姫「兄者、あたし世直ししたい!」王子「ええっ!?」(108)

<城>

姫「あーもう、退屈!」

姫「毎日毎日、お城でお勉強やお稽古ばかりでやんなっちゃう!」

姫「ねーねー、兄者!」

王子「うん?」

姫「兄者、あたし世直ししたい!」

王子「ええっ!?」

王子「世直しって……なにするのさ?」

姫「むかしむか~し、まだあたしたちが生まれてもいない頃……」

姫「この国には仮面剣士って伝説のヒーローがいて」

姫「盗賊や山賊をバンバンやっつけてたって聞いたわ」

王子「父上と母上がまだ結婚したての頃の話だね」

姫「あんな感じで、世直ししたいの!」

王子「あんな感じでって、ずいぶんアバウトだなぁ」

王子「それに危ないよ……盗賊や山賊と戦うだなんて」

姫「分かってるって! いくらあたしでもそんなことしないわよ」

王子「じゃあ……どうするの?」

姫「こないだ、メイドたちが話してるのを聞いたのよ」

姫「城下町に、“世直し団”なる少年グループができたって」

王子「え!?」

姫「すっごく腕っぷしの強い子が、町の悪ガキを束ねて結成したんだってさ!」

姫「それで、人助けをしたり、悪い人をやっつけたり……」

姫「時には“遠征”して、他の町の悪ガキグループと決闘してるんだとか!」

姫「すっごくワクワクしない? するでしょ?」

王子「いや、別に……」

姫「このヘタレ!」ボカッ

王子「あだっ!」

姫「兄者はいいよねぇ」

姫「男の子だから、騎士団長から剣の手ほどきを受けさせてもらえるしさ」

姫「だけど、あたしはそうはいかないもん」

姫「こうなったらあたし、お城を抜け出して」

姫「その世直し団とやらに入れてもらおうと思うの!」

王子「ええっ!? や、やめようよ……そんなのつまらないよ!」

王子「それに、もし父上やじいやにバレちゃったら叱られるよ……」

姫「平気よ、平気!」

姫「さ、行こ! 兄者!」

王子「まいったなぁ……」

執事「おや? お二人とも、どちらに行かれるので?」

姫「あ~ら、じいや。ちょっと中庭にね」

王子「う、うん」

執事「そうですか。くれぐれも、勝手に城を出るようなマネはしないで下さいよ」

姫「分かってるわよ! 心配しすぎると、白髪増えちゃうわよ!」

執事「え!?」ササッ

姫「さ、レッツゴー!」ダッ

王子「それじゃあね、じいや」

執事「ほっほ、元気なことで……」

王子「――あ、そうだ! ちょっと待った!」

姫「どしたの?」

王子「うっかりしてた。この格好のまま城を出たらまずいよ」

姫「あ、そっか」

王子「町に出るための服をこっそり借りてくる。ここで待ってて!」

……

……

……

妹「じゃーん! これであたしたちは王子と姫じゃなく、ただの“兄と妹”ってわけね」

妹「どう?」

兄「似合ってるよ」

妹「ありがと、兄者!」

妹「だけど、よく気がついたね。着替えなきゃマズイって」

妹「しかも、服もあっさり調達してきたし、兄者もなかなかやるじゃない!」

兄「ま、まあね……」

<城下町>

妹「しっかし、世直し団ってどうやったら会えるのかしら?」

妹「兄者、なんかいいアイディアない?」

兄「ぼくにいわれても……」

妹「もうっ、少しは考えてくれたらどうなの!?」

妹「――あ、そうだ! 世直し団は人々を救うためのグループなんだから……」

妹「たとえば、あたしがピンチになれば、駆けつけてくれるんじゃない!?」

兄「ええっ!? そんな便利な集団じゃないと思うけど……」

妹「そうと決まれば、世直し団に会うためにピンチにな~ろうっと」タタタッ

兄「あっ……!」

兄「もう……どうしようかな……」

妹「うぅ~ん、なかなかピンチになれないなぁ」キョロキョロ

妹(ピンチになるって、どうすればいいんだろ?)

妹(だれか悪い奴があたしにからんでくれれば、ありがたいんだけど……)

妹(そんなことなかなかないよねえ……)



デブ「こいつじゃねえか?」ザッ

金髪「ああ、この子で間違いないみたいだな」ザッ

妹「な、なによ? あんたら?」

妹(なによ、この男の子たち……兄者と同じぐらいの年っぽいけど)

デブ「オレたちについてきてもらうぜ」

妹(ゲ……ウソ……)

妹「イヤよ! なんでついてかなきゃならないのよ!」

デブ「なんだと!?」

金髪「いいからついてきなよ。ボスの命令なんだ」

妹(ボス!? もしかして、あたしが姫だってバレちゃったとか!?)

妹「絶対イヤ!」

妹(兄者……助けて……)チラッ

妹(い、いない!? なんでぇ!? 逃げたの!? あのヤロウ!)

デブ「さぁ、いくぞ!」

金髪「とっとと連れてこいって命令だからさ」

妹「う、うう……」

妹「だ、だれか……」

妹「“世直し団”助けてぇ~!」

金髪「え!?」

デブ「お、おいおい、なにいってんだ! オレたちが世直し団だっての!」

妹「え、そうなの!?」

デブ「そうだよ! くそっ、オレたちもまだまだマイナーだってことか……」

妹「なぁ~んだ、ビビって損しちゃった。でもどうしてあたしを連れてこうとすんの?」

金髪「ついさっきボスから指令があってさ」

金髪「町をみなれない女の子がうろついてるから保護するように、っていわれたのさ」

妹「そうだったんだ!」

妹(あたしが町に出て、まだ一時間ぐらいしかたってないのに、さすが世直し団のボスね)

妹(頼りない兄者とは大違いだわ!)

妹「ところで、あなたたちのボスってどんな人なの?」

デブ「そりゃ、すげえ人さ」

デブ「ある日突然あらわれて、オレら町の不良を次々倒して手下にしていったんだ」

デブ「今や世直し団は20人を超える大所帯だぜ」

妹「この町の人なの?」

金髪「いや……他の町に住んでるらしくて、あまりこの町にはやってこないけど」

金髪「やってきた時は必ず的確な指示をくれるんだよ」

妹「ふぅ~ん、ますます会うのが楽しみになってきたわ!」

金髪「ボクらのアジトは、町外れにある廃屋なんだ。案内するよ」

<世直し団アジト>

出っ歯「ボス、二人が戻ってきたッス!」

出っ歯「ボスがいったとおりの女の子を連れてるッスよ」





「よくやった……。すぐここに連れてきてくれ」

デブ「待たせたな、ボス!」

金髪「君がいっていた女の子を連れてきたよ」

妹「へぇ、ここが世直し団のアジトか。すごくそれっぽいね」

妹(ボスってどんな人なんだろ?)

妹(きっと、いつの間にかどっかに消えた兄者に比べてずっとかっこいい――)



「やぁ、待っていたよ」

妹「…………」

「どうしたのかな? ぼくと君は初対面――」

妹「なにやってんの、兄者?」

「!?」ドキッ

兄「あああ……変装してたのに……。バレてしまった……」

妹「変装って、髪ボサボサにして、汚れつけただけじゃない……」

妹「いくらなんでも、身内をナメすぎでしょうよ」

兄「うう……」

デブ「ええっ!? この子、ボスの妹さん!?」

金髪「本当かい!?」

兄「……うん」

妹「兄者がボス!? ちょっと、これどういうこと!?」

兄「ま、待った待った! あとで説明するから!」

妹「あとでじゃない! 今すぐ!」

兄「は、はいっ!」

兄「ようするに……世直し団を作ったのは、このぼくだったんだよ」

妹「なるほど、どうりであたしが世直し団に入りたいなんていったら焦るわけだ」

妹「それに、町に出るための服を用意するのも手際がよかったし」

金髪「町に出るための服?」

兄「いやいやいや! なんでもないんだよ」

兄「ダ、ダメだよ。変なこといったら……」ボソッ…

妹「うっかりしてたわ……」

妹「それにしても、兄者だけでこんな面白そうなことして……ずっるいんだから」

兄「ごめんよ……」



デブ「あのボスが完全に押されてるぜ……」

金髪「これは意外な一面だね」

出っ歯「やっぱりボスも家族には弱いんスねえ……」

妹「ま、いいわ! 許してあげる!」

兄「ホント!?」

妹「その代わり、ひとつ条件があるわ」

兄「なに?」

妹「あたしも世直し団に入れて!」

兄「ええっ、それは……」

妹「でないと、兄者が王子だってこと、バラしちゃうから……」ボソッ…

兄「なにいってるんだ。そんなことしたら、君の正体もバレちゃうぞ」ボソッ…

妹「死なばもろとも、ってやつよ」ボソッ…

兄「……かなわないなぁ」

兄「分かった。君を世直し団の“新団員”として、認めよう!」

妹「わぁ~い、やったぁ!」



パチパチパチ……!

<城>

姫「うふふ、今日は楽しかった!」

王子「トホホ……」

姫「妹を城に置き去りにしての、世直しはさぞ楽しかったでしょうねえ」

姫「ケンカも強くて、頭もいいボスとして、チヤホヤされちゃってさ」

姫「そりゃもう、最高の気分だったでしょうよ」

王子「ごめんよ……。そんなつもりはなかったんだけど……」

姫「だけど、見直しちゃった」

姫「ヘタレだと思ってた兄者が、世直し団なんてねえ」

姫「でもさ、なんで世直し団なんてものを作ったの?」

王子「うん……はじめはこっそりお忍びで、町を散歩してただけだったんだけど」

王子「ある日、町で弱い者イジメをやってる彼らを見てたら」

王子「いてもたってもいられなくなっちゃって……」

姫「やっつけて手下にしちゃったわけだ」

王子「うん。手下にしたっていうより、勝手に手下になっちゃったんだけど」

王子「それに、城下町にも大人が集まって結成した“自警団”なんて組織があるけど」

王子「あくまでみんな本業をしながらのパトロールだし」

王子「細かいところまでは手が回ってないのが現状だからね」

姫「なるほどねえ、兄者なりにちゃんと考えてたってわけだ」

姫「これからは、あたしもガンガン世直しするからね!」

王子「あんまりムチャしないでよ……」

王妃「二人とも、姿が見えなかったけど、今日はどこに行ってたの?」

姫「う……えぇとね、中庭で遊んでたの! ね、お兄様!」

王子「う、うん!」

国王「遊ぶのもよいが、きちんと勉強や稽古もするんだぞ」

王妃「そうよ。やることをやってから遊びなさい」

姫「はーいっ!」

王子「はいっ!」

国王「…………」

王子と姫の部屋――

王子「ふうっ、どうにかバレずに済んだね」

姫「バレちゃったら、城下町に行けなくなっちゃうもんね」

王子「それにしても――」

姫「?」

王子「君に“お兄様”っていわれると、ゾクッとするなぁ」

姫「あらま、あたしがめったに見せない高貴さに魅了されちゃったわけ?」

姫「間違っても妹に恋しちゃダメよ、お兄様。オホホ……」

王子「いや、そうじゃなくて……なんだか不気味でさ……」

姫「どういう意味よ、それ!」ボカッ

王子「ご、ごめん! 今のはぼくが悪かったよ!」

王子「……じゃあ、これからは週に何度か、君にも世直し団の活動に参加してもらうよ」

姫「オッケー!」

数日後――

<城>

姫「ごっちそうさま!」

王子「ごちそうさまでした」ペコッ

国王「待ちなさい。二人とも、どこに行くのだ?」

王妃「そうよ。今日はお稽古はお休みの日だけど、行き先は告げていきなさい」

王子「え、と……」

姫「中庭で、お兄様とピクニックするの!」

王子「そうそう!」

王妃「また? あなたたち、中庭が好きねえ。たしかに緑がいっぱいだけど……」

国王「…………」

執事「おやおや? どちらへ行かれるので?」

王子「あ……じいや」

姫「中庭よ、中庭!」

執事「おや? こちらは中庭の方角ではありませんが……」

姫「もう! 細かいこと気にしてると、細かいシワが増えちゃうわよ!」

執事「え!?」ササッ

姫「さ、行こ! 兄者!」グイッ

王子「う、うん……」

執事「お待ちを」

王子&姫「!」ビクッ

執事「あなたがたのお父上――陛下も王妃様をお迎えするまでは」

執事「派手に遊び回っていたと聞いております」

執事「ですが、今は王としての自覚を持ち、きちんと職務を果たされている……」

執事「あなたがたもいずれは国を背負って立つ身」

執事「そのことだけはどうか、お忘れなく……」

王子「じいや……」

王子「うん、分かったよ! ありがとう!」

姫「分かってるって!」

執事「それでは行ってらっしゃいませ」

<城下町>

兄「みんな、今日は町のゴミ拾いをしよう! 道具は持ったかい?」

金髪「はいっ!」

デブ「おうっ!」

出っ歯「オッス!」

妹「えぇ~、ゴミ拾い?」

妹「なんだか、イメージとちがうなぁ……」

兄「世直しっていうのはね、こういう小さな積み重ねから始まるんだよ」

妹「…………」

妹「は~い、分かりましたっ! ボス!」ビシッ

妹「見て見て、兄者! こんなに拾っちゃった!」

兄「ハハ、えらいえらい」

金髪「この数時間で、だいぶ町がキレイになったね」

デブ「へへ、少し痩せた気がするぜ」

出っ歯「絶対気のせいッスね」

デブ「なにい!?」ギロッ

兄「こらこら、ケンカはダメだよ」

兄「さあ、もう一息だ。みんな、がんばろう!」

オーッ!

<城>

王子「今日はどうだった?」

姫「楽しかったー!」

姫「町がもっと汚かったら、もっとやりがいあったのにね!」

王子「いや、そういう考え方はどうかと」

姫「それに……みんなでなにかするっていうの、初めてだったから……」

王子「うん……そうだね」

王子(ぼくらには同年代の友だちなんかいなかったもんな……)

姫「さ、これからも世直しがんばろ! 兄者!」

王子「うん!」

今回はここまでとなります
よろしくお願いします

それからというもの――

<城下町>

老婆「うんしょ、うんしょ」ヨタヨタ…

妹「おばあさん!」

老婆「うん?」

妹「その荷物、あたしが持ってあげる!」

老婆「おや……ありがとうねえ」

妹「ふ、ふふふ……」ヨロヨロ…

妹「どうよぉ、兄者!? あたしの世直しっぷりは!?」ヨロヨロ…

兄「ちょっと……いや、かなりよろよろしてるじゃないか。ぼくが持つよ」

妹「ダメ! 世直しのジャマはさせないわよ!」ヨロヨロ…

老婆「本当に大丈夫かい……?」

妹「もち、ろん! 世直しパワー全開!」ヨロヨロ…

兄(いつでもフォローできるようにしておこう)

妹「あら、迷子?」

少年「うん……」グスッ

妹「ほら、男の子なんだから泣かない、泣かない!」

妹「あたしがお母さんのとこに連れてってあげる!」

少年「ありがとう、お姉ちゃん……」グスッ

妹「うわぁ~ん、兄者ァ! 会いたかったァ!」

妹「迷子を送り届けたはいいけど、自分がどこにいるか分からなくなっちゃって……」

兄「だから、地図はちゃんと持っておけっていったのに……」

妹「ごめんなさい……」

兄「でも、迷子を助けたのは立派だったよ」

兄「君はもう、立派な世直し団の一員だ!」ナデナデ…

妹「兄者……ありがと!」

<隣町>

兄「“ぶっ壊し団”! 今日こそ決着をつけてやる!」

兄「いつもいつも人を殴ったり、物を壊したり、盗んだり……」

兄「恥ずかしいと思わないのか!」

妹「そうよそうよ!」




悪童「うるっせえ! “世直し団”のクズども!」

悪童「いつもいつも偉そうにしやがって、王様のつもりかよ! あぁん!?」

手下A「お前ら、正義の味方ぶっててムカつくんだよ!」

手下B「ぶっ壊し団一のサディストである、オレの恐ろしさを見せてやるぜェ……」



妹「王様のつもり!? なにいってんの! 兄者は未来の王――うぐっ」

兄「はいストップ」ギュッ…

兄「話しても分からないなら戦うしかないな!」

兄「みんな、いくぞっ!」

妹「うんっ!」

「へいっ!」 「はいっ!」 「おおっ!」



悪童「テメェら、あいつら一人残らずボッコボッコにしてやんぞ!」

「おうっ!」 「ぶっ殺してやる!」 「やってやらぁ!」





ウオォォォォォ……!

金髪「はっ!」バキッ



デブ「うおおおおっ!」ドゴッ



出っ歯「行くッスよ!」ババッ





手下B「でりゃあっ!」シュッ

ボカッ!

妹「いだっ! ちょっとぉ、顔はやめてよ!」

手下B「うへへへ……オレは女でも容赦しないぜェ……?」ジュルリ…

妹「くっ……望むところよ!」

悪童「このヤロォ!」ブンッ

ドゴォッ!

兄「くっ!」ヨロッ…

兄「だっ!」シュッ

ビシィッ!

悪童「ぐあっ!」

ガッ! ドカッ! バキッ! ