藍子「私だけの特権」 (75)

――事務所

カタカタカタッ……

P「はぁ……ちひろさん、人増やしませんか?」

ちひろ「何言ってんですか、うちにそんな余裕あるわけ無いじゃないですか……」カリカリカリッ

P「なんか最近やたら疲れも取れないんですよ……」ハァ

ちひろ「しっかり休んでますか? プロデューサーさんが倒れたら私が大変なんですから、体調管理はしっかりしてくださいよ?」

P「鬼か……」


ガチャッ……


藍子「おはようございます」

ちひろ「あら、藍子ちゃんおはようございます」

P「おはよう藍子。今日はラジオの収録か……30分くらい経ったら局向かうぞ」

藍子「はい。それじゃあ待ってますね」


……
…………


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P「ふー……」コキッ、コキッ

藍子(……)

藍子「プロデューサーさん、もしかしてお疲れですか?」

P「まあ、それなりにな。いつもこんなもんだよ」

藍子「大丈夫ですか? お仕事大変だとは思いますけど……」

P「俺が忙しいってことはみんなが売れてるってことだし、いいんだよ」

ちひろ「みなさんも安定してきてますからね。事務所も売上げが好調で良い調子ですよ」

藍子「……あの私、今日は電車でお仕事に向かったほうがいいですか?」

P「いやいや、藍子はそんなこと気にしなくていいよ。それに俺に何かあってもちひろさんいるし」

ちひろ「ちょっ、私に振らないでくださいよ」

藍子「ふふっ……それじゃあ、お仕事に向かう前にお茶入れますね。お2人とも飲みますか?」

ちひろ「あら、それじゃあお願いしてもいいですか? プロデューサーさんも、ちょっと休んでから藍子ちゃんを送ってあげてください」

P「仕事が残ってるんだが……まあ、いいか」ヨッコイセ

藍子(プロデューサーさん、大丈夫かな……)

……
…………

―ラジオ局

藍子「はい、それでは次は街角お散歩スポットのコーナーです」

P(いつもの収録だし、特に問題なさそうか……いかん、眠い……)

藍子「今回私がご紹介するのは――」チラッ


P「……」ウツラウツラ


藍子(プロデューサーさん……)

藍子「だけど、丁度その日はカメラを持っていくの忘れてしまって――」

藍子(大丈夫かな……ずっとお仕事続きみたいで……)



……
…………

――車内

藍子「うーん……」

P「どうした?」

藍子「あ、いえ……ちょっと今日の収録なんですけど、準備不足でいつもよりお話しすることが……」

P「フリートークのところか? まあ、ここ最近はライブの練習が多かったしな。次はしっかり用意しておこう」

藍子「はい……あの、プロデューサーさん」

P「なんだ?」

藍子「やっぱりお疲れですよね? 収録のときプロデューサーさんの様子を見てたんですけど、凄く眠そうで……」

P「こらこら、心配してくれるのは嬉しいが、仕事に集中しないとダメだろう?」

藍子「あっ、す、すみません……」

P「確かにやたらと最近眠いが……まあ話は戻すが……そうだな、ラジオ収録もメインの仕事だしな。ちょっとスケジュール空けるようにしておくよ」

藍子「本当ですか? ありがとうございます」

P「ま、俺も藍子のラジオは好きだしな。良い番組になってくれるに越したことは無いよ」

藍子(……)

……
…………

――事務所

P「それじゃあちひろさん、これから愛梨を迎えにいってきますから」

ちひろ「はーい」

藍子「プロデューサーさん、気をつけて行ってきてくださいね」

P「分かってるよ。それじゃ行ってくる」

ガチャッ……バタンッ

藍子「ふう……」

ちひろ「あら、藍子ちゃんお疲れですか?」

藍子「あ、いえ、私は特に……それよりプロデューサーさん、すごく疲れているみたいで……」

ちひろ「そうですねえ……みなさんの付き添いとか色々ありますし」

藍子「プロデューサーさん、お休み取れないんですか?」

ちひろ「難しいですねー、あの人最近寝てるとき以外はアイドルのみなさんと何かしらで一緒にいますし」

藍子「そうですか……」

藍子(そんなにお仕事ばっかりで……プロデューサーさん、このままだと身体を壊しちゃいそう……)


……
…………

――翌日早朝、事務所前


藍子「ちょっと早く来ちゃったかな……?」

藍子(遠出の収録で、結局今日もプロデューサーさんに付き添ってもらって……)

カンッ、カンッ、カンッ!

