、アレは何や?」

岡「アイドルや」

島木「あァ?」

岡「ツッこめや、ボケとるんやで」

桑原「この状況でツッこむ気力ないわ……」

地上の4人は上空の卯月と未央を見上げていた。

室谷たち3人にとっては謎の乱入者。

岡にとっても未だに謎の多い別のガンツチームの人間。

しかし彼等が考える間もなく、瓦礫を吹き飛ばし天狗が再びその姿を現す。

岡「……元気なやッちゃのぉ」

桑原「岡。俺もうアイツに勝てる気せんから、アンタに任せてえーか?」

岡「ほんなら武器集めてこいや」

桑原「りょーかい。岡、ノブやん、ダンナ、後は任せたでー」

片手を上げながら去っていく桑原、それに対して室谷と島木はガンツソードを伸ばし構えを取る。

岡「おまえらはやるんか?」

室谷「あたりまえや」

島木「……ああ」

岡「アレ100やぞ?」

室谷「知ッとるわ」

岡「多分お前ら死ぬで?」

島木「……俺は死なん、100やッても200やッても関係ないわ、アレを殺すんは俺や」

岡「ほうか」

岡は小さく笑いながら、上空の二人にも聞えるように叫ぶ。

岡「オイ!! 嬢ちゃん等!! コイツをブチ殺すんは早いもん勝ちやで!!」

叫ぶと共に岡は天狗に向かい飛びかかる。

遅れて室谷と島木も同じように飛びかかった。

未央「早いもの勝ちって……何なのあの人達……」

卯月「未央ちゃん、来ますよ」

少しだけ意識を逸らした未央に即座に卯月は注意を促す。

今にも飛びかかってこようとする天狗に卯月は手を向け、未央も一瞬遅れて手をかざす。

大阪チームと東京チームが入り混じって天狗との戦いが始まった。

今日はこのへんで。

一人の少年が瓦礫に埋もれていた。

真っ暗な視界の中、少年は身体がまったく動かないことに気付く。

(なんやねん……一体何が起こッたんや……?)

(確か……でッかい牛が、なんか変なビームを出して……)

(そうや……俺、爆発に巻き込まれたんや……)

(俺……死んだんか……死んだんやな……)

(嫌やな……俺、まだ童貞やのに……死にとぉないわ……)

