恭介「戦線名はリトルバスターズだ!」岩沢「その4だ」 (1000)

リトルバスターズ!とAngel Beats!のクロスです

自己解釈、キャラ崩壊などに注意

たまに安価

両作品のネタバレ全開ですのでお気をつけ下さい

ゆっくりやっていく予定です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1444564027

ここまでの簡単なあらすじ

死語の世界にやってきた恭介、戦線名をリトルバスターズと名付けた

真人、謙吾、沙耶、来ヶ谷、クド、葉留佳、美魚も参戦
オペレーションや馬鹿騒ぎを通じて、絆を深めていくリトルバスターズ

そんな中、デーモン・ピクニックや天使エリア侵入作戦において
この世界の創造主、あるいは神と考えられる存在が直接動き始める

どうやら恭介は神に目をつけられ、なにかを試されているようだ

神への復讐の為に戦うゆり
戦線の為に「天使」として戦うかなで
そして多くの戦線メンバー達…

恭介たちは誰も消えることなく、みんなの魂を救うため
みんなの生前の悲しい記憶を、楽しい思い出で塗り変えることを誓うのだった…

エピソード一覧

Episode:1 「反抗のはじまり」
Episode:2 「変化の風」
Episode:3 「動き始めた魔の手」
Episode:4 「希望の歌」
Episode:5 「???」

恭介の称号一覧

「シスコン」・「ロリコン」・「ガルデモ大好き」・「筋肉ミドラー」
「ホモ疑惑」・「Love&Spanner 」・「甦れなかった斉藤」・「希望の歌」

4スレ目です
ここまでお付き合いいただきありがとうございました
引き続きお楽しみいただけると幸いです

それと一つ謝罪があります
もともと誤字・脱字が多いという自覚はありましたが
前回の投下分は読み直してみると本当に多かった…

酷いのは「他でもない」というワードが「他でも」で途切れてたり
入江がひさ子を呼び捨てにしてる部分とかありました

申し訳ありません
一応、気をつけてるつもりですが自分の注意不足です
以後、気をつけて減らすようにします
(無くします、と言えないのが辛い…)

前スレで書いたとおり、明日20時くらいから再開します

ゆり「よーし、全員揃ったわねー」

遊佐「はい」

恭介(いつもの定例会議。集められたのは幹部と…)

ユイ「へー、ここが本部ですかー!意外と普通のとこなんですね!」

恭介(ユイを加えた新生ガルデモメンバーたち)

恭介(特にユイは初めて本部を訪れただけに、少しはしゃいでいるみたいだ)

日向「なあ、ゆりっぺ…」

ゆり「なにかしら?日向くん」

日向「この際、なんでガルデモメンバーまで招集されてるのかは、スルーしよう」

日向「前にもこんなことあったしな」

日向「が、このちっこいのは誰なんだよ!まさかこんなやつまで幹部にする気か?」

恭介(日向がユイを勢いよく指差す)

ユイ「ちっこい言うなっ!あたしにはちゃんと、ユイっていう名前があるんだからなぁーーっ!!」

竹山「うるさい人ですね」

野田「いきなり言動に難ありだぞ、こいつ…」

岩沢「おい、ユイ。一応、日向は先輩だ。ちゃんと挨拶しろ」

恭介(岩沢がユイを軽く叱る)

ユイ「いや、だってー!ちっこいとか言われたんですよー!」

ユイ「可愛い後輩に、いきなりそんなこと言いますか!?普通!!」

日向「いや、別に可愛くねえし」

藤巻「ねえな」

野田「ゆりっぺと比べたら、月とスッポンだ」

ユイ「こらああーーーーっ!!なんだその冷たい態度はーーっ!!」

ユイ「お前らそれでも先輩かーーっ!!」

恭介(鼻息を荒くして怒るユイ)

恭介(今にも、『フカーッ!』とか言いそうなとことかが、鈴と少し被るな)

沙耶「で、この子誰なの?ゆり」

ゆり「ガルデモの新メンバーらしいわよ」

「「「ええええええーーっ!?」」」

恭介(ゆりの発言に本部が揺れる)

日向「マジかよ…」

竹山「ガルデモはロックバンドでしょう?アイドルユニットにでもするつもりですか?」

椎名「あさはかなり」

松下「まあ、そういうのも少し見てみたい気はするが…」

藤巻「わざわざ新メンバー増やす必要あんのかよ?」

来ヶ谷「可愛い女子が増えてくれるなら、おねーさんは大歓迎だぞ」

真人「そりゃ、来ヶ谷の基準だろうが…」

恭介「ユイ。一応、自己紹介ぐらいしといたらどうだ?」

ユイ「あ、はい、そうですね。ユイって言います!」

ユイ「今はまだまだ未熟者ですが、いつか岩沢さんと、ダブルボーカルをするのを目標にがんばってまっす!!」

恭介(八重歯を覗かせながらウインクし、元気に挨拶する)

葉留佳「あれ?ってことはボーカル志望なの?」

遊佐「岩沢さんと被ってますね」

ゆり「それはあたしも初耳なんだけど?」

日向「本当に大丈夫なのかぁ?」

恭介(やっぱりというか、予想通りというか)

恭介(みんな不安だったり、ユイの実力を疑問視してるっぽいな)

恭介(だが…)

ひさ子「心配しなくても、ユイはちゃんと戦力になる大事なメンバーだよ」

ひさ子「お前たちが訝しく思うのも無理ないけど、こいつの実力とやる気はあたしが保証する」

ユイ「ひ、ひさ子さん…!」

高松「ええ。歌を聞けば、ユイさんの実力はすぐにわかると思います」

恭介「だな。いっそ、今から披露するってのはどうだ?」

ユイ「今からですか?」

岩沢「あたしもそれがいいと思う。なんせあたしがスカウトしたんだ」

岩沢「きっとみんなの心にも響くよ」

謙吾「恭介や岩沢たちが、そこまで言うくらいなのか」

日向「全然そんな風には見えないけどな…」

ユイ「ふっふっふ、能ある鷹は爪を隠すんですよっ!」

ユイ「いざっ!」

パチンッ!

恭介(ユイが指を鳴らすと、あっという間にギターとアンプとラジカセ、更にマイクスタンドが現れる)

沙耶「どっから出てきたのよ!?」

ゆり「細かいことは気にしたら負けよ、沙耶ちゃん」

クド「私、生演奏の歌を聞くのは、初めてかもしれません!」

来ヶ谷「そういえば、おねーさんもガルデモの曲はまだ聞いてなかったな」

入江「ユイ~、がんばれ~!」

関根「失敗したら、ガルデモのかませ犬担当って呼んじゃうから覚悟しとけよっーー!!」

大山「だって!やったね藤巻くん!仲間が増えるよ!」

藤巻「おいばかやめろ」

恭介(表情をキッと引き締めると、マイクスタンドを手に持つ)

ユイ「さあ、聴いてからどうか判断してくださいっ!」

野田「形だけは様になってるな」

ユイ「ぽちっとな」

恭介(スタンドでラジカセの再生ボタンを押した)

恭介(同時に『My Soul,Your Beats! 』のイントロが流れ始める)

ユイ「いえーい!みんなーっ!」

ユイ「今日は集まってくれてありがとぉーーっ!!」

恭介(そう煽り、勢い良くマイクスタンドを蹴り上げる。すると…)

恭介(それが天井に突き刺さり、そこから伸びるシールドが奇跡的にユイの絞めた…!)

ユイ「おぇっ!!」

恭介(だらんと、その体が垂れる…)

クド「わふーーーーーっ!?」

真人「うおっ!感電しながら首吊ってるぜ、こいつ!」

美魚「なにかのパフォーマンスでしょうか?」

日向「デスメタルだったのか…」

TK「Crazy for you…」

ユイ「し…しぬっ…」

恭介「っておい、マジで事故かよ!?」

岩沢「ユイっ!?しっかりしろ!!」

恭介(俺と岩沢で助けるが、うつ伏せになったまま動かない…)

ひさ子「このバカ…。マイクパフォーマンスなんか百年早いっつのに…」

松下「なんてブラックなギャグを…」

大山「いや、身を呈して、笑いを取りに行く心意気は賞賛に値するよっ!」

大山「僕は評価したいなっ!!」

入江「あの…。一応、音楽の審査だったはずなんですけど…」

沙耶「いつからお笑いの審査になってたのよ…」

関根「こりゃマジで、かませ犬確定ですね」

大山「やったね藤巻くん!仲間が増えたよ!」

藤巻「だからそのネタはやめろぉ!」

ユイ「誰がかませ犬じゃーーっ!!しかもギャグじゃないやいっ!」

恭介(いきなり復活して、勢い良く立ち上がる)

ゆり「でなければ、とんでもないお転婆娘ね」

ゆり「クールビューティーな岩沢さんとは正反対」

沙耶「えっ!?岩沢さんってクールビューティーだったかしら…?」

ゆり「そうね…。最近、どっかの誰かさんの影響で、すごいアホになってたわよね」ジロッ

恭介「…おい。あらぬ風評被害が生まれてるみたいだが、岩沢は元からこんな奴だからな?」

岩沢「フッ…。まあな」キリッ

ひさ子「なんでそこでドヤ顔なんだよ、岩沢…」

ゆり「まあ。正直、バンドの件は岩沢さんたちに任せてるから」

ゆり「今まで通り陽動ができるなら、新メンバーの加入も問題ないわよ」

ユイ「やったーーっ!!」

恭介(ぴょんぴょん飛び跳ねながら、喜ぶユイ)

ゆり「ただし!ユイを加えたことによって、陽動が以前よりうまくいかなくなったら…」

日向「クビだな」

遊佐「クビですね」

ユイ「ええええぇぇーーっ!?そんなプレッシャーかけないでくださいよーーっ!?」

ゆり「あたしの方針は実力主義なのよ。認めて欲しければ、結果で示しなさい」

岩沢「了解だ、ちゃんと結果で示してみせるよ。な、ユイ?」

ユイ「は、はいっ!がんばりまっす!」

ひさ子「安心しろ、ユイ」

ひさ子「絶対そんなことにならないように、あたしがしごいてやるよ」

ユイ「し、死なない程度にお願いします…」

高松「まあ。今回は失敗しましたが、いつものユイさんの演奏なら、問題ありませんからね」

恭介「これで、あんま調子に乗らないようになるだろ」

恭介「すぐ近くに、関根っていう反面教師もいることだしな」

関根「そうそう!しっかりこのあたしを見て学ぶといいぜ!」

入江「しおりん…、貶されてることに気づいてない…」

葉留佳「バカだな~しおりんは♪」

美魚「そういえば、ユイさんとおっしゃるんでしたよね?」

ユイ「はい。そうですけど」

クド「来ヶ谷さんも、下の名前は唯湖さんというんですよ!おそろいですね!」

来ヶ谷「ま、まあ、そうだな…」

ユイ「そうなんですか!なんか親近感感じまくりですっ!」

ユイ「唯湖先輩とお呼びしてもいいでしょうか!?」

来ヶ谷「いや、気持ちは嬉しいんだが…」

来ヶ谷「下の名前で呼ばれるのは、あまり好きじゃないというか…」

大山「はっ…!来ヶ谷さんが怯んでるっ!これはレアだっ!」

ゆり「確かにレアね!あたしも初めてみたわ!」

ゆり「つまり、本人は可愛いものが好きでも…」

ゆり「自分の下の名前を呼ばれたり、可愛い扱いされるのが苦手ってところかしら?」

来ヶ谷「冷静な分析はよしてくれないか、ゆり君…」

日向「なんだ?意外と可愛い弱点あるんだな!唯湖ちゃん!」

来ヶ谷「日向くん、どうやら死にたいらしいな…!」ゴゴゴゴゴ…!

ナギッ

バキ!ベギ!ボコ!ドカ!ズガガガガガガ!グシャ!メキョ!

日向「ぎゃあああああああっ!!」

男共「「「日向あああぁぁーーーっ!!」」」

ユイ「天罰、天罰!ざまーみろです!」

入江「明らかに人災のような気が…」

謙吾「哀れ日向。まだ来ヶ谷の恐ろしさがわかっていなかったのか…」

真人「来ヶ谷だけは敵には回せねえからな…」

葉留佳「姉御を下の名前で呼べるのは、小毬ちゃんくらいだしネ~」

恭介(後は、恋仲になった時の理樹くらいだな)

高松「小毬さんというのは、やはりすごい人なんですね…」

大山「さすがリトルバスターズ最後の一人!」

沙耶「あたしの見た限りじゃ、ちょっとトロそうな普通の女の子だったんだけど…」

恭介「いや、あれで運動神経自体は良かったんだぞ」

恭介「正しい投球フォームとか教えたら、一発でマスターするようなやつだったし」

藤巻「それってめちゃくちゃすげえんじゃねえか…?」

椎名「やはり天才か…」

真人「ただまあ、ちょっと抜けたことがあるやつだよな」

クド「一緒にいるととても和む人です」

葉留佳「あ、あと小毬ちゃん。地味におっぱい大きかったよ!」

葉留佳「メンバーの中じゃ、姉御の次ぐらいに」

TK「Oh,really!? Yeaaaaaah!!」

ゆり「ひくなっ!」

遊佐「ドン引きです」

美魚「そろそろやめないと、只でさえ高いハードルが更に上がってますよ?」

恭介「大丈夫だろ。小毬だし」

ゆり「すごい信頼っぷりね、ほんとに何者なのよ、その小毬って人…」

竹山「………あの、さっきから雑談ばかりですが。もう定例会議は終わりなんですか?」

ゆり「お、終わってないわよ!むしろ、これからが本題よ」

謙吾「また、本題忘れてたな」

大山「絶対忘れてたね」

松下「毎度のことながら、雑談が長すぎるからな」

ゆり「ぐぬぬぬぬ…!」

日向「それで、その様子だとまたオペレーション発動か?」

ゆり「フッ…。そのとおりよ!」

ゆり「その名も、オペレーション『DAY GAME』!!」

大山「デイ・ゲームってことは…」

ゆり「ええ。明後日行われる球技大会にゲリラ参加するのよ!」

恭介(きたかっ…!球技大会…!)

謙吾「球技大会!?そんなものまであるのかっ!」

ゆり「そりゃあるわよ。普通の学校なんだから」

大山「そっか、もうそんな時期だったかぁーー!!」

松下「だな…」

藤巻「くそ、たりぃ…」

日向「また、やんのかよ…」

恭介(なぜか、日向たちは不満げだ。球技大会といえば、めちゃくちゃ心躍るイベントだってのに)

真人「どうしたんだよ、お前ら?」

真人「あまり乗り気じゃなさそうだな」

日向「NPCにも劣る成績を収めたチームは、毎年きっつーい罰ゲームが待ってんだよ…」

恭介「…ああ。そういや、前にそんなこと言ってたな」

恭介「だから、乗り気じゃないのか」

沙耶「大丈夫よ!ようは勝てばいいんでしょ?」

ひさ子「男子はともかくガルデモチームは弱いからなぁ…。一回戦くらいは勝てるといいんだけど」

ゆり「フッ…。なにを勘違いしてるの?ひさ子さん?」

恭介(ひさ子の呟きに、ゆりっぺが反応する)

ひさ子「えっ、なにがだよ?」

ゆり「確かに今までは、それぞれメンバーを集めてチームを作ってきたわ」

ゆり「けど、今回は違う!」

ゆり「棗くんをリーダーに起用し、最強チームを結成する」

ゆり「そして、目指すは優勝あるのみ!種目は…、野球よ!!」

恭介「はぁ!?」

岩沢「棗がリーダー?」

美魚「それに、野球ですか」

恭介(ちょっと待て。野球に参加するのはいい、むしろ望むところだ)

恭介(けど、なんで俺がリーダー確定なんだ?)

野田「待ってくれ、ゆりっぺ…!なぜ、恭介がリーダーなんだ…!?」

野田「俺でもいいだろうっ!?」

日向「いや、それは無い」

藤巻「ねえな」

椎名「あさはかなり」

野田「ぐはっ…!」

高松「安心してください、野田くん!」

高松「たとえ絶望的に人望がなくても、私たちバカルテットは野田くんの友達ですから!」

松下「地味にひどいぞ、高松…」

ゆり「まあ、ちゃんと聞きなさい。棗くんをリーダーにするのには、ちゃんと理由があるんだから」

恭介(いつもの、顎のところで指を組むポーズでゆりっぺが語り始める)

ゆり「棗くんとは、直接話したんだけど…」

ゆり「デーモン・ピクニックで、神によって操られたり…」

ゆり「天使エリア侵入作戦で、直接的な干渉を受けたり…」

ゆり「どうやら棗くんは、神に目をつけられていると見て間違いないわ」

ユイ「操られる…!?干渉…!?」

ユイ「な、なんの話ですか…?」

恭介(ユイが、驚きの声を上げる)

途中ですが、諸事情で少しだけ離れます
戻ってきしだい再開します

入江「そっか。ユイはデーモン・ピクニックで、具体的に何があったのか知らないんだよね」

ユイ「はい…。なんか犬に襲われて、様子がおかしくなってたってくらいしか…」

椎名「棗は、チルーシャに被せられた仮面によって、神に操られたことがあるんだ」

沙耶「その時は、なんとか仮面を破壊して、恭介くんも正気に戻ったんだけど…」

大山「でも待って…。天使エリア侵入作戦での干渉ってなに?」

大山「僕たちその話は、聞いてないんだけど」

藤巻「ああ、初耳だぜ」

松下「まさか、俺たちの知らない間にも神が仕掛けてきていたのか!?」

恭介「…ああ、いきなり強烈な頭痛が襲ってきてな。そのまま、俺は意識を失ったんだ」

恭介「夢の中で、あるいは異世界で…。俺は神によって、未来を見せられた」

恭介「岩沢があのライブで、消える未来をな…」

岩沢「えっ…!?」

ひさ子「おい…。ってことはまさか…」

関根「あの時、棗先輩が来なかったら、岩沢先輩は本当に…」

ゆり「ええ。消えていたはずよ」

ゆり「あなたたちだって、岩沢さんが消えかけていたところを見たんでしょ?」

ゆり「それが本来の運命。棗くんの行動によって、運命が変化したのよ」

入江「そ、そうだったんですか…」

ユイ「ちょ、ちょっと待ってください…!」

ユイ「消えるメンバーがいるって話は聞いてましたけど、あの場には天使はいなかったじゃないですか!?」

ユイ「どうして、岩沢さんが消えかけたんですか…?」

ゆり「…下っ端たちには詳しく話して無かったけど」

ゆり「この世界に留まる理由が無くなれば、消えてしまうのよ」

ゆり「なにかしら満足してしまうとかね…」

ユイ「そ、そんな…」

岩沢「だから言っただろ。ユイには満足して欲しくないって」

岩沢「消えたくなければ、この世界に留まる為の、情熱を燃やし続けている必要があるんだよ」

ゆり「そう。だから、あたしは最初にみんなに問いかけるのよ」

ゆり「神に抗い、この世界で戦い続けていく、確固たる信念があるのかどうかをね」

ユイ「…あたしたちの知らないところで、本当に大変なことが起きてたんですね」

美魚「はい。今の内容にはわたしも驚きました…」

葉留佳「思ってた以上にハードな戦いしてたんですネ。恭介さんたちは…」

謙吾「安心しろ。確かに、大変な戦いではあるが、結果的に今までなんとかなっている」

日向「実際、天使ともそこそこ戦えてきたしな」

恭介「……………」

椎名「問題は、神のほうだな」

ゆり「ええ、今回のオペレーションも神との戦い」

ゆり「神の情報を引き出すための戦いと言っていいわ」

クド「それが、野球なんですか?」

竹山「野球で、どうやって神の情報を引き出すんですか…?」

ゆり「簡単なことよ」

ゆり「さっきも言ったとおり、棗くんが神に目をつけられているのは、ほぼ間違いないわ」

ゆり「そして、今までどちらもオペレーション実行中に、神は棗くんに仕掛けてきている」

ゆり「となれば、道は一つ…」

恭介「俺が野球チームのリーダーとして、球技大会に乱入するオペレーションを起こせば…」

恭介「きっとまた、神は俺に対して何かを仕掛けてくるってことだな?」

ゆり「そのとおりよ。さすがの理解力ね、棗くん」

真人「おい、待てよっ!ってことは、今回のオペレーションは…!」

来ヶ谷「恭介氏を囮にするということか…」

沙耶「そんな、危険すぎるわよ!ゆり!」

日向「そうだぜ!今度こそ、恭介に何かあったらどうするんだよ!?」

高松「いくら、ゆりっぺさんの命令でも賛成出来ません!」

TK「It's not insane…!!」

恭介(次々とみんなが反対し始める)

恭介「…気持ちは嬉しいが落ち着いてくれ、みんな」

岩沢「落ち着けるわけないだろっ!あたしも反対だっ!」

岩沢「神と戦うにしろ、別の方法を考えた方が良い!!」

ゆり「…じゃあ。みんなには、他に神に接近する手立てがあるのかしら?」

ゆり「何十年と戦い続けて、ようやく訪れた転機」

ゆり「それは、紛れもなく棗くんの存在によって、もたらされたものなのよ」

ゆり「どのみち、今後なにかしらのオペレーションを起こしたら」

ゆり「その際にも、神が仕掛けてくる可能性は極めて高いわ」

ゆり「それとも、二度とオペレーションを起こさず、このまま神の恐怖に怯えて過ごす?」

ゆり「それでも、神が何もしてこないなんて保証はどこにもないわよ?」

「「「……………………」」」

恭介(みんなが沈黙する…)

恭介(ゆりっぺの言っていることが正しいと、わかっているから)

恭介(ここで立ち止まるわけにはいかないと、わかっているから)

ゆり「…あなたたちは、あたしが選んだメンバーよ」

ゆり「そんな臆病者の集まりだったかしら?」

日向「…そんなわけねえだろっ!」

日向「でも、いくらなんでも…!」

恭介「安心してくれ、日向。みんな」

恭介(なんとかゆりっぺに、反論してくれようとしている日向の肩に、俺は手を置いた)

恭介(そして、みんなに語りかける)

恭介「ゆりっぺの言うとおりだ」

恭介「ここで立ち止まるわけにはいかない。遅かれ、早かれ、いつか神と対峙する時は来る」

恭介「そして、その時の為に、俺たちは戦い続けてきた」

恭介「お前たちにだって、神に抗ってでも戦う理由があるはずだ」

恭介「なら、前に進もうぜ!こっちから強気に攻めてやろうじゃねえかっ!」

恭介(不安なのは、誰だって同じはずだ)

恭介(だから、みんなを鼓舞する。俺の言葉で…!)

岩沢「棗…。お前は…怖くないのか?」

岩沢「もしかしたら、また操られてしまうかもしれないんだぞ…?」

恭介「怖くねえよ」

沙耶「どうしてよ…?」

恭介「もしなにかあっても、みんなと一緒なら乗り越えられるに決まってるからさ!」

恭介(俺のその言葉に、みんなが息を呑むのがわかった)

恭介(俺だって、完璧な人間じゃない)

恭介(何もかも上手くいくとは思ってないし、当然恐れや不安もある)

恭介(それでも、この気持ちだけは本物だ)

恭介(疑いようもない、確かな想いだ)

恭介「俺たちの力を合わせれば、不可能なんてない!」

恭介「そう信じてんだよ、俺はな」

「「「……………………」」」

日向「…は、ははは」

日向「あっははははは…!!」

日向「まいったぜ、やっぱお前は大物だよ…。俺たちをその気にさせる天才だな!」

大山「恭介くんにそこまで言われたら、引き下がれないよね!」

野田「それでこそ、俺のライバルだ…!恭介っ!!」

藤巻「ああっ!見せつけてやろうぜ!俺たちの絆ってやつを、神のヤローによ!」

松下「無論だ、恐れるものは何もない!」

高松「私たちは一人じゃないんですから!」

TK「Let's go for it…!!」

椎名「どんな強敵が相手でも、わたしが斬り伏せてみせる…!」

恭介(良い反応だぜ、お前らっ!ハートに火が付きやがったな…?)

竹山「すごいですね…、棗さんは…」

真人「当然だ、あいつを誰だと思ってんだよ?」

謙吾「俺たちのリーダーだぞ!」

来ヶ谷「むしろ、平常運転だな」

クド「私もどこまでもついていきます!」

葉留佳「はるちんも頑張っちゃいますヨ!」

美魚「目指せ、武道館」

遊佐「それは違うと思います、西園さん…」

入江「なんだか、ほんとになんとかなっちゃうような気にさせてくれますね。棗さんは!」

岩沢「なんとかしてみせるんだろうな、棗なら」

ユイ「困った人ですね、棗先輩は~!」

関根「まさにカリスマってやつですね!あたしには及びませんが…!」

ひさ子「どんな根拠があって言ってんだよ、お前は…」

ゆり「………………」

沙耶「どうしたの、ゆり?」

ゆり「…いえ、なんでもないわ」

ゆり「さあ、みんなも覚悟完了したみたいだし…」

ゆり「棗くん、この中から、8人のメンバーを選びなさい!」

恭介「俺も含めて、9人ってことだな?控えのメンバーは選べないのか?」

遊佐「はい、9人以上は認められていません」

恭介「よーし、じゃあ決めるぜ?」

恭介「俺と一緒に、野球やりたいやつは手を上ーげろっ!!」

バババババっ…!!

恭介「……………」

ゆり「っておーい!?あとしと遊佐さん以外全員かーい!!」

遊佐「竹山さんまで…」

竹山「なんか、ノリでつい…」

関根「いやぁ、棗先輩と野球なんて絶対面白そうですし♪」

入江「せっかくだから、やってみたいかなぁって」

岩沢「ああ、絶対楽しい。棗と一緒に野球やりたい!」

ひさ子「岩沢がやるなら、あたしもやる」

ユイ「あたしも、あたしも~!野球やってみたかったんですよね~っ!」

ゆり「いや、さすがにガルデモは戦力には…」

恭介「何を言うゆりっぺ…!俺と一緒に野球をやりたいと言ってくれるなら!」

恭介「俺はその気持ちを無下にはしない…!」

ゆり「でも、神が仕掛けるように仕向けるには、優勝狙えるくらい強いチームじゃないと意味が…」

恭介「リーダーは俺な」

ゆり「ぐぬぬ…!」

美魚「わたしは、マネージャーとして参加しますね」

恭介「いや、せっかくだから、西園も選手としてやろうぜ!」

恭介「その方が面白いだろ!」

美魚「ですが…」

恭介「もう、影を気にする必要もないだろ?」

美魚「………………」

恭介(少しだけ、迷うような仕草をする西園)

恭介(だが、すぐに…)

美魚「…そうですね、そうしてみます」

恭介「よしっ!」

沙耶「けど、どうやってチーム決めるの?」

野田「俺だっ!俺を選べ、恭介!!」

大山「あっ、抜け駆け禁止だよ!野田くん!」

葉留佳「私も久しぶりに野球やりたーい♪」

真人「恭介、俺の筋肉が必要だよなっ!」

岩沢「棗、あたしを選んでくれ!」

日向「俺、生前野球やってたぜ!恭介!」

美魚「モテモテですね、恭介さん」

沙耶「完全にハーレムじゃない…」

来ヶ谷「こうなれば、公平にくじで決めるしかないな」

来ヶ谷「というわけで、こんなこともあろうかと、くじを用意しておいた」

日向「どんな想定してたんだよ!?」

来ヶ谷「はっはっは」

恭介「ありがとよ、来ヶ谷!」

恭介「じゃあ、みんな、くじ引いてくれー!」

恭介「当然、ゆりっぺや遊佐たちもな!」

ゆり「えっ!?あたしたちも!?」

遊佐「わたしはオペレーターなんですが…」

恭介「今回だけは俺がリーダーだ。従ってもらうぜ?」

ゆり「はぁ…。仕方ないわね、遊佐さん。引きなさい」

遊佐「なんということでしょう…」

恭介(そして、賑やかな雰囲気の中、みんながくじを引き始めた)

野球のメンバーを下記から5人選んでください

ゆり・遊佐・椎名・岩沢・ひさ子・関根・入江・ユイ

大山・野田・藤巻・松下・高松・TK・竹山

真人・謙吾・沙耶・来ヶ谷・クド


なお、恭介、日向、葉留佳、美魚は確定です

22:00:00:00
↓5 重複したら更に下

分かりづらいので書き直し

22:00:00:00から
↓1~5

重複したら更に下です

というわけでメンバーは

恭介・日向・葉留佳・美魚
真人・ユイ・野田・ゆり・来ヶ谷

に決まりました、普通に強そうですねw

今日は以上です
お疲れさまでした

>>80 みおちんと一緒で単に新規(今エピソードから)で参加したからじゃない?

支援ありがとうございます

葉留佳、美魚が確定なのは>>81様の推測通りです

ちなみに次回分は書き終えているので、もう少しお待ち下さい

恭介「よし、全員くじは引いたな?」

恭介「いっせーのーで、で確認するぞ。いいな?」

来ヶ谷「ちなみに、あたりにはくじの先に赤い印がある」

来ヶ谷「そのくじを引いた者が、メンバー入りというわけだな」

クド「わくわく、どきどき…!」

岩沢「………………」

遊佐(あたりは嫌…。あたりは嫌…。あたりは嫌…。あたりは嫌…)

沙耶「なんか、すごい緊迫した雰囲気になってるわね…」

真人「おい、恭介。もったいぶってねえで、さっさと頼むぜっ!」

恭介「そうだな。いくぞー?」

恭介「いっせーの…、でっ!!」

恭介(俺の合図で、全員が一斉にくじを確認する)

恭介(それと同時に…)

葉留佳「やったーー!!私、あたりだーーっ♪」

日向「よっしゃあ!あたりだぜっ!」

藤巻「くっそ、はずれかよ…」

大山「僕もはずれみたいだよ…、ついてないなぁ…」

椎名「不覚っ!!」

恭介(あちこちで歓声や、悲鳴に近い声が上がり始める)

野田「ふははははっ!恭介っ!やはり俺とお前は戦う運命にあるようだなぁ!!」

真人「同じチームなんだから、戦うもなにもねえだろ」

野田「む、真人っ!お前はどうだった!?」

真人「ほら、見てのとおりだ」

恭介(真人が赤い印のついた、自分のくじを見せる)

真人「これも、筋肉の成せる技だぜっ!」

高松「バカルテットからは、野田くんと真人くんが選ばれましたか」

松下「俺たちの分まで、頑張ってくれ!」

真人「おうよっ!」

野田「任せてくれ…!高松、松下っ!」

TK「Goddamn…!!」

謙吾「ガッデム…!!」

クド「ガッデムなのです…」

恭介(TKと並んで、頭を抱えているのは謙吾と能美だ)

恭介(特に謙吾は、すげえ悔しそうだな…)

恭介「残念だったな、謙吾」

謙吾「…恭介。いや、仕方ない。俺の修行不足だ…」

真人「筋肉が足りなかったんだろ、ドンマイ!」

恭介「いや、足りなかったのは運だからな…」

葉留佳「あちゃ~、謙吾くんとクド公ははずれちゃったのか~」

クド「はい…、みなさんはどうでしたか?」

来ヶ谷「フッ…。私はあたりだったぞ」

美魚「わたしもです」

クド「お二人ともおめでとうございますっ!はずれてしまったのは残念ですが…」

クド「その代わり、みなさんのことを一生懸命応援しますっ!」

謙吾「…………!!」

来ヶ谷「うむ、楽しみにしておくよ」

葉留佳「沙耶ちゃんはどうだったの?」

沙耶「あたしもはずれね…。今回は応援に回るわ」

美魚「遊佐さんはどうでしたか?」

遊佐「はずれです。本当に誠に非常に遺憾で無念で残念極まりませんが、はずれなので仕方ないですね」

恭介「…のわりに、なんか表情がイキイキしてないか?」

遊佐「気のせいです」

ユイ「よっしゃあーーっ!!あたしも野球ができるーーっ!!」

日向「なんだ。悶絶パフォーマンスのデスメタルボーカルまでメンバー入りかよ…」

ユイ「んなパフォーマンスするキャラに見えるかあぁっ!!」

日向「見えるよ、十分…」

ユイ「ふっふっふーん!こう見えてあたし戦力になるよぉ?」

日向「戦力?お前が?」

日向「いや待てよ?デッドボールを顔面に受けて危険球。相手ピッチャー退場…、当たり屋か!!」

ユイ「お前の脳みそ、とろけて鼻からこぼれ落ちてんじゃねぇのかああ、ごらあっ!!」

バキッ!

恭介「おお、ナイスハイキックだな」

竹山「運動神経は良さそうですね」

日向「ぐはっ!!おま…俺、先輩だからなっ…」

ユイ「おっと…先輩のお脳みそ、おとろけになって、お鼻からおこぼれになっておいてでは?」

日向「なるかあぁーーっ!!」

ゲシッ

ユイ「ぐぎゃあっ!」

恭介(日向が仕返しとばかりに、ユイの後頭部に本気キックを食らわした)

ユイ「先輩、痛いです…」

日向「俺だって痛えーーよっ!!」

入江「ガルデモからはユイだけが当選だね」

関根「おのれぇ…、只でさえ人気キャラの癖に…!」

入江「いやいやいや。何言ってるの、しおりん」

岩沢「…………………」ガーン

ひさ子「…い、岩沢。これは運だから、こういう時もあるから!なっ!なっ!」

入江「岩沢さんの土下座ポーズなんて初めて見た…!」

関根(これはマジで脈ありなのでは…?)

恭介「えーっと、当選なのは…」

恭介「三枝に日向。野田と真人に、来ヶ谷と西園、ユイか」

恭介「あと一人誰だ?竹山、お前か?」

竹山「いえ、僕ではありません。それと僕のことはクライ…」

ゆり「…あたしよ」

恭介(ゆりが頬杖をつきながら、あたりくじをプラプラさせている)

野田「よっしゃああぁぁああーーーっ!!」

野田「やはり俺とゆりっぺは、運命の赤い糸で結ばれて…」

ゆり「……………」スチャ

野田「待て、ゆりっぺ!?なぜ無言で銃を構えるんだ!?」

松下「そのうち本当に撃たれるかもな」

椎名「どうせ死なないんだ、問題ない」

野田「問題あるわっ!」

日向「おーっと?いつもはさぼってるゆりっぺも今回は参加か!」

ゆり「人聞き悪いこと言わないでよ!日向くん!」

ゆり「まあ、よくよく考えてみれば、神が何か仕掛けてきた時に、その場にあたしがいないのも格好つかないしね」

ゆり「やるからには、優勝目指すわよ!いいわね!?」

恭介「ああっ!もちろんだ!」

高松「私たちは今回は役目なしですか?」

藤巻「いっそ、もう1チーム作って乱入しようぜ」

沙耶「それは多分意味ないわね。今回の作戦の要は恭介くんだし」

岩沢「棗が二人いたら良かったんだけどな…」

美魚「恭介さんが二人…」

遊佐「なんて恐ろしい妄想を…!」

恭介「おいこら、遊佐。そろそろ落ち込むぞ俺…」

謙吾「フッ…。だが、役目なしと言うのは違うぞ!高松!」

高松「…と、言いますと?」

謙吾「俺たちには、俺たちにしかできないことがあるということだ!」

岩沢「本当か、宮沢!?」

真人「ん?お前何企んでんだよ?謙吾」

関根「悪巧みなら、あたしにも一枚噛ませて下さいよー♪ぐふふ」

謙吾「悪巧みじゃない!戦線の為に、俺たちにもできることがあるというだけだ」

大山「そうなの?じゃあ僕達も協力するよ!」

入江「でも、何をする気なんですか?」

謙吾「それは後で話そう。野球班には当日までのお楽しみだ!」

藤巻「仕方ねえな。やること無しってのも暇だし付き合ってやるか!」

TK「I kiss you!!」

恭介(どうやら謙吾を中心に、野球しない組もなにかおっ始めるつもりらしいな)

ゆり「…なんだかよく知んないけど、あたしたちの邪魔だけはしないようにね」

恭介「さて、球技大会は明後日だろ?今日はもう遅いし、練習できるのは明日だけだな」

ゆり「そうね。ポジションや打順も決める必要あるし、明日は厳しく行くわよ!」

恭介「了解だ!みんな、ベストを尽くそうぜ!」

全員「「「おおーーーっ!!」」」

恭介(球技大会当日に向けて、それぞれが闘志を燃やしながら、今日も夜が更けていった)

来ヶ谷「ちなみにな、恭介氏」

恭介「ん、なんだ?」

来ヶ谷「ゆり君は、絶対にあたりを引くように、くじに細工をしていたんだ」

恭介「やっぱそうか。お前がくじ用意した時点で、そうじゃねえかと思ったぜ」

恭介「用意周到だな、来ヶ谷は」

来ヶ谷「褒め言葉として受け取っておくよ」

恭介「で?自分で作ったくじで、自分があたり引いてる点についてはどうなんだ?」

来ヶ谷「…細かいことを気にしているようじゃ、将来ハゲるぞ?恭介氏」

恭介「うっせえ!」

ー翌日ー

恭介(俺たちは朝早くから、野球場に集合していた)

恭介(この時間は、NPCたちは授業を受けている頃だ)

恭介(まさに心置きなく練習できるってもんだぜ)

恭介「さて、とりあえずは守備を見てみるか」

ゆり「リトルバスターズは元野球チームなんでしょ?」

ゆり「あなたたちは、自分のポジション決まってなかったの?」

恭介「大体は決まってたが、鈴と理樹の二人がいないしな」

恭介「西園ももとはマネージャーだから、実際どんなもんか確認する必要あるし」

美魚「よろしくお願いします」

葉留佳「なんだかんだいって、みおちんもバトルランキングでブイブイいわせてたし、問題ないんじゃない?」

美魚「NYP兵器が使えたら良かったのですが」

ゆり「いやいやいや。さすがに問答無用で反則負けになるわよ…。あんなの…」

日向「俺とゆりっぺと野田は、これでも戦線創設時からのメンバーだ」

日向「運動神経には自信あるぜ?」

野田「フッ…、当然だ!」

ゆり「となると、懸念材料は…」

日向「ああ…」

恭介(日向がユイに視線を向ける)

日向「こんな頭のネジ飛んだやつの仲間だと、思われなきゃいけねーとはな…」

ユイ「ふふん、こう見えて、あたしは生前よく野球中継見てましたからね!」

ユイ「このユイにゃんが、ばんばんホームラン打ってみせますよ!」

日向「…あん?もういっぺん言ってみろ」

ユイ「ユイにゃんっ♪」

日向「そっっっいうのが一番むかつくんだぁよっ!!!」

恭介(ユイに卍固めを決める日向)

ミシミシミシミシっ…

ユイ「ぎゃああぁぁぁ…!!ギブギブギブギブ!!」

ゆり「馬鹿二人はおいといて、話進めるわよー」

真人「初っ端からグダグダだな」

来ヶ谷「いつも通りだな」

ゆり「とりあえず必要なのはピッチャーね」

ゆり「バッティングピッチャーを用意した方が、より実戦の感覚にも近いし、誰かできる人いないの?」

恭介「本職じゃないが、一応出来ないこともないぞ?」

日向「へえ。恭介は、変化球とかなんか投げれんのか?」

恭介「ああ。球速は大体140km/h、球種は…」

恭介「ストレート、カーブ、スライダー、シュート、シンカー、ナックル、チェンジアップってところか」

日向「どこが一応だよ!?普通に甲子園のエースとして通用しちゃいますからっ!!」

恭介「っつっても、俺の変化球は付け焼き刃だ。大して使えるもんでもない」

恭介「試合形式がトーナメント制である以上、スタミナを温存する為にも」

恭介「基本はストレートとチェンジアップに頼って、配球を組み立てた方が良いだろうな」

ゆり「さすが野球経験者ね。ちゃんと考えてるじゃない」

真人「でもよ恭介、お前いつの間にピッチャーの練習してたんだよ?」

恭介「鈴が投げれる球種を、兄貴の俺が投げられないのはカッコ悪いだろ?」

恭介「だから、こっそり練習してたんだよ」

ゆり「鈴って聞き覚えのある名前ね。バス事故で生き残った、初期メンバーの一人だっけ?」

恭介「ああ。そして、俺の妹でもある」

ゆり「えっ、そうなの!?棗くんって妹がいたの!?」

恭介「いるぞ、一つ年下の妹がな」

野田「恭介の妹ともなると、またすごいやつなんだろうな…!」

来ヶ谷「まあ、恭介氏が今上げた球種を自在に操り、ストレートは最速150km/hを超える程度にはすごかったな」

日向「お前らはメジャーでも目指してたのかよっ!?」

ゆり「元祖リトルバスターズは、化物の集まりね…」

葉留佳「じゃあ、ピッチャーは恭介さんがやるとして、次はキャッチャーだね」

ゆり「そうね。ピッチャーとキャッチャーくらいは、早いうちから決めておいた方がいいわよね」

野田「フッ…!恭介がピッチャーをやるというのなら!その球は俺が受け…」

ゆり「却下」

恭介(意気揚々と野田がキャッチャーに名乗りを上げようとするが、言い終わる前に却下された)

野田「なぜだっ!?なぜ却下なんだ、ゆりっぺ!?」

ゆり「野田くんをキャッチャーにしたら、絶対棗くんに無駄にライバル意識燃やして面倒なことになるじゃない」

日向「ああ、なるな」

美魚「宿命のライバルですからね、恭介×野田は」

恭介「そのカップリングの×はやめてくれ…」

美魚「いやです」

日向「でも野田に内野とか外野の守備させても、アホだから足ひっぱりそうだぜ?」

日向「まだ、キャッチャーの方が適任なんじゃねーか?」

ゆり「確かにそれも一理あるわね。アホだし」

野田「俺はアホではないっ!!」

恭介「まあまあ、良いじゃねえか。野田がやりたがってんだし、やらせてやろうぜ!」

ゆり「まあ…、棗くんがそう言うなら仕方ないわね」

野田「本当かっ!?」

ゆり「でも、もし棗くんに対抗してアホな振る舞いしたら…」

ゆり「その時は延々と罵倒しまくるわよ?覚悟しときなさい」

野田「了解だ!ゆりっぺ!」

ゆり「返事だけはいいんだから。本当に…」

野田「フッ…。恭介、キサマが如何なる球を投げようと、俺が全て受けきってやる…!」

恭介(ハルバードを突きつけられる)

ゆり「ってこらーーーっ!!言った矢先にライバル意識燃やすなっ!!」

ゆり「それとハルバード持ち出すなーーーっ!!」

ユイ「アホですね!」

恭介「そんじゃ、話もまとまったところで、とりあえず守備練習から始めるぞー!」

恭介(みんなに号令をかけ、バッティングピッチャーとして、マウンドに立つ)

恭介(まず、真人、来ヶ谷、三枝は案の定なんの問題もない)

恭介(特に来ヶ谷と三枝の守備力は魅力的だ。二人には守備の要になってもらうか)

恭介(次にゆりっぺ、日向、野田。ゆりっぺはさすがの運動神経だ)

恭介(動きが素早いし、内野ゴロ時のフォーメーションも説明するまでもなく、自分で判断できている)

恭介(日向ももと野球部だったらしく、そこらへんの動きは大したもんだ)

恭介(ただ、肩が弱いらしく、外野よりは内野向きだな)

恭介(野田は逆に俺へのライバル意識がプラスになってんのか、どんな球投げても、一球も逸らさずにキャッチしてくれている)

恭介(これなら、あの球も大丈夫そうだな…)

恭介(しかも…)

ユイ「ほっ!いえいっ!とりゃあーっ!」

恭介「ユイのやつも、普通に守備できてるな」

日向「ああ、めちゃくちゃ意外だぜ…」

恭介(ショートの位置に立ち、問題なく捕球していくユイ)

恭介(さすがにすげえ上手いって程でもないが、初心者のわりに良い動きをしている)

ユイ「ふっふっふ。ユイにゃんは天才なんですよ?ま、先輩の見る目が無かったってことですねっ!」

日向「…おい、ユイ。ちょっとファーストに送球してみろ」

ユイ「お安い御用ですっ!それっ!」

ビュっ!

真人「あだっ!?」

恭介(ユイの投げた球は、ファーストとは正反対。サードに立っていた真人の顔面に直撃した…)

ユイ「あ、あれ…?」

日向「どこが天才だっ!!いや確かに天才だよ!!神なるノーコンだなあっ、あん!?」

ミシミシミシミシっ…

ユイ「いだだただっ!!わざとじゃない、わざとじゃないですって!!」

恭介(またもユイに卍固めを決める、日向)

真人「なあ、今のはギャグか…?俺はツッコむべきだったのか…?」

恭介「いや、マジで投げてあれらしいな…」

来ヶ谷「まるで昔の鈴君だな」

ゆり「あんな送球しか出来ないんじゃ、ユイはファースト以外使い物になりそうにないわね…」

恭介「もしもの時は、俺たちでフォローするか」

恭介(それと、もう一つ問題なのが…)

美魚「えいっ!」

ぽてん

美魚「あ…」

葉留佳「ドンマイですヨ!みおちん!」

美魚「す、すみません…!」

恭介(どうやら、西園はボールとの距離感がまだ掴めていないみたいだな)

日向「まあ、女子は普通はあんなもんだよな…」

野田「どうするんだ?恭介!!」

恭介「西園には素早い動きは難しいだろうし、ライトを守らせるか」

日向「だな。相手も基本、素人だ。ライトにはあまり球飛ばねーだろ」

ゆり「西園さんはユイと違って、普通に送球できるのが救いね…」

日向「ユイの奴は運動神経は悪くないが、野球のセンス皆無だからな…」

ユイ「こらぁああーー!!聞こえてるからなああーー!!」

ユイ「バッティングで汚名挽回じゃああーーっ!!」

来ヶ谷「一般的には汚名挽回は誤用だ。汚名返上と言うべきだぞ、ユイ君」

ゆり「アホね」

恭介(そしてバッティング練習、ここで意外だったのが)

美魚「えいっ!えいっ!えいっ!」

キン!キン!キン!

ユイ「………………」

葉留佳「汚名挽回したのは、みおちんだったネ!」

恭介(わりと速めに投げたストレートにも、しっかり対応してミートしている)

恭介(無駄に力んだりせず、自然体って打ってるのが良いのかもしれないな)

恭介「フッ…。埋もれていた原石を、掘り当てちまったな…!」

真人「なんかちょっと意外だぜ」

来ヶ谷「考えてみたら、あらぬ方向に飛んだ打球も、即座に日傘でガードしていたからな。美魚君は」

葉留佳「もしや読書で鍛えた集中力が、バッティングに活かされているのかっーー!?」

ゆり「そんな漫画じゃあるまいし…」

恭介「それっ!」

ポイっ

美魚「きゃっ!?」

恭介(試しにチェンジアップを投げてみると、豪快に空振りして尻餅をついた…!)

恭介「わ、わりい、西園!大丈夫か!?」

美魚「…こんなことする人、嫌いです」

恭介「悪かったって!実戦訓練のつもりだったんだよ!」

葉留佳「…まあ、みおちんってこういうタイプですよネ」

来ヶ谷「多少、隙があるほうが女としては魅力的なものだよ。葉留佳君」

日向「でも西園は、バッティングだと普通に戦力になるな」

日向「で…、自称天才さんは…」

ユイ「えいっ!ほいっ!へいっ!」

ブンっ!ブンっ!ブンっ!