藍子「あら?」


愛梨「……あっ、藍子ちゃん?」


藍子「愛梨ちゃん、おはようございます。朝早いですね? 愛梨ちゃんもお仕事ですか?」

愛梨「う、ううん、私は昨日の夜中お仕事で、Pさんに付き添ってもらってたから……」

藍子「ええっ!? それじゃあプロデューサーさん、昨日からお泊りなんですか?」

愛梨「う、うん……いまは仮眠室でお休みしてるけど……それじゃあ、私は先に帰りますね」

藍子「あ、お疲れ様です……」

愛梨「藍子ちゃん、お仕事頑張ってくださいねっ」


タタタタッ……


藍子「愛梨ちゃん、朝までお仕事だったんだ……プロデューサーさん、本当に大変そう……」


……
……………

――数時間後、車内

P「くそっ、渋滞に捕まったか……こりゃ遅れる連絡入れなきゃダメだな……」

藍子「ごめんなさいプロデューサーさん、私が事務所に来たとき、ちゃんとプロデューサーさんを起こしてれば……」

P「いや、仮眠して起きれなかった俺が悪いよ。藍子は気を遣ってくれただけだし……」

藍子「でも……」

P「そんな顔しないでくれよ。これから撮影なんだし、俺は疲れた顔のままでいいけど、藍子には笑顔でいてもらわないと」

藍子「……」

藍子(プロデューサーさん、やっぱり……無理してる……私のことばかり気にしてくださって……)

P「そうだなあ……それじゃあ、藍子が最近仕事して面白いって思った話を聞きたいな」

藍子「えっ、わ、私のお仕事のお話ですか?」

P「ああ。トークの練習にもなるし、それに報告だけじゃ分からないような話も聞きたいしな」

藍子「そ、そんないきなりなんて……」

P「難しいか? それじゃあ……うん、次のラジオでのフリートークのネタ、どこで仕入れようと思ってる?」

藍子「お散歩コーナーですか? えっと……この前茜ちゃんとお出かけしたときの場所で……」

P「ほー、茜が藍子の散歩にでも付き合ったのか? それで、どんなところなんだ?」

藍子「お散歩じゃなくて、お買い物に行ったときで、たまたま噴水のある公園の中を通って……」

――数分後

藍子「――というわけで、茜ちゃんが走っていっちゃったのでそのまま公園から出ることになったんです」

P「へえ、茜が噴水の上登って……いやそれは俺のほうで注意しないとダメだな……いまの話、ラジオのトークでそのまま使えるんじゃないか?」

藍子「えっ? そ、そうですか?」

P「ああ、藍子が誰かとその場所に出掛けたって話ならいつもとコーナーの雰囲気も変わるだろう? たまにはこういう話もいいんじゃないか?」

藍子「うーん、お散歩コーナーとはちょっと違いますけど……そうですね、次はこのお話しでやってみます」

P「おう。楽しみにしてるぞ」

藍子「ふふっ、頑張りますね」

P「さてと……それじゃあ渋滞もいい感じに進んでるし、俺ももう少し頑張るか」

藍子(プロデューサーさん、私のラジオを楽しみにして……)

藍子(たまには他の人と一緒にお散歩に出掛けて、そのときのお話しをするのも……)ピクッ

藍子「あっ!」

P「ん、どうした?」

藍子「そうですっ、プロデューサーさん! 今度私とお出かけしませんか?」

P「藍子と? なんでまた」

藍子「トークのネタ探しで、私と一緒にお散歩して頂けたら嬉しいなって思って……」

P「んー、嬉しい話だが、ちょっと俺の時間を空けるのがな……」

藍子「あ……そ、そうですよね……プロデューサーさん、お忙しいのに……」

P「せっかく誘ってもらったのにゴメンな。そのときオフの子でも誘ってあげてくれよ」

藍子「はい……」

藍子(そう、ですよね……プロデューサーさん、私のことばかり構ってくれるわけじゃないのに……)


……
…………

――公園

藍子「……」

監督「藍子ちゃん、次はこっち向いて……ちょっとポーズも変えて、腕組んでみようか」

藍子「これで大丈夫ですか?」スッ

監督「いいよいいよ、そのまま……」パシャパシャパシャッ

P(撮影は問題なさそうか……ん、電話?)ヴヴヴヴヴ……


藍子(……あ、向こうの通り……カップルが歩いて……)

藍子(プロデューサーさん……)チラッ


P「ええ、はい、そうです。昨日お渡しした資料の最後のページに書いてある内容で……」


藍子(お仕事の電話……かぁ)


監督「藍子ちゃん、もうちょっとだけ笑顔で!」

藍子「あっ、す、すみませんっ」ニコッ


……
…………

――数十分後

<オッケーデース!!

