幼馴染「ひねもすのたりでお願いします」 男「ん?」(51)

男「んん?……ひね…なに?」

幼「おはよう、男。さわやかな朝ですよっと」

男「ん、おはよう……って、今何時?」

幼「今9時だね」

男「俺の寝顔をいつから見てた?」

幼「ついさっきだよ。おばさんがもう起こせって言ってたけど、気持ちよさそうに寝てたから」

男「……もうちょい眠りたいかな」

幼「知ってるよー、4時に寝たんだよね」

男「何故バレた」

幼「私、4時に起きたからね。部屋の電気が消えるの見てたし」

男「おぉ……早起きだったんだな」

男「うっし! んじゃ起きるか!」
ガバッ

幼「男! 今日は良い感じの天気だよ!」

男「良い天気か……で、今日はなんだって?」

幼「説明は後でするから! 取り敢えずサンダル履いて、外に!」

幼「あ、格好はそのままでいいから」

男「Tシャツくらい着替えたいんだけど」

幼「いいからいいから!」
グイグイッ

男「押すな押すな、ちゃんと歩くから!」



男「で」

幼「はい!」

男「タープ担いで、いつもの海に来た訳だが」

幼「徒歩3分で綺麗な海に来られるって幸せだよね!」

男「それはそうだな」

幼「さ! いつもの所にタープ広げて!」

男「はいよ」
ガサゴソ



男「で?」

幼「取り敢えず座って座って」
トサッ

男「おう……で、今日はなんだっけ? 約束してたっけ?」
トサッ

幼「約束はしてないよ。昨日寝る前に思いついた事だから」

男「さっき何か言ってたよな? なんだっけ?」

幼「春の海 ひねもすのたり のたりかな」

男「与謝蕪村だっけな?……それが?」

幼「もう春休みも終わるじゃない?」

男「そうだな」

幼「今日の天気は、晴れてるけど刺すような日差しじゃないし、風も程よくあるよね」

男「そうだなー、本当に良い天気だ……」

幼「まさに、春の海 ひねもすのたり のたりかな、じゃない?」

男「そう言いえばそうだな……」

幼「だからね」

男「ん?」

幼「毎日勉強頑張ってる男に、少し休んで欲しいなって」

男「……」

幼「つまり!」

幼「ひねもすのたりでお願いします!」

男「……ありがとよ」

幼「いやー、だけど丁度良い感じのお天気で助かったよ」

男「助かった?」

幼「4時起きで色々準備したけど、天気悪かったら台無し的な」

男「天気悪かったらどうしてたんだ?」

幼「その時は男の部屋でピクニックになってたね」

男「ははは、そりゃ晴れて良かったよ」

幼「さぁさぁ、今日は英気を養ってもらう為に準備してきたからねー」
ゴソゴソ

男「そのデカイ鞄から何が出てくるんだ?」

幼「へへ、おもてなしグッズ」
ゴソゴソ

幼「第一弾! お茶~!」

男「あぁ、丁度何か飲みたいと思ってたんだ」

幼「急かした甲斐があったよ」

男「この為に急かしたのか? 策士だな」

幼「へへへ、褒めてもお茶しか出ないよ、今はね」
キュッキュッ
コポコポコポ

幼「はい、ちょっとぬるめのお茶でございます」

男「ありがと……ってぬるいのかよ」
ゴクッ

幼「冷たい物を急に飲み過ぎると身体に悪いって聞いたから」

男「ん! このお茶美味いな?」
ゴクッゴクッ

幼「粗茶でございます」

男「いやいや、こりゃ美味いぜマジで」

幼「ありがと。お茶でこんなに褒められるって事も無いよね」

男「ふぅ、美味かった……で?」

幼「ん?」

男「この後はどうするんだ?」

幼「のたりのたりだよ」

男「のんびりすればいいのか……でも」

幼「でも?」

男「ここで寝っ転がったら、俺マジで寝るかもだぜ?」

幼「うん、眠かったら寝てよ」

男「いいのか?」

幼「男に休んでもらう為に来たんだから、楽にしてよ」

男「んじゃ、俺マジで寝落ちするかもしれないけど、ちょっと横になるな」

幼「おっと、ここで第二のおもてなしが!」

男「ん? 何?」

幼「枕があるんですよ、枕が」

男「わざわざ鞄に枕詰めてきたのか」

幼「ふっふっふー」

男「ん?」

幼「こちらにどうぞ」
ポンポン

男「お、おう……ひざまくら、か」

幼「一度やってみたかったんだよね」

男「……なんかちょっと照れるな」

幼「気にせずどうぞ! さぁどうぞ!」
ポンポン

男「それじゃ……」
ゴロン

幼「ふへへ……照れますな」

