凛「GANTZ?」 (1000)

ガンツ見直してたらふと思いついたので書いてみます。
キャラ崩壊注意。
オリ設定沢山。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1473171911

0.プロローグ


私の名前は渋谷凛。

私は今ちょっとしたトラブルに巻き込まれている。

私の前には泣きながらおもちゃの部品を探している男の子。

おもちゃを落として部品をなくしてしまったみたいだ。

歩いたら踏んじゃうかもしれないって言われて仕方なく立ち止まっている。

一緒に探してあげようとも思ったが、動こうとしたら私を見て泣き始める男の子。

周りの視線が集まってくる、どうしよう。

「うぅぅっ……ひっく……」

どうやらまだ見つからないらしい、泣き顔が酷くなっている。

どうしたものかと思っていると、後ろから声をかけられた。

「ちょっと君ぃ!」

振り向いた先にいたのは、警察官だった。

嫌な予感がする。

「少し話を聞かせてもらえるかな?」

ああ、面倒臭くなりそうだ。

さっさと立ち去りたいが、動いたら男の子がさらに泣き出すかもしれない。

「聞いているのかね?」

ああ、もう。

疑いの目で私を見てくる警察官。

私は何もしていないのにそんな目で見ないでほしい。

凛「何もして無いんだけど」

「何もして無い訳無いだろう!? この子は君の前でこんなに怯えているというのに」

警察官が近寄ってきたせいで男の子がさらに激しく泣き出した。

本当に勘弁してほしい、その思いが顔に出てしまったのか、警察官はさらに疑いの目を濃くして私を見てくる。

凛「本当に何もして無いってば」

「一旦、署のほうまで来てもらえるかな?」

凛「えぇ!?」

警察官の言葉に耳を疑う。


こんな事でなんで……と思ったその時、男の子が手を上げて叫んだ。

「あったーーーー!」

男の子に視線が集まる。

「あったよお姉ちゃん!」

私に向かって、小さな部品を見せる男の子。

凛「そっか、よかったね」

「うん! ありがとうお姉ちゃん!」

私と男の子のやりとりをぽかんとした顔で見ている警察官。

「あの、坊や、君はこの人に何かされたんじゃないのかな?」

「え? お姉ちゃんは僕のネジを踏まないように止まっていてくれたんだよ」

「え……」

「僕、おもちゃを落としちゃって、ネジがどこかにいちゃったんだけど、今見つかったんだ。お姉ちゃんが踏まないように立ち止まっていてくれたおかげだよ!」

「……」

「お姉ちゃんありがとう! バイバイ!」

そう言って手を振って去っていく男の子。

苦笑いをしながら手を振ってあげて、この場に残ったのは顔を青くした警察官と私。

さっきまで集まっていたギャラリーはいつの間にかいなくなっていた。


「こここ、これはどうも、とんだ誤解をぉっ!!」

凛「あぁ、いや……」

「申し訳ありませんっ!!」

体が折れるんじゃないかってくらい頭を下げる警察官。

ああもう、また目立ち始めてるよ。

凛「もういいって、私は誤解が解けたならそれでいいから」

それだけ言って足早に立ち去る。

後ろでは何かを言っている警察官がいるけど無視。

これ以上のトラブルはゴメンだよ。

そう思って前を向くと、少し離れたところに目つきの悪い大きな男が私を見ていた。


少しだけ、ほんの少しだけ、視線がぶつかり合う。

すると男が何かに気付いたような表情をして、一歩踏み出してきた。

明らかに私に向かって。

凛「!!」

それを意識した瞬間、私は反射的に踵を返して逆方向に駆け出す。

またトラブルになりそうだと思ったからだ。

だけどその時、妙な喪失感が、私を襲った。

大切なものが零れ落ちたような、変な感覚。

凛「……気のせい、さっさと帰ろう」

頭を振って変な感覚を追い出す。

私はそのまま帰路に着く。

男は私を追っては来なかった。


少し暗くなった帰り道。

あのトラブルがあって、いつもと違う道を私は歩いている。

歩きながらも、私は始まったばかりの高校生活のことを考えていた。

凛(私ももう高校生か)

凛(この前中学になったと思ったらもう高校生)

凛(中学のときって何をやってたっけ? 色々やってたような気もするけど、これと言って頑張ったことってあったっけ?)

凛(……無いかもしれない。家の手伝いや勉強は結構頑張った気もするけど、本当に頑張ったかって言われると違うような気がする)

凛(部活も特に入ってなかったし、友達と夢中に何かをするってこともあまりなかった)

凛(あまり、そういうこと考えたことなかったけど、何で今こんなこと考えているんだろ?)

凛(さっき変な気分になったから、少し憂鬱になってるのかな?)

凛(……)

凛(はぁ、新しい高校生活が始まったっていうのにこんな事考えてちゃ駄目でしょ……)

凛(でも、これから何か夢中になれることが見つかるのかな?)

凛(心を動かされるような何かが見つかるのかな?)

凛(夢とか希望とかも……)

凛(……)

凛(帰ろっと)


変に憂鬱になった私は家へ帰る為に足を速める。

ああ嫌だ。

何でこんな気分になっているんだろう。

さっさと帰ってお風呂にでも入って……。

その時だった。

目の前の、青信号の横断歩道を二歩ほど踏み出したその時。

私の視界の隅に変なものが映り込んだ。

凛「えっ?」

映り込んだ何かを見ようと首を動かす。

とてもゆっくりと、まるでコマ送りで映像を見ているような感覚。


数分間かけて5センチくらい首を動かしたのかな?

それくらいしか動いていない私の顔。

だけどそれだけ動いたことによって私の眼にありえないものが映っていた。

大きなトラック。

運転手は眠っている。

私に向かって来ている。

凛「うそ」

それだけを呟いた。

次の瞬間、私はとてつもない衝撃を受け、目まぐるしく変わる風景を眼に焼きつけ、

最後に首が無い人間の身体がくるくると空を舞っている光景を見て、

プツンという音と共に意識が闇に閉ざされた。

プロローグ 終わり。

しぶりんはアニメ基準となっています。
また書いてきます。

1.ネギ星人編


凛「はぁっはぁっ! ぜぇっはぁっ!」

まず目に飛び込んできたのは真っ黒な球体。

凛「はぁっ! はぁっ……あああっ!?」

私はさっきまで視界の端で見ていたトラックが再び襲い掛かってくる感覚を覚えて、勢いよく振り向いた。

そこには部屋の壁があるだけだった。

凛「はぁ……はぁ……あ、あれ? ……何が……何なの……?」

そのまま腰が砕けるように床に座り込む私。

「これで最後か?」

その声に顔を上げると、少し暗い雰囲気を放つ少年が私を見ていた。

一体何が起きたのか、自分の身に何が起きてしまったのかを考える暇もなく、私の目の前の黒い球体から音楽が流れ始めた。



あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー



……ラジオ体操?

何が起きているか理解できずに座り込んでいた私だったが、背後から聞こえてきた声に振り向いた。

「なんだ? ラジオ体操?」

「ホラ、やっぱりバラエティ番組だよ」

「あん? また一人増えてるぞ?」

「おっ、また女の子じゃん」

黒い球体と私が半々くらいの割合で見られて、品定めをされるような視線に不快感が湧き上がる。

気がつけば数人の男が私と黒い球体を取り囲むように部屋にいた。

その中の眼鏡をかけた男が私に声をかけてくる。

「もしかして、君も死にかけたの?」

凛「えっ……しにかけ……死?」

山田「ああ、急にこんな事を言っても混乱するだけだね。まずは自己紹介をしようか、僕は山田雅史、練馬東小学校の教師です」

凛「あ……わ、私、渋谷凛」

山田「渋谷さんだね。ええと、簡単に説明するとだね、ここにいる人たち全員死にかけた人たちみたいで、君もそうじゃないのかなって」


その言葉に先ほどの記憶が蘇り、私の体はガタガタと震えだす。

トラックに間違いなく跳ね飛ばされた。

そして、最後に見たのは……自分の体。

しかも首がない体。

と、いうことは…………。

凛「うっ……」

山田「だ、大丈夫かい?」

生々しい記憶が蘇り、吐き気がこみ上げる。

吐き気を必死に我慢をしていると、私の周りで喧騒がおき始めていた。

どうやら黒い球体を見て騒いでいるらしい。

それを見て、私も黒い球体に目を向けると、そこには文字が浮かび上がっていた。



『てめえ達の命は、無くなりました』

『新しい命を、どう使おうと、私の勝手です』

『という理屈なわけだす』


所々文字が逆転していて少し読みづらいが、間違いなくそう書いてある。

自分でも顔から血の気が引いていくことが分かった。

やっぱり私は死んだの……?

でも……。

首は付いている。息もしている。心臓も……動いている。

死んだはずなのに生きている。

もう何がなんだかわからなかった。

何人かから声をかけられていたけど、先ほどまでの恐怖と今起きている現状の混乱で何も耳にはいってこなかった。

俯いたままただ呆然としていたような気がする。

頭の中が真っ白になっていて、次に気がついたときには、私の周りには誰もいなかった。


凛「え……?」

凛「何、これ。えっ? 夢?」

頬を引っ張ってみる、痛い……。

凛「夢、じゃない?」

凛「だったら一体ここは……」

私はのそりと立ち上がって部屋の中を見渡す。

黒い球体は先ほどと違って両サイドが開き、中に何かが入っている。

覗いてみると、銃と何かのケースと…………

凛「ひ、人!?」

人がいた。

酸素マスクみたいなものを付けて、頭にはケーブルのようなものが付いて固定されている。

ピクリとも動かない。

凛「あ、あの……すいません……」

声をかけても無反応。

凛「……あのっ! ちょっと!」

何度も話しかけてみるが結果は変わらなかった。

ようやく私の意識がはっきりしてきた。

何が起きているか分からない。

だけど、間違いなく異常事態。

凛「と、とりあえず現状確認」

凛「この部屋……見たことも無い部屋」

凛「私、誘拐されたの……いや、違うような気がする……」

凛「あの時に起きたこと……私は確かに轢かれたはず……」

凛「夢じゃなければ…………そういえばさっきの文字」

『てめえ達の命は、無くなりました』

『新しい命を、どう使おうと、私の勝手です』

『という理屈なわけだす』

思い出す。

命は無くなった。だけど新しい命?

背中につめたいものが走る。


凛「……分からないことが多すぎ。もう一度あの文字を……あれ?」

もう一度見た時にはただ一言だけ書いてあった。

『行って下ちい』

そしてタイマーが表示されている。

『00:45:20』

凛「……」

凛「どこかに行けってこと? 一体何を……」

どこに行けというのか分からない。

部屋から出て何かをしろというのか。

そう思い少し部屋を見渡すと、球体の近くに扉があることに気がつく。

私はその扉に近づき、扉を開いた。

凛「……何、これ」

中には大きな黒いバイクのようなものがあった。

凛「バイク……だよね? でも、タイヤがない……」

バイクみたいなものを調べていると、床に何個か置いてあるものが目に付く。

なんだろうと思い、拾うとズシリと重量感が手に伝わる。

何かは分からないけど……スイッチ?

凛「押すと何かが……あぁッ!?」

スイッチを押したと同時に、何かが出てきた。

慌ててスイッチを離すと伸びた何かは止まり、私の手にはさらに重量感を増した何か……。

いや、これは……。

凛「ナイフ?」

10センチくらいの刃が飛び出した真っ黒なナイフが私の手におさまっていた。

凛「こんなナイフ、見たことも無い……」

私はなぜこんな変なナイフが落ちているのか、このバイクはいったい何なのかと考えていると、

急に視界が変化した。


凛「は?」

外だった。

住宅街、夜の住宅街が私の目に映る。

凛「え? だって、今、私、部屋に……?」

そして気がつく。

凛「!? か、体!? わ、私の体が!?!?」

無い。

凛「いっ、イヤッ!! な、何これ!? ヤダッ!!」

再び私の脳裏にあの光景が蘇ってきた。

首のない、自分の体。

凛「うあああああッ!! ああああああッ!!」

パニックになっていた。

落ち着きかけていた私の思考は再び混乱の渦にかき回され、しばらくの間私は叫び続けていたと思う。

やっぱり私は死んでいるの?

分からない。何もわからない。

そんな中、一つだけ、私の心に、強く湧き上がる思いがあった。

『死ぬのは嫌だ。死にたくない』

それに気がついてから、私の叫びは変化していた。

凛「し、死にたくないッ! 誰かァッ! 助けてェッ!!」

ただ必死に、誰でもいいから、助けてと。

無くなってしまった私の体を返してと。

ただひたすらに叫んでいた。

だけど、私の叫びは誰にも届かなかった。

凛「イヤ……イヤだ……こんなの……イヤだよ……」

首だけで生きていれるわけがない。

もう死んでしまう。

そう考えていた私が、再び自分の体を見て完全に思考が停止するのを誰が咎めることができるだろうか?

凛「……え?」

自分の体を見ながら私はその場で固まり続けていた。

手に黒いナイフを持ち、夜の住宅街で佇んでいた。

今日はこのあたりで。


期待してる

どれくらい経ったかわからない。

私は首が繋がった自分の体を抱きしめるように夜の道を歩いていた。

不安と恐怖。ただそれだけが私の心を埋め尽くしている。

凛「……助けて」

凛「……怖いよ」

凛「……死にたくないよ」

夢遊病の患者のように私は行くあてもなく歩き続ける。

どこに行けばいいの?

どこに行けば私はこの不安と恐怖から開放されるの?

そんな事ばかり頭の中でぐるぐると回り続ける。

そうやって、歩いていると、私の視線の先。

住宅街の突き当たりの街灯の下に何かが散らばっているのを見つけた。

私はふらふらとその場所に近づく。

近づくにつれ、私の目にはっきりと何があるのかが映し出される。


凛「な、なに…………これ…………?」

頭では理解している。

だけどそうだと認めたくない。

凛「…………人?」

呟いて意識してしまった。

そう、私の目に映っているのは、バラバラになった人の死体。

沢山の人、みんなバラバラ、血が沢山。

凛「う……うえぇぇぇぇっっ! げほっ! げぇぇぇぇぇぇっ!!」

耐え切れずに吐いた。

えづきながら胃の中身がなくなるまで吐き続けた。

それでも嘔吐感はおさまらず吐き続ける。

やがて私はその場に倒れこみ、荒い息をつきながらぼうっと空を眺めていた。


凛(ここって、地獄?)

凛(地獄だったら、私何か悪いことしたかな?)

凛(酷いよ神様、何で私がこんな目に合わないといけないの?)

凛(私まだ死にたくないよ……)

涙を流しながら空を見ていた。

珍しく星空が見える。

この星空が私の最後に見るものになるのかと思いながら空を見続けていると。

私の視界にこの世のものとは思えないほどの恐ろしい形相をした人の顔が飛び込んできた。

凛「……えぁ?」

浮遊感。

私の頭を掴まれて持ち上げられた。

どこか他人事のように思え、私は私を持ち上げている人に視線を向ける。

すごく大きな人。巨体にエプロンをつけ、アンバランスさが湧き出ている。

その顔色は緑色と人間ではありえない色をして、その形相は怒りに染まりきっていて、見るもの全てに恐怖を植えつけさせるような形相。

そして、その目は私に向けられ、何かを指差し叫び始めていた。


「マガッ! マズガッ! ズマッ! ズマッ!」

視線を向けると、

緑色の液体を撒き散らした首のない体があった。

その体を見て、また首の無い自分の体がフラッシュバックする。

凛「い、い……や……いや……だよ……」

私の頭を掴んでいる人は何かを叫び続けている。

やがて私の頭に圧迫感が襲い始めた。

凛「い……いだ……痛い……痛い……」

締め付けられる感覚から、痛みに変化していく。

そして、私は見てしまった。

私の頭を掴む指が、鋭利な刃物のように変化した瞬間を。

凛「う、そ。やだ……たす、けて……」

私の髪がパラパラと地面に吸い込まれる。

耳に裂けるような痛みが発生する。

そして、私の頭に何かが喰い込む感覚が襲い掛かった瞬間。

私の意識はとてもゆっくりと、スローモーションのような状態に変化した。


凛(私の髪……切れてる)

凛(私の耳……すごく痛い)

凛(私の頭……このままじゃ潰されちゃう)

凛(潰されたら……死んじゃう)

凛(死んじゃう……? 死ぬの……?)

凛(……嫌……私……死にたくない)

凛(死ぬのは……嫌)

凛(絶対、嫌)

スローモーションの世界で、私は指を動かした。

その指が触れるのは、黒いナイフのスイッチ。

何かを意識していたような気がする、このスイッチにふれたときに何かが起きた事を意識しながらスイッチに触れた。

すると私の手に変な感触が伝わる。

ゆっくりと何かが食い込んでいく感覚。

ツプツプツプと何かに食い込んでいく感覚が伝わって、

私は地面に落とされた。

凛「うァッ!?」

衝撃で目を開く。

凛「いっ…………え?」

目を開くとそこには、私の手から伸びる黒い刃に胸を貫かれた大きな人の姿があった。


「ハグッ……グオッ……」

凛「……は? な、に……これ?」

私の手から伸びている刃、さっきのナイフが伸びてこの人の胸に刺さっている。

凍りついたように私の手は固まっていたが、少しすると手に持った黒いナイフ……いや、黒い剣からとてつもない重量感を感じ、私の手は地面に吸い込まれるように黒い剣を下に振り下ろしていた。

「ゴバァッ!!」

それと同時に私に降りかかる、熱い緑の液体。

目の前にいた大きな人は、胸から裂けるように半分に割れ、裂けた部分から止め処なく緑の液体が噴出し私に降り注いでいた。

凛「…………」

瞬きもせずに私はその光景を目に焼き付けていた。

大きな人は潰れるように地面に吸い込まれ、数分間痙攣をしながら液体を撒き散らしていたが、やがてそれも止まり辺りには静寂だけが残った。

凛「…………」

私の思考は完全に停止した。

何も分からなかった。

分かりたくなかった。

目の前で起きてしまった事を認めたくなかった。

だから私は思考を放棄していた。

そうやって黒い剣を持ち固まっていると、数メートル先に異変が起きた。

何も無い空間に電気が走っている。

バチバチという音と共に、何も無い空間から何かが現れた。

足、手、体、そして頭。

そこには、さっき見た少し暗い雰囲気を放っていた少年が、驚いた顔をして立っていた。


「あんたが……コイツを殺ったの?」

その声に視線だけを向ける。

「!? あんた何でその刀持ってんの?」

刀?

その言葉に黒い剣を見る。

「オイ? 聞いてる?」

再び視線を少年に向けた。

「……もしかしてさ、コイツ殺したのに罪悪感とか感じてんの?」

その言葉に私の体が大きく跳ねる。

殺した。

そう、殺したんだ。

あんな状態で生きているわけが無い。

私が、人を、殺…………

「罪悪感なんか感じる必要なんてねーッて。コイツ人間じゃねーんだぜ」

凛「……え?」


「おッ。やっと反応見せたか」

凛「人間、じゃ……ない?」

「そーだよ。コイツは宇宙人。俺たちはコイツ等を[ピーーー]ためにゲームをやってんの。あんたはコイツを殺してポイントをゲットしただけ」

凛「うちゅう、じん? ……げーむ?」

「ああ」

少年の言葉は理解しがたいものだった。

だけど、私はもう一度、私が……刺した……人を見る。

胸から下が半分に裂けて、奇妙な形で、地面から生える花のような形で動かない。

その顔は緑色、髪なのか草なのかよくわからないものが頭から生えている。

手は四本指でとてつもなく長いカマの様な爪。

そして、裂けた部分からはいまだに緑色の液体があふれ出していた。

凛「はっ……ははっ」

気持ち悪さじゃなくて笑いがこみ上げてきた。

何も面白くないのに何で笑ってるんだろ私?


凛「に、人間じゃない……これ、人間じゃないよ……」

そうだ、こんなの人間のわけが無い。

「だから、そー言ってんじゃん」

そうだよね、こんなの人間じゃない。

私は人を殺してなんか無い。

それに、私はさっきこいつに……。

凛「……殺されかけた……私……こいつに……」

「そうそう、あんた殺されかけたんだろ? こーしなきゃあんたもああなってたよ」

少年が顎を動かし、さっき見たバラバラの死体を指す。

私は視線を向けはしなかったが、少年が言いたかったことを理解した。

そうだ、こうしないと私があんな風にバラバラになっていた。

頭を潰されて死んでいた。

仕方なかった。仕方なかったんだ。


そうやって考えていると、いつの間にか少年が私の前にしゃがみこみ、私の顔を覗き込んでいた。

「……あんた、結構いい目してるね。さっきはそーでもなかったけど、今のあんた、悪くないよ」

何を言われているのかよくわからなかったが、私はさっきよりも大分落ち着いてきて、

少年の言葉に耳を傾ける。

凛「どういう、ことなの?」

「いや、なんでもない。俺もあんたに色々聞いてみたいけど、タイムリミットが近いからまずは先に残りのターゲットを殺しに行く」

タイムリミット?

一体何の?

「あんたも着いてくる?」

その言葉に、私は頷いた。

分からないことだらけ、だけどこの少年は何かを知っている。

今何が起きているのかを知りたい。

そして何よりも、一刻も早くこの場所から離れたい。

そう考えて、私は視線を少年から離さず、他の何も見ずに立ち上がった。


凛「っ! 重……!?」

そして、立ち上がって、手に持った黒い剣を地面に落としてしまう。

さっきまでと違う重さ。

とても持てるような重さじゃない。

「あー、あんたスーツ着てないんだよな? それじゃ持てる訳ねーよ。そのスイッチを押してみなよ」

少年が指し示す位置に、先ほど押したスイッチとは別のスイッチがあった。

それを押すと、見る見るうちに刃が収納され、刃も何も無い最初に見た状態に戻った。

「それなら持てるだろ?」

その言葉に、私は刃が無くなった剣の柄を持ち、今度こそ立ち上がった。

私が立ち上がったことを確認したのか、少年は私を先導するように前を歩き出した。

「そんじゃ、着いてきなよ。面白いモン見れるかもしんないよ?」

歩きながら話す少年。

面白いもの? こんな状況で面白いも何もと思いながらも私は少年の後を追った。

一旦終わり。また書いてきます。

私と少年は道路を数分ほど歩いていた。

突然、少年が立ち止まり視線を前に向けている。

それに釣られ私も前を見る。

百メートルほど離れたところに3つの人影が見えた。

「おォッ? すげーなあいつ。星人追い詰めてるよ」

よく見てみると、黒いスーツを来た人が、さっきの宇宙人に似た何かを殴りつけている。

その近くには、人が倒れていた。

「なんだ? トドメささねーでどうしたんだあいつ?」

少年の言葉に再び黒いスーツの人に目を向ける。

黒いスーツの人は、宇宙人を殴るの止めて倒れている人に駆け寄っていた。

宇宙人は殴られて気を失っているのか、その場から動かない。

「チッ、何モタモタやってんだ? 仕方ねぇ……おい、あんた。少し待っててくれ」

凛「え?」

私の返事も聞かずに歩いていく少年。

少年は少し歩くと、手に何か銃みたいなものを持ち宇宙人に向けて撃ち出した。

宇宙人は銃から出た光るワイヤーみたいなものに縛られて身動きが出来なくなり、

それを確認した少年は黒いスーツの人に近づき何かを話し始めた。

少しすると、少年と黒いスーツの人は言い争いをし始めた。


何をしているのかと少し近づくと、私の目は宇宙人がモゾモゾと動き始める姿を鮮明に捉えた。

あの少年も黒いスーツの人も気付いていない。

手を二人に向けて、宇宙人が二人に何かをしようとした。

その手には長くカマのような爪、それと一緒に何かが握られている。

私はその爪を見た瞬間、さっき見た凄惨な光景が結びつき、咄嗟に手に持った剣のスイッチを押していた。

「ネギ……アゲマ……ゴバッ!!」

宇宙人の声が聞こえた。

何かを言って、その後に口から緑色の液体を吐き出している。

その原因を作ったのは私。

私の手に握られた黒い剣は一瞬にして数十メートル近く伸びて、宇宙人の喉を貫いていた。

私は再び重さに耐え切れず黒い剣を掴んだまま地面に突っ伏してしまった。

私が顔を上げたときには、宇宙人の体は半分に分かれて地面に転がっており、

その手には何故かネギが握られていた。


「おいおいおいおい、横取りってなァ~~」

頭を掻き毟りながら少年が近づいてきた。

「……まァいいや。どうせ点数はゆずろうと思ってたし」

少年は地面に落ちた黒い剣を軽々と持ち上げ、刃を収納し私に手渡してきた。

あんなに重いものを軽々と……?

「しかしあんた、本当にやるね。あっちの偽善者とは全然違う、俺と同じだ」

凛「……同じって、何のこと?」

「あんたも興奮してるんでしょ? あれを殺して、さ」

凛「……何、言ってんのよ。私は……」

あんたを助けようとして、と言おうとした時に私の目にありえないものが映った。

少年の頭が半分なくなっている。

凛「!?!? あッ、頭!! 頭がッ!!」

「おッ」

少年は何かに気付いたようで、私に片手を上げて小さく言った。

「お先」

そして、少年は徐々に頭が無くなり、体が無くなり、足の先まで消えてなくなり、

この場から完全に消滅した。

凛「…………なんなの」


消えてしまった。

でも、お先って言っていた。

それなら、もしかして……。

ある可能性を考えていると、私の耳に叫び声が聞こえてくる。

「おいッ! おいッ加藤ッ!! 起きろッ!!」

その声に視線を向けると、黒いスーツの人が倒れている人に向かって呼びかけ続けていた。

私はそれを見て二人に近づいて息を呑んだ。

倒れている人は血にまみれて、目には生気が無い。

顔も真っ白で明らかに手遅れだ。

これもさっきの宇宙人にやられてしまったんだろう……。

私は顔を顰めて倒れている人を見る。

すると、黒いスーツの人にも異変が起きていた。

少年と同じように頭が無くなって、体もなくなり始めている。

凛「……さっきと同じ?」

これは、まさか。

何も分かっていなかった。

だけど、直感的に理解できた。

凛「戻って、いるの?」


そうしていると、倒れている人にも異変が起きている。

先の二人と同じように頭から消えていっている。

もう間違いない。

ということは、私も……。

と、思ったら、頭の先に変な感覚が訪れた。

温度が違う、頭の先だけ部屋の中にいるような感覚。

その感覚を受けた私は、さっきの現象が私にも起きているのだと分かりほっと一息を付いた。

あの少年がこの現象に巻き込まれても特に気にすることもなく、「お先」と言った。

これから私は間違いなくあの少年がいるどこかに戻るのだろう。

ジリジリと頭の違和感が大きくなると同時に、私は宇宙人の姿を視界に捉えた。

体が半分に分かれた宇宙人。やったのは私。

凛「……仕方ないじゃん」

だって、あんた等は悪い奴等なんでしょ?

事実私はさっき殺されかけた。

あんた等を殺してないと殺されてた。

凛「仕方ないよ、仕方なかったんだよ……」

そう、仕方なかったんだ。

私は、悪くない。

私はそう思い目を閉じた。

そして、次に目を開けたときには、私の目の前に、さっきの少年、黒いスーツの人、血まみれで倒れていたはずの人、私よりも少し年上に見える学生服を着た女の子、最後に犬。

全員が私の事を見ていた。



『ちーーーーーん』


私が声を出そうとしたら、そんな音が黒い球体から発せられ、全員が黒い球体に注目する。

黒い球体には再び文字が浮かび上がっている。


『それでは ちいてんを はじぬる』


ちいてん? ……逆文字だとしたら、さいてん? 採点?

私の考えを肯定するように少年が言った。

「ガンツが採点を始めるぜ」

「はァ? ガンツ?」

「うん、ガンツ」

凛(ガンツ?)

少年と黒いスーツの人がやり取りをしていると、黒い球体に変化が起きる。



『犬 0てん やるき、なちすぎ ベロだしすぎ しっぽふりすぎ』


黒い球体の前の犬が落ち込むように小さくないた。

また画面が変わって文字と画像が浮かび上がる。


『巨乳 0てん ちちでかすぎ ぱんツはかづにうろつきすぎ』


「あたしィ!?」

学生服を着た女の子が映し出された文字に文句を言っている。

これって、もしかして全員?

また文字と画像が変化した。


『かとうちゃ(笑) 0てん おおかとうちゃ(笑)死にかけるとわなにごとぢゃ』


「…………」

やっぱり一人ずつ全員。

これも何か意味があるの?

再び変化する。



『西くん 0てん りんちゃんにきょうみもさすぎ ゆだんしすぎ』


『Total 87てん あと13てんでおわり』


「チッ」

あの少年は他の人と違う……。

Total87点? 後13点で終わり?

また変化する。


『くろの 0てん 巨乳みてちんこたちすぎ』


「はァ!? あ…………あッ!!」

これで私以外の全員。

ということは……。


『りんちゃん 6てん よくがんばりました』


『Total 6てん あと94てんでおわり』


6点……。

トータル点数も6点……。

そして、後94点で終わり……。

さっきの少年は、Total87点の残り13点。

100点で終わる……? 何が……?


「6点って…………いーのか?」

黒いスーツの人が私の点数を見て聞いてくる。

凛「さぁ?」

「さぁ? って、キミが採った点数なんだけど……」

凛「そんな事言われても何の採点なんだか知らないしわかんないよ」

そう、まだ分からない。

あの少年に確認するまで、確証が持てない。

私が少年に視線を向けると、他の3人も同じように視線を向ける。

その視線を受け、少年は親指を後ろに指し、

「外、ドア開いてるぜ」

そう言って、部屋から出て行こうとする少年。

それを咎めるようにまず黒いスーツの人が少年に声をかけた。


「ちょっと待てよ……こっちには聞きたいこと山ほどあるんだけどな」

それに続くように、もう一人の男と女の子も声を上げる。

「そうだ……おまえ色々知ってそーだし」

「うん」

これには私も同意する。

凛「お願い、教えてくれないかな?」

少年はポケットに手をいれて壁に寄りかかり私を見て答えた。

「いいぜ……俺の知ってる範囲でなら」

その答えに対して、黒いスーツの人は、

「ウソはなしだぜ……」

若干疑いの目だ。

「…………なんなりと」

少年の言葉で黒いスーツの人が少年に質問を始めた。

今日はこのへんで。
>>22 ありがとう。

期待してる
懐かし半分ではあるけど
これからの追加メンバーに変化があるのか気になる


「何から聞こう……」

「あ……なんなんだ一体?」

「ハァ? 何が?」

「あ、いや……この状況、何が起こってんだよ?」

「……質問が大雑把すぎ」

黒いスーツの人の質問にため息をつきながら回答する少年。

……長くなりそうだし、何より面倒臭くなりそうだったので、私は手を上げて少年に問いかける。

凛「あのさ、聞いていい?」

「ん? ああ、あんたか。何を聞きたいんだ?」

まずは、大前提。

凛「私ってさ、今生きてるの? それとも死んでるの?」

そう、私はトラックに轢かれた。

あれが夢だとは思えない、あの時の衝撃、自分の眼に映る首のない自分の体。

あの時に私は死んだ、はずなのにこの部屋に移動して今に至る。

さっきの宇宙人とかのことは保留、まずは自分が今どうなっているのか。

それが知りたい。


「……生きてるよ」

凛「本当に!?」

「……ああ」

生きている。

心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。

私は死んでいない。今ここに生きている。

大きく息を吐いて私は生の喜びを感じると共にその場にへたり込んでしまった。

「……ただ」

少年は間を置いて続けた。

「たぶん俺の考えでは……本体……オリジナルは本当に死んでいる」

凛「……は?」

「まァ、これはあくまで俺の考え。確証は無いよ」

凛「……どういう意味?」

「ここにいる人間はファックスから出てきた書類……コピーってやつだと思う」

凛「コピー?」

「……この中には死ぬ寸前に助けられたものがここにやってくるって考えを持ってる奴もいると思うけど、そうじゃないって事、オリジナルはとっくに死んでいて俺たちは全員コピー……ニセモノって奴だ」

凛「……何、それ」


さっきは生きているって言ったのにやっぱり死んでいる?

何を言っているのか……。

いや、これも情報の一つ。

分からないものは一旦置いておく。

重要なものを聞いていく。

凛「……次の質問、いい?」

「ん? いーけど、さっきの話気にならないの?」

凛「私が生きているって分かっただけでいい。今はそれでいい。もっと知りたいことは沢山あるからさっきの話は後回し」

「ふーん。それならそれでいーけど。次は何聞きたいの?」

次は……。

どう考えてもこの異常事態の原因のひとつと考えられるもの……。

目の前にある……。

凛「……その黒い玉。それは何?」

「ガンツ」

凛「名前はさっき聞いた。その黒い玉がなんなのかを知りたいんだけど」

「……ガンツがなんなのか…………ね」

ずっと私に視線を固定していた少年は、私以外の3人を少しだけ見て、再び私に視線を戻し口を開いた。

「ガンツの正体は知らない」

凛「……」

「俺の知ってることは、ガンツが死んだはずの人間を連れて来て、昔から今夜みたいに星人を狩らせてるってことだけ」


宇宙人を狩らせている……?

何の為に……?

ううん、それよりも……。

凛「あのさ、昔からってことはさ……」

「へー、あんた、勘いいね」

少年の言葉で確信した。

凛「やっぱり……さっきみたいなことは、また起きるって事?」

「答えはイエスだ」

少年の回答に、今まで黙って聞いていた男二人が声を上げた。

「おいッ! どーいうことだよそれッ!? 終わったんじゃねーのかよッ!!」

「そうだ……俺たちは帰れるんじゃないのか……?」

「……お前等はニブイな。ちょっとは自分の頭で考えてみたらどうだ?」

「んだと!?」

少年と黒スーツの人の言い争いが始まってしまった。


……本当に勘弁してほしい。

……今は情報がほしいというのに。

口を挟んでも、この場を取り成す事が出来るわけも無いし言い争いが終わるまでまとうと思っていたら、どんどんヒートアップしていく。

そんな中、背の高いもう一人の男が、少年に問いかけ始めた。

「計ちゃん、少しそいつと話させて貰えっかな?」

「あ? ああ……」

「ありがとう……なあ、おまえさ」

「何?」

「何でそんなに色々知ってるのに最初から説明しなかったんだ?」

「!」

「おまえが説明してくれていれば……あんな恐ろしい奴を狩りに行かされるって分かってれば……さっき死んだ人たちだって逃げることも出来たはずだ」

「……」

少年は冷たい目をして背の高い男を見ている。

「……そーいやそーだ」

「なんで? どーして教えてくれなかったの?」

続くように黒スーツの人と女の子が少年に問いかけた。

「答えろ……」

「なんでもっと早く教えなかった?」

「答えろ、こら!!」

少年の態度に何かを感じたのか、背の高い男は徐々に声を荒げて少年に近づく。


少年との距離が0になった時に、少年は小さな声で言った。

「ターゲットが油断するときってさ……」

その時点で少年が何を言うか私には分かってしまった。

「……人を殺してるときなんだよ」

……やっぱり。

最初にこの少年が現れたとき、何も無いところからいきなり現れた。

私が宇宙人に殺されかけた後、私があの宇宙人を殺した後すぐに。

まるで計ったようなタイミングで。

……私が殺される瞬間を待っていたんだ。

そして私があの時、宇宙人に殺されていたら、その間に宇宙人を仕留めるつもりだった。

この少年に対し、私の心が冷えていくのを感じる。

「……おまえ、俺らが……あのヘンなのに襲われてるときも……どっかで見てたのか?」

「ああ、ヤクザのおっさん、ハデにぶっとんでたな」

「……お、おまえ、目の前で……人が死んでいても……なんとも思わないのか?」

「知ったこっちゃないって、他人が生きようが死のうが」

少年が男を煽る。

「なに? そんな顔して俺を殴りたいの?」

煽る。

「お前、偽善者くせーんだよ。こん中で一番偽善者くせー!」

煽り続ける。

「なあ、偽善者! 偽善者!!」

少年の言葉に、完全に切れたらしく男が少年に掴みかかった。


それと同時に黒スーツの人と女の子が叫ぶ。

「加藤ッ! やれッ! 殴っていいぜそいつ!」

「うん!!」

……まずい。

私もあの少年には思うところがあるが、このままだと少年から情報を聞き出すことが出来なくなる。

まだ情報が足りない。このままだとまずい。

そう思い、私は叫んだ。

凛「ちょっと待ちなよ! あんた等さ、ケンカするんだったら後にして! 私はまだ聞きたいことがあるの!」

私の言葉に黒スーツの人が反応する。

「お、おい! キミもこいつが言ったこと聞いてたろ!? なんで止めるんだよ!?」

凛「わかんないの!? このままじゃさ、こいつから何も聞けなくなるじゃん! まだまだわかんないことがあるってのにさ!」

「聞けなくなるって……こんな奴の言うことなんか聞かなくてもいーッて!」

凛「はぁ!? アンタそれ本気で言ってんの!?」

「当たり前だろ!!」

黒スーツの人は本気で言っているみたいだ。

頭が痛い、何を考えてるの?

こんなワケの分からない状況、何の情報も無しにこれからどうするつもりなの?

さっきみたいな事はまだ続く。

多分、100点を取るまで。

今回で6点だったということは、17,8回近く今日みたいなことをやらないといけない。

何の情報もなしにそれだけの回数を?

無理。

絶対に無理。

聞かなければいけない。

感情を殺してでも、この少年に、この少年が知っていることを全部知らなければならない。

だけど、少年は私を見て少しだけ笑って、手に持った何かを操作して、その姿を消してしまった。

凛「なっ!?」

「消えた!?」

まずいっ!!

凛「ちょっとッ!! 待ってよッ!!」

私の焦りと対照的に妙に落ち着いた少年の声が部屋に響く。

「もうお前等に話すことは……無い」

凛「ッッ!!」

「ああ、最後に、帰ってもここの事は誰にも話さないほうがいいぜ。頭バーンだからなー」

その言葉を最後に、少年の声は聞こえなくなった。

そして、部屋の外で扉が開いて閉まる音がしてこの部屋には私を含め4人と一匹だけが残された。


凛「くっ……」

「いなく……なった?」

私以外の3人は少年が消えて少し部屋を探していたが、外の扉が開くことに驚き声を上げている。

「おい! 開く! 開くぞッ!!」

扉が開いて何を驚いているの……。

3人の行動に若干イライラする。

この人達のせいで、情報を満足に聞き出せなかった……。

「おーい。キミも帰るんだろ? 外の扉開いてるから帰ろうぜ」

黒スーツの人がそんな事を言う。

一体なんなの? さっきまであんな事があったのになんでそんなに能天気でいられるの?

私の心の内が表情に出てしまったのか、私の顔を見て黒スーツの人が少したじろいだ。

「な、何だよ。なんでそんなに睨んでるんだよ?」

凛「……私に構わないで」

視界から黒スーツの人を外す。

そうしないと何を言ってしまうか分からない。

その後も何か言われたが無視をしていると、やがて扉が開く音と閉まる音がして、この部屋に残されたのは私ひとりだけになった。

凛「……最悪。殆ど分からないまま……どうすればいいの……」

凛「……調べるしかない。この黒い玉……ガンツを」

私はガンツに近づき、中を覗く。

凛「さっきと変わらない。銃みたいなものと、何かのケースと、それと……人」

凛「この人が起きてくれれば……」

そう思い何度も呼びかけたが、やはり反応はなかった。

私は玉の中の人と話すことを諦め、銃とケースを調べることにした。

凛「これは……銃だよね。さっきアイツが使っていた銃もある……」

あの少年が宇宙人に撃った銃を見つける。

手に持って調べると、銃口が3つありYの形になっている銃だった。

後部にモニターが付いていてトリガーは二つある。

凛「……使い方、何かないの? マニュアルみたいなものは……」

そこでケースの存在を思い出す。

もしかして、ケースの中に何か入っているのかもしれない。

銃の使い方や、この状況を説明する何かが。

そう思い、ケースを引き出してみる。

凛「……りんちゃん? これって、私のこと?」

りんちゃんと書いてあるケースを見つけた。

中を見てみると。

凛「なにこれ……黒い、スーツ?」

凛「……これ、さっきの人が着ていたスーツ……」

凛「…………ちょっと待って。思い出せ……このスーツの形……」

凛「アイツも服の下に着ていた! 間違いない!!」

私はスーツに付いている特徴的なレンズ状の装飾が、あの少年の服の下から一部だけ見えていた装飾と同じということに気がつく。

凛「あの人も着ていて、アイツも着ていた……このスーツ、何かある……」

そのときだった。

パチパチパチパチと手を鳴らす音が聞こえた。

「正解。やっぱアンタ、感がいいし、鋭いね」

凛「!?」

バチバチと放電が起こり、最初と同じように少年が何も無い空間から現れた。


凛「……アンタ。戻ってきたの?」

「いや、ずっと部屋にいたよ」

凛「……何の為に?」

「アンタと話すために」

凛「……なんで私と?」

「アンタが言ったんだろ? まだ聞きたいことがあるって」

凛「……その為だけに、私が一人になるのを待っていたって言うこと?」

「おいおい、そう警戒すんなって。俺はアンタをすげー評価してるんだぜ? 初めてのミッションでスーツも着ずにターゲットをぶっ[ピーーー]奴なんて初めてだからな。それに俺と同じニオイの奴と話してみたいとも思っただけだって」

私がアンタと同じ?

ふざけんな。

……という気持ちは押さえ込む。

今は聞かないといけない。

落ち着いて、冷静に……。

凛「そう、それじゃあ、聞かせてよ。アンタの知っていることを全部」

「全部って……まァ、いいけどさ」

凛「それじゃあ……」

西「おいおい、その前に自己紹介くらいやっとこうぜ? 俺は西丈一郎、アンタは?」

凛「……渋谷凛」

少年、西に私は質問をぶつけ始めた。

今日はこのへんで。
>>50 ありがとう。そこらへんはお楽しみということで。

しぶりんかわいい

乙乙

西は胡坐をかいて床に座った。

それに対して私は西の前で腕を組んで立っている。

西「そんで、何を聞きたいの?」

凛「……さっき中断されてしまった続き。さっきみたいな事……宇宙人を狩るゲームって言うのはまだ続くんでしょ?」

西「ああ」

凛「それは強制的にやらされるって考えていいの?」

西「うん、逃げることは出来ないよ」

……やっぱり。

なんとなく予想は付いていたけど、肯定されるとやっぱり気が遠くなる。

もう一つ予想をつけている事も聞いてみる。

凛「……それって100点を取るまで?」

西「へェ、そこにも気付いてたか」

凛「…………」

やっぱり……。

西「あの点数画面見て気付いたの? やっぱ鋭いよアンタ。アンタなら多分クリアできるんじゃねーの?」

凛「……気休めは止めてよ」

西「気休めじゃねーって、本当の感想。さっきのバカ3人は何も考えずに帰っちまった。だけどアンタは違う、こーやって自分が置かれている状況を理解して必要な情報を得ようとしている。戦いを生き残れる奴ってのは頭のイイ奴だけなんだよ」

頭のいい奴ね……。

アンタみたいに狡賢いやり方もその一つってワケ?

……いけない。冷静に、クールにならないと。


凛「……確証は? 100点を取って本当に終わるの?」

西「それじゃ、見る? 100点取ったときのメニューってやつ」

凛「メニュー?」

西はおもむろに立ち上がり、ガンツに近づき声をかけた。

西「おい、ガンツ。100点取ったときのメニューを出してくれ」

西がそう言うと、真っ黒がった球体の表面に文字が浮かび上がってくる。

『100点めにゅ~』

『1 記憶を消されて解放される』

『2 より強力な武器を与えられる』

『3 MEMORYの中から人間を再生する』

凛「これ……って」

西「な? 100点で解放、1番のやつだよ」

記憶を消されて解放される……。

100点を取れば、取れればの話……か。

だけど、この選択肢……。

凛「2と3ってどういう意味なの?」

西「物好きの為の選択肢だろ。2は戦いが好きな奴が選んで、3ははっきり言ってよくわかんねー。こんな選択肢選ぶ奴いねーって」

2は言葉の通りって事ね。

でも、3は……。


凛「MEMORYの中って書いてあるけど、MEMORYって何のこと?」

西「死んだ奴のことだよ。おい、ガンツ、死んだ奴等を全部見せてくれ」

再び黒い球体の表示が変化した。

今度は文字ではなくて画像。

人の顔が次々と表示されていく。

西「これのこと。ホラ今回死んだ奴等も一番下に出てるだろ?」

私の記憶の中のこの部屋に来た時に名前を名乗った山田雅史という人の顔が表示されていた。

そのほかにも何人も何人も、全体を見ると100人以上……。

その数字を意識してしまって、気が遠くなっていく感覚を覚えた。

こんなに大勢死んでいる。

画像の中にはかなり屈強な男の人の画像もある。

そんな人も宇宙人に殺されて、このメモリーに表示されるだけの記録となってしまっている。

どうしろっていうの?

私はただの女子高生。

力もなければ宇宙人に対抗できる術も……。

対抗できる術……武器?

私は先ほど見た銃の存在、そして私が使った剣の存在を思い出す。


凛「……武器、銃と剣だけ?」

西「ん? 急にどうした?」

凛「武器ってそこにある銃とあの奥の部屋にあった剣だけなの?」

西「……アンタはどう思う?」

……質問に質問で返すな。

西「……」

西は私の回答を待っているのか、私を見たまま何も言わない。

普通に考えたら武器といえるものは銃と剣だけ。

でも今は普通じゃない。

異常な状況、もっと考えて、武器になりそうなもの……。

一つはあのバイク。

そしてもう一つ。

こいつも着ている……。

凛「このスーツも武器になるの?」

西「その通り」

ニヤリと笑いながら満足げに言う西。

その態度が若干ムカつく。

凛「……どうやって使うの?」

西「着るだけ。着るだけで効果が発動する」

凛「どんな効果?」

西「身体能力向上、攻撃力上昇、防御力上昇、ステルス機能、こんなもんか。とにかくそのスーツを着ていれば、死ぬ可能性が大きく下がるぜ」

凛「……こんなスーツが」

西「ま、信じられないとは思うが本当の事だぜ。アンタも見たろ? さっきのバカがこれを着て星人を追い詰めていたのを」

さっきの人たちの中でスーツを着ていた人……。

確かにあの人はスーツを着て、宇宙人を殴っていた。

スーツを着てなかった人はあの場所に倒れて、死ぬ寸前で……。

……ちょっと待って。

あの人、何で生きているの?

あの時、この部屋に戻る直前にはもう死にかけていたはずなのに。

凛「ねぇ、あの背の高い人、スーツを着てなかった人って死にかけてたよね? あの人、なんで怪我一つ無い状態になっているの?」

西「ああ、そりゃミッションをクリアできたからだ。ターゲットを全滅させて転送される時点で生きていれば胴体がちぎれてろーが、この部屋に帰ることが出来る。あくまでも生きていればだけどな」

凛「……」

これで何度目だろう? 頭が痛くなるのは。

完全に分かった。

今までの常識を当てはめることなんて出来ないみたいだ。

凛「……少し、整理させて」

西「ごゆっくりと」

今までの情報を整理すると。

この部屋に来る人間は、このガンツと言う黒い玉によって死に至った人間が連れてこられて宇宙人と強制的に狩りをさせられる。

狩をするための武器はガンツから与えられて、それを100点取るまで繰り返すということ。

宇宙人を全滅させた場合はどんなに怪我をしていても無傷でこの部屋に戻ることが出来る。

本当にゲームだねこれ。それもかなり性質の悪い……。

でも、なんでこんな事を。

なんで私がこんな事をやらされなきゃいけないの。

凛「……こんな事をしなきゃいけない理由って何?」

西「それは俺にも分からない」

凛「……」

西「ガンツにも何か理由があるんじゃねーの? 星人と敵対してるとかさ?」

凛「……それに私が選ばれた意味は?」

西「分からない。死んだ人間をランダムで連れて来てるみたいだし」

凛「……ガンツの中の男が全てを知ってるんじゃないの?」

西「分からない。こいつが動いてる事なんて一回も見たこと無いからな」

この辺りは分からない、か。

このガンツの中にいる男が全ての元凶なのかもしれない……。

だけど、それも分からない。

分からないものは仕方ない。

後気になるところといえば……。

凛「あれって、なんでガンツなの?」

西「ん? 前の誰かが付けたって聞いてる」

凛「その誰かって解放されたの?」

西「分からない。俺が来る前だ」

凛「……それじゃあ、アンタは解放された人間を見たことある?」

西「……ああ、あるよ」

凛「!!」

解放された人間もいる。

やっと希望の光が差し込んだ気がした。

西「やっぱアンタ色々鋭いし目ざとい。俺の知ってるガンツの情報は全部話しちまったよ。これ以上ガンツについて知ってることはないぜ」

凛「……」

なんとなくだけど嘘をついているような気がする。

だけど、これ以上話さないって事はもう話す気も無いことって言うことかな?

自分で調べるしかないわけね。

しょうがないか。本当に知らないだけかもしれないし。

これ以上は聞いても無駄。

……ガンツについては。

凛「それじゃあ、ガンツについてはこれくらいにして、ゲームについて教えて」

西「おいおい、ちょっと待てよ」

凛「?」

西「ずっと俺、アンタの話に付き合ってるけど、そろそろ俺の話も聞いてもらいたいんだけどさ。言っただろ? 俺もアンタと色々話してみたいって」

凛「……」

正直言って西と何かを話すのは嫌だ。

人を見殺しにするような人間。

私の事も見殺しにしようとした。

情報を全部聞き出すまでは嫌だけど話をしなければいけないと思ったけど、

西が私に何を聞いてくるのかが変に予想が付くだけに嫌だ。

だけど……。

凛「何? 私に何を聞きたいの?」

まだ聞かなければならない事はある。

スーツや銃、剣、バイクとゲームのルール、それにいきなり消えたあの現象。

知らなければならない。

そのためにも、我慢。

何を聞かれようとも、言われようとも我慢する。

西「アンタ、あいつ殺したときどうだった? 興奮した?」

凛「……言ってる意味、分かんないんだけど」

西「隠すなって。アンタも俺と同じで生き物を殺すと興奮するんだろ? あいつを刺した時どんな感じがした? 楽しかっただろ? 気持ちよかったんだろ? 最高だったんだろ? なァッ?」

凛「…………別に」

西「何だよ、教えてくれたっていーんじゃね? 今回、俺何も殺せなくて欲求不満なんだよ。あー、でもあいつらが星人にバラバラにされたときは結構良かったな。見てても結構くるもんがあった。アンタもそう思うだろ?」

凛「………………別に」

西「……それならさ、いつもはどうやって欲求不満解消してんの? 俺は猫とか犬とかを殺して解消してんだけど、やっぱ小さいのだと物足りねぇんだよな。アンタも猫とか犬を殺してんの?」

凛「……………………」

無理だ。

コイツと話すのはもう無理。

我慢できると思ったけど無理。

頭がおかしい。こんな奴と一秒でも会話をしたくない。

西「? おい、どうした?」

凛「帰る」

西「はァ? ちょっと待てよ、おいッ!」

凛「……」

スーツと銃を手にもって振り向きもせずに出口に向かう。

西「おいッ! スーツ持って帰るのかよ!?」

凛「……」

西が私を追ってくる。

近づくな。気持ち悪い。

西「んだよ。……スーツ持って帰るなら次呼ばれる時にはちゃんと着てたほうがいいぜ」

西「あと、あんまりそれ人に見せないほうがいいぜー、人にばれると…………」

思いっきり扉を開けて叩きつけるように閉めてアイツの声を遮断した。

そのまま走る、全力で走り続ける。

何が生き物を殺して気持いいだ。

何がいつも犬を殺しているだ!

あんなに可愛いハナコを殺す!?

いつも私にじゃれ付いてきて、散歩をする時は尻尾を振って私に飛びついて着て喜んでくれるハナコを殺す!?

私が風邪をひいて辛い時に心配してくれるハナコを!!

私が受験に合格した時、私が喜んでいるのを気付いてくれて一緒に喜んでくれたハナコを!!

ふっざけんなっ!!

あんな奴、もう二度と口も利きたくない!!


私は夜の市内を駆け抜ける。

頬に涙が伝っている、これもアイツのせいだ。

あんな人間がいるなんて信じられない。

私は怒りで煮えたぎる心を体を発散させるように全力で走った。

どの道を走ったのかは覚えていないが、気が付いたら私は家まで帰ってきていた。

そのまま私は自分の部屋まで戻る。

部屋に入って、スーツと銃を放り投げベットに体を預け目を瞑る。

色々なことが頭を巡っていた。

その中でも一番大きいものは怒り。

私は自分を落ち着かせるためにも、目を瞑っていたが、いつの間にか意識は落ち、再び目を開けたときには朝になっていた。

凛「朝……」

凛「……」

凛「…………夢じゃ、なかった」

私の机には、黒いスーツと銃が無造作に置かれていた。

ネギ星人編 終了。

今日はここまでで。

>>64 かわいい
>>65 >66 ありがとう。

2.田中星人編


あれから数日。

今は終業時間となり帰る支度をしている。

この数日間私は終わりのベルと共に真っ直ぐ家に帰っている。

「凛~。今日もすぐ帰っちゃうの?」

友達が私に声をかけてきた。

凛「あ、うん。ちょっとやることがあって」

「え~。最近付き合い悪くない~?」

凛「……ごめん。どうしても外せない用だからさ」

「そっか~。そういえばさ、凛は部活決めた? まだ決めてないなら一緒に吹奏楽入ろうよ。凛って音感いいじゃん」

凛「ごめん。部活、今は入る気ないから」

「ええ~」

そう、部活とかに時間をとられている暇は私には無い。

今、私にはやらなくてはならないことがある。

それは……。

家に帰ってきて、私は部屋で黒いスーツを身につけている。

下着も脱がないと着ることができない体のラインが浮き出たスーツ。

何かのコスプレみたいで最初は恥ずかしかったが、この数日毎日身につけていてもう大分慣れた。

私はこの数日間、あの部屋から持ち帰ったスーツと銃をずっと調べていた。

そして、このとんでもない二つの道具の性能をある程度使いこなせるようになっていた。

凛「これも……潰せた……引きちぎれた」

私の手の中には潰れて変形して引きちぎられた鉄アレイ。

粘土をちぎる様に、私は鉄アレイをちぎっていた。

凛「次……ペットボトルを少し離して置いて……」

小さく丸い形の銃を空のペットボトルに構える。

銃の後部についているモニターにペットボトルが透けるように映っている。

私はまず一つ目のペットボトルに狙いを定めて、二つあるトリガーの上を引く。

同じように別のペットボトルにも狙いを定め上のトリガーを引いていく。

5個のペットボトル全部に上のトリガーを引いたら、少し離れて下のトリガーを引く。

すると。

ギョーン!!

凛「……」

数秒。

バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!!

全てのペットボトルが爆発するように吹き飛んだ。

凛「……やっぱり、ロックオンできるんだ」

凛「ペットボトルは……粉々……」

スーツと銃の性能に息を呑む。

凛「……次、少し外に出て」

銃を鞄に入れて、スーツの上に少し大きめのジャージを着て外に出る準備をする。

部屋から出て、外に行こうとしたときにハナコが散歩と思ったのか私に飛びついてきた。

凛「あ……」

凛「……ハナコ、ごめんね、散歩はまた今度」

ハナコは私の表情で散歩ができないと理解したのか、残念そうに小さくないてその場で待ての体制になった。

凛「本当にごめんね。明日は散歩に連れてってあげるから」

明日は一緒に散歩にいこうねと頭を撫でてあげたら嬉しそうに鳴き声をあげるハナコ。

私もそれを見て微笑んで外に出る。

目的地は少し離れた場所にある大きな森林公園。

スーツの性能と銃の性能をさらに試すための私の実験場。

今日も色々試す為に、日が落ちる寸前の時刻を狙って家を出たのだが、今日はハナコに見つかってしまった。

……この数日ハナコの散歩も出来てない。

……あの部屋のこととこのスーツと銃のことしか考えていなかった。

……ハナコの散歩を忘れるくらい、頭の中はガンツに関することで一杯。

凛「……明日は散歩、行かないといけないな」

もうスーツの性能や銃の性能はある程度理解している。

今日、もう一度試して明日は。

そう考えて私は足を速める。

日は暮れ、夜の帳が下り始めていた。

夜の森林公園。

開けている公園にはまだ人がいたが、私は人目に付かないように森林に足を踏み入れる。

数分草木を掻き分け木々の隙間を通り進むと、大きな木が数本ある少しだけ開けた場所にたどり着いた。

ここが私の実験場。

この数日、夜はこの場所で誰にも見つからないように実験をしている。

西が言っていた言葉、誰かに見つかると頭が……という言葉。

見つかったら死ぬ可能性もある、だから隠れて実験をしている。

慎重に、誰かが来たらすぐ逃げれるようにして数日間、私は誰にも見つからずに実験を出来ていた。

凛「さて、と」

この数日間試し続けた集大成。

ぶっつけの本番、準備運動も何もなし。

地面に落ちている数個の石を持って、懐に鞄から出した銃をしまいこむ。

そして私は体制を低く取った。

陸上のクラウチングスタートの姿勢、構えて少し溜めて、地面を蹴り跳躍する。

10メートル近くの跳躍、風を切る感覚が私を襲う。

一瞬で目の前に迫った大きな木に体制を変えて木の側面に着地。

そのまま、同じように跳躍。

木が物凄く揺れて、私は別の木に同じように着地し、同じように跳躍する。

これを数度行い、最後に木を蹴って上空に飛び上がる。

数十メートル近く飛び上がった私は空中で数個の石を投げ、懐から取り出した銃を構えて全てにロックオンをした。

目まぐるしく変わる視界、きりもみ上に落ちていく体を捻り着地。それと同時に銃の下の引き金を引く。

ギョーンという音と、数秒後遅れて落ちてきた石は全て地面に落ちたと同時に爆散した。

それを見て、私は数歩後ずさり尻餅をついてそのまま地面に寝そべった。

凛「は、はは……信じらんない……」

今自分がやった動きが、自分でやったにも関わらず信じられなかった。

こんな動き、オリンピック選手にも出来やしない。

全部、スーツの力。

だけど、それが自分の力のように思えてしまう。

変な高揚感、そして心臓の音が高鳴っている。

そんな気分のまま一つ確認をすることを考え付いた。

凛「もう一つ、試してみないと」

むくりと起き上がり、森林の奥に足を進める。

少し歩くと、そこには地面から生えるような大きな岩があった。

凛「よし……」

おもむろに私は岩を抱きかかえるように触れる。

そのまま力を入れる。するとスーツに無数の筋が浮かび上がり岩の表面に私の指が食い込んだ。

凛「うううううう…………あぁぁッ!!」

そして、私は力任せに岩を地面から引き抜いた。

3メートル近い巨岩。

地面にめり込んでいた巨岩は、今私が持ち上げている。

凛「はっ、はっ……す、すごい……」

持ち上げていた巨岩を転がすように置いた。

凛「後は……」

引き抜いた巨岩を見る。

そして、銃を取り出し、巨岩に向け数回引き金を引いた。

あの間延びしたギョーンという音が数回。

それから少し間をおいて、巨岩の表面に爆裂音が数回おきて、巨岩の半分が吹き飛んでいた。

凛「こんな大きな岩が……、ここまですごいなんて……」

手に持った銃を見て先ほど感じた高揚感とは違う、寒気のようなものが私を襲う。

こんなものを撃てば宇宙人だろうがなんだろうが生きていることなんて不可能。

宇宙人を確実に倒せる武器を手に持っている私だったが、銃が持つあまりの破壊力に頼もしさを感じる前に恐怖してしまった。

凛「このスーツと、銃があれば、宇宙人を倒すことなんて簡単なはず」

楽観的だとは思うが、私はそう考えていた。

この数日間でスーツが持つ力をかなり使いこなせれるようになったと思う。

スーツの力はとてつもなかった。

少し走るだけでも、今までの感覚とは全然違う、風をきる様に走ることが出来た。

一回の跳躍で10メートル近く飛ぶこともできる。横にも縦にも。

石を握りつぶすことなんて簡単。鉄だって潰せたし、ちぎることも出来た。こんな大きな岩でさえ持ち上げることも出来る。

それに、このスーツを着ているときは衝撃が殆ど無い。

一度誤って全力疾走で木に突っ込んでしまったけど、少しの衝撃を感じただけで痛みは全くなかった。

多分耐久性も物凄く高いと思う。どこまでの性能があるかは分からないけど、車とぶつかっても無傷でいられるんじゃないかと思う。

ここまで破格の性能をもったスーツと恐ろしい破壊力を持った銃。

銃の破壊力はさっきこの目で見たし、銃に搭載されている機能もとんでもないの一言だ。

まず、銃の後部についているモニター、これはレントゲンみたいに物体の内部を映し出すことが出来る。

それのほかにもロックオン機能。上のトリガーを引くことによってモニターに移っているものをロックオンすることが出来て、下の引き金を引いて撃つと銃が勝手にロックオンしたものに当たる。

ここまでの破格の性能、スーツと銃があれば何とかなると考えてもおかしくないだろう。

それにあの部屋にはこの銃のほかにも、持ってこれなかった二つの銃と、あの剣、それにバイクもあった。

多分どれもこれもとんでもない性能を持った道具だと思う。

本当ならあの道具も全部試してみたかったけど、昨日あの部屋に行って見たら扉に鍵がかかっているのか開くことはなくあきらめた。

次の時に試せばいい。そう考えていたら、私の首筋に寒気が襲った。

凛「うっ……何だろう?」

凛「風邪……かな?」

スーツの上にジャージを着ているとはいっても、2枚しか着ていない状態だ。

寒さとかは感じないけどもしかしたら……。

と、その時、私の耳に金属音のような音が聞こえてきた。

凛「っ!? う、動けない?」

金縛り? 一体何が……。

そう考えていると私の視界に変化が発生する。

目に入ったのは黒い玉、ガンツ。

それと共に。

西「よォ、お帰り」

凛「……」

西が私を向かえるように言った。

私の全身が転送完了されて、金縛りも解けた。

それと共に西が近づいてきて、私に話しかけてくる。

西「お? 銃持ってんじゃん。スーツも着てるの? やる気満々だね」

凛「……」

私の姿を見てニヤニヤと笑いながら言う西。

西「もしかして何か殺してたの? やっぱアンタとは気が合うな、俺もさっきさ猫を殺してたんだけど、やっぱりどーも物足りなくてさ」

凛「……」

西「今日の星人はアンタにも譲る気ないからな、そのつもりでヨロシク」

気分が一気に最悪のさらに下に落ち込んだ。

やっぱり無理、生理的にも無理だし、こいつの口に出す狂っているとしか思えない言葉を聞いていると吐き気と頭痛が起きる。

私は無言で西と距離を取り部屋の隅に腰を下ろす。

西は何故か私についてくる。

西「なァ、今日はどんな星人だと思う? それに今日の追加メンバーはどんな奴が来ると思う?」

凛「……」

西「前回、死んだ奴等みたいにマヌケで笑える死に方する奴等だと面白いよな。マジで笑えたからなあん時は」

凛「……」

西「? おーい、どーしたの? ずっと黙ってるけど」

アンタと喋りたくないだけだ。

凛「少し黙って。私に構わないで」

西「?」

もう西に聞くことはしない、こんな奴に何かを聞くなんてもうしない。

これからは自分で調べて、自分で見つける。

西「おッ」

また何かを言うのかと思ったら、西とは別の声が部屋に響いた。

「くそ……またかよ……」

西「よォ」

この前のスーツを着ていた人だ。

それから順番にこの前の背の高い人と女の子、それと犬が転送されてくる。

あの三人はそれぞれ知り合いなのか軽い挨拶を交わしている。

西は三人が転送されたあと、特にあの背の高い人が現れた後は無言になって、何も言わずに私の近くにやってきて壁に背を預けている。

近づかないでほしい、私は西から離れるように立ち上がり、あの三人に話をする為に歩み寄った。

この数日色々試して考えた、そしてスーツと銃の性能を理解した私が出した結論は、全員に情報を共有して今の現状やスーツや銃の道具の性能を知ってもらう。

それが一番助かる可能性が高くなる。全員で協力してゲームに挑めばこの理不尽なゲームでも100点を取ることができる。

そう考えて、私は声をかけた。

凛「ねぇ、ちょっといい?」

まずこの前のスーツの人が反応した。

「ん? キミはこの前の……」

凛「うん。あなた達と話をしたいんだけどさ、いいかな?」

玄野「あ、うん。大丈夫だけど……あッ、俺は玄野計って言うんだ。こっちは加藤、この子は岸本」

加藤「加藤勝、よろしく」

岸本「あたし、岸本恵。あなたは?」

そういえば自己紹介もしてなかった……。

これから一緒に100点を目指す仲間になるんだから、友好的にしないと。

凛「私は渋谷凛。えっと、玄野……さん? この前はごめん、私色々と余裕なくてあなたに酷いこと言ったかも」

あまり覚えていないけど、声をかけられたのに無視をしていたのは間違いない。

とりあえず謝っておこう。

玄野「えッ? あッ! い、いーよ! そんなこと気にしなくてもさ!」

凛「加藤さんと岸本さんもごめん。あの時色々私に声かけてくれてたよね?」

加藤「あんな事があった後だ、気が動転しててもおかしくないさ」

岸本「うん、あたしも気にしてないし謝まんなくていいよ」

凛「ありがと。そう言ってもらえると助かる」

良かった。気にしてないみたいだ。

これなら……と三人に私の考えを説明しようと思ったところで、再びこの部屋に人が転送されてきた。

加藤「また人が……」

玄野「今度は数人一辺に現れてるぞ……」

部屋に4人の男が転送されてくる。

全員、何と言うかガラが悪い……。

岸本「あッ、また……」

また転送されてくる。

……全員集まってからのほうがいいか。

私は説明するのを少し伸ばすことにして、転送されてくる人たちを見つめる。

おばあさんと男の子、それとヘルメットを被った男の人と髪のすごく長い女の人。

また4人転送されてきた。

凛「これで8人……まだ来るのかな?」

岸本「どうだろ? 加藤君はどう思う?」

加藤「えっ? 計ちゃん、どー思う?」

玄野「……さァ? わかんね」

もう少し待っても転送されてくる人は現れなかった。

もう終わりかな? と思っていたら、さっきのガラの悪い4人のうちの一人が大声を出してこの状況の説明を求め始めている。

「おい!! どーなってんだコレッ!! 誰か教えろ!!」

「どこだよここっ!! 説明しろてめえらっ!!」

加藤さんと玄野さんが顔を見合わせている。

岸本さんは少し怯えているようだ、私もこういう人たちは怖い……。

誰も答えようとせずに、またさっき大声を出した人が声を荒げようとするかと思ったら、その人を含めガラの悪い4人は私と岸本さんの顔を見た後、いきなり近づいてきて至近距離でしゃがみこんで私たちを嫌らしい目で見てくる。

凛「な、何よ……」

岸本「加藤……くん……」

怖い。

そう思って岸本さんと一緒に逃げようと思ったら、私たちと男達の間に加藤さんが割り込むように入ってきて立ちふさがった。

「なんだテメェ!!」

「おい!! ゾクを舐めてんのかてめぇ!!」

「やんのかてめぇ!?」

加藤さんが立ちふさがったまま4人を見下ろしている。

私のほうからは見えないけど睨んでいるのかもしれない。

加藤さんも少し怖い人かと思ったけど、これって私たちを助けてくれたの?




あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー



そんなやり取りをしていると、この前と同じようにあの曲が流れ始めた。

私の体が強張る。

また、始まる。

……大丈夫、今回はスーツも着ている。銃も持っていく、それに全員に情報を伝えて……。

そう考えていると、私の目に前回見ていなかった画面が映し出された。

凛「……田中、星人?」

『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい』

『田中星人』

『特徴 つよい ちわやか とり』

『好きなもの とり ちよこぼうル』

『口ぐせ ハァーハァーハァー』

なにこれ?

こんなの前回は……。

そうか、あの時私は何も考えれない状態で、呆然としてて、コレを見落としていたって事……。

これは多分、宇宙人の情報。

見逃してはいけない情報。

私は、この情報にしばらく集中することにした。

内容を解読する為に。

周りの喧騒を気にせずに画面を見て、何か気が付くことは無いか、へんなところは無いかと集中していた。

だから気がつかなかった。

気付けなかった。


「おい、中島なにやってんだ?」

「おう、コレ見てみろよコレ」

「あ? なんだこれ、頭? 骨?」

「おう、透けて見えるんだよコレ。だからよ、服とかもよ……」

「! へへ、オメーそれ使ってあのカワイコちゃんに何するつもりだよ」

「分かってんだろ? コレを、もう一個引けばいいのか?」

私の後ろで何かが聞こえる。

集中したいのに一体何を……。

私は振り向いた。

それと同時に音を聞いた。

この数日間、聞きなれた音を。

ギョーン!!

凛「……………………え?」

私の目にありえないものが映っていた。

光り輝く銃口。

私に、私の顔に、この部屋にあったはずの銃の銃口が向いていて、銃口から光が漏れて消えた。

キュゥゥゥゥンという音が銃から上がっている。

「あ……? 何かでた?」

何かを言っている。

「やっぱおもちゃかコレ? 音は出たけどよ」

何を言っている?

加藤「あ……。お、おい……おまえ今……」

凛「…………」

まさか。

全身に汗が噴出す。

まさか……。

目の前が真っ白になる。

まさか…………。


私を撃った?

今日はこのへんで。

おお…西君セーフか?


凛「ハァッ、ハァッ、ハァッ」

撃たれた。

凛「ハァーッ、ハァーッ」

間違いなく撃たれた。

凛「ハァーッ! ハァーッ!!」

死ぬ。

死んでしまう。

凛「ハァーッ!! ハァーッ!!」

「おッ、そんなに息を荒くしちゃって、もしかして俺に惚れちゃった?」

「バァーカ! 何言ってんだよ中島ァ!」

加藤「お、おい。まさか……」

玄野「? どーした加藤?」

岸本「どうしたの?」

嫌だ。

頭があの岩のように爆発する。

死にたくない。

時間差でもう吹き飛ぶ。

何で私が。

違う、こんなの嘘だ。

助けて。

違う、死ぬ、誰か、死ぬ、嫌だ、死ぬ、怖い、死ぬ………………。

頭を抱えながら壁際まで後退した。

もうくるであろう死への瞬間を恐怖しながら後退してそのまま倒れこんだ。

何で、どうして、私が…………。

西「おいガンツ!! 俺と渋谷を先に転送してくれ」

何かが聞こえたような気がした。

私はずっと目を見開いて私を撃った銃口を見続けている。

そして、私を撃った男の顔を見続けている。

笑っている。馬鹿みたいな顔をして笑っている男に、沸々とある感情が湧いてくる。

そうやって瞬きもせずに目を見開いているのに、私の視界が一瞬真っ暗になった時、私はついに死んでしまったのだと思った。

同時に私の感情が爆発し、何かを言ったような気がする。




凛「コロシテヤル」



その次の瞬間には私の視界に光が戻っていた。

夜の道。どこかの橋の上。橋の上で私は寝そべっている。

ここが天国? そう考えながら身動き一つせずに虚空を見つめていた。

西「災難だったな。あんなバカに撃たれちまうなんて」

私の視界に西の姿が飛び込んできた。

西「おい、聞いてる? ……つーか、お前ずっと俺を無視してるけどさー、どーいうつもりなんだよ?」

死んだはずの私が、なんでこいつに話しかけられているの?

凛「……なんで?」

西「あ?」

凛「私、死んだのに」

西「死んでねーよ。まだ生きてるって」

凛「…………え?」

西「さっさと起きろって、モタモタしてっとアイツ等が来るだろーが」

言われるがままに体を起こし私は西が投げてきたものをキャッチした。

西「それ、俺のと周波数合わせてあるから。右のボタン押してみなよ」

凛「…………」

手にあるものを見ると、ゲームのコントローラーみたいな機械。

私は右のボタンを押した。

すると私の周りで空間が揺らいだような気がした。

西「よし、俺の姿は見えているか?」

西の周りも空間が揺れている。

私は西の言葉に素直に頷いた。

西「それじゃあ、こっちに来い。もうすぐアイツ等も転送されてくるはずだ」

凛「……何? どうして?」

西「あァ?」

凛「私、撃たれたのに……」

西「あー、お前スーツ着てるだろ? そのおかげだよ」

西の言葉が脳内を駆け巡った。

急速に意識がはっきりとしてくる。

凛「スーツ……防御性能……」

西「そーそー、そのスーツは防御力も半端ねーんだよ」

凛「…………はぁ~~~~っ」

ようやく実感できた。

私は撃たれたけど無事だった。

このスーツのおかげで。

西「お前、運も滅茶苦茶良いな。普通だったらあの時点でスーツを着てる奴なんて持ち帰ってる奴くらいだからな」

運が良かった。

本当にそうだ。このスーツを着ていなかったら。

凛「……あのまま頭が吹き飛んでた」

西「ん? スーツを着てなかったらってことか? そりゃ、吹っ飛んで愉快なオブジェになってただろーな……」

西「!! おい、早くこっちに来い。転送されてきたぞ」

少し離れた場所に、玄野さんの顔だけが浮かび上がっていた。

その場所とは逆方向に早足で駆けて行く西。

西「おい!! 早くしろッ!!」

私は少しだけ悩んだが、西の後を追った。

話もしたくないと思っていたが、さっきまでのあの恐怖で思考がまだ停止しているのかもしれない。

私は玄野さんとは別方向に駆け出した。

住宅街の街灯の下。

西は私に丸い小さめの銃を手渡してきた。

あの大岩を吹き飛ばした銃と同じタイプの銃だ。

西「お前、武器持って来てないだろ? これ使えよ」

確かにあの時、銃を手放していた。

最初に座っていた西の隣に置いたまま、持って来ていない。

嫌いな相手から施しを受けるのは嫌だった。

だけどこの銃が無いと丸腰、背に腹は代えられなかった。

凛「……ありがと」

西「よし、そんじゃ、アイツ等ぶっ殺しにいくか」

凛「……何? 私と一緒に宇宙人を倒しに行くの? さっきは私に譲らないとか言ってなかった?」

西「はァ? 違げーよ。あのバカ達をだよ。お前を撃ったバカとその仲間とこの前の加藤とかいうバカを殺しに行くんだよ」

凛「……は?」

何を言っているのか分からなかった。

西「あーいう頭の弱いバカどもは絶対俺の足を引っ張る。いや、それどころか邪魔をしてくる可能性が高い。そーなる前にさっさと殺しておこうと思ってな」

凛「殺すって……アンタ何言ってるの」

西「あァ?」

凛「アンタ、人を殺すって言ってるの?」

西「そー言ってんじゃん」

こいつは何を言っているのだろう。

凛「……あのさ、はっきり言わせて貰うけどさ」

西「?」

凛「アンタ、頭おかしいよ。普通そんな事言わないし、考えもしない。一体なんなの?」

西「はァ? どーしたんだよ?」

凛「アンタさ、私を同類だと思ってるみたいだけど、私は違うから。アンタなんかと違って私は普通の人間。アンタみたいな頭のおかしい人間とは違う」

西「……」

凛「私は人を殺すなんて出来ないし、そんな事を考えもしない。アンタと一緒にしないで」

西「……」

私を見続ける西。

少しの間をおいて、西はなぜかくつくつと笑い始めた。

西「クッ……クククク……」

凛「……何? 何がおかしいのよ?」

西「……いや、なんでもない。気が付いてねーんだなと思ってさ」

凛「……?」

西「まァ、いいや。お前がそう言うなら止めておくよ。流石に一人であの人数を相手にするのは無理があるからな」

凛「……アンタ、まだそんな事を」

西「俺は星人を探すとするけど、お前はどーすんの?」

凛「……戻ってあの人たちと一緒に戦う」

西「ふーん。まァいいけどさ、今回戦うのは止めておいたほうがいいと思うぜ」

凛「……なんで?」

西「お前のスーツ、もうかなりのダメージ喰らっちゃってるから」

凛「……」

西「こんだけ言えばお前ならわかんだろ? んじゃ、またな」

西は手元でコントローラーを操作した。

すると、西の姿が揺らぐように消えてその場には私だけが残った。

凛「っ! ……消えた」

凛「ダメージ……ね」

私はジャージの下のスーツを一度見て、その言葉の意味を考える。

凛「限界があるってことか……」

私は胸に手を押さえ息をはく。

大丈夫。ダメージを喰らっていると言ってもまだ大丈夫なはず。

さっきの場所に戻って、全員協力して戦えばスーツが限界を迎えることなんて無いはずだ。

早く合流して、全員で……。

凛「…………あ」

視線の先に妙なものが映る。

凛「……っっ!!」

街灯に照らされてその姿がはっきりと見えた。

さっきガンツの表面に浮かび上がっていた画像そのままの姿。

凛「田中星人……」

まずい。

スーツにダメージを負っている今、戦うのはまずい。

凛「逃げ……」

振り向いた先、私は目を疑う。

凛「な、何でもう一体……」

全く同じ姿をした田中星人が逆方向からも近づいてくる。

凛「……道がどっちも無理なら」

凛「上から……」

私は跳躍をして民家の屋根伝いに逃げようと考え空を見上げた。

そして私は硬直する。

空から降ってくる3体の田中星人の姿を目にして。

ドンッ! ドンッ! ドンッ!

凛「うっ!? うそっ!?」

3体の田中星人は私を取り囲み、その口何かが出る瞬間を見て視界は白く染まった。

このへんで。
>>97 セーフです

スレタイで渋谷か星空か遠坂か迷った
支援

田中星人の口が発光し何かが発射されると予感できた。

視界が白く染まった瞬間、私は反射的に身を屈めていた。

直後、とてつもない音で私の耳が一時的に機能を果たさなくなる。

「ギエェェェェェェェェェェェェッ!!」

凛「うあぁぁぁぁッ!?」

とてつもなく大きな叫び声。

耳が、頭が鈍く痛い。

3体の田中星人は、ロボットのような風貌の顔を動かし私に再び照準を定めていた。

凛「くぅッ! ああぁッ!!」

またあの叫び声がくる。

私は足に力を入れてその場から跳躍をする。

数メートルの跳躍。

このまま屋根伝いに……。

凛「!?」

私の眼前には2体の田中星人が迫っていた。

さっきまで歩いていた田中星人。

私は田中星人に衝突し、吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。

凛「うぅ……」

キュゥゥゥン……。

何か機械音が聞こえた。

それもスーツから。

ゾクリと背筋が凍る。

……壊れ。

だが、スーツが壊れてしまったのかという考えを最後まですることは出来なかった。

田中星人は群れとなって私に襲い掛かってきたからだ。

凛「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

身を起こして再び跳躍。

田中星人も飛び上がり私を追ってくる。

屋根を蹴ってさらに上に跳躍。

田中星人はまだ飛んでくる。

電柱の頭部に着地して、さらに足に力を入れて跳躍、電柱は爆発したように壊れた。

十数メートル飛び上がった私は体を捻って下を見る。

田中星人が私を追ってこようとしている。

だが、距離が空いた。

私は手に持った銃を田中星人に狙いを定め、数度上のトリガーでロックオンをした。

1,2,3,4……ロックオンした後は、下のトリガーを引く。

ギョーン!!

田中星人は怒った顔で口を開いて飛び上がってくる。

だが、その顔が変形して、爆発した。

1体爆発すると、連鎖的に残り3体も爆発し、私の眼前から田中星人がいなくなったと思った。

しかし、爆発した田中星人の影から、もう1体の田中星人が現れて、私に組み付いてきた。

凛「くっ!? はな、してっ!!」

空中で組み付かれた私は振りほどこうともがく。

だが振りほどく前に、先ほど聞いたあの叫び声、私はあれの直撃を食らってしまった。

「ギエェェェェェェェェェェェェッ!!」

凛「~~~~~~っっ!?」

物凄い衝撃。

身体中に衝撃が浸透してくる。

それと同時に地面に叩きつけられた。

地面に叩きつけられた衝撃で田中星人は吹き飛び、再び私と田中星人との距離が開く。

凛「はっ、はっ」

遅れて空から田中星人の残骸が降って来た。

ドチャリと地面に叩きつけられて、液体が飛び散る。

凛「あと、あと一体……」

私は残りの一体をどうやって倒そうと考えようとした。

だが、その時。

ヒュウウウウウン。

凛「……うそ」

スーツから再び音がした。

そして、スーツの装飾のレンズからドロリと液体があふれ出してきた。

直感で分かってしまった。

スーツが壊れてしまったんだと。

凛「ハァッ……ハァッ……」

鼓動が早くなる。

汗が冷たい。

田中星人はゆっくりと近づいてくる。

私の思考が急速に回転を始めた。

凛(次あの攻撃をもらったら多分死ぬ)

凛(スーツは壊れた。もうあんな動きは出来ない)

凛(敵の攻撃を受けずに、この銃で敵を撃つ)

凛(敵の動きはかなり早い、何かで動きを止めないと当てることも出来ない)

凛(私が持っている道具はこの銃だけ。これ一つで敵の動きを止めて、敵を撃つ)

凛(銃の性能、時間差、ロックオン、透過能力)

凛(考えろ、考えて確実に……)

凛(確実に殺す)

汗が止まっていた。

田中星人との距離は約10メートル。

田中星人に動きが見える。

動いた。

私は地面に数度引き金を引いて前を向いたままバックステップを踏んだ。

遅れて地面が数回爆発して爆風と土煙が巻き起こった。

田中星人も爆風に巻き込まれて動きが止まった。

流れるように銃を正面に構える。

銃のモニターに透過した田中星人が映る。

ロックオンを数回、下の引き金もすぐに引く。

さらに数回撃つ。撃つ。撃つ。

田中星人が私に向かって突進してくる。

残り数メートル。

口からは白い光。

目の前までやってきた。

私は動かない。

田中星人を見続ける。

すると、私の目の前で田中星人はピタリと動きを止める。

それと同時に田中星人の体が膨張し始めた。

凛「…………」

膨れ上がり、大きく風船のようになって、

田中星人は内側から破裂した。

爆発して液体が私に降り注ぐ。

熱い液体、ジャージが真っ赤に染まっていく。

スーツ越しに感じる熱い感覚。

凛「……やった」

その感覚と共に、私の中で湧き上がる気持ち。

凛「勝った……私の勝ち」

自分の考えたとおりに敵を倒すことが出来た。

自分の狙い通りに敵が動いて、自分の考えの通りに敵を倒せた。

満足感を感じた。

だがすぐに自分が何を考えているのかを気付く。

凛「……わ、私、今……」

宇宙人を殺して、満足感を得て、喜んでいた?

凛「……違う」

こんなの、違う。

凛「違う、私は違う」

何かを殺して喜ぶなんて。

凛「私は、違う」

まるでアイツと一緒。

私は真っ赤な血だまりの中立ち尽くし、否定し続けた。


いつの間にか私は座り込んでいたようだ。

すでに冷たくなった液体の感覚が皮膚に伝わる。

真っ赤な液体の中で私は身動きせずに座り込んでいる。

そんな私に誰かの声が聞こえた。

「加藤君、あそこッ!」

その声の方向に首を動かした。

あれは……。

岸本さんと加藤さん、あと今回部屋に来た男の人とおばあさんと男の子。

加藤「おいッ! 大丈夫か!?」

凛「……」

岸本「渋谷さん!? ねぇッ! 大丈夫!?」

私の肩を揺さぶる加藤さんと岸本さん。

凛「……大丈夫、私は大丈夫、私は違うから……」

私が声を出すとほっとしたように二人は息をついていた。

加藤「よかッた……本当に無事で、よかッた……」

涙を流しながら私の身を案じてくれる加藤さん。

岸本「加藤君! レーダーの反応消えてるよ!」

加藤「! 近くにもいないのか?」

岸本「うん、さっきまであった田中星人の反応、全部なくなってるよ」

その言葉に体が震える。

「なァ、このグチャグチャになってるのがそーなんじゃねーのか?」

もう一人の男が私が倒した田中星人を指差して言う。

加藤「……確かにさっきの奴の服みたいなのが散らばってる。もしかして、本当にこれが……?」

加藤さんが田中星人だったものの服を見て当たりをつけた。

岸本「渋谷さん、ここで一体何があったの……?」

凛「え……あ、あ……」

私が倒したって言えなかった。

加藤「……もしかしてあの中坊か?」

岸本「え?」

加藤「あの中坊におとりにされて、君は田中星人に襲われていたんじゃないのか?」

凛「え……違う……」

「おい、田中星人まだいるみたいだぞ」

私の言葉を遮るように、もう一人の男がコントローラーを見ながら言った。

岸本「本当だ……」

「キリがないぞこれ……時間は後何分あるんだ?」

加藤「あと、30分くらいだ……」

さっき私が西に貰ったコントローラーと一緒。

ジャージのポケットから私もコントローラーを取り出してみるが、コントローラーはスーツと同じように液体が溢れ出して壊れていた。

加藤「……捕まえに行くしかない。タイムリミットになる前に全部捕まえないと」

岸本「うん……」

加藤さんは私を見て一旦言葉をとめて、岸本さんに話しかける。

加藤「岸本さんは、渋谷さんを連れて計ちゃんの所に連れて行ってあげてくれ」

岸本「えッ……う、うん。そうだよね、わかった」

加藤「渋谷さん。俺たちは今から残りの田中星人を捕まえに行ってくる。渋谷さんは安全なところで待っていてもらえるかな。そこには計ちゃんもいるから」

凛「……宇宙人……まだ、いるの?」

加藤「ああ、このレーダーを見てくれ。このポイントが田中星人の場所を表しているみたいだ」

コントローラーに映るのは地図のようなものと光るアイコン。

さっきとは違う画面だ。

加藤「こいつを捕まえればまたあの部屋に戻れるはずだ。タイムリミットまでに必ず捕まえるから安心して待っていてくれ」

加藤「岸本さん、渋谷さんを頼んだ!」

そう言って加藤さんと男は動き出す。

それについていくようにおばあさんと男の子も動き出した。

その姿を私は見送ってしまった。

何も言えずに見送ってしまった。

色々と話すことはあったはずだ。

銃の使い方、スーツの性能。

だけど、何も話せなかった。私は違うことを考え続けていた。

私はさっき感じたあの感覚をずっと否定し続けていた。

私は違うと、そんなわけ無いと。

私が何かを殺して喜ぶはずが無いと。

このへんで。

>>112 渋谷も入れとけばよかったですね。

やっつけ
http://f.xup.cc/xup8yyigklr.jpg

岸本「渋谷さん……行こっか。その服も変えないといけないし」

岸本さんが私の姿を見て手を差し出す。

全身を田中星人の返り血で染め上げ、ベタベタで酷い臭いがする。

こんな酷い状態の私を岸本さんは嫌な顔一つせずに手を差し出してくれている。

少しだけ躊躇したが、私は岸本さんの手をとって立ち上がり、岸本さんに連れられて歩き出した。

歩いている間にも頭の中ではずっと私は否定し続けていた。

私は違うと、あんな奴とは違うと。

そうやって無言で歩いていると、岸本さんが声をかけてくれる。

岸本「怖かったよね……大丈夫、加藤君がなんとかしてくれるから……」

私はその言葉に頷いていた。

それを見て岸本さんは満足したように私の手を引いて歩く。

私が全く別のことを考えているとは知らずに岸本さんは歩き続ける。

数分歩いて、最初に転送された橋のところまで戻ってきていた。

岸本さんは橋の上から川を見渡している。

岸本「あれ? いない……玄野君どこいったんだろ?」

私も岸本さんが見ている場所を見ると川の側面にある道にさっきの田中星人の姿が目に入った。

凛「!? う、宇宙人! いるッ!!」

岸本「あっ。大丈夫だよ、あれは加藤君がやっつけてくれたからもういないよ」

凛「そ、そうなんだ……」

岸本さんの言葉に安堵する。

確かに良く見てみると頭の部分が割れている。

本当に死んでるようだ。

岸本「この辺りにいるはずなんだけど……渋谷さんも玄野君を探すの手伝ってもらえるかな?」

凛「うん……でも、もしかしたら宇宙人に襲われたんじゃ?」

どこから襲ってくるか分からない宇宙人。

玄野さんももしかしたらと考えた私を否定するように岸本さんはコントローラーを見せてくれた。

岸本「大丈夫。さっきからこのレーダーを見てたんだけど、この辺りにはいないから安心だよ」

さっき加藤さんにも見せてもらったもの。

こんなものもあったんだ……。

岸本「もうっ……渋谷さん、悪いんだけど玄野君を探すのを手伝ってもらってもいいかな? 多分この近くにいると思うから」

凛「え? ……わかったよ」

岸本「ありがとう、それじゃ、あたしはこっちを探すね」

凛「うん」

岸本さんと別れ、川と逆のほうに歩き出す。

まだ頭の中でさっきのことを考えてえいるが、大分落ち着いて着ている。

冷静に思い出してみると、さっきのは私の勘違い。

何かを殺して喜ぶなんて、頭のおかしいアイツじゃあるまいし勘違いに決まっている。

多分、田中星人に襲われたのと、スーツが壊れて怖かったという、恐怖感を勘違いしていたんだろう。

凛「……うん。そうだ、さっきのは違う」

自分に言い聞かせ、私は玄野さんを探す為に辺りを見渡した。

凛「あっ、あのスーツ」

すると少し離れた住宅街の路地に黒いスーツの後姿が見えた。

私はその後姿を追うように走り出す。

走り始めて、大分近づいて後ろから声をかけた。

凛「玄野さ、ん……?」

私の声に反応して振り向いたのは玄野さんではなかった。

「ん? お前はあの部屋の」

ガラの悪い4人組の一人だった。

「なんだ? どーしたテッちゃん?」

「オウ、見ろよ、こいつが俺に声かけてきた」

前にもう三人いた。

玄野「あ……」

銃を突きつけられた玄野さんと。

太った男と。

…………。

……私を、撃った男。

玄野さん以外の3人は私の顔を見ると、また気持ち悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。

「おい、どうした? 俺らと一緒に来たいのか?」

凛「わ、私、玄野さんを、探して……」

「あァ? こいつか?」

「オウ、そんな事どーでもいいからこっち来ォ」

凛「痛っ!」

さっき私を撃った男が私の手を掴み引き寄せる。

やっぱりスーツは完全に壊れている。

引っ張られて振りほどけないし、すごく痛い。

私は男達を睨むが、男達は私の睨みなど意にも介さずただ気持ち悪く笑っていた。

「中島ァ、睨まれてるぞオマエ」

「やっぱお前俺のこと惚れてんだろ? 仕方ねぇ、俺の女にしてやるよ」

凛「な、にッ……言ってる、のッ!! はな、してッ!!」

男の手を振りほどこうとするが振りほどけない。

男は私の手どころか体にも手を回してきた。

虫が這うようなおぞましい感覚が走る。

私の胸を触れられている。

凛「いっ!? いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

「中島ー、嫌がってるぞ」

「ギャハハハハ、お前やっぱモテねーな!!」

玄野「……っ」

「うるせェ!! ……なんだ? こいつ服が濡れてるぞ?」

宇宙人の返り血はまだ乾いていない、私の体を触った男の手にべったりと宇宙人の血が付いた。

「な、なんだこりゃ!? 血!? う……し、しかも臭ェぞこいつ!!」

私は男に突き飛ばされて倒れこんでしまった。

「中島ァ、何やってんだ」

「こいつ、何か血みてーなものでベタベタなんだよ! しかも滅茶苦茶臭ェ!!」

「あァ? う……マジだ滅茶苦茶臭ェな……」

私を見下ろしてくる3人。

何? 何なの? 何でこんな奴等に臭いとか言われないといけないの。

沸々と怒りの感情が湧いてくる。

私は3人を睨み続けて、距離を取ろうと立ち上がる。

するとまたあの男、私を撃った男が私に触れようと手を伸ばした。

凛「触らないでよッ!!」

今度はその手を思いっきり叩いて弾き飛ばす。

気持ち悪いし、本当に止めてほしいと思ったから取った行動。

だけど、私のその行動は男を激昂させる引き金となってしまった。

「何すんだテメェ!!」

胸倉を掴まれて男に引き寄せられる。

そして頬に焼けるような痛みを感じた。

凛「え……あ……いた……い」

「中島ー、女に手を出すんじゃねぇよ」

「そんなんだからモテねーんだよオマエは」

「うるせェ!! おい、お前!! 舐めた態度とってんじゃねぇよ!! 自分の立場ワカってんのか!?」

男が私に怒声を浴びせる。

殴られて、怒鳴られている。

死の恐怖とは別の恐怖が私の心を満たしていく。

怖かった。目の前の男が怖かった。

そんな私の視界に玄野さんの姿が映った。

私は玄野さんに助けを求め…………。

凛「たす…………」

言葉を出す前に玄野さんは走り出していた。

私を置いて、走り出した。

目の前が真っ暗になったような気がした。

「あッ!! テメェ!!」

「逃げんなコラッ!!」

二人の男が追っていく。

私は胸倉を掴まれてまた頬を殴られた。

「聞いてんのかコラッ!!」

頬の痛みと、胸倉を掴まれているせいですごく苦しい。

頭がぼやけている。

少しすると、顔にあざを作った玄野さんが男二人に捕まって戻ってきた。

その間も私はずっと暴力の嵐にさらされていた。

もう、抵抗する気も起きなかった。

あれから私は無理矢理歩かされて、いつの間にか古い木造アパートの前にたどり着いた。

男達は何かを話している。

このアパートに宇宙人がいると言っている。

私はそれを他人事のように聞いていた。

誰かがアパートの中に入っていくのも見えた。

多分、玄野さん。

玄野さんが入ってしばらくすると、私の手を掴んでいる男が他の男二人に言う。

「テッちゃん。このアパートに宇宙人いなかったら、俺ここでこいつをヤるわ」

「あァ? オメー、我慢できねーのか?」

「オウ、こんなオンボロアパートでも風呂くれーあんだろ。こいつを風呂に入れてそのままヤっちまうわ」

「中島ァ、何オメーだけおいしい思いしようとしてんだよ!?」

男達の言葉に体が震えだす。

よくわからないけど、とても嫌な予感がする。

男達の目は全員私を見つめている。

今まで向けられたことの無いようなおぞましい視線を受けている。

その時、私の中で何かが切れたような音がした。

凛(こいつらは……だ)

凛(……は…………)

私の思考はすぐに中断させられた。

アパートからメキメキという音がし始める。

「お……?」

「なんっだっ?」

音の次はアパートに亀裂が入り始める。

メキビキバキと音が重く鈍いものに変化して、アパート全体が振動し始めた。

「おっ、おい!!」

「やっ、やべえぞっ!!」

3人の男はその場から逃げ出した。

私はその様子を見続けていた。

アパートが崩壊をはじめ、潰れる寸前で玄野さんが銃を片手にアパートから飛び出してきた。

凛「……」

そして、私の目の前でアパートは完全に崩壊した。

玄野「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

私は荒い息をつく玄野さんを見る。

玄野「ざま~~~~みろっ! っつ~~~~のっ!!」

玄野「やったぜ!! ちくしょうめっ!! 俺が全部まとめてやってやったっ!!」

銃を片手に叫び続ける玄野さん。

私はそれをただ見ている。

それと同時に、あの男達が落とした銃が目に付いた。

それを私は拾い上げる。

玄野「ハァーーーーッハッハハハハハハハ!! どーだ!! 見たかァッ!!」

加藤「計ちゃんっ!!」

加藤さん達もやってきたようだ。

玄野「加藤ッ!」

加藤「計ちゃん……これって……」

玄野さんと加藤さんが話している。

私は再びアパートに視線を向けた。

玄野「終わったぜ、全部」

視線をアパートの上に向けた。

加藤「終わった?」

見えた。

玄野「ああ、全部終わった。俺が片付けた」

黒く巨大な翼。

翼を羽ばたかせこちらに向かっている。

凛「敵」

玄野「えッ?」

私は新たな敵に向け銃を構え、上のトリガーを数回引く。

それと同時に横っ飛びをした。

数瞬前、私がいた場所に巨大な鳥の大きな爪が通り過ぎた。

敵は私の直線状にいた玄野さんを掴み空に飛び去っていった。

玄野「うああああああああああああああああ!?」

加藤「計ちゃんッ!?」

凛「……」

私はロックオンをした銃のトリガーをすぐに引いた。

銃はギョーンという音を出し、数秒後に少し遠くで数回爆発する音が聞こえた。

加藤「計ちゃーーーーんっ!!」

凛「大丈夫。敵は死んだよ」

加藤「え……」

凛「レーダーは?」

加藤「あ……そ、そうかッ、レーダーで田中星人の位置を見れば計ちゃんを!」

加藤さんが取り出したレーダーを見る。

中央に大きな光源が光っている。

加藤「はッ……これッ……まさか……」

凛「ッ!!」

意識するより先にもう一度横に転がった。

同時に大きな風圧が襲い、さっきと同じ姿の敵が空から強襲した。

私の隣にいた加藤さんが敵の爪に掴まれ……なかった。

加藤さんはギリギリで敵の爪を避け、私と同じように地面を転がる。

敵は大きな翼を羽ばたかせ闇夜に消える。

凛「もう一匹か」

加藤「クソッ!! なんッだッ! アイツ!!」

空を見上げるが闇夜と同化しているのか全く見えない。

さっきの一匹は間違いなく死んでいる。

ロックオンは頭に数回して撃ちこんだ、今回来たのは全く違う敵。

私の思考がクリアになった。

私はすぐに加藤さんが持つレーダーを奪い確認する。

加藤「なッ!?」

光源は真ん中。つまり上空にいる。また上から。

見上げるが見えない。だけどバサッバサッと羽ばたく音は聞こえる。

上に銃を向けてモニターだけに集中した。

まだ見えない。

まだ映らない。

まだ。

映っ…。

カチカチカチと上トリガーを引いて身をかわす。

だが避け切れなかったようで、ジャージが敵の爪に引っかかり破られた。

体勢も崩れるが、銃は離さない。

ドンッという音と共に、私達の目の前に巨大な鳥の敵が姿をあらわした。

加藤「……うォ」

敵は私達を見ている。

順番に顔を見ながら私を見た瞬間、敵は大きな鳴き声を上げ動き出した。

だけど焦らない。

もうロックオンはしてある。

落ち着いて引き金を引く。

ギョーン!!

次は敵の動きを見て回避する。

突進をしてくる敵を回避すれば私の勝ち。

さぁ、来るなら…………。

ギョーン!! ギョーン!! ギョーン!! ギョーン!!

「死ねェェェェェェェ!! このバケモンがァァァァァァ!!」

私の背後から音がした。

敵の攻撃を避けることも忘れて私は振り向く。

そこには銃を持った、最初に私を撃った……の姿。

私に暴力を振るった……の姿。

私の頭の中にアイツの言葉が蘇ってきた。

『あーいう頭の弱いバカどもは絶対俺の足を引っ張る。いや、それどころか邪魔をしてくる可能性が高い。そーなる前にさっさと殺しておこうと思ってな』

敵の突進が私の体を捉え、背中からボキリという音がした。

私が吹っ飛ぶと同時に、敵の体も爆発する。

空中を舞いながら、私は奇妙な光景を目にした。

私の左腕と下半身が風船のように膨らんでいる。

限界まで膨らんだかと思ったら、次の瞬間私の腕と下半身が破裂していた。


凛「ぎっ、ぎあああああああああああああああ!!!!」


痛い。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛イイタイ。

イタイ、シヌ、クルシイ。

加藤「お、おいッ!!」

イタイイタイイタイイタイイタイ。

加藤「や、やばい……おいッ! しっかりしろッ!!」

シヌシンデシマウヤダコワイイタイ。

加藤「おい!! 早く戻してくれ!! 早くッ!!」

サムイイタイコワイイヤダクルシイ。

「おいッ! 見たか!? 俺が殺した!! この銃で!!」

「ウォォォォ!! スゲーー!! 中島ァ!!」

「中島! やるじゃねーかよ!!」

――――。

加藤「しっかりしろッ!! もう戻れる!! 戻れるんだ!! 敵はもういない!!」

テキ。

テキヲコロス。

加藤「!! おッ、そうだしっかりしろ……お、おい、何、してんだ?」








凛「死ね」








ギョーン!! ギョーン!! ギョーン!!

――――――――――
――――――――
――――――
――――
――

このへんで。
>>125 GOOD!!

ジジジジジジジジジジ…………。

ジジジジジ……。

ジジッ。

凛「……あれ?」

凛「ガンツの、部屋?」

私の目の前に、あの黒い球体が鎮座していた。

凛「あれ? どうなって……」

凛「私、確か……玄野さんを探しに……」

凛「あっ! 確か玄野さんは、あの人達と一緒に歩いていて」

凛「……あれ? それで私……」

凛「なんだっけ……思い出せそうなのに……」

頭の中に霞がかかっているように記憶が曖昧な状態になっている。

少しずつ頭にかかった霧が消えて、何かを思い出して行っているがまだおぼろげだ。

凛「えっと……歩いていて……どこかに行って……」

凛「なんだっけ……思い出せそうなのに……」

ジジジジジ…………。

記憶を思い出そうとしている私の耳に音が聞こえた。

振り向くと、人の頭が転送されて来ている。

そこで気がついた。

凛「あ……もしかして、終わった……?」

西「ああ、終わったぜ」

私の呟きに、転送されてきた西が答えた。

凛「アンタ……」

西「よッ、何とか生きてたみたいだな。お前やっぱ運良すぎじゃねー?」

生きていた。

今回も生き延びれた。

その実感が湧いてくる。

西「しっかし、見てたぜ。やっぱお前すげーよ。ボスも根こそぎ持っていきやがって、俺の点数今回も0点じゃねーか」

凛「……はぁ?」

西「しかもお前最後スーツがオシャカになってただろ? よくもまあそんな状態であんなのをぶっ殺せたな。マジで信じらんねーよ」

凛「ち、ちょっと、何言ってるの?」

西「あァ? 何だ? 覚えてねーの?」

凛「え……あー……あれ?」

記憶が蘇ってきた。

凛「あ……すごく大きい鳥……」

西「おッ、思い出してきたか? まァ最後はあんな状態だったからな、記憶ぶっ飛んでてもしゃーねーわな」

凛「最後……? 最後って……」

大きな鳥を、確か銃で倒して、その後は……。

凛「あれ? 私……」

何? この記憶?

凛「私、体が、痛くて」

目の前が真っ赤に染まってて、今までに感じたことも抱いたことも無い気持ちになってて。

凛「何、したの、私?」

違う。違うよね?

西「何って、お前あのバカ共を殺したじゃん」

凛「え?」

西「まァ、一人はスーツ着てたから無事だったみてーだけど、もう二人は胴体吹っ飛んでたから、まー死んだわな」

凛「何? 何言ってるの?」

西「あー、でもお前も同じよーな状態だけど戻ってこれたから、あのバカ共も五分五分か? もー少し早くやれば間違いなく殺せてたのにな。そこらへん爪甘いのな」

凛「ちょっと……ちょっと!!」

西「あ? どーしたの?」

凛「殺したって、何!?」

西「? だから、お前があいつ等を殺したって言ってんの」

凛「私? え?」

頭にかかった霧が急速に晴れていく。

最後の瞬間、私は力を振り絞って、右手に持った銃で、あの三人を撃った。

撃って、スーツを着ていない二人の体が爆発したのを見て、私は……。

西「お前、口ではあんな事言ってたけどさ、やっぱ俺と一緒じゃん。あいつ等が吹っ飛んだのを見て、お前滅茶苦茶イイ顔して笑ってたぜ?」

そう、笑った。

敵を殺せて、私を殺そうとした敵をこの手で殺せて嬉しかったから。

凛「違う」

あんな連中死んで当然だと思った。

凛「違う」

何度も私を撃って、私にあんな苦しみを与える奴等なんて死んで当然だと思った。

凛「違う」

私に何かするつもりだった。私の体を、私を気持ち悪い目で見て、挙句私を殺そうとした奴等は死んで当然だと思った。

凛「違う」

私と同じ苦しみを味あわせてやろうと思った。だから撃ってやった。

凛「違う」

奴等の体が吹き飛んだときは、ものすごく爽快な気分になった。ざまあみろって思った。

凛「ちが、う」

あんなにいい気分になったのは初めてだった。溜まりに溜まったものが吹き出て、頭の中で火花が散っているような快感を味わった。

凛「ち……が……う」

西「違わねーって。認めろよ、お前もこっち側の人間だってことをさ」

そう、認めて楽に……。

凛「違うっ!!」

西「おォ?」

凛「私は違う!! そんなわけ無い!!」

西「お、おいおい、落ち着けって」

凛「私は普通の人間!! 普通の高校生!! 普通の生活をして!! 普通の趣味を持って!! 普通に生きている!!」

西「フツーフツーって……俺らはもう普通の生活に戻れねーって。殺しの快感を覚えちまったからもう無理なんだって」

凛「そんな事無いっ!! 私は違うっ!! 私は戻れるっ!!」

西「戻れる……ねェ、クックック……」

私は泣いていた。

認めたくなかった。

あんな恐ろしいことをしてしまったことを認めたくなかった。

あんなに恐ろしい考えをしてしまったことを認めたくなかった。

そして、あんな恐ろしいことをしたのに、こんなに晴れやかな気持ちになっていることを認めたくなかった。

西「あーあ、他の奴等も戻ってきやがったか。お喋りはまた今度な」

誰かが転送されてきたのを見て西は部屋の隅に移動して座った。

私は蹲って泣き続けている。

玄野「うおあああああああ!! ああああああああ……あッれッ!?」

西「……」

玄野「あれ? 戻って?」

人の声が増えてきた。

加藤「計ちゃん!!」

玄野「加藤ッ! どーなったんだ!?」

どんどん増えてくる。

岸本「加藤君ッ! 終わったんだよねッ!」

まだ増える。

「戻った……のか?」

まだ…………。

「いでぇぇぇぇぇぇぇぇ!! あ、ああ?」

その声に顔を上げた。

あの男がいた。

私を撃った男、そして私が撃って殺したはずの男。

「た、助けでくれぇぇぇぇぇぇ……あァ?」

太った男も転送されてきた。この男も私が撃って殺したはずの男。

生きていた? 転送が間に合ったの?

凛「なんで……?」

口に出ていた。そして愕然とする。

凛(今、私……)

凛(残念だって、思った?)

西が私を見て笑ったような気がした。

私の耳に再びあの男達の声が届く。

「おい、俺らどうなったんだ?」

「すげぇ体痛かったけど、なんでだ?」

……気がついて、無い?

「何かスゲー痛みとぶつかった感じしたんだけどよ」

「俺も」

男達は馬鹿みたいな顔をして首を捻っていた。

それを見てまた何かがあふれ出してくる。

私は全員が転送される間、心からあふれ出る何かを止めるのに必死だった。

結局、私は男達に問い詰められることはなく、私が男達を撃ったことに誰も気がついていないようだった。

西と、もう一人を除いて。

『ちーーーーーん』

『それでは ちいてんを はじぬる』

ガンツの採点が始まっている。

全員が戻ってきたようだ。

玄野「うォッ!?」

加藤「これは……」

岸本「うそォ! 渋谷さん、見てよ!」

岸本さんが私を呼ぶ。

その声に私は顔を上げ、岸本さんが指す先に視線を向ける。

『りんちゃん 41てん』

『Total 47てん あと53てんでおわり』

41点?

全員が私の事を見ている。

あの男達も、あの気持ち悪い目で私を見ている。

咄嗟に目を逸らすと、加藤さんと目が合った。

加藤さんの目は私に何かを言いたげな目だった。

そうだ、確かあの時、加藤さんは私を見ていた。

つまり、私が撃ったということも見られていた。

凛「あっ……」

加藤さんが何かを言おうと口を開こうとした。

責められると思った、何故撃ったんだと言われると思った。

だから私は、咄嗟にポケットに入っているコントローラーのスイッチを押して、

この場から姿を消した。

加藤「なッ!?」

玄野「消えた!?」

岸本「えッ?」

コントローラーが元に戻っていて良かった。

私はあの時西から受け取ったコントローラーが何を起こしているかを何となくだが理解していた。

西が良く使う透明化。

それはこのコントローラーを使って起こしている現象だということが直感で理解していた。

私が消えて部屋では少し喧騒が巻き起こっている。

私は逃げるように部屋の隅に移動した。

そこで部屋の様子を見る。

加藤さん達は私を探しているようだ。

新しくきた背の高い男の人はガンツを見ている。

髪の長い女の人は、背の高い男の人を見ているようだ。

おばあさんと男の子はオロオロしている。

あの男達はガンツを見たり、銃を見たりしている。

そして西は笑みを浮かべていた。

私は部屋の隅に移動した後は、そのまま部屋の様子を伺いながら膝を抱えて座っていた。

色々と思うことはあった。

見つかったら何を言われるのだろうかと。

あの男達はまた銃を持っているから警戒しなくてはと。

私の心の内からあふれてくる気持ちはいったい何なのかと。

そうやって考えていたら、やがて部屋から一人、また一人と人は減り部屋に残ったのは私とは間逆の部屋の隅で座っている西だけになった。

西「おーい。そろそろ出てきたらどーだ?」

西の言葉を無視して抱えた膝に頭を乗せて蹲り続ける。

西「ったく……周波数変えてても触れられたらどこにいるかってのは分かるんだぜ?」

西が部屋を歩き回っているようだ。

やがて私の足に西の足がぶつかって、私がここにいることを気付かれてしまった。

西「やっぱいるじゃん。返事ぐらいしろよ」

私の隣に西が座った。

西「残念だったな、あいつ等生きててさ」

残念なんかじゃない、良かった。死んでなくて良かった。

西「まァ、次の機会だな。次はさっさと殺しとけよ、なんなら転送された時点で、いや、今から追って殺すのが確実かァ?」

馬鹿なことを言わないで。

西「まだだんまりかー? いくらなんでもそろそろ怒るぞ?」

うるさい。

西「はァ……どーせくだんねーこと考えてんだろ。人が死ぬ死なないとかさー」

うるさいうるさい。

西「……よし、いいもの見せてやる」

西は徐に立ち上がり、ガンツに近づき何かを言った。

西「ガンツ Katastrophe」

私は視線をガンツに向ける。

『32587590』

……数字?

西「見てるか? よく聞けよ……これが人類に残された時間だ」

凛「……人類?」

西「ふッ、やっぱお前重要なものは見逃さないし、絶対に反応するのな」

凛「……」

西「まァ、そのままでいいから聞け。この数字は破滅へのカウントダウンだ」

西「今から約1年後、世界は滅びる」

凛「……は?」

西「何が起きるかってのはまだ分かっていない。核戦争ってのが有力な見解だけど、信憑性はない。もっと違う何かが起こるハズだ」

凛「核戦争……」

西「つまりだ、もう人類が滅びるのは決まってんだから、俺達も好き勝手すればいいんだよ。自分の好きなように、自分のやりたいことをやる。人を殺すとか殺さないとか考えるのなんてどーでもいいことだ。どーせ1年後には全部終わっちまうんだから」

凛「……それの信憑性は?」

西「あのカタストロフィのカウンターを発見したチームが研究して出した結論」

凛「……チーム? ……前にいた人たちのこと?」

西「いや、別のチーム」

凛「…………ガンツって他にもあるの?」

西「そーゆーこと」

凛「どうやってそんな事を知ったの?」

西「ネット、世界各国で情報交換してる」

凛「……ガンツのことが知られたら頭がって言ってなかった?」

西「頭に爆弾は入れられてるけど、ガンツって結構適当だし、ガンツチームごとの情報交換については問題ないみたいだぜ」

凛「……この前はガンツについてもう知らないって言ってた」

西「初顔の奴に全部話すワケねーだろ」

凛「……なんで今は話してくれるの?」

西「……」

西「まァ、俺と同じ奴なんていないと思ってたけど、同じ奴がいたから、かな」

凛「……同じじゃないって」

西「言ってろ」

凛「……」

西「ま、そーいうことだから、ゆっくり考えるんだな」

西「カタストロフィもそーだけど、ミッションは1年後まで続く、人の命なんか簡単になくなっていくんだ。お前が今考えているようなことは、考えるだけ無駄って事」

西「次までには、素直になって、一緒に楽しもうぜ」

凛「……」

西「じゃーな」

西は部屋から出て行った。

その場に残ったのは私と、数字が表示されたガンツのみ。

凛「……こんな事、信じられないって……」

だけど、心のどこかでは、西の言葉を信じている私がいた。

田中星人編 終了

今日はこの辺で。

3.あばれんぼう星人・おこりんぼう星人編


あの日からもう何日経ったのだろうか。

最近時間の感覚がおぼろげだ。

私は毎日毎日同じ事を考え、同じことを繰り返している。

朝起きて、ガンツのことを考える。

学校に行って、ガンツのことを考える。

学校から帰って、持ち帰ったスーツと銃と剣を使って特訓をする。

特訓から帰って、ガンツのことを考える。

眠る寸前までガンツのことを考えながら眠る。

西から言われたことは考えていない。

考えてしまったら今度はそれしか考えられないような気がしたから。

考えてしまったら認めてしまうような気がしたから。

だから考えない。

他の事を考えてみようとも思った、だけど私はもう他の事を考えられなくなっていた。

友達との些細な会話、テレビや音楽の事、普通の趣味、そんなものを考えることが出来なくなっている。

考えようとしても浮かび上がるのは黒い玉とあの部屋で起きる出来事だけ。

だからガンツのことだけを考えている。

ガンツはいったい何なのかと、誰があんなものを作ったのかと、西から回答を得られなかった事を考え続けた。

分からないものを考えて、体を動かしていれば嫌なことは何も考えないですむ。

あの日の事は考えない、私は違うのだから。

凛(また考え始めている)

凛(駄目、違うことを、聞いていないガンツの秘密を考える)

凛(そうしないと、私は)

私はガンツのことを考えながら、特訓をする為に家を出ようとする。

すると、店先で人とぶつかってしまった。

「きゃっ」

「うわっと!」

凛「あ……」

私の目の前に同い年くらいの女の子が二人尻餅をついていた。

私はスーツを着ているからか、ぶつかった衝撃など何もなく倒れた女の子たちを見下ろしていた。

その女の子たちを見たとき、私は何かを感じた。

ガンツのことしか考えられなかった頭に、一筋の光が差し込んだようだった。

「あいたたた……」

「痛った~~」

凛「あっ、ごめん……大丈夫?」

倒れている二人は結構な衝撃を受けたのか、起き上がれずにいるみたいだ。

「未央ちゃん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。しまむーこそ派手に転んでたけど……って、むむむむ!?」

凛「?」

転んだ女の子のショートカットの子が私を見て起き上がり近づいてくる。

「ぶっきらぼうながら、溢れ出るオーラ……只者ではないと見たっ!!」

凛「え……っと」

「未央ちゃん、知らない子に絡んじゃ駄目ですよ」

「何言ってんのさしまむー! 只者ではないこの子が私達の最後の仲間となる運命にあるのだよ!!」

「もうっ、最近はいつもそうやって知らない女の子にちょっかい出してるじゃないですか! 駄目ですよもうっ!」

凛「あー……えっと」

「ごめんなさい、未央ちゃんがご迷惑をかけちゃって」

「迷惑なんかかけてないよー、ねっ! そうでしょ!?」

グイッと私に顔を近づけて笑うショートカットの子。

あっけにとられてしまう。

でも、私はこの子達が気になっていた。

凛「えっと……」

「ねぇねぇ、ちょっと話しようよ!」

凛「え……話?」

「花屋から出てきたって事は花を買ったんでしょ? 何を買ったの?」

凛(……何? この子)

「未央ちゃんっ! 駄目ですってば! 迷惑ですよ!」

「ちょいちょい、しまむー、耳をかすんだ」

凛(何なの……一体)

「……何ですか?」

「……ああいうクールな子は結構押しに弱いんだよ。だから話を繋げて最後にあの子をアイドルにスカウトしちゃおう大作戦を決行する!」

「ええっ!?」

「……声がでかいよしまむー。しまむーはあの子を見てどう思う?」

「……ええと、可愛くて、カッコいい子だなぁって」

「……でしょ! しまむーの可愛さに私の元気、そしてあの子のカッコよさが加われば私達のユニットは完成するって思わない!?」

「……そ、それは……」

「……私達のユニットだけ最後の一人がまだ見つからないんだよ? シンデレラプロジェクトは始まっちゃって私達だけ置いてけぼりの状態でしまむーはいいの?」

「……わ、私もそれは嫌ですけど、プロデューサーさんが今最後の一人を探してるって……」

「……そのプロデューサーにこの子を紹介するんだよ! この子なら絶対プロデューサーもOKを出すって! この子を見た瞬間私は何か運命を感じたんだよ! しまむーもそう思わない!?」

「……う。ええっと……はい。実は私も……」

「……おぉ! やっぱりしまむーも何か感じた?」

「……はい。何ていうか、この子がアイドルになったら素敵だなぁって……それと一緒にアイドルできたら嬉しいななんて」

「……やっぱり運命だねこれは!! スカウトするしかないよしまむー!!」

「……うぅ~、そうかもしれないですね」

凛(……全部聞こえてる)

「……よし、それじゃあしまむー、会話を繋げるからしまむーはさりげなくアイドルの素晴らしさを伝えるフォローをお願いね」

「……えぇっ!? 難しくないですかそれ!?」

「……難しくないって、それじゃいくよ!」

女の子達は丸聞こえの作戦会議を終えて私に話し始めた。

未央「あー、コホンコホン。私、本田未央、こっちは島村卯月ことしまむー。あなたの名前教えてもらってもいいかな?」

凛「渋谷凛だけど……」

未央「渋谷凛ちゃんかー! いい名前だねっ!」

凛「え……ありがと」

卯月「そ、そうですねーすごくすてきななまえですーまるでアイドルみたいですー」

未央「ちょっとまった、しまむー」

卯月「えっ? どうしたんですか?」

未央「棒読みも棒読み、何かロボットみたいだった。っていうかフォローにもなってない。真面目にやってよ」

卯月「えぇぇっ!? 酷いですよ未央ちゃん!」

凛「……」

いきなりコントを始めた二人。

私はさっきから丸聞えだった内容を問いただしてみる。

凛「あのさ、アイドルがどうこう言ってたけど、何なの?」

未央「おおっ!? 何で私達がアイドルだということを知っているんだー!?」

凛「あなた達がアイドルって言うのは知らないんだけど」

未央「……あれ? 冷静に返されちゃった。ここは私達がアイドルだって知って驚くところのはずでしょ?」

凛「ええと……良くわからないんだけど」

異様にテンションが高い女の子だなと思っていると、未央という女の子は意を決したように私に言った。

未央「うむむむ……ここは直球勝負!」

凛「?」

未央「あのさっ、アイドルに興味ない!?」

凛「無い」

未央「うわー、バッサリだぁー……」

首を落として落ち込んだかと思ったら、すぐに顔を上げて私に迫ってくる。

未央「アイドルの素晴らしさを教えるから話を聞いてよ!」

凛「やだ」

また首を落として落ち込む。だけどまたすぐ顔を上げて、

今度はしまむーと呼ばれている女の子に何かを言うように指示をしている。

未央「むむむ……こいつは手ごわい……しまむー!! 出番だっ!!」

卯月「えぇっ!?」

未央「この子にアイドルの素晴らしさを教えるんだっ!」

卯月「えっ、素晴らしさ、えっと……えっと……」

凛「……」

卯月「アイドルは、えっと……私の憧れで、えっと……アイドルになれて私すっごく嬉しくて、えっと……」

未央「しまむーーーー!! それしまむーの感想!! 伝わってないよそれ!!」

卯月「はぅ……ご、ごめんなさい……」

変な二人だと思った。

でも、そんな二人を見ているとここ最近私の中に巣食っていた何かが消えていくような感じがした。

そして私は気がついたら、

凛「……ふふっ」

笑っていた。

素直にこの二人が面白いと思ったから。

久しぶりに笑ったような気がする。

ガンツのことしか考えられなくなっていて、何かが面白いっていうことを考えられなかった。

だけど今は違う。

未央「おおおっ!! しまむー、見た!?」

卯月「は、はいっ!」

凛「? どうしたの?」

未央「笑顔! めっちゃ可愛い!」

卯月「はいっ! 凄く可愛い!」

凛「な、何言ってんの?」

可愛いなんてあまり言われたことが無いから顔が赤くなるのを感じた。

そんな私を二人は見ている。

恥ずかしくてそっぽを向いてしまった。

未央「しまむー! やっぱりこの子は私達のメンバーになるべき子だよ!」

卯月「私もっ、私もそう思いますっ!」

凛「え……メンバーって?」

未央「渋谷凛さん!」

凛「は、はい」

未央「あなたの選考理由を発表します!」

凛「ちょ、ちょっと、選考理由とかって何?」

卯月「私達のアイドルユニット、ニュージェネレーションズの選考理由です!」

凛「あ、アイドルって、ちょっと!? 私アイドルなんて……」

卯月・未央「選考理由は」

凛「ちょっと!」

卯月・未央「笑顔ですっ」

凛「!!」

二人が満面の笑顔で言った。

花が咲きほこるような笑顔。

その笑顔を見ていると、清らかな風が私の心を吹き抜けて行くような透き通った気分になる。

春の陽だまりのような心地よさ、私の心に巣食った何かが洗い流されていく。

未央「えへへ、いきなりでごめんね? でも、どうかな?」

凛「どう、って……」

卯月「私達と一緒にアイドルをやってみませんか?」

凛「アイドル……」

未央「すっごく夢中になれるよ? 私が保証する! 楽しくって、ワクワクして、どこまでも進んでいける。私達なら!」

凛「私、たち……」

卯月「アイドルの世界は普通じゃ味わえない別の世界が広がってるんです! キラキラ輝いていて、その輝きの先は何があるかまだ変わらないですが、私達なら見つけられるはずです!」

凛「別の世界……」

未央「私達と一緒にさ」

卯月「走り出してみませんか?」

凛「あっ……」

また二人はきらきらで眩しい笑顔を見せる。

私に手をさし伸ばしながら。

凄く綺麗で、美しくて、私もこんな笑顔になれるんだったら。

こんなにも眩しい笑顔が出来る世界にいけるんだったらと。

私はさし伸ばしている二人の手を取ろうと…………。



ゾクリ。


取ろうとする寸前で、

私の首筋にあの寒気が襲った。

凛「っっっ!!」

未央「? どうしたの?」

二人の笑顔を見ていて収まっていたはずの何かが戻ってくる。

凛「……っ!」

卯月「あっ」

私は二人を振り切り走り出す。

もっと話していたかった。

二人の手を取りたかった。

だけどもう時間が無い。

転送するところを見られたら私は……。

頭の中がまたガンツ一色に染まる。

それだけじゃなくて、この前感じた気持ちが湧き上がってきている。

あの時、男達をこの手で撃ったときのあの気持ちが湧き出ている。

私はその気持ちを必死で押さえ込んだ。

押さえ込んで、押さえ込んで、押さえ込み続けて、

私の視界は切り替わり、ガンツの部屋に転送された。

今日はこのへんで。

転送されて、私の目は人の姿を捉える。

一人二人じゃない、十人以上いる。

ガンツの前に座って何かを唱えているお坊さん、お坊さんと同じように座って何かを唱えている人たちが数人、どうやらお経を唱えているようだ。

視線を動かすと、加藤さんと岸本さん、前回の背の高い男の人、髪の長い女の人がお経を唱えている人たちを見ている。

加藤さんは私に気がついて声をかけてきた。

加藤「あっ……渋谷さん、だよな。この前は……」

凛「っ!」

私はまたポケットに入れていたコントローラーのスイッチを押して姿を消した。

何を言われるか分かっていたから。

『この前は何で人を撃ったんだ?』

そう言われると分かっていたから逃げた。

加藤「何があ……お、おいっ!」

岸本「あっ……また、消えちゃった……」

私の姿を探す二人、私は二人に触れないようにして部屋の隅に移動をしようとした。

そして、見てしまった。

前回私が撃った男達。

その男達の姿を見て、押さえていた気持ちが噴出してくる。

ドス黒い何か。

凛(……今度こそ)

何かを考えた。

凛(……今度こそ、何?)

