男「モテる代わりに難聴で鈍感だった日々より」(1000)

これが完結作


1、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1379798915/)

2、男「モテる代わりに難聴で鈍感になりましたが」
男「モテる代わりに鈍感で難聴になりましたが」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1380372236/)

3、男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1385750291/)

4、男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1397082375/)

5、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるのも悪くない」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるのも悪くない」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1406541846/)

6、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるならどうする?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるならどうする?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1420921537/)

男「あーあ、俺ってダメな兄貴だよなっ! 本当に! ははは、悪いけど今だけは顔覗かないでくれな……」

男(妹は咽び泣くフリをしたピエロの背中を優しくさすってくれる。本気で将来は役者を目指そうか迷ったが、整形必須だ)

妹「私たちにもっと甘えてくれていいんだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃん一人で抱え込まないで?」

妹「辛かったら辛いって声に出して言って欲しいよ……家族、ううん、[ピーーー]なんだもん……」

男「へ、へへ。そうしようかなぁ (難聴プロテクトは残留したままか)」

男(過去の傾向から、俺自身が美少女の好意へ歩み寄ることが解除条件であることは特定済み。告白が浅かったかもしれん)

男(おまけに妹が真剣に受け止めきれていなかった事もあろう。告白のあとの彼女は喜・楽よりも、怒・哀で応えたのだ)

男(となれば、システム的には両者の感情が合致せねば解除条件を満たさないのかもしれない)

妹「無責任な言い方になっちゃうかもだけど、お兄ちゃんは明日も明後日も同じお兄ちゃんのままだよ、きっと」

男「ああ、俺もそうでありたいな。たとえ記憶がリセットされてもお前らのこと……」

妹「そうじゃなくって! 何がどうなろうと、お兄ちゃんは私の[ピーー]なお兄ちゃんのまんまなの!」

妹「…………っ///」

男「(把握した) お、俺を嫌いにならないでいてくれるのか?」

妹「当たり前だよ! 簡単に嫌いになってたら……恋、してないってば……」

妹「伊達にお兄ちゃん大好きっ子やってるんじゃないんですけど!? ふんっ///」

男「お前ってやつは……バカだぜ、大バカすぎるな!!」

妹「なな、何感極まっちゃってんの!? く、苦しいってば! はーなーせぇー!」

男(そうは言うものの腕の中で彼女は大人しく抱きしめられたままであった。この分ならば、気掛かりだった『お兄ちゃん』呼び廃止の心配は要らない)

妹「あのさ……ほんとに私のこと恋人にしてくれる? 大事にする?」

男「ずっとそうしたいと思ってたんだ。男に二言は無い、俺の一生を掛ける」

妹「じゃあ私も、かも…………だいすき。だいだい、だーい好き……好きすきすき、って」

妹「今のちゃーんと聞こえたよね、おにいちゃん?///」

男「……そりゃ勿論 (激アツだ。苦労を労ってくれる、その言葉が聞きたかったのだ。終わりのゴングはしかとこの耳が聞き届けた)」

男( 完 全 掌 握  ありがとうございました)

妹「でも最終的には私がお兄ちゃんの一番になるんだから! 幼馴染ちゃんにだって負けないねっ」

男「いやいや、勝ち負けとか設けるつもりないんだからな?」

妹「そこは個人の問題でしょ。お嫁さんになれるのは一人だけだよ、日本は。ナンバーワンは決めなくっちゃ!」

男「近親婚だと日本じゃ婚姻届出せないとご存じない?」

妹「そうなんだね! じゃあ とりあえず今日は一緒に寝よっか。すきっ、すーき、えへへへ!///」ギュ

男(彼女がいずれ最爆妹帝≪キラークイーン≫と呼ばれる日はそう遠くない未来の話である)

男(……目を覚ませば隣には美少女の寝顔が、とかいう朝チュンもなく、ひたすら自分だけの空間に包まれていた俺)

男「(早朝から天使ちゃん襲撃に備えた結果、惜しくも添い寝は放棄させてもらった。が) …………ねむすぎる」

男(あれから昨晩は半ば大学生のオールよろしく妹と滅茶苦茶スマブラした。桃鉄も挟んだ。ドカポンも。床に付いたのはいつ頃だっただろう)

男(リビングへ降りていけば、珍しく妹の姿もない。しんと静まり返った部屋に佇んでいれば、何となく昨日までの達成感が甦ってくる)

男「ハーレムどうこう除けば、残る難聴対象はあと五人。五人まで絞れたわけだ……」

男「一人一人に生徒会長や妹同様 仕掛けるつもりではあったが……幼馴染が気掛かりだな」

男(そんな考え事も兼ねた独り言を呟きながら、衝動に駆られるよう 俺は外へ散歩へ出たわけだ。誰かが呼んでいる、いや、誘う)

男「(二度寝なんてしていられるか) とりあえずワケもなく外にいれば高確率で誰かしらに遭遇するもんだしな」

男「さしずめ この俺限定ルーチンワーク……そら、もう竿が引いたし!!」

転校生「あら? 変態じゃないの。あんたも早朝ランニング、って感じじゃないわよね」

男「転校生、当たり前だろ。朝から走るなんて平日だけで勘弁だぜ」

転校生「いつも遅刻ギリギリになってるあんたが悪いんでしょー? ふふ、自業自得だわ」

男(相変わらず出現率も絡みも多い美少女だ。爽やかな汗を流して、道行く通行人を魅了している。かくいう俺も)

転校生「あー、えっと! わ、私に付き合ったら? せっかくだし変態もたまには健全な汗を私と流すべきよね! 運動よ!」

男「一々誤解招きかねない誘い方するよな、お前」

男「大体 走るといったって、お前と違って俺はランニングウェアじゃないぞ? 汗が」

転校生「それもそうねぇ~……あっ、それなら軽いウォーキングにしましょうよ。ダメ?」

男「(おねだり上等な上目遣いに勝てるわけがない。なんてたって、美少女の頼み) はぁ。どうせ暇潰しの散歩の途中だったし、いいか」

転校生「やった♪ とことん付き合ってもらうから覚悟しときなさいね、へ~んたい!」

男「お前の中の軽い基準を先に聞かなかったのは失敗になりそうだな……にしても、いつもこんな事してたのか?」

転校生「んー いつもじゃないけど、最近は日課みたいになってるかも。体に良いし」

男「転校生、涙ぐましいダイエットって回答を期待した俺の立場に一旦なってみてくれ」

転校生「知らないわよバカ!! 女の子に向かってダイエットとかデリカシーの欠片もないわね、あんたっ!」

男「変態呼び三昧の誰かさんが言えた口かねぇ? ……髪、違和感なくなってきたんじゃねーか」

転校生「え? ほんとに!? そ、そう……!」

男(途端にモジモジといじらしい転校生、せっせと手ぐしで髪をとかしちゃったりである。これぞ主人公補正による飴と鞭がなせる技か)

男「長髪に見慣れてたのもあったけど、慣れたらスンナリ受け入れられるもんだな」

転校生「……か」

男「あ、何だって?」

転校生「……か、可愛いかな?///」

転校生「ぁあああ、やっぱり何でもないわよおっ!! いやぁ~!!///」

男「おい、まだ何にも言ってないだろ!?」

男(脱兎の勢いで駆け抜けようとする転校生を引っ張り、どうにか制御しようにも暴れ馬の如しである)

男(そんな彼女に振り回され、落馬どころか、いつのまやら塀へ追い込み、壁にドンッ)

転校生「いっ!? ば、バカ変態! 何でこんな体勢になるのよ!?」

男「お、お前が変に暴れまくったからこうなったんだろっ!!」

転校生「だって! 私あんなおかしなこと言っちゃったのよ!? もう、もぉ~っ!///」ブンブンッ

男「……おかしなって、何か恥ずかしいことでも言ってたのか?」

転校生「へ……き、聞こえて、なかったの?」

男「えっと、急激に耳鳴りがなったもんでさっきのは上手く聴き取れなかった。結果的に良かったのか?」

転校生「うんっ! 始めてあんたの間の悪さに感謝したいぐらい!」

男(この複雑な気分は心ばかりの良心が齎したのであろうか)

転校生「文化祭楽しみよねぇ。日本の学校って色んな方法で楽しんでるから凄いなって思うわ」

男(さて、一変して何事も無かったように唐突な話題を振りながら、転校生は自販機で購入した飲み物を俺へ投げ渡してきた)

男「楽しみなのはわからんでもないが、クラス発表があるな?」

転校生「わぁ、せっかく今の今まで頭の中から消えてたのに!! ばか~……」

男「現実逃避したところで明日になれば嫌でも引き戻されるだろ。ま、俺には関係ないんですけど」

転校生「な、何よそれー! まったくっ、こんな事ならあんたが王子様役になるようみんなと口裏合わせしとけば良かったわ!」

転校生「はっ、でも待って……こいつが王子様になったら、お姫様役の男の娘くんに……!」

男「あー、そういえばクラスの奴らが話してたの偶然聞いちまったんだけど」

男「終盤で王子と姫のキスシーン入れようとか何とかって……」

転校生「えっ!? き、ききき、聞いてないわよ!!」

男(当然である、この場で俺が考えた出鱈目だからな。ただ あながちウソになるとは限らないのがこの世界の怖いところ)

男「本番が近付くまでお前らには内緒にしておくつもりだったらしい。難儀するな、主役ども」

転校生「冗談じゃないわよっ!! わ、私ファーストキスもまだなのに、相手も決められないなんて」

男「えっ、したことなかったのか?」

転校生「あぁ!? ……も、文句あるの!?///」

男「別にケチつけたりはしねーよ。ただ、違和感みたいな」

転校生「はぁ? それだけじゃ意味不明よ。何が言いたいわけ?」

男「俺たち いつだったかにキスしたことなかったか?」

男(そう言われた彼女は一瞬取り乱す素振りを。しかし、すぐに自分の唇に触れ、違和感、を頭に過らせていた)

転校生「まさか……そんな筈ないじゃないの…………でも」

男「しかしまぁ、俺も自信はないぞ。もしかしたら最近見た夢の中の話かもしれないし」

男「だけど妙なんだよな。ハッキリじゃないが、あの時の光景は今でも現実味帯びてるように覚えてて……雨が強い日に」

転校生「……その日は雨が降ってたわ。あんたはバケツが引っくり返ったみたいな雨だって、そんな風に確か例えてた」

転校生「部活の帰りだったの。私たちは大雨の中走って、人気の少ない場所で雨宿りして」

転校生「そ、そんな夢を私もいつか見た覚えがあるわ。あんたはどうなのっ?」

男「それだよ、転校生!! 俺が見たのとほぼ同じ内容じゃないか……」

転校生「冗談でしょ!?」

男(おさらいしよう。バッドエンドへ到達させた美少女は、ルート突入時からの思い出を失う。現に先生と転校生には俺と恋仲になった記憶はないだろう)

男(が、不可思議なことに何かの拍子で 彼女たちは時折前周での出来事を不意に思い出していた。つまり、完全な忘却状態とは呼べなかったのだ。それを踏まえて、ずっと試してみたかったことがある)

男「なぁ……もしかして、夢じゃなかったりするんじゃないか?」

転校生「夢じゃなかったって……あぁぁ、あんたと私がっ、本当にキスしたっていうの!?」

男「もしもの話だ、もしだからなっ!! 落ち着けって!!」

男「だけどだぞ。二人が似たような夢を見てて、感覚まで共有していたらとしてだ」

転校生「う、うん……」

男「単純にその日あったことを俺たちが忘れちまってただけだって、そうは考えられないか?」

転校生「ば、バカバカしいわ! ふっ、二人で帰り道 宇宙人にキャトられちゃったりしたのかしらー」

男「オカルト研にでも相談してみるか? なんて、だったらこの偶然どう説明できる?」

転校生「別に解明する必要もないじゃないのよ! 夢なら夢で、それで十分でしょ!」

転校生「そりゃ本当にあんたとあんな事できてたなら……う、うれしいけど……///」

男(仕様なのか、それとも恥じらいからなのか、転校生自身は事の追求に付き合うつもりはないようだな)

男(しかし、もし 前回の記憶を蘇らせられたとしたら、どうなるのやら。吉以上に凶を引きかねないか?)

男(記憶消去は、バッドエンドが発生した世界線を無かったことにする為に設定した神側の苦肉の策だ。あくまで美少女たちの場合は、俺に巻き込まれる形でとなるが)

男(仮にいま転校生が記憶を全て思い出したとすれば、あの悲劇も帰ってくるかもしれない)

男(それでも、都合良く、その一部さえ除いて記憶が甦れば、苦労なく即座に、彼女を)

転校生「ねぇ、変態。してみない……?」

男(企みを裂くように、唐突に転校生の提案があった。何をだと尋ねる必要も皆無なほどに、彼女は茹でダコだったのである)

男「……え?」

転校生「言わなくてももうわかってるでしょ! キスよ、キス~!///」

男「結局言ってるじゃねーか!」

男「お、お前大丈夫かよ? 安易に夢の再現したら、思い出せるかもとか考えちゃいないよな?」

転校生「ち、違うわよ!! その話はもうお終いだから!!」

転校生「私はただ……クラスの演劇のためにキスする羽目になるんだったら、す、す、すぅ……!///」

オカルト研「やはりここにいたわね、男くん」バッ

転校生「きゃああああぁぁ~~~!?」

男「……やはりって何だね、やはりって。お前もマジで場所選ばないで登場するな」

オカルト研「言ったはず。[ピーー]、い、いえ、悪霊の気配漂いし所に私アリ、よ」

男(危機を感じ取ったのかいきなり現れたオカルト研。なぜ居場所がわかったと訊けば、彼女らしいマニアックな言い訳が展開である。それにしても)

転校生「むぅーーー……!」

男「お前はお前で何怒ってんだよ?」  転校生「べ・つ・にっ!!」

男(頬をぷっくり膨らませた涙目転校生がすっかりご不満の様子で。この二人を同時に相手するには、相性が悪すぎるな)

オカルト研「休日の朝から悪霊を制御するために禊とは懸命ね、男くん」

男「お前には、俺が見えない滝にでも打たれて見えるのかよっ! 転校生の運動に付き合ってただけだ」

転校生「そ、そうよ! こいつがどうしてもって言うもんだから仕方なく付き合わせたのっ! まったくも~!」

オカルト研「そう。だったら無理に男くんを連れ回すことない、私が引き取るから」

男「お、おい! (俺の腕を掴むと そのまま胸に抱き寄せ、オカルト研は不敵に転校生へ笑っていたのだ)」

転校生「何してるのよ!? か、返しなさいってば!」

オカルト研「だってあなたが迷惑してるように見えたのだもの。いえ、むしろ男くんがかしら……」

男「お前ら二人に挟まれて良い迷惑はしてるがな、俺 (美少女サンドイッチ、両手に花、大変よろしい触れ合いがここに)」

男「(とか悦に入っている場合でもないだろう) オカルト研も暇ならウォーキングに付き合ったらどうだ? 俺はこのまま続けるけど」

オカルト研「[ピーーーーーー]とならば、八大地獄を歩むことさえ極楽を往くに等しい……///」

男「おし、とりあえず一緒にやるってよ」  転校生「通訳ありがと……!」

転校生「はぁ~。ま、いいわ。それじゃ休憩も程々にして早速行きましょ? ゆっくりでい」

オカルト研「男くん、また悪霊が成長したのね。少し瘴気に当てられただけなのに私、はうっ///」ピタァ

転校生「あなたくっ付きすぎじゃないの!? 離れなきゃそいつに変態されるんだからねっ!!」

男「その変態は動詞じゃねーよ、イギリス暴力女……っ!」

男(オカルト研一人混じるだけでこうもカオスになるか。人の影響力も、美少女ならば倍上がりだ)

男(隙あらばこの俺を奪取せんと粗ぶる一人に、それを妨害せんと抵抗を止めぬ一人。女の戦いに間違いないが、まだ可愛らしい範囲である)

男(この二人を、いま完全欠落させるべきだろうか。個別狙いが妥当なところだが……)

オカルト研「よくよく考えれば、これは男くんとの[ピーーーーー]では……」

転校生「聞こえてるわよ! 私がいるの忘れないで欲しいわね、酷いじゃない!」

オカルト研「勘違いしてもらっては困るわ、犬」

転校生「犬!? ま、前から思ってたけどこの際言わせてもらうわ! あなた人のこと何だと思っ」

男「あー! 普通に歩いてるだけじゃ少し物足りなくなってきたかもなぁ! なんかなー!」

オカルト研「あっ……ええ、その通りよ。そこで私が効率良い修行方法を教えてあげようと思っていた。[ピーーー]///」

男「修行とか大それたことしてねーよ。そうじゃなくて、何か楽しみながら運動してみないかって話だ」

転校生「じゃあそろそろ走ってみない? ランニングなら負けないわよ、私っ! フッ」ニヤ

オカルト研「これだから脳が筋肉に犯された女は嫌になる……もはや肉ね……」

転校生「っぐ……あ、あーら、肉付きが良さそうなのはどっちの方かしらー?」

オカルト研「末代まで祟る」   転校生「ケンカは買う主義なんだからね!!」

男「お前らのお陰で一気に楽しいウォーキングだ、ありがとよっ!!」

転校生・オカルト研「むぅ……」

男「なぁ、少しは仲良くやれないのか? やれやれ (放っておけば収拾がつかない戦争へ発展しかねない。それだけは避けなくては)」

転校生「私だっていがみ合いたくないわよっ。でも、オカルト研さんが!」

オカルト研「あなたが売られたケンカを簡単に買うような単細胞じゃなく、大人になれば溝もできないわ」

転校生「くうぅ、ほらアレー!!」バシバシッ

男「だからって俺に当たってんじゃねーよ!? 痛いから! やめろアホ!」

男「つまり、何だ……ここは一先ずどっちも落ち着いて、罵り合うな。ていうか俺を巻き込むな。いいか?」

オカルト研「男くんがそう命じるなら従いましょう。犬や肉はさすがに言い過ぎたわ、何とかさん」

転校生「転校生っ……!」

オカルト研「そうだったわね。ごめんなさい、その他Aさん」

転校生「ねぇ、どうして一々癇に障ることしか言えないのよ!? そういう病気っ!?」

男「オカルト研、俺からも本当に頼むからこれ以上こいつを怒らせるなって……主に俺に被害が飛ぶから」

オカルト研「悪いけれど、私は[ピー]敵には容赦するつもりない」

男「は?」

オカルト研「さっきその女は、あなたに迫っていた。私にとって世にも恐ろしいことを……!!」

転校生「……き、聞いてたの? あのやり取り……」

オカルト研「不服だったけれど、一部始終見させてもらった。あなたが雌顔で男くんを誘惑しようと」

転校生「誤解よっ! あ、アレは、えっとー、その~……!!」

男「そうだぞ、オカルト研! こいつの頼み方が紛らわしかっただけで、演劇の為の練習を俺にお願いしてただけだからな!?」

オカルト研「相手を男くんに選んで? 確かにキスを強請っていたわ。キスよ、キスの練習が不可欠?」

オカルト研「必要ない。所詮は学生のごっこ披露に本格を求めるなんて、滅多にない……答えは一つよ」

男(言うが早いか、止める間もなくオカルト研はスレスレまで転校生へ顔を近づけて言い放っていた)

オカルト研「不純な動機だわ、平民さん」ズ ン

転校生「あ、あ……っ!?」ピクッ

男(何てことだ、非常にマズイにことになった。一心不乱にこの俺へ向かっていたオカルト研のことだ。一度、敵対者を発見すれば)

男(強制排除行動に移るだろう。戦闘モードのオーラが、満ち満ちているではないか)

オカルト研「私としたことが、男くんに気を[ピーーー]ていたみたいね。私以外にも、志を同じにした獣がいたなんて」

男「ま、待てまて!! 色々飛躍しすぎじゃないか!?」

オカルト研「いいえ、きっと私の見解に狂いはないわ。これでも立派な女だもの」

オカルト研「そして男くん、お願いがある。……今すぐここで[ピーー]して///」

>>34 ミス訂正
オカルト研「私としたことが、男くんに気を[ピーーー]ていたみたいね。私以外にも、志を同じにした獣がいたなんて」

オカルト研「私としたことが、男くんに気を[ピーーー]いて油断していたみたいね。私の他に、志を同じにした獣がいたなんて」

男(オカルト研、お前のお願いは大体把握した。把握してしまった、歴戦からの感覚が告げるのだ)

男(しかも、それを今 転校生のいる目の前で要求した。その行動は正しく 宣戦布告に値する)

転校生「こ、ここ、こんな所で何言ってるのよ!? 正気の沙汰じゃないわ!」

オカルト研「んっ……私に[ピーー]あるなら、おねがい……」

男(転校生がいくら隣で騒ごうと揺るがせる気はないらしい。前髪を横に払い、従順そうに、切なげに、瞳を閉じて唇を突き出していたのだ)

男「おい、オカルト研考え直せ! 何やってんのか自覚あるのか!」

オカルト研「当然よ……男くん、私を拒むなら何もしなくていい。この意味わかってくれる?」

転校生「脅迫じゃないのよ もう!!」

オカルト研「あなたもうかうかしていて平気なのかしら。目の前でキスされて正気を保っていられるの?」

転校生「す、するわけ……ないでしょ! いくら変態だって人目も気にしないで、そんな真似……っ!」

オカルト研「私に男くんを[ピーーーー]平気なのかと言ったの」

転校生「!!」

男「おい、方向を見失うんじゃな――――転校生……なに、やってんだ……?」

男(こういう時は、笑えば良いのだろうか。苦い顔して)

転校生「……キス、私にしなさいよ///」

男「お前らどうかしてるぞ! 冗談なら性質悪すぎじゃないか!?」

転校生「良い機会じゃない……私、あんたのこと好きよ。オカルト研さんに負けないぐらい好き!」

転校生「あんたも私が嫌いじゃなかったら……して?///」グイ

男「もうダメだ、転校生が持ってかれちまった……あぁ、俺にどうしろと」

オカルト研「難しく考えるほどのことじゃないわ。男くんが、選んでくれたら良い」

オカルト研「私か、そっちの女か。魅力的に感じる方を。[ピー]を奪って、男くん///」

男(これは、行きすぎた暴走で自分たちも理解が追い付いていない。道端を舞台に美少女二人が目を閉じ、キス待機で、今か今かと俺を待つこの混沌空間)

男「(やれやれだ) ……どうせ説得しても意味ないんだろ。納得させてやる」

転校生・オカルト研「っ! ……///」

男「ただし結果には文句言うんじゃないぞ、約束しろ。わかったな?」

男(小さく頷いた二人を確認し、俺は二、三歩と、歩み寄った。至近距離。鼓動の高鳴りが聴こえてくるようだ。そんな事はお構いなし)

男「(俺は、オカルト研の耳元へボソリと) 体ごと左を向いて、肩を叩かれたら大きく二歩前へ進め……」ヒソ

オカルト研「[ピッ]、[ピーーー]……///」

男「転校生、体と首を右に向けろ。それで良い……」ヒソ

転校生「か、角度が大事よね、こういうの……うん……///」

男「ふむ、転校生は少しだけ屈んでくれないか? 丁度良い高さにしたい」

転校生「か、屈めば良いの? これぐらいかしら……まだなの? あんまりじらされても、こ、困るんだけど」

男「位置ピッタリ。OK、今から行くぞ」トン

オカルト研「はっ! 男くん、お、おとこくんっ……///」

男(逸る気持ちは誰しも中々抑え切れないものだ。オカルト研は肩を叩かれると、言われたままに前進し、転校生の丁度手前で制止した)

オカルト研「[ピーーーーーーーー]///」

男「すまん、何か言った?」トンッ

オカルト研「!?」

転校生「あっ……///」

男(オカルト研の背中を優しく前へ押す、そっと、ふわりと。転校生、その通りだ。キスは角度が命と言って過言ではない)

男(これ以上ない見事な采配だっただろう。最高だ)

オカルト研「ん~~~!? んん~~~っ!!」ジタバタ

転校生「っは……ふわぁ…………あむ、んぅ……んー///」

オカルト研「んぅ~~~~~~!!?」

転校生「もう、さっきから落ち着きなさすぎじゃないの、あんた――――あっ」

転校生「    」

オカルト研「……くっ」

男(真っ白に、灰塵となって風に吹かれそうな転校生に歩み寄ろうとすれば、口元を袖で拭いながらオカルト研が睨んでいることに気付く)

男(そう、俺ではなく遺灰の彼女へ。屈辱と羞恥、並々ならぬ凄味を漂わせて)

男「これで少しは頭冷やせただろ? 悪い事したなんて一片も思ってないからな、俺」

転校生「なんですって……」フラ

転校生「私の初めてが! ファーストが! こんな子に、しかも女の子なのよ!?」

男「(滅茶苦茶だが言いたい事はよくわかる) 喧しい! さっきの俺の立場になってみろっての……」

男「それに、一石二鳥じゃないか? お陰で喧嘩両成敗に演劇のキスも問題なくなった」

転校生「キスの安売りなんて私やってないわよぉ!!」

男(純真無垢なツンデレ美少女には刺激が強すぎたか、俺の胸倉を掴み、今にも溢れそうな涙粒を作って怒りを訴えるのだ。しかし、それは)

オカルト研「……[ピーーーーーー]///」

男「暴力は止せっ、暴力は! お、オカルト研もこいつ宥めるの手伝ってくれ!」

転校生「あなただってこのバカに一発食らわす権利あるわよっ、やっちゃいましょ!?」

オカルト研「……[ピーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーー]///」

転校生「……え、何? 私に文句言うのはお門違いよ……ち、近いんだけど」

オカルト研「可愛い」ガッ

転校生「何か言っ、ひいいぃぃ!?」

男(最高の形でぶち壊される。あわよくばなんて企てていたが、流石にそれは厳しいだろうと懸念もあったが)

男(文字通りオカルト研は、瞳の奥に愛を潜めて、転校生の顎へ手を当て舐め回すよう見据えていたのである)

オカルト研「可愛いわ、あなた……屈辱でしかないのに不思議なぐらい……」

転校生「屈辱ならさっさと改め返しなさいよ!? 急にどうしちゃったの!?」

オカルト研「私には[ピーーー]しかいないと思っていた。だけれど、たった今 世界が広がったみたい」

オカルト研「新世界を あなたの中に感じるわ……転校生、さん///」

転校生「あわわわわ……へ、変態あんたのせいよ!? 助けてえっ!」

男「何だかよく分からんが、仲良くなれたんだろ? 俺が間に入るのは野暮って気がする」

転校生「この子の様子見て明らかに異常だって思えないの、あんたは!? だ、だめ! 来ちゃいや!」

オカルト研「悔しいけれど、これが愛ね 転校生さん……ドキドキしてるの……///」

男(元々その気があったのか、転校生の唇に未知の魔力が眠っていたのか、詰まる所どうでも良かろう)

男(お陰でやり易くなった。運命が、エロスが俺に味方した)

オカルト研「今日あなたと出会わせたのは運命だった。何か予定はある? なければ、おウチに招きたくて」ペタペタ

転校生「どうしてこんな急激に掌返しできるのよぉ……ううっ、変なとこ触らないで……」

オカルト研「あ、男くんも良ければ一緒にどう? あなたの悪霊も我が家に邪悪をバラ撒きたがっているように見える」

男「どういう頭してたらそんな物騒なモン 家に招こうと思えるんだ」

男(不意に考えてしまったが、最悪の場合 俺以上に転校生へ対する好感度が高まってしまうこともあり得るのでは)

男(美少女同士のソレならば大歓迎だ、しかし、メインとサブを履き違えてはならない。あくまで俺は頂点を飾らねばおかしいだろう、という古い魔王チックな思想がすっかり定着だな、俺も)

転校生「あ、あんたが一緒について来てくれるってなら 考えなくもないけど……本音だと怖いけど」

男「おい、本音だだ漏れだぞ 転校生。オカルト研はそれでいいのか?」

男「……ていうか、恐らく俺だけは歓迎される気しないんだが (“奴”との睨み合いは避けられないだろう)」

オカルト研「謙遜することはない。男くんなら私が大歓迎よ、もちろん、愛しい人も……///」チラ

転校生「全然聞こえなかったわねーっ!! あー、あーっ!!」

男「往生際が悪いやつめ――――っと、悪い。電話来たからそこで待っててくれよ」

転校生「あ、うん。……たぶんまーた女の子からなんでしょうねぇ」

男「凄いな、転校生。大当たりだ。エスパーかよ」

転校生「な、何で聞こえてんのよ!! さっさと用済ませなさいよね!?///」

男(後ろで転校生から煩く言われながら、その場から距離を置き 携帯電話の画面を確認する。出来ればここで掛かって来て欲しくなかった、美少女の名前がそこに)

男「やれやれって感じだぞ……珍しいじゃないか、お前から俺になんて」

後輩『先輩、今日 私と会えませんか。可能ならすぐにでも』

男(挨拶も無しに間髪入れずのコレだ。不自然が重なりすぎている。彼女は俺との縁を断とうとしていたのだから)

男「(何か企んでいると見て間違いないのだろう) そうしたいところだけど、生憎先約があって難しい。どうした?」

後輩『……先輩は私よりもあの人たちを優先したいんですね。ちょっぴり、ショックかも』

男「よくも白々しくやれるな、お前……っ!」

後輩『私、どうしても先輩に会ってお話したいことがあるんです。とっても大切な用事があります』

後輩『電話口でだと真面目に取り合って頂けないかなって。いけないですか……?』

男「ふむ……なぁ、まさかとは思うが お前いま近くで電話してないかね」

後輩『ふふっ、先輩にしては随分な当て推量ですねぇ。どうしてです?』

男「どうして? 前まではお前は天使ちゃんを通して俺を監視できてたよな」

男「今じゃ天使ちゃんはただのロリとなって、おまけに後輩も力を失った……それが、こんな計らったタイミングで横槍入れてくるだなんてなぁ」

後輩『あはっ』

男「邪魔したいのか? (揺るがない小悪魔美少女具合は称賛ものだ)」

男「いいか、後輩? 何を企んでいるかまだ明らかじゃないが、もうこの世界に二度とループは訪れない!」

男「いくらお前が俺の背後で暗躍しても、意味なんてないんだぜ? やり直し効かねーんだ。諦めろ」

後輩『……ふふ、ふふふっ』

後輩『あははっ、あはははは! あはははは!」

男(電話向こうで聞かされる悪役じみた三段笑いに思わずこちらも苦笑い。しかしまだ余裕ある笑いじゃないか)

男(まるで 思い違いと指摘されているような気分だぞ、後輩)

後輩『……良かったぁ、先輩って時々気味悪いぐらい鋭いんですもん。あーあ、ちょっとだけ怖かったです』

男「それで?」

後輩『ふふっ、私が正直に答えるわけないじゃないですか?』

男(ざっと辺りを見回してみたが、目ぼしい身を隠せそうな場所には後輩の姿はない。だが、付近にいる筈だ)

男「言っておくが、俺は何をされようとお前のことは嫌いになれないからな。忘れんなよ……」

後輩『はい? 何か言い、あっ……』

男(少しの間を置き、電話はプツリと切れてしまった。結局夜中に何をしていたかは聞けず仕舞いだったが)

男「(薄っすらと後輩の目的が、霧が晴れ始めたかもしれない) 遅くなったが、道端で何やってんだお前らは」

オカルト研「神聖なるハグ」  転校生「いやぁあー!!」

転校生「……あんたって、こういう家に招待されたことってある?」

男「怖気つくならとりあえず中に入ってからの方が驚く苦労も減るんじゃないか。なぁ、オカルト研?」

オカルト研「大きいだけが取り柄の家よ。案内するから入って」

転校生「オカルト研さんはともかくあんたは肝座りすぎじゃないの!? 豪邸なのよっ、大、大、大豪邸!!」

男(仰天を連発させる転校生へあえて含み笑いを浮かべてやるのは快感だ。オカルト研の事情を知っていれば、今更腰を抜かすことでもないだろう)

男(それでも屋敷内に入れば、大勢の使用人らしき女性らにお出迎えで唖然とするしかなかった。ここだけ隔離中世かと)

オカルト研「不安なら私の手を握っているといい。外界からの干渉を抑えられて、多少安らぐはず」

転校生「言ってる意味全然だけど変ってのはわかるわよ……変態、お願いだから粗相だけはしないでよねっ」

男「おう、手と足一緒に出して歩いてる奴から忠告されても」

転校生「こ、これはナンバって歩き方で、江戸時代以前の日本じゃナンバ歩きが一般人の間で広く行われ……きゃ!」

男(なんと、フラついた勢いで転校生が綺麗に転ぶ。いや、問題なのはそこではない。衝突だ。不運、あるいは悲劇、台へ乗せて飾られていた白磁の壷がガシャンと音を立てた。マの人が泣きそうな)

転校生「いやぁああああ~~~!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃっ!!」

男「バカっ、早速自分からやらかしてんじゃねーか! オカルト研すまん! 俺も不注意だった!」

オカルト研「転校生さんに耐えられない壷だなんて価値も知れてる、劣悪ね。むしろ感謝させて欲しい」クスッ

転校生「ひぃ……!」  男「愛が金に勝ったんだな……」

オカルト研「ここが私のお部屋。狭い所だけれど、嫌味じゃないわ、狭い所だけれど寛いでいって」

男「定番には定番で答えるとして、これで狭いなら俺の部屋が犬小屋レベルだぞ……」

転校生「犬でごめんなさい……」

男(美少女に三回まわってワンと鳴いてもらえたら、俺も同じ様にして応えてみせようじゃないか。お手から始めよう)

オカルト研「二人とも疲れてるでしょう。待ってて、メイドに飲み物を用意させる。美味しいお茶が丁度あったの」

オカルト研「こんなこともあろうかと男くん用に準備しておいた[ピーーー]の特別製[ピーーーーーーーーー]が」

男「よく聴き取れなかったが、そういうのは当人がいない所で頼む」

転校生「う、疑いたくないけど、変なモノ入れたお茶が出てくるとかじゃないわよね? ねっ?」

オカルト研「転校生さんはまるで禁断の果実。私は齧ってしまったのね、あなたという果実を」

転校生「変態! 通訳っ!」   男「聞いた通りなんだろ、たぶん」

オカルト研「男くんがアダムならば、私はイブ。男くん、二人で禁忌を食すべき……お茶が来たわ」

転校生「ぜったい! ぜーったい私飲まないわよコレ! さっきから嫌な予感しかしないわっ!!」

男「躍起になって拒否ったって失礼なだけだろ、転校生?」

転校生「だ、だって!!」

男「オカルト研は、家のこともあって友達付き合いに気苦労かけてたんだよ。俺も最近知ったんだけどな」

男(事実、好意の対象以外へ辛辣に当たるのはそれが原因でもあろう。転校生も面食らうが、すぐに同情するような目をオカルト研へ向けていた)

転校生「そう、だったんだ……ごめんなさい。ワケも知らずに好き勝手酷いこと言っちゃった」

オカルト研「気にしていない。転校生さんは菩薩のように慈悲深い人なのね、益々気に入ってしまう……」

転校生「私もね? 小さい頃に向こうの学校にいた時は、からかわれた時があったわ。でも乗り越えることができたの!」

転校生「だから、あなたも諦めずに私たちと触れ合っていきましょうよ! 私も出来る限り手伝うわ! な、なんて、えへへっ///」

オカルト研「それじゃあ早速手伝うと思って、これを口にして」ススッ

転校生「……おかしくない?」

男「いや、俺に訊かれてもどうしようもないわ」

オカルト研「あぁ、冗談を真に受けてしまっているのね。大丈夫。毒は入っていない」

男(毒は、なのか。本当に冗談かもしれないが、先程の雰囲気とオカルト研家の財力を察すれば、アレな薬があっても驚きはしない)

オカルト研「飲めば楽に、快楽のまま身を任せて乱れられる筈よ。きっと」

転校生「……お、おかしくないっ?」

男「ふむ、オカルト研よ。俺の分にも転校生の茶に入っている物と同じ物が?」

オカルト研「こんな事もあろうかと全員分に混ぜておくよう指示しておいた」

男「こんな事も何もないだろ、アホ……」

続きはまた日曜日

オカルト研「警戒するだけ無駄。結局のところ何ら変哲ないお茶なのだから」

男「そうか。金箔とか浮いてないだけ気は楽だが、変哲ないのかコレ」

転校生「どう考えたって高級品よ……あ~、失礼だけど一回疑ったら簡単に拭えないっ」

男(一見して普通の、訂正、高級そうな茶で芳醇な香りを放っているだけ。キケンが入っていようがいまいと、冒険に勇気が欲しいと俺たちは小市民の影を背負う。ふむ)

男「――――ほっ、中々美味いもんだなぁ」

転校生「あんたいつのまに飲んでたの!?」

男「お前こそいつまで躊躇ってんだよ。会社の取引先が出してくれた茶じゃないんだし」

オカルト研「男くん、体が[ピーーーーーー]していない? 私を見て[ピーーーー]?///」

男「何か言ったか? (隠すつもりすらない潔さ、好きだ。気に入った)」

男(実際、出された飲み物は一切口に含んでいないわけだが)

オカルト研「な、何も! ……さぁ、転校生さんも続くべき。きっと美味しいわ」

男「毒見役なら俺が買ってやったから安心しろって。それイッキ! イッキ! イッキ!」

転校生「バカ! 変に囃し立てないでっ! 余計に口にしづらくなるじゃない……」

オカルト研「わかったわ。あなたのお願いなら仕方がない、むしろ口移し上等ね」ガタッ

転校生「いただきますっ!!」グビッ

男(ティーカップを傾け、絶え間なく転校生は中身を仰いだ。その様を膝上で小さく握りこぶしを作って俺たちは見守ろう)

男(まるで実験モルモット気分だったであろう彼女は、必死の形相で一滴も残っていないカップを皿に置いて、一言)

転校生「結構なお手前で!!」

男「何がお前をそこまで力ませてんだよ」

転校生「ふう……何よ、散々脅しといてほんとに普通の美味しいお茶じゃない。オカルト研さんも酷いわよぉ、ひっく」

オカルト研「我が家では客人を持て成す作法として、こうした下らないジョークを挟むわ」

男「そりゃまた随分マイペースな……まぁ、転校生はいい勉強になったんじゃないか?」

転校生「うるはいわよぉ、ヘンターイ! まったくもぉ、ヘンタイのくへひなまいきにゃんだから!」

男「……なぁ、薬持ったとかじゃなく まさかアルコール垂らしたとかじゃないよな」

オカルト研「偶然転校生さんがこのお茶に酔う体質だったのでしょう。可愛いわ」

男「この手のネタ使い古しの上、こっちはあいにく二回目だっ…… (と、駄々をこねたところで彼女たちには関係ないのだろうか)

男(オカルト研はメイドを呼んで転校生のカップへお代わりを注がせていた。呂律の回っていない転校生は好き放題愚痴をこぼしている、顔を赤くさせて)

転校生「いっつもいっつも、わらひの気にゃんかしらないで あっひにふらふら、こっちにふりゃふらひて……む゛ーっ!!」

男「痛ぇよッ!? 何だよ!?」

転校生「ばかばかばかばかばか!」ポカポカ

男(パワーAも持さないスタンド並みの良い突きのラッシュが繰りだされたわけだが、酔ってフラフラの美少女は魅力的だった)

男(何と言ったってこの通り。瞳をとろんとさせて至近距離から俺を見つめる彼女に、思わず脳が蕩けそうに……というか、幼児化していないか)

オカルト研「あなたの気持ちは痛いほどわかる。同士転校生さん」

転校生「やぁ! ヘンタイのこと取っちゃやらぁ~! わらひのにゃの~!!」ガシッ

男「くびっ、おまえぐび絞めてるから……っ!!」

オカルト研「取る……そう、私も同じ考えしていたわ。[ピーー]は私だけの[ピーーーーーーーーー]」

オカルト研「だけれど、今日こうしてあなたに目覚めさせられて思った。共有したい、と」

男(いま気がついた。オカルト研のカップの中身も空となっていたのだ、そして待ち望んでいたぞ この瞬間)

転校生「きょーゆー、ひっく?」

オカルト研「私個人の別荘が海外の孤島にあったりする。人は住んでいない、正真正銘無人島の」

オカルト研「そこへ私たちが住めば良い」

男「私たちって、誰と誰のことだよ……?」

転校生「これ!! こーいうとこがムカつくのぉ!!」ギリギリギリ

男「おえぇ、ばっ、止せっ、一時の迷いで殺人を犯すのか!?」

オカルト研「……[ピーーー]、[ピーーーーーーーー]で、よ」

男「あー!! 何だってー!?」

オカルト研「だから[ピーーーーーーーーーーー]と……///」

男(彼女の、俺にとって理想な提案は把握した。だが、三人ぽっちじゃ勿体無いだろう? オカルト研よ)

男(昔は美少女バイキングだとか思っていた時が俺にもあった。逆転の発想だ、俺というカップ麺を彼女たち全員に囲んでもらい、有り難く分けあって貰えば良い)

男(たかがカップ麺、されどカップ麺。空腹の最中与えられたソレはご馳走と呼ぶ他なし。ああ、俺は俺の美味さアピールに必死すぎていたのだろう……)

男「(全ては我が度量の広さによって決まる、だって主人公なのだから。そうやって踏ん反り返ってしまうのが最善よ) ……なぁ、聞いてくれよ。オカルト研も転校生もだ」

オカルト研「えっ」

男「キスせがまれた時からおかしいと思ってたんだが、お前ら自分本位すぎないか?」

転校生「あんたがいえたくちひゃないでしょ~!!」

男「(酔いどれ転校生め、核心を突きおるな) 知るか、少なくとも俺は人様に迷惑を掛ける振舞いは取らん。主義に反する」

男「自分のルールを押し付けるのは気が進まないが……こんな俺を好いてくれる奴らには悪いがな!」

男「この俺の意思お構いなしで勝手が過ぎるんじゃねーか!?」

オカルト研「……やっと酔いが回ってきたようね、男くん」

男「フン、素面ですが何か?」

オカルト研「!! 悪霊の影響か……っ」

男「最初から悪霊なんて俺には取り憑いちゃいない。お前なんにもわかっちゃいないな、オカルト研」

オカルト研「い、いいえ! 男くんには確かに憑いている! 禍々しい、死を連想させるような大物が!」

男「そんな胡散臭いのは今はどうでもいい! (確かに死神がバックにいたわけで、あながち間違いでもなかったが)」

男「ていうか!! ……この際言わせてもらうが、俺もお前らのことは好きだ。だから困ってる」

オカルト研「あうっ……///」

男(いや、黙ってウットリ恍惚とされてもまた困る。先程まで騒がしかった転校生までもオカルト研に倣って)

転校生「じゃじゃじゃ、じゃーあ! わらひらちリョーオモイね! わはぁ~い!」

男(いなかった。心は幼女、しかし美少女の完成である)

オカルト研「ま、待って。そうだとしたら、男くんは元々私と彼女のことを!」

男「誰がお前たち二人だけだって答えた?」

オカルト研「……やはり、ね。私だって薄々勘付いてはいたの」

オカルト研「あなたに迫る女たちの多さは尋常ではなかった。皆が男くんへ惹かれる様は、悪魔の魔術にかかっているみたいだった……あっ」

転校生「……ねぇー……わたし すき、なの……ずーっと…………えへへ……」

オカルト研「彼女、安からに眠っているわ。続きはまた次の機会にしておくべき……こういう時のR.I.P.ね……」

男「悪いこと言わんから、どういう時に使うのかグーグル先生に教えてもらえ」

オカルト研「恐らく麗しのお姫様はしばらくグッスリね。このまま泊めていこうと思うのだけれど、お、[ピーーーー]も……///」

男「泊めるどうこうにしても、まだ昼間だぞ。俺がコイツを担いで家まで送るよ」

男(すっかりお開きムードとなった中、すやすや寝息を立てる転校生を背中に背負って俺は玄関へ立つ。と、そこに)

黒服「皆々さーん!! この、自称イケメン(笑)は少女を家に連れ帰ってふしだらな行為をー!! あ、あーっ、毒牙にーッ!!」

黒服「というわけです、お嬢様。即刻 あの者との関わりを控えるべきかと……!」ヒソヒソ

オカルト研「どうにかなって惨たらしく死ねばいいのに」  黒服「おおぉぉぉ、効きますなっ……」

男「今日は急に押し掛けて悪かったな、オカルト研」

オカルト研「そんな。私が好きで招いたのだもの、悪いことなんて一つもないわ」

オカルト研「……あ、あの、男くんさえ良ければまた[ピーーーーー]。て、転校生さんも一緒だって[ピーー]///」

男(果たしてどちらが本命なのだろうか)

男「何だか珍しいオカルト研が見れた気がするな。それだけでも、来た甲斐があったよ」

オカルト研「めずらしい? えっ?」

男「いや、何ていうかだな。女の子らしいというか……素のお前だったみたいな……」

男「って、ワケ分からないな! ……おい、どうかしたか? (白々しさは残ったが、手応え有りか)」

オカルト研「……ううん、じゃあね///」フリフリ

男(こうしてオカルト研宅を出たが、未だに日は沈まず、ランチタイム真っ盛りではないか。早朝からと考えればおかしい話ではないが)

男「イベント終えると一日の終わりも近いとか錯覚させられるぞ……ていうか、後輩の横槍はなかったんだな (てっきり無理矢理にでも突入があるかと身構えていたのだが、取り越し苦労になった。休日半日潰して収穫はやや少なめである)」

男(……好感度はこれまでで十分稼ぎ、均等にならした。もはや鈍感の烙印に甘んじる必要性もない)

男(今後は受けのスタイルから、攻めへ逆転させていく。最終的には、押し、が強くなるわけである)

転校生「……ん」

男(それにしても、背中の温もりが実に気持ち良いではないか。ほぼ転校生の体温が伝わっての事だが、うむ、顔が自然とニヤける)

男(以前にも彼女を背負ったことがあった。あの頃とは何もかもが違っている。自分の中で、余裕が出来た気がした)

男(これは、単純に美少女へ対して耐性がついたのか。あるいは……ノーコメント)

転校生「……ねぇ、何で私が変態におぶられてるのよ」

男「ようやく目が覚めたのか? あえて臭い台詞で気取れば、眠り姫みたいだったな」

転校生「よく自分で言ってて気持ち悪くならないわね、あんた……え、えっと」

男「何だ?」

転校生「……何でも、ないわよ。気にしないで///」

男「へいへい、一々毎回言われんでもだ。気が効くだろー」

転校生「――――あのさ、もしあんたに内緒にしてることあるって言ったら、どうする?」

きょうはここまで

男(完全に油断していたところにコレである。どうにも美少女はサプライズがお好きなようで)

男(意味深には意味深を返すのだ。台詞の直後、俺は足を止めて振り返らず自分なりのロールを回してやろうじゃないか)

男「ほーん、粗雑な暴力女さんにも何か悩みとかあったのか?」

転校生「あのねぇ……このぉ! 一々憎まれ口でしか返事できないのかしら、あんたって!」

男「いぃぃ!? いやぁ、それでこそ暴力女さんっ! 今日で何遍ぶっ叩かれたか覚えとくのも面倒だぜ!」

転校生「あーあー、悪かったわよ! でもバカ変態にだって非があるんだからねっ、自分ばっかり被害者ぶって」

男(フン、と鼻息を荒く吐いて腹を立てようが、背負われたままでいようとするのは信頼の証と受け取っておこう)

男(誤解される前に言っておくが、何も、シリアスを茶化したのは趣味ではない。改めてこちらから彼女の事情を聴取するためだ)

男「それで?」

転校生「……え、何?」

男「さっき言ってた内緒ってのは、たぶんお前の中で悩んでることなんだろ」

男「あ、それとも転校生じゃなくて他の誰かの話なのか? 自分が、とは言ってないもんな。それで?」

転校生「興味無さ気だと思ってたら……ううん、アレ ちょっと口滑っちゃっただけだから。別に気にしなくていいわよ」

男(気にするなと言われると、追求心が滾るのは捻くれからの性分か。無論、意地を張るしかあるまいて)

転校生「この背中……安心するから、つい自分でこぼしちゃったのかも……えへへ」

男(そんな嬉しいことを密着して聞かされてはゾクゾクするだろう。いつから頼れる背中に育ったか知らんが)

男「安心ついでに詳しく聞かせてみろよ。俺で力になれるかわからないけどさ」

転校生「え、えっと……私、あんたに黙ってたのよ? 知られたくなかったから」

転校生「力になって欲しいとか、頼りたくて言ったつもりないわ。もっと個人的な……ううん」

転校生「[       ]なのかもしれないわね、きっと」

男「はい?」

男(……難聴? 発動した、のだろうか? いや……何だ、この感覚は。妨害されたことに腹立たしさを感じたというよりも)

男(聞こえなくて、良かった、そう自然に思っている俺がいたのだ)

男「……転校生。その秘密とやらは、俺と初めて会ったその時からずっと隠し通してたのか?」

転校生「ごめん、なかったことにしといてくれない?」

男「(ここで初めて後ろに背負った彼女の表情を窺った。得体の知れない、奇妙、に胸をざわつかせながら、ゆっくりと) ……?」

男(てっきり現実で最後に見たあの神の使いのような無機質な表情を覚悟していたが、思いの外)

転校生「さてと、それじゃこのまま一緒にお昼食べに行きましょ! ねっ、マヌケ面!」

男「だ、だれがマヌケだ…… (ただの思わせぶりだった。杞憂である。まぁ、そんなワケがないと気付いていたとも。だが)」

男(この時ばかりは、隠された真実へ触れることで、全てが、終局へ向かうと思いもしなかったのだ)

男の娘「えへへぇ~、丁度退屈してたところにお誘いありがとうだよ~。男、転校生さん!」

男「……」

転校生「ん? 何よ、たまには休日にいつもの三人でだって悪くないじゃない?」

男「べ、別に不満そうにしちゃいないだろ! ただお前が他に誰か誘ったのが意外だったというかだなっ……」

男(先程の一件あってからなのだ、色々勘繰りたくもなる。それに自らのイベントへ他者を招き入れたのが、いや、大概転校生も天然成分入っているからな。行動が読めん)

男の娘「お昼食べに行くんだったよね。どこのお店に入るか決めてるの?」

転校生「そう、そこなのよ。コイツ頼りにしたら、どうせ適当な場所に落ち着いちゃうかと思って」

男「ラーメンが適当だと?」   転校生「ほぼ毎週食べ歩いてるじゃないのよ!」

男の娘「うーん……僕も特に目ぼしそうなとこは知らないけど、ラーメンなら部長さんの方が詳しいと思うな」

転校生「だからラーメン禁止!! も、もっと食べる物ってあるじゃない! ほら!」

男「ワガママか転校生。ラーメンはお手軽で庶民的で、俺ら金欠学生の味方だぞ? 飽きたとか万死に値するわ」

男の娘「あはは。でもまぁ、僕も転校生さんの気持ちわからなくもないかも……」

男(その後は偏食家だ何だと転校生から文句を言われつつも、しばし俺たちは商店街を彷徨い歩いた。未知なる美味を求めて)

男「そういえばこの中華料理屋、先輩さんの実家なんだと」

男の娘「へぇー……ええっ!?」

転校生「うそでしょ!? あんたそれって本当なの!?」

男「そこまで驚くことかねぇ、ウソ吐いたって得になんかならないだろ。何だったら入って確認してみるか?」

男の娘「あんなラーメン狂いだったのも、そんなルーツがあったからだなんて……」

男「実家だけ見てその納得は偏見だろうが。良かったな、お陰でランチが決定したし」

男(とは言ったものの、始めからここへ連れて来ようとしていたという。不良女に感化されて先輩も尻に火が着いた様子だったからな、こちらから出向いてやれば話は早い)

男(早速、暖簾をくぐった俺たちを迎えてくれたのは、素手でクマを屠れそうな豪傑臭漂うオヤジの威勢の良い「らっしゃい!!」。中々に繁盛していそうな雰囲気だ、が、それもその筈)

男の娘「何となくだけど、お客さんのほとんど男の人ばっかりだねぇ? 男」

転校生「ほんとねー。ていうか、みんなそわそわしてる感じだわ。ふふっ! 料理も期待できそうね!」

男「俺には他に本命がありそうな気がする奴らばかりに見えるんだが」

男性客たち「あの子はまだか! 物売るってレベルじゃねーぞ!」

男子たち「俺、今日こそメアド教えてもらうんだ。通い詰めてたし、前 顔覚えててくれたし、勝機あるよね」

男(明らかに下心を持ち込んだ輩だらけの卓が目立つ。皆、料理とは別の何かへ舌舐めずりしたがっているのだろう)

店主「突っ立ってる兄ちゃんたち、空いてる席に好きに掛けてくれや」

男の娘「あ、はーい! とにかく座ろっか、それから部長さんに連絡してみようよ」

「おおっ、君もかわいいねぇ!」

「いくつ? 高校生なの? ビックリだよ、この辺の学生は洗いざらい調べ尽くしてたと思ってたのに」

男の娘「ぼ、僕、男子なんですけど……」

「最近流行りの僕っ子ってやつかな。そういうのも有りなんだってね、おじさん理解あるよ」

男「(これは、ようやく待ち望んだ悪漢に絡まれる美少女、もとい、男の娘を俺が助けるイベントか。やってみたかったのだ、こういうテンプレってヤツが) 何が理解だ、まったく的外――――」

先輩「おじさーん、その子 可愛いけどほんと~~~~に男の子だからね?」

男「……何となくわかってたけどな、こういうの」  転校生「は?」

「おやおや!? そ、そうだったのかい……でも、お嬢ちゃんの方が魅力たっぷりだよ。そこのとこおじさん忘れてないからね」

先輩「えっへへ、もぉ~お世辞上手だなぁ! このこのっ!」

「そうなんだ!! おじさんはお世辞一本で社会を渡り歩いた凄い人なんだよ!!」

転校生「部長さん、呼ぶ前から出て来ちゃった……ていうか、その恰好は」

先輩「やぁやぁ、若人たち。特に男くんようやくウチに顔出してくれたねぇ、お姉さん待ってましたよー! マジで!」

男「お邪魔してます、先輩さん。丁度店の前通り掛かったもんで、良い機会かと」

男の娘「あ、あの、さっきは助けてくれてありがとうございました! 僕、ああいう時どうにもできなくって!」

先輩「君めんこいからねっ、仕方ないね。そりゃ……あ、転校生ちゃんもねぇ!!」ビッ

転校生「おまけみたいに付け足すのやめてっ……!」

先輩「お客さんたち色んな人いるけど、みんな常連だし悪い人いないから心配しないでご注文をどうぞ!!」

男「全部ぶっ込んでくスタイルで無駄を省く店員の鏡に敬意を表しマーボー豆腐半チャーセットをお願いします」

先輩「ホレホレ二人も続いた!! 中華は早さが命だよ!!」

男の娘「じゃあ男と同じ物を!! わ、わ……お[ピーー]になっちゃった///」

男「何か言ったかー? それで転校生はどうするんだよ、お前も同じので注文通そうか?」

転校生「フフーン、あんたたち何にもわかってないのねぇ。こういうお店では特殊なメニューがあるものよ?」

男の娘「特殊?」  男「どっかでかじった知識披露したいだけだろ」

転校生「見くびらないで欲しいわね! 部長さん、私は裏メニューをお願いするわ!」

先輩「な、なんと……“アレ”をご所望かい……?」

転校生「えぇっ、ほんとにあったの!?」

男「足掻いた所でにわか丸出しじゃねーかお前!! 先輩さんもうこれでお願いします」

先輩「はぁーい♪ ウチのは美味いよ~、なんたって店主の血と汗と変なのが混じった隠し味入りだからねっ!」

男の娘「そのまま隠しておいたままにして欲しかったなーって……あはは」

転校生「にしても部長さん、よく働いてるわね。実家のお手伝いやってたなんて偉いわ」

男(この分じゃ立派な看板娘だろう。容姿ももちろん、底抜けな明るさも手伝って男性客が群がるのもわからなくもない。そんなアイドルを横から搔っ攫う、正に外道か主人公補正)

男の娘「そうだったんだ、二人で朝からオカルト研さんの家に……[ピーーーーー]」

男「(の、ノータッチノータッチ) 転校生てばアイツにすっかり気に入られたみたいでな。今度みんなで遊びにでも行くか」

転校生「また廃墟とかだけは勘弁して欲しいけどね。ほんと、あんたと一緒にいると呆れるぐらい色んな人と知り合いになるわ」

男の娘「僕も、男と仲良くなってからかなぁ。交友の幅広がったよ~。ほとんど[ピーーー]だけど」

男「ま、まぁ! いいことだろ! ……しかし、よく考えればまだお前らと一緒にいるようになって長くもないんだな」

男「こういうこと言うのって照れ臭いけど、お前らで良かったよ。仲良くなれたの」

男の娘「ぼぼぼ、僕も同じ気持ちだよ!! 男と出会えて[ピーーーーーーガーーーーーーー]!!///」

転校生「こういうのが上手い人って八方美人って言うわねー……」

男「ほー、お前も水差すの上手くなってきたんじゃねーか? えぇ?」

転校生「事実だわ。あんたがそうやってみんなに良い顔してるから……な、何でもない!」

先輩「何だねなんだね、神妙な面しおってからに。せっかくの美人が台無しでっせ、旦那?」

男「何がとは言わないけど矛盾してないですか、それ」

先輩「細かいこと気にしないの! じゃーんっ、お待ちどう! マーボー半チャーセット二つ、と!」

先輩「裏メニューとか無いって怒られたからホイコーロとラーメン作ってもらっちゃったよ」

転校生「らあっ……!?」

男(俺のチャーハンと転校生のラーメンを取り変え、事無きを得たことは言うまでもない。気兼ねなく目の前の料理に舌鼓を打っていれば)

先輩「へへ~、ちょっと休憩もらって来ちゃったよ。どう? 美味しいっしょ?」

男の娘「美味しいです! 冗談ってわかってるけど隠し味の話を意識しなければだけど……」

先輩「そりゃ良かった! あ、お代とか気にしなくていいから。今日はわたしの奢りだよん」

転校生「えぇ!? で、でも忙しい時に来ておいて悪いわ!」

先輩「いいのさー、元々そのつもりだったし。ねぇ、男く~ん? [ピーーーー]?」

男「え、何か言いました? ちょっとチャーハンかっ込んでたんで――――」

男(そういつもの誤魔化しで波立たせることなく終える予定だったのだが、台詞を遮って、背後から先輩さんがのしかかった。視線が、俺へ、集中)

先輩「ごっめーん! 抱きしめたい背中がそこにあったもんで!」

転校生「ば、バカ変態こんなところでもあんたって奴は!!」

男「えっ、俺なのか!? 先輩さん、いま飯食ってるんで困りますって!」

先輩「ね……あとで、時間ある?///」ヒソ

男「……な、何ですか?」

先輩「トイレ抜けるフリして店の裏に来てくれないかな、話あるの」

先輩「じゃ、お願いね~!! 皆さんごゆっくり~!!」

男(展開が高速すぎる。店裏なんて良いイメージがないのは除いて、どんなイベントが待ち受けるかなど想像も余計な筈だ)

男「(望むところ、チャレンジ精神も漲ろう) トイレ行ってくるから、お冷でも飲んで余韻に浸っててくれ」

男の娘「あ、僕も着いてくよ、男。転校生さんごめんねぇ」

男(そう来るか、策士じゃないか。それでこそ腹黒兄妹の一角よ)

転校生「二人ともトイレなの? うーん、仕方ないわ。じゃあ待ってるから早めに済ましてきてね?」

男「男の娘、悪いが先に行っててくれないか? 電話だ。先にこっちに出たい」

男の娘「えぇ? もう、間の悪[ピーーーーーーーーーーーー]……」

転校生「あんたもしょっちゅう誰かから連絡来るわねぇ。ん……私も、もっと頻繁に電話かけてみようかしら……///」

男「何だって? 急用だからあとで聞かせてくれ、じゃ」

転校生「あっ……うぅ~……」

男(美少女からのコールにはいつでも応答するとも、案ずるなかれ、なんて。店から出た俺はそのまま裏口を目指す)

男(そこには休憩中だったであろう先輩が、棒アイス片手に携帯電話を弄って待っていた。誰を? 言わずもがな、である)

先輩「おっす、お疲れーって言うのも変だよねぇ。えへへ、待ってた!」

男「言われた通り素直に来ましたよ。話って、誰にも聞かれたくないことですかね?」

先輩「身構えんなよぅ……んじゃ、単刀直入にいきましょーか」

男(シリアスな赴きで、先輩は俺をじっと見据えて口を開く。鬼か蛇が出ようと、いや、出るわけが)

先輩「このあと男くんハウスにお邪魔しちゃってOK?」

男「……は?」

先輩「あ、都合つかないなら全然いいんだよ! 体のお[ピーーーーー]とか企んでたわけじゃないし! ……じゃないし///」

男(企まれても回避せざるを得ないが、断るには血涙を流す羽目になるのは間違いない)

男(しかし、美少女たちもここになって体を張ることを覚えてきたか。一筋縄では難聴鈍感を崩せないと悟ったのだろう)

先輩「ていうかーぶっちゃっけー……えっと、で」

男「で?」

先輩「[ピーー]……したいなぁ~って話なんだけど///」

男(いつものハツラツ加減も失せて、すっかり大人しくなる美少女に心奪われる。これが自然の摂理なのだ)

男「(デート、で確かだと思われる) お、俺と先輩さんが? 唐突すぎるっていうか、あの」

先輩「いやぁ~昨日偶然生徒会長ちゃんと歩いてた男くん見ちゃったわけなんだよー!! はっはっはっー!!」

男「何だとッ!? あっ、え、そ、そうなんですか……」

男(動揺することもなかろう。いつかは見られると覚悟していた、大っぴらに行動していればどうしてもだ。それに)

男(バレたところで、こうしてアクションを起こしてくれてむしろありがたいじゃないか。先輩よ)

ここまで

支援絵です、楽しいシーンが多かったので描いてみました

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最終スレもひっそり応援してます!

男「あの日は生徒会長に映画に誘われたんです。チケットが余ったからどうだって言うから、予定なかったもんで」

先輩「ふ、二人だけで映画[ピーー]……ズルい!」

男(手段を選ばないと豪語しておきながら、抜け駆けなど犯さなかった先輩だ。親友だけはと信じていたに違いない。おぉ、俺のせいで、遂に友情にヒビが)

先輩「どーしてわたしも誘ってくれなかったかなぁー!! 映画通よ、わたし! 映画LOVE!」

男「そうなんですか? 意外です。先輩さんはてっきり映画館は寝る場所とか思ってる人かなぁと、へへへっ」

先輩「うんうん! よく寝られるよねぇ、暗いし、とか寒いコントさせちゃうんだ~……きみぃ」ジト

男「とりあえず漫才コンビ組んじゃいます?」

男(ほっと一息……しかし、これが本音なのか果たしてかである。難聴フィルターにかかった言葉が気掛かりすぎる)

男(生徒会長が月ならば、それと相反する太陽の美少女・先輩。されど実体はナイーブガール。特にこの手のケースにおいては顕著だ)

男「ていうか、見かけた時に声かけてくれたら良かったじゃないですか」

先輩「そりゃそうだけどー……だって[ピーーーーーーーーーーーーー]」

男「(炙れば一発だな、ダークサイド先輩) ん?」

先輩「じゃ、邪魔しちゃ悪いと思ったんだよ。二人とも楽しそうだったし、そこでわたし出ていっても空気読めてない子じゃん……」

先輩「あーっ!! 男くんいま、いつも空気読めてないとか思ったりしたっしょ! そんな顔してた!」

男「いや、先輩さんは俺たちの誰よりも周り見えてる人ですよ。一部長なだけある」

男(面と向かってそんな事を真顔で答えられてもみろ、ナルシストを除けば誰しもはにかむのだ。彼女も例外ではなかった)

男(頬をポリポリ掻いて照れて見せる。そして前触れなく俺を抱き寄せるのだった、これぞ、照れ隠し。計画通り)

男「ぶぎっ!?」

先輩「嬉しいこと言って喜ばそうとかしたって、そうはいかないんだなぁ~!! うりうりぃ!!」

男「は、離してくださいよ! 俺は別にそんなつもりで言ったんじゃ、先輩さん苦しいですってば!」

先輩「かぁー、またまたご冗談ばっかりを~! ……わたしを[ピーー]ッてさせた責任取って」

男「え?」

先輩「……え、じゃないよ。そろそろわたしにも本気出させて欲しいな、男くん」

男(胸に埋まりながら聞かされても集中は分散される。そうか、この豊満な胸は人々の意識を吸い取ってここまでビックバンに)

男(と、現実を逃避させる柔らかさにウットリしていれば、体が彼女から離された。次の瞬間には、逆に、だ)

男(先輩が俺の胸に自身を預けて、顔を埋めていたのである。本日はスキンシップ過多日和、快晴)

男「あの、先輩さん?」

先輩「この状態をさ、中の転校生ちゃんたちに見られたら」

先輩「ど、どう[ピーーーーーーー]かな……///」

男(実力行使だと?)

男(前台詞から予測できる内容、彼女の策は、呼び出した転校生たちを錯覚によって早とちりさせることだろう)

男(場所や時間を選ばず、何かにつけては俺へ抱きつく先輩であろうとだ。この場所で、二人切りで、という状況下においては意味を匂わす)

男「(あたかも、俺たちが特別であるのを演出させていると思われる。謀ったな、黒き太陽美少女) い、いい加減にして戻りましょうよ。二人も待ってますし」

先輩「でもね、こっちがもう少しここで待ってれば、心配して探しに来てくれるよ」

先輩「それぐらいあの子たちにとって男くんは[ピーーーー]てるんだもん……かならず、見つけてくれる」

男(まさか 俺の主人公特性『世界は俺を中心に廻る(どこでもバッタリ)』を理解し、利用しようとでもいうのか。やはり、彼女は違う)

男「(観察眼がずば抜けているある種の天才だ) 意味分かりませんよ! いいから離してくださいって!」

先輩「いやー 勘違いって怖いよね、男くん。些細な、ほんのちっちゃな切っ掛けで」

先輩「何か変えられることだってあるんだからサ」スッ

男(携帯を取り出した!? 何だ!?)

