藍子「ゆっくり止まっていく」 (46)

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まゆ「一目惚れ」
まゆ「一目惚れ」 - SSまとめ速報
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寺生まれのPさんとか、ふじともとか、妖怪みくにゃんとか、猫語を学んだ茄子さんとか出ます

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1474813680

みく「ん~♪」

みく「にゃぁ~♪」

朋「ご機嫌ね、みくちゃん」

みく「そりゃあ、もう!」

みく「お日様がぽかぽかで、とっても気持ちいいんだもん!」

朋「ふふ、そっか」

みく「うにゃぁ~♪」

みく「お散歩に来てよかった~♪」

朋「近くの公園だけどね」

みく「近くでも遠くでも、気持ちよければなんにも変わらないにゃ!」

朋「そっかー」

みく「~♪」

朋「……ふふ」

みく「ね、ね、朋チャン!」

みく「みく、ちょっとあっちの方に遊びに行ってくるね!」

朋「ん、行ってらっしゃ~い」

みく「~♪」

朋「……みくちゃんは元気ねー」

朋「元々が猫っていうのもあるんだろうけど」

朋「……」

朋「……一緒に来てた茄子さんもはしゃいでどっかいっちゃったし」

朋「ほんと、みんな元気よねー……」

朋「……」

朋「でも……本当に今日はいい天気ね」

朋「思わずあくびが出ちゃうくらい……ふわぁ」

朋「……平和ねー」

朋「……」

朋「……ちょっとだけ寝ちゃおうかな」

朋「……」

朋「ふわぁ……」

朋「……」

朋「……」

朋「……すー」

朋「……ん」

朋「んぅ……なんか重い……?」

朋「……」ゴシゴシ

朋「……あ」

「みゃぁ」

朋「猫……もしかしてみくちゃん?」

朋「……なわけないか」

朋「よい……しょっと」スクッ

朋「どしたの、猫ちゃん? あたしの上に乗って?」

「んにゃぁ……」

朋「……んー」

朋「やっぱみくちゃんの傍にいただけじゃ言葉なんてわからないかー……」

「……」ペロペロ

朋「きゃっ!」

朋「ふふっ、もう。くすぐったいわよ」

朋「もう……仕返しっ」ナデナデ

「みゃぁ……♪」

朋「ふふ、気持ちいい?」

朋「じゃあ、こことかも……ごろごろ」

「にゃぁ♪」

朋「ふふっ」

朋「人懐っこい子ね~」

??「……」パシャッ

朋「……ん?」

??「あっ……」

朋「……」

??「えっと……」

朋「……もしかして、あたしを撮った?」

??「あ、はい……つい」

??「そのあなたと猫さんの戯れる姿がとっても可愛らしかったので」

??「……えへへ」

朋「いや、笑っても誤魔化されないわよ」

??「そうですよね……」

??「ごめんなさい、すぐに消しますね」

朋「……あ、ちょっと待って」

??「はい?」

朋「ね、今の写真見せてくれる?」

??「あ、はい! えっと……どうぞ」

朋「ありがと……わ、本当」

朋「自分で言うのもなんだけど、すっごく可愛く撮れてるわね……」

??「そうなんです! だから、つい手が勝手に動いちゃって……」

??「うぅ……ごめんなさい……」

朋「いや、まあ別に――」

みく「――たっだいまー!……うにゃ? そいつは誰にゃ?」

藍子「あ、えっと……私は高森藍子って言います!」

みく「藍子チャン……朋チャンの知り合い?」

朋「ううん、あたしもたった今出会ったばかりよ」

朋「あたしは藤居朋。よろしくね」

みく「みくは前川みくにゃぁ」

藍子「朋さんにみくさん……よろしくお願いしますね」

藍子「あ、そうだ。すぐこの写真消しますね!」

朋「ん、ああいいわよ別に。そんな変な写真でもなかったし」

朋「勝手に撮られたのはちょっとあれだけど。ちゃんと見せてもらえたしね」

みく「写真?」

朋「うん。藍子ちゃんが撮ったやつ」

みく「へー……わ、朋チャンも猫チャンも楽しそう!」

藍子「ですよねっ!」

みく「うんうん!」

みく「キミも楽しかったかにゃ?」

「みゃぁ」

みく「ふふ、それはよかったにゃ」

朋「なんて言ってたの?」

みく「いい匂いがして気持ちよかったって」

朋「……なんかすっごい複雑だわ」

藍子「……みくちゃんは猫ちゃんと話せるんですか?」

みく「もちろんにゃ!」

みく「なんていったってみくは猫だからね!」

藍子「そうなんですか!」

藍子「ふふっ、素敵ですね……♪」

みく「にゃあ!」

朋(……冗談だと思ってるだろうけど、本当なのよねー)