藍子「今日はありがとうございました。お疲れ様です」

監督「お疲れ様。藍子ちゃん、今日は可愛かったよ」

P「ありがとうございます監督。またよろしくお願いします」

監督「見本誌は出来たら届くと思いますから、いい感じになってると思いますよ」

P「そうですか……よかったな藍子。楽しみだな」

藍子「はい、ちょっとワクワクしてきました……ふふっ」

監督「それじゃ私たちは撤収作業してますから、プロデューサーさんたちは引き上げて頂いて大丈夫ですよ」

藍子(撮影、撮り直しもなかったから予定よりも早く終わっちゃった……あっ)

P「そうですか、それじゃあお言葉に甘えて――」

藍子「プロデューサーさん、あの、少しお時間があればなんですけど、ここの公園を1周歩いてもいいですか?」

P「ここか? ……まあ、それくらいなら大丈夫か」

藍子「本当ですか? プロデューサーさん、行きましょうっ♪」

P「えっ、俺も?」

藍子「はいっ! ……もしかして、私1人ぼっちになっちゃうんですか?」

P「そう言われるとな……それじゃ、少し歩くか」

藍子「ふふっ♪」

藍子(今日はお天気も良いし、少し公園を歩いてプロデューサーさんも気分転換できたら……)

……
…………

――数分後

P「はー……事務所戻りたくねーなぁ……」

藍子「プロデューサーさん、少し働きすぎです。私たちのお世話をしてくださるのは嬉しいんですけど、少しお休みしないと……」

P「そうは言ってもな、俺はこれで飯食ってるからいいんだよ。ちひろさんも新しい人増やしてくれりゃいいんだけどなあ……」

藍子「新しいプロデューサーさんですか?」

P「そうだな……大きな仕事は俺が付いてなきゃダメだろうけど、こういう撮影くらいなら他の人に見てもらうのはアリだしな」

藍子(……でも、もしそうなったらプロデューサーさんは私のお仕事を……)

藍子「わ、私はプロデューサーさんとお仕事――」

prrrrr!!

P「ん、ちょっと電話か? すまん藍子……もしもし?」ピッ

藍子「あ……」

P「蘭子か、どうした? 今日は周子とスタジオのはずだけど……ああ、それならADさんに話して大丈夫だ」

藍子(蘭子ちゃんからのお電話……)

P「そうだな……ちょっと周子に代わってくれないか? あいつなら何となく分かる話だと思うし……」

藍子(私とお散歩しているときでも、プロデューサーさんはお仕事があればこうやって……)

P「周子か? いまの話なんだが、この前同じことあっただろ? ADさんに話してやってくれないか? 何かあったらまた電話してくれればいいから」

藍子(私と一緒にいても、プロデューサーさんは……)

P「ああ、それじゃあ頼むよ。うん、しっかり頑張れよ」ピッ


……
…………

――数日後


ガチャッ

藍子「ただいま戻りました」

ちひろ「お帰りなさい藍子ちゃん、レッスンお疲れ様です。今日は……この後の予定はないですよね?」

藍子「はい。荷物を取りにきただけですから」キョロキョロ

藍子(プロデューサーさん……いない……)

ゴゾゴゾ……

輝子「あ……藍子、ちゃん……」

藍子「輝子ちゃん、お疲れ様です。今日は輝子ちゃんもレッスンだったんですか?」

輝子「わ、私は……プロデューサー待ち……夜から、し、仕事だし……」

藍子「そうだったんですか……頑張ってくだいね」

輝子「フヒッ! が、頑張る……」

ちひろ「あ、そうそう輝子ちゃん、このあとちょっといいですか?」

輝子「あ、ああ……いいぞ」

藍子「それじゃあちひろさん、輝子ちゃん、お疲れ様でした」

ちひろ「あ、お疲れ様です藍子ちゃん。気をつけて帰ってくださいね」

……
…………

――駅前

藍子「はぁ……」

藍子(この前の撮影からずっとプロデューサーさんに会えない……みんなの付き添いで大変みたいだけど……)