凛(……私、今、何を考えたの?)

感情が制御できなくなっている。

止め処なくあふれ出る感情をとめることが出来なくなっている。

このままだと、私は、本当に……。

凛(違うことを、考えないと)

凛(別の、何か別の、ことを)

凛(そうしないと、そうしないと……)

何も見ないように部屋を出る。

もう一度あの男たちを見たら、私は何をしてしまうか分からない。

この鞄に入った銃で、剣で、アイツ等を……。

凛(駄目。違うこと、違うことを……)

凛(違う……)

『笑顔ですっ』

凛(あ……)

不意にあの二人の笑顔が浮かんできた。

卯月と未央と名乗った女の子達の笑顔。

私の頭から恐ろしい考えが消えていく。

凛(……あの子たち、アイドルって言ってた)

溢れ出ていた何かも収まっていく。

凛(……私をアイドルに誘ってくれてた)

この部屋のことが、ガンツのことが頭から離れていく。

凛(……あの子たちと一緒にアイドル)

私の頭の中に見たことも無いような光景が広がる。

光り輝く魔法のような舞台で、お姫様のような衣装を着て輝いている私とあの二人。

凛(……楽しくて、ワクワクして、きらきらと輝ける、そんな世界)

行って見たい。

凛(……あの子達のようなきらきらで眩しい笑顔を)

私もしてみたい。

凛(……もう一度、あの子達と話したい)

ドス黒い感情はいつの間にか雲散していた。

今私の胸にある感情は、あの子達ともう一度話したいという気持ち。

それだけだった。

凛(……もう一度)

そう考えながら、私の視界は切り替わっていた。

凛(!?)

凛(転送、された?)

私の目に映るのは大きな寺の入り口。

凛(しまった……情報を見ていない……)

今回の宇宙人の情報を私は見ていなかったことに少し焦る。

凛(どうする……他の人たちが来たら情報を……)

そう思い、転送されてくる人を待とうと思った。

だけど、思いとどまる。

凛(……アイツ等をまた見たら)

また、私はおかしくなってしまうのではないか?

あのドス黒い感情が心を覆ってしまうのではないか?

今、私は普通の思考をしている。

多分あの子たちのことを考えていたから、一時的に普通の状態に戻れている。

だけどアイツ等の姿を見たらまたさっきみたいに、この前のようにおかしくなってしまうかもしれない。

ジジジジ……。

凛(っ!!)

誰かが転送されてきた。

ジジジジジジ……。

凛(……くっ)

私は、跳躍し寺の内部に逃げ込んだ。

寺の境内、少し開けた場所の石畳の上で、私は鞄の中から銃と剣を取り出す。

ジャージのズボンを脱いで、太股部分に付いた銃のホルスターに銃口がY字の銃と、剣を装着する。

手には長い砲身の銃と、小さく丸い銃。

準備が完了した私は、コントローラーを操作し、透明化した後に、レーダーを起動した。

大きな光源が、少しはなれた場所にあった。

それを確認して、私はコントローラーをポケットに入れて考える。

凛(この先に大きな光源、この前の最後と同じ反応の光源)

凛(その周囲に小さな光源が4つ……大小の光源、前回も大きな光源が指す宇宙人は明らかに手ごわい宇宙人だった)

凛(多分この大きい光源が宇宙人のボス。こいつさえ倒せれば……)

レーダーが指し示す先に行くかどうか考えて、

私は踵を返して逆の方向に歩き始めた。

凛(……今回は襲ってくる宇宙人だけをどうにかする)

凛(……この前みたいなのを一人でどうにかするより、他の人たちに何とかしてもらったほうがいい)

凛(……さっき見たとき、部屋には十人以上いた。加藤さん達は前回スーツを着ていたからスーツの使い方も知っている。あのスーツと銃があれば宇宙人を倒すことなんて簡単なこと)

凛(……私が何もしなくたって、大丈夫。私はどこかで隠れて、襲ってくる宇宙人を行動不能にすることだけを考える)

凛(……そうすれば、誰かがボスを倒してくれて帰ることが出来る)

凛(……帰って、明日は、あの子たちを探そう)

凛(……アイドルって言っていたし、ネットであの子たちの名前を調べれば)

凛(……アイドルは事務所に入っているって聞いたことがある。調べればその所属事務所も分かるだろうし)

凛(……その事務所が分かったら、そこに行って、あの子たちを)

私はあの子たちの事を考えながら、寺の中でも一番高い塔の上に移動していた。

やっぱりあの子たちの事を考えていると、普通の思考が出来る。

今日はここであの子達の事だけを考えていよう。

宇宙人の事を考えているのはよくない。

誰かがやってくれる。私は考えなくてもいい。

しばらく私は思考の海に耽っていた。

殆どはあの子達のことだった。

あの子達の学校はどこなんだろうとか。

あの子達はどうしてアイドルになろうと思ったんだろうとか。

あの子達とアイドルをやれれば一体何が見えるんだろうとか。

そんな事を考えていた。

あの部屋に来てから、考えることが出来なくなっていた思考。

それが出来ていることが嬉しく思う。

私はやっぱり違うんだと。

私は普通の高校生。普通の女の子で、アイツが言うような人間なんかじゃないんだって。

凛(このまま、終わってくれれば……)

そう思った、その時。

私の視界にありえないものが映った。

凛「……え?」

ベキベキベキと少し離れた寺が壊れ何かが現れた。

凛「なに、あれ……」

巨大な大仏だった。

10メートルを超える大仏。

大仏編は逸材が多いよな、ゴルゴとか

凛「あれも、宇宙人?」

今までの思考が止まり、巨大な大仏を見続ける。

凛「あんなの……どうやって倒す……」

凛「……この銃だと火力が足りなすぎる。だったら剣」

凛「剣を10メートル近く伸ばしてそのまま両断する、それで終わり。[ピーーー]ことが……」

凛「う、あ……」

また考えてしまった。

絶対に考えないようにしていたはずの、何かを[ピーーー]という思考。

自然に出てしまった。

あの宇宙人を見て、どうやって[ピーーー]かを自然に考えてしまっていた。

凛「……駄目。あの子達のことを考えないと……」

凛「……あの子達が私を普通にしてくれる」

凛「……私は普通の女の子」

凛「……普通の女の子」

凛「……普通の」

私は大仏を見ないように目を瞑り、耳も塞ぎその場で呟き続ける。

あの子達のことを考えながら、他の事を考えないようにして。

どれくらい経っただろうか?

目も耳も塞ぎ、あの子達のことだけを考えていた私。

終わるまでそうしているはずだったのに、私の思考は強制的に中断させられることとなった。

私の座っていた塔が、崩壊して崩れ落ちたことによって。

凛「きゃあああああああ!?」

私はそのまま地面に叩きつけられた。

衝撃はスーツのおかげで無い。

凛「うぅ……一体何が……」

顔を上げると、誰かが見えた。

誰かが、何かと戦っている。

加藤「うっ、おおおおおおおおおおおお!!」

加藤さんだった。

加藤さんが、腕が沢山ある仏像と戦っている。

仏像は無数の腕の内、二本の腕が持っている灯篭のようなものからレーザーのような光線を加藤さんに向けて発射していた。

加藤さんはその光線を、障害物を使い、身を無理矢理捻り、地面を転がり、回避し続けていた。

だけど、仏像が別の腕の水瓶の中身を加藤さんに向けて飛ばしたとき、加藤さんは大きく横に跳んで、

跳んだ先に待ち構えていた、灯篭から出たレーザーによって左腕を切断されていた。

加藤「あ゛あ゛っ! ぐぁあぁ!?」

凛「あぁっ!!」

そのまま、血を撒き散らしながら転がる加藤さん。

加藤さんを助けようと、私は銃を向けようとしたその時、

加藤さんの持っていたY字銃口の銃から光るワイヤーが飛び出し、変則的な起動を描き仏像を拘束していた。

加藤「ハァッ! ハァッ! ハァッ!」

加藤さんはそれを確認し、すぐにY字銃で仏像を撃った。

撃たれた仏像は頭の先から、私達が転送されるようにどこかに送られて行っていった。

加藤「頼む……ハァッ……そのまま……ハァッ」

だが、消えていたはずの仏像の顔が、逆再生のような状態で元に戻っていった。

加藤「これも……駄目なのか……」

拘束されていた仏像が、手に持った剣を器用に動かし光るワイヤーを切った。

仏像が自由になった腕で再び灯篭を動かす。

灯篭から出たレーザーは、加藤さんの体をゆっくりと薙いでいた。

凛「あ……」

加藤「うァ…………、あゆ……、む…………すま……な…………」

加藤さんの体に線が入った。

その線から赤い液体が溢れ出して、加藤さんの体はズレるように半分となり、地面に落ちた。

凛「う、あ、あ…………」

仏像が動き出す。

私のほうを見ながら動き出す。

明らかに私の事を気付いている。

透明になっているはずなのに気がついている。

凛「はぁっ! はぁっ!」

心臓の鼓動が激しい。

仏像が腕を動かす寸前に、私は後方に跳躍した。

私のいた場所には、加藤さんの命を奪ったあのレーザーが地面をえぐっている。

凛「うあ、あああああああ!」

私はもう一度後方に跳躍し、この場から全力で逃げ出した。

私は寺を走っている。

凛(し、死んで……加藤さんが、死んでしまった……)

さっき見たあの光景が目から離れない。

凛(どうして……スーツを着ているのに……)

スーツを着ていたのに体が半分になって死んでしまった。

凛(壊れてしまって……ううん、そんな事より、加藤さんが死んでしまったことを……誰かに……)

誰かに伝えようと、私は駆けた。

その私が、ある建物の中にスーツの姿を目にする。

私はコントローラーを操作し、透明化を解除して建物内の人に伝える為に叫んだ。

凛「か、加藤さんがっ! 宇宙人に…………」

最後まで言えなかった。

そこに居たのは4人。

首が外れてぶら下がって揺れている外国人の男の人。

床に倒れている二人、この前の背の高い男の人と髪の長い女の人、二人とも体が半分なくなっている。

そして、私の視線の先に、床の二人と同じように体を半分失った岸本さん。

全員死んでいた。

凛「あ、あう……うああ…………」

後ずさるように建物から出る。

その建物を見ながら後退し続ける私。

十メートルくらい後退して私は何かに躓き転んでしまった。

転んだ私は何か水溜りのようなものに触れた。

凛「……あ、赤?」

触れたものは赤い液体。

私が目を動かすと、そこには縦半分に切り裂かれたおばあさんと男の子の姿。

凛「ひっ!? い、いやっ!!」

反射的に視線を逸らすと、逸らした先にはバラバラになった若い男が二人。

凛「いっ、いやああああああ!?」

私は悲鳴を上げその場から逃げ出す。

私は走りながら、今自分が何を見ているのかを理解できないでいた。

凛(嘘、嘘だ、そんなハズない。みんなスーツを着ている。スーツを着ているのに死ぬわけが無い)

凛(わ、私の見間違い、見間違いだよ)

自分に言い聞かせながら走り続ける。

その私の視界にまたあってはならないものが映る。

凛「なに……何なの、何で……」

スーツを着た眼鏡の男がバラバラになって死んでいる。

その近くで、首のない迷彩服の死体。

足を切られ、頭に穴が空いた上半身裸の男の死体。

凛「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

息が苦しい。

足が縺れる。

その場から、私は歩き出す。

凛(人が、人があんなに、死んで……)

凛(何が、何があったの……)

ふらふらと歩いている私の目にまた二つの人影が飛び込んできた。

凛「うぁ……ぁぁぁぁぁ……」

女の人が胸を切り裂かれて血黙りの中で事切れている。

その傍に、玄野さんが腕と足を片方ずつ失って倒れていた。

凛「あ……ああぁ……なん、で……」

どこまでも続く凄惨な光景に私は気が遠くなり始めていた。

何が起きているのか、この光景は現実のものなのか、私には分からなかった。

凛「み、みんな、死んで……」

その場で崩れ落ちそうになった私だったが、玄野さんがかすかに動いたのに気が付く。

凛「!!」

私は玄野さんに近寄り、声を上げた。

凛「ねえ!! 聞こえる!? 生きてる!?」

玄野「……うっ」

生きている!

凛「何があったの!? ねえ!! 返事をしてっ!!」

玄野「……う……か、とう……は?」

凛「!!」

玄野さんは確かに今、加藤は? と私に聞いてきた。

加藤さんは、私の目の前で、もう……。

凛「……う、あ、あの、加藤、さんは……」

玄野さんは私が言いよどんでいるのを見て、何かに気付いたのか視線を宙に彷徨わせた。

そして、私にこう言ってきた。

玄野「……殺してくれ」

凛「え……」

玄野「俺を……殺してくれ……」

凛「や、止めてよ!! そんな事言わないで!! 私に殺してなんて言わないで!!」

玄野「頼む……殺して……殺してくれ……」

凛「止めてっっっ!!!!」

私の頭の中に玄野さんの殺してくれという言葉がこだましている。

凛「殺すなんて無理!! 人を殺すなんてできないっ!!」

玄野「早く……殺してくれ……」

凛「う、うるさい、うるさいうるさいうるさいーーーーーー!!」

私は頭を抱えその場を逃げ出す。

頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。

さっきから私の頭の中でずっと何かが響いている。

あの時、殺してくれと頼まれて考えてしまった。

今まで考えないようにしていたことを考えてしまって、私の頭の中で何かの歯車がかみ合い動き始めていた。

それは私の中で、声となって頭の中に響いていた。

――何で殺さなかったの?

凛「人を殺せるわけ無いでしょ!?」

――この前は殺したよね。

凛「殺してない! 死んでなかった!!」

――一杯殺したよね?

凛「それは宇宙人でしょ!? 人じゃない!!」

――人じゃなかったらいいの?

凛「そんなわけ無いでしょ!? 生き物を殺すなんて出来ない!!」

――でも宇宙人を殺したじゃん。

凛「あ、あれは、私が殺されそうだったから! 殺さないと殺されてた!!」

――殺されそうだったら殺してもいいんだ?

凛「し、仕方ないじゃん!! 殺さないとこっちが殺されるんだよ!?」

――だったら、アイツ等を殺してもいいでしょ?

凛「アイツ等は人でしょ!?」

――だって私殺されかけた。

凛「そ、それでも」

――私、アイツ等を殺したいよ。

凛「そんな事、できない……」

――私の手で殺さないと気がすまない。

凛「そんな事……」

――あんな目に合わされて何もしないなんてアンタも嫌でしょ?

凛「…………」

――もうこんなに人が死んでるんだからアイツ等が死んでも誰も気にしないって。

凛「……」

――アイツ等、殺しちゃおうよ。

凛「……」

――ほら、今思ったでしょ? 殺そうよ? ねえ。

凛「……」

私は歩く。

頭の中から聞える声を聞きながら歩く。

頭の中の声は私の心に染み渡っていく感じがした。

少し心地いいなと思いながら私は歩く。

頭が変になってしまったのかな?

頭の中から聞こえる声と会話するなんて。

いつの間にか少し開けた場所に出ていた。

そして、私の眼が何かを捕らえる。

凛「…………」

それに向かって歩く。

凛「……なんで」

足元の液体を踏みながら歩く。

凛「……なんで、死んでるのよ」

目の前にバラバラとなった死体があった。

あの3人の死体。

凛「…………」

私は目の前の死体を見ながら再び頭の中に響いてきた声を聞いた。

――あーあ、殺し損ねちゃった。

凛「……」

――いい機会だったのに、残念だったね。

凛「……」

――モタモタしてるからこうなっちゃうんだよ?

凛「……」

――アンタが素直にならないから、こうなっちゃったんだよ?

凛「……」

――ま、今回は仕方ないよ。

凛「……」

――次、機会があったらちゃんとやんなきゃ駄目だよ?

凛「……まださ」

――どうしたの?

凛「……まだ、殺さないといけない奴いるよね?」

――ふーん、そういうこと。

凛「私から獲物を奪って行った奴」

――うん、許せないよね。

凛「許せない」

――じゃ、殺っちゃおうか。

凛「殺してやる」

私が決意したと同時に、視界の端に仏像の姿を捉えた。

私が殺したかったアイツ等を奪って行った奴。

私の獲物を横取りする奴は私の敵だ。

敵は殺す。だからアンタを殺す。

私は右手に剣を持ち、左手に銃身の長い銃を持ち、

剣を数十メートル伸ばして、横になぎ払った。

今日はこの辺で。

>>185 ゴルゴもそうですし、玄野彼女、眼鏡君も逸材でしたよねー。
sagaいつの間にか消えてました。

>>185
乙、空手家の外人も強かった記憶
スーツ来てたら生き残れたかも…

まさかの西くん生存パターンか

追いついたけど面白いな

普通にガンツアナザーとして読んでるw
面白いです

私が振るった剣は仏像の胴体を両断し、仏像は半分になって吹き飛んだ。

だが、吹き飛んだはずの上半身が、巻き戻るように下半身とくっつき元の状態に戻る。

今の攻撃で仏像はこちらに気付いたようだった。

凛(何? 今のは?)

もう一度返す剣で仏像の胴体を斜めに切った。

だが同じように巻き戻る。

凛(この現象は一体?)

切ったはずなのに無かったことにされる現象。

不可解な現象、何かカラクリがあるはずだと考えようとするが、仏像から伸びてきたレーザーを避ける為に横に転がる。

レーザーは私を追うように動き、それを避ける為に転がり続け、私の足に届く寸前で寺が壊れたことによって出来た建物の残骸に隠れ難を逃れた。

凛(あのレーザー、恐らく当たったらスーツごと切られる)

ここに来るまでに見た死体。

殆どがバラバラになっていた。

今回の宇宙人にはスーツの防御性能も無駄だということ。

凛(全部避けなければならない。でもそんな事は不可能……いつかは当たってしまう)

凛(それなら避ける以前の問題。元を断てばいい。あのレーザーが出ている灯篭を壊す)

私は左手の銃をホルスターに付けていたY字銃に持ち替えて建物の残骸から顔を出し仏像の位置を確かめた。

だが、顔を出した瞬間、レーザーが頬を霞め私の頬から血が流れ始めた。

凛(狙われてる。位置を確かめれない)

凛(だったら)

私は剣を伸ばし、建物の残骸ごと横に斜めに縦に何度も切り刻んだ。

そして、建物の残骸の隙間から仏像の姿を捉える。

私の攻撃は仏像の胴体に届いていたが、先ほどと同じように巻き戻っていた。

私は、隙間から見えた仏像を左手のY字銃で数度ロックオンをして、物陰に隠れトリガーを引く。

Y字銃から光るワイヤーが数度発射されて、時間差で私は物陰から飛び出した。

そこにはすでに十メートル近くまで接近してきていた仏像がいた。

仏像はワイヤーで拘束されているが、手に持った剣や灯篭は落としていない。

凛(この隙に、灯篭を壊して)

持っている腕と灯篭を狙い剣を振るった。

仏像が持っていた灯篭は2つあったが、剣で簡単に両断でき、灯篭は半分になり地面に落ちた。

凛(壊れた? ……壊れている。巻き戻りも起きない、道具には効果が無い!)

灯篭を破壊して、今度は首を狙って首を吹き飛ばしたが、首は巻き戻ってしまう。

その間に、ワイヤーが仏像の持つ剣によって切られて拘束が解除されてしまった。

凛(切られても、何度でも拘束……)

私がまた拘束する為にY字銃を構えた。

その時、仏像から何かが飛んできた。

油断だった。

灯篭を破壊して、レーザーを封じたことによって飛び道具は無いと思い込んだ油断。

Y字銃は高速で飛んできた仏像の剣によって破壊されてしまった。

私の左手の指ごと。

凛「うあぁっ!? いっぁぁぁ!!」

やっぱりスーツの意味が無い。

左手の親指以外の4本が無くなっているのを見て再認識した。

全部の攻撃がスーツを貫通してくるのだと。

私は仏像の持つ武器と思われるものを見る。

剣、錫杖、燭台、他にも水瓶や円盤、全てに注意を払いながら再び剣を振るって仏像の胴体を薙ぎ払う。

また巻き戻りが起きて戻っていく、それと同時に仏像の持つ円盤が動き出し攻撃の合図かと身を屈め後退した。

が、円盤からは攻撃は来ず、仏像が巻き戻って修復されたと同時に円盤が止まった。

凛(……今のは)

もう一度剣を伸ばして首をはねる。

円盤が動き出した。

凛(あの円盤が巻き戻しの正体?)

勘だった。

だけど、私は自分の勘を頼りに円盤を狙い剣を振り下ろし、円盤を真っ二つにした。

首の巻き戻しは完了していた仏像だったが、真っ二つにした円盤は地面に落ち、円盤を持っていた手は切られたまま巻き戻されていない。

それを見て私の口元が釣りあがる感覚を感じ、舌なめずりをしていた。

凛(やっぱりあの円盤が巻き戻しの正体!)

凛(円盤は壊れて、もう巻き戻せない、だったら)

凛(殺すことが出来る)

私は仏像を殺すために首を狙って剣を振るった。

先ほどと同じ軌道、確実に首が吹き飛ぶ軌道。

届く寸前、私は仏像の腕がゆっくりと動くのを見た。

剣を持った腕が、首を守るように動き、私の剣を防ぎ、弾き飛ばしていた。

凛「なっ!?」

また、油断をした。

獲物を前に殺せると確信してしまって油断してしまった。

剣は弾き飛ばされて建物の影に落ちてしまった、取りに行くには遠すぎる。

左手でホルスターの銃を取ろうとするが、左手は使い物にならない状態だったことを思い出す。

すぐに右手でホルスターの銃を取り出し、仏像に構えるが、仏像の剣を持った腕が動くのを私は見た。

剣が飛んでくるのを予測し、私は回避する為に横っ飛びをしたが、仏像の剣はあらぬ方向に飛んでいった。

凛(……どこを)

狙っているのかと、考えたがその回答はすぐに出た。

剣が何も無い空間に刺さった。

そして、叫び声が上がる。

西「ッああああァァ!? いッでェェ!!」

バチバチと放電が起こり、西の姿が現れた。

西の右肩は剣が刺さり半分千切れかけていた。

西「くッそォァァァァ!!」

左手に持った銃を構え、仏像に向けたが、仏像はすでに西の目の前にたどり着いており。

西「あッ」

凛「あ……」

仏像の持った錫杖が西の首を切り飛ばしていた。

首を失った西の体は、切断面から噴水のように血が噴出していた。

私はそれを呆然と見ている。

あの西がこんなにあっけなく殺されてしまった。

私を自分の同類だといった西。

ガンツの秘密をあれほどまでに知っていた西。

恐らくは何度も何度もあの部屋でこのゲームをやり続けていた西。

それがこんなにもあっけなく死んでしまった。

私は呆然と仏像の行動を見ている。

仏像は切断した西の首を持って、頭を開き中から脳を取り出してそれを食べていた。

私はそれをただ見ていた。

仏像が食べ終わるまで見ていた。

そして、仏像の食事が終了したその時、声がした。

「あァー、ダッセェ。俺死んでんじゃん、マジダッセェ」

仏像が喋った。

「ったく、お前が星人を追い詰めて、最後に持って行こうと思ったのにコレだ、マジでダサすぎんだろ俺」

喋っている、まさか……。

「よォ、俺だ、わかるか?」

分かってしまう。

凛「まさか、アンタ……」

「鋭いねェ、そうだよ、俺だ、西丈一郎だ」

凛「嘘、でしょ」

「嘘じゃねーよ。俺はどうやら星人になっちまったらしいな」

凛「……」

「最後の一人と会話をしてみたかったつーのと、俺達が一体何者なのかを知りたかったみてーだぜ。まァ、俺を食ったことで色々と知られちまったみてーだけどな」

凛「……」

「そう警戒すんなよ、って言っても無駄かァ?」

仏像の表情が変化する。

無機質だったはずの表情に人間のような笑みが浮かび上がる。

私は無言で銃を仏像に向けようとするが、仏像はものすごい速さで銃の照準から逃れるように動く。

「おいおい、銃をこっちに向けようとすんじゃねーよ。殺す気か?」

凛「殺すつもりだけど?」

「はッ! よーやく素直になったんだ、お前」

もう一度、銃を向けるがロックオンをさせてくれない。

動きが早い。

「どーせなら、俺がこーなる前にそーなってれば、色々楽しめたのになァ」

凛「別に楽しむとか考えてない。アンタを殺せればそれでいい」

「おいおい、もったいないぜ? 殺しの楽しみを知らないってのはさ」

凛「アンタは私の敵、だから殺す、それだけ。楽しいとか楽しくないとかどうでもいい」

そう、私は仏像を殺せればそれでいいのだから。

「まァいいや。それなら俺がお前に教えてやるよ、殺しの楽しみってやつを……お前の体でなァ!」

仏像が高速で動き回り、西の死体の傍に降り立った。

「まずはお前をダルマにしてやる」

西の死体から、銃を4丁奪い取っている。

「この銃で手足を吹っ飛ばして、動けなくしてからゆっくりと腹を裂いてやる」

西の肩に刺さっていた仏像の剣を空いている腕で持った。

「お前が死にたいと懇願しても死なせねェ、ギリギリまで弄って最後には生きたままお前の脳ミソを食ってやる」

仏像が私を見て恍惚の表情をみせる。

凛「……やれるならやってみなよ」

凛「逆にアンタをグチャグチャにして殺してやる」

仏像と、私は同時に動き出し、互いに狙いを定める為に銃を向けた。

今日はこの辺で。

>>202 確かに。
>>204 仏像にジョブチェンジしちゃいました。
>>205 >>206 ありがとう。

私が動いたと同時に地面が爆発した。

スーツの力によるアシストもあり、私の動きは仏像よりも早く動けたはずだ。

だが、私の視界には仏像の姿はなかった。

凛(見失った!?)

めまぐるしく移り変わる視界の中、寺の壁にぶつかる寸前に体勢を入れ替え、寺の壁の側面に四つんばいの状態になって張り付く。

視界の端に仏像の姿を捉え、再び足に力を込め、壁を粉砕しながら跳躍、今度は見失わないと仏像の動きを見続ける。

されに手の銃でロックオンをする為に構えようとするが、仏像の無数の腕の中、ひとつの腕が動くのを私は見た。

銃を持っている手ではない。剣でもない、仏像の背中の影になって何を持っているか分からない。

凛(まずい。何か、投げてくる)

銃を構える前に、回避行動を取るべく姿勢を崩し、無理矢理地面に着地。

それと同時に、何かが飛んできた。

凛(!?)

飛んできた何かを避けようとしたが、その飛んできたものは私にたどり着く前に破裂し、真っ赤な液体を撒き散らしていた。

破裂する前に一瞬見えたそれは。

西の死体だった。

恐らく投げる前に銃で撃っていたのか、死体は破裂し私の全身に血が降り注ぎ、顔に降りかかった血は目に入り、私の視界は遮られてしまった。

凛(くっ!?)

目は見えなかったが、先ほど見た仏像の位置とは逆の方向に飛び、目を拭いながら距離を取る。

再び視界が開けたときには、私の目の前には仏像が迫ってきていた。

「ハッハハハハ! 血の目潰しだッ! 避けてみろよ!」

仏像の持つ銃が私に向いている。

意識するよりも早く、私の足は地面を蹴っていた。

「何ッ!?」

地面を蹴り、寺の壁を蹴り、寺の屋根を蹴り移動。

私が動いた場所全てが、私の踏み込みに耐えられずに陥没している。

ドン、ドン、ドンと衝撃音が遅れて聞え、私の体はゆっくりと回転しながら空中を舞っている。

真下にいる仏像と視線が合う。

仏像は唖然とした表情、その顔を見て笑いがこみ上げてきた。

私が特訓し続けて出来るようになった立体的な動き。

その動きに仏像は着いて来る事が出来ずに、馬鹿みたいな顔をしている。

その馬鹿に向けて銃を構え、私は撃っ……。

凛「あはっ!! 死……」

「死なねェよ」

撃とうとした銃が弾けとんだ。

凛「なっ!?」

弾けとんだ銃の破片を見ながら、私は体勢を崩し地面に落ちる。

叩きつけられる寸前で体勢を入れ替え、猫のように着地した私に仏像の声が聞こえた。

「銃が無くなッちまッたな?」

声の方向とは逆に手足を使って四つんばいの状態で飛ぶ。

「またワケわかんねェ動きしやがって! お前本当に人間か?」

だけど、空中で何か違和感を感じた。

キュゥゥゥゥゥン。

スーツから音がする。

前回聞いた音。スーツの限界を迎える音。

凛「!?」

その音を聞き、私は着地してスーツを見てしまう。

「おォ? もう一発ってとこか?」

仏像の声と共に、スーツから先ほど聞いた音より重々しい音が響き。

スーツのいたるところからドロリとした液体が漏れてきた。

当てられていた? でも銃は私に向いていない……。

まさか、ロックオンされていた?

凛「…………」

「クックック……スーツがイッたなァ?」

仏像が私を見て笑っている。気持ち悪い笑みを浮かべている。

「武器も無くなった、スーツはオシャカになった」

攻撃してこない、ただ私を見て、私の様子を伺っている。

「想像してみろよ。これからお前はさっき俺が言った通り、まずは手足を吹っ飛ばす。その次は腹を裂いて、中をこの剣でかき混ぜてやる。あァ、安心しろ、内臓は傷つけずにかき混ぜてやるから中々死にはしねェ、痛みだけを与えてやるから豚みてェな悲鳴を上げてくれよ?」

もはや私をただのオモチャとして見ている様なその視線に、私の感情が高ぶる。

凛「……舐めてんの? アンタを殺すのは私だって言ってるよね?」

私の言葉に、仏像は堰を切ったように笑い出した。

「ク……ククク……ハハハハハハハハハハ!! お、お前、マジで言ってんのか!? スーツも壊れて、武器もねェんだぞ? どーやって俺を殺すの? 教えてくれよ、なァ!!」

銃も壊されてしまって、私の持つ武器はもう何も無い。

私が今持っている武器は無いが、無くした武器はある。

そして、その位置を私は覚えている。

私はコイツを殺すための武器を手に入れる為に動いた。

だけど、私が一歩踏み出した瞬間。

ギョーン!!

仏像から音が聞えた。

凛「ぎっ! ああああぁぁぁぁぁぁ!!」

私の左腕が破裂した。

「いいね、悪くない叫びだ。だけどまだ足りねェなァ」

バランスを崩して顔から地面に落ち、そのまま数メートル転がり止る。

凛(い、だい……許さ……ない……殺してやる……)

痛みが私の感情に火を入れた。

殺意が止め処なく溢れ出てくる。

凛(殺す、絶対に殺す、グチャグチャにして殺す、私が受けた痛みをコイツにも味あわせてから殺す)

「んん? なんだ、まだ目が死んでねェじゃん」

凛「……殺してやる」

私は起き上がり、またあの場所へと行こうと足を踏み出す。

だけど、私の耳にギョーンという音が聞え、今度は私の右腕が破裂した。

凛「ぎあああああああああああああ!! うぁああああああ!! あぎっああ!!」

「ホラ、これでもう腕が無い、お前もう終わったぜ」

死ぬほど痛い。腕がなくなってしまった。

だけど腕を吹き飛ばされても殺意は萎えず、より強く膨れ上がる。

コイツを殺すという思考だけが頭を占める。

殺すためのアレを。

「んだァ? まだ立ち上がって何する気だよ?」

アレをコイツに。

「あァ、逃げようとしてんの? 逃げれると思ってんの?」

ギョーン!!

凛「いぎっ!! ぎゃあああああああああああああああああ!!」

足が吹き飛んだ。

「イイねェ……、イイ鳴き声するようになってきたじゃねェか」

体が飛ばされて建物の陰に吹っ飛ばされた。

吹き飛ばされて転がる私の目に映る。

アレが見えた。

アレの元に。コイツを殺すためにアレを。

私は這いずりながらアレを目指す。

「ククク……逃げんなよ」

たどり着いた。

私はあごを当てて、コレの刃を収納した。

アイツはまだ来ない。

「おーい、そんなところに隠れんなよ、次は腹を掻っ捌かないといけないんだからよー」

コレを口に咥える。

もう持てないから口に咥える。

「おッ…………ハッハハッ!! ハハハハハ!! んだよそれ!? イモムシみてーに動きやがって、そんなに逃げてェのか!?」

建物の影にアイツもやってきた。

私はコレを限界まで咥え込む。

喉の奥が抉れるが関係無しに咥える。

「おーい、顔見せてくれよ、今どんな顔してんの? できれば泣いててほしィなァ、怯えててほしいなァ、どんな顔してんのかなァ……」

私の頭が掴まれて持ち上げられる。

「あー……もう我慢できねェかも……」

同時にコレを口の中に納めることができた。

「やっぱ顔見たら殺しちまうかも……でも勿体ねェ……」

喉の奥まで剣の柄が入り込み息も出来ない。

「ハァ、ハァ……」

だけど、そのおかげで私の歯に、この剣を伸ばすためのスイッチが触れている。

「ハァ……ご開帳だァ…………あァ?」

凛「ジ、ネ゛」

アイツの顔が見えたと同時に、歯を噛み締めて剣のスイッチを入れた。

剣は一瞬で伸び、アイツの脳天を貫いた。

「アァア? な……」

私の口に肉を貫いた感触が伝わった。

凛(あっ、はぁっ!! 刺さった!! 刺さってるぅ!!)

何が起きているのか分かっていない顔。

凛(死ねェェェッッッ!!)

私は剣を咥えたまま、首を全力で下に振り下ろした。

口に肉の裂ける感覚が伝わり続ける。

私の脳内で何かがスパークし続け。

仏像の顔が半分になって、半分になったところから血が溢れて、それが私の目に焼きついて。

仏像は体の中身を撒き散らしながら真っ二つになった。

凛「ごほっ!! げほぉっ!!」

私の口から剣がずるりと抜け落ちる。

凛「けほっ……ふ、ふふ……」

笑いがこみ上げる。

凛「ふふふ……はははっ……あはっ、あははははははははは!!」

グチャグチャになった仏像を見て笑いが止まらない。

凛「ざまあみろ!! 何が私を殺すだ!! 私は死んでない!! 死んだのはアンタだっ!!」

今だかつて味わったことの無い爽快感が私を包み込む。

凛「最ッ高ッ!!!! ナニコレ!!?? 気持ちよすぎッッッ!!!!」

もう痛みさえ快感となっている。

こんな気持ち一度も味わったことが無い。

殺したくて殺したくてたまらなかった相手を殺した瞬間。

私を殺すと言った馬鹿を、私をこんな状態にしたクズを、私にちょっとでも恐怖を与えたゴミをこの手で処分することができた瞬間。

この世のものとは思えないくらいの快感が私を襲った。

身体中が気持ちいい。全身が痙攣し、お腹が恐ろしく熱い。

私はこの快感を転送されるまでずっと味わい続け。

私の頭の中は幸福感と満足感で満たされていた。

気がついたら私はガンツの部屋にいた。

凛「……あぁ、戻っちゃったんだ」

さっきまで感じていた満足感が薄れていく。

凛「……もう認めないといけないかな」

私の心の変化。

凛「私、アイツを殺して、気持ちよくなって、感じちゃった……」

顔が少し赤くなる。

それと同時に恥ずかしさがこみ上げる。

凛「……普通の女の子どころか、変態じゃん、私」

でも、それでもいいかなと思ってしまう。

あんな快感を味わった後、あれを否定することなんて出来ない。

凛「でも、不思議。認めちゃったらこんなにすっきりするなんて」

もう私が悩んでいた些細なことは、私の中から消えてなくなっていた。

これも私なんだって認めたらすごくすっきりした。

凛「ふふっ、悩んでたのが馬鹿みたい」

思わず笑ってしまう。

本当に私はくだらない事で悩んでいたんだなと思い。

これからは自分に正直に生きていかないと行かないと思っていると、部屋に転送されてくる人を見た。

凛「あ、誰だろう?」

徐々にその輪郭が現れる。

玄野さんだった。

凛「あ……よかった。死んでなかったんだね」

ほっと一息をつく、最後に私が見たときには血を流しすぎて死んでもおかしくない状態だったのだから。

だけど、玄野さんの様子がおかしいことに気がつく。

玄野「あああッッ!!」

凛「?」

玄野「ハアッ!! ハアッ!!」

凛「どうしたの?」

玄野「ハアッ ……ハァッ、……あ? し、渋谷、さん?」

凛「うん。今日のゲームは終わったからもうそんなに怯えなくても大丈夫だよ」

玄野さんは涙を流しながら、必死な顔をしていた。

怯えているのだろうと思い、気休めでも声をかけてあげることにした。

玄野さんは少し落ち着いたようで、私に問いかけてくる。

玄野「終わっ……た……のか……?」

凛「何とかね」

玄野「岸本も…………アイツも……北条も……死ん……だ……岸本…………」

凛「……」

そうだった……。

岸本さんも、加藤さんも、他の人も沢山死んでしまった……。

今回は人が多く死にすぎた……。

玄野「……なんで、岸本……くそ…………」

玄野さんが項垂れている。

私はどう声をかけていいかわからないでいたが、その直後にガンツから音が鳴る。

『ちーーーーーん』

『それでは ちいてんを はじぬる』

凛「え?」

玄野「はァ!? ちょ、ちょっと待て!!」

『くろのくん 8てん』

『Total 38てん あと62てんでおわり』

玄野「おいッ!! 待てッて!!」

採点が始まっている。

それじゃあ、まさか……。

『りんちゃん 50てん』

『Total 97てん あと3てんでおわり』

凛「………………え?」

点数を見て私は固まった。

玄野さんは何かを叫んでいるけど、耳に入ってこなかった。

私の目には残り3点で終わりと表示された採点結果。

凛(後3点で終わってしまうの?)

あの時に感じた感覚、あの気持ちよさ。

凛(もう次で終わり?)

それも次で終わってしまう。

凛(……)

終わったらもう、あれを味わうことができない……。

凛(……もう一度)

味わいたい。あの感覚を。

凛(……ううん、何度でも)

凛(……って、何考えてるの私?)

凛(……次で終わるのがいいよね)

凛(……終わったら普通の生活に戻れる)

頭を振る、それでも私に芽生えたこの気持ちは消え去ることは無かった。

凛(……でも)

凛(……普通に生きててあんな気持いい経験なんてできるのかな?)

凛(……あんなに必死に、真剣にやれることってここから先、この部屋以外で見つかるのかな?)

凛(……どうしよう、私すごく迷ってる)

そうやって考えていたら、玄野さんがとんでもないことをしようとしているのを見て、私は慌てて止めに入る。

玄野「ガンツ!! 聞けッ!! 加藤と岸本とあと俺の彼女を生き返らせろ!!」

玄野「おまえ、死ぬ寸前の人間をここに連れて来たんだろッ!! 今言ッた3人ここに出せるはずだ!!」

玄野「早く出せッ!! 出さないとお前を撃つぞ!? おどしじゃねーぞ!!」

ガンツに向かって銃を構える玄野さんを羽交い絞めにしてガンツから引き離す。

凛「ちょ、ちょっと! 何やってんの!?」

玄野「なッ!? は、放せ!! 何するんだよッ!!」

凛「放せって、放したらガンツに何するつもり!?」

玄野「決まってんだろ!? コイツがさっき言ッた3人を出さなかったらぶっ殺してやる!!」

凛「はぁっ!? 何考えてんの!?」

この人は一体何を考えているんだろう?

ガンツを殺す? そんな事をしたら……。

凛「次できないでしょ!? そんなことしたらさ!」

玄野「はァ!? 何言ってんだよおまえ!?」

凛「だから次のゲームが出来なくなるじゃん!!」

玄野「な、何言ってんだ? おまえ……」

凛「あ……」

口に出ていた。

ああ、そういうことか。

私の本心は……。

凛「はぁ……私ってこんな人間だったんだね」

玄野「おい……何を……」

凛「ま、いっか。これも新しい自分の発見ってことかな」

玄野「だから……一体……」

私は無理矢理コイツを部屋の外に連れ出し、部屋の出口を開け外に投げ飛ばす。

玄野「おいッ!? 待……」

ガチャンと出口のドアを閉めた。

これでもう大丈夫。

私は再びガンツの前に戻り、黒い球体を優しく撫でる。

凛「ふふっ」

凛「これからは自分に正直に生きる、そう決めたからね」

凛「これからもよろしくね、ガンツ」

黒い球体に私の笑顔が映りこんだ。

それと同時に、私の中にあった誰かの笑顔が消えていった。

大事なものだったのかもしれない、だけど今の私にはこの黒い球体より大事なものは存在しなかった。

あばれんぼう星人・おこりんぼう星人編 終了。

今日はこの辺で。

最終章予告

葉山「やったか?」

八幡(?)「GYAAAAAAAAAAA!!!!!!」

八幡「あぁ、俺は…好きなのか…。」

闇八幡「俺はお前だ!」

闇八幡「黒幕はお前をりようしている。」

八幡「俺、比企谷八幡は…を愛し続けます。これから先ずっと一緒にいてくれないか?」

そしてすべての交錯した世界は加速して行く

多重人格者の俺の復讐するのは間違っていない

最終章

『闇夜を切り裂き未来を手に掴む。』

最近すごく気分がいい。

今まで何をするにしても、いまいち目標を持てずに流されるようにやってきていた。

でも、今は違う。

私はやりたいことを見つけることが出来た。

自分が本気で打ち込めることを、あんなにもやりがいを感じれるものを。

私はようやく生きがいと言うものを見つけることが出来た。

これから私が生きていく上で必要なもの。

それが分かって、私の日々は色が変わって見えるようになった。

そんなある日、学校でいつものように帰ろうとしているところを友達に呼び止められた。

「凛ー! ちょっといい?」

凛「どうしたの?」

「なんか校門前に、待ってる人がいるよ」

凛「?」

「なんかすっごい美形の人だったけど、もしかしてさー、カレシだったりするの!?」

凛「は?」

茶化し始める友達を適当にあしらって窓から校門のほうを見てみる。

確かに誰かいる。男の人だよね?

凛(誰?)

遠目から見るその男の人の姿は今まで見たことも無い人だった。

「何? どうしたの?」

「聞いてよ! 凛がカレシに迎えに来てもらってるんだよ! しかも、チョー美形のカレシに!」

「ええーー!! マジ!? どこどこ……キャー!! 何あれ! すっげーイケメン!!」

「でしょ! 凛ーー、あんなオトコをどこで捕まえたのよ! このーっ!」

私が窓の外から見ていると、友達が寄ってきて同じように男の人を見て勘違いを始める。

面倒くさくなってきたから鞄を持って教室を出る。

後ろからは私をからかうような声が聞こえ続ける。

凛(もう、勘弁してよ……)

私は学校を出て、私を待っているという男の人がいる校門まで歩いた。

凛(私を待ってるって何の用かな?)

凛(とりあえず少しだけ話を聞いてみよう)

私は校門前で私を待っているという男の人の前に来ていた。

背が高くて長髪の男の人。

やっぱり知らない、見たことも無い男の人だった。

「ん……君は……」

私に気付いた男の人が声をかけてきた。

凛「えっと、あなたが私を待ってるって人?」

「君が、しぶやりん……さんかな?」

凛「そうだけど」

私が返事をすると、男の人は私を見てくる。

何というか観察するような視線。

気持ち悪い視線ではないけど、探られているような視線だった。

凛「えっと、私に何か用? 私、あなたを知らないんだけど?」

「ああ……ええと……」

凛「?」

「少しさ、話をしたいんだけど、今から時間あるかな?」

凛「無い」

即答をすると、少し目を大きくしている。

私がこの人と話すことは無いし、帰ってやることは沢山あるのだから。

そのまま帰ろうと足を進めると、男の人は着いて来て話しかけてくる。

「本当に少しだけでいいんだ。ダメかな?」

凛「私忙しいし、少しだけなら今話せば?」

「……君は黒い玉が置いてある部屋を、知ってるか?」

凛「……は?」

思わず立ち止まりそうになった。

「死者が集まってくる部屋」

立ち止まってしまう。

次に聞いた言葉で私は男の人の顔を見てしまう。

「ガンツって知らないか?」

凛「ガンツ……」

男の人を見ながら私の頭の中で高速で思考が巡っていた。

凛(この人、何? 何でガンツのことを知ってるの?)

凛(あの部屋でこんな人見てないし……まさか、他のガンツでゲームをやってる人?)

凛(西は他にもガンツはあるって言ってたし、情報共有もされているって言っていた。この人がもし他のガンツでゲームをしている人なら、私と情報を交換する為に来たという事……?)

凛(それなら、話して見ても……いや、そうじゃなかった場合は、ガンツの情報を私が漏らしたという事になって私の頭の爆弾が作動するかもしれない)

凛(この人がなんでガンツのことを知っているのか……それは分からないけど、今はわからないフリをしておかないとまずい……)

男の人は私の一言を待っている。

考えが纏まるのは一瞬だった、男の人の顔を見てすぐに私は話し出したように見えただろう。

凛「えっと……あなたの言っている事、よくわからないんだけど……」

「……知らないって事かな?」

凛「知らないというか……それって何かのドラマとか映画の話? 悪いけど最近あんまりテレビ見てないから」

「……そうか、……いや、知らないならいいんだ。忘れてくれ」

男の人は私の返答を聞いて立ち止まった。

私は一度振り向いて男の人を見るが、男の人は少しだけ何かを呟いて去っていった。

「……違う、か。どう見ても殺しが趣味の女には見えないし、人違いってことだな……」

「やッぱり、玄野だな……アイツは恐らく……」

聞えた言葉に頬を掻きながらどう言う意味かと考える。

凛(やっぱり知ってる。殺しが趣味の女って言うのは違……っても無いか)

凛(それに玄野って、アイツのことだよね。アイツのことも知っている、他のガンツじゃない、私のガンツの事を知っているんだ)

凛(でも、どうやって……知る方法なんて無いはず……)

凛(あの部屋の誰かが情報を漏らした? でも、そんな事をすれば爆弾が……)

凛(……ま、怪しいのは一人しかいないけど、もうアイツも前回死んじゃったし聞くことも出来ない)

凛(……玄野って言ってたし、アイツとも会っているかもしれないから、今度のゲームで聞いてみよう)

凛(後は、少し調べてみようかな。ネットで検索して出てくるとは思えないけど、西が情報をネットで共有しているって言ったたし、色々調べてみよう)

私はそこまで考えて、頭を切り替える。

いつもの特訓以外にもやることが一つ増えた。

でも、これがガンツに関することなので特に不満を感じることもなかった。

そして、ガンツのことを考えて、前回のゲームから2週間くらい経っていることを思い出した。

凛(あぁ……次はいつになるんだろう?)

凛(毎日毎日、次のことを考えながら特訓をしてるのに、まだ呼ばれない)

凛(もう、ウズウズして堪らないのに……早くこないかな……)

凛(早く、あの日みたいに……)

凛(次は……どんなのが……)

次のことを考えて息が荒くなっていく。

次はどんなのがターゲットなのかと、次は前回とは別の武器で殺してみようかなと、次はどれくらいの気持ちよさを味わうことが出来るのかと。

熱を持った体で家に帰り、いつものように夜特訓をしていると、私の首筋に寒気が襲った。

その感覚で、私は遂に来たのだと、やっと来てくれたんだと歓喜する。

待ちに待った狩りの時間。

私は今日の狩りを妄想しながら転送された。

4.チビ星人 + Extra mission 編

今日はこの辺で。

ガンツの部屋に転送された私。

目の前には黒い球体、ガンツ。

これから始まる狩りを思うと、鼓動が高鳴る。

期待が膨らみ続け、押さえきれなくなりそうだったが、今はまだ我慢。

もう少し、もう少しでまたあの快感を……。

はやる気持ちを抑えながら、私は壁を背にして腕を組む。

しばらくすると、もう一人転送されてきた。

前回、ガンツを殺そうとしたアイツ、玄野だった。

玄野「あ……」

凛「……」

私がガンツを見続けていると、玄野は私に話しかけてきた。

私から特に話す事は無かったけど……あ、さっきの男の人のことは聞いてみてもいいかもしれないかな?

そうやって考えながら、私は玄野の話を聞き始めた。

玄野「あ、あの、さ。前回のことなんだけどさ」

凛「?」

玄野「あの千手観音をやッたのッて……やッぱり、きみ、なのか?」

凛「そうだけど?」

玄野「!! あ、あんなのをどーやッて……」

あの時の事が鮮明に浮かび上がる。

凛「どうって……アイツの頭に剣を刺してそのまま縦に切り裂いてやったんだけどさ……」

やばいかも……体が熱くなってきた。

凛「アイツを半分にしてやったら、中身がグチャって落ちてきて、ふふふっ……何が起きてるか分からない顔してたなぁ……うん、馬鹿みたいな顔してた」

玄野「な、なん、だ……何を言ッてンだ……」

凛「? アンタが聞いたんでしょ? アイツを殺ったときのことを」

玄野「ど、どーして、そんなに嬉しそうに話すんだよ……なんで、笑えるんだよ……」

凛「?? 敵を殺せて嬉しかったし、楽しかったから笑ってるんだけど」

玄野「き、きみは、この殺し合いが楽しいって、言ッてンのか……?」

凛「……」

少しだけ思うところはあった。

だけど、もう認めてしまったから、回答はひとつしかなかった。

凛「ま、そうなるのかな」

私の回答に玄野は目を見開いている。

玄野「な、何なんだ……? こ、殺し合いなんだぞ……? きみも殺されるかもしれないんだぞ……?」

凛「殺されないように毎日特訓してるし、相手を殺すための特訓もしてる。問題ないよ」

玄野「違げーよ!! そんな事を聞きたいんじゃねーッて!!」

まあ、玄野が聞きたいことは分かる。

少し前の私なら似たようなことを考えていたと思うし。

凛「アンタが言いたいこと分かってるつもりだよ」

凛「こんな殺し合いを何で楽しんでいるんだ? こんな理不尽な殺し合い怖くないのか? なんで殺したヤツのことをそんな風に話すことができるんだ? お前は一体何を考えているんだ? そんなところでしょ?」

玄野「なッ……」

凛「少し前……前回のゲームが始まる前までは私もそんな事考えたかもしれないけどさ、もう止めたんだよね、そういうどうでもいいことを考えるのは」

玄野「ど、どーでもいいって……」

凛「私、このゲームが好きみたいだからさ、楽しもうと思ったんだ。確かに殺されるかもしれないってのはちょっとだけ怖いけど、それ以上に、私の敵を殺したときのあの……達成感とかがもう忘れられないんだよね」

玄野「な、なん……」

凛「まあ、頭のおかしい変人だって思ってもらえればいいよ。私もそこらへんは自覚してるし、認めたから。最初は嫌だったけど、ね」

玄野「い、意味わかんねぇ……なんで、そんな事を……」

凛「これ以上話しても、理解できないだろうし、時間の無駄」

玄野「なん……だよ……そんな……」

話を終わらせようと思ったが、あの男の人のことを聞いてみることにした。

凛「そういえば、アンタって、ガンツの事を知ってる変な男の人に心当たりある? 背が高くて長髪で整った顔の男の人」

玄野「え……あ、……もしかして和泉の事か?」

凛「やっぱり知ってたんだ……アンタもいきなり声をかけられたの?」

玄野「え……声を? いや、あいつは転校生で……俺の学校に転校してきた奴なんだけど……」

凛「ふーん、転校生ね。さっき言った特徴だけど分かったって事は、アンタにもガンツのことを聞いてきたって事だよね」

玄野「あ、ああ」

凛「……」

ガンツのことを調べる男……。

しかもこの部屋のガンツを……。

あの男のことを考えようとしたときに、私の思考は中断される。


『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』

来たっ!!

鼓動が高鳴る、ドキドキが止まらない。

玄野「は?」

待って待って待ち続けたこの瞬間。

期待と興奮で全身が震えている。

玄野「は? お、おい……ちょ、ちょっと待て……」

『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい』

『チビ星人』

『特徴 つよい 根にもつ』

『気にしてること 背の低さ』

『特技 人マネ 心を通わす』

こいつが今回の…………。

自然に笑みが浮かぶ。

玄野「おッおいッ! 今回、二人だけかよッ!?」

私は銃を手に取り、ホルスターに納めていく。

玄野「おい!! ムチャクチャだろッ!? 二人であんないっぱい倒せッてかよ!?」

小さい丸銃、Y字銃、長い砲身の銃。

それぞれ2、2、1でもっていく。

玄野「やべッ、やべえッ」

玄野「お、おい! 渋谷さん! あっちに行ったらすぐ合流するぞ!!」

コントローラーも持って、後は剣とバイク。

玄野「おいッ!! 渋谷さん!! 聞いてンのか!?」

剣は2本にしておこう、バイクは初めて使う、最初はバイクを走らせてみよう。

玄野「おいッ!! 聞けよッ!! ……って、何だ、バイク……?」

前回は剣で止めを刺したから、今回は銃。

どっちの銃にしようかな。

ふふふ……。

玄野「こんな部屋……ッ!! 来たッ!!」

玄野「渋谷さんッ!! すぐ合流だぞッ!! わかッたな!? わかッたら…………」

あ、バイクを持っていくのはどうすればいいんだろう?

……座っていればいいのかな?

私は、バイクに乗り、コントローラーを操作して透明となる。

まだかな。

まだかな?

まだか……来たぁっ!!

視界は移り変わり、私は待ち焦がれた狩りの舞台に転送された。

雑居ビルが立ち並ぶ夜の町。

私はビルとビルの間にある隙間に転送されていた。

座っていたバイクは持ってこれたみたいだ。

透明化も……バイクにも効果がある、バイクの周りの空間が波打つように揺らめいている。いつもの透明化している状態だ。

凛「ふうぅぅぅ…………」

まずは深呼吸。

興奮していて、待ち焦がれた瞬間だけど、落ち着かないといけない。

敵の位置、そして今回新たに使う武器の確認。

コントローラーを確認すると、少し離れた場所に1,2,3……結構多い、10の反応。

コントローラーを常時見える位置において、バイクを確認。

モニターが3つある。調べているとそれぞれにケーブルを繋げるような穴とスイッチがある。まずはスイッチを押してみると、モニターの2つはバイクの前方と後方を映し出した。

もうひとつのモニターは電源自体は入っているみたいだけど、何も映していない。

何度かスイッチを押してみるが、映し出されることは無かったので、電源オンの状態にして、次は穴を調べてみる。

3つとも同じ穴、3つのモニターに同じ穴が1つずつ空いている。

私はその穴を見て、コントローラを見る。

コントローラーには接続する端子みたいなものが出ている。

何の為にあったのかと思っていたが、もしかしたら……。

私はコントローラーをモニターの穴に合わせるように近づけ。

凛「……繋がった」

今まで何も映っていなかったモニターにコントローラーのレーダー画面。

敵の位置が表示されていた。

凛「……そういうこと。これなら運転しながらも見やすいし、悪くないね」

コントローラーの小さな画面よりもこちらのほうが見やすい。

次は、このバイクの動かし方。

私はバイクに乗り、ハンドルと思われる場所を捻る。

凛「動いた!」

すると、ゆっくりと動き始る。初めて運転するにも関わらずバランスとか何も考えなくても真っ直ぐ進む。

ビルの隙間をでて、道を走らせると一瞬で加速し、100メートルくらい進んでいた。

凛「凄いスピード……モニターで敵を確認して、一気に近づいて攻撃することも可能ってことか……」

バイクの性能をもう少し調べてみたかったけど、私はモニターを見て調べるのはもう終わりにすることとした。

モニターに映っている敵の数が3つになっていたからだ。

凛「……アイツの仕業か」

コントローラーをバイクから外し、跳躍の準備。

敵はビルの上にいる。

凛「あれだけ待って、狩りを出来ずに今日はお終いなんてなった日には、私どうなっちゃうかわからないよ」

この時だけを考えて毎日頑張っているのに、お預けなんて貰ったらもう……。

凛「早く行かないと、獲物がいなくなっちゃう」

私は足に力をこめ、地面を踏み抜いた。

そのままビルを蹴り、何度もビルを蹴り、ボールが跳ねるようにビルの隙間を進んでいく。

ビルの隙間を抜け、ビルの屋上から屋上に飛び移り続け、ようやく見つける。

人型の宇宙人3匹に追われている玄野の姿。

私は宇宙人に銃を向けようとするが、不意に頭の中に響いてきた声に気を取られてしまう。

『もう一体いるぞ』

『我等の同胞を破壊した奴の仲間か』

『解体しろ、もう一体も解体して、同胞の無念をはらすのだ』

凛(なにこれ? 頭の中に声が……)

『あそこだ』

『我等が行く』

『気をつけろ、奴も罠を張って待ち構えているかもしれない』

凛(テレパシー? まあ、なんでもいいや)

私の前に2体の宇宙人が現れた。

凛(やっと、狩れる)

凛(狩の時間だ)

私は2体の獲物を見据えて、自然に釣りあがった唇を舌で嘗め回し、

獲物を目がけて飛び掛った。

このへんで。

まずは一匹をと、飛び掛りながら銃を向ける。

だけど、私の視界から忽然と宇宙人は姿を消した。

凛「!?」

次の瞬間、上からの衝撃。

スーツを着ているのに、かなりの衝撃を受ける。

かすかに見えたのは1匹の宇宙人。

銃を向けようとしたら、今度は下からの衝撃が襲う。

私はそのまま空中に吹き飛ばされ、空を舞った。

凛(み、見えなかった)

空中で回転しながら宇宙人の動きに息を呑む。

凛(前回だったら、もう死んでる)

そして、油断と敵を舐めていたことに反省する。

凛(前回も油断して死に掛けた)

熱を持った頭に冷静な思考が戻ってくる。

凛(アイツ等の位置……)

回る視界の中、敵の姿を探すが見えない。

すぐにレーダーを取り出し、位置を確認。

ビルの陰にいる。

凛(完全に隠れてる……銃を使えない……)

凛(それなら……)

私は手に持った剣を伸ばしビルの屋上の物陰を薙ぎ払った。

『ゴハッ』

『何?』

『どうした? 何が起きた?』

剣の刃を縮め屋上に着地する。

手ごたえは、あった。

『同胞が破壊された。さっきの奴とは違う武器を持っている』

『また同胞が。2体とも許さない、必ず破壊する』

狩りの緊張感と共に快感が襲う。

だけどそれを感じていることが出来ない。

まだ、1匹残っている。

もう1匹の位置をレーダーで確認、また物陰にいる。

私は同じように剣を伸ばし横一文字に薙ぎ払うが、今度は宇宙人が私の横から殴りかかってきた。

凛「ぐっ!?」

『お前の手は分かっている、もうそれは通じない』

殴られた衝撃で別の屋上にある大きな看板に突っ込む。

また、姿を見失ってしまった。

凛(動きが速過ぎる……それにこっちに見えないように動いて狙いが合わせられない……)

コントローラーを見ながら敵の位置を確認するが、敵は一箇所に留まっておらず高速で動いているようだった。

凛(銃の危険性はもう知られているみたいだし、あのスピードで動かれたらロックオンもできない)

凛(剣での攻撃も避けられてしまった。恐らく普通に攻撃をしても当てることが出来ない)

凛(完全な奇襲攻撃か思いもよらない攻撃で当てるしかない……透明状態でも何故か見つかっている以上、予想も付けられない攻撃を……)

また衝撃が襲った。

背後からの一撃、看板を貫通して敵の手が一瞬見えた。

私は吹き飛ばされて別のビルの屋上に叩きつけられた。

凛「かはっ!」

また攻撃を受けてしまった。

だけど、一瞬は見える、敵の姿を一瞬だけ見ることが出来る。

それならば、レーダーを見続けて、敵が来る方向さえわかれば1秒か2秒前に敵の姿を捉えることができるかもしれない。

その一瞬があれば……いや、敵の学習能力はかなり高そう。

あのスピードなら一瞬の間があったら避けられてもおかしくない。

敵の動きを止めて、確実に殺す。

私が今使える道具、レーダー、銃、剣……いける。

ひとつの作戦が頭に浮かんだ。

凛(これからはレーダーに集中)

私は視線をレーダーに固定して、左手の銃を下に向けて上トリガーを引く。

角度を少し変えてまた引く、どんどん引く、引き続ける。

敵はまだ近づいてこない。

数十回トリガーを引いた。次は下トリガーの指とレーダーに集中。

敵は高速で動いている。

レーダーの光点が凄い速さで動いている。

その光点がこちらに向かって動いた。

瞬間、私の指はトリガーを引いて、敵が襲ってくる方向に視線を動かす。

1秒、敵の姿が見えた。

2秒、私の体に敵の拳が当たっている、私は少しだけ飛んでその拳を受け入れる。

3秒、私の体は後方に吹き飛ばされた。敵を眼前に後方に吹き飛ばされる。

と、同時に今までいたビルの屋上が爆発した。

敵は爆発に巻き込まれて体制を崩している。

私は敵に向けている剣のスイッチをいれて。

一瞬で伸びた剣に敵は貫かれた。

『カハッ』

胸に刺さった剣を引き上げる。

『ゴッ……』

頭が割れて、血が飛び散った。

凛(あっ……綺麗な花みたい)

場違いな思考が訪れるが、すぐに思考を戻す。

凛「後、一匹」

襲ってくる快感に身をゆだねるのは最後の一匹を殺してから。

まだ、まだ早い。

脳内で何かが噴出しているが、それを抑え私は最後の一匹を殺すために空を駆けた。

私はコントローラーを取り出して眉を顰める。

凛「壊された……」

ドロリと液体が溢れ出して何も表示されていない。

最後の攻撃で破壊されてしまったようだ。

凛「仕方無い、自力で探すしかないか」

レーダーが破壊されてしまった以上、自分で探すしかない。

さっき勝てたのはレーダーのおかげだったから、レーダーが破壊されて次はさらに慎重にならなければならないと思った。

姿を隠しながらと考えたが、姿を隠す前に私のいるビルの屋上に玄野が飛び移ってきた。

玄野「うわああああああああああァッ!!」

私は玄野が飛んできた方角を見る。

玄野「ハァッ!! ゼエッ!! あ、あああああッ!!」

最後の一匹は玄野を追っていった。つまり……。

玄野「あッ!! たっ、たす……」

剣を構える、居合いの構えを取り、姿を見せるであろう獲物に集中する。

凛(見えた!!)