茄子「朋ちゃーん、みくちゃーん」

朋「あ、茄子さん――ってうわっ!?」

茄子「ふふっ、たくさんお友達ができました♪」

藍子「すごい……あんなにたくさんの猫さんが……!」

みく「……うー」

茄子「……あら?」

藍子「あ……こんにちは」ペコリ

茄子「ふふ、はじめましてですね。鷹富士茄子ですよー♪」

藍子「私は高森藍子って言います」

茄子「ふふ、よろしくお願いしますねー♪」

茄子「みんなも……にゃ、にゃあ!」

「にゃあ!」

藍子「きゃっ……!」

朋「うわ、すごっ……みんなにお辞儀させてる……」

朋「……というか、猫の言葉話せるようになったのね」

茄子「ふふっ、みくちゃんにたくさん教えてもらいましたから」

茄子「ねー?」

みく「……」

茄子「……あら、みくちゃん?」

みく「……なんかずるいにゃ」

みく「ずるいにゃ!」

朋「わっ、どしたの?」

みく「茄子チャンばっかりそんなにいっぱい猫チャンを連れてきてずるいにゃ!」

みく「みくももっとたくさん連れてくる!」ダッ

朋「……えぇ」

茄子「ふふ、じゃあ私ももっとたくさんお友達を作らなきゃ♪」

みく「ふしゃー! 対抗しないでよー!」

茄子「私はお友達が作りたいだけですよー♪」

朋「……二人とも行っちゃった」

藍子「猫の言葉をしゃべれるなんてすごいなぁ……」

朋「そうねー」

藍子「……朋さんたちもお散歩でここに来たんですか?」

朋「うん。ちょっと暇だったからね」

朋「天気もよかったし」

藍子「そうですね……本当に今日は良い天気で気持ちがいいです」

藍子「私もちょっとお仕事の気分転換に来ちゃいました」

朋「お仕事……?」

藍子「あっ……!」

藍子「……」

朋「……いや、別に話したくないならいいわよ」

藍子「いえ……」

藍子「……あの、私、喫茶店で働いてるんです」

朋「喫茶店で?」

藍子「はい」

藍子「――って喫茶店です」

朋「……ごめん、知らないわ」

藍子「そうなんですか……!?」

朋「う、うん……聞いたこと無いと思うけど……」

朋「もしかしたら名前覚えてないだけかな……どこにあるの?」

藍子「あ、えっと――」

藍子「――です」

朋「うーん……やっぱり知らないと思うわ」

朋「今度行ってみようかな?」

藍子「えぇっ……!?」

朋「え、そんなに嫌だった……?」

藍子「あ、いえ、そういうわけじゃ……ないん……ですけど……」

朋「……?」

藍子「えっと……」

藍子「……」

藍子「……あの、ちょっとした決まりがあって」

朋「決まり?」

藍子「はい……その一人一時間しかいられないって決まってるんです」

朋「あ、そうなんだ……へぇ、そんなに人気なんだ……」

藍子「……」

藍子「その……それを守っていただければ」

朋「うん、わかったわ」

朋「じゃ、今度遊びに行くわね……それこそ明日にでも遊びに行こうかしら」

藍子「……ありがとうございます」

藍子「お待ちしてますね」

朋「うん!」

藍子「……」

茄子「朋ちゃーん! 藍子ちゃーん!」

朋「あ、二人が帰ってきたみたいね」

みく「はぁ……はぁ……結構走って疲れたにゃ」

茄子「ふふ、ここら辺の猫ちゃんはたぶんみんないますねー♪」

藍子「……行く前よりさらに増えてますね」

朋「もはや大名行列みたいね、あれ」

藍子「……」

藍子「……写真撮ってもいいでしょうか……」

朋「あたしもちょっと撮りたい……ふふっ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


朋「えーっと……ここだったわよね」

朋「……」カランカラン

藍子「いらっしゃいま――あ、朋さん!」

朋「あ、藍子ちゃんやっほー」

朋「せっかくだから遊びに来たわ」

藍子「ふふ、ありがとうございます♪」

朋「みくちゃんと茄子さんは用事があるから……ってこなかったけど」

藍子「朋さんが来てくれただけでもすごい嬉しいですっ」

藍子「じゃあ、えっと……こちらの席にどうぞ」

朋「はーい」

藍子「何か飲みたいものとかありますか?」

朋「んー……」

朋「……じゃ、コーヒーで」

藍子「はーい。すぐに持ってきますねっ」

藍子「お待たせしました」

朋「ありがと」

藍子「よいしょっと……ふふっ、遊びに来てくれてありがとうございます」

朋「ふふ、行くっていったじゃない……あ、おいし」

藍子「ありがとうございます」

藍子「……見てのとおり、あまり人がいないので……」

藍子「遊びに来てくれるだけでもとってもうれしいです」

朋「そっか……」

朋「一人一時間って言うからもっと人いっぱいいるんだと思ったわ」

藍子「……」

朋「……ねぇ、藍子ちゃん以外の従業員とかはいないの?」

藍子「!」

藍子「あ、えっと……」

朋「……?」

藍子「……そうですね、私だけです」

朋「へぇ……大変ね」

藍子「そんなことないですよ」

藍子「……今はそんなに人も来ないので、私一人でも十分なんです」

朋「……なんかごめん」

藍子「いえ……」

藍子「……」

朋「ってことは、料理とかも全部藍子ちゃんがやってるの?」

藍子「はい、そうです」

藍子「一通りのお仕事の仕方はお父さんから教わってたので、なんとか……」

朋「へぇ……」

藍子「このお店……お父さんのお店なんです」

藍子「なので、小さいころからたくさんお手伝いしてて……気がついたら全部できるようになっちゃってました」

朋「すごいわねぇ……」

朋「……あれ? 今はお父さんは?」

藍子「あ! えぇっと……えっと……」

朋「……?」

藍子「……あ、そうだ!」

藍子「この前の写真現像したんです。持ってきますねっ!」

朋「え、あ、うん……」

朋「……」

藍子「お待たせしましたっ」

朋「わ、ありがと!」

朋「ふふ、どれも綺麗に撮れてるわね」

藍子「そうですね♪」

藍子「ほら……この朋さんと猫さんのも」

朋「一番最初に撮ったやつね」

藍子「あの時は……ごめんなさい」

朋「いや、まあいいわよ。過ぎたことだし」

朋「それに藍子ちゃんと出会えて、こんな素敵な店にもこれたしね」

藍子「素敵な……」

朋「雰囲気もやわらかくて、心地よくて……静かで……」

朋「あたし、結構ここ好きよ?」

藍子「……」

朋「……藍子ちゃん?」

藍子「……」

朋「おーい」

藍子「あっ……いえ……あの……」

藍子「……なんでもありません」

朋「……?」

藍子「それよりっ……えっと、ほら!」

藍子「茄子さんとかみくちゃんの写真もありますよ!」

朋「……二人ともたくさん猫を侍らせてるわね」

藍子「すごいですよね……」

朋「まあ、二人とも猫と話せるからねー」

朋(みくちゃんにいたっては元猫だし)