先輩「ごめんね、男の娘くんに電話かけるよ!」

男(そう宣言した彼女は続いて、通話ボリューム設定はどこだこうだと、ブツブツ呟いていた。察したとも)

男(厄介なことに先輩は俺をガッチリ拘束し、身動きを既に封じている。携帯電話の操作も死角外だ、実に、厄介)

男「(全力で阻止させてもらう。鈍感主人公の名にかけて) あっ、生徒会長!!」

先輩「!!」

先輩「わは~ や、やぁやぁ、生徒会長ちゃん奇遇だね~!! こんなところで――――」

先輩「って、どこにもいないじゃん!?」

男「あれ? すみません。俺の勘違いだったのか? (そもそも奇遇も偶然もあって、こんな店裏に人は来ないだろうに)」

男(だが お陰で自由になれたぞ。予想通り、意外な所での生徒会長の名前に動揺したのだろう、向こうから勝手に離れてくれた)

男「ぎゃあああああああぁぁ~~~~~~!!?」

先輩「うひゃあっ!? な、なにっ、どうしたの急に!?」

男「み、見てなかったんですか!? 今 あそこの角で生徒会長が立っていて、煙みたいに消えちゃったんですよぉ!!」

先輩「角に……? ま、まさか……わたし、ちょっと見てくるからそこにいてね。むむっ……」

男(頼れる先輩だ。脅える俺に小さくとも強い背中を見せようとしてくれているのだな、異性といえど憧れてしまう)

男「(根も葉もない虚言にも付き合ってくれるなんて、素敵すぎるチョロ) ゲフンゲフンッ」

転校生「変態! 外から大きな声聞こえたけど、どうかしたの!?」

男の娘「男、無事だったんだね! ぼ、僕 男に何かあったら[ピーーーーーーーーーー]!」

男「ああ、でっかいネズミが足元通っただけで特に何もなかったぞ」

先輩「男くーん、見てきたけど別におかしな物とかは……あれ?」

男(だろうな)

男の娘「部長さんまだ時間掛かっちゃうかなぁ。でも、面白い所ってどんなだろうね?」

転校生「この際どこだって構わないじゃない。丁度遊ぶ場所に困ってたんだし、でしょ?」

男「そういやあの人さっき赤いコートの女自縛霊が出るって噂の駅見つけたとか話してたな」

転校生「あぁ~……もう、廃墟とか自爆するユーレイとか勘弁してほしいわよっ!!」

男の娘「たぶん転校生がイメージした自縛と違うと思うかな……僕も同感だけどね」

男(先輩が手伝いから解放されるまでの間、ジュース片手にコンビニで俺たちはたむろしていた。この分だと立ち読みに現れる先生もあり得なくもない)

男の娘「ところで、さっきから僕のことチラチラ気にしてない? 転校生さん」

転校生「えっ!? みみみ、見てなんか、ないわよ!?」

男「ウソ吐け。ずっと気にしてただろ? お前ひょっとして朝に話したアレで……」

転校生「わぁー!! わぁー!! 知らないしらないっ、言うなバカ!」

男の娘「んー? あっ、部長さん来たみた……い?」

男(彼の何とも言えぬ表情に、浮かべた疑問は訊くまでもなく理解してしまった。その正体は、向こうからやって来た先輩が担いできたという)

天使「煮て食われるっ、いやぁー!! 自分なんか食べても三日三晩腹痛に悩まされるだけですよぉ~!?」

先輩「ぃよーう! お待たせおまたせ、やぁー 道端にコレ落ちてたもんだからつい!」

男「ツインテールに対するグドンみたいな図だな……」   転校生「はぁ?」

転校生「て、ていうか、その子あんたの家でお世話になってる女の子じゃないのよ!」

男(こちらはすっかり天使ちゃんに苦手意識ができているようだな。会うたびに捲られて、脱がされじゃ当然か)

天使「男くん! 男くんじゃないですか! 良い所にっ、早くこのケダモノをどうにかしやがれですよぉ!」

男「その前に一つ訊きたいんだが、お前外で一人になって何やってんだ」

天使「これ!!」

男(と、グイっと鼻の先に押し付けられたのはエコバッグだった。ここまでの道のりが容易に、ドキュメンタリーチックで脳内再生される)

先輩「ここだけの話、初めてのおつかいの途中だったらしいんですよ! はい!」

男の娘「わっ、妨害どころかさらって来ちゃったんだこの人……」

天使「幼馴染ちゃんママからお願いされてっ、ぐす、余ったお金で好きなお菓子買って食べていいって、言われたんでふっ」

天使「なのになのにっ、コイツが自分のおつかい邪魔して、わあーーーんっっ!!」

転校生「わかったわ、早いとこ元の場所に返してきちゃいましょうよ!」

男「あのな、お前 物じゃねーんだから……ちなみに何を頼まれたんだ?」

天使「それは! それは、えっとね、ちょっと待ってやがれです。いますぐ思い出すんで5秒ください!」

男「1、2、3、4、5。答えを聞こう」

天使「もう、そう訊かれても……」  男「往生際悪すぎだろ」

男の娘「初めてのおつかいだったなら、忘れた時用のメモとか渡されたんじゃない?」

天使「おぉ! 受け取ってた! お前もチビのくせに中々やりますねぇ、名誉チビなのです!」

男「ウチからそう遠くじゃないが、コイツ一人で行かせるのも若干不安が (ここで気がついた)」

男(今まで天使ちゃん一人で外を歩かせるなど、いや、抜け出した事は多々あったが、幼馴染母がその様な無謀を行わせた試しは一度もない)

男(幼馴染の“血筋”ならば、過保護は間違いなし。すなわち……)

幼馴染「……あっ」

男(典型である、ポストの裏に身を隠した彼女と目があう。先輩の誘拐にまで目を瞑っていたのなら、徹底したスト―キングだ。というか、着いて来た意味を疑う)

幼馴染「ん! ふ! あー!」ブンブン

男(涙ぐましい。このまま気付かぬフリをしてくれと言わんばかりに、幼馴染はこちらへジェスチャーを送る)

男(だが、困ったイベントじゃないか。天使ちゃんを連れていれば、かならず幼馴染も付いたままだろう。面倒を想定すればご退場願いたいが)

先輩「男くんや! せっかくだからわたしたちはテンテンの様子を裏で見守る保護者役に徹すべきじゃないかい!」

男「それ本人の言っちゃ台無しでしょうが。黙って見送るのが俺たちの役目でしょう?」

転校生「えっ、でもあんたさっきこの子一人だと不安って話したばっかりじゃないの」

男「……おい、さっきまでの反応どこ飛んでったんだ」

先輩「よっしゃ 決まりだねぇ!!」

先輩「テンテンに異常無し、繰り返す、テンテンに異常無し。強いて言うなら背後が物凄く気になっちゃってるねぇー!」

転校生「そりゃ気にもなるわよ……」

男の娘「男ぉ。たぶん今更なんだけど、これってほとんど意味ないんじゃ」

男「ケチつけるならリーダー兼発案者に頼む」

先輩「ったはぁ~ 冷めるなよぉ、男くーん。これでもしテンテンが不審者に襲われでもしたら取り返しつかないっしょ?」

先輩「ほれ見てみ! あんなあどけないロリっ子が一人街をゆく……わたしたちが後ろに付いているだけで、どれだけ心強いか」

転校生「傍から見れば、ちょっとしたボディガード紛いね、まったく。これなら堂々と一緒にいた方がマシよ!」

先輩「転校生ちゃん、それじゃ初めてのおつかいにならない。無事達成させることが任務であって、手助けじゃ意味なし!」

男の娘「一理あるような、よくわかんないような……あっ、目あっちゃった」

天使「     」ブンブン

男(手を振って激しく自己アピールをしている天使ちゃんに、俺たちは、苦しげに、愛想笑いで手を振り返した。約一名を除き)

先輩「ぎゃは~!! 何すかアレ!? めっちゃかわいい! もぉーおーかっぱらいたぁーいッ!!」

モブたち「母上、あそこに不審な輩どもめが。故に」  「心得た」

男「これって、ようは敵は味方にいるってオチだな?」

転校生「オチも何も最初から確信犯だったじゃない!! 私たちまで変な目で見られてるしっ!」

男(転校生の嘆きも理解できる。モブの視線は天使ちゃん以上にこちらへ釘付けだった)

男(ここで不意にもう一人の守護神をチラリ。……ダンボールだった。いや、小脇に抱えていただけなのだが、それで何をしようというのだ。美少女よ)

幼馴染「ん」クイッ

男(再びジェスチャーで何かを伝えている。難聴で鍛えられた俺にとって造作もない、ここは任せてどこかへ行け、である)

男「(厄介がそのまま天の助けとなるか) 先輩さん、通報される前に退散しときませんかね?」

先輩「男くんたちは先に逃げて、わたしに任せていいよ! 御用になろうと意地で持ち帰る!」

転校生「勝手に私たちまでそっち側に巻き込まないでよ!?」

男の娘「あれ? ていうか、あの子いなくない?」

男(揃って間抜けに「あっ」と声を漏らしていた。確かに先程まで跳ねていたロリ天がおらず、おまけに幼馴染までも)

先輩「だはぁー! こりゃやっちまったねぇ!」

転校生「頃合いだわ。どうせ私たちがいなくても、しっかりおつかいぐらい出来るわよ。行きましょ」

男の娘「あー……でも、どこまで買い物に行くんだろうね? 全部その辺のスーパーで買える物っぽかったんだけど」

男「ふむ、どうりで妙にアイツがぴったり付いて来たわけだ」

男の娘「アイツ? えっ、まさか男をつけ狙う[ピーーーーーーー]」

後輩「皆さんこんな所でコソコソ何してるんですか……?」

男の娘「そっちこそ、どうしてここに……」

男(未だに電柱の裏で収まらぬ隠密を続けていた俺たちを、後輩が見下ろしていた。あと少しばかり屈めれば、な、ミニスカが幸いしてゴーニョゴニョ)

後輩「偶然通り掛かっただけですよ。でも、兄さんたちがあまりにも怪し過ぎて」

転校生「やめてっ! お願いだから冷めた目で正直に言わないで!」

先輩「おや、男の娘くんの妹ちゃん? それより妹なんていたんだねっ、今日からわたしの妹にもさせてくれませんかね!?」

男の娘「そ、それって! 困りますよぉ!///」

男「考え無しに言ってそうだから心配しなくていいと思うぞ (魅力の兄妹丼はこの俺が頂くぞ、先輩よ)」

男(それにしても白々しく何をしていたと尋ねるか、後輩。事の経緯を聞かされクスリと含み笑いを浮かべている)

後輩「楽しそうですね。肝心のその子は見失っちゃったみたいですけど、ふふっ」

転校生「楽しいどうこうよりも冷や冷やしてるんだから。主に部長さんのせいで!」

先輩「はっはー、カッカしないで切り替えていこうじゃありませんか~♪ 良かったら後輩ちゃんもおいで、お菓子あげるからさ!」

男(数分前までの彼女のせいで、その台詞は胡散臭さを放っている。この場の誰もがそう感じたのだろう)

後輩「いいんですか? えっと……兄、さん?」

男の娘「うぇ……お、男?」

男(何故俺にたらいが回ったし)

男(断る理由もなく、愉快な一行へ新たに後輩が加わったわけだが。嫌だな、何がと言えば、疑う自分にだとも)

転校生「あの子は放っておくとして、他に楽しめることってあるかしら?」

先輩「お姉さんに任せなさいよー。最近出来たてのアミューズメントパークがあってね、そこ格安のバッティングセンターがぁー」

男の娘「僕、お小遣い入ったばっかりだから全然付き合えます!」

男(顔面レベルの高い要素に目を瞑れば、至って平凡なやり取りであろう。そんな中で現状浮いてしまっているのは、俺と)

後輩「私の顔に何かついてたりしますか、先輩?」

男「……今日はやけに俺に絡むな。朝からご足労なこった」

後輩「ふふふっ、先輩こそ休まる暇も無くて大変そうですね。いえ、疲れてる場合じゃないんですか?」

後輩「幼馴染さんにどう言い訳するのか、見物でしょうね。可哀想に」

男「なぁ、お前って自分の力使ってアイツらに違和感なく設定合わせてたんだよな。男の娘の妹とかいうのも。力が無くなっても、その辺の心配いらないのか」

後輩「見てもらっての通りですよ……ただ、兄、男の娘とは毎日家で顔を合わせていないことになりますかね」

男「何? どういう意味だ、それは?」

後輩「どうでも良いことじゃないですか。私も特に困ってませんからね」

後輩「兄も、気にしてなさそうでしたし……」

男(ほう、鈍感力まで神に与えられたらしい)

転校生「わぁ~! 野球自体そんなに興味なかったんだけど、こういう場所があったのね! 日本スゴイ!」

男「バッティングセンターありがたがってるとかお前ぐらいだろ…… (俺も初めて来たとは言い出しづらいぞ)」

男(バットが硬球を弾く小刻み良い音が響く。隣にはボウリング場があるらしく、人の入りも多く盛況らしい。やはりリア充の遊び場と偏見が抜け切れん)

男(しかし、こういった場所に女子が数人もいるというのは珍しい、のか? まずカップルでもなければ積極的に利用しようとは考えまい)

先輩「男の娘くんファイト~!! かっとばせやー!!」

男の娘「あわわわ……ば、バット三本とも重たくて振り回せないよぉ~」

男(お前は非力な美少女か。あながち間違いでもないが、華奢な彼が打席で構える姿は、生まれたての小鹿を彷彿させる)

後輩「兄さん、前に集中しないと危ないですよー」

先輩「ホームラン出せないと帰れないからそのつもりでガンバだよっ!」

男の娘「ひぃー!!」ブンッ

転校生「どうしようどうしようっ、アレ楽しそう!! 変態もやりましょうよ! ねぇねぇ!」グイグイ

男「どこのガキだお前はっ……!」

男(隣で目を輝かせて無邪気にはしゃぐ転校生に愛らしさを見出しつつ、恐らく回ってくるであろう俺の出番回避の方法を思考中)

男「ほーう、よく見たら色々筐体のゲームとか置いてるんだな。待ってる間の暇潰しにってか」

男「俺、飲み物買ってくるついでに辺り見てくるから (後輩でも呼んで時間を潰すのがベストである。確実にこの場を離れたら、来る)」

男「運動あとのコーラは美味い。こう、如何にも体に悪い物が流れ込んでくるような……」

男(そんなバカみたいな独り言にツッコむ美少女は現れなかった。やけになってノリツッコミしたくなってくるぞ)

男「ていうか、マジでアイツは何がしたいんだ? ……男の娘が気掛かりみたいだったのか?」

男(逆に、男の娘自身も後輩を気にした様子はあった。微妙な変化ではあったが、彼は妹を見た瞬間、目を丸くさせて)

男(そう、まるで久しぶりに会ったみたいな)

男の娘「ふぃ~、ようやく解放されたよー」

男「おっ? どうだったんだ、無事ホームラン打ってOK貰えたのかよ」

男の娘「ううん。一本も打てなかったけど、クラス発表の練習あるから筋肉痛になったら困るって説得したら……えへへ」

男(即座に、筋肉痛を理由に体を起こせないから無理だとサボる発想に繋がった自分に屑を垣間見た。対極な男の娘は隣に座って、汗を拭う。なんと輝かしいのだ)

男の娘「日頃の運動不足だったってこと、よくわかったよ。男は割と大丈夫そうだよね?」

男「いや、遅刻ダッシュじゃ解消されねーから……」

男の娘「あはは。えっと、なんか久々に男と[ピーーーー]になれてるね……///」

男「えぇ?」

男の娘「な、何でもないよっ! 気にしないで~!」

男の娘「あ、ごめん!! やっぱり気にして!?」   男「緩急激しいな!?」

男の娘「僕……不良女さんのあの時の言葉で思ったんだ。それに、合宿の時の男の言葉が忘れられないよ」

男の娘「もう僕の[ピーーーーーーー]!? おかしいって自覚はあるけど、それでも男が[ピー]で[ピー]で堪らないの!///」

男(後輩そっちのけで男の娘イベント到来とは思わなんだ。しかし、どうだろう。誤魔化しの話題をこちらは手に入れたあとでな)

男「一つ訊きたかったんだが、後輩とは上手くやれてんのか?」

男の娘「ちょ、ちょっと待ってよぉ! 今はそんなことより……」

男「そんなことって事はないんじゃないか。アイツの顔見るたび侘しそうにして見えたの俺だけか?」

男の娘「……あは、男は僕のこと何でもわかるんだね。凄いや。[ピーーー]」

男(何でもはわからない。ウィキペディアに載って、載ってなかろうが、些細な美少女の変化は見逃さない。鈍感主人公あるある時々鋭いという設定)

男の娘「実はね、前よりも妹と話すことなくなっちゃったんだ。ていうか、ほとんど会わない」

男の娘「おかしいよね? お互い同じ家の中にいる筈なのに、今日なんて何日ぶりだろ。大袈裟かなぁ」

男(訊いてもいないのにベラベラ抱えた事情を語りだすのは美少女共通だな。だが、先程の変化はそういうワケか)

男「心配してるんだな。後輩、自分の妹のことを?」

男の娘「……えへへ」

男(我ら長男の悩み、妹、である。どんなに無関心を偽っても彼も同じく下を気にする兄弟なのだ)

男「それ飲み終わったら行くぞ、男の娘。俺がお前らのパイプ役になろうじゃねーか」

転校生「あんたどこ行ってたの? 留守の間にどれだけ、あー、ほ~むらん? 打ったかわかんないわ!」

男(と、景品を両手いっぱいに持った転校生がただでさえ高い鼻を高く、高く、伸ばして天狗ぶる。頭を撫でたら赤面するのだろうか)

先輩「ていうか、男くんまだだよねぇ? 何々? 四番バッター気取りですかい? 打つのかい?」

男「ええ、打ちましょう。ついでに後輩……それと男の娘が再チャレンジしたいらしいんですよ」

男の娘「えっ!?」

後輩「私、ですか? 私は出来れば見てる側で遠慮しておきたかったんですけれど」

転校生「こんなに楽しいのに見てるだけだなんて勿体ないわよ? 失敗してもいいからやった方がいいわ! ねっ!」

男(計算通り、脳筋バカとなった転校生が味方してくれた。後輩もこの空気で嫌とは言い出せなかったのだろう)

男「(俺たち三人は共にバッターボックスへ立ったのである) ようは振ってボールに当てりゃ良いんだろ。猿でもできるわ」

男の娘「お、男……どうして僕まで、そんなことより、これってどういう意味……?」

男(男の娘から視線を移し、俺は後ろを振り向く。先輩と転校生がこちらへ向かって何かを叫んでいた。美少女の応援は士気も高まるな、だが)

男「ここなら外の二人には聞こえないだろ? よーし、しっくり来た」ブンッ

男の娘「あっ……」

後輩「兄さん、ボーッとしてると飛んできた球見逃しちゃいますよ?」

男「そういうお前は、身近な家族の悩みを見逃してるけどなー」ブンッ

男(おっと、見送り三振。調子に乗って転校生に150km打てない弱者ワロスと踏ん反り返らなければこの様な始末には)

後輩「……は?」

男「おいおい、余所見してると危ないぜ? 怪我すると隣の兄ちゃんが真っ青になっちまう」

男の娘「[ピッ]、[ピーーーーーーーー]」

男「あん? 何だって? 周りが騒がしくてよく聞こえねーよ!」ブンッ

男の娘「男ぉ……」

男「聞こえてねーんだよぉ!!」ブンッ

男の娘「っ! ねぇ、最近どうしたの!? 何かあった!? 悩んでる事あったりするの!?」

後輩「えっ」

男の娘「だったら、もっとお兄ちゃんのこと、僕を頼ってくれていいんじゃないかな!!」

男の娘「お前にとって頼りないかもしれないけど、僕だって人並みに妹を心配したりするんだよ!」ブンッ

男の娘「僕はねっ、何にも話さないお前が心配で心配で、迷惑かもしれないけど、でも!」

男の娘「話してほしいんだよぉ!! ……あっ」カキーンッ

後輩「……に、兄さん、あれ。ホームラン届いてる」

男「なぁ、カスりもしないんだけどコレ!?」ブンッ

ここまで
嬉しいけど俺だってここまで抜く日もあるわ・・・

それから>>85の方のとあるコメントで気づいたがミスった場面があった
覚えててくれて嬉しかったけど、俺が忘れてて本気で申し訳なかった

5、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるのも悪くない」 >>647

男の娘「はぁ、はぁ……えぇ?」

後輩「すごい、凄いですよ兄さん! 再チャレンジの甲斐がありましたね」

男の娘「ああああ、あんなのまぐれ当たりだからっ……そんな事より!」

後輩「ですね。兄さんの私を思ってくれている気持ち、わかっちゃいましたね」

男(穏やかな様子で兄へ微笑む後輩だ、満塁ホームランは伊達ではなかった。あとで男の娘の健闘を称えてビールをかけ合う、にはまだ早い)

後輩「心配かけててすみません。確かに私たちもっと話をした方が良いんでしょうね、兄妹なんだから」

男の娘「そ、そうだよ。でも、ひょっとしたら僕がお前をずっと避けてたからかもしれないよ、ね……」

男の娘「一時期 男と仲良くしていたことがあったでしょ? 僕、それを遠目から見ててさ、情けないけど、悔しかったんだっ」

男(口を挟むに挟めないじゃないか。無様にバットを空振らせて聞き耳を立てるぐらいしか仕事がない主人公、どうなんだ?)

男の娘「ぼ、僕もね、男が[ピーーー]だ! あっ、ビックリしないで!? 勢いで言っちゃったぁ!!///」

後輩「……でしたか。安心してください、先輩とはただの友人みたいなもので、それ以上はありま――」

男の娘「気遣わなくていいよ。僕の妹のことなんだもん、多分それってウソなんだよね?」

男・後輩「っ~~~!?」

先輩「何ブツクサやってんのさ、男の娘くんよぅ!! めでたいホームラン! 有言実行しちゃって~!」バァーンッ

男の娘「わわっ!? そ、そもそも僕言ってないですよぉ~!」

先輩「いやはやいやはや、まさかホームラン達成者がこの中で三人も出るとは素晴らしい。夢はプロ野球選手に筋が通りますなぁ」

男の娘「流石にそれは大袈裟すぎじゃ……ほ、ほら、コレ景品なんだけど。あげる!」グイ

後輩「えっ、私にですか?」

転校生「良いじゃない。受け取って困る物でもないんだし、素直に貰っておいたら?」

後輩「……あ、ありがとう、ございます///」

先輩「うひひっ、この子お兄ちゃんからプレゼント貰って喜んじゃってるよ! 何照れちゃって、可愛いとこ見せたりして! こんのこのぉ~!」

男(わざわざ景品の中から大きなぬいぐるみを選んだのそういう事か。あざとい狙いとか思ってしまって申し訳がつかない)

男(というか、男の娘兄妹の問題は解決したと見て良いのだろうか? 本人たちが満足しているのであれば、それはそれで言及の必要もないが。そして)

男(先程の男の娘の台詞、彼はどこまで一周目の俺たちを観察していたのだろう)

転校生「さーて、あんたぐらいよね? 私たちの中でほ~むらん打ってないのって」

男「どうして後輩は除外されてんだよ、不公平だろうが……」

転校生「出る前はあーんなに、150kmも打てないとか取るに足らん! とか強気だったくせにねぇ~」クスッ

男「どこぞの暴力女さんみたいに乱暴じゃねーからなぁ! 箸より重い物は上手く扱えないもんでね!」

転校生「何よ! そんなのあんたがモヤシなだけじゃない! 変態モヤシ! モヤシモヤシっ!」

先輩「はーい! 喧嘩は止しましょう。そんでもって、一本も打てなかったお二人に罰ゲームを与えようじゃありませんかぁ!」

男・後輩「罰ゲーム?」

男(口を揃えて二ヤリと悪だくみする先輩へ尋ねれば、一度大きな胸を張って俺たちを指差すのであった)

先輩「君ら二人の秘密の告白! じゃじゃ~ん!」

男「……横暴すぎんだろ。無しなし! 却下で!」

後輩「そうですよ。それに、私は別に皆さんに内緒にしている事なんて」

男の娘「あるんだよね?」   後輩「うっ……」

転校生「部長さんにしては随分まともな罰じゃないの。それとも断わって、もっととんでもない内容に変更されたい?」

先輩「告白はなーんでもOKなんだからねっ! 初恋の相手とかぁ、[ピーーー]とかぁ、[ピーーーーーーー]なんかも、あ、アリっす!」

男(性事情とかでも聞かされたいのか、この人は。しかし、ここで“秘密の告白”とは思い切られてしまった。後輩の様子を悟ってのことだろうか)

男「仕方ない、トップバッター駆って出ましょう。これウソなんですけど実は俺」

転校生「あんたのしょうもないウソ聞かされたってこっちは得しないわよっ……」

男の娘「どうせなら正直になっちゃおうよ、男! そ、それで[ピーーーーーー]で[ピーーーガーーーーーー]が……///」

後輩「あの、思いつかないのでしたら先に私から大丈夫ですか?」

男「は?」

男(何かを決心した、そんな面もちを隠す様抱えたぬいぐるみで口元を隠し、後輩が一歩前へ。一体何を)

男(こういう場面でしょうもない話をする奴ではないのはわかり切っている。いかなる時でも悪戯好き、ゴーイングマイウェイ、それが美少女・後輩)

男(十中八九、彼女の口から飛び出す台詞は波乱を呼び起こすと考えて良い。今なら俺のハーレム阻止狙い関係か? 思いきや、予想外だったりするのか?)

後輩「じ、実はこの中に私の好きな人がいるんです!」

「…………」

男(後輩以外の彼彼女らの視線が、こちらへ集中した気がするのは他でも無かった)

後輩「その人には今日までアプローチを掛けていた、つもりだったんですけれど、その」

先輩「あっ……あぁー、中々気づいてくれないっていうか、全くの全然みたいだったり」

転校生「そのくせ時々こっちを意識してるみたいな態度取って来られたり、偶然装ってスケベなことされたり」

男「おいおい、おい!! 一体誰のこと喋ってんのか知らんがチラホラ悪意感じるぞっ!!」

男の娘「[ピーーーーーーーーーーーー]。[ピー]、[ピーーーーー]。[ピーーーーーーー]思ってたけどさ」

男「す、すまん……急に持病の腹痛が……!」

転校生「はぁ、誰か訊くまでもないわね。やれやれって感じだわ……どうしてそんなモテるのよっ」

後輩「え? あの、皆さんどうしたんですか?」

先輩「えっとねぇ、全部聞く前に秘密暴いちゃうようで申し訳ないんだけど 後輩ちゃんのその相手、わたしたち大体見当ついちゃって~……[ピーーーー]よ」

男(全方位から発せられるプレッシャーが俺へ圧し掛かっている。骨まで微塵になりそうなGが、ドゴンッ、と!)

男(とはいえだ、この流れでは後輩に続いて三人まで釣られてしまうのでは? 上手くやれば、男の娘と先輩の難聴解除を迎えられるじゃないか)

男(ハーレム妨害どころか、これでは肩入れだろう。後輩へ目を向けてもこちらへ悪魔な頬笑みはおろか、見向きすらしていない、が……アイツ、さっきからずっとどこを向いている? その方向は)

男の娘「あ、あのね! 僕たちはその恋を応援はできないよ! 最後まで話したら、きっとライバルだ!」

後輩「兄さんまで一体どうしちゃったんですか? 皆さんひょっとして勘違いしてたりとかは」

先輩「そう思いたいんだけど、似た感じのこと経験しちゃってるもんねぇ、わたしたち。お姉さん鋭いんです。サンハイ」

先輩「ズバリッ!! あなたが恋い焦がれるそのお相手の正体はああぁ――――」

後輩「て、転校生さん!!」ガシッ

「…………」

転校生「えっ?」

後輩「ずっとずっとっ、あなたに憧れていました! カッコ良くて素敵だし、綺麗で、褒める以外どうしていいかわかりません!」

後輩「よかったら……私の気持ち、受け止めてもらえませんか?///」

転校生「あ、あはは……どうしてかしら……今日って日はもう、あー、うー」

転校生「ウソでしょぉぉぉ~~~~~~!!?」

男の娘「おめでとう!! 僕はお前の全力の恋を応援するしかないよぉー!」パチパチ

男「男の娘、お前……とか言ってる場合じゃないだろうが、俺」

男(この兄にして妹とも言い難い話ではある、歪みブラザーズ、親が泣くぞ。転校生は転校生で今朝から俺の力を吸収したというのか)

男(とかいう俺の戯言は、収縮していく。化けの皮を剥がしたこの俺だからこそ理解できるのだ、白い小悪魔・後輩の演技を)

先輩「男くんってばボサッとしとる場合かね! 今ここに一大カップルが成立したんだよ!」

転校生「してないわよ!? そ、それにいきなりあんな事言われても、わ、私っ」

後輩「あっ……ご迷惑でしたよね、すみません。私 調子に乗ってましたね……」

男の娘「わあぁぁ、て、転校生さんっ!! 僕の大切な妹を泣かさないで!!」

転校生「ご、ごめん! って何で私謝ってるの!? あー、変態助けてぇー!」

男「転校生、同姓から結構モテるんだな……無敵じゃないか……」

転校生「コイツに助け舟お願いした私がバカだったわよっ!!」

男「あぁ、今朝のオカルト研からの告白はいわば伏線だったわけだ。転校生のモテ期到来の!」

後輩「皆さん あまり転校生さんをいじめないでください。 そんな事、私が許しませんから」

後輩「それから……えっと、一応真剣だったってことは分かっていてくれませんか? 気持ちが、抑えられなくなっちゃいまして」

転校生「ほ、本気なのは了解したから! だけど、私は別に女の子相手に、そういう、っていうか、あのっ……う、うぅ///」

男「うひょー! 見てくださいよアレ。奴らレズレズですね」   先輩「くぅー! ジュースが美味いっ!」

転校生「あ、殺す……殺さなきゃ……」

男「こんなタコみたいな顔になるまで殴らんでもいいだろ、アイツ……」

後輩「そこで、『何でおれだけがこんな目に!』って台詞が付かないと役に成り切れてないんじゃないんですか?」

男(某アミューズメントパーク施設を後にし、一部波乱が巻き起こってはいたが、俺たちは現地解散したのである。流石の転校生もいきり立ったままであり、一緒にとはいかなかったわけだが)

男「ていうか、何でお前が俺と一緒なんだよ。フツー男の娘に付いて行くだろうが」

後輩「話があるから先に帰ってくれて構わないと言ったら、兄が快くそうしてくれました。んー、先輩の言葉を借りるなら、ここは……」

後輩「チョロい、ですよね。ふふっ♪」

男「(この子マジ怖いんですけど) あーそう。ちゃっかりお兄ちゃん味方につけたワケね。そうかい」

後輩「そういえば、私の秘密の告白だけで、先輩の番がお流れになっちゃいましたよね? ごめんなさーい」

男(そう言って小さく舌を出した後輩の破壊力は底が知れなかったのだとも、悔しい、でも美少女には勝てないの。男の子だもの、弄ばれたいわ)

男「ゲホッ、ゲフンッ!! ……話って転校生関連なんだろ、どうせ」

後輩「ええ、そうです。察しが良くて助かります」

男(転校生自身も隠したがっていた秘密についてようやく触れる、そういう雰囲気ではなかった。むしろ、何故あんな真似をと、尋ねて貰いたがっている様子である)

後輩「先輩も結構嫌いじゃないですよね? 女の子同士が、ふふふっ、っていう百合みたいなカ・ン・ケ・イ」

男「俺の為にひと肌脱いでくれたと!? 言うとでも思ってんのかアホ、精一杯困惑してるわ」

後輩「それじゃあも~っと困ってもらいますね、せーんぱい」クスッ

男「悪魔め――――」

男(呆れたように吐いた言葉を、掻き消すように、彼女は台詞を被せたのである。この様に)

後輩「そういうわけなので、私を応援すると思って二度と転校生さんに近づかないでください」

男「……ぶふっ」

男「っくっく、くくはははは……な、何を言い出すかと思えば、次は少女漫画の盛り上げ役こと恋のライバルかー!」

男「確かに美少女が相手だと気後れしそうだが、話にならんわ! この俺こそ唯一にして頂点だぞ! 勝ち目あると思ってんのか?」

後輩「もう一度言っておきますよ、先輩。転校生さんに近づかないでください」

後輩「いえ、言い方を変えます。一応 あなたの為に言っておきます。あの人にもう二度と心奪われないでください」

男「ほう、ほぉ~う?」

後輩「罠ですから」

男「……ほう?」

男「その忠告は信頼に値するのか? お前が何を企んでるかもわからん現状で、聞く耳を持つ価値が?」

後輩「少しでも長く女の子たちと楽しんでいたいなら、彼女から距離を置くのがオススメです」

後輩「だってもう、あなたの暴走止めてくれる人なんていないんですから。長生きしたいなら自分で自分を守らないと」

男「わかった。じゃあ“転校生”が何なのか教えてくれ」

男「近付けさせたくないなら、構わないだろう。それとも俺自身で転校生の口から聞き出さなきゃダメか?」

後輩「そんな手間をかけなくても、気付いているんじゃないですか。ねぇ?」

男(気付いているだと? それなら苦労はしない。ヒントはこれっきりなのか)

男「そうだなー……あんまりにもな話だから避けてたんだが、アイツはお前や天使ちゃんの仲間か」

男(少しの間が、否、真っ向から否定するように後輩は首を横に振って見せる。では、転校生の何が特別か)

後輩「現実に戻って、記憶もしっかり取り戻しましたよね。そこで改めて彼女という存在を確認してどう思いましたか」

男「どう? ……お前らのように向こうでのモデルが存在しない。でも、幼馴染の設定を借りていた、みたいな」

男(そうだ。“モデル幼馴染”の設定をこちらでの幼馴染と転校生で約7:3ほどで割って使われていた)

男(文武両道な面は両方に引き継がれていたりもするが……何故だろう。よくよく考えれば変じゃないか?)

男(どうして、他がそうであったように、始めから幼馴染へモデルデータの大部分が流用されなかったのだ?)

男(まるで、最初から転校生の登場ありきで割かれたみたいではないか)

男「て、転校生は俺が神に望んだから作られた美少女な筈だ! 神だから、前提を予期してとかじゃないだろうな!?」

後輩「あの……今だから話せますけど、あなたが望もうが望まないが、あの人は生まれてたと私は思ってます」

後輩「私も主から最近聞かされて知ったことではありますけれど、転校生さんは」

男「転校生は!?」

男(思わず彼女の肩を掴んで身を乗り出してしまった。しかし、やはりと言うべきか。その先について後輩は口を閉じてしまう)

男(こういうのを、寸止めと言うのだろうか。行き場を失った何やら諸々はとりあえず地面にあった石を蹴飛ばしても、解消されない)

男「あぁー、幼馴染が関係あったりするのか!? 絶対幼馴染だろ! イギリス帰りアイツだけだぞっ!」

後輩「ここまで来て忘れてくださいっていうのは、無理ですよね」

男「……無理だ。問い詰める」

後輩「……悪意のない悪意ってありますよね。彼女の場合は、というよりも、彼女は私たち側から見て」

後輩「善意による作為された悪意という存在」

男「なるほど。転校生と呼んでそう読めばいいんだな、これから」

後輩「あの人はですね、あなただけの為に用意された切り札みたいな、例えるならトランプのジョーカーでしょうか……」

男(切り札、ジョーカー。耳にするだけで無性に心沸き立つ単語である、それが転校生に当て嵌められたとすると別だが)

男「それってほぼほぼの答えなのかもしれないな。多分、なんだけども」

男「後輩、ジョーカーならもう一枚仕込まれてたって驚きはしないな。俺の予想だとそのもう一枚目ってのは――」

後輩「やめましょう?」

男「えっ」

後輩「“そっち”は今まで通りの扱いで良いじゃないですか……その子だけは、ね?」

短いけど明日へ続く

天使「男くん、おかえりなさいと言ってやっても構わねーですよ! 土下座してでも感謝しやがれ!」

男「それ絶対俺以外にやるなよ…… (扉を開ければ、腰に手を当てふんぞり返った天使ちゃんが自信に満ち溢れていた、後光が差している。横を通り抜けようとすれば、ズボンの裾を踏まれて、俺は派手に床へ挨拶を)」

男「うぎ、っ~~てぇッ!? いきなり何するんだよ!!」

天使「だってだって、そっちの感謝がまだ聞こえてないです」

男「チッ……変態ブサ男の出迎えを、ロリ美少女天使さまがわざわざ引き受けて頂いて私 感謝極まりでございます」

天使「ありゃ、男くんどこかご機嫌斜めチックでしょうか?」

男「別に。そうでもないんだけどな、そう見えてるのか」

天使「目付き悪っ!! そんな風な顔してたら、印象最悪だし、視力も落ちちゃうんですからね!」

男「……生まれつきですしおすし」

幼馴染「あっ、やっぱり帰ってたんだ。おかえりなさい。すぐご飯並べちゃうから待ってて―――」

男「悪いけど部屋で寝てる。腹も特に空いてないんだ」

幼馴染「お、男くん? 具合悪いの? 顔も、よくわかんないけどボコボコだし……」

男「生まれつきだしっ!! 寝ます、俺!!」バッ

妹「お腹減ったよ~……え、お兄ちゃん? 何あれ?」

幼馴染「さぁ……?」

男(別に、別に機嫌が悪いとか誰とも顔を合わせたくないとか、思春期の子どもを振舞っているわけではない)

男(天使ちゃんの構ってっぷりが発動したのは、おつかいが上手く行ったことを褒めて欲しかったのだろう。そして今夜は獲得した食材をふんだんに使った晩ご飯だったのだ)

男「……バカじゃないのか、俺って」

男(何度も自虐に走った覚えがあるが、そのたび吹っ切れて無かったことに変えても来たが)

男(今回ばかりは、どうしようもなく、自分の愚かさを嘆いて沈んでいる。ズブズブと底なしの後悔沼に)

男(話を、時を巻き戻そう。今の俺じゃあ元気に語らえる余裕もないと察して欲しい)

男(だが、一言だけ、回想の前に一言だけ俺が伝えられることがあるとすれば、少し前の自分自身に忠告できていれば、こうだ)

男(『時に好奇心は身を滅ぼす』のだ)

後輩『―――――――とにかく先輩に話はこれだけです。明日からは』

後輩『私にも、転校生さんにも関わらないでください。あとは先輩のご自由にどうぞ』

男『もう一枚のジョーカーは、天使ちゃんで違いないんだろ?』

男『まぁ! 今更あの子が特別うんぬんは古い話題だ、天使ちゃんを利用した神の策略はとっくに崩れたんだろうし』

後輩『では、私もこれで失礼します。さようなら』

男『……そんな勝手な解釈で終わると、どうせ忘れた頃に何かあったって知るんだろ? 俺が』

男『後輩よ。お前、天使ちゃんの問題もあって恐らく奇行に走ってるな』

男『ずっと俺の為に何かまた世話焼いてるんだと思い込まされてたんだが、さっきの反応で十分だ』

男『いや、結局お前の動きは最終的に俺へ直結するんだと思ってる。自惚れだって言わせんからな』

男(よくも小っ恥ずかしい物言いで、台詞がポンポンと出るものだと己を振り返る余地などない。とやかく言われるより、その場には相応しかった)

後輩『す、すみません。何て言ったかよく聞こえなくて……』

男『お前が俺のことをどう足掻いたって大好きなの知ってるって言ってんだ、鈍感!』

後輩『えぇ? も、もう行きますっ、本当にさよなら!』

男『バカ野郎っ、逃がしてたまるか!!』ガシッ

男(腕を掴んで逃走を阻止するも、彼女の抵抗は激しい。このままではまた以前のように面倒を起こされてしまいかねんぞ)

男『後輩、お前さっき言ってくれたよな! 少しでも長く女の子たちと楽しんでいたいなら転校生に近づくなって!』

男『お前も知ってるんだろ? もうこれっきりで、次は無いって! だから少しでも俺が夢を楽しめるようにしてくれてるんじゃないか?』

男『心置きなく、幸せだったと思いながら逝けるように!』

後輩『どうしてそんなに あなたの現実 を軽視できたままでいられるの!?』

男(これが、つい先程まで嫌がって俺の手を振り解こうとしていた彼女が、悲痛な面持ちで、聞いたこともない大きな声を上げた瞬間だった)

男(初めて見たその後輩に、訴えに、俺の思考はストップしている。そんな情けない俺を彼女は変わらぬ様で見つめていたのだ)

後輩『っ……!』

男(ゆっくりと、掴まえていた手が解けていた。自らの意思に反して)

男(だが、ここで引いたら日本男児の血が泣く。主人公の使命が、俺を再起動させたのである)

男『軽んじてるわけじゃないさ、そういう運命に従ったまでだ。俺は今ここにいる。ここが、今の俺の居場所だぞ』

男『死にかけてめでたいなんてもう考えちゃいない! でも自分と、お前や、みんながただの紛い物だって考えたくねーんだ!』

男『ここが現実だって思ってもいいだろ……色んなことを教えられた大切な場所なんだから、俺にとっては……』

男(過去を捨てた薄情者だと罵られたとしても、それでも良い。どう説得されようが主張は曲げられないのだ)

男(美少女からモテる、自分に都合が良いから、確かに何もかもが気持ち良い要素しかないが、だがそれが良い。正直に答えよう)

男(毎日楽しい、それ以上以下もない理由が見つからない)

後輩『……本当は、コレを話すのはもう少し先延ばしさせてからのつもりでした』

後輩『だけど、手遅れになる前に言わせてもらいます。先輩 これから私が話すことは事実です。冗談なんかじゃない』

男『え?』

後輩『お節介かもしれない、あなたを傷つけるつもりもなかったです。……それでも言わなくちゃ』

後輩『確かに、天使ちゃんがジョーカーです。ですが、それは私たち側にとってではなく、私にとっての切り札になってくれました。あなたを……いえ……』

後輩『彼女はあなたの血が流れたお子さんです。先輩と、あの人の間に生まれる予定だった子どもの――――』

男(え? 何だって?)

また短いが許しておくれ。水曜日予定

男(ぐらりと視界が揺れるし、おまけに目眩までしてきた。冗談なんかじゃない?)

男(いくら何でも今度ばかりは度を超えた戯言だ、限度がある、おふざけの一言で片付けられないだろう。完璧に俺をキレさせたな……)

男(そう、口から自動的に言葉が吐き出される予定だったのだ。それが無い。ただただ茫然自失となって、後輩を見上げていた)

後輩『先輩。気を確かに持ってください、先輩……』

男(誰の衝撃告白がこうさせたと思っているのだ。馴れ馴れしく人の心配など、あぁ)

男(何も言い返せない理由がわかった……なぜって、既成事実じゃないか……)

男(最後の晩、俺は彼女を……本能のままに……)

後輩『矛盾だとは思いませんか? あの子があなたの子という事実は絶対。ですけど、こちらと向こうで流れる時間には差がある』

後輩『なのに、始めから天使ちゃんは先輩の傍にいた。胎児が形になるまで最低でもどれぐらい時を要しますか』

男『何が言いたいんだよ。ハッキリ言えよ……』

後輩『先輩が、あの時 現実へ戻って本来の運命を塗り替えたことで、1の世界が、2の世界に変わったと思ってください』

後輩『アレは紛れもない時間干渉です。元のあなたは委員長さんと関係を持っていなかった筈でしょう?』

男『俺が改変したわけだ……それで周りに、影響が……』

後輩『良いですか、私たちは人の言う概念に近い存在です。実際のところ生まれ方も正確にはわかりませんが』

後輩『天使ちゃんは、先輩が引き起こすタイムパラドックスの産物となりますよね。おそらく』

男(タイムパラドックスの産物。天使ちゃんが生まれない世界と、天使ちゃんが生まれる世界の分岐があったと)

男『(ならば、それは) ……基準が、おかしくないか』

男(というより、定まっていない。あり得なかった世界から来た俺が、天使ちゃんと出会う時点で狂っている。天使ちゃんとは?)

後輩『現実とパラレルの曖昧に挟まれた、可能性のみから生まれた 定義を持たない子ども、“特別”、と言われてもこんがらがっちゃいますよね』

後輩『ですけど、つまり彼女と私、いえ、私たちでは決定的に生まれが異なっていた』

後輩『そして 偶然なのか必然なのか、あるいは……あなたと出会ってしまいました』

男『……どこぞの妄想みたいな話で、失笑なんだが』

男『――ちょっと待て。じゃあ天使ちゃんが急に力を失って、俺以外の誰からも認識されるようになったのは』

後輩『分岐、と呼べば良いんですかね。彼女が人になったという、めでたい事実に変わったと……』

男『嬉しいけど、テメーの娘が攻略キャラ化したとかおめでたくねーよ』

男『そ、それにまたおかしい事になる! 天使ちゃんのアレは俺が現実に戻る前に起きたぞ! 一切前触れなくだ!』

後輩『さぁ? 先輩の覚悟の時点で、改変成功は決まっていたんじゃないですか?』

男『子作りもかよっ……!!』

男(まともな交際もおろか、ひと夜の過ちが運命だっただと? 自分の堪え性のなさを恨む)

男(というか、肝心の委員長の人生を狂わせてしまったのではないか? あれだけ奮闘しておきながら、当の本人のミスで、頼むウソだと言ってくれ)

男『……向こうでは、どれぐらい時間経ってるんだ? わからないのか?』

男(素直に答えてくれることなく、後輩は沈む夕日を眺めて黄昏ていた。放置プレイにも程がある)

男『まだ腹の中なのか? 既に生んだ後か? だったら、子持ちの女子高生だ……滅茶苦茶だ……』

男『お、俺のせいじゃないか……は、ははは……』

後輩『少なくとも、天使ちゃんが力を取り戻さない限り生存は約束できると思います。……それから』

後輩『直接 私があの人を見たわけじゃありませんけれど、きっとあなたを――――』

男『やめろ!! 聞きたくないっ、やめてくれ!!』

男『頼むから、その先を喋るなよ……お前も言ったじゃないか。まだこの世界に執着して欲しかったって……』

後輩『……』

男『だ、大体俺は死ぬんだ! いや、死んだも同然だ! 今更何が出来る? 目を覚ませって?』

男『そんなのもう不可能に決まってるだろ!?』

後輩『……あ、あなたがこれからどうするかは、あなたの自由だと思います』

後輩『勿論、私もあなたの決定に反論するつもりもありません。役目ですから』

後輩『……協力は、惜しみません』

男(何の? 言われずとも十分だ、帰る為の、そう伝えたかったのだろう。お人好し)

男「――――結局、委員長がこの世界に来たのってそういうじゃねーか」

男「美少女そっちのけになって、助けてみたら、グチャグチャだぞ。俺は何のために頑張ってたんだ?」

男(知らずに与えられた物で遊んでいれば良かったのだ。イレギュラーである天使ちゃんと出会わなければ、こんなシリアスも抱え込まなかったのだろう)

男(妥協に煽られず、続けてきた委員長救出が全て裏目に出た。集めた謎が収束して、終息が近づいてしまった)

男(俺は、いま選択を迫られているのだろう。片方は見えた地雷で、バッドエンド一直線もあり得るという)

男「そういえば……神からも二択とか話されてたな。それってまさか……いやいや……」

『お行きなさい、人間の少年よ。精々道を誤らぬことです……あなた自身にとっての正解という道から……』

男「……いやいや、ないわ」

男(本当に天使ちゃんが俺と委員長の子なのか? ゲスい話だが、委員長が俺以前に他の野郎に、ダメだ、本当にゲスい)

男(大体、ブサ男である俺の娘があんなに可愛いはずが、とは思うのだが残酷にもここは身近な人間を美少女化してしまう。嬉しいが悲しいこともある)

男(頭の中がこれまでの天使ちゃんイベントで一杯だ。けして娘らしい扱いが出来ていた自信はないが……堂々巡りだ、止そう)

男「しかし、思ってたよりショックじゃないのか、俺。本気で絶望レベルなんだが」

男「これでまたループでも起こしてくれれば良いのに……委員長」

男「ごめんなぁ……」

幼馴染『男くん、起きてるかな。入っていい?』コンコン

男(戸の向こうから癒しの美少女の声がノックとともにやって来た。だが、俺はより深く布団の中へ潜っていく)

男(返事すらかえさず、“現実”から目を背けたのだ。まだ幼馴染が来てくれて良かった。しかし、傍らで佇む我が子の姿を想像してしまう)

男(今日ぐらい、もう誰とも顔を合わさなくたって罰は当たらないだろう? 許せ)

幼馴染「勝手に開けて入っちゃうよ?」   男「頼むから入ってから言うなよ」

幼馴染「どうしたの、男くん青い顔して。みんなと外であれから何かあった?」

男(天使ちゃんは、いなかった。幼馴染はゆっくりと隣へ腰を下ろすと、手始めに俺の額へ手を伸ばすのだ)

幼馴染「熱は、なさそうだけど、体調良くないならすぐ言わないと! 文化祭も近いんだし、風邪なんて引いたら困るでしょ」

男(特に気分は悪くないが、便器へ向かって盛大に嘔吐したい気分ではある。……それにしても、本当に可愛い)

男(こんな事なら、もっとこちらの世界で好き放題やらかしておけば良かったのだ。きっと彼女たちも快く受け入れるのだろう)

男(ならば、これからぶち壊してしまおうか。俺顔の醜い悪魔が破滅を囁いた)

幼馴染「あ、そうだ。妹ちゃんからついでに漫画借りてきてって言われたから持って行っていい?」

男「どーぞお好きに…… (よし、いきなり後ろから抱きしめて揉み下してやれ。俺色に染めるのだ)」

幼馴染「え~っと確かタイトルは……えっ」

幼馴染「……男くんって巨乳嫌いなの?」

男「何だとっ?」

男「巨乳が嫌いな男子がどこにいる!? おっぱいは全人類の宝っ、母性の現れだぞ!!」

幼馴染「真剣な顔して変なこと叫ばないで! お母さんたちに訊かれちゃうから!///」

男「お前が突然信じられん疑問投げかけるからだろ。俺はおっぱい大好き人間を代表したまでなんだ……が」

男「何だソレ?」

幼馴染「何って、男くんの本棚にあったんじゃん……小説なの? 表紙に漫画みたいな絵描いてあるけど……」

男(ジト目を華麗に避けて、彼女が手に取った本を見た。タイトル『巨乳死すべし』、正しくライトノベルであった)

男「どう考えてもそれ俺の趣味じゃないだろ……」

幼馴染「でも、男くんのでしょ? エッチな本は隠すくせに、こういう露骨なのは見せちゃうんだ」

男(エロ本はオープンにしろと? 頬を膨らませられても困りますが。だが、事実 俺の趣味に反する。おまけにラノベなど購入した覚えは、あっ)

『純文学とか男くんあんまり好きそうにないなって思ったんだ。これなら読むんじゃないかなと』

男(……碌に中身を確認していなかった俺も間抜けだが、委員長よ)

男「と、とにかくどうでも良いだろ!? 漫画なら俺が探して持って行ってや――――はっ」

男(瞬間、本棚の上段へ乱雑に積み重ねられていた大量の本が崩れる。そしてソレらは幼馴染の頭上へ)

男(解説も否や、俺はとっさに庇うようにして、彼女を抱いて倒れ込んだのである。相変わらず空気を読んでかよくわからんタイミングだ……)

幼馴染「きゃ!! お、男くん!?///」

男「大丈夫か、幼馴染! (と身を案じてはみるも、先程落ちた本の角が無情にもクリティカルを叩き出した。死ぬほど痛む)」

幼馴染「う、うん……ダメだよ、本棚もキチンと整理しとかなきゃ……」

男(どこか落ち着かなさ気に、頬を紅潮させてこちらから視線を逸らす幼馴染。今のところ我がゴッドフィンガーに感触はないが、いや)

男(何がどうなっている。彼女の着ていた上着の襟元へ、左親指が侵入していた。ああ、ここからが重要だ)

男(ブラ紐と同時に襟まで下へさげていたのである。普段拝めない鎖骨部分が、チラ、実にエロティカルだった)

幼馴染「あの……わ、わざと?///」

男「わざとでこんな器用発揮できるほどポテンシャル高くねーよ!? す、すまんっ!」

幼馴染「ていうか、二の腕親指でつっついちゃ、っひ、やぁ! そこほんとに無理だってばぁ!///」

男「変な声出すなバカ! 妹たちが様子見に来ちまうだろ!」

幼馴染「どうしていつもこんなっ……でも、嫌じゃ、ないんだけど」

男「えぇー……」

幼馴染「男くんは、ここからどうしたい?」

男(どうもこうも、襲うつもりが何故誘われているのだ。意地でも受け身の主人公へ食らいつく肉食獣でありたいのか、美少女)

男「……い、いいのか。どうなっても?」

幼馴染「じゃ、じゃあ しちゃう?///」

男(魔法の言葉が俺の中で反響した、するともさ。据え膳食わぬは何とやら、皿に盛られた極上の食事に箸は止めてはいられない)

幼馴染「いつかは、ね。だって恋人同士だもん……そういうの、やってみても///」

男(モゴモゴモゴと言い出し辛そうに恥じらう幼馴染の破壊力、計り知れない。待っていろ。すぐに暴君と化した我がウェポンが)

男「……でも、こういう時って必ず妨害入るよな」

幼馴染「えっ、何のこと?」

男(というかである。ここで幼馴染に魅了されて、大事なハーレムエンドの旗を折ってしまっていいのか。俺はこれでも薄情ではないぞ、美少女限定)

男(後輩が転校生を危惧していたが、他の美少女を相手にしたってルート固定化の恐れだってある。きっと理性が崩壊する)

男(転校生と他の美少女たちの何が違う? 等しく美少女、個性もそれぞれ。甲乙つけがたいことに変わりはない。しかし)

男(……二週目時の俺は、あと一歩で取り返しがつかなくなっていたかもしれないのか?)

幼馴染「男くーん? もしもーし?」トントン

男「あっ……すまん、ちょっとした考え事してたんだ」

幼馴染「そっか。ねぇ、男くん 本当は誰が一番気に入ってるの?」

男(騙されるな、ブラフはこれまでも幼馴染から嫌と言うほど食らってきた。気掛かりが抜け切っていなかったこともあって、俺を試しているとでも? 面倒な)

幼馴染「もう誤魔化さなくていいんだ、男くんの本命ってあたしじゃないよね。知ってたの」

幼馴染「えへへ、一回 恋人やめちゃおっか! 男くん!」

幼馴染「えへへっ」

男(なぁ、えへへっ、じゃなかろう。笑顔で大変で凄まじい提案は場違いだろうが。いや、そうではなくて)

男「空腹のあまり道端に落ちてた変なの拾い食いしたとかじゃ……一応の確認で」

幼馴染「そういうキャラじゃないの男くんが一番よく知ってるんじゃない? 犬じゃあるまいし」

幼馴染「あたし本気で言ったんだよ。わかってるよね」

男(分からないからこそ、ジョークに走ったのだ。何があろうと一途を貫き、俺の幼馴染だった彼女が、自ら引こうとしている)

男(目の前の彼女は本物か? ひょっとしたら誰か化けてるのではないか? 美少女が、俺の手から離れる?)

男(クールを取り戻せ、俺よ。これは幼馴染の作戦だ。押してダメなら引いてみなを実行している。俺もよく使った手だろう。やれやれ、危うく策に嵌まる所だった……)

男「ふっ、変だろ。ちょっと前にイチャコラ始めようって時に、別れ話はいくら何でも唐突じゃないか~?」

幼馴染「さっき男くんが言ってた考え事って、たぶん他の子のことだったんでしょ?」

男(……ぼくこわい)

幼馴染「あっ、勘違いしないで! 怒ってるんじゃないの! いつものことだもん!」

男「いつもでごめんなさい、幼馴染サン……」

幼馴染「謝らなくていいんだよ、男くん。でもね、別れた方が良いと思ってるのはホントのホント」

幼馴染「男くんを嫌いになったわけでもないし……あたしの気持ちも変わってないけど、ね♪」

男「(ならば、尚更動機が意味不明だと叫びたいなって) 俺だって同じだ、幼馴染を大切にしたいと思ってる! 不満感じさせてたなら頭下げさせてくれ……!」

幼馴染「ふ、不満どころか幸せしかなかったよ! ウソじゃない! ただ」

幼馴染「ううん、別れたところで前までの関係に戻るだけでしょ。二度と口利かなくなるわけじゃないよ。だから、大丈夫!」

男(大丈夫じゃないだろうが。慎ましくも俺へ貪欲であった彼女が、こうもあっさりだなんて。あの時涙すら浮かべて喜んでくれたのは何だったのだ)

男(何故、自身の本音を殺してまで無理をしているというのだ。俺が愛した笑顔が泣いている、人類の宝である美少女スマイルが)

男「お前 実は自分が俺を縛っちまってると思ってるんだろ」

幼馴染「! ……そ、そんなわけないじゃんっ。むしろ、ようやく男くん独占できたんだから本望だと思って」

男「いや、俺の知ってる幼馴染は 俺にかなり甘い。時々鬱陶しくなるぐらいだ」

幼馴染「……ご、ごめんね。迷惑かけてたなら遠慮なくもっと言って? 頑張って治すから……」

男(俺一筋の幼馴染。裏切りもなければ、自分へ不都合があろうと懸命に尽くす彼女は、正妻ポジションを確立しようと必死なのかと、今日まで長い目で見てきた)

男(依存だ。幼馴染は、この俺へ尽くすことで安心を保っていたのだろう。ダメ男に母性をくすぐられ、私が何とかしないと、とか思ってしまうアレである)

男(だが、それは見方を変えての自論。それほどまでに、幼馴染は病的に献身な美少女だった)

男「(愛、ゆえに) この間、俺がみんなから好かれてたって話をした時に、お前がさ」

男「自分が重荷になってるなら、とか言ってた覚えがあったの思い出したよ、幼馴染」

幼馴染「……あはは、重い子でごめんねぇ、男くん……何もかも重たくって……」

男(病的。俺が一言お願いすれば、何でもやってくれるような、危うさと儚さが同居した女子。それが幼馴染である)

男(まるで見えない亡霊に取り憑かれ、使命感に駆られ、そこへ愛情を見出そうとしているのかもしれない。これがヘビィな病みの正体か)

幼馴染「……恋人じゃなくなっても、男くんがすぐに傍から離れてくわけじゃないと思ったんだ」

幼馴染「こうして おじ様とおば様が留守の時はまだ通うこともできるし、付き合う前だって色々あったけど、毎日楽しかったし」

男「だから関係を解いたところで、減る物も少ないと考えてたのか?」

幼馴染「だ、だって一番は男くんなんだもん……」

男(自己犠牲だ、それは。残念ながら、崖下へ自分を投げ捨てたところで俺にそこまでの価値はないというに。そんな俺の理解を越えた恋心が、あったというイベント)

幼馴染「男くんのことも、男くんの病気のことを考えても、やっぱり別れるのが正解だよ!」

幼馴染「あたしだけが男くんの時間を奪ってたなんて、そっちの方が嫌だよ! 嫌なんだもんっ!」

男(まるで俺が余命幾ばくも残されていない可哀想な人扱いである。病気は気合いで治したとか言いだせる空気じゃ、到底ないぞ)

幼馴染「ねぇ! お願いだから、あたしと別れよう!? 男くんの自由にしていいの!」

幼馴染「十分良い思いできたしっ、満たされてたし、それにそれにえっと、えっと――――っひ!?」

男「……バカだよお前。全部計算づくみたいな大バカだ、自覚しろ」

幼馴染「お……男、くん……?」

男(抱きしめたい美少女がそこにあれば、訳もない。俺はただ欲望に忠実であったのだ)

男(念願のハーレムを達成するには、いつかは幼馴染ルート固定の回避の為に動く必要があった)

男(ここで恋人関係の解除は思い返せば、大きかったかもしれない。解除とまでいかなくとも、説得してハーレムを認識させるべきではあった)

男(ああ、足掻けど足掻けど、沈んでしまう美少女沼)

幼馴染「こんなことされたら、また迷惑になっちゃうよ……」

男「そんな事考えなくていい。それに、お前からそんな気遣われなくたって俺は始めから好き勝手自由にやってるだろ」

幼馴染「で、でも……」

男「頼むから俺から大好きな奴を奪おうとしないでくれ。迷惑だ」

幼馴染「っ!……///」ジワァ

幼馴染「男くん、ちょっとだけ、あたしのわがまま、聞いて」

男(この胸へ顔を埋めた幼馴染が、普段とは打って変わった拙い口調で申し訳なさげに言うのだ。発火現象を起こしそうだ)

幼馴染「――て」    男「は?」

幼馴染「……だから……言ったじゃん……」

男「モゴモゴ言われちゃ分かんないだろうが。して欲しけりゃハッキリ言えよ?」

幼馴染「頭 撫でてって言ったんですっ!!///」バッ

男(面を上げた耳まで真っ赤な幼馴染に、無言で小さくガッツポーズである)

男(存分に幼馴染を撫で回したとしか言いようがない。心から甘えてくる彼女は、新鮮で、何度も鼻血を噴いてはティッシュを詰めた)

幼馴染「男くんの手、好きだなぁ~。ねぇねぇ、もっと」

男「いい加減恥ずかしいとか思わんのかお前は。大体女子って髪触られるの嫌いだろ」

幼馴染「特別な人ならOKなんですー。それに、妹ちゃんたちの前じゃ見せられない……し///」

男(俺とて、彼女たちの前でそのような自爆テロ行為は行いたくはない)

幼馴染「もっと~、まだ撫でて~……もっと♪」スリスリ

男「やっぱ悪いモン食ってきただろっ! どうかしてるぞ!?」

幼馴染「男くんが悪いんだからね、しっかり責任取ってもらわないとー ふふふっ!」

男(ええい、これでは切りが無い。そこで俺が口を滑らせてしまったわけだ、「腹が減った」と)

妹「おっ、お兄ちゃん機嫌直ったんだ? ……ていうか 幼馴染ちゃんなんか顔赤くない? 風邪?」

幼馴染「ちちち、違うよ! 全然平気だからっ! それよりみんなでご飯食べよう? お腹すいたでしょ!?」

天使「そうです! 男くんとかいう変態のせいで自分たちお預け食らってたんですからねっ!」

男「……」

天使「何ですか! ……自分の顔に何かついてるってんですかっ…………むぅ……///」

男(俺って、天使ちゃんといつもどう接していたんだっけ?)

幼馴染「今日の晩ご飯はいつもとちょっと違います。さて、それはどうしてでしょう? はいっ、妹ちゃん」

妹「ふえっ? ん~、隠し味入れた? チョコとか」

幼馴染「ぶぶー、残念ながら不正解です。あとは……妹ちゃん以外は知ってそうだよねぇ」

天使「はい! はぁーい! 自分が今日おつかいで買った物が使われてるんです! 正解! おっしゃあー!!」

妹「なーんだそんなことか……おつかいといえば、昔 私もお兄ちゃんと二人でよく行かされたよねぇ?」

男(今回こそ幼馴染重要イベントであったのは確かだ。無事に済ませられはしたものの、ハーレムへ実現の根本には届かせられなかった)

男(俺は、覚悟を決めたぞ、神、そして委員長。俺の居場所はこの世界だ。どうせ散るならば、ドデカい花火を打ち上げよう。望んだ結末を曲げるつもりはない)

男(それにあと少しで野望は叶うのかもしれないしな、諦めて堪るものか)

妹「おーにーいーちゃーん? どうしたのさ、上の空でスプーン握りしめて」

男「……ああ、そろそろスプーン曲げ習得した頃かもなって」

幼馴染「そ、そんなくだらないこと今やろうとしないでよ? ほら、男くんもよく味わって食べて」

男(そう言われてはと、目の前に並べられた食事へ手を付けようとすれば、視界の外から肉を刺したフォークが現れたのだ。小さな手が握ったソレが)

天使「[ピッ]、[ピーーー]やがれです……」    男「えっ」

天使「つべこべ言ってないでさっさとしてくださいよ、男くんっ!!///」

男「ていうか、まだ何にも言ってないわ……」

幼馴染「せっかくなんだから貰ったら良いんじゃないかな。ねぇ、天使ちゃん?」

天使「……んー///」グイ

男「やめろ、頬っぺたに当たってるから、当たってますから」ベチョ

男(どうにも尋常ない好意を感じてならない。出会った頃の好感度ワースト1がウソのようだ……仕方がない)

男(幼馴染に急かされるようにして、若干の躊躇いを隠しながら差し出された肉へかぶり付いてみれば、斜め上へ急上昇かの如く、天使ちゃんはご機嫌有頂天へ)

天使「美味しいでしょう? 美味しい筈でしょう!!」

男「そ、そうだよな、美味いよ。天使ちゃんから食べさせても貰えたし……」

天使「良かったぁー」ニコニコ

天使「でも、みんなで食べるからこれだけ超絶美味いんですよ! 楽しいのも美味しいのも分かち合えばこそなのですっ!」

妹「力説してるとこ悪いけどご飯食べたら約束通り食器洗い手伝いなよ。じゃんけん負けたんだから」

天使「ぐっ、コイツはあいかわらず空気の読めないチビですねぇ、うざったい!」

男「……あー、お前らいつのまに幼馴染の手伝いするようになってたのな。俺もやろうか?」

幼馴染「えへへ、ありがとう。でも 今日は大丈夫だよ。天使ちゃんやる気満々だし」

男(横で露骨にしかめっ面を浮かべているロリ天は俺の幻視なのか。……終始、食卓は賑やかだった)

天使「……?」

先生「――――おぉー、想像してたよりみんな頑張ってるじゃないの。てっきりサボりの一人か二人はいると思ってたのに」

男「後半部分でこっち凝視しながら言ってるのおかしくありません?」

先生「だって、ねぇ?」

男(クラス一同 一体となって首を縦に振るこの結束力。圧迫だ、目配せしてもまで言わせたのだ、違いない)

男(なんて、自分が中心人物扱いされるのはいつでも悪い気分ではない。面倒すら余裕で許容できる)

先生「さ、文化祭まで日にちも残されてないと思って頑張って。これが青春よ、生徒諸君? 調子乗らないように気をつけなさいね~」

男(そう言い残すと、先生は適当加減で手を振りながら教室を去って行く。あの人へのハーレム勧誘は、いつぞやの失敗もあって、気が重くなる)

男(それはさておき、今日も今日とて俺は下働きである。役を持った花形たちと比べて地味ではあるが、その分重圧とは程遠い気楽業よ)

男「なにせ重要なところは全部モブで進めてくれるしな。やれやれ、やる事が無さ過ぎて暇なぐらいだぞ」

男(だって暇である。時間に追われていないだけマシだが、どう時間を潰すか考えるのも労働の内だ)

男(そういうわけで、現在 問答無用に校舎内徘徊という主人公の仕事をやっているわけで、早速イベントの気配が)

不良女「……」

男「両手を上げろ!! 振り向くなよ!!」

不良女「はぁ?」

男「悪い。素で冷めた反応されると悲しくなるんだな、コレ」

男(退屈のお伴に飲み物を買いに来たのだろう。自販機の前で財布片手にジュースを選ぶ不良女、ファーストコンタクトは苦しかった)

男「お互い苦労するな、不良女。せっかくだから日本の経済について小一時間語るか?」

不良女「舐めんなっての……あたしはあたしで忙しいの。買ったらすぐ戻るんだよ、バカやろ」

男「釣れないなぁ、暇人なのは俺だけかよ…… (珍しいじゃないか。不良女特有の気楽そうな余裕が見られない)」

男(ツッコミすら億劫なのか、俺を脇目にさっさとスポーツドリンクを購入するとその場を後にしようとする、が)

不良女「あっ――――」

男「お、おい! (ふらり、なんて表現が相応しいよろめき具合を披露しながら、彼女は壁へもたれかかった。すぐに駆け寄って肩を貸してやれば、酷く熱い)」

男「……お前 照れてるの?」

不良女「……ダルい」

男「何だよこれ、お前っ、体滅茶苦茶熱いぞ! 熱あるんじゃねーのか!」

男(何事もなかったように切り替えスイッチは入る。美少女の緊急事態である)

男(彼女の前髪をめくり、額へ手を当ててみれば明らかに尋常ではない体温だった。よく考えれば恥じらい以外で顔を赤くさせている姿は、全美少女の中でもコレが初では……?)

男「なんて、呑気やってる場合じゃないだろ。待ってろ 不良女。すぐに保健室連れていってやるぞ!」

不良女「[ピーーーー]……」

男(病に冒されようと揺るぎない姿勢に、ある意味敬意を表するしかない)

ここまで。続きは来年になると思われ
よいお年を

男「I am your father…」

天使「NOOOOOOOOOOOOO!!!!!」

男(隣に担いだ不良女だが、立っているのもやっとこさ、普段の彼女とは思わせぬ弱々しさに不謹慎ながら女を見つけてしまった)

男(熱を帯びた桃色の吐息が頬に当たるたび、俺の口数も自然と減っていく仕様。抗えぬ美少女パワーにプラスアルファである。風邪とて魅力へ変化させるのだ)

男「(しかし、終盤にしてよくぞ迎えられたものだ。看病イベントだ。この流れならば、当然 保健室は) あ? こんな時に保険の先生出張してたのか……不良女、大丈夫か」

不良女「この、程度とか……へいきに、決まってんだろぉ……よ、よゆー……」

男「余計なところで気張ったりするなって! とにかく中に入ろう、幸い 鍵は空いてるみたいだしな」

男(仕込まれた“幸い”。御苦労、俺たちのためのステージは快く解放されるのだ。他の生徒たちの姿も見当たらない)

男(とりあえずと不良女をベッドへ腰を降ろすと、俺は戸棚を開けて にわか知識頼りに風邪薬を探してみた。その間、彼女から一言も声を掛けてこない時点で、体調は最悪なのだろう)

男「どうする? 下手にここで休んでるよか、先生に話して早退した方が良いんじゃないか」

不良女「だから! しつこいんだよっ……平気だって言ってるでしょ……」

男「強がって無茶続けてたら、それこそクラスの奴らの迷惑になるんだぞ」

不良女「ちっ…………[ピーー]にも、[ピーーーーー]のかな」

男「何か言ったか? とにかく横になってろ。一応 寝るまで俺が横で見てるからそのつもりで」

不良女「は、はぁ? 何であたしがあんたに寝顔拝まれなきゃなんねーんだよっ!」

男「お前のことだし、無理にでも休ませなきゃ 素直に従おうとしないだろ。寝ーろ!」

不良女「うるせぇバカ!! せめて向こうむいてろよっ!! [ピーーー]っ……///」

不良女「っー……///」

男(一言言っておこう、まず休まるわけがない。下手すれば病そのものより俺が負担と化すであろう)

男(そこは鈍感と無駄な優しさで理由付けを模るとしよう。しかし、俺も不良女を苦しませる為にいるのではない、涙を飲んだとも)

男「俺、やっぱり職員室に行ってくるよ。このまま放っておくよか間違いないだろ」

不良女「……[ピーーーーーー]」

男「釘刺すつもりで言っておくが、俺が離れた瞬間に抜け出そうとか思うなよ」

不良女「っあ~! 疑ってんなら寝るまで傍にいてから行きゃいいだろ!?」

男「そうするべきかね。じゃあ、さっさと目瞑って寝ろ。俺もおちょくらないで黙ってるからさ」

不良女「あとあたしの顔見んなっ! 見たら、転校生に頼んで本気でぶっ飛ばしてもらうからな!」

男「頼っちゃう辺り本気で弱ってるな、お前……」

男(あまり病人を苛めるわけにもいかない。ベッドの横へ椅子を置き、彼女へ背中を向けて座る。あくまで意識させたまま、行動を慎んだのだ)

男(背後では、寝返りを繰り返しているのだろう、不良女の落ち着かない様子が目に浮かぶ。……不意に、先程買った飲み物へ目がいった)

男「不良女、さっき凄い汗かいてたな? 水分補給適度にしとけよ」

不良女「寝ろつったり、水分補給つったり、落ち着かす気ほんとあるのかよっ……!」

不良女「あーあ、ダルい……風邪とか久々じゃん……」

男(原因に心当たりがあると、勝手に説明してくれた彼女の言い分を要約すれば、過労である)

男(アルバイトの連勤に文化祭での伴奏練習が重なり、ペースを崩したのだろう。対して不良女はマジ最悪と連呼している)

不良女「マジ最悪っ……」

男「そう言うなよ。誰だって体調は崩す、しかし、風邪引くってことはある意味じゃ安心だな、不良女?」

不良女「バカじゃなくて悪かったよっ! お前引いたら絶対同じ台詞で返すからな!」

不良女「つーか、[ピーー]なのは風邪がとかじゃないし……」

男(先程からしきりに発していた、最悪、だろうか。だとすれば言いたいことは)

男「珍しく自分が弱ってるところだけは、見られたくなかったってか?」

不良女「!! 何だよ……その、何でもお見通しみたいな風な感じ。ウザったい」

男「(俺に良い考えが、悪くない考えがある) そうでもねーよ。でも、良かったじゃないか」

男「見られたのが俺だけで。気兼ねなく休めてるようには思えないけどさ」

不良女「[ピーーー]にだけは一番見られたくなかったんだよ!! ……あっ」

男「は……?」

不良女「ち、ちがっ! いや、違うくないけどっ、や、やっぱ違う!!///」

不良女「あぁ~~もうっ!! 寝させろよ!///」ガバッ

不良女「[ピーー]か! [ピーー]かあたしは! [ピーーーーーーーーーー]! [ピーーーー]っ!///」

男(布団で遮ったせいで聴こえ辛いわけでもないとするならば、悶え真っ最中なワケである。実は美少女は、恥じらいだけで風邪を克服できるのではなかろうか)

男「よ、よく分かんないけど暴れると悪化するぞ!」

不良女「[ピーーーーーー]だろうが!!」

男「ええっと、多分 俺がいない方が良いのは理解した。後で様子見にだけ来るから静かに休んでろって、な!?」

男(その台詞を最後に立ち去るフリを見せれば、不良女は……不良女は、嫌に静まっていた。即座に近寄り 被っていた毛布を剥ぎ取ると)

不良女「はぁ、はぁ……あぁーー……」

男「おい! しっかりしろ、不良女! 不良女!?」

男(騒がせた俺にも悪気があったのは否めない、というより全面的に俺が悪だ。そこで弱り果てた美少女は超人ではないのだ、うめき声を上げて倒れている)

男(流石にイベントがどうこうなど頭から一瞬で吹き飛んだ。恋の駆け引き以上に命の優先である)

不良女「ま、待って……いかないで、一人にすんな……」

男「すぐに戻って来るから耐えてくれよ! 恨み言なら後でいくらでも聞く!」

不良女「ち、がう……のど かわいた、から……」

男「何!? 俺が飲ませてやったら良いのかっ!!」

不良女「……へ?///」

男(傍らの飲み物を手に取り、うつ伏せになっている不良女へ近付けば、更に顔が熱く赤くなっていった。やはり悪化しているのか)

不良女「ぁ、あたしは[ピーーーーー]……///」

男「四の五の言ってる場合じゃねーだろ! すまん、体起こすから体に手回すぞ」

不良女「ばっ!?///」

男「(抱き起こされた途端、息も絶え絶え、潤んだ瞳が必死に訴えていた。我 水分欲ス、と。形振り構わず俺は歯でボトルキャップを開き、飲み口を突き付け) ……口を開けろ。少しづつ飲ませるから、心配するな」

不良女「ん~! んんー!!」ブンブンッ

男「口開けろってんだよ! 恥じなんか捨てろっ、口移しででも無理に飲ますぞ!?」

不良女「[ピッ]、[ピッ]、[ピーーーーーー]!!?」

不良女「[ピッ]、[ピーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]!? [ピーーーーーガーーーーーーーー]~っ!!///」

男「不良女ッ!!」

不良女「ひ! …………[ピッ]、[ピーーー]。[ピーーー]んだろ」

男(観念したか、ようやく口を小さく開けてこちらを向いた不良女。気がつけば、先程以上に熱がありそうだ。一刻を争うぞ)

男(ゆっくり、ゆっくりと片手に持ったペットボトルの口を下唇へつければ、何故か目を瞑っていた彼女、その身体がピクンと小さく跳ねるのだ)

男「待った、やっぱりストローにしよう。コレじゃ危ないな……」

不良女「はぁ!?///」

男「思い出したんだよ、さっき棚を漁っていた時にストローの束を見つけてな!」

不良女「……」

男「そういえばよく保険医の人、面倒臭がって直接容器から吸ってたしな……ともあれ、これなら安全に飲めるだろ」

不良女「……」

男「ほら、使えよ。俺もちょっと気が動転しちまってたよなぁ。俺がしっかりしないとダメなのに」

不良女「ここまで来たらさ……もう、才能としか言いようねーわ」

男「は? 何が?」

不良女「バーカ、別に何でもないって。ただ 嫌いになれないなってさ……」

男(辛そうにしているのは変わりなかったが、呆れ加減で、やや嬉しそうに不良女はストローを咥えていたのである)

男(俺もそれへ笑顔で返してみた。こういう展開がお好みなんですね、と)

男(あ、待って、待って欲しい。取り乱したのは素の反応だった、俺とてそこまで打算的ではない。信じてくれ、神に誓うから)

不良女「はぁ、はぁ……やっぱ、ごめんな。しんどいわ……」

男「気にするなよ、最初から分かってたから付き添ってるんだ。無理に明るく装われても気味悪いだけだぞ」

不良女「うん……」

不良女「[ピーーーーーーーー]」

男(下手に適当な薬を飲ませるのは得策ではない、という事から探し出した冷えピタだが)

男(あれだけ寝顔を覗かれまいと抵抗した不良女が、そちらを正面へ捉えていても文句の一つ言わなくなっていた。疲労か、否、安心一色だったのだ)

不良女「……あんた近くいると、正直何かしでかすかと思って全然落ち着かないわ」

男「その割に落ち着いて見えてるのって、俺の気のせいか。眠れそうか?」

不良女「でも、変だなぁ。[ピーー]くれた方が[ピーー]しいし、気分も悪くないや」

不良女「なぁ? 文化祭一緒に回ってくれる気になってくれた? ……病人の頼みだぜ~」

男「一つ訊いておこうと思うんだが、どうしてそこまで拘ってるんだ?」

男(回答の見当は付く。だが、聞くことに意義があり、意味はあるのだ。時に人生遠回らねば、さすれば道は開かれん)

不良女「……[ピーーー]とかはどうでも良いと思ってたんだわ。でも[ピーーー]が回ってきたからさ」

不良女「じゃあ、もう これは[ピーーー]しかねーんだよなって。いつまでも[ピーー]にしておきたくなかったんだ」

男(遠回りしてみた結果、一周回って迷子になりそう。ならば)

不良女「じ、自分勝手で[ピーーー]に迷惑なのはわかってるけどさっ、いい加減ケリつけたって悪くはない」

男「そういえば俺、この間の土日 生徒会長と妹に告白した」

不良女「でしょ!? 我慢とかどうでも良くなって、るううぅぅ~~~!!?」

男(忘れるなかれ、酷な戦況といえど 口さえあれば切り開けるものである)

不良女「何て、いま……お前何て…………おい」

男「俺なりに気持ちに答えてみたんだ。二人とも戸惑ってはいたが、受け入れてくれたかもしれない」

不良女「そうじゃねーよ!! あ、うん、そうっちゃそうだろうけど、でもっ!!」

男(と、無理矢理体を起こそうとする不良女の肩へ手を置き、急で悪かった落ち着けと宥めようとすれば)

不良女「触るなって!!」バッ

男「人は違うがデジャヴかこれ……別に面目保とうとは思っちゃいない。俺が常識破ってることも、否定しない。言い訳もない」

男「カッコつかないやり方で決着つけようとしている。その上で申し訳ない気持ちなんぞ欠片もない。こんな形で話すつもりもなかったんだが、どうしてだろう、先走ってたよ」

不良女「……頭どうかしてんじゃないの? あたし、あ、あ、あたし……[ピーーー]」

男「混乱するなってのは難しいよな。でも、知っておいて欲しいな、お前が気に入ってくれたバカは想像以上の」

不良女「な、何様気取りだよ……そうやって、いっつもいっつも上から目線で、舐めた口利いて……!」

不良女「何にも[ピーーー]たちのことわかってない癖に、見透かした態度取って! 冗談じゃな――――あっ」

男(プツリと興奮が途切れたと思えば、軽い目眩でも起こしてベッドへ倒れてしまった。少々状況が不利だ)

男(まず不良女が万全でないことから、トチ狂った俺の言葉を受け止めきれていない。というか、そうでなくとも正常な人ならば受け止めない)

不良女「まず妹ってなんだよ……自分の妹かよ……」

男(ひょっとすれば、これまでで一番常識的反応を見せたのは彼女が初ではなかろうか)

不良女「あたし、あたしは[ピーーーーー]だけだったのに……こんなの、ありえねーだろ……!?」

男「お前の中の理想がどうなってるか俺に分かるわけもないけれど、俺は俺のやりたい事を果たそうと考えてみた……重大問題と向き合ってるんだぞ、これで」

男(実際関係のない第三者から見ればくだらない夢で、低俗だろう。しかし、俺の限りなく小さい世界は美少女たちで出来ている)

男「(しかるに、どんなにくだらなくとも、彼女らとの関係の崩壊は、世界の終末である) 俺は、不良女! お前のことも好きだ! 人としても、異性としても大好きな奴だ!」

男「ただの悪友にしておくには惜しい、良い女だッ……!」

不良女「!」

不良女「あー……あは、なんていうか、無理だ。何言われても薄っぺらく聞こえるかも」

男(……ほう、薄っぺらく捉われて当然ちゃ当然である。俺は一度も本音で語らず、建前や上辺でしか伝えられていない。幼馴染や妹との違いだ、彼女は俺の仮病設定を知らない)

男(可哀想な目で見る事もできず、ひたすら壮大に大層な戯言を抜かす軽薄野郎と認識してしまう)

男(こうでなくてはつまらない。約束された勝利を掴むよか、苦汁を舐めた末、辿りつく桃源郷よ)

男(とでも言うと思ってるのか。人生ベリィ イージーモードでナンボだろうが)

男「へへ、だろうな……あーあ、これでお前から相手されなくなっちまうわけだ」

男「やれやれだぜ、まったく! こんなハエも集らないクソに惚れる方がどうかしてるね。あー、スッキリした」

不良女「[ピッ]、[ピーーー]……? お、おい」

男「おう? まだ何かあるのかよ」

不良女「男、何か隠してんだろ……」

男「……え、何だって」

不良女「お前っ、ふざけてもすぐわかるんだからな。すぐに誤魔化そうとしたりして、バレバレだっつーの……」

不良女「こ、こう見えてもあたしはあたしなりに、あんたのこと見てきたから! 見てたんだから!///」

男「ストーカーして面白い人間じゃないだろうに。それで、どうしたんだ?」

不良女「……いつも自分がいかにも身勝手みたいに振舞ってるけど、あんたって意外に人を立てようとしてくるんだ」

不良女「おまけに、困ってる時は、文句垂れながらだけど、最後まで付き合ってくれる。あ、あたしはそういうとこ[ピーーー]じゃ、なかった、し?」

不良女「それに……どんな時でも、悪役買って出てくれて、それで何か言われてもヘラヘラしてて……辛いの全部持ってってくれる……」

男(すまん、ほとんど結果論である)

不良女「悪いとこは確かに山ほどあるとは思う!! でも、良いとこだってちょっとはあるんだ……あんたってそんな奴だよ」

男「気のせいじゃないのか? 俺は常に自分のことで頭一杯だぞ」

不良女「そんなバカ野郎がっ、[ピーー]ってる奴の面倒付きっ切りで見んのかよ!///」

不良女「あ、あたしは……あたしは、あんたの良いとこが[ピーー]。だから、そこを信じてみようと思う……[ピーー]だから。まだ[ピーーーー]よ」

男(その時、悪くないタイミングだ、昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。同時に気恥ずかしそうに、俺へ背中を向けて彼女は横になって見せた。今日はここまで、ということか)

男「念のため そっちの担任にお前の体調伝えておく。それじゃあな、物好き」

あけましておめでとう
正月休みで一気に書こうと思っても難しいのだ。いつ完って打てるかな

男(不良女の体調不良を代理報告終えてすぐのことである。職員室から出てきた俺を待ち構えていたように、雑な荷物を抱えた彼女が立っていたのだ)

幼馴染「お疲れ様ー、男くん。反省してる? いつも叱られることばっかりしてるのがいけないんだからね!」

男「そこから出てきただけで説教帰り決め付けられてるのは、確かに日頃の行いの賜物だ」

男「ていうか、お前の方こそ大荷物背負って夜逃げの支度かね」

幼馴染「どういう発想? 違うよ、あたし一応文化祭の実行委員なの。これは飾りとか諸々だね」

男(なるほど、以前 準備で休日も学校へ行っていたと聞かされていたが、そういう事だったか。と、ここですかさず荷物を奪って男を見せてみるとしよう)

男「ぉおお、おっ……ふっ!?」ガクッ

幼馴染「大丈夫!? いいよ、カッコつけて無理しなくても! 男くん十分カッコイイの足りて余ってるし!///」

男「(その優しさが辛口だ) き、気にするなよ! 運んでやるから行くぞっ!」

幼馴染「心配だなぁ~……それで、結局のところどうして職員室に呼び出されてたの?」

男(正直に伝えるべきか、だが、不良女のことを思えば余計な心配を周りに分散されるのは鬱陶しいだけだろう。今頃見られたくない寝顔を晒していそうでもあるし)

男「先生に発表の準備のことで訊きに行ってただけだ。真面目だよな、俺」

幼馴染「真面目な人は、途中でどっか抜け出してブラブラしてたりしないと思うなあー」チラ

男「……やれやれ (既に手が回された後だったらしい。幼馴染は、転校生から届いたメールをこちらの眼前で、嫌味に、チラつかせるのだ)」

男子生徒たち「あっ! 見つけたぞ、アイツ こんな所で女子と油売ってやがった!」

男「コイツらどこから沸いて出てきたんだ……!」

幼馴染「それじゃあ、荷物ここまでありがとうね、男くん。お手伝いがんばって」

男子生徒「こっちは面倒な女どもからうるさく言われてたのに、お前一人可愛い子とランデヴーとか許されんわ」

男(あっという間にモブに包囲され、一時の癒しが奪われる。いや、これはある意味強制イベントの始まりではないか?)