私の目に獲物の白い姿が見えた瞬間、渾身の一撃を放っ……。

玄野「助けてくれェッ!!」

私は横からの衝撃に体勢を崩してしまった。

玄野が私に助けを求め飛びついてきている。

私の刃は獲物の腕を掠めただけで当たらなかった。

凛「~~~ッ!! 邪魔ッ!!」

玄野を蹴り飛ばし、獲物を探すが、すでに視界から消えていた。

玄野「うァッ!!」

凛(ちぃっ! まずい……仕留められなかったし、私の姿を見られてしまった)

凛(敵はどこから襲ってくる……)

私は全方位に集中しながら敵の攻撃を警戒していると。

先ほど聞えた、頭の中に響く声を聞いた。

『同胞の信号が途絶えた。まさか俺以外の全ての同胞が破壊されたというのか』

『お前達は許さない。必ず追い詰めて破壊する。お前達の信号はもう覚えた』

『まずは俺の同胞の多くを破壊した男、その後に女、順番に破壊してやる』

凛「……グダグダ言ってないで、早くかかって来なよ」

『お前の手がまだ分かっていない、お前は俺の同胞をその男同様罠にかけて破壊したのだろう』

凛「罠? 何言ってんの?」

『この場は引く、お前達の巣を見つけ出して、巣にいるお前達の同胞も全て破壊する』

凛「……引く? 巣?」

『俺の同胞が全て破壊されたのだ、お前達だけを破壊しても割に合わない』

凛「まさか……」

『覚えておくがいい、お前達を必ず見つけ出して、お前達の同胞も全て破壊する』

凛「っ!!」

私はビルの屋上から跳躍して辺りを探すが、もうアイツの姿は形も無かった。

そうやって探し回っていると、私の視界が切り替わり、ガンツの部屋に戻ってきていた。

凛「ちょっと……待って……」

玄野「ハァッ!! ハァッ!!」

『ちーーーーーん』

凛「ちょっと!! 待ってよ!!」

玄野「ハァッ……ハァッ……お、終わった……」

『ちいてんを はじぬるまえに』

凛「何逃げてるの!? ふざけんなっ!!」

玄野「!?」

『ヤッつける方を 逃がちないで下ちい』

凛「こっちは我慢してんのよ!? 我慢して我慢してもうちょっとだったのに!!」

玄野「な、なん……」

『今回てん数はんぶん というわけでちいてんです』

凛「あああああっ!! もうっ!! 信じられないっ!!」

玄野「お、お前、何を……」

『くろの 10てん ビビりすぎ』

『Total 48てん あと52てんでおわり』

玄野の声が聞こえて思い出した。

そうだ、コイツが邪魔をしなければ。

凛「アンタのせいでしょ!? 何で邪魔したのよ!?」

玄野「じゃ、邪魔って、俺は……こ、怖くて……」

『りんちゃん 3てん』

凛「ふざけんな!! 怖いなら隠れて出てこないでよ!! アンタが邪魔したせいで私はアイツを殺し損ねた!!」

玄野「な、なんなんだよッ! おまえ、何怒ってんだよ!?」

『Total 100てん 100点めにゅーから選んでください』

凛「だから言ってんでしょ!? 私はアイツを殺せなくてイライラしてんの!! 欲求不満が爆発しそうなの!! ああああっもうっ!! 頭がおかしくなりそうっ!!」

玄野「こ、殺せなくてッて……何なんだよおまえ……頭おかしいだろ……」

凛「はあぁっ!? アンタ邪魔するだけじゃなくて、私を馬鹿にしてくるワケ!?」

玄野「ば、馬鹿にするって、おまえおかしいよ、普通じゃないよ……」

凛「~~~ッッッ!! もう限界!! ガンツ!! 聞いてる!?」

玄野「お、おい、今度は何を……」

凛「次はコイツと別にして!! こんな奴いても邪魔なだけ!! 私一人でいい!!」

玄野「!? お、おまえ何言ってんだよ!?」

凛「後、すぐに次のゲームを始めて!! 出来るでしょ!? 私もう限界!! 色々限界、早く、早くっ!!」

玄野「……な、何なんだよ、わけわかんねぇ……」

私はガンツに叫び続けるが、ガンツは反応しない。

そこでやっと気がついた。

私の点数の表示が100点となっていることに。

100点メニュー、そんなの選択肢はひとつしか無い。

凛「2番!! 選んだから早くして!! 次のゲームを早く!!」

玄野「な、ンだ? 今の……100点メニュー?」

凛「アンタ邪魔!! さっさと出てけ!!」

私は玄野を部屋から引きずり出して出口を空けてぶん投げた。

玄野「うォああああああああ!?」

ガンツの前に戻りもう一度お願いする。

凛「お願いガンツ……私もう一度やりたいの……だからさ……」

ガンツの前で項垂れながらお願いをし続ける。

すると……。

『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』

その音楽に勢いよく顔を上げる。

『りくえすとに答えまして』

『もう一度行ってくだちい』

その文字を見て震える。もちろん嬉しくて。

『この方をヤッつけに行ってくだちい』

『デカ星人』

『特徴 でかい おおきい』

『気にしてること 背の高さ』

『特技 ふみつぶす』

凛「ふ、ふふふ、ふふふふふふ…………」

『100点めにゅーの武器は よういしておきました』

凛「ありがとう……ガンツ……」

私は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

今度こそ誰にも邪魔されずに、確実に獲物を殺すことが出来るんだ。

もう油断はしない、何匹いても確実に殺して、最後の一匹をじっくりと味わう。

準備も怠らない、奥の部屋にりんちゃんと書かれた大きなケースが用意してあり、中に入っていた大きな銃も持っていく。

そして、私の視界は切り替わり、夜の町へと転送された。

――――――――――――
――――――――
――――――
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――


凛「ンッ……はぁっ……」

凛「……んっ、ここは……」

凛「ああ……戻ってきたんだ」

まだ全身に残る快感に身震いし、私は身を起こした。

さっきまで感じていたあの感覚、獲物を殺しつくした瞬間に感じたあの快感。

凛「前回ほどじゃなかったけど、我慢してただけあってすっごくよかった……」

最後の一匹を剣でみじん切りにしたとき、電気が走るような快感が全身に走った。

凛「最後も良かったけど、この新しい銃で潰す感覚もくせになっちゃいそう」

凛「ぷちっ、ぷちっって……ビニールのぷちぷちを潰すみたいな感じ」

凛「やっぱり、もう戻れないな……ふふっ……」

新しい銃を触りながら、部屋に横たわりガンツを見る。

『ちーーーーーん』

『それでは ちいてんを はじぬる』

凛「あ、アイツ等何点だったのかな?」

『りんさん 25てん』

『Total 25てん あと75てんでおわり』

凛「25点か、全部同じ姿だったから1匹5点かな?」

凛「ま、いっか。点数が貯まっても、どうせ次も、その次も、ずーっと2番を選ぶだけなんだし」

ごろりと天井を見上げ、私は笑う。

凛「もう戻れない、私の居場所はここ」

凛「これから、楽しみだな」

凛「ふふふっ」

私はこれから先、この部屋で狩りを行い続ける。

先に破滅しか無いとわかっているのに私は歩き続ける。

もう止まれないし、止まるつもりも無い。

私はゆっくりと瞼を閉じた。

真っ暗な闇の中、何かを殺すことによって得られた快感と共に私の意識は堕ちていった。

今日はこの辺で。

薄っすらと意識が戻ってくる。

重い瞼を徐々に開けていくと、私の目に光が差し込んでくる。

見覚えの無い天井、そして照明。

凛「……う、ふあぁ……」

欠伸をしながら目をこする。

まだ意識がはっきりしていない。

凛「あれ……? ああ……、寝ちゃってたのか」

ようやく自分に意識がはっきりとして、ガンツの部屋にいるのだと気付いた。

凛「昨日は2回狩りに行って……疲れてたみたい」

しかし、眠ったおかげで、頭はすっきりとして心地よかった。

凛「時間は……10時か。少ししか眠ってなかったんだ」

凛「って、早く帰らないと! 最近夜遅いって言われてるのに、こんな時間に帰ったら何を言われるかわかんない!」

私はいつものように、銃と剣とコントローラーを鞄に入れていると、新しく手に入れた銃の存在に気がつく。

凛「あ、これ……どうしよっかな……」

凛「色々試してみたいけど、これかなり大きいし、部屋に隠しておくことができないよね……」

凛「いつもの武器だけ持って帰ろう、この銃は次のゲームで試せばいいし」

私は鞄を持って立ち上がる。

凛「ふぅ、今日はあれだけ楽しめたからすっきりしてる、体も軽い」

帰って何を言われるかは怖かったけど、頭の中はすっきり爽快な状態。

凛「やっぱりああやって敵を狩るのって楽しいし、何より気持いいんだよね」

今日の狩りを思い出す。

凛「今日はチビを2匹、デカを5匹……計7匹って新記録じゃん」

部屋を出て、出口に手をかけて、そのまま固まった。

凛「……あれ? チビって……」

凛「……一匹逃してしまった」

冷たい汗が噴出し始める。

凛「……こんな事一度も無かったけど、逃がしてしまった場合ってどうなるの?」

凛「……点数は半分になったけど、また狩りに……ううん、追加の狩りは違う奴だったから、同じのはもう無いって考えたほうがいいのかな?」

部屋に戻る。

凛「ガンツ、あのチビの最後の一匹はどうするの?」

返事が無い。

凛「また狩りに行ったりしないの?」

無反応。

凛「……」

頭の中でチビが最後に言っていた言葉が浮かんでくる。

『この場は引く、お前達の巣を見つけ出して、巣にいるお前達の同胞も全て破壊する』

『俺の同胞が全て破壊されたのだ、お前達だけを破壊しても割に合わない』

『覚えておくがいい、お前達を必ず見つけ出して、お前達の同胞も全て破壊する』

汗が頬を伝って床に落ちた。

喉がカラカラになってくる。

凛「……アイツ、巣とか同胞とかって言ってた」

凛「巣……同胞……家と家族……?」

凛「っ!」

私は鞄に銃と剣とコントローラーを詰めれるだけ詰めて、コントローラーを操作し透明となり、出口を飛び出して空を駆け一直線に家に向かった。

ビルを越え、夜の町を駆け抜け、最短距離で家に到着した。

店のシャッターは閉まっている。あらかじめ開けておいた自分の部屋の窓から家に入る。

鞄をベットに投げ捨て、1階のお父さんとお母さんの部屋に向かう。

扉が開いている、光が漏れている。

私は部屋に飛び込み……。

テレビのドラマを見ているお父さんとお母さんを目にした。

凛「ハァッ! ハァッ! ハァッ……はぁぁぁぁぁ…………よ、よかった…………」

「あら? 今凛の声がしなかったかしら?」

「……帰ってきたのか、こんな時間まで出歩いて……今日はガツンと言ってやらんとな」

しまった、透明化を解いていなかった。

「いいじゃない、あの子の年ならこれ位の時間に遊び歩いてもしょうがないわよ。なんにでも興味を持つ年頃なんだから」

「……君はそうだったが、凛は違うんだぞ。今までこんな時間に帰ることも無かったし、私達に心配をかけるようなことは一切しなかった。私達に隠し事をすることも一切なかったのに最近は何かを隠しているような……」

「年頃なんだからそういうものよ。もう少ししたら貴方のことを無視しだすか・も・ね」

「……冗談でもそれは止めてくれ」

「ふふふ」

凛「……」

私は物音を立てないように部屋を後にした。

自分の部屋に戻ったら透明化を解除してスーツが見えない様な服に着替えてベットに横になる。

しばらくすると、お父さんが入ってきて少し説教をされた。

私は素直に謝り、心配させるようなことはしないと言うとお父さんは安心したのか私の部屋を出て行った。

凛(……よかった。お父さんもお母さんも無事。アイツには家は見つかっていないってことか)

凛(……でも、アイツのあの感じ、私が見つかったら、お父さんとお母さんは……)

凛(……見つかる前に、こっちから見つけ出して、殺すしかない)

凛(……でも、どうやって……アイツの居場所を見つける方法……)

凛(……レーダーは…………反応なし、駄目か)

凛(……しらみつぶしに探すにしても……)

凛(…………あっ)

『まずは俺の同胞の多くを破壊した男、その後に女、順番に破壊してやる』

凛(……男、玄野のほうを先に殺しに行くって言ってた)

凛(……いや、敵の言葉を信じるなんて馬鹿げている)

凛(……でも、それ以外の情報は)

凛(…………)

私は気を張り詰めながら、眠れない夜を過ごした。

次の日、私は学校を休んで玄野を探すために自分の部屋で透明化の状態を維持し、スマホを使い調べていた。

凛(アイツの学校を調べる)

凛(手がかりは、名前、多分東京の高校、後は……いずみと言う名前の転校生がいる)

凛(正直言ってかなり少ない……でも、調べないよりは……)

調べ始めて十数分、見つけるのは難しいと思っていたが、簡単に見つかってしまった。

それも玄野の情報ではなく、いずみ、和泉紫音の情報を見つけた。

凛(名前と特徴で検索しただけで、こんなに沢山)

凛(スポーツ関係の友人が一緒に写った写真をブログに上げている……間違いない)

凛(あの時、私に声をかけてきた人だ)

凛(転校先の高校……あった、これもブログに載っている)

凛(ここから……20キロ近く離れた高校)

凛(この人の学校……玄野の学校でもあるこの学校)

凛(…………)

私は物音を極力立てないように、窓を開け、そのまま飛び出した。

昼に差し掛かる頃、私は調べた高校へ到着していた。

凛(この時間なら、昼休みかな?)

凛(気付かれないように校舎に入ってみて、アイツを探すか)

私は透明化を維持したまま校舎に入り、教室を見ていく。

順番に探しているが、アイツの姿は見つからない。

でも、ある教室で和泉という男の姿は見つけることが出来た。

この学校で間違い無さそうだ。

私は再び探し始める。

そして、屋上まで来た私はようやく玄野を見つけることが出来た。

凛(いた……)

屋上でおさげ髪の女の子と話している。

凛(あの女の子がいなくなったら……ん?)

玄野と女の子の会話が聞えてきた。

玄野「あ……俺とつき合ったりとか……はは、だめだよね……」

「えッ!?」

凛(えっ?)

「あたし……そーゆーの……ないから……その……」

凛(これって……あの……あれだよね……)

「あの……友達から、友達からなら……」

玄野「あッあッ、いやなら無理しなくても……」

「あの……ね、前からあたしも……玄野君のこと……」

凛(告白だよね……これ)

透明化しているのに、何故か少し距離を取ってしまう私。

でも、少し見ていよう。

玄野「いやッ! ほんとに無理しなくてもいいッて!」

「ううん、無理なんかじゃ……」

凛(わっ、あの子顔真っ赤……)

玄野「えッと……その……なら友達から……」

「うん、友達から……」

凛(モジモジしてる……なんだか小動物見たくて可愛いなあの子)

玄野「あ、その、それじゃ……」

「?」

玄野「お、俺戻ッから、それじゃ!」

「あっ……」

凛(……)

女の子を置いて走り去る玄野。

凛(アイツ、女の子に告白しておいて何考えてるの?)

屋上には顔を真っ赤にした女の子だけが残された。

凛(……いけない、こんな事してる場合じゃなかったんだ)

凛(アイツを追って、捕まえる)

私は玄野を追い、屋上を後にする。

玄野のあとをつけて、様子を伺う。

人の視線がなくなる瞬間を待つ。

しばらくすると、人がいなくなる瞬間が訪れ、私は玄野の肩に触れた。

玄野「ん?」

振り向いた玄野の口を塞ぐ。

玄野「ンンンッ!? ンーーーーッ!!」

凛「静かに、喋らないで」

玄野はスーツを着ていなかった。

容易に取り押さえることが出来て、私は玄野を拘束し、再び屋上に戻った。

屋上には誰もいない、ここなら話すことも出来る。

そう思い、玄野の口から手を離す。肩には手を触れたままで。

玄野「なッ!? お、おまえッ!! な、何で学校に!?」

凛「少し声の大きさを下げて、いくら透明になってても大声を出しすぎると見つかる可能性があるから」

玄野「はァ!? 何言ッてンだよ!?」

凛「……」

玄野から手を離す。

玄野「なッ!? き、消えた!?」

また触れる。

玄野「!?」

凛「何度も見てるでしょ? 透明化、ガンツの武器の一つ、このコントローラーで透明になることができる。触れてるものや人を含めてね」

玄野「あッ……ああ……」

少しだけ静かになる玄野。私は続ける。

凛「今日はアンタに武器を届けに来ただけ。あの時私がアンタを部屋から追い出したからアンタ武器持っていないでしょ?」

玄野「あ、ああ……」

銃と剣を入れた鞄を手渡す。

玄野「って、ちょッと待て!」

凛「……何?」

また声が大きくなってきた。

玄野「何でここにいンだよ!? どーやって俺の学校を知ッたンだ!?」

凛「調べた」

玄野「なッ、なら何でそんな姿で来たンだ!? 俺に何かするつもりか!?」

凛「……何かするつもりって、言ったでしょ、アンタに武器を渡しにきただけだって」

玄野「ウソついてんじゃねーよ!! あの時俺を殺そうとしやがッて!!」

凛「……アンタを殺そうとしてたのはあのチビ星人でしょ」

玄野「何を言ってやがる!! 俺をマンションから突き落としただろテメー!!」

凛「はぁ?」

玄野「昨日、俺を投げ飛ばしただろ!? スーツ着てなかったら即死だッたぞ!?」

凛「あ……」

思い出した。

確かにあのマンション結構な高さがあって……あの時コイツを……。

凛「ご、ごめん」

玄野「ゴメンじゃねーだろ!?」

あの時は気が立っていたから滅茶苦茶なことをしてしまった……。

素直に謝っておこう。

凛「本当にごめん。あの時、私頭に血が上ってて、アンタにもかなり酷いことしちゃったよね……」

玄野「酷いことって……殺されかけたんだけど、俺……」

凛「そのことについては謝る。本当にごめん」

玄野「……なんだよおまえ。昨日と雰囲気違うな……」

凛「え?」

玄野「昨日は……完全にイカれた奴だって思ったのに、今話してみるとなんというか……」

凛「ああ……」

多分狩りで欲求不満が解消されたからだ。

特にチビを逃がしてしまったときは、イライラが最高潮に達していた。

それもコイツのせいで逃がしてしまったから、チビに向けていた感情がコイツに向いてしまったかもしれない。

凛「昨日は獲物に逃げられてイライラしてたから、今日はもう大丈夫。アンタに何かするわけじゃないから安心して」

玄野「イライラしてって……それに獲物って……やっぱおまえ……」

凛「……ふぅ、そろそろ本題に入っていいかな?」

玄野「あ? あ、ああ」

このまま話していても無駄に長くなるだけ、さっさとコイツに話して帰ろう。

凛「それじゃあ、この武器を渡しておく。アンタのところにまず来るかもしれないから、武器があるとないとじゃ全然違うでしょ」

玄野「え? 来るって?」

凛「あのチビ星人、一匹逃げたでしょ。アイツ最後に言ってた、私達を必ず見つけ出すって、そしてアンタをまず狙うって」

玄野「はァ? う、嘘だろ……?」

凛「嘘じゃないって、アイツは私達の家を見つけ出して家族も殺すつもりなんだと思う。そうならないように先にアイツを殺さないと」

玄野「……家族」

凛「アンタもある程度は戦えるんでしょ? 昨日も最初一気に殺してたよね?」

玄野「ああ……」

凛「それじゃ、アイツが来たらこれで何とかできるでしょ。一応あの部屋の武器の殆どを持ってきておいたから」

私の渡した鞄を確認する玄野。

玄野「……なァ、あのチビって本当に来るのか?」

凛「最後に聞えたでしょ? 多分来るよ」

玄野「……おまえ、家族とか言ってたけど、家族を守る為にあんな奴と戦うつもりなのか?」

凛「あたりまえでしょ」

玄野「……俺、別にいいや」

凛「? 何が?」

玄野「……アイツ滅茶苦茶強かった、勝てねーよあんなの」

凛「……アンタ」

玄野「それに俺家族が死んでもどーでもいいし、俺の命のほうが大事だし」

凛「……」

玄野「それに家族の前でアイツと殺りあってるとこ見られたら、俺がガンツに殺られかねないしな」

凛「……アンタのお父さんやお母さんが殺されるかもしれないんだよ」

玄野「だからそんなのどーでもいいって」

凛「…………」

コイツのことが理解できなかった。

家族が大事じゃない、両親が殺されてもいいといえるコイツが。

私が言葉を発しかけたとき、あの夜に感じたあの感覚と声が頭の中に響き渡った。


『見つけたぞ』

凛「!!」

玄野「なッ!?」

『見つけた。お前達の信号をとらえた』

凛「……」

玄野「ウ、ソだろ……」

凛「……アンタ、スーツはどこにあるの?」

玄野「あ、き、教室、鞄の中……」

『上か、待っていろ、すぐに行く』

凛「早く行って着替えて!! アイツをここで殺すよ!! 二人なら確実に殺れる!!」

玄野「わ、わかった!」

玄野は走って屋上を出て行った。

今回は楽しむのは無し。

ここで確実に殺しておかないと。

私は剣と銃を構え、奴と玄野が来るのを待った。

今日はこの辺で。

玄野が屋上を離れ、私は全神経を集中させ、チビが襲ってくる瞬間を待った。

だけど来ない。

凛(チビは私達の位置を把握しているはず……すぐに現れるかと思ったけど……)

そこで気付く、チビの標的は私達ではあるが、まずは玄野を狙っていることに。

凛(しまった……チビはまずアイツを狙って!)

私は屋上の扉を叩きつけるように開け、階段を下り玄野の教室に向かった。

向かっている最中にまた声が聞こえる。

『そこにいたか、見つけたぞ』

凛「!!」

咄嗟にガラスを突き破って、外に飛び出し空中で銃を私のいた場所に向けながら屋根に降り立つ。

凛(いない? ……っ! 見つかったのはアイツだ!!)

突き破ったガラスの部分に飛び込み、再度校舎に戻る。

全力で走り始める。

『すでに4体……お前達の同胞を破壊してきた』

凛(!? 嘘……まさか……)

凛(アイツの家族? それとも……)

最悪の状況を考え眩暈が起き掛けた、だが次の言葉ですぐに思考を切り替えることが出来た。

『ここにいるお前達の同胞もすべて破壊してやる』

凛(!!)

違う……。

チビの言っている同胞って言うのは、私達人間全てのことだ。

『お前達は俺の同胞を破壊しすぎた、お前達の同胞も同じように破壊し、二度と動かなくしてやる。これは正当な報復だ』

私が玄野の教室に到着したと同時に、玄野が教室から出て行くところを見た。

凛(アイツ……どこに?)

玄野は走って廊下を駆けて、突き当りで曲がり姿を消してしまった。

それを見ていた私の視界の端にあった窓に赤い液体が飛び散った。

凛「!?」

窓を見て、教室の中を見る。

そこには地獄の光景が広がっていた。

「うあああああああああ」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」

「うげっ」

「ぎゃああああああ」

一瞬で、数十人いた人間が吹き飛んで、血が弾けた。

頭がつぶれ、首が飛んで、教室の中は血の海と化していた。

凛「なっ、なんて、ことを」

『もう1体、そこにいたか』

血まみれの人が、教室から私を見ている。

『この程度では俺の怒りはおさまらない、お前達とお前達の同胞を全て破壊する』

明らかに私を見ている血まみれの人、直感で分かった。

コイツはあのチビだと。

理解すると同時に私は銃を構えるが、私とチビの間に立ちふさがるように大きな人が現れる。

和泉「ハンパじゃねえ……コイツ……」

机を持った男、和泉がチビを隠すように立ちふさがっていた。

和泉「すげえ……めちゃくちゃ速い……一瞬でこれだけの人間を……」

和泉「人間じゃねえ……ははは、絶ッてー、コイツ人間じゃねぇ!」

凛(くっ!? 何この人!?)

私はチビを狙うために数歩飛ぶように移動して再度銃を構えるが、チビが和泉に攻撃を仕掛け始めて、ロックオンをしようにも和泉が近すぎて銃を使えない状態だった。

凛(銃だとあの人に当たってしまう、剣も近すぎて使えない……)

和泉「ハンパじゃねーーーッ!! コイツ、ハンパねーーーぞッ!!」

凛(チビの動きがかなり遅い、人間の皮を被っているのか見た目は人間……この状態だと昨日みたいな速さが無い?)

机を盾にチビと殴り合っている和泉、だけどこのままだと……。

凛(いや、このまま隙を見て、剣でチビの首を切り落とす)

凛(この速さなら……)

と思ったのもつかの間、チビは私が剣を構えるのを見て、一瞬にして昨日の姿に戻り。

和泉「!? グアッ!! ガハァッ!!」

和泉を殴り飛ばし、私に襲い掛かってきた。

凛(くっ!!)

チビの攻撃を紙一重で避ける。

だけど、チビが壁を蹴って、私の背後から鋭い蹴りを放ち、私は直撃を貰って血みどろの教室に吹き飛ばされた。

『まずは1体、破壊……』
チビが追撃の拳を吹き飛んだ私の頭に放ってくる。

だが、その拳が当たる寸前で、

凛「はぁっ!!」

床を蹴り、拳を避け、高速で横に跳躍、教室の黒板にチビを見ながら着地。

勢いはそのまま黒板を蹴り、剣を伸ばしながらチビに突撃する。

『クアゥッ』

私の剣はチビの左腕を貫通し、教室の壁に突き刺さった。

剣で腕を固定され身動きの取れないチビに銃を構える。

そのまま頭に数回、体に十数回引き金を引き、

『……ア』

チビは大きく膨らんだ後、爆散した。

凛「……ふぅ」

よし。

確実に殺した。

昨日意味深なことを言って逃げたくらいだから、もっと何か予想もつかない攻撃をしてくるかと思ったら、何のことも無くあっけなく殺せた。

教室という狭い空間で、チビの動きを終始見えたこともこの結果に繋がったのだとも思う。

もっと広い所でやりあっていたら、チビの動きについていけなかった可能性もあった。

まあそんな事を考えても、ここでチビは死んで、私はチビを殺すことが出来た。

その結果に私は満足して、剣を縮め、教室から出て行こうと考えて、

教室の惨場を再び目にして、その場に立ち尽くした。

凛(あ……)

凛(こ、これ、は……)

戦闘に集中していて、意識から外れていた光景。

床、壁、天井に飛び散った血。

倒れ付した人間からは血が溢れて、ほぼ全ての人間は頭や首を潰され、とても生きているように見えない。

凛(こんなに……人が……殺され……)

その光景を私は冷静に見ることが出来た。

ガンツの部屋で人の死に慣れてしまったからかもしれない。

もしくはもっと別の理由なのかもしれない。

冷静に、私は生存者がいるか探すことにした。

凛(……生きている人は)

重なり合って倒れている人を退かしてみるが、全員死んでいる。

凛(……駄目、か)

他の人たちも見てみるが全員死んでいた。

凛(……)

あらためて教室を見渡す、倒れている人は全員血まみれだったが、その中で血に染まっていない人が二人いることに気付く。

片方はさっきまでチビとやりあっていた和泉、息はしている。

でも両腕がおかしな方向に曲がっている。

もう一人は、教室の出口で重なり合うように死んでいる人の傍に女の子。

身動き一つしていないが、怪我をしていない。

よく見てみると、呼吸をしている。

凛(あの子は……さっきの……)

私が女の子に近づき、さらに様子を伺おうとしたところで、私はアイツの姿を見つけた。

教室の外から、窓に手をかける玄野の姿を。

玄野「な、なんだよ、これ……」

教室を窓から覗いて、震えている玄野。

玄野「嘘だろ……ひでぇ……マジかよ……」

凛(コイツ……あぁ、スーツを着てきたんだ……でも、遅いよ……)

青ざめた顔の玄野は教室を見渡している。

どうやらチビを探しているようだった。

玄野「……あのチビどこにいきやがッた?」

玄野「もしかして他のクラスにいったのか?」

玄野「学校の奴等全員殺され…………う、うぅっ……」

玄野「ち、違げーよ……こんな、俺のせいじゃねえ……俺のせいじゃ……ねぇ……」

凛(…………あ)

さっきまで意識していなかったが、玄野が取り乱している姿を見て、この現状を再度認識することが出来た。

凛(……これ、私のせいでもあるの?)

凛(……昨日チビを殺し損ねてしまったから……)

凛(……殺せなかったからこんな事が起きてしまった……)

凛(……これがもし私の学校だったり、私の家で起きていたら……)

恐ろしい光景が脳裏に浮かび、即座にその思考を消す。

凛(……大丈夫、もうチビは殺したから、私の学校でこんな事は起きない。お父さんやお母さんももう安心、狙われることも無い…………)

凛(……でも、こうやって無関係の人がこんなにも沢山死んでしまった)

凛(……私があの時殺せなかったから……)

私の思考はループしていた。

この惨場を引き起こした一旦は自分にもある。

でももう安心、チビは殺せたからこれ以上被害は広がらない。

だけど、ここで起きてしまったことは私の責任でもある……。

でも、けじめをつけて、チビを殺したから……。

その思考のループを続けているうちに、玄野が教室に入ってきて、

さっきの女の子が生きているのに気付いたのか、女の子に声をかけていた。

玄野「お、おい、生きてるのか?」

「……」

玄野「立てるか? 逃げなきゃ、ほら!」

「うぅ……」

玄野は女の子の手を引き、廊下を歩き出した。

凛(…………)

私はその後についていく。

この場に留まっていたら、悪いほうにばかり思考が向いてしまう。

私は血に濡れた教室を後にして、玄野の後を追いかける。

玄野は女の子を避難させようとしているみたいだった。

玄野「あっちに向かって走ッて逃げろ。グラウンドに出れば大丈夫だと思う」

「…………」

女の子は玄野を見ながら涙目で首を振る。

玄野「はァ……なら、こっちに来いよ……」

「…………」

女の子は震える手で玄野の手を取り、階段を登っていく。

凛(……)

階段を登り屋上に着いた玄野は、女の子を屋上の隅に連れて行き、待っているように促した。

玄野「ここにいろよ、たぶんここなら安全だと思うから」

女の子は震えながら玄野を見ていたが、玄野は女の子に一言言って屋上を出て行った。

玄野「すぐ戻ッから、目を瞑って待ッててくれ! 絶対戻ッからさ」

女の子は玄野を見て、玄野が屋上から出て行くと同時に、すぐ耳と目を塞いで震えていた。

私は玄野を追う。

玄野は階段を下りながら銃を鞄から出して何かを呟いていた。

玄野「クラスの奴らみんな死んで……何でだよ……」

凛(……)

玄野「あんな……ひでぇ……みんな死んで……くッそォ……」

玄野「ちくしょう……何でなんだよ……俺が逃げようとしたからか……俺のせいなのか……」

凛(……)

玄野「くそッ……くそッ……このままだと他の連中も……くそッ……」

玄野「どーすりゃいいんだよ……くそッ……加藤……俺はどーすりゃ……」

凛(……)

玄野「ちくしょう……ちっくしょうッ! やんなきゃなんねーのかよ!! クソッ!!」

玄野「やッてやるよ!! あのチビをぶっ殺して……」

私は玄野の前で透明化を解除した。

玄野「っ!! おまえっ!!」

凛「……もう、大丈夫、あのチビは殺した」

玄野「……は?」

凛「アイツは私が殺した。もう誰かが殺されることも無いよ……」

玄野「は? あのチビを、おまえが殺した?」

私は玄野の問いに頷く。

玄野「な……い、一体いつ、どうやって……」

凛「……アンタが教室から出て行ってすぐ」

玄野「!?」

私の言葉に唖然とする玄野。

玄野「俺が出て行った後すぐって……それなら何でクラスの奴等は全員……」

凛「……あっという間だった、一瞬でみんな殺されて……」

私に詰め寄ってくる玄野。

玄野「お、おまえなら何とかできたンじゃねーのかよ!? おまえあの千手も、チビを何匹もぶッ殺せるくらいのやつなんだろ!? さっきのチビだってすぐに殺したんならなんで……」

凛「……私が教室に着いたときにはもう」

玄野「~~ッ」

私から離れ壁に寄りかかるように座り込む玄野。

玄野「なンだよ……こんなのおかしーだろ……なんでこんな事になってンだよ……」

私も階段に腰をかけ頭を抱える。

凛「こんな事になるなんて、私も思ってなかったよ……」

玄野「わけわかんねー……こんな……ちくしょう……」

私達はお互いに起きてしまった事に目を向けられないでいた。

玄野も多分同じことを考えているんだろう。

自分のせいでこんな事が起きてしまった。

しかも玄野は自分の学校だ、友達もいるだろう。

私は玄野にかける言葉が見つからなかった。

そうやってしばらくすると、階下から大勢の人の声が聞こえてきた。

「生徒の避難は完了しているのか!?」

「安全装置解除しておけ!! 犯人がいつ現れるか分からんぞ!!」

「次の階だ!! 右だ右!!」

私は立ち上がって階段の下を覗き込むと、警官が10人近く上ってきているのが見えた。

凛「っ!」

この場で見つかるのはまずい。

そう思い、私は透明化を起動して姿を消す。

玄野「……あッ、おい」

「! 生徒です! まだ避難をしていない生徒がいました!」

「おい! きみっ! こっちに来なさい!!」

私はそのまま階段を登り、屋上に出てさっきの女の子の様子を見に行く。

女の子はさっきの位置でしゃがみこみ震え続けていた。

おそらく後は警察が見つけて保護してくれるだろう。

そう思い、私は屋上から跳び、そのまま玄野の学校を後にした。

あれから二日、あの日の事は大事件となっており、連日ニュースになっていた。

白昼堂々、学校に押し入り生徒を数十人殺害した犯人は、煙のように消えて今だ見つかっていないと報道されている。

こうやってニュースを見るたびに考えてしまう。

これが私の学校だったら、これが私の身の回りで起きた出来事だったら。

そのたびに寒気が走り、最悪の気分になってしまう。

凛「……アイツ、クラスメイト、友達も、殺されたんだよね……」

最後に見た玄野姿は壁に寄りかかって項垂れるように頭を下げていた。

私が玄野の立場だったら、多分ものすごいショックを受けるだろう……。

お父さんやお母さんが殺されてしまったら、もう……。

そうやって殺す殺されると考えていると、ふと頭をよぎる。

凛「……私、宇宙人を殺しまくってるけど、あの宇宙人たちも家族とか友達とかいたのかな」

そんな事を考えたら、心のどこかにちくりと痛みが走る。

凛「チビは同胞同胞って言ってた……私の殺した3匹もみんな同じ姿だった……もしかしたら家族だったのかも……」

ほんの少しの痛みは、私の心に何かを残す。

凛「……ううん、アイツ等は私の敵だった、私を殺そうとしてきた奴等、殺さないと殺されてた」

私の頭の中に記憶が蘇る、最初の緑の奴も、田中星人も、仏像も、あのチビだって私を殺そうとしてきた記憶。

凛「そう、アイツ等は私を殺そうとしてきたんだ、最初も私が殺されかけたから殺してやった。次もそう。その次、仏像もそう。チビとデカもそう、そんな奴等の為にこんな事を考えるなんて馬鹿みたい」

私は頭を切り替える。

凛「そもそもアイツ等ってこの世界のどこかに潜んでるんだよね」

凛「いつ今回のような事が起こってもおかしくないって事だよね」

そうだ、宇宙人が今回みたいに無関係の人を襲うってことが今後無いとも言い切れない。

それが、私の身近な人に危険が及ぶ可能性も……。

そう考えて、私は決めた。

凛「あんな事がもう起こらないようにするためにも……」

私の中でまた何かがかみ合う。

凛「私が宇宙人を皆殺しにしないといけない……」

何か使命感のようなものが私の心に灯った。

凛「何もして無い人たちがあんな酷い目に合うことの無いように……宇宙人は皆殺しにしないと、一匹残らず殺しつくさないといけないな」

新たな目標が出来た。

ついこの前まで目標とか夢とか何も持っていなかった。

だけど、今こうやって自分がやるべきことを見つけることが出来た。

それが嬉しく思える。

凛「まあ、その過程で殺しを楽しむのもいいよね」

くすりと笑う。

楽しみになってきた。

誰かの為にアイツ等を殺す。

そうやって殺すことで私はあの快楽も得ることが出来る。

これが私の生きる道。

私はそれを確信する。

私が今後のことを考えて、生きる道を導き出したその時、

私の部屋にお母さんが入ってきた。

「凛ー、ちょっといい?」

凛「何? どうしたの?」

「今からなんだけど、手伝ってもらいたいことがあってね。暇だったらお願いしたいんだけど大丈夫かしら?」

凛「まだ結構朝早いけど、店番?」

そういえば最近は特訓もしていたし、家の手伝いが全然出来ていなかった。

ハナコの散歩もあまり出来ていない……。

今日は日曜だし、手伝いや散歩をして少しリラックスしようかな。

「店番じゃなくて、花の搬入の手伝いをしてもらいたいのよ。かなり大口の発注があって今から搬入をするんだけど、凛も暇なら手伝ってほしいなーって思ってね」

凛「そうなんだ。別にいいよ」

「悪いわねー、それじゃあ、準備できたら呼ぶわね」

凛「うん」

お母さんはそう言って部屋から出て行く。

凛「準備するかな」

私は服を着替える際に、一応下にスーツを着込んでおいた。

準備が完了して車に乗り移動している。

凛「花を運ぶ用のトラックで行くかと思ったんだけど、普通の車でいくんだね」

「ああ、もう花は業者に手配して運んでもらっているからな。今日は会場で花の設置が仕事になる」

凛「へぇ、そんなに沢山注文貰ったの?」

「そうよー、今後も大口の取引先になりそうなお客さんだし、大事にしないといけないから、凛も今日はしっかり頼むわよ?」

凛「しっかりって……まあ、仕事はちゃんとやるけど」

「ふふふ、お願いね。あ、そろそろ着くわね」

少し先に大きなホールが見えてきた。

凛「もしかしてあのホール?」

「ああ」

凛「ふーん、あんな大きいホールで何かイベントでもあるの?」

「今日はライブを行うらしいな。ほら、宣伝でよく見る美城プロダクションが企画するライブが今回のメインだという事だ」

「346プロって最近かわいい子達が増えたわよね、テレビでよく見るわよ」

凛「ライブか……」

私は近づいてくる大きなホールを見て、こんな大きなホールでライブを行うって有名な歌手でも来るのかなと思っていた。

ホールに到着して、会場に入った私達は、早速搬入されていた花を所定の位置に運ぶ。

お父さんもお母さんも会場の人と打ち合わせをしながら仕事をしている。

私はとりあえずは位置の確認、漏れが無いかチェックを行っている。

凛「えっと……ここも大丈夫。これも……」

大きなホールだけあって数も多い。

スタンド花がこれだけ注文をもらえたら確かに大口のお客さんだろうなと考えながらもチェックを行っている。

凛「よし」

この場所は大丈夫だと思い、次の場所に行こうとすると、近くの階段から息を切らせながら走ってくる女の子が目に入る。

それと同時に、階段付近の廊下を大きな荷物を抱えながら歩いている女の子。

階段から駆け上がってきた女の子と、荷物を持った女の子はお互いに気付いていない。

凛「あっ、危ないよ!」

声をかけるが遅かった。

二人はぶつかって二人ともバランスを崩し転びそうになる。

私は咄嗟に手を出し、二人の身体を受け止めた。

「きゃぁっ!」

「わわっ!?」

凛「大丈夫?」

私は受け止めた二人の顔を見る。

凛「あれ?」

どこかで見た顔。

記憶を辿ろうとするが、女の子が持っていた荷物が階段を落ちていくのに気がつきそちらに目をやる。

荷物の箱は、階段を落ち、途中で箱が開き、中から何かが転がった。

遠目で見るそれは、ガラスの靴。

そのガラスの靴を、拾う人の姿が視界に入る。

ガラスの靴を片手に、眼つきの悪い男の人と私は目が合った。

今日はこの辺で。

階下の男の人と視線を合わしていると、急に大きな声が響いた。

発生源は、私が抱きかかえている女の子。

「あーーーーー!! 渋谷凛ちゃん!!」

凛「え? あっ……」

名前を呼ばれて気がついた。

この子達、この間店の前で会った子達だ。

確か名前は。

凛「本田未央……さん、と島村、卯月さんだったよね?」

未央「そうそう! 覚えててくれたんだ!」

卯月「わっ、本当です。この前の渋谷さんです!」

覚えている。

この子達には何か惹かれるものを感じたから。

それにこの子達は確か。

凛「もしかして今日ライブをやるのってあなた達なの?」

アイドルって言っていたし、もしかしたらと思って聞いてみる。

未央「違う違う、私達はバックダンサーとしてステージに立つんだ!」

凛「バックダンサー?」

卯月「はいっ、城ヶ崎美嘉ちゃんが歌うライブのバックダンサーで今日が私達の初ステージなんですよ!」

凛「城ヶ崎美嘉……あぁ、聞いたことあるかも」

確かギャル系のアイドルだったよね。

雑誌とかで見たことあるな。

未央「そう! その美嘉ねぇが私達を誘ってくれたんだ! もうワクワクしてさー!」

そう言って透き通る笑顔を見せる、未央という女の子。

卯月「はいっ! 私もやっと初ステージに立てるんだと思ったらドキドキして眠れなくって、今日は朝6時に会場に着いてしまったんですよ~」

花のような笑顔を見せる、卯月という女の子。

凛「あっ……」

トクンと私の胸の音が聞えた。

この子達と初めて会ったときに感じた透き通るような感覚。

この子達と一緒に何かを感じてみたいと思ったあの気持ちが心に湧き上がっていた。

未央「あれ? そういえば何でしぶや……りん、しぶりんがここにいるの?」

凛「し、しぶりん? 私のこと?」

未央「そーそー、渋谷凛だからしぶりん! ね、まだ会場が開くのって時間があるのになんでここにいるの?」

凛「しぶりん……ま、いっか……。えっと、私は家の手伝いでここに来てるんだ。ほら、そこのスタンドの花はうちの花なんだ」

卯月「えっ!? それじゃあ、もしかしてあのお花屋さんって、渋谷さんのお家だったんですか?」

凛「そうだけど」

未央「な、なんだってーー!?」

大げさなリアクションでついこの子を見てしまう。

未央「灯台下暗しとはこの事……あれからほぼ毎日のように時間があけてしぶりんを探していたのだが影も形も見つからず……まるでシンデレラのように消えてしまったしぶりん! ああ、しかし何という事でしょう! 私達の初ステージと共にまたこうやって出合うことができるとは! これを運命といわずに何と言うのでしょうかぁーーー!!」

凛「……なんか、最後のほう芝居がかってない?」

卯月「ああそのとおりですーこれは運命なんですねー運命なんですから渋谷さんは私達と一緒にアイドルをやらなくてはいけないのですー……こんな感じですか? 未央ちゃん?」

未央「もうちょっと自然に! まだ硬いよしまむー!」

凛「またコントを始めた……」

この子達はツッコミ不在のボケ芸人なのかな?

未央「コントじゃないよ! アイドルになろっ!!」

凛「話しに脈絡無さすぎでしょ……」

未央「そんなこと無いよ! ねっ、しまむー!」

卯月「はいっ! アイドルになりましょう!」

凛「えーっと……」

二人の勢いに飲まれそうになる私だったが、二人とは別の男の人の声が耳に届き、声のほうを見た。

「島村さん、本田さん、スタッフの方に詰め寄って何かあったのですか?」

目つきが悪く背の高い男の人がいた。

未央「あっ、プロデューサー! ちょっと見てよこの子を!」

卯月「この間お話をした子です! 渋谷凛さんですよ!」

凛「プロデューサー?」

もう一度男の人を見てみる。

プロデューサーって言われてるけど、この人が?

P「貴女は……」

私を見てはっとした表情になっている男の人。

あれ……? この人もどこかで見たような………………駄目だ思い出せない。

未央「この子が私達のユニットの最後の一人になるべくして生まれた子だよ! プロデューサーもそう思うでしょ!?」

凛「生まれたって……」

卯月「渋谷さんの笑顔はとっても素敵なんです! 私達の選考理由は笑顔だったんですから、渋谷さんの選考理由も笑顔ですよね、プロデューサーさん!」

凛「あの、勝手に話を進められちゃってない?」

男の人は頭に手をやり、凄くわかりにくいが困ったような表情をしていた。

P「島村さん、本田さん……スタッフの方の仕事を邪魔してはいけません。二人とも少し落ち着いて……」

未央「うっ」

卯月「あぅ」

あ、この人は普通かも。

P「ええと、渋谷さんでしたか。作業が終わられましたら一度話を聞いていただけたらと思うのですが、如何でしょうか?」

凛「え? 話?」

P「はい。ああ、申し遅れました、私こういうものですが」

名刺を出してきている。

名刺には346プロダクション、シンデレラプロジェクトプロデューサーと書かれていた。

P「資料もお渡ししておきます、軽く目を通していただければと思いますが……」

大き目の封筒に入った資料も渡される。

凛「あの、これって、何?」

P「346プロで企画を進めております、シンデレラプロジェクトの詳細及びプロジェクト内におけるユニット、ニュージェネレーションズの詳細となります。是非とも貴女にはシンデレラプロジェクトの一員……アイドルになっていただきたいと思いまして」

プロデューサーという人の言葉に二人は顔を見合わせて喜んでいる。

プロデューサーという人は資料を私に差し出したまま私の顔を見続けている。

アイドル…………。

この子達と会ったとき、アイドルをしてみてもいいかなと思っていた。

あの時は自分と向き合うことが出来なかったから。

狩りの、殺しの楽しさを認めれなかったから。

あの時はそれを認めたくない一心で何か違うことに逃げようとしていただけ。

だけど、今はもう認めてしまっている。

それが私の本当にやるべきことなんだし、やりたいことなんだって認めている。

今の私にアイドルをする理由なんて…………。

そんなことをしている時間があるなら…………。

すぐ断ろうと思った。

だけど、私に注がれる視線、特に女の子二人の視線を受けて、眩しい笑顔で私を見つめてくる二人を見ていると、

何故かすぐに断ることが出来ずに私は封筒を受け取ってしまった。

封筒を受け取った私を見て二人は手を合わせて喜んでいる。

やるつもりは無いのに受け取ってしまった……。

とりあえずは仕事に戻ろう、考えながら仕事をして感情を整理しよう。

凛「えっと……。まず仕事を片付けるよ、話はその後で」

P「はい、よろしくお願いします」

未央「やった! これで私達ニュージェネレーションズ(仮)からニュージェネレーションズになれるんだよしまむー!」

卯月「やりましたねっ! 私嬉しいですっ! みんなでこれから頑張りましょう!」

凛「えーっと……それじゃ、私行くから」

もう私がアイドルになるものだと思っている二人は笑顔で手を振ってくる。

プロデューサーって人はお辞儀をしている。

凛(はぁ……。私決めたんだけどな……)

凛(これからは宇宙人を殺しつくすんだって、そのためにもガンツのことも色々調べなきゃいけないし、もっともっと効率のいい殺し方とか戦い方を考えないといけないのに……)

凛(アイドル……か)

凛(…………私ってこんなに優柔不断だったっけ?)

いつもならきっぱり断れたはずなのに断れなかったことを不思議に思いながら作業に戻る。

作業が終わり、お父さんとお母さんに少し話をする。

凛「あのさ、帰りは一人で帰るから先に帰ってもらっていいよ」

「あら? もしかしてライブを見ていくの?」

凛「えっと、そんなところかな」

アイドルに誘われていることは言わなくてもいいだろう。

今から話をして断るつもりだから。

「あまり遅くならないようにな。この間も言ったが、お前はまだ高校に入ったばかりなんだ、子供が毎日遅くまで出歩いて……」

「はいはい、それじゃあ私達は帰るわね、ゆっくりしてきなさい」

お父さんはお母さんに引っ張られるように連れて行かれた。

……しばらくは早めに帰って、部屋にいるように見せておかないといけないな。

そんな事を考えながら、私はさっきの名刺を取り出して書かれていた携帯の番号に電話をかけた。

P「はい、Pと申しますが」

凛「あ、さっき名刺と資料を貰った渋谷です。作業が終わったから連絡をしたんだけど、どうすればいいのかな?」

P「ああ、ご連絡ありがとうございます。それでは控え室を用意してありますので、そちらで先ほどの話の続きを。今から迎えに上がりますが、今どちらでしょうか?」

凛「えっと、ここは……」

私は自分の居場所を伝えるとすぐにさっきの人が来て、少し大きな部屋に通された。

P「そちらにどうぞ」

凛「あ、うん」

促されるように座ると、向き合う形でPも座る。

P「それでは、先ほどの話の続きで」

凛「あ、そのさ。先に言っておくけど私、アイドルになるつもり無いんだよね」

P「……そう、なのですか?」

凛「うん」

開口一番、アイドルになることは断る。

作業をしているときも考えていたけど、やっぱり私には戦いや殺しのほうが合ってるし、殺しをしながら気持ちよくなって感じてる変態にアイドルなんて勤まる訳が無いと思った。

だからきっぱりと断っておく。

あの二人には申し訳ないし、一緒に何かをしてみたかったけど、今の私はもっとやるべきことがあるのだから仕方がない。

凛「あの二人に押されて断りきれなかったけど、ちゃんと言っておかないと駄目だって思ったからさ」

P「そうですか……」

凛「だからこれも返しておくよ」

私は先ほど受け取った封筒を返す。

Pは私が机の上に置いた封筒を見て、もう一度私を見る。

P「……資料を持ち帰って見ていただき、もう一度考えていただくことは出来ないでしょうか」

そう言って封筒を私の前に押し出す。

もう一度といわれても……。

凛「何度考えても答えは変わらないよ」

封筒をPの前に押し返す。

P「そこを何とか」

また私の前に封筒が戻される。

凛「だから変わらないって」

また押し返す。

P「お願いします」

また戻された。

同じようなやり取りを後数回やって、私は思った。

この人、しつこい。

凛「……何度言われても答えは変わらない。私はアイドルなんてやらないし、やるつもりも無い」

今度は押し付けるように封筒を返す。

受け取るまで押し付け続けるつもりだ。

数分はそうやっていたが、ようやく諦めたのか封筒を受け取ってくれた。

それを見て私は席を立つ。

凛「それじゃ、私は帰るから」

P「待ってください」

凛「……まだ何かあるの?」

いい加減この人に付き合うのも疲れてきた。

P「今、島村さんと本田さんがライブ前のリハーサルを行っています。よろしければ見ていかれませんか?」

凛「……あの二人の?」

そういえば、二人とも今日が初ステージって言ってた。

本番前のリハーサルってやつなのかな?

P「はい」

凛「……いや」

やめておくって言おうと思った。

だけど、これであの子達と会うのも最後になるんだからと思ったら、もう一度会っておこうと思った。

あんなに熱心にアイドルに誘ってくれていたあの子達に何も言わずにお別れをするのは気まずかったから。

凛「……なら、少しだけ」

P「ありがとうございます。それではこのスタッフカードをお受け取りください。これをつけていれば本日会場内はどこでも入ることができますので、色々な場所を見学していただいても結構です」

そう言って、Pが首から下げるタイプのスタッフカードを私に渡してきた。

妙に準備がいい……。

凛「……ありがと」

P「では、案内しますので着いて来て頂けますか」

私はPと一緒に部屋を出て、リハーサルを行っているというライブ会場に足を踏み入れた。

大きな会場だった。

ステージには3人の女の子。あの二人ともう一人は、確か城ヶ崎美嘉。

音楽に合わせて踊っているが城ヶ崎美嘉はリズムに乗って踊っているのに対し、あの二人はあまり合っていない。

なんというか硬いしぎこちない感じがする。

P「……」

凛「ねぇ、あの二人、この後本番なんだよね? あれで大丈夫なの?」

P「……練習はしてきて問題なく踊れるはずです」

凛「はずって……」

P「初ステージで緊張をしているのでしょう。これから緊張が解れていけばいいのですが」

凛「……そっか」

その後、何度かリハーサルを続けていたが、私の見ている前であの子達は一度もOKをもらえていなかった。

凛「結局一度も最後まで通せなかったみたいだね」

P「……ええ」

ステージにはあの子達の姿はなく、大人の人たちがこれから行われるライブの為にセットをしているようだった。

凛「もうステージも使えないみたいだし、本当に大丈夫なの?」

P「……」

何で黙るのよ……。

Pを見てみると、Pも私を見ていた。

P「……あの、島村さんと本田さんに会って話をしてもらってもよろしいでしょうか?」

凛「は?」

P「貴女と会うことで、彼女達が今感じている重圧を少しでも和らげる事ができるかもしれないので」

凛「……別にいいけど」

私はPと一緒にあの二人の控え室まで歩く。

控え室を空けて、中の様子を伺うとなんというか重い雰囲気。

あれほどテンションの高かった子、本田未央は椅子に座って一点を見つめながら微動だにしない。

もう一人の、島村卯月はそんな本田未央にどう声をかけていいのか分からないようでオロオロしている。

P「リハーサルお疲れ様です。もう少しで衣装直しを行います。その後が本番になりますのでよろしくお願いします」

Pの言葉にビクリと震えながら顔を上げる本田未央、そしてこちらを向く島村卯月、私は二人と目が合う。

未央「あ……う、うん」

卯月「は、はい、頑張ります……」

私が見ても明らかだ、ものすごく緊張している。

私の事も見ているようで見ていない、頭の中が真っ白になっているんじゃないのか?

私はPを見てみる、だけどこの人は頭に手をやり二人に特に声をかけようとしない。

こんな状態の自分が担当するアイドルを放っておくのかと思ったら、Pは私を見てくる。

P「少し……いえ、何でもいいです。彼女達と話してみていただけないでしょうか」

凛「は? 何でもいいって……」

私の声にようやく二人は反応した。

未央「あ……しぶりん」

卯月「渋谷さん……」

今度は二人が私を見つめてくる、まるで捨てられた子犬のような視線で。

えっと……こんなときに「私、アイドルにならないからサヨナラ」なんて言えるわけがない。

私は当たり障りの無い言葉を選び声をかけた。

凛「あー、えっと、これから本番なんだよね? 頑張って」

未央「う、うん」

卯月「あ、ありがとうございます」

ああ、全然駄目だ。

凛「えーっと……今日が初ステージなんだよね? 楽しみだったんだよね?」

未央「楽しみ……うん、楽しみで、ワクワクしてたんだけど……」

卯月「いざ本番が近づいたら、すごく緊張しちゃって……」

二人は緊張のあまり表情が硬い。

特に本田未央はかなりヤバそうだ。

少し顔色が白くなってきてる。

凛「そ、そんなに緊張しなくてもさ、失敗しても死ぬわけでも殺されるわけでもないんだからさ」

未央「……は?」

卯月「えっ?」

凛「想像してみてよ、ものすごく怖い宇宙人とかに殺される寸前の自分を」

未央「う、宇宙人?」

卯月「ですか?」

凛「そう、凄く大きな緑色の怪人に頭を掴まれたり、真っ黒で大きな鳥人が大きくて鋭い爪をもって襲い掛かってくる所とか、腕の沢山ある仏像がいろんな武器を使って襲ってくる、それもみんな自分を殺そうとして来るんだよ」

未央「……え、あー」

卯月「そ、それは怖いですね」

凛「でしょ?」

二人の顔は少し緊張がほぐれたような感じになっている。

凛「それにさ、二人とも楽しみだって言ってたじゃん。緊張するより楽しまないともったいないよ? 自分のステージなんだからさ、楽しんでいけばいいんじゃないかな?」

そう、楽しめる場所で楽しまないともったいない。

私はそう思っているしそうしているから、この二人にもそうしてもらいたいと思った。

未央「……」

卯月「楽しむ……そうですね」

卯月「私の夢のアイドルの初ステージ……憧れのステージ……楽しまないといけませんよねっ!」

島村卯月にあの笑顔が戻った、何かを吹っ切ったような顔だ。

卯月「ねっ、未央ちゃん!」

未央「……そだね。楽しまないと、初めての私達のステージなんだから……」

まだ顔を下げてぶつぶつと呟いている。

凛「そんなに考え込まないで自分に正直にやればいいんだよ、楽しみなんでしょ? ワクワクしてたんでしょ?」

未央「……うん。そうだよ、この日を待ってたんだ」

凛「じゃあ、楽しみなよ。大丈夫、失敗しても次があるんだから。それに、死なないし殺されない、怖い宇宙人も襲ってこない、だからリラックスしていきなよ」

未央「……ぷっ、さっきから、それ何? 死ぬとか殺されるとか宇宙人とか」

凛「え?」

未央「ぷぷぷっ、自分で何言ってるのかよくわかってないの? クールで真面目な子だと思ってたのに、結構電波な子だったんだ」

電波って……失礼な。

それに何を言っているのかって、思ったことを言ってるだけだし。

未央「あー、なんだかしぶりんのギャップのお陰で緊張が解けたかも」

ようやく笑った本田未央、本当に緊張は解けたみたいだ。

卯月「はいっ、ありがとうございます! 渋谷さん!」

凛「まあ、緊張が解けたならよかったよ。それじゃあ頑張ってね……えっと、未央、卯月」

アイドルをやらないっていう事は、本番が終わってからいう事にしよう。

今そんな事を言ったら、また一悶着ありそうだし。

未央「ちょっと、ちょっと! どこにいくの!?」

凛「え? どこにって……」

未央「これからは私達ユニットのメンバーなんだからしぶりんも一緒に来ないと駄目だよ! 今日は一緒に出られないけど、次のためにも近くで見てもらわないと!」

凛「あー……」

卯月「そうですよ! それに、渋谷さん……凛ちゃんが傍で応援してくれれば心強いです!」

凛「……」

まいったな……。

って、それもそうか、この状況ってアイドルに誘われている私が、アイドルになることを承諾して、今後のメンバーに激励をしているって状況に見える。

もしかして、この人、これを狙った?

