クラリス「星の銀貨」 (161)




≪――アイドルに、なりませんか……≫
≪――笑わないでくださいましね。その……私の歌で世界に笑顔と幸いを増やしたいのです≫


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今日のお話を、始めましょう。

今日のお話は、『星の銀貨』。



むかし、むかし、小さい女の子がありました。
この子には、おとうさんもおかあさんもありませんでした。
たいへんびんぼうでしたから、しまいには、もう住むへやはないし、もうねるにも寝床がないようになって、とうとうおしまいには、からだにつけたもののほかは、手にもったパンひとかけきりで、それもなさけぶかい人がめぐんでくれたものでした。




でも、この子は、心のすなおな、信心のあつい子でありました。
それでも、こんなにして世の中からまるで見すてられてしまっているので、この子は、やさしい神さまのお力にだけすがって、ひとりぼっち、野原の上をあるいて行きました。
すると、そこへ、びんぼうらしい男が出て来て、





「ねえ、なにかたべるものをおくれ。おなかがすいてたまらないよ」

と、いいました。

 女の子は、もっていたパンひとかけのこらず、その男にやってしまいました。
そして、

「どうぞ神さまのおめぐみのありますように」

と、いのってやって、またあるきだしました。すると、こんどは、こどもがひとり泣きながらやって来て、

「あたい、あたまがさむくて、こおりそうなの。なにかかぶるものちょうだい」

と、いいました。

 そこで、女の子は、かぶっていた頭巾をぬいで、子どもにやりました。





それから、女の子がまたすこし行くと、こんど出て来たこどもは、着物一枚着ずにふるえていました。
そこで、じぶんの上着をぬいで着せてやりました。

それからまたすこし行くと、こんど出てきたこどもは、スカートがほしいというので、女の子はそれもぬいで、やりました。
そのうち、女の子はある森にたどり着きました。もうくらくなっていましたが、また、もうひとりこどもが出て来て、肌着をねだりました。




あくまで心のすなおな女の子は、

(もうまっくらになっているからだれにもみられやしないでしょう。肌着もぬいであげることにしましょう)

と、おもって、とうとう肌着までぬいで、やってしまいました。




さて、それまでしてやって、きれいさっぱりなくなってしまったとき、たちまち、たかい空の上から、お星さまがばらばらおちて来ました。
それは、ちかちかと白銀色をした、ターレル(ターラー:後のドルの元型)銀貨でありました。




そのうえ、ついいましがた、肌着をぬいでやってしまったばかりなのに、女の子は、いつのまにか新しい肌着をきていて、しかもそれは、この上なくしなやかな麻(リンネル)の肌着でありました。



女の子は、銀貨をひろいあつめて、それで一しょう豊かに暮らしたということです。


…………………………………………




汽笛の音がかすかに遠くから漏れ聞こえる。

煙のたなびく様を映す電飾の揺らめきが、闇を照らしている。
数段高く誂えられた簡素なステージに、一人の女性が立っている。




――クラリス。

薄目の女性はマイクを持つ。広がり続ける内心の純白さは、何時頃からか、自身で制御できるようになりつつあった。
心根の変わらぬままに。




<個人の財貨など望みませんわ。宝は天に積み、地には愛を。それでいいのです>



そう信じて、そう実行して、そして立っている。
その思いは変わることなく、胸の内にあり続けている。




――ここは一日限定クルーズディナーショーのステージ。


彼女は名実ともに、トップアイドルの座を頂いて数年が経った。
このお仕事も数十をこなしてきて堂にいってきたものだ。





2・3度は目も眩んだ暗幕とスポットライトの照り付けにも臆することがなくなった。
やりがいのある仕事であり、最大限の歌唱を送り続けている自負も芽生え始めた。


10年のアイドル経験を経て、最近は表情にも深みが増してきたという。

教会の仕事も怠らず。





「――いかがでしたか、皆さま!楽しんでいただけましたでしょうか!?」



白銀のドレスを纏い、白レースグローブで染めた手を差し出しながら、満面の笑みを送る。


パチパチパチ。
会場を隈なく包んでいた聖母の囁きが……控えめで、そして強い拍手へと座を移す。


パチパチ。
僅かの間をおいて、少しずつ少しずつ音が止んでいく。


パチ。
最後の一掌が閉じると、スポットライトも光量を落とす。


一段ずつ階段を降りる姿にドレスの裾を棚引かせつつ。

……



控室にて。



「クラリスさん?よろしいですか」


控えめな声音に、雑誌をなんともなく捲っていた女性は顔を上げる。
畳んだ表紙には、今も輝く同僚のアイドルの笑顔。


「はい」


きぃ、と開いたドアから軽やかに入ってくる一人。




「お疲れ様です。クラリスさん」
「お疲れ様です。プロデューサー様」


短く挨拶を交わす、男女。

手慣れた様子は共に過ごした日数を伺わせる。


「本日も素晴らしいステージでした。クラリスさんの優しい心が染み渡るようで――」
「うふふ。嬉しいですわ。見守っていただけている事も、ファンの皆様の近くでいられることも」


クラリスの朗らかな笑顔に、男も一息。

挨拶周りをしていたのだろう、勢いが止まっていない。

静かに苦笑する彼女は、席を立つ。
パイプ椅子を引き寄せた男は、デジタルで決済する書類を纏めている。




「紅茶ですわ」


そっと差し出された湯気に鼻をくすぐられながら、男は短く礼を言う。

向かいに静かに着席する彼女も、手元でカップを包む。

程なくして、男もひと段落ついたのか、仕舞い込んで残った紅茶を飲む。

クラリスは、その動きに気づいたようで、雑誌を閉じる。




「その雑誌……珍しいですね、こういう場所にある事は」
「うふふ。こちらは私物ですわ。私の勤めている教会もこちらに参加しておりますので」
「ああ、そうでしたね。トップアイドルとしてのお仕事だけではなく、日々のボランティアにも献身されている姿勢を見習わねばと思っております」
「長く続けておりますので」



男は薄い雑誌に目を通す。

雑誌の表紙依頼を悉く断ってきたという――世界の名だたる著名人達ですら、この雑誌の理念から進んでグラビアになるほどの有名雑誌だ。

世界に確固たる理念を通すこの雑誌に、アイドルが掲載されるということは、紛れもなくトップアイドルであるということを表す。



これが、トップアイドル。
特定の人間に限らず注目される存在だ。



「クラリスさんは国外での撮影でしたね。あれは3年前でしたか」

「はい。当時はトップアイドルとして注目を受け始めた所でしたが、中々に驚愕したものです。自分も幾らか関わりのある所からではなく、国外であることもですわ」
「クラリスさんが強く望まれたことを覚えております」
「そうでしたわね」