藍子「……私も猫さんと話せたらもっと可愛い写真取れるんでしょうか……?」

朋「いや、十分可愛い写真撮れてるじゃない」

朋「ほら、この辺のとか」

藍子「あ、はい……でも、撮りたいって思ったときに撮れなかったのも結構あるんです」

藍子「逃げちゃったりとか……動いてブレちゃったりとか……」

藍子「猫さんと話せたらそういうのもなくなって、もっとたくさん撮れたのかな……って」

朋「あー、確かにねー」

朋「猫って結構気まぐれだからね」

朋「ちょっと前まではじっとしていても、急にバッて逃げ出すこともあるし」

藍子「そうなんですよね……」

藍子「……だからみくさんと茄子さんが少し羨ましいです」

朋「……でもさ、猫ちゃんに『写真NG』とか言われたら嫌よね」

藍子「あ……そっちの可能性を考えてませんでした」

朋「『魂が抜かれるから絶対嫌にゃ!』とか言われたり」

藍子「ふふっ、可愛い猫さんですね」

朋「もしかしたら、カメラ構えたらすぐ逃げる猫達って本当にこういうこと考えてたのかもね」

藍子「わぁ……そう考えるともっと可愛くなってきちゃいました」

藍子「ふふ、今度から見る目が変わっちゃいそうです♪」

朋「他にも――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


朋「――でね、この前……」

藍子「……あっ!」

朋「わっ!?」

朋「……どしたの?」

藍子「いえ、えっと……そろそろ、一時間経ってしまうので……」

朋「……あ、本当?」

藍子「はい……さっき入ってきたのがこのくらいの時間だったので」

藍子「だから、あの……」

朋「……」

朋「……わかった」

朋「コーヒーおいしかったわ。ごちそうさま」

藍子「ありがとうございます……」

藍子「……ごめんなさい、朋さん」

朋「ううん、そういう決まりなら仕方ないわよね」

朋「それに、また来ればいいんだしね」

藍子「!」

朋「ふふ、また遊びに来るわ!」

藍子「は、はいっ! ありがとうございますっ!」

朋「いえいえ……じゃ、また――」

藍子「――あ、お会計……」

朋「……そういえばそうだったわ」

朋「じゃ、またねー!」

藍子「はい、また来てくださいね!」

朋「……」

朋「……」

朋「はー……楽しかった」

朋「写真もたくさんもらっちゃったし……ふふ」

朋「茄子さんたちも喜んでくれるかな……?」

朋「……」

朋「でも……」

朋「……」

朋(でも……ところどころ、藍子ちゃんの様子がおかしかったわね)

朋(何か隠そうとしてるみたいだった……)

朋(……)

朋(……何か、あったのよね。きっと)

朋(従業員一人ってのも、一人一時間しかいられないって言うのもおかしいし……)

朋(……)

朋(……ちょっと調べてみようかな)

