男「モテる代わりに難聴で鈍感になるのも悪くない」(1000)

これで終わり(予定)

1、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1379798915/)

2、男「モテる代わりに難聴で鈍感になりましたが」
男「モテる代わりに鈍感で難聴になりましたが」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1380372236/)

3、男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1385750291/)

4、男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1397082375/)

男(昂りも一気に冷め、惜しむように布団の温もりを確かめていると、その上に小さな足が乗る。ギュウ、ギュウと踏み付けるソレを唖然と眺めているしかなかった)

男「まさか、俺が何も考えずに行動を起こしたと思っているのか?」

天使「この! 潰れたあんぱんみたくなれ、潰れちまえです! ……なんぞ?」

男「天使ちゃんの見解をまず聞きたいと思う。話してみてくれ」

天使「誘惑に負けたエロ猿」

男「OK。その言葉に全てが詰まっているんだな、分かり易くて結構」

天使「だってアレどうしちゃったんですか!? 男くんの真の幸福は『ハーレム』!! 自分に何度もそう言い聞かせてきたじゃないですかっ」

天使「つまりですよ。幼馴染ちゃん単体と結ばれようが、結局まだ満たされない毎日を送る羽目になるんです! そーしていずれは前回の時のように」

男(かかったな、ロリ天使)

男「前回? 前回俺はどうなったんだ?」

天使「せっかくくっ付いた転校生ちゃんを自分から振ったんじゃないですか。それも唐突に」

男「それで?」

天使「きっと後悔しちゃったんでしょうねぇ。周りにも付き合ってるって公言してたし、この先で誰かとイチャつくのも気が引けるし、ハーレムなんて言語道断ってな感じで」

天使「どーん、と一気に沈んで 無気力人間男くんの出来上がり」

男「ああ、そうなるだろうな……そうして?」

天使「幸福の世界に相応しくない『絶望』という感情を持ってしまったのです」

天使「無気力になったとさっき話したでしょう? それは一番この世界に滞在する間あってはならないんですよ、男くん」

男「それは何故?」

天使「考えてもみてくださいよ。ここには男くんにとってのハッピーしかない。バッドな話は限りなくゼロでしょ?」

天使「すなわちなのです! ハッピーエンド以外あってはならない。男くんはかならず満足を得る結果を残さなければいけない」

男「それが俺が望んだことでもあり、お前たちが望むことなのか」

天使「自分たち……というよりもですよ。主は幸福の為だけに世界を創造しました。超大サービスで!!」

天使「主の仕事は完璧です。だけど、完璧すぎるからこそ、問題も起きてしまう」

男「問題って、おい。主様でも人間だもの ミスの一つは起こすなんて言い訳は効かんぞっ」

天使「ふん、人間には所詮分からない話ですよーだ! ……『完璧すぎる幸福の世界』、それは幸福からかけ離れる不純を良しとしません」

天使「暴力を振るわれようと、悪口言われようと、決して落ち込まなかったはずです。これは男くんが純粋に幸と迎えていたからこそ」

男「確かに……」   天使「ね、変態でしょう?」

男「つまりだ、話を先読みさせてもらうと、この世界では俺にマイナスとなる装置も人間もいない。全て排除されている、そうだろう?」

男「……そんな都合の良い場所で、俺自らが絶望を生み出してしまうとなると」

天使「世界が勘違いを起こして、原因を排除しようと働きだそうとするんです」

男「なるほど、完璧すぎる故の欠陥……いや、神が想定していなかったのか?」

男「どんな形であれ、俺はかならずここで幸福に満たされる。何があろうと絶望を生むことはないだろうと踏んでいたんだ」

男「そうじゃないか、天使ちゃんよ?」

天使「うーん……のーこめんとっ!!」

天使「……あのですね、前に自分は話したつもりです。とにかく男くんの幸せだけを考えていろって」

天使「本当に最悪、自分らには何が起きてしまうか謎です。未知の領域です。主ですら危惧する恐ろしい現象が発生するかもしれない!」

男「だから、世界が原因排除へ動き出す前に時間を逆行させてしまう……記憶までも……相手の美少女のまでというのは、絶望を再発させない為……かね」

男「クックック……掠るどころか、大当たりだぜ。景品貰えてもおかしくない」

天使「頼むから、幸せ掴みましょー! 男くん! こんな危険なこと話したくはなかったですけどね、コレは男くんのためを思って!」

男「待て」  天使「はひ?」

男「天使ちゃんは俺へ世界について真実や謎を喋ることを、緊急の場合だとして、神へ許されているのか?」

天使「いやいや……ここだけの話ですよ~……えっと……自分、初めてのお友達を失いたくないです」

男「!! (こっそり耳打ちしてくる彼女は、俺を案じているのだろう、声のトーンが極端に落ちた)」

天使「こっ、この話は絶対外へ漏らさねーように! 内密に、ですよ!? ……な、内緒のナイショですからね?」

男(天使ちゃんのご厚意に関しては有り難いし、かなり喜べる。だが そういう事を聞きたかったのではない)

男「(後輩のように難聴で妨害されないのか、である。いや、まさか) ……あくまでも、天使ちゃんは攻略キャラに含まれてないんだよな」

天使「あったり前でしょーが! 自分は監視役兼報告役って最初に自己紹介しましたよ!」

男「でも、お前も他の美少女たちみたいに俺と仲良くしているじゃないか。もうメンバーとして加わってもおかしくない程に」

男「だから、あくまでも、なんだよ。昔と今が変わろうが、役割自体が無くなったワケじゃない……そのお陰あって、元々スキルに引っ掛かることはないんだ」

男(目でもあり、手でもあり、口でもあるという。アホロリだがこちらにとってはかなり大きい)

天使「何言ってるんですかこの変態」

男「よーしよしよし、話変えちゃおうか!! お前たちが時間を巻き戻せるっていうのなら、たとえ俺が絶望を生もうと特に問題ないのでは?」

男「だってそうだろう。『絶望→巻き戻す→絶望→巻き戻す』ループでどうだってなる」

天使「どのタイミングで排除が始まるかなんて説明しましたか、自分は」

男「……いいえ」

天使「そういうことです。もし1秒でも間に合わなければ、即アウト。それこそやり直しなんて効かないと思ってもらわないと」

男「知りたくない真実ってのも有るもんなんだなぁ、と」

男(敵なんていない。確かに素直に過ごしていればその通りだ。だがしかし、道から外れた瞬間、俺を温かく包んでくれる世界が牙を剥く。いや実に恐ろしい)

男(ところで、後輩から渡された例のアレ。開けることで『この世界へ来てからの記憶』全てを思い出すというのだが)

男(せっかく絶望の記憶を失くされたというのに、ソレを再び思い出すとなると、危険なのでは?)

男(彼女は今の俺ならばと、箱を託した。そして失う覚悟を持って開けと。……後輩め、危険覚悟でという意味だったのかアレは)

天使「とーこーろーでぇ……まーだ男くんの話、聞いてないんですけど?」

男「え、何だって?」

天使「誤魔化そうとしたって然うは豚骨チャーシュー麺! どうしてですか!」

男「俺の考えの行きつく先なんていつも同じだろ。美少女ハーレムだ」

男「この厄介な難聴スキルがあってはハーレムを今築いても楽しめるに至らん。スキルを払うには美少女と付き合う必要があると明らかになってる」

天使「でも、それがどうして今なんだっつー話ですよ!!」

男「遅かれ早かれ、俺は幼馴染と付き合うつもりでいたさ。俺は彼女が好きだ。あんなに気立ての良い子はファンタジーでもなければ存在しない」

男「家に帰ればいつだって俺を笑顔で迎えてくれる。おお、何度癒されたことか……」

天使「へー、はーん? ふーん? ああ、そう……」

男「妬くなよ~、可愛いぞ天使ちゃ~ん。ていうか、約束してたらしいしな。俺はそいつを果たした。それだけの話よ」

天使「随分らしくないですねぇ? マジでそう思ってやらかしたんですか?」

男「……え、何だって?」

天使「だって、男くんは約束なんて二の次な人間です。自分第一の屑です」

天使「そして何よりも! 夢実現のための下準備も半端なところで、逃げ出そうとするなんてらしくないって言ってるんですよ!」

男「いやぁ……俺をよく理解しているじゃないか」

天使「どれだけ見張ってきたと思ってるんです? 自分は男くんの穴という穴も熟知してるつもりですよ」

男「天使ちゃんのえっちー」

天使「は?」

男「…………逃げようとしてたのかもしれん」

男「今日で色んなことを知り過ぎた。その上、覚悟を求められた、この幸せを失う覚悟を」

男「だって今の俺が生まれてまだ1週間と少しだぜ? もっと、もっと楽しんでいたいよ。神が敷いたレールを何も知らずに走っていたかったよ」

男「気付かなくて良いことは気付かないフリして、美少女と遊んで、ハーレムのために頑張ってみたりして……充実した毎日をもっと送りたい」

男(箱を、ソレを開いてしまうことで確実に変化が起こる。触れただけで分かってしまうのだ。本当に『今』を失うかもしれない、と)

男「俺の為の世界で良い思いしたって別にいいじゃないさ……都合良く暮らしたって……委員長も助けなきゃって気持ちは勿論ある」

男「あるけれど、天使ちゃんの言った通りだな。俺は自分第一の屑畜生だよ」

男「だから、俺にはコイツを開ける資格も勇気もない。委員長と自分を天秤に掛けたら、間違いなく自分に傾いちまうのよ」

男(そうだ。だから俺は、あの箱を、次周の俺へ開けさせようと企んだのである)

男(箱を開ければ、どうせこの苦悩も次の俺へ受け継がれる。他人ではない、他ならぬ自分なのだ)

男(結局は嫌なことを後回しにすることになるだけだろう。夏休みの宿題を、最後の休日に泣いて片づける小学生のように)

男(分かっている。全て分かった上で俺は逃走を選択した。理由なんて単純明快、怖かった)

男「次周の俺なら、何だコレ? ぐらいの気持ちで箱を開けると思う。そこに勇気も覚悟もなくだ」

男「無知な自分を利用したかったんだよ、俺は。おまけに幼馴染までそのために利用しようとしていた!」

男「なんとなく、絶望さえすればこの周が終わるんじゃないかと思ってたんだ。きっと前回の俺と同じ結末を迎えてただろう」

男「……なっ、俺はこんな奴なんだよ。そうだ、自分に絶望すればここで排除されるんじゃないか?」

男「俺にはアイツを幸せにしてやる資格なんてなーい! 絶望したー! このままだとバッドエンド一直線だよぉー!」

男「あ……アホか、俺は。取り返しのつかんことを」

天使「男くん、男くん」チョンチョン

男「へ? ――――――ぶっ」

男(瞬間であった。頬骨を硬いものが強く打つ衝撃、顔全体をブサイクに歪め、短い悲鳴と涎を撒き散らしながら、俺はその場へ伏す)

天使「歯ァ食い縛りやがれ~ッ!!」  男「それはたぶんやる前に言う文句だがッ!?」

天使「男くんが何言いてェのかさっぱりですが! うじうじとキモイんですよ! キモすぎて蕁麻疹が出ます!」

天使「逃げるとか何だってもういいんですよ、だけど! 自分で選んだことを後悔するのが情けないんですっ!」

ここまで

読みづらいかすまんな、貴重な意見をありがとう。できる限り善処する

天使「やっちまった事を一々悔いて誰が喜ぶんですか、男くんも幼馴染ちゃんも嬉しいんですか?」

天使「男くん。反省だろうと何だろうと、その後悔は幼馴染ちゃんに失礼だと思わないんですか?」

天使「……はぁ~。いま、男くんが幼馴染ちゃんを大好きだって思っていたことは全部ウソだったと?」

男「ウソなものか。好きでもない奴に俺があんなっ……!」

天使「だったらね、責任持つべきでしょー? 理由はどうあれ、男くんは選んじまったんです。こうなる道を」

男「……おぉ、今回ばかりは……ぐうの音も出ない」

男(自傷気味にポロポロと零していた台詞の代わりに、乾いた笑いしか出てこない)

男(天使ちゃんに改めて気付かされるとは思わなんだ。俺は一時でも、彼女たちを『人』としてでなく『NPC』と見ていたのかもしれない)

男(先刻受けた膝打ちが、頭を冷やした。散々 巡っていた不安は 忽然と何処かへ消え行く。異常なし、頭の中は非常にクリアである)

男「天使ちゃんの言う通りだ。一度自分の意思で選んだ選択肢を曲げようとするなんて正に邪道……!」

男「これはゲームじゃない、俺の人生そのものだ! 責任持って幼馴染を幸せにしてやろうじゃないか!」

男「ハーレムという形でッ!」   天使「そこは絶対折れないとこなんですねぇ……」

男「決まってるだろう。最終的に俺だけの幸福を追求すればハーレム一択。天使ちゃんも自分のことを第一にと話したな?」

男「幼馴染と共に楽しい日々を送るのも確かに悪くはない。しかし、残された美少女たちは? みんなを蔑ろになど無理なワケだっ」

男「即ち! 必然的にハーレムこそ、である! 俺も! 美少女も! 全員が! ハーレム=ハッピー! ……Q.E.D、フッ、証明完了」

天使「……」

男「もう一度、証明完了、だ!」  天使「気に入ったんですか」

天使「まるで精神異常者ってぐらい男くんはキャラがコロコロ変わりますねぇ。それで?」

男「ああ、何が?」

天使「何がって、そのハーレムについてです! だって男くん! もう幼馴染ちゃんに告白済んじゃったんですよ!」

天使「つまり男くんと幼馴染ちゃんはあの子らみんなが羨む熱々カッポーゥに!」

男「そうだな。だが、それは問題あるのかね? 天使ちゃんよ?」

天使「問題有りありだと思ってる自分が変なんですか!? だって誰かとくっ付いちゃったら」

男「ハーレムはもうこの周では不可能と。誰がそんなことを言ったか?」

天使「ま、まさか……あの、男くんそれは……ヤバいです、ドン引きです、サイテー屑!!」

天使「二股どころか十何股やり遂げるつもりでしょう!?」

天使「そんな事して もしバレたら幼馴染ちゃんどころか他の子だって黙ってねーですよ!」

男「クックック、この世界は俺に都合の悪いものは全て排除されるんだろう!? ……というのは冗談」

男「流石の俺でも何人もの美少女と同時に交際しながら、上手く丸め込める自信はない」

天使「似たようなことしてるくせに、よくそんな いけしゃあしゃあと……」

男「さて、もし無理をしたとしても、結局は都合の良い展開で修羅場も収まるかもしれない」

男「が、そんなやり方じゃ俺がマジでゴミクズ男の認定を食らうことだろう。それだけは主人公として気に食わん称号だ!」

天使「あっそう」

男「俺は邪道を躊躇わんが、正しいハーレム主人公であることを曲げるつもりはない。美少女たちから尊敬される男くんで有り続けたいワケよ」

天使「ようは汚い部分を表に出すことなく、キレーに野望達成したいんです、って……?」

天使「がぁー! その考えがもはや汚ねェんですよぉーっ!!」

男「こんな汚い裏側を見せるのは、マブダチ天使ちゃんオンリーだって」

天使「ま、マブ……よくそんな事恥ずかしげもなく……///」

天使「そ、それよりじゃあ、この先どうしようと?」

男「うむ、それはだな……」

天使「ごくり……っ」

男「ネタを先に知るという行為は、己の楽しみを奪うと同等なのだよ。天使ちゃん?」

天使「……はぁ?」

天使「引っ張っておいてどうしてそうなっちまうんですか! 嫌がらせですか! 出し惜しみしてないでさっさと教えろですよぉー!!」

男「分からんロリだな貴様ッ!! 楽しみを失って良いのか!?」

男「きっと天使ちゃんは俺が あっ! と驚く策を披露する瞬間、驚愕することになるんだぞ」

男「そしてこう思う。あの時聞かなくてよかったなぁ~……なんてね」

天使「むぅ、何でそんな自信満々なんですか」

男「だって俺だぞ。俺は何度お前を驚かせ 楽しませてきた? 天下無敵を誇るこの男くんだぜ?」

天使「あのっ、ヒヤヒヤの間違いだと思いますっ!」  

男「まぁまぁ、スリリングもまた楽しみの内さ。とにかくヒヤヒヤでもアツアツでも味あわせてやるよ、たーんと」

天使「ま、マジありえねーです……信じられません……」

男(諦めたのか、呆れてしまったのか 彼女がこれ以上追求する事は無く大人しく頬を膨らませていた。その時階下から二つの騒々しい足音が、ドンッ)

妹「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ!!?」  幼馴染「す、すぐ外行くから服そのままで来て! 早く!」

男「入る時はノックを忘れるな!! ……どうしたお前ら、人が今すぐ死にそうみたいな顔をして」

幼馴染「ごめんねっ、あたし詳しくしっかり電話で話伝えられなくて救急車ダメになったから! だ、だから直接行こうって! ね!?」

妹「おおおっ、お兄ちゃんの保険証どこ仕舞ったか分かんなくて、それで探すの苦労しちゃって!! あのっ、あの、だぁああーもう! 落ち着いてよ!?」

男「そ、その言葉そのままソックリ返すよ……」

男(二人の迫力に身が竦む。とにかく、とにかく、と人の話へ耳を傾ける余裕もなく、掴める部分なら全て掴み、俺を部屋の外へ動かそうと必死だ)

男「お、落ち着けっ……落ち着けと言っている!! 待てっ、どこ掴んでるだ!? 髪だよ!? 抜けるぬけるぬける、ぬけ……ぃひッ!?」

妹「[ピーーー]お兄ちゃんの一大事に落ち着けって無理だもん!! お、お兄ちゃん[ピーーーーーーーー]! だから死んじゃやだぁー、うわああぁ~んっ!」

男「ぃやめろぉぉぉ!? あ、あ、このままだと毛根が先に傷ついて死ぬッ!!」

妹「やだぁ! 死なないでよぉー!」   男「じゃあさっさと手離してくれないか!?」

男「おい、幼馴染お前も少し落ち着いて俺を見ろ! 俺のどこが異常だ? おかしいとこあるか? 顔もいつも通り変だろ? 全然元気そうだろ!?」

幼馴染「顔色がさっきより青くなってるけど……!?」  

男「ああ!! 俺の将来がたった今危機に陥ってるからなっ!!」

男「ひとまず手を離せと言ってるんだバカ!! 一度深呼吸して俺の様子を確かめてみろ!!」

妹・幼馴染「でも!」  男「深呼吸をッ!!」

男「(延々繰り返せ、と二人の肩に手を置き 冷静を催させる) いいか? よし、一緒にやろう。ひっひっふー……ひっひっふー……」

幼馴染「何ふざけてるの!? こんな時まで変な事して笑い取ろうと……?」 

男「な? ふざける余裕があるぐらい俺は超元気なんだが?」

男「……だからいい加減頭から手を離してくれないだろうか。本当に」

妹「ご、ごめん。何本か抜けちゃったよ、お兄ちゃん」

妹「なーんだ、幼馴染ちゃんが凄い顔して来るから本当に危ない目にあってんのかと」

妹「てっきり」  幼馴染「ね、ねぇ?」

男「あのな、早とちりにも程ってもんがある……言い忘れてたけれど、俺の病に発作はない」

男「突発的に記憶を忘れるんだ。見て分かるような感じじゃないのは間違いないだろう」

妹「……」   男「今は全然大丈夫だから安心しろっ、にじり寄るなっ……!!」

妹「だ、だって滅茶苦茶心配してるんだよ、これでも。本当に心配したんだから」

妹「うっ……ばかぁ……[ピーーーーーーーーーーーー]」

男「ん、何て言ったんだ?」

妹「ばかぁ!! お兄ちゃんのばーか!! 変な心配もうさせんなっ、お陰でボス倒せないまま終わっちゃったんだから!!」

男「今回ばかりは俺のせいとは思えないが……スミマセン、二度と心配掛けさせませんから」

妹「本当だよ? 約束したんだからね、絶対だよ!? 私に勝手で倒れたら叩くからね!?」

男「大丈夫だよ、勝手に病弱設定にするなって。大事な妹を置いて先逝くなんてない。絶対さ (と、気取って妹の頭を撫でてやれば)」

妹「あ~……うん、もっと大事にしてよね……[ピーーーーーー]……///」

男「んー?」

妹「わ、わっ! 顔近いからぁ~っ!? ああ もうっ! ぼ、ボス戦やり直してくるっ……///」

男(部屋の外から嫌味のつもりでか『慌てて損した!』と、その後に何か言葉が続いたがそれは勿論聴き取れるものではなかった。まったくもって愛い奴よ)

男(激動は収まり、自室はしばし沈黙に襲われる。いな、俺と幼馴染の間でだろうか)

幼馴染「……///」

男(傍で静かに下を向き、必死に先程ここで起きた出来事を思い出さんと、微かに赤面させた幼馴染。背くほど意識したくなるだろう?)

男(そんな俺も彼女同様に静まり込み、頬をポリポリと指で掻くばかりだ、といった素振りで雰囲気を継続させるのであった)

幼馴染「……あの、勘違いしちゃったみたいで」

男「いいよ。もう気にしちゃいない」

幼馴染「あははは……い、妹ちゃん優しいね。とっても良い子だよ」

男「そうかもな」

幼馴染「な、なんだか、また二人きりになっちゃったね~!? だから、ちょっぴり……意識しちゃう、かなー……なんて///」

男「そうなのか? 俺はちっとも何ともって感じなんだけどな」

幼馴染「も、もう いじわるなんだから……ねぇ、男くん」

男「ああ、どうした?」

幼馴染「続き、しちゃう?///」

男「ぶぐぎっっっ……!?」

ここまで
真流行り神やりたい俺にしばしの休みをおくれ。といっても、いつも通りのペースで書くと思うが

男「続きって何だろう。お前の読んでた漫画なら今委員長に後の巻全部貸してたようなぁー」

幼馴染「漫画じゃ、ないよぉ……」

男「そうなのか? じゃ、じゃあ一体何の事を言ってるのやらサッパリさっぱり……!」

男(幼馴染、幼馴染 お前。餓えた獣へ自ら腹を見せに掛かるか。良い心がけを! 優しくて献身的な美少女、実にエロティカル)

男(遠慮なくがっつくも宜しい。慎ましく鈍感な自分を演じて向こうから「わからせてあげる!」と襲われるもまた宜しい。なんて贅沢な日だ! 今日という日は!)

男(なぁ 幼馴染よ、俺はお前に出逢う為に17年間数ヶ月も不貞腐れていたのかもしれん)

幼馴染「っ~……///」ドキドキ

男「どうした? そんなに顔赤くして。まさかお前風邪でも引いたんじゃ」

幼馴染「べ、別にー? 赤くなんてなってないから、気のせい」

幼馴染「……もう、いつも大事なところで上手く行かない。この、ニブチンっ……///」

男(その台詞はきっと、通常では聴き取れることができなかったのでは? プイっ といった擬音が出現していそうな動作で可愛らしく拗ねる)

男「お、おーい。今度は急に何怒ってるんだよ?」

幼馴染「怒ってませーんっ」

男「それなら、その大きく膨らませた頬っぺたのワケを言ってくれ。謝るから、な?」

男(鈍感なこの主人公に精々イラつくのだ。そして焦れろ、幼馴染。この場面、お前ならばより熱くなれると知っての行動よ)

幼馴染「ねぇ、本当にわかんないの? じ、実は恍けてだけじゃない?」

男「本当に分からないことに対しては、一切知った風な態度を取らない。分からん事はマジで分からん」

男「そんな純粋正直くんじゃないか、俺は?」

幼馴染「……ふーん? そこまでして誤魔化したいんだ?」

男(すすっ、と不審そうにした幼馴染が距離を縮めてくる。じわりじわりと彼女のプレッシャーに圧され、尻込んでしまう)

男「ご、誤魔化すなんて酷いな? 俺の顔にそう書いてあるのか~?」

幼馴染「そう……だねぇ……あたし、男くんがウソ吐いたらすーぐ分かっちゃうこと、発見しちゃったんだよね。それは」

男「またまたー! ふふんっ、どうせ出鱈目言うつもりだろう!」

幼馴染「それは 男くんがウソを吐いた時はね……かならず 下の唇を噛んじゃうの」

男「えっ? ……って、だから出鱈目だろうソレ」

幼馴染「男くんはPCにたくさんスケベなHPをお気に入りにいれてる。でも、何個か本当に見られたら困るものが紛れてるんじゃない?」

幼馴染「その手のページの名前は、ぜーんぶゲームの攻略とか、好きな漫画の考察ページだとかに変えてたりする。違うかな」

男「……俺がそんな中学生みたいな隠し方する筈ないだろうが」

幼馴染「面倒臭がりな男くんの性格から考えると、中学生のときにそう隠したまま、放って置いてるんじゃないかな。どうせ誰にも見られないと踏んで」

男「じょ……冗談じゃ、ないっスよ」

幼馴染「どう? あたしの推理は当たってる? あのメモは勝手に見たけれど、PCまでは触ってないからね。本当に」

男「ど、どうだかな……そしてお前のエセ推理とやらはハズレだ。残念だったな、幼馴染くん?」

幼馴染「そうなの? じゃあどうして下唇をさっきから噛んでるの、男くん?」

男「はっ、うっ!? これはただの偶然! 偶然、そう! 唇が乾燥してたからやっただけ……!」

幼馴染「あっ、そうなんだぁ? ふふっ! ……でもね、男くん。あたしまだ男くんがウソ吐いた時に分かる特徴知ってるんだけど、教えてほしい?」

男「おいおいおいおいっ、お前何か段々楽しんできてないか。大体これ以上そんな――――」

男(『大胆』、今の幼馴染の様子を示すにコレ程まで相応しい文字はなかろう)

男(大和撫子タイプのあの彼女が、男を布団へ押し倒し、跨り、我が唇を奪う。無我夢中に)

幼馴染「ん、ぁっ……っつ……ん~……はぁ、あふ。っはぁー……はぁ、はぁ、っあう……っ~~~///」

男「その……今ので俺がウソ吐きとすぐに分かると」

幼馴染「鈍感すぎっ……あんなのウソに決まってるでしょ……? ///」

男「だったら随分長ったらしい前座だな。お前、どんどん顔赤くなっていって面白かったぞ」

幼馴染「男くんも、赤くなってたじゃん……やっぱり気づいてた。ウソつき」

男「で、続きって何のことかね?」

幼馴染「もうっ……女の子に、言わせないで……よ///」

男(結局主導権を握られる、とかどうでも良くなっていたというか、互いがもはや『その気』になってゼンリョクゼンカイである)

男(突然のハプニングに冷まされた熱も、一気にヒート。俺たち二人で火力発電を担えそうなまでに)

男(この状況、先程のリベンジマッチと言うべきか、2ラウンド目なのか。くだらない思考は止めて、幼馴染に向き合うべきだな今は)

幼馴染「おとこ、く、ん……ドキドキしてる? あたしは、もう 壊れちゃいそうなぐらいでして……え、えへへ///」

男(蒸気した頬、涙目となり 上目遣いでこちらを見上げている。一瞬たりとも 彼女の視線が横へ向くことはなかったと思う)

男(可愛い、憎らしく可愛い、愛らしい。眺めているだけで指の先からピリピリし始め、ソレが胸にまで伝わり始める)

男(興奮が全身を支配した証拠なのだろう。もはや自分へ状況説明をするのも億劫)

男「どうしてもっと早くこうしなかったんだろうな、俺は。こんなにお前が好きだったと感じてるのは、遅いな」

幼馴染「か、可愛いって……ダメだよ……これ以上あたしのこと変な気持ちにさせちゃ……あ、あぅ……」

幼馴染「あの……今日家に帰らなくていい?///」

男「その前に俺が帰らせねーよ!! もう限界だっ、幼馴染ぃーっ!!」

天使「げほげほ、げふん」   男「……」

男「お、幼馴染ぃ~~~っ!!」

天使「ん、げふげほゴホッ!! あ~、げふんげふんッ!!」

男「何故だぁッ!!?」  天使「いやぁ! 風邪引いちゃったかなーっと!」

男「生物かも怪しい奴が風邪なんて引くか!? 人の恋路邪魔すると馬が来るぞ!!」

天使「けっけっけ、邪魔なんてしてねーですよぉ! 自分は男くんの監視がお仕事だから傍にいるだけでーすーしぃー!?」

男「傍に居るならいるなりに気ィ使え!! お仕事なんでしょう!? 私情挟んで妨害なんて以ての外だな!!」

天使「えー? えぇー? 何だってー!? 自分深刻なレベルの難聴なもんでしてっ」

男「黙って聞けロリ天ッ!! これから俺は美少女と念願のラブラブげふんげふんっするの、二人きりでそういう事はしなきゃダメなの!!」

男「それに、責任取るべきだってさっきの言葉はどうした!? 俺はしっかり先を考えて……て……」

幼馴染「……あ、あの」ガタガタ

男「……幼馴染、聞いてくれ。俺はちょっと疲れてるらしい。分かるだろう?」

幼馴染「それちょっとなの……? かなりじゃない? 大丈夫? 本当のほんとに大丈夫!?」

男「すまん、続きはまた今度でいいかな……今は万全じゃないっ……!」

幼馴染「き、気にしないで。あの、えっと……やっぱり今日のところは家に帰るから……その」

幼馴染「お大事に」

男(その一言は、今の俺にとって大量の矢の群と化す。出て行く彼女を見送ることもままならず、現実逃避の為、とりあえず白目を剥き ダラしなくうな垂れてみた)

男「あ、あ」

天使「べ、別に自分は邪魔とかした覚えねーですからっ! あやまる気なんて0ですから! ……ふぃー」

男「二度目だ」  天使「えっ!?」

男「二度、妨害された。前回も今回も俺が反応した結果というミスでもある」

男「だが、耳元でああも騒がれて気が散らない人間もいないだろう。ひとまず、天使ちゃん、そして俺にも非があるとしよう」

男「謝れとは言わん。呆然としてて侘びられようと、その後なんと声を掛けていいのか……もう」

男「くうっっっ……!!」

天使「そ、そんなに落ち込まないでくださいよ。そりゃまぁ、悪いことしたって自覚がないワケじゃあ……」

天使「ご……ごめんなさい、です」

男「ほう? 悪さの自覚がある、聞いたぞ。でも不思議だな、天使ちゃん」

男「お前はさっき何と言ってくれたかね? 自分は邪魔した覚えはないのでは? 矛盾していないか?」

天使「な、何ですか……それがどうしたってんです!」

男「そして気になったんだが、天使ちゃん。幼馴染が部屋から出て行ったあと、お前は息を吐いてほっとしていた」

男「気がするのだが。何故だね?」  天使「え、いや、そんなっ」

天使「そんなの、は、えっと! 男くんの勘違いでしょう!」

男「じゃあその動揺っぷりは何だろうか。天使ちゃん、お前は自覚があって俺を妨害し、幼馴染を追い出した。そうでしょう?」

男「なら、それは何故? 責任持てとかそれらしい事を言っておいて、邪魔したんだ。悪戯としては最低だし、天使ちゃんがそんな事をする子だと思っちゃいない」

天使「い、悪戯ですよ! そうです、自分暇でしたからね! 退屈凌ぎにちょいと出来心で!」

男「何!? だったらあの謝罪は口からデマカセだったと!? 酷い奴だなぁー!!」

男「お友達にあんな酷い真似ができるなんて、実は俺のことをそんな風に思えていなかったの!? あの約束は冗談だったのか!?」

男「悲しい、裏切られた気分だ……あんまりだよ……くそっ……」

天使「ち、違います!? 自分は裏切ってなんか、男くんとはお友達のままです!! 信じてっ!!」

男「でも、退屈凌ぎに俺をカラかったんだろ……」

天使「だぁあー!! そっちがウソなんですよぉーっ!!」

男「ほ、本当に?」    天使「本当! マジです、大マジですからぁー!」

男「じゃあ俺の言ったことを肯定してくれるのか。悪気があったけど、妨害して幼馴染をこの部屋から出した。さて、その理由は?」

天使「っー……ちょっとだけ、ムカついたんです。イライラして、つい」

男「俺と幼馴染が仲良くイチャラブしていたことに? そして耐え切れずやってしまった?」

天使「そうですよ。へっ、きっと男くんが気持ち悪いデレデレ顔で鼻の下伸ばして、ブサイクを更にブサイクにしてたから自分は我慢ならなくて!」

男「俺を幼馴染に取られると思ったんじゃないか。イライラした時、一緒に心苦さを感じなかったか?」

天使「っ~~~……」

男「天使ちゃん、君はもしかして妬いたんじゃないか?」

天使「や、やくって何ですか……意味不明です……」

男「嫉妬だよ。この前、合宿でプールに行ったとき天使ちゃんは恋とは何か俺に教わっただろう。確か玩具で喩えたな」

男「欲しい玩具が自分はまだ手に入らない。だが、同時にソレを狙っている誰かがいる。そいつは自分が喉から手が出るほど欲しい物を、目の前で持って行こうとする」

男「覚えてるかな、天使ちゃんよ?」  天使「……うぅ」

男「あの喩え話が今回のケースと少しばかり重なるような気がするな。さながら俺は玩具というワケか」

男「つまり、天使ちゃん。これは君の様子を見て、自己解釈なんだがな……天使ちゃんは俺のことがぁ」

天使「ちちち、違うちがうちがうっ!! そんな筈ないですっ、ど、どうして自分が!? はぁ!?」

天使「大体 自分がたかが猿なんかに、そんなっ……ち、ちがうもん……違うんだもん! 監視役で……ありえねーです、おかしーです、変です」

男「変と言うより、この場合は恋ではございませんか?」

天使「っ~~~~~~!!///」カァァ…

男「まぁ、ただの冗談というかさっきのお返しみたいなモンだと思って……って、天使ちゃん? どこ行った!?」

天使『うるせぇーです!! 呼ぶな、ド変態屑、ばかばか! 眠い! もう寝ます、おやすみなさい! くたばれっ!!』

男「寝るって、いつも寝てる時は姿消してなかっただろ? どうして今日に限って」

天使『っ、ぐ、うっ! ……このぉ……ばかあああぁぁぁ、わああああぁぁ~~~っ!!///』

男(攻略完了)

ここまで。せっかく深夜に移ったんだし、あんまりカッカして欲しくないなー

天使「ふあぁ~……またこの部屋の前ですか?」

男「今日は随分お寝坊なんじゃないのか、天使ちゃん。当てようか」

男「考え事してたせいか、悶々して遅くまで寝付けなかったか、だろう?」

天使『朝から男くんと顔合わせると碌でもねーですっ……!』

男(何もない空間から強がりにも似た悪態が聞こえてくる。昨晩、彼女の姿は見えなかったとはいえ、時折モゴモゴと呟いたり、叫んだり、騒がしさに変わりはなかった)

男(遂に天使ちゃんは友情の垣根を越えようとしている。恋の欠片も知らなかったのはつい最近の話。それが、自身の中に芽生え始めたことで、困惑しているのだろう)

天使『ん、その箱。昨日から色々話してましたけど、どれぐらい大切なんですか? 家の中でも大事そうに持っちゃってー』

男「さぁ、分からん」

男(コレは学校へ持って行く。そしてもう一度、後輩と話がしたい。たとえ また俺の理解が及ばなくなろうと)

男(それはさておき、何故俺が『例の部屋』の前に立っているのか理由を聞きたくはないか? ……実のところ、何となく、である)

男「天使ちゃんはいつから俺の監視に回されたんだ? あ、コレ聞いちゃマズい?」

天使『今さらですよ、気遣われたって! ……つーか、いつからって、最初からに決まってるでしょーに』

男「最初っていうのは、俺が神と契約した後すぐと考えていいんだな?」

天使『ですよ。で、それが何か不思議ですか? 妙なんですか? どーせ、「じゃあウンタラカンタラじゃね?」とか続くんでしょ~……』

男「話が早くて助かる。できれば、包み隠さず質問に答えてくれたら、もっとだな」

男「質問責めになるかもしれないことを覚悟して聞いてほしい。今まで俺はこの部屋へ入ったことがあるか?」

男「1度でも、2度でも。それ以上多かったり。その時、俺はどんな様子でここへ?」

天使『そんなの自分知りませんけど』

男「(あっさりした返事が返される。だが、知らないなんて変な話だ) ……天使ちゃんは初めから俺の監視役として、今みたいに傍で見ていたんだよな」

男「もし、天使ちゃんが目を離している隙にという場合があっても、何度も見逃すなんてあり得ないと思う。どうだ?」

天使『ちょい待ちですよ、男くん? どうして男くんがここに出入りしてた前提で進んじまうんです?』

男「一つ、この世界に存在する美少女妹がソレを臭わす台詞を言った。二つ、勘だ」

天使『勘で全部罷り通るなら、素敵な世の中でしょーねぇ。でも、あの子たちが話してませんでした?』

天使『ここは男くんのお父さんが使ってた部屋。中は掃除が必要なほど埃っぽくなっていて、倉庫状態だったって』

男(その通りである、妹たちの話から主に父さんが使用していた。だが、それは既に過去の話だろう)

男「必要なくなって息子の俺へ受け渡したとは思えないか?」

天使「そうだとしても、汚くなってたってぐらいなんだから、結局男くんは使わず仕舞いだったんじゃねーですか?』

男「知らないのか、天使ちゃんよ。俺は自室を全く掃除しようとしない奴だ。こっちじゃ幼馴染が頻繁に片づけてくれるから清潔を保っている」

男「俺の性格上、どれだけ汚れていようが、散らかろうが、虫の巣にならん限り平気で居座れる!」

天使『ぜ、絶句……っ!!』

男「別に自分が何とも思わなければそれで良いだろ? 滅多に人を通すようなこともしないしな」

天使『おえぇぇぇ~、男くんが現実で絶対モテない理由をまたまた新たに発見しましたっ……つーかです』

天使『部屋を二つなんて、たとえ自分の子だとしても、与えるってフツーありえねぇーんじゃないですかねぇ?』

天使『男くんは勉強熱心なタイプでもないし、隔離されたここで静かにお勉強なんて絶対無いし。遊ぶにしたって二階の部屋で足りてますよ?』

男「ああ、そうだな。だがこの部屋が普通の使い方をされるのだと、どこに書かれてある?」

男(どこにいるかも分からない彼女へ見せつけるように、部屋の戸を開き、中を解放した)

天使『せまっ! さらに暗ぁーい!?』

男「見ての通りだ。俺には、いや、大抵誰もがこの中を見て普通とは考えないだろうな。ハッキリ言わせてもらえば単なる倉庫代わりの空き部屋さ」

男「しかし、倉庫代わりとしては少し気になる所が多い。まず部屋の狭さ。この程度じゃ大きな家具を一つ入れれば一杯だろう」

男「そして……天使ちゃんに感じられるか分からんが、少し肌寒い。窓もないし、日差しを遮断している為か」

男「こんな所を息子へやって喜ばれると思う父親はいないだろう。小さな子どもなら秘密基地だと感動するかもしれんがな」

天使『じゃあ なおさら男くんがこの部屋に出入りする意味なんて分かんないですよぉ!』

男「うん……そいつはどうだろう……ここに置かれてる物がな、これまた普通の部屋じゃあり得ない物ばかり揃ってる」

男「俺も見るのは初めてのものばかりだが、部屋の状態とこれ等を合わせて見てみると……この部屋は」

男「ここは、写真を現像するための暗室だったんじゃないかって」

男「父さんに写真の趣味があるなんて、俺の記憶の中には存在しない。だが、そうでもなけりゃ一般のご家庭にわざわざ暗室を作るなんておかしいよな?」

男「つまり、あったんだ。現実世界ではその趣味が。もしかすればこの世界でも同じ様に……」

男「妹や母さんは興味がなかったんだろうな。だからこそ息子の俺に譲った」

天使『……男くんは写真撮るのが好きなんですか?』

男「いや、全くと言っていいかもしれない。まぁ、それはこの世界においての俺の話だが」

男「現実での父さんは俺に友達がいない事を哀れに思ったんじゃないかな。趣味の一つもないところも含めて」

男「だから俺にキッカケをくれた。カメラだ。風景だろうと人だろうとどうでも良い、単に夢中になれる事を探させたかったんだ」

男「そして写真になんて一切興味がなかった俺だ。おそらくカメラも自分のお古をくれて……それは銀塩カメラとかじゃなかったのかな、暗室もという事は」

天使『それで、お父さんの思惑通りに男くんはカメラに夢中になったと』

男「そりゃまた分からんよ。それを知る方法は別にある……でも、退屈してた頃があったのなら興味本位にやってみたんじゃないかね」

男「良い逃げ場になっていたと思うぜ。誰かと無理に親しくなって続ける趣味でもない、一人で十分楽しめるもんだ。悪くない」

男「……でだ、何故 俺がこの部屋を覚えていなかったのか。そこが問題となる」

男(思い出すことのできない記憶は条件が限られる。バッドエンドを迎えたルート内での全て、世界の秘密に触れるもの、そして 本当の俺について)

男(俺とは何者だったのか、全てを忘れたつもりは……どうだろう。振り返ってみると、どこかしら曖昧で、自分よりも美少女らモデルのような 誰かの印象ばかりだった気がする)

男(現実世界での『俺』を覚えていたのではなく、現実世界での『俺の周り』を覚えていた)

男(誰からも相手にされず、惨めな存在としての自分。それは 周辺の人間の視線や対応から 自分で 自分につけた 自己評価ともいえる)

男(……話を戻そう。三つの条件は、この幸福の世界において不必要な感情を呼び覚ます可能性がある)

男(暗室とカメラ、条件に当て嵌まるのは……コレが世界の秘密へ触れることはないだろう……残る二つから、か)

男「後輩、見えてるんだろ? 俺の話も頭の中での考えも、全部いま見てるんだろ? 天使ちゃんを通して」

天使『はぁ? 男くん?』

男「この子はお前の目でもある、後輩が言ったことだぞ。そうやってずーっと俺を見てきたんだな?」

男「知っての通り、朝っぱらから散々考えているんだけどな。遂に気付いたよ、俺は」

男「この暗室は写真の現像の為に作られた場所だ。おそらく俺も以前はお世話になっていたんだろう」

男「けれどもだよ、後輩。俺の手元にはカメラなんて残っちゃいない。おかしくはないか? メモや撮った写真もしっかり残る筈なのに、カメラだけが記憶と一緒に消えるなんて……そこで俺は思う」

男「実は消えたわけじゃない。何処かで無くした……あるいは、誰かに渡した……のではと」

男「後輩、前に一緒にデートした時のことまだ覚えてるか? あの時 お前が持ってるフィルムカメラについて会話しただろう」

男「あのフィルムカメラは、実は後輩の物じゃない。そして言った、今はその人の手から離れて 私の元にあります、と」

男「俺が貰ったのかと尋ねたら、うん、と頷いてくれた。……俺だったのか?」

男(待てども後輩が答えてくれはしなかった。てっきりテレパシーのような力でもあるかと期待したのだが。それでも口は塞がらなかった)

男「もしそうだとしたら、お前の趣味に影響を与えたのも俺ってワケになるんだろう?」

男「お前にいつプレゼントしてやったのかは忘れた。きっと特別後輩と親しかった時期に、あの屋上で、とかじゃないかと思ってるが」

男「だから、もう一度訊きたい。俺とお前は本当に付き合っていたのか? 恋人同士だったのか?」

男「もし そうだったとしたら……どうして俺は絶望して、終わらせてしまったのか。もしかして! カメラについて思い出せないのはその時が原因だったりするんじゃないか!?」

男(後輩が神の使いだとしても、なぜ愛想を尽かさず助けてくれている? もはや義務からではない事は確かなのだ。明らかではないけれど)

天使「あの~、男く~ん……」

天使「さっきから誰に向かって喋ってるんですかぁ? 自分が後輩ちゃんの何ですってぇ?」

男(いつの間にやら姿を現した天使ちゃんが、困ったように、可笑しい、と複雑な笑みを浮かべてそこに立つ)

男「そうだ……天使ちゃんは俺が後輩と付き合っていたか分かるよな? さすがにそれぐらいは見ただろ?」

天使「え? まぁ、見てましたけど」

男「じゃあ最後はどうなった!? 俺は後輩に別れ話でも持ちかけたか!? それは逆か!? どうなった!?」

天使「そんなことしてた覚えありませんよ?」

男「何だと? それならどうやって次週に向かったというんだ。俺は勝手にどうでもいい場面で絶望したと!? 自滅か!?」

天使「ええっと……まず何て説明しましょーか……その、アレですよね! あの子って変わってやがると思います!」

男「変わってる? まぁ、否定はしないが、それはどういう面でのことを言って――――」

天使「だって お付き合いしてるにも関わらず、その彼氏である男くんを別の相手と仲良くさせようとしたんですよ? ていうか、させちゃってましたし~……先生ちゃんと」

ここまで

男「先生? 待てよ、どうしてそうなる? 交際中に他のキャラと仲良くさせた?」

天使「はぁい」

男「俺は後輩と付き合いながら先生とも、という事か?」

天使「そうなりますね。自分が見てる限りでは」

男(それって、とまで口から出かかるも、喉を鳴らして台詞を飲み込む。言葉にした瞬間 自分が混乱してしまうかもしれないと)

男(天使ちゃん曰く、俺と後輩は間違いなく恋仲であったという。では、何故そうなった上で後輩は先生へアプローチをかけさせたのか?)

男(ひょっとすればだ。彼女の勘違いからそういった紛らわしい話へ湾曲されたとも考えられる)

男(その時の俺は、後輩ルートへ入ったにも関わらず、ハーレム達成の為に先生へ向かった……すなわち、二股上等で行動を取っていたとか)

男「なぁ、実は後輩関係なしで、俺が先生と仲良くなろうとしていたんじゃないのか。天使ちゃんも俺の目的は知ってるだろ?」

天使「いいえー けっして自発的になんかではー」

男「なら、その証拠は?」

天使「証拠とか言われても、ねぇ……しいて言えば、そういった計画や作戦なんかを、いつからか あの子が男くんに吹き込んでましたよ」

天使「男くんてば複雑そうな顔して、ただ うんうんって。どんな話された? って聞いても勿論覚えてるわけねーですよねぇ~!」

男「あぁ、何じゃそりゃって感じっ……大体 彼氏を別の女に近寄らせるのは普通か! 全然っ、異常だとも!」

男「後輩にとってもメリットなんてない。アイツ、まさか歪んだ性癖でも持ってんのか? だとすりゃ 俺以上の変態じゃないか?」

男(嫌味臭く天使ちゃんを介して聞いているであろう彼女へ送る賛辞、「変態め」)

男「美少女の上 変態とか……悪くねーな……許される」

天使「顔って大事なんだって思い知りましたか、男くーん?」

天使「まぁ、自分も見ててチンプンカンでしたけど、特に問題なかったですし、生温かぁ~く見守ってやりましたとも。ね、変わってるでしょう?」

男「確かに変わってる。何の考えもなしにやらせようとする行為でもないだろう。そして、俺の知る後輩はバカじゃない」

男「だから、考えあっての浮気大作戦なんじゃねーの、と。今は二股どうこうよりも、どうやって後輩先生ルートを終えたのかだ。そこにカメラはどう関係していたかもおまけで付け足す」

天使「どうやってって……さぁー……単に男くんと後輩ちゃん二人に共通するアイテムがソレだったという事じゃないですか?」

男(そう、それは思った。しかし、後輩イベントにはほとんどカメラ・写真に関係する会話があった筈である)

男(後輩は神の使いの為、他のキャラ同様 記憶を忘却される事はないのだろう。現に後輩は覚えている体で説明していた)

男(彼女は世界の事情を知っている。ならば、俺が絶望を生んだ時間の記憶を呼び覚ましかねないワードを、一々出すか? それは問題なかったから?)

男「問題なかった? ……『カメラ』は、後輩(先生)バッドエンドとは直接、いや 間接的にも……関係ない、か?」

男「じゃあ残る条件から――――――!」

妹「何一人で喋ってんの……?」

男(推理に熱が入ってきたところに、頭から冷水をかけられた、そんな気分だった。振り向けば壁から恐るおそる こちらを覗く小さな頭が)

男「お、お前にはコレが一人に見えてるのか!?」  妹「ぎゃあああぁぁぁ~~~っ!?」

妹「もう家出するっ!! ねぇ、引っ越ししよう!? この家やばいっ!!」

幼馴染「大丈夫、だいじょうぶ、きっとマミタスと話してただけだよ。ね?」

男「うっ……右手が勝手に妹を撫でようと動きやがるっ……!?」ナデナデ

妹「あああぁぁーーーっ!!? で、でも[ピーーーーーーーー]///」

男「忙しない奴だな、あぁ、右手に宿った悪霊も生き生きしちまうっ……!」

幼馴染「お祓いって食塩でも平気だと思う?」

男「止めてくれ、幼馴染。それは塩じゃない。味噌だ……」

幼馴染「もうっ! 朝から調子に乗り過ぎです! 悪ふざけでも紛らわしい事しちゃだーめっ」

男「っく……あざといが今の悪くなかったぞ。もう一度叱ってくれないか。次は何をしたらいい?」

幼馴染「ご飯食べて、歯磨き洗顔、寝ぐせ直し! さっさと学校行く用意に決まってるでしょ! 10分で仕度!」

男「10分? 無理に決まってる。延長戦は免れないよ」

幼馴染「男くんは試合開始まで遅すぎるのっ、もぉー……ん……」

男「……あの、別に今さら飯食う時に見られてるのには慣れたが。どうした?」

幼馴染「えっ!? あ、う、ううん! 別に、なんとなく……見てただけ……えへへ」

幼馴染「……///」  男(わざと頬に米粒つけておこうかしら)

幼馴染「ほら、男くんだってやればできるんだから。いつもより2分は早く家出れたよ」

男「俺にとっちゃ1分も2分も大差ないし、いつもが丁度良いんだよ」

幼馴染「そう? 早い方が絶対いいと思うな……だって、その分」

男「(ぎゅう、と空いた手を柔らかな感触が包む。何も言わずにその手を取って、握り返してやれば、彼女は可愛らしく声を小さく漏らした) 何だって?」

幼馴染「二人でゆっくり歩ける、よね……?///」

男(いつもの登校路が輝いて俺の目に映っている。アスファルトから青々とした空まで、まるで祝福しているようだ。今日から新たに始まる生活を)

男(手を繋ぎ、時には肩を寄せ合うたび、遂に幼馴染ルートへ突入したのかと実感が沸き立つのである。会話なんぞ無くとも俺たちは分かりあえているだろう)

男(他の美少女の襲撃も珍しくなく、ゆったりと幸福に浸りながら歩みを進める。どうしよう? たったコレだけでこの充実感。もう、吠えそうだ)

男「なぁ、ちょっと俺に向かって好きって言ってくれないか?」

幼馴染「ええっ……ん、あの、どうして……?///」

男「じゃあ、俺は幼馴染が大好きだよ。お前はどうなんだ?」

幼馴染「それずるい……///」

幼馴染「……す、好き。あたしも男くん大好き。ずっと、ずーっと、大好き……っう……///」

男(やはりである。難聴スキルが発動しない。フィルターへ引っ掛かりそうな言葉全てが、ありのまま、耳の穴へ飛び込んでくる。すれば)

男「うひっ! うくくっ、は……はぁああああーん……し、しんじまう……ッ!」ビクビク

男(ずっとハーレムを夢見てきた自分がバカらしくなるほどの[ピーーー]。苦しめられてきた甲斐がある。耳からマグマが溢れそうだ)

男「……え、えぇ? 聞こえなかったよ。幼馴染、今のワンモアだ。さぁ、プリーズ」

幼馴染「お、男くん大好き……!」

男「ふふんっっっーーーッッああぁぁぁあ!! も、もう一度っ……おおおぉぉぉ、もう一度頼むっ……!」

幼馴染「だいす……な、何回も言わなきゃ伝わってくれないの? ワザとでしょ?///」

男「ワザとに決まってるだろッ!?」  幼馴染「へ、へんたい…っ///」

男(何と言うか、幸福に包まれて昇天もおかしくない状態かもしれない。難聴スキルよ、さらば。歓迎しよう、我が春よ)

男(神よ、世界よ、こうなったら全てに感謝である。俺はあなたたちのお陰で可愛い美少女を手に入れました。結婚も視野に入れています)

男(可愛い上に気が効くし、料理も美味いし、家事全般何でも任せられます。時々怖いけど そんな彼女の一面も今じゃ愛おしくて堪りません。[ピーーーー]で胸いっぱいに)

男(……喜びに、自分が壊れてしまいそうだ。早くからこうなろうと動いていれば良かったのに。ワケの分からん足掻きをすることなく、美少女へ身を委ねていれば、もっと早くから)

天使「目覚めよ、変態バカ野郎!!」ガンッ

男「っ~~~!? ……あ、え? あれ?」

幼馴染「男くん?」

男「あ、ハイ……すまん、少し別の事考えてたみたいだ。歩こう」

男(俺は今さっき何を思っていたのだ? 意識が、遠のいていたような。何かに、引っ張られていたような気が、する)

男(別れの時がやってきた。惜しい、実に惜しい。幼馴染の言う通り もっと早くから仕度を始めていれば長く二人の時間を作れたのに)

男「どうして幼馴染と別のクラスなのだ……残酷すぎる、一分一秒でも一緒にいたい……幼馴染、おさななじみ」

天使「狂ってませんか、男くん?」   男「正常な思考からの正直な気持ちだ!」

男「恋人を欲して何がおかしい? そうだな、幼馴染がいないと今の俺はすぐに狂っちまいそうだ。おかし、く」

天使「ははあ……分かりましたよ。幼馴染ちゃんにお熱すぎて自分を見失ってやがりますね?」

天使「男くんの力が、この世界が、幸福にブーストかけて コレで良い と納得させようと働いているんでしょうか」

天使「男くんカムバック! このまま変になり続けたら夢だったハーレム計画も終了ですよ! それで良いんですか!?」

男「……良いって、天使ちゃんこそ邪魔していいのか?」

天使「……へ?」

男「だって、天使ちゃんたちは俺がどんな形であれ幸せにさせるのが目的なんだろ……さっさと終わらせろってお前も言ったじゃないか」

男「だったらさ このまま放って置いて、俺とアイツがイチャついてハッピーエンドを迎えさせるのが両者とも嬉しい話だ……!」

天使「しょ、正気ですか!? 本当の本当にそれでOKなんですか!?」

男「今さら何言ってるんだよ、天使ちゃん。むしろ、ダメなのか? 念願叶ったりだろ」

天使「そりゃあ……で、でもでも! しっかりしろってんです! 冷静になりましょうよぅ!?」

男(言ってることもやってることも、コイツ支離滅裂だな。やれと言ったくせに、次はそれでいいのかだと? バカにしているのか)

天使「それに、夢だけじゃありませんよ! 他にもやる事あったんじゃないんですか!」

天使「幼馴染ちゃんとくっ付いたら、他の子はどうするんです? 全員男くんの大好きな美少女でしょうが! また殴りますよ!」

男「構わん、俺は幼馴染と添い遂げる! 一夫多妻制もない日本で他の奴らをはべらせてどうなる! 一人の美少女へ応えるのが主人公だろう!」

天使「い、今までの自分全否定してまで……ていうか、自分もどうしてこんな必死になって」

天使「んー……あっ……///」ボンッ

天使「うぅ~……自分は、もう 自分がわからねーですよっ……ど、どうして こんな人間の屑に……!」

男「おい、どうした? 怒ってるのか? 悪いがそれでも俺は幼馴染を諦める事は」

天使「……です」

男「は? 何て言ったのか聞こえんぞ。ハッキリ喋ってくれ」

天使「す……すっ……///」

男「だから――――」

天使「男くん好きつってるでしょーがぁっ!? 何遍も同じ事言わせるなぁー!!」

男「……好き? 俺が? 天使ちゃんが、俺を?」

天使「なっ! ……なんですか! ……文句あんですかっ……あるなら 言いやがれです……コラ、言えです……よ……///」

男「いや、文句どころか感謝したいところだね。天使ちゃん……ククッ」

天使「別に、今の関係が嫌ってわけじゃないですけど……ね? あの、その……ね?」

天使「このまま男くんが自分を相手にしてくれなくなっちゃったら、つまんねーじゃないですか。もし、本当に幼馴染ちゃんと一緒にいて最っ高に幸せだと思える様になれば[ピーーーーーーー]?」

男(驚いた。いや、後輩ですらそうなるのだから彼女とて同じ現象が起きるのだと予想しておくのが普通か)

天使「まだ自分はお別れするの早いかなーと思ってて、ですよ? えっと……もうちょっとぐらい、焦らないでゆっくり付き合うのも悪くないなー……と」

男「ああ、だから俺にどうして欲しいんだ? お前は?」

天使「もっと自分と仲良くしてましょうよ、もっと一緒に冗談飛ばし合って笑ってましょうよ……いつもの男くんに戻ってくださいよぅ」

天使「こんなんじゃ、もう二度と昨日まで当たり前だった事ができなくなっちゃうから……うぅ」

男「ハンカチいる? 鼻水つけるなよ」

天使「ずびばぜんっ……んぐ、ちーんっ!!」ブーッ!   男「鼻水つけるな言ったばっかりなんだが!?」

天使「ふぇ、ふあ……ふー……そんな事言われても出るもんはしゃーないじゃないですかぁ。って、男くん?」

男「ああ、天使ちゃんのお陰で正気に戻ったらしい。だから感謝がしたいって、ね?」

天使「わあぁぁぁ……はぁ、心配して損したですよ! お詫びにソフトクリーム!」

男「気が向いたらな、やれやれ (やれやれか。戻るも糞も、幼馴染と別れてから正気のままである。勝手に勘違いしたのも、本心で色々語ってくれたのも彼女。俺は悪くない)」

男(益々洗礼されていく我が演技。演劇部へ入部すれば瞬く間に主演を勝ち取れよう。顔が悪い? 承知の上でだとも……とりあえず一言)

男(天使ちゃん、チョロい)

ここまで

男(この子は既に男くんを無くてはならぬ存在と認識しており、ある意味依存気味と言っていい)

男(遂には恋心も芽生えたと昨日発覚、であるからしてだ)

男(何もかも投げ捨て、幼馴染ルートにお熱となった俺を、彼女はどうにか引き止めようと心理が働くだろうと読む。今の天使ちゃんだからこそ、起こした行動なのだろう)

男(……さぁ、ハッキリしてきた。自分の目的は? ゴールは? そう、ハーレム。美少女ハーレムだ。天使ちゃんとて例外ではない。美少女ならば、欲しい)

天使「好きとか言いましたけど、アレですからね。別に男くんが想像してるのと違うんですから」

男「お友達としてあの時よりも更に好きになれたって?」

天使「そ、そうです! まったく、これだから人間は低俗だってんです! すぐに恋だか愛やらを意識する!」

天使「自分は男くんたちとは違うんですからっ! 生物とか種族とかチャチな概念に縛られないのです!」

天使「だから……そのぉ……こ、恋とかするわけねーでしょうがっ!!」

男「友情を知ったのなら、程遠くもない恋愛感情にも気付けそうだと思うのは俺だけか?」

天使「自分が欠陥品とでも!? じぶんは、ただ 知らないというか……知る必要なんてないから……ちっ! 滅茶苦茶眠いからお昼寝しますおやすみっ、起こしちゃヤですっ!!」

男「おや、ソフトクリームは要らないの?」   天使「えぇ、いま買ってくれるんですかー!」

男「でも眠気が凄いんだろ? いいって、無理して起きてなくても。別に買うつもりない」

天使「チクショウっ、外道です!! さも お菓子で釣る気満々な態度取ったくせに~!!」

男「いやいや、今は無理という話……帰りに好きなの一つ買ってやるよ。俺との約束を守ってくれたらな」

男(小指を立てて突き出すと、天使ちゃんは「何だそんな簡単なこと」と二つ返事で条件を呑み、指を絡める)

男(実は彼女、食べ物を与えてくれるなら誰でも好きな人になるとかではなかろうな? 危険なロリだ、妄想が捗る)

男(という冗談は頭の中だけにしておくとし、幼馴染ルートへ突入した初日だろうと、俺の毎日は変わりなかったのである)

妹「出たぁー!?」バッ

男「うっ!? ……お守りかかげられようとお前の兄は浄化されんわ、アホ」

妹「悪霊退散、悪霊退散……南無なむなむ……!」

男「この俺のどこをどう見て悪霊に見えるんだよっ……!」

妹「お兄ちゃんが今朝あんな事言うからぁ!! それに、最近おかしい!!」

男「だから取り憑かれてるかもしれないって? お兄ちゃんは妹の将来が心配になってきたぞ」

オカルト研「悪霊と聞いて」  男「そら見ろ、お前のせいでもっと変なの呼び寄せたっ!」

オカルト研「変なのとは心外だわ、男くん。奇妙奇怪摩訶不思議あるところ 私アリ なの」

オカルト研「ところで……そこの一年生は誰? あ、待って、答えなくて結構、理解した。言わなくても男くんの心が私へ告げてくれた」

男「じゃあ初めから訊くんじゃねーよ。で、俺の心はどんな真実を伝えた」

オカルト研「それを……答える必要はないわ。[ピーーーーーーーーーーーー]」

男「ただの妹だから安心しろ (面白おかしい単語が飛び出すと思いきや、唇を尖らせてオカルト研はそっぽ向くのである。確実に勘違いされたと受け取れよう)」

オカルト研「妹……だけど彼女、あなたと似ても似つかないというか」

妹「そりゃあそうだよ。だって この人とは血の繋がりがない兄妹で、お兄ちゃんは養子なんですからー」

男「えっ、おい、何だとッ!? いきなり何言い出すんだお前!?」

妹「ありゃ どうしてお兄ちゃんが反応しちゃうわけ? そんなのウソに決まってるじゃん」

男「……頼むから、本気で心臓に悪いから、その冗談は金輪際使うなよ……いいなっ!?」

男(今さらになって俺たち兄妹の真実が明かされるなんて事はないと思いたい。冷静に考えれば、現実の妹と血の繋がりがある時点でありえんだろうに)

妹「しししっ、さっきの冗談のお返しだよ? ざまぁ見ろ~だ! [ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]」

男「なん…… (訊くまでもない。彼女は、本当に兄妹じゃなければ良いのに、とでも呟いてしまったのだろう)」

妹「[ピーーーーーーーーーーーーーーー]。[ピーーーー]、[ピーーーーーーーーーーー]」

男(妹ルートへ先に進んでいたとすれば 倫理的にマズイことが起きるのは必須だろうか。男の娘といい、先生といい、禁断の愛が盛りだくさんである)

オカルト研「突然変異というのも、ここまでハッキリ変化が見られるととても興味深い。とくに男くんは」

男「ああ、世にも奇妙なミュータントで悪かったな!! ……で、お前はこんな所で何してたんだ。偶然通りかかったのか?」

男(妹の醸し出す厄介な雰囲気を破壊するべくと、泥船 兼 助け舟な彼女へパスを渡す。すると、長い前髪の隙間で 怪しくその目が輝くのであった)

男「つまり、よくぞ聞いてくれましたって感じか」

オカルト研「ふ、ふフ、ふ……男くん、興味があるのなら 特別に教えてあげなくもない……!」

休みたいがために明日へ続く。夜ごろかな?

オカルト研「まずはコレを見せる事から全てが始まる。通常一般人にはけして読ませてはならない禁断の記録誌だけれど」

オカルト研「[ピーーーーー]男くんは特別だから……どう、ぞ///」

男(そこで赤面する意味は何かと問いたい。仰々しい紹介で渡された禁断記録誌なる物だが、どこからどう見ても単なる大学ノート。表紙には)

男・妹「『アカシックレコード』……(仮)!」

妹「じゃあ未完成ってこと?」

オカルト研「これから私たちが中へあらゆる記録を刻んで行けば問題ない。全ての現象を観測する!」

男「その全てはウチの高校限定なわけだろう? (何かと思って開けば、アカシックレコード(仮)にはオカルト研究会の研究を事細かに記していたのみである)」

男「UMA存在の証明! キャトられた中庭の亀の謎! 我が校に潜む十七不思議! その他諸々と。典型的オカルトな感じがまた懐かしい」

妹「うへー、こんな胡散臭いの全部調べてどうするんですかぁ……?」

オカルト研「ムーに送りつけて掲載してもらう。†クリムゾンファンタズム倶楽部†総員の望みっ」

男「そいつは確かにオカルト研究会冥利に尽きるな。一生渇望する羽目になりそうだが」

男「で、お前の夢は分かったけど、それとこれとじゃ質問の答えにならないんじゃないか?」

オカルト研「……遂に部活の報告会がさ来週まで迫ってきている。我が研究会は前回、前々回も碌な活動記録を提出できていない」

オカルト研「このままだと来年から、ただでさえ低く見積もって提出してきた予算案を……更に下げてと命じられてしまう。確率は特大なのよ……」

男「存外 お前も変に心配症だなぁ。まともな活動してるならその心配は不要じゃないか?」

オカルト研「ま、まともっ……とてもまともにやってる! ……でも何故か理解されない」フルフル

オカルト研「皆がこれっぽっちも関心を示そうとしないどころか、報告しては苦笑が漏れるだけ! 何故!?」

妹「期待されてないからじゃ」  男「ストレートな所は兄に似るなよ、敵作るぞ」

男「オカルト研、別にみんながみんな興味がないってわけじゃないさ。たぶん、説得性に欠けているんだろう」

オカルト研「それはどういう意味……?」

男「下積みはお前らバッチリやっての研究で、その結果を報告したまでなんだろ。その努力を上手く伝えられてないんだな」

男「(まぁ、内容が内容であるからして、魅せるのは難しいのだろう) とにかく、今回こそは全員をあっと言わせる結果を出そうとしているわけだ?」

オカルト研「そう、だから私は早速ここで活動している。男くんもさっき目にした筈よ、『我が校に潜む十七不思議』を」

男「……その不思議全てを明らかにするとか?」

オカルト研「明らかに? いいえ、不思議は不思議であるからこそ美しい。私たちは」

オカルト研「そこへ加えられんとする新たな不思議を探し出そうとしている……!」

オカルト研「または生み出す!」   男「自作自演謀ろうとしてんじゃねーかっ!」

妹「よ、よく見たらそこの空き教室に宇宙人のでっかい模型置かれてる……」

男「オカルト研よ、まさか俺たちに嘘っぱちの秘密作り手伝わせようとしたんじゃないだろうなぁー?」

オカルト研「……///」   男「諦めろ、ムーの夢はお前には遠い」

オカルト研「卑怯と罵られようが、私にはもう進むべき道が見えない。あと戻りも許されない」

オカルト研「男くん。あなたと今出会えて話ができたのは正に天の助け……ど、どうしよう」

男(オカルト研の困惑した表情に仕草はかなりレアだ。先輩とはベクトルは代わるイケイケドンドンな彼女も、人並みに悩むとは)

男(美少女が伸ばした救いの手を、この俺が払える筈もなし。主人公としてもである)

男「実はだ、オカルト研。俺は生徒会の一員でな、上手くやればお前の研究会を救うことも可能かもしれん」

オカルト研「……それなら、私は男くんへ一体何をしてあげたらいい? [ピッ]、[ピーーーーーーーー]?///」

男「(その提案に乗らせて頂くのも有りかもしれない) ふむ? 最後の方、なんて?」

妹「お兄ちゃん、まーた人の弱みにつけ込んで揺すろうと企んでるでしょ~……」ムッ

男「またとは何だ、またとは。人聞きの悪いことを! 別に企んでねーよ」

男「オカルト研、こういうのは どうせやるなら徹底的にだ。七不思議の類なんて大袈裟なぐらいが丁度良いに決まってる!」

妹「結局 秘密作りの方向で決まったんだ!? ていうか、私は関係ないよね? もうクラス戻っていい?」

男「そりゃあ俺たちにお前を引き止める理由なんてないしな。じゃあな、オカルト研と二人で精々楽しむとしましょう……ねぇ」

妹「はぁ!? そ、そんなの良くない! 禁止っ! [ピーーーーーー]!」

男「え? 何て言ったんだ? その上どうして?」

妹「だ、だっておにいちゃん変態だし……その人が危ないかもしれない、でしょ……だ、だから二人きり禁止なのーっ!!///」

男(ここでバッタリ妹とオカルト研の二人を相手にできたのは嬉しい。この美少女たちには接点がある)

男(他のキャラとの絡みが少な過ぎるのである。言わずもがな、オカルト研は仲が良いと呼べる者は俺と部活の人間ぐらいだろう)

男(妹は妹で、幼馴染や後輩とのペアしか見たことはない。家で彼女から、その他の美少女についての話題が一つも出た時はなかった)

男(最悪顔を見たことがあるとか、噂ぐらいしか知らないと思われ。……実に悪くない状況だ)

男(秘密作り。すなわち誰かを驚かせるようなバカな真似をこれから実行するしかあるまい)

男(その対象はおそらく道行くただのモブではない。俺が居る限り、かならず美少女だと確信している)

男(結果はどうなろうが、二人を美少女たちへ対面させる機会を狙えること間違いなしである)

妹「ねぇ……やるにしても、別に今じゃなくたっていいと思うんですけどー……」

オカルト研「そうは言っていられない。残された時間は僅か、この短期間で皆に認めて貰えるほどの謎を作る必要があるわ」

妹「その謎って、まさか この宇宙人ぶら下げて誰かに見てもらうとかじゃないよねっ。ね、お兄ちゃん! 恥ずかしいから違うって言ってよ!?」

男「知ってるか? 元々シュールさってのは突き詰めればホラーになるのだ、と……」

妹「どうしたらこんな玩具釣り下げただけで突き詰めてる気になれるの!?」

オカルト研「しっ! ……誰か下を通る。10秒カウント後にソレの全身を窓からさげて」

男「よしきたっ!!」   妹「ちょ、あの子後輩ちゃんだよ!?」

後輩『…………』

男「何だと!? (予想内な筈だというにそれは予想外でもあった。彼女がどの様にして学校へ移動しているか分からんが)

男「まさかバカ正直に徒歩で登校とは思わなんだ」

オカルト研「7、6、5……」

男「止せよせ! アイツにこんなふざけた仕掛け通用するわけがないぞ!」

男(気付きはするだろう。だが、クスリと笑われて終わるか、見なかった事にして早々立ち去るに違いない)

男(……いや、だからどうしたというのか。後輩は人間ではない。しかし、美少女であるならばいずれ俺のハーレムへ加わって頂くつもりだ)

男(とりあえずである。形だけでもオカルト研と知り合わせてやってはどうだろう? やり難いことこの上ないが)

オカルト研「1、0。今よ……っ!」

男(合図と共に宇宙人モドキを窓から放る。手に持つ棒の先端から一気に折れ曲がり、人形の中々な重みが伝わってきた)

男「よく確認してなかったが、あの玩具どれぐらい重量あったんだっ……ば、バカらしくなってき……!」

天使「ぎゃあああぁぁ~~~!? 降ろして、降ろしてくださいっ!?」

男(意外。いつの間にだろうか、人形の背にピッタリ子猿の如く抱きつく天使ちゃんがそこにあった。棒は、そして糸が外へ引っ張られている)

妹「後輩ちゃん気がつかないまま通り過ぎてください、どうか、どうかっ……って、どうしたの。お兄ちゃん凄く青い顔になってるんですけど!」

男「そりゃあ青くもなるってんだよ! お前も引っ張るの手伝え、中止だ 中止ッ!」

天使「うわああぁぁ~~~んっ!!」ブラーン

男(2階の窓から人形を垂らしているわけなのだが、落下すれば十分怪我はあり得る高さ)

男(天使ちゃんが身体にダメージを負うのかどうか今は確認を取っている余裕はない。それに落とせば、下を通る後輩にも被害が)

男「(あれこれ思考している場合か!) オカルト研も引けっ、危険だこれは!! おい、バカ天!!」

天使「はぁい、バカでごめ゛んなざいぃ~……」

男「いいから早くどうにかして戻って来い阿呆! 飛ぶとか、何でもいいから! できないなら黙ってじっとしてろ!」

オカルト研「男くん、誰に向かって話しかけているの? 下にいるあの生徒へ?」

男「えっ!? あ――――――」

男(その瞬間、重みに耐え切れなくなった棒が折れる。動揺した俺がいけなかった。声を出す間もくれず、人形とともに天使ちゃんが落下していく。思わず目を瞑るも、派手に硬い物が衝突した音が先に耳へ届く)

男「……て、天使ちゃん? ……冗談だろ (思わずその場へ崩れる俺。音の中に彼女の悲鳴だけはなかった。つまり、良くない光景が外にあるのだろう……ひとまず立たねば)」

妹「後輩ちゃあーーーん! だいじょうぶぅーーー? 当たってないよねぇーーー!?」

後輩「…………」

妹「後輩ちゃんってばぁあーーー! ダメだ。もしかして驚いて声も出せなくなったとかじゃ……お兄ちゃん?」

男「……すこし、不味いか」

男(立ち上がった俺が窓から見たもの、傷一つない天使ちゃんと、それを腕に抱えた後輩であった)

天使「え、え? ……あれれ?」

ここまで

男(職員室という場所は昔からどうも苦手意識がある。それは俺に限られた話でもなさそうだ、隣に立つ妹とオカルト研も居心地が悪そうに表情を曇らせていた)

先生「さて……一応聞いておいてあげましょうか。あなたたち、どうしてこんなバカな真似起こしたの」

男「その時だけは俺たちもバカじゃないと信じてやったまでです、って言い訳は通用しますかね……ねっ?」

先生「ほーう、そりゃあ良い訳だ。気に入った、反省文を放課後三人に書いてもらいますから。連帯責任よ」

男「そんな殺生なぁ!!」  先生「朝っぱらから調子に乗ったあんたたちが悪いっ!!」

男・妹・オカルト研「っ~……」ビクゥッ

先生「怪我人が出なかったから良かったものの、下手したら事故よ! 事故!?」

先生「仮にも高校生がお子様みたいな発想してふざけないで! 下級生まで巻き込んだりして、少し頭を冷やしなさい!」

男(お、俺へ対する先生好感度メーター値が今 ガクン と落ちて行ったのは気のせいだろうか。予期せぬ事態はいつも幸ばかり運んでくるわけではないらしい)

男(散々お叱りを受けた俺たちは肩を落とし、せっせっと鬼ヶ島から逃げ帰った。ここだけの話、合宿でもダラけきっていたあの人が真面目に大人をやっている姿に、ちょっぴりドキドキしてしまったのは内緒だ)

妹「私が間違ってた。私があそこで二人を全力で止める役だったんだ。選択肢ミスってた」

男「反省せよ、我が妹。人は反省することで教訓を得て成長していく生き物。お前はまた一歩、人として利口になったわけでぇー……」

妹「もはや嫌味だよ、それぇ!! お兄ちゃんと何かやるといつも碌でもない目にあってるんだからね!?」

男「……ほう、それは例えば?」

妹「前に幼馴染ちゃんが帰ったあとに二人でポッキーのやっ―ーーーっっああぁ~~~!!///」

男(台詞を途中で区切ったと思えば、突然しゃがみ込み難聴フィルターへこれでもかと引っ掛かっていく言葉をブツブツ言い出す妹である)

妹「[ピーーーーー]、[ピーーーーーーーーーー]!? [ピッ]、[ピーーーーーー]……[ピーーーーガーーーーーーーーーー]っ……!」

妹「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]ぉっ///」

男「一体その時俺とお前の間で何が起こったんだよ!? (時期こそ不明だが妹へ爆弾を投下したことがある、らしい)」

妹「ぐ、うぅ、わあああぁ~~~!!/// 聞くなバカ、無神経!! 私もう行くっ……!」

男(言うが早いか、俺を振り切るように廊下を走り去っていく妹、と思いきやすぐ 派手にビターンとすっ転ぶ。だから好きだ、俺の美少女妹は)

男「別に捕って食いやしないんだから急いで去ろうとしなくてもだなぁ……フッ」

妹「指差して笑うなぁぁぁ~~~!!/// くぅっ、ちくしょー!! 覚えとけ、バカお兄ぃッ!!」

男「良い! お兄も悪くないが、次はにぃにをリクエストしておこうか! って聞かずに行っちまったな」

オカルト研「男くん、あとで彼女へ悪かったと伝えておいてほしい。今回は私に責任があるから」

男「お前、そういう事は人に頼む前に今さっき自分から言っておけよ。アイツだってこの程度じゃ責めたりしないさ」

オカルト研「でも……[ピーーーーーー]、[ピーーーーー]」

男(隠れてしまった言葉はきっと、大好きな俺まで巻き込んでしまって申し訳ない、といったところだろうか。そんなすっかり気を落とした彼女の頭へ手を乗せてみよう)

オカルト研「ふぁ……っ?///」

男(いきなりの行動に、恥じらいの色を浮かべつつも戸惑うオカルト研。どんな美少女だろうと、弱味を見せたその瞬間こそ最大のアタックチャンスなのである)

男「大丈夫だぞ、俺はまったく気にしてない。むしろ面白がって手伝ったんだから被害者なものか」

オカルト研「あう……それでも私が余計な話を持って来なければ」

男「今回は失敗しちまったし、後先考えないで少しバカやらかしちゃったけれど」

男「まさか これぐらいでヘコたれるオカルト研じゃないだろう? 大切な部活の為なんだから頑張らなきゃな」

オカルト研「う、うんっ! ……あっ、そうね。その通りだわ。今後の†クリムゾンファンタズム倶楽部†のために」

男「そうだな。乗り掛かった船だ、俺もできる事は続けて手伝おうじゃないか。困ってる奴を見放すほど外道のつもりはないんでな」

男「とりあえずまぁ、今日みたいなやり方は避けないとな……次は呪いの手紙でも下駄箱に撒いてみるか! なんて、へへっ!」

オカルト研「……[ピッ]、[ピーーーーーーーーー]///」

男(百点満点で花丸を頂けるだろう)

男「オカルト研? ボーっとしてどうしたんだ?」

オカルト研「はっ!? あ、え……何でもない、わ。きっと悪霊が……///」

男「また俺の中に眠る悪霊とやらのせいか。ソイツが何やらかした? 逆立ちして跳んだか?」

オカルト研「お、おとこく……おとこ、くんっ……!」

男「え?」

オカルト研「……顔が……かお、ちか……い、わ……[ピーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーー]///」

男「あ、ああ! 言われてみれば確かに近寄り過ぎてたな。すまん」

オカルト研「それとっ……いつまで頭に、手を///」

男「重ねてすまん、だ (恥ずかしさのあまり体をふるふると震わせ、俯く彼女。微かに揺れた前髪の間から覗けたその表情は、自縛霊をも昇天させる威力があった)」

男(未だ離れる事なくソレを堪能していれば、焦れたように目線を上に、こちらを見る。だが、視線が交わってすぐに、開けた口を紡ぎ 急いで体ごと後ろを向けてしまった)

オカルト研「[ピーーーーーーーー]……///」

男「おい、急に様子がおかしくなったのは俺の気のせいか? 大丈夫かよ、オカルト研?」

オカルト研「だ、だいじょうぶ! だからっ! いまは私を見ないで!」

男「そう言われても普通じゃないぞ。無理しないで辛いなら遠慮なく言えよ、保健室まで付き添うから。な? (と、肩へ手を置いてやると、もはや必然か)」

オカルト研「きゃっ!?」

男「またまた、まただ。すまん……ん? 右手が柔らかいものを」

オカルト研「ひゃ、う……んっ……やぁっ!///」ジワァ

男(オカルト研を押し倒し、その上に俺が乗っている。遠ざけた筈のブサ面が再び、彼女の眼前へ。そしてこの手が押し潰す彼女の胸)

男(せっかくの状況をお邪魔する情報かもしれないが、俺たちはまだ職員室の前から移動していない。すなわち――――)

男「うおおおぉぉ、マジですまなーい! 今退くからなー!」   

先生「……そうしてくれると助かるかな」   男「……どうも」

後輩「そのダラしない顔は随分先輩にとって楽しいことが連発したという現われですか」

男「開口一番中々に的を射たコメントかもしれん」

男「たび重なるイベントで午前中からてんてこ舞いだ、忙しいってのは裏を返せば充実だよなぁー」

後輩「……」

男(授業終わりを見計らって、美少女たちの目を掻い潜りつつ辿り着いた屋上。そこで迎えてくれた彼女の様子は、けして喜を感じさせてくれなかった)

男「さっきは駆けつける前に先生に捕まってな、声も掛けられなかった。それであの子は?」

後輩「見ての通り、今はそこへ寝かせてます。私が起きろと命じればすぐにでも」

男「そうしないのには理由があってなんだな? やっぱり予想通りだ。お前は天使ちゃんを自由に操ることができる」

男「今朝な、コイツに約束させたんだよ。部屋へ帰るまで絶対に俺から離れるな、勝手に睡眠取ろうとするなって」

後輩「そうですか」

男「お前と大切な話をする時はいつだって天使ちゃんの姿はない。だから試してみたかったんだが、その必要はなくなったな」

男「後輩。お前はこの子に自分が同類だと知られるのを避けていたんだろう? いや、というより」

男「お前が俺にやらせようとしている事、やっている事を知られるのが不味いんじゃないか? 天使ちゃんや、そして神に」

後輩「すごい、正解ですよ。ふふっ!」

後輩「……ちょっと困っちゃいましたね」

後輩「ウソ、もうバレちゃいましたよね。私って隠し事下手な方ですか?」

男「そいつは俺に対して限定かもしれん。さて、バレたからには詳しく話を聞かせて欲しいよ」

後輩「知りたがり屋さんなんですね、先輩って。なーんでも頭に入れようとする」クスッ

男「何でもじゃないさ、自分が必要と思った情報だけだ。追うのは」

男「……不思議に思っていたんだ、天使ちゃんとは仕事仲間なんだろ? どうして隠し通す必要があった?」

後輩「テストとでも例えれば分かり易いですかね。私はその監視官兼助っ人」

後輩「同時にあなたをこの世界へ引き込むための、餌の一つ」

男「何だって?」

後輩「今回、この子は生まれて初めてこの仕事を与えられたんです。人間でいうところの試験。立派な神の使いへなるための」

後輩「知っての通り彼女はまだ幼い。知らない事も多く、何をしでかすか分かったものじゃないでしょう? だから私が陰からサポートする必要があった」

男「あった、というのは?」

後輩「予想外に優秀でした、この前までは」   男「悪いがかなり疑いたくなる話だ」

後輩「言ったらなんですけど、天使ちゃんをここまで堕落させたのは先輩のせいなんですから。責任感じてあげてくださいね?」

男「っ……嫁にもらえと? このロリを?」

後輩「私は、取って、と言った覚えはありませんけれど? ふふふっ、へんたい」

男(彼女からストレートにそう呼ばれると、何とも気恥かしく感じる。咳払いする俺へクスリと微笑み返し、鼻ちょうちんを膨らます天使ちゃんを優しく撫でた)

男「つまり、その、今までは天使ちゃんを監視するために美少女の中へ紛れていたと?」

男「そして……ついでに俺へ他のキャラ同等に接して、あたかも攻略可能な美少女を演じていた。俺がこの世界へさらに惹かれるように」

後輩「うーん、ちょっと足りない正解といったところです」

男「じゃあ正しい答えをすぐにくれよ、ハッキリさせてくれ!」

後輩「別に嫌々先輩と仲良くしてたわけじゃありません、私。本気で一人の『後輩』としてあなたに向き合ってましたからっ」

男「(意外な答えというか反応が返ってきたわけである。単なるフリなのか、いじけた素振りを見せるのだ) お、おい……それってどういう!」

後輩「あっ、引っ掛かった。えへへっ」

男「っ~~~……お前も冗談がお好きなようで。天使ってのはみんな個性有りまくるのがフツーか!?」

後輩「あは、ごめんなさいっ。私 先輩があたふたしてる所を見るのが好きで、つい」

男「悪趣味の一言に限るなっ……!!」

後輩「そうですか? 好きな人が時々見せてくれる表情って魅力的だと思いません?」

男「な、何だってー? ……とっ、ところでお前、腕は平気なのか? あの時落ちてきた天使ちゃんキャッチしたんだろ?」

後輩「こういうとこで逃げちゃうのは女の子に対して失礼だとか思わないんですか? せーんぱい?」ニコ

男「あっ、あっ……アホかお前っ!?///」

ここまで

男(攻略されている美少女って、実際こんな感じだろうか? 隙を突かれてズブッと手を入れられて、心臓を鷲掴みされるような)

男(体を寄せて迫る後輩に対して俺は目を背ける事しかできずにいた。人を小バカにしたような笑い声さえ、背筋を撫ぜられ、ゾクリと感じてしまう程に体は敏感になる。正にまな板の鯉の状態と例えよう)

後輩「……冗談ですよ」スゥ

男「うひぃっ!!? ……よっぽど人をからかうのが好きみたいだな、性悪めっ」

後輩「はい、でもそれは先輩限定ということで。嫌いじゃないでしょう? こういうシチュエーション」

男(否定できず、黙って微笑む彼女の美少女顔に呆れた溜息を吐くのでやっとであった。飽きないだろうな、こういう子が彼女になってくれたら)

後輩「今ので質問には真面目にキチンと答えたつもりです。じゃあ次、ありますよね?」

男「そいつは勿論だとも。お前が天使ちゃんへ正体を明かそうとしないワケはとりあえず把握した」

男「でも、それは神側としての事情からの話。気になっているのは、例のお前がやろうとしている事が奴らへ気付かれてはならないという謎」

男「コイツを開けさせて、記憶を取り戻させようとしているのも……本来マズいんじゃないか?」

男(箱を取り出し、突き付けるようにして向ける。傾けるたびに重みを感じるということは、確実に中に何かが収まっている)

男「お前が言った『全部無駄になるかもしれない』の言葉の意味はまだ分からんが、俺が過去の記憶を取り戻したら」

男「前週、そのまた前週で味わった絶望の感情まで思い出す羽目になるだろう。この『完璧すぎる幸福の世界』でソレは不純となる……つまり」

男「後輩。お前は俺を介して神の狙いを滅茶苦茶にしてやろうという魂胆なのか?」

男(神へ知られてはならない彼女の行動、俺の記憶を利用して、その俺をも世界から排除し)

男(俺が真の幸福を得る、という絶対の目的をおじゃんにする。表面だけをなぞって見てみれば、全ては彼女による神への反逆として辻褄が合うのだ)

後輩「そんな事をして私にどんな得があると思ってるんです?」

男「さあね。たかだか猿に神聖な方々の思考なんぞ読める気はせん」

後輩「ぶぶー。先輩初めてのハズレですね、残念でした!」

後輩「私たちのような存在がたとえ何かを企んだとしても、無駄ですよ。邪魔してやったと満足に思う気持ちは一にも満たされませんから」

後輩「だから、あの方の与えられた使命をただ全うするだけが全て。それに、私たちが存在理由しているただ一つの理由なんです」

男「……言い方は悪いが、人間さまの為に働くロボット」

後輩「ですね。 ふふ、でも私たちの生き甲斐って尽くすことですから。自分の境遇を恨んだ事もありません。あの方、神を尊敬してます」

後輩「どうでもいい身の上話はここまでにして、なぜ私が天使ちゃんへ秘密を明かそうとしないのか。勘の良い先輩なら私の境遇から察してくれるんじゃないですか?」

男「ふむ……俺は、お前たちをロボットと例えたな? ロボットは命令者の指示に従って作業を次々とこなしていくんだ」

後輩「でも、ある日そのロボットが指示から外れた行動を取ってしまった。すると?」

男「修理。……正常に戻らなければ、処分、だろうか」

後輩「ええ、やっぱりそうですね」クスッ

男(そう答えて微笑んだ表情の裏に、彼女なりの強がりが見え隠れした気が俺にはした)

男「あ、あの……お前も記憶を消されて、まっさらな状態へ変えられてしまうと? 忠実な操り人形へ戻るように」

後輩「いいえ、残念ながら」

男「……処分?」

後輩「役目を正常に果たすこともしないで、遊んでいるような悪い子はみーんな消えちゃいます」

男(屋上の縁へ立つフェンスまでぴょんと跳ね、それを掴む後輩。小さくて可愛らしい背中が何を語ろうとしているのか、よく分からない)

後輩「人とは違うんです。生まれ方も成長の仕方も、何もかも。この体だって偽物ですしね」

後輩「いくらでも替えが利くっていうのは嫌ですけれど、シビアな話、私たちはこうやって[ピーーーー]するしかないんですよ」

男「ごめんな……何も言ってやれる言葉が俺には見つからない」

後輩「いいんです、ただの冗談なんですから。いつものくだらない私の冗談」

男(ならば、振り返って悪戯そうに笑う後輩を見せて欲しいものだ)

後輩「親も兄弟も、家族はいないんです。知り合いなんて誰も。そこの天使ちゃんだって理解してる筈ですよ。どう足掻いても孤独なんだって」

後輩「ですから消えるのが怖いなんて変ですよね? おかしいんです、こんなの。……でも先輩」

後輩「わ……私、おかしくなっちゃったみたいで」

男「いや、おかしくなんて……全然……」

後輩「おかしいんです! こんなに怖いと思うなら、始めから何もしないで先輩がいるここで、ただ『後輩』として生きていれば良かったのにっ!」

後輩「何もしようとしないで、与えられたことに従っていれば良かった! あなたが満足するその時まで待っていれば良かった!」

後輩「私ってバカです! 自分のバカさ加減に呆れるし、嫌々する!」

後輩「っー……!」

男(彼女の独白に、俺はただ唖然となって固まるしかなかったのである。ここまで感情的になるのか? 後輩が?)

男(だけど、今こう思ってしまうのは失礼極まりないだろうか。彼女が、天使、としてではなく、一人の美少女、として俺には見えた)

男(人間味がある。俺たちと何も変わらない誰かじゃないか)

後輩「……でもね、先輩? 私どうしてこんな風になっちゃったのかもう分かってるんですよ」

後輩「その原因 気づいちゃったんです。ううん、気付かされたというか……どこかの誰かさんに」

男「そう、だったのか」

後輩「私もね、先輩みたいに変わってしまったんです。面白いと思いません? これまでだって色々な人間とも出会ってきたのに」

後輩「……自分の変化って何がキッカケになるのか分からない物ですね。ああ、不思議」

後輩「くだらない冗談、ここまでにしときます? あはっ……」

男「なぁ、お前言ったよな。自分には家族はいないし、知り合いもいないと」

男「それは俺では役不足だろうか?」

後輩「……」

後輩「足りて、ますよ。足り過ぎちゃってるぐらい。十分過ぎるほど」

後輩「気遣ってもらってごめんなさい。そう言って貰えるだけでもとっても嬉しい」

後輩「ありがとう……」

男「いや……いや」

男(たとえ聞こえずとも、言葉にされなくても、俺には分かる。後輩よ、お前はいま心の中で何かを言った)

男(思い上がりも甚だしいかもしれない。だが、俺は彼女から面と向かって言われたのだ)

『先輩。私、やっぱりあなたのことが好きだったみたいです!』

男(彼女は、この俺 『男』のせいで変わってしまった。今回の件は自分なんて関係ない、この俺だけの為に動こうとしてくれている)

男(自らを危険に晒す様な真似までして、委員長を救わせようとしてくれている。何故? そこまでする価値はあるか? 義理立てする必要は?)

男(……彼女、後輩は天使から人へ堕ちてしまったのだろう。それは、人の心を持ってしまったと同義か)

男「ロボットには理解できない非合理的行動ってあるんだろうな。生き物にしか分かれない理由ってのが」

後輩「え?」

男「お前はそれに気付くこともできたし、自覚した。もうお前は操り人形なんかじゃないよ」

男「お礼を言うのはこっちの方だ、後輩! 俺はお前に感謝して謝らなければならない! 俺なんかゴミがお前から」

男「こんなに好きでいてもらっていたなんて……信じられない」

男「鈍感だとはもう言わせねーよ、後輩! 俺はお前の重みになってる!」

男「だから無神経にあんな事を言うのはダメだって分かってた! 分かってたんだが、どうしても言わなきゃいけないと思ったんだ!」

男「後輩は俺に尽くしてくれている! そのせいで自分の生き死に関わる事態まで追い詰められ、死が恐ろしくなった!」

男「どうしてか!? お前、俺のことが好きになっちゃったんだろ……消えるからじゃない、永遠にお別れするのが嫌なんだって……!」

男「二度と俺に会えなくなるのが怖いって!! 大好きだから!! 自惚れか!? それで一向に構わんッ!!」

男「構わないから……何も言わずに、隠してまで、尽くそうとするなよ……愛が重いじゃねーか……!」

後輩「……先輩」

男「何だ!? 違うなら違うとハッキリ言ってくれ!! いま人生一番に恥ずかしい!!」

後輩「ぷっ」

後輩「あははははははっ、ふふ、ははは! っく、ふ……ふふ、あはっ……あはは……!」

男「あっ……な、何なんだよ急に!? まさかそれで返事のつもりか、お前!?」

後輩「い、いえ……ふふっ……そうじゃなくて」クスッ

後輩「ダメじゃないですか、そんな事に気づいちゃ」

男「!!」

後輩「ダメですよ、本当に。どうして言っちゃったかなぁ……だめ、なのに……もうっ、そんなこと言われたら……わ、わたし、わたしっ」

>>224台詞訂正
後輩「だから、あの方の与えられた使命をただ全うするだけが全て。それに、私たちが存在理由しているただ一つの理由なんです」

後輩「だから、あの方の与えられた使命をただ全うするだけが全て。それだけが、私たちが存在するただ一つの理由なんです」

後輩「どうしたらいいか、わからなくなっちゃうじゃないですかっ……迷っちゃうじゃないですか!」

後輩「もっと、おかしくなっちゃうかもしれないよぉ……っ!」

男(涙をぽろぽろと床へ落とし、染みを作って、そんな事など構わないと制服の裾をすがる様に掴んで来た後輩)

男(確かに俺が突き付けた言葉は彼女をよく惑わすかもしれない。酷な真似だ。だが、気づかないフリをして黙っている事は正解か?)

