男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」 (818)

男「ちなみにモテるとはどんな感じで?」

神「簡単に美少女と仲良くなれて、ハーレムを築けてしまうのです」

神「ラッキースケベなんかは勿論。寄らずとも向こうから勝手にあなたへ近づいてくるのですよ」

男「顔も頭も運動神経も何一つ取り得を持たないこの俺にだと?」

男「これまでにほとんど女子と接点がなかったこの俺にだと?」

神「そうです。神の力であなたは美少女を魅了する力を手に入れることになるのですからね」

神「どうですか?私と契約しますよね。この機会を逃せばあなたは一生惨めな人生を送る羽目になりますよ?」

男「こんな美味しい話を見逃すわけないでしょう。もしこれが夢なら、それでも構わないや…」

男「神よ、我に力を与えてくれたまえ……」

神「よかろうなのです^^」

アサチュン

男「……今のは、やっぱり夢なのか。冗談みたいな話だったけど本当なら羨ましい話だ」

母「私の息子よ、目覚めたのですね」

男「母さん。それに父さんも。朝から二人で俺に何か用か?その大荷物は?」

父「息子よ、よく聞くのだ。俺たちはこれから海外へ出張しなければならなくなった。急だが許せよ」

男「そんな!いきなりバカ言ってるんじゃないよ、二人がいなければ俺たちはどうしたらいいのさ。朝ご飯は?いや、それどころか学校は?」

母「学校には行きなさい。家事はお隣の幼馴染ちゃんがウチに来てお手伝いしてくれるそうですよ」

男「幼馴染だと……あいつは昔となりの県へ引っ越した筈じゃないか」

母「実は最近またこっちに帰って来たらしいのですよ。丁度お隣さんが幼馴染ちゃんの家よ」

男「なんと……」

父「母さん、そろそろ時間だ。出ないと。息子よ、妹のことは任せたぞ。二人でしっかりやってくれ。父さんたちは1年ぐらい家を空ける」

母「幼馴染ちゃんにもよろしくね」

男「ま、待ってくれ、父さん!母さん!……怒涛の急展開すぎる」

妹「あ、お兄ちゃんおはよー。今日は珍しく朝早いんじゃないの?しししっ」

男(バカな……ここ3、4年は会話もまともにしていなかった妹が俺に「おはよう」だと)

男「お前も早いじゃないか。いつも母さんに起こされなきゃ自分から下りて来ないのに…」

妹「えー?それはお兄ちゃんの方でしょ?ほら、早く朝ご飯食べちゃいなよー」

男(おかしい。あいつは俺を「お兄ちゃん」なんて呼び方はしない……「おい」か「ん」だったじゃないか)

男「お前熱でもあるんじゃないだろうなぁ……?」ピト

妹「ぃひっ!?」

男「俺より体温は低いけど……父さんたちもいないし、誰もいない家で休ませるわけにも……」

妹「あ、あああ、やぁああああぁぁ……///」カァァ!

男「ん?おい、顔が真っ赤になってるじゃないか?これは完璧風邪引いてんな……」

妹「[ピーーー------]!! もう、先に学校行ってるからね!! …[ピーーーー]///」

男「え? おい、今何て……あぁ、もう行っちまった。アイツなに焦ってたんだか」

男「おっと、こうしちゃいられない。次遅刻したらまた先生にクラスの全員の前で怒鳴られちまうよ!」

男「っと、制服に皺がついてるけど気にしてらんないな。食器は帰ってきてから洗えばいいや」

ピンポーン

男「人が急いでる時に誰だ?……はーーーい、いま両親は出かけていますよ……おぉ?」

幼馴染「おそい! いつまで待たせるつもりなの、男くん!」

男「あの、失礼ですがあなたさんはどちら様でしょうか……」

幼馴染「ちょっ…えぇぇぇ~~~!?まさか、幼馴染のあたしの顔を忘れちゃったの!?昨日会ったばかりなのに!?」

男「幼馴染…?(おかしい。確かに俺には中学まで幼馴染が近所にいたが、けしてこんな美少女ではなかった)」

男(彼女には悪いが、この俺の美的感覚から言わせてもらうと、俺の幼馴染はデブスだった筈)

男「お前、鼻のところにあったデカくて汚い黒子はどこにやった!本当に俺の幼馴染で間違いないのか、こんな美少女が!」

幼馴染「びしょっ……///」

幼馴染「……もぉ~…朝から変なこと言わないでよ! …ほんと男くんは[ピーーーーーーーーーー]で、しょうがないんだから…」

男「え?何て?」

幼馴染「鈍感ばか……ほらっ、早く学校向かわないとまた遅刻だよ! いこっ」グイ!

男「うわぁー!?」

男(こんな美少女に手を引かれた経験はこの世に俺が生まれ落ちて一度たりともなかった。故に思う。ああ、これが幸福なのだろうと)

幼馴染「それでね、○○と部活で…」

男「……」

幼馴染「ねぇ、聞いてる?さっきから上の空じゃない?しっかり朝ご飯食べたの?」

男「あ、ああ、ごめん。ちょっとボーっとしていた……」

男(まさか本当に神がこの俺へ力を授けたというのか。モテモテハーレム生活主人公へなれるというのか?この俺が?)

男「じゃあ、どう有効活用してやろうか……他にも美少女の知り合いがいるといいが」

?「どいてどいてどいてぇ~~~~~~!!!」

幼馴染「男くん、危ないっ!!」

男「え?…………うぐぅっ!?」ドン

幼馴染「ちょっと大丈夫? 怪我してないよね……凄い音したけれど」

男「…ああ、まぁ、とりあえず無事な感じだな。俺は……ん? あれ、目の前が真っ暗だぞ」サワサワ

?「ひゃん!?」

男「いや……これは縞々が……何だろう?」つん

?「ひゃああああぁぁぁ~~~~~~!? こ、このぉ…ド変態スケベぇ!!」スパァン!

男「ぐふぅ!」

幼馴染「男くん!? い、いきなり殴るなんて酷いじゃない!」

?「何よ!それじゃあ私のパ……ぱ、ぱぱ、ぱぱぱぱ……///」

男「ぱぱぱ?」

?「うるさい黙れ死ね!馬に蹴られて何度も死ね!」

男「ぶつかってきておいて散々な言い様だな。まずは謝るのが先じゃないのか?」

?「うっ……ごめん……で、でもあんたは私のパ……もういいっ!あんた最低よ!」

男「おい!……何だったんだあの女。美少女だったぞ」

幼馴染「男くん平気?…酷い子もいるもんだね。ああ、男くん腕掏りむいちゃってるじゃん…」

幼馴染「はい、ハンカチ。あとで一緒に保健室にいこ?早く消毒しておかないと」

男「だ、大丈夫だって…お前は心配性だなぁ……」

幼馴染「だって!あたしの[ピーーーーーーー]男くんが[ピーーーーーーーーーー]……」ポロポロ

男「はぁ?何だって……?」

幼馴染「な、何でもない……もう行こうよ、男くん」ニッコリ!

男(この無駄に気遣う幼馴染は一体俺の何なのだろうか。どうして俺にそこまで世話を焼きたがるのか。理解できない)

幼馴染「それじゃああたしはここで。男くん、本当に無理しないで保健室行ってもいいんだからね?」

男「分かってるよ。じゃあ、また後でな……さてと、クラスの女子は誰が美少女化しているのかな。それとも委員長辺りとフラグが立つのか」

男(しかし、俺はクラスに全く馴染めていない。女子どころか男友達の一人もいない。そんな一人ぼっちな俺に誰が振り向いてくれるのか)

男(というのは今までの話だろう。今日から俺は主人公。神が話した通りならば、美少女もフラグも向こうから俺へ吸い寄せられるようにやってくる筈)

先輩「やぁ、男くーん! 今朝も絶好調だよー!わたしがね!」

男「あなたは……確か上級生の先輩さんですか?」

先輩「なーに、赤の他人みたいな態度取ったりして。このわたしを忘れちゃったのかね。んんー?」ぎゅうぎゅう

男「く、くるしっ……い、いきなり絡まってこないでくれよ!」

男(先輩さんの豊満なボディがこの俺を刺激する。どうやら性欲まで失ったわけではなかったようだ。神よ、感謝します)

先輩「そんなこと言って~、実はめちゃめちゃ嬉しいくせによぅ~……ほらほら、胸とか当てちゃう!」

男「や、やめてください!先輩さん! く、クラスの奴らに見られてますから……」

男(気持ちとは反面に俺の口から先輩の行動を制止させようと言葉が出てくる。なぜだ?本音ではもっとひっつけと思っているのに)

先輩「へいへい。まったく男くんは真面目な子だよ。だから[ピーーーーーーーー]……それより、部活の話は考えてくれましたか?」

男「は?」

先輩「えぇ~~~?前に話したじゃない。わたしが作ったラーメン愛好会に入ってくれないかってー」

男「ラーメン愛好会ですか……(おかしい。確かに先輩さんは明るい性格の持ち主だと知っていたが、ここまで底抜けではなかった)」

男(そして部活は女子バレー部で、サッカー部の彼氏持ちだった気がする。まさか俺に合わせて彼女たち美少女の設定が書き変えられているとでもいうか)

先輩「入ろうよぉ~~~ラーメン好きでしょ?一緒に愛好しまくろうよー?」スリスリ

男「いきなり入れっていうのも無理があるでしょ……」

男(しかし、この先輩さんと放課後を謎の愛好会とやらで有意義に過ごすのも悪い話ではない。幸い俺はどの部活にも所属していないわけだ)

男(では、断ることもないのでは?幼馴染も捨てがたいが、彼女も非常に魅力的な美少女だ)

男(なにより彼氏のサッカー部の先輩から奪ってやったという嬉しい感覚がおまけでついてくる。そうだ、今の俺はサッカー部の奴らが束になっても敵わないレベルでモテる。違いない)

男「そ、それじゃあ」

?「少し待ってほしいのだが」

先輩「げっ、面倒くさいのが来ちゃったー……」

生徒会長「男くんには生徒会へ入ってもらうと私が先に約束をしている。それに、君は訳の分からない愛好会へ入る道理もないだろう?」

男「お、俺が生徒会にだと?」

生徒会長「そうだ。その、な……君にはあの時[ピーーーーーーー]、[ピーーーー]助かっている……私たちには是非男くんの力が必要なんだよ」

男(芋くさい眼鏡女子だった生徒会長が黒髪ロングキリ目のクールな巨乳美少女へ変貌しているではないか)

仮面ライダー見る

先輩「わたしが先に男くんを誘ったのー!だからわたしのなんだから!」ぐいぐい

生徒会長「決めるのは彼だ。最も、君のような女に着いて行く筈がないが!さぁ、男くん。私と共にこの学校を良く正していこうじゃないか!」ぐいぐい

男「ひ、引っ張らないで……俺を取り合わないでくださいってば……えへ、えへへへ……!」

男(こんな状況があって良い物だろうか。実に素晴らしいではないか。この俺が二人の美少女に奪い合われるなんて)

男「夢みたいじゃないか……」

先輩「あー!ほら、いまわたしの愛好会に来ますってさ!言ったよねぇ~、男くん?」

生徒会長「いいや、生徒会へ行きたいと聞こえたぞ? なぁ、男くん」

男(もはやどちらでも構わない。こんなに良い思いができるのだ、夢みたいじゃないか。神よ、この俺がここまでの幸福を手にして罰は当たらないのか)

?「ちょっと待ってください!二人とも、男が困ってるじゃないですか!」

先輩・生徒会長「むぅ~……」

?「ほら、男。早くクラスに戻ろうよ? そろそろHRが始まっちゃうって…」ぐい

男「お、おお? そうだな……えっと……誰だ、この美少女」

?「び、びび、美少女ぉー!? 何言ってるの……僕だよ。男の娘だよ? もう、いきなり変なこと言うから[ピーーーーーーーー]だよぉ…///」

男「何だって?」

男の娘「男はいつも大変そうだね。僕なんかより充実していてさ」

男(この美少女、否、男を俺は知っていた。…いや、知らないのか。彼はクラスで虐められていたキモオタデブだ)

男(けしてこの様な美少女に引けを取らない美男子ではなかった筈。俺が知るこいつは、年中フケを頭に乗せて振り撒く不潔極まりない男だった)

男「それがどういう事だ?フケではない何かが、こいつの周りをキラキラと……」

男の娘「へ? 男、どこ見てるの……」

男(神よ、これは試練か。この俺は男色好みではないぞ。だがしかし、今の彼は、どういうことか非常に魅力的に感じる)

男「いやいや、どこも見てないぞ。それより今日はやけにクラスが騒がしいじゃないか?」

男の娘「うん。実はウチのクラスに帰国子女の転校生がやって来るって噂が立っているんだよぉー」

男「ぶふぅっ……全てが俺の為に、いや、世界が俺の為に動き始めたのか? 俺は今日死ぬのか?」

男の娘「何言ってるの……あ、先生がきたよ」

先生「全員静かにして、さっさと席についてー。ほれ、男くん。言われた通りにしないか。それともまた体調を崩して保健室へ逃げるつもり?」

男「やれやれ……」ス

男(はっ、とした。この俺が「やれやれ」だと? まるで無気力系ハーレム主人公の台詞じゃないか?)

男「……しかも席が一番後ろの窓際か!」

男(思い出せば、今朝からの俺の台詞や思考が今までのものとは違ってきている事に気づいた。以前の俺は話しかけれればどもるし、声も小さく何度も聞き返されるレベル。まるで別人に生まれ変わってしまったようだ)

男(やはりモテるには相応の性格とコミュ力が必要という事なのだろうか。それとも、本来の俺が今現在の俺だった? 自信を持てた事で大きく出られるようになったから…)

隣の女子「男くん、男くん」

男「え?何か言ったか?」

隣の女子「転校生、噂によればすごく可愛い女の子らしいよ。しかもハーフだって。楽しみだね~」

先生「よし、静かになったねー。……はい、今日は皆さん既にご存じの通り、このクラスへ転校生が来ます。入って、どうぞ」

転校生「しつれいします…私は転校生と言います。前はイギリスの学校に通っていまして……えっと、色々迷惑かけるかもしれませんが…あっ」

男「……ん、この声どこかで……ああっ」

男・転校生「あぁあああああぁぁ~~~~~~!?」

先生「どうした? まさか二人はもう知り合いだったのか?」

転校生「ち、違います!! あいつは今朝私のぱぱぱ…/// とにかくド変態スケベですっ!」

男「な、なんだと。俺は無実じゃないか!大体勝手にぶつかってきたお前が悪いだろ!」

転校生「なによ!この、ド変態クズ!」

男「屑とまで言われる筋合いはねーよ! ……あれ」

男(なんか良いじゃないか、このやり取り)

先生「んー、とりあえず二人は知り合いらしいし…男くん、彼女に色々教えてあげてくれないかな? ほら、学校の案内とか」

転校生「お断りさせてもらいます!こんなドが付く変態に教わる事は一つもありません!」

男「こっちだって願い下げだ!誰がお前みたいな失礼な暴力女へ世話を焼いてやるか」

転校生「ぼ……やっぱり最低っ! あんたが一番嫌いだわ!」

男「おー上等だね! むしろ、ありがとうとでも言っておこうかー?」

先生「ずいぶんとまぁ仲が良さそうで。とりあえず、転校生さん。あなたの席は男くんの隣ね」

男・転校生「はぁ!?」

男(少し待ってほしい。俺の隣には既に他の女子が座って……座って、ない)

男(いつの間にか、俺の隣から女子が消えているじゃないか。あの子は何処へ行った? と、トイレか?)