朋(……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


藍子「いらっしゃいま――あ、朋さん!」

朋「ふふ、こんにちは」

朋「昨日の今日になっちゃったわね」

藍子「ふふ、ありがとうございますっ」

朋「またみくちゃんと茄子さんはいないけど……」

朋「二人とも今日はお仕事があるから」

藍子「お仕事……何ので――いえ、席についてからでいいですよね」

藍子「じゃあ、えっと……昨日と同じところでいいですか?」

朋「うん。あと飲み物も昨日と同じで」

藍子「わかりました。じゃあ用意しますねっ♪」

藍子「どうぞ♪」

朋「ありがと!」

藍子「よいしょっと……」

藍子「それで……お二人って何のお仕事してるんですか?」

朋「みくちゃんと茄子さんよね」

藍子「はい」

朋「んーっとね。昨日は言う機会がなかったから話さなかったけど

朋「アイドルなんだ。みくちゃんも、茄子さんも、あたしも。同じ事務所のね」

藍子「アイドル……!」

朋「知らなかった?」

藍子「あ、いえ、えっと……」

藍子「……て、テレビで少し見たことある……かも……」

朋「や、無理しなくていいわよ」

藍子「うぅ……ごめんなさい……」

朋「あはは、いいっていいって」

朋「……でも、もっと頑張んないとねー」

藍子「……」

朋「……で、二人は今日お仕事に行ってて」

朋「あと、他にも3人仲間がいるんだけど。その子達もみんな長期ロケに行っちゃってて」

朋「アシスタントの人はそっちについてって。プロデューサーは営業でいろいろなところ回ってて」

朋「だから、今はあたし一人だけなの」

藍子「なるほど……」

朋「いつか二人も……ううん、みんなも連れてくるわ、ふふっ」

藍子「……」

朋「……藍子ちゃん?」

藍子「あ、いえ……」

藍子「えっと……そ、その日を楽しみにしてますねっ」

朋「……うん、楽しみにしてて!」

朋「んー……みんなの次の休みはいつだったかな……」

藍子「……あの、朋さん」

朋「ん?」

藍子「よかったらアイドルのお話聞いてもいいですか?」

朋「……アイドルの?」

藍子「はい」

藍子「どんなことしてるのかなーって……少しだけ興味があります」

朋「んー」

朋「……一般人に知られちゃいけないこととか、そういうのは話せないわよ?」

藍子「あ、もちろんわかってます!」

藍子「黒服の人に連れ去られたくありませんし……」

朋「どんなイメージ持ってんのよ」

朋「……んー、でも何から話そうかな」

朋「えっとー……あ、最近のお仕事の話なんだけどね――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


朋「――ってことがあって、もうみんな大爆笑よ、大爆笑!」

藍子「ふふ……私もその場にいたらお腹がいたくなっちゃいそう……!」

朋「でしょ! もう、本当に大変だったんだから!」

朋「その後も、思い出し笑い何度もするし……」

藍子「ふふふっ!」

朋「……どう、アイドルのお話面白い?」

藍子「はい、とっても……♪」

朋「……まあ、ほとんどあたしのエピソードトークなんだけどね」

朋「じゃ、藍子ちゃんも満足したところで――」

藍子「――えー……もっと聞きたいです」

朋「や、もうだいぶ話したんだからいったん休憩させてよ」

朋「あたしも藍子ちゃんに聞きたいことがあるし」

藍子「聞きたいこと、ですか?」

朋「うん」

朋「……あのね。昨日帰った後このお店のこと調べたのよ。インターネットで」

藍子「!」

藍子「それじゃあ……!」

朋「……うん」

朋「このお店が、呪われてる店って言われてるのも知っちゃった」

藍子「……」

朋「何の前触れもなく人が倒れた……って、それが何回も起きてた……って書いてたけど」

朋「……本当なの?」

藍子「……」

藍子「……多少誇張はされてると思いますが。本当のことです」

朋「!」

藍子「……」

朋「……ねぇ、藍子ちゃん」

朋「よかったら、話してくれない?」

藍子「……」

朋「……あのね。あたしの知り合いに、そういう不思議な現象を何でも解決できちゃうやつがいてね」

朋「だから、もしかしたら協力できるかもしれない」

朋「その呪いだって解決できちゃうかもしれない!」

朋「だから……話してくれない?」

藍子「……」

藍子「……本当に、変な話ですよ?」

朋「そういうのには慣れてるわ」

藍子「……」

朋「大丈夫、あたしを信じて話してみて」

朋「なんて、出会って3日で言うセリフじゃないわよね……あはは」

藍子「……いえ」

藍子「朋さんなら信じることができます」