藍子「でも、お仕事で仕方が無いから……あれ? あそこにいる人……変装しているけど、もしかして……あっ」ササッ



周子「Pさーん、こっちだよー」フリフリ

P「すまん周子、少し遅れたな」

周子「ダイジョーブダイジョーブ、あたしも今来たところだし」キョロキョロ

P「ならいいか」

周子「えー? もうちょっとさあ、こう……女の子待たせちゃったとか思わないの?」キョロキョロ

P「いや、周子なら待たせても別にいいかなって感じで……何きょろきょろしてるんだ?」

周子「ん? いやー、なんでもないよ。気のせい気のせい」

P「まあいいや、それじゃあいこうか」

周子「Pさんのおごりね。せっかくのデートだし」



藍子(デート……?)


P「こらこら、外でそんなこと言うんじゃない」

周子「はーい」


藍子(プロデューサーさんと周子ちゃんが……)


……
…………

――翌日早朝、事務所前

藍子「ふわぁ……今日も遠出の収録……眠いなぁ……」

藍子(もしかしたら……今日もプロデューサーさん……)ピクッ!

カンッ、カンッ、カンッ!

藍子「あっ」ササッ



蘭子「……」キョロキョロキョロ

蘭子「……」タタタタタッ……




藍子(蘭子ちゃん……? 行っちゃった……どうしたんでしょう?)

藍子「蘭子ちゃんがこの時間まで事務所にいたってことは……やっぱりプロデューサーさんも……」

タッタッタッタッ……

――事務所、仮眠室

藍子「プロデューサーさん、起きてください。プロデューサーさん」

P「……ん」

藍子「プロデューサーさん、朝ですよー。毎日遅くまでお疲れでしょうけれど、今日も頑張りましょう?」

P「……藍子……そうか、今日は付き添いの日だったな」グググッ……

藍子「大丈夫ですか? お顔の色が悪いように見えますけど……」

P「なんだろうな……最近寝ても全然疲れが取れないんだ……むしろもっと疲れるっていうか……」

藍子「そんな、病院には行かないんですか?」

P「まあ、そのうち行くさ……寝たからか、何だか汗臭いな。すまん、シャワー浴びて来るから事務所で待っててくれないか?」

藍子「は、はい……」

P「はぁ……」トボトボ

藍子(プロデューサーさん……)


……
…………

――事務所

P「よし! さっぱりしたし……藍子、行くか!」

藍子「本当に大丈夫ですか? まだ少し時間もありますし、休憩してからでも……」

P「仕事は違っても、この間の収録は時間ギリギリで現地に着くことになったからな。早めに出れるなら出ておこう」

藍子「そう、ですか……」シュン……

P「ん、どうした? 藍子が仕事前にそんな顔するなんて」

藍子(……)

藍子「……ほんの少し、ここに来るまでの間、疲れちゃったんです。事務所で休憩できたらよかったなって思って」

P「……?」

藍子(……ダメ、かな)

P「……そうか。藍子が疲れてるなら少し休憩しようか」

藍子「本当ですか?」

P「ああ、俺も本音を言えば少し休みたかったからな。ちょっとコーヒーでも淹れてくるよ」

藍子「そ、そんな悪いですよ……私がやりますから、プロデューサーさんは座っててください」

P「いいよ、気にしなくて。プロデューサーの俺が疲れてる藍子にそんなことやらせたら、ちひろさんに首絞められちゃうからな」

藍子「あう……」

藍子(はあ……結局、プロデューサーさんに気を遣って頂いて……どうしたらプロデューサーさんに休んでもらえるのかな……)


……
…………

――車内

藍子「……」チラッ

P「ねえいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいあなたの……♪」

藍子「……」


P『まあいいや、それじゃあいこうか』

周子『Pさんのおごりね。せっかくのデートだし』


藍子(お仕事してばかりの私より、周子ちゃんと一緒のほうが……)

藍子「あのっ、ぷ、プロデューサーさん」

P「なんだ? 運転中だからそっちは見れんぞ」

藍子「昨日……周子ちゃんとのデート……楽しかったですか?」

P「ぶっ!?」

キキーッ!!