転校生「……ふん」ズカズカ、ストン

男「お、おい……いや、先生! この席には他の生徒が!」

先生「んー? 丁度良く空席だったはずだよ。丁度良くね……それでは朝のHRを始めましょうかー」

男「バカな」

転校生「ほんと最低、こんな[ピーーーーーー]と隣の席だなんて……///」

男「まったく災難だぜ。変なイカれ女が隣の席へ座るなんて」

男の娘「はははは……まぁ、いいじゃない。せっかくなんだし色々お話してみようよ!」

男の娘「とは言っても、今は他の人たちで手一杯そうだけど」

女子たち「ねーねー!イギリスの学校ってどうだったの? みんな外人? 食べ物ってどうだった?」ざわざわ

転校生「あーえっと~……あははは……」

男「おー困れ困れ、イイ気味だ。まるで動物園のパンダ状態だな!」

転校生「聞こえてるわよ!ド変態男!」

男「その呼び方誤解を招きそうだからやめろ。大体あれは狙ってやったわけじゃなくてだな…」

女子たち「あれって? ていうか、男くんと転校生さんってどんな関係? まさか恋人同士!? キャー!遠距離恋愛してたの!?」 わちゃわちゃ、わちゃわちゃ

転校生「ちょ、ちょっ!? 待って! 本当にそいつとは関係ないのよ!?」

男「やれやれ、仕方がないな。……おい、こっちだ。学校の中でも案内してやるよ」グッ

転校生「はぁ!? えっ、きゃあ!」グイ

男(自分から女子の手を取ったのは初めてだ。まさか俺がこんなに積極的な人間だったとは…ああ、なんと柔らかくてスベスベした手なのだろう)

男(せっかくだ。この女にフラグを立ててみようか……後ろの女子たちが俺たちの姿へキャーキャー黄色い声を上げているのが、とても心地よい)

転校生「……///」

男「ここまで来れば一安心だろ。まぁ、災難だったな、転校生」

転校生「[ピーーーーー]……///」

男「え?」

転校生「手、そろそろ離してよ……っ///」

男「ああ、悪い悪い。汗ベチョベチョだぞ? お前以外と汗っかきなのか?」

転校生「やっぱり最低よっ、あんた! ……でも、とりあえず[ピーーーーーーー]。ちょっと[ピーーーーーーー]……かも」

男「え? 何だって?」

転校生「な、何でもないわよ!! バカじゃないの!?」

男「どうして怒ってるんだよ…顔も真っ赤にして…転校して初日で緊張してるのか?難儀するな」

転校生「ううぅ……あんたなんかに心配されるなんて……ほんて、[ピーーーーーー]よ…」

男「何て言った?」

転校生「あぁあーーーもうっ! ド変態でクズの変態って言ったのよ! この変態め!」

男「くどいぞ、お前……」

転校生「……本当はね、あんたの言う通り緊張しまくってる。日本は今までの環境とは全然違うし、みんな興味深々だし」

男(突然、聞いていないのに自分語りが始まった)

転校生「私、まだイギリスの学校にいたかったわ。ねぇ、私の日本語ちゃんと聴きとれる? [ピッ][ピーーーーーーー]……?」

男「すまん、いま何て言ったんだ?」

転校生「…やっぱりそうよね。私、日本で馴染めるのかしら。パパが大丈夫って言ってくれたけれど」

男「ほう、父親をパパなんて呼ぶ女子高生か。中々悪くないじゃないか」

転校生「あっ…/// ば、バカじゃないの!? イギリスの暮らしが長いから普通なのよ!!」

男「ふーん、そうなんだ」

男(きっと、本当のハーレム主人公であればここで気の効いた台詞がすぐに飛び出てくるだろう)

男(ここまできてどうしたものか。やはり女子と二人きりになるのはなれない。気恥ずかしくて仕方がない)

幼馴染「男くんー……? 男くん、そこにいたんだね」

転校生「ひっ!」

幼馴染「こんな所で何してたの? あっ、この子…今朝の…」

転校生「どうも……転校生です。あの時は慌ただしくてごめんね…!」

幼馴染「ううん、男くんが大丈夫なら問題ないから。それより二人はどうしてここに隠れていたの?」

幼馴染「二人で何をしようとしていたの? 男くん」

転校生「なっ……べ、別に何もしてないわよ!? こいつが無理矢理私を連れてきて」

男「おい、恩人に仇を返すつもりか? やれやれ、これだからイギリス暴力女は困る」

転校生「その呼び方やめなさいよ! 私が変な子だって周りに思われちゃうじゃないの!」

幼馴染「私は男くんに聞いたんだよ、転校生ちゃん」

転校生「え? あ、ああ……ごめんなさい……」

男「聞いての通り、こいつをクラスの連中の質問責めから助けてやったまでだ。別にやましい考えを持って連れ込んだわけじゃない」

男(言い訳に関してなら口八丁といったところだろう。それに、8割は事実なのだ)

幼馴染「……そっか! あーあ、また男くんが女の子に変なことしようとしてるんじゃないかって勘ぐっちゃった~」

幼馴染「[ピーーーーーーーーーーーーーーーー]」

男「は? もう一回言ってくれないか?」

幼馴染「ん、何でもないよ」

男(美少女二人と別れ、試しに校内を歩き回ってみれば)

男「おぉ!?」

後輩「無防備な顔ゲット。シャッターチャンスでしたので、つい」カシャ

後輩「先輩、おはようございます。ふふ、今日も授業をサボって何処かへ行くつもりですか?」

男(また美少女が都合良くこの俺に話しかけてくるわけだ。次は見ず知らずの後輩。どうやら彼女は写真部の人間らしい)

後輩「……どうしました? ジロジロ人の顔を覗いてきたりして。私の顔にご飯粒でもついてます?」

男(このキョトンとした表情こそシャッターチャンスではないか。なんて愛らしい後輩なのだろう)

男「俺にもついに後輩ができたか…」

後輩「あ、ところで先輩。これ、妹ちゃんから頼まれていました。どうぞ」

後輩「ふふ、体操着間違えて持っていっちゃってたみたいですね。危うく先輩も妹ちゃんの体操着を着るところでしたよ」

男「あ、ああ……ありがとう……」

後輩「それでは私はこれで。先輩と違って私は真面目に授業を受けてきます。今度、一緒にどこかへ遊びに行きましょうね…写真いっぱい撮らせてほしいです」ニッコリ

男「おうふっ…!!」

男(俺は一体誰をものにすれば良いのか。…いや、別に1人へ絞る必要はないのでは? この調子でハーレムを築けば良いのでは?」

?「オイ、コラ」

不良女「てめー、あたしとの約束忘れてるんじゃねぇだろうな? 男?」

男「はぁ? いきなり現れて、お前は誰だ?」

不良女「ばっ! こ、この……あたしの顔を忘れたってのか! 男のくせに!」

男「…まさか、不良女さんですか?」

不良女「そうだよ。分かるじゃねーか……本当に忘れてたら[ピーーーーーーーーーーーー]……///」

男(彼女は不良女。校内にいる女子一、ケバいビッチと以前は悪い噂が絶えなかった)

男(売春、薬、窃盗……殺し以外の悪事には全て手をつけているとか。それが今では、美少女の一人)

男(他の美少女たちとは違い。サバサバとしていて、女子らしくはない。だがそれがまた良いスパイスとなっているのだろう)

男「さっき約束とか言っていたが、俺はお前とそんなものを交わした記憶はないぞ?」

不良女「はぁ!? お前っ、この! あたしに漫画貸すって約束したじゃねーか!」

男「漫画? なんの?」

不良女「お前が面白いって言って勧めてきた奴、なんだっけ…あれだ、キルミーベイベー…とかなんとか」

男「ぶふーーーっ!」

不良女「え?えぇ? な、何だよぉ!?」

男「お、お前がキルミーベイベー読むのか…お前みたいなのが…!」

不良女「お前が面白いって言ったから読んでやろうとしてるんじゃねーかよ!? なな、何吹きだしてんだオラー!?」

男「いやいや……悪かったよ。漫画は明日かならず持ってきて貸してやる。それで構わないか?」

不良女「チッ……仕方がねーな、今度は絶対だぞ! 明日も忘れたらその尻蹴っ飛ばしてやるから!」

男「ああ、大丈夫だよ。俺に任せておけって」

不良女「お、おう……あ、ああ、あとさ? そのぅ……[ピーーーーーーーーー]に、一緒に[ピーーー]で[ピーーーーーー]……とかダメ、かな……///」

男「いま何か言ったか?」

不良女「なななっ、何でもねーよバーカ!! じゃあ絶対明日持ってこいよな! 待ってるんだから!」

男(……彼女たちが何か言おうとしているのは理解できている。だが、その言葉はけして俺には聞こえないのだ)

男(そうか、神よ。これがリスクとして負わせられた難聴スキルか……あなたは慈悲深いが、なんと残酷なのだろう)

男「……最初に失礼なこと聞いて悪いけど、どちら様でしょうか」

オカルト研「私を忘れてしまったの? ああ、おそらくその肩に乗った悪霊の仕業ね」

オカルト研「私はオカルト研よ。待っていて、すぐにお祓いをしてあげるから……」

男(オカルト研。彼女は隣のクラスで有名な「わたし霊感あるの」と言い触らす、いわゆる構ってちゃんの腐女子だ)

男(腐女子ではあるが、元々顔は整っていた気がする。まぁ、何であろうが俺とは接点を持たないクラスで浮いた存在の女子)

男(……今ではそれが顕著に表れ、完全な不思議系美少女と成り上がっているようだが)

男「悪霊? 悪霊ねー…俺はそういうオカルトの類は信じないことにしているんでね、間に合ってる」

オカルト研「だ、だめ…すぐに払わなければ……」ぐい、ぐい

男「ちょ、引っ張るなよ! お、お、うわぁあああ~~~!?」どんっ

オカルト研「きゃ!?」

男「……かわいい」

男(偶然か、はたまた必然なのか、俺は彼女を押し倒す。長い前髪が横にそれ、可愛らしい顔が目の前にあったのだ)

男(そして、俺の手には柔らかい感触があるという)

男「大きい……」フニフニ

オカルト研「っー……///」ジワァ…

オカルト研「男くんのえっち……」

男「あっ、ごめん、いつまでも!」

オカルト研「ううん、大丈夫よ。今のもきっと悪霊があなたへさせた行動でしょう……」

オカルト研「[ピーーーーーーーー]……///」

男「は?」

オカルト研「ごめんなさい…どうやらその悪霊は今の私では手に余るみたい……また出直させてもらうわ」

男「くそ、良い所までは行けるに難聴スキルが邪魔をして先へ進めない…!」

男「……しかし、あの柔らかな感触。まさか下着を付けていなかったのか? バカな、制服だぞ?」

男(俺は、さきほどこの手に得た奇跡の感触を握りしめ、トイレへ向かおうとした……すると、そこにいたのは美少女であった)

男の娘「あっ、男。今までどこに行ってたの? 男もトイレ? 終わったら一緒に教室へ戻ろうよ。次は体育だから急いで着替えないと…」シー…

男の娘「……男?どうして急に屈みこんだの? も、もしかしてお腹痛い!?」

男「いや、違うところが痛くてね……」

男(キモオタデブのくせに、ああ、キモオタデブのくせに。これでは気安く連れションにも誘えないではないか)

体育教師「今日はサッカーボールを行ってもらう。男子はこちらのコートを使え。女子は向こうのコートでな」

男(キモオタデブが男の娘へ変わるのであれば、他の男子や教師もそうなってくれれば良いものを。…いや、ある程度のリアルは残しておかなければ俺が一人別空間にいるようで気味が悪いか)

男(それにしてもサッカーか……あまり気乗りしない。この俺が最も苦手な運動は球技なのだ。何よりもチームプレイを必要とするものは絶対にダメ)

男(運動神経もうんこである俺にとっては非常に避けたいところであるが、保健室へ逃げ込みたいが)

男の娘「僕、得意じゃないんだ。男、一緒にこっちに座って観戦を楽しもうよ!」

男(今の俺には友人(男の娘)がいてくれる。怖くはない……かわいい)

男「ああ、俺たち日陰者にはそれがお似合いだ。見ていようぜ」

男の娘「うん。……あっ、見て女子の方! 転校生さんすごい! 帰国子女で運動神経も抜群だなんて」

男(素晴らしい。確かに素晴らしい。美少女がムチムチの生足を張って駆け回り、胸をゆさっと揺らす)

男「あれ、その気になれば俺の物なんだよな……ぶっっっ!!」

転校生「この変態男!! さっきからジロジロ人の体見ないでよ!!」

男「だからって、俺の顔面にシュートを入れる奴があるか!」

転校生「ふん……やっぱりドが付く変態よっ……///」

男の娘「あっ、雨が突然降ってきたね。今日の天気予報じゃ晴れのままだったのに」

男「ああ、雨が都合良く降ってきたな。……ほうほう」

男(男子どもはずぶ濡れになろうが、泥まみれになろうが、汗に塗れようがサッカーを楽しんでいる)

男(しかし、女子、否、美少女たちはどうか。突然の雨に体操着が濡れ、可愛らしい下着がスケスケだぜ)

転校生「ちょっと! そこ詰めて詰めてー!」ぎゅぎゅっ

男「うおぅ!? どうしてこっちで雨宿りするんだよ、あっちの方で良いだろ」

転校生「近い方が偶然こっちだったのよ。文句言わずに私一人だけなんだから入れてよ…」

男(なるほど。もしかして現在最も好感度が高いのはこの転校生ではないだろうか。やけに俺へのアピールが目立つ)

男「別に構わんが、男の娘と一緒だしここじゃ狭いぞ?」

男の娘「ごめんね、転校生さん…」

転校生「う、ううん! 急に来た私が悪いのよ、気にしないで。……ていうか、あんたもっと詰めてってば!これじゃあ濡れちゃう!」

男「じゃあ詰めるから、もっとこっちに寄れよ」

転校生「あの、その……ぬ、濡れてるからくっ付くとあんたまで濡れるよ……?」

男「別に? 問題ないって。ほら」ぐいっ

転校生「うぅ……[ピーーーーー]…///」

男(平静を保っていられない。隣にはびしょびしょに濡れた美少女が、俺とほぼ、ぴったりくっ付いて座っている。この状況、まさに主人公の特権か)

男(視線を少し下に落とし、横へずらせば、露わとなった水色の下着が。…嬉しいことに上着が少し伸びているせいか、胸元が丸見えではないか)

転校生「本当に今日は災難。あんたみたいな変態に絡まれるし、雨は降られちゃうし……ていうか変なこと考えてないでしょうね!?」

男「変な事というのが俺には分からないんだが。詳しく教えてみろよ、暴力女」

転校生「い、言えるわけないでしょ! [ピーーーーーーー]……///」

男の娘「お、男……ちょっと近くないかな……その、僕、[ピーーーーーーー]…///」

男「お前ら俺に分かるようもっと大きな声で話してくれないだろうか……」

男(二人の美少女に挟まれるこの状況は良い。だが、また肝心なところで難聴スキルが働くと萎えるものだ)

男(ハーレムを築くにも、この難聴が邪魔してくるのであれば、正直厳しいのでは。と、言っても美少女たちは何をしなくても俺へ好意を抱きまくっているわけだ)

男(完全な受け身となる。それがベストな方法か。自分からがっついてもしようがないのだ。もはやこの手しかあるまい)

転校生「[ピーーーーー]…」

男「は?」

転校生「ひっ!? き、聞かなかったことにして……」

男(そもそも聞こえてすらいない。実に口惜しい限りである)

男(午前の授業が無事終わる……ハーレム主人公の一日とは忙しい。ここまでたった2,3時間の出来事なのだ)

男(美少女とどのような形であれ、会話できるのも、触れ合えるのも嬉しい限り。だが、あまりにも忙し過ぎる)