朋「藍子ちゃん……」

藍子「……だから、聞いてください」

藍子「……昔は」

朋「!」

藍子「昔は……いえ、つい最近までは、ここは普通の喫茶店だったんです」

藍子「お父さんとお母さんと……私と」

藍子「後、やさしいスタッフのみんなと……楽しくお仕事してました」

藍子「その時は一人一時間なんて決まりもなくって……静かでやさしい喫茶店でした」

朋「……」

藍子「でも、急に……本当に急に」

藍子「人が動かなくなるようになりました」

朋「……動かなくなる?」

藍子「はい……」

藍子「倒れるわけじゃありません……ただ、動かなくなるんです」

藍子「……いえ、動かなくなる、も少し違いますね」

藍子「たぶん、動きがすごく遅くなるんです……止まってると見間違うほどに」

朋「……」

藍子「……最初はお母さんが」

藍子「次にお父さんが」

藍子「その次にスタッフさんが――という風に。みんなみんな、動きを止めていきました」

藍子「……一気にというわけじゃありません」

藍子「一日に一人、動きがゆっくりになっていったんです」

朋「……」

藍子「……最初にお母さんがゆっくりになったとき、救急車を呼びました」

藍子「けれど『どういう状況かわからない。治し方も検討もつかない』という結論でした」

藍子「……だって、止まった人たちは動きが遅くなっているだけで、生きていましたから」

藍子「じっと見ていると、時たまゆっくりと瞬きをしたり。手がぴくりと動いたり、歩こうとしたり……」

藍子「死んでいるわけでもなければ眠ってるわけでもなく、かといっていつもどおり動いているわけでもなく……」

藍子「……うまく言葉にできませんが。みんなみんな動きが遅くなっているだけなんです」

朋「……」

藍子「……次にお父さんがゆっくりになったときも、同じ結論でした」

藍子「次の人も、その次の人も……」

藍子「……そうして、いつしかこの店は呪われているといわれるようになったんです」

藍子「仲良くしていた常連さんも頼りにしていたスタッフさんも、この店に寄り付かなくなりました」

藍子「たまにくるのはそのうわさを知らない人と物珍しさで寄り付く人」

藍子「……でも、後者の人たちも自分達と一緒に来た人が動かなくなったのを見て、それを拡散して」

藍子「……そして、ここはとても静かなお店になったんです」

朋「……なるほどね」

朋「だから、今は藍子ちゃん一人なんだ」

藍子「はい……あ、でもゆっくりになった皆さんはここにいます」

藍子「病院から追い出されたので……」

朋「……」

藍子「それで――」

朋「――ごめん、ちょっとだけゆっくりしゃべってもらってもいい?」

藍子「あ……少し早かったですか?」

朋「うん……ごめんね」

藍子「いえ……きっと私が興奮してしゃべってしまってるんですよね」

藍子「もっとゆっくりに……」

藍子「……こほん」

藍子「それで……私、みんながゆっくりになっていくのを見て最初は怯えていました」

藍子「親しい人がみんな動かなくなっていく恐怖に」

藍子「……いつ、自分が動かなくなるのかっていう恐怖に」

藍子「でも……私だけは一向に動きが止まらなくって」

藍子「ここ以外で動きが止まる話も聞かなくって」

藍子「気づいたんです……もしかして、私が呪われてるからこんなことになってるんじゃないかな……って」

藍子「……ううん、私とここの店がそろって初めて人の動きが止まるんじゃないかな……って」

朋「……」

藍子「外に出かけているときなんかは誰も固まりませんでしたから」

藍子「きっとそうなんだ……って思ったんです」

藍子「……理由にしては弱いかもしれませんけど。でもそうとしか考えられなかったんで

す」

藍子「じゃあ、次はどうやったら止まるんだろうって考えたんです」

朋「……」

朋(……早い)

藍子「お母さんも、お父さんも、私の大切な人で、たくさん一緒にいた人たちです」

藍子「動きがゆっくりになったその日も、たくさん一緒にいたと思ってます」

朋(……どうしよう)

朋(だんだん、聞き取れなくなってくる)

藍子「その次にゆっくりになったスタッフさんも、私が一番仲の良いスタッフさんでした」

藍子「……思い返してみると、仲の良い、たくさん一緒にいた人たちから順にゆっくりになっていってることに気がついたんです」

朋(言葉が、早まわしになっていく)

朋(それは、まるで動画の早送りのように)

藍子「だから、きっと私と一緒にいる時間が長いとゆっくりになってしまうんだろうって」

藍子「『どうして』とか、理由はわからないけど、そう思ったんです」

朋(何を言っているか聞き取れる速度から)

朋(聞き取れない速度へ)