私は眼つきの悪いPをジロリと見ると、Pは深くお辞儀を返すだけだった。

凛(……はぁ、ライブが終わるまでは付き合ってあげるか)

凛(終わったらきっぱりと言わないと)

その後、すぐ衣装直しが始まり、Pは別の仕事があるみたいで控え室から出て行き、あっという間に本番となった。

私は未央と卯月に引っ張られるようにステージ裏まで連れてこられ、ステージの裏側からライブを見ることとなった。

関係者でも無い私がこんなところに入ってきていいのかな……。

そう思っていると、ライブが始まり、二人の出番が迫ってきていた。

未央「うー、やっばー、また緊張してきたー」

卯月「未央ちゃん、リラックスです! 楽しみましょう!」

未央「うん。ねぇねぇしぶりん、私、緊張してきたからまた変なこと言ってよ」

凛「アンタ、もう緊張して無いでしょ」

未央「あはっ、バレた?」

卯月「落ち着いて楽しめば大丈夫ですよっ……ってあれ?」

二人とも本番前だけどもう緊張はしていないみたいだ。

そうやって話していると、さっきステージで踊っていた人、城ヶ崎美嘉が二人に声をかけてきた。

美嘉「おっ、二人とも随分と落ち着いてるねー、さっきまでガチガチだったのに何かあったの?」

未央「美嘉ねぇ! ふっふっふー、本番に強いこの未央ちゃんがガッチガチに緊張しいるですと? そんなわけないってー!」

卯月「またそんな事言って、凛ちゃんのお陰なんです! ねっ」

美嘉「凛ちゃん?」

城ヶ崎美嘉と目が合った、実物を見るとギャルというか綺麗系の人だと思う。

とりあえず頭を下げておこう。

美嘉「へぇ……何この子、もしかして新人アイドル?」

未央「おっ、さすが美嘉ねぇ、見抜かれてしまいましたかー!」

美嘉「それならもしかしてシンデレラプロジェクトの最後のメンバーってとこかな?」

卯月「その通りです! そして、私たちのユニットのメンバーなんです!」

また、勝手に話を……。

美嘉「そっかそっか、アタシは城ヶ崎美嘉、アンタもこの子達のプロジェクトメンバーになるならこれから色々と顔を合わせる機会があると思うからヨロシクね」

そう言ってウィンクをされる。

凛「はぁ……」

美嘉「それじゃ、アンタ達、もうそろそろ出番だから気合入れておいてね! アタシはもう行くからさ」

卯月・未央「はいっ!」

去っていく城ヶ崎美嘉とは入れ替わりに別の女の子が二人現れる、どちらも多分アイドル、かわいらしい雰囲気と元気そうな感じがする女の子達。

「みなさーーん!! どうですかー!! 元気ですかーーっ!!」

「もう本番ですね、出るときの掛け声とかは決まっていますか?」

卯月「掛け声ですか?」

「そうです、あったほうがいいですよ?」

「気合が入りますからねーー!!」

未央「掛け声かー。しまむー、しぶりん、何かあるかな?」

凛「え? えーと……」

何も思いつかない、普通にファイトーとかでいいんじゃないかなと思っていると、元気そうな感じの子から提案があった。

「好きな食べ物とかどうです!? 私なら、ほかほかごはーーーーん!! ですね!!」

「あはは、茜ちゃんらしいですね」

食べ物か、私なら……。

凛「……チョコレートかな」

あっ、声に出てた。

卯月「私は生ハムメロンです!」

未央「私、フライドチキン!」

私たちは顔を見合わせて、まず未央が言い出した。

私たちは顔を見合わせて、まず未央が言い出した。

未央「じゃんけんで決めよう! 誰の好物を掛け声にするか!」

卯月「いいですよ!」

凛「あ……うん」

そして、じゃんけんに勝ったのは。

未央「やった! 私の勝ち!」

卯月「負けちゃいました~~」

未央「それじゃ、フライドチキンね! 出るときにみんなで合わせて言うよ!」

卯月「わかりましたっ」

凛「あー、うん、わかった」

これ私も一緒に出る事になってない?

未央「しぶりんはここで言ってね、今回ステージ下から飛び出して登場するんだけど、流石にステージ下まで一緒に来ることは出来ないからさ」

あ、よかった、ちゃんと考えてくれてた。

同時に二人に声がかかった。

「スタンバイお願いします」

それに反応して未央と卯月は顔を見合わせて、最後に私を見て頷くと動き始めた。

未央「それじゃ、行って来るね! しぶりんも見ててね!」

卯月「私達頑張りますからっ、行ってきます!」

凛「あっ……行っちゃった」

私は二人が走っていったほうに目を向け続ける。

ステージではさっきまでやっていた音楽が止まり、次のステージがあの子たちの舞台となるのだろう。

しばらくすると、かすかに声が聞こえてきた。

『……フラ、イド』

凛「……チキン」

私が呟いたと同時に、ステージで音楽と歓声が聞えてきた。

私は舞台の袖に移動してステージの上の様子を伺う。

凛「うわ……」

観客席は半分くらいしか見えなかったけど、凄い数のお客さん。

音楽と同じくらいに歓声が地響きのように伝わってくる。

舞台袖でこれくらいだと、ステージの上はもっと凄いのだろう。

そのステージの上で、2人は踊っていた。

城ヶ崎美嘉が歌う曲に合わせて、踊っている。

スポットライトに照らされてキラキラと輝いている。

凄く眩しくて目に焼きつく光景、別の世界のような光景だった。

凛「すごい……」

私は食い入るようにその姿を見続けていた。

二人とも凄くいい笑顔、生き生きしている。

曲が終わるまで、私は瞬き一つせずに見続けていた。

そして気がついたら終わっていた。

ステージの上で、あの二人は踊りきった。

リハーサルとは違い、完璧に踊りきっていた。

凛「凄い」

正直な想いを口に出す。

あんな舞台で、さっきまで踊ることも出来なかったはずなのに、本番で結果を見せた。

ステージの上の二人は汗に濡れて、やりきったような表情で笑っている。

そんな二人に、マイクで観客に向けて話していた城ヶ崎美嘉から話を振られているようだった。

美嘉「みんなーー! ありがとねーー!!」

美嘉「ところで今日、バックを勤めてくれたこの子達はまだ新人なんだけど、アタシが誘ってステージに立ってくれたんだ!」

美嘉「それじゃあ、感想でも聞いてみよっかな?」

マイクを向けられたのは卯月。

卯月「ふぇっ!? わわっ、あわわわ」

最初は慌てていたが、卯月と未央は顔を見合わせて何を言うかを決めたみたいだ。

二人は手を繋いで、どこまでも嬉しそうな顔で、

卯月・未央「最高ーーーー!!」

言葉と同じ、最高の笑顔を見せた。

凛「……凄い」

凛「……二人ともあんなに輝いて」

凛「……まるで別の世界の出来事みたい」

どこまでも光輝く美しい光景。

本当に凄いと思う、こんなにも心を動かされる。

観客席からも歓声が鳴り止まない。

舞台袖にいる人たちも、手を叩いたりしている。

間違いなく大成功のステージだ。

私も感じたことの無いようなときめきを感じている。

ステージの上の二人を見て、眩しい二人を見て。

私も…………。



ゾクリ。



一瞬だった。

首筋に感じた寒気で、今まで感じていた何かは一瞬で消え去った。

凛「来た」

私は舞台袖から早足で立ち去る。

扉を開き、廊下を歩く。

凛「いいじゃん、この前から3日、早いじゃん」

意識が切り替わる。

今日の獲物は絶対に逃がさない。

凛「ふふふっ、あの子達の舞台が終わって、私の舞台が始まるって事か、ガンツも分かってるじゃん」

自然と顔がほころぶ、今の私はあの子達のような最高の笑顔をしているのかもしれない。

凛「転送されるところを見られるわけに行かないから、どこかで透明化をして待たないと」

私が人のいない場所を探そうと、扉に手をかけたとき、扉が急に開き小さな女の子が二人飛び出してきた。

私にぶつかって転びそうになった女の子を受け止める。

凛「ごめん、大丈夫? 急いでて前見てなかった」

「痛ったー……ひっ!?」

「あいたたた……莉嘉ちゃん? どうしたの……ひいっ!?」

凛「怪我は無い?」

こくこくと頷く二人。怪我は無いようだ、なら問題なし。

私は扉の先が会場だと気がつき、別の場所を探すために立ち去ることにした。

私の後ろからさっきの女の子二人の声が聞こえる。

「こ、怖かったよ~~、私食べられちゃうかと思っちゃった」

「あ、あんな怖い笑い顔してる人、アタシ初めて見たかも……」

その声に振り向くと、女の子達は全身を震わせて逃げていった。

凛「なんだろ……まあ、いっか」

特に気にせず私は歩く、人気の無い場所を探して。

そうして、あまり使われていないような階段を下り、電気が消えかけている一角を見つけた。

丁度壁に隠れるようになっていて、遠目から見ても気付かれることは無いだろう。

近くの壁には電気のスイッチもあった。

私は電気を消して、真っ暗になった一角に腰を下ろしてポケットに入れていたコントローラーを操作して透明になった。

壁に背を預け、私は転送されるまで待ち続けた。

凛(さあ、狩りの始まり)

凛(今日は皆殺しだ)

今日の狩りに想いをはせながら、転送されるまで闇の中で身を潜め続けた。

今日はこの辺で。


恐竜ってこんなに早かったっけ?
風とか桜井とかどうなるのか

真っ暗な視界に光が差し込む。

ガンツの部屋、私は転送されていた。

私が転送されると同時に、あの歌が流れ始めた。

『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』

凛「あれ?」

ガンツを見ると文字が浮かび上がっている。

『一人がいいみたいなので こんかいから一人でがんばってくだちい』

ああ、そういえば前回そんな事を言ったかも知れない。

ま、いいか。他に人がいても邪魔になる場合もあるし。

私は些細なことだと割り切って、次に出てくる情報を待った。

『この方をヤッつけに行ってくだちい』

『アリ星人』

『特徴 むれる たくさん』

『好きなもの ひと』

『口ぐせ ちきちきちき』

映った画像は頭の長い昆虫のような宇宙人。

コイツが今回の獲物。

むれる、たくさんっていう事は少し数が多いのかな?

私は情報を確認し、準備を行う。

銃と剣にこの前手に入れた大きな銃、それらを持ちバイクに積み込み転送を待つ。

凛「今回は、どんな感じになるのかな」

私はバイクの席で大きな銃を抱えながら考える。

出来ればあの仏像のときみたいな快感をもう一度感じたい。

この前は確かに気持ちよかったけど、あの仏像のときほどじゃなかった。

そんな事を考えていたら、私はいつの間にか転送されていた。

――――――――――――
――――――――
――――――
――――
――

凛「……はぁ」

戻ってきた。

凛「何ていうか……嫌な狩りだったな……」

今回の舞台は地下鉄の線路に空いた穴の奥だった。

アリ星人は確かに多かった。

50匹は殺した。1匹1匹弱くて銃で一発だったけど、銃で破裂させると体液が飛び散って、その体液が強力な酸だった。

それは気をつけていればかかることは無かったし、どうという事は無かったけど、問題はアリ星人のボス。

穴の奥、アリ星人の巣の最深部にアリ星人のボス、女王アリがいた。

5メートルはあるかという大きなアリ星人、そいつの腹に人間が沢山埋め込まれていた。

私がそれを愕然としながら見ていると、女王アリは私に気がついたのか体を震わせて何かを始めた。

すると、埋め込まれていた人間が叫びをあげ始め、次の瞬間には人間の体が裂け中からアリ星人が生まれていた。

その光景は酷いもので、私は目を逸らしていると、全ての人間はアリ星人を生み出して死んでしまったようだ。

私が何かを考える暇もなく、生み出されたアリ星人は私に襲い掛かってきた。

新しく生まれたアリ星人は動きが早く、連携するように私に襲い掛かり、それと一緒に女王アリからも攻撃が襲ってきた。

何とか女王アリ以外のアリ星人は殺せたけど、女王アリと最後に戦うときには銃と剣を失っており、私の体も左腕が溶かされてなくなっていた。

最後の最後、全力で巣の天井に飛びつき、蹴って殴って天井を落盤させて巣ごと潰してやった。

その際に私の体も半分潰れてしまったけど、何とか生き延びることが出来て戻ってこれた。

今回は敵を殺せて感じるよりも、敵が人間を使って仲間を増やしていたっていうことに衝撃を受けて気持ちよさを感じることもほとんどできなかった。

凛「ああいうの、ほんと嫌。気分が悪くなるよ……」

『ちーーーーーん』

『それでは ちいてんを はじぬる』

凛「採点か……」

『りんさん 87てん』

『Total 112てん 100点めにゅーから選んでください』

凛「あ、また100点行ったんだ」

確かにあれだけの数を殺れば1匹1点でもこれくらい行くよね。

浮かび上がった100点メニューを選ぶ。

凛「2番で、すぐ用意できる?」

画面の表示が消えて、何もおきない。

凛「ああ、そういえばこの前も奥の部屋に新しい武器が用意されていたっけ?」

私は奥の部屋の扉を開けて中を確かめる。

そこには、この前とは違い小さめのケースが用意されていた。

凛「あ、これかな? 中は…………パソコン?」

ケースの中に入っていたのは黒いパソコン。

とりあえず電源ボタンみたいなものを押してみると、すぐに起動して、黒い画面の中、右上にひとつだけアイコンが表示されていた。

凛「……Analysis-mode? 解析だっけ?」

アイコンを起動してみると、画面が変わり、No dataと表示されている。

凛「……これはちょっと調べないと分からないかな。時間もかかりそうだし持って帰ろう」

私は黒いパソコンの電源を切り、一緒に入っていたケーブルも持ち、ガンツの部屋を後にした。

少し遅くなってしまった、とりあえずは帰ってこのパソコンは部屋に隠しておこう。

そう思い、私は透明化を起動して夜の町を家に向かって駆け抜けた。

家について、お父さんとお母さんにも顔を見せて部屋に戻った私。

凛「あっ」

そこで気がつく、ライブ会場からそのまま帰ってきている。

あの子達にも何も言わずに……。

時間は9時、これはもう今から会場に向かっても誰もいないだろうな。

凛「これはやっちゃったな……どうしよう……」

あの子達は私がアイドルになるって思っている。

ライブが終わったらきっぱり断ろうと思っていたのに、狩りがあったからそのことも忘れていた。

どうしようかと思って、さっき電話をかけたPのことを思い出す。

凛「そうだ、あの人の電話にかけて断れば……」

と思い、電話を見てみると、あの人から何件か着信があったことに気がつく。

凛「あ、電話かかってきてたんだ」

狩り中はガンツの部屋に置いたままだったし、気がつかなかった。

そう思い画面を見ていると、手に持った携帯が震えだした。

この番号……あの人だ。

私は着信のボタンを押して電話を取る。

P「夜分遅くすみません。渋谷さんでしょうか」

凛「うん、何回か電話貰ってたみたいで、出れなくてごめん」

P「いえ、ライブの後姿が見えられなくなりましたので、念のため電話をかけていたのですが、もうお帰りになられたのですか?」

凛「あー、何も言わずに帰っちゃってごめん。もう家にいるんだ」

心配をかけてしまったみたいだ。確かに何も言わずに帰ったらそうなるだろう。

一応スタッフのカードとかも貰っていたんだし。

P「そうでしたか、それならいいのですが。何か急ぎの用があったのでしょうか」

凛「あ、うん。そんなところ。あっ、そういえば貰ったカードどうすればいいかな? 返さなきゃいけなかったら持って行くけど」

P「いえ、返していただかなくても結構です。必要なければ破棄していただいても構いませんので」

凛「そう、わかったよ」

少し間が空き、Pから問いかけが来た。

P「……ライブ、どうでしたか?」

凛「……凄かったと思うよ。あの二人も凄くきらきら輝いていたし、あんな舞台を間近で見れて感動できた」

率直な感想を言う。

P「そうですか……では、アイドルに興味を持っていただけた、という事でしょうか?」

興味はある。

だけどそれ以上に、私にはやるべきことがある。

凛「まあ、興味は持てたよ。だけど、私はアイドルにならないよ」

P「…………そう、ですか」

凛「私さ、今やることがあるんだ。それをやりながらアイドルをやることはできないと思うし、やろうとしても中途半端になると思う。だから私はアイドルを出来ないよ」

P「……」

凛「でも、興味は持てたし、あんな世界があるんだなって知ることが出来た。これからあの子達のことを応援していきたいと思うし。あの子達にもそう伝えておいて貰えれば助かるんだけど」

P「……わかりました」

凛「ありがと」

これでお終い、あの子達もこの人から聞いて諦めてくれるだろう。

そう思い、電話を終わろうと思ったら、

P「……貴女は今、夢中になれる何かに突き進んでいる、という事でしょうか?」

最後の交渉かな?

でも、答えは決まっている。

凛「そう、今はあれ以外のことは考えられない」

ガンツ、狩り、戦い、殺し、改めて考えると物騒なことこの上ないよね。

でも、それが私の生きる道。

P「わかりました。島村さんと本田さんには私のほうから話しておきます。今日はどうもありがとうございました」

凛「あ、こちらこそ、ありがとう」

P「それではこれで失礼します」

電話が切れた。

これでお終い、アイドルのことは忘れよう。

……いや、あの子達のことはこれからも見ていこう、テレビとか雑誌とか、見る機会があれば応援してあげよう。

それが私が何かを感じたあの子達に対して唯一できること。

もう会うことも無いだろうけど、これでいい。これでいいんだ。

私はそのままベットに横になり、天井を見上げて目を閉じた。

ほんの少しだけ、残念な気持ちがあったが、意識が落ちるともにその気持ちも露と消えた。

あの子達と会うことは無いだろうと思った、だけど次の日学校から帰ると、

未央「しぶりん!」

卯月「凛ちゃん!」

あの二人が家の前にいた。

凛「あれ……? なんで?」

未央「なんでじゃないよ! なんではこっちのセリフ!」

卯月「そうですよ! 何であの後帰っちゃったんですか? それにアイドルにならないって何でですか!?」

凛「えっと……あの人にも言ったんだけど、私はやることがあって……」

未央「やることって何!?」

凛「あー、それは……」

言えない。

未央「何で隠すの? 本当にやりたいことがあるなら言えるでしょ!?」

言う事はできない、言ったらアウトだから。

適当に何かを答えておこう。

凛「えーっと、私勉強しないといけないし」

卯月「アイドルを続けながらも勉強はできますよ!」

凛「あー、店の手伝いとかもあるし」

「あら? 大丈夫よ、手伝いをしなくても凛の好きなことをすればいいわよ」

凛「!? お母さん!?」

いつの間に!?

「あなた達、凛のお友達? アイドルって面白いこと話しているわね?」

未央「!!」

お母さんを見て何かを思いついたような顔をする未央。

未央「あ、これはどうも、私本田未央って言います。今日は凛さんにアイドルになっていただこうとスカウトに参った次第であります!」

「へぇ、アイドルねぇ」

未央「こっちの島村卯月と私でユニットを組んでいるんですけど、凛さんもアイドルになるって言っていただければすぐにでも私たちのユニットに入っていただけるんですよ! お母さんからも凛さんにアイドルになるようにって言っていただければ……」

凛「ちょ!? 何を言ってるの!?」

慌てて未央を取り押さえるが、今度は卯月が喋り始める。

卯月「凛ちゃんは絶対にアイドルになるべきなんです! 私たちも凛ちゃんと一緒にアイドルをやれれば嬉しいですし、それ以上に凛ちゃんがステージに立つ姿を私が見たいんです!」

凛「勝手なこと言って……」

少し強めに卯月を見ると、びくりと体を震わして、泣きそうな顔になりながら卯月は言う。

卯月「私たちと一緒にアイドルをするのは嫌ですか……?」

凛「うっ……嫌って言うわけじゃ……」

未央「ならやるってことだよね!?」

すかさず詰め寄ってくる未央。

「凛、これだけ熱心に誘ってくれてるんだから、アイドルやってもいいんじゃないの? あなた部活も入ってないし、時間あるでしょ?」

まずい、流れが非常に悪い。

私は無理矢理話を終わらす為に、

凛「と、とにかく! 私はアイドルをやらないから!」

走って逃げた。

未央「あっ! 待てー……って、速!?」

卯月「あぁっ、待ってください~~」

スーツは着ていないが、最近の特訓のお陰で体の動かし方が以前よりも効率よく出来るようになっている。

二人を振り切って私は逃げる。

未央「くそーーー!! 覚えてろーーー!! 私たちは絶対に諦めないからなーーー!!」

卯月「はぁっ、はぁっ、ま、待ってください~~」

聞こえてくる声を耳にしながら、逃げ続けて二人を完全に振り切ったところでため息をついた。

あの感じだとまた来るに違いない。

……次までに言い訳を考えておかないといけない。

私はそう考えて、今日の特訓を行うためにいつもの場所に向かった。

チビ星人 + Extra mission 編終了。

今日はこの辺で。

5.日常 + 新宿大虐殺編


次の日、学校にて。

「凛ー、なんか校門前に、別の学校の子来てるよ?」

デジャヴって言うやつかな?

前もこんな事があったような気がする。

だけど、今回は誰が来ているのかが何となく分かる。

私はチラリと窓の外を見る。

凛「……やっぱり」

あの二人だった。

ほんの少しだけしか顔を出してないはずなのに、何故か二人とも私に気付いて手を振ってきている。

私は額に手をやりため息をついた。

「どうしたの? 行かなくていいの?」

凛「……行って来る」

私は鞄を持って、教室を後にした。

未央「おいっすー! 迎えに来たよしぶりん!」

卯月「こんにちは、凛ちゃん」

満面の笑みの二人。

最初は引き込まれた笑顔なのに今はとても憎たらしい笑顔。

凛「……どうやって、学校を知ったの?」

未央「しぶりんのお母さんに聞いた」

お母さん……。

凛「……はぁ、またアイドルに誘いに来たの?」

卯月「はいっ! 私達、今からレッスンなんで、凛ちゃんも一緒に行きましょう!」

凛「……私、断ったよね?」

未央「私達しぶりんの口から聞いてないし」

凛「じゃあ、私アイドルをやるつもり無いから」

きっぱり言ってやった。

もう、ほんとに諦めてよ。

未央「なんで?」

凛「なんでって……私にはやることあるし……」

卯月「やることってなんなんですか?」

凛「それは……言えない」

ガンツのことを言えるわけがない。

未央「ほら、またそれ」

卯月「凛ちゃん……アイドルをやれない理由くらい教えてくれてもいいじゃないですか?」

だから言えないんだって……。

凛「あー……私、将来家を継ぐつもりだから花の勉強を……」

未央「それ嘘、しぶりんのお母さん、しぶりんがそんな事言ったこと無いって言ってた」

凛「……アンタ、お母さんと何話してるの?」

未央「あの後、しぶりんが帰ってくるまで待ってようと思ったら、家に上げてもらえたからお茶をしながら色々と話してた」

卯月「ハーブティーおいしかったですよね♪」

凛「……」

未央「しぶりんのお父さん、最近のしぶりんにご立腹だったよ? 夜遅くまでほっつき歩いてなにをしているのかって、昔はあんな子じゃなかったのに、オヨヨヨって泣いてた」

卯月「凛ちゃんのお父さんにお花を選んでもらったんですよ♪」

凛「……」

未央「お父さんとお母さんにはしぶりんを私達がきっちりと面倒を見るって約束でアイドルにしてもいいという了承はすでに貰っているんだぞ! さっさと観念してアイドルになりたまえ!!」

卯月「なってください!!」

今日の朝、やたらアイドルにはいつなるんだって聞かれてたのはこれが原因か。

あんまりしつこいから無視して出てきたけど……。

凛「だから、私はアイドルにならないって!」

未央「だからなんで!?」

卯月「なんでですか!?」

凛「それは言えないって言ってるでしょ!!」

未央「言ってくれないなら私たちも絶対に諦めないよ!!」

卯月「はいっ! ちゃんとした理由を聞くまでは絶対に諦めません!!」

ああもう! しつこいなぁ!

凛「なんでそんなにしつこく私を誘うの!? 他の子でもいいじゃん!!」

未央「しぶりんじゃないと嫌だから!!」

卯月「そうです!! 凛ちゃんじゃないと駄目なんです!!」

真剣な顔をして叫ぶ二人にたじろいでしまう。

凛「な、何で、私なの……?」

未央「なんでって……この前のライブ、覚えてるでしょ?」

凛「……うん」

未央「あのライブ、しぶりんがいないと失敗してた」

凛「え?」

卯月「……私達、リハが始まって、凛ちゃんに楽屋で会うまで、何一つうまく行かなかったんです」

凛「でも、最後はあんなにうまくいって、大成功だったよね?」

卯月「凛ちゃんが傍にいてくれたからです」

凛「えーっと……」

未央「しぶりんが一緒に来てくれて、私達今まで無いくらい息があってたんだよ? ステージの上でも、横でしぶりんが踊っているような気もしてた」

卯月「はいっ、ずっと凛ちゃんが傍で踊っているような感じでした。あのステージでは私たちだけで成功したんじゃないんです、凛ちゃんが一緒にいたからこそ成功できたステージなんです」

凛「そんな事、ないよ」

未央「あるって! しぶりんも何か感じなかった、私達と一緒に何かをしてるような感じ!」

卯月「そうです! 思い出してください!」

そんな感じなんて……。

あの時は、二人がステージで踊っている姿がとても眩しくて……。

その姿を目から放せないでいただけで……。

私も一緒にあの場所にって……。

凛「!!」

未央「あっ! その顔! 何かわかっちゃったって顔!!」

卯月「やっぱりそうなんじゃないですか!? 凛ちゃんも私達と一緒の気持ちだったんじゃないですか!?」

心が揺れている。

止めてほしい、私はもう決めたんだから。

自分が夢中になれる何かをもう見つけているんだから、私を惑わすのは止めてほしい。

私には私の舞台がある、二人みたいなキラキラした舞台じゃなくても、私に合った素敵な舞台があるのに。

あんなに気持ちよくて、生きているって実感できて、何よりも夢中になれる舞台。

凛「~~~っ!!」

私は、私の心を揺さぶる二人に背を向けてまた逃げた。

未央「あっ! 逃げんなーー!!」

卯月「凛ちゃーーん!! 待ってぇ……へぶっ」

未央「し、しまむー、大丈夫!?」

私は逃げて逃げて、いつもの特訓を行う場所まで駆け続けた。

特訓を行うには少し早い時間。

まだ日も落ちきっていない、森林の奥で私は日々の特訓で地面がクレーター上になっている中心に座り、前回手に入れたパソコンを調べていた。

あの二人に言われたことは、頭に残っている。

だけど、私はアイドルよりも、殺し合いを望んでいる。

敵を殺して、殺すことで感じて、生きているって実感する、そして人の敵でもあるアイツ等を殺しつくすことが私の使命。

そうしないといけないのに、私を揺さぶらないでほしい。

頭を切り替えよう、次は絶対に何を言われようが断る。

私にアイドルはやれないし、やるわけにはいかない。

私はあの子達とは違う。

違う人種だから。

凛「……あ、これって」

考えながらパソコンを調べていると、ケーブルを刺す場所を見つけた。

数本持ってきていたケーブルをあわせてみると、ぴったりと嵌った。

凛「……こっちはパソコンにつなげれた、それじゃあ、逆側は何に……?」

まず思ったのはバイク。

バイクのモニターにつなげれば、何かがあるのかもしれない。

次はコントローラー、コントローラーは持っていたからつなげてみたが、特に何もおきなかった。

最後に気付いたのが。

凛「これ、銃に繋げられる」

ケーブルを銃につなげてみると。

凛「……レントゲンのモニターがパソコンの画面と同じになった」

どうやら当たりだったみたいだ。

この前のアイコンを起動させると、この前とは違う表示があった。

凛「Target-Parameter ……これって」

銃を試しに使ってみる。

両方のトリガー、地面が爆発した。

上のトリガー、画面に変化が起きる。

凛「ローディングのような画面が出て、エラー表示……」

凛「上トリガーで何かが起きるみたい……多分ゲーム中に敵に使えるのかも」

次の狩りのときに使ってみようと思い、他に何かできないかと調べてみるが、それ以外に特に何かを見つけることは出来なかった。

いつの間にか辺りは日が落ち、真っ暗になっていた。

私は特訓を始めようと思い、立ち上がる。

凛「さて、始めますか……っ!?」

ゾクリ。

感じなれたあの感覚。

転送前の首筋の寒気。

凛「……あれから二日」

凛「……」

凛「ふ、ふふっ、何? この前が不完全燃焼だったからってすぐ殺らせてくれるってワケ?」

凛「……いいよ、いいよ! 私はいつでも準備は出来てる!」

凛「ガンツ! 早く転送して! 今日はいいのを、感じれる奴を頼むよ!」

私はパソコンを手に持ち、その場で転送のときを待った。

やがて、私はガンツの部屋に転送されて、今日の狩りが始まった。

『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』

転送と同時に歌が始まった。

前回と一緒、これからは一人。

凛「さ、今回はどんなのかな?」

画面の表示が切り替わった。

『この方をヤッつけに行ってくだちい』

『狩人』

『特徴 つよい かしこい つよい』

『好きなもの つよいもの』

『口ぐせ なし』

画像には、化け物のような顔をした宇宙人。

凄い顔……。

口が裂けて牙が沢山見える。

特長にも強いって沢山書いてあるし、手ごわい相手なんだろう。

凛「……ふふっ、今日は期待できるかも」

予感がする、ゾクゾクと背中に寒気が走っている。

今回の奴を殺れたら、凄いのを感じれる予感。

ドキドキしながら私は装備を整える。

今日の装備は、パソコンに、大きな銃と、長い砲身の銃を2丁、小さな銃を6丁、Y字銃は4丁、剣も4本。

前回は武器がなくなってしまったから、持てるだけもっていく。

それを持ってバイクに跨り、私は目を瞑りその時を待った。

今日はこの辺で。

ジジジジジジジ…………。

凛「……」

ジジジジジ……。

凛(……森?)

ジジッ。

転送された私の視界には生い茂る木々が映っていた。

木々の隙間から月明かりが見えるが、真っ暗な森。

起伏のある地面、そして見渡す限りの木々。

凛(どこかの山?)

一瞬いつもの訓練をしている森林公園を思い出すが、公園とは比べ物にならないくらいの大きさの木からここが違う場所、森か山だと察する。

凛(好都合、こういうところはいつもの訓練で慣れている)

口元が釣りあがる。

いけない、油断は駄目だ。

敵の位置を確認しないと。

コントローラーを取り出し、すぐに透明化を行い、レーダーで獲物を探していた。

レーダーに映った光点は1つのみ。

凛「あれ?」

見間違いかと思いながら何度か見直してみるが1つのみだった。

凛(今回は1匹だけ……?)

少し残念な気持ちになったが、丁度いい機会だと考え、パソコンに銃をつなげ、転送前に見つけた機能を試そうと考えた。

この場所では使えそうにも無いバイクは置いておくことにして、小さな銃とY字銃をホルスターにいれ、剣も2本、ホルスターの隙間に差し込んで、大きな銃とパソコンを持って移動を始める。

レーダーを見ながら、木々を掻き分け獲物の位置に近づくと、大きな木の根元に座って何かをしている獲物の姿を見つけた。

凛(見つけた)

今回の獲物は画像の化け物のような姿ではなくて、鎧のようなものを着込んで、頭にはヘルメットみたいなものを被っていた。

よく見ると腕を触って何かをしている。

凛(……なにをしているのか分からないけど、チャンスかな)

私は獲物に向かってパソコンをつなげた銃の上トリガーを引く。するとパソコンにエンターキー表示がされているので、エンターを押すと。

パソコン画面に、獲物の姿と、70pointという表示が映し出された。

凛(70……点数ってことかな?)

これは獲物の点数を表示する道具かと理解したところで、私の体に何か違和感を感じた。

凛(なに? これ?)

赤い光点が私の体に浮かび上がっていたからだった。

凛(っっっ!!)

背骨に氷柱を刺されたような感覚が襲い、全力で跳躍した。

だけど私がいた場所にものすごい爆発が発生して私はそれに巻き込まれて数十メートルほど吹き飛ばされて木に叩きつけられてしまった。

凛「あぐっ!?」

吹き飛ばされたときにパソコンは落としてしまった。

だけど、大きな銃は落とさない。

凛「くっ、気付かれてたって事!?」

透明状態なのに気付かれていた? 今回も透明化が効かない獲物かと思いながら、獲物の位置を確認しようと獲物がいた場所を見るが姿は無かった。

凛「まずい……見失った……」

すぐさまレーダーで確認すると、何故か私の前、10メートルくらいの位置に光源が発生している。

凛「え?」

私の眼前には生い茂った木々があるだけ。

もう一度確認すると今度はさらに近づいてきている。

凛「何!? どこに!?」

5メートルくらいの位置になってようやく気がつく。

空間に歪みが起きている、地面の草に足跡がついている、空中で放電が起きている。

凛「っ!! まさかっ!!」

こいつも透明化を使える!? そう思ったときには、私の体はさっきの爆発の直撃を食らって今度は百メートル近く吹き飛ばされた。

木をへし折りながら吹き飛ばされていく、数十本の木をなぎ倒してようやく勢いはおさまり私は大きな大木に叩きつけられて止まった。

凛「げほっ!! かはっ!!」

キュウウウウン……。

スーツから音がする。

嘘……もう限界を向かえるって言うの?

スーツを見ると壊れたわけでは無さそうだったが、後1発でもあれを喰らったら確実に壊れて、私も爆発に巻き込まれて死ぬだろう。

凛「……やってくれるね」

怖さは感じなかった。

逆に高揚感が湧き上がる。

凛「コントローラー……壊れた。デカ銃は持ってる、ホルスターの銃と剣は……小銃と剣のみ、後は落としたか……」

凛「バイクの位置まで戻って武器を補充……厳しいかな」

戦況を分析。

敵の攻撃は、大爆発を起こす飛び道具、それと私の体に浮かび上がった赤い光点もそうかも……あとは透明化を使えるし、私の透明化状態を見破られた……。

凛(この夜の森の中、視界はほぼ無い状態、こんなところで透明化を使える敵と殺り合うのは……)

凛(レーダーがあれば別だけど、私のレーダーは壊れた。敵は私の位置を把握できる……)

凛(もう、襲ってくるかもしれない、上か横か背後か……どこから来るかも分からない)

凛(……絶体絶命ってやつだね、本当にやってくれるよ)

少し離れた木の草が大きく揺れた。

凛(!!)

反射的に大きな銃を撃つ。

木々を押しつぶし、円形の破壊痕が出来上がる。

凛(……そうだ)

それを見て一つの案が私の頭に浮かび上がった。

私は小銃を左手に、大きな銃を右手に持ち、両方の銃を乱射し始めた。

ギョーン!! ドンッ!! ギョーン!! ドンッ!! ギョーン!! ドンッ!! ギョーン!! ドンッ!!

レントゲンのモニターを見ながら敵を索敵しながら撃ち続ける。

敵の姿は映らないが、撃って撃って撃ちまくる。

数分撃ち続けて、私の周囲数十メートルは更地となり、土煙が巻き上がった状態となっていた。

凛(さあ、ここからが本番)

私は銃の乱射を止めて、舞い上がっている土煙に集中する。

凛(……)

何もおきない。

土煙は一定の動きでもくもくと辺りを漂っている。

凛(……)

全ての感覚を、視覚と触覚に集中する。

凛(…………!!)

僅かに土煙に動きがあった、見るより早く体を倒し地に這い蹲るようにして、腕を伸ばし銃を撃つ。

私の頭上に光る何かが通り過ぎていき、後方で大爆発が起きた。

それと同時に、私の前方で何かが吹き飛ぶ音。

凛(当たった!!)

すかさず銃のモニターで敵をロックオンする為に確認するが、モニターには何も映らない。

凛「ちっ」

飛び上がりながら体を起こし、再び敵の位置、敵の攻撃がどこから来るか察するために全神経を集中させる。

先ほどと同じように土煙に集中していると、音が聞えた。

キンッキンッキンッ。

複数回の金属音、私は動こうとしたが、私が反応するよりも早く、何かが私の持っている大きな銃を吹き飛ばし、後方へと消えた。

通り過ぎた後に土煙は舞い上がり、吹き飛んだ大きな銃は真っ二つになり地面に散らばった。

凛(!? 今の……一瞬だけ見えたけど、刃がたくさんついて高速で回転してた)

凛(運がよかった……多分体に当たっていたら……)

敵の新たな攻撃に息を呑む。

凛(……でも、次は私の番でしょ!?)

敵の攻撃を喰らったから、私の攻撃も喰らわせてやる。

単純な思考で、私は剣を持ち、体を回転させ、360度横一文字に振りぬいた。

すると、激しい金属音が発生し、私の剣は少しだけ何かに食いこむ感覚と共に止まった。

凛「!!」

剣が何かに防がれている。

敵に防がれている。

つまり、剣の方向に。

私は銃をその方向に向けて。

凛「っ!?」

土煙を巻き上げて飛んできた、ネットのようなものに絡め取られて一瞬身動きを取れなくなった。

すぐに剣でネットを切り裂くが、銃は今の衝撃でどこかに飛ばされてしまった。

凛「ちっ」

チャンスを掴み取れなかった。

いや、敵がうまかったというべきか。

凛(……ちょっと、ピンチかも)

残っているものは剣が一本。

やはりバイクまで取りに行かなければ行けないと考えるが、取りに行かせてくれる訳が無い、そうやって考えていると、周囲の土煙は晴れて視界が開けてきた。

凛(……土煙に反応して一瞬早く行動できなくな…………)

私の視界に妙なものが映る。

土煙が晴れて、木々は完全に潰されて、月明かりが照らす平地。

私の十数メートル前に放電が起きている。

徐々に現れてくるその姿は、先ほど見た敵の姿。

顔を覆う金属製のヘルメットにドレットヘアーのような髪が隙間から出ている。

体は金属の鎧につつまれて、左肩の鎧が吹き飛んで中の体が見えていた。

手には槍を持ち、もう片方の手には長い爪のような刃が装着されている。

凛(……何のつもり? 姿をあらわした?)

何故か姿を現した敵を眼前に、私は敵の行動を見逃さずに警戒を続ける。

すると、自然な動作で敵は何かを投げてきた。

私はそれと同時に距離を取るが、敵と私の間に落ちたものは。

凛「…………私の、剣?」

さっき吹き飛ばされたときにどこかに落としたはずの私の剣だった。

敵が何をやっているのかわからない。

敵は私を見ながら、被っている金属のヘルメットに手を伸ばした。

凛「……」

私はそれを見続ける。

敵はヘルメットに繋がっているホースのようなものを外す。

外すたびにプシューと空気が漏れる音がする。

全てのホースを外し終えたのか、次はヘルメットを持って、

敵はヘルメットを外し、ガンツの画像そのままの化け物のような素顔を現した。

凛「……」

「ゴルルルルルルル」

ヘルメットを地面に落とし、槍で地面に落ちている剣を指す。

凛「……まさか、拾えっていうの?」

私の返答に唸り声を上げることで返す敵。

凛「アンタ、一体……」

敵が不意に襲ってくる気配は微塵も感じられない。

私は落ちている剣を手に取り、敵と向き合う。

「グルルルルルルル……」

敵の裂けた口が動いた。

笑っているような、満足したようなそんな感じ。

それと共に敵が、槍と刃を構えて再び唸り声を上げ始める。

それを見てわかってしまった。

凛「ぷっ、あははははっ! 宇宙人にも変なのいるじゃん!」

私は剣を両手に持ち、刃を伸ばして身を低く構える。

要するに、コイツは私と接近戦で戦いたいってことだよね?

飛び道具は無しの戦い。

望むところだよ!

私の地面を抉るほどの踏み込みは、超高速の接近となり、高速で振るった私の剣は敵の槍と激しくぶつかり合った。

今日はこの辺で。

私は今、間違いなく全力の一撃を放った。

スーツの力も合わさって、人の目には見えない様な速さの斬撃を繰り出したはずだ。

だけど、目の前のコイツは手に持った槍を自然な動作で動かし、私の剣を防いでいた。

凛(やるね……)

凛(それなら、これはどう!?)

私の腕の部分は筋肉がもりあがるように膨れ上がり、その力をそのまま振りぬく力に変えて、両手の剣を交差するように振り抜いた。

さっきと同じ、いや、さっきよりも速い斬撃。

だけど、それも槍と刃によって阻まれることとなった。

凛(っ!)

敵の攻撃が繰り出される。

速くない、前のチビに比べるとかなり遅い攻撃。

だけどその槍のなぎ払いを避けることができずに、私は槍の腹の部分で殴り飛ばされた。

凛「うぐっ!」

体勢を整え、反撃。

剣を伸ばして突き刺そうと試みるが、これも槍で弾かれた。

もう片方の剣で袈裟懸けに斬るが、それも刃で弾かれる。

凛「くっ!!」

奴が近づいて今度は刃で攻撃してきた。

これも遅い。剣で防ぐことが出来る。

だが、剣で防いだ瞬間、私のお腹に奴の蹴りが突き刺さった。

スーツ越しに伝わる重い衝撃。体が宙に浮き、横薙ぎの槍によってまた吹き飛ばされる。

凛(何で?)

力任せにまた剣を振るう。

だけど防がれる。

そして、敵の攻撃は受けてしまう。

凛(アイツの攻撃は見えてるのに。何で?)

さっきから攻撃を受けるたびにスーツから音がしている。

もう限界が来ている。

後数発攻撃を貰ったらスーツは壊れる。

そんな状況でも、私の頭の中は疑問が止め処なく湧いてきて、それだけを考えていた。

凛(アイツは遅いのに、私のほうが絶対に速いのに)

剣を振るっても当たらない、防がれる、受け流される。

凛(何で避けれないの? 見えてるのに)

アイツの攻撃は喰らってしまう。

凛(わからない……わからない……)

理解が出来なかった。

それが悔しかった。

このままだと何も出来ずに私は負ける。

凛(それだけは絶対に嫌)

せっかくの殺し合いの舞台。

私の舞台で何もできずに終わるのは嫌だった。

凛(……私の攻撃は当たらない、だけどアイツの攻撃は当てられる)

凛(それなら、どうやってアイツが行動しているのか見てやる)

凛(そして……真似してやる!)

当たらなくて当てられるなら、どうやっているのかを見て、真似すれば当てることが出来る。

そう思った。

そして、私はアイツの行動を見ることにした。

凛(……この攻撃を)

私の全力の居合斬り、アイツはどうやって防いでいる?

私は目を凝らした、相手の行動を見るためだけに全ての神経を集中させる。

眼に全神経を集中させて、アイツの動きを全てこの眼に焼き付けるつもりだ。

そして、私の眼はアイツの動作を捉える。

凛(……槍を動かしている)

ただ動かしているんじゃない。

一切の無駄の無い動き。

私の攻撃を防ぐ為に、最小の動作を繰り出している。

最小な動作は最短距離で私の剣の軌道に割って入る。

その流れるような動きを見て、場違いな感想を抱いてしまう。

凛「……綺麗」

私の剣は完全に止められて、アイツは反撃の一撃を放ってきていた。

その攻撃も流れるような攻撃。

私が攻撃をする為に踏み込んで僅かに重心を崩しているその一瞬の隙で攻撃をされている。

そうか、アイツは私の動きも見て攻撃を……。

私はまた槍で殴られ吹き飛ばされる。

凛「ぐぅっ……」

距離が少し空き、私はもう一度剣を構える。

アイツの動きは見ることが出来た。

だけど、あの動きを真似る事が出来るのか。

……多分できない。

勘だけど、アイツは何度も何度も戦って、戦いの中で自分の動きを完成させていったんだ。

自分の体がどうすればどう動くかって事を全部理解している感じ。

そして、敵の動きに合わせて、自分がどう動けば敵に攻撃を当てられるかという事を理解している。

戦いの中で作り出した動き……技術っていうのかな……。

目の前のコイツは私の何倍も何十倍もの戦いの中で技術を磨き、敵を倒すためだけの技術を身につけたんだ……。

……私には経験が足りない。

コイツの動きを見て、自分でコイツの動きを模倣できるかと考えて無理だと判断してしまう。

もっと戦いを経験できていれば……。

凛「うぐぅ!」

また敵の攻撃を受けてしまう。

避けられない、防げない、私の隙を付かれて当てられる。

地に両手を付きながら、私はスーツが限界を向かえる音を聞いた。

凛「ふっ……ふぅっ……ふぅっ……」

次で終わり。

アイツの攻撃を受けた時点で、私の体は切り裂かれるか、骨を折られ行動不能になるだろう。

凛「ふぅぅぅぅ……」

妙に落ち着いていた。

数秒後には訪れる確実なる死。

それを予感しながらも私は澄んだ水面のような、どこまでもクリアな感覚につつまれていた。

その私に誰かから声をかけられた様な気がした。

『しぶりん』

『凛ちゃん』

敵から目を離して振り向く。

あの二人の声が聞こえたような気がしたから。

誰もいなかった。

少しほっとした。

私の頭から、戦いの思考が消えて、あの二人の事が浮かび上がる。

それと同じタイミングで、私の視界の端にアイツの攻撃が見えた。

槍を上段に構え振り下ろしていた。

凛(あぁ……)

凛(これでお終いかぁ……)

槍が近づいてくる。

凛(最後に考えたことは、あの二人のことか……)

凛(こういうときって走馬灯とか見るんじゃないの?)

そう思ったら、私の脳裏にこの間のステージが鮮明に蘇ってきた。

凛(あっ、見ちゃった。考えた傍から走馬灯)

二人が踊っている。

でも、あれ? おかしいな?

私は舞台袖から見ていたはずなのに、ステージの上から見ているような感じ。

私もステージの上にいて隣で二人が踊っているような感じ。

凛(……なんだろうこの感覚)

不思議な感覚。

あの二人と一緒に踊っているような……。

凛(あの時、二人は……こんなステップを……)

私は気がついたらリズムを刻みながらダンスのステップを踏んでいた。

1,2,3,4……。

ステップを踏んで、ターン。

私の鼻先を何かが掠めたけど、私は気にせずステップを踏む。

5,6,7,8。

最後に胸の前に手を持って行き、ピタリと止まる。

あの二人が最後に見せた決めポーズ。

恐らく寸分たがわず再現できた。

あのステージであの子達が踊ったダンス。

その最後の一節。

凛(……あれ?)

違和感を感じた。

目の前にはアイツの鎧。

凛(あれ? 何でこんなに近くに?)

見上げると、アイツの顔が見えた。

目を見開いている。驚いているような顔。

凛(何? あれ? これって……)

胸の前まで動かした手に握る剣を、軽く振った。

私の剣は、地面に突き刺さった槍を持つ、コイツの右腕を切り飛ばしていた。

「ゴアアアアアアアアア!!!!」

凛「っ!!」

とてつもなく大きな叫び声と共に、左手の刃が私に襲い掛かる。

コイツの刃は私の脇腹を削り取り、私が同時に突き出した剣はコイツの胸を貫いていた。

「ゴッ……」

凛「ぎっ!?」

私は吹き飛ばされて剣を手放してしまう。

数回地面に叩きつけられ、数メートル転がり止った。

血が腹部から噴出している、傷口を押さえながら、私はアイツを見ると、

アイツは蛍光色の血を吐きながら、地に膝を付いて私を見ていた。

「ゴフッ……グフッ、グフッ、フッフッフッ……」

笑っている。血を吐きながらも笑っている。

アイツは立ち上がり、胸に刺さった剣を抜いて私に投げてきた。

私は、かすれ始める視界の中、剣を手にとり立ち上がった。

アイツも残った左腕の刃を構えて戦闘態勢を取ったようだ。

凛「……アンタ、ほんっと、変な奴だね」

私も剣を両手で握り構えを取る。

「グルルル…………」

お互い血を流しすぎているからか動きは鈍い。

剣を伸ばして突き刺せばアイツは避けることもできないだろう。

だけど、今回、その選択を選ぶことは無い。

凛「これで、最後」

私は剣を振りかぶって。

「ゴアアアアア!!」

コイツも刃を振り上げて。

同時に振り下ろした。

コイツの刃は私の顔を切り裂く。

右半分が真っ暗になった。多分目ごとえぐられた。

でも、残りの左半分の視界で見える、私の剣がコイツの顔に食い込んでいる。

後は振りぬいてしまえば。

と考えるが、もう力が入らない。

凛(後一歩なのに……)

力を込めようとしても、手に力が入らない。

自分の体じゃないみたいだ。

凛(力を、最後の力を振り絞って…………)

ほんの少しだけ動く。

そして、少しだけ剣を押し込めた。

凛(ははっ……限界、か……)

もうひとかけらの力も残っていなかった。

私はそのまま剣を放し崩れ落ちる。

凛「…………私の、負け、かぁ」

私は私を見下ろしているコイツを見上げる。

コイツは私を見下ろしたまま微動だにしない。

凛「……ごめん、お父さん、お母さん、もう帰れそうに無いや……」

ピーーーーーーー。

……コイツの左腕についている機械のようなものから電子音が聞えてきた。

凛「……どうしたの? さっさとやりなよ……」

私を殺そうとしないコイツに疑問を抱く。

その間も、コイツの左腕の機械からピッピッっと電子音が鳴り続ける。

凛「…………? 何?」

何故何もしないのかと、この音はなんなのかと思っていると、コイツの体がグラリと揺れてゆっくりと倒れ始める。

凛「……え?」

ズウウンと私の横に倒れた。

そして気付く。

コイツの顔、私の剣がコイツの頭を砕き、中の脳が飛び出していることに。

コイツの眼は私を映していない。

凛「…………死んでる?」

死んでいた。

信じられないが、最後の最後、ほんの少しだけ押し込んだ剣がコイツの脳を破壊したのだろう。

凛「……勝った」

勝てた。そう意識して湧き上がってくる気持ち。

凛「勝った」

明らかに自分より強い相手に勝った。

凛「やった」

気持ちよさとは違う、達成感、充実感のようなものが私の脳内を駆け巡る。

凛「やった! やったよ! 私の勝ち!!」

私の頭の先が転送されている、間違いない、私は勝ったんだ!

転送されていることによって、この強敵に勝てたという事を実感でき、私の興奮はさらに高まっていく。

それが快楽となって全身を駆け巡る寸前にそれは起きた。

ピッ、ピッ、ピィーーーーーーッ。

凛「あっ?」

電子音が一際大きく鳴り、止まった。

アイツの左腕から、全身にかけて光輝く放電が起きる。

空間が捻じ曲がるように、一瞬だけ世界の音が消えて。

眩い光と共に、恐ろしい衝撃が私を包み込んで、私はバラバラに吹き飛ばされる自分の体を見て、自分の体がグチャグチャになる感覚を味わいながら、ガンツの部屋に戻ってきた。

――――――――――――
――――――――
――――――
――――
――

凛「はっ、ぁぁぁぁンッ! あ、ぁぁ……」

凛「ンァ……ぁぁぁぁっ……」

全身が震えている。

最後のアレで一気に押し上げられて達してしまった。

余韻が半端ない状態だ。

あの仏像のときを超える快感。

膝が震えて立てない。

手が震えて体を起こせない。

『ちーーーーーん』

『それでは ちいてんを はじぬる』

『りんさん 70てん』

『Total 82てん あと18てんでおわり』

凛「あっ……」

採点が終わっていた。

私は涎を垂らしながら横たわり、まだ全身に浸る余韻を感じ続けていた。

ビクンビクンと体が震え続けてる。

しばらくその状態のまま私は感じ続ける。

やがて余韻がおさまり、ようやく私は体を起こし床にぺたりと座る。

凛「や、やばかった……何今の……」

頭がおかしくなるくらいの気持ちよさ。

凛「体があんな風にバラバラになってたのに……あんなに気持ちよかった……」

完全に頭のおかしい人だ。

自分でもドン引きする。

凛「ちょ、ちょっと、自重しないと……変態を通り越して、変人だよ私……」

でも、最高に気持ちがよかった。

凛「こ、こういうのってMってやつなんだっけ?」

痛みを感じて気持ちよくなるのがそうだったよね……でも、痛みを感じてたっけ? 体がバラバラになった時は感じてなかったような……。

凛「少し考えながら帰ろう、私が気持ちよくなれるのはどういう時なのか……どんな時に感じちゃってるのか……」

まだ頭がぼうっとしているのか、おかしなことを考えながら私は部屋を後にする。

凛「いつもすぐに気持ちよくなって無いんだよね……ちょっとずつ高まっていって……」

私は扉を開けて、自己分析をしながら帰路に着いた。

今日はこの辺で。

次の日、登校した私の席に友達が集まってきた。

「凛! 聞いたよー! 何何? 凛ってアイドルデビューすんの?」

凛「……」

何をしてくれてるんだ、あの二人は。

「マジ!? どこの事務所になるの!?」

「346らしいよー」

「すごっ! あそこ高垣楓とか十時愛梨に川島瑞樹、それに城ヶ崎美嘉が所属してる所じゃん!」

「凛! 私、城ヶ崎美嘉のサインほしい! 今度貰ってきてよ!」

凛「……あー、ごめん、その話ってデマだから」

「え? だって、昨日346のアイドルが宣伝して行ったよ? 凛はこれからアイドル活動を始めるから応援よろしくって」

「うんうん、私帰って調べたけど、あの子達本当にアイドルだったよ? そんな子達が凛もデビューするって言ってるんだし」

凛「それ違うから。私はデビューするなんて言って無いし、アイドルになるつもりも無いから」

「えーーー! もったいねー!」

「そーだよ! なんでやらないの? 凛なら絶対人気出ると思うけどな」

こんなやり取りを放課後まで何回もした。

本当に勘弁してほしい。

時間は過ぎて、放課後。

「凛ー! 未央と卯月が校門前にきてるよー!」

なんで名前呼びになってんの……。

本当に昨日何をして行ったんだ……。

私は急いであの二人の元に向かう。

これ以上被害が拡大する前に。

走ってあの二人の所まで行き、憎たらしい笑顔を振りまく二人を睨む。

未央「やあやあ、しぶりん!」

卯月「こんにちはっ、凛ちゃん!」

私は二人の手を掴んでそのまま学校を後にする。

未央「うわわっ!? どーしたの、そんなに急いで!?」

卯月「きゃっ! ど、どこに行くんですか?」

二人を引っ張り近くの公園に着いた。

公園のベンチに二人を座らせた。

そして私は視線を強めながらはっきりと言う。

凛「言ったでしょ? 私はアイドルにならないって、どんなに誘われてもなるつもりは無い。学校にまで来て、あんな事をされると迷惑なの」

卯月「あぅ……そんな……迷惑って……」

卯月はうろたえている。もう少し強く言えば折れそうな感じ。

だけど、未央は私に言い返してくる。

未央「……それなら教えてよ! アイドルになれない理由! 何も教えてもらえずに、諦めれないって!」

未央を見て何度も頷く卯月。

この前から繰り返している問答。

理由は言えないけど、理解してもらう為に、私は二人に本心をぶつける。

諦めてもらうために……。

凛「私、今夢中になってることがあるんだ。他のどんなことよりも夢中になれる事、それを初めてからは毎日が充実しているし、毎日が楽しい」

凛「それが私のやりたいことなんだって、やるべきことなんだって認めるのに時間はかかったけど、今はもうそれ無しに生きていくなんて考えられない」

未央「……それって、なんなの?」

凛「言えない。だけど理解してほしい。私は今やることがあるし、やらなきゃいけないことがあるんだ。それを続けながらアイドルをやることは出来ない。絶対に中途半端になってしまうと思うから」

凛「今の私はアイドルよりも、私が今やっていることをどこまでも突き進んでいきたいと思っている。これがアイドルを出来ない理由、私はもうアイドル以外にやるべきことを見つけてしまってるんだ」

想いを込めて二人に伝える。

二人には伝わっている。

私がどうしてもアイドルになれないって事が伝わっている。

二人の顔が曇り始めているからだ。

正直二人と一緒にアイドルをやりたいとは思う。

だけど、それ以上に。

私は殺し合いを求めている。

戦いの高揚感、ギリギリの極限状態で殺しあった時に得られるあの高揚感、そして敵を殺したときに得られるあの充実感、それが強い敵だったら充実感と満足感は一際大きい。

憎い敵を殺した時に生まれるあの爽快感、そして敵を殺しきったときに感じる快感。

全部もう忘れられない、戦いが、殺しが、楽しくて楽しくてたまらない。

頭の中にこれまでの殺し合いの記憶が蘇っては消える、体が震え始めてしまう。

そんな私に、卯月が問いかけてくる。

卯月「凛ちゃんがやってること……それは教えてもらえないんですよね?」

凛「……うん」

卯月「そう、ですか……」

手を握って下を向く卯月。

それに変わるように未央が口を開く。

未央「どうしても……駄目なのかな……?」

凛「……うん」

未央「……そっか」

空を見上げる未央。

しばらく無言の時間が流れる。

多分二人とも理解してしまったはずだ。

これ以上何かを言っても私はアイドルになることを承諾しないと。

私は最後の言葉を二人に投げかけようと口を開く。

凛「……私はアイドルになることは出来ないけど、二人のことを応援し続けるよ」

卯月「……」

未央「……」

二人とも何も言ってくれない。

でも言うべきことは言った。

凛「それじゃ、さよなら……「待って!」 ……何?」

未央が立ち去ろうとした私の服を掴んでいる。

未央「……最後にさ、一緒に踊らない?」

未央は私を見つめながら踊りたいと言う、返答に困る私だったが、卯月も私の手を握りぽつりと呟く。

卯月「はい……最後に、私たちと踊ってくれませんか?」

二人とも寂しそうな顔をしてるけど、多分これをけじめにするつもりなんだ。

私は二人のお願いに、頷くことで答えた。

それを見て二人ともまた笑ってくれた。

私が引き込まれた笑顔とはちょっと違う寂しそうな笑顔。

私は二人の手を取り、少しだけ移動する。

私が真ん中、卯月が左、未央は右。

私が踊れるのはこの前のライブで目に焼き付けたあのダンス。

昨日の戦いで、戦いの最中に舞ったあのダンスだけ。

私たちは日が沈むまで踊り続けた。

信じられないくらいに息が合い、3人全員の調和が完全に取れたダンスだった。

いつまでも踊っていたいと思ったけど、日が沈むと共に誰がいう事もなく自然に終わる。

未央「……うん! やっぱり思ったとおり私達の相性は最高だったね!」

卯月「……ですね。初めて合わせてこんなに完璧に合うなんて……」

私は二人に向かい合っている。

凛「……楽しかったよ」

ありのままに感じたことを一言だけ。

これ以上は言わない。二人に希望を持たせるようなことはもう言わない。

卯月「私も楽しかったです、ありがとうございました……凛ちゃん」

卯月はもう寂しそうな顔をしていない。割り切った顔をしている。もしかしたらこういう別れを何度も経験しているのかもしれない。

未央「よしっ! 吹っ切れた!」

そういいながら、まだちょっと心残りがあるような顔をしている未央。

未央「しぶりん! これからの私たちを見ててよね? 私たちはぜーったいにトップアイドルになる、日本人なら誰でも私たちを知ってるくらいのアイドルになってやるから!  それで、しぶりんはテレビを見ながら、どうしてあの時アイドルを断ってしまったんだーって後悔させてやるんだからね!」

私に指を刺しながら言い切る未央。

凛「……ん。応援してる」

太陽のように笑う未央。

卯月「凛ちゃん。見ていてください。私たちを応援してくれる凛ちゃんに届くように、私達はどこまでも走り続けます。どこまでもきらきらして素敵なアイドルになってみせますから。……私達、頑張りますからっ!」

胸に手を当て言う卯月。

凛「うん。見続けるよ、二人のことを」

咲きほこる花のように笑う卯月。

最後に二人の笑顔を見れて良かった。

これで、最後、私も笑って二人を見送ろう。

凛「じゃあ……」

未央「うん……」

卯月「はい……」

私たちは同時に。

『さよなら』

別れを告げそれぞれの道を歩み始めた。

私は振り返らない。

これから、私はどこまでも歩き続ける。

どこまでも、どこまでも……。

それから数ヶ月が経過する。

時間はあっという間に流れていった。

数ヶ月の間に変わったこと、それは殆ど無かった。

私の生活の中心はガンツの殺し合いが中心となっている。

数ヶ月、ガンツの狩りはペースが落ちることがなく、今では毎日狩りをしている。

ずっと一人で狩りを続けている。

簡単な狩りもあれば、死ぬ寸前のギリギリの時もあった。

数ヶ月、私はずっと生き残り続け、敵を殺し続けてきた。

すでに100点は9回取っている。

全部2番を選び続けていた。

今の私の装備はかなり充実されたと言ってもいい。

3回目にはスーツの強化、見た目は変わらなかったが身体能力向上や攻撃力、防御力がかなり上昇した。これはかなりありがたかった。特に防御性能が上がって、沢山の敵と戦う場合は目に見えて負担が減った。

4回目はパソコンに新たな機能が加わった。敵の弱点を看破するモード、2回目の点数表示と同じように銃を使って見ることが出来た。これも使える機能だった、だけど点数の高い敵、70点を越えるような奴らには効かない事もあるので信用性はそこまで高くない。

5回目はバイクに飛行ユニットが追加されて、空を飛ぶことが出来るようになった。狩りに転送されてからパソコンにも追加された飛行ユニットというアイコンを起動すると、バイクに飛行ユニットを転送することが可能だった。これを手に入れて、簡単な狩りだと敵に攻撃されず、空から銃を撃つだけで終わってしまった回もあった。