男(彼女らは一分一秒俺を狙って自分から現れる。俺の行く先々には美少女だ。さきほども別の教室へ間違えて入れば、そこには美少女たちが制服へ着替えている場面と遭遇した)

男(キャーキャー言われ、その場から逃げれば、次に入ったところはなぜかシャワールーム。汗を流す全裸の美少女たちが俺を出迎えてくれた)

男(結果、この頬に痛々しく残った平手のあとである)

男の娘「大丈夫、男? まだほっぺた痛むの?」

男「嬉しいのやら、つらいのやら……」

転校生「変態で間違いなかったじゃない。しかも最上級のド変態。あんたのそれ才能か何かなの?」

男「今だけの才能だと思う。ていうか何の用だ? まさか俺たちと昼飯を取るつもりか?」

転校生「えっ、迷惑だった……?」

男「そういうわけじゃなくて。お前も女子なら女子同士で仲良く談笑しながらの食事の方が楽しいだろう? なにもむさ苦しい男と混ざる必要なんて……あっ、すまん」

男の娘「え? う、ううん…別に…?」

男の娘「僕らと一緒で大丈夫なら、ぜひ」

転校生「本当に? あ、ありがとう……! 彼女たちとだと落ち着いてご飯食べられそうになくって」

男「避けてると後で痛い目に合うんじゃないか。女子なんて集団仲間意識が高い面倒臭い生き物なんだから」

転校生「明日からは一緒に食べるから! ていうかいまの本当に最低よ、ああ、だから変態なのよね…」

男「お前はどうしても俺に変態の汚名を着せたくて仕方がないみたいだな!?」

男(……あれ、自然にというか、ここまでの台詞全てスラスラと、まるで自分の意思からではないように出てきたではないか)

男(俺は一体この先どうなってしまうのだろうか。神よ、お答えください。まるで俺が俺ではなくなっていくような……まぁ、気のせいだろうが)

転校生「ていうか、あんたお昼ご飯持ってきてないの?」

男「え? ……あ、そうか。母さんが弁当を用意しなかったから」

幼馴染「はい、男くんのお昼ご飯」トン

男「おぉ? なんだ、幼馴染か……まさかわざわざ作ってきてくれたのか」

幼馴染「うん♪ 幼馴染特製のお弁当です。心して味わうように! えへへっ」

男(ああ、かわいい……美少女の手作り弁当だと? 信じられるだろうか? これが、かの幼馴染が作ってくれる弁当である)

男(しかも、他ならぬ俺だけの為に作ったというではないか。感動で涙があふれそうな)

男「まぁ、65点っていったところだな……美味しい」モグモグ

転校生「へー、幼馴染さんにお昼作ってもらえるんだ。羨ましいわね」

男「お前にもおかず一つ食わせてやろうか? やる気ないけど?」

転校生「ケンカ売ってんの!? ていうか売ってるでしょ明らかに!!」

男「いーや、全然。幼馴染は食べないのか? お前の分の弁当は?」

幼馴染「うん。男くんのお弁当作るのに戸惑っちゃって。あたしはコンビニのパンで十分だよ」

転校生「絶対それだけじゃ足りないわよ? 私の分、半分わけてあげるから食べましょ?」

幼馴染「大丈夫! …あ、あたしは[ピーーーーー]の[ピーーーーー]で…おなかいっぱいになれるから……///」チラ

男「……」もぐもぐ

男(けして聞こえていなかったわけでもなく、視線に気づかなかったわけでもない)

男(単に聞き返しても「な、何でもないよ!」で誤魔化される事が分かり切っているからだ。また、聞こえていない振りをした結果、新しい展開へ進めるのではないかという狙い少なからずある)

男(……ところで、神はこの俺に難聴と鈍感を与えた筈だ。今のところ鈍感が発揮されてはいないのでは? …というより、自分で気づける物ではないのか)

男(ここになって力を得たデメリットの真の恐ろしさを実感した。ハーレム主人公よ、今なら俺にもお前たちの苦悩が理解できるぞ)

幼馴染「じゃ、じゃああたしそろそろ自分の教室に戻るね……男くん、お弁当大丈夫だったかな」

男「だから65点だって。でも感謝してるぞ、これからも俺が採点するから、頼んでいいか」

幼馴染「! も、もちろんだよっ、喜んで! そっか、毎日作ってきていいんだ…ま、まるで…[ピーーーーー]みたい///」

男「チッ!!」

男の娘「お、男? 大丈夫?」

転校生「それにしてもほんと羨ましい限りだわ、あんたみたいなド変態クズに幼馴染さんがいるなんて」

転校生「私もそういう、[ピーーーーーーーーーーーーーーー]…[ピッ][ピピーーーーーーーーーーーーーーーーー]……」

男「え!? 何だって!?」

転校生「な、何でもないわよ!! ただの一人言…気にしないで…」

男「頼むから自分の頭の中で考えるぐらいで抑えてくれないか…逆にもやもやさせられる…!」

転校生「はぁ? あんたちょっと大丈夫なの?」

転校生「……ねぇ、ところであんたに折りいって頼みがあるんだけど」

転校生「べ、別に断ってくれてもいいけどさ……私に[ピーーーーーーーーーー]、教えてくれないかしら……?」

男「何だって?」

転校生「だ、だからぁ~! …はぁ、やっぱりいいわ。自分で何とかしてみるから」

男(恐ろしき難聴スキル。まさか、まさか自分でフラグを叩き割ってしまうとは思わなんだ)

男「いや、協力してやるよ。俺に頼むぐらいだ。他に当てもないんだろう?」

転校生「…本当? バカにしたりしないでしょうね?」

男「ああ、俺に任せておけよ」

男(ハーレム主人公であれば、ここでかならず頼りがいのある所を見せ、アピールする筈)

転校生「うっ……/// な、なによ……[ピーーーー][ピーーー]、[ピーーーーーーーーーーガーーーーーーー]……///」

男(もはや解読不能の域へ達したのである)

転校生「じゃ、じゃあさっそく今日からお願いしたいんだけど! 大丈夫かな」

男(凄いの一言に限る。たった一日で今日出会ったばかりの美少女から、個人的なお願いをされてしまったのだから)

男(考えれるか? 俺には信じられない。実は今の俺は超絶イケメンの天才なのではないだろうか。そうでなければ、ありえないだろう)

転校生「ねぇ、聞いてた? 変態?」

男「俺はいつから変態の名へ変わった? 役所に行ってそう頼んだ覚えはないし、マゾでもないぞ」

男「別に構わないよ(……さきほど、彼女は俺になんて頼みをしたのだったか。たしか、「教えろ」までは聴きとれた。では何をか、である)」

男(おそらくは日本語に違いない。自信がないとか勝手に俺へ語っていた。転校生は間違いなく、俺へ日本語を教えろと頼んだのだろう。まるで自分が推理小説の探偵へでもなった気分にさせられる。神よ、難聴にもほどがある)

転校生「ずいぶんと安請け合いしちゃうのね……でも助かるわ、変態だけど!」

男「礼を言うか貶すか、どっちか一つにしろ!」

転校生「えへへ、ごめんごめん。そ、それじゃあさ……[ピーーーーーー]、行っていいかなぁ……///」

男「頼む。もう一回言ってくれ…!」

転校生「だ、だから……[ピーーーーーーー]に行っても…いいかって……うぅ///」

男(はてしなく面倒な気持ちにさせられる。だが、この流れならば予測できるレベル。転校生は俺の家に来たがっているに違いない。高速だ。過程がふっ飛ばされているような錯覚を起こしそうになる)

男「ん? 別に問題ないが、いきなり人ん家に上がろうとするとはさすがイギリス女だな」

転校生「い、イギリス関係ないから!! 変な風に言わないでよね!?」

男(しかし、このままだと転校生ルートで固定されてしまうのだろうか。悪くはないが、他にも美少女がいるのだ。時間をかけて選択したかった)

男(そして、もし転校生と結ばれれば到底ハーレムルートは叶わないだろう。俺とて外道ではない。愛することになった美少女を尻目に浮気なんてするものか)

男(……ということはだな。俺はあえて転校生のアピールへ気付かない振りをして、固定化を防ぐ必要がある)

男(いっその事、突き離す選択もあるにはあるが、あんなに可愛らしい天使へ酷な真似をするなんて俺には無理)

男(なるほどわかった。バランスを均衡に保たねばハーレムは築けないのだ。それを崩した愚かな主人公が、一人のヒロインとくっ付くミスを犯す)

男(そう、俺の感覚からすれば、彼らは敗者。とにかくこれからの俺は全力で一人へ深く接することを禁じなければ)

男(しかし、そう上手くもいかないものか。こんな風にされては)

先輩「やっほぉ~~~男くん朝ぶりだよ~~~うりうりぃ!」むにゅむにゅ

男「せ、先輩……だから、いきなり抱きつく癖どうにかならないんですか!?」

先輩「んー? これは男くんだけへの特別にゃー♪ 何だかんだで嬉しいくせに~」

男(彼女は、先輩は比較的他の美少女より言葉が聴きとり易い方だ。だからこそ安心できる、というわけでもないのか)

先輩「わたしは、こうして[ピーーーーーーー]に[ピーーーーーー]してると……[ピーーーーーー]……え、えへへ…なんて!」

先輩「少しはわたしの愛好会へ入ってくれる気になったかね! …なったよね?よし、けってー!」

男「待てまて、無理矢理すぎるだろ! 俺にだって選択する権利はあるでしょう」

先輩「えー……男くんがいなきゃやだやだー……お願いっ!入ってくれたら何でも言うこと聞いたげるヨ!」

男(おいおい、美少女にそんな頼み方されては敵わんだろう。……いかん、持って行かれそうになってしまった)

男「もう少し俺に時間をくだ……いや、ダメか……えっと、うーん……」

先輩「本当はちょっぴり興味はあったりするんしょ? 悩むぐらいなら、ユー、さっさと入っちゃいなよぅ!」

生徒会長「……やれやれ、男くんに会いに来てみれば、また君か」

先輩「で、出たなぁー……」

男(嬉しいような、今は現れて欲しくなかったというか。おそらく、彼女は先輩さんとセットキャラなのだろう)

生徒会長「どうやら、彼女にあくどい手段で誘惑されていたようだな、男くん。可哀想に」

先輩「全然あくどくないよ!? 健全な方法で…」

生徒会長「フン、どうだろうかな。それより男くん。考えてくれただろうか? 私個人としては、今すぐでも来てくれて構わないのだぞ?」

男「いや、そのですね~……」

先輩「あー!自分だってそうやって男くんに! セコいーっ!」

生徒会長「この際だ、そろそろ君に決めてもらいたいな。生徒会へ入るか、この頭の悪そうな女の愛好会とやらへ入るか…さぁ」

先輩「わ、わたしのとこに来てくれるよね? ね? お、男くんがいてくれたら……[ピーーーーーーーーーー]…///」

生徒会長「……君には[ピーーーーーーーーーーーー]、だから……[ピーーーーーーーーーー]…たのむ…///」

男(もしかして俺は外国人を相手にしているのではないだろうか)

男(それはさておき、この選択は後に響くほど重要な選択肢だろう。どちらか片方を選べば、もう片方とは疎遠になるに違いない)

男(ハーレムに加えるべきは、どちらか。どちらも魅力たっぷりの先輩美少女じゃないか。明るい先輩さんか、クールな生徒会長か)

男「ご、ごめんなさい!! 俺、急いでるんで!! また今度!!」

先輩・生徒会長「ああっ、男くん!?」

男(正しい選択だ。選択肢は二択ではなかった。俺には保留という逃げ道がまだ残されている)

男(彼女たちを同時に相手する場合ならば、これがベストに近いだろう。しかし、近い内にケリを付けなくてはキリがなさそうだ)

男(なんて幸福で残酷な悩みを抱えなければならないのか。これが、モテる、なのか……)

男「ふぅ、やれやれ……」

幼馴染「あっ、男くん! 今から帰るの?」

幼馴染「実は今日部活お休みなんだよ。だから、今からあたしも帰ろうと思ってて」

幼馴染「せっかくだし、一緒に帰ろうよ? ついでにスーパーで今日の夕ご飯の食材も買って行きたいなって」

男「夕飯……ああ、たしかお前が俺の家にきて作ってくれるとか母さんが話していたな」

男「わかった。それじゃあ一緒に帰るとしますか」

幼馴染「うん! 今日は何が食べたい? あ、妹ちゃんが苦手な野菜ってなんだっけ? ふふっ」

男「どうした? やけに嬉しそうじゃないか。こうやって一緒に帰るのは……たぶん、珍しくないんだろ?」

幼馴染「ん? え、えーと、そうだねぇ…別に珍しくはないかも。だけど、あたしは男くんと一緒にいられると…[ピーーーーーー]よ…」

男「え?何だって?」

幼馴染「ううんっ、何でもない! 気にしないで!」

幼馴染「…………ほんと、男くんは[ピーーー]だよ」

男(……なるほど、わかった。俺自身が鈍感になるわけではない。難聴スキルによって、俺が美少女たちから問答無用で鈍感の烙印を押されるわけか)

男「ん……電話? あ、切れた……ていうかメールが届いてる」ピピピ、ピピピ

男(開いて心臓がビクンと跳ね上がった。すべて転校生からだ。彼女とは既にアドレスも番号も交換していたが、初日からこれか)

男(とか引いている場合ではない。転校生とはこれから家で勉強を教えてやる約束をしていたのだ。もし、彼女が俺と二人っきりになるのを目的としていた場合、そこに幼馴染がいればどうなるか)

これ4時まで持つか?今から少し外出るんで

男(勿論、俺的によろしくないことが起こるのは容易に想定できる)

幼馴染「男くん、何食べたいんだっけー? ねぇ、聞いてる?」

男(確実に回避しなくてはならないようだ。モテる男はつらい、修羅場という恐ろしい罠が待っているから)

男「メールで明日、やっぱり放課後でどうか聞いてみよう……ん?」

転校生「『メール本文:ねぇ、ずっと教室で待ってるんだけど。夜だと都合悪いのよ。悪いけど、早く行かない?』」

男(肝が冷えるとはこういう事だろう。携帯の画面をまっすぐ見つめていられない。彼女は俺をまだ待っているのだ)

男(それに対して「やっぱり明日に変更」、転校生とは悪態をつきあうような仲ではある。だが、さすがの彼女もその様なおざなりな文面を見て、仕方がないと、軽く済ませてくれるだろうか)

男(ない。ありえない。女子の気持ちなんぞ俺には一生理解できないだろうが、それではあまりにも惨め過ぎるではないか。そして俺は転校生と自然に距離を置くようになること間違いない)

男(絶体絶命、万事休す、終わりの始まり……神よ、俺へどれほど試練を与えれば良いのか)

幼馴染「はい、携帯取ったー」

男「うわぁああああ~~~!?」

男「ば、バカ!いきなり何するんだ、幼馴染!」

幼馴染「だって男くんが全然あたしの話聞いてくれようとしないから。これじゃあ何時になっても買い物終わらないよ?」

幼馴染「……メールしてたなら後にしてください! せっかく男くんと妹ちゃんにご飯作るんだから、少しは協力してよ」

男(幼馴染は俺の携帯にどうやら興味を示さなかったようだ。しかし、ここで没収されては非常に困る。生命線が断たれたと同じではないか)

男(別の方法を考えるのだ。携帯での連絡ができない今、俺が転校生へ接触する方法は何だろうか? ……何だ?)