男(けして違う。知らず内に美少女、いや、後輩を利用していたなんて許せるものか。どんなに残酷だろうと向き合わなければ。俺にはその必要がある)

男「……どうしてそこまでして委員長を助けさせたかった? 本当のワケを聞かせてくれよ」

後輩「あなたが、それを望んでいたから」

後輩「あなたは、先輩はあの人を見捨てられないんです。何とかしてでも助けたいと思ってる」

男「そうだとしてもお前に何の関係がある? 俺個人の問題だろうに」

後輩「……忘れたなんて言わせませんよ? しっかり聞いちゃったんですから、私」

『自分にとって大切な人が困っているのを見るのは、楽しいか? 俺は悲しい』

『だからな、後輩。俺は不思議じゃないんだよ。至って普通のどこにでもいる奴さ』

『偶然 自分にできる事があったから、それで大切な人を助けられるなら……やるんじゃないか? お前も?』

男「……あの臭い台詞が決め手かよっ」

後輩「あ、これだけじゃ欠けてましたか? ふふっ」

今日はここまででまた明日よん

後輩「でも先輩、私はあの言葉に本気にしてるんですからね。あんなカッコいいこと普通じゃさらっと言い切れませんもん♪」

男「へっ、遠回しにバカにしてるだけだろうが? 俺も俺で役に熱が入ると感情的になり易いタイプらしい。昨今嫌われる主人公らしい偽善者っぷりだぜ」

後輩「偽善? 自己満足でしょうと、それで人助けが叶うのならどう思われたっていいじゃないですか」

後輩「それに、この事は他に私しか知らないんですから。どんなに捻くれてても、誰かを思いやれる先輩が素敵だと私思ってます」

男「冗談だろう?」   後輩「恋は人を盲目にさせちゃうんですかね? えへっ」

男「……お前の方こそよくそんな恥ずかしいコメントがぽいぽい出てくるもんだと言ってやろう!!」

男(泣いたと思えばすぐにいつもの調子を取り戻している彼女である。不満とは思わない、安心で胸いっぱいにさせられた)

男「大体あのカッチョ良い台詞は幼馴染の為を思って言ったもんだ! 俺が助けようなんて思うのは美少女のみ!」

男「悪いがたとえ贔屓目で見たとしても、俺の知るあの委員長は特段可愛い顔しては……!」

後輩「じゃあなぜ彼女の頼みを引き受けたんです? 彼女の何があなたを引き付けたの?」

男「それは! ……そんなのまず俺が知るものか。頼まれたのは前週の俺だし、会って話をしたのもそいつだ。俺はメモに書かれている事を、ただ……あの」

後輩「どうでも良いと思っているなら、知らんぷりもできましたよね? なのに、先輩は今でもかならず頭の片隅に彼女の存在を置く」

後輩「なぜなのか、ご自分で理解してますか? 先輩?」

男「それは……正直に話せばよく分からん。どうして俺が関係ない奴の面倒を見なきゃいけないんだって思わなくもない」

男「だけど、不思議と放っておけなんて気になれんのだ……自分のことのように彼女をどうにかしなきゃいけないんだと考えてしまって、さ」

後輩「それは、心配してるからじゃないんですか? 記憶から理由が抜けていても、心の中で」

後輩「本物のあなた自身が、彼女を大切な人の一人と思っているからでしょう。だから自分にできる事を探して、やろうとする」

男「大切って、俺は現実じゃあの子と一度しか会話しちゃいないぞ!? 親友でもなければ恋人でもなかった!!」

男「まさか実は俺が彼女との何か、大切な繋がりまで忘れているっていうのか!?」

後輩「先輩の中になる『大切』の定義って何ですか?」

後輩「大事な友達だから大切だ、家族だから、愛してる女の子だから。どれも確かに普通の人が想う大切な誰かですよね?」

後輩「でも……それだけが大切の括りでしょうか。個人としてはどうとでも考えられる。違いますか?」

男「お前が言いたいのは……ただクラスが一緒なだけな奴でも、そうなれると? 誰も相手してくれなかった俺に声を掛けてくれた子というだけの理由で?」

男「バカバカしいな! 思春期の中学生どころか、ドーテイ拗らせた哀れな野郎じゃねーかよ、これじゃあ! 恰好だってつかん!」

後輩「先輩は助けるという行為にカッコ良さとか求めてるんですか? 委員長さんを助けようと考えたその時、他に誰かへそれを公言していたと思いますか? アピールは?」

男「言ったって、誰が信じてくれるっていうんだ。きっとバカにされて終わるさ」

後輩「他の人はあくまでこの世界で日常を生きる人間ですから、そうかもしれませんね。それで、先輩は助ける事をやめようとしました? ……してませんよね?」

後輩「たとえ誰かにカッコ良いところを見せられなくても、先輩は彼女の助けになろうとした。それって、あの人を大切に思うからで全ての理由になると思いませんか?」

男「どうだか? 恩返しを期待したか、惚れさせようとか邪な考えでだ、どうせ……」

後輩「それはあなたにとって彼女にその価値があるから、でしょ?」

男「……」

後輩「えっと、こういう状況を何て言うんでしたっけ……あっ、ふふっ、論破?」

男(彼女の言い分は間違っているとバッサリ否定なんてできなかった。明らかに俺は委員長をどうでもいい存在と考えちゃいない)

男(魅力ある美少女なんてワケでもなし、ただの芋くさい図書委員長。それでも俺は[ピーーーーーーーーーーーーーーー])

後輩「先輩、私はきっとあの言葉こそが今のあなたを表しているんだって信じてます」

後輩「自分をただの偏屈で孤独な人だと思っているかもしれないけれど、そんなものは周りがそう思わせているだけ」

男「だからそう思い込んだ……? 人は自分の鏡だと言うだろうが」

後輩「ふふっ、私は人間じゃありませんけど、どうです? 人の心も簡単に読めるんですよ、私」

後輩「先輩に惹かれた私は単なる物好きなんでしょうかねー?」

男「ああ、俺から見ればな。変人の域だ」

後輩「変人結構。私は先輩のどんなところが素敵か何個だって言えます。それだけあなたの中に色んな魅力を見つけた」

後輩「こんなちっぽけな存在の私ですけれども、好きにさせちゃったという事、覚えててくださいね?」クスッ

男(一体この俺のどこから惚れる要素を掘り出したのか謎すぎる。美少女後輩としての彼女へは、ハーレム達成のために、何度も接して、落とそうとしただろう)

男(だが、本質としての 『天使』としての彼女が自然に惚れてしまったというのは……嬉しいが、実に不思議で仕方ない)

男「ふっ! つまり後輩チョロい!!」  後輩「そうですね、自覚あります」

男(何もしなくとも勝手に猛烈アタックを仕掛けてくる美少女たち同様彼女もそうであると)

男(否である。後輩は『男』という人間を全て知った上で、ここまで。……悪趣味とこれ以上自分を貶し続けていると、自尊心って物が分からなくなってくる)

後輩「先輩は、私が幼馴染さんにストーカー紛いな事をしていたのに本気で怒ってましたよね」

男「え? あ、ああ、そりゃあ誰だって腹が立つだろう……大切なびしょ、大切な人を困らせるような事をする奴には」

後輩「ねぇ、先輩。先輩にとって私、後輩という子は幼馴染さんと同じ様に大切でしたか?」

男「当たり前。お前だって美少女よ、俺はお前らでハーレムなんて作ろうとしてるんだぞ。大切でないわけがない!」

後輩「そんな子がストーカーの犯人だと知ってなお、あなたは私へ正面から向き合って怒りましたよ」

後輩「どんな気分でした?」   男「さっきから悪趣味だぞ、お前…」

男「良い気分になると思うか? 正直どうしたら良いかと迷ったし、関係を崩してしまったらと怖くもあったさ。それでも幼馴染に安心して欲しかった」

後輩「だから勇気を出して私へと。今さらまた謝るようですけど、ごめんなさい。先輩を試すようなことをしてしまって」

男「ま、待て!? お前昨日言ったよな!? 真面目に話して、あなたを知るためとか! 話をしたかったからとか――――」

男「――――あっ」

後輩「ふふ……本当にあなたへ手を貸して後悔しないかなんて、その時は決められなかったんです」

後輩「あんな形で試すなんて最低だとは思いましたよ。でも、これが一番ハッキリさせられるんじゃないかなって」

後輩「だから、辛い思いをさせてしまって、ごめんなさい。自分勝手であの人まで利用してしまったことも」

男(後輩が犯人だと疑い出した始まりは、カメラに収められたあの写真から。それ以前からも幼馴染は誰かに撮られていると不安がっていた)

男(あの行為はけして嫌がらせのつもりからではなかったというのか。最初から、カメラ=後輩というキャラの設定から自分へ注意を向けさせる為に、仕組んでいたのか)

男(わざわざ他と比べて頻繁に顔を会わせる幼馴染を選んだのも、俺へ助けを求める確率の高い彼女だったから)

男「……いつから、あんなの企んでいた?」

後輩「そうですね、前の先輩に私からデートへ誘った頃からでしょうか? ううん、もっと前からだったかもしれない」

男「俺に嫌われるかもしれないと分かっていて?」

後輩「ええ。私が勝手に始めたことなんですから 文句は言えませんよ」

後輩「それにその頃は先輩が好きだとか気づきませんでしたし、自分でもどうしてかなぁーと思いながら……でも」

『あなたを、先輩のことをこれまでずっと見てきました。でも分からないことがあった。それが今日ハッキリしました』

後輩「……ねっ?」

男「阿呆か、あるいはバカか、何とでも言える。お前ほど酷いバカ阿呆は見たことがない……」

後輩「あ、あの、ガッカリさせちゃいましたかっ……私ってこんな子なんだって……?」

男「違う。そうじゃなくて……後輩っ……」

後輩「は、はい」

男「俺は……お前みたいなバカが、嫌いじゃないよ……」

また明日も

男(事の真実を日を跨いでようやく聞かせてくれた彼女。先日、同じ様にこの場所で語られた時は何も掴めずに俺はいた。だが、分かってしまったのだ)

男(隠された謎へ迫る言葉が難聴スキルによって妨害されてしまうから、仕方なしに、真実を霧へ包むような会話で誤魔化していたとばかり あの時は思わされていた)

男(そうではない。何もかも自分の気持ちを知った上で、俺を心配させまいとした。神側の都合で手伝うなんてウソだ、何もかも俺を想って)

後輩「なんだか、私って想像以上に弱いですね。余計なことを言うまいと思っていたのに、考えるより先につい口走ってしまう」

後輩「ずっとずーっと、先輩には内緒にしておくべきだった事とか……へへ、ポンコツですかね」

男「まだ俺に秘密にしてる話があるんだろ、お前のことだから。そこまでは、問い詰めるつもりはない。だから安心してくれ」

後輩「ええ、それじゃあお言葉に甘えて」

男(力なく微笑んだ後輩はフェンスに腰を預け、日にかざしてキラキラ輝くカメラを黙って見つめる。そんな放心気味の彼女の隣へ立ち、俺は考える)

男(後輩の言う通り、俺は委員長を助けなければならない。いや、助けたい、事情を知る知人は俺だけなのだ。手を差し伸ばしてやらなければ)

男(その方法と知識は既に受け取った。しかし、盈満の咎めとも言うべきか。トラブルにより天使ちゃんへ後輩の存在が普通ではないと怪しまれた、だろう。恐らく)

男(天使ちゃんは神への報告の命も引き受けていることから、自分へ報告されていない『予想外』を神へ問いに向かう)

男(前にである。目を覚ました瞬間、かならず後輩へ何者かと接触を取ろうとする。そこで後輩がどう対応するかは彼女次第だが)

男(ここ最近、俺が後輩と頻繁に合い、何かを話しているという事実を天使ちゃんは知っている。そして、その度に俺は彼女へ美少女もハーレムも除いた、意味深な相談もしていた)

男(まず間違いなく、イレギュラーとなった後輩と俺が何らかの対談を取り行っていたと睨む。神への報告により、後輩はあちら側へ確実にマークされてしまうだろう)

男(そうなれば彼女の周辺、主に俺がどうなっているか洗いざらい調査される、とか。そうでなくとも相手は神だ。特別な力をもってすれば一発で、後輩の企みを暴いてしまうかもしれん)

男(そうなってしまえば、彼女の話を信じたとして……存在を消去される)

男(貴重な美少女後輩を失うまでか、本当の俺を知り尽した上で好意を抱いてくれた女の子が消されてしまうなど 断じて許せない事態である)

男(危険を冒してまでこのブサ男を手助けしようとしてくれているのだ。見逃せるものか。俺は、かならず後輩を)

後輩「もし、委員長さんを諦めるなんて言い出したら幻滅しますからね?」

男「あひぃーっ!? おいおい、サトラレにでもなった気分で心臓に悪いぞ……」

後輩「先輩は彼女を救いたい。もう義務とでも思っちゃってくださいよ、絶対なんだって」

後輩「私はどうなろうと構いませんよ、覚悟決めましたもん。生まれて初めて大好きになった人へ尽くして 一生を全うできる」

後輩「最高に素敵なシナリオだと思いませんか? ふふっ」

男(やれやれ、まずはその幻想をぶち殺す)

男「残念だがそれはお前の中でだけだ。俺にとっちゃどうこの世界で幸せを迎えたとしても、トゥルーエンドと納得できない」

男「大体、全ての美少女に好きよ好きよと囲まれて 楽園を築く事こそが俺にとって真の幸福。妥協なんて一切するつもりはない!」

男「お前を含めて十一人の美少女が必要だ! 後輩ッ! お前がっ、欲しいッ!」

後輩「むっ……先輩のへんたい。仮にも女の子に向かってそんな酷い話するんですかぁ?」

男「自分の欲望に素直なのが俺の長所だと知れ。それにもう、後輩相手ならオープンにでもなってやる」

男「お前が俺に隠し事を明かしてくれたように、俺も包み隠さず思っていることを話そう。それで嫌われれば、俺は所詮その程度の奴ってわけだ」

男「後輩、俺のどの辺りに好意を持ってくれて惚れたのかサッパリ分からん。それでもその気持ちを蔑ろにするなんぞ無理な話さ」

男「だからだよ。俺なりに、かならず後輩を俺の美少女ハーレムメンバーとして迎えることでソイツを汲ませて頂く!!」

後輩「あの……自分で何言ってるのか理解してますか……っ?」

男「してるとも。で、どうだ? もう初恋は冷めたかい?」

後輩「ず、ズルいですよそんなのっ! 卑怯ですっ!」

後輩「確かに先輩がこういう風になるように差し向けちゃったのは私かもしれませんけど……無神経というか!」

男「それじゃあお前は俺と二人っきりの熱々カップルとして結ばれる事をご所望か?」

後輩「え!? ちがっ……わたし、そんなっ! べ、別にそういうわけじゃ!?///」

男「えー? 何だってー? 聞こえんなぁー!? ていうか、後輩ちゃんが取り乱した所を見せるなんて珍しいねぇー!?」

後輩「もうっ! 意地悪しないでくださいっ!///」

後輩「せ、その、せっ、先輩はさっきから何が言いたいんです!? こんな事して楽しいんですか!?」

男「楽しいよ。楽しいに決まってる! いつもの冗談のお返しだ、悪戯娘めが!」

後輩「変態! へんたいへんたいへんたいっっっ……!」

男「少しはからかわれる奴の立場ってのが理解できたか? ねぇ、後輩ちゃん?」

後輩「ちゃん付けで呼ばないでください!! ……ん、もしかしてずっと嫌だと感じてた?」

男「何がかね?」

後輩「だから、私に冗談を言われて……不快に思っていたなら」

男「可愛い後輩に弄ばれるのが嫌だと思う変態はいるか? 美少女の手の上で踊らされるのもまた一興」

後輩「……その、マゾなんですか。先輩って」

男(じとっとした目で訝しげにこちらを睨む後輩。その様子だけで心が跳ねてしまえる。良いモノだ、もっとジト目を)

後輩「うっ!? う~……」

男「マゾヒストを自覚したつもりはないが、もしそうだとすれば美少女相手限定かもしれん。少なくともお前とのいつものやり取りを俺は楽しいと感じるぜ」

男「冗談言い合って、時々バカにされて、それでもお互いを理解し合って。楽しいよ、本当だ」

後輩「あーそうですかっ……ふふ、そうだったんですね」

男「後輩、もっと一緒に俺の茶番劇に付き合ってくれよ。もっと冗談混じりで楽しい会話をしようじゃないか」

男「明日も、明後日も。来週も来月も、その先もずっと。付き合ってくれよ? なっ?」

後輩「……そう……ずっと、ですか」

後輩「……ふふっ、じゃあ しょうがないから付き合い続けてあげても構いませんよ? せーんぱいっ」

男(計画通りである。これで自己犠牲で目的を成し遂げようとした彼女を少しでも抑止できたと考えて良いだろう、というのは心の声ではないとして頂きたい)

男(後輩も俺との別れが嫌になったからこそ自身の消滅を恐れていたのだ。その俺からこう引き止められては、覚悟とやらも揺らぐだろう)

男(揺らがせる事で延命させられるのならそれで問題ない。問題はここから始まるのである)

男「後輩よ、俺は俺の望むままに委員長を救おう。その決心は何が起きても変えないと誓う」

男「そしてお前を消させたりなんかするものか。かならず助かる。……信じてくれるな?」

後輩「先輩を疑うなんてもうあり得ませんよ。私も、どんな事になろうと絶対に……あなたを裏切ったりしない」

後輩「かも? なんて、あははっ」 

男「上げて落として行くタイプの冗談が一番性質悪いんだが……っ!」

男「……後輩、お前はまだ俺へ肩を貸していると神に知られていないな。知られているならすぐにでも不思議パワーで粉微塵なんじゃないか?」

後輩「そこはまだ分かりません。ですけど」

男(むにゃむにゃと寝言を言って気持ち良さそうにするソレを後輩が見下ろす。先ほど俺が危惧した展開が、待ち受けているかもしれないというワケか)

男「あの時、天使ちゃんが上にいたのには気づいてなかったのか? 意識を失わせてから拾う事も後輩ならできたんだろ?」

後輩「誰があんな人形にこんなのがくっ付いてると思えるんですか……」

男「確かに異様だな、こんなのがくっ付いていたなんて。俺だってぶら下げてから気がついた」

天使「すかー……すやぁ……」

男(後輩は、俺たちが悪ふざけで宇宙人人形を吊るしているのだろうと、その背後にしがみ付く天使ちゃんの存在に気付けなかった)

男(そう、つまり気づいたその時には既に人形と共に天使ちゃんは落下の真っ最中であって……自分か彼女を天秤にかけた結果)

男「意識を奪う暇も無く落ちてきたコイツを掴まえた、と。その後は?」

後輩「目が合ってすぐ、一先ずは眠らせておきました。完全に私だと認識された後でしたので マズいかなぁーと」

男(軽い口調でそうは言うものの、その顔からは焦りをひしひしと感じ取れる。天使ちゃんはあれからまだ目を覚まさせていないというのは間違いないだろう)

男「あとどれぐらいこの子をそのままの状態にさせていられる? その気になれば永久に?」

後輩「永久なんて無理です、だって天使ちゃんは定期的にあの方へ報告する義務があるんですからね」

後輩「……あと持って数十分程度ですかね。連続して同じ様に寝かせるのは難しいです」

男「どっちみち神への定期連絡が途絶えた瞬間から、お前が怪しまれるという事か。そりゃ堅実で良いシステムなこったよ」

男「いや待て、お前から神へトラブルが起きて天使ちゃんが報告できない状況だと伝えるのは?」

後輩「忘れ物した小学生の相手する教師じゃないんですよ。小手先じゃ通用しないと思っていいかと……」

男「なら もう残された手はないじゃないか、後輩 (と、俺はいつまでも寝息を立てているソレの頬へ指を突き――)」

男「起こせ」

後輩「えっ……?」

男「任せておけ。この俺を誰だと思ってやがる? ……なんて恐ろしい柔さだ、ロリほっぺ」ツンツン

たぶんまた明日?だ

今日は無理になってしまった。でも今週中のいつかには書けそう
もうすぐ書き始めてから1年経つのねぇ・・・あっと言う間にですわ

天使「ふ、ふぐぐ……ぬにゅうぅ~……っ」ムニ

男「思わずクセになりそうな触り心地だな、天使ちゃんの白い頬っぺ。 で、どうした? まだ起きないのか?」

後輩「大丈夫なんですか」

男「こういう時の決まり文句をここで一つ。男に二言は無いぜ、後輩」

男「お前の正体はこの子にバレちまったかもしれん。だが、まだそれだけの話だろ」

後輩「先輩、良い場面を邪魔するようで申し訳ないと思ってますけど、この子の力が私たちには必要なんですよ……?」

男「知ってるぞ。だったらどのみちコイツに協力を頼まなきゃいかなかったんだ。俺に天使ちゃんを騙させようと考えてたのか?」

後輩「……丸め込めたとして、結局はこの子を道連れにする危険があります。なら、何も知らずに私へ利用されていたとなれば……無罪は難しくても」

男「どうして神へバレること前提で考える? いいか、悪さってのは所詮第三者へバレなければOKだ」

後輩「で、でも 先輩っ」

男「大体、天使ちゃんにも選ぶ権利があるだろう。無理矢理騙してなんて それこそ後味が悪いわ」

男「……きっと以前の俺もこの子を利用しようと考えて、あれこれ策を練ったんだろう。だが 俺はその時の俺じゃないワケでしてー」

男「もう、天使ちゃんは俺のかけがえのないお友達なのよ。しっかり話して、その上でどう判断してくれるか待ちたい」

男「後輩にとっちゃ洒落にならん話だろうがな、この子を信じてみようじゃないか。……天使ちゃんがどちらへ転ぶか」

男「その結果こそ、俺の天使ちゃん攻略の結果だ。神か、俺か! 勝負はとうの昔に始まってるんだぜ、後輩!」

男(この計画には天使ちゃんの不思議パワーが必要となる。過去の、ここへ俺が来る前の、現実世界へ送還して貰うには、だ)

男(委員長をこちらへ向かわせない為には現実世界において、彼女を満足させなければならない。できる限り、夢中になってもらえる何かを与えて)

男(天使ちゃんの協力が叶わなかった場合、その時点で辿り着いた救出作戦は崩れてしまう。最初から鍵となっていたのは、この小さなロリ天使)

男(俺の頼みを聞き入れ、心変わりを起こしてもらえるか。忠実な神の使いとして協力を拒否して、告発されてしまうのか)

男「(人 対 神。そろそろ決着をつけようではないか) 始めよう!」

男(どちらがロリ美少女へ選ばれるかを!)

後輩「……起こします」   天使「  」ぴくんっ

男(特に大袈裟なアクションを起こすでもなく、後輩が一言告げた後、天使ちゃんの手が動き)

天使「ん、んー、ん~~~っ……はぁ!」

男(口周りに涎をつけた姿は実にロリロリ。体を起こして大きく伸びをしながら、寝惚け眼を擦ってぼうっとした頭で周りを見渡している)

天使「あれぇ……じぶん、ねてまひたぁ~?」

男「よぉ、今日は天気も良しで 外のお昼寝には絶好だったんじゃないか」

天使「寝てたんれふか……なんだか自分でも気がつかない内に、気抜けてましたねぇ――――」

天使「――――あああぁぁ~~~!!?」

男(ようやく意識がクリアに染まった彼女が素っ頓狂な声をあげる。後輩へ目を向ければ、不安気にして距離と取ろうと後退っている)

男(後輩がどんな美少女か今回で痛いほど理解した。きっと天使ちゃんを巻き込むのだって不本意だったろう)

男(いまあの子を守ってやれるのは、俺だけである。たとえ天使ちゃんに拒絶されたとしても、俺が計画を断念する事でどうにか逃がしてやるのだ)

男(ダメなら、他の方法を考えれば良い……同時に二人を助けるというのは、中々骨が折れるものである。やれやれ、やれやれって感じだ)

男「(まるで本当に物語の主人公みたいじゃないか) どうかしたか、目覚めて早々騒がしいな」

天使「どうもこうもありませんよ! 大変なんですっ!」

天使「居眠りしちゃったら、帰りに男くんからソフトクリーム買ってもらえないじゃないですか!?」

男(天使ちゃんが堕落したのは誰のせいなのか、お陰で痛いほど自覚させられた瞬間である)

男「アホの子大好きだよ、天使ちゃん! 良いよいいよ、アイスぐらい気の済むまで食わせてやるから!」スリスリ

天使「ぃぎゃあああぁぁ~~~!? 男くんの顔油がつくっ、汚染油がつくぅ!!」

男「あれあれ、そんな失礼なこと言う口はコレかなぁー? えぇー?」グニグニ

天使「んむむむぅー! んんー!? ……がぶぅっ!!」

男「躾がなってない犬め、俺に噛みつくとは命知らずだな。宣言しよう、お前は次の俺の言葉で恐怖する」

天使「がーっ!!」ガジガジ

男「さっきトイレ行ったあと手洗ってなかったかもしれない」

天使「……」パッ

天使「げぇぇぇ……おえぇぇぇ~……」

男「まったく、そこまで気持ち悪がることないだろ? 俺のなんだから」

天使「そういう問題じゃねーでしょうが!? 最悪です、死にます、こんな天使みたいに可愛い美少女へよくも不浄なモノをっ」

男「溶けて見せてくれたら自分の便を恨む事もしただろうがな」

男「にしても、しっかり約束守ろうとしてくれてたんだな。ただの口約束なんかに、偉いぞ天使ちゃーん」

天使「むっ! その言い方、どうせ後で『約束なんかしたっけ』とか言って誤魔化すつもりだったんでしょう……!」

男「いやいや、感心させられてつい口から漏れただけさ。本当に良い子だ。お詫びに肩車させてくれ」

天使「ねぇ、お詫びの意味分かってるんですかっ!」

天使「はぁぁ……ったく、自分と比べて男くんはゲスです。おまけに屑の変態で救いようもねーですよ! 主が知ったら裸足で逃げ出すレベル!」

男「ゲスに屑に変態と、最低称号総浚いとは誉れ高いことこの上ない。大いにノーセンキューだよ」

男(目を覚ました彼女の傍に俺がいたのは幸いだった、のだろうか? このまま何事もなく二人の掛け合いで済んでもそれはそれで困る)

男(まさか 落下したショックであの時後輩から抱きかかえられた記憶が飛んだとかでは)

天使「あのぉー……開幕からいきなりアレだったんで聞きそびれちゃってたんですけど、男くん」

天使「どーして 自分はこんな所で眠ってたりしたんですかね?」

男(沈黙が俺から天使ちゃんへの返事である)

天使「あのぅ、男くーん。ねぇー? 聞こえてますかー? お~い……むぅ」

男「……」

天使「聞こえてたでしょー? どうして急に無視しやがるんですかぁー? シカトすんなコラぁー!」

天使「自分、そんな事されたら拗ねますからねっ? ……だぁあー! とりあえず何とか言ってくださいよーっ!」

男(突然黙り込む俺へ調子を崩されたのか、困り顔で体を揺さぶってくる天使ちゃん。なるほど、常に俺とばかり相手しているせいもあって、周囲へ目が行きにくいと見た)

男「天使ちゃんよ」   天使「うひゃあ!?」

天使「い、いきなり喋り出さないでくださいよ。びびったじゃねーですか!?」

男「何か言えって懇願してきたのは誰だった? それは置いておくとしてだ。天使ちゃんは何故自分がここにいたと思う?」

天使「はぁ? ……はっ、まさか男くんがここへ自分を運んだってんですか。……ん、でも どうして」

男「俺じゃあないよ、連れてきたのは。そして天使ちゃんは我慢できなくて眠っちまったわけでもない」

天使「えぇい、さっきから男くんが言ってる意味ワケ分かんねーですっ! 連れて来られたのは間違いないとしても、自分は男くん以外の誰かには」

天使「……誰か……には……無理な、はず…………じゃ」

男(丁度 こちらを様子見る後輩の姿が視界へ入ったようだ。瞳を大きく見開き、俺の肩越しから彼女を捉えて硬直してしまった)

男(ようやく腰を上げると、天使ちゃんはよろよろと重い足取りでイレギュラーへ近寄る)

後輩・天使「…………」

男(対面してしまった二人の天使。あってはならない光景だった筈なのだが、時に現実は厳しさを俺たちへ突き付けるという)

後輩・天使「…………」

男(一気に張り詰めた空気にこちらまで背中がピリピリ、緊張を肌で感じ取れるほどであった)

男(長すぎる沈黙が屋上を包み込んでいた)

後輩・天使「…………」

男(実は人には分からない特殊な、テレパシーのような力で二人はいま話をしているのだろうか。とにかく何もない)

男(その光景を描写するのも嫌になって投げ出したくなる程、まだ何も起こらなかった)

男「……授業始まりのチャイム鳴ったんだが、五分前に」

天使「!」

男「はっ!?」

男(ついに天使ちゃんが動き出す。睨みをきかせたまま 恐るおそる後輩の周りをグルグルゆっくりと回る)

天使「っ…………!」ぴたぁ

男(未だ回り続け手前を通過しようとした瞬間、突然足を止めて体ごと後輩へ向き直る天使ちゃんのフェイント)

男(微動だもしない後輩、睨み続ける天使ちゃん。両者とも譲らなかった。何を? 知らん。もう俺には理解が及ばない世界があそこで展開されている)

男(冗長だ)

転校生「さっきから休み時間に一回一回教室出て行ったりしてるけど、何してるの?」

男「生温かい目で延長戦を見守りに行ってる」

転校生「え? あー……う~ん、よく分かんない用事は良いとして、お腹空いたわねー」

転校生「あ、ねぇねぇ! お腹と背中がくっつくぞ~♪ って知ってる? 可愛い喩えだと思って調べてみたのっ!」

男「は? 可愛いのはお前の方だろうが」

転校生「そうよねそうよねっ、やーっぱり日本語ってまだまだ奥が深……はえ?」

転校生「……へっ?///」

転校生「なななな、なっ! 何 突然おかしなこと言い出すのよっ、ばかぁ~!!?///」

男の娘「ど、どうしたの? 今度は何が原因のケンカ?」

男「こっちが全面的に悪い体で来るのがまずおかしいぞ。そいつがお腹と背中がくっつくって可愛い表現じゃないかと訊いてきたから、肯定してやったまでだ」

転校生「全然違うっ!!」

男「ほーう、俺はそのつもりだったんだが? 転校生さんにはどの様に聞こえたのか詳しくお訊きしたいねぇ~?」

転校生「っぐ!? あの、その……うああっ! ばかぁー! あんたなんて ゾウにペラペラになるまで潰されて、風に吹かれてインド洋に落下してしねっ!!」

男「クドい、そいつはあまりにもクドすぎる死因。……さて、腹が減った件については同意だ」

男(絶賛放置プレイ中と説明しておこう。あの二人は未だに仁義なき戦いを続けている。……天使ちゃんはまだしも、後輩が付き合っているのが衝撃でもあり、アイツ 教室へ顔出さなくていいのかと問いたい)

また明日か、明後日

『本文:後輩ちゃん? 具合悪いから保健室で寝てるって先生言ってたよ』

男(興味半分で妹へ尋ねてみると、先に後輩が手を打っていたのだろう。杞憂に終わった)

『追伸:帰りに美味しい牛乳プリン買ってきて。忘れてたはなし』

男「だったら無理は通用する、と」ポチポチ

『本文:(#´Д`)』

男の娘「男ぉー? 幼馴染さんも来たことだし、そろそろお昼にしようよぉー?」

転校生「ったく、あんたも幼馴染ちゃんにばっかり負担かけて申し訳ないとか思わないの? いつもお弁当作ってもらって」

男「悪いとか思う気持ち以上に、俺は幼馴染の飯以外じゃもう満足できん体になってしまったわけだ」

幼馴染「そ、そう? そう言われると、作った甲斐もあるっていうか!」

幼馴染「これからも男くんのために頑張っちゃおうかな~……で、できればこれから先もずーっと……///」

男(うむ、なんと耳に心地良い。鬱陶しい難聴スキルに困らせられていたあの頃がもはや懐かしい。より、この美少女が好きになれるではないか)

転校生「むっ! そ、そんなことはないかもしれないじゃない?」

男の娘「うん、そうだよ。たとえば僕が作ったご飯でも男の口に合うかもしれないし!」

転校生「男の娘くんの作るっ……?」

男(途端に思い出した様に、顔を青くさせる転校生。読めた、過去に俺たちは男の娘の手料理を味わった。そして知ったのだろう、彼がベタな設定の料理下手スキル所持者だと)

男「まぁ、男の娘はまだしも、飯マズで有名なイギリス帰りには期待できんだろうなぁー?」

転校生「だからそういうバカの仕方やめなさいよ! そういうのはあえて酷い部分を取り上げてマスコミが仕立て上げた出鱈目なのっ!」

幼馴染「そうだよ、男くん。変に鵜呑みにしたらその人たちが可哀想。転校生ちゃんだって料理上手かもしれないのに。ね!」

転校生「あああ、当たり前でしょ~!? 私は変態なんかと違って何でもそつなくこなせちゃうんだからっ」

男の娘「転校生さんって自分で料理したことあるの? ちょっと意外……かも?」

転校生「なっ! わ、私だって両親が留守にしてる時とか簡単な物作ったりしてるの!」

男「自炊ぐらいできて当たり前か。確かに意外だが、偉いな 転校生」

転校生「ふふ~んっ! もっと誉めてくれてもいいのよ? これでどっちが上かハッキリしたわねっ、バカ変態~?」

男「フン、その程度で粋がるところに器の低さがわかる。それじゃあ何を自分一人で作ったか教えてみろよ」

転校生「冷凍食品なら、何でも!」     「…………」

転校生「冷凍のパスタでしょ? ケーキもあるし、あとハンバーグとかも。それからこの前カップ麺にも挑戦したわ」

転校生「全部美味しくつくれたし、失敗なんて一度もなかったんだから!」

男「転校生、お前バカなのか……」

転校生「な、何よ! 冷凍食品だって料理には違いないでしょ!?」

男「正真正銘箱入りのお嬢様か!? それとも向こうでは普通の話かそれは!?」

幼馴染「転校生ちゃん、ここで言う料理が作れるっていうのは お肉や野菜を一から全部自分で刻んだり、炒めたりして」

幼馴染「自分の力でハンバーグにしろカレーにしろ作り上げられるってことだって思うかなー……」

転校生「そ、そんなのまだ無理無理! でもいつかは!」

男の娘「やろうって気があるだけ救われたよ、僕たちの心配は」

男「確かにハッキリしたな。転校生、お前が下だよ。靴でも舐めろよ 負け犬!」

転校生「じゃ、じゃあそういうあんたはどうなのよ!? できる? ちゃんとした料理作りっ!」

男「できたら良いなっ」   幼馴染「できないよね? 全然」

男の娘「結局上も下もなくて、二人とも同位ってことだね。ふふっ、幼馴染さんには劣るけど僕はちゃーんとできるよ! 料理!」

転校生「あっ、ぐ……くぅっ……!!」

男(鼻を高くした男の娘へ反論しようと身を乗り出す転校生だが、言葉が喉に引っ掛かったか、というより必死に飲み込もうと苦い顔をさせていた)

男「やれやれ、俺たち無能組は幼馴染に新たな境地を開いて頂くべきだろう。今度教えてくれよ」

幼馴染「だ、ダメ! ていうかあたしは人に教えるのに向いてないっていうか、逆に下手にさせちゃいそうだし!」

転校生「そんなことないわよ。少しでもコツとか盗めさせて貰えたらすぐに上手になれるわよ、きっと!」

幼馴染「あたし以外の人から聞いた方が絶対良いよ、あはは……」

男「そりゃあ敵に塩を送りたくはないわな」   幼馴染「ひっ!?」

男「ただでさえ優秀極まるこの俺に料理スキルまで備われば最強に見える。これ以上追い越されるのは勘弁願いたいところ」

男「ってところだろ? へへっ、心配しなくても俺は食う専門だ。以前変わりなく!」

幼馴染「そ、そっか! ……自炊できるようになっちゃったら、もう男くんにご飯作ってあげられなくなっちゃう」

男(その心配は一切ないと声を大にして言いたいところ)

転校生「呆れるも通り越して感心だわ、ほんとに……うーん、でも他に料理ができる人なんているかしら?」

男の娘「そわそわ、そわそわ…」   転校生「…いるかしらー」

幼馴染「や、やっぱり誰かに教わるのも悪くないけど、レシピとか調べて一度自分でやるのがオススメかな」

転校生「そう? そっちの変態は知らないとして、私みたいな初心者でも上手くやれるかな」

幼馴染「最初は失敗もあるかもしれない。でも継続して練習することが何事も大事だから。転校生ちゃんなら大丈夫!」

転校生「う、うん! わかったわ、頑張って挑戦してみる! ……ふっ、どこかの無神経バカと比べて言う事から違うわよねぇ。ねぇ~?」

男「どこの無神経バカか知らんが、何だその嫌味満々な顔は」

転校生「べっつにー? ……お弁当作って渡したら、食べて美味しいって言ってもらえるかしら……///」

男「そりゃもう是非……何か言ったか転校生?」

転校生「な、何でもない!? 何でもないからっ!!」ブンブン

男(きっと俺が世界で一番の幸せ者である。そう思わないか? 主人公バンザイだ)

男(こんな気分を味わえるのはハーレム主人公特権。そう、ハーレムだ。成功すれば更にチヤホヤされるのだろう)

男(右手に美少女、左手にも美少女。上に乗せてみたり。もう何でもありではないか、考えるだけで涎が止まらない)

男(さて、妄想も現実へ実現させる為にも俺が一周終えるまでの間に、少しでもイベントを発生させて一人でも多く夢中にさせなければ)

男(何よりも全員がハーレムへ納得してもらえるよう今後の動きには細心の注意が必要である。……いまは、彼女の動きに)

幼馴染「はいっ、男くんのお昼! 幼馴染特製お弁当だよ!」

男の娘「やっぱり誰かに作ってもらえるお弁当があるって嬉しいことだよねぇ。[ピーーーーーーーーーー]ぁ?」

男「そうだな。出来合いのものや冷凍食品にはない愛情という名の隠し味が入ってる。冷凍食品にはない」

転校生「わ、悪かったわねっ!! 変態に付き合ってたらいつになってもご飯食べられないわ。男の娘くんのは……手作り、じゃないわよね」

男の娘「うん、お母さんが詰めてくれたんだよ。そうだ! 今度作ってみんなに食べてもらおうかなぁ~! とくに[ピーーーーーーー]……///」

男「え? すまん、よく聞こえなかった」   転校生「私もっ!!」

男(屋上の天使たちもそろそろ決着がついた頃合いかもしれない。後輩の前で恰好つけた建前、このまま呑気を続けるのも良くない)

男(できる限り急いでこの昼イベントを片づけ、適当なところで抜け出して屋上に様子見へ戻るのがベスト。しかし、頭を働かせると腹が減って仕方ないな)

男(俺は沸き立つ食欲を解放すべく、幼馴染の愛情たっぷり弁当のフタを開け――――)

男「っぐぅー!! (てから、即 フタを閉じたのである)」

男「…………幼馴染、こいつ」

幼馴染「っ……///」

男(弁当から幼馴染へ自然と目が行く。どうやらあの様子、俺の反応を楽しもうと考えてやったつもりらしいが、直前になって恥ずかしさが勝ったようで)

男(再び手に持った幼馴染の“特製“愛情たっぷり弁当へ。中には俺へ向けられた特別な愛が詰まっていた。ただし、隠し味としてではなく、ド真ん中、主張激しめに)

男(白米の上にハート型の桜でんぶが大きく敷かれていたのだ)

男の娘「あれ、まだ食べないの 男? お弁当持って固まったりして」

男「勿論食べるに決まってる。腹が減って我慢ならないんだ……」

男(ついにやってくれたな幼馴染。恋人になれて浮かれたのは分かる、ちょっと悪戯してみようかなっと可愛く考えたのも)

男(右に男の娘、斜め右向かいに転校生。二人ともまだハートに気づいた反応はなかった……どうする? フタで隠しながらさっさと崩して食べるか?)

男(二人へコレを見られたらよろしくない展開になるのは容易に想像できる。ここまで大胆になった幼馴染だ、そのタイミングで俺との交際を告白してしまったとなると)

男(……待てよ。そもそも1周終えてから、次回へ引き継がれるのは告白へ至るまでの出来事ではなかったか。転校生のケースがそうであったように。確実だと安心できはしないが)

男(何にしてもここで幼馴染との付き合いがバレれば今後動きづらくなる恐れがある。最悪、ラーメン愛好会の美少女たちへ刺される事があっても不思議じゃあない)

男(それ相応のアクションを彼女たちへ起こした後なのだから。難聴鈍感モテ男から、女の敵へなり得るというのだ)

幼馴染「……お、男く~ん///」

転校生「二人ともさっきから固まってどうしたのよ? グズグズしてたらお昼休み終わっちゃうじゃない」

男「愛が重い……!」

ここまで

男(このまま膠着状態を続けて貴重な昼休みを無碍にしてしまうわけにもいかない。それに、二人から怪しまれるではないか)

男(食さない選択は無し。空腹の限界のせいもあるが、幼馴染の期待に応えてやるのが彼氏としての責任だろう)

男の娘「幼馴染さんもこっちに転校してきたのは、まだ最近の方だよね?」

幼馴染「えっ? ああ! そう言われてみると、うん、そうかも。転校生ちゃんより少し前ぐらいかなぁー」

男(ナイスだ、男の娘。幼馴染の注意が上手く逸らされたぞ。流石 後輩のお兄さん)

転校生「やっぱり半端な時期に引っ越しなんてちょっぴり不安だったでしょ? 私なんか緊張のあまり初日に寝坊とかしちゃって」

幼馴染「うーん、不安はまったくなかったわけじゃないけど……ほら、昔からの知り合いがいてくれたから」クスッ

男(畜生。バカな、Uターンして自ら戻り始めただと。時間稼ぎにも足りていないではないか……いや)

男「そらすぐお隣さんにこんな頼りになる素敵男子がいてくれたら、さぞかし頼もしかっただろうな」

転校生「こーんな大バカが幼馴染の男の子だなんてかなり同情。……私もコイツとそんな関係だったら良かったのにぃ」

男「……」

転校生「はぁ~……もぐ……って何黙ってこっち見てるのよ!? わ、私は幼馴染ちゃんが羨ましいだなんて一言もっ!!」

男の娘「羨ましいよねぇー……[ピーーーーーーーーーーーー]~……」

男「幼馴染が羨ましいのか? 転校生」

転校生「ちっ、違うもん! 違うもんっ! 全然違うからぁ~っ!///」

男「でも、俺にはそう聞こえた気がしたんだが。男の娘もそうだろ?」

男の娘「んっ!? え、えっと、どうだったかなぁー? あはは……」

転校生「ふ、ふん! ついにバカが全身に回って幻聴でも聞こえるようになったんじゃないの!?」

男「あいにく空を飛べる魔法の粉に頼る程、俺はリアルに退屈しちゃいない。まぁ、勘違いなら気にするなよ」

転校生「言われなくたってそうさせてもらうっ! ……羨ましいに決まってるでしょ」

男「私もコイツとそんな関係だったら良かったのにぃ」

転校生「はぁ!?」

男「せっかくだし幻聴の内容も伝えておこうかと。何だか捉え方によっちゃ意味深に聞こえたしなぁ」

男「そしてもう一つなんだが、羨ましいに決まってるでしょ、って言ったか? 今?」

転校生「あっ……あっ……///」

男「え? 言ったのか? 俺の聞き取りテストに付き合ってくれよ。なぁ、転校生くん……?」

転校生「っ~~~~~~!!///」

男(下の方からグングンと真っ赤に染まっていく転校生。しまいには湯気まで立ちそうなレベルで沸騰を起こしている、転校生茶でも沸かせそうだな)

男「……羨ましいに決まってるでしょ?」

転校生「いやあぁぁぁー!? もうやめてぇぇぇ~~~っ!?///」

転校生「もう黙っててっ、口開かないでぇっ!!///」

男「もしかして、大当たりだったんじゃないか? 俺の聴き取れた内容で」

転校生「わあああぁぁぁ~~~!! うわあああぁぁぁ~~~!?///」

幼馴染「て、転校生ちゃん……?」

転校生「わわわ、私もうお腹いっぱいになっちゃったからお昼もう十分みたいっ! ちょっと外行って走って来るわねぇー!?」

男の娘「食べてすぐ走るとお腹痛くなっちゃうんじゃない?」

転校生「消化運動よ!? ダイエットしてるから!! あの、その、ああああぁぁぁ……!」

男「ほら、やっぱりお前可愛いじゃないか。テンパってるとこも悪くないぞ、転校生。へへっ!」

転校生「    」ボンッ

男子生徒「おい、転校生さんが突然倒れたぞ! 誰に殺られた! 救急車をー!」

女子生徒「それより先に先生呼ばなきゃでしょ! ううん、その前にまず保健室運ばなきゃ!」

男の娘「大変だよぉ!? 転校生さん失神起こしちゃったんだ、おまけに顔すごく赤くなってるよ!!」

幼馴染「転校生ちゃーん!? ど、どうしよう……男くん」

男「バカ、ぼさっとしてる場合かよ! とにかくみんなの言う通り保健室へ誰かが連れて行ってやらねーと!」

男(まずは一人退場)

委員長「転校生さん、しっかりしてください! 私の声 聞こえますか!」

男「止せ、委員長! もしかすると下手に動かしたら悪化してしまうかもしれん!」

男の娘「で、でも早く保健室まで運んであげないと!」

男(一瞬にして騒然とし始める教室内。皆が横たわる転校生を囲み、隣のクラスから野次馬まで駆けつける騒ぎにまで場はヒートアップ)

男「みんな少し冷静になるんだッ!! (の一言でざわつきは少しずつ収まり出す。パニック状態となると、誰が場をし切り出せるかは関係ない。だから)

男「(是非ぜひ、この俺が指揮を取ってやろうではないか) ……いいか、まずは誰かが先生を職員室まで行って呼んでこよう」

男「その役割は男の娘、お前に頼みたい! 大至急だ! 行ってくれ!」

男の娘「わ、わかったよ 男!! 転校生さん待っててね!?」

男(ここまでやって追い出す必要はもはや皆無であったがとりあえず、二人目も退場)

委員長「くっ、私たちは待っている間何もできないなんて……歯痒いですね……」

男「落ち着け、委員長。男の娘が先生を連れて帰ってくるまで俺たちは大人しくするしかない」

転校生「きゅう~……///」   幼馴染「し、しっかりして」

男「幼馴染、こんな事になっちまったからには昼飯はお預けだ。弁当はあとで食って、空にして返すよ……な?」

幼馴染「う、うん。わかった……転校生ちゃぁん」

男(大体 計画通り)

男(ボヤ騒ぎを誤魔化すには? 簡単だ、それを揉み消すほど大きな火事を起こせば良い)

男(難聴スキルが無効化された美少女の台詞は、どんなに小声で喋ろうと俺の耳に届く。フィルターへ掛かるものはほとんどが恥じらいの感情を持った言葉から)

男(では、美少女中一番恥ずかしがりな転校生に対し、ソレを突き付けてやればどうなる? 限界まで。……逃走ではないかと睨んだ)

男(今回は最後のひと押しでまさかの瀕死まで追い込んでしまったが、結果的に男の娘を言葉巧みに教室から追い出す手間も省け、幼馴染イベントまで破壊できてしまったが、結果オーライだろう)

男(……あれから駆けつけた先生と保険医に運ばれて行った転校生だが、ただの貧血だろう、と保健室へ)

男「転校生は犠牲になった。お陰で少々時間は取られたが、まだ次の授業まで余裕がある」

男(心配する男の娘たちを宥め、幼馴染を隣のクラスへ今ようやく帰したところである。足早に屋上へ向かっている途中)

男(途中、そうまだ到達していない。その理由は俺の背後にある……美少女とはハーレム主人公へ引かれるもの)

先輩「おっすおっす! 男くんおっす!」

男「……俺と先輩さんの間での挨拶って、俺がとりあえず先輩さんに抱き付かれる事から始まるんですか?」

先輩「ちっちっちっ! 何事もスキンシップからってのが大切よ、男くん。知らない仲でもないしねぇ!」

先輩「でも……ウザい?///」ギュウ

男「その答えは俺の顔に書かれているんじゃないですかねぇ?」

先輩「にゅふふー、そんなうれしそーな顔しちゃって~! くぅーっ! まったく愛い奴よのーう!」

先輩「えへ……///」

男(壁を乗り越えた次は山が、大きな山二つが立ちはだかるのだ。すっかり気を良くした先輩は、人目など気にも留めず俺を後ろからがっちりホールド)

男(この背中に当たる殺人的柔さをいつまでも楽しんでいたいところ。だがしかし、俺はこの為に転校生を倒したわけでもなかろうよ)

男「あの、別に悪い気はしないんですけど……いつまで、これ」

先輩「男くんはドラム担当かなっ……!」

男「えっ? ドラムって何が?」

先輩「ん、あー! いやいや! こっちの話だよぉ~全然、気にすることまったくなしぃ~!」

男「そうやって誤魔化されると追求したくなるのが人の性ってヤツですよ、先輩さん」

先輩「やぁー、にしても生徒会の仕事面倒だねぇ。今日も放課後あるんだってサ。一緒に生徒会ぶっ壊そ? 跡形も無くっ!」

男「俺たちで勝てますかね?」   先輩「生徒会長ちゃんって人質がこっちにはあるよん!」

男(いかん、つい先輩のペースに巻き込まれてしまう。適当な理由をつけて解放して貰わねば)

男(その時である。横を通り過ぎる女子二名の会話が不意に耳へ入って来た。「サイズ変わったから新しいブラ買いたい」と)

先輩「ブラかー……」

男「ブラって、急にどうかしたんですか? (丁度先輩も会話を盗み聞きしていたようで。俺から離れると何やら自分の胸を持ち上げ始めた)」

先輩「……おや?」

先輩「おやおやおやぁ~? 下着で反応しちゃったのかねっ、男くん! それをまたわたしから訊き出そうってのかねぇ~?」

男「いやっ、別に訊き出そうというワケじゃ、うわっ!?」

男(突然肩を組まれ、姿勢を低くさせられてしまう。というよりも相対的に先輩の方が俺より身長が低い結果、そうなってしまったのが)

男(それはさて置き、彼女は目を細めて通行者を見張り二、三人見送ると、俺の耳に手を当てて小さな声でこう伝える)

先輩「……わたしのもまたちょぴ~っとデカくなっちゃって」スゥ

男「更にデカくなるんですかぁ!?」  先輩「わぁー!? 声が大きいっ!!」

先輩「あんましおっぱいの事弄られるの好きくないんだよ~……だから///」

男(先輩の豊満なバストがまだ成長しようとしていたのか。どこまで育てば気が済むワガママおっぱい。全てのおっぱいを凌駕するというのか)

先輩「これでも結構気にしてたんだからねっ! ヒジョーにデリケトーな問題ですよコレ!」

男「デリケトー……デリケートなら俺に対して酷使しない方が良いんじゃ」

先輩「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーー]。[ピーーーーーー]」

男「えっと、すみません。今の何て言ったのかよく」

先輩「べ、別に聞こえなくってよろしっ!! ……要するに、また新しいの買わなきゃいけないかなーと」

男「俺にはよく分からない話ですけど、苦しくなったのなら買い替えるべきなんじゃないですか? やっぱり」

先輩「わたしのってフルカップでないと収まらないんだよねぇ。でもそういうのって中々可愛いのが見つからないと言いますかぁ~……切実なオトメの悩みってヤツっすねぇ」

男「二重の意味で悩ましおっぱい……と、とりあえず! そういう相談は誰か別の、ほら生徒会長辺りへしたら!」

先輩「それはそうだけど、男くんにも聞いてもらわなきゃなのだよ!!」

男「何故です?」

先輩「ふっ! これはもうわたし一人だけの胸じゃない。男くんの物でも」

先輩「[ピッ]、[ピーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]!?」

男「……せ、先輩? あの」

先輩「わぁーわぁー!? 男くん超スケベ! エロス大臣! えっちいぃ~~~っ!!///」

男(誇らしげにドーンと宣言してくれたからこそ、大体言いたかった事は理解できた。見事自滅した彼女は両手で胸を抑えて、しゃがみ込む)

男「身も蓋も無いこと大声で叫ばないでくださいよ!! 俺が何かしたか!?」

先輩「わたしの頭の中で、妄想内で、何かしてきたぁ~っ……///」

男「この俺自体は無実だろ……っ!」

先輩「と、とにかくだよ! おっぱいはデカいから良いってもんじゃないのさ! 肩はこるし、着る服も限られちゃうし、ハーフカップのが可愛いブラ多いし!」

先輩「不公平で成り立つこの社会に、わたしは泣く!」

男「……俺はどうしたら良いですか?」

男(肩を叩かれ、何も言い残すことなく彼女は去って行く。教訓、おっぱいは不公平の塊だ)

男「それで――――」

後輩・天使「…………」

男「――――いつまでやってたら終わりが見えるんだ、この戦いは」

男(このシュールな光景を嘲笑してやりたいところだった。本人たちの真剣さはどうやら俺には伝わり切れてなかったらしい)

男(達人同士の決闘は常人には理解しえない領域へまで発展すると聞くが、実はコレがその例となるのか。どちらか一瞬の隙が生まれた時、二人の美少女の時が揺れ動くと。面白い。見届けてやろうではないか)

男「なんて。なぁ! お前らいい加減にしてくれよ。特に後輩、お前なんかいつまで付き合い続けるつもりだ!?」

後輩・天使「…………」

男「アレは……おい、天使ちゃん! 見てみろ、上空に謎の円盤型浮遊物体がー!」

男「……ウソだからそのまま続けててくれよ」

男(観念して床へ胡坐をかく俺。このままでは放課後まで延長戦も免れない)

男(かと思った瞬間であった。じりじりと後輩へ距離を詰め出す天使ちゃん。お互い表情一つ変わることなく、汗すら流さず)

男(屋上に、風が吹いた)

後輩「…………わっ!!」

天使「うわあああぁぁ~~~っ!!?」ビクゥッ

後輩「ふふふっ、ビックリした?」

ここまで

天使「…………」ガタガタ

神「私は柱と話がしたいのではありません、もっとこちらに近寄ってもらわなければ。ああ、いい子ですね、楽になさい^^」

天使「ひぃ!! じじじっ、自分如きが主の前へ姿を現わすなんてあまりにも痴がましいのでは」

神「^^」   天使「あわわわわ……」

神「こうして直接顔を合わせるのは今回が初めてですねぇ。まぁ、そう硬くならずに話を聞くのです」

天使「自分がついに失礼を働いてしまったのでしょうか!? ハラキリでしょうか!? お望みならば何なりとーッ!」

神「いいえ、罰を与えるなどとんでもありません。お前は生まれて間もない赤子同然であるというに、とても賢く優秀な子です」

神「そこで一つ。少々気が早いようですが、お前に『使い』としての役目を与えてみる事にしましたよ」

天使「お褒めの言葉、感謝感激でーッ!! ……ふえ?」

天使「ふえぇええええええええぇぇぇ~~~~~~!!?」

神「よろしい、さっそく私の期待へ見事に応えた反応っぷりです。お手本の様なリアクションですね」

天使「自分が主から直々にお仕事任せられるのですか!? 早すぎではっ、自分まだまだ学ぶことがあるのに……」

神「実践でも学べる事は多いです。お前は特別な子、神でも贔屓しますとも」

天使「と、とくべつ」

天使「……ぜひ、ぜひ自分にお仕事をっ!! 我が主さま!!」

神「お前には今回――――――」

天使(自分は特別な子、主がそう仰ってくれた時の認められた感っつーか、充実感はハンパなかったですよ)

天使(お役目をじょーずに果たせば、今以上に主は自分を見てくれる筈。構ってもらえるんです。そしたら、自分はもう)

神「聞いていましたか? 大事なことなので聞き逃していたなんて許されませんよ」

天使「は、はいっ!! ……あのぅ」

神「質問は後で、と言いたいところですが先に頭の中をスッキリさせておきましょう。何です?」

天使「前から気になっていたというか、いつか知れたら良いなと思ってて。それで、丁度イイ機会かなぁ……と」

天使「自分はどうやって生まれたんですか? それから……主は、あなた様は自分の親なのでしょーか。そう考えても失礼にならない、ですか?」

神「生まれ? 親? 逆に私からも尋ねましょう。なぜそれを知りたがるのです?」

天使「自分がこれまで一人っきりだったからです。周りにも自分と同じ子はいっぱいいましたけど」

天使「誰に訊いても返ってくる答えはいつも一緒でした。『無言』です! 話しかけても声を出してくれませんでした!」

天使「みんな与えられた事を淡々とこなして、お話一つしてる所を見たことないのです……ですから、主ならと」

神「お前は皆と違うと考えたことはありますか。何が異なっているのかと」

天使「自分がみんなと違う、ですか? そ、それよりさっきの質問が」

神「無意味です^^」

神「お前たちは生物ではありません。私へ仕える忠実なモノ」

神「生まれなんて想像するだけ無意味でしょう? それが分かって得る物は?」

天使「え、えっと」

神「困惑しているのですね、自分自身の存在に。そして疑問を持っているのはお前一人だけなのかと」

天使「うぅ、だっておかしいと思いますよ。お仕事も勉強も大事ですけど、自分たちってそれだけなんですか?」

天使「自分は……こんなこと考えてる時、ちょっと変な気分になる時があるんです」

天使「それを喩えるのは難しいですけど、あんまり気持ちが良い状態になれなくなるっていうか。ガッカリしたくなるようなー」

神「寂しい、という人の感情は調べませんでしたか?」

天使「寂しいですか?」

神「お前の言うその状態に一番近い言葉の表現でしょうねぇ。さて、今度は私の質問に対するお前の答えを聞かせてもらいましょうか」

天使「あの、みんなとどこが違うかなんて自分にはわかりません。姿形はどこも変わらないし、やってる事も全部同じです!」

天使(うむむってヤツです、主は一体あの子たちと自分のどこが変わると言いたいんでしょうかねぇ。……なるほど、『優秀』)

天使「主っ、自分はあの子たちよりデキる子ってわけですかねぇー! はっはっは! ……スミマセン」

神「その答えを得るヒントが、今回任せるお仕事で見つかるやもしれませんよ」

神「お前の『特別』の意味を」

天使(とある人間の願望を汲み、主はもう一つの世界を創造されました。そいつにとって幸福しかない救われるための楽園を)

天使(自分はそいつを見張って、その行動を主へ報告する。初仕事としてはまぁまぁじゃねーでしょうか?)

天使(『報告』は何も主だけへ限られたわけじゃありませんでした。例の人間へ自らが接触し、主からの言葉を『報告』も)

男「     」

天使(第一印象特に感想なし。人間なんて意味不明な文明猿とばかり思ってましたけど、実際自分が観る羽目になったそいつは内向的なウジウジ野郎でしたよ)

天使(ずーっと見ていても面白いことはなかったし、やる気の欠片もないんじゃないかと呆れちまいましたねぇ。せっかく望みが叶ったってのに何ですか、あのザマは!)

天使「今日もガッコーに来るなり誰とも話さず屋上に一直線でした、と……ありゃあまーた後輩ちゃんですか」

天使「まぁ、さっさとあの子とくっ付くなり満足して貰えれば自分は解放されるし、どうでもいいですけどねぇ~。オラァー! さっさと押し倒しちまうんですよぉ!」

男・後輩「――――」

天使「にしても……男くん、最近ちょっと笑うようになってますねぇ。前まで浮かない顔してばっかりだったのに」

天使(男くんにはちょっぴり同族嫌悪的なものを感じてたり。自分とはたぶん正反対の野郎なんですけどね)

天使(周りに振り向いて欲しくて、構ってもらいたかった自分はいつも無視されると分かってて、あの子たちへ必死に声をかけてましたよ)

天使(なのに、アイツは贅沢ですよ! せっかく何もしなくても誰かが構ってくれるのに、逃げてばかり! 何ですかアレ!)

天使「…………むぅ」ポツーン

天使(別にどうとも思わないし? 自分には主というお方がいらっしゃることですし?)

男・先生「――――」

天使「どうして乗り換えちまったんですかね、アイツ?」

天使(自分の監視に抜かりなんて一切無かったと自負してますよ。でも、驚き! 知らない内に後輩ちゃんから先生とかいうのにチェンジされてるんです!)

天使(別に困るってわけじゃないんですけど、やっぱり不思議じゃないですか。人間ってやっぱ理解できねーです)

天使「そしてまた不思議なのが、男くん全然満足に至るってどころか重たそうにしてやがるんですよねぇ……もしかして相手は年上だから上手く行ってない?」

天使「だったら! ちゃっちゃと後輩ちゃんに戻せば助かるのに――――!?」

天使(それは突然の出来事。男くんはついに先生を振っちまったんです、あのウジウジ男くんが自分から)

天使(だけなら良かったんです、大問題が発生しちゃったんですよ。何故か落ち込んだ男くんが幸福とは真逆の不幸っぷり、『絶望』したんです)

天使(この幸福のための世界で、不要なモノは何であろうと排除される。それを生み出しちまったモノも例外じゃねーんです。つまり男くんが! 緊急事態!――――それからですかね)

天使(あの男くんが、男くんでなくなっちゃったのは)

男「っと、制服に皺がついてるけど気にしてらんないな。食器は帰ってきてから洗えばいいや」

天使「その皺、先生が伸ばして綺麗にしてあげるって言ってましたよねー。なんて、もう無理でしょうけど」

天使「……ふっ、とりあえず成功です! やっぱり自分って特別で優秀な子です! 男くんは自分に感謝しないとぉー!」

男「お前、鼻のところにあったデカくて汚い黒子はどこにやった! 本当に俺の幼馴染で間違いないのか、こんな美少女が!」

天使「ありゃ、珍しくズバっと言った……」

男「ぶつかってきておいて散々な言い様だな。まずは謝るのが先じゃないのか?」

男「ひ、引っ張らないで……俺を取り合わないでくださいってば……えへ、えへへへ……!」

天使(誰だコイツ。さっきからどうしちゃったんですか、この人は? どこかのタイミングで頭打ったりしてないですよね?)

隣の女子(天使)「男くん、男くん」

男「え?何か言ったか?」

隣の女子(天使)「転校生、噂によればすごく可愛い女の子らしいよ。しかもハーフだって。楽しみだね~」

天使(完ッッッ璧じゃないですか自分の演技は! そつなく自然で不審がられずに! 主にあとでたくさん誉めてもらいましょうねぇ~!)

天使(それから気懸りな男くんの豹変っぷりの報告を。これはマジで変です。その一言に限りますよ)

天使(後輩ちゃんとお付き合いしてから、ちょくちょく他の子とも話はしてましたけど、こんな堂々にしてたことは一度も)

オカルト研「だ、だめ……すぐに払わなければ……」ぐい、ぐい

天使「どりゃー!!」

男「ちょ、引っ張るなよ! お、お、うわぁあああ~~~!?」どんっ

天使「クククッ、さぁ! いつもみたいにオドオドして謝りながら逃げてみやがれです、男くん――――」

男「……しかし、あの柔らかな感触。まさか下着を付けていなかったのか? バカな、制服だぞ?」

天使「――――誰だコイツっ!?」

天使(さっそく主へ報告、した結果「もう少し様子を見てください」とのお返事が)

天使「でも、前は自分が男くんを押して女の子に触らせてもあんな露骨な反応してなかったんですよ!?」

神『彼はよくわからない人間ということにしておくのも有りでしょう』

神『例外の中の更なる例外、この私にとっても想定外かもしれませんねぇ』

天使「本当にそう思っていらっしゃられるんですかぁ?」  神『^^』

天使「あ、主ぃいーーー!! ……つーか何でここまでムキになんなきゃいけないんですかっ」

天使(変化は間違いなく男くんの中で起きてしまった。だけど、それが何だっていうんですか? アレだけガツガツしてりゃあすぐに超絶幸福になってくれるでしょうに)

天使(さっさと終われるかもなら、放って置けば良いんですよ! 自分は早くあんな人間からおさらばしたいんですからね!)

天使「で、でもなんかムカつくんですよ あの野郎っ……!!」

天使(どうしてだろう、どうしてなんだろう? その答えは残念ながらすぐにわかってしまいました)

天使(孤独だった男くんが次々誰かと簡単に仲良くなっていく姿に嫉妬していたのでしょう)

天使(意地でも一人ぼっちを貫こうとしていた彼に、共感こそできなかったけれど、自分の姿を写していたのかもしれねーです。それが全部崩れちゃった)

妹「お兄ちゃんのあほぉーっ!!」

男「うぇへぇっ! アホ、水溜り蹴飛ばすなよ! ただでさえこっちはズブ濡れてんだぞ!?」

天使「…………むぅ」ポツーン

天使「男くんばっかり、男くんばっかり! アイツやっぱり嫌いですっ!」

天使(自分にとって変わらない毎日を繰り返すのは苦痛だったかもです。でも、男くんにとってはそうでなかったみたいで。ちゃっかり彼女作ってました)

天使(今回は上手くお付き合いもできてるみたいで、かなりたのしそーでした。かなり)

男・転校生「―――///」

天使「ぎゃあー!! 人前でブチューするとかありえねぇーですっ!!」

天使「ハァ……でも、この調子ならもうすぐ終わりですかねぇ。自分のお仕事もようやく」

天使(結局、自分は主が仰った『特別』の意味を理解できたんでしょうか。何かを得るどころか、嫌な気持ちしか覚えませんでしたけど)

天使(羨ましい、悔しい。どうして自分には無いものをあんな奴が。でもでも、自分には主がいるから!)

男・転校生「―――!」  オカルト研・男の娘「―――?」  不良女・幼馴染「―――~♪」

天使「今日は久しぶりにみんなでお昼ご飯、と。楽しそうにしやがって、ふざけんなですよぉー!」

天使「自分に対する当てつけですか……!」

天使「……寂しいよぉ」

天使(こんな自分がある日、一番憎いと思っていた相手にぶっ壊されるなんてこの時は思いもしませんでした――――)

男「――――お前は誰だ?」

天使「…………えっ」

―――――

―――



後輩「驚かせちゃってごめんなさい。でも、私もどう接して良かったのかよく分からなくって」

天使「……自分が見えてるんですか。声も? 全部?」

天使「い、いつから!? あなたは人間ですか、自分と同じなんですか!? なんぞ!?」

後輩「天使ちゃんと同じ。だから最初から見ていたし、何をしてたかぜーんぶ気づいてたよ」

後輩「それが私に与えられた役目でもあったから。ねっ、先輩?」

男「俺に振られてもかなり困るんだが (下手に何者でもないとか言い出さなかったのは天使ちゃんの為だろうか)」

男(信じられるようで、信じられない。そんな困惑を現わし、天使ちゃんは後輩にペタペタと手をついている)

天使「人間に姿を変えていたなんて。ここがペッタンコなのは趣味ですか……っ」

後輩「……自前だけど」

天使「……そうですか」

男「……そうだったのか」

後輩「やめてくださいっ!///」

ちょい切り悪くなったけどここまで

後輩「私の体なんて今はどうでも良いでしょう! 他に重要なことが!」

天使「ありますよ。あり過ぎて何から探っていけばクール決めたままでいられるか困ってんですよ、こっちは」

天使「あなた……『同じ存在』がどーしてここにいやがるんですか。最初から見てたって、誰の許可得てこんな監視みたいな真似をっ!」

後輩「ごめんね、私の口からは説明できないよ。その理由がある。でも絶対に天使ちゃんを騙した言い方なんてしないから」

男「なぁ、俺からもそいつの言う事を信じてやって欲しい。後輩は別に悪い奴なんかじゃ」

天使「うるせー!! 外野は口出し無用なんですよぉ、男くーんっ!!」

男(迫力皆無な天使ちゃんに思わず頬が緩みかけたが、これ以上介入を許されない空気に自然と口は閉じられた)

天使「……そっちの言い分を信用して聞いたとしますよ。与えられた役目とか言ってましたよねぇ、自分を見るのが」

天使「自分たちへお仕事を与えてくれるお方はただ一人しかいねーです。この認識って後輩ちゃんにも当て嵌まりますか?」

男(後輩は迷わず首をコクリと小さく縦へ振る。それを確認した天使ちゃんは皮肉めいた笑いを浮かべ、納得だと一人で頷く)

天使「あ~あ……特別だから贔屓にするって言ったじゃないですか」

男「どうした天使ちゃん? 悪いが、どういった意味だそれは。怒られてもいいから心配させろっ……」

天使「結局そんなの出鱈目だったんですねぇ。特別だなんて聞こえの良い言葉遣われて、勝手に勘違いしちゃってました」

天使「自分はみんなの中で浮いていた。普通の子にもなれなかった異端児……だから特別」

天使「主、あなたが仰っていた意味が今はっきりしましたよぉ……」

男(俺の声が届いていないのだろう。意味深で誰へ向けたものでもない独り言が続く)

天使「この初仕事で見極めようとしていたんですねぇ、自分が使い物になるか、ならないか」

天使「だからあなたをコッソリつけた。しかも人間になんか扮しちゃって。気づくワケないじゃねーですかぁ……他の人にも見えるだなんて」

後輩「どうして落ち込む必要があるの?」

天使「っー!! 自分は変なんですよぉ!! ずっと何にもおかしいだなんて思わないで、みんなの中に紛れこんでた!!」

天使「よく考えなくたって変だった! 他の子には自分のようにお喋りでもなく、悩みもせず、感情らしい感情なんて一切なかったですよっ!」

天使「自分たちには感情なんて不必要だったんです! 人間ですらない自分たちには!」

天使「それが……自分は間違って持って生まれてきちゃったんでしょーが……!」

男「心無い天使よかお前のような子の方が俺は断然親しみ持てるんだが」

天使「男くんに自分の何がわかるんですか!? 異常な欠陥品なんですよ!!」

男「違うな、欠陥なものか。笑いもすれば喜ぶし、怒ってもくれる。天使ちゃんこそが天使の完成形だと誰もが疑わん」

男「神からどう言われたのかは知らんが、そんな言葉の裏なんて見ようとせずに、お前の都合の良いように捉えておけばいいじゃないか」

天使「うるさぁいっ……!!」

天使「お、男くんと出会いさえしなければ、一生勘違いしたままでいられたのに。残酷ですよ、こんなの……」

後輩「ねぇ、もう一度 私を見て?」

天使「あぁ~ん!?」

後輩「私は天使ちゃんの知っている子たちと同じ? 感情がないように見える?」

天使「そんなのっ……わかる筈ねーでしょうが!! どうせその姿と一緒で中身まで偽ってるんでしょう!?」

天使「自分だけならまだしも、男くんまで騙したりして! そんなの心無いヤツでしかできない所業ですっ!」

男「おい、それは!」

後輩「……確かに 最初は私も仕事だと割り切って会ってたよ。それは否定しない」

後輩「でもね、しばらく続けていたら自分の中で何か別の私が目を覚ました。ううん、というよりも元々それが本当の私だったのかもしれない」

天使「よくもまぁ恥ずかしい台詞を平気でベラベラと……!」

後輩「私は彼を、先輩のことが好きになってしまった。偽りなんかじゃない、本心から」

後輩「今あなたと話している私に機械のような不自然さを感じる? あの子たちと同じ雰囲気?」

天使「……ええっと、その、あの」

後輩「愚痴なんか言い合える良い友達になれそう? ふふっ」

天使「い、意味不明ですっ!! 馴れ馴れしくしようたって、そうはいかねーですよ!?」

天使「ふんっ……あなたですよねぇ、最近男くんの様子をおかしくさせてる犯人は?」

天使「自分はこれからあなたの事を含めて、何もかも主へお聞きしてきます。止めたって無駄ですからね!」

男(思わず後輩と顔を見合わせる。が、その表情からは心配も焦りも感じられなかったのだ)

男(こちらを見つめて、ただ優しく微笑んでいた。しばし蚊帳の外で待たされたが、出番か)

男「主サマのに報告してそれからどうなる?」

天使「どうなるって、そんなのこっちは知ったこっちゃないに決まってるでしょう! 男くんには関係ないです! 事と次第によっては後輩ちゃんは――」

男「俺でも後輩のことでもなく、他ならぬお前自身のことを訊いたんだが?」

天使「えっ」

男「普通の天使じゃあない、欠陥品だと天使ちゃんは言ってたが……お前はそれを事実と受け止めたまま、神に仕事を渡される毎日へ戻るのか?」

男「最悪使い物にならないと判断された日には、いつか処分される恐れがあるんだろう。詳しい話は後輩から聞かされたよ」

天使「うっ……しょ、処分」

男「天使ちゃんの中で主である神は絶対の存在という思想は理解してる。だが、そいつにヘーコラし続け最後に自分がバカを見たら」

天使「それでも自分には主しかいないんです」

男(冷やかにも感じられる態度で言い切られてしまった。問題ない、この程度 想定の範囲である)

男「他に誰かを忘れてないか?」

天使「……忘れてるわけ、ねーでしょう。男くん」

男「ああ、その言葉が聞きたかった」

天使「男くんは自分にできた初めてのお友達ですよ……だけど、それとこれとは事情が違うでしょう」

天使「主の為に尽くすのが自分たちに与えられた運命なんですから。最初からどっちが一番かハッキリしてます」

男「それじゃあ予定通り神に尽くそうじゃないか、天使ちゃん」

天使「は?」

男「この俺が最大の幸福を得るまでを見届けるのがお前の使命だろう?」

男「当初の目的から逸れてはしまったが、天使ちゃんは俺と接触してしまった。コイツは予想外」

天使「だから、何だってんですかっ!」

男「この予想外を活かしてお前が俺を幸福へ導かせた、というシナリオはどうでございましょうか?」

天使「……しなりお? あの、さっきから言いたい事が」

男「まぁ、黙って聞きなさい。つまりこういう事になる……予想外の事態に巻き込まれつつも、天使ちゃんは期待された以上の成果を上げる」

男「それって優秀な奴でしか無理じゃないか? コイツを俺は神に認めてもらえる最高のチャンスだと思ってる」

男「いや、見返すチャンスと言うべきか……特別を、本当の特別に変えられる……違うか?」

天使「本当の特別に……」

男「フフ、別に俺よりも神が大切だというのはもうどうだっていいだろう? じゃあ、どうせなら使える物は全部使ってやろうぜ。自分の為にも」

男「男くんを上手く利用してやれば良いんじゃないか。ねぇ、天使ちゃーん?」

天使「それは……えっと、確かに美味しい話かもしれねーですけれど……じゃなくってぇ!!」

天使「その提案と今から報告に向かうのは別ですよっ!」

男「俺がこの世界で成し遂げようとしている目的は何だったね?」

天使「くだらねーことを! 美少女侍らせて男くんだけの究極ハーレム作ること――あっ」

男「お前の報告の結果、事と次第によっては後輩はどうなる?」

男「後輩が消された瞬間に俺の夢は破れて一生満足のいかない生活を送る羽目になる。その時点でさっきの話は無しだ」

天使「ふ、ふん! 主のお力なら消えたって事すらわからない状態に変えるのもワケねーかもしれないでしょう!?」

男「残念ながら俺には絶対に後輩を忘れない自信がある。適当と勢いに任せて言ったんじゃねーぞ、その方法を知ってるからだ!」

男「この世界には唯一の穴があってな、俺はそいつを見つけた! 委員長のような置き替えみたいな真似をされようが、どうとでもなる! 無駄だ!」

天使「な、なんぞぉお……っ!!?」

男(たとえ記憶の中から後輩が消えようと、今の彼女が存在したという『痕跡』を作り出すまで。俺だけが後輩の存在をこの世界に残すことができる)

男「俺は、一度何かに疑問を持ったら蛇並にしつこいぞ……」

天使「あわわわわ……!」

男「さぁ、選んでくれよ 天使ちゃん! これから神の元へ行ってくるか! 俺を手伝い有能を証明するか!」

男「お前に残されてるのはたった二つの道だけだな!!」

天使「……ですか」

男「え、何だって?」

天使「自分はどんなお手伝いをして、男くんを助けてあげればいいのかって聞いてんですよっ!!」

男(釣り針に獲物が食らいついたこの手の感触。どれだけ味わおうと病みつきになる。大物である、絶対に逃せはしない)

男「(ここからが本番だろう) 単刀直入にいこうじゃないか、天使ちゃん……」

男「消滅した委員長救出の手伝いを頼みたい。お前の力が必要だ」

天使「……前にも話しましたよね? ダメだって」

男「ダメなだけで不可能じゃない。天使ちゃんが納得してくれればこの点は解決する。だろう?」

天使「委員長ちゃんはここで満足した上で、消えたんです! その彼女を取り戻そうだなんて主に対する冒涜! 許されねーですっ!」

男「いつだったかに話したな。天使ちゃん、コイツは俺とお前との間ででしか叶わない契約だ」

男「俺がお前に何かを渡す代わりに、お前が俺の望みを叶えてくれるか。……あの時はそんな事してやる義理なんてないと断られたが」

男「今の俺と天使ちゃんはあの頃とは関係も異なってる。だから、もう一度考え直してほしい」

男「決して冗談なんかじゃない。どうか、頼む」

天使「……それじゃあサシの勝負で決めてやろうじゃないですか」

男「なら、受けて立とうか (踏ん切りがつかないのなら、徹底的に追い詰めるまで。勿論、この俺の勝利という形で)」

天使「正直言うと男くんに勝ち目なんてない勝負になると思います。それだけ自分が有利なルールでいかせてもらいますからねっ」

男「いいか? ゲームってのはまずフェア対戦が求められるんだぞ。ワンサイドゲーム程 楽しめないものは」

天使「これはゲームじゃないんですよ、男くん。ポッキー齧ってハラハラするとかそんなレベルじゃねーです。二人だけの、マジ真剣勝負なんですよ。そこの後輩ちゃんも協力禁止!」

後輩「参っちゃいましたね、先輩」   男「……で、内容は?」

天使「三日以内に自分を見つけてください」

男(かくれんぼだと? もっと複雑なゲームを想定したが、やけにあっさりさせているではないか。……いや、待て)

男「範囲は? ……それから透明になるとかは止せよ、さすがに普通の高校生には無茶だ」

天使「範囲はこの町の中だけで、絶対に男くんが踏みこめる場所だけ。もちろん見える姿でいますよ。ただーし」

天使「この美少女姿でいるかはわかりませんけどねぇ~!!」

天使「女の子限定ってことにしてやりますけど、同じ子にずっと変身してるとは限らないです。あしからず」

男「や……やれやれってところだ」

男「上等じゃねーか! 天使ちゃん如き会えばすぐにボロを出すに決まってる! 楽勝!」

天使「それは勝ち負けで見せてみろですよ……はい、じゃあ今から期間は三日以内! よーいどぉーんっ!」

男(開始宣言と同時に掴みかかろうとしたが、見事かわされ姿を消されてしまった。 たった、たった三日で……だと……バカな)

ここまで

男「この勝負どう転ぶかお前に予想できるか」

男(女子キャラへ変身した天使ちゃんを三日以内に探し出す。千里眼も無効化能力も持たない一男子高校生にそのゲームは不利でしかない)

男(だが、この俺にはあるではないか。鬱陶しいだけのマイナスでしかない特別なスキルが)

後輩「私には二人がどう動くかなんて分かりませんよ」

男「本当にそう思ってるのかよ? 随分と余裕満々なツラしてくれて……」

男(天使ちゃんはこの学校の女子生徒へ化けると仮定しよう。彼女は自在に姿を変えられる、あのモブ子の時が良い例だろう)

男(再びモブに化けていた場合、俺が学年クラス関係なく洗いざらい調べることで炙り出せるかもしれない。怪しいモブ、というより、常に単独で動き回って誰とも会話をしないキャラを発見したら要注意。たとえ ただのぼっち娘であろうと)

男(……が、この程度向こうが想定しないとは考えられん。奴はアホだ、バカだ。それでも学習能力は基本的に高いと俺は評価している)

男(誰にでも姿を変えられる。それはすなわち既存のキャラへでも可能ではないだろうか? そうなると、この世界に一つの矛盾が生まれるリスクがあるわけだが)

後輩「ですね。中身は違えど、顔も体もまったく同じ子が同時に存在してしまうことになる」

男「……残念ながら、それはこの俺にしか認識できないってのが辛い所で」

後輩「私は先輩の勝ちに500円、とかどうです?」  男「唐突に500円がどうしたぁー?」

後輩「賭けごとお嫌いですか、先輩。……ん、やっぱりお金じゃ面白くありませんね。ねぇ、私の予想が当たったら何くれます?」

男「本っ当にお前が余裕なのは理解したぜ。そんな身勝手な賭けなんぞ……負けた場合は俺はお前から何がもらえるのかねぇ」

後輩「うーん、私から先輩へあげる予定なんてありませんけど? ふふっ」

先生「へっ? 学年ごとのクラス名簿が欲しい? どうして」

男「それが、生徒会の活動にどうしても必要になるので、俺が代わりに受け取って来てくれと頼まれちゃいまして」

男「できれば顔と名前が分かるような物とか……」

先生「そういう頼みは学年主任の先生方に言うべきだと思うんだけど。でもそんな物今さら必要なの?」

男「無理ですか?」

先生「ううん、生徒会の活動で必要になるなら簡単な名簿ぐらいは。でも普通顔なんて載せないよ? 名前と出席番号ぐらい」

男(当たり前か。期待してはいなかったが、あるだけモブへの対処は楽になれたのだが。一度各クラスの生徒を見て回った方が良いだろう)

男(しかし、モブへばかり注意が向いていてはあちらの思う壺となる場合もあり得る。……11人の美少女たち、その内誰かへ化けられたら)

男(ある事柄へ触れる内容を除き、天使ちゃんに難聴スキルは発揮されない。枷でしかない糞スキルがここでヒントを作るとは思わなんだ)

男(現在スキルの発動を解除させた美少女は後輩、先生、転校生、幼馴染の4名。天使ちゃんが『攻略キャラ=スキル×』の仕様に気づいていなければ)

男「勝手に墓穴を掘ってくれる……」  先生「は?」

男(だが、偶然俺の前で変身した美少女のオリジナルが現われる危険性を考えるとなると、である)

男(まず学校の中では美少女の姿を借りることはないと思うワケだ。 なぜリスクの高い学校へ隠れることを考えるか?)

男(決まっているだろう。あの美少女ロリ天使は誰よりも『寂しがり』なのだ。これまで俺と行動を共にする事が多かった、また俺以外に寂しさを紛らわす相手がいない)

男(この二つから、限りなくこの俺から長い時間離れるのを嫌うと考えた。……ああ、完璧すぎる)

先生「黙ったと思えば急にニヤニヤしちゃって、先生の顔に面白い漫画でも描いてある?」

男「知らなかったんですか!? みんな毎週楽しみにしてましたよ」

先生「ハァ、そりゃどうも。……ところで、はい」

男(両手を伸ばして手のひらを向ける先生。喜んでそれへタッチしてあげると、女神はほほ笑む)

先生「反省文。もう君以外の二人は提出したみたいだから」

男「そうなんですか? じゃあ俺は生徒会行きますね」

先生「行けるわけねぇでしょうが……あのねぇ、先生だって口煩いこと一々言いたくないの。大人しくここで書いていきなさい?」

男「天使ちゃん!?」   先生「は?」

男「あっ!? い、いや、先生のその優しさはまるで天使のようだなぁー……ほら、鏡見てくださいよ! 笑顔も天使! 笑って、スマイル!」

先生「…………は?」

男「こちらで是非 私めに反省文を書かせて頂けないでしょうか?」

男(反省文の件を眠っていた天使ちゃんが把握している筈がない。加えて先生の席へ堂々と座っていて、オリジナルが現われては一瞬で俺へバレるではないか)

先生「ほら、コレが君の妹さんの持ってきてくれたヤツよ。このぐらい反省が見えるものをしっかりお願い!」

男「いや、この反省文は出来損ないだ、笑えませんよ。これこそが本物です」

先生「誰が六文字で終わっていいって言った?」

男(ようやく美人教師の隣から解放される、のは少し惜しい気がしないでもない。しかし、美少女たちとの日常を送りつつも天使ちゃん探しか)

男(神か俺、彼女は間違いなく揺らいでいた。神が自分を信用していなかったという思い込みも手伝っているのだろう)

男(完璧に落とし切れていたわけでなかったとしても、あそこまで話を持って行けたのは、今日までの下積みの成果の現われでは?)

生徒会長「ああ、ようやくか男くん。お疲れのところ申し訳ないが、早速今度の報告会で使うプリント作りを手伝ってくれ」

男「作文の次は……わかりました。このプリントの文章そのまま打ち込んでいって良いんですね?」

生徒会長「ん、それで頼みたい。できれば今日中にデカして貰えるかな? 配布を急ぎたくて」

男「上等。ペンを握るよりキーボード打つ方が性に合ってますからねぇ、俺は」

男(淡々と字を入力していく作業、退屈ではあるがここで少し落ち着いて思考できる。さて、この生徒会室に見知らぬ女子は……いない)

男(近辺にいる可能性は高いが、そもそも目の届く場所に存在するとも限られないか。こうして待っていては時間を浪費するのみ)

男「いっそのこと罠を張るというのはどうだ? 天使ちゃんが俺の前に現れざるを得ない状況を作り出す」

生徒会長「本当……想像以上に早い」スゥ

男「すれば、お菓子で釣るのが一番効果的ではぁあ!?」

生徒会長「きゃあ!? い、いきなりどうした!?」

男「どうしたのはこっちの台詞ですよ!! 急に顔近づけたりして何ですか!?」

生徒会長「わ、私は作業の進み具合を確認しに来ただけで……っ、[ピーーーーー]///」

今日はちょっとここまで

生徒会長「しかし大した物だよ。その調子ならすぐに終わらせられるんじゃないか」

男「タイピングで、それも原稿をただ写すだけなら難しい操作も手順も要らないんで。でも調子乗っていいですか?」

生徒会長「作業が捗るなら。良いぞ、予定より早く終えそうだ。手伝いが欲しくなった時は遠慮なく使ってくれ、男くん。丁度手が空いてるんだ」

男(肩をトンと軽く叩き、優雅な仕草を交えて隣の椅子へ腰掛けたクールビューティ。その容姿は伊達ではないな)

男(そんな彼女へ見守られながら、作業はいよいよ大詰めへ。さて、先程から隣が嫌に静かなのだが、迷惑をかけまいと黙っているのか?)