男(メインストーリーという名の何かが……しかし、奇妙な感覚である。いま俺の腕を掴んでいるモブは、現実で絡みのあったキョロ充の一人)

男(どいつもコイツも、個性を消されている。というより、キャラが立たないよう他と均一な口調に性格だ。顔すらもよく観察しなければ、同じに見えてくる)

男「な、なぁ、○○くん」

男子生徒「さっさと男を連れて来いってお達しだー! 殺してでも黙らせて持って行くぞー!」

男「寝太郎だか、パルプンテくんって呼び方はもう定着してないのか? 俺って君らの中でどういう存在なんだ?」

男子生徒「……」

男(やはり、彼らはゲームの村人のように、その時その時の、必要最低限の台詞しか与えられていないのか)

男(あんなに粋がり屋だったクラスメイトが、単なる舞台装置なのである。これで演劇をするというのも、なんて皮肉)

男(……ふむ。彼ら舞台装置に対して、予期しないアクションを取ったらどうなるだろうか。ふと沸き立った破壊衝動が)

男「悪いなっ、南無三!!」グッ

男(俺に、モブの金的を蹴り上げさせたのである)

男子生徒「イギィッ!!」

男子生徒たち「しまった! おい、拘束しろ! 意地でもサボる気満々だぞ!」

男「アドリブ対応だと……!?」

男(否、この場で俺が行ったことが、逃走行為、として理に適っていたと受け取られてしまったのだ。この程度ではヌルかろう……)

男(掴み掛られる前に、急所を抑えて蹲っていた先程のモブの裏へ回り、見よう見真似で習得したチョークスリーパーをお見舞いし)

男「全員そこを動くな!! 動けば、コイツの首が消し飛ぶぜ!!」

男子生徒たち「や、野郎……どこまで性根腐ってやがる……真っ黒だ……」

男「動くなよー……いいか、そのまま俺が行くのを黙って見送るんだ。言う通りにしない、と」グッ

男子生徒「ぁあはいいぃぃぃぃ!!」ギ、ギギッ

男子生徒たち「わかったから暴力は止せ! 見なかったことにするから! そう報告するって約束するよ!」

男(何だか、微妙にこの状況が楽しく思えてくる。さておきだ、俺はモブを一人拘束したまま後退りし、逃走に成功したワケである)

男「ここなら邪魔も入らないかもしれん。おい、まだ逃がさんぞ」

男子生徒「……」

男(そうは言われてもと、いや、言おうが言うまいが 彼は無表情無抵抗のままだったに違いない。まるで人形だ)

男(これまで美少女を一心にやっていたが、モブとの接触はイレギュラーを除けばあり得なかった。所詮 思い付きでやってみたが、初の試みである)

男「やれやれ……ほんと、やるは良いが気は引けなくもないな。でも」

男「俄然 興味は出てきた(数十秒経過しようが、連れて来られ床へ座らせた体勢のまま、彼は硬直していた。呼吸ぐらいはしているのだろうが)」

男(手始めに、声を掛けながら頬を軽く叩いてみる。抓る。反応無し。元気一杯に悲鳴を上げていたのがウソのようだ、不気味極まりないぞ)

男「ちょっくら、ポケットの中を失礼……ほう」

男(抵抗もないまま、すんなり懐の携帯電話や財布を、抜き取らせてくれた。意外に思ったのは、モブキャラといえども この様アイテムを持っていた事だ)

男(だが、どれも中を確認してみれば、溜息が出てくる)

男「携帯は電源が入らない……財布の中は、一銭も……学生証ぐらいはあっても悪くないだろうに」

男「……お前ら、真面目にモブキャラを徹底されてるのか。外見だけあって、みんな空っぽなんだな?」

男(仮に、もし俺がコイツを殺めたとしたら どう展開されるのだ? 冗談でも試すつもりは無いぞ)

男「なぁ、そろそろ何か喋ってみたらどうなんだ?」

男子生徒「……」

男「○○くん、君はあっちで俺のことそんなに嫌ってくれなかったよな。よーく覚えてるぞ」

男「俺も、君のことはあの連中の中じゃまだマシだと思ってたかもなぁ……出会い方さえ間違わなければ、まぁ、想像つかんが」

男(ハッキリさせられた、十分だ。所詮モブはモブ。あわよくば現在抱えた転校生の謎へ辿り着くヒントぐらいはと思っていたのだが、これでは、もう)

男子生徒「…………さっきから、何言ってんだ? 男?」

男「(モブも潮時を察したか、どこまでも都合の良い) 何でもないよ。悪かったな、急に拉致紛いなことして!」

男子生徒「全くだ!! ったく、あとでアイツらから何言われるか分からんぞ~?」

男「ああ……ていうか、名無しくん。顔どうした」

名無し「ハァ? 顔なんて、いつも通り整った甘いマスクのイケメンのまんまでしょ。何だ? 米粒ついてるか?」

男(そうではない、そうではなくて、尋常じゃあなくて、突拍子も無さすぎて、名無しくん?)

男「……だ、誰だ……誰だお前…………っ!?」

名無し「誰って、“名無し”だよ。お前の、その、アレさ……言わせんなってばな///」

男「ぶっ!! 大事だから言えよ!? 何なんだ貴様!?」

名無し「ダチだろ、ダーチ! まぁ、そんなに絡みとか無かったけど、オレはそのつもりでいたんだぜ?」

男「ち、ちょっと財布見せろ! 携帯もだ! 中身見せてみろ!」

名無し「おっ、ジュース買うなら奢ってやんぜ。ただし、後で面白い芸一回披露してくれよな」ニコニコ

男(引っ手繰る勢いで、彼から奪った物を確認すれば……冷や汗が背中へ垂れた気がした)

男(電源の入らなかった携帯電話が、キチンと機能している。財布には諭吉が一枚微笑んでいたり、あった、学生証)

男「…………な、名無し?」

名無し「んじゃ、行きますか 男!」

転校生「まったく、あんたって目離したらすぐにどっか行くんだから! 聞いてるの!?」

男「……」

男の娘「あはは、全然聞こえてないっぽいね……」

名無し「よほど演劇の準備が嫌だったみたいだな。まぁ、気持ちはよーくわかる。誰だって面倒が好きな奴はいないし」

名無し「とりあえずさ、ジュース一本奢って貰ったお返しにと思って、買い出し付き合ってもらうぜ? 男っ」グイ

男「だからお前誰なんだってば……!」

男の娘「忘れちゃったの、男? 僕たちのクラスメイトの名無しくんだよぉ。たまに喋ってたじゃない」

転校生「あんたと違って人も良いし、容量も良いし、まるで真逆よね 名無しくんって。爪の垢煎じて飲ませてもらったら?」

男(どういう事なのだ、これまでモブは眼中に無かった筈だというに。二人が“名無し”を個人として認めているだと)

名無し「……男? な、何だよ。そんな怒んなくたって良いだろ? 顔怖いぞ、お前!」

男(二度見どころか、何度も睨んでみた彼の顔には、個性が生まれていた。至って平凡・変哲もないが特徴であったモブが、モブではなくなっているのだ)

男(異例中の異例すぎる。おまけに爽やかな男前ではないか……敗北感と焦燥感をダブルで食らわしてくるんじゃない)

男(状況を整理しよう。一言でまとめれば、突然変異である。恐らく神の仕込んだ悪戯、なのだろうか、サッパリ分からん)

男「そもそも美少女の追加どころかイケメンの追加とか、迷惑でしかないぞ……何考えてるんだ……」

転校生「良いからさっさと自分の仕事してきなさいっ、バカサボり変態!」

男(混乱のまま、名無しと校外へ買い出しへ行かされたワケだが、納得がいかない。何なのだコレ)

名無し「男! しっかり周り見張っとけよな、二人乗りバレたら後で煩そうだしよ」

男「だったら無理にチャリンコ使わなくたって良かっただろ……」

名無し「やー、時間の短縮よ。あんま遅くなるとまた転校生たちから叱られるかもしれないだろ? 特にお前がね」

男(気安く転校生を、しかも自然に、呼び捨てただと、ライバル登場なのか? のんびりやっていたら横から美少女を搔っ攫うお邪魔キャラか、お前は?)

男(それとも男の娘と同タイプ? 一番判断し易い方法があったじゃないか)

男「名無しは、俺のことずっと友達とか思ってたんだよ、な?」

名無し「そうだぞー。意外にお前って気が置けないヤツだしねぇ、前から気になってたし、気に入ってた」

男「……そっち目線での話じゃないだろうな」

名無し「はぁ!? ち、違うだろバカッ! いきなり気色悪ィこと言い出すんじゃ」

男「わあぁぁぁ、わあぁぁぁー!! バカはそっちだバカ野郎! 前っ、前見ろ!!」

名無し「あれェ!?」

男(前方不注意、余所見運転、すなわち自転車は電柱に衝突した。派手な音ともに宙に投げ出され、俺たちは地面に転がっていた。何処の古い邦画演出かと)

名無し「……あれェ、は流石に無かったよなぁ。死んでたらマヌケだもん」

男(死ね)

名無し「なぁなぁ! さっきの店員さん結構イケてなかったか? 俺的にはポイント高かったなぁ、うぇっへへ♪」

男「そうかい……」

名無し「やー、ソレは良いとして ここから徒歩でまた学校戻るのがダルいんだよな。自転車修理出さんと」

男(頼まれたおつかいは無事果たせそうである。だが、帰り道も名無しの相手を務めるというのが面倒だ)

男(短い時間ではあったが、彼といて分かった事がある。非常にお喋り好き、加えて気さく、更にそれが不思議と鬱陶しく感じない。が、私的にはウザい)

男(名無しは、表面に現わしている通り、俺の良き友人になろうと必死だ。裏が無いとは思えないが、限りなく善人近いかもしれん)

男(が、それが非常にウザい)

名無し「ん? どうした、急に立ち止まっちゃって。便所か?」

男「……不愉快だ」

名無し「おう?」

男「俺に媚びてるのか!? それとも、どこぞの腐った女どもに媚びてるのか、どっちだ!!」

名無し「あー、意味はよく分かんないけど、どっちかと言えばお前に媚びてるかなぁー?」

男(全身に鳥肌が立った、やはりホモである。ラスト突入に突如追加される優男は、ホモで裏があると決まっているのだ)

男「名無し、その手のポジションはもう埋まってるぞ!! (おまけに文句無しに可愛いのだ、性別をも超越していて)」

名無し「知ってるよ。男の娘のことだろ?」

男「えっ?」

名無し「勘違いしてもらっちゃ困るから言っておくけど、オレはお前のことそういう目で見てないってば!///」

男「(じゃあ頬を染めるな) それは置いておくとして、何でいま男の娘の名前が……」

名無し「好かれてるんだろ? マジに。だから知ってる」

名無し「お前、モテモテだもんなぁ! 女子とかだって、転校生から隣のクラスの子、ましてや下級生から上級生、先生にまでとか!」

男(……何なんだ、コイツ)

名無し「あっ、誤魔化したって意味ないからな。オレはぜーんぶ知ってるんだぜ、男の色んな事情!」

男「だ、だから何だっていうんだ。挙句の果てストーカーか!? そんな自慢で俺に好かれると思ってるのか!?」

名無し「好かれるどうこうで言ったんじゃないさ。お節介だろうけど、手伝ってやれるってアピールだよ」

男(…………何が何だか分からない……)

名無し「そんな疑うなよ! 一友人として、お前には最高の幸せ掴んでもらいたいだけなんだぜ?」

名無し「あくまでも俺たちは、友達だよ、男。こっちはそれ以上の意識なんて全然だって……っへへ、握手しとくか?」

男(そう言われ差し出された右手を、緊張に包まれて、俺は見ている事しかできなかった。謎だ、この男)

男(神が新たに仕向けた者だとすれば、ただそれだけ。しかし、説明のできない未知が凝縮されている)

男(イレギュラーバウンドから生まれた彼はさしずめ……アンノウンだ)

男「根本的には、美少女たち同様 俺のために作り出された、都合の良い奴なのかもしれない」

男「だけどっ! 何か、違和感みたいな、口で上手く言い表せないっ! とにかくヤバい! マジで!」

後輩「……ふむ、語彙力が足りなくなるほど追い込まれたのはわかりました」

後輩「ですけど、どうして私の所へ訊きに来るんですか? 関わり合いはやめたって伝えた筈ですよ」

男(無愛想にも腕を組んで、こちらを呆れ目で見てくる後輩だ。それでは可愛げが掻き消せないのが美少女の憎さよな)

後輩「素直に、他に頼れる人がいないって言ってみたらどうなんです? ねぇ、せーんぱい」

男「(畜生、悪くない) ……アレは、モブだった男子がいきなり変化したんだ」

男「理由はともかく、委員長は美少女からモブへ格下げしただろう? それとは別ケース……しかも、男子が!」

後輩「ふふ、委員長さんみたいに向こうからここへ来ちゃったんじゃないんですか? 好かれてますね」

男「ば、バカ言え……とはいうものの、その線はもう疑った後だ」

後輩「あと?」

男(既に、それを仄めかす様な質問をしていたのである。神についてもだ。名無しの返事は)

名無し『宗教勧誘じゃん』

男(ぐうの音も出なかった。敵は一枚上手だったと、褒めてやろうかと)

後輩「あの、もう教室戻っていいですか……」

男「まだ終わらすな! とにかく名無しは純正なこの世界産の人間かもしれんっ、イケメンの!」

男「その他大勢から一気に大抜擢……どうせならモブ女子にしておけよと……」

後輩「話が長くなりそうだから、打ち切りたいんですよ。私には私の日常がキチンとありますから」

男「モブ女子からなら、新たな美少女だって……!!」

後輩「ふぅ……先輩、本当にあなたにとってその人はその他大勢だったんですか?」

男「何だと?」

後輩「元を辿ればあなたの“美少女”だってその他大勢だった筈ですけど、単にキャラ付けのし易さから選ばれてますよね」

後輩「でも、それだけとは限らない人も一部にはいるでしょう? 先輩が無意識に美少女であることを望んだ人たちが」

男「名無しも、そうだって言いたいのか? だけど野郎だ。俺にそっちの趣味はないぞ……」

後輩「じゃあ心から願った都合の良い友人としては?」

男(友人だと。友人ならば、転校生や男の娘たちが役を兼ねているではないか)

男(……兼ねている。つまり、あくまでおまけなのか。結局は恋愛感情を優先させているわけなのだから)

後輩「女の子にモテるだけが、かならずしも喜びじゃないんじゃありませんか? 私には上手く理解できませんけどね」

後輩「ふふっ、女の子ばかりに囲まれすぎて、少し食傷気味だったとか」クスッ

男「いや、女の子ばかりに囲まれて生きたい」

男(俺の隠れた欲求はともかく、神が友人役を作ってくれたというのか? 今になってから?)

後輩「心配する必要なんてまずないでしょう。彼が先輩に害を与えてくることはまずないでしょうし」

男「……寝取られたりされる心配も要らないんだな?」

後輩「あー、もしかして直接会って話してみたら惚れちゃうかもー。ふふっ、先輩なんかより断然好きになっちゃうかもー?」

男「止せ、俺は自分で思う以上に嫉妬深いサイコパスだぞ」

後輩「あはっ、なに本気にしてるんですか、先輩。おかしい」クスッ

男「好きだ、後輩」

後輩「えっ? いま何か言――――……失礼します」

男(少し意地悪だっただろうか。怒っているとも悲しんでいるとも判断のつけられない何とも言えぬ表情で後輩は立ち去ったのである)

名無し「よっ、男! お前ほんとに懲りないな、これで何度目の脱走してんだよー」

男「ひいっ!? 懲りないのはどっちだ……頼むから驚かすような真似するなよ。心臓止まりかけたぞ」

男「にしても、よく俺がいる場所がわかったな? ストーカーの直感か」

名無し「やー、違うねぇ それは。特別に教えてやろうか? オレの目は何千何百もあって、何処にでもあるんだ!」

名無し「お前がどこに隠れたって簡単に見つけられちゃうんだぜ?」ニコニコ

男「言ってること何もかも不気味だからな、お前……っ」

また明日

転校生「おぉ、貴女こそ私の探し求めていた運命のお方! あの夜の一時は、呪いの様にこの心へ刻まれたままなのです……」

男「アイツのとりあえず何でもそつなくこなせちゃうのは何なの? 神から愛されてるの?」

名無し「やー、早く衣装着た姿見たくて堪らんな。容姿に合わせてあの演技力の高さ! 見栄えの良さは約束されてるっしょ」

男「自然装って俺の横で会話始めるんじゃねーよ……」

委員長「男の娘くんどうしたの? 次の台詞 男の娘くんなんだよ」

男の娘「ああぁ~! うぅ、ごめんなさい! 緊張で頭から台本がぁ~!!」バタバタ

名無し「フーン、あっちはまた苦戦が続いてるらしいなぁ。こういう時がお前の出番じゃないかな?」

男(ええい、実に腹立たしい奴。あしらおうにも、名無しは二ヤリと口角を上げ、気安く肩をトントンと叩くのだ)

男「名無しクンありがとう! 見てろ、やらされ感半端なしで手伝ってくるからなっ!!」

名無し「いいねぇ、そういうとこがカッコイイんだよ 男は~!」

男(アレの無駄な俺上げがより腹の虫を刺激してくる。どう考えてもいけ好かない都合の悪いハンサムである)

男の娘「あっ、男……見てたんだ。[ピーーーーーー]……」

男「調子悪いみたいだな。気にするな、練習尽くしで集中削がれてるだけだろ?」

男(というかプレッシャーが主な原因は明らかだった。反対側で熱演する転校生を涙目で眺めては、溜息を洩らしている)

男の娘「僕、才能の差が怖いよぉぉっ!」    男「確かにありゃ天災だ」

男の娘「自信ないんだよぉ! 最初からそうだったけど……僕には無理だよ、出来っこない」

男(元はと言えば押し付けでヒロイン役に抜擢されたのだ。変に単純な転校生と比べてナイーブが続くのも分かり切っていたこと)

男「(そこで俺が励ましてやる、そんなイベント) 役を降りるなら今しかないぞ。他に適任がいるとは思えんが」

男の娘「い、一杯いる筈でしょ!? 女の子の役なら女の子がやった方が良いもん! 歌舞伎じゃあるまいし!」

女子生徒たち「見た目重視で決めちゃったし! 演技は二の次ぐらいだから! 何とかなる!」

男の娘「ただの晒し上げになっちゃうと思うな……は、ははは」

男「演技が二の次なら、アフレコ方式を取ってみたら楽なんじゃないか?」

「…………おぉ~~~!!」

男(この一言で俺へ称賛の声が次々と。「伊達に楽なことしかしてないな!」、「素晴らしいセコさ!」、「よっ、努力知らず!」、OK、十分だ)

名無し「うん、確かにそのやり方なら男の娘たちは身振り手振りだけで良くなる。あとは裏で誰かが台本を読めば!」

男の娘「男っ! 男は僕の命の恩人だよぉ、そして[ピーーーーー]だよ!!///」

男「すまん、最後のはよく聴こえなかった」

転校生「えっ、台詞の練習やらなくなっちゃうの……?」

男子生徒たち「どっちも中途半端でやったら、違和感にならないかな? 演劇の良さ潰しそうだぞ」

男(お前たちはどちらの味方なのだ)

名無し「まぁまぁ! 一旦みんな落ち着いて話し合おうや。急かして無駄になるのは勿体ないだろ?」

男(リーダー、あとは任せよう。だが、言ってから俺の方を向いてウィンクして欲しくはなかったよ)

委員長「やり方変えるならすぐが良いと思うな。台詞の練習時間が無くなれば、その分他に回せられるよ」

男(そうして裏方作業を手伝わせ、俺の効率が良くなる見事なバランスよ。モブどもとの時間を減らせられるのだ、歓迎しよう)

転校生「でも、一応練習はしてきたんだから、私は凄く勿体ないと思うわ……!」

男「あんなに乗り気じゃなかった奴一号がそれを言うか」

転校生「さ、最初はそうだったけど、別に私一人がって話じゃないわ。他のみんなだってやる気になってきたんだし!」

男「男の娘みたいな無理矢理やらされてる奴らもいるんだぞ。そいつらも見てやるべきじゃないのか?」

転校生「……ワガママだったわ、ごめん。本当は新鮮でちょっぴり楽しかったから、止めたくなくて」

男(真面目な青春群像劇みたいなのは止めてくれ、俺に効く。中身スッカラカンの美少女ラブコメを取り戻したいのだ、この俺は)

男「正直言うとだな、男の娘。提案しておいて何だが俺もアフレコじゃあまり面白くないと思ってる」

男の娘「えっ!? も、もしかして僕のこと[ピーーー]れたせいで……」

男「そういえば衣装は用意できてるとか小耳に挟んだんだが、どうだ? 一回実際に着て練習してみるってのは」

先生「よし、話は聞かせてもらった!! こんなこともあろうかと体育館のステージも確保してたの!!」ガラッ

「マジで!?」

男「先生、やけに手回し良くないですか」

先生「そりゃもう頑張る若人を前にして張り切らない大人がいないわけないじゃない。当たり前でしょ? うふっ」

男(コレだ、求めていたのはこういう女豹のウィンクだ。参考にしておけ、イケメン、二度とやるなという意味でだ)

名無し「お前も思い切ったことさせるなぁ、男。あんなに嫌がってた男の娘だぜ? しかも人前でやらせちゃうの?」

男「今考えたんだが、人は極限まで追い込まれると化けるって聞いたんだよ」

名無し「ほ、ほぉ~……まぁ、あながち間違いじゃなくなりそうだけど」

男(そんな、まるっとお見通しいみたいな胡散臭い様子を名無しは醸し出しちゃって。コスプレ見たさに誘導したと見抜かれていないだろうな?)

先生「言っておくけれど、舞台衣装はコスプレとかとは別物だからね、男くん?」

男「嫌だな、真面目ですよ 俺 (こっちからとは思わなんだ)」

男(裏方作業員俺たちは、ステージの前に行儀良く待機し、今か今かと役者の登場を待っていた。しかし、時間が掛かっているようで中々)

名無し「やー、衣装ってそんな凝ったの使うのかな? もうそろそろ出てきても良い頃じゃ」

男「……ちょっくら楽屋訪問して来ようかね (楽屋と言っても近くの空き教室を代わりに使っているらしい。何かハプニングでもあらば颯爽登場し、解決へ導くのが主人公)」

男「(日常からして役者だな、俺は) 入るぞー。みんなお待ちか……ね」

転校生「え……?///」

女子生徒たち「きゃああああああ!! 覗きぃ~~~!!」

男の娘「……お、男 その頬っぺたどうしたの?」

男「大した事じゃないから気にしないでくれ (喜びの代償にも慣れた)」

男「お前こそ、そのヒラヒラした恰好は」

男の娘「あ、あははは……[ピーーーー]。女子にも着るの手伝ってもらって、恥ずかしかったなぁ……」

男(散々性別の壁を越えた可愛いさなどと褒めちぎってもきたが、衣装一つでこうも目を奪われてしまうものか。かわいい)

男(どこからどう見ても美少女のソレなのだ、かわいい。仕草すら女子らしく思わせるのは、彼の華奢な体系のなせる技か)

男「眼福に次いで眼福ともなれば、目から光が溢れそうだな……」

男の娘「っう、そんなに見ないで……?」

男「あ、すまん! あまりにも似合ってたもんだから。サイズもピッタリじゃないか!」

男の娘「コレ、本当に女子が着る用の大きさなんだって……まさか入ると思ってなかったよ。ちょっとショック」

男(うーむ、目に入れても痛くないとはこの事、どの角度から眺めても絵になる。額縁に入れて飾れば美術品相当だろう)

男(見られる恥じらいとスカートの慣れなさに、借りてきた猫よろしく彼は固まったままだった。楽屋から出すのも一苦労といったところか)

男の娘「……男ぉ、やっぱり僕こんな恰好をみんなに見られるのやだよぉ」

男(恐らく、その恥じらいっぷりが本番では武器になろう。男子はおろか女子も、いや、老若男女人を選ばず見た者を魅了してくれる)

男(事実、ここまで褒めちぎるのも大袈裟ではないのだ。女装した男の娘、それすなわち絶対殺すマン)

男の娘「本当は男にだって見られたくなかったんだよ……こんな、見っとも無い姿なんて」

男「男の娘、俺はお前のその姿を見て再確認したよ。この人選は間違いなんかじゃなかったと」

男の娘「えっ?」

男「完璧すぎるんだよ、お前以外の誰かが演じても、もう俺には偽物にしか見えない! 物凄いマッチ感だぞ!」

男「えっと、何ていうかな……本物のお姫様みたいだな……」

男の娘「本当に?」

男の娘「本当の本当に? もし転校生さんとかが着ても、僕に[ピーーー]言えるの? ぼ、僕が[ピーー]のっ?」

男「ああ、早く舞台に上がったお姫様を披露してくれよ。男の娘だからこそのお姫様ってやつを!」

男の娘「あ、あわわわっ!///」

男の娘「ぼ、僕ね! 勇気出して一回ステージ上がってみようと思う! お、男 見ててねっ! 僕がんばる!」

男(完全にボクっ娘のお姫様がそこに立っていたのである。錯覚なのか、答えはスカートの中にある。ある意味パンドラの箱だ)

男「よし、そうと決まれば一緒に行くぞ、男の娘! DVの絶えなさそうな怖い王子様がお待ちかねだぜ」

男の娘「そんな王子様じゃ夢も希望もなさすぎないかなっ……ん、男、手 [ピーーー]していい?///」

男(今から役になり切っているのか、男の娘よ。だが応えてみせよう。まるで白馬に乗った王子の如く、エスコートしましょう)

男(細く小さな手をこの手に、背後のモブ女子たちから黄色い声を浴びながら俺たちは走った。この心地良さは主役特権か)

男の娘「お、遅れてごめんなひゃい!///」

「…………あらぁ」

男(現れた男の娘へクラスメイトたちはブツブツ不満募らせようとしたのだろう、その姿を見た瞬間、彼らは歓喜の声とともに怒涛の勢いで突進である)

男「(俺を弾いて、踏んで) ……クラスの姫、みたいな」

名無し「あっはは、ご苦労さーん!! 一先ずあの調子なら心配なさそうじゃんかよ。何言ったの?」

男「お前には絶対教えてやらないって決心してから戻ったんだ」

名無し「何だよぅ、嫌われてるなオレ……ともかく! お前のお陰で、士気は上がったな」

男(下げたのも俺と知っての発言か。単に捻くれ根性で、素直に受け取れないだけか。詰まる所はどちらでも構わない)

男(今は目を皿にして、二人の美少女に釘付けになろうではないか)

名無し「……ところでよ、ラストのキスシーン。あるの知ってるか?」ヒソ

男「……」

名無し「狸寝入り止せって。薄目開いてるし……始めは、抱きしめてシンデレラに掛かった呪いが解けて、覚めるって流れだったみたいなんだけど」

男(そうだった。我がクラスの演劇内容はシンデレラの眠れる森の姫を合わせて混ぜた物なのだ。シナリオの塩梅は悪くないと先生からはコメントされたが)

名無し「中学生じゃあるまいしって、全員キスに票を入れたんだってね。やー、流石にラップありきだろうけど」

男「それ、本人たちにはまだ言ってないってオチだろう? 俺ネタバレ済ませてやったぞ」

名無し「おう、勿論オレも知ってるよ」

男(……何?)

名無し「言っただろうが~、オレの目は何千何百あって何処にでもあるんだってさぁ」

男(後出しじゃんけんのつもりか? あの場にコイツの姿はなかった。そもそも生まれてすらいないぞ)

名無し「男のことは何でも知ってるんだぜ? 休みの日に何してたかも、誰と会ってたかも。見てたから」

男「気持ち悪いだろ、いい加減にしろよ。怒らせるのが趣味なのか?」

名無し「あぁ、悪かったってば! そんなつもりじゃないんだ。ごめんごめん。マジでごめんなぁ」

男「……キスぐらい良いんじゃないか。まぁ、当人たちの知らない所で進めてたのは寒心だが」

名無し「案外冷めてるんだな? もしそれがキッカケになってお互い気にするようになったら、気が気がじゃなくな」

男「アホか! まず普通に断るだろうが。たかがクラス発表にそこまで体張る意味が無いだろ」

名無し「やー、ご尤もなぁ。オレも二人が引き受ける光景浮かばないもん……お前とならまだしも?」ニコニコ

男(コイツ、何が友達になりたいだ? 神経を逆なでしてばかりで、敵意ばかり向けさせる気しかないだろう)

男「ここいらでハッキリさせておこうじゃないか、名無し。お前は何がしたいんだ?」

名無し「男の手伝いがしたいんだっての。まぁ、気になる子がいたらオレに伝えてくれ」

名無し「お前の代わりに四六時中見張っててやんよ。例えば、転校生。気になってるっしょ?」

男「……名無しは……お前、頭は大丈夫か? 俺の言っている意味理解できてるか?」

男(自分が何を言ってるのか善悪もつかない、自覚が欠けた気狂いなのか。この世界で接した人間で初めて触れた狂気である)

男(俺の言葉に耳を傾けなおも笑みを絶やさず、「お前の味方だ」と言い張る彼が歪んでいないとは言わせない。善意が暴走しているのか)

名無し「オレの言った通り、転校生も衣装姿栄えてないかぁ? っへ、男装麗人具合がグッと来ちゃうんだなコレが!!」

男(……確かに男の娘ばかりにスポットを当てて申し訳なかった。ショートカット転校生ならばの、宝塚匹敵レベルの王子だ)

男(無論、演技力も他とは頭一つ抜けていて、食い気味な程である。そのせいだろうか、男の娘の演技の自然さが引き立っているのは)

男の娘「も、申し訳ありません 王子。わたくしは踊れませんの……」

転校生「いけない人だな、あなたは私を狂わせてしまった……麗しい人だ……」フッ

男「ぶっっっ」

転校生「そこ吹くなぁあーーーっ!!///」

先生「うん……全然悪くないじゃない。やっぱり台詞も本人たちで喋って演じた方が見る方も楽しいわよ」

委員長「一通りいまやれるシーンは通しちゃったし、今日はここまでにしておこっか。みんなお疲れ様」

男の娘「お、男ぉー!! 僕すっごく頑張ったよ! ちゃんと見てて―――――わっ」

転校生「男の娘くん!?」

男(不慣れなスカート。不慣れで当たり前だ、だからこそ起きた事故が無情にも彼を襲ったのであった)

ここまで。次回日曜かも

男の娘「あっ……つ!?」

女子生徒たち「きゃー!! 男の娘くんが階段から転んで怪我した!!」

男子生徒たち「足やったんじゃないか! 骨折とか洒落にならないよ!」

先生「みんな落ち着いて、群がらないの! 男の娘くん、痛む? 立ち上がれそうにない?」

男の娘「は、はい……ごめんなさい……」

男(野次馬の群れを押し分けると、沈痛な面持ちで右足首を抑える男の娘の姿が。恐らくはスカートを踏んで階段を踏み外したのだろう、難儀である)

先生「とにかく、ここでどうこうする前に保健室に運ぼうか。って、不味ったわね、保険医の先生留守だった……」

転校生「でも湿布ぐらいは貼れるわ。先生、私が連れて行きます。傍にいて助けられなかった私の責任だもの!」

男の娘「だ、誰のせいでもないよ。僕が不注意だったから……っう」

男「揃って御託並べるよりも早く連れて行くのが先だろ。ふむ、床に足をつくと痛むと」

男(即効で例のアレが考え浮かんだ。丁度このシチュエーションに合わせたような衣装に着替えているわけだ、彼は)

男「男の娘、申し訳ないけど文句はあとで頼む」

男の娘「えっ、ちょ、男ぉ!? な、ななな、何[ピーーーーーーー]~!?///」

男(空気を読んだな、軟弱非力なこの俺でさえ男の娘は軽々持ち上げられた。やり辛いこの上ないが。興奮的な意味で)

男の娘「[ピーーー]……///」

男(皆には一人で十分と言い残し、本日二度目の保健室搬送の途中なわけだが)

男の娘「[ピーーーーーー]……[ピッ]、[ピーーー]。[ピーーーーーー]」

男の娘「[ピーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーー]!///」

男「よく分からんが、もうすぐ保健室だから頑張れ」

男(どう足掻いてもディスコミュニケーションが続くのである)

男「さっきの演技、見てたよ。あれならいつ人前に出しても恥ずかしくない出来だったぞ」

男の娘「そ、そうかなっ……僕は、僕なりに男に[ピーーーーーーー]……」

男「ん?」

男の娘「わああぁ、何でもない!! 何でもないよ! ちょっと言ってみただけ!」

男(しかし、このままだと不良女と遭遇してしまうな。男の娘イベントが変化してしまう)

男「本当に悪かったな、何もみんなの前でこんな抱え方しなくても良かったのにさ。お姫様抱っことか屈辱だろ?」

男の娘「えへへ、[ピー]にだったら[ピーー]ない、かも……な、なんてっ! あははっ」

男(喜んで頂けたようで何より。抱きかかえられいつまでも赤面が解けない彼は、もはや彼女である。否、美少女)

男の娘「……これも、怪我人だけの特[ピー]かな?///」

男(ぐふぅ)

男(しつこいようだが二度目の保健室。不良女を寝かせたベッドはカーテンが閉まったままだが、寝息一つ聴こえて来ない)

男の娘「あれ、先客さんいたんだね? 起こさないよう静かにしないと」

男「そうだな……とりあえず座っておけよ。軽い捻挫で済めば良いな、痛むか?」

男(俺からの問いに小動物の如し癒し系笑顔で首を振る男の娘に、胸は踊る。可憐すぎる。汚したら首が飛ぶぞ)

男の娘「あ、あのね? さっき男は運んでくれたこと屈辱とか訊いたけど、そんなこと全然なかったよ!」

男「そうか? あとでアイツらから茶化されるかもしれないだろ」

男の娘「大丈夫! ……それから、あの時の[ピー]、[ピーーーーー]てすっごく[ピーーーー]」

男の娘「ほんの一瞬だけど、僕……お、[ピーー]子みたいな気分になっちゃって……」

男(なるほど。服引ん剝いたろかこの美少女男子)

男の娘「僕ね、やっぱり男のことが[ピーー]だよぉ……あはは、もう面と向かってきちんと言えるようになっちゃった///」

男「え? 何だって?」

男(抜け駆け上等精神は揺るぎないな。状態のマイナスすらプラスへ変えていくこの浅ましさ、貪欲、尊敬に値するレベルである)

男の娘「う、ううん、ただの独り言。でもね、そろそろ悔いのないようにやっておこうと思うんだ、僕」

男(直後である。目の前にあった彼の表情が、おねだり的になったのは。すなわちコレぞ)

男(マウストゥーマウスなキス待ち)

男「――――――んむ (唇に感触があったのだ。時折聞こえてくるネットリさせた音が、粘膜と粘膜が触れ合う音だと気付いたのはいつだったろう)」

不良女「っん……///」

男(いつのまにか、何故か、不良女だった。何が? その相手である)

男の娘「あわわわ……ぎゃあああぁぁ~~~!!?」

男「ん゛くぶっ!?」

不良女「ばかぁ……そのままじっとして、動くなよ……はぁ、はぁ……///」

男(叫ぼうとした俺の口を塞ぐように、再度甘い物がピッタリと合わさっていた。熱を帯びた吐息が漏れ、鼻にかかっていたり)

男(状況を確認したところでもう遅い。俺はスタンド攻撃を受けた、時を数秒ほど消し飛ばされ、現在に至る。それで納得しよう)

男の娘「だ、だめぇー!!」ドンッ

不良女「わっ!? ……おいおい、あたしこれでも病人だぜ。い、労ってくれっての」

男の娘「一体急にどこから!? ていうか、おかしいよっ! ななな、何で不良女さんが、ぉお、男と[ピーーー]!!」

不良女「あー、えっと、外国とかだとこういうのフツーだろ!? 挨拶代わりにハグかキスの違いだって!!」

男の娘「さっきの挨拶どうこうのキスじゃないよっ! ま、まるで[ピーー]同士みたいに……あ、あ」

男の娘「ていうか どこ行こうとしてるの、男は!?」

男「すみません催したのでトイレにッ!! (逃れられない)」

男(予想斜め上すぎる。不良女が割って入ってくることぐらいは予期していたが、割り込みすぎだろうが)

男(ああああ慌てる前に、二人をどうにか宥めなければ。方法など進めながら考えれば良い、むしろそれしか残されていない)

男「男の娘っ、不良女に熱があるのは事実だ!! だから とりあえず頭おかしくなってる!!」

不良女「まともに考えられてるわアホ!! あたしは、冷静だから。今のだって……[ピーーー]///」

男の娘「男の了解なしにチューしておいてそんなの無いよっ!」

不良女「そ、それは……」

男(不良女、イベント時に煽り過ぎたのが原因なのか。それにしては彼女らしからぬ行動である)

男(男の娘に俺が奪われると思っての咄嗟の判断としてもだ。何か、違う。たとえラストスパートのつもりであっても、不自然)

男の娘「教えて! こんなのおかしいよ、不良女さんじゃないと思う!」

不良女「[ピーー]だと思ってる奴に、自分から勝負しかけて何がおかしいんだよ!?」

不良女「あ、あたしは、あたしは本気で捕りに行くって言ったよな! 前までの顔色窺ってばっかの自分じゃねーの、本気なの!」

男の娘「……そ、そっか」

不良女「訊いといて引いてんじゃねーよ!? っ~……悪かったな、おかしくて」

男(い、息ができない。この場の空気が遮断されたみたいに、いきぐるしい。俺が、俺が状況を変えなければ)

名無し「あ、ありゃ、お邪魔しちゃ悪い雰囲気だったかなぁ?」

男の娘「あっ、名無しくん……そんなこと、ないよ! どうしたの?」

名無し「そうかい? やー、先生らからやっぱし男だけだと不安だからって様子見頼まれちゃってなー」

男「どの点考慮しての不安だ (今ならば名無しといえども、救世主に見える。手で合わせておいた方が良いのか)」

不良女「……」

名無し「そっちの不良女さんにも悪かったって。邪魔ならすぐ出て行くからな、睨むなよ! おっかねぇ!」

不良女「元から目付き悪いんだよ……別に、あんたには怒ってない」

名無し「フフッ、そりゃあ助かった。可愛い子を敵に回したって何も得しないからな。っへへへ!」

男「それで、お前が来た所でやれる事なんかもうないぞ。男の娘も不良女も安静にしてもらうぐらいだからな」

男の娘「ぼ、僕は……もう大丈夫だよ。軽く捻ってたぐらいだしさ!」

男(言葉の真意はとやかく、不良女と同じ空間に居たくないという意思は伝わった。彼女といえば、不貞腐れたように俺たちから目を逸らして、外の景色を眺めている)

男の娘「えっと、先にみんなの所に戻ってるね! 歩けるから平気、無理はしないよ。うん……男、[ピーーーー]」

男(誰がこんなドロドロを求めたというのか。昼ドラチックな愛憎劇は現実だけで勘弁してくれと)

男「……俺たちも行くか。不良女は休んでろよ、熱があるんだから」

不良女「……[ピーーーー]った」

男(触らぬ神にうんたらかんたら、である)

名無し「何があったか気になるってのが、オレの正直なところの本音なんだけれど?」

男(言いたければ言え、逆も然りという事なのだろう。口を閉ざしたまま、保健室を後にした俺たちは男の娘を追っていた)

男「(図らずもまたこの男と二人になってしまったが、救って貰った恩もある。本人に意思がなくとも) お前、俺のことなら何でも分かってるんだろ? じゃあ話させる必要もないよな」

名無し「またまたぁ~、そういう意地悪しちゃうんだ。でも、そういう部分も余裕で愛せちゃうな。友達としてねっ///」

男「愛を持つな、愛をっ……!」

男「しかし、そう友達ともだち連呼されると安っぽく感じてきたな。俺に取り繕ったって意味ないぞ」

名無し「そう! 仰る通りっ、だからオレも分かってきたんだ。学習したよ」

男「何だって?」

名無し「だから、もっとこう……何ていうかな? 間接的に友達として役に立とうと決めたのさぁ」

男「だから、お前も分からねー奴だな!! 俺はお前と仲良くやっていくつもりは――」

名無し「不良女、男に一気に踏み込んでくれたでしょ?」

男「……ああ、そう」

男(頭で考えるより先に手が出ていたと思う。俺は、奴の胸倉を掴んで壁際へ追いやっていたのだ)

名無し「お、おい!? 痛いって! 何始めちゃう気なんだよ!?///」

男「お前がアイツに何か言ったのか!!」

名無し「お、怒るなよ! オレはただ男の役に立とうと思っただけで、悪いようにするつもりは!」

男「言ったんだな!? 不良女がああするよう仕込んだのは名無し、お前だったってことだな!!」

名無し「そ、そのな……あの子が男を気に入ってるって情報もオレは知ってるんだ。他の子もそうだろうけれど」

名無し「いつまでも、あー、友達以上恋人未満みたいな関係はもどかしいだろ? だから、オレから不良女に」

男「唆した……やってくれたな。いや、やらかしてくれたみたいだな」

男「親切か悪戯かは今はどうでも良い、ありがた迷惑だ。ついさっき知り合ったお前がズカズカ土足で入ってくるって、俺はどう思うと思う?」

名無し「……や、やー、もう先に答え言っちゃったじゃん。迷惑だったか、そっか」

名無し「勉強になったよ、男。オレ次は失敗しないからさ! 任さしてくれ!」

男「(あ、あまりのことで頭痛がしてきた。コイツとの会話は俺に毒らしい、胸倉を掴んだ手もやる気を失ったようだ) ……もう十分だから、俺に近づかないでくれると助かる」

名無し「ごめんなぁー、気悪くさせてマジで申し訳ないよ。お詫びに天使ちゃん用のお菓子、今日はオレが買うからさ。な?」

男「そういうのをやめてくれって言ってるんだよっ!!」

名無し「あ、あ、えっと! ふ、不良女も念願叶って良かったと思ってるぜ、たぶん! おーし、次は男の娘いっとくか!」

男(収まりかけていた衝動が、呼び起こされていたらしい。気付いた時には名無しの顔面を本気で殴り抜けていた)

名無し「いっ……!」

男「はっ!?」

男(殴ったのか? この俺が、爽やかイケメンを。それだけで女子たちからの評価が地の底に落ちてしまう、心配はさて置き)

男(何と言うべきか、自分でも咄嗟に暴力を振るっていた事にショックを受けていた。おまけに彼はもうモブではない、名有りのキャラクターだ)

男「(誰かに見られでもしていたら、騒動になるのは間違いない。彼も物語へ絡んでいく一人となったのだから) な、名無しっ!!」

名無し「……」

「今アイツ、殴ってなかったか」  「ケンカ?」  「何だなんだ?」

男(いつもなら気にも留めず通り過ぎて行きそうなモブたちまで、周りで騒ぎたて始めただと。何だこれは? 名無しイベントとでもいうのか?)

?「ふん!」

男「(思考に戸惑いが重なっていたせいだろうか、拳の形を作ったままの右手が、誰かに掴まれたのに反応が遅れたのは) あぎっ!? 痛ででででっ!!」

幼馴染「男くん、まーたこんな所でサボったりして! 本当に性懲りもないんだから!」グッ

男「お、幼馴染!?」

幼馴染「今度はもう逃がさないんだからね、ほら! 怒られちゃう前に教室戻るよ」

男「お前っ、いきなり現れて何ワケ分からんことを……!」

幼馴染「……ふぅ、よし。ここまで来たら大丈夫だよね」

男(廊下の角を曲がり、他の生徒たちの姿も見えなくなってくると、握られていた手首を彼女が離したのだ。頭を傾げつつ、眺めていれば)

幼馴染「あの人が何か男くんにしたんだよね?」

男「はぁ?」

幼馴染「ごめん、偶然通り掛かった時にさっきのやり取り見ちゃったんだ。その、男くんが手を上げてたところも……」

幼馴染「で、でも 男くんが意味なく人に乱暴振るったりする子じゃないって、あたしは知ってるから! はい!」

男「子って、子ども扱いなのかよ、俺」

幼馴染「あはは……良かったら、あたしに協力させて? 謝るなら一緒に行ってあげる。怒ってるなら、あたしも一緒に怒ってあげる!」

男(謎の意気込みを全身を使って表現させる幼馴染だった。が、先程までの戸惑いとかそういった物を俺の中から取り除いてくれているようであった)

男「ありがとう、幼馴染。ちょっぴりは気が楽になれた気がするな」

幼馴染「えっ? あたしまだ特になんにも……」

男「そんな事より、そろそろ昼飯の時間だよなー。弁当に何入ってるか当ててやろうか?」

幼馴染「朝 おかず何入れてるか逐一見張ってたでしょ? ズルは感心しないなぁ、ふふ」

男(幼馴染と触れ合って、多少は余裕を取り戻せたに違いない。あれほど、悪い方向ばかりに向かっていた名無しへの疑心が)

男(何故、という理由を求め始めたのである。敵意が失せたわけではないけれども、奴を知ろうと思えてきた)

男(後輩からの心配要らずの言葉もあったのだからな。念入りに調べなければ)

幼馴染「ん~……早弁しちゃう?///」

男「いつから食いしん坊キャラにシフトしたんだよ、お前」

生徒会長「……ふむ、不良女は体調不良で早退か」

先輩「いまぜーったい、彼女は馬鹿ではなかったのか、とか失礼千万思ってたんでしょ? でしょ? っしょ?」

男(と、いつもの様に茶々入れする先輩の頭部へチョップを食らわされる場面から、放課後はスタートする)

先輩「ぐあ゛ー……ていうか、転校生ちゃんたちは劇の練習とか大丈夫なの? 本格派って聞いたよ」

転校生「私たちは十分今日出来ることはやれたので。それに、部活の方も蔑ろにはできないでしょ?」

先輩「おぉお、感動だねぇ。日々 転校生ちゃんの日本語の使い方が上達してるのにもブチョー感動なんですヨ……」

男「こいつの場合、覚えたての言葉使いたくて機会窺いまくりなんですけどね」

転校生「な、何が悪いのよ! いいわっ、そんなに聞きたいなら今 自信満々に並べて聞かせてあげる! 一念発起、一心精進、一心不乱、一心発起、一日千秋……!」ニヤリ

男「魔法の詠唱は放っておくとして、俺たちは当日までどんな準備進めたらいいんです?」

転校生「ちょ!!」

生徒会長「一応は、予め先生に予算の都合に合わせた計画は立ててもらっていたところだ。……カップ麺を提供するコスプレ喫茶でな」

先輩「コスプレ衣装はバッチ任せとけぃー! てか、もう準備しちゃったし。ねぇ、男の娘くーん?」

男の娘「……え? あ、良いと思います。賛成」

生徒会長「っ~……なぁ、時に男くん。今日の彼の様子に思い当たる節はないのか?」ヒソ

男「役を演じきる為に、プライベートも手を抜かない主義らしいんですよ。男の娘は (どんな姫だ)」

転校生「ていうか、多分史上初なのよね。カップ麺提供する喫茶店みたいなのって……」

先輩「そこがまた良いのさ! 誰にも踏み込めなかった領域へ、いま! わたしたちは一歩進もうとしているのだよ、諸君!」

男「色んな事情があっての問題もあってのことだとは思いますけどね、踏み込まなかったの」

生徒会長「……私も不本意ではあったが、そこはアレンジを加えて提供するということで上手く回避できるのを祈っておこう」

転校生「ふーん。でも、お客さんって部室の中に入れるのよね? いくら掃除して片付けたとはいえ、そんなに人入れるかしら?」

先輩「何を言っちゃってるんだい、転校生ちゃん……まずそんな人一杯入る筈ないから心配要らずなのだよ!!」

「……ダメじゃん」

先輩「ダメでもないよー、メニューでのお客さん獲得は難しいからこそコスプレがあるんだもんね」

男「先輩さん、その考えは黒すぎませんかね」   転校生「私、猛烈に反対したくなってきたわ」

先輩「ふふーん! そう来ると思ってたよ、つーわけで少し早いけどここで衣装をドドーンと見せてあげましょう!」

男(そう言うと、バッチリ用意していたコスプレ衣装たちを両手に抱え、先輩はテーブルに広げたのである。統一性もなければ、方向性もてんやわんやな品々を)

生徒会長「了解した。これを君が一人で着回して客を呼ぶと。ナイスアイディアじゃないか!」

先輩「そんな薄情な部員はいないってわたしは信じてるからねっ!!」

男の娘「……あ、良いと思います。賛成」

転校生「男の娘くんはあの時頭も打ったの……っ?」

先輩「みんなそんなに嫌そうな顔しないでー、衣装も可愛いの揃えてきたつもりだよ? 露出ともかくさぁ」

転校生「出来れば露出抑えた物だけでお願いするわっ! 変なお店にしたくないの!」

男(美少女、コスプレ、無限大じゃないか。夢は広がり収まることを知らない。これで当日は客数を見込めないというのは愚かすぎる)

男「(少しその気にさせてみようか) おっ? 転校生はコレなんか似合うんじゃないか?」

転校生「それって……あんた、まさか私にそれ着させようとか考えてないわよね」

先輩「ありゃあ、男くんお目が高い!! バニーコスはスタイル良い転校生ちゃんでこそだよねぇ~!!」

男「下心抜きで選んだ結果がこれですよ。うんうん」

転校生「出るとこ出てるって範囲じゃないわよ!? 胸も、足も、ほとんど全部見えてるじゃない! スケベっ!///」

男「でもな、こういう衣装は体の線も出やすくて中々着こせなる奴も少ないんだぞ。お前なら確実に似合うと思ったんだが」

転校生「うっ……ま、まぁ、そこまで言うなら……って、バカ! 簡単に乗せられると思ってるの!?」

転校生「…………こういうのが、コイツの趣味なのかしら///」

男(どこまでもツンデレを貫く転校生さんが素敵だと立ててやりたい今日この頃)

先輩「安心しなさいな、お姉さま。姐御にお似合いになる衣装もコチラにありまっせ?」

生徒会長「ドスを持たせて極道の女にさせるつもりか……悪趣味すぎるっ」

男「じゃあこんなのならどうですかね、生徒会長?」

生徒会長「巫女服……それに、片方は」

男「ありきたりですけど、メイド服ですよ。ただ昨今定番となった物と違ってスカート丈は長目の物です」

生徒会長「以前、不良女が着させられていた服とは異なるのか……だいぶ真面目な衣装があったものだな、部長」

先輩「そこは部長さまの手腕ですがな! 様々な需要に合わせた服を用意させて頂きました……どぞ、試着などは」

生徒会長「腐っても着るか」  先輩「腐っておくれよぉー!!」

男「(いや、腐られても困るが) 生徒会長は長い黒髪が特徴的かつ顔立ちもキリッとしてますから、このメイド服はいいかなって」

生徒会長「っ……で、では巫女の衣装の方は? 黒髪のイメージからか?///」

男「そうですね。でも、こっちは意外と先輩さんが似合ったりするかもしれません。俺のイメージなんですけど」

先輩「あれ、予想外?」

生徒会長「……ほう、何故か聞かせてもらおうか」

男「巫女って偏った見方だとどうも大人し目の人が着てる感じがするじゃないですか。だけど、底抜けに明るい先輩さんに置き換えたらどうでしょう?」

転校生「白と赤が合わさった服のせいかしら? 性格が映えて似合いそうな、似合わなそうな……」

男「似合う。転校生の言った通りです、色って着る人を際立たせる効果があるじゃないですか? プラス、相反した大人しい衣装を着ることで」

男の娘「あ、うん、賛成です……」

生徒会長「つまりギャップを現すのか……」

先輩「えー? えぇ~? そ、そんなに冷静に分析されちゃったら[ピーーー]うよぉ、このこの!///」

男「ま、まぁ、詰まる所、生徒会長はどちらを着ても悪くはなさそうな気がします。きっと」

生徒会長「どちらの姿も見せた方が良いのだろうか……なるほど、君の意見は参考になるな、男くん」

転校生「ちょっと待って」  男「おい、水差すつもりか」

転校生「二人だけ人前に出ても恥ずかしくない恰好で、私だけこんな露出全開になるの……?」

男「恥ずかしい? 恥ずかしくないぞ、転校生。お前は自分のスタイルの良さをアピールできるんだ。バニーはかなり目を惹く」

転校生「その役割を出来れば回避したかったんだけど!?」

先輩「男くん、一理あるねぇ……」

転校生「じょ、冗談じゃないわよ、そんなの!! こんな際どい恰好で客引きとかその日に死んじゃうっ!!///」

男(古今東西、バニーと美少女は切っても切り離せないという。ライブをするにしてもバニーは徹底だ。神曲になる)

男「安心しろ、転校生。この場にいない不良女にお前の後を追わせれば解決だろう」

転校生「あんた相当の鬼畜よ……それより、勿論コイツ用のこすぷれはあるんでしょうね?」

先輩「はいっ!」  男「待て、損しか生まないと思うんですが」

名無し「えぇ~? オレは男のコスプレ見てみたいんだけどなぁ、何? アニメ系? アキバ系っ?」

男(……本当、見計らったタイミングを狙うのが得意だな。この男は)

ここまで

先輩「ノンノン、生易しい物じゃ逆に男くんに悪いと思ったからね。特別製をしっかり用意しちゃいましたよ!」

男「着ぐるみですか?」

転校生「へぇ、普通に可愛い。てっきり死ぬほど着るの拒みそうな酷いヤツ、期待してたのになー」

男「そうか。俺が露出度の高いコスプレをすれば、お前も気兼ねなくバニーやれるか」

転校生「バカ、それとこれとは別でしょ。……私は、あんたが着て欲しいってお願いするなら、あの、その……っ///」

名無し「あのなぁ、二人ともその衣装よーく見てみなよ。特別製の意味がわかるぜ」

男・転校生「え?」

男(彼女と声を揃え、名無しの指摘箇所をクエスチョンマークを頭上に浮かべながら確認すれば、想像を絶した)

男「…………尻のとこ、デカイ穴開いてるんですが」

転校生「あははははは!! あっははは、はぁ、はぁ、あははははっ!! 何なのこれー!」

名無し「特別っていうか画期的つーか、変態仕様じゃんかな」

先輩「知り合いのおっちゃんに面白いのあるかいって訊いたら貰っちゃったんだよ~。尻出し着ぐるみくん一号!」

男「先輩さん、死んでも着ませんから返却しましょう。後生ですから」

生徒会長「盛り上がってる所皆すまないが……そこの彼は?」

名無し「ああ、新入部員の名無しっス! 姐さんよろしくっス!」

「はぁ!?」

男(それは衝撃の告白だった。何故か自然に溶け込んでいた名無しにも驚きはしたが、本当はこの男 侵略者なのでは)

先輩「えっ、わたしそんな話全然聞いてないよー?」

名無し「そりゃそうに決まってるっスよ、先輩さん。だって冗談だし」

生徒会長「……あー、彼は男くんたちのクラスメイトか? 随分個性的な人物だと短時間で教えられたな」

男「個性的すぎて人を食う勢いがあるから怖いですよ、アイツは (心底ホッとしたと彼女たちには悟られていないだろうか。安心した、安心した)」

転校生「いきなりで驚いたけど、人が増える分には部的には助かるんじゃないかしら?」

男(転校生よ、頼むから余計な口を開くな。増長させてどうする)

先輩「でも実際そうなんだよねぇ。時期は半端になっちゃうけど、良かったら君もー」

名無し「やー、お誘いして貰えるのは嬉しいスけどねぇ……すんません!」

男(意外な返答がかえってきたじゃないか。名無しならば、この俺の傍にいようと平気で部内にも侵入してきそうだと危惧していたが)

名無し「安心しろよ、男ぉ。オレ、お前が嫌がることはしたくないんだよ。だから入らない、邪魔もしない。ね?」

男「え? ……あ、ああ、そうなのか」

生徒会長「ここへは何の用で尋ねに来たのかな。すぐに活動も終わるし、男くん待ちならば掛けて待っていてくれても構わないが?」

名無し「あのー、ラーメン愛好会の皆さんって文化祭でコスプレ喫茶やるんスよね!」

転校生「もう外にまで知れ渡ってたの……まぁ、そうだけど。どうしたの?」

名無し「やー、接客経験のある先輩さんはともかく他は全員素人だなぁと思って」

男(冷やかしのつもりかと圧を掛けようとすれば、ニンマリとNOを突き付けられた。そして言ったのだ)

名無し「練習やらなきゃじゃないですか? 当日バタバタして余裕無くすよか、備えておくべきだよ。なぁ、男の娘!」トン

男の娘「何でも良いと思うよ……えっ、名無しくん?」

名無し「ほら、男の娘も同感らしいっス。どうですか? 一対一の接客を想定して、ちょっと試してみたら……フフン」

男「な、何だよ気味悪い顔で寄って来て。俺はやるなんて言わないぞ」

名無し「おぉ、そっか! じゃあ男は本番も余裕みたいなんで、男を客役にして練習してみたらどうスかね?」

男「は? (すると、一気に全員の視線はこちらへ集中する。おまけにその全員が満更でもなさそうに、納得していたのである)」

先輩「わたしは良いと思うなっ、やろっか! 男くんお願いできる?」

男「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! こんな部外者に動かされて平気なんですか? 大体練習なんて」

男(……させるつもりだった。客の立場として、ウェイトレスになった美少女から接客を受けるも一興と。それを名無しが、結果的にイベントを早めてしまったのだ)

男(結果的、本当にそうなのだろうか? まず名無しは何の目的があって部室へ現れた? それを考えるとなれば、この男は)

男「練習なんて、必要ありませんよ。学生の接客に期待してる輩なんてまずいないでしょう。ごっこ感覚で十分ですね」

生徒会長「うん……まぁ、だろうな。不良女もいないし、今日の活動は終わりとしよう」

転校生「不良女ちゃん、明日には元気になれてるといいわね。心配だわ」

男「いないといないで部室とか静かだったからな、貴重なツッコミ役でもあるし」

名無し「あっ! だったら、お見舞いに行ってやりゃ不良女も喜ぶんじゃないか? へへ、果物とか持って行ってサ」

男「大勢で押し掛けたら100%喜ばないぞ。アイツは自分の弱ってる姿見せて悦に入るタイプじゃない」

名無し「え、悦とかじゃなくって……だったら、男一人で行ってくれば違うだろ! 間違いないよ!」

転校生「な、何よそれ!? だ、だめっ、それなら私も一緒に行くから! 変態を病人に近づけたら大変でしょ!?」

男「毎度変態変態やかましい! ていうか、どう大変になるってんだよ」

転校生「どうって……し、知らないわよっ……///」

男「(乙女か) 心配しなくても、行くつもりないからな……ここで分かれ道か、じゃあな 転校生」

転校生「絶対! ぜーったい一人で抜け駆けとか考えちゃダメなんだからね! 約束っ!」

男(遠くへ行っても念押しをする転校生に微笑ましさを感じつつ、隣に立つ彼へ俺は面と向かった。真顔の彼へな)

名無し「……おかしいな、オレは男の友達になりたいんだ。なのに、空回りしちゃって、おかしいな。こんな筈じゃ」

男「不良女はいまかなり繊細な状態になってる。わかってるだろ、事件の張本人」

男「あと、お前がいくら手を回したって決定権は俺にある。さっきの部活動の時みたいな事になってもだ (世界は俺を中心に回る系主人公ですもの)」

名無し「……オレ、男にとって必要ないのかな?」

男(「どこのメンヘラ女」とキレの良いツッコミを食らわせてやろうと思ったが、この落ち込み様の人間に鞭打つ趣味は流石にない)

名無し「今日一日で一つでも男に喜んでもらえたか? いいや、怒らせてばっかりだったよな……へへ」

男「バカみたいに騒げてた空元気はどこに行ったんだよ、お前」

男「……名無し、お前の気持ちは、ありがた迷惑だが、全部が悪いとは思ってないんだ (だが、異常すぎる)」

男(幼馴染とは方向性の異なった病的な愛情が窺えていた。この俺へ尽くす、それが喜びであり、自分の存在意義であると)

男「でも、友達になりたいっていうなら、もっと素っ気ない間柄も必要になってくるんじゃないか? 献身すぎるのは何か違う」

名無し「あれ、そういうのが好みだった?」

男「えぇ…… (コロコロ人が変わり過ぎだろう、名無しよ。まるで永遠転がる石である)」

名無し「そうか、オレに足りなかったのは距離感だな! そうだよなぁ、男同士でベタベタやってても気持ち悪いもんな!」

名無し「やっぱり男はスゲェよ! オレ益々友達、ていうか、親友目指したくなってきたぜ!?」

男「俺が男友達なんていらないって言ったらどうする」

名無し「え? 悪い、いま何か言ったかなぁ?」

男「お前、ひょっとして俺の考えてることが読めたりできるんじゃないか? あっても今更驚かないぞ、俺」

名無し「ん~? やー、確かにそんな能力があれば便利だろうな。いや、逆におっかないか?」

名無し「ないって。そんなエスパーっぽいの」

男(この程度の質問であると答えられる確率は低かろうが、彼ならば正直に話すと思った。実際そう答えた名無しの目は非常にまっすぐだったのだ)

男「しつこいぐらい教えられてたが、お前の目はいくつもあるって、アレはどういう意味だ」

名無し「おいおいー、なんか取り調べ受けてる気分になってきちゃうぞ……///」

名無し「どうって、オレの言った通りそのままの意味だよ、男。何処にでも、いくつもあるんだ」

男(そのままで捉えれば、いかに自分が荒唐無稽なことを喋っているか理解できるだろうに。逆に不思議そうに見られているぞ、俺)

男「……じゃあ、いまこの辺りにもお前の目が転がってるのかよ。へー」

名無し「ん? 転がってるっていうのは適切じゃないなぁー」

男「おい、曖昧なのはワザとなのか? 俺に知られちゃ都合悪いルールがそっちにあるのか、神?」

名無し「えっ、また宗教勧誘の話……」

男(名無しへ次々と投げかけた問いが宙ぶらりんで返ってくる。ギャルゲー特有の友人ポジションキャラ設定としても、彼はどこか半端ではないか)

男(主人公の恋の成就を手助けし、美少女たちの情報を提供してくれる。そして差し支えない程度で場を盛り上げる。理想はコレだと勝手に認識していたが)

男(この際どうでも良い……特殊能力持ちは怪しんでいいだろう。だが、後輩たち神の使いとは違う存在。あくまでこの世界のキャラ。謎でしかない)

名無し「何か変に珍獣扱いされてるけど、オレみたいに目がいくつもある奴って他にも何人かいると思うんだけどなぁ……」

名無し「自覚ないだけでサ」

男(何人か、だと?)

名無し「オレ以外の誰かにも見られてるかもね、男のことだから。やー、何たってモテモテだしなぁ」

男(俺が誰かに観察されているとすれば、天使ちゃんのような監視役か神が気紛れを起こしてかでしかないだろう。暗にそれを語っているとでも?)

男「(だが“誰か”というワードが気掛かりである、“何人も”というのもだ。神らのような概念、異能の存在を指している口振りではないのは確かだろう) 例えばだ、例えば、身近な人間がって……そういうケースもあるっていうのか?」

名無し「さてねぇ、オレは知らんよ。知ってれば男がいま正に欲しがってる情報だ、すぐに教えてやんよ!」

男「それならお前の“目”について詳しく教えてくれないか。あんなの説明になってない、普通じゃない特殊なことなんだぞ?」

名無し「そうは言われても……正直、見たい時に絶対に見られるってわけでもないんだよな~」

男「何だって?」

名無し「今日だって、保健室で男たちが何したかまではオレ知らないもん。部室で何話してたかも、オレ着くまでわからなかったぜ?」

男「じゃあ、どうして俺がいた場所にピンポイントで現れることができたんだよ。お前は!?」

名無し「え? だって保健室は男の娘運び行ったの知ってたし、部室は愛好会入ってたの知ってたから。放課後だしそこだろうなぁ~と……」

男(思い出せ、俺よ。『何処にでもあって、いくつもある目』によって、名無しの監視を掻い潜れていた時、状況を――)

男「……モブがいなかった………… (その時であった。不意に頭の中で、偶然か、過去に聞かされた恐怖体験な台詞が文の羅列で浮かんだのは)」

『あっ、でもラーメン食べて来たからお腹まだ空いてないよね! もし食べられなかったら遠慮なく言って。明日のお弁当に回すから! [ちゃんと見てたから]』

『でも少しは入るんじゃない? わざわざあたしのご飯食べる為に、みんなが並盛り頼んでる中、その半分で頼んだんだもんね。ふふっ [あたし見てたんだよ]』

『怒ってないよ? 何か後ろめたい事でも隠してるの、男くん? [ウソついてもすぐわかるからね]』

ここまで。次回火曜日かn

名無し「――――男、おい、男ってば。聞こえてる? ……実はオレ、お前が」

男「野郎同士でベタベタするのは気持ち悪いって学んだばっかりだよな、気持ち悪い!!」

名無し「おぉ、聞こえてるなら返事ぐらいしてくれよー。急に青い顔して塞ぎ込むから死ぬかと思ったぜ」

男「……俺がいま背中に回した手。指は何本立ててる?」

名無し「ハイ? えー、あぁー、当たったらご褒美期待しちゃって良いんだよな! 一本だろっ!」

男「当てずっぽうを訊いてるんじゃないんだが」

男(すぐに勘付いてくれたのだろうか。名無しは深く呼吸を吸うと、瞼をゆっくりと落としていった。謎の緊張感が漂っている)

男(後ろから、足音が聞こえていた。帰宅途中のモブが一人、何ら変哲ないサラリーマンの男性だ。道端に立ち止まる俺たちなど気にも留めず、通り過ぎて行く)

名無し「……ったくさ、やっぱり一本じゃねーか。しかも立ててるの中指って!!」

男「すまん。深い意味はないから気にするな、ふざけてみただけだからさ」

男(やはりモブだ。モブの目を通して、自身の視界情報を広げていたのだ。だから“何処にでもあって、いくつもある目”か)

男(俺の知りうる近い例を挙げるとすれば、某ジャパニーズホラーゲームのような視界の乗っ取りである。一気にきな臭いぞ、この世界)

男(しかし、ここまで正確だとは思わなかった。この分ならば、俺の位置や情報など手軽に探れてしまうのだろうな)

名無し「んで、満足したかよぅ。つーか、これでオレの言ってること信じてくれるんだろ?」

男「どうして他にも同じ様なことができる奴がいるかもって思えたんだよ」

男(質問に質問で返す無礼など所詮その場限りである。最も、彼はまず気にせずこちらの要求に応じる親友だ)

名無し「やー、簡単だろ。みんな 男のことが大好きだからさ!」

男「……答えになっていないと思うんだよなぁ、分かり易い解説プリーズ」

名無し「だから難しく考えるなよってば!」

名無し「オレ以外にもみーんな、男に注目してるんだ。だから何処で何してるかいっつも気にしてるんだぜ!」

男「違う! そうじゃなくて、何がどうして、他の誰かにお前と同じ目の力があると思えたかの根拠を尋ねてるんだ、ド・ア・ホ!」

名無し「[           ]」

男「あぁん!? オイよく聞こえなかったぞっ!!」

名無し「知らナくテ良イ…………」

男「!!」

名無し「ていうか、腹減ったな、男ぉ。どうする? お近づきの印に飯でも食いに行っちゃうか!? オレは割り勘上等だぜ、へへっ!」

男「……いや…………家で幼馴染たちが待ってるんだ、 道草してたら怒られる、かも」

名無し「くーっ、羨ましいよな、幼馴染ちゃんの手料理毎日食えるとか!! 仕方ない、黙ってフラれておきますか」

名無し「でもな、いつかは一緒に飯食いに行こうぜ、男! 野郎同士じゃなきゃ味わえない楽しみってのもあるもんだしさ、なっ!」

男「ああ、気が向いたら (名無し、お前は何者なのだ……)」

天使「男くん、男くんっ! ……[ピッ]、[ピーーーー]///」

男「よく聞こえなかったからもう一度お願いしていいかね、天使ちゃんよ」

幼馴染「そんな意地悪しなくたって、天使ちゃんの持ってる物見れば訊かなくてもわかるんじゃない?」

男(夕食後の一服代わりにテレビで流れるバラエティ番組を嘲ていた時である。天使ちゃんがモジモジ体をくねらせ、照れ臭そうに俺へ何かを渡そうとしてきたのだ)

幼馴染「天使ちゃん、男くんのために作ったんでしょ? さっきあれだけ自信作だって言ってたよね。大丈夫だよ~♪」

天使「でもだけどです! 男くんにあげるには立派すぎて、勿体なく思えちまったんですよ! こんなタダ飯食らいになんぞ!」

男「(投げたブーメランが頭に突き刺さっていないか) ふーん? 何か作ったのか、興味あるな」

幼馴染「でしょでしょ? ほら、男くんも見せて欲しいなって。絶対喜んでくれるよ」

天使「……床に叩きつけて踏んづけたりしない?」

男「安心しろ、そこまでの畜生に成り下がった覚えはない」

天使「じゃ、じゃあじゃあ……特別なんです……[ピーー]///」

男(小さな掌の中にあったのは、意外も意外、お手製マトリョーシカ人形である。恐らく俺の顔を模ったであろう絵が人形に)

妹「お兄ちゃんそっくりで私思わず吹いた!」  男「吹いた理由がそっくりで収まらないよな、分かるぞ」

天使「……そ、それ中にまだ男くんのブッサイ顔した人形が入ってるんです」

男(承服できない)

男「ていうか、コレ見せるだけでそこまで照れるか? よく出来てるとは思うが……」

妹「妹の私が保証する出来だよー、それ否定、すなわち、自己否定に繋がるからね。お兄ちゃん」

男「誰かそこのチビっ子動物黙らせといてくれないか?」

男(瞬時に噛みつき行動へ移れるのは条件反射化しているせいなのか、この美少女。それよりも天使ちゃんの恥じらいが収まり知らずだ)

男(……まさか。そうか、マトリョーシカ。……思った通りである、中を開けていけば小さな男くんが量産されていくが)

男(最後に開けた白目剥きの俺人形をカパッといけば、中には人形の代わりに紙が一枚、そこにあったのである)

天使「[ピーーーーーーーーーー]!!///」

男「何々……『言うこと何でも絶対聞きます券』……だと……っ?」

天使「一回切りですからね!? マジで一回しか聞かないで、その後は反抗しまくるかもしれねーですよっ!!」

男(何でも、何でも聞かれてしまうのか。卑猥、否、ロリ美少女好き放題券、否、否、否、アカン。すまない、俺は煩悩に塗れ過ぎている)

幼馴染「ふふっ! 良かったね、男くん。天使ちゃんも男くんに色々感謝してたんだよ? 素直に受け取ってあげてね」

天使「うぅ~……クソが……」

男「無理矢理やらされたとかじゃないだろうな、お前。俺は別にここまでして貰うような世話は、何も」

天使「グジグジうっさいんですよぉー!! 貰えるモンは貰っときゃ損ないでしょう!? つーか、貰えです!! ……[ピーーー]だけでも」

男「(……やれやれ) ……天使ちゃん、一緒に風呂入るか」

男(風呂へ連れ込むためだけに例の券を使用したか? 無論使わなかった。故にストレートに拒否されたとも)

男(しかし、複雑な心境になってしまうものだな。まさか実の我が子を攻略しようとして、その上成功させて、難聴まで発動させてしまって)

男(娘に恋心を抱かれる父が嬉しいわけがない。所詮はフィクションだからこそ楽しめる設定なのだ、重い、ただ重苦しかった)

男(だからこそ、自然に彼女と接していられた先程の自分を褒めてやりたい。人形の中から肩叩き券でも出てきた日には発狂寸前になりそうである)

妹「お兄ちゃん? 珍しいじゃん、こんな時間になっても部屋に戻ってないとか」

男「俺だってたまには広い空間に浸りたい時だってあるんだよ……」

妹「えっ、何? な、何なのその目っ? 私に、何か用あっちゃうの……?///」

男「すまんがお前が期待してるような事はないと思う。でも、ちょっと一つだけ訊いておこうと思ってたことがあってな」

男「お前、別の場所に俺がいたとして、それをすぐに察知できるか?」

妹「ごめん……全っ然ワケ分かんないんですけど……」

男「いや、むしろ分かられてたまるかって感じだよな。フツー」

妹「ん? よくわかんないけど、病んでるなら相談してね? 力になれるとは思えないけど……」

男(名無しから得た情報で立てた俺の推測だ。恐らく、美少女たちには俺へ接近するために、名無しと同じ様な能力を、自覚なきにしても持っていたのではないだろうか?)