幼馴染「……あっ、ロッカーに体操着忘れてきちゃった! 明日も使うのに。すぐ取りに戻らないと」

男「(神はいらっしゃるのだ、深く感謝いたします)あ~…良かったら、俺が取りに行こうか。俺も先生に用があったの思い出してな」

幼馴染「お、男くんがあたしの体操着を!? で、でも……きっと[ピーーーーー]…だし、[ピーーーーーー]……」

男「大丈夫。お前の体操着の匂いなんていつも傍で嗅いでるようなもんだ。恥ずかしがるなって」

幼馴染「ばかっ……!」プイ

男「よし、お前は買い物済ませたら先に家に帰ってろよ。妹も帰ってきてるだろうし、鍵の心配もない」

幼馴染「買い物済ませろって、何買えばいいかさっきから聞いてるっていうのにー…」

男「じゃあ、いつもの奴な」

幼馴染「! ……はいはい。[ピーーーー]…」ニッコリ

男(口からデマカセで出た言葉が上手く幼馴染の的に当たってくれたらしい。言ってみるものだ、さすがは俺へ世話焼くのが大好きな幼馴染美少女)

男「転校生!!」

男(戸を開けば、そこには日も沈み始め、だいぶ薄暗くなった教室の机にポツンと一人ぼっちでうつ伏せている彼女の姿があった)

男(……まるでゲームかアニメの世界ではないか。こんなドラマチックな展開がこの俺にあって良いのか。…これが感動的な場面となれば、さらに喜べたが)

転校生「遅い。遅すぎるっ!!」

男「お前、どうしてこんな暗くなるまで一人で待ってたんだよ。放っておいた俺にも責任はあるが」

転校生「しょうがないじゃない、私はあんたの家の場所まで聞いてなかったんだから! 何時間待たせるつもりだったのよ!?」

男「悪かった。これからはお前の変態も甘んじて受け入れようじゃないか」

転校生「どういう許しの請い方よ!? 本物の変態じゃないの、あんた! …まったく」

転校生「……[ピーーーーー-------]、[ピーー]」

男「一人で心細かったんだから、ばか、か?」

転校生「っー! やめなさいよっ、どうして繰り返したの! 嫌がらせのつもり!?」

男(的中か。この転校生、実際のところかなり思考が単純だ。俺に惚れている設定があればの話だが)

追いついた支援

男(それはさておきの話、この後転校生を俺はどうしたらいいものかである。この良い雰囲気の中、また今度と繰り出すのは酷な筈)

男(では、俺の家へ連れて行くべきか。しかし、彼女はおそらく俺と二人きりの空間で過ごすつもりでいるのだろう)

男(帰ればもちろん妹がいる。そして、幼馴染も。幼馴染には偶然、学校で転校生と会ったから夕飯に誘った、で通用する。と、完全な保障はできないわけだ)

男(それに、転校生へそれをどう伝える? 俺の家庭事情を既に知った彼女ならば、幼馴染がウチで家事を取り行っていても不思議ではないとは思うだろうが)

男(だろうが、だ。そこで出された食事を喜んで取ってくれるのか? 内心ではとても悔しい思いをするに違いない)

男(ダメか。考えれば考えるほど、縺れてくる。俺の頭ではこれ以上案が出てこないのだ。詰み……いや)

男「ん……おい、転校生。肩に芋けんぴ付いてるぞ?」

転校生「はぁ? 何それ……って、ちょ、ちょっと。顔近い……そんな[ピーーーーーー]…///」

男「ん~、上手く取れない……うわぁああ!?」グラリ

転校生「えっ…ちょっ……きゃあ!?」どん

男(やはり俺のこの様な行動には、かならずと言っていいほどラッキースケベ力が働くのだろう)

男(俺のこの手の中にはほど良い硬さの膨らみが今収まっている。ご存じ、俺の(転校生の)胸なわけだ)

男(では、ここからの展開はもはや説明するまでもなかろう)

男「すまん……バランス崩しちまって。ん? 何だこの触感?」ふにふに

転校生「あ、あ、ああ、ああああぁぁぁ~~~……!?」

男「柔らかい……?」

転校生「バカぁあああ~~~~!!」

男(炸裂するは転校生の拳。俺はそれを避ける暇もなく、顔面へ食らい受けるのである)

男「ぶっっっ……な、何するんだよ!? この暴力女!」

転校生「変態変態変態変態っ!! 変態の王様!! 死ね、どうにかなって死ね!」

男「はぁ!?」

転校生「うっ、うう……ばかっ、ほんとのほんとにバカ変態! 最っ低の変態クズ!」

男「お前そろそろいい加減に!」

転校生「っ~~~……/// 今日はもう帰るわよっ! 死ね!」タタタタ…

男「……やれやれ(全て計画通りなのである)」

男(美少女で帰国子女ハーフ女子高生から顔面パンチを貰う日がやってくるとは、また不思議な話だ。まだ鼻が痛むが殴られた甲斐もあったものだろう。二重の意味で)

男(あの手の美少女は性の恥じらいが強い。ならば、あの突然の逃走にも納得がいくのではないだろうか。スケベを受けた日には、もうまともではいられないだろう。しかも朝晩である)

男(彼女に対するケアは明日からすればいい。幸い、俺は鈍感とされているのだ、細かな気遣いは今日無理に必死で行う必要もない)

男(おそらくこの展開は更に転校生とのイベントを発生させるトリガーの役割になる筈だが、そこでまた注意しなければならないだろう)

男(そろそろ別の美少女へ大きなフラグを立てなければ再び転校生に悩まされるのだ。ああ、神よ、俺が進む道は茨塗れではないか)

男(しかし、俺はこの世界の主人公として平等に、美少女を愛でる。ハーレムこそが真のハッピーエンドに違いない)

妹「お兄ちゃん? シチュー冷めちゃうよぉー、幼馴染ちゃんの愛情たっぷりシチューが!」

幼馴染「ちょ、ちょっと妹ちゃん……もう、[ピーーーーーーーーーー]……///」

男「愛情が冷めるみたいな嫌なことを言わんでいい。それにしても美味いな、昼の弁当以上だぞ?」

幼馴染「えへへへ……だって、[ピーーーーーー]…当たり前だよぉ…」

男「え? 何だって?」

男(転校生の次に好感度が高い美少女は、やはり幼馴染。ところで妹は攻略キャラに含まれるのか)

男(この俺の見立てによれば、妹ルートへ突入した瞬間、実は血の繋がりがない兄妹だったとか発覚するのではないだろうか)

男(しかし、昨今では兄妹の恋愛モノの存在もある。その可能性はないという事も考えられる。この件に関しては特にどちらでも構わない)

男・妹「ごちそうさまでした」

幼馴染「はい、お粗末さまでした。……男くん、あたしの体操着持ってきてくれた?」

男「抜かりないぞ。しっかり洗濯機の中に入れておいてやったからな。乾燥機で乾かせば、明日問題なく持って行けるからな」

妹「げっ! 女の子の服勝手に洗濯するとか、フツーありえないんですけど……」

男「お前の分もせっかくだからまとめて洗っておいたぞ。フツーじゃない兄で悪かったな?」

妹「べ、別に私は嫌ってわけじゃないし……その、[ピーーーーーーーーー]……///」

男「何だって?」

妹「恥ずかしいからこれ以上妹の口から言わせんなっ! バカお兄ちゃん!」

男「今日はバカやら変態やら散々な言われようだな、やれやれ…」

幼馴染「洗濯ありがとね、男くん。助かっちゃったよ」

男「ああ、助かったろ? ……だから、とりあえず今日出た課題終わらすの手伝ってくれ」

幼馴染「あー……」

男(俺の幼馴染は家事もそつなくこなせ、料理も得意、さらには学年上位レベルの頭脳の持ち主、とかいう設定のようだ)

男(いわゆる一家に一台欲しい万能美少女だろう。一台といわずに鑑賞用と保管用にもう二台あっても良いが)

男(彼女は、俺に頼られれば大きな喜びを得ることは把握済み。幼馴染系ヒロインは俺の知っている限り、攻略が面倒なタイプばかりだが)

男(それは杞憂で済みそうだろう。幼馴染は転校生以上に心を掴み易そうに違いない。だって)

幼馴染「……[ピーーーーーーー]///」

幼馴染「[ピーーーーー]……[ピーーーーーーーー]……/// え、えへへ…!」

男(この様に、隣で黙って勉強している振りをするだけで勝手に好感度をガンガン上げてくている)

男(その代わりといっても何だが、彼女の台詞の8割は俺の耳には届かない。既に聞き返す作業は止めた)

幼馴染「……ねぇ、男くん」

男「ん? 付き合うのに飽きたなら、ベッドで寝てても構わないぞ」

幼馴染「お、男くんのベッドで? うーん……///」

幼馴染「って! そうじゃありません! 疲れてないから、少し男くんに聞きたいことがあるの」

男「俺に? 悪いがお前に分からないことは、俺には教えてやれんぞ。俺よかグーグル先生に聞くのが早いな」

幼馴染「真面目な話だよ?」

男「お、おう……」

幼馴染「やけに転校生さんと仲良さ気だったよね、男くん」

男(嫌な汗が全身からブワッと噴き出し、俺の背筋は自然に真っ直ぐ伸び出した。そうだ。俺は一つミスを犯していた。いや、もはやどうしようもない事だが)

男(激しくあの時の行為を後悔したのである。何故か。決まっている。ああしなければ、幼馴染に耳を貸していれば、起こり得なかったミスなのだから)

幼馴染「ごめんね、男くんの携帯開いちゃった」

男(俺は彼女から携帯電話を奪われたままだった)

男(もちろん、画面を開けばそこには転校生のメールが現れる。内容は察しのこと)

幼馴染「……今日、転校生さんとどこへ行く約束してたのかな。こっそり待ち合わせなんかして」

男(戦慄の瞬間。止せ、運命ならば俺の思うままに修正されてくれ。これは俺の世界だ。俺を中心に廻る世界なのだ)

男(あってなるものか、俺がミスを犯した? 幼馴染を完全に舐め切っていた罰なのか、神よ。俺がいけないのは重々承知している)

男(発現しろ、バイツァ・ダスト。むしろ俺に誰か仕掛けてくれ。転校生について尋ねられた瞬間、この美少女をふっ飛ばし、俺をあの時へ帰してくれたまえ)

男「…勉強を教える約束してたんだよ。ほら、あいつ日本語にまだ慣れてないらしくて…外国暮らしが長かったからな…」

幼馴染「そうなんだ。男くんは親切だね、可愛い女の子に」

男「そうなんだよ……」

幼馴染「……[ピーーーーーーーーー]」

男「何て……(言ったか、知りたくもない)」

男(……俺は何を恐怖しているんだ。この幼馴染は別にまだ俺の彼女ではないぞ)

男(確かにこれまで長年付き添ってきた女房のように、世話を焼いてくれた。しかし、それがどうした)

男(ハーレムメンバーから幼馴染が外れるのに俺は恐れを抱いているのか。怖いか? この美少女がいなくとも、他にも沢山俺へ近づく子はいるじゃないか。…そう、むしろ強気でいなくては)

幼馴染「……男くんが好きな女の子ってだーれ? みんなに内緒にするからこっそり、私だけに教えて欲しいな」

男「とくに、いまは、いないな」

幼馴染「ウソついてもすぐに分かるよ、だってあたしは男くんを誰よりも知っているもん」

男「そりゃあ、幼馴染なんだからな……当然だろ……」

幼馴染「ね?」

男(前言撤回、幼馴染はやはり面倒なのだ。ただ彼女だけを攻略するならば問題はない。ハーレムを狙う俺にとって厄介な存在なのである)

男(いわゆる、病みを彼女は抱えているに違いない。最近の流行りだ。一人ぐらい美少女の中に混じっていてもおかしい話ではないだろう。ただ、早い段階で見抜けなかった俺が悪かった)

幼馴染「……あたしね、男くんの一番になれなくても良いの」

幼馴染「あたしは男くんのことが好き。あなただけしか見えない。男くんに振り向いてほしいよ」

幼馴染「変な子でごめんね、でも気持ちが抑えられないの。良いよ、男くんが他の女の子と仲良くしていてもいい」

幼馴染「ただ、あたしを忘れないでね……[ピーーーーーーーーーーーーーー]……」

男「わかった(……なるほど。実に面白い幼馴染がこの俺にはいたものだ。面倒なんて思って申し訳ない、幼馴染よ。お前は実にチョロイン)」

男(幼馴染は俺が好きだ。知っている。もはや周知だろう)

男(しかし、一つここで問題が起きたわけなのだ。そう、幼馴染ルートへ俺はいつのまにか片足を突っこんでいる)

男(あんな告白を受けて、なぁなぁにされるケースはそう少なくはない。実に大き過ぎるフラグが俺と幼馴染との間に立った)

男(チョロい。非常にチョロい美少女ヒロインだが、それゆえに俺は彼女に縛られる羽目となる)

男(しかしだ、これで転校生一直線とは行かなくなったのである。そう考えれば上手く作用してくれたのではないか)

男(幼馴染に関してはあと一歩一押しというところか。では、これからは彼女の言う通り、彼女を忘れず、他の美少女へ接触しなくてはならない)

男(不幸中の幸い、幼馴染は俺が美少女へアタックをかけ、フラグを立てようが、容認してくれるようだ)

男(だからといって油断はいけない。もし、俺がヘマを起こして一人の美少女とくっ付けば、幼馴染に刺されるENDも不思議ではないのだ)

男(ますますミスを許されない状況に追いやられてしまったのである。これからは今まで以上に注意を払わなければ……そんな中で、比較的安心して接触できるのが)

不良女「これがキルミーベイベーかぁ……!」

男「ああ、爆笑必須だぞ。心して読めよな」

不良女「お、おうっ……よくわかんねーけど、頑張るよ……あたし!」

不良女「ていうか、あんたの事だし、また漫画持ってくるの忘れたとか言われると思ってたわ」

男「さすがに二日連続となっちゃな、約束していたんだ。お前にも悪いだろ?」

不良女「ま、まぁな! とにかく……えっと、[ピーーーーーーーー]」

男「何だって?」

不良女「き、きき、気にすんなよ!! 細かい奴は尻蹴飛ばして、日本海に沈めんぞ!?」

男「かなり無理があるよな、それ。……ああ、そうだった。おい、お前ってアクセサリーとか好きだったよな?」

男「そろそろ妹の誕生日が近くてな、プレゼントを今探してるんだよ。そろそろ買いにいかなくちゃと思って…今週の休日あたりには…」

不良女「ふーん、お前って妹いたんだな……な、なぁー? 」

男(次にこの美少女は「もし良ければ、あたしもプレゼント探し付き合ってやろうか」という)

不良女「[ピーー---]、[ピーーーーーーーーーーーー]……///」

男「(これでは確認のしようがない。しかし、大方当たりに近い感じだろう)本当か? でも趣味悪いようなのは選ばないでくれよ。俺の妹はヤンキーじゃないからな」

不良女「はぁ?あたしが選ぶもんに間違いなんて絶対ねーよ! センス良いもん!」

男「ああ、そう。じゃあお前に頼むとするか……やれやれ、よろしく頼むぞ」

不良女「お、おう……[ピーーーーーーー]……///」

男(「任せとけよ」と、言ったに賭けてもいい。結果はけして俺には知れないだろうが)

男(これで不良女が実は可愛い物が好きで、誰にも知られていないのに俺だけに知られたフラグが立てられる筈だろう)

男(しかし、不良とはいえ、美少女とのデートということになるのか。初デートがまさかこんな形で訪れるとは思いもしなかった)

男(ここで注意しなければならないのは、デート中の俺たちを他の美少女に見られてはならないというところ。勿論、デートの日が被るとか初歩的ミスがあってもならない)

男(……デートといえば、後輩だ。あの子の「今度、一緒にどこかへ遊びに行こう」という台詞は珍しくこの俺が聴きとれた)

男(そもそも、俺の難聴スキルが発動する条件は何だろうか。俺が聞いて都合が悪いものか、それとも照れが見え隠れする台詞に限られるのか)

男(もし後者だとすれば、後輩は俺へ冗談のつもりで話したと。だが、それは事実か? 俺にはそうは思えなかったぞ?)