藍子「きゃっ!?」

P「あ、赤信号でよかった……ってお、おい、なんだその話、誰がそんな変なこと言ったんだ?」

藍子「あ、い、いえ……昨日、駅前でプロデューサーさんと周子ちゃんが2人でいるとことを見かけて……」

P「ああ……なんだ、あのときのことか……デートじゃないんだが、あれは周子がダーツバーに連れてけってうるさいもんでな……」

P「周子は最近忙しい身だし、リフレッシュさせてやらんと持たないだろうから連れてってるんだが、最近行く回数が多くなってきてなあ」

藍子「周子ちゃんと……2人でですか?」

P「ホントに俺の手が空かないときは他の子と一緒に行かせてるよ。ちひろさんにもお願いするときはあるが……」

藍子「……それって、デートですよね?」

P「いや、違うって」

藍子「デートです」

P「いやいや」

藍子「デートです」

P「勘弁してくれよ……藍子にそんなふうに弄られると何かダメージがでかい……」

藍子「あっ……す、すみません」

P「いや、まあ、いいけどさ。藍子もそう言うこと気にするんだな」

藍子「わ、私だって、その、気にはしちゃいますよ……」

P「そうか? よく一緒にいる茜はそういう感じじゃないし、未央なら好きそうなネタだとは思うけどな。藍子がそういう話に食いつくのは意外だよ」

藍子「そ、そうでしょうか?」

P「まあ、周子に付き合ってダーツバーに行けば少しばかり休めるしな。一緒に投げさせられると疲れるが……」

藍子「それ、結局休めてないじゃないですか」

P「いいんだよ。ちょっと疲れても気分転換にはなるし」

藍子「でも……」

P「……どうしたんだ藍子? 自意識過剰かもしれんが、何だか最近やけに俺に休めって言ってくれてるような気がするが」

藍子「えっ、そ、それは……プロデューサーさん、いつも疲れているみたいで……お休みの日も全然無いから……」

P「……俺、そんなに毎日疲れてるように見えるか?」

藍子「はい」

P「うっ……ま、まあ否定はしないが……しかし藍子に気を遣ってもらうとはプロデューサー失格だな」

藍子「そんなことないです。プロデューサーさんが私たちのために頑張ってくださっているのは分かってますし……」

P「とはいえ、自分のアイドルに心配されるなんて、俺もまだまだってことだ。もうちょっと自己管理しっかりしないとな」

藍子「そ、そうです。プロデューサーさんが倒れたら、私たちみんな困っちゃうんですよ?」

P「はははっ、そりゃそうか。悪いな藍子、気を遣わせちゃって」

藍子「い、いえいえ……私はそんな……」

P「ありがとうな。俺もしっかりしないと藍子も不安になるだろうが……何だか嬉しいよ、藍子が俺に心配してくれるなんて」

藍子「あ、あう、ううう……」

P「さて、それじゃもうそろそろで現場に着くし、今日も仕事頑張るかー」

藍子(プロデューサーさん……でも、やっぱり私……)


……
…………

――翌日午後、レッスン場

ガチャッ

藍子「……」ソーッ……


愛梨「――、――」

周子「――」


藍子(いた……)

ギィッ……


愛梨「あっ」ピクッ

周子「ん?」

藍子「おはようございます」

愛梨「お、おはようございますっ、藍子ちゃんも今日はレッスンだったんですかぁ?」

周子「おはよー、お疲れおつかれー」

藍子「お疲れ様です。愛梨ちゃんも周子ちゃんも、レッスンの調子はどうですか?」

周子「んー? ぼちぼちかなー。仕事の合間にレッスンやってしんどいけどねー」

愛梨「わ、私は午前中でレッスン終わってるから……今日はもう帰りますね」サササッ

周子「じゃーねー」フリフリ

藍子「お疲れ様です」

愛梨「お疲れさまっ、藍子ちゃん、レッスン頑張ってくださいね♪」タタタタッ

ガチャッ……バタンッ!!