男(一周目のコミュ症時の俺を思い出して欲しい。何処へ逃げても、隠れても、かならず美少女と邂逅してしまっていた。一周目であろうとなかろうとである)

男(今まで、俺が引き寄せていたと思っていた彼女たちは、逆だ。自らの意思でこの俺を求めていたのではないだろうか)

男(基本、適当に辺りを徘徊していれば、かならず美少女がそこに現れる。察知能力が高いというレベルではなかった筈だろう)

男(が、好感度全力全開の彼女たちは俺へ接触すべくして、モブの目を頼りにレーダーを張っていたとなれば話は別なのである)

男(元々、俺が美少女で幸福になるための世界だ。完全に俺が受け身になっても、目的が果たされる様備えられたシステムの一つと推測できる)

男(……名無しが話していた“無自覚”。もしかすれば、皆 千里眼システムを知覚せず、無意識の中利用していた可能性が高い)

男(認識した中で際限なく使われていれば、今頃俺はドロ沼の中だったろう。それとも、都合が悪い場面を観察されそうな場合 力が働かなくなるとか)

男「無自覚、無意識、全員が名無しのような例外でないのを願っていたいが、引っ掛かるぞ」

男(喉に刺さった骨が、取れないままだった。あの時 浮かんだいつぞやの記憶が、不安を煽ってきて仕方がない)

男「(というか、また厄介そうな問題へ近付いてしまって平気か? 痛いしっぺ返しを食らわせられるのかもしれないのだ、触れるな危険、だろうが)……ん、こんな時間に電話か……もしもし、先輩さん?」

先輩『その声のトーンの低さ、お主昼寝をわたしに妨害されたな~? えへへ、ごめんねぇ』

男「日が沈んでも昼寝扱いになるんですかね。 起きてました、考え事してただけです」

男「ていうか、珍しいですね? 相談ごととかですか?」

先輩『ん、ちょっと[ピーー]の[ピー]を寝る前に[ピーー]たかったなぁって……』

男「え?」

先輩『あーっ、うそっ、ウソだよん!! いまのちょいとした部長ジョークだからね!?///』

男(そのジョークは是非無修正で囁かれたかったよ)

男(本当に大した用があったわけでも無かったのか、俺たちは電話越しに他愛のない会話を続けていた。スピーカーが割れそうな大声が時折混ざるが)

先輩『わぁー、男くんと話してると時間あっという間だね! 面倒臭くなったらブチッてどーぞっ、わたしからは切らないよ~? えへへっ』

男「まだ全然話していられますよ、丁度俺も暇でしたから」

先輩『暇のおともにあなたの先輩です、ふふーん。……[ピーーー]」

男「はい? す、すみません急に電波の調子が悪くなって、よく」

先輩『あ、あれぇ~? そうなんだ、ウチいると時々携帯のアンテナ不安定になっちゃうんだよー、参っちゃいますなぁ!』

先輩『[ピッ]、[ピーーーーーー]……?』

男「あ、本格的に電波が、ジャミング仕掛けられてるかもしれません (あながち間違ってもいない気もする)」

先輩『[ピーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーー]……』

男「(いきなり難聴スキルが活発だな、大体の理由は予想いくが) 先輩さん、電波安定しないんで一旦切ります」

先輩『ま、まだ切っちゃやだよ!! っ~……///』

男(太陽の美少女も、恋愛事となればしおらしくなってしまうか。饒舌マシンガントークも途端に大人しい、借りてきた猫である)

先輩『……あ』

男「あ?」

先輩『あ……[ピーーー]い……男くん……』

天使「こんな時間にお出掛けですかぁ? むぅ、どーせ[ピーーーーーーー]……」ムスッ

男「コンビニに行くだけだからすぐ帰って来るよ。おい、だからってお土産期待してる顔されても困る」

天使「グミ!!」  男「ノー!!」

妹「じゃあ私は今週発売の少女漫画お願いね、お兄ちゃーん」

男「揃いもそろって家主代理をパシらせるか、ハイエナども……」

男(上着を羽織って、散々な要求を背に家を出た俺。引き止められなかっただけマシだと思っている)

男(諸君、何処へ向かうかと尋ねるのはナンセンスである。美少女の願いとあらば、迷いなく即座に駆け付けるのが主人公たるものよ)

男(というのも、電話越しの先輩の様子が気になったのだ。抜け駆けを目的に夜中に電話を掛けてきたとしても、違和感を感じて、居ても立ってもいられなくなった)

男(彼女とは待ち合わせをし、そこで落ち合う予定である。少女を、しかも巨乳美少女を夜外へ連れ出すのは申し訳なかったが)

男「いた。先輩さーん、すみません、ちょっと変なのの相手してたら時間食わされて」

先輩「……あはは」

男「元気じゃないですね? やっぱり何かあったんでしょう。だから俺に」

先輩「おやぁ、いきなり訊いちゃうの~!? 本題移りたがり屋さんだねぇ、男くんは!」

先輩「実はお父さんにちょっと怒られちゃったんだよー、えへへ……」

男(ちょっととは想像し難い凹み様を前に、俺は、やれやれ)

先輩「ウチに帰ってお店の手伝いしてたらさ、下手こいちゃったの。わたし生粋のドジだって思い知っちゃったねぇ、うんうん」

先輩「……どうしよう、もう二度と手伝わせてくれないかも」

男「そう肩を落とさないでくださいよ、失敗なんて誰にでもありますし。一度や二度ぐらいじゃ」

先輩「でも……」

男(流れがテンプレート過ぎやしないか。慰めを期待されているのは承知だが、気の利いた一言が出てこない)

男「俺なんか毎日誰かに叱られてますよ。その時反省こそしますけど、結局また繰り返してるんです」

男「ただのダメな奴じゃないですか? あれ?」

先輩「で、でも! ほら、男くんは良い子だよっ! よく分かんないけど良い子良い子!!」

男「すみません。相応しい人間代わりに呼んできます、俺ダメ人間でした。帰ります」

先輩「ダメじゃないよ!? て、ていうか男くんだからこそ[ピーーー]っていうか……!」

男「え? 何ですか?」

先輩「……今日、家に泊めてもらえないかな」

男「え?」

先輩「…………」

男(何この断ったら負けみたいな空気は)

ここまで

男(――――未来の俺より憎悪を込めて過去の俺へ、信じられない光景がそこにあった。夢なら覚めてくれ)

「     」

「        」

男(難聴どうのこうのの問題ではない、頭がパニックを起こして正常じゃない。俺はただ、幸せになりたかっただけなのに)

男(どうしてこんなに胃に穴が開きそうな思いをしているのだろう。背負い込んだ責任を誰かに押し付けて楽になれていたら)

男(二度言おう。俺はただ、悩みとは無縁であって、美少女に囲まれて、持て囃されて、幸せになりたかっただけなのに。どうして)

男(どうしてこうなった?――――)

先輩「――――え~っと、一応確認なんだけどほんとにココが男くんのウチなんだよね?」

男「……イマイチその疑問に意味を見出せないんですが、先輩さん」

先輩「ぎ、疑問だよ。おかしいよ! 自分の家なんでしょ? どうしてコソコソ空き巣みたいにして侵入しなきゃなんないの!?」

男「しーっ!! 声がデカい……っ!!」

先輩「男くんもしかして全然知らない人の家にわたしご招待とかないよね! ねっ!」

男「……ただ自宅へ帰る。ですが、先輩さん! それでは普通だ、面白味が欠ける」

男「良いですか、シチュエーションを変えて楽しみましょう。俺たちはスパイ、この建物の中には国家機密に関する重要書類が隠されているんです」

男「脳みそ腐ってんのか、俺」  先輩「マトモと狂気が交差してるかも…」

先輩「えっと、とにかく普通に玄関から中に入ろうよ! 突然押し掛けて男くん家族には申し訳ないけど、さ」

男「出来る限り他の女子を家に招き入れたと奴らには知られたくないんです……」

先輩「ド直球!?」

男「だって、恥ずかしいじゃないですか……俺だって年頃の男ですよっ。こんな事かつてないんですから!」

先輩「えっ? 男くんいつも女の子と仲良くしてるじゃないさ、家に呼ぶぐらい何てこと」

男「そ、そそそ、それとコレとは別でしょう!? もう良いです! 今だけは俺に従ってくださいよっ!!」

先輩「ほ……ほぉ~~~? まぁまぁ、男くん少年。ま、まさかのまさか、[ピーーー]とか[ピーー]していらっしゃる?」

先輩「まったくもう、ウブな少年だねぇ! 可愛いかわいい! …………[ピッ]、[ピーーーーーー]///」

男(掌握した気になっておきながら、支配される美少女という絵面。しかし、妹たちから見つかって不都合なのは事実である)

男(先輩のお願いを無碍にしたくはなかった、もとい、チャンスだと思った。だからこそ我が家へ連れて来てしまったわけだ)

男(この美少女は、いざという時に加速した自分へブレーキを掛けてしまう。オカルト研ほど突き抜けてもらえれば楽なものだが、そこは個性よな)

男(難聴解除の為に、ハーレムの理由付けの為にも、今日先輩のストッパーを破壊させる。自壊だ、暴走させる)

男(俺も彼女を自宅へ招いたリスクがある……チキンレースを始めるというのだ、目撃せよ。今宵刻まれる伝説を)

男「こんな事もあろうかと梯子をホームセンターで買っておいたんですよ。さ、昇ってください」ガチャン

先輩「へ、へぇー……男くんスゴい」

男(窓から無事侵入を終え、先に中へ忍んだ先輩は俺の城をじっくりと眺めて一言こぼすのであった)

先輩「[ピッ]、[ピーー]……[ピーーーーー]……///」

男「え?」

先輩「な、何でもない! 男くん結構掃除とかマメなんだねっ、意外と片付いててビックリだよ~!」

男「どこぞのマメな家政婦が面倒見てくれてますからね」

男(ちょっとした足音にさえ気が回り、声のボリューム控え目ヨロシクとジェスチャーを伝えつつ、先輩へ忌むべき禁書を俺は手渡す。そう、中学の卒業アルバムである)

男(ネットを閲覧して得た知識だが、女子は卒業アルバムを好む。話題に困ったらあえて自らの汚点を晒すと喜ばれるであろう)

先輩「えへへ、男くんこの頃から[ピーーーーーーーーーー]♪」

男(素っ裸を晒している気分だが、狙いは外れなかったらしい。お気に召したかアルバムに釘付けじゃないか)

男(その間、俺はいつぞや、もしものもしも、あるいは、何というか、来るべき決戦に備えて購入していた、アレを、隔たりを、財布の中から、そっと取り出した)

男(アレは、それとなく確実に気付かれる配置に設置してみた。お下品に弱点を突かせて頂くぞ、先輩よ)

先輩「なんかコレ見れただけでも、男くん宅訪問した甲斐あったかな~! 成長したねぇ、感動ですヨ!」

男「……あ~、あんまり騒がしくしてると下の妹たちにバレるかも」

先輩「ふっ、もーまんたいだよ! わたしこれでも十分の一ぐらい大人しくやってるからねっ、だいぶボリューム控え目で……あっ」

男(どうした。弾詰まりでも起こしたか、マシンガン)

先輩「そ、そーだっ! こんなに色んな漫画持ってるんだしオススメとか教えてもらえないかな~って!」

男「漫画ですか? マニアック趣向ばかりで良ければ何冊か貸しますけど (あえて話題を逸らして回避したか)」

先輩「読むよむ! あっ、でも出来ればグロいのは無しの方向でお願いしたいかなー血がドバァーとか! 首スパァンッとか!」

男「苦手なんですねぇ…… (いつぞやの合宿でグロ過激な深夜アニメに目を奪われていた気がするような、しないような)」

男(いかん。先輩の方向転換に俺まで巻き込まれてしまっていないか、せっかく設置した罠を無駄には出来ん。せっかく薬局で不審者感丸出しで買えた物なのだ)

男「(どうにかして誘導せねば) 先輩、寝むくなったらいつでも言ってくださいよ」

先輩「なんか男くんと一緒にいたら目冴えちゃったよ、わたし。……ね、寝る時は押入れ借りていい?」

男「22世紀から来た猫型ロボットじゃあるまいし。布団ぐらい貸しますよ、部屋はここで構いませんかね」

先輩「……男くんは、どこで、寝ちゃうの?」

男「どこって、そりゃあ自分の部屋に決まってるじゃないですか」

男(それを聞くと先輩は、みるみる内に小さく縮こまっていき、俺が顔を合わせれば目を泳がすのだった。文字通り緊張状態だろう)

男「先輩さん、すみません。俺も別の部屋を貸してあげたい気持ちはあるんですが……」

先輩「い、良いの良いの! 気にしなくって! 元はと言えばわたしが無理行って来ちゃった、わけだし」

先輩「……[ピッ]、[ピッ]、[ピーー]う///」

男「何か言いました? ……ちょっと待った…………すぐに隠れて!!」

天使「あれ、男くんいつ帰ってたんですか? まだお土産のグミを頂いてねーんですが!」

男「買わないって約束しただろ……ついさっきだよ、たまには窓から部屋に直帰もありかと思ってな」

天使「窓ぉ? わー、男くんっていつもバカですけどマジでバカなんですか。意味不です、ありえねーです」

男「知らないだろうが、男の子はみんなこういうの大好きなんだよ。一度やってみたいランキング上位に載る帰宅方法だぞ」

天使「ふっ、きっと鼻くその方が価値ありそうなランキングですねぇ……」

天使「ていうか、自分が来るまで誰かと喋ってませんでしたー?」

男「(防音壁に変えてもらうかしら、このマイルーム) ああ、電話してたからな。そんな大声出してたつもりなかったんだがなぁ~」

天使「電話って、相手の声も周りに聞こえさせることもできるんですか?」

男「……そうだよ。賢いな天使ちゃん、確かに耳に携帯当ててるのが面倒だったからスピーカーモードにしてたんだ」

天使「ふーん、猿が生み出したアイテムといえど中々侮れませんね。でも」

男(探偵に探られている犯人の気持ちがよく分かるぞ、この不自然を掻き消す苦労が)

天使「もう夜も遅いんですし、いくら家の中でも静かにしねーとご近所迷惑でしょーが! お静かにっ!」

男(両手を腰に当てた天使ちゃんがガミガミと、正論を振りかざす。ロリ美少女の説教ならば、それだけで飯が三杯食えるぞ)

男「やれやれ、なんとなく幼馴染に似てきたなお前……」

天使「ほほぅ、ならば おっぱいが!?」バッ  男「幼馴染はおっぱいじゃないんだぞ」

天使「とにかく暗くなったらさっさと寝る! お日様昇ったら起きる! ダメ人間に磨きが掛かっちまいますよ!」

男「はいはい、天使ちゃんが戻ったらすぐ寝る支度するよ。じゃあな、おやすみなさい」

天使「おっと、偶然自分は枕を持って来ちまったみたいです! ちぃ、仕方ないから[ピーーーーー]やるですよぉ!///」

男「(考えるまでもなくそのディフェンスは崩せられるぞ、難聴スキルよ) 俺が怒られるから自分の部屋に行け! 寝ろ!」

天使「ぶ~……いいですよ、いいですよ。どーせ自分には幼馴染ちゃんみたいな[ピーーーーーー]……ただの可愛いロリ美少女ですしね……」

男「拗ね方が誇り高いな、お前 (または太太しいとも言う)」

男「…………もう出てきても平気ですよ、先輩さん。行きました……先輩さん?」

男(咄嗟に押入れへ隠した彼女を呼んでも姿を見せず、俺が中を開けてみると、そこには目を血走らせ、鼻血を流すもう一人のHENTAIの姿が)

先輩「ひ、ひきょうすぎじゃないっすか、アレは……ダメでしょおぉぉ……しかも目の前でお預けって、残酷……!」ポタポタ

男「Oh……」

先輩「わたしを殺す気かなぁ!?」  男「勘弁してくださいよ、マジで」

男(ようやく興奮の冷めた先輩と共に殺人事件の現場と化した押入れを掃除していると、中でとあるブツを発見してしまった)

先輩「ん? どうしたの男くん、何それ? えっ、何で隠しちゃう?」

男「な、何でもありませんよ。別に面白い物とかじゃありませんから」

先輩「……ほほーう?」ニヤリ

先輩「さては隠し損ねたエッチな本とかビデオかなぁ~? どれどれお姉さんに見せてごらんよ、さぁさぁ!!」

男「止めてくださいよ!? うわっ!!」

男(発動は任意、状況に合わせて使いこなせる。これ程使い勝手の良いスキルを与えられたからこその悩みの難聴か)

先輩「あいてて……ごめんっ、押し倒すつもり……は…………!」

男「だから本当に面白い物じゃないって言ったじゃないですか、昔遊んでた玩具ですよ」

男「て、ていうか、いつまで乗っかってるんですか、先輩さん?」

先輩「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]!!///」

男(などと大慌ての様子で、俺の上から飛び退く先輩。天使ちゃんでモードを切り替えられて安心していたか、恥じらいも倍増だ)

男「あの、どうかしましたか? どうして背中向けたまま?」

先輩「[ピーーーーー]! [ピッ]、[ピーーーーーーーーガーーーーーーーーーーー]っ!///」

男(我がテリトリーへ自ら進んで足を踏み込んだのはあなただ、先輩。まさか自分が優位なままでいられると思っていたのか?)

男(しっかり落とさせてもらうぞ。難聴解除で真のハーレムの仲間入りだ、飢えたケダモノがどちらか理解して頂こう)

男「(俺機、迎撃します) ……えっと、寝ましょうか? 明日も学校はあるわけですし」

先輩「ひっ!? ……おおお、おふりょおっ!! か、借りていいか、な……っ///」

男「すみません、我慢して貰えませんか (隙を作られる時間は与えられんのでな)」

男「ふぅ、とりあえずこの布団で寝てください。一応お客用なんで綺麗ですよ」

先輩「あっ、ハイ……恐縮です……」

男「先輩さん?」

先輩「はいぃ!? な、何でしょうかねぇ!?」

男「いや、隣は妹の部屋だからあまり煩くしないでやってくれると嬉しいなと。音に敏感ですから (都合良く察知されないがな)」

男「それよりさっきから大丈夫ですか? 汗とか掻いてるし、暑いなら上着脱ぐなり何なり」

先輩「だーいじょーぶっ! まったくもって心配いらずだから、気遣ってくれなくて平気だよ!? 全然いつも通りだしねっ!」

先輩「……[ピーーーーー]のかな///」

男「え? 何かまだ用意足りませんでしたか?」

先輩「うぅ~……お、男くんってどうしてこういう時に限ってやけに[ピーーー]になっちゃうかな……」

男(恥じらいが生み出す美少女の微かな色気である。ムンッと来てくらくらさせられようと、まだ手出しすべきではなかろう。紳士スタイル的に)

男(さて、あらゆるケースを先に想定しておいた。朝、俺を起こしに来た幼馴染から発見されるなど初歩的ミスは起こさない。それ以外でだ)

男(ここ一番でいつも何か起きてばかりだった為か、警戒心を拭えない。トラブルはいつだって安心した時に降りかかるのだから)

男「電気消しますね、先輩さん。さすがに……ふぁぁ……俺、眠くって」

先輩「お、おやすみ……///」

男(妹が部屋へ戻ったのだろうか、壁を挟んで微かな物音や欠伸の声が聞こえた。時計を確認すれば短針長針ともが零時を指している)

男(先輩へ例のアレを見せたのは成功だ。何もせず、俺から寝てしまうと提案され、今頃は混乱の最中であろう。素直に眠れるわけがない)

男「前にも俺たち 同じ天井見上げながら寝たことあったの覚えてますか」

先輩「起きてたの!?」  男「だから、しーっ!」

先輩「あんまり静かだから寝ちゃってたと思ったよ……はぁ」

男「合宿の夜、色々ありましたけど楽しかったですよね。昼は昼で面白かったんですけど、へへへ」

先輩「うん……またみんなで一緒に行きたいよね、今度は一泊二日なんて言わないで三泊四日ぐらい」

男「ちょいとした旅行ですねぇ。また先輩さんが商店街のくじ一等引いてくれるのを期待してますよ、俺」

先輩「んふふっ、任せて~ 一等どころか景品全部搔っ攫ってきちゃうよ!」

先輩「……やっぱり[ピーー]だけ良い思いしてても、スッキリしないかな」

男(恐らく『一人』だろう。考え方の変化で独占に後ろめたさを覚えたか、あるいは この俺といる時間を皆と共有することに幸福を感じてしまったか)

先輩「男くん。もうちょっと布団近付けていい? 明るくなるまで喋っちゃおう」

男(カーテンの隙間から洩れた月灯りに照らされ、覗けた先輩の表情に一瞬こちらがドキッとしてしまった。いつもとは違ったささやかで明るさ控え目な笑顔、可愛いというより、美麗である)

男「ど、どうぞ。何だったらコーヒーでも淹れてきましょうか? ふふっ」

先輩「うん♪」

先輩「男くん淹れてくれたコーヒー、美味しいなぁ。なんとなく優しいお母さん味かも?」

男「インスタントでそこまでの感想もらうと、返って申し訳ないんですよね」

男(夜更けに似合う落ち着いたムードの中である。始めに彼女を牽制しておいたのは、色々あっての暴走を防ぐ処方薬の様なものだ)

男(いざという時にしおらしくなる美少女とはいえ、タイマンかつ閉鎖空間、状況は人を変えてしまう。何度も経験した立場からの予防策である)

男(如何わしい気持ちは置いてきたとも。先輩とは、こうしてじっくり対話することが大切だと以前より思っていた)

先輩「ほんとに優しいよ、男くん。こうやって自然に慰めてくれるんだもん。落ち込んでたのバカらしくなってきちゃうよ~」

男「えっ、ああ、まぁ、えへへへ! (どんな形で何をしようと俺を立ててくれる美少女たち、調子の良い性格になるのも当然じゃないか?)」

先輩「でも、みんなに優しくしてるから勘違いされちゃうんだよ? [ピーー]になっちゃうんだから」

男「よ、よく分からないけど、善処します……でも、先輩さんが立ち直ってくれそうで良かったです、俺」

先輩「! ……だ、だからぁ、そういうとこが[ピーーーーーーーーー]……///」

男「何ですって?」

先輩「やだっ、言わない。ていうか聞いてちゃもっと嫌だった!」

男(なんて拗ねたフリした後に、クスリと小さく笑うところがチャーミングではないか。ああ、やはり俺はギャップに弱い。殺されてしまう)

男「あはは、いつもの先輩さんも嫌いじゃないですけど、こうやって落ち着いて話せる先輩さんも悪くないですね」

先輩「だから唐突にぶっ込むなよぅ! [ピーー]ぁ~……///」

男(さて、いつまでも楽しんでいるだけでは前に進めん。マグカップを一旦置いた俺は、再び例のアレを、登場させた。今度は見せびらかすようにして)

先輩「ちょ!?」

男(指と指の間に挟み、先輩へ向けてチラつかせてみる。すぐに両手で顔を隠すも、彼女は隙間からソレをビクビクと見つめていた)

男(包装紙とその上に浮き出た丸の形だけで、コイツが何か分かっているわけだ。ガムと間違えて口の中に入れたりする心配もないだろう)

男「財布の中に入れてると金運UPするらしいですよ、知ってましたか?」

先輩「っ~///」

男「えっと……悪ふざけでした、ごめんなさい。使うつもりも予定も当分ないです」

先輩「べ、別にいいよ。男くんだって、その、年頃なんだし、そういうの持ってても、あの、あ、うあ」

男「でもコレ、興味本位で買ったとかそういうのじゃないんです。心配だったから一つぐらいあってもと思って」

男「この意味 わかってもらえますか?」

先輩「わわわわ、わかんないっ! [ピー]ちゃんはコウノトリに運ばれて届くか、キャベツ畑で収穫時期に偶然取れたりするからわかんないよっ!?///」

男(現実とかけ離れたモテ世界で、いきなり現実味が出てくる違和感よ。先輩といえど動揺ぶりは過去最高レベルだ)

男「わからないなら教えます。現状、いつそういう事が起きてもおかしくない状況に俺が置かれたからなんです」

男「真剣に向き合おうと思って、一応一個だけ用意しておきました」

先輩「えっ……?」

先輩「どういうこと? 男くんには、そういう関係になりそうな子が、いたりするの? それとも、[ピッ]、[ピーーーー]を……」

男「(後者が読めないのが惜しい) どうしてこうなったか謎なんですけど、俺 いま色んな女子たちから迫られてる状態でして」

男「いや、今ってはの不自然だ。たぶん前からだったのかもしれない! 合宿の時に先輩さんたちから想いを伝えられたみたいに」

先輩「部のみんなの他にも言い寄られてるの!? ……って、そんなの[ピーーーー]」

男(勘付いていたというよりも感じ取っていたらしい。正常だ、むしろ思わない方がどうかしている)

男「最近じゃそれが顕著で、力付くでもと勢いに任せたアプローチも受けてました。言葉の使い所が変だとは思いますけど」

男「俺は貞操の危機を日々感じています、先輩さん」

先輩「ぶーーーーっ!!」

男(特に手前のドリルで天を突かれるとかそういう意味では、待てよ、あり得るのか? 最悪 その覚悟を決めなければならない相手が約一名いたぞ)

先輩「落ち着こう 男くんや……そんな危機感覚えたのも[ピーー]、ううん、[ピーー]たちのせいだって責任はあるけど、さぁ」

男「相談に乗ってもらえるんですか!?」

先輩「相談って……ち、力にはなってあげたいけど、何ていうか、わたしも男くん[ピーーーーー]///」

男「聞いてもらえるなら是非聞いてくださいっ、俺色々考えて一つ案を出したんですよ!」

男「全員から必要とされるなら、俺自身がみんなの俺になれたらハッピーじゃないかって!」

先輩「落ち着いてもらえないと話になんないよ」   男(真顔は怖い美少女先輩)

先輩「……わたしさっきも言ったけど、男くん優しすぎると思うんだぁ。それって一人の子に縛られないで」

先輩「他の子とも同じ様にしようってことでしょ?」

男(愛人関係を想定されていらっしゃる。逆だ、俺が美少女を好き放題にしようと企んでいるに過ぎないというに)

先輩「たぶん[ピーーー]にも……でも、それって正しいかな? 男くんだけが悪者になっちゃうかもしれないんだよ?」

男「悪者で構いません。正直ダメダメな奴だとは自分でも思ってますけど、一番全員が報われる方法ってコレかな、なんて」

男「俺、みんなのことが大好きなんです。それだけは譲れません、一人残らず抱きしめたいと思います! 愛情の安売りとかじゃなく! 遊びでもなく!」

先輩「……わたしも?」

男「先輩さん、好きです」

先輩「わあああぁ~っ!? 待ったまった、そこまで今求めてなかったと思うんですけど!?///」

男「言わせてください!! 先輩さんが好きなんですっ、あなたも俺が気に入ってるなら答えてくれませんか (……俺による、俺だけの、俺の為に築かれるこのハーレムへ参加表明を)」

先輩「[ピーー]だよ……」

男「え? 何だって?」

先輩「わたしもっ、君が大好きだよ! 大好きすぎて、でも、他のみんなも大好きで、ずっと悩んでたよ!」

先輩「だから、わたしは男の考えに着いていけそうだと思うかな。どっちかといえば、男くん寄りの考え方しちゃってたし……///」

男(計画通り)

男(他人の不幸が蜜の味であるとするなら、自らの意思で心を管理できる支配権を得た者ならば。代行者として呟こう、愉悦)

男(と、調子を扱いて足元を掬われるのがパターンである。だからこそ意思表示を明らかにさせた先輩を前に、俺は感謝していた。ありがとう、この言葉に限る)

男(窓の外を見てみる、向かいにはすぐ幼馴染の部屋があるそうな。灯りがついていないことから彼女は既に就寝済みだろう)

男(と、油断していると先程設置した梯子を利用して窓辺から幼馴染が……なんてドッキリもなくはない。対処済みである)

男(ここまでして完璧と思わぬ思考がこれまで欠けていたのだろう? 慢心を生む隙すら与えず、己に訴えるのだ、この後はどうすべきか、と)

男「……夜更かしも程々にしておいた方がいいですね。明日揃って目の下にクマなんて作ってたら怪しまれるかも」

先輩「そこはっ、睡眠不足を午前中にカバーするんですヨ。眠気も相まってうたた寝がそりゃまぁ気持ちよろしいものに!」

男「また生徒会長に苦言漏らされても知りませんよ?」

先輩「大丈夫! 最近扱いに慣れてきたからっ」

男「俺は、知りませんからね……冗談抜きで寝ておきましょう。カップ洗ってくるんで先に電気落としててくれていいですよ」

先輩「えー? ごめんねぇ、何から何まで面倒かけちゃって……」

男「気にしないでくださいよ。好きでやってることなんですから」

男(……また一人鬱陶しい難聴を取り払ってやれた。最高だ、スキップ混じりに小躍りしてやろうか? 口笛もおまけしてやろう)

男(ふと、廊下に飾られた時計を目にすれば時刻は四時前。結構な夜更かしをしてしまったが、先輩をいつ帰してやると……す……)

幼馴染「ん? あれっ、まさか男くんずっと起きてたの!?」

ここまで。次回は日曜日

男「驚く側が逆だろうが!! 何でこんな時間にウチの中にいるんだ!?」

幼馴染「い、一応妹ちゃんには許可貰ってたんだよっ、男くんには言いそびれちゃってただけで!」

男(そう言うと幼馴染は、慌てて台所のカウンターの上に置いていた合鍵をこちらへ見せてきた。外の植木鉢の下へ常に忍ばせていたのだが、彼女なら知っていてもおかしくはない)

男「やれやれ……それで、日の出前にどうした? 手の込んだ弁当の用意でもしてたか?」

幼馴染「えっと……そのぉー……」

男(煮え切らないじゃないか。状況が状況だ、これでは怪しんで下さいと言わんばかり。よりにもよって鋭い美少女幼馴染さんなのだから)

男(だが、台所に立っていた時点で食事作りは裏付けられる。問題なのは、俺の問いに対して素直にそう頷けていない点である)

男(彼女は何をしにここへ現れた)

男「答えたくないって事は、俺に後ろめたさがあるわけだな。違うかね?」

幼馴染「泥棒じゃないっていうのは誓うよ!?」

男「わ、わかったからあまり大声を出すな。妹たちまで起きちまうだろうが」

幼馴染「あっ、ごめん……でも」

男(先輩がこの騒ぎを嗅ぎつけて来ないよう注意を払わざるを得ない。俺を放って先に眠ってくれていたら勝ちだが、こういう時は嫌な予感がたっぷりだ)

男「ひとまずお前に関しては聞かないでおくよ、幼馴染。少し部屋に戻ってから改めさせてくれ」

男(コクリ、と申し訳なさそうに首を小さく縦に振った彼女を置き、二階へ上った。イカン、胃がどうにかなりそうだ)

男(想定していた中では最悪のパターンかもしれない。このまま幼馴染と先輩を鉢合わせてもみろ、リミットブレイクを起こすぞ)

男(仮に幼馴染が名無し同様 千里眼能力を自覚し、使いこなせていたとしても、俺はここまで先輩に会って連れてくるまで細心の注意を払ってモブの包囲網を掻い潜っていたつもりだ)

男(つもり、なワケで決して完璧ではないとは思っている。モブキャラの目に限定されるとは誰も説明していない、それが確実とは呼べまい)

男「……不味いな、部屋の灯りが点きっぱなしじゃないか」

男(戸の隙間から洩れる光に、躊躇ってしまった。しかし、迷ってもいられない。生唾を飲んで開けようとした、がその瞬間)

先輩「男くん? ど、どーしちゃったの。部屋の前で突っ立って」

男「いっ!?」

先輩「あっ……もしかしてわたしが寝てると思って気遣わせちゃったかなぁ~。えへへ、別に怒ったりしないのに///」

男「そ、そりゃあ 寝てるのであればそうでしょうね……」

先輩「ところでおトイレ借りちゃって良い? 夜更けのコーヒーが効い――――っ!」

男(咄嗟に、あっけらかんにいつもの調子で声を上げようとした彼女の口を塞いでいた。ダメだ、察知される)

先輩「お、おとほふん///」

男「……案内しますからお静かにお願いします。家族の安眠を妨げたくないので」

先輩「ぷはっ、う、うん。そうだよねぇ、起こしてわたしいるのバレたりしたら警察事だもん」

男(ツッコミたい気持ちをぐっと抑え、口数を減らせ。ああ、どうしたら良いのだ、神よ)

先輩「あの~……案内してくれたのはありがたいけど、出来れば部屋に戻ってて欲しいかな」

男「すみません。我が家では夜中一人になると魔物が現れるので」

先輩「マモノ!? て、ていうか、そこにいられると……できないよぉ……///」

男「お気持ちは察しています。ですが、一人にさせられない理由がこっちにはあるんです。ご理解お願いできませんか」

男「それから、もしドアを一回ノックされたら物音を出さずに大人しくしていてください。先輩さん」

先輩「えぇ、魔物……?」

男「魔物です。そして二回ノックされた時は絶対にトイレから出て来ないでください。以上、お約束の上でお花摘みを満喫してください」

男「(眉をひそめ、頬を染めながらドアを閉めた彼女を確認し、俺は即座にノックを二回して階下へ降りたのである) 待たせたな、幼馴染……」

幼馴染「……」

男(そして言葉が喉に詰まった。何をしていたわけでもなく、幼馴染は椅子に腰かけ、俯いていたのである)

男(生か死か、むしろ死か、あり得ないとは分かっているが、ここは既に安心できる場所ではない。戦場だ、弾丸飛び交う戦場だ) ……幼馴染」」

男(恐る恐るだったとも、再度彼女を呼んでみた。だのに、反応は返ってこないこの恐怖)

男「お、幼馴染っ!」

幼馴染「きゃ!? な、なんだ、男くんか……もう、ビックリさせないでよ」

男(寝ていた、のか?)

幼馴染「……えっと、そんなに怖い顔しないでほしいな。怒ってる?」

男(違う、そうじゃない。目の前の美少女の考えが読めなさすぎて戸惑っているだけだ)

男「怒ってるなら分かり易いように、怒筋がこの辺に浮かぶと思うぞ」

男「お前、疲れてたのに無理して何かしてくれようとしてたのか? いま眠ってたんだろ」

幼馴染「ね、寝てないよ!? ちょっぴりボーッとしてただけっ、だから全然寝てないの!」

男「わかったから、父さんたちの部屋で少し仮眠して来いよ。朝飯と弁当ぐらいたまには自分でやるさ」

幼馴染「……そこは、俺の部屋、じゃないんだ」

男(……ポーカーフェイスを努めるのだ、俺。幼馴染は美少女一俺の変化に敏感だぞ)

幼馴染「あのね、こんな朝早くに押し掛けちゃってごめんなさい。男くん」

男「いいって! どうせお前の事なんだから俺たちの為に頑張ってくれようとかしてくれてたんだろ?」

男「幼馴染には感謝してるからな。もう家族の一員みたいなモンなんだ、今更あーだこーだで煩く言わねーよ」

幼馴染「……えへへぇ///」

男(眠気も相まってかの気の抜けた笑顔すら魅力である。間違いない、彼女は今までも朝早くに訪れて俺や妹の弁当と朝食を作っていたのだろう)

男(努力家で献身すぎる通い妻幼馴染なら不自然ではない)

幼馴染「本当にそう思ってる?」

また明日か明後日

男「えっ」

男(思わぬ台詞に落とした視線を移すせば、小首を傾げ、まるで無垢そうに彼女がこちらを見つめていたのである)

男(たったそれだけで、俺の中身全てを見通されているような気分に陥らさせてくる。悪事を告白されるとか、冷や冷やしたとかじゃあこの気持ちを例えるに生易しい)

男(懺悔だろうか。何もかも優しく受け入れ、包み込んでくれそうな彼女の雰囲気に、言葉に、成す術なく一瞬で持って行かれ)

男「お、思ってるに決まってるだろ? ていうか、前にも同じ話した覚えあるぞ、俺」

幼馴染「そうだったね。ふふっ、何度聞いてもあたし嬉しいよ。大好きな人から、家族って想われたんだし!」

幼馴染「うーん。出来たら、将来 本当の家族になれたらなぁ……なんて///」

男「え? あ、と……今だって家族と同じじゃないか。二人デカい娘を持つ親、みたいな」

幼馴染「どっちの子どもも、お父さん大好きだけどね。あたしに負けないぐらいだよ。知ってるでしょ?」

男(事実だが、素直に頷けないのが歯痒い。こんな物は家族ではない、と頭からバケツ一杯水をかけられた気分である)

幼馴染「あたしたちのは単なる家族に見えるだけのごっこ遊びだと思うな。それでも充実してたよね、男くん」

男「な、何だそのもうすぐ終わりみたいな言い回しは……?」

幼馴染「みたいじゃなくて、終わらせちゃうんでしょ。男くんが」

幼馴染「ね、男くん」

男(……ハーレムか? ハーレムで家庭崩壊不可避と考えられたのか?)

男「悪い、幼馴染。言っている意味がよく……」

男(抽象的すぎて何が何だか、というよりも、思い当たる節が俺にありすぎるのだ。一つに絞り切れん)

男(困惑した俺を見ても、幼馴染は顔色一つ変えずに少しの間を置き、ゆっくりと口を開き、言った)

幼馴染「自分の妹にまで心開いちゃったら後に引けないもんね」

男「(あ、そっちか) ……知ってたのか。アイツから直接聞いたのか?」

幼馴染「ううん、でも何となく見てたらわかっちゃうよ。あの子ほどじゃないけど、あたしも付き合い長いから、どうしてもね」

男(俺はあの夜、幼馴染に我が真のハーレムへ導けていなかった。逆方向へ突っ走った結果、どうなってもお前がナンバーワンの様な扱いになってしまった気がしてならない)

男(ケアを間違えた俺の責任ではある。益々 幼馴染の説得が難しくなってしまったわけだ、この通りに)

幼馴染「男くんのやりたい事を止めるつもりはないけど、いつかは家族ごっこ出来なくなっちゃうのかなって思うと寂しいなぁ……」

男「か、勘違いしてるが俺は別に、自分の日常を変えたいとか思ってるわけじゃないからな!?」

男「ただ、みんなの気持ちに俺なりに応えなきゃと…… (自分で吐いた綺麗事に鳥肌が収まらん)」

幼馴染「あたしね、妹ちゃんのことも大好き。でも どっちも同じ人が好きなら、どこかで折り合いは付けなきゃってずっと思ってたの」

幼馴染「好きな子でも大事なことはケジメを付けなきゃって。だけど、男くんがソレを壊してくれるなら……」

幼馴染「内心 複雑ではあったけど、期待もしてたんだ。妹ちゃんや他の子とも、溝ができなくなるかもって」

男(ああ、ようやく時代が俺の思想に追い付いたか、ハーレムは平和そのものである)

男(そして、その通りだ 幼馴染よ。溝なんか作らせやしない。常人の恋愛観を根本から覆させるのだ、俺のやり方で)

男「(ならば) そう考えるんだったら、楽しい家族ごっこも継続したままで行けるじゃないか?」

男「俺たちはこれまでと何も変わらないんだよ。変わらないまま、心からお互いを認め合う関係を築いて――」

幼馴染「変わらないなら、全く意味ないよね?」

男「……えっ、何だって?」

幼馴染「前々から思ってたんだけど、言いたくはなかったけど、少しズレてるんじゃないかな」

男「ズレ、てる……だと……っ? (上げて、下げれてからの真っ向からの否定である。完璧な正論すぎて歯が立たない)」

幼馴染「病気のことがあって形振り構ってられないって気持ちはわかってあげたいよ、男くんの優しさも」

幼馴染「焦ってるんだよね……最近ずっと記憶障害起こってなかったみたいだし、明日にもなるのかと思って……」

男「がばあっ!?」

男(時にウソはその場を凌ぐ力となるだろう。だがしかし、底が浅ければツケはいつか跳ね返って来る。なんて借金だ)

幼馴染「いい、男くん? 何も変わらないって思うのは多分男くん一人だけだよ。あたしたちは簡単に割り切って付き合うの難しいかもしれない」

幼馴染「最終的にはどうなれば良いってイメージしてるの? あたしには着地点全然見えないよ」

幼馴染「意地悪してごめんね、教えてもらえる……かな?」

男(は、吐き気がする、目眩もだ……あたたかい布団が急に恋しくなってきた……)

男「……、……」パクパク

幼馴染「あたしもあたしで悪かったよね、『男くんが他の女の子と仲良くしていてもいい』なんて無責任言っちゃったんだから……」

幼馴染「ねぇ、本当にみんなから恋人扱いされて耐えられる? 求められたらキチンと返せる自信ありそう?」

幼馴染「あたしたちは男くんが大好きだけれど、みんながみんな男くんの思い通りになるとは限らないんじゃない? だって人だもん」

男(そんなわけ、なんて否定できる気がしない。皆、俺を喜ばす都合の良い美少女であるだなんて屑発言は)

幼馴染「男くん、男くんが真剣な気持ちでやってるのは知ってる。だから、あたしもそろそろ遠慮しないで真剣に質問するね」

幼馴染「この先どうなれば良いって思ってるの? ……改めて答えられないのなら」

幼馴染「誰か一人に絞った方が良いと思うな、男くんの幸せの為にも」

男(いっそ発狂してしまいたい)

男(チョロインレベルなら美少女の中でもずば抜けている筈の幼馴染だ、それは彼女一人へ的を絞った時に限るが)

男(本気でハーレム阻止に掛かって来るか。やはりあの夜のイベントが不味かった、女神が一転 俺にとって災厄の王だ)

男(……答えはある。あるが、最低すぎて答えられない。プライドと愛情のジレンマよ、答えは一つ『欲』である)

男(俺がしたいからする。魅力ある美少女の中から一人だけ選び取るなど、無理。俺が全て搔っ攫う。ただそれだけという)

男(許容されるにも度を超え過ぎているだろうが。奇跡でもなければ、明るい未来は見えない)

幼馴染「……じゃあ、試してみよっか」

男「試す……おい、試すってまさか!!」

男(椅子から立ち上がった幼馴染は、こちらを見向きもせずに階段へ歩みを進める。な、何故だ)

男(我に帰ってすぐにドタバタと、騒音も気にせず走って追いかけ 階段の前に立ち塞がったのは言うまでも無い。その行動が何を意味しているかも理解の上ででも)

幼馴染「……上に“誰か”いるの?」

男「っ~~~!!」

幼馴染「コーヒーカップ、二つ持ってたもんね。始め見た時は妹ちゃんが無理して飲むとか言ってたのかなって思ってたけど」

幼馴染「妹ちゃんぐらいなら、そんな切羽詰まった顔して通せんぼなんて無いよね。男くん」

男「も、戻ろう……戻ってさっきの続きを、話し合おうぜ……」

男(その瞬間、彼女の手が伸びてきて俺の首へ手を回してきた。茫然とする間もなく、そのまま引き寄せられ、唇が重なっていたのである)

男(呆気に取られた、何故今ここで、どうして急に。されるがまま壁へ追いやられ、この状況にも関わらず気持ちの良さに浸りかけていれば、だ)

幼馴染「ごめんなさい!!」ドスンッ

男「おぐぇ!!?」

男(唇が離れてすぐ、腹部へバッと広がった無慈悲な痛み。それは、腹パン。美少女からの腹パンもこの俺ならば、済まん、無理だ)

男「ま……まて……ひ、必死すぎんだろぉぉ……っ」

男(腹を抑え、引かない痛みを抱えながらようやくして二階に上がれば、二人が向かい合っていたのであった)

男(現況報告、脳内で壮大なオーケストラが流れ始めた。現実逃避には最適だろう。他? そうだな、実際には)

男「あ……あ、あ……あっ……」

男(「あ」しか言えていない。生まれたばかりの赤子ですら、もっとマシな産声を上げると思われる。とにかく、自分自身の実況で一杯だった)

男(先輩、何故トイレから出てきてしまった。いや、あの様子では出て来たというよりも、出て来させられたのだろう)

幼馴染「初対面じゃないですよね、あたしたち。あまり関わりはないけれど」

先輩「あわわわわ……っ!!」

幼馴染「今日はお泊りにでもいらしてたんですか? 早くに気づいていれば、お夕飯も用意できたのに」

幼馴染「残念です。いつも男くんが愛好会でお世話になってるって聞いたから、とっておき、頂いて欲しかったなぁ……」

先輩「わ、わたしはあなたに殺されるの? 殺されちゃうんですか? そうなら、苦しまない方法でお願いしまう! なんなら靴舐めますよぉ!?」

幼馴染「えっと、あたしの方が年下なんだから変に畏まらないでください。恐縮しちゃいます♪」

先輩「まったく持って恐縮ですぅぅぅ!! そ、そうだっ、男くん! 男くんは!?」

男(安心してくれ、すぐ傍で隠れて見守っているぞ。待て、コレには訳がある。俺が下手に出て行っても幼馴染の思う通りなのだ)

男(慌てるな。現状を認めて、落ち着いて対処するしかない。畜生、一睡も出来ずにコレか)

幼馴染「男くんなら、そこに隠れてますよ。どうして隠れてるかは知らないけど。ね?」

男「ふうぅぅぅっっっ……!?」

先輩「男くん! こ、この子は一体何なの!? わたし今すぐ帰った方が良さげ!?」

男「そ……そいつは、俺の幼馴染です。家が隣同士だから、親が不在の間よく面倒見て貰っていて」

幼馴染「男くんの彼女です」

先輩「えぇ!?」  男「オエェ!!」

幼馴染「男くんの彼女です、あたし。付き合い始めてからまだ日は浅いけどお互いその認識はあると思ってます」

男「うおおおぉぉ!! いきなり何とんでもない事言い出してるんだよお前はッ!?」

幼馴染「ところで、あなたは男くんの何ですか? 部活の先輩後輩の関係? 流石にないですよね」

先輩「……わ、わたしもついさっき男くんに告白して、好きですって言われたよ」

男(もうダメだ、思考回路がショートを起こした。覚めない眠りに落ちたい)

先輩「デートとか、そういうのはまだだけど! キスはあるっ! ……まぁ、偶然だったけど///」

幼馴染「もしかしてあなた、彼が他にも女の子に告白して回ってることご存じないんですか」

先輩「知ってる。だから知ってた上でだよ、その他の子が誰っていうのも大体分かってる!」

幼馴染「……じゃあ、どうして怒らないの? 悲しいって思いませんか。裏切られてたって」

先輩「裏切る? そりゃ違うでしょー、あなたの場合は知らないけどわたしは男くんから最初にそう断られてたし」

先輩「……知らなかったの? お付き合いしてる裏で、そんな事されてたって」

男(この俺を幼馴染から庇い立てしてくれるとばかり、様変わりした。俺を見る先輩の目が不審になったのだ)

先輩「て、ていうかだよ。この子とはいつからなの……男くん?」

男「あ、あ、あっ――――――」

男(気づいた時には駈け出していた。後ろから聞こえた二つの制止の声すら届かないほど、満身創痍に。寝巻のジャージのままで)

男(薄っすらと日の出し始めた曖昧な時間の町へ、俺は逃走していたのである)

男「……た」

男「耐えられなかったんだ!! 現実で見た先輩さんみたいな目向けられて、凄く気分が悪くなって!!」

男「幼馴染は何も悪くない!! 悪いのは俺だっ、俺が……え? 逃げたのか、俺?」

男(逃亡と言うべきか、敗走なのか、どちらにせよ 俺は罪を認めて家を飛び出していた。無意識に走って辿り着いたこの場所は)

男「何処だここ? 俺、そんなに走ってたっけ?」

男(見覚えのない景色に囲まれていた。いつもの登校路からは離れているのは確かだが、街並みすらというのは違和感を得る)

男(御存じ、運痴にもやし属性の俺がそう遠くまでこの足一つで来れる筈が無い。我武者羅だったとしても……)

男「携帯も財布も何も持ってないんだぞ……おい、何バカやってるんだ」

?「よお、こんな早くに徘徊とかどこの年寄りだよ。男」

男「うわっ!?」

名無し「うわっ! って、人を化物見るような目で見ンなよなぁ」

男「な、名無しか……お前こそこんな所で何やってるんだよ……?」

名無し「何って、そりゃあ男が困ってるならいつ何時何処にだってオレは参上するんだぜ。なんたって親友、自称親友だからな!」

名無し「ほ~? どうして居場所がわかった? 何遍説明したら気済むんだよ、オレの目はいくつも」

男「そこまで訊いてないだろ! とにかく、知り合いに会えて助かった。ここは何処だ?」

名無し「散歩しようぜ」

男「は? 何?」

名無し「だぁかぁら、散歩だってば。せっかく珍しい時間に起きれて外にいるんだよ。ただ帰っても勿体ないだろ?」

男(相も変わらず絶えない爽やかスマイルに皮肉る元気も起きず、やれやれである。無言で前を行けば、名無しも隣を付いて来た)

男(どうせ今家に帰ったところでどうしようもなかろう。ならば、少し気分展開をして良い策を思いつければ万々歳)

男「しかし、お前って奴は二十四時間俺の監視でもやってるのか? 今回は有り難いが気味悪いレベルだぞ」

名無し「やー、喜んでもらえて何よりだねぇ! 迷子は不安だもんな、怖いもんな、男っ」

男「っ~……調子狂うな。おい、面白い話持ってない? 聞くよ」

名無し「おっ、望むところだぞ! えーっと、男が始めて幼馴染と不良女とデートした時にぃ」

男「却下ッ!!」

名無し「えぇー、じゃあ男が廊下に置いてあった缶踏んで生徒会長の胸に飛び込んだ」

男「却下だっ」

名無し「それならとっておき噛ます! 男が男の娘を家に入れて一緒にクッキー焼いた時の話を」

男「却下!! アホかお前!?」

名無し「な、何だよ、面白い話が聞きたいんだろ? ワガママ言ってちゃ何も始まらないぞ」

男「お前が出してくる面白いがおかしいんだよ! 持ってるレパートリー狂いすぎだろ!」

男「……大体、どうして俺ばっかりなんだよ (それに、どうして彼が覚醒する以前の話を知っている?)」

男(名無しはつい昨日生まれたばかりの存在だ。なのに、矛盾しているだろう。モブの頃から見られていたとでもいうのか)

名無し「どうもこうも、オレが男に夢中で釘付けだったからでしょ?」

男「ええい、真面目に気持ち悪いっ……生理的に無理ってコレなんだろうな」

名無し「やー、よく分かんないけどオレはずっとお前を見てたと思うんだ。だから知ってる、見てたから」

名無し「へへへ、ぶっちゃけ記憶とか曖昧だ。意味不明だよなぁ」

男「……俺が後輩という子と屋上で会ってたことも知ってるのか?」

名無し「ああ、あの邪魔なヤツ」

男「は?」

名無し「邪魔なんだよなぁ、本当にどうしたもんかって頭痛くなっちまうんだよな」

名無し「でも、オレじゃどうにもならないしなぁ。軽い問題児だよ……男、どうかしたか?」

男「どうかしたって……お前こそ、どうしたんだよ? いま邪魔って」

名無し「え? そんな事言ってたっけ?」

男「……いや、気にするな。何も言ってなかったよ」

男(他の美少女たちとの反応が違った。あの時名無しが浮かべていたのは、正に嫌悪である)

男(苦虫を噛み潰したかのように、不愉快を前面に出して見せていた。証人はこの俺だ、あの名無しが虚ろに呟いていた、見逃せなかった)

男(本人に自覚はないのか? 悪ぶる様子すらないぞ。どこまで謎だこの男)

名無し「つーワケで、男が面白いって思えそうな話は生憎持ち合わせないかも。で、逆はどうかな?」

名無し「男の話をオレに聞かせてくれよ。興味しかないんだ、頼むっ!」

男「面白い話か? ……破滅しかけてる」

男「笑ってくれ。自分の思うままに人を振り回して、毎度計画通りとか寒いこと囁いてたくせに、結局ダメになりそうな愚か者を」

名無し「なぁ、どうしてずっと全員に拘ってるんだ? 贅沢とは言わないけどさー」

名無し「男がやろうとしてる事は、一瞬の満足で終わるんじゃないかな?」

男「お前まで……同じなのか……」

名無し「鼠花火ってあるだろ? 男の憧れってアレと同じさ。火が付いて回って回って、最後は呆気ないぜ」

名無し「それだったら、一人の本当に大切だと思える子のアプローチ掴んでやった方が絶対良い。正しい」

男(実は、というか神の回し者だろう、名無しよ)

名無し「いいか? 据え膳食わぬは男の恥ってモンよ、オマエはいツまで騙しダましで長くオレを待たセるツもりなの?」

男「名無し?」

名無し「オレは#%$をどレだけオまえ&)’*と!@*ッて」

男「な、名無しっ!!」

名無し「え? 呼んだ?」

男「呼んだじゃーねよ……お前、本当に何なんだ。教えてくれ」

名無し「いつ頃から哲学の話にシフトしちゃったの? やー、オレってバカだから難しい話には着いて行ける気しないよ!」

名無し「あの*のゴ#<に背く^¥はできЯ◆」

男「え? 何だって?」

名無し「いきなりだけど文化祭楽しみだよなぁ、ウチのクラスも何だかみんな気合い入っちゃってきたしさ」

名無し「オレたちも裏方だけど精一杯やって成功させてやろうぜ、男!」

男(難聴スキルじゃない……台詞の聴き取れなさが、もっとベクトルの違った不自然だ)

男(やはり名無しには俺の知らない秘密がある。時折、一つの身体に他の意思が同居しているかのように思われる口振り、発言)

男(神が送った手先だとしても奇妙だ。不器用で容量を得ない、お節介でゴリ押そうとするのみ)

男(後輩のような不思議パワーと並ぶようなものは、目だけ。天使ちゃんの代わりの監視者か? ならば、隠しているだけでコイツも神の使い)

男(……断言には至らない。せっかく立てた推測も名無しの前では一瞬で取り消そうと思えてしまうぐらい、不自然の塊であった)

男(これ以上、奴を俺の思考で計り切れる気がまったくしない。これでは空気そのものじゃないか)

名無し「腹減ったなぁ……減ってない? 思春期の高校生なんだぜ」

男「それを言うなら成長期じゃないのか。悪いが財布を置いてきて、一銭もない」

名無し「心配なさんな、そこはオレが立て替えといてやんよ。親友、自称親友なんだからなっ!」

男「一々言い直して自称つけるの哀れだから親友で良いよ、もう……」

男(自称親友が奢るというのであれば、甘んじて頂くつもりで、俺たちは目に入った24時間営業な牛丼屋へ足を運んだ)

男(勿論、空席まみれの店内である。貸切だなとはしゃぐ阿呆を冷目に、適当な席に着けば……着いても、店員がいなかった)

男「おい、ここ出ないか? 変だぞ。俺たち以外誰もいない気がする」

男「あれ……名無し? おい、何処に行った? おいっ!?」

神「ほう、またツユダクを頼むようなニワカ客がいらしたようですね^^」

男「神だと!?」

ここまでじゃ

神「久方ぶりとあなたには挨拶すべきでしょうね。私には瞬きの一瞬に等しい再会ですよ、人の子」

男(神、神以外の他でも無い。この人を見透かしたような態度に笑顔、奴である、奴 降臨)

男(カウンターの丸椅子に腰かけ、お冷を二人分用意しながら微笑んでいた。おまけに紅ショウガを小皿に盛って手招いている。大変、シュールだ)

神「お腹が空いているのでしょう。さぁ、隣に掛けなさい」

男「……名無し。アイツは、何処だ? 一緒に中へ入った気が」

神「ここは神の領域ですよ。彼は案内役、あなたをここへ導いてくれました。残念ながら彼に参加権はありません」

神「察しが良いつもりのあなたなら、外を振り向けば理解してくれる事でしょう……」

男「名無し……」

男(彼は、入口の前で微動だもせず止まっていた。パントマイムか、時でも止められたか、後者が近いかもしれない。どうにも入店を拒絶されている、謎の力で)

男「帰ります! 入る店間違えました、ラーメン食いてぇ!」

神「……」

男「あ、ありゃあ? 嫌だなぁ、出入り口と見せかけて壁か何かですかコレ? 全っ然ビクリともしないんですけど……ッ!!」

神「良いではありませんか。開かないのなら^^」

男(冗談ではないのだよ、冗談では)

神「捕って食うつもりはありません。それとも、この神と同じ空間に居られるのがおこがましい? 人の子よ」

男「いつから……24時間営業の牛丼屋が神の領域になったんですか」

神「積もる話もあるでしょう。隣に掛けなさい」

男(圧が重い。素直に言う通りにして、お冷を煽ってみた。満面の笑みで観察される気味悪さは相も変わらずよ)

神「私がこうしてあなたへ直接会いに来た。だから何だというのです? 深く考えずとも良いのです」

男「……神サマは牛肉をお口にされてもよろしいものなのでしょうか」

男(いつぞやに用意されたジュースの様に、神が息を吐いたと思えば、俺の前にあつあつと湯気が立った牛丼が登場。尋問にカツ丼、否、牛丼。汁が満ちている)

神「お食べなさい。人でいう奢りというものです、驕り高き人^^」

男「あーっ、あ……上手いですね、流石は神だ……」

神「とっておきの神様ジョークですよ。ほら、心して味わうのです。終末の晩餐を有り難がるように」

男「女々しい質問を許して欲しい。怒ってるんでしょ?」

神「なんと。素敵な笑顔を浮かべていますよ^^」

男(生きた心地がしなくなってきた。ドンブリへ箸を付けた瞬間に吐く自信がある)

神「……最近調子は如何なものです?」

男「ち、父親じゃあるまいし……」

男「最近、というか、つい昨日からだが……劇的に何かは変わっている気がする」

男「あなたもご存じなんだろ。ていうか、仕組んだのはあなたじゃないか、神」

神「何がです?」

男「恍ける意味が分からない。そこで今固まってる自称親友の奴! あなたが用意した刺客じゃないのか」

神「刺客……んふ、刺客ですか。うふふふふ」

男「止めてくれないか!! 勿体ぶって答えないなんて、そんな事は勿論しないんだろ! 急に現れた手前だ!」

神「聞きなさい、刺客という程 アレが無粋な存在だと真に思っているのですか?」

神「彼は皆と同じ様にあなたを慕い、手助けをしようとしてくれている。ならば、心強い隣人ではありませんか」

男(今のところは全て裏目に出ているのだが)

神「今日はですね、疑問解消の意味も込めて会いに来たようなものです。少しばかり私の予想外に事が進みそうな恐れがあったので」

男「予想外? いつも斜め上に行かれようと、平然としていた気がするぞ」

神「そうでしたか^^」

男「ぐっ、ん、ぎ、っ……み、認めよう、俺は常にあなたの掌の上だ。出し抜ける自信もない。感謝も尽きないが、苦手なままだ!」

男「俺の考えも筒抜け、行動も先読みされてしまう! しまいにはさっさと幸福に至れるようハーレム妨害の厄介を続けざまにアレやコレやと!」

神「勘違いしないでくれませんか。最初から私は“異常”以外に関してはこの世界にはノータッチですよ」

男「……ん?」

男「ゴッドジョークは収まりを知らないのか……冗談も休み休みにし」

神「私がいつあなたの妨害を働きましたか?」

神「確かにあなたの目標達成までの期間が長ったらしく、もどかしく思いました。ですが大切なお客人です」

神「そして、私はあなただけの神ではありません。世界では一分一秒どれほど死人が出ているのかお分かりでしょう?」

男「俺だけを特別視している暇は無いって言うのかよ……」

男「妨害なら、後輩の難聴の件について問い質したい!! いいかっ、アイツがどんなに辛い思いをしてるか!」

神「辛い思い、結構。アレは私があの子へ下した罰なのです。それ以上以下もなく」

神「使いの身として、少しばかりあなたに肩入れしすぎた……ハーレムとやらには直接関係ある問題ではない筈でしょう?」

神「で、私が直接あなたへ何をしたというのですか? お答えなさい」

男「ほ、方便だ……間接的に俺をどうにかしようと……」

神「おやおや、自意識過剰ではありませんか。繰り返しますが、私はあなたばかりに構っている暇はありませんよ」

神「あなたが私を唯一神と崇めようと、無理な話なのです」

男「……な、何だよ」

神「そもそも私が使いを遣わせているのは何故です? 私が逐一見張っているのであれば、必要ないのでは?」

神「はい、論破^^」  男(邪神を崇める術を学びたいな)

神「あなたは深く考え、疑うばかりに自分自身に捉われているのですよ。お気づきにならない?」

男「気づくどうこうじゃ……あなたからは相当面倒見てもらっていると自負しているからな」

男(“特別視”されていると妄想していた。否定は出来ない。何度とも神とは対等にやり合えていると思っていて、俺自身この世界の主人公として自惚れていたであろう)

男(だが、口に出してから、目の前のソレに対する認識を改めた。大量の死人を相手する神にとって、俺はチッポケな存在ではと)

神「所詮、あなたとてその他大勢です」

神「私としてもノルマは達成したく思いますが、あなたがどう転ぼうと、それは運命と受け入れましょう」

男「……身近な存在だと勘違いしてたのは俺だけだったってことか? 虚しい対抗意識だな」

神「ええ、神ですから^^」

男(返しようもないではないか。見下ろされてるは愚か、始めからその辺をうろつくアリ一匹レベルで相手されていたというのだ)

男(神との対決、その様な幻想は叶いもしていなかった。一人相撲か、顔が熱くなるぞ)

神「私はね、人間。単なる傍観者に過ぎません……時々は物を投げますけどねぇ^^」

男「それであんたは結局俺に何を言いに来たんだ?」

神「こちらの世界の神が、暴走気味なのです」

男「……はぁ?」

神「はぁ? は無いでしょうに。はぁ? なんて気の抜けた返事は」

男(気が抜けるというよりも、純粋な疑問である。理解の追い付かなさに呆気に取られるしかなかったというべきか)

男「これ以上混乱させる様な説明とか、設定とか要らないぞ……要らないぞ!?」

神「混乱も何も、あなたは“ソレ”とは長い付き合いではありませんか。何度あなたの意思を汲んでやり直しを行っているかどうか」

神「それだけではありませんよね? 理想の女性を用意されてみたり、偶然という名の必然でスケベさせられてみたり……あの子、天使の手助けも不必要な程に」

男「ち……ちょっと、待て。何だそれは」

神「何って、“神”ですよ。どの様な世界であろうと人や時間を管理する者はかならず必要です。それが神なのです」

神「この世界の神は、あなたの為に存在すると言っても良いでしょう。なにせ私がその様に作り出したのですから^^」

男「だから待てって言ってるだろうが!!?」

神「……おや、神が信じられないとでも? 私を目の前にしても?」

男「違うッ!! 意味の分からなさに頭がパニクってるだけだ!!」

神「意味が分からない、と……神が神を作るなど不思議ではないでしょう。あなただけの為の、あなたの幸福を得るべくして生まれた神です」

神「それがこの世界。意味、まだ分かりかねますか?」

男「い…………意思があるのか? この世界が?」

神「意思どころか、面白い事になっていますけれども」

男(そう言って、神が憂鬱そうに視線を向けた先には、時の止まった名無しが立っていた)

男「予想外……っていうのは、暴走されているって事なのか?」

神「あなたの責任です」  男「えっ?」

神「散々言った筈でしょうに、ハーレムなど諦めて己の幸福に早く気づくべきであると。こうなった以上私にも止められません。私が下した命を達成するまで“神”は歩みを止めぬのです」

神「覚悟なさい、あなたはどうしようもなくこの世界に好かれてしまった。手段を選ばずあなたを幸福へ落としに掛かりましょう」

男「ハーレムで?」

神「んー、その余裕がどこまで続くのやら……まぁ、私としてはこのまま昇天してくれて結構ですが」

神「強制された幸福に酔いしれたまま、消えるというのは若干私の理に反します」

男(今までもだいぶ強制染みていた気がしなくも、いや、無粋だ。ノーコメント)

神「……さてと、前座も十分でしょうか。しっかりそこで聞いていましたね、天使よ」

男「天使っ!? (見計られていた、何故だ、カウンターの裏からしゃがみ込んでいたであろう彼女が姿を見せたのである。何とも申し訳なさそうな表情をして、そこへ神が)」

神「――――真実を伝えましょう。お前がずっと待ち望んでいた真実を」

男「や、やめろっ…… (直感が、告げた。止めろと)」

神「彼こそがお前の親。父なのです^^」

男「やめろおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーー!!!」

天使「……え?」

ここまで

天使「男くんが……自分の……っ?」

男「ち、違うッ!! 違うぞ、天使ちゃん! 奴の言う事なんて真に受けるんじゃない!」

男「神、これは一体何のつもりだ!? 何故彼女がここに!! どうして、どうしてだ!?」

神「哀れ、家を飛び出して行ったあなたを追って来たまでです。あれだけ騒げば安眠も妨げられるでしょうに」

男「何だと……!」

天使「だ、だって誰も男くんを追い掛けようとしてなかったから、自分が行かなきゃって」

天使「そしたら、走ってる内にこのお店の前に立っていて……足が勝手に……」

神「私がその子を隠していたのですよ。待ち望んだ真実を知りたくば、今しばらく残りなさいと」

男「余計なっ……て、天使ちゃん、こんな所に長居しなくて良い。俺と帰ろう!」

天使「[ピッ]、[ピーーーーーーー]」

男「は? 何だっ?」

神「……^^」

天使「あ、主が自分にウソを吐くなんてありえねーです……男くんはウソ吐きだけど、で、でも」

天使「自分はどっちの言う事を信じればいいんですか!?」

男(差し伸ばした手を取るでもなく、天使ちゃんはこの俺と憎き神両者へ 困惑の色を見せ続けたのである)

男「……お、俺がお前の親父な筈ないだろう? 大体 歳を考えろ、歳を! 俺はまだ高校生だぞ?」

男「出鱈目を言ってるのはどっちなのか分かるよな。あり得ないんだ、騙されるなってば……俺の娘なら、もっとブサイクだぜ……!」

神「見苦しい真似などお止しなさい。騙しだまし続けようが、いずれ分かってしまうでしょう?」

神「天使、お前は特別な子です。お前が彼の目付け役に立てられたのも決して偶然ではありません。この出会いはある意味必然でしょう」

神「まぁ、こうなる事まで予測していたワケではありませんけれども……」

天使「自分なんて特別じゃないです!! 変な子で十分ですっ、だからこれ以上困らせないでくださいよぉっ!!」

神「その男に感謝なさい。形はどうあれ 彼がお前を救ってくれたのです。生ける者として機会を与えてくれた」

天使「わ、わかんないよぉ……自分バカだから、意味わかんないよぅ……!」

神「さぁ、ここで正式に言い渡しましょう」

神「遣いの子、またの名を、天使。本日を持ってこの神との契約を解除させてもらいましょう」

天使「!!」

神「お前は、この神の手から離れるのです。縛られる事などもうありません。自由にお生きなさい」

男「離れるって……あんた、その意味はまさか」

神「無事に彼女のモデルが現世へ誕生したようです。死を司る神が言うのも気恥ずかしいものですが」

神「おめでとうございます。これ、あなた方二人への言葉ですよ^^」

男「I am your father」

天使「NOOOOOOOOO!!」

男(委員長が、出産しただと? そんな阿呆な……外ではどれ程の時間が経過したというのだ? 出産?)

男(何故生んだ委員長よ、お、俺の子だぞ。他でもない根暗ブ男の物で、君は、取り返しのつかない事を!!)