6回目はスーツの超強化、というよりはスーツの上に新たなスーツ、ハードスーツを着れる様になった。これも非常に強力な装備で、30点以下の敵はこのスーツに傷を付けることもできないようなシロモノ。このスーツに付いた武装も凶悪なものが多い。防御力も段違い。でも過信は禁物、70点を越えるような奴らはスーツ無視の攻撃をやってくる奴等が多い、このスーツを着ていても基本初見の攻撃は全部避けなければならない。

7回目は巨大ロボットが手に入った。これもパソコンにアイコンが追加されて、狩り中に転送が可能だった。5回目の飛行ユニットバイクが操縦席になってと6回目のハードスーツから伸びたケーブルを繋ぐことで操作可能な巨大ロボット。これはなんというか、とても使いづらい武器だなと思った。私の狩場は基本的に街中、これを使うと街ごと破壊してしまうから殆ど使っていない。

8回目、巨大ロボットの追加装甲と追加装備。さらに大きくなって、破壊力の高い飛び道具が追加された。巨大ロボット自体の防御力はそこまで高くないけど、この追加装甲でかなり防御力も上がった。はっきり言ってとんでもない兵器だった。これ1機で国とケンカできるくらいの兵器、まあやらないけど。

9回目、ハードスーツの強化。ただでさえ強力なハードスーツの攻撃力と防御力がさらに向上した。それと共に、ネックになっていたハードスーツの大きさも普通のスーツと同じくらいに軽量化されて動きも疎外されない。私の好きな剣も持ちやすい。

そして今回。

『ちーーーーーん』

『それでは ちいてんを はじぬる』

『りんちゃん 47てん』

『Total 115てん 100点めにゅーから選んでください』

凛「2番」

ガンツの部屋で10回目の100点を取っていつものように2番を選択した。

今回の武器を確認しようと、奥の部屋に行こうと思ったが、ガンツに文字が浮かび上がってきているのを見て立ち止まる。

凛「?」

浮かび上がってきた文字、それは。

『10回ぼーなす』

『10回2番を選んでくれたりんちゃんには』

『せいげんじかんとせいげんはんいを無くしてしまいます』

『ひき続き楽しんでくだちい』

凛「……へぇ。時間とエリアの解除か」

おあつらえ向きだと思った。

凛「これからは時間を気にせずゆっくりと戦えるって事だね。ふふっ、ありがとね、ガンツ」

文字が消えて、私はガンツを撫でながら奥の部屋に足を運んだ。

凛「さて、と。今回の追加装備は……おっ、すぐ装備できる感じじゃん」

奥の部屋にはりんちゃんと書かれたケースが一つ。

飛行ユニットとかロボットとかは次の狩りじゃないと使えないから、すぐ試せるものはうれしい。

最近はこの100点追加武器がどんなものなのか試すのも好きだ。

早速ケースを開けると。

凛「……バイザーって言うやつなのかな?」

ケースの中には顔を半分覆い隠すタイプのバイザーが入っていた。

私はハードスーツのヘルメットを外して、顔を出した。

そして、このバイザーを装着する。

凛「あれ? この画面って……」

バイザーの内側から見る視界には、いつも使っている2回目の追加装備のパソコンと同じ画面が小さく浮かび上がっている。

凛「パソコンと連動してるのかな……あれ?」

パソコンの画面が映し出されているのかと思って、パソコンを取り出そうとすると、視界に変化が起きた。

さっきまで小さかったバイザー内の画面が大きく見えるように拡大された。

凛「? これって、一体……」

バイザー内の画面を意識してみる、すると画面に小さく光点が表示される。

凛「ん?」

その光点を意識すると、光点が動く。

それを何度か動かしていると、数個表示されているアイコンを開くことが出来ることに気がつく。

凛「もしかして……」

数個のアイコンのうち、一番よく使う点数表示を起動させてみる。

バイザー内に点数確認画面が表示される。

それを確認して、点数確認画面を消した。

全部手も使わずに意識するだけで行った行動。

凛「これ……考えただけでカーソルが動くし、起動することが出来る……」

これはかなり便利な装備だ。

パソコンはかさ張って片手が塞がってすぐ壊れるけど、これなら手を空けたまま敵の点数を確認したり、弱点を見ることも可能だ。

それに緊急時にロボットを転送することもできる。これは使える、そう思って、他に出来ることが無いかと調べる。

すると、バイザーの内側にパソコンの画面のほかにもう一つ小さな画面があることに気がつく。

そちらに意識を持っていくと、画面が切り替わり、モノクロの画面が大きく表示された。

凛「こっちは何に使うんだろう?」

画面内をよく見てみると、Lock on mode と小さく表示されていることに気がつく。

凛「……ロックオン。もしかして……」

私はガンツの部屋に戻り、銃を一丁持って、ケースに上トリガーを引いてみた。

するとバイザー内のモノクロの画像にケースが赤くロックオンと表示されている。

凛「ロックオンしたターゲットが分かるってことね。まあ、そこそこ使えるかな」

撃ち漏らしがなくなるのが分かる、結構便利だ。

凛「でも、これが意識するだけでロックオンできればもっとやり方が増えたのに…………」

言いながら、少し試していた。

奥の部屋のバイクを何気なくロックオンすると考えながら見てみると、バイクが赤くロックオンと表示された。

凛「……されちゃった」

意識を解除すると、ロックオンも外れる。

凛「……持ち帰って色々試してみよう」

そう考えて、私は新しく手に入れたバイザーを手にガンツの部屋を後にする。

家についてベットに横になりスマホでいつもの日課を行っている。

未央と卯月、ニュージェネレーションズのホームページを見る。

あの公園で別れた日から、私は毎日必ずあの二人の事を調べていた。

あの日から1週間も経たないくらいで、このホームページが出来た。

2人組ユニット、ニュージェネレーションズ。

あの二人は今、芸能界でも注目の新人として売り出されている。

CDにラジオ、テレビにも頻繁に出演していて、最近では一般的にも知名度がかなり上がってきている。

あの二人はあの時私に言ったように、トップアイドルの道を全力で走っている。

私はあの二人が頑張っているところを見るととても嬉しくなる。

CDとかも全部買っているし、ラジオやテレビにでるものは全部録音、録画してみている。

あの二人はこのままトップアイドルになってほしいと心の底から思っている。

凛「明日、ライブか」

ユニットを結成して数回ライブを行っているが、今回は少し大きめの会場でライブをやるみたいだ。

私はライブだけは見に行っていない。

あの二人ともう一度会ってしまったら、また心が揺れ動いてしまうかもしれないと思っているから。

でも、いつかはあの二人のライブに行こうと思っている。

あの二人が誰もが認めるトップアイドルになったその時のライブにだけは行こうと思っている。

凛「明日も、頑張って」

私は明日ライブを行う二人に、届くことの無い激励を呟く。

これが一日の締めくくり。

私はスマホを消して、目を閉じる。

明日は日曜日、夜にはいつものように狩りがあるんだから、夜までバイザーでどんなことが出来るか試していよう。

私はガンツのこととあの二人のことを考えながら、眠りについた。

今日の夢は、あの二人がライブで成功している夢だった。

明日、新宿で行われる、あの二人のライブの夢。

今日はこの辺で。

新宿のライブ会場。

その控え室に二人の少女と、目つきの悪い男性が話をしていた。

P「それでは、ライブの時間まで少しありますので待機をお願いします」

未央「了解! って、ほんとに時間あるね」

卯月「2時間もありますね。どうしますか?」

う~ん、と未央はあごに手を当て悩んでいる。

未央「ちょっと、買い物してきてもいい?」

P「構いませんが、1時間前には戻ってきていただくようにお願いします」

未央「大丈夫大丈夫! すぐ戻るからさー!」

未央は卯月の手を引き、控え室を出て行く。

卯月「あっ、ちょっと待ってください~」

控え室に残されたPは時間を確認し、会場の最終チェックを行うために控え室を離れた。

卯月と未央はライブ会場を出て、新宿の街を歩き始めた。

未央「さーてと、行って来ますかー!」

卯月「何を買いに行くんですか?」

未央「ふっふっふ……実は美嘉ねぇがコラボしているファッションショップがこの近くにあってね。それを見学、そしていい服が合ったら買っちゃおうと思ってね」

卯月「あっ、もしかしてあのショップですか?」

未央「うんうん、しまむーも知ってるよね?」

卯月「はい、アイドルの情報は見逃さないですっ! それが人気のアイドルなら特にですよ」

未央「いい心構えだねー、さすが私と共にトップアイドルになる相方!」

二人は話しながら歩く。

すると前方から歩いてくる大男に未央が気づき声を上げる。

未央「しまむー! 見て見て! 何かすごいのいるよ!!」

卯月「えっ? わぁ……大っきな人ですね~」

ボロボロの学生服から、はち切れんばかりの筋肉が見えている。

老けた顔と着ている服、その巨体、歩くたびに聞える下駄の音。

彼が醸し出す雰囲気もあいまって、彼の周囲は誰も近づくことが出来ない領域が存在していた。

卯月と未央も少し離れて、その男を見続ける。

未央「すっごい筋肉……ありゃ、プロレスラーだね。間違いない」

卯月「いい人そうでしたね~」

未央「……どう見たらあんな熊みたいなのがいい人に見えるのさ?」

卯月「え? 雰囲気ですかね?」

未央「……さいですか」

卯月と未央の傍を、3人の男女が通り過ぎる。

「師匠、これからどーするんですか?」

「だから映画でもいこーや、キミも行きたいよね?」

「えっ? はぁ……」

「映画っスか……」

通り過ぎていった男女には目もくれず、未央は何かを見つけて卯月に声をかけた。

未央「ん? んんん!? ちょいちょい! しまむー!」

卯月「どうしました?」

未央「アレ! あの人! どっかで見たこと無い?」

卯月「えっ? あの帽子を被った女の人……あれ?」

帽子を深く被ってゆったりめの服を着ている女性。

卯月「もしかして、グラビアアイドルのレイカさん?」

未央「間違いないよ! 今人気爆発中のトップアイドルの一人! 346プロじゃないプロダクションのアイドル!」

卯月と共に女性の正体に気づいた未央。

未央「ショッピングはちょっと後回しにしようか、トップアイドルになる為に、トップアイドルのオフを少し調査をしませんかね? 島村君や」

卯月「し、島村君? ……でも、そうですね。出来るなら少しお話を出来たらうれしいですよね!」

未央「うむ! では尾行を開始するよ!」

卯月と未央は女性の後を追いかける。

しばらく、そうやって物陰から女性の後を追いかけていた二人に何かが聞えた。

パンッ。

未央「ん? なんか今、変な音しなかった?」

卯月「変な音? ですか?」

パン、パン、パンッ!

未央「ほら、また」

卯月「あっ、本当ですね」

パンパンパン! パンッ! パパパパ!

未央「なんだろ?」

卯月「なんですかね? あっちのほうで……」

卯月と未央は音のするほうに足を向ける。

少し歩いて、立ち止まる。

未央「な、何? 人が走ってきてるよ?」

卯月「え? えっ?」

大勢の人が叫びながら走ってきている。

その走ってきている人が少しずつ倒れている。

さっきの乾いた音は大きくなっている。

パパパパパパパパパパ!

二人は見た。

走ってきている人の頭から血が噴出す瞬間を。

未央「ひっ!?」

卯月「な、なにが!?」

何が起きているかは分かっていない。

だけど、ここにいてはいけない。

それだけは理解できて、卯月と未央は逆方向に走り始める。

卯月「はぁっ! み、未央、ちゃんっ! ど、どうしま、しょう?」

未央「に、逃げるよ! なんか分かんないけど、絶対にやばい! 早く逃げないと!」

タタタタタタタ!

二人は走り続ける。

後ろから音が聞こえる。

振り向かずに必死に走り続ける。

「きゃぁっ!」

近くで女性の叫びが上がる。

さっきまで追いかけていた女性。

その女性が腹部から血を流して倒れこんでいた。

卯月「あっ!」

未央「し、しまむー! 止まったら駄目! 走って!」

卯月「でっ、でもっ……」

未央「しま……」

立ち止まってしまった卯月を見る未央。

振り向く形で見た未央の視界に、後ろから黒い何かを卯月に向けている男の姿が映りこむ。

未央は、咄嗟に卯月を突き飛ばした。

卯月の体は未央によってぐらりと揺れる。

その結果、男と未央の前に何も遮るものはなくなり。

未央の体に数回大きな衝撃が襲った。

未央「あづっ! うっ! ぐっ!」

そのまま未央は数歩後退し、道路に倒れてしまった。

その腹部から真っ赤な血を流しながら。

卯月「あぅっ……あ、あれっ? 未央ちゃん?」

未央に突き飛ばされて、倒れていた卯月は同じように倒れている未央を見てしまう。

卯月「え、えっ? な、なんですか? なんで、あれ? 未央ちゃん?」

血に濡れた未央を見て頭が真っ白になる卯月。

未央「ごほっ……し、まむー……にげ、て……」

未央の声に反応して顔を見るが、未央の口から血が溢れていた。

卯月「あ……あれ? ……赤いのが……」

未央に駆け寄って、未央の体を抱き起こして卯月は顔を青くする。

未央のお腹から血が溢れ続けている。

卯月「だ、駄目っ、駄目ですっ、止まって、止まってよぉ!」

必死に血を止めようと傷口を押さえる卯月だったが、卯月の手は溢れ続ける未央の血で赤く染まる。

未央「はやく……にげて……」

未央はもう悟っていた。

自分が助からないことを。

何が起きたのかはよくわからない。

だけど、自分は撃たれたみたいだ。

そして、自分を撃った男は、卯月のすぐ後ろにいる。

一刻も早く卯月に逃げて貰いたかった。

だけど、卯月は逃げる事をせずに自分の傷を抑えようと必死になっている。

未央「は、やく、お願い……」

卯月「止まって! 止まってぇ!!」

未央の目にさっきの男が再び銃を構える姿が見えた。

未央は最後の力を振り絞って、起き上がり、卯月に覆いかぶさるように抱きつく。

パンッ、パンッ。

また衝撃を感じた。

背中に二回。

口から大量の血があふれ出した。

卯月「み、お、ちゃん……?」

未央「ごぽっ」

――ああ、私死ぬんだ。

――しまむー、そんな顔しないでよ。

――私たちは笑顔が取り柄だし、笑顔を振りまかないとアイドルは務まらないぞ?

――だから、笑お。

――笑って、トップアイドルになって、私たちの活躍を、しぶ……。



パンッ!

卯月の目に映っていたのは、最後まで笑顔だった未央。

笑顔のまま、頭から血を噴き出して崩れ落ちた未央。

卯月「…………あ」

目を見開いて崩れ落ちた未央を見続ける卯月。

卯月「みお、ちゃん」

未央の体を揺さぶるが反応は無かった。

卯月は見てしまった、頭では理解してしまった。

未央が死んでしまったのだと。

卯月「あ、びょういん、みおちゃんをびょういんに」

何を思ったか、卯月は未央を病院につれて行こうと考えた。

病院に行けば、医者に見てもらえば未央は治ると考えて。

卯月は未央の体を抱る為に、未央を背負って立ち上がる。

それと同時に、卯月の隣を、大きな大男が通り過ぎる。

死体を盾に、銃を乱射する男に近づいていく大男。

卯月の背後で乾いた音が鳴り続ける。

だけど、卯月は振り向くことはなく、未央を背負って覚束ない足取りで歩き始めた。

卯月「みおちゃん。すぐにわたしがつれていきますから」

卯月「ちょっとだけがまんしててください」

ふらふらと卯月は歩き続ける。もう動くことの無い未央を背負って。

卯月は病院を探しながら歩く。

卯月「どこ? びょういん、どこですか?」

バランスを崩しながらも歩き続ける。

その卯月に、声がかけられた。

「だ、大丈夫!? うっ!?」

「おいッ、どーし……ンだ、これ……」

卯月は声に反応して顔を上げる。

そして、聞く。

卯月「あの、びょういん、どこですか? はやくいかないと、みおちゃんが」

「びょ、病院って……もう、その子……」

「マジ、かよ……」

卯月は目の前の二人は病院の場所を知らないのだと思い、また歩く。

「ちょ、ちょっと待って! 君っ!」

パンッ!

「!?」

乾いた音が後ろで聞える。

「痛ッてェ~~~~……」

「し、師匠、今、もしかして……」

何かが聞えるが、気にせずに歩く。

未央を早く、一刻も早く病院に連れて行かないと、そう考えながら。

卯月「すぐにつれていってあげますからね」

卯月「びょういんにいけばみおちゃんはなおっちゃうんです」

卯月「そしたらすぐらいぶかいじょうまではしって」

卯月「ぷろでゅーさーさんにおそいですよってすこしおこられて」

卯月「きょうのらいぶをだいせいこうにして」

卯月「つぎのらいぶも、そのつぎも、ずっといっしょに」

ぶつぶつと呟きながら歩き続ける卯月。

卯月の背後から聞えていた乾いた破裂音は静かになっていた。

だが、再び破裂音が聞えた。

卯月は何か重いものが衝突したかのような衝撃と共に、その場に倒れてしまう。

卯月「あっ!? ご、ごめんなさい、みおちゃん!」

倒れた衝撃で背負った未央は地面に吸い込まれる。

そのまま未央に駆け寄ろうとした卯月に数度の衝撃が訪れた。

パンッ! パンッ!

卯月「あうっ!?」

胸にとてつもなく熱いなにかがある。

自分の胸に触れた卯月は胸から真っ赤な血が噴き出していることに気がつく。

卯月「げぽっ……」

そしてそのまま崩れ落ちて、道路に頭を打ち付けた。

意識が朦朧とするなか、卯月は未央の姿を見た。

――未央ちゃん。

――待っててくださいね。

――私すぐ、病院に連れて行ってあげますから。

――病院でお医者さんに見てもらえばすぐ治っちゃいますから。

――そしたらまた一緒にライブをして。

――ずっと一緒にアイドル活動を続けて。

――そしていつかトップアイドルになって、りん……



パンッ!











ジジジジジジジジジジ…………。

ジジジジジ……。

ジジッ。

日常 + 新宿大虐殺編 お終い。

今日はこの辺で。

くろのくんはタエちゃんとヨロシクやってます。

6.吸血鬼編


夜。

私の時間。

私は前回手に入れたバイザーを装着して、木の上で狩りの時間を待ち続けている。

このバイザーのロックオンモード、これはかなりとんでもないシロモノだった。

ロックオンしたいものを見て、ロックオンをすると考える。

そして、その後にハードスーツのケーブルに装着した銃を使うと当たる。

デカ銃も、Y銃も、小銃も、全部使える。

ハードスーツの機能の一つの、手から出すビームも対象に入っている。

これがあれば、見るだけでロックオンが出来て銃口を向けていなくても当てることが出来る。

見て考える動作だけで使用できるのは今後の戦いでかなり頻繁に使うことになるだろう。

そうやっていると、ゾクリと寒気が襲い、私は転送され始める。

さて、今日もお楽しみの時間。

新しいオモチャの性能を試しつつ、油断することなく敵を狩りつくす。

今回からは時間も、範囲も無し。

ま、今までも時間内や範囲外にしたことなんて…………一回だけ逃げられたね。

私の視界は切り替わり、完全に転送が完了した。

凛「ん?」

転送された私が見るのは見慣れたガンツ。

だけど、違和感があった。

数字がすでに表示されている。

『05:13:42』

しかも数字のカウントは止まっている。

凛「……あれ? 銃が何丁か無くなっている?」

銃身の長い銃、小さい銃が無い。

いつもは狩りが始まるときにいつの間にか全部そろっていて、綺麗に整理されているのに。

凛「? スーツのケースも何個か、開いてる? ……誰かいたの?」

開かれたケース、明らかに誰かが持って行っている。

私が転送される前に誰かがこの部屋にいた?

こんな事は今まで無かったのに、一体……?

『りんちゃんに おねがいがあります』

いつの間にか、表示が変わっている。

凛「? お願い?」

『ヤッける方をヤッけたのに らん入されてこまつてます』

凛「らん入? どういうこと?」

『りんちゃんには この方をヤッけてきてもらいたいのだす』

いつもの獲物の情報が表示された。

『なのましん星人』

『特徴 つよい はやい かしこい』

『好きなもの タバコ かくとうぎ』

凛「…………人間じゃん」

画像には金髪の、ホスト風って言うのかな? そんな整った顔の男の人。

なのましん星人って書いてあるから、宇宙人だとは思うけど……。

『よろしくおねがいします』

凛「……最初は様子を見るよ?」

表示が消えて私の転送が始まったようだ。

すぐに奥の部屋からバイクとデカ銃を持って、転送されるまで待機。

バイクは1台しかなかった。やっぱり誰かが持って行っている。

そう考えていると、ガンツの部屋から人の声が聞こえた。

「やった!! 帰れる!!」

凛「!?」

男の人の声を聞いて、私は転送された。

転送された先には、恐竜の死体が沢山転がっていた。

凛「……やっぱり先に誰かがやっていたみたいだね。さっき聞こえた声の人が、コイツらを殺したのかな?」

レーダーで敵の位置を確認する。少し離れている、敵は4体。

私はスーツの力を解放してバイクを上空に放り投げて一蹴りで空を駆け上がる、レーダーが指し示す場所の上空でバイザーの思考操作を行い、空中でバイクに飛行ユニットを転送して飛行バイクに乗り込んだ。

凛「見えた。ターゲットは…………やっぱり人間の見た目…………」

画像の奴は……スーツを着たおじさんを切りつけようとしている。

凛「っ! 斬られた……」

肩口を斬られてしまった、あれではもう……。

他の3体を見ると、1体は人の死体に何かをしている。

よく見ると血を飲んでいる……。

確定、こいつらは敵だ。

凛「よし、殺そう」

4匹全て殺すことが確定して、私は残りの2匹を見る。

何かを追いかけているようだった。

追いかけている、その先には……。

凛「女の子?」

後姿が見えた。

ドクン。

凛「えっ?」

二人の女の子が逃げている。

ドクン、ドクン!

見覚えのあるその姿。

凛「な、何? 違うでしょ?」

ドクン、ドクン、ドクン!

その女の子達に2匹は銃を向けている。

ドクンッ!!

凛「うあああああああああああああああああああ!!」

空中でバイクを足場に、私は2匹に超高速で跳びかかる。

「あ?」

「何だ?」

振り向いてくる2匹の上空から頭を掴み、そのまま地面に叩きつけ、頭を潰した。

私は、振り向いて女の子達を見る。

凛「あ、あああ、そ、んな……」

女の子達は倒れていた。

背中から血を流してうつ伏せに倒れている。

私は女の子達に近づき、その顔を見ようと、体に手をかける。

そのときだった、女の子二人は頭半分が消えるように転送されていたのだ。

そして、その顔を見た私は完全に固まってしまった。

凛「どうして……未央……卯月……」

二人は転送されていった。

つまりガンツの部屋に転送されてしまったという事だ。

二人は死んで、あの部屋に行ってしまった。

あの二人がガンツの部屋で生き残ることが出来るの?

無理。あの二人が戦えるわけが無い。

そうなるとあの二人は死を待つだけになってしまう。

「何だテメー? って、オイオイオイ、マジかよ!? あの二人が殺られちまったのか!?」

声の方向に振り向く。

外国人のような顔の黒い縮れ毛の男。

「信じらんねー!! テメー何モンだ!?」

そうだ、こいつらがあの二人を殺した。

久しぶりに感じる、私の心の奥底から湧き上がってくるドス黒い感情。

凛「殺す」

バイザー内でロックオンを完了、全ての武装から銃撃を発生させた。

ギョーン! パアッ! ギュン! ギョーン! パァッ! ドンッ!

だけど、当たったのは2発。

ロックオンをしていたのに避けられていた、何かを投げてきて当たる前に防がれた。

だけど、2発当てた。

私の前には足が吹き飛んで、ワイヤーで拘束されている敵の姿。

「クッ!? ンだよ、これは……何をしやがッた……テメ…………」

剣で首をはねてデカ銃で体を押しつぶす。

他の2匹の体も同じように押しつぶす。

後1匹。

私はガンツの画像の敵を殺すために、さっき敵を発見した位置に移動した。

「誰だおまえ?」

金髪の敵を見つけた。

ロックオン完了、死ね。

ギョーン! パアッ! ギュン! ギョーン! パァッ! ドンッ!

「何!?」

……全部避けられた。

とんでもない速さ、しかもロックオンをしたのに避けられた?

「おまえ、何なんだ? 見たところ奴等の仲間みてーだが」

まあ、いい。

避けるんだったら、避けられないくらい撃ち続けてやればいいだけの話。

バイザー内でロックオンをかけて、手元で銃を撃つ、避けられる。ハードスーツの掌から放つ、避けられる。何度も撃ち続けるが、避けられる。

「チッ」

何発かは掠っている、敵の着ている服はボロボロになってきている。

だけど直撃がさせられない。

そうしているうちに、敵は私の懐に入ってきて刀を下段から振り上げた。

反応できない速さじゃなかったけど、ロックオンをする為、思考に比重を傾けすぎたせいか、反応が一瞬遅れてバイザーを吹き飛ばされる。

「女かよ、しかもまだガキじゃねーか……」

敵は高速で動きながら私を斬りつけて来る。

「その服もあの服と構造は同じなんだろ?」

ハードスーツのレンズ部分を集中的に突いてくる。

数回攻撃されて、ハードスーツの右腕から、ドロリと液体が漏れ出して機能が停止した。

凛「!?」

初めてだった。

スーツを貫通する攻撃で破壊されるのじゃなくて、スーツの一部分のみを破壊されるのは。

私は右腕の部分をパージして、考える。

凛(コイツ、強い。しかもこのスーツのことを知っている、壊し方を知っている)

スーツに仕込んだ剣を取り出し、両手に持つ。

「剣か? もう銃で狙うのは諦めるのか?」

完全に楽観視していた。

ロックオンしてしまえば避けることは出来ない、そう思い込んでいた。

ロックオンが通じない相手もいるのだと考えを改める。

剣を両手に構え集中する。

「どーでもいいか。どうせ殺すんだからな」

凛「死ぬのはアンタだ」

「フン、ようやく喋ったか」

同時に私に斬りかかってきた。

高速の斬撃。それを最小の動作で弾いて防ぐ、もう片方の剣で袈裟懸けに切り裂くが避けられた。

「やるじゃねーか」

今度は私から攻撃、右の剣での打ち下ろしの一撃。

それも避けられるが、同時に左の剣で横一閃の一撃。

ギリギリで飛んでかわされる。

そうやって攻防が続く、攻撃しては避けられ、攻撃をされて防ぐ、決め手にかける戦いが永遠に続くかと思われたが、数十回を越える交錯で、私は次の一手を放った。

右の剣を振りぬく、ここまでは同じ。

避けられる、これも同じ。

左の剣、ハードスーツの力を加えて振りぬく。

さっきまではハードスーツの力を使わずに攻撃していた。

だけど、この攻撃は正真正銘全開の攻撃。

速度は先ほどとは比べ物にならないくらいの速度。

「なッ!? にィ!!」

敵の右腕を刀ごと斬り飛ばした。

敵は腕を押さえながら大きく飛び上がった。

私は追撃の姿勢を取るが、敵は左腕に銃を生み出して牽制してくる。

銃の玉を避けて、敵を追おうとするが、敵はさらに大きく飛び上がり建物の上に乗り、そのまま姿をくらませる。

凛「……」

逃げた。自分が不利と判断した瞬間、逃げの一手を取った。

潔いくらいの判断、あの速さだともうエリア外まで逃げているだろう。

やっぱりガンツのことを知っている。スーツのこともそうだし、多分エリア外にいけないっていう事も知っているんだと思う。

普通なら逃げられてしまっただろう。前回までなら……。

私は落ちたバイザーを再び装着し、レーダーを起動した。

反応は……あった。

足に力を込める。ハードスーツの力を解放する。

私は一蹴りで空高く舞い上がり、夜の闇に消えた敵を探す。

レーダーを見ながら跳躍。

一回跳躍するごとに、大きく距離が縮まる。

1度、2度、3度、4度目で、私の視界に敵の姿が映った。

元の場所から30キロ近く離れたビルの屋上。

奴は傷口を縛ろうと、服を破っていた。

私は5度目の踏み込みで奴に超高速で接近し。

驚愕の顔を作った奴の胴体を真っ二つに切り飛ばした。

「グハッ!? 馬鹿、な…………何故…………」

半分になった下半身をロックオンしてバラバラに吹き飛ばしながら、左腕で奴の頭を掴んで奴の問いに答えた。

凛「私から逃げられると思ってんの?」

そのまま、左腕の掌から光線を発生させて奴の頭を吹き飛ばした。

数度それを繰り返し、奴の上半身は完全に消滅した。

念のため、周囲を警戒して、私は転送の時を待った。

警戒も続けていたが、私の思考は未央と卯月のことで殆ど占められていた。

あの二人はガンツに転送されていた。

これからガンツの部屋でゲームをしなければいけない。

私がついていれば、守ってあげることも出来るけど、私は一人。

どうすればいい……。どうすれば……。

考えながらやがて私はガンツの部屋に戻された。

ガンツの部屋でまず聞えてきたのは、男達が争う声。

どういうこと? 何で私以外の人間が?

そう思って、一体誰がいるのかと目を動かす。

そこには、玄野の姿。

久しぶりに見る、チビの時まで一緒に狩りをしていた玄野。

玄野はスーツを着た長身の男……あれは和泉って人だっけ? を掴みかかっていた。

和泉「ガンツ、もういい。さっさと採点を始めろ。これ以上待っても時間の無駄だ」

玄野「和泉!! テメェ!!」

「玄野君。お、落ち着いて」

玄野を止めるように、さっき斬られていたおじさんが和泉との間に割って入っている。

「ん? 一人、出てきたぞ」

玄野「え?」

和泉「……誰だ?」

転送が完了した私を部屋にいる全員が見ている。

その中の二人の姿を見て私の胸が締め付けられた。

「なんだこいつ……メチャクチャSFチックな格好してんぞ……」

「あなたは一体? さっきいなかったよね?」

サングラスをかけた人と、スーツを着た女の人が声をかけてくるけど、私は部屋にいる二人の前まで近づく。

二人は私が近づくと体を震わせて、お互い寄り添うように手を繋いでいる。

私が近づいた二人。

未央と卯月は真っ白な顔で震え続けていた。

私はバイザーを外して、二人に顔を見せる。

卯月「えっ!? り、凛、ちゃんですか?」

未央「し、しぶ、りん?」

二人は私の顔を見て目を見開いている。

凛「未央……卯月……」

やっぱりあの時見たのは二人だった。

そして、これから二人は……。

『ちーーーーーん』

『それでは ちいてんを はじぬる』

「は? ちいてん?」

採点が始まった。

採点が終わってから、全部を話そう。

凛「二人とも、少しだけ待ってて。この採点が終わったら二人にこの部屋のことを説明するから……」

卯月「は、はい……」

未央「う、うん」

採点は進んでいる。

その間、玄野が私に近づいてきて話しかけてきた。

玄野「おまえ、渋谷だよな……? おまえ、一体どこにいたんだ? それに、その姿は……」

凛「後で説明する。少し待ってて」

玄野「あ、ああ……」

採点は進む。

『和泉くん 16てん』

『Total 16てん あと84てんでおわり』

「おおっ!? すげえ!!」

「16点って……この人……」

和泉はガンツを見て満足そうにしている。

『くろの 38てん』

『Total 86てん あと14てんでおわり』

「おおーッ!! やるねー!!」

「すげぇ! さすがリーダー!! 後ちょっとじゃないっすか!!」

玄野「ちょ、ちょっと、リーダーって、やめてくれよ」

これで私以外の全員が終わった。

後は私。

『りんちゃん 155てん』

『Total 170てん 100点めにゅーから選んでください』

「は、はぁぁぁぁぁぁ!? 何だコレ!? 155点!?」

「な、なんなんですかね? この人、リーダーの知り合いみたいですけど」

未央「し、しぶりん? こ、これって、何なの?」

卯月「り、凛ちゃん……」

100点、よし。

凛「ガンツ! 交渉させて!」

玄野「ど、どーしたんだ?」

凛「私の全部の点数を使って、未央と卯月をすぐ解放してほしい!」

未央「えっ? な、何? 私達?」

卯月「な、何を?」

凛「点数が足りなかったら次稼いだ分も全部無しでいい! だからお願い! この二人を解放してあげて!!」

ガンツは何の反応も示さない。

凛「ガンツ!! お願い!!」

しばらく待つが何もおきない。

二人とも、いや部屋の全員が私を怪訝そうな顔で見ている。

和泉「……早くしろ。くだらない事で時間を取らせるな」

凛「っ!」

私は和泉を睨みつける。

玄野「な、なあ、前もそうだったけど、その100点メニューって何なんだ?」

玄野が私に聞いてくる。

これ以上は待っても無駄だと判断して、私はいつものように2番を選ぶことにした。

凛「100点メニュー、ご覧の通りだよ」

玄野「……メモリー? 再生? な、なんだ、これ……」

内容を全員に見せて、私は選ぶ。

凛「2番」

「えっ?」

「2番って……」

私の発言に何人かが驚いている。

私が選んだと同時に、ガンツに文字が浮かび上がった。

『つぎも一人でやりますか?』

凛「っ!!」

和泉「……一人?」

これは、まさか……。

私はまだ震えている二人を見て、その後ガンツに触れながら言う。

凛「次から一人は終わりで……この二人と、未央と卯月と一緒にさせて」

『わかりました』

その文字が浮かび、消えてからはもう何も浮かび上がることが無かった。

よかった。これで二人を守ることが出来る……。

ほっと一息をついて、私はやっと緊張を解いた。

まだ考えることはあるが、今はこれでいい。

次から、敵を殺さずに、瀕死の状態にさせて、動けなくする。

そして、二人に瀕死の敵を撃ってもらい点数を分け与える。

二人が100点を取るまでそれを続ければ大丈夫。

二人は解放されて、ここの記憶もなくなるから全部が元通り。

凛「ふぅ……」

私は不安で一杯の二人の視線を受けながら、二人にこの部屋のことを説明し始めた。

この辺で。

凛「お待たせ、未央、卯月。それじゃ、説明するよ」

卯月「は、はい……」

未央「う、うん」

凛「まず、二人は死んでない。これを受け止めて、さっき撃たれて死にかけてたけど、ガンツが二人を助けてくれた」

未央「死んでない……やっぱり、生きてるの?」

卯月「ガンツ、ですか?」

凛「そう、その黒い玉がガンツ。二人ともまだ生きてる、そしてこれから二人はこの部屋で何回かゲームをしなければいけない」

未央「ゲーム?」

凛「ガンツが指定する敵を狩るゲーム。多分2回か3回……ううん、二人だからもう少しかかるかもしれないけど、そのゲームで100点を取れば二人はこの部屋から出ることが出来る」

卯月「よ、よくわからないです」

凛「それじゃあ、これを見て。……ガンツ、100点メニューを出してもらえるかな?」

ガンツに100点メニューが表示された。

凛「この1番。記憶を消されて解放されるって言うのがそう。二人にはこれを選んでこの部屋から出てもらう」

未央「100点……」

卯月「ゲーム……」

玄野「な、なァ、このメモリーってやつだけどさ、これはどーいう事なんだ?」

今まで全員が黙って聞いていたが、玄野が3番について聞いてきた。

凛「……確か死んだ人のこと、ガンツ、メモリーの人間を表示させて」

ガンツの表示が変化する。

沢山の画像。今まで死んだ人たちの画像。

玄野「……加藤、岸本、それに……」

玄野はその画像を見てガンツに触れている。

話を戻そう。

凛「ごめん。話がそれた、二人はこれから何回かゲームをしないといけない、だけど安心して。私が二人を守るから、二人は私が動けなくした敵にトドメを刺して点数を稼げばすぐに100点になってこの部屋から出ることが出来るからさ」

卯月「え、えと、はい……」

未央「わ、分かんないけど、わかった……」

明らかに混乱している。

それもそうだろう、死にかけてすぐ現状を理解できるわけが無い。

これから落ち着いて、この状況を受け止めれるようになったらもっと詳しく話してあげればいい。

とりあえずは、二人を守る。

この後の数回の狩りは二人を守って、二人に点数を分ける。

話に一区切りがついたと同時に、部屋にいる何人かから私に質問があった。

「ち、ちょっといいかな?」

茶色がかった髪の少年だった。

凛「?」

「え、えっと、君って一体何者? リーダーの知り合いっぽいけど……」

凛「私? 私は渋谷凛、リーダーって誰?」

桜井「あッ、俺は桜井弘斗。リーダーは玄野さんの事だけど……」

凛「玄野?」

私は玄野を見ると、玄野は少し戸惑った顔をしている。

玄野「だから、そのリーダーってやめろっつの」

桜井「何言ってんですか! 玄野さんがいなかったら俺らあの首の長い恐竜にやられちゃってましたよ!」

「う、うん。あたしもそう思う」

よくわからないけど、玄野はこの人たちに信頼されているみたいだ。

凛「玄野とは前まで一緒にこの部屋のゲームをしてただけ。最近はずっと一人でゲームをしてる、玄野との関係はそれくらいかな」

桜井「あっ、そうなんだ」

それで納得した桜井という少年、次は変わるようにまた玄野が聞いてくる。

玄野「ん? 一人でってどーいうことだ?」

凛「一人は一人だけど。チビの狩りの後から私は一人で狩りをしてた。アンタもこの人たちと一緒に毎日狩りしてたんじゃないの?」

玄野「は? チビの後って……今日がそれなんだけど……」

凛「? 毎日やってたんじゃないの?」

玄野「毎日? 何言ってんだ?」

少し話がかみ合わない。

凛「私はアンタと別で狩りを初めてこの数ヶ月毎日狩りをしてる。アンタ達もそうなんじゃないの?」

玄野「はァ? 俺、チビの次ってのは今日だし、この人たちは今日が初めての人たちだぞ?」

凛「……え?」

玄野の言葉が本当なら、玄野はこの数ヶ月狩をせずに過ごしてきたという事になる。

その分を全部私に廻してくれたのかな?

私にとっては願っても無いことだったけど、何でそんな事をしてるのか。

……考えてもわからない。ガンツってたまに突飛な事をするし、今回みたいに。

凛「……そっか。多分だけど、私とアンタは今まで完全に別行動だったみたいだね。私はこの数ヶ月ずっと毎日狩りをしてた、でもアンタはそうじゃないんでしょ?」

玄野「あ、ああ……つーか、おまえ、毎日って……」

凛「次はどうなるか分からないけど、アンタはアンタで頑張って。私たちは私たちでやらせてもらうから」

そう、ガンツは次私を二人と一緒にしてくれるって言っていた。

それなら、玄野とはまたこれで別行動になると思う。

さっき点数を見たけど、玄野も次かその次で100点。

玄野は1を選ぶだろうし、もうこれでお別れ。

特に言う事は無い。

玄野「ま、待てよ! まだ聞くことあるぞ!」

凛「何?」

何だろうか? まあ、知っていることなら話してもいいし、この人たちも次があるんだから情報は渡しておこう。それが生き残るために重要な物になるのだから。

玄野「お前のその格好、何だよそれ! 見たことも無いデカイ銃持ってるし、さっき顔になんか着けてたよな? それにそのスーツも普通のと違うよな?」

凛「全部100点武器、この銃はターゲットを押しつぶす銃。1回目の報酬。スーツは6回目に手に入れた通常スーツより強力なハードスーツの強化バージョン。9回目の報酬。こっちのバイザーはパソコン連動、ロックオン機能、思考制御で動かせる補助アイテム。10回目の報酬」

玄野「……100点武器? つーかちょっと待て……お前最後なんて言った? 10回って言ったか?」

凛「うん」

玄野「……お前、もしかして100点を10回取ったの?」

凛「今日で11回目」

玄野「…………なんでこの部屋にまだいんの?」

凛「? 前に言ったでしょ?」

玄野「………………やっぱお前、頭おかしーだろ」

玄野の言い草にカチンとくる。

自分がおかしいのは自覚してるけど、人に言われるとムカつく。

凛「……それ以外に質問は?」

玄野「まだまだ聞かせてくれ」

凛「わかった」

それから玄野の質問に答え続けた。

100点武器の内容。

玄野との別の狩りの詳細。

この部屋の武器について。

この部屋のこと。

他にも色々と。

私は西から聞いたことや、この数ヶ月で気付いたことを含めて、玄野に全てを話した。

凛「他にある?」

玄野「……いや、今思いつくのはこれくらいか」

凛「そっか。他に無いならもう私たちは帰るけど」

玄野「あ、連絡先、教えてくれよ」

凛「……なんで?」

玄野「また知りたいこと出来たら聞きたい。頼む」

凛「……」

ま、いいか。

情報を隠すつもりも無いし、生き延びる確率が上がるんだから知ってもらえることは知ってもらったほうがいい。

凛「はい」

スマホを取り出して玄野に見せる。

それを登録している玄野。その間に私はサングラスをかけた人に質問を受けた。

「質問いーかな?」

凛「いいよ」

「この部屋に来る女の子って顔で選ばれるワケ?」

凛「……は?」

よくわからない質問を受けた。

凛「良くわからないんだけど?」

「そッか、イヤ、いいよ。ごめんな」

桜井「師匠……何言ってんですか……」

「イヤイヤ、あの子もカワイイし、みんなカワイイだろ? だから……」

とりあえず情報を聞きたいみたいじゃ無さそうだ。

玄野は私の携帯番号を登録して、私にスマホを返して来た。

凛「もういいかな?」

玄野「ああ」

凛「じゃ、私達はこれで帰るね」

私は未央と卯月の手を取り、立ち上がらせる。

凛「立てる? もう帰れるから、家まで送るよ」

卯月「え、あっ、はい」

未央「う、うん」

二人は私の手を取り、よろけながら立ち上がる。

危なっかしい、絶対に家まで連れて行かないと。

玄野「ちょ、ちょっと待ってくれ。お前も少し俺の話を聞いてくれよ」

凛「何?」

玄野「これからの事だ。俺達は100点を採るまで凄惨なミッションを繰り返して生き残らないといけない……」

凛「……」

玄野は全員を見ながら話している。

玄野「今までやったこと無かったけど、ここにいる全員が生き残る確率を上げる方法があるはずだ」

玄野に誰かの姿が重なるように見えた。

玄野「できるだけミッションの無い間も集まって情報交換をしよう。そして次のミッションも全員で生き残るんだ」

……何かあったのかな?

前に見たときと雰囲気が違う。

全員、玄野を見て相槌をうったり、ただ見ていたりと様々だったが、今この部屋の中心は間違いなく玄野だった。

玄野の提案に乗ってあげてもいい。

私も知り合いが死ぬのは気分がいいものじゃないし、何も知らずに死んでいく人は少ないほうがいいと思う。

この人たちの次の狩りまでに、情報を渡せるだけ渡しておこう。

凛「いいよ。集まるときは連絡を頂戴」

玄野「……ああ」

凛「それじゃ……行こう、未央、卯月」

未央「う、うん」

卯月「は、はい……」

私たちは部屋を後にする。

部屋を出る寸前で、和泉と目が合う。

嫌な感じの目だ。だけど私はそれを流し部屋を後にする。

私の手には二人が強く握ってくる感触が伝わっている。

少しは顔色が戻っているが、やっぱりまだ無理をしている。

今日は早く家に帰してあげて寝かせよう。

凛「二人とも、私に捕まって」

卯月・未央「え?」

私は二人を抱きかかえて、跳躍の準備をする。

凛「二人の家、教えてもらえる? 送るから」

卯月「えっ? えっと」

未央「わ、私の家は……」

卯月の家のほうが近いみたいだ。

私はしっかりと二人の腰を支え、二人には私の首に腕をまわしてもらう。

凛「じゃあ、飛ぶよ。ちょっとだけ我慢してて」

そのまま踏み込んで私は夜空を舞った。

卯月・未央「き、きゃあああああああああああああああ!?」

二人の叫び声を聞きながら、必死にしがみ付いてくる二人を支えながら、月明かりが照らす夜の街を翔び続けた。

この辺で。

次の日、放課後。

あの後二人を家に送り届けて、念のためにガンツの部屋のことは口外しないように言っておいた。

そして、今日学校が終わったら私の家に来てもらうようにも言った。

いつもと同じなら、今日の夜、狩りがあるはずだから。

狩りの時間まで二人に色々と話をしてあげよう。

一日経って、大分落ち着いたと思うし。

私は家に帰る為に足早に教室を出て、家に帰る。

その帰る途中、学校の近くの公園で私はあの二人を見つけた。

凛「あ……」

未央「あっ、しぶりん……」

卯月「凛ちゃん……」

二人は私服だった。

そして私を見て戸惑った顔をしている。

未央「や、やあやあ! 久しぶりだねしぶりん!」

凛「久しぶりって……?」

卯月「あ、あのっ! 凛ちゃん、ちょっと変な話をしてもいいですか?」

凛「変な話?」

未央「そうそう、実はね、私達昨日同じ夢を見てさー、凄い怖い夢だったんだけど、その夢にしぶりんが出てきてね」

凛「あ……」

卯月「朝、未央ちゃんと電話して、あまりにも同じ内容だったんで今日はずっとその話をしていたんです。それで、夢の中で凛ちゃんが今日家に来てほしいって言ってたのを私達覚えてて、それで……」

夢だと思ったってことね。

未央「あははー、何言ってるんだって思われるかも知れないけど、あまりにもリアルで…………」

凛「夢じゃないよ」

卯月「うっ……」

凛「昨日のことは夢じゃない、あれは現実、二人はガンツの部屋に来てしまったんだよ」

未央「あ、う……」

ここで夢だって言うのは簡単だけど、これから二人には何回かゲームをやってもらわないといけない。

全部夢だったという誤魔化しは出来ないだろうし、大分落ち着いている今現状を理解してもらう。

凛「とりあえず、私の家に行こうか。そこで話そう」

卯月「は、はい」

未央「うん……」

私たちは公園を出て、家まで歩く。

家に着いた私たち、二人を私の部屋に通して、少し待ってもらう。

私は部屋を出て、お茶とお菓子を用意して部屋に戻り、部屋のテーブルに置いた。

凛「気分が落ち着くハーブティ、いい香りでしょ?」

卯月「あ、本当ですね、いい香りです」

未央「うん、本当だ……」

しばしのティータイム。

とりあえずはリラックスしながら、ゆっくりと本題に入ろう。

半分くらいお茶を飲み終えたところで私は切り出した。

凛「それじゃあ、さっきの続き」

二人の表情が強張った。でも、さっきよりは大分いい。

凛「あの部屋のことだけど、昨日のことは全部現実。あの部屋で私が話したこと、覚えてる?」

卯月「は、はい。確か死にそうになった人が集められてゲームをするんですよね?」

凛「うん。それで100点になったらゲームクリア、あの部屋のことは忘れて元の生活に戻れるよ」

未央「……ゲームってさ、狩りって言っていたけど、あんな恐竜を毎回やっつけないといけないの?」

凛「恐竜?」

何のこと?

……あ、そういえば昨日転送されたところに恐竜の死体があった。

あれ? でも、あの時二人はまだゲームをしていなかったんじゃ……。

あのなのましん星人とか言う奴等に殺されかけて、ガンツの部屋に来たんじゃ……?

凛「ちょっと整理させて。二人はさ、昨日ガンツの部屋に来る前と来た後の状況を覚えてる?」

卯月「え、えと……私達、新宿で、あの、あ、あのとき、う、うあ、あぁぁ……」

やばい。卯月の目がおかしくなっている。

ハイライトが消えて瞳孔が開いている。

凛「ゴメン、卯月、息を大きく吸って、吐いて、繰り返して」

卯月の背中をさすりながら落ち着かせる。

しばらくはその状態が続いたけど、やがて卯月は平静な状態に戻ってくれた。

卯月「あ、ごめんなさい……私……」

凛「こっちこそゴメン、無理に思い出そうとしないで」

これは一刻も早く100点を取ってもらって記憶を消してもらわないと。

こういうのはずっと引きずったりするだろうから。

とりあえずは、新宿で二人に何かあった。後であの日新宿で何があったのか調べよう。

未央「あ、その、さ。私達、これからどうなっちゃうの……?」

凛「どうもならない。私が二人を守る、そして二人はすぐにあの部屋から解放される。安心して、私が全部やるから、二人はただ私の後ろにいてくれればいいから」

未央「え、あ、うん。そう、なんだ?」

凛「うん。そういうこと」

絶対に守る。この二人はあの部屋にいてはいけない。

あの部屋は、あの殺し合いの世界は私の舞台。

二人には違う世界がある。きらきらとしたアイドルの舞台が。

その場所に戻してあげるためにも、一刻も早く二人に100点を取らせる。

多分速くて1週間。来週には二人とも解放されるはずだ。

そのためには今日、全ての敵を二人にトドメを刺して貰う。

どんな敵でも動けなくして、攻撃手段を全て潰して、安全を確保した上で二人の前に持って行き撃ってもらう。

それを繰り返す。

凛「大丈夫だから。二人とも怯えないでも1週間後には全部忘れて普段の生活に戻れるから」

卯月「1週間、ですか……?」

凛「うん。今日もこれから狩りがあるけど、全部私に任せておいて。二人は最後のトドメだけをやってくれればいいからね」

未央「え……今日?」

凛「そうだよ。だから狩りの時間までここで待ってもらえるかな? その間に銃の使い方とかを説明するよ」

卯月「じゅ……」

未央「じゅうって、銃? 弾をだすやつ?」

凛「ガンツの銃は弾は出ないよ。仕組みはよく分からないけど、当てれば大抵の敵は殺せる何かが出てるみたい。内側から爆発するやつとか押しつぶすやつとか色々だけど」

卯月「え? こ、ろす?」

未央「しぶ、りん、何、なにを言ってるの?」

……またやってしまった。

私にとって殺しは日常だけど、二人にとっては……。

凛「あ、ゴメン。言い方間違えた。二人には狩りの敵をある場所に送ってもらう、それをやってもらえれば大丈夫だから」

凛「えっと……これが送る用の銃、これで狩りの敵を送ってもらえれば点数をもらえる。それが100点貯まったら二人とも解放されるから」

クローゼットから持ってきていたY字銃を出して二人に手渡す。

これなら見た目もキツくない。送っているように見えるし、二人にもそこまで抵抗は無いはずだ。

卯月「……銃、ですね」

未央「うん……銃だね」

凛「あの部屋で同じのが何丁かあるから、二人とも最低2つは持っていって。そうすれば効率も上がるだろうし」

動けなくした敵をさっさと片付けるには2丁あったほうがいい。

凛「基本は私が敵を動けなくするから、二人はその動けなくした敵をそれで撃って送ってくれればいいよ。簡単でしょ?」

卯月・未央「……」

銃を見ながら戸惑っている二人。

仕方無いだろうと思う、すぐに順応なんてできるわけないし、とりあえずは説明だけ。

狩りが始まって何回か撃ってもらえればその内慣れるはず。

Y字銃なら送っているようにしか見えないから問題ない。

凛「あ、お茶おかわりいる? まだ時間あると思うし持ってくるけど」

卯月「あ、はい、お願いします」

未央「私も……」

凛「うん、ちょっと待ってて」

ポットを持ってきて二人のカップに注ぎなおす。

もう日が暮れ始めている、夜になってからが狩りの時間。

狩りまで色々話そうとおもったけど、二人は押し黙って何も聞いてくる気配が無い。

とりあえずはやるべきことは話したし、これから狩りに行ってY字銃で撃ってもらえればそれでいい。

後は待つだけ。

でも、この沈黙の中待ち続けるのは……。

私は少し話題を変えようと思った。

凛「そういえばさ、二人ともアイドル活動頑張ってるんだね。この前出したCD買ったよ」

机の上にあるCDを持ってくる。

凛「2曲目だよね、デビュー曲も買ったよ」

未央「あ、二つとも買ってくれたんだね」

凛「応援するって言ったじゃん、二人の出てるラジオとかテレビも見てるよ」

卯月「ほ、本当ですか?」

食いつき始める二人。

よし、いい感じ。

凛「うん。この前も、えっと……高森藍子のゆるふわタイムだっけ? デビュー曲と2曲目もこのラジオで宣伝してたけど」

未央「おおっ! あーちゃんのラジオまでチェックしているとは……ねねっ、どうだった!?」

凛「うん、いつものコント芸が炸裂してていい感じだったよ」

卯月「ええっ!? ど、どういうことなんですか!?」

凛「冗談、二人ともしっかり宣伝できてたと思うよ、たぶん」

未央「たぶんってなに!?」

やっと重い空気が消えてくれた。

やっぱり二人にはアイドル関係の話題のほうがいいよね。

そう思って私は狩りの時間まで二人とアイドルについて話すことにした。

二人の所属する事務所、シンデレラプロジェクトのこと、プロジェクトのメンバーのこと、色々話しているとあっという間に時間が過ぎていく。

未央「それでさー、私たちはデビューが一番後だったから、みんなの初舞台のステージとかの手伝いもしてたんだよ。その時、初舞台はこんなに人が少ないんだねーってしまむーと話してたけど、みんなはそれでも嬉しいって言って、私気がついたんだ…………って、どうしたのしぶりん?」

凛「あ、ううん。気にしないで、それで?」

未央「うんうん、それでさ、私お客さんの多い少ないとかは気にせずに、お客さんに私たちの歌を聞いてもらって喜んでもらうことが重要なんだなって……」

おかしい。

もう9時を回っている。

いつもはこの時間にはもう転送されているはずなのに。

卯月「あっ、大変! もうこんな時間です!」

未央「へ? うわっ!? もう9時じゃん! やばー、レッスンは休むって言ってたけど、家に何も連絡入れてなかったよー」

……どうする? どうせ転送されてガンツの部屋に行くんだから帰ってもらってもいいか。

凛「……一旦二人とも家に帰ろうか。また後でガンツの部屋で合流する形で」

未央「あっ……、そ、そういえば、今からあの部屋に連れてかれるんだよね?」

卯月「うぅ……」

凛「大丈夫、さっきも言ったように二人は何も心配はしなくていいから」

とりあえず二人を家まで送ってあげよう。

凛「それじゃ、二人を送るよ」

卯月「え、あ、あの。また空をピューンって飛んでいくんですか?」

凛「……そうだね、いつ転送されるか分からないし、あんまり人の多いところは避けたいからね」

未央「そ、そっかー、またあのジェットコースターを……」

二人は私に送り届けられることを了承し、私は鞄に入れていたスーツに着替えることにした。

凛「あ、ちょっとあっち向いてて」

卯月「?」

凛「このスーツ、下着も全部脱がないといけないから」

未央「そーなんだ……」

二人が顔を逸らしたと同時に、一気に服を脱いでスーツに着替える。

慣れたもので10秒もかからない。

凛「もういいよ」

未央「うわ、変身した」

卯月「は、早着替えですねー」

バイザーを装着して、ハードスーツも転送するアイコンを起動して装着しておく。

あっという間に戦闘準備万端の状態になった。

卯月「……やっぱり、夢じゃないんですよね」

凛「うん」

未央「……よし! もう覚悟した! 私を連れて行ってしぶりん!」

未央は目を閉じて両手をあげている。

未央の体を抱きかかえると、しがみ付いてくる。

凛「もしかして、ああいうの苦手だったりする?」

未央「……逆に聞くけど紐無しバンジーが好きな人っている?」

安全は確保してるからバンジージャンプより安全なんだけど。

凛「卯月、こっちに来て」

未央「無視!?」

卯月「は、はい。凛ちゃん、優しくお願いします……」

卯月もしがみ付いて目を瞑った。

二人をしっかりと支え、私は窓を開けて透明化を起動し二人の家に向けて飛んだ。

数分で卯月の家、もう数分で未央の家、そして10分後には二人を送り届けて自分の部屋に戻ってきた。

私はそのまま、転送を待った。

だけど。

12時を回っても転送されることはなく、

今日、狩りが行われることは無かった。

今日はこの辺で。

昨日は12時を越えてからは、卯月と未央の家に行き二人を連れ出して、私の部屋に来てもらっていた。

もしかしたら夜中に転送があるのかもしれないと考えての行動だったが、結局転送されることはなく、明け方に眠っている二人を起こして家に送り、学校に登校した。

二人には何かあったら連絡するようにと連絡先を教えて、私は授業を受け昼休みとなった。

昼休みも中ごろに、電話が震え、確認してみると知らない番号。

一応取ってみると。

玄野「あ、渋谷だよな? 俺、玄野だけど」

玄野からの連絡だった。

凛「……あぁ、そういえばあの時連絡先教えたよね。どうしたの? また何か知りたいことがあるの?」

玄野「いや、今日は何か聞きたいってわけじゃなくて、お前も訓練に参加してほしくて連絡したんだ」

凛「訓練?」

玄野「ああ、前回あの部屋に来た人たち全員と……一人を除いて全員と集まることになったンだ。それでそン時に訓練をしよーと思うんだけど、お前が色々教えてくれたらと思ってさ」

凛「色々教えるって、銃の使い方とか100点武器のことはこの前話したから、他に教えれることなんて何も無いと思うけど」

玄野「……あるだろ。一番重要なことが……」

凛「?」

玄野「あの部屋で生き残る方法だ。お前、あの部屋で数ヶ月毎日一人でミッションを続けて生き残り続けたンだろ? その生き残るコツってやつを教えてほしい」

凛「生き残るコツって……」

皆殺しにするだけなんだけど。

そう言おうとしたが、玄野が続けた言葉を聞いて飲み込むことにした。

玄野「もう……できれば誰も死んでほしくない。誰も死なずにあの部屋の呪縛から全員が解放される、そんな道を探したい」

凛「……」

本当になにがあったんだろう?

あのチビが襲撃してきたときの玄野と別人みたいだ。

玄野「頼む」

凛「……いいよ」

玄野「本当か!?」

凛「うん。生き残るコツって言うか、普段気をつけていることくらいしか話せないと思うけど、それでもいいなら」

玄野「助かるよ……」

凛「それで、いつ集まるつもり?」

玄野「今日。夕方俺の家に集まる予定なんだけど、お前の予定って空いてるか?」

今日の夕方……。

今日こそ狩りがあるはずだから、行っても途中で転送されてしまうだろうし……。

凛「……今日は難しいかも。たぶん狩りがあると思うし、アンタ達の訓練に参加しても途中でガンツに呼ばれると思うから」

玄野「はァ!? お、おい! 今日なのかよ!?」

凛「ああ、アンタ達は違うと思うよ。私達だけって事、昨日が無かったから、今日は絶対にあると思う」

玄野「あ、お前ッてそうだったな……次からも俺達とは別ってことか……」

凛「うん。あ、それと訓練に参加するなら来週以降なら助かる。それまでは私もあまり動けないからさ」

未央と卯月が解放されるまでは、二人と一緒にいようと思う。

二人も色々不安だろうから……。

玄野「そッか、わかった」

凛「悪いね」

玄野「いや、こっちから頼んでるんだ。気にしないでくれ……ああ、そうだ。一応さっき聞いた生き残るコツってやつを後ででもいいから電話で教えてくれないか? 俺達もいつミッションがあるか分からないから、なるべく早く全員に伝えておきたい」

凛「なら、今話そうか?」

私は手短にいつも気をつけていることを玄野に伝え電話を切った。

真剣に聞いてくる玄野、やっぱり何かあったのだろう。

私が変わったように、玄野も変わった、そう考えておこう。

あの人たちは玄野を中心にチームを組んで狩りをするようになるんだろう。

あの中にも強そうなのは何人も居たから、全員生き残ってガンツの部屋から出て行くって事も無理じゃなさそうな感じ。

玄野たちは玄野たちで生き残る為にやれることをやっていくつもりだろうし、それに対して協力することは問題ないけど、今優先することは他にある。

未央と卯月を一刻も早く解放させないといけない。

あの二人がガンツの部屋にいる間は、なるべく多くの時間を二人と過ごす。

色々と万が一があるかもしれないから。

特に二人の家族や仕事仲間に二人が転送されるところを見られるのは非常にまずい。

一応首筋に寒気を感じたらすぐに誰にも見られない場所に行ってほしいと伝えてある。

でもあの二人はまだ勝手も分かっていないだろうし、なるべく夜転送される時間帯は一緒に居てフォローをしないといけない。

そうやって考えているとあっという間に放課後になっていた。

すぐに教室を出て、未央と卯月に連絡をする。

未央「もしもーし」

凛「あ、未央? 今日もこれから私の家に来てほしいんだけど、いつごろ来れるかな?」

未央「あー、しぶりんごめん! 今日は先に事務所のほうに行かないといけなくてさー」

凛「え?」

未央「ほら、日曜日にあんな事があって、私達、避難する形で帰ったって事になってるんだけど、昨日も休んじゃって流石にみんな心配してるから今日は顔出しと報告をしにいかないといけないんだよ」

凛「そう、なんだ……」

未央「だからしぶりんの家には事務所によった後になっちゃうかなー」

凛「……もし事務所で寒気が襲ってきたら人目につかない所に移動することを忘れないでね」

未央「おっけーおっけー、寒気ってのが来たらすぐにしまむーを連れてトイレにでも駆け込むし、みんなにも絶対に話さないようにするから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ!」

その言葉で、私は心配しすぎていたのかと思い直した。

それと未央が随分とガンツの話題を出しても怖気づかなくなっている事に気がついた。

まあ、二日たってるんだし、少しは落ち着いたってことかな。

卯月のほうはどうかはわからないけど……。

凛「うん。それじゃあ、また終わったら連絡してよ。迎えに行くからさ」

未央「いやいや、あのジェットコースターはもう勘弁してほしいから」

拒否る未央に何度も言って、迎えに行くことを了承させた。

その後、二人を迎えに行って、また私の家で狩りの時間まで待機。

今日もガンツのことはそこそこにアイドル関係の話をしながら時間が来るのを待った。

だけど、今日も狩りへ呼ばれることはなかった……。

どうして?