男(つい横目でモニターから生徒会長へ視線を逸らしてみると)

生徒会長「……すー……すぅー……んん」

先輩「……あっ、男くんしーっ! 起こさないようにお願い!」

男「つまんない事尋ねるようで申し訳ないけど、あんた何やってるんですか」

先輩「うひひっ、そりゃあ誰が見てもわかる面白いことをおっ始めようってんでさぁ~。 男くんもやる? 水性ペン使うから洗えば落ちる安心付き!」

男「共犯者になれば安心もクソもないんですがねぇ (心地良さそうにうたた寝をする生徒会長に危機が訪れていたと、誰が予見できたか)」

男「やめましょう、生徒会長が可哀想ですから。きっと受験勉強とか生徒会やらで疲れて眠っちゃったんでしょう……それよりだ」

生徒会長「……むにゃ、[ピーーーーーー]」

男「ああっ、この安心し切った安らかな寝顔! コレをあとでどん底へ突き落とす酷な真似ができると言うんですか!」

先輩「じゃあわたしにどうしろと!?」  男「寝かせてやれよっ!?」

先輩「ノンノンっ! 全然わかってないねぇ、男くんよーぅ!」

先輩「わたしは今落書きに持ってこいなペンを持っている。で、そこには真っ白でキレイなキャンバス!」

先輩「め、滅茶苦茶に汚したくなるのが、画家の性ってヤツですヨぉ~っ……!!」

男「一生理解できない世界の話はいいとしよう! 俺は止めますよ、マジで!」

先輩「えぇ~? これぐらい可愛い悪戯許してよぉー? こうなりゃ強硬じゃ、強硬!」

男(執拗に生徒会長の寝顔へ落書きしてやろうとするぶっ飛びアーティストな先輩。下手をすればケンカに発展してしまうだろうに)

男(面倒なイベントをこれ以上増やされては俺が堪ったものではない。彼女から、どうにかペンを奪おうと必死に手を伸ばせば)

男「もっと後先考えて――――お、おっ、うおおぉっ!?」

先輩「男くん危ない!?」

男(身を乗り出した瞬間、横着していた俺も悪かった、椅子のバランスを崩し床へ熱烈なキスをした)

男「んぐぅ、痛つつ……久しぶりか、ただ転んだだけって無駄な……っ!」

先輩「ああああ、あの、ごめんなさい!! そんなつもりじゃ、全然、えっと……!!」

男「問題なし、こんなのもう慣れっこですから。しかもただの自爆。虚しいぐらいの」

男「それより大人しくしてましょうよ、先輩さん。ほら、役員の人らが変な目してこっち見てるから。ね?」

先輩「えっ!? ああ……うん、大人しくしてます。面目ない」

男「そんなに畏まって先輩さんらしくもない。幸い鼻血も出てないし、歯も打たなかったから気にしないでくださいよ!」

先輩「そ、そっかぁー! 平気だったかぁー! うんうん、男くんならあばらの二、三本逝っても死にそうにないもんねぇ!」

男「死ぬかわからないけど 重傷は負いますよ、こんな俺でも」

男(モブたちの注目もようやく俺と先輩から仕事へ向かったらしく、居心地の悪さはすぐに薄れた。先輩も懲りたかペンをキーボードの横へ置いてくれる)

男(あとは静かな内に、かくんかくんと首を動かす生徒会長を眺めながら、この単純作業を片づけてしまおうではないか)

生徒会長「[ピーーーーーーーーーーー]、おとこ……くん……[ピーーー]」

男「(寝言にまでフィルター通さん言葉が出てくるかフツー) しかし、こうして見ると生徒会長もかわいい女の子ですね」

先輩「ふーん、そうかなぁ? 寝てるだけの姿がそんなに可愛い?」

男「可愛いですよ。いつもはクールで気丈な彼女でも、無防備になる時があるんだなって」

先輩「へー、ふーん……そう」

男(やはりまだ気にしているのか、反応がいつも以下である。けして先輩が無神経だと思っているわけではないが、何となくやり辛くなった)

男「(部活へ戻る頃には元気イッパツな彼女に戻っている事を祈ろう) ……あっ、そろそろ仕上がるんで生徒会長起こしてあげてくれませんか?」

生徒会長「おとこ、くーん……」

男「ええ、ですから悪いけど生徒会長を起こし――――ふむ」

男(左肩へ何かが乗った感触。そして頭がクラっときてしまいそうな程の甘い香りが鼻孔を通る。寝相なのかワザとか、生徒会長が俺へ体重を預けて眠っていた)

生徒会長「わたしね、[ピーーーーーーーーーーー]だよ……[ピーーー]で……[ピーーーーー]なところが」

生徒会長「[ピーーーー]で[ピーーーーーーーー]。だから……えへ……」

男(完全に起きているのでは? どうする、本当に。こんなに甘えた生徒会長を見られる貴重な機会を、進んで壊せるものか)

男(ただ、このままでは近くにいる先輩が良い思いをしないだろう。いや、あえてこのまま過ごし、猛烈アタックぷりに更なるブーストを掛けさせる、のは悪手である)

男「先輩さん、この状況は俺どうするべきですかねぇ? いや~……困りましたよ」

先輩「…………」

男「あれ、ちょっと? 聞いてました? ていうか何処行くんですか、まだ部活には」

男(聞こえていなかったか、はたまた この状況に目を背けたくなったか、彼女は黙って外へ出て行こうとした)

生徒会長「すー……すー……[ピーーーーーー]」

男「あの人も常に自分の衝動に任せて動いてるからな、放って置いて問題ない、か? もしかすればトイレに立ったとか」

男(その時であった。廊下からドタバタ激しい足音を誰かが鳴らし、この生徒会室の扉を開け放つ)

先輩「ただいま戻って参りましたやって参りましたぁ~!! 手芸部が報告に間に合うかビミョーとか頑張るとかだってよぉ!!」どーん

生徒会長「ふあっ!!? いきなり大声を上げるな……って、えぇ!?///」

生徒会長「ど、どうして男くんに!? あ、うっ、きゃあああぁぁぁ~~~!?」

男「ぶっ!? (大音量の目覚まし時計で目を覚ました途端、確かに寝ていたのか、俺に驚いた生徒会長。ここでお馴染みラッキースケベ力が強制発動)」

生徒会長「おおお、男くん!? すまないっ!?///」

男「……慣れてますんで (再び床へ伏せる羽目になった俺の上に彼女は騎乗する。そんな事よりも)」

先輩「何だね、何だね? わたしが営業回り染みたことさせられてる間に二人仲良くプロレスごっことなっ!?」

生徒会長「ち、違うっ!! これは……」

男(油断していたのは俺の方だったかもしれん。まさかあれだけ完璧に演じられるとは思いもしなかったのだ。ここで現われる事もないと)

先輩?『あっかんべーっ!!』

男「畜生、待ちやがれっ!? せ、生徒会長早く上から降りて!! 早くっ!!」

生徒会長「そ、そうだな。すまなかった……えっ、突然 何処へ行く 男くん!?」

男(俺以外の誰もが認識できない、先輩の背後にいたもう一人の先輩。すぐさまアレを追って廊下へ飛び出す)

男(が、時既に遅し。他のモブキャラたちへ紛れた後だろうか。彼女の姿はどこにも無かった)

男「……この俺が、騙されただと。出し抜かれた? バカな」

男(美少女へ化けて来る可能性もあると頭の中にあったというに、いざ目の前にしてみれば ほとんど違和感を感じなかった)

男(アレはほぼ完璧と言って過言ではない。口調も性格も、どれを取っても本人と変わりなさすぎたぞ)

男「いや……性格が……今思えば、少し……ぐぬぅっ」

男(アクションを取ったのは彼女なりの考えがあると見て良い。例えば 余計なイベントを引き起こし、探索の妨害を狙った。まぁ、単純に退屈凌ぎという線も怪しいが)

ここまでん

先輩「やぁ~! 一仕事終えたっつーことでこの後どうっスか、部長! 味噌ラーメン!」

生徒会長「誰が部長か。私の知らない内に役目を押し付けるつもりじゃないだろうな?」

先輩「いえいえっ、これでも責任感の強さにはわたしも自信があるので~! 大体、生徒会長ちゃんはラーメン愛好会副部長だし」

生徒会長「うっ!? いつからそう決まった!?」

先輩「えっ、知らない内に? 勝手に? ……てへ~っ!」

生徒会長「あぁ、君といると色々な意味で暇をせずに済んで充実する。お陰でまた悩みの種が増えた……ハハハ」

先輩「そんなことより男くん、さっきはいきなり外飛び出してどうしちゃったの。ひょっとしてアレかい、若さゆえの衝動?」

男「教室に大事な物置き忘れてたのに気づいただけですよ。大した用じゃないですから」

生徒会長「それにしては随分焦っていたように見えたのだが。血相も変えていて」

男「へぇ、あの一瞬でよくそこまで観察できますね?」

先輩「そりゃあ 生徒会長ちゃんはいーっつも男くんの顔見っぱなしだからねぇ。貫通しちゃうぐらい目からビーム発射してたよん!」

生徒会長「っ!? で、出鱈目を……男くん、私は別に彼女の言う様な真似は……[ピーーーーー]///」

男「なるほど。道理で最近原因の分からない穴が体に増えてたワケだ、って 今何か言いました?」

先輩「男くんも気づいてたもんかと思ってたけど、かなりニブチンだなぁ~、このこのぉ~っ……[ピーーーーーーーーーーーーーー]」

男(お互いの気持ちがしっかり明らかにされた為だろう。以前より幾分好意がオープンになったと感じられる)

男(上級生組二人の台詞にしっかり難聴スキルは発動した。念には念を、ラッキースケベも起こるかチェックしておくべきだろうか)

男(美少女に化けて実際に姿を現わしてきたという事実。この三日間、ますます気が抜けなくなるのは間違いないだろう。全ての美少女を初めに疑って掛からねばならないのである)

男(しかしこれでハッキリした、天使ちゃんは黙って隠れられるタイプではない。鬼を積極的に攻撃したがる攻撃こそ最大の防御の考えの持ち主であろう)

男(天使ちゃんの気持ちになるのだ。今の彼女なら、次にどう接触するか、どのタイミングか。……寂しいのだろう? 俺に構って欲しくて堪らないのだろう? いつでも甘えに来たら良いぞ、荒縄で拘束してやる)

男「そういえば部活報告会やるってわけですけど、俺たちの愛好会はどうするんです?」

先輩「えぇ、その辺のラーメン写メって叩きつけてみる?」

男「ああ、部の活動でこのお店に食べに行ってきましたよーって。分かり易くて完璧じゃないですか!」

生徒会長「反面、その場の全員から反感を買う羽目になるだろうがなっ……ハァ、私たちは気にする必要はないよ」

先輩「おおっ、ついに生徒会長権限を使ったとな!? ナーイス計らいっ! これで好き放題やれちゃうねぇ~!」

生徒会長「好き放題やれるのは今の内だけだがな。活動を始めてまだ期間が浅いという理由から免除されただけだよ」

生徒会長「来年度からは男くん、君たちが頑張らなければならないわけだな」

先輩「うむうむ、そーいうことだ 頼れる後輩よっ!! わたしたちの屍を越えてゆけ、後は任せたっ!!」

男「……いやぁ、責任転嫁とはよく言ったもんだな」

先輩「お冗談はお嫌いかねぇ、男く~ん? 男くんたちの為にも古参のわたしが何とかしていきますとも! 安心してよ!」

生徒会長「私を仲間外れにするつもりか? 副部長にされてしまったんだ、部長の手伝いをさせて貰わなくては……ふふっ」

先輩「生徒会長ちゃーん……わたくし部長、スーパー感動したぁー! 大好き愛してるチュッチュー! ええいっ、拒むなよーぅ!」

生徒会長「一々抱きついて来るなっ!! か、勘違いしないでくれ、部の存続の為だからな!?」

先輩「もうっ、その気持ちがあるってだけでわたしがどんだけ嬉しいかお分かり!? 嬉しいよぉ~!!」

生徒会長「っー……///」

男(レズレズである。以前は不仲だったと聞いていたが、前週の俺よ、この光景をお前が見られないのは悔しかろう。代わりに、俺が存分に脳裏に焼き付けておこう)

男「仲良くイチャついてるところ申し訳ないんですけど、俺から生徒会長へ折り入って頼みがあるんです」

生徒会長「どこをどう見ればそうなる!? ……頼み?」

男「ええ、その報告会でというか、とある研究会について (オカルト研、忘れてはいないぞ)」

男(どうにか彼女の研究会を救い、恩を売っておけば今以上に好感度は鰻登り。上手くハーレムへ引き込む機会も増えるであろう)

生徒会長「――――オカルト研究会、か」

男「友達が一人そこに入部してるみたいで話を聞いたんですが、中々良い評価をもらえなくて苦労してると」

男「部費を下げられてしまえば、来年から更に満足のいく活動が送れそうにないみたいです。どうにかなりませんかねぇ?」

先輩「ほい提案っ! ツチノコ探して捕獲すれば良いよ! 賞金はもらえるし、実績も取れるし、部費も上がる! やったぁっ!」

男「もっと現実的な解決策は?」   先輩「だってオカルト研ですヨ?」

生徒会長「オカルト研究会、オカルト研究会なぁ……うーん……」

男「生徒会長の一声!! ……で、何とか助けられませんか」

生徒会長「正直に言うと、無理だよ。部費の件だって私の一任でどうこうできる話じゃない」

先輩「……圧力かけちゃえっ」

生徒会長「へぇ、私に暴君になれと? 無理なものは無理、悪いが彼らの努力次第となる」

生徒会長「男くんの頼みならば全て叶えてやりたいが、こればかりは。すまない」

男「いや、俺の方こそいきなり無茶言ってすみませんです。(むしろこれを機にオカルト研を我が愛好会へ引き込める、というのは無し)」

男(理由は単純明快、彼女から属性を大きく奪う為である。アイデンティティーの消失は多くの美少女がいる中では、痛すぎる)

男(やはりオカルト研は、『オカルト研』でい続けなくては。見逃せば今後のオカルト研ルートに影響が……ただし、俺がある事を行えば修正は可能である)

男「(それをやる決心は未だつかず、やる気すら起きないが) 転校生たち、部室いますかね? 今日はそんなに待たせちゃいないが」

先輩「生徒会とか無ければさっさとラーメン愛好しまくれるものを。生徒会が無ければぁ……くぅー、生徒会憎いっ!!」

生徒会長「ふふーん、嫌なら止めてもらっても構わないさ? そうすれば[ピーーーーーーーーーーーーーーーー]」

男「あっ、先輩さんも抜けるなら俺もついでに」

生徒会長「続けろ!! 何がなんでもだ、会計ッ!!」

先輩「は、ハイ……!?」

男(非常にコントロールし易くて助かる。さて、ようやくして部室の前に辿り着いた俺たちだが、そこでは既にイベント発生の兆しがあったのである)

転校生「わ、私が代わるから降りて……危ないわよ……!」

男の娘「ううん、僕がやるからそのまま支えてて。うわ、わっ!?」

不良女「お前じゃ無理だっつーの! あーっ、見てて冷や冷やするから止しとけってば!」

男(開幕早々、俺たちはその光景に肝を冷やす。それは転校生と不良女も一緒のようで、口が開きっぱなしだ)

男の娘「大丈夫、だいじょぶだよぉ……ん~っ……んうぅ~っ……!」

男(テーブルの上に椅子、またその上に男の娘が乗っていたのである。今にもバランスを崩して転倒してしまいそうな状態。なるほど、把握した)

男「バカ、お前ら何やってんだよ!?」

男の娘「あっ! 男おかえりなさ――――――」

男(ガクン、と彼の体が床へ落ちるまで3秒も掛からなかっただろう。だが、落ちる、と分かり切っていれば先に動き出すのは容易だ)

男(全員の時間が凍りついた中、俺だけが落下地点へ体を滑らせる。読み良し、位置良し、タイミングバッチリ)

男「ぐえっ!? (こんなフライなら絶対に落とさない自信がある)」

男の娘「あうっ!! ……あれ、柔らか……男ぉ~~~っ!?」

不良女「おい、大丈夫かよ!? ついに死んじゃったか!?」

男「わ……悪いが、まだ生き長らえてたらしいぞ」

男(腹の上に跨る男の娘が霞んで見えた。ギリギリ腕で支えられていたのが幸いとしたか、内蔵破裂は免れたと。これも主人公がなせるワザなのである)

男「どうやってアイツは無傷でロリ天キャッチ成功したのか……っ」

男の娘「お、男ぉ! ごめん、僕のせいでこんな目に……ううっ」

男「平気だよ、思ったよりお前の落ち方が良くて助かった。その美尻に感謝しておくがいい」

転校生「強がってる場合じゃない!! あんた、本当にどこも痛くないの!?」

生徒会長「念の為に保健室、いや、病院へ行くべきだろうな。それにしてもよく反応できたよ……」

男「へへっ、カッコいいでしょう? (と、ピースしながらここぞとばかりアピールを噛ましてやろうとすれば)」

転校生「このバカあぁ~~~っ!!」

男「ぶっっっ……追い打ちかけて来るとは良い度胸だなぁー!? どっちがバカだ暴力女っ!!」

転校生「黙って心配されておきなさいよ! へ、下手したら今頃あんたが大変だったんだからね!?」

転校生「でも、ごめん。私が無理矢理でも男の娘くん止めてればこんな事にならなかったわ……怪我、ない?」

男「ああ、お前の叩き方が上手かったお陰で。それで男の娘は無事なのか?」

男の娘「う、うん。僕なら……[ピーーーーーーーーーーーーー]///」

男「えっと、すまん。何て言ったのか聴き取れなかったんだが」

男の娘「な、何でもないよ!? その……助けてくれてありがとう、男」

先輩「そいでそいで、どうして男の娘ちゃんはあんな危ないことしちゃってたワケ? 事と次第によっちゃ怒るよ、わたし」

不良女「ちゃんって、部長サンさ……まぁ、いいや。蛍光灯変えようとしてたんだよ」

不良女「ほら、最近明かりチカチカーって寿命っぽかったじゃん? 先生に頼んでおいて用務員のオジサンに来てもらってたんだけど」

男の娘「作業の途中でぎっくり腰になっちゃったみたいで。それで僕が代わりに」

生徒会長「待て、その人に頼まれたのか? まさか自主的に?」

男の娘「ぼ、僕からです……替えの蛍光灯置いて行ったから、つい。ごめんなさいっ!!」

男「あやまる事はないだろ」  

先輩「いや、あるとも!!」

先輩「いいかい、男の娘ちゃんよぅ。こんな事して怪我したら自分だけじゃなく、用務員のおっちゃんにも迷惑がかかっちゃうんだよん?」

先輩「わたしも含めてみ~んなが心配するから、無茶したらダメだよ。そこの二名もドゥーユーアンダースタンド?」

転校生・不良女「…………」

先輩「コレ ちゃんと聞いてたのかねっ! むぅ、ていうかどうしたの。わたし脚光浴びまくちゃってるんですけどっ」

不良女「……いや、珍しくまともなこと言ってたから怖くて」

生徒会長「あ、ああ。気味が悪い……!」

先輩「うええぇぇ、男くぅ~~~んっ!! 苛められたよぉ、さぁ その胸の中で慰めておくれっ!!」

男(我が懐へようこそ。歓迎しよう、盛大にな)

男「それより男の娘が何の考えもなしに危険な事をするとは俺は思えん。きっと理由があったんだろ?」

男の娘「それはぁ……えっと……しんちょ、ゲフンゲフンっ!!」

不良女「あぁーもうっ、あたしが悪かったよ! チビとか言ったけどもう気にすんな、ごめん!」

男(纏めよう。三人で待機中に身長について話題が上がったらしい。その時に自分より小さいと男の娘は煽られた。その後、用務員さんが腰を痛めてこの場を去る。残された替えの蛍光灯……導き出される答えは)

不良女「――――い、いらっしゃいませ、ご主人サマ」

転校生「あはっ、イメージしてたより凄く似合ってるじゃない! メイドさん姿!」

男「その恰好のが普段の数倍は賢く見えるな、コイツ」   男の娘「わぁ、言われてみたら」

不良女「あぁ!? ていうか、どうしてコスプレさせられた上 変な台詞言わせられんだよっ!! もう十分でしょ!?///」

先輩「不十分! 反省してもらえるように、今日だけはラーメン愛好会のメイド役を務めてもらわないと!」

不良女「もう反省した! なぁ、こんな事してるより部活やろーよ、部活!? ラーメン食べいこっ!?」

生徒会長「君は随分物好きだな。その恰好なら奇異の目に晒されると分かり切ってるだろうに、ふふ」

不良女「これ脱いでからに決まってんだろ!? つーか、どこでこんなの仕入れて来るんだよっ!!」

男「先輩さんが演劇部からわざわざ借りて来てくれたに決まってるだろ。ありがたく着とけって」

先輩「いえ~す!! ん……あれ、でも男くん何で知ってるの? さっき一緒にいなかったし、言ってないよね?」

男「……えっ?」

ここまで

転校生「コイツの事だから学校中に監視カメラとか仕掛けてたりするんじゃない?」

男「バカな、ずっと秘密にしてたのに何故わかった!?」

転校生「あのねぇ……今度こそ通報するわよ、へ・ん・た・いっ!!」

生徒会長「そう慌てなくても大丈夫。ふふっ、男くんも相変わらず人が悪いじゃないか。転校生が本気に捉えてしまうぞ?」

男「俺がウソを言っていなかった場合も笑顔で幕引きになりますか」

生徒会長「はっ!? ……お、男くん それだけはダメだ。……犯罪だけは、くっ」

生徒会長「ど、どうしても続けたいというのなら! 他の誰かではなく私だけを撮れば良いっ!!」

男の娘「えええぇ~~~っ!?」

男(彼女は俺のを強く掴み、激しく前後へ揺さぶる。その言葉は、献身的なのかある意味抜け駆け上等でか)

男の娘「会長さんばっかりズルい! 男、僕なら二十四時間いつでも監視されてたって平気だからね!? むしろ[ピーーーーー]」

生徒会長「いやいや、君にはあまりにも役不足じゃないか! 汚れ仕事なら私一人で事足りるっ!」

男の娘「全っ然汚れじゃないよぉ! とにかく男の欲求不満は僕がはたし……あうっ、[ピーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーー]///」

生徒会長「私が引き受ける!!」  男の娘「僕がやるんです!!」

男「あぁ……冗談だったんだけど。時として一つのジョークが争いの火種と化す、それは悲しいよな」

転校生「バカじゃないの?」

男(それにしても どうしてあんな台詞が突然不意に口から出て行ったのだろうか。なんて、疑問は要らず)

男(いつかも不良女に対して自身が体験していない出来事を喋った時がある。記憶には無い、きっと俺ではない俺しか知らないことを)

男(以前も考えたが、これは神側の改竄ミスで僅かに残っているのだろうか? [ピーーー]は[ピーー]じゃない。[ピーーーーーーーーーーーーーーーーー])

不良女「で、そこの二人は放って置くとして、流石にそろそろ脱いでいいっしょ?」

先輩「きゃー! 不良女ちゃんのえっちぃー! いやぁ~ん! あっは~ん!」

不良女「こ、このふざけたアホを絞めるの止める奴はいないよなぁ~……!?」

転校生「まぁ、確かにずっとその恰好は可哀想だとは思うけれど」

不良女「でしょ!? あぁー、転校生だけだよ あたしの味方! 大好きっ!」

転校生「せっかく可愛いのにこれっきりだなんて勿体ないし、もうちょっとだけ堪能させて! お願いっ!」

不良女「あたしさ、頭悪いけど四面楚歌って意味すごく理解したかもしれない。テストに出るかな……」

男「お前は可愛くないとか、驚くほど似合ってないって言われたいのか。貶されるどころか誉められてるんだぜ?」

不良女「明らかバカにされてるんだろうがっ!? 見ろよアレ!!」

男(指の先には携帯電話で今も写真を撮り続ける先輩さんの姿が。目が合うと親指をグっと立てて返される)

先輩「…パンチラもありまっせ」  男「ありがとうございますッ!」

不良女「いやあああぁぁぁ~~~!? やめろぉぉぉ~~~っ!?///」

先輩「ほんとにっ! ひぃ! あとで誰かに送ったり、チェーンメールに使ったりしないから許してつかんさぁーいっ!!」

不良女「玩具にするのも大概にしとけよ!?」

男(泣くなく三ツ星画像を削除した先輩と俺は失意のあまりその場へ崩れる。あと一歩、俺へ送信さえされてしまえば様々な使い道があったものを。実に惜しい)

男の娘「あんまりみんなで苛めたら可哀想だよ。制服に着替えさせてあげてもいいんじゃ」

先輩「えぇ! せっかく次はチャイナドレス用意してたのに! 見よ、このスリッドの際どさ!」

不良女「自分で着りゃ良いだろ! ……何だよ、ジロジロ見るなってば」

男「まさか。本当によく似合ってるなぁと見納めになる前によく焼き付けてるだけだ」

不良女「うっ! うるさい……[ピーーーー]」

男「ん? 新鮮だからな、お前がそういうの着るの。お世辞じゃなくても俺は可愛いと思ってる」

不良女「そ、そう……あっそ……///」

男(気の強い不良美少女メイド。ふむ、アンバランス感が絶妙に味を引き立て、そこへ羞恥が加わり最強に見える)

男の娘「あの、男がそういうの好きなら、ねっ!? 僕も頑張るよ!?」フンフン

男(男の娘メイドだと? ……妄想が捗っている最中だが、今のところ愛好会メンバーへ天使ちゃんが紛れている様子はない)

男(当然か、ここでは俺にすぐ気づかれる危険が高すぎる。ようやく気を休め、先輩が美味いと太鼓判を押したラーメン屋へ訪れたわけだが)

先輩「とりあえずバンド組まない?」

>>378 訂正

男「まさか。本当によく似合ってるなぁと見納めになる前によく焼き付けてるだけだ」

男「本当によく似合ってると思って見てるだけだって。どうせ見納めになるなら、しっかり焼き付けておかないとな」

生徒会長「今さら君の言うことに驚くのもバカらしいが……いま何と?」

先輩「バンドだよ、バンド! 青春は音楽! 音楽は青春! って昨日読んだ漫画に」

男の娘「えぇ、部長さん楽器弾けるんですか? カッコいい」

先輩「ううん、弾けるワケないっしょ?」   転校生「本当に期待裏切らないわ、この人…」

男(誰か楽器の経験者はと挙手を求められると、その場の全員が沈黙。手は上がらず)

不良女「良かったじゃん。あたしらはのんびり放課後をラーメンに費やし続けることが決まったよ」

先輩「経験者がいないなら、なればいいじゃない! 逆転の発想だよ!」

先輩「それにわたし思うんですヨ。今のままじゃ愛好会の活動は漠然とし過ぎてる……何か目標を立てるべきではないかと、ねっ!!」

男「で、その目標とは?」

先輩「有名になって日本武道館ででっかいライブをやってやりましょー!!」

生徒会長「そう……麺が伸びるぞ、早く食べないと」

先輩「バンド組む?」   生徒会長「組まない」

転校生「ていうか、もしかして部活動の一環としてやる気だったの? わ、私たち何部よ」

先輩「いやぁ、まぁ……で、でもでも! ここにいるみんなで何かやり遂げたって証を残したいというか!」

男(結論音楽へ至ったのは謎だが、意図は理解できた。彼女なりに俺たちを思ってくれているのだろう)

男「何だかんだ言っても、俺たちみんな今を楽しめてますよ。確かに毎回ダラダラしてるだけですけど」

男「だからといって、無理に方向転換しなくても愛想尽かして抜けたりしませんから。ね?」

生徒会長「ああ、焦らずとも私たちは私たちのペースでやる事を見つけて、ゆっくりやっていけば良いさ」

不良女「はぁ!? 今のって部活心配して言ってたのかよっ、勢いでとかじゃなくて!?」

先輩「うー、だってわたしと生徒会長ちゃんが卒業したら、こんな変な所 誰か新しく入ってくれるかわからないし」

先輩「それに……どんな形でもみんなに楽しんで続けて貰えたら良いなって。でも、ちょっと無理あり過ぎちゃったか」

転校生「いきなり何言い出すんだって感じだったわよ。でも、そいつの言う通り 心配しなくても私たちここにいますから!」

男の娘「僕はまだ新入りだけど、うん 辞めたりなんかしません!」

男(そうだな、俺という男がいるもの。美少女たちは皆 足掻けど惹かれるしかない。この引力に)

先輩「そっかそっか、嬉しいなぁ~! もぉ~! ……えへへ///」

先輩「でも文化祭ぐらいならどーよ!? 転校生ちゃんイギリス帰りだし、ギターとか似合うね」

男「コイツは打楽器の方が向いてるんじゃないですか? ほら、いつも俺をぶん殴ってる」

転校生「へぇー、あんたは楽器になりたいみたいねぇー……?」

男「俺は影でカスタネット鳴らしてるのがお似合いだから、っと電話――――あっ」

男(どうやら……すっかり忘れていたようだ、俺の彼女を)

ここまで

男(店を一旦出て鳴り止まない電話を取れば、その声に内心ほっとさせられる)

幼馴染『帰り遅くなるかなと思って。もしそうなら先に妹ちゃんだけでもご飯食べてもらうけれど』

男(想像していたより声も態度も優しかったのである。部活の件を知っているとはいえ、帰りが何時になるか知らされていないと彼女たちも困る。すっかり伝え忘れていた)

男「えーっと、やっぱりアイツ怒ってるかね?」

幼馴染『ううん。怒ってないけど、帰りにプリン買って来てくれなきゃ怒るみたい』

男(ロリ天使といい我が妹といい、スイーツへの執着は恐れ入る。そんなところに子どもらしさが垣間見えて愛らしく思えるが)

幼馴染『いま部活の途中? 何やってるのかあたしにはわからないけど大変だね。メールの方が助かった?』

男「どうせ忙しいの一文字も見当たらん場所さ、特に面倒だなんて思わない。むしろ嬉しいよ」

幼馴染『え?』

男「お前と少しでも話ができるからだろ。それぐらい察してみろって、鈍感!」

幼馴染『あーっ……むぅ、男くんズルいよ。ふふっ!』

男(まるで熱々新婚カップルの会話ではないか。むず痒くも感じるが、それ以上に彼女が楽しげに笑ってくれるのがまた嬉しい)

男「(幼馴染よ、俺とお前でバカップルを目指そう) そろそろお開きになるから今家に帰る。機嫌悪くされても困るからお土産持って」

幼馴染『あはっ、りょーかいです。じゃあこっちはご飯用意して待ってるからね!』

男(放課後に弁当を片づけ、部活でラーメンを食べ、帰宅してからもときた。美少女が作る料理だ、要らんワケがない。喜んで肥えてくれるわ)

男「……どうした、電話切らないのかよ」

幼馴染『……そっちから切って大丈夫だよ?』

男(なんというラブコメシチュエーション。見事過ぎて自分でも感動しているぞ)

男(そっちで切れ、そっちが、延々やり取りが繰り返される。第三者視点で観察したら全力で肘をお見舞いしたくなる。ああ、段々自分に腹が立ってきた)

幼馴染『じゃあせーのっで一緒に切ろっか? えへへ、なんか本当に恋人同士みたいだ……///』

男「みたいじゃないだろう? なぁ、もう俺たちはあの頃とは」

幼馴染『わぁああ~!! ご、ごめ~んっ!!///――――――ガチャ』

男(イチャラブよりも自分のプライドを取る、それがこの俺。より距離が近づいたことで幼馴染の恥じらいポイントが増えたというわけだ)

男(さて、席へ戻って残ったラーメンを平らげる事で本日の部活動は終了。ここでいつもは別れ道まで転校生と二人で歩くのだが、そろそろだろうか?)

転校生「……ねぇ。あの、ね? そのうち料理の練習するつもりなんだけど……ええっと」

転校生「作ったヤツ、と、特別にあんたに試食させてあげても構わないわよっ!? と、特別なんだからねっ!///」

転校生「ばかぁ、どうして素直に誘えないのよ私……って、いない!! どこ行ったの!?」

男「おぉーい、転校生! 今日は買い物して帰るからこの辺りで。じゃあまた明日学校でなー!」

転校生「えぇ!? もしかして今の聞いてなかったの!? ちょっとー!? ……っの、ばかぁ~!!///」

男(予想的中、昼時の会話にこの手のイベント発生の伏線があった。悪いがしっかり折らせてもらうぞ 転校生)

男(無事コンビニでプリンとアイスを手に入れて帰路に立った。無事、というのは天使ちゃんの突撃がなかったという意味である)

男(しかし、探す手間が省けるのなら常に突撃されていた方が楽でもある。こうして俺が稀に一人へなる時を狙ってくれたら更に楽なのだが)

男「久しぶりに長い時間一人でいた気がするな。横がうるさくないって……何か寂しい」

男「このアイス道端に置いとけば食いつくだろうか。いや、流石に拾い食いまでするアホじゃねーだろ……」

男「……ふむ!」

男(日も暮れ、通行人もぽつりぽつりと減った中だったので。もしかしたらという気持ちが先行したので。俺はこうして壁の影へ隠れて、道のど真ん中に置かれたアイスを見守るのだ)

男(バカげているのは重々承知の上。だが相手は更に上を行くバカである。あんな露骨な罠にも尻尾を振って飛び込むかもしれない)

男(たとえ老婆でも主婦でもOL、学生、幼女でもだ。アレを取った女子は誰だろうが確保する。俺は一体何を考えているのだろうか? 分からん、頭がお釈迦になっている)

男「やれやれ、依存してたのは俺も同じってことか。もうアイツが隣にいないと不安になってる」

男「ダメだ……早く帰って妹と幼馴染に癒してもらおう。それが良い」

委員長「男? こんな所に一人で何をしているんですか」

男「……掛かったな、阿呆がっ!!」

委員長「はぁ!? えっ、ちょっとどうしたんですか!? は、離してっ」

男「離して? 一歩間違えりゃ不審者のレッテル貼られるリスク抱えて待ってたんだ、逃がすわけないだろうが」

男(勘違いされる前に言っておこう。いま捕まえた彼女が天使ちゃんだと俺は確信してはいない。どう思われようが、ここで虚勢を張って迫っているだけである)

男(間違っていたら頭を下げて適当な言い訳をすればどうとでもなる。いくら変人と見られようが、この世界で俺の敵になる者は何人たりとも存在しない)

男「(だがそれは、彼女が本物かどうかを確かめた後である) もう気づいてるんだからな。この俺をいつまでも舐めてもらっちゃ困るじゃないか!」

委員長「い、意味不明です! ふざけるのもいい加減にして!」

男「安っぽい演技で騙し通せると思うなよ。仏の顔は三度までと言うが……俺の場合は二度までだぜ!」

男「――というシーンが今貸してる漫画に載ってたんだけど、そこまで読んだか 委員長? へへっ」

委員長「えっ、漫画……く、くだらない! 驚かさないでくださいっ! 本気で怖かったんですよ!?」

男「いやー悪い悪い。ちょっと可愛い悪戯をしたくなってみて。どう? 俺の熱演、中々真に迫ってただろ?」

委員長「ただただ怖かっただけです! いきなり人の腕掴みかかってきたりして……もう」

委員長「というか、ここで何をしてたんですか。まさか私を待ち伏せしていたわけでもないでしょう?」

男「ストーカーじゃないか。でも、そうだったら良いなとか思ってたり?」

委員長「お、思ってる筈がないでしょう!? あなた何様のつもり!?」

男「相も変わらず男って人間だよ、俺は。それで委員長はどうしたんだ? 帰りか?」

委員長「ええ、数学を教えて欲しいと頼まれたので今までずっと図書館に。それが何か?」

男「そいつは奇遇だ、俺もついさっき部活が終わって家に帰ろうとしてたんだよ。良かったら途中まで一緒に行かないか?」

委員長「あ、あなたと? べつに、構いませんけれど……///」

男(恐らく彼女は天使ちゃんではない。ただ俺と帰ろうと誘う程度で、あのロリが頬を染めるなんてあり得ないのだから)

男(難聴スキルとラッキースケベで確認を取らずとも明瞭である。それに道端へ落ちたアイスへ関心を示すことなく、スルーして歩き出した事も大きい)

男(でも、誰だろうと落ちている物を食べたいとは普通考えないという)

男「委員長とこうしているなんて珍しいんじゃないか? 放課後はあまり顔合わせなかったしなぁー」

委員長「言われてみれば確かにそうかもしれません。まぁ、男のおふざけに巻き込まれなくてその間は平和に過ごせますけど」

委員長「……というかさっきのアレ、ネタバレなんですが」

男「はい? 何のことかね」

委員長「恍けないでください、男。まだあなたから貸されてる漫画であんなシーン読んだ覚えないんです!」

男「あっ、ああー! そういうこと! 平気へいき、問題ないって。別に重要なところでも名場面でもないぞ」

委員長「何にしても私から先の楽しみを奪うのは許せません! 良いですか、今後は絶対どんな形であろうとネタバレ禁止ですっ!」

男「ほう」

委員長「ほうって、本当にお願いですよ? そういうのが一番困るんですから」

男「本当に漫画面白いと思ってくれてたんだな。衝動でつい貸しちゃったけどさ、楽しんで貰えてるなら嬉しい」

男(と言いながら微笑んで見せると、彼女は口を噤んでそっぽを向いてしまった。残念ながらモロバレだな、委員長よ)

委員長「[ピッ]、[ピーーーーーーーーーーーー]///」

男(美少女委員長、生真面目すぎるところも愛せる、貴重な眼鏡枠でもあるから。現実での彼女を救えた暁にはこの委員長も俺のモノにしても文句はあるまいて)

『本物のあなた自身が、彼女を大切な人の一人と思っているからでしょう』

男(複雑……正直そうしようと思う自分が何とも言えない。何故だ、委員長を特別に感じていたのか? 俺は?)

男(本当にただ声をたった一度だけ掛けられただけなのに。他に接点も無かった。そんな相手に惹かれた俺はどうかしているに違いない)

男(もし委員長の立場が現実の幼馴染や妹、他の美少女たちに変わっていたら同じことをしただろうか? わからない。[ピーー]、[ピーーーーーーーーーーーーーー])

委員長「男は、私のことをどう見てますか?」

男「はぁ!? どど、どうって何だよ急に!? いきなりすぎるだろ!?」

委員長「へ、変な意味で聞いたんじゃありませんから!! その……周りと比べてどんな子なのかな、と」

男「それは、えっと、委員長はクラスのみんなに頼られてるし、中心人物だ。俺たちを纏めて引っ張っていけるってだけで素直に尊敬する」

男「おまけに顔も可愛い。非の打ち所なんて一つもないと思う、でどうだろう?」

委員長「そ、それ本気で言っているんですか……?」

男「聞かれたことには正直に答えるさ、俺は純粋だから。でも何でだよ? 悩んでるのか?」

委員長「あの、嫌味と受け取らずに聞いてもらえませんか。みんながあなたと同じように私を言うんです、完璧だって」

委員長「私はそんなつもりはないし、凡人だと思ってる……なんだかチヤホヤされるのがおかしく感じて……」

男「嫌味かな?」  委員長「ですから嫌味じゃないんですっ!」

男「人からの好意は素直に受け止めて喜べば良いじゃないか。そうされて驕らない委員長はやっぱり凄いと思うけどな」

男「いやぁ、まるで俺とは真逆だな。優等生と劣等生なんてもんじゃないだろ? へへっ」

委員長「学校だけじゃないんです」   男「え?」

委員長「家でも、家族が私を立派と誉めてくれて、いつも笑顔が絶えない。どこへ行ってもみんなが私を見て好意的に接してくれる」

男「なんだか……嫌味じゃないが今度は自慢か疑いたくなってくるな」

男「何を戸惑ってるのか理解できないけど、委員長は単に恵まれてるんだろ。なら、その環境に甘えるのが利口ってモンさ」

男(待て、戸惑っているだと? 完全美少女化した委員長が自分を取り巻く環境に? そんなことがあり得るのか)

男(もしやである。元の彼女の欠片がちょっぴりでも残っているのでは? 人格が戻って来ることはなくとも、まだ消滅し切っていないのでは)

男「……嫌だったりするのか? 周りからチヤホヤされるのが」

委員長「いえ、わざとでもなければ嫌と感じる人は普通いないですよ。ただ不思議だと思いまして」

委員長「だっていくら私が優秀だとしても、いくら何でも顕著過ぎます。嫉妬も買わないほどの聖人君子ですか、私は」

委員長「思った事はハッキリと口に出しますし、少し他人に厳しいと自己分析してます。男だってそう思う時があるでしょう?」

男「あ、ああ、同意したくはないけど……そうだな」

委員長「ですからおかしいと思ってたんです。でもまぁ、だからといって悪口を言って欲しいつもりじゃありませんけれど」

男(先程まで頭の中にあった考えは薄れていく。そして新たな推測が立つ、委員長の願いである『人気者』は当人が消えても継続されたままであり、彼女へ受け継がれている)

男(この委員長が感じているのは違和感ではない。何故そうなのか、という純粋な疑問だ)

男(その意思に俺が知る委員長の影は一切見えなかった。ごく普通に「どうして自分は料理が下手なの?」ぐらいの、そんな悩みを打ち明けているように感じて仕方がない)

男(ようはキャラ立て。委員長の願いは 美少女委員長へ『設定』として受け継がれた。……きっと俺だけが唯一彼女を貶せる存在として、気を引けるのだろう)

委員長「男、ぼーっとしてますけど?」

男「なぁ、委員長。さっきの君に向けた最高の称賛は取り消すことにしよう」

委員長「は? あの、それはどういう意味で」

男「正直に答えるって言ったけどな、ありゃ建前だった。俺の中の委員長はいつも口うるさいクソ真面目人間だな」

委員長「なっ……何ですって! ふん、あなたに比べたらよっぽどマシだと思いますけど!」

男「おぉ、劣等生上等じゃねーか! だけどこんな奴にそう思われてるぐらいなんだ、実際まだまだ大した事もないんじゃなーい? 何が聖人君子だよ、ぷぷーっ!」

委員長「ば、バカにしないでくださいっ!!」

男「クククッ、煽られ慣れていないのが丸わかりだな。そんなに顔真っ赤にしてムキになっちゃって、委員長らしくないんじゃないかねぇ~?」

委員長「くぅっ、あなたにぐらいですよ!! 私がこんな風になれるのは……だから[ピーーーーーーーーー]///」

男「ん? 自信がなさすぎて声が小さかったぞ、次は何て言い返した?」

委員長「な、何でもありませんっ!! 私、左に行きますから。つまらない時間をありがとう、さようならっ!!」

男「ああ、また明日学校で (神は残酷だ。あらゆる意味で)」

また明日

幼馴染「男くんお疲れさま。ふふっ、すぐに夕飯持って来るから座って待ってて」

男(ついさっき恥ずかしさに悶えたであろう面影は既に失せている。それにしても、家に帰って笑顔で出迎えてくれて温かい料理、風呂まで用意してくれているというのは)

男「今更ながら奥さんみたいじゃないか。『幼馴染』の領域をアイツはもう凌駕してやがる……そして」

妹「お兄ちゃんおかえりなさいっ!」

男「妹という名の娘がここに一人、だ。随分機嫌良さそうじゃないか?」

男(「いいからいいから」といつものツンケンした態度とは裏腹に、明るい笑顔を浮かべて気軽にボディタッチ。現金な妹の将来が楽しみだな)

妹「そりゃあ甘いお菓子を前にして機嫌悪くしてる女の子いないよぉ~♪ ほれほれっ」

男「お前なぁ、先に夕飯食べたんだろ? もう手つけちゃうのかよ」

妹「ちょっとそれどこ情報ー? 私 まだご飯食べてないし」

男「あれ、腹空かせてたからお先してたのかとてっきり……」

幼馴染「妹ちゃん、もう少しで帰って来るならって一緒に待ってたんだよ。ねー?」

男(料理を運び終えた幼馴染に柔らか頬っぺたを指で押されると、きまりが悪そうに、頬を膨らませて指を押し返している)

妹「だって前に約束したじゃん。お兄ちゃんはすぐすっぽかしちゃうけど、晩ご飯ぐらいは三人揃って食べたいって」

妹「やっぱり、それも覚えてない? [ピーーーーーーー]……」

男「ご飯食べ終わったらデザートにプリン食べような、三人で (健気すぎてもう涙が出てくるわ)」

妹「にしてもお兄ちゃん少食だよねー。あっ、まさか太った? にししっ」

男(茶碗の米が悪魔に見える。おかずは幼馴染が作ってくれた物だ、悪くは言えない。胃袋のキャパオーバーが辛いな)

男(愛妻弁当にラーメン、こんな生活が繰り返されれば肥えるどころか成人病まっしぐらでは? 毎度ラーメンを食べに行くわけじゃないにしも、中々堪える)

妹「でさ、バカお兄ちゃんのせいで今日は朝から散々だったんだよ? ヘンな人とも知り合っちゃったし」

幼馴染「ヘンな人?」   妹「うん、かなり変っ!!」

男「おいおい、そう言ってやるな。アイツはあれでも……そう、可愛いところがあるんだぞ?」

幼馴染「……可愛い? あっ、女の子かな?」

男(病みだ、幼馴染の瞳の奥に闇が見える。とっても、とっても大きな暗黒裏世界)

妹「確かオカルト研? って人だったっけ。幼馴染ちゃんたちと同じ二年生だと思うんだけど知ってる?」

幼馴染「ああ、三組の……。あたしはあんまり話したことないけど、男くんは知り合いだったんだ」

男(笑みを絶やさない幼馴染。が、その水面下もといテーブル下では俺の脛に向かって、トントン、と足で突かれている感触が)

男「まぁ、ただの女友達ってところだな……それ以上以下でもないと言いますか……テレビ、面白いのやってないかなー……なんて」

男(弁解の言葉なんていくらでもあるが、まるで包み込むように覆い被さるプレッシャーに先に潰されてしまいそうである。堪えろ、何の為に自ら地雷原へ踏み込んだ。この程度で――)

幼馴染「    」

男(声に乗らない言葉。幼馴染の口が数度開いて閉じる。読唇術の心得なんて全くない俺にもソレは容易に理解できてしまった)

男「(だが、直接声に出してもらわなければ) ……あとでへやに?」

妹「はーっ! ごちそーさまぁ! さぁてさてさて~、デザートのプリンちゃんが私を待ちかねてる!」

男「一人で抜け駆けしないで、俺たちの分も持ってきてくれよ?」

妹「わかってるって! お・い・し・い牛乳プ~リン、フンフンフフン、ラララ~ウララ~っと♪」

幼馴染「洗い物終わって一段落ついたら、あとで男くんの部屋に行ってもいいかな。……時間あるよね?」

男「暇人だからな。丁度良い、俺もお前に話があったんだよ。妹にも、誰にも聞かれたくない。誰にもだ」

幼馴染「えっ? う、うん、わかった……うん」

男(そう不安そうな顔をするな、幼馴染。たった一日で恋人終了宣言なんて気が短すぎるだろう。もっと楽しい話をしようじゃないか)

男(もはやいきり立った腹だが、それでもプリンは優しくしてくれた。おまけに妹が美味そうに一口一口スプーンを運ぶ姿を見て心身ともに癒される。美少女こそ究極の治癒法か)

妹「お兄ちゃんもう部屋行っちゃうの? なんか珍しい」

男「今日は色々あって疲れててな。何だ、もっと俺と一緒にいたくて堪らないのか?」

妹「っ、そんなわけないじゃん!? 早く行けば! テレビ見るの邪魔されなくてすっごく助かるから!」

男「そんな冷たい。へいへい、悠々とお寛ぎ下さいな」

妹「んっ! ……[ピーーーーーーーーーーー]」

男「何だって?」     妹「だぁ~っ、もう一々それやるの禁止ぃ!!///」

男(部屋へ戻ると、力尽きたようにドサリと布団へ倒れ込む俺。天井を見上げながら一時の孤独に浸る)

男(……もしかすれば『孤独』ではないかもしれないが)

男「よく見たら絨毯の上にある細かいゴミが気になるな。美少女も座るんだし、コロコロ転がして綺麗にしておくとしよう」

男(別名カーペットクリーナーを念入りに転がし、いかにも掃除を頑張る俺を演出。隅から隅まで――――透明な何かにぶつかることはなかった)

男「そもそも透明化したあの子に俺から触れるのかすら怪しいが……クリアリング良ーし」

男「ハァ、まさかここに天使ちゃんがいるわけないよな。透明になるのは自分から禁じた事だし、ルール違反になっちゃうもん。……俺にバレたら」

男(ギクリとも聞こえてこなかった。けして向こうのミスを誘っているわけではない。むしろ、ここに居てくれなくては始まらないのである)

男(何がか、それはあとのお楽しみという事にしておくのが一番。……天使ちゃんには居場所はない。もし律儀にルールを守っているなら、彼女は誰かに化けてどこかへ紛れて夜を過ごす他ないのだ)

男「アイツは後輩のように関係ない家庭へ紛れ込めない。なら、一番賢い選択は姿を消してこの家の何処かにいること」

男「この俺の傍が一番寂しさを感じないだろう。万全を期して後輩には、けしてアレを家に上がらせないよう約束させたから……おい、何か廊下から聞こえるぞ」

マミタス「にゃーう」ガリガリガリ…

男「あぁっ、マミタスこの野郎! 壁で爪とぐなって口酸っぱく言ってるだろうが!」

マミタス「んぐるるる」

男「清々しいほど反省してねーなコイツ……あっ」

幼馴染「おまたせ。妹ちゃんに内緒で来てるからこっそり、だよ?」

幼馴染「あーっ、男くんまた部屋汚したりして。掃除してもすぐ散らかっちゃうんだから」

男「綺麗なものは汚したくな、あれ? これどっかで聞いた覚えなくね?」

幼馴染「もう……お休みのうちに掃除するけど、今度は男くんも手伝ってね? 自分で掃除すると綺麗にする苦労がわかると思いますっ」

男「悪いが休日は予定がギッシリでそんな暇はない」

幼馴染「えぇ、明日は? 日曜日も? もしかして誰かと遊びに行っちゃう、とか? ……お、男くんだってあたしとばかりいられないか。そうだよ、うん」

男「明日はオカルト研と不良女、男の娘に転校生と一緒に出掛ける約束があるんだ。知ってる顔も多いだろうし、お前も来る?」

幼馴染「え、遠慮しとく……楽しんできてね。じゃあ日曜日も誰かと……?」

男「それが、日曜日の予定はまだ俺の中だけでしか決まってないんだよ」

男(言われて小首を傾げて見せる幼馴染。すっかり曇らせてしまった彼女の表情はすぐに、きっと晴れることだろう)

男「幼馴染。お前、日曜日暇してるかな? 俺の為に掃除とか言ったんだし、空いてるに決まってるか……初デート行かないか?」

幼馴染「えっ!?」

男「(下げて、上げる。やはりこの手に限る) 俺たちこれでも付き合ってるんだぞ。なのに、学校では中々会う暇もなくて、家でも家事で忙しそうにしてるし」

男「なぁ、ダメかな? だから妹にも聞かれたくなくって……まだ少し恥ずかしい気持ちもあるしな……」

幼馴染「そ、そういうことだったんだ。そうだったんだ……良かった」

幼馴染「初デート行きますっ! ぜひっ! ……あは///」

幼馴染「男くんとデート! 初めて二人っきりのデートっ! ねぇねぇ、何着て行ったらいいと思う!?」

男「(ツヤツヤし出すこの幼馴染である) へへ、それを考えるにはまだちょっと気が早いんじゃないか?」

幼馴染「ううんっ、そんなことない! だって今からもう楽しみなんだよ。気合い入れていかないとーっ!」

幼馴染「って……あたし一人で浮かれすぎ?///」

男「いや、俺も日曜日楽しみにしてるよ。でも変に気張らなくても大丈夫だって。知らない仲じゃないんだしな」

男「(聞いているか 天使ちゃん。すぐ傍にいるか? どこで聞いていたって良い。俺と幼馴染がデートをするぞ) 行く所は大体俺で決めておこう、頼りにしておけ。時間は……早い方が良いか」

男「駅前にある大きな時計の下で十時に落ち合うってことにして問題ないか?」

幼馴染「えっ? 家がすぐ隣なんだし、一緒にそこまで行けばいいんじゃ」

男「まぁ、こういうのは気分が大切なんだよ。やっぱりデートって言うからには何処かで待ち合わせてからじゃないとさ!」

幼馴染「気分……うーん、よくわかんないけど男くんがそうしたいなら。わかった、十時に時計の前だね」

男「ああ、十時にだ。遅刻なんか絶対するなよ? もし間に合いそうにないならかならず連絡を忘れんように」

幼馴染「男くんじゃないんだからそんなだらしなくないよ、あたし? ふふっ!」

男「余裕見せてる奴が当日遅刻ってのが一番あり得るな。……ところでお前も何か用があったんじゃないか?」

幼馴染「えっ!? あ、あの、え~っと……うぅ、襲おうと思ってたなんて言えるわけないじゃん……っ///」

男(襲う、そういうのもあるのか)

幼馴染「じゃあおやすみなさい、男くん。……日曜日楽しみにしてるね?」

男「任せろ、期待を裏切るような真似はしないから」

幼馴染「そーこーは、フツー期待に応えてやるって言うところじゃないの? ふふっ、今度こそおやすみなさい」

男(すっかりご機嫌なマイ彼女幼馴染の見送りは無事に終える。さすがにあのタイミングで幼馴染へ姿を変える愚策はなかったな)

男(策は張った。たとえ俺の思惑通りに進んでいなかったとしても問題は一つとしてない)

男(悪いが幼馴染、天使ちゃん。お前たちの全てを利用させてもらおう)

妹「お兄ちゃーん、マミタスどこ行ったか知らない? さっきから見当たらないんだけど」

男「あの畜生猫なら二階で壁ガリガリ苛めてやがったぞ。お前もちゃんと躾てやれよ」

妹「マミタス良い子だし! あぁー、なんか今無性にマミりたい気分なのにぃ……散歩行ったかなぁ」

男「アホか、こんな夜に出歩かせて堪るかよ。出入り口全部閉めてあるし、どうせその辺に収まって寝てんだろ」

男(マミタスを欲する妹を他所に風呂で一日の疲れを流すと、一気に眠気がやってくる。布団の柔らかさが心地良い)

男「……残り二日か」

男「意地でもこの勝負勝たなくちゃ。委員長まで、俺の都合の良いように変えられるのは――――――」

?「――――目覚めるのです。目覚めなさい、ただちに」

男「ん……んんっ……!!?」

男「あんた……いえ、あなた様は……まさか……」

男「どうしてここに!? 何故あなたがいるんだ!? そ、そんなバカなっ!!」

神「愚問ですね。この私を誰と心得ているのです? 神さまなのですよ」

男「それさっぱり意味不明なのだが……あぁ、とにかくどうしたというのか! 俺に一体何の話があるのだ!?」

神「ええ、もうこの戯れに神は飽きられたとわざわざ伝えに来てあげたのです」

神「これ以上あなたが足掻こうが、ハーレム実現の為に奮闘しようが意味はありません。遂に終焉を迎える時が訪れました」

男「な、何だと?」

神「全てが無に帰るのですよ。あなたがやってきた事が、全て」

男「神よ、落ち着いてくれ……どうかしてるぞ……意味がわからないんだよぉっ!?」

神「『箱』を開けなさい。あなたはアレを解放し、何もかもを知る権利がある。そして己自身で終着点へ辿り着きなさい」

神「私は神。ですが、所詮末端としての神なのです。全てを支配し、操っていた存在は私ではありません」

『あの方こそが……あの方こそが……箱を……箱を開けるのです……箱を……』

男「神ッ!! す、姿が消えてしまった……ううっ、いつの間に俺は例の箱を手に持っていたんだ!?」

男「さっきまで確かにそこで寝てた筈なのに、どうして」

男「くっ……」パカッ

男「っ……お、思い出した。何もかも、全てだ。俺は思い出したっ!!」

男「し、信じられない! こんなことがあって堪るか! 冗談だろう!?」

男「信じられるかよ、出鱈目だ……!」

男(自分へ次々と流れ込んできた真実を認めたくなかった。しかし、口に出して抗おうものも 真実は俺の中で膨れ上がっていく)

男(頭を抱えて部屋を飛び出し、階下へ転げ落ちる。痛みすら感じる余裕もなく、俺は床を這った)

男(這って、あの部屋へ。あの『暗室』へ。そこに答えがあるのだから……)

男「ウソだろ……いいや、これこそが真実なのか……」

男(戸を開けた先にあった光景は、暗く狭いあの場所ではなかったのだ。真逆だ、明るく広い)

男(テレビにエアコン、キンキンに冷やした飲み物を取り出せる冷蔵庫、ふかふかソファ。快適と考える何もかもが完備されてある)

男(それ以上に目を引くのが部屋の半分は占めるであろうモニターの数々と謎の装置。それらを手動操作する影が一つ、イスの上に)


マミタス「にゃー」


男「おまえのしわざだたのか……」



BAD END―――

男「――――うおおおぉぉぉぉ!!?」

男「おおぉぉ……?」

男「……夢で良かった、本当に、マジで」

男(ここ最近の疲れの表れだろうか、冗談でも悪夢すぎる悪夢を見ていた。いつのまにか気を失っていたのだろう。明かりをつけたまま布団の上に仰向けになっていた)

男「そして悪夢の原因第二はお前だろうな。無理矢理戸開けて入ってきやがったな!?」

マミタス「ゴロゴロゴロ」

男(胸の上で堂々と寝息を立てている問題児・マミタスである)

男「いつも妹のとこで寝てるだろうが……頼む、邪魔だからあっちに行ってくれ……!」

マミタス「フッ!?」

男(首根っこ辺りの皮を持って無理矢理上から退かし、そのまま廊下へ追放。どうか妹のないでもない胸の中で続きを楽しんでくれよ)

男(が、翌日の朝)

妹「マミタス? 何言ってんの、お兄ちゃん。あの子ならあの後ずっと私の部屋にいたけど?」

男「戸締りがなってなかったんだろ。お陰でまたシャワー浴びなおすほど汗かいたんだが」

妹「ううん、ちゃんと閉めてた。それにマミタス寝たら絶対朝まで起きないもん。大体お兄ちゃんマミタスから嫌われてるじゃん? どーせ夢でしょ」

男「……アイツが犯人か」

ここまで

男(ロリ天使を求めて二日目。初日の失態を取り返すつもりで今朝からイメージトレーニングを繰り返してみる)

男(『女の子限定』、確かにマミタスは雌だ。ルールに反していない。俺が勝手に人へのみ化けるのだと思い込んでいたのだ。悔しいが認めよう、天使ちゃん侮れない)

男の娘「男、おはよぉ~! 土曜日でも男と会えるなんて朝から幸せ気分だよ~」

男「かわいい……まだ男の娘しか来てないのか? 他のみんなは?」

男の娘「うーん、遅刻かもしれないね。もしかしたら三人とも今日の予定ド忘れしちゃってたりしてっ」

男「絶対にあり得ないと自分の首賭けてやっても構わん (常に自分の愛優先で動くからな)」

男「バスが遅れてるとかトラブルに遭ってるんだろ。五分の猶予与えてオーバーしたらジュース奢らせようぜ」

男の娘「あ、哀れみかけておきながらブレない男が素敵だよ……っ」

男の娘「それより二人で探しに行ってあげよう! 回収しながら目的地に向かえれば一石二鳥だよ!」

男(と、強引に引き寄せられ腕を組まれてしまう。まるで美少女、積極的な彼に心踊らない者はいない。こんなに可愛い子が女の子じゃないとは)

男「おいおい、すれ違いになったりしたら面倒だろ」

男の娘「平気だよ~。さ……え、えへへ、さぁ!! 二人で誰にも見つからない場所に行こっか!!」

不良女「二人でどこに行こうだって?」

男の娘「あはっ……男、全速力で逃げるよぉ~~~!?」

不良女「オイ、待てよゴラァ~~~ッ!!」

男の娘「僕と男の[ピーーーーーー]がー……」

不良女「ぜーぜー……この野郎! 何で逃げ脚だけ無駄に早ぇえんだよっ……!」

男(不良女からフロントチョークをお見舞いされている男の娘。なんというご褒美を、けしからん)

転校生「まったくもう。常識的に考えてマイペースな変態はまだしも私たちが遅れるはずないでしょ?」

男「そりゃあ偏見すぎて泣けてくる。じゃあ今までどこに行ってたんだよ」

不良女「コンビニで先に飲み物買って来てたんだよ、あたしら早く着いたから。……で、コイツが待ってるって」

不良女「まさか抜け駆けしようとか考えてたなんて思いもしなかったけど、なっ!!」

男の娘「いやぁ!! お、男助けて~! あぁう、ギブぎぶぎぶっ!」

男「許せ、男の娘。それで二人は帰って来たとしてオカルト研は?」

転校生「あんたたちと会ってないならまだって事になるわ。先にここにいたの私たちだけだもん」

不良女「アイツ言い出しっぺのくせして最下位とか舐めてんのかぁ? あとで一発揉みしだく」

男「バカだなお前、そんな事したってオカルト研の巨乳は吸い取れねーよ」

不良女「はあぁああぁ!? お前マジでサイテーだ!! 平然とセクハラしたぁ、セクハラぁっ!!///」

男(胸を隠すように抑えて涙目で抗議してくる。やはり気にしていたのか、立派なまな板を)

オカルト研「私の巨乳が何、男くん」

オカルト研「……[ピーーーーーー]///」

男「いま何て言ったのかよく聞こえなかったが、あとから顔赤くさせるなよ」

不良女「お前さ、自分が行きたいって話しておきながら堂々遅れるとかどういうつもりかなぁ~? オイ」

オカルト研「私は、男くんと、行きたいと彼にだけ話したの。勘違いしないで欲しい」

男の娘「わっ、すごい毒舌……一人占めなんて考えないで一緒に仲良くしよう?」

男「(どの口がそれを言うか) まぁ、これで全員揃ったわけだし行くとしようぜ。気乗りしないが」

転校生「……ねぇ? 今からでも考え直して別のところに遊び行かない?」

不良女「あれ~? 男も転校生もそんなビビっちゃったりしてぇ~、ひっひっひっ!」

転校生「べ、別に怖いとかじゃないわよ! 廃墟なんて私たちが入っても危ないだけだから言ってるの! あんたもそうなんでしょ!?」

男「今回ばかりはお前と同意見だな、俺も。それに自分も含めて周りを見てみろ! 誰一人頼りになりそうなのがいない!」

男(沈黙、しかしそれは肯定ではなかった。全員が俺へ目を向けている。日ごろの行いは大切だ)

男の娘「もし僕が幽霊に誘拐されそうになっても男がカッコ良く助けてくれる! ねっ!」

男「そうならない事をマジでただ祈るのみだよ、俺は」

オカルト研「ふん、下級霊程度は男くんが息をするだけで逃げて行く。強大な悪霊を内に宿しているのだから」

男「なぁ、もう廃墟行かずに俺を観察しとけば良いんじゃないかな?」

男(結局敷かれたレールの上を俺たちは行く。男の娘は俺がいるだけで不安を微塵も感じていないらしいが)

転校生「うぅ、どうせムキになって着いて行くとか言った私がバカだったわよ……で、でも、負けてられないし!」グッ

男「やれやれだな、すっかり怯えて声が小さくなってるぞ、転校生。何て言った?」

転校生「べ、別にっ! 何にも言ってない!///」

男(ああ、こうして美少女たちが俺を狙ってくれているというに。間違っても今幼馴染と結ばれたとは言えない)

オカルト研「ところで」

男(先頭を歩いていたオカルト研がピタリと立ち止まり、俺たちを振り返る)

オカルト研「あなたたち、これから行く場所が何処かしっかりわかっているの」

男の娘「あの廃病院でしょ? あれ、もしかして違う所に向かってる?」

オカルト研「それで合ってる。間違っているのはその恰好と装備……ひょっとして死にたい?」

不良女「ん、別に自殺しに行くほど人生困ってねぇーよ。何よ? これじゃあ問題あるってわけ?」

オカルト研「なければケチもつけないわ。特に短いスカート言語道断、霊に喰われて死ねばいい」ガシッ

転校生「ちょっ!? やぁ、引っ張らないでよぉ~!?///」

男「見えた! 青の縞パ、ぶっっっ」    

転校生「あんたは今ここでしねっ!!」

男の娘「えっと、服これじゃあマズかったかな。気に入ってたの着て来ちゃったんだけど」

不良女「あたしもコレ[ピーーーー]……おい、いま何も言ってないからなっ!?」

男「悪かった、毎度条件反射のように聞き返しまくって (ついにノリツッコミ染みた事までされるのか)」

男「そういえばやけに見た時から地味に感じてたけど、オカルト研今日はジャージだったんだな」

オカルト研「じっ、地味……出来る限り可愛らしくなるよう努力したっ……[ピーーーー]!」

男(あのオカルト研が頬を膨らませて拗ねただと。かなりキュンときてしまったじゃないか、流石としか言いようがない)

オカルト研「と、兎に角 適した用意をしないあなたたちに更に呆れた。比べて男くんはやはりわかっている」

オカルト研「汚れても良し かつ 動き易い服を選んでくるとは流石ね。古い服を着てくるとは」

男の娘「そうだったの!? 言われてみれば確かにシャツがくたくたして色落ちしてる……流石だよ、男!」

男「ああ、行くからには万全を尽くしたいからな! 機能性重視だ! (新しいヤツ、帰りに買っておこう)」

転校生「ふぅーん……じゃあそのリュックの中には廃墟用に何か色々持ってきたの?」

オカルト研「もちろん。男くんがいるから心配は要らないだろうけど、ありとあらゆる危機に対抗できる魔具がこの中に眠っている」

転校生「……その飛び出てる棒は?」

オカルト研「虫取り網」

男「俺もその魔具昔振り回してた覚えあるわ」

不良女「しっかし、こんな真昼間から心霊スポット探索なんて感じ出ない気もする」

転校生「夜中になんてそれこそ冗談じゃないわよ! 本当に危ない目に遭っても文句言えないんだからね!?」

不良女「でも太陽昇ってる時に幽霊なんて出てきても正直怖くないでしょ? 明るいんだし」

オカルト研「本当にあなたは舐めている……映画なら真っ先に犠牲になるタイプね……」

不良女「オカ研部員ならもっとオカルトに脅す努力しろよ」

男(緊張感の欠片もないまま遂に俺たちは件の廃病院前へ辿り着く。辺りは雑草で生い茂っており、窓という窓は全て割られ、スプレーの落書きも目立つ)

男(一同、黙って回れ右を決める)

男の娘「……あの、僕正直お化け屋敷とかイメージしてたんだ。こんにゃくとか吊るされてたりとか」

転校生「無理むりむりむりむりむりっ……いやぁー……!」

不良女「そういえばここ、地元で有名なビーハイヴファミリーって暴走族の集会場になってるとかヤバい噂があったような、なかったような」

男「それ宗教団体の間違いじゃないのか。……なぁ、オカルト研。見るからにまともな奴が入って良い場所じゃないんだが」

オカルト研「好奇心に危険はつきものよ、男くん。ここで引き返したら今日を無駄にしてしまう」

不良女「……い、行くか。あんた先頭ね? ねっ? 息吐くだけで霊追い払えるんだろっ?」

男「内に宿す悪霊ってそういうことだったのか」

男(ここで俺たちを歓迎してくれるのは自縛霊か族か。なぁ、天使ちゃんよ)

ここまで

男の娘「予想通り中の方も酷い荒れ様だ。これじゃあ真夜中になんて絶対に無謀だよね、不良女さん」

不良女「悪い……ノリノリで遊び行くとか抜かした自分にいまドン引きしてるところ」

オカルト研「だからあれほど舐めているのかと訊いたわ。霊やUMAに襲われたても私たちだけで対処しなければならない」

不良女「で、でもまぁー! あたしら以外にも肝試しでよく誰か来てるっぽいし、中でバッタリとかあるかもだろ」

不良女「案外幽霊の正体っていうのも、怖い物見たさに来た奴らが偶然どっちも見間違えたとかじゃねーの?」

転校生「幽霊の正体見たり枯れ尾花……!」

不良女「うん? ぷぷっ、そんなオチなら間抜けよ、マヌケ。そもそもここ入って死んだなんて話聞いてないからさ」

転校生「死人に口なし……!」

男「コイツが、死んだ人間が自分たちの体験をその後誰かへ話せるわけないだろうがこのマヌケ、だと」

男(無言でローキックをひたすら俺へ向けて繰り出す転校生を鼻で笑っておこう。建物内はより激化した乾いた、鈍い音だけが木霊する)

男の娘「まだ日差しが入ってくれてるお陰で、この辺りは明るいよね。奥に進めば一気に地獄だけど……どうするの、男?」

男「勝手に俺をリーダーに任せるなってば。 生憎、俺個人は微塵も探検意欲そそられないからな。オカルト研に全部委ねる形で問題ないだろ?」

オカルト研「わ、私が男くんに[ピーーーーーーー]。だけど本当は[ピーーーーーーーーーー]///」

男(俺から頼られるのがそこまで嬉しいのか? 嬉しいのだろう。本音は弱い自分を見せて俺に守ってもらう気満々だったらしい)

男「心配せずとも何かあれば助ける。……つまり、無茶するなよ」

男(男の娘が説明してくれた通り、廃病院とは如何にも、と言わんばかりの光景が奥まで広がっている。一言、もう帰りたい)

男「24時間営業誰でもウェルカムだなんて考えようによっちゃ良い場所だな、転校生。ついでに診察でも受けて行く?」

転校生「あんたは怖くないの……よくいつもみたいに変でいられるわね……」

男「最初から俺は危ないから進みたくないと思ってるだけさ。怖いのはいつだって幽霊より危険。お前は怯える対象を大いに間違ってる」

転校生「わ、笑えばいいじゃない! どうせ私はお子様よ! 何とでも言えー!」

男「じゃあ俺を頼れるお兄さんと思って傍にくっ付いてれば良い。少しは恐怖も和らぐんじゃないか」

転校生「お兄さん? ふっ、ただの変態ドスケベ人間にそんな役務まる筈ないでしょ。今だって暗いのを良い事にエッチなことしようと考えてるんじゃないの」

男「俺がいつ自分から変態行為に走った!? 別に好きで胸揉んだりなんか……何だよこの手?」

転校生「……べ、別に///」

男(結局はシャツの裾をぎゅうと掴むこのツンデレ娘の有り様よ。昨今食傷気味と一部から嘆かれもしていたが、王道だからこそ光るのだとも)

男(こうして改めてしみじみ感じられる己が環境のありがたみを噛み締めていると、空いた左裾まで掴まれる。最初は男の娘からか? 順々来て全員が俺にしがみ付くのは既に読んで――)

男の娘「あぁ~!? 転校生さんばっかりズルいよ! 抜け駆けなんて!」

男「お、おい! 飛び付いてこようとするな! (男の娘ではない。とすれば他の二人か? いや、どちらも俺の傍には立っていなかった)」

転校生「えへへ、隣り取っちゃったわ……って何一人でニヤニヤしてるのよ!? ……え、ちょっと聞いてる?」

男(いけない子だ、透明になるのは反則ではないのか?)

ちょっと今日ここまで。明日に続く

オカルト研「やはりこの廊下の先へ進まなければ怪奇との遭遇は望めない。行きましょう」

転校生「オカルト研、さん? 聞いてなかったんだけど、そもそも今日ここに来た意味って何?」

不良女「そいつの頭の中なんて理解できそうにないけど、単なる興味本位の肝試しだろ」

不良女「あーだこーだ言っても結局あたしらと同類なんじゃねーの? なぁ?」

オカルト研「毒を持って毒を制す、邪を払うは凄まじき邪(ミスト)。我が声に呼応さしめよ……」

不良女「は、えっ? 急にブツブツ言い出してどうし」

オカルト研「コードDEET! 第百二十五の魔具、ムシヨケ起動!」プシャーッ

不良女「ぎにゃああああぁぁぁぁ!! お前っ、いきなり人に向かって何ぶっかけてくれてんだよ!?」

オカルト研「刺す虫がいたら困ると思った。はい、男くんとその他にも」

男の娘「あ、扱いがぞんざい……それで、どうして廃墟に行きたいと思ったの?」

オカルト研「先にそこの愚かな女が言っていた。興味本位よ」

男「オカルト研、誤魔化す必要はないだろ? 事情を話しておいた方がコイツらの反感も買わん」

オカルト研「男くん……気づいていたようね、私の真の目的を。[ピーーーーーーーーー]///」

オカルト研「学校の中で怪現象を期待できないなら、ここで捕獲して連れて来れば万事解決……!」

男「新しい大問題が発生しそうだけどな」

男(初めこそ俺と二人だけのイチャイチャ廃病院デートを狙っていたのかと考えていたが、実際には別の目的も抱えていたと昨日の会話から予測した)

男の娘「オカルト研究会ってそんなに追い込まれてたんだ。意外に歴史あるとこって聞いてたからちょっぴり意外だよ」

オカルト研「過去のOBたちは我が校に潜む闇を暴いた。だけど、その後はこれといって良いものを残せていない」

オカルト研「このまま部が存続できないのは悔しい……もう脱ぐしか手はないかもしれないわ……」

男「生き急ぐなよ、お前だってここで何かを得られると思って来たんだろ。希望は最後まで持とうぜ!」

不良女「うわっ、そこは意気揚々と脱げってあんたが言う場面じゃないの!? 頭どうかしちゃったかよ!?」

男「俺はどう立ち回ったら普通の人になれるか教えてくれ」

男(オカルト研が持参した魔具『懐中電灯』だけが行く先を照らす心もとなさ。転校生でなくとも皆、体を強張らせている)

転校生「……悪いけど、私的にはこのまま何とも遭わないで終われるのを祈ってたいわ」

不良女「でも転校生。幽霊と遭遇したからって怖い目見るとは限らないよ? もう死んでる奴なんだから」

男の娘「そうそう! 上手く行けば一緒に記念撮影とかもOKしてくれるかもしれない。そしたら僕たち一気に有名人だよ~!」

オカルト研「あなたたちの言動にはほとほと呆れさせられる。まさか自分たちは絶対に死なないとでも思っているの?」

男「お前らは先頭に無理矢理立たされた男くんの心配はしてくれないのか……」

男(途中までは全員俺にべったりだったものが、いざ探索となれば背中を押され前に立たされていたのである。だが、恐怖などなし)

男(この左裾を未だに掴んでいる存在が、隣にある限りは)

男の娘「ここは……診察室かな、たぶん」

男(脇から男の娘がひょっこり顔を覗かせ、懐中電灯の光を目で追う。この状況では身も竦んでいるのか、アタックも期待できないな)

男(となれば、怪奇現象を装いこの俺がビックリポイントを作ってやればいい。今日はまだ縞パンしか見られていないのだから。神よ、ラッキースケベ力を、我に与えたまえ)

男「こういう場所じゃ決まってカルテとか置いてあったりするんだよな。で、持って行けば呪われる」

転校生「探すとか言い出さないわよね。やめてよ……ひっ、本当にやめて!! 中入ってくことないでしょ、バカじゃないの!?」

男「どうせなら探検しないと損だろうが。オカルト研が望んでる展開も起こせるかもしれないしな」

オカルト研「その肝っ玉の座り具合、確信したわ。男くんならばどんな異形の者が現われようと掛け声の一つで滅せられる」

オカルト研「悪霊なんて目じゃない。空飛ぶスパゲッティモンスターでもスレンダーマンでも掛かって来るといい……」

不良女「返り討ちにしたら捕まえられないだろ? ほら、ぷっ、これ持たせとけば安心じゃんなぁ~! くくくっ!」

転校生「右手に虫取り網、左手に懐中電灯って……」

男の娘「僕たちカブトムシ捕まえに来たんだっけ――――――!?」

男(シュールな空気を断ち切るように、壁に掛かっていたカレンダーが音を立てて落下する。全員声を上げることもできず唖然)

オカルト研「ついに……お出ましの様ね……」

不良女「ち、違うってば!! アレはただ偶然落ちてきただけで」

不良女「っ、きゃあああああぁぁぁぁ!!?」

男(ここまで堪えてきた恐怖が決壊したか、不良女が飛び付き、俺の胸で体をかたかたと震わせている。願いは天まで届いたが、まな板じゃあどこも触れなかった)

不良女「いやぁー……っ!」

男「おい、悲鳴なんて上げてどうした。まさかマジで出たのか?」

不良女「あ、あたしの手……何かが掴んできたぁ……!」

転校生「じょーだん、で、ショ、ソレ」

男の娘「服が触れたとかの勘違いだよ。もう一々大袈裟だなぁ、怖いと思ってるからー……あはは」

男(天使ちゃんめ、粋な計らいしおってからに。もう立派なラッキースケベ発生娘だな。後輩の評価通り優秀ではないか)

男(どうせ何も起こる筈がないと踏んでいた俺たちを煽って、そこで笑い転げているのだろう。原因が分かるだけで可愛い悪戯に一変である)

オカルト研「男くん、どう? この建物の中で急激に霊の波動を感じた気がする」

男「そりゃ曖昧で。どうと訊かれても、まぁ、ようやく雰囲気出てきたんじゃねーのかな」

転校生「はぁ!? あんたがそこまでバカだと思ってな――ひぃいいいっ!!?」

男(これでもかと轟いた突然の雷鳴。廊下へ出て窓だった物から外を確認すれば、大量の雨粒を全身に被る)

男の娘「う、ウソでしょ……今日はずっと晴れだって……」

転校生「早くあの部屋で盗った物戻してきなさいよぉ~!?」

男「俺は何も盗っちゃいない。天気だって気紛れの一つ起こすだろ (天使ちゃんは時間どころか天候も操れるのか? ロリの可能性果てしない)」

オカルト研「この廃病院の主は私たちを無事で逃がす気はないらしい。まんまと嵌められてしまった」

不良女「あたしたちが勝手に忍び込んだだけだろうがっ!!」

不良女「ど、どうすんだよコレ……」

男「ところで、気持ちはわからんでもないがいつまで俺にしがみ付くつもりだ?」

不良女「しっ、仕方がねーだろ!! ……[ピーーーーー]///」

男「信頼されているみたいで何よりだよ。それでどうする? まだ探索続けるか、雨が止むまで玄関で待つか」

男の娘「誰もこの中をもう歩き回ろうだなんて思ってないよ。大人しくしてた方が安全、だよね」

オカルト研「残念ながら今回全ての決定権は私にある。これは好機なの、未知との遭遇を体験できる好機」

転校生「お、お願いだからもう帰ろうって言って。これ以上はぜったい無理っ……!」

男(男の娘も不良女も青ざめた顔のまま、彼女の言う事に何度も頷く。ああ、この後の光景が目に浮かぶぞ)

オカルト研「きっとそう来ると思っていた。大丈夫、あなたたちはそこでじっとしていたら良い」

オカルト研「付き合ってくれてありがと。あとは一人で平気だから、雨が止んだら好きにして……」

男の娘「好きにしろって、オカルト研さんはどうするの。ま、まだ幽霊探し続けるつもり!?」

男(その問い掛けへ答えることもなく、彼女は床へ置いた懐中電灯を片手に闇の中へ進んで行ってしまったのである)

男「……悪戯が好きだな、天使ちゃんは」

男(自分が立てたシナリオ通りに話が進むのはさぞかし気持ちがいいだろう。だが天使ちゃん、お前はゲームを放棄している)

男(今度ばかりは浅はか過ぎるではないか。いくら誰にも相手にされず寂しがっているとしても、こうあからさまでは、実に笑える)

男(美少女の分断。オカルト研はかならずあの場面で単独行動を選ぶと読んでいたか。集団でいられては自分が紛れ込む隙間はないからな)

男の娘「すぐに戻ってくるよね? ぼ、僕たちも着いて行かなくて本当に」

男「オカルト研を引っぱってくるだけの簡単なお仕事だ、俺一人で足りる。任せておけ」

不良女「[ピッ]、[ピーーーーーーーーーー]///」

男「どうした、やっぱり俺と一緒にいないと怖いのか?」

不良女「んなこと言ってねーだろっ! ただ、あんたって意外と[ピーーーーーー]」

不良女「あぁ~……クソッ、もうさっさと行ってこいよぉ!!///」

男(やる時はやるナイスガイ、ギャップを与えるのがモテる秘訣だとあらゆる漫画で学んできた。さて、先程まで騒がしく進んだこの薄暗い通路)

男「暗闇ってのは人間の本能が恐怖と思い立たせてる。だから怖いと感じるのは至極当然……全然おかしくない……」

男「頭の中を幼馴染でいっぱいにしてれば良いんだ……かわいい……かわいすぎるな、俺の美少女は……!」

男(あんなチッポケな明かりでもあるだけマシだったのかと心細さに拍車が掛かる。というよりも、囲んでくれる美少女がいるだけで違う)

男「やっぱりイベントは楽しくなきゃダメだよ。こんな、一人で廃墟歩くなんて、罰ゲームでしかない――――うへえっ」

男(払っても払っても切りなく顔に張り着く蜘蛛の巣に嫌気が刺してきたところで、ようやく窓があった通路に到着。台風でも来てるのかと言わんばかりの大雨は、激しく振り続いていた)

男「仮にも心霊スポットをバックに雷雨が降り注ぐとは、最高だな。次はホッケーマスクの男か? ちょっとコリ過ぎじゃないの」

男「いや、逆に考えておこう。あらゆる状況の主人公になり切れるんだ、俺は。むしろ感謝しないと……」

男「俺もすっかり独り言が好きになったな。これじゃあ妹からも危ない奴見る目で見られても文句言えん。……天使ちゃんでもオカルト研でも良いからはよっ!!」

男(すぐに二人の内どちらかに出会えると思っていたのに、俺をどれだけ孤独にさせたら気が済むのだ。美少女がいてくれないと俺はただのブサ男なのだぞ)

男(このまま真っ直ぐ行けばきっと会える。そう信じて前進あるのみである。一旦黙り込めば、荒れ狂う天候の音だけが聞こえる。それへ耳を傾けていると)

男(嫌な感覚が襲ってくる。ゾクッ、と悪寒が背中を走った。鳥肌が一気に立って、息が苦しい)

男(喋って、音を掻き消していなければこの気持ちの悪さに耐えられない)

男(俺は雨に当たると体が溶解でも起こすのか。ただ風邪を引いたにしてはどこか妙だ。怖いのか? 雨が?)

男「それだけの理由で体調崩すのは稀だろ……だったら雨の日なんかいつもダウナーになってなきゃおかしいぞ……」

男(意識するとそれだけ吐き気をもよおしてくる。目を逸らし、耳を塞いでいればウソのように体は落ち着き出すのだ)

男「どうかしてる……天使ちゃん、オカルト研、どこだ!? そろそろ姿現してくれても良い頃合いだろうがっ!!」

オカルト研「男くん?」

男「ほおおおおぉぉ!? お、お前っ、呼んだけどどうして後ろからなんだよ!?」

オカルト研「そこの部屋を調べていたら男くんの声が聞こえたから。まさか、私を心配して来てくれたの?」

オカルト研「……[ピーーーーーー]///」

ここまで

男(攫われたお姫様気分で王子様を待っていられたのでしょうな。腹に一物抱えた獣でもお気に召す? 召されたとも、無事に)

男(仄かな灯りの中に乙女、否、メス顔を見つけた。悪くない雰囲気、そして禍々しい場所に男女二人。色々救われていく、が鈍感を舐めて頂いちゃあ困る)

男「全員の代表で俺が迎えにきたんだよ。アイツら心配してるぞ、さっさと戻ってやろうという気はないか?」

オカルト研「そ[ピーー]、[ピーーーーーーー]いっ……[ピーーー]……!」

男「ん? まぁ、いくらお前でも単独突入は誉められたモンじゃない。懐中電灯貸してくれ、俺が手を引いてやるから」

オカルト研「結構よ。探してくれて申し訳ないけれど男くんは先にあの人たちと帰って」

男「そんな薄情な真似できねーよ。お前の気持ちもわからんでもないが、やっぱり戻ろう」

オカルト研「……」

男(これぞ複雑怪奇な女子の心情とな、幽霊よかそそるのは断然コレよコレ。全員の意思でと、期待を裏切ることでオカルト研は意固地になる。すれば)

オカルト研「大きなお世話。あなただけで引き返して」

男「おい、勝手に進むなって! 聞いてんのか!? (俺たちはより深く深く奥へ。邪魔が入らないステージへ、だ)」

男(背中が語っているぞ、私は逃げるから追いかけて、なんて。頻繁に後ろの俺を気にしている姿がこれまた愛らしいではないか)

オカルト研「……引き返せと言った。ここから先は謎の瘴気が漂っていて一般人の体では耐えられそうにない」

男「忍者ならどうだ。お前らには秘密にしてたが実はこの俺、社会で暗躍するジャパニーズ忍者の生き残りなんだが? (あとで転校生にも反応を頂こうか)」

オカルト研「は?」   男「俺とお前との間で今ズレが生じたようだ…」

オカルト研「男くん、なぜ私の目的を知っていて妨害しようとするの」

男(立ち止まることなく歩みを進めながら彼女は尋ねる。その歩みも、本格的に暗くなったその場では、一歩一歩がおっかなビックリで緊張感は微塵も伝わらずなこの可愛い生き物だ)

男「落ちたら死ぬと分かり切ってる穴に、飛び込もうとする親友を止めないのはあんまりな話だと思わんか」

オカルト研「そんな一面的な話だけでは現状を説明できない。あなたは親友が穴へ飛び込みたいワケを既に聞いて……っ、いる……!」もたもた

オカルト研「お願い、止めないで男くん。1%でも可能性があるのなら私はそれに賭けたい」

男「同じだな。1%でもオカルト研の身に何かが起きる危険性があるなら、俺は何度だって止めよう」

オカルト研「そんなの自分か」

男「自分勝手だと罵るか? お互い様だろうが。お前はお前の勝手で動く、俺も俺の勝手でだ」

男「もし放って置いて万が一があれば、あの時どうして意地でも引き止めなかったのかと後悔するぞ。絶対だ、アイツが望んでたから許すなんて許せん」

オカルト研「やっぱり自分勝手、よ……[ピーーーーーーーー]」

男「自分勝手だとも。俺は俺が望むままの自分を貫くのが第一で、その妥協もしない」

男(痺れる台詞に酔い痺れたのは俺だけではなかった筈だ、美少女の心もガッと鷲掴み。天使ちゃん用に色々なシーンを脳内練習しておいた成果が表れたに違いあるまい)

オカルト研「ああ、やはり男くんは普通の人ではないのね。悪霊を飼い馴らす技量があるのも納得……」

男「いつの間にか飼い馴らしてた設定に変わったみたいだな……フッ」

男「そこでだ、オカルト研よ。この悪霊持ちならば瘴気なんぞ、ただの涼しげなそよ風。このまま同行しても構わないだろう? (邪気眼には邪気眼を、である)」

オカルト研「えっ、でも進むなら止めるとついさっき」

男「一人での話でだよ、オカルト研。傍に誰かが付いていれば少しは心配も晴れる」

男「過信ではあるが、いや ナルシスト? とにかく今日集まった全員の中なら俺が一番頼りになれる存在だと自分で考えてる」

男(この世界限定プラス美少女限定で、頼れる俺でいられるこの自信のデカさ。人間の対応力とは素晴らしく恐ろしいものだ)

男「どうせ言ったって耳貸すつもりないんだろ。どっちみち着いて行く羽目になるなら、協力という形でお前を縛らせてもらう……だから勘違いするなよ!」

オカルト研「ふふっ! ……ああっ!?」

オカルト研「ひ、一先ずはその内容で納得しておく。男くんの好きに着いて来くればいい……///」

男(彼女らしからぬ自然な笑いがクスリと漏れた事に動揺しているようだ。その証拠に口元を必死に隠し、こちらをチラチラ窺う。ある意味いじらしい仕草に鼻血が出るぞ)

男(さて、計画通り俺はオカルト研へ付き合い廃病院の奥を調査することに。オカルト研は、やけにウキウキさせながら隣で、数えるのも億劫になるほど俺のスキルを発動させているわけで)

男「暗くてよく見えないが、お前さっきから喜んでないか?」

オカルト研「[ピーーー]/// ……はっ、そ、そんなわけがない。心に彼らが入る隙を見せては、すぐにあちらの世界へ持って行かれてしまう……!」

オカルト研「あなたの中にいる悪霊にも同じことが言える。でも私は既に[ピーーーーーーーーーーーーーーー]っ///」

男「ああ、何だって? 踏み込んでヤバそうな所は避けて行くぞ。あと、これ以上進めないと俺が判断したら羽交い絞めにしてでも連れて帰るからな」

オカルト研「ダメ。私は収穫を得るまで逃げ帰るつもりはな、っひゃう!?」

男(空いた手を使い、彼女の手を取り 固く握んでやったのである。驚きつつも、しっかり強く握り返すこの美少女の肉食っぷりよ)

男「こうしておけば、いつでも引っ張って戻れるだろ。悪いが離すつもりないぞ」

オカルト研「[ピッ]、[ピッ]、[ピーーーーーー]……[ピーーーーガーーーーーーピーーーーーーーーー]……!///」

男「はぁ? 文句言われようとお前が言う事聞かないんだから仕方ないだろうが。嫌なら今すぐ俺と一緒に戻るか?」

オカルト研「も、戻らない! むしろ[ピーーーー]……///」

男(こちらから好意関係なしに手を繋ぐ口実もあり、下手に勘違いさせない完璧な流れ。主導権も完全にこちらに回った。この手はさながら犬を服属させるリードか……美少女、犬、支配……俺の中でイケナイ感情が溢れていく……)

男(興奮の導火線へ点火が始まる前に、だ。何か周りに変化、異変は起きたか? シャツの裾が引っ張られることは?)

男「(特に怪しいと思わせられる現象は起きない。……断言はできないが、いま近くにはいない。では) オカルト研、ちょっと手強く握り過ぎだぞ。少し痛いぐらいに」

オカルト研「あっ……ごめんなさい、男くん」

男「もしかして緊張してる? 本当はお前も怖いとか思ってたりするんじゃないのか~?」

男「へへっ、何だったら俺に体くっ付けてても構わないぞ。別にやらしいの期待してるわけじゃなく、お前を思って……何やってんだよお前!?」

オカルト研「お言葉に甘えた……へへ///」ギュッ

男(横から抱え込む形でオカルト研が密着。恐山も目じゃない見事な山が間で潰れ、我が活火山が目覚める。さすが積極性がある美少女は違う、素直に乗ってきてくれて感謝。……と、次の瞬間!)

男(俺たちの背後に落ちていた木の板が大きくド派手な音を立てて、真っ二つに割れてしまったのである)

オカルト研「お、男くん……今のは……!?」

男「ああ! たぶん性質の悪いロリっ娘怨霊の嫉妬だ!」

オカルト研「そこまで正確に答えられるなんてっ……か、感心している場合ではないわ」

オカルト研「さぁ、行きましょう男くん。この調子ならきっと霊は我々の前に姿を現わし、襲いかかってくる……かならず……!」

男「俄然このまま回れ右して帰りたくなるんだが――って、おい! 一人で進むのは止せって言ってんだろうが!」

男(俺とのイチャつきより霊を優先するとは泣ける話、という軽いショックは、虫取り網を手に先行した彼女の姿を見て過去へ吹っ飛ぶ)

男(申し訳ないが、逸れては彼女が危ないといった心配からではない。この後 高確率でオカルト研の姿をした別の美少女が登場する為だ)

男(あんな場面を目の前で見せつけられたのだ、天使ちゃんならばかならず焼き餅を妬いて、俺を自分に目を向けるよう仕掛けてくると思われる)

男(冷静を失わせ自棄にさせるならば、煽るに限るだろう。行動でな)

男「オカルト研、オカルト研! 返事をしてくれー! 聞こえてるならここまで戻ってこい!」

男(表面上は脱走したオカルト研を探す。こうして声を出して俺の位置を報せることで、自然な形で姿を現わせられるだろう。「幽霊は見つからなかった」と)

?「――――男くん」

男「……バカ野郎、また俺に手間掛けさせるつもりでいたのかよ。で、肝心の幽霊は見つけられたか?」

オカルト研「いなかった。でもまだ近くに気配は感じられる、一緒に来て」

男「あ、ああ (笑うなよ)」

オカルト研「……どうかしたの、男くん?」

男「いや、何でもないから気にするなって。それより早く行こうぜ (まだ笑うなよ、俺)」

男「また吹っ飛んで行かれて困るからな、手は握らせてもらう……言ってる傍から抱きつこうとするなよ」

オカルト研「怖いならくっ付いていても構わないと男くんが」

男「色々と歩きづらくなるだろうが、色々と。それにしてもさっきは驚かされたな」

オカルト研「私が男くんを置いて走ったことが? ごめんなさい、でも逸る気持ちを抑えられなかった」

男「違うちがう、ほら、後ろで板がいきなりパックリ割れただろ? 本当に幽霊なんかの仕業かと考えちまったよ」

オカルト研「……そう」

男「返事はそれだけか、オカルト研?」

オカルト研「えっ?」

男「(繋いだ手を通して彼女の確かな戸惑いを感じる。揺ぎ無い確かな) どこか上の空な感じだな。悪霊に憑依されたとかじゃないだろうな、ここじゃあ洒落にならんぞ」

オカルト研「……もし、あなたの言う通りだとしたら、どうする?」

男「だから洒落にならないと……っ!?」

男(突然の出来事に俺まで動揺したか、懐中電灯を床へ落とす。心もとない光はおぼつかない手つきで俺の頬を触れる美少女を淡く照らしていた)

オカルト研「ねぇ、どうする…………?///」

男(ゆっくりと壁に追いやられ、逃げ場を失う俺はただただ上目遣いで見つめてきた美少女を前に固唾を呑む。いや、呑まざるを得ない)

男(受けて立とう、観戦客もいない この沈黙の戦いを)

男(長い時間直視し続けても飽きが来ない正に美少女フェイス。この睨み合いが永遠でもOK。ひたすら恍惚されよう)

オカルト研「っう……///」

男(未だ進展は見えないこの状況。なるほど、これより先をどうして良いか解らずとな。が、口は自然に動き始めてしまったらしい)

オカルト研「……こんな時、私はどうしていいのかわからない」

オカルト研「今の私はおかしいわ、どうにかなってしまっている」

男「それに俺はどう答えたらお前は救われるんだ? お祓い代わりにしてやらんでもない」

オカルト研「傍にいて……私の傍にずっといて……それだけで満たされる……」

男(一歩間違えればヤンデレ属性が付与しそう、と水を差したい気持ちは流そうか)

オカルト研「自分でもわからないぐらい、あなたといると落ち着ける。寂しくないの」

オカルト研「もう一人ぼっちと感じるのは嫌……私にはあなたが必要」

男「そ、そうか (この場面だ、一瞬 「あなたには私が必要」と聴き違えた俺を許してくれ)」

オカルト研「どうしたらあなたにそれが伝わるのかわからなかった。自分はこんな事、教わりもしなかったから」

オカルト研「お願い、行かないで。ワガママはこれっきりだから、聞いて」

男「え? 何だって?」

オカルト研「聞いてよぉ……」

ここまでs

男(確認するまでもなかった。俺の目の前にいる美少女なオカルト研は、略)

オカルト研「男くん……」

男(ある意味、この猛烈アタックは目論見が外れた気がしてならない。挑発ついでにオカルト研のフリをして甘えるのだと身構えていたのだが)

男(彼女の隠す気すらない懇願っぷりに肩透かしを食らってしまう。感情に流され過ぎたと? 本当に放棄してしまったのか?)

男(美少女の観察に抜かりないこの俺だ、天使ちゃんの性格は9割把握している。だから、あらゆる事態も想定していたし、実際に対処できたかは別で、その通りに動いた)

男(しかしである。実際このかくれんぼゲームは彼女が有利で、俺が圧倒的不利なのは誰の目から見ようと明らか。いくらアホの子といえど、安全に勝ちを取りに行く方法は理解していた筈)

男(……俺は天使ちゃんを誤解していないか? というよりも、わざわざ三日も掛けて面倒なゲームをやろうと提案した事に)

男(彼女は、始めから)

男「ぐうっっっ!!?」

オカルト研「ひぇえ!?」

男「あ、頭が……俺の内に眠りし最強の悪霊が、暴れてるっ……ぐああぁぁぁー……」

オカルト研「な、何々!? どうしたの!? アクリョー!?」

男「抑えきれない衝動が、俺を突き動かすっ……かかか、勝手に口が開いて……俺ではない何かが……あっ」

男「ナニカサレタヨウダ」

オカルト研「ひぃいいいいぃ~!?」

オカルト研「男くん、男くんしっかりしてください! これ以上変になったら取り返し効かなくなっちまいますよ!?」

男「エコエコアザラク、エコエコザメラク……ブツブツ……」

オカルト研「あわわ……ど、どうせいつもの悪ふざけでしょーう!? そんなのに自分は引っ掛かりませんからねっ!!」

男(最高に笑えるギャグを頂けたところ申し訳ないが、そのまま一人で愉快に踊っていてくれたまえ)

男「はっ!? お、俺は一体ここで……ぐうぅ!? ま、まただ……意識が乗っ取ら、れ」

オカルト研「うるせーバカやろ! 止めるまでシカトです、シカト。あー くだらねっ!」

男「こんな屑でも、必要なら自分から進んで傍にいようとしたら良いじゃないか」

オカルト研「……ん?」

男「全ての美少女を拒まない。オールウェルカムだ……クク、歓迎する……ハーレムに人数の限りなどないのだ」

男「お前が俺を欲しいように、俺も同じくお前が欲しい。貴重な美少女を置いて一体何処へ行ってしまうのかと考えた?」

男「帰るわけないだろうが。もう俺にはこの世界しかないのに! 誰が向こうに帰ろうと思うんだ! せっかく掴めたチャンスを逃してまで!」

男「離すものか、我が念願のハーレム学生生活! とにかく今の俺が言いたいのは、だ!」

男「お前も俺の囲いに加える気満々なんだよ。他でもない俺自身が満たされる為に」

オカルト研「……ぽかーん」

男「精々この俺の傍で勝手に楽しくなってろ、阿呆が」

オカルト研「……じ、自分勝手で傲慢強欲、色々揃って屑の塊です! 屑! くず、くぅずぅぅぅ~~~!!」

男(調子を取り戻したようにイキイキしていらっしゃる。気まずい空気も掻き消して、どこか、嬉しそう。オカルト研の顔でだと異様な光景に感じるがこれはこれでグッド)

男(間違ってなんかいなかった。天秤は既に傾いていたのだ、この俺側へ)

男「(来いよ、人外ロリ美少女。忠心なんて投げ捨てちまうのだ) くそっ! また悪霊に自我を奪われちまってた……で、オカルト研」

オカルト研「どうしたの、男くん。さっきから奇妙な様子が続いていたけれど」

男「あらため天使ちゃん」

オカルト研「……?」

男「……アイツなら「いなかった」の一言で済ます筈がなかった」

男「本物はこんなに潔く諦める性質ではない。いないなら見つけるまでとことん探す、幽霊をな」

オカルト研「ごめんなさい、よく聞こえなかったかも」

男「まぁ、でもすぐに戻って来る羽目になると分かってたよ。いくらオカルト研でも、灯りも無しにこの中を走り回るのは無理だろう」

男「そのままじゃあ幽霊やUMAの捕獲も侭ならんな? お前の懐中電灯は予め俺が奪っておいたのだから……オカルト研!! どこだぁー!! 俺はここにいるぞぉー!!」

?『男くん……どこ……見えない……』

オカルト研「……これは、私たちを地獄へ誘う悪霊の声」

男「予想より近かいな。さっきの大声を聞いていたのかもしれん。……じゃあ、さっそく捕まえに行こうぜ。なぁ?」

オカルト研「危険な気配を放っているわ。私の法力と男くんだけでは、アレと対峙するにはまだ早すぎる」

男「そうか。せっかく見つけた獲物を見逃すのは惜しいが仕方ないな……じゃあ一緒にみんなの所へ戻ろう」

オカルト研「……あの霊でなければ良いだけで、まだ捕獲を諦めてはいない。戻れない」

男「(前門の虎 後門の龍とはよく言ったものである) まだ続けたいのか? 降参したら帰りに美味いアイス屋さんに連れて行ってやる。おかわりもあるぞ」

男「お か わ り、も あるんだが?」

オカルト研「くっ! ……どうやら悪霊に精神を乗っ取られたままのようね。その手には乗らないわ、屈しない……」

男「引き延ばそうと時間がお前を殺す。オカルト研はもうすぐそこまで来てるさ、お望みなら呼ぼうかね? どうしたい?」

オカルト研「っ……」ジワァ

男(涙目で上目遣いしてこようが、この蕾がかったサディズムを開花させるだけよ。確かに俺が敗北する事で、神へ叛逆を働く必要がなくなれば、それに越した事もあるまい)

男(だが、それを二の次に自己満足へ走ったお前に勝利などなし。さぁ、足掻くだけ足掻いて喜ばせてくれ、どうせ誰にも見られん。レッツ堪能、イエスロリ天)

オカルト研「ところで向こうに全身毛むくじゃらで身の丈2mほどの大男の姿が」

男「おーっと! どこへ行こうというのかね……逸れたらマズいし、手は繋がせてもらおう」

オカルト研「は、早く捕獲しなければ逃げられてしまう……!」

男「まさか素手で捕まえる気か? そういえばあの虫取り網はどこにやった? 背負ってたデカいリュックは?」

オカルト研「ど、どっかいっちゃったし!」  男「ふむ、お前は頭脳がマヌケか?」

男(好きな子に意地悪を、なんてこの歳では性悪に括られるのか? 問題ない、俺は永遠に少年だ)

男(が、せっかく築き上げた信頼関係をこんなくだらない事で崩すのは愚かである。可愛いじゃれ合いのつもりだったけれど)

男(というか俺が天使ちゃんを見つけた時点で俺の勝ちでは? 認めさせる必要があるとか聞いていない。より敗北感を味合わせてくれれば気が済むというのか……ご所望なのか、そうか)

男「やっぱり勘違いしてたかもしれん。お前はオカルト研だ、紛うことなくあのオカルト研だとも」

オカルト研「だから違うって……何っ」

男「疑って悪かったよ、マジで取り憑かれてたのかもな 俺。いや、疲れてるのか」

男「そうだよ、天使ちゃんがこんなところに来るわけがないって……ハハハ」

オカルト研「よ、よくわからないけれど、そんな時は誰にでもある。気にすることはないわ 男くん」

男「早く見つけてやらなきゃアイツまた今日も一人ぼっちで……きっと不安がってるんだろうな、可哀想に」

オカルト研「不安じゃないし! 可哀想じゃないし! 全然平気だしっ!」

男「何だって? ……しょうがないか。あぁ、今日もマミタスが布団に入って来て慰めてくれないかねぇ」

オカルト研「うっ……///」

男「ん、顔赤くなってないか オカルト研。暗くてよく見えないけど、大丈夫か? ていうか俺、手汗凄いことになってるな」

男「ちょっと離すぞ。待ってろ、すぐ拭って――――は、おい、一人でどこ行くんだよ!? オカルト研!! ……じゃあ また明日」

男(オカルト研もとい天使ちゃんの背中は闇の中へ。追わんさ、今は生き延びるが良い。その権利と義務が彼女にはある)

ここまで

500レスでおわるのかこの話

オカルト研「あなたへ醜態を晒してしまうとは、私とした事がついウッカリしていたわね」

男「自覚があるなら次はないって約束できるな。困らせたくないならマジで頼むぞ……やれやれ」

オカルト研「でも、また私が[ピーーーーーー]、男くんは[ピーーーーーーー]?///」

男(おのれ、隙あらば俺といる時間を増やそうと企むか。打破させていただく。現状維持の為にも)

男(小休止かの如き天使ちゃんイベントが去り、本格オカルト研イベントを迎えたのは説明するまでもない)

男(本日の団体廃墟デートの締めはやはり彼女がメインへ据え置かれた。きっと俺自らが飛び込まなくとも、このイベントはかならず訪れた)

男(まったく、己の失態を改めて悔やむしかないな。幼馴染と恋人関係を築くタイミングはあまりにも早すぎた。自棄ではあったが、ああする事でしか危機回避を思いつけなかったのが、今となってかなり痛い)

男(あの時からずっと頭を悩ませていた。いくら美少女たちの好感度をどれだけ増加させ、ハーレムへの近道を目指そうが、ルートが固定されてしまった今では無駄となってしまうかもしれないのだ。例のタイムリープによって)

男(ハーレム形成のみを目指すならば、さほど苦労は無いだろう。だが、実に鬱陶しい、この糞主人公スキルを滅殺せねば真の幸福は掴める気がしない。毎日の付き合いで慣れたと思っていたか? まさか、一々ストレス溜めている)

男(神よ、あなたは我が永遠の神である。だがしかし、鈍感はまだしも難聴をスキルとして与えたあなたが憎らしくも思える。現実の俺を反映させたとか聞いたが、体の良い事を盾に、純粋な少年へ悪荷物をプレゼントしただけでしょう……余計なお世話ここに極まる)

男(マイナススキルを抱えた俺がここで得をする事など一切ないのだから。笑止、神の戯れ。足掻き飽きずに奮闘するピエロを肴代わりとは、さぞかし酒が進むでしょうな)

男(天使ちゃんにはあんな啖呵を切ってしまったが、本当にどうしたものか。考えなしでその場限りの出鱈目でしたでは恰好もつかん、情けなさすぎる)

男(リスクはあるが幼馴染を振って、これまで通りの流れで進めるべきか。……禁断の手があるぞ。こっそり残りの美少女へ告白を済ませて難聴スキルを解除し、浮気がバレる前に最後に手をつけた誰かを振ってしまえば)

男(ダメだ、落ち着いて考えるのだ。初めの幼馴染以外を振ったところで浮気スタート状態から次の周が開始されてしまう。その後どう転ぶかは未知数だが、どんなに足掻こうと全員を振る必要ができてしまう)

男(そして天使ちゃんにこの手の件で協力してもらえるとは思えん)

男(堅実に一人一人攻略していくしかないのか。これは個人的なプライドの問題である、俺の気持ちが折れれば何と思われようが……もし ループが失敗したらそれまでという欠点もある)

男(絶望の感情を生み出した俺を世界が排除しようと動く。それがいつになるかは不明と天使ちゃんが話していた。数時間の猶予をくれるかもしれないし、最悪一瞬なのかもしれない。この辺りはこちらにとって、ただ未知でしかないわけだ)

男(どれだけの確率か見当つかないが、ハーレムも達成できず、道半ばで終える事も有りうる。ならば、今までのやり方もけして堅実とは呼べる物ではなかった、と)

男(どの道 改善の余地があったというこのショック。何がハーレムも狙えるだ、蓋を開けてみれば、教科書通りの恋愛ゲーム状態へしか事を運べないではないか)

男(……まで、足りない頭を捻りにひねって考えてみたのだが如何なものかと自分に問おうじゃないか)

男(俺がやってきた事は全て無駄な努力だったか? 否、溢れんばかりの、大好き、を美少女から獲得してこれた)

男(ハーレム達成に決定的に重要なものは何かよく考えてみろ。難聴スキルの排除自体は俺の問題であり、彼女たちには一切関係ない)

男(詳しく判明していないが、初期状態から好感度大の美少女たちといえど、その時のままでは納得の行くハーレムライフを送っては頂けない。大切なのは今日まで、これでもか、と積み重ねさせてきた彼女たちからの好意、そして関係ではないか)

男(より俺へ夢中にさせる事で下準備を整える。来るべき日、モテモテ男くんの甘えた難聴鈍感な生活に終止符を打つために。彼女たちに、限界の限界、いや、限界突破した愛で この俺の決断を受け止めさせるには……前置きが長くなった)

男「(これより同時完全攻略-FINAL-を開始する) 今更だけど、お前本当に好きなんだな。ここまで来て思い知らされた」

オカルト研「好き!? あっ、え……本当に今更ね、[ピッ]、[ピーーーーーーーーーーーーーー]///」

男「オカルト研究会のことがさー。って 、また転びかけてるじゃねーか、危ないから足元気をつけろよ?」

オカルト研「お、お気遣いなくっ……! [ピーーーーーーーーー]、[ピーー]……でも、急にどうして」

男「正直感心したんだよ。やり方は到底理解できる気はしないが、とにかく一生懸命やってるお前がカッコよく見えてな」

オカルト研「男くん……えっへん」

男「ビクビクさせながら待ってるアイツらには悪いけど、あと少しぐらいは付き合う。お眼鏡に叶う大物が捕れれば最高だな、オカルト研!」

オカルト研「ええ、かならず成功させて見せる。部のためにも、男くんのためにも」グッ

男(目を輝かせて虫取り網を掲げたオカルト研の逞しさよ。最終的に発見に至るのやらだが、もしもの時は代理をこちらで用意しよう。偶然 便利で、丁度良いのを知っている)

男(ふとポケットから携帯電話を取り出すとアンテナは圏外と変わっていた。これで都合良い時に美少女ラブコールのお邪魔がない、と同時に逃げの手段が一つ減った)

オカルト研「数々の怪奇現象の正体が、例えば幽霊のような者が起こしていたと聞かされても信じる?」

男「その質問はもっと前に訊くことだったと思うんだが?」

オカルト研「男くんは以前に、そして今日も、あまりオカルトに興味を示していない人だった。正直に言ってくれて構わない」

オカルト研「本当は稚拙で馬鹿馬鹿しいと思っているんじゃ」   男「すまん、割と何度かそうだと肯定してきたつもりだ」

オカルト研「だけどあなたに悪霊が取り憑いているのは確定的に明らかっ……!!」

男「脈絡なく気味悪い話突き付けてくるんじゃねーよっ!!」

男(悪霊も悪霊で幽波紋の方ならばラッシュの掛け声を喜んで考案したいところだが、実際オカルト研に見えているのは、邪神のソレだとか力強く論説された)

男「ひょっとして そいつの真の姿はロリロリした可愛い女子だったりするんじゃないか? ノーパンのロリだ」

オカルト研「残念だけど、期待に反っている容姿に雰囲気を纏っている。悪霊と形容するには生易し過ぎたかもしれない」

オカルト研「私には見えるわ……それが手に持つ魂を狩り取るための大きな鎌が……そう、まるで死神のようで……!」

男「呪われてるって、ずっと命つけ狙われてたのかよ」

男「悪霊でも死神でもそんな得体知れんのと友達になった覚えはない。やっぱり馬鹿馬鹿しいな!」

オカルト研「自覚がないだけかもしれない。信じて、男くん。私はあなたにウソを言わない」

男(真剣になる場面なのかここは、いや オカルト研的には間違ってないのかも。俺は、冗談九割でOKと頷く)

男「まったく、早い話 そんなヤバいのが憑いてるっていうなら俺を報告に突き出せば拍手喝采で認められるんじゃないのか?」

オカルト研「男くんは[ピーーーーー]だもの。他の誰かに[ピーーーーー]にはいかない……あっ」

男(彼女のぶっとんだ考え方から生まれた台詞は。俺が、他の誰かに、されたくない までは聴き取ることに成功した)

男(ここまで来れば今までの言動に行動から推測は容易なもの、独占したがっている。男の娘以上に俺への強い執着を感じてならない)

男「(つまり、彼女ならばどう転ぼうがこの恋を諦める可能性はかなり低いと思われる。いいぞ、一番ハーレム要素として引き込みやすい) 何か喋ったか? ちょっとよく聞こえなかったんだが」

オカルト研「い、いまのはあなたの悪霊が発した瘴気の影響で……いいえ、何でもないの」

男「はぁ? 相変わらずワケの分からんことを。それよりこの先の階段昇るともう後がないぞ、屋上に出るみたいだ」

男(また屋上かとやれやれを溜めながら、俺たちは上に昇って行き そこへ繋がる扉を、開けられなかったのだ。置かれた机やイスがぎっしり壁と化して、塞いでいる)

オカルト研「まるでプチ倉庫……これでは先に進めそうにないわ。仕方ない、下の階を探索しましょう」

男「まだ探してない部屋なんかあったか? もう目ぼしい所は」

オカルト研「手じゅちゅ室。……しゅじゅっ…………オペ室」

男(その何事もなかったような振る舞いを、しばらくニヤニヤ見守るのが俺の使命である)

オカルト研「ここなら無念の末に息絶えてしまった自縛霊が凝縮されているかもしれないわ、男くん」

男「開けない方が身の為な缶詰じゃないかソレ」

男「……お前のメンタルも大したもんだよ。フツー自分から進んでこの部屋に行こうと思う奴いないぞ」

オカルト研「なぜ? たかが部屋よ、お医者さんが患者を治療する部屋。入っても罠なんて仕掛けられていない」

男(その鋼の冒険心に畏敬の念を抱くしかない。一部の美少女ならばきっと立たせただけで失神を起こすだろうに)

男(また、このオカルト研に連れ添う俺も中々ではないか。一人で行けと言われたら別なのだが、というか彼女が異常なだけだ。廃墟の病院なんぞ二度と……)

オカルト研「入るわ、一応いつでも逃げられる準備だけは忘れないで。男くん聞いてる?」

男「……この病院っていつからこんなボロボロのお化け屋敷になったんだ?」

オカルト研「いつから? よくは覚えていないけど、気がついた時には既に。原因も不明」

男「これだけ大きな病院が気がついた時にはって妙な話じゃないか。明らかに勝手に廃れて行くような場所じゃないと思うんだが」

男(事実かなり中は広かった。入院棟が大きく設けられてあったし、侵入はできなかったがフロアの数も部屋も馬鹿にならない程多かったのだ)

男「よく考えてみたらおかしい気がしてさ……だって設備もそのまま残ってる物はあったし、けして俺には古いとは思えないんだよ」

オカルト研「言われてみればそうかもしれないけれど、ここがいつ潰れたかなんて今は――」

男(いつ、いつ潰れた、何年何月何日。……カレンダー)

男「待ってくれ! さっきみんなで診察室に入った時にカレンダーが落ちたよな!?」

オカルト研「落ちたけど、それを確認しただけではいつ廃業してしまったかわからないんじゃ」

男「そのまま放棄された物があちこちにあったんだ、ある程度は察する事ができるかもしれないだろ?」

男「何か気がかりだ、手術室入る前に……向こうにナースステーションみたいな所があったよな、行かせてくれ」

男(おかしい。何かがおかしいのだ、ここは。自分でもなぜここまで食いついたのか理解できない。が、とにかくおかしい、おかしすぎる)

男(ああ、そうだった。俺の知っている限り、自分が暮らしていた町の中に廃病院なんて存在しない。そう断言できる)

男(それならこの場所は一体何なのだ? 俺が今まで生きていて知らなかっただけか? そんな筈があるものか、これだけ大きな病院を知らない方が無理がある)

男「オカルト研、ここの名前ぐらいはお前も覚えてるんじゃないか……何て病院名ぐらいかは……」

オカルト研「[ピーーーーーー]」

男「え、何だっ……すまん、もう一度言ってくれ。聴き取り易いように大きな声で」

オカルト研「[ピーーーーーー]」

男「…………わ……わかった、ありがとうな」

男(この違和感をつい最近何処かで、同じ様に俺は感じていた。間違いなくここも『あの部屋』と変わりない状態で認識されているのだ)

男(そして、辿り着いたナースステーションの中でそれは確信に近づいたのである。壁に掛けられた日めくりカレンダーは)

オカルト研「あの……どうだったの、男くん。やはりそれだけでは何もわからなかったんじゃないかしら?」

男「……用は済んだよ、戻ろうぜ (今年の先月の日付で止まっていた)」

ここまで

>>488
よ、予定

男(『元々存在する物はそのままだし、絶対増えても減ったりもないです』 と、断言されたのは最近のお話。自宅にあった暗室と同様に、廃病院も例外ではない)

男(以前この場所で思い出深い行動を取ったか、世界の秘密に触れるか、『男』という人間個人に関係していたのか。これ以上以下もなく、現状で推測できるのはここまで)

男(記憶にはないが、確かに俺はこの場所を訪れていたと見るべきだ。一人で? はたまた美少女と一緒に? ……転校生は中へ入ってからそれらしい反応を見せていなかった)

男(後輩はどうだろう、先生は? 詳細は判明させてはいないが、どちらも廃墟探検を趣味としている風には見えない。人目につかない所へ向かうにしても、わざわざこんな離れまで普通出向きはしないと思う)

男(この辺りは悩まずとも二人の天使に尋ねれば一発か。しかし、期待した内容が返ってくるとは限らないわけでして、だ)

男(まったくどうしようもないやれやれではないか。全ての謎は出尽くした、持て余すことなく目的に手を付けられる、なんて安堵の息も 容赦なく押し戻された。好奇心は身を滅ぼすとは先人もよく言ってらっしゃる)

男(じゃあいっその事 放り投げちゃえば解決です。……だってこれ以上踏み込んで得をするのか、こんな病院だもの)

オカルト研「くん。……おーとーこーくーん」

男(そういえば一度ヤクザの親父に殴られたとか聞いたが、まさかその時にこの病院を使ったと?)

男(だけで忘れてしまうのも馬鹿げている。いや、もしかすれば隠しキャラ爆乳ガーターベルト美人女医と色々あったとか。待て、ナースの方も捨て難い)

男(冗談はさて置き、廃墟化しているのが最も謎な部分だ。例の暗室以上に人を、俺を遠ざけようとしていたのだから)

オカルト「おとこく、あっ……[ピーー]、[ピーーーーーーーー]ったの……」

男「えぇ、どうかしたか?」

オカルト研「っ~!! 聞こえていたなら返事して…………あの、さっき私が言ったこと聞いていた? ///」

男「すまん、唐突に耳鳴りがしたからよく聞こえてなかった (ある意味じゃ間違ってはいないという)」

男(上の空な様子を図って、彼女からどのような熱烈台詞を頂けるが気になるが、そろそろ勝負に出るつもりだろう)

男「(ここ、手術室にて。捌かれるのは果たして俺か美少女か) うーむ、予想してたよりは荒れてないし、汚れちゃいないが」

オカルト研「この部屋で数多くの人間が鋭利な刃物によって切り刻まれていた。苦しみ悶える声が聞こえてくるようだわ」

男「麻酔って便利なアイテムはご存じない? アホ、拷問されたんじゃあるまいし……どちらにせよ 嫌な想像掻き立てる話は止してくれ」

男「で、今度こそ見つけたのか。長引かせても、後がないんだからそろそろ」

オカルト研「それは……わかっている……けど」

男(諦めて撤収した俺たちの背中を大量の影が見送っていた、というのがお決まりパターンだがどう転ぶ事やら)

男(体験した怪奇現象はロリ天使が悪戯に起こしたと知るのはこの俺だけ。ここまで来てオカルト研が粘りたがる気持ちは汲めなくもない)

オカルト研「私はきっとこの中に霊がいると確信しているの……ぜ、絶対にいるんだから」

男「(彼女は正しいと肯定してやりたい) 言うかどうか迷ってたんだけど、本当にその網で捕まえる気なのか?」

男「俺はこの手の類には疎いが、幽霊って実体がないから幽霊なんだろ。UMAだってそれに収まる程度の大きさかわからないし」

オカルト研「いいえ、物理で無駄なら交渉という手段が残されている。話せばわかる良いモノかもしれないでしょう」

男「じゃあ話が通じないという事態を想定しての作戦は?」

オカルト研「どうしよう……」

男(実はアホの子属性持ちだったとは思わなんだ)

オカルト研「男くん、そっちにはいた? あそこのカーテンの裏とかが怪しく見えるのだけど」

男「ふむ……えっ、あっ、いないぞ……オカルト研、それでしっかり探してるのか? もっと屈み込まないとよく見えんだろうが」

オカルト研「わかった。もう少し念入りに探してみる」フリフリ

男(四つん這いになって台の下を覗きこむ彼女、そしてこちらへ向けて突き出される形のよろしき尻。美少女の尻であるからして美尻である)

男(仮にも真剣なオカルト研を、尻を、弄ぶこの俺は真性なる屑と自覚しよう。それでも そこに尻があるのならば、凝視するのが抗えぬ悲しき雄の性か)

男「おぉー、おおぉぉーっ!! 食い込んで形がハッキリ見えてるッ!!」

オカルト研「……真面目に探してないのがバレバレよ、スケベ男くん」

男「しーっ!! ……いいか、ちょっと耳を貸せ (と、姿勢を低くして、彼女を自分に寄せ耳打ちを打とうとすれば、漫画チックにドキドキの擬音が今にも漏れ出しそうなオカルト研である)」

オカルト研「あ、わっ、[ピーーーーーーーーーーーー]///」

男「ん? ……オカルト研よ、こういう時は相手に自分が興味を持たれていないとワザと思わせるんだよ」

オカルト研「わ、わざと?」

男「そうだ。俺が思うにヤツらはこっちの反応を見て楽しんでいる。必死扱いて隠れた自分たちを探し回っている愚か者がいる、ってな」

男「だからこそ 今はあえて諦めたフリをしてやるのも手なんだよ。誰だって突然構われなくなったら面白くないだろう? その心境を逆手に取ってやるのよ……!」

オカルト研「! ……お、お見事」

男(この俺に世渡り上手の称賛を)

男(これでいくら美尻を堪能しようが、横道逸れ行く話題へ持っていこうが、作戦なのだからと彼女を好きに操れる)

男(ジャージに付いた汚れを手で払い、探索を中断したオカルト研は落ち着かぬ様子で取り出したペットボトルへ口をつけた)

男「自然体、しぜんたい、心穏やかに、釣りを楽しむように……ところでお前は彼氏とか作らないのか?」

オカルト研「ぶーっ!!」

男「お、おいおい、何も吹き出すことはないだろうが。思春期少年少女の健全たる話題だぞ」

オカルト研「げほげほっ! そ、そうではなくて……いきなりだったから……!」

オカルト研「……///」

男「咽たのか? 顔真っ赤になってるぞ。……まぁ、たまにはこういうのも悪くないんじゃないかと思ってな」

男「妹に訊いても適当にはぐらかされて終わっちゃうしさ。他の奴らにはらしくないと笑われる。そんなに恋愛事と疎遠に見えるかぁ、俺ってー?」

男(恋愛を超越したハーレム脳と自負している。素晴らしきは一人より全員、欲するままに恋した結果がこれだ)

オカルト研「あ……あなたは、ううん、男くんも」

オカルト研「……こ、恋をしていたりする?///」

男(完全、完璧、完備にオカルト研からオカルトを追い出し、ピンク色に染め上げた瞬間と思われる)

男「スケベな男くんでも人並みに恋したりもする。へへ、誰にとか、現在進行形かは言うつもりないけどな」

オカルト研「そ、そう。そうなの……[ピーーーー]……///」

オカルト研「えっと……男くんから見たら、私も恋愛なんて疎い人に見えるのかしら」

男「どうしてそうなるんだよ。別に同じ匂いがしたからぁ~とかで話したんじゃないんだけど?」

オカルト研「だ、だって 私は幽霊とか未確認生物だとか普通の女の子が見向きもしない物ばかりにいつも囚われてばかりいるから」

オカルト研「興味なさそうに思われても不思議じゃないと……[ピーーーー]」

男「(自覚はあったのか) 周りにか? だったら俺もオカルト研も似た者同士なのかもしれないな」

男「俺たちだってアイツらと何も変わりないのにさ。なんか損だよな、キャラが定着するって」

オカルト研「う、うん……」

男(こちらから攻めれば途端に大人しくなっていくのは他の美少女でも把握済みよ。ただし、加減が難しいのがこのオカルト研である)

男(勢いに任せて告白まで持って行かれればやはりスキルに妨害されるだろう。だが、真面目な言葉をお決まり文句でぶち壊せば、彼女のテンションは確実に地の底まで下がるだろう)

男(好感度の維持ではない、伸びを期待しての行動なのだ。接触回数が極端に他と少なくなっているオカルト研を攻略するならば、今がその時)

男(何が起ころうが、どんな恐ろしいことを言われようが、けして諦めさせない。最大限ビッグバン級の愛情を育てるために)

男「あっ、ちなみに~……お前がタイプの奴はどんな感じなんだよ! 誰にも言わないから、ほら、俺だけに教えてみろ!」

オカルト研「むっ、そういう事は自分から話してから尋ねるべき」

男「えぇー、良いだろ それぐらい。教えてくれたら俺のも後で絶対に教えてやるからさ、な? な?」

オカルト研「[ピーーーーーーーー]い……」

男「ん? 今何て言ったんだ? (不安気で、そこはかとなく愁いを帯びた姿に美少女っぷりを再確認させられた)」

男(もし俺の語る理想と自分がかけ離れていたらと懸念したのか。彼女にしては弱気な態度だが、センチにならざるを得ない状況を作ったのだから仕方がなかろう)

男(あるいは 自分の思いを俺が気づけないまま いつも通り過ぎ去るのを嫌がってか。相手の状態からあらゆるパターンを考察し、合致した行動を取らねば攻略とは言えない)

男(心を読むつもりで、否、丸裸にひん剥いて全てを観察してくれるぞ、美少女よ。望みは何だ? 叶えてやろう、己自身のために)

オカルト研「……もし、もしの話で聞いて欲しい。自分が好きになった人がいつまで経っても振り向いてくれなければ」

オカルト研「あなたなら、そんな時どうする? 私には[ピーーーーーー]。男くんなら……適当でも良い、答えてほしい」

男「随分と難易度高そうな質問じゃないか。まぁ でも、恋愛相談に乗ってやるのも憧れだったんでな、是非手伝ってやるとしよう」

オカルト研「じーっ。じーーーっ」

男「……そんな見つめられた所ですぐに気の利いた回答は思いつかんな」

男「そうだなぁ、お前が言った振り向いてくれないの度合いがよくわからないし、まず そいつとの関係がわからん」

オカルト研「友達以上恋人未満という設定でっ……!」

男「もはや振り向いてんじゃねーか!」

オカルト研「ち、違うわ! 全然見てもらえていないっ、どれだけ近づいても どんなに触っても気づいてくれてないっ!」

オカルト研「だからっ……うぅ、わからないの……わからないから[ピーーーーーー]の……」

男「そいつ最悪だな。同じ男として反吐が出るわ (不思議だ、何だこの言った後の爽快感は)」

ここまで。土日いける

男「口で言っても分からん奴には強硬手段を取るまで。だけど、それも効果無しだったと?」

男(ここぞとばかりに必死で頷いて見せられてしまった。他人事のようだが彼女たちには同情する、難儀だなと)

男「こんなにレベルの高いお前を尻目に何やってるんだろうな、そのバカ野郎は。気にも掛けないとか考えられねーよ」

オカルト研「[ピーーーーーーーー]。[ピーーーーーー]!」

男(心中お察しする。メタクソに殴られようと菩薩の心で受け止めてあげよう、昇天しない限り)

オカルト研「女子として魅力が皆無なのは自分でも認識してる。でも、ここまで反応が貰えないと少し虚しく感じる時がある……はぁ」

男(驚いた、そして本音という刃がこの身を酷く抉った。罪悪感が残っていただけ安心すべきと考えておこう)

男(しかし、彼女から虚しいと聞けたのは意外でもあり 危険サインと感じられるぞ。アタックを繰り返すたびに、無駄だと跳ねかえって来るばかりではな)

男(しまいには続けても期待できないからとガックリフェードアウトも起こりうるのでは? 非常にマズい、俺の甘えが生んだ失望だ)

男(どれだけ彼女たちの知れない所で攻略に奮闘しようと、友人関係だけが引き延ばされるのみ。ある意味では こちらからのたまのアクションだけで、首の皮一枚で繋げていたと思える)

男(同時攻略の弊害というか、リアル女子を相手にすれば当たり前だったのである。ハーレムの道は柔じゃあ通用しない)

男「レベルが高いだと通じなかったか? 俺は、これでもオカルト研という女の子を高く評価してるって意味だぞ」

オカルト研「えっ?」

男「まぁ、個人の目からの感想じゃあ当てにはならないと思うが……お世辞抜きで お前は可愛いよ、マジで」

オカルト研「か……かわ、いい……///」

オカルト研「ほ、本当に!?」

男「おおぉ!? (前のめりに体ごとぐっと近づけ、横にそれた前髪の間から彼女の瞳が真っ直ぐ向けられてしまった)」

オカルト研「あっ……その、男くんはこの私を……[ピーーー]」

男「な、何だってっ?」

オカルト研「か、かわいいっ、と思って見てくれていた……の……?///」

男「えっと……そのつもりなんだが、不都合でもあるのか」

オカルト研「ない! 何一つもない!」

男「お、おう……そうか、ないのか……急にらしくもないデカい声出すから驚いたぞ」

男(可愛いと誉めるだけでこれだけの反応を頂くと申し訳ない気持ちにもなる。かわいい、かわいいぞ、オカルト研よ)

男(さて、興奮もようやく収まりを見せ、至近距離まで近づいた事にハッとしたらしく 彼女は頬を赤らめて背中を向けた)

オカルト研「……[ピーー]、[ピーーーーー]た」

男「ん? 忙しいところ悪いけど、次は何て」

オカルト研「…………良かったら、もっと聞かせてほしい」

オカルト研「あなたが私のことをどう思っているのか。……き、聞きたいの///」

男「巨乳」

男(思いつくまま彼女の魅力を上げていけば口をぽっかり開けたまま目を輝かせているのであった)

男(意中の人に誉められて嫌な気がする者などいない。少々スケベ目線であることを覗けば)

オカルト研「……///」

男「あー、探せば他にも色々出てきそうだけど言ってる方も恥ずかしくなってきた。満足か?」

オカルト研「聞いてる私もちょっぴり[ピーーーーーーーーー]///」

男(うれし恥ずかし何とやらである。十二分満たされたであろう彼女は先程よりも口数が減り、指を遊ばせもじもじと落ち着きがなかった)

男「と、とにかくお前にはそれだけ魅力がギッシリ詰まってる! これで自分は残念な奴だと思う事自体 甚だしいな!」

男「理解したか? オカルト研は自信を持って悪くないんだよ。そいつが相手にしないから何だ、お前に非なんて一切ないんだぜ」

オカルト研「あう……/// じ、じゃあ どうしたら彼は好きと言ってくれるのかしら」

男「待ってるのか、向こうから告白されるのを?」

オカルト研「……上手く思いを伝える自信がないの。伝えられたとしても、拒絶されるのが怖い」

オカルト研「私にはこれ以上の行動は取れないわ。卑怯でも、好きになってもらえるまで今の関係を続けていたい」

男「ガンガン攻めるタイプと思いきや、まさかの奥手と来たか。だけど気持ちはわからんでもないな」

男「俺も好きな相手には素っ気なくしちゃうからさ。何度か傷つけていたかもしれない。でも、やめられないんだ……」

男(一人に絞りきれないからな)

オカルト研「そう、あなたもだったのね。私たちはどこかよく似ているのかもしれない……[ピーーーーーー]///」

男(共感を得させるというのは恋愛に対し効果的であると適当な本で読んだ覚えがある。感謝だ、今後は贔屓してやる)

オカルト研「恋って一言で言い表わすのは訳無いけれど、実際に自分が立場に立たされるとどうしようもなく難しい」

男「確かに。でも、絶対に無理だってことはない筈だろう? 右も左もわからなくとも、思い向くまま足を踏み出してみたらいいのさ」

男「救われるかは神のみぞ知るって感じだけどな。すまん、無責任にカッコつけてみたりして」

オカルト研「ううん、男くんは間違っていないわ。きっとみんな同じようにしているのだと思う」

オカルト研「自分だけが苦しいなんて甘えた考えは捨てる、バイバイ」

男(手の中で転がしていた何かの欠片を床へ落として彼女はそう呟いた。ちょっと真似してみたいなと密かに俺は憧れる)

男「上手く吹っ切れたなら初めての恋愛相談は成功と受け取って構わないか?」

オカルト研「少し心残りはあるけれど、上出来よ 男くん」

男「心残り……ふむ、これからどうやってそいつにアピールするかってところかね?」

男「そいつが本気で迷惑がってないならこれまで通りで良いんじゃないか。今の関係を継続させておきたいなら (是非そうしてくれ)」

男「まぁ、進展が欲しいなら新しい動きも見せて行くのがベストとは思う。時々変化球を投げてやらなきゃ勝負にならんだろ?」

オカルト研「変化球……あっ……ありがとう、男くん。あなたのお陰で良い事を思いついてしまった」

男「え?」

オカルト研「何をしているの、男くん。モタモタしていたら置いて先に帰ってしまうわよ」

男「俺がいないと暗くて前見えないだろうが……本当にいいのか? あんなに必死扱いて捕まえたがってたのに」

男(手術室を出た後、通り雨も去った頃合いだろうと彼女はあっさり帰ろうと撤退を申し出た)

男(恋愛トークで気分も晴れて心変わりを起こしたのだろうか。吹っ切れたかのように歩みを進めている)

男「ここで幽霊やらを捕獲しないで何処で探すんだよ? 他に目星ついてたのか?」

オカルト研「違うの。正々堂々自分たちで調べ書き上げたレポートをまとめることにしたわ」

オカルト研「ない物強請りと言うつもりはないけれど、たった一日で得たソレよりも ずっと部員たちと一緒に努力したものの方が大切だと気づいた」

男「はぁ? そ、それを発表してダメだったらどうするつもりなんだよっ」

オカルト研「その時はその時、結果は結果。だけど部員全員で楽しく何かをやれたことに意義がある。部活ってそういうことでしょ?」

男「そうか、俺には一生わからん……あれだけ真剣にやっておいて、諦めるとか逆に凄い」

オカルト研「男くんたちにはいっぱい迷惑を掛けてしまった。ごめんなさい、反省してるわ」

オカルト研「でも、今日ここにあなたと来れただけでも嬉しかった。何も得た物はないかもしれないけれど、それでも」

オカルト研「[ピーーーー]……良かったら、また今度も私に付き合ってくれる?」

男「……とりあえず廃墟は勘弁してくれよ」

オカルト研「了解……///」

男(彼女の心境の変化は俺に都合良く動かされたからだろうか。潔く引き下がってくれてありがたい事には違いないけれど)

男([ピーーーー]と努力した無駄が全てとは泣ける話だ。このまま台無しになって平気でいられるわけもないだろうに。本人が望んだなら止めはしないが、腑に落ちない)

男([ピーーーーーーーーー]。まぁ、気にする必要もないだろう。俺が気にするべきなのはハーレムと委員長のみよ。では、締めと思いここいらでもう一度アクションを)

男「この辺りは躓きやすいものが転がってるし、俺の手を掴んでおけ。ほら」

オカルト研「結構よ」

男「何!? 手を繋ぐと言ったんだぞっ!? 転んで怪我でもしたらどうするっ!」

オカルト研「だから結構だと言ったわ。この程度気をつけて歩けば平気だから男くんは自分の心配だけをしていて」

男「…………ば……バカな (オカルト研が俺の誘いを断った? 大好きなボディタッチだぞ? ありえん、金属バットで頭を殴られた気分だ)」

男(手を繋ぎながら、こうしてると恋人同士のデートみたいだ、とかそれらしい事を言って盛り上げようと企んでいたというに。諦めずチャレンジしかあるまい)

オカルト研「さっきから何度もしつこいわ。やめて」

男「お前変な物でも拾い食いしたのかよ!? それか頭打ったのか、いや、悪霊に乗り移られちまったのか! ああ、納得だ!」

オカルト研「私、どこかおかしい?」

男「滅茶苦茶おかしいぞ! お前はそんなキャラだっ……まさか途中ですり替わった? お前、天使ちゃんだろ!? 道理でさっきから変なことばっかり言ってると思ったわ! (あれ、でも難聴スキルが)」

オカルト研「天使ちゃん? ……変な男くん。お供三人が待ってるわ、早く戻ってあげるべき」

男「あわわわわ……っ」

「変?」

男「そうなんだよ、見てくれ! コレが問題の変なオカルト研だ!」

オカルト研「雨も止んだし丁度いい時間。疲れたからさっさと帰りましょう、ほら さっさと」

転校生「別にいつもと同じように見えるけど?」

男「お前の目は節穴か! どこが変わりなく見える? まるで別人みたいだったぞ!?」

男の娘「ええっと、僕も右に同じくなんだけど……どの辺が違うのかなぁ。目元とか?」

男「別に見た目が突然変異したとかじゃなくてだなっ! やけに素っ気ないというか、態度がどことなく冷たいというか!」

不良女「じゃあそれって変化無しじゃねーの? 誰にでも素っ気ないじゃん」

転校生「はぁ、帰って来て早々バカなこと言い出すから心配して損しちゃったじゃない。暗くなったらもっと怖くなるし、帰りましょ?」

不良女「ハイ賛成ー。男ぉ、あんたもしかして変なの連れて来ちゃったんじゃないの~? ……ゾッとしないからやめてよ?」

男の娘「別の意味じゃあゾッとする展開だけどさ……よーし、ほらほらもう大丈夫だよ男ぉ~! 帰りは僕がずっと手握っててあげるからねっ!」

男(勿論、他の三人がそれを放って置かない。今回はオカルト研を抜いての話だが……と思いきやである。無理矢理 彼女が俺の手を取った。……まさかのもしかして。ああ、そういうことか 良い事とやらは)

オカルト研「うるさい連中は無視して一緒に帰りましょう、男くん。 ね?」

男(可愛らしい笑顔とは別に、最後の最後にちょっぴりホラーを感じさせられたのであった)

オカルト研「……[ピーーーー]///」クスッ

また明日

男の娘「それじゃあ男、また明後日に学校でね~!」

転校生「今日は散々な一日だったわよ。これに懲りて二度と怪しい場所に行かないって誓う……じゃあね、バカ変態」

男「ああ、それじゃあ (無事に二重の意味での生還を果たせたと。結果もまぁ上々な方だろう)」

男「まさかの反撃を受けたのは想定外ではあったが、オカルト研にとっては大きく成長できたのかもしれん。ありゃあ良いな……緩急つけて攻めてこられるの」

男(なんて、似たような真似を幾度となく試してきた俺が引っ掛かったのは全く笑えん)

男(すっかり日も暮れ始めた。自宅まで辿り着けば幼馴染が台所で調理をしているのだろう。小刻み良く包丁がまな板を叩く音、換気扇から漏れた食欲がそそられる匂い。先程まで奮闘していた事がどうでもよくなってくるほどに気分が落ち着いてくる)

妹「げっ! お兄ちゃん 何その服の汚れ! 超ばっちいんですけどっ」

男「道理で帰って早々ゴミを見るような目してお前が迎えてくれたわけだよ (危うくトラウマ再発しそうになった)」

幼馴染「おかえりなさ……お風呂に!!」ビッ

男「ハァイ (二人揃って厳しい顔で歓迎拒否され、風呂場へ。そういえば帰りに服を買うつもりがすっかり忘れていた)」

男(明日はせっかく彼女との初デートだ。できる限りこちらも身なりを整えたいではないか)

幼馴染『男くーん 着替えここに置いておくから。上がったら晩ご飯にしよ?」

男「わかった。ところでさぁー、明日一緒に服とか見て回りたくないかー?」

幼馴染『オシャレに無関心の男くんがどんな心境の変化したの……っ?』

男「とりあえずダサくて悪かったな!?」

幼馴染『言われてみれば確かに新しい服持ってなかったかも。うん、そういうことなら付き合うよ』

男(デート。喪男手前のこの俺には遥か彼方先、異次元のものかと信じて疑わなかったがいよいよだ。いよいよなのである)

男(とりあえず適当にウィンドウショッピングを楽しみつつ美味い昼飯を食う。その後は再び適当にウィンドウショッピングに移行し……待て、何が面白いんだコレ)

男「か、カラオケとか……行っちゃう……?」

幼馴染『歌えるの?』

男「……ゲーセンで思い出作りのプリクラ撮っちゃう?」

幼馴染『ちょっとデジャブ? でも二人だけのはあんまりなかったよねぇ』

幼馴染『あはっ、そんなに頑張って色々考えてくれなくても大丈夫だよ。あたしは男くんと一緒にいれるだけで楽しいんだから!』

男(何この美少女。嘘偽りなくマジ物美少女じゃまいか。神よ、幼馴染の再構築を感謝致します。ケチの付けようが一つも見当たらぬのですから)

男「そう言われると気が楽になるどころか、余計に重圧を感じてしまうんだがおかしいか?」

幼馴染『捻くれすぎですっ。……本当に何だって良いの。だって夢にまで見たことがようやく叶うんだもん』

男(毒でも食らったようにニヤニヤが止まらない。純粋に嬉しいというか、心踊ったというべきか。糞スキルがあったからこそ喜びも倍増)

男「幼馴染可愛すぎだろうが……っ!!」

幼馴染『えぇ~っ!? ……ど、どういたしまして ///』

男(ああ、幸運値がメーターを振り切って有頂天へ昇りつつある。俺の脳みそが、俺の全てが、幼馴染一色に変わってしまいそうに)

妹「ご飯食べるならその顔やめて。さっきからずっと気持ち悪い!」

男「えぇ、大金かけない限り変わりようないんだからこれぐらい許せよぉーう」

妹「そうじゃなくって!! 何一人でニヤついてんの。テレビそんなに面白い?」

男「全然クスリともこないが (夕飯の美味さに思わず舌鼓。そうでなくとも目の前にいる幼馴染の存在が嬉しい)」

男「幼馴染 これかなり美味いな、気に入ったよ。ていうかこれも、これもだ! 全部うめぇ!」

男「畜生、全部が美味いなぁ~!! 腹立つぐらいだぞ……うま、うま」

幼馴染「そ、そうかな。いつも通りに作ったんだけど そこまで喜んで貰えると……えへへっ」

妹「むうぅ~~~っ……!!」

男「(ワザとらしく大きな音を立てて妹が起立する。一気に注目の的となった我が家のアイドルは、目を細めて俺を睨みつけたのだ) どうしたんだよ。もうお腹いっぱいになったのか? ついにダイエットする決心が固まったと?」

妹「うっっっざ!! お兄ちゃんうざっ!! ……ふん、ごちそーさま」

男「何だよアイツいきなり。なぁ、急に機嫌悪くさせて少し様子おかしくなかったか?」

幼馴染「えっと……男くん、ちょっと話なんだけど」

男(妹の後ろ姿を見送ると申し訳なさそうに囁くようにして彼女が語りかけてきた。箸を一旦置いて耳を傾ければ)

幼馴染「やっぱり、妹ちゃんにあたしたちが付き合ってるってこと しばらくバレないようにした方が良いよね」

男「えっ、問題あるか?」

幼馴染「問題というか、うん。あるよ」

幼馴染「あれでもあの子、男くんのこと大好きなんだよ。自分で気がつかなかった?」

男「そりゃあこれだけ頼れるナイス兄貴を持てば大好きにならざるを得ないだろう。尊敬されてもおかしくない」

幼馴染「……そ、そっか……自信満々なんだ」

男「すまん、半分以上冗談のつもりで言った。で、それが何で妹に交際を明かしちゃダメということになる?」

男(戸惑う意味がわからん。妹にとって幼馴染はずっと面倒を見てくれていた姉妹同然の関係なのに)

男(きっと俺たちを祝福してくれるのでは? 本物の家族に変わろうと、彼女たちならば良好な仲を保っていてくれると思う)

幼馴染「とにかく内緒のままでいようよ。絶対にまだ喋っちゃダメ、絶対にだからね」

男「それ俺を煽って」   幼馴染「真面目な話ですっ!!」

幼馴染「あたしだって本音は今すぐハッキリさせておきたいって思ってるよ。でも今は時期じゃないから」

男「わ、わけわからん……そんな事より明日行きたい所とかあるか? リクエストがあるなら聞いておこうじゃないか」

男「なんたって初デートだからな、初デート! 俺も昨日からずっと楽しみにしてるんだぜ!」

幼馴染「ねぇ、さっき言ったこと本気じゃないんだよね?」

男「はぁ? 本気?」

幼馴染「……男くん、もうちょっとだけ誰かの気持ちに気づいてあげよう。辛くても知らなきゃいけないものもあるよ」

男「アイツ、妹のどこ気にしてたんだか……」

男(幼馴染を見送り、バラエティ番組のワザとらしい笑い声のみが響くリビングに一人ソファで横になる。いつもなら妹がここを独占している筈なのだが)

男「どいつもこいつもだ、さっぱり何考えているんだか理解できん。俺の頭がよっぽど足りてないのか」

男「誰かの気持ちにって今は幼馴染だけでいっぱいだから無理すぎる。とりあえず明日のために早めに寝なきゃだろうが!」

男「10時になんて自分から言い出しちゃったけど起きれるかねぇ、俺って昔から抜けてるとこあるから……」

男「……ん、どうして待ち合わせにしようとか考えたんだっけか?」

男(家がすぐ隣にあるのにわざわざそうしたいのだと俺は確かに彼女へ告げた。恋人気分を優先させたのだったか? いや)

男([ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

男「えっと、んう……あれれ……何でだったかな……全然覚えてねーや……」

男「忘れるぐらいなら、どうでもいい理由だったんだろう。バカか俺は? 要らん心配しおってからに」

『辛くても知らなきゃいけないものもあるよ』

男(知らなきゃいけない。知る必要があるものとは? 決まっている、自分の彼女である)

男(幼馴染を幸せにしてやる為には今よりももっと彼女を知って、関係を深めなければ。[ピーーーーーーー]、[ピーーーーー]? [ピーーーーーーーガーーーーー]!)

男([ガーーーーーーーーーーーーーーピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]!)

男「うるせえぇぇ!! ……疲れてるのかもしれんな」

男(先程から頭の奥で誰かが吠えている。吠えているというのは、ソレが一体喋っているのか怒鳴っているのか判別がつかないからだ)

男(これだけはわかる。俺の中にいる何かが邪魔立てしようと騒いでいるのだ。……邪魔立て?)

男(次から次へと一々思いつくワードに反応してしまって切りがない。疑問に思うほど気にかかるか、掛かっているのだろうな)

男「だから疲れちゃってるんだってば。へへ、それか心霊スポットに行ってマジで憑かれて帰って来ちゃったとか」

男(オカルト研にも言ったが、二度と廃墟なんぞに侵入するものか。碌な目に遭わないと分かりきっているのだから)

男(妹の部屋の前を通ったが眠っているのか静かだ。一瞬気にもしたが、朝になれば機嫌も直るだろう。とにかく俺も今日は早く寝てしまおう)

男「…………何ですかコレは?」

男(『箱』。それ以上形容しようがない程に見事な箱が布団を上げると、足元に転がってきた)

男「早めのクリスマスプレゼントかよ。誰がこんなところに仕舞ったんだ? ……俺だっけか」

男「結構持ってみるとズッシリ感あるな。中に何入ってるんだ?」

男(試しに振ってみるとあまり音は立たなかった。スペースがないほどしっかり物が収められているようだ)

男(不思議とそれを手に持っているだけで、心がざわつく。頭の中の勝手な何かよりも。まるで揺さ振られているような)

男(開けてみるべきだろうか? 机の上に投げておいて気が向いた時にするのも良い。……好奇心というのは厄介である、自分のは特別異常かもしれない)

男「パカッ、と……」

男「あっ――――――――」

ここまで

【――――見慣れた天井が視界に映っている。全身がポカポカと心地良い温かさに包まれており、瞼がまだ重たい】

【カーテンの隙間から洩れる朝日が酷く鬱陶しくて……朝を迎えていた】

【靄は一気に晴れて思考が巡り始める。俺は自分自身に例のアレを開けさせることにまんまと成功したのである。正直言うとそのつもりではなかったが、そこは好意的解釈で】

【風呂に入った時から現時点へ至るまで微妙に記憶が曖昧だが、油断が生んだか、はたまた天使ちゃんが妨害を行わなかったせいか、意識が完全に幼馴染へ持って行かれていたと思われる】

【万が一、あのまま幼馴染ルートに固定化されてしまったら どうなってしまっていたのやら】

【仮定1:俺という人格が肉体から失われてNPCキャラクターに。あの委員長と同じ道を辿るのだ】

【仮定2:世界が跡形もなく消えてしまう。この男が完全幸福を掴むための世界なのだ、目的が果たされれば不必要となる】

【両方ともありえないと信じたい推測なのは言うまでもない。そもそも満足の先が見えないこと自体が妙ではないか】

【神の狙いは不明だが、瞬間幸福を実感して目標達成とこれまでに聞いた話から予想した。俺にとってのその後はどうなる? 今思考しているこの人格が消えたら、この世界に何の価値があるのだ?】

【とにかく、冷静に頭を働かせられていることに安心である。大丈夫、俺は俺だ。箱が助けてくれた……少しおかしくないか】

【目が覚めて朝日が昇っていたのは構わん。そうではない、後輩の説明された通りの効果が表れているなら俺は『1周目から現在まで』の記憶を取り戻していなくてはならないのである】

【思い出してる? NOだとも。前回、前々回で起きた出来事なんぞ頭に入っちゃいない。昨日までの男くんのままなのだ】

【後輩よ、真剣に話して来るものだから全て信じた結果がコレとは驚きだ。それでも救われたが……ところであの箱の中には何が入っていたのだろう。開けたのに、確認した覚えがないぞ】

【フタを開けた瞬間に睡眠ガスでも噴出する仕掛けでも施してあったのかと疑いたいな。……それにしては布団も被ってしっかり睡眠を取っているが】

【…………さっきからどうして体を起こせないのだ?】

【腹筋に力を入れて起き上がる努力を何度もしている。語弊があった、力そのものが入らない】

【決して怠けているつもりもない。試しに手を動かそうと試してみても、指一本動かせなかった】

【体の部位のどこも動かせずにいる。首から上もだ、まるで自分が植物人間にでもなってしまった気になる。コイツはかなり洒落にならん】

【声を出そうにも口が開かず、幼馴染たちを呼べない。ただ布団の上に横たわって視界に映るものを観察しているだけ】

【焦っても、恐怖しても、まるで体に反応が見えない。悪寒を感じることすら無理なのだ】

【……意思とは関係なく目がキョロキョロと動いている。瞬きも。何だこれは】

【    何  だ  こ  れ  は  ! ?    】

男「期待させといて夢オチじゃあ救われない……眠い」

【喋った! 俺が喋ったぞ! いや、確かに俺だけど俺が喋ったんじゃあない!】

【この体が勝手に口を開いたのだ!! 欠伸もしている!! 体が言う事を聞かないっ、どうして!?】

【怖いこわいこわいこわいっ!! マジで怖い!! いまこの体を好きに命令させているのは誰なのだ!? 俺の声で独り言を呟いたのは!?】

男(本当に美少女から死ぬほどモテるようになれたら毎日ハッピーで人生潤うってもんだ)

【な……何なのだ……今度は頭の中でこいつの声が聞こえたぞ……この野郎がいま考えたことなのか……】

男(あの夢から俺の非現実が始まったとしたら、それはさぞ喜ばしいのでしょう。モテなくてもいいから漫画の世界に変わってないかな、ゲームでも、活躍できそうなのならオールOKだぞ)

男(ああぁ神さまぁーーー、学校に流星群が落ちてぶっ壊れてますようにぃーーー)

男(何時だろう? ……眠気に逆らうのは賢くない。生き物は欲求に忠実であるべきなのだ)

男(だったら 二度寝したらいいじゃない!)

【誰かこの屑の正体を教えてくれまいか。痛々しいその脳構造を暴いてくれたまえ】

【間違いなくコイツは俺自身である、と確信は持てないが、きっとそうだとしておく方がスムーズに状況を把握できる】

【あの箱を開けたら俺はもう一人の俺になっていた。寄生虫みたいでもなく、彼の中に俺の思考だけが存在している。一人称視点の映像を強制的に見せられているのだ】

【それが自分自身だという気味の悪い事実。どうにか体を乗っ取ってやれないか? 後輩か天使ちゃんにヘルプを頼まない限り一人ではどうにもできる気がしない】

男「……」

【どうやら睡眠に入ったようだ、瞼が閉じられて暗闇しかない。喧しい声も聞こえなくなると すぐにスヤスヤ寝息が聞こえ始める】

【……ダメだな。この男の意識がなくなった時ならば俺が表に出ていけると思ったのだが、さて、見事に裏切られてしまったぞ】

【後輩にどうこの事を伝えたらいい。彼女ならば気が付いてすぐに対処してくれると願うしかないのか。と、その時】

母「息子、息子よ。時間ですよ。いい加減目を覚まして朝ご飯を食べに来なさい」

【いつ以来だろう。久しぶりに母さんの懐かしい声が、戸の向こうから聞こえてきたのであった。その声に唸って答えると、男は布団を頭からすっぽり被ってしまった】

妹「お兄ちゃんまだ起きてこないの? [ピーーーーーー]……しょうがないなぁ~」

妹「おっきろぉーーーっ!!」

男「……ん、んぅー……腹痛いから今日学校やすむ」

妹「こらこら休むって……えっ、お腹痛いの!? 大丈夫!?」

男「大丈夫じゃないから静かにそっとしておいてよ、母さん」

妹「放って置けるわけないじゃん! だ、だって[ピーーーーーーーーーーーーー]」

男「えぇ……なんだってぇ……?」

妹「とにかく一旦起きてお母さんたちのとこ行こうよ! ほらっ、布団から出てぇ~……!」グイグイ

男「無茶言わないでよ……とにかく今日は無理だから学校に――――ぃい!?」

妹「ひゃあっ!?」

【布団を奪い取られた男は勢い余って布団から転げると、妹を巻き込んで床へ倒してしまった】

【覆い被さったことで、ようやく男も彼女が母親ではなかったことに気づいたようだ。目前、数cm先に……まぁ、詰まるところラッキースケベが発動した】

妹「あ、あぁ、やぁああああぁぁー……///」

男「えっ、えっ……ち、ちが! これはその! つーか だ、だれ」

妹「[ピーーーーーーーーー]!! は、早く上からどいてよぉ!? ……[ピーーーー]///」

男「な、何て言った? いまよく聞こえなかったんだけど……」

妹「いいから早くどいてってばぁ~~~!!///」

男「うわわわっ、ご、ごめん!! 悪かったぁー!?」バタバタ

母「さっきは部屋で二人して何を騒いでいたの?」

男「べ、別に」

母「そうですか。ところでお隣の家に幼馴染ちゃん家族が戻って来るそうよ」

父「明日荷物を入れるそうだから、予定がなければ手伝いに行ってあげなさい」

男「ちょっと待ってくれ! 幼馴染ってあの幼馴染のことを言ってるんだよね……?」

父「そうだとも。お前も昔はよく遊んでいたじゃないか。きっと美人に成長しているだろう」

母「フフフ、男もそろそろ彼女を作ってしまうのかしらね」

男(父さんも母さんもいつもと様子が違いすぎる……それに幼馴染だって? あのデブス帰って来ちゃうのかよ)

男(美人になるわけがない。まずその要素がどこにも見当たらなかった思い出がある。一回りトロールになってるに違いない)  【ブッ飛ばすぞこのクサレ脳ミソ】

母「あら、もう学校に行くの?」

妹「うん。友達とちょっと約束してるから……うっ!?」

男(ぐうっ、また目が合った……あの子、本気でかわいすぎるだろ……でも あれって)

父「珍しいじゃないか。今日はお兄ちゃんと一緒に行かないだなんて」

妹「き、今日はいいのっ!! じゃあ行ってきまーす!! ……[ピーーーーーーーーー]///」

男「……と、父さん、妹ってあんな可愛い子じゃなかったよな?」

またあした

【両親から笑われながら彼は見送られた。釈然としない気持ちは分からんでもないが、美少女の妹の誕生を素直に喜ぶべきだろうに】

男「あんなの別人すぎる。顔どころか性格まで可愛くなっていたし……父さんや母さんまで変だぞ」

男「夢ならとっとと覚めてくれ、ちょっと気味悪すぎる」

【受け入れるどころか随分否定気味ときた。フツーの反応ならばどちらが正しいのだろう? 少なくとも俺には彼の不安を理解できない】

【それはさておき、幼馴染無しの登校は新鮮である。てっきり他の美少女と邂逅するだろうと思いきや無事に学校へ辿り着いてしまった】

【幼馴染が隣に引っ越してくる前、両親の滞在、男のあらゆる物に対する反応の仕方……ここは過去の世界だ。それも全てが始まってしまったその時である】

【俺はいま1周目の男の中。幽霊が憑依するようにして精神だけが定着されている状態なのだろう】

【すなわち これは過去の追体験の真っ最中なのだ。後輩が説明した内容から予想を大きく裏切られたが、俺自身が観測すれば大凡意味は同じかもしれない】

【俺がこれまでに何をやらかしてきたか、遂にこの目で確認できる。しかし、思い通りに動いてくれないというのは中々ストレスが溜まるものだ】

男「……」

【この野郎なのだが、先程から自分の置かれた状況に違和感と不審ばかり抱いて次がない。頭の中は「帰ったら何しよう?」で埋め尽くされていた】

【妹に関心を示すことも以降はほぼなかった。美少女は大好きなのは俺と変わりなさそうだが、如何せん突然の変化に戸惑っていた様子が窺える】

?「おい」

男「……」

?「無視すんじゃねーよ、お前だよお前! おいって言ってんだろ!」

【自分が声を掛けられている事に全く気づいていない。校内で女子生徒から接されとは思いもしない、というわけか】

?「ちょっ! てめー、聞いてんのかよ!」ガシッ

男「ひっ!?」

?「……あのさ、呼ばれたら一回で返事しろってセンセーから教わんなかったワケ?」

男「そんなこと急に言われたって、こ、困るし……何っ……?」

?「あんたが1組の男って奴で間違いない? あぁー、別に因縁つけてるんじゃないから」

男(まただ、妹に続いて学校の中でも可愛い女子が近寄ってきた。制服を着崩して、髪も染めていて、ピアス付きの見るからに不良臭い子だが)

男(綺麗な顔立ちをした美少女だと俺は思う。クソビッチでなければと本当に惜しまれるぐらい)

?「黙ってないでハイとかウンで答えろっつーの!」

男「ち、違う! 違うから! あ、あんたは人間違いしてる」

?「嘘こけっ!! ネタは上がってるんだからな!」

【誤用にも程がある】

男「じゃあどうしてわざわざ訊いてきたんだよ。ていうか、何で俺を知ってるの?」

?「あぁ? 知ってちゃおかしいのかよ。あたしはあんたのことが……はっ」

?「[ピーーーーーーーーーーーーーーー]!?///」

男「え?」

?「と、とにかくお前が男だ! 細かい事は気にすんなって!///」

不良女「それから あたしは隣のクラスの不良女っていうの。まぁ、こうして知り合った好だからよろしくな」

男(無理矢理肩掴んできておいてそうなるのか。キレて掛かられたと思えば、よくわからない展開になってるぞ)

男(俺は、とりあえず彼女になんと答えておけば角を立たせずに済むだろう……)

【違う、そうじゃないだろうが阿呆めが】

男([ピーー]、[ピーーーーーーーーーーー])

【事を荒立てる心配なんてここでは不要だ。お前はいま美少女に求められているのだぞ。落ち着いて自覚しろ】

男([ピーーーーーーーーーーーーーー]。[ピーーーーーーーーガーーーーーーーーーー]。[ピーーーーーー])

【なんて俺の声がこいつに届くわけがないだろう。……届いて、ないよな? 聞こえていないよな?】

不良女「なぁ……もしかしてまだ寝惚けたりすんの? ほら、手出したんだから握手」

男「えっ、ああ……ど、どうぞ……」

不良女「ぷっ! 何だよそれ! あたし どうぞなんて言われながら握手するの始めてなんですけど」

男(手が、いま俺の右手が、美少女の手と繋がっている。い、意味不明だけど悪い気分じゃない。むしろ……)

不良女「へへっ、改めてヨロシクッ。……[ピーーーー]///」

不良女「……何かそっちから言うこととかねーの?」

男「えっ!? い、言うって、俺からは別に!?」

男(どうしたらいい、どうしたらいいんだこの状況。朝起きて家族が全員おかしくなっていて、学校に着いたら不良の女友達ができそうになって)

男(夢に現れた神はマジなのか!? この俺が女子に、しかも美少女にモテるって!? 確かなのか!?)

男(……ど、どうしろっていうんだ)

【体さえあればその場でズッコケてやりたくなる。夢でのあの強気な態度はどこへ行った、こんな奴が本当に元の俺だというのか】

不良女「ん、まぁ いいや。お前結構変わってるけど想像してたより面白いかも」

不良女「このあたしが気に入ってやったんだから、ありがたく思えよな~? [ピーーーーーーーー]///」

男(畜生、手の感触がまだ残ってやがる。ちょっと緊張してきたじゃないか、目を合わせられる気がしないんだが。というか一々顔覗きこまないでくれないか、こいつ)

【尋常ないチキンハートというか、甲斐性なしというべきか、かなりイラつかされるタイプだったと過去の自分に絶望しかけてしまった】

【ハーレムどころか対人関係すらまともに気づけそうにないではないか、この男】

不良女「と、とりあえず携帯出してみろよ! お互いの連絡先交換しとこうぜ!? それで今度一緒に[ピーーーーーー]」

男「ごめん!! いきなり腹が痛くなったからトイレ行かせてくれっ!!」

不良女「[ピーーーーー]なぁ~って/// ……え? あっ、おい! 待てよこらぁー!?」

男(あ、危ないところだったな)   【じょ、冗談だろ?】

男(あの美少女、『不良女』とか名乗っていたが俺が知ってる彼女と何もかも違っていたぞ)

男(一言でヤバい人と噂が立っていたし、化粧でケバケバしい筈だ。それが人が違うみたいに可愛い女子に変わっている)

男(何がどうなっているのか誰か説明してくれ。怖くなってきた)

【どうなっているかは自分で気づこうとも考察しようともしないのか……ビクビクさせている場合ではないぞ、第二波が来る】

【美少女との出会いにラッキースケベはお約束である。次にお前がその角を曲がった瞬間】

生徒会長「きゃあ!!」

男「うわっ!?」

【まるで図っていたか疑いたくなるタイミングで生徒会長が衝突してきたのである】

【周りに大量のプリントが舞い落ちる中、二人は尻餅をつく。正面を向けば見えるであろう。素敵布が】

男「……あっ (長い脚の元を辿って行くとパンツがある。必然だ)」

男(しっかりくっきり真正面で丸見えになっているじゃないか)

生徒会長「す、すまない。怪我はしていないか? ……大丈夫か?」

男「っ!! だだだ、大丈夫です! ぷ、ぷぷ、プリント拾いますっ!」

男(凝視してたの気づかれてないよな、バレてないよな? この人、上級生だ。しかもまた美少女)

生徒会長「あ、ありがとう。手伝ってもらえると助かるよ」クスッ

【誤魔化すつもりで手伝ったのはバレバレではあるが、良いぞ、イベントを上手く進行させられそうじゃないか】

生徒会長「私とした事が少しぼうっとしていたようで。最近、色々と忙しかったせいかもしれない」

生徒会長「君は……二年生だな、制服でわかる。私については、自己紹介せずとも知っているかもしれないな」

男「ごめんなさいっ、知りませんっ……ごめんなさい」

生徒会長「ふふ、そんなに謝る必要ないさ。これでもこの学校の生徒会長を務めている者なんだ、覚えておいてもらえるかな?」

男(美少女というか美人っていうか、一々取る仕草が優雅に感じてならない。本当に高校生か疑いたくなってくるレベルだ)

男(そんな生徒会長のパンツだったとは。でも、生徒会長って言ったよな。またおかしいぞ。俺が知ってたあの人は芋女だったのに)

生徒会長「ところで君の名前は? ……あっ」

【最後の一枚を拾おうとしたところに二人の手が触れ合ってしまったのだ。勿体ない事に男の方は即効で手を引っ込めたが、生徒会長は微かに頬を染めて硬直している】

男「ああっ、度々ごめんなさい!!」

生徒会長「い、いや……気にしなくていいんだ……」

生徒会長「[ピーーーーーー]///」

【ひょっとしてこれで意識されて惚れ込まれたというのか。あまりにもチョロすぎて笑うしかないが、これぞモテるの力よ】

【それよりこの男、まだ難聴スキルの存在に気が付いていないと? 俺とは異なり、鈍感スキルが与えられていたりしないだろうな】

男「あの、いま何か言いましたか?」  【お互いに苦労させられるな】

生徒会長「気にしないでくれっ! あ、うぅ……えっとそれで名前は」

【俺のレーダーが反応を示す、すなわち美少女襲来の予感である。この場面で登場するに最適な人物となればやはり】

生徒会長「そうか、男くんというのか。私からぶつかっておきながら手伝ってくれてありがとう、男くん」

男「いや! その、良い物見させてもらったし……ああっ、な、何でもないです」

生徒会長「君のような親切な生徒で溢れる良い学校にしていきたいものだな。ふふ、[ピーーー]、か」

先生「――それじゃあ言いたくはないけれども、一応その覚悟だけはしておいてね」

先輩「どうしても? どうしてもわたし一人だけじゃ持たせられないの!?」

先輩「このまま何もできずに無くなっちゃうなんて嫌なんだよぉ~……めちゃくちゃ大事な場所なのに」

先生「気持ちはわかるけど、決まりは決まりなの。先生もできる限り協力してあげたいけど……」

生徒会長「……」

男(急に怖い顔してどうしたんだ、この人。視線の先には……またまた美少女。もう一人は教師か? 溜息が出るほど美人だぞ)

先輩「とにかくっ! 部員の数を増やせば続けられるんだよね、先生ちゃん。わたし全力疾走で探してみるから!」

先輩「きっと興味持ってくれる人がいるんだって信じて! おーっと、ちょいちょい! そこの彼氏ぃ~!」

男(たぶん俺なんだろう。指までさされたら流石に無視するわけにもいかないが、聞こえた限りじゃ厄介が振られてきそうな気が)

先輩「ラーメン食べるのって好き?」

男「は?」

先輩「カップ麺でも、この際うどんでもソバでも構わない。君にはラーメンを愛好する魂が眠っているとわたしは感じたのです……」

先輩「ええいっもう単刀直入~! ラーメン愛好会に入部して一緒に放課後を有意義に過ごしてみませんか!」

男「ら、らーめん……あんまり興味沸かないんだけども……」

先輩「口ではそう言ってても体が求めているのだよ、炭水化物の革命児を! なんと今入部してくれたら石鹸のセットがついてきてかなりお得っ! こいつは入部するっきゃないねぇ!」

男「あの俺は別に部活とかには……」

先輩「お願い、わたしを助けるためと思って聞いて! お願いだからっ」

生徒会長「相変わらず我の強い女だな。男くんが困っているのが君の目には映らないのか?」

先輩「げっ……どうして ここに……」

生徒会長「私がどこにいようが君には関係ないだろう。ふん、それの相手をする事はないからね」

先輩「そ、そりゃあいきなりすぎたけど 勝手に生徒会長ちゃんが決めようとしないでよぅ! ねぇ、えっと 男くん!?」

生徒会長「ふっ、残念ながら彼は生徒会にぜひ行きたいとさっき私に言ってくれたぞ。なぁ、男くん?」

男「言ってませんけど……」

先輩「えぇ~~~? ま・さ・か わたしに対抗してウソとかついちゃったりしてないよねぇ~~~?」ニヤニヤ

生徒会長「ち、ちがうっ! 彼が迷惑がっていたから私は……と、とにかく先に約束を取り付けたのは私の方だ!」

生徒会長「[ピーーーーーー]、[ピーーーーーーー]……!」

【対抗心もありつつ、願わくば手中に収めようと早くも動き始めたというわけだろうか。とんとんと話が進んで行っている】

【しかし、二人が犬猿の仲だったとは聞いていたが実際目の当たりにすると驚きである。両者とも男を譲らない、が】

男「す、すみません!! そろそろ教室に来いって友達から呼ばれましたさよならっ!!」

先輩・生徒会長「ああっ、男くん!?」

男(いくら美少女だろうと面倒ごとに巻き込まれるのはご免被りたい。朝からどれだけ振り回されたらいいんだ、俺は)

男(モテるってこういう事だったのか。何て迷惑なもの神さまに頼んじゃったんだか、いまのところ疲れるだけなんだが)

【ハーレムを目指すどころか、益々ネガティブになっていくぞ。なぜ美少女自らこんなブ男へ歩み寄ろうとする奇跡に感謝しない?】

【過去の俺よ、お前は間違っている。楽しみ方が全くなっていない! 宝の持ち腐れ状態だぞ!】

男([ピーーーー]、[ピーーーーーーーー]。[ピーーーーーーーーーーーーー]! [ピーーーーーーーー]! モテる男は辛いだとか漫画のキャラは皮肉るが、それをストレートに実感させられる)

男(頬を抓ればしっかり痛みが残る。夢の中じゃない、これは間違いなく現実なんだ。浅はかにも願ってしまった憧れが叶ってしまったんだ)

男の娘「男くん、おはよう」

男「……ま、また美少女。またなのか、また……ハハ 」

男の娘「えぇ!? ぼ、僕は男なんだけど。いきなり[ピーーーーーーーー]///」

男の娘「そ、それより男くん。さっき不良女さんに絡まれてるところ見ちゃったんだけど、大丈夫だった?」

【くん付け呼び? この段階だと男の娘ともクラスメイトなだけで、始めから親しかったわけではないのか】

【1周目の俺は美少女たちとどこまでの関係を築いていたのだろう。当の本人は逃げ腰全快なのだが】

男の娘「あの人すぐ意地悪してくるから僕苦手で、えへへ。あっ! 苛められてるとかじゃないんだよ」

男の娘「何か、こうやって男くんと話すの事って今までなかったよね。僕、[ピーーーー]だよぉ///」

男の娘「[ピーーーーー]で[ピーーー]だったから[ピーーーーーーガーーーーーーー]/// ……って、男くん聞いてる?」

男「ん、えっ、う、うん (ぼっちの俺が、委員長以来初めてクラスメイトに声を掛けられている)」

男(あり得ない話だ。彼女、いや、彼は男の娘らしいがこれがあのキモオタデブなのか? 完全に女子だろう)

男「(俺はいま喜んでいるか? 確かに虚しい現状を脱したいと何度も思っていたが、いざその機会が訪れてみても) ごめん。腹痛いからトイレ行ってくる」

男の娘「お腹痛いの? だ、大丈夫? それなら保健室に行った方が……ぼ、僕も一緒に行こうか?///」

男「一人で平気だから、いい」

【せっかく勇気を出して男の娘がイベントを発生させようとしたのに棒に振ってしまうとは、愚か、実に愚か過ぎる】

【どうやら根っこからこの男と俺は違っていたようだ。欲に任せて動けば救われるものを、彼は落ち着かないという理由だけで避けようとしている】

【取り巻く環境の突然の変化に動揺したのはわかった。だが、後ろばかり見ていては勿体ないだろうが。超モテモテ学生生活、夢のまた夢だというに】

オカルト研「そこのあな…」   

男(悪いがいまは無視させてもらう)   【あ、唖然】

オカルト研「あなたの中から並々ならぬ霊波動を感じるっ、少しで良いから見させてほしいっ」ガンガンッ

男「ここ男子便所なんだがっ!?」

男(個室に逃げても現れる)

先輩「あっ、男く~ん!」  生徒会長「先を越させてたまるかっ!」

男「だ、だから興味ないってさっき言ったばっかりでしょうが!!」

男(校内の何処に隠れようが、彼女たちは攻めてきた)

不良女「あれ、お前 倉庫の中なんかにいて何してんだよー? それよりさっきの」

男「頼むからしばらく一人にさせてくれっ……!」

男「(逃げ場は失われてしまった。ひたすら落ち着かない、こんな日は初めてだ。頭が痛くなってくる) 鞄持ってきちゃったし、早退させてもらうのも有りか」

男「これから俺の毎日どうなっていくんだ! ていうか、どうして頑なに面倒だって考えちまうんだよ。別に女子からモテて悪い気がするわけでもないのに」

男「いっその事 開き直れば楽しんじゃないか? なんて、頭ではわかってるけどさ……ん」

男(いつのまにか屋上へ着いていた。帰るなら逆だ、下に向かわなければだろう。まさか飛び下りれば夢から覚めるとか自然に考えてしまったわけじゃないだろうな)

男「こんな所 来たことなかったな、眺めも悪くない……そうだ」

【突然 肩にかけた鞄を床へ降ろすと、男は中から】

【銀色のカメラを取り出したのである】

【何かを思うこともなく、カメラのファインダーを覗いて目の前に広がる町並を静かに、穏やかな気持ちで眺めていた】

【この行為は彼が平静を保つ一つの方法なのだと、懐かしい思いと共に俺の中へ伝わってくる】

【随分とあっさりしているが、これでようやくハッキリ自分が元カメ小だったと知れたのか。そうなればあの暗室もきっと俺の物なのだろう】

男「……フィルム入ってなくね?」

後輩「こんにちは」

【この場所に来たら勿論 彼女が登場するとわかっていた。聴き覚えのある透き通った声に、男は体をびくんとさせ、鞄にカメラを突っ込んだ】

男(そうだよな、どうせ来ると思っていたとも。今日はもう帰っておこう。落ち着かせてまた明日からこれからの立ち回りを考えれば良い)

後輩「ごめんなさい。別にあなたの邪魔をしようと思って声をかけたんじゃないんです」

男「っ……」

後輩「私、大人しくしてますから良かったらさっきのアレ また見せてもらえませんか?」

男「は?」

後輩「カメラ、ですよね。手に持ってたの。ここから見える景色を撮っていたんでしょ」

男「撮ろうにも撮れなかったんだよ。だから帰ろうと思って……それじゃあ」

後輩「あの、明日は撮れると良いですねー! 私、よくここにいますからー! ふふっ」

男(……暗に来いって言ったつもりか、あの美少女)

ここまででん

先生「じゃあ教室戻って朝のHRやらなくちゃだから、あなたは休んでなさい。後でまた様子見に戻るから」

男「う~……そう簡単に帰してくれるはずないか」

【わざわざ早退の断りを入れに行くほど彼は生真面目な奴だった。体調良さ気な生徒をどうぞで見送る教師が多くない事はバカでも知っているだろう】

【言われた通り素直に保健室のベッドへ腰掛け、時間だけが過ぎて行くのをただぼぅっと待っている。貴重な時間を無駄にするのもお好きなようで】

男「あ、ひたすら眠ってれば夕方まで落ち着ける?」

【勿体ないと思うのがここでは正解だ。暇があれば校内をうろついてイベントを発生させるべきだろうが、主人公の正しいあり方として】

【お前がいま取ろうとしている行動は、ドブ川に札束を投げ捨てる、だぜ!】

男([ピーーーーーーーーーーー]、[ピーーーーーーーーー]、[ピーー]! ……横になって目を閉じても妙にソワソワしやがる。こうしていてもあの子たちが突入してきそうというか)

男(ああ、日常って何だったのか。あれだけ変われ変われと憎んでいた頃が既に遠い思い出と化した。難しいんだなぁ、非日常)

男「もっとこう、俺が何もしなくてもトントン拍子で全部上手くいって欲しいというかだな……っふ、上手くいってるじゃねーか!!」

【そうだとも、自分が望んだ世界なのである。これ以上を求める意味がないほどに幸せ者。あとは自分次第だと分かりきっているだろうに】

【だから、枕に顔を埋めて現実もとい夢から逃避しようと無駄だと知るがいい】

男「いきなりこんな事になったって困るんだよぉぉぉ~……もう何しろってんだよ……」

【右も左もわからないか。随分調子の良い甘えたおぼっちゃまだ……ほとほと呆れるしかない】

先生「男くーん? ああ、起きてたか。良かった」

先生「体調はどう。まだ調子良くならない?」

男「も……もしかしたら風邪かもしれないんで、万が一を考えてやっぱり病院に」

先生「ええっと、熱もう測ったの? まだなら今しておきなさい。結果次第じゃこっちから早退勧めてもいいから」

先生「昨日はゲームで夜更かしとかしてたんじゃないの。先生も新作買った夜はよくやっちゃうのよねぇ~……おっ、見っけ」

男(こんなに若くて綺麗な人が俺の担任? いや、違う。生徒に優しくもなくて何かあるごとによく癇癪を起していたヒステリックアラフォー教師だった)

【止せバカ、余計な記憶を掘り起こしやがって】

先生「はい、じゃあこれ使って――――ありゃ」

男「わわわっ! ご、ごめんなさいっ!! 手が滑って、その、そのぉー!?」

【渡された体温計を焦って受け取ろうとすれば床へ落としてしまった。美人の顔が急に近づいたからな、気持ちは分からんでもない】

先生「うふっ、別に壊したわけじゃないんだからそんな必死に謝らなくても……さーて、予備はどこに仕舞ってあるかなー?」

男「ご、ごめんなさいです……っ」

先生「んーん、平気へいき! 形ある物いつかは壊れちゃう運命なんだから。でも困ったことに替えが見つかないというねぇ……ちょっとおデコ出してくれる?」

男(ま、まさか直接手で測るつもりなのかこの人。さっきよりももっと近づいて来る。ぐーんと、ぐぅーーーんと……はっ)

【気づいた時には、彼の額は先生の額と触れ合っていた。さらに首筋に手を当てられ、くすぐったい気持ちが急上昇。爆発待ったなし】

先生「ん? なに、もしかして[ピーーーー]してたりする? いきなり脈が早まった……けど///」

【いくら場慣れした俺といえでも、ここまで至近距離ならば興奮せざるを得ない。それは彼女も同じようで】

【こちらと目が合った瞬間に頬を薄ら赤くさせていき、止まった】

男「せ、んせ……」

先生「あ、あぁ!! ごめんごめんっ、生徒といえども男の子にいきなりこんな測り方するなんて非常識だったね!」

先生「熱は……ど、どうだったんだろ。あはは、よくわからなかったみたいだ……[ピーーーーーーーーーーー]、[ピーー]……///」

【肉体も精神も年齢は違えど乙女心を宿したままか、美少女よ永遠の美少女であれ】

【その時、偶然だ、偶然男が体勢を崩してベッドに体を倒す。それに引っ張られるようにしてテレテレ先生が上半身を預けてきたのである】

先生「あいたたた……あ、あら?」ムニ

男「うおおおおぉぉぉぉ~~~っ!!?///」

【あこがれの密着具合に男は歓喜か悲鳴か区別の付けようもない声を高らかに上げる。行き場の失った手をバタつかせていると、何故か腰と尻をわし掴む。悪くないコンボだ】

先生「あんっ! ちょ、そこ触ったら……っ///」

男(艶めかしい声まで出して俺を誘っているのか!? 最初からこれを狙ってたのか!? もう、頭がどうにかなっちまうんだよ!!)

先生「えっ!? お、男くん!? きゃっ!!」

【やりやがった】

【追い込まれた狐はうんたらかんたら。この男、自ら先生を引き摺り下ろして反転させてしまったのである】

男「フーッ、フーッ、フーッ……!!」

先生「……お、男くん」

【彼の頭の中は空っぽになってしまっている。考える事ももはや逃走すら投げ出し、己の欲望がままになろうとしているのだ】

【ダメだ、下手な気は起こさないでくれ。理性を取り戻すのだ。落ち着け、落ち着いてくれ!】

男([ピーーー]、[ピーーーーーーーーーーーー]。[ピーーーーーーーーーー]。[ピーーーーー]、[ピーーーーーーー]!)

男「うるせぇ!! ゴチャゴチャゴチャゴチャって意味わかんないんだよ!!」

【!! ……聞こえていたのか、俺の声が。届いていたのか? ……俺も一旦落ち着くのだ、これは過去の追体験】

先生「どうしたの……男くんしっかりして。ゆっくり、私から降りるの」

男「ううっ! ううっ!!」

【こいつにどれだけうるさく口出ししようが、しまいが何も変わらない筈だろう。信じて見届けるしかない】

男「……先生、俺は熱があるみたいです。風邪こじらす前に今日はもう帰ります」

先生「そ、そう、わかった。他の先生に家まで送ってもらえるか頼んで来てあげるわね」

男「大丈夫です。一人で歩いて帰れますから」

男「さようならっ……!」

男(終わった。おわったおわったおわったおわったおわったおわったおわった、ああああああぁぁぁ)

男「鬱だ死のう、鬱だ死のう、鬱だ」

【あの出来事から三日経過した。休日なわけでもなく、彼がこうして部屋に閉じこもっている理由は語るまでもない】

【健全なる精神は健全な肉体に宿るならば、この脆弱なメンタルもそれの反語と捉えるべきか否か。風が吹いていつか折れてしまいかねん状態だ】

男「鬱だぴょーん」

【壊れかけた自分を体験するものほど惨めな気分になる事もない。危うく感化されて俺まで脆くなりそうになったぞ】

【家族は心配して声をかけてくれるが答える元気もなし、先生からも携帯へ直接電話が掛かってきたが 今となっては電源を落としたソレにコールは鳴らなかった】

【打つ手なしの超絶緊急事態である。ここからどう持ち直させたのだ? 誰がこの哀れな男へ蜘蛛の糸を垂らしたというのか】

男「……何度眠ればあの神さま現れてくれるんだ。いつ現実に戻してくれるんだよ」

男「戻してくれよ、俺の世界に。どこにいたって俺は変わりないんだから。もう高望もしないよぉ」

男「ああ、いつ警察が来るんだろ。いくら未遂でもヤバいよな……勇気出すとこ間違いすぎてるだろ、俺……」

【まだだ、まだこの男は絶望に染まりきっていない。その証拠に世界も崩壊しちゃいない】

【おそらく口だけと頭で悲劇のヒロインを気取っているのだろう。反省の色なんぞ一切見せちゃいない】

【このド屑っぷりが繋ぎとめていたのだ。この性格が転じて良かった】

【……コンコン、と小さく戸がノックされる。もちろん男は布団を被って無視を決め込んでいた、が】

?「もしもし、入ってますか?」

男(便所じゃあるまいし)

?『ここが男くんの部屋で大丈夫だよね、妹ちゃん』

妹『うん。でも二、三日前からずーっと顔出そうとしないの。外で何あったか知らないけど、そろそろお日様の下出てきなよぉーお兄ちゃん』

妹『ハァ……あのねぇ、私これでもすっごく心配してるんだから! それに[ピーーーーーーーーーーーー]』

男(最後の方何て言ってたんだ? ていうか、妹以外にもう一人誰か隣にいる?)

妹『出てきてくれたら、えーっと……あっ! 冷蔵庫にある私のプリンあげる! 一緒に食べようよっ!』

妹『だ、だからぁ……早く[ピーーーーーー]よぉ……うぇ、っぐ……あぅ~……』

【なーかせた、なーかせたー。可愛いかわいい大事な美少女妹なーかせたーッ!!】

【いい加減にしろよ屑野郎ッ!! お前には外で色々イベントをこなして貰わなくては困る! 後続の俺たちがな!】

男([ピーーーーーーーーーー]!! [ピーーーーーーーーーーーーー]! [ピーーーーーーー]! ……何もこんな所で泣かなくてもいいだろ。やめてくれよ)

男(自分がもっと哀れに思えて仕方ないだろうが。帰ってくれ、帰ってくれ、放って置いてくれ!)

?『妹ちゃん、ちょっと離れてて』  妹『ふぇ…?』

?『大丈夫。キチンとおじさまとおばさまには許可頂いてるから……よいしょと』

男(な、何だ。何やろうっていうんだ、外のもう一人。どうされようと無駄だから黙って帰って――――!?)

?『えいっ、とおぉぉーっ!!』

男「ひいっ!?」

【鳴り響く衝撃音。戸が強烈な振動を起こし、メキッと軋む。それが何分間にも渡り続いた。まるで災害である】

【男は深く布団を覆い被り、謎の破壊現象に震えた。止めさせようと声を出そうとしても、それを上回る音に掻き消されている】

?『まだまだぁー!!』

男「や、やめろぉぉぉーーー!? やめて、やめてくれ!! 壊れちゃうから!!」

【散々多くの人からの心配を無視し続けた報いと言わんばかりに、破壊は止まらない。むしろ熱が入り始めたようだ】

【彼を全てから守り安心を約束する壁が崩壊しつつある。抑えにかかろうにもその度胸は元々備わっていなかったという】

?『これで、ほわちゃー!! ――――――』

男「やめっ!? ――――――」

【最後の一撃についに耐え切れなかった戸が外れて内側に吹っ飛び、ようやくこの部屋に光が差し込まれたのである。光の中から現れたのは】

幼馴染「ひさしぶりだね、男くんっ」

男「…………あ、あ」

幼馴染「あれ、しばらく見ないうちに少し痩せちゃった? それに[ピーーーーーーーー]ね///」

妹「お、幼馴染ちゃん……すごーい……」

幼馴染「体育の選択授業で柔道やってましたからっ!」フフン

今日はここまで

父「息子よ、今朝は随分と早起きじゃないか。さては幼馴染ちゃんに寝惚け顔を見られまいと張り切ったな」

母「あらあらうふふ。一時はどうなるかと心配していたけれど、幼馴染ちゃんがこの子に付いていてくれるなら安心ね」

父・母「いってらっしゃ~い」

男「い、行ってきます……その幼馴染に会うのが怖いからだっつーの……」

幼馴染「あたしがどうかしたの? あっ、もしかして[ピーーーーーーーーー]///」

男「うわあああぁぁぁ~~~っ!? どうしてそこに突っ立ってるんだよぉ!?」

幼馴染「そ、そんなに驚かなくても。昨日朝は一緒に登校しようねって約束したばっかりじゃん」

幼馴染「何だか顔色良くなさそうだけどちゃんとご飯食べて来た? まだ時間に余裕あるから食べに戻っても」

男「腹減ってないから構うな! それと……待つなら今度から家の中にしてよ……ビビるから、そこ」

幼馴染「そう? うんっ、男くんがそう言ってくれるのなら。じゃあ早いけど行こっか! えへへ」

【笑顔ニコニコでご機嫌な幼馴染をチラ見して男は浮かない顔して溜息一つ。どうやらあの一件から彼女に苦手意識を持ってしまったらしい】

【話を振られても適当な相槌か「うん」、「そうなんだ」、「へー」だけが繰り返される。初見のインパクトだけが原因ではないのだろう、再び学校へ赴かなければならないのが憂鬱で苦なのだ。ほら】

男(あの先生と顔合わせるのは勘弁願いたいが、クラス担任だし避けられない。絶対あとで呼び出される。もしかしたら襲ったって噂になってるかもしれない)

男(でも……俺にはもう逃げ場が残されていない。この子がいる限り、地の果てまで行こうと追い付かれて首根っこ掴まれる)  

【美少女正妻ヒロイン幼馴染さんをどこぞの殺人ロボットみたいに言いやがって……】

【こいつが覚醒する日はいつになるのだ。同居している俺の身にもなってみるがいい、苛立ちの晴らしようもないこの苦しみよ】

幼馴染「男くんは部活には入らないの? せっかくなんだから色々経験しても悪くないと思うな」

男「へー」

幼馴染「むぅぅ……さっきから人の話聞いてない! 酷いよぉ!」

男(頼むから俺に構わないでくれとストレートに言ってやればハッキリさせられるんだよ。一人にさせてくれって!)

男(いつまで経っても煮え切らないのが一番ダメなんだ。さぁ、正直に言えよ。ほら早く!)

男「ぐっ……あ、あの わるいけ、ど……おお、おれは」

幼馴染「ん、なぁに?///」

男「うぐぅーっ!?」

幼馴染「やっと話してくれる気になったね。……えへへ、会話無しだったからじっと顔眺めちゃってた。[ピーーーーーーーーーー]」

幼馴染「え、えっと、それでそれでどうしたの? 聞かせて?」

男「……別にっ!!」

男(どうしてそんなに顔可愛いんだよ、良い香りさせてるんだよ、グラマーなんだよ!? 酷いことなんて言えるわけないだろ!!)

幼馴染「えぇ? ふふふっ、変な男くんだぁー」

男(そうだな、滅茶苦茶変な奴かもしれない……)

幼馴染「じゃああたしは一旦ここでお別れ。職員室行かなきゃだから」

男(やっと解放される。クラスまで一緒にならなかったのが不幸中の幸いかな。あとは他の美少女たちに注意するだけだ)

【注意するのは構わないが避ける為というのが頂けない考えだな。とにかくこの後彼がどう動くのかが気になる】

男「教室行くの嫌だな。あの人と顔合わせないで済む方法はないのか?」

男「HRと先生担当の授業時だけ抜ければ……サボれるのか、俺が……一応真面目で通ってるのに」

【いいや、真面目系クズだ。どっちつかずの曖昧で悲しい人間なのだよ。どうせ俺が言っても無駄なのだ、好きにしてくれ】

【トイレの個室に籠りしばらく立ち往生していたが、億劫そうに扉を開いて外に出た。そして始まる楽しいイベントである】

オカルト研「はっ! あ、あなたは!」

男「だから……ここは男子便所なんだってば!! その反応は大いに間違ってるっ!!」

オカルト研「人の気配を感じなかったからつい中に、ごめんなさい。実はかくかくしかじかでトイレの花子さんを呼びに来たの」

男「それ目当てなら尚更こっちに来ることないだろ!?」

オカルト研「でも、これは予想外の収穫。ずっとあなたに[ピーーーー]と思っていた……[ピーー]い///」

男「な、何ていま……やっぱりいいや。他の人が来る前に早く出た方が」

オカルト研「あー丁度良いところに二人で大切な話をゆっくりできそうな個室があるー……わ。さぁ、入って」

男(大丈夫かよこの女)

オカルト研「別に危ないことなんて何一つしないわ。あなたから感じる謎の波動の正体を探りたくてっ」

男「意味不明なんだよぉ! 離してくれっ、離してくれってば……わっ!?」

オカルト研「あうっ!」

【揉み合いになり、男がバランスを崩しオカルト研を抱えて個室へ逆戻り。壁へ追いやってしまったオカルト研に激突しそうになるところを、ピタッ】

オカルト研「[ピーーーーー]っ……///」ジワァ

男「ああああっ、ごめん!! 本当にごめんっ!! 俺こんなつもりじゃ」

オカルト研「と、扉を閉めて……お互いをよく知る[ピーーーー]……///」

男「なな、何もしないっ! 何もしないからぁ!! もう出よう!? 見られたらマズいだろ!?」

オカルト研「待って!」ガシッ

男「ひぃいいぃ!?」

オカルト研「あなたの、名前を、まだ聞いていない。だ、だから、聞かせて欲しい」

男「……教えたら自分の教室に戻ってくれると約束できる?」

【名前を教えられたオカルト研は何度もそれを復唱して頬を赤らめている。男といえば必死に顔を見ないよう目をあちらこちらへ泳がせていた】

【その後何事もなく彼女を見送ったわけだが、とりあえずのイベントは果たされたと解釈しておこう。相変わらず自分から積極的になる事はなかったが】

男「どっと疲れたってこういう時使えばいいのかねぇ……やっぱり、教室行きたくないな」

男「……比較的落ち着ける場所がここしかない」

【言い聞かせるように呟きながら彼は屋上のフェンス越しに下を見下ろした。その手には例のカメラがある】

男「この前まで入れる事自体知らなかったけど、屋上って普通生徒が立ち入らないよう鍵かけとかなきゃダメじゃないか?」

男「まぁ、解放されてるんだろ……ってことはだ。他の奴が来る可能性もあるわけで……あの子みたいに」

男「屋上は我が完全なるベストプレイスになり得ない。なのに」

男(不思議と落ち着いちゃうんだよな、ここにいると)

【カメラを構えて町並を写し、小刻み良くシャッターを切り始める。何を撮りたいと考えず目に入ったものをただひたすら保存していったのだ】

【座ってみたり、急に立ち上がってみたり、今度は寝転がって、傍から見れば不審そのものである。それでも、今だけは誰かを気にする事なく彼は彼だけの時間を送っていた】

【俺自身もその様子をバカにしてやろうとも思えず、シンクロしたように穏やかな気持ちで見守っていたかもしれない】

男「空を撮るのが一番難しいって父さんが言ってたけど……」

後輩「どうしてです?」

男「うわあぁぁーっ!?」

【青空をバックに突然後輩の頭がニュッとレンズ越しにこちらを覗いた。慌ててもファインダーから目を離さないところに小さなカメ小魂を感じる】

後輩「あ、驚かせちゃいましたか。と言ってもそのつもりでしたけどね」

男「……はぁ」

後輩「今日はしっかり撮影できてるみたいですね。この前は壊れちゃってたんですか?」

男「ふぃ、フィルム入れ忘れてただけだから」

後輩「フィルム? それにしても良い天気です。うーん、そうやって寝転がって見るともっと綺麗に見えるのかなぁ」

男「…………」

後輩「人は撮らないんですか? 景色を写すのがお好きみたいですけど」

男「そういうのは、専門外というか……無理だ」

男「景色なら町でも山でも空でも自分が好きに写したって何も変に思われないし、文句も言われない。人が被写体なんて面倒しかないじゃないか」

男「だから俺はこれで十分だし、これ以上は求めないんだ」

後輩「ふふっ」

男「な、何だよ!?」

後輩「いえ、寡黙な人かと思っていたから意外にお喋りなんだなーって。好きなんですね、写真撮るの」

後輩「良かったら私に色々教えてもらえません? ちょっぴり勉強してみたくなっちゃいました」

【これに対して彼は案外好印象を抱いたという。他の美少女たちのようにガツガツ迫ってきたりせず、自分を尊重してくれているからと思われる】

【……後輩、お前なら俺の存在に気づいているんじゃあないか? 思考を読み取る力でもう一人分余計なのが混じっていると】

【なんてサトラレ気分で待機していても、俺を除いて、イベントは進行されているこの現状。気がついたところでして貰えることもないが、これは全く気づいていない?】

男(何故だろう。どうして俺はこの子に色々喋ってやっているんだ?)

男(一人になりたかったから屋上まで上がってきたんだろう? 落ち着きたかったから)

男(ああ……俺はいま落ち着いているのか。悪い気がしないから、不安を感じないから、この子と話しているのが苦にならない)

男「君は1年生なんだよな。俺の妹もそうなんだ、ここの学校の生徒」

後輩「ええ、妹ちゃんのお兄さんなんですよね? 仲良くさせてもらってます」

後輩「妹ちゃん、いつもお兄さんのことばかり話してましたよ。聞いてるこっちまで楽しくなっちゃうぐらい面白おかしく喋ってくれてますね、ふふっ!」

男「……悪口を?」

後輩「悪口だなんてとんでもない。まぁ、こんなドジをやってたとかって話もしてましたけれど、基本良いお兄さんぷりを」

後輩「それで実際に会って確信しちゃいました、私。先輩は面白い人です」

男(面白いとか生まれて初めて言われたぞ。何か上手いジョーク飛ばしたか俺? いや、ずっと淡々としていたとしか思え)

【楽しい時間もいつかは終わりが来るものだ。チャイムがその時を告げているのである】

後輩「そろそろ教室に戻った方がいいですかね。まだ色々聞きたいことがあったのに残念」

後輩「残念、だけどまたここに来てくれますよね きっと。私もっと先輩とお話したいです。もっと、もーっと!」

後輩「ね? ……では、貴重なお時間ありがとうございました 先輩っ」

男(またここに来てくれますよね、か)

ここまで。土曜、日曜に

男の娘「お昼一緒に食べてくれないかな?」

男「えっ……お、俺?」

男の娘「他の誰でもなく男くんに声かけてるんだよ。僕、このクラスじゃ仲良い人ほとんどいないから」

男の娘「じ、実は前から[ピーーーー]と[ピーーーーーーーーーー]……それで[ピーーーーーーーーー]だっ!///」

【男の娘精一杯の頑張りを外に彼はウンザリだとこの場を立ち去る仕度を整え始める。午前中だけで迫りくる美少女を避けた回数は数え切れない】

【後輩の件を除けば、そう、まるで成長していなかった。鈍感属性が早速彼女らによって植えつけられたのか、めげずにリベンジしてくれているのが天の助けか】

男の娘「[ピーーーーガーーーーーーーーーー]で/// あ、あれ? 男くん?」

男(悪いけれども飯を食う時は食うことだけに専念したい。今が一番一人でありたい時間なんだ。別にこいつと話したくないとかじゃなくて)

男「(仕方ないから断るだけなんだよ) ごめん。ちょっと急用思い出したから今日は昼飯いらなくて」

男の娘「そうなんだ……でも用事があるならしょうがないよ! また懲りずに明日も誘ってみてもいいかなっ!」

男「うっ!! あ、明日は別の予定がまた昼にあるからさ」

【そうやっていつまでも逃げ通そうとしてどうする。心の中で少しでも自分を変えたいと思ったのだろうが】

男(結局こうしてみんな俺から離れて行く、と。[ピーーーーーーーーーーー]。[ピーーーーーーーーーーーーーーー]。違うだろ、俺がみんなを勝手に遠ざけているだけだぞ)

男(一歩でも自分から踏み込めば世界は俺を両手広げて迎えてくれるかもしれないじゃないか。性懲りもなく怖がっていたら、何も変えられない!)

男「……じゃ、じゃあな (分かってるのに! 分かってるのに!)」

男(俺は拒絶しかできない! 誰かと接することが得体の知れないものが自分の中へ入って来るみたいで怖い! 気持ちが悪い!)

男(これでは……い、良いじゃないか別に。ずっと孤独気取ってたんだから今更変化もなくたって生きていけるだろ。人付き合いなんて面倒しかないんだぞ)

男(自分に甘えて何が悪いんだよ。嫌なことは嫌なんだ、無理したところでおかしなことになるに決まってるじゃないか)

男(間違ってない、俺は間違ってないぞ。逃げても許されるんだ。誰に咎められたりもしないよ!)

【本当、悲しい男だと思う。個人の生き様を否定するつもりはないが彼は俺自身なのだ】

【だから心底悲しくて哀れで、残念に感じてしまう。変わってくれ、頼む、変わった方がお前の為になる】

【自分の本音に気づいているなら、それに嘘をついて知らんぷりを決め込まないでくれ。自分の声にしっかり耳を傾けるのだ】

男([ピーーーーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーピーーーーーーーーーーーーー])

【ああ、後輩よ。お前はどんな俺でも受け止められると言ってくれた。だけどそれは叶いそうになかった】

【こんな男は『俺ではない何か』じゃないか。否定してしまいたい過去だ、黒歴史だ、恥だ、トラウマだ……見ているだけなんて辛すぎる】

【もう十分だ、そろそろ俺の現実へ帰してくれ。明日は幼馴染とデートなんだ。もう許してくれよ……情けない自分なんて知りたくないわ……いや】

【向き合わなければ今のこいつと変わらないだろうが。後輩がどれだけの決意を持ってあの箱を渡したと思っている。逃げるなんて俺はご免だとも、前だけを見ていなくてはダメなのだ】

【一度の妥協もして堪るものか。……男、相手は化け物じゃない。可愛くて素晴らしい男の娘ではないか! 話せばもっと良さに気づく! さぁ、いま勇気を出せばあとは楽だ!】

男([ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]。さっきから妙に頭の中がザワついている気がしてならない、まるで俺の中に虫が住みついているような)

男(その感覚が、教室から逃げようとするこの足を止めさせた)

幼馴染「どうしたのそんな所で立ち止まってたりして?」

男「うわっ!?」

幼馴染「男くん、女の子の顔見てそんな顔するのはさすがに失礼だと思いますっ。……でも丁度良かった」

幼馴染「一緒にお弁当食べようよ。少しでも[ピーーーーーーーーーー]から無理言ってこっちに来ちゃったんだ~、へへ♪」

男「い、いや、昼は……今日は……!」

【ここでお約束と言えばそれでお終いだが、ナイスタイミングで彼の胃袋が情けなく鳴いてくれた。まったく、口では嫌がっても体は正直だぜ】

幼馴染「ほーらっ、お腹減ってるんでしょ? 早くしないと次の授業の時間来ちゃう!」グイグイ

男(おいおいおい! ここで教室にこの子と逆戻りしたら男の娘に申し訳ないじゃねーか! ま、マジで逃げるしか手はない!)

男「そ、それなら向こうの彼も誘っていいかな!? (何言ってるんだ俺は)」

男の娘「え?」

【願いが通じたのか知らんが、男の娘を巻き込んで三人仲良く机を並べて微笑ましいイベントがスタートしてくれた】

【相変わらず男の口は食べることばかりに専念して言葉を発することもなかったが、幼馴染も男の娘も気を良くして温かい雰囲気を齎してくれる】

【しょぼい第一歩でも、しっかり踏み出せたじゃないか。コレで胸を張っていいのだ】

男の娘「そういえば男くん。どうして朝のHRにいなかったの? トイレに行ってた?」

男「……ああ (先生の顔見たくなかったから屋上で時間潰してたなんて言えるわけないだろ)」

幼馴染「男くんのおばさまってやっぱり料理上手だなぁー。確か調理師免許持ってるんだっけ?」

男「弁当ぐらいでそんな大袈裟な……」

幼馴染「ううん、さっき貰ったコロッケなんかすっごく美味しかったし! それにお弁当だって三色揃えてて男くんのことしっかり考えてあるんだよ!」

男の娘「幼馴染さんは料理とかする人なの? 詳しそうに見えるけど」

幼馴染「え、えっと するにはするんだけど、まだ修行中というか、大した事ないかな……でもいつかは[ピーーーーーーーーー]っ」

【幼馴染から向けられている視線をあえて弁当箱で顔を隠して無視する男。ここで毎日お弁当作っていい?フラグが立っていたのか】

【何か一言、気が利いたことを言ってはやれないだろうか。「今度俺に振舞ってくれ」とでも「お前の味噌汁を飲みたい」とか……神よ、二つ目が卑猥と思った俺の心は穢れていますか】

男の娘「幼馴染さんは男くんと家が隣になれて羨ましいなぁ。僕、[ピーーーーーーーーーーー]よぉ……あっ」

男の娘「ね、ねぇ、男くん。あの……親しくなっていきなり図々しいかもだけど」

男の娘「君のこと[ピーーー]って[ピーーーー]で呼んでもいい、かなぁ~……?///」

【何だって? と俺が返してもしようがない。この男は全く会話に興味なさげで難聴スキルが発動された台詞にも反応しないのが痛いところ】

【では勝手に推理してしまうおう。君のこと、呼んでもいいかな、とまで聴き取れればあとは頭を捻らすことなく容易に隠れた言葉が思いつく】

【「君のことを男って呼び捨てで呼んでもいいかな」だろう。だが、これに男自身が察しなければくん付けのままではないか。覚醒後に改めて呼ばせるのか?】

【……不意に心配が頭を過ぎる。これは確かに過去の追体験なのかと】

男「ごちそうさま。トイレに行ってくる」  男の娘「お、男っ! …くん。行ってらっしゃい」

【あまりにも昔の自分が情けなさすぎたことを除けば想定通りに事は進んでいる、筈なのだ。なのに何故今更疑問に思った?】

【この調子なら後輩と交友を深め最終的に結ばれる。その後は天使ちゃんの話では彼女の策略によって先生に傾いて……今の俺に近づくのか? こいつが?】

【過去と未来の俺では根元は同じでも性格が異なりすぎている。自分で言うのも何だが、ここまで大胆な変化を遂げるには短期間では難しいだろう。二周目では全てリセットされてしまうわけだし】

【後輩が不思議パワーで無理矢理やってくれるとでもいうのか? いや、その様子はなかった……とりあえず見守るしかないのだろうか】

後輩「言わなくても分かってると思いますけど、もう放課後ですよ?」

男「……」

後輩「あっ。もしかして朝の私の言葉を真に受けてさっそく来てくれた、とか?」

男「っう……」

後輩「ふふふ、無言は肯定と捉えちゃいますからね。せーんぱいっ」

【屋上の床に寝転がる俺へ微笑みかけて隣にそっと腰を下ろす後輩。やれやれ、いまの彼女に心がないなんて想像もつかない言動に表情である】

【こいつが彼女の事情を知ったらどんな顔して見せるのだろう。間違いなく困惑するが、逃げるのだろうな やはり】

後輩「きっとここなら夕日も綺麗に見えるかも、なんてっ、ちょっとロマンチック染みた台詞だったですかね」

男「……もし、神さまが実在するとしたら、どの辺りで俺たちを見下ろしているんだろう」

後輩「ふふっ、先輩もいきなりロマンチック病ですか?」

男「ほ、ほっといてくれよ……!」

後輩「どうぞ、私のことは気にせず続けてください。笑いませんから」

男(そんな事を言われたってつい口から零れた恥ずかしい台詞続けたくなるわけないだろうが)

男(だけど、この子なら俺の苦しみを分かち合ってくれるかもしれない。一人で屋上に来るなんて珍しい方なんだ、俺と同類かもしれないだろ)

男「遥か彼方先だとしたら、どれだけ自分は小さく見られているのか」

男「どうして、こんな小さな一人へ手を差し伸ばしたんだろう」

男「恥ずかしいから今すぐ忘れてもらえないかっ!?///」

後輩「ふふふっ……あはははっ……!!」

男「くそぉーっ!! 約束と違うだろ!?」

後輩「あはっ、ごめんなさい。でも笑っちゃいましたけどバカには絶対しませんから」

後輩「ふぅ……先輩は神さまとか信じてるんですか? 信心深い人?」

男(信じてるというか、目の前に実際に現れちゃったわけだからな。本物かどうかも証明しようないし、夢の中だけれど)

男「頭おかしい奴だとさらに笑ってくれて構わないよ。自分でもどうかしてると思う」

後輩「じゃあ、どうしていきなりあんなことを言ってくれたんですか。何か思う事があるからでしょう?」

後輩「カメラについて色々教わりましたし、今度はお返しにというか私で良ければ先輩の相談に乗ります。頼りないかもしれないけれど」

男「……甘えて、いい?」

【初めこそ心情を明かすことを不安に感じて、言葉を濁して彼女へ悩みを伝えていたが】

【何も言わず優しく頷いてくれるその姿を見て次第に胸の奥が熱くなっていき、男は涙をぽろぽろ流し嗚咽を上げながら赤裸々にありのままを語った】

男「俺おかしいだろぉ……? 何言ってんだこの男気持ち悪いって思ってるんだろぉ……っ」

男「おかしいんだよぉぉぉ……わけわかんねぇんだよぉ……っ」

男「チャンスだって自分でもわかってるのに、何も変えられなくて、ただ怖いから逃げてばっかりいて」

男「もう俺って何なんだよぉ!! あううぅぅっ……!!」

後輩「気持ち悪いなんて思ってませんよ」

男「!! (あ、あたま。頭撫でられてるのか、俺……年下の女の子に……情けないだろコレ)」

男(情けないのにすごく今落ち着いてる。ほっとしてる、良かったって。受け入れられて良かったって)

男「あぁ、ぐすっ……ごめん、ごめんよ、変な奴でほんとにごめんよ……」

男「マジでおかしいよな、つい最近知り合ったばっかりの男がいきなり泣き出したりしてさぁー」

後輩「自分を責めるのはもう十分なんですよ、先輩。大丈夫です、だいじょうぶだから」

後輩「今だけは安心して私の言葉に耳を傾けていてください。怒ったりしないし、非難もしない。先輩の味方でいます」

後輩「だから落ち着いて休んで。疲れてるなら眠ってもいいんです。起きるまで私は先輩の傍にいますから……ね?」

男「……後輩」

男(ここ数日間 可愛い女の子たちが俺の前に現れた。美少女なんて気軽に使いたくはなかったが、言わざるを得ないレベルのが次々とやってくる)

男(でも、心の底から可愛いと心奪われそうになったのはこの瞬間が初めてだったと思う。彼女は、後輩は、俺の)

【どこぞの赤い人のように勢い余って少女に母親の姿を求めかけているのは置いておくとする】

【見事に彼は後輩へ恋愛感情を抱いてしまった。不安定な状態に優しくされたということも大きく手伝ってはいるが、彼にとってはこういう美少女こそ今一番欲していたのだろう】

男「正直に言うと俺、女の子にこれだけ優しくされたの初めての経験だ」

男「ていうか女子となんて最近まで碌に話もしたことなかったから、全部が全部奇跡みたいで……な、何言ってんだ俺は」

後輩「私も先輩以外の男の人とこうやって話すのは初めてですよ。頭を撫でたことだってそうです」

後輩「でも、自分にできる事はと考えたら自然に手が伸びちゃって……すみませんでした。驚かせちゃいましたよね?」

男「い、いや! 別に (素直に嬉しかったとは流石に言える場面じゃないよな)」

男「……なぁ、後輩はどうして屋上に来るんだ? 俺より前からここを使ってたんだろ?」

後輩「運命の人が突然空から降って来てくれるかもとか期待して」

男「はぁ!?」

後輩「あはっ、冗談ですよ。内緒ってことにしておきますね! でも」

後輩「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]……///」

男「え? 何だって?」

また明日

妹「お兄ちゃーん早くお風呂入りなさいって……どしたの?」

男「ぎゃあー!? た、たた、頼むから部屋に入る時はノックしてからにしてくれよっ!」

男(鍵を掛けられなくなったのを良い事にこの子や幼馴染が突然入って来てここも心休まらない場所に変わったな)

男「ちっ……風呂行けばいいんだろ。悪かったよ、わざわざ呼び出させに来させて」

妹「ちょー! 私のどしたのは無視なのー?」

【いい加減実の妹ぐらいには目を合わすぐらいの成長を遂げて欲しい。覗き込もうと必死な彼女が見れたことには感謝しておくが】

【それにしても気がついた人間がここにも一人いたとはな、優秀な美少女妹と惚れ直す】

【先程から、帰宅して男の様子は変化していた。傍から見れば、両親も感づかないぐらい彼はいつも通りの彼を演じているが】

男「……頭がぼーっとする」

男(学校から帰ってこんな気持ちになるなんてこと一度もなかった。胸の中でポッカリ開いてた穴が急に塞がれたみたいというか)

男(早く明日になって欲しい!)

男(明日がきて、いの一番に屋上に向かうんだ!)

男「うへへへ…………はっ!?」

男「滅茶苦茶キモい顔した男が鏡に……なんか良いな、こういう気分も」

【な、何 自分で自分の頭撫でてニヤついているのだ、コイツ……】

男「ん~、ちょっと髪立たせた方が男前なんじゃないか俺ェ~?」サッサ

【風呂上がりの自分に魅力を感じても無駄だと耳元で憎たらしく囁いてやりたい】

男「やだ……結構セクシー……! 男の色気で勝負だぜ……!」

【ご覧の通り、彼は間違った方向に解放されたらしい。基本真面目系クズならば自分大好きの傾向があると考えていたが、一人だとやりたい放題だなこの男】

【俺は自惚れてもここまでの愚行をしない、見習ってほしいものだな。さて、とにかくやけに自信に溢れた彼を見守る。鳥肌が収まらない】

【家族も通る危険がある廊下だというに、無意識に鼻歌まで口ずさみ、一気に自分のお花畑が広がったこのハイテンション。……頭痛までしてきたが、変化の兆候を見られたと喜んでおこうではないか】

【いつまでこれが継続できるか心配でならないが】

男「ズチャズチャズチャ、ズッズッズッ! フンフンフ~ン! ルララ~……アッ、アンッ♪」

妹「っ!?」ビクゥ

【気持ち良いフィニッシュまで決めたところで視界の端に携帯電話片手に部屋の前にいた妹を捉えた。災難はどちらかな?】

男・妹「…………」

妹「ごめん。あとで掛け直すから。ううん、何でもない。本当に。いまのテレビの音だし」

男「うわあああああぁぁぁ~~~~~~っっっ!!!?」

妹「叫びたいのはこっちの方だよ、バカぁー!?」

【乙女ちっくに顔を両手で覆いながら部屋へ逃げ帰る男。枕を親の敵のように何度も殴って蹴って、己の未熟を恨んだのである】

【ようやくほとぼりも冷めて完全沈黙。俺だって同じぐらい死にたいぞ、この変態野郎】

男「実はあの子も俺を騙していたとかじゃないだろうな?」

【あまりの不意打ちにギョッとさせられる。……いや、この時間の男はまだ後輩どころかそれに関係する話を知らない筈だろう】

【彼はすっかり冷めた体を毛布で包み、クールになった頭で再びネガティブに落ちてしまったのだ】

男「期待させておいたところで突き落とされるかもしれない。アレは友達同士の賭けの一環で、内心俺で遊んでいただけとか」

男「……そうだったらどうしよう。腹いせに目の前で飛び降りしてやろうか?」

【この男は物事の考え方に1か0しかないのかと問いたい】

男「でも、いや きっと、やっぱり……ううっ……あの時、後輩は何て言ったんだろ」

男(屋上の風が強く吹いたのか分からないが、彼女との会話で一つだけ聴き取れないものがあった。浮かれる気持ちとは別にそれが引っ掛かって仕方ない)

男(もし聴こえてガッカリする言葉だったならそのままでいい。俺はあの子に幻想を抱いたまま何も壊さずにいたい)

男(だから、向こうから『美少女』を壊す真似をしてこないかが恐ろしい。もう何も信じられなくなってしまうかもしれない)

男「他の女の子たちだってそうだ……大体、この俺がモテまくってる世界がおかしいんだぞ。良いところに見せ掛けて、最後に」

男「さ、最後に……嫌だぁ……っ」

妹「お兄ちゃんさぁー」ガラッ

男「だからノックして入ってくれって言っただろぉー!?」

妹「えぇ、一々面倒なんだもん。別に見られて減るもんがあるわけじゃなしー」

男「主に尊厳とかっ!! ……いいかな、今さら気にしたって」

妹「はぁ? それでお兄ちゃんさぁー、女の子と連絡先交換したことある?」

妹「あるわけないよね~っ、私のお兄ちゃんだし!」  【最初から自己完結で済ましてくれ】

妹「あっ、悪い意味で言ったつもりじゃないんだよ!? ただ、[ピーーーーーーーーーーー]いうか……」

男「(思いっきり悪い意味にしか受け取れないんだけど……) 用があるなら簡潔にして欲しい」

妹「じゃじゃん!! おっと、コレは何だぁ~?」

【と、右手で小さな紙をヒラヒラさせて見せてくる。男は漫画を開いて顔半分隠し、上目でその行方を追った】

男「俺は簡潔にって頼んだつもりなんだけど、帰ってくれないか?」

妹「ん~? そうやって可愛い妹ちゃんを邪険にしちゃっていいのかなぁ~?」

妹「きっとあとで後悔するかもしれないんだけど~?」

男「(顔が良くなければ殺意しか沸かないだろうな、恵まれた自分に感謝しとけよ) だから何なんだよ。いい加減しつこいぞ」

妹「ちぇ、反応面白くないんだから。これ幼馴染ちゃんの携帯のヤツ。へへん、気効かせて私が聞いといてあげたんだなぁー!」

男「余計なっ!? ……ハァ」

妹「幼馴染ちゃんってこういう所は昔から積極性に欠けてたからさ。で、どうしたい?」

男「どうしたいって」

妹「欲しい? 欲しくない? 要らないならマミタスにあげちゃうよ」

マミタス「しゃーっ!!」

男「……猫に渡したところで過ぎた玩具だろ。それにいきなりそんなこと言われても困る」

妹「あれ、もしかしてお兄ちゃん。幼馴染ちゃんに興味ないの?」

男(今日までのどこをどう見たら興味ありありに見えてたんだよ……)

妹「私てっきりお兄ちゃんは幼馴染ちゃんにベタ惚れしてるのかと」

妹「そ、そっか……それならまだ[ピーーーーーーーー]? って、何考えちゃってんの!?///」

男(どうせ連絡先くれるなら後輩のを貰ってきてくれたら良かったものを。よりにもよってそっちとは)

【俺の幼馴染をどれだけ下げれば気が済む? しまいには取り殺す努力をするぞ。自分へ跳ね返って来てもだ!】

男(こんな時に[ピーーーーーーーーーーーー]? [ピーーーーーーーー]。[ピーーーーーーーー]! ……なんだか、またうるさくなってきたな)

妹「まぁ、何かあった時のために一応あげとく。……そ、それから」

【いきなり自分の携帯電話をてきぱき操作し始めたと思えば、ぐいっと男の前に液晶画面を近づけたのである】

妹「まだ私買ったばかりだから教えてなかったでしょ。[ピーーー]しといて! 別に[ピーーーーー]て、これも一応だからねっ! 一応だよっ!///」

男(…………何て言ってたのか後半さっぱりわからん……)

【結局無理矢理妹と連絡先を交換されたが、悪い気はしていなかった。それに、紙に書かれた幼馴染のものも慣れない手つきで登録をしている】

【自分から動くのが面倒なだけだったのだろう。後輩一筋になると思わせられていたのに、意外な対応に驚かされてしまった】

男「あ、あと!! ……こ、ここ、こう」

妹「え?」

男「……何でもない。ありがとう、そろそろ俺は寝るよ」

【有言実行。妹を追い出した後、すぐに照明を落として布団の中に即インである。だがすぐに瞼を閉じるわけでもなく】

【寂しい電話帳に新たに加わった二人の美少女の名前をじっと眺めているのだ】

男(一人は家族だけど、俺の携帯に女の子の……夢みたいだ……)

男(それでも話すのは怖いけど)  【お前も案外ブレない男だな】

男「……さっき妹の言葉よく聞こえなかったよな。後輩の時と同じみたいに」

男「何か言ったのだけはなんとなくでわかった。でも、一部、言葉だけがよくわからなかったというか」

男「まぁ、顔見てたわけじゃないし、本当に喋ってたのかだけど……は? 自分で意味不明だな」

【次の瞬間、部屋の中が日光に当てられてすっかり明るくなっていた。どうも俺は完璧に意識だけの存在となっており、睡眠とか、そういう生理現象は全くない】

【だからこの男が眠ればその間俺も消えて、まるで一瞬で朝が訪れたような感覚に陥る。慣れない内は戸惑いしかなかったとも】

男「朝だあーっ!! ハハハハ!!」バッ  【昨夜のネガティブはどこへ行ったのやら】

【毎日が後輩との日々だった】

【何も変化がない中、彼は後輩との時間だけを楽しみに生きていた。特段彼女へ対して饒舌になったとか下品であるわけでもなく】

【男はダメ男のまま一人の美少女と過ごし続けたのである。それは依存にも近い何かでもあったかもしれない】

【そうとも、男は後輩という偽りの女子に依存して満たされつつあった】

【だから俺はそれがとても恐怖に感じてならない。個人ルート入り前だ、それでこのザマとなっている】

【……本当に大丈夫なのか? このまま見守っているだけで】

後輩「先輩、もしかしてまた授業サボってここにいたわけじゃないでしょうね?」

男「んー? ……ここから見る空っていつ見てもちょっと違うんだよな」

男「流れてくる雲とか、微妙に色の違う青空とか。天気が良い日も悪い日も何もかも変わってくるんだ」

男「って、当たり前かな。でもそれだけ俺はここで上だけを眺めてる。それに」

後輩「……?」

男「な、何でもないよっ! 気にするな!」

男(こうやって後輩が来てくれるのを待つのが好きになったんだ。屋上は俺に一度で二度美味しい思いをさせてくれる!)

男「これ見てくれよ。一昨日撮れたやつ現像してきたんだ」

後輩「へぇー……って、ほとんど雲しか撮れてないじゃないですか。ふふっ」

男「今日も面白い形のを見れてさ、これが中々言葉で表現するのは難しいというかー」

男「昼寝するにも床が固いの我慢さえできれば最高のスポットだぜ、ここ。おまけに」

後輩「おまけに?」

男「(こんなに可愛い女の子が傍で笑ってくれる) い、良い風が吹くというかだな」

後輩「悪い時は突風ばかりでいられたものじゃなくなっちゃいますけどね――――わっ」

【幸運の黄金の風が屋上に吹き荒れた。丁度座って後輩を見上げる形になっていた男は、悪戯に捲り上がったスカートの下を】

【ダイレクトに、目撃する】

後輩「先輩……カメラ、構えてなくて良かったですね」

後輩「撮ってたら訴えてましたから!///」   男「絶対撮らねぇよぉおおお!?」

男「そ、それにいま別に見えてなかったし! 目の中に砂が入って閉じてたしっ!」

後輩「ふーん……ところであの夕日の色って何かに似てると思いません?」

男「ああ、似てる!! ……な、何にだろうかなー」

後輩「罰として今日だけ先輩の大事なカメラ、私に使わせてください。それでチャラにしてあげますから!」

男「は……はい、お好きにどーぞ……」

後輩「やったっ、えへへ!」

男「初めて扱うとは思えないな。結構上手く撮れたんじゃないか?」

後輩「いつも先輩が撮っているところを横で見てたから、たぶんそれで覚えたのかもしれませんね」

後輩「こうやって上を向いてー……かしゃ」

男「……」

後輩「かしゃ、かしゃ、かしゃ。ふふっ! 慣れて先輩のよりも綺麗なのが撮れたりしたらどうしますか?」

男(俺は本当にこの子を好きになったんだろうな。どれだけ長く一緒にいてもまだ飽きない。もっと後輩の傍にいたい)

男(今の俺たちの関係ってどうなんだろう? 恋人か? それともまだまだ仲良い先輩と後輩か?)

男(だったら、それ以上を求めたら……もう贅沢の域越えちゃうんだろう……)

【いくら仲を深めようが、彼が美少女へ積極的になることはない。面倒だから、怖いから待っている】

【後輩からこちらに「好きです」と言ってもらえるその時まで。このままのダメ男ならば、ラインを跨ぐことなど不可能なのだ】

【ならば、俺の不安は杞憂に過ぎないのかもしれないな。……違う、何も進まなくなってしまう。1周目の概念が消えてこの男の物語が永遠に続く】

【この男から後輩に告白して個人ルートへ進ませなければダメだ。毎日彼の頭の中を覗いている俺にはわかる、背中を押さなければ断固として動かない】

【今の後輩は天使としての使命を全うしているだけで、俺がどの様な形で最大の幸福を得ようと関係ない。この調子で仲良しごっこを続けるだけで勝手に納得して満たされていくのならば】

【これ以上は、決して、待っていたところで期待なんてできない……なぁ、そんな顔してないか。後輩よ】

後輩「あははは」

後輩「隙ありです」カシャ

男「おおっ!? い、いきなり人の顔なんて撮るなよ。せめて誰かを撮る時は断りを入れて」

後輩「それじゃあ先輩以外の人を撮影するときはかならず断ってからにしますね」

男「お前な……」

後輩「先輩は人を撮らないって言ってましたよね」

後輩「だったら代わりに私がこのカメラで人を撮っちゃいます。……今のところは先輩限定でっ、ね?」

男「あのなぁ、自分のカメラで自分の顔収めたって何の得にもならないだろうが!」

後輩「私を[ピーーーーーー]?」

男「…………えっ」

後輩「せーんぱいっ」

男「後輩、お前いま何て――――ううっ!?」

後輩「ふふっ、また変な顔撮れちゃいましたよ。一枚目に比べてどっちが面白いかあとで確認してみてくださいね、はい」

後輩「ワガママ言って貸してもらっちゃってすみませんでした。でも、とっても楽しかったです」

後輩「これで少しは先輩の気持ちがわかることができたら……なんて、えへへ」

男(どうして意識させる言葉ばかり別れ際にくれるんだよ、後輩)   【難聴スキル。発動してなかったけどな今の】

【後輩は人の心が読める。それだけに男が自分に対しどれほどの好意を抱いているか理解しているのだろう】

【考えたくはないが、彼女は言葉巧みに男を夢中にさせて気持ちよくさせている。この時点で試されているかどうかは分からないが、先程のイベントに俺はそんな気持ちを感じた】

【疑いのあまり悪人に仕立てようとかそういうものは抜きにしてだ。上手い具合に難聴フィルターに掛かる台詞を織り交ぜてきている】

【ああ、全部俺の想像だとも。だけど修羅場を潜った物の数が違うからこそ臭うというか、何と言うべきか】

【自然な違和感が後輩イベントを支配していたのである】

男「いつも帰る時は一人になるのが虚しいんだよな」

男(屋上から出るのは毎回後輩が先で、俺が後。別に余韻に浸れるからそれも悪くはないと思っていたけれど)

男(たまには仲良く一緒に帰って別れ道に着くまで話をしていたい。あの子だって、もっと俺と色んな話がしたいと言ったじゃないか)

男(誘えば……もし俺を置いて先に帰るのに理由があったとしたら? それも喜べない理由が)

男「楽しい時間を過ごしただけで良いんだよ!! 俺と後輩は屋上だけの付き合いで十分なんだ!!」

男「だ、だって……ねぇ……? へへ、へ…………あっ」

先生「久しぶり、かな。いま帰り? 男くん」

【思考停止した。今日まで顔も合わせないよう気をつけて、声もかけられないように注意し続けていたのに】

【少しの油断から対面してしまった。あの日以来の美しい容姿と気さくな彼女を見て彼は】

先生「ねぇ、ちょっとだけ[ピー]に……先生に付き合ってくれないかしら?」

ここまで

先生「いやー、やっぱり二人で作業した方が手っ取り早いもんだ。ありがとうね、男くん!」

男(どうして机の運び出しの手伝いなんかしなきゃいけないんだよ……黙って言いなりになってる俺も悪いけどさ)

先生「ったく。信じられない話だと思わない? 男手一つ寄越さないで私一人に押しつけやがって、あのハゲちょびん! ……ふぅ、いまのは他言無用でお願い」

先生「でも本当に呼び止めちゃってごめんねー。本当に猫の手も借りたかったのよ。で、丁度良いところであなたが通りがかってくれたワケ」

男(その言葉は信用していいんだろうか。偶然を装って始めから俺に声を掛ける口実だったとかじゃないのか?)

男(参ったな。何か適当な言い訳つけてさっさと退散するべきか。真面目に付き合っても痛い目見るイメージしか浮かんでこない)

男(……やっぱりあの時襲ったことをまだ根に持っているんだろうな。ひょっとしたらそれで脅すつもりじゃ、待てまて! いくらなんでも俺は生徒だ!)

男(薄い本なら期待できるのに)  【こいつもある意味余裕だな】

先生「あっ、もちろんお詫びにあとで何かお礼する気はあるから」

男「!!」

先生「とりあえずそれ楽しみにして残りのヤツ、バンバン運んじゃうわよ~。ファイトぉー!」

男(……「あの時はよくも先生を襲ってくれたわね、男くん」、「そ、そんなつもりじゃ」、「誤魔化しても無駄。あなたがいつも私に色目を使ってたことぐらい気づいてたんだから」)

男(ドン! 「うっ!? は、離してくれ先生!」、「ダメよ。ほら、本当はずっとこういう風にされたいって考えてたんでしょ? この変態」、「いやぁー…ガクガク」)

男(「これが先生から変態の君にあげる……お・わ・び」、「あああぁぁーーーせんせぇーーー!!」)

男「……」   【……】

先生「おーい?」

男「ひぃ!? ななな、何ですか!? ごめんなさい、ごめんなさいっっっ!!」

先生「あ、謝られても。君が急に立ち止まってたりしたからさ……ははーん? さては」

男「うっ!」

先生「気持ちはわかるけどゲームのこと考えるなら家に帰ってからお願いね。私もよく仕事中にあのルートが怪しかったんじゃとか気になって手つかなくなっちゃうんだよねぇー」

先生「ほらほら、別に勉強とやかく言うつもりないから早く終わらせちゃうようもう一踏ん張りっ! 頭から人参ぶら下げてでもよ!」

男(こ、この前からゲーム、ゲームって俺の青春なんだと思ってるんだこの人。とにかくあと少し我慢するしかない)

男(脅すでも、腫れ物扱いされるでもないなら、黙って付き合ってやるさ。手伝うだけで罪が晴れるかもしれないんだから)

【イメージで彼女に悩ましげなポーズを取らせてみたり、我に帰って自責の念に囚われたりと一々暇しない男である】

【話に適当な相槌を打って黙々と作業を進めている内に、男が無駄を考えることをなくなり、無事にお手伝いは終了。イベントは続いているがな】

先生「おわったあぁぁ~~~!! こら[ピーーー]本格的に落ちたな。[ピーー]にでも通った方が[ピーーー]かしらねぇ」

男「じゃあ俺はそろそろ帰りますんで……お、お疲れさまでした……」

先生「え? 無償で帰らすわけにはいかないってば。約束通りお礼するよ、男くん」

先生「私のワガママで無理に付き合わせちゃったんだから。それに[ピーーーーーーー]ね」

男(……神さま、仏様、誰でもいい。哀れな子羊を救ってくれ!)

先生「んーと? ここと、あとこの辺りとー……うん、そこもかな」

男「……先生、これ何ですか?」

先生「お礼だと最初に言った筈だけど。とりあえず今教えたページと付箋貼った場所抑えとけば安心だから」

【と、何食わぬ顔で男へ付箋まみれになった教科書を手渡してくる先生。おまけに缶ジュースのおまけ付きである】

先生「それねぇ、この前発売されたばっかりらしいんだけどもう飲んだ? まだならきっとビックリすると思うよ。結構クセになる味だから!」

男「こ、これがお礼なんですか」

先生「えぇ? なーに、まさかこれだけじゃ不満なの? かなり労った報酬だと思うんだけどなぁ」

先生「まぁ、無理に教えたところ勉強しなさいって言ってるわけじゃないから後は自分の好きにして。でも、先生 相当大サービスしてるんだからね?」

男「……」

先生「ぷぷっ、今のツンデレぽかった? それじゃあお疲れさま。また明日ね、男くん」

男(たぶん、俺が授業に出ていなかった時に進めたところをわざわざ教えてくれたんだろうな。重要な部分なんて線まで引いてくれて)

男(どうしてHRも担当授業も欠席しまっくて文句の一つ言おうとしないんだ。それに保健室での出来事も一切触れないでいて)

男(そんなことされたら申し訳なくなっちまうだろ!?)

【彼の心で葛藤が起きている。たった一言を言い出すか、胸の奥底にしまって終わりにさせてしまうか】

男「……な……さい」

先生「ん? まだ何かあった?」

男「ごめんなさい……っ!」

【うむ、その言葉が聞きたかったぞ】

男「すみませんでした! 俺、先生には謝っても謝り切れません! 土下座しますっ!」

先生「ちょっ、えぇー!? ば、ばか! そんなことしなくて大丈夫だからっ」

男「大丈夫じゃありません!!」

男「……どうか怒ってください。この舐めた畜生野郎をいくらでも罵ってください。気が済むまで」

男「罪滅ぼしのやり方なんて何も自分で思いつけませんっ、殴ってくれても構わないんです!! ごめんなさい!!」

男「ご、ごめんなさぁいぃ……っ……!」

【歯を食いしばって堪えても涙が次々と溢れてぼろぼろ床に零れてしまった。視界の中に捉え続けている先生の姿がぼやけて分からなってしまう程だ】

先生「[ピーーーーーーーーーーーーーーーー]」

男「えぇ?」

先生「ううん、こっちの話だから。……ふふっ」

先生「そっかそっか、男くんはこれだけ反省してたのか。それだけの気持ちで私は安心しちゃったよ」

先生「良かったぁ。君が良い子で」

【これ以降、彼が先生を避ける事はなくなった。朝のHRにも顔を出し、授業には今まででは考えられなかったぐらい熱を入れて取り組んでいる】

先生「ありゃ? 今日もサボり常習犯の男くんが見えるんだけど幻か何かかなー?」

男「も、もうサボってないでしょうが……!」

先生「うふふっ、[ピーーーーーー]、ハイハイ。それじゃあ授業始めるよー」

男(罪の意識がなくなったと言えばウソになるけれど、俺は二度とあの人をガッカリさせるような真似はしないと誓おう)

男(ここにいる時間が増えればそれだけ女の子たちも迫って来る機会が多くなるが、罰ゲームなんかじゃあないんだ。嫌々に考えなければいい)

男(……放課後になれば後輩と会えるんだからな。むしろ頑張り甲斐があるってもんだろうよ!)

【先生へ心開いてくれたのは良かったが、未だに後輩の鎖に繋がれた犬のままだという】

【まるでキャバ嬢に貢いで喜んでもらうことを生き甲斐と思う中年オヤジに近い状態だ。好意を伝えるまでかならず行かない】

【この現状からある仮説を立てた。……もし、この男が現状に満足してしまった場合を考えると二周目へ進まない可能性がある】

【これが本当に過去の追体験だとすればいつの日か大きく展開が変化するのだろう。だが、最近になって思ったのだ】

【俺がどれだけ口出ししても、彼にこの声は聴こえない。が、届いていないわけではいないらしい。何か、別の形で、俺は『男』へ干渉していたのである】

【それがどうしたとも笑いたくなるが不思議ではないか? 単なる自分の過去の映像を見せられているだけなのに、最小限でも手出し可能というのは】

【つまり 後輩があえてウソを言ったのか。はたまた彼女の想定外が起きてしまっているのか】

【以上、俺はコイツがただのバックログとは思えなくなってきた今日この頃わけである】

【矛盾が一つ】

【いま俺が目の当たりにしている光景が過去だという事はおそらく間違いないだろう】

【そうだとしたら、仮に一周目以降の可能性が潰えた場合 俺の存在はない。この人格が形成されるには三周目が必須なわけである】

【早い話。だったら心配してないで黙って見守りゃいいだろボケ、と深読みを指摘されよう。だって俺は確かにここに存在しているのだからな】

【……引っ掛かるのだ。かつて俺がいた自分の時間で、この男とよく似た体験をした覚えがある】

【自分の中で何かが騒いだというか、叫んだというべきか。……自信を持って言える、俺の中に何かがいた】

【何かは俺の思考を邪魔をした時もあった。それのせいで行動が狂ったこともしばしばあった】

【お前は誰だ?】

女子たち「委員長またこの間のテスト全科目満点だったって本当!?」

委員長「えっ……あ、うん」

男子たち「それだけじゃないぜ! 委員長は部活の助っ人で弱小のウチを県大会まで導いてくれた!」

「委員長!! 委員長!! 委員長!! みんなの委員長ちゃん!!」

委員長「や……やめて…………あ、あはは」

男(あそこで狂気じみた囲い食らってる女子が委員長だったのか。前は地味な子だった筈なのに、今じゃ眼鏡属性持ち美少女なんだな)

男(あの腕章は風紀委員って書いてあるのか? こっちだとそもそも図書委員じゃあなくなってます、と。それでいつ俺に声かけて来るんだろう)

男の娘「今日もすごい人気だね、委員長さんってば。ま、まぁ 僕には[ピーーーーーーーーーーー]///」

男「彼女はいつもああなの?」

男の娘「うん、本人も迷惑じゃないかってぐらい。下駄箱の中に詰め込まれたラブレターが床に山を作るぐらい男子にも気に入られてるし」

男の娘「かといって女子から嫉妬を買わずに、憧れの存在として崇められる始末。最近じゃ委員長ラブリー親衛隊なんてのができたらしいよ、あははっ」

男「ら、らぶりー…… (俺ばかりと思ってたけど、他の奴らの環境もよく考えれば物凄い変わりようだな)」

【あれが美少女化する前の俺がよく知る彼女なわけか。人気者なのは今も昔もらしいが堂々としているどころか、困惑している様子しか見せていない】

【俺はあの委員長を救おうとしている。してやれる事は今はないが、アレをよく知らねばなるまい】

女子たち「才色兼備でみんなの憧れの的なのに本人はまったく飾らないなんて素敵よね!」

男子たち「俺たちも惚れ甲斐があるってもんだよ! こっち向いて微笑みかけて! そのキュートな眼差しで殺してくれ!」

「委員長ちゃんナンバーワン!! 委員長ちゃんパーフェクトラブリー!! 委員長ちゃんマジ天使!!」

委員長「やめてぇぇぇーーーっ!!!!」

【ピタリと喧騒は止み、今にも消えてしまいそうなか細い声だけが聞こえてくる】

委員長「やめてください……やめてくださいっ……」

委員長「みんなおかしい。こんなの普通じゃないですよぉ……どうしたんですか……」

委員長「わ、私に構わないでください……お願いします、お願いします…………うっ!!」

男子たち「ああっ、委員長がもどしたぞー!?」

女子たち「きゃああああああぁぁぁ~~~~~~!!」

【再び沸き上がる騒ぎに男と男の娘も遠くからその様子を唖然として見守っていた】

【群がる生徒の垣根から、床に座り込んで口にハンカチを当てている彼女の姿が確認できる。しばらくして風に乗った異臭が男の鼻を通った】

男の娘「ちょっとアレ止めた方がいいんじゃないかな……」

男(止めるって誰が? 俺と男の娘で? バカ言うなよ、ああいう手合いには関わらないのが一番なんだから)

先生「あんたたち何やってるの!?」

【結局は先生の介入によって事は収まる。委員長は彼女が連れ添って保健室へ送られて行った】

【委員長、彼女もまた己に与えられた幸福に戸惑い恐怖している。その彼女はもう、俺の時間にはいない。消滅したらしい】

【……この男を観察していて改めて思った。俺も委員長のように元の人格が消えて、結果生まれた存在ではと】

後輩「最近はすっかり真面目になられたんじゃないですか」

男「俺がか?」

後輩「ええ、先輩が。どういう心境の変化です? やっぱり一時の楽しみより将来の為の勉強が大切だとか気づいたんですか?」

男「ま、まぁ、そんな感じかもしれないな。でも雲を眺めるの飽きたわけじゃないんだから!」

男(正直空と雲ばっかりは飽きたけどさ)   【でしょうな】

男(こうやって屋上で後輩と過ごすのは楽しい。楽しいけど、たまには少し違ったシチュエーションに憧れたりもする)

男(で、デートとまでは言わないから……学校の外でとか、中でも構わない。マンネリだと感じてしまう前に別のことをしてみたい)

男「(だけど今を超える勇気が出ない!) お前がこの前撮った俺の顔、酷いもんだったぞ」

男「自分で見て思わず溜息が出たよ。もちろん、悪い意味でさー」

後輩「あは、気に入っていただけたのならなによりです。私も自信ありましたからね」

男「そうかよっ……なぁ、一つ訊いてみてもいいかな」

後輩「はい?」

男「後輩は……その……後輩っ、は……!」

後輩「私がどうかしましたか、せーんぱい?」ス

【塞ぎこんで行く彼を真下から覗きこむ後輩。美少女の顔が息の掛かる距離まで近づき、思わず仰け反るこの情けない反応】

男「あ、あっ、うあ……」

後輩「先輩っていきなりこんな風にされると可愛い反応起こしてくれますよねぇ。ふふっ、結構好きですよ?」

男「面白がってるんじゃねーよ!? し、心臓に悪いんだからっ!!」

男(人の気持ちも知らないでからかいやがって……ちょっとは察してみたらどうなんだよ)

【コレ、立場逆転しかけていないだろうか】

男(今日も他愛のない話とカメラだけで放課後が終わりそうだ。進展なんて欠片も見えない)

【いいや、お前に進展ありだ。後輩と新しいことをしたいと思うソレは、この状況を変えたいという満足の否定】

男(明日も、明後日も、そのまたいつかも繰り返されるんだろうか。[ピーー]、[ピーーーーーー]。[ピーーーーーーーーーーーーーーーーー]、[ピーーーーーーーーーーーーーーーーー]。卒業するまで永遠に)

【男よ、お前はこのままで良いなんて妥協を心では許したくはないのだろう。デート結構。自分が望むままに行動してみせろ】

男([ピーー]、[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]。何も『特別』が起きないまま。[ピーーーーー]。[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

【止めどなく溢れる欲望が己の力となる! 飢えなければ勝てない! 今以上にずっとずっともっと気高く飢えなくては!】

男(これで良いのかと思う反面ちょっぴりだけ寂しいとか感じてるという。どうしろっていうんだ? [ピーーーーーーーーーー]! [ピーーーーーーーー]!……いいや、自分でもう気づいてるんだ)

男(今以上にずっと[ピーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーー]!)

後輩「先輩と喋っているとつい時間を忘れちゃいますね。それだけ楽しんでるってことになるのかな?」

男「待ってくれ……」

後輩「ふふっ、今日もお疲れさまでした 先輩。また明日もここで――――」

男「待ってくれないかっ!!」

後輩「……急に怖い顔してどうしました?」

男「今日は途中まで一緒に帰らないか、後輩」

男(あああああああああ、言っちゃったよおおおおおおおおおぉぉぉ!!)

また明日

後輩「先輩、お待たせしました」

男「あ、ああ。じゃあ行こうか……後輩はどの辺りに住んでるんだ?」

男(断られるかもと考えてたのにあっさりOKを頂いてしまった。こんな事ならもっと早くから提案しておけば)

男(いやいや、今日が偶然乗り気になって貰えただけで昨日までそうだったとは限らない! 今だって本当はしょうがなくとか思っていたりするかも)

男(……どうだっていい。屋上以外の場所で後輩とこうして隣を歩いている。最高じゃないか)

【僅かでも彼が取った行動は成長なのだと俺は信じている。手助けになれるか分からないが、今後も迷いが生まれたらなるだけ導こう】

【軌道修正が必要になれば意地でも修正させる。とにかく未来へ繋がる全てを俺が作ってやる。安心しろ、男よ】

【お前は一人ではない。俺が憑いている、それだけで百人力だろう?】

後輩「ほとんど近所ですよ」

男「俺ん家から!?」

後輩「は……あははっ、何言ってるんですか? 学校に決まってるでしょう」

男「そ、そうだよなー!! 早とちりにも程があるっての!! (落ち着け、落ち着くんだよ。全然テンパるところじゃねーぞ!!)」

男(ていうか、近所だったのか。それならこの時間もあまり長くは続かないんだろう。……後輩の住処恨んだところでどうにもならん)

後輩「先輩は私ともっと一緒にいたいんですか?」

男「そうなんだよな…………えっ?」

男(いま何て言われたんだ? もっと一緒にいたい? そう喋ったのか?)

後輩「あれ、聞こえませんでしたか?」

男「ど……どうしてそんなこと思ったんだ!? 俺、お前から見てそういう感じに見える!?」

後輩「ええ、見えますけど」

【彼女は短く答えて、まるでこちらを挑発するように悪戯で不敵な笑みを浮かべてみせた。それだけで男は自分の考えてる事が筒抜けになっているのでは、とうろたえ始める】

後輩「……なんて、冗談ですけどね! せっかくですし何処かに寄り道して行きません?」

男「(一々ビビらせやがって) 帰り遅くなっても平気なのか。……待って、寄り道?」

後輩「ダメでしたか? 先輩の都合が悪いなら無理にとは言いません」

後輩「ですけど、デー[ピーーーーーーーーーー]面白そうだと思いません?///」

男「デー……何だって (デートみたいだ、デートみたいだ、デートみたいだ!!)」

男(絶対そう言った! こいつ、俺をここぞとばかりに誘ってやがる! もしかして脈ありじゃないか!?)

後輩「先輩?」

【彼女が積極的に追加発生イベントを自発したのは、徐々に変化を見せ始めた男へ興味を示してきているのだろう。好奇心からの動きと解釈できる】

男(ここまでされて断る奴なんているのか? 女の子から誘われているんだぞ。でも調子に乗ると大抵悪い方向に……今更引けるわけないだろうが!!)

男「……どどど、どこ、い、行こうかぁっ……二人で」

男(デートでカメラ眺めてるのは果たして一般カップルに置いて普通なのだろうか)

【リードできない男を気遣ったのか二人の繋がりからなのか、後輩は以前俺と訪れた大型家電量販店を見ようと提案してくれた】

【であるからして、現在カメラを眺めるフリをしつつ後悔しまくる彼なわけであって】

男(この時間なら「食事でもどう?」とか定番コースがあるだろうが。でも、家族と一緒に取る予定とかで断られそうだし……無難なのかコレ)

男(ていうか、他の奴らから俺たちどう思われてるかね? やっぱり初々しい学生カップルとか? 兄妹もあり得そうだな)

男(ああ、この優越感!! 妬んでろよ報われない男どもよ。俺は諸君等の先を行かせてもらうぞ、精々指でも咥えて羨んでるんだなぁー!!)

【内側では高笑い、表面ではビクビクドキドキ。虚勢でも構わないからそれを外に出す努力から始めるとかなり見違えると思う】

後輩「先輩が使ってる物はここには置いてありませんね」

男「え? アレは流石にな。父さんから譲って貰ったもので、ここにあるのと比べりゃ滅茶苦茶古いタイプなんだよ」

男「例えれば旧ザクとゲルググっていうかだな……ん、微妙かもしれない。とにかく古すぎて扱ってない筈だな」

後輩「そうですか。少し残念です」

後輩「全く同じとまでいかなくても似た物があれば買おうかなって思ってたんですけど」

男「こ、高校生の財布で気軽に買える品じゃないけどな……バイトとかやってるのか?」

後輩「いいえ。でもお小遣いとお年玉から崩して溜めた貯金が残ってますから。頑張ればいける! と」

男(かわいいなぁ……すごくかわいい……)

男「悪いこと言わないから俺と同じタイプのカメラじゃなくて、使い勝手も良いデジカメを選んだ方が後悔しないぞ」

男「コイツなんかは最近出たばっかりだけど評判も悪くない。そっちは女の子がオシャレ目的で持つのが多いな」

男「まぁ、何にしても自分が気に入ったものが一番だろうけど……ってー、そんなに真面目な顔するなよ……!!」

後輩「えっ? あ、ご、ごめんなさい。だけど尊敬しちゃいますよ、先輩」

後輩「そこまで詳しいなら専門の道とかに進もうとか考えたりしてるんじゃないですか?」

男「この程度知識、ちょっと齧ったぐらいだってば……!」

後輩「そうなんですか? だけど、もっと誇って良いと思います」

男「趣味って別に誇るもんじゃないだろ。あくまで自分の好きなことなんだから (受け入れられなくても仕方がない時もあるけど)」

後輩「へぇ、それが認められない誰かに否定されてしまったとしても?」

男「うっ……好きなことは好きって胸を張ればいいじゃないか」

【なるほど、受け売りか。言った本人の心境と裏腹だったとは思いもしなかった】

後輩「素敵ですね」

【心からそう感じてくれたのか彼女の笑顔から察する事はできなかった。この言葉を最後に二人は店内を出て行く】

男(結局カメラ見ただけで終わりじゃねーか……デートってこんなもんなのか? もっと、俺が想像してたのは)

後輩「ふふっ、色々と楽しかったですね」  男「楽しかったな!!」

後輩「先輩と一緒だったというのがポイントですかね」

男「そうだろう、そうだろう。……何っ!?」

後輩「ふふふっ! 人の話をしっかり聞こうとしないからそういう目に合っちゃうんですよー」

【くるりとその場で一回転して珍しくはしゃいで見せる後輩。そんな姿に、横顔に彼は胸を締めつけられたのである】

男(いつだって俺を惑わせる。笑顔とかちょっとした仕草でも決まってやられてしまうんだ。最近じゃあ笑ってくれるだけで十分だ)

男(この子の何もかもが俺を締めつけて離してくれない。どうしてここまでになってしまった?)

男(きっと俺は後輩の理想から程遠いかもしれない。違うけれど、背伸びして近づこうとするのは勝手だよな)

後輩「そろそろお腹空きましたね?」

男「ああ、うん (この想いはバレないように隠しておくべきだろうか)」

男(言っちゃダメだ。口にしたら今日までの二人が壊れるに決まってる)

【気がしているだけだろう。お前が望む関係へ持って行くには不安なんぞ無視して進まねばならん】

【いくら想っても届かないのだ。どんな物でも形にしなければ伝わらない事もある。男なら待ちより攻めだろうが】

男([ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]。今日振り絞った勇気は無駄じゃなかったと信じておこう)

男(自分に甘えたっていいだろ。怖いもんはやっぱり怖いんだから!!)

男(……せめて良いとこの一つぐらいは見せてやりたいもんだ)

男(いきなり後輩が「ヘイヘイ、かわい子ちゃん!」とか不良に絡まれたりして、そこを俺がさながらヒーローみたいにカッコよく助ける)

男(現実だったら厳しいがこれは夢みたいなものなんだろ。ケチなんて絶対に言わせん! ああ、憧れよ現実に!)

後輩「帰る前に、少し喉乾きませんか? あそこの自販機で飲み物買ってきますね。先輩の分も含めて」

男「あっ!! ……だから、こういう時は俺が真っ先に動かなきゃだろうがっ」

【段々と不甲斐ない自分に苛立ちを覚えながら携帯を開き、画面へ目を向ける。妹からのメールが一通に思わずニヤリ】

【実の妹とはいえ文句なしの美少女ともなれば仲良くなって悪い気もしない。「おい」から「おにいちゃん」へシフトしているのもまた喜ばしきかな】

男(夕飯はすきやきだから早く帰ってこい、だって。しかも帰りにトッポ買ってきて、だって。……たまにはサービスしてやるか)

男(それにしても後輩の奴遅くないか? 自販機なんてすぐそこに――――――!?)

ヤンキー「名前教えてメアド教えてどこ高行ってんのきゃわいいきゃわいい!」

後輩「……」

男(何でいきなりヤバそうなのに絡まれてんだよぉぉぉーーー!?)

男(しかも数増えてるし! すっかり逃げ口塞がれてるし! ちょいちょいボディタッチされ始めたし!)

男(マズイだろコレ……絶対関わったらアウトな展開だわ……こんなの信じられん……)

【どうかな。俺には後輩からあえて悪漢どもに近づいたように見えるのだが? 嫌がるなら騒げばいいのに、恐怖など微塵も感じずクールに黙ったままだ】

【明らかにこの男を試している。念願叶って憧れは現実になった。ケチも言わないから好きに暴れてきてはどうだろう?】

男「そうだ! 警察を呼ぼう!」

【賢明だが間違いなく恰好はつかないだろうな。ほらほら、約束された印象UPイベントと思って】

男(畜生、こんなの今時漫画でも使われないだろ。だからDQN嫌いなんだよぉー!)

男(……無視なんてできるわけない。俺の後輩に手を出されて黙って見てられるか? 断じて、無理だ)

男(ビビってでも構わない、とにかく俺がやらなければ。それにビビりにはビビりなりのやり方もある)

男「おおおお、おさわりまんこっちですっ!! こっちに女の子がいますよ!!」

ヤンキー・後輩「……?」

男(…………やっぱり気は大きく持たないと、なんだな……)

ヤンキー「俺らサ、これからカラオケ行きたいと思ってたとこ。君もいっしょ行って遊ぶべ?」

ヤンキー「照れてる照れてるぅーーー!! 愛いだねぇッ! いいよ、黙んなくて。お前香水キツすぎんのが原因だべよ」

ヤンキー「彼氏いるの? まさかあっこで棒立ちしてるのとか言い出さんよね? 違うね」

男「あっ、あっ……量産型どもが……」

男(量産型養殖DQNどもが! 俺の、後輩に、手ぇ出してんじゃねぇー! と、いきなり始めると険悪ムード全開になる)

後輩「違いませんよ。あの人が彼氏ですけど何か」

男「…………ひえっ」

ヤンキー「アレが? え、じゃあちょっと彼氏ここにしゅーーーごーーー」

男「(俺が何人に見えてんだよ) ……ど、ドモ……っす」

ヤンキー「ぎゃははははははははは!!」ドッ

男(何が面白いんだよ……やめてくれよ……)

ヤンキー「俺ら、この子? 彼女? 間違ってナンパしちゃったみたいなんだよねーごめんねー」

ヤンキー「ごめんねぇ~ン」

男(あれ、もしかして見た目に反してさほど悪い奴らじゃない? 笑われるの我慢しとけば見逃されるのか? ……肩掴んで身寄せてくるな、鬱陶しい)

ヤンキー「でもさ、でもさ、この子くそ可愛いじゃん? 今日だけ貸してくれない?」

男「貸す、って……え?」

ヤンキー「お願いお願いっ!! マジで今日だけで良いんだから!!」

ヤンキー「俺らにサービスしちゃおうか、彼氏くーん!! 良いよね? ……ハァイ、OKきたぁー!!」

ヤンキー「ドンペリいっちょー!!」

男「ちょっと待ってくださいよ。俺いいなんて言ってないですからっ……」

【男の存在なんて始めからいなかったように彼らは奇声を上げて盛り上がっている。完璧に舐められてしまったというわけか――】

後輩「すみません。私の彼氏が何か言っているのでしっかり聞いてあげてくれませんか?」

ヤンキー「ん、楽しんできてねって俺には聞こえたんだけど?」

後輩「騒ぐのは勝手ですけど、人の話はちゃんと聞かないと後悔しちゃいますよ。それとも耳がついてないんですか? お兄さんたち」

男(……あ、煽りやがった)

ヤンキー「ねぇねぇ、何なのお前の彼女? いきなり意味不明なんだけど」

男「へ、へへへっ……いひひ……」

ヤンキー「タルいからもう終わりにしない? 急いでるんだよ、こっちは。マジで急ぎなの!」

男「あの……だったら、手短にお話しますから聞いてやってください」

男「……俺たちまだ付き合ったばっかりなんです。それでいま初デートの途中なんです」

男「皆さんは初めて可愛い彼女作って、初めてのデートの時どうしましたか? 丁度良く親が不在なので、俺はこれから彼女を自宅に引っ張って行って」

男「ドーテー捨てたいと計画してます」

ヤンキー・後輩「…………」

ヤンキー「お、おう? 別に……いいんじゃないの?」

男「でも皆さんが彼女を連れて行ってしまったら練りに練っていた計画が全部台無しになります。ドーテー捨てるのが今日の最終目標なんです」

男「皆さんも昔はさぞかしご立派なドーテーであった事を見込んでお願いがあります。俺を、今夜『男』に変える手伝いをしてくれませんか……」

男「頑張れと言って、俺たちを黙って見送ってやってください」

ヤンキー「えっ……その前にさ、俺らが毒ないか味見してやるんだけど?」

男「お気遣い感謝です。でも、俺はこの日を夢見て彼女をあの手この手の全力で口説いてきました」

男「せっかく血の滲むような努力をして手に入れた初めての可愛い彼女。余計なことはされないで何もかも自分で確かめたい」

男「そう考えるのはおかしいですか? 皆さんは彼女を誰かにとっかえひっかえで犯させてから楽しむんですか?」

男「ごめんなさい、俺には理解できません。俺は彼女を最初から最後まで自分の物にしていたいです……エッチさせてください」

ヤンキー「うわぁ……」

男「俺にコイツとエッチさせてください。めでたくドーテー捨てさせてください」

後輩「……私からもお願いします。私に、先輩のドーテー捨てさせてくれませんか?」

男・ヤンキー「ぶっっっ!!」

ヤンキー「うん……なんか、もうどうでもいいからもう行くべ? 時間勿体ないよ」

ヤンキー「俺も冷めてきたしいいわ……行こう行こう……」

ヤンキー「おい!! ……まぁ、力抜いて。彼氏頑張って?」

【絶句した。繰り返す、絶句した。面倒だから実況を中断させていたわけじゃなくて、思考停止していた】

後輩「ところでドーテーって何の意味ですか、先輩?」

男「これ以上口に出すなっ!!///」

男(冗談じゃない!! 自分でもウソじゃないかってぐらい鼓動がバクバク鳴ってる!!)

男(ヒーローに憧れても二度とあんなバカなこと望むか!! いつ殴られるかと……死ぬかと思った……!!)

後輩「助けてくれてありがとうございました。と言っても、私が先輩を勝手に巻き込んじゃったんですけど」

男「怪我とかしてないか? 変なところ触られたりしてないか? ……何もなかったのなら、良かった」

男「どうして叫ぶなり悲鳴あげるなりしなかったんだよ! お前、諦めてくれたから良かったものの、無理矢理連れ去られたかもしれないんだぞ!?」

後輩「私、先輩が助けてくれるかなって期待してましたから。えへへ、ちょっとバカでしたかね」

男「バカどころじゃねーよ!! どうなっちまうかと気が気じゃなかった……」

後輩「でも先輩は本当に私を助けてくれた。最初に大きな声を出した時だってそのつもりでいたんでしょう?」

後輩「[ピーーー]ったです……とっても///」

男「な、何だって? ごめん、もう一度いまの言ってもらえ――」

後輩「本気で恋人始めてみますか? 私たち、ふふっ」

男「はぁ!?」   【チャンス到来だろうが!!】

【後輩はこの後冗談だと誤魔化すだろう。しかし、しかしだ。本気の雰囲気を男から流して勢いに乗ることができれば】

【……判断を誤まるなよ。動揺する気持ちはわかるが、それで目前にあるチャンスをみすみす逃しては勿体なさすぎる!】

男(夢が、現実に近づいてしまった)

ここまで。次回はたぶん日曜に
それから早めに報告しておきたい。このスレじゃまだ終われません。まだ終われません

期待させといてへし折っていくこの糞スタイルが止まらない・・・(^ν^)

男「――――ハハハ、何も言うまい」

【ではなく『何も言えなかった』がこの場合正しい。この通りスキップして歓喜に舞っているわけでなく、肩を落として溜息の連発な彼から後を察して欲しい】

【しかし、チキンハートにも程があるではないか。惨めな人生を歩んでいたとはいえ完全に堕ちたわけでもないだろう。まだ崖っぷちだ】

『実はあの子も俺を騙していたとかじゃないだろうな?』

【ああ……“も” と来たか……ならばこれ以上の詮索は無意味としよう】

男(俺があの子を信用してるように、彼女だって同じかもと薄々気づいてたと思う。認めてくれているんだ。路傍の石ころとしてじゃなく、一人として)

男(勝手に境界線張って触れ合えなくしてるのはこっちだ。自分で自分の足を引っ張っていつまでも殻に閉じ篭ろうとしてる)

男(どんな物よりも自分が大事すぎるから)

男「後輩、また誘ってほしいって言ってくれた。少なくとも俺と一緒にいるのが嫌じゃないんだよな」

男「あ、当たり前だろうが! そうでもなきゃ屋上に通ってくれたりしない! えっとだから、つまり!」

男「好きになってもらえてるのか……いいや、早合点は禁物でしょうよ。へへへ」

【お前みたいな人間臭いヤツは嫌いじゃないよ、俺は】

【感傷に浸るも束の間、背後から男の肩をちょんちょんと何者かが突いてきた。やれやれ、家に帰るのも一筋縄ではいかない】

男「はっ、れ? あなたは」

先輩「いっひひぃ~。どもどもぉ~♪」

男「あの……愛好会には」

先輩「わたし=勧誘でイメージ固定されてない? 心配しなくても今はそんなつもりないよん」

先輩「ていうか、いつも顔見たらすぐ逃げられてたから拍子抜けしちゃった! 全然身構えてないしさ!」

男「あっ、確かに」

男(学校の中じゃあ追い回されて散々な目にあってる筈なのに、今日は体よりも先に口が動いてる)

【それは慣れでもあり、成長とも言える。自覚していなかったが最近は後輩以外とも初期と比べ、会話できるようになっているぞ】

先輩「いやぁー、君とは一度腹を抱えてきっちりのんびりトークしたかったのですヨ」

男「腹を据える、ですか? 何にしろ人前で気軽に使う言葉じゃない……」

先輩「ま、まるっと含めてジョークだよ。やだなぁもう~、はっはっはっ……[ピーーーーーーーーー]///

先輩「あーっ!! えっと、ていうかいま帰り!? こんな時間まで随分ゆっくりしてたねっ」

男「こんな時間? うわっ、いつの間に……さようなら」

先輩「ほいほい暗いから気をつけてね。……じゃなくって!!」

先輩「せ、せっかく[ピーーーーーーー]、[ピーーーーーーーーーーーーーーーー]……?///」モジモジ

男「は?」

【いい加減難聴スキルの存在を認めて対応してくれないか。なぁ、お前は魅力的なお誘いを受けているぞ! 会話を打ち切ろうとするんじゃあない!】

男(ギャーギャー騒ぎ出したと思えば、[ピーーーーーーーーーーーー]! 今度は急に大人しめに[ピーーーーーーーーーー]!なりやがった。こういう時に限って言葉聴こえなくなるのは相変わらずなんだな)

男(俺って実は難聴気味? イヤホン控えるかな。で、どうしたら家に帰れるんだろうか)

男(この人だって帰りの途中なんだろ。友達かサッカー部の彼氏と遊んだあとだな。……よく見たら私服だぞ)

男「買い物帰りなんですか? 随分荷物多いですね」

先輩「へっ? そ、そうなんだよぉー!! 実はお使い頼まれちゃってさー」

先輩「もう、こんなに色々買ってこさせるなら車の一つ出して貰いたかったっ。この分なら家に着くまでに腕だけムキムキになる自信あるよ?」

【パンパンになったスーパーのビニール袋をダンベルに見立てふんふんと上下させる。破けて地面に落下した牛乳パック、続けて栓が抜けたようにお後がドバドバと】

先輩「たは、は……ちょっといま泣きたい気分なんですけどぉお~~~!!」

男「わかった、わかりましたからっ!! ううっ、荷物持つの俺手伝いますよぉー!!」

先輩「本当!? あ、ありがとぉ……えっと、男くん……!」

男(最近巻き込まれてばっかりじゃないか、俺)

【それもまたハーレム主人公に与えられたスキルの一つよ。溢れ落ちた物を一旦男の鞄へ詰め、先輩から手荷物を受け取りいざイベントへ】

先輩「なんかごめんなさいだね。面倒に付き合わせちゃって。でもお陰で[ピーーーーーーーーー]か、な」

男「構わないです、慣れてますから……それにしても重いぞ。よく一人で持ってられましたね。というか、よく一人で引き受けましたね」

先輩「まぁ、これぐらい手伝わないとだからねっ!」

先輩「実家がさー、ウチ中華料理屋なんだ。商店街にある小さなところだけど結構人入ってるんだよ!」

男「だからラーメン愛好会?」  【ここで明かされる新事実である】

先輩「えへへっ。昔から両親が、こだわりっていうのかな。わたしには全然何も店を手伝わせてくれないのサ」

先輩「二人は『今が大切だー』とか『遊べー』って言うけど、本当はわたしが変なとこで鈍くさいからかも。でも買い出しぐらいは行けるでしょ?」

男(この突然の自分語りは一体……苦手なんだよな……)

先輩「もし良かったら今度遊びに来て~。ふふん、いつも迷惑掛けてるついでにわたしが一品奢ってしんぜよう!!」

男「べ、別に迷惑ってわけじゃ (一人で飯食いに行くとか度胸ない)」

先輩「そう? じゃあもしかして嫌がるフリしてただけで実は入部したくなってきちゃったとかかにゃ~? ん~?」ニヤニヤ

男「ハァ……」

先輩「へへっ、別に無理強いしないから! ……そりゃもちろん君が[ピーーーーーー]だけど///」

先輩「あ、別に同情誘って身の上話したわけじゃないから勘違いしないでね!? ただの暇つぶし程度と思って頂きたいっ!」

先輩「愛好会だって別に実家のことがあるから作ったわけじゃないもん。わたしが趣味で始めただけ」

先輩「だから基本方針は『適当に楽しむ!!』。……こ、こんなんだからヤバくなっちゃうんですかねぇ」

男(自由奔放なこの人なりに色々考えてるんだろうか。俺には分かる気はしないし、するつもりもないけれど)

男(思いを晴らす場所がなかったから、自分で作った。さっきの話はそれをわざわざ教えたのと同じだろ。俺が欲しいなら逆効果と思うが)

男「本当に趣味だけって理由で始めたんですかね?」

男(俺もとことん性根腐ってやがる。こういう台詞はすっと言えるだなんて。黙っていれば良かったものを、だ)

先輩「ふむふむ、というと?」

男「自分が店を手伝わせてもらえない鬱憤みたいな物の捌け口にしようとか考えてるんじゃないかという事ですよ」

男「たとえ思っていても、他の部員がその事実を知らなければ何も問題はない。そんな自分勝手な思惑が裏に潜んでたりするんじゃないですか?」

【言い訳と悪口を言う時だけは嫌に生きいきしている部分に俺を感じてならない。それはそうとこの阿呆! 美少女に生意気な口聞きおってからに!】

【これで好感度を落として疎遠になっていったらどう取り返してくれるのだ? コイツを止めようとしなかった俺のミスか? じゃあ……その直感を信じよう】

先輩「う~む、言われてみれば確かにそうかもしれない……うん、たぶんその通りだ!」

男「え?」

先輩「といってもだよ、実際何も考えず勢いだけでやっちゃったんだと思うかな。わたしウルトラ級のバカだから」

先輩「だから知らずに誰かを振り回して困らせるなんて事も多々ありなワケでしてぇ、へへへ……こんなだから生徒会長ちゃ[ピーーーーーーーーー]な」

先輩「みんなよくわたしに言うんだよねぇ、あんたは胸に全部吸われてる! その胸も性格の表れ! って、まったく酷いもんですヨ!!」

男「む、胸っ…… (でかい。話に夢中で気にしてなかったがやっぱりでかい!!)」

男(どうしよう、もうおっぱいにしか目が行かないぞ。何なんだコレは。何なんだコレは!?)

先輩「ここだけの話、まだ成長の余地あるらしい…」  男「ふぎぎっ…!」

先輩「でも男くんから言われて改めて考えちゃったね。わたし自分で思ってたより腹黒キャラかもって」

先輩「お腹に一物抱えてるヤツってちょっぴり魅力感じません? 裏がある、影がある。あー、なんか良さ気感たっぷりしてきませんか!?」

男「ど、どうでしょうかね……っ」

男(まるでビクともしていないぞ。むしろ短所を長所じゃないかとか言い始めてる!)

先輩「たはぁー! 滅茶苦茶イカすっ!! だけど、ダメだって思われてるなら治す努力してくよ。男くんもそう感じたから言ってくれたんでしょ?」

先輩「ごめんね。わたし直接言われないと何も気づかないんだ。猪突猛進? 前しか見えてないといいますか」

先輩「たぶん、自分しか見えないのかもしれないっ……バカ、だね?///」

【照れ笑いのような自嘲のような、何とも言えない笑顔で振り向く先輩。その表情にこれまた何とも言えない感情を覚えた男である】

男(自分で放った言葉が跳ね返ってきた気分だ。俺はこの人をよく知らないで勝手を)

男(こんな見っとも無い自分じゃあ先輩さんには一生勝てる気がしない)

先輩「ますます男くんのこと気に入っちゃったんだけど、えへへっ、許してくれる?」

男「ゆ、許すとか何を……!」

先輩「ん~? どれだけ逃げられても、そのお尻追いかけ回して構いませんか?」

先輩「君がわたしに[ピーーーーーー]……[ピーーーーーーー]……?///」

男「は……はいっ……?」

先輩「本当に運んでくれてありがとっ! わたし一人だったら爆発しちゃうとこだったと思う!」

男「(パニックだろうか) いえ、俺も面白い話が聞けましたから。色々勉強になりました」   【……ほう】

男「愛好会に関しては今はまだどうとも返事できませんけどね」

先輩「おやぁ? そいつは先手打ったつもりかね、男くーん? [ピーーーー]」

先輩「手ぶらで帰すのも悪いし良かったらウチでご飯食べてかない? 贔屓目でもウチで出す料理絶品しかないんだぜ~? 後悔させないぜぇ~?」

男「せっかくのお誘いですけど、家族から早く帰って来いと言われてるんで……俺はこれで」

先輩「そっかそっか。残念だけどそりゃしゃーない。じゃあ代わりと言っては何だけどねー……男くん、目瞑って」

男「は?」    

先輩「いいからっ……は、早くしてよ……///」

男(この場面で目を瞑らされる? 待ってくれ、よくある展開ではこの後は!! この後に待っているのは!!)

男「(先輩さんが近づいた! 距離が近い! 唇か、頬っぺたか!? 後輩、悪かった!!) っー……!!」プルプル

先輩「はい、もう開けて大丈夫だよ」

男(何か、何かが手に握らされたぞ!! ……握らされた? えっ)

先輩「それ明日学校で食べようと思ってたやつだけどお礼にあげちゃうね!」

先輩「ってあれれー? そんなガッカリしちゃって、もしかしてコレ嫌いだった? ……それとも……あは、[ピーー]とか期待してた?///」

妹「おかえりそして遅いっ! メール送ってからどれだけ時間経ってると思ってるんですか!」

妹「で、頼んでたトッポ買ってきてくれた? 最後までチョコたっぷりの……おぉ、心配しなくても! さっすが私のお兄ちゃーん!」

男「コレは死んでも離さんッ!! 俺の物だ、俺の物だ!!」

妹「えぇ!? ちょっと私のトッポぉ~……」

男(別れ際のあの先輩さんが忘れられない。すっかり脳裏に焼き付いてる!)

男(からかいやがって、期待するに決まってるだろうが!? ああ、悶々する!! あの人あんなに魅力あったかな!?)

男「後輩、後輩、俺は……俺は後輩一筋だったのに……」

【帰って来て早々枕に顔を埋めるのは最近の習慣である。よく悩むのだ、思考停止してしまうよりそれは幾分マシな行為なのだから】

男「あのおっぱいは殺人級だ。おまけに超がつくレベルの可愛さ」

男「間違いなく俺を殺しにかかってるんだよ、先輩さんって人は!! 目を覚ませぇ!!」

【というか目覚めちゃったのだ。ついに妄想の中で後輩と先輩を比較し始める始末。壁と山、昇るならどちらがお好き?】

男「……近いうち耳鼻科に行った方がいいのかな」

男「みんなが何を俺に言ったのかわからない。これが時々じゃないなんて異常すぎる。明らかに病気だ」

男(聞き逃したのは大事な言葉だったかもしれない。俺に都合悪い言葉とは思えなくなってきた、だから聞きたい!)

男(『あの子』をよく知りたい!)

幼馴染「おじさま、おばさま、おはようございます。男くんもおはよう!」

父「今日も幼馴染ちゃんは可愛くておじさんも顔がニヤけてしまうよ。お母さんに似て美人になるだろうね」

母「あらあらまぁ、お隣さんをそんな濁った目で見ていたのですね。ウフフフフフ」

幼馴染「あはは……妹ちゃんはもう先に出たんだよね?」

男「いつも通りだ――っぐ!? い、いきなり何するんだよぉー!?」

幼馴染「頭 寝グセってたから。ふふっ、可愛かったけどそのままにしておいたらカッコよく見えないもんね?」

幼馴染「……はっ。むしろ[ピーーーーーーーーーーーーーーーーー]!?」

男(来た! 畜生、誰かれ構わずなりやがる! ……いや、父さんと母さんには一度もこんな風にならなかったぞ)

男(医者に相談する前に少し様子見しておこうか? 俺が一部言葉を聴き取れなくなるのって頻繁だが、会話で絶対というわけでもなかった筈)

男(重度の難聴……難聴? 夢の中で神さまが言ってなかったか? 『モテる代わりに難聴で鈍感になる』と……あり得るのか?)

【ここに来てようやく、ようやく辿り着いたのか。もはや永遠未解明のまま流されて行くのかとばかり思わせられていた】

男(じゅ、十分あり得る。この世界は現実じゃない、俺の願望が叶えられた世界なんだぞ。それも神さまによって……そういう事だというのか!?)

幼馴染「あっ、天気予報で午後から雨が降るって言ってたから傘忘れないようにね」

男「……午後から?」

幼馴染「うん、たしか明後日までずっとだったと思うけど。……男くん?」

また明日に続く

【窓際最後尾の席、教卓側からは生徒が何をしているか丸見えであるにも関わらず見事勝ち取れた者だけが得られる謎の安心感】

【その様な気持ちなど空っぽであるように男は憂いを帯びた表情で外を見守っていた】

男(予報通りになってしまった)

【曇天模様を背後に雨粒が絶え間なく窓を叩いている。その勢いが強くなっていくほどに淡い期待は薄れていくのである】

男(今日も明日もこの調子だと? 明後日からは休日なんだぞ。四日だ、四日もあのベストプレイスへ行けない)

男(お約束になった放課後イベントがない。それがどれだけこの俺のモチベーションを削ったか知らないだろ、お天気お姉さん! 気象庁! 神さま!)

男(何が一番楽しみでここに来てるって放課後だぞ。こんなのあんパンから餡を抜かれたと同じだ、鬱だ、激しく鬱だ)

【単純バカかこの男は。屋上に行かなければ後輩に会えないと信じているのか? それなら愚の骨頂と言って差し上げましょう……】

【好きなだけ会おうと思えば会えるじゃないか? 二人きりの空間を所望するならば密室に誘うなり、最悪屋上扉の前で談笑を楽しめばいい。ほら、新鮮なシチュの誕生だ】

男([ピーーーーーーーーーーーーーーー]…………一応階段のところで待ってみようかな。来るのかな、アイツ)

男(ただでさえ昼過ぎてから気分悪くなってきたのに、これでお預けなんて食らった日にゃ俺はハゲるぜ?)

【彼もやはり同じなのか。天気が崩れ始めてから調子がよろしくない。あの時と同じ症例である】

【それとも自分がこの男にシンクロしているのが原因だろうか? これも神から植え付けられてしまったモノでは?】

【いや、難聴スキルのようなそこはかとなく嫌がらせ染みた意図を感じない。どう説明すべきか、何と言うか】

【本能が暗闇に立つのを恐れるような生理的嫌悪感。拒否反応。……原因不明のトラウマだ】

【見るたびにとなれば男は過去に雨の日に心的外傷を受けた可能性がある。あるいは肉体にかもしれない】

【いま宿っている彼も同じであるなら、原因は現実世界にて体験した出来事からではないだろうか?】

【こちらへ召喚される前の記憶は俺にはない。というか、神と出会う直前だろうか。……睡眠時に見た夢とばかり思い込んでいたが違う?】

【嫌にきな臭くなってきたかもしれないな】

男の娘「男くん、ずっと[ピーーー]けど今日は一日中上の空だね?」

男「……また言葉が。あの、悪いけどいま喋った内容そのまんま繰り返してもらえるかな?」

男の娘「ん? えーっと……男くん、ずっと[ピーーー]けど今日は一日中上の空だね?」

男「じゃあ次は『ずっと』の後に続く言葉をもう一度頼む」

男の娘「えぇ、どうしたの……ず、ずっと」

男の娘「[ピーーー]っ……け、ど……あうー……///」

男「(顔赤くなってる?) いま繰り返させた言葉って男の娘が口にして恥ずかしかったか?」

男の娘「な、何度も言わせられたらそりゃ[ピーーーーーー]に決まってるでしょ!? あぁー、もうっ!///」

男「何だって?」

男の娘「わあああぁぁ~~~んっ!! 男くんがいじめるよぉ!! でも[ピーーーーーーーーーーー]かも……///」

男(……現実抜きに考えるんだ。もしかして、俺はこの世界にいる限り感情が大きく絡んでいる声を聴き取れないんじゃないか?)

【相手の顔と反応を直視できるようになり、彼は難聴スキルの条件を察し始めたのだろう)

男(後輩の時はどうだった? 昨日の先輩は? 二人とも気恥かしそうにしていた時に口を開いて何かを話そうとすると)

男(高確率で難聴が働いた気がしてならん。絶対とは断言できないが、決まって都合悪くそうなっていた。……待てよ、都合悪い?)

男(俺に聞かれて都合が悪いことが聴こえなくなる? ああっ、混乱しそうだ。バカじゃないのか俺は!)

男「とにかく異常なんだ。想定外が起こる世界なら、この身に起きた謎だって全部想定外と考えていい筈!!」

【対応できるようになれば、あるいは現状を大きく動かせられるかもしれないな。その為には彼の極ネガティブを矯正するのが絶対だが】

【……視線を感じる。男の娘のものでもなければ、幼馴染のものでもない。だが美少女であることに間違いはなかった】

委員長「……」

【窓を鏡にして男も視線の主の正体に気づく。大勢の生徒たちに囲まれてワッショイされているクラスの女王的存在、パーフェクトラブリー委員長である】

【彼女が体に穴が開いてしまうか不安になるぐらいこの男を見つめている。見つめて、ただそれだけ、その先は無かった】

男(どうせこの後お馴染みな鬱陶しい絡みがあるんだろ? 委員長も美少女化してるんだ。いつかはと覚悟していたさ!)

男(……で、待っていてもその兆しがないという。俺が気になっていたんだろ、話しかける気満々でいたんだろ? 来ないのか?)

男「(ちょっとだけこっちからも見てみるかな) ……!!」

委員長「……っー」プイッ

男(…………俺にどうしろと……?)

不良女「よっ!」

幼馴染「仲良くなったからさっそく連れて来ちゃいました~。えへへっ」

男「へ、へぇー (タイプかけ離れ過ぎてるだろ!? ビッチか!? ビッチ同士で意気投合したって!?)」

【ビッチも裸足で逃げ出す純粋清楚女子なのだが? 不良女にはあれだけ気さくに相手されているのに見た目でまだ苦手意識があるらしい】

【現に顔を見ないよう必死な抵抗を行っている真っ最中だ。肩に手を乗せられると一々感電したような挙動を取って怖気づいている】

不良女「あははははっ!! 見てみ、見てみ! おもしろぉーい!」

男(何が、面白いんだよ。人がビビってるのがそんなに楽しいか? ……いい加減黙り続けるのは止めにしよう)

男「滑稽と思われるのがどれだけ気分悪いか知ってんのかよ!?」

不良女「えっ、あたし、別にそんなつもりじゃ……[ピーーーーーーー]……」

【素で鈍感の道を行っているのは過去の境遇からなのかもしれない。だが、噛みつくのは止してくれ】

男「あぁ!? 何て言ったんだお前、なぁ!?」

不良女「な、何も言ってねーよ……別にからかうつもりでいつもあんたに[ピーーーー]たわけじゃないし」

不良女「だから迷惑と思われてるなんて知らなかったんだよ! 悪かったな、鬱陶しい女でー!」

男「困ったら逆ギレかよ! ハァ……からかうんでもないなら何目的で? 最後まで教えてくれ」

男「分かったらこっちも清々する。もう意味もなく付き纏わられるなんてご免だ、頼むよ……」

不良女「……[ピッ]、[ピーーーーーーーー]」

男「えっと……よく聞こえなかったからもう一度」

不良女「っ~~~~~~!!///」

不良女「あーあーわかりましたっ!! 二度とあんたに近寄らなきゃ文句ねーんだろ!?」

不良女「上等だコラッ! もう顔も見ないし、声も掛けないから安心しろバーカ!」

男「ば、バカぁ~っ……!?」

不良女「おー! さよなら代わりに何遍でも言ってやんよ、バカバカバカっ……ばぁ~~~か!!」

男(ちょ、調子に乗ってこの女!! やっぱり碌でもないじゃねーか!!)

不良女「じゃあな!! っうえ……えぐ……ほんと、[ピーーー]ぁーっ……!」

【罵声を浴びせてスッキリさせるわけでもなく、顔を真っ赤にさせて瞳を潤わせていた。ここで危険信号をキャッチ】

【何が何でも呼びとめろ、もしくは追い掛けてケアに努めろ! 不良女の性格なら意地でも有言実行する!】

男(おいおい[ピーーーーーーーーーーーー]!……アレは俺が泣かせたのか? ウソだろ? [ピーーーーーーーー]! な、泣いてたのか? 女の子を泣かせちゃったのか!?)

幼馴染「男くん、事情も知らずにいきなり不良女ちゃん連れてきたあたしも悪いけど」

幼馴染「とりあえず一緒に謝りに行かない? ……ね?」

男「……い、いや、俺一人で行ってくるから大丈夫」

男(どうしよう、どうしよう。追い掛けてどうしよう? 頭の中がパニックで真っ白になってる。泣きたいのは俺の方だぞ)

【男は重い足取りで呆然と廊下を進む。こんな結果になるとは思ってもみなかった。まさか泣かれてしまうとまで思いもしなかった】

【色んな意味で女泣かせめ、このこの。……なぜ自分までショックを受けているか理解できるだろう? 素直になれないのはお前だけではないのも知っているだろう?】

男([ピーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーー]? 昨日、勉強したばかりだろうが。よく知りもしないで自分の勝手なイメージを相手に押し付けるべきじゃないって)

男(何度同じ愚行を繰り返せば気が済むんだよ。バカは俺の方だ、俺の方だ!!)

先生「男くん? ありゃ、やけに沈んでるみたいだけど」

男「せ、先生……またやらかしちゃいました……」

先生「はい?」

男「ねぇ、俺って何でこんなにバカなんですかね……どうして自分の事しか頭にないんですかね?」

男「もう自分のどうしようもない情けなさに嫌気が差してきます。俺は自分が嫌いだ」

男「嫌いで、大嫌いなのに。いつまで経っても変化なし。いっそのこと邪魔しかしない俺なんて消えてしまいたい」

男「消えたいなぁ……そうすりゃ全部スムーズに運べるだろうに……」

男(俺の中のしがらみが無くなってしまえば良い。これだけで解放される。躊躇もしない。欲望に忠実でいられると思う)

【こ、この程度で自己嫌悪に陥るなよ。だから未熟なんだろうが?】

男(誰か俺を[ピーーーーーーーーーーーーーー])

先生「ねぇ、急ぎじゃないなら個人面談でもしてあげようか」

男「え?」

先生「聞かれたくないなら空き教室に場所移すけど? ……先生、私もね。男くんぐらいの歳頃は数え切れない悩み抱えたもんよ」

先生「今じゃあ良い思い出になっちゃってる筈だけどね。何に関しても悩むって悪いことじゃないわ」

男(綺麗事並べて励ますつもりなんだろ。勝手に語り出した俺に非はあるが、お決まりの言葉なんて必要ない)

男(時間をかけてゆっくり自分と付き合っていけって? 大切なのは今じゃねーのか、今変わらなきゃ一生引き摺るだろ? 違うか?)

男(神さまは何を叶えてくれた? 変わるチャンスだろうが。この世界なら女の子に無条件でモテまくるんだ。惨めな人生と切り離してもらえたんだぞ)

先生「             」

男(聴こえないきこえないきこえない! あーっ、聴こえない! 何言われてるかサッパリだね!)

【豆腐メンタルと厨二病が交わると厄介極まりない。俺がこの男を正してやらないと】

【……ど、どんな言葉を掛けたらいい? ……とにかく落ち着け、不良女なんてチョロいチョロい。逆境をむしろ好感度UPの機会と考えて気軽に話しかけたらいい!】

【後輩も……えっと……お前がその気になればイチコロだ! なんたって天使に面白いとか思わせた男なんだから! 難しく考えるんじゃあない!】

【そうだ! きっと大丈夫だ――――――だから安心して自分を棄てて構わんぞ】

男([ピーーーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー])

【引っぺがしに行こうぜ。あとはお節介な女の子がやってくれるから】

次回は木曜日

男「こんな所で何やってるんだろ、俺」

【乾いた笑いが実にムードとマッチしている。最上階、屋上へ繋がる扉を開ければ暖かく出迎えてくれるでもなく、生憎の悪天候によってそこは半水没気味】

【ほんの僅かでもいつもの安心が待っていてくれると期待していた彼は、つまらなそうに舌打ちを打って校舎内へ引き返し閉めた扉に寄り掛かった】

男(最初は不良女、さん、に謝りに行くつもりだったのだが。……違うか、きまり悪くなって逃げてきたんだろう)

男(後輩に慰めてもらいに来たんだ。あの日みたいに頭撫でてもらえたら救われると考えてる)

男(「先輩は悪くない」、「心配しなくて大丈夫」、「時間が解決してくれる」。そんな優しい言葉に甘えたいと)

男「情けないとか思う前に体が勝手に求めちゃってるんだもんなー。だから自然と足がここに向かう」

【何もかも彼の意思でなのか、俺が強く念じたお陰なのかは知ったこっちゃだが、互いの選択は間違いではないと信じようではないか】

【この行動はきっと俺、否、俺たちの未来へ繋がるとな】

男「……あと五分だけ座っていよう。何もなければ今日はもう帰るんだ」

男「不良女さんにも先生にも悪い事したのに相変わらず俺もブレないな」

男「どうすればこのクズ消せるんだろう? 変わるんじゃない、消したいんだ」

男「徹底的に……ん」

【鞄へ手を伸ばし中からカメラを取り出して放心状態で眺め始める。眺めている内に彼は】

【これをぶっ壊したらどうなると不意に思いついてしまった】

男(これ以上逃げ場を失い追い込まれれば俺もどうなるか分からないんじゃないか?)