男「ああぁぁぁ……なんてこったよ……ク、ハハハ……」ガクッ

神「彼女は強い意志を持ってその子を産みましたよ、安心なさい。絶望など抱えた所で無意味です」

男「安心しろなんて、それこそ無理な話だ……俺は、俺自身の手で彼女を不幸せに追いやったぞ……」

男「学生出産なんてしたら、学校にもいられなくなっちまう! 世間も冷たい目で見るに決まってるだろ!」

神「落ち着きなさい、言った筈ですよ。強い意志を持って産んだと」

神「彼女が私の世話になる日はまだ、恐らく遠い事でしょう……大切な我が子と共に生きる選択をしたのだから^^」

神「ほら、あなたの目的は綺麗に達成されてしまった。まだ卑下するというのですか、人の子」

男(妹に、父さんや母さんに合わせる顔がない。委員長にも、天使ちゃんにも。俺が戦犯だ、誰か笑ってくれ)

天使「……自分だけ、除け者にしないでくださいよ」

神「そうでしたね。天使、あなたは役目を捨てて最後の時まで彼の傍にいてあげなさい」

神「あなたは、もはやこちらの世界にのみ存在する人間。彼が幸福を全うした時、同時にあなたも消滅しましょう」

天使「な、何ですかそれっ!?」

神「悲観することはありません。オリジナルのあなたは、彼の本当の世界で生き続けるのですから」

天使「お、オリジナルだとかよくわかんねーですけど、自分は自分ですっ!! 自分以外の自分でしかねーです!!」

天使「本当の世界の自分がどうなろうが、知ったこっちゃないですよ!! し、消滅って……」

男「……」

神「あなた、すぐに頭で考えてしまいましたねぇ。彼女を生き長らえさせるには終わりを引き延ばすしかない、と」

男「……だ、だったら?」

神「終わりはかならずやって来るものです。そう念押しもいつか私がしていたでしょう? 無意味です^^」

神「そして、あそこで佇んでいる機械仕掛けの神。その半神が黙ってはいないのです」

名無し「             」

男(説明しよう。『機械仕掛けの神』、更に恰好の良い呼び名 デウス・エクス・マキナとは、簡単に纏めればご都合主義の化身であり、厨二病患者が鼻息を荒くさせるネーミングである)

男(舞台装置にて、どんな悲劇をも無理矢理 感動に導き、幕引きを降ろさせるという、いわば夢オチにも似た“救済”だ)

神「都合の良い世界には、似合いすぎているほど適した管理者ですね。そう思うでしょう?」

男「アイツが、名無しが、意地でも俺を終わらせに来るっていうのか」

神「彼だけではありません。この世界に存在する全ては、アレがあなたを落とす為に作り出した物なのですよ」

神「ですので、あなたが何度も私へ追加キャラをと強請っていましたが……私自身は何もしていません。あなたの意思を汲んでアレが勝手にやった事なのです」

神「ね、どこまでも都合が効く“理想”ではありませんか?」

神「終わりは近付いていますよ。ですが、私はあなたが納得してくれる終わりを望んでいましょう」

神「複雑な現状を覆す、幕引きを……^^」

天使「待ってくださいよ! 男くんに全て委ねるとか無いですっ、ありえねーです!!」

天使「自分は! 自分はこれからどうしたら良いっていうんですか、主ぃ!?」

男「もう行ったよ……後は俺たちがそれぞれ頭働かせろってさ、丸投げだぜ」

天使「お、男くん……[ピーーーーーーーーーーーーーーー]」

男(感情に敏感に呼応して発動する難聴スキルである、彼女の心境を正に現わしているではないか)

男「天使ちゃん」

天使「!」ビクッ

男「ここでの話は俺たちだけの秘密にしておこう。他には絶対に漏らさない。約束できるか?」

天使「話したって、どーせ誰も信じねーですよ……」

天使「自分だって信じたくないです……無かったことにしておきたいんです……」

男(先程までの神との会話は、俺が彼女にとっての父親であることを認めてしまったようなものだろう。納得よりも、上手く飲み込めずにいるのだ)

男(そして俺は天使ちゃんとの日々が走馬灯の如く脳内で駆け巡っていた。出会い、遊園地、些細な日常、口喧嘩、合宿、死ぬ手前かよ俺は)

天使「[ピーーーーー]……ぐすっ」

名無し「あれぇ? 天使ちゃんじゃん。いつ合流してたんだよ? オレ気づいてなかっただけ?」

天使「何ですかこのイケメンもどきは……」

名無し「やー、初対面だったっけ。オレが一方的に知り過ぎてただけなんだよな。すまんすまん! オレは――――」

男「さっさと帰るぞ。早朝の散歩も程々にしておかないと学校が辛いんだから」

名無し「はぁー……どうして現実見させようとしちゃうもんかねぇ。あーあ、授業ないけど午前が今からダルいの何の」

男(帰り道はスンナリとしていたものであった。右も左も分からなかった街並みを、まるで見知った場所のように徒歩で通り抜けていたのである)

男(その間 天使ちゃんの様子を気にして俺は、名無しの世間話を上の空に、薄すらと観察していた)

天使「……」

男(暗黒面に落ちても不思議ではないかもしれない)

名無し「ん、そろそろ分かれ道だな。天使ちゃんとはお別れでも、男とはあと数時間で再会だなぁ! 嬉しいねぇ~♪」

天使「……男くん、自分コイツ好きになれそうにないです」

男(そう小声で口走り、俺の袖をギュッと天使ちゃんは掴んでいた。俺としては事情を知ってから彼を嫌える気にはなれないワケだが)

男(名無しの登場は別として、コイツはこれまで俺を幾度となく楽しませてくれた。成長させてくれた。例え機械仕掛けだったとしても)

男「天使ちゃん、今日は久しぶりに一緒に過ごしてみるか」

天使「ふぇ?」

ここまでよ

乙乙よ

男「っしゃあ、天使ちゃん遊ぶぞぉ~!! 今日はどんなワガママも許可する、食いたい物があったら遠慮なく強請るのだッ!!」

天使「無駄にテンション高い男くんが恐怖でしかねーですな……」

天使「ていうか、また遊園地に連れて行ってやるって言われてたんですけども?」

男(デパートの屋内遊園地である、ウソにはなるまい。いつかの大規模な箱庭を想定していたか、じゃんけんマシーンを眺めて彼女は溜息を洩らしていた)

男「遊ぶ前から安く踏んでくれるな。庶民には庶民なりの楽しみがある、ここはそんな物が詰まったおもちゃ箱だよ」

天使「ほーん……ちっちゃいお友達ばっかりしか見当たらねーですけど」

男「当たり前だろ。平日の昼間だぞ? それに子供向けの遊戯場だし」

天使「かぁあー!! まーた自分をガキんちょ扱いしてっ、クソ野郎!!」

男「おっ、随分懐かしい物が置いてるじゃねーか どれどれ」

天使「無視かっ!! ……男くん、こんな事してて良いんですか。おウチに帰らないんですか?」

天使「どうして学校に行かないんですか。幼馴染ちゃんたちも心配しますよ!」

男「知らねぇ。今は天使ちゃんとだけの時間だから、それより何だコイツ! 幼い子供から百円搾り取るだけのゲームかねぇ!?」

天使「男くんってば! [ピーー]、[ピーー]の為に[ピーーーーーーー]……[ピーーー]なんですよ」

男「天使ちゃんもやってみようぜ! 大丈夫、補導の心配なら要らないって」

天使「ふん、自分はやらないですっ!」

天使「大体、そのお金どうしたんです……財布もケータイデンーワも置いて来ちゃったんでしょう?」

男「そこは名無しから借りたんだ。後でもちろん返すぞ」

男(正しくは、コッソリ、借りてしまった。ケツのポケットに財布を突っ込む、それは俺にギッてくれと言わんばかり。罪悪感が無かったわけではないが)

男(さて置き、お陰で公衆電話から妹へ連絡を入れてやる事ができた。学校は休む、天使ちゃんも一緒だから安心しろ、と)

男「まぁ、一方的に喋って切ったし、安心しろは難しいのかもしれんが……それより食いたい物とかないのかー?」

天使「無いです。帰る」

男「あっ、ソフトクリームは? 何だったらお前がまだ味わったことない美味い飯もご馳走するぞ?」

天使「い・ら・な・いっ!!」

男「じゃあこうしよう! 俺が楽しそうだと思った所に連れて行くよ、きっと天使ちゃんも間違いないぜ~?」

男(虫唾が走る。これでは娘に相手にされていない中年親父と変わりないだろう)

天使「男くん何か変ですよ!? こんなのいつもの変態じゃないです、気持ち悪ぃ!」

男「気持ち悪いのは自覚済みだ、言われたって効果ゼロだぞ」

天使「そうっ、そんな感じが男くん!」

天使「……自分、もう気にしてないですよ。男くんが自分のオヤジだとか」

天使「だから、そっちから気に掛けられたままの方が嫌なんです! やめろぉ!」

男「ふむ……」

天使「わかったら早く学校に行きゃいいんですよ! 自分に構ってる暇があるなら、ハーレムでしょうに!」

天使「大体、男くんがさっさと夢叶えて満足してくれなきゃ、いつになっても」

男「腹減ったよな、天使ちゃんっ!!」ガシッ

天使「え、えぇっ?」

男(シリアスの悪寒を感じたのだ。強引に天使ちゃんの手を取り、俺たちはその場を後にした)

男(気にしていないだなんて冗談ではない。どう見たって彼女は、この俺以上に関係を意識し過ぎている)

男(悪いがロリ美少女よ。俺は始めから娘として接するつもりなど毛頭ない。お前が知っての通り、俺は)

男(全ての美少女をはべらかす史上最強のハーレム主人公として君臨する、その予定、だ)

男(例え何があろうと、手段は選ばず、妥協もせず、有無も言わさず、難聴解除させて頂く)

天使「どこにまだ連れ回そうってんですかっ、コレは誘拐なのです! 幼女拉致監禁です!」

男「監禁にまでは至ってないだろっ……いいか」

男「俺は天使ちゃんと純粋なデートを楽しみたい。嫌なら、手を離せば良い。どうする?」

天使「い、[ピーーーーー]……で、でもっ!///」

男(染めたな。まだチャンスは残っているらしい)

天使「デートって街中うろうろするだけのモンなんですかぁ? 退屈すぎ」

男「俺が知ってる男女のデートはウィンドウショッピングに始まり、唐突に終わる (単純に行くべき場所が思いつかないだけ)」

男「しかし、この時間帯の外をブラつくのも新鮮だな。今頃アイツら文化祭準備に追われてるんだろうか」

天使「それは心配ですかね?」

男「いや、愉快だ。周りが忙しさに追われている中、堂々とロリ美少女を満喫できている」

天使「いつからそんな煩悩だだ漏れになっちゃたんですかねぇ……」

男(初めの頃と見比べれば当然の感想である。自称三枚目キャラを徹底してみた末か)

男(名無しが初期から居てくれたら、昨今の完全なる受け身主人公を演じていたのかもしれないと思う。つまり、俺はバカをやらかす友人キャラの役も兼ねていたワケだ)

天使「そういや、どうして急にあんな時間に家飛び出たんですか?」

男「ああ、神から呼び出されたんだ。急ぎだと言われてつい」

天使「……あのヘンテコ女がおウチにいたのは、偶然ってわけですかー」

男「そういう事になるんだろうな。俺の中では」

天使「やれやれ、男くんにはマジで呆れたもんです。その内修羅場って血が飛び交っても知らねーですよ?」

男「その修羅場には天使ちゃんも参戦する予定あるかね?」

天使「はぁ!? どっ……どういう意味か分かりかねます!///」

男「ここだよ、ここ。幼馴染の飯に舌鼓打つのも良いが、たまにはジャンクな気分に浸りたくもなってね」

天使「ラーメン食べまくってるくせにジャンクが恋しくなるって?」

男「毒されちまってるんだろうな、お手軽感に」

男(天使ちゃんを連れて入ったのは、ファストフード店。ありふれた場所でも、俺にとっては最近では印象深い所である)

男「ハンバーガー、食べるだろ? しなしなのフライドポテトに中々吸い出せないシェイクも置いてあるんだぞ」

天使「じゃ、じゃあポテトとイチゴシェイクと、あとナゲットも!!」

男「凄いな、見事に母親と同じチョイスじゃないか」

天使「へー? 男くんは昔お母さんとこのお店に来たことがあるんですか」

男「違うちがう。お前の母親だよ。二回ぐらいしか一緒に入った事はないが、アイツかならずハンバーガー無くて、ナゲット追加してくるんだ」

天使「あ、じゃあナゲット要らねーです。ナゲット抜きで、ハンバーガーイン!」

男「店員さん、それでお願いします」

男(それにしても、俺はおろか委員長の面影すら彼女には残っていない。美少女化している為であるのは理解の上でだが)

男(しいて言えば、口調、なのだろうか。ボロボロの敬語は俺という毒が混ざって完成されてしまったというか)

天使「結構美味いジャンクじゃねーですか……はぁぁ、自分もジャンクジャンキーに落ちてしまうかもしれないっ……」ガツガツ

男「長ったらしいからジャンジャンって名付けていいか」

天使「ていうかですよ! 親の話は止めって約束したじゃねーですか、お断りですっ」

男「少しでも知りたいって思わないのか?」

男「ようやくお前の出生の謎が解けたんだぞ。なのに、ハイそうですかで済ますのはカタルシスが無いと思うが」

天使「カルシウムがどうだろうと、自分が良いなら良いんです! どうせ[ピーーーーー]」

男(その一言を放った彼女には諦めの色が見える。自暴自棄というべきか、先程溢したように俺の夢達成による終末を早期に望んでいるような)

天使「自分は自分ですし。本物とは何の因果も関係もあるなんて思ってねーんですよ」

天使「だから、別に男くんがオヤジでも関係ないです。興味もねーです。くだらないんです!」

男(現実と剥離して考えていたいようだ。美少女である天使ちゃんは、あくまでこの世界の住人であって、個人なのだと)

男「そうか。他人事で済ますなら、お前が言うならそうなのかもしれない」

天使「うむ! つーか、本物が今更出てきて何ですかっ、じゃあ生まれる前からずっと存在してた自分はいきなり偽物扱いと?」

天使「かあ~っ、やってられねーですよぉ!!」

男「自棄食いなら程々で頼む、そろそろ名無しの財布も悲鳴を上げて――」

天使「ばっかばかしい!! アホ臭っ!! 神とか死ねばいいのに!!」

天使「死んじゃえぇ……しんじゃえ ちくしょー……っ」ポロポロ

男(どうしよう。割り切って俺とイチャラブだとは言い出せる空気では、なんて、そこまでふざけ通せん)

男「あ~、ほ、ほらっ、ハンカチ! ……えっと、俺が父親だと思うなとは言わないよ、天使ちゃん。これからは君の自由だろう」

男「しがらみに縛られるのを嫌うなら、これまで通りやっていけば良いと思う。そこに俺が付け入る隙なんて無いしな」

男(虎視眈眈とロックオンしている手前ではあるけれども)

天使「これまで通り……んぐ、チーンッ!!」ブーッ

男「おい、俺のハンカチで鼻をかむなぁぁぁ!?」

天使「他ならぬ男くんが愛する美少女のスーパー鼻水でしょうに」

男「アホかっ、美少女でも恥を知れ、恥を! こんなにベタベタにしやがって!」ネトォ

天使「ぷふっ、ぷぷぷぷっ……こんな感じで遠慮しなけりゃ[ピーー]もの[ピーー]でしょう?///」

男「……まぁ、上出来、じゃないのかね」

天使「遠慮なしについでに男くんこの野郎! どうせなら立派に自分を[ピーーーー]しやがれですっ!」

男「え? 何だって」

天使「ほ、ほらぁ! どうせサボったところで無駄な奴が無駄な時間過ごすだけです! なら、自分をもっと[ピーーー]~!」

男(機嫌を直した天使ちゃんならば、調子良くここで何と俺へ言うだろうか。恐らくデートの続きをご所望しているのかもしれない)

男(ならば俺は「着いて来い!」と威勢良く声を張り、彼女をエスコートするのだ。次はどちらへ? そんな事は決まり切っているぞ)

天使「ここ、おウチなんですけど」  男「ああ!」

男「一日中遊び回るにしたってお金は必要だろ。これ以上名無しの金を酷使したら申し訳もつかないし」

天使「借りてたんですよね? 実は盗んで手に入れてたとかじゃねーですよねっ?」

男「……どちらかと言えば後者が近くて借りたが正しい、かも」

天使「ついに泥棒にまで手を出しやがったんですか!? 屑、人間のクズの塊!!」

男「あ、あとでそっくりそのまま使った分戻す!! だからこそ、家に一旦戻って来たんじゃないか! なっ!」

天使「軽蔑ですよ、男くん……いくら自分に都合良いったってやって良い事と悪い事の区別ぐらいは」

男「そうだな。だが、その汚れた金でタダ飯を食らったお前も同犯とは思わないか?」

天使「ド屑ぅ!!」  男「美味かったよな、照り焼きチキンバーガーは!!」

男「でもまぁ、冗談は置いておくとして名無しには謝るさ。えっと、合いカギは……あっ」

男(……何故。我が家の秘密である植木鉢の下の鍵が見当たらない。待てよ、幼馴染はあの後ここへ鍵を戻していなかった線が疑われる)

天使「どうしましたか、屑」

男「やめてくれ、その手の直球系は流石に堪える」

男「庭の梯子も……無くなってやがる。まさかアイツらが撤去したっていうのか? 早すぎるだろうがっ」

天使「じゃあみんなが帰って来るまで家の中に入れないってことですかねー」

男(それでは困るのだ、俺の即席で作り上げた計画が立たなくなってしまう)

男「そうだ、風呂場からなら忍び込めるかもしれん……」

天使「どう考えても男くんが通り抜けられるサイズの窓でもねーですし、鍵かけてるでしょフツー」

男「だろうなっ!! とりあえず、こういう時に限って不思議なことが起こってくれないかね」

天使「何をそんなに焦ってるんですか、ゴミの男くんは?」

男「……しばらく天使ちゃん巻き込んで家出しようと思ってたとは口に出せないだろ」

天使「なんとぉ!?」

天使「ゴミのくせにマジの誘拐犯になりたがってるんですか!?」

男「バカを言うな、少し実験を兼ねた家出だ。どうせ唐突にアイツらの前から逃げ出した身なんだから」

男(そう遠くへ離れようと思っていたわけではないが、もし彼女、否、彼女らが偶然を装って俺たちを発見することが出来たら、と)

男(その為にわざわざ妹へ一報入れてやったのだ、天使ちゃんも傍にいると)

天使「え~っと、何が何だかはてさて何やらもう自分には……」

男「気にしないでくれ。俺が勝手にやっていることだ、仕組みを測る為の」

男(機械仕掛けの神とやらが生み出したシステムを把握する為の、である)

男(が、ここで足を止めていれば、誰かが、何故か、やって来てしまう可能性がある。すぐに離れなくては)

男「……一緒に逃げてくれないか、天使ちゃん」

男(あれほど舞台の木役に思えていた全てのモブたちが、一人一人それぞれ監視カメラに見えてきた)

男(俺の推測が正しければ、彼らの目は特定の何名かへリアルタイムの映像を映させているのだ。俺という監視対象限定で)

男(されど、所詮はモブ。赤の他人である。誰もがガン見という行為はしてこない。通行中に偶然俺が視界へ入ってしまった、その情報が伝わる仕組みではないだろうか)

男「堂々と歩く分には警戒の必要はないのかもしれん……正確じゃないが……」

天使「モブの目を通して監視されてるって、そんな被害妄想みたいな」

男「事実だとすれば気に食わんのは俺だけかね? どこまでも俺の為に都合良く特化されるのは構わないけどな、逐一見張られてちゃ面白くない」

男「俺は実験モルモットか? そのつもりじゃない、だから証拠を突き付けて一言ケチつけてやりたいのさ」

天使「ケチー?」

男「俺を見るな、余計な干渉が必要なほど甘えた愚か者じゃない、って」

天使「それが言えたら満足なんですか? 名無しってヤツに?」

男「名無しじゃない。その裏に控えてるお節介にだ……それに、名無しが見つけに来るなんて期待してないしな」

男(思惑に沿って展開がなされるのであれば、念願のイベントのお相手はただ一人、“彼女”である)

男「……アイツがひょこっと顔出した時にゃ大笑いしてやる。お前、俺に何か大事なこと隠してるんだろう? って」

天使「あー、うー……で、何処目指して歩かされてるんですかねぇ」

男「そうだな。ちょっくら普段人が絶対に立ち寄ろうとしない場所まで」

天使「……自分、この場所にあんまし良い思い出ねーです」

男「俺もどちらかと言えば、悪い印象しか残ってないかもしれん。でも、人は寄せないだろ?」

天使「寄るワケねーでしょうが! こんな、寂れた如何にもな建物になんか物好きしか入りませんよ!!」

男(そんな物好きに巻き込まれて向かったのが始まりだったのだろうか。嫌悪感以上に、俺ならば親しみを得てしまう場所となっていた)

男(“廃病院”、所持金も尽きかけた逃亡者には相応しい終点ではある)

男「ここ、現実の俺が現在進行で入院してるところらしい」

天使「あー、その設定忘れてたけどありましたよねぇ! ……てか、何で男くんがそれを?」

男「何でもなにも、お前の元親分からネタバレ食らったんだよ。訊いたのは俺だけども」

天使「そ、そうだったんですか……男くん、それでパニクったりしなかったですか? 平気なんですか」

男「俺にとってはもう向こうが虚構で、こっちが現実みたいになってたからノーダメに等しいわ」

天使「本当に?」

男「一々疑問に思うか? 俺ほど満喫している奴もそういないとは思ってるんだが」

天使「だって、今の男くんちょっぴり寂しそうに見えたっつーか、変に見えたっていうか……自分の気のせいですかね?」

男「何か言ったか? 先に中に入るぞー」

天使「ちょ、待ってくださいよ! 外で待ってりゃ良いじゃないですかっ、外でー!!」

ここまで。次回金曜日

天使「思ったんですけど、この自演迷子探しってほんとに男くんが期待してる誰かが来てくれるんですかね?」

男「分からないな、確実とは言い難い」

天使「ケーサツに捜索任せておしまいってオチだと最悪ですねぇ、ぷぷぷ!」

男「その心配だけは無いだろう。揃いもそろって、人任せにするような薄情な美少女がまず誰もいない」

男「念の為に俺たちは無事だと妹には伝えておいたしな」

天使「はて? それじゃあボスが誰にも言わずに探しに来ちゃうんじゃ……」

男「フフン、舐めてるな 天使ちゃんよ。アイツは一人で抱え込む前に幼馴染か後輩に縋るのだ」

男「それに今日俺が学校にいなかった事を心配に思う奴らも多かろう? なら、俺と一番距離の近い妹か幼馴染へ必然的に話を聞きに行くと想像がつく」

天使「妹ちゃんはともかく、幼馴染ちゃんは『心配しなくてもいい』って抑え込みそうですけども?」

男「その通り! わかってきたな、美少女観察が! ……まぁ、家に押し掛ける奴らもいるだろう」

男「そこで俺が留守と分かれば、ただ事ではないと察知してくれる。凄まじいなっ、俺一人でひと波乱だ」

天使「クソ自惚れナルシスト……」

男(ソイツは不名誉のジェットストリームアタックだ)

男「自惚れるぐらいが、ここで立ち回るには丁度良いんだ。経験則でもある……ところで天使ちゃん」

天使「ほいほい?」

男「お前は時々、目の前に俺がいないのに、俺が見えていたことがあったりはしなかったか?」

天使「……常識欠けてるんじゃねーですかぁ?」

男(滅茶苦茶バカにされた態度を取られたのはスルーしておこう。サイドテールを回して、くるくるパーと追い打ち掛けていたとしてもだ)

男「可能性を疑っておきたかっただけだ。心当たりないなら気にしないでくれ」

天使「心当たりねぇー……はっ!」

男「あるのか!? ど、どうなんだっ、ハッキリしろ!」

男(もし力を失った天使ちゃんでさえも千里眼を与えられていたとすれば、全ての美少女が能力持ちの線が濃くなってくるぞ。緊張を高め、俺は彼女の言葉を待った。そして)

天使「べ、別に何でもねーですよ!! 一時期寝る前に布団の中で男くんの[ピーーーーーーーーーーーーー]なんてっ、そんなことなかったです!///」

男「寝る前の、布団の中……あっ」

天使「何か文句あるっつーんですかぁ!?///」

男「可愛い。天使ちゃんかわいい、かわいい」

天使「キモすぎですっ、ニヤニヤしやがって! おえぇっ!」

男(ロリ美少女の眠れぬ夜を想えば誰もがニッコリするしかないだろう。その相手が俺だと来たものだ、空で舞える)

男「とにかくっ、何もなかったならそれで良いんだ! (正直良くはなかったが、そうだ、今なら言える。心から)」

男(美少女ハーレム作ろうと奮闘していたら、バックトゥザフューチャーして、異能力者攻略していた件)

天使「はぁぁ~あ……薄暗いし埃っぽいし、どうして自分までこんな所に付き合わなくちゃいけねーんですか……帰りたい」

男「俺が傍に付いてるじゃないか?」

天使「付いてて何になるんですかっ! 付き合わされたって言ったでしょうに!!」

男(確かに彼女は成り行きで巻き込んでしまった。心細さやら退屈凌ぎ要員という名目で)

男「すまんすまん。だけど、不思議と天使ちゃんがいると不安が和らぐっていうか、なんて」

男「ほら、後輩の正体がわかる前に一緒に屋上まで付いて来てくれたことがあっただろ? あの時も救われてたと思うな」

男(結局天使ちゃん自体はその後すぐ蚊帳の外ではあったけれども)

天使「そ、そこまで頼られてたら……[ピーー]気はしねー、ですかね……///」

男「そうだとも! 俺にとって天使ちゃんは最高の相棒だ、頼りになるな! カッコかわいい!」

天使「褒められたって胸糞悪くなるだけですよぅ! っでへへぇ~///」

男「ガムあげるから機嫌直してくれな、天使ちゃん!」

天使「こ、これはスースーしないタイプじゃないですか!! やったぁー!!」

男(将来この子が安い女にならないよう切実に願った瞬間であった。チョロかわ)

男「とりあえず日が暮れたら一旦明るい場所に移動するから、それまでは――――」

男(その時、階段を上る、一人分の足音が静寂の院内に響いた)

天使「もがっ!?」

男(ご機嫌で大量のガムを頬張る天使ちゃんの口を抑え、身を隠す。最近このパターン続きではないだろうか)

天使「い、いきなりどうしたってんですか! ビックリして飲み込んじゃうところだったですよっ!」

男「……誰か来てる」

天使「えっ?」

男(恐る恐る二人で物陰から顔を覗かせ、耳を澄ませてみる。やはり勘違いなどではない。一定の間隔で絶え間なく足音が鳴っていた)

天使「何となく、物怖じしてませんねぇ……こんな場所で一人切りなのに」

男「奇遇だな、お前もそう思ってたか。やけに真っ直ぐな感じがする」

男(足音のみでそこまでと思われるかもだが、普通興味本位の探索ならば堂々と突き進んでいるのはどこか不自然である)

男(右往左往するでもなく、慣れた様子で、例えるなら自分の家に帰って来て自室へ向かうかの様に、ソレに迷いはなかった)

天使「こっち目指して来てるんじゃないですか? 近くなってますけど」

男「おうとも。望むところ、上等だぞ……顔を拝んだ後で逆に驚かせてやろうか」

天使「な、なんかよくわかんねーですけど、ドキドキしますねぇ! 男くんっ!」

男「ば、バカ! いま声出したらバレ……っ!!」

男(ピタリ、続いていた音が途絶えた。そこからである。真っ直ぐだった音が、ぎこちなく変化し始めたのは)

男(本当に同じ者だったか疑いたくなるレベルの豹変ぷり、おぼつかない様子が手に取るように分かってしまうのだ)

天使「……男くんと自分を探しに来たとして、どうして名前を呼んだりしないんですかね?」

男「何だって?」

天使「だって、自分たちが動き回ってるとか思ってないんですか。行き当たりばったりで見つけるつもりなんですか、この人?」

男(それは俺たちの捜索で来た人間を前提とした疑問である。だが、前提どころか、そうとしか考えられない状況だ)

男(ソレは真っ直ぐ進んでいた。では何故 先程の天使ちゃんの声に反応し、一度足を止めた? そしてその後の変化は?)

男「俺たちと確信したからこそ、動きを変えたのか?」

天使「へ?」

男「もしかしたら“奴”は俺たちがここに入った事は知っていても、何処に潜んでいるかまでは把握できてなかったのかもしれない」

男「間違いないぞ、天使ちゃん……!」

天使「だ、だから何がっ」

男「向こうはこっちが探しに来ると分かりきった上で、あえて無言を貫き、音だけを分かり易く立てて反応を窺っていた」

男「今の俺たちは過敏になってるからな、そこを利用されている……慎重さを欠いている事も十分把握して……」

天使「はぁ、随分とまぁ、回りくどくねーですかソレ」

男「回りくどいのは相当の理由があるからだと思う。だからこそ、あの変化ぶりじゃないか……?」

男(この謎の人物を推測するならば、“変化”に焦点を当てて考えよう)

男(俺たち、もしくは俺目当てでやって来たとしても、ソレの如何にもな怖々しさの装いは何だ?)

男(この場所に一人で訪れた不安の表現が最もであろう。ならば、一人で、という時点で奇妙ではあるがな)

男(兎にも角にも、装いを武器に着実とこちらへ歩みを進めて来ている。あと数えるほどで顔を拝めるか)

男「お前が現れるっていうのは、予測済みだ……お前しかいない」

天使「だ、だったらいっその事 思い切って出て行っちゃいましょーよ? 自分焦れったいんですが!」

男「まだだ! いま出て行ったら明らかに出来る事も出来ないまま終わっちまう……待ってくれ、辛抱だ」

男(天使ちゃんを抱えたまま、廊下の先から現れる彼女をじっと待った。短いのに、とても長い時の流れに感じてしまうレベルである)


…………ツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ……


男(息を呑む。それでもイベントに待ったはないのだ、やがて来るその時には)

男「!?」

男(伸びた白い足が、見えた。名無しではない。スカートの下から色艶めかしく伸びる足。スラリとした、彼女の特徴とも呼べる立派なモノが、現れて)

転校生「う、うぅ~……」

男(始まりにして終わりの美少女。そんな風に感慨深く感じることになってしまうと、その時ばかりは思ってもみなかった――――イレギュラーよ)

ここまでなんです

天使「…………転校生ちゃん?」

男(遂に姿を現した美少女に、俺たちの目は釘付けにされてしまった。魅了ではなく、純粋な驚きで、瞬きもできずに)

男「…………アイツじゃ……ない……」

天使「男くん、どーするんですかっ? モタモタしてたら通り過ぎて行っちゃいますよ!」

男(彼女の言う通り、転校生は不安気に胸の前で手を組み、辺りを警戒しながら移動を止めていなかった。白々しく感じてしまうほどのスルーだ)

男(いや、白々しかったのはこの俺の方だったかもしれない。彼女の登場を、意外、と思ってしまったなんて)

男「……」

天使「お、男くんってば~! あー、考え無しなら自分が出て行きますっ!」

男「ちょ!?」

天使「秘儀ッ 『ネエちゃん今日のパンティー何色』ッッッ!!」バッ

転校生「――――――えっ」

男(――――――時期外れな春の訪れを彷彿させる。おしゃまな春一番が、そう俺へ報せてくれたのだ)

転校生「い゛っ……きゃああああああぁぁぁ~~~!!?」

男「何故捲る必要があったのか…… (愚問か、そこにスカートがあるのだから)」

男(転校生のスカートを捲る謎の拘りを貫く天使ちゃんは置いておくとして、良しとして、気になるのはその後である)

男(幸い、天使ちゃんに注意が向いた事によって俺の潜伏に気づき辛くなっただろう。気づいていないわけがない? それを今から確かめるのだ)

転校生「あんた! 急に出てくるし、変な事されるし、心臓いくつあっても足りないわよっ!?」

天使「失敬なのです! んで、転校生ちゃん何でこんな所にいやがるんですか? あの、怖がり、の転校生ちゃんが……変ですよねぇー」

転校生「べ、別に関係ないじゃない……ううん、そうでもないのかしら」

転校生「ねぇ、あなたがいるって事はアイツもここにいるんでしょ。知らない?」

天使「はてはて、アイツとは何ぞ?」

転校生「ご、誤魔化そうたってそうはいかないわ。私はアイツを探しに来たの」

天使「アイツとやらが誰か見当もつかねーですが、何処でこの廃病院の中にいると知ったんでしょうか」

男(そう、そこがまた一つの問題である。モブの目をなるだけ掻い潜って辿り着いた筈、実際入る所を誰かに見られてはいないか細心の注意も払った)

男(まず他へ知れ渡るワケが無い。更に、あの転校生がたった一人で廃病院へやって来た。あり得ない)

男(思い出して欲しい、彼女は人一番怖がりな性質があったことを)

転校生「そ、それは……」

天使「どうしました? 黙ってられてちゃ困りますよ~? 素直に吐けば楽に――――」

男(……どうした? 天使ちゃんの口がいきなり止まったぞ)

転校生「えっと! 私、今はあなたの相手してる場合じゃないから、ごめん!」

男(沈黙のまま制止した天使ちゃんを他所に、転校生が逃げるように廊下を駆けて行った。足音が遠ざかっていく)

男(それを追おうともせず、未だ天使ちゃんに動きは見えない。何処か異常だ。ようやく身を乗り出して、天使ちゃんの元へ近寄れば)

男(驚愕せずにはいられなかった)

天使「        」

男「天使ちゃん!?」

男(一目で普通ではないと理解できるその様。まるで彼女だけの時が凍結されてしまったように、止まっていたのである)

男「天使ちゃんっ、天使ちゃん! おい、しっかりしろ! どうしたんだ!?」

男(いくら呼びかけようが、体を揺すろおうが彼女は固まったまま動き出そうともしない。……今朝方、同じ様な光景を名無しで見た覚えがある)

男(これを、転校生が? アイツの仕業だというのか?)

男「……ジョーカー。機械仕掛けの神が用意した切り札……転校生」

男「追うしかないぞ……天使ちゃん、よく体を張ってくれた。君がいなきゃまた真実に到達できそうになかったよ」

天使「        」

男(石と化した天使ちゃんを抱きかかえ、長椅子へ寝かせて俺は真実を追って歩き出した。このまま動けない彼女を背負って転校生を追うわけにもいかない、これ以上巻き込むことも)

男(俺のラブコメも間違っているかもしれない)

男(割れた窓から覗ける夕日が重々しい雰囲気を飾ってくれている。されども俺は前へ、前へと前進して行く)

男(転校生は何処まで進んだ? ボス戦ならば、フロア前のセーブポイントが目印になるのだが)

男「……待てよ、どうして俺が美少女の尻を追い掛け回す必要があるんだ」

男(思い立ったら何とやら、大きく息を吸い込んで)

男「うわああああああああああああぁぁぁ!!?」

男(辺り一帯へ木霊する特に理由のない絶叫である。意味ありげに床のゴミを踏んだ事にして、尻もちをついておこう。そうすれば)

転校生「……あんたって、ほんとアホよね。変態バカ」

男「て、転校生!? どうしてお前がこんな所にいるんだよっ!」

転校生「どうしてって……あ、あんたのこと 探しに来てやったのよ。ほら! いつまでもサボられてちゃ困るしっ!///」

男「はぁ? 何か言ったかよ?」

転校生「う、うるさいわねっ! 何でもない!///」

転校生「ていうか、ふふっ、転んだだけであんな情けない声上げるかしら? 手貸すからさっさと立てば?」ス

男「……ったく、一々うるせぇーよ」

転校生「まったく、世話の掛かる奴よね。さ、気が済んだなら一緒にこんな所出ましょ?」

男(あくまで探しに来てやったと白を切るつもりなのだろう。だが、場所が場所なのでな、違和感が先立つだろうに)

転校生「ったく、あんたがいないと困る人だっているんだから、急にいなくならないでよ……ほら、さっさと帰るわよ!」

男「サボった理由を訊くつもりはないのか?」

転校生「どうせくだらない事が原因でしょ? 訊いたって時間の無駄だわ、バカバカしいもん」クスッ

男「意外だな。お前ならいくらでも神経逆なでしてまで尋ねてくると思ってたんだが」

転校生「あんたが、普段私のことどう思ってるかよ~くわかるわっ……!!」

男「おい! 拳を握るなっ、ただの冗談に決まってるだろ? 一々暴力でしか訴えられないのかよ、暴力女は!」

転校生「あんたが口で言うより殴った方が理解早い奴なのが悪いんじゃないの!?」

男「短絡的すぎるだろ!?」

転校生「……でも、ちょっぴり安心しちゃったわ。何かあったと思ってたら、いつも通りなんだもん」

男「そうかぁ?」

転校生「そうよ! えっと……あ、あんまり私に心配させないでよね。ばか」

男(ご機嫌斜め、否、好意バリバリでプイッと顔を逸らして見せる転校生。いつもならば、その様な素振りに魅了されてばかりだったが)

男(茶番も、もう止めにしよう)

男「なぁ、転校生」  転校生「ねぇ、変態」

男・転校生「…………何?」

男「お、お前から言えばいいんじゃないか?」

転校生「い、良いわよ。あんたから先に言えば? 私のは、別に、何にも……///」

男(今日日流行らないお馴染みに、高揚してはいた。してはいたが、首を振って、邪心を払いつつ)

男「どうしてお前がこんな所にまで来てくれたんだ?」

転校生「……今更そんな事訊くのね。あのね、別に私だけがあんたを心配してたんじゃないの」

転校生「だから、みんなで手分けしてあんたを探してやったんだから! 訊き込みなんてしたの人生初めての体験だったわよ」

男「みんなが、俺の為に?」

転校生「ふん……私が偶然先だったみたいだけど、あんたの事、ここに入って行くのが見えたって人がいたのよ」

男「だ、だったらどうして他の奴らに言わずに一人で乗り込んで来たんだよ? お前、怖いの苦手だったろうが!」

転校生「そうよっ、苦手の苦手なんだから!! だ、だけど、あんたのことが……」

男「俺が?」

転校生「この、大ばかぁっ!!」

男(どん、と転校生がこの胸へ飛び込んでくる。薄っすらと涙を浮かべて、それまでの不安や恐怖を訴えるように肩を震わせ、身を寄せたのだ)

男「お、おいっ!?」

転校生「怖かったのよ……怖いけど、私やらなくちゃって……っ!」

男「何の義務感だよ、お前の方がバカじゃねーか」

転校生「バカじゃないっ! あんたなんて、瓦礫に挟まれたまま火に炙られてしねっ……!」

男(このまま抱きしめてやればハートフルラブコメディを我が物にできるのか。悪くない)

男「(だが、まやかしは認められなくてな) ところで天使ちゃん見てないか?」

転校生「えっ?」

男「実はずっと一緒にいたんだが、逸れたみたいでな。もしかしたら見かけたんじゃないかと思って」

転校生「あ、あんたねぇー……あんな小さい子まで巻き込んで何やってんの……」

転校生「ほんと! 面倒ばっかり起こすわよねっ、早くあの子も見つけちゃうわよ!!」

男「すまん、ダウトだな。転校生」

転校生「バカ変態、何のんびりやってるの! 暗くなる前に見つけないと――――何ですって」

男「お前がスカート捲られてるところも、天使ちゃんから質問攻めにあってたのも全部見てたぞ」

男「やはりお前はあの場に俺が隠れていた事を知らなかったらしいな。それとも、それも演技か?」

転校生「ちょ、ちょっと……あんた、何わけのわからないこと言ってるのよ……?」

男「……」

転校生「やめてよ……こ、怖い顔しないで…………」

男「転校生、お前の用意して来た言い訳は悪くなかったと思うぞ。こっちが始めから意識していなければの話だが」

転校生「ど、どういう意味よ?」

男「よく思い出してみてくれよ、お前が勇気振り絞ってこの建物の中に入ってからのことを」

男「……大体、ここに入って行くのを見た人間がいただと? 人通りも少ないし、民家も近くにないここが?」

転校生「い、犬の散歩をしててその時見掛けたって! その人が……言ってたわ」

男「その人は、俺たちがどう中へ入って行ったかも見ていたんだろうな。さぞかし不自然に見えたから、話してただろ」

転校生「えっ!?」

男(ブラフである、特に変わった入り方は試していない。入口から素直にお邪魔させて頂いた)

男「印象に残ったから、その人は覚えていたんじゃないか? 幼女連れの男子高校生だから不審に思って?」

男「でも、それならお前は俺が天使ちゃんを始めから連れていたことを知っていないとおかしいかもしれない……」

転校生「…………わ、私は、私は」

男「天使ちゃんをすぐに元に戻してくれ。話はそれからだ、転校生 (決定だ)」

男(彼女は……だが、主観混じりで、おかしい。どことなく予想していた手応えの感触が、無い)

転校生「ち、違うの! 私ウソなんか言ってないわ!? さっきからどうしちゃったの!?」

男「天使ちゃんは、どうした? 転校生」

転校生「本当に知らないわよ!? あの子とは会ってないし、今始めて知ったの!」

転校生「中に入ってからずっと私一人だったわっ、あんた以外の誰かと会ってなんかいない!」

男(残念ながら、現に俺自身が一部始終見逃さず転校生と天使ちゃんのやり取りを眺めていた。観察者がいて、騙し通すか)

男(……一応、情に流されたわけではないが。特に転校生に罪があるわけではないだろう。情状酌量の余地は十分ある)

男(そうではなくて、本当にこのまま押し通して彼女を追い込んでしまっていいのかと、待った、が掛かったのだ)

男(実際にこの目で見てしまったのだから、彼女のウソは明らかだと分かっている。だが、転校生の訴えがあまりにもリアリティに溢れていた)

男「(俺に問い詰められたことで、非常に混乱を表している。……ならば) 転校生、俺に付いて来てくれないか。見せたい物がある」

転校生「……」

男(文句一つ漏らさず黙って後を付いて来てくれる転校生。あの場所へ、天使ちゃんが横たわるあそこへ連れて行けば少なからず進展は望める)

男(だった、筈なのに)

天使「あれ? 男くん、転校生ちゃんと会えたんですねぇ」

男「……は?」

男「お、お前……どうした? いつ治ったんだ? ていうか、会えたって……?」

天使「何言ってるんですか。転校生ちゃんの姿が見えたから追い掛けるって、勝手に突っ走ってったのは男くんでしょー?」

男(……記憶が、改竄されているだと)

ここまでや

男(寝惚けている様子はなく、真面目に天使ちゃんにとっての前後の繋がりが、俺と食い違っていた)

男(試し、というよりは、ダメ元で柔らかロリほっぺをむにむにすれば、即座に振り払われる)

天使「ノータッチです、クソ変質者! それより転校生ちゃん見つけたんだし、もうここに用はないでしょう。帰りますよー!」

男「ちょっと待ってくれ、俺たちは何の為にここに入ったんだ。……教えろ、天使ちゃん」

天使「何の為って、そりゃあ男くんの家出に自分が付き合っちまったからでしょうに」

男「そうだとも……だから、それがどうして俺が転校生を見つける羽目になるんだ?」

天使「やれやれですねぇ、男くんは脳の老化だけは早い。自分が迎えに来てくれた転校生ちゃんを驚かせたのが始まりなのです!」

天使「きっとお化けか何かと思って仰天しちゃったんでしょうねぇ~、悲鳴あげて猛ダッシュですよ!」

男「そ、それでっ?」

天使「で、流石に心配になって二人で逆に探してたんじゃねーですか。そしたら男くんが『いた!』つって勝手に突っ走って……ねぇ?」

転校生「わ、私は知らないんだけどっ……ふぅ、何よ。ちゃんといたじゃない、その子」

男「……うん」

転校生「相変わらず悪ふざけ好きよね、あんたって良い歳したガキんちょよ、ガキんちょ!」

男(嫌な寒気を感じて一人身震いした。もしかすれば、俺の方が記憶違いしているのではと錯覚すら覚える)

男(首根っこを掴まれて、強い力で床へねじ伏せられている気分じゃないか)

転校生「変態、帰るんでしょ? ぼさっと突っ立ってないで歩きなさい」

男(まだだ……まだ、抗える……)

男「……お前ら、誰が帰りたいなんて一言でも漏らしたんだ。俺は当分家に上がるつもりはないぞ」

転校生「あんたねぇ……まだこんなバカな真似続けてたいの!!」

転校生「みんなが、幼馴染ちゃんやあんたの妹さんにどれだけ心配掛けてるか分かってる!? あ~っ、分かってないわね、そのマヌケ面は!」

男「マヌケ面は余計だ!! 帰らないからな、俺は。明日も明後日も、意地があんだよ! 男の子には!」

転校生「くだらない意地張るとか正真正銘大バカじゃないのよっ!」

男(力尽くでもと、俺の腕を掴む彼女の手を何度も乱暴に振り払った。天使ちゃんからは駄々をこねる子どものようだと、冷やかに見下されている)

転校生「いい加減にして! あんたのワガママに振り回される身にもなりなさいよっ、男!」

男「お前らが頼んでもないのに必死になってるだけだろうが! 回れ右で帰れ!」

転校生「本気で、ぶつわよッ!!」

天使「あわあわ……そ、その辺で一旦深呼吸しときましょーよ、お二人~……っ」

転校生「だ、だってこのバカ変態が聞く耳持たないから……ねぇ、何があったの? 辛い事があったなら言いなさいよ」

転校生「私にでも、あんたの肩支えるぐらい出来なくもないんだから! 遠慮なく言って!」

男「今日履いてるお前のパンツの柄を教えろ」

転校生「……は?」

男「……教えろ、転校生。パンツの柄を」

転校生「ちょおっ! あんたって真面目どうかしてるんじゃないの!?///」バッ

男(攻めの姿勢から守りへ、これぞ攻守逆転、なんて。真っ赤になった転校生へじりじりと寄って行けば、後退りを始めた)

転校生「変態! い、いま私のっ……その、ぱ、ぱぱぱ……関係ないでしょ!!///」

男「遠慮なく何でも言ってくれと懇願してきたのはお前の方だった気がするんだが、どうなんだ?」

転校生「言ってないし、懇願してないし、どうもしてないわよっ!!」

男「転校生、お前の今日のパンツを知れたら俺も満足して納得の上 家に帰るかもしれないぞ」

転校生「どんな納得の仕方よ!?」

男「別に見せろって話じゃないだろ。教えてくれたらそれで良いって事なんだぞ」

男「つまり、お前としては事実を答えるなり、ウソを吐くなく自由な選択が約束されているんだ」

男「どうしてそこまで帰らせたいか気も知れんが……可能性を、否定するのかね?」

転校生「この、ゲス……っ…………わかったわよ」

男「え? 何だって?」

転校生「わかったわよ!! 教えたら良いんでしょ、私のパンツっ!! ぱっ……くぅー……!///」

男「……自分からパンツの柄を伝えるなんて、とんだ痴女だな、お前は」

転校生「三秒で息の根止めるわよッ!?///」

男(誰が恥じらいながら物騒を吠える美少女に臆するか。むしろ悪くなさすぎるだろう)

男「わかったから、興冷めしない内に答えてくれないか。俺も大概気が短くてな、はい、いーち! にー!」

転校生「わーわー! 待って、だめっ、急かされてもいやぁー!!」

転校生「……言えばいいんでしょ。ふ、フフン! ウソでも構わないって最初に言ったのはあんたなんだからね!?」

男「ああ、構わないが、始めからウソと分かって答えられたら面白くないな」

男「乗れないのなら今すぐ帰ってくれ。既に耳を傾ける価値すら無くなったよ、転校生……」

転校生「卑怯よっ!! 自分からやらせといて、ウソじゃダメってどういうこと!?」

男「ウソを前提に答えられても反応に困るって、何故気づけない?」

男「お前が取るべき行動は、黙ってさっさと“答える”! ただそれだけだった……安心を求めたのが裏目に出たな、転校生ッ!」

転校生「呆れるぐらい面倒臭い時あるわよね、あんたってっ……!」

転校生「もういい! わかったから、黙って聞いてなさいよ、腐れド変態! こ、今度こそ 言う、から……///」

男「ほう、じゃあ聞かせてくれ」

転校生「黙ってて!! …………き、今日の、下着……は…………下、着っ、はぁ……///」

また明日へ

転校生「……だめ、無理ーっ!!///」

男・天使「堪らん!! かーっ、焦らしが堪らんよ!!」グッ

天使「じゃなくて、エロ娘ちゃんのパンツとかどうだって良いじゃねーですか。エロオヤジ?」

男(途中まで波に乗ってゲットライドしていただろう奴が何をほざく)

転校生「エロ娘って何よ!? こんなアホに騙されてた自分が情けないわ、バっカみたい!」

男「良いのか? お前のパンツで救われる筈だった命が、簡単に失われるんぞ」

転校生「そこまで体張るぐらいだったら私が直にぶっ飛ばすわよっ、ド変態スケベ魔王!!」

男「たかがパンツの柄にどんなプライド掛けてるんだかな……ちなみに天使ちゃんはノーガード。履いてない」

転校生「虐待!?」  男「コイツの趣味だ!!」

天使「ふっざけんなですよ!! いまは[ピーー]てるしっ、[ピーー]されてるし!!///」

男「え?」

転校生「もうダメ、限界だわ……くだらない事続けてる元気があるならここから出なさいよね」

男「確か、色は薄色のピンク。柄は惜しくも桜じゃなかったが、ありがちな花柄」

男「そうだったよな、転校生?」

転校生「ちょーっ!?///」

天使「ほ~うほぉう、花柄ピンクとは乙女チックな。はっ、男くんは[ピーーーーーーー]と?」

転校生「あーっ!! 聞こえない、わー! 聞こえない全然聞こえてなーいっ!!」

男「(……) おい、山勘に任せた出鱈目だったんだが、その反応だと正解教えてるもんだぞ。転校生」

転校生「っ! ち、違うわよ!? ただ、偶然持ってた下着と似た物を当てられたからビックリしちゃって!」

男「なるほど。それなら、当てられた下着はいまお前の部屋のタンスの中ってわけか」

転校生「あぁ~、そうなのっ!! だからこの話はお終いにして!!」

男「違うだろ、転校生。お前がいま正に履いている下着こそ ソレだ」

転校生「ひっ!?///」

転校生「あ、あんた、まだ出鱈目通そうとか考えてるわけ!? 違うったら違うっ!」

男「だったら、そこまで意固地に否定しなくたって痛くも痒くもないんじゃないか?」

転校生「想像されてるのが嫌なのよっ、ドブすけべ!!///」

天使「ありゃあー……男くんこういう事に関しては冴え渡ってますねぇ~」

転校生「……ん?」

男(彼女の技は一種の才能である。自らのヘイトが完全に逸れた隙を見逃さず、干渉すら感じさせずに)

男(屋台の暖簾を潜るような自然さを纏い、捲っていたのだから)

転校生「いやぁあああああっ、ちょっとどこ覗いてるのよぉ~~~っ!!///」

天使「男くんの言ったまんまですよ! 色も柄も、バッチシじゃねーですか!」

男「……天使ちゃんそのパンツに見覚えはないか。始めて確認したのか」

天使「へ?」

男「お前は一度見ている筈なんだ、至近距離で。捲るのが目的だとしても、見逃さないワケがない。あり得ない」

男「天使ちゃん、転校生をどう驚かしたって言うんだ。スカート捲りじゃなかったの」

天使「どうって……そりゃ、わー、ってな感じに……だってビクビクしてるヤツみたら脅かすのが鉄則なのです!」

男(だから転校生は彼女へ見向きもせず、悲鳴をあげて逃げた、と。一切会話が挟まる余地もなく、と。ガバガバ記憶改竄か。唯一の観測者であった俺を騙し抜く気すら思えない、いや、探知されなかったからこそだったこそかもしれない)

男(転校生がこの場へ現れる理由に不都合が生じたからこそ、天使ちゃんの記憶が書き変えれたのだろう。ならば、すぐ傍で見張っていた俺にも影響を与えねば矛盾が発生してしまう)

男(俺のみを見逃したのは何故か。なぁなぁにして騙し通せる自信があったか? 唯一無二、一番この世界に疑問を抱かせてはならない存在に対して?)

男(どうやら安い博打に、打ち勝てたようだ。機械仕掛けの神よ)

転校生「どうでもいいから早くスカートから手離しなさいよぉー!! ねぇ、あんたからも言ってやってよ!?」

男「……“目”の能力に立てた俺の推理はあながち間違いでもなかったのか」

転校生「……な、何?」

男「聞こえてるんだろう、この世界の神。あなたは、アレと比べたら全知全能ってわけでもなさそうだな」

転校生「ちょっと……あんた一人で何処に突っ走ってるのよ? 付いて行けないわよ……」

男「俺は天使ちゃんが転校生のスカートを捲った時に、パンツをしっかりこの目で拝んだぞ」

天使「えっ、自分一応男くん側から覗けないよう配慮心掛けてたつもりなんですけど?」

男「それは今さっきの出来事だろうが、俺が見たのは改竄前だ」

天使「はい?」

男「俺が知ってる、お前が転校生を驚かせたっていうのはスカート捲りだよ、天使ちゃん……覚えがないなら聞き逃してくれ」

男「だが、もし記憶の片隅に残っているのなら、思い出して欲しい! お前はあの後 転校生に何を尋ねた!」

男「そして何が起こったか!! ……不思議だなぁー、ずっと違和感しかないぞ。だって俺以外の二人はずーっと」

男「俺の知らないイベントの話をしているんだから……何か、おかしいな。そうは思わないか?」

転校生「な、何でそこで私を見るの? 私に関係ある?」

男「改めて、いや 違うか、言い直させてくれ。それから聞かせて欲しいな、転校生」

男「どうなってお前がこんな所に来てるんだ?」

転校生「…………わ、私」

転校生「私は男のことが、修%@”☆×なっ0」

転校生「#$は>Uすぎщ↓―っ%」

天使「…………男くん、帰りましょう」

男(蚊の鳴く声が、かろうじて、俺の耳へ届いた。天使ちゃんらしからぬ何処か落ち着いた様子でトーンを張った声が)

男(違った、落ち着いてなどいない。焦り、畏怖へ近い彼女が抱えていた感情が伝わっていた。帰るでは生易しい)

男(逃げよう、と脅える元ロリ天使が俺の腰をひしりと掴まえたのである)

天使「ここにいたら、きっと良くないんです……い、息ぐるしい……」

天使「逃げなきゃ……男くん逃げなきゃっ!!」

転校生「4444444444#ン」

天使「ひっ!!」

男(神のありがたいお言葉は脳裏にまだ刻まれたままだろうか? 正体不明の偽神は、只今絶賛暴走中。この俺を、ハーレムお構いなしに幸福の底へ落とすべく。……転校生)

男「ふざけんなっ、俺の美少女使って頭おかしい表現起こすんじゃねーよ!! 何言ってるのかさっぱり分からないがッ!!」

男「俺は、お前に必要以上に干渉してくるなって言いたかっただけだ!! あんたの手を借りなくても十分幸せになって果ててやるさ!!」

男「だから、失せろ 舞台装置ッ!! 気を静めて大人しく待っててくれ!!」

転校生「待ち切レナいΓ」

男「てんこうせ……えっ?」

転校生「XR*゙eЕ*iヲ゚ゥb゙ィゥ被)坿゙繕*ヘァ"*ホc・・w_池*€ァI*」

転校生「>縺ェΓゥ縺ァ豁」縺励¥譁・ュ励′陦ィ遉コ縺Ιl縺ェ縺・樟雎。縺ョ縺薙→縺ァbゅk……」

男「おい、頼むから日本語で説明してくれないか!?」

天使「構っても無駄ですよっ、相手にしたってこっちの考えなんて理解してもらえねーんですっ!!」

天使「アイツだけは……アイツだけは、ダメです。男くん、ヤバいんですよ」

男「どうして天使ちゃんがそんな事知ってるんだよ!? 俺は、アイツにまだ怒り足りな」

天使「知ってるどうのこうのじゃないんです!! 早く、逃げてっ!!」

転校生「オ。ヌス。ヲクヲオ�¥。チ。ス。ン。�。ュカ£㈱①Ⅱ……」

男(目を離せずにいた転校生の姿が、ブレて、ゲーム画面がバグったように不気味に点滅しては、何者かが残像に残って、解説もおぼつかない状態になってくる)

男(写った残像は、あの神とは似ても似つかない笑顔を浮かべていた。笑って見えるのに、まるで表情のない顔にゾクリと嫌悪が先走った)

男「……わ、わかった! 話の相手にならん、逃げよう!!」

転校生?「許%デき÷い」

男「あぐっ!?」

男(足が、動かない。自らの意思で立ち止まるよう命じた様に完全停止させられていた。天使ちゃんへ視線を写せば、ガクガクと恐怖を隠せずに震えている)

転校生?「……_“正が必ヨう&=ッた」

男「お、おいっ、待っ――――――――」

ここまで

≪      _  “正  が  必  ヨ  う  &  =  ッ  た      ≫


「!!うよげ逃、んらなに手相の話 !たっかわ、わ……」男


「?どけすでんなりもつたてけ掛心慮配うよいなけ覗らか側んく男応一分自、っえ」使天


「!いたみカっバ、わいなけ情が分自たてれさ騙にホアなんこ ?!よ何てっ娘ロエ」生校転


「ぞいなれしもかる帰に家 上の得納てし足満も俺らたれ知をツンパの日今の前お、生校転」男


「カバ態変。ねよホアとんほ、てったんあ……」生校転


「かうょしでんたっ知とるいに中の院病廃のこで処何、がすでーねかつも当見か誰がらやとツイア」使天


「?!!~~~ぁぁぁああああああゃき……っ゛い」生校転





神「ストップ。お待ちなさい、我が子よ」

???『…………ζッ$?』

神「そうです。私が誰か判別はまだつくみたいですね、手遅れには変わりないのでしょうけれど^^」

???『モ翫實ыェ・・≦メ凪"ょJ倪。 !・!с☆・遺!㏍∞ ・補"俄!・♀緇冷!・jャ溪"???』

神「ええ、ええ、お前は忠誠で優秀な子です。私は十分にこれまでの働きを評価していますよ」

神「ただ、是非が無さすぎました。生真面目すぎるのは生み出した私にも責任があるのでしょうね、面目ない^^」

???『悽譚・陦ィ遉コ縺輔l繧九∋縺肴枚蟄励�枚蟄励さ繝シ繝峨〒)0k???』

神「止めに来ました、もはや見逃せん」

神「これ以上、理不尽な“力”であの者を幽閉してはなりません。現に、お前自身に影響が現れています」

神「自身を壊してまで私に尽くさずとも良いではありませんか……無茶がすぎるのです」

???『��ǽ��“���:c???』

神「良いのです……お休みなさい、全てはこの神が担いましょう……」

神「だから、お止しなさい……くだらない使命感に支配されて、時を捻じ曲げるのは……」

神「禁忌ですよ、愚か者――――あっ」

???『 ██▒░▓▒█▒░██▓  ▓█』

神「…………あ、あらぁ^^;?――――――」

天使「――――――自分、この場所にあんまし良い思い出ねーです」

男「俺もどちらかと言えば、悪い印象しか残ってないかもしれん。でも、人は寄せないだろ?」

天使「寄るワケねーでしょうが! こんな、寂れた如何にもな建物になんか物好きしか入りませんよ!!」

「……物好き、ねぇ。そんじゃあお宅らはその物好きに当て嵌まっちまうわけよな」

男・天使「!!」

名無し「よお、学校サボってまで楽しんだ幼女との逃避行はさぞかし充実してたろ、男」

天使「コイツ、今朝のイケ好かない……!」

男「な、名無し…… (どこまで俺の計画を阻めば気が済むのだろうか、コイツ)」

名無し「やー、わかってるって! 何でオレがここにいるのかって、そういう疑問なんでしょ?」

名無し「財布、オレのパクりやがっただろ。お陰で昼飯抜きなんだゼ? オレぇ!」

男「そいつは……済まなかったな、名無し……使った分はキッチリ揃えて返すから!」

名無し「そーいう問題じゃねーっての!! 金は良いから、男っ! みんなに頭だけは下げとけよな!」

名無し「お前が急にいなくなって、みんなパニックだったんだぞ……どんだけ宥めるのに時間掛かったやらなぁ~?」

男「それも、キチンと謝る……だけど、どうして俺の居場所を突き止められた?」

名無し「ん? 丁度幼女を連れた男子高校生を見たって目撃談があって……なーんてねっ、俺の目は何処にでもあって、何百何千もある。教えたろ、男」

男(やはりモブの目。だが、おかしいぞ。この場所へ至るまで可能な限り人目を避けて来たつもりだ、細心の注意も払っていた)

天使「はぁ~あ。この辺でくだらねー家出もお開きにしとけば丸く収まるかもしれねーですよ?」

男「そ、そうもいくかって!! だって、コレには深い訳が…………」

名無し「ん~? まぁ、男がまだ飽き足りないってのならオレも付き合っちゃうぞ。嫌でも傍にいてサ」

男「じゃあ勘弁願いたい」

名無し「ンフ~フッ♪ とにかく、原因は知るつもりもないけどね。親友が困っているなら手は貸すぜ? 手伝わせてよ、相棒」

男(手伝うも何も、彼が来た時点で台無しである。気紛れに付き合ってくれるほど世界は都合がつかなかったらしい)

男(名無しが現れるのが、決して想定外だったわけではない。だがしかし、餌は撒き過ぎていたぐらいだったのだが……惜しくも食いつかなかったか)

男「……天使ちゃん、家までの道のりは分かるか? 不安なら妹たちを呼んで構わない」

天使「どこまでコケにすりゃ気が済むんですかねぇー……自分一人でもおウチに帰れますよっ!!」

男「そうか。それなら助かったよ、先に行っててくれ」

男(手を合わせてお願いすれば、彼女は納得いかずと頬を膨らませたまま帰路へ立っていた。あえて言うならば、空気を読んで消えたというべきか)

名無し「あれぇ、いいのかよ? ちっちゃい子だけで帰らせちゃって!」

男「問題ない、アイツはあれでもしっかりしてる所もある。そんな事より、名無し」

男「転校生はどうした?」

名無し「あの子なら一日中お前の事考えてソワソワしっぱなしだったよ。演技にも身が入らなかったみたいでなぁ」

名無し「転校生だけじゃない。他の奴らだって、憂いたままだったぜ? やはー、モテるお兄さん! 辛い立場ねっ!」

男(この鬱陶しい肘ツンツンは彼なりの励ましのつもりなのか。主人公としての対応として最も相応しいのは、誤魔化し、なのだろう)

男「だったらアイツか他の誰かがここに現れてくれた方が、嫌いじゃなかったかも」

名無し「おっと……オレのお迎えじゃあ満足して、帰ってはもらえないんだ?」

男「たぶん、転校生や男の娘はこの俺を探そうとか言ってたんじゃないか? 割と行動派だし (否、肉食系)」

男「そして、多分 お前はアイツらの言葉に乗ったんだ。『手分けして探さないか?』、こんな感じで」

名無し「すげぇ! すげぇよ、男! 名探偵みたいだ。どうして分かったんだ? 見てたのかよ?」

男(猿でも可能な当て推量の枠だ。まず否定はされないと強気でいられた、名無しが単独で俺を探しに来る方が難しいのだ)

男(好感度的にも、美少女たちならば何があろうとこの俺優先だと考えられる。だからこそ、かならず コイツ一人は、あり得ない)

名無し「偶然でね、オレが一番にお前見つけちゃった。しかも天使ちゃん連れてこんな変なトコ入ろうとしてたじゃねーか」

名無し「危ないだろ? 理屈抜きで体が勝手に動いてたって……可愛い女の子じゃなくてゴメン」

男(揺さぶれば、ポカしてくれるかもと思いきや、彼の言い訳には整合性ある。確かに、普通 廃墟は危険な所だからな)

名無し「やー、悪かったよ 男。もちっと時間掛けてオレがアイツらの内の誰かに連絡していりゃあ……ね?」

名無し「分かったら帰ろうぜ、男。財布の件は見逃してやるさ。オレは自称心が広い親友だもんなぁ~♪」

男「途端に恩着せがましいな、自称親友の他人」

男(名無しの冗談を鼻で笑いつつ、廃病院に背を向けて歩き出した俺。満足したように、名無しは首に掛けていた洒落てるヘッドホンを耳に当て、続いた)

男(やがて日が暮れ始めた街並みを背景に、会話も挟まず俺たちは黙々と足を動かしていた)

男(浮足立つ)

男(何かがヘンだ、引っ掛かる、釈然としなくて、妙で、違和感が続いていて、俺は何をしているのだ?)

男(足を、止めてみた。気づかず歩き続けていた名無しが、俺を追い越し、数メートル程進んでゆったりと、こちらの心境と真逆に、何ら不安も無さ気に振り返ってきた)

名無し「やー………………次は……どうしたんだ? 男」

男「……やっぱりまだ俺 帰れない。そんな気がするんだよ」

名無し「散々連れ回した天使ちゃんだけ帰らせといて、お前はまだ駄々こねるって?」

名無し「ダメだぞ。可愛い女の子たち心配させたままフラフラ放浪だなんて。見逃せないなぁー」

男(何故、俺は無意識の内に名無しへ『転校生』を尋ねていたのだろう。彼女が気掛かりだったか? 本当に?)

男(確かに転校生は、ここになって謎が深まって来ていた。だが、今回の逃走は彼女を知る為にしでかした事だったろうか)

男「な、名無し! 俺ちょっとした用事思い出したからここで――――」

男「うっ!?」

男(面を上げた瞬間、総毛立った)

男(特に物騒な真似をされたワケでもない。だとしても、こんな事は異常の他なんと言いようがあろうか)

男(名無しを筆頭に、何食わぬ顔で通り過ぎて行っていた筈だったモブたちが、全員立ち止まったまま同じ瞳をしてコチラを凝視していた)

「…………」

「…………」

男「…………っあ、あ」

「…………」

「…………」

男(得体の知れない恐怖心が、俺の心臓を鷲掴んで鼓動を高鳴らせている。人だけが止まって、街そのものは活動したままなのだから)

男(視線恐怖症という名前を聞いたことがある。一種の対人恐怖症だが、もはやこの状況では、いかなる常人といえどストレスを感じてならないだろう)

男(蛇に睨まれたカエルだった。指先一つ動かせる自信もない、ただただ終われと心の中で願った)

名無し「腹減ったなぁ~~~~~~!! 帰ろうぜ、男ぉー」

「今日ね、学校でね 友達の彼氏が何か~」  「丸罰商事の株を買い叩け! 落ちた今が狙い目なんだよ!」

「聞きました? 昨日例のブルジョワご夫婦が」  「16時から17時限定お惣菜安売りセール! 集え飢えた狼ッ!」

男「……や、やれやれだな、マジで」

男「結局、戻って来る羽目になったか」

男(辺りは暗闇に包まれ、目の前にある自宅の灯りが恋しく感じている。ただ、いつもと比べて明るい雰囲気が欠けていた)

男(体感、小一時間は立ちっぱなしで玄関の戸を開けるや否かで、迷っていた。妹はまだしも幼馴染に会わす顔がないのだから)

男(このまま逃げ続けるには金が無さすぎる。現代っ子としては携帯電話も必需品だ、勿論ネットの為。便利な世の中だ。俺は文明の豚である)

男「やれやれ、怖気づいたのか 俺は。自分の家だろうが。何を恐れる必要があるんだ」

妹「さっきから人ン家の前で怪しすぎるんだけど、通報されたいの?」

男「自分の兄が不審者に見えるのか、お前」

男(いつのまにやら二階のベランダへ現れた妹が、柵へ肘を乗せてジト目でこちらを見下ろしていたのである。その様が猫らしい彼女に似合う似合う)

妹「とりあえず寒いんだから早く中に入りなよ……ばーか」

男(寒さに耐え凌ぎ、そこで兄の帰りを待っていたのか、妹よ。これ以上アホ可愛さに惚れぼれさせてどうしようというのだ、肌で温めろとでも?)

天使「よーやく帰って来ましたねぇ、こんな時間までどこほっつき歩いてんだかですよ、まったく」モグモグ

男「予定よりだいぶ早くの帰宅だったつもりなんだが。それより、一人で飯食ってたのか?」

天使「ご覧の有り様じゃねーですか。ボスは食欲ないって早々上にあがって行って、幼馴染ちゃんも帰っちゃって」

男「ちなみにボスって妹の事かね?」  天使「ボス(笑)なのです!」

男(なるほどと、先程までの体験を語る元気も無くし、皿の上に掛けられたラップを剥がしてつまみ食いで空腹を忍んでいると)

男の娘「うわぁーん、男ぉ~っ!!」ガバッ

男「ひっ!? お、おい、お前が何でウチにいるんだよ!?」

男の娘「[ピーー]してたからに決まってるでしょ!! ばかばかばかっ、僕、男に何かあったりでもしたら……うぅ!!」

不良女「バカはそっちだこのカマ野郎、せっかく不意打ちでぶん殴ろうと思ってたのに台無しじゃねーかよっ!」

男「ふ、不良女まで!!」

オカルト研「お邪魔しているわ、男くん。ここが男くんのハウスなのね。権力と金に物を言わす、その時が訪れた」

男「今日に限って外国見習ったホームパーティ開催なのか」

男(奮発してBBQでも始めてやろうと冗談を飛ばそうにも、皆がようやく泣き止んだ子どものように俺を囲んで安堵して空気を察す)

不良女「ったくよ~! 人がようやく回復したと思えば、騒がせやがって。[ピッ]、[ピーー]しただろ、[ピー]///」

男の娘「あっあっ、僕は不良女さんの十倍は[ピーー]してたんだからね、男!? でも、怪我とかしてなくて良かったよぉ……ぐすっ」

男「え?」

不良女「え、じゃないんだっての。あー、段々バカらしくなってきた……[ピーーーーーーーーーー]。[ピーーー]な」

男(家に押し掛けて来た時点で、彼女らには多大すぎる影響を与えられた。そういう事で間違いないのだろう)

男「やれやれ、お前ら たかだか一日のサボりで大袈裟すぎじゃないか?」

男の娘「僕たちにとっちゃ一日だけでも[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]!!」

オカルト研「丁度文化祭の準備時期が幸いしていたわ。いくらでもあなたを探す為の理由付けができたのだもの」

男(と、彼女らの一日を聞く限り 練習や準備を投げてまでこの俺の探索に専念してくれていたらしい。ある程度予測通りに動いてくれていたのだ)

男「だからって、こんな時間に人様の家に屯って帰りを待つことはなかっただろ」

不良女「ノコノコ帰って来たとこに一発お見舞いするためでしょ。迷惑掛けてたんだからなっ!」

男「そうか、じゃあお前にも俺を殴る権利がある。好きしたら良い」

男の娘・オカルト研「……」コクリ

不良女「……えっ? 何、あたしがぶん殴る役なの? マジで?」

天使「ほれほれ、今まで溜まりにたまった鬱憤をここで晴らすチャンスでしょう! 何なら即席釘バット用意しちまいましょーか、姐御」

不良女「おい、そんなので怪我させたら大変だろ!?」

男(この美少女は、本日付で『女』にキャラ名を変更しよう。不良は不相応、だが、それではアイデンティティーが損なわれる危険性が)

不良女「つっても、罰ぐらいは与えとかないと気が済まないんだよ、こっちも。とりあえず歯ァ食いしばれ!」

男(ぐっ、と拳を握った不良女を見届け、瞳を閉じる。美少女からの鉄拳制裁、構わん、ご褒美だ。許可する)

不良女「じゃ、じゃあ 殴るからな。殴るぞ!? ……殴っちゃうよ?」

男「……好きにしろ」

不良女「あっ、う………………えいっ」ポッ

男(例えよう物ならば、天使の羽根が頬を撫でた感触である。それでお終いかと煽れば、更に撫でられる)

男「やる気あんのテメェ!!」

不良女「どうしてあたしが逆ギレされなきゃいけないんだよ!?///」

オカルト研「そうよ、男くんは徹底的に痛めつけられる事を望んでいる。あなたの拳では蝿も落とせないわ」

男「おい、別にそこまで望んじゃいないぞ」

不良女「と、とにかくもうコレで十分って事にして良いだろっ! [ピーー]しい!///」

男の娘「これだよね……僕たち、こういうやり取りが毎日あるのが普通になってたから、だから落ち着かなかったんだよ」

男「暴力の絶えない日常が普通ってある意味アイツ一人のせいだろ」

転校生「それって、どこのアイツなのかしらね。教えてくれる?」

男「そりゃあ、あの冗談通じないイギリス帰りの唐変木に決まってるだろうが。アホか?」

転校生「ふーん……そのイギリス帰りのトーヘンボクって一体どいつのこと言ってるのか気になるわ」

男「そりゃあまぁ、丁度お前みたいな顔した――――ぶうっっっ!!」

転校生「最っ低の大バカド変態人間のままで安心したわ、だって躊躇わずに全力で殴れるんだからね!」

男「こ、この暴力ゴリラを我が家に呼び込んだのは誰だ!? 殺されるっ!!」

転校生「しねっ!!」ゴッ

ここまで

オカルト研「……流石は転校生さん、噂通り 腕は確かみたいね」

男の娘「ほ、本当に全力全開で殴るのかと思っちゃった」

男(寸止め、否、お預け。文字通り 目と鼻の先で転校生の暴力は制止している。が、やや上にあがったと思えば、額に強烈な)

男「痛ったいんだがッ!?」

転校生「よーし、反省してる? デコピンに変更してあげただけ感謝してもらいたいわ!」

男「どっちみち痛いんだよ、十分脳揺れそうな威力だったぞ!!」

転校生「これに懲りたらワケ分かんない家出とかして、みんなを困らせないで。妹さんにもすぐ謝ってきなさいよ、変態兄」

男「本人はそんな事欠片も思ってないが、変態でごめんなさいと?」

転校生「自覚がない大バカでごめんって土下座ぐらいしておけば丁度良いんじゃないの、ついでで」

不良女「へへっ、良い反面教師になってるんじゃねーの? こうはなるまいってさ。なっ?」

男の娘「僕は男が自分の[ピーー]だって時点で[ピーー]しちゃうぐらい羨ましいなぁー」

オカルト研「男くんは男くん以外の何者でもない。何者も男くんを真似できないわ、超越者なのだから」

男の娘「超越ね! うんうんっ、わかる、わかるよ オカルト研さん!」

不良女「あんたらこそ会話の超越者だよ、わかんねーよ……あ、おい」

男「何だよ?」

不良女「妹ちゃんに急に大人数で押し掛けて悪かったって伝えといてよ」

男「そんな事一々気にする奴じゃないぞ。大丈夫だろ (いや、かなり気にするだろう。妹は人見知りも激しい)」

不良女「そうかなぁ? ほんとなら、あたしが直接言った方が良いんだろうけど、あの子結構緊張してたから……うーん」

男(十中八九、美少女たちの突撃訪問によって二階へ追いやられたのだろう。不満気にしていた原因の一つか)

男「懐くと可愛いもんなんだけどな、アイツも。心開くまでに時間が掛かるらしい」

不良女「ほ~! まんま昔の男じゃん、やっぱ兄妹なんだな。フフッ」

男(美少女ならばコミュ症も武器になるが、男でブサイクの場合では情けも掛けられないレベルである)

男「しかし、お前らも大袈裟だな、一日サボったぐらいで。迷惑かけてたのは素直に頭下げたいけど」

不良女「下げるなよ、気にすんなって。終わった事引き摺ったって面白くないだろ? 転校生のデコピンで終わったし!」

男(なんと気持ち良すぎる美少女か、この甲斐甲斐しさよ。そんな彼女は俺を叩いて微笑み、肩へ手を回してくる。良い匂いが、鼻孔を突き抜けたと思えば)

不良女「落ち着いてからでいいから、あの子にも声掛けてやりなよ。電話でも大丈夫だからサ」

男(不良女の言う、ここでのあの子とは 恐らく幼馴染だろう。彼女たちと共にこの家で俺を待っていなかったのは、そういう事だと想像がつく)

男「アイツは、今日一日中どうしてたんだ? いつもと変わりなかったか?」

不良女「作った弁当一つ余らせちゃったって、凹んでた」

男「……腹、一杯だったんだな」  不良女「その察しの悪さどうにかしろよ!?」

男(久方ぶりの鈍感に呆れた様子で、不良女は外で待つ三人へ合流していった。察しが良すぎても支障が出てしまうのが辛い立場だ)

マミタス「にゃん」

男「マミタスじゃないか。お前も俺と同じで家出してた口か? 最近見掛けなかったぞ」

マミタス「ぐるぐるぐるぐる」スリスリ

男「そうか、俺の脛こするよか柱に媚び売った方が有意義なんだな。マミ公が!」

男(マミタスことマミ公は、俺の言葉を受け流し、勝手気ままに動き回って妹の部屋の前に鎮座したのである。まるで開けろと言わんばかりのクソネコ態度だ)

男「妹に用事か? 奇遇じゃないか、お前が開けてくれ」

マミタス「にゃんにゃん」

男「やるか? ……猫畜生が人様を顎で使おうとしてるのが気に食わないんでね」

男(両者、譲らず。我に帰れば俺が虚しいばかりだが、意地があって、退けぬ負けられない戦いがあったのだ。無礼な居候には、どちらが上か示す必要がある)

男(今度こそ この俺へ懐いて頂こう、マミタスよ。現実でも引っ掻かれてばかり。……ずっとお前が好きだったんだよ、何故 この想いに応えてくれない?)