少年は暗闇の中考え続けていた。

そして気が付く、右手だけが少しだけ動くことを。

少年は無意識の内に腕を動かし、

その腕を引き上げられて、視界に光が入り込んだ。

加藤「無事かッ!?」

「!?」

少年を瓦礫の中から助け出したのは加藤。

加藤「大丈夫か!? おいッ!!」

「あ、あぁ……」

加藤「生きていたか……よかッた……」

少年の前で張り詰めていた顔を崩し一息を付く加藤。

その加藤を見ながらも一体何が起きているのかと少年は加藤に問いかけた。

「あの……何がおきとるんですか? ここ、どこなんや……?」

加藤「……多分さッきの星人の攻撃で街が吹き飛ばされたんだと思う、見ての通りの有様だ」

「あ……え?」

少年は加藤の言葉を聞き辺りを見渡すと、先ほどまで居た大阪の歓楽街はどこにも無く、どこまでも広がる瓦礫の山を目にするだけだった。

そうやって加藤と少年が話しているところに、一人の女性が近づく。

山咲「なァ、キミー! もう諦め…………ウソ、ほんまに見つけたん?」

加藤「ああ、これで残りは大阪の4人だ、アイツ等も探して……」

山咲「あーーーもうッ!! アイツ等は探さんでもええッて!! 絶対生きとるから!!」

近づいてきた女性、山咲が加藤に強く言うが少年は何が何だか理解できなかった。

少年のあずかり知らぬことだったが、加藤はいち早く瓦礫の下から抜け出して生存者を探し続けていたのだった。

玄野「おいッ、加藤! もう戻るぞッ! 岸本やおっちゃん達もどうなッてッかわかんねー」

加藤「ケイちゃん……」

玄野「割り切れ!! お前の守るべき人は誰かを思い出せッ!!」

加藤「……ああ」

加藤は俯いたまま立ち上がり玄野を見る。

少年もそれとともに玄野の方向を見ると、玄野の横にはレイカと坂田の姿もあった。

加藤「立てるか?」

「あ、はい……」

加藤は少年に手を差し出し、少年はその手を掴み立ち上がる。

加藤は少年に肩を貸して歩き始める。

それを見て玄野もレイカと坂田の元に歩き、全員が歩き始めた。

街は崩壊し、元の位置など分からなかったが、坂田が指を刺し先導をしているようだった。

そうやって歩いている間も、山咲は加藤に話しかけ続けていた。

山咲「ほんまにキミなんなん……? なんでそないに誰かを助けようとするん?」

加藤「は?」

山咲「ずッとそうやん、キミ最初から助ける助けるゆーて……うちだッて、あの爆発から守ッてくれたやん……なんでそないに正義の味方さんなん?」

山咲は先の爆発時に加藤に庇われていた。

爆発の瞬間、加藤が山咲を抱きしめ身を呈して守り、吹き飛ばされて瓦礫にうずもれた後も、山咲を離すことなく助け出した。

爆発の影響で意識が朦朧とする山咲を気遣う加藤の顔をはっきりと見たときに、山咲は今まで抱いていた、好奇心という感情から別の感情が生まれるのを感じた。

それからは、加藤を見る視線も変わり、加藤は本当に誰かを助けることを第一に行動しているのだと理解するまでに至っていた。

加藤「正義の味方なんか思ッたことないよ……俺は俺に出来ることをやッているだけさ」

山咲「……そうなんや」

加藤「……ただ」

山咲「?」

加藤「俺の目標はあの前にいる男、計ちゃんだよ。俺が正義の味方に見えるんだッたら、それは計ちゃんのおかげかもしれないな」

山咲「あの子がァ~~?」

加藤「おい、計ちゃんはすごい男なんだぞ? そんな疑うような目で見るなよ」

山咲「う~~~~ん……キミがそう言うんならそうなんかもね……」

そうやって玄野がどういう男なのかを熱を入れて語る加藤に山咲はクスクスと笑いながら話を聞いていた。

山咲(ほんま変なヤツ。いまどき珍しい……ううん、見たことないくらい真ッ直ぐで、ええ男……)

山咲「キミみたいな人が大阪におッたらなァ……」

加藤「え?」

山咲「!! な、なんでもないわ、気にせんといて!!」

少し顔を赤らめながら山咲は加藤の前を歩き出す。

そうして歩くこと数分、玄野達は前方から響く衝撃音に気が付く。

それに気付いた一行は足を速めその衝撃音が聞える場所に駆けるが、近づくにつれ音と共に無数の光の光線が飛び交っている光景も目にする。

加藤「これ……は……」

その光線を見て表情を青くする加藤。

加藤にとっては前回のミッションであり、命を散らした千手のレーザーが脳裏に浮かびあがる。

山咲「大丈夫……?」

加藤「ああ……」

それもつかの間、加藤は前を見据えて力強く足を踏み出す。

前回と違って今回は玄野が共にいる。

頼もしい仲間も何人もいる。

前回のように誰かが死ぬことなど無い。

今回は全員で生き残り、皆で帰るのだと加藤は考えながら衝撃音と光線の中心地にたどり着き、

人型の犬・犬神に風と稲葉と桜井が同時に接近攻撃を仕掛け、犬神が生み出した無数の光線によって全員吹き飛ばされる光景を目にしてしまった。

加藤「ッ!」

玄野「!!」

吹き飛ばされた3人を玄野と加藤と坂田が地に叩きつけられる前に受け止めた。

そして玄野達は受け止めた3人の状態を見て息を呑む。

風、桜井、稲葉と全員のスーツに穴が空き、内部から出血をしている。

比較的軽傷なのは風、左肩が裂けているが、命には別状が無い様子だ。

風は肩を抑えながらもすぐに立ち上がって玄野達の姿を確認し少し表情を和らげた。

だが、桜井と稲葉は数箇所穴が空いており、そのどれもが腹から胸にかけて打ち抜かれていた。

坂田「おいッ!! 桜井ッ!!」

桜井「し……しょう……」

玄野「稲葉ッ!!」

稲葉「…………ごほッ」

名前を呼ばれうっすらと目を開ける桜井と稲葉。

どちらも重症、すぐに手当てをしなければ死に至る傷を負っていた。

だが、敵は手当てをさせる時間を与えず攻撃を開始し始めた。

犬神が両手を正面に構え動かし始める。

犬神の手が動くたびに空中に光の線が現れて、それがやがて星型の光の紋章となり空中に固定される。

固定された光の紋章に犬神が手を突き出すと、極太の光の奔流が生み出されて玄野達に襲い掛かった。

玄野「うッ、おおおおお!?」

光の奔流の射線上にいたのは玄野と稲葉と加藤、山咲。

襲い掛かる光の奔流は避けれるような速度ではなく、玄野達はただその光を直視するだけだった。

しかし、玄野と加藤はそれぞれ別の人間の手によりその光の奔流から逃れることとなった。

稲葉「……だァァッ!!」

玄野「グッ!?」

玄野は支えていた稲葉から体当たりを受け、

岸本「加藤クンッ!!」

加藤「岸本さん!?」

加藤は全力で飛びついてきた岸本の体当たりによって、岸本と共に光の奔流の射線上から外れることとなった。

だが、玄野と加藤は目にしてしまう。

玄野「いな……」

稲葉「……玄野……すず………………」

光に飲み込まれて瞬時に消滅してしまった稲葉を、

加藤「あッ……」

山咲「あ……」

加藤が咄嗟に手を伸ばし、山咲もその手を掴んだ。

加藤の手を掴んで、加藤の顔を見つめながら、何が起きているのかも分かっていない表情をしながら、

山咲は光に飲み込まれて、加藤に掴まれた左腕だけを残してこの世から消滅した。

加藤「う……おぉぉ…………」

岸本「か、加藤君……無事?」

岸本は加藤の無事を確かめようとするが、加藤は手に残った山咲の腕を凝視しながら声を震わせ、

玄野「稲葉……くッそォォォォ!!」

玄野は稲葉が殺されてしまったことを理解して、雄たけびを上げながらZガンを犬神に構え乱射を始めた。

山咲の手を握ったまま加藤は固まり、動かない加藤に岸本は叫ぶ。

岸本「加藤クンッ!! 逃げないとッ!! こッちに来てッ!!」

加藤「え……あぁ……」

岸本「お願いッ! 立ッて!」

岸本に手を引かれ加藤は山咲の腕を落としてしまう。

出会って間もない大阪の女性。

何かと絡んでくる女性だった。

だが、この腕を残してもうこの世にはいない。

加藤の脳裏に山咲のからかうような笑顔が浮かび上がって消えた。

ほんの僅かな時間、加藤はそうやって感傷に浸っていたが、聞えてくる玄野の叫び声とZガンの破壊音に意識を戻す。

加藤「ケイ……ちゃん……」

加藤の視線の先には玄野の背中。

Zガンを乱射している玄野が見える。

そして、その玄野の背後に何かが現れた。

虚空に真っ黒な円と星型の紋章。

紋章から闇が溢れだすと共に、足が見え、その全体像が見えかけた所で加藤は玄野に叫んだ。

加藤「ケイちゃん!! 後ろだァッ!!」

玄野「ッ!?」

玄野の反応は速かった。

前方に撃ち続けていたZガンを咄嗟に放し、ホルスターからガンツソードを伸ばしその刀身を手で押さえて防御の体制を取った。

それと同時に、玄野の背後に闇と共に現れた犬神の手刀が玄野をガンツソードごと切り裂いた。

加藤「計……ちゃ……」

岸本「玄野クンッ!!」

レイカ「いやぁぁぁぁぁッ!!!!」

玄野は血を撒き散らしながら吹き飛ばされる。

刀身を真っ二つにされたガンツソードを見ながら。

血を噴き出している自分の右腕を見ながら。

玄野(ンだよ……やられたのか……俺?)

玄野(何をされた……どーやッて移動しやがッた……デカ銃で殺ッたんじゃなかッたのか……?)

玄野(致命傷もらッたのか……? 死ぬのか俺……?)

玄野(死ぬ……? ……ッざッけんな)

玄野(死ぬかよ……タエちゃんが待ッてるんだ……)

玄野(こんなところで死んでられねーんだよ俺は……)

玄野(死んでッ……! たまるかッ!!)

玄野「ッああぁぁぁぁッッッ!!」

玄野は右腕を切り離された。

しかし、胴体には浅く脇腹を抉られるだけの怪我ですんでいた。

咄嗟に防いだガンツソードが犬神の攻撃の威力を削いで九死に一生を得ていた。

そして、その玄野の命を繋いだガンツソードを、玄野は吹き飛ばされながら空中で掴みとり。

犬神に向かって投降した。

高速で回転しながら飛ぶガンツソード。

しかし、その軌道を完全に読み切っているのか犬神はガンツソードの刀身を掴みとろうと手を動かす。

犬神がその刀身を掴みとろうとしたその瞬間。

ガンツソードは軌道を90度変え犬神はその軌道を視線で追ってしまう。

玄野達と少し離れた位置で手を突き出しながらガンツソードを超能力で操作する坂田。

坂田が操作したガンツソードは再び犬神に襲い掛かる。

そして、ガンツソードに視線を向け掴みとろうとする犬神。

その犬神の背後、完全な死角から犬神に恐ろしい衝撃が襲い掛かり、犬神はそのまま数十メートル吹き飛ばされた。

今まで犬神が居た場所には鉄山靠を放った体勢で荒い息をつく風。

玄野が吹き飛ばされて僅か10秒にも満たない間の攻防。

その凄まじい連携に加藤と岸本は吹き飛ばされた玄野に手を伸ばそうとした状態で呆然としていた。

吹き飛ばされた玄野にレイカがすぐさま駆け寄りその身を優しく抱き起こし安否を伺っていた。

レイカ「玄野クンッ!! 玄野クンッ!! しッかりしてッ!!」

玄野「……大丈夫だ、腕だけですんだみてーだ。それよりも油断すンな……」

レイカ「大丈夫じゃないよッ!! 血がこんなにッ!!」

レイカは玄野のスーツを縛って応急手当を行い始める。

その様子を見て、加藤と岸本も走って玄野の元に近寄る。

加藤「ケイちゃん!!」

岸本「玄野君ッ!!」

玄野「……おい、加藤、気をつけろ……まだ、終わッてねーぞ……」

加藤「なッ!? あの星人は風さんが吹き飛ばして……」

加藤が犬神を吹き飛ばした風を見ると、その風に坂田から檄が飛ぶ。

坂田「風!! 後ろだッ!!」

風「ヌゥ!?」

先ほどの玄野の時と同じようにいつの間にか風の背後に現れた犬神。

風はそれを予期していたのか、眼にも留まらない犬神の攻撃を回避する。

風はそのまま犬神の攻撃を避けつつもカウンターを入れ始めた。

そうやって風が犬神の相手をしている間にも坂田はひとりごちる。

坂田「クソッ!! なんなんだアレは!?」

坂田が吐き捨てるのは犬神の移動方法。

気が付けばいつの間にか背後に現れている。

しかも、どうやら犬神の攻撃はスーツの防御性能は意味が無い。

一撃を貰ったらアウト、そしてその攻撃は死角から飛んでくる。

さらには先ほどの光の光線。アレもスーツを貫通してくる攻撃だった。

焦る坂田に、坂田の足元に蹲っている桜井が声をかけた。

桜井「し、しょう」

坂田「桜井……」

桜井「アイツ……俺達……のとこ……ろに……いきなり……現れて……」

坂田「喋るな、安静にしていればお前はまだ助かる」

坂田の言葉は嘘だった。

桜井の胸に空いた穴、それは完全な致命傷。

桜井の命は持ってあと数分も無い、それが限界だった。

桜井「アイ……ツ……移動す……る時……真ッ……黒な……闇の中に……入ッて……」

坂田「桜井ッ!」

桜井「現れ……時……同じ……よ……に……黒い……それ……を……」

坂田「ワカッた! 言いたい事はワカッた! だからもう!!」

桜井「……し、しょ…………トン……………コツ…………」

坂田「桜井ッ!! 桜井…………」

桜井の目から光が消えた。

あまりにもあっけなく坂田の前で桜井の命は尽きてしまった。

一瞬だけ坂田は目を瞑る。そして次に目を開けた坂田の視界は犬神に向けられて、犬神の肉体をスキャンする。

坂田(脳がある、心臓もだ……イケる。どッちかを潰せば殺れる……)

坂田(風がヤツの気を引いているうちに、終わらせ……!?)

能力によってスキャンを行っていた坂田だったが、突如犬神の姿を見失ってしまう。

一瞬前にはそこにいたのに突如掻き消えた。

いや、消える前に跳躍する姿勢を見せていた、そして飛び上がった瞬間に犬神は消えた。

そこで坂田は気が付く、真っ黒な魔方陣のような円の中に星型の紋章が空中に浮かんでいるのを。

そして、風が必死な形相でこちらを見ている事に気が付く。

寒気と共に身を捻った坂田。

その坂田の脇腹に鋭い痛みが発生する。

坂田「グァァァッ!?」

脇腹をあばら骨ごと抉り取られた坂田は目にした。

先ほど見た黒い紋章が地面に浮かび上がり、その中から手を伸ばし自分に攻撃を仕掛けてきた犬神の姿を。

坂田(それが……テメーの移動方法……か)

坂田(……確かに、なんか真ッ黒な霧か闇かよくわからねーものが溢れてんな……)

坂田(……桜井が伝えたかッたのは、これを何とかすればッてことか……)

坂田(……はッ、気付くのがおせーんだよ……俺は……)

坂田は犬神に手を伸ばして玄野達に聞えるように叫んだ。

坂田「いまだッ!! やれェッ!!!!」

それに反応したのは玄野。

すぐに飛ばされたZガンを拾おうとしてバランスを崩し倒れてしまう。

しかし、その一瞬で加藤と目が合う。

そして、加藤は考えるより先に体が動いていた。

Zガンを手にし、大きく跳躍して、空中で犬神に狙いを定める。

それを見た犬神は移動してきた闇の溢れる黒い紋章に逃げ込もうとするが、

坂田「……逃がさねーぞ」

小さく呟いた坂田が能力を発動すると同時に黒い紋章は雲散し、

加藤のZガンの重力波をその全身に浴びることとなった。

加藤「うッ、ああァあァあああァァァァァ!!!!」

ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! ドドドドドドドドドドドドドドド!!