恭介(フォームすら定まってない。完璧にバットに振り回されてるな)

野田「駄目だな、あれは…」

ゆり「完っ全に扇風機と化してるわね…」

日向「これで誰が一番役立たずか決まったってわけだ」

ユイ「役立たずって言うなーーっ!!」

葉留佳「まあまあ、日向くん。最初は誰だってそんなもんだって!」

恭介「ああ。今日一日練習して、正しいフォームを身につけたら、打てるようになるだろ」

日向「そう、上手くいくかぁ?」

恭介「大丈夫だ!野球に必要なのは、ガッツと勇気と友情だからなっ!」

ゆり「どこのスポ根漫画よ…」

恭介(まあ、これは漫画じゃなくて、小毬からの影響なんだけどな)

ユイ「正しいフォームを身につけたら、ホームラン打てるようになりますかねっ!?」

日向「は?」

恭介「ホ、ホームランか…?」

ユイ「はい!あたしが打ちたいのは、ホームランなんです!」

恭介(ユイが真剣な眼差しを、俺たちに向けてくる)

ゆり「あのね…。まともにバットに当てることすら出来ないのに、一日でホームランが打てるわけないでしょ」

野田「なに考えてんだ、お前…」

美魚「さすがに一日でホームランは、不可能だと思いますよ」

ユイ「や、やっぱりそうですか…。でも、ホームランを打ってみたいんです!」

恭介(みんなに非難されても、ホームランに拘るユイ)

恭介(これは、なにかワケありっぽいな)

恭介「ユイ、なんでそんなにホームランが打ちたいんだ?」

恭介「なにか理由があるんだろ?」

ユイ「…はい。さっきもちょっと言いましたけど、生前は、野球中継をよくテレビで見てたんです」

ユイ「それで、ホームランってのを打ったら、すごく気持ちいいんだろうなって思いました」

ユイ「ホームラン打ったら、負けてても、みんなにハイタッチで迎えられるじゃないですか」

ユイ「ホームランだけは、どんな時でも、どんな劣勢でも、みんなに喜んで受け入れてもらえるんだなって」

ユイ「こんなあたしでも…」

ユイ「間違ってますか…?」

恭介(みんなに喜んで受け入れてもらえる。だから、ホームランを打ちたい)

恭介(もしかしたらこれは、ユイの生前生きていた環境に、起因する想いなのかもしれないな…)

日向「…そうだよ。ホームランだけは、どんな状況でも、みんなに手放しで喜んで迎えてもらえる」

ユイ「その特別なホームランを打ちたいんですっ!」

恭介「ホームランか…」

日向「…無理だよ。たとえ正しいフォームを身につけたところで、お前の筋力じゃ届かねーよ」

真人「悪いが俺もそう思うぜ。フォームを直せば、ヒットは打てると思うけどな」

ユイ「じゃあ、筋トレにも励みます!だから、打ち方教えてください!」

ユイ「お願いしまっす!」

恭介(頭を下げて、熱心に頼み込むユイ)

恭介(野球初心者で筋力も足りない。そんなやつが一日でホームランなんてどう考えても無理だ)

恭介(でもそこまで頼まれると、叶えてやりたいと思っちまうよな)

ゆり「どっちにしたって、筋力なんて一日でつくものじゃないわよ。諦めなさい」

恭介「おい、ゆりっぺ…」

ゆり「あたしたちの目的は、オペレーションを成功させることよ」

ゆり「ユイにホームランを打たせることじゃないわ」

真人「それは、そうだけどよ」

日向「…だったら、腹筋背筋腕立て伏せスクワット、30回を3セット」

日向「それをやれるだけの根性を見せたら、バッティング教えてやるよ」

ユイ「はああぁぁぁぁぁーー!?それぞれ30回を3セット!?」

日向「運動部としてはそれくらい当たり前だかんな。甘いくらいだ」

日向「そんなのでびびってるようじゃ、到底ホームランを打つなんて無理だぜ?」

ゆり「日向くん、あなたね…」

日向「…別に、本気でホームラン打たせようとは思ってねーよ」

日向「ただ、このままのヘボバッティングじゃ、マジで足手まといだ」

日向「一度、根性叩き直して、基本のバッティングぐらいは教えてやった方がいいんだよ」

恭介(あれだけ邪険にしときながら、結局ユイに世話焼いてやるつもりなんだな。さすがは日向だ)

恭介(ちょっと素直じゃないけどな)

恭介「でもそれだとバッティング教える前に、ヘバッちまうだろ」

恭介「それぞれ30回だけで良いんじゃないか?」

野田「30回!?少なすぎだろっ!一瞬で終わるぞ、その程度!」

真人「ああ、全然物足りないぜ!」

来ヶ谷「君たち筋肉馬鹿の基準と、一緒にするんじゃない」

日向「30回か…。まあ後でバテバテになっても面倒だからな。それで良しとしてやるか」

ユイ「わ、わかりましたっ!やってみせますっ!」

ゆり「まったく…。そういうことなら、ちゃんと日向くんが面倒みてあげるのよ?」

日向「ええっ!?俺だけかよっ!!」

ゆり「当たり前でしょ。あなたが言い出したんだから」

ユイ「あたし的には、棗先輩の方が、優しく教えてくれそうなんだけどなぁ…」

ゆり「だめよ。棗くんはピッチャーなんだから」

恭介「悪いな、ユイ。けど、日向だって元野球部らしいし、優しいやつだから大丈夫さ」

ユイ「えええぇぇ…。ほんとですか?全然そういう風には見えないんですけど…」

日向「…お前はよくそんな舐めた態度がとれるなっ!?」

日向「そっちがその気なら、厳しくいくかんな!」

ユイ「げっ、マジですか…!?」

日向「口答えするなぁ!いつまで間抜けづらさらして突っ立っている!」

日向「さっさと這いつくばって地面にキスしろ!」

ユイ「…え?あ、はえ?」

日向「誰がそんな人間みたいな返事を教えた!お前に許した言葉はひとつだけだ!」

ユイ「…サー!イエッサー!」

日向「そうだ!そしてお前はなんだ!」

ユイ「ユ、ユイです!戦線メンバー陽動班担当のユイです!」

日向「違う!お前はクズだ!豚にも劣るマヌケ野朗だ!」

日向「ただ酸素を消費するだけで雑草ほどにも価値のない存在だ!」

ユイ「さ、サー!イエッサー!」

日向「声が小さい!それでもタマついてんのか!」

ユイ「ついとらんわーーー!!」

チーン!

日向「ふぅぐ!」

恭介(日向がタマを蹴り上げられた…)

恭介(その痛みを想像するだけで、俺たち男子組は内股になってしまう)

日向「お、ま…潰れたらどうすんだよ…」

ユイ「潰す気だったわぁぁーー!!」

恭介「なんだっんだ?日向のあのノリ…?」

ゆり「戦線流のしごきよ。まだ人数が足りてなかった頃に、あたしとチャーであんな感じにしごいてたのよ」

野田「う、うわあああぁぁぁ…!!」ガクガク

真人「お、おいっ!しっかりしろ野田!?」

ゆり「トラウマがフラッシュバックしただけよ。ほっといたらすぐ直るわ♪」

恭介「その笑顔がこえーよ…」

葉留佳「戦線の闇は深い…!おわかりいただけただろうか…?」

来ヶ谷「君はどこを向いて喋ってるんだ…?葉留佳君」

ゆり「とにかく、やるんなら隅っこで真面目にやりなさい」

日向「くっそぅ…。思わぬ貧乏くじ引いちまったぜ…」

恭介(ブツブツ文句を言いながらも、ユイを連れて、ベンチ際に引っ込んでいった)

恭介(ユイの事は日向に任せるとするか)

恭介「よしっ!練習再開だ!」

恭介(途中休憩を挟みながらも、バッティングと守備練習を繰り返す)

恭介(たまにユイが日向を蹴飛ばしたり、日向もユイに関節技決めたりしてる様子も見えたが)

恭介(案外、仲良くやってるみたいだな)

恭介(久しぶりの野球を楽しみながら、日が暮れるまで俺たちは練習を続けた…)

ーーーーー

ーーー

恭介「今日はここまでにしよう。良い汗かいたな」

葉留佳「いやー、やっぱり野球は楽しいネ!」

来ヶ谷「美魚君は、初めて野球をやってみてどうだった?」

美魚「はい。自分でやるのも、また違う楽しさがあるものですね」

美魚「やってみて良かったです」

恭介「だろ!これだけ体動かしたんだ、今日の飯はうまいぞー!」

ゆり「そういえば、もう夕食時ね。随分、時間の経過が早かったような気がするわ」

葉留佳「楽しい時間っていうのは、早くすぎちゃうものなんですヨ!」

ゆり「楽しむのも結構だけど、本来の目的を忘れないようにね」

野田「もちろんだ…!ゆりっぺの為に、絶対優勝してみせるっ!!」

ゆり「はい、みんなー!これが本来の目的を忘れたアホの姿よー!」

野田「な、なぜだっ!ゆりっぺ!?」

来ヶ谷「本来の目的は、優勝ではなく、神の情報を掴むことだぞ。野田君」

野田「そうだったーーーっ!!」

葉留佳「アホですネ」

恭介「ああ、アホだ」

真人「心配すんな野田!俺も忘れてたからよっ!」

野田「さすがだ…!それでこそ真人だなっ!」

ガシッ

ゆり「ほんと馬鹿ね、あなたたち」

恭介「真人と野田は、これくらいが丁度いいんだよ。それよりもだ」

恭介(会話にすら入ってこれない、二人に目を向ける)

日向「はぁ…はぁ…はぁ…」

ユイ「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」

恭介「二人とも大丈夫か?」

日向「大丈夫じゃねえよ…」
ユイ「大丈夫じゃないです…」

恭介(地面に手をついて、息も絶え絶えの二人)

野田「なんで俺たちより疲れてるんだ!?お前たちは!?」

ゆり「そりゃあ、あんな頻繁に仲良くケンカしてたらねぇ…」

日向「仲良くねえよっ!!」
ユイ「仲良くないですっ!!」

来ヶ谷「息ぴったりだな」

葉留佳「ケンカする程、仲が良いって言うしね」

ゆり「で、それだけ練習して、バッティングはマシになったの?」

日向「いや、全然駄目だな…。こいつ教えたことを片っ端から忘れていく鳥頭だ」

日向「ちゃんと打てるようなるまで、途方もない時間がかかりそうだぜ…」

ユイ「うるさいわーーっ!!最初に筋トレで体力使いすぎたからじゃあーーっ!!」

日向「ホームラン打つ気なら、筋力が必要だろうがっ!!」

ユイ「くっそーーっ!!なんでホームランなんて打ちたいって思っちまったんだあぁぁーー!!」

日向「お前がみんなに、喜んで迎えてもらえるからって言ったんだろうがっ!!」

美魚「…夫婦漫才ですか?」

日向「ちげえよっ!!」
ユイ「ちがうわっ!!」

来ヶ谷「ネタ合わせしても、これほどタイミングは合うまいな」

ゆり「なんの訓練してたのよ、あなたたち…」

恭介(どうやら、筋トレとバッティング練習を通じて、二人の間に絆が芽生えたみたいだな)

恭介(それもまた、青春ってやつだぜ)

恭介「さて、二人の仲が深まったのは結構だが、最後に発表することがある」

恭介「お待ちかねの、ポジションと打順についてだ」

恭介「今日の練習を見て、俺が独断と偏見で決めたものだ」

ゆり「まあ一応、リーダーは棗くんだし。真面目に考えたなら従うわよ」

ゆり「『チャンスの場面で、ユイがホームランを打ったら燃えるから四番!』とか言うようなら却下するけど」

恭介「…………ちょっと考え直していいか?」

ゆり「おいっ!?」

恭介「冗談だ」

ゆり「ほんっとにあなたって人は…!」

真人「なんだかんだ、ゆりっぺも恭介のノリがわかってきてるな」

日向「結構、単純だからな。恭介も」

恭介「一番、ショート!来ヶ谷!」

恭介「来ヶ谷は脚が速いし、ミートも上手いからな。理想的なリードオフマンだ」

恭介「守備の腕は、今更言うまでもないだろ。期待してるぜ」

来ヶ谷「うむ、期待に応えよう」

恭介「二番はピッチャーの俺だ。状況に応じて、色んな策で相手チームを翻弄してやるぜ」

ゆり「相手からしたら、嫌なバッターになりそうね」

恭介「ま、二番ってそういうもんだからな」

恭介「わりと求められるものは多いもんなんだが、しっかり努めてみせるさ」

恭介「三番、サード!ゆりっぺ!」

恭介「後ろに四番が控えている以上、勝負されやすいのが三番だ」

恭介「よって求められるのはチーム一の勝負強さと、確実に塁に出るための長打力と俊足」

恭介「どれも満たしている、ゆりっぺが望ましい」

ゆり「へえ、あたしが一番勝負強いと?」

恭介「ああ、間違いなくな。チャンスを広げ、確実に後続に繋げるのがゆりっぺの仕事だ」

ゆり「わかったわ、任せなさい!」

恭介「四番、レフト!真人!」

真人「しゃあーーーっ!!待ってましたっ!!」

恭介「チームの顔、打線の核とも言えるのが四番だ」

恭介「最も必要なのは、存在感。威圧感とも言い換えられる」

恭介「お前の筋肉で、試合の流れを引き寄せるんだ。真人!」

真人「オーケー。筋肉の力、見せてやるぜ!」

恭介「五番、キャッチャー!野田!」

恭介「五番の役割は、わかりやすく言うなら自分で勝負を決めるくらいの、存在感と長打力」

恭介「状況次第じゃ、真人が勝負を避けられることもあるだろう」

恭介「そうなったら、お前が格好良く決めてやれ!野田!」

野田「ゆりっぺと真人の後に俺が決めるのか…!」

野田「いいだろう…!やってやる…!」

恭介「六番、セカンド!日向!」

日向「六番か、まあそれぐらいだろうな」

恭介「ああ。クリーンアップを返したり、自らチャンスメイクをする役目が六番だ」

恭介「そしてセカンドとして、守備でも活躍してもらうことになる」

恭介「そんだけ器用な対応は、野球部でプレイしてた日向がうってつけだ」

日向「口が上手いな、恭介は。ま、やってやるぜ!」

恭介「七番、センター!三枝!」

恭介「七番は言わば、第二の二番バッターだ」

恭介「俺にも負けないくらい、思う存分相手をかき乱してやれ」

葉留佳「お任せあれ!この日のためにイタズラしまっくってきたようなもんですヨ!」

恭介「それと三枝と言えば、粘り強い守備が持ち味でもある」

恭介「広い外野を駆け回って、ファインプレーを見せてくれよな!」

葉留佳「アイアイサー!」

恭介「八番!ファースト!ユイ!」

恭介「思いっきり打て!以上!」

ユイ「えええぇぇーー!?それだけですか!?」

恭介「難しいこと考える余裕無いだろ?」

恭介「とにかく、全力で打つことを考えろ。それだけでいい」

恭介「それと日向。セカンドとして、もしもの時はユイをフォローしてやってくれ」

恭介「もちろん、なるべく俺もフォローするがな」

日向「またお守りかよ…。仕方ねえな」

ユイ「足ひっぱんじゃねえぞーー!!ああんっ!?」

日向「100パーセント足ひっぱんのはお前の方だよっ!!」

ミシミシミシミシっ…

ユイ「いだいっいだいっ!!死ぬーっ!死ぬーっ!」

恭介「次行くぞー」

恭介「最後に九番、ライト!西園だ」

恭介「状況に応じた、器用なバッティングが求められる。ま、今日の調子でやれば問題ない」

美魚「はい、わかりました」

恭介「三枝、西園はまだ守備が苦手だからな。お前が捕れると思ったら、捕ってやってくれ」

葉留佳「オッケーですヨ!」

美魚「お願いします、三枝さん」

葉留佳「あいよっ。まあみおちんは、どーんと泥舟に乗ったつもりでいれば、だいじょぶじょぶ♪」

美魚「…やっぱり頼りないです」

葉留佳「なにぃーーーっ!?」

ゆり「なんかまとまりあるのか、無いのかよく分かんないチームになっちゃったわね」

恭介「俺たちらしくて良いじゃねえか。この九人が俺たちのチーム…」

恭介「リトルバスターズだ!!」

ユイ「戦線名と被ってません?」

恭介「良いんだよ。リトルバスターズという名前に意味がある」

恭介「オペレーションの目的も大事だが、やるからには楽しくやろうぜ!」

恭介「いいなっ!お前らっ!」

「「「おおーーーっ!!」」」

ゆり「やれやれ」

恭介(当然と言えば当然なんだが、本部での一件以来)

恭介(ゆりっぺとの距離が、また微妙に広がっちまったような気がするな)

恭介(でも、みんなで一緒に野球するのが、満更でもないように見えるのも確かだ)

恭介(だったら、やっぱ楽しくやらないとな)

恭介(ゆりっぺのためにも、みんなのためにも、そして俺自身のためにもだ)

ーーーーー

ーーー

恭介(風呂上り。部屋に戻り、あとは寝るだけだ)

恭介(本当なら宿題とかあるんだろうが、俺たちは授業に出てないからな)

恭介「今日はサンキューな、日向」

日向「ん?なにがだよ?」

恭介「俺たちが練習してる間、ずっとユイの面倒見ててくれたろ」

日向「ああ、そのことか。いいんだよ、ゆりっぺの命令だったしな」

日向「しっかしホームランなぁ。随分、無謀な夢持ちやがってユイのやつ」

恭介「まあ、そう言うなよ。確かにホームランは特別だからな。憧れる気持ちはわかる」

日向「そりゃ俺だってわかるけどな。でも、今日一日教えたってのに、フォームもまだめちゃくちゃだ」

日向「筋力だって足りてないし、本気でホームラン打つ気なら、すげえ時間と努力が必要になるだろうな」

恭介(残念だが、日向の指摘は正しい。ただまぐれだけで打てるもんでもないから、ホームランは特別なんだ)

恭介「案外、球技大会終わっても、諦めずにホームラン打つ特訓するかもしれないぜ?」

日向「さすがにねーだろ。あいつのやりたいのはガルデモだろ?」

日向「噂に聞いた感じじゃ、ガルデモの練習だって相当ハードらしいし」

恭介「それでもコツコツ努力を続けてたら、いつか打てるようになるさ」

日向「努力ね…。まあ俺は知ったこっちゃないけどな」

恭介(そっぽを向く。素っ気ない態度をとっているが、バッティング自体はすげえ真剣に教えてるように見えた)

恭介(なんだかんだ日向も、ユイの事を気にかけてるんだろう)

恭介(もしユイが、本当にホームランを諦めずに努力を続けたら)

恭介(きっと面倒見てやるんだろうな、日向なら)

日向「ってかユイはともかく、恭介たちはさすが野球経験者って感じの動きだったな」

恭介(日向が話題を変える)

日向「西園だって、初めてのわりには筋が良かったしな」

恭介「そうか?日向たちだって、動きが素人のそれじゃなかったぜ」

日向「俺たちは、何十年も訓練積んでるからだよ。前にもちょっと言ったけど、俺は元野球部だし」

恭介(そっか。日向も俺たちみたいに、仲間と一緒に白球を追いかけてたりしてたんだよな)

恭介「日向はどうして、野球を始めたんだ?」

日向「えっ、俺か?」

恭介「ああ。父親の影響とか、友達に誘われてとか色々あるだろ?」

恭介「もしくは、憧れのプロ野球選手でもいたのか?」

日向「違う、違う。俺はそんな理由で、野球始めたんじゃねーよ」

日向「ただ…、何て言うんだろうな。とにかくなにか、打ち込めるものが欲しかったんだよ」

日向「それが、たまたま野球だった。そんだけの話だ」

恭介「日向…?」

恭介(日向の表情に僅かに影が差す。もしかしたら、ユイがホームランにすげえ拘るのと同じで)

恭介(日向も、生前野球に関してなにかあったんだろうか?)

恭介(本当に、ただ打ち込めるものが欲しかったから、野球をしてたなんてのは寂しすぎる)

恭介(俺としては、ユイにも日向にも楽しく野球をやって欲しい)

日向「そういう恭介は、なんで野球始めたんだよ?」

日向「真人たちと一緒に、わざわざチーム作るところから始めたんだろ?」

恭介(ふっ…。丁度良いタイミングの質問だ。いいぜ、答えてやろうじゃねえか)

恭介「俺が野球を始めたのはな…」

恭介「俺が、俺であるためだ!」

日向「は…?」

恭介「俺が俺であるために、俺は野球を始めたんだよ!」

日向「えーっと…?何言ってるのかさっぱりわかんないんだが…?」

恭介(ポカンとした顔をしてるな。まるであの時の理樹たちを見てるみたいだぜ)

恭介(まだあの世界を創る前。理樹が昔みたいに、みんなでなにかをしようと言い始めた)

恭介(もちろん、俺も賛成だった。これまで何度も、楽しむだけのためにミッションを起こしてきたんだから)

恭介「当時俺は、就職活動に奔走してたんだけどな…」

恭介「ふと、なにやってんだろう、って思う時があった」

恭介「これからサラリーマンとしてあくせく働いていくんだろう…、それだけは確かだ」

恭介「でも、それは流されているだけだ」

恭介「周りがそうし始めているから、自分もなんとなくそうしようってだけだ」

恭介「そこには自分がいない。自分自身というものがない」

恭介「体だけあっても、中身はからっぽの人形のようじゃないか。そうは思わないか?」

日向「まあ、なんとなくはわかるが…」

恭介「だから、俺は俺であり、そして俺がここにいることを証明し続けるために…」

恭介「野球をやることにした」

日向「ん?途中までは理解できていたつもりなのに、最後の部分だけわからなかったぞ…」

日向「…なあ、恭介。なんでそこで野球だったんだ?」

日向「ようは、自分の意志で何か始めることに意味があるって話だろ?」

日向「別に人数集める必要なんかねーし、野球なんて手間かかるもんじゃなくても…」

恭介「否!だからこそだよ!」

日向「は?」

恭介「自分だけでなにかするより、みんなでやるほうが楽しいだろ?」

恭介「だから野球なんだよ。青春の王道スポーツだし、なんか起こりそうで燃えるじゃねえか!」

恭介「チーム全員で一つのことに取り組み、共に泣き、共に笑い、共に歓喜する!そして、多いに楽しむ!」

恭介「それは俺の行動理念であり、それこそがリトルバスターズの流儀だ」

恭介「最初にも言ったろ?お前たちともそんな仲間になりたいって」

恭介「だから、野球をやることにしたんだよ」

恭介(そう、始まりはいつもそうなんだ)

恭介(野球を始めたのも、ミッションを何度も起こしたのも、リトルバスターズを結成したのも)

恭介(俺が今の俺になった、あの始まりの日からずっと)

恭介(周りのみんなを巻き込んで、楽しい馬鹿騒ぎを繰り返してきたんだ)

日向「それって…、ようは他の奴らは巻き添えじゃねえか!?」

恭介「まあ、そうとも言うな」

日向「そうとしか言わねーよ」

恭介(日向が苦笑する)

日向「でも、そうだな…。もし俺も、生前に恭介たちと出逢えてたら、楽しく野球できてたのかもな…」

恭介「何言ってんだよ、日向。お前大事なこと忘れてるぜ?」

日向「えっ?」

恭介「明日は野球の試合だぞ。確かに、生前に日向と野球出来なかったのは残念だが」

恭介「その分、明日思いっきり楽しめば良いじゃねえか!そうだろ?」

日向「………………」

日向「…はは。そうだな」

日向「楽しくやりますか!みんなで、思いっきりな!」

恭介(日向が拳を突き出す)

恭介「ああっ!」

恭介(そして、俺も拳を合わせた…)

~その頃、謙吾たち~

藤巻「ああ…、終わらねえ…。これ絶対明日までとか無理だろ…」

大山「どうしてそこで諦めるの!?藤巻くん!!もう少し頑張ろうよ!!」

松下「そうだっ!!人間諦めなければ不可能はないっ!!」

高松「あともうちょっとなんですよ!?ここで頑張らないでいつ頑張るですか!!」

岩沢「今だろ!!そうだよな!?みんなっ!!」

TK「HOOOOーーーっ!!」

ひさ子「なんなんだよ…。あいつらのテンションの高さは…」

沙耶「深夜のテンションってやつよ。まあ寝ずにやれば間に合うでしょ」

関根「マジっすか…」

入江「目がしょぼしょぼする~…」

竹山「なんで僕まで…」

遊佐「わたしはオペレーターなのに…」

クド「あっ、椎名さん。ここはこう縫うですよっ!」

椎名「なるほど、こうか。クドは器用だな」

クド「いえ、私なんて全然です。それよりも…」

謙吾「うおおおおおぉぉぉっ!!」

バババババっ…!!

入江「宮沢さんすごいですね…」

ひさ子「女子として自信失くすぜ…」

関根「あの無駄に高い裁縫スキルは、どこで身につけたんでしょう…」

大山「そこぉ!お喋りする余裕があるのかぁ!」

大山「ここからは戦線流で厳しく行くぞっ!!」

大山「足りない頭で物を考えるな!アホはアホらしく体だけを動かせ!」

関・入「「ええーーーっ!?」」

岩沢「そうだっ!!邪念を捨てて針とミシンを動かせっ!!」

ひさ子「岩沢まで感化されやがったぜ…」

大山「返事はどうしたぁーーー!!」

「「「サーー!!イエッサーー!!」」」

謙吾(ふっ…。待っていろよ、恭介!みんなっ!)

今日は以上です、次回からついに野球開始
最後に打順とポジションを貼っておきます

一番  来ヶ谷 遊
二番  恭介  投
三番  ゆり  三
四番  真人  左
五番  野田  捕
六番  日向  二
七番  葉留佳 中
八番  ユイ  一
九番  美魚  右 

一週間経ったので生存報告

友人と人数集めて野球したりしてたら遅くなりました
もう暫くお待ちください

リトルバスターズだ!

と言いたいところですが人数の都合上ちゃんとした野球の試合をやるほどの余裕はありませんでした
野球回書くなら少しくらい野球しとこうと思ったのですが反動で次の日ずっと筋肉痛でしたし

もう若くない…

気合い入れすぎワロタw
もしかして自転車旅行して恭介と理樹の自転車SS書いてた人か?

>>1はせめてバッティングセンターにでもいったのだろうか?
それともプロ野球でも見に行ってるのだろうか?

遅くなっていて申し訳ありません
野球回が思いの外難しく苦戦しているのが原因です
かなり長くなっているので近いうちに一度NPC戦を投下します

>>176
そのSSを書いた人とは別人ですね
ただああいうSSを書く人がいるくらいだから、自分も野球をしてから書こうと影響は受けました

>>182
遊具とかがあまりない広い夜の公園で、友人数人と近所迷惑にならないように気をつけて野球しました
大人になると、野球をしようにも場所や時間の都合が思うようにいかないですね

ー翌日ー

恭介(本日はついに球技大会だ)

ゆり「素晴らしい天候ね」

ユイ「見事な球技大会日和ですなー」

真人「フッ…!俺の筋肉は、見ろっ!震えてやがるぜ…!」

野田「どうした?風邪でも引いたのか、真人」

恭介「この世界で風邪なんか引くのか?」

真人「ちげえよ!これは遊佐震いってやつだぜ!」

ゆり「なんでそこで遊佐さんが出てくるのよ…?」

来ヶ谷「おそらくだが、武者震いの言い間違えだろうな」

真人「それだぜ!そうとも言う!」

美魚「そうとしか言いません」

葉留佳「真人くんは相変わらず、素晴らしい筋肉馬鹿っぷりですネ」

真人「ありがとよ」

ユイ「うわ、アホだ…」

恭介(野球場へと近づくにつれ、大歓声が聞こえてくる)

恭介「おっ!すげー盛り上がってんな」

日向「そりゃあNPCたちのほとんどが、自分のクラスを応援するために集まってんだからな」

来ヶ谷「となると、私たちは若干アウェイだな」

美魚「乱入する側ですからね」

葉留佳「あれ?そういえば、謙吾くんたちはどうしたんでしょ?」

ゆり「そういえば見てないわね。沙耶ちゃんや遊佐さんも」

野田「なんだ?俺たちだけに任せて、サボりか?」

恭介「いや、あいつらはそんなことしないだろ」

恭介(あの遊びたがりの謙吾が、こんな一大イベントを放っておくわけがない)

恭介(そう考えた矢先…)

謙吾「待たせたな、みんなっ!!」

岩沢「遅くなって悪かった!」

ゆり「あっ、どこ行ってたのよ!あなたた…ち…」

恭介(ゆりっぺが唖然としている。無理もない、そこには…)

謙吾「リトルバスターズ応援団!!ここに参上っ!!」

男共「「「おおーーーっ!!」」」

女共「「「いえーーーいっ!!」」」

遊佐「いえい…」

ひさ子「いえーい…」

恭介(長ランに身を包み、鉢巻と白手袋をした謙吾たちと、赤を基調としたチアガールの格好をした岩沢たちがいた…!)

恭介「うわっ!すっげえ!!マジかよ、お前ら!?」

ゆり「まさか、これを一日で準備したの…!?」

岩沢「ああ。全力で作り上げた、もう倒れそうだ」

高松「ぶっちゃけ寝てません!!」キラーン

TK「The sun is bright…!!」

日向「アホだ…」

ユイ「こらああぁぁーーっ!!岩沢さんたちに向かって誰がアホだああぁぁーー!!」

バキっ!!

日向「ぐはっ…!!」

ゆり「きゃーー!!沙耶ちゃん似合ってるじゃない!!」

沙耶「ふふん、ありがと。ゆりたちを応援するために頑張ってつくったのよ」

恭介(確かにみんなよく似合っている。謙吾なんか物凄いハマりっぷりだ)

恭介(長ラン+鉢巻だと、尚更そっちの人に見えるけどな)

真人「なんか企んでると思ったら、これ作ってたのかよ」

謙吾「まあな!」

大山「野球には参加出来ないけど、せめてこれ着て応援しようって謙吾くんがねっ!」

藤巻「大変だったけど、結構格好いいだろ?これっ!」

恭介「ああ、似合ってるぜ!」

恭介(大山とTK、それに竹山はメガホンやスティックを持ち)

恭介(松下は大太鼓、藤巻はトランペット、そして高松は一際目を引く応援旗を抱えている)

恭介(応援旗はスリーエスの部隊章と、ジャンパーの猫を合わせたものだ)

野田「よくこんなもの一日で作れたな…」

松下「応援旗は、謙吾が一人で作り上げたからな」

真人「お前、剣道よりそっちの方が向いてんじゃねえのか?」

謙吾「ふっ!褒めても何も出ないぞ、真人よ!」

真人「褒めてねえよっ!」

恭介「あっはははっ!竹山だけは全然似合ってねえな!」

竹山「大きなお世話です!それと僕のことはクライ…」

真人「謙吾みたいに髪立てたら、ちっとはサマになるんじゃねえか?」

謙吾「いいアイデアだな。よし竹山、俺の整髪料を貸してやろう」

竹山「いいですよっ!?なにもそこまで…!」ガシッ

恭介「よし、今だっ!やれ謙吾!」

謙吾「おうっ!!」

竹山「ぎゃああああーーっ!!」

葉留佳「おおっ!クド公も可愛いじゃーん!」

クド「ありがとうございます、三枝さん!間に合って良かったですっ!」

来ヶ谷「ああ、可愛い…」

美魚「長ラン姿の男子のみなさんも良いですね。これは妄想が捗ります…!」

関根「なんか二名ほど変なトリップしてませんっ!?」

入江「でも、結構恥ずかしいよね…。この格好」

椎名「可愛ければ問題無い。それに動きやすいからな」

ひさ子「椎名の基準はそれだけかよ…」

ゆり「遊佐さんもよく着たわね。チアガールの服なんて」

遊佐「断固拒否しました…。ですが、深夜のテンションで暴走したみなさんには勝てませんでした…」

日向「目が死んでるけど大丈夫か?おい…?」

岩沢「棗…」

恭介「ん?」

岩沢「ど、どうだ?ちょっとは似合ってるか?」

恭介(少しだけ顔を赤くした岩沢に声をかけられる)

恭介「お、おう。すげえ似合ってると思うぜ…!」

岩沢「そ、そうか!良かった!あたしもこんな格好するのは初めてだからな」

恭介(はにかむような笑顔に、少しだけ胸が高鳴るような気がした)

ひさ子「ぐぎぎ…!」ワナワナ…

入江「ひさ子先輩抑えて!抑えて!棗さんは今から野球なんですから…!」

ユイ「関根さん。やっぱあの二人ってそういう関係なんですかね…?」

関根「うむ。フラグは建っていると思うのじゃが、遊びキチと音楽キチだからのぉ…」

関根「やはりここはこのわしが、あの二人をひっつけるしか…!」

葉留佳「やめといた方がいいと思うけどな~」

来ヶ谷「人の恋路に野暮なちょっかいはしない方がいいぞ。関根君」

関根「えええぇぇっ!?でもその方が絶対に二人のためになりますよっ!」

来ヶ谷「いや、君のために言ってるんだ」

関根「ほえ?」

葉留佳「しおりん、うしろ」

関根「うし…、はっ…!!」

ひさ子「せぇぇきぃぃねぇぇっ…!!」ゴゴゴゴゴ…!!

関根「ひええええーーっ!!」ダダダッ…!

ひさ子「待ぁて、コラァーーっ!!」ダダダッ…!

岩沢「ひさ子と関根は今日も元気だな」

恭介「元気すぎるような気もするけどな」

恭介(思わぬサプライズに、俺たちのテンションは最高潮だ)

恭介(にしても、まさか一日でこれだけのことをしてくれるとはな。さすがに驚いたぜ)

野田「なあ、ゆりっぺ。ゆりっぺはチアガールの格好はしないのか…?」

ゆり「は?」

恭介(ふと野田がゆりっぺにそう切り出す)

ゆり「あのね。あたしは選手なんだから、そんな格好するわけないでしょ」

野田「いや…!選手もチアガールの格好をするのもアリだと思わないか…!」

ゆり「いや、何言って…」

恭介「なるほど。確かにアリだな」

ゆり「アリじゃないわよっ!棗くんの基準と一緒にしないでよっ!」

ゆり「ってかなんでそんなに、あたしのチアガールの格好に拘るのよ!」

野田「そ、それは…、脚が…」

沙耶「脚?ゆりの脚がどうしたのよ?」

野田「い、いや!別になんでもないっ!」

来ヶ谷「ほほう、そうか。野田君は脚フェチだったんだな」

野田「ぎくっ…!」

TK「Oh,Legs fetish!?」

大山「そういえば、いつかの体育祭で、ゆりっぺの生脚見て鼻血出してたよね」

藤巻「ああ、あったな。そんなことも」

葉留佳「エロいなぁ~。野田くんは」

野田「俺はエロくないっ!ただゆりっぺの生脚が好きなだけだっ!」

ゆり「いや、その発言にあたしはドン引きなんだけど…」

藤巻「生脚よりやっぱおっぱいだよな」

日向「色気がねえとダメだよな」

松下「いや無いなら無いで!それはまた魅力的だろうっ!?」

来ヶ谷「当然だ。可愛いは正義だ」

謙吾「俺としては、セクシーなうなじがだな」

真人「いや、やっぱ筋肉だろ!」

高松「さすが真人くん。いつ如何なる時も筋肉ですね」

恭介(便乗して、それぞれが自分のフェチを語りだす)

ゆり「ってこらああぁぁーーっ!!あたしたちの前で堂々とエロ談義するなぁぁーーっ!!」

恭介「エロ談義じゃない。あくまでフェチの範囲の話だ」

来ヶ谷「そうだ。至極健全な話だ」

椎名「来ヶ谷はどっちの味方なんだ…」

ひさ子「フェチの話でも、あたしたちの前で堂々とそんな話されたら、さすがに引くぜ…」

恭介「えっ?マジかよ…、他のみんなもか?」

岩沢「だな。引く。やめてくれ」

ユイ「アホにもほどがあります」

入江「あたしもちょっと…」

美魚「それくらい弁えて下さい」

クド「ちょっと恥ずかしい…、です」

沙耶「この変態」

関根「エロ猿」

遊佐「最高に最低な気分です」

椎名「あさはかなり」

来ヶ谷「君たちは有頂天でひゃっほうとでも言ってるといい」

恭介「ぐはぁっ…!!」

日向「そこまで言わなくてもいいだろぉーー!?」

藤巻「ってか来ヶ谷!てめー俺たちの味方じゃなかったのかよ!?」

来ヶ谷「はっはっは」

大山「この流れだと、ゆりっぺの生脚は諦めたほうが良さそうだよ。野田くん」

野田「くっ…、無念だ…!あしっぺの生脚が見れないとは…!」

ゆり「だれがあしっぺだぁぁーー!!」

バキッ

野田「ごふぅ…!」

美魚「ゆりっぺさん、野球する前から野田さんが死んでしまいます」

恭介(ハイキックで顔面を蹴っ飛ばされ、別の意味で鼻血を出すはめになってしまった)

竹山「哀れですね…」

高松「あなたの髪型もなかなか哀れですよ、竹山くん」

松下「ポルナレフみたいになってるな」

謙吾「とにかく!今日はみんなのことをめいいっぱい応援するからな!」

大山「NPCたちに負けないでね!」

ゆり「当然よ、あたしたちの目的はあくまで神なんだから!」

ユイ「岩沢さんたちに応援されて、格好悪いとこ見せられませんからね!」

日向「いいのか?そんなこと言って。絶対に格好悪いとこ見せることになるぞ」

ユイ「あんだとこらああぁぁーーっ!!」

藤巻「おいおい、始まる前からケンカしてるじゃねえか。そんなんで大丈夫なのかよ?」

恭介「問題ない。あいつらはトムとジェリーみたいなもんだからな」

日向「誰がトムとジェリーだぁ!!」
ユイ「誰がトムとジェリーじゃあ!!」

沙耶「うわ、息ぴったり」

恭介「なっ」

日向「うぐぐ…」
ユイ「ぐぬぬ…」

来ヶ谷「さて、一回戦が終わらない内にそろそろ行くとしよう」

真人「おうよっ!息合わせてバッチリ行こうぜ!」

クド「みなさーん!ファイトなのですーーっ!!」

遊佐「ご武運を」

関根「昇天するまで応援しますよーー!!」

入江「昇天しちゃだめだよ、しおりん」

恭介(みんなの応援の声、太鼓やトランペットの音、ポンポンのしゃかしゃかした音に見送られ球場に向かう)

恭介(そしてNPCの生徒たちとなんとか話をつけ、予定通り乱入に成功した)

応援団「「「♪高く飛べ!高く空へ!高く蹴れ!高く声を上げ~♪」」」

応援団「「「♪いつか挫けた~そ~の日の向こうまで~♪ 」」」

ユイ「うわあ、応援歌まで作ってきてくれたんですかね…!?」

日向「まだ試合始まっても無いのにな」

ゆり「さすがにちょっと恥ずかしいわね」

恭介(ゆりっぺが珍しく照れながら、頬をかく)

美魚「でも心強いです」

来ヶ谷「私たちは良い仲間を持ったな」

恭介「ああ、だからこそみんなの応援に応えないとな」

葉留佳「よ~しやるぞ~!」

ゆり「あたしたちは後攻よ。7点以上差をつけた時点で、あたしたちの勝ちが確定するわ」

ゆり「天使が止めにくる可能性も高いから、さっさと終わらせちゃいましょ」

野田「ふん、望むところことだ…!」

真人「見せてやろうぜ、俺達の筋肉をよっ!」

恭介「よおし、じゃあお前ら気合入れるぞぉ!」

恭介「しまっていくぞぉーーー!!」

全員「「「おおーーーっ!!」」」

恭介(主審のプレイボールの合図とともに、試合が開始される)

恭介(コールド狙いな以上、俺が点を取られてちゃ始まらない)

恭介(しっかり0点で抑えてやるぜ!)

恭介「ふっ!」

恭介(大きく振りかぶって、インハイへ真っ直ぐを投げた)

バッター「うわっ!」

ズバンッ

主審「ストライクっ!」

ゆり「はっや…!?」

日向「マジで140km/h出てるな、ありゃ…!」

恭介(NPCだけでなく、ゆりっぺや日向が驚く声が聞こえる)

恭介(驚いてくれるのは嬉しいが、まだまだここからだぜ。まだほんの一球投げただけ…)

野田「お前の本気は!こんなものかあーーー!!」

恭介(野田が立ち上がり、すぐさま投げ返してくる)

恭介「うおっ!?」

ゆり「は…?」

日向「え…?」

恭介「やってくれるじゃねえか…!そんなに俺と張り合いたいのか?」

恭介「球筋に出てる、ぜっ!!」

恭介(お返しとばかりに全力で投げ返す)

ズバンッ

野田「ぐっ、まだまだぁ!」

恭介(剛速球が戻ってくる)

恭介「そんなに俺を本気にさせたいか…!」

恭介「球筋に出てるぜぇ!!」

恭介(投げ返す)

ズバンッ

バスッ

ズバンッ

バスッ

ズバンッ

バスッ

主審「フォアボール!」

日向「二人だけでするなぁーーっ!!」

ゆり「はぁ…、タイム」

恭介(ゆりっぺがタイムをかけ、俺と野田に集合をかける)

ゆり「正座」

恭・野「「…はい」」

ゆり「あんたたち頭脳が間抜けなの?ド低脳なの?ハッピーセットなの?」

ゆり「バカさ加減を笑われたいの?そんなに笑われたいなら笑ってあげましょうか?それがご褒美なんでしょ?」

ゆり「ほら笑ってあげるわよ、感謝しなさい!あーはっはっはってっ!」

ゆり「あーはっはっはっ!!」

日向「落ち着け、ゆりっぺ…。沙耶みたいになってるぞ」

真人「沙耶だと自虐なのに、ゆりっぺだと罵倒になるんだな」

来ヶ谷「SとMの違いだろうな」

ゆり「まったく。次やったら本当にただじゃおかないわよ。いいわね!」

恭介「了解だ。ゆりっぺ」

野田「すまなかった!あしっぺ!」

ゆり「あしっぺ言うなああぁぁーー!!」

バキッ

野田「げほっ…!」

美魚「ゆりっぺさん。初回から野田さんが死んでしまいます」

ユイ「アホは死んでも治らないんですね」

恭介(解散した後、それぞれのポジションに散っていく)

恭介(さすがにテンション上がりすぎてたみたいだな。落ち着け、棗 恭介。クールになれ…!)

恭介(今度は低めにストレートを投げる)

恭介(狙い通り、バッターが引っ掛ける。サードゴロだ)

ゆり「5!」

日向「4!」

ユイ「3!」

主審「アウッ!」

恭介「よしっ!」

日向「よっしゃあ!いいぞー、恭介!」

恭介(理想的なダブルプレーで、すぐさまツーアウトを取る)

恭介(次のバッターは二球続けて、ストレートを投げ追い込む)

恭介「空振れっ!」

ポイッ

バッター「うわっ…!」

ブンっ

主審「ストライクっ!バッターアウト!」

恭介(チェンジアップで、空振り三振に抑えた)

日向「ナイス!恭介!」

真人「さすがだな!」

恭介「サンキュー。二人とも!」

恭介(日向と真人に肩を叩かれる)

恭介(よし。この分なら、ちゃんと実戦でもチェンジアップは使っていけそうだ)

恭介(そして後攻、今度は俺たちの攻撃だ)

恭介(先頭打者の来ヶ谷がバッターボックスに入る)

葉留佳「姉御ーー!!ファイトーー!!」

恭介(三枝の応援の他にも、応援団たちから応援曲のリズムが聞こえてくる)

恭介(これは確か、『Light Colors』とかいう曲だ)

来ヶ谷「まあ、見ていろ」

恭介(相手ピッチャーが投じた、その初球…)

来ヶ谷「ふっ!」

恭介(強いドライブのかかった打球が三遊間を襲う)

恭介(ショートが捕球に戸惑っている間に、来ヶ谷はあっさり一塁まで進塁していた)

来ヶ谷「容易い」

日向「イチローみたいなヒット打つ奴だな」

ゆり「さすが来ヶ谷さんね」

恭介(二番は俺だ。応援曲は…、これは『Boys Don't Cry』か…!)

恭介(良いチョイスじゃねえか。期待に応えたくなるな…!)

恭介(一塁には俊足の来ヶ谷だ。ここは仕掛けておくか…)

恭介(来ヶ谷にサインを送り、バッターボックスに入る)

恭介(見た感じ、相手ピッチャーの球は決して早くない)

恭介(鈴の球に慣れてる俺たちなら、いくらでも対応出来る速度だ)

恭介(ピッチャーが投げるのと同時に…)

来ヶ谷「翻弄してやろう!」

ユイ「走った!」

恭介(さらに…!)

恭介「だあっ!」

恭介(俺の打った打球は右中間へ伸びる。ライナー性の長打コース、来ヶ谷の脚なら本塁も狙える当たりだ)

ゆり「打つ自信があったから、エンドランのサインってわけね」

ゆり「やるじゃない。棗くん」

真人「走れー!来ヶ谷ー!」

恭介(落ちた打球に外野は追いつけない。俺も走ろうとした瞬間…)

野田「そうはさせるかーーっ!!」

カキィン!

日向「は…?」

ゆり「……………」イラッ…!

恭介(野田が颯爽とボールに追いつき、俺に向かって打ち返してくる)

恭介「おっと。こいつはびっくりだぜ!」

恭介(俺も意地になってバットを手に打ち返す)

野田「まだまだぁ!」かぃん!

恭介「続けぇ!」かぃん!

恭介(お互い打ち返し続ける)

野田「やるなっ!」かぃん!

恭介「あらよっと!」かぃん!

野田「奇跡を!」かぃん!

恭介「いやっほぅー!」かぃん!

野田「止まらないぜ!」かぃん!

恭介「もっと強いの打っていいんだぜ!」かぃん!

日向「よくねーよ!だから二人だけでするなぁっ!」

主審「守備妨害、アウトーーー!!」

ユイ「アホにつける薬は無いんですね…」

ゆり「……………タイム」ゴゴゴゴゴ…!!

恭介「…………」

野田「…………」

恭介(ゆりっぺの無言のプレッシャーを前に、命令される前に正座する)

ゆり「…一応、言い訳だけは聞いてあげるわ」

恭介「理樹と謙吾がたまにああいうことしてたから、羨ましかったんだ」

葉留佳「やってましたネ。確かに、ああいうの」

日向「なんつー非常識な練習してたんだよ…」

美魚「常識に囚われていては、リトルバスターズはやっていられませんから」

ゆり「…で、野田くんは?」

野田「恭介に張り合いたかった。それと…」

ゆり「それと?それ以外に理由があるの?」

恭介(ゆりっぺが意外そうな顔をしている)

野田「ゆりっぺに罵倒されたかったっ!!」ドン!

ゆり「清々しい顔して何言ってんだああぁぁーーっ!!」

バキッ

野田「ぬわーっ!」

ユイ「ひなっち先輩。野田先輩はドMなんですか?」

日向「誰がひなっち先輩だ。ああ、何度も蹴られてるうちに、本格的にドMになっちまったのかもな」

真人「別にいいんじゃね?ドMでも。俺は気にしねえよ」

葉留佳「心が広いですネ、真人くん」

真人「そりゃあ俺は恭介の親友だからな」

ユイ「物凄い説得力ですね…」

日向「ホモだかんな、恭介は…」

恭介「俺はホモじゃねえっ!」

美魚「恭介さんと野田さんとゆりさんの三角関係…。これは流行ります…!」

日向「いや、絶対流行らねえよ…」

ゆり「お願いだから、そんなもの流行らせないでよね…!」

来ヶ谷(一塁ベースにいなければ、話に混ざるというのに…。ぐむぅ…)

ゆり「とにかく罵倒程度じゃ生温いというのがよくわかったわ」

ゆり「二人とも、並んで尻を向けなさい」

恭介(ゆりっぺがバットを持ち出してそう言う)

恭介「まさか!?」

野田「それは…!?」

葉留佳「デデーン!!棗、野田。アウトーー!!」

ゆり「ふんっ!!」

恭介「ぎゃあっ!」バシンッ!

野田「ぐおおっ!」バシンッ!

ユイ「うわぁ…。いたそー…」

美魚「ゆりっぺさん。金属バットはさすがに、野田さんと棗さんが死んでしまいます」

ゆり「殺す気でやったのよーー!!」

恭介(バットを振り回しながら、ゆりっぺが暴走する)

日向「お、落ち着け。ゆりっぺ!!今は試合中だ!!しかもタイムかけてる途中なんだぞっ!!」

葉留佳「そうそう!次の打席、ゆりちんなんだから!クールダウンですヨっ!」

ゆり「うがあぁぁーーーーっ!!」

沙耶「試合中になにやってるのよ、ゆり…」

謙吾「まあ、あれだけ恭介と野田がアホなことしていればな…」

大山「いいなぁー。僕もやっぱり野球したかったなぁ」

関根「案の定、めちゃくちゃ面白いことになってますからね」

ひさ子「振り回されてるゆりが少し可哀想だぜ…」

岩沢「いいんじゃないか?楽しそうだし」

遊佐「もういやです。この戦線…」

恭介(長いタイムが終わり、ゆりっぺがバッターボックスに立つ)

恭介(と同時に、今度はゴジラのテーマ曲が聞こえてきた)

ゆり「ちょっ!?こら、そこぉ!!なんであたしの応援曲がゴジラなのよ!?」

藤巻「いや、ゆりっぺと言ったらこれっきゃねえだろ!」

クド「満場一致で決まりました!」

松下「ちなみに真人のキン肉マンのテーマより先に決まったぞ」

ゆり「揃いも揃ってあたしを振り回して遊ぶなぁーー!!」

ゆり「はぁ…はぁ…。まったくどいつもこいつも好き勝手やってくれるんだから!」

ゆり「結局、あたしが…」

恭介(ピッチャーが振りかぶり、投げた)

ゆり「しっかりするしかないのよねっ!」

恭介(初球を振り抜くと一・二塁間を真っ二つに)

恭介(守備妨害のせいで結局一塁に戻ることになった来ヶ谷だが、一気に三塁まで進んだ)

恭介(ワンアウト。一塁、三塁)

恭介(このチャンスの場面に、キン肉マンのテーマと一緒にユイがバッターボックスに入る)

ユイ「よーし、ホームラン打つぞー」

日向「ターイム!」

日向「いつからお前が4番バッターになったああぁぁーー!!」

ミシミシミシっ…

ユイ「ホ、ホームランがうでなぐなりまずっ…!!」

日向「んな期待最初からしてねーよっ!!」

恭介(気を取り直して、今度こそ真人が打席に立つ)

真人「へっ。ここで俺に回ってくるとは、運の無い奴らだぜ」

恭介(キャッチャーがミットを構え、ピッチャーがセットポジションから投げる)

恭介(直球がミットに収まる寸前…!)

真人「いっくぜーー!!」

グワァラゴワガキーンっ!!

恭介(とんでもない打球音と一緒に、ボールはフェンスを越えていった)

恭介(文句無しの場外ホームランだ)

ピッチャー「嘘だろ…」

恭介(みんなで真人たちを迎える)

日向「よっしゃあ!これで三点先制だぜ!」

真人「どうだっ!みたか!俺の筋肉をよ!」

恭介「ああ。さすが、俺たちのキン肉マンだぜ!」

真人「めちゃくちゃ飛んでっただろ!俺が打ったんだぜ!」

真人「テレビ局呼んだほうがいいんじゃねえか!なあ、誰かテレビ局を!」

ゆり「そんなものこの世界には無いわよ」

葉留佳「ひやあああ!あ、姉御!なんで私のほっぺつねるんでふかぁ!」

来ヶ谷「私をのけ者にし、君たちだけで楽しい雑談をしていたのが気に食わん。というわけでお仕置きだ」

日向「子どもかよ…」

恭介(その後、五番の野田もホームランを打ち、これで4対0だ)

野田「お、おい、恭介。俺の活躍がスルーされたような気がするのは気のせいか…?」

恭介「気のせいだ」

恭介(六番は日向。応援曲はなぜか、西城秀樹の『YOUNG MAN』だ)

日向(なっ、誰が俺の下の名前を…!?)

遊佐「フフフ…。戦線のオペレーターに知らないことはありません」

椎名「遊佐、笑い方が黒いぞ」

遊佐「失礼しました」

恭介(またも初球を振り抜くと、今度は三遊間を破った)

恭介(次は七番の三枝。応援曲は『Gentle Jena』だな)

葉留佳「ふっふっふ。今回は手堅くいくのですヨ!」

恭介(打席に入り、バントの構えを見せている)

ゆり「バント?次はユイだし、ワンアウトなんだから悪手じゃないの」

来ヶ谷「なに。葉留佳君は馬鹿じゃないよ」

美魚「なにか考えがあるのかもしれませんね」

恭介(ピッチャーが高めの球を投げる。フライを誘い打ち取るつもりだったんだろう)

恭介(だが、それを…)

葉留佳「はるちんフラッシュ!!」

恭介(即座に打ち返した!)

ゆり「なっ、あれってバスターってやつ!?」

真人「ああいうのは器用なやつなんだよ、三枝は」

来ヶ谷「やればできる子だからな、葉留佳君は」

恭介(日向は三塁でストップ。打った三枝も二塁まで進んだ)

ユイ「またも、チャンスですね!今度こそ打つぞー、ホームラン!」

恭介(ガルデモ好きのあいつらしく、応援曲もガルデモの『Alchemy』だ)

恭介(バッターボックスに入るなり、予告ホームランのポーズを取る)

真人「本気でホームラン打つ気かよ?」

ゆり「無理だって言ってるのに…」

恭介「いや、鈴のライジングニャットボールが目覚めたのだって、土壇場だったじゃねえか!」

恭介「きっとこのチャンスで、ユイの眠っていた潜在能力が目覚め…」

主審「ストライク!バッターアウト!」

恭介「…………」

来ヶ谷「目覚めなかったな」

ゆり「そうなんでも、漫画みたいに上手くいくわけないのよ」

ユイ「うぅ…、スミマセン」

恭介「気にするな、ユイ。次打てばいいんじゃねえか。俺だってアウトだったんだからな」

ユイ「…はいっ!次こそ頑張ります!」

ゆり「フォローが上手いわね」

恭介「落ち込んでやっても楽しくないからな」

恭介(最後のバッターは西園。応援曲は『雨のち晴れ』だな)

恭介(ここで西園が繋げば、また来ヶ谷に回る)

恭介(ツーアウトでのチャンスの場面。どうしてもプレッシャーを感じるはずだが…)

美魚「………………」

恭介(カウントはツーボール、ツーストライク。投げた五球目を…)

美魚「えいっ!」

キン!

恭介(お手本のようなセンター返しで出塁した!)

恭介(その隙に、日向がホームへと生還する)

日向「へっへーん!ただいまっ!」

恭介「おう、お帰り日向っ!」

恭介(日向とみんながハイタッチを交わす)

ゆり「これで5点目!なおも一塁、三塁。チャンス継続ね!」

日向「どこかの予告ホームランさんと違って、西園がしっかり繋いでくれたからな」

ユイ「誰が予告ホームランさんだぁ!?ああん!」

日向「お前だよ!ってか名前言わずに反応してる時点で自覚ある証拠だろうが!」

ユイ「ぐぬぬ…。次こそは、次こそは…!」

恭介(打者が一巡し、再度来ヶ谷が打席に入る)

来ヶ谷「止まって見えるな」

カキーン!

恭介(一打席目に続いてヒットを放ち、今度は三枝がホームインだ)

葉留佳「やはー!みんな、おかえり!じゃなくてただいまー!」

ゆり「これで6点目。あと1点で初回コールド勝ちよ!」

日向「よぉし、決めちまえ!恭介!」

ゆり「ここで長打を打てば、二塁の西園さんが生還するわ」

ゆり「そうなれば見事ヒーローよ。気合い入れなさい!」

恭介「無理に長打打たなくても、繋げればゆりっぺが返してくれるだろ?」

ゆり「なに甘えたこと言ってんのよ。この場面で燃えないあなたじゃないでしょ?」

ゆり「さっさと決めちゃいなさい!」

恭介(バシッと、思いっきり背中を叩かれた)

恭介「いてっ…!簡単に言ってくれるな。まったく」

恭介「だが…」

恭介(打席に入る。ベンチからの声援、応援団のみんなの声援が聞こえる)

恭介(ああ。よくわかってるじゃねえか、ゆりっぺ)

恭介(ここで燃えずして…!)

ピッチャー「だっ!」

恭介「いつ燃えるんだってな!!」

カキィーン!!

恭介(俺の打った打球は、青空に向かって真っ直ぐ伸びて行く)

恭介「フッ…。サヨナラホームランだ、なんてな」

恭介(白球はどこまでも伸び、遥か彼方まで飛んでいった…)

主審「ゲームセット!」

恭介(並んで、礼をする。それが終わるのと同時に応援団のみんなも駆け寄ってきた)

謙吾「やったなぁ!!恭介ぇ!みんなぁっ!!」

恭介(謙吾が大はしゃぎで俺と真人に抱きついてくる)

恭介「ははっ。サンキュ、謙吾。みんなの応援のおかげだぜ!」

真人「ったく、たかが一回戦勝ち進んだくらいで、はしゃぎすぎなんだよ。てめえはよ」

岩沢「何言ってるんだ。棗も井ノ原もホームラン打ったじゃないか!」

入江「二人とも大活躍でしたね!」

クド「はい!とっても格好良かったのです!」

TK「Congratulations!!Hoooooo!!」

美魚「ありがとうございます。みなさん」

来ヶ谷「まあ、当然の結果だな」

野田「おいぃ!俺もホームラン打ったんだぞっ!」

野田「忘れるなよっ!お前らっ!」

松下「仕方ないさ、野田。真人はスリーラン、恭介はサヨナラホームランなんだからな」

高松「野田くんはソロホームランでしたからね」

野田「くっそぉ…。俺はまた恭介に負けたのか…!」

恭介「違うぜ、野田。お前が真人に続いてホームラン打ったから、相手ピッチャーの心をへし折ったんだよ」

恭介「俺がホームラン打てたのは、みんなの応援とお前のホームランのおかげだぜ!」

野田「フン…!さすがは恭介!わかっているなっ!」

沙耶「アホね…。一瞬で丸め込まれてるじゃない」

椎名「あさはかなり」

ゆり「まあ、最初はこの馬鹿二人のせいでどうなることか思ったけどね」

大山「いや~、でもあのやり取り、僕たちは爆笑しながら見てたけどね!」

関根「リアルでケツバットなんて見る機会無いですからね~!ププッ」

葉留佳「でも冷静に考えてみたら、私たち結構強いんじゃない?」

竹山「一回でホームランが三本、加えて棗さんも結局は三人で抑えましたからね」

ユイ「くっそぉ!次の試合こそ、ホームランを…!」

入江「ユイ…。まずはヒットを打つことを目標にしようよ」

ひさ子「全くだぜ。ヒットも打てないのに、ホームランが打てるわけ無いだろ?」

ユイ「それはそうですけど…」

恭介「そんなに焦らなくても、そのうち打てるさ。なっ、ユイ」

岩沢「そうだぞ。気負わず打ったほうが楽しいだろ?」

ユイ「棗先輩…!岩沢さん…!はいっ!そうしますっ!」

日向「ったく、恭介と岩沢に素直なんだからな、こいつ…」

大山「あれ?日向くん、もしかして嫉妬?」

日向「ちげーよっ!!」

恭介(みんなで雑談しているとそこへ、野球部のユニフォームを着た連中がこっちに向かってやってくる)

恭介(先頭にはジャージを羽織った立華がいる)

恭介(来たか…。立華…!)

ゆり「あら、生徒会長さんじゃない。野球部を引き連れて、なんの用かしら?」

立華「あなたたちのチームは、参加登録をしていないわ」

ゆり「別にいいでしょ。参加することに意義があるんだから」

NPC「失礼。生徒会、副会長の直井です」

ゆり「…副会長?」

恭介(言葉少ない立華の代わりに、学生帽を被った男子がそう名乗り出た)

恭介(制服からして、NPCみたいだな)

直井「はい。勿論、参加していただけるのは嬉しいのですが」

直井「登録をされていなければ、他の生徒たちの迷惑になります」

直井「しかし、かといって退場させるのは可哀想だと、会長が仰りましたので、フェアな処置を用意させて頂きました」

恭介「フェアな処置?なんだよ、それは?」

直井「我々は生徒会チームを結成しました」

直井「この球技大会の趣旨に則り、野球で勝負をつけようということです」

恭介(なるほどな。立華の言ってた特別な処置ってこのことか)

日向「へえ、生徒会チームねえ?そいつら、野球部のレギュラーに見えるんだけどな」

ゆり「遊佐さん」

遊佐「はい。日向さんの言うとおりです。間違いありません」

恭介(遊佐のことだ。きっとこういう事態も想定して、予め調べていたんだろう)

来ヶ谷「フッ…、面白い」

葉留佳「それくらいじゃないと燃えないからネ~!!」

ユイ「はっ!頭洗って待っとけよなああぁぁーー!!」

恭介(ユイが腕を振り上げて、立華に向かって吠えていた)

日向「お前はさっき三振だっただろうが!!後、洗うのは首だっ!!」

日向「頭だったらただの衛生上の身だしなみだぁーー!!」

ミシミシミシっ…

ユイ「い、いだいでずぅーっ…!!」

真人「おい、恭介…」

恭介(二人のやりとりをよそに、真人が声をかけてくる)

恭介「ああ…」

恭介(真人も気づいたようだ。野球部のメンバーの中に一人だけ、明らかに体格の違う屈強な男がいる…)

恭介「なあ、立華。そこのでかい奴も、本当に野球部のメンバーなのか?」

立華「?」

直井「はい。ここにいるのは正真正銘、野球部のメンバーですが?」

真人「そうかよ。だったら、前に出てこいよ。その筋肉、ただ者じゃねえだろ?」

NPC「……………」

恭介(真人に言われ、その男が前に出てくる)

クド「わふっ!?」

沙耶「うそ…」

椎名「なんて体格だ…!」

恭介(身長は2メートル近いだろうか。体付きも真人や謙吾に劣っていない)

恭介(それどころか、まるで…)

日向「本物のプロ野球選手みたいな体してやがるぜ…」

謙吾「貴様…、何者だ!」

NPC「うっす!俺、斉藤っす!」

恭介(その男は、確かにそう自己紹介した)

葉留佳「えっ!?さ、斉藤!?」

来ヶ谷「偶然か…?いや…」

遊佐「…おかしいですね。少なくとも、昨日調べた時点では」

遊佐「野球部には斉藤という名前の部員はいなかったはずですが?」

野田「なんだと!?」

立華「えっ?」

恭介(立華が驚いている。どうやら立華も知らなかった事実らしい)

ゆり「ナイスよ、遊佐さん」

ゆり「で、そのいなかったはずの部員の斉藤くんは、この球技大会に参加しても問題ないのかしら?」

直井「なにを馬鹿なことを。そこまで言うなら、確認してみますか?」

直井「昨日以前に参加登録されている、この登録証を」

恭介(直井が手にしていたファイルから、一枚の用紙を取り出す)

恭介(そこには確かに、昨日以前の日付と、立華が押したであろう生徒会印がある)

恭介(いや、それ自体は偽造が効くものだろう。それ以上に不可解なのは)

恭介(もし斉藤が本当に昨日以前に存在しなかった部員なら)

恭介(なぜ他の野球部員たちはなにも言わないのか、ということだ)

恭介(表情を伺ってみるが、誰一人不審に思ってる節はない)

ゆり「…………」

直井「話は以上でいいですね?では、十分後。この場で試合を開始しましょう」

直井「では」

恭介(それだけ言い残すと、立華たちは一度引き上げていった…)

立華「……………」

恭介(最後に一度だけ、立華が俺たちに向かって振り返るような仕草をするのが見えた)

日向「ゆりっぺ、恭介…。これは…」

ゆり「ええ。みんなも察しがついてるかと思うけど…」

ゆり「あの斉藤とかいう選手は、おそらく神が用意した刺客でしょうね」

ゆり「参加登録証をでっち上げ、NPCたちの記憶を改竄し、あたしたちを倒すために生徒会チームを作った」

ゆり「まあ、そんなところでしょ」

ユイ「そ、そんなことができるんですか!?」

ゆり「当たり前でしょ。相手はこの世界を創った神なんだから」

椎名「天使やチルーシャがいる以上、新たな刺客が現れても、なんらおかしくない…か」

恭介「ああ。斉藤という名前もそうだが、奴が言ってた『俺、斉藤っす!』っていう挨拶も」

恭介「俺たちが使ってた、おはようございますをもじったネタだ」

恭介「多分、わざと言わせたんだろうな」

美魚「偶然じゃない、むしろ…」

来ヶ谷「神からの宣戦布告と言ってもいいだろうな」

真人「くそっ!馬鹿にしやがって…!」

葉留佳「見るからに、学生の体格じゃなかったもんね」

葉留佳「言うなれば、ベースボール斉藤ってやつなのかな」

恭介(わざわざ神が用意した刺客だ。きっと尋常じゃない身体能力の持ち主なんだろう)

恭介(それプラス野球部のレギュラー。神は一体この試合でなにを見極めようとしているんだ…?)

藤巻「どうすんだよ、ゆりっぺ!このまま試合に臨むのかよ!」

ゆり「ええ、そのつもりよ」

恭介(ゆりっぺの迷いのないその発言に、みんなが少しだけ動揺する)

ゆり「こんな回りくどい手段を使うということは、神も野球での決着に拘っているとみて間違いないわ」

ゆり「野球を通して、神はあたしたちのことを試すつもりなのよ」

ゆり「そこにどういう意図があるのかまではわからないけどね」

葉留佳「まさか本当に、野球で神様と戦うことになるなんてね」

高松「こんな大事な勝負を応援しか出来ないというのは歯痒いですね…!」

謙吾「だが、俺たちにできることはそれだけだ…。悔しいがな」

沙耶「でもこの試合の勝敗の先に、一体なにがあるのかしら…?」

ゆり「さあね。こればっかりは、やってみなければわからないわ」

ゆり「当初の予定通り、この試合に勝ち、神の情報を引きずり出す!」

ゆり「オペシーション『DAY GAME』、ここからが本番よ!」

藤巻「頼むぜ!みんな、絶対勝ってくれよ!」

竹山「頑張ってください!」

TK「I believe victory!!」

謙吾「俺たちリトルバスターズの力を、見せてやってくれ!」

恭介「ああ、みんなが応援してくれるんだ。百人力…、いやもう千人力だ!」

真人「お前たちは、俺たちの活躍と筋肉を目に焼き付けとけよ!」

大山「うん、力の限り応援するよ!」

岩沢「喉が枯れるまで声を出すからな!」

ひさ子「さすがにそれは勘弁して欲しいけど、まあどうせ治る世界だしな」

ひさ子「あたしらも、燃え尽きるまで応援するぜ!」

入江「神様に負けないでください!」

関根「もういっちょ格好良いとこ見せてくださいよっ!」

ユイ「岩沢さん…。ひさ子さん…。入江さん…。関根さん…」

ユイ「みなさんの分のガルデモ魂も、ドーンとぶつけてきますねっ!!」

岩沢「ああ、頼んだぞ!ユイ!」

松下「野田、頑張れよっ!」

高松「バカルテットとしてだけでなく、ここにいるみんなの代表なんですから!自信を持って下さい!」

野田「ああ、俺たちに任せておけっ…!」

クド「私、信じてます!絶対にみなさんは負けないって!」

来ヶ谷「当然だ。君たちはなんの心配もしなくていい」

美魚「必ず勝って凱旋します。約束です」

沙耶「無理はしないでね。ゆり、みんな」

ゆり「わかってるわ。でも大丈夫よ、あたしたちは無敵のチーム。いえ、無敵の戦線だもの」

日向「らしくねーこと言ってんな。ゆりっぺ」

遊佐「まったくです。ゆりっぺさんは少し変わってしまいました」

遊佐「多分、良い方向に」

ゆり「うるさいわね。そう言う遊佐さんだって…。いえ、やっぱいいわ」

恭介(ゆりっぺと遊佐がそう言葉を交わす)

恭介(気のせいじゃなければ、小さく笑っているように見えた)

恭介(おそらく、遊佐も…)

恭介「さあ、もう一度気合い入れようぜ!みんな円陣だっ!手を出せっ!」

恭介(みんなで輪を作る。大きすぎるくらいの輪だ)

恭介(それでも、一人一人の声を、確かな存在をすぐ近くに感じる)

恭介「ゆりっぺ。掛け声頼むぜ!」

ゆり「あら?あたしでいいの、野球チームのリーダーは棗くんでしょ?」

恭介「これはリトルバスターズ戦線の戦いじゃねえか。だからやっぱゆりっぺが言うべきだろ」

日向「そうだよ。恥ずかしがってないで、一つ頼むぜ。ゆりっぺ!」

ゆり「べ、別に恥ずかしがってなんかないわよ!もう、仕方ないわね!」

恭介(ゆりっぺが目を閉じる。何を言うか考えているんだろう)

恭介(みんなも静かに、ゆりっぺの言葉を待つ)

恭介(そして…)

ゆり「いい?みんな。この戦いはあくまで通過点、過ぎ去る1ページでしかないわ」

ゆり「だから勝って当然。そして、この輪のみんなで、もっと真っ直ぐ!この青春(イマ)を駆け抜けるわよ!」

ゆり「いいわねっ!!」

全員「「「おおーーーっ!!」」」

ゆり「いくわよ!?リトルバスターズ…」

ゆり「最高ぉーーーっ!!!」

全員「「「最高ぉーーーっ!!!」」」

恭介(ゆりっぺの掛け声に合わせて、手を高く上げ、そして俺たち自身も高くジャンプした…!)

恭介「まさに最高の掛け声だったぜ!ゆりっぺ…!」

ゆり「別に、誰かさんの病気が移っちゃっただけよ」

日向「本当に素直じゃねーな。ゆりっぺは」

ゆり「うっさい!ほらそろそろ時間よ!」

恭介(生徒会チームは既に整列を始めている。いよいよだ…)

恭介「よし、いくぜっ!」

恭介(そして、俺たちも野球での勝負に臨むべく、歩き始めた…!)

今日は以上です
リアルが忙しいのもありますが、野球をSSで表現するというのが難しく遅れてしまいました

生徒会チーム戦はもっと長くなる予定です

実は戦線メンバーでの野球はハイテンション・シンドロームでやるつもりです
やっぱり他のメンバーの野球やってる姿も書きたいし、小毬と音無も野球していないので

恭介(ゆりっぺと立華のじゃんけんの結果、俺たちは先攻に決まった)

恭介(マウンドには斉藤、身長や体格のせいかすげえ威圧感だ)

ゆり「やっぱりあいつがピッチャーね」

ユイ「どんな球投げるんですかね」

野田「フンっ…!どんな球だろうと俺がホームランを打ってやる…!」

恭介(打席には来ヶ谷。さあどうなるか…)

主審「プレイボール!」

直井「さて。悪名轟くリトルバスターズの実力がどの程度のものなのか…」

直井「じっくり見物させてもらいましょうか」

立華「…直井くん、さっきの斉藤くんの登録証の生徒会印。あれ、本当にあたしが押したものだったかしら?」

直井「会長まで何を言ってるんですか?生徒会印は会長が自ら保管しているじゃないですか」

直井「他の人間に登録証の偽造なんて不可能ですよ」

立華「…そうね」

直井「もし僕が独断で。野球部に助っ人を用意したと疑っているんでしたら」

直井「それはきっぱりと否定しておきます」

直井「確かに前々から、会長のリトルバスターズに対する処遇は、甘すぎるとは思っています」

直井「ですがこの試合のためだけに、わざわざそこまでする必要性があるとは思えませんから」

立華(…多分、直井くんは嘘をついてない)

立華(なにを考えているのかわかり辛いところはあるけど、確かに登録証の偽造は直井くんにも不可能だわ)

立華(なら、あの登録証は…。今マウンドに立っている彼は…)

立華(…棗くん)

主審「アウト!」

恭介(初っ端から随分と粘ってたが、最後はキャッチャーフライに倒れた)

恭介(おそらく際どい球は、狙ってカットしていたんだろう)

恭介(打席に向かう途中で来ヶ谷とすれ違う)

恭介「どんなもんだ?」

来ヶ谷「球速は恭介氏と同じ140km/h前後、コントロールも良い」

来ヶ谷「審判は外角のストライクにやや甘いな。それと…」

来ヶ谷「球が重い。あのストレートで長打を狙うのは苦労しそうだ」

来ヶ谷「次の打席は小細工せず、真っ向から打ち崩すとするよ」

恭介「一打席でそれだけ引き出してくれたんなら充分だ。ありがとよ、来ヶ谷」

来ヶ谷「あれだけ粘ったというのに、変化球は使わなかったがな。注意してくれ、恭介氏」

恭介「ああ」

恭介(バッターボックスに入り、斉藤を見据える)

恭介(どういう魂胆かは知らねえが、俺たちに野球で勝負するっていうんなら望むところだ)

恭介(この勝負、負けられないぜ…!)

恭介(しっかりとバットを構える。そして斉藤が、投げた…!)

ビュッ!

恭介「!?」

恭介(身の危険を感じ、咄嗟に上体を反らす…!)

恭介(斉藤の投げた球は、キャッチャーのミットを大きく外れバックネットに直撃した)

恭介(もし避けなかったら、顔面に当たっていたかもしれない…)

真人「おいてめえっ!!危険球だぞっ!!」

美魚「まともに当たれば大怪我ですね…」

主審「きみ、大丈夫かい!?」

恭介「…ええ、大丈夫ですよ」

主審「ピッチャー!もう一度、あんな球を投げたら退場処分にするぞ!いいな!?」

斉藤「うっす!俺、斉藤っす!」

日向「それしか言えねーのかよ…、あいつは…!」

ゆり「いきなりやってくれるわね…!」

恭介(再度バットを構え、打席に立つ)

恭介(随分な挨拶じゃねえか…。俄然燃えてきたぜ。そっちがその気なら、俺は…)

斉藤「……………」

ビュッ

恭介(正々堂々…)

恭介「打ち返すだけだっ!」

カキィン!

日向「打った!」

ユイ「やったあ!」

恭介(俺の打った打球はレフト前に落ちる。当然、ヒットだ)

藤巻「いきなりあんな挑発されたのに、なんだよ!屁でもないって感じじゃねえか!」

岩沢「当たり前だ。棗があの程度で怯むわけがない!」

謙吾「いいぞぉー!恭介ぇー!」

ゆり「さすがね、棗くん」

ゆり(打席に入る。あの斉藤とか言う奴に、自意識があるのかはわからないけど)

ゆり(あんな挑発までしてきたり、つくづく神の性格の悪さが透けて見えるわね)

ビュッ!

主審「ストライク!」

ゆり(さすがにもう危険球は投げてこないか)

ゆり(なら思う存分、バットであんたを…)

ビュッ!

ゆり「ノックアウトしてやるわ!」

カキィン!

恭介(ライナー性の当たりが三遊間を抜ける。さすがに三塁は狙えないが、ゆりっぺもゆうゆうセーフだ)

恭介(ワンアウト。一塁、二塁)

恭介(初回からのチャンスに、ベンチや応援団のみんなのテンションも上がる)

恭介(そして打席には、四番の真人だ)

真人「へっ!見とけよ、かっとばしてやるぜ!」

葉留佳「真人くん、ファイトー!もう一度スリーランだー!」

日向「この調子なら、マジでいきなり得点もありえるな」

来ヶ谷「だが、仕掛けてくるならこの場面だな」

ユイ「仕掛けるって?」

来ヶ谷「私たちは、鈴君の最速150km/hを超える速球に慣れているんだ」

来ヶ谷「奴が神の刺客なら、奴の球種が140km/h程度のストレートだけのはずがない」

葉留佳「いや打てて当然のように言ってますけど…」

葉留佳「その速さについていけるのは、姉御と恭介さんと真人くんくらいですからネ…」

美魚「なにかしらの変化球があるということでしょうか?」

来ヶ谷「ああ。それもここまで温存するようなとっておきがな」

恭介(斉藤が振りかぶり、投げた)

シュッ

真人「遅えっ!もらったぁ!」

ブゥン!

恭介(真人が豪快にスイングする。だが…)

スパン!

恭介(バットは空を切り、ボールはキャッチャーのミットに収まっていた…!)

真人「な、なにぃ!?」

ゆり「なに、今の球…!?」

恭介「あの揺れながら変化する軌道。あれは…」

日向「ナックルだ…!」

ユイ「ナックル…?ひなっち先輩、それってどんな球なんですか?」

日向「握りに違いはあれど、普通ボールはしっかりと握ってリリースする」

日向「それによって回転が生まれ、球が伸びたり変化したりするんだ」

日向「けどナックルは違う。握るんじゃなくて、指で弾くようにして投げるんだ」

日向「そうやって投げると、無回転のボールになるんだよ」

ユイ「回転がかからないのに、なんで変化するんですか?」

来ヶ谷「無回転ということは、当然空気抵抗をもろに受けるということだ」

来ヶ谷「それにより、投げた本人ですらどう曲がるかはわからない」

来ヶ谷「まさに現代の魔球とも言える変化球なんだよ、ユイ君」

ユイ「現代の魔球…」

葉留佳「しかもあのナックル、速いね…!」

美魚「はい。鈴さんのナックルよりも速い上に、より変化しているみたいです」

主審「ストライク!バッターアウト!」

真人「ちっ…!まさかナックルを投げてきやがるとはな!」

恭介(まずいな…。あのナックルを打ち崩すのは難しい)

恭介(ランナーが溜まってる今のうちに仕掛けるべきだ…!)

主審「ストライク!」

野田「くそっ!なんだこの球は…!」

恭介(ワンボール、ワンストライク…。次だ!)

恭介(斉藤が投げるのと同時に…)

恭介「いくぜっ!」

ダッ!

日向「走った!」

野田「ぬおぁっ!」

カン!

恭介(詰まらせた当たり、ファーストゴロだ)

恭介(野田も懸命に走るが…)

塁審「アウト!」

恭介(間に合わない。二者残塁でチェンジだ)

野田「スマン…。みんな…」

恭介「仕方ないさ。ナックルをまともに芯に当てるのは難しい」

恭介「初見で当てただけでも大したもんだ」

ゆり「ナックル…ね。面倒な球を投げてくれるじゃない」

ゆり「あれがあいつの奥の手ってやつかしら?」

ユイ「曲がる方向がわからない球なんて、どうやって攻略するんですか…?」

日向「たとえば、さっきの恭介みたいに、脚で揺さぶりをかけたりとかだな」

日向「あいつのナックルは速いが、それでもストレートより遥かに球速は落ちる」

日向「脚に自信がある奴の盗塁なら防げない。ただこれは、塁に出なければ使えないけどな」

日向「あとは一打席目の来ヶ谷みたいに、カットしまくって相手の握力を減らす手なんだが…」

美魚「神の刺客に、スタミナを削る作戦が通用するんでしょうか?」

日向「そこなんだよなぁ…。しかもあんなナックルを狙ってカットするのは至難の技だぜ」

ゆり「とにかく、なんとかしてあいつから点を取るわよ!」

ゆり「棗くん。がんばって抑えてちょうだい!」

恭介「ああ。任せとけ!」

恭介(攻守交代。今度は俺がマウンドに上がる)

恭介(あのナックルを攻略する前に、点を取られる展開だけは避けたい)

恭介(打席には一番バッター。野球部のレギュラーだろうがなんだろうが…)

恭介(抑えてみせるぜ。絶対にな…!)

恭介「うおおおおっ!」

ズバン!

主審「ストライク!」

大山「うわあ…!一試合目より速くない!?」

謙吾「あいつのことだ。燃えているんだろう…!」

沙耶「ピンチやチャンスの時こそ、燃えるのが恭介くんだからね!」

恭介「うおおおおっ!」

ズバン!

主審「ストライク!バッターアウト!」

クド「わふーーーっ!!」

関根「いきなり三球三振っすか!?」

入江「すごい…!」

ひさ子「…なんて言うか、斉藤とは対照的だな」

竹山「対照的ですか?」

ひさ子「ああ。棗は闘志全開で投げてるけど、斉藤は黙々と投げてただろ?」

ひさ子「打ち取っても顔色一つ変えてなかったし、機械みたいで不気味っていうか…」

椎名「…あながち、その表現は間違っていないかもしれないな」

椎名「天使だって自意識があるか不明なんだ。あの斉藤という男が、自意識の無い野球人形でも不思議じゃない」

高松「野球人形ですか…。だとしたら哀れな存在なのかもしれませんね」

松下「試合に燃えることも、野球を楽しむこともできないということか…」

TK「That’s brutal…」

岩沢「…確かに、気の毒かもな。でも、だからこそ、棗たちはそんな奴には負けない」

藤巻「へっ。神の刺客なんかに同情なんて必要ねえよ!」

藤巻「俺達は応援あるのみだぜ!」

謙吾「ああ!そのとおりだ!」

恭介「うおおおおっ!」

ズバン!

主審「ストライク!バッターアウト!」

恭介(チェンジアップを混ぜながら、二番打者も打ち取る)

恭介(これで二者連続三振。ここまでは上々の立ち上がりだ)

恭介(だが、次からはクリーンアップ。三番打者が打席に入り、ネクストバッターサークルには…)

斉藤「……………」

恭介(エースで4番ってやつか。笹瀬川を思い出すな)

恭介(こいつの前にランナーは出したくない。この回はこのまま三人で押さえてやる)

恭介(三番打者に一球目を投げる…。インコースへ、ストレートだ!)

恭介「うおおおおっ!」

バッター「ふんっ!」

カキーン!

恭介「なっ…!?」

恭介(初球打ちか…!打球はセンターとライトの中間に落ちる)

葉留佳「任せて!みおちん!」

美魚「は、はいっ…!」

恭介(三枝が捕球し、セカンドに投げる)

恭介(三番バッターは一塁でストップしていた)

恭介(やるな…。綺麗に外野まで持っていきやがった)

恭介(さすがは野球部のレギュラーってことか)

日向「ドンマイ!ドンマイ!打たせてこーぜ!恭介!」

恭介「ああ!」

恭介(できればランナー無しの状況で勝負したかったが。まあ、そう上手くはいかないか)

斉藤「……………」

恭介(軽い素振りもせずに、斉藤が無言で打席に入る)

恭介(フッ…面白え。燃えてきたぜ…!)

恭介(あの体格、そして四番打者だ。長打を警戒し、丁寧に攻め立てるべきだな)

恭介(まずは、インハイにストレート!)

恭介「うおおおおっ!」

ズバン!

主審「ストライク!」

斉藤「…………」

かなで「…何キロ?」

直井「スピードガンの数値は145km/hです。さっきまでの最速は、最初に投げた143km/h」

直井「面白いピッチャーですね、彼は」

かなで(…あたしにはわかる。棗くんは、楽しんでいるんだわ)

かなで(真剣勝負を。たとえそれが、得体の知れない相手でも…)

ブンッ!

主審「ストライク!」

斉藤「……………」

恭介(カウントはツーボール、ツーストライク。追い込んだぜ…!)

恭介(チェンジアップに空振った後だ。外角低め一杯に、ストレートで決まる…!)

恭介「いくぜっ!斉藤っ!」

恭介(今日一番の気合を込めて、思いっきり振りかぶる…!)

恭介「うおおおおあっっ!!」

ビュッ!

恭介(狙い通りのコースに、ボールは伸びていく)

恭介(が…)

斉藤「うっす!」

カキィーン!!

恭介「!?」

恭介(嫌な快音だ…。センター方向に打球は伸びていく…)

恭介(まさか…)

葉留佳「うりゃああああ!!」

恭介「三枝…!?」

恭介(三枝が諦めずボールを追いかける。打球はフェンスに直撃しようかという当たりだ)

葉留佳「ジャーンプっ!!」

恭介(それでも高くジャンプしながら懸命に手を伸ばした…)

恭介(体がフェンスにぶつかり、ひっくり返る…!)

美魚「三枝さん…!」

真人「おい!大丈夫かよ!?」

葉留佳「…ふっふっふ」

恭介(倒れたまま、左手にはめたグラブを付きあげた)

葉留佳「ゲットですよ…!」

恭介(その中には、確かにボールが収まっている)

審判「アウトーーっ!!」

日向「よっしゃあーー!!」

ゆり「すごいわ!三枝さん!スーパープレーじゃない!!」

恭介(三枝のキャッチにみんなが沸く。ケガが心配だったが、ピンピンしながら駆け寄ってきた)

恭介「サンキューな、三枝!助かったぜ!」

葉留佳「ふっふっふ~ん!はるちんにお任せですヨっ!」

野田「やるな…三枝!大したやつだ…!」

日向「おっ?野田が素直に、恭介やゆりっぺ以外を褒めるなんて珍しいな」

ユイ「試合中に雨降っちゃうかもしれませんね!」

野田「うるさいぞ、お前らっ!俺だってすごいと思ったら普通にだなっ…!」

恭介(ベンチに戻る。いきなりヒヤッとさせられたが、なんとか無失点で一回を終えた)

恭介(だが、チェンジアップの後のあのコースを、フェンスぎりぎりまで運ばれるとはな…)

恭介(やっぱ斉藤は一筋縄じゃいきそうにないぜ)

恭介(二回の表。この回は六番の日向からだ)

恭介「頼むぜ、日向!」

ユイ「元野球部の意地、見せて下さいよーっ!」

日向「お前に言われると、なんかやる気失くすんだよな…」

ユイ「どういう意味じゃ、こらぁーー!!」

日向「ま、やってみせるぜ。早く恭介を楽にしてやりたいしな」

恭介(そう言いながら、打席に入る。誰かがナックルを攻略しない限り、この試合に勝ち目は無い)

日向「さあ、来やがれ!」

斉藤「……………」

恭介(振りかぶって、投げた)

ビュッ!

日向「なっ!?」

ズバン!

主審「ストライク!」

真人「ナックルじゃねえ!?」

来ヶ谷「ストレートと織り交ぜながら出すつもりなのか、それとも…」

日向「やろうっ!」

カィン!

主審「ファール!」

恭介(フルカウント。そしてまだ、一球もナックルを投げていない…!)

野田「間違いない…!あいつナックルを温存する気だ…!」

ゆり「ピンチの場面以外は、ナックルを見せる気すら無いってこと…!?」

恭介「だが、確かに効果的だ…。初見で対応するのは難しい球だからな」

来ヶ谷「肝心な場面で抑えさえすれば、ナックルを見せる相手は最小限にできる」

来ヶ谷「ただでさえこの試合のイニングは5回しかないんだからな」

日向「なめやがって…!俺にはナックルを出すまでもないってことかよ…!」

日向「だったら…」

斉藤「……………」

ビュッ!

日向「そのストレートを打つまでだっ!!」

カキィン!

恭介(痛烈なライナーが、一・二塁間を襲う。これは…抜ける!)

セカンド「やっ!」

パシッ!

日向「なっ!?」

塁審「アウトぉ!!」

恭介(セカンドのファインプレーに防がれた)

日向「ちくしょうっ!!」

ユイ「ひなっち先輩…」

恭介(日向が悔しさを顕わにしながら、帰ってくる)

ゆり「落ち着きなさい、日向くん。怒ったら相手の思うつぼよ」

日向「…ああ、わかってる。次こそ打ってやるぜ!」

美魚「良い当たりだったんですけどね」

来ヶ谷「斉藤の球は重いからな。他のピッチャーなら長打だったんだろうが…」

恭介(しかし、嫌なムードだ…。この様子だと、ピンチの場面か、真人や野田以外にはナックルを投げてこない)

恭介(ナックルを攻略するにはとにかく、塁に出なければ始まらないってことだ…!)

葉留佳「……………」

恭介(三枝が無言で打席に入る。そして、予想外の行動に出た…)

葉留佳「ほらほら、センターバーック!!」

野田「よ、予告ホームランだとっ…!」

日向「三枝ってそんなパワーあんのか!?」

来ヶ谷「いや斉藤の球は、葉留佳君の力じゃ打ち返せないだろうな…」

美魚「ということは…?」

恭介「ああ。きっとまたなにか仕掛けるつもりだ…!」

主審「ストライク!」

葉留佳(やっぱ速いなぁ…。こりゃ私には打てなさそうだね)

葉留佳(でも確かに、鈴ちゃんの本気の球よりは遅い…)

葉留佳(だから見える…。見えさせすれば…!)

ビュッ!

葉留佳「こういう手もあるんですヨっ!」

コォン!

ゆり「バント!?」

恭介(三塁線に、上手いこと転がした。切れるか切れないか際どい…!)

斉藤「……………」

恭介(斉藤は見送ることを選んだようだ。ボールは…)

ピタッ

恭介(三塁線の上で止まった)

塁審「フェアっ!!」

恭介「すげえっ!すげえぜ、三枝っ!!」

葉留佳「やはは。もっと褒めて~♪」

恭介(一塁に立ち、ニコニコしている。応援団のみんなからも、歓声が聴こえてくるぜ…!)

ゆり「やるわね!バスターの次は予告ホームランからのバントなんて…!」

日向「どんだけ器用なんだよ、あいつ…!」

恭介(とにかく、塁に出てくれた。それだけでもムードは変わる。ほんとに大した奴だぜ)

ユイ「よっし。打つぞー!ホームランは無理でもヒットなら…!」

斉藤「…………」

ビュッ!

ユイ「きゃっ!」

ズバン!

主審「ストライク!」

ユイ(う、嘘…。こんなに速いの…?なんでみんなこんな球見えるの…?)

ユイ(ゆるい球でもまともに当てた事ないのに、こんな球打てるわけないよ…)

ユイ(でも、でも、せめて振らないと…!)

ビュッ!

ズバン!

ユイ「た、たぁ!」

主審「ストライク!」

真人「完全に振り遅れてるな」

野田「それどころか、怖がってないか?あいつ…」

来ヶ谷「無理もない。ユイ君は私たちと違って素人だ」

来ヶ谷「初めての試合で、140km/hの球に対応するのは難しいだろう」

日向「……………」

ユイ「えいっ…!」

主審「ストライク!バッターアウト!」

ゆり「これでツーアウトね…」

真人「あの速球じゃ、三枝のやつも走れねえだろうな」

ユイ「す、すみません…」

恭介(ユイがトボトボ歩きながら戻ってくる)

恭介(台詞こそ同じだが、さっきの試合より目に見えて落ち込んでいる)

恭介「ドンマイだ、ユイ。いきなり打つのなんて難し…」

日向「落ち込んでじゃねえよ、アホっ!」

ユイ「なっ…!?」

恭介「お、おい日向…?」

恭介(俺が声を掛けてる途中で、日向が割って入ってきた)

ユイ「アホだとぉーー!?誰がアホじゃ、こらぁーー!!」

日向「だからお前がアホだって言ってんだよ!」

日向「情けなく三振して、そんな顔して戻ってきて。これのどこがアホじゃねーってんだよ」

ユイ「うるさいわぁーーっ!!ひなっち先輩だって、結局アウトだったじゃないですかぁーー!!」

日向「ああ、そうだよ!俺だってアウトだよ!すげえ悔しいよっ!」

日向「けど、お前みたいに落ち込んでねーよ。次は絶対打つつもりだからなっ!」

ユイ「えっ…」

日向「だからお前も落ち込んでじゃねえよ。お前らしくもない!」

日向「次打てばいいんだよ…!」

ユイ「ひなっち先輩…」

ユイ「そうですね!あたし、がんばりますっ!」

日向「ま、期待はしてねーけどな」

ユイ「なんでお前は一言多いんじゃああぁぁーー!!」

バキッ

日向「…いってぇっ!!そうやってすぐ脚出すから、お前は可愛げがないんだよっ!」

ユイ「あら、失礼。ひなっち先輩如きには、可愛げを見せるつもりはありませんの」

ユイ「ごめんあそばせ!おーっほっほっ!」

日向「似合わねえ言葉使いしてんじゃねえよ、気色わりい…!」

ミシミシミシ…

ユイ「タップ…!タップ…!関節がくだげまずぅ…!」

恭介(蹴飛ばされたり、関節技決め返したり。もうすっかり定着した、この二人のやりとりだ)

ゆり「まったく。痴話喧嘩ならよそでやってほしいわね」

日向「痴話喧嘩じゃねえよっ!!」
ユイ「痴話喧嘩じゃないですっ!!」

ゆり「はいはい」

恭介(俺より日向の方が、ユイの扱いがうまいな。この分ならユイは大丈夫そうだ)

恭介(さて、なら俺は…)

恭介「タイム!」

恭介(一度、タイムを取り、打席に入ろうとしている西園に声をかける)

美魚「なんですか?恭介さん」

恭介「いや、西園もユイと同じで野球は初心者だろ」

恭介「だから…」

美魚「だから、私も怖がるかもしれない。怖がる必要は無いと励ましに来てくれた、というところですか?」

恭介「えっ…」

恭介(言おうとしていたことを、ピシャリと当てられる)

美魚「お気持ちは嬉しいです。ありがとうございます。ですが…」

美魚「少し失礼ですよ、恭介さん」

美魚「私だってあの世界で、何度もみなさんと無茶な遊びをしたんですから」

美魚「今更、速球くらいで怯んだりしません」

恭介(そう言うと、西園は小さく笑った)

恭介「そっか…。悪い、余計な気を遣っちまったな」

美魚「いえ、昔の私なら間違いなく怯んでいたと思います」

美魚「変われたのは、恭介さんたちのおかげですから」

美魚「だから打ってみせます。みなさんのために」

恭介「ああ!期待してるぜ!」

恭介(少しも怯えた様子を見せずに、西園は打席に立った)

恭介(集中しているのが、こっちにまで伝わってくる)

恭介(こいつはイケるかもしれない…!)

斉藤「……………」

ビュッ!

西園「…!」

主審「ボール!」

ゆり「よく見ているわね」

日向「ああ。しっかりと見送った感じだったな」

来ヶ谷「美魚君の集中力は、おそらく私たちの誰よりも優れている」

来ヶ谷「見えさえすれば、当てることはできるはずだ。さっきの葉留佳君のように」

葉留佳(くっそー。姉御くらい脚が速ければ、盗塁で揺さぶれるんだけどなぁ…)

葉留佳(みおちんっ!がんばれっ!)

美魚(ワンボール、ツーストライク。ここまで全てストレート…)

美魚(次、来る…!)

斉藤「……………」

ビュッ!

美魚(来た、ストライク…!)

美魚「ええいっ!」

カィン

美魚「…!」

恭介(西園の打球はピッチャーゴロ…。そのままファーストに送球される)

塁審「アウトっ!」

野田「くそっ…!また残塁か…!」

恭介(西園と三枝が戻ってくる)

美魚「すみません、みなさん。三枝さんも」

葉留佳「だいじょぶ、だいじょぶ!切り替えていこー!」

ゆり「タイミングは合ってたわね」

美魚「はい。でも、振り抜けませんでした」

真人「西園の筋肉じゃあな。仕方ねえよ」

美魚「はい。次は打ちます」

恭介(それだけ言うと、早々にバットを納めて、ライトに向かっていった)

ユイ「燃えてますね…。西園さん」

恭介「フッ…!俺も負けていられないな!」

ゆり「棗くんは、斉藤にライバル意識燃やしなさいっての!」

恭介(二回裏。今度は俺が抑える番だ)

恭介(だが、いきなり先頭打者にヒットを許すと、次の打者がきっちりとバントで送ってきた)

恭介(七番は三振に抑えるが、八番にまたもヒットを打たれる)

恭介(ツーアウト。一塁、三塁)

恭介(さすがに手強い…!それでも、点はやらねえっ!)

恭介「うおおおおあっ!!」

ズバン!

主審「ストライク!バッターアウト!」

直井「また145km/h…。さっきまでは140km/h前後だったのに」

直井「恐ろしくピンチに強いみたいですね、彼は」

かなで「ええ…。棗くんらしいわ」

直井「……………」

恭介(三回表。ちょうどまた一番からだ)

来ヶ谷「さて、行ってくるよ」

恭介「ああ。頼むぜ、来ヶ谷」

来ヶ谷「頑張っている恭介氏に、そろそろプレゼントをあげたいからな」

来ヶ谷「まあ、おねーさんに任せておけ」

恭介(そう言うと、颯爽とバッターボックスに立つ)

恭介(こういう時の来ヶ谷はすげえ頼りになる)

恭介(あいつのセンスは俺よりも上だ。おそらく、ナックルはまだ投げてこない)

恭介(本気になった来ヶ谷ならきっと…)

来ヶ谷(……………)

ビュッ!

主審「ストライク!」

来ヶ谷(懲りずにストレートだけか。その球は、一打席目でさんざん見させてもらったというのにな)

来ヶ谷(斉藤…。お前が何者なのかはどうでもいい)

来ヶ谷(たとえ本当に神の使いだろうと関係ない)

来ヶ谷(私の望むものはただ二つ)

来ヶ谷(一つは理樹君と再会し、この想いを伝えること)

来ヶ谷(そして、もう一つは…)

葉留佳「レッツゴーー!姉御ーーっ!」

クド「来ヶ谷さーん!がっつでがっつんがっつんです!」

椎名「負けるなっ!来ヶ谷っ!」

来ヶ谷(ふっ…本当に賑やかだな。そう騒がなくても聴こえているというのに)

来ヶ谷(みんなの応援も、うるさいくらい響いている太鼓やトランペットの音もだ)

来ヶ谷(そう、私は…)

ビュッ!

主審「ボール!」

来ヶ谷(みんなにとって、格好いい『姉御』で有り続けたい)

来ヶ谷(みんなから頼られる、そんな存在でいたい)

来ヶ谷(他者には理解できないような、望みかもしれないがな)

来ヶ谷(だが、この二つが今の私の全てなんだ…!)

来ヶ谷(だから…)

ビュッ!

来ヶ谷「打たせてもらう!」

カキィン!

恭介(快音が響く。センター前ヒットだ)

恭介(ついにノーアウトのランナーが出た…!)

ゆり「よしっ!」

真人「いいぞぉーー!来ヶ谷ぁーー!」

恭介(さあ、勝負だぜ。斉藤…!)

恭介(さっきはてめえのストレートを打ち返してやったが、今度はどう出る…?)

斉藤「……………」

シュッ!

恭介(遅い…。これは…!)

ブゥン!

主審「ストライク!」

恭介「ちっ…!」

ユイ「ナックル…!」

野田「ここで使ってきたか…!」

真人「恭介はさっきの打席、ストレートをヒットにしてるからな」

日向「でも、今回はすでに塁に…!」

シュッ!

来ヶ谷「翻弄してやろう…!」

日向「来ヶ谷がいるぜっ!」

ブゥン!

恭介(思いっきり振る、すこしでも来ヶ谷のアシストをするためだ)

恭介(キャッチャーが二塁に投げるが…)

塁審「セーフ!」

来ヶ谷「フッ…。遅いな」

葉留佳「姉御ーーっ!さすが!さすが!さっすがーーっ!」

恭介(余裕でセーフだ。このままナックルを投げれば、また盗塁を許すぜ?)

恭介(さあ、どうする斉藤…?)

斉藤「……………」

ビュッ!

恭介(ストレート…!)

恭介「そいつを待ってたぜ!!」

カキィン!

恭介(またもセンター前だ。こいつは来ヶ谷に打たせてもらったヒットだな)

恭介(ノーアウト。一塁、三塁)

恭介(最大のチャンスだ。そして打席には我らがリーダー、ゆりっぺが入る…!)

ゆり(ゴジラのテーマが聞こえてくる。まったくひどい選曲ね…)

ゆり(そもそも『ゆりっぺ』なんてあだ名もそうよ。日向くんがつけたものだけど、センス無さすぎだっての)

ゆり(いつもバカなことやって、好き勝手アホな振る舞いしてくれて)

ゆり(このメンバーのリーダーは本当に大変だわ)

ゆり(でも…これがあたしの仲間。あたしが守るべき、かけがえの無い仲間たち)

ゆり(あたし自身のために、そしてみんなのために…!)

ゆり(あたしは斉藤を…、神を打ち破る…!)

斉藤「…………」

シュッ!

恭介「いくぜっ!」

ゆり(ナックルを読み、即座に棗くんが走った)

ゆり(完璧なスタート。キャッチャーが投げるまでもないわね)

斉藤「……………」

ゆり(これで二塁、三塁。もう棗くんたちは走れないけど、チャンスは広がった)

ゆり(後は、あたしがナックルを攻略するだけ…。それで点が入る)

ゆり(大丈夫、打てる…。揺れる軌道だろうと、魔球だろうと…)

斉藤「……………」

シュッ!

ゆり(あたしの勘は、その上を行く…!)

ゆり「たあっ!!」

カキィン!

斉藤「!?」

バシッ

恭介(ピッチャーライナーが斉藤を襲う…!グラブごと弾いて、ボールが落ちる。ヒットだ!)

斉藤「……………」

恭介(ファーストがカバーに入り、ホームに返球する…!)

来ヶ谷「フッ…、残念だったな。すでにホームインだ」

恭介(ゆりっぺの投げ捨てたバットを拾い上げ、来ヶ谷が堂々とホームを踏んでいた)

ユイ「やった!やったーー!」

葉留佳「ついに得点だぁーー!」

野田「さすがだぁっ!ゆりっぺぇーー!!」

恭介(欲しかった一点が、ついにスコアボードに刻まれる)

恭介(すげえぜ、ゆりっぺ…!あっさりナックルを攻略しやがった!)

恭介(しかもまだノーアウト。チャンスは続く…!)

真人「さあ、筋肉さんのお出ましだぜ!」

恭介(この場面もおそらくナックルしか投げない。ってことは…)

シュッ

ゆり「邪魔よっ!」

日向「また、走った!」

恭介(キャッチャーが刺そうとするが…)

塁審「セーフ!」

葉留佳「とことん、翻弄しまくってますネ!」

来ヶ谷「盗塁はナックルの弱点だからな」
 
美魚「また二塁、三塁。ここからですね」

恭介(フルカウント…。斉藤はここまで全てナックルを投げている)

恭介(六球目…)

斉藤「…………」

シュッ!

真人「おらあっ!!」

カィン

恭介(鈍い音。詰まらせた当たりだ)

恭介(セカンドフライか…)

塁審「アウト!」

真人「くそっ!ふがいねえっ!」

恭介(これで、ワンアウト。二塁、三塁…)

野田「任せろ、真人!お前の分も俺が打つ…!」

真人「ああ、頼むぜ!野田っ!」

恭介(真人の応援を受け、今度は野田が打席に入る)

野田「来いっ…!」

恭介(あいつは居合抜きのようなフォームで打つ)

恭介(普通のフォームよりも、もしかしたらそのフォームの方が効果的かもしれない)

野田(不思議な気分だ…。みんなの応援がすごく頼もしい)

野田(この世界でも、ずっと浮いた存在だったはずの俺なのに…)

野田(ただゆりっぺの力になることが、俺の戦う理由だったはずなのに…)

野田(いつの間にかこんな俺ですら、みんなの輪の中にいる)

野田(打ちたい…!ゆりっぺの為だけじゃなく、みんなの為にも…!)

斉藤「……………」

シュッ!

野田(俺にも…!)

野田「かっこつけさせろぉ!!」

恭介(野田の打った打球は、ワンバウンドし三遊間へ)

恭介(行ける…!これは抜けるぜ…!)

恭介(そう確信し、ホームに走る!)

パシッ

恭介(!?やべえ…!今の音、掴みやがったか…!)

日向「急げ、恭介ぇ!!」

恭介(直後、日向の声が聞こえた。やっぱりか…!)

恭介「間に合えーーっ!!」

恭介(刹那。相手キャッチャーがボールを掴むのが見えた)

ドガッ…!!

ゆり「え…?」

日向「あっ…」

野田「な…」

真人「恭介ええぇぇーーー!!!」

恭介(…なんだ。なにが起こったんだ…?)

恭介(真人の声が聞こえる…。それに続いてみんなの声も…)

恭介(なんで俺は空を見上げてるんだ…?しかも…)

恭介(体中が、痛え…)

ユイ「先輩、棗先輩!しっかりしてください!」

真人「おい恭介っ!オレの声が聞こえるか、恭介!?」

直井「おやおや、これは不幸な事故ですね」

かなで「………………」

かなで(なに…?今、あたしはなにを見たの…?)

かなで(今…、まるで棗くんが、吹っ飛ばされたような…)

謙吾「恭介えええぇぇーーっ!!!」

岩沢(宮沢が真っ先に、棗の元に走った…!)

岩沢「棗っ!!」

岩沢(あたしたちも走った…。今の当たり方はやばい…)

岩沢(そう思わせるなにかがあった…。みんなも同じものを感じたに違いない…!)

主審「大丈夫かい!立てるかい!きみ!?」

恭介(そうか、吹っ飛ばされたのか…。俺は…。情けないぜ、くそ…)

謙吾「おいっ!貴様、今意図的に恭介を突き飛ばしただろうっ!」

キャッチャー「い、言いがかりだ!それに、真正面から突っ込んできたのはそっちじゃないか!」

藤巻「あんだと!?てめえっ!!」

恭介「…落ち着け。みんな」

恭介(痛みに耐えながら、なんとか立ち上がる)

ゆり「棗くん!大丈夫!?」

沙耶「頭とか打ったように見えたんだけど!」

恭介「ちょっと痛めただけだ。心配かけちまったな、みんな」

野田「恭介…」

恭介「なんだよ、野田。そんなしょげた顔してんじゃねえよ」

恭介「悪かったな、走った俺のミスだ。ナイスヒットだったぜ」

主審「本当に、大丈夫なのかい?」

恭介「ええ、大丈夫ですよ。それとお前…」

キャッチャー「な、なんだよ…?」

恭介「お前はケガしてないか?無茶して突っ込んじまったからな。どっか痛めたりしてないか?」

キャッチャー「い、いや。大丈夫だ。悪かった…」

主審「重ねて聞くけど、本当に大丈夫なんだね?どこか酷く痛むなら、棄権した方が…」

恭介「本当に大丈夫です。お騒がせしました、続けさせて下さい」

謙吾「恭介…。無理はしてないんだな?」

恭介「だから大丈夫だっての、心配しすぎだぜ。この程度、怪我のうちにも入らねえよ!」

恭介「まあでも、こんだけみんなが心配してくれるなら、痛い思いした甲斐があったかもな」

恭介(少しおどけて、冗談を言ってみる)

大山「バカなこと言わないでよ、恭介くん!」

岩沢「本当に心配したんだからな!」

クド「もうあんな無茶はしないで下さいっ!」

恭介(畳み掛けるように、みんなから批難される)

恭介「悪かった、悪かったって!」

ゆり「………」

恭介(なんとかみんなをなだめて、戻ってもらう)

恭介(まだツーアウト、俺たちの攻撃は続いてるんだからな)

竹山「意外と大丈夫そうでしたね」

関根「すごい派手に吹っ飛んだように見えたんですけどね」

遊佐「タフですね、棗さんは」

謙吾「大丈夫なものか…」

日向「恭介…。お前、本当はどっか怪我したんじゃねーか?」

恭介「日向まで何言うんだよ。大丈夫だ、問題ない」

日向「…まあ、こういう時に弱音吐くような恭介じゃねーよな」

日向「待ってろ。お前が阻まれた点、俺が取ってきてやる」

恭介「日向…」

日向(打席に立つ。ツーアウト、一塁、三塁)

日向(今の激突が事故か、故意のものなのかはとりあえずは置いておくとしてだ…)

日向(完全に火が付いたぜ…!)

日向(恭介は本気だ。本気で神相手に勝とうとしてる!)

日向(恭介のあんなプレー見せられた後に、打ってやることができないなら…)

日向(俺は、親友失格だ…!!)

斉藤「……………」

シュッ!

日向「うおおおおーーーっ!!」

カキィーーン!!

日向(球の重さを殆ど感じなかった…。覚えがある…。この感覚は…)

恭介(日向の打った打球はライト方向に真っ直ぐ伸びていく…)

恭介(入ると思った…。だが、わずかに低い。フェンス直撃の長打だ…!)

ゆり「…ふふっ。やる時はやるじゃないの、日向くん」

恭介(まず、ゆりっぺがホームを踏んだ)

恭介(そして、野田が疾走する…!三塁を蹴り、ホームへ…!)

恭介(ボールは…)

野田「どけええぇぇっ!!」

キャッチャー「うっ…」

恭介(野田が威圧するまでもなく、間に合わなかった。それほどまでに速かった…!)

日向「っしゃあああーーっ!!」

恭介(日向が吠える!)

恭介(これで三点が入った!本当に大きい追加点だ…!)

ゆり「ほらほら、リーダーのお帰りよーっ!」

野田「フッ…!帰っきてきた!俺は帰ってきたぞぉーーっ!!」

恭介(浮かれ気分で、みんなハイタッチを交わす…!)

恭介(応援団のみんなの歓声も聴こえる…!)

恭介「ははっ!めちゃくちゃカッコよかったな、日向のやつ!」

恭介「いやもうくちゃくちゃだ!くちゃくちゃカッコよかったぜ!」

美魚「恭介さん、それは鈴さんのネタです」

真人「鈴のやつが聞いてたら怒るぜ?こら!パクんなってな!」

ゆり「ホモの棗くんとしては、今ので日向くんに惚れちゃったんじゃない?」

恭介「だから俺はホモじゃねえよっ!感動に水指すようなボケいれんじゃねえっ!」

ゆり「あら、これは失礼~♪」

ユイ「すごいですね…!ホームランじゃなくても、ヒットでも、こんなに人を湧かせることができるんですねっ!」

恭介「ああ、ようは気持ちの問題だからなっ!」

恭介「ユイもきっと、日向みたいなヒットを打てるさ!」

ユイ「はいっ!」

恭介(弾けるような笑顔を見せてくれた。ユイはやっぱこうじゃねえとな)

恭介(その後、三枝が三振に終わり、攻守交代だ)

恭介(今から三回裏。五回までこの三点のリードを守りきれば勝てる)

ゆり「棗くん、怪我は大丈夫?投げれるわね?」

恭介「ああ、投げてみせるさ」

ゆり「そう、頼むわよ。あいつらを抑えられるピッチャーは、棗くん以外にいないんだから」

恭介「フッ…。自分で言うのもなんだが、ゆりっぺってほんと俺の扱い慣れたよな」

ゆり「そりゃあ、いい加減慣れるわよ。だってあなた単純だもの」

ゆり「しっかりやりなさい!」

恭介「ああ!」

関根「勝てるっ!勝てますよねっ!これっ!」

入江「うんうん!絶対勝てるよ!」

ひさ子「いつまではしゃいでんだよ、二人して」

関根「そういうひさ子先輩だって、ニヤついてますよ~?ぐふふ」

ひさ子「に、ニヤついてねえよっ!」

高松「ですが、勝負はここからが本番といえるかもしれません」

岩沢「そうなのか?もう押せ押せムードじゃないか」

松下「生徒会チームも、この回先頭打者から始まるからな」

松下「一巡した後だ。恭介の球に慣れたやつだっているかもしれない」

椎名「加えて、一人でもランナーを出せば、また斉藤に回るな」

大山「大丈夫だよ!恭介くんなら、絶対抑えるよっ!」

TK「No doubt about it!!」

謙吾「……………」

謙吾(恭介、俺は見逃さなかったぞ…。お前が一瞬、右肩を抑えようとしたのをな…)

謙吾(おそらく、お前は…)

主審「ボール・フォア!」

恭介「く、くそっ…」

野田「ドンマイだ、恭介!落ち着いて投げろ!」

恭介「ああっ…!」

恭介(いきなり先頭打者を歩かせちまった…)

恭介(問題ないと思ってたが、投げる瞬間痛みが響きやがる…!)

恭介(狙いが定まらねえ…。しかもさっきより速度まで出てないと来てるぜ…)

来ヶ谷「………………」

ゆり「まさか…!」

ユイ「棗先輩…。さっきので…」

日向「肩をやっちまったのか…!?」

恭介(このままじゃストライクすら取れねえ…!)

恭介(いや、だからといってコントロール重視で投げるのは危険だ…。これ以上速度を落とせば絶対打たれる…!)

恭介(そう考えた瞬間…)

来ヶ谷「落ち着け、恭介氏!打たせればいい!私たちが取ってみせる!」

日向「ああっ!俺たちを信じてくれっ!」

ゆり「まずはストライクを入れなさい!いいわねっ!」

恭介「………!みんな…」

ユイ「がんばってください!棗先輩!」

真人「俺たちもついてるぜぇーー!!」

美魚「ファイトです!恭介さん!」

葉留佳「ばっちこい、こーい!」

恭介(そうだな…みんなの言うとおりだ。俺一人で何とかする必要なんてない…!)

恭介(俺にはみんながいる…!仲間がいる…!)

恭介(だから信じて、投げるだけだ!)

恭介(二番打者が打席に入る。そして野田がミットを構える)

野田「来いっ!恭介っ!」

恭介「ああっ!」

恭介(野田の構えた位置に、投げるっ!)

恭介「うおおおおっ!!」

ズバン!

主審「ストライク!」

恭介「ぐっ…!」

恭介(なんとかストライクを取る。だが、これはしんどいぜ…!)

直井「130km/h…。可哀想に、やっぱりさっきの衝突で肩を痛めたようですね」

直井「止めなくてもいいんですか?会長」

かなで「…棗くんは投げるわ。痛くても、最後まで」

直井「そうですか。痛みで倒れないといいんですが」

かなで「………………」

カィン

恭介(ピッチャーゴロ…!?)

恭介「くっ…!」

恭介(なんとか捕球し、即座に投げようとするが…)

パシッ

恭介「!?」

恭介(弾いた…?俺が…ピッチャーゴロを…)

ゆり「棗くん…」

日向「恭介…」

恭介「はぁ…はぁ…」

恭介(くそっ…!気にしないようにしてたが、右肩だけじゃない…)

恭介(頭までクラクラしやがる…)

恭介(だが、倒れるわけにはいかない…!ここで俺が倒れちまえば、その時点で試合終了だ…!)

日向「まだ三点差ある!まずはワンアウトだ!」

恭介「ああ…!」

恭介(倒れるわけにはいかない…!野田のミット目掛けて、投げるしかない…!)

恭介「うおおおおっ!!」

ビュッ!

バッター「ふっ!」

カキィン!

恭介(初球打ち…!?やばい!抜かれる…!)

来ヶ谷「抜かせん!」

恭介(三遊間を抜けるかと思った当たりだったが、来ヶ谷が追いついてキャッチしてくれた…!)

来ヶ谷「6!」

ゆり「5!」

ユイ「3!」

塁審「セーフ!」

恭介(三塁はアウトを取ったが、一塁はセーフのようだ…)

恭介(危なかったぜ。今のは来ヶ谷じゃなきゃ取れなかったな)

恭介「サンキュー!来ヶ谷、助かったぜ!」

来ヶ谷「フッ…、三遊間は絶対に抜かせん。頑張れ、恭介氏」

恭介(来ヶ谷のファインプレーのおかげで、なんとかまずはワンアウトだ)

恭介(だが、ピンチはまだ続く…。ランナーを一塁、二塁に置いた場面で…)

斉藤「……………」

恭介(四番、斉藤…。こいつはやばい…!)

恭介(完璧に追い込んだはずだったのに、外角低めのストレートを、フェンスぎりぎりまで持ってかれたんだ)

恭介(今の俺の球じゃ、悔しいが勝ち目は無い…!)

恭介(敬遠気味に対処するしか…)

恭介(外角へ、ボール球のストレート…!)

恭介「うおぁっ!!」

ビュッ!

斉藤?「がっかりだよ。棗 恭介…」

恭介「えっ…」

カキィーーンッ!!

恭介「あ…」

恭介(打たれた瞬間わかった…。今の当たりは…)

恭介(振り向くと、フェンスをゆうに超えていく白球が見えた…)

主審「ホームランっ!!」

恭介(相手ベンチから歓声が聴こえる…)

恭介「嘘…だろ…?」

恭介(やっちまった…。みんながあれだけ、必死になってとってくれた三点だったってのに…)

恭介(あっという間に、追いつかれた…)

恭介「く…」

恭介「くっそおおぉぉーーっ!!」

恭介(思わず叫ばずにはいられなかった…)

恭介(ただただ、不甲斐なかった。みんなが俺を信じてくれて、俺もみんなを信じて投げたってのに…)

恭介(俺は、みんなの信頼に応えられなかった…)

今日は以上です
生徒会チーム戦、前編終了
次回でEpisode.5完結です

ハイテンションシンドロームは4.5話らしいので野球回の次のオペレーションでやります
それまでに色々挟んだりしますが

やっぱり面白い!
でも葉留佳って左利きだからグラブ右手じゃね?

>>405
うわあああっ!すみません、やらかしました…
脳内補完お願いします

生存報告しておきます
明日からやっと休みなのでなるべく早いこと投下できるよう頑張ります

長々とお待たせして申し訳ありません
ようやく大体が書き終わりました
ここからもう少し修正を加えて再開します

ただいつもの更新料の倍以上長いので時間が取れ次第になります
早ければ日曜日、遅くとも火曜日に再開します
もうしばらくお待ちください

ゆり「………タイム!」

恭介(ゆりっぺがタイムを掛けた。みんなが集まってくる)

恭介(内野だけでなく、外野の真人たちもだ)

恭介「わるい、みんな…。打たれちまった…」

恭介(申し訳なくて、あまりに情けなくて、ただ項垂れることしか出来ない)

恭介(みんなに合わせる顔が無い…)

ゆり「…打たれたこと自体は仕方ないわ。でも、棗くん…」

真人「なあ、お前ら。とりあえず喋ってる内容がバレないように、グローブで口隠せよ」

恭介「…!」

恭介(ゆりっぺの言葉が最後まで紡がれる前に、真人がそう提案した)

野田「こうか?」

真人「ああ。そうしておけば、作戦を練ってるように見えるだろ?」

ユイ「おおー!テレビで見たことあるやつだーっ!」

日向「はしゃぐなっつの」

真人「いや、むしろはしゃいだ方がいいんだよ」

日向「え?」

真人「さあっ!ネタ振りしてやるぜ!」

真人「新連載の漫画、『超能力者ユウ!』。主人公ユウの使う驚きの超能力は?」

恭介「真人…!」

恭介(思わず顔を上げる。お前…、俺たちが鈴に使った方法を、俺にも…)

ゆり「はぁ?こんな時になに言ってんのよ、井ノ原くん!」

真人「なにって大喜利さ。それにこんな時だからこそ言ってんだよ」

真人「野球と関係ないいつも通りの馬鹿話してれば、恭介だって回復すんだろ!」

恭介(そう言いながら、真人が俺に笑いかける)

恭介(昔から変わらない、いつも通りの真人の笑顔だ)

来ヶ谷「うむ。ナイスなアイデアだな」

葉留佳「さっすが幼馴染だね~!」

美魚「恭介さんのツボをよくわかってますね」

恭介(三人はすぐに賛成する)

ゆり「いやだから、棗くんは怪我してんのよ!これ以上投げるのなんて、どう見ても…」

恭介「………ふっふふふ!あっはははは…!」

恭介(思わず笑ってしまった)

恭介(真人の提案があまりに馬鹿っぽくて…、おかしくて…、俺たちらしくて…)

恭介(そうか。俺っていつもこんな感じなのか…)

恭介(そりゃあ、みんなに馬鹿馬鹿言われるわけだな)

恭介「なるほどな…。こいつは一本とられちまったぜ」

ゆり「棗くん…」

真人「なあ、ゆりっぺ。どうせ恭介以外に、ピッチャーできるやつなんていねえんだ」

真人「恭介に抑えられないんなら、俺たちの誰が投げても打たれる。そうだろ?」

ゆり「それは…、そうだろうけど」

真人「だったら大事なのは、恭介に投げる意志があるかどうかなんじゃねえのか?」

真人「まだ試合はふりだしに戻っただけなんだしよ」

ゆり「……………」

恭介(ゆりっぺが思案する。どうするべきか考えているようだ)

恭介(そして…)

ゆり「…棗くん、投げれる?」

恭介(そう切り出した)

ゆり「あなたの怪我が酷いのは、よくわかってるつもりよ」

ゆり「でも井ノ原くんの言うとおり、あなた以外の誰が投げても、結局負けると思う」

ゆり「だからあたしとしても、最後まであなたに投げて欲しい」

ゆり「その方が…、きっと勝ち目は残されてると思うから」

恭介「…そう思う根拠は?」

恭介(答えはわかっている。でも、あえて聞いてみた)

恭介(きっとそれを答える時のゆりっぺは、すげえ自信に溢れてると思ったから)

ゆり「根拠は…『勘』よ!」

恭介(予想通りの答え…。人によっては、ふざけてると思われるような答えだ)

恭介(なのに、こう堂々と言い切られたら自然と従いたくなる)

恭介(ゆりっぺについて行けば、きっとなんとかなる。そう思わせてくれる)

恭介(俺も…、ゆりっぺのそういうところが好きだぜ)

恭介「そっか。リーダーにそう言われたらやるっきゃないな…!」

日向「でも、恭介。お前、肩が…」

恭介「…ああ。正直、投げるので精一杯ってとこだ。この調子だと、多分かなり打たれるかもな」

恭介「でもリタイアだけはしない。必ず、最後まで投げきってみせる!」

恭介「だから…、みんなの力を貸してくれないか?」

恭介(マウンドに集まったみんな。そして、応援してるみんなにも向けて、俺はそう口にした)

真人「おうよっ!」

野田「任せておけっ…!」

来ヶ谷「フッ…、言われるまでもない」

葉留佳「むしろやる気マンマンですヨっ!」

美魚「私の力で良ければ、存分に使って下さい」

ユイ「あたしもがんばりまっす!」

恭介(みんなが次々と応えてくれる)

恭介(だが、日向だけ…)

日向「このバカっ…!怪我したまま投げるのが、どんだけ危険なことかわかってんのかよ!」

日向「みんなも煽るなよ!恭介のことを考えたら交代すべきだろっ!?」

恭介(そう言って、必死に俺を止めようとする)

ゆり「無理よ、日向くん」

日向「ゆりっぺ…」

ゆり「見てみなさいよ、このバカの顔」

恭介(ゆりっぺが、日向にそう言う。俺はどんな顔をしてるんだろう)

ゆり「打たれた直後だってのに、こんな楽しそうな顔してんのよ」

ゆり「こうなってる時の棗くんは、あたしにも止められないわ」

日向「……………」

恭介「ゆりっぺ…」

ゆり「でも、無理はしないこと。本当に限界だと思ったら言いなさい」

恭介「ああ…!」

日向「……………」

恭介(日向だけ、まだ険しい顔をしている。俺を心配してくれてるからこそなんだろう)

恭介(ありがとな、日向。本当に嬉しいぜ)

恭介「日向、俺は…」

日向「…恭介。お前、昨日言ったよな?思いっきり、楽しんで野球しようぜって」

恭介「…ああ、言ったな」

日向「お前は、今、楽しいか…?」

恭介(真剣な眼差しが向けられる…。日向のこんな顔を見るのは初めてかもしれない)

恭介(だから、正直に答えた)

恭介「ああっ!最高に楽しいぜ!みんなと一緒に野球できてんだからなっ!」

日向「…………!」

日向「…そうかよ」

恭介(小さく苦笑する)

日向「なら…、もう俺からはなにも言えねぇな」

日向「最後まで楽しくやろうぜ!そんで…、絶対に勝つぞ!!」

全員「「「おおーーっ!!」」」

恭介(真人のおかげで、思い出した)

恭介(鈴も何度も打たれた。その度に折れそうになったが、みんなに励まされて、最後まで投げ続けた)

恭介(あいつが乗り越えた壁だってのに、俺が逃げるわけにはいかない)

恭介(ゆりっぺのおかげで、自信を取り戻した)

恭介(ゆりっぺの勘では、俺が投げれば勝ち目があるらしい)

恭介(なら、きっとなんとかなるんだろうさ)

恭介(日向のおかげで、わかった)

恭介(俺が今この時を、どうしようもなく楽しんでるってことを)

恭介(もっとこの試合を続けたい。いくら怪我が痛もうが、途中でリタイアなんてのは絶対にごめんだ)

恭介(そして、みんなが俺を信じてくれる)

恭介(怪我をして、スリーラン打たれちまった俺を、変わらずに信じてくれる)

恭介(だから、投げれる…!)

恭介(絶対に、最後まで投げきってみせるぜ…!)

恭介「さて、綺麗に話もまとまったところだし。お待ちかねの大喜利コーナーといくか」

ゆり「ええっ!ほんとにそれやるの!?」

日向「なんかもう、このまま解散する流れだったんじゃねーのか…?」

恭介「何言ってんだよ。これをやらないと俺の体力、気力が回復しない」

恭介「こう見えても、さっきのホームランかなりショックだったんだからな」

ユイ「はあ。つまり大喜利すれば、棗先輩は回復するんですか?」

恭介「ああっ!!回復するっ!!」

野田「すごい爽やかに言い切ったな…」

ゆり「爽やかすぎて、殴りたくなるわね」

ユイ「いやいやゆりっぺ先輩…。棗先輩は一応怪我人ですし…」

ゆり「…わかったわよ。仕方ないから、付き合ってあげるわ」

恭介「さすがゆりっぺ!ノリがいいな!」

ゆり「だから仕方なくよ…!…で、なによ?お題は」

恭介「せっかくだから、さっきの真人のお題を使おう」

恭介「新連載の漫画、『超能力者ユウ!』。主人公ユウの使う驚きの超能力は?」

恭介(みんながネタを考える仕草をする。最初に思いついたのは…)

真人「超能力『スカイハイ』!」

恭介「それって浮遊能力じゃねえのか?しかもどっかで聞いたことある気がするな」

恭介「わざわざスカイハイって名付けるところに、拘りを感じるからアリだ」

恭介「他には?」

日向「超能力『狐に化ける』」

恭介「普通は狐が人間に化けるのに、ユウが狐に化けるのか」

恭介「油揚げが好きになりそうだな」

恭介「大いにアリだ。他には?」

ゆり「超能力『緑のたぬきに化ける』」

恭介「なんだ?今度はカップ麺に化けるのか?」

恭介「もしかしてさっきの狐も、『赤いきつね』のことだったのか?」

日向「ちげーよ!ってかゆりっぺ、人のボケにボケ被せんなよ!」

ゆり「これくらい普通よ。あっさり被せられるようなネタを言う日向くんが悪いわ」

日向「なんか、すげー悔しいぜ…」

恭介「ま、ゆりっぺの技ありってことでアリだ。他には?」

ユイ「超能力『カラスに化ける』」

恭介「おっと来たか!岩沢のCrow Songから思いつきやがったな?」

ユイ「あ、やっぱバレました?」

恭介「カラスってのは偉大だからな。千年にも及ぶ因果すら断ち切れそうな気がするぜ」

恭介「当然、アリだ。他には?」

来ヶ谷「超能力『盗撮』」

恭介「それはおそらく、透視能力のことだよな…?」

恭介「なにに使うつもりなのかはっきりしてて、潔さすら感じるな」

恭介「アリだ。他には?」

野田「超能力『魔法が使える』…!」

恭介「それ超能力でもなんでもないだろ」

恭介「タイトルを『魔法使いユウ!』に変更しないといけなくなるな」

恭介「一話から読者の度肝を抜く、斬新な展開だからアリだ」

恭介「他には?」

葉留佳「超能力『じゃんけんに絶対勝つ』!」

恭介「地味にすげえ強力な能力だな。だが主人公の能力がそれでいいのか?ってかどうやって話を盛り上げるんだ?」

恭介「バトルを全部じゃんけんで片付ける気か?」

恭介「作者の手腕が問われそうだな。まあ、アリだが」

恭介「他には?」

美魚「超能力『ぼっちにならない』」

恭介「おおっ…。超能力を使わないと、ユウはぼっちなのか…」

恭介「能力が使えなくなった時の展開がすげえ気になるな」

恭介「アリだ。他には?」

真人「超能力『うん、すぐ行く、走っていく』」

恭介「それ思いっきりタイムリープ能力じゃねえか!俺その台詞聞くだけで、涙腺緩んじまうんだよ…」

恭介「だからアリだ。他には?」

来ヶ谷「超能力『透明人間』」

恭介「男なら誰しも一度は憧れる能力だな」

恭介「ついついエロい方向への想像が膨らんじまう、危険な能力だぜ」

恭介「アリだな。他には?」

野田「超能力『世界中の人間が中二病にる』…!」

恭介「すげえ面白そうな能力だな。街を歩けば、会う人会う人が…」

恭介「『闇の炎に抱かれて消えろっ!』とか言ってんのか」

恭介「とにかく見てみたいからアリだ。他には?」

日向「超能力『自爆』」

恭介「すげえインパクトだな…!主人公としてあるまじき能力だぜ」

恭介「だが一回しか使えないだろそれ。それともギャグ漫画なのか?」

恭介「次のコマでは平然と元に戻ってんのか?」

恭介「爆発オチなんてサイコーだからアリだ。他には?」

ゆり「超能力『細山田を救済する』」

恭介「これまたインパクトがすげえな…。なんてピンポイントな能力なんだよ」

恭介「ってか細山田って誰だよ!ヒロインか?親友か?それともモブキャラなのか?」

恭介「なんかもう細山田のインパクトに持ってかれてるから、アリだ」

恭介「他には?」

ユイ「超能力『七色の声を出せる』」

恭介「これも面白そうな能力だな。仮に俺が使えるとしたら…」

恭介「岩沢の声でガルデモの歌を歌うぜ!」
ユイ「岩沢さんの声でガルデモの歌を歌いますね!」

恭介「b」グッ!

ユイ「b」グッ!

ゆり「あんたたちも大概仲いいわよね…」

恭介「同じガルデモファンだからな!当然、アリだ。他には?」

葉留佳「超能力『風子マスター』!」

恭介「CLANNADの主人公、岡崎の能力だな」

恭介「風子ルートはやばかった…。次の日学校行けなくなるくらい泣いたぜ…!」

恭介「余談だが、俺はあれ以来、星マーク見てもヒトデにしか見えなくなったな」

恭介「無論、アリだ。他には?」

美魚「超能力『動物が集まってくるからぼっちにならない』」

恭介「ユウは能力を失った後、新たな能力を手にしたんだな…」

恭介「だが、その能力を使えなくなったら、結局またぼっちになってしまうな」

恭介「ユウの人間的成長を期待したくなるからアリだ。他には?」

ユイ「超能力『勇気』!」

恭介「そうだな。過酷や困難に立ち向かう勇気こそ、ある意味最強の能力と言えるのかもしれないな」

恭介「アリだ!」

恭介「よし、そろそろ解散しよう」

ゆり「本当にこんなので回復するのかしら…?」

日向「まあ、恭介だからな…」

恭介(みんながそれぞれのポジションへと戻っていく)

恭介(さあ、第二ラウンドスタートだぜ)

恭介(ワンアウト、打順は五番から。気持ちを切り替えて、思いっ切り投げる…!)

恭介「うおおおおっ!」

ズバン!

主審「ストライク!」

ユイ「さっきまでより速くないですか!?」

日向「マジかよ…。ほんとにあんなので回復すんのか…」

ゆり「それでも、怪我する前の球威には及ばないわね」

恭介(ああ、そのとおりだ。回復したわけじゃない…。だが、みんなのおかげで救われたぜ)

恭介(まだまだ投げれる…!)

沙耶「結局、恭介くんが投げるのね」

岩沢「大丈夫なのか、棗の怪我は…」

謙吾「大丈夫じゃないだろうな…。あいつが人前で、辛そうな表情を見せるっていうのはよっぽどだ」

遊佐「止めた方がいいんじゃないですか?」

クド「恭介さんは、仲間のみなさんの為ならいくらでも無茶をしてしまう人なんです…」

謙吾「ああ、誰にも止められない。気力の続く限り、投げるだろうな」

謙吾(下手すれば、本当に倒れるまで…)

カキィン!

恭介「ちっ…」

恭介(またヒットを許す…。逆転だけは阻止したいんだが、体が言う事を聞いてくれない)

恭介(六番打者に対する、一球目。そのタイミングで…)

ランナー「ふっ!」

ダッ!

恭介(盗塁か…!?)

野田「このっ!!」

恭介(野田が即座に二塁に投げるが…)

塁審「セーフっ!!」

恭介「くっ…」

ゆり(盗塁か…。まあ、そうくるわよね)

ゆり(少しは回復したみたいだけど、棗くんが怪我の影響を受けているのは、目に見えてわかる事実…)

ゆり(おそらく、次も…)

スッ

野田「………!」

ゆり「棗くん、気にせず投げなさい!」

ゆり「あなたは、野田くんのミット目掛けて投げることだけに集中すればいいわ」

ゆり「あとはあたしたちがなんとかするから!」

日向「ああ!任せとけ、恭介!」

恭介(二人が励ましてくれる。ありがたいぜ、こんな状態の俺だってのに…)

恭介(確かに、今の俺に他のことを考えてる余裕は無い…!俺はただ、野田のミット目掛けて…)

恭介(………………)

恭介(なるほど、そういうことか…!)

恭介(なら…、次もストレートだ!)

恭介「うおあっ!」

ビュッ!

ランナー「ふっ!」

恭介(また走りやがった…!だが…!)

野田「調子に、乗るなあっ…!!」

ビュッ!

恭介(野田の投げた豪速球をゆりっぺが受け取る)

パシッ!

恭介(そしてランナーが滑り込んだ…!)

恭介(判定は…)

塁審「アウトっ!!」

ゆり「あんまりうちのピッチャーをイジメないでくれる?」

ランナー「うっ…」

恭介(野田のファインプレーに歓声が上がる。見事に指してくれた)

恭介(おそらく、盗塁を見抜いたのはゆりっぺだな)

恭介(野田に一球外すようにサインを送ったんだろう)

恭介「サンキュー!二人とも!」

野田「ふんっ…!これくらいたやすいことだ…!」

ゆり「言ったでしょ?気にせず投げなさいって」

恭介(まったく、最高に頼もしいぜ。俺も負けていられないな…!)

恭介「うおおおおっ!!」

ズバン!

主審「ストライク!」

恭介(これでワンボール、ツーストライク。あとストライク一球でチェンジだ)

恭介(イケる、立て直せる…!)

恭介「うおおおおっ!」

ビュッ!

バッター「くっ…!」

カキィン!

恭介「!?」

ドガっ…!!

恭介「ぐ、あっ…」

恭介(痛みに意識を支配される…。今のは…ピッチャーライナー…。当たったのはよりよって…右肩か…)

日向「恭介っ!!」

ユイ「棗先輩っ!!」

恭介(二人が駆け寄ってくる。だが今はそれどころじゃない…!)

恭介「来るなっ…!ユイ、ファーストっ…!」

ユイ「えっ…」

恭介(ユイが離れている隙に、バッターはベースを踏んでいた)

ユイ「あっ…。すみません…」

恭介「…いや、気にすんな。どうせ今のタイミングじゃ間に合わないだろ…」

日向「そんなことより恭介…。お前今、右肩に…」

恭介「なんてことねえよ…」

日向「んなわけねえだろっ…!すぐに交代した方が…」

恭介「なんてことねえよっ…!!」

日向「…………!」

恭介「わるい、日向…。心配してくれてんのはわかる…」

恭介「だが、怪我が酷いと審判に判断されれば、きっと試合を止められちまう。平気だから、投げさせてくれ…」

日向「お前…」

ゆり(すでに右肩を痛めてる棗くんに、右肩に直撃するピッチャーライナー…)

ゆり(そんな偶然が…ありえるの?いや、そんなはず無い…)

ゆり(初めから、仕組まれていたんだわ…)

ゆり(神めっ…!!)ギリッ

恭介(なんとか立ち上がり、構える)

恭介(これくらい最初から覚悟の上だ…。偶然にしろ、必然にしろ、俺はただ投げるだけ…)

恭介「うおあっ!!」

ビュっ!

バッター「ふっ!」

カキィン!

恭介「うっ…」

恭介(右肩のダメージは思ったより深刻みたいだ…)

恭介(思うように投げられない…)

恭介(ツーアウト。二塁、三塁のピンチ…。バッターは八番…)

恭介(ここでヒットを許せば逆転されちまう…!)

恭介「このっ…!」

ビュッ!

バッター「ふっ!」

カキン!

恭介「なっ…!」

恭介(打球は外野に落ちる、ヒットだ…。当然、間に合わない…)

ゆり「…4対3ね」

恭介(くそっ、逆転されちまった…)

直井「勝負は見えましたね。もう彼にはまともな球を投げる力が残っていないようです」

かなで「……………」

真人「恭介!気にすんな!すぐに俺たちが取り返してやるからよっ!」

来ヶ谷「あとワンアウトだ!持ちこたえろ!恭介氏!」

恭介「ああっ…!!」

恭介(諦めない…!諦めてたまるか…!)

恭介「うおおおおっ…!!」

バッター「だあっ!」

カキーン!

恭介(嫌な快音…。打球は…)

美魚「…!」

恭介(ライト…!三枝でも間に合わない位置…)

恭介(あれがヒットになれば、一気に点を奪われる…!)

美魚(取らないと、わたしが…!)

美魚(頑張ってる恭介さんを、支えてあげないと…!)

美魚(懸命に走る。でも、追いつけない…!)

美魚(駄目っ…!落ちる…)

葉留佳「みおちんっ!!ダイブだーーっ!!」

美魚「…!」

美魚「ええええいっ…!!」

ズサァ…!!

恭介(打球が落ちる間際、西園が前方にダイブした…!)

恭介(ボールは…)

審判「……………」

美魚「と、取れました…!」

審判「アウトーっ!!」

恭介(西園がグラブを上げるのと同時に、審判のコールが響いた)

葉留佳「やったぁ!みおちん、すごいすごいすごーーーい!」

ゆり「ナイスよ!難しい球だったのによく取ったわね、西園さん!」

美魚「いえ、まぐれです…!」

恭介(顔や制服を汚した西園が、俺たちのところに走ってくる)

真人「まぐれだろうと、取ったことには変わりねえだろ!」

恭介「ああ…!今のを取ってくれたのは大きい…!ありがとな、西園」

美魚「…お礼を言われるほどのことではありません」

美魚「それよりも、頑張ってここから逆転しましょう。みなさん」

日向「そうだな。なあに、一点くらいあっという間に取り返せるさ!」

恭介(みんなと一緒にベンチに戻り、腰掛け、自分の状態を確認する)

恭介(右肩は…正直耐え難いほどに痛む。それとさっきから頭がクラクラするな…)

恭介(やっぱ激突の時に頭打ったのか…。マジで途中で倒れないように気を張ってないとな…)

ゆり「棗くん、あなたは体力の回復に努めていなさい」

ゆり「さすがにこんな時まで、アホなことやらかす余裕は無いでしょ?」

恭介「ふっ…。それはアホなことをしろっていうフリか?ゆりっぺ」

ゆり「違うわよ、このアホっ!」

ユイ(棗先輩…。いつもの調子で笑ってるけど、違う…)

ユイ(本当は痛くて辛いはずなのに、それでも笑ってるんだ…)

ユイ(楽しいからなのか、それともみんなのためなのかはわからないけど)

ユイ(でも、あんなに頑張ってるから、みんな棗先輩を応援するんだ…!)

ユイ(あたしだって、頑張らなきゃ…!あたしには、それくらいしか取り柄が無いんだから…!)

斉藤「……………」

ビュッ!

ユイ「たあっ…!」

ズバンッ!

主審「ストライク!」

ユイ(負けてるんだ…!あたしが塁に出ないと…!)

斉藤「……………」

ビュッ!

ユイ「このっ…!」

ズバンッ!

主審「ストライク!」

野田「追い込まれたな…」

真人「ああ…」

日向「……………」

ユイ(あ、当たらない…。なんで…?どうして…?)

ユイ(やっぱり、あたしなんかじゃ無理なの…?この世界でまで、なんの役にも立てないお荷物なの…?)

ユイ(………いやだ。いやだ!いやだ…!いやだっ!いやだっ!!)

ユイ(ホームランじゃなくてもいい!ヒットでも、デッドボールでもいい!)

ユイ(塁に出たい…!)

ユイ(みんなのために…役に立ちたいっ…!!)

日向「ユイィーーーっ!!」

ユイ「えっ…?」

ユイ(突然、ベンチから大声が聞こえた…)

日向「そんなへっぴり腰じゃ、打てるもんも打てるわけねぇだろうがっ!」

日向「昨日教えたフォームを思い出せっ!そんで思いっきり振れっ!」

日向「そんな奴の球にビビってんじゃねえよ!勇気出せぇ!!」

ユイ「ひなっち、先輩…」

ユイ(あれだけ、嫌味なこと言ってたのに…)

ユイ「………………」

恭介「目つきが変わったな…」

ゆり「…ねえ、棗くんはユイに打てると思う?」

恭介「打つさ…。俺はいつだってユイを信じてる」

ゆり「そうね、あたしも…、信じるわ」

ユイ(そっか…。怖がってフォームが崩れてたんだ…。それじゃあ打てるわけないよね)

ユイ(怖くない…。怖くない…!)