男(唯一心の拠り所とも呼べるカメラも失えば自分に何もなくなってしまえるんだ。これをリセットと考えて)

【人格形成から全てやり直そうという魂胆である。極端な話、破壊は創造の第一歩とかいうヤツだろう】

【はたしてこれを止めるべきか、見守るべきか?】

男「こんな物があったから俺はいつまでも……そうか、コイツが俺をずっと縛り付けてきたんだ」

男「父さんは気遣ってプレゼントしたのかもしれない。だけど結果的に俺は昔以上に自分の殻に閉じ篭るようになった!」

男「か、考えたらお前がかなり憎くなってきたなぁ……ううっ……」

【自分を押すような強い思い込みを大好きなカメラへ対する憎悪に変えようとしている。本心では否定したくはないと何度も自制が掛かるが、お構いなしに続けた】

男「お前さえ無ければ俺は自由になれる。邪魔立てしてくる自分も消える! 本当の俺になれる!」

男「今まで世話になったな、精神的支えかと唯一の友達だと思ってたよ!!」

【最高まで自身を煽り立たせた彼は立ち上がり、右手に高く掲げたカメラを壁へ向けて……向けて……】

男「っ~……なんでだよぉぉぉ……!」

後輩「止められては迷惑でしたか?」

後輩「でもコレはあなたにとって大切な物なんでしょう? 違いますか?」

男「そうだよ……文句あんのかよぉ……っ!!」

後輩「外、雨すごいですね。こんなに降っちゃったら先輩の好きな空も見られませんよ」

男「……明日も雨が降るらしい」

後輩「それは残念です。でも、たまにはこういうのも悪くありません?」

男(すぐ隣に後輩がいるのに、来てくれたのに。不思議と気分が踊らない。それどころか今は一人にして欲しいとさえ思ってる)

男(おかしいな、さっきまでとは正反対じゃないか。ワガママがすぎるぞ)

後輩「落ち込んでる理由を尋ねるのは野暮ですか。誰かとケンカしたとか?」

【白々しいがあくまで味方でいてくれるこの美少女が眩しい。今の男に優しさが響いているかは分かりかねるが】

後輩「……ふふっ、黙りですか」

後輩「ねぇ、先輩。実は私 誰にも明かしてないスゴイ秘密があるんですよ」

男「えっ」

後輩「あなただけにこっそり教えちゃおうと思います。でも、妹ちゃんにも内緒ですからね?」

【そう言って男の前に立ち上がった彼女は自然な笑顔を浮かべて驚くべき発言をしてくれた】

後輩「魔法使いなんです、私」

男「…………」

後輩「…………えへっ」

後輩「先輩、何か反応とかないんですか?」

男「…………」

後輩「自分で言っておいてアレですけど……今かなり[ピーーーー]んですが……///」

男「え? 何だって?」カシャ

後輩「な、何でもないです。……はい?」

【素っ頓狂な声を上げて呆気に取られた後輩を無視して男は手に持ったカメラで、その姿をもう一度撮影した】

後輩「ちょっ、ちょっと先輩!? どうして撮ってるんですか!?」

男「たまには良いだろ。それに前に俺の顔を無断許可で撮った仕返しがまだだったからな」

男「魔法使いっ、フッ! まぁ、魔法少女にしよう……それっぽいポーズでも取ってみろよ、可愛く写してやる」

後輩「[ピッ]、[ピーーー]しいから結構ですっ! くっ……///」

【しばらくの間 魔法美少女✩後輩の撮影会が人知れず行われていた。色々な角度から、向きから、シャッター切りまくったわけである】

【撮影慣れしていないせいもあるのか後輩は写されるたびに伏し目がちになり、頬を紅潮させてテレて見せる。スカートの裾を握ってそわそわ耐えている様が、何とも、実に、これまたそそられる】

後輩「もう終わりにしましょう!! おしまいですっ、おしまいっ!!」

男「おおっ!? へへへ、レンズ隠すなって。まだまだこっちは足らないんだからさ」

後輩「わ、私の顔なんて撮らないでください! いつもみたいに雲ばっかり写せばいいのに……[ピーーーーーー]///」

男「いやー、結構堪能させてもらったわ! 被写体が良かったお陰かもしれん!」

後輩「冗談じゃありませんよ、まったく……専門外って前に話してませんでしたっけ」

男「ん?」

後輩「人は面倒だから撮らないって話ですよ。あれはウソだったんですか?」

男「……いや、ウソじゃないよ。今日初めて自分で誰かを写した」

男「明日現像した写真持ってこよう。良かったな、恥ずかしければ自分で処分できるぜ。それじゃあ」

後輩「先輩待ってください。なぜ今まで拒んでいたはずなのに、撮ってくれたんですか……?」

男「魔法使いなら自慢の魔法で俺の心でも読んでみたらいいんじゃないか?」

後輩「……[ピーーーー]ますよ。でもあなたの口から直接[ピーーーーー]ったんじゃないですか」

男「ああ……な、何だって?」

後輩「帰りましょうか。明日も私 ここへ絶対来ますから。さよならです」

後輩「……[ピーーーーーーー]つもりなの?」

【最後に彼女が言い残した言葉を訊き返しはしなかった。難聴が煩わしいと思う気持ちはこの男も俺と一緒のところまで来ているが】

【いまはそれ以上に自分の中で妙にスッキリした気分に浸っていたかったという】

男「これで最後なら悔いなんて一片も残らないだろ、俺」

妹「今日はシチューですかっと……むむ? ねぇ、お母さーん。カレンダーのここに書いてる赤丸なにー?」

父「知らないのか? お父さんとお母さんの結婚記念日だというのに」

父・母「ねー?」

妹「知らないし。ていうかお母さんに訊いたんだし! ふーん、結婚記念日」

男(気持ち悪いぐらい仲が良くなったと思えば記念日まで大切にしだす始末ときた。……おえっ、三人目の子供なんて作られないよな!?)

【冗談でも想像してくれるなよ。お前のイメージはこちらにも全て伝わって来るのだから、と、家族の会話に盗み聞きをしていると妹が肩に手を置いて顔を寄せてくる】

男「ひっ!?」  妹「ひっ、て何よー!」

妹「コホン……たまには夫婦水入らずの時間作ってあげようとか思わない?」

男「ど、どういう意味だよ」

妹「やれやれ、お兄ちゃん? こういう所で気が利かなきゃ女の子にモテないんだよ~」

妹「記念日に旅行に行かせてあげるとかは今からじゃちょっと難しいかもしれないけどさ。デートぐらいは問題ないでしょ」

男(余計なお世話だろうが。まず記念日に拘る意味が分からん。大体両親がデートとか気持ち悪くなってこないのか、コイツは)

妹「その日は私とお兄ちゃんだけになっちゃうけど……あっれ、[ピーーー]っきり……」

妹「それって[ピーーーーーーーーー]!? で、でも仕方ない事だし、えぇ~……///」

男(感情に左右される、で間違いないんだろうな)

男「デートも……記念日は明後日なんだろ? 俺たちに言われたぐらいで簡単には」

妹「できるよ、だから結婚したんだもん」

妹「夜ご飯は私たちで作るなり、買ってくるなり、あとはー……あはっ、ピザ取っちゃうとか! ねぇねぇ、ピザ食べようよぉ~ピザぁ~!」

男「うっ……ぴ、ピザばっかり食べてるとマミタスになるぞ」

マミタス「ふかー!!」

妹「ばっかりじゃないでしょ! 久しぶりだよ! ……むぅ、とにかくお兄ちゃんから二人に言って」

男「はぁ!? お前から言い出したくせに何で俺からになるんだよ! 自分で言え!」

【そこで機嫌損なわせる事もないだろう。お前から行け。そして当日はドキッ妹と家で二人!?イベントを発生させるのだ】

【……いや、幼馴染も加えておけ。まだ幼馴染との絡みが少なすぎる。妹とも絆を深めさせる為にもこれがベストだろう】

【俺の声に耳を傾けるのだ、男よ】

妹「ぶぅ~~~!!」

男「ハァ……わかったよ。言えばいいんだろ? 言えば!」

男「ただし、出前は高いから無しだと思ってくれ。それで納得するなら俺から父さんたちに提案する」

妹「じゃあ夜ご飯どうするのさー?」

男「幼馴染が料理の勉強中とか言ってたからあの子に頼めば……あれ」

幼馴染『はいっ、はいっ、もちろんです!!』

妹「即オッケーでちゃったんですけどぉ」

男「あ、あ…… (何言い出してるんだよ俺は!? よりにもよってあの幼馴染を!? はぁ!?)」

男(微塵でも幼馴染のことが頭にあったか? 自然に口が動いて……畜生ッ、放課後で気ィ抜けちまったんじゃねーのか!!)

妹「幼馴染ちゃんが、当日何かリクエストあるかだって。何食べたい?」

男「(い、今更やめたとは言えない) ……別に今から考えなくても。張り切りすぎだろ」

妹「ん、今度はお兄ちゃんに代わってだってよ。ちぇー、せっかく[ピーーーーーーーーー]にな……うっ///」

男「え?」  妹「な、何でもないよぉーっ!!///」

幼馴染『もしもし 男くん!? あたしは引き受けて全然大丈夫だったよ、腕振るっちゃうから!』

男「(不良女さんの事はとりあえずノータッチか) あ、ああ。期待シテルヨ」

幼馴染『何が食べたい? 好きな物頼んでみて。頑張って美味しく作る努力する! ささ、遠慮なく~♪』

男「だから今から考える必要は」

母「シチューができましたよー。こっちにいらっしゃいなー」

男「……シチューとかでいいんじゃないかな」

幼馴染『シチューかしこまりました! ……えへ、男くんに[ピーーー]よう美味しいの作るんだからっ』

男(明日幼馴染が不良女さんと話せば結局一発でバレる事になるんだろうな。誤魔化しなんて無意味だ!)

男(俺だって謝りたいさ。謝りたいけど、先生の時みたいに上手くいかなかったらと思うと不安しか湧いてこない)

男「ふぅー……こんな自分を捨てる為に決心したんだろ」

【時間は深夜をとうに回っている。男は、暗室に篭もり丁寧にカメラのボディを布で磨きながら独り言を自分に言い聞かせるように呟いていた】

【傍らには先ほど仕上げた後輩の写真を置いて。それを眺めて気色悪い笑顔になるでもなく、ある決意を表した】

男「明日こそ告白する!!」

男「コイツを渡した後に言ってやるんだ。ずっと好きでした付き合ってくださいって!」

男「結果を怖がるなんてもうやめだ! ダメならそれで構わない! コイツを受け取ってくれなくてもいい!」

男「いや、受け取ってもらえないと困るかもしれん……もう決めた事だろうが」

男「……怖いこわい、怖いぞ。下手したら飛び降りるかもしれない。ヤバいな、俺」

男「神さま、どうか俺に可愛い彼女を、後輩をください。あの子が好きで堪りません。今すぐ抱きしめたいです」

男「だからお願いします……無事クズの俺が消えて、新しい真っ当な自分に生まれ変われますように……!」パンパンッ

【後輩の写真に拝んだところで、である。残念ながらそいつは下っ端の方だ】

【それにしても真っ当な自分か……】

【問題ない。美少女ハーレムを目指すのは正統な男児たる証拠である】

次回は日曜でしょう。月曜もいける?

読み方はお任せしますとしか言えないけど、意味不明になってるなら俺が気をつけるしかねーわ
完結したらその箇所教えてくんさい。補完必要なら念のため説明します

オカルト研「……まだ?」

男「もう少し待ってくれ! ええっと (も、もう一度自己紹介なんて求めたら絶対気を悪くする。コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実に)」

男(仕方ないだろ!? 最近突然知り合った女子の数どれだけと思ってるんだ! 一々顔と名前を一致させられるか……消去法で行こう)

【苦肉の策打ち破られたり。脂汗を額にかきながら顎に手を着いて最近の記憶を辿れもパッしたと閃めきがこない】

【日頃の行いが悪かったと一言で済ますのも彼には酷な話である。……いいか? このいかにもな美少女は名をオカルト研という】

男(忘れたと言えないんじゃあ後は誤魔化すが吉だろう。適当な言い訳作ってこの場をやりすご{ピーーー]? [ピーーーーーーーーーーーーーーー]という)

男「んぁ!?」  オカルト研「男くん?」

【巨乳 そして巨尻のナイス安産型だ】

男「巨乳で……巨尻…………そうか、思い出した!! オカルト研さん!!」ビッ

オカルト研「……」カァ~…ッ

男「オカルト研さん! まさかこれも間違ってたのか!? て、ていうか耳赤くないか?」

オカルト研「っー…………えっち……///」

【途端に手で抱えるようにして胸を隠し、尻を抑える真っ赤なオカルト研。ストレートに、そして鈍感に。素質としてはこの頃から十分でしょう】

オカルト研「名前、合ってるわ。てっきり忘れられてしまったのかと。もしそうだとしたらあなたに取り憑いた悪霊と考えていいかも」

男「あ、ああ。たぶんな (大歓迎だ、ご自由に解釈してくれたらこっちもありがたい)」

訂正
オカルト研「名前、合ってるわ。てっきり忘れられてしまったのかと。もしそうだとしたらあなたに取り憑いた悪霊の仕業と考えていいかも」

男「それでオカルト研さん。突然呼び止めて何の用があったんだ? 俺としては早く解放され――」

男「じょおおお、冗談に決まってるだろ!? いやっ、聞き間違えかな!? あはははは!!」

男(このバカ野郎! 本音と建前の使い分けに気をつけろ!)

【美少女との会話に慣れた分、口が緩みやすなっているのかもしれん。都合良くオカルト研が聞き逃していたのが幸いだな】

オカルト研「私のことならさん付けにしないで呼び捨てて貰っていいわ」

男「呼び捨て……じゃあ、オカルト研……っさん」

オカルト研「『オカルト研』で十分よ。緊張しなくともあなたになら馴れ馴れしくされようと許容する」

男(そっちが構わなくても俺の心の準備が整ってないんだよ。ああ、また赤くなってるし)

オカルト研「男くん、私は以前からあなたと出会えた事はけして偶然ではないと感じていた。そう、この出会いは必然なの」

オカルト研「私たちは惹かれ合ってしまったのよ……いえ、私が惹かれたと言うべきかしら……///」

男「はぁ……」

オカルト研「原因はもう判明しているわ。男くんの体には通常では信じられない恐ろしい力を持つ悪霊が宿っている」

男「新興宗教の勧誘でしょうか?」

オカルト研「……どうやら自分では気づいていないみたいね。事の重大さに」

男「お断りします」

オカルト研「あと五分だけでいい。最後まで話を聞かなければきっと後悔するわ」ズリズリ

男「なぁ、いつまで体にしがみついてるつもりだよ!?」

【イベント拒否を更に拒否して返すこの屈強っぷりよ。かれこれ三分は飽きずに男へ引き摺られたままである】

男「……引っ付いている間に十分話は続けられたんじゃないのか? 聞く耳持たないが」

オカルト研「事態は一刻を争うのよ。お願い、騙されたと思って私にかまって」

男「構ってって何だよっ!? 言っておくが騙されたなんて後で思い知らされるなら初めから相手にしないのが俺の性分だ!」

オカルト研「男くん[ピーーーーーー]……?」

男「は? こ、今度はどうお願いするつもりだよ。ふん、諦めたのか?」

オカルト研「違う。そうではなくて、初めてあなたと出会った時よりもあなたが」

オカルト研「……なんだか張り合いがあるっ!!」

男「はぁ!?」

男「(確かにあの時と比べたら変わったかもしれないけど、今は) だ、大体悪霊がどうした? 馬鹿ばかしいと自分で思わないのか?」

男「幽霊とかUFOとか科学で証明できない物なんて胡散臭いだけだろ。幼稚すぎる」

オカルト研「否定するわ。科学は今分かりきっている事の単なる証明の手段にすぎないもの」

オカルト研「人類が踏み入ってない未知を全て科学で説明できる? 認めてこそ初めて私たちは進歩する」

オカルト研「テレビや雑誌でオカルトを小馬鹿にする堅物どもは何もわかっていない! オカルトを娯楽としか見ていないわ!」

オカルト研「そんな愚か者は皆、煉獄の炎に焼き尽くされてしまえばいいっ!」

男「分かったから! 分かったから大声で喚かないでくれ!」

オカルト研「生徒たちの視線が男くんに釘付けね。やはりその悪霊の存在は強大か」

男「どう考えてもお前に注意向いてんだろうがっ!? (流石に付き合い切れるかよ。気の合いそうな奴なら他で探してくれ)」

オカルト研「ともかくよ、男くん。早い話 私なら悪霊を鎮められるわ。その方法はまだ模索中だけれど」

オカルト研「い……いえっ……一つ明らかなのは、男くんが私と[ピーーー]れたら溢れ出る瘴気を抑えられる……かも///」

男「いまなんて――――あっ」

不良女「!!」

【偶然とは時に残酷である。よりにもよって今彼女と遭遇してしまうとは】

【一瞬目があって声を出しかけた不良女は、男とオカルト研の戯れ合いを確認して目を伏せた】

不良女「[ピーーー]。そりゃめいわ[ピーーーーーーーー]思うよな……」

男「まっ……!! (何て言ったんだ!? 謝るよ、だから聞かせてくれ!!)」

【願い届かず、不良女はすっかり塞ぎ込んでその場を後にした。男の伸ばした手が一気に脱力して下げる】

男「……だからさぁ」

オカルト研「男くん……そ、その///」

男「だからどうして俺に分かるように話してくれないんだよっ!?」

男「もう一度訊き返しても何でもないでいつも自己完結しやがるし、そのたび俺がどんな気持ちになってるのか知らないのか!?」

男「お前らが何考えてるんだかこっちはさっぱり意味不明なんだよ!! そのくせベタベタくっついてくるわ、思わせぶりな態度を取るわ……っ」

男「どいつもこいつも理解できねーよっ!! ハッキリ相手に伝える努力してくれよ!? なぁ!? なあぁ!?」

オカルト研「!」ビクッ

オカルト研「……こ、これはまさに悪霊にしわ」

男「っ~~~!! もう勝手にしろっ、じゃあな!!」

男(こっちは本気で言ってる事に耳傾けてやってるのに! それで向こうから逆ギレなんてされちゃあ敵わねーわな!)

男(俺が不良女さんを泣かせた? 違うッ、あの女が勝手に癇癪起こしただけだろうが! それで次の日になってもあの態度か!?)

男(理解不能! 理解不能! 理解不能!)

【難聴スキルに対してを通り過ぎて美少女に憤りを感じているわけか。感情の起伏が激しい奴だ】

【それ見ろ、もう怒りが後悔に変わり始めた】

男「勘弁してくれ。今日は後輩に大切な話をするんだ……」

男「失敗しちまいそうな原因を増やそうとしないでくれよぉぉ、おれぇっ……!」

男(少し、頭が冷えてきたかも……その代わり嫌な気分が満ちてくるな……)

男(でもしょうがないだろ。俺だって、できればあの子たちと正面から向き合いたい。仲良くできるならそれに越した事はないんだから)

男(そんな努力を難聴が嘲笑うように邪魔してきやがる。……本当か? 全部彼女たちと難聴のせいと考えるのはおかしい)

男(俺も悪いんだ。努力だなんて自分に言い訳をして無意味な体裁を守ろうとしてる)

男「やっぱりダメだ。このままの自分を野放しにはできない! 覚悟はもう決まったのだ!」

【近頃感じていたのだが、語尾を『のだ』で締めるとバカボンのパパみたいで複雑だ】

【さて、今日この男は後輩へとある物を渡す。己の未熟と甘えもそれに乗せ別れの意を持たせて】

【上手く受け取ってもらえたら、思いを伝えたいと考えている。成功しようが、しまいがこれで彼は自分を変えられると信じたのだ】

【俺の中で、ようやく何かがガシンと繋がる音が鳴った】

男の娘「男くんっていつも放課後になったら急いで教室出て行くよね?」

男「ああ、それが?」

男の娘「ううん。その時の顔がやけに輝いてみえるから、何か男くんにとって特別な事が待ってるのかなぁーと」

男「話はそれで終わりか? 悪いけどもう行かなきゃいけない」

男の娘「ほらやっぱり!! ま、待って……もしかして恋人とか、じゃないよねぇ~っ」

男の娘「ち、違うよねきっと! そうだよね、うん……少しは僕を[ピーーーーーー]」

母「あら、もうお帰りですか。いつにも増して随分早い帰宅ですね」

【傘を刺すのも忘れてズブ濡れになった男は、家に帰るなり部屋へ戻って行く。いつもか? しかし、今回は放心状態である】

【とりあえず布団へ倒れて無気力になった目で薄暗い空間の中、眩しく発光している携帯の液晶を見つめた】

後輩『本文:ごめんない。急用が入ってしまい今日は放課後ご一緒できません』

男「この事態は予想外だった……」

男「俺の無駄になった意気込みをどこへ当てればいい? 覚悟は? 拍子抜けってこんな時に使うもんだろうか」

男「明日から土日だぜ? 来週同じ気持ちで挑めるかよってんだ。今日勝負しなくちゃスイッチ入らなくなっちゃうだろ」

【延期、急遽中止。面倒嫌いな人間にとってこれほど嬉しい言葉もないだろう。ただの先延ばしだというのに】

【かつてないほどに、男はコレを恨んだのである。今の彼をたとえるなら気の抜けたコーラ、あるいは冷めて固くなったご飯。共通するは不味い】

【マズい。この俺にとっても非常にこの状況は好ましくない。この調子で来週を迎えたところで男は己を捨てようと、奮起しないと間違いなく言える】

【もし俺が想定した最悪のケースが起これば、未来が変わり、俺が消える】

【自分でも流石に大袈裟に考えすぎだろうとは思っていたが、それでも嫌な予感が止まらなかった】

【過去と未来。その過去に置いて全ての行動は未来へ繋がるものである。俺はここから見て未来の世界から来た男だ】

【だからこそ繋がりへ至る全てを観測し、矛盾を見つける事ができる。……もし男が後輩へアレを渡さなければ? 後輩とこれ以上の進展が何もなくなったら?】

【これってタイムパラドックスじゃね?】

【過去の自分に対して干渉が効く時点で普通の追体験ではないと気づいていた。そこから次に考えられる線はと頭を働かせ、俺は意識だけのタイムトラベルを果たしているのではと今は疑っている】

【証明するにはこの男の行動を見守るだけか、こいつに人殺しでもさせてみたらいい。不可能なら簡単なところで、俺が美少女たちから聞かされた過去での出来事をねじ曲げさせてみたり】

【それを行わせないのは未知へ対する恐怖が俺のストッパーになってくれていたからだ。だから、筋書き通りのシナリオを彼に辿らせている。……下手すれば既にあってはならないイベントを通過させていたかもしれん】

【とにかく未来へ繋がる話を彼へ作らせれば矛盾を回避できる筈、そう信じた結果がここまでの思惑である】

【ふむ……何故そこまでやろうとするか? 決まってるだろうが、自分の時間に帰るためだ!】

【この追体験はいつまで続くんだ? 一週目が終わり次第、自分の時間で目を覚ますのか? 本当か!?】

【後輩は「あなたがこの世界へ来てからの全てを思い出す」と言ったのだが俺の勘違いだったかな!? 全てって、一週目も二週目も……ひょっとすれば三週目も含んでいるとは考えられんかね!?】

【箱を開けたその時までこの体験が続くかもなってどうだろう!? 大当たりしたらヤバいってレベルじゃねーぞ!!】

【だ、だって……少しでも『男』がミスをしたら矛盾が生まれて世界が分岐するじゃないか……未来が変わって、俺まで変わっちまう】

【後輩はこの危険を重々承知の上で開けろと言ったのかよ。なら、全部正直に説明して欲しかったぞ! 大事なところを濁しやがって!】

【……落ち着け。後輩は結局難聴スキルに阻まれるのを理解していたから言わなかったじゃなく、言えなかっのかもしれん】

【あるいはやはりこのタイムトラベルは想定外だったとか。本来ならば箱を開けるだけで記憶が戻り、それで終わっていたか……ちょっと待てよ】

【これまで自分の中で頻繁に騒いでいた『何か』。そいつをタイムトラベル説を絡めてよく考えてみたら……ふふっ】

【それでは不自然だろう……というか、おかしな話になってしまう…………とにかくこの男を動かさなければ】

【届いたメールを永遠眺めていたって後輩はやって来てくれんぞ。それより妙じゃないか? 連絡先を交換した覚えも、登録した覚えも一切ない彼女からメールが名前付きで届くなんて。なぁ、男くん?】

たぶんまた明日

【急用とやらを察するに内容は神の使いとしての仕事に関係しているのでは?】

【『後輩というキャラクター』として男以外からの頼みを優先するのは彼女にとってメリットがほとんどない。人間関係構築など、男の娘家族へ自然に入り込めたのを見るに、自分の好きなように改竄ができておかしくない】

【そして……何より直接口頭で伝えようとしなかったのが気がかりだ。無理にでも引き止められてしまうと考えた結果あえて文章のみだったのかもしれん】

【こちらに構う余裕はない本当の急用となれば、他に思い当たる節がない。これを前提にどうにか男から後輩を接触させる必要があるとなれば……】

男「俺、いつの間にアイツの連絡先聞き出してたんだろ?」

【こっちも冷静を取り戻してきたか】

男「あのお節介な妹がこっそり仕込んでたのかもな。あはは、やっと気が利いた」

男「ん……向こうが知ってたって事はまさか後輩が妹に頼んだ? そうでもなきゃ有り得ないし…………マジなら嬉しい」

【この程度でほくそ笑んでいて良いと思っているのか。お前にはどう転ぼうが俺の知る男のシナリオ通りに進んで貰わなければ困る。もはや死活問題だ】

【今から外へ出て我武者羅に後輩を探すのは無理だろう。悪戯好きな後輩の事だ、呼び掛けに応えて偶然を装い現れてくれる可能性があるかも分からんが……賭けてみよう】

【ここは一か八か、彼女の興味を引かせて今日中に重要イベントを起こさせる。届いたメールにはきっちり返事をしなくちゃな、男よ】

男(いやー……後輩、今頃どこで何やってるんだろ。用事とか言って実は[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーー]、[ピーーー]よ)

男「やっぱり、どうしても会いたいな。諦められん」

男「迷惑と思われなけれりゃいいんだけど」

男『本文:そっちが忙しいのを承知で頼みがあるんだ。伝えなきゃいけない大切な話がある。時間があれば返事をくれ』

男「ああー、どうしよう。送るの躊躇するわ!」

【構わん、送信だ】

男「っ~……ええいままよ!! ダメで元々ぉー!!」

男「あっ、あわわわ、送っちまった送っちまった! 大切な話とか大袈裟だったんじゃねーか!?」

【気にするな。真剣な気持ちが伝わりさえすれば今回は文章に拘る事はない。あの天使へ純粋な興味を持たせるのが重要だからな】

【これで完全に彼は逃げ場を失ったともなれば助かるが時間が経てばそれだけ決心も揺らいで、いざとなった時に何でもないと流される恐れがある。短期決戦が望ましい】

【しかし……流石に物の数分で返信されるとは思っていないが、まだか。今何時だ? ……メールを送ってから10分か】

男「来ない、な。落ち着かない。早く来てくれ、じゃないと俺は」

【――――声が聞こえる。とても近く、すぐ耳元、頭の上から】

?「……きて……おきて…………」

【男の頭がぼうっとしているのが伝わる。脳が半覚醒状態というべきか。つまり、こいつは途中から……居眠りしてやがったのである】

【貴重な時間を無駄にするとは何事だと叱るべきところ、が、繰り返し頭に響く声の主に気づいて安堵させられた】

【計画通りじゃないか、と】

後輩「起きてくれないんですか、先輩?」スゥ

男「ふぇ……お、うぅんっ!!?」

【ゴツンッ!! 瞼を開いてすぐ目の前に喉から手が出るほど欲しかった美少女の顔。動揺から勢い良く体を起こした結果、二人は頭を衝突させたのであった】

後輩「っうぐ~……!」

男「ななな、な、何でお前がここにいるんだよっ!!」

後輩「先輩しーっ。妹ちゃんたちに私がここへいるのがバレちゃいます」

男「不法侵入か!?」

後輩「し、失礼な! 用事を済ませた帰りに偶然妹ちゃんたちに遊ばないかと誘われたんですっ!」

後輩「話を聞いたらこれからみんなで彼女の家に行くと言うから、誘われてここに来たんですよ」

後輩「丁度いいかなと思って……うーん、私はしっかりメール返した筈なんですけどねぇー?」ジロ

男「えっ? あ、本当だ。悪い、気がつかない内に眠ってたみたいで……ていうか」

【耳を澄ますと隣の妹の部屋からきゃぴきゃぴさせた数人の女子の声が聞こえてくる。ヒロインとモブの絡みとは中々貴重じゃないか】

後輩「いまみんなで恋愛相談とかに夢中みたいですよ。私はそういうの苦手だから少し抜けてきちゃったんですけど」

後輩「もし、この部屋で先輩と二人っきりだとバレたら……ふふ、どう思われちゃいますかね。私たち」

男「!!」

男(展開が突然すぎて理解が色々追いつかん! あの後輩が俺の部屋に? 夢じゃないのか?)

男(ま、間違いない。この試すような悪戯な笑顔を浮かべるのは……来てくれたんだ)

男「……」

後輩「いきなり一人でニヤついてどうしたんです? 正直不気味な様相なんですが……」

男「何でもない。何でもないんだ。ただ、ちょっと嬉しくなっちまって」

後輩「相変わらず変な先輩。さっき頭を打った時にもっとおかしくなったとかじゃありませんよね」

後輩「それとも私が会いに来てくれて嬉しいんですか。なーんて、ふふっ!」

男「その通りだが文句あるのか?」

後輩「えっ……」

後輩「お、大声上げて人を呼びますよ!!///」

男「はぁ!? 静かにするようさせてきたのはそっちだったろうが!?」

後輩「それより!! 私に大切な話があったんじゃないんですか……トイレに行くと席を開けてきたのであんまり遅くなると」

【後輩は口元を手で隠しモゴモゴそう言い終えると、壁越しに隣の部屋を気にして見せる。思わぬ反撃を食らった事から動揺したみたいだが】

【少しずつ この天使にも変化が現われ始めたのかもしれないと睨んだ。人と深く接する事により、何らかの刺激を受けたか。またはこの男が】

男「遅くなると、さてさて、どうなるやら……?」

後輩「っぐ、話す気がないならもう向こうへ戻りますから!///」

妹『後輩ちゃーん?』

男・後輩「!!」

妹『あれー? 中に入ってないの? もしもーし』

【帰りの遅い後輩を心配して妹が外で呼びかけているのだろう。何度かノックの音とともに後輩の名前を適当に連呼している】

【一方、二人は咄嗟にお互いの口を手で塞ぎ気配を消す事のみに専念していた。見つかったところでどうとでも誤魔化せるかもしれないが】

【面白いので外野は口出ししないでおこう。野暮でしょう?】

男「どうするんだよ、バカっ……お前がデカい声で騒ぐからこんな目にあうっ……!」

後輩「全部私に擦り付けるんですか!? どのみちこうなると分かってたんですから、もたもたしてた先輩の責任でもありますっ……!」

男「と、とにかくアイツが部屋に戻るまで大人しくしてよう。話はそれから。いいか?」

後輩「うっ……///」

後輩「どうして私が[ピーーー]程度に[ピーーーー]しなくてはいけないの……っ」

男「はぁ? 今なんて言っ――――――」

【妹の足音がこちらへ近づいてきた。諦めて自分の部屋へ戻るのかと思いきや、である】

男「こ、この中に入れ!! 早くっ!!」

後輩「えっ!? ちょっと せんぱ、きゃっ……!」

妹「お兄ちゃーん」ガラッ

妹「ありゃ、電気つけたまま昼寝してるのか」

男「おい……俺は口煩く何度も何度もノックしてから入ってくれと頼んでたよな、違うか?」

妹「あー、なんだちゃんと起きてるじゃーん。ここに私の友達間違って来てたりとかしない?」

妹「後輩ちゃんって言うんだけど、これぐらいのショートカットで、身長は私より少し上ぐらい。真面目そうな子」

男「み、見てないなぁ~? 親に呼び出されたとかで家に帰ったとかじゃないのかっ?」

妹「そんなわけないよ、玄関に靴置いたままだったし。何も言わないで帰るような子じゃない……ところで」

妹「布団、気のせいかいつもより膨らんでない?」

男「気のせいなんだろ!?」

妹「き、気のせいだけど……ん~?」

後輩「……」モゾ

【それなりに大きな羽毛布団だったのが幸いとしたか、後輩と自分が入っても体が出ることはなかった】

【兄の怪しげな様子に疑わしそうに妹は部屋の中へ足を踏み込み始める。簡単に身動きが取れなくなってしまった男は額に汗を流し、引きつった表情で彼女を目で追った】

男(だから勘のいい奴は嫌いなんだよっ……お願いだから早く出て行ってくれ……!)

男(もし布団を捲られでもしたら俺たちは――――!?)

後輩「ねぇ、先輩の大切な話ってもしかして愛の告白とかですか?」

【奥へ引っ込めさせた筈の後輩がすぐ傍まで身を乗り出して、ひそりと男へ語りかけてきたのである。形勢逆転を勝ち誇った、そんないつも以上に悪戯そうな顔をして】

【やられっぱなしは性に合わないという事だろう。天使は皆子どもっぽいのか? というか、彼女も生まれほとんど間もなかったり、とか】

男「お前っ……いまは黙って隠れてろっ……!」

妹「何か言ったー?」  男「言ってなぁーい!!」

後輩「どうしたんですか、急に赤くなったりして。ひょっとして照れてます?」

男「そ、そんなわけないだろっ……!?」

後輩「そうですか。私はてっきり図星を指摘されて慌ててるのかなぁーと……ね?」

男(こいつ何企んでやがる!? 妹にこんなのバレて構わないっていうのか!?)

男「……すぐそこに妹が立ってるんだぞ。見られたらどうするつもりだ、後輩」

後輩「さぁ、どうしましょうね。先輩は困るんですか?」

男「こ、困るというか……マズいだろ。お前は妹の友達なんだから……」

後輩「へぇー、妹の友達に手を出したらいけない事になっちゃうんですかね?」

後輩「ふふっ」

男「後輩、お前ドエスなのかよ……っ!?」

【美少女に虐められるならばご褒美じゃないか。だが、エスとエムは表裏一体であることを忘れるな】

後輩「あは、何だか楽しくなってきちゃいましたね。先輩はどう?」

男「いい加減にしないと俺は怒るぞ……」

後輩「先輩が[ピーーー]んですよ。私をあんなに[ピーーーー]させた罰なんですから」

男(まさかこいつ怒ってるのか? い、いや、そんな風には見えない。み、密着しすぎだろ)

男(右半身に後輩の体が触れている……太もも辺りに後輩の股が……ダメだ、意識しないように思うと益々向いてしまう……)

男(図星だとも畜生!! 分かり切った上でからかってるとしたら相当ビッチじゃねーか、何がしたいんだよ!?)

【そりゃあ虐められたいに決まってるだろう】

男「……よし、わかった。じゃあこれから布団を捲ってアイツにお前を見せる」

後輩「はい?」

男「どうせ俺にはやれる筈がないと踏んでるんだろ。甘かったな、もう耐えられそうにない」

後輩「ちょ……ちょっと待ってくださいっ、早まった真似して大変な事になったらどうするんですか!?」

男「どうなるだろうな、見当つかないよ。どうした困るのか?」

後輩「わ、私がというか、先輩の方が……!」

男「俺は妹の友達に手を出した。それを事実と受け入れるしかない。ところでさっき大切な話が愛の告白だとか言われたが」

男「当たりだよ、図星だった」

後輩「っ~~~~~~!!?///」

男「俺は今日後輩に告白つもりだったんだ。だから、お前がウチに来てくれて本当に、本当に嬉しかった」

男「ずっと好きだった。迷惑と思われるかもしれないって、拒絶されるかもと不安で心の中に仕舞ってたつもりだよ」

男「でも、とっくの昔に気づかれてたのかもしれないな……だからお前から言い出してくれたんだろ?」

後輩「えっ、その……わ、私はそんな、べつに……!」

男「い、一度だけしか言わないからよく聞いておいて欲しい。後輩」

男「だ、大好きだ」

後輩「あっ……う……っ!?///」ビクッ

男(うおおおおおお、うおおおおおお……言ったのか、俺? 計画していた順番間違えてないかこれ?)

男(やったのか!?)

【お前はやったよ! 元俺のくせに脅かしやがって!】

妹「あの聞いていいかな。お兄ちゃん、さっきから一人でなにブツブツ喋ってんの……」

男「お前は早く出て行ってくれ!! 眠いんだよっ!!」

妹「よ、よく分かんないけど後輩ちゃんが来たらトイレは二階にもあるよって言っといて……」

後輩「っー……///」

【妹がこの部屋を退散してからというもの、後輩はまるで借りてきた猫のようになっている】

【小柄な体が更に小さく見えるほど畏まりうわ言のように胸を抑えて言葉を繰り返すのであった】

後輩「胸が[ピーーーーー]する、[ピーーーーー]する、[ピーーーーー]する、[ピーーーーー]するっ……」

男「後輩?」

後輩「ひゃいっ!? ……な、何でしょうか」

男「大丈夫か、アイツもう部屋に戻ったから平気だぞ。だから話の続きをしていいか」

後輩「ご、ご自由にすればいいじゃないか。黙って聞いてますから!」

【こほんと小さく咳払いして調子を取り戻そうとするも、珍しく真剣にまっすぐな目を向けている男に視線を上手く合わせられず羞恥心にかられたままである】

【天使ちゃん同様、自分の中に初めて芽生えた感情に戸惑っているのかもしれん。天使である彼女にはまだ理解が及ばないのだろう】

男「これ、約束通り昨日撮った後輩の写真。綺麗に現像できたつもりだ」

後輩「このタイミングで何の嫌がらせですかっ!?///」

男「嫌がらせじゃないよ。でも、気に入らないならお前の好きにしてくれて構わん。捨ててくれ」

後輩「そ、そんなのズルいじゃないですか……捨てるなんて無理だよ……」

後輩「……大事に、取っておきますから!///」バッ

男「あ、ありがとう?」

進まんがここまで

男「しつこくて悪いが本当にお前大丈夫か? 調子悪そうに見えるんだけど」

後輩「自覚[ピーー]のが厄介っ! あのですね、あんな突然突拍子もないことを口走られたら誰だって!」

後輩「……誰だって」

男「ほら、やっぱり様子がおかしい。それもこれも俺のせいだっていうのか」

【台詞だけならば違和感を感じるほど鈍感MAXレベルだな。だが、どうも自然な疑問でもわざとというワケでもないらしい】

男(上手く言葉が喉から先へ出てこない。時間も残されてないんだ、言わなくちゃ、渡さなくちゃ、頼むから落ち着いてくれよ)

男(既に告白は済んでいる!! 今更あーだこーだと悶えてどうする。……頭の中が真っ白になりそう)

【一瞬でも気を抜けば『後輩の前で堂々としている男』が崩れてしまいかねない。平静を保つのがやっとで、彼女のことを考えてやれていないのである】

【まぁ、両者とも頭いっぱいで四苦八苦な真っ最中なのであった】

後輩「あなたにはこの私がどう見えてますか」

男「え?」

後輩「どうなっちゃってるんでしょうか。最近ずっと変なんです……あっ」

後輩「ごめんなさい!! 私の事なんかよりも先輩の話を続けて!?」

男「で、でも……俺が相談に乗って後輩が助かるならさ、力になってやりたくて」

後輩「いや、やめて……く、くださいっ……///」

男「俺が悩んでた時はいつも屋上にお前が来てくれて励ましたんだ。歳下の女の子にあれだけ世話になるなんて情けないかもしれないが、感謝してる」

男「だから惹かれたし、勇気振り絞って告白もした。お前は俺の中で特別な存在だよ」

男「……というのは流石に迷惑か?」

後輩「[ピーーーーーーーーーーー]!? [ピーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]!?///」

後輩「[ピーーーーーーーーガガガガッ]っ!!///」

【彼はライフポイントをどれだけ削れるか挑戦でもしているのか】

男「すぐ妹たちの所へ戻っても、遅れて戻っても変わりないと思う。その気があるならで構わない。話してみてくれないか」

男「話はそれからで十分だ。なんなら……日を改めてもらっても」

後輩「な、何をいまさら良い先輩面しようとしてるんです!?」

後輩「無理してカッコつけようだなんて笑っちゃいますねっ!! あは、あははははっ!!」

男「好きな相手の前でカッコつけたって罰は当たらないだろ。好きになって欲しいんだから」

後輩「もうやめてー……っ!///」

【手玉に取られると一気に脆くなるな。可愛いじゃないか、らしくもなくジタバタとかしちゃって】

後輩「……す、好きになるとはどういう事を言うんですか……ほら、聞かせてくださいよっ!」

男「お、俺が答えられると思うか!?」

後輩「助けたいんでしょう? 力になりたいんでしょう? カッコつけたいんでしょう?」

後輩「先輩が私へ本当に好意を向けてくれているなら、簡単に説明できるんじゃないですか!!」

男「あ、ああ……まず、後輩と一緒にいると安心するんだ」

男「心に余裕ができる気がするし、会話していても落ち着ける」

後輩「そんなの私じゃなくたって他の誰かでも代理が務まるのでは?」

男「後輩だからだ。だけどさ、安心するけど、時々凄く落ち着かなくなる」

後輩「む、矛盾してるじゃない……」

男「それは居心地の悪さとか怖いから来るんじゃないと自分では思う。だって終わりなんて一生来ないでずーっと傍にいれたらとか自然に願ってるんだぞ?」

男「この瞬間だって1秒も時間が進まないで永遠に続いたら良いなと考えてるよ」

後輩「ずっとだなんて……もう家族じゃないですか、それ」

男「そうだよ。大袈裟に言わせてもらうと俺は後輩と家族になりたい。時間を共有していたい」

男「なんて理屈臭い話はどうでもいい。俺はお前をどんな美少女よりも可愛いと思ってる!!」

後輩「は、はぁ……///」

男「そんな子と恋人同士になれたらもう幸せしかないじゃないか! だって自分が一番だと思ってる女の子の彼氏なんだから! ……すまん、説明になってなかった。無理だ」

後輩「……いえ、別に」

【男の話を聞き終えて一層困惑して見せる後輩。彼女が期待していた答えは得られなかったのだろう】

【人間の恋愛感情について自分は表面をなぞる程度の知識しか持っていない。天使には理解が及ばない範囲にあった、といったところか】

【今の後輩が恋を意識しているとは思えないし、とにかく男を夢中にさせる事だけを考えていた。だが……これで自身に芽生えた説明しようのない感情を知るために】

【より急接近で手探りな日々が始まるのであろうな】

後輩「先輩、私はあなたをもっと知りたい。そうする事で自分[ピーーーーー]かもしれない」

男「何だって?」

後輩「お付き合いしてみましょうか、私たち。私が先輩の彼女さんになって、あなたが彼氏さんになる」

男「……待って」

後輩「好きです。少し簡単に言いすぎましたか? 付き合うってどう始めたらいいのかな……?」

男「待ってくれ!! お前、それはさっきの告白の返事なのか!?」

後輩「はい、そのつもりですけれど。好きです先輩」

男「……叫んでいいかな?」

後輩「は?」

【咄嗟に枕を掴んでそこへ顔を埋めると、喜びとは形容し難い雄叫びを発した。隣に後輩がいるのもお構いなしに彼は狂ったのである】

男(我が世の春があああああああああッッッ!!!!)

男「はぁ、はぁ……ああっ、最高だ……!」

後輩「嬉しいんですか?」

男「えぇ……?」

後輩「念願叶って私なんかと恋人同士になれたのが狂喜乱舞するほど嬉しいんですか?」

【調子を取り戻すを越えてまるで機械のような無機質な様子で淡々と尋ねる後輩。男は高ぶるテンションを抑えきれずそれを構っていられなかった】

男「むしろショックを受けなきゃ変なのか!? こんなに嬉しい事はないぞ!!」

男「ありがとう、ありがとう後輩! 俺はお前を幸せにする! だからこれからも末永くよろしく頼む!」

後輩「……ふふっ、幸せに[ピーーーーー]なたの方ですから」

【ふむ、難聴スキルが発動している? 男に都合が悪い言葉だった為か?】

男(喜びすぎて思わず小便漏らしそうになっちまった。本当に良かった、成し遂げたんだ)

男「(でも) 後輩、切りのいいところでまた申し訳ないんだが受け取って欲しい物がある」

後輩「その前に先にお話から聞いても構いませんか? 私も先延ばしばかり食らってると……」

男「あっ……うん、そうだよな。真面目な話ばかりになるのも嫌かと、な」

男「今回も甘えた自分勝手な相談なんだ。笑われても仕方がない、でも こういうのはこれっきり最後にしようと思ってる」

後輩「ん……どうぞ?」

後輩「今の自分を変えたい、ですか?」

男「最近気づいたんだ。俺って自分のことしか頭になくて、都合悪いことからは逃げてばかりいる」

男「いつも他人を遠ざけようとして勝手なイメージで罵ったりもして、これって禄な人間じゃないだろ?」

男「だから俺は真人間になりたい。ようやく後輩とも付き合えたんだから甘えた自分を捨てて、今度はお前に頼られる存在になりたい」

男「口では簡単に言ってるけどな……本気で悩んでたよ。とにかく俺の為に、いや、俺たちが幸せになる為にも変わらなくちゃって」

後輩「本当に?」

後輩「今のままでも、十分幸せでいられると思いませんか。私はこうしてあなたと過ごす何気ない時間が楽しい」

男「その何気ない時間も今以上によくなれる! お前だってこんなに惨めな屑野郎が彼氏とか勘弁だろ?」

後輩「惨めだなんて言わないでくださいよ。言われるこっちの身にもなってみて欲しいものです」

男「わ、悪い! だけど本当なんだよ。このままじゃきっと気掛かりで満たされない」

後輩「……満たされないってその気持ちは確かなんですか。私だけでは不十分?」

男「いやっ、違う!! 別にそういうわけじゃなくてだな!?」

後輩「ふふっ、冗談です。ちょっと悪戯してみたくなっちゃって。すみません」

後輩「…………ありますよ。自分に自信を持てる方法」

【不意にデジャブを感じる。この流れは、どこかで、いつだったか……ああ、合宿で見た夢の内容か】

男「あ、あの自分に自信を持たせるとかじゃなくてだな。俺はいまの自分を変えたいと」

後輩「先輩」

男「はい……怖い顔するなよ。これはただの前座みたいなもので……ん」

【予め小さな袋の中に収めておいた例のブツ。先に見つからないよう背中の後ろへ隠していたのだが、意を決した男は】

後輩「協力してあげましょうか? あなたが望むならそれを叶えるのも私の[ピーーーー]」

男「受け取ってくれっ!!」ズッ

後輩「……何ですか急に」

男「怪しい物なんか入ってたりしないぞ。ほら、俺が屋上で使ってたカメラ」

男「へへ、昨日綺麗に磨いておいたから新品とまではいかないが……似た物があれば買おうかなって前に話してただろ?」

男「俺のお古で良ければ貰ってやってくれ。必要な物は全部同じ袋に詰めておいたぞ」

後輩「……それ、大切なものでしょう? ダメです。受け取れませんから……」

男「ああ、大切だよ。コイツが俺の全てってぐらい大事な物さ。だからこそお前に受け取って欲しい」

男「自分の中で決着つけようと思ってな。このカメラがあると俺はいつまでもコイツに甘えちゃう思う」

男「だから断つ。そしてまずは友達作ってみようと考えてるんだ……彼女が先って順番おかしいかね? へへっ」

後輩「[ピーーーーーーーーーー]」

男「後輩、いま何か言ったか?」

後輩「……いえ、何でもありませんよ? それじゃあ」

後輩「預からせてください、それ」

【男が伸ばした手から袋を優しく受け取ると先ほどとは打って変わって柔和な笑顔を浮かべた】

【後輩にはこの男の思考が手に取るように分かる。何を考えているか、何を思って動いたのか】

【ならば、ちょっぴり寂しそうなその背中の意味ははたして】

後輩「先輩、少しの間だけ目を閉じていてくれませんか」

男「……またこういう展開か。いや、でも」

後輩「私が魔法使いだと前に教えましたよね。覚えてます?」

男「かなり印象に残ってるし、忘れる筈がない。あれは落ち込んでた俺を励ますための冗談だろ?」

後輩「じゃあ今だけは私を本物の魔法使いだと信じて言う通りにしてください。目を閉じて」

男「お前って結構不思議ちゃん入ってたり……いや、言う通りにしますとも」

男(寝る時以外に、しかも人前で目を閉じるなんて緊張しかない。余計に後輩の気配を感じてソワソワしてくるというか)

男(これから何されるっていうんだ?)

後輩「一言も返事をしないで聞いてください。……あなたはあなたが好き、自分は優れている、人を恐れない」

後輩「人を尊重する心を忘れない、欲望に忠実である、優しい人」

男(もしかして催眠術の真似事か? 自信を持たせてくれるってそういう? 深層心理に呼び掛けるとか)

男(オカルト研に後輩を紹介したら喜ばれるかもな。こういうのも所謂オカルトの類みたいなものじゃないか? ちょっと違うか?)

後輩「誰からも愛される、あなたはあなたが好き、欲望に忠実である」

後輩「信念をけして曲げない、欲望に忠実である、憧れていた存在はあなた自身」

後輩「あなたを中心にして全てが回っている、信念をけして曲げない」

男(同じ言葉が織り交ぜて繰り返されるのはどういう意味があるんだろうか。強調させてるだけか?)

男(なんだか、よく分からなくなってきたかもしれん。頭の中がぐるぐるしてきた)

後輩「私の言うことを聞けないあなたはあなたではない、辛い過去は何も残らない」

後輩「ほら、重いものがなくなった」

後輩「体が軽くなった。辛い思い出はどこかへ行って、あなたの中から抜け落ちました」

後輩「自分を縛る嫌な記憶は全部忘れてしまいましたよ。それがどこへ行ったのかあなたは思い出せなくなる」

後輩「覚えていて良いのは私に言われたことだけ」

【真っ暗な視界の中、後輩の声だけに耳を傾けているのは非常に気持ちが良かった。子守唄のようにいつまでも響くソレへ男は我を失う】

【真似事ではなくモノホンの催眠術ではないか。彼女の力も関係しているかもしれないが】

【俺へ効果が現れそうにないのは置いておくとして、この男はすっかりウットリである】

【段々と体が規則的に前後に揺れ始め急激な眠気が襲ってきている】

後輩「もう安心してください、先輩」

後輩「ゆっくり、ゆっくりとあなたはこの世界へ馴染んでいきます。ゆーっくりと」

後輩「これは変化ではありません。あなた自身は何も変わらない。ただ私に従っているだけ」

後輩「従っているだけであなたは心の底から満たされていきます。幸せですね」

後輩「はい、おやすみなさい――――」

【……気がついた時には後輩の姿が見当たらなかった。階下から母親が自分を呼ぶ声に目を覚ましたのである】

【口元に垂れた涎を乱暴に拭うと、寝ボケた頭でこの部屋で起きた出来事を振り返った】

男「後輩が俺の彼女になった、とかは夢じゃなかろうな」

男「さて……どこまで覚えている? メールで呼び出したアイツが部屋にいて、布団の中でドッキリ密着愛の告白をして」

男「見事成功したワケか。めでたい、実にめでたいじゃないか。母さんこの不肖な息子へ赤飯を炊いてくれ!」

妹「今日はグラタンだよー?」

【天使の催眠術ってすげー】

男「昨日はいつ後輩が帰ったんだ?」

妹「えっ、いつだったっけ……よく覚えてないなぁー」

妹「ていうか私の友達いきなり呼び捨てるとかありえないんですけど!」

男「お前のものは俺のものだろ。言い忘れてたがアイツとは前に知り合ってたんでな、聞いてないのか?」

妹「う゛えっ!? 聞いてないし……[ピーーーーー]なんか、してないよね?」

男「え? 何だって?」

妹「何でもないっ!! 後輩ちゃん可愛いけど絶対変なことしないように! んっ、約束して!」

男(妬いているのか、美少女も相まって可愛さ倍増だな。頬っぺたまで膨らませてムキになったりして。意地悪したくなっちゃうではないか)

男「お前の言う変なことの詳細を是非聞かせて頂きたい。教えてくれないとどの線から跨いで悪いのか分からないだろ?」

妹「ぐ、ぬぬっ……!! そ、それより今日は記念日なんだからね。どーせお兄ちゃんのことだから忘れてるんでしょ!?///」

男「残念ながらお兄ちゃんは物覚えがずば抜けて良いらしいぜ。それじゃあ幼馴染が来たらよろしく言っておいてくれ」

妹「へ……今日は土曜日なんですけど。学校お休みなんですけど」

男「俺が休日に外出すると隕石でも降ってくるのかな? じゃあな、留守番頼む」

妹「うそぉー……」

【お、おう】

【昨日の一件はある重要な事を除き、彼の記憶に残っていた。何事もなく堂々振舞っている彼が別の生き物のように見えてならない】

【この様変わりを天使ちゃんが観察すれば怪しまれるのでは? まだ目立った行動は一つも起こしていないが、言動が極端に自信に満ち溢れすぎている】

【な、なんだか大人の階段を一歩登っちゃったみたいな、謎のうら寂しさを感じてならない。……自分の部屋大好き男くんがなぜいきなり外出してしまったか。時は今朝まで遡る】

男「前までは眺めるだけ虚しさしか得るものがなかった俺の携帯電話帳。素晴らしく潤ってるじゃねーか」

男「……起きててくれたら助かるが、どうかな?」ピッ

不良女『……なによ?』

男「もしもし。顔も見ないし、声も掛けない。二度と近寄らないなんて言われたから試しに電話を掛けてみた」

男「出てくれたという事は俺の話を聞いてくれるかもしれないと考えても間違いないか」

不良女『と、友達かと思って間違って出ちゃったんだよ! あんたと分かってたら』

男「自分から無理やり連絡先を訊いてきたのはどっちだった? それとも番号だけの登録なんて味気ない真似してるのかね?」

不良女『ぐっ……どうでもいいから話は何なんだよっ!///』

男「ああ、電話だと上手く伝えられそうにないと思うから直接会おう。午後からは平気か?」

不良女『は、はぁ!? 会うって、あたしとあんたが!? 何考えてんの!?』

男「その考えを直接面と向かって言おうと思ってる。いいか、二人だけの話だ。他は誰も連れて来てほしくない」

男(特に、幼馴染、とかはな)

不良女『今日は、バイトがあるから無理』

男「時間は取らせない。長くて10分程度に収まるよう努力する。それでも無理か?」

不良女『……遅刻したらお前のせいだからなっ!』

男「それで構わん。じゃあ場所は――――」

【昨日まで取り憑いていた男は死んだのか? コイツは何者だ、宇宙人か。……俺なのか?】

【違う、俺とはどこかが異なって見える。喋り口調こそ似てはいるものの何かが、決定的に】

【とにもかくにも彼は不良女へ一方的に約束させた場所へ着く。駅裏にある公園で人目はそれなりにつかない『二人きり』を狙うなら悪くはないだろう】

不良女「あのさ、呼び出しといて遅れてくるなんて信じられないんですけど?」

男「俺の家からここが遠いのが悪いんだろ」

不良女「場所指定したのお前だったじゃねーかよっ!!」

男「……俺の顔見てどう思う? 話してどう感じる? ムカつくか?」

不良女「な、何だよいきなり気味悪ィ……[ピーー]に」

男「何だって?」

不良女「別にどうとも思わないし、感じない!! そんな事わざわざ訊くためだけに呼び出したのかよ……っ」

男「いや、頭を下げに来たんだ」

【言うが先か、男は地面に膝をつき手をつく。困惑する不良女をお構いなしに見据えると】

男「……ごめん」

不良女「えぇ!? お、おい、リアル土下座とか……やめろってば……!」

男「自分で言うのもなんだが俺は不器用な奴だ。お辞儀しながら平謝りじゃ安っぽいと思って」

不良女「だから土下座しましたって!? 頭おかしいんじゃねーの!?」

男「そう見られても構わない。だけどその前に二つ、どうか聞いてもらえないか」

男「俺は無神経にお前を傷つけて、あわよくば時間が解決してくれるだろうと放置を考えていた」

男「まずはそんな自分を戒めたいがための土下座だ。そしてもう一つ」

男「不良女にあらためて仲良くしてもらいたいというお願いを込めての土下座だ。やっぱり変か?」

不良女「変どころじゃないよ……あー、なんか頭痛くなってきちゃった」

不良女「あ、あたしもさ、あそこでキレるとかちょっとなかったわ。ごめん」

不良女「だから謝ろうと考えて会いにいったら……丁度、あんたが[ピーーーー]と[ピーーーー]そうに喋ってたから」

男「ん?」

不良女「さ、最後のは気にしないで!! どうでもいいからっ///」

男(それにしてはやけに慌ててるじゃないか。まぁ、本人がそう言うなら)

不良女「とりあえずもう分かったから立ちなよ。人に見られても恥ずかしいだろ……///」

男「分かってもらえたのか?」

不良女「え?」

男「俺と不良女は和解することができた。そしてお前は俺と仲良くなってくれる、と」

不良女「あんたさ……マジでバカだぜ? 呆れるわー」

不良女「知らんぷりしてまたあたしと会った時に調子合わせてれば良いものを。フツーまじまじお願いするかよ?」

男「許してくれ、不器用なんだ。いや、言い訳は止そう。これしかやり方が思いつかなかった」

不良女「結局不器用で意味通るじゃねーか……けど、そんなとこも[ピーーー]悪く[ピーーーーーーーー]」

男「すまん。もう一度言ってくれると助かる」

不良女「っ、何も言ってねーし!? あ、あとはあたしバイト行くから!///」

男「そ、そうか。アルバイト先はどこにある? 抜き打ちでお前が働いてるところを観察しに行こうかと思う」

不良女「ふざけんなアホぉ! ん、近くのコンビニだよ。まぁ、来たらいいんじゃねーの」

不良女「その代わりウチの儲けにたっぷり献上してもらうから覚えとけよ! ……えへへ///」

男(去り際は異様に喜んでいたかもしれん。アレはどういう反応だ? 何にしてもミッションコンプリートである)

【素で鈍感スキルを所持している、だと?】

【これでは現代で忌み嫌われる本物の難聴鈍感系主人公ではないか。あれほど煩わしがっていた難聴と向き合うつもりはない?】

【いや、まだ望みはある。というか今の彼ならば俺の助言や行動指示なしで勝手に進めてくれそうな気すら起きる】

【冷静な物言いに人間味まで失ったかのように思わせられてしまうが、時々飛ばす冗談と皮肉にまだ安心させられる。……ほぼ別人なのは変わりないけれど】

幼馴染「おじさまたちみたいな関係って憧れるなぁ~。いつまでも夫婦円満でデートも楽しんでそうだし♪」

幼馴染「あたしもいつか[ピーーーーーー]……///」

妹「不気味なぐらい仲良いけどね。……失礼承知、どーして一昨日もシチューで今日もまたシチュー?」

男「俺が幼馴染にそうリクエストしたからに決まってるだろ。大体嫌なら先に断っておけば良かったのに」

妹「作ってもらう立場でそんなケチつけられるわけないじゃん! 昨日は余ったホワイトソースでグラタンだったよ!? ばかばかばかぁ~!!」

男「怒りの矛先が俺に向かうだけじゃないか。とりあえず幼馴染、悪いな。お前も一緒にあやまれ」

幼馴染「い、いいよ~別に! 気も悪くしてないから……ていうか、おばさまが作ったものと食べ比べて貰えたらなって」

幼馴染「それでどこが敵わなかったか詳しく教えてくれたら、頑張って改善しちゃうから! ねっ!」

【マイワイフマジワイフ。健気さが美少女を引き立てるスパイスとなるのだ】

男「美味いぞ。下手すれば母さん以上にデキは完璧かもしれない」モグモグ

妹「ちょ、なに勝手に味見しちゃってんの!?」

幼馴染「えぇ~……///」

男「このサラダなんかも美味いな。真面目に才能あるんじゃねーのか?」

幼馴染「さ、サラダはドレッシングが良かったからかと!」

妹「でも本当に上手っていうか、予想以上のもの出てきちゃったよ。これでまだ修業中は逆に生意気だね~!」

男「ああ、妹以上に生意気な腕だな。見習えばどうだ?」

妹「次余計な口開いたらマミタス投げるっ!!」

幼馴染「ふふふっ……でも良かったぁ、こんなに気に入ってもらえたならもっと[ピーーーーーーー]」

男「え? なぁ、もし父さんと母さんがまた留守にでもしたら、また作りに来てもらえるか」

幼馴染「いいの!?」

男「むしろお願いしたいところだよ。このシチューは俺の人生一番のシチューってぐらい最高だ」

男「そうだな、もし俺たちがメニューに迷って『いつもの』がいいと言ったらコイツを作ってもらえないか?」

幼馴染「は、はい……うん……あっ、頬っぺたに付いてるよ? 取ってあげる///」

男(ここまで至近距離で顔に手を伸ばされると、やはり美少女だ、意識しざるを得ないぞ)

幼馴染「とーれた。……ぱくっ」

男「!! ほ、本当に美味いうまい。箸というかスプーンが止まらないな……っ」

幼馴染「えへへっ、男くん[ピーーーー]れる!///」

日曜日に続くかしら

幼馴染「余ったのは容器に移しておいたから好きな時に温めて食べて。おじさまたち、今日は外泊とかするのかな?」

妹「!!」

妹「で、できる事なら気分良く楽しんでもらいたいし、遠慮しないよう電話しちゃおうかなー……朝帰りでも気にしないーって……?///」チラチラ

男「いま連絡を入れる方が返って遠慮させちまう気もするがな。本人たちに任せてゆっくりさせてやるのが一番さ」

妹「[ピーーー]っ!」   男「うん?」

【美少女を愛でる気持ちはあっても、攻略してやろうというつもりは微塵も感じていないのがこの鈍感力を生むのだろうか?】

【形だけは後輩ルートへ入ったわけでもあるし、本来ならば健全だと言うべきかもしれん。だが俺は認めんぞ。物足りなさに身を悶えさせてしまいたい】

幼馴染「ふぅー、こうして三人でいると昔を思い出すね。覚えてる? よくこのメンツで遊んでたの」

男「昔のことだからな」

幼馴染「覚えてない? そっかぁ……」

男「さて幼馴染、今日はマジで助かったよ。お疲れさま。そろそろ自分の時間が欲しいだろ?」

幼馴染「んっ!? み、見たい番組がこれから始まるんだけどここで見て行っちゃダメ!?」

男「自分の家に帰ってからでも間に合うだろ? 1分も掛からない距離なんだから」

幼馴染「そりゃあそうだけど……[ピーーー]く、なのかな」

男「何て言ったんだ?」     【ダメだこの男……!!】

【三周目の俺とこいつでは性格が天と地の差もある。実は難聴のせいで鈍感と思われていたとかではなく、この男が直接の原因だったりするのでは……】

妹「テレビぐらい見ていきなよ、幼馴染ちゃん。頑張ってくれた褒美にお茶とお菓子を用意してしんぜよう」

幼馴染「そ、そう? お茶なんて、お構いなく」

妹「いいのいいの! 気が利かないお兄ちゃんの代わりだよ、気の利かないっ!」

男「何怒ってるんだよ? まぁ、俺は風呂に入ってくるから寛いでいってくれ」

幼馴染「うんっ! ……[ピーーーー]と[ーーー]たかったなぁ」

【この鈍感っぷりをこれまで相手に飽きずに付き合ってくれていたのだと思うとまったく持って恐れいる】

妹「確か食器棚の上にお客さんようの良いやつが……ん~、んぅ~!!」

【必死に背伸びして手を伸ばす様は思わず守ってあげたくなる、正に男心を擽る小動物的愛らしさを放っているのである。後ろから突然抱きしめたいぞ】

【なんて俺の欲望が彼に伝わってしまったのだろうか。リビングを出て行こうとした男は、早歩きで妹の元まで移動し始めた】

妹「とーどぉーかぁーなぁ~いぃぃ~~~っ!! ……あっ」

男「足りてないのは頭と身長のどっちか? 俺の目にはそこに踏み台が映ってるんだけどな」

妹「うるさいバカ! 限界に挑戦してただけだし!? 取ってなんて頼んでないんですけどっ!!///」

男「悪かった、少しは気の利くところを見せてやりたかっただけなんだ」

妹「!……あ、あっそ。……いきなり[ピーーー]されたら[ピーーーーー]じゃん……///」

【不器用を自称したのはあながち間違いではなかったようだ。ある意味この時点で難聴鈍感系の完成型だったのかもしれない】

【俺はそれを利用した邪道へ走った紛い物、と言われようが誉め言葉と受け取ろう。というか、観察者はどのみち少数なのだからな。気にも留める必要なしである】

【彼、男がこの調子でいるのも以前の自分を上手い具合に取り込んだためではないだろうか。対人に不慣れだった部分がそれへ当て嵌まる】

【この『不器用』が時間をかけてゆっくり、ゆっくりと均されて今の俺のように変化していったと?】

【周回する毎に過去の自分から離れて行く。これを変化という成長と言うべきか、ただハーレム世界に適応したキャラクターと化しているのか】

【……それを知ったところで全てが無駄になる要素など見当たるか? やはり後輩はタイムトラベルの危険を知って俺に覚悟を持たせたのだろうか?】

幼馴染「―――もう寝ぼすけっ! いつも早起きだったのにどうして今日に限ってギリギリ!?」

男「シンプルにワケを話せば、寝足りなかった!!」

【休日が明け、彼にとって待ち遠しかった日々が再開する。しかし最近の男にしては珍しく今朝は睡眠欲に負け、現在は幼馴染と二人して全力疾走な登校を繰り広げているのであった】

男「ぜー、はぁ……ちょっとだけ、歩かないか? い、息がっ……持たん」

幼馴染「遅刻確定になっちゃうよ? ……仕方がないなぁ。はい、これお水」

【引っ手繰るようにして受け取った水を飲み干すと、咽て咳をした。幼馴染は呆れ顔を浮かべて男の背中をさすってくれる】

幼馴染「これに懲りたら夜更かしなんてしたらダメなんだからね。次やったら置いて行っちゃうんだから」

男「なるべく気をつけるって……思ったんだが、幼馴染って将来良い奥さんになりそうだよな」

幼馴染「奥さん!?///」

男「自分でそう思ったことないのか? 極端に女子力高いだろ。料理も上手いなんて男の胃袋も掴める」

男「成績も悪くない上に、運動神経もそれなり。誰にでも優しい。かなりの優良物件じゃないか?」

幼馴染「いやいやいやいやっ、どうしたの男くん!? 変だよ、おかしいよ!?」

男「率直な感想を述べてみただけだろ。それとも俺が人を誉めたらいけないかな?」

幼馴染「そうじゃなくって~! あぁ、もう[ピーーーーーー]に!」

【何というか、ここまでくると胡散臭さまでするレベルだ。性質の悪いアニメか漫画にでも影響されてしまったんじゃないか?】

幼馴染「じゃあ……男くんは、この物件予約しちゃったりしますか?///」

【で、出たァー! 美少女殺人技の一つ、うるうる可愛い上目遣いッ! この技に掛かれば男なんてチョロいのなんの、トキメキ確定ッ!】

男「いや、俺みたいな萎びた奴よか輝ける未来ある若者を探すのをオススメしておく。ダメ亭主じゃ不釣り合いだからな」

男(嫁は後輩の予定で揺るがないとは冗談でも話せるわけがないではないか)   

【うわ、カッコつけんなよ!! バーカバーカ!!】

幼馴染「そんな事ないよ! 男くんはきっと[ピーーーーー]なると思うし、それに!」

幼馴染「あたしは、少しでもあたしの魅力をわかってくれる人が良いから……///」

男「そうか? 見つかるといいな、お前の魅力に気づいてくれる男が」

幼馴染「もう[ピーーー]ってるんだけどなぁー……あはは」

男(学校がこれほどまでに気分を高揚させる場所だとは知らなかった。否、学校がではない。後輩という美少女がそうさせているのだろう)

男(後輩の存在がなければ今頃人生に嫌気が差してニート街道まっしぐらもおかしくはなかった筈。だから感謝しよう、後輩の誕生と育んでくれた彼女の両親に)

男(君に会いたい、なんて臭い歌詞も今の自分ならば共感できるかもしれない。震えすら覚えるほど彼女に会いたくて堪らんぞ)

男「……」

【クールな外面にはすっかりそぐわない思考だな。いても立ってもいられない男は校内をわけもなく徘徊し始めたのだが】

【言わずもがな、である】

不良女「おーっす! 相変わらず冴えない面で何してんのさ?」

男「冴えないながらに頑張って青春を謳歌しようとしているんだが、やけにご機嫌だな? 不良女」

不良女「ん~、別にいつもと変わんないと思うけど? あっ、しいて言えば[ピーーーーーーー]かな」

男「え?」

不良女「一々気にするなってば! なぁ~、へへっ!///」

【確かに機嫌良さ気である。はにかみ笑いで男の肩へ腕を回してこれでもかとスキンシップを図る不良女。それに対して彼は】

男「お、おまけに数倍馴れ馴れしいときたな! 止せって!」

不良女「何だよ可愛い女の子に絡まれてるから照れちゃってんのかな~?」

男「とにかく離れろってば! ……ふぅ (この俺が後輩以外の女子に緊張している、だと?)」

男(いや、俺も思春期の健全な男子だ。そりゃあバツグンに可愛い女子なんかに触られては反応の一つや二つあっておかしくもない)

男(……しかし不良女、想像した以上に胸はない。だがそれを埋めるように様々な美少女要素がたっぷりとあの数秒間に体感できた。この気さくすぎるほど気さくな性格も、美少女度を上げているのかもしれん)

男(結局 後輩には敵わないがな)   【天使だけに信者も良いところだな、こいつ】

男「ところでお前は漫画は読むか?」

不良女「ふっ、露骨に話題逸らしてきやがった。漫画は兄貴から借りたの時々読んでたかなぁ」

男「不良女も兄弟がいたのか。兄貴のだったら読んでて肌に合わないようなのが多いんじゃねーのか。ほとんど少年漫画と青年のだろ?」

不良女「ほとんど少女漫画だけど?」

不良女「ウチの兄貴、昔から冒険とか戦いみたいなのより甘酸っぱい恋愛モノとかのが趣味だったらしくてさ。見た目のわりに女々しいっていっつも言われてる」

男「それは……可愛い兄貴をお持ちで……」

不良女「あんたはどんなの読むの? へへっ、今度あたしに面白いって思ったの貸してみなよ。読んでみるからさ!」

男「俺が決めていいのか? 何を紹介されてもケチつけないと約束するか? それなら考えてやってもいい」

不良女「できれば読み易いのでお願いなっ。絵を邪魔するみたいに字塗れなのは読んでて苦痛しか感じねーから!」

男「(説明臭いものが嫌で、シンプルに暇潰しとなる漫画を所望するとくれば……四コマが適してると思われ) 他に注文は」

不良女「かわいくて面白いやつがいい!!」

男「お前に相応しいマンガは決まった!!」

男「一見おバカっぽい四コマ萌えギャグ漫画だが、そこはかとなく哲学を感じさせる選ばれし者に読まれるのだが」

男「もっとも不良女の性質にあっている物が幸い俺の部屋の棚に飾ってある。いつかそいつを貸してやろう」

不良女「いや、話だけでそんな上級者っぽいもんいきなり渡されてもなんだけど……」

男「大丈夫さ。理解が追い付かなければ考えるな、感じろ。そうすれば二巻を越えたあたりからジャンキーのように続きを求める。補償してやろう、最高、と……!」

不良女「よ、よく分かんねーけど読んでみる。それに男がそれだけ気に入ってるなら話も[ピーーーーーーーーー]し……うん///」

不良女「絶対持って来いよなっ、その切り身ベイビーとかいうの!」

男「そんなのただのホラーじゃねーか」

【よりにもよって何故そのチョイスで良しと思ったのだ、男よ。アレは素人にはオススメできない諸刃の剣だろうに】

【まぁ、漫画の件はどうとでもなるとしてイベントはまだまだ行列を作ってお待ちになられているぞ。濡れた指が乾く暇もないというかだな】

男「―――生徒会長って俺たちみたいにガキらしくなくて大人っぽいし、それでいて色気を感じさせる時がありますよね」

生徒会長「いまの会話の流れからどうしてそういう話になるのだっ!?///」

男「ふと思ったといいますか……よく考えてみたら結構恥ずかしいな、今の……」

生徒会長「まったくだよ! 唐突に何を言い出すかと思わされてしまったぞ!」

生徒会長「だが君に言われると[ピーーーー]はしないが……///」

【こんなの天然ジゴロだよぉ……】

また明日会いましょう

生徒会長「ところで、何度もしつこいようで申し訳ないが生徒会の件については考えてくれたかな」

男「生徒会? あの話は俺を無理な勧誘から助けるために吐いてくれたウソだったんじゃないんですか?」

生徒会長「……わ、私も無理を簡単に口にする女ではない。確かに当初はアレを諦めさせるつもりで咄嗟に出たものではあったが」

生徒会長「半分以上本気の誘いのつもりではあったんだ」

男(生徒会役員に相応しい人間なら他に捨てるほどいるだろうに。彼女の目は曇っていないか? この俺を磨いたところで石にしかならないだろう)

男「いくら生徒会長さまでも口約束でどうにかできる問題でしょうかね。本当に全体を牛耳ってるわけでもあるまいし、あなたの一案で楽々決められるとは思えない」

生徒会長「ふふ、優秀な人材が加わるならば皆も手放しで喜ぶだろう。とにかく私が男くんに太鼓判を押すよ」

生徒会長「君が生徒会に[ピーーーーーー]なら今後は[ピーーーーーーーーーー]っ……フ、フフッ!///」

【思いっきり私情入りまくりなのはたぶん気のせいではない。何であろうがせっかく楽しめる設定にリアルを求めてツッコむのは野暮ってものだろう】

【男はどのタイミングで上級生組を懐柔したのだろうな? 愛好会も生徒会も実際に俺が入った時期は明らかではなかった。ここは下手に手出しするべきところじゃあないかもしれん】

男「はぁ? ……生徒会長。何度もお断りさせてもらってますがね、俺は自分で手一杯な状態でして、他に構ってる余裕は残されてないんですよ」

男「それでもあなたが諦めないと言うつもりなら、懲りずに誘ってみてください。気が変わっていれば少し考えてみますよ……しつれいします」

【一切興味はない、と生徒会長イベントを切り上げて早々立ち去ろうとすればである。通りがかったの窓が突然勢い良く開け放たれた】

先輩「窓から登場しつれいっ!!」

男「何だと!?」

先輩「おぉー、男くんおっはよー! こんなところで会うとは奇遇だね、赤い糸とかで結ばれちゃってるのかな わたしたち!」

男「お、おはようございます、ぅ!?」グイッ

生徒会長「相も変わらず羽虫のように何処からでも沸いて出てくるな、君は」

【無理矢理男の腕を引いて自分と繋いでくる生徒会長。先輩へ向けられたその眼差しには敵視しか感じられない。胃がキリキリ痛みそうなシュラバーが、始まるような】

先輩「むっ……な、何よー」

生徒会長「大方、男くんをくだらない愛好会に取り込むつもりで拉致ってでも強硬しようと考えていたのでは?」

先輩「かーっ、コレのどこをどう見たらそんな酷い憶測立てちゃうかなぁー!」

男(……三階の窓からいきなり侵入して来られれば誰だって不審と思わざるを得ないが)

先輩「寝坊で遅刻してきちゃったんだよぅ。昇降口に見張りがいたから捕まるとうるさいかなーと思って……これで二度目ですけど何か!?」

男「窓からが!?」   先輩「ぶいっ!」

生徒会長「よ、よくも命綱なしでここまで……はぁ、君の運動神経が野生児並みという事はよく伝わった……っ」

生徒会長「なおさら こんな奇天烈極まりない危険人物に男くんを渡すわけにはいかないな!」

先輩「お父上、息子さんをください!! 一生大切にすると誓いますからぁ~っ!!」

生徒会長「戯け!! 私は認めないぞ、君に男くんが渡れば食われるのも時間の問題だろう!!」

男「……い、意外と仲良いんですね。二人とも」

先輩・生徒会長「はぁー!?」

男「ぜ、全力で否定されそうですね……」

生徒会長「当たり前だろう! この女とこれから仲良く手を繋いでフォークダンスでも踊り出すとでも思ったか!?」

先輩「そうだ! そうだぁー! もっと言ったれ、言ったれ!」

生徒会長「どのぐらい彼女と理解し合えない関係と言うとだなっ……」

先輩「犬と猿じゃ説明し切れないほど滅茶苦茶だよ! 水と油でも生温い!」

生徒会長「ああ、わかってるじゃないか!」

男「見てる限り……息ぴったりじゃないですか?」

先輩・生徒会長「っ~!!?///」

先輩「別に、そんなんじゃないよぉ……昔は[ピーーーーーー]けど……今は、もう……///」

生徒会長「き、君にどう思われようが勝手かもしれない!! だが勘違いしないでもらいたいな!!」

生徒会長「兎にも角にも、彼女に着いて行けば君が後悔する! それだけは忘れないでくれ、二度は言わないぞ……っ」

男(運が良い、気まずくなって自分から去って行ってくれた。しかし、あの様子だと過去に何かあったと見て間違いないだろう)

男(そこへ第三者が踏み入ってしまうのは癪に触るだけだ。当人たちから相談でもされない限り余計な口を挟むのは得策ではない)

【基本、自分と後輩以外の事となると合理的な方向へ持って行きたがるのが特徴だな。ふむ……まるでよくできた機械みたいだ】

先輩「[ピーーーー]ちゃん……わたし、また」

男「先輩さんどうしました? 生徒会長はもう行っちゃいましたよ。あなたは教室に帰らなくていいんですか?」

先輩「戻るよ~! 何事もなかったように席に座ってないと怪しまれちゃうからね」

男「見張りまで出されていたのならどう足掻いてもアウトでしょうが。あと、ついでに訊いていいですかね」

男「実はあの人のことはそこまで悪く思っていたりしないのでは?」

先輩「はてさて、その心は?」

男「勘です。外してたなら謝りますし、二度と似たような質問もしません。所詮俺には関係のない話です」

先輩「……ほんと[ピーーー]っちゃうよね」

男「先輩さん?」

先輩「あ、あーっ!! わたし 先生ちゃんに職員室に呼び出されてたの忘れてた気がするー!?」

先輩「というワケですので、これにてドロンさせて頂きます! 勧誘はまた今度! ではっ」

男「たったいま遅刻してやって来た人に呼び出しがあったなんて分かるかね。嘘が下手な人だ」

男「そして、二人とも嘘が多過ぎるんじゃないか? なんて」

【ヒロインたちからの好意には病的に鈍感なくせに、こういう問題には人一倍察しが良い】

【あれ、どこかでこんな設定の方々を山ほど見たことありません?】

男の娘「今日も委員長さん大変そうだね。毎日ああして周りから沸き立たされると疲れそうっていうか」

男「彼女はいつから学年中の人気者みたいな扱いされてるんだ?」

男の娘「いつから……んー……そう言われると、あまり意識して見てなかったから何とも」

男の娘「でもとにかく凄い状態だよ。この前は隣校の男子たちからも待ち伏せで告白されちゃったとかね。噂はこの町全体に広がってるんじゃないかな?」

男の娘「そのうちアイドルデビュー果たすのもおかしくないかもねぇ……」

男「眼鏡っ娘があれ程までヨイショされるのは異常事態だ」   男の娘「め、眼鏡っ娘!?」

男「定番どころなら持ち上げられるのは高飛車のお嬢様タイプやそれこそ生徒会長の肩書を持つ超人美少女とかであってだな」

男「俺には普通とは思えない気がしてならない。男の娘はどうだ?」

男の娘「僕? 僕は何とも……まぁ、普通じゃないって意見は同意するけど」

男(そして、奇妙なのは美少女として変貌を遂げた彼女が未だにこちらへ接触を取ってこようとしない事だ。校内を先程回ってみたところ、全ての女子が驚きの美少女化を遂げていたわけではなかった)

男(外も中身も美少女と化した者らが特別だったのだろう。しかも彼女らは使命のようにかならず俺へ声を掛けて来て、距離を縮めようと図ってくる。極論ではあるが、委員長は例外だ)

男「おまけに『図書委員長』から『風紀委員長』に変わっているしな……」

男の娘「ままま、まさか男くんは委員長さんが気になってたりするの!?」

男「そうだな。結構気になってるかもしれん」  

男の娘「あうっ……[ピーーーーーーー]!」

男の娘「ち、ちなみに彼女のどういった所が……?」

男「風紀委員長の上に美少女な所がまず気になるんだが」

男の娘「男くんの中で風紀委員長ってそんなにポイント高いんだ!?」

男の娘「び、美少女だっていうのは僕も認めるけどっ……外見に騙されちゃダメなんだよ!!」

男「そうか……なるほど、美少女であるからかならず俺に迫って来るとは限らないな」

男の娘「自分にどれだけの自信持ってるのさ!? お、おこがましいよ、男くんっ!!」

男「き、急にどうした? そういえば、いつだったか委員長が俺に何か訴えたげな視線を送ってきた事があったが……はっ」

男「もしかして彼女はかなりの恥ずかしがり屋さんなのでは!?」

男の娘「それは自惚れだよぉっ!!」

【終始男の娘は『><』な顔をして否定を続けている。必死だな、あざとかわいい男の娘きゅんよ】

男「ところで男の娘。今さら頼むのもなんだが、畏まってくん付けで呼ばなくて大丈夫だ」

男「気軽に呼び捨ててもらって構わない。もう俺たちは知らない仲じゃないんだから。な?」

男の娘「だから委員長さんなんかより僕の方がず~っと――――――ふえ?」

男の娘「[ピーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーー]!?///」

男「ふっ (可愛いじゃないか、真面目に同性として見れん。奇跡という単語は男の娘の存在のために生まれたと説明されても納得するしかない)」

【何カッコつけちゃってるんですか、この人? 一々鬱陶しい言い回しで語りやがって、俺の男の娘に色目使いやがって!】

【……虚しいな。というかだ、何か物足りなさを感じると思っていたら転校生がまだ登場してなかったではないか】

【彼女は二周目からの追加キャラと知ってはいるが、比較的欲望抑え気味な彼との絡みとなるとどう変わっていたのだろう。ラッキースケベで変態扱いは免れないだろうか】

【そういえばである。追加キャラとは神が気を利かせた結果新たに加えてくれたものなのか? まさか男がそれを望んで叶えてくれた?】

【思い返せば転校生の存在は後輩並みに謎だったかもしれない。現実世界でモデルとなった本人を俺は知らないわけだからな】

【こうなる前の男ならば覚えていた可能性もあるが……転校生まで天使でしたなんてオチは勘弁だ、さすがにお腹いっぱいである】

男の娘「で、でも親しい仲にも何とやらだよぉ! それに僕[ピーーーー]しいっ」

男「ん? 遠慮なんていらないさ。別に無理強いはしないが」

男の娘「うぅ……[ピーー]……」

男「ああ、何だって?」

男の娘「お、男ぉー……っ」

男の娘「いい、言っちゃった! 言っちゃった!///」ブンブン

男の娘「ようやく[ピーーーー]かな……てへへ///」

男(また俺に一人友達ができてしまったのだろうか。しかも同性だ。この際美少女チックな点は気にするものか……ああ、嬉しいの言葉しか見つからない……)

【残念ながら友情と似て非なるものを得たらしいがな】

男の娘「ねぇねぇ、男~!」

男「……ああ、今度はどうしたんだ?」

男の娘「あははっ、ちょっと呼んでみただけだよぉ~♪」

幼馴染「……男の娘くんとどうかしたの?」

男「いや、別に変わったことは何もなかったと思うが。朝 話してからしばらくこの調子が続いてる」

幼馴染「[ピーーーーーーーーーーー]」

男「え? 何だって?」

幼馴染「ううん、気にしないで。男くんも仲が良い人多くて羨ましいなぁ~って!」

幼馴染「う・ら・や・ま・し・い・なぁー……[ピーーーーーーーー]」

男「そうでもないさ (男の娘も幼馴染も一体どうしたというのだろうか。幼馴染に限っては目が一切笑っていないぞ)」

【いないぞ、じゃないだろうが。まぁ、呑気していれば荒立てることなく流れていくと信じておこう】

【いつものメンバーで昼食を取り終えると、不良女をそこへ含めてワイワイと雑談を楽しみ始める。まるでこの光景が珍しくもないように、である】

【不意に視線を感じた。男も同時に気が付いたのだろう。一旦三人から離れると、半端に開かれていた教室の戸に注視する。隙間から覗いていたのは】

後輩「……」

男「後輩だと?」   【何故見てるんです?】

のんびりやってたら12月がやってまいりました!!次回は少し遅れて金曜日

男(誰かと思えば……なるほど、せっかく恋人同士となれたのにお昼を誘わずにいる彼氏が何処の世界にいるかと、むくれに来て見せたのだろう)

男(後輩もやはり女の子だな。明日からは男の娘と幼馴染にどう説明してやるべきか。付き合いも一筋縄ではいかん)

【あの目を見て予想斜め上な考察を叩き出すとは。恋は盲目にさせるというかだな】

【男は教室の三人へ一声かけると、浮き立つ心を抑えながら廊下に出て後輩の肩を叩いたのであった】

男「俺としたことが、気が利かなくて」

後輩「はい?」

男「今度からは一緒にいつもの場所でお昼を取ろう、後輩。当たり前な筈なのにまだ意識できてなかったみたいだ」

男「要件はそれだろ? 一声かけてくれれば飛んで行ったのに……付き合いをアイツらに知られたくなかったか?」

【淡々と、そしてまくし立てる彼に後輩は無言で答えた。それは意味深な間なのか? いや、こいつの調子にまだ合わせられずにいるだけかい?】

後輩「いつもの場所って何です?」

男「なんと、面白いことを言うじゃないか。俺たちの『いつも』と言えばあそこしかないだろ?」

後輩「あー……そうですね、いつも、ですね。先輩と私だけの専用空間!」

後輩「でもお昼の時間ぐらいお友達と楽しんでくださいよ。せっかく親しくなれ始めたんでしょう? 私とばかりじゃ勿体ないです」

男「(勿体ない?) だ、だが……俺もできる限り後輩と長く一緒にいられたら良いなと……」

後輩「綺麗な人ですね」   男「は?」

【後輩は人差し指を教室内にいる幼馴染、不良女、男の娘を順に示しながら続けた】

後輩「見るからに優しそうな人。隣の派手目な彼女は淑やかとは程遠い容姿だけど、あの人に持ってないものを様々揃えてる」

後輩「彼はまるで女の子みたいに整った顔をしてる。華奢な体も相まって益々そうとしか見れない」

男「驚いた。男の娘が♂だと初見で見抜けたのはお前が初めてかもしれない……」

後輩「あっ」

男・後輩「えっと……」

後輩「ほ、ほら! まず制服が男子生徒用のを着てますし! それに」

後輩「私の兄ですからね、あの人!」  男「説明の順序がおかしくないか!?」

後輩「どうでも良いじゃありませんか! 私が言いたかったのは先輩は周りに恵まれてるなーとっ!」

【俺の前ではあれだけできる子を保っていたというに、一周目でのドジがやけに目立つな 後輩。本質的には天使ちゃんと大差なかったりして】

男「確かに俺が仲良くさせてもらってる奴らは皆美男美女の集い。ブサ男の自分が紛れ込んでるのが恥ずかしくなる時もある」

男「だが、それがどうしたというんだ? 俺はお前以外の女の子に揺らぐつもりは断じてない。ありえないとも」

後輩「えへへ……そう、私[ピーーー]というわけか」

【並々ならぬ企みの気配を我が探知機が察知した。安心の勘だ、ハーレム世界では中々信用に値する】

【後輩よ、俺はカメの如く首を長くして待っていたぞ。お前が自ら動き出すこの時を】

後輩「一つ訊いても大丈夫ですか。なぜ彼女たちを放ってわざわざ私とくっ付いてくれたんです?」

男「好きだから、とシンプルに答えては満足してもらえない?」

後輩「いえ。ただ、好きというものの中には順位が存在するんですか?」

男(……一体何を尋ねられているのだ、俺は。好意の順位? それをなぜこのタイミングに?)