加藤が引き金を引き終わったのは数十回の重力波が巻き終わった後。

犬神が存在していた場所には無数の円形の破壊痕が残るのみ。

誰もが倒した、そう思った。

だが、その次の瞬間。

ほぼ無傷の犬神が押しつぶされて固まった地面を破壊して飛び出してきた。

坂田「……マジ……かよ」

加藤「そん……な……」

犬神は少し距離を取り、警戒するように玄野達を見ている。

犬神の移動を遮られたのは犬神も予想もしない現象だったのか犬神は攻撃を止め玄野達を見続けていた。

その間に坂田は考えていた。

坂田(……アレを喰らッて無傷……いや、少しはダメージがあるみたいだが本当に少しだけだ……)

坂田(……ヤツは警戒してるのか近づいてこない……もうさッきみたいな攻撃を当てる事はできねーだろうな……)

坂田(……そうなッたらどーする……加藤のYガンならどうにかなるか……? だが当てられるか?)

坂田(……さッきみたいにヤツの意識を何かで釣ッてやれば……いや、それも警戒されている可能性がある……)

坂田(……クソ、せめてもう一人くらい風と同じように動けるヤツが……渋谷の姐さんがいてくれりゃ話しは違うッてのによ……)

坂田(……ここで姐さんが駆けつけてくれたら…………はッ、そんなご都合主義は…………)

その時だった。

坂田の視界に黒い影が現れたのは。

「おぉぉゥらァッッッ!!」

高速の剣戟。

それを犬神は紙一重で回避しさらに距離を取る。

その一撃を繰り出したのは、

玄野「……アンタ、吉川……」

吉川「オゥ、邪魔するぜ」

吉川は玄野達には顔を向けずに声をかけてさらに追撃を行うために犬神に向かっていく。

犬神は吉川の剣を回避しようとして、さらに背後から繰り出された剣戟に首を小さく切り裂かれた。

「くッ……硬いな」

玄野「……武田」

武田「酷い状況だな……加勢するぞ」

武田は現状を確認し、すでに東京チームに死人が出ていることを見ると、犬神に向かい攻撃を始める。

その武田に遅れ、4人の男達が玄野達の元にたどり着く。

神奈川チームの4人だった。

「うぉッ!?」

「な、なんだこりゃ……」

玄野「……アンタ等も大阪に飛ばされて来ちまッたのか……」

「大阪? ここ大阪なのか?」

「辺り一面瓦礫の山だけど……マジで大阪なのか?」

玄野「ああ……星人の攻撃でこの有様さ……」

「……マジか」

「……街ひとつ壊滅かよ」

「……とんでもねー化け物が今回のターゲットか」

「……だからあんな大人数呼ばれたッてわけか」

玄野「……?」

玄野は神奈川チームの男が発した言葉に疑問を抱く。

大人数、その言葉を聞こうとした玄野に聞きなれない音が聞えてくる。

その音はガンツバイクの音。

東京チームでは殆ど使わないそのバイク。

玄野が視線を向けると少し長い髪の口元に髭を生やした男が運転をし、その後部に小柄な金髪の男を乗せたバイクが向かってきていた。

「おい前嶋! またいたぞ! 別のチームの奴だ!」

「……怪我してるみたいだな」

「どーすんだ!?」

「助ける」

それとは別の方向から数人、銃を構えながら走ってくる姿を玄野は見つける。

眼鏡をかけた男を先頭に警戒しながらも玄野達の下に走ってきていた。

「関根君! あれッ!」

「別のチーム……そうか、そういう事か……」

「どーするの? ねぇッ!?」

「一旦合流しよう、今回は分からないことが多すぎる。彼等から情報を得よう」

玄野は見たこともない別のガンツメンバーを見てピンとくる。

玄野「……大阪のヤツらじゃねぇ……別の、違うチーム、か……」

そして、同じように坂田も集まってくるスーツの人間たちを見て予想を立てる。

坂田(……別のチーム、神奈川と群馬のヤツ等もいるッて事は、関東、関西のヤツ等が集められてるのか……?)

坂田(……イヤ、下手したら日本中……)

坂田(……はッ、僥倖ッてヤツだな……これだけ人数がいればヤローに一発撃ちこむ事はできるはずだ……)

坂田(……それまで、持ッてくれよ……)