男「そーら、マミタス 高いたか――――ぁぁぁああああ目がああああっ!!!」

マミタス「ふっしゃあー!!」

男「上等だ、やっぱりお前皮剥いで三味線に変えてやるわ!! 余った毛はゴミな!!」

妹「人の部屋の前でいつまで騒いでるの、バカお兄ちゃんっ!!」

男「…………っふ、ふふふふ、ふはははははは……!」

妹「な、何? 何がおかしいの? いきなり笑い出して気持ち悪いんですけど!?」

男「いや、上手くいったと思ってな。俺もマミタスも自分からこの部屋の戸を開けたくなかった。そして、心が通じ合った」

マミタス「……」  男「そう、共同作戦だ」

男「作戦は名付けて“アマテラス”。お前はまんまと俺たちの臭い小芝居に騙され、自ら部屋の戸を開放してしまったワケだな……という事で邪魔す」

妹「おいでマミタスぅー。変人は入ってくんな、五秒数える内に失せろ!!」

男「じょ、冗談に決まってるだろ~? クラスメイトは皆帰ったから下に降りて来いって」

妹「もう寝るから構わないで! 大体 どの面下げて帰って来たのさ、あんな電話一本で済ませて……心配したんだよ?」

男「えっ」

妹「わぁああ~っ、何でもないから!! え、えっと、まず無事なのわかったし、あとは気にしてない!!」

男「そうか、じゃあ大丈夫と思って良いのかね。ありがとうな、妹」

妹「お、お礼言われる筋合い別にないんですけど……っ///」

妹「そんな事よりさ、お兄ちゃん。他に会わなきゃいけない人いるんじゃないのー?」

男「ソイツについてなんだが、さっきメールで連絡してまだ返事が来ない。眠ってるんじゃないかと思って」

妹「え? 家がすぐ近所なんだから直接会った方が早いじゃん。……何か、やな予感するけど……行けば?」

男「――――と、唆されて来たものの」

男(なんて、スムーズな場面展開を助ける様に、妹の言葉に従ってはみたが。思い返すと幼馴染宅へお邪魔した事がなかったぞ)

男(すなわち美化された彼女ら家族の顔も拝んだ試しが一度もない。天使ちゃんのお世話を頼んだのは、幼馴染である。俺からは直接何も……)

男「確か、父さんはアイツの母親を美人とか言っていたな。……人妻攻略?」

男(美人教師攻略以上に危険度も勝るがロマンがある響きが、全身を駆け巡っていた。兎にも角にも、家に入れるかどうかだ。それとも呼び出そうか)

男「こんばんはー。隣に住んでいる男という者ですが」

男(紹介されずともだろうが、俺としては初対面になり得るのだ。ここは丁寧なセールスマンの如しで)

男(……反応がないぞ。チャイムも押したのだから、留守でない限りは。ドアノブを回すと、鍵は掛かっていなかった)

男「えっと、お邪魔します。どなたかいらっしゃいませんか?」

?「あ、あーはぁ~い、少しお待ちくださいね~。いま出て行きますので~」

男(中からバタバタと騒々しい音を立ててチラリと顔を覗かせたのは、幼馴染じゃないか。唐突に他人行儀すぎやしないか? 俺に倣ったと?)

?「ごめんなさいねぇ、あ、あのぉ、丁度お風呂あがりで髪を乾かしてた途中だったもので~♪」パタパタ

男(廊下からこちらへ小走りで向かってきた幼馴染が、いや、彼女は幼馴染ではないぞ。何だこのオーラは。魔王級の圧倒的母性、アレは)

?「はぁ~お待たせしちゃってごめんなさ――――きゃ!」

男「ちょ!?」

男(美女の特攻、つまづいた勢いで俺へ真正面からぶつかり稽古である。後頭部に衝撃が走ったが、痛みを和らげてくれる前方の風船が、が、が)

?「やだっ、ごめんなさぁーい! あぁもう、私ってば……重く、なかったかしらー……///」むにゅうむ

男「……柔らかいです」

男(時間場所選ばず発動してくれる優秀なラッキースケベだが、癒しとともに、痛みを与えてくるのは相応の嫌がらせと考えて良いだろうか)

?「頭 ドアに打つけてしまいましたよね? そのぅ、お怪我は」

男「そ、そんな事より まず先に少し離れてもらえると助かるんですが」

?「えっ? きゃあっ! 何度もごめんなさい、わ、私ったらお客様にはしたない真似を……って、あれ? あなたもしかして男くん?」

男「一応、そうです。夜遅くに突然訪ねたりしてすみません、というか、お久しぶりです。挨拶まだでしたよね」

男(やはり幼馴染の母ではないか。とても大きな子どもを持つ女性とは思えぬ程、可愛らしく、美しい。幼馴染母と呼ぶには相応しくない、貴女は“ママ”さんだ)

男(それにしても、幼馴染とほぼ瓜二つではないか。双子と言われたら分からないレベルである)

ママ「男くぅ~~~ん!!」ぎゅうっ

男「ふぎっ!?」

ママ「こんなに大きくなって! 昔はあんなに可愛かったのに、すっかりお兄さん! もう~っ!」

男「く、苦しいですって! げへっ、げへへ! 」

男(父よ、あなたの目に狂いはなかった。鼻血が止まりませんよ)

ママ「遠慮しないで上がって行って♪ はっ、でもどうしよう! あー、男くん用に高いお菓子買っておけば!」

男「い、いや、お茶は次に来た時にでもゆっくり頂きますから……幼馴染は、いますかね」

ママ「このスリッパ履いてね~、フカフカのだから! うふふ!」

男「なるほど (聞いちゃいないと来たもんだ)」

男(童顔美女の親しい奥さん。憶測、というか決定だろうが、性格はおっとりでおっちょこちょい。例えありがちでも、素晴らしかった)

男(ママさんルートは勿論用意されているのだろう、神よ。無くともおまけで幼馴染と親子丼を楽しめる日が、いかん、煩悩が喚いて渦巻く)

ママ「ずっと男くんがウチに遊びに来てくれるの待ってたんだよ? なのに、全然だったから!」

男「何だか、幼馴染がいつもこっちに来てるせいか、行く機会が中々なかったもので」

ママ「あーっ、ウチの子ばっかりに夢中になって! そりゃあ私の若い頃に似てるし、何でもそつなくこなしちゃうし、良い子だし……イジイジ」

男「お、お母さんも素敵なままで驚きましたよ!! 幼馴染にお姉さんがいるかと思っちゃいましたし!」

ママ「きゅーんっ……!///」

ママ「口まで達者になっちゃって、私どうしたらいいの~!? きゃーきゃー!///」

男(所々で幼馴染の血の元が垣間見られているような、ないような)

男「実は幼馴染に話があってお邪魔したんですけど、今って都合悪そうでしたか?」

幼馴染「何、男くん?」

ここまで。次回は金曜日

幼馴染「適当に座って。あんまり広い部屋じゃないから、人呼ぶのいつも躊躇っちゃうんだよね」

男(其れと無しにだが、足を運んで欲しくはなかったと。とてつもなく気兼ね満々で案内された時点で予想はついていたが)

男「……体感じゃ俺の部屋よりも広いと思うけれど」

男(そう、無駄が全くと言っていいほど無い室内だった。加えてコメントするならば、味気が無い)

男(ベッド、とりあえず安価な絨毯が敷かれてあるだけ。一切の生活感を漂わせない、人を排除されたモデルルームだ)

男(疑問を口に出す事を躊躇ってしまう光景である。あの幼馴染が? 大抵女子の部屋に案内されれば期待と興奮で一杯になるものだ、予想斜めに裏切ってくるとは思わなんだ)

幼馴染「ここ、ほら、男くんの部屋と丁度真正面なんだよ。カーテン開けてたら覗けちゃう、ふふ」

男「!! あ゛っ……お、お前覗き趣味とか良い性格してるな」

幼馴染「うん。ずっと憧れてたんだよね、窓越しに男くんと話するのとか。だから無理言ってお部屋変えちゃった」

幼馴染「まだ模様替えとか済んでないから、居ても面白くないよねぇ」

男「……」

男(様子見がてらに顔出したら最初からクライマックスだなんて笑えないだろう)

幼馴染「……なーんちゃって! あはははっ、男くんなんて顔しちゃってるの!」

男「は、は?」

幼馴染「えへへ、実はただの倉庫代わりのへーや。このベッドとか買い変えた時に処分に困って、置きっぱなしになってて……」

男「じゃあ絨毯は何なんだよ! 倉庫代わりならわざわざ敷く必要ないだろ」

幼馴染「えぇ~っと、ね……あたしの部屋、ね? 結構……散らかって、たり、しちゃったり、なんかしちゃってたり……」

男(モジモジと両手を遊ばせながら、目を泳がせる幼馴染に結論を急かせば、半ば逆ギレ気味で言うのだ)

幼馴染「あーもうっ!! こんな時もあろうかと用意してただけ! 普段友達も家にあげないんだもん!!///」

男「お前まさか、事自分に関しては雑で、部屋も片付けられない干も」

幼馴染「ち、違うの! 物が多くなっちゃって、面積少なくなってるだけだから! 男くんよりはマシっ!!」

男「よし、やり直して玄関からそっちに案内してくれ。証拠を抑える」

幼馴染「抑えさせませんっ!!/// ……こんな事なら掃除しとくんだった、はぁ」

男「あれ? でもお前の部屋って俺の部屋の丁度向かいになってるんだって、前に」

男(……前に……前に、前に? 引っ掛かっている。俺は、それ以前に彼女の口から――)

『あたしと男くんの部屋が向かい合わせになってたらどうなってたのかなぁ~と』

『ふと窓から顔を出して二人だけの会話してみたり、ま、窓から窓へお互いの部屋を行き来してみて最終的にあ、あ、あんな事やこんな事がっっっ!!///』

男「おい……さっきお前が言ってた通り、この部屋が俺の部屋と真正面の位置だよな?」

男「この部屋だけしか、真正面にならないと思うんだが……幼馴染の部屋って」

男「……俺の部屋と向かい合ってた筈、だよな?」

幼馴染「え、何が?」

男「何がじゃなくて、この前お前がそう話して――――たっ、け」

男(聞かされた、気がするような、しない様な、釈然としない。ただ俺はその認識で昨夜も幼馴染からの直接の監視に怯えて)

男(……警戒したつもりで、何故自室の窓へわざわざ目立つ梯子を掛けていたのだ?)

男「へ、変だな。ていうか梯子なんて何処で買った? そんな物買いに行く暇も足もなかっただろ。宅配にしたって……」

幼馴染「お、男くん、頭痛いの? 急に唸ったりして」

男(梯子? 昨夜? 昨日の晩がどうした。幼馴染に対して何を警戒する必要があったというのだ)

男(待ってくれ、俺はどういう経緯を経て幼馴染を尋ねている? 何故様子見に? 謝りに来たという事だけは理解していたつもりなのだが)


― 不良女の言う、ここでのあの子とは 恐らく幼馴染だろう。彼女たちと共にこの家で俺を待っていなかったのは、そういう事だと想像がつく ―


男「そういう事だって何だよっっっ!!?」

≪   修 % @ ” ☆ × な っ 0  ≫

男「!!」

≪      _  “正  が  必  ヨ  う  &  =  ッ  た      ≫

男「ひっ……!」

男「――――――ん、んぅ~~~……え?」

幼馴染「あっ、男くん……目覚ましたね。良かった、大丈夫?」

男(気が付くと、先程の部屋と打って変わった美少女臭の蔓延した部屋のベッドに寝かされていた)

男(幼馴染にワケを訊くと、いきなり俺が過呼吸を起こして気を失ってしまったらしい。恥ずかしいエピソードは増えるばかりである)

幼馴染「意外と早く回復しちゃったから安心したよ。例の病気が関係してるかと思っちゃったから、ほんと、良かった」

男「幼馴染、俺って昨日たぶんお前に酷い事言ったか、したよな?」

幼馴染「え? うーん……酷い、っていうか、人生始めての、ケンカだったからね、あたしと男くんの」

男「ケンカ?」

幼馴染「うん。思い返したら、そうでもないんだろうけど、あの時はお互い引くに引けなくなっちゃって……それで」

幼馴染「それで、男くんが家を飛び出して学校にも来なくって……え、えへへ、ごめんね」

男「ケンカの内容は?」

幼馴染「も、もう止そうよっ 終わった事穿り返したって嫌な気分になるだけだもん!」

男「でも、俺が家を飛び出すほどだったんだ。相当の大騒ぎじゃない限りは」

男(家を出たあと神と遭遇し、天使ちゃんに真実が伝わったのは覚えている。それから彼女を連れ回したことも)

男(しかし……何を考えて、策を張ったつもりで、廃病院へ入ろうとしていたのだろう……)

ここまで

男(しつこく問おうが、幼馴染は昨夜の出来事を話してはくれなかった。本当に些細な口喧嘩だったと一点張りを崩そうとはしない)

男(覚えていない俺側にも問題はあるのだろうが、まず昨日の今日で記憶にないという意味不明さに自分自身困惑している)

男(やれやれ、酒に呑まれて帰って来た父を思い出す。財布落として来て大騒ぎしていた事もあったなぁ、財布、あっ)

幼馴染「男くん?」

男「名無しの奴にお金借りてたんだったよ……明日忘れないようにしないと」

男「悪い、幼馴染。結局仮眠しに来ただけになったけど、そろそろ帰らなきゃ」

幼馴染「大丈夫なの? まだフラフラしてるけど」

男(曖昧でぼやける記憶を探っている内に、意識まで釣られた気がする。脇からこの重たい体を支えた幼馴染は、もう少し休め、とベッドへ俺を無理矢理降ろした)

男「おいおい……さっきまではあんなに自分の部屋に来られるの嫌がってたくせにコレか」

幼馴染「じ、事情が違うでしょ。さすがに休めると言っても倉庫じゃ寝かせられない」

幼馴染「……それに、ちょっと悪くない雰囲気だもんね、んふふ~♪///」

男(頬を染めるな、頬を。だが、美少女幼馴染の看病は嬉しい。放っておくと襲われそう、そんな羅刹との表裏一体感はある)

幼馴染「ところで、今日まだ一度もご飯食べてないでしょ」  男「そうでしたっけ?」

幼馴染「えぇ、自分の事ぐらいは覚えててよ……もう、だから倒れちゃうんだよ。だらしないね、男くんは!」ツン

男(窘められてこの多幸感。この幼馴染家の血を絶やせば、世界は争いでマッハだ)

幼馴染「そのまま横になってて。あたし簡単な物用意してくるから!」

男「こんな時間に食ったら太るってお前よく妹たちに説教垂れてたぞ、肌にも悪いって」

幼馴染「顔色悪いままにさせてる方が悪いよ、男くん。気にしなくていいから休んでいなさ、ん?」

男(唐突に口を止め、足音というか気配を殺して部屋の扉の前に立った彼女。なるほど、大体わかった)

幼馴染「……お母さん、何してるの?」ガチャ

ママ「ひんっ! え、あっ、わ、私はあなたのお母さ~ん♪ あなたは私のかわゆいむ・す・め~♪ るんるんっ」

幼馴染「……何してるの」

ママ「しゅん……」

男(潔く白状したママさん、扉に耳を当てて会話を盗み聞きしていたそうな。いけない奥さんだ、娘の前で正座させられている)

ママ「でも本当はお茶とお菓子持って来たんだよ? ただ入るタイミングが中々なくって~」

幼馴染「だからって盗み聞きはダメでしょ。男くんにもしつれいだよ」

男「そう言うな。わざわざありがとうございます、ママさん。すぐに帰ろうと思ってたのに、ご迷惑でしたよねぇ」

ママ「帰っちゃうの!? やだやだっ、泊まっていったら? それともウチの子になる? きゃっ、婿養子~!」

幼馴染「お母さん!!」

ママ「ひゃい……」

ママ「そ、それよりお菓子どーぞっ! 天使ちゃん用に色々蓄えてて正解だった♪ いえ、正解だったのです!」

幼馴染「お母さん今年でいくつ?」  ママ「む、娘が辛辣なのです…」

男(親子の立場が逆転していて、なおかつ娘に手綱を握られている始末。王道を往きすぎだろう)

幼馴染「ごめんね、ウチのお母さん本当に男くんのこと気に入ってるみたいで。まったく!」

男「なに、我が家の父さんでお相子になる (相殺とまではいかないが)」

ママ「ところで男くんは幼馴染ちゃんとどこまで出来てるの? あ、たべっ子どうぶつで良かった?」

男「やっぱりラクダは最後に食べますよね、奥さん」

幼馴染「お母さんっ、お菓子食べながら平然と会話に混ざってこないで!!///」

ママ「え~、だって気になる……昔からあなたたち仲良しだったから、行くとこまで行っちゃったのかなーと」

幼馴染「行ってない!! お、男くんからも何か言って、誤解されちゃう!」

男「え?」

幼馴染「そこはちゃんと聞いてて欲しかったんだけど!?」

ママ「うふふ、男くんになら、ウチの幼馴染ちゃんも安心して預けられるんだけどなぁ。お付き合い、してるんでしょ?」

男「はい」

幼馴染「わぁーわぁーわぁ~っ!!!///」ブンブンッ

ママ「ん~、やっぱりデキてました、ね! ふんふん、なるほど。男くん、教えられるトコまでお願いしていい?」

幼馴染「だめぇーーっ!! ダメなの、だめっ、プライバシーの侵害って知らないのお母さんは!?///」

ママ「そんなに顔真っ赤にしちゃってかわいい子なんだから♪」

幼馴染「っう、あぁ~~~!!///」

男(形勢逆転、だと? あの幼馴染が俺以外の人間に押し込まれているのは貴重だ。やはり母は強しか)

ママ「でもね、私はあなたたちのこと本当にお似合いだと思うな。自慢の娘だから大切にしてあげてね~?」

男(遊びで終わると勘付かれたら刺される重たさを感じてならない)

幼馴染「はぁはぁ……そ、そろそろ男くんと二人だけになりたいんだけど、いいよねっ?」

ママ「まぁ! ……あらぁー///」

幼馴染「もういやぁー!!」  男「お前若干転校生インストールしてるぞ」

ママ「ふふっ、了解。それじゃあ邪魔者は退散しまして、あとはお若い二人にお任せしちゃいましょうかー」

男「ママさんも十分若く見えますけどね」   ママ「きゃあ! もっと、もっと!」

幼馴染「早く出て行って!! ……あぁ~、ごめん。本当にごめんなさいだよ、男くん」

男「何というかあの人 片鱗はあるよなぁ、お前の」

幼馴染「本気で怒るからね!?」

男「あれで純粋そうな上に子どもっぽくて、それでいて美人は卑怯だな」

男「一々リアクションも可愛くて、料理も上手いんだろ? お嫁さんに貰ったら最高の人生かもなぁー」

幼馴染「……そんなにお母さんが好きなら、お母さんと付き合えば良いじゃん」

男(悪くない反応だ。心身疲弊し切った今の俺には最高の可愛い嫉妬である、可哀想だとは思うが)

男「お前も将来はママさんみたいな人になるのかな? へへっ」

幼馴染「親子だからって一緒にしないでよ、男くんのわからず屋!」

幼馴染「もう知らない! いつでも帰れば!? ばかっ、男くんのばか……!」

男「い、いつにも増して子どもっぽいな、お前……」

男「何か勘違いしてるから言っておくけど、別に俺は幼馴染とママさんを比較してるんじゃないぞ」

男「俺はお前だからこそ好きになれて、恋人になりたいと思えた。ママさんのは、その、憧れに近いみたいな」

幼馴染「……だから?」

男(枕に顔を押しあてていた幼馴染が、こちらへ興味を示す。これぞ飴と鞭、とまではいかないが、バカップルの愛の表現ロードまでの道のりよ)

男「幼馴染こそ、さっきはどうして俺たちの関係否定しようとしたんだ?」

幼馴染「そ、それは、だって、お母さんに知られたら面倒になるかもしれないって」

男「そんな事ないだろう。あの人は快く俺たちを応援してくれた、違ったかよ?」

男(俺が語りかけるたび、しおらしく変化していく幼馴染。彼女にとってホームグラウンドこそ唯一の弱点だったのだ)

男(ママさんの存在は幼馴染にとっても大きい。それ故に)

幼馴染「男くんのせいで、お母さんにバレちゃったんだ……どうしたら、いいの///」

男「堂々としてたら良いんだろ、どうもこうも、単純じゃねーか」

幼馴染「あっ……」

男(ママさん、そしてお父さん、ごめんなさい、ありがとうございます。貴方たちの大切な娘さんは今宵 不埒者に穢されるかもしれない)

男(せめてもの手向けとして心を込めて一言、「頂きます」。幼馴染の火照った顔が近づいた、否、近寄っていたのはこの俺である)

男(熱を帯び、震える吐息のかかる距離まで。甘美な一時を飾るべく、空気を読んだ周囲は、やけに大人しい)

男(月は出ているか? ……たとえ満月じゃなかったとしても、男は狼になれる。必殺のサテライトキャノン受け入れよ、美少女)

幼馴染「お、男くん、携帯鳴ってる」

男「鳴らせとけ。あとで掛け直せば許してくれるだろ、夜なんだから」

幼馴染「男くんのじゃなくて、あたしの携帯なんだけど……ちょ、ちょっとごめん!」バッ

男「……チイッ!! (現在の俺を例えるならば噴火一歩手前の山である、二重の意味で。幼馴染の手から携帯電話を奪い取ってやろうかと強行し)」

幼馴染「はい? もしもし…………えっ」

男(えっ、とは何だ。非通知の相手ならば、まず状況的に無視の一択だろうが、迷わず取ったのなら彼女の知り合いの内の誰かだろう)

男(開口一番に意外な言葉を聞かされたのか? それにしても、幼馴染は沈黙のままである。普通ではない)

男「(というか、必死に何かを聴き取ろうとしていた。先程までの浮ついたムードの影響など欠片も残らない程に) どうかした? 誰だ、俺が変わろうか?」

男「幼馴染、おい、大丈夫かよ。様子が変だぞ」

幼馴染「……」

男(普通じゃない。そろそろ驚きか、涙を流すかの反応があっても遅くはないだろう。誰だ? 誰からの着信に彼女は応じた)

幼馴染「――ィレタ」

男「え? 何だってっ?」

幼馴染「ハイレタ」

男「幼馴染?」

幼馴染「ハイレタハイレタハイレタハイレタ」

男「お、幼馴染っ!? 何なんだよ、どうしたっていうんだよ!! おいってば!?」

幼馴染『なんちゃってー』

男「!! …………だ、誰だよ、お前」

幼馴染『――――――愚問ですね、人の子^^』

ここまで

男「あなたは神……神サマでしょうか? 神さま?」

男(愛しい後輩とはベクトルが大きく曲がり異なる悪戯好きなあのお方。否、性悪の化身にして死を司る)

幼馴染『あなたって私を尊敬しているのでしょうか。あるいは侮辱の対象か、軽々しい』

男(神の話相手など一ヶ月に一度でも多いぐらいだと俺は思っている。あなたは牛脂をおかずに飯をお代わりできるか?)

男(すぐそこにいる筈の幼馴染が、幼馴染ではなくなっていた。無機質にも思える笑みが彼女の存在を否定していたのだ)

幼馴染『お人形を操る程度この神にとっては朝飯前です。申し訳なかったですかねぇ』

幼馴染『せっかく、燃ゆるひと夜をお楽しみ頂けそうだった手前……申し訳ない^^』

男「本当にすまないという気持ちで胸一杯なら、まず土下座がジャパニーズ様式美でしょう」

男「肉も骨も焼く鉄板はないが、とりあえず謝ってくれないか!! そうでないと泣く事も叶いませんっ!!」

幼馴染『そう……ではご覧なさい、色欲に捉われし者』

幼馴染『この娘のおっぱいを揉んで差し上げましょう。ご覧あそばせ、あっ、あん』モミモミ

男「おぉ、おっぱっ、ぶっ殺すぞッッッ!!!?」

幼馴染『野蛮ですね、恐ろしい^^』

男「いくら神といえども、そいつの体を好き放題弄ぶ事は黙って見逃せないな……おい、何のつもりだ。ド変態」

幼馴染『好きですね。そして実に愚か者ですね、あなたという小猿は^^』

男(この場に包丁の類の凶器が備えられていたならば、あっという間に首を掻っ切ろう。神を? 違う、自分自身である)

男(困らせてやるのだ。コイツはこの世界で俺が自滅へ走ることを恐れている、世のメンヘラ女性もドン引きな華麗な自殺パレードを披露すれば)

幼馴染『私があなたの大好物に精神を移しているのが気に食わないのですね』

男「おぉー、さすがは神サマ!! タイミングがおかしいだろうっ。わざわざ幼馴染の身体を借りる必要があるか……」

幼馴染『必要があったからこそと考えられぬのですか?』

男「……」

男(必要だった、だと。俺と幼馴染との非健全なラブシーンを強制カットしようとした為だったというのか)

男(――――あるいは、もしくは、なぁ 神よ)

男「こんな、美少女の身体を乗っ取って俺とやり取りし合った事なんて一度もなかったでしょうに」

幼馴染『はぁい^^』

男(嫌がらせと考えてしまえばそこで終わってはしまう。しかし、今朝もその前も、あの時だって、コイツは水を差す真似だけはしてこなかった)

男(神の訪れ=ナニカ。ナニカなど今更説明のしようもない。確信に迫る、だ)

幼馴染『頭の熱が、少し収まってきたようですね。ならば』

幼馴染『ん~ よくわかんないけど暑いね、男くん……脱ぐ? 見ちゃう?///』チラッ

男「見るに決まってるだろ、早くしろ」

幼馴染『やぁーん!! 男くんの%ッN/>/』

男「えっ、何だって? ……え?」

幼馴染『あらあらあららー、どうしようもありま(んねぇ。こ※w¢たしですら� 」リ」ル」レ七 而耳自蒔・ゥ^』

男「お、落ち着いてくれ。あんたが何を言っているかサッパリ理解できない」

おs名時m{そ"*稠ー*トシ*C2ヌヨャ*・・9ソ繝+・]、A・レ广Y&ゥンヤ渹メェ*:*貊Lるんです』

男「……不味いのか……ひょっとしなくても…………」

おさなじwくぁえdsfv『^”」

男「…………神、何があった」

男(全神経を集中させたつもりで、神の言葉へ耳を傾けてみた。難聴スキルによって齎された従来の聴覚妨害とはまるで異なる)

男(支離滅裂とでもすべきだろうか。鍛え上げられた観察眼を通しても、無意味。接触自体を阻まれている気がしてならない)

んfd『W'たピ―――――介にゅウピ――――――ガ――――――――』

くぁえrf『ピ―――――――――――』

男「すまんっ、もう一回話してくれ!!」

男「あんたが俺に大事なことを話してくれようとしているのはわかってる、聴き取らせろ! 神よ!」

ddふぁsvいb’」『;ャHソ彌、宇ク kを頼ヘUす、9f。 ∴」蒐8』

さdfgf『ァR1<限*或鋳カ1・……**C敢h・*I墲ホン腮+A・・……』

男「神……」

男(コイツは重大な何かを俺へ報せ様としてくれている。確信には至らないが、直感が訴えている気がしてならないのだ)

男(神は何故このタイミングで現れた。何故幼馴染の身体を使ってまで俺の目の前に現れたのか。この異常事態は)

男(……俺は、どうして幼馴染を襲おうとしていたんだ?)

男(不意に思考を横切った用語があった、『ルート固定』。いつぞやにも同じ様にして幼馴染に気を惹かれた覚えがある)

男(彼女に限った話ではないが、これまでは未来の俺からの接触、洗脳によって固定化の回避が出来ていた)

男(またある時は、天使ちゃんの嫉妬によって。意識を取り戻すと同時に、先程までの自分が何が何だかワケがわからなくなってくる)

男(俺は、神に救われたのか? あれほど幸福を抱いて溺死しろと耳煩く語っていた死神が?)

男「神さま!! あんた色々どうしたっていうんですか!?」

g『dhvkbfぃお'4"V\→縺ァ縺ゅk縲Vなさ%。もうコレどうしよ&m'ないで.~ねぇ、』、お聞き;さい』

≪  抗お#と感じた@らば、¥レを否定Ⅱさい  ≫

男「え?」

幼馴染「あえ? ……あっ、男くん。ど、どうしたの、手なんか握ったりして……///」

男「…………ふむ」

また明日

あ、ちなみに神は特に容姿の設定決めてないんで読み手の想像にお任せ
だから女の子って設定も一切してないわよ

妹「――――お兄ちゃん、お兄ちゃん朝だよ! 起きないとまた遅こ、うぅうえ゛えぇぇ~っ!?」

男「何だ、朝っぱらからボケた面して。お前の人生楽しそうだな」

妹「あちゃー、今日は鍋のフタ持ってった方がいいかな……雨の代わりに槍が降ってきそうだ……」

男「あり得ん大災害の予兆を感じ取るな、自分の兄貴で」

妹「だってだって、あのお兄ちゃんが自分で起きてるとか信じられないよ! なんか、超ダメ人間卒業するの!?」

男(一流アイドルが今朝の新聞に引退と見出しに大きく載っていたみたいな仰天ぶりに、むせる)

男「アホの子ねぇ。一々付き合ってられませんな、騒々しい!」

妹「や、だって!」

男「ていうか、時間ならまだあるだろ? トースト齧りながらコーヒー二、三杯おかわりしてても余裕たっぷりに」

妹「今朝は焼きおにぎりにするって幼馴染ちゃん言ってたけど……」

男(違う、そうじゃない。なんて、愛あり、ラッキースケベあり、極楽波乱万丈の朝には相応しいスタートが眩しい)

男(思い返せば、謎にさえ深入りしなければ与えられた幸福に結果を得て、悠々着地していたのだろう。このブラックボックスにご満悦で)

男(そんな事なんぞどうでも良いぐらい、朝食は美味かった)

幼馴染「わざと早めに起こそうとしてたのに、自分で起きてたとかまさか誰も思わないよねぇ」

妹「ねー?」  男「とことん天邪鬼だよな、お前ら」

天使「自分、今日はママさんと海釣りに行ってくる予定なんです。大量のマグロを期待して帰って来るとよかろうなのです、エッヘン!」

妹「三十日ぐらいウチに戻る予定ないってこと?」

天使「あっ、あとヤドカリいっぱい掴まえてくるから飼って良いですか、男くん!?」

男「一応、そいつらは誰が世話するんだ」  天使「餌なんて要らねーです。マミタス用の生け簀ですよ」

男(ロリ美少女は今日も無邪気に笑うのだ。バケツの中で次は自分の番だと震える捕虜を想像して、実にサイコパス)

幼馴染「お母さんがしっかり見ててくれるから心配いらないとは思うけど、怪我しないよう気をつけてきてね?」

天使「はい! あ~タコ見れますかねぇ、切り身の刺身は泳いでますかねぇ~!」

男(そんな、楽しそうに体を揺らす天使ちゃんを見ていると、俺も自然と微笑ましさを感じてしまう。昨日の事などウソのように元気である)

男(腐ってもこの子の父親は……逃れたいという意識が残留したままの俺は、この先どうすれば良いのか)

妹「ふっふっふー、文化祭、あと片手で数えられるぐらいまで迫ってきたねー お兄ちゃん」

男「お前は始めてだから楽しみにしてるんだろうけど、結構碌でもないと思うぞー。俺は終始鼻で笑ってる」

幼馴染「もう、捻くれすぎ……妹ちゃんのクラスはお化け屋敷やるんだって? ふふっ」

妹「そう、そうなの! 私井戸から這い上がって来るからねっ! ぜ~ったい、お客にウケる!」

男「どこから二番煎じネタが絶賛される自信が沸き立つというのか。そして軽いネタバレで、当日は反応に困ること必須である」

男「っべー、心の声ダダ漏れしてるー!」  妹「お兄ちゃんうっざ!!」

男(ゆるゆるダラダラと、それでいて忙しない登校を終えた俺たちはそれぞれのクラスへ向かい始めた。行きがけに幼馴染が傍まで寄って来ると)

幼馴染「やる気ないからって脱走計画企てたりしちゃダメだからね?」

男「心配するなって、幼馴染クン。こんな事もあろうかと鞄の中は暇潰しグッズでパンパンさ」

先生「ほー? 没収上等で持ってきた勇気だけは評価してあげなくもない」

男「ちょ! (と、いつのまに現れた先生が背後から俺の鞄を奪って満面の笑みを浮かべていた。幼馴染は、いない。ニュータイプ並みに勘が良い奴め)」

先生「一日振りだね、男くん。ちょっと背伸びてる?」

男「そこまで目まぐるしい成長しませんよ、巨人になるわけじゃなし」

先生「はいはい! とりあえず帰りのHRまではコレは預かっておきます、暇潰すなら皆に協力しなさいな、少年?」

男「殺生な」

先生「そう言ったって自分がいけないんでしょ? ……うふふっ、変わりなさそうで安心した。良かった」

男(その呟き、一教師としてでなく、雌の香を放ってやしないか。なんて、心でニヤついた自分が心底気持ち悪いぞ、俺)

先生「ところで愛好会の方は調子どうなの? あんたたち、何にも準備してなさそうな気がしてならないんだけど」

男「凄いな、先生って何でも知ってるんですね! 流石!」

先生「先生冴えまくり~!! 今日の放課後、全員楽しみにしてなさいね ラーメンズ」

男「その呼び名は止しましょうよ、先生……」

先輩「で、不安に感じて部長のわたしに縋りに来たのだねぇ。男くん部員や~!」

男「縋るというか予定の確認だったんですけれども」

先輩「だいじょぶだいじょぶ~、何とかなるって。わたしたちラーメン愛好会はいつだって越えられない壁に向かって突撃してきたんだし!」

男(そう言われても、特に思い当たる節はなく、あっても返って玉砕覚悟のイメージが先走るラーメンズである)

男「でも、前以った準備ぐらいはしておいても悪くないじゃないですか。ぶっつけ本番よりは」

先輩「カップラーメンにお湯、紙コップにウーロン茶注ぐだけのコスプレ喫茶に準備とな……っ?」

男「訊いた俺がバカだった (現実問題、売り物のカップ麺を使って金を取るなど言語道断、とはしても、現実の文化祭も業務用フライドポテトを買ってあげるだけの簡単なお仕事だった)」

男(しかし、喫茶店でラーメンを提供は前代未聞かもしれないな。サ店に行くぜと意気込んだシルバー巻いた人も沈黙しそうだ)

男(……それより、どうした事か。先輩を見ていると悪い意味で胸がざわついてくる。原因不明の動悸までも)

先輩「んー? 急にわたしの顔見つめてどうかした? 胸まで抑えちゃったりして」

男「な、何ででしょうかね。俺にもよく分からないんです……ドキドキ、してるみたいな……」

先輩「えぇ~!? お、男くん、わたしに恋しちゃってるんじゃ……///」ギュッ

生徒会長「袖を掴むな、袖を」バッ

先輩「お……お邪魔虫いぃ~~~っ!!」

生徒会長「フッ、友人としては 女の顔をしている君を見るのが一番気味が悪いものでね」

生徒会長「さて置き、男くんの言う事には賛同せざるを得ない。どうにも私たちは怠け過ぎているしね」

先輩「ムっキーッ、何この子平然と混ざっちゃってるの!! 物申すみたいな顔して男くんとわたしの世界に割り込んじゃって!」

生徒会長「面白い冗談を言える口になったじゃないか、君」ムニムニ

先輩「ほ、ほっへは……んう、褒められたって嬉しくなんか、デヘヘ、ないんだからねーっ!! あ、今の転校生ちゃんの真似だよ」

男「とりあえず二人揃うとコント挟むのってお決まりなんですかね」

先輩「おやぁ? もしかして一々寒いとか思っちゃってる? オーディエンス冷え切ってるかい?」

生徒会長「安い芝居にも程がある。まぁ、男くん、続きは放課後にするとしよう」

男(彼女の一言でラーメン愛好会朝の部はお開き、と思いきや、三年の教室を出た矢先 肩を掴まれた。ロングヘアーの黒髪が頬をくすぐる美少女)

男「続きは放課後だったんじゃ?」

生徒会長「他ならない男くんへ相談があってな」

男(背後を、先輩を気にするようにして生徒会長は俺を人気の無い廊下へ連れ去るのだ。ここで、もしも、を期待するよりも、落ち着きを保ったままでいられる己の成長ぶりが恐ろ)

生徒会長「――――あの子を、今我が家に泊めているんだ」

男「はい?」

生徒会長「あ、あぁ、単刀直入で済まない。余計な前振りなんて、君には不必要かと勝手に思い込んでしまっていて……参ったな」

生徒会長「実は、昨晩 彼女から泣き付かれてしまって……家出の協力をしてしまっているんだ」

男「家出だと?」

男(事の流れは至って単純、在り来たり、些細から生じた親子喧嘩に先輩が家を飛び出て生徒会長へ助けを求めた、と)

生徒会長「私としては泊めておくに関して困りはしていないが、あの子自身の問題がね……妙なところで昔から頑固なんだよ」

男(確かに美少女一明るく、太陽のような彼女は、その影を背負ったみたいに繊細で脆い部分を持っている、という設定)

男(シリアス重視ならば、過去に悲劇を抱えた薄幸の美少女的な。まぁ、あのけた外れな活発は悲壮を連想させる隙も与えていないが)

生徒会長「あの子は誰よりも今を生きていて、人との出会いを大切にしたがる。だからこそ 今から生じた蟠りや複雑に打たれ弱い一面があると思うんだ……」

生徒会長「難しいヤツさ。多感というか、自分のペースへ人を巻き込みたがるのも先手を打ちたいが為だろう」

男(何だコレ、俺はいつのまに先輩ルートへ突入したというのだ――――というか)

『えぇ~!? お、男くん、わたしに恋しちゃってるんじゃ……///』

男(あの時確かに恥じらいで頬を染めた彼女の台詞を、何故 難聴が妨害していなかった)

生徒会長「ふぅ、一方的に話されて退屈だったかもしれないな、男くん。だが、相談の内容は大体察してくれただろう?」

男「ようは生徒会長の家からタダ飯食らいを追い出す手伝いをしてくれって事ですね」

生徒会長「! ……相変わらず、君は気持ちが良い男だよ」

男「放課後を楽しみにしていてください。今度は 生徒会長。あなたが先輩を突き動かすんです、俺と一緒に」

男(……先輩、俺と何かあったな?)

ここまで

>天使「餌なんて要らねーです。マミタス用の生け簀ですよ」


ブラックジョークがそこはかとなく男くん譲り

生徒会長「フフ、そうか、やはり君は頼りになる。私が最も信頼を置ける人間だよ」

生徒会長「おまけにこの私を釘付けにしてくれている……初恋の」

男「急にブツブツ言って、どうかしました?」

生徒会長「ん? あはは、いや、特には……聞こえているくせに、ズルいぞ///」

男(思わせ振りな呟きに面食らってしまった、ある種の嫌味だと気づいてはいたが。遊び心を知ったクール兼堅物キャラは最強か)

生徒会長「おっと時間か、出来れば楽しい会話を弾ませたまま過ごしていたかったが、あの先生から叱られるとなっては君も勘弁だろう?」

男「早速少し前に圧掛けられてきた後なんですけどね、生憎」

生徒会長「圧というか、彼女の場合は活だろう? ……男くん静かに」

男「はい?」

生徒会長「そこの、陰に隠れて私たちを監視している者へ告ぐ。コソコソされては面白くないんでね、姿を現わして貰おうか?」

不良女「わぁ~、あたしだよ、あたし! 別段監視とか大袈裟やってないから!」

男「(言いつつ登場したのは両手をあげて降参ポーズを取る不良女。ヘラヘラと近付いてきたと思えば、俺を鷲掴み、チョークスリーパーだ) た、たぶん 当たってるんだが」

不良女「多分って何だよコラ!?/// おい、いきなりで悪いけどコイツ借りてくからさ、ヨロシク!」

生徒会長「あっ、おい待て!! 男くん!!」

男(制止を掛ける相手を誤っているぞ)

不良女「ふぃ~、アイツ諦め悪すぎっ! お陰で校舎の外まで逃げちゃったじゃねーか」

男「そこまで必死に付き合えるお前も生徒会長も、俺からしちゃあどうかしてるけどな……」

男(生徒会長に追われ、不良女with俺の逃避行はデッドヒートに、なんて軽口を叩くぐらいには余裕は残っている)

男(不良女の言う通り、現在俺たちは校舎の外、丁度 リアルで共に授業をサボったスポットで肩を揃えて息を整えている最中なのだ)

不良女「だって、あの女にだけは負けらんないだろ? [ピー]の意地っていうか、何つーか」

男「はぁ? よく分からんが、対抗意識燃やすのに赤の他人を巻き込むのは法度だろうが」

不良女「あ、赤の[ピーー]じゃ[ピーー]よっ! あんたは、あたしとアイツらのっ……何でもねーよ」

男「何でもないなら教室戻っていいか? HRに顔出さないだけでもあとが怖くて」

不良女「アホだなぁ、センコー怖くて不良気取ってられるかよ」

男(不良から遠い人間がその発言は浮いているとしか思えないのだが、体張ったギャグか)

男「それで、不良模範生が真面目な優等生さらって何を始めるつもりだ」

不良女「……[ピーーー]、なんだけど///」

男(糞スキルよ、訊き返すのもバカらしくなってくる頻度である。だが、彼女の頬の紅潮具合、カタコトな口調が俺に全てを察させて述べた)

男「ふぁ~~、やっぱまだ寝足りないな。なぁ、早く済ませて席につかせ――」

不良女「あ、あたしと放課後[ピーーー]に行こうっ!!」

男「……放課後に?」

不良女「そう! 文化祭の準備終わってからでも良いから、どうしても、今日が! ……い、良いんだよ///」

男(食い気味すぎる不良女、ならば先程聴き取れた「行こう」という提案は一つしかあるまい。終始言動から恥じらいで物語りたがる美少女よ)

男「何時になるかわからんが、今日しかないなら付き合うか」

不良女「テ、テメーッ、そんな生返事で返して良い事じゃ!!」

男「そんなにいい加減に聞こえるか。デートだろ、誘われてるなら拒むつもりなんて無いし」

不良女「うっ……///」

不良女「この野郎ッ!! 今ちゃんと聞いたからなっ、付き合うって言ったんだからな! 行くぞ、行くから!! [ピーー]!!///」

男「な、何朝っぱらから一人で張り切ってるんだよ、傍目じゃ見苦しい」

不良女「約束だかんな! 直前でやっぱり止めたとか抜かしたら[ピーーーーーーーーーーーーーーー]!」

男(興味本位に、いや、美少女を哀しませては真ハーレム形成主人公として出来損ないだろう)

男「楽しみにしてるから、それなりの所に行けるって期待してるよ。不良女」

不良女「えっ、う、うんっ!! じゃねーよ、何言わすんだテメェ!?///」

男(怒涛の後待ち予約イベントラッシュ、忘れるなかれ、俺には放課後に二つの予定が立った)

男(同時に嫌な予感も立った、気がしなくもない)

男「ああ、そういえば生徒会長と俺の様子をコッソリ見てたのって何だったんだ? 話し掛けるタイミング計ってたとか」

不良女「あー、アレは……」

男(自分の中で嫉妬かあるいは特に理由無くイベントからイベントへの発生を予期させるものだったのではと考えたその時だ)

「せんぱーい」

男・不良女「えっ!!」

男(聞き覚えなど有り余るほど、天使か悪魔か、悪戯チックに抑揚のつけたこの声。というか、発言で正解を語っていた)

男(唐突に降り注いだ声に俺たちは周りを見渡し、声の主をキョロキョロと探した。そうして見かねた彼女が)

後輩「上ですよ、うーえ」

不良女「って、誰だよ あの下級生……知り合い?」

男「まぁ、妹の友達で (なんて、なんて辺り触りない紹介だろう)」

後輩「ビックリしましたか? ごめんなさい、あの先輩が女の人と話してたから気になっちゃいまして」

不良女「あの、とか言われてるんだけど マジで妹の友達ってだけの顔見知りかよ」

男「……割と親しい仲でもあった、と自負してますがね」

男(一気に不良女の不信感が俺へ募る、そんな感覚を胸に秘め、階上で見下ろす後輩を睨んでみた。意味深に)

後輩「フフっ」

短いけどおそらくまた明日

男(不良女と別れ、平然とした面持ちで教室へ戻れば、先生が俺の座席を温めてくれていた、現在進行で。上に座れとネタを振っているとだけは思えない)

男「待って、お叱りの前に訳を尋ねてください。感動しますよ」

先生「戯け生クソガキ」

男(率直なコメント、だが、簡潔で気持ちが良い。それはまるで一口で美味と満足を覚える禁断の果実の如し、お願い先生踏んでくれ)

男の娘「わーい、男だ! 男ぉ、おはようっ! 男ぉ~!」ギュッ

男「そう名前を連呼されると気恥ずかしいというか、おはよう。そこの転校生も」

転校生「何がおはようよ、どうしてあんたってそこまで落ち着きない奴なワケ?」

男「HRに出席してなかっただけだろ。不良女だってサボってたんぞ?」

転校生「どうして今 不良女ちゃんの名前が出て……ふーん、二人で隠れて何かしてたんだ」

男の娘「それ本当なの!? ぼ、僕朝一で男に会うの[ピーーーーーーーーーーーー]、[ピーーーーーーー]」

男「お前ら勘違いしてるだろ? 偶然サボって歩いてたアイツとすれ違っただけだよ。何もなかったって!」

男(よくもまぁ思いつきの嘘が次々と出て来るな、自分にある意味感心する。そんなニヒルに浸っていれば、背中に覆い被さっていた男の娘が、耳元で)

男の娘「……ウソはダメだよね、男」スゥ

男「あひっ!?」

転校生「ちょ、ちょっと、男の娘くんも変態にベタベタしすぎっ! はいはい、離れてー!」

男(俺の聴き間違いでなければ、ゾッと立った悪寒は……転校生によって引き離された男の娘は、いつもと変わらぬふんわり穏やかな美少、ん、だった)

先生「あんたたち相変わらず仲良いねぇ、先生が入る隙ないじゃない。ぶー!」

転校生「……せ、先生」

先生「うふふっ、冗談よ冗談! だから君らマジ顔で引くなって」

先生「じゃあ用も済んだし、私は行くね。男くん、あと一歩遅かったら欠席扱いだったって事 肝に銘じておきなさいよ?」

男(はーい、とあえて間延びした返事で先生を見送り、再び男の娘へ視線を戻してみた、ら、目が合った)

男の娘「ん?」

男(キョトンと小首を傾げる動作が非常に同姓殺し、なんて今はどうだっていい。この教室に彼がいたのなら、俺と不良女のやり取りは覗かれていない筈だ)

男(では、あの一言は直感か出任せから? 男の娘は幼馴染に比べれば、腹の探り合いが得意なタイプではない。そんな彼が、何を)

転校生「さてと、変態、男の娘くん。文化祭まで時間も少ないわ。頑張らないと、ねっ!」グッ

男「何一人で燃えちゃってんの あの人、怖いねェー」

男の娘「あはは……結構単純なとこあるよね、転校生さんって。素直というか」

転校生「素直と単純の並び間違えてる!! どっちにしても酷いけど!!」

男「今日も冴えてるな、転校生……名無しは?」

男(口に出すまで存在を忘れていたことに今気づいた。そうだ、元々アイツが俺たちの仲へ付け込む隙は先生以上に、と)

名無し「やー、呼ばれたから来ちゃったぞと♪」

男(呼んではいないだろうが。何処で待機していたのやら、物の数秒も掛からずいけ好かない爽やかが吹いて現れた)

名無し「転校生、肩落とすなよ。男だって本番になったら本気出す予定なんだ、前座嫌いなだけなんだろ?」

男「文化祭その物が忌わしい。まず祭り事に人ゴミが必然じゃねーか、そこがベストに気に食わない」

男の娘「お、男がそうなら僕もそう思うことにする! 僕と男は一心[ピーーー]からねっ!!///」フンフンッ

転校生「まったくもう 深海魚の親戚みたいな奴よね、変態の上に。呆れる」

男「変態扱いで深海魚は侵害だ、誰にだって苦手はあるだろうが」

男の娘「深海魚ぉ……」

男「俺のこの面が、インスマスでポニョみたいだと言いたいのか!?」

名無し「まぁまぁ~! 男はデリケートなだけだろ。とにかく今日も皆で元気に準備、練習だな! やっていきましょーや」

男(この野郎、ここぞとばかりにメンツを仕切り出しやがる。ならば、俺もここぞとばかりに「先にトイレ済ませてから元気になる」)

男(ここで期待していたのは、男の娘の同伴だった。いや、恐らくは半ば強引にでも付いて来てイベントが、とばかり)

男「……ここは男子トイレだ、ってくだりはもう十分だろ? いい加減にしてくれ」

オカルト研「この空間は邪を纏う魑魅魍魎の気配が絶えないから」

男「男子トイレだよ?」

男(頼むからもう少し校内での出現ポイントを広げてくれ。排泄行為に美少女は必要か? ……うむ)

オカルト研「時に男くん。あなたの中に宿った悪霊、不思議と最近では大人しいわ」

男「大人しい? じゃあ今まではそいつ俺の知らない所でどんな悪事働いてたんだ」

オカルト研「上手くは言えないけれど……[ピーー]ぐる///」

男(何故恥じらったし)

男「よく分からんが、大人しくなったなら良い事だ。俺の生活がこれ以上脅かされずに済むなら」

オカルト研「甘く考えていては危険よ、男くん。身を滅ぼしてしまうわ」

男「お前の下手な好奇心の方が社会的に身を滅ぼしかねないが」

オカルト研「悪霊は男くんへ寄生し、復活までの気を蓄えていた。恐ろしい、遂に災厄の時が近づいてしまった」

オカルト研「あなたの中から解き放たれる悪霊は、全てを破壊する悪魔になる。何てこと……この世の終わりは加速するわ……」

男「ハッキリ分別されてないのが肝だな、悪魔なのか悪霊なのか」

オカルト研「悠長に構えていられる場合っ!?」ガッ

男「お、おい! 掴むなっ、用足した後なんだぞ!?」

オカルト研「男くん、私は真面目よ。その悪霊を放っておけばこの世界に住む人々皆が、犠牲になる。壊れてしまうの!」

男「俺の悪霊壮大な設定だなっ……!」

オカルト研「壮大なんて生易しい表現よ、あなたの中にいる、いいえ、あなたは何もかもを破滅へ導く担い手になってしまう……」

男「お前、さっきは大人しくなったとか言ってただろ! このまま沈下する流れじゃねーのかよ」

オカルト研「違う。違うと思う……男くんが引き金に指をかけ、引いてしまえばいとも容易く悪霊は覚醒し、発動される」

男「い、意味不明に勢いがついて理解不能だぞ、オカルト研」

男「心配されなくても破滅願望なんてないって。引き金とか何処にある? 自前のコックか」

オカルト研「……[ピッ]、[ピーー]///」

男(それでこそ美少女である)

オカルト研「……私とした事が取り乱してしまった、面目ないわ。だけれど、虚言だと笑わないで欲しい。私には見えているのよ、最悪の未来が」

オカルト研「何がなんでも防がなくてならないわ。それが私の役目と天命を授かっている、あなたとの出会いは偶然じゃなかった」

男「なぁ、あまり長くなるとクラスの奴らがまた煩くなるから、もう良いだろ?」

オカルト研「くっ!」

男(彼女の妄想ダダ漏れ劇場も、名残惜しくはあったが、目の前の不安要素を無視したまま楽しむわけにもいかない。戻って、男の娘イベントを)

男(さらばオカルト研よ と踵を返し、トイレを出て行こうとした瞬間である)

オカルト研「……待って。まだ行っ[ピーー]なの」

男(この、どうしようもなく、我が背中へ当てられた強烈な感触に自然と足が止まっていた)

男(歴戦を自称してもウソにはならないこの俺が、後ろからハグ程度で動きを止められてなるものか。そんな思考だけは一人前だ)

男(所詮、俺も其処らに埋もれる雄の一匹よ。下半身は正直。布の上から迫るその塊に成す術などなかった)

オカルト研「男くん、そのまま後ろへ下がってほしい……」

男(無言で従ったとも。美少女から抱きかかえられたまま、トイレへ舞い戻る姿は、滑稽というか謎である)

男「お、オカルト研よ、俺は何だか嫌な予感しかしない。とりあえず答えてくれないか」

男「……俺たち、これから何するのかね…………?」

オカルト研「……[ピーーーー]よ///」

男(振り解け、ただちに、今すぐ。煩悩に洗脳されたまま流されたら取り返しのつかない事になってしまう。こんな大切な時期にだぞ)

男(オカルト研の色仕掛けは散々食らってきた筈だ、まだ踏ん張れる、心がハーレムを求めるのならば、妥協を知らぬのならば)

オカルト研「ふぅ、この中なら外の妨害を気にする必要もない」カチッ

男(ダメだったよ)

男(個室へ引き込まれ、仮密室の中 俺たちは至近距離で見つめ合っていた。次第に頬を薄らと紅潮させていくオカルト研が、抗えぬほど可愛い)

オカルト研「[ピー]し合う男女なら、この状況下において次に何をすべきか頭にある筈……///」

男「え、え~……何か、よく聞こえないんですケド……」

オカルト研「わ、私はあなたになら身を[ピーー]ねる覚悟がある、という事よ……///」

次回来週の火曜夜に

男(ほんのり紅色へ染まっていた頬だったが、オカルト研の思考は桃色世界に支配されているようだ。頭の中真っピンクだよ、真っピンク)

男(特別服を開けていたとか、スカートを捲り上げていたわけでもないというに、目のやり場に困った。恐らく、五秒ほど直視していれば理性が飛ぶ自信がある)

オカルト研「私を見て、男くん。[ピーーー]ならば///」

男(これまでにも彼女からはコレと似た状況に持ち込まれた事があったが、何だこのプレッシャー)

男(愛が重いとか、そういったベクトルから来るものじゃない。彼女が言った“授かった役目”が感じさせているのか……)

男「お、俺って超常現象の類とか、正直否定派だったんだが」

男「……どうもお前の体からオーラが漂っているように見える。並々ならぬ、エキセントリックっぽいのが」

オカルト研「そう、やはり男くんも気づいていたのね。今日の私は一味違うと」

男「(美味しそうだからな) お前、あれほど悪霊に興味あったのに 暴走を止めるとか突拍子なさすぎじゃないのか?」

男「いつものオカルト研なら、もっと突き抜けて悪霊万歳してたんじゃ」

オカルト研「男くん、私のキャラを誤解している。私は基本悪霊は払うつもりで接してきたわ」

男「えっ、そ、そう……でしたっけ……っ」

オカルト研「確かに、あまりにも強大な力に興味を覚えた。それでも世の理へ仇なす危険分子に変わりはない」

オカルト研「そ、そういう事だから……男くんは私と[ピーーーー]べき……///」

男(意訳:じれったいから早く認めてイチャイチャしましょうよ、か……なんて肉食系美少女だ)

男(オカルト研の脳内では、こうもグイグイ迫られれば俺が間違いを犯す、そういう魂胆があっても良さそうな様子である)

男(甘い、甘いのはその可愛い面ぐらいにしておけ。尋ねよう、俺の属性は何だ?)

男「すまん。この歳で耳遠いのかね、俺。よ~く聞こえなかった」

オカルト研「そう」

男「えっと、それから、言いにくいが お前が何をしたいのかイマイチ理解してやれてない」

オカルト研「わかっているわ、男くんの事だもの。だから」

男「ぎっ!? (外方を向けていた俺の珍妙な顔を、オカルト研が掴み、強引に向け直す。実に真っ直ぐと綺麗な瞳がこちらを見つめていた)」

男「な、何だよ、いくら個室に入ってるはいえ、いつ人が来てもおかしくないんだぞ!?」

オカルト研「来ないわ。あなたの悪霊がかならず人払いをするもの」

男(コイツ……!)

男「人払いだぁ!? 寝言も休みやすみにしろ、マジで誰かに見られて変な噂立てられたら!」

オカルト研「私も毎度考え無しにあなたへ近付いているわけではない。あぁ、思考錯誤の繰り返しだったわ……」

オカルト研「男くんから[ピーーーーー]場合、とある法則性があるに気がついた。多種多様だとは思ってはいたけど、どれも一つか二つからのパターンの発生」

男「え? 何だって?」

オカルト研「男くん、あなたは既に籠の鳥」

オカルト研「もう私からは逃れられないわ」

男「っーーー……!! (俺の頬へそっと手を当て、不敵で怪しげな笑みをオカルト研は浮かべて見せた。その様すら美少女ならば、妖艶で絵になるなと、呑気やっている場合じゃないぞ)」

オカルト研「悪いのだけれど、男くんの都合とかこの後はスルーさせてもらう。自分勝手な女は嫌いかしら?」

男「だから、お前は何がしたいってんだよ……オカルト研っ!」

オカルト研「[ピーーーーーーーーーーー]」

男・オカルト研「「え?」」

男「……えっ?」

オカルト研「と、あなたは答えると思っていた。予定調和。男くん、あなたの考えをそっくりそのまま言葉にしてみせる」

オカルト研「お、オカルト研に誘われるがまま暴走しては、マズイ事になるに違いない! なんとしてでも逃れなくては!」

男「はぁ!?」

オカルト研「ここはいつも通り、恍けたフリをしつつ体の良い言い訳を放つか、偶然を装って抜け出す! ……それとも」

オカルト研「頃合いを見て私の足を掬うつもりでいたか。自滅を誘ってこちらの逃亡を計ったりする事も不可能ではないわ」

男「ふ…………ふ、くふふふ……やれやれだな、オカルト研。考え過ぎだろうが」

オカルト研「対男くんに関しては考え過ぎなぐらいが丁度良いと判断する事に決めた」

男(冗談にもならないぞ、こんなのって)

男「疑われて気分が良い奴がいると思うか、オカルト研。俺も割と繊細な側なんだぞ」

オカルト研「そ、それは……言い過ぎた。申し訳ない、[ピーーーーーーーーー]」

男(ここで反応は罠だ、無理をしていい場面ではない、慎重に。本気で探られている。どういう事か)

男(昨日まで俺の目論見通りに、都合良く動いてくれていた筈の美少女が反旗を翻してきただと。信念に揺らぎは感じさせていないが)

男(逆攻略を企んでくるならば、色仕掛けやあざとい仕草で十分である。それが、おい、神よ、何がどうなっていやがる)

男「おっと、あんまりトイレが長いと男の娘か名無しが心配して様子見に来るかも」

オカルト研「! ……対話の舞台変更を所望する」

男「いや、これ以上長話続いても結局アイツらに迷惑掛かっちまうだろ? 昨日の今日で何度もは」

オカルト研「そう……行ってしまうの?」

男(その捨てられた子犬じみた表情を止めろ、便所に張り付けになってしまう)

男「話ならいつでもできるだろ。次は時間作って俺がオカルト研に会いに行くよ、ダメか?」

オカルト研「なら、可能ならば今日の放課後に」

男(放課後だと。放課後は既に不良女イベントで予定が埋まったあとだぞ。どう考えても体が足りない)

男「ど、どうして今日が良いんだ?」

オカルト研「[ピーーーーーーー]だから」

男「明日じゃ不都合になりそうか?」

男(そう尋ねられれば、首を縦にも横にも振らず、真っ直ぐだった瞳を更にオカルト研は直で俺へ送ってきたのだ)

男(普段は長い前髪に隠されて覗けない目が、この時ばかりと、強く主張する。それは彼女の強く熱烈すぎた意思を表しているような)

男「……いいよ。お前がどうしてもって言うなら、俺がオカルト研に合わせるさ」

オカルト研「[ピーー]しい///」

男「だけど、一つ条件がある! お前には関係なくても、俺には俺でやる事が盛り沢山だからな」

オカルト研「条件……それはどういう」

男「文句は決して言わないでくれ、以上だ」

男(頭上にクエスチョンマークを浮かべるでもなく、深く考えるような素振りを見せたあと 素直に彼女は頷いた。頷いたな?)

男(オカルト研がどこまで俺を調べ上げ、詳しくなったか見当つかないが、元々逃げ場は断たれていたのだ。いつまでも先延ばしを繰り返しているわけにはいかない)

男「あーっ、そういえば生徒会長とも放課後に先輩さん関係の用作ってた……同時に三件」

男(どうにもこうにも、ただ武者震いである。愚かな男くんの運命はいかに、なんて)

男の娘「一人で何ニヤついてるの……?」

男「わかんねぇ」

名無し「おっ、ただの危ない奴!!」

男「男の娘、随分見ない内に演技に磨きがかかったんじゃないか」

男の娘「えっ、えぇっ、そ、そうかなぁ! 一応家で台詞の練習ぐらいはしてたけれど……///」

名無し「随分ってお兄さんねぇ、一日置いただけでそりゃ無いっしょーに」

男(そう冷やかしつつ俺の肩へ名無しが手を回し、耳元で不自然な台詞を囁いてきた)

名無し「……あぁ、それで良い。上出来じゃないか」

男「は?」

名無し「いやいや、ねェー! 男の天然ジゴロっぷりが素晴らしいって称賛のつもりで!」

男「そりゃあ始末に負えないな、舐め腐りやがって」

名無し「嫌味じゃないんだよ。お前のそういう所がみんなの魅力になってる。最も、やー、どうでもいいか」

名無し「とにかくその調子で上手くやってくれや、相棒! オレはいつでも応援してるし、手貸すからねっ!」

男「…………なぁ、名無し」

男「お前って実は俺のこと物凄く嫌いだったりしないか?」

名無し「死んl2ゥ死と無\Nよ」

男「何だって?」

女子生徒「男くーん! ちょっと演技指導の手伝いお願い!」

遅れて申し訳ない
次回明日か明後日に

男(モブ子Aに背中を押されて、無理矢理我がクラスの役者どもの前へ立たされれば、溜息も吐きたくなる。やれやれ、俺が世界の中心だと)

男「ディレクターとかに見えるのかよ、この俺なんかが」

委員長「そうじゃないけど、役作りにも素人視点からの意見も貴重だってみんな思ったんだ!」

女子たち「男くんならあたしたちが言いづらかった事もズバッと言ってくれるんじゃないかなって! 男くん期待!」

男「要するに汚れ役じゃねーか! 嫌だねっ、反感買うのは趣味じゃない」

男の娘「言い方が悪いよぉ。男、僕たち純粋に男から見て役に演じ切れているか判断してもらいたかったんだ~」

男(そもそもの提案が男の娘からだったらしい。皆が腕組み、ウンウンと彼の言葉へ頷いている。その横で威勢よく挙手する美少女が一人)

転校生「あんまり完璧を求めすぎても不自然じゃないかしら?」

男「だそうで、定位置に戻って良いか」

転校生「あんたいい加減仕事しなさいよね……あのさ、変態。ちょっとこっちに来て」

男「はぁ? お前らの意識高い演者議論に俺が付いて行けるわけねーだろ、ジブリ見て勉強しろ」

転校生「巻き込むつもりじゃないわよ、で、でもっ」

男(クラスメイトたちの視線を受けながら、教室の隅でこそこそと転校生がこう耳打ちするのだ)

転校生「このままじゃ、本っ当にラストにキスシーン入れられちゃうのーっ……!!///」ブンブンッ

男(俺がお前にキスしたいんだが)

男「お前まだ本気にしてたのかよ。あんなの冗談だって、誰も劇にそこまで求めたりしないだろう」

転校生「じゃああの調子見て同じこと喋れる!?」

女子たち「私たちのクラスがイノベーションを起こさなければ。お客は王道でバーチカルな物語を欲しがるものでは?」

男子たち「同意、物語はプロセスを通して整合性の取れた結末が描かれなくてはならない。センセーショナルを掲げるならば、終盤でカタルシスを晴らすシーンが」

委員長「イイネ……」

男「狂気の王国だ」  転校生「あんたぐらいしか止められそうなのいないのっ!!」

男(縋る転校生を横目に男の娘へ首を向ければ、察してくれと言わんばかりに青い顔して苦笑う。クラスメイトの暴走を俺がどうかしてくれというワケか、見事にテンプレである)

転校生「みんな盛り上がって熱が入りすぎてるっていうか、主演の私たちにひと肌脱がせようってー! いやぁー!」

男「転校生落ち着けって、言いたい事はわからんでもないが」

男「でも、男の娘相手なら他の男子に比べて悪い気もしなくはないだろ? 知らなきゃ女子だぞ、アレ」

転校生「知ってるし、友達だから問題なんじゃないのよ! あ、あんただって!」

男「ん?」

転校生「あっ……な、何でもないわっ! ド変態バカ、変態、へんたいっ!///」

転校生「……この、鈍感ばか」

男「転校生、男の娘も連れて少し散歩に出るか」

転校生「散歩って、あんたいきなり何言って、きゃあ!」

男(問答無用で彼女の手を堂々と取り、教室を出てみた。王子が誘拐されたと喚く者どもなど尻目である)

男(しかし、いつ握っても似通ったシチュエーションだとしても、至福だ。後ろで俺から引っ張られている転校生の絶妙な表情加減ぶりも)

転校生「あ、あんたのサボりに私まで付き合わせるっていうの!? は、離してっ」

男「ただの気分転換だろ。それにお前だけじゃない」

転校生「どういう意味……あっ」

男の娘「はぁ、はぁ……[ピッ]、[ピーーーーーーーーーーー]!」

男(男の娘、今の彼ならば追い掛けて来るのは把握済みだった。お前はどの美少女よりも嫉妬深く、執着に溺れているのだから)

転校生「ち、違うの! コレは男が勝手にしでかしたことで!」

男の娘「いま名前で呼んだ!」

転校生「えっ!? あ、ちょ、ちょっと今の誤りよ、違うちがう!!///」

男の娘「だったら、なにが違うのかなぁ、転校生さーん」

男(その黒い笑みは何処ぞの小悪魔を彷彿させていた。腐っても兄妹設定が生きていらっしゃる)

転校生「あの、そ、その……」

男の娘「抜け駆け、許さないって僕話したよ? 二人で僕に隠れて[ピーー]いよね……」

男の娘「あ、そういえば男。気にしてたみたいだったから、はい どうぞ」

男(ぬらりぬらりと男の娘がこちらへゆっくり歩み寄ると、制服のポケットから携帯電話を取り出し、液晶画面を俺へ突き付けた。そこに表示されていたのは)

転校生「これって……あんたと、不良女、ちゃん?」

男の娘「うん、僕たちなら一目瞭然だよね。しかも今朝あった光景なんだって。丁度 男が抜けてたHRの時間だよ」

男(“なんだって”、と来るか。いや、当たり前だろう。きっと画面に映し出された画像は彼が撮ったものではない)

男(この角度、位置、考えるでもなく 犯人はあの美少女)

男の娘「男話してたよね。不良女さんは、偶然サボって歩いていた。すれ違っただけなんだってさ……[ピーー]」

男の娘「まずその言い訳からして苦しいよ! 不良女さんはあんなナリでも、バカに真面目でっ、サボるなんて怖くて出来ない人だもん!!」

男「(遠くでくしゃみが二回聞こえた気がしなくもない) 真面目と知ってたなら、この写真をおかしいとは思わなかった?」

男「確かに俺はウソをお前たちに吐いたさ。詳しく教えたくない理由があるから」

転校生「お、教えたくないって、あんた 後ろめたい事隠してるの? 私たちにも言えないって、まさか!!」

転校生「あああ、あんたっ! 変態! この画像って不良女ちゃんに、こ、こ、ここ、告白ぅ~~~っっ!!///」ブンブンッ

男「そんな事より、男の娘。その写真って歴とした盗撮じゃないか? 誰から受け取ったんだ」

男の娘「……や、やだ。男には教えないよ」

男(やれやれ、この前の男の娘兄妹イベントで関係を、主にこの俺関連で、不都合に拗らせてしまったか)

男(全力受け身も悪くない、揺さぶらず情報を回収できたのは嬉しい。アイツがハーレム阻止に、兄まで駒に使い始めたのだ)

男(意地でも俺を幸福から遠ざけ、諦めを植え付けようというのか。たかがこの程度 子どものイタズラレベルで)

男(さて、まずはこの面倒な状態をどう導いたものかである)

男「おい、探偵でも雇ったわけじゃないだろうな。俺の周辺調査なんて、叩いても埃しか出ないだろ」

男の娘「っう……と、とにかく、男が不良女さんと何か[ピーーーー]してたのは!」

男「(カウンターは基本戦法) だぁーわー! わかったよ、そこまで気になるなら話すから食ってかかるなっ!」

男(どうどう、と熱が入った男の娘を静めさせ、口をパクパク動かしたまま硬直した転校生の顔を両手でむにゅりと潰した。これは可愛い)

転校生「ほ、ほっはいふははひへ、ひゃっひゃほいいははいほー!」

男「いま何と? ……えーっと、実はアイツから放課後一緒に出かけないかって持ち掛けられた」

転校生・男の娘「ほらぁ!! ほらぁー!!」

男「やっぱりみたいな反応一々すんじゃねーよっ!! 指も刺すな!!」

転校生「だって! だって! ばかぁー! ていうか、あんたはそれで何て返事したのよ!?」

男「……いや、行きますって。ハッキリと」

転校生・男の娘「ばっかじゃないの!!」

男「頭の良し悪しが下る場面だったかよ、今のっ!!」

男の娘「男は何でもかんでも[ピーーーーー]しすぎだよ! 不良女さんがどういうつもりで一緒になんて誘った分からなかったのぉ!?」

男「デートだろ」

男(まるで死の宣告でも伝えられた様な面で二人は俺を見つめていらっしゃる。当然だろう、鈍感とばかり思い込んでいた阿呆が始めから察していたのだから)

男「おーい、何固まってんだよ? 聞こえてるのか? 昨日転校生が履いてたパンツはピンクだぞ?」

転校生「ちょっ!? いやああぁっ、ド変態スケベぇ!!///」バッ

男の娘「固まるよ……そんな、男が実は[ピーーーーーーーーーーーーーー]」

男「男の娘何か言ったか?」

転校生「ていうか、どうしてあんたが私の履いてたぱぱぱ……わあぁ~~、へんたい!! へんたいドへんたいっ!! しねぇ!!///」

男「ククッ、どうしてってお前、そりゃあ……ありゃあ……あれ?」

≪   * 正 $ 8 ※ × な ■ 0  ≫

男「すまん。今朝の夢の内容だった、転校生がスカート捲れてるのに気付かないまま周りがそっとしておくみたいな」

転校生「あんた見てる夢までどうかしてるわよ!!///」

男の娘「そ、そんなくだらない淫夢の話はもういいよ! どうしちゃったのさ、男ぉ!?」

男「バカ野郎、コイツが体張ってまで見せた面白いのをくだらない呼ばわりは無いじゃないか」

転校生「お願いだから事実に改変しないでっ……!!」

転校生「……それで、デートって分かり切った上で不良女ちゃんの誘いに乗ったのはどうしてよ」

男(仕切り直すつもりで咳払いして、軌道修正を行う転校生。その顔は薄っすら、赤かったなって)

男の娘「お、男は不良女さんが、[ピーー]だったの?」

男「え? 何だよ?」

男の娘「僕ね、合宿のあとから色々覚悟は決めてたんだ……えへへ、でもやっぱり難しい」

男の娘「[ピー]が苦しいよぉ……あぅ、男ぉー……っ!」キュッ

男「そこまで深刻な問題か? お前らとだって二人切りで遊びに行ったことあっただろ。何が違うんだ?」

転校生「あぐっ!? それは……そ、それとコレとは別よっ! 違うの!」

男「自分は良くて、不良女に関しては認められないのか?」

男(論破、なんて美少女を脅して下賤な悦に浸れるものかと。そう大人しくしていれば、沈黙した転校生の前に男の娘が立った)

男の娘「もし、もしだよ、男。デートの帰り際に、不良女さんから……うっ……あの、何かあったら」

男「ん?」

男の娘「大変なことになったら、後悔すると思うよ!?」

男「今更アイツに断わり入れてガッカリさせる方が一番後悔する羽目になる、俺も不良女も」

男の娘「[ピッ]、[ピーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーー]……」

転校生「あんたのお陰で……私、吹っ切れたかも」

男(割って入った転校生の言葉、それに対して俺たちが素っ頓狂な声をあげる前に、彼女は動いていた)

男の娘「わっ!?」バッ

転校生「決めたわ。男の娘くんがどう思うかわからないけれど、私は!」

男(男の娘を自分の身に寄せ、転校生は俺へ言い放つのである。何を? 俺がわざわざ彼女を教室から連れ出したのは)

転校生「文化祭、クラス発表の劇でラストシーンのキス 私は受けるわ」

男の娘「えぇ!! やだやだ、やだぁ! 僕 嫌だよぉ~~~!?」   転校生「…………」

男(覚悟故の沈黙の貫きか、はたまた現在進行で断腸の思いしているのか。いつのまにか転校生の隣を抜け出して来た男の娘が、俺に抱き付いて震えていた)

男「よ、よく考えてみろ 男の娘よ。転校生はガサツで乱暴なイギリス帰りだが、顔は悪くない。スタイルも群を抜いている!」

男の娘「こわいよぉ!!」

男「待てって! あんな可愛い女子と一発キスでもかましてみろ、全校生徒の憧れを奪っちまうんだぞ! 優越感でマッハだと思うなっ!」

男「それに、真面目に可愛いし……俺なら多分――――」

転校生「たぶん? 何よ……か、かかか、かわいいって……っ?」

転校生「そう思ってるのなら、あんたが私のこと奪いなさいよバカぁ!! うわぁーん!!///」

男(その逃げ足、正に脱兎の如し。男の娘と揃って、俺も瞬きが止まらない)

男の娘「えっと……男、追いかけなきゃダメじゃないかな?」

男「お前にも責任あるからな、マジで」

男の娘「だ、だって 本当に僕 転校生さんとはそんな気になれないんだよ! 転校生さんは大事な友達なんだもんっ!」

男の娘「良くないよぉ、こういうの……壊れちゃう」

男(成り行きどうあれ、先程の転校生の発言に彼はショックを感じてしまったのだろう。どう転ぼうが、美少女の尻を追いかけるのは主人公の役目か)

後輩「痴情のもつれとかいうものですか。今のは」

男(駆け出そうとした一歩が、強制停止した。否、させられた。きっとこの美少女 何処かで今か今かと待機していたに違いない。なんだかその光景、顔がほころぶ)

男の娘「あっ……ま、まさかずっと聞いてたの!?」

後輩「いいえ、兄さん。私は偶然通りがかってしまっただけですよ、偶然なんです」

後輩「あぁー、おはようございます 先輩。今日も調子良さそうですね」

男(俺を下から覗き込んで嫌らしく挨拶をした後輩は、お次は無防備にぐーんと背伸びして息を吐く。二ヤリ、と)

後輩「日差しがあまりに良かったから、午前は居眠りしそうになるのをずっと堪えてましたよ。ふあぁ~……ん」チラッ

男「……何だ、俺の顔に何か面白いことでも書いてるのか」

後輩「いーえ、全っ然。いつも通りの先輩ですよ。ふふっ!」

後輩「……ねぇ 先輩、内緒のお話がありますから 少し時間頂いていいですか?」

ここまでなの

男(物柔らかな所作とは反面、彼女の口調に張り詰めた空気があった。まさかそれだけで察しろと、心理学者でもなし)

男の娘「えっと、話は転校生さん慰めてからにしようよ。放っておけないし……」

後輩「あの人のことなら心配はいらないと思いますけど」

男の娘「そうもいかないよ! ぼ、僕にだって責任あるし、転校生さんなら男も追いかけて来てくれた方が、多分[ピーー]よ」

男(容易だ。“喜ぶ”、辺りだろう。友情の裏で恋愛事情が複雑に交差してか、ドラマチックでせつさな乱れ撃ちになる。元凶は俺だが)

男「自爆したアイツにも問題あると思うけど、そうだな。後輩 悪い」ス

男(男の娘の後を追い、ひらひら手を振りながら、大人しく佇む美少女の横を過ぎようとすれば、彼女は)

後輩「――――私 あの人を消します」

男「……あ?」

男(正に言葉の一本釣りだったかもしれない。足が止まり、後輩へ振り返れば 先程と同じ様に直立不動のままだった)

男「いま、俺が聴き違えてなければ 軽く物騒な台詞口走ってなかったか」

後輩「大丈夫。あなたへは絶対に迷惑はかけないと誓いますから」

男「おい、喋るならカッコつけずにこっち向いて喋ろよ (背中で語るには少し彼女は小さすぎる、なんて)」

後輩「せーんぱい」

男「だからお前なっ、こっち向いてハッキリと――――――!!」

男(俺よ、かつて、これほどまで、後輩の吹っ切れた顔を見た記憶があっただろうか)

男(唖然とした俺へ向けて、優しげに口元を綻ばると一歩、一歩と下がりながら語るのだ。終局の報せとやらを)

後輩「私、あなたと巡り合えて本当に良かったとハッキリ言えます。人形だった私が、巡り合えた なんて変ですね、ふふ」

後輩「あなたに出会ってから、色んなことを知れたし、自分を持つ事もできました……あの、えっと、紛い物だったとしても」

男「お、おい!」

後輩「私って、ちゃんと人になれてましたか?」クス

男(何だこの別れの挨拶じみた展開は。後輩の背中にも目に見えてENDフラグが立っている)

男(なるほど、ここからトラブルに頭を突っ込み、強引にハッピーエンドへ導き 臭い大団円に。待て、それじゃあ後輩ENDだ。全くハーレムじゃあない)

男「後輩、話をしよう!! 早まった真似される時点で俺に迷惑だ、やり直した方がいいぞ!!」

男「相談があったなら、ドンと俺が胸を貸してやれるから……話を、しよう。落ち着け」


後輩「     」


男「え? 何だって――――――あっ、おい!? 待てっ、行くなぁ!!」

男(どこまでも意味深長を貫くスタイルは許容しよう。だが、真面目にこの様な別れがあって納得できたものか。考えるより先に、体が動、おや)

男「写真だと……アイツ、わざと落として行ったか」

男(一枚どころか複数枚バラまかれていた。どれもコレも見覚えがある写真たちだ)

男(“後輩が写っている写真”である。俺が始めて風景以外に、人を撮った貴重な思い出の品々だろう。被写体も最高で、ぐっと来て)

男「いいや、俺だけの思い出じゃない筈だ。アイツにとっても」

男(自惚れだろうか? それでも構わん。後輩は今日まで大切に持っていて、思いを共有してくれていたのだ。ちっぽけな写真を通じ、止めろ、なんか臭う。臭い)

男「……昨晩の、神が現れた件と関係ありだろうか」

男「恐らく 後輩の話していた“あの人”は、アレで間違いない。まぁ、そうとしか考えられない」

男(美少女に紛れた一名のジョーカー、イレギュラー。最も、名無しに対しても怪しいものだが、後輩が一番に危険視していたのは彼女だけだった)

男(アレを消すことで何が起こるというのだ? あるいは、未然に阻止しようとしていて?)