周子「さーてさて、あたしもレッスン頑張らないとなー」

藍子「……あのっ、周子ちゃん!」

周子「うん?」

藍子「あの、えっと……聞いてもいいですか?」

周子「シューコちゃんがわかることならいいよー。分からないことならわかんないや」

藍子「え、えっと……し、周子ちゃんって……プロデューサーさんのこと、す、好き……ですか?」



周子「……え? なんで?」

藍子「実は……私、この前プロデューサーさんと周子ちゃんが駅前で2人きりでいるのを見て、それで……」

周子「あー、うん、そっか、藍子ちゃん見てたんだ……うん、うん、いたんだ」

藍子「そ、その……見るつもりは無かったんですけど……」モジモジ

周子「……なるほど、つまり藍子ちゃんは――」

藍子「それでっ! お願いがあるんです!」

周子「え?」

藍子「実は……プロデューサーさん、凄く疲れているみたいなんです。毎日お仕事で、休む時間も全然なくて……」

周子「……あー、うん、何となく知ってる。最近あたしに付きっきりの日も多いしねー」

藍子「でも、周子ちゃんとはお仕事の合間にお出かけしているって聞いて……」

周子「そうそう、あたしがダーツバー行きたいってワガママを言うとPさん連れてってくれるからねー」

藍子「そう……ですよね。それで、周子ちゃんにお願いがあって……」

周子「ふーん……この流れでお願い……なに?」

藍子「プロデューサーさん、ずっとお休みできないって言ってて……」

藍子「周子ちゃんが今度プロデューサーさんとお出かけしたとき、どこかプロデューサーさんがお休みできるような場所に連れてあげてほしいんです」

周子「……ほうほう? それをあたしにお願いしちゃうの?」

藍子「わ、私じゃあダメなんです……私が言うとプロデューサーさんに変に気を遣って頂くことになってしまうんです……」

藍子「だから……だから、プロデューサーさんと仲良しな周子ちゃんになら、お願いできると思って……」ギュッ……

周子「ふーん、そっか……」

藍子「はい……私じゃダメだから……周子ちゃんが、プロデューサーさんと……」


周子「……」

周子「藍子ちゃんはそれでいいの?」

藍子「……え?」

周子「いやーなんかさ、話し聞いてるだけだとあたしより藍子ちゃんのほうが、よっぽどPさんのこと好き好きって感じに聞こえてさー」

藍子「好っ……わ、私はそんな……!!」

周子「えー? でもあたしにそんなお願いするってことはさ、それだけPさんのこと毎日気にしてて、どうにかしてあげたいから話してくれたんでしょ?」

藍子「それは……そうですけど……」モジモジ

周子「……実はさ、藍子ちゃんと同じようにPさんのこと気にしてる子、結構いるみたいなんだよねー」

藍子「えっ?」

周子「例えばー……愛梨ちゃんもかな。さっき話してたんだけど、Pさんに何かしてあげたいんだーって話しててさ」

藍子「愛梨ちゃんも……」

周子「だけど中々難しいみたいで上手くいかないってさ。他の子もそうみたいなんだよねー、Pさんのことが好きで何かしてあげたくても難しいって」

藍子「そ、そうなんですか……よかった……」ハッ!

藍子(や、やだ……私、どうして……プロデューサーさんには元気になってほしいだけなのに……)

周子「……」ピクッ

周子「……そうだ、ちょっと待っててよ。10分……いや5分でいいかな?」

藍子「は、はい?」

周子「すぐ戻るからねー」タタタタッ

ガチャッ……バタンッ!!


……
…………

――数分後

志希「呼ばれて飛び出て周子ちゃーん♪」

周子「いやあたしは呼んだほうだから、呼ばれて飛び出たのは志希ちゃんでしょ」ビシッ

藍子「あ、あの……」

志希「にゃははははっ♪ へー、そっかー、藍子ちゃんがねー、うん、うん、へーほーへー……」ジロジロジロ

藍子「えっと、し、周子ちゃん?」

周子「ん? いやー、この前志希ちゃんからちょっと相談されたことがあってね、藍子ちゃんにならいいかなーって思って」

藍子「……何の話ですか?」

志希「まー藍子ちゃんでもいっかー。実は最近ちょっと新しクスリを作ったんだけど実験相手がいなくてねー」

藍子「お薬……?」

志希「これがまた便利なヤツでねー、飲ませた相手に何でも自分の言うことを聞かせるクスリ! なんだけどー……」

周子「志希ちゃんが直接クスリを渡すとさ、みんな警戒して飲んでくれないんだってさ」

志希「そういうわけでー……このクスリを藍子ちゃんに託そう!」

藍子「えええっ!? で、でも私がそんな薬をもらっても……」

周子「ちょうどいいんじゃない? ほら、その薬があればさ、藍子ちゃんの一声でPさんも休めるんじゃないかなー?」

藍子「……」ピクッ!