次の日の夕方、今日も未央と卯月には仕事を早く切り上げてもらって私の家に来てもらっている。

今日こそは呼ばれるはずだ。そう考えて待っていると未央が話を切り出してきた。

未央「あのさ……、あの部屋のことなんだけど……」

凛「ガンツのこと?」

未央「うん。この数日、しぶりんから色々話してもらってけど、何ていうか肝心な部分を聞きそびれていたような気がしたから聞きたいんだけどさ」

凛「何?」

未央と卯月は顔を見合わせてどう切り出そうか迷っているみたいだ。

一体何を聞きたいのかな?

卯月「あの、凛ちゃんはあの部屋で何ヶ月もゲームをしているんですよね?」

凛「うん。そうだね」

未央「あの部屋のゲームってさ、死んじゃうかもしれないんだよね? 前回は何人か……死んじゃってたよね……?」

凛「……うん、そうだね」

卯月「えっと……前回、凛ちゃんは終わろうと思ったら終われたんですよね?」

凛「……うん」

未央「……なんで、しぶりんは前回終わらなかったの? ってか、何回も繰り返してゲームやってるんだよね? その、強い武器を手に入れるだっけ? を選んで」

凛「……」

殺し合いを楽しんでいる。

そう即答をできなかった。

自分がおかしいっていうのは自覚しているけど、この二人に私の黒い部分を見せたくなかった。

他の人に知られてもどうという事は無いけど、二人に私が頭のおかしい人間だって知られるのは嫌だった。

それを知られて、二人が私を避けるようになってしまうのではないかと思うと言う事ができなかった。

だから、私は逃げた。

凛「……次は終わろうと思ってるよ。今までは理由があって止められなかったけど、二人と一緒に終わる予定」

私がそう言うと二人は明らかにほっとして、表情を和らげていた。

何かに気がついていたのかもしれない。

未央「よかった~~。ちょっと心配だったけど、それなら大丈夫だね!」

卯月「ですね~。心配だったんです。私たちを部屋から出してくれるって言ってましたけど、その後に凛ちゃんがあの怖いところに一人で残っちゃうんじゃないかって思ったら」

凛「……」

未央「そんなわけあるわけ無いって思ってたんだけど、何ていうかしぶりんがあの部屋にいることが自然に見えちゃったから不安になってさ」

……あの部屋が私の居場所っていう事に気付かれていた。

気をつけよう、どこかでボロが出たら私の本性にも気付かれてしまうかもしれない。

隠さないと……二人には気がつかれないように……。

それからまた他愛の無い話をしていたが、今日も狩りに呼ばれることは無かった。

それから1週間ほど同じ日々を過ごす事になる。

1週間で二人は解放されるはずだったのに、解放されるどころか狩りが行われなくなってしまった。

何故ガンツは呼んでくれないのか?

考えてもわからなく、このまま呼ばれるのを待つしかないと結論付け私の家で待機するのも終わる事になった。

それも、二人は私の家に来る時間を確保する為に、結構無理をしていたみたいだから。

今は二人とも仕事が忙しく、これからしばらくは集まるにしても夜遅い時間となってしまうため各自で夜は狩りに供えることとなった。

その間に私はあの二人がガンツの部屋に来てしまった原因を知ってしまった。

数日間テレビも何も見ていなかったし、ガンツが何故狩りに呼ばないのかと考えていて調べていなかったが、あの日曜に何があったのかを調べるとすぐ原因が浮かび上がってきた。

凛「新宿乱射事件……」

あの日、二人がライブを行う予定だった新宿で起きた事件。

二人には直接聞いていないけど、あの日この事件に巻き込まれて、二人ともガンツの部屋に来てしまった。

それから狩りに行って、私が殺した乱入者たちに殺されかけたという事だろう。

調べて全部が繋がった。

凛「死傷者387名、無差別大量虐殺、テロの可能性も……」

凛「そして……犯人の手がかりなし……」

つまり、二人を殺そうとしたクズはまだ捕まっていないし、どこかでのうのうと日々を過ごしているという事だ。

凛「……許せない」

警察が見つけれない以上、どうしようもないとは思うが、湧き上がってくる気持ちを抑えることができない。

もし犯人が見つかったり、捕まったりしたら。

私は何をしてしまうかわからない。

できてしまう手段を持っているから。

凛「……駄目駄目、ガンツがそんな事許してくれない」

狩り以外でガンツの道具を使った殺しはアウトだろう。

凛「……それに捕まれば死刑」

そう、どうせ捕まれば死ぬんだ。

さっさと警察に捕まえてもらうことを祈るしかない。

本当に、早く捕まえてもらいたいものだ。

凛「……ふぅ、少し体を動かそう。体を動かせば少しは落ち着くでしょ……」

スマホの画面を消して、透明化を起動し、訓練をする為に家を出る。

身体を動かさないと。

色々と溜まっている物を発散させないとまずい。

私は訓練をしながら狩りを待ったが、やはり今日も呼ばれることは無かった。

今日はこの辺で。

あれからさらに2週間ほど経つ。

それでも私たちはガンツに呼ばれることもなく時間だけが経過していった。

最初のうちは未央と卯月もガンツにいつ呼ばれるかと注意していたようだけど、もう二人とも呼ばれることが無いと思っているのか、当初の緊張感はすでになくなっていた。

そして、最近仕事終わりの二人が私の家に立ち寄ってお喋りをして帰るというサイクルが出来上がっていた。

仕事終わりなので少し遅い時間、二人とも親に怒られないのかと心配したけど、うまく言っているみたいだ。

私は二人と話しているときに転送があるかもしれないと、最初のうちは緊張をしていたが、ここまで長く空いてしまい少し緊張が抜けてしまっているのを自分でも感じている。

そのせいか最近はガンツの話はほとんどしていない。

そして、二人の仕事の話を聞くのが私の密かな楽しみになっている。

二人の仕事仲間はものすごく個性的な人たちが多くて、話を聞いているだけでも飽きることが無い。

アイドルなんだから個性が無いと勤まらないとは思うけど、話を聞いていると本当に大丈夫なのかと心配するくらいの性格の人、行動をする人がひしめいているみたいだ。

そして今日は二人が所属する346プロのアイドルの話ではなく、別のプロダクションのアイドルの話を聞いている。

未央「聞いてよしぶりん! 私達、昨日レイちんと一緒の現場で撮影をしたんだよ!」

凛「レイちん?」

卯月「レイカちゃんですよ。グラビアアイドルで……ほら、凛ちゃんもあの時見ているはずですよ?」

未央「そうそう、レイちんも私たちと同じであの部屋に行っちゃってたんだよねぇ」

二人はもうガンツの部屋のことを話題にしても特におびえるようなことは無い。

時間も経って余裕ができたみたいだ。

凛「……あぁ、そういえば女の人いたね。あの人もアイドルだったんだ」

卯月「私たちのプロダクションでは無いんですけど、トップアイドルの一人ですよ」

……二人以外には特に興味が無かったから全く知らなかった。

今は二人の話しのおかげで、いろんなアイドルに興味が沸いてきているけどね。

未央「それでさ、偶然同じ撮影現場だったし、レイちんも私たちの事覚えてたみたいで、色々話をしたんだよ」

未央「そしたら、レイちんってあの部屋にいた人たちと集まって訓練をしているみたいなんだけど、私たちも誘われちゃってさ。私としまむーは参加してもいいかなって思ってるんだけど、しぶりんはどうかな?」

そういえば、玄野からも誘われてたっけ。

すっかり忘れてた。

……私も少し気が抜けているところもあるし、気を引き締めるためにも参加してみるのもいいかもしれない。

二人が一緒に行くのだったらなおさらだ。

凛「二人が行くなら私も行くよ」

未央「おっけー! 決まりだね!」

卯月「それじゃあ、私が連絡しておきますねっ!」

あっという間に日程を決めて、明日集まる事になったみたいだ。

集合場所は前に行った玄野の学校から結構近い場所。

明日、学校が終わったらその近くの喫茶店に集合する形になって今日は解散となった。

二人が帰って夜寝る寸前、私はベットに横になって天井を見つめていた。

思うことは最近の自分のこと。

凛「……最近、ガンツのことが頭から抜けてる時多いかも」

前まで、毎日狩りに行っていたときは、ガンツのことだけを考えて、殺し合いを楽しんで日々を過ごしていた。

だけど、最近はあの二人とお喋りをして、あの二人の話すことが楽しくて、ガンツのことを考えることのほうが少なくなっている。

前までは簡単な狩りが続いて、満足感が得られない状態が数日続いただけで、戦いをしたくて、何かを殺したくてたまらなかったのに、最近はそんな事もなくなっている。

この3週間、まったく戦いをしていないし、殺しもしていないのに、私はいたって平静な状態だ。

まるで昔の自分に戻ったような気分、何の目標も無くて、日々を無駄に過ごしていたあの頃に。

その心境の変化の原因は分かっていた。

凛「未央と卯月……二人と毎日会って話しているからかな……」

前もそうだった。

二人と一緒に居るときはガンツのことを忘れることができた。

最近は毎日一緒に居るし、話しているから、こんな状態になっているんだろう。

凛「嫌じゃないんだけど……私のやるべきことは、宇宙人を狩りつくすことだし……」

ガンツのことを忘れて二人と話すことは嫌じゃない、むしろ楽しい。

だけど、私のやるべきことは宇宙人を皆殺しにすること。

瞼を閉じて考える。

私の心の中で、二人とガンツの狩りを天秤にかけてどちらが大事なのかを考えていた。

だけど、答えは出なかった。

次の日、早めについた私は先に喫茶店に入っていた。

コーヒーを飲んでいると喫茶店に入ってきた男女と目が合った。

凛「あっ」

玄野「あッ」

「どーしたのケイちゃん?」

玄野と前に玄野の学校で見た女の子だった。

手を繋いでる……あ、そういえば玄野ってこの子に告白してたっけ?

それなら、玄野の彼女ってことだね。

デート中のカップルにわざわざ話しかけるのも野暮だし、とりあえず視線を外す。

どうせこの後、玄野と会うんだ。今話さなくても問題は無い。

そう思っていると、玄野も私に声をかけることはせず、

玄野「タエちゃん、別のところいこーか。俺、ハラ減ったし、なんか食べたい」

多恵「それらならケイちゃんの家で何か作ろうか? 冷蔵庫に何入ってたかな?」

玄野「あッ、今日俺ん家に後で人くるからどっかで食べていこうよ」

やり取りをしながら玄野は喫茶店から出て行った。

仲よさそうだったな。それに玄野、あの子と話してるときは凄く幸せそうな顔をして……。

もしかして玄野が変わった理由って彼女ができたから?

恋が人を変えたってやつかな?

なんだかいいね、そういうの。

そうやって少しすると、未央と卯月がやってきて、時間になるまで私たちは喫茶店でお喋りをしながら待った。

そして、日も暮れ始めた時間、私たちは集合場所まで向かい、住宅街にあるアパートの前までやってきた。

卯月「ここみたいですね」

未央「ザ・一人暮らし用のアパートって感じだねー」

凛「ここの何号室だっけ?」

卯月「えっと、2階の……あっ」

玄野「あ、きみたちは……」

玄野が2階の一室から顔を覗かせていた。

未央「どーもどーも! えーっと玄野君だったっけ?」

玄野「あ、えーッと、君は渋谷の知り合いの……」

未央「私、本田未央。ねぇねぇ、もうみんな集まってるの?」

玄野「あ、まだだけど……いつもレイカの時間に合わせるからもう少し遅い……」

未央「ありゃ? そーなんだ……」

卯月「どうしましょうか?」

また喫茶店で時間を潰そうかと言おうと思ったら、

未央「それじゃあさ、時間まで待つから部屋に入れてよー」

玄野「え? えぇッ!?」

未央「ダメ?」

玄野「あッ、いやッ、だ、だめじゃ、ないけど」

未央「よっし! しまむー、しぶりん行こ行こ!」

卯月「は~い」

凛「……えっと」

私たちは玄野の部屋で時間まで待つこととなった。

部屋から出てきた玄野は、なんというか挙動不審な状態だった。

未央「おっじゃまっしまーす!」

卯月「わぁ、私、男の人の部屋に入るの初めてですっ!」

未央「おっ! それじゃあ、ベットの下だけは見ちゃダメだよ! 私の友達の男の子はベットの下に凄いものを隠してたからね!」

卯月「す、凄いものですか?」

凛「……」

二人とも楽しそうだ。

玄野は二人のテンションに何も言えないみたいだ。

とりあえず、挨拶しておくかな。

凛「久しぶり、ってさっき会ったね」

玄野「あ、ああ」

未央「へぇー、結構綺麗にしてるねー」

凛「どう? あの後ガンツに呼ばれたりした?」

玄野「い、いや。俺たちはまだだけど……お前は?」

卯月「私、一人暮らしした事無いですけど、こういう一人部屋っていいですねぇ」

凛「まだ。あれから呼ばれる気配も無し。こんなに間が空くことなんて、最近無かったんだけど」

玄野「そッか……」

未央「おっ! この写真、もしかして彼女さん? 中々隅に置けませんなー!」

うるさい……。

凛「……二人とも、玄野困ってるよ、あんまりジロジロ部屋見ないほうがいいと思うけど」

未央「えー? 別にいいじゃん。ねっ、いいでしょ?」

玄野「あ、う、うん」

未央「ほらねー!」

凛「……」

まあいいや。

その内二人もあきるだろう。

凛「それで、アンタたちは集まって訓練してるって言ってたけどどんな感じなの?」

玄野「ど、どんな感じかって、スーツの使い方とか銃の使い方に慣れてもらって、チームで動けるような訓練をしてッけど……」

凛「ふーん。毎日やってるの?」

玄野「毎日ってわけじゃないけど、集まれるときは集まってやッてる」

凛「そっか」

基本的なことはやってるんだ。

私も最初はスーツでどこまで動けるかを試したりしてたよね。

凛「そういえば、急に参加しても大丈夫だったの? あの二人が、レイカさんだっけ? と連絡して今日いきなり来る事になったんだけど」

チームの訓練もしてるんだったら、私達が急に入ったらまずいんじゃないかと思うが、

玄野「ああ、大丈夫だよ。むしろお前には前から来てもらいたいって思ッてたからな」

凛「それならいいけど」

未央「二人で話してないで私たちも混ぜてよー」

二人が割り込んできた。

どうやら部屋の物色に飽きた様だ。

卯月「ごめんなさい、自己紹介まだでしたよね? 私、島村卯月って言います」

玄野「あ、お、俺、玄野計。よ、よろしく」

卯月「はいっ、よろしくお願いしますっ!」

満面の笑顔を見せる卯月、その笑顔を見た玄野は顔を赤くして、照れてるな……。

未央「おっ? くろのんはしまむーの笑顔にやられちゃいましたかー? しまむーも罪な女よのお……彼女もちの男の子のハートを打ち抜いちゃうなんてさ!」

玄野「な、なッ!?」

卯月「えっ、ええっ!?」

しばらく未央のからかいが続いて、気がつけば時間も結構経っていた。

玄野「そ、そろそろみんな来る頃だから、部屋を出て移動しようぜ」

未央「ちぇー、残念」

卯月「どこにいくんですか?」

玄野「いつもはビルの屋上とか、人の目に付かないでかい公園とかでやってるけど……今日はどうするか……」

玄野「渋谷、お前はいつもどうしてんだ? どッかで訓練してんだろ?」

凛「私? 私も森林公園とかで特訓してたけど、最近は山の中で特訓してることが多いかな」

玄野「山か……まァ、人目にはつかないな。だけどこの近くでって言ったら……」

凛「ちょっと遠いけど私のよく行く場所に行く? スーツの力があれば走って行って30分くらいで到着すると思うけど」

玄野「なら、今日はそこで」

話しながら部屋を出ると、階段のところでこの前見た女の人、レイカさんがいた。

レイカ「あっ、玄野クンと……この前の……」

軽く頭を下げて挨拶をすると、私の後ろから未央と卯月がレイカさんに向かって声をかけていた。

未央「あー! レイちん、一昨日ぶり!」

卯月「こんばんは、レイカちゃん!」

レイカ「本田さん、島村さん」

二人を見て笑顔を見せるレイカさん、私を見たときに少し表情が強張っていたのはなんだろう?

レイカ「もう下でみんな待ってるよ」

階段の下には何人かの声。

階段を下りると、そこにはあの部屋に居た人たちの姿があった。

桜井「あッ! 君達はこの前の!」

「おお! これで全員集まったわけだな!」

「こんばんは、君達も今回から私たちと一緒に訓練をするんだね」

未央「あ、どーもどーも!」

卯月「こんばんは~」

凛「どうも……」

集まった人数は10人。

結構な大所帯だ。

玄野「みんな、今日の訓練場所はこの渋谷が案内してくれる。まずはそこに行こう」

話もそこそこに玄野が切り出した。

とりあえずは移動。それから各個人を紹介してくれるといっている。

玄野「みんな、スーツは着てきたか?」

玄野の言葉に頷く私達以外の全員。

だけど、

未央「え? スーツ?」

卯月「ですか?」

……この二人は持ってきていない。

あの時私が二人を連れ帰ったし、二人も含めて訓練なんかすると想定していなかったから持ってきていない。

ガンツの部屋も一度出ると何故か鍵がかかって入れないからとりにもいけない。

凛「二人は私が連れて行くから」

私がいつものように二人を抱きかかえて、夜の町を飛び私の特訓場所のひとつの山に向かい移動した。

夜の山の中腹、私の訓練場所のひとつに全員がたどり着いた。

玄野「な、なんだこりゃ……」

レイカ「山の中に、こんな開けた場所が?」

デカ銃で木を押しつぶして作り出した場所。

野球場の半分くらいの広さを確保して見通しもよくしてある。

今日は満月で月明かりもあって視界も良好だ。

玄野は最初唖然としていたが、しばらくたつと表情を変えて、全員に向けて話し始めた。

玄野「みんな、今日はこの3人も一緒に訓練をする事になった」

玄野「まずはコイツ、渋谷凛、俺と同じく昔からあの部屋でミッションを続けている女だ。コイツはあの部屋でもう11回100点を取っていて、俺よりも戦闘経験が豊富だ、何か聞きたい事があったらコイツに聞くのが一番手っ取り早い」

私の紹介をする玄野、全員が私を見ている。

とりあえず挨拶をしておこうかな。

凛「渋谷凛、よろしく。あなた達と一緒の狩りはできないと思うけど、情報は提供できるから聞きたい事があるなら聞いて。分かる範囲で答えるよ」

各々からよろしくと言った声が聞こえる。

事前に説明をしてくれていたみたいで、一緒の狩りができないといった発言には特に突っ込まれることは無かった。

玄野「あと、本田さん、島村さん、自己紹介してもらえるかな?」

未央「了解! 私は本田未央、皆さんご存知、そちらのレイちんと同じくアイドルやってまーす! 今日はレイちんに誘われて訓練に参加する事になったのでよろしくー! ちなみに私達はニュージェネレーションズってユニット組んでますんで応援もよろしく! はいしまむー!」

自己紹介をして卯月の肩を叩く未央。

卯月「わわっ、ええと、私は島村卯月っていいます。私は未央ちゃんと一緒にアイドルをやっていて、未央ちゃんが今言ったニュージェネレーションズというユニットのメンバーで、えっと……トップアイドルを目指してますんで応援よろしくお願いしますっ!」

なんで最後はアイドルの紹介してるんだろう……。

桜井「二人ともアイドルなんですか?」

未央「そだよー、レイちんみたいに有名じゃないけど、これからトップアイドルになっていくからね! 今のうちにサイン書いてあげようか?」

桜井「えッ?」

……また脱線し始めてる。話を戻そう。

凛「こっちは終わったけど、他の人たちを紹介してもらってもいいかな?」

玄野「ああ」

玄野「俺はさっきやったから良いとして……」

玄野はレイカさんに目配せをして、その視線を受けたレイカさんは自己紹介を始めた。

レイカ「それじゃあ、あたしから」

レイカ「あたしも本田さんと島村さんと同じでアイドルやっています。二人とはこの間仕事場が一緒で話をして、この訓練に誘ったのもあたしです。えっと、渋谷さんと話すのは初めてですよね。よろしくお願いします」

レイカさんは私に頭を下げてきた。

同じく会釈で返す。

桜井「じゃあ、次は俺で」

茶色がかった髪の少年、確か桜井って名前だっけ?

桜井「俺は桜井弘斗、こっちの坂田師匠と同じく超能力者ってやつっス」

未央「は?」

卯月「えっ?」

凛「?」

今、何か変な言葉が聞えたような?

坂田「おい、桜井。あんまり力のことをペラペラ喋るのはなァ……」

桜井「いいじゃないっスか。この人たちもこれから一緒に訓練するんだったらいつかは知られてしまうんですし」

サングラスをかけた坂田という人が力って言っている。

超能力って……本気で言ってるの?

卯月「あの……超能力って、スプーン曲げたりするやつですか?」

桜井「それもできるよ」

未央「手からビーム出したり、瞬間移動したりもできるの?」

桜井「それはできないかな……」

どういった類の力なんだろう?

ガンツのことを知らない状態で聞いていたら鼻で笑っていたけど、世の中には宇宙人もいるし、死ぬ寸前の人間を瞬間移動させてつれてこれる人? もいる。

超能力だってあるかもしれない。

凛「具体的にどういう事ができるの?」

桜井「えっと……触らずに物を動かしたり、重いものを空中に持ち上げたり、物を透視したり、結構色々できるかな」

凛「……私を持ち上げたりできるの?」

桜井「できるよ」

そういって頭を抑えながら念じ始める。

すると、すぐにそれはおきた。

凛「!?」

未央「し、しぶりんが」

卯月「浮いてる!?」

私の体が地面から1メートルくらい浮かんでいた。

浮遊感もあって完全に浮いている。

すぐに地面に下ろされたけど、間違いなく私は浮かんでいた。

卯月「び、びっくりしました」

未央「す、すごいね。流石の未央ちゃんも驚いて何にも言えない」

凛「……超能力、本当にあるんだ」

私たちは今起こった事に呆然としていた。

宇宙人がワケのわからない攻撃をしてきても驚くことは無いけど、人がこんな力を持っているなんて思ってもみなかった。

坂田「まあ、力っていッてもできることはたかが知れているし、この力は人が使える力の一つだ。それよりも俺はあの部屋で起きたことやあの部屋の道具のほうが理解不能で恐ろしいね」

坂田と呼ばれたサングラスの男が続けた。

坂田「俺は坂田研三。坂田でも坂田さんでも呼びやすいほうで呼んでくれ。あの部屋に来ちまった者同士、今後ともよろしくな」

坂田「ああ、後そっちの二人の応援するから後でサイン貰ってもいーかな?」

未央「う、うん。逆に私のほうがサインほしーかも……」

卯月「超能力者さんなんて始めてみますからね……」

最後は冗談交じりに言って、この二人の自己紹介は終わった。

次はものすごい筋肉の大男。

この前も見たけど、多分この中で一番強い。

スーツを着ている今の状態なら50点以上の点数が付きそうな人。

その大男は一言だけ、自己紹介をして終わった。

風「風大左衛門」

未央「え? それだけ?」

卯月「風、さんですか?」

私たちと目をあわそうともせずに遠くを見ている。

寡黙な人なのかな? そう思っていたら、未央が動き始めた。

未央「凄い筋肉ですねー」

風「……」

未央「なんか格闘技やってるんですか?」

風「……」

未央「……」

風「……」

未央が動いて視線に入るたびに、別の方向に視線を外す風さん。

心なしか顔が少し赤いような気がする。

そんなやり取りをしていた未央が戻ってきて小声で話し出した。

未央「しまむー、しぶりん。あの人なんか女の子苦手っぽい」

卯月「そうなんですか?」

未央「うん。クラスの男の子でああいう反応する子いるもん。でもそういう子って結構後から打ち解けれるからあの人もそーかも」

凛「ふーん」

未央「ああいう人にも興味を持ってもらう事はトップアイドルとして必要になってくることだから絶対にいつか会話を成立させて見せるよ!」

凛「……まあ、頑張って」

変に燃えている未央は放っておく。

次の人の自己紹介が始まった。

稲葉「稲葉光輝。職業はデザイナー。宜しく」

簡単な自己紹介で終わった稲葉さん。

この人は……なんだろう? 何と言うか一歩引いてるような感じがする。

他の人たちと違って、一本線を引いて踏み込んできていないようなそんな感じ。

未央「あっ、宜しくお願いしまーす」

卯月「宜しくお願いしますっ!」

凛「……宜しく」

稲葉「ああ」

未央「ところでデザイナーって何のデザインしてるんですか?」

また未央が話を脱線させ始めた。

稲葉「ん? 服のデザイン。ファッションデザイナーってやつだ」

未央「おおっ! すごい! 今度どんな服をデザインしているか見せてもらってもいいですか!?」

稲葉「ああ。いいけど……」

未央「やったね!」

満足げな顔をして喜ぶ未央。

その後、卯月に小声で耳打ちをしていた。

未央「しまむー、あの人の腕が確かなものだったら、私たちの衣装とかデザインしてもらおうよ」

卯月「私たちの衣装ですか?」

未央「そうそう、中々無いじゃん? デザイナーの人に自分の着たい衣装を自分で提案するって機会」

卯月「そうですね……でもデザイナーの人を勝手に決めるのっていいんですかね?」

未央「そこはプロデューサーと話をして交渉だね!」

そうやって二人が話していると、次の人の自己紹介が始まった。

これで最後だ。

この中でも一番年上のおじさん。

鈴木「最後は私だね。私は鈴木良一、君達は私たちとは別であの部屋に呼ばれるらしいけど、私にできることがあったら言ってね。できる限り力になるから」

優しそうなおじさんだ。

未央「ありがとうございます! それなら私達ニュージェネレーションズの応援もお願いします!」

卯月「宜しくお願いしますっ!」

鈴木「ははは、それじゃあテレビで見たときには応援するよ」

未央の軽口にも優しく笑って返している鈴木さん。

こういう人はガンツの部屋に向かないと思う……。

何とか生き残って部屋から出て行ってもらいたいと思う……。

私は鈴木さんに会釈をして、これでこの場にいる全員の紹介が終わった。

あの部屋にいた全員……いや、和泉だけがいない。

あの人は、玄野たちと違ってチームを組まずにやっていくという事かな?

まあ、私もそうやっているし、あの人は強そうだし問題は無いだろう。

玄野「それじゃあ、自己紹介も終わったし、今日の訓練をやろう」

それから結構な時間を訓練に費やした。

最初に私がいつも気をつけていることや、レーダーで敵の場所を常に把握することの重要性、敵の攻撃は基本的に回避して受けることはしないようにすることを教えて、その動き方も私なりに実践した。

その後は何組かで連携の訓練。

連携の訓練は私と未央と卯月は見ているだけで、その間銃の使い方を詳しく教えていた。

私はY字銃の使い方再度説明して、部屋では撃つことがなかったけど、今回二人に実際に撃ってもらって感覚を掴んでもらった。

そこには何故か連携の訓練に参加していなかった稲葉さんもいた。

そうやって今日の訓練は終わり、次の訓練する日はまた玄野が連絡すると言い、今日は解散する事になった。

今日はこの辺で。

玄野たちとの訓練から数日。

未央「ねぇねぇ、しぶりんってくろのんと何かあったりするの?」

私の部屋で未央から訳の分からないことを聞かれた。

凛「は?」

未央「だからしぶりんとくろのんってもしかして付き合ってたりーって」

凛「……あるわけないでしょ」

何をいきなり聞いてきてるんだろう……。

未央「やっぱそーだよね。くろのんの部屋でも彼女っぽい女の子の写真あったし」

凛「……あのさ、何でそんな事聞くの? はっきり言って意味分からないんだけど」

私がアイツと付き合うって……あるわけないでしょ……。

というか、誰ともそんな関係になったことも無いのになにを言ってるのか……。

未央「え? えーっと、うーん……」

凛「?」

未央「しまむー、どーしよ?」

卯月「えぇっ? 私に振るんですか!?」

二人は何か悩んでる。何かを話そうかどうしようかと躊躇してるみたい。

未央「……まあ、しぶりんなら言わないと思うし話しちゃってもいっか」

卯月「未央ちゃん……」

凛「本当に何なの?」

未央「いやね、実はさ、昨日もレイちんとまた偶然仕事場が一緒でさ、色々お喋りしてたんだけど」

凛「レイカさんと?」

未央「うん。それでさー、レイちんがなんかしぶりんとくろのんの事色々聞いてきてさー、二人は同じ学校なのかとか、二人の関係ってどんな関係なのかとか、この前も二人で仲よさそうにしてたけど二人は付き合ってるのかって」

凛「……」

未央「もーね、隠す気あるのかなーって位の分かりやすさ。レイちんってくろのんのこと好きみたいなんだよね」

卯月「びっくりしましたよね」

凛「……はぁ」

未央「なんだかんだでしぶりんの口からくろのんとの関係聞いてなかったから、聞いておくよって言っておいたけど、やっぱり付き合ってるわけ無いよね」

凛「……アイツって彼女いたと思うけど」

卯月「あの写真の女の子ですよね……」

凛「うん」

未央「あちゃー、こりゃまいった……」

未央は顔に手を当てて渋い顔をしている。

というか、何の話をしているんだろう。

未央「くろのんが簡単に今の彼女からレイちんに乗り換えるなんてしたらそれはそれでくろのんのこと幻滅しちゃうけど、今のままじゃレイちんは完璧に失恋コース一直線だよね……どーにかする方法ないかなしまむー?」

卯月「わ、私に聞かれても……どうすればいいんでしょうか、凛ちゃん?」

凛「……知らないよ」

未央「二人とも真剣に考えてよ! このままだとレイちんは叶わぬ恋に心を痛めてしまい悲劇のヒロインになってしまうんだよ!?」

卯月「そ、そういわれましても、私こういう事疎くて……」

凛「……レイカさんに玄野は彼女いるから諦めたほうがいいんじゃないって伝えるしかないと思うけど」

未央「しぶりん! そんなストレートに伝えて、レイちんのアイドル活動に支障が出ちゃったらどーするの!?」

凛「……知らないよ、もう」

そのあとも、あーだこーだと未央が訳の分からない提案をし続けたが、結局レイカさんには玄野にはもう彼女がいるって伝える事に落ち着いた。

未央「あっ、しぶりん! この事はトップシークレットね! アイドルに恋愛事情って結構タブーなところあるから!」

凛「……なら話さないでよ」

また進展が会ったら報告するといって二人は帰っていった。

はっきり言ってどうでもいいんだけど……。

数日後。

未央「しぶりん……レイちんにあの話したんだけどさ……」

ああ……この前の続きか……。

未央「レイちん、思ってたよりくろのんのこと好きだったみたい……なんかデートに誘おうともしてたみたいなんだ」

凛「……はぁ」

卯月「玄野さんに彼女がいるって話したら、すごい悲しそうな顔をして、少し考えさせてくださいってその日のお仕事を早く上がっちゃって……今日もお仕事を休んじゃっているみたいです……」

凛「……はぁ」

未央「あそこまでショックを受けるなんて……どーすればいいのかな?」

卯月「どうしましょう……」

深刻な顔をして悩んでいる二人とは裏腹に、

若干面倒くさくなってきた私は適当に回答を返すことにした。

凛「……時間が解決してくれるでしょ。今悲しくても、またいつか新しい恋をすれば忘れれるよ」

未央「そーなの?」

凛「たぶん」

卯月「そうなんですね……」

凛「それにレイカさんは仕事もあって忙しいんだから、仕事に打ち込んでいれば忘れることもできるでしょ」

未央「それは、確かにそうかも……」

卯月「忙しいときは他の事なんて考えられないときありますからね……」

凛「じゃ、これでこの話はお終いでいいかな?」

未央「うん、そだね……これ以上悩んでも私たちじゃどうしようもないからね」

卯月「凛ちゃんに相談してよかったです! 私たちだけじゃいい考え浮かばなくて」

凛「はいはい」

適当に返しながら話を終わらせる。

別の日の夜。

私の携帯が振るえる。玄野からの着信だった。

凛「もしもし?」

玄野「……渋谷、今、いいか?」

凛「? どうしたの? 次の訓練の日程が決まったの?」

最近はレイカさんの失恋関係のゴタゴタもあって、集まっての訓練はあの時以来まだ行っていなかった。

玄野「いや……今日はちょっと聞きたい事があって連絡した」

凛「何?」

違うんだ。もう大体の事は話したけど……なんだろう?

玄野「お前、前回、あの人間に見える乱入してきたヤツらを殺したんだよな……?」

凛「うん。そうだけど」

玄野「……アイツらの仲間、みたいなのに、今日襲われた」

凛「!?」

私の頭にチビの時の一連の事件が蘇ってきた。

凛「一体どういう事!? 奴等は間違いなく私が殺したのに!」

玄野「この前乱入してきた奴等はいなかった……30人近くいたからお前がやったのとは、多分別の奴等だと思う」

凛「そんなに……それで、そいつ等はどうしたの? アンタが殺ったの?」

玄野「……いや、一緒にいた和泉が全員を殺した。一瞬で……全員を殺しちまッたんだよ、アイツ……」

よかった……。

全滅させたのなら、チビの時みたいにはならなそうだ。

それにしても、あの人か……。

一瞬であのとんでもなく早い連中を30匹も殺したなんて信じられないな……。

確かにあの時生身でチビとやりあっていたし……と考えていると。

玄野「……なァ」

凛「? どうしたの?」

玄野「……お前もさ、前回乱入してきた4人を殺したんだよな? あの人間に見える奴等を」

凛「まあね」

玄野「……お前も、人の命なんてどうでもいいと思ってるのか? 人とかも関係なく殺せるのか?」

凛「……どういう事?」

玄野「……お前も和泉と同じようなヤツなのかどうか、はっきりさせておきたいんだ」

あの人と同じ?

玄野の言っている事がピンと来なかったけど、私は玄野の質問について考えてみた。

凛「言ってる事良くわからないけど、私は人の命をどうでもいいなんて思ってないよ」

玄野「そ、そうか……」

凛「でも、私の大事な人たちを傷つけたりするような、私の敵は……多分人でも殺せると思う」

玄野「……」

凛「宇宙人は完全に私の敵だからどんな姿をしてても殺す事もできるし、殺しつくそうと思っている。そんなところかな」

玄野「……」

正直に答えたつもりだ。

少しの沈黙の後、玄野から重い声色で問いかけが来た。

玄野「……お前は、自分の目的の為に無関係の人間を殺すことができるのか?」

また変なことを聞いてくる。

これには即答をした。

凛「アンタさ、私を色々勘違いしてるでしょ? そりゃ、そう思われるようなことも言ったかもしれないけど、私はそこまで狂って無いし分別もある。私が殺すのは私の敵と宇宙人だけ。無関係の人たちを殺すなんてできるわけないじゃん」

玄野「本当だな……?」

凛「本当だって」

玄野「……ワカった。信じる、お前はアイツとは違うって事を。……前回、あの二人を必死に部屋から解放させようとも懇願してたしな」

何か納得した感じだ。

でも、一体……玄野が言ってるのってあの和泉って人のことだよね。

凛「……あのさ、あの人……和泉さんがどうかしたの?」

玄野「…………アイツは、いや……」

凛「?」

玄野「何でもない、気にしないでくれ。変なことを聞いて悪かッたよ」

凛「あ、うん」

それで電話は終わった。

私は玄野が質問してきたことを考えながら眠りに落ちた。

それから1週間ほどが経ち。

未央「しぶりん、レイちん結構割り切ったみたいだよ!」

またあの続きか……。

未央「デートに誘うのも止めて、くろのんの事は諦めるって言ってた」

凛「そっか」

卯月「でも、まだ少し未練はあるみたいです。それも忘れる為に仕事に打ち込むって言ってました」

凛「ふーん」

またあの話の続きが始まってしばらくすると。

ゾクリ。

卯月「!?」

未央「ひっ!?」

凛「来た」

遂に狩りの時間がやってきた。

卯月「あ、あの。こ、これって、やっぱり……」

凛「やっと呼ばれたね」

未央「し、しぶりん……」

頭のスイッチが切り替わる。

二人の前でスーツに着替えてバイザーを装着して、ハードスーツを転送する。

クローゼットからY字銃を持ち出し、二人に渡しておく。

凛「二人とも、部屋に転送されてガンツが開いたら、まずスーツに着替えて。その後はもう1丁Y字銃を持ってもらって、狩りの舞台に転送されたらすぐ合流、最初は敵の位置を確認しながら点数と弱点を調べて情報を集めるから、私と一緒に飛行バイクに乗り込んでもらう」

卯月「あっ、は、はい……」

未央「う、うん、スーツに着替えるんだね。それで……」

凛「落ち着いて。心配することなんて何も無いから。私が二人を守るから、安心して」

そうやって二人を落ち着かせていると、卯月がまず転送され始めた。

卯月「あっ、あっ! ああっ、やっ! いやっ!?」

未央「し、しまむー!? しぶりん!! しまむーがぁっ!!」

凛「大丈夫、転送されてるだけだから」

始めてみるとかなりキツイ光景だ。

パニックになりかけている未央を落ち着かせていると、未央も転送され始める。

未央「ひっ!? し、しぶりん……怖い……怖いよ……」

凛「大丈夫、すぐに私も行くから」

二人が完全に転送されて、少し時間を置き、私の転送も始まった。

やがて、私の視界が切り替わり。

私の眼には。

卯月と未央と……玄野たちの姿が映し出された。

凛「……え?」

卯月「りんちゃぁぁん!!」

未央「しぶりぃぃん!!」

私に抱きついてくる二人を受け止めながら。

凛「……なんで? アンタ達がいるの?」

玄野「お、俺に聞くなよ」

私たちはお互い困惑しながら顔を見合わせた。

桜井「あッ、やっぱり渋谷さんも来たじゃないッスか!」

坂田「よっ、アンタが来ないんじゃないかって、この二人は涙ぐんでたぜ?」

超能力コンビに声をかけられて、改めて部屋を見渡すと、玄野のチームの7人、和泉、私と未央と卯月、あとパンダ。

前回と同じメンバーが集められていた。

凛「……一人じゃなくなるって、こういう事だったの」

私はこの状況をすぐに受け止められなかったけど、切り替えて今回の狩りのプランを変更する事にした。

凛(全部の獲物を二人に送ってもらう予定だったのに、これじゃあ……)

凛(この人たちに点数を譲ってもらう……そんな事もいえないし……)

凛(……なるべく多くの敵を早めに行動不能にして二人に送ってもらう。他の人とは違って飛行バイクがこっちにはあるんだ。範囲全域を探すのにも10分かからないくらいだから殆どの敵を送ることができるはず)

凛(やるしかないし、やってみせる。他の人には悪いけど、二人が解放されるまでは、根こそぎ点数は頂いていく)

凛(文句を言われたら、二人が解放された後は点数を優先的に渡すと約束して交渉をする。何とかいけるはず、そのためにもこの人たちと友好的にして、私へ不信感を持たないようにさせないと……)

私はこの人たちのリーダー、玄野に近づいてバイザーを取り手を伸ばす。

凛「私もこれからは一緒になるみたいだね。一緒に協力して全員で生き残ろう」

玄野「あ、ああ。あらためて宜しくな!」

玄野と握手を交わして、私は続ける。

凛「私の武器の都合上、結構敵を倒してしまって点数を取っちゃうかもしれないけど、大丈夫かな?」

玄野「? ああ、大丈夫ってか、何でそんな事を気にするんだ?」

アンタ達は0点で、私達に全部の点数が入ってもそう言えるのか?

まあ、いいや。言質はとった、万が一今後あまりにも険悪になるようならこれも引っ張り出して言いくるめれば……。

そうしているうちに、転送されてくる人たちが現れた。

新メンバーってわけね。

数は6人。

全員が転送されるのを確認して、私は新たに転送されてきた男5人を見て警戒を強めた。

見た感じですぐ分かった。

あの時のクズ共と一緒。

田中星人のときの、私を撃ったあのクズ共と同類。

コイツ等は警戒しなければならない。いつ背後から撃たれるかわからない。

私は二人の手を握り、私に近寄らせるように引っ張り移動する事にした。

凛「それじゃ、リーダー、私と未央と卯月は3人でチームを組むから、後の人たちに説明とかはお願いするね」

玄野「えッ? ま、まァ、その二人は訓練も一回しかできてなかったし、お前に任せたほうがいいと思うけど……」

凛「分かってるじゃん。それじゃ、お願いねリーダー。新しく来た人たちにも説明しておいてね」

玄野「お前も俺をリーダーって……ったく、こんなとき、どーする……」

後の事は玄野に任せて、私は二人と一緒に部屋の隅に移動する。

私の後ろに二人を隠しながら私は警戒を怠らず、新たに来た5人の男を注視していた。

玄野は全員に説明をして、新たに来た人たちにも部屋のことを説明していた。

やがて、いつものあの歌が聞えてくる。

『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』

さあ、今回の獲物はどんな奴等か……。

『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい』

『ゆびわ星人』

『特徴 つよい でかい』

『好きなもの うま』

『口ぐせ 無言』

『自分より小さいものを憎んでる』

見た目は、兜を被った真っ黒な顔が表示されていて表情とかは見えない。

情報を見て、ガンツが開くと同時に私は二人の手を引き、二人のものと思われる『しまむらさん』『ちゃんみお』のケースを手に取り、奥の部屋に移動した。

凛「リーダー、私達こっちで着替えるから」

特に返答を待たずに奥の部屋を閉める。

そこで二人にスーツを手渡すと、二人は怯えた顔で私を見ていた。

凛「どうしたの?」

卯月「あ、あの、やっぱり、怖くて、こんなに急に……」

未央「も、もう呼ばれないんじゃないかなって思ってたのに、呼ばれちゃって……」

確かに忘れていた頃に呼ばれてしまった感がある。

私は二人の不安を消すためにも、二人を抱きしめて耳元で囁く。

凛「大丈夫。私を信じて。二人を絶対に守るし、二人に何かが起きるなんて事は絶対に無いから」

卯月「凛ちゃん……」

未央「しぶりん……」

しばらくそうやっていると二人とも落ち着いてきたみたいだ。

私は二人にスーツを着てもらい、転送をまとうとしたが。

凛「? 私の名前が書かれたケース……あ、前回の100点武器か」

凛「中には……4つの……リング?」

どこかで見たことのあるようなリング、形状に見覚えがあると思ったら、これはバイクに追加された飛行ユニットと形状がそっくりだった。

凛「4つ……手とかに通せそうな……」

未央「し、しぶりん。着替えたよ」

卯月「私も、終わりました」

二人の声に道具の確認を中断して、今回のリングといつものデカ銃をバイクに載せる事にした。

Y字銃を持ってきて二人に渡さなくてはと思いながら、ガンツの部屋に戻り4丁のY字銃を持つ頃には、部屋の大部分の人間が転送されていた。

凛「ちっ」

先に行かれてしまった。

早く行かないと点数が取られてしまう。

凛「未央、卯月、これ持って! それでこっちに来て!」

二人は私から受け取ったY字銃を手に持ち、私たちは3人でバイクに乗り込む。

二人を抱きしめながら転送の時を待つがまだ来ない。

凛「まだなの……」

そして、ようやく私達の転送が始まった。

凛「よしっ!」

まずは私、二人を抱きしめて手を握りながら転送されると、二人も一緒に転送されて夜の町が私の眼前に現れる。

凛(バイクも二人も一緒に転送された! これは好都合!)

すぐにバイザーで飛行ユニットを転送して、飛行バイクを起動させた。

凛「二人とも行くよ!」

卯月「は、はいっ」

未央「う、うん!」

バイクのモニターにレーダーを起動させて、私達は空に舞い上がった。

今日はこの辺で。

レーダーには8の光源。

まず一つ目の上空に移動して、獲物の真上でバイクを停止させた。

真下に見えるのは真っ黒で巨大な馬に乗った、真っ黒な騎士みたいな宇宙人。

4~5メートルはありそうな巨躯。

まずは点数と弱点の確認。

すぐに小さい銃を使って確認を行う。

バイザー内のモニターに表示された数字は。

凛「10点……」

同時に調べた弱点を示す表示も確認。

真っ黒な騎士の頭部と心臓に赤いマークが表示された。

凛「弱点は……頭部、心臓……騎士のほうが本体ってことか」

10点の敵、悪くない、ボスがいると考えても50点近く手に入れれそうだ。

一旦上空を離れ少し距離を置いて空中で停止させてその状態を維持する。

全ての光源から離れている位置。

凛「未央、卯月聞いて」

未央「な、何?」

卯月「どうしたんですか……」

凛「このモニターに映る光が近づいたらこのハンドルを捻ってバイクを動かして逃げて。捻るだけで前に進むし特に難しい操作は無いから」

未央「う、うん」

卯月「は、はい……」

凛「ちょっとだけ行って来るから。1~2分で戻るよ」

卯月・未央「えっ?」

バイクを揺らさないようにすべるようにバイクから降りて空中に身を投げ出す。

数秒の浮遊感、地面に足がついた瞬間にさっき敵を見つけた場所に跳躍する。

同時に剣を両手に持ち、敵の姿が目に入った瞬間。

凛「はぁっ!!」

敵の両腕を切り飛ばして、返す剣で馬と下半身を切り飛ばした。

同時にバイザー内でロックオン。Y字銃のワイヤーを6発発射して雁字搦めにする。

ギリギリの状態で生かすくらいにボロボロにする為に、ワイヤーで縛られて動けなくなったゆびわ星人の全身を殴りつける。

殆ど抵抗という抵抗もなくゆびわ星人を瀕死の状態にすることができた。

次は瀕死のゆびわ星人を未央と卯月が見える位置まで運び、バイクが見えたところで私は叫んだ。

凛「未央!! 卯月!! どっちでもいいからコイツを撃って!!」

バイクから顔を出す未央と卯月。

だけど、撃ってくる気配が無い。

凛「どうしたの!? 早く撃って!!」

早くしないと死んでしまう。

もうピクリとも動かないゆびわ星人を見ながら私は焦る。

するとようやくゆびわ星人の身体に新たなワイヤーが巻きつき頭部が転送され始めた。

どっちかが撃ってくれた。

凛「……ふぅ」

ゆびわ星人が転送されきったのを確認して、私は空中のバイクに飛び乗った。

凛「お疲れ、どっちが撃ってくれたの?」

未央「わ、わ、私」

凛「うん。それじゃあ、次は卯月が……卯月?」

私が卯月を見ると、卯月は青い顔をして震えている。

凛「卯月? どうしたの?」

卯月「り、凛ちゃん……だ、大丈夫なんですか?」

凛「大丈夫だよ。言ったでしょ、私が全部やるって。二人はその銃で送ってもらうだけでいいって」

卯月「わ、私たちの為に、凛ちゃんが、あんな事を……あんなでかい人を……あんな目に……」

凛「……もしかして、見えてた?」

二人は同時に頷いた。

ゆびわ星人の解体場面……二人とも顔が青ざめてるのはこのせいか……。

次は見えないようにしないといけない……。

凛「ごめん、次は二人に見えないようにやるから。また持ってくるから待ってて」

未央「あっ!」

卯月「凛ちゃん!」

もう一度飛び降りてレーダーを確認。

少し離れた位置に二体。一蹴りで獲物の傍まで接近して、さっきと同じ姿形と確認する。

もう一度同じように両手両足を吹き飛ばして瀕死の状態にして持っていく。

今度は卯月が顔を出して撃ってくれたみたいだ。

順調だった。

もう一匹を同じようにしようとレーダーの光源の場所に行くが、そこには先客がいた。

凛「っ!」

私が到着すると同時に、ゆびわ星人の首が飛ぶ。

それをやったのは、長髪長身の男、和泉。

剣と銃を持って私のほうに歩いてくる。

和泉「……俺は玄野にも、お前にも負けない。お前達みたいな甘ちゃんに俺は絶対に負けない」

凛「?」

そのまま和泉は立ち去ってしまった。

何を言ってきたのかよくわからなかったけど、獲物を一匹取られてしまった。

他の獲物をとレーダーを確認すると、残っている光源は2体。

早い、もうこれだけの数をやったの……。

まだ多分10分も経っていないのに……。

残りの2匹は必ず手に入れる為に、私は一度二人の場所に戻る。

凛「お待たせ。後2匹しかいないからちょっと急ぐよ」

未央「し、しぶりん。も、もういいよ……」

卯月「そ、そうです。もう止めましょう……」

凛「……どうしたの?」

未央「あ、危ないよ。あんなでっかいのと戦うなんてもう止めよ……しぶりん死んじゃうよ……」

凛「大丈夫、アイツ等くらいなら私は負けないから」

卯月「そ、そんな事言っても、もしかしたらってことがあるかもしれないじゃないですか」

凛「絶対に無いから大丈夫」

私が断言すると二人は出そうとしていた言葉を飲み込んだ。

だけど、また卯月から私を引き止めるような言葉が発せられる。

卯月「そ、そうです! みんなでここにいましょう! ここならあの怖い巨人も来れないですから、終わるまでこうやっていれば!」

未央「おお! そうだよしまむー! ナイスアイディアだよ! こうやって空を飛んでいれば危ないことなんて無いし、しぶりんがあんなことしなくてもいいじゃん! 今日も、これからもこうやっていれば……」

凛「それだと、ずっとガンツの部屋から出られないよ……それでもいいの?」

卯月「うぅっ」

未央「そ、それは……」

凛「私を心配してくれるのは嬉しいけど、まずは二人が100点を取ることを考えないと。大丈夫、後9回今のを繰り返せば100点だから。そう思うと簡単でしょ?」

卯月「でも、でも、凛ちゃんが……」

未央「やっぱり、私達はしぶりんが……」

凛「……」

さっきまで怖がっていたはずなのに、こうやって実践が始まったら私のことを心配してくれる二人に心が温まる。

やっぱりこの二人はなんとしても、一日でも早く解放しなければならない。

そのためにも、私は…………。

凛「……あれ、何?」

私は空中から見下ろすある光景を見て今まで考えていた思考が途切れた。

空から飛んでいるから見えた。

同じような姿の人たちがこのあたりに集まってきているのを。

全員黒い服を着ている、そして手には……銃?

十人、数十人じゃない、数百人単位で同じような姿の人たちが集まってきている。

凛「…………」

嫌な予感がした。

下を見ると、全員が上を向いて銃を構えている。

このバイクに向かって、構えているっ!

ガガガガガガガガガガガッ!!

次の瞬間にはバイクに何百、何千もの衝撃が襲い掛かった。

卯月「きゃぁっ!?」

未央「な、何!?」

撃ってきている。そしてバイクに無数の弾丸が撃ち込まれている。

数発程度なら何の問題も無いこのバイク。

だけど、もう数え切れないくらいの弾丸が打ち込まれて、あっという間に飛行ユニットが破損し、バイクは墜落し始めた。

卯月「き、きゃああああ!?」

未央「いっ、いやあああ!?」

地面に叩きつけられる寸前、私は未央と卯月を抱きかかえ、バイクから飛び出した。

空中で体勢を立て直して、私達は大きく開けた広間に着地した。

そこには、ゆびわ星人を倒したであろう玄野たちの姿もあった。

坂田「終わッた!!」

桜井「やッたァ!」

レイカ「玄野クンッ!」

レイカさんが玄野に駆け寄っている。

それを手で制して玄野は叫んでいた。

玄野「まだだッ! まだラスボスいるかもしんねーぞ! 油断するなッ!」

私はこの場所を見渡して、まずいと思った。

障害物も何も無い、大きく開けて見通しがいい広場。

360度全部見渡せるし、逆に私たちもどこからも見える場所。

私は叫んでいた。

凛「全員、この場から離れてっ!! 敵が来るっ!!」

「はァ?」

「なんだアイツ?」

桜井「渋谷さん?」

レイカ「どうしたの?」

玄野「ッッッ!!」

足に力を込めてハードスーツの力も全部解放して私は上に跳躍した。

超高速で地面が離れていき、周囲が見える。

私達がいた広場に群がるように集まる黒服たちの姿。

黒服たちの手にはマシンガン。

それが逃げ遅れた玄野たちに一斉に襲い掛かっていた。

凛が飛びあがったと同時、玄野も動いていた。

玄野「逃げろォ!! 何かがくるぞォ!!」

玄野の目に遅れて数人の黒服たちが映った。

黒服たちはマシンガンを向け、玄野たちに撃ちはじめた。

坂田「なッ!? なんッだッ!?」

鈴木「玄野クンッ! あの人たちっ!」

和泉「奴等……あの時の……」

最初は数発、今回転送されてきた男達と女に直撃したがスーツのおかげで全員無事だった。

だが、銃撃は終わらない。

気がつけば黒服たちはすでに百人以上現れて、全員がマシンガンを乱射していた。

玄野「クッ! 俺達も飛ぶぞォ!!」

和泉と風はいち早く飛び上がり、銃撃の雨から逃れていた。

遅れて坂田と桜井も飛び上がる。

続いて鈴木と稲葉が飛びあがろうとする。

だが、鈴木と稲葉は銃弾を受け飛びあがれずに体制を崩してしまった。その鈴木と稲葉に銃撃が襲い掛かる。

先に直撃してその場に倒れてしまった、男5人と女はスーツの耐久の限界が向かえ全身に銃弾を打ち込まれ死んでいた。

玄野「レイカ!! 稲葉を頼むッ!!」

玄野とレイカはそれぞれ鈴木と稲葉の手を掴んで跳躍しようとした。

銃弾を数発喰らったが体勢を崩さずに跳躍した、だが。

髪を短く切った坊主の黒服と、玄野に似た顔の黒服に空中でそれぞれ叩き落された。

玄野は自分を叩き落した黒服の顔を見て目を見開いて驚いていた。

黒服も同じ反応をしている。

玄野「アキ……ラ?」

アキラ「アニキ……?」

玄野は呆然としながら地面に吸い込まれていく、アキラと呼ばれた黒服は玄野に向かって手を伸ばしていたがその手は空を切った。

それを見た黒服たちが沸きあがった。

「うおおおおおおお!! 斉藤さんと玄野がやってくれたぜ!!」

「撃て撃て撃て!! 絶対に近づくんじゃねーぞ!! こいつらはあの4人を殺った連中だ、絶対に油断するな!!」

「奴等の服には耐久があるぞォ!! それを超えるだけ撃ちこめば殺れる!! 撃って撃って撃ちまくれェ!!」

地面に叩きつけられた玄野が次に見た光景。

玄野の視界にはすでに銃弾で埋め尽くされていた。

玄野(やべェ)

衝撃が絶え間なく襲う。

玄野(やべェ、やべェ、やべェ……)

動こうにも銃弾が着弾する衝撃で動くことができない。

玄野(死ぬ、このまま殺される)

銃撃音と共にスーツから異音が聞える。

玄野(嫌だ……タエちゃ……)

玄野のスーツからドロリとスーツから液体が流れ出したと同時に玄野に何かが覆いかぶさった。

玄野「っ!?」

暖かい感触、何か柔らかいものにつつまれていた。

それと共に喧騒がおき始める。

「おいッ! 何だ!? 何が起きてる!?」

「上だ!! 上から……ぐぱッ」

「散れ散れ!! 狙い撃ちにされてんぞォ!! 一旦散……ぎょっ」

ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!

銃撃の音は止んで衝撃もなくなった。

玄野(……何があッたんだ……)

何かを退かしながら起き上がる玄野。

覆いかぶさっていたものを退かした玄野は自分に何が覆いかぶさっていたのかを気付いてしまう。

玄野「あ? あぁ……」

流れるような黒髪から血が滴っている。

玄野「お、おい……な、何でだよ?」

背中には無数の銃撃痕、血が噴き出して止まらない。

玄野「ま、待て、待てッて、オイッ!!」

虚ろな目をしたレイカが玄野の手から零れ落ち、崩れ落ちるように地面に吸い込まれた。

玄野「オイ!! しっかりしろ!! オイッ!!」

玄野がレイカを抱き起こして身体を揺さぶるが反応は無い。ただ虚ろな目が玄野の顔を映しているだけ。

玄野「へ、返事をしろッて!! 逃げるぞ!! なァッ!!」

どんなに叫んでもレイカから反応はなかった。

すでにレイカは事切れていた。

玄野「レイカァッ!!」

玄野はレイカの死体を抱え叫び続けていた、1分後ガンツの部屋に転送されるまで叫び続け、嘆き続けていた。

転送されて戻ってきた玄野は先に戻っていたメンバーに迎えられていた。

桜井「あッ! 玄野さん! 無事でしたか!?」

坂田「アイツ等また来やがった……全員無事か?」

鈴木「玄野クン! 大丈夫だった!?」

稲葉「あつつ……い、痛ぇ……あれ?」

玄野「うぅうぁ……うッああぁぁぁ……」

桜井「玄野さん……? どーしたんですか?」

玄野の様子がおかしい事に気がつき、桜井と坂田、鈴木は玄野に問いただそうとするが、また転送されてきた人間を見て玄野は勢いよく立ち上がった。

頭部だけだったが、黒髪の女性。

玄野「レ、レイカ……」

その転送されてきた女性と共にもう二人の頭部が見えた。

顔が半分まで見えて、玄野は後ずさり座り込む。

凛「……逃がした、か」

未央「うぅ……」

卯月「はぁっ……はぁっ……」

3人が転送されたと同時に部屋に音が鳴り響いた。

『ちーーーーーん』

『それでは ちいてんを はじぬる』

その音を部屋にいた、玄野、和泉、桜井、坂田、鈴木、風、稲葉、凛、卯月、未央が聞き、ガンツを見ると共に、この場に居ない人間に気付いてしまう、

玄野「ッ!!」

桜井「えッ? ま、待って、まだレイカさんが……」

坂田「おい……まさか……」

鈴木「そんな……」

稲葉「ウソだろ……」

風「……」

未央「えっ?」

卯月「……え?」

『りんちゃん 0てん まじめにやってくだちい』

『Total 70てん あと30てんでおわり』

凛「……」

順番に採点が行われていく。

『しまむらさん 10てん ひとりでやりましょう』

『Total 10てん あと90てんでおわり』

そこで玄野は思い出す。

100点メニューの存在を。

『ちゃんみお 10てん ひとりでやりましょう』

『Total 10てん あと90てんでおわり』

玄野(そうだ……俺の点数、後少しで100点だった)

玄野(100点で、レイカを生き返らせれば……)

全員の採点が終わり、残すは玄野のみ。

そして、ガンツの画面は切り替わり。

『くろの 10てん』

『Total 96てん あと4てんでおわり』

点数を見た玄野はキレた。

玄野「ッ!! ああああッッッ!!」

玄野「ふざけんなァ!! レイカを出せ!! レイカを生き返らせろッ!!」

玄野「テメェが戻すのが遅ェからレイカが死んだんだ!! ミッションは終わってただろーが!! ふざけんなァッ!!」

全員が玄野を見て何も言えなくなっている。

玄野がどんなに叫んでもレイカは戻ってくる事はなかった。

玄野「うぅ……くそっ……くそ……」

鈴木「玄野……クン……」

ガンツの前で頭をたれ続ける玄野に鈴木が触れようとしたときにそれはおきた。

『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』

和泉「何!?」

凛「連続……?」

桜井「えッ?」

玄野「!!」

玄野はガンツを掴み再び叫んだ。

玄野「早く出せ!! どんな奴でも俺が殺して点数を取ってやる!! 早く表示しろガンツ!!」

玄野の言葉に答えるようにガンツの画面が切り替わった。

その画面を見て、玄野は固まった。

『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい』

画面に触れたまま動かない玄野。

和泉「玄野……なにをしている? 情報が見えない」

動かない玄野を和泉が無理矢理退かせる。

そしてガンツの画面が全員に見えるようになった。

『玄野アキラ』

『特徴 けっこうつよい けっこうはやい』

『好きなもの 血液』

和泉「玄野……?」

桜井「人間じゃないっスか……っていうか、この人……」

坂田「リーダーに、似てるな……」

鈴木「玄野クン、これって……」

玄野「……ンだよ、何なんだよこれ……」

凛「……コイツ、さっき居た」

卯月「ひ、人、ですか?」

未央「な、なんなの、人をどうするの?」

玄野はガンツの画像をみて震え続けている。

そうしている間にも、転送が始まった。

卯月「あ、あっ。凛、ちゃん」

未央「ま、待って」

凛「……二人とも私に捕まっていて。多分一緒に転送されるから」

玄野「ッ!!」

転送され始める凛を見て、玄野は咄嗟に凛の身体を掴んだ。

凛「アンタ、何を!?」

そのまま、玄野と凛たちは転送されて、再び狩りの舞台へと飛ばされた。

今日はこの辺で。

転送された私達はビルの屋上にいた。

手を繋いだ未央と卯月。

そして、私の肩を掴んだ玄野の4人。

私は先の狩りでの乱入者たちと、今回のターゲットは同じだと考える。

凛(多分、画像のヤツがボス)

凛(さっき、未央と卯月をビルの一室に隠れてもらって、すぐにビルから飛び降りて結構な数をデカ銃で潰した)

凛(その中にあの画像のヤツもいた。他の奴等は前の4匹のような速さはなかったから潰せたけど、あの画像のヤツは結構速くて逃げられてしまった)

凛(でも、気になるのは……情報にでた、名前……玄野アキラ……)

私は玄野を見ると、玄野も私を見ている。

玄野「……今回のターゲットは、俺の……弟だ」

凛「っ!」

未央「えっ?」

卯月「お、弟さん、ですか?」

玄野「ああ……」

複雑な表情をしている玄野。

凛「……間違いないの?」

玄野「わからねぇよ……何で、アイツが……アイツは星人なんかじゃねェのに……」

凛「さっきの奴等の中に今回のターゲットがいたから、あのなのましん星人とか言う奴等の仲間だって思ってたけど……」

玄野の弟だとすると、やっぱり人間なの?