藍子「……呪いのうわさを聞いてやってきた人たちの一人が固まったのは、ちょうどここにいて一時間十五分くらいのタイミングでした」

藍子「私が何度言っても出て行こうとしなくて……そしてそのまま、一人が固まってしまったんです」

藍子「だから――」

朋「――あ――あ、い、こ、ちゃ、ん――」

藍子「――えっ?」

朋「――こ、え、が、は、や、く、て――」

藍子「――うそ……!?」

藍子「もう、一時間も経って……!?」

朋「――わ、か、ら、な、い――」

藍子「そんな、だって、さっき、まだまだ時間あったから、だから、だからこんなに話せ

て……!」

藍子「……時計っ!」バッ

藍子「……うそ……だって、まだ、一時間経ってないのに……!」

藍子「今までは大丈夫だったのに……なんで急に……!?」

朋「――あ、い、こ、ちや、ん、?――」

朋「な、に、を、いっ、て――」

藍子「朋さん……や、いやぁっ、止まらないで……!」

藍子「ごめんなさい……ごめんなさい、私が、私が……!」

朋「――」

朋「――だ――い――――じょ――――う――――ぶ――――」

朋「――――あ――――――い――――――――つ――――――――――が――――――――――」

朋「――――――――――――」

藍子「ごめんなさい……ごめんなさい、朋さん……!」

藍子「もっと、もっと早く話してれば……!」

藍子「もっと、要点だけを話してれば……!」

藍子「もっと、朋さんのことを見ていれば……!」

藍子「ごめんなさい……!」

藍子「ごめんなさい……!」

藍子「あんなに、やさしくしてくれたのに……!」

藍子「私の話を、聞いてくれたのに……!」

藍子「私のせいで……!」

藍子「私が朋さんにここを教えたせいで……!」

藍子「ごめんなさい……!」

藍子「ごめんなさい……!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


茄子「おはようございまーす♪」

みく「んー、おはよー」

茄子「……あれ、朋ちゃんは?」

みく「見てないよー」

茄子「そうですか……」

みく「……何かあったの?」

茄子「いえ……昨日から姿を見かけてないので」

みく「……確かにみくも見てないにゃ」

みく「レッスン終わった後もいなかったし」

茄子「どこにいったのか携帯で聞いてみても返事もありませんでしたね」

みく「……」

茄子「……」

みく「……もしかして、何かあったのかな?」

茄子「もしかしなくても、そうかもしれません」

みく「……」

茄子「……」

茄子「……朋ちゃん探すの、手伝ってくれますか?」

みく「もちろん!」

モバP「……何の話だ?」

みく「あ、Pチャン」

茄子「おはようございます、プロデューサーさん」

茄子「……昨日から朋ちゃんの姿を見てないので、探そうと思ってたんです」

モバP「朋か……」

モバP「……」

モバP「……だめだ。やはり気配が読めない」

茄子「読めない……って」

みく「……も、もしかして、死んじゃってるってこと!?」

モバP「いや、そういうわけじゃないと思う。まったく気配が無いってわけじゃないしな」

みく「……どういうこと?」

モバP「今の朋の気配は、一瞬ポツっと現れては、すぐに消えるんだ」

モバP「だから、上手く気配を読むことができない」

茄子「それって……どういう状況なんですか?」

モバP「わからん……こんな状況初めてだからな」

茄子「……」

みく「……少なくとも、朋チャン、何らかの事件に巻き込まれてるってことだよね」

モバP「……そうだろうな」

茄子「じゃあ、なおさら早く探さないといけませんね」

モバP「ああ」

茄子「朋ちゃん……」

みく「……」

みく「ね、だいたいどの辺かっていうのもわからないの?」

モバP「だいたい……か」

モバP「……あっちの方ってくらいだな」

みく「あっち……」

みく「……ん、わかった!」

みく「じゃ、茄子チャン、行こ!」

茄子「……そうですね」

茄子「それじゃ、プロデューサーさん。ちょっと探しに行ってきますね」

モバP「ああ。何かあったら知らせてくれ。俺も俺で探してるから」

茄子「はい」

みく「じゃ、Pチャン、また後で!」

茄子「……あっちの方ですよね?」

みく「Pチャンの言うことを信じるならそうなるにゃ」

茄子「朋ちゃん……」

みく「……そんな不安そうな顔しなくても大丈夫にゃ」

茄子「!」

みく「いつも茄子チャンが言ってるじゃん!」

みく「茄子チャンがいるなら不幸なことが起こらないって」

みく「だから、今回もだいじょーぶ!」

みく「すぐに見つかるにゃ!」

茄子「みくちゃん……」

茄子「……私、そんな不安そうな顔してました?」

みく「すっごく不安そうな顔だったよ」

みく「いっつも気持ち悪いくらいに楽しそうなのに。欠片もなかったにゃ」

茄子「あら、ひどい……」

みく「否定できるの?」

茄子「……いえ、まったく♪」

みく「……今回だって、てっきり『ふふ、大丈夫ですよ♪ 私がいるんですから大丈夫です♪』とか笑うと思ってたのに」

茄子「ふふ、確かにいつもは私そんなこと言ってますねー♪」

茄子「……みくちゃん、励ましてくれてありがとうございます」

茄子「おかげで元気出てきました♪」

みく「そりゃよかったにゃ」

茄子「さて、それじゃどうやって探しましょうか?」

みく「にゃふふ……それに関しては案があるにゃ」

茄子「案?」

みく「うん」

みく「あっちの方にいるってのはPチャンのおかげでわかったけど、それだけじゃぜんぜん範囲が絞り込めないでしょ?」

茄子「そうですねー」

茄子「ずーっとあっちにまっすぐ行くわけにもいきませんし」

みく「だからね。まずは聞き込み調査にゃ!」

茄子「……聞き込み?」

みく「うん!」

みく「あっちの方にいる子に昨日朋チャンを見なかったから、たくさん聞いてみるの!」

みく「そしたら、見かけた子も出てくるかもしれないし!」

茄子「……なるほど」

茄子「じゃ、さっそくいろんな人に聞いてみましょうか♪」

みく「ん? 人には聞かないよ?」

茄子「……あれ?」

みく「みくが聞き込みするのは――」

みく「――ズバリ猫チャンにゃ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「にゃぁ……」

みく「んにゃ。にゃ、にゃあ」

茄子「どうでした?」

みく「んー、この子も知らないみたい」

みく「茄子さんの話してた子は?」

茄子「駄目でした……あのときの公園で一緒に遊んだ子でしたけど、その後は見てないそうです」

みく「そっかー……」

茄子「んー……なかなか見つかりませんね」

みく「うにゃぁ……」

みく「猫チャンっていろんなところのらりくらりしてるからすぐ見つかると思ったんだけど……」

茄子「ああ、そういう理由で猫に聞き込みすることにしたんですね」

みく「うん」