ユイ(みんなが、こんなあたしのことを応援してくれる。信じてくれてるんだっ…!)

ユイ(あんな球……怖くあるもんか!)

ユイ(勇気を出すんだ、ユイ…!)

斉藤「……………」

ビュッ!

ユイ(勇気を…!!)

ユイ「うあああああっ!!」

カィン

ユイ「え…」

ユイ(音がした…。当たった…?)

ユイ(でもどこに飛んだんだろう…?)

日向「ユイっ!走れぇーー!!」

ユイ「!」

ユイ(そうだ、そんなことはどうでもいいんだ!走らないと…!)

ユイ(ファーストに向かって全力で走る。一塁手がグローブを構えてる)

ユイ「だあああああっ!!」

ユイ(なにがなんだがわからないまま、ただがむしゃらにあたしはベースに向かって頭から滑り込んだ)

塁審「…………」

ユイ(タッチされている…。お願い…間に合ってて…!)

塁審「セーフっ!!」

ワアアアアアアアっ!!

ユイ「やったあああああっ!!」

ユイ(自然とガッツポーズが出てた。嬉しい…!ヒットが打てた…!大事な場面でヒットが打てた…!)

ユイ「やった!やった!やったーー!!」

日向「…ったく、はしゃぎすぎだっつの。ただのヒットだってのに」

葉留佳「とか言いながら、日向くんだって嬉しそうじゃん!」

日向「…そりゃあ、ノーアウトでのランナーだかんな。それだけだよ」

ゆり「ふふっ…。日向くんも素直じゃないわね」

日向「ゆりっぺだけには言われたくねーよっ!」

野田「だが、幸運だったな。打球があんなに高くバウンドするとは…」

来ヶ谷「強引に当てた感じだったからな。自然と、ボールを叩きつけるようなスイングになったんだろう」

真人「しかもあれ、多分ヘッドスライディングじゃなきゃアウトだったぜ」

ゆり「幸運が幸運を呼んだってことね」

恭介(違うな…。ユイは諦めなかったんだ)

恭介(本当は怖かっただろうに、勇気を出して、真っ向から斉藤の球に立ち向かった)

恭介(ヘッドスライディングだってそうだ)

恭介(ユイが諦めなかったから、結果がついてきた)

恭介(ただ、それだけだ…)

美魚「…………」

真人「続けえっ!西園ーー!!」

葉留佳「みおちんファイトー!」

野田「かっ飛ばしてやれぇ!!」

美魚(ユイさんがあれだけ頑張って塁に出たのに、わたしが続かないわけにはいきませんね)

美魚(集中…。集中しないと…!)

斉藤「……………」

ビュッ!

ズバンッ!

主審「ストライク!」

美魚「……………」

美魚(ボールは見える…。イメージもできてる…)

美魚(あとは実行するだけ…)

主審「ボール!」

美魚(みなさんとともに…。みなさんのために…。)

美魚(それがわたしの戦う理由、この世界で抗う理由)

美魚(だから必ず…!)

斉藤「……………」

ビュッ!

美魚(打ちます…!)

カキィン!

恭介(快音が響く。打球は…)

日向「ライト線…、フェアだ!」

恭介(ユイが二塁に進み、西園も一塁に進んだ)

恭介(ノーアウト。一塁、二塁。これで打順がまた一巡したな)

ゆり「さっきの打席で振り切れなかったから、流し打ちで右方向に運んだのね」

葉留佳「さすがみおちん!有言実行ってやつだね!」

日向「本当に初心者かよ、あいつ…!」

恭介(さすがだぜ、みんな…。しっかりチャンスを広げてくれる)

恭介(俺も頑張らねえとな…)

恭介(バットを持ち、ネクストバッターズサークルに向かう)

日向「おい…!恭介、どこ行くんだよ?」

恭介「ん…?待機しとかないといけないだろ。来ヶ谷の次は俺なんだから」

真人「バカ。メット忘れてるぜ、ほらっ!」

恭介(真人に直接ヘルメットを被せられた)

恭介「おっと、そうだったな。うっかりしてたぜ…」

野田「恭介、やっぱりお前…」

恭介(野田がなにか言おうとした気がしたが、そのまま進んだ)

恭介(白い小さな円の中でバットを杖にして、片膝をつく)

恭介(意識が朦朧とする…。そのまま沈みそうになる)

恭介(痛みに集中してさえいれば、逆に意識を保っていられる)

恭介(………あれ。この感覚、前にどこかで…)

恭介(そうだ…。いつだったか、今と似た状況に陥ったことが…。あったような気がする)

恭介(疲れ果てて…。心が折れてしまいそうで…。諦めてしまいそうで…)

恭介(絶望の中で、這いずり回っていたような…。そんなことが…)

恭介(あの時、俺はどうなったんだ…っけ…)

ーーーーー

ーーー

??『恭介…』

恭介(声が、聞こえる)

??『恭介』

恭介(誰の声だ…?ひどく懐かしい…)

恭介(…いや、俺はその声を知っている…。そいつの声を、俺が忘れるわけがない)

理樹『ついにきたよ』

理樹『助けにきた』

恭介(凛とした声。差し込んだ光。そして、差し伸べられた手…)

理樹『僕らはリトルバスターズだ』

恭介(理樹…。ああ、そうだったな…)

恭介(何度も何度も繰り返して…)

恭介(何度も何度も躓いて…)

恭介(それでも、諦めなかった)

恭介(立ち上がるたびに、強くなった)

恭介(そうしてお前は、俺を追い抜いていったんだよな)

理樹『一緒にいこう、恭介』

恭介(…ああ、いこうぜ。もう一度みんなと一緒に、あの青春を駆け抜けよう)

恭介(だから、もうちょっと待っててくれ)

恭介(俺も立ち上がるから。強くなって、みんなを救う方法を必ず見つけるから)

恭介(それまで、鈴と一緒に、待っててくれよな…)

恭介(理樹…)

ーーーーー

ーーー

ゆり「…棗くん!ちょっと、棗くん…!?」

来ヶ谷「恭介氏、私たちの声が聞こえるか?聞こえたら返事をしてくれ!」

恭介「………ああ、聞こえてるぜ」

ゆり「よ、よかった…」

ゆり「って!聞こえてるならさっさと返事しなさいよ!」

ゆり「本当に痛みとか疲労で、気絶しちゃったのかと思ったじゃない!!」

恭介「わるいな…、ゆりっぺ。ちょっと励まされてきたんだ」

ゆり「は…?」

恭介「来ヶ谷、状況は…?」

来ヶ谷「すまない…。平凡な外野フライに倒れてしまった」

来ヶ谷「ワンアウト。一塁、二塁だ」

恭介「そっか…。じゃあ、あとは任せろ」

恭介(気力を振り絞って立ち上がる。そして、打席に向かう)

ゆり「棗くん!苦しいんなら、立ってるだけでも…!」

恭介「……………」

恭介「いや、打つさ…。全力でな」

ゆり「………!」

恭介(打席に立つ、バットを構える。そして、斉藤を見据える)

恭介(来い…斉藤…)

斉藤「………………」

ビュッ!

恭介「ぬうっ…!」

ブンッ!

ズバンッ!

主審「ストライク!」

恭介「おっ、と…」

恭介(バットに振られて、体がよろけ、そのまま倒れてしまった)

岩沢「棗…!」

かなで「棗くん…」

ゆり「……………」

主審「きみ、大丈夫かい!?」

恭介「…ええ、ちょっと疲れてるだけですよ…」

恭介(立ち上がる。そして構える)

斉藤「………………」

ビュッ!

恭介「うあっ…!」

ブンッ!

ズバンッ!

主審「ストライク!」

恭介「はぁ…はぁ…」

恭介(また転げて、倒れちまった。ほんと、かっこ悪いったらねえな…)

日向「恭介…」

真人「……………」

恭介(それでも、立ち上がる。このまま、終わってたまるか…!)

斉藤「……………」

斉藤?(残念だ、本当に残念だよ。棗 恭介)

斉藤?(君ならその資格があると思ったんだが…)

斉藤?(君を限界まで追い込めば、僕の見たかったものが見れると思ったんだが…)

斉藤?(そのために、わざわざ一度リードさせ、その上で怪我をさせたんだ)

斉藤?(まあさすがに右肩へのピッチャーライナーは、駄目押しすぎたかもしれないね)

斉藤?(それでも、その程度で屈するなら、君もまたその程度だということだ)

斉藤?(所詮、これが人間の限界か…)

斉藤?(もう、終わらせよう)

斉藤?「………………」

ビュッ!

恭介(まだだ…。まだ…)

恭介「終われねえんだよっ!!」

カキィン

斉藤?「なっ…!?」

ゆり「あ…」

ガシャン

主審「ファールボール!」

恭介「はぁ…はぁ…」

日向「当てやがった…。あんなフラフラなのに…」

恭介(わるいな…俺はしぶといんだ。もうちょっと遊ぼうぜ、斉藤…)

斉藤?「くっ…!」

ビュッ!

カキィン

主審「ファールボール!」

ビュッ!

カキィン

ビュッ!

カキィン

ビュッ!

カキィン

主審「ファールボール!!」

野田「次で何球目だ…!?」

来ヶ谷「13球目…。もう10球ファールで粘っている…!」

ビュッ!

主審「ボール!」

恭介「はぁ…はぁ…」

直井「どういうことだ…!?とっくに限界だったんじゃないのか!?」

直井「なぜ、あんなに粘れるんだ!?」

主審「ボール!」

かなで「フルカウント…」

斉藤?「くっ!」

ビュッ!

恭介「はあっ…!」

カキィン!

主審「ファールボール!」

遊佐「レフトの、ファールグラウンド…」

大山「タイミングが合ってきてる…!」

沙耶「いける…。このままいけば…」

クド「恭介さん…!」

謙吾「恭介…!お前ってやつは…!」

恭介「はぁ…はぁ…!」

斉藤?「………!」

斉藤?(僕を見つめるその眼…)

斉藤?(死んではいない。いやここにきて、更に強く光り輝いてる…!)

斉藤?(そうだ、そうだよ…!その力こそ求めていたもの…!)

斉藤?(僕の見たかったものだ…!)

斉藤?(己の限界を越えた力…)

斉藤?(人の意志から生まれる力…)

斉藤?(運命さえ変えてしまいそうな、その力…!)

斉藤?(まさかここに来て、真価を発揮するとは…)

斉藤?(やはり、棗 恭介…。君は、面白いっ…!!)

斉藤?(見せてもらうよ、その力を…!)

斉藤?「……………」

ビュッ!

恭介(まだだ…!まだ終われない…!)

恭介(返させてもらうぜ…。せめて、てめえに取られた三点くらいは…)

恭介「俺の…、バットでなぁっ…!!」

カキィーン!!

斉藤?「!?」

ゆり「な…」

日向「まさか…」

岩沢「あ…」

恭介(レフトポール際…)

審判「………………」

審判「ファールボール…!!」

恭介(審判が大きく手を広げた)

真人「マジかよ…!?」

野田「ポール巻いてるだろ…!?」

恭介(あと一息だ…)

日向「今度こそいけるぞぉ!恭介ぇ!!」

葉留佳「次こそホームランだー!!」

ユイ「棗せんぱーいっ!!」

美魚「恭介さん…!」

来ヶ谷「頑張れっ!恭介氏っ!」

野田「打てぇ…!恭介ーーーっ!!」

真人「お前ならやれるぞぉ!!」

ゆり「打って…!打ちなさい!棗くん…!!」

恭介(ああ…。ああ…。ああっ…!!)

恭介(聞こえてるぜ…、みんなの声が)

恭介(グラウンドのみんなの声も、応援団のみんなの声もだ)

恭介(サンキューな、みんな…。みんなのおかげで頑張れる)

恭介(いくらでも、抗ってやる…!)

恭介(例え…相手が、神だろうとっ…!!)

恭介「さあ、そろそろ決着つけようぜ…。斉藤…!!」

斉藤?「……………」

恭介(全神経を集中する。どんなに速いストレートを投げられようが…)

恭介(必ず捉えて…!)

シュッ!

恭介(遅い…!?いや、この球は…)

日向「ナックル…」

恭介「うあああああっ!!」

カキン!

恭介(手応えはあった…。確かに当たった)

恭介(だが、その打球は…)

斉藤?「……………」

パシッ!

恭介(伸びることはなく、斉藤のグローブに収まった…)

審判「アウトっ!!」

恭介(ピッチャーフライ…。最後の最後でナックルか…)

恭介「やるな…」

斉藤?(本当なら最後までストレートで勝負するのが、お約束というものなんだろうけど…)

斉藤?(悪く思わないでくれよ、棗 恭介。これは一応、僕なりの敬意だ)

斉藤?(君が全力で僕に立ち向かってくれたのが嬉しくてね)

斉藤?(僕も決め球のナックルで勝負させてもらった)

斉藤?(だが、まさか当ててくるとは思わなかったよ)

斉藤?(いや、さっきのファールも危うくホームランというところだった)

斉藤?(君の健闘は賞賛に値する。充分だ、もう充分僕の望んだものを見せてくれた)

斉藤?(僕の介入はここまでにしよう…。さあ、僕の用意した依代と野球部のレギュラー)

斉藤?(果たして勝つことができるか、後はゆっくり見物させてもらうよ)

斉藤?(フフフフフ…)

斉藤「……………」

恭介(なんとか体を動かしながら、ベンチに戻る)

恭介(その途中…)

ゆり「棗くん…」

恭介「ゆりっぺ…」

恭介「悪いな…。打てなかったぜ…」

ゆり「いいえ。あなたはよく頑張ったわ。あとは…」

恭介(ゆりっぺが優しく、俺の左肩に手を置いた)

ゆり「あたしに、あたしたちに任せなさい」

恭介「………ああ、頼んだぜ…」

ゆり「ええ」

ゆり(棗くんと入れ替わり、打席に立つ)

ゆり(これでツーアウト、もうあとは無い。追い込まれた状況…)

斉藤「……………」

ゆり(でも、負ける気がしない)

ゆり(今、あそこにいる斉藤は、もしかしたら神そのものなのかもしれないのに)

ゆり(憎しみすら、湧いてこない)

ゆり(神への憎しみ…。そして、あの子たちへの想いだけが、あたしを突き動かしてきたはずなのに)

ゆり(なのに…)

日向「ゆりっぺええぇぇーー!!」

野田「打てぇ、打ってくれっ…!!ゆりっぺ…!!」

ユイ「頑張れええぇぇーー!!ゆりっぺせんぱーいっ!!」

ゆり「……………」

真人「お前なら絶対打てんぞぉーーっ!!」

葉留佳「ファイトぉーーっ!!」

来ヶ谷「頼む…!ゆりっぺ君…!」

美魚「ゆりっぺさん…!!」

ゆり(…認めるしかないわね)

ゆり(少なくとも今だけは…!憎しみなんかよりも強い気持ちがあたしにはある…!!)

ゆり(打つ…!打ってみせる…!)

ゆり(あたしは、あたしはみんなの…!)

斉藤「………………」

シュッ!

ゆり(リーダーなんだからっ!!)

カキィン!

葉留佳「打ったぁ!」

日向「よっしゃあああ!!さすがだぜゆりっぺーー!!」

野田「ゆりっぺええぇぇーー!!」

来ヶ谷「これでツーアウト、満塁…!!」

恭介(ああ、最高の場面だな…。そうだろ?)

真人「……………」

恭介(真人)

真人(さて…、ようやく俺の見せ場か)

真人(俺だけ、まだヤツから打ってなかったからな)

真人(このままじゃ危うく、マジでただの馬鹿野郎になっちまうところだったぜ)

真人(おい、斉藤?それとも神か?どっちでもいいけどよ)

真人(俺が馬鹿やってやれるのは、恭介に居場所をもらったからだ)

真人(恭介に出会わなかったら、今の俺は絶対に存在しねえ…。それくらいあいつは俺にとって大事な親友なんだ)

真人(そのあいつを、随分と苦しめてくれたじゃねえか…!)

真人(借りは返すぜ…。俺の筋肉、俺のバットでな…!)

斉藤「……………」

シュッ!

真人「うおおっ!!」

ブゥン!

主審「ストライクっ!!」

真人「くっ…!」

恭介(ナックル…!)

謙吾「真人ぉーーっ!!」

大山「頑張れええぇぇーー!!」

藤巻「打てぇーーーっ!!」

高松「真人くーーーんっ!!」

松下「お前の筋肉を見せてやれえっ!!」

TK「Hang in there…!!」

真人「ぬおあっ!!」

カキィン!!

竹山「ファール…!!」

遊佐「当たった…!」

椎名「行けるぞっ!井ノ原っ!!」

シュッ!!

真人「うおおっ!!」

カキィン!!

ひさ子「またファール…。けど、レフトスタンド…!」

岩沢「ああっ…!今度こそ、棗が打てなかったホームランを…井ノ原ならっ!!」

関根「キン肉マンだろぉーーっ!?良いとこ見せろぉーーっ!!」

入江「頑張ってえっ!!井ノ原さぁーんっ!!」

恭介(真人…)

恭介(聞こえてるだろ?みんなの応援が…)

恭介(俺が頑張れる理由が、諦めない理由がわかるだろ)

恭介(仲間を信じて、信じられて、その想いが限界を超えるんだ)

恭介(頑張れっ…!お前なら、絶対に打てる…!!)

真人「来いっ…!斉藤…!!」

斉藤「…………」

シュッ!!

真人「うおおおおぉぁーーっ!!」

グワァラゴワガキーンっ!!

恭介(かつてない快音が響く…)

恭介(みんなが…顔を上げる)

恭介(高く舞い上がった白球を、目で追う)

恭介(行った…。文句無しだ…)

真人「………へっ。伊達じゃねえんだよ、俺の筋肉はな」

審判「ホームラーンっ!!」

恭介(そのコールと同時に、今日一番の歓声が響いた)

恭介(走者一掃の、逆転満塁ホームランだ…!)

恭介(ありえねえぜ…あいつ…!マジでやりやがった…!)

恭介(みんなが帰ってくる。ユイと西園とゆりっぺと、そして真人が…)

日向「この野朗!カッコ良すぎだろ!バカヤロー!」

ポカ!ポカ!

真人「いてっ!いてえって!」

野田「俺は信じていたぞ!真人…!!」

バシ!バシ!

真人「わかった!わかったから叩くなって!」

葉留佳「いや~頼りになりますな~!」

ズビシッズビシッ

真人「おいっ!三枝っ!てめえ、今どこ突っつきやがった!?」

ゆり「細かいこと気にしてんじゃないわよ!このっこのっ!」

バキ!ベキ!

真人「ちょっ!ゆりっぺ、ちょっと待てっ!タンマだ、タンマ…!!」

来ヶ谷「ふははははははは!!」

ボコッ!ドカッ!

真人「てめえらマジで殴ってんじゃねえーーーっ!!」

葉留佳「きゃあー!真人くんが怒ったーー!!」

真人「怒るに決まってんだろうがあああ!!」

ゆり「逃げろーーー!」

真人「待ちやがれ、てめえらぁ!!」

恭介(狭いベンチの中で、みんなはしゃぎまくっている)

恭介(ただただ、笑っている)

恭介(無理もない。これではしゃぐなってのが無理な話だ)

恭介(そんな中、ユイだけ…)

ユイ「うぅ…。やばいでず…!感動で涙が…!」

美魚「どう、どう」

ユイ「あだじは馬じゃないでずよぉ…、西園さんっ…!」

美魚「すみません、つい」

恭介(西園にあやされながら、ユイがボロ泣きしている)

恭介「おいおい、ユイ。お前なんでそんな泣いてるんだよ?」

ユイ「だって、だってですよ!ヒット打って…ここに帰ってくるのが…こんなに嬉しいなんてぇ…!」

ユイ「みんなすごい応援してくれたし、なんかもうあたし、あたし…」

恭介「ふっ…、困ったやつだな。まだ試合は終わってないんだぞ?でも…」

恭介(ユイの前に手を出す)

恭介「ナイスヒットだったぜ、ユイ」

ユイ「棗先輩…!」

ユイ「はいっ!」

パン!

恭介(少しだけ涙が残っていたが、それでも笑顔のユイとハイタッチを交わした)

恭介(が…)

恭介「お、おおおっ…」

日向「馬鹿っ!恭介は右肩痛めてんだぞっ!」

ユイ「う、うわあああ!そうだったあ!!」

来ヶ谷「右手を出したのは恭介氏だったがな」

ゆり「救いようのない馬鹿ね、ほんとに」

野田「恭介を見てると、俺がマシに思えてくるな…」

葉留佳「いや、野田くんも良い勝負してると思うけどな~♪」

恭介(真人のホームラン…。いや、みんなの頑張りのおかげでこれで7対4だ)

恭介(その後、野田がアウトになり攻守交代)

恭介(さぁ、あと二回…。あと二回だ…!)

ゆり(この回、先頭打者から…)

ゆり(すでに棗くんは限界を超えてる…。いつ倒れても不思議じゃない…)

ゆり(確実に仕掛けてくるわね…!)

恭介(ストレートで押すしかない…。今の俺にはそれくらいしか出来ない…)

恭介「うおおおおっ!!」

ビュッ!

バッター「ふっ」

コォン!

恭介「なっ…!」

恭介(バントだと…!?)

恭介(やべぇ、早く補球しねえと…!)

ゆり「動かないで!棗くん!」

恭介「えっ…」

恭介(いつの間にか、俺の目の前にはサードにいたはずのゆりっぺ)

恭介(ボールを掴むと、そのままダイレクトでファーストに送球した)

塁審「アウトっ!」

ゆり「やれやれね。やると思ったわよ」

恭介(普通なら間に合うはずがない…。打球は俺の真ん前だったってのに、また読んでたのか…)

恭介「すげえな、助かったぜ」

ゆり「さっきも言ったでしょ。投げることだけに集中しろって」

ゆり「下手な小細工は、あたしの勘で潰してあげるわ」

恭介「ああ。頼むぜ…」

恭介(さすがだな…。これ以上頼もしい味方はいないぜ)

恭介(ともかく、これでワンアウト。あと、ツーアウトだ…。しのがねえと…)

恭介「うおあっ!!」

ビュッ!

カキィン!

恭介「はぁ…はぁ…」

恭介「うおおおおっ!!」

ビュッ!

カキィン!

恭介「くっ、そ…」

恭介(まずいな…、どこに投げても打たれる…)

ひさ子「ワンアウトから、立て続けにヒットかよ…」

関根「一塁、二塁ですね…」

入江「あの…。もう棗さん、限界なんじゃ…?」

藤巻「そんなの見りゃあわかるだろ…!あいつはとっくに限界のはずだ…!」

高松「ここからでも、肩で息をしているのがわかりますからね…」

松下「もう恭介に、打者を打ち取る力は残されていないのかもしれないな…」

岩沢「何言ってるんだ!あいつがあんなに頑張ってるのに、あたしたちが諦めてどうするんだ!?」

大山「そうだよ!応援しようよ!恭介くんを!」

竹山「ですが、次の打者は…」

遊佐「はい…」

斉藤「……………」

恭介「四番、斉藤…」

恭介(ははっ…。また、てめえかよ…)

ゆり「タイム…!」

恭介(ゆりっぺがタイムをかける。同時に、俺に駆け寄ってくる…)

ゆり「棗くん…。あなたに命令があるわ」

恭介「……………」

ゆり「あなたの性格上、受け入れ難い命令なのはわかってる。けど…」

恭介「敬遠…だろ…?」

ゆり「……………ええ、そうよ」

恭介(当然だな…。今の俺の球じゃ、確実にまたホームランを打たれる)

恭介(それに、ワンアウトだ。満塁のほうが守りやすい)

恭介「ああ…、わかってる」

ゆり「………!随分、素直ね。あなたのことだから、勝負に拘ると思ってたのに…」

恭介(意外そうな顔で、そう口にする)

ゆり「それとも、まさか…」

恭介「違う…」

ゆり「えっ…?」

恭介「もう、勝負を楽しむ余裕も無いのか?って思ったんだろ…?」

ゆり「………………」

恭介「違う…。それは違うぜ。ゆりっぺ」

恭介「確かに、すげえしんどい…。でも、やっぱ俺は馬鹿だからな」

恭介「こんな状況でも、楽しくて仕方ねえよ」

ゆり「棗くん…!」

恭介「ゆりっぺ…。俺はまだ、諦めちゃいないぜ…」

恭介「みんなで…勝って、終わりたい…からな」

ゆり「…ええ、勝つわよ。勝って終わらせましょう!この試合を!」

恭介「ああ…!」

恭介(ゆりっぺが戻っていく…。この試合、何度ゆりっぺに励まされたり、助けられたんだろうな…)

恭介(本当なら、今度こそ斉藤をしっかり抑えて、みんなを安心させたいんだが…)

恭介(でも、まだだ…。まだ『あれ』は使えない)

恭介(今使っても、結局負ける…。最後の最後じゃねえと、意味がない…!)

野田「……………」

恭介(試合再開と同時に、野田が静かに立ち上がった)

日向(敬遠…。恭介が…)

日向(そりゃあ、絶対に打たれちまうだろうけど…)

日向(けど、あいつがそういうのを好むはずがない…)

日向(そこまで追いつめられてんのか…)

主審「ボール・フォア!」

恭介(これで、ワンアウト。満塁…)

恭介(打順は、五番から…)

恭介「はぁ…はぁ…」

恭介「うおあ…っ!」

ビュッ

カキィン!

恭介(ヒット…。7対5…)

日向(もういい…。もういいだろ…)

日向(このままじゃ、いくら頑張ろうと絶対に逆転されるじゃねえか…)

日向(お前、なんでそんなに頑張ってるんだよ…!)

恭介「うああ…!」

ビュッ!

カキィン!

恭介(7対…6…)

恭介(やばいな…。マジで投げるところがねえ…)

恭介(それでも…)

謙吾「恭介ええぇぇぇ!!頑張れーーっ!!」

クド「頑張ってくださーいっ!!」

沙耶「諦めんじゃないわよーー!!」

岩沢「棗ーー!!負けるなあっ!!」

恭介(それでも…。何度も、逆転だけはさせねえ…!)

恭介「負けて、たまるか…!絶対に勝つんだ…!」

恭介「みんなの、ために…!」

恭介(ボールを握る…。投げることだけに集中する…)

恭介(野田のミット目掛けて、あそこまで届く球を…)

恭介「うおおおおああっ!!」

ビュッ!

ズバンッ!

主審「ストライク!」

直井「しぶといですね。とっくに勝ち目なんて無いのに、馬鹿な人だ」

かなで「そうね…。確かに、棗くんは馬鹿なのかもしれない」

直井「かもしれない、じゃなくてそうでしょう」

直井「まあ、他にピッチャーがいないみたいですから、頑張らざるをえないんでしょうが」

直井「さっさと打たれた方が楽になれるのに、まだ勝つ気でいる」

直井「なぜ、そこまで勝ちたいのが理解に苦しみますね」

かなで「…そう。わからないのね」

直井「…会長?」

恭介「うおおおおっ!!」

ビュッ!

バッター「くっ…!」

カキィン!

恭介「………!」

恭介(ボールがレフト方向へと伸びていく)

恭介(真人が落下点に入るが…。あの位置じゃタッチアップが間に合う…!)

恭介(また、追いつかれる…!)

パシッ!

恭介(真人がキャッチするのと同時に…)

ダッ!

恭介(三塁ランナーがホームへ走った)

真人「させるかよおおぉぉーーーっ!!」

恭介(矢のような送球…『レーザービーム』だ…!)

恭介(速度は充分だが、送球が、逸れた…!)

パシッ!

野田「くっ…!」

野田(ブロックはできない、タッチするしかない…!)

野田「おおおおおおっ!!」

恭介(野田とランナーが砂煙の中に消える…)

野田「ぐっ………」

恭介(野田の手にしたボールは、確かにランナーに届いている)

恭介(判定は…)

主審「……………」

主審「アウトーーっ!!」

ワアアアアアア!!

恭介(間に合った…。今度は真人と野田に助けられて、なんとか逆転は防いだ…!)

真人「ふぅ…、危なかったぜ。わりいな、野田。送球逸れちまってよ!」

野田「いや、よくぞ間に合わせてくれた…!さすがは真人だ…!」

ゆり「よしっ!ここからよ!まだあたしたちの攻撃も残ってるわ!」

ゆり「充分、勝ち目は残されてるわよ!」

恭介(ゆりっぺがみんなを鼓舞する)

恭介(ついに、最終回だ…)

恭介(だが、その攻撃。今までと打って変わって、斉藤がストレートとナックルを使い分け始める)

恭介(その巧みな投球にこの回、俺たちは三人に抑えられた…)

恭介(7対6…、1点差。泣いても笑っても、この回で最後だ)

恭介(そのマウンドに上がる…)

日向「悪い、恭介…。できればもっと余裕ある点差にしたかったんだが…」

恭介「フッ…。何言ってんだよ、お前らはめちゃくちゃ頑張ってくれた…」

恭介「みんなのおかげで、俺は最終回のマウンドに立つことができるんだ…」

恭介「あとは、俺が頑張る番だろ?」

日向「恭介…」

ゆり「……………」

日向(マウンドに向かう恭介を見送る…)

日向(頑張るってなんだよ…?)

日向(…今にも倒れそうなのに、ここまで必死に投げ続けて…)

日向(普通、逃げたくなるだろ…)

日向(お前はなんでそこまで、頑張るんだよ…)

カキィン!

恭介(打たれる…)

カキィン!

恭介(打たれる…)

カキィン!

恭介(打たれる…)

恭介(立て続けにヒットを許す…)

恭介(ノーアウト…、満塁…。まさに絶対絶命のピンチだ…)

恭介「はぁ…はぁ…」

ゆり(………こうなることは、わかってたのに…)

ゆり(それでも勝ちに拘ったせいで、棗くんにここまで無理をさせてしまった)

ゆり(あの時日向くんが止めたように、あたしも棗くんを止めてあげるべきだった)

ゆり(あたしが、自分の勘を信じてしまったばっかりに)

ゆり(ごめんなさい、棗くん…。あたしのミスだわ…)

日向(もういい…。もういいよ、恭介)

日向(お前が頑張ってたのは、みんなが見てた…)

日向(誰一人、お前を責めたりなんかしねえよ…)

日向(もう打たれてもいい…。もう、楽になっちまえよ、恭介…)

恭介「はぁ…はぁ…」

恭介(まさに崖っぷちってやつだな…)

恭介(でも、まだだ…)

恭介(手も足もまだ動く…。別に、右腕が千切れて投げれなくなったわけじゃない…)

恭介(真人は目の覚めるような、満塁ホームランを打ってくれた)

恭介(来ヶ谷は、足でも守備でも打席でも何度も活躍してくれた)

恭介(三枝も、俺なんかよりよっぽど相手を翻弄してくれた)

恭介(西園は初心者のはずなのに、ヒットも打ったし、ダイビングキャッチまで見せてくれた)

恭介(ゆりっぺは全打席ヒット打って、何度も俺を助けてくれた)

恭介(野田も全力疾走でホームに帰ってきたり、体を張って逆転を阻止してくれた)

恭介(ユイだって、勇気を出して、斉藤の球に立ち向かった)

恭介(日向も俺が怪我した直後に二点タイムリーを打ってくれた)

恭介(それにここまで、応援団のみんなの声援に何度も助けられた)

恭介(みんなの応援が無けりゃ、とっくに痛みに負けてたかもしれない)

恭介(負けない…負けてたまるか…!)

恭介(この試合に勝とうと全力で頑張ってきた、みんなの想いを無駄にはしない…!)

恭介(たかがこんな、痛みに…!自分に…!)

恭介「負けて、たまるかあああああっ!!」

恭介(右肩が悲鳴をあげる。意識が途切れそうになる)

恭介(それでも…!)

ビュッ!

ズバンッ!

恭介「はぁ…はぁ…」

恭介(ボールは真っ直ぐ、野田のミットに収まった)

野田「ぐっ…!?」

ゆり「え…?」

日向「な…」

主審「……………」

恭介(みんなが息を呑んだ。主審さえも、信じられないという感じで、目を見開いている)

恭介「…審判、コールはまだか…?」

主審「あ、ああ…!ストライクっ!!」

ユイ「うそ…。は、速い…」

かなで「直井くん!球速は…!?」

直井「あっ…。は、はい!」

かなで(直井くんがスピードガンを構える)

かなで(見間違えじゃなかったら、さっきの球は…)

恭介「うおおおおああっ!!」

ビュッ!

ズバンッ!

主審「ストライクっ!!」

直井「ば、馬鹿な…。145km/h…」

かなで(やっぱり…。球速が戻ってる…)

かなで(最初の頃と、同じ速さにまで…!)

恭介「うおおおおああっ!!」

ビュッ!

バッター「このっ…!」

ブゥン!

ズバンッ!

主審「ストライク!バッターアウトっ!!」

ゆり「空振り、三振…」

岩沢「棗のやつ…。この土壇場で球威が戻った…」

遊佐「痛みが、消えたんでしょうか…?」

椎名「いやそんなはずがない…。とっくに倒れてもおかしくない…。それくらい疲労が溜まっているはすだ…」

竹山「なら一体、どうして…」

沙耶「…理屈じゃないのよ。ただ、気合で痛みを押し殺してるんだわ…!」

関根「そ、そんなことあり得るんですか!?」

沙耶「あり得てるから、ああなってるんじゃない!じゃないと、説明つかないわよ!」

謙吾(更に、恭介が投げる…。またも、相手バッターが空振っている…!)

TK「Unbelievable…!!」

ひさ子「すげえ…」

入江「あんなに、辛そうなのに…。まだあんな球が投げれるなんて…」

クド「みなさん!応援しましょう!恭介さんを!」

クド「恭介さんは、まだ諦めてませんっ!」

藤巻「お、おおっ!」

大山「一番辛い恭介くんが、諦めてないのに、僕たちが諦めるわけにはいかないよ!」

松下「恭介ええぇぇーー!!頑張れーーー!!」

高松「あと二人ですよーーー!!」

謙吾(能美の言葉に呼応して、みんなが一斉に声をあげる…!)

謙吾「頑張れっ!頑張れ、恭介ええぇぇーー!!」

恭介「うおおおおああっ!!」

ビュッ!

ズバンッ!

主審「ストライク!バッターアウトっ!!」

謙吾(みんながますます声をあげる…!もう何を言ってるのかすら分からないくらいだ…!)

謙吾(涙が滲んでいるやつもいる…。あの絶対絶命の状況から、あと一人までたどり着いた…!)

謙吾(だが、最後のバッターは…)

斉藤「……………」

恭介(ツーアウト、満塁。一打、サヨナラ…)

恭介(最後はやっぱり、てめえか、斉藤…!)

ゆり「タ、タイム!」

恭介(ゆりっぺがタイムをかける…)

恭介(みんなが集まってくる。なんとか息を整えながら、みんなを見つめる)

恭介「よぉ…。お揃いでどうした?」

ゆり「どうしたもこうしたもないわよ!棗くん、あなた痛くないの?」

恭介「ああ…。そんなもん気にならなくなってきた」

恭介「野球ってのはやっぱ、ガッツと勇気と友情のスポーツみたいだな…」

恭介「みんなの応援のお陰で…、身にしみて感じたぜ」

ユイ「棗先輩…」

葉留佳「さすがというか、なんというか…」

美魚「とんでもない根性ですね、恭介さん」

来ヶ谷「まったくだ…。おねーさんの想像以上だよ」

恭介(みんなが呆れたように笑う)

野田「だが、次は…」

ゆり「そうよ。初回の球でも、ギリギリだった斉藤…」

ゆり「棗くん、抑える自信あるの?」

恭介(そう、敬遠も許されない。ここで斉藤を抑えなければ、全てが水の泡だ)

恭介(だが、抑える手はある…!)

恭介「ああ…。この時のために取っておいた切り札がある」

恭介「斉藤を抑えるには、この球しかない…!」

ゆり「切り札…?」

恭介「その名も…『ライジングニャットボール』だ…!」

真人「!?」

ユイ「ライジングニャットボール…?」

野田「な、なんだその球は…!?」

恭介「リトルバスターズのエース。俺の妹、棗 鈴が得意とした球…。最速150km/hを超える速球だ」

ゆり「150km/hですって…!?」

真人「待てよ、恭介!お前、ライジングニャットボールが投げれるのか!?」

恭介「言ったろ?鈴が投げれる球種を、兄貴の俺が投げれないのはかっこ悪いってな」

恭介「長い時間をかけて、なんとか習得したんだよ」

ゆり「そんな球投げれるなら、なんでもっと早く使わなかったのよ!?」

恭介「使いたくても、使えなかったんだ…」

恭介「ライジングニャットボールは、本来、鈴にしか投げれない球だ」

恭介「腕や指、体全体にかかる負担が半端無くてな」

恭介「俺には、3球までが限界だ。それ以上は投げれないし、それ以降投げることもできなくなる」

ユイ「3球…」

恭介「そう、3球なら三振でアウトが取れる」

恭介「だから、あと一人で勝負が決まるギリギリまで温存したんだ」

ゆり「……………」

ゆり「ほんとに馬鹿ね、あなたって…」

恭介(心底呆れたと言わんばかりに、ゆりっぺが大きくため息をついた)

恭介(でも、どこか笑っていた)

ゆり「棗くん、あえて聞くわ。今の状態で、投げれるのね?」

ゆり「ライジングニャットボールってやつを…!」

恭介「もちろんだ、投げてみせるさ。絶対にな…!」

恭介「だから野田。ちゃんと受け止めてくれよ?」

恭介「今から投げるのは、今までで一番速い球なんだからな」

野田「恭介…」

野田「フンっ…!どれだけ速い球だろうと、必ず受け止めてみせる!」

野田「キサマには負けんっ!」

美魚「この状況ですら、恭介さんへの対抗意識を燃やしますか」

葉留佳「野田くんってある意味、ものすごい一途だよね」

恭介(みんなが盛り上がってる中、ふと日向の様子がおかしいことに気づいた)

恭介(まるで会話にも入ってこずに、どこかぼーっとしている)

恭介「どうしたんだ、日向?」

日向「……………」

ゆり「日向くん?」

日向「えっ?あ、ああ悪い…!なんだ?」

ゆり「なんだじゃないわよ。どうかしたの?」

日向「いや、昔似たようなことがあったっけってな…」

恭介「昔…、生きてた頃の話か?」

日向「ああ…。すげー大事な試合だったんだ…」

恭介(日向のグラブを持つ手が、震えていた)

恭介「お前…、手が震えてるぞ」

日向「え、そっか…、変だな…」

恭介「…何があったんだ…?」

恭介(生前の話は、軽々しく聞いていいようなものじゃない)

恭介(だが震えている日向を、放置すべきじゃない)

恭介(だから覚悟を決めて、日向の生前に触れることにした)

日向「わかんねえ…。よく覚えてねぇんだ」

日向「野球部でさ、みんなで甲子園目指しててさ…」

日向「死にそうに暑くてさ、口ん中、泥の味しかしなくてさ…。吐きそうでさ、そういうのは覚えてる」

日向「最後の地方大会の最終回。俺は守備固めでさ、その回からセカンドにいてさ…」

日向「一打サヨナラの状況で、簡単なセカンドフライが上がったんだ…」

日向「少し後ろへ下がれば、悠々取れるボールだった」

日向「ただ、それを取れたのか、落としちまったのか…。それだけは思い出せねぇんだ…」

恭介「……………」

日向「いや、取れてたんなら、忘れてるわけねえよな…。きっと取れなかったんだ」

恭介(何か嫌な予感がした)

恭介(この感覚は…)

恭介(もしかして…。あの時の岩沢同様、日向は今まさに…)

ユイ「ひなっち先輩…。消えるんですか…」

恭介(ユイの言葉にはっと顔を上げる日向)

恭介(日向だけじゃない、ユイの言葉でみんながその意味を理解する)

ユイ「この試合に勝ったら、ひなっち先輩は、消えるんですか…?」

日向「消えねぇよ…!はっ…なんで…」

日向「ずっとこの世界にいるんだ、こんなことぐらいで消えるかよっ!」

恭介(そう言って、無理に笑ってみせる)

恭介(だが、この世界にいるものは誰しも未練や後悔を抱えている)

恭介(この世界に留まる理由がある)

恭介(もし、日向の未練や後悔がそれなら…)

恭介(例えば、セカンドフライを取れなかったのが理由なら…)

ゆり「…日向くん。もしセカンドフライが上がったら、絶対に取らないこと」

日向「え…?」

ゆり「いいわね?」

日向「いや、何言ってんだよ!ツーアウト満塁なんだぜ!?」

日向「取れば勝てるのに、なんでそんなこと…」

ゆり「これは命令よっ!!」

日向「………っ」

恭介(ゆりっぺの声が響いた…。こんなゆりっぺの声は聞いたことが無い)

恭介(ただただ悲痛で、そして、必死な声だった…)

ゆり「あなた言ったじゃない!あたしの味方だって!あたしを一人にしないって!」

ゆり「もう二度と、一人ぼっちにしないって…!」

ゆり「消えるなんて許さないわ!神との戦いは、まだまだ始まったばかりなのよ!」

ゆり「あなたはずっと、あたしの傍に居続けるのよ…!」

ゆり「約束を、破る気なの…!?」

日向「ゆりっぺ…」

恭介(沙耶の言葉が甦る…)

沙耶『普段のゆりはどこもあたしたちと変わらない、普通の女の子だもの』

沙耶『本当はすごく優しいのよ。多分、みんなが想像してる以上にね…』

恭介(戦線は、ゆりっぺと日向から始まったと以前聞いた)

恭介(まだゆりっぺがリーダーじゃなかった頃…。普通の女の子だった頃)

恭介(一人でも神に抗うと誓ったゆりっぺを、日向が支えることにしたんだろう)

恭介(それが戦線、そして神との戦いの始まり…)

恭介(俺と同じだ…)

恭介(俺がどんな時でも自分を保っていられたのは、俺を支えてくれるみんながいたから)

恭介(ゆりっぺがリーダーとして、みんなを率いていられたのは、日向という存在がいたから)

恭介(何があっても、自分の味方だと、一人にしないと約束してくれた)

恭介(そんな相手がいたからだったんだ…)

日向「いや、でもさ…。せっかくみんなでここまで頑張ったってのに…」

日向「それってつまり、俺一人なんかの為に、勝ちを捨てるってことなんだぜ…!?」

日向「それでもいいのかよ…?いや、よくねぇだろ!絶対…!」

恭介(ゆりっぺの怒りが予想外のものだったのか、日向がそう口にする)

恭介「…なんかってなんだよ、日向」

日向「えっ…」

恭介「確かに、俺たちはみんなでここまで頑張ってきた」

恭介「俺も本気で、勝ちたいと思って投げてきた」

恭介「本気で取り組むから、どんな遊びだってより楽しくなる」

恭介「どんなに辛いことでも、過ぎ去った後にかけがえのない思い出になる」

恭介「だから俺は、遊びもオペレーションもなんだって本気でやってきた」

恭介(語気が荒いのがわかる…。それでも、日向のさっきの言葉だけは許せない)

恭介(自分の存在を軽視する、俺なんかって言葉だけは、許せない!)

恭介「でもな、それは一人でやっても意味が無い!」

恭介「日向も含めて、『みんな』でやるから楽しいんだ!」

恭介「『みんな』でやるから、かけがえのない思い出になるんだ!」

恭介「お前が欠けちまったら、俺たちは何やっても楽しくなくなるんだよっ!」

日向「恭介…」

恭介「神の情報とか!この試合の勝敗とか!そんなものよりも…!」

恭介「ずっとずっと…お前の方が大切なんだよ!!」

恭介「だから俺なんかって言うなっ!お前じゃないと駄目なんだっ!日向!」

日向「……………」

日向「なんだよ…それ…」

日向「ゆりっぺも恭介も、俺がどういう人間なのか…」

日向「どういう生前を生きてきたのか知らないから、そんなこと言えるんだよっ!」

恭介(俺やゆりっぺ負けないくらい、強い口調で反論する)

恭介(まるで、今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように…)

日向「俺は屑なんだっ!人の心なんてわからない…!どうしようもない屑野朗だったんだぞ!」

日向「そりゃゆりっぺには、一人にしないって言ったよ!」

日向「恭介にも色々と世話焼いたよ!けどなっ…!」

日向「けど俺は…お前らから、そこまで言って貰えるような、そんな大層な人間じゃ…!」

ユイ「大層な人間ですよ!!」

恭介(日向の声を、ユイがもっと大きな声で遮った)

日向「…ユイ?」

ユイ「あたしは、生前一人じゃなにも出来ない役立たずでした」

ユイ「お母さんに、迷惑掛けっぱなしの駄目な子でした…!」

ユイ「そんなあたしが斉藤からヒット打てたのだって、ひなっち先輩が励ましてくれたからです」

ユイ「口は悪かったけど、熱心にバッティングを教えてくれたからです」

ユイ「だからあたしは、ひなっち先輩の事を屑野朗だなんて絶対に思いません」

ユイ「この試合に勝つことよりも、大切な人だと胸を張って言えます…!」

恭介(日向を真っ直ぐに見つめ、ユイがそう言い切った)

日向「あ…」

野田「…俺も、同意見だ」

日向「…野田、お前まで…」

野田「ふんっ…。なんだかんだで、キサマとの付き合いは長いからな」

野田「こんなところで消えていいような奴じゃない…。それくらい、俺にだってわかる」

恭介(ユイと野田に続いて、真人たちも日向に歩み寄る)

日向「まさか…、お前らも、か…?」

真人「へっ。わかりきった事聞くんじゃねえよ」

真人「俺はな、仲間と消えてお別れなんて最後はもうごめんなんだよ」

真人「だから俺も、消えるなんて許さねえぞ、日向」

美魚「新米のわたしが言うことでは無いかもしれませんが…」

美魚「日向さん、あなたの居場所は『ここ』だと思いますよ」

葉留佳「私も、日向くんとの付き合いはまだ短いけどさ。でもやっぱり消えて欲しくないな~」

葉留佳「もっともっと仲良くなりたいからネ♪」

来ヶ谷「そもそも私は、セカンドも余裕で守備範囲だ」

来ヶ谷「フライが上がっても、安心して落とすといい。日向くん」

日向「……………」

恭介(日向の瞳が震えている…)

恭介(俺たちの言葉は、日向に届いているんだろうか…?)

恭介(日向は今、何を考えているんだろうか…?)