わからない……一体どういう事……。

玄野「くそッ……わかんねェ……一体なんなんだよ……」

玄野も状況を飲み込めていないようだ。

……このまま考えても時間が過ぎるだけ。

まずは、敵の確認をしなくては。

レーダーを確認すると、まだかなりの数が残っている。

100を超える数だ。1匹1点だとしても……。

凛(いける! 今回で二人のうちのどちらかを解放することができる!!)

私はビルの屋上から下を見る。

小さくさっきの黒服連中が見える。

やっぱりアイツ等が今回の獲物。

凛「……今回のターゲットがアンタの弟かどうかっていう事は分からないけど、今回かなりの数がいるみたい」

玄野も私の横に来て下を見る。未央と卯月も恐る恐る見に来た。

凛「まずは、あの黒服連中をやる。ターゲットをどうするかは最後に考える。それでどう?」

玄野「……」

迷っているのか……自分の弟がターゲットにされたのかもしれないんだから、迷ってもおかしくは無い。

玄野「……ターゲットを見つけたら、教えてくれないか? 本当にアキラなのか話をしたい……」

凛「わかった」

そう言って玄野はビルからビルに飛び移り姿を消した。

玄野の頼みに反対することなどない。

玄野が弟じゃないと、宇宙人だと判断して殺せればそれが一番いい。

だけど、もし玄野の弟なんだとしたら……。

アイツ等は……。

思い浮かんだ可能性を否定する。

アイツ等は宇宙人、私の敵で、人間の敵、それだけ。

凛「未央、卯月、またさっきと同じように獲物を持ってくるから、撃つ準備をしておいて」

私が飛び降りようとビルの側面に立とうとすると、二人が私の身体を掴んで来た。

凛「……どうしたの?」

未央「だ、駄目だよ!! あの人たち、人間なんだよ!?」

卯月「そ、そうですよ!! 人を撃つなんて、そんなこと!!」

凛「っ!」

……やっぱり、そうなるか。

凛「……二人とも、よく聞いて。あれは人じゃない。宇宙人、人に見えるけど中身は違う。アイツ等は人間の敵なんだよ」

未央「う、宇宙人……そ、それでも、人だよ、人の姿をしてるんだよ!?」

卯月「や、止めましょう、凛ちゃん、今回はあの人たちと話をしましょう……それで帰ってもらいましょう……」

二人とも割り切れない、か。

……どうする。

これじゃあ、二人の前に獲物を持ってきても撃てるはずが……。

くっ……。

そのときだった。

私達がいるビルの屋上に数人の黒服が飛び移ってきたのは。

「うっ!? さ、斉藤さん! 奴等です! 3人います!」

「うろたえんなッ! 背のでかい長髪の男か?」

「ち、違います……女です。3人とも女です」

「へ、へへ……ビビらせやがって……」

未央「!?」

卯月「ひっ!?」

凛「……」

数は……5匹。

点数・弱点確認。

坊主が20点、ドレットヘアー15点、アフロ12点、長髪と黒人っぽいのが9点。

弱点は……頭、心臓、それと……体のいたるところに現れたり消えたりしている……。

とりあえずは頭と心臓を狙っていけば間違いなさそう。

「油断するな。こいつ等の武器を喰らったら俺達の耐久力でも耐えられねぇぞ」

「だ、大丈夫ッすよ。さっきも女は殺れたじゃないッすか」

「背の高い奴が、あの人たちを殺ったんですよね?」

「コイツ等は食っちまいましょうよ」

ロックオン完了。

死……二人が見ている……。

卯月「り、凛、ちゃん……」

未央「し、しぶりん……」

怯える二人の前で、コイツ等を殺してしまったら……。

私も、二人に怖がられてしまうかもしれない……。

今は……殺せない……。

凛「…………待って。私たちに戦う気は無い。話をさせて」

「ああ? 命乞いかァ?」

「斉藤さん、いけますよ。コイツ等大した事無いですよ、殺って食っちゃいましょう!」

「油断するなって言ってんだろーが! 全員銃を構えろ!」

未央「や、やめて……私達、何もしないから……」

卯月「お、お願いです……話を聞いてください……」

恐る恐ると言った感じで黒服たちに声をかけた二人に返されたのは、マシンガンの銃口。

二人ともそれを見て小さく悲鳴を上げて全身を強張らせた。

私は二人の前に出て、二人を庇いながら最終通告を奴等にする。

凛「……止めて。今なら何もしない、お願いだから私たちを見なかった事にしてどこかに消えて……お願い……」

「ハッ! ハハハ! 何言ってんだオメー!」

「お前らは死んで俺達に食われんだよ!」

「斉藤さん! 殺っちまいましょう!」

凛「…………」

「撃て」

奴等の指が動くか否かの瞬間、私は二人を抱えてビルの屋上を破壊しながら飛び上がった。

「なッ!?」

「ハァッ!? 何が起きた!?」

二人の顔を腕で抱きしめて視界を奪う。

それと同時にハードスーツの掌から閃光を何発も撃ち出す。

連続で撃ち、20発近い閃光は軌道を大きく曲げて奴等に降り注いだ。

閃光はロックオンしてあった奴等の頭と心臓に吸い込まれて、

私が屋上にもう一度降り立ったときには、動く者は誰もいなかった。

凛「……」

私は二人の視界を奪ったままその場を立ち去ろうとしたが、かすかに動いた黒服に視線を注ぐ。

頭が半分砕けた坊主頭の黒服がこちらに銃を向けていた。

「く……ソ……が……」

凛「……」

私は再度ロックオンをしなおして、坊主の黒服の全身に閃光を撃ちこんだ。

その場から跡形もなく消し飛んだ坊主の黒服を確認して、屋上を後にする。

空を飛びながら、私は予定を変更する事にする。

凛(皆殺しだ)

凛(二人を説得しようにも、この様子じゃどれだけ時間がかかるかわからないし、二人が人間の姿の敵を撃てるわけが無い)

凛(さっさと終わらせて、二人を安全な場所に戻す)

凛(そのために、まず……)

私は空中でバイザー内のあるアイコンを操作し、あるものの転送を開始した。

転送されてきたそれは、20メートルを超える大きさの巨大な兵器。

転送されきったことを確認し、私は二人を抱えたまま駆け上がり、転送した巨大ロボットのコクピットを開き二人を中に入れた。

卯月「えっ!? な、なんですかこれ!?」

未央「こ、ここ、どこ?」

凛「二人とも、ここで少し待ってて。この巨大ロボットのコクピットを閉じてしまえば安全だから」

卯月「え? ええっ!?」

未央「し、しぶりん! 今なんて!?」

二人の顔を見ながらコクピットを外から閉じた。

外の様子を悟られないように、コクピット内は何も起動させず、巨大ロボットもただそこに佇むだけ。

これは二人を守るためだけのシェルター。

凛「中から外の様子を見るモニターはオフ、中から操作することも出来ないようにして……」

全ての準備が整った。

凛「敵の数……少し減っているけど、まだまだ沢山いる……」

どこかでスイッチが切り替わる音が聞えた。

凛「久しぶりに、楽しもう」

今回は速度重視。

どれだけ速く全滅させることが出来るか。

装備は……剣2本とハードスーツの武装、それとY字銃のみ。

私はロボットを見上げる敵をの中心に剣を伸ばし全力で飛びかかった。

今日はこの辺で。

夜のビル棟の下に桜井と坂田はそれぞれ転送されてきていた。

二人がまず目にしたのは、数十人の黒服たちの姿。

桜井「なっ!? こ、こいつ等はっ!!」

坂田「!? クソッ! 敵のド真ん中かよッ!!」

転送されてきた二人に黒服たちも気付く。

「お、おいッ!! 奴等だ!! 二人現れたぞォッ!!」

「き、距離を取れ!! 距離を取って撃て!!」

坂田「桜井! 奴等また撃ってくるつもりだ! 障害物に身を隠すぞッ!」

桜井「は、はいッ」

黒服たちが坂田たちから距離を取りマシンガンを撃ち始めるが、坂田たちは相手の攻撃を察し、近くの階段に面する壁に身体を隠し銃撃をやり過ごす。

だが、その階段の上には別の黒服たちがいて、その黒服たちは坂田たちに気付き銃を構える。

「奴等がいるぞォ!! 撃て撃てェ!!」

坂田「こっちもかよッ!!」

桜井「し、師匠! どーするんスか!?」

坂田「どーするもこーするもやるしかねーだろ!!」

坂田は黒服に向けて銃を構え撃つが、坂田も黒服たちの銃撃を喰らってしまう。

桜井「し、師匠!!」

坂田「桜井ッ!! 目を離すな!!」

坂田は銃撃を喰らいながらも、階段上にいた桜井を狙っていた黒服を撃ち吹き飛ばした。

桜井もそれを見て、残っている黒服に銃を撃ち、階段上の黒服は全て銃撃によって吹き飛び爆散した。

桜井「うッ……」

黒服たちが弾け飛んだ光景を見て、桜井が口を押さえるが、階段の上にまた黒服たちが現れて銃撃を始める。

坂田「クソッ! キリがねえぞ!!」

銃弾を止めながら銃を撃ち黒服を吹き飛ばしていくが、湧いて出るように集まってくる黒服たち。

ついには階段の逆側にも現れて銃を構えてきた。

桜井「か、囲まれ……」

坂田「クッ! 俺が銃弾を抑えるから、お前は…………な、なんだ、あれは……」

坂田が銃を片手に、黒服たちから撃ちこまれる銃弾を止めようとしたときに周囲の空間に放電が走り何かが現れ始めた。

徐々に見え始めるそれは、無数の機材が取り付けられた何か。

階段の逆側の黒服たちを遮るようにその全容が瞬く間に現れて、階段上にいた黒服たちも呆然と上を見上げる。

「な、んだ、こりゃ……」

「黒い……巨人……いや、ロボット?」

桜井「ハ、ハハ……し、師匠、なんスか、これ?」

坂田「……知るか。だけどチャンスだぞ」

坂田は上を見上げる黒服たちの隙を見逃さず、銃を撃ち込み黒服たちを吹き飛ばす。

坂田「桜井! このデカイ何かを盾に奴等の銃撃をやり過ごすぞ!」

桜井「あッ! はいッ!!」

二人は現れた何かの影に隠れながら、最初に銃撃を加えて来た黒服たちの姿を確認する。

二人の視界に数十人の黒服たちが上を見上げている姿が映る。

坂田がその黒服たちに銃を構えようとした、その時。

黒い何かが空から降って来た。

坂田「!?」

一瞬だった。

黒い何かは空から回転しながら降ってきて、黒服たちの中心に着地した。

着地した衝撃で小さなクレーターができたが、次の瞬間には黒い何かは飛び上がり少し離れた位置に居る数人の黒服たちに向かって空中を回転しながら飛びかかっていった。

黒い何かが飛び去った後、その場に居た数十人の黒服たちに変化が生じた。

全ての黒服たちの身体に細い線が入る。

その線が徐々に大きくなり、やがてその線から血が溢れ、黒服たちの身体はバラバラになり地面に落ちた。

桜井「なッ!?」

坂田「マジかよ……」

桜井「し、師匠、何があったんスか、これ……」

桜井の位置からは見えていなかったが、坂田は何が落ちてきたのか、落ちてきた何かが何をしていたのか見ていた。

坂田「渋谷って女だ……空から落ちてきて両手に持った刀で奴等を斬って行きやがった……」

桜井「し、渋谷さんスか?」

坂田「ああ……」

離れた位置に居る黒服たちもすでにバラバラになっており、坂田たちは凛の姿を見失っていた。

坂田「桜井、アイツを追うぞ」

桜井「えッ? あ、は、はいッ」

凜がどこに消えたのかは分からなかったが、目印はあった。

坂田たちは、バラバラになった黒服たちの死体の先に向かって走り始める。

別の場所。

鈴木と稲葉が黒服たちから逃げていた。

鈴木「稲葉君! 走って!」

稲葉「うっ、わあぁぁぁぁ!!」

黒服たちは逃げる二人を背後から銃撃し続けている。

すでにかなりの弾丸が直撃し、スーツに異音がおき始めていた。

稲葉(やばい! ま、またスーツが壊れる!)

先の狩りの最後に、黒服たちの襲撃を受け稲葉はスーツを銃撃によって破壊されていた。

破壊されて数発弾丸を喰らったが、運よく転送され生き延びることができた。

だが、今回は狩りが始まったばかり。

敵地のど真ん中に転送され、あっという間にスーツは半壊状態になり、稲葉は恐慌状態に陥っていた。

稲葉「い、嫌だ、死にたくねェ! 死にたくねェ!!」

走り続ける稲葉の足に痛みが襲った。

稲葉「痛ッ!?」

いつの間にかスーツは限界を向かえ、防御力の皆無となった足に銃弾が打ち込まれ稲葉はその場に転倒する。

稲葉「あッ! ああァッ!? うわぁアアァ!!」

稲葉に訪れるのは死のイメージ。

背後から銃撃を撃ちこまれ蜂の巣になる自分。

頭を抱えながらその場に蹲った稲葉だったが、銃撃は何時までたっても来なかった。

鈴木「稲葉クン!! 立って!! 逃げるよ!! 最後まで諦めちゃ駄目だ!!」

その声に恐る恐る顔を上げると、自分を庇うように黒服たちを銃で牽制する鈴木の姿。

稲葉「ハァッハァッ、ハッ! ハァッ、だ、ダメだッ、死ぬッ」

鈴木「稲葉クンッ!!」

恐怖により動くこともできない稲葉は鈴木のスーツからドロリと液体が溢れ出す瞬間を見た。

そして、鈴木の身体に無数の銃弾が撃ちこまれてしまった。

鈴木「うっ、ぐっ!」

稲葉「あッ!? あああッ!!」

稲葉の横に倒れこむ鈴木。

稲葉はそのまま顔を伏せてしまった。

稲葉(嫌だッ! 神様ッ! 死にたくないッ! 誰か……誰か……)

稲葉「誰かァッ!! 助けてくれェッ!!」

稲葉の叫びと共に、一陣の風が稲葉の横を通り過ぎていった。

風が通り過ぎ、稲葉は通り過ぎた風の先に顔を向けた。

その先にあった、稲葉の視界に入っていた黒服たちの頭が全て吹き飛んだ。

稲葉「は? え、なッ?」

頭のなくなった黒服たちはそのままゆらゆらとたち続けている。

だが、その身体も稲葉の後ろから飛んできた無数の光が消し飛ばし、黒服たちの姿は跡形もなく消え去った。

稲葉は首だけを動かし背後を見る。

そこで目にしたものは、黒いバイザーをつけた凛が一匹の黒服を上空から殴りつけ、黒服の身体は押しつぶされて、地面に赤い花と大きなクレーターができた場面だった。

稲葉「え? あ?」

そのまま、凛はクラウチングスタートの体勢を取り、地面を爆発させて横に飛んでいった。

鈴木に銃撃が撃ちこまれて、僅か十秒にも満たない時間でおきた出来事に、稲葉の理解は追いつかずその場にへたり込むだけだった。

しばらくすると、その場に坂田と桜井がやってきた。

桜井「稲葉さん! 大丈夫っスか? って、鈴木さんが!!」

桜井が倒れて血を流す鈴木に駆け寄る、坂田はすぐさま鈴木の身体を透視し、傷の度合いを調べ始めた。

坂田「……内臓は傷ついてない、止血すればかなりの時間持つはずだ」

桜井「!! 稲葉さん! 傷口を押さえるのを手伝ってください!」

稲葉「あ?……あ、ああ」

3人は鈴木の手当てをする為にその場に留まることとなった。

ビルの入り口のエントランス。

その場所に100人以上の黒服たちが和泉と風を追い込む為に銃撃を行っていた。

和泉と風はそれぞれ柱の影に隠れ、銃撃が止むのを待っていたが、銃撃が途切れる気配は一向になかった。

「全員10メートル以上距離を取れ!! あの長髪は刀を使うぞ!!」

「回り込んで全方位から撃ちまくれ!! 絶対に近寄らせるな!! 撃ち殺すんだ!!」

和泉「チッ」

和泉と風の位置は柱を背に目の前は壁、少し離れた位置にビルの入り口が見えているが、ビルに入るためには銃撃の雨霰の中を抜けなければならない。

和泉(銃弾を撃ちこまれてバランスを崩したらいい的になっちまう。銃撃が止むのを待つにしても止む気配は一向に無しか……)

背にした柱の横はスコールのように銃弾が降り注いでいる。

この中を動く事は無理だと判断した和泉は、手にした刀を伸ばし始めた。

風「……」

それを見ていた隣の柱の影に身を隠していた風は身を屈める。

和泉は両手に持った刀を黒服たちに向かって、柱ごと斬り抜いた。

「うがッ!?」

「くッそォ! ここでも届くのかよォ!!」

「うげェッ!」

それと共に銃弾が一瞬途切れる。

二人はその一瞬を見逃さずにビルに入り込み、ホールを駆け抜ける。

少し遅れて黒服たちもビルに入り込んできたが、すでに和泉と風の姿を見失っていた。

「ちぃっ! 姿を隠したぞ! コンタクトつけてない奴は急いで付けろ!」

「位置を確認しろ! どこにいる!?」

「位置……上です! 上……ぐはッ!?」

吹き抜けとなっているエントランスホールの2階部分で和泉は黒服たちを狙い撃ちし始めた。

透明化を行い、寝そべってショットガンを構えて撃ち続ける。

10人ほど仕留めたところで、黒服たちも物陰に隠れながら和泉が居る位置を狙い銃撃を始めた。

和泉(思ったよりも統率が取れている……もう少し片付けたかったが……)

黒服たちは和泉の攻撃を受けながらも冷静に行動していた。

刀ではなく銃撃によって倒された仲間を見て、物陰に隠れながら銃撃を行う部隊と和泉の居る2階部分まで追ってくる部隊に分かれて行動が始まっていた。

和泉はすでに死角となってしまった自分を追ってくるであろう黒服たちを迎え撃つ為、匍匐状態で移動をする。

そして、階段の手前に来た時、

風の拳によって廊下を吹き飛ばされていく黒服の姿を見た。

風「ふゥッ……」

和泉「……」

それを一瞥した後、和泉は上ってくる黒服を風に任せたのか元の狙撃していた位置に戻った。

その時、外から100人近い黒服がビルの中に入ってきた。

和泉「何ッ!?」

すぐに銃を構え撃ち始める和泉。

何人か仕留めるが、黒服の様子がおかしい事に気が付く。

「に、逃げろ! び、ビルの中ならあんな動きはできねぇはずだ!」

「な、なんなんだよアレはァ!?」

「クッソ! ぶっ殺してやるよおおおおおおおおうげぁ!?」

ビルに入ってきた最後の黒服が、何かを迎え撃つように振り向いた時、その黒服に向かって何かが高速で回転しながら飛んできた。

空中でくるくると何度も高速で宙返りを行って、黒服の頭に踵落しを喰らわせて黒服の頭を吹き飛ばした何か。

和泉「……何だ?」

その何かは床を蹴ったかと思うと、壁に張り付きその壁を蹴って、天井を蹴って、縦横無尽に移動しながら剣を伸縮させ黒服の頭を突き、飛びかかった黒服の胴体を貫き、首を引きちぎって黒服を殲滅している。

100人以上いた黒服の姿がどんどん減っていく。

ある黒服は刀を構えているが、その刀ごと真っ二つに切り裂かれた。

急接近された黒服は成すすべなく頭を引きちぎられて、その頭を投げつけられた他の黒服は頭と頭の衝突に耐え切れず顔面が爆発した。

飛びかかると同時に、数発放たれた閃光は寸分の狂いもなく数体の黒服の心臓と頭を打ち抜き絶命させる。

複数体集まっている場所に、壁を引きちぎって投げた石飛礫が黒服たちの全身を貫く。

黒服が少なくなるにつれて、何かの声が大きくなっていく。

凛「ふっ……ははは……」

両手の剣で数体の黒服を輪切りにして、身体を回転させて剣を横に立て剣の腹で黒服の切った身体を別の黒服たちに向け打ち込む。

凛「はははははは! あははははははははは!!」

黒服たちの身体は血を巻き散らしながら、生きている黒服に向かって高速で飛んでいく。

それを防いだ黒服は、いつの間にか天井に足を差し込んで張り付いていた凛にロックオンされて全身を閃光で焼かれて死んだ。

凛「もっと!! もっとぉ!!」

その場に生き残っている黒服はすでに10人となっていた。

「な、なんだ、これ……」

「……お、おい、上だ」

「何だアレ……天井を……壁を歩いてくるぞ……」

天井から歩いてくる凛。

右足を差し込んだ天井から抜いて左足を差し込み、それを繰り返し重力を無視して壁を歩き出す。

両手の剣の血を飛ばしながら徐々にスピードを上げて壁を走りだす。

ズン、ズン、ズンという鈍い足音が、激しい音に変化し壁を破壊しながら黒服たちに襲い掛かり、全員を無造作に引きちぎり、両手に掴んだ最後の黒服を地面に叩きつけ押しつぶし破裂させた。

凛「あッ……はァッ……ンッ……」

その場で少しだけ、震える凛。

それもつかの間、凛は再び壁を走り、天窓をぶち破り外に飛び出していった。

その場に残ったのは黒服の無残な死体と一部始終を見た和泉と風。

風「なん……やね……アレは……」

和泉「…………」

和泉はいつの間にか手に持った銃を落としていた自分に気付き、荒々しげに壁を殴りその場を去った。

この付近で一番高いビルの屋上。

雲の切れ間から月明かりが覗き、屋上のへりに腰をかけ空を見上げる黒服が居た。

その黒服に背後から声がかかる。

玄野「……アキラ……か?」

その声に黒服は振り返り、声の主を見て眉を動かす。

アキラ「……アニキ……生きてたのか」

二人とも似た顔立ち。

それもそのはず、二人は兄弟であるが、今は敵同士。

玄野「やッぱり……お前、アキラなのか……」

アキラ「……」

玄野は片手に持った銃を下ろして黒服に近づく。

黒服は玄野から視線を外し、再び夜空を見上げて天を仰いでいた。

玄野「……」

アキラ「……」

しばし無言の時間が訪れる。

その沈黙を破ったのはアキラのほうだった。

アキラ「……アンタ、何であの黒い奴等の仲間になっちまッてんだよ……」

玄野「そりゃ俺のセリフだ……お前、何であの黒服たちと……」

アキラ「……俺の話を聞いたら、アニキの話も聞かせてくれるか?」

玄野「……ああ」

顔だけを動かして玄野を見てアキラは語り始めた。

今日はこの辺で。

アキラ「そうだな……どう説明するか……」

玄野「……」

アキラ「結論を話すのが手っ取り早いか……」

玄野「……ンだよ」

どう切り出すか決めかねていたアキラが玄野を見て一言告げた。

アキラ「俺は吸血鬼ってヤツになッちまッた」

玄野「……はァ?」

アキラの言葉に首を傾げる玄野。

アキラ「あの黒服の連中もそうだ、全員吸血鬼。人間の敵ってヤツだな」

玄野「……意味ワカんねーよ」

アキラ「俺もなんでこーなっちまったのかはワカらねぇ。いつの間にか身体の中にナノマシーンってのが入って気がつかないうちに吸血鬼になッちまッてたんだよ」

玄野「ナノマシーン? ますますワカらねぇぞ……お前俺をおちょくってんのか?」

アキラ「全部事実だ。ナノマシーンが何かってのは俺も聞いてねぇけど、この地球には無かったものらしい、どこかからやってきたものだって聞いたけど、真実を知る奴等はもう殺されちまって何もわからねぇ」

玄野「……」

アキラ「そのナノマシーンが人間の体内に入ると、数週間で人間の細胞を作り変えて吸血鬼に変えてしまう。皮膚は強くなって身体能力も上がる、人間とは思えないくらいの速さで動けるし、怪力で鉄骨だろうが壊すこともできる。細胞を変質させて武器を作り出すなんてことも可能だ」

玄野「……あいつ等も、確か手から武器を」

アキラ「だがいいことばかりじゃない。吸血鬼にも欠点があって、人間の血液を主食にしないと慢性的な頭痛が起きてやがて死ぬ。だから人間を捕食して日々の糧としている……」

玄野「!! お、お前、まさか……」

アキラ「ああ、俺も人を食っちまった」

玄野「う、ウソだろ……」

アキラ「本当さ」

玄野「……信じられねェよ」

アキラ「……吸血鬼になると感情が希薄になるんだ。人間の倫理観とかそういったものがどうでもよくなって人間を傷つけたり殺したり食うことにも躊躇しなくなるんだ。身も心も化け物になッちまうッてことさ」

玄野「ンだ、それ……」

アキラ「まあ、そんな化け物にも天敵はいて、それが……アンタ等、黒い機械の服を着た連中だ」

玄野「……」

アキラ「今日はアンタ等を全滅させる為に総力戦を仕掛けたんだが……」

アキラ「……なんでか知らねェけど、久しぶりに会うアニキが奴等の仲間になってて俺は混乱しているッてことだ」

玄野「……」

アキラ「俺の話はこんなところだ。……アンタの話、聞かせてくれよ」

玄野の目を見てアキラは問いかける。

玄野はアキラの話を最初は信じられなかったが、アキラが出す雰囲気、アキラの表情や視線が自分を騙しているようなものではないと感じ、アキラの言葉を真実だと理解してしまった。

そして、玄野もアキラに話し始める。

真実を話したアキラに嘘はつかず真実を話し始める玄野。

玄野「……俺の話か、このスーツを着て狩りをしている理由ってことでいいんだよな?」

アキラ「ああ」

玄野「……信じるかどうかはワカんねェけど、俺は数ヶ月前に、一度……死んでるんだ……」

アキラ「あァ? 死んでるって……アンタ……」

玄野「知らねェか? 地下鉄でホームレスを助けて消えた高校生」

アキラ「……聞いたことがある」

玄野「その時に俺は電車に轢かれて一度死んだ。だけど、死んだはずの俺は気がついたら変な部屋に何人もの人間と一緒にいたんだ」

アキラ「……」

玄野「それから、その部屋にあるガンツって呼ばれている黒い玉が出す指令に従って星人とか言われている奴等を強制的に狩らされている。その部屋で星人を狩ることで得られる点数を100点集めないとやめることもできない狩りをやらされてるんだ」

アキラ「……狩り、星人?」

玄野「ああ、前に部屋のことを知っていた奴が言うには宇宙人とか言ってたけどさ」

アキラ「……星人、宇宙人か……」

玄野「とにかく、そうやって死んだはずの人間を使って星人を狩らせている黒い玉に俺達は動かされ続けている……俺達も死にたくないし、やらないと解放されないから嫌々狩りを続けている……」

アキラ「死んだはずの人間を連れてくる……あの突然消える現象もそれか……信じられねェな……」

玄野「信じられないのはお互い様だろーが……俺の話はこんなもんだ、はっきり言って自分でも何でこうなってるのかってのがよくわかって無いんだ。説明できるのはこれくらいしかねェ」

話を終わらせた玄野にアキラから質問が来る。

アキラ「……その黒い玉ってのがアンタ等の黒幕ってやつか?」

玄野「それもワカらねぇ」

アキラ「……死んだ人間が連れてこられるって事なら、アンタ等を全員殺しても死ぬ寸前で助けられるってことか?」

玄野「いや、俺達は星人に殺されたら今度こそ本当に死んでしまうみたいだ……だけど、俺達が全員死んでもまたガンツが新しい奴等を集めるだろうな……たぶん……」

アキラ「……そういうことか」

再び空を見上げ考え込むアキラ。

しばらく考え、纏まったのかまた口を開く。

アキラ「完全に詰んでる……な」

玄野「?」

アキラ「……俺達は今日吸血鬼全員でアンタ等を殺すために襲撃を仕掛けたんだが、アニキの話だとその黒い玉をどうにかしない限りアンタ等を殺しても無駄だってことだろ?」

玄野「……たぶんな」

アキラ「それでもって、こうやってアニキが俺の前に来ているって事は、今回俺らがその黒い玉のターゲットにされたって事だろ?」

玄野「……ああ」

アキラ「アンタ等の中に、さっきとんでもねーのがいた。空から降ってきて、何かしたと思ったら吸血鬼達を数十人一瞬で潰された。何をされたのかも理解できなかった、正直あんなのをどうにかできると思えない」

玄野「……」

アキラ「他の吸血鬼はまだ何とかなるって考えてる。だけどもう無理だ、吸血鬼の指導者的立場の連中もアンタ等に殺されたし、あの人たちが殺された事によって吸血鬼は組織として崩壊し始めてる」

アキラ「今日アンタ等を全滅させることができたらもう少しは持ったかも知れないけど、それもできないんじゃどーしようもない。もう終わったってことだ」

疲れた表情をしながらアキラは玄野に切り出す。

アキラ「もう色々と疲れた、殺せよ」

玄野「なッ!? 何を言ッてんだよ!?」

アキラ「……俺はさ、昔から自分は神に愛されている人間なんだって思ってた。勉強もスポーツも何でもできたし、今までの人生何一つ失敗することなんてなく今までやってきていた」

アキラ「神に愛された、善の側の人間だって思っていたけど……俺は化け物になっちまった。人を食って生きていかないといけない化け物に」

アキラ「それを受け入れてしまった自分も、これから人を殺して生きて行かなくならない運命も全部嫌なんだ。だからさ、頼むよ、アンタが俺を殺してくれよ……」

玄野「……できるワケねーだろ」

アキラの言葉を拒否する玄野。

玄野「お前は俺の弟なんだぞ……殺せるワケねーだろ……」

アキラ「……アンタ、何か変わったな」

少し以前の玄野なら少しは迷ったがそのまま撃ってアキラを殺したのかもしれない。

だが、今の玄野は大事な存在を見つけ、以前のような自分が一番大切で他人のことなどどうでもいいという思考はしなくなっていた。

それと共に、ガンツの部屋から生き残る為に、玄野はある男を手本に行動するようになっていた。

その男ならどうするか、どう行動するかを考え行動しているうちに、玄野の思考も変わっていった。

手本の男、加藤のような思考に変わっていっていた。

玄野「殺せとか、死ぬとかいうな! 生きろよ! 何とかなる方法があるはずだ! お前が元の人間に戻る方法もあるはずだ!」

アキラ「……ねーよ、そんなもの」

玄野「絶対にある! 諦めるな! 俺も一緒に探す、だから諦めるなッて!」

アキラ「……」

玄野「俺達の狩りのターゲットになってもターゲットに逃げられたときがあるんだ! だからお前は一旦逃げてどッかに身を隠せ! 後で連絡を取り合ッて、一緒に探すぞ! お前が元に戻る方法ッてやつを!」

玄野は必死に説得した。

自分を殺せと言うアキラに対して、今まで無いくらいに必死に説得をした。

だが、アキラから帰ってきた返答は。

アキラ「……無理だ。もうどうしようもないんだよ」

玄野「そんな事やッてみねーと……」

アキラ「やってみないとワカらない……だけどその間に俺は多分人を食い続けるぞ?」

玄野「ッ!?」

アキラ「今はアンタを殺したと思ったショックで一時的に人間的な感情が戻って来てるけど、またすぐに人間が食料だとしか思えなくなるハズだ……そーなっちまったらどーする? アンタは人間を食う俺を見ても今と同じ事を言えるか?」

玄野「……そんな事」

アキラの言葉に複雑な表情で俯く玄野。

アキラ「……もういいだろ? 俺は今、人間の感情が戻っている今死にたいんだ」

玄野「……」

アキラ「化け物として誰かもワカらねぇヤツに殺されるより、せめて俺のことを知ってる、俺が人間だったことを知ってるアンタに殺されたい」

玄野「……」

アキラ「俺は人として、死にたい。頼む」

玄野「……でき、ねェよ」

アキラ「…………そッか」

玄野の言葉にアキラは立ち上がり玄野を見据え手から刀を生み出して構えた。

玄野「なッ!?」

アキラ「それならアンタを殺して、アンタの仲間も殺して、その黒い玉ってのもぶっ壊してやるよ! そうすりゃ俺を脅かすものは何も無くなる!」

アキラは玄野に刀を振りかぶり切りかかった。

玄野はスーツの肩口を斬られるがアキラの刃がスーツを壊すことはなかった。

アキラ「やッぱその服を壊さねーとダメか」

玄野「おいッ! 止めろッ! 俺はお前を……」

アキラは玄野に掴みかかり羽交い絞めをかけ、首と顎の下の部分にあるレンズ部分を指で押し込む。

するとレンズ部から液体が流れ出すと共に、玄野のスーツは異音を出しながらその機能を停止した。

アキラ「さぁ、どーする? これでその服は壊れた」

玄野「う、ウソだろ……どうやッて……」

アキラは新たに銃を生み出して玄野に構える。

アキラ「これでもまだ甘っちょろいこと言えるのか?」

玄野「……俺は」

アキラ「俺はアンタを殺すぞ、今なら殺せる」

玄野「……俺は死ぬワケにはいかねェ」

アキラ「……」

玄野が銃を握り締めながら呟いた言葉にアキラは少しだけ笑った。

アキラは玄野に銃弾を撃ちこむ為、引き金を引いた。

玄野「ッ、グァ!?」

その弾丸は玄野の銃を持っていないほうの肩を貫き、玄野は大きくよろめいて蹈鞴を踏む。

玄野は銃弾を撃ちこまれて目の色が変わる。

その目には死ぬわけにはいかないと、俺は戻るんだという意思が込められていた。

玄野「う、アアアアア!!」

玄野はよろめきながらもアキラに銃を向け、

その引き金を引いた。

それを見たアキラは数歩下がって屋上のへりに立つ。

玄野「あ……」

アキラはすぐに訪れるであろう自分の死を受け入れながら笑って玄野に言った。

アキラ「ありがとな、アニキ」

そのままアキラは身を宙に投げ、屋上から、玄野の視界から消えた。

その少し遅れて聞えた破裂音。

玄野は屋上から身を乗り出し下を見るが、そこには何も無かった。

夜の闇に阻まれ、玄野の視界には何も写す事はなかった。

玄野「アキ……ラ……」

玄野「うァアアアアアァァァァァアッッ!!」

玄野は目から涙を零しながらその場で叫び続けた。

転送されるまでの間ずっと。

鈴木「玄野クン! 大丈夫!?」

玄野が聞こえてきた声に反応して顔を上げると、そこはガンツの部屋。

玄野「おっちゃん……俺は、戻ってきたのか……」

鈴木「生きていたんだね。よかった。ホントによかった」

鈴木の言葉に複雑な表情を見せる玄野。

玄野(……俺はアイツを殺して生き残った、ってことか……くそっ……)

徐々に人が転送されてくる。

稲葉、坂田、桜井と転送されてきて鈴木は3人にも声をかけた。

鈴木「稲葉クン! よかった! あの後気を失ってしまったみたいでどうなったのか分からなかったけど、お互い生き残れてよかったよ」

稲葉「うッ……鈴木さん……」

鈴木「坂田さんも桜井クンも無事でよかった、よかったよ」

稲葉は目に涙を溜めながらその場に座り込んだ。

坂田と桜井は何かを気にしながらもその様子をみてほっと一息をついている。

その後に、風と和泉が転送されてきた。

風は転送されきってからは無言で部屋を見渡す。

和泉はどことなく不機嫌な感じを出しながらも壁に背を預け目を閉じた。

その後に卯月と未央が転送されてきた。

卯月「あ……」

未央「戻って、来た?」

二人は部屋を見渡して戻ってきていない凛に気がついた。

卯月「あ、あれ? り、凛ちゃんは?」

未央「う、嘘、違うよね……そんなわけないよね……?」

二人が顔を青くし始めたときに最後の転送者が戻ってきた。

荒い息をつきながら、肌を紅潮させ、全身から甘い匂いを漂わせる凛が戻ってきた。

卯月「り、凛ちゃん!!」

未央「しぶりん!!」

その凛に二人は飛びついて抱きしめる。

凛「ンッ……」

二人を受け止めながら、バイザーを外して蕩けた眼で二人を見る凛。

卯月「ど、どうしたんですか?」

未央「う、うぅ……」

凛「なんでもない。なんでもないよ、ふぅぅぅ……」

そして、部屋に音が鳴り響き採点が始まった。

『ちーーーーーん』

『それでは ちいてんを はじぬる』

まずは鈴木だった。

『ハゲ 0てん よわすぎ』

『Total 5てん あと95てんでおわり』

鈴木「だよねぇ……」

続いて稲葉。

『イナバ 0てん ビビりすぎ 泣きすぎ』

『Total 0てん あと100てんでおわり』

稲葉「……0だよな、やっぱり」

次に坂田と桜井。

『アホの、、、 13てん』

『Total 34てん あと66てんでおわり』

桜井「13点ですか……」

坂田「……みてーだな」

『チェリー 4てん』

『Total 23てん あと77てんでおわり』

桜井「俺は4点スね……」

坂田「ああ……」

二人とも自分の点数を気にするより明らかに自分より大量の敵を殺した凛を見ていた。

次に風。

『いなかっぺ大将 15てん』

『Total 30てん あと70てんでおわり』

風「……」

そして、和泉。

『和泉くん 24てん』

『Total 50てん あと50てんでおわり』

和泉「……」

自分の点数を見ようともしない和泉。

腕を組んでいるが、拳は握りこんだまま何かを考えている。

次の採点が始まる。

『くろの 25てん』

玄野「あ……」

桜井「25点ってことは……」

『Total 121てん 100点めにゅーから選んでください』

鈴木「玄野クン! 100点だよ!」

卯月「すごいです……」

未央「おぉ……」

自分の点数を見て固まっている玄野。

色々な思いが頭を駆け巡る。

玄野(やッと……やッとこの部屋から解放されることができるのか……)

玄野(……アキラの命を奪って俺はこの部屋から)

玄野(解放されれば記憶を消されて、今まであったことも忘れて……アキラを殺したことも忘れて……)

玄野(それだけじゃない……加藤や岸本のことも……そして、俺を助けて死んでしまったレイカのことも……)

玄野(このまま解放されれば、俺はタエちゃんと一緒に生きていける……けど……)

玄野(……俺は)

玄野は100点メニューを前に悩んだ。

悩んで悩みぬいて選んだ選択は。

玄野「……3番」

鈴木「えッ?」

桜井「く、玄野さん? 自由になれるんスよ? それなのに……」

坂田「……」

風「……」

玄野「レイカ……を生き返らせてくれ……」

悩んで出した結論、自分の盾となって死んだレイカを生き返らせるというものだった。

玄野(アキラ……お前を殺したことを忘れちまうなんてできない……)

玄野(お前を殺した分、俺は人の命を救うことにするよ……)

玄野(沢山救って、いつかお前のことにけじめをつけることができたら俺はこの部屋を出る……)

玄野(それまでは……ごめん、タエちゃん……)

ガンツに手をつきながら玄野は俯き続けていた。

自分が殺してしまったアキラのことを考えながら。

その玄野の背後で何かが現れる。

桜井「あ……」

鈴木「こんな事が……」

卯月「レ、レイカちゃん……」

未央「や、やっぱり、レイちん、死んでしまってたんだ……」

玄野は首を動かして背後に視線を向けた。

そこにいたのは。

レイカ「……え? あれ?」

再生されたレイカの姿だった。

その姿を見て玄野は立ち上がりレイカに歩み寄った。

レイカ「あ、玄野クン? あたし……あれ?」

玄野「……」

レイカの前で涙を流す玄野。

レイカ「あッ! く、玄野クン!? どうしたの!?」

玄野「ゴメン……俺のせいで……」

レイカ「えッ!? ええッ!?」

玄野が泣いている姿を見て慌てるレイカだったが、坂田から何が起きたのかを聞いて呆然としてしまう。

坂田「リーダーは100点を取ったんだよ。それであんたを再生したんだ。自分の自由と引き換えにな」

レイカ「!?」

信じられないといった顔をしてレイカは玄野を見つめる。

レイカ「な、なんであたしを……? 自由になれたのに……」

玄野「なんでって……そーするに決まッてンだろ……俺のせいできみは死んだンだ……」

玄野は涙を拭って続ける。

玄野「もうきみを死なせない」

玄野のその言葉を聞いてレイカは頬を赤らめ、思考を完全に停止させた。

玄野「この部屋にいる全員を死なせない! みんなで生きてこの部屋を出よう!」

後に続けた玄野の言葉をレイカは聞いていなかった。

レイカ(玄野クン……玄野クン……やっぱり、玄野クンが……好き……)

レイカ(彼女が居るって聞いても、もう諦められない……)

レイカ(玄野クンが大好き……玄野クン……)

レイカは玄野を潤んだ視線で見続けていた。

玄野はその視線に気付かず、亡き弟の事を思い決意を新たに和泉を除いた全員を見ていた。

今日はこの辺で。

その間も採点は続いていた。

『りんさんのおにもつ1号 0てん りんさんのしんぱいしすぎ かまわれすぎ』

『Total 10てん あと90てんでおわり』

卯月「この絵って、私ですか?」

未央「みたいだね……」

『りんさんのおにもつ2号 0てん りんさんのしんぱいしすぎ かまわれすぎ』

『Total 10てん あと90てんでおわり』

未央「私、2号だって……」

卯月「りんさんって……凛ちゃんのことですかね?」

二人は凛を見るが、凛はまだ息を落ち着かせながら遠くを見ていた。

卯月(うぅ……凛ちゃん……)

未央(さ、さっきも思ったけど、なんか……)

肌を紅潮させて妖しい色気を振りまく凛に二人は戸惑っていた。

そして、最後の採点。

『りんさん 249てん』

桜井「うォッ!? な、なんスか、この点数!?」

坂田「……おいおい、マジかよ」

鈴木「す、すごいね」

稲葉「な、んだ、こりゃ……」

卯月「ひ、100点以上採ったんですか?」

未央「し、しぶりんが? え? それじゃあ……」

『Total 319てん 100点めにゅーから選んでください』

凛「……」

凛はガンツに近づき、玉の表面に指を這わせるようにして触れた。

ようやく落ち着いてきた息を吐きながら、凛はガンツに問いかける。

凛「はぁぁ……ガンツ……今回の点数全部使って……未央と卯月……解放できないかな?」

卯月「り、凛ちゃん!?」

未央「な、なんで!?」

凛「ねぇ……ダメ? 300点もあるんだから……いいでしょ?」

凛の問いかけにガンツは100点メニューを表示したまま無反応で返す。

玄野「……渋谷」

桜井「渋谷さん……あの二人の為にこれだけの点数を取ったってことっスか……」

坂田「……イヤ、あの感じは」

風「……」

各々が凛の行動を見ているが、何もおきずにしばらくたったところで。

凛「……仕方無いかぁ、それじゃ、全部2番」

未央「な!? し、しぶりん! 部屋から出れるのになんで!?」

卯月「そ、そうですよ! どうしてですか!?」

詰め寄る二人に凛はまだ惚けた顔で答える。

凛「……この部屋を出るときはみんな一緒でしょ? 二人を置いて私だけなんて、そんな事はしないよ」

そして笑った。

二人に内心を悟られないように、笑顔を作った。

卯月「凛……ちゃん……」

未央「…………」

その笑顔に二人は違和感を感じてしまった。

だが、今その違和感がなんなのかを二人は気付くことができなかった。

そして採点も終わり、和泉が最初に動き出し扉を空け帰る。

それに続き、全員動き出した。

玄野「みんな、聞いてくれ」

玄野に全員の視線が集まる。

玄野「今回のミッションではっきりしたが、これからは渋谷たちも俺達と一緒にミッションを行っていくみたいだ」

玄野「今まで俺がリーダーって立場だったけど、今後は渋谷がリーダーをやっていったほうがいいと思うんだ」

その言葉に凛は慌てて咎める。

凛「ちょ、ちょっと待って。何で私!?」

玄野「いや、だってお前、この中で一番ミッションの経験があるし。今回もワケわかんねー点数とってるし、お前なら全員を生き残らせれる様に立ち回ることもできるだろ?」

凛「待って。そんな事勝手に決めないでよ。私はリーダーなんて嫌だから」

玄野「嫌ってなァ……お前がチームをまとめれば生き残れる確率が高くなると思うんだけど……」

凛「無理だって。私はそもそもリーダーなんてガラじゃないし、アンタが続けたほうがいいでしょ。この人たちもそう思ってるよ」

凛がそうやって全員に問いただすと、それぞれバラバラの意見が戻ってくる。

レイカ「……あたしは玄野クンがリーダーだと思ってる」

桜井「お、俺も今までどおり玄野さんがリーダーでいいと思いますけど……」

坂田「……俺も玄野がリーダーに一票だな」

レイカ、坂田、桜井が玄野がリーダーだと押す。

鈴木「う~ん……私は玄野クンが渋谷さんをリーダーにしたいというのなら渋谷さんでも……」

桜井「えッ?」

稲葉「お、俺は……玄野をリーダーだと……思ってない……」

桜井「い、稲葉さん!?」

どっちつかずな鈴木と、否定的な稲葉。

卯月「私は、リーダーとかよくわからないですけど……でも、凛ちゃんがやってくれるなら安心できると思います……」

未央「うん……私も、しぶりんなら……」

凛「卯月!? 未央!?」

凛がリーダーに肯定的な卯月と未央。

風「……」

残った風に視線が注がれる。

風は凛を少しだけ見て、視線を外して答える。

風「……俺は、玄野がリーダーで、構わん」

凛「ほら! やっぱりアンタのほうがいいって意見が多いでしょ?」

部屋にいる人間の割合で4:2:2で玄野がリーダーに肯定的になっている。

それを見て玄野は、

玄野「……ワカったよ」

リーダーを受け入れる玄野にほっとする凛。

玄野「だけどこれからお前の力をアテにすることが多くなるぞ? 訓練のときにもお前を中心にした連携訓練ってのをやって行こうと思う」

ほっとしたのもつかの間、その発言に顔を顰める凛。

玄野「みんなもそれでいいか? これからは戦闘に関しては渋谷を中心にして行こうと思っているんだけど、どうかな?」

レイカ「玄野クンが決めたならあたしはそれでいいと思います」

坂田「……反対はしねーよ。いいんじゃねーの?」

桜井「俺もそれでいいと思いますけど」

風「……構わん」

鈴木「渋谷さんをかぁ……う~ん……」

玄野「おっちゃん? どうかしたのか?」

鈴木「いやね、渋谷さんが何度も100点を取っているとは聞いていても、女の子を戦いの中心にするなんてのはねぇ……」

玄野「あぁ、そんなのは気にしなくてもいいッて。コイツ、外見はこんなんだけど、多分そこの風より強いぜ?」

鈴木「はぁ~……風君よりねぇ……」

風「……」

玄野「心配するだけ取り越し苦労になるだけ、コイツは一人で何ヶ月も今日みたいなミッションを続けてきた化け物、言わば女の皮を被ったターミネーターみたいなもんだ。おっちゃんが心配するようなことなんてなにもないさ」

鈴木「そうなのかねぇ……」

凛「…………」

額に青筋を浮かべながらも無言で玄野のやりとりを聞く凛。

その後特に反対も起きず、今後は凛を中心にミッションを行っていくという事が決定し、今日は解散となった。

卯月、未央、凛以外の全員が部屋を後にして、残っているのは3人だけ。

凛は奥の部屋で二人と着替えているときに、新たに手に入れた武器を確認して奥の部屋から持ってきて中身を確認していた。

新しく追加されていたのは、大きなケースが一つ。

11回目の報酬で、先ほど狩りに行く前に少しだけ確認したリングを含めて持ち帰れそうなものは二つだけ。

もう二つは恐らくはまたパソコンに追加されて転送をして使えるものになるのだろうと思ってバイザーを装着しようとした凛だったが、その時、ガンツに異変が起きた。

ザ、ザザッ。

凛「……?」

黒い玉の表面に何かが浮かび上がってくる。

何かはすぐに形を成し、ガンツの表面に人の顔が映し出される。

凛「なっ!?」

卯月「え?」

未央「えっ? ま、まさか、また?」

3人はまた狩りが始まるのではと思ったが、画面に映った人の口が動くと共にガンツから声が流れ始めた。

「……漸く繋がったか」

画面には短髪で口元に少量のひげを生やした、精悍な顔つきの男が映し出され明らかにその男の声がガンツから発せられていた。

凛「未央! 卯月! 私の後ろにっ!」

すぐにバイザーを装着し、ハードスーツの掌をガンツに向けて二人を自分の影に隠す凛。

ガンツに映し出された男はそれを見て眉を動かし口を開く。

「私も見た事が無い武装……間違い無い……君が『りんちゃん』もしくは『りんさん』か?」

凛「……」

凛は警戒を怠らずガンツから距離を置き後退を始める。

凛が二人を連れて部屋から飛び出す寸前に、ガンツに映し出された男は叫んだ。

「待て! 私は君の敵ではない! 私は君と同じブラックボールハンターだ! 君とは別のブラックボールから君のブラックボールに通信をしている! 宇宙人ではない!」

凛「……通信? ブラックボール?」

立ち止まりガンツを見る凛。

「その様子ではブラックボールの制御法を知らないようだな。そう警戒しないでくれ、今回は君と交渉をする為に通信を行ったのだ」

訝しげに映し出された男を見る凛。

今まで起きたことも無い現象に警戒しながら凛は問いかけ始めた。

凛「……アンタ何者? ブラックボールって、もしかしてガンツのことを言ってるの?」

「ガンツ? ああ、ブラックボールの固有名称か。目の前の黒い玉のことをそう呼んでいるのならばその認識で正しい」

「そして、私は……」

男は言いかけて留まった。

「……その前に、君の後ろに居る二人をその部屋から追い出してもらえるかな? その二人には用が無いのでね」

凛「……なら私もアンタに用は無いから帰る。さようなら」

そのまま部屋を後にしようとする凛。

だが、ガンツに映った男は凛を呼び止めた。

「待て! 待ちたまえ!」

その声に反応せずに部屋を出ようとする凛達。

「待て……分かった、その二人も一緒でいいから聞いてくれ」

足を止めて顔を動かしてガンツを見る凛。

「私はブラックボールのコードネームで『ちょび髭』という。この名前は私がつけたものではなくブラックボールが勝手につけた名称だ、決してふざけている訳ではない」

凛「はぁ……」

「今回、通信を行った理由、それは来るべきカタストロフィに備えて、我々と志を共にする同士を迎え入れる為にこうやって通信を行っている」

凛「……カタストロフィ」

卯月「それって……」

未央「前にしぶりんが話してた……」

「カタストロフィを知っているのか。ならば話が早い。我々はカタストロフィに向けて戦力を集めている」

「君のようにブラックボールミッションを何度もクリアしている猛者を対象に、我々は日本中から同士足り得る者達を選出しているのだ」

凛「……」

「君は現時点でブラックボールランキングの1位だ。君の力が加わればカタストロフィの時点で我々の戦力は他の国と比べても遜色無いものとなるだろう」

凛「ブラックボールランキング?」

「ブラックボールにランキングの表示をするように指示して見るといい。現在のブラックボールミッションを行っているハンターのクリア回数などが表示される」

凛「……そんな機能もあったんだ」

「うむ。君はミッションの達成回数は我々よりも上だが、肝心のブラックボールに関する制御法は何一つ理解していないようだな」

凛「……」

「どうかね? 我々は君よりもブラックボールについて制御法を含めて様々なことを熟知している。我々に協力する事により君が知りえぬ情報を提供できると思うのだが」

凛「……あのさ」

「なにかね?」

凛「そんな事を急に言われて、はいわかりました。って答えると思ってるの? というかアンタははっきり言って怪しすぎるんだけどさ、なんか高圧的で上から物を言ってくる感じだし、信用も出来ない」

「ふむ」

凛「アンタが私に協力してほしいんだったら、もっと態度を改めて先に情報を渡したりしたらどうなの? ある程度信用が得られたら協力とかの考えも……」

「いいだろう、君が知りたい情報は全て提供しよう」

凛「っ!」

「ただしこの場では時間が足りなすぎるので、また日を改めて別の場所で話すことにしないかね? もちろんその二人も同席してもらってもいい、まずはこれくらいでどうだろう?」

凛「……その場所を指定するのは私でもいいの?」

「構わないよ。だが、セキュリティがしっかりしている場所を頼みたい。一般人に聞かれるような場所は論外だ。それができないならば我々が場所を設定することもできるが、それは君が判断してくれればいい」

凛「……」

「それでは私と連絡を取るための電話番号を伝えよう」

男はそうやって凛達に連絡先を伝え、

「それでは連絡を待っている」

ガンツから表示が消えて、部屋に静寂が戻った。

凛「……」

卯月「い、一体なんなんですか?」

凛「わからない……でも……」

未央「あっちはなんかしぶりんのこと知ってるような感じだったけど……」

凛はガンツに近づいて、先ほど男が話したランキングの表示を口にする。

凛「ガンツ、ランキングの表示っていうのを出して」

ガンツの画面に何かが浮かび上がり始めた。

卯月「これ……凛ちゃんの画像と、名前が一番上に」

未央「他は英語とか、なんか厳つい人たちの画像が一杯……」

そこに表示されていたのは、確かにランキングと思われる表示。

1.『りんさん』   Clear 14 JPN Area13
2.『silence Cook』 Clear 12 USA Area127
3.『Commando』  Clear 11 USA Area448

10位までは画像つきで表示され、それより下は名称とクリア回数のみが記されていた。

少し下のほうにさっきのちょび髭と名乗った男の名前も表示されていた。

卯月「あ、さっきの人、7回ってなってますね」

未央「その下のほうにも日本語の人いるね、『岡八』……この人は6回ってなってるね」

凛「ランキング……こんな機能知らなかった……」

卯月「あ、もう一人6回の日本語の人が……」

凛は考える。

今回謎の通信を行ってきたちょび髭と名乗る男と会うべきかという事を。

凛(私が知らなかった機能もそうだし、ガンツの通信なんていう事をできる人間……)

凛(カタストロフィのことも何かを知ってそうだった。何を調べても何も分からなかったカタストロフィのことを……)

凛(……結論は決まっている、会って情報を得るしかない)

凛(そのときに二人を連れて行く事は……)

二人を見て少しだけ考えるが、

凛(連れて行かないほうがいい……)

凛(何があるかも分からないし、二人をわざわざ危険な場所かもしれないところに連れて行く必要も無い)

凛(まずは今回手に入れた武器の性能を全部試して、それから会う約束をとろう)

凛(争うつもりはないけど……あの男が何かをしてきたら……)

凛は今回手に入れた武器を全て持ち、二人を連れてガンツの部屋を後にした。

今日はこの辺で。

ガンツのミッションの翌日。

凛の家の近くの公園。

夕暮れ時、二人の少女がベンチに座っていた。

卯月「あの……」

未央「あのさ……」

それまで無言で座っていた二人は同時に切り出す。

二人ともお互いの顔を見合わせて、お互いが何を言い出そうとしたのかを察する。

卯月「……昨日のこと」

未央「……だよね」

二人は思い出す。

昨日あったガンツのミッション。

最初のミッションは何がなんだかも分からない状況で放り込まれて、二人は隠れて震えているうちに黒服の男に見つかり背中を撃たれて気を失った。

それから部屋を出て凛からガンツの部屋について様々なことを聞いたが、実際のところ二人に現実感はなく前回のミッションでようやく自分たちが本当に命を懸けたゲームに強制参加させられていることを実感した。

卯月「昨日、最初に部屋にいた人が何人か戻ってきていませんでしたよね……」

未央「うん……」

卯月「レイカちゃんも最初は戻ってきませんでしたよね……」

未央「……うん」

最後に玄野がレイカを生き返らせた事によって理解できた。

戻ってこなかった人たちは、凛が言っていたように死んでしまったという事。

卯月「本当に、命をかけたゲームなんですよね……」

未央「そだね……」

二人が思い出すのは、黒服たちに向けられたマシンガンの銃口。

卯月「私達……凛ちゃんに逃がしてもらえなかったら、あの人たちに撃たれていたんでしょうか?」

未央「わかんない。でも、たぶん……」

二人とも分かっていた。

間違いなく自分たちは撃たれたであろうことを。

あの黒服たちから向けられる殺意を二人は感じ取っていたからだ。

身体を震わせながら再び押し黙る二人。

その状態がしばらく続き、卯月が視線を前に向けながら呟いた。

卯月「……昨日、私達、凛ちゃんに逃がし続けてもらっていましたよね」

未央「……うん」

二人に昨日の凛の姿が思い起こされる。

卯月「それだけじゃないです……凛ちゃん、あのゆびわ星人って宇宙人を……私たちの為に……あんな……」

未央「……」

1回目のミッションで空中から飛び降りた凛を眼で追って見た光景。

ゆびわ星人に飛びかかる凛の姿。

二人にとってその光景は圧倒的な力を持った恐ろしい敵に無謀に挑んでいく姿にしか見えていなかった。

二人は凛があんな恐ろしい相手に向かっていくことなど止めてほしかったが、二人の心配を余所に凛は2体もゆびわ星人を行動不能にして自分たちに前に連れて来た。

未央「……しまむー、あのゆびわ星人ってのだけじゃないよ」

卯月「っ!」

未央の零した言葉に卯月は息が詰まった。

卯月も気付いている、そしてそれを言った未央も気付いていた。

未央「しぶりん、あの人にしか見えない宇宙人を……多分殺しちゃったんだと思う」

卯月「……はい」

未央「点数採点のとき、しぶりんの様子おかしかった……多分あの人たちを殺しちゃって……苦しんでたんじゃないのかな?」

卯月「……それも、私達の為に、ですよね」

二人とも自分が人の姿をした宇宙人を殺してしまったらと考えて、背中に冷たいものが走る感覚を覚える。

恐らくものすごく悩んで苦しんでしまうと思う、二人ともそうやってあの時の凛がどんな気持ちでいたのかを考えてしまう。

卯月「……私だったら、すごく悩んで、押しつぶされてしまうかもしれないです」

未央「……私も、そうだと思う」

人の姿をした宇宙人、人と変わらない生き物を殺すという事。

それがどれだけ心に負担をかけるか、想像するだけでも二人は気を落とす。

そうして、二人は俯いたままの状態でいたが、卯月がぽつりと言葉を零す。

卯月「……このままじゃ、駄目です」

未央「……このままって?」

卯月「凛ちゃんに守ってもらってばかりなのは駄目です」

未央「……しまむー」

卯月「守ってもらってばかりで、何もできないのはもう嫌なんです」

卯月が思い出すのはあの新宿の事件。

自分を庇って撃たれた未央の姿が鮮明に蘇る。

卯月(もうあんな事は絶対に起きちゃ駄目……)

卯月(このままだと、凛ちゃんがあの時の未央ちゃんのように、私のせいで……)

未央の姿と凛の姿が重なるようにして赤い記憶がはじけた。

卯月は脳裏に浮かんだその光景を、頭を振ってかき消す。

そして卯月はベンチから立ち上がり、未央を見据えながら言った。

卯月「未央ちゃん。私、強くなります」

未央「えっ?」

卯月は持ってきていたバックを開き中のものを未央に見せる。

未央「スーツ……あの部屋から持ってきたの?」

卯月「はい。これからは凛ちゃんに守ってもらわなくてもいいように訓練をします。訓練して私が二人を守れるくらいに強くなりたいんです」

未央「……」

卯月が力強い視線で未央を見ている。

その視線を受けて、未央は小さく笑って持ってきていた鞄を手にして卯月に見せた。

卯月「えっ? それって……」

未央の鞄に入っていたもの、それは卯月のバックに入っていたものと同じガンツスーツ。

未央「ま、私も似たようなこと考えてたってことかな」

卯月「未央ちゃん……」

未央「しぶりん、私達の為にあんな事をしていたらいつか死んじゃうと思ったから……でも、私がこのスーツを使いこなしてしまむーを守れるくらいになればしぶりんの負担も減るし、もしかしたらしぶりんも守ってあげることもできるかもしれない……なんて思ってね」

未央「そう思って、このスーツ