コロコロと綻ぶ笑顔に――ふと違和感が紛れた。



「……どうかなさいましたか?」
「いいえ?どうもいたしませんけれども――」
「そうですか……」

男がやんわりと口を閉じる。
クラリスは慈母の笑みで応える。

「私を信じてくださいませ」
「勿論です」

首を傾げ、眉を寄せる女性の面影に迷いを看取りつつも、男は即答する。

クラリスは笑顔のまま、そっとカップを口に運ぶ。
惑う思いを飲み込んで。



――あなたなら、そう言って頂けると知っておりますけれど……それでも。

飲み込めない言葉が、胸を締め付けている。

何かあったわけではない。
嘘はない。


ただ――言葉に出来ない。


迷いを形にしたくない、だから伝えられない思いをせめて歌に乗せて。
貫くには、自分は成長し過ぎて、目端が利く様になってしまったから。

それでも。




……私はアイドルであり、クラリスという存在である。それを表現するために――。





<この胸に抱く想いを伝えるため、次の私へと成長していきます。見守っていてくださいませ>



.今をときめくアイドルが、トレーナーの指示で一糸乱れずに動く。

手を広げて花開く様に。

中央から端まで歩いて煽る姿を。
元気いっぱいといった姿で飛び回る脚と髪。




「今日はここまで!疲労を残さぬように!」
「ありがとうございます!」



緑のジャージを着たトレーナーの檄に力強い返事。

自負が漲っている。

そうして彼女は、一足先に退出する。
電子書類用のタブレットがあるところを見ると、誰かとの会議だろうか。

……




着替えて、お茶会。

ラウンジで集まるのがレッスン後の日課である。
クラリスも普段は参加しているが、今回は仕事が押しているために欠席。


思い思いの品が並んだところで。



「……クラリスさん。どう思われました?」
口火を切る。
ケーキを切り分けていた三つ編みの女性は。


「集中力。いえ――普段通りのレッスンが出来ていない……そう見受けられましたわ」
という。

卓を囲む者が口々に語りだす。

「そうですよね。いつもの気迫が僅かに緩んでいました。4時間ぐらいのレッスンで披露するわけがありません」
「ええ。考え事があるみたいですわね」
「難しい役でも入ったのでしょうか」
「クラリスさんが苦手な役と言えば――ドキドキの場面があるところですわね」


ケーキをザクザク切り分けながら、頬を染めて呟く。




「ということは、殿方が関係している何か、ということも考えられますわね」

紅茶をスプーンでグルグル回しながら、黙考する。






――すると、


「……プロデューサー様が関わりあるかもしれませんわ」

ぽつりと、器の広さが感じられる声音で、一人が呟いた。



「それは……」



皆が言葉を繋げられぬというように口を閉じる。





それは、プロデューサーと強く信頼関係を結び、この場所まで上がってきたからこそ感じる想い。

それぞれが、それぞれの脳裏に、それぞれ思い当たる節を映す。





――それは、10年が経った、過去そのもの。




経験を通した……現状の計算だ。




自分は何が出来るのか。相手は何が出来るのか。称賛を浴び続けてきて、勝算を弾きだすようになる。

挑戦する時にバックアップを用意してしまう。
全力で脇目もふらず飛び込むことを行わなくなった。



それはプロデューサーとの関係も同じ。
関係は強く積み上がってきていて、問い直す必要が出てきた。





無意識に感じ始めた――時間を積み上げてきたからこそ生まれる、アイドルという仕事への再計算。



芸の道を行くための自分を、問い直すことは慣れた。それを超えていけるという自信も。

どうしてアイドルになろうと思ったのかという原点を強く心に秘めている。





そして――人との関係が築かれるほど、脆く崩れる不安を持つことも知った。



修正できないことも、ある。
令嬢として関わっているからこその、共通の見解もある。






何より。

何より苦痛なのは、関係が修復できるとわかっていても、そのためにかかる時間と労力を計算してしまう事――――。






信頼や誠意、真心、努力、情熱。




それを計量化するということは、金があれば信頼など必要ない――という意味になりかねない。


無意識化においても、令嬢としての働きでも、アイドルであっても、その意識そのものに問題はない。





だが、金銭の多寡で測れるものではない――――ないはず、だった、ファンと作り上げるステージと仲間との絆。
プロデューサーと積み上げ――過ぎ去った時間。

金銭そのものはいい。だが、計量化して数字として編纂してしまうと意味が変わる。




アイドルとして直面したくはなかった、人生で初めての問題が横たわっている。
そして屈託なく尋ねるには、もう時間をかけすぎた。

……



一人が物憂げに呟く。

「クラリスさんも、そういう時期なのでしょうか」

「でしたら、私たちが何か言うべきではありませんわね。まだ……自分の事で手一杯ですもの」

「難しい、ものです」




それぞれが思い悩む問題。
それこそが、かつて自分たちのプロデューサーも味わった失敗




――情熱に溢れ過ぎて空回りする姿そのものだった。






その時、丸テーブルを囲んでいる彼女たちに近づいてくる人影がある。
黒装束と革靴。
書類を傍らに。


……珍しい。
全員の顔に浮かぶ、不思議。



「失礼します。少々お時間よろしいでしょうか」




――かつて同じ経験をした男が、緊張した面持ちで訪ねてきた。





<好きだった歌を、より多くの、より遠くの方々にも届けられる。……私、本当に幸せですわ>


2人は、真新しいソファーに座り、真新しいボードを臨む。

さらさらと文字を書くスーツ姿の男も、落ち着きを持つには至らない。
真剣な面持ちの彼女も又、普段の余裕を削られていた。





「――クラリスさん。初ステージが決まりました」


黒髪の男は、丸めた冊子を左手に下げながら、平坦に言う。
金髪の女性は、細目を薄く見開きながらも、自然体。

今日は勤めから直行したということで、シスター姿の清楚な佇まいだ。


「初、ステージ……」


白梅の純真さを思わせる唇から漏れ出した一言に、彼女の内心が籠められている。




――動揺と覚悟。


彼自身、5・6歳の違いはあれど新人の域を超えていないプロデューサーでしかない。
成人した女性の心内までは悟れるものではない。

大丈夫であると、心の底から伝えられる程でもない。

空元気でも伝えるべきであるかもしれないが、シスターであり、自分を信じてくれている存在に対して、不用意ではいたくない。

複雑な内心を抱えたまま、それでも男はコミュニケーションを怠る気はない。




「クラリスさん。体調は大丈夫ですか?」
「ええ、勿論ですが――」


困惑の表情を浮かべながら、頬に手を添える彼女に、伝えられる言葉。
しっかりとした一言を伝えたい。
もどかしい自分を叱りつけたくとも、的確な一言が出てこない。


「では、スケジュールを説明いたします」


そうして話を流してしまう。


「はい」


彼女も応じる。

言葉が出ないなら、せめて真摯に伝わるようにと念じながら。



……

スピーカー音が木霊する。


「リハーサル終わりです!クラリスさんありがとうございました!」


響く音響に押されて、細目の女性は深々と。

折々の張り紙で飾られた通路を、足早に行く。
無言で歩き続けて、控室のパイプ椅子に常にはない落ち着きの無さで腰を下ろす。


がたがたと鳴るパイプ椅子の音が静かな部屋に広がる。


びくっ、と音に反応する。


神経が過敏になっている自分を抑えられない。




「ふぅ……」

震える手を眺めてみても、自分の揺らぐ心に疑問が残る。

と、同時に、自分の状況に合点が生まれる。
これが先輩アイドルの方々から見聞きしていた現象。




――これが武者震い、というものですか……。




緊張が手元を惑わせる。
自分がこれほどプレッシャーに弱いとは考えていなかった。

リハーサルはレッスン通りの調子で成功した。
体調も万全。プロデューサーのサポートも合間には的確に入るので息が詰まる事も無い。


なのに――


……これも試練ですわね。

ポットから熱い紅茶を注いで含もうとも、心は落ち着かなかった。

……



ドアを甲で鳴らしながら、

「クラリスさん、そろそろ時間です。スタンバイお願いします」

という男。
書類を脇に抱えながら、背筋は正す。
腕時計のアナログ盤が少しずつずれていく。

…………?