日向「…お前ら、本当にバカだな」

日向「消えねぇって言ってんのに、そんなに念押しやがって…」

日向「平気で、そんな恥ずかしいこと口にしやがって…」

日向「バカだよ、ほんとにさ…」

ゆり「日向くん…」

日向「………………」

日向「…わかった。もしセカンドフライが上がっても取らねぇよ。約束する」

日向「あとになって文句言っても知らねぇからな…!後悔すんなよ…!」

恭介(長い沈黙の後、日向はそう約束してくれた)

ゆり「…ええ。それでいいわよ」

ゆり「まあ、大丈夫よ。棗くんが、セカンドフライなんて上げさせないくらい、バッチリ抑えてくれるから!」

恭介(ゆりっぺが茶化すように笑いながら、俺にウインクを飛ばした)

恭介「おいっ!そこで俺に責任転嫁かよ!?」

ゆり「なによ?勝つに越したことは無いんだし、これだけ手こずったんだから最後くらい格好良く締めなさいよ」

ゆり「あ、これ命令ね」

ユイ「鬼ですね!ゆりっぺ先輩!」

葉留佳「神様もドン引きしちゃいそうだネ!」

野田「だが、それがいい…!」

来ヶ谷「よく訓練されているな、野田くん」

恭介(みんなが笑う。日向の顔にも笑顔が戻る)

日向「………ったく」

日向「よし、恭介!最後の一人だ、任せたぜ!」

ゆり「抑えて勝つわよ!いいわね!」

恭介「ああっ!!」

恭介(日向とゆりっぺ、そしてみんなからも背中を押される)

恭介(タイムが解除され、これでマウンドには再び俺一人…)

斉藤「……………」

恭介(息を整え、強敵との最後の勝負に赴く)

恭介(日向はセカンドフライが上がっても、取らないと約束してくれたが…)

恭介(万が一ということもある。俺が野田のミットに、ボールを収めて勝つのがベストだ)

恭介(やってみせる…!日向のために、みんなのために…!)

恭介(俺の手で勝負を決める…!)

恭介(セットアップポジションから投球動作開始)

恭介(イメージの中の鈴のフォームと、俺自身のフォームを重ねる)

恭介(行くぜ…!)

恭介「…真・ライジングニャットボーーール!!」

ゴオッ!!

ズバンッ!!

野田「ぐぅ…!」

斉藤「………!」

主審「ス、ストライクっ!」

ワアアアアア!!

恭介(どうだ…。斉藤…)

恭介(これが俺の妹、鈴の得意とした球…)

恭介(そして俺の全力…。俺をここまで支えてくれた、みんなの力だ)

恭介(この球で、てめえを抑える…!)

直井「150km/h…!な、なんだあの球は…!?」

直井「とっくに限界だったはずなのに、今にも倒れそうだったのに…!」

直井「なぜここに来て、今日一番速い球が投げれるんだ…!?」

かなで「……………」

かなで(…決まってる。棗くんは追い詰められれば追い詰められるほど、燃える人だからだ)

かなで(絶対に諦めようとしない、どんな壁からも逃げようとしない)

かなで(みんなのために、自分の限界を乗り越え続ける)

かなで(だから、あたしも棗くんを信じた)

かなで(棗くんなら、きっとみんなを救える)

かなで(どんな理不尽な運命だろうと…)

かなで(変えることができる…!)

恭介「真…」

恭介(みんなの応援を力に変えて、痛みをねじ伏せて…)

恭介(投げる…!)

恭介「ライジングニャットボール…!!」

ゴオッ!!

斉藤「くっ…」

ブゥン!

ズバンッ!

主審「ストライークっ!!」

恭介「はぁ…はぁ…!」

野田「いける!いけるぞっ!恭す…!?」

恭介(ボールを返そうとした瞬間、野田がそれに気づいた)

野田「こ、これは…」

恭介(白球が血で赤く染まっている。当然だ、俺の指の皮がすり減ってめくれているんだから)

日向「恭介、お前…」

ゆり「だから、3球が限界だったのね…!」

恭介(野田が新たなボールを受け取り、俺に返す)

恭介(そして、ミットを思いっきり叩き、ど真ん中に構えた)

野田「来いっ!恭介…!あと一球だ…!」

真人「いけえーーっ!!恭介!!」

葉留佳「格好良く決めちゃえーーっ!!」

美魚「頑張って下さい!恭介さん!」

来ヶ谷「私たちがついているぞ…!」

ユイ「棗先輩…!!」

ゆり「棗くん…!!」

恭介(これで最後だ…)

恭介(血に染まる白球を強く握りしめる)

恭介(チームのみんな、応援団のみんな…)

恭介(俺たち、『リトルバスターズ』全員の想いを乗せて…!)

恭介(今日一番の速球を、野田のミットに収める…!!)

恭介(行くぜ、みんな…)

恭介(そして、理樹…鈴…)

恭介(俺に、力を…!!)

恭介(大きく振りかぶって、右から左へ体重移動)

恭介(体が、肩が、腕が、指が、悲鳴を上げる…!)

恭介(だが…!)

日向「決めろぉっ!!恭介ぇっ!!」

恭介(日向の声がそれを後押しした)

恭介「真・ライジングニャットボーーールっっ…!!!」

恭介(俺の、俺たちの全てを込めた速球が、野田のキャッチャーミットに向かう…!)

恭介(ど真ん中。だが間違いなく、最速の球…!)

恭介(決まれ…!決まってくれ…!!)

カィン!

恭介(…当てられた!?)

恭介(だが、完全に詰まらせた当たり…)

恭介(ボールは…)

恭介「なっ…」

ゆり「あ…」

日向「え…」

日向(…セカンドフライ。あの時と同じだ…)

~Hinata Side~

日向(俺には、家族が居た記憶が無い)

日向(物心がついた時にはすでに、母の兄の家で暮らしていた)

日向(義父には、二人の子供がいた)

日向(義理の兄と妹。両親は、もちろん自分の子供に愛を注いだ)

日向(俺は腫れ物を扱うように、いつでも壁を作られて育てられた)

日向(二人の子供と同じように、この親たちを『お父さん』『お母さん』とは呼べなかった)

日向(幼心のうちに、その壁を感じていたのだろう)

日向(そんな素直さの欠片も無い俺は、歳を重ねるにつれ、突き放されていった)

日向(一人で留守番なんてザラだった)

日向(家族旅行にも参加できず、与えられた食費で牛丼を食べに一人で出かけた)

日向(そんな俺がまともに育つはずもなく)

日向(家族すらも他人のようで、俺は愛を知らないまま育ち続けた)

日向(どんどん、人として大事なものを失っていった)

日向(いや、もともとそんなものは無かったのかもしれないけど)

日向(そんな奴が、人の中で暮らせるわけなくて)

日向(野球部でのある一件で、俺はミスを犯した)

日向(バレてしまったんだ。俺が『人』では無いのが)

日向(だから逃げた)

日向(逃げて、逃げて、逃げ続けた)

日向(俺は最初から、レールの上にすら乗れていなかったんだ)

日向(最初から、脱線していんだ)

日向(理不尽だ、理不尽すぎる)

日向(俺が悪かったのか?)

日向(違う)

日向(悪いのは、俺をこう育てた環境だ)

日向(俺は、悪くない)

日向(俺は、俺なりに必死に生きようとしていたのに。それだけだったのに)

日向(そんな想いすら、報われなかった)

日向(何もない。何も残らない)

日向(人としての心すら持てなかった人生)

日向(それが…、俺の人生だった)

日向(そして、ここにやってきた)

日向(あの日、俺はこの世界に生まれ落ちた赤ん坊だったんだ)

日向(まずゆりっぺに出会った)

日向(次に大山、チャー、野田、椎名っち)

日向(それが戦線の創設メンバーだった)

日向(新たな俺が…、新しい人生が始まった)

日向(仲間たちとの出逢いと別れを、何十年と繰り返してきた)

日向(何十年と、共に歩んで、俺は人の心を取り戻していった)

日向(そして、わかるようになった)

日向(他人がいて、初めて自分が存在できる)

日向(頑張ってる奴を見て、それ以上に頑張りたいと奮い立てる)

日向(それが仲間というものなんだと…)

日向(それが生きるということだと…)

日向(やっと、わかるようになったんだ)

日向(恭介、お前がこの世界に来たのはそんな時だった)

日向(だから、お前が天使から引き出したこの世界の情報ってやつを、俺はこれ以上なく信じることが出来た)

日向(すげえ奴だと思ったよ。俺はこの世界に来た時、からっぽだったっていうのに)

日向(お前はいきなり、そんな情報を掴んできたんだからな)

日向(けど、お前はそれだけじゃ終わらなかった)

恭介『ここは死後の世界だ!死んだりすることもない、常識や人智の通用しない不可解な世界!』

恭介『どれだけ不可解かは、俺よりもお前たちの方がよく知ってるだろう?』

恭介『どういう仕組みで成り立ってるのか?そもそも本当に神が創った世界なのか?興味あるだろう?』

日向『ま、まあ確かに… 』

恭介『なら暴いてやろうじゃないか!その先にはきっと誰も想像し得ない何かが待っているはず!』

恭介『未知との遭遇、例えようもないロマンが詰まってるんだ!』

恭介『どうだ!?すっげー面白そうだろ!?』

ゆりっぺ『あ、あなたっていう人は…。じゃあなに!?自分が楽しむために神と戦うっていうの!?』

恭介『もちろん、俺の望みを叶えることが前提にあるさ』

恭介『そのついでに楽しむ。何かに取り組むなら、楽しむことを忘れちゃ意味がないからな!』

日向(何言ってんだこいつは…って本気で思った)

日向(すげえ奴ってのを通り越して、ただの馬鹿なんじゃねえのか?って思った)

日向(この世界に来たってことは、お前にもなにか理不尽な過去があったはずなのに…)

日向(そんな影を微塵も感じさせずに、怖いくらい真っ直ぐに前を向いていた)

日向(俺とは、正反対だ…)

日向(知りたくなった)

日向(こいつがただの馬鹿なのか、それとも本当にすげえ奴なのかを)

日向(けどその答えを、恭介はすぐに示しやがった)

恭介『俺にとってリトルバスターズとは、「強い絆によって結ばれた最高の仲間」を意味する言葉に他ならない』

恭介『だから俺は戦線名も「リトルバスターズ」にした。ただ共に戦う同士ってだけじゃあ味気ない』

恭介『お前たちともそんな関係を築けるようになれればいいなって、そんな願いを込めたんだ』

日向(歯の浮くような台詞なのに、その言葉は確かに俺に。いや、俺たちに届いてた)

日向(本気なのが伝わった。こいつが本気で、そう思っていることが、はっきりと伝わってきた)

日向(そう、お前はいつもそうだったよな)

日向(オペレーションだって、ボロボロになるまで体を張ってた)

日向(一生懸命で、なにをするにも本気だった)

日向(何度も楽しい馬鹿騒ぎを起こしやがった)

日向(俺も楽しかった。みんなも楽しそうだった)

日向(なんで、お前はそんなに強いんだ?)

日向(どうしたら、そんなに風に生きられるんだ…?)

日向(それから…運命の悪戯ってやつなのか。恭介たちと野球をすることになった)

日向(恭介もどうやら、生前野球をしていたらしい)

日向(俺とは正反対な奴だと思ってた恭介と、やっと見つけた共通点だ)

日向(だから聞いてみた。なぜ、恭介が野球を始めたのかを…)

恭介『当時俺は、就職活動に奔走してたんだけどな…』

恭介『ふと、なにやってんだろう、って思う時があった』

恭介『これからサラリーマンとしてあくせく働いていくんだろう…、それだけは確かだ』

恭介『でも、それは流されているだけだ』

恭介『周りがそうし始めているから、自分もなんとなくそうしようってだけだ』

恭介『そこには自分がいない。自分自身というものがない』

恭介『体だけあっても、中身はからっぽの人形のようじゃないか。そうは思わないか?』

日向『まあ、なんとなくはわかるが…』

日向(痛いとこついてくれるぜ…。からっぽの人形って、まさに生前の俺じゃねぇか)

日向(でもな、恭介。お前にはわからないかもしれねぇけどな…)

日向(ただ生きることに精一杯で、自分ってものすら持てずにいる奴らだっているんだよ)

日向(少なくとも俺はそうだった。それが、俺の理不尽だった)

日向(俺にとっての野球は、生きるための手段でしかなかった)

日向(でも、お前は…)

恭介『自分だけでなにかするより、みんなでやるほうが楽しいだろ?』

恭介『だから野球なんだよ。青春の王道スポーツだし、なんか起こりそうで燃えるじゃねえか!』

恭介『チーム全員で一つのことに取り組み、共に泣き、共に笑い、共に歓喜する!そして、多いに楽しむ!』

恭介『それは俺の行動理念であり、それこそがリトルバスターズの流儀だ』

恭介『最初にも言ったろ?お前たちともそんな仲間になりたいって』

恭介『だから、野球をやることにしたんだよ』

日向(なんだよ…それ…)

日向(俺は生きるために、野球を始めたのに)

日向(お前は、そんな理由で野球を始めたのかよ)

日向(本当に、何もかも恭介は俺とは正反対だ)

日向(自分のことで精一杯だった俺と)

日向(自分だけじゃなく、周りの人間まで巻き込んで、楽しいことをやってた恭介)

日向(俺もそういうふうに生きられたら、どんなに良かったか…)

日向(なあ、恭介…)

日向(生前の俺は、人の心なんて持ってない、最低な屑野朗だったけどさ)

日向(もし、もし…。生前、お前と出会えてたら、俺がお前の近くにいたら…)

日向(俺のことも、野球に誘ってくれたのか…?)

日向(楽しいことを、教えてくれたのか…?)

日向(なあ、答えてくれ…)

恭介『何言ってんだよ、日向。お前大事なこと忘れてるぜ?』

日向『えっ?』

恭介『明日は野球の試合だぞ。確かに、生前に日向と野球出来なかったのは残念だが』

恭介『その分、明日思いっきり楽しめば良いじゃねえか!そうだろ?』

日向(………………)

日向(ああ、そうか…)

日向(俺はきっと、恭介のあの言葉を聞いた時、すでに…)

日向(すでに、満足していたんだ…)

ーーーーー

ーーー

日向(落下点に入る。グラブを掲げる)

日向(簡単なセカンドフライ…。あの時、取りそこねたのと同じ)

日向(けど、今度は落とさない)

日向(後は、落ちてくるのをただ待つだけ…)

ゆり「日向くんっ!!」

恭介「日向ぁ!!」

日向(ゆりっぺと恭介が、俺の名を呼び、走り出していた)

ゆり「取っちゃだめっ!!」

恭介「取るな、日向ぁーー!!」

日向(取るな…?何言ってんだよ、俺がこれを捕れば勝てるんだぜ?)

日向(みんなあんなに頑張ってたじゃねぇか)

日向(恭介なんか、フラフラになっても投げ続けたじゃねぇか)

日向(みんなで、勝とうと頑張ったじゃねぇか)

日向(この試合に勝つより、大事なことなんてあるわけが…)

恭介「日向ぁーーー!!」

ゆり「消えないでっ!!消えちゃ駄目っ!!」

恭介「俺は、俺たちはっ、お前に消えて欲しくないっ!!」

日向「…!」

ゆり『消えるなんて許さないわ!神との戦いは、まだまだ始まったばかりなのよ!』

ゆり『あなたはずっと、あたしの傍に居続けるのよ…!』

恭介『神の情報とか!この試合の勝敗とか!そんなものより、ずっとずっとお前の方が大切なんだよ!!』

恭介『だから俺なんかって言うなっ!お前じゃないと駄目なんだっ!日向!』

日向(やめろ…)

ユイ『この試合に勝つことよりも、大切な人だと胸を張って言えます…!」』

野田『こんなところで消えていいような奴じゃない…。それくらい、俺にだってわかる』

日向(やめてくれ…)

真人『俺はな、仲間と消えてお別れなんて最後はもうごめんなんだよ』

真人『だから俺も、消えるなんて許さねえぞ、日向』

美魚『日向さん、あなたの居場所は「ここ」だと思いますよ』

葉留佳『私も日向くんとの付き合いはまだ短いけど、でもやっぱり消えて欲しくないな~』

葉留佳『もっともっと仲良くなりたいからネ♪』

来ヶ谷『そもそも私は、セカンドも余裕で守備範囲だ』

来ヶ谷『フライが上がっても、安心して落とすといい。日向くん』

日向(俺は、俺は、お前たちに…)

日向(そう言って、もらえるような…)

日向(甦ってくる。俺の頭の中に、今までの時間が…)

日向(戦線のみんなと、すごした日々が…)

日向(ゆりっぺ、大山、チャー、野田、椎名っち…)

日向(遊佐、TK、藤巻、高松、松下五段、竹山…)

日向(岩沢、ひさ子、関根、入江…)

日向(真人、謙吾、来ヶ谷、クド、三枝、西園…)

日向(恭介、ユイ…)

日向(俺は…)

日向(俺は、まだ…)

日向(掲げていたグラブを、俺は…)

日向(そっと降ろし…)

ユイ「取るなって言ってんだろがぁーーっ!!」

ずがんっ!!

日向「ぐあっ…!?」

日向(急になにかに吹っ飛ばされる)

日向(そのまま、俺を締め上げているのは…)

日向(ユイだった…)

~Kyosuke Side~

日向「てめぇ…いきなりなにしやがんだよ、ああぁぁああぁーーっ!?」

ユイ「人の言葉無視して、取ろうとするからじゃああぁぁーー!!」

日向「だから途中でグラブ降ろしてただろうがああぁぁーー!!」

恭介(逆ギレにあい、チョークスリーパーを食らうユイ)

ユイ「ぎあああぁぁぁーーー!!タップ、タップですぅ!」

日向「いいや許さねぇ!今度という今度はマジで許さねぇからな、このヤロおおぉぉ…!!」

ユイ「死ぬ、死ぬぅ!ヘルプ、ヘルプっーー!!」

恭介「……………」

ゆり「……………」

恭介(なんだこれ…)

恭介「なあ、ゆりっぺ。今の一瞬の俺たちの叫びは…」

ゆり「…言わないで。ってか忘れて、忘れろ。もう、怒る気すら起きないわ…」

恭介「だな…」

恭介(日向が消えるんじゃないかと、無我夢中で駆けたってのに、ユイが全部持っていきやがったぜ…)

ゆり「はあああぁぁぁ………」

恭介(ゆりっぺがかつてないほど、長い溜息をついている…)

恭介「ま、まあ、日向が消えなかったんだし良かったじゃないか。なっ!」

ゆり「いや、まあ、それはそうだけど…」

ゆり「でも…」

恭介「でも?」

ゆり「最っ低の幕切れよねっ…!!」

恭介「ああ、まあ、そうだな…」

恭介(さすがにフォローの言葉が思い浮かばないぜ…)

恭介(…ん?そういや、ボールはどこいった?)

恭介(日向が捕らなかったってことは、そこらへんに転がってるはずなんだが…)

恭介(見当たらねえな…)

来ヶ谷「おや、恭介氏。なにか探しものか?」

恭介「ああ。日向が落としたボールがどこにも…」

来ヶ谷「ほう。それはずばり…」

来ヶ谷「これのことかな?」

恭介「は…?」

ゆり「え…?」

恭介(来ヶ谷が自分のグラブから、ボールを取り出す)

恭介(血で滲んだそれは、まさしく俺がさっき投げたものだ…)

恭介「ま、まさか…。来ヶ谷、お前…?」

来ヶ谷「フッ…。言っただろう」

来ヶ谷「守備範囲だとな」

恭介(そう言うと、ニッコリ笑った)

恭介「じゃあ…」

ゆり「あたしたち…」

恭介(思わず、顔を見合わせる)

主審「アウトっ!!ゲームセット!!」

日・ユ「「えっ?」」

恭介(聞き間違いじゃない…。確かに、確かに今、審判はアウトと宣告した…!)

恭介「ふっ…」

恭介「ふはははははっ!!」

恭介「やったぜ、おいっ!!」

恭介「勝ちやがったっ!!」

恭介「俺たちが勝ちやがったぜぇーっ!!いやっほぅーいっ!!」

恭介(俺が拳を上げると、みんなの歓声が一段と大きくなった)

真人「よっしゃあああーーっ!!」

葉留佳「うわぁーっ、ありえないっすよこれっ!!」

美魚「やりました…!」

野田「俺たちの勝ちだーーー!!」

ゆり「う、うそぉ…」

日向「マ、マジかよ…!?」

恭介(まさかの展開に、ゆりっぺと日向はまだ信じられないようだ)

恭介(だが…)

来ヶ谷「マジもマジ、大マジだ。ほら、このボールが目に入らぬか」

ユイ「じゃあ、本当に…!?」

立華「ええ。あなたたちの勝ちよ」

ゆり「!?」

日向「天使…!」

恭介(いつの間にか、俺たちの前に立華が現れていた)

ゆり「…なんの用よ?あたしたちが勝ったんだから、これであなたたちは何も口出しできないわよね」

立華「ええ、そうね」

立華「だから、これだけ渡しにきたの」

恭介(立華が救急箱を差し出す)

恭介「これは…」

立華「棗くん、酷い怪我してるんでしょ?だから、応急手当だけでもしておかないと」

恭介「…ああ。言われてみれば…いつつっ…!!」

立華「…忘れてたの?」

恭介「そりゃ、日向が危うく消えるところだったからな。すっかり忘れてたぜ」

ゆり「うわ…。あなたどんだけ日向くんのことが好きなのよ?」

美魚「やはり恭介さんは、王道を行くきょう×ひなですか…!?」

日向「…悪い、恭介。気持ちは嬉しいんだが、俺にそっちの気はないんだ。諦めてくれ」

ユイ「マジでホモだったんですか…引くなぁ…」

恭介「だから俺はホモじゃねえっつーのっ!!」

立華「はい」

ゆり「…え、ええ」

恭介(ゆりっぺが救急箱を受け取ると、立華はそのまま去ろうとする)

ゆり「あっ、ま、待ちなさい!あなたたちには聞きたいことが…」

立華「…そうそう。一つ言い忘れてたわ」

恭介(立華が振り返る)

立華「おめでとう、リトルバスターズ」

ゆり「…………」

恭介(それだけ言い残すと、今度こそ立華は野球部連中を引き連れて去っていった)

日向「な、なんだったんだ…?」

ユイ「本当に、救急箱を渡しに来ただけっぽいですね…」

野田「あの天使がか…?」

恭介(…ありがとな、立華)

謙吾「恭介ええぇぇーー!!」

恭介(立華と入れ替わりに、応援団のみんなが駆け寄ってくる)

謙吾「勝ったんだな!?なんだかよくわからんが勝ったんだな!?」

恭介「ああ、そうらしいな!」

ゆり「…ええ。正真正銘、あたしたちの勝利よ!」

ゆり「あたしたちは、見事!神の刺客を打ち破ったのよーーー!!」

恭介(ゆりっぺも高く手を突き上げた)

恭介(それに合わせて、みんなも盛り上がる)

沙耶「やったわね!ゆり!恭介くん!みんなっ!」

クド「みなさん、ほんとにすごいのですーー!!」

TK「Congratulations!! hoooooo!!」

遊佐「お疲れ様です…。おめでとうございます」

椎名「見事なり…!」

ひさ子「いやぁ、なんかすごいもん見た気分だな」

関根「ひさ子先輩、途中から涙目で応援してしたもんね~♪ぐふふ」

ひさ子「な、何言ってんだよ!関根!一番号泣してたのはお前だろうが!」

関根「いやいやいや!確かにちょ~っと泣いちゃいましたけど。一番は絶対みゆきちでしたって!」

入江「そんなことないよ!しおりんなんか、鼻水流しながら泣いてたのに!」

大山「いや、一番は僕だよ!途中からもう半分記憶無いからね!」

藤巻「お前は、なにを張り合ってんだよ!」

高松「本当にすごい戦いでした!」

松下「ああ、みんなの勇姿はしかと目に焼き付けたぞ!」

恭介(みんなが次々と声をかけてくれる)

恭介(岩沢は…)

岩沢「ユイ、よくがんばったな」

ユイ「岩沢さああん…!!あだじ、あだじ頑張りまじだあっ…!!」

恭介(号泣するユイを抱きしめていた…!)

日向「また泣いてのんかよ、ユイのやつ…」

恭介「ユイ。嬉しい時は笑うもんだぞ」

ユイ「わがっでまずけど、気が抜けでええ…!!」

日向「やれやれ…」

岩沢「ふふっ…。棗、みんな、おめでとう」

恭介「ああ。本当にみんなありがとうな」

恭介「みんなの応援のおかげで、最後まで投げれたぜ!」

恭介「この勝利は、俺たちリトルバスターズ全員のものだ!!」

恭介「だよな!ゆりっぺ!」

ゆり「ええっ!あたしたちみんなの勝利よっ!!」

真人「ようし!胴上げだーーっ!!」

謙吾「おうっ!!」

恭介「え、おおっ…!?」

恭介(真人と謙吾に抱え上げられる)

みんな「「「わーっしょいっ!!わーっしょいっ!!」」」

みんな「「「わーっしょいっ!!わーっしょいっ!!」」」

恭介「いやっほぅーいっ!!でも、痛えっ!?」

恭介「ちょっとタンマっ!!マジでストップ!!ストップ!!」

真人「ああ、そういや恭介は怪我してたな」

謙吾「くっ…!これでは心置きなく胴上げ出来ないな」

恭介「ふぅ…。いや、胴上げなら相応しい人物がいるだろ」

日向「だな!」

沙耶「そうね!」

恭介(みんながその人物に目を向ける)

ゆり「えっ…?」

大山「突撃ぃーー!!」

ゆり「ちょっ!?ま、待ちなさいって!う、うわぁっ!!」

みんな「「「わーっしょいっ!!わーっしょいっ!!」」」

みんな「「「わーっしょいっ!!わーっしょいっ!!」」」

ゆり「こ、こらっ!あたしスカートなのよ!?」

ゆり「見える!見えちゃうって!ってか男子触んなーーっ!」

日向「聞く耳持つかよっ!」

恭介「このまま胴上げで校内一周だっ!」

恭介「俺たちの勝利の宴を始めようぜ!!」

みんな「「「おおーーーっ!!」」」

ゆり「降ろして!降ろせって!リーダーの言うことくらい聞けーーっ!!」

恭介(一人、一人交代で宙を舞いながら、胴上げはいつまでも続いた)

恭介(ゆりっぺもなんだかんだ楽しそうに笑っていた)

恭介(当然、他のみんなもだ)

恭介(俺たちは確かに勝った。神の試練を乗り越えたんだ)

恭介(そうして、まだまだ続いていくんだろう)

恭介(みんなが集まって、日々過ごしていく、この騒がしい日常は)

直井(……………)

直井(棗…恭介…)

直井(あの状態で、最後に投げたのは155km/h…)

直井(やつは、危険だ。注意しなければならない)

直井(僕が、神となるために…)

ーーーーー

ーーー

恭介(その日の夜、自室のベッドにて)

恭介「いつつ…」

日向「大丈夫か、恭介?」

恭介「ああ。試合といい、胴上げといいちょっとはしゃぎすぎちまったぜ」

日向「ははっ、まあな」

日向「結局、胴上げに夢中で次の試合すっぽかして不戦敗」

日向「あの斉藤とかいう奴も、いつの間にかどこにもいなくなってたからなぁ」

恭介(終わってみれば、神の情報を引き出すという、当初の目的は達成できなかった)

恭介(球技大会で優勝することもできなかった)

恭介「でも、いいんじゃないか。今日の試合で、確かに残ったものがあるだろ」

日向「お前のことだから、仲間との絆とか言うんだろ?」

恭介「おお、ビンゴだぜ!日向!」

日向「だろうな。ほんっと、わかりやすいぜお前」

日向「…なあ、恭介。お前あん時、止めようとしてくれたよな」

恭介(あん時っていうのは、セカンドフライのことだろう)

恭介「ああ」

日向「しかも、消えてほしくないって言ってくれてさ…」

日向「なんつーか、その…すげー嬉しかったぜ」

恭介(日向は話を続ける)

日向「言ったろ。俺、地方戦の最終回、守備固めで入ってさ」

日向「簡単なセカンドフライを落としちまった」

恭介「やっぱ落としてたのか」

日向「ああ。それで逆転サヨナラ」

日向「チームはさ、特に三年生にとっては最期の夏だったし、すげー練習してきててさ…」

日向「夜間にも練習できるように、町ぐるみで募金を募ってライト設置したりしてさ…」

日向「応援団まで親たちが作ってくれて、最強の年だって騒がれてさ…」

日向「そういうのを、俺一人が全部台無しにした…」

日向「そもそもどこにも居場所が無かったから、逃げるように野球やってたのに…」

日向「結果は正反対になっちまった…」

日向「その後は、どこに行っても疫病神扱いでさ…」

日向「チームメイトだった奴の親から、あの子のせいで…みたいに言われるんだぜ…」

日向「もうどんなツラ下げて生きていけばいいのか、わかんなくなってさ…」

日向「精神的に追い詰められてさ…」

日向「親切そうに俺の前に現れたOBに、手を出してはいけないものを渡された…」

日向「一度でいいから試してみな、それで楽になれるからって」

日向「格好の逃げ道だったんだ」

日向「ネガティブなことを考えなくなる」

日向「ひたすらハッピーになれる」

日向「最高に都合が良かった」

日向「でも、人としてはお仕舞いだ…」

日向「俺の人生ってのは、そこで終わっちまったんだ…」

日向「でも、そんなさ、簡単に逃げちまった軽蔑されるべき生き方をした俺でもさ…」

日向「この世界では、それなりに誰かのために居られてんのかなって…いつも不安でさ」

恭介「日向…」

日向「ああ。俺がお前のルームメイトに名乗りを上げたのも、ユイにバッティング教えたのも…」

日向「まあほとんどは…それが理由だった」

日向「結局、俺は自分のために、恭介やユイに親切にしただけだったんだよ」

日向「ただの、偽善者ってやつさ…」

恭介「…それの、何が悪いんだ?」

日向「えっ、だって…」

恭介「日向が自分の為に、俺やユイに親切にしてくれたんだとしても」

恭介「俺やユイは日向に助けてもらった。それは、確かな事実だ」

恭介「それに、今日のことを思い出してみろ」

恭介「みんなが日向に、消えてほしくないって言ってただろ」

恭介「みんな日向のことを信頼してる」

恭介「大切な仲間だと思ってる」

恭介「それでいいじゃねえか」

日向「…ああ、だな」

日向「正直今でも、驚いてんだけどな」

日向「まさかゆりっぺや野田まで、あんなふうに言ってくれるなんてな」

恭介「そんなに意外か?」

日向「長い付き合いなだけに、逆にな」

日向「でも、やっぱ、すげー嬉しかったぜ…」

日向「…ありがとな、恭介」

日向「あの時、お前のルームメイトに名乗りを上げて良かったぜ」

恭介「ああ。俺も、名乗りを上げてくれたのが日向で良かった」

恭介(なんとなく見つめ合ってしまう)

恭介(そして、どちらからともなく拳を付き出した)

恭介「これからも頼りにしてるぜ、親友」

日向「…ああ、任せておけよ。親友」

Episode:5 「この青春(イマ)を駆け抜けろ」 END

ー恭介の称号に「イケてる親友」が追加されましたー

今日は以上です

長い間お待たせして申し訳ありませんでした
この回は自分の未熟さが全面に出て色々と苦労しましたが
なんとか納得いけるものが書けたかと思います

テンポの良さと書こうと思ったテーマを両立させるのが本当に難しいと痛感した回でした

前からお伺いしたかったのですが……
過去作品はありますか?もしあったらおしえてください

ちなみに構想段階では日向も消えかけるキャラにしようかと思いましたが

このエピソードのテーマ的に日向が消えるのはさすがにまずい
今後の展開的に日向は絶対に必要

と考え没にしていました

もし、採用していたら
ゆり、大山、ユイ、音無の誰かを野球チームに入れる
が救済条件になっていたと思います

>>649
過去作品はありません
SSや小説を書いたのはこの作品が初めてです

>>474
ファーストはタッチする必要ないよな

>>655
すみません、完全に勢いで書いてたあたりだったのでやらかしてるのに気づきませんでした…
以後、気をつけます

それと感想ありがとうございます
時間かけて書いてると面白い話書けてるのかどうか
自分でも分からなくなってくるのでとても有り難いです

次回はついに小毬と音無登場回です

明日、夜ごろ再開します

何気に日常パートも、こんな速く再開できるのも久しぶりな気がする

みおちんが大量発生している…w

再開します

~Kanade Side~

かなで「このあたりだったはず…」

かなで(移動教室の途中)

かなで(ふと窓の外に目をやると、道端に倒れている男の人を見つけた)

かなで(でも、この世界では珍しくない)

かなで(きっとまた、人生に悔いを残した人が招かれてしまったんだわ)

かなで「いた…」

??「……………」

かなで(模範生の制服を着て、仰向けに倒れている男子生徒)

かなで(いや、倒れているというよりも…)

??「すぅ…すぅ…」

かなで(規則正しい寝息が聞こえる)

かなで「…気持ち良さそうに寝ているわね」

かなで(無理に起こすのも悪いし、とりあえず保健室まで運んであげよう)

かなで(普通の女の子なら、誰か助けを呼ぶ必要があるんだろうけど)

かなで(あたしは、ガードスキルで身体能力を強化してるから、男の人を一人で運ぶくらいなんてことない)

かなで(起こさないように、慎重に抱え上げる)

ひょい

かなで「……………」

かなで(これは、お姫様抱っこというものじゃないかしら…?)

かなで「……………」

かなで(なにか違う気がする…)

かなで(多分だけど、これは女の子が男の子を運ぶ持ち方じゃないわね)

かなで(でも、じゃあどう運べばいいのかしら?)

かなで(赤ちゃんや子どもを抱っこする感じにすれば…)

かなで(いや、この人はあたしよりずっと大きいし、前が見えなくなるわね)

かなで(となると…)

かなで「おんぶ、ね」

かなで「よいしょっ」

ひょいっ

かなで「……………」

かなで(身長差のせいで、かなり不格好なおんぶになってる気がする…)

かなで(やっぱりこういうのは、男の人の仕事なのね…)

かなで(棗くんを探せばよかったかしら?)

かなで(そんなことを考えながら、保健室を目指して歩く)

かなで「……………」

かなで(ふと、違和感を感じた)

かなで(あるはずのものが無いような…)

かなで(感じるはずのものを、感じていないような…)

かなで(そんな違和感を)

かなで「……………」

かなで(確かめるために、一度、ベンチに寝かせる)

かなで(そして、左胸に手を置いてみた)

かなで「…………!」

かなで(静かに眠り続ける、その人には)

かなで(心臓が無かった…)

~Kyosuke Side~

クド「行きますよーっ!三枝さんっ!」

葉留佳「あいよっ!カモーン、クド公っ!」

クド「真・ライジングニャットボールなのですーっ!!」

パスッ

恭介(お世辞にも、速いとはいえない球が三枝のグラブに収まった)

クド「あれ…?」

葉留佳「だめだな~クド公~♪」

葉留佳「これじゃあ真でも、ライジングでもなくて…」

葉留佳「ただのニャットボールですヨっ!!」ズビシッ

クド「ガーン!?至極直接的に言われてしまいましたっ!」

恭介(あの試合から数日。戦線メンバーの間で野球熱が高まっている)

恭介(ゆりっぺですら、沙耶とキャッチボールして遊んだりしたらしい)

恭介(普段のゆりっぺからは、考えられないが)

恭介(野球で神に一泡吹かせたのが、相当嬉しかったんだろう)

クド「おかしいですねぇ。鈴さんや恭介さんが投げると…」

クド「びしゅうーっ、すばぁんっ
て、いくはずなんですが」

美魚「びしゅうーっ、すばぁんっですか?」

クド「びしゅうーっ、すばぁんっ、ぼぎゃーんっです!」

美魚「ぼぎゃーんっですか?」

クド「はい、ぼぎゃーんっです!」

葉留佳「っておいおいおーい!?それじゃキャッチする私が爆発しちゃうじゃんっ!」

来ヶ谷「爆発してないがな」

クド「どうしたら爆発するんでしょうか?」

恭介(いや、そもそも爆発する魔球じゃない。まあ、そんな魔球も当然アリだが)

真人「やっぱクー公には、筋肉が足りてないんじゃねえか?」

来ヶ谷「クドリャフカ君の二の腕はぷにぷにだからな」

クド「はいっ!ぷにぷになのですっ!」

沙耶「ちょっとくらい鍛えてみれば?今後役に立つかもしれないわよ」

クド「そうですね~。オペレーションの時に、もしかしたら筋肉が必要になる時がくるかもしれませんっ!」

恭介(能美は特に筋肉に好意的なだけに、そんな提案にもノリノリだ)

謙吾「だが、マッチョになった能美というのは、あまり見たくない気がするな…」

沙耶「そんなマッチョになる必要なんて無いんじゃない?」

沙耶「鈴って子だって、普通の体型だったんだし」

来ヶ谷「そうだな。筋肉というものは使い方だ」

来ヶ谷「おねーさんの二の腕もぷにぷにだぞ」

恭介「来ヶ谷がぷにぷになのはなんか納得いかないけどな…」

来ヶ谷「はっはっは」

美魚「ですが、スタイルの維持にも筋肉は必要なものだと、本で読んだことがあります」

美魚「特に腹筋、背筋、胸筋などは重要みたいですよ」

葉留佳「えっ、マジマジ?筋肉つけたらスタイル良くなるの?」

葉留佳「だったら私もちょっと筋トレしようかな~」

真人「おっ!筋肉の相談なら、俺が乗ってやるぜ?クー公、三枝」

謙吾「やめておけ。どうせ真人に聞いたところで、スクワット千回とか無理なメニューを言われるだけだぞ」

真人「あ…?無理だと?」

真人「そりゃあてめぇにはできないかもしれねぇが、それくらいオレには余裕だぜ」

謙吾「…勘違いしてもらっては困るな。別に、俺が無理だと言ったわけじゃないんだが?」

真人「なんだと…?」

謙吾「やる気か…?」

恭介「ファイっ!」

真人「おらああぁぁーーっ!!」

謙吾「うおおおぉぉーーっ!!」

恭介(適当に合図を出すと、競うように高速スクワットを始めた)

恭介(ちなみに誰も見ていない)

恭介(一方)

沙耶「いくわよ!真・ライジングニャットボール!」

ずばんっ!

葉留佳「おおっ!沙耶ちゃん速ーい!」

クド「さすがなのです!沙耶さん!」

恭介「ああ。なかなか筋がいいな」

沙耶「ほんとっ!?ま、まああたしはスパイだから、これくらい当然なんだけど…!」

美魚「鈴さんと比べたらどうですか?」

恭介「全然だめだな。センスの欠片も感じられない」

沙耶「手のひら返しすぎでしょうがーーっ!!ボケえぇーーっ!!」

バキッ!

恭介「がはっ…!」

来ヶ谷「シスコン極まれりだな、恭介氏」

恭介(そんな感じで雑談してると、ふと謙吾が気になることを言い始めた)

謙吾「そういえば、結局あの斉藤はなんだったんだろうな」

謙吾「奴の痕跡を探して数日が経ったが、未だなんの情報も得られないままだ」

恭介「ああ…。NPCは誰一人として、斉藤のことを覚えていないみたいだしな」

美魚「最初からいなかったことにされた、という感じですよね」

来ヶ谷「何か手がかりを残すほど、敵も間抜けでは無いという事だろう」

恭介(斉藤マスクも塵一つ残さず消滅したらしいからな)

恭介(さすがに抜け目がない。そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないか…)

真人「ってかよ。なんで神のやつは、斉藤を用意して野球勝負仕掛けてきたんだ?」

恭介(真人が新たな疑問を口にする)

クド「ゆりさんは、恭介さんが神様に目をつけられているから、って言ってませんでしたか?」

真人「ああ。だから恭介を試そうとしてんだろ?」

真人「でも、何のために恭介を試してんだよ。そこがさっぱりわからないぜ」

謙吾「…確かに。言われてみればそうだな」

恭介(真人は、時たま鋭いことを口にする)

恭介(そのあたりは、俺も未だなんの手がかりも掴めていない事柄だ)

葉留佳「そりゃあ、やっぱなんか意味があるんじゃないの?」

葉留佳「恭介さんを試す意味がさ」

来ヶ谷「なんの意味もなく、ただ単に私たちを弄んでいるだけ、というのもなくは無いがな」

クド「神様の目的ですか…」

クド「神様も私たちと一緒に遊びたいから、というのはどうでしょうか!?」

真人「おおっ!まさに目からごぼうだな、クー公! 辻褄が合うぜ!」

沙耶「残念だけど辻褄は合わないし、目からごぼうも落ちないわよ」

沙耶「だったらなんでデーモン・ピクニックの時に、恭介くんを操ったりしたのかって話になるじゃない」

沙耶「単純に遊びたいのなら、適当なNPCにでも化けて、バトルに乱入すればいいんだから」

恭介(俺の代わりに、沙耶がそう説明した)

恭介(その通りだ。神のやり方は…正直タチが悪すぎる)

恭介(少なくとも、俺たちに友好的だとは思えない)

恭介(来ヶ谷の言うとおり、遊ぶというより弄ぶというニュアンスの方が近い気がする)

クド「そういえば、そうですよね…」

美魚「野球の時も、恭介さんにいきなり危険球を投げたりしてますからね」

恭介「だがその一方で、俺に岩沢を助けさせようともしてるんだよな」

恭介(そう。神が単純に俺たちを敵視しているというなら、話は簡単だ)

恭介(俺たちに苦難を与えて、それにより苦しむ俺たちの姿を見て愉しむ)

恭介(それが目的だと考えることができる)

恭介(だがわざわざ俺に岩沢を助けようとさせているからこそ、行動に一貫性に見えなくなっている)

恭介(俺たちを敵視しているのなら、そんなことをする必要が無いからだ)

葉留佳「えーっと、つまりまとめると神様の目的は…」

葉留佳「さっぱりわからん!ということですネ!」

ガクッ

恭介(みんなが軽くズッコケた)

真人「てめぇな、見も蓋も無い言い方すんじゃねえよ…」

葉留佳「えーっ、だって事実じゃん」

謙吾「いや、事実だがな…」

来ヶ谷「まあ、現状を正しく理解しておくというのも大切なことだよ。二人共」

沙耶「まだ神との戦いは始まったばかりだものね」

恭介「ああ、焦る必要はない。なにしろまだ小毬が来てないんだからな」

恭介「全員揃ってからが本番!まだまだチュートリアルみたいなもんだぜ!」

沙耶「どんだけ長いチュートリアルよ…」

恭介(その後しばらく談笑すると、それぞれ用事があるらしく解散することにした)

恭介(俺は、どうするかな…)

恭介(特に予定も無いので、気の向くまま歩くことにする)

恭介(すると…)

??「ほわあああああぁぁぁ………」

恭介「なんだ!?」

恭介(どこからともなく、悲鳴が聞こえてきた)

恭介(この声は、まさか…)

恭介(急いで悲鳴がした方向に向かう。確か大階段の方から聞こえたはずだ)

恭介(階段を駆け降りようと、下を見据えると…)

小毬「あ、ああう~…」

恭介(案の定、踊り場のとこでひっくり返って目を回している小毬がいた…)

恭介「おい、大丈夫か…?小毬」

小毬「うぅ…。痛いけどだいじょうぶ~…」

恭介(幸い意識ははっきりしているようだ。目立った怪我も見えない)

恭介(手を貸すと、自力で立ち上がってくれた)

小毬「ふぅ…。びっくりしたよ~」

恭介「こっちもびっくりしたぜ。お前なんで階段から転げ落ちたんだ?」

小毬「ふえ?う、う~ん、それがですね…。よくわからないんです」

恭介「わからない?」

小毬「はい…」

小毬「な~んか寝苦しいな~って思って目が覚めたら、なぜか階段の上で寝てて…」

小毬「びっくりして起き上がろうとしたら…そのまま…」

恭介「足を踏み外したってわけか」

小毬「うぅ…。はい…」

恭介「……………ぷっ」

恭介(なんとか堪えようとしたが、つい笑ってしまった)

恭介(まさか階段の上で目覚めるとはな)

恭介(なんというか、おっちょこちょいな小毬らしい)

小毬「う、うわあああん!恭介さんに笑われたぁっ!」

恭介「いや、悪い悪い!別に馬鹿にしたわけじゃないんだ」

恭介「相変わらずの小毬を見て、つい嬉しくなっちまったんだよ」

恭介(この世界に来てから、そこそこ経つ)

恭介(そのせいか、小毬とは結構久しぶりのような気もするが…)

恭介(賑やかなテンションも、大げさに半べそをかくリアクションもまるで変わっていない)

恭介(それが嬉しかった)

小毬「ふえ?そうなんですか?」

恭介「ああ」

小毬「そっか~。うん、よくわからないけど、恭介さんが嬉しくなったなら、私も嬉しいです」

小毬「あれ?でも、そういえば、私なんで…」

小毬「あの時、確かにりんちゃんと…」

恭介(今になって、ようやく状況を把握したんだろう)

恭介(なぜ自分が生きているのか、不思議に思っているみたいだ)

恭介(…わかっている)

恭介(終わる世界の最後のゆめ…)

恭介(そこでなにがあったのかを…)

恭介(だからこそ、ずっと小毬には伝えたいことがあった)

恭介「小毬…」

恭介「小毬は…最後まで鈴と一緒にいてくれたんだよな」

恭介「鈴を、見送ってくれたんだよな」

恭介「ありがとう…。鈴の兄貴として、礼を言わせてくれ」

小毬「恭介さん…」

小毬「…私は、りんちゃんが好きだったから」

小毬「一番のなかよしさんだから」

小毬「だから、私のわがままで、残ってただけです」

恭介(自分の髪を撫でる)

恭介(そこには、あるはずのものが無かった)

恭介(小毬がいつもつけていた、星の髪飾り)

恭介(それが一つ、無くなっている)

恭介「小毬、あの星は…」

小毬「…あれはね、願い星だったんです」

小毬「叶いますようにって、ずっと昔からつけてた願い星」

小毬「きっとりんちゃんには、これから悲しいことが、たくさん待ってると思うけど…」

小毬「悲しいことがあっても、また笑えるようになって欲しいから」

小毬「だから…」

小毬「りんちゃんも、ちゃんと笑っていられますようにって」

小毬「そうお願いして、りんちゃんに渡しました」

恭介「小毬…」

小毬「恭介さん、これで良かったんですよね…?」

小毬「ずっと友達だねって約束したけど…」

小毬「もう一緒にはいられないから…」

小毬「もう会えなくなるから…」

小毬「これで良かったんですよね…?」

小毬「お願い事、叶いますよね…?」

恭介(目に涙を溜めながら…それでも懸命に笑う)

恭介(それは、小毬が得た強さ)

恭介(小毬が、理樹のおかげで得られた強さだ…)

恭介「…ああ。きっと鈴は、小毬のお願い事を叶えてくれる」

恭介「どんなに悲しいことがあっても…理樹と一緒に、笑って生きてくれるはずだ」

小毬「うん…そうですね。本当に、良かったです…」

恭介(満足そうな笑顔…)

恭介(だが、いつもの小毬の笑顔じゃない)

恭介(それに小毬が本当に、あの終わりに納得しているのなら…)

恭介(この世界に来れるわけがない)

恭介「小毬」

小毬「なんですか…?」

恭介「ここは……死後の世界なんだ」

小毬「えっ…?」

恭介「神か…あるいは他の何者かによって創られた世界」

恭介「未練や後悔を持たないものは、来ることができない世界だ」

恭介「だが、みんないる。理樹と鈴以外のみんながいる」

小毬「みんなが…ですか…」

恭介「ああ」

恭介「そして、俺たちは今、神と戦っている」

恭介「たとえ、相手が神だろうと…」

恭介「あの終わりを受け入れるわけにはいかないから、譲れない想いがあるから、抗っているんだ」

恭介「だが…過酷な戦いだ」

恭介「きっとこれから、どんどん激しさを増すだろう」

恭介「小毬…」

恭介「お前は、どうしたい…?」

小毬「……………」

恭介(小毬の小さな体が、揺らいでいるように見えた)

恭介(小毬は優しすぎる)

恭介(ここでの戦いは、俺たち以上に辛く感じるかもしれない…)

恭介(だが、揺らいでいるように見えたのは…ほんの一瞬だった)

小毬「……………ようしっ!」

恭介(そう小さく口にすると、涙を拭い、真っ直ぐに俺を見つめる)

小毬「私も…戦います」

小毬「辛いことや、悲しいことがあっても」

小毬「きっと、みんなが一緒なら」

小毬「本当の意味で、笑って終われるような…」

小毬「そんな終わりを、見つけられると思うからっ!」

恭介(…そう言って)

恭介(小毬は、陽だまりのように笑った)

恭介(それは紛れもなく)

恭介(いつもの…俺のよく知る、小毬の笑顔だった)

恭介(これで、やっと全員揃った…)

恭介(ここからやっと、俺たちリトルバスターズの、本当の戦いが始まるんだ…!)