坂田は脇腹から溢れ出す大量の血を見ながら、犬神に向かってその能力を解放した。

そして、犬神とガンツチームの死闘が始まった。

今日はこの辺で。

岡達3人は天狗にほぼ同時に切りかかった。

岡は怪我をしているとは思えないくらいの速度を見せ、室谷と島木も岡に負けずとも劣らぬ速度で攻撃を繰り出す。

だが、天狗は岡達に目もくれず、空に浮かぶ卯月と未央に向かって飛びかかっていった。

天狗は手に持った羽団扇を振り上げ、振り上げられた羽団扇は淡い光を発し何らかの現象を発生させかけたが、

卯月「はっ!!」

卯月が天狗に能力を発動させて羽団扇に宿った力を消滅させる。

卯月「うぅぅぅっ!」

さらにそれだけでは終わらず、卯月が天狗に向けた手を合わせるように閉じると、天狗の持っている羽団扇は圧縮されて破壊された。

そうして羽団扇を破壊された天狗は今の今まで高速で卯月と未央に向かって上昇していた浮力を失い空中でバランスを崩し墜落しかける。

岡「……!」

しかし、それもつかの間、天狗は背中の両翼を羽ばたかせ再度卯月と未央に向かって飛びあがろうとするが、

未央「未央ちゃんスペシャル…………キィィィィック!!!!」

全身を空中で何度も回転させて、天狗に向かって渾身の蹴りを放った。

未央の飛行リングは未央が考える動きを余すことなく再現させて、ハードスーツの力も加わった蹴りは恐ろしい威力となり天狗の脳天に見舞われ、天狗は猛烈な勢いで再び地上に打ち落とされ大地に大きなクレーターを生み出し地中深くに埋め込まれた。

室谷「なんや……ありゃあ……」

島木「……女、か?」

天狗に斬りかかっていた室谷と島木は対象が地面に埋め込まれ、それを成したスーツの人間を見上げていた。

単騎で空中に静止している自分たちとも岡とも違うスーツを纏い、顔は黒いバイザーに隠されて見えない。

明らかに異質な存在、自分たちが見てきたどのガンツの道具も持っておらず、100点の敵にいともたやすく一撃を見舞っている。

自分たちが、それぞれ個人主義を貫く自分たちが全員で戦わなければ殺されると思わされた相手にだ。

室谷と島木のプライドが大きく傷つき、未央を見上げる視線も強く睨みつけるような視線に変化する。

そうやって地上の二人に見上げられている未央は打ち落とした天狗が埋まった場所を見ながら呟いた。

未央「はぁっ……はぁっ……やった、よね?」

その言葉と共に大地に亀裂が入り、地響きが起こり始める。

未央「何っ!?」

卯月「未央ちゃんっ!! 地面の下っ!! 移動してますっ!!」

未央「っ!!」

卯月の視線が未央の真下に注がれた。

未央も自分の真下から大きなプレッシャーを感じると同時、大地を粉砕し天狗が先ほどよりも早く、鋭く未央に向かって襲い掛かってきた。

その天狗に卯月は能力を発動し、空中に固定しようとするが、

卯月「えっ!?」

いつの間にか天狗が両手に持っていた羽団扇を扇ぐと、卯月の発動した力は卯月自身に降りかかり卯月は空中で金縛りにあった様な感覚に襲われてしまう。

未央は卯月が放った能力が何らかの方法で卯月自身に跳ね返されてしまったことを感じ取って卯月を見てしまう。

未央「しまむ……」

卯月「未央ちゃんっっっ!!」

それは完全な隙を天狗の前で晒してしまった瞬間だった。

未央「あ……」

未央の視界の端に天狗の姿が映った。

腕を振り上げている。

その腕が未央の頭に振り下ろされ、

未央は先ほど叩き落した天狗のように、今度は自分自身が大地に打ち落とされて地中に埋め込まれてしまった。

卯月「未央ちゃぁぁぁぁぁん!!!!」

その様子を取り乱しながら目にする卯月。

天狗に跳ね返された自身の能力を解除しすぐさま未央の下に行こうと動くが、

その卯月の周囲には巨大な炎弾と氷塊が迫っており、

卯月「ぁ……」

卯月は能力を発動する間もなくその攻撃をまともに受け、高温の炎と氷が接触し水蒸気爆発が卯月を中心に発生し、その衝撃は地上にいる岡達3人も吹き飛ばされるほどの威力を持っていた。