返答の無さを訝しむと、もう一度声をかけてから入る。




「クラリスさん、いらっしゃいますか?……どうされ、ました?」
「あら、プロデューサー様。お呼びでしたか?」






そこには――――外の窓ガラスから注ぐ陽の光を一身に浴びる聖女の姿があった。




息を呑むスーツ姿の男に、喉に手を当てていた彼女は振り返る。




「申し訳ございません。お待たせしてしまいましたか」
「……ああ、いえ、その」


しどろもどろの彼は、カップの紅茶を干す彼女に見惚れていた。


「ふぅ……さて、参りましょうか」


呼吸を落ち着けたらしい彼女は、かわいらしいステージ衣装に華やいでいる。
意識が完全に動作一つ一つに囚われていた彼は、だからこそ黒い糸が一筋、その笑顔を遮っていることに気づいた。

その姿に。

つい、飾ることなく口をついて出る。




「クラリスさん。……悩みがありましたら、相談に乗ります。遠慮なくおっしゃってください」


心の赴くままに言う言葉は、自分でも驚くほど穏やかで、何度も伝えてきたはずのどの言葉よりも強かった。

目を見開いたクラリスも目線を合わせた直後だったことで、口を滑らせてしまう。


「――ステージというものに、気後れしておりまして……」


その言葉に、プロデューサーとして、伝えたい言葉が溢れ出る。




クラリスという存在は、慈愛に満ちている少女でもあり、居場所を失いかねない悲劇を乗り越えんとする者でもある。

弱音はあれど強さは衰えない。
壁を越えられる筈だと言う彼女に、自分が言えること。



そう。
それは、一つ。




――クラリスさんはクラリスさんのままで、ステージに上がってください。


……

どくん。

その一言が。
迷いの糸を断ち切った。



どくん。
そう、私は、誰かに。



「クラリスさん。笑顔を忘れないでください。幸せが逃げてしまいますから」

どくん。
誰かに。



どくん。
自分が信仰から、遠くなってはいないということを。

どくん。
自分の信じる場所から、外れてきてはいないということを。





「――ふふっ。勿論ですわ。ここまで辿り着けたのも、主のお導きとあなたのおかげですもの。ファンの方と共に先をしっかりと目指します」

どくん。


――自分であることを確かめたかったのだ。




自分の信じることに背を押してもらいたくて。
不安がよぎったのは、背に守るべき子供たちがいないから。

頼れる同僚がいないから。


自分の立ち位置が不安になったのだ。




もしや、己は道を外れてしまったのではないか、と。
アイドルとしての通過儀礼を浴びることで、自分が変わってしまうのではないのか、と――




大丈夫だった。
今更ながら、実感が湧いてくる。


これから、自分は、シスターであり、守るべきものがあり、居場所を守るものでもあり――アイドルに、なるのだ、と。



血潮が胸を焼く。

朗らかな笑みで返すクラリスに首を傾げるが、リハーサル中の余裕の無さは伺えないことにほっとする。
そして、慌てて手首を返して用件を伝える。

「クラリスさん。出番です!急いでください」



ふふ、と残滓を残しながらも、地に足の着いた歩みを取り戻す。

「行って参ります」


一言告げた彼女は、光り輝くステージに、一歩踏み出した――。



<教会も、主も、遠くなってはいませんわ。常に私と共にあります……もちろん、ステージの上でも>



ある日。

レッスン帰りのクラリスは、事務所を訪れていた。
教会での勤めもなく、ボランティアの日でもないため、時間が空く。




ネイビーのスーツに銀の細身の腕時計以外は目立った服装ではない――細身の男性と。
すっかり大人びた容姿と、確か……168㎝にまで成長した身長の、どことなく自信なさげな表情でありながらもいくつもの問題を解決してきた、経験を滲ませる女性。


二人は、10年を経た古びた木製のテーブルと竹で編まれた椅子に、向かい合って座っている。



かつてから変わることなく仲が良く、何かあれば机の下に入る癖こそ抜けないまでも、いつしか夢を追うということに、真剣になった彼女。

男性は、そんな彼女を親身になって支援している。
なんでも衒学趣味があったようで、引き結んだ表情を崩すことなく詳細に語る姿には、見慣れた今でも苦笑を呼ぶ。



彼は――私と彼女のプロデューサー様。


彼女は、森久保乃々。14歳の小動物めいた少女は、絵本作家になるという夢と消極的ながらもアイドルという道を両立する――24歳の素敵な女性へと華開いていた。


今日も最近の日常である、講義が行われている。

机に散るいくつかの絵本と研究書に触れながら、男性は言う。




絵本の少女には、銀の星が舞い降りている。


「――星の銀貨はグリム童話に記載されている物語です。グリム童話は7回改訂版が出版されましたが、いずれもほぼ変更点がない。原案段階での記述は――

 夕食のパンもなく、両親もなく、頭巾もなく、欠点もないが、星がきらめくごとに、下できれいな銀貨を見つけた云々、という貧しい少女の童話――

という形だったそうです。それが初版で発売されると、星から銀貨が降る話になったんです」

「え……じゃあ……タイトルなんかも、元は違ったりしたんですか……?」
「はい。原案では、<哀れな少女>とか<可哀そうな少女>と名付けられていたそうですよ。それが<星の銀貨>に変わったんです」

「でも……それって……不思議じゃないですか……?銀貨を手に入れたんですし……」
「そうですね。実際にグリム童話では内容は変更されないでタイトルだけ変更する場合は、ほとんどありません。ですが、グリム兄弟はこの物語を重要だと考えていたようで、グリム童話選集として50話を厳選した時も必ず採用していたほどです。類話もありません。比較するための民話はありますが」



森の少女は、手元のルーズリーフを鉛筆でトントン叩きながら、悩まし気に。

「なら……シンボル学とか民話学としてはどう見ていけばいいんですか……?」
「ではまず、おさらいから始めます。――グリム童話はどういう構造ですか?」

「ええっと、1から200話までで物語への導入と現実への回帰を対照的になるように作っていて……一話毎にも出来る限りマイナスの部分とプラスの部分を対照的になるよう言葉を配置していて……二つに分かれたものが一つになる時が、ハッピーエンドの時です。例は『二人兄弟』とか『ヘンゼルとグレーテル』……」

「ありがとうございます。きちんと復習していますね。では――類話から説明しましょう」

近くにあったホワイトボードに移動したプロデューサーは、すらすらとデフォルメされた模造図を描く。







「まず、ドイツの民間伝承には、星から零れ落ちる蝋燭は、黄金と銀で出来ているから、吉兆の証であるというものがあります。銀貨が落ちてきて幸せになることと、流れ星は金と銀の蝋燭で出来ているという話が、関連があるとされています」
「……黄金はでないと思うんですけど……」

「学問的には、解決されていないようです。私も本当に類話なのかと思います」
「ええ……」

「もう一つは、『しあわせな王子』です。これも誰かのために自分の物を譲り渡していくお話。これはグリム童話ではないですが。
しかし、類話の体系としては、他に似た類話は存在しておらず……『しあわせな王子』が本当に類話かどうかは、なんとも言えないですね。
AT分類――学術的な分類表にはグリム童話の「麦の穂」や「わがままな子供」が類話となっていますが、話の作りは違います。二点とも、罰を受けるお話ですが、「星の銀貨」は言ってしまえば報酬を得るお話です。「神聖から与えられる報酬と罰」という概念はさほど珍しくないですが、あまり関係しているとは思えません。
――他にはドイツの民謡ですが、「ターラー銀貨もってるだあれ」というものがあるようです。ビスケットを分け合うための銀貨を持っている存在を探す、という……。グリム童話で書かれる銀貨はターラー銀貨……アメリカでいうドルの元型ですし――」
「本当に……類話がないんですね……」

「グリム童話にはそういう例が少なからずあるそうです。
――次はシンボルですね。『星』『銀貨』『リネン』『パン』『聖人』といった所かな。ここらへんは、クラリスさんを交えて話しましょう」

「あれ?」
ルーズリーフから目線を切った森久保乃々が、辺りを見渡す。




入るタイミングが出来たと判断して、クラリスも入室する。
目をしばたたかせた彼女は、ぎこちなくも優しい声音で挨拶する。


「お、おはようございます、クラリスさん……」
「おはようございます、乃々さん。童話研究は捗っておりますか?」

「は、はい……。あの……クラリスさんも、一緒に……」
「まあ、ありがとうございます♪――でしたらコーヒーなど用意してきますわ。乃々さんはミルク多めでしたね」
「あ、ありがとうございます……お願いします……」
「プロデューサー様は……紅茶にしますか?」

「お手間でしょうし、私もコーヒーで」
「わかりましたわ。うふふ♪」

隣の給湯室に、10年前に学んだメイドの仕草を伺わせながら、金の髪を棚引かせた女性が赴く。

その後ろ姿を眺めながら、緑の髪の少女は、そっと溜息を。


「うう……太陽みたいに眩しくて、目が焼かれます……。森久保はお月さまに隠れていたいです……」




「聖書について、でしたね。どういったお話を参考にされますか?」

湯気の立つカップを両の手で包みながら、クラリスは問う。
コーヒーとシナモンの効いたドーナツは、お茶会というには雅に欠けるが、あくまで仕事の一環でもある。




「リネンは、確か聖人の遺体を包む際に使用される、一般的な素材でしたね」


プロデューサーが水を向けると、クラリスは頷いて引き取る。


「聖書学ではリンネル服は『司祭』様を指します。『創世記』でも衣服として使用されております。シンボル学……でしたか。そちらではどうなのですか?」
「『農夫のかしこい娘』では王を包む素材として使用されています。アンデルセン童話では『おやゆび姫』で『通貨』として使用されています。この『通貨』もしくは『対価』というのはリネンが古代から貿易業の品目として名高いものである所から来ていますので、普遍的な概念と見ていいでしょう。他は『清浄』や『運命』もあります」
「森久保的には、お洋服の素材とか森ガールの雑誌のお名前って感じがします……」
「乃々さんの御召し物もリネンですわね。素敵ですわ」
「あ、ありがとうございます……」

「――もしかしたら、星の銀貨の少女が服を譲ったのは物々交換を受けられる目途があったからかもしれませんね。『銀貨』は言うまでもなく『通貨』や『対価』ですし」

「……あ、あら申し訳ありません。脱線してしまって」
「あう……」

「では、クラリスさん。『銀貨』について聖書で出てくるのはどういった場面でしたか?」


「――ええ。銀貨はいろいろな場面で出てくる重要なシンボルです。


『一枚の銀と一個のパンを乞い求めて、祭祀の職に就きたがる者が増えるだろう』
という、堕落した司祭様を咎めて信仰を順守することを示すための記述や、
旧約の『創世記』、<アブラハムの土地買い>というエピソードでは
妻を弔うために銀貨で土地を買おうとするのを、所有者が好意で譲ろうとするのを父から授かった銀貨で支払うというものもございます。
他にも、同じ『創世記』でヨセフが穀物を支払う代わりに、銀貨を支払うよう伝えるエピソードも存在しています」


「じゃあ……概ね、銀貨は対価として使われているんですね……」

「――『通貨や対価』という意味で見ると、『一かけらのパン』は人に渡すモノという意味のシンボルです」

…………




コーヒーの香りが、ふわふわと辺りを流れる。
細めの女性は、頬に手を送りながら、眉根を寄せて呟く。


「……でしたら、こちらの少女の持ち物は分け与えるためにしかない、ということですか」

心優しい巻き髪の女性は、どことなく俯きながら、繋ぐ。

「実際に……行きずりの人に譲り渡していますし……」




変哲の無いビジネスシューズを履く男性は、足元を崩すことなく、続ける。

「そして『野原』や『森』は山中異界という……日常の空間ではない神秘的な、不吉な場所として扱われています」

「森は恵みと災厄を齎す場所ではありますものね……」
「残酷なシーンを映す必要なんて……ないのに……」

「そういえば、どうしてこの方は森へ赴いているのでしょうか」
「神様を頼って移動しているみたいですけど……」


「――グリム童話の中には『マリアの子供』というエピソードがあります。


この童話は、貧乏な木こりから子供を預かった聖母マリアが、子供にタブーを申し付けて、子供はタブーを犯しただけでなく、嘘をついたために、地上に送られた話です。そして森で声を封じられて泣いている彼女は王の后となり、子を設けました。ですが、マリアは嘘をついたことを認めない彼女の子を持ち去ります。そして罪を問われて死ぬ間際の彼女は、嘘をついたことを認めて、許されます。マリアは一言。罪を悔いあらため認める者は許される、と言います。


森に子供を主にまつわる方が落す――というのは、そう珍しいことではありません。
言い換えれば、天上の存在と関わる場所としては、教会と並んで不自然ではない場所ですね。その形式に沿っていると考えるべきかもしれません」

「成程……」
「じゃあ……この子は、神様にお会いすることが、結局できなかったんですね……。身寄りのない子が神様に縋って頑張って歩いたのに……」

「そして星から銀貨が降ってきた、ですか」
「天から落ちるサタン、にも通じますね」

「今回のお話……何だかややこしいシンボルが多いですね……」




口元に指を添えた金の女性は。


「ファリサイ派の司祭様の記述も参考になるかもしれませんね。

――『神様、わたしはほかの人たちのように、奪い取る者、不正な者、姦通を犯す者でなく、また、この徴税人のような者でもないことを感謝します。わたしは週に二度断食し、全収入の十分の一を献げています』
ところが、徴税人は遠くに立って、目を天に上げようともせず、胸を打ちながら言った。
『神様、罪人のわたしを憐れんでください』
義とされて家に帰ったのは、この人であって、あのファリサイ派の人ではない。
だれでも高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる――

という逸話ですが、常に謙虚でいる様にという意味でお伝えしております――」


と、涼やかな声音で言う。



コーヒーを一口含んだ男は、時計をちらりと見る。

「今回は、これがどういう意味があうだろうか、と考える程度にしましょう」
「あら、もうそんな時間でしたか」
「森久保も、やることあります……」

おどおどとした仕草の抜けぬ彼女と揃って席を立つ、仲のいい二人に苦笑しつつ、男は書類の作成に移った。




巻き髪の女性はブースで、手渡された絵本と向き合っていた。


マイクと机、椅子だけが並んでいる、簡素な個室。
目線の入らない左側には音声収録を控えて機器の確認に忙しいスタッフ。
彼女は、落ち着いて本を指でなぞり、自身から湧き出る想いを確認する。



彼女――森久保乃々は10年の間にアイドルを主体としつつも、ひっそりとして、それでいて強い自我を主張できるラジオにも力を入れていた。


そして、彼女は絵本作家になるという、夢もあった。


そうしたことから、語り――読み聞かせをするラジオ番組を持ち、独特の音声で長寿番組へ成長させた。

彼女自身、人前で注目されること無く、人の目を見ることなく、ファンをがっかりさせないで済むと言い、性に合っていたらしい。
学んだことと夢を両立させる為に、プロデューサーさんとクラリスさんは応援してくれている。

期待に応えられないのは怖い。

でも、誰かに信じてもらえることの嬉しさを、出来れば叶えたい。
失望されたくないから。



そんな彼女は、本番前になると、こうして物語の意味を探っている。




寒空に星降る夜の少女。

マッチに浮かぶ様々な光景を見て喜ぶ少女。

それぞれに、それぞれの意味を込められた作品。


白い壁を背景に、何度も何度も読み返した筈の、実はちょっぴり苦手な作品たち。
長く、読者に口を揃えて、悲劇を喚起させている。




だが――――森久保は、この2作品はそれぞれ完全なる悲劇であるとは感じていない。



星降る銀貨は、現世での裕福な生活を保障している。

天から降りてきた老婆と共に、天へ上った少女は、例え寒さで凍え死んでいようと、笑顔で召された。

どちらも、何もかもを失った訳ではないのだ。
望まぬ出来事に苛まれた少女達だったが、保障されている事がある。


彼女たちは、自身の置かれた状況で精一杯道義に添い、ハッピーエンドを目指した。



そうした事を、少しずつでも伝えられるように。
そして、自分と同じ心を持つ人がいたなら――。




「――森久保さん……。本番1分前です。59、58……」


警戒する癖がある彼女への対応も心得たもので、ラジオらしからぬ静かなカウントをするスタッフ。


その、誰にも分からなくても、大事にしたい、柔らかい心に、寄り添ってあげたいと思った。

目を合わせられなくとも、生きていられるということを示すために。

森久保は静かにひっそりと、そして柔らかく触れられない事を、伝える事を旨とした。



プロデューサーさんは、森久保がどこにいても見つけてくれます。なら――森久保は、皆が持っている、大事なことを見つけられるように――)

「――3……2……1……0!」
「――み、皆さんこんばんは、もりくぼのめいめいラジオ、です……。本日は、『星の銀貨』と『マッチ売りの少女』について、お話しします――」



今日も、大事な事を伝えられるパーソナリティーになる。




<――――>

ラジオから流れてくる、彼女らしい声を聴きつつ、彼は事業を進めていくための書類作成に勤しんでいた。

トップアイドル2名のマネージメントは難しい。


ともすれば、仕事が被ることも珍しくないからだ。




10年前に行った番組と全く同じ内容を繰り返すことでお茶を濁すこともよくある。
それでも、彼女たちの特徴や夢を伸ばせる仕事を探し、考え、始めている。

森久保乃々は、大学との兼ね合いもあり、本人の気性に沿った仕事とライブ出演やCD販売に絞っている。

クラリスは、ボランティアやリサイクルといった環境整備に関する仕事の依頼が多くなってきている。


彼女が、今でも続けていることが、そうした清純さのイメージへ繋がっている。



苦もなくこなす彼女に助けられている事と、一方で無軌道になってもいることがアイドルとしてどこまで有効だろうか、とも思う。

だが、彼女の歌声を活かすイベントも、彼女のレベルとなると、簡単には始められない。
覚悟と決意で高まる彼女の歌は、むしろ国内のイベント会場で全国ツアーを行うよりも、道行く人々が目を止めるような、そんな場所で行いたい。

そうした考えで動きたいのだが、確固たる地歩を固めすぎることは、無用なトラブルを生みかねない。




10年前は考えもしなかった、そうした調整の山。


有体に言ってトップアイドルの影響力を舐めていた。


とはいえ、支障を来たすわけでも無い。

映画にもイベントにも出演しているが、そちらは卒なくこなしており、ウサミンや池袋晶葉の持つ個性とも合わせられている。

彼女の意向から食べ歩きや食事会といった番組も多い。
旅行アイドルである、並木芽衣子の持つ番組にもレギュラー出演。

問題はない。




彼女を次のステージへ送るための、準備も怠っていない。

書類に添付されている候補地と、子供の写真。
外国の草原と満開の笑みに押されるように、書類を書きはじめる。


書類を書き終わった時、彼女の笑顔を世界中に広げることができるだろうか。





――しかし躊躇いもある。




その時間を見たくはないとも感じている。

時間は針を止めることはないと知っていても。
あるいは、会いたくないと感じたからだろうか。

細目の涼やかな女性が――目の前に。



「プロデューサー様、お時間よろしいでしょうか」




――その日は、思いの外、早くやってきたのだ。




しん、

と音も無く満ちる闇。

幾本も点火された蝋燭だけが明かりとなって、物言わぬ影法師を映し出す。
月の無い夜闇に満ち満ちている教会は、無機質故の、本能を脅かす威厳を備えていた。


教会の、暗い静けさに、二人。


きぃーん、と血液が駆け巡る音が、妙に耳に障る。
冷めた風が肋骨穹窿を吹き抜けていく。



二人は――重要な岐路を選択する時には、ここに立つ。




「プロデューサー様。夢があると――私は伝えたことがあります……。覚えていらっしゃいますか」
「勿論です」


紡いできたはずの絆に縋って。
数字に変わっても、価値が変わることの無い、大事なものがあると信じて。




しん、
と息詰まるほどの暗闇と蝋燭だけの濃密な空間が、二人の乗り越えてきた時間を映す。

クラリスは、言う。
芯から発する熱を乗せて。


「私の夢は、歌で幸いを広め、世界中の人々を笑顔にすること――」
「はい」


男は答える。




目線を下げず、ただ体を動かすことが出来ない塊を飲み込んで。


「そして私は、人の笑顔は七面鳥だけでは生まれないとも申しました」
「ええ」
「私はボランティアを通じて――七面鳥が得られない人々も十分存在することは承知しております」
「炊き出しのお手伝いもさせていただきましたので、拝見いたしました」


演技の努力を重ねてきた彼女らしからぬ、つかえた喉から絞り出す声。


「――私は……夢をかなえるということを、もう一度真剣に自分に問い直しました」
「――日々の生活がままならない方達にも笑顔を増やすには、七面鳥も用意せねばならない……ということ、でしょうか」
「はい――」





俯くクラリスの眉根を寄せる仕草は、彼女にとっても強く自分に問い直した事柄であることを窺わせる。
何度も考えたのであろう内容を、彼女はぽつりぽつりと。



「私は、教会という居場所を失わぬ為に。子供たちが笑顔になってくれる場所を維持せねばと思い、そして――何も持たなかった筈の私に、<歌>という宝があると教えていただいたことが嬉しくて、アイドルの道を進ませて頂きました」
「私も誇らしく思っております」

「そして、10年、手を携えて進ませて頂いていると、勝手ながら思っております」
「私も同じです」
「身に余る光栄ながら、トップアイドルの称号を受領しました」
「あなたの努力にふさわしい」


天上から吊り下がる、象徴を眺めるクラリス。
芽生えた意味を断罪されているように。

独白する。




すーっ、
風が背を撫で擦る。
手を震わせて、背を押されるように、前に。


「そして、トップアイドルの社会的な影響というものを実感いたしました」
「……」


それは、欲という名の希望。

心中に巣食う虫が這い回っているように、思い通りにならない自分の心を、胸に手を置いて、拳を作るクラリス。






血管の浮いた――色白の繊手。


彼女の手は彼女の努力を示す。
僅かに紙魚が白磁の書面に散っている。肌荒れは、水仕事や油、漂白剤に手を入れ続けてきた標。
モデル業にとっては致命傷かもしれない。


それでも、彼女は、自分を貫いた。
男は応援できたことを、喜ぶ。


そうして、彼女は、気づいた。

愛も夢も希望も計量化してしまうほど、プロのアイドルに成長した、トップアイドルの価値を。

しかし、彼女は、気づいていない。
不安定な、自分自身に。

伝えねばならない。
伝えたくない。





「――プロデューサー様。夢を、貫きたいのです。七面鳥と歌のどちらも伝えることが出来る様に」



揺らぐ心を隠せずに、それでも、未知を怖れない為に。
彼女は言った。





ならば、言わねばならない。

「――アイドルを、引退されますか?」
「いいえ。どちらも、両立してみせます」






真一文字に引き結ばれた唇に、10年前と変わらずにクラリスの清純さを見出す。
細目の彼女の裏の、強い心が。


「承知致しました。――大枠は決定しており、事業計画書は用意しております」
「――よろしいのですか?」


呆気ないと。拍子抜けしたのか。
先程の圧倒する気合は霧散し、常の聖母の風貌に戻っている。




「――私は、プロデューサーです。貴方の。貴方を信じるのが、私の仕事です。夢を応援するために、私はスカウトしました」

男は、強く。



「――私の自慢のアイドルを、いつだって応援しております」



クラリスは、再び俯く。

「――はい」




感溢れる言葉に、咽びぬ胸を抑え付ける。






男は宣誓する様に胸を握りしめる。

「クラリスさん――」







プロデューサーは語る。


「星の銀貨は――期待を裏切られたと、思い込んだ、哀れな少女のお話ではないか、ということです」





「思い込んだ……?」
訝しげに問うクラリス。
男は頷いて言う。

「聖書にある、ファリサイ派の司祭に関するエピソードが参考になると思います」

「思い上がる者は改められ、へりくだる者は救い上げられる――」


「『マリアの子供』のお話を覚えていますか?嘘をついたことを、聖母の促しで思い改めた少女は、天国に導かれる――それだけの。それだけのお話です。
この童話は――嘘をついたという、大きくとも些細な罪を悔い改めるだけで、地上での幸福は約束されているお話です。マリアの少女は、生活苦でマリアに引き取られ、約束したことを破り、嘘をついて地上に落ちる。
であれば……地上で王の后となり、愛されて、子を持ち、幸せになった彼女は――引き取られる前の不幸を全て、解消することが出来た、とも解釈できるのではないでしょうか」

「そう……でしょうね」


頬に手をやり、思案気にするクラリスへ、一つ頷いてから男は続ける。


「星の銀貨の少女は、どうでしょうか。彼女に心を入れ替える描写はありません。暗がりなら見えなくても大丈夫だから――服を与える。
マリアの子供の様に、嘘をついたわけではない。なので、銀貨を与えられた」
「何も、悪いことはして…………いえ、それではない、ですわね」
「はい。マリアの子供の様に、彼女は父なるお方や母なるマリアから懲罰を受けたわけではない。人に持ち物を譲っただけであり、彼女は与えられた存在です。銀貨を」

「ですが……」




何かを言いかけて、はっと気づいたのだろう。

言葉を止めた。
男は言葉を引き取る。

伝えたくなくとも、必要だと思ったことが伝わるように。

「ですが、何故わざわざ銀貨だけをお与えになられたのか。マリアの子供は、生活苦から聖母マリア預かりになり、それだけで幸せに暮らすことが出来たというのに――」




――何故、銀貨だけなのか。

口を引き結んでいた蜂蜜色の涼やかな女性は、重く、躊躇いながらも……


「――――真心を込めず、物だけを与えたから、ですわ」


と、断言する。




男はあくまで表情を変えずに言う。

「おそらくは」
「モノにはモノを。心には心を。そういうことなのですね」


「グリム童話には、『貧乏と謙虚さは天国に繋がる』という子供の聖人伝説も存在しています。彼女は貧乏ではあれど、謙虚ではない。但し、何も悪いことをしたわけではないから、銀貨だけを与えられた――」



……




――『神様、わたしはほかの人たちのように、奪い取る者、不正な者、姦通を犯す者でなく、また、この徴税人のような者でもないことを感謝します。わたしは週に二度断食し、全収入の十分の一を献げています』
ところが、徴税人は遠くに立って、目を天に上げようともせず、胸を打ちながら言った。
『神様、罪人のわたしを憐れんでください』
義とされて家に帰ったのは、この人であって、あのファリサイ派の人ではない。
だれでも高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる――。




……



黒髪の男が、深い沈黙を断ち切る。
内に隠す真情が煮えたぎっている。
止めていられない。





もう、抑えられない。



「これから始めようとする事業とは、そういうものです。物を与えなければ話になりません。ですが、主を信仰する者としてそれだけでは、意義を失う」

「はい」


抑えられない。



「事業を継続するのであれば、宝を天に積むだけとは参りません。貴方の信仰、人生で積み上げた揺るぎないモノを、身の回りに生まれる資金が、絶えず問い直します」

「はい」






抑えられない――――プロデューサーとして、アイドルと積み重ねた時間が。
クラリスというアイドルが10年の間仕事をして、それでも、揺るがなかった信仰を。

疑われるということが―――――――

……
…………
………………ッ!



腹立たしい――ッ!!




「――無欲の優しく、正しい……貴方の、<<<信仰>>>が問われる……!」




そう感じてしまう程、知らず知らず彼女へ――理想のイメージを押し付けてしまったのだ。



トップアイドルに引き上げた10年の時間が――錯覚させてしまった。



子供たちと、幸せそうに、どこか辛そうに唱和する彼女へ声をかけ。
尋ねた憂いを、取り除くために。

アイドルへ。




夢があると語った彼女。

その夢へ邁進するべく秘かに準備していた10年。

躊躇う。



彼女の真心を疑われるやも、と思うことすら腹立たしい。




――そして。
区切りをつけたくないという欲がある。

それでも。

それでも……ッ。


それでも――彼女の夢は……ッ!