恭介「ようしっ…!行こうぜ、小毬!」

恭介「みんなが笑って終われる、ハッピーエンドのためにな!」

小毬「はいっ!」

恭介(もはや、俺たちに怖いものは無い)

恭介(たとえ神が相手でも…!その真意がなんであろうと…!)

恭介(俺たち全員の絆がある限り、絶対に負けたりなんかしない…!)

恭介(暖かな陽の光と、優しい風に包まれながら…)

恭介(俺たちは階段を駆け上がり始めた)

ーーーーー

ーーー

小毬「あう、痛い…」

恭介「小毬…。俺も、お約束の鉄板ネタってやつは好きなんだが…」

恭介「さすがに体張りすぎだと思うぞ」

小毬「うええーん!わざとやってるわけじゃなぁーいっ!」

恭介(あの後、勢い良く階段を駆け上がろうとしたら、またも小毬が足を踏み外し豪快に転倒)

恭介(しかも、今度はスカートがめくれて、アリクイっぽいプリントのパンツが丸見えになってしまい)

小毬『うわあぁぁ!もう、お嫁もらえないーーっ!』

恭介(などと暴走する、一騒動があったのである)

恭介(まさに神がかり的な転びっぷりだ)

恭介「とりあえず、二度も転んだんだ」

恭介「一応、保健室で軽く手当てしてから、みんなと合流しような」

小毬「ご迷惑をおかけします…」

恭介「それは言わない約束でしょ、おとっつぁん、と」

恭介(ちなみに、この学校には保険医が存在しない)

恭介(誰も病まず、怪我をしても一日で完治する世界だからなのか)

恭介(用事でよく校外に出払っている、という設定になっているようだ)

恭介(NPCによると、黒髪ロングのすげえグラマーな先生で…)

恭介(常にメスを持ち歩き、なぜか通天閣と書かれたTシャツを、愛用しているそうだ)

恭介(なぜ通天閣なのかは、NPCの間でも謎らしい)

??「だからっ!いくらなんでも信じられるわけないだろ!」

恭介「…………!」

恭介(保健室に近づくと、ふと声が聞こえてきた)

恭介(怒鳴っているというほどでもないが、どこか冷静さを欠いた声だ)

小毬「なにかあったのかなぁ…?」

恭介「わからんが、もし喧嘩とかなら仲裁しないとな」

小毬「はいっ!」

恭介(保健室のドアを開ける)

恭介(そこには…)

立華「…棗くん」

??「ん…?」

恭介(立華と、NPCらしき男子生徒がいた)

男子生徒「丁度良かった…。あんた、この学校の生徒か?」

恭介「…ああ。まあ、そんなもんだが?」

恭介(俺に歩み寄りながら、そいつはいきなりそんな事を聞いてきた)

恭介(どうもNPCらしくない言動だ)

恭介(そりゃ着ている制服は違うが、少なくともそんな質問をされたことは一度も無い)

恭介(もしかすると…)

男子生徒「そうか…!じゃあ、悪いんだが教えて欲しいことがあるんだ!」

男子生徒「ここは一体どこなんだ…?俺、気がついたら、保健室のベッドにいて…」

男子生徒「そこにいる奴に、あなたは死んだとか、ここは死後の世界だとか言われてさ…」

男子生徒「しかも、なんか記憶も曖昧だし、もうわけわかんねぇんだよっ…!」

恭介「…記憶が曖昧?」

立華「…ええ。その人、記憶喪失みたいなの」

立華「よくあることよ。ここに来た時は。事故死とかだったら、頭もやられるから」

恭介(確かに事故で頭をやられたり、即死とかで死んだ自覚がなければ)

恭介(記憶を失うってのも、ありえる話だな)

恭介「ってことはこいつも、新しくこの世界に招かれた奴ってわけか」

男子生徒「は、はぁ…?なんだよ…どういう意味だよ…?」

恭介(どうやら、随分と動揺しているようだ)

恭介(無理もない。あの世界での記憶や経験がある俺でも、最初は色々と戸惑ったからな)

恭介「…いいか?落ち着いて聞いてくれ」

恭介「そこの立華が言うとおり、ここは死後の世界だ」

恭介「この世界に来たってことは、お前は死んだんだよ」

恭介(誤魔化しても仕方がない。簡潔に、この世界について説明する)

恭介(だが、俺のその言葉に、動揺が怒りへと変わった)

男子生徒「…ああ、わかった。てめぇもグルなんだな」

男子生徒「俺を騙そうとしてるんだなっ!」

男子生徒「なんだ!?この記憶喪失もお前らの仕業か!?」

立華「それは一時的なものよ。少しすれば、じき思い出すわ」

男子生徒「どういう根拠があって言ってるんだよ!?」

恭介「…落ち着け。ここは誰も病んだりしないし、怪我しても寝て起きれば治る世界なんだ」

恭介「だからお前も、そんな長いこと記憶を失いっぱなしってことは無いと思うぞ」

男子生徒「…また死後の世界ってやつか!」

男子生徒「じゃあなんか証拠でも見せてくれよっ!」

男子生徒「ここがそういう世界だって証拠をなっ!」

小毬「え、ええと…。とりあえず落ち着いて?」

小毬「興奮したままじゃ、恭介さんの言葉もよく聞こえな…」

男子生徒「興奮なんてしてないっ!俺は冷静だよっ!」

小毬「ほわぁっ…」

恭介(激しい剣幕に、小毬が驚く)

恭介「どう見ても冷静じゃないな」

立華「困ったわね…」

恭介「そうだ、立華。ハンドソニックを見せてやれよ」

恭介「この世界じゃないとあり得ない力だろ。あれ」

立華「…そうね。ガードスキル・ハンドソニック」

恭介(立華が右手の甲に、光子状の刃を纏った)

男子生徒「なっ…!?」

男子生徒「なんだよ、それ…」

恭介「どうだ?こんなの、普通ならあり得ないだろ」

恭介「信じてくれる気になったか?」

男子生徒「…そ、そんなのに騙されるかよ!」

男子生徒「いや…!いっそそれで心臓を一突きにしてみろよ!!」

男子生徒「それでも死なないなら、ここが死後の世界だってのも証明できるだろっ!」

男子生徒「お前にそんな度胸があるならなっ!!」

小毬「だ、だめだよ…!そんなこと言っちゃあ…」

恭介(まいったな…。完全にパニックに陥ってる)

恭介(確かに、一度死なないのを味わえば、嫌でも信じることになるんだが…)

立華「そう…。わかったわ」

恭介(立華が一瞬だけ、悲しそうな顔をした)

恭介(そして、ハンドソニックを構え…)

男子生徒「えっ…」

恭介(そいつの心臓を…)

恭介「やめろっ…!!立華っ…!!」

立華「……………」

恭介(貫くギリギリのところで、刃を止めた)

男子生徒「…なっ……あ…」

恭介「お前なあ…。いくらやれって言われたからって、本当にやろうとすることないだろ」

恭介「ほら、それ仕舞え」

立華「…ええ」

男子生徒「………………」

恭介(煽ったとはいえ、危うく心臓を貫かれかけたんだ)

恭介(気が抜けたのか、力なく座り込んでいる)

恭介(それでも…)

男子生徒「な、なんだよ…。なんなんだよっ…!お前たちはっ…!?」

恭介(俺たちを見据えて、気丈に声を張った)

恭介(どこか懐かしい言葉だ。確か理樹にも、同じことを聞かれたことがあったな)

恭介(だから…)

恭介「俺たちか?」

恭介「俺たちは、悪を成敗する正義の味方」

恭介「そして、神の定めた運命に抗う者」

恭介「ひとよんで…」

恭介「リトルバスターズだ…!」

恭介(あの時と同じように、俺はそう名乗った)

小毬「らららーん~」

恭介(場面は変わって、屋上)

恭介(レジャーシートを敷くと、小毬が嬉しそうに大量のお菓子を広げていく)

立華「ずいぶん、買ってきたのね」

小毬「うん、なんてたって4人分だからねー」

恭介(…ちなみに、どうみても10人分はある)

立華「あまり無駄使いはしちゃだめよ」

恭介「否!無駄なんかじゃない!」

恭介「むしろ、こういう時こそ、パーッと景気良く使うべきなんだよ」

立華「…そういうものなの?」

恭介「ああ、そういうもんだ」

恭介「ほら、立華。リクエストの『暴君ハバネロ』だぞ」

立華「ありがとう、棗くん」

恭介(本来、俺と立華が一緒にいるのはまずいからな)

恭介(立華に頼んで、俺たちが買い出しに行ってる間に、一時的に屋上を封鎖…)

恭介(もとい、場所取りをしてもらったってわけだ)

男子生徒「なぁ…。いくらなんでも呑気すぎないか?」

男子生徒「これじゃピクニックとか、そういう雰囲気と変わらないぞ…?」

小毬「わあ。ピクニックもいいねー」

小毬「今度、みんなでピクニックに行こうよ~」

恭介「そいつはいいな!校外の裏山に、広い丘があるんだ」

恭介「今度はデーモンじゃなくて、普通のピクニックをしようぜ」

立華「今度は、デーモンにならないでね」

恭介「予想外のツッコミが…」

恭介「だが、俺がなってたのは斉藤であって、どっちかっていうとデーモンはひさ子…」

男子生徒「いやだからっ!このまったりした雰囲気はなんなんだよ!」

男子生徒「俺はこの世界のことを説明するっていうから、付いてきたんだぞ」

恭介「まあ、そう焦るな。ちゃんと説明するから」

小毬「はい、ベルギーワッフルでもどうぞ。甘くておいしいよ~」

男子生徒「ああ。ありがとう」

男子生徒「ってだから違う!」

小毬「ふえ?うすしおの方が良かった?」

男子生徒「…いや、だからそうじゃなくて…」

男子生徒「………はぁ。もういいや」

男子生徒「なんか俺一人怒ってて、馬鹿っぽく思えてきた…」

恭介(そう言うと、小毬からもらったワッフルを頬ばり始めた)

男子生徒「…おっ、うまい」

小毬「良かったぁ。それ、私のお気に入りなんだ~」

小毬「こっちのチョコパイもおいしいよ~」

男子生徒「いや、嬉しいけど、さすがにそんな一度には食べれないって…!」

恭介(どうやら小毬の雰囲気に釣られて、気持ちが落ち着いたみたいだな)

恭介(さすがは小毬だぜ)

恭介「まあ、どうせ込み入った話になるからな」

恭介「お菓子でも食べながら、腰を据えて、ゆっくりと話した方がいいんだよ」

恭介「さらに今回は、立華にもついて来てもらったんだ!」

恭介「お前の抱いてる疑問は、ばっちり解消すると約束しよう…!」

立華「……………」サクサク

男子生徒「そいつ、一心不乱にハバネロ食ってるけど、大丈夫なのか…?」

恭介「…これでも、この学園の生徒会長だ。いざって時には頼りになる奴だぜ」

立華「……………」サクサク

男子生徒「とてもそうは見えないんだが…」

恭介「すまん、なんかすまん…」

立華「……………♪」サクサク

恭介(4人仲良く、レジャーシートに腰掛ける)

小毬「じゃあまずは、自己紹介をしちゃいましょう!」

小毬「私は、神北 小毬です。はい!」

恭介「棗 恭介だ。ほい!」

立華「…立華 かなでです。はい」

男子生徒「えっ…俺か?俺は、えーっと…」

男子生徒「ってだから思い出せないだって!」

恭介「ありゃ、名前も思い出せないのか。そいつは難儀だな」

小毬「うん…。なんて呼べばいいのかわからないもんね」

男子生徒「いやでも、ちょっと待ってくれ…。そこまで出てきてるんだ…」

男子生徒「そう、音…。音がつくんだ…音がつく名字…」

小毬「へえ~音がつくんだ。綺麗な名前だね」

恭介「音がつく名字なんてそうそう無いよな。適当に言えば当たるかもしれない」

恭介「例えば…」

立華「…乙坂くん、とかどう?」

男子生徒「乙坂…」

恭介「確かに、あり得る名字だな。だが…」

恭介(なんか違う気がする。主に、『世界』が…)

男子生徒「いや…、そうだっ…!」

男子生徒「俺の…、いや僕の名前は『乙坂 有宇』だっ!!」

恭介「えっ…?」

恭介(急に、まるで違う人間が乗り移ったかの如く豹変する)

乙坂?「そう、僕には使命があるんだ…」

乙坂?「どれだけの困難が待っていようとも…」

乙坂?「例え化物になろうとも…」

乙坂?「成し遂げなければならない使命が…!」

乙坂?「そして、帰るんだ…!あいつとの、約束を守るために…!」

恭介「……………」

小毬「……………」

立華「……………」

乙坂?「………………」

男子生徒「…悪い。やっぱ乙坂って名前は違うと思う…」

恭介「…だろうな」

小毬「声まで変わってたよ~…」

立華「能力者たちの戦いを描いた、眩しい青春の物語『Charlotte』」

立華「BD&DVD第四巻は、12/29発売よ」

立華「予約してね」

恭介「おい、ダイレクトすぎるぞ…。立華…」

男子生徒「いや、悪いのは俺だ…。もう俺には名前なんていらない」

男子生徒「ゲロ犬とでも、クソ坊主とでも、ゼウスとでも好きに呼んでくれ…!」

小毬「だ、だめだよ、そんな投げやりになっちゃあ…!」

立華「一つ、かっちょいいのが混ざってるわね」

恭介(かっちょいいっていうより、ギリシア神話で一番偉い奴の名前だからな、それ…)

恭介「まあ、手がかりは音のつく名字って情報しか無いんだし、焦らず考えようぜ」

恭介(そう言いながら、俺はうなぎパイを頬ばる)

恭介(名前はネタにしか思えないが、こう見えて、結構歴史のあるお菓子らしく)

恭介(甘くてサクサクした食感が、かなり癖になるうまさだ)

男子生徒「…………………」

恭介「ん?どうした?」

音無「…そうだ!思い出した、音無だ!」

音無「俺の名字は、音無っていうんだよ…!」

恭介「随分、唐突に思い出したな」

音無「いや、今の手がかりは無いって言葉から」

音無「無い…無し…。音…無し…って感じで思い出した 」

音無「つまり、お前のおかげだ。ありがとな!」

恭介「そ、そうか…。無事思い出せたんならなによりだ」

恭介(ってか、さっきから思ってたんだが…)

恭介(なんか音無からも、俺たちに近い馬鹿さ加減を感じるな…)

恭介(この世界には、馬鹿しか来れないんだろうか…?)

立華「下も思い出せる?」

音無「いや…、駄目だ。思い出せない…」

音無「でも、まあ名字があればとりあえずは充分だろ?」

小毬「う~ん…。でも、早く名前も思い出せるといいね」

小毬「名字は家族のものだけど、名前は自分だけのものだから」

小毬「きっと音無くんも、名前で呼んでもらえた方が嬉しいと思うよ」

音無「…まあ。そう、なのかもな」

音無「言われてみれば、記憶を失くすまで」

音無「自分の名前とか、特に意識したことなんて無かった気がする」

立華「…そうね。当たり前すぎて、あたしも特に意識してないわ」

恭介「俺はなんとなく、人のことは呼びやすい感じで呼んでるけど」

恭介「名前で呼び合うっていうのは、特に親し気な感じがするよな」

小毬「うん、私は名前で呼ばれる方が好き」

小毬「だから、音無君もかなでちゃんも、私のことは『小毬』って呼んでね」

音無「えっ、いいのか?」

小毬「うん、私は気にしないよ」

小毬「あっでも、もし抵抗があるなら、小毬ちゃんとかでもいいよ」

音無「俺にはそっちのほうが抵抗あるな…。小毬、でいいか…?」

小毬「うん!名前思い出したら、また教えてね。音無君」

小毬「じゃあ、はい。次はかなでちゃん」

立華「小毬ちゃんで、いい…?」

小毬「はいっ!これで私たち、お友達です!」

立華「友達…」

小毬「かなでちゃん、喉乾いてない?ゴゴティーありますよ~」

立華「…ありがとう」

立華「ねえ、小毬ちゃん。あなたには…」

小毬「ん、なあに?」

立華「…いえ、なんでもないわ」

立華「小毬ちゃんも、ハバネロ食べる?」

小毬「ふ、ふええ!?ハ、ハバネロ…」

音無「…なんか、すげー微笑ましい空間ができあがってるな」

恭介「ああいう奴なんだよ、小毬はな」

恭介「なにはともあれ、これからよろしくな、音無」

音無「ああ、よろしく。えっと…」

恭介「恭介でいい」

音無「恭介…か。こちらこそ」

恭介「ああ」

恭介(親睦のしるしに、握手を交わす)

恭介「さて、自己紹介も終わったことだし…」

恭介「さっそく、今度開催するピクニックの予定について話し合うか!」

小毬「わーいっ!」

立華「わーい」

音無「わーい!」

音無「って、だから違ぁうっ!」

音無「この世界の情報について話してくれるんだろっ!?」

恭介「…ああ。そういや、そうだったな。忘れていた」

音無「…なあ、お前らに任せて本当に大丈夫なんだよな…?」

立華「音無くん。気にしたら負けよ。棗くんはこういう人だから」

恭介「立華。そういうお前も、相当個性的だからな」

立華「そんなことないわ。あたしは普通」

音無「いや、絶対二人とも普通じゃないと思う…」

小毬「ふふっ。みんな、仲良しだね~」

恭介(そんな和やかな雰囲気の中、俺と立華で、この世界がどういう世界なのか話した)

音無「えーっと、つまり…」

音無「まずこの世界は、神かなにかによって創られた死後の世界で」

音無「ここに来る奴は、みんな生前に悔いを残している」

音無「そして、その悔いが消えたら、この世界から消えていなくなる、と…」

音無「そういうことでいいんだよな?」

恭介「ああ、その通りだ」

音無「うーん…」

立華「まだ信じられない?」

音無「正直言うと、ちょっとな…」

音無「なんせ俺は、その死んだ時の記憶が思い出せないし…」

立華「生きていた時の記憶も無いの?」

音無「いや…そっちの方は大分思い出せてる気がするよ」

音無「まだちょっと、頭の中ぐちゃぐちゃしてる感じだけど…」

恭介「そうか。その分だと、いずれ全部思い出せそうだな」

音無「でもまあ確かに、ここが現実世界だとは思えないな」

音無「あんなもの見てるし…」

恭介(嫌なものを思い出したのか、少し表情が歪んだ)

小毬「あんなもの?」

立華「これのこと?」

恭介(立華がハンドソニックを展開する)

音無「うわあっ…!あ、ああ、それだよ、それ…」

音無「なんなんだ、それ?本物なのか…?」

立華「本物よ」

恭介(そう言うと、器用にハンドソニックでお菓子の封を開け始めた)

小毬「うわぁ、便利だね~」

音無「すげえ…マジで本物なのか…」

音無「一体、どういう原理なんだ?」

恭介「そういや、俺もまだ教えてもらってなかったな」

恭介(一応、大体の見当はついてるんだがな)

立華「ある生徒からもらった、ソフトウェアによるものよ」

立華「『Angel Player』というソフト」

立華「ようは、この世界に直接干渉できる…そんなソフトなの」

音無「マジかよ…」

恭介(やっぱ、俺とゆりっぺの推測通りか…)

恭介(だが、今の立華の言葉の中に、一つ気になることがある)

恭介「立華…。そのある生徒っていうのは、何者なんだ?」

恭介「ただのNPCが、そんなもの持ってるわけ無いよな」

立華「わからないわ…。いきなり、渡されたの」

立華「でも…確か、あの人…」

立華「『きっと、君に必要な力だと思うよ』って言ってたわ」

音無「どういう意味だ…?」

恭介(立華が首をふる。わからない、という意味だろう)

恭介(だが、もしかしたら…)

恭介(その時、立華にAngel Playerを渡したものこそ…)

恭介「……………」

小毬「恭介さん?どうかしましたか?」

恭介「…いや、なんでもない」

恭介「話を戻そう」

恭介「次は、リトルバスターズ戦線。そして、立華についてと…」

恭介「この世界の現在の状況についてだ」

恭介「まず、リトルバスターズ戦線は、神に抗うものが集う戦線だ」

恭介「多くの奴らが、生前ひどい人生を送っている」

恭介「だから、理不尽な運命を強いた神を、強く憎んでいる」

恭介「そして戦線メンバーの多くは、立華を、神の使い『天使』だと思い込んでいるんだ」

音無「えっ…?」

小毬「天使、ですか…?」

恭介「ああ」

立華「……………」

恭介「だから戦線は武器を作り、立華と抗争するようになった」

恭介「立華も戦線に対抗するために、新たなスキルをプログラミングしていった」

恭介「そしてその抗争が、この世界ではもう何十年も続いている」

音無「な、何十年…!?」

音無「何十年ってなんで…」

音無「立華はただの生徒会長なんだろ…?」

音無「どうして、その戦線の奴らは、立華を天使だと思うようになったんだよ…」

恭介(ああ…、もっともな疑問だな)

恭介「それは、ガードスキルが原因だ」

恭介「立華は生徒会長として、この世界の秩序を守るために、幾度となくその力を行使してきた」

恭介「だが、あまりに人間ばなれした力だ…」

恭介「戦線のみんなは、その力を神から与えられたものだと考えた」

恭介「よって立華を、神の使い、『天使』だと思い込んでしまったんだ」

恭介「音無。お前も、立華と全く関わらずに、立華が天使だと教えられれば…」

恭介「多分、そう思い込んでいたんじゃないか?」

音無「…それは…そうかもな」

恭介「それと、もう一つ理由がある」

小毬「もう一つ…?」

恭介「ああ。さっきも説明したように、ここに来るものはみんな、自分の人生に未練や後悔を抱えている」

恭介「そしてそれが無くなれば、この世界から消えて、新たな人生が始まるんだ」

恭介「だから立華は…、そいつらの未練を晴らしてやりたいと思った」

恭介「だよな?」

立華「………ええ」

立華「もう一度、新しい人生を生きる希望を、持って欲しかったの」

立華「傷ついた心を、この世界で癒やして…」

立華「生きることは素晴らしいって、そう思えるようになって欲しかったの」

小毬「かなでちゃん…」

音無「……………」

恭介「…そうして、立華はたくさんの奴らを、この世界から送り出してきた」

恭介「その中には、戦線のメンバーもいた」

恭介「だがそれは…この世界から消えることでもある」

恭介「一人、また一人と。未練を晴らし、この世界から送り出してやる度に…」

恭介「戦線メンバーは、『天使』によって、仲間が消されたと思ってしまったんだ…」

恭介(これが…何十年と続いてきた、戦線と立華の戦いの真相…)

恭介(神と戦い、理不尽な運命に抗いたかったから、このまま消えたくなかったから…)

恭介(この世界を守りたかったから、もう一度、新たな人生に希望を見出して欲しかったから…)

恭介(だから、戦い続けた)

恭介(どちらも悪くない)

恭介(誰も悪かったわけじゃない)

恭介(だからこそ、悲しすぎる…)

恭介(些細なすれ違いが原因で、無為な争いが、今なお、続いてしまっているんだから…)

音無「そんな…」

音無「なんとかならねぇのかよ!?」

音無「恭介は、立華が天使じゃないって知ってんだろ!」

音無「だったら、それを戦線の奴らに説明すれば…!」

恭介「…言ったろ?数十年も続いてきた戦いだ」

恭介「募った憎しみは、あまりに大きすぎる」

恭介「俺が説明したところで、みんなは理解してくれない」

音無「でも…!」

恭介「…ああ。でも、こんな悲しい戦いは、終わらせなければならない」

恭介「その為の方法は一つ…」

恭介「それが、この世界の神を、引きずり出すことだ…!」

小毬「神様を…?」

音無「いるのか…?本当に…」

恭介「ああ、いる…。確かにいる」

恭介「俺たちは、何度も神の直接的な干渉を受けている」

恭介「オペレーションを起こす度に、神もなんらかの方法で俺たちに仕掛けてきている」

恭介「そして、戦線のリーダーであるゆりっぺは、神を引きずり出すことができれば…」

恭介「立華が天使でないと、みんなの前で肯定すると約束してくれている」

立華「ゆりが…?」

恭介「ああ。あいつももう、立華が天使じゃないと気づいているからな」

恭介「それさえ果たせば、この戦いを終わらせることができる」

恭介「立華を、リトルバスターズの仲間にすることができるんだ」

恭介(本当は、そう簡単なことじゃないだろう)

恭介(何十年と敵だと思い込んでしまってた奴と、仲間になるっていうのは…)

恭介(だが、ゆりっぺがきっかけを作ってくれた後なら…)

恭介(きっと、俺たちでなんとかできる)

恭介(立華がなぜ、天使として戦ってきたのか)

恭介(立華がどういう奴なのか)

恭介(それを説明すれば、みんなわかってくれる)

恭介(こいつはもう、充分すぎるほど…)

恭介(たった一人で、みんなのためにがんばってきたんだから)

立華「…棗くんは、もう、そんなとこまで話を進めてたのね」

恭介「ああ、約束したろ」

恭介「必ずお前を、リトルバスターズに引き入れるってな」

立華「…うん」

小毬「…私や音無君がこの世界に来るまでに、色んなことがあったんだね」

音無「みたいだな…。マジで、お前らは神と戦ってんのか…」

音無「……………」

恭介「音無。これが、今この世界の状況だ…」

恭介「もしお前に、俺たちと同じように、神と戦う理由があるのなら…」

恭介「戦線に加入すればいい」

音無「…もし、加入しなかったら…?」

恭介「その場合は…戦線によって保護されるだろうな」

恭介「詳しい待遇までは知らないが、身の安全は保証するそうだ」

恭介「だから、神と戦うかどうかは、お前の意志次第だ」

音無「俺は…」

音無「…ちょっとだけでいい。時間をくれないか?」

音無「俺はまだ、全ての記憶を取り戻してるわけじゃない…」

音無「俺が、どんな最後を迎えて、この世界に来ちまったのか…」

音無「どんな未練や後悔があるのか…」

音無「それがわからない限り、ちゃんとした答えは出せそうにないんだ…」

恭介(申し訳なさそうに、音無はそう言った)

恭介「もちろんだ」

恭介「俺も、ゆりっぺも、無理にお前に戦うことを強要したりしない」

恭介「お前がどうしたいのか、それが一番大切だ」

音無「ありがとう…」

音無「多分、あと少しで思い出せると思うんだ」

音無「思い出したら、よく考えて…」

音無「そして決めるよ」

音無「神と…戦うのかどうかを…」

恭介「ああ」

恭介(迷いはあるようだが、そう口にする音無からは)

恭介(確かな決意が感じられた)

恭介「よし、とりあえずはこんなところだな」

立華「棗くんたちは、今からどうするの?」

恭介「そうだな。まず、小毬をリトルバスターズに加入させて」

恭介「次に、音無の事情を説明する必要があるから…」

恭介「どっちにしろ、ゆりっぺに話を通さないとな」

音無「でもそうしたら、俺たちも、立華と敵対関係になっちまうんじゃ…」

立華「大丈夫。平気よ」

立華「小毬ちゃんも、音無くんも、あたしが天使じゃないって知ってるから」

立華「友達って言ってくれたから」

立華「だから、あたしは大丈夫よ」

恭介(優しく、微笑む。そんな立華を)

小毬「かなでちゃんっ!」

恭介(小毬が抱きしめた)

小毬「また一緒にお菓子食べよう」

小毬「ピクニックにも絶対行こう」

小毬「誤解を解いて、かなでちゃんもみんなと一緒に、いっぱい楽しいこと見つけようね」

立華「小毬ちゃん…」

立華「うん」

ーーーーー

ーーー

恭介(立華と別れ、三人で校舎内を歩く)

恭介(今は授業中だから、他の生徒たちの姿は見えない)

恭介(一人一人の足音がよく聞こえるくらい、とても、静かだ)

音無「なんで…立華と戦線は戦う破目になっちまったんだろうな」

恭介「…きっかけは、ほんの些細な誤解からだったんだろう」

恭介「戦線のみんなには、立華と言葉を交わす余裕が無かった」

恭介「立華も、自分が天使として戦えば…」

恭介「神を憎んでいる奴の心も、少しは晴れるかもしれないと思ってしまった」

恭介「色んな想いが、すれ違って、今の関係になっちまったんだ」

音無「でも、だとしても、そんなの立華が可哀そうすぎるだろ…」

音無「あいつはただ、自分なりに、誰かの助けになりたかっただけなんだろ?」

音無「そりゃあ、器用じゃなかったのかもしれないし」

音無「見るからに、抜けてるところがある奴だけど…」

音無「けど…」

小毬「優しいね、音無君は」

音無「えっ…?」

小毬「だって、音無君もまだ自分の記憶が戻ってないのに」

小毬「そうやって、かなでちゃんのことを心配してあげられるなんて」

小毬「きっと、すごく優しくないと、できないことだと思うよ」

恭介(小毬の言葉に、音無が俯いた)

音無「そんなこと、ねぇよ…」

音無「俺はただ…」

恭介「…ただ、なんだ?」

音無「…嫌なんだよ」

音無「自分を投げ打ってでも、誰かのためにあろうとする」

音無「その生き方が、どれだけすごいものなのか…」

音無「俺は…なんとなくわかるから」

音無「だから、立華みたいな、そんな生き方してる奴が」

音無「辛い思いをするのも、報われないのも…」

音無「そんなのは、嫌だ」

恭介(呟くような言い方だったが)

恭介(音無の声は、閑散とした校舎に、よく響いた気がした)

今日は以上です

小毬も音無も、このSS的に結構重要なキャラなので
久々の日常パートなのにかなりシリアスな内容になってしまいました

質問、感想などがあれば、よろしくお願いします

次は…書くこと自体は大体まとまってるんですが
12月なので仕事が…

なるべく早いこと再開できるように頑張ります

毎度のごとくキャラ再現力すごいけどやっぱり小毬ルートやり直してから書いたんですか?

>>790
一応、安価で復活する時に全員ルートやり直してから書いてます

キャラの再確認とか言い回しのチェックとか
あと虚構世界を経てそれぞれどのように成長したのかを書きたかったので

原作と違ってゆりが必ず戦線に入隊する理由を聞くのはそういう都合もあったりしますね

余談ですが、自分で振り返ってみるとこのSS
結構、小毬ルートの影響強く受けてるような気がします

一週間経ったので生存報告しておきます

満足いくものが書けるまでもう少し時間がかかりそうです

ゆり「ついに来たわね。元祖リトルバスターズ最後の一人が…!」

恭介(いつもの定例会議)

恭介(小毬は、いきなりそんな言葉で迎えられた)

「「「……………………」」」

恭介(みんなの視線が、小毬に集中している)

小毬「な、なあに?」

ゆり「なんか…思ってたより、普通ね」

日向「普通…だな」

大山「普通だね」

野田「普通だな」

藤巻「普通だぜ」

高松「普通ですね」

松下「普通だ」

竹山「普通でしたね」

岩沢「ああ、普通だ」

椎名「だが、可愛いと思う」

日向「確かに、美女って感じじゃねぇなあ…」

TK「I kiss you…!!」

小毬「ふええええっ!?」

ゆり「ねえ、あなた。実は暗算日本記録保持者だったりしない?」

小毬「暗算…?ううん、違うけど」

ゆり「ちっ…!」

藤巻「記憶喪失だよな?」

岩沢「音楽キチだったりしないか?」

高松「ガルデモのファンですよね?」

遊佐「男嫌いですか?」

野田「筋トレ好きだろ…!?」

竹山「メガネかけたりしませんか?」

恭介(ゆりっぺの言葉を皮切りに、みんなが小毬を囲み始めた)

小毬「ちょ、ちょっと待って!なに?なんなのぉ!?」

クド「ああ、小毬さん…」

葉留佳「なんか予想通りの展開になっちゃいましたネ」

謙吾「哀れだ…」

来ヶ谷「そうか?いつも通りの可愛い小毬君が見れて、おねーさんは大満足だぞ」

音無「…いや、なんだよあれ…。どうしてあんなことになったんだ?」

恭介「元からここにいる奴らは、小毬のことを知らないからな」

恭介「そいつらで小毬がどんなキャラなのか想像してたら、いつの間にかハードルが上がりすぎて…」

恭介「まあ…あんな感じになったというわけだ」

音無「うわぁ…」

日向「一応弁解すると、恭介たちのキャラが濃すぎるのも原因だかんな?」

大山「普通じゃないのが、普通になってたもんね」

遊佐「そもそも普通であるなら、それに越したことは無いと思うんですが?」

ゆり「えーっ。だってそんなの面白く無いじゃない」

ゆり「あっ、遊佐さんもいっそ面白キャラにイメチェンしてみる?」

ゆり「例えば、アイドルキャラに方向転換しちゃうとか!」

美魚「面白そうですね。愛称は『ゆさりん』でいきましょう」

遊佐「結構です…」

音無「なんか…とても神と戦ってる連中には見えないな…」

恭介(みんなの様子を見て、音無がそう呟く)

藤巻「あ?ってか恭介、そっちのヤローは誰なんだよ」

恭介「こいつは、音無っていうんだ」

恭介「俺たちと同じようにこの世界にやって来たんだが、どうやら記憶喪失らしい」

大山「あれ?ってことは藤巻くん一応ビンゴだね!」

藤巻「みてえだな。ってか記憶喪失とか俺と同じパターンだぜ」

音無「そうなのか!どれくらいしたら、記憶が戻ったんだ!?」

藤巻「そうだな…。一晩寝れば、大体は思い出したぜ」

藤巻「怪我とかが治るのと、同じ仕組みなのかもな」

ゆり「この世界で記憶喪失になるのは、大体が事故死で来ちゃった人だからね」

ゆり「まあ、特に珍しいパターンでも無いし、そのうち思い出すわよ」

ゆり「安心しなさい」

音無「そうか…。良かった」

恭介(安堵のため息をついた)

ゆり「で、ここに来たってことは、あなたも戦線に入隊する気があるの?」

音無「いや、それなんだけど…」

恭介「とりあえずは保留。記憶を取り戻してから、再度考えるそうだ」

音無「ああ…。大体の事情は恭介から聞いたんだけど、俺はまだ記憶が曖昧だから…」

音無「神と戦う理由があるのかも、今の俺にはわからなくてさ…」

ゆり「…なるほどね」

ゆり「確かに、戦う理由も無いまま戦線に入隊するのは、後悔することになるかもしれないわ」

ゆり「最近は、神との戦いも本格化し始めてるところだし」

ゆり「一先ず、音無くんは保護対象ということにしときましょうか」

音無「ああ…悪い。よろしく頼むよ」

ゆり「となると、小毬さんだっけ?」

ゆり「先に、その子の入隊手続きを始めましょうか」

小毬「はぁい!がんばりま~す!」

ゆり「じゃあとりあえず、自己紹介からよろしくね」

小毬「はいっ!神北 小毬です。よろしくお願いしま~す!」

恭介(そう小毬は元気にあいさつした)

恭介(だが、その言葉と同時に…)

ゆり「えっ…?」

恭介(場の空気が、凍った)

恭介(みんな思いがけないことを聞いた風に、目を丸くしている)

小毬「あ、あれ…?」

真人「ん?どうしたんだよお前ら?鳩が水鉄砲食らったような顔してるぞ」

日向「いや、それは…」

大山「えっと…」

恭介(なんだ…?みんなの様子がおかしい)

恭介(とくに…)

ゆり「神北…ですって…?」

恭介(ゆりっぺが、震えている…)

小毬「う、うん…」

ゆり「………………」

ゆり「ねえ、小毬さん…。一つ聞くんだけど…」

ゆり「あなたには……拓也さんっていうお兄さんがいたりしない…?」

小毬「えっ…!?」

恭介「………!」

恭介(その言葉に、俺たちも息を呑んだ)

恭介(以前、図書館で見つけた絵本)

恭介(神北 拓也さんの名前が残された、この世界に存在するはずの無い絵本)

恭介(あれは、やっぱり…)

小毬「…うん、いたよ。拓也お兄ちゃん…」

小毬「私が子どもの頃に、病気で亡くなったんだけど…」

ゆり「………っ!!」

恭介(ゆりっぺが青ざめる…)

恭介(まるで悲哀とも悔恨ともつかない苦痛を受けたような、そんな表情だ…)

椎名「まさか…」

高松「じゃあ、小毬さんは…」

松下「神北の妹、なのか…」

恭介(みんなも同じように、悲愴な面持ちになる)

恭介「…知ってるんだな?お前たちは、拓也さんを」

恭介「いや、拓也さんがこの戦線にいたことがあるんだな…?」

日向「それは…」

岩沢「……………」

恭介(誰も答えない)

恭介(みんな、言葉を失っている…)

恭介(重苦しい雰囲気の中、遊佐が口を開いた)

遊佐「…はい。まだ戦線に、10人程度のメンバーしかいなかった頃…」

遊佐「確かに神北 拓也という名前の男性が、戦線に所属していたことがあります」

遊佐「ですか、その人は天使の教室に潜入し、そのまま…」

ゆり「遊佐さんっ…!!」

遊佐「……………」

恭介(ゆりっぺが悲痛な声を上げた…)

恭介(遊佐の話には覚えがある)

恭介(トルネードを決行した日、ゆりっぺが語った一人のメンバーの話)

恭介(ゆりっぺの命令で、立華の教室に潜入し、そのまま姿を消したというメンバー)

恭介(まさかそれが、拓也さんだったってのか…)

ゆり「………………」

ゆり「みんな、悪いけど席を外して」

ゆり「あたしは…小毬さんに話さなくちゃいけないことがあるから」

ゆり「小毬さん、ごめん…。付き合ってくれる?」

小毬「…うん」

日向「待てよゆりっぺっ!神北のことは俺たちにも…!」

ゆり「いいからっ…!!」

日向「っ…!」

ゆり「出ていって…」

恭介(体だけじゃなく、声も震えていた…)

恭介(だが、誰も寄せ付けようとしない冷たさがあった)

恭介(俺たちはそのまま、部屋から去るしか無かった…)

恭介「……………」

恭介(閉ざされた扉を見つめる)

恭介(中に残されたのは、ゆりっぺと小毬の二人だけ)

恭介(二人は今、何を話しているんだろう…)

日向「…まさか、最後の小毬ってやつが、神北の妹なんてな…」

恭介「…お前たちは、みんな拓也さんのこと知ってるのか?」

日向「ああ…。竹山ぐらいだろ、神北のこと知らないのは」

日向「かなり昔のことだけど、忘れるわけねぇよ」

日向「あいつは、初めて消えた仲間だったんだからな…」

クド「初めて…ですか…?」

椎名「…私たちは何十年と、この世界で戦っている」

椎名「仲間が消えるのは…そう珍しいことじゃない」

椎名「だが…」

大山「…うん。それまでも何度か、消えていく人を見たことはあったけど…」

大山「戦線に加入したメンバーが消えたのは、神北くんが初めてだったんだ…」

高松「私たちもとてもショックでしたが、特にゆりっぺさんは本当に自分を責めていました…」

松下「神北に、天使の教室に潜入するように命じたのは、ゆりっぺだったからな…」

岩沢「ああ、あれからだな…。ゆりが天使を強く敵視するようになったのは」

美魚「ゆりっぺさんは、自分のせいで拓也さんが消えたと思ってしまったんでしょうね…」

音無「でも…。それって思い残すことが無くなったから、消えたんじゃ…」

藤巻「あぁ!?そんなの天使のヤローのでまかせに決まってんだろ!!」

恭介(音無の言葉に、藤巻が激昂する)

藤巻「お前は、あいつの異常さを知らねーからそんなこと言えんだよっ!」

藤巻「神北だって、神と戦う理由があったから戦線に入ったんだぞ!」

藤巻「それともなにか!?そんな簡単に、あいつの思い残すことが無くなったとでも言うのかよっ!」

恭介(拳を振り上げて、音無に掴みかかろうとする)

恭介(その間に、大山が割って入った)

大山「待ってよ、藤巻くん…!音無くんに当たるのは良くないよっ!」

大山「音無くんはこの世界に来たばかりなんだよ!」

大山「悪気があって言ったわけじゃないよっ!」

藤巻「…っ!け、けどよ…!」

音無「…いや、ごめん…。軽率なことを言った…」

音無「悪かったよ…」

藤巻「………いや、違うんだよ…」

藤巻「別にてめぇに当たろうとしたんじゃねぇんだよ…」

藤巻「ただ、なんつーか…イライラして…」

藤巻「くそっ…!!」

ドンッ!

恭介(振り上げていた拳を、思いっきり壁にぶつけた)

謙吾「しかし、なんという運命の悪戯だ…」

TK「The irony of fate…」

竹山「これも、神による仕打ちなんでしょうか…?」

沙耶「そんな…。そんなの、無いわよ…」

沙耶「だって、あんまりじゃない…!こんなこと…!」

沙耶「ゆり…あんなに辛そうな顔してたじゃない…」

葉留佳「小毬ちゃんだってそうだよ…。来た瞬間、こんな現実突きつけられてさ」

葉留佳「こんなの悲しすぎるよ…」

恭介(みんな、気持ちが沈んでいる)

恭介(やるせない思いが、心にのしかかる…)

クド「お二人とも、大丈夫でしょうか…?」

恭介「…きっと、大丈夫だ。俺たちは信じて待とう」

野田「…大丈夫だと…?」

野田「…ふざけるな…」

野田「ふざけるなあっ…!!恭介っ…!!」

ドンッ!