男(そんなモヤモヤを頭の上に浮かべていれば、丁度良く現れるのが美少女である)

後輩「せーんぱい」カシャ

男「……被写体へ許可なく、いきなり撮るのは問題もんだな」

後輩「ふふ、先輩以外にはしっかり許可が下りてから撮らせてもらってますよ。先輩が特別なんです」

男「いま何て……いや、何でもない」

後輩「おかしな先輩ですね、ん?いつもおかしいですね。ふふっ」

男(可愛い、何度でも言ってやらねば俺の気が済まない。この美少女を生み出したのは誰だ。あなたなのか、神よ。だとすれば、罪深いモノをこの世に誕生させてくれたぞ)

男(彼女はまさに歩く凶器であろう。刃が剥き出しになった業物か)

おうおう

後輩「先輩は今日もおサボりですか? いつもながら、呆れちゃいますね」

男「俺はこれでも真面目な学生やってるぞ。そのサボり設定、いつ俺に付いたっていうんだよ」

後輩「いつって……前はよくしてたじゃないですか? ほら、私に今日は屋上で昼寝をしてて、面白い形の雲を見つけたって話してくれたり……」

後輩「……えっと、ですよね?」

男「どうした。言うくせに自信なさ気じゃないか? 俺は覚えちゃいないが、きっとそんな事もあったんだろうな」

後輩「え、ええ……たぶん……あった、かも。へ、変ですね、今日の私。いつもの先輩以上におかしいかも」

男「毎度ながら、しれっと俺をバカにしてきやがって。大丈夫か? お前夢の話でもしていたんじゃないのか?」

後輩「……ごめんなさい。そろそろ、私教室へ戻りますね。さようなら、男先輩」

男(後輩はそそくさと俺の前から立ち去って行く。自覚していたが、確かに彼女の様子が今日はおかしく感じるのだ)

男(まるで、いつもの後輩ではないような)

男(……俺はいま、何と思った。これは違和感か、何だ。 突然、足が地についていないような、フワフワした感覚が俺を襲う)

男(それどころか、だ。俺は本当に俺なのかと不意にそんな考えが頭を過ぎる。実に奇妙な話ではないか)

男(この俺は[ピーーーーー]なのだろうか?)

最近後輩キャラの良さに気付いた

12時までまた中断させてくれ

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一応置いときますね
気持ち速めで

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00:00-02:00 15分以内
02:00-04:00 25分以内
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09:00-16:00 25分以内
16:00-19:00 15分以内
19:00-00:00 5分以内

                | │                   〈   !
                | |/ノ二__‐──ァ   ヽニニ二二二ヾ } ,'⌒ヽ
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                  ヽ     ゙  ̄   ̄ `     / |
                      |\      ー ─‐       , ′ !

先生「気分が悪いから保健室で休みたい? またそんな見え透いた嘘をついちゃって」

男「俺はこの通りまともじゃありません」

先生「そうねぇ。男くんがまともな人間でないことは先生もよく分かっているよー……やだ、袖のボタンいつ取れてたんだろ?」

男(俺は彼女にいつ嫌われるような真似をしたというのか。いや、冗談を飛ばしているとは理解できるが、それでも一生徒にこのおざなりの態度はいか程のものか)

男(後輩の件があってから上手く思考を働かせずにいる。それとも昨日今日でない頭をフル回転させ過ぎた影響なのでは。納得はいく、俺は低スペックマシーンである)

先生「……本当に顔色悪いね? もしかして体調優れなかった?」

男「俺は最初からそういう体で頼み込んでいたんですけど。もしかして今初めて顔見たんですか」

先生「いや、ごめんごめん。サボりの常習犯である君のことだからと、ついてっきり…くっきり?」

男(教師よ、ああ教師よ。しかしまぁ、よく見なくとも俺のクラス担任の先生は美しい。性格の方こそそれに見合ってはいないが、昔はさぞかし美少女であったことだろう)

男(ここで一つ疑問が浮かぶ。先生、先生は攻略対象の内に入りますか。……俺の知る範囲では先生ルートはBADEND一直線がほとんどである)

男(だが、これはゲームじゃない、本当のことさ。彼女へルートが決定した瞬間、現実的なことを言ってお茶を濁され終了といったことも、俺の目の前がブラックアウトすることもないだろう。そもそもで、誰か一人へ絞るつもりは毛頭ないのだ)

先生「本当につらくなったり、気持ち悪くなったら我慢しないで保健室行って来なさい?」

男「だから、今がその本当につらくなって、気持ち悪くなった状態なんですよ……」

先生「うーん、そこまで言うなら仕方がないか……でも今日はあいにく保健室の先生はお休みだよ? それでも平気?」

男「早退するまでもないですよ……少し頭がフラつくだけで……うわっ!?」

男(の、一言から始まるラッキースケベはもはや様式美である。よろめいた拍子に俺は先生の柔らかな双山へ顔を埋め、からの、モフモフ)

男(なるほどけしからん。この身も心も任せてしまいたいという欲求、赤子のように弄んでという甘えは、彼女のような歳の離れた美人だからこそ生まれたのだろう)

先生「あらら……これは困ったねー……」

先生「ほら、しっかりしなさい。一緒に保健室まで行くよ? 熱測ってやばそうだったら家まで送ってあげるから」

男「すみません……」

男(保健室までの道のりは至福の時であった。先生に肩を貸され、俺もわざとらしく生まれたての小鹿のように歩く。歩くたびに、先生の大人の匂いが俺の鼻孔を擽り、良い意味で気が狂いそうになったのだ)

男(転校生、お前の見立ては何一つ間違ってはいなかった。認めよう。俺は変態である)

先生「よーし、ベッドゆっくり降ろすから……はい、これで一安心、かな?」

男「まぁ、少し落ち着けるかな」

先生「君が使い慣れている保健室のベッドだからね。やだ、いまのちょっと問題ある言い方だったかも…」

先生「じゃあ体温計で熱測ろうかー、男くん。今日は私が君だけの保健室の先生代わり」ニッコリ

男「ふぎぎっ……!」

先生「……驚いた、ていうか鼻血、鼻血。ティッシュ持って抑えてなさい! よっぽど熱があるのかなぁ、困った困っただよ」

男(困っているのはこの俺の方ではないか。どうしたものか、この教師、実に一々悩ましい)

先生「止まった? もっとティッシュ欲しい?」

男「……恥ずかしすぎて顔から火が出るな」

先生「何言ってるのよ。ああ、ほら垂れる。拭き取ってあげるからじっとしてなさい……」

男(先生系美女も良い、良いが、俺の経験のなさも手伝ってか、美少女以上に長時間相手をするのが苦労しそうだと思われる)

男(だが俺よ、何も臆することもないじゃないか。俺はハーレム主人公。いくら大人の先生だろうと、その気になればフラグを立てるのも容易いだろう)

男(それにしても、やはりは大人の女性か。他の美少女たちのように、頼んでもいないのに勝手に恥ずかしがってみたり、暴走を起こす様子一つ見せないのだから。非常に落ち着いている)

男(そんな今までにないタイプに俺は弱いのだろうか。もう先生ルートへ入って突入したとしても、俺はそれを喜んで受け入れるのだろう)

男(きっとハーレムを築けなかったという後悔も起きない。だって、俺はこれから先生と二人仲良くイチャイチャできるのだから)

男(……いかん、ダメだ、帰ってこい。一時の迷いに全てを棒に振るつもりか。まだ頭の中が滅茶苦茶で整理がつかない状態でいるのか。落ち着け、冷静に、目の前にいるのは)

先生「あちゃ、体温計壊れてたぁー…というわけで直接、先生が測ってあげようじゃない」

男「それ絶対意味ないでしょ?」

先生「まぁまぁ、はい、おデコを出しましょー……ん」ピト

男(女神ときたもんだ)

男「先生の手、つめたくて気持ちいい」

先生「知ってる?手の冷たい人は心が温かいの。つまり君の先生は良い先生なのだよ」

男(極論にもほどがあるのではなかろうか。いやしかし、実に気分が良い。間違ってもそれを口に出してはならない。いま俺は彼女の前では病人を気取らなくては)

先生「うーん、やっぱりわからないね?」

男(悪態の一つついて隙を無理矢理作ってやろう、そう思ったところで、先生の整っているがどこか可愛らしさを残す顔がぐーんっ、と俺へ近づくのだ)

男(そのまま彼女は俺の額に自分の額をピタリと付け、首の脈へ手を伸ばしたわけである)

男「ちょっと!?」

先生「あ、ちょっぴりだけ熱いかもしれない。……もう、鼻息荒い」

先生「もしかして緊張してるのかな? 君でも可愛いところあるもんだ、男の子だ。ふふっ」

男(何か言わなければならない状況であるのは既に理解している。しかし、言葉が喉に詰まって先へ出てこられないのだ)

男(心臓が俺の中から飛び出して行きそうなほど、鼓動が異常なレベルで打っているではないか。どうした、たかが先生じゃないか?)

男(されど先生、か。ここになって新たに現れた追加攻略キャラ、先生。この俺には厄介すぎる)

先生「ん……何か期待してる? バカだね、これ以上はないよ?」

先生「まぁ……だけど、これは君だからこそできる事だから……」

男「え? いまなん……え?」

先生「う、ううん、気にしないで。何も言ってないから……!」

先生「私、生徒に向かって何変なこと言ってんだろ……///」

男(確かにしっかりと聴き取れたぞ。二度もだ。いつもならば、先程の発言を俺が聴き取れなかったに違いないだろう)

男(例の後輩と同ケースである。先生、彼女へもまた俺の難聴スキルが発動しない。何故だ。今後のためにも確かめる必要がある)

男「先生も結構可愛いところありますよね。俺、そういう弱味を見せている先生初めて見たな」

先生「あ、当たり前でしょう!? 生徒が先生へ舐めた口聞いたりしないでっ」

男「はいはい、どうもすみませんでしたっと」

先生「本当にやめてよね? ……もう、段々私の方が緊張してきちゃったじゃない……」

男「やったああああああああ!!」ガタンッ

先生「え、はぁ!?」

男「先生、もう一度さっきの台詞言ってもいいですよ!?」

先生「な、なにバカ言ってるの!? 先生をからかわないで頂戴!」

先生「……ほんと、恥ずかしかったんだから///」

男(ああ、間違いない。先生にはこの俺の難聴スキルが発動する事はないのだ。もはや理由なんてどうでも良いぐらい浮かれてしまいそうな)

男(まったくハーレム主人公というのは素晴らしいものだ。同時に罪作りな奴らではないか。そんな主人公の一人に、俺はいまなっている)

先生「あー、もう…調子くるってきちゃったよ……君のせいだぞ?」

先生「君はいつも不真面目で、ふざけていて、おまけにスケベで……」

先生「特にあの時なんて本当に驚かされたんだからね!」

男「待って、あの時っていつの話をしているんですか?」

先生「覚えてないの!? あー…なんて都合良い脳味噌してるのかしら…それとも、もしかしてとぼけてたりする?」

男「いやいや、本当に分からないから訊いているんですよ。良かったら詳しく教えてください、先生」

先生「詳しくって、あんな恥ずかしい事言えるわけないでしょ! あんな……えっと……」

先生「ん? ……恥ずかしい、よね?」

男「は?」

先生「……ごめんなさい、そろそろ職員室に戻ってお仕事しないと。その調子なら次の授業受けられそうだし、少し休んだら、かならず出席して…」

男(またであった。彼女も後輩と同じように突然俺の記憶にない話をし始め、そして次第にそれへ対して自信なさ気に、俺へ訊き返す)

男(別に美少女たちが俺の知らない、なにか、の話を持ち出してくるのは、今さら不思議だとは思わない)

男(むしろ、自然なことだと刷り込まれているような、いや、俺がそう思いこみ出したのだろうか。よく考えれば不自然ではないか。神の急な世界の改変に俺だけが取り残されているのか)

男(俺が都合良く行動できるような計らいか。美少女たちとのキッカケを神は事前に用意してくれていた? それならば、一向に構わない)

男(しかし、あの二人の様子を見た後では色々と勘ぐってしまいたくなるのだ。後輩、先生、二人に共通点はあるか)

男(ある。二人にだけは、けして俺の難聴スキルが発動しないのである。そう、それは何故だろうか。まさか彼女たちは最初から攻略不可能だった、というわけではなかろうな)

男(それならば彼女たち二人に難聴が働かなかった理由として一先ず頷ける。頷けるが、俺の本能が訴えるのだ。あの二人は問題なく掴める、と)

男(謎が俺の疲弊しきった脳内をグルグルと回り始める。神よ、俺が深く考え過ぎているだけなのか。この俺が、俺がモテて仕方がないハーレム世界でどうして不安を抱かなければならないのか)

男(なにも、気にする必要も、心配もないじゃないか。特に不都合があったわけではないのだ。別に、気にすることは何一つないではないか)

男(こんな時に美少女が隣にいてくれたら……そう、この世界は俺を中心に周る。世界がようやく俺へ追いついた)

オカルト研「……」チョコン

男「……一つ尋ねても構わないよな。お前、いつから俺の隣にいたんだ」

オカルト研「悪霊いるとこ私有り、よ」

男「その言い方だと俺がまるで悪霊の類だったんじゃないかと疑いたくなるぞ」

オカルト研「えへへ……[ピーーーーーーー]なら、[ピーーーーーーーー]……!」

男「そういえば、お前は保健室の常連だったよな(俺の知っていたオカルト研ならば、の話である。彼女はよく大量の意味不明な薬を両手いっぱいに抱えて、ベッドの上に腰かけていたのだ)」

男「お前も体調崩した口か? なら、俺も同じだ。……言っておくが、悪霊とやらの影響では断じてないぞ」

オカルト研「あうっ…」

男(こうでも言って念を押しておかなければ、俺は彼女が背中から取り出した大幣らしき棒によって、お祓いの題目で殴られていたことだろう)

男(それにしても、相変わらず前髪が長すぎて彼女の顔がよく見られない。キャラ付けなのだろうが、鬱陶しくはないのかと髪を払うたびに思わせられる)

男(さて、丁度いいところで現れた不思議系美少女であるが、この手の相手に対し、俺はどのように向かうべきか)

オカルト研「今日こそはきっと成功させるわ。安心して、昨日ご先祖様にお参りして新たな力を得たの」

男「ほぉー、ならその力とやらで俺に憑り付いた悪霊を払えばどうだ? ……だから、その変な棒は取り出すな!」

オカルト研「この霊媒アイテムがあって初めて力が発揮されるのよ。少し我慢すれば、すぐだから」

男「殴られて痛い思いするなら、俺はこのまま悪霊と仲良くやってくよ」

オカルト研「む、むぅ……だったら、最終手段を使う、しかないようね」ス

男「は? お、おい、何人の膝の上に乗っかろうとしてるんだよ!?」

オカルト研「こうしてあなたと体を近づけて、直に悪霊へダメージを与えるの……!」

オカルト研「[ピーーーーーーーー]……///」

男「はぁ~、やれやれ(「最高じゃないか不思議系美少女って奴は」、と両太ももをピッタリ閉じ、いきり立つ暴君を抑えながら俺は思うのである。悪霊に乾杯)」

男(と、ハーレム主人公は恥ずかしもなく、平然としたり顔で心の中に呟くのだろう)

男(俺ならばこうなのだ。ありがとう、その言葉しか見つからない)

オカルト研「……[ピーーーーーーー]」

男(俺には聴き取れない台詞がポツリと出てくれば、彼女は俺と向き直って座る。もちろん全ての動作は俺の膝の上で行われるのである)