……







言いたいことの全てを飲みこみ、淡々と伝えるべきことを伝えていく。

「貴方が自分の夢をかなえようとするということは、宝を天に積み地には愛を広め、何も望まないという――清廉さと真心と、どう向き合っていくのか、という問いに突き当たります」
「はい」
「星の銀貨の少女の様に、それはそれ、これはこれ、とはならない」
「はい」
「期待に、応えて貰えないかもしれない」
「はい」
「夢がかなわないかもしれない」
「はい」
「自分で、自分の信仰を否定することになるかもしれない」
「はい」




大きく息継ぎをして、強く厳しく問う――――



――――

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「――――――――それでも貴方は――――夢を、始めますか――――――」
 


「――――はい」



彼女の返答は簡潔。
誰よりも強く覚悟が響いた。






……
………
……………




そして――――――――――――期待に応えて貰えなかった。



……
…………
………………


――世の中、それほど酷薄なだけではないのだから。

信じて貰えなくても、前を向いて進むという――思い込み。
10年の積み上げた実績と、30年継続したボランティア。



クラリスという少女が信じて行ったすべてが、彼女に帰ってくる。


……




草原に立つ、表現者の集うステージ。
3人の輝く笑顔と歌声が、響いている。

「さあさあ、見ていくっす。先人の知恵を借りたライムライトに映っているのは、モーセ。グラフィティアートをこうして映像の様に次々上書きしていくのは楽しい。
プロジェクションマッピングの技術も使われているっすよ!どこにあるかはナイショ。
――おおっと、落書きだと思わないでくださいっすね。許可してもらった壁に布を張ってマジックで書いていっただけっすからね!」

慎ましい淑やかさと大胆な色遣いを持つアーティストアイドルが、優しい心を秘めて強く強く表現している。

そして。
ダンスを得意とする優しい女性と豊富な旅行経験を持つ女性が、彩を激しく繊細に表現する。

「私がストリートとレッスンで磨いたダンスで、モーセの奇跡を表現するのよ!」
「へいへーい!ルーブル美術館で実際に見たことがある私が保証するよ!美術の旅も楽しんでいってね!さあ、顔を上げて!色んな世界を見せてあげる!」


独特の自己表現と感性を、100年前に行われた手法と宗教画で、新しいアートにする。

彼女たちが選んだ支援策は、彼女たち自身である事を前面に押し出したものだった。

ともすれば、共感を呼ばないかもしれない前衛性に人を呼ぶために、華とダンスで呼び寄せて、目新しさで引きつける。

何故、信仰に意義があるのか。
彼女たちは、何をすることを目的としているのか。
全身で、表現している。

―――――――



「どうだ!私の介護型ウサちゃんロボは!椅子になる上にアームであらゆる商品を適切な力で掴むことができる優れものだ!」

ステージの上で、自信に満ち溢れた表情が一際目に眩しい少女が、大見得を切っている。

示した先には、車椅子にクレーンゲームのアームがついたようなヘンテコな形をした発明がある。
歯車が所狭しと並んでいる車椅子は不安定さと一種の警戒を呼ぶが、実演が始まるとその精密さと安定性にどよめきが走る。

ウサ耳を着けた永遠の少女と、お揃いの造形を持つモニターの表情がくるくると変化する姿も、親しみを感じさせる。
実演なので、笑顔で手を振る少女が座る姿も実用品に華を添える。


「いえ、ですので昌葉ちゃんとクラリスさんに頼まれたお仕事はやぶさかではないんですけれども……どことなくいじりが入っているような……」


涙目だが観客からコールが入れば、笑顔でポーズを決める。
僅かな動作からでも適切な反応を返し、メルヘンチックな衣装でモニターに映るウサちゃんロボは、高い機能性を演出する。


彼女たちこそ、この集まりを支える事業だ。

 
―――――――





<――これより、ノーブルグレース及びノーブルセレブリティによる情熱溢れるプレゼントの時間になります>

「さあ、皆さまはじめましょう。
――合唱は調和が大事ですわ。個性を出すだけでは生まれない――絆が生む力強さがありますわ」

「真剣に、ね?お仕事ですもの。――――あらあら、笑っているだけではお話になりませんよ?
――さあ、真剣に、自分の道を切り開いていくのですから」

「いきますわよ!私と皆様で、ファンのみなさんへ幸せを運びましょう」

「このバイオリンはわたくしの自慢です。お父様から授かり、お母様から教わったわたくしの自慢。皆様にお教え出来て、とても嬉しく思いますわ。次は皆さまの番ですよ。
――――幸せに、なりにいきましょう……♪」


気品と慈愛と、迸る情熱が駆け巡っている、華の輝き。

力強く背筋を伸ばす彼女たちと、力強く歩く小さな希望。
所定の位置に着いたことを確認した、今回のリーダーであるフルート奏者が、一音響かせる。




ざあっ。

情熱溢れる彼女たちと、練習に次ぐ練習を重ねた希望は、一糸乱れず調整した。

<――3>

ざあっ。

<――2>

ざあっ。

<――1>

ざあっ。

<――0!>


――――世界を塗り替える、価値を生み出す原石の、ファーストステージ。
先導は、10年を生き抜くトップアイドル。

いずれ世界を席巻するであろう煌めきが、彼方へ。
歩み始めた。


――――――――――――


強い追い風でざわめいた黒髪をなでつけている男が、呟く。
「――これが、始めたかった事業ですか……」



細めの女性が、端正な表情を緩ませながら呟く。

「――はい。私が始めようと思ったのは、事業活動として食料均衡の是正等を行うNGO活動です。トップアイドルに育てていただいた知名度と収入、数々のご縁に恵まれたことが、決断するきっかけになりました。皆様に甘えているようで心苦しいのですが……それでも、前に進ませて頂けました」



男も唇を綻ばせながら囁くように。

「私の予定していた世界中の教会孤児の方達とのチャリティコンサートとも合致しておりましたので、手早く始められました。人望です」




男が初めて会った時の、庭園での子供達との唱和。


あの光景こそ、彼女そのものだと考えていた。
あの光景を、世界中でも少しずつ増やしていくことが、彼女の夢を応援することになるのではないかと考えていた。


しかし、彼女の慈愛は、想像を超えていた。




クラリスの笑みは、子を抱擁する母の様で。
期待と緊張で頬を染め、まるで10年前に遡った風貌の如く。

まるで初めて宣材写真を撮影した時の様に。

まるで、初めて……花園の歌声を響かせていた時のように――。
彼女は、華開いた顔。



彼女は言う。

「皆様には真に感謝しております。
事業についても、資金不足は幸いにも、西園寺さん、涼宮さん、櫻井さん、相原さんに。
他の事業内容としては、昌葉さんのウサちゃんロボット等の発明が恵まれない人々に受け入れられるかという社会実験とヒューマノイド・インターフェースに続くための反応を集めること。
ゆかりさんの持つフルートを放課後に無償で教えていくことで、チャリティコンサートを開いて世界中を回る事。
沙紀さんや伊吹さんの様なアーティストが集まることの出来る場所として提供すること。
アーティストや音楽活動は、母子家庭であったり貧しくご両親と接する機会の少ない子供たちに仕事と食料に触れる居場所づくりのために。
そしてプロデューサー様に支援していただけることになり、どうにか始めることが出来るようになりました。嬉しいです」