恭介「ぐっ…!」

恭介(野田が俺の胸ぐらを掴んで、壁に叩きつけた)

野田「なぜ大丈夫だなんて言える…!」

野田「ゆりっぺが、あのゆりっぺが…!」

野田「怯えるような、怖がるような…!あんな顔してたのに…!」

野田「なぜ…!大丈夫だなんて言えるんだっ!!」

高松「落ち着いてくださいっ!野田くんっ!」

松下「恭介に怒りをぶつけても、なんにもならないだろう!」

恭介(二人が野田を俺から引き離そうとする)

恭介(それでも…)

野田「離せえっ…!高松!松下ぁ!」

野田「答えろっ…!答えろぉ!!恭介!!」

恭介(必死に俺にしがみつく…)

恭介(俺を睨んで、吠え続ける)

恭介(だから俺も真っ直ぐ野田を見つめて、言葉を紡いだ)

恭介「…それは、小毬だからだ」

恭介「たとえどんなに辛い現実を突きつけられても…」

恭介「小毬は絶対に…ゆりっぺを追い詰めるようなことも、傷付けるようなことも言ったりしない」

野田「…っ!」

真人「ああ…。あいつはそんなやつじゃねえよ」

真人「だから泣くんじゃねえよ、野田」

野田「お、俺は、別に泣いてなど…」

野田「……………」

恭介(それ以上、誰も言葉を発せなかった)

恭介(あんなに晴れていたはずなのに、いつの間にか外は…灰暗くなっていた)

恭介(降り続く雨の音を聞きながら、ただ廊下に立ち尽くすことしかできなかった)

恭介(あんなに楽しかったのに…あんなに一緒だったのに)

恭介(まるで…お前たちの仲など、この程度で揺らぐ儚いものだと…)

恭介(そう、笑われているような気がした…)

ガチャ

恭介「!」

小毬「…あ、みんな…」

恭介(扉を開けて出てきたのは…小毬一人だけだった)

来ヶ谷「大丈夫か?小毬君」

小毬「…うん。あたしはだいじょうぶだよ」

小毬「でも、ゆりちゃんは…」

小毬「…あたしのせいでって、すごく自分を責めてたよ」

野田「………っ!!」

小毬「何度も、何度も謝られて…。それで…」

野田「違うっ…!!違うんだっ!ゆりっぺは悪くないっ!」

日向「そうだ!俺たちだって、神北一人に任せきりにしちまったから…!」

大山「ゆりっぺ一人が悪いんじゃないんだよ!だから…!」

恭介(小毬の言葉を遮り、そう必死に訴える)

小毬「…うん、だいじょうぶ。わかってるよ」

「「「えっ…」」」

恭介(みんなが小毬を呆然と見つめる)

小毬「誰も、悪くなんかないんだよ」

小毬「お兄ちゃんに会えなかったのは、たしかに残念だけど」

小毬「でもね、思い残すことが無くなって、お兄ちゃんが前に進めたなら…」

小毬「それは、良いことなんだよ」

恭介「小毬…」

小毬「だからね。ゆりちゃんにも言ったんだけど…」

小毬「みんなも、自分を責めたりしちゃ駄目だよ」

小毬「みんなが悲しんでたら、きっとお兄ちゃんも悲しむと思うから」

小毬「みんなの知ってるお兄ちゃんは、そんな人じゃなかった?」

恭介(そう言って、小毬は微笑む)

恭介(そこにはただ…みんなを思う優しさだけがある)

日向「それは…」

大山「…そうだったよ」

大山「短い付き合いだったけど…」

大山「でも、神北くん…!本当に優しくて暖かい人だったから…」

大山「だから、だから…!みんな必死になって探して…!」

大山「でも、見つからなくて…!それで…!」

恭介(大山が、涙を流す)

恭介(みんなもうつむいて声を詰まらせている)

小毬「…うん。ありがとう、みんな」

小毬「お兄ちゃんのこと覚えててくれて」

小毬「大切に思ってくれていて」

小毬「みんなの仲間でいられて、きっとお兄ちゃん、すごく幸せだったと思う」

小毬「だからね。みんなも悲しむのは、今日で最後…」

小毬「明日、晴れて良いお天気になったら」

小毬「またお兄ちゃんの事を思い出して…」

小毬「笑って欲しいんだ」

「「「………………」」」

恭介(…それからしばらくして、俺たちは解散した)

恭介(結局ゆりっぺは部屋から出てこなかったが、少し一人にさせてやるべきだとみんなで判断した)

恭介(野田だけは、何がなんでもゆりっぺが出てくるまで、部屋の前で待つと聞かなかったが…)

恭介(小毬は来ヶ谷たちの部屋。音無は俺たちの部屋に泊まることになった)

恭介(本当は二人部屋だが、あんなことがあった後だ)

恭介(NPCが居る部屋に戻るよりも、その方がずっと良いと考えた)

恭介(そして、その日の夜…)

日向「そんじゃ、電気消すぞ」

音無「ああ」

日向「おやすみ」

恭介(静寂が訪れる)

恭介(消灯時間を過ぎ、後はもう眠るだけだ)

恭介(だが、眠る気にはなれなかった)

恭介(ゆりっぺのことが、頭から離れなかった)

音無「…なあ。あいつ、もう部屋に戻ったかな」

日向「…ゆりっぺのことか?」

日向「…大丈夫だよ、あいつはタフだからな」

日向「とっくに部屋に戻って、沙耶と仲良くやってんじゃねぇか?」

音無「そうか。だといいんだけど…」

恭介「気になるか?」

音無「そりゃあ…な」

恭介「ああ…。俺もゆりっぺのあんな顔は初めて見た」

恭介「ゆりっぺにとって、拓也さんが消えた過去ってのは、それほど強く焼き付いていたものだったんだろうな」

日向「…ゆりっぺはリーダーだかんな。尚更、責任感じてたんだろうな」

日向「でも…それでも、割り切らねぇといけないんだよ」

日向「それが、戦線で戦うってことだからな」

音無「………………」

音無「…なあ、日向。人が消えるってどんな感じなんだ?」

日向「…そうだな。言葉通り、としか言えねぇな」

日向「ふっといなくなっちまうんだ」

日向「つい今の今までそこにいた奴が、なんの痕跡も残さずいなくなる」

日向「それが、この世界で消えるってことだ」

日向「…まあ、さっきはわかったようなこと言ったけどさ」

日向「人が消えるってことは、もう二度とそいつと、話すことも出来なくなるってことだからな」

日向「覚悟してるつもりでも、そう簡単に割り切れることじゃねぇよ…」

音無「そうか…。だよな…」

恭介(そこで、会話は途切れた)

恭介(大切な仲間が、ある日突然いなくなる)

恭介(それはどれだけ辛いことなんだろう…)

恭介(だが、ゆりっぺも日向もみんな…。そんな想いを背負いながら戦ってきたんだよな)

恭介(特にゆりっぺはリーダーとして、一段と強い重圧を感じていたはずだ)

ゆり『…前から思ってたけど、あなたって本当に仲間想いね』

ゆり『さすがはリトルバスターズのリーダー、かしら?』

ゆり『…あたしもあなたみたいなリーダーになれたら、良かったんだけどね』

恭介(ゆりっぺ…)

コンコンッ

恭介(突然、ノックの音が聞こえた)

日向「…誰だ、こんな時間に?」

恭介「…俺が出よう」

恭介(起き上がり、ドアを開ける)

恭介(そこにいたのは…)

沙耶「恭介くん…」

恭介「沙耶…。どうした?」

沙耶「ゆりが、まだ…帰ってこないの」

恭介「なに…?」

沙耶「さすがに消灯時間になったら、帰ってくると思ってたんだけど…」

日向「マジかよ…」

音無「まさかあいつ、ずっと…」

恭介(日向と音無も、起き上がってきた)

恭介(同時に、廊下を慌ただしく駆ける足音が聞こえてくる)

恭介(息を切らせながら、現れたのは…)

野田「恭介っ…!!」

恭介「野田…!」

沙耶「野田くん…!ゆりは…」

野田「…出てこないんだ。あれから一度も…」

野田「ノックしても、呼びかけても返事すらしてくれない…」

日向「…あのバカ…」

日向「まだ自分を責めてんのかよ…」

沙耶「…ゆりの様子は確認した?」

野田「いや…中には入ってない…」

日向「なんでだよ!ゆりっぺが好きなんだろ!心配なんだろ!なら、それくらい…」

野田「じゃあ入って…なんて声を掛ければいいんだっ!?」

恭介(日向の胸ぐらを掴み、野田が声を張り上げた)

恭介(目には、涙が溜まっている…)

日向「野田…」

野田「何度も、何度も入ろうとしたんだ…!」

野田「なにか言ってやらなければって…。ゆりっぺを励まさなければって…」

野田「でも、俺は馬鹿だから…」

野田「いくら考えても…なにを言えばいいのかがわからないんだ…!」

野田「ゆりっぺを助けてやりたいのに、苦しんでるゆりっぺの力になりたいのに…」

野田「なのに俺には…なんの言葉も浮かんでこないんだ…!!」

恭介(そのまま…崩れ落ちる)

恭介(そして俺に向き直り、床に額を打ち付けた)

野田「頼む…恭介…」

野田「ゆりっぺを助けてくれ…」

恭介(そう訴える…。倒すべきライバルであるはずの俺に、必死に頭を下げている…)

恭介(俺だって…あいつになにを言ってやればいいのかなんて、わからないってのに…)

恭介「なぜ…俺なんだ?」

野田「わからない…。だが、どうすればいいのかわからなくなった時…」

野田「お前の顔が浮かんだんだ…」

野田「お前なら…なんとかしてくれると、そう思ったんだ…」

野田「だから、頼む…。頼むから、ゆりっぺを助けてくれ…。恭介…」

恭介「野田…」

恭介(お前、そこまでゆりっぺのことを…)

恭介「…………………」

恭介「…わかった」

野田「恭介…」

恭介「だが、俺一人じゃ意味がない」

恭介「ゆりっぺは…俺たちみんなのリーダーだろ?」

恭介「どんな言葉でも良いんだ。俺が必ず、ゆりっぺを部屋から連れ出すから」

恭介「だから、お前の素直な想いを、ゆりっぺに伝えてやれ」

恭介「いいな…?野田」

野田「………すまない、恭介…」

日向「…行くんだな?」

恭介「…ああ」

日向「…確かに、ゆりっぺは俺たちの言うことなんざ聞いちゃくれねぇからな」

日向「でもな…。俺たちも気持ちは同じだ」

日向「だから、無理にでもあのバカリーダーを引きずり出してくれ」

日向「あとで俺も一緒に殴られてやるからさっ…!」

恭介(日向が俺の肩に手を置きながら、そう言った)

恭介「ふっ…。その時は頼むぜ」

恭介(一度部屋に戻り、制服に着替えた)

恭介(これで後は、ゆりっぺの元に向かうだけだ)

音無「無責任な言い方かもしれないけど…」

音無「頑張ってくれ、恭介…!」

日向「俺たちも後で行くからな!」

沙耶「うん、みんなで待ってるから…!」

野田「恭介…」

野田「頼む…!!」

恭介「ああ…。じゃあいってくるぜ」

恭介(俺は寮を抜け、ゆりっぺのいる本部へと走った)

恭介(雨はいつの間にか降り止んでいたようだ)

恭介(薄く濡れた雲を貫くように、月明かりが刺している)

恭介(静かだ…。まるでこの世界に、誰もいなくなったような錯覚すら感じるほどに)

恭介(だが…)

恭介(たどり着く。部屋の前に立つ)

恭介(この扉の向こう側に、あいつがいる)

恭介(神への復讐を誓い、戦ってきた)

恭介(リーダーとしての責任や重圧と、孤独に戦ってきた)

恭介(そして、それゆえに今苦しんでいる)

恭介(なにを言わなければいけないのかは、俺にもわからない)

恭介(それでも、今ここでゆりっぺと向き合わなければ、ゆりっぺは本当に憎しみに囚われてしまう)

恭介(みんなで笑いあったこれまでの日々を忘れて、本当の自分を失くしてしまう)

恭介(そんな予感がある)

恭介(そうなれば、ゆりっぺの心は永遠に救われはしない)

恭介(だから、俺はこの扉を開く)

恭介(あの日立てた誓い、みんなの心を救うという誓いを守るために)

恭介(なにより、ゆりっぺ自身と、戦線のみんなのために)

恭介(ゆりっぺの心と向かい合う…!)

恭介(よし…いこう)

恭介「ミッション・スタートだ…!」

恭介(何度も繰り返してきた台詞を声に出して、俺は自分を奮い立たせた)

恭介(合い言葉を口にして、部屋の中へと足を進める)

恭介(そこには暗闇の中、机の上に腰掛け、うずくまるゆりっぺの姿が)

恭介(ささやかな月明かりが、ほのかにその姿を照らしている)

恭介(まるであの日の俺のようだ…)

恭介(なんて痛ましいんだろう)

恭介(向かい合い、声をかける)

恭介(この場所から連れ出すために)

恭介「ゆりっぺ…」

ゆり「だれ…?」

恭介「俺だ…。恭介だ」

ゆり「棗くん…?」

ゆり「ああ、そう…。やっぱり来たんだ」

恭介(顔を上げずに、呟いた)

恭介「ゆりっぺ…みんなが心配してる」

恭介「一緒にここから出ようぜ」

恭介「こんな真っ暗な場所に、一人でいるなよ」

ゆり「…余計なお世話よ」

ゆり「大方、誰かに頼まれたんでしょ?あたしを励ましてくれ、とか」

ゆり「誰に頼まれたの?」

ゆり「日向くん?それとも大山くんかしら?」

恭介「いや…頼みに来たのは野田だ。俺に頭まで下げてな」

恭介「ゆりっぺだって気づいてたんだろ?」

恭介「あいつずっと、扉の外でお前が出てくるのを待ってたんだぞ」

ゆり「……………」

恭介(静かに少しだけ、顔を上げた)

恭介(そして、困ったように笑った)

ゆり「そう…。野田くんがね」

ゆり「ほんとあいつは…。あたしなんかのどこがいいのかしら…」

ゆり「こんな、あたしの…」

ゆり「でも…。やっぱりバカね」

ゆり「人選ミスよ。よりによって棗くんを選ぶなんて」

恭介「どういう意味だ…?」

ゆり「…そのままの意味よ」

ゆり「あなたには、あたしの心はわからない」

ゆり「あなたの言葉だけは、絶対に響かない」

ゆり「だって、あなたは…」

ゆり「あたしよりも…ずっと優秀なリーダーなんだから」

恭介(冷ややかな笑みを見せた)

恭介(俺に対して、はっきりとした拒絶を示す)

恭介「…そんなこと無い」

恭介「俺だって何度も迷ったり、躓いたことだってあった」

恭介「その度に、みんなに助けてもらって立ち上がったんだ」

恭介「ゆりっぺだってそうだろ?」

恭介「誰だって、一人でなんでもこなすことなんて出来ない」

恭介「みんなを信頼して、信頼されて…」

恭介「そうして、今まで戦ってきたんだろ?」

ゆり「……………」

ゆり「いいえ…あたしは…」

恭介(目を閉じる。その寸前…)

恭介(ゆりっぺの瞳が僅かに澱んだ気がした)

ゆり「誰のことも…」

ゆり「信頼なんてしてないわ」

恭介「………!?」

恭介(思わず、言葉を失う)

恭介(ゆりっぺは今…なんて言ったんだ…)

ゆり「棗くんだって、もうよく知ってるでしょ」

ゆり「抗う理由が、戦う理由が無くなった人は…」

ゆり「みんなあっさりこの世界から消える」

ゆり「後には何も残らない」

ゆり「せいぜい、記憶や思い出の中に残るだけ」

ゆり「この世界でのあたしたちっていうのは、そんなあやふやな存在でしかない」

ゆり「だから、あたしは誰のことも信頼してない」

ゆり「日向くんや沙耶ちゃんやみんなのことも…」

ゆり「心のどこかで冷めた目で見てる」

ゆり「あたしは…そういう人間」

ゆり「そういう最低のリーダーなのよ」

恭介(ゆりっぺは淡々と言葉を続けた)

恭介「…嘘つくなよ、ゆりっぺ」

恭介「お前は、本気でそんな事思ったりするような奴じゃない」

恭介(なぜ…そんな事を口にするかはわからない)

恭介(だが俺は、みんなと一緒に無邪気に笑い合っていたゆりっぺを知っている)

恭介(態度に出そうとしないだけで、本当はみんなことを大切に思っていることを知っている)

恭介(だから、それは嘘だとはっきりわかる)

ゆり「…いいえ、本気でそう思ってるわ」

ゆり「そもそも最初からね…あたしは一人でも構わなかったのよ」

ゆり「でも神や天使と戦うには、一人じゃ無理だと悟ったから」

恭介「だから共に戦う同士を集めるために」

ゆり「あたしの目的を果たすために、戦線を立ち上げた」

ゆり「多くの人を巻き込んで、あたしは戦線のリーダーになった」

ゆり「でもね…」

恭介(息をつく。同時に、顔に悲哀の色が現れる)

ゆり「一番大切なものすら、たった30分で失うような弱いあたしが…」

ゆり「リーダーなんて務められるわけないじゃない。ねえ…?」

恭介「……………」

ゆり「あたしは…みんなを守れるほど強く無かった」

ゆり「何人も何人も、仲間を失っていった」

ゆり「神北くんだって…」

ゆり「その度に、自分の無力さを思い知らされたわ…」

恭介(いつか見た瞳。神に対する怒り)

恭介(自分に対する怒りが入り混じった瞳が向けられた)

恭介(そして、ようやく理解した…)

恭介(守りたい妹と弟を、為すすべなく失ってしまったという過去)

恭介(それこそが神を憎み、リーダーとして抗ってきたゆりっぺの原動力)

恭介(そして…心に強く刻まれた傷跡)

恭介(そんな傷を負っているゆりっぺにとって、仲間が消えるなんてことは…)

恭介(本当に耐えがたい痛みだったんだ…)

恭介(だから、沙耶が集合時間に遅れた時、あんなに動揺した)

恭介(日向が消えかけた時、必死になって止めようとした)

恭介(大切な人を失う痛みが、どれだけ辛いものなのか)

恭介(誰よりも知っていたから…)

恭介(その痛みに耐えるために、ゆりっぺはリーダーという仮面を被った)

恭介(本当の優しい自分を押さえ込んでいった)

ゆり「そして、いつしか思うようになった」

ゆり「どうせみんな、いつかはあたしの前から消えるんだもの」

ゆり「だったら…信頼しなければいい」

ゆり「誰にも頼らず、みんなから距離を置いて、リーダーとして孤独でいればいい」

ゆり「そうすることで、あたしは強さを得られた」

ゆり「どんな内容のオペレーションだって、迷わず命令できるようになった」

ゆり「駄目だと思ったら、すぐに仲間を見捨てられるようになった」

ゆり「何十年と戦い続けて、これだけの規模になった戦線のリーダーでいられた」

ゆり「でも、それでも…」

ゆり「あたしが守れずに消えていった人たちは、二度と帰ってこない…」

ゆり「強くなったつもりでも、全然そんなことなかった…」

ゆり「小毬さんに、何も言えなかった…」

ゆり「ただ謝ることしかできなかった…」

ゆり「あたしは…あたしは…」

ゆり「酷いリーダーなのよ…」

恭介「ゆりっぺ…」

恭介(泣きそうな声…)

恭介(それでも涙は必死に堪えていた)

恭介(ここで泣いたら、今まで積み重ねてきたはずの強さを)

恭介(失くしてしまうことになるから…)

ゆり「でも、棗くん…」

ゆり「あなたは…あたしとは違う」

ゆり「神も、理不尽な現実も憎んでいない」

ゆり「どうせ戦うなら、もっと楽しい理由の方が良いって」

ゆり「そんな言葉で、みんなを釘付けにして」

ゆり「心から仲間を信頼して、どんどん戦線の雰囲気すら変えていった」

ゆり「そんなこと…」

ゆり「そんなこと、あたしにはできない…!!」

ゆり「神北くんや他のメンバーだってそうだった!」

ゆり「日向くんだって、危うく消えるところだった!」

ゆり「どんなに大切な人だって、いつかは必ずいなくなる…!」

ゆり「生きるってそういうことじゃない…!」

ゆり「失うことは避けられないじゃない…!」

ゆり「大切な人ほど、失う時に…辛いじゃない…」

ゆり「なのに、どうしてあなたは…」

ゆり「そんなに迷わず仲間を頼ることができるのよ…」

ゆり「心を許せるのよ…」

ゆり「そんなあなたには…」

ゆり「あたしの心なんて永久にわからないわよっ…!」

恭介(そう、今まで抱えていた思いを吐き出した…)

恭介(神への憎しみ…リーダーとしての重圧…)

恭介(それよりも、もっとゆりっぺの根底にあった想い…)

恭介(それが…『大切な人を失うことに対する恐れ』)

恭介(それに耐えるために…)

恭介(強くなるために…)

恭介(みんなと距離を置こうとした)

恭介(心から信頼しないように心掛けた)

恭介(仲間が消える度に、神への憎しみが増し…)

恭介(リーダーとしての仮面は、強固な鋼鉄と化していった)

恭介(そして、どんどん本当の自分を失っていったんだ…)

恭介(やっと、やっとわかった…)

恭介(ゆりっぺが抱え、積み重ねてきた想いの真実が…)

恭介(ぶつけたい、と思った)

恭介(この目の前の少女に、今俺が感じている想いの全てを)

恭介(俺はお前の前から消えたりしないと)

恭介(一人で強くあろうとしたお前を、酷いリーダーだなんて思わないと)

恭介(そう、ぶつけたかった)

恭介(だが…それは俺の役目じゃない)

恭介(ゆりっぺが距離を置こうとしながら、それでも特別な気持ちを抱いていたやつら)

恭介(どれだけ距離を置かれても、それでもゆりっぺを想い続けたやつこそが、ぶつけるべき想いだと)

恭介(そう…思った)

恭介(だから、俺がゆりっぺのためにできること…)

恭介(俺が、ゆりっぺに話さなければならないこと…)

恭介(それは…)

恭介「なぜ俺が、仲間を頼ることができるか、か…」

恭介「その理由は簡単だ、ゆりっぺ」

恭介「俺はかつて…自らに使命を課した」

恭介「それをやり遂げようと必死だった。その事しか考えてなかった」

恭介「一人で、自分のやり方だけを信じて…」

恭介「強行に進めて…」

恭介「止めようとした仲間すら…」

恭介「あざとく狡猾に騙して、その想い諸共、踏みにじった」

恭介「そして…」

恭介「失敗した」

ゆり「えっ…」

恭介(ゆりっぺが目を丸くしている)

恭介(俺が失敗したということに驚いたのか)

恭介(それとも、仲間を騙したというのが信じられないんだろうか)

恭介「…取り返しのつかない過ちを犯したんだ」

恭介「ゆりっぺ…。お前は以前、自分の生前について話してくれたよな」

恭介「今度は、俺の番だ」

恭介「俺の始まりから、この世界に来るまでの全てをお前に明かそう」

恭介(俺が話さなければならないのは…)

恭介(全てを一人で果たそうとして失敗した、俺自身の話)

恭介「前にも言ったよな。俺には妹がいる。名前は鈴、歳は俺の一つ下だ」

恭介「鈴は活発で好奇心も旺盛で、ほんとに元気で明るい、猫みたいなやつだった」

恭介「だがある日、生きる怖さを覚えてしまった」

恭介「あるトラウマが、鈴の心に焼き付いた」

恭介「それ以来、鈴は変わってしまった」

恭介「ふさぎ込んで、臆病になって、ろくに家から出ようともしなくなってしまった」

恭介「その時…俺は誓った」

恭介「俺はこの先、鈴を守るために生きようと」

恭介「何があっても、鈴の側にいようと、そう誓った」

恭介「ただ辛いだけで怖いことしかない人生なら、生きる意味なんて無いかもしれない」

恭介「でもそうじゃないと、生きることってのは、楽しいことだってたくさんあるんだと」

恭介「俺は、鈴に教えたかった」

恭介「それが、リトルバスターズの始まり」

恭介「そして、『棗 恭介』の始まりだ」

ゆり「あなたは、じゃあ…。妹さんの為に…?」

恭介「…ああ。最初に真人、次に謙吾、そして最後に理樹」

恭介「それがリトルバスターズの初期メンバーだった」

恭介「みんな、一人だったんだ」

恭介「だから、手を繋いだ」

恭介「一緒に楽しいことを、たくさん見つけに行った」

恭介「もちろん、全てが鈴やあいつらのためだったってわけじゃない」

恭介「俺自身もそうしたかったから」

恭介「楽しい時間を共に過ごして、みんなで笑い合いたかったから」

恭介「だから、そういう道を選んだんだ」

ゆり「……………」

恭介(ゆりっぺは静かに、耳を傾けてくれている)

恭介(真剣に、俺の話を聞いてくれている)

恭介「だが…俺は幼すぎた。無邪気すぎたんだ」

恭介「ずっと遊んではいられないってことを、考えもしなかった」

恭介「そして、その時がきた…」

恭介「修学旅行に向かう途中、バスが崖から転落したんだ」

ゆり「………!」

恭介「すぐに悟った。俺たちは助からない」

恭介「理樹と鈴だけは、真人と謙吾が身を挺して守ったおかげで、九死に一生を得ると」

恭介「だが、二人だけを残して、俺たちは死ぬわけにはいかなかった」

恭介「二人は弱すぎる」

恭介「目覚めと共に絶望してしまう」

恭介「だから…」

恭介(あの時は、ゆりっぺにこの事は伝えておかないでおくべきだと思った)

恭介(それでも、ゆりっぺと向き合う為に必要な事だと)

恭介(今、この時は思った…)

恭介「俺たちは…世界を創り出した」

恭介「野球をする際、新たに仲間になった小毬・来ヶ谷・三枝・能美・西園…」

恭介「みんなとの出会いの日から、『事故が起きる』までの一学期を永遠に繰り返す」

恭介「そんな世界を創ったんだ」

ゆり「…は?世界を創った…?」

ゆり「わけがわからないわ…!なにかの抽象的な表現…!?」

ゆり「それとも哲学的な模索かなにか…?」

恭介「そう思うのも無理はない…」

恭介「だが、話はもっと現実的でシンプルだ」

恭介「本当に、世界を創ったんだよ。俺たちの力で…」

ゆり「……………」

ゆり「どうやって…?」

恭介「それは俺にも、みんなにもわからない」

恭介「暗闇の中で、俺は叫んだ」

恭介「それは水の波紋のように広がっていた」

恭介「それに応えるように、波紋が俺の元まで届いた」

恭介「みんなは、『そこ』にいたんだ」

恭介「それが死の世界なのか、臨死の世界なのかはわからない」

恭介「ただ、俺たちは『そこ』で意識を共にしたんだ」

恭介「何も見えなくても、何も聞こえなくても」

恭介「確かに、俺たちは『そこ』で語り合ったんだ」

恭介「想いの波紋を広げあって」

ゆり「……………」

恭介「みんなの想いが重なり、世界を創り、現象を起こした」

恭介「そんな閉じた世界で、理樹と鈴を見守ることにした」

恭介「何度も、何度も繰り返した」

恭介「二人も、何度も、何度も躓いた」

恭介「それでも、少しずつ強くなっていった」

恭介「理樹と鈴だけじゃなく、他のみんなも強くなっていった」

恭介「そうして強くなれば、俺たちがいない世界でも、二人は生きていけると思ったんだ…」

恭介「だが…」

恭介(声が、震える)

恭介(あんなやり方を選んでしまったあの時の俺を、殴りたくなる)

恭介「俺は失敗した」

恭介「やり方が強引すぎたんだ」

恭介「鈴一人に、乗り越えられないほど辛いミッションを与えてしまった」

恭介「一人でできることには、限界がある」

恭介「わかっていたはずなのに、俺もまた自分を見失っていたんだ」

恭介「みんなを傷つけた」

恭介「鈴を追い詰めた」

恭介「そして、鈴の持つトラウマを再び突きつけて…」

恭介「絶望させた…」

ゆり「………………」

恭介「…もう一度、世界をやり直しても、鈴の心は壊れたままだった」

恭介「リトルバスターズも、バラバラになってしまった」

恭介「それが…俺の失敗…」

恭介「取り返しのつかない最悪の失敗だ」

恭介「絶望し、諦めそうになった」

恭介「それでも…諦められなかった」

恭介「二人を助ける」

恭介「ルールだって犯す」

恭介「倫理だって踏みにじる」

恭介「でも、あの二人だけは絶対に助ける」

恭介「その想いだけが、俺を突き動かしていた」

恭介「みんなから離れ、俺一人での戦いが始まった」

恭介「そして…もう一人」

恭介「みんなのために、みんなの心を救うために立ち上がった奴がいた」

恭介(俺が話さなければならないのは…)

恭介(全てを一人で果たそうとして失敗した、俺自身の話…)

恭介(そして一人ではなく、仲間と共に歩み、強くなった男の話…)

恭介「その男こそ…」

恭介「直枝 理樹」

恭介「俺が救おうとし、俺を救ってくれた男だった…」

今日は以上です

はい、シリアスなんです
愉快な加入回を期待した人はごめんなさい

このイベントは通常のエピソードとは異なる、小毬が加入する際に必ず起きる特殊なイベントです
ただ加入時期によって内容が異なるイベントでした

どういう結末になるか、小毬がゆりに何を話したのかはまた次回に

生存報告です
きりが悪いので年明けまでに更新したい
けど間に合うかは微妙…

あまり関係ないけどLittleMelodyは理樹のテーマ曲だと個人的に思ってます

ゆり「直枝 理樹…」

ゆり「沙耶ちゃんや、他のみんなが好きだって言う人…?」

恭介「ああ。そいつのことだ」

ゆり「…その上、あなたを救った…?」

ゆり「一体、何者なのよ、その直枝 理樹って…」

ゆり「棗くん以上の完璧超人だったとか?」

恭介(その言葉に、思わず小さく笑みがこぼれた)

恭介(ゆりっぺは今、どんな理樹を想像してるんだろうな)

恭介(たしかに、すごいやつではあるんだが)

恭介(多分、ゆりっぺのイメージとは全然違うはずだ)

恭介「いいや、理樹はそんなやつじゃないさ」

恭介「あいつは…鈴と同じだったんだ」

恭介「幼い頃に両親を事故で失くしたトラウマから、生きる怖さを知ってしまった」

恭介「ひ弱で、なにか事が起こると俺を頼るばかりだった」

理樹『恭介、やばいって、ふたりを止めてっ…!』

恭介「悲しみや不安から、すぐに目を背けてしまうようなやつだった」

理樹『小毬さんのお兄さんは死んでしまったんだ…!』

理樹『僕の両親と同じだ…』

理樹『みんないなくなる…』

理樹『大切な人は…いなくなるんだ…』

恭介「全然…完璧なやつじゃない」

恭介「まるで子どものように、弱くて頼りないやつだった」

ゆり「………………」

恭介「でもあいつは…いつまでも子どもじゃなかった」

恭介「何度も何度も繰り返していくうちに、自分の弱さを克服していった」

理樹『悲しいことから目を背けても、いつかまた同じことが起こる…!』

理樹『本当のことと、真正面から向き合わなくちゃいけないんだ…!』

恭介(思えば…いつもそうだった)

恭介(薄弱、喪失、憎悪、贖罪、哀切、孤独、未練)

恭介(たとえそれが、どれだけ辛く悲しいものだとしても…)

恭介「傷つき、苦しんでいる仲間を助けるために」

恭介「必死に勇気を振り絞る、優しさ」

恭介「それが理樹の強さだったんだ」

恭介「自分の弱さを知っているからこそ」

恭介「人の弱さを誰よりも知っているからこそ」

恭介「理樹は、その想いに寄り添うことができた」

恭介「自分ひとりで全てを背負おうとはしなかった」

恭介「みんなと共に成長し、困難を乗り越える強さを身につけていったんだ」

恭介「そこが…俺との決定的な違いだ」

恭介「俺は、理樹と鈴を助けようとするあまり、みんなを傷つけた」

恭介「俺たちが育んできた、大切なもの全てを壊してしまった」

恭介「でも、あいつは…」

理樹『僕はリーダーになる。かつての恭介のように』

理樹『仲間を集めよう』

理樹『もう一度、リトルバスターズをつくるんだ!』

恭介「…立ち上がった、みんなのために」

恭介「心が壊れ、絶望したはずの鈴を笑顔にした」

恭介「知恵と勇気を駆使して、鈴とふたりで協力して」

恭介「真人と謙吾まで仲間にしてみせた」

恭介「俺だって、しくじったのに…」

恭介「理樹は…俺を追い抜いていったんだ」

恭介(そして、あの時…)

恭介(暗闇の中にいた俺に掛けられた言葉…)

理樹『僕らはリトルバスターズだ』

理樹『一緒にいこう、恭介』

恭介「そう言って、俺に手を差し伸べてくれたあいつを見た時…」

恭介「涙が出るほど…嬉しかった」

ゆり「棗くん…」

恭介(声が、震えている)

恭介(俺は今、泣いているのかもしれない)

恭介(それでも、言葉を紡ぐ)

恭介(俺があの世界で学んだ全てを、ゆりっぺに伝えるために)

~Yuri Side~

恭介「そして、教えられた」

恭介「どんなに強くなろうと…」

恭介「強い想いがあろうと…」

恭介「一人で全てを背負うことなんてできない」

恭介「だからこそ、それを補い、助け合うために仲間がいる」

恭介「ゆりっぺ」

恭介「お前は神を憎み、理不尽な運命に抗おうと、孤独という強さを得た」

恭介「だが…そうじゃないんだ」

恭介「生まれてから、誰にも頼らず生きてこられた人間なんていない」

恭介「人は…一人では生きられない」

恭介「孤独な道を歩み続ければ、必ず俺のように失敗する」

恭介「だから…そんな強さは持たなくていいんだ」

ゆり「………っ!」

ゆり(…棗くんの言葉が、胸に刺さる)

ゆり(一筋の涙を流しながら、必死にあたしに訴えている…)

ゆり(その言葉が、本当に真摯で真剣なものだということが、伝わってくる…)

ゆり(いつもそうだ…)

ゆり(棗くんの言葉には、不思議な魔力がある)

ゆり(楽しそうで、子どもっぽくて、ふざけているとしか思えないような綺麗事)

ゆり(なのに…胸を打つ)

ゆり(日向くんや、岩沢さんや、他のみんなだけじゃなく)

ゆり(あたしの心にすら届く…)

ゆり(ただひたすらに、楽しいことを考えて行動に移す)

ゆり(みんなと一緒に、そんな日々を生きる)

ゆり(それがどれだけ、眩しくて、羨ましくて、幸せな生き方なのか…)

ゆり(あたしたちには、痛いほどわかるから…)

ゆり(でもだからこそ…)

ゆり(あたしは棗くんを受け入れられない)

ゆり(受け入れるわけには…いかない)

ゆり(それを、受け入れてしまえば…)

ゆり(あたしは自分で、これまでのあたしを否定することになる)

ゆり(この世界で積み重ねてきた強さを、失うことになる)

ゆり(それだけは…できない)

ゆり「じゃあ、どうしろっていうのよ…!?」

ゆり「失うことを…受け入れろっていうの…!?」

ゆり「それができないから、あたしは、ずっと一人で…」

ゆり「神を憎んで…」

ゆり「運命に抗って…」

ゆり「戦い続けてきたっていうのに…!」

ゆり「受け入れることなんてできない…!」

ゆり「誰にも、あたしの気持ちなんてわからない…!」

ゆり「この…!気がおかしくなるくらいの…!あたしの気持ちが…!」

ゆり「あなたに…!あんたなんかに…!」

ゆり「わかるわけないじゃないっ!!」

ゆり(叩きつけるように叫ぶ)

ゆり(棗くんを否定するために)

ゆり(わかってる…)

ゆり(あたしだって…自分の弱さは誰よりも、あたしが一番よくわかってる)

ゆり(でもあたしは、棗くんや、直枝 理樹とも違う)

ゆり(一度、誰かに頼ってしまえば…)

ゆり(心を許してしまえば…)

ゆり(もう失う痛みに、耐えられない)

ゆり(この想いも、神への憎しみも揺らいでしまう)

ゆり(あたしにとって、一番大切なのはあの子たちだ)

ゆり(あの子たちの無念を晴らす)

ゆり(それが…あたしの戦う理由なんだ)

ゆり(だから、拒絶する)

ゆり(棗くんも、みんなも、天使も…)

ゆり(この想いを妨げるものは、すべて)

ゆり(あたしにとって…)

恭介「…わかるさ」

ゆり「えっ…?」

恭介「俺だけじゃない」

恭介「きっと、この世界にきたみんな…」

恭介「お前の気持ちがわかるはずだ」

ゆり(言い切られる…。これだけ必死に言葉をぶつけてるのに)

ゆり(少しも揺らがず、あたしを見つめている)

ゆり「わかる…?」

ゆり「みんなに…?」

ゆり「…ふざけないでよっ…!」

ゆり「なんで…!?そんな簡単に言い切れるのよっ…!」

ゆり「わかるわけないっ…!どうしてわかるっていうのよ…!?」

恭介「……………」

恭介「それはな…ゆりっぺ」

恭介「お前の気持ちは…みんなが持ってるものだからだ」

ゆり「………っ!?」

ゆり「…みんなが持ってる…?」

ゆり(この、気がおかしくなりそうな気持ちを…みんなが…?)

恭介「ああ…」

恭介「みんな、失う怖さに怯えている」

恭介「この世の理不尽を、憎いと思うことだってある」

恭介「それは人として、当たり前の気持ちだ」

恭介「だから…俺たちは手を繋ぐんだ」

恭介「一人では生きられない弱い生き物だから」

恭介「失うことからも、理不尽な不幸からも逃げられないから」

恭介「それを、乗り越えるために」

恭介「新しい出会いや、楽しいことを、みんなで見つけるんだ」

ゆり「…………………」

恭介「ゆりっぺ、自分の弱さを見せるのは悪いことじゃない」

恭介「差し伸べられた手を取ることも」

恭介「誰かにすがって泣くことも、悪いことじゃない」

恭介「俺も、理樹から差し伸べられた手を取った」

恭介「だから、今の俺がある」

恭介「俺も、みんなも…」

恭介「必ず、ありのままのゆりっぺを受け止めるから」

恭介「だから…」

恭介「手を伸ばせ、ゆりっぺ」

ゆり(手が、差し伸べられる)

ゆり(その手が…なぜか)

ゆり(小毬さんの微笑みと重なる…)

ゆり(あたしは、ただ謝ることしかできなかった…)

ゆり(真っ直ぐに小毬さんの顔を見ることすらできなかった…)

ゆり(誰よりも、神を憎んできたあたしなのに…)

ゆり(それと同じ憎しみを向けられるのが怖かった…)

ゆり(なのに、小毬さんは…)

小毬『ゆりちゃん…』

小毬『顔を上げて』

ゆり『…………………』

小毬『ゆりちゃんは、知ってるんだよね?』

小毬『かなでちゃんが、どうして天使として、みんなと戦ってたのか…』

ゆり『それは…』

小毬『きっとおにいちゃんは、かなでちゃんに見送られて』

小毬『思い残すことが無くなって』

小毬『もう一度、新しい人生を生きてみようって思えたんだと思う』

小毬『だからね、それは良いことなんだよ』

小毬『ゆりちゃんが、自分を責める必要なんて無いんだよ』

ゆり『そんなわけない…!そんなわけないじゃない…!!』

ゆり『神北くんが、まだこの世界にいれば…』

ゆり『あなたは、神北くんと再会できたのに…』

ゆり『あたしのせいで、神北くんは消えて…!』

ゆり『あたしのせいで、あなたは、お兄さんに会えなくて…!』

ゆり『なのに、自分を責めるなって…!』

ゆり『そんなの、許されるわけないじゃないっ…!』

小毬『…うん、でもね』

小毬『おにいちゃんは、きっと最期、笑顔だったと思うんだ』

ゆり『えっ…?』

小毬『悲しいことは無くならないけど…』

小毬『辛いことがあっていっぱい泣いても…』

小毬『隣で笑ってくれる人がいたら』

小毬『私も笑っていられる』

小毬『私が笑えば、みんなも笑ってくれる』

小毬『そうやって、悲しいことを受け止めて』

小毬『また、ステキなものを見つけられる』

小毬『みんなと一緒なら、きっと見つけられる』

小毬『それが…私がおにいちゃんと、理樹君から教えてもらったこと』

小毬『すごいことだから』

ゆり『小毬さん…』

小毬『だから…』

小毬『ステキなこと、いっぱい探そう』

小毬『みんなで一緒に』

小毬『ゆりちゃんも、笑っていられるように』

ゆり(…あの時見た、小毬さんの陽だまりのような笑顔)

ゆり(…眩しすぎる、棗くんの手)

ゆり(同じ想い)

ゆり(ふたつが重なり合い…あたしを包み込んだ気がした)

ゆり(みんなと一緒に…)

ゆり(失うこと、悲しいことを乗り越えて…)

ゆり(楽しいことを、素敵なことを…)

ゆり(そんな生き方を…)

ゆり「………………」

ゆり(手を、伸ばしてしまいそうになる…)

ゆり(でも…)

ゆり「…無理よ」

ゆり「あたしはずっと、みんなに無茶な命令をしてきた…」

ゆり「酷く扱ってきた…」

ゆり「心のどこかで冷めた目で見てて…」

ゆり「信じようともしなかった…」

ゆり「自分のこと、あの子たちの無念を晴らすこと…」

ゆり「それだけを考えて、ここまで戦ってきた」

ゆり「そんな、自分勝手なひどいリーダーだった…」

ゆり「だから…あなたたちの手は取れない」

ゆり「あたしには…そんな資格すら無い…」

ゆり(たとえ、棗くんや小毬さんがどう思ってくれようと)

ゆり(この何十年もの間、あたしが冒し続けてきた間違いは消えない)

ゆり(みんなを、傷つけてきた過去は消えない)

ゆり(なのに、今更、自分が苦しい時だけ助けを求めるなんて…)

ゆり(そんなの、身勝手すぎる)

ゆり(絶対に、許されるはずがない…)

恭介「…ゆりっぺ」

恭介「お前が本気でそう思っているなら…扉を開いてみろ」

恭介「そこに、答えがある」

ゆり(差し出していた手を、そのまま入り口の扉に向けた)

ゆり「答え…?」

恭介「ああ。お前がこの世界で得たもの」

恭介「その強さを失くしても、神への憎しみ以外に残るもの」

恭介「それが…そこにある」

ゆり「あたしに、残るもの…」

ゆり(そんなものが…あるんだろうか)

ゆり(こんなあたしに…)

ゆり(引きつけられるように、扉の前に立つ)

ゆり(少し錆びついたドアノブ…)

ゆり(何度も開いてきたものなのに、いつもより遥かに、重く冷たく感じる…)

ゆり「………」

ゆり(意を決して、扉を開く)

ゆり(同時に、人のざわめきが聞こえた)

ゆり(そこには…)

ゆり(みんながいた)

ゆり(戦線の制服姿で)

日向「ゆりっぺ…」

沙耶「ゆり…!」

野田「ゆりっぺ…!」

ゆり「えっ…」

ゆり(扉を開けるなり、日向くんたちの顔が目に入る)

ゆり(見渡すと、幹部のみんなもいた)

ゆり(ガルデモのみんなも)

ゆり(ギルドのメンバーも)

ゆり(したっぱのみんなまで…)

ゆり(みんなが、こんな狭い廊下に集まっていた)

ゆり「あ、あなたたち…なんで…?」

遊佐「沙耶さんから話を聞いたので、わたしがみなさんに連絡を回しました」

ひさ子「あたしたちはすでに、岩沢から大体のことを聞いてたからね」

チャー「俺たちは、日向から教えられて駆けつけた」

ゆり「…だからって…こんな時間に…」

ゆり「あたしなんかのために…?」

日向「なんかって言うなよ」

ゆり「えっ…?」

沙耶「ゆりは、あたしたちのリーダーじゃない」

椎名「なにかあれば、迷わず駆けつけるに決まっている」

大山「僕たちみんな、ゆりっぺのことが大好きだからね」

チャー「お前がいたから、俺たちは戦ってこられたんだ」

チャー「あの時から、ずっとな」

ゆり「椎名さん、大山くん、チャー…」

ゆり「でも、あたし…」

ゆり「ずっと無茶苦茶で、みんなに勝手な命令ばかりしてたのに…」

ひさ子「今更、何言ってんだよ」

岩沢「あたしたちを仲間に誘った時のこと、忘れたのか?」

岩沢「いきなり手を握って…」

岩沢「歓迎するわ!ようこそ死んだ世界戦線へ!!だぜ」

岩沢「最初から無茶苦茶だったじゃないか、ゆりは」

藤巻「ああ、まったくだぜ。くそたりぃことも山ほどあったけな」

松下「それでも俺たちは、戦線に入ったことを後悔したことなんて無いぞ」

高松「ゆりっぺさんや、みなさんと駆け抜けたこの何十年は」

高松「私たちにとってかけがえの無い時間だったんですから」

TK「Thanks for a great time…!!」

遊佐「…右に同じ、とだけ言っておきます」

ゆり「あなたたちまで…」

ゆり「ちょっと…やめてよ…」

ゆり「これじゃあ、あたし…」

ゆり「あの時の日向くんみたいじゃない…」

日向「おうっ。やっと俺の気持ちがわかったか」

日向「ゆりっぺもあの時、こんな恥ずかしいこと言ってたんだぜ」

日向「あたしの側に居続けろってな」

日向「…言われるまでもねぇよ」

ゆり(日向くんが、あたしの頭に手を置いた)

日向「ずっと側にいてやんよ」

日向「ゆりっぺの側で、俺たちが一緒に笑っててやるからさ」

日向「だから、一人でそんな顔してんじゃねぇよ」

ゆり「日向くん…」

沙耶「ゆり。あたしは、リーダーとして気を張ってるゆりよりも」

沙耶「普段の優しいゆりのほうが、ずっと好きよ」

沙耶「多分、みんなもそう」

沙耶「だから、もっとあたしたちのこと頼ってよ」

沙耶「仲間じゃない」

ゆり「沙耶ちゃん…」

野田「ゆりっぺ…」

野田「俺は…」

野田「俺は、消えない…!!」

野田「なにがあっても、ゆりっぺがいる限り、この世界から消えたりしない!!」

野田「ずっとゆりっぺを守り続けてみせるっ!!」

ゆり「野田くん…」

ゆり(信じられない…)

ゆり(あたしは、ずっとひどいリーダーだったのに…)

ゆり(どうして、みんなは…)

ゆり(こんなあたしに…)

恭介「…だから言ったろ?」

恭介「お前が本当に、自分のことしか考えて無かったなら」

恭介「誰もゆりっぺに、ついてきてなかったはずだってな」

恭介「どれだけ距離を置こうとしても、冷めた目で見てたつもりでも…」

恭介「それでもお前は、みんなを大切に思ってた」

恭介「その気持ちが、みんなにも届いてんだよ」

ゆり「棗くん…」

ゆり「なによ…やめてよ…」

ゆり(止まれ、止まって)

ゆり「柄じゃないのよ、こんなの…」

ゆり(誓ったんだ、涙なんか流さないって)

ゆり(あの子たちのために)

ゆり(神への復讐を果たす、その時まで)

ゆり「あたしは…」

小毬「ゆりちゃん」

ゆり「小毬…さん…」

ゆり(いつの間にか、あたしの目の前には…)

ゆり(優しく微笑む、小毬さんがいた)

小毬「もう、いいんだよ」

小毬「泣いても、いいんだよ」

小毬「ゆりちゃんの周りには、たくさんの仲間がいるよ」

小毬「泣いた後に、また一緒に笑ってくれる」

小毬「そんな優しい仲間がいっぱいいるよ」

小毬「だからね」

小毬「もう、泣いてもいいんだよ」

ゆり「…………………」

ゆり(だめ…)

ゆり(止まって…)

ゆり(止…)

ゆり「あ……」

ゆり「うあ…っ…」

ゆり「うわぁぁぁぁ…」

ゆり「うわあぁぁぁーーーっ………」

ゆり(止まらなかった)

ゆり(なにも、止まらなかった…)

ゆり(今まで、抱えてきたものが…)

ゆり(涙と一緒に、どうしようもなく溢れてきた)

ゆり「ご、めん…!ごめんなさい…!」

ゆり「みんなっ…!あたし、あ、たしっ…!」

沙耶「ゆり」

ゆり(泣きじゃくるあたしを、沙耶ちゃんが抱きしめてくれた)

沙耶「もう、謝らなくていいのよ」

沙耶「ね?」

ゆり(あたしは……馬鹿だ)

ゆり(自分の弱さを隠すために、必死に強がって)

ゆり(何十年も、間違いを冒し続けて)

ゆり(一人で歩いてきたつもりだった)

ゆり(なのに…こんなあたしをみんなは信頼してくれた)

ゆり(弱いところも、情けないところも、格好悪いところも)

ゆり(優しく受け止めてくれた)

ゆり(そんなみんなのことすら、信じられないなら…)

ゆり(あたしは、神なんかよりも、ずっとずっと最低なやつだ)

ゆり(ああ…この気持ちはなんだろう)

ゆり(生きることは、失うことなのに)

ゆり(いつかは必ず、別れは訪れるのに)

ゆり(それでも、あたしは、みんなと一緒に生きていきたい)

ゆり(あの子たちだけを愛する姉でいたかったのに…)

ゆり(あたしは、こんなにも、みんなのことが…)

ゆり(好きになっていたんだ)

ゆり(…もう、自分を誤魔化すのはやめよう)

ゆり(自分にも、みんなにも、あの子たちにも)

ゆり(自信を持って誇ることができるような…)

ゆり(そんなリーダーになって…)

ゆり(みんなを守るために強くなって…)

ゆり(そして、みんなと一緒に…)

ゆり(生きていくんだ)

Episode:Konzert 「ふたりのリーダー」 END

~恭介の称号に「理解者」が追加されました~

今日は以上です

なんとか今年中に切りの良い所まで行きました
拙い文章ですが、自分なりに全てを出し切ったつもりです

感想、質問などがあればぜひお願いします
それでは皆様、良いお年を

次回の更新はいつぐらいになりそうですか?


あけおめ
ふと疑問に思ったがこのリトバスメンバーはいつのメンバーなんだろか
恭介の話からしたらリフレインで理樹が目覚めたところまでは確実だけど

少し遅くなりましたがあけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

>>964
そこまで開かないと思います…多分…
次回は音無加入回になる予定です
>>966
すみません…
実は結構鋭い疑問なので詳しく説明するとネタバレになってしまいます
明かせる範囲で説明すると
①恭介たちの作った虚構世界は崩壊した
②恭介たちは死を迎えている
という事ぐらいになります

次スレです

恭介「戦線名はリトルバスターズだ!」ユイ「その5です!」
恭介「戦線名はリトルバスターズだ!」ユイ「その5です!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1452167589/)

思いの外仕事が忙しくなってしまい、実は休憩途中に建てたのでまだ更新できません…
次回分は大体書き終えてるのでもう少しお待ちください

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