岡「グッ……」

3人共、ガンツソードを地に突き刺し吹き飛ばされる自分の身体を固定する。

その際一瞬だったが天狗の姿を見失い、体勢を整えた3人は同時に天狗の索敵を行うが天狗は先ほどと同じ場所、空中で静止していた。

室谷「なんやアイツ……何をしとるんや……」

島木「……煙の中、か?」

天狗は微動だにせず、爆発が起きた煙の中を見続けているようだった。

煙が徐々に晴れていく。

その中から現れた姿を見て室谷と島木に小さな驚愕が襲う。

手を大きく広げて肩で息をしている卯月の姿。

バイザーこそ吹き飛ばされてその顔が顕になっており、鼻から多量の血を流してはいるが他に目立った傷は何も無い。

その外傷の少なさに室谷たちは驚愕していた。

室谷「あの爆発で無傷やと?」

島木「……ありえんわ」

二人とも歴戦の戦士と言っても過言ではないほどの戦闘経験を持つ。

その二人はスーツの耐久性能というものをある程度は把握していた。

どのくらいの攻撃を受けてしまったらスーツが破壊されるか。

そして、先ほどの爆発は二人の知るスーツの耐久を超える威力の爆発だった。

それなのに空に浮かぶ卯月はほぼ無傷。

卯月の纏うスーツが自分たちと違うものだからなのか? そう考えるより早く、卯月が無傷だった理由が二人の目に映し出された。

それは天狗が放った攻撃。

両の手の羽団扇を交差させて、炎と氷の刃を卯月に打ち出した。

だが、その攻撃は卯月に届く前に逸れた。

別の方向から竜巻と岩石の雨が卯月に降り注ぐ。

だが、その攻撃も卯月に届かない。

卯月の周囲に円状の揺らめきが発生し、その揺らめきの内部まで天狗の攻撃が届くことが無かった。

卯月「これは……私の……」

卯月は自身が起こしている現象をしっかりと理解していた。

身を守る為に生み出したフィールド。

自身の周囲に自分の意思に反するものを拒否する絶対の領域を展開していた。

その卯月に対して天狗は攻撃を続けていた。

炎や氷、嵐に岩石を絶え間なく卯月に向かって打ち込み続けている。

だが、その全ては卯月に届く前に軌道が逸れてあらぬ方向に飛んでいった。

卯月は自身の手を見ながら自身の能力がさらに強まったことを実感する。

透視をしなくても分かる。未央は生きている、今地面から這い上がろうともがいている。

卯月「未央ちゃん……よかった……無事だった」

卯月の感知能力が未央を捕らえ、卯月は安堵の表情を見せ、次に先ほどから攻撃を仕掛け続けている天狗に視線を向けた。

卯月「あなたは悪者です」

その視線は卯月を知るものにとっては信じられないくらい冷たく、それでいて鋭い視線だった。

卯月「あなたは未央ちゃんを殺そうとしました。絶対に、絶対に許せません」

卯月の髪が風に吹かれるようになびき始める。

卯月「私が、あなたを、殺します」

卯月の瞳が血の色に輝いて、その眼から血が零れ落ちた。

未央はもがくように地中から這い出してきた。

未央「はぁっ! はぁっ!」

地中から脱出した未央がまず行った事は卯月の安否の確認。

自分はあの天狗に攻撃された。

そして、自分は今空中ではなく地上にいる。

攻撃を喰らった後自分が叩き落されたという事は、空中にはあの天狗と卯月しかいない。

つまり卯月は今、天狗の攻撃を……。

未央「え……」

上空を見上げた未央の視界には信じられないような光景が映っていた。

天狗が羽団扇を扇ぎ空一面を包むかのような炎を生み出すがその炎は卯月が手を握り締める動作を行ったかと思うと瞬時に消え去った。

さらに天狗はもう片方の羽団扇を扇ごうとするが、その羽団扇は卯月が一睨みすると同時に粉砕される。

さらに卯月は追撃の能力を発動させて、天狗の脳と心臓を破壊しようとするが、天狗の残った羽団扇が卯月の能力を防ぎ、それをそのまま卯月に打ち返す。

卯月はその跳ね返ってきた自身の能力を指を振るようにして掻き消す。

その間にも天狗は自身の翼から新たな羽団扇を作り出していた。

未央「し、しまむー……?」

殆どが目には見えない攻防だったが卯月と同じ能力を手にしていた未央には感じられていた。

卯月と天狗の間で可視、不可視の能力が激しくぶつかり合っていることを。

その力の強大さも感じ取っていた。

卯月が能力を発動するたびに感じる、全てを飲み込むような能力の奔流。

今卯月は天狗を無理矢理引きちぎろうと能力を発動した。

その能力も天狗の謎めいた羽団扇の力によって防がれて反射される。

卯月と天狗の能力の応酬を見上げていた未央に岡達の声が届く。

岡「なるほど……あの羽団扇やな……」

室谷「羽団扇ァ?」

岡「アイツが両手に持ッとる道具や。十中八九アレがアイツが使ッとる炎や氷を生み出しとる源や。見た感じ攻撃にも防御にも使ッとるな、それ以外にも様々な効果があると見たわ」