男は答える。

「私も、及ばずながら支援させていただきます」




その一言をこそ待っていたとばかりに――女性は、一つ大きく呼吸する。
爛々と目を輝かせた彼女の眼光は、眼前の輝きに向けられていた。

何の変哲もなく、これから駆け上がる、大事な一歩。大事なステージが。




――ピーッ、ガガッ。

スピーカーが鳴る。

<――これより、クラリスと森久保乃々による、メインステージを始めます>



機械音が鈍く、メインステージの開園を予告する。
それを合図として、黄金の輝きは歩み出した。
心に秘めた優しさと、全身から放つ気合が本日の主役を見出させる。


風に乗って、声が届く。
「プロデューサー様。行ってまいります」

短く。
「楽しみです」



――かつかつ。

進む。

――かつかつ。

進む。

――かつかつ。

進む。


――ぴたっ。

そうして。
彼女は、立った。
幾度となくステージに上がった経験がありながらも、まるで小動物の様に身震いする。

それでも。
まるで、初ライブを前にした時の様に、敢然と前を向いて。


まるで、新人オーディションを合格した時の様に、強い自信を滲ませて。


まるで、トップアイドルの称号を与えられた時の様に、力強く一歩を踏み出して。


この場へ立った。




共演する巻き髪の柔らかな女性は月のように、そして太陽に負けない眩さで横に立つ。

「クラリスさん」
「はい、森久保さん。一緒に」

どちらからとも分からぬ様に手を携え手を繋いで、前に立つ。

集う観客が固唾を飲んで、開演を待ち侘びている。




<――開演です>





歓声が轟く。

彼方まで続く、色も見果てぬ希望を凝視する。

手を繋いだ彼女たちは、もはやたじろぐこともなく。
腕を振り、前へ。





「皆さま!私、私……私――――――――――幸せですわ!」
「た、楽しんでいってくださいぃ!」

燦燦と照り付ける太陽を天頂に頂きながら、野外ステージが始まった。








夢を諦めない者だけが駆け上がることの出来る舞台が――――。



………
……




スーツ姿の男は、ステージで輝く優しいアイドルを眺めて、そっと一息をつく。

「――ああ、よかった」





――聖人とは、世界中に存在するシンボルだ。

公的な機関から認められた存在で、死後に列聖されることがほとんど。
だが、民間に於いては生前から聖人であると認められることも多い。

シンボル学では、苦行や功績を認められて、彼ら自身の肉体や持ち物に奇跡が宿るとされる。
死後は略奪の対象でもあった。


現世利益の為でもあり、現世での罪を拭い、死後の幸福を手に入れる為に。
そして、星の銀貨の少女は聖人であるとも。


何故、星の銀貨の少女は銀貨を送られたのか。
それは銀貨を送られるに値するだけの行為をしたからだ。
持ち物を人に与える、尊い行動を。

だが、それは真心からなる行動ではなかった。

尊い行為であり、しかし金貨に相当する心まではなかった。
天上の御主は、だからこそ相場通りに、見返りとして銀貨を送った。

銀には銀を。
金には金を。

無慈悲なまでに公平に。相場通りに。




保護者がいない哀れな少女が、銀貨だけを手に入れて、豊かに暮らすことができる様に。
真心を込めていないならば、真心も包んだプレゼントを贈る必要などない、という様に。

彼女は森へ向かった。

森に行く少女……森は『ラプンツェル』や『ヘンゼルとグレーテル』のように、山中異界として死を迎える場所。
決して幸せになれる場所ではない。
そこに神様を頼って移動した。

だれも助けてくれないなら、幸せになれるわけがないのに。




彼女の不幸は、まず天涯孤独になったことが原因だ。それが銀貨を手に入れるだけで解決することはない。

彼女の本当の不幸――肉親を失った哀れな少女であること。




哀れな少女の完全なハッピーエンドとは、保護者や配偶者、兄弟がおり、豊かになり、時には死後の救済すら約束されることに他ならない。
「マリアの子供たち」の様に。




星の銀貨の少女は、豊かな人生を送っただけで。

幸せにはなれなかった。


天涯孤独の少女だから。
彼女が信頼する庇護者は信仰や神様。豊かであることすら求めていない。


なのに、銀貨というモノで帰ってきた。
相場通りに。



信頼した結果、返ってきたのは別の物だった。ほしいものではなかった。期待した通りのものではなかった。








――そう。

彼女は。
彼女は。
彼女は。
彼女は。
彼女は。
彼女は。
彼女は。
彼女は。
彼女は。
彼女は。

彼女は―――――――――――――――――――二重の意味で神様から裏切られたのだ。

裏切られたと。

そう、感じてしまった。




物を欲しがっているわけでもなく、生を捨てて望んで苦難の道を行った少女は、死後の幸福を得られることなく銀貨とリネンの服を手に入れて、望んでいない豊かな生活を得ることになる。



神様を信頼した結果の悉くが、望んだとおりにならなかった。



他の人から見れば贅沢とも裕福とも取れる豊かな生活であろうと、当の本人にとっては無価値になる。
望みは叶わない。


哀れな少女は、誰にも本心を理解してもらえない。




―――――だが。

だが、クラリスは、違う。
彼女は、星の銀貨の少女には、ならない。







教会に通い、彼女を慕う、宝の粒が身の回りに。


友が傍に。


同僚と肩を並べ。


ファンと一緒に。




天涯孤独な哀れな少女は、頼りにした父なる方の御元へ迎えられるという幸福を、与えられることはなかった。周囲の人々の助力もない。

与えられたのは、銀貨。

人を救いたいと思って助力したわけではないからこそ、彼女の行動に銀貨で報いられたのだ。

豊かに生活することが出来るだけの、財貨のみが。

しかし、哀れな少女の天涯孤独であるという――、一番の不幸は、解消されない。
彼女は、正しい信仰を胸に秘めていないのだから。




教会という安楽の居場所を失いかけたクラリスは、10年の時を経て、信じられる人々としっかりと道を歩んでいく。

周囲の人々から助力を受けて。
世界中の人々に笑顔を増やすという――尊い希望を輝かせて。

人を救いたいと思って助力するからこそ、彼女の行動には金貨が与えられるだろう。
彼女は、正しい信仰を胸に秘めているのだから。






クラリスは――――哀れな少女ではない。





一度は失うかもしれなかった居場所と宝物を、自分の才覚と友人の助力で、確かにした少女は――期待に応えて貰えないかもしれないという恐怖を、優しい心と信仰と大切な人々と共に歩むという、未来に変えて。
――力強く、自分の人生を歩み始めた。



これはそんな、クラリスという……幸せなアイドルの物語――――。





≪――アイドルに、なりませんか……≫
≪――たとえ僅かでも、私の歌で世界に幸いを増やしたいのです。それが私の、アイドルとしての夢……≫



―――――――




おわり。

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