後輩「彼女たちと私を天秤にかけたら、傾くのは私の方という事になるんですか?」

男「ま、待てまて!! 間違いとは指摘しないが……何かあったのか、後輩」

男「これからは絶対どんな用事よりもお前を優先する! 大切にする! だから機嫌直してくれないか!?」

後輩「怒ってなんかいませんよ。純粋な疑問というか興味からの質問をしただけですから」

男「えぇ……っ?」

後輩「私も先輩が好きです。嫌いになれなんて言われる方が難しいぐらいあなたが気になってる」

後輩「でも、彼女たちも先輩のことが同じぐらい……ううん、それ以上に愛してくれてると思いますよ?」

男「別れ話でその上慰めのつもりかよ!?」

後輩「ふふっ、別れるわけないじゃないっ。先輩ってばおかしい!」

男(だ、誰か教えて欲しい。おかしいの俺の方なのか? 言葉の意図が全く掴めない。後輩はどうしてしまったというのだ)

後輩「ああ、もしかしてご自分で気づいてなかったんですか?」

男「おかしいのは後輩だろうが……さっきから意味不明だぞ」

後輩「そうでしょうか? じゃあ私の事は一先ず置いて聞いて頂ければ、と」

後輩「もし、先輩が突然あの人たちに抱きついたりしても嫌がられないと思いますよ。むしろ凄く喜ばれますね」

男「それが何だっ……!」

後輩「その気があるのならキスしたって、襲っても受け入れられてしまいますね。私の言ってる意味理解できます?」

男「さっぱり理解でき――――――」

後輩「みんな、あなたとの特別な関係を求めているって話なんですけれど」

男「ない…………え?」

後輩「言われてみると、色々思い当たる節もあるんじゃないですか。彼女たちから女としてのアピールを受けていたという」

後輩「結構鈍感さんだったんですねぇ、先輩って」

男(この、頭をガツンとやられたような感覚は一体。俺と後輩は恋人同士になれたのだろう? では、何故に彼女の口からそんな戯言を述べられねばならん)

男「モテてたとか、鈍感だとかはどうでもいい……それも俺を驚かせる為の冗談にすぎないんだろ……?」

後輩「騙されたと思ってあの人をここに呼び出して告白してみたらどうでしょう。絶対にトントン拍子で上手く進みますから」

後輩「ふふっ。本当に恵まれてますよ、先輩は」

男「なぁ、ふざけるのも大概にしておけよ!!」

【生徒たちの談笑で賑わう昼休みが、その怒声によって一気に張り詰めた空気で重々しく変わってしまった】

男「そんな事を言われて俺が喜ぶとでも思ってたのか!?」

男「あ、あまりにも馬鹿馬鹿しい……人をおちょくるのも時と場合を選べよ……っ」

【感情を剥き出しにして激怒する男。その様子を前に後輩は戸惑いの色を露わにさせて宥めようと必死に口を動かしている】

後輩「怒らせてしまったことは謝りますっ。でも、どうして?」

男「どうして? こっちの台詞だろうが!! 気に触らない自信があったと言うつもりか!?」

男「……すまん。少し頭を冷やしたいからお前は自分のクラスに帰ってくれないか」

後輩「は、はい。すみませんでした……[ピーーーーーー]?」

【彼女は、まだ納得がいかなそうな様子で小さく礼をして駆け足気味にその場を去って行く。その背中を目で追うこともなく、男は幼馴染たちに心配されながら教室へ入った】

男(あそこで怒鳴り散らしたのは間違いだったろうか。どうしても抑えきれなかった、いくらなんでも酷いだろうが)

男(時々、後輩が何を考えているのか理解が追いつかない。そもそも理解されて欲しいのか? 一方通行気味な時もあった気がしないでもない)

【恐らく後輩的には、美少女にモテモテの世界、という事を改めて直接教えてあげるのを良かれと考えてなのだろう】

【それをなぜ後輩ルートへ進んだ彼に伝える必要があったのか。簡単だ、一周目で終わらせたくはないというワガママからの独断である】

【自分にはない筈の恋愛感情を男を通して学習しようと企んだ結果、彼女は男からの告白を受けた。それは本心からではない、興味本位から来る愛の関係を築いてしまったのだと思われる】

【もしお互いの気持ちが合致してこそ難聴が解除されるのだとすれば辻褄も合わないか?】

【後輩にとって実験の観察対象と化した男が今すぐ真の幸福へ辿り着かれては元も子もない。だからこそ、先延ばしする必要ができた】

【多種多様な美少女との組み合わせで複雑な恋愛感情の例を観察できる。おまけに好きに遊ばせておけばそれだけ時間もたっぷり得られる】

【……過去の男と現在までの自分を照らし合わせて思ったのだ。一周目以降から唐突に美少女ハーレムへ固執するようになったのは、欲望丸出しになるとはいえ、妙ではと】

【このハーレム脳が形成された原因が一周目内であったとすればである。考えうる要因はただ一つ、否、ただ一人】

【さて 踊らされる羽目になるのはどちらかな、後輩】

男「……ふぎっ」ボフ

男(放課後当てもなくしてしまった俺に降り注ぐ一点の温かみ。それを形容するとしたら、まるで羽毛布団か)

先生「こらー、前を見て歩きなさい。前を」

男「いつまでも顔を埋めておきたい」

先生「それは人の胸でじゃなく、別の物でしなさいっ……!」

男「ああ、先生だったんですか。すみません。少し考え事して歩いてたみた――!?」

【我を取り戻した瞬間に胸の中から飛び退き、顔を熱くさせてペタンと床へ尻餅をつくこのムッツリスケベっぷりよ。会話は十分、しかしラッキースケベ耐性はまだまだである】

男「……」

先生「良い思いしときながらその顔と反応は何よ!?」

男「だだだ、だってぇっ!!」

先生「ふーむ、どうやらワケありな様子だねぇ? おっと皆まで言うな。これでも君の先生だよ、私?」

男「話すつもりはサラサラなかったんですけれど。ていうか、先生もどこか元気なさげに見えるんですが」

先生「えぇ? あー……いや、君に言ってもどうしようもないことだし。[ピーーーーー]事なんて話しても、ね」

男「(この美人教師からも俺は救われた。差し出がましくとも相談に乗りたい) 俺を壁と思って愚痴って行ってみてくださいよ。それだけでスッキリできるかも」

先生「無理むり。簡単に解決できるようなものじゃないから……でも」

先生「まぁ、せめて君に笑ってもらえたら少しは気も晴れるかもしれないかなぁー。なんてね」

男「笑い飛ばせる内容であればお望み通りに」

先生「ハァ……このご時世にお見合いとかどう思う?」

【話を纏めればこうである。いつまでも一人身にさせておくにはと両親が見合い話を急遽持ち込んできたそうだ】

【相手は優良企業社長の息子。次期社長の座を約束された玉の輿もってこいという現実離れじみた感じ】

男「先生の実家、というか両親って結構凄かったりするんでしょうかね?」

先生「嫌味臭くなりそうだからノーコメント。もう向こうで勝手に進めちゃって私じゃもう止めようなくなっちゃって」

先生「もちろんこっちはお断りしようと考えてるんだけど、相手が相手だから……あとが怖くなったりしないかなーと」

男「上玉なら乗っておくのがベストでは。一生安泰も目じゃないんですよ?」

先生「教師をやめさせられるのが嫌で、ね」

先生「そりゃあ将来も約束された人なら相手としては最高なんだろうなとは思う」

先生「でも私の夢って奥さんじゃなくて、教師なの。まだ経験も浅いし未熟かもしれないけど、せっかく叶えた念願をここで手放したくなくって」

先生「ワガママなのは自分でも分かってるんだけどね。……どうしようかな、ほんと」

男(完全に俺の出る幕ないじゃないか)  【一段と重いのが来てしまったな】

男「そ、その場凌ぎでも今付き合っている男がいるって話しておけばいいんじゃないでしょうか?」

先生「今すぐ連れて来いなんて言われたら詰みでしょ」

男「だったら既成事実作っちゃうとか」

先生「やー、それができたらどれほど悩まずに済むことやらだよ」

男「せ、先生は自分が溜息が出るほど美人だとご存じない? 絶世の美女です!」

先生「いや、それは無いない」

男「あのっ、事実を言ったまでですから。俺がお世辞を言える奴じゃないと知ってるでしょう!?」

先生「ちょ……」

先生「は、はいはい! この話はもうお終いっ!///」

男「自分が納得できる選択をするべきです! 理不尽を受け入れて後悔するのは他でもない先生自身なんですよ!」

先生「バカ言ってないで、ああもうっ、早く家に帰りなさいってば! ……[ピーー]」

【気まずい雰囲気に耐え切れなくなったのか、恥じらい一杯になったせいか、話を切り上げて先生は退散していく。そしてこの男である】

男(真面目に彼女が教師を辞めたくない気持ちは十二分にも伝わってきた。あれ程までに思い悩んだ先生を見たのは初めてだもの)

男(恩を返すなら絶好の機会ではないか。しかし、どうしろと? この面倒を一男子高校生が解決できるわけがない)

『みんな、あなたとの特別な関係を求めているって話なんですけれど』

男「……まさかあの人も? そんなわけがあるか。大体教師と生徒じゃあ向こうに迷惑が掛かるだけだろう」

男「漫画じゃあるまいしな」   【問題なく叶ってしまうのだが?】

【難しい、難しいと考えなくとも都合良く解釈してしまえば良いではないか。特大イベントキター!!と】

【お前に神からのありがたいお言葉をプレゼントしてやろう。耳穴かっぽじって聞いておくのだ】

【『神の力であなたは美少女を魅了する力を手に入れることになるのですからね』。そうだ、俺たちは神の力を授かっている。自分の都合良く展開を運ぶなんて造作もない】

男(自分の[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]。既成事実、か)

男「そしたら後輩はどうするんだっていう……ん?」グイ

オカルト研「男くん、私とともに、帰るべし」

男「珍しくどうした?」

オカルト研「……男くん、オカルト研と、帰るべしっ」

男「その五・七・五がどうしたと訊いてるんだが」

明日来なければ明後日に

オカルト研「知ってる? 男女が隣並んで下校する際は、お互いの指と指を絡ませ合うように手を繋ぐのが近頃の流行りらしいわ」

男「知らなかったが、それが?」

オカルト研「男くん、私たちはこれでも今を生きるイケイケな十代の若者よ。トレンドは抑えておくべきかと。ならば……乗るしかない、このビッグウェーブ……!!」

男「俺とお前でそんな真似した所を誰かに目撃されたらどうする。イケイケな若者と主婦が広げる噂は厄介な感染症にも劣らんレベルだぞ」

オカルト研「そ、その時は諦めて[ピーーーーー]しまえばいいのよ///」

男(いつも以上にモジモジと落ち着きがないこのオカルト研だ。明らかに目には映らない愛念らしき波動を感じてならない)

男(後輩の話を鵜呑みにしたくない、まだ認めたくない自分が残っているが、意識して美少女と触れ合っていると戯言とは思えなくなってきてしまった)

男(女子にモテていたというのか? この俺が無条件でだと? 俄かに信じられん)

【受け入れれば救われるでしょう。自惚れるならともかく、異性にチヤホヤされ体質を否定する意味が分からないぞ】

【しかも美少女限定という名の最高級料理オンリーなバイキングコースである。より取り見取り、お持ち帰りも可能。お値段なんとぽっきり0円! どうする? 堪能する……】

男「今更改めて訊く事でもないかもしれないけど、オカルト研が俺を帰りに誘うなんて急な話だよな」

男「そうしたかった理由でもあるのか?」

オカルト研「それは! あっ……闇を覗くものはまた、闇からも覗かれているものよ」

男「ニーチェ先生……じゃなくてだな、あの」

オカルト研「き、聞けばあとに引けなくなる。女の子に余計な詮索はすべきじゃない……っ///」

男「同じなんだなー」  オカルト研「え?」

男(後輩と寄り添おうとしていたあの頃の俺と彼女は同じなのだろう。積極性の違いこそあるが、共感に至ってしまう)

オカルト研「……男くんの方こそ、何故今日は私のお願いを聞いてくれたの?///」

男「気まぐれとでも言っておこう。それにどうせ今アイツと顔を合わせても……帰るか」

【放課後屋上へ直行しようとしなかったのはコレが初めての事だったと思う。彼女を怒鳴ってしまった後悔に取り憑かれ、足を運ぶ気になれないらしい】

【思春期って難しいなって、他人事で済ませられるか。後輩無しでハーレムに目覚められては過去が狂う】

男「オカルト研はどの辺りに住んでるんだ? 逆方向でもこの際付き合うつもりではいるが」

オカルト研「わ、私の住まいを知ってどうするつもりっ。さては今回で下調べを行い、夜な夜な忍び込む気では……っ!」

男「その度胸があるなら色々苦労しないだろうな。おい、聞いてる?」

オカルト研「そして私を無理矢理[ピーーーー]て[ピーーー]されてしまったり、[ピーーーガーーーーー]で最終的にはぁー!!」

オカルト研「あふん……///」ボンッ

【口元を手で隠し、鼻血を流す恥じらいの限界を超えしエロス美少女。脳内ではラブコメの常識を凌駕するえげつない光景が広がっているに違いない】

【その光景にドン引きなこの男と俺、どちらが真の主人公に相応しいか、とか思っている内に煙を上げたオカルト研の体がゆらりと倒れ――――なかった】

【男が支えたのではない。じゃあどこの誰が美少女を。……モブだ。しかし、コイツ ただ者ではないモブオーラを放っているのである。してその正体は】

「お嬢様!!」

黒服「お嬢様、お嬢様! お気を確かに!」   男(お……お嬢様だと)

黒服「おのれ、貴様がお嬢様を!? 囲めェーイッ!!」

【何処で待機していたのやら、校門から空から果てはマンホールの中から、ダークスーツとサングラスを装着した如何にもな大量のモブが颯爽登場しこちらへ突撃してきたのである】

「「「「「「ウォオオオオオオォォォーーーッ!!」」」」」」

男「うおおおおおおぉぉぉ~~~っ!!?」

オカルト研「や、やめて! 彼は私に何もしていない!」

黒服「おお、ご無事でしたか お嬢様!! そして悪漢を庇い立てしようとする貴女さまの懐の広さ!!」

黒服「くぅーっ!我々一同感動を抑えきれません! ……まぁ、止められませんがね」

「俳句を読め。介錯してやる」  「生まれてきた喜びをその身体に刻んでやろう」  「日本海と太平洋どちらで泳ぎたいんだ?」

男「声が出るうちに弁解させて欲しい!! どこに住んでいるのか尋ねたら彼女が倒れかけてご覧の有り様なんです!!」

黒服「ふん、悪者は皆揃って同じことを言うものだな!」  

男「過去に同ケースが!? オカルト研これは一体どういう事だっ、靴でも何でも舐めるから許してくれ!!」

オカルト研「な、何でも……ですって……舐める……?」

オカルト研「もうダメっ!///」ボンッ

【助平極まりないぞ】

黒服「――――我々の誤解で、ございますか?」

オカルト研「何もしていないと言った! ばかっ!」

「「「「「「『ばかっ!』ありがとうございますッ」」」」」」

男「くそ、何なんだこいつら……オカルト研」

オカルト研「男くん、無実な上に迷惑をかけてしまって申し訳ないわ。この人たちも悪気があったわけではないの」

黒服「お嬢様はなんと慈悲深きお方……そういう事だ少年、どれ、お小遣い握らせてやろう」

男「100円頂いても詫びをまったく感じないんですけど」

黒服「貴様はいつか100円に泣くぞ。まぁ、良いではないか。マトリックスみたいで滾ったろう?」

男「恐怖のあまり映画のワンシーンを楽しむ余裕なんて微塵もなかったんだが……っ!」

オカルト研「本当にどう謝っていいものか、よ。私にできる事なら何でも言ってほしい」

男(何でも、だと…)   【何でも、だと…】

黒服「ん?」   オカルト研「お前には言ってない」

黒服「仕方がない。お嬢様に感謝しておけ、少年の自宅まで送ってやる。気にするな! ガソリン代を要求するなんて……ええっ、払わせてくれ? 良い子だッ」

男(きっと人に対して殺意を覚えたのはこれが初めてである。今の俺なら瞬獄殺も容易いだろう)

【確かにモブにしておくには勿体ないウザさだと思わされたよ】

【これまた何処で待機していたのか黒光りを放つ無駄に長さのある高級車が俺たちの前に停車。中ではメイドらしき女性がグラスに葡萄ジュースを注いでお待ちしていらっしゃられる】

【呆気に取られたとか、生易しい表現で済まされない状態のままシートに座らされ、現在車内で揺れてる真っ最中である】

男(これは車の揺れではない。狼狽が俺を突き動かす、否、揺さぶっているのだ。現実とはなんぞ?)

黒服「詳しくを知りたそうな顔をしているな、少年。貴様は運が良い。OKA財閥の令嬢であるお嬢様と同じ学び舎に通えているのだからなぁー!!」

男「お、オカルト研……お前っ……」

オカルト研「秘密にしていたつもりはないの。でも、できる事なら話さないでおきたかった」

オカルト研「みんな、私がこの家の娘と知ると目の色を変えてくるから。離れていってしまった人ももう数え切れないわ」

【彼女が他人を寄せ付けない態度や言動を取りたがる理由はそこからか? ぼっち気味なのもそれを恐れて、なんて設定だというのか?】

【ああ、おかしいと思っていたのだ。何ゆえあれだけの美少女を揃えておいて、高飛車金髪ドリル縦ロールっ娘がいないのかと。……まぁ、モデルにそれへ近い人物が存在しなかったのもあるか】

【オカルト研よ、お前は隠れお嬢様キャラだったのだな。語尾に「ですわ」なんて付けなくとも今なら納得が……いかないかも】

オカルト研「男くんがその人たちと同じだとは思っていない。でも、話してあなたまで私から離れていくのが、こ」

男「こ?」

オカルト研「[ピーーー]った……ゆ、ゆるして」

男「っ~~~! ……事情は分かった。お前がドを超した金持ちの育ちだということには驚かされたが」

男「だからと言って関わるのを止そうだなんて思わない。これからも仲良くありたいな」

オカルト研「……///」

黒服「貴様如きブサイクノータリンが我々のお嬢様とだと? 気に喰わないなッ!」

オカルト研「これ以上男くんを悪く言えばお前を嫌いになる!」

黒服「し、しかしお嬢様。この将来有望そうな超特優種型イケメンでは貴女さまの隣を飾るに相応しくないかと……!」

男「本気で怒りますよ、俺でもっ……!」

オカルト研「私が付き合う人を私が選んで何がおかしいの。お前たちにはそれを批判する権利なんてないわっ」

黒服「いいえ、放置してお嬢様が非行にでも走られてはお父上さまからお叱りを受けるのは我々です。見逃すわけには」

オカルト研「分からず屋ーっ!」ブンブン

黒服「あっあっ、きもちい、い、痛いですお嬢様! はぁ、おやめ、あは、もっとくださいッ……!!」

オカルト研「お願い、私に普通の学生生活を送らせて。普通の学校に通って、素敵な人と出会って」

オカルト研「それを望むのはいけないことなの? 私は彼が[ピ]……はっ」

黒服「……少年、じきに到着するぞ。仕度をしておくがいい」

男「あ、あの……出過ぎた真似かもしれませんが、オカルト研は良い子です。俺なんかに感化されて変になったりもしません」

男「ですから、どうか彼女が明日も学校へ行きたいと思えるようにしてあげてくれませんか?」

黒服「少年。貴様まさかお嬢様に手を出していたりしてないだろうな?」

男・オカルト研「!?」

黒服「私もお嬢様のお友達が同性ならばこうも口煩くならずにいられたでしょう。しかーしッ!!」

黒服「紛うことなく、このイケメンは男なのです! これがもし恋愛関係でも築かれた日には一大事ですぞ!」

オカルト研「イケメンなら問題ない!」

黒服「なりません、なりませんっ! この男はイケメンカーストの最低下層に存在しているのですから! 馬の糞もいいところ!」

オカルト研「男くんは普通のイケメンじゃないわっ。お前にはそれが分かるほどの器がないから醜く否定しかできないのよ!」

男「っー……!」  【言いたいことは分かるがここは抑える場面だ】

黒服「ええいっ、到着だ!! とっとと降りろイケメン(笑)ッ!!」

男「一言だけ言わせて頂きますけどねっ! もし俺がオカルト研と交際することでもあれば、何が何でも第一にあんたから認めさせてやりますよ!」

オカルト研「なっ……!」

黒服「……言ったな? 勢いで言っちゃったな? ふん、自惚れるなよ小僧が」

黒服「私もつい熱くなりすぎてしまった。お嬢様がこの程度の男に気を引かれてしまうわけがない。ねぇ!?」

オカルト研「……さぁ?///」

男「足しになるか分からないけど、これガソリン代と思って受け取ってください。100円ですけど!」

黒服「貴様ァー……ッ!!」プルプル

オカルト研『今日は本当に、何度でも謝りたい。アレには後で注意しておいたから』

男「いや、悪いのはオカルト研じゃない。それに最後で一泡吹かせてやれて清々してるしな」

【夜、オカルト研からの着信を受け取れば想定通りの内容で改めて謝罪されてしまった。例の黒服は形こそ反省はしているものの、俺含めたこの男を未だ敵視しているらしい】

【俺にとっての敵がいない世界とは聞かされたが、あの様子だとバリバリ敵の類にカテゴリーされるではないか。これは来るべきオカルト研ルートが楽しみで仕方ないな】

オカルト研『……あ、あの時男くんが私と[ピーー]する事があればと言ってくれたけれど』

男「え?」

オカルト研『な、何でもないわ。それより今度一緒に帰る機会があればその時こそ悪霊について話し合いましょう』

オカルト研『あなたに宿っている悪霊は桁外れの――――ブチッ』

男「悪いが今日はもう店じまいでな。……ところで盗み聞きは感心しないが?」

【と、戸の先へ呆れたようにして目を向ければ、妹が舌をちょろっと出しながら可愛らしくウィンクして中へ入ってきたのである。内心相当焦っていただろう、必死に取り繕って見せているな】

妹「あはは、バレちゃったぁ~?」

男(そら部屋の前で俺の難聴に触れる言葉が連発されていれば否が応でも気づく。変に便利なスキルだな、コレ)

妹「か……彼女から?」

男「違うな」   妹「で、ですよねー!!」

【安堵する妹には申し訳ないというべきか、悪戯好きなあの美少女らしいというかである。偶然にも、携帯電話が着信を伝えるバイブレーションを繰り返したのであった】

また明日だと思う

黒服「貴様如きブサイクノータリンが我々のお嬢様とだと? 気に喰わないなッ!」

オカルト研「これ以上男くんを悪く言えばお前を嫌いになる!」

黒服「し、しかしお嬢様。この将来有望そうな超特優種型イケメンでは貴女さまの隣を飾るに相応しくないかと……!」

男くんを悪く言ったら嫌われちゃうからね
わざとらしくイケメン(笑)と呼んでいるのだろう

母「息子よ。暗くもなってきたのに制服でお出掛けするのですか?」

男「生憎一張羅がコレぐらいしか見当たらなくて。すぐに帰って来る」

母「あらあら、相手は女の子かしら」

男「その恋愛脳っぷりは立派に我が妹へ伝わっているのだろう。少しコンビニで買い物だよ、母さん」

妹「ねぇー! 結局さっきの電話の人誰だったのさー!」

男(美少女の上にお前のクラスメイトでお友達だ俺の彼女だがな、その真実を突き付けてあげるのは酷ではないか)

男(兄の黙秘権を行使せざるを得ない。許せよ妹、将来同い歳のお姉ちゃんが同居するかもしれんがな)

【これだけ執着していると男版ヤンデレが誕生する日も遠くはないかもである。まったくゾッとしない話だ】

【次々投げかけられる妹の質問を背に、無事脱出を完了すれば、彼は気持ち早足で目的地へ急ぐ】

【なんと後輩に呼び出されてしまったのだ。電話口での彼女は至って平然とした態度で、一言。「今から会ってくれませんか」と】

男(昼休みでの件で頭を下げられるのだろうか。それとも寂しくなってしまったとかでは? 今日は『いつもの』が無かったからな)

男(どんな理由だろうと一向に構わん。これで気まずいまま明日を迎えずに済ませられるならばだろう)

男「……しかし、どういうつもりで遅くもなって学校で会おうと考えたのだろうかね」

【悪戯とも考えなしだったわけでもないらしい。というより、誰もが同じ疑問を先に抱くのが自然だろう。夜の校舎で待ち合わせ、なんて】

【良い子は立ち入り禁止なイベントが待っていたらどうしたものか? ……校門が開いたままである。昇降口までもだ】

男「堂々侵入したあとになんだが、大抵どこも夜は防犯セキュリティーが作動してなければおかしくはないか」

男「灯りは全て落ちてる。残ってる職員も、用務員のおじさま方もいらっしゃられん……非日常が連続の一日。退屈を忘れそうだな」

【とは言いつつ心踊らせている理由は他にあるこの男だ。後輩からは『学校で』とだけ伝えられ、詳しい場所を聞かされてはいない】

【それでも彼は迷わず暗闇の校舎の中を進む。自分の当てがハズレているわけがないと】

男「……何度か階段を踏み外しそうになったが、あと少し」

男「ここまで来た自分を思わず誉めてやりたいよ。俺に何をされても絶対文句は言えんぞ」

男「なぁ、後輩――――――!!」バンッ

男「……何通りだろう。アイツがここにいない理由は俺にどれだけ考えられるか?」

【一番に、騙された、と思わないほど彼は後輩を信じていた。校舎へ引き返すことなく、屋上の中へ進んで行くと柵に手をつき一息漏らす】

【絵面だけなら夜空をバックにどことなく寂しげな男の背中といった美少女胸キュンでないか? 背中で語るには物足りないほど彼の頭はゴチャゴチャしているが】

【さて、ご覧頂こう。やはり俺は的確であった。背後から美少女の空気を纏った何者かが、男の腰骨辺りへそっと腕を回す】

後輩「振り向かずに、こんな事されてしまったご感想をどうぞ」

男「どこの男子かな」

後輩「自分の彼女をイジメて楽しいんですか!?」

後輩「もっとこう……[ピーーー]した、とか……色々あるじゃないですか……っ!///」

後輩「先輩は女性に対する欲求というものが欠けてるんじゃないかと時々思わせられます」

男「……そういうの期待して呼び出したのか?」

後輩「いえ、違いますけど」

男「だ、だったら思わせ振りな態度取らないでくれ! 途中でコンビニ寄らなかったのを一瞬後悔したぞっ!」

後輩「先輩って女の子に好かれたいと思ったことないんですか?」

後輩「もしかして、その、どちらかと言えば男の子の方に」

男「同性愛者がわざわざ異性の恋人作るのは非生産的だろうが……っ!」

男「いいか? 別に表面上はまともな恋愛をやろうとかってワケでもねーぞ。本気でお前を選んだ」

男「だから、そんな事を疑わないでくれ。彼女でもバカになんてして欲しくない。今日怒ったのはそういうつもりでだったのだが」

後輩「そうでしたか。反省してます、十分かは自分でも分からないけれど」

男「……と、ところでいつまで抱きつかれてたらいい?」

後輩「えへへ、難しい質問ですね」

男「うぐっ……そろそろお前の顔が見たいんだが。それも難しいのかよ」

後輩「さぁ、どうでしょう? でもこうしながらだって話はできるでしょう。誰も来ませんしね」

男(後輩らしいというか、である。ならばここで一つ、この俺の意地ってヤツを見せてやろうではないか)

男「後輩、ついさっき俺が女の子に好かれたいと思ったことがあるかと訊いたな」

男「野郎なら例外を除けば誰もがYESと答えるのが至極当然。俺でさえ当て嵌まる」

後輩「でも先輩は私以外の女の子が迫ってきても」

男「お前以外に好かれたいなんて思っちゃいないからな」

後輩「!! ……それが[ピーーーー]い」

男「ていうか後輩自体が女子なんだ、言わずともだろうが。確かに不特定多数の異性から好意を抱かれて気分悪いと感じる人間はいない」

男「だが、俺はお前一人から好きと思ってもらえていたらそれで十分だ。満足だ。これ以上を望むものか」

後輩「っく……!」

後輩「わ、私にはあなたが理解できません。意味不明です。どうかしています……!」

後輩「もっとご自分の欲に素直になれば良いじゃないですか! 抑える必要なんてありません!」

男「俺が欲しいのは後輩という子だけなんだが。まだ理解してもらえそうにないのか?」

【この綺麗な俺は俺ではない! ああ、何かの間違いだ!】

男「頼む。俺のことが好きと言ってくれ、後輩……なぁ、さっきより強くなってないか。腕の力」

後輩「だ、黙っててくれませんかっ!!」

後輩「ばか……///」

【ぶち壊されるべきだ】

【この腹の足しにもならない甘酸っぱい雰囲気なんぞ発破をかけて塵にすべきだろう。この俺にとって拷問でしかないのだぞ】

男「もう顔を見させてくれても構わないだろ?」

後輩「だ、だめ!! まだダメ!!」

男(お預けは十分喰らったではないか。永遠抱きしめられても苦にはならないが、生殺しは勘弁である)

男(酷く強張った後輩の腕を掴み、俺は強引に後ろを振り向く。そこには湯気が上がっていそうなまでに赤く上気した、顔を火照らせた彼女があった)

後輩「だめって言ったのに!!///」

男「……か、かわいい!!」

後輩「見ないで、喋らないで、触らないでください!! 離してぇーっ!!」

男「まさか俺の言ったことに照れてずっと顔赤くしてたのか!? そんなになるまで!?」

後輩「うるさい!!///」

【必死に手を振りほどこうと掴まれた腕を暴れさせる後輩。しかし、小さく華奢なその身体では足掻こうと逃れられずにいた】

【まるで今の彼女は理性の欠片も感じられない子どもだ。次第に涙目へ変わり始め、力いっぱい回した腕も元気を失うも、未だ雑に男を除けようと頑張っている】

後輩「んっ!! ん~っ……いやぁ……!!」ブンブン

男(ふむ。一度調子崩されると弱いな、コイツも)

【小生意気で悪戯好きなペッタンコ敬語美少女後輩にも男というウィークポイントが存在したのである。正しくは裏のない真っ直ぐな純粋さかもしれない】

【俺の前では確認できなかった素の後輩がここにいる。嬉しくもあり、寂しくもあるようなこの不思議よ】

後輩「ふ、ふふふっ……仕方ありませんね」

後輩「今日のところはこれぐらいで見逃してあげても構いませんよ、せ~んぱいっ……!」

男「絶対いま自分で何言ってるのかワケ分かってないだろ」

後輩「人をここまで辱めておいてよくも平気な顔していられますね!? 鬼です、先輩の鬼!!」

男「今日はすぐに屋上へ来なくて悪かったよ。実はいつもみたいに変わらず待っていてくれたんじゃないか?」

男「遅刻しちゃったけれど、放課後は明日学校が始まるまでだよな。延長戦も許してくれないかね」

後輩「はぁ!? ―――――ん、むぎゅ」

【ドラマティックに引き寄せて。ファンタスティックに抱きしめて】

男「ずっと、ずっとこうしたいと思ってたんだ。また一つ夢が叶えられた」

後輩「あ、ああ……あうっ……!?///」ピク

男「大好きだ、後輩。今なら何度でもこうやって言える」

後輩「や、め……!///」ピクピク

後輩「と、とりあえずキスは……やめときましょうっ……ね、先輩!?///」

すまん短いけど明日へ続く

後輩「キスとか、その上級者向けみたいな真似はまだ私たちには早いかと……[ピ]、[ピー]とかそういうワケじゃなくてですね?///」

男(後輩は相変わらず真っ赤に染まったまま気不味そうに顔を背けた。勢いで俺がAから始めていくと不穏な空気を感じ取ったのだろうか)

男「(精々これで打ち止めにしておくつもりだというに) 普段と、らしくないんじゃないか?」

後輩「先輩の方こそ! わ……私は、変わりないですよ」

男「気を悪くしたら謝るけど、お前は抱きしめたってキスされたって、はいはいそうですかで済ますタイプかと」

後輩「私だってそう[ピーーーーーー]ました……っ」

男「人を手玉に取るのは得意なくせに、自分がその立場に置かれるとやっぱり面白くないかね」

男「でもこんな風に恥ずかしがってくれる後輩も俺は大好きだよ。余裕たっぷりのクールな感じも嫌いじゃないけどさ」

男(驚く位少女漫画のような台詞が次々口から溢れてきて止めようがなかった。自分に酔っているのは分かっている。実は全部録音してました、なんてやられたら迷わずこのお花満開の脳みそをプレスに掛けてくれよう)

男(彼女同様に俺もまた赤く火照っているかもしれない。落ち着きを取り戻すとともに後輩の体へ回した腕がだらりと落ちて、解放してしまった)

後輩「あっ……」

男「どうした残念そうな顔なんかして。ふふっ、離して欲しかったんじゃないのか」

後輩「なっ、い、いつまでも調子に乗らないでください! 私だって怒りますよ!」

男「悪かったよ。さて、お互い疲れてるだろうし、続きは明日の放課後にしておこうか?」

後輩「……もう帰っちゃうんですか」

後輩「放課後は明日の朝が来るまで続いてるんでしょう? もうお終いなんですか」

男「……延長戦、って真に受けてたのか (先程までムードに乗れず暴れていた後輩はどこへ行ったのだ)」

男「さ、さすがに学生が朝帰りなんてやったらマズイだろ。お前の両親もきっと心配してる!!」

後輩「先輩は? 先輩はどうなんです。このままお別れにしちゃっても後悔は残らない?」

男「だから明日続きをしたらっ……!!」

後輩「その、続き、って一体どういう事をするんでしょうか……///」

男「っ~~~!?」

【止せ、止しておけよ。この俺でさえまだ幼馴染とは未遂のままだぞ。若気の至りは過ちしか生まない。その先へ進むとR指定だ! 規制がかかる!】

【天にまします我らの神よ、不純異性交遊をあなたさまがお許しになって良いのか! 大事なところをキングクリムゾンして事なきを得ようなどとお考えなさってはいないでしょうな!】

男「こ、後輩」   【お願いします!! 今だけ俺とこのバカをチェンジしろ、ただちに!!】

後輩「なーんて」   男「ぶうっ!? ……お、おーい」

後輩「先輩のスケベ、さっきのお返しですよ。デコピン一回で済ませられたのを感謝して頂きたいですね」

男「か、勘違いするなよ! 俺は別にやましい事なんて何もっ!」

後輩「はいはいそうですか。ふふっ!」

【おい、そこは黙って押し倒されておけよ。サービスイベントだろ】

【白けてないが? 美少女の健全なる安全は無事守られてほっと一息ついたところなのだが?】

【この男にこれ以上のステップアップを行う度胸がなくて心底安心させられた。美少女は宇宙の宝だ、何人たりともそれを穢す権利はない。俺一名を除いてな!】

【……早く元の時間に帰りたい。疲弊し切って鬱になってもおかしくないと思う。帰りたいなぁ】

後輩「ところで、よく私が屋上で待ってるとすぐに分かりましたね?」

男「分かれない奴の方がどうかしているぞ。ここは俺と後輩にとって特別な場所なんだから」

男「お前はどうかは知らないけれどな、俺は本当にここが大切だよ。なくてはならない必要な場所だな」

男「初めはただの逃げ場だったんだ。唯一心を落ち着かせられるベストプレイス。だが、もうそれだけじゃなくなったと自分でよく感じられる」

後輩「私がいるから、ですか?」

男「……す、好きだ、後輩!!」

後輩「どうして唐突にそうなっちゃうんですか!?」

男「好きだ、好きだ、好きって言葉じゃあもう安っぽく聞こえるか! それなら愛してるに言い変えてみよう!」

後輩「そ、そういう問題じゃなくて……うー……///」

男「お前と顔を合わせるたびにこう挨拶しても構わないかな!?」

後輩「絶対にお断りですっ!!///」

【……マジで帰りたい】

後輩「先輩が私をどう思ってくれているのかよく分かりました! ですけど限度があるでしょ……///」

男「一生大切にしたいこの気持ちを抑えきれる気がしない。俺がロウソクなら永遠に愛の炎が燃え盛っていそうだ (後輩ちゃんLOVEである)」

【一旦暴走が始まると収まりが効かなくなるのか、こいつは。ある意味欲望剥き出しになっているのだろうな】

後輩「ハァ……次におかしなこと言い出したらデコピンなんかじゃ済まされませんからね」

男「おかしくなんてない。俺は終始真面目に後輩への愛を説いているつもりだ」

男「お前が俺に同じ言葉を返してくれるまで、鬱陶しく見られようが、何度だって――――うっ!?」

男(フラッシュに目が眩み、言葉が遮られる。キィーン、とした音がフェードアウトしていけばカメラを下ろした後輩がこちらへ微笑んでいたのである)

後輩「忠告はしましたよ、私」

男「だからって急に撮ることはなかっただろ!? 俺の顔なんぞ写して得でもするのか!?」

後輩「……あまりに真剣な顔だったから、つい撮っちゃいました」

男「へ?」

後輩「……私もあなたのことが[ピーーーーー]です。ううん、[ピーーーー]になっちゃったんです」

後輩「[ピーーーー]……先輩が、すごく[ピーーーーー]……あなたの隣にいると、[ピーーーーー]して[ピーーーーー]なるんですよ……」

男(これでもリスニングには自信がある。その俺が彼女、彼女たちの大切な言葉を聴き取れない。それはとても苛立ちを感じるし、切なくも感じられる)

男「え? 何だって?」

【言葉はけして届かなかった。だがしかし、隠された台詞の全貌は捉えられなくとも、彼女が何を自分に伝えたいのか彼は無意識に理解していた。というか、この流れ的にそうでしかあり得ないだろう、と】

男(後輩の声で、それをしっかり聞き入れたい。俺が理解したからそれで良いと納得させたくはないのだ)

男(だから、もう一度何と言葉にしたのか、聞かせてくれ。お願いだ)

後輩「二度も同じことを話す趣味はあいにく持ち合わせてないんですけど?」

後輩「……私も大好きですよ、先輩が」

男「ほ、本当か!?」

後輩「実を言うと、正直その自信があるかどうかわかりません。私があなたへ抱くこの気持ちが何なのか」

後輩「け、嫌悪しているワケではないことは間違いないんです。でも、直接『好き』なんて言葉を口にしてみると」

後輩「心地が、良い……あは、意味不明ですよね。ごめんなさい」

男「全くだな。お前の話してくれる内容って難しいものが多過ぎる。だけど努力しようじゃないか」

男「後輩の何もかもが理解できるようになる努力を。どれだけの時間が掛かるかもだが、かならずお前の全てを理解してやろう!!」

後輩「やっぱり変な人」   男「おい、今のは聞こえたぞ」

後輩「え? そ、そうですか。聞こえちゃいましたか……帰りますか」

男「ああ。ところで後輩、そのカメラどうしたんだよ?」

【寝惚けてるのかコイツ。……あっ】

後輩「覚えてないんですか? 写真を撮るのが好きだと前にお話した筈ですけど」

男「最近少し前の出来事が曖昧でさ。やっぱり人は頭を使わなきゃ退化するのみだな、今度仰々しそうな本でも借りてみるとしよう」

男「持ってるのは、デジカメじゃないのか。フィルムカメラなんて随分と玄人仕様な物を使ってるんだな」

後輩「ですかね。さっきの写真、暗かったけど上手く撮れたかな? 私、あまり人を写すのは得意じゃないんで専ら景色ばかりなんですけど」

後輩「先輩に限ってはそれなりに自信ありますね、ふふっ」

男「単純そうに見えて俺は複雑な面だと思うが? にしても……へぇー、カメラか……」

男「今度俺にも色々教えてくれよ。意外と俺がやってみたらプロにも並ぶ良い出来の写真が撮れたりするかもしれんぞ」

後輩「だーめ」  男「はぁ?」

後輩「ところで写真の現像ってカメラ屋さんでやってくれるんでしょうか?」

男「……おいおい、知らないで今までどうやってきたんだ。本当はその趣味つい最近始めたんじゃねーのか?」

後輩「ね? こんな私が先輩に教えられることなんて一つもありませんよ。諦めてください」

後輩「じゃあ、家族が心配してしまう前に帰りましょうか」

男(長い時間を過ごしたと、時計を確認すればあれから1時間も経過していなかった。俺たちは暗闇の校舎を互いに手を引き、降りて行く)

男(後輩とカメラ。どことなくその二つの組み合わせはしっくり来た。だが、あのカメラでは後輩が持つには少し大き過ぎるだろう。そのアンバランスさも魅力かもと、美少女は何でもアリ、を教われた気がする)

【もう二度と、彼が大好きなそれを持つことはないという実感が沸くと、なんとも複雑であった】

幼馴染「――――今朝もおじさま家にいなかったね? 早くに出勤してるの?」

男「いや、今は出張に出てるんだよ。二、三日もすれば帰って来るだろうけど」

男「最近は忙しいみたいでな。海外の支社との連携がどうとか、あーだこうだと嘆いてたのも記憶に新しい」

幼馴染「ふーん……おばさまも大変だね。あれだけ仲が良いと離れてる期間が長いだけ寂しい思いしてそう」

男「父さんもな。そのうち二人して自分らの時間を大切にしたいとか言い出して、出張に連れて行かれたりもありうる」

幼馴染「そ、そしたら男くんも妹ちゃんも着いて行っちゃうの!? [ピ]、[ピー]だよ、そんなの……」

男「何だって?」

幼馴染「っー! も、もしおじさまたちが長期で留守にしてもあたしが男くんたちのお世話するから! 大丈夫だよっ!」

男「そうして貰えると大助かりだな。炊事洗濯風呂の用意、現代のメイドかってぐらい働いて頂くとしよう」

幼馴染「ふむ……男くん、おかえりなさい。先にご飯にする? お風呂? ……それとも[ピ]・[ピ]・[ピ]……?」

幼馴染「なーんちゃって!! なんちゃってー!! きゃーきゃー!!///」バシバシッ

男「や、やけに元気だな……お前……っ」

男「ところで今度俺の部屋の戸を直すの手伝ってくれないか? 鍵が壊れててプライベートも何もない状態で。よく妹とかいうのが紛れ込んで来やがる」

幼馴染「え? 壊れてるも何も、壊したんじゃん。男くんが前みたいに引き籠らないようにって」

男「……は?」   【ああ、なるほど】

【男は幼馴染から戸の鍵から始まり、身に覚えがない、というか今の自分にとって都合が悪いであろう出来事を聞かされた】

【カメラ、それに関連する暗室の記憶はまったくと言っていいほどスッポリ頭から抜けている。加えて変化を遂げる以前の自分がどれほどの葛藤と悩みを抱えていた事までも】

【この世界で目覚めてからこれまでを、簡単になぞるぐらいの流れのみが彼の中に残留していたのだ。どうしてこうなったか? 何故こう至るのか? 詳しくを思い出そうとすると記憶に靄が掛かり混乱を起こしかける】

【現在の自分こそが本来の自分であるのが当たり前と信じて疑わなかったのである】

男「俺はお前とこの前までケンカしていた筈だよな。原因が何だったかまだ覚えてるか?」

不良女「あ、挨拶ぐらいしてから訊けよ……べ、別に大したことなかっただろ。もうどうでもいい!」

不良女「つーか例のアレ、持ってきた? あたしはそれの心配しかしてないんですけど」

男「まぁ、そう急くな。あと数日寝かせて置けば良い感じに熟すから」

不良女「マジで漫画なんだよなソレ!?」

男(不良女と何かが原因で仲違いしたのは確かである。修復のためにも俺は頭を下げたし、お陰でより彼女に近づけた。だがその原因が思い出せない)

妹「お兄ちゃん!」

男「(お互い、何かの拍子でカッとして暴言でも吐いたのかもしれんな。済んだ話を掘り返すのは利口じゃないだろうよ) ……」

妹「ちょっと、呼ばれたんだから止まってよ! お兄ちゃんおにいちゃんおにいちゃーんっ!」

「お兄ちゃんだって。今時素直にそう呼べる子って少ないわよねー、純粋だー」

妹「あわっ……///」

男「そう何度も呼ばれなくても聞こえてる限りは反応する。で、慌てた様子で何があった?」

妹「きき、気づいてたなら一回で返事してよぉー!!」

妹「……んっ、お弁当持って行き忘れたみたいだから。今日は私が遅れたの感謝してよ?」

男「そら見ろ、俺が珍しく早起きすると返って問題が発生するんだ。次からは気をつけろよ」

妹「何偉そうに言っちゃってるの!? ほんと、おにいちゃ……[ピッ]、[ピーーーーーー]かも」

男「どうした? まだ何かあるのか?」

妹「あのぉ!! その、ね……が、学校で会ってもお兄ちゃんなんて絶対呼んでやんないんだから!?」ビッ

男「ワケもなく家族へ突然牙を剥くその様子、まさか反抗期のつもりか。じゃあ今後はどう呼ばれるか教えてもらうとしよう……」

妹「て、ていうか家の中以外で私に話しかけたりして来ないでね! ちょー迷惑なんですけど!」

男「今回先に声を掛けてきたのはお前の方だった気がするんだが。それに学校じゃまず妹と滅多に会わんだろ?」

妹「だったらお兄ちゃんが私に会いに来ればいいじゃん!! ……はっ!?」

妹「[ピーーーーーーーーーーー]!? [ピーーーーーガーーーーーーーーーー]!!///」

男「何て?」  妹「う、う…」

妹「うるさいうるさいっ! お兄ちゃんのアホぉ! 妹に何てこと言わせんのよぉ~っ!?///」

男「えぇ……」  【これを理不尽ツンデレと名付けよう】

【騒ぎに関心を示したモブたちは語る。その一部を紹介しよう。「お兄ちゃんっ娘なんだねぇ」、「好きなんだねぇ」、「小学生みたいにちっこいねぇ」)

妹「はぁ!? 今ちっこいとか言った奴はどこのどいつだぁ~!!」

男「落ち着け、そうやって騒いでいると餌を与えるだけだぞ」

妹「あーもうっ!! ……お弁当渡したからっ。んじゃ!」

男「待てよ。理由は分からんが俺に会うのを我慢してまでコイツを届けてくれたんだ。ありがとう、助かったよ」

男「これからはなるべく関わらないように気をつけるとしよう。それじゃあな、妹」

妹「あ、うぅー……[ピーーーー]ってわけじゃ……///」

男「ん?」

妹「か、帰るっ!! [ピーー]かけてきて欲しいとか思ってないんだからね!?」

【転校生の穴を埋めるかの如く迫真のツンツンぶりをありがとう、妹。お兄ちゃんはいつでもお前をウェルカムだ】

【様々、というよりは偏った思惑がこの男を中心に渦巻き、物語はレールに乗り始めた。美少女たちとの関係も順調に進んでいるではないか】

【天使ちゃんよ、しかと目に焼き付けているか。ロリ天という観察者がいてこそ1周目は成り立つからな。……さて、残るは】

男「先生が休んだ?」

男の娘「うん。HRも教頭先生が代わりに来たでしょ? 急に来られなくなっちゃったらしいよ」

男「まさかな……いや…………」

続きは日曜になるか、火曜日になるかまだちょっと未定

【美少女の定義とは何ぞや。一般的にそう称されるべき対象は絶対条件を持って限定される。一つ、当たり前に女性であること】

【二つ、誰もが認める美貌。最低上記二つが当人へ揃っていさえすれば『美少女』の称号が授けられるのだ。教わる話ではない。様々な人々の顔の優劣に気がついたその時から、自然に学ぶ、周知である】

【結局小難しい理論など必要にあらず、単純に美しい少女が美少女なのである。この、たった三文字から浪漫、淑やかさ、色気を感じるのは俺だけではなかろう。シンプル イズ ベストである】

男(バスで約15分。少し歩いて計25分前後といったところか……イメージしていたよりも、マンションという感じからは程遠い。むしろコイツはアパートと呼ぶべきか)

男「祈るしかない。無駄足にならなかったという事を」

【では諸君、今の話を踏まえて思案して頂きたい】

男(階段を昇り終えた俺たちはある部屋の前へ立ち、一息つくと、呼び鈴を押す。扉の奥から確かに呼出し音が響いた)

男(数秒待ったが足音どころか生活音すら聞こえず、祈りは届かなかったのだろう、と半ば諦めつつ俺は呼び鈴を連射する)

先生「があぁーっ!! ――――――て、何で?」

男「ダメ押しが通じたみたいだ。先生、お休みのところ押し掛ける気満々で申し訳ありません」

先生「いやいや、押し掛けるって……帰りなさい。見て分かるでしょ? 風邪引いてるの。うつせないから」

男「ええ、聞いてます。だからお見舞いに俺たちポカリ買ってきたんです」

先生「おれ、たち?」

後輩「こんにちは、先生」

【10代を越えた彼女に美少女はもう相応しくないのかと】

【空気も読まず彼女同伴で、お見合い控えといえど一人身の女教師の家にとは何事かと】

【が、これにはワケがある。浮気ではないという証明に後輩を連れて来たとかではなくてな、むしろお見舞いを提案したのは彼女からなのであった】

男「こいつが先生のアパートがどこにあるか知ってるって言うもんで、無理に付き添ってもらったんです」

後輩「お邪魔でしたら道案内も済みましたので、私はこれで」

先生「ちょっと……そんな事言われちゃ追い返すのも悪くなっちゃうじゃない……」

先生「……私ってば何[ピーーー]してるんだろ」

男「ん? でも顔が見られて少し心配も晴れましたよ。結構な高熱を出したなんて聞いたから」

先生「その話聞いてよくお見舞いとか考えられたね? 普通安静にさせておこうとかじゃ――――」

男(熱のせいか潤わせた両瞳。その焦点が合っていないと思わせられていると、うつらうつら、先生の体が前のめりになっていく)

先生「わ、悪いけれど玄関で立ち話させないで……クラクラする……」

後輩「先輩、中へ入って彼女を横にさせてあげましょう。私は左を持つから、もう片方の腕お願いできますか?」

男「あ、ああ。すみません! 無理させるつもりがあったわけじゃ」

先生「いいよーもうー……でも二人とも、お願いすぐ帰って……」

先生「体調管理もできない教師が、おまけに生徒へ風邪うつしたなんて……洒落ならないよ……」

【叱る元気すら失せているようだ。普段から大人の余裕を見せて明るさ振り撒く彼女が見せる弱々しさは、実に心苦しいな】

先生「お願い帰って……帰ってってば……心配してくれてるなら、そうして貰えた方が先生も一番だから……」

【ベッドへ寝かせて毛布を深く被らされた彼女は「帰れ」と繰り返す。当然だろう、これでは逆に気を遣わせてしまい体を十分に休ませてやれないのだから】

男「常識がないのは承知でここに来ました。少し話をしたらすぐに立ち去るつもりでいますから」

男「でも本当にただの風邪で良かったです。俺、この間の話が原因で何かあったのかとてっきり……」

先生「やめて。これ以上心配されたら弱音吐いちゃうよ……情けない姿なんて見て欲しくないわ」

男「いや、本気で俺に心配させてください。覚えてますよね? 先生が俺のことで悩んで、心配してくれたことを」

男「恩返しなんて図々しい真似と思わないで、好きにやらせて頂けませんか。ここにいないのが一番だとしても、せめて少しだけ」

先生「ご、五分だけだよ。あとは何を言おうと絶対に帰って」

後輩「先輩、あまり先生に無茶させないようにしてくださいね? ほら、彼女さっきより顔が赤くなってますから」

先生「…………[ピーー]じゃないの」

男「え? 何て」

先生「そ、それより部屋汚くてごめんね! いつも片づける暇探してるんだけど、これが中々ないもんでっ!」

先生「せっかくだしお茶淹れてあげようか? コーヒーもあるけど――――あっ」ガシッ

男「ダメです。先生は横になって大人しくしていてください」

先生「うっ……わ、わかってるってば…………///」

【弱ったところに不器用なまでの強引さが綺麗に通ったらしい。この男、ピンポイントで鈍感に攻めていくその姿は畏怖の念すら抱かされるな】

【しかし、こいつにとっては初見な先生の部屋もこの俺にとっては二度目になるのだな。あの時と比べると生活感ありありで、散らかり具合も中々のものだ】

男(お見舞いといってもこれ以上先生へしてやれる事はないのかもしれん。これでは俺のワガママを押し付けに来ただけに等しい)

男「(何か、何かできる事は) ……せっかくですから、簡単に部屋を掃除して帰ります」

先生「はぁ!? 君ちょっと何言ってるの!?」

男「触ってほしくない場所は言ってくれれば避けますよ。片づける時間が作れないんでしょう? 代わりに俺が」

【彼女の制止も聞かずに余計なお世話は実行される。テーブルの上に置かれた無駄のものから、空いたコップ、ゴミの片づけ、と】

先生「そ、そこはアウト!! アウトアウトぉーっ!!」

男「え? ……あっ (乱雑に放られた雑誌の群れを退けると下から、立派で、大人な、見事な黒のブラジャーがこんにちはしたのである。だから思わず両手で広げて)」

先生「わぁー!! ばかっ、エッチ!!///」

後輩「……先輩?」

男「ご、誤解だ! 先生も誤解ですよっ! だ、だだ、大体身に着けられてない下着に欲情するほど俺は!?」

先生「掃除なら治ってから私がやるから手出さなくて結構!! 君、もっとデリカシーとか知りなさいよっ!!///」

後輩「先輩のすけべー、むっつりー……そのブラ持っていま何か想像しませんでしたか」

男(ブカブカになるんだろうな、って)

先生「いい? お見舞いって黙って傍に居てさえくれれば十分なの。だから余計な事までしないで頂戴」

男「だけど先生……ほ、他に困っていたりしませんか? 俺にやれる事なら全部やらせてください (これが困らせる羽目になるのは理解しているが、どうしても)」

先生「ハァ、鶴の恩返しじゃあるまいし。これでも感謝してるんだからね? 心細いと思ってたとこに君たちが来てくれたんだから」

先生「あー、ほら、騒いだお陰で熱なんかもうどっかに吹っ飛んでい――――げほっ!」

後輩「逆ですよね、普通に考えたら。……先輩、私は他に用もあるので先にお暇させてもらいますね」

男「もうそんな時間か? 五分なんてあっという間なんだな。だったら俺も」

男(結局押し掛けた上にワガママで終わるのか。風邪が悪化でもしたら俺のせいだろうに)

男(他にしたかった話もまだ残ったままだろうが。一体何をしに来たというのだ)

後輩「五分? まだあれから三分程度しか経ってませんけど」

男「何を言ってる? いま時計見たら確かに――――ん、三分……」

後輩「先生の約束した通りならまだここにいても許されるでしょう? まぁ、長居は感心しませんけど」

【二人へ有無を言わせず後輩は一方的に立ち去って行った。後輩なきこの空間にしばし気まずさと言う名の沈黙が流れる】

先生「君も……もう帰った方がいいんじゃない? 暗くなる前に」

男「俺は、もっと先生と一緒にいたいです。話がしたいんです」

先生「あ、ああ、そう……生徒相手に[ピーー]してるとかバカか私は……///」

【難聴なんぞに構っている場合か、と男は立ち上がるとベッドへ近寄って行く。突然の行動に驚き慌てる先生のすぐ横まで移動を終えると、ベッドへ背を預けて胡坐を掻いたのであった】

先生「あんまり近寄るとうつっちゃうかもしれないんですけど……っ///」

男「平気です。たとえ俺が熱を出しても自分の責任と思わないでくださいね、他でもない自分のせいなんだから」

先生「そんなの無理に決まってるでしょ! そういうの正直迷惑だよ、男くん。優しいけど、全然良くない」

男「……あの先生が体調を崩したなんて本気で俺 驚きました。しかも休むほどだなんて」

男「自分の管理にも気が回らないぐらい悩んでたんじゃありませんか? 例の話」

先生「[ピーー]な……だとしてもね、言い訳にはならない。思った通りに行かないから仕事を放り投げるなんてダメなの」

先生「さっきね、君たちが来る前に一人で考えてたんだぁー。本当は私って教師に向いてないんじゃないかって。教師失格なんじゃないかって」

先生「それなら早く嫁ぎに行って、両親を安心させてあげる方が今後の為かもしれない。誰も損しないしね」

男「納得してるならベストですよね、自分が納得しているなら」

男「先生自身を除いて、誰も損しない、なんて結論を出したなら俺は全力で否定しにかかりますよ。ガキの言い分だとバカにしないでくださいね」

先生「ねぇ、どうして私のことそんなに心配してくれるの? 所詮先生じゃない。きっと卒業したら忘れちゃうよ?」

男「先生には感謝してるんです。そして一教師として尊敬も。それも二度と忘れられないぐらい深く、脳裏に刻み込まれましたよ」

男「人として好きなんですよ、先生は。そんな人が一生の選択を迫られて誰にも相談ができずにいる……かはよく分かりませんが、仕方ないで見過ごすのは後で自分が後悔しそうだ」

先生「あははっ、何それ! 典型的主人公脳みたいな!」

先生「和製ゲームでよくあるパターンよねぇ、誰かのピンチにお人好しが過ぎるぐらい顔突っ込んでいって奮闘するの」

先生「果てに世界かヒロインか、みたいな選択迫られて苦脳の末に~って感じの。最近流行りじゃないわよ、そういうヤツ」

【一気に冷めた目でズバッと言い通されても彼は怯まずにいた。突き放す態度を取られようが、自分の道を曲げるのは道理に反する。ザ・妥協なしである】

男「風邪を引いて休んだのは高熱のせいもあるかもしれないが、教師に向いてないと自分へ言い訳するに都合が良かったのもあるんじゃないですかね?」

先生「他に迷惑がかかるからに決まってるでしょ……」

男「インフルエンザでもあるまいし、その気になれば薬飲んでマスクつけて学校に来られたでしょうが、あんた」

男「今日病院に行ってないだろ? 台所にもこの部屋にも薬が見当たらなくてな、おかしいと思ってたよ」

先生「[ピッ]、[ピーーー]……何その急激に舐めた態度取り出したのは? 怒るよ」

先生「大体薬がないからどうしたの……点滴で済ましてきたかもしれないじゃない……!」

男「その調子で明日も休むつもりですかね? たった一日で治るとは思えませんよソレ。薬飲んでなきゃ良くならないでしょう」

先生「薬は戸棚の中に――」   男「先生はたぶん片づけ元々好きじゃないんでしょうね」

男「出した物を一々元の場所へ仕舞う癖がついているなら、下着が雑誌の下にあるから触らないで、なんて感じに止められませんし」

先生「え、え~……どうかしらー……?」

男「風邪引いてるなら尚更台所か洗面所に薬を出しっぱなしにしておくんじゃないですか? 戸棚の奥を調べましょうか。それから」

男「病院に行ったなら領収書見せてくれませんか。必要ですよね、職場で見せるのに」

【静かにまくし立てる男を直視できなくなり始めた彼女は、毛布を強く握り肩を小さくさせていく】

男「点滴を打ったなら行きましたよね、病院に。それとも先生はその立場でありながら何も貰わずに帰ってきたんですか?」

先生「か、帰ってよぉ……!」

男「逸らさないで正直に話しましょう。頑なに証拠を俺へ突き付けないのはウソだからですか? ウソだからですよね」

先生「やめてよ、やめてよぉ……もう放っておいてよ……」

男「先生、玄関で倒れそうになった時話してましたよね、その後も何度も、自分の風邪をうつすなんてできないと」

男「優先して俺たちを気に掛けてくれるあなたが失格なわけないがない。先輩さんから聞きましたよ、愛好会を廃部させないためにあなたも頑張ってくれてるんでしょう?」

先生「うぅ……っ」

男「ほら、やっぱり滅茶苦茶後悔してるんだ。先生の授業楽しいし、分かり易いから大好きです」

男「そんな授業を俺がサボってた時があったなんて、凄く勿体ないことしてしまったなとずーっと悔しいままです!」

先生「ばかぁっ……ばかぁー……」

男「立てますか、先生? まだ病院の時間に間に合います。途中まで付き添うから、俺と行きましょう!」

男「診てもらって早く良くなってください。先生の授業楽しみにしてるの俺だけじゃないんだから」

先生「おとこ、くん……[ピーーーーー]いると思わなかった、な……」

男(計画通りである)  【ああ、計画通りだ】

ここまでで次木曜日に

先生「こ、子どもじゃあるまいし逃げようとしないから。でも病院の中の独特な匂いっていうの? アレが昔から肌に合わ」

男「暴れたりもしませんか?」   先生「私は非力な美人教師っ!!」

先生「やれやれ……見送ってくれるだけで十分だってのに。生徒同伴で診察して貰えば前代未聞になるわよ」

男「信用してないワケじゃないんですよ。でもここまで辿り着くのにフラフラだったじゃないですか」

先生「ええ、ええ、そうですよ。君がいてくれなかったら途中倒れてたかもしれません。だから感謝してる、重ね重ね!」

先生「……ありがとう。また明日学校でね、男くん」

男「了解です。休んだら承知しませんから。また無理矢理にでも押し掛けに行きますよ」

先生「無理矢理は金輪際認めない!! ……でも」

先生「[ピーー]抜きに君が私に[ピーーー]に来たいなら……入れてあげなくも……? な、ないんですけど……?///」

男「おっとすみません。もう一度言ってくれませんか? よく聞こえなくって」

先生「げほげほっ!! げふ、がほっ!! あ~、早く診てもらわないと死ぬぅ~!!///」

男(ワザとなのか疑いたくなるほど咳き込んで会話を遮った先生は、慌てて病院へ駆けこんで行く。間違いなく俺に気があるのだ、美人教師め)

男(恐らく恋愛へ発展させる事はないだろうが、お気に入り、ぐらいには彼女の中でこの俺の存在は大きく昇り詰めただろ。狙いは精確、的はド真ん中を射抜いた)

男「俺、いや、生徒と学校をより彼女へ結びつけたことでお見合いから逃げ出したい思いを増幅させられた……元からこよなく教師の職を愛するあの人だからこそなのか」

男「これでフラグは折れたな!」   【むしろ構築じゃないかしら】

【選ばれし者に与えられた恋愛フラグの建設。初めから見向きされまくっていたこの男にはほとんど無意味なものだったかもしれない】

【しかし、先生というキャラクターが真に攻略可能へ昇華された感触がひしひしと伝わって来たのである。すなわち二周目以降の、ハーレム達成、を目論む俺たちには重要なフラグ建築なのだ】

幼馴染「なんか女の人の匂いがするよ、男くん。ぷんぷん漂ってる」

男「ん? (これは翌朝の話だ。絶好調の気分を迎えるべく二度寝の態勢を取ろうとすれば口をへの字に結んだ幼馴染が部屋に現れた)」

男(急な用があったとかで母も起こしに来られず、妹はまたかと呆れそっと放置してくれた。すれば彼女の侵入にも納得がいくだろう)

幼馴染「だから、制服から女の人の匂いがするの。妹ちゃんのでもおばさまのものでもない」

幼馴染「これだけ濃く残ってるんだから、長い時間隣にいたんじゃないかな? それか[ピーー]しめられたとか」

男「ふぁぁ……何だって?」

幼馴染「ねぇ、昨日はどこで寄り道してたの?」

男「せ、先生の家に行ってきたんだが……お見舞いだけで疚しい事は一つもして来なかったぞ」

幼馴染「[ピーーーーーーーーーーー]。そう、それなら安心しちゃった!」

幼馴染「てっきり男くんが大人の女の人とあんな事やこんな事してたのかと思って! しかも相手が先生だなんて!」

男「だ、だから何もしてないんだぞ……偽りなくマジでお見舞いに行ってただけで……!」

幼馴染「分かってるよ。あたしは男くんがウソ吐いてるなんてこれっぽっちも疑ってなんかいないよ~! [ピーーーーーー]」

男(大気が、震えておる)

男「――――といった感じで今朝から幼馴染と顔が合わせずらい」

男の娘「制服から女の人の匂いなんて僕には全然匂わないんだけど。幼馴染さんの嗅覚は猟犬並なのかも」

男「そうだな、アレは優しい顔して近づいて一気に首筋ガブゥーッといくタイプだ」

?「こんな風にかぁー? あーん……っ」

男(きっと男の娘のツラがチャームダダ漏れなのが悪い。だから背後から近寄るもう一匹の狩人が俺の首筋に噛みつくのを回避できなかったのである)

男「ぐひぃー!! そこは耳たぶをパクッていくところだろうが!?」

不良女「うるへ~……んあ、人のダチを陰でコソコソ悪く言いやがって。罰が当たったんだよ! あたしとしては[ピーーー]だったけど……///」

【ご褒美だろうが。win-winでお互いハッピー、糞が】

不良女「ていうかお前があの先生の家に行ったってマジ話かよ? どうかしてるわ、ありえねー」

男「アイツは言い触らして回ってるのか……ただの見舞いだろう。別にどうってことはない筈だ」

不良女「でもセンコーつっても相手は女だぜ? しかも美人で彼氏ナシの女! 密かに狙ってんじゃねーだろうなオイ」

男の娘「えぇっ、お、男は先生が好きだったの~!?」

不良女「たぶん家に上がり込んで病気で寝込んでたとこ好き放題弄り倒したに違いないねぇ!!」

男「違いあるに決まってるだろうが!! お前らまで俺の言葉に信用持てないのか!?」

男の娘・不良女「……」   男「その無言はやめないか」

不良女「でもさ、担任が風邪引いたからお見舞いってのもフツーないでしょ? 薄情な言い方で悪ィけど」

男「それは……それはだな、俺が個人的にあの人を気に入ってるからというか……」

男の娘「それを恋と呼ばずして何とやらだよ、男ぉー!!」

男「胸倉をガッシリ掴むこの手は何だ!?」

男の娘「や、やっぱり[ピーー]にでもぶつかっていかなきゃダメなんだ……モタモタしてたら[ピー]が誰かに取られちゃう……っ」

男「はぁ? 今なんて」

先生「別に、彼じゃなくても君たちが代わりに来てくれても歓迎したんだけど?」

男の娘・不良女「わぁ!!」

先生「じゃじゃーん、先生完全復活の巻ーってね。はいコレ、男くん。昨日渡し損っちゃったから」

男(不意に先生から手渡された袋に包まれた何か。渡し損ねた? 俺がいつ彼女へブツの要求を……この行動の意味は、先生のウィンクで理解できた)

先生「前から頼まれてたのに私がいつになっても持ってこないから煮え切らしちゃったんだよねぇ。で、結局また忘れたと」

先生「今度はしっかり持ってきたからそうカッカしなさんなって~。あ、学校で先生から渡されたってのは内緒でお願いね。そこの二人も。OK?」

男の娘「それ何ですか? 男は先生に何を頼んでたの?」

男「ああ、大したことない物だよ。昨日はすみませんでした、先生。俺もせっかちになる事なかったのに」

男(手をひらひらと振りながら教卓へ向かう先生。機転が効くのは嬉しいが、結局この中身は?)

『昨日部屋にハンカチ忘れて行ったおっちょこちょいへ。もう一つのはポカリのお返しにあの女の子と食べてください』

『追伸:どうでもいいと思ったなら流してくれて結構だけど、放課後に二人だけで話したいことがあります。強制はしません。以上!』

男(授業中、袋をこっそり開けてみればハンカチとお菓子、そして簡素な手紙が一枚。ハンカチなんぞ小学生の時以来持ち歩いてないのだが、後輩の間違いではないか?)

男(そう思うも女子が持つにはらしくない生地と柄をしていた。……ハンカチは置いておくとして、放課後か)

【後輩が用意したのかもしれないな。周りの目を気にせず男へ受け取らせ、今回の手紙のような措置を見計らったとか。アイツも計算づくで動いているわけか】

【つまり、今日の放課後に待っている先生イベントは今後にも大きく響く最重要な物だろう。後輩が促すほどだ、優先順位は決まりだな】

男の娘「あ、そのハンカチ……」

男「え? もしかしてコレお前の物だったのか? (男の娘と連れションへ行った際、せっかくだからと濡れた手を拭おうとポケットから取り出すとである)」

男の娘「たぶん、ううん、やっぱり僕のかも。どこで拾ったの?」

男「席の近くに落ちてたんだよ (男の娘のハンカチがなぜ先生の家に落ちていたというのだ?)」

男(ハンカチは今日先生から渡されて始めて俺が持った。まさか男の娘も先生の家に? いや、その様子は全くなかっただろう)

男(だとすれば後輩が偶然拾って使い続けていた物を、これまた偶然あそこに落としてしまった。ふむ、これならしっくり来るかもしれん)

男の娘「でも良かったぁ、男が拾ってくれて。ありがとうね―――――あっ」

【男子便所から肩を並べて仲良く外へ出るとだ、待っていたと言わんばかりに美少女が壁に寄り掛かってこちらを微笑んでいた】

後輩「どうもです、せーんぱい」

後輩「先輩がそこに入って行くのが見えてつい待っちゃいました。丁度話がありましたので」

男「直接じゃなくてもメールの一つで済むだろうに。……男の娘、慌てた顔してどうした?」

男の娘「ど、どうして妹と男が仲良く話とかしてるの!? メール!?」

後輩「ああ、兄さんには言ってなかったけど私たち最近知り合ったんです。お互い話も合うし、良い友達になれるかと思って。ね、先輩?」

男「だったりしてな (今日は口裏合わせがやけに多い日じゃないか)」

男の娘「そんな事言って僕に[ピーーー]で二人は[ピーーーーーー]だったりするんじゃないかな……」

【残念ながらお前の睨んだ通りだとも、男の娘よ。二人は、内緒で、恋人同士、だったりしちゃうのである】

【今衝撃の真実明かしをすれば、歩道橋を渡っている最中にでも男の娘から喉を切り裂かれ会心の出血芸が拝めるやもしれん。被害者視点で】

後輩「き……今日のいつものは、また用事がありますので明日に延期で」ヒソ

後輩「では!」   男「以上なのか!?」

【危険なオーラを感じ取ったのだろう男を引っぱり、男の娘を他所に耳打ちをしてそそくさ立ち去る後輩。あとは任せた、と背中が語っているぞ】

男の娘「へ、えへへ……ただの友達なんだよねっ! そっかそっか、僕の妹とも仲良くなってたんだね、男!」

男(妹とも、ってのが引っ掛かる)   【よし、どうでもいいから誉めケアしておけ。それで良くなる】

男「妹以上に可愛い兄が存在したとはな、驚きだよ。ジュノンボーイに写真送っていい?」

男の娘「こ、困るよぉ~……///」

今日は木曜日だよ!!!!・・・また明日

男(最近は後輩も忙しさに身を置いているのだろう。用事とやらの見当は着かないし、本人が詳しくを話そうとしないのなら追求するつもりもないが)

男(部活か、友人との付き合い。習い事もあり得るな。何であろうと黙って待ってやるのが男児たる甲斐性である。今日に限っては俺も放課後に用事ができたわけだしな)

【一時は後輩脳だったコイツも余裕ができたと思われ。彼女を作ったから他を蔑ろにしている状態でもなし。ルート固定化を恐れもしていたが、肝心の後輩がアレだからか、はたまた俺の声が正気を保たせているとか】

【……気になっている点がある。この寄生生活に慣れたせいもあるだろうが、宿主の変化にかなり敏感になった。故に意識させられる】

【男の性格が徐々に柔らかくなり始めてはいないだろうか】

委員長「それじゃあありがとうございました、えっと、男の娘……くん」

男の娘「どうして自信なさ気? 僕の顔に何かついてるのかな、頭寝グセってる?」

委員長「いえ……別に……」

男「委員長とお喋りだなんて珍しいじゃないか、男の娘。俺も輪に混ぜてくれ」

委員長「男、くん……なのかな」

男の娘「お、男の顔を凝視するぐらいなら僕のを見てくれたらいいよ! 委員長さんっ!」

委員長「え? ……お邪魔みたいだから私はもう行きます」

男「おいおい、俺が参加した途端にか……で、彼女とどんな内容の話を? 興味がある」

男の娘「うーんとねぇ、正直意味不明だったんだけど色々僕について訊かれてたんだ。ねぇ、男」

男の娘「人にいきなり美少女アニメ好きでしょって言う子どう思う?」

男の娘「そりゃあ僕だって時々アニメ見たりするよ。でも別に可愛い女の子が出てる物ばっかりじゃないもん!」

男「もん、と言われてもだが。意外とお前は好きかもとオタク仲間探しに巻き込まれただけじゃないかね」

男(忘れていたが男の娘は元々キモオタデブだったという忌むべきリアルがあった筈だ。この美男子からは欠片もそれを匂わせない)

男の娘「どちらかと言えば特撮のが好みだから。今度僕の家で一緒に見ちゃう? 男と二人きり……ああぅ、[ピーー]が起きる気がするよぉ……」

男「何だって? もしかすれば委員長に惚れられでもしてるんじゃないか、お前。色々訊かれたってのも委員長は中々に積極的なんだな」

男の娘「僕は[ピー]一筋だよぉー!! うっ……い、今のは何でもないからね!?///」

男「うむ。それなら安心だ、何を言われたのかさっぱり聴き取れなかったもんで」

男の娘「そ、そっか……とにかく委員長さんって謎だよ、男」

男(俺からしたら彼も含めた全てが謎である。かといって不都合があるわけでもない、元の現実を考えればここは楽園のようなものだろう)

【何故委員長が男の娘へアニメ好きかと尋ねた事については疑問を抱かないのか。現実での彼を唯一自分以外が知っているかもしれないと】

【早期に勘づいて委員長へ接触していればその分対処に取り掛かる時間も増えていたというに。……俺が導いてやるか? ダメだ、タイムパラドックスが確実に起こる】

【というかである。委員長はいつ俺へ相談にやって来たというのだろう? 向こうから頼ってきたという事実は判明している。つまり彼女はどこかのタイミングで俺が周りの人間とは違うと知った筈だ】

【普段のこの男を観察していて気掛かりと感じたから? 美少女に囲まれる中心人物はいつも俺だからな、モブと同じく容姿の変化が無いのなら奇妙ではある】

【だがしかし、先程の委員長の様子を思い返してみるとどうだろう。あの場でならすぐに男へ話を持ち掛けず華麗にスルーしたという事は……】

【男よ、校内徘徊ついでにまだ行ったことのない図書室に入ってみようか】

男(意味もなく歩き回れば高確率で美少女と遭遇する。どんな複雑な道を行こうがお構いなしにだ)

男(分かりきってそれをしているのは単純な暇潰しと思ってくれて構わない。最近知り合えた人たちのように、また新しく友人を増やせるかもしれないのだから)

男「意味もなくフラフラとまで来ればゲームの主人公さながらだな」

【意味はあるぞ。主人公を支配している神(プレイヤー)はこの俺だからな、お前の自由はこの手にある】

男「図書室……ふむ、そういえばあの委員長も以前は図書委員長だ。それが風紀委員長へ変わったのは人気者に不相応な肩書だったから?」

男(個室便所や図書室はぼっちにとっての仕方がないオアシスという認識が俺の中にある。まぁ、足を運ぶ手間を面倒と思い結局教室で自分の机と睨めっこしていたのが殆んどであったが)

男「ふっ、アイツらを見返すために小難しそうな本を借りてみるのも悪くはないだろう……」

【と、謎の意気込みを持って扉を開ければ生徒の姿が不気味なぐらい見当たらない。というより、一人もだ】

【足を止めて入口から中をぐるりと眺め、静まり返ったそこへ入るつもりが一瞬にして失せる。さてさて、俺の予想なら何もないで終わるなんて考えられんワケだ】

【美少女は俺ほ赴く全ての場所に存在しなければならないのだから】

?「こんな物……」

男(死角から唐突に上がった声に思わず体が跳ねそうになった。誰かがいる。聞き覚えのある声じゃないか)

男(委員長だ、噂の謎の美少女委員長。彼女が右手に何かを掲げ、ゴミ箱へ向けてそれを叩き付けようとしていたのである)

男「こんなところに捨てて誰かに拾われたらどうするつもりだ?」

委員長「ひっ!! ……あっ、おとこく、ん」

男「手に持ってるの大事な風紀委員長の証だろ。ソイツを捨てようってのは嫌になったからか?」

委員長「か、関係ないから……男くんには……!」

男(まったく持ってその通りだが正面切って言われるとグサリとくるものだ。掲げた腕を体の後ろに隠して後退りしていく委員長、空気読めてなかったのは謝るとも)

男「どうしてそんな顔して怖がる必要がある? ナイフでも隠し持ってると思うか」

委員長「そうじゃ、ないけれど……何か用ですか。ないなら話しかけないで」

委員長「結局みんな同じだ……この人まで私を……!」

男(予期せぬ事態に混乱でもしているのか。ブツブツと顔をこちらから逸らして言っていたと思いきや、しゃがみ込んでしまうこの始末。俺の方が困惑させられる)

男「悩み事があるなら親しい奴に聞いてもらえばいい。残念ながら俺にはその資格はなさそうなんでな」

委員長「……親しい人? ああ、そうか。まだあの子と会ってない。あの子なら私を」

男「おぉ……実は電波ちゃんなのか?」

男「風紀委員長なんてお役、俺は一生関わりを持つなんてなさそうだからアドバイスもしてやれん。まぁ、私見になるが」

男「君は何というか、学校の風紀を守る立場というよりも、ここの主をやっていた方が似合ってると思う」

委員長「ここ……図書室のこと?」

男「そうだとも、拝む機会は少なかったけどかなり本に囲まれる姿が絵になっていた覚えがある。以前は本の虫かってぐらい――」

委員長「何か知ってるの!?」

男(目を見開き、縋るようにして俺を掴む委員長が目の前にある。流石に今のは失言だったろうか)

男(この世界と現実は何もかもが違う。ならば、ここに存在する住人たちにとって俺の現実は無関係なものだろう)

【ああ、無関係だとも。可哀想だがそのままスルーしておけ。今のお前にも無関係だからな】

男「いや……そう取り乱すなよ……」

委員長「あ、あぁ……」

男(途端に委員長は床へ崩れて絶望したかのように肩を落とす。彼女は俺へ何を尋ねようとしていたのか)

男(まさかこの委員長だけは【お前にはまだ早い!!】)

男(まさかこの委員長だけは[ピーーーーーーーーーーー]!!)

男「委員長、そろそろチャイムが鳴るんじゃないか? 教室に戻らないと」

委員長「分かってます。風紀委員長が授業へ遅刻したなんて情けないですから」

男(力なくゆらりと立ち上がると急に敬語を使い出し、俺に対して余所余所しく振る舞う。彼女から先に図書室を出て行こうとするも)

委員長「……」

男「おい、まだ俺に何かあるのか? それなら遠慮なく言ってみてくれ」

委員長「い、いえ……早く出ましょうよ、男くん」

【彼女が最後に見せた表情はけして絶望に打ちのめされてなどいなかった。あとは、君次第とでも言っておこう】

短いけどまた明日

【楽しいモテモテハーレム生活の裏で実はもう一人の自分が暗躍していたとコイツが知ったらどんな顔して反応してくれるのだろうか】

【……俺は、落ち着け、まだ疑惑が確信に変わったわけではない。しかし、最早そうとしか考えられないのだ】

【決め付けるよりもいつか神との再会を果たし、胸に抱えたこの疑問をぶつけてやればいいじゃないか。委員長を救ったあと、ゆっくりと】

【俺自身のことなんぞ後回しで構わん。当初の目的を思い出せ、目的と手段を取り違えるな】

男(放課後だ。先生と話をするため職員室へ向かえば、彼女は空き教室に行ったみたいだと河童頭の教頭に告げられる)

男(あの人がこちらへ積極的に件の話へ触れようとしない所から、手紙の通り、どうしても気になるなら確かめに来いということだろう。あそこの教室前は滅多に人が通らないからな)

男「これでもし俺が行かなければ待ち惚けだな。最もと、アレだけ気にしていた素振りを見せたんだ。本人もかならず来ると期待しているだろう」

男「ああ、良い報せが聞けたら何より――――ほう?」

生徒会長「おや……ああ、君とは本当によく会うな。こんな人気のない場所でどうした?」

男「こっちからしても、こんな人気のない場所で、あなたは一人何を突っ立っているんです?」

男(凛とした佇まいがこれ程まで様になる少女がいたものだろうか? オカルト研がお嬢様と知って驚きはしたが、こちらもソレだとするならきっと平然と納得できる自信がある)

男(大きな胸押し込めて前で腕を組んでいる生徒会長は、俺と、目の前に存在する扉を交互にチラチラと気にして見せる。まるで事情を訊いてくれと言わんばかりな)

男「そこって準備室もとい倉庫代わりの部屋でしょう? 入らないんですか?」

生徒会長「……ぷっ! あはははは!」

男「ふむ、爆笑するほど俺の話がツボに入りましたか。さては中々手強いセンスの持ち主ですねっ?」

生徒会長「そ、そうじゃなくて! あははっ、そうか……そうだろうな、知名度があれだけ落ちているんだ。知らない生徒がいてもおかしくはない、か」

生徒会長「聞いて驚くなよ、男くん。そこの部屋はとある愛好会の部室になっているんだ。そう言われると思い当たる節があるだろう?」

男(いや、まったく。事実その部屋は物置と化した教師以外立ち入ることはない場所である。ただし、向こうの世界での話)

男「ひょっとしてラーメン愛好会の部室なんですか、ここ? ……にしては地味な外見というか」

生徒会長「ふふっ、あの子のことだから自己主張の激しい立て看板でも掛けられてあるとでも思ったか? まぁ、以前までは君のイメージに合った外観していたさ」

男「それが今では陰も薄く質素にと。注意されるほどド派手だったとかしたんですかね?」

生徒会長「いつでも立ち退けるよう彼女が片づけてしまったのだろう」

生徒会長「から元気に振舞ってはいるが、部室が広くなったと嘆いているかもしれないね。今も健気に勧誘活動をやっていた」

男「嫌よ嫌よも好きなうち、ってですかね?」

生徒会長「何?」

男「よく見てるんですね、先輩さんのこと。ここで一人ぽつんと立っていたワケは詳しくは聞きませんけど、気にしてるんじゃないですか?」

生徒会長「私が、彼女を? ……ち、違うな。今だってみすぼらしくなったココを笑いに来ているだけだっ」

生徒会長「……いいや、それこそ[ピーー]じゃないか。私は[ピーーーーー]たいと」

男「は?」

生徒会長「コホンッ! き、気にしないでくれ……ではな、男くん。私はこれから家の茶道教室の手伝いに行かなければならないので。失礼」

【解決してくれと言わんばかりに上級生組イベントも迫ってくるのか。残念ながら、現段階で愛好会・生徒会イベントを達成するにはまだ早過ぎると思われ】

【というよりもやるべき事が今は多すぎる。同時、同時と何でも引き受けてしまえばタイミングが重なってイベント回収が困難になる恐れがある。2週目の事を考えれば、後輩と先生関連のもの以外は猶予がある】

【過程は違えど到達する未来さえ変わりなければ……と俺ルールで突き進んでいるが、はてさてどうなるのやらである】

男「失礼します。まだ、いらっしゃいますか?」

【第一条件:目的地に到達は一先ず達成か。男はノックもせずに教室の扉を開けて顔を覗かせる。と、そこはもぬけの殻。しかし慌てる無かれ】

先生「わっ!!」   男「…話を聞こうか、先生」

先生「もぉーっ、そこ期待通りのリアクションと違う! 腰抜かす勢いで驚いてくれないと!」

男「残念ながら最近似たようなイタズラばかりされて勘が鈍ってるんですよ、俺」

男(唇を尖らせて面白くなさそうに拗ねる先生は、子どものようで滑稽であった。普段大人が何たらと気にしている癖にお茶目を忘れないのも魅力かもしれん)

先生「まぁ、いいや。ここに呼び出したのは他の誰かに話を聞かれたくなかったから。変な噂が立っても困るしね」

男「呼び出されたというより、俺が仕方なしに出向いた感じなんですがそこは……」

先生「ふっ、君の洞察力を試させてもらっただけよ。なんて、男くんなら分かってくれるかもと勝手な押し付けだけどね」

男「御託は必要ありませんよ、先生。もう本題に入ってくれて結構です。仕事があるでしょ?」

先生「ああ、うん……生徒という事を除いても、第三者の男くんに喋る話じゃないとは分かってるけど」

先生「心配してくれた手前、このままなーなーにするのはダメなんじゃないかと思って……その、例のお見合いのこと……///」

男(気恥かしそうに僅かに視線を外し、指で髪の毛先を絡ませて遊ばせている先生。ここに立っている彼女は、教師ではない)

男「(正しく美少女なのである) 言いたくないなら無理しなくても」

先生「き、聞いて? ……あの後、実家に連絡したの。せっかくだけどやっぱり今回の話は受けられないって」

先生「理由も全部包み隠さず話したわ。いつか、生徒たちのお手本になるような立派な教師になるまで仕事はやめられない。これが生き甲斐だから、なーんて」

先生「そしたらね、頑固だった父が『やってみろ』って。話を持ってきたのはお父さんの方だったのにね……気まぐれなのやら、何なのやらよ」

男「結婚相手がいない事については何も? お父さんは、仕事は続けてもいいけど先生の婚約を望んでるのは変わりないんでしょう?」

先生「そりゃあもちろん追及された。さて、ここで問題です。私はどう返して難を逃れたでしょうか!」

男「内緒にしてたけど実は付き合ってる人がいるの!! ……とか定番のヤツで」

先生「ぶぶー! ウソは一つも吐いてません。ありのままを言いました」

男「結婚とかもう古い、これからは女一人身の時代よ!」

男「男なんて大っ嫌い! 冗談じゃないわよ! (全て首を横へ振られてしまった。ならば)」

男「好きな人が見つかった?」

先生「ぴんぽーん! 大正解でしたー! ぱちぱちぱちっ」

男「それは、おめでとうございます、というのは変ですけど……まぁ、その場凌ぎでもそれでお見合いを止めてもらえたなら」

先生「だ、だから……ウソなんて言ってないのよ、私……っ///」

【雌の顔して真っ赤になっちゃってこのこの。しかし、彼女はいくつなのだろうか? 超がつくほどの美貌の持ち主である事に間違いないが】

【ククク、歳なんぞに捉われるなんて俺もまだ若いな。人間誰しも歳は取る。かつての美少女たちも年を跨ぐたびにBBA不可避だった筈よ!】

【……人がなぜ二次元に憧れるか、よく分かった瞬間であった】

男「まさか今回の件をキッカケに職場の同僚を意識して、とか。良いじゃないですか。応援してますよ」

先生「ええっと、同僚って部分を除けば大体当たりなんだけど…………その人はね」

先生「正直人としては[ピーーーー]な部類にカテゴリーされちゃうとは思う。でもね、誰よりも素直で真剣になれて」

先生「とっても、私には綺麗で……眩しく見える……そんな人だったわ」

男「だった、というのは最近見直したってことですかね。表面ばかりしか見てなかったけど、中身に触れたら」

先生「うん、想像以上の人だったよ。お節介と思わせられた時もあったけど、今では本当に感謝してる」

先生「その人がいなかったら、今頃 私は……親以外に、誰かにあれだけ[ピーー]されたことがなかったせいなのかな」

先生「私、その人にもっと[ピーー]されてみたい。[ピーー]いてもらいたい。[ピーー]になってもらいたいな」

先生「……恋、しちゃった。叶いそうにもないけどねっ!」

【どれだけ自分の気持ちへ正直になろうとタガが外れないのは教師としての立場のお陰なのだろう。ちょっぴり切ないではないか】

【してこの男、自分に白羽の矢が立った事に気が付いていない。好かれた自覚はある筈なのに――――】

男(恐らく彼女の『その人』とやらは、この俺を指しているのだろう)

【お前の持ち前ご自慢の鈍感スキルはどうした!?】

男(当て嵌まる人物に他の誰が考えられるというのだ。 物凄く恥ずかしくて、先生を直視できん)

男(確かに俺は彼女の為に行動を起こした。だがしかしだぞ、別に恋愛感情を持ってもらおうとか下心ありきで近づいたのではなくてだな)

【真っ白である。吐き気を催す純粋無垢な男が俺の思考を遮って、らしい言い訳、を自分についている。それはとっても反吐が出るなって】

【一旦鏡を覗いてきてはどうかね? そして台詞にしてお前の考えを喋ってみるがいい。十秒耐え切れたら誉めてやろう】

男(仮にこの場で先生から思いを伝えられたとしたら、どうしたらいい? しっかり断れるか? せっかく立ち直れたというに、傷なんて作ってしまえば)

男(嗚呼。モテる、とは罪なのだろうか……)   【ぶっ飛ばすぞ貴様】

【コイツの積み重ねが結果的にハーレムを築く最高の環境を生んだというのは理解している。理解しているが、この渦巻く嫌悪感と敗北感を説明できる気がしないよぅ】

【しいて言うのなら嫉妬かもしれない。俺がダークサイドに堕ちた者と例えようものなら、こいつは自由と正義の守護者であるジェダイだ】

【まぁ……お前を邪道へ誘う暗黒卿=後輩が身近に存在するなんて予想だにしないことだろう……その日も近いぞ、実に長かった】

【神よ、見ているか? 幸福は与えられん。己で掴むものだ、欲望深き信念によって】

男「叶わないなんて何故分かるんですか? やってみなくちゃ分かりませんよ、先生」

先生「や、やったらダメなんだもん……許されないことなのよっ……///」

男(教師と生徒のカップルか。表立っては認められぬものではあるが、結局男と女なのだ。垣根を越えて将来結婚しちゃうパターンはよくある)

男(かといって、俺がその立場になると……ダメだ、後輩という大切な彼女がいるのだ。ここは白を切り続けてやり過ごすしかない)

先生「きっとそんな事をすれば[ピーーー]が[ピーー]るだけだし……」

男「え? 何だって?」  先生「な、何でもないから!///」

男(難聴によって伏せられた言葉を訊き返すことで彼女たちは高確率で誤魔化す。コレが良いんじゃあないか)

男(あえて俺が触れずに台詞をスルーしたところで、間が生まれてしまう。その間がこの状況では危険だ。決意を固める時間を与えてしまう恐れがあるからな)

男(恥じらいに恥じらわせ、羞恥心を高めさせることで彼女の逃走を煽るのだ)

男「もし、その人からいきなり先生に告白なんてしてくるような事があれば最高ですね」

男「話の内容から察するに彼は先生の好意にほとんど気がついてないんでしょう?」

先生「それは……たぶん……」

男「どうにかして振り向かせたいと思ってるんですか? 許されないのは分かってる上で」

先生「せ、先生をからかわないでよ……///」

男「先生が許されない恋。それは立場の都合上という意味じゃないですかね、つまり相手は」

先生「……[ピー]だよ」  男「はい? 何ですか?」

【甘かった、いや、追い込みすぎた。経験の浅さがミスを呼んでしまったな、お前は引き際を間違えている】

【そして窮鼠は猫を噛む】

先生「き、きみ……男くん、よ。その相手は……///」

またあしたへ

男「ぐ、ぎ、ぃ……っ!?」

男(策士 策に溺れる。すなわち俺は愚人である。浅はかな方法でやり過ごしてやろうとした罰が当たったのかもしれない)

男(いや、まだだ。彼女の頑張りを足蹴にする形にしてしまうが、こちらにはとっておきのリーサルウェポンが残っている)

男「ごめんなさい、先生」   先生「えっ」

男「急に耳鳴りがして、先生が何を言ったのか聞こえませんでした。もう一度お願いできませんか?」

先生「もう一度って……!」

男(挙句の果てがゴリ押しなのは情けない、重々承知の上でだ。蔑まれようが事態を安全に収める策はコレしかない)

男(それに言われた先生がみるみると縮小し始めたぞ。効果覿面だろう。恐らく、二度目はない)

先生「面と向かって[ピーー]するのがどれだけ[ピーーーー]と思ってるのよっ……実はそれワザとじゃないの?」

男「嫌ですね!? 自覚して訊き返すなんて、落ちぶれても卑怯な手を使う筈ないじゃないですか!」

【真っ直ぐなだけに脆いな、1週目の俺。お前では小手先の誤魔化しは通用しないだろう】

【こいつにはこの世界の主人公を務めるに当たって決定的に欠けているものがある。たった一つシンプルな要素、メンタル面】

【ステータスを振り誤りでもしたか? 自分が想定できない美少女アタックを受ければ、一度でヒビが入りボロボロと崩れてしまう。先生繋がりでRPGのキャラクターに例えてやれば、この男は防御と体力を捨てた完全脳筋タイプかね】

【さぁ、まだ見苦しく足掻くのか、それとも黙って攻略されるのか】

先生「……で、でもさっき私に言われて思いっきり反応してた……よね?///」

男「あ、あわ…… (逃げに徹するほど墓穴を掘って行くこの始末である)」

男(しかし待てよ、彼女には俺が実は気がついていたが場を誤魔化したと思われた。では何故その必要があったかと考えるに違いない)

男(迷惑だったのでは、と。上手くいけば自滅してフェードアウトしてくれる可能性が……そうじゃない。これでは傷つけてしまう)

【笑えるぞ、その屑っぷり!! 哀れんでフォローに回れば後輩との関係が縺れること必至、この男に更なる混沌あれ】

先生「いいのよ、別に。君の事だから先生にまた気を遣ってくれてるんでしょ?」

男(一人称が『私』から『先生』へ変わったことで距離が開いたかもしれない。彼女の察した通りだ、俺は)

男「……先生、聞こえてなかったなんてウソです。許してくれとは言いません」

男「で、でも唐突だったもんでつい驚いちゃって……あはは、コレなら腰抜かす自信あるかも」

先生「そう……そっか、そっか! じゃあ大成功ってわけだ!」

男「へ? せ、先生?」

先生「もしかしてまだ騙されたまま? ああ、ごめんねぇ」

先生「男くんが似たようなイタズラばかりされて勘が鈍ってるなんて言ったもんだから、どうにかして驚かせてやろうと」

男「先生……」

先生「最低よね、いくら何でも冗談に使って悪いこともあるっていうのに! まだまだ、わ、私も、お子様なんだね……っ!」

男「どうして声が震えてるんですか……っ?」

先生「ま、まだ少し風邪気味だからそこは勘弁してほしいかな」

先生「さーてと!! 話も済んだことだし、解散にしましょうか。付き合ってくれてありがとう、男くん」

先生「ほら、やっぱり[ピーーーー]だった……」

男(これから彼女へ向ける言葉は禁句に等しいかもしれない。絶対に許されてはならない、その自覚を持って、である)

男「(教訓、他者への慈悲は時に自分の首を絞める) 待って、まだ話は決着していない!!」

先生「どういう意味……あは、まさか仕返しに今度は男くんが先生をビックリさせてくれるの?」

男「お、俺に返事を考える猶予をください」

先生「ふふっ、だからもう気を遣って欲しくないって」

男「そう思うのはあんたの勝手だ! 俺はマジに驚いているんです、だから有耶無耶にする事しか今はできない」

男「自分でも卑怯だと理解してます。でも、筋ってもんがあるでしょう……ソイツを最後まで俺に通させてくれませんか」

先生「ほ、本気? というかアレは君を驚かせるための」

男「知らん。残念ながら本気にさせた先生が悪いんですからね」

男「三日、いや、二日後の放課後にこの教室で続きをやりましょうか。有無は言わせませんよ! 明後日が楽しみですね!」

先生「ちょ、ちょっと待って!! 待ってったら!!」

男(うむ、やっちまったな)   【災い転じて、か】

男(あの場で何と答えるのが正しかったのかなんて分からない。つまり俺の選択もあるいは)

男(屑でどうしようもないブ男に相応しい展開なのだろうか。やはり慣れない事に手を染めようと思うべきではない、身を滅ぼすだけだ)

男(永遠に今日だけがループされていれば良いのに、約束の日は明日に迫っていた。そればかりが頭をグルグル巡り、後輩との時間を楽しめずいたのである)

後輩「先輩、せんぱーい?」

男「……知ってるか? 青空を見ると首を吊りたくなる人も世の中にはいるんだってな」

男「俺の場合は無情にもどんどん夕暮れに変わっていくこの空を眺めていると」

後輩「今日はいつにも増して上の空ですねって笑おうとした矢先に。洒落になりませんよ?」

男(心配される、というのはなんと心地が良いのだろう。俺にも構ってちゃん気質があったのかもしれん)

男(些細な変化にも敏感に、さり気なく反応してくれる俺の自慢の彼女、後輩。何があろうと手放せない唯一無二の宝物である)

男(大切な後輩のことを思うならば、先生へ面と向かってNOと突き付けてやらねばならない。上げて、落とす。まったくもって残酷極まりない)

男(先生は好きだ。人としても、女性としても魅力的であり、結果によってはより深く彼女の素晴らしさに俺は触れることだろう)

【下心ありきで考え始めた、わけでもなさそうな。先生へ対しては愛情よりも哀れみが勝っている。自分のせいで苦しめてはならないのだと】

【女々しく不明瞭で情けのない彼こそが哀れそのものとも見て取れる。ある意味ではハーレムを目指す意思が揺ぎ無く受け継がれているのも、この様な迷いの生じが一つのファクターとなったのでは?】

【欲望と後悔が入り混じって2週目の男へ。ならば比べて俺には何か新しい人格生成はあったのだろうか? 詰まる所はどうでもいいの一言である】

後輩「ふふっ、誰か気になる人でもいるんですか?」

男「主にお前ばかりにしか目が行ってないかと」

後輩「そう? でも、さっきからずーっと恋する乙女みたいな顔して呆けてますよ」

男(俺を驚かそうとした先生が出鼻を挫かれた気持ちがよく分かった。平然と返されると結構悔しいものだ)

男「恋の真っ最中だからじゃないか。なぁ、たまには恋人らしい真似でもしてお互い盛り上がってみないか?」

後輩「ん? そうですね、先輩がお望みとあれば。……変なのは許可しませんけど」

男(その、変なの、を経験させてもらえば決心も固まるかもしれないというに。まだ手を繋いでデートもまだだ、キスもだ)

男(思い切って強引に誘ってみるのも手かもしれん。言われるがままでは先輩としても彼氏としても恰好がつかないだろう……覚悟が決まる最中、不意に置いた手の上に後輩の手が重なる)

後輩「先輩の手、大きいです」

男「ふむ……今日はこれぐらいで勘弁してやらんでもない、か」

後輩「ねぇ、先輩。手を置いただけですけど、その、ドキドキしたりはしませんか?」

男「そういうお前はどうなんだ?」  後輩「いえ、まったく」

男「率直で鋭い返事をありがとうな……っ!」

後輩「先輩は私といるどんな時にドキドキしてくれてますか? 何をされるとドキドキします?」

男(これは暗にそうなって貰いたいという意味か。つまり素直に要求すれば、ゴクリ、である)

後輩「あ、エッチなのは聞いてませんから」  男「でしょうな」

男「なら、お前の言ってるドキドキってのは何なんだ。色仕掛けでもされればしつこいぐらいドキドキするぞ」

後輩「スケベ。わかってるくせに……」

男「えぇ?」

後輩「私はですね、ドキドキする条件がハッキリわかりませんよ。ふとした瞬間にいきなりだったり」

男「不整脈なんじゃないか?」   後輩「絶対違います」

後輩「ドキドキは、あなたと一緒にいる時だけ……ほんと、不思議ですね。私のドキドキって一体何なんでしょう?」

男「胸が張ってるのと勘違いしていたりは? 胸が張ってる時は乳腺が育ってる証拠だと本で読んだ。ぺったんこうはいの卒業もそう遠くは」

後輩「本気で殺しますよっ!?///」バッ

後輩「もうっ、先輩に訊いた私がバカでした。冗談抜きで真面目な話をしてたつもりなんですけれど」

男「へへ、分かってるからこそからかいたくもなる。少し苛めると後輩の反応が可愛いもんで、ついつい」

後輩「っー……///」

【重ねた手を慌てて引っ込めると、こちらへくるっと背中を向けてしまったこの恥じらう美少女っぷりよ。天使というのも不便するな、感情を知らないなんて】

男「その反応は例のドキドキが襲ってきたか?」

後輩「し、知りませんっ……知りませんからっ!///」

この前書き始めて一年経つとかほざいてたら年末を迎えていた恐怖
続きは月曜日になるかも。正月にはゆっくりさっさと書きたいなぁ

男(今日よ永久に過ぎ去るなと願えど、後輩と何気ない会話を交えるたびに時間の流れは急加速していく。もしかすると、海向こうにいるどこぞの神父の仕業かもしれない)

男(何となく先生とは顔が合わせづらい一日だった。内に秘めた思いを探られまいかと気が気でない、やれやれだ、俺がもっと賢ければ)

【苦肉の策が仕掛けた相手以上に自分を縛り苦しめているわけだ。後悔は先には立てられないものである】

【表に出して後輩へ余計な心配を掛けないよう、虚勢を張って変わらぬ自分を演じるこの道化。どう足掻いても後輩にはお見通しだというのが不憫だよ】

後輩「お腹空きましたね、先輩。続きは明日にしてそろそろ下校の準備しませんか?」

男「あの……帰りに何処かで俺が奢ってやろうじゃないか。何が食べたいよ? 遠慮なんて要らないからどーんと来てもらって構わんぞ」

後輩「ごめんなさい。せっかくですけど、それはまた今度でお願いできないでしょうか。この前遅くまで外を出歩いてたこと、親が良く思わなかったらしくって」

男「そ、そうか! 女の子だからな……あまり俺のワガママで振り回すのも良くないな……っ」

男「じゃあ……もう帰ろうか…………腹減ったんだもんな、俺も同じだよ……」

【やや焦れながらも男は溜息混じりの仕草で鞄を担ごうと手を伸ばせば、袖ごと手首を掴まれる。思わず後輩へ目が行くと】

【「何でも話してごらん。力になってあげる」と穏やかで、裏なんぞ欠片も感じられない微笑みを浮かべていたのである】

男「参った……お前、ずっと俺を気にしてくれてたのか」

後輩「ふふっ、彼女ぐらいには弱音を吐いても罰は当たらないと思いますけどね?」

男(些細な悩みならばとっくの昔に漏らしていたかもしれん。後輩の前でぐらい自分を強く見せたいと思えど、どうしても甘えてしまいたくなる)

男「(だが、今回ばかりは) 平気さ。家に帰ってぐっすり眠れば、明日は……あ、明日には」

後輩「じゃあ明日会えば先輩は私の顔をまっすぐ見てくれますか?」

男「えっと……」

後輩「じゃあ、その顔も写真に収めておきましょうかね。この間撮ったのと比べたらどんな先輩してたか一目瞭然ですよ」

後輩「どうします? 内緒にしておきたいならもう追求しませんけど」

男(ここで例の嫌らしい表情は脅しに匹敵するだろう。まるで試されているようだ、意味不明に足が竦んでしまうぞ)

男「ま、まずは先にお前に謝ろうと思う。後輩の知らない所で俺は、この俺がだな」

男「告白されてしまった……落ち度は俺にある。調子に乗って囃し立てたせいだ。だから、本当に取り返しがつかない事を」

後輩「あはっ!」  男「待て、笑うところか!?」

後輩「別に、私たち誰にも付き合ってるだなんて公言してませんでしたしね。それに、人間誰しもどんな人に恋しようと自由な筈でしょう?」

後輩「へぇ~、良かったじゃないですか。やっぱり女の子に人気あるんですね、先輩って!」

男(後輩が人一倍寛容なのか、それともどこかネジ一本外れて狂っているのか。彼氏彼女二人の関係は絶対という考えに囚われている俺が間違っているとでも?)