男「だろうよ、やめるか」

幼「いやいや、このままお休みくださいな」

男「……顔をじっと見られてると、寝辛い」

幼「ではささやかながら、風でも」
パタパタ

男「おぉ、扇子か……いいな」

幼「どうですか、心地は」
パタパタ

男「あぁ、良い感じだな……」
ウトウト

幼「ふふふー、子守歌はいかが?」

男「……はは、それは……いいや……」
スースー

幼「男ー……寝たー?」

男「……」
スースー

幼「……ごめんね、眠いのに引っ張り出しちゃって」

幼「……でも、久しぶりだし勘弁ね」

幼「……」

幼「ずっと勉強ばっかじゃ疲れるでしょ?」

幼「それに最近一緒に居られない事が多いし」

幼「たまにはね」

幼「……のたりのたりと、ね」



10分後

幼「男! 起きて! ちょっと! 緊急事態っ!」
ペシペシ

男「……ん? どした?」

幼「あ、足が痺れた……ごめんっ」
ゴロン
バタン

男「あぁ、はは……慣れない事するもんじゃないな?」

幼「いたたた……ごめんね、気持ちよさそうに寝てたのに……」

男「いやー気にすんな。 集中して寝たから、気分良いぜ」

幼「そ、それはなにより……いたた」

男「はは……膝枕ありがとな」

幼「いえいえ……で、では改めて」

男「え? いやいや、足痛いだろ? もう……」

幼「こちらの……」
ゴソゴソ

幼「普通の枕をお使い下さいっ!」

男「なんだよ、普通の枕もあるのかよ、はは」

幼「こんな事もあろうかと、ね」

男「んじゃ遠慮なく使わせてもらうぜ」

幼「うん……あ、そういえばお腹は? 空いてない?」

男「んー、言われてみれば少し、かな」

幼「それじゃ軽めのヤーツを……」
ゴソゴソ

男「……色々ありがとな」

幼「いえいえお礼なんて。 私が勝手に押しかけてやってる事だし」

男「それでもさ、ありがとな」

幼「……最初のお食事は、サンドイッチでございます」
パカッ

男「おお、これは……いつもの美味しいヤーツ」

幼「沢山あるので、どんどん召し上がれっ」

男「頂きます!」



男「ふぃー……結局全部食べたな……」

幼「まさか全部食べるとは思わなかったよ」

男「隠し味が……な。 なーんかいつもと違うけど、わからんかった」

幼「我ながら美味しく出来たんじゃないかなーと思う」

男「めちゃ美味かった。 で? 隠し味は何だったんだ?」

幼「内緒! 食べたくなったら言ってよ。 作るから……ね?」

男「むぅ……すぐ頼むかもだぜ?」

幼「いつでもどうぞ、ふふふ」

男「ふぃーー……それにしても風が気持ちいいな……」
ゴロン

幼「そだねー……」

男「……」

幼「……」

男「…………」

幼「…………」

男「……あのさ」

幼「……んー?」

男「幼も眠いんじゃないか?」

幼「えへへ、バレたかー」

男「ははは、休みの日はいっつも遅くまで寝てるもんな」

幼「4時に起きるなんて、初めてかも、ふふ」

男「幼もさ」

幼「ん?」

男「横になれば?」

幼「え?いやいや! 荷物の事もあるし大丈夫! 私、起きてるから」

男「この海岸に今の時期、俺達以外誰も来ないだろ」

男「横になるのは気持ちいいぜー?」

幼「……そうしちゃおっかな」

男「おう、そうしろそうしろー」

幼「やーー!」
ゴロン

幼「ふー……」

男「…………」

幼「…………」

男「楽だろ?」

幼「うんー、春の風がすっごく心地よくて……私も寝ちゃいそうだよ」

男「寝てもいいんじゃないか?」

幼「でも……」

男「ひねもす のたり、だろ?」

幼「……そうだね」

男「のんびりしようぜ」

幼「寝ちゃったらごめんね?」

男「気にしねーよ」

幼「ふふふ」

男「ん?」

幼「今年は何回、こうやってこの海岸で、男の隣で寝っ転がれるのかなーって」

男「何回って……夏休みになれば、晴れたら毎日だろ」

幼「……うん、そうしたいな」

幼「でも受験生にそんな余裕はあるのかな?」

幼「今でも頑張りすぎなのに」

男「あー……まぁそうだな。夏休みは追い込み時期か……」

幼「大丈夫! 勉強の邪魔は致しません!」

幼「私が男の勉強を邪魔するのは今日が最初で最後!」

男「……でもまぁ、毎日勉強ばかりじゃ疲れちまうさ」

幼「そうだねー。ほんとそうだよ」

男「……たまにはさ」

幼「だ、たまにはこうやって、男を引っ張ってきても良い?」

男「おう、出不精な俺を引っ張ってくれよ」

幼「わかった、えへへへー」

男「……このタープも随分くたびれてきたよなぁ」

幼「そだね。 おじさんから貰って、もう10年くらいだっけ?」

男「んー……今年の夏で丁度10年……だな」

幼「毎年私たちを強い日差しから守ってくれてるよね」

男「だな。 あ、おっちゃんとこ行ってサイダーでも買うか?」

幼「それはまぁ……後で」

男「売上に貢献する事が恩返しと思ってるぜ」

幼「おじさんは気にしてないと思うけど、後で……行こう」

男「俺が担げるようになったら、すぐくれたからなー」

幼「男、力持ちだよね。 私いまだに担げないし」

男「そこはほら、体格差だろ。 俺育ったしなー」

幼「腕力もほら、リンゴをぐしゃー的な?」

男「そこまで力強くはねーよ」

幼「そう? でもまぁ大きくなったよね」

男「小6まではチビだったのになー」

幼「あの頃は私の方が背、高かったもんね」

男「身長と言えばさ」




幼「ふふ、あの時は笑ったよねー」

男「なー。 アレが無かったら」

男「って、あれ? なんで卓球の話になったっけか?」

幼「タープの話からだよ」

男「……今何時くらいだろ」

幼「11時くらいかな?」
ゴソゴソ

幼「……えーっと、正解はー」

男「実は1時位とか?」

幼「2時でしたー! って、思いのほか時間が過ぎている!」

男「まじで? もう2時? そんな話してたっけか」

幼「ふふ、楽しい時間はあっという間って言うじゃないですか?」

男「あー、そうだなー」

幼「春だからじゃない?」

男「ん? 春?」

幼「ふわふわ陽気で会話もふわふわ」

男「春関係あるか?」

幼「なんかこう、ふわふわした感じの……春っぽさ」

男「はは、どんだけふわふわなんだよ、春」

幼「私はこのふわふわした感じの会話、嫌いじゃないよ?」

男「言うまでもないが、俺もだ。 幼と話してるとなんかそうなっちまうな」

幼「えへへ、それは何より」

男「しかし、アレだな」

幼「ん?」

男「4月だけど、日が高くなると暑いな」

幼「そうだねー、今日はかなり日差しが強いね」

男「気温何度だこれ」

幼「そんな男にー、本日とっておきのおもてなしがございます」

男「ん、冷たい麦茶とか?」

幼「ちょっとだけ、海に足つけようよ」

男「んー、いやー……でも海に入る格好では……」

幼「ちょっと足つけるだけ」

男「なるほど、だから着替えないでいいって急かしたのか」

幼「そう! 今日はきっと暑くなるって思ってたし!」

男「んじゃちょっとだけ行ってみるか」

幼「うん!」ニヤリ



チャプチャプ

幼「ひゃー! 久々の海だー!」

男「確かに去年の9月ぶりだな……泳ぐにはまだ少し早いけど」

幼「そう? えいっ!」
バシャッ

男「うわっ! 足つけるだけじゃなかったのかよ!」

幼「いいじゃん、なーんか青春ぽくて」
バシャッ

男「ちょっ……」

幼「ほらほら、男も反撃しないと! あはは」
バシャバシャ

男「おいおい……俺はともかく、幼は……」

幼「なーに?」

男「Tシャツ」

幼「だから?」

男「透けるっつーの……」ボソッ

幼「今の聞こえたよー? 透ける? 何がかなー?」ニヤリ

男「ぐっ……」

幼「私は男になら見られても平気だよー!」
バシャバシャ

男「俺が平気じゃねーっつの!」

幼「へぇー……どう平気じゃなくなるのかなっ?」
バシャッ

男「そんな事言えるかよ!」

幼「これじゃ男が一方的に水を浴びるだけで、私はちっとも涼しくないよ!」

男「だから、無理だって……」

幼「仕方ないなぁ……それじゃ!」
バシャバシャッ

幼「んー! 冷たくて気持ちいい!」

男「!?」

幼「良い感じに冷たくて気持ちいいね?」

男(下着、黒だ……見える……)

幼「ほら、私もう濡れちゃったし、男も反撃をほらほら!」
バシャ

男「あーもう好きにしろ! 俺は何も見ないぞ!」
グッ

幼「目をつぶったら何も見えないよ?」

男「見ねー!」

幼「本当に?」

男「幼が諦めるまで、目を開かない!」

幼「……言ったね?」

男「言った! 絶対開かないぞ!」

幼「どりゃーー!!」
ガシッ
ばっしゃーん!!