周子「あたしじゃなくてもさ、藍子ちゃんが休みたいときにPさんに薬を飲ませれば一緒に休めて一石二鳥じゃない?」

藍子「私が……Pさんと……」

志希「それにそれにー、このクスリがあれば何でも言うこと聞くんだよー?」

志希「例えばー……にゃんにゃんムフフなお願いだって言えちゃうんだよー?」

藍子「にゃんにゃんムフフ……?」

周子「あー……ほら、アレだよアレ、男と女がすることといえばさー……」

藍子「……!!」ボンッ!!

志希「にゃはははは♪ まーまー、そんなことも出来るってことだからさー……どう?」

周子「まあまあ、志希ちゃんの実験ついでにPさんを好きに出来るってことなら悪くないんじゃないのかなーって」

藍子(私が……Pさんと……)



P『こらこら、心配してくれるのは嬉しいが、仕事に集中しないとダメだろう?』

P『んー、嬉しい話だが、ちょっと俺の時間を空けるのがな……』

P『何だか嬉しいよ、藍子が俺に心配してくれるなんて』



藍子「……」ギュッ!

志希「まークスリ使うときはさ、効果がどんな感じか観察したいからテキトーな場所でこっそり様子見てるけどねー」

藍子「あの、志希ちゃん、それなら――」


……
…………

――数時間後、事務所

P「くーだけ散ったそーらにー……♪」


ガチャッ!


P「あ、ちひろさん? どこ行ってたんですかまったく――」

藍子「プロデューサーさん!」

P「ん、藍子か……どうした? 今日はレッスンだったと思うが……」

藍子「あ……は、はい、今日は調子が良い日で……」

P「そうかそうか、よかったじゃないか。今日は疲れただろう? 早めに帰って明日の仕事に備えないとな」

藍子「そ、その前に……休憩してから、帰ろうかなって思ったので……あっ! プロデューサーさん、何か飲みますか?」

P「ん、気にしなくていいぞ? 俺が持ってくるから藍子は座っててくれよ」

藍子「いえ! この前はプロデューサーさんが用意してくださったので、今日は私がやります!」

P「そ、そうか……なんか凄い気迫だが……それじゃあ、お茶頼むよ」

藍子「はいっ!」

タタタタッ……

藍子「……」コトッ

藍子(このお茶に……志希ちゃんから頂いた薬を入れて……)サーッ!

藍子(……薬の効果は、1日くらい……1日、1日ずつなら……)



藍子『そうですっ、プロデューサーさん! 今度私とお出かけしませんか?』

P『んー、嬉しい話だが、ちょっと俺の時間を空けるのがな……』

P『何だか嬉しいよ、藍子が俺に心配してくれるなんて』


藍子(本当なら、こんなことをしなくても……だけど……それでも、いいなら……)


カタッ……

藍子「どうぞプロデューサーさん、温かいうちに飲んでください」

P「おお、わざわざありがとう」スッ

藍子「……」

P「そういえばどうだ? 最近は撮影の仕事が多くなってると思うが」

藍子「はい。遠出の撮影が多くて大変ですけど、色々な景色も見れて、新しい発見もあって……凄く楽しいです」

P「そう言ってくれると助かるよ。あとまだ正式には言えないが、近いうちに藍子にユニットを組んでもらおうと思ってな」

藍子「私に……ですか?」

P「ああ、藍子と、茜、輝子、ユッコ……それに愛梨の5人かな。曲はもう少しで出来上がるんだけどな」

藍子「そうなんですか……ふふっ、歌うのは久しぶりですね」

P「そうだな……しばらくは……あいこ、も……」

藍子「……プロデューサーさん?」

P「……」

藍子(……少しだけ眠った後、1晩……朝早くなら……)