島木「……根拠は?」

岡「見りゃワカるやろ? それに昔から言うやろ、天狗の羽団扇は神通力やら奇跡やらを起こす神器やッてな」

室谷「そんなモン知らんわ」

岡「そうか、まァええわ……しッかし、あの嬢ちゃん化けモンやな……100のヤツと真正面からよーやるわ」

島木「……お前が言うなや」

岡達は卯月と天狗の戦いをただ見ているだけではなかった。

その様子を観察し、天狗の能力を分析し続けていた。

そして岡の出した結論は、天狗の様々な異能の鍵となっているのは手に持った羽団扇。

岡「まァあの羽団扇をどーにかせんとアカンな。ヤツの翼から生み出せるみたいやからまずはヤツの翼を引きちぎるところからかのォ」

その言葉に未央は卯月と天狗に再び視線を向ける。

確かにあの天狗の羽団扇が卯月の能力を防いでいる。

それならばあの羽団扇を、翼を千切れば。

思い立ったが即断、未央は地面を蹴り弾丸のように天狗に突撃をした。

未央が天狗の翼を捕らえるのは一瞬だった。

天狗は卯月に気を取られているのかほぼ無防備で未央の突撃を許した。

未央は流れるように天狗の両翼を掴み、天狗と背中合わせとなり、

掴んだ翼を絶対に離さないようにに力を入れ、両手両足の飛行リングが未央の動きをサポートし、未央の意思に呼応するかのようにハードスーツが唸りをあげて、

空中で渾身の鉄山靠を繰り出した。

未央の渾身の一撃を喰らった天狗は始めて苦悶の叫びを上げた。

「グルルアアアアアアアッッッ!!」

しかし、その一撃は、

天狗の両翼を奪う事はできず、

翼の付け根に深い裂傷を入れただけだった。

未央「くっ……そぉ……」

持てる力を全て使っての一撃を繰り出した未央は完全な無防備状態だった。

未央の脳裏に死のヴィジョンが浮かぶ。

だが、未央が次に感じた感覚は、両手に掴んだままの天狗の両翼が軽くなった感覚だった。

未央「あ、れ?」

未央の手に天狗の両翼が天狗の背中を離れて収まっている。

一体何が? 自分は引きちぎれなかったはずだ、どうして?

その未央の思考は地上でガンツソードを伸ばした3人の男達の姿を捉えて納得がいった。

未央(ああ……あの人たちが斬ってくれたんだ……)

そう、天狗の翼を両断したのは地上の3人の一人、岡だった。

岡は未央の全力の一撃により天狗の背中に裂傷が生まれたところを見逃さなかった。

針の糸を通すような斬撃を撃ち込み、天狗の翼を両断した。

翼を奪われた天狗は更なる隙を見せた。

両の手に持つ羽団扇、花紀のZガンの銃撃を跳ね返し、卯月の能力を幾度も防ぎ跳ね返し、様々な自然現象を起こしていた羽団扇を新たに迫った2本の刃に弾き飛ばされた。

室谷と島木の渾身の一刀、手首ごと斬り飛ばすつもりの一撃だったが、その一撃は天狗の持つ羽団扇を弾き飛ばすだけで、その手には浅い裂傷を与えるに過ぎなかった。

だが、それで十分だった。

天狗は翼を失い、浮遊現象を起こせる羽団扇も失って自然落下を始める。

それは致命的な隙であった。

未央「しまむーーー!!!!」

卯月「うん、わかってるよ、未央ちゃん」

卯月がゆっくりと両の手を合わせた。

それと同時に天狗は全身を包み込まれるような暖かい感覚に襲われる。

「グルルァアアアアッ!!」

卯月「さようなら」

卯月の赤く輝く眼がさらに強く輝いたと同時、

天狗の内部、脳とありとあらゆる内臓は全て潰れて弾け飛んだ。

天狗は血を吐き出しながら落下し地面に叩きつけられた後はピクリとも動かない。

地上の3人は天狗が死んでいると判断し、さらに天狗を殺したのは空中にいる卯月だという事を直感的に分かってしまった。

室谷「……岡、もう一度聞くで。アレは一体なんや?」

岡「言うたやろ。アイドルやて」

島木「もうええわ……」

空では未央が卯月の下に駆け寄っていた。

そこで漸く未央は卯月の異変に気が付いた。

未央「し、しまむー!?」

荒い息をつきながら顔中の穴という穴から血を溢れさせている卯月。

能力の使いすぎ、未央の脳裏に浮かんだのはそれだった。

未央「しまむー!! 大丈夫!? しっかりして!!」

卯月「未央、ちゃん……えへへ……悪者、やっつけましたよ……ぶいっ……」

卯月の瞳がゆっくりと閉じられていく。

未央「し、しまむー……?」

卯月「未央ちゃん……なんだか……わたし……つかれ……ちゃい……ました……」

卯月は未央にもたれかかり全身の力を抜いてその身を未央に預ける。

未央「ちょっと!! しまむー!?」

未央の頭に最悪の光景が浮かんだ。

必死に自分を呼びかける未央に、卯月は未央の胸に顔を埋め卯月は小さい声で未央を安心させるように言った。

卯月「だい……じょうぶ……すこし……だけ……やすませて…………」

未央「しまむー!! まって!! 駄目だって!!」

そのまま小さい呼吸をしながら卯月は未央にもたれかかったまま動かなくなる。

未央は卯月が瀕死の状態になっていると判断しすぐに地上におり、卯月を呼びかけ続けるが卯月は浅い呼吸を繰り返しながら反応がない。

未央「しまむー!! やだよっ!! 目を開けてよっ!!」

未央は卯月を抱きかかえながらも呼びかけ続ける。しかし卯月はその声に反応することは無かった。