みく「後、人間より猫チャンの方が信用できるし」

茄子「……」

みく「……まあ、もう少しあたってみよう?」

茄子「……そうですね」

茄子「数撃てばいつかあたります♪」

みく「にゃ!」

茄子「あ、あっちに二匹いますよー」

みく「ほんとだ! おーいっ……じゃなくて、うにゃーっ!」

「みゃ?」

みく「にゃ、にゃにゃ、うにゃあ」

「にゃぁ……」

「……」

「……にゃ!」

みく「!」

茄子「!」

茄子「み、見たって、どこで見たんですか……!?」

みく「茄子チャン茄子チャン、猫チャンの言葉じゃないと」

茄子「あ、そうでした……みゃ、みゃぁ?」

「にゃっ!」

みく「……案内してくれるみたいにゃ」

茄子「みたいですねー。やさしい猫ちゃんでよかったです」

みく「猫チャンはみんな優しいにゃ」

茄子「ふふ、そうですね♪」

茄子「もちろん、みくちゃんも♪」

みく「……」

茄子「ふふっ、照れてますねー」

みく「別に照れてないにゃ!」

みく「それより……ほら、見失わないうちに行こ!」

茄子「にゃぁ♪」

「みゃぁ」

茄子「にゃっ、にゃにゃあ?」

「にゃ!」

みく「そっか……ありがと!」

みく「……じゃなくて。にゃあ!」

「にゃ!」

みく「にゃぁにゃぁ」フリフリ

茄子「にゃぁにゃぁ」フリフリ

みく「……」

茄子「……」

茄子「……朋ちゃんは昨日この喫茶店に入っていったんですね」

みく「あの猫ちゃんはそういってたにゃ」

茄子「……」

みく「……」

茄子「……入りましょうか」

みく「にゃ」

みく「……あ、ちょっと待って。一応みくが先に入るよ」

茄子「ふふ、守ってくれるんですか?」

みく「茄子チャンなんて守る必要無いと思うけど、一応ね」

茄子「あら」

みく「それじゃ、あけるよ」

茄子「はーい♪」

みく「たのもー! にゃあ!」バン

藍子「きゃっ!」

茄子「そんなに勢いよく開けなくても……ってあら。藍子ちゃん」

藍子「あ……茄子さん、みくさん……」

茄子「へぇ……ここが藍子ちゃんの働いてる喫茶店なんですね」

みく「朋ちゃんから聞いてたけど場所は知らなかったにゃぁ……へー」

藍子「……っ」ビクッ

みく「あ、そうだ。藍子チャン」

みく「昨日、朋チャンここに――」

藍子「――ごっ、ごめんなさいっ!」

みく「!?」

茄子「!?」

藍子「ごめんなさい……私のせいで……!」ポロポロ

藍子「ごめんなさい……!」

みく「え、えぇ……!?」

茄子「えっと……藍子ちゃん。落ち着いてください……!」

藍子「ごめんなさい……!」

みく「藍子ちゃん、何があったの!?」

藍子「ごめんなさい……!」

茄子「……ど、どうしましょう?」オロオロ

みく「えっと……と、とりあえず泣き止むにゃ!」オロオロ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


藍子「……ごめんなさい。少し落ち着きました」

茄子「いえ……」

みく「……何があったの?」

藍子「その……」

藍子「……説明してると、また時間がかかってしまうかもしれないので」

藍子「あの、こちらへ……朋さんがいるので」

茄子「朋ちゃんが……?」

藍子「はい……ベッドの上に」

みく「……寝てるの?」

藍子「……」

茄子「……」

みく「……」

藍子「……この部屋です」ガチャ

茄子「朋ちゃん!」

みく「朋チャン!」

みく「……っ!」

茄子「目を開けたまま寝てる……?」

みく「というか、息してないにゃ!?」

茄子「朋ちゃん……!」

藍子「あ、いえ……死んでるわけではないんです」

藍子「ただ……動きがとてもゆっくりになっているんです」

茄子「ゆっくり……」

みく「……あ!」

みく「今、まぶたが少し動いたにゃ!」

藍子「そう……完全に止まっているわけでも寝ているわけでもないんです」

藍子「ただ、動きがすごくゆっくりになっているんです……」

茄子「……死んでいるわけじゃないんですね」

茄子「よかった……」

藍子「……治す方法はわかりませんが、こうなった原因は私なんです」

みく「……どういうこと?」

藍子「理由はわかりません……原理もわかりません」

藍子「ただ、私のそばに長くいるとこうなってしまうんです……」

茄子「……」

藍子「気をつけてたつもりでした……長話しないようにって」

藍子「でも、私と話してくれるのが……私の話を聞いてくれるのが本当に嬉しくて」

藍子「荒唐無稽な話だって、聞いてくれて……舞い上がっちゃって……話しすぎちゃって」

藍子「だから私のせい……私のせいで朋さんはこうなってしまったんです……」

みく「……」

藍子「私……しばらくずっと一人で……話し相手が欲しかった」

藍子「このお店が……私が呪われてから、誰もここによりつかないし……誰も私によりつかなくなって……」

藍子「だから、公園で皆さんに出会えたのが本当に嬉しくて……もっと話したくなって……」

藍子「一時間の決まりを守れば大丈夫だろうって思って……だから、朋さんにこのお店を教えちゃって……だから、朋さんは……」

藍子「……教えなければよかった……待ってますなんて言わなければよかった……」

藍子「あの日、散歩なんて行かずに家でじっとしてれば……!」

藍子「一日大丈夫だったからって、また来て欲しいなんて言わなければ……!」

藍子「ごめんなさい……朋さん……みくさん……茄子さん……!」

藍子「ごめんなさい……!」

茄子「……」

みく「……」

みく「……茄子チャン」

茄子「もちろん、もう呼んでますよ」

茄子「藍子ちゃん、大丈夫です。もう泣かないでください。謝らないでください」

藍子「でも……でも、朋さんが……!」

茄子「ふふ、それも大丈夫です。すぐ治りますから♪」

藍子「えっ……」

みく「……あ、来たみたい。この部屋に連れてくるねー」

茄子「はーい、お願いしまーす♪」

藍子「あの……どういうことですか……?」

茄子「ふふっ♪」

茄子「少し待てばきっとわかりますよ……♪」

藍子「……?」

みく「連れてきたにゃ!」

モバP「よう」

茄子「ふふ、お疲れ様です、プロデューサーさん」

藍子「プロデューサー……?」

みく「その子、なんか憑りついてる?」

モバP「……ああ」

モバP「なるほど……だから、朋もそこで止まってるんだな」

モバP「これは気配が読めないわけだ」

茄子「なんとかできそうですか?」

モバP「もちろんだ。そのために俺が来たんだから」

モバP「すぅ……」

モバP「破ぁ!!!」

藍子「!」

藍子(二人がプロデューサーさんと呼ぶ男の人の手から光が溢れる)

藍子(その光は私を……朋さんを……部屋全体を包み込んだ)

藍子(一瞬、視界が全部白くなる)

藍子(……そして、緩やかに回復していく)

藍子(視界を取り戻した私の目に映ったのは――)

朋「んーっ……!」

藍子(――背伸びをする朋さんでした)

藍子「朋さん……!?」

朋「あ、藍子ちゃんおはよ」

朋「んー……ずっと動いてなかった割にはぜんぜん凝ってないわね……んーっ……!」

藍子「な、なんで……どうして……!?」

モバP「ああ。彼女と朋に憑りついてた悪いものは今吹き飛ばしたからな」

藍子「吹き飛ばした……!?」

藍子「どうやってそんなこと……!?」

茄子「寺生まれですからね♪」

みく「寺生まれだからにゃ」

朋「寺生まれだからね」

モバP「いや、それじゃわかんないだろ」

モバP「……修行したんだよ」

モバP「妖怪や霊……魔物なんかに悩まされてる人たちを助けるためにな」

藍子「助けるために……」

茄子「ところで、今回の霊はどういうものだったんですか?」

モバP「そうだな……人の時間を食う魔物が彼女に憑りついてたんだ」

みく「時間を食べる魔物?」

モバP「ああ」

モバP「世界全体の……じゃなく、対象の個人の時間だけを食べて糧とする魔物だ」

モバP「その魔物に時間を食べられると、食べられた人間は時間の感覚が他人と狂ってしまう」

モバP「通常は1秒の動きは1秒でできるが、食べられた人間は1秒の動きをするのに10秒必要とするんだ」

モバP「だが、世界は通常どおり1秒は1秒で進行していく」

モバP「そのため、普通の世界で過ごしている人間には時間を食べられた人間の動きが遅く見えるようになるんだ」

モバP「さっきの例で言うと食べられた人間は10秒で1秒分の動きしかできないわけだからな」

モバP「……そして、それが過剰なまでに増えると、止まったように見える」

モバP「それがさっきまでベッドで寝ていた俺達から見た朋の状態だ」

朋「そうだったんだ……」

モバP「逆に朋にしてみたら、10秒かけて1秒分の動きをしたら、周りは10秒分の動きをしている――いや、実際はそれよりひどかったわけだが」

朋「あー……だからみんなの言葉とか動きが早かったんだ」

茄子「あら、私達のことも見えていたんですか」

朋「うん……たぶん」

茄子「……たぶん?」

朋「話す言葉も早いし、体の動きも早かったからよくわかんなくて、すっごく頭痛かったけど」

朋「……でも、なんとなく茄子さんもみくちゃんもわかったわよ」

朋「……それと、藍子ちゃんも」

藍子「あ……!」

藍子「ごっ……ごめんなさい、朋さん……本当に……!」

朋「や、別にいいわよ。ちゃんと元に戻れたしね」

朋「止まってる間もずっと謝ってくれてたんだもん。もう十分よ」

藍子「きっ、聞こえてたんですか……!?」

朋「何を言ってるかはぜんぜんわかんなかったけど……でも、ずっと泣いてあたしに話してたから。きっとそうなんだなって思ってた」

朋「ごめんね。口がもっと早く動かせてたらもういいよって言ってあげられたのに」

藍子「朋さん……!」

朋「あたしこういうこと慣れてるから、ぜんぜん平気だったしね」

藍子「な、慣れてる……?」

朋「うん」

朋「この前は人形にされたし、その前も刺し殺されかけたし……」

藍子「……」

朋「でも、みんなが助けてくれて今のあたしがここにいるから、今回もきっと大丈夫って信じてたの」

朋「だから、怖くなんて無かったし、藍子ちゃんを責める気もぜんぜんなかったわ」

藍子「わぁ……」

藍子「……みなさんのこと信頼してるんですね」

朋「うん!」

茄子「……でも、慣れるっていうのもすごい話ですよね」

朋「ふふ、茄子さんも慣れちゃってるでしょ?」

茄子「……そう思ってたんですけどねー」

朋「……?」

みく「にゃふふ。茄子チャンすごい心配してたよ、朋チャンのこと」

朋「え、そうなの?」

朋「てっきり『私幸運だから今回も大丈夫ですよー♪』とか言ってるのかと」

朋「今までだってこういうことよくあったし」

茄子「うーんそうなんですけど……でもどれも私がいるところか、すぐに何とかなったりしてたじゃないですか」

茄子「今回は私のいないところで、朋ちゃんが急にいなくなったので、心配だったんです」

朋「……そっか、ふふ。確かにあたしも茄子さんの立場だったらそうなってたわね」

朋「ありがとね、心配してくれて」

茄子「いえいえ……無事でよかったです、ふふっ♪」

朋「それより! ねぇ、プロデューサー!」

モバP「ん?」

朋「藍子ちゃんのお父さんとか、お母さんとか……いろんな子がまだ止まったままみたいなの」

朋「そっちも治してあげられないかな?」

モバP「ああ。それならもう大丈夫だ」

モバP「彼女の――藍子の憑りつかれていた魔物がすべての元凶だ。そいつを倒せば元に戻る」

モバP「食べられていた時間はすべて元に戻るはずだ」

藍子「本当ですかっ!?」

モバP「ああ……たぶんもう動いてると思うぞ」

藍子「……っ!」ダッ

藍子(みんなのプロデューサーさんの言葉を聞いて私はたまらず駆け出しました)

藍子「お父さん……お母さん……!」

藍子(お父さんと、お母さんがいる部屋に向かって)

藍子(……本当に治っているのか)

藍子(ドキドキした気持ちが溢れています)

藍子(期待か不安かもわかりません)

藍子(……ただ、お父さんとお母さんが戻ってるなら)

藍子(戻ってるなら……!)

藍子(そんな気持ちで走って、走って――)

藍子「……っ!」バン

藍子(その部屋の扉を開けました)

藍子(……私のことを見つめる二人の姿がありました)

藍子「……よかった」

藍子「本当によかった……!」ポロポロ

藍子「お父さん……! お母さん……!」

藍子(……あの日、公園でみんなと会わなければ)

藍子(朋ちゃんに私の話を聞いてもらわなければ)

藍子(みくちゃんが、茄子さんが私の家を見つけて、プロデューサーさんが来なければ……)

藍子(……寺生まれってすごいし)

藍子(寺生まれの事務所ってすごい)

藍子(初めて私はそう思いました)









おしまい

寺生まれのPさんとか、ふじともとか、猫と話すみくにゃん茄子さんとか、ゆるふわ時空が過剰になった藍子とか書きたかったのを混ぜました。

誤字脱字、コレジャナイ感などはすいません。読んでくださった方ありがとうございました

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