藍子「ごめんなさい、プロデューサーさん……」


……
……………

――翌日早朝、事務所


藍子「プロデューサーさん、おはようございます」

P「おはよう藍子。昨日話していた通りの時間に来たな」

藍子「はいっ! それで、お仕事のほうはどうなりましたか? 教えて頂けませんか?」

P「何とか間に合ったよ。今日の分のデスクワークも纏めて片付けて、メールも夜のうちに出した。付き添いも今日の分は全部キャンセルしておいたよ」

藍子「そうですか……よかったです。プロデューサーさんの付き添いが無くて困った子はいませんか?」

P「凛の収録くらいかな……だけど、手の空いている大人組に代役をお願い出来たよ。お詫びに別の機会に飲みに連れて行くことになったけど」

藍子「あらら……す、すみません、私のせいですよね……」

P「藍子のお願いだからな。まあ仕方が無いさ」

藍子「それじゃあ、いまお茶を用意しますから、そのまま待っていてくださいね」

P「ああ、待ってるよ」

藍子「プロデューサーさんがお茶を飲んだ後、私は1度帰りますけど……またお昼頃に事務所に来ますから、事務所で待っていてくださいね?」

P「分かった。待ってるよ」

藍子「はい。ちゃんと……待っていてくださいね……」


……
…………

――午後、公園

藍子「少し風が吹いていますけど、お天気も良くて気持ち良いですね」

P「そうだな。藍子は寒くないか?」

藍子「はい、私は大丈夫です……あっ、プロデューサーさん、あそこに猫がいますよ」

P「どこだ? お、あそこか……黒猫か」

藍子「ふふっ、写真、忘れずに撮っておかなくちゃ……ねこさーん、こっち向いてくださいねー……」カシャッ!


タタタタッ……


藍子「あら……逃げていっちゃいましたね」

P「写真、取れたのか?」

藍子「取れましたよ。ピンボケしてなければいいですけど……」

P「よかったよかった。次のラジオのフリートークのネタにもなりそうだな」

藍子「ふふっ、そうですね♪」

――事務室


『プロデューサーさん、そこの芝生でちょっと休憩しませんか?』

『そうだな。公園も一回り歩いたし、休もうか』



ちひろ「なーんか微妙ですねー」

志希「こりゃ売れないねー。というか売るネタがないねー。藍子ちゃん、クスリ2回分頂戴っていうから頑張ってハッスルすると思ったんだけどなー」

ちひろ「2回に分けて使って、プロデューサーさんの暇を作るだけなんて……はぁ」

志希「残念? 残念だったり?」

ちひろ「そりゃあ、愛梨ちゃんたちみたいにプロデューサーさんとよろしくやってくれるのを期待してましたからね」

ちひろ「薬飲ませて夜中に仕事させて、次の日に公園に行かせるためだけにもう1回薬飲ませるなんて……」

志希「まー、あたしもクスリ渡すときちょっと不安だったけどねー。藍子ちゃんってそういうこと考えなさそーだし?」

ちひろ「これじゃあ薬がもったいないですよ。材料だって中々手に入らないんですから」

志希「あれ、そーなの?」

ちひろ「材料、時間掛けて育てなきゃダメみたいですからね。この前少し頂いたばかりですから、まだ余裕はありますけど……」

志希「まーまー、藍子ちゃんがハズレでもシンデレラガールの3人がハッスルしてくれてるし? まだまだ大丈夫じゃない?」

ちひろ「そりゃそうですけど……はあ、もったいない……」



『あの、プロデューサーさん……頭こちらに向けてもらっていいですか?』

『ん、いいのか?』

『はい、大丈夫です。えっと……そっか、こっちに頭を向けてくださいっ』

『ああ、藍子がそう言うなら……』


……
…………

――公園


藍子「どうですか……P、さん、気持ちいですか?」

P「ああ……藍子の膝枕、気持ちいいよ。風も止んできてるし、眠ってしまいそうだ」

藍子「ふふっ……眠ってもいいんですよ。Pさんが起きるまで、こうしてますから」

P「藍子は膝、痛くないのか?」

藍子「私は大丈夫ですよ。Pさん、ゆっくりお休みできそうですか?」

P「そうだな……こんなにのんびりした時間は久しぶりだな。眠るのが勿体無いくらいだ……」

藍子「でも、夕方からはまたお仕事ですからね。昨日も一晩中お仕事でしたし、少し眠ってください」

P「ああ、分かった……藍子が言うなら、そうするよ……」

P「……」


藍子「……Pさん」スッ

P「……」


藍子(本当は、お薬なんて使わなくても……Pさんとこんな時間、過ごせたら……)

藍子(でも……いまだけ、この時間だけでも……私のそばで、Pさんと2人きりで、ゆったりとした時間を過ごせるなら……)

藍子(他の誰でもない……Pさんとこんな時間を過ごすことができるのは……)


藍子「私だけの……特権に、したいから……Pさん、お休みなさい……」


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