男「お、おい……」

オカルト研「[ピーーーーー]、[ピーーーーーーガーーーーーーーーーーーーー]……っー!」どん

男(次の瞬間、俺は彼女にベッドへ押し倒される。信じられるか?こいつが美少女だけに許された秘儀なのだ。それが、いま俺へ仕掛けられたという揺ぎ無い真実)

オカルト研「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]……///」

男「え、何だって?」

男(顔全体が紅潮し、彼女と俺の視線はぴったりと間で一致する。逸らそうにも逸らせない。何故か、当たり前だ。相手は美少女である。あなたならどうする? 最高だった……)

男「なぁ、お前の方こそ悪霊かキツネに憑かれてるんじゃないのか!?」

オカルト研「違うわ。私は正常なままよ……おかしいのは、[ピーーーー]」

オカルト研「[ピーーーーー]と[ピーーーーーー]と、[ピーーーーーーーーーーーーーーー]……」

オカルト研「絶対にあなたへ憑り付いた悪霊の仕業に違いないの、[ピーーーー]……///」

男(「はぁはぁ」と呼吸を荒げる彼女の瞳は、怖いぐらい、否、美しく潤んでいたのである。一瞬、宝石でも入っているんじゃないかと錯覚を起こしそうになったが)

男(ところで、この後に起こる事が想像できない男はいるのだろうか。自らの欲に忠実である男子諸君ならば、もう察しがついた頃だろう)

男(オカルト研の顔が、あるいはプリっとした唇が、徐々に下へ降りてくるぞ。違いない、間違いない、大当たり。いや、まずい)

オカルト研「[ピーーーーーー]で、[ピーーーーーーーーー]……///」

オカルト研「う、うぅ……///」

男(ハラリとこの俺の頬や首元へ垂れてくる彼女の長い髪。隠れていた表情は完全なるまる見えとなった。まずい、難聴で何を言われているかもさっぱりな状態だが)

男(そんなもの、余計な台詞など、この状況ではもはや不要である。さすがの俺も両手を彼女の頭へ伸ばそうとし始めた)

男(いいのか?俺のようなブサイク面で美少女を穢しても? 待ったなし、誰が止めるものか……)

男(と、いう感情は、俺ならばギリギリで抑えられる。そう、俺は鈍感なハーレム主人公なのだから)

男「ま、待ったぁー!!」

オカルト研「!」ビクッ

オカルト研「どうしたの……」

男(俺の制止に首をかしげるが、どうしたもこうも無いのである。俺はお前だけを愛でるわけにはいかないのだ)

男(俺だって、その唇の誘惑にあるがまま誘われてしまいたい。しかし、それは同時にオカルト研ルートへ突入という意味があった筈)

男(好きだ。可愛くて、好きすぎて、なんなら俺から押し倒して欲望のまま、彼女を食べてしまいたい)

男(だが、許されないのである。すまぬ、お前も許せ。俺は幼馴染に刺殺されたくも、ハーレムを築けずこの世界を終えたくはない)

男「き、聞こえないのか……こっちに誰かやって来るぞ」

オカルト研「えっ!? あっ、あ……///」

男「静かにしろ。お前だって俺との変な噂が流れるのは勘弁願いたいだろ」

オカルト研「えっ…その、[ピーーーーーーーーー]……」

男(分かっているぞ。オカルト研がなにをこの俺に言いたいのかなんて。本当に、ありがとう、しか言葉が見つからない)

男(その後、俺たちはこっそり保健室から脱出を終え、それぞれ元の教室へ帰ったのである。さて、そこで待ち受けるは新たな美少女の存在)

委員長「男、遅いですよ! もうすぐ授業が始まるというのに。まったく!」

男(委員長。……彼女がまさか、一波乱を呼ぶ起こす存在であったと、この時誰が予測できたものか)

だめ寝る。落ちてたら立て直してもいいよね・・・ね・・・

ほ!

ほ!

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保守!

アニメ化決定!

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男「昨日は学校休んでたのか、委員長。見かけなかった気がするんだが」

委員長「適当にお茶を濁して誤魔化そうとしたって、そうはいきません!」

男「やれやれ、まずは素直に心配された事について喜んだらどうだ?」

男(委員長、もちろん美少女化している。今度はまぁ典型的な眼鏡系美少女か。肩には見せびらかすように風紀委員会の腕章を付け、さらには俺の視線を釘付ける丈の短いスカート)

男(……俺の知っている彼女は風紀委員になんて所属しちゃいない、図書委員長だ。ああ、スカートだってこんなバカみたいにヒラヒラさせちゃいなかった)

男(そんな彼女もまた、俺同様クラスの日陰者。とりあえず密かに俺の中ではポイントが高かい女子の一人だった。何故かと言われればだ、彼女は唯一クラスで俺へ話しかけてくれた女子だからである)

男(俺だって思春期まっさかりの一男子生徒なのだから、そんな向こうから声を掛けてくれたら意識もするだろう。たった一回きりではあったが)

委員長「[ピーーーーーーーー]……」

男「いま、何て言ったんだ?」

委員長「心配くれてありがとうございました、それだけです。これで満足して貰えましたか」

男「やけに素っ気ないな? もしかして俺、委員長を怒らせてるか?」

委員長「別に」

男「俺の経験からすると、その返事は確実に怒りを示しているって感じだな」

男(委員長は深く溜息をつくと、呆れ顔で俺を一瞥して、それ以上は話しかけて来なかった。なんと珍しい。これは今までにないケースじゃないか)

きたか

男(大体の美少女は皆決まって獲物を前にした肉食獣の如きベタベタアタックと決まっていた。言いすぎだろうか、だが少なくとも間違いではあるまい)

男(なるほど嬉しい。ここから俺が委員長とのイベントをこなしていけば、それまでの反動で一気にデレ期へ突入するのだろう。実に攻略し甲斐がある美少女ではないか)

男(最近ではこの手のキャラは食傷気味とも言われているが、初めから積極的に仕掛けてくる美少女の中、彼女のようなタイプの存在は中々嬉しいものだ)

男の娘「男、お帰りなさい。今までどこに行ってたの? [ピーーーーーーーーーーーー]……」

男「何だって?」

男の娘「な、何でもないよっ、気にしないで? ……それよりさ、男。転校生さんと何かあったの…?」チラ

男(男の娘に倣って視線を転校生へ向ければ、そこには教科書を読む振りして、この俺に熱い眼差しを送る彼女の姿である。教科書が逆さまだぞ、うっかり転校生かわいい)

男「……おい、とっくにバレてるぞ。まるで必死に巨乳のお姉さんをチラ見する中学生みたいな感じだ」

転校生「! べ、べつにあんたの事なんて見てないしっ、私は見ての通り勉強中よ! 変態とは違って時間を無駄にしないの、私は…」

男「どこの帰国子女が今さら英語の勉強しなきゃいけないんだよ。しかもお前、それ逆に読んでるから」

転校生「は、ああーーーっ!? あ、うぅ……[ピーーーーーーー]……///」

男「へっ、それじゃあどうぞ気にせず続けてくださいよ。俺も見なかった事にしてやるからさ」

転校生「う、うるさいわよ!! 犬に追い回されて車に轢かれろ、変態マジン!!」

転校生「ちょっと、どうして私の隣に座るのよ! また変態する気でいるの!?」

男「バカ! もっと人目を気にしろ、要らん誤解が生まれるわ!!」

男「……ていうか、お前の記憶力は鶏並みか? 俺の席は元々お前の隣だった筈だが」

転校生「うっ……し、知ってるわよ…………な、なによ、こっち見ないで。…ていうか許可なく机寄せるな!」

男「1時限目の数学の教科書な、今日家に置き忘れたんだよ。一緒に見せてくれないか?」

転校生「はぁ? …ふん、やっぱり変態でバカな奴だわ、あんた。…まぁ、仕方ないから見せてあげてもいいけど」

男「そいつはどうもサンキュー、助かるよ。ところでお前、どうして胸抑えてるんだ?」

転校生「……///」

男(やはり昨日のイベントが後を引いているか。もはや顔どころではない、手から足まで、全身が風呂上がりすぐのように紅潮していたのである)

男「なぁ、昨日は本当にすまん。俺も別にお前との約束を忘れていたわけじゃないんだ」

転校生「わかってるわよ……べ、別にあやまらなくていいから……」

男「胸を揉んだのも悪かった!! 本当にすまん!!」

転校生「へ……」

ざわざわざわ・・・ぴたっ

男子たち・女子たち「いまの聞こえたか……転校生さんの胸だと……が、学校で……まさか、転校初日から男くんと……積極的……」

転校生「あ、う、っ……いやぁあああああああぁぁ~~~!!? ///」ブンブンブンブン…

男(まるでボイルされた蟹だ。この分ならば彼女の頭から蒸気が発生してもおかしくはないだろう)

男(しかし、これでは鈍感以上にマイナスである無神経の烙印が押されても文句は言えまい。だが、この展開は転校生に対し良く作用してくれるだろう。彼女は完全に俺の虜となっている。クラスの連中も手伝って、盛り上げてくれる、筈)

男子たち「おい、男!! 転校生とやっぱり付き合ってるって噂、マジなのか!!」

女子たち「ていうか、男くんサイテー! いくら何でも教室で、しかも大声であんなこと言わないよフツー!……転校生さん、大丈夫?」

転校生「あ、あ……あっ……」ピク、ピク

男「わ、悪い転校生……さっきから謝りっぱなしだが、さすがに無神経すぎた」

男「でも昨日はお前、揉んですぐ俺があやまる前に突然帰ったからタイミング見失っちまって!!」

転校生「わぁああああああーーー!? やめてっ、これ以上喋らないでド変態クズーっ!!」

転校生「あ、ああ、あんたねぇ! 一体その頭、脳味噌の代わりに何が詰まってるの!? それとも何か飼ってるの!?」

男「お、おい、少し落ち着けってば……」

転校生「これが落ち着いていられる状況だと思えるのなら、やっぱりあんたはある意味で変態だわ!! 最低よっ!! ……さ、さいてい、ほんとに」

転校生「っー……しねっ…!」ポロポロ

男(間違いない。俺はこの美少女が言う通りの変態クズといま真になり下がったのだろう。だが、問題はない。全ては俺の計算通りに事が進み始めたのである……本当にすまない、心が痛むぞ、転校生)

男子たち「男、ここは責任持って交際宣言をする場面だ。俺たちも鬼じゃない」

女子たち「ちょっと男子は黙ってて! ……でも、男くん。このまま逃げるのは卑怯だよ」

転校生「み、みんな何おかしなこと言い出すのよ……!?」

男子たち「とりあえず俺たちの前でキスでもしとけって。ほら、転校生さんもまんざらでもなさそうだぜ?」

転校生「いや、ちょっ……はぁ!?///」

男子たち「キース!キース!キース!」

女子たち「男子いい加減やめなさいよ!! 転校生さんも困ってるじゃない!!」

転校生「う、うぅ……」

男「やれやれ。場所を変えるぞ、転校生。1時限目の数学は休む。男の娘、あとでノート頼めるか」

男の娘「え? あ、うん……問題ないよ……男のためなら……[ピーーーーーーーー]」

男(次の相手は男の娘にしておいた方が良さそうだ。彼女、いや彼にもそろそろ手をつけておかねば、後に回すたびに攻略が難しくなるだろう)

男(と、思考を巡らせる間もなく、俺は再び転校生の手を取って教室から逃走するのである。何度やっても本当に心地が良い。これこそが主人公特権か)

男「行こう、転校生!」グ

転校生「またなの!? [ピーーーーーー]……///」ぐい

男「はぁはぁ……いやー、こんな形で授業をサボった経験、お前にはないだろ?」

転校生「あるわけないでしょ! 全部あんたのせいよ、全部全部全部……[ピーーーーーー]」

男「転校生、もう一度しっかり謝らせて欲しい。悪かった。勉強の約束の件も、胸も…」

転校生「あんた絶対真面目に詫びる気ないでしょ!? ほんっと、最低のクズよ!」

転校生「私、まだ転校して来て2日しか経ってないのよ? …そ、それであんな風にみんなに言われて、私にイギリスへ帰れってことなの!?」

男「別に悪ふざけでも、嫌がらせのつもりでもなかったんだ。今さら信じて貰えるとは思っちゃいないが」

転校生「じゃあ何だっていうのよっ…もう、私 教室へ戻れないじゃない……バカ変態……っ」ポロポロ

男(目からダイヤモンドでも流しているのか。転校生の涙は、一滴一滴その頬を伝い、制服や床へ落ちる。その美麗たる光景に、時の流れをも忘れ、恍惚とするしか俺はなかったのだ)

男「ほら、ハンカチやるよ」

転校生「変態臭いハンカチなんて受け取りたくないっ!! ……[ピーーーーーー]…!」

男(それでも無理に手渡してやれば、恐る恐るとそれを胸の前で握りしめ、顔を下に向けた転校生である)

男「問題なく教室へ戻っていい。大丈夫だ、俺がお前を守ってやろうじゃないか。今回ばかりは俺の責任なんだしな…」

転校生「はぁ!? ああああ、あわわわ……///」

男(落ちた、または、落とした、確実な確信を持って思える。転校生のこの異常なうろたえを見よ、この通り、間違いないではないか)

男(動揺する彼女をこの俺は黙って真剣に見つめるのみ。ここから先はもはやお約束の方法で)

転校生「……あ、あんた。[ピーーーーーーーーーーーーーーーー]……?」

転校生「それって、つまり、よ? ……そのぅ、あのー……[ピーーーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーー---]……」

男「え? 何だって?(逃げるのだ)」

転校生「っー……!」プシュー

男「ほら、ボサっとしてないでそろそろ戻るぞ。それともやっぱりサボったままで構わないか?」

転校生「も、戻るわよ! じゃなきゃまた変な噂が立っちゃうでしょ! 行きましょ、えっと……[ピーーー]///」

男「は?」

転校生「何でもないっ!! ……ほんとあんたって[ピーーーーーーーーー]、[ピーーーーー]」

転校生「…[ピーーーーーーーー]……あははっ…///」ニコニコ

男「ブツブツ一人で何喋ってんだよ。ここは日本だ、日本語を話せ!」

転校生「じゃあ、責任持ってあんたが私に教えてよね? いい? 今度は絶対だから!」

男「了解、了解……ふ、ふふふ」

男(攻略完了)

男(今でこそ得意気になって高笑いたいのだが、正直なところ、二人きりになった辺りから、しばらくは冷や冷やさせられていた)

男(一歩間違えれば、俺は転校生ルートへ一直線どころか、ゴールへ向かっていたのだから)

男(彼女らが俺を鈍感と認識している、そして神から受けた枷とも呼べる難聴スキル。上手く利用してやった。まるでハーレム主人公のように立ち振舞ってやったのだ)

男(転校生とはこれ以上、以下を狙って目指すつもりはもはやない。切り替え時が訪れたのである。転校生との重要イベントは避け、これからは簡易イベント限定で接するのみよ)

男(……しかし、あそこまで好感度を上げてストップをかけておくのも実に惜しい話ではある。ハーレムを投げ出してくっ付いても悪くは)

男(ある。この俺が目指すべき道はただ一つなのだ。けして妥協は許されないし、しない。揺ぎ無きこの思いを貫き通せば、きっと待ってる 僕らの楽園)

男(転校生には感謝しなければならないだろう。彼女は俺をステップアップさせる糧へと昇華されたのである。ありがとう、転校生。本当に、ありがとう……)