男「ぶはっ! 何すんだ、こんにゃろ!」
ザバッ

幼「油断大敵だよね!」

男「お前なぁ……まぁ浅いから溺れないけど、危ないだろ……」

幼「…………」

男「…………」

幼「…………ね」

男「ん?」

幼「いい?」

男「ん」



ちゅっ

男「!?」

幼「えへへ、しょっぱいね」

男「ちょっと待て……今のってあの……」

幼「あれ? 今の『ん』は、オッケーの意味じゃなかった?」

男「いや、俺もそういう気持ちだったから嬉しいけど!」

幼「ヘタレな男が何もしてくれないから、実力行使に出ましたー」

男「お、幼の大切なファーストキスが!」

幼「あはは、自分の事じゃなくて私の事なんだ」

男「俺で……俺なんかで良かったのかよ?」

幼「もう! 鈍いにも程があるよね!」

幼「私は男が……男じゃないとイヤなの!」

幼「男はその……イヤだった? 私にキスされて」

男「イ、イヤじゃない!」

幼「ほっ……良かったー」

男「けど……今のは……って言うかあの……さ」

幼「もー、せっかく良い雰囲気なのに、何?」

男「あー、いやー、そのー……透けてるんだけど」

幼「えへへ、Tシャツの下は水着だよ?」

男「は?」

幼「去年買った黒のビキニ」
バサッバサッ
ポイッ

幼「ジャーン! どう? ビビった?」

男「……まいった」

幼「じゃあ、泳ぐ?」

男「いやいや、泳がねーよ?」

幼「せっかく着て来たのに」

男「俺は水着じゃねーんだよ! 泳げるかっ!」

幼「こんな事もあろうかと」

男「ん?」

幼「男の部屋のタンスから、水着を引っ張り出して、鞄に入れてあるんでしたー」

男「いつの間に!?」

幼「今朝、男がまだ寝てた時、こっそりと」

男「……今日は泳ぐんだな?」

幼「この目を見て判断をー」
じーーーっ

男「……あんまり長い時間はダメだぞ?」

幼「イェーイ! おじさんとこで着替えて来なよ」

男「そうする」

幼「……待ってるから」


男「……ちょっと待ってろ」
ザブザブザブ

幼「なるべく早くねー」



男「こんちは。ちょっと更衣室借ります」

駄菓子屋兼海の家の店長ことおじさん「見てたぜ、おい」

男「のぞきですか? 悪趣味っすね」
ガチャッ
バタン

おじさん「今日は……いーぃ天気だからなぁー」

男「そうっすね」
ゴソゴソ

おじさん「夏日だな、夏日。 だからお前ら来るんじゃねえかと思ってな」

男「エスパーですか」

おじさん「おう、男よぉ」

男「はい?」

おじさん「俺の姪っ子を泣かすなよ?」

男「どうでしょう」

おじさん「おい、そこはちゃんと約束しろよ」

おじさん「あんな良い娘、中々いねーぞ?」

男「それはわかってます、はい」

おじさん「なら」

男「俺、実は今から彼女に告白するんですよ」

おじさん「は? お前らまだ付き合ってなかったの?」

男「はい」

おじさん「でもさっきちゅーしてただろ?」

男「あれはまぁ、いつもの流れ的なやつで」

おじさん「流れでちゅーとかするか!?」

男「普通、しないですね」
ガチャッ
バタン

おじさん「若さか?」

男「どうですかね。 年は関係無いような気もしますけど」

男「実は今の俺、やる気に満ち溢れてるんですよ」

おじさん「全然そう見えねーな」

男「じゃあ、いっちょ……行動で示してみます」

おじさん「おう、やれるもんならやってみな」

男「正式に付き合って下さいって言います、行ってきます」

おじさん「おう、行ってこいよ」

男「返事がイエスなら、ずっと彼女の傍で、彼女の笑顔を守る努力をしますよ」

おじさん「……くせえ事言う様になったな、お前」

男「そういう気分なんですよ、今日の俺」

おじさん「そか、んじゃ行ってこい」

男「あとでサイダー買いに来ますんで」

おじさん「おう」

男「いつも通り、2人で」

おじさん「おうよ」

幼「ーーーーーーー! -----!」
ブンブン

おじさん「おら、呼んでるぜ?」

男「……それじゃ!」
スウゥゥゥゥゥッ……

男「幼ーーーーーーーーーーーっ! 俺はーっ! お前の事がーーーーーーーっ!!」
ダダダダダ



おじさん「叫びながらダッシュで告白とか……青春かよ!」

おじさん「出来るだけ無様に転べーーーーっ! ケガしない程度にっ! はーーっ!」



おわり

これで終わりです
誰か読んでくれると嬉しいです

次スレは
男「いただきまーす」アー サボテン「ちょっと待った!」
で、立てるはずです

では

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