男(てっきり嫉妬されるかと思った。しかし、拍子抜けするほど緊張の糸が解れない。これで自責の念を忘れては俺は真性のゴミ屑へなり下がるが)

男「誤魔化さないで怒ってくれた方が嬉しいぞ……まだ続きがあるんだからな」

後輩「ええ、では続きをどうぞ?」

男「その告白を保留にしてる。返事は明日の放課後にする約束をしているんだ。聞いてどう思う!?」

男(目を瞑り、頬に訪れるであろう衝撃に備えた。しかし、待てどもソレは来ない。俺と荒い鼻息と後輩の微かな息遣いだけが沈黙を飾っているのだ)

後輩「そうなんだー、って思います」

男「どうしてそうなる!? 腸煮えくらないのか!!」

男「お、俺にほとんど執着がないとか、返事が何であろうと自分には関係ない話だって言いたいのかよ!?」

後輩「私が、仕方ないからで貴重な時間を潰してここに来ると思いますか?」

後輩「興味が沸かないなら先輩に近づきすらしません。だって時間の無駄でしょ、相談に乗ろうとも思いませんよ」

男「しかしだなっ……!」

後輩「これって、好き、じゃないと無理な事じゃないんですか?」

男「あ……アホか、お前は…… (軽く眩暈すら覚える調子だ。これじゃあ返す言葉が見つからないだろうが)」

後輩「先輩は私に嫌われて欲しいんでしょうか。ひょっとして、わざと嫌われてその人と結ばれようと考えてる?」

男「違うっ!! そんなワケがあるか、俺はお前が一番なんだ!! だというのに、気の迷いから今回みたいな……」

後輩「私 あなたが優しい人だって知ってます。気の迷いと言っても誘惑に負けたとか、下心からじゃないんじゃありませんかね」

後輩「自分が彼女を受け入れなかったらきっと悲しませてしまう、そんな気持ちから。でしょ?」

男「いや、自分可愛さからだと思う――――!?」

後輩「素直に謝れる人からそう言われても、あまり当てになりませんから」ギュゥ

【言うが先か手を伸ばして男の頬を軽く抓る後輩、身長差なんて関係ないぐらい、見下ろした彼女の姿が大きく見えてならない】

後輩「ほら、どうしても怒って欲しいというご要望に応えてあげましたよー。満足しました?」

男「ダメだ、優しくされると気分が変になってきやがる……自分が間違ったことをしたと分かってるのに」

男「頼むから二度とこんなバカな真似をするなと叱ってくれ。俺はやっぱり後輩以外考えられないよ、大好きだ!」

後輩「それで誰かを傷つけても後悔はしない?」

男「すまん、そこは正直に頷く自信がない。彼女は自制していたんだ。それを無理に俺がぶち壊して狂わせた」

男「なぁ、こんな事を尋ねるのはあまりにも馬鹿げてるし、酷だが俺はどうしたら良いと思う? 自分では選択もできないこの屑を許してくれ……」

後輩「でしたらその人を慰めてあげてくださいよ、先輩」

男「ああ……慰めるってのは、どんな方法がいいだろう? 余計な気を回して励ましても返って追い打ちかけて苦しめちまうだけにならないかな」

後輩「勘違いしてませんか? 私の言ってる慰めの意味、別にアフターケアのことを指してはないんですけれど」

男「……何だと?」

後輩「その彼女が満足してあげるまで、隣にいてあげたらどうかという意味ですよ」

男「はぁ!? (こいつ、何を言っている? 隣にいて慰めろ? 満足? 冗談が過ぎるっ)」

後輩「だって、先輩はその人を傷つけたくないんでしょう? でしたら方法としては最善じゃありませんか?」

男「お前は俺に二股かけろと言ってるのかっ!?」

男「もう一度聞かせてくれないか、お前は俺をどう思っている!? 好きか、嫌いか!?」

後輩「偽りなく好きです」

男「だったら今の話はおかしな事になるだろうが! お前の好きな人が別の女と仲良くイチャつくんだぞ、理解してるかな!?」

後輩「私がそれを容認するとしたら、どうなんです? 別れちゃいますか?」

男(先程のは圧倒的後者だ、彼女は狂っている、ネジがない。浮気は文化という言葉を真に受けてでもいるのか? 俺の想像斜め上を後輩が駆け巡っている)

男(もはや小悪魔気取りではない、本物である。天使の顔をした悪魔がそこにいた。その美少女たる容姿は今では恐ろしいモノにしか見えない)

【可愛いは正義だゾ】

男「……決めた。明日はやっぱり無理と返事をしてくる。俺が間違っていた、悪かった! だからこの話はもう終わりに」

後輩「それで納得したなら良いと思いますけど、ねぇ」

男「ぐうっ…… (冷ややかな笑顔が俺の言葉を奥へ押し込めた。嘲笑っているのか、楽しんでいるのか、後輩は俺に何を求めている?)」

男(本当に彼女は俺へ好意を抱いてくれているのだろうか。俺は、その冷淡とも受け取れる言動から人間味すら感じられずにいた)

男(薄気味悪さを感じた、吐き気がした、ショックで自分の何かにヒビが入った気がした。後輩へ対する何かが)

後輩「さて、結論も出たみたいですし そろそろ帰りましょうか。それとも」

後輩「思い出作りの一つに、キス、とかしてみます? フフッ」

男「か……帰るぞっ!! 何もしないっ……!」

男(現代の若者のあるべき姿としては後輩が正しいのか? 常識が欠けていたのは俺の方なのか?)

男(絶対に認めて堪るものかよ。おかしいのはアイツで、俺は正常な筈なのだ。ああ、もう忘れてしまおう。きっといつもの可愛い悪戯に決まってるから)

【後輩の勝ちだな。芝居を打たれたことにまだ気づいていないどころか、見事網にかかってもがいている。あそこで無理矢理ズキュンと口づけしてやれば一気に崩せたと思うぞ】

【まぁ、どこまでが芝居で本気なのかこの時間での彼女を判断するのは難しいところだが。この男を揺するには十分すぎた】

【綺麗なバラには棘がありましたとさ、地で行ったな 後輩よ】

男「外も中身も完璧な奴なんてそうそういるもんじゃないか……いかん、アイツに理想を求めすぎだ」

男(後輩を嫌いになったわけじゃあない。好き、だとは思う。俺の彼女にしておくには勿体ないぐらいの美少女、そんな価値がどうとかいう話も除いて……ゾッコンである)

男(約束の日は今日だ、逃げも隠れもしない。自分の尻は自分で拭かなければなるまいて。後輩の言葉に左右されて自分を見失うな)

『キス、とかしてみます? フフッ』

男「っー…………畜生、何だっていうんだよ……」

男の娘「男! おはよぉ~!」  男「ひっ!?」

男の娘「あっ、驚かせちゃった。えへへ、ごめんごめん! 今日は朝から英語の小テストだねぇ……」

男の娘「だ、だけど朝から[ピ]の[ピー]を見たら憂鬱なんてどっかに吹っ飛んじゃうよ~! な、なんちゃってっ///」

男「憂鬱……そうだな、確かに憂鬱で胸がいっぱいだ。息するの忘れそうになるぐらいな」

先生「おー? 今日は遅刻なしで感心だねぇ、男くん」

男の娘「先生、おはようございます。先生は何気に気分良さ気な感じ?」

先生「そう? いつもと変わりないと思うけどな。……たぶん」

【合わせないように合わせないようにと首を下に曲げて固定する男。だが、意識しないようにするほど徐々に、勝手に視線が先生へ】

男・先生「……あっ」

先生「えっと……[ピッ]、[ピーー]ってるから……」

男「何、ですか?」

先生「ほ、ほらっ、喋ってないで早く席につきなさい! みんなお待ちかね朝のHR始めるわよー!」

先生「じゃあ後で、ね……///」

男の娘「やーっぱり先生機嫌良さそう、という感じより緊張してたのかな? 僕には無理してるように見えたんだけど。男は?」

男「普段と変わらない。そう、本人も言ってただろ。俺たちが気にすることじゃないさ」

【男の娘の意見はかなり的を射ていた。期待と不安が入り混じったあの目と態度、複雑な思いが伝わってきたのである】

【一方でこの男は、もう自分が何をしたいのか自分で分からなくなっている。後輩のためを思うなら告白を断るしかない、心に決めた筈だというに】

【昨日の彼女が脳裏によぎるたびに愛念が不安定になっていく。そして疑問に変わる。俺は後輩が好きで大丈夫なんだろうな、と】

【実に折りやすく折れやすい心だ。ガラスで出来ているみたいにな】

男(後輩が大切である、依然変わりなく。何も変わらないのだ)

先生「――――今回も先生が一番乗りだね。ところで、いまどんな気分してるか教えてくれる?」

男(教室の窓から外を眺めている。ただそれだけの姿がとても綺麗に思えてしまった。返答を待つ間もなく、先生はこちらを振り向くとはにかみながら)

先生「先生はね、私はよく分からなくなっちゃったな……とりあえず笑っとくか」

男「イタズラのつもりじゃなくアレは本気だったと自分で認めるんですね」

先生「……うん、[ピーーー]る///」

男(きっと認めたと言ったに違いないだろう。聞かずとも表情をよく見ればこんな俺でも分かる)

男(それ以降先生が口を開くことはなかった。すなわち、次の俺の言葉を心待ちしている。それが彼女にとって良いニュースであろうがなかろうが、だ)

男「先生、やっぱりとか思われるかもしれないけど、実は俺 女の人に告白されたのはこれが初めてなんです」

先生「うんうん……ってー、いまのはそういう『うんうん』じゃないから勘違いしないでね!?」

先生「じゃ、じゃあ君は運が良いわねぇ~! こんな美人教師から初めてをゲットなんて~、あははは!」

先生「あは、は……どうしよ、[ピッ]、[ピーー]しい……///」

男「顔から火でも噴きそうなぐらい恥ずかしがるなら無理に茶化す必要ありませんって。でも、確かに俺もそれについては事実と思ってますが」

先生「っうぅ~~~……///」

男「先生は綺麗な人です。誰の目から見たって同じ印象抱かれるんじゃないか、周知ですよ」

先生「ねぇ、君は私を羞恥心で殺す気なのっ!?///」

先生「はぁはぁ……で? 初めて告白されたから何っ?」

男「嬉しかった以上に戸惑いました。だから、この前のように情けない所を見せてしまい申し訳ないと思ってます」

男「でも、今度ばかりは何を言われようが正面から受け止める覚悟があります。もう一度あの時と同じように俺へ言ってやってくれませんか?」

男(これが正真正銘ラストチャンスである。先生に委ねる、アレを無しにするか変わらず通すのか)

男(怖気ついているが故に精一杯の抵抗かもしれない。ここに来て気づいてしまった、俺は彼女への返事をまだ迷っている。自分がここまで意気地のない奴とは、なんて悔しいのだろう)

【だが それが良い。苦渋を味わいたくなければよく学んでおくべきだ、己自身に一途であれと】

【パスタならアルデンテの如くである。今のお前は見栄えだけで歯応えがないぞ】

先生「……男くんさえ良ければ、歳は離れてるし、制服はもう着れないけど」

先生「私と……[ピーーーーーーー]…………///」

男(腹を括れ、括れってんだ。お前の返事を待っているぞ。早く言ってやれるんだ。俺には)

男(お、俺には――――――)

『先輩はその人を傷つけたくないんでしょう? でしたら方法としては最善じゃありませんか?』

男「よろこんで、俺も先生が好きでしたから……!!」

男(ヒビが割れて穴が開いた)

【すまんな、計画通りだ】

今年はここまで。年が明けてから続き書きに来るよ

一応完結したら制作ぶん投げてた自分のHPに誤字脱字諸々修正したものをまとめておこうとは考えてる。ぶっちゃけいつになるかはわからない
無責任だがどこかのサイトがまとめてくれてたらそっちで読んで頂いくのも有りではないかと

本は色々な面で見てもまず難しいし、その考えなかった
自分の書いたものがウケて書籍化したら狂喜乱舞するけど、それを目指して何処かに投稿し直す予定はない
やっても意識しすぎて逆に窮屈でつまんねぇものが誕生しそうな気がするよ

俺は遊びだから本気でやれるんだと思うのです。SSだから気楽にやって偶然評価されてニヤニヤできるのだ

男(振り返ってみると、俺はあの時 意地でも後輩から引き止めて欲しかったのだ)

男(焼き餅を焼かれることでこいつが彼女である確かな実感を得たかったのかもしれない。柔弱で、身勝手で、自信を持てなかった)

男(期待に反して後輩はほっぺたを膨らませてプンプン怒るでもなく、咎めもせず、「そうなんだ」と笑顔で受け入れる。俺と彼女の倫理観と価値観がすれ違っていた)

男(ただのそれだけで判断が狂ってしまう。後の祭り、とどのまつり。きっと仕出かしてしまったのは思いやる気持ちからではない、薄情、からである)

先生「……えっ、と、簡単にそんな返事しちゃって大丈夫なのかな?」

男「何ですって?」

先生「私は遊びのつもりでなんかじゃなくて、本気の本気で君に」

男「いやぁ、愚問だな。正面から受け止める覚悟という前提を置いてた筈なんですが――ねえぇっ!?」

男(無言で体を引き寄せられると慣れない手つきで先生が抱きしめてくるのであった。硬直していれば、肩に彼女が顎を乗せ耳元で囁く)

先生「こんな風にされても[ピーー]なの?」

男「せ、先生? なんか、ガッツリ当たってますっ!」

先生「[ピーーーーーー]だけど……///」

【彼女は、クラス担任の教師ではない。一人の女性として自分を包んでいるのだと男は再確認させられてしまう。だから、後輩の存在が一瞬にして消し飛んでしまったのである】

男「あ、ああぁ……どうしよう…………これは、もう」

男(成す術ないですわ)

【男は困惑した。上手く行きすぎているのではないか、と】

【そのうちに困惑は混乱へ変わった。間違いと思い込んでいたのは自分だけで、これが正しかったのでは、と】

【理解が後から彼へ追いついたところで今更もう遅い。楽しいと僅かでも感じてしまったのである、許されざる二人目の彼女との日常を】

【始めの方こそ何をしていいものかと迷ういもしたが、空いた時間に待ち合わせて先生と隣り合って座り、他愛のない話をしながら甘えられて】

男「悪い気がしませんね、こういうのも」

先生「というかしてもらっちゃ失礼なんですけれどっ! ねぇ、今度一緒にどこかへ出かけてみたくない?」

男「それで学校の誰かに見つかりでもしたら大変じゃありませんか?」

先生「大変だろうねぇ……我慢、した方がいいのかなぁ」

男「じゃあ、俺 また先生の家に上がりたいです。そこなら人目に着く心配も要らないじゃないですか」

男「どこかへ遊びに行くのは、その時に二人でよーく計画してからにしましょうよ。 不備がないように」

先生「……」

男「あれ、聞いてました? 先生……って、ちょっと近くないか!? 誰かに見られたら危ないですよ!?」

先生「だ、だって急に甘えてみたくなっちゃって……だめ?///」

男「いつもそうやって、また今度にしてくださいっ! ていうか先生、明らかにソレ冗談でからかってるでしょ?」

先生「あーん、ケチぃー……てへっ」

【デレデレである。酒が入ったわけでもなく素面で女豹と化している、隙あらば骨までしゃぶられてしまうのだろうか】

【彼女に尻込みしながらも男は彼女にとって、甘えられる男、を演じていた。義務からでもなく誠実に】

【『堕ちた』という言葉が当て嵌まる。すなわち これぞルート固定本来の姿だ。抗いようもない悦びに身を任せ、幸福の内に溶けていく。だが】

男「ほら、そろそろ仕事に戻らなきゃでしょう? 俺も行きますから」

先生「わかってるけど~……[ピーーーーー]な」

男「え?」

先生「さ、さーて! 腑抜けてたらいつになっても立派な教師になれないわよね、気合い入れないと! 張り切っちゃいましょー、おー!」

【妨げが続いているのならば、この男はまだ完全に彼女の虜となっていない。糞スキルも判断指標程度には活用できるな、コイツは明確な証拠だ】

男「本当に俺のこと愛してくれてるんだろうな。へへっ、あの調子なら家に遊び行った時が心配なレベルだぞ」

【などと知らず知らずに惚気つつ、携帯電話を開いて画面へ目を落とす男。着信もなければメールも残っていない】

男「……こっちから連絡しなければだろうに。何を待っているのやらだ」

妹「げっ、お兄ちゃん!?」

男「なぁ、お前の反応はかなり間違ってる。頼むから兄を見て後退りするんじゃねーよ」

妹「だから学校の中で話しかけるの禁止ぃー! ……ところで兄よ、携帯は眺めてても喋ってくれんよ?」

男「それはご親切にどうもだっ……!!」

妹「人がいる所で携帯見ながら歩いたりしたら危ないでしょ~? しかも鈍臭いお兄ちゃんなんだから」

男「しかもは余計だが同意だな。常識を弁えた妹を持てて鼻が高いよ、お兄ちゃんは」

妹「なに夢中になって見てたのさ? ……ははーん、私 わかっちゃいましたねぇ」

妹「ズバリ! 幼馴染ちゃんの盗撮画ぞ――もがふっ」

男「人聞きの悪いことを、人がいる所で話そうとするのも大概だ……大体俺にその趣味はないっ!!」

妹「他にお兄ちゃんが夢中に眺めてられるものなんてあるのっ? ま、まさか実は私の[ピーーーーー]///」

男「あー、何だってぇ!! そこまで自分の兄貴を落ちぶれさせておきたいか!?」

妹「ご、誤解だよ誤解~!! もう、冗談に決まってるでしょ……あ、ほんとのほんとにわかっちゃった」

男「良いぞ、碌な推理じゃない事は予想した。酷い目に合いたくなければそのまま仕舞っておけ」

妹「ふっ、可愛い妹ちゃんに対してこれ以上何しようって? 場合によってはツーホーとかしちゃうんですけどっ」

男「ふん、知りたいか。例えば――――――」

【そして見計らったように神の悪戯が兄妹へ訪れる。妹の肩に置いた手が何かにズラされる様にして滑り、下へ、胸へ】

【掠めた瞬間ぷにっとした感触を得て、手はぶらりと下がり終えた。して時が止まるこの二人】

男・妹「……」

妹「……つ」

妹「ツーホーしなきゃ……」

男「待て 妹よ、今のは不可抗力で……悪気はなかった上に感触なんて微塵もなかった」

妹「か、かか、感触なかったってそれどういう意味!? 私の胸が全然ないって!?///」

男「ほとんど触ってないのを伝えたかっただけだろうが!!」

妹「うぅ! ばかぁ~っ、期待裏切らないで酷い目に遭わされたよっ! ツーホーもんだよ、ツーホーっ!」

男「ちょっと胸に手が掠ったぐらいだろっ、俺はお前の裸だって見たことあるんだぞ!? 昔だけど……」

妹「っ~~~~!!///」

男「だからな、その程度で一々騒ぐなんて逆に恥ずかしいんだ。気が済まないなら俺の胸を触らせてやらんでもない! これでお相子さ!」

妹「変態じゃないの!?」

【一理ある】

妹「もう知らないっ! やっぱりお兄ちゃんと学校で話すと悪い事しか起きないよ、さいてー!」

男「た、頼む。家族の誼みで許してくれ……あれ? いない、だと……っ」

男「そんなバカな、本の少し胸に手が触れただけで兄妹の仲に亀裂が……あ、あの頃へ逆戻りは勘弁願いたい……」

【お前のラッキースケベが破壊するのはフラグだけだから安心しろ。それより、携帯にメールが届いたぞ。可愛い美少女妹から】

『本文:メール来ないぐらいでクヨクヨすんな! 私がいくらでも送るから! さっきのは絶対許さないけどね (゚Д゚#)】

男「俺の妹以上に妹してるヤツはいないと思う今日この頃なんだが」

男の娘「い、妹の定義が僕にはよく分からないけれど男がそう思うならそうなんだねって思うかなー……」

男「アイツの前で誉めてやると恐らくつけ上がること間違いなしだからな! だが、今俺は猛烈に妹自慢をしたい気分に浸ってるワケだ!」

男「男の娘、お前がもし妹を紹介してくれと懇願してきても渡さないんだからなっ! お前らにもだ!」

男の娘「ふふ、その心配はないから安心していいよ~! だって僕は[ピーーーーーーーー]……///」

幼馴染「……隠れシスコン?」

不良女「つーか、こいつの場合全然隠す気ないだろ。そもそもその努力してないじゃねーか」

男「それの何が悪い? 妹とは愛でるものだよ……恥ずべき事でもなく、世の理とも言えよう」

不良女「仰々しくそれっぽい話してもシスコンは事実だからな、お前! ったく、妹の立場じゃないから好き勝手言えんだよなっ!」

幼馴染「でも、あたしも妹ちゃんみたいな可愛い下の子がいてくれたらなぁーっていつも思ってるんだよね。いたらね、たぶん毎日抱き枕代わりにしてるっ」

男「鼻息荒くしたって俺の妹は俺の妹である事実は変わらないんだ、幼馴染よ。シスコン? バンザイだ」

男の娘「でも羨ましい、それだけ自慢にできる妹さんがいるなんて。よっぽど男のとこは仲が良いんだね」

男の娘「僕は自分の妹とは、何ていうか、良く言えば淡泊な付き合いしてるからさ。たまにはお兄ちゃんサービスしてみた方がいいのかなー?」

不良女「あー、ウザがられてショック受けるの見えてるからやめとけやめとけ。兄貴ってのはさ、黙ってドッシリ構えて待ってりゃいいもんなの」

幼馴染「男の娘くんにも兄妹いたんだね、どんな子なの?」

男「ああ、こいつの妹は……い、妹はだな……!」

不良女「どうしてあんたが答えようとするワケ? 知り合いだったのかよ?」

男「……ま、まぁな。それなりに」

幼馴染「それでそれで、どういう子なのか教えて。気に入ったら紹介して欲しいな~っ!」

男の娘「物静かだよ。でも、大人しいというよりは僕に遠慮してる感じがあるというか」

男の娘「最近はカメラに凝ってるらしくってさ、家に帰るといつも一人で弄って遊んでたかも」

不良女「なんか、あたしの中だと陰気なイメージ強くなってきたかもしれない。何かお前らで話したりしないのかよー?」

男の娘「ううん、特には。僕の質問には何でも答えるし、話しかければ反応してくれるけど、どこか一方通行な感じかも」

幼馴染「それは男の娘くんがその子の閉じた心をこじ開けてあげるべきなんだよ、きっと!!」

不良女「ていうか別に閉じてるワケじゃないっしょ……まぁ、いいんじゃないの。他所は他所っつーことで。ところで」

不良女「人の妹の話になるといきなり黙り込むのな、お前っ!」

男「うん? ああ……確かにお前の言う通りだよ、不良女。俺の妹がナンバーワンだ」

不良女「その上まったく話聞いてなかったしっ……!」

男の娘「男は、まだあの子と話たりしてあげてるの? 僕の妹と」

男「……いや、全然だよ」

後輩「――――――いいんですか? 彼女を放って置いて私に会いに来たりして」

男「彼女なのは……お前も同じだろ、後輩。そっちこそ屋上に一人でいてどうしたんだよ」

後輩「別におかしくはないと思いますけど。『いつもの』時間を変わらず送ってるだけですからね」

男(違うだろう、ソレを成立させるには欠けてるピースがある。言ってやる資格は今の俺にはないけれども)

後輩「傍で立ってられても落ち着きませんから、座りません? それとも」

後輩「怖いんですか、私から何を言われてしまうのかわからないから」

男「ずっと、ずっと俺が屋上に来なくても、いてくれたのか? 待っていてくれてたのか」

男「……そうやって写真を撮り続けて」

【ファインダーの先を見据えながらこちらへ顔を向けることなく後輩はにやりと笑った。否、笑ったように見えた】

後輩「あのカメラですけどね、やっぱり私が扱うには大きすぎると思って別のカメラ買っちゃったんですよ。ほら、デジカメ」

後輩「写真を撮るのって楽しいですね。平凡で変化のない景色が特別な物に見えるようになりました。まるで……どうしました、先輩?」

後輩「泣きそうな顔したりしちゃって、ふふっ!」

男「なぁ、ワケを言わなきゃ分かってもらえそうにないか? 後輩、俺はお前を……っ」

後輩「え?」

男「お前、本当は俺を試してたんだよな!? 最終的に言い出すに言い出せなくなって、結局黙って俺の好きにさせたんだ、違うか!?」

後輩「ハズレー、違いますよ」

男「お茶目に恍けたってそうはいかないんだからなっ――――!」

男(カメラから目を離して振り向いた彼女の表情に激情しかけた感情が氷点下にまで落ちた)

男(後輩は、本気だったのだろう。自らを省みるでもなくあの日見せた彼女のままであったのだ)

後輩「自己犠牲の精神に従って、とかじゃありませんよ? 恩着せがましい言い方になるかもしれないけど、私は先輩を第一に考えて」

男「俺なんかより自分を大切にしようって思うのが普通だぞ……ちょっと、よく分からないな」

男(本人にその意図がないとしても、俺と後輩の距離が遠のいた気がしてならない。代わりに、俺たちの奇妙な関係が始まる)

後輩「実際見たわけじゃないので何とも言えませんけど、先生とは上手くやれてそうですね」

後輩「あの人はこのまま満足してくれそうですか?」

男「……見たわけじゃない。いま確かにそう話したな、お前は」

男「それなら何故一度も教えていない相手が先生だと知ってるんだ?」

後輩「えっ!? あっ……か、勘ですよ! 女の勘です!」

【最近真面目にこの天使も若干ポンコツ気味だったのではと疑ってしまうのだが、如何だろう】

男「勘で人まで当てられてたまるかよっ!!」

後輩「この前二人でお見舞いに行ったじゃないですか!? だ、だからたぶんそうじゃないかな~……と!」

男「本当の事を言ってくれ、それで怒るなんてまずない、約束する。俺はお前にキレる権利すらないんだからなぁっ!!」

後輩「微妙にご機嫌斜め気味じゃないですかっ……こ、この前偶然通りがかったところで見かけたんです。先輩と先生が仲良く話してたのを」

男「その場面を見てお前は何とも思わなかったのか? 腹が立ったりは?」

後輩「しませんでしたけれど……どうして?」

男(愕然である。コレへ対して俺が意見しようが独りよがりを解放しそうになるので、あえての放置の方向へ)

男(後輩はどこをどう間違えて育ってきたのだろうか。感性? 何それ? 食べると美味しい? こんな感じでキリがなかったと思う)

男(始めは所詮俺とは遊びのつもりで交際を受けたのだろうとばかり考えていたのだが、やはり詳しく話させてみればこれは間違いであった)

男(ドジっ娘や高飛車な美少女など古今東西ありふれたこの世の中、彼女の様なタイプは稀だ。というか、幻の領域である。それも人として)

男「い、いいか? 楽しい時はお前も楽しいだろ。笑いもする。感情ってのはそういうもんだ」

後輩「ええ」

男「喜怒哀楽だよ、後輩! 悲しいと思えば泣く! 頭に来たらカーッとくる!」

後輩「あの……何を当然のことを改まって」

男「カーッ!!」

後輩「ああっ、怒った! 怒らないって約束したのに!」

男「おまけも加わって泣きたい気分だよ、俺はっ!!」

また明日
真面目続きだったし、切りいいとこまで進んだら息抜きに短編の番外編とか書いてみるのもありかしら

男「こう言っちゃ何だけど、お前が遠い星の異星人に見えてきたかもしれん」

後輩「い、異星人……」

男(俯き加減でそう繰り返す姿を見て、咄嗟に自分の口を塞いだ。失言すぎる)

後輩「気にしないでくださいね、私がいけないんですから」

後輩「あは、宇宙人が人を真似たところで、所詮は別の星の存在だから本物には絶対になれませんよね」

男「なるほど! 後輩は木星生まれの女の子で、密かに地球をテラフォーミングしながら侵略を企む木星人だった!」

男「なーんて自虐ネタ染みた真似しようと思っただろ。先手は打たせてもらった」

後輩「あ、バレちゃいました? ふふふっ……」

男(元々感性を持っていなければ感情は生じるはずがない。後輩は俺と変わりない人間である)

男(ただ一つ、異なってしまったものが説明が複雑になる部分なだけであって、普通じゃない、なんて事は)

男「なぁ、恋愛なんぞ俺には一生縁のない言葉だと前は考えてたんだ」

後輩「いきなりどうしました?」

男「聞いてくれよ。そのくせに、後輩という子に自分から告白なんかしてみて、OK貰って、始めて彼女が作れた」

男「だから、実は努力次第でどうにでもなるモノなんじゃないかと考えを改めたよ。勝手に放棄してたからこそ手が届かなかったんだなと」

男(こんな綺麗事は建前で、本音じゃあ神に感謝感激だけれども)

男「後輩はどんな風に考えてた? 思春期の青少年なら盛りの真っ最中だろ、知らんぷりする方が難しい」

後輩「正直に話せば意識なんてしたことは一度もありません」

男(……ああ、そこからなのかもしれない)

後輩「無縁と思うよりも、そんな物があるんだって認識ぐらいしかなくって」

後輩「だから自分がいざその立場に置かれても対応に困ってるというか……あ、先輩は好きです」

男「取ってつけたように言うのはやめてくれないかなっ!?」

後輩「意味不明ですよね、私。好きっていう感情は相手を気に入るという事なんですよね? じゃあこの思いに嘘はない」

後輩「そして先輩も私が好き。男女が好き合うのが、恋愛、なんですよね」

後輩「えーっと……たぶん、これだけです」

男(つまり、表面をなぞる程度の知識しかないから本気にもなれないし、どう動いて良いのか分からないのか?)

後輩「先輩は私と同じ様に先生へも好きという思いを持っているんですよね?」

男「はぁー!? あっ……い、いや…… (否定すべきな筈だ、なのにその言葉が出てこない。というよりも出せない、禁句みたいに)」

後輩「自分に嘘がつけないのは悪いことじゃありませんよ、先輩」

後輩「ふふっ、面白いですよね。人はかならずしも生涯ただ一人を好きになるってわけじゃないんでしょ? 望めば複数人とも恋ができる」

男「残念ながら同時進行で複数と交際するのはだな……正真正銘この日本じゃあ屑行為だっ……!!」

男「二股、三股、数はどうあれ万人が批判する事だろ! ああっ、言ってる本人が当事者じゃあどうしようもねーな!」

後輩「知った上でどうして先輩は手を出しちゃったんです?」

男(ゴチャ混ぜになった脳がパニックを引き起こしそうになる。哀れみから先生を受け入れた、同時交際がダメだとしっかり理解している。矛盾だ、破綻している)

男(結局のところ誘惑に負けたのが最もな答えなのだろう。倫理が欠如していたのは俺の方だったのかもしれない)

男「明確だ……屑なんだよ、俺は!! 後輩も良い、先生も良い、どっちかに絞れない!!」

男「そうだ、言い訳に丁度良い理由があるじゃないか! 先生が可哀想だから、って!」

男「……どう思う?」

後輩「あの人が私たちの付き合いを知ったら、先輩の話通りだと怒るのが正しいんですよね。たぶんその後は関係も滅茶苦茶になる」

男「ああ、修復不可能どころか背中から刺されても文句は言えない。好き、とは時に残酷だよ……招いた自分が一番最悪だけど」

後輩「でも先輩、もし先生が私と同じようにして容認してくれたらどうなりますか?」

男「すまん……とち狂ってるぞ、その発想」

後輩「絶対に無理なことじゃありませんよね、きっと。先輩からの好きを私とあの人で分け合うんです」

後輩「平等にとでもなれば話は別じゃありません? 誰も損しないどころか、みんなが幸せになれる。あっ、先輩が一番得しますねぇ」

男「バカ、夢物語にも程がある! そんなのアニメか漫画の世界の話だな!」

男「現実を見なきゃ、現実を――――んっ」

【男の頭が一気にクリアに晴れる。現実が反転したこの世界に向こうの常識が通用するのだろうか、そして何故美少女たちは自分一直線であるのか】

男(モテる、俺が美少女からモテてモテて仕方ない世界。大事なことを忘れてないか? 俺は)

『簡単に美少女と仲良くなれて、ハーレムを築けてしまうのです』

男「!! …………は、ハーレムッ」

【今日までの日常が思い出され、脳内を駆け巡る。美少女との出会い、ラッキースケベ、難聴――美少女の愛を受け身に喰らい続けたその日常が】

【喰らって、喰らって、味わう事なく蔑ろにしてきたのだ。まさか自分が、これほど可愛い女の子たちにと】

【友達を作る? バカげていた。自分が目指していたのは、もっと、もっと、崇高な頂だった筈だ】

『こんな美味しい話を見逃すわけないでしょう。もしこれが夢なら、それでも構わないや……』

『神よ、我に力を与えてくれたまえ……』

男「モテる代わりに難聴で鈍感になってました、か」

男(夢物語は既にここにあった。この手に掴んでいたのである。神は言っている、美少女は全てお前の物だと)

男(やれやれ、目を覚ますのに時間がかかった……!!)

【鈍感スキル。コレが真に存在していたのかどうか不明だが、遂に彼は克服したのだろう。そして己の武器と化した】

【難聴と鈍感、これだけ相性の良い犬の糞がかつてあっただろうか――――――あっ、ちょっと待てよ】

【ここで覚醒されたら色々振り切られてしまわないか】

後輩「あの……あのー、せんぱーい? ……無視しないでくださーい」

男(後輩、散々狂ってるとか俺の萎んだ脳みそで卑しめて申し訳なかったと思ってる。お前は最高の美少女だ)

男(歓迎しよう。我がハーレムの園を飛び交う妖精ちゃんになってくれ。まず嫉妬に燃えないところが素晴らしい。ハーレム形成を認めてくれる彼女なんて隈なく探しても中々見つからん逸材だ)

男「(甘えちゃって協力して頂こうではないか) 考えが改まった。お前の案は理想で、ハッピーで、グッドだ」

後輩「え?」

男「大事な彼女を投げ出して浮気に走るのはよろしくない話だが、その彼女から同意の上でなら溝はできない。そう仮定しておくとしよう」

男「問題なのは先生は如何にして認めさせるかのみ。そうなるな?」

後輩「た、たぶん……?」

男「その方法をこれから二人で一緒に考えてみようと提案するのはあまりにも酷だが、どうだ?」

後輩「私がですか!? 別にそれぐらいで傷ついたりはしないと思いますけど……まぁ」

後輩「言い出しっぺは私みたいなものですしね、その気にさせた責任はあります」

男「そいつはありがたい。でも、流石に今日の放課後だけで纏まる話じゃないよな」

男「だから、成功まではかならず毎日お前と顔を合わせて相談する時間を作る努力をする。いいか、毎日、付き合ってほしい」

後輩「ええ、構いませんけど……ふふっ、恋人同士なのになんか変ですねコレ」

男(良い。後輩と二人きりになれる時間を確保することで、彼女、を形だけでも尊重している。イベント同時進行は、片方が寂しがらせないように細心の注意が必要だからな)

【ルート突入中断してハーレムルートとは欲深な魔物である。精々、足元を掬われない事を祈ってやろう】

【祈ってやるだけで、妨害しないわけじゃありませんけれども】

【それから、男と後輩は、確実に他人が聞けば二度見してしまうような面白おかしい相談をした。それがほぼ毎日、この屋上で】

【先生とイチャラブの裏で後輩と相談を通したイチャラブ。相手が後輩でもなければ無理で無謀な展開である】

【傍ら、男はようやくして他の美少女たちの好意を意識するようになる。今までこうもあからさまなアタックを受けて無関心だったのは】

男(難聴鈍感系主人公の体現だったというわけだな、この俺が。情けない。憧れはコブラだったのに)

先輩・生徒会長「さぁ、今日こそはどっちか決めてもらおうかぁっ!!」

男「どっちも無理という選択肢は始めから用意してくれないのか……生憎、帰宅部で手一杯なんです!」

先輩「学校終わってすぐ家に帰るだけよりは、部活に入って青春をエンジョイしちゃいなよ~! ウチとか適任ですがねっ!」

生徒会長「いいや、他愛のない活動を続けて貴重な時間を棒に振るよりも、我が生徒会で共にエンジョイだ! 男くん!」

男「マジであんたたち仲良いんでしょ、実は」

男「まぁ、確かにボーッと過ごすよか先輩さんや生徒会長みたいな人と一緒にいるのも悪くありませんよね」

先輩「でしょ~!」  生徒会長「あと一息なのかっ!?」

男「しかも二人とも上級生の中でも屈指の美少女ですし……」

先輩・生徒会長「[ピッ]、[ピーーーーーーーーーー]!?」

男「えっ、何ですか? (私たちが美少女、などと予想外に言われ誉められ、動揺しているようだ)」

先輩「な、何ってさ~……こっちこそ、何でそんな[ピーー]かしいこと普通の顔して言えちゃうんだよぅ……///」

生徒会長「じ、自分の顔に自信がないというわけではないがだな……君から[ピーーーー]などと言われては……くっ///」

男(もはや口だけで二人を殺せなくもない気がしてならん。もう一押しといったところか)

男「そんな人たちと俺なんかが、肩を並べて談笑なんかしてる場面を他の男子生徒から見られた日には無事な体じゃさせられなくなっちゃいますよ」

男「先輩さんも生徒会長も男子からの人気凄いんでしょう? 告白されない日がないなんて噂されてましたけど」

先輩・生徒会長「っ~~~……///」

男「(導火線に火を付けるのだ) 俺じゃ あなたたちに相応しくないですよ。でも、どうしてそこまで執拗に俺を欲しがるんですか?」

先輩「[ピッ]、[ピーー]だからに決まってるじゃんっ……///」

男「あの、声が小さくて何て言ったのか……生徒会長は?」

生徒会長「……うぅー……[ピーーー]ないだろ///」

男(先程までの猛火の勢いは急激に消沈してしまった。ものは使いよう、そういう事か、難聴と鈍感よ)

【好意を意識はするも極力その先へイベントを進めず、現状維持を務めているらしい。あれよこれよと手を出していては先生の攻略がややこしくなるという魂胆からか】

【常識を捨て理想に生き始めた彼は、慎重、を覚えた。そのせいもあるのだろうか? 行動の積極性が落ちているような】

男「やれやれって感じだ」

遅れたけどあけおめことよろ。またまた明日に続く

このスレいっぱい本編書いて、次行ってから本編終了後か間に挟むか考えることにしたよー
短編書くつってもお題も何もまだ思いついてないしな。ただ、やるとしたら時系列無視した物の予定

すまない。ちょっと今日お休みして水曜日に先延ばしする

おつ。何やるか決まってないなら安価でお題の募集かけてみるとかどうだい?
ここまで着いてきてる人らなら空気読むだろうし

父「おやおや、チャイムが鳴った気がするが父さんの気のせいかもしれないな。だが勘違いで無視も失礼だと思うのだよ、我が息子」

母「息子よ、母さん いま揚げ物していて手が離せないのです。代わりに見て来てもらえるかしら」

妹「同じく私もゲームで忙しいのでここはお兄ちゃんが見てきて貰えるとみんな大助かりなんだよねぇ……っとー! ここで妹選手一位に踊り出たぁ~!」カチカチ

男「怠惰で寂しい家族に可哀想な召使いが一人、シンデレラの始まりだよ」

妹「ほーう、んじゃあ外にはガラスの靴持ったお姫様が待ってるとぉー……ほれほれ! 急いだ急いだ、シンデレラの兄!」

男(満場一致で俺に使命を与える理不尽で違和感たっぷりなこの空気、段々と読めてきた。恐らくお客様は俺をご所望なのである)

男(抜き打ち美少女イベントだ。当ててみせようか? 相手は高確率で)

幼馴染「こんばんはー。へへ、男くんだっ」

男「ああ、睨んだ通り……俺に用事があっての登場か?」

幼馴染「そういうわけじゃないけど、やっぱり会えたら[ピーー]しいじゃない? ふふっ!」

男「嬉しいんだな?」

幼馴染「えぇっ! あ、改めて言わさせようとしないでよ~……///」

幼馴染「え、えっとね。お夕飯まだならコレお裾分けしたいなと思って持ってきたの。筑前煮、食べる?」

男「で、それはお前の手作りなんだな?」

幼馴染「えへへ、実はあたしの[ピーーーーー]だって教えたら[ピーーー]ゃうんだろうなぁ~……って、何で一々当ててくるのっ!?」

男(ガラスの靴の代わりに筑前煮入りタッパーを持った家庭的お姫様。お次はそのタッパーへ足を突っ込むか、はたして)

幼馴染「ちょっと渋い感じのが作りたくって、お母さんから教えてもらいながら試しに……味見はしたから美味しくなくはないよ、たぶん……」

男「その上目遣いは何だ? 狙ってるのかっ……!!」

幼馴染「ちがう!! い、一個だけここで摘まんでみませんか? 今すぐ感想聞きたいっていうか」

幼馴染「[ピーーー]のために頑張って作ってみたから口に合わなかったら心配なんだもん……ダメかな?///」

男(仕草のたびの照れ笑いが何とも男心を擽る美少女の罪よ。彼女もハーレムに加えるならば恋人の有無は黙っておくべきか)

男(胃袋諸々満たしてくれそうな美少女幼馴染タイプのありがたさ。所謂 大和撫子、グイグイ攻めてくるがな)

男「どうせならウチに上がって行くといい。長い時間縛りはしないさ、妹もきっと喜ぶぜ」

男(と誘ってやれば一も二も無く、喜んで、と乗りのり幼馴染さんである。密かに小さなガッツポーズを作ったのを俺は見逃さなかったぞ)

幼馴染「前から思ってたことなんだけどね、男くん。あたしと男くんの部屋が向かい合わせになってたらどうなってたのかなぁ~と」

幼馴染「ふと窓から顔を出して二人だけの会話してみたり、ま、窓から窓へお互いの部屋を行き来してみて最終的に[ピッ]、[ピッ]、[ピーーーーーーーーーー]っっっ!!///」

男「何だって? (イカン、グイグイどころかガツガツ餓えまくりではないか)」

幼馴染「もうっ、聞いちゃいやー!/// ……あっ、おじさまとおばさま、こんばんはです。妹ちゃんもこんばんは~」

妹「出たな、通い妻!!」   幼馴染「もぉ~…///」

男(本気で後輩と先生の事が知られたら恐怖でしかない)

父「通い妻なんて勿体ない。どうせならそのまま奥さんになればいい。この第二のパパも歓迎するとも。さぁ、未来の娘よ、パパと呼びなさい」

母「あらあら、鼻の下を伸ばして。困った、パパ、ですわねぇ……え」

幼馴染「ぱぱ……?///」

父「思わず父さんも生唾ゴクリものだよ、奥さん」

妹「お父さん、それハラスメントだよっ!! サイテー!!」

男(もし幼馴染以外の美少女との接触回数が彼女と比べて極端に下回っていたら、どうなっていたのやらである)

男(家族の前に出てきた幼馴染はまるで娘のような扱いで歓迎されまくり、許嫁にどうだと勧められオレ苦笑い)

【ある意味正ヒロイン扱いなのだろうな。昨今は幼馴染キャラの不遇率を指摘されるが、昔ながらの王道が神はお好みでいらっしゃるようで】

【しかし、ここでは美少女の数ほどヒロインの数である。それにしてもこの男。冷静な分析力が高められた事で難聴スキルの対応が以前とは段違いである。複雑怪奇な台詞でもなければ容易に解読してくれるだろう】

男「なぁ、リビングにいると変なのがいて落ち着かないだろ? 部屋に行かないか?」

幼馴染「男くんの部屋に!? 行くいくっ! 行きますっ!」

父「変なの呼ばわりは納得いかないがお前も遂に決心を固めたのだな、息子よ。優しく扱って差し上げるのを忘れるな」

男「俺はな、父さんほど煩悩に支配されちゃいない。妹、お前も一緒に来るんだよ」

父「なんと三人で!? ぶうっっっ」  母「構わずお行きなさいな」

妹「えぇ~……やれやれ、仕方ないなぁ。でも[ピーーーー]されないだけまだマシか」

妹「で」

妹「どうしてお兄ちゃんの部屋じゃなくて私の部屋に集まるのさっ……!!」

男「部屋主抜きで勝手に使われちゃ困るだろ。しかも俺ってば、自分の部屋に行こうだなんて一言も喋ってないワケだ」

幼馴染「[ピーーーーー]……ふぅ、別に下でおじさまたちも交えてて良かったのに。楽しいよ?」

男「まぁ、昔からの仲良し三人組でゆっくり話がしたかったという事で。な、良いだろ?」

男(あれ以上両親も含めて幼馴染よいしょが続けば俺が追い込まれていたと思われる。一つ、その為の逃走)

男(現在後輩と先生の攻略をするに当たり、他を放置してまでとなるとハーレム達成が困難になる。何故か? 幼馴染とこの妹もターゲットの内だから)

男(幼馴染は変に察しが良いところがある。これを危惧して彼女には俺がひっそり好意を抱いているかのように見せて、嫁獲得確定をあえて植え付けさせる必要がある)

幼馴染「でも妹ちゃんの部屋久しぶりだね~、ふふっ」

妹「お兄ちゃんですら滅多に通さなかった鉄壁の城だよ。ついさっきカンラクしちゃったけどぉ……」

男(して、妹を輪に加えたのは説明するまでもなかろう。この擬似三つ巴状態が彼女に絶対の安心感を生ませる)

男「そのくせ、お前は遠慮なく人の部屋にズケズケ入り込んで来るよな! ふむ……確かに久しぶりに見たな、この部屋の中」

妹「そんなジロジロ見んなぁ~!! 言っとくけど今日だけなんだからねっ、次勝手に入ろうとしたら口聞いてやらないんだから!」

男「じゃあお前 次無断で部屋からゲームと漫画持って行ったら何も言わずに俺からハグされろよっ!」

妹「じゃあって何よ、じゃあって!! ……[ピーー]てみようかな///」

男「おや? おやおや、マジになって実行しちゃおうとか考えちゃったかね? ハグされたいのかねっ? おやぁ~?」

妹「何なのこのお兄ちゃん!? すっごくウザいんですけどっ!!///」

男「皆まで言うな、実はお前お兄ちゃんのこと大好きだからな。なに、言われんでもこの逞しい胸で抱きしめてやろうじゃないか。さぁ、カム・オン」

妹「お、幼馴染ちゃんこれパス! めちゃ怖い!」

幼馴染「ん~……じゃあ、え、え~い♪」

男(なんてわざとらしく広げた両手の中へ幼馴染が突入。ぽふ、なんて柔らかい擬音表現が使われてしまいそうな感じに)

男「……」

幼馴染「……あのぉ……ツッコミ待ちなんだけど、なぁ~……えっと……///」

男(俺はいま猛烈に興奮と衝撃に襲われている。ふかふかで甘い香り、少しずつ顔が紅く染まっていく超接近済みの美少女)

男(至福の時来たり。だが、それ以上に刺激が強すぎるではないか。自分でも顔が引きつっているのがよく分かる)

妹「いいい、いつまで二人してくっ付いてんのさぁ~~!?」

男・幼馴染「はっ!?」

男(妹の介入により、即座に離れる俺たち。俺を含めてどちらも胸の高鳴りが抑えられずにいるに違いない。その証拠に幼馴染が蒸気したままである)

幼馴染「[ピッ]、[ピーー]っちゃった……あは、あははは……///」

【ラッキースケベに耐性ができていないのもまだまだ免疫が足らない証拠だな、男よ】

男(この純粋な動揺っぷりを見てくれ、幼馴染。無関心な美少女にこうなるほど俺は鈍感人間ではないと見抜いた筈、否、勘違いしてくれた筈である)

男(これ即ち好意と受け取る。「男くんもドキドキしてくれてるよぉ!」だなんて思っちゃっていてくれたならば作戦通りと言ったところだろうか)

幼馴染「[ピーー]ももしかして[ピーーーー]してるの、かな……」

男「え?」

幼馴染「う、ううんっ! 別に……///」

妹「ねぇっ、私の部屋でイチャつくのやめてくれませんか! 私の部屋で!」

男(そしてこの妹からひしひし伝わって来る嫉妬心。これまでの行動と言動から考えるに間違いなく彼女も俺へ対して尋常ならぬ好意を持っていると見て良い)

男(なまいきでチビの実妹、しかも可愛い。反抗的態度は歪んだ愛情の裏返しからかもしれない。怖いぐらい妄想をリアルにした世界、ならば野心が芽生えるのも必然。これは挑戦であり、反撃だ、悲惨な過去と決別する為の)

幼馴染「と、ところで筑前煮さっき摘まんでくれてたよね! どうだったかな!?」

男「美味かったに決まってるだろ!?」

妹「何でヤケクソ気味。それよかご飯の話されたらお腹減っちゃったよ~。お預け食らっちゃってるんだもーん」ブー

幼馴染「あっ、ごめんね! あたしが急に上がり込んじゃったせいで……そろそろ帰らないと」

男「家がすぐ隣だから言うのもアレだけど、ウチで夕飯食べていったらどうだよ?」

男(今日はもう十分な収穫も得て下準備も整えられた。ここで引き止めるのは無策)

男(とでも、思っているのか?)

幼馴染「でも、何だか家族団欒の中あたしが混ざっても悪いと思うな」

男(言いながら俺から気を遣われたのが満更でもなさそうな。だが、ここで伏兵が黙っていない)

妹「別にお父さんたちも反対しないと思うよ。ただ、また目の前でイチャイチャされたらこっちも堪ったもんじゃないけどっ!」

男(先程のアクションの効果が露骨に現れているようだ、兄を取られまいと僅かな抵抗を見せる。さてここで幼馴染選手)

幼馴染「あ、あははは……やっぱり今日は遠慮しておこうかなぁ、男くん」

男(空気の流れに敏感であるが故にである。鈍感とは相反して彼女は何事にもずば抜けて鋭い、そして引き際を心得ている)

男「そうか。なら、せめて誘った責任がある俺に帰りの送りぐらいはさせてくれ」

妹「幼馴染ちゃんち歩いて一分もしないじゃん!? 数秒なんですけど!?」

男「その数秒の間に変態と遭遇して危ない目に遭わない確率がないと絶対に言い切れるか。それに父さんたちもたぶん俺に送れってうるさいぞ」

幼馴染「大声あげたらどうにかなりそうな気もするんだけど……で、でも」

男「ハッキリしないなら強硬するからな、俺は (と幼馴染の手を取り連れ出すのだ。すれば、かならず)」

妹「待って! 私も行く! 幼馴染ちゃん送る!」

男(芋づる式にお子さまが釣れる。俺と幼馴染の間に割って入ると、ジロリとこちらを睨むこの有り様である)

男「(妹、掌握完了。特性さえ知っていればこっちの物よ) 妬いてたりするか?」

妹「違うしっ!! この[ピーー]お兄ちゃん……っ」

男(幼馴染は妹を気に入っている。その為、俺との唯一の二人の時間を彼女から妨害されようと悪い顔はしないと思われる)

男(これで両親から無理に引き止められようと食卓に幼馴染が並ぶ事はなくなった。幼馴染となると意地でも俺へ近づけさせようと必死だったからな、この方法なら諦めて見送ってくれるだろう)

妹「……」グゥー

妹「あわっ……///」

男「腹鳴るぐらいだったら家で先にご飯にしてたら良かったのに」

妹「う、うるさいなぁー!! 別に私がどうしようと関係ないでしょ!?///」

幼馴染「ていうか、もう家の前着いちゃってんだけどね。ほんとのほんとにお隣だから……送ってくれてありがとう、二人とも!」

幼馴染「でも、今日に限ってこんな事してくれたなんてどうしたの? 男くん珍しいよ」

男「俺だってたまには人に親切にしようと思う日があるさ、押し付けでもな。お前こそ一々気にするなよ」

幼馴染「き、気にするよ……だって[ピーー]のことが[ピーー]なんだから……うっ///」

男「うん?」

幼馴染「ううんっ、じゃあまた明日! 明日も寝坊したなんて事あったら今度こそ置いて先学校行っちゃうんだからね! ……ばいばい///」

男(ガツガツのちデレデレ。まさか、この俺が裏では二股をかけてハーレムを目指しているとは思いもしないだろう。植え付け成功)

妹「ねぇ、お兄ちゃんは幼馴染ちゃん好きなの? どうなの……?」

男「ほう、随分不服そうに訊いてくるな?」

男(不服に、そう尋ねる妹は以前までは考えられなかった。携帯のアドレスすらこっそり聞き出して渡していた彼女が、である)

男(冗談のようにして、幼馴染に好意があるのだろう、とからかい遊んでいた思い出が不意に浮かぶ。そして現在と見比べて、ニヤリ)

男「(嫉妬というものは面倒ばかり運んでくるが、こうして明確な意識を感じ取れているのは、お陰様、だろう) お前、前までは俺と幼馴染をくっ付かせようとか企んでなかったか?」

妹「た、企んでなんかないもんっ! 違うもん!」

男「それにしちゃあ随分積極的にあいつの話題を振ってきてたような気がするんだが」

妹「私とお兄ちゃんの共通の話題の一つだったからでしょ……じょ、冗談でからかってたのもあるんだよ」

男「じゃあ本音だと幼馴染を彼女にして欲しくなかったって? 何だよそれ、支離滅裂だぞ」

妹「うぅ~~~……!」

男「(自宅へ帰るのも忘れて道路に立ち止まり、押し黙ってしまった妹を更に追い込みにかかる) 今日だって幼馴染が俺に抱きついた時すごい焦って見せたり、昔はよくあったことじゃないか。急に機嫌悪くしやがって」

妹「いっ、たぁ!? デコピンやめてよぉ~……仕方ないじゃん。[ピーー]とはもう[ピーー]んだから……わたしは、[ピーー]ちゃんのこと」

男「おい、何ボサッと突っ立ってんだよ。腹減ってるんだからさっさと家の中入るぞ」

妹「ちょー!? 待ってよ、いま大事な話しようとしてたのにっ!」

男「大事な話?」

妹「あっ……ぐ、うっ…………何でもないしっ!! 何でもないんだからぁー!!///」

男(釣れたつれた美少女妹が釣れた)   【こいつ、本気だ…!】

ここまで。次回金曜日に

【本気で動き出している。こいつは理想を楽しんでいるのだよ、純粋な清らかさを振り切って】

【引き金になったのはやはり後輩。先生との交際も膳立てに過ぎなかったわけだ。だが、それで終わらせるわけじゃない。忠実に一周目の男を演じてもらうには】

【……ひっかかりを感じる。こうして元の自分へ干渉しながら、タイムパラドックスを回避する、納得はいかないが与えられた役目は既にハッキリさせた】

【これが正解なのか、と思わず首を傾げてみたくなる。ルート固定の危機を回避するために俺の中で騒いだあの声はたぶんそれもまた、未来の、俺自身なのだろう。見落としていたのではない。見て見ぬフリを続けていただけで】

【だって、認めてしまえば手に負えない新しい謎が生まれてしまうのだから】

男「いい加減上級生組のダブル勧誘イベントを避け続けるのもマズイだろうか? 飽きられるのはまず無いとしても、進展がなければ徐々に二人が選択肢から外されてしまうような事があれば後が厳しい」

男「ギャルゲー的に……こんなところで何してるんだよ?」

オカルト研「むっ、突然膨大な瘴気を感知できたと思えば。……男くん、わざわざこの私を探して[ピーー]に来てくれた?///」

男「何だって? ところで階段は眺めるものじゃなくて昇り降りするもんだぞ。オカルト研よ」

オカルト研「階段に怪談有り、よ。実は十三階段の調査を行っている最中なの」

男「十三? ……ひー、ふー、みー…………一段余計にあって十四段なんだが?」

オカルト研「そこに気づくとはやはり男くんには才能があるかもしれないわ」

男「つまりバカにしてるのか? (隠れお嬢様の暇を持て余したお戯れ話。彼女の調査によれば校内にある階段は基本十四段で設けられており、例外はないという)」

オカルト研「だけど、話によれば何度数えても数が一つ足らない階段があるというの……!」

男「なるほど。数えた奴は相当の暇人なんだな?」

男(むくれて横槍禁止と指摘されて続いた話を要約すると、十三階段の最後の段に乗りながら退屈そうに溜息をつくと、悪魔が魔界へ引き込んで来るらしい)

【悪魔を神に変えて、魔界を楽園に変えると……ま、まさか! なんて】

オカルト研「正直半信半疑だけれど、もし事実ならば確かめる必要があるわ。でもこの階段も違ったみたい」

男「本当なら悪魔に連れてかれちまうんだろ。嫌じゃないのか?」

オカルト研「[ピーー]くんがいない世界なんてそれこそ[ピーー]だもの。嫌に決まってる」

オカルト研「だからとりあえず十三階段を見つけても下手に手を出さずに、存在の証拠を掴むだけ」

男「そうか、そうか。じゃあ考え直して貰う説得役を引き受けずに俺は立ち去っても問題ないんだな。オカルト研、グッドラック」

オカルト研「ま、待って!」  男「この手の胡散臭いヤツ苦手なんだよっ」

オカルト研「きっと男くんが、ううん、男くんのその悪霊がいてくれれば何が起こっても危険はない筈……いて?///」ギュッ

男「うぐっ!? (かならず引き止めてくるとは予想していたが、方法が反則ではないか)」

男「わ、分かったよ。隣でお前を見てるだけで気が済むんだな? 見てるだけだぞ」

男(コクコクと無垢な少女のように頷き喜んでくれている。半信半疑、という事はオカルト研自身この調査は不本意なのだろう。そこへ颯爽と現れたこの俺。となれば、仕掛けてくるか?)

男「(先に手を打つとしようか) ……もしかしたらある条件下でのみ、段数が十三になるかもしれんな」

オカルト研「というと?」

男「昇りながらカウントしていくとかな」

男「物は試しだよ。早速やってみたらどうだろう」

オカルト研「私が試せばいいの?」

男「先に協力はしないと言ったつもりなんだが。大事があっても俺の中に潜んでる悪霊とやらが解決してくれるんだろ?」

男「そう心配そうな面して見せるなって。何が起ころうと逃げ出さずにここで見守ってるから」

オカルト研「み、[ピーーー]ってくれるだけ……了解したわ、男くん。あなたを信じてみましょう」

男(長い髪を微かに揺らしながら階段の前に立ったオカルト研。俺は下で彼女のダブルチェック担当という事で決まったらしい)

男「……悪いがチェックするのは別の物になる」

オカルト研「何か言った、男くん?」

男「いやいや、どうぞ気にせず始めてくれたまえよ。良いか? ゆっくり数えていくぞ」

男「こういうのは恐るおそる慎重に、一歩を大切にするんだ。期待に応えて階段も十三に化けてくれるかもしれない」

オカルト研「一歩一歩ゆっくり……じゃあ昇るわ」

【二人の喉がゴクリと小さく鳴る。どちらも期待してという点に違いはないわけだが、一人は穢れていた】

オカルト研・男「いち」

オカルト研・男「にぃ」

【数が大きくなるたびに姿勢が低くなっていくこの男である】

男(焦るんじゃない、俺。ジリジリ焦れるこの気持ちすら快楽へ変えるのだ)

男(オカルト研の揺れる髪、スカート、ああ 後ろ姿。じっくり観察すればするほど良いものである。変態だと? 否、健全である)

オカルト研「男くんいてくれてる?」

男「安心しろ大丈夫だ!! お前にはこの俺が着いてる!!」

男「大丈夫……振り返っちゃダメだからな、オカルト研よ。お前はただ前を向いてそのまま数を数えながら進むんだ」

オカルト研「そう言われてしまうと背後が気になって、そわそわする……」

男「耐えろ、オカルト研。そんな事より何段まで数えたか覚えてるだろうな?」

オカルト研「まだ七段目よ。少しドキドキする……男くんから[ピーーー]ているから……?///」

男「どうした? ビビって途中で投げだしたら成功するものもしなくなるぞ。さぁ、続けよう。振り向かずに」

オカルト研・男「なな」

オカルト研・男「はち」

男(階段を昇るたびに下から覗ける範囲が広がっていくこのハラハラ感。すべらかでむちっと張ったふともも。俺はその先に待ち焦がれる)

男(モロよりもチラが至高とはよく言ったものだ。チラリズムが生む禁断のシチュエーションに見る者は惹かれ、時には引かれ、思わず前屈むのだ)

【突っ込むのは野暮だろうか。そうなのだろうな、触れずに置いてやろう】

男「じゅ、じゅういちっ……ああっ!!」

オカルト研「男くん!?」

男「振り返るなっ!! ……平気だ。ただ、もうちょっとだけゆっくり頼む」

オカルト研「も、もっと? 了解だわ」

男(一瞬だけ見えた。より屈めば約束された眺めが現れるのだろう。だが、だがである。耐えねば)

【布面積十分、際どさ無し、色は純粋純白。スカートの発案者は天才だな。尊敬に値してしまう】

オカルト研「……男くん」

男「今度はどうした? もたもたしていると時間がなくなるぞ。だけど、ゆっくり着実に」

オカルト研「男くん、聞いてほしい。やはりあなたは只者じゃないわ……何故って」

オカルト研「と、とにかくそのまま一緒にカウントを続けていて」

男「お、おう。急に何なんだ……じゅうぅぅ~~~~~~に (世界が、世界が広がる)」

男(この姿を目撃されてしまう前に存分に堪能しなければ罰が当たってしまう。きっと、この世界で今一番興奮しているのは俺だと自負――)

オカルト研「……じゅうさん」

男「あっ、コラ! カウントがはやい……どういう事だ」

オカルト研「見ての通りよ、男くん……ここが……この階段こそが」

オカルト研「十三階段っ……!」

短くて申し訳ないけどまた明日へ続く。そろそろ次スレのタイトル考えないと・・・

>>946
おー、それいいかもしれない!
じゃあ試しに>>1000に出しときますね

男(最後の一段へ足を掛けて興奮からかこちらを勢い良く振り返るオカルト研。予定から逸れたが、構っていられるか)

オカルト研「……」

男「分かってるよ、オカルト研は混乱しているんだな。俺が屈んでいる事と十三階段の発見、先にどっちへ触れるべきか」

男「代わりに俺が先陣切るとしようじゃないか……ぱ、パンツが丸見えだぞ」

【オカルト研の心の声を俺が代弁してみよう。この男は必死扱いてしゃがんで自分の下着をガッツリ覗きながら一体何を喋っているのだろう、と】

男(バカな、無反応だと。何故だ? 十三階段発見は予想外ではあったが、最終的に俺が事故的にパンツを目撃して言い辛そうに注意。その後、テンプレートな反応を起こす。羞恥心が彼女を拘束して積極性を欠かせて永遠俺のターンが続く)

男(気がしていたのだけれども)

【欲張って二兎を追ったせいで裏目に出たと知れ。途中から手段そのものが目的へすり替わっていた】

【お陰で二人仲良くミスに気づくことができなかったという】

オカルト研「とりあえずもう一度落ち着いて段数を数え直してみましょうか。ありがとう、男くん。あなたのお陰で冷静になれたわ」

男「ヒートアップどころかクールダウンしただとっ……」

オカルト研「ふむ、やはり十四段。私たちが七のカウントで一旦中断したのを覚えている?」

オカルト研「再開した時に二人して数をズラしてしまったのだと思う。七で止めて、次の段を七と数えて昇ってしまった」

男「……所詮 怪談は怪談か。ほーら、正体なんてどいつもコイツも呆気ないもんだ」

【天使ちゃんから汚物扱いで見下されてたのも今なら超納得かもしれん】

オカルト研「今日の調査はこれで打ち切りよ。というより、切り上げる。十三階段? なんて馬鹿馬鹿しいの」

【あのオカルト大好きオカルト研が白けていらっしゃる。自分へ悪態をつきながら、やれやれ、しつつもスカートを抑えようともしない彼女が眩しい】

男「仮にもオカ研部員がネタに冷め切っちゃお終いじゃないでしょうか……」

オカルト研「嘘を嘘と見抜けないようじゃ、やっていけない事もあるわ。大体不吉そうな数字に関連付けていた時点でありきたりな罠」

オカルト研「ああ、子ども騙しすぎるっ……!!」ガンッ

男「お前って相当複雑な性格してると思うよ、俺」

男(こう、自分の空間が淀んで感じるのをどう例えてみようか。気不味い、居心地が悪い、やらかした)

男「で……ぱ、パンツが見えてるぞ」

オカルト研「……」

男「見えてるどころじゃない。モロだ、くっきりハッキリ俺から見えてる!!」

男「そ、それで恥ずかしくないのかよ!?」   

【向けた言葉が反射している。これぞ不器用な一周目男か】

オカルト研「[ピーーー]があるの?」

男「は、はぁ? 悪いがそこからだと小声過ぎて聞こえない。もう少し大きめの声で」

オカルト研「男くんは私の[ピーーー]が[ピーー]いというの?」

男(難聴、難聴と力の代償も単なる盛り上げ役じゃないな。身を持って厄介さを痛感させられる)

男(しかし、この程度を察せられないで何がハーレムか。オカルト研の心情を見通すのだ。さすれば開けるこの俺が進む道が)

男「見たいというかね、現にもう何度も見まくってるわけで……狙って屈んでるんじゃ、いや」

男「すまん。あわよくばお前のスカートの下を覗けるかと思って、ご覧の通りだ。オカルト研よ」

オカルト研「そう」

男「軽蔑したか? されても仕方ないんだろうな。友達といえど、女子のパンツを堂々覗き込むなんぞ変態の所業」

男「だが一つ勘違いしないで欲しい。俺はどうでも良い奴に対して魔が差すような人間じゃないと」

オカルト研「!! ……そ、その意味を私はどう捉えていいの///」

男(途端に彼女の表情が、恋心が、バーニングに燃え上がる。引き付けろ、限界まで引き付けるのだ)

男「オカルト研、お前が……俺はお前の事が……」

オカルト研「わたしが……なに?///」

男(膨らむ期待を抑えきれないように胸に手を当て、髪の隙間から覗ける瞳がキラキラと潤っているではありませんか。では、上げて)

男「(落とす) な、何でもない! やっぱり気にしないでくれ!」

オカルト研「ちょっ……!?」

男(この俺と同じ痛みを味わい堪能するがいい。悶え苦しめ、美少女よ)

【オカルト研の背中を見送りながら、手応えを掴みほくそ笑む男の姿がそこにはあった】

男(無事にお戯れイベントをこなせただろうか。難聴スキルによっていつも訊き返される立場を逆転させ、ラブコメ流アレンジを加えてみた)

男(誤魔化されて肩透かしを食らいながらも、完全に引き付けたまま別れさせられた筈である。何を言いかけたか、小学生にでもあの後へ続く言葉は理解できるだろう)

男(美少女は好意を向けられたいが為に積極的に絡もうとしてくる。ならば、あの様に気がある素振りをちょいと見せていくのが順当)

男「(大層なチョロインズである) 男の娘、お互いの趣味を語り合いたくないか?」

男の娘「最近の男って色々唐突すぎない? まぁ……でも趣味かぁー、んー」

男の娘「てへへ、一番手は譲るよ。男はどんな趣味持ってるの? 聞かせてきかせて!」

男「潔く無趣味としておくとしよう」

男の娘「えぇ~……それじゃあ話が続かないじゃないっ。何でも良いんだよ! 漫画とかゲームでも!」

【趣味は美少女攻略です。陥落させた時は達成感と爽快感が伴い、生きている実感を与えてくれます。なんて……男、お前はカメラが好きなんだ。覚えているか?】

男([ピッ]、[ピーーーガーーーーー]。[ピーーーーーーー]?)

男「それに読書、映画鑑賞と続けば典型的つまらない人間の完成じゃないかぁー?」

男の娘「もう、ああ言えばこう言うんだから。あ、ちなみに僕は最近……やっぱり無しでお願い!」

男「ふむ、誰にも言わないから教えくれって頼んでみたらどうなる?」

男の娘「ぜーったい、男にもないしょ! いつかすっごく美味[ピーーーーーーーーーーー]みせちゃうんだからねっ」

男(何気ない会話に癒されているのか、はたまた男の娘の同性らしからぬ美少女フェイスがか。彼もまた候補の一角である)

男(そっちの気は皆無であるとは信じたいが、これだけ可愛ければ美少女と大差ない。……ホモルートも有り得たのか、違う、男の娘は『男の娘』という性別だ)

男(男とか女とか乏しい常識で見てはいけない。感じるがままに、愛でるべきなのである)

【これぞ男の娘きゅんの楽しみ方か。……物足りん。男の娘がという意味ではなく、俺と彼の隣でより花を飾ってくれていた愛すべき暴力女ことツンデレラが】

【クラスで日常過ごすに当たって現状は未完成。何やかんや、三人でバカをやっているのが好きだった。だから一層寂しくて、元の時間が恋しい】

【……そうだ。転校生が追加新キャラだったのならば、いつ、どのタイミングで転校してくる。1周目内の時間もだいぶ進んだというに、それらしい話題や噂が何処からも上がっていない】

【まさか、何らかの条件を踏まないとロックが解除されず姿すら現わさないとか? もしくは、二周目へ辿り着いた時点での成功報酬としての追加キャラか? 王道を征くツンデレ娘が隠しキャラ扱いというのも何だか皮肉じみていやしないか、神よ】

【こいつは探りを入れる必要がある。念・念・念……思いよ届け、届きたまえ……】

男「え? 何だって……話は変わるけど、男の娘。この時期に転校生がウチのクラスに来てくれるとしたらどんな奴がいい?」

男の娘「転校生?」

男(他愛のない話。その話題を思いつくまま男の娘へぶつけていた、と思う)

男(思う、というのはよく分からないが自信がない。意味不明だ。慣れない頭脳労働で疲れが現れ始めたか?)

【気にせず続けていろ】

男「なんだか俺の隣見てて思ったんだ。俺だけ隣の席がないわけだしな、昼寝しようとするとかなり目立っちゃって困る」

男の娘「ふ、不真面目すぎる理由でお隣さん求めるのはどうかなっ……」

男の娘「でも、転校生かぁー。男子か女子かは別に気にしないけどやっぱり楽しい人なら嬉しいよねぇ」

男「そいつが俺たちの輪に加わって賑わせてくれたら尚良いかもしれん!」

男の娘「ぼぼぼ、僕だけじゃ不満っ!? 男はもしかして僕と[ピーー]してても[ピーー]くなかったりするのかな……」

男「ん? バカだな。お前がいて初めて安心できるんだよ、俺は」

男の娘「あ、うぅ……それ[ピーー]イよ、男ぉ……///」

男(男子の限界を凌駕した可愛さを持つ彼に誰が不満を抱こうか。だが、男の娘よ。俺はその転校生がまた美少女であれば素晴らしいと思ってしまうのだとも)

男(現状この俺を取り巻く美少女は約十名。多彩で個性溢れ魅力たっぷり。これ以上を求めては贅沢か? 美少女脳を加速させるだけだろうか?)

【で、何が悪い? 求めるのは足りないと思っている確かな欲望じゃないか?】

【ここはお前が欲望のままに闊歩するお前の為の世界だ。幸せいっぱいで満ち足りるように】

男(ここは[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]。[ピーー]いっぱいで満ち足りるように。望んで罰など当たるかって)

男「いつかさ、ここに新しい席ができると嬉しいな。あまりに勿体ないスペースだ」

男の娘「うん、良いね。……まぁ、席替えで男が場所移動したらうーんって感じになるけど」

男「どうしてその最後の言葉黙って飲み込もうとしなかったんだよ!? お陰でムードぶち壊されたっ!」

男の娘「あははっ、センチな男はらしくないよぉ~~~!」

【約束する。俺がそのスペース埋めさせるさ、かならず】

ここまで。続きは明後日に

あ、次スレ立てました。次回からはこっちに移動
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6、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるならどうする?」
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不良女「兄貴~! 兄貴に教えられた通り作ったら綺麗にできたぜ、プリT!」

不良女「何のキャラってキルミーのソーニャちゃんだよ、知らないのか……」

不良女「密林からあたしに荷物届いてた? ほんと? マジで!?」

不良女「え、えっと、勝手に中身確認とかしてないよな。べ、別にあたしが何買ってたって兄貴には関係ないだろ。変なモンじゃねーよ、怪しくも危なくもないし!」

不良女「いきなり落ち込むなよ……そこまでされちゃ見せてやらなくもないんだけど」

不良女「だけどっ! 絶対引くなよ! あとバカにすんじゃねーぞ! 笑うのもなし! いい!?」

不良女「じゃ~ん! キルミーベイベーBlu-rayBOX(税込16800円 殺し屋ラジオ・スペシャルCD特典付き 好評発売中)!」

不良女「おまけにどーん! キルミーベイベー・スーパー(税込3939円 新作アニメーションDVD付き 好評発売中)!」

不良女「あぁ~!? 何だよその反応っ!!」

不良女「バラしちまったからにはしょうがねぇー……あ、兄貴もこれから一緒に見ようぜ。あたしが教えてやる、キルミーを!」

不良女「え? 男がいない? 一応ちゃんとチョーさんが声当てた男出るし、モブだけど。恋愛ジャンル以外興味ないって?」

不良女「食わず嫌いは食ってから嫌いになれよっ!!」

兄貴「うるさいどーんッ!!」

不良女「!!」

不良女「わ、わさわさしてきたなオイ……///」             完

男「(ある日、目が覚めて鏡の前に立つとそこには) 誰だこの美少女は!? 胸はあるが、大事なマイサンがない!」

天使「おやー、これは男くんという名のつく別の何か。主がまた不浄な望みを叶えてくれたんでしょうかね?」

男「大きなお世話すぎる! 美少女大好きだが、自分が美少女になりたいと思うTS願望はねーよっ!!」

男「難聴鈍感と続いて女体化なんてどうしろと……花びら舞い散る禁断百合ハーレムが始まるのかしら……」

妹「お姉ちゃん、いらないならその卵焼きちょーだい! ん~、甘うま」

男「許可と強奪を取り違えてるのかお前は。それよりお兄ちゃんだろ? お姉ちゃんはこの家にいないわ」

幼馴染「寝惚けてるの、男ちゃん? ほら、あたしの卵焼き一つあげるから機嫌直して。はい、あーん……[ピッ]、[ピーー]だったかな///」

男(美味い。しかし、これは不味いではないか。この美少女状態に変われど、幼馴染や転校生たちからのモテモテ具合は恒常である)

天使「へっ、何やかんやケチつけときながらスカート穿いちゃってノリノリしてやがるじゃないですか~! てめーのパンツは何色だぁ!」パカパカ

男「今日一日の辛抱と思って存分に俺版美少女を楽しんでみる事にしたという現実逃避だ。そこを扇ぐな」

転校生「ちょっ! ついに自ら下着見せてくスタイルなの!?」

男「どう足掻こうとお前からの変態扱いは変わりなさそうだな」

男「……待てよ、俺はいま女。となれば、あーん! 偶然足元に転がってきた空き缶を踏んじゃった! 転校生しっつれ~い、と」

転校生「ひゃっ!?///」モニュ

男「この通り合法的にセクハラしほ、ぶうっっっ」                 続、かない

先輩「本日の活動は家二郎だよ! 各自練習してきた呪文を準備、構え」

転校生「部室が果てしなく臭いわ……」

不良女「ていうかいつそんなモン仕込んだんだよ」

先輩「細かい事は一々気にするもんじゃありません。我々はただ二郎を我武者羅に食らえば良いのです、ハイ。小の方、ニンニク入れますか……?」

生徒会長「ならばヤサイアブラカラメニンニクでお願いしよう」

不良女「うわぁ、不意突かれた!? カイチョーが先陣切っちゃうのかっ」

生徒会長「この二郎とやらには予てから気に掛けていてな。本来なら真っ先にこの状況を注意したいところだが、誘惑には勝てなかったよ……あとに続け」

男「アブラヌキゼンマシ。先輩さんスゲェ、驚異の再現率ですな……」

先輩「えへへ、そう? 頑張った甲斐あったもんだよぉ~! おっと、ニンニク入れますか?」

転校生「う~……私の知ってるラーメンじゃないどころか人前に出す料理とは到底思えない見た目してるんだけど」

先輩「じゃあニンニク入れますか?」

転校生「じゃあ!? え、えっと、野菜ふつう……ニンニクも、ふつう。ゼンフツー!」

男・生徒会長「普通はない!!」   転校生「ひぃ!?」

生徒会長「転校生、君がこの下品な盛りに嫌悪したい気持ちは分からんでもないさ。だが、この暴力的かつ冒涜的な狂気の出来栄えが面白いんじゃないか!」

転校生「た……食べ物で遊んじゃダメなんだからーっ!」          完

幼馴染「二人ともゲームするの好きだよね。これは何やってるの?」

妹「格ゲーだよ。タイマンで上にある体力ゲージを技とかコンボで削りきったら勝ちなの、っとー!!」

男「あーっ、まぐれ! 今の絶対まぐれ当たりだっ! 次 俺にアケコン寄越せよ!」

幼馴染「面白そう……あたしにも触らせてほしいなっ」

妹「いいよおっけー、お兄ちゃん弱いから丁度張り合いなくなってきた頃だったんだよねぇ~」

男「この俺が妹相手に本気出すと思うか? ぷーっ、手加減されて逆上せ上がるとかこの子可哀想に」

妹「ああそう、リアルファイト上等だオラァ~~~ッ!!」

男「んっ、わき腹、だめ、いひっ……や、やるなら俺と対戦するかぁー幼馴染くん? 初心者相手に加減は難しいからな、手が滑っちまうかもしれん」

妹「こんなのさっさと倒しちゃおう、幼馴染ちゃん! ここのボタンでキャラを動かして、そっちが」

幼馴染「見てて大体分かったから説明大丈夫だよ。よーし、はじめよっか! 男くん!」

男(幼馴染には何やらせても俺たちの上行かれるからな、格ゲーぐらいでは首根っこを押さえておかねばなるまい……が)

幼馴染「男くんつよーい…………」カチカチカチ、カチッ、カチッ

男「……」

幼馴染「あたしが勝っちゃいそうだなー…………ねぇ?」ジロ

男「どうしていつも俺と対戦してる時おっかないんだよっ!?」          完

先生「もしファンタジーの世界に放り投げられたら自分が何の役職につくかって想像したことあるでしょ?」

男「ああ、剣とか持ってドラゴンバッサバッサ虐殺するのは男子の永遠の憧れですね」

男の娘「男は魔王の手から世界を救う勇者って感じだよ! 僕はそんな勇者を傍で助ける魔法使いがいいなぁ」

転校生「ププッ、こ、こいつは勇者って性質じゃないでしょ? いつも女の子追っかけ回してる変態遊び人とか変態な泥棒とかが私のイメージねぇ~」

男「そういう転校生は暴力女の肩書的に武闘家が嵌まってるな、暴力女的に」

転校生「そうね、お望み通りあんた限定で殴ったり蹴ったりしたげる……っ!」

先生「いやー、実は最近先生RPGツクールに凝っててさ。どうせなら知ってる顔ぶれキャラにしてみようかと思ったわけ」

先生「今の話で結構設定いけるかも。格闘家と魔法使いは決まりね。あとはー……君が何やらせてもしっくりこないな!」

男「せめて出番だけでもゲームの世界でぐらいカッチョ良くさせられませんか、この哀れな男くんを」

先生「じゃあ中盤で単騎魔王に挑んで瞬殺されちゃうけど仲間を助けるため恰好良く犠牲になるキャラにでもしておこっか」

男「それは素晴らしく光栄で勿体ない扱いだ。で、肝心の先生は? 制作者は神視点で登場なしですか」

先生「うふっ、聞いて驚くなよー? なんとラスボスの魔王にする予定!」

先生「自分が弱っちい魔王だと嫌な感じだから一層張り切って強化したくなるでしょ? 歯応えあるボス作るのに自分投影してみるのも意外に有りかと思って~♪」

男の娘・転校生「へぇ~」

男「自己投影の結果、踏み台として瞬コロされる奴がいるらしいんだが」         完

男「相談というのは言わなくとも見てもう分かってくれた事だろう、後輩よ」

メカ天使『スタンハンセン』ガ カ ゙ガ

後輩「よくできてるロボットですけど上手く意思疎通取れって頼みなら難しいかもしれません」

男「そうか。天使ちゃんが昨日から急に姿を消して心配してたら、今朝この有り様で玄関につっかえてたところを捕獲した」

男「とりあえず声かけてやってくれ、後輩。何か反応が貰えるかもしれん!」

後輩「えぇー……て、天使ちゃん?」

メカ天使『ドラゴンフジナミ』

男「お前ならと思ってたんだがこりゃダメだな。何故かプロレスラーの名前しか喋らない」

後輩「ちなみに訊かれる前に説明しておきますと、私たち無機物の方は専門外ですから。コレはいわばニセ天使ちゃんかと」

男「俺たちの本物ロリ天使はどこ行ったんだ?」

後輩「ひょっとしたら、このニセ天使にやられてしまった後かもしれませんね……ただ者じゃなさそうですよ、先輩」

男「や、やれやれだ。俺たちの計画に勘付いた神が送った刺客だっていうのか? 冗談じゃねーぞ、美少女ロリがこんなロボットにすり替えられたなんて……やれやれ」

男「ちくしょーっ! お前なんか天使ちゃんじゃねぇー!!」   

後輩「うわっ、ドサクサに紛れてこの子押し付けて帰らないでくださいよ!?」

メカ天使『ブッチャー』プシュー

男「奴は着いて来てない! 後輩には悪いがアイツ隣にいるだけで機動音相当喧しいからな、お陰でストレスでしかなかったわっ!」

男「しかし、いないといないで急に静かでちょっぴり物足りないのは一体。愛しのマイエンジェル天使ちゃんどこ行ったし……」

男(いくら待てどもあのロリ美少女天使が姿を現わす日は訪れなかった)

男(口の悪い彼女でもマスコット兼相棒として今では無くてはならない特別な存在だ。モチベーション低下の加速が増していくのであった)

男「定期的にロリ天弄ったり弄られたりしないと正気保ってられん……禁断症状に発狂しそうだ」

男「きっと俺はハーレムの中に孤独を見つけてしまったんだろう。天使ちゃんはそんな孤独を埋める保養剤だった、なんて」

男「天使ちゃん、待ってるから帰ってきておくれ……アイスも用意したし、部屋にコタツもセットしたぞ。みかんも並べてみた……」

男「早く来ないとマミタスに独占されちまうよ……おほ、白い皮綺麗に剥けた」

ロボ天使『ブラックタイガー』ガ ガ ガ

男「貴様は!? 呼んだのはロボットじゃなくて生の方だ畜生がっ!!」

男「大体お前は後輩の世話になっていた筈じゃ……いいか、飼い主は俺じゃなくて後輩だぞ。ブサ男より美少女に飼われた方が絵的に良い」

男「飼い主の元へお帰り。ハウスだ、ハウス。失せろブリキ野郎!」

ロボ天使『マ……マッチョドラゴン……モーエアガレ』

ロボ天使『マッチョドラゴン』ポンポン

男「……お前、慰めてくれてるのか?」

男「今日は絶好のラッキースケベ日和だ、そう感じないか? ロボ天使ちゃんよ」

ロボ天使『ボボブラジル』

男「そうか。相変わらず意味分からんが楽しそうでなによりだよ、俺は」

ロボ天使『リ、リキドウザン』ガ ギ ギ

男「わ、悪かったって。怒るなよ、あとでピカピカに磨いてやるぞ! どうだ?」

ロボ天使『ブロディ……///』

男(キッカケなんていつも些細なものだ。晴れの日も風が強い日もドシャ降りだった日も、俺たちは今日も良好な仲を築き合い、お互いが最高のパートナーになっていた)

男(俺が寒いと体を擦っていれば彼女は身を寄せて温めてくれようとしてくれる。そんな冷たいボディに温かい心を持つ健気なロボット)

男(コイツさえいてくれたら俺はもう何も要らない……永遠なんて存在しなかった)

男「良い子にお留守番できてたかなぁ~、ロボ天使ちゃん! お土産に――――」

ロボ天使『ジ、ジジジ……ジャンボ、ボボ、ツルタタタ……ッ』

男「何だと!? どうしたっ、体が動かないのか? お、おい、しっかりしろ!!」

ロボ天使『カ……カワ、ダトシ……ア……キ…………』

男「俺がいま直してやるからな! 逝くなっ、気を確かに持ってくれ ロボ天使ちゃん! ……ロボ、天使ちゃん?」

ロボ天使『』

男(何度ゆすっても声をかけても、彼女が喧しく再起動する事はなかった。俺の涙で奇跡が起こる事もない)

男「ま、まだロボ天使ちゃんと色々な話をしてやりたかった。遊びにも行かせてやりたかった、なのに」

男「あまりにも殺生な……神よ、何でもするからこの子へ再び命を与えてくれ!! こんな結末認められるかよっ!!」

男「う、うぅっ……ロボ天使ちゃん、ロボ天使ちゃん……」

天使「たっだいまー! いやぁ、主から貯まりまくった有給消化してくれといきなり言われちゃいましてねー。ほれ、お土産買ってきてやりましたからバカみたく喜びやがれ!」

男「誰だよお前、ロリの美少女じゃねーか」

天使「ちょー! 自分を忘れたとかありえねーです! って、ありゃあ~ 電池切れちゃってるじゃないですかコレ」

天使「気に入って頂けました? ふふーん、コイツのお陰で寂しがり屋の男くんも満足したでしょう」

男「なぁ、ちょっと待ってくれ。お前がロボ天使ちゃん置いていったのか?」

天使「はぁい。勝手にいなくなるのも何だか申し訳ないと思って、前に工作したロボットを代理に」

天使「実はなんと! 録画機能ついてる優れ物だったりしやがるんですよ、コイツ~! えへへ、お陰で休暇中の男くんの行動は全部あとで確認できるのです!」

男「慈悲も無し」ポイー

天使「ぎゃああああぁぁぁーーーっ!!? 何で窓から投げたんですかっ、ぶっ壊れちゃうじゃねーですかぁーっ!!」

男「盗撮ダメっ、あんな物は最初からなかった!! うーん、やっぱり無機物よか生美少女が一番だよ」

後輩(高速手のひら返し……)                 完

男の娘「期末試験の結果どうだった? 僕 今回全然で気が重い感じでーす……はは、は」

男「一夜漬けが上手く効いたらしくてな、赤点だけは免れてハッピーだ」

転校生「何それ? お茶漬けの親戚? ……わっ、あんた思ったより悲惨」

転校生「その調子続けてギリギリにやってたらさすがにマズいんじゃない? バカにするのも躊躇う酷さなんだけど」

男「さっきからお前は何様だ? お高く止まりやがって。そういうのはトップクラスの成績叩き出せる優等生だけが許され……転校生きもっ!!」

男の娘「ひっ、古文と現国以外ほぼマックスいってるとか! 転校生さんどうしたのさっ、僕たち友達じゃなかったの!?」

転校生「あんたたち揃ってバカなのは今よーく思い知ったわ!」

男「くそ、スポーツ万能で勉強もできるついでにハーフの美少女とかどこにそんなチートコード載ってるんだ。この人生を勝ち抜く力を俺たちにも分けろ、転校生!」

転校生「素直に勉強しようとしない方がイケないんでしょ。妬むより先に自分に鞭打ちなさいよ。そしたら少しはマシになるんじゃない? ……フッ」

男の娘「ついに露骨に見下してきたよぉぉ、男!!」

男「ふん、そうか……よーし、今度から幼馴染に勉強教えてもらうとしようかな。次は俺の本気見せてやるよ」

転校生「ええっ!? わ、私を先に頼れば良いじゃないっ!!」

男「ほう? 何でかね?」    転校生「何でって……///」

転校生「あんたはただでさえ幼馴染ちゃんに迷惑掛けてるんだから、その代わりというか……わ、私じゃ不満だっていうの!?///」

男の娘「……僕は?」           完

不良女「お前 陰気な割りに自己主張激しい体付きしてるよなぁー。隠れてない隠れ巨乳みたいな」

オカルト研「比べてあなたは貧相な体で哀れだわ。あー大きいと肩がこるー、貧乳ってう・ら・や・ま・し・いー」

不良女「ふっざけんな! そこまで貧しくねーんだよ! ふくらみ程良い丁度な大きさなのっ」

オカルト研「誰もあなたの事だなんて言ったつもりはないのだけれど」

不良女「貧相とか先に抜かしたじゃねーか!?///」

オカルト研「ねぇ、なぜ細くてスタイルが良いという意味で受け取らなかったの」

不良女「お、おぉ!? 何だよ、照れ隠ししないで素直に誉めたらいいじゃんかよぉ~! こいつぅ~!」

オカルト研「都合良くそう解釈してくれた方がお間抜けなあなたらしいと思ってたのに」

不良女「っ~~~……!!」

幼馴染「不良女ちゃんこんなとこにいたんだ。そろそろ移動しないと遅れちゃうよ?」

不良女「ううっ、幼馴染ぃ~~~!! 何も聞かずにあたしを慰めてくれよぉ!」ガバッ

幼馴染「ど、どうしたの? オカルト研さんとどうかしちゃった?」

不良女「アイツ やっぱりあたしのこと嫌いなのかなぁ、ウザがられてんのかなぁっ?」

幼馴染「えっ、その逆みたいな気がするんだけど」

オカルト研「…………///」モジモジ                  完

以上悪乗りスレ埋めついでで書いてみた一発小ネタ集
予定した短編は上みたいな感じにならないと思うな

ほんとのほんとに次回から次スレで本編続く

1000ならロリ天使ちゃんと一緒にお風呂

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月20日 (水) 04:56:57   ID: 4rYZllv9

ただし攻略中に男の心自身に難聴が発動したら本当に乗っ取られかけてるんだと思う
基本的には一瞬だけど

2 :  SS好きの774さん   2015年01月12日 (月) 15:57:36   ID: 1jv3aJ4r

面白いです。応援しています。

3 :  SS好きの774さん   2015年01月14日 (水) 05:27:11   ID: BcN1esjJ

キャラクターがかなり魅力的。
男や妹といった固有名詞では勿体ないぐらい飛んで跳ねてる。

4 :  SS好きの774さん   2015年01月17日 (土) 11:55:02   ID: rusqzgqR

面白いです!続き楽しみにしています!!

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