男の娘「男、男ってば……ねぇ、聞いてる?」

男「すまん……久しぶりにこの大した事ない頭脳をフルで使ったからか、いま眠くて仕方がない」

男の娘「へぇ、男が真面目に授業を聞いてたの? 今日は空から槍の日だね」

男の娘「……って! そうじゃなくて[ピーーーーー]」

男「えぇー? 何だってー?」

男の娘「だから……実はこれ、その……」

男の娘「く、クッキー買ってきたんだ! 今日の朝、近くのパン屋で! ほら、あそこ、こういうお菓子も売っててさ……」

男(と、俺の前でモジモジと目線が泳いでいる男の娘の手には、どう見ても市販で売って良いような形状ではないクッキーの袋詰めが握られていたわけだ)

男「それ、食って腹壊すようなキノコじゃないだろうな?」

男の娘「クッキーだって言ってるでしょ!? も、もう……」

男の娘「そ、それでね? これ……[ピーーーーー]さ、[ピーーーーーーーーー]……って///」

男(俺の予想が正しければ男の娘が持っているその菓子は、彼の手作りだろう)

男(ようは、だ。「僕一人だと食べきれないからさ、男さえ良ければ一緒に食べてくれないかな」……この様なイベントが大発生中に違いあるまい)

男(この場面で訊き返せばおそらく、「や、やっぱり何でもないよ。お昼前に食べたら幼馴染さんのお弁当食べられなくなっちゃうもんね、うん」と逃げの姿勢へ移行するのだ)

男「(逃がしてなるものか)ああ、丁度小腹も空いた頃だ。それに、いまの俺の体は糖分を摂りたくて仕方がないようだしな」

男の娘「ほ、本当!? 食べてくれるの!? ……あっ///」

男「食ってやるから早く開けようぜ。急がないと次の授業の時間が来るだろ?」

男の娘「うんっ!!」

男(上手く掴んだ。慣れてきたものじゃないか、俺も。しかし、手作りクッキーとはまた古典的な。加えて作ったのは男である)

男(問題ない、彼は男の娘なのだ。誰がこんなに可愛い生き物からのプレゼントを拒絶するか。神よ、この俺はあなたの罠へ見事かかってしまったようだ)

男(男の娘、悪くないじゃないか。じゃあ肝心の手作りクッキーは? やだ、不味い)

男「……」

男の娘「ど、どうかな……味に補償はできないけど……か、形も最悪だけど」

男(もはや自分が作ったという事については隠す気はないのか。ならば、先に自分で一枚こいつを摘まんでから、俺へ渡して欲しかった)

男「……たぶん、典型的な砂糖と塩を間違えてとか、ドジ踏んだな、そこの店員は」

男の娘「え?」

男「なぁ、これ全部俺が貰っていいか? 甘くはないが、割と癖になるような味で気に入ってな」

男の娘「ぜ、全部!? 本当に? あ、あ……うん。大丈夫だよっ! 男にそれあげる!」

男の娘「[ピーーーーーーーーーーーー]……///」

男「えぇ…なに……?」

男の娘「う、ううん!別に! 気に入ってもらえたのなら、今度また男に買ってくるよ。楽しみにしててね!」

男「それも良いが……そうだ、今度一緒にウチでクッキーでも焼かないか? そろそろ妹の誕生日も近いんだよ」

男(度々使わせてもらってすまぬ、妹よ。せっかくここで大きなイベントをこなせたのだ、まだ逃がすわけにはいかん)

男の娘「僕と!? ……男で? 二人で?」

男「ああ、幼馴染に頼ってばかりなのも癪だしな。それにたまには男同士で菓子作りってのも悪くはないだろ?」

男の娘「そ、そんな……[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーー]……」

男「すまん。いま何て言ったんだ?」

男(次にお前は、「本当に僕となんかでいいの?」という)

男の娘「だから、その…[ピーーーーーーーーーーーー]……?」

男「むしろ、ダメなのか? 別に無理に頼んでいるわけじゃないんだぞ」

男の娘「よ、よろこんでだよ!! うんっ、男と一緒にクッキー焼きたい!!」

男(ああ、この俺にその曇る事さえない、純粋な笑顔は眩し過ぎるではないか。勿体ない。瓶にでも詰めて一生大事に保管してやりたい衝動が俺を襲う)

男(……何はともあれ、成功だろう。あとは不良女とのデートと被らせないように注意して予定を合わせなければならない)

男(順調すぎて、チョロすぎて、後に恐ろしい事が待ち受けているのではないかと疑いたくなる)

男(ところで先程から気になっていたのが、委員長という名の美少女が俺へ向け続けている熱い眼差しである)

男(まさか、気づいていないとでも思っていたのか。だとすれば甘い。そして、口の中はまだしょっぱい……)

男「委員長、さっきから俺の顔を見てどうしたんだ」

委員長「……いいえ、特に何も」

男「何もないという事はないだろ? 言いたい事があるならハッキリ言ってくれないか」

委員長「じゃあ一つ言わせてもらいますけれど、男、ズボンのチャックが」

男「えっ!? ……って、開いてないじゃねーか!」

委員長「……」

男(読めない。この委員長が一体何を考えているのか分からない。てっきりこの流れは冗談の飛ばし合いに発展するものかと)

男「……本当にどうした?」

委員長「男、ううん、男くん……」

男「ど、どうしていま言い直すか……」

委員長「…だって、[ピーーーーーー]だったから」

男「何だって?」

委員長「……何でもありません。私のことは放って置いてくれませんか、男くん」

男(ますます読めなくなってきたではないか。もしかして、彼女に対してはしつこいぐらい押しが強くなければ、攻略が難しいキャラなのだろうか?)

男(面白い。その挑戦、受けて立とう、なのだ)

男「い」

委員長「……」

男「待てってば! おい、委員長!」がしっ

男(発動せよ、ラッキースケベ力。この手よわし掴め、委員長のハート、その他諸々)

委員長「まだ何か? 悪いですが、あなたとお話することなんて今はありませんよ?」

男「えっ……あ、ああ。そうか、悪かったよ……」

男(完全に立ち尽くした俺を尻目に、委員長は教室を後にしたのであった。……何故だろう)

男(俺ががしっと美少女へ掴みかかれば、かならずと言っていいほど転倒させられる。そしてスケベが待っている)

男(筈だったのだ。今まででこんな体験があっただろうか? ない。ありえない。何故、彼女に対して俺のラッキースケベ力が発揮されなかったのだろうか)

男(まさか、彼女は攻略不可な美少女なのでは。待て、早合点は身を滅ぼすだろう。他のケースを想定するのだ……)

男(ゲームなのでよくある、一定の条件をクリアすれば攻略対象として扱われる系統ではないだろうか)

男(あるいは、美少女の誰かの攻略を済ませることで、ようやくイベントが発生する、か)

男(わからない。また謎が増え出したのである。難聴スキルが発動しない後輩と先生、そしてアタック無効化の委員長)

男(……彼女らについて悩んでいてはキリがなさそうではないか。ここは別の美少女への接触を優先すべきだろう)

男(さて、上記三名を除いて今日まだ遭遇していないのは、これまた厄介な二人だった。先輩と生徒会長である)

男(どちらか一人へ話しかければ、または話しかけられれば、かならず部活と委員会の件を持ち出される。それは別に良い。問題なのは)

男(高確率で二人がその場に揃ってしまうという点。さすがの俺でも同時に二人の美少女を相手に立ち振舞うのは難しいだろう)

男(と、なればである。まずは何とかして彼女らを引き離さなければならないというわけだ。では、その方法は何か)

男「…………うおぉおおおぉぉぉ~~~!?」

男(犬も歩けば棒に当たる。ハーレム主人公が歩けば)

生徒会長「なっ!?」

男「……もふっ」むにゅんむにゅん

男(ラッキースケベが約束されるのである)

男(驚きはしない。むしろ、この感触を心行くまで満喫していたくて。先輩に負けじとも劣らず生徒会長の豊かな胸だ。反応があるまでこうしていようではないか)

生徒会長「……[ピーーーーーー]///」

男「す、すみません。足元に空き缶か何かが転がっていたみたいで、それ踏んで転びました…」

生徒会長「[ピッ][ピーーーー]、[ピーーーーーーー]……?」

男「え?」

生徒会長「[ピーーー]、[ピーーーーーーー]……[ピーーーーー]…///」

男(どうにもならないモノか、この難聴とやらは。とりあえず下敷きになった彼女の体から離れて、手を貸して起こしてやったのだ)

男「本当にすみませんでした、生徒会長。俺の不注意でこんな目に合わせちゃって」

生徒会長「[ピーーーー]……コホン、ああ、お互い怪我もなかった事だし気にするな。だが、廊下に空き缶を捨てるとは許し難いな」

男「ええ、全くですよ! お陰で酷い目にあった…」

生徒会長「ほう? 私に跳びかかっておいて、酷い目、か。言うじゃないか、男くん」

男「い、いやいや! …訂正します。むしろ良かったのかな、なんて?」

生徒会長「……やはり君は面白い後輩だな。それにいざとなれば頼りがいもある」クス

いったん風呂にはいってくる

男(テンプレートな美少女生徒会長だが、やはり良いものだ、惚れ甲斐がある。と、思っている内に生徒会長は俺の手を引き、空き教室の中へ連れ込んでしまったではないか)

男(俺を放り込み、戸の隙間から2、3、通行者を見送ると安堵の息をつき、戸をピシャリと閉める。これから何を言われるかは既に分かっているが、緊張、高まる)

生徒会長「フフッ、ここならば邪魔者も入ってはこれまい。簡易だが椅子で戸も塞いでおいた!」

男「つまり、今この教室には俺とあなたの二人だけ……」

生徒会長「! べ、別に如何わしいことを始めようとは考えてはいないぞ。でも……[ピーーーーーーー]……///」

男(ええいええい、なんとも良い所で鬱陶しい、否、もどかしいのか。台詞は口の動きからある程度何を話そうとしたのか理解できる)

男(が、しかし、俺はそれを生徒会長の口から、言葉として、直に聴いておきたいのに。ああ、口惜しや)

生徒会長「……もう逃げられないぞ? 男くん、私とて、いつまでも返事を待たされている状態は困るのだ」

男「生徒会に入れ、って件ですか? だからいま考えてる最中だと昨日話したばかり…」

生徒会長「いーや! 私は今すぐにでも君が欲しい! ……うっ///」ボン

男(自分の言った台詞に自分で照れているのか。その自爆はどうやら上手く俺も巻き込めたようだぞ。破壊力抜群ではないか)

生徒会長「と、とにかく……決断するんだ、男くん……」

生徒会長「………あまり、[ピーーーーーーー]…///」

男「え? 何ですか?」

男(さて、どうするべきか。今回ばかりは逃げられそうにない。はいか、いいえだ)

男(ここでしくじらなければ、俺は生徒会長を見事獲得できるだろう。だが逆の場合、どうなるのだろうか?)

男(先輩を裏切る、とまでも行かないが期待を折ってしまうのは非常に心が痛む。そして、彼女がハーレムに加わらなければ、きっとかならず後悔する羽目になる)

男(この生徒会長だってそうなのだ。俺はどちらの美少女もどうにか手に入れたい。しかし、この状況でそれを叶えるのは難しくなったわけだ)

男(NEWハーレム主人公的特性追加、優柔不断。二人どちらかを選ばせるなんて、あまりにも残酷すぎる。先輩バージョンか生徒会長バージョン、的な)

生徒会長「……もしかして、あの子が気がかりで悩ませてしまっているのか?」

男「正直に言えば、そうです。あの子って先輩さんのことですよね?」

生徒会長「その通りだよ。私もこんな抜け駆けのような真似はよくないとは思っているが」

生徒会長「ここまで来たらもう引けなくなってしまってな、私は強情な女だよ…はは」

生徒会長「なぁ…君がもし彼女が良いというのならば、私はここで潔く身を引こうじゃないか」

生徒会長「彼女も、先輩ちゃんも、悪い子ではない。ただ、過去に色々あって今のような張り合いが続いていてな」

男(唐突に始まる自分語り、いやいや、唐突でもなければ自分の話だけはないぞ。そうか、そういう事だったのか。二人は実は親友同士だった、という真実を知る為のイベントか、これは)

男「仲が悪いようには全然見えませんでしたよ。言うじゃないですか、ケンカするほど仲良いって」

生徒会長「どうだろうな……彼女の方は、もう私の事なんてただの敵の様にしか思っていないのかもしれない」

男「生徒会長と先輩さんの間で、一体何があったっていうんですか?」

生徒会長「……[ピーーーーーーーーーー]」

男「何だって!? …あ、何て言いました?」

生徒会長「……すまない、あまり何度も言わせないでほしいな。きっと知れば、そんな事かと呆れられてしまうような話だし」

男「でも、あなたたちにとってはって感じですか。分かりました。もう無理には訊いたりしませんよ」

男(いや、勿体ぶらずにさっさと教えて欲しいのだが。難聴スキルがここまで邪魔臭く感じたのは今回が初めて、であるわけないだろう)

生徒会長「ありがとう、男くん。君は優しいな……[ピーーーーー]…///」

男「そういうわけでもう帰っていいですか?」

男(これ以上ここでモヤモヤさせられては、発狂したくなるのだ)

生徒会長「ああ、返事を聞かせてもらってからな。どうも君は抜け目ないようだ……」クスッ

男「うっ……」

男(てっきり話が一段落したら、何やのかんやで俺を解放してくれるとばかり考えていたが、さすがは生徒会長といったところか。侮れない相手である)

男(先程までの意味深な話を聞いてしまったら、前以上に選びづらくなる。実はこの生徒会長、それを見抜いて俺で遊んでいるわけじゃなかろうな)

男(彼女は腕を組み、俺を一片の曇りすら篭っていない透き通った瞳で俺をじっと見据えている。待っている。もはや次の俺の言葉には、YES or NOの返答しか期待していないのだろう)

男(ここまで苦戦させられるとは思ってもみなかった。たかが部活か委員会ではないか。それがどうしてここまで、だ)

生徒会長「……」

男「……一つ、条件があります。聞いて貰えますか、生徒会長」

生徒会長「勿論だとも。君の頼みなら何でも聞こうじゃないか。どうぞ?」

男(その、何でも、を後悔するなよ)

男「俺が生徒会へ入るときは、一緒に先輩さんも入会させてもらえませんか」

生徒会長「…………は?」

男「聞こえませんでしたか、生徒会長。もう一度言います。先輩さんも」

生徒会長「ま、待ってくれ!?」

男(賭けだったのだ。彼女はどうしてもこの俺を生徒会へ引き込み、自分の物としたいようだったから)

男(条件の一つは呑んでくれなければ。生徒会長も俺へ入会を強制しているわけではない。個人的な、頼みなのだ)

男(引いてダメなら押してみな、である)

生徒会長「ほ、本気で、言っているのか、君は……あの子を? ど、どうして!?」

男「質問に質問で返す失礼を承知で、逆に聞かせてくださいよ。どうして先輩さんが生徒会へ入っちゃダメなんですか?」

男「何か不都合が生じたり?」

生徒会長「い、いや……特には、だな……だけど……!」

男「俺の知っている先輩さんは成績も悪くない、少し変わってるが、品行も良し。生徒会へ入れば即戦力になるかと」

生徒会長「うっ!?」

男「さっき、何でも聞いてくれると言いましたよね。俺の頼みなら何でもと(そう、何でもだ)」

男(これを断れば、俺の信頼を欠く事になるのは聡明な彼女ならば、既に理解できているだろう)

生徒会長「だ、だが、その……そうなると……あの」

生徒会長「[ピーーーーーーーーーー]……っ///」

男「え?いま何て言いましたか、生徒会長?」

生徒会長「くぅ…………負けたよ、男くん。私の完敗だな」

生徒会長「その条件を呑ませて貰おうか。それで君が生徒会へ来てくれるというのなら」

男「そうされたらもう、俺は入るしかないでしょう。わかりました。喜んで入会させてもらいますよ、生徒会長」

生徒会長「君には時々、本当に驚かされてしまうよ……」

男(寂しげな表情を見せるのも無理はあるまい。彼女は今こう思っている筈だ。「あの女の方が、私より良いの?」みたいな)

男「生徒会長、俺は別にあなたへ嫌がらせる為にこんな条件を提示したってわけじゃありませんよ」

生徒会長「わ、分かっているよ……お次はフォローでもしてくれる気かな、ほんと、優しいな」

男「ん……俺はただ、あなたと先輩さんがまた仲良くなってもらえたら嬉しいなって思って。顔を合わせても笑い合えるような、以前のような関係に」

男「な、なんて今のちょっと臭かったですかねー! ははははは、あは、あははははは……はは、は?」

生徒会長「……」

男「(とても、両目を見開いていて、そんな美少女が頬を紅くしてだ、キュン、なんて擬音が聴こえてきたような、である)…あの、生徒会長?」

生徒会長「……はっ!? あ、ああ! 私もそれで、そ、それで……[ピーーーーーー]……///」

生徒会長「あああ、あとの事は君に任せていいかな!? わ、私はこれから会長としての仕事があってな!?」バタバタ

男「俺が先輩さんへ話をつけて来いってことですか? それならお安いご用ですよ。じゃあ、お仕事頑張って(容易い)」

生徒会長「[ピーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーー]……///」

男(手強い美少女であった生徒会長も乗り越えられた。さて、この調子で)

男「先輩さん、教室にいますか?」

女子「先輩? うん、いるよー。呼んできてあげよっか?」

男「ああ、お願いできますか。じゃあ頼みます。男が呼んでると伝えて来てくださ…」

先輩「えーっ!? 男くんがわたしにラーメン食べに行こうだって!?」

男「うわぁ!?(鋭い、勘が良いではないか。その通り、彼女を放課後食事へ誘うつもりでわざわざここまで呼びに来たのである)」

先輩「だよね? ね?」

男「まぁ……ていうか、どうしてそんな事分かったんですか」

先輩「いやいや、君ィーわたしが何年ラーメン愛好会の部長やってたと思っとるのかね? ふふーん!」

男「はぁ……」

先輩「あっ、いま引いたりしなかった? やめてよぉ、せっかくテンション急上昇したとこで水をぶっかけるのー」

男「水を差す、ですか?」

先輩「わざとだよー……はっはっはっ……それはさておき、そうと決まれば早速行きましょーかぁ!?」キラキラ

男(さておき結構。だがまだ決定ではない。彼女はどうもノリと勢いで生きる元気っ娘な美少女で仕方がない。いや、結構)

先輩「やぁ~~~、にしても男くんの方からお誘いがあるなんて、夢にも思っちゃいなかったよ!」

男「なんだか、今日は帰りに美味いラーメンでも食べて行きたいなぁ、とか思って、それで愛好会で詳しそうな先輩さんを誘ったんです」

先輩「詳しいよぉー? 校内一どころか町内一じゃないかな、言いすぎ? でもこれぐらい誇張しておいた方が色々期待できるでしょ」

先輩「でもほんっとに嬉しいなぁー……[ピーーーーーーーー]……えへへっ///」

先輩「……ねっ、ねっ!? 手繋いでいいですか? OK?」

男「お、俺たち別に付き合っているわけでもないのに。先輩はそういうの恥ずかしくないんですか!?」

先輩「そりゃあ恥ずかしいよぉ~……でも、[ピーーーーーーー]……」

男(いけいけドンドン、彼女は肉食獣)

男(しかし、おそらく、それは仮の姿ではないだろうか。次々、休みなくマシンガンの様に飛ばされてくる言葉の中には俺の難聴に引っ掛かる物がいくつもあったのだ)

男(そんなギャップにいじらしさを感じられずにはいられない。まさしく太陽の様な美少女である)

先輩「んで、あれが前に友達と入って結構楽しかったお店でー、あ! 見てみて、あっちに可愛い犬を発見した! よく見ると、やや男くんに顔似てたり? なんて?」

男(しばらく彼女に弾切れは起こりそうにない)

男(道中、目的地まで様々な寄り道があったりやらで、辿り着く頃にはもう日が沈んでいた)

男(幼馴染の夕飯を気にしなくていいのか。勿論気にするに決まっている。しかし、俺はラーメン一杯胃袋に入れた後に次まだ余裕、なんて大食漢ではないのだ)

男(彼女には事前に断りを入れておいたのである。それも直接面と向かって、正直に先輩と夕飯を取って来ると)

男(そう伝えたあとの幼馴染との会話は、まぁ、しばらく彼女の目だけは何を話しても笑っていなかった事だけはよく覚えている)

男(だが、正直に話さなければきっと自宅で先日のような、背筋が凍る思いをしなければならなかったに違いない。想像するだけでゾッとさせられる)

先輩「親父ィー! いつもの、2人前くださいな!」

店長「ウチに、いつもの、なんて物は置いてないよ。みそラーメンね、畏まりました」

先輩「たった2回来ただけで常連気取りはさすがにないかー……」

男「それで通じた親父さんに感謝した方がいいと思いますよ、俺」

先輩「ふふっ。なんかごめんねー、男くん…わたしがあっちこっちにフラフラしてなきゃ、もっと混んでない時に着いたのにさぁ」

男「ううん、俺もそこまでまだ腹空かせてなかったですし。それに結構楽しかったから」

先輩「おお! 男くんは良い子だなぁ~~~お姉さんが頭すりすり撫でてあげちゃおうっ」

男「嬉しいですけど、それは店を出た後でお願いしますよ。…それで、先輩。話があるんですけど」

先輩「話? ……あっ、もしかして、愛好会の件ですか! ようやくその気になれたかぁー! それ、かなり嬉しいよぉ~……」

先輩「あはは、ずっと待ってたんだよ? 君のこと……[ピーーーーーーー]」

男(生徒会長とは異なる次元の破壊力を持っているようだ。そして、なんだか話を持ちかけづらくなってくる。どう、彼女へ例の入会について伝えるべきだろうか)

先輩「ああ、でもさ、そうなると生徒会の話は断っちゃうのかな?」

男「あっ! それがなんと…」

先輩「……うーん、なんか生徒会長ちゃんの言う通り、わたし、男くんの事無理矢理奪っちゃった感じになってるのかな。んー…」

男(なるほど。生徒会長、あなたが思っている以上にこの先輩は良い子そうではないか。実はお互い、本当はいがみ合いたくはなかった、そういう事なのだろう)

先輩「ねぇー、男くん……嬉しいけど、本当に後悔しないよね? …あっ! 別にやっぱり、男くんがわたしの愛好会へ入部して欲しくないってわけじゃないんだよ!?」

男「分かってますよ。じゃないけど、次は何ですか、先輩?」

先輩「う~……[ピーーーーー------]……?///」

男(ぐふぅ)

男(……沈黙が気まずい。実は、なんて乗り出し難いのだ。彼女がここまで真剣に悩んでいる傍でなんて)

店長「みそラーメン二丁。お熱いうちに食べちゃってくださいよ、お熱いアペックさん」

先輩「古っ! ……って、違うよ、まだそんなじゃないよわたしたちはー! …も、もう[ピーーーー]だよねぇ……///」ニッコリ

男(やぁ、満更でもなさそうではないか。店長に先程までのもやついた空気を救われてしまった。今なら、切り替えせられる)

先輩「ほ、ほら! 男くん食べて感想聞かせて!? なんて、まだ気が早いかぁ~? …でも凄くとっても美味しいんだよ! ぶっ飛んじゃわない様に気をつけてっ!」

男「ぶっ飛ぶ美味さですか。相変わらず表現がデカいですね、先輩さん…!」

先輩「だってわたし初見で一口食べただけで、イスからひっくり返りそうになっちゃったんだもーん!」

先輩「気に入ってくれたら、嬉しいな!」

男(うぐふぅ)

男(……飲まれるな、彼女を食うのはこの俺の方ではないか。今しかない、今だ、いけ。躊躇う必要なんてないのだ。食らいつけ)

男「本当だ。最近食べた中じゃ一番のラーメンですよ、これは!」

先輩「でしょでしょ~!? ほれ、やっぱりラーメン愛好会部長のわたしに見る目に狂いはなかったのだ!」

男(違う、食らいつくのは飯の方ではない。確かに美味いが、まずい。このまま先輩の勢いに殺されていては何も言い出せずに終わってしまうではないか)

男(どうもこの手の先行タイプの人間との相手は、まだ慣れてはいないようだ。先輩と生徒会長。それぞれ異なった魅力を持ち、そしてどちらもかなり厄介な美少女である)

先輩「おいしいね~……[ピーーーーーーーーーー]……///」

男「先輩さん!!」

先輩「んあ?」

男「……あの、その俺と一緒に生徒会へ行きませんか?」

先輩「…………」

先輩「げほっ、げふん! ごほっ!」

男「せ、先輩さん大丈夫ですか? 水飲んで……」

先輩「あ、ありがと……ふぃー」

先輩「……あのね? せ、せっかく誘ってくれたのは嬉しいんだけどさ、ちょっと難しい、かなって。ほら…わたしそもそも部長だし……まぁ、部員一人もいないんだけど…」

男「ひ、一人しかいないのに部活動公認されてたんですか」

先輩「えーっと、結構前に2人ほど同時に退部しちゃって……それでわたし一人なわけでしてなぁー……」

先輩「本当は愛好会存続のために、あと4人部員が欲しいんだよ。でも、中々これが集まらなくて……てな感じです。はい」

男「だから、俺を必死に入部させようとしてたと」

先輩「そ、それだけじゃないんだよ!? わたしは君と……うっ、[ピーーーーーーー]……///」

先輩「……でも、男くん。その様子だと生徒会の方に行くことにしたみたいだね。そっか、きっと生徒会長ちゃんも喜んでくれるよ…」

男(なるほどである。むしろ都合が良い話ではないか。やはり、この世界は俺を中心に廻っていたようだ。感謝しようじゃないか、神よ)

男「俺に良い考えがありますよ。先輩さんのラーメン愛好会を存続させる、いいアイディアが、ね」

先輩「それ本当!? 期待していいの!?」

男「先輩さん、俺を誰だと思ってるんですか? 俺は……えーっと、他ならぬ俺なんですよ。ほら、期待したくなってきたでしょ?」

先輩「あー……うん…?」

男「……とにかく、よく聞いてくださいよ。ではまず、その条件として、先輩さんは俺と一緒に入る。これに頷いて貰えなければ困ります」

先輩「えっ……うぅ~~~……お、脅しみたいだよーそれ…」

男「入りますか、入りませんか、って聞いているんですよ」

先輩「部のためなら……入ります、いえ、入らせてください……!」

男(その心意気や良し、である)

男「ありがとうございます、先輩さん。それじゃあ俺は生徒会とラーメン愛好会の二つに所属する事にします」

先輩「へっ?」

男「だって、生徒会と部活動、どっちにも所属しちゃダメなんて決まりはないでしょ?」

男(彼女たちがこの俺を奪い合いでもしなければ、初めから問題なんてなかったのだ)

先輩「それは、そうだけど……なんか、男くんそれってズルくないかな~……」

男「不満ならこの話はなかった事にしてください。俺も綺麗さっぱり明日には忘れておきますから」

先輩「だぁあ~~~!? 問題ないよっ、全然有りだと思うよ!? だからお願いっ!」

男「……ならそういう事で。次に、俺に一人当てがあるんですよ。最近転校して来たばかりで、どの部活動にも所属していない女子が一人だけ」

男「次です。生徒会長をこの部活動へ巻き込んでしまいましょう。ていうか、入部させるんです」

先輩「は…………」

男「確か、あの人も部活に入ってませんでしたよね? ラーメン愛好会の活動なら放課後に、生徒会の仕事を終えてからでも、十分なんとかなる筈ですよ!」

男「ハード、とまでは行きませんが、今までよりちょっぴり忙しくなるぐらいです。ほら、上手くいけば俺と先輩さんを含めてもう4人集まった」

男(そして俺のハーレムルートがちゃくちゃくと形成されていくのだ)

男「あと一人については今のところ思いつかないけど、その辺りは俺たちで適当に勧誘活動して見つけましょうか」

先輩「…待って! ストップ、ストーーーップ~!!」

男「え? やっぱり面倒臭くなっちゃいました? でも、こうでもしなきゃ」

先輩「そういうわけじゃなくてだねっ!? ……その、生徒会長ちゃんを愛好会へ入れるって話が」

先輩「きっと、ていうか、絶対断られるのがもう分かってるし……」

男「本当にそう思ってるんですか。俺にはそうは思えませんけど?」

男「生徒会長、実はあなたとまた、仲良くしたがっていたんですよ。嘘じゃない」

先輩「そ、そんなわけ……ないよ……」

男「初めから諦めぐらいなら、まずは自分で確かめてからにしましょうよ。それに先輩さん。あなたは、嫌っている相手の事を一々心配したりするんですか?」

先輩「あうっ……///」

男「ほら、あなただって、生徒会長と気持ちは同じなんでしょ? …任せてください。まだ頼まれてもないが、俺があなたたち二人の橋へなってやろうじゃないか!」

先輩「……」ボンッ、シュー…

先輩「……[ピーーーーーーー]?」

男「え?」

先輩「ううん……! 何でもないっ! お、男くんにそこまでされちゃ、わたしもやる気になるしかないかぁー!」

先輩「男くん。わたし、ちょーっとだけ、ほんのちょっぴりだけ、不安…だけど! 頑張ってみようかなって!? …え、えへへ」

男(この俺の勝ちが確定された。目には目を、歯には歯を、押しには押しを、マシンガンにはマシンガンを、なのだ)

男(人はこれをゴリ押しと呼ぶのだろうか。問題ない。先輩は誰よりも底抜けに明るく、突き抜けている。しかし、その反面、打たれ弱いのであろう)

男(押して、押して、押して。追い込むことで逃げ場と先輩のターンを無理にでも奪ってしまえばいい。これだけ見ればゲスな作戦であるが、結果オーライなのだ)

先輩「……なんか、今日はありがとうね、男くん。まさかこんな話になるとは思ってなかったけどさ」

先輩「[ピッ][ピーーーーーガ---------ーーーーー]……///」

男(ご覧の通りなのである)

男(その後、俺たちはラーメン屋を後にした。別れは惜しいが、家では幼馴染と妹が俺の帰りを今か今かと待ちかねている頃だろう)

男(しかし、しつこいぐらい言わせて頂くが、上級生美少女2名は本当に手強かった……今になってドッと汗が沸いてくる)

男(今日は帰ってシャワーでこの汗を流し、あわよくば、ラッキースケベを発動して妹の入浴中に飛び込んだりして、その後さっさと来るべき明日に向けて眠ってしまおうか)

男(と、今日までの出来事を振り返ってみたり、しなかったり、でいれば、既に俺は自宅の前まで帰ってきていた。ああ、幼馴染の笑顔で「おかえりなさい」を期待だ。……可愛らしい笑顔の方だ)

男(さて……突然、俺の携帯電話へ着信が入る。きっと美少女からのコールで間違いはないだろう。もう、以前までの鳴らない電話な頃が既に懐かしく思えるようになってきた)

男「この番号、誰からだ? 知らない番号なんだが……はい、もしもし?」

男(電話口から、透き通っていて、かつ、可愛らしい声が聞こえてきた。だが、この声には聞き覚えがある。今日この耳で、確かに)

?『もし、神様が本当にいて、自分が望む世界へ変えてくれたと言ったら、あなたは信じてくれますか?』

男「…え? 何だって…………」



(前半)おわり

続きについてだけど、申し訳ないがSS速報には立てない。たぶんぐだついてきて途中でダレる
というわけで、後半については今週末あたりにひっそりそれらしいスレタイで立てて、そこで完結させる

遅筆ですまんかった

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