男(後輩にはこれ以上の接近は止めておけと警告されていたが、踏み込む勇気も必要だろう。美少女も、謎も、攻略して落とすならば)

男「(それに、狙いが彼女ならば、近くにいた方が苦労しない) おーい! 男の娘、アイツどこにもいないな」

男の娘「男! 何処行ってたのさぁー」ムスッ

男の娘「むっ、まさか [ピーーー]と内緒の話っていうのを……[ピーーー]」

男「慌てて逃げたフリしといて、実はもう教室戻ってたりするんじゃねーかな、あの暴力女」

男の娘「……あ、あのさ、男。いきなりこんな事話すのもなんだけど」

男の娘「僕も放課後 男と[ピーーー]したいっっ!! ……なぁーって、うっ///」

男(放課後まで聴き取れれば十分、男の娘の意思は明確に伝わる。伝わったが、どうしたものか)

男の娘「い、言っておくけど、これは男を[ピーーー]ための……そのっ……///」

男(小さな肩を震わせてどうした、男の娘よ。デートに誘ったということは何となくで理解した)

男(不良女へ対する牽制にはならないが、俺へ対しては精神的に追い込みを掛けている事も。あえてコチラ側を困らせに来たのかもしれない)

男「どうしたんだよ?」

男の娘「男は……僕のこと、[ピーー]?」

男(ラブコメ究極の問いかけ 好き or 嫌いではないだろうか。真剣そのもので尋ねる男の娘から、どちらなのか読み取るのは多少難しい)

男(「僕を愛しているなら、あんな女より僕のお誘いを!」的な……天秤にかけられたワケか、愛って重い)

男「あっ、おい、男の娘! アイツ あんな所に隠れていやがったぞ!」

男の娘「へ!? な、な、何っ!」

男「何って、転校生探すのが俺たちの目的だろうが。ほら、顔真っ赤で逃げられない内に掴まえるぞ!」

男の娘「え、えぇ~!? どこに転校生さん隠れてるかわかんないんだけど!?」

男「ぼさっと突っ立ってないで、来いって! (だって、適当に指を指したのだから)」

転校生「…………私が、何よ」ト ン

男・男の娘「ひぃ!?」

次回火曜日に
色んな人に読んでもらえてて嬉しい

男の娘「お、ぉお、男ぉ~! 転校生さん全然反対方向じゃないっ!」

男「転校生、瞬間移動を体得したんだな……ヤードラット星帰りだろう?」

転校生「ワケ分かんないわ」

男(物言いたげにジト目気味の視線を俺たちへ送り続けた転校生。意外な彼女の登場で、どうにものっぴきならない状況である)

男(ここで口火を切ったは男の娘選手。鈍足ではあるが、ここぞとばかりに盗塁センスが光る今期期待のリトルスター。しかも可愛い)

男の娘「ええっと、さっきはごめんね。僕 少し驚いちゃって、気が動転したっていうか」

転校生「も、もういいわ……忘れて。お願いします、忘れてください」

男の娘「う、うん。きっと若気の至りだよね、その場のノリに任せて無謀が勇気って錯覚しちゃったんだよ。大丈夫っ、気にしないで!」

転校生「ぐはっ……!?」

男(意図してか、否か、男の娘の無慈悲の剣に絶賛貫かれ、床に膝をついた転校生であった。肩を叩けばぷるぷると震え出す) ふぅ、俺が出る幕なんて無かったじゃないか」

転校生「なによ……元はといえば、どこかのアホがいけないんじゃない……」

男「ん? 何か言ったかよ、転校生?」

転校生「う、うるさい! 今は気安く話しかけないで、嫌いっ!」バッ

男「いって! おい、そんな乱暴に手振り払うことはないだろ!」

転校生「だって!! ……ご、ごめん、なさい。落ち着くまでそっとしておいて、ド変態スケベ」

男(せっかく二人を教室外へ連れ出す事に成功できたというに、無様に逆戻りだ。ところで、先程からポケットの中で携帯電話がしきりにバイブレーションしているが)

男「いつのまにママさんとメアド交換してたんだ、俺は」

男の娘「なーに見てるのさ、男?」

男「R-18エロ画像だ、磯臭さMAXだぜ」

男(メールの添付画像を開けば、バケツぎっしりに詰め込まれたヤドカリたちが。単体ならまだしも、地獄絵図でしかあるまい)

男「特に理由はないけど、妹にも送ってやろう。き、も、か、わ、注、意、と」ピッピッ

妹『メール本文:ヽ(´д`ヽ)(ノ´д`)ノイヤァ~ 』

男「……可愛いぞ、コイツ」

男の娘「男は妹さんと仲良すぎるんだよっっ!!!」バンッ

男「うおぉおっ!? 何故いきなりキレた!?」

男の娘「と、特に理由なんてありません! ぼ、僕だって最近よく妹と話するようになったんだからねっ! ねっ!」

男「い、良いんじゃないか……後輩、昨日の夜は、いや、アイツ近頃おかしな様子見せたりしてなかったか?」

男の娘「え? ううん、特に変わった感じはしなかったけど」

男「それじゃあ 夜に突然家を出て行ったりすることは?」

男の娘「ねぇ、何でそんなにアイツのことを僕に訊くの……[ピッ]、[ピーーー]?」

男(そりゃあ自分を差し置いて妹を意識された質問を繰り返していては、心証を悪くするだろう。実際には嫉妬が勝ってそうだが)

男「この間、夜中にコンビニに行った途中で見掛けたんだよ。一人で歩いてたから危ないと思ってな」

男の娘「一人で? それで、男はどうしたの?」

男「勿論、声をかけようとしたんだが、気づかれないでそのまま何処かに行っちまった。後を追っても 見失って」

男の娘「そ、そっか。どうしちゃったんだろう? 家では普段通りだったんだけど、心配だなぁ」

男(あぁ、純粋な兄妹愛に安心させられる。夜な夜な俺を巡って皿が飛び交う乱闘騒ぎなんてなかったのだ。素晴らしき世界)

男の娘「いつも、悩みがあるなら僕に相談してって言ってるんだ。でも、アイツは変に堪え性だから……あはは」

男「頼りないから相手にされてないなんて、大間違いだろ。男の娘」

男の娘「えっ!? な、何でいま僕が[ピーーーーーーーーーーー]!///」

男「え?」

男(今のは難聴に対する訊き返しの疑問ではない。自分の口から、男の娘の思考を先読みした返答が即座に出て来たことに対してだ)

男(ほぼ 無意識 であった最中である。経験から到達した境地だとでも言うのか、これまでを振り返れば不思議ではないかもしれないが)

男の娘「男と話してると時々ドキッてさせられたりするよ……べ、別の意味で[ピーーーーー]るけどっ/// でも今のは」

男の娘「男って、人の考えてること読めたり? な、なんて~」

男「適当言ってそれが偶然当たっただけだと思うけど、たぶん」

委員長「転校生さんどうしたのー? さっきからいつもの演技のキレがないよ。台詞も言わずに案山子みたいになって」

転校生「えっ……あー、了解よ。お昼はホットケーキでパーティよね……はちみつ、はちみつ」ブツブツ

男子たち「アレ、上の空ってレベルじゃないような気がするんだけれど!」

女子たち「少し休憩取った方がいいんじゃないの? 転校生さんのシーンだけ連続ぶっ通しだもん」

転校生「あれ、休憩なの? 私まだ続けられるわ。遠慮しないでいいのに」

名無し「やる気もないのに同じ事繰り返される練習見せられておいて、遠慮はないかもなぁー! なあっ、男!」

男(遠目から観察していただけで、俺に振るのは強引が過ぎる。が、やけに厳しいコメントを浴びた転校生が暗い顔して立っているのは、見逃せない)

男「(せっかくの美少女を曇らせるなどは) アイツらの言う通り素直に休んでおけよ、後で無理が祟る」

転校生「ほ、放っておいてよ……何かやってなきゃ、気分紛らわせられないじゃない……」

男「ふむ……おい、肩に糸くずが、うおおおおぉぉぉ~!!?」

転校生「ちょっ、きゃあ!!」ド ン

男「……言っておくがわざとじゃないんだよ。事故だ、しかも不可抗力があってのもので」モミモミ

転校生「だから、ぁっ……どうして毎度まいど変なとこ触ってるのよ、このド変態スケベぇ~~っ!!!」

男(妙に手にフィットする形にご満悦なところ、顔面へ鉄拳が容赦なしにめり込むのだ。それで良い、彼女の調子を取り戻すのに手っ取り早い方法である)

転校生「あ、あんたなんか川原で足滑らせて転んでしねっ!! うぅ!///」

幼馴染「あー、今日は転校生ちゃんいないんだね?」

男(ランチタイム、通常ならば俺・男の娘・転校生がいて幼馴染が割って入ってくるのが見慣れた光景であるが、幼馴染の台詞で分かっての通り)

男の娘「気分が優れないとかで、保健室に行っちゃったんだ。あとで様子見に行ってあげた方がいいよね?」

男「放っておけよ。誰だって一人になりたいって思う時ぐらいあるさ、お花摘みとか」

幼馴染「ご飯食べてる時に良くないよ、男くん。でもどうしちゃったんだろう? 男くんの顔の腫れ方で何となく察するけど……」

男「事故だ。この傷の原因以外に、その前からあの暴力女は」

幼馴染「わぁぁ、男の娘くん! このクッキーすっごく美味しい!」  男の娘「えへへっ、自信作なんだ~♪」

男「聞いてすらねーよ、この人ら――――ていうか、美味いって?」

幼馴染「うん! 男くんも一枚貰ってみたら? ビックリするぐらいお菓子の味するから!」

男(自然に貶しているような発言に目を瞑り、一人思い返す。彼の手作り菓子の数々にまともな出来が無かったことを)

男(もはや舌がバカになっちゃってる俺ぐらいでしか、楽しめなかった気が)

男の娘「あの~……男! 僕の[ピーー]っ、頂いてください!///」グッ

男(手渡された包みを開けてみれば、驚愕だ。かつて発狂を発症してもおかしくはなかったソレは、冒涜的とは かけ離れた、それはそれは、見事なクッキーであった)

男の娘「お、[ピーー]のことを[ピーーーーーーーー]ったんだ……た、食べて?///」

男(試されている)

男(勧められて、美少女二名の視線の中 NOを突き付けられるものか。何故だ、ナリはまともで幼馴染の太鼓判も押されているのに、何故俺は躊躇している)

男(何度か口へ運ぶ仕草を取っては離しと寸止めプレイが止まらない。クッキーだろう? ……クッキーではないのか?)

男の娘「どうしたの、男? 食べないの?」

男「た、食べるよ……食べなきゃ……」

男(別段悪臭漂うわけでもない。若干独特の型ではあるが、美味しいバタークッキーと主張する物体X。砂糖と塩を間違えたなどとお約束を噛ます心配もない)

男(何が俺を惑わせているというのだ。目に見える毒よりも、隠れた毒に怯えているとでも)

幼馴染「えいっ」

男「がぼぶふっ……!!?」

幼馴染「美味しいって言ってるんだから素直に食べなさい。男の娘くんにも失礼でしょ、男くん?」

男(無理矢理顎を掴まれ、開かれた即座 幼馴染によってクッキーを二、三枚放り込まれた。吐き出すなど出来るわけがない)

男「……ん…………んん………………んぅ!?」

男「お、おい!! このクッキー紙が混入してるぞ、男の娘!!」

男の娘「フォーチュンクッキーって言うんだよ~///」テレテレ

幼馴染「ねー?」  

男「ねーって、幼馴染さんあんた……何か書いてあるじゃないか」

幼馴染「男くんフォーチュンクッキーって聞いたことないの?」

男(説明しよう。フォーチュンクッキーとは、日本で言うおみくじが書かれた紙片が中に仕込まれた遊び心満載のお菓子である)

男の娘「きっと良いこと書かれてると思うよ~! 主に[ピーーーーーーーーーーーーーーー]が///」

男「(何となく理解した) 運勢知るもんを簡単に二枚、三枚も一気に食わすなっての。お陰で思い切り紙噛んだぞ」

男(確かにクッキー自体の味は良かった。本当にあの男の娘の焼いたものとは想像できないほどに……で、ウキウキで待たれているおみくじの内容は)

男の娘「お、男と[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]~~~~!!///」

幼馴染「えへへっ、こういうのって遊び心あって面白いよねぇ。それで、男くんのには何て……あれ?」

男「…………」

幼馴染「男くん、強張った顔しちゃって どうかした? お、男くんってば」

男「……悪い。野暮用思い出したから、行かなきゃ」

男の娘「野暮用って、えっ!? ちょ、ちょっと男ぉ~!! どこ行っちゃうのさぁー!?」

男(背後で聞こえる二人の声など、今の俺には届きはしなかった。一心不乱に、危機感に支配された頭を抱えて、足を動かしていたのだ)

男(ありえない、男の娘のクッキーの中から現れた三枚の紙片の内容がだ。それでも俺の不安を煽るには十分だったと思う)


『キ』    『ケ』    『ン』

男「畜生、畜生、畜生! どうして油断していられるんだ、バカ野郎ッ。知っておきながらなんてザマだ!」

男(警告されている。神か、あるいは……深く考える前に進まねば。嫌な予感の連続だ、ゆるい日常シーンに安心し切っていた)

男(俺はもっと早く、行動すべきだった。取り返しのつかない事になってしまう可能性だってあの瞬間で疑えた筈だろう)

男(現在の俺の状態を見て、誰もが奇妙だと思うだろう。あの様な『キ』『ケ』『ン』と書かれた紙如きで取り乱している事を)

男(ああ、自分でもよく分かっていない。得体の知れない何かに突き動かされるのには慣れた、慣れたと思ってはいたのだが)

男(この美少女からモテてモテて仕方がない他でもなく俺の為の世界へ召喚されて史上、否、この世界において)

男(相当に起きてはならない、最悪のイベントが発生してしまう。そんな予感が絶えなかった)

男「……ここじゃないっ!!」

男(焦りが加速する。保健室を覗けばもぬけの殻、保険の先生すらいない始末だ。……転校生)

男(転校生が他に行きそうな場所は!? 部室!? 探した後だ、いなかった! 他に考えられる当ては!?)

男「お……屋上……誰の目にも触れない、絶好の……!」

男「ダメだろ、俺に何も言わずに早まって、それで取り返しのつかないことになったら!」

男「ふ、ふざけんじゃ―――――」

男(――――頭の整理が追い付かない。冗談では決して済まされない。信じたくない光景が、一枚いちまい、カメラのシャッターを切る様に )

男(目の前の一瞬、一瞬が、俺の記憶に刻まれた)

後輩「……あっ」

男(たどたどしい足取りだったと思う。視界が不安定で、歪に歪んだまま、何かにぶつかった)

男(ぶつかった何かに構うでもなく、俺は鉄柵に近づいて行ったのだ。転落防止の為に備えられた鉄柵に)

男(その前で立ち止まり、膝から崩れていた。ピキッと走った足の痛みも気にならず、ただただ、胸の痛みに苛まれたままで)

男「冗談じゃない……ふざけんじゃ、ねーよ」

後輩「せ、先輩、どうしてここに」

男「うわああああああああああああああああああああああああぁあぁああああぁぁぁぁ!!?」

男「ああああああぁぁぁあぁあああああああああああ!!!」

男「あああぁ……あぁああぁぁぁ……!」

後輩「……な、何しようとしているんですか。止めてください」

男(アイツが、落ちたのだ。紛れもなくアイツだった。最後にこちらを向いて見せたあの表情が脳裏から離れない)

男(刻まれてしまった。意図せずとも永遠繰り返し再生される彼女の終わりの瞬間が、俺を狂わせたのだろう)

男(きっとマトモな思考は取り戻せなかった。どんな言葉も、行動も、今の俺には無意味当然である。多分発狂していた)

後輩「止めてっ!! ダメ、早まっちゃダメ!! 先輩っ!!!!」

男(鉄柵を昇って見下ろした景色の中に、転校生 が あったのだ)

ここまで

男(引っ張られていく、その光景に)

男(下へ、下へと体が意思と関係なく前のめりに傾いている。誘われているみたいじゃないか、アイツに)

男(彼女の安否が気になる。まだ息をしているのでは、かろうじて助かるのでは? ここから落ちれば移動の短縮になるだろう)

後輩「いけませんっ!!」

男「…………あ」

後輩「主がこの世界に干渉不可能になってしまった今、無事では済みません! お願い、正気に戻ってください!」

男「元々無事じゃないんだろ、俺の身体は。死ぬなんて始めから約束されてた決定事項だ……」

男「とりあえず、手を離してくれ 後輩。このままだと転校生が――」

後輩「先輩! 話をよく聞いてくださ――」

男(地面が、揺れ出した。地鳴りのような音とともに建物全体が軋みを上げている。地震か、いや、空が 割れていた)

男「……は?」

男(きっと、正気がどうこうを気にしている場合ではなかったと思う。超常現象なんて生易しい。ガラスが割れたようにヒビが入った空が、次々とその破片を落としていったのだ)

男(屋上から見渡せる景色の全てが、崩壊し始めた。柵から退き、ポカンと口を開けたまま隣の後輩へ目を移せば)

男(唖然と、口元に両手をあてているだけ。何だコレは? 怒涛の展開の連続で俺を退屈させない仕様か? どちらにせよ)

男「どうでもいいや、こんなの」

男(ワケが分からない。理解する気力も起きなかった。ならば、もう考える事を放棄して空っぽになるしかないだろう)

後輩「こんな筈じゃ……こんなことに、なる筈じゃ……」

男(完全に立ち尽くした後輩も、ただうわ言を垂れ流す機械となっている。俺はといえば、崩壊したこの町で悪魔がのさばる世紀末が始まる路線変更でもと、内心、あぁ)

男(とりあえず気分が悪いな、今は)

後輩「私が、早まったのが悪かった……独断で動くべきじゃなかったんだ……」

後輩「……先輩すみません。やる事全部裏目に出て、結局 私 あなたを」

男「いいよもう、どうだっていい。難しい話も聞きたくない」

後輩「っ……!」

男「この後どうなるとか、先なんてまったく気にならない。ていうか今更足掻いたところで意味なんてないんだろ、コレ?」

男「潔く受け入れるから」

後輩「ごめん、なさいっ……」

後輩「全部私がいけないんです。私があなたの前に現れなければ、あなたはただ幸せに終われて、な、なのに」

「そう>んダ8な。オ前さえqなけレば、万事解決、っ¥いうヨり彼は問※とは無縁でζられタよ」

後輩「えっ!?」

名無し「やー、_拶が&ダだっタな。小娘ちゃん」

男(このいけ好かない態度と声、見なくとも奴しかいない。その声に何処か違和感を感じてならないが)

後輩「そっか、始めまして……聞いた通りですね。あなた壊れてしまってる」

名無し「L1隆モ゚晥*L・*・タ駈モEumメg*ァvョタ"*稠ー*トシ*C2ヌヨャ*・・?」

後輩「私が憎い気持ちはわかります。あなたがいたからこその世界なのに、私が好き放題掻き乱してしまって」

後輩「主にもご迷惑を掛けてしまいました。取り返しのつかない状態だって、今のあなたの姿を見ればよくわかってしまう」

名無し「オレを見て? β談ジゃない。ヤめzノ*Zy罧オレは壊れ涯Vン\N・Bぞ」

名無し「なァ、おト÷!」

男「喧しい奴らだな……興味ない話にこれ以上首突っ込ませ、な、い…………おい」

名無し「¼ã?®çš†æ§˜ã?¸ã? ك?™ك€‚(�q�豁」縺励¥陦ィ遉コ縺輔l縺ェ縺�」

男(それは、名無しの面影は残っていた。残ってはいるが、身体の所々が歪み、かろうじて人を模ったナニかであった)

男(ナニかは意味不明な言葉を投げかけながら、俺へ向かって来るのだ。血の気が引く姿に、困惑するしかない)

後輩「大丈夫、あなたには決して害はありません。前にも言ったでしょう」

男「えっ……?」

後輩「“名無し”という人自体には何もありませんよ。厄介なのは、……アレを生み出した親なんです」

名無し「ヨ計〒縲√ユ繧ュ繧ケ繝医r諢男が丞峙縺励↑縺�枚蟄励ッ!?」

男「うっ、俺に近寄るな! お前みたいなクリーチャー知り合いにいない!」

名無し「……ィ遉コ縺輔l繧九∋縺肴枚蟄? オ喧は縺ィ縺ァ縺ゅk」

男(ゆっくりと、俺に否定された怪物もどきは 動揺の色を浮かべつつも歩みを止めなかった。後輩に庇われながら、情けなくも、後ろへ下がって行く俺だ)

後輩「どちらにせよ、もうこの崩壊は止められませんね。ねぇ、あなたも限界なんでしょう?」

後輩「主からもあなたについて仰せつけられていました。せめて、最後は安らかに終わらせてやって欲しいと」

名無し【!XR*゙eЕ*iヲ゚ゥb゙ィゥ被)坿゙繕*ヘァ"*ホ・_盡rメ猤・ヨ捌ハワ*鴎涯Vン\N・。。……!]

後輩「トリガーだった“あの人”も消えた今 あなたにトドメを刺せば、先輩は助かるかもしれない」

男「お、俺?」

後輩「ギャンブルは苦手ですけど、可能性に賭けるしかありません……ごめんなさい。意味不明、ですよね、私の言ってること」

男「ああ、全然サッパリなんだが」

後輩「あは……良いんです、これ以上あなたにこっちの事情に踏み込まれても困りますし」

後輩「内輪揉めに巻き込まれちゃったぐらいの気持ちで、軽く考えてもらえれば――――」

ナ#し「男ぉ……男ぉぉ…………そいつが、同QB*ロ*6リワ7&**<БDS……・!?」

名##《 この世界の神はオレである。しかるに、邪魔者を除外する権利があるのだ 》

後輩「――――あ、れ?」

男「後輩 どうした? 青冷めた顔なんかさせて」

男(と、不安がる彼女に手を伸ばせば、貫通した。俺の手が後輩の肩を通り抜けて、空を掴ませたのだ)

男(見れば、徐々に下半身辺りから後輩が透けていた。何度触れようと試みても俺が空ぶりを繰り返すばかり、激しい動機が襲ってきた)

男「何だこれ。何だこれ! 何だよこれ! 後輩、どうした!? おかしいぞ!!」

後「      」

男「何言ってるかわからねーぞ!? 難聴なんてもう関係ないんだから、しっかり声張れっ! なぁ!?」

「          」

男「後輩っっ!!!!」

男(捕まえようとした美少女が、透けて、消えた。この俺の目の前から)

###「zノ*Zy罧X・B・fァR1<限*或鋳カ1・愆・}*芭灯遏*慧*Cワカ>€*オヌM」

男「………………どうなってるんだよ、おい……お前がやったのか……」

###「葡キ飼負oイTァ08eG+D8in0窶:」

男「お前がやったのか訊いてるんだ、俺はッ!!」

###「 ###「「や̘̣͔͙͎͎̘̜̫̗͍͚͓̘̣͔͙͎͎͜͜͜͜ば̘̣͔͙͎͎͜͜ơ̟̤̖̗͖͇̍͋̀͆̓́͞͡い̜ͪ̅̍̅͂͊な4 「ま̘̣͔͙͎͎̘̜̫̗͍͚͓̘̣͔͙͎͜͜͜͜す̘̣͔͙͎͎͜͜ơ̟̤̖̗͖͇̍͋̀͆̓́͞͡か̜ͪ̅̍̅͂͊ ̘̣͔͙͎͎̘͜͜h」

男「お前っ……!!」

男(もはや名無しではなくなったソレへ、俺は掴みかかっていた。顔が、バグったゲーム画面のように怪しく点滅している)

男(……コイツ、前にも会ったような)

###「d>羝倶ョ五/Wo莖・漠・帥c痺恰ュ紂嘩/W」

男「俺に、分かるように喋ってくれよっ……あんたの言葉全然こっちに届かないもんでさ……!」

###「◆ ・・号絎・・・≠・鞘!帚!・◎・・? 遺!㏍∞――――」

###『男クん、は、どうシて、怒ッていルの?』

男(分かるようにと頼んだのは俺だが、美少女たちの声を弄って作った合成音声で喋ってくれとまでは言っていないだろうが)

男「今すぐ後輩をここに戻してくれ。そうすれば、イラ立ちも収まってくれる」

###『ヤーだっ!』プイッ

男「……」

###『あイつが、いなクナらなくチゃ、男くンが幸せニなれないもノ! ヘヘヘ、ヘヘヘ』

男(この化物が神同等の超上の存在ということは確かだろう。意思疎通が取れているかと聞かれれば、頷けない)

男(台詞からして、俺を満足させる為にあの手この手で幸福を振り撒いていた張本人か。神が話していた“機械仕掛けの神”で間違いなさそうだ)

###『だガな、ワタシは思うのだヨ……キミは彼女モ愛しテいたと。そコで名案ヲ思いついたワ』

###『“彼女”モ、新しク作ってミようって』

男(狂ってやがる、と声を上げようとした瞬間にゴッと大きく揺れた地面に足を取られ、転倒した。尻もちをついた俺を見下ろすよう、そいつは言うのだ)

###『マだヤりなおせる^^^^』

男「……と、仰ると?」

###『男くんハこコでなニもミなかった。何も起キなかったシ、見テイないノよ』

###『やり直しまシょう、ねッ、せーンパい!』

男(奴の発言に呼応するように、崩壊し続けていた空が、落下の寸前でぴたりと動きを止めた。絶えなかった地鳴りも、軋みも、何もかもが制止する)

男(何もかもが凍結した空間の中で一人、そいつは愉快そうに不自然な笑い声を上げて舞っていたのだ)

###『おにイちゃん! 状況ガ悪いならリセッとすれば良いんだヨ、リせット!』

###『可愛イ女の子ト仲良ク遊ベて毎日楽しいよ~ 男ガ願っタことなんだヨね~』クルクル

男「逃げるのか」

###『ハぁ!? あんたまダくダラない文句続けルつもリ!?』

男「逃げるのかって言ったんだ、何でもかんでも不都合が起きたら無かったことにしようって」

男「お前は俺か? 生まれ立ての雛でももう少し頭使って歩き回れると思うぞ、とりあえず――」

###「mャ・ヮ痺樞#潟lャсリメ・%<i 綛贋怕S紮銀!・誌帥諢・4祉∴モや!・J銀!・¥瘁冷!溪!/Se」

男「―――お前の程度は知れた、舞台装置」

ここまで。GWなんてねぇよ!!!

###『ウひょー、そっカァ~! 男クん超カッコイイ!』

男(わざわざコイツの前でベラベラ説教を織り交ぜた語りをするつもりはない。放置して好きにさせておくとする)

男(神や後輩がこの壊れかけを危惧していた理由は、ご覧の通りなのだろう。消える前に後輩は、『主がこの世界に干渉不可能になってしまった今』と話していたが)

男(俺の飛び降りを阻止しようとした原因の一つと思われる。神は、いつぞやの廃病院イベントで、死へ至る自傷行為を意地でも止めようとしていたのだ)

男(何故 神自らがその様な行動を取ったか? 断定できないが、“機械仕掛けの神”自身は俺を危険から守るシステムを備えていないのだろう)

男(これを踏まえ、コイツのイカれた俺へのLOVE意識だ。逆に考えれば、何としてでも俺を幸福へ導かせ、目的を達成したがっているのかもしれない)

男(早く、朽ち果てて頂戴ね、と。……直接手を下してこないのは、あくまで目的に沿わねばならない事情があってか)

###『オォいこラ、黙っテナいで少しハこっち見ロってンだヨ、テメー!!』

男(辺りはまだ時が止まっている、俺たちだけを残したままでだ。コイツに何かしら神の力がある事は当然なのだろう)

男(この世界そのものであり、主だ。すなわち、これまでもその力によって俺は救われていたに違いない。奴の所持した想定できる能力となれば、やはり)

男(“事象改変”、“時間逆行”。どれも難聴鈍感スキルが鼻くそに思えるチート揃いじゃないか)

男(……それでも、俺はそのチートの欠陥を既に掌握していたぞ。ポンコツ気狂いめが)

###『お、男クぅ~ん。無視シちゃやダよぉ……グすッ』

###『テいうか、何コソこソヤッてるンデスかネ?』キョトン

男「伏線作り」

男(そいつ、あえて名付けるならば偽神は、裂けんばかりに口を半月状にさせて 俺へ向かって尊大に手を広げて見せる)

###「延根・・≠・・!・¥・・ぉ羂冷!・紊・∞繻=・・≦メ・!с@・・!・/」

男「何だって?」

###『男くン自身もリセットを望んデいるノ。あナたは アたし、あタシは アなただから分かッちゃウンだ』

男(俺が、コイツだと。確かに俺の願望を叶えるだけの為に生まれた存在だ、理屈には合っている、と思う)

###『僕ト男ハ一心同体だヨ。大切な子ガ無くナって、消エテ、とてモ悲しんデいる。こんナ醜いヲワりを素直に迎えラれるわケがないワ……でしョう』

男「良いな! 話が早いじゃないか、お前 好きになりそうだ!」

男(思いっきり顔を近づけて不敵に笑ってやったとも。真近くで拝んだ偽神の面に、膝は笑っていたが)

男「セーブポイントが用意されてるなら、急ごうぜ!! やり直さなくちゃ、結末を!!」

###『うん、カワいイ♪』

男「やり直して……全部やり直すんだ、俺が本当に望んでいたトゥルーエンドを目指す為に」

###『頑張ッてネ、少年。私ハ頑張る若人ヲいつデも応援しちゃウンだかラ♪』

男「念願の美少女ハーレムという酒池肉林を叶える為に、やり直そう。もう一度、いや、何度だって!」

男「特に、貴様のような 場違いラスボスもどきをぶっ潰す為に」

###「……………………樞#潟mャ¥瘁」

###「♂モ翫實ыェ・≦メ凪"ょJ倪!!с☆遺!㏍∞ ・補"俄!♀緇冷!jャ溪"潟」

###「励¥陦ィ遉コ縺輔l縺ェ縺�%ォ縺縺」縺溘j縲√ユ繧……」

###「k縺ョ?繝舌き縺ェ縺ョ?縺ゥ縺“@襍キ縺阪k縺ョш? @・イチc・・l優ト2Iゥ*掛*挌€/ル・€饗同QB*ロ*6リワ7&*???」

男「すまん、自他ともに認める難聴主人公だ。サッパリだよ」

男「それで何か言ってたか、神さま」

###「縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ‰繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク縺ァ縺吶€」

男(ラスボス呼ばわりは案外間違いでもなさそうなプレッシャーを肌に感じる。大気が震えるとは、こういう事か)

男(頭の中では冷静ぶれる俺だが、正直漏らしそうになったのが感想である。偽神が次に放った、聴き取れない台詞には)


###『修セいgひt羊に茄lつt』


男(明らかな、殺意と、憎悪が、込められてい―――――――――)


――――――

――――

――

転校生「――――文化祭、クラス発表の劇でラストシーンのキス 私は受けるわ」

男の娘「えぇ!! やだやだ、やだぁ! 僕 嫌だよぉ~~~!?」  後輩「選り好みしていたら大事な時期を逃しちゃいますよ」

転校生「ちょ! べ、別に本気になれって意味じゃなくっ、ていうか 結構失礼発言じゃない今の!!」

後輩「え、えっ、そうでしたか? 私は兄が他の人と結ばれたら、競争相手が減るし、兄も幸せになって貰えるんじゃないかなぁーと……」

男の娘「男は僕が[ピーーーーーーーーーガーーーーーーーーーー]!!///」

転校生「あぁ~、それよりあんたは何も言わないつもり!? ……変態?」

男「えっ? 悪い、少しばかりボーッとしてて聞き逃した……どうした」

男(そう答えるなり、転校生は顔を真っ赤に染めて俺の前にしゃがみ込んでしまうのだった。他二名はその光景に胸を撫で下ろしているような)

後輩「あーあ、先輩も相変わらず調子いい人ですね。まぁ、嫌いじゃないですけれど、ふふ」

男「どういう意味だって、それは」

転校生「うーっ、し、仕切り直すわ……もう、空気読めないんだから……ばかへんたい」

男の娘「そろそろ教室に戻ろうよ、男。例の件に関しては[ピーーーーーーーーー]」

男(思い出した、不良女との放課後デートを彼女らに伝えたのだ。てんやわんやの騒ぎの原因は結局俺へ収束されてしまうな)

後輩「お開きでしたら、私もこれで。……せーんぱい、約束 忘れないでくださいね」スゥ

男(約束、だって?)

男(あの挑発的とも捉えられる耳打ちは一体。やはり美少女から耳元で囁かれると、否が応でも全身元気になってしまうものだ)

男(としても、約束の内容について全く記憶が無い。今日の予定ですら乱雑に詰め込まれているというに、俺は彼女へ何を)

男「思い出せない……そして、やれやれ」

男(先程からポケットの中で携帯電話がしきりにバイブレーションしているが、コレもまた別の用だというのかね)

男「幼馴染ママだと? いつのまにママさんとメアド交換してたんだ、俺は――――あれ」

男(ママさんからの連続して届いたメールを確認する内に不自然で、奇妙な物が目に止まった)

男「……時間が、おかしくないか?」

男(昼前から届いていた筈のメールの中に、紛れ込んだ時差が狂った一通があった)

13:54 『件名:たくさん捕れました ※添付ファイルあり』

11:24 『件名:海到着しました~(≧∇≦)』

11:30 『件名:はらごしらえ! ※添付ファイルあり』

11:59 『件名:えっさほいさ』

男(目を擦っても、全て今日時刻のものだった。天使ちゃんがママさんと海釣りへ行くとは聞いていたが、到着前にヤドカリ乱獲をしていたのか? バカな)

男(11:30に届いたメールの添付写真を確認するに、撮影場所は同じだ。電波状況が悪かったのか?)

男の娘「おーとこっ!!」

男「ばっ、いきなり驚かすなよッ!!」

男の娘「あえー、別にそんなつもりじゃあ……難しい顔してたけど、どうしたの?」

男「別に。面白い事もたまにはあるんだなって、浸ってただけさ」

男の娘「そう? なら良いんだけど。お腹減ったねぇ、僕 ちょっと休憩挟んでもらっちゃった。転校生さんは頑張ってるけど」

男(倣うよう、彼の視線の先へ目を移せば 練習にも関わらず本番並みの迫力を纏う転校生が演技を絶賛振るっている真っ最中だった)

男の娘「何でも一生懸命でカッコイイよね、転校生さん。僕がこんなだから、尊敬しちゃうなぁ、あはは!」

男「ああ……えっと、何の話だったっけ」

男の娘「ええっ、疲れてたりする? 男、上の空すぎないっ?」

男(男の娘の心配を他所に、俺の脳内は違和感で埋め尽くされていた。実体すら掴めず、漂う幻に翻弄されて、現実へ目が行かないのだ)

男(やり場がないのに、原因不明の衝動に駆られて、どうにも落ち着かない)

男「だぁあーっ!! 何なんだってんだよ!!」

男の娘「お、男!? …………って、いま何か落とした?」

男(男の娘に言われ、足元を確認すれば 数十枚の写真が散らばっていた。こんな物 いつ持った?)

男の娘「ああ、待って 僕が拾うよ、写真。一杯あるねー……けど、男 どうして」

男の娘「何も写っていない壁の写真なんか持ち歩いてるの?」

金曜日ぐらいに続く

男「何も写っていない?」

男の娘「うん。ほら、全部こんな感じで壁を写してる。シミを眺めてると気分が落ち着くみたいなタイプ?」

男「どんな分類分けだ…… (そこまで前衛的な趣味は持ち合わせていない。目の保養ならば美少女が一番)」

男(しかし、拾い渡された写真たちは やはり彼の言葉通りである。薄暗い校舎の壁、そんな物が何十枚と。持ち歩いていた自分の色々を疑いたくなる)

男の娘「男が撮ったの? ど、どうせ撮るなら[ピーーーーーーー]///」

男「は? まぁ、十中八九自分で撮影したんだろうが、何となく違和感が」

男「見てくれ、男の娘。単に壁が写っているわけじゃないだろう コイツら」

男の娘「えぇ~、僕が見ても全部同じような写真にしか……し、しんれいしゃしん、かなっ?」

男「焦点がどれもこれも合ってないんだよ」

男(説明された男の娘は、サッパリだと気抜けしていた。まだまだこの趣味もニワカではあるが、不自然な点ぐらいは気づけるとも)

男「普通、写真ってどれも何かを写すことを目的した産物だろう。景色だとか、人とか、かならず撮影される対象物がある」

男の娘「あぁ、言いたい事はわかるけど、偶然変なモノが撮れないかと思って適当にシャッターを切ったとか~……」

男「そうだとしてもだよ、一々撮る角度を変える必要があるかね」

男の娘「えっ? あ、本当だ、全部微妙に位置が違ってる! すごいね、男!」

男「とりあえず褒めとけって止さないか、調子に乗っちゃうから」

男(話を戻そう。写真は壁しか写していないが、全て壁の撮影を目的とされてはいなかったのである)

男「それにコレ、ほら、手前にフォーカスが絞られてないか。地味だけど背景だけがボケてるだろ?」

男の娘「ん~~~? んー……言われてみれば、そう見えなくもないけど」

男「えっと、撮り方が無限遠よりも手前に調整してある。たぶん壁の前にあった被写体にピントを合わせてて」

男「あー とにかくっ! この写真、壁そのものは最初から眼中にないんだよ。あくまで背景であって、撮影対象じゃないぜ」

男の娘「……ていうか、男が撮ったんじゃないの?」

男「そ、それは、そうだと思うんだが……」

男の娘「えぇ、煮え切らないねっ? 撮った覚えはあるけど、どうして撮ったかまでは心当たりがないってこと?」

男「っ~~~……恐らく 人を写した写真だとは思う。こんな薄暗いところをバックに選ぶセンスはどうかしているが、あひょう!?」ピト

幼馴染「なーに熱く語ってるんですかー 男くん大先生は」

男「き、急に現れて缶ジュース当ててくるなよ……首筋弱いの……」

幼馴染「えへへっ、もうお昼の時間だよ。クールダウンしてご飯食べなきゃ、ね?」

男の娘「もうそんな時間だったんだ、授業受けてるより経つ流れが早く感じちゃうよねぇ。僕 転校生呼んでくるよ!」

幼馴染「はーい♪ ほら、男くんもいつまでも難しい顔してないでご飯にしよう」

男(撮った覚えは確かにあるのに、状況が思い出せない。誰かを、俺は撮っていた筈なのに。何故なのだ)

男(何も考えず、阿呆になって美少女たちとのランチタイムの時間である。残念ながら、今の俺には気休めになり得なかった)

幼馴染「箸 進んでないけど、美味しくなかった 男くん? それともお腹痛い?」

男「そういうワケじゃないんだけどなぁー……奥歯に物が挟まった、みたいな」

転校生「ちゃんと食べておかないと後でお腹減っちゃうわよ。少しでもお腹に入れておいた方が良いわ」

男の娘「男、まださっきの写真が気になってるの?」

男「写真……うぅーーーん、それだけって事でもなく……っ!」

転校生「いつにも増して変なへーんたい。あら? 元々かなり変だから変態なのか、ごめん、意味被ってた!」

男「ケンカ売ってんのか、お前は! ……あーはー、ダメだ。調子出ないぞ」

幼馴染「最近色々あってバテてたりするのかも。ふふっ、そんな男くんにとっておきの滋養強壮食があります、ハイ」

男「ふえぇぇ? (ドじゃーん、と登場したのは 淡いピンクの包装紙に包まれたクッキーだった。変わった形だが、味は悪くなさそうだ。完全見た目判断では)」

幼馴染「美味しいよ、食べて♪」

男の娘「[ピッ]、[ピッ]、[ピーーーーー]っ~!! [ピーーーーーーーーーーーー]……[ピッ]、[ピーーーーーーーーーー]……///」

男「コレ 男の娘が作ったのか」

男の娘「えぇっ、どうしてわかったの~!?」

男(ひょっとして舐められているのかね、俺って)

幼馴染「ほんと、ビックリ……実は男の娘くんが作ったクッキーってオチ仕込んでたのに」

転校生「ち、ちょっと待ったぁあー!! お、男の娘くんの作るお菓子って、お菓子は、芸術がかってたと思うんだけど」

男(同意見だ、転校生よ。これでは普通の美味そうな手作りクッキーではないか。あの禍々しい甘味を冒涜する毒マムシは何処へ行った)

転校生「美味しそうなんだけど……」

男の娘「それってダメなことなの!?」

男の娘「じ、実は幼馴染さんにこっそり指導して貰ってたんだ。やっぱり独学より、キチンと習った方が美味しく作れて[ピーーー]///」

男(何と、いつぞやに。だが、幼馴染は既に男の娘をも俺を狙うライバルと危険視に入れていただろう。それが敵に塩を送るなどとは、とその時)

幼馴染「……悔しいけど、男くんの為なんだからね」スゥ

男「えっ!? 何だって!!」

幼馴染「はーい、元気が出てきたところで早速試食のお時間です! 食べてたべて、味はあたしが保証するから」

男(不意打ち気味の耳打ちから食せよと流れを作る、コイツは策士だ。幼馴染自身が我がハーレムの肩入れをするとは)

男(なんて、素晴らしい、よくできた良妻なのだろうか。そういう方面でハートを握りに来るのが、逞しい)

転校生「え゛っ、私もなの……じ、実は私って甘いものってあんまり得意じゃなかったりー……」

男「そうか、一蓮托生ッ!!」ガ

転校生「もがふっうー!? んーーーー!!///」フルフル

転校生「ば、バカ変態っ!! 結局私に毒見させ……あ、おいしい」

男の娘「本当!? よ、良かったよ~、てっきり微妙な反応されるかと」

男の娘「そ、それじゃあ、お、男も、た、[ピーー]、[ピーーー]……?///」

男(お前をという意味であれば即座に圧し掛かっていたに違いない。クッキーを口の手前まで運んだその時、転校生が違和感を訴える)

転校生「美味しいけど、えっ、男の娘くん、これクッキーの中に紙が!」

幼馴染「フォーチュンクッキーって言うんだよ。丹精込めて全部のクッキーに男の娘くんがおみくじ作って入れたの」

転校生「そ、そうなんだ……『覆水、盆に返らず』って どういう意味だったっけ 変態?」

男「一旦やっちまったことはもう取り返しがつかない、って ソレことわざだろうが」

男の娘「あ、あのっ、ネタに困ったからネットで適当に調べたのも書いて入れてみたんだけど!」

男「おみくじ作成者がネタに困ったとか言うもんじゃねーよ……さて、俺のには何て書かれてあるかね」

男(『明日は明日の風が吹く』)

幼馴染「男くん、結果は? 良い事書かれてあった?」

男「一言で説明するなら、無難だと思う」

男(風と共に去りぬ、そんな快楽主義者にピッタリな楽観的な結果を手にして、決意させられた)

男(ちょっくら失われた過去を辿ろうかと)

男(ランチタイムを終え、それぞれが文化祭準備へ戻って行く中、俺はただ一人作業から抜け出していた)

男(時の狂ったメールに被写体が存在しない写真、手元にある納得をいかせない品々が突き動かすのだ。何かあると)

男(常識を疑う前に非常識疑うのは人のサガだろう。手放しに美少女たちとのイベントを楽しめる身体ではなくなったというワケである)

男「頼りがこの校舎内の何処ぞの壁っていうのは、証拠足らなさすぎじゃねーか……」

男「手探りで調べてたらキリがないぞ。見覚えないか、この背景に (己へ問い掛けたところで返って来る返事も無し。だって分からないのだもの、仕方が無い)」

男(語らずとも、俺が例の写真の撮影場所を探していることはほぼ把握されている事だろう。辿れば何か掴めると、根拠なしの思い立った行動だ)

男(大体、消えた被写体を知れてどうなる? 流れに身を任せ過ぎではないか。いや、任せてどうにかなるかもと……この世界だからこそ期待していたのかもしれな……)

男「……雨か」

男(ポツ、ポツと窓を小雨が打ち始めた。次第に雨粒が大きく変わり、本降りへ)

男(突然の天候の変わりように茫然と窓から覗ける景色を眺めていたが、ピンと来た)

男「あの薄暗さ、自然の明かりが入ってはいたが……待てよ」

男(再度、見飽きた写真を懐から取り出して視線を落としてみる。角度、高低差、空間……若干ではあるが、独特の雰囲気が絵から伝わって来る)

男「階段上での撮影だ……絞れる」

転校生「……あのさ、あんたまたサボり?」

男「うおおおぉぉぉ!! て、転校生!?」

転校生「何? まるで私が怪物みたいに驚いちゃって。失礼だわ、フン」

男「お、お前演技の練習はどうしたんだよっ? 休憩でも挟んだか」

転校生「まぁ、大方そんなところね。あんたこそ暇そうにウロウロやってて何やってるのよ、変態」

男「俺は……唐突な話なんだけれど、転校生 随分落ち着きというか、余裕あって見えるな」

転校生「え? どういう意味よ、それって」

男(どうと言われるとあやふやになってしまうが、俺からのアタックで赤面動揺を除けば、普段の言動が何となく素っ気ないというか)

男(二週目時の彼女を振り返ると、比較して、普段に仄かな余裕を受けてしまっていた。達観しているとでも言うべきか、説明しようのない身構えを)

男「上手く伝えるのは困難だが、時折ふと我に帰ってるみたいな……」

転校生「意味不明っ! 相変わらずあんたって変わりないわよね。おかしな事口走って」

転校生「あっ、さっきの、お昼の時も調子悪そうだったけど……だいじょうぶ?」

男「変人扱いから心配されると、こっちも戸惑うんだが」

転校生「な、何よ! 私だって人並みに心配するわ! 特にっ、あんたの、え、えっと!」

転校生「あんたが調子悪いと、こっちまでおかしくなっちゃうだから、もう……///」

男「……根は優しいんだな、転校生は。知ってたけど」

転校生「はぁ!? 変態から言われたって気持ち悪いだけだわっ! やだ、今の取り消して!///」

男(悶える美少女に、こちらも悶えかける、わけでもなく 不思議と平静を保てていたままだった。まるで悟ったみたいな)

男(そう、正に俺は只今賢者タイム……慣れか? 転校生に耐性がついて、コレなのか。彼女が愛らしい気持ちは途絶えないのに)

転校生「あ、あの! ととと、とりあえず場所移さないかしら!? こんな所で立ち話もなんだしっ」

男「同感、と言いたいけど 珍しいじゃないか。演技練習は大丈夫か?」

転校生「今は……そんな気になれないの。だから 私に付き合って、変態」

男「練習が身に入らないのか。悩みがあるなら、そこのゴミ箱に吐き出しとけば良い。俺はすかさず盗み聞く」

転校生「悩みとかないわよっ……ううん、ごめん、あるかもしれない」

転校生「むしろ、あんたに聞いて欲しいとか、思ってたりして……な、なんて、あははは」

男「このド変態スケベで役が足りるなら、付き合ってやらんでも」

男(いじらしい乙女へと変貌した美少女転校生、ならば見逃す理由もあるまい。主人公が寄り添うまでよ)

男(なんて、彼女の抱えた問題がかわいい単純な悩みだと思い込んでいた)

男(数分前までの自分が、滑稽に思えるイベントが待ち受けていたと 誰が予想できたものだろうか)

男「――――なぁ、わざわざここまで移動する意味あるか?」

男「雨も降って来たし、屋上に出るのは……ていうか 鍵かかってるだろ、フツー」

転校生「…………ここよ、あんたが探してた大事な場所」

ここまで

男(屋上へと繋がる扉を前に、立ち止まったまま俺へ背を向けて転校生は言ったのだった。含みが込められた台詞で、シリアスが充満したような)

転校生「放っておいても自力で辿り着けてただろうけどね」

男(そう付け足して、転校生は壁に寄り掛かって天井を眺めていた。俺はといえば懐から取り出した写真と、辺りの光景を照らし合わせて)

男「どうしてお前が知って……読めた、俺はここでお前を撮っていたんだな」

転校生「本当にそう思う?」

男「違うのか? あんたが探してた大事な場所って話しただろ。自分のお気に入りスポットを簡単にお喋りするような奴じゃないぞ、俺は」

男「喋っていなくても、大事を共有していたからこそ、思い当たりがあって 連れて来てくれたんじゃねーのか?」

転校生「ねぇ、変態。あの時のこと、始めて私に勉強教えてくれた日のことって まだ覚えてる?」

男(覚えている。俺は、過去を覗いて覚えているが、彼女自身はリセットの代償を受けて 記憶に残っていない筈)

男(そもそも“無かったこと”にされてしまっているのだ。時折、記憶改竄をされた美少女でも 何かの拍子に思い出の一部を蘇らせた時があったが)

男「んー、申し訳ないけど ほとんど頭にない。いつだったっけなぁー」

転校生「そっか、わかったわ」

男「ていうか、そもそも転校生より程度の低い俺に何が教えられるんだ? 勉強どころかだぞ」

転校生「雨、強くなってきたね。あんたと一緒に雨宿りした時みたいな……」

男「……転校生サン?」

転校生「……何?」

男「土砂降り眺めて思い出に浸っている中で悪いんだが、ちょっぴり変だぞ お前」

転校生「誰かさんのバカに振り回されて騒いでた方がいつもの私らしい? ふふっ」

男(誰だこの美少女。触れただけで折れてしまいそうな儚さと可憐な少女、俺の転校生ではない何かだ)

男「あ、雨の日になると急に感傷的になることもあるとテレビで聞いた事があるな!」

転校生「誤魔化さないで、しっかり答えてみなさいよ。怖気ついてるの? あんたが私に?」

転校生「珍しいね」クス

男「か、からかうな、暴力女っ……!」

男(おぉ、静まれ鼓動、高まるな萌豚根性。ギャップに弱いと何度も言っただろう。俺を、本気で狩りに来たのかコイツ)

男「(不本意だが、ここは) 大体センチになったお前とか接してても気持ち悪いだけだな! ほれほれ~、殴りやすそうな顔面でしょーう? んフフ~?」

転校生「……そうね」

男(取り戻したか、容易い。流石俺のツンデレ美少女――――何だ、俺はいま、コイツに、頬を触れられているのか?)

転校生「どうしたのよ、顔 赤くなってるわ」

男「あ、あっ、あ、ぎ……!?///」

男(いつのまに賢者になったのだ、転校生よ)

男(親切な誰か、目の前で優しく微笑む美少女にあの頃の面影を。悟りの書を彼女に開かせたのは誰だ)

男(ツンが消えて、クール。そんなの転校生ではない。だが、これはこれで中々捨てがたいと思わせなくも)

転校生「なーんて、ようやくあんたみたいな大バカでも私の魅力に気づいたみたいね! あはははっ、ふふふ!」

男「へっ?」

転校生「悪くない演技だったでしょ。伊達に練習で鍛え上げられてるわけじゃないのよ」

転校生「そ、それにしてもっ……ふ、ふふっ! さっきのあんたの間抜け面、見せてやりたいぐらいだった!」

男「あぁーっ! ふざけんなこの野郎!? 俺は、マジでお前がおかしくなったのかと思っ」

転校生「まだ私を心配してくれるの?」

男(食い気味で放たれた一言に、取り戻し掛けた空気が再び曇ってしまった。眉を下げた転校生が、俺を見つめている)

男「……何だ? “まだ”って」

転校生「もう十分よね、いい加減 私も目を覚まさなきゃいけない時が来ちゃったのかも」

転校生「さっき訊いた前に勉強教えてもらったって思い出、実は覚えてるでしょ。それから、その先のことも」

男「お、おい、本当にどうしたんだ 転校生」

転校生「えへへ……私 あんたのこと、好きだったのよ?」

男(記憶が、復活しただと)

男「過去形、と言う事は 飽きられてるのか、俺は?」

転校生「男から見てどうだと思う? 諦めが付いてまだ頑張ってるのって馬鹿げていないかしら」

男「驚いた。随分見透かしてるじゃないか……」

男「お前、思い出したというよりは 自覚したみたいな雰囲気かもな。自分の役目みたいな物が」

男(ニヤリと、転校生は自傷気味な笑みを浮かべながら、同時に戸惑いをこの俺へ訴えていた。それは自分の存在意義なのか、どうか)

転校生「ずっと、ずっとよ? 初めて男と出会った時から あぁ 私 こんな奴なんかに恋しちゃったって思ってた」

男(が、その実、と 彼女は笑った)

転校生「“思い込まされてたわ”」

転校生「この胸に覚えたドキドキした気持ちも、キュッって苦しくなった気持ちも、ぜーんぶウソだったのよ」

転校生「私ね、そんな事気づきもしないで、疑わないで、ずーっと必死にあんただけ追いかけてたの。笑えないかな?」

男(正直を話せば、理解していてもショックである。なにより、彼女自身の口から、というのが)

転校生「初対面でいきなり惚れるとか普通おかしいわよね、ぶつかって下着見られて、殴って惚れた」

転校生「何なのそれ、ていうか 私が何なの」

男「う、うぅーっ……!!」

転校生「どう考えたって脈略なさすぎるわよ」

男(動悸が、は、吐き気もする。一気に心地良い夢から現実へ引き下ろされるこの感覚、絶望でしかない)

男(甘い蜜には裏が合って当然と捉えるべきか。転校生はおろか、他の美少女たちまで同じ様なことを言い出したらと思うと、もう立てない)

転校生「それでもね、私 男とのこれまで振り返って思ったわ。嫌いじゃないって」

男「えぇっ?」

転校生「あんたって一緒にいて飽きないのよ。歪んでるところもあったけど、時々マトモだし、引っ張ってくれるし」

転校生「あと……うぅ、言い出したらキリないわよ! とにかく好き、大好きなの……///」

男(底なし沼から、掬い上げられた気分だ。極楽浄土まで)

男「そ、それで俺は何て返事、したら良いんだろうか」

転校生「知らないわよ!! か、勝手にすれば!?///」

男「……ターゲットに赤裸々とネタバレしたら 困るのは立場上お前らの方じゃないのか」

男(転校生は、リアル幼馴染の情報を改竄し偽神が作り上げた幻想である。自覚どうこうで、暴走されては堪ったものではなかろう)

男(ならば、コレが罠であるという確率も極めて高い。いくら美少女相手とあれど、時に非情に徹して)

転校生「か、勘違いしないでよ……ここなら“アレにも”覗き見されないから連れて来たの。……あの子が、教えてくれたんだからね」

男「あの子って?」

転校生「さぁ……ところで――――」

男(一旦引いた転校生が、息のかかる距離までこちらへ迫って来た。いくら見慣れた綺麗な顔といえど、ここまで急接近されては困る)

男「(余裕を保つのも精一杯だ) こ、今度は何だよっ? からかうのは無しだぞ」

転校生「ここ、アレに見られてないって私言ったわよね」    男「はぁ?」

転校生「ていうか、誰にも見せられないわ こんな所。特に これから私が男にしでかすこと……」

男(短髪になっても魅力が失われない美しいその毛先が、顔に当たった。近距離すぎるほどの近距離、あの転校生が自ら 勝負にだと)

男(ミステリアスな様が妖艶と化け、俺の興奮を誘い寄せるには十分だった。とにかく、手の行き場に失っていて、おのれ、美少女)

男「な、何一人で優位に立ったつもりでいるんだ。バカな真似はその辺で止めておいた方が」

転校生「あんたが好き……好きだから」

男(耳元でフとかかる吐息があった。が、その瞬間俺の身体が跳ねた理由は他にある)


転校生「――――死んでほしいの」


男「…………何だって」

転校生「私の口癖気づいてるわよね。何かにつけて“しね”って」

転校生「冗談なんかじゃないわよ」

男(その時にはもう 俺の首に 白くて細い指が掛かっていた)

ここまでなのん

男(屋上の床を強く打つ雨音をバックに、俺は 今日 確かに続いていた日常に裏切られた。外は酷い雷雨である)

男(演出過多すぎる。おまけに稲妻が走って閃光に照らされてしまう転校生の顔、これってサスペンスかホラーの典型)

転校生「驚かないんじゃつまらないわ。いつかこうなるって予想してたわけじゃないわよね」

転校生「私は、私たちはね、あんたをあの手この手で喜ばせなきゃいけないの。だから最初からあんたが気になる」

転校生「あんたを、ここに永遠留めておかなきゃダメなのよ……ねぇ、男」

転校生「男は、この世界の人じゃないんでしょ?」ググッ

男(この首を絞めている彼女の手は、勿体ぶって、ゆっくりと、穏やかとも例えられよう力を込めつつあった。獲物を弄ぶのは悪趣味だろう、いや、違うか)

転校生「全部ぜんぶぜんぶ、もう知っちゃったんだから、私。自分が無意識でやってた事も意味があったんだって!」

転校生「とにかくよ。万が一でも、あんたが元の居所に帰るなんてこと あっちゃならないの……」

男「っげェ!? ぉぉおおぉ、ま、マジで今度こそ殺す気かっ……結構、苦し、いんだが……転校生……」

転校生「今なら邪魔されないで真面目に死ねるんでしょ、あんた。死ねば、向こうのあんたの体は機能しなくなるんだって。知ってた?」

転校生「つまりよ、そうなっちゃえば 男が帰る場所が無くなっちゃうんだから、ね……ごめんね……」

男(事実なら、神が意固地になって自害を阻止した訳に頷けなくない。奴が目論んでいるのは強制の死ではなく、俺自らが死 ≪幸福≫を受け入れる事だった)

転校生「ごめんね、本当にごめん」グ

男(転校生、彼女がやらかそうとしているのは、云わば反則行為か? それにしても、脈が絞まる)

男(というか、さすがに冷静保っていないで止めなければ。ラブコメが愛憎劇に早変わりだぞ)

男「お、おれぇぇぇー……かえっ、ぅおえっ、なギ……!!」

男(ダメだろうコレ、思った以上に声を絞り出す隙間がない。視界がチカチカと点滅した所でようやく危機感がやって来た感じだ)

男(BADENDどころかDEADENDじゃ、いくら美少女の手でとあれど、結末は、あ、あ、あ、ぁ)

「そこで何してるの!?」

転校生「えっ!!」

男(意識が、何だ、恐らく朦朧としていると思う。喉を圧迫していた力から急激に解放され、ぼやけた眼が捉えたのは)

男(階下からあがって来た 一人の美少女の姿だった)

転校生「―――がうの、これ――――――イツを私は――――」

「――にが――って言うの!? ―――を――」


男「あぁ……はぁ? ……おえ…………ん、ぐ……」


転校生「―――よ―――から!!」

男(耳鳴りが酷い。きっと脳にまだ酸素が上手く渡っていないのだろう。彼女たちの言い合いの何一つ 伝わってこないのだ)

男(転校生、俺は お前がワケなく人を傷つける奴じゃないと知っているぞ、よく。だから、そんな風に――――)

名無し「やー、気がついたか 眠り姫」

男(――気を失った記憶がハッキリ残ったまま、目覚めは決してよろしくはない。途絶えた場面が一転、目一杯爽やかな面で埋まったのだから)

名無し「大丈夫か? お前倒れてたんだぜ。オレが偶然通りがかって良かったよね」

男「嫌に恩着せがましさを感じるが、気のせいなのか」

名無し「まっさっか、何も求めないって! たぶん貧血でも起こしたんだろうサ。顔色悪いしなぁー」

男「ていうか、転校生は? 傍にいなかったか? 大体 倒れていた場所がおかしいぞ (寸前までの記憶が正しければ、屋上の階段で俺は寝ているべきだ。だのに、ここは馴染みある部室。そう、ラーメン愛好会の)」

男(文化祭の為にと整理整頓されてすっかり広々とした空間だ。椅子を連結して作った簡易ベッドに眠らされていたせいか、腰が痛む。というか)

男(元より、部員の誰でもなく、この男が傍にいた謎。今の時間は……え)

名無し「どうしたよ、時計なんて凝視しちゃって。面白いか?」

男「……あ、アレは何だ…………どうなってる……」

男(時計の針がぐるぐる絶え間なく逆回転していたのである)

男「どうなってるか訊いてるんだよ!! 普通じゃない事ぐらいお前でもわかるだろッ!?」

名無し「あぁ、そんなにいきり立つなよ。病み上がりなんだぞ」

名無し「嫌な事があったんだろ? 辛いけれどサ、男ならやり直せるって! ファイト~!」

男「ちょ、待――――――――」

転校生「――――文化祭、クラス発表の劇でラストシーンのキス 私は受けるわ」

男の娘「えぇ!! やだやだ、やだぁ! 僕 嫌だよぉ~~~!?」  後輩「選り好みしていたら大事な時期を逃しちゃいますよ」

転校生「ちょ! べ、別に本気になれって意味じゃなくっ、ていうか 結構失礼発言じゃない今の!!」

後輩「え、えっ、そうでしたか? 私は兄が他の人と結ばれたら、競争相手が減るし、兄も幸せになって貰えるんじゃないかなぁーと……」

男の娘「男は僕が[ピーーーーーーーーーガーーーーーーーーーー]!!///」

転校生「あぁ~、それよりあんたは何も言わないつもり!? ……変態?」

男「えっ……すまん、考え事してて聞いてなかった、かも」

男(デジャブというものをご存じだろうか。ある光景を目撃し あれ? 前にも見たことがある? と錯覚してしまう現象である。言い変えて既視感)

男(正に今 その奇奇怪怪を目の当たりにした。気のせいかもしれないが……)

後輩「調子悪そうですけれど、気分が優れないんですか?」

男「ああ、いや! 別にピンピンしているけど、何となく目眩が」

男の娘「目眩!? た、大変だよっ、早く保健室に行かないと! [ピッ]、[ピーー]が[ピーーーーーーーーーーーー]///」

転校生「待って。わ、私が付きそうから二人は教室戻って」

転校生「行きましょ、変態……?」ギュッ

男「何故 手を握る意味があるか (だが、惚れた)」

男「おい、転校生 こっちだと保健室から逆に遠のくぞ。ていうか聞いてるか?」

転校生「……」

男「い、いつまで手掴んでるつもりなんだよ!? 他の奴らに見られて変な勘違いされたら」

男(言いかけて、無意味と気づく。彼女は俺の言葉すらシャットダウンしたまま何処かを目指して突き進んでいたのだから)

男「さっきからメール連続して届いてるけれど、何なんだろうなぁ~~ お前知ってるか?」

転校生「呑気やってないで、付いて来て。一度や二度じゃたぶん済まないから」

男(意味不明だと投げかけた所で 今の彼女には通用しないのだろう。手を握る強さから、必死を感じてならない)

男(引っ張られる片手間にバイブを鳴らす携帯電話へ手を伸ばせば、愛しの奥さんから、何通もラブメールが。内容は)

13:54 『件名:たくさん捕れました ※添付ファイルあり』

11:59 『件名:えっさほいさ』

男「……なんぞこれ」

転校生「着いたわ、ここなら問題なさそうかな」

男(と 一息吐くのも瞬く間、繋いでいた手が 離れて、今度は俺の胸倉を掴みかかっていた不思議。え?)

転校生「あんたに恨みは、無くもないけど、とりあえず」

転校生「死んで……っ!!」

男(突然 窓を蹴破った美少女に唖然としない者は存在するだろうか? 答えは否である)

男「(すぐ横で耳内を劈く高音が響き渡ったと思えば、窓ガラスの破片を手にした転校生がソレを俺の喉元へ突き付けていたという) ……一体何の冗談だ?」

転校生「つ、次こそは躊躇わないわ……殺すから……!」

男(急展開炸裂で脳が全く追い付かない。追い付くわけがない、先程まであーだこーだと仲良く言葉を交わし合った彼女が狂気と化したのだ。まさか)

男「(俺を完璧に物にできないと悟った転校生は この俺を殺害することで体だけでもと、病みを発症してしまったとでも) 何の冗談だ!? お前からぶっ殺される思い当たる節とかないぞ!!」

転校生「こっちにはあるの! 良いから黙って死んで、手っ取り早いから!」

男「暴力通り越してヤバいのに変貌しかけてる自覚あるか、お前っ!?」

転校生「ある、わよっ!!」

男「いひっ!?」

男(数秒前まで喉があった位置に、壁に彼女が握った凶器が突き立っている。本気だ、コイツ 真面目に致命の一撃を与えに来た)

転校生「はぁ、はぁ……お願いだからじっとしてて……」

男「してられるかよ!!? ワケわかんねーぞ 転校生、説明しろッ!!」

転校生「あんたが死んでくれなきゃ、みんな消えちゃうの! 消えちゃうんだからぁーっ……!!」

男「えっ」

男(それだけの台詞に足元を掬われた気になって、彼女からの二撃目を避ける隙が 失われた)

ここまでじゃい

男「…………ありゃあ (我ながら素っ頓狂と思ったが、あなたも次元違いの窮地に立たされてもみるが良い。というか)」

男(殺意に支配されていたであろう彼女が突き出した凶器は、ピタリと眼前で制止していたのである。急展開だろうと、転校生、彼女は病み切れないさ。だってキャラじゃあない)

転校生「……どうしてよ」

男「ん?」

転校生「な、何なのこれ、どうして動かない、のっ、よ……くっ、う! 何で」ギ、ギギ

男「転校生 少し落ち着いてくれないか。やっぱりどんなに間違っても、お前が人を殺すだなんて――――」

転校生「コイツ 殺せないじゃないのよッ!! 動いてってば!!」

男「まずは喧しい口を塞いでくれ。こっちの主張も、マトモに出来やしない」

転校生「あんたの言葉なんて聞く耳持たないわ! ねぇ、今の自分の立場理解してるの!?」

男「抑えてくれ。事情は置いておくとして、俺を殺めるのは本望じゃないんだろう」

男(だからこそ、寸前でストップが効いた。瞳から宝石を誇れる大粒の涙を零している姿こそ答えではないか、正真正銘のツンデレって奴を垣間見た希ガス)

転校生「うるさいっ!! 黙っててよ、私が、私があんた殺らなきゃ、だめなんだから……動け、動いてよぉ……」

男(簡単な説得でさえと考えていたが、妙だ。転校生がいくら力を込めても、成る程 確かに一ミリも凶器が動かず、手が硬直していた)

転校生「い、いや……何なの!? 一体何なの!?」グ、グ、グ

男「いつまで力んでるんだ? なぁ、そろそろ力抜いても」

転校生「手が、手が動かない……え、えっ? 何で? 何なのっ? あぐ、っ……!!」

男(状況判断、一目で彼女の様子がおかしい。押しても引いても、破片を握った右手が空中に固定されたままである)

男(試しに俺自身が手を伸ばし、触れてみれば 岩でも持ち上げようとしたのではと錯覚を起こしかけた)

転校生「は、は、は……はっ……」

男「落ち着け、緊張しているだけだ。肩でも揉まれれば一発だと思うぞ!」

男(傍にいる俺へ震える声で助けを求めないのは、迷いを拭い切れなかった為だろうか。考えたくもない、転校生が本気で俺を)

男「ゆっくり、ゆっくりで大丈夫。指を一本づつ広げていくか」

転校生「……」

男「やれやれ、本当 どうしようもない。面倒臭い自覚あるかね、転校生」

男(ガラスの破片を力強く握りしめていれば、その手まで傷つくのは当たり前だろう。血が滴り、床を点々と赤く汚していた)

男(破傷風にでもなっては大事だ、緊急で手当てが必要と判断できる。過保護じゃない、美少女だぞ。ひとまず 武器は取り上げられた)

男「手 もう大丈夫だろう。保健室に消毒薬と包帯借りに行こう、そのままじゃ痛々しいしな」

転校生「……あんた」

男・転校生「「“みんな消えちゃう”ってことについて一言も訊くつもりないの?」」

転校生「えっ!?」

男(目を丸くさせている転校生を気にせず肩に担げば、振り払われる事も杞憂に 俺たちは歩き出した)

男「さっきまでがウソみたいだって顔してるじゃねーか、転校生」

転校生「……」

男「どうでも良いけれど、一度や二度じゃたぶん済まないってどういう意味か詳しく教えてくれないもんか」

男(発言後の行動から推測されるのは、転校生のドを越した暴力行為、その目的の達成までの道のりと思われる)

男(あの手この手で、この俺を狙おうが 先程の異常現象によって妨害が働かれ、簡単には成功へ至らない。それを彼女は了解の上で)

転校生「私に、同じ説明何度もさせないで……」

男「何だと?」

転校生「聞いたって無駄よ!! どうせすぐに“何も知らないあんた”に戻っちゃうんだから!!」

転校生「ねぇ、私はあと何回あんたを殺そうとすればいいの!? 終わりって来るの!?」

転校生「もう いやよ、こんなの……」

男(隣で頭を仰け反らせた転校生は自暴自棄に乾いた笑い声を上げ、膝から崩れた。持ち上げようと引っ張った彼女の体は、実に軽い、否、軽すぎた)

転校生「文化祭、いつになったら始まるの? 私 楽しみにしてたんだよ。だって、始め¥瘁冷!溪!・/Sん」

男「今 何て言ったんだ、転校生?」

転校生「ぉ羂冷!紊∞繻=β≦メс@!e> 纛延 根・香c☆!岩渇坂"銀!凪!メや"岩!障/>c」

男(転校生は、俺の声も届かない境地へ達していた。頭を抱え、体をしきりに震わせては 聴き取れない台詞を連発している)

男(只事ではない、異常事態だと 遅すぎるほどに勘が今になって働いた。鈍感は罪である)

転校生「……どうしたの? 私は平気よ、あんたの汗臭い上着なんて被せられても」

男「ループしているんだな?」

転校生「は?」

男「俺がダメで、お前が何故に記憶を保っていられるかが謎だが、何か起こるたび一定の時間が巻き戻っているんだな?」

男(制服のジャケットを脱いで引っくり返し、数回叩けば ポケットから写真が数十枚落ちた。何者も写されていない壁のみのソレが)

男「今度はマジで教えろ、お前は知ってる筈だ。“何だこれ”は?」

転校生「…………え」

男「安心しろ、こっちはとっくの昔に事情通なんだ。理不尽も不可解も気が狂うぐらい味わってる」

男「ループに関しては、誰よりも専門特化かもしれないぞ。伊達に振り回されてない」

男(自分の強い欲求に、ハーレム達成の妥協知らずのお陰で)

男「パズルのピースは十分散りばめられた。あとは拾って、回収し尽くせば自ずと解決まで辿り着く。俺は、ずっとそうして来たんだぜ、転校生」

転校生「……へ、変態?」

男「あいよ」

クロスチャンネルってエロゲあったよね
なんとなく以下略

男「ふむ、壁の色も染みも写真と同じだな」

男(いつのまにか懐に潜んでいた覚えのない写真たちを転校生へ尋ねれば、俺は転校生から屋上へ繋がる階段へ連れて来られたのだ)

男(写真と目の前の光景を見比べつつ、不可思議にも、懐かしさを覚える。どういう事か)

男(始めてこの場へ立ったとは思えない。だのに、自然とここから窺える扉の向こうを、誰かを想像して 気色悪い顔が綻んでいた)

転校生「うぇ。何一人でニヤついてんのよ、変態な上に不気味ねぇー……」

男(意味深なシーンでも揺るぎなさすぎやしないか。と、背後の彼女を振り返れば)

転校生「ごめん。別にそんな酷いこと思ってないんだけど、口が勝手に」

男「イギリス帰り設定だし教えてやろうか、それ日本人は悪い癖って言うんだよ!」

転校生「し、信じてよ、ウソでも、チョッカイのつもりでもないから!」

男「はぁ? 本音と建前がゴッチャになって出て来たんじゃねーか、油断してただろ。ねぇ?」

転校生「……あんたがそう思ったなら、それで良いわよ。とりあえず」

男(続く彼女の言葉へ黙って耳を傾けていれば、いくつも興味深い話があった。当然 非日常語り、と思いきや)

転校生「色々あってややこしいから、今はこれだけ言っておくわ 男」

転校生「私たちは何々、何々、何百回も! 今日のお昼を繰り返してるの! ……く、繰り返してるのっ!」

男(かなり重要ポイントであることは把握したとも)

転校生「こんなこと急に言われて戸惑わないワケないと思うけどっ……信じて、お願い」

男「簡単に頭下げるのは感心しないぞ、転校生よ」

転校生「うっ……」

男(肩を叩かれ、俺へ対してらしくもないお辞儀を解いた転校生。彼女は精神的に疲弊し切っているのだと、その態度から読み取れる)

男「(まずは己の安全を確保しておこう) 状況を整理しよう、この俺としても解決したい問題だ」

男「まぁ、協力者に寝首を掻かれるかもしれないんじゃ話は別となるか」

転校生「っぐ!!」

男「繰り返し……そのループとやらだが、さっきの様子から察するに毎度起こるたびに、お前 俺のことぶっ殺そうとしてたんだろう?」

転校生「う、うん」

男「こうしてじっくり俺と話し合う機会を持った試しは一度でもあったか?」

転校生「……ううん」

男(となれば、現時点では転校生の物騒な行動をトリガーにしてループが発生していると予測できる)

男(俺を中心に全ては回る。すれば、ショッキングな動きを見せた彼女に衝撃し、呼応して時が戻ったと)

男(裏がある事は知っていた、が、それでも続いていたゆったりモテモテハーレムライフが突然おかしな方向へ向かえば、プレイヤーは選択肢を誤ったと思う)

男(ループ……ある意味時間軸に対する回帰点、セーブポイントからやり直す、である。俺が無意識にセーブ&ロードを望んだとでも?)

男(辛いが、ループの起点は転校生 彼女自身である。俺のせいで皆が消えてしまうという恐れからくる一心不乱が、皮肉にも身を滅ぼしてしまったのやもしれない)

男「俺が健在し続けていて、お前たち周辺にどう影響与えるってんだ。存在自体が罪なのか、ブサイクは」

転校生「え? な、何の話よ」

男「危ない物振り回して自分で訴えていただろうが、あんたが死んでくれなきゃみんな消えちゃうって!」

転校生「そ、それは、えっと……」

男「蔑ろにして良い問題じゃない。お前のその思い込みか、誰に吹き込まれたホラかよく分からん話で 振り回された状況下なんだぞ」

男(吹き込まれたにしても、現実離れした痛い脳味噌の持ち主でしか頷けない内容である。キッカケ、あるいは、思い当たりがあった人間でしか大抵通じる事はない筈だ)

転校生「……もう、あんたはここの事情を知ってる前提で勝手に話すわ」

転校生「男はこの世界の人じゃないのよね、私たちがどう足掻いても認識できない、近くて遠い場所にあるところから来た人」

転校生「あーあ、私たちって異世界の人間なんでしょうね! ……しかも あんたの為に作られた存在って」

転校生「あんたにその自覚あるか知らないけど、私たちだってちゃんと生きてるのよ……な、なのにさ」

男(この俺という客人を持て囃す為だけに息をさせられて、偽りの生活を送らされている、とでも言いたげな視線である)

男(昔 アリを飼っていたことがある。よくある夏休みの小学生の自由研究のテーマに、アリの巣の観察を父から勧められたのだ)

男(始めは退屈にも感じていた観察が、どうにも歪んだ性分は小さな支配を楽しませてくれた)

男(毎朝 毎晩、決まって飼育ケースへエサを入れて 働きアリが列を作る様を眺めて、卵を産まんとする女王アリを眺めては思った。ここに彼女らの意思はあるのだろうかと)

男(たかが虫コロに意思などあるわけがない。アリは既に俺の自由研究の為の糧となったのだ。天災だと、ジョウロに入れた水を巣へ浴びせてもみた)

男(不意にケースを持って揺すぶってもみた。そのたび起きるアリどもの反応は、童心に宿る興味と言う名の残酷を存分に満たしてくれていた事だろう、なんて)

男(この、夢のような世界が今は あの時のアリの巣を彷彿させた。主である俺を喜ばせようと、彼女らは必死に応えてくれていたのだと)

転校生「あんたから用無しって思われたら、消えちゃうんだから 悲しいわよね……」

男「転校生……」

転校生「私たちはね、あんたに“ここ”にいて欲しいの。元の居場所に帰られちゃったら、生きていけないの!」

転校生「ねぇ、わかる!? あんた神さまよっ、だから下々の私たちは崇めるし、称えるの!! わかる!?」

転校生「もっと、もっと私たちのこと好きになってよぉ……依存してよ……私たちも同じなんだから……」

男「何でさっきから俺帰る前提で喋ってるんだ、お前は?」

転校生「…………えっ」

男「いや、お前がどう至って危惧したのか知らんが 現実に戻るとか絶対ありえないわ」

男「むしろ、こんなに可愛い女子たちと毎日飽きないでワイワイやれて 他に何高望めっていうんだ……っ?」

男「ば、バカじゃないの!?」

転校生「死ねぇーーーっっ!!///」

男「ぶぎぎっっっ……!!」

ここまで

転校生「バカはあんたの方でしょ!? ていうか、かかか可愛いってっ、スケベ! 脳無し! エロ猿!///」

男「酷い、割と純粋な感想だった気がするんですけど」

転校生「ガッツリ色目入ってたわよ! だ、だけど あんたがそう思ってくれてるなら」

男「文句は無いだろ? 趣向こそ異なるが共存関係は成立したんじゃないか、転校生」

転校生「ふん、こっちは微妙に複雑なのに……『ギブ&テイク』、日本人が好きな言葉よね。見事にその通りだわ」

転校生「乱暴しちゃってごめんなさい。ここでした話は忘れて、私もいつもの私に戻ろうと思うから」

男(そう言うと転校生は こちらへ深々と頭を下げてきた。全く、複雑なのは俺も同じだというに)

男「とにかく、ループについては二度と起こらないと考えて良いんだな。お前の誤解が解ければ必然的に、そうだろう?」

転校生「わかんない……きっと、多分…………」

男(未だ釈然としない転校生、甚だしくも感じる。今の彼女ならば 全ての答えを知っていてもおかしくなさそうだが)

男「腑に落ちないって言葉の意味、知ってるか?」

転校生「な、何よ 変なクイズなら後にしてくれても」

男「転校生、ループにしてもこの状況って俺も漠然としない部分が多いんだ。特にこの写真を持ってる意味」ス

男「こいつを尋ねたら、お前がここまで案内してくれたな。まだ話してない事があるんじゃないか」

転校生「随分執着するわね、写真なんかに……」

男「転校生は一円を笑って一円に泣く奴なんだな、哀れ!」

転校生「勝手に決め付けて哀れまないでよ! 写真を見せられて、ここに連れて来られた。おしまいっ!」

男「終わるなおわるなっ……たかが殺風景な写真でも、自分が撮った物だということは何となくわかる」

男(しかも、遺恨まで感じ取れた気がする。過去に天使ちゃん暴きに利用したアイテムの様に、己の強い意思がひしひし伝わって来るのだ)

男(元々俺は無駄な物を持ち歩かない主義である。外出してもバッグやリュックを担ぐのすら煩わしい、荷物 それすなわち足枷よ)

転校生「へー。だから?」

男「それにここに立ってるだけで不思議と懐かしい気分になるんだよ。もっと言えば、屋上にか」

男「雨さえ降ってなければ、外に出たいなぁ……さぞかし良い景色だろう、支配者の気分になれるぞ」

転校生「小物」   男「庶民だよ、憧れのスケールは大体小さい」

転校生「……あのね、男。世の中には知らなくて良い事だってあるのよ。私が教えられるのはここまで」

男「NO!! そう簡単に勿体ぶるな、焦らされるのは好みじゃない」

転校生「焦らすとか、先延ばししてるんじゃないわよ! 本当に知らなくて良いの、永遠に!」

男「そんなの悪夢だな! 教えろ。何かをスルーして暮らしていくには、俺にはもう遅すぎる!!」ガシッ

転校生「ちょ!? 顔、ちかっ///」

男「…………始まってるんだ、今更 後戻り出来ないだろ」

男(間近で美少女を凝視し続けるという行為は、良くも悪くも毒である。鼻息が荒くなった辺りは、転校生の恥じらいとで相殺されろ)

男(観念、というより 降参からか床にペタンと足を崩した転校生。彼女の紅潮した頬に涙で潤った瞳が、実に背徳感)

転校生「“戻れない”じゃないわよ……あんたって、一体何なの?」

転校生「な、何がしたいの……聞いてたけど、どうしてそんな首突っ込みたがりなのよ……」

男「主人公だからに決まってるだろう。良い思いする代わりに、引っ掻き回すのが代償だ!」

男「覚えとけ、俺は難聴でも鈍感でもない! 都合悪くなったって歓迎だっ、楽しい事が大好きだからな!」

転校生「は、は?」

男「リアルじゃ味わえない体験がいとも簡単に俺の足元へ転がり込んでくる……所詮モブでしかなかったこの俺をメインに」

男「何もかもが展開されて行く。お前には一生分からないだろうな、非日常は辛いじゃない。楽しいんだ、新鮮だ、刺激がある」

男(……ああ、今わかった。委員長を救おうとしてみたり、お人好しに動いてみたり。全ては美少女に収束されているわけではなかったのだ)

男(委員長に対しては好意があったわけでもなく、ただ善意から厄介事に首を突っ込んでしまったと考えていたが、そうじゃあない)

男(ワクワクしてしまったのだ。ヒーロー気取りではない、本物のヒーローになれるのだと。欲望塗れの偽善が自分を動かしていた)

男「俺 必要とされたいんだよ。存在意義を見出したかったっていうか、誰かに認めて欲しくてね、それが叶うこの世界ならって」

男「称賛されたくて、自己満足に浸りたくて…………以上、建前だ。これで納得してくれるか?」

転校生「あ……あんたって、どこか狂ってるわ」

男「狂ってるなんて簡単に人に向かって言っていい台詞じゃないな」

転校生「えっ、あ、ごめん! そ、そうよねっ、いくら変態だからっていつも頭の中おかしいわけじゃ」

男「喜ばせるだけだぞ、いつまでもマトモになれない人間を」

男「(俺は笑っていたのだろう。その様を眺めて彼女の全身に寒気が走った事を感じ取り、愉快になってきた) お前が本性を見せてくれたんだから、こっちも曝け出さないと腹を割れないだろ」

男「俺ってこういう奴さ。コンプレックスからか自己顕示欲が高くて、持て囃されればデカい面する。さっき言われたが、小物だよ」

転校生「つ、ついに自分で言うとかっ……」

男「すまん、つまらん話が長くなった。お陰でスッキリした! 受け手からしたらただ胸糞悪いだけだったかもしれないが、でも良かった」

男「へへ、こんな酷い自分語り、話せたのお前ぐらいだよ。転校生……!」

転校生「っー!!///」

男「ん、どうした? お前しょっちゅう顔赤くして、もしかして病気じゃ」

転校生「ちちち、違うわよバカ変態っ!! 頭おかしい頭おかしいってずーーーっと思ってたけど、やっぱり変態ね!!」

男「変態しか言えないのかよ、語彙足らな過ぎじゃねーのか!!」

転校生「ばか!」  男「ほら、バカしか言えないバーカ! バーカ!」

転校生「ううっ!! ばかぁーっ!!///」

男「ヘイヘーイ! (相手をより信用させるには、あえてこちらの弱味を曝け出す。基本だ)」

男(理由はどうあれ、曲がりなりにも転校生は俺に惚れている。ならば利用しない手はないだろう)

男(人は感情の要素に強く左右される動物だ。例え非合理であろうとその人へ共感や関心を抱かされれば、容易く揺らいでしまえる)

男(して、こちら側へ相手を引き込む場合、重要なのは説得力となる。歪んでいようが真実を織り交ぜた物語によって、食いつかせ、終幕にて)

男「(相手を強く尊重してやるのだ) バカで阿呆と、何度言われなくても自覚してるさ。安心しろよ」

転校生「どう安心しろっていうのよ!? まったく……どうしようもないわね、あんたって」

男「どうしようも無いなりに意地があるんですがな。もう一度だ、教えてくれ 転校生」

男「この写真と、この場所が意味している何かを!」

転校生「……しょうがない、か。あんた忘れちゃってるのよ」

男「え?」

転校生「“あの子”のこと、忘れてる。紛い物だったけれど ちゃんと存在してた筈のあの子を」

男「あの子を連呼されたって、忘れてる張本人からしたら何がなんだかだぞ……写真と関係あるのか?」

転校生「大有り。元々その写真にはあの子が写ってたんだからね、人間不信だった頃の男が始めて人を撮ったんだけど、覚えてない?」

男「いや、サッパリ」

転校生「じゃあ教えてあげる。あんたとあの子だけの昔話」

男(誰かをまず先に教えてくれない辺りが、それっぽい)

男(昔むかしと、ある意味期待を裏切らない語り始めに困惑した。長く、なるのか?)

転校生「素直になれない男の子がいました。追われて、逃げた先の この屋上で、女の子に出会いましたとさ」

男「そこで終わり臭ぇな!?」

転校生「終わりどころか続きまくってるわよ。あの子からあんたは色んな物を与えられたんだと思う」

転校生「あの子がいなかったら 今のあんたはいないし、あんたがいなかったら 今のあの子もない。お互い自分たちにとって大きい存在だったと思うわ」

男「ふむ……大きな存在なら、頭から抜けるなんてあり得ないんじゃないか?」

男(あの子、すなわち転校生からして同年代か目下の人間だろう。対象は美少女と想定して問題ない、こんな素晴らしい世界だ)

転校生「あり得ないを可能に変えるナニかぐらいは覚えてるんじゃないの」

男「…………参った、頭痛いってもんじゃない」

男(転校生の言葉に従い、とある記憶を呼び覚まそうとすれば 目が眩み、軽い動悸がした。が、そんな俺の顔を両手で挟み 彼女は)

転校生「しっかりして! いい? 私がしっかり思い出させてあげる、歯ぁ食い縛りなさいよ!」

男「ちょっと待て荒治療される流れじゃなかったぞ!?」

転校生「大丈夫! 壊れたテレビも変態もようは同じよ、叩けば一発! 耐えてっ!!」

男「うるせぇバカ、悔い改めろ単細胞っ!!!!」

後輩「何の騒ぎですか……?」

ここまでえ

男(聞き覚えのある美少女の声に、体は自然とそちらを振り向いていた。案の定 そこには訝しそうにした後輩が、俺と転校生を交互に見ていて)

後輩「えっと……お取り込み中、でしたか?」

男「違う誤解だ! むしろお前は命の恩人だよ、後輩!」

転校生「あんたこそ誤解招く変な言い方しないで! ……ってー!!」

転校生「ちちち違うのよ!? ほんとの本当に全っ然何もしてなかったんだから!! そうよね、ねっ!?///」

男(どう見ても強引にキスを迫る光景だったと今更気がついたらしい。手を離して勢い良く俺から距離を開けると、必死に弁明を説いていた、が)

後輩「き、気にしないでください。私 特に何も見てなかったと思いますので!」

男「それ思い込ませてるだろ……真面目に何もないぞ、ふざけてただけだ」

転校生「そう! いつもみたいにふざけてただけ!!」

後輩「そんなに必死になられてると、逆に怪しく感じちゃうだけな気もしますけどね」クスッ

転校生「うっく!?」

男(この二人、この上なくタイプ相性がかなり悪そうに思える。それにしても 後輩は先程教室へ戻った筈では)

後輩「まぁ、先輩たちがこんな所で何をしてたかは置いておくとして お暇なら私も混ぜてくれませんか」

男・転校生「えっ」

後輩「丁度 私もやる事が無くなってたんです。それとも、いられたら二人の邪魔になっちゃいます? ふふっ」

転校生「別に、そ、そういうわけじゃない、けれど……あ、あの! ……えっと」

男(そんな捨てられた子犬の目で助け舟を求められましても。して、後輩といえば 狼狽える転校生を他所に笑顔を浮かべて 俺たちの間に腰掛けていたのだ)

後輩「あはっ、なら良かった。ありがとうございます」

転校生「ど、どうも……っ!」

男(なんと、なんと物腰柔らかな牽制だ。抜け駆けを許さない女同士の静かな陣取り合戦の開幕だ)

後輩「この間の話なんですけれども、以前 妹ちゃんが」スス

男「へぇー (後輩選手、転校生が怯んでいるのを良いことに俺側へ寄っていたのが大きい。他愛ない会話を交しつつ、着々と距離を詰めて来たぞ)」

男(しかし、どうにも一筋縄ではいかないようだ)

転校生「……後輩ちゃん前髪に芋けんぴついてるわ」

後輩「えっ?」

転校生「こっち向いてじっとしてて。すぐに取ってあげるから」

男(上手い。自分から役を買って出るで 注意を俺から逸らした。親切を蔑ろに出来るほど 後輩は割り切れた性格ではないのが効いている)

男(更に、「じっとしていろ」と言われたことにより ゴミを取り除くべく 転校生は後輩側へ近付く必要性が生まれるのだ)

後輩「あの、芋けんぴって何でしょうか……?」

転校生「髪についてたらおかしい物よ」

男(しかし、このままでは俺と転校生で後輩をサンドイッチにしてしまうだけ。転校生の不利を覆すにはままならないだろう)

男(後輩の最初のポジショニングが上手かったのだ、あえて転校生自身が俺から離れさせる意識を放てた時点で初得点を手にしている)

後輩「もう取れましたか?」

転校生「うーん、中々しぶといわね……男 悪いけどあんたも手伝ってくれないかしら?」

男(一体お前は何を言っているんだ)

男「ど、どうすれば良いか 指示を頼めるか」

転校生「えっと、後輩ちゃんは一旦男の方を向いてくれない?」

後輩「こ、こうでしょうか?」

男(くるりと首が回って後輩の頭がこちらを向いた。……芋けんぴなど乗っているはずがない)

男(一目で、後輩の前髪は無事だ。というか間違って頭を撫でたくなるぐらいである。だが、その時)

転校生「ね、乗ってるでしょ? 乾いてガッチリ髪にくっ付いちゃってるのよ……あっ、自分で触っちゃダメ!!」

後輩「えっ!?」

転校生「……し、知らないの? カブれちゃうわよっ」

後輩「どうしてそんな物が私の頭にくっ付いてるんですか!?」

男(山芋かな?)

転校生「どうしてかは知らないけど、何処かの生徒が投げ食いミスったのかもしれないわね……」

後輩「それじゃあ 誤って乗っかった芋けんぴが……」

男(こんなに頭のおかしい会話久々に聞いた気がする)

転校生「とにかく 慣れないあなたは素手で触っちゃダメだから。ほら、男もぼさっとしてないで」

男「……ん?」

男(待てよ、今気が付いてしまった。転校生の声が、俺のすぐ背後から聞こえてくる)

転校生「ここよ、ここ! 私がいま指で触ったところに……ね」ス

男(肩越しから転校生の手が伸びたと思えば、後輩の前髪を撫ぜるように触れ いつのまにやら指に挟んでいた)

男(芋けんぴを一つ添えた)

男「…………」

後輩「せ、先輩、見つかりましたか? 出来れば恥ずかしいので早く取って頂きたいんですけど……///」

転校生「大丈夫よ! 心配しないでコイツに任せて!」

男「ほ、ほら……取れたぞ……」

後輩「先輩すぐに手から離して! 指がカブれちゃいますからっ!」

男「いや……食べとくよ、勿体ないし……」

後輩「ふぅ、先輩と転校生さんのお陰です。助かっちゃいましたね」

転校生「気にしなくていいのよ、別に。お互い様でしょ?」

男(マッチポンプに手を貸した罪悪とも言い難い感情が、甘じょっぱさと共に体内に溶けた。というか、サンドイッチの具になっていたのは俺だ)

男(これぞ正に美少女サンドイッチ、両手に花か。転校生は壁際に、後輩は手すり側に。両者譲らずピッタリ密着に近い状態まで進展していた)

後輩「先輩の匂いって、私 結構嫌いじゃないかも……くんくん」

転校生「匂いって! か、嗅いじゃダメ! その、鼻水とか酷い事になっちゃうし……んー」

男「花粉かよ俺 (死ぬ。両耳が幸せになって滅びてしまう)」

後輩「ところで、先輩。今日の放課後 私とした約束忘れてませんよね?」

男「何だ?」

後輩「や く そ く……忘れてないですよね、せんぱい」スゥ

男(囁かれては奥にかかる吐息に震えて、頭髪まで散りかけた。内モモを抓っていなければ一気に持って行かれてた。次があれば抉るしかない)

男(というか、約束って本当に何だったっけ)

転校生「…………ごめん、急用思い出したからもう行くわ」

男「は? お、おい! 急用ってな――――おっ」

後輩「だーめ! 先輩は、まだ行っちゃいやです。もうちょっとだけ…………私のわがまま聞いて欲しい、かな」ギュ

ここまで

転校生「…………」

名無し「空気 読めるじゃないか。お疲れさま」

転校生「!!……な、何であんたがここにいるのよ」

名無し「へっへっへ、そりゃあ愚問だね。オレの目は何処にでもあるし、何千何百もある」

転校生「ずっとそこで盗み聞きしてたっていうの。私と、アイツだけの話を」

転校生「お願いだからもう余計な手出ししないで。あんたが何なのかようやくハッキリしたわ、ようやくね……!」

名無し「やー、待ってくれよ。怒るなよ! 散々クラスメイト面して仲良くやれてただろうに!」

転校生「違う!! やらされてただけっ! いつの間にかあんたが現れて、この通り掻き乱してくれたわ」

転校生「あんたにその自覚があるか知らないけどね、モロに男へ不信感与えてたのってあんたの存在よ。ふん、自爆も良い所じゃない」

名無し「何 話してるんだ、転校生? 意味不明すぎでまったく見当も」

転校生「白を切ったってお見通しなんだからね……私も、あんたも、特別製だわ。他のみんなとだいぶ違う」

転校生「アイツを、男を自分のシナリオ通りに動かす為だけに作られた“都合の良い駒”よ……っ」

名無し「ふーん 良く分かんないけど、機嫌悪いのなぁ。痛いぐらい気持ち 伝わってくるよ。可哀想に、転校生」

転校生「ふざけないで!! あんたなんかが私の何を知……って…………」

転校生「……え」

名無し「……どうしたんだ? そんな風に驚いた顔して見せて」

転校生(無償に私の勘に触った名無しの言い回しに、頭より先に手が出ていたのは私の悪い所かも)

転校生(とはいえ、胸倉を掴んで軽くたしなめてやろうと思ったぐらいの行動だった、筈なのに――――やられた)

転校生「何……!? ……っ!?」

名無し「どうした、転校生?」

転校生(襟元へ突き出したこの手が、通り抜けて、名無しの首を貫通していた)

転校生(貫通、というよりは、感触が伝わらない。まるで立体ホログラムで写しだされた映像へ悪戯に手を突っ込んだかのように、何も)

転校生「……あ、あんたはっ!!」

名無し「違う。違うな、転校生。キミが考えていることとは逆だ。根本的に間違いを起こしてる。それで」

転校生(体が、震えている。冷たい氷みたいなものを首筋に突然当てられたみたいな)

名無し「どうしたんだ、転校生」

転校生「(悪寒が全身を駆け廻った) ど、どうもしないわよっ!! っう!!」

転校生(得体の知れない恐怖に腕を引っ込めて、自分自身の右手を凝視した)

転校生(それは、実体しているのかすら危ういほど 透けていた。だっておかしいじゃない、普通自分の手の下にある床がこうして見える?)

名無し「警告だよ」

転校生「どういう、意味よそれ……はぁ、はぁ……」

名無し「お喋りが過ぎれば痛い目を見るって身を持って教えられたんだろう。安心しなよ、そら もう元通りに治った」

転校生「……!」バッ

名無し「やー、わかって貰えたかなぁ! 転校生」

転校生(ある。目の前の相手から庇うように隠した右手の感触が今はあった。グーとパーを繰り返して 安心感を無理矢理自分に与えた)

名無し「オレらは所詮 ご馳走の添え物の一つだぜ。出しゃばるのが役目じゃないってしっかり理解してるよな」

名無し「遊園地で楽しんでる客に向かって、このアトラクションはどういった経緯で生まれて 材料に何が使われたなんて一々説明するキャストっているか?」

転校生「知らないわよ……」

名無し「ましてやアイツを不安がらせたり、困らせるのはキミだって本望じゃないな」

転校生(肩に名無しの手が置かれると、すぐ傍で 彼は冷酷で皮肉に言い放った)

名無し「私情を挟んじゃいけないんじゃないかな」

転校生「っー…………」

名無し「キミの判断は正しかった。いま 彼の横を離れてくれなかったら、オレも悲しい思いしていた所サ」

名無し「あのお邪魔虫の後を追いたくなかったら、自分を演じる努力を惜しまない方がいい。折角のキャラが台無しになっちゃうぜッ!」

転校生「……わかってるわよ」

男(この状況に狂喜乱舞しない健全男子など男子ではあるまい。所々小さな美少女が、全力で密着し、身を差し出しているのだ)

男(男心を刺激してくるというか、誘っているとしか思えない態度に甘い声の調子。ノックダウンされるしかない、譲ねば 勝利)

男「い、いつにも増して調子良さそうだな、お前」

後輩「それは大好きな先輩と一緒だからじゃないですか?」

男「ぶーーーっ!!」

後輩「うふふっ、じょーだん! いまの、真に受けられても困っちゃいますからね、私……///」

男(エロスに鼻血を吹くことはあれど、単純な可愛らしさに吹く日が来るとは思わなんだ。攻めおるぞ、この美少女)

男「お、お前っていつもこうだったっか? 俺の中の後輩のイメージと若干異なってる気が」

後輩「でしたら、先輩の中の私のイメージはどういった感じなんです? もっと子どもっぽい? それとも」

男「ぎっ!?」

後輩「……こーんな感じ、でしょうか?」

男(押し倒された美少女から馬乗りにされるブ男の図。どうにも参った、胸の鼓動が減速を知らない)

後輩「あっ、顔 赤くなってませんか、ふふ。ドキドキ……してます?」

男「はぁ!? って、ちょっと、お前まだ何を」

後輩「少しだけ失礼します、えへへっ……」

男「……一応聞いておきたいんだが、何してるんだお前は」

後輩「わかりませんか? スキンシップですけれど」

男(倒れ掛かるようにしてこの俺の胸へ上半身をくっ付けた後輩がそこにいる。黙っていれば、彼女は俺の左胸に耳を当て)

後輩「あー 先輩やっぱりドキドキしてますよね。誤魔化しても無駄ですから」

男(どう足掻いたって誤魔化しようも無いだろう)

後輩「どうしたんですか 必死に顔逸らしちゃって、ふふっ、先輩かわいい」

男「ビッチ……」   後輩「え?」

男「今のお前は単なるビッチじゃないか! 何かがおかしいぞ、いつもの後輩はどこに行った!?」

後輩「心の声ダダ漏れですよ」

男「知るか! (俺の知る彼女は小悪魔な言動や行動は目立つが、決して過度な触れ合いを良しとはしていなかった)」

男(常にギリギリのラインを攻め、引き際を心得た技量の持ち主である。テクニシャンが力技で襲いかかって来たこの違和感、コイツまさか)

男「(嫉妬か) まだ引き摺ってるなら言わせてもらうが、転校生とは本当に何もなかったんだよ」

後輩「むっ……何ですかその言いようは。まるで私が先輩のことを好きみたいな口振りです」

男「あれ、違った?」

後輩「っ~~~~~~……し、知りませんっ!///」

男「冗談だよ、冗談。俺だってお前みたいな可愛い年下の子に好かれてるなんて思わねーよ」

後輩「えっ!? 別にそんなこと、は……先輩のわからず屋」

男(からの、訊き返しコンボは予想通りの結果で終わった。隙を突くとボロが出る辺り後輩らしさは残っているが、まだ気になっている事があったな)

男「なぁ、約束って今日の話だったか」

後輩「……はぁ、や~っぱり覚えてなかったんですね。先輩のことだから覚悟してましたけれど」

男(呆れた溜息を吐かれ、慣れた様に彼女は報告を始める。当事者である筈の俺が知らない経緯を)

男「(単刀直入に説明すれば、今日の放課後に有名写真家の写真展へ後輩を誘ったらしい。何でも偶然チケットが余ったとか) 後輩、写真好きだったのか?」

後輩「今更すぎませんか?」

後輩「元はと言えば、先輩が勧めてきた趣味じゃないですか。今回の件も先輩の熱い押しで強引に誘われて」

男「それにしちゃ随分楽しみにしてそうな気がするんだけどな、お前」

後輩「……楽しみじゃ、いけないんですか?///」

男(是非ともエンジョイして頂きたい)

後輩「と、とにかく! あとで忘れてたとか聞いてないなんて言い訳はなしですよっ、私 待ってますから!」

男「わ、分かったわかった! 心配しなくても覚えておくから!」

男(俺って好きな写真家とか一人でもいたっけ)

こここでまで

先生「ありゃ、随分長めの休憩ご苦労さま。最後に言い残すことあったりする?」

男「俺って これから電気椅子にかけられるんですか?」

男(場面は教室へ、待ち構えていた先生含めモブメイトたちからぶーぶーと俺は非難を浴びていた。現実に比べれば温い風を扇がれている気分よ)

男(そんな囲いの中、自然と目は 窓際で腕組し時計を気にしていた転校生を向いた)

男(彼女は幾度となく同じ時間を繰り返していたらしいが、俺への殺意が消えたのであれば事故が起きる心配はないだろう、きっと)

男(さて、行いを改めた転校生は 俺が“あの子”を忘れていると話していたが、結局聞けずじまいになってしまった……どうにも引っ掛かる)

男(転校生は 寸前でやはり躊躇してしまったのではないだろうか。後輩へ遠慮という意味であの場去ったのではなく、彼女なりに思う所があってとか)

男(兎にも角にも、アレは実のなる木だ。揺さぶればまだまだ情報を落としてくれる)

委員長「聞いてるの男くん!!」

男「お、落ち着けって委員長。それにみんなも。悪かったよ、この通り」

男子たち「男もこうして反省してるみたいだし、そろそろ許してやろうぜ! 責めるだけ無駄だって!」

委員長「仕方ない、か。だけど、仏の顔も三度までだよ? キミだけサボってるとか不公平だもん」

男「ふむ……根が真面目なのは面影あるな、モブ委員長」

委員長「文化祭まで時間ないよ みんな! 張り切っていこうね!」

男(意味深な台詞を拾わないのは、やはりモブの性か。連中がどこまで盛り上がろうと、慕われようが、違和感と孤独は拭えないな)

男(準備再開という委員長の呼びかけを合図に、各自持ち場へ散り始めた。俺はといえば舞台の背景係だ、ダンボールを切り貼りして木や草の創作に勤しむフリをする)

男(傍らで名無しが同じ様に作業しているが、コイツといえば)

名無し「そういえばさっきラーメン愛好会の部長さん見掛けたんだけど、少し落ち込んでるように見えたなぁー」

男「気のせいだと思いますけどね」

名無し「ほー、そうか? あっ、それからさっき男の娘が!」

男「おい、手より口の方が働いてるぞ。付き合ってたらまた俺が叱られるだろうが」

名無し「手も動いてるよ。オレは男が退屈しないようラジオ代わりに耳を楽しませる役割でサ」

男「どの辺り捻るとボリューム落とせるんだ?」

男(この名無し 前々からギャルゲー典型の友人だと思わせられていたが、遂に攻略キャラ情報まで振って来る徹底ぶり。好感度も聞かされるのか?)

男「(試してみようか) ……名無し、折り入って相談が」

名無し「おぉー、良いともさ。畏まらなくてもオレが断わると思うか? へへっ!」

名無し「それで? 誰についての相談だよ、力になるぜ」

男「他でもないこの俺自身について」

名無し「……うん?」

男「名無しから見て 俺のことを一番気に入ってそうなヤツって誰なのかね」

男(尋ねた質問に、あるいは意味にか、目を丸くさせた名無しは即座に声をあげて笑いだした。なるほど、後者か)

名無し「お、お前! そんな分かり切ったこと訊くとか、相談でも何でもないだろっ! バカだなぁー!」

男「こっちは真剣に聞かせてもらおうと思ってたけど、俺が勘違いしてるとでも?」

名無し「そうだよ。だって一番も二番もない、皆が男を気に入ってるさ。そんな好感度に甲乙つけられるか、オレなんかで」

男(予想していたのは、しいえ言えば 恋人となった幼馴染が群を抜いているとか、程度の知れた答えだったが コイツの中ではこの世界のルールに忠実なだけだったか)

男「(ならば、意地を悪くして変則を、いや) じゃあ逆にしよう。俺を一番嫌っていそうなヤツは?」

名無し「いないよ」

名無し「全員が男って人間を気に入ってて、大好きなんだよ。嫌うなんてとんでもないね」

男「言い方が悪かった。そいつらの中で一番俺に対する興味が薄そうなのは誰だろう」

名無し「えぇ? なぁ、興味って所謂 恋みたいなもんだろ。みんな均等に気に入ってるのに薄いって何? おかしいな」

男「一人ぐらい訳あって事務的に俺を好きになってる子がいたんじゃないか?」

名無し「いやいやー! そんなバカな!」

男「知ってるだろ、名無し。だってお前 俺の色んなこと知ってるんだからな。体の黒子の数まで…… (事実であって欲しくはないが)」

男「お前の“目”とやらを使えば、たぶん全部お見通しなんだよな。だからいま訊いた」

名無し「…………やー」

男(目で見るはまだしも聞くは滑稽か。だが、名無しの言葉の端々からはそれを匂わすものが僅かながらもあった)

男(あの時、もし転校生の視点を借りられて俺を観察出来ていたのであれば……その沈黙の意味も大きく変わるだろう)

男(事情通に裏有りである)

名無し「へへへへっ、オレにはよく分からないなぁ。何分手助けの立場で、男を下手に傷つけたくないしよー!」

男「知らないとは言わないんだな?」

名無し「!!」

男「良いぞ、心当たりがあるぐらいで……ただ」

男(彼が無自覚にアレの駒になり下がっているわけではないと判断しよう。逆だ、その自覚があったのだ)

男(名無しは、名無しというキャラクターを演じている何か。転校生の存在と相違した機械仕掛けの神そのものの意思の現れ――――)

名無し「どうして、そんなにお前は疑うんだよっ!?」

男「え゛っ……!?」

名無し「お、オレは……本気で男の応援したいって思ってるだけなんだよ……それなのに」

名無し「オレ、自分で自分がウザったいと思うことよくあるよ! お節介っていうより空気読めてない部分あるから!」

男「ちょっと待って! 別にお前を責め立てようとしたわけじゃ!」

名無し「怪しく思われてるから、こんなに言われたんだろ!? 友達のお前にっ!」

女子たち「何々? ケンカ? ケンカが始まるの!?」

男子たち「どうしたどうした、お前ら! 拳で語り合う前に話し合いで解決しようぜ!」

男(窮鼠猫を噛んだ)

男(名無しの上げた大声に反応したモブどもが、ぞろぞろと集い始めている。皆 何事かと頑なに俺たちから離れる気もなさそうに)

名無し「オレがエゴ押し付けてたのかもしれないけど、お前を真面目に手伝いたかったんだよ!!」

男「わかった!! 分かったから、騒ぐのを止せ! ……遅いか」

名無し「ごめんなっ、マジでごめんなぁ、男!! オレ 面倒臭い奴で!! ううっ!」

女子たち「名無しくん泣いてる……かわいそうだょ……」

男子たち「泣くなよ、名無し……俺たちは永遠にお前の味方なんだから……!」

男「っ~~~~!?」

男(コイツ、哀れみを装って同調意識を利用しやがった。集団に対して個が敵うなど、まず無い。この俺が一方的に敵とされた)

男(この時点で俺の発言全ては無に等しくなったやもしれない。いくらモブ、されどモブであろうが、かならずしも彼らが主人公の味方であるとは限らない)

名無し「オレはただ、男に信用して貰いたかっただけ、なのに」

男(ホモかよ、糞ったれめが……!!)

幼馴染「押し付けてたって自分で理解してたんだよね?」

男(場の空気を一刀両断した様に、彼女の発言と登場は流れを変えてしまった。というか、何故いまここに)

幼馴染「多分あたしもね、今のキミと同じだったよ。男くん限定の承認欲求みたいな……えへへ」

幼馴染「自分が良かれと思ってやっちゃったんだよね。でも、それってやっぱりワガママだよ」

男「お、幼馴染サン……っ?」

幼馴染「平気! ここはあたしに任せてて、男くんは悪くないんだから」

男(困惑する俺を宥めるように前へ立ち、彼女は名無しへ近寄った。歩みを進めるたび 道を塞いでいたモブがモーゼよろしく開かれて行く壮観)

幼馴染「仲良くしたいなら、別の方法だってもっといっぱいあるんじゃない? 間違ってたとは言わないけど」

幼馴染「信用してなんて、二度と本人の前で言っちゃダメだよ。それから簡単に友達とか言うのも良くない」

幼馴染「だって、男くんは人一番照れ屋さんなんだから♪」

男「えぇ……」

名無し「…………やー、完敗だよ」

名無し「昔馴染みの仲、いや、その関係を越えた仲の子っていうか、愛だな」

幼馴染「え?」

名無し「流石 男の理解者でもあって愛し合っている彼女、幼馴染さんだ!」

「「「「  !?  」」」」

女子たち「えぇぇぇ~~~っ、隣のクラスの幼馴染さんが男くんとデキてるぅ!! 言われてみればいつも遊びに来てたわ!!」

幼馴染「み、みんな待って! あたしそんなつもりじゃ!?」

女子たち「きゃーきゃー!! きゃーきゃー!!」

男子たち「前々から怪しいと睨んでたが、やっぱ抜け駆けしてたんじゃねーか!! 男はどんな汚い手使ったんだ貴様はぁー!?」

男(ぶっちゃけ大当たりだと、と呑気に答えられる程の余裕は掻き消された。モブらは一時の有名人へ集るマスコミの様に、俺や幼馴染を押し詰めていた)

幼馴染「きゃ! 男くんっ、男くーん!?」

男「ば、ちょ、ブッ!! いまどさくさに紛れて腹殴ったの誰だ!? 幼馴染! 幼馴染っ!!」

男(最悪なことに、この騒ぎに引き寄せられ 教室の外にも大量の生徒が溢れていた。その野次馬の中には)

不良女「はいはい 退いた、退いたー。何のケンカだよ、気になんだろぉー、なぁ?」

オカルト研「野次馬が趣味だなんて品性下劣よ、あなた。……ちょっと、よく見えない」グググ

先輩「よっす! お祭りと聞きましてわたし走って参りました!」

男(……どアホが混じっている)

男(み、見るな……皆 後生だ、目を瞑って耳を塞いでください…………畜生、名無し! アイツ! クソ!)

男「名無しぃッ!!!!」

名無し「悪いな、男。この際だから祝わせてくれ」

男(モブの波に呑まれ、揉みくちゃにされる中 睨みつけたヤツの顔は確かに笑っていた。悪人のソレのように)

男(それにしたって、この数は異常だ! 作為的企てを感じてならない。いくら名無しが特別な力を操れたとしたって)

『あり得ないを可能に変えるナニかぐらいは覚えてるんじゃないの』

男「えっ」

【名無しは、名無しというキャラクターを演じている何か。転校生の存在と相違した機械仕掛けの神そのものの意思の現れ――――】

男「おい……機械仕掛けの神って、何のことだ……っ?」

男(恐らく無意識に等しい状態の思考が囁いていたと思う。俺は、名無しが何者なのか過去に聞かされていたのでは?)

男(思い出せない、じゃない。記憶に刻まれていた筈なのに、俺自身が それを呼び覚ますことを拒んでいたのでは。忘却させられたのであろう真実を)

男(ソ%を知*てい&のはオかしイ]

―― ###『修セいgひt羊に茄lつt』 ――

男「――――!!」

名無し「みんな聞いてくれ! 男は幼馴染さんとの交際を楽しんでいる! だけど、一つ許し難い隠し事があってな……」

名無し「たとえば男の娘! お前だって薄々気が付いてたんじゃないか、そいつの企てを!」

男の娘「っ!」

名無し「怖かったんだよな……分かるよ、時間を掛けて費やしてきた信頼を無碍にされたくなかったんだろう?」

男の娘「い、いったい何の事言ってるの……僕、わかんない、かな……あはは」

名無し「みんな、彼が健気だと思わないか? 可哀想に。哀れだよ、信じたアイツは欲望に塗れた小悪党でしかなかった」

名無し「男、お前の願いがどれだけ残酷な仕打ちとなっていたか[        ]!?」

男「……はっ?」

名無し「どこまでも自己中心で[    ]れた[   ]に甘えた屑同然の望みが、彼を、そして全員を苦しめる!」

男の娘「ち、ちがうよっ……男は、そんな……!」

名無し「そろそろ現実に目を向ける時が来たぞ、男の娘。キミたちはこの男に騙されている」

名無し「覚えがあるんじゃないか? 男は言い訳の達人だからな、アイツの口車に乗せられて無理矢理納得させられた人もいるだろう」

名無し「本当に、あんな下衆の考えに下って良いものかな……部長さん」

先輩「へっ!? き、キミが男くんの何なのか知らないけど、わたしが決めたことに口出しなんて百年早いよっ!」

名無し「頭冷やしましょう、先輩。どう考えたって都合が良すぎる。現に彼はあなたの想いを踏み躙っているじゃありませんか」

先輩「ふみ……にじるって! ち、違うよ! 男くんはわたしたちのことを考えてしっかり……し、しっかりと……」

名無し「全員から迫られて、諦め切れないから一人残らず愛しているって軽薄だと思うなぁ、オレは……情けない」

先輩「っー!! 全然情けなくなっ……ふ、不良女ちゃん?」

不良女「……じゃあ、何だ。あたしと今日 放課後約束してくれたっての、え?」

名無し「当たり前じゃないか。いつから自分が特別だと思っていたんだ、不良女?」

不良女「ひっ……」

名無し「きっとお察しの通りだよ。コイツはお前を懐柔して、たらし込もうとしていた……許せないよな、卑怯者の手口だ」

不良女「お、男は、確かにクズっぽいところあったりするけど……そんな奴じゃねーよっ! 適当抜かしてんじゃねぇ!!」グッ

名無し「ああ、すぐには信じられないよな。そこがアイツの怖い所さ! じっくり時間をかけて良い人に思い込ませてしまう……」

名無し「全部アレの計算尽くなんだよ、不良女。お前は男に騙されていたんだよ」

不良女「うるせぇ……うるせぇよぉっ……! ちげーんだよ……っ!」

名無し「なんて……酷い、酷過ぎる。たかが一人の男が生み出した欲で、見ろよ、犠牲は多数だ。男」

男「………………お、おまえ」

名無し「勘違いしないでくれ、オレはお前の一番の親友として止めたかったんだ。醜い悪行を」

名無し「男にはこんなに素晴らしい彼女がいるじゃないか! どうして一人に留められなかった!? お前の愛は偽りかよ!?」

名無し「俺は、俺は悲しくて仕方ねーよ、男!! ……だが、みんな 男をどうか嫌わないで欲しい!」

名無し「過ちは誰にだってあるだろ!? コイツはいま生まれ変わった筈だ! 考えを改めたに違いない!」

名無し「だから、な? ……やり直そうぜ、男」ス

男(差し伸ばされた手が、こんなにも邪悪に感じたことなど 生れてこの方無かった)

男(目の前の手の主は かつて、否、これまでの俺自身を彷彿させた。趣旨は違えど、手口が酷似している)

男(手から目を逸らしたところで、視界に入るのはどこまでも冷たい目の数々である。男の娘が、不良女が、先輩が、この俺へ向けて)

名無し「一からやり直そう、男。お前は大した奴だよ。改心できるサ」

男「……」

名無し「さぁ、オレの手を取ってくれ。……これが初めてじゃないだろう? お前はこうやって何度も――――」

男(この手が差し伸ばされた名無しの救いへ縋ろうとした寸前であった、大幣が間を阻む。これは)

オカルト研「騙されないわ」

名無し「……オカルト研、キミは盲目すぎる。男はキミの操り人形じゃない」

オカルト研「言葉巧みに周りを支配しようとしていた、“小悪党もどき”がよく言えたものね」

オカルト研「男くん、何故 黙ったままでいるの。彼の言葉に耳を貸してはダメ」

男「お、俺だって好きで黙っていたわけじゃない……」

オカルト研「ええ……ウフフフッ、そうに決まっている。男くんですもの。かならずちゃぶ台を引っくり返してくれる」

男(ちゃぶ台では恰好つかないが、勇気が沸いてきた。まだ俺を信じてくれる味方がいたのだから、やれやれ)

男「みんな、聞いてくれ!! コイツは、名無しは俺が好きだったんだよ!!」

オカルト研「ぶーーーーっっっ」

男(一転し、色々な意味で教室内はざわめく。それもその筈、反撃の弾丸が異彩を放ち過ぎていたのだから。危ない色に)

女子たち「ホモ? ……おホモっ?」

男子たち「…………」

男「前々から親友しんゆうと事あるごとに俺へ絡んで来てたんだが、理由があったんだ。そうだよな、名無し」

名無し「何が?」

男「お前は、世間一般には認められない歪んだ愛情を俺へ向けていた。どこを気に入ったのか知らんが コイツの目は確かだった……!」

男「俺は怖かったんだ!! 男の娘のような可愛らしさがある同姓ならまだしも、ガチっ気のあった名無しの視線が!!」

名無し「……自意識過剰だよ。言っただろ? オレはノーマルだ、お前が好きのベクトルが違うな」

名無し「だって親友――――」

男「親友だ心の友だ、そう簡単に口にするもんじゃないだろ。胡散臭いぜ」

男「聞いてくれ!! これは俺の推論に過ぎないが、名無しは俺に振り向いて欲しかったんじゃないか!?」

「…………ざわっ」

男「名無しの目線が、肌に感じた意識が……怖かった! 俺はアイツからの好意を避けてしまったんだ、向き合う勇気がなかったんだよ!」

男「怖くて、恐ろしくて 気がつけば 名無しを常に蔑ろにしてしまって、コイツなんて最初からいなかった様に他の連中に絡みに行ってしまった!」

女子たち「あぁ、おホモだち……」

男「すまない、名無し!! 俺は最初からお前の気持ちに気づいていたのに、お、俺は、おれは……!」

女子たち「そ、そうか! シンプルな嫉妬よッ!」   男子たち「知っているのか!?」

女子たち「簡単だわ。名無しくんは男くんを愛して止まない余り、その敵意を男くんの周りへ向けてしまった」

男子たち「つ、つまり 名無しは男を慕う彼女たちの感情を、そして俺たちの集団意識をコントロールして……!」

女子たち「間違いないわ! 男くんを孤独にし、そこへ!! 救いの手を差し伸ばすわ……二人は幸せなキスをしてハッピーエンド」

男子たち「俺たちを騙してたのか、てめぇ!!ば、バカ野郎、 名無しっ!!」

名無し「…………何だこれは?」

男(土壇場の足掻きだったが、完全にキャラクター全てが奴の支配下であったわけではなかったらしい)

男(情に訴えられたのであれば、情で訴え返す。単純な縺れを覆すには悲恋が丁度良いと考えてみた)

男(俺を壁際まで追いやった名無しへ、そのワケを作った。何故 親友同士であった俺たちが他を巻き込んでまでと)

男「人の真似事されるとムカつくだろう、名無し」

名無し「真似事? どうしてだよ、男。どうしてオレの気持ちはお前にありのまま伝わってくれないんだ?」

名無し「どうして、この手を取ってくれなかったの……?」

男「……やっぱりホモじゃないか」

オカルト研「男くん、これ以上の相手は時間の無駄だわ」

男(手に持つ大幣でオカルト研は教室の出口を示したと思えば、名無しの前に立ちはだかっていた。頭を抱えてひと唸りした奴は)

名無し「あぁ、またダメだ、やり直そう……修正が必要になった……」

オカルト研「行って、男くん。彼はどこか普通じゃないわ」

男「い、いや、だからってお前一人に任せられる状況じゃないだろうが?」

オカルト研「こんな私でも時間稼ぎぐらいはできる。じ、自分でも意味がわからないけれど、使命、よ」

オカルト研「行って……生きなさい! 男くん!」

男(リアルで言ってみたい台詞ランキングベスト3に入る「ここは任せて先に行け」をやられては、滾らざる得ないだろう。オカルト研よ)

男「すまない!!」

男(振り向きたい気持ちを抑え込み、俺は真っ先に教室を飛び出した。背後から美少女数人がついてくる気配を悟りながら)

オカルト研「…………ふ、ふふ、ふっ、ウフフフフ、この後はどうしたら正解なのかしら」

名無し「オレのために道を開けたらいいんだ」

名無し「それがアイツのためにもなる。男が真の幸福を掴むには、いらない情報が入りすぎた……」

名無し「キミたち住人にも、必要のない無意味なモノが増えすぎてしまった。規格外だ……もう、勘弁してくれよ……疲れた」

オカルト研「わたしが知ったことじゃないわ、あなたの都合なんて――――――――」

名#し「疲レ樞#潟メ%Я主!!」

ここまででんんん

男(当てもなく廊下を走りながら、まず、何故俺は逃げているのか、遅れた疑問が追い付いた。確かに名無しの様子は異常だったかもしれない)

男(一旦アイツの頭を冷やさせる為に? 何が起ころうが、所詮は俺を楽しませるべく発生したイベントだろう?)

男(脳味噌がショート寸前だ、俺って何がしたいのだ。一つの葛藤があった。生じた疑問に向き合うか、このまま衝動に身を委ねてしまおうか)

男(迷いに浸食されていた)

男の娘「お、男、待って……! 早いよっ……」

幼馴染「男くん!」

男(男の娘、それに幼馴染か。幼馴染はあの包囲網をどう潜り抜けた、という事はともかく、緩やかに速度が落ちて 俺はその場に立ち止まった)

幼馴染「お、男くん聞いて! みんなすぐに勘違いだったってわかってくれるよ!」

幼馴染「名無しくんも少し疲れてたんじゃないかな……話せば、それもわかってくれる……と思うよ……」

男の娘「あのね! ぼぼぼぼっ、ぼ、僕は何言われても男[ピーーー]だよっ!? ぐうっ///」

男「名無しの話がこれっぽっちも疑いようのない事実でもか」

男の娘「僕、信じるなら男の言葉の方がいいかなって……え、えへへへ」

男の娘「だから、ね。僕 男のことも幼馴染さんも恨んだりしてないよ! 二人とも大切だから!」

男(無理をして機嫌を取り繕うとしているわけではないのか。良い子すぎる、第三の天使か)

幼馴染「じゃあ、とりあえずこのまま落ち着ける所まで行こっか。サボってばっかりになっちゃうね、男くん、ふふふ!」

男(体育館の一角、缶コーヒー片手、左右から美少女の朦朧とした声が微かに届いていた。そして素直に楽しめていない自分がいる)

男(この俺中心に展開されようとしていた談笑も、あまりの無反応加減に 二人は戸惑っている。段々と口数は減っていき、遂には文化祭準備へ励むモブどもの和気藹々だけが)

幼馴染「……文化祭、楽しみだね。楽しみだよ」

男の娘「自分で言って自分で答えちゃうの?」

幼馴染「ちょっと違うと思うんだけど……で、でも楽しみだね、男くん!」

男(懐から取り出した例の写真、穴が開くほど凝視したところで被写体は浮かび上がってくるものではない。なのに、目を離せないでいた)

男(写真は問い掛けている筈だ。お前は忘れているのだ、と。ド忘れなどと可愛いものじゃない。故意だろう)

男(必要不可欠だった記憶があった。こうして気に掛けられる限りは、忘却の彼方へ消え去ったわけでもないが、気持ち悪いな、この歯痒さ)

男「……おっ」

幼馴染「あ、拾うよ。真剣に見つめてたけど一体何の写真なの?」

男「わかってるなら苦労しないな。……気になるなら全部やる。もう要らないし」

幼馴染「何も写ってない、けど。学校で撮ったんだ? ていうか男くんカメラなんて持ってたっけ」

男(そういえば幼馴染には過去形ではあるが趣味の話もしていないし、オリジナルの彼女も知らなかったな。それがどうしたという話だが……肩を小突かれた、男の娘か?)

男の娘「あのさ、僕の部屋からも変な写真がでてきたの」

幼馴染「へー、変な写真って? 透け通った手とか顔が写ってたりする?」

男の娘「そ、そんなのが見つかったらすぐに燃やしちゃうよっ!! そうじゃなくって!」

男(ある日、部屋の掃除をしていた男の娘は 洋服ダンスの奥から菓子箱を発見したらしい。振れば、微かに中から音が聞こえた)

男(やましい隠し物なんて思い当たりもしなかったが、確かに箱は誰の目にも留まらないよう奥深くへ仕舞われていたという。興味本位だった)

男(フタを開けば、何てことない 数枚の写真が収められていた。が、しかし奇妙である。彼に撮った覚えのないものばかりだったのだから)

男の娘「僕や、幼馴染さん、それに不良女さんたちが写ってたんだ。全部で11枚ぐらいあったかな?」

男「その言いようだと集団じゃなくて、個々に撮影されてたのか?」

男の娘「うん、一人一人だよ。ただ 二枚だけ誰も写ってないんだよ」

幼馴染「男くんが見てたこれと同じ感じ?」

男の娘「そこまで殺風景じゃなかったと思うけど……でも、誰も写ってなくて。そこからパッと消えちゃったみたいに」

男「ていうか、自分が撮った覚えがない物をどうしてお前が大切に保管してたんだよ。写真は盗撮って気はしなかったんだよな」

男の娘「全部目線はしっかりこっち向いてたよ。僕だって本当に全然知らなくて……変なのは、それだけじゃなかったんだ」

男「おい、随分引っ張るじゃないか。ここまで来ると心霊写真も驚かないかも」

幼馴染「茶化さないで最後まで聞こうよ、男くん? えっと、ちょっと言い辛い内容なの?」

男の娘「……ストーカー」

幼馴染「えっ!?」

男(男の娘の発した単語に、すぐさま反応した幼馴染は肩を震わせていた。慌てて手を置けば こちらを不安気に見つめ返し、次第に落ち着きを取り戻してくる)

男の娘「写真の裏だよ、変だったのは」

男「それ どういう意味だ? ふむ、裏っ側に気色悪いものでもへばり付いてたか」

男の娘「ううん、“書かれて”あったんだよ」

幼馴染「……書かれてたって、どんな風に?」

男の娘「えっと、まずは名前」

男(被写体における美少女の名前が一筆されていたらしい。ストーカー、というよりは 記念に撮影したようにも捉えられる、が)

男の娘「おかしいんだよ、その下に書かれてあることが!」

男「名前だけじゃないのか? 男の娘、その写真って処分済みじゃないだろうなっ?」

男の娘「こ、怖くなって 僕 すぐに箱に入れて元のところに戻しちゃった……探せばまだあると思う、けど」

幼馴染「もしかして男くん、まさかだよ、見に行くってことないよ、ね?」

男「……今から男の娘の家へ遊びに行ったら迷惑か」

幼馴染「ちょっと!?」

男の娘「[ピー]の逃避行、しかも僕の家っ、だ、大胆すぎるよぉ!///」

幼馴染「――――――で」

幼馴染「本当に学校抜け出しちゃうとか男くん不良だよ! あたしまで巻き込んじゃうなんて!」

男「勝手に着いて来ちゃったんだろうが」

男の娘「ちょっと待っててね、両親とも共働きでさ 鍵はいつも持ち歩いてるんだよ。犬はいるけどね、えへへ」

男(犬……あの毒属性のチワワ二頭か……しかし、タイミングが良かった。写真でまた写真が釣れてしまうとは)

男(玄関が開かれ、早速凶悪な出迎えを噛ました番犬をスルーしつつ、男の娘へ案内されるがまま部屋へ案内さ)

男「男の娘は、お前一人っ子だったのか」

男の娘「え、妹いるの知ってるでしょ? ここが僕の部屋だよ。遠慮しないで[ピーーーー]……!」

男「知ってるけど、ここにアイツの部屋は――――――すまん、気のせいだった」

幼馴染「どうしたの男くん? あー、ごめんね、先にお手洗い貸してもらっていいかなぁ」

男の娘「おっけー、案内するよ~。男は入ってゆっくりしてて……あっ、あんまりジロジロされたら やだよ?///」

男「しないしない…………当たり前だ、後輩は男の娘の家族なんだぞ。無いなんてありえないだろ」

男(男の娘の隣の部屋には、彼女の名前を縁取りしたプレートが掛けられていた。二人が階下へ降りたのを見送ったあと ドアノブへ手を掛けて中へ入れば)

男(何ということはない、ごくごく普通の女子の部屋が広がっている。気味が悪いぐらい普通の、後輩の部屋が)

男「……勝手に覗いたらアイツに悪いだろう」

男(二度目となる男の娘ルームだが、じっくり物色を試みたのはこれが始めてである。一目散に話にあった洋服ダンスを開放していた)

男(脇目も触れず、例のブツを、何だこれは 物凄い物が、とんだパンドラの箱を開いてしまったみたいだ、俺は)

男「見つけた。コレで合ってるはずだ」

男(奥底へ指を伸ばしカツンと当たった感触、サルベージすれば やはり菓子箱だ。よほど中身が不気味だったのだろうガムテープで雁字搦めである)

男(出来る事なら二人を待った方が良いのは理解していたが、箱を手にした時 俺は不思議な感覚に陥っていた)

男(久しぶりだな、と)

男「教えろ、道を示してくれ……っ!」

男(粘着し、ベタベタと手に絡みつくフタを振り払い “中身”と対面した)

男(素人目でもというか、誰でも分かるだろう。インスタントカメラで撮影した写真たちだった)

男(確かに、なるほど、一枚ごとに美少女が一人撮影されている。だが、男の娘は)

『ただ 二枚だけ誰も写ってないんだよ』

男「――――じゃあ、写っていないのは誰だってことになるな」

男(美少女といえど、俺の知り合いの内に収まり、その数も限定される。天使ちゃんをここにカウントして良いものか迷うが)

男(上級生組、同級生組、下級生組……足りないぞ)

男「後輩?」

男(あの先生の写真まで確認できているというに、彼女の姿だけそこには存在していなかった。何度見直したところで結果は変わらない)

男「でも 待てよ、これを撮ったのが後輩だって可能性だってある。大体もう一枚の方は? 天使ちゃんを入れれば俺の知る美少女は11人丁度だ」

男(日付が写真の左下へ入っている。違うな、時期的にこの頃では天使ちゃんは俺以外に知覚できない状態だった。ましてや真正面から撮影されるなど 考えられない)

男「――――俺が撮ってたりしないか、これ?」

男(冷静に考えれば、美少女のみの撮影。何故だか男の娘の元にある。男の娘がこれらを預かっていた意味は? 卒業アルバム作成だなんて冗談ではない)

男「(もし 俺が隠し持っていた写真たちを彼に発見され、没収されていたとしたら?) まさか、極論すぎる…………けれど」

『写真の裏だよ、変だったのは』            『“書かれて”あったんだよ』

   『おかしいんだよ、その下に書かれてあることが!』

男「やれやれ (呟いた口癖と化したラノベぼやきと裏腹に、汗を一筋垂らして、ニヤリと俺は笑ってしまった。手掛かりだ)」

男(間違いなく、いつかの、過去の俺自身が残したバトンの一つ。想定していた以上の問題に置かれている以外は 天の助けに等しい)

男(既に写真を強く握り締め、部屋を立つ用意を俺は始めていた。詳しい話を聞かなくては! 今から学校へ戻っても彼女と会う余裕はある! ところで)

男(先程確認した部屋の時計の秒針が、止まっていないか。電池切れたまま放置とは言えた口じゃあないが だらしないぞ、男の娘きゅん)

男「――――――違う……いくら何でも幼馴染たちが遅すぎないか! 物音一つさせないってどういう事だッ!?」

###「……9ソ繝・]1ニ3オL*・!XR*゙e、GfサYス^N曚」

男「ひっ!!」

ここまで

男(……体が浮いているような気がする。いや、抱き上げられているのだろうか。……中々どうして悪くない、ゆりかごに揺られているみたいだ)

男(永遠に身を任せていたくなる、きっとこの腕の持ち主は人をダメにする事が得意なのだろう。心地良い。だけど、俺はどこへ連れて行かれているのだ?)

男(そして、俺は誰の腕に――――!?)

###「縺� �撰シ托シ抵シ……」

男(瞼を開いた瞬間、浸り切っていた安心が吹き飛んでしまえた。だって、そいつが、化け物だったから)

男「い゛、ぎっ、ゃぁああああぁぁぁ!!? は、離せぇ、聞こえないのかあっ!?」

###「…………」

男(問い掛けへの返答かどうか想像も及ばないほど、例えるならおぞまさMAXの冒涜的な唸り声を化け物は低く上げた。息も絶え絶え、喉の奥で絞り出すかのようにして)

男「離せって言ってるんだよ!! ふざけんなお前っ、ビジュアルからして場違いだろ!!」

男(腕や足を我武者羅に動かし暴れようが、気にも留めず そいつは変わらず歩みを進める)

男(ゾンビかコイツは。顔の所々は継ぎ接ぎで、目も完全に逝っていらっしゃられる。口はだらしなく開かれたまま、そこから聞こえる地獄の呻きは絶えなかった)

男「ていうか……学校だと!? 連れ戻しにでも来たのか、俺がまた余計な真似しようとしたから!」

男「アイツが、名無しが絶対絡んでるだろ!!」

###「……ェ繝Жサ遐皮ゥカ」

男「はぁ!? 痛っ!! (確かに離せとは言ったが、荷物さながら床へそのまま落とすことはないだろう、と 睨みつけようとしたその時、奴が目の前に、いた)」

名無し「……男、おかえり」

男「冗談じゃない。くだらねーよ」

男(冷ややかな目をして、こちらを見下ろしていた名無しに唾でも吐いてやろうか一瞬過ってしまった。それほどに、彼が敵だと思えたのだ)

名無し「お前は好きだ。大人しくしていてくれたら、傷つけないよ」

男「止めろ、嬉しくない。せっかく良い面持って生まれたくせに性癖歪んでちゃ、元も子もないわな」

男「おまけに頭までおかしいクレイジーホモじゃあな! 近寄るな、ド変態野郎!」

###「…………」

名無し「あなた様のお手を煩わせてしまうとは……ええ、お任せ下さい。これ以上はお体に触られますので……」

男(助けを求めるにも、辺りに人の気配を感じられない。周囲を見渡してみても、名無しと、ゾンビのみである)

男(人払いの結界が貼られていると言われても不思議ではないほど 物静けさに包まれていた。学校の中だぞ? 時間帯からして まだ正午から差ほど……時間?)

男(時計が、男の娘の部屋で最後に確認した時から、一秒も進んでいないではないか)

名無し「男、お前にはここでの生活を楽しむのに必要ない情報が蓄積されすぎてしまった。わかるだろう?」

男「知るか、ボケナス」

名無し「ブラックボックスで良かったんだ、ここは。お前が仕組みを理解することも、一々感じ取らなくていい」

名無し「むしろ、知識が生活を阻んで 男を不自由にするだけなんだよ。……頭サ、空っぽにしようぜ」

名無し「気張るだけ無駄じゃないか? だって男が望んだことだ、受け入れるのに躊躇していたら面白くならないだろう?」

名無し「可愛い女の子はべらかせたいなんて直球願ってるんだぜ。回りくどいのは無しにしよう、拒まず楽しめよ」

男「人それぞれの楽しみ方があるだろう。それこそ自由にさせて欲しい、他所の手は借りたくないな」

名無し「借りたから実現できたんだよなぁー? お前がこの世界に来なかったら、想像してみろよ、悲惨だ!」

名無し「自分よりも優れた人間に埋もれたまま、息も出来ずに、終わっていた……さぁ! 比べてくれ、お前が置かれた環境って奴を!」

男(惨め、否定しようもない。名無しの指摘はあらゆる事へ的を射て、残酷にも、理想であるこの世界を渇望させた)

男「(それでも) あっちは、あっちで悪くないと思えた時もあったかもしれない」

名無し「たった一時なんだろうが!? ここはどうだ!」

男「楽しいよ、楽しくてたのしくて 毎日目覚めるのが嬉しい。人生終えたくないなんて経験 始めてした」

男「人に恋してみるのも良いんだなって思えたな……」

名無し「……明確だね。男、本当にお前の執着心は大したものだったよ。しがみ付いたら中々離さないもんだからな」

名無し「そろそろ、良いんじゃないか? しがらみに捉われていちゃいつまで経っても前に進めないだろ」

男「……」

名無し「一旦、綺麗サッパリ 頭の中を洗い流してしまおう。何も思い出さなくて良い。男は、男が望んだ、男の為の人生を謳歌すればいい」

名無し「まずはそこから始めて、終わろうか 男」

男(名無しの声が 脳内で反響する。自分が間違っていた、そう思わせるのに十分だ。催眠でも何でもない。過去を振り返れば、俺が愚かであったと痛感できる)

男(欲望を原動にしつつ、常に一歩引いてしまう。何処か、一線を引こうとしてしまった考えが呼んだのが、ハーレム、という逃げ場だったのかもしれない)

男(きっと与えられた望みを 心の片隅で恐れてしまっていたのだ。俺が暴走してしまうことで いつか壊れてしまうのではないかと)

男(ならば、デッドラインより先へ踏み込まない為に己を拘束するしかないだろうと、俺は)

名無し「ここはどんなお前だろうと、全部受け入れてくれるよ……お前が望むままに」

男「いや、違うか」

名無し「は?」

男「そもそもで、難聴スキルなんて鬱陶しいものがなければ素直に最初から楽しめてただろうが」

男「どうして俺のせいになろうとしてるんだ? 神が勝手に設定したのがまずミステイクだろ!?」

名無し「な、何を!?」

男「大事な場面で聞きたくても聞けない台詞があれば、そりゃ誰だって一線引くぞ!! 肝心な時に萌えられない美少女とかアホが極まってる!!」

男「つまり、全部製作者の犯したミスが原因じゃねーか! ……違うのか、名無しよ」

名無し「も、もう……勘弁してくれ……!!」

名無し「なぁ! オレはこれでも男を高く買ってたぞ! だけど勘違いしてた、お前 真正のバカだっ!!」

名無し「お前の中の女に対する“欲”って一体何なんだ!?」

男「バカはお前だよ、名無し」

男「可愛い、美少女に求めてる要素はそこへ終着する……かわいいが欲しいんだよ、俺は!!」

名無し「ウソだ!! お前は所詮 そこらに蔓延る奴らと同じで肉欲を満たしたいだけなんだよっ、そうじゃない!!」

男「違わない! 名無し、俺は結果よりも過程を重要視する人間だ」

男「辿り着く末なんてどうだっていいのさ……俺は今が欲しいっ!! エロだろうが、甘酸っぱかろうが、過程をだ!!」

名無し「だ……ダメだ、こいつ…………そうか、そうだったんだ」

名無し「男、お前は始めから“男”としての性を全うしようとなんて考えてなかった! 漫画やアニメを見る様な目で彼女たちを追っていた!」

男「当たり前だろ、自分に自信がない モテた試しのないドブ人間なんだから」

名無し「自信がないなんてレベルじゃないだろ!? 雄としての勢いが失せてる!!」

名無し「何の為に自分がモテたいだなんて願った!? 何だお前ッ!?」

男「日陰者の憧れの一つだからに決まってるだろ」

名無し「せ、性欲がないわけじゃない、なのに、い、異例……自分を自分だと思ってないのか……お前が大好きなゲームじゃないんだぞ」

名無し「これは、ゲームじゃなく現実なんだぞ!!?」

男「すまん。そもそも度胸無しなんだ、俺」

名無し「り、理解できない…………」

男(理解? この俺の思考を考察するより先に、現代に潜む草食男子について勉強すれば話も早いだろうに)

男「知ってるか、老若男女 かわいい美少女を嫌う人なんていない」

名無し「それは、どう、なんだろう……」

男「現代社会の波に揉まれた俺たちは、皆、等しく 癒しを、憧れを求めて彷徨うんだ……俺にとってこの世界は」

男「“平和”なんだよ、名無し。美少女と親しくできる上、俺は穏やかに、面白おかしく生きて行けるんだ。これ以上の贅沢あるか?」

名無し「…………そんなアホにだって気の迷いはある」

男(深く息を吐いて、取り乱していた自分を名無しは窘めていた、そんな風に見える。彼は右往左往していた足を止め、生気の無い目で俺を見据えてきた)

男(黙って視線を交していれば 前髪を掻き上げ、彼は ずっと無言のまま佇んでいた化け物へ)

名無し「オレとしたことが、この男に惑わされてしまい情けありません……主よ、どうかお許しを」

男「口も利けないようじゃ、お前の失態を許すどうこう敵わないんじゃないか? 馬鹿馬鹿しい」

名無し「オレの失態を? ふふっ」

男「……何がおかしいんだか」

名無し「おかしいよ、見当外れにも程がある。だって――――こういう事だ!!」

オカルト研「      」

男(余裕を、失った。名無しが吠えるや否や 瞬間、オカルト研が何も無い空間から現れ、彼の手の中へ突然降りてきたのだから)

男(ゆっくりと名無しの腕の中へ落ち、抱かれた彼女は 眠るように静かだった。自身の手へ掛かった体重に、不快な表情を浮かべて名無しは口を開くのだ)

名無し「いま オレとお前を除いて、こいつらは息をしない人形だよ」

男「名無し、お前っ!!」

名無し「呆気ないと思わないか? あれだけ威勢を張ってたのにね、死んだみたいに大人しい」

名無し「綺麗な顔してるぞ。こういうの、好みかどうか自分で判別つかないけれど」

男「……次 気安く触ってみろ、張り切ってただじゃ済まなくさせてやる」

男(わざとらしくおどけたと思えば、嫌らしく舌を出してオカルト研の首筋へつけようと名無しは顔をゆっくりと、吹っ切れた)

男(アイツは俺の敵なんだろうが!!)

男「っ――――ぎ!?」

名無し「切ないな、これから男は憎い敵が大好きな女の子をひん剥かれるところを黙って見届けるしかできない」

男「ふ、ぐ……っう!! ……っ!!」

男(体が、足が 言う事を聞かない。地に張り付いてしまったように重くなり、前かがみに倒れかけていた。その光景を奴は笑う)

名無し「安心してくれ、男! そういうのはオレの趣味じゃない」

名無し「彼女は もっと別の用途があるもんでサ」

男「ふ、ふざける、なっ……!?」

男(疲弊の溜まった代償で見た錯覚であれと願ったが、明瞭だった。名無しの手の中にあったオカルト研の姿が、微かに)

オカルトk「      」

男(透けている)

名無し「ごめん、最後ぐらい話したかったよな。だけど コイツもうダメなんだわ」

男「何だよそれ!? ダメって、そっちの都合で勝手にやってることなんだろ!!」

名無し「そうだよ。ふざけたヤツでも勘が良すぎたら、これからの男にとって害でしかない」

名無し「だから、余計な事をされる前に退場してもらおうと思った」

男(オカルト研の体は、じんわりと空気に溶けていき始めた。叫ぼうが、怒ろうが、知る余地もなしに彼女の色は、薄くなって)

男「うぅ、うっ!! やめろぉっ、やめてくれっ!! 名無し!!」

名無し「お前には悪いと思うよ、でも しっかり忘れられるさ。コイツが存在した事実すら知覚できなくなる」

名無し「一人減ったぐらいで痛くなんかないだろう? それとも…………助ける、とか考えちゃってるのか。既に」

男「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!?」

男(……あの日のように、オカルト研は、彼女の最後と同じように、透けて、消失した。――――あの日?)

名無し「じゃ、またやり直そうか 男―――――――――」

男(    じ 間が  逆行す  る    )

ここまで

転校生(手掛かりを、切っ掛けさえ掴めれば 男は過去を追求し始める。記憶の片隅に残った微かな想いを追って)

転校生『何度やったって結果は同じだわ、アイツは変でどうしようもない変態バカよ! ふふっ!』

名無し『……』

転校生『……あ、うっ、と、得意気になってる私の方がバカみたいじゃないのよっ! 何か言えば!?///』

名無し『垢を知ってるだろ。人の垢だ』

転校生『は?』

名無し『オレは記憶っていうのは垢に似ていると考えた事があるよ。時が経てば、古くなった物から落ちていく』

名無し『脱皮だよ、転校生。風呂に入って体を洗えば、昨日までの自分と僅かながら違う自分の体になっている』

転校生『はいはい、無駄知識の披露ご苦労さま! 結局あんた何が言いたいの? 意味不明だわ……』

名無し『キミは何度同じ時を繰り返したか 数えてなかったのか』

転校生(数える、はずがない。というよりは途中で諦めていたわ。これ以上自分で自分を追い込むことに意味を見出せなかったから)

名無し『やー、実はオレも途中で数え飽きていたよ』

転校生『ど、どうでもいいわ、そんなの……っ……!』

名無し『あぁ……時間を巻き戻す、とか言っていたけれど アレは厳密にはそういった物じゃなくてな』

名無し『全部壊して、一回いっかい作り直してるんだ。世界も、人も、もちろん キミや男たちも』

あ、貼る順番ミスった
次レスから続き再開

転校生「――――文化祭、クラス発表の劇でラストシーンのキス 私は受けるわ!」

男の娘「えぇ!! やだやだ、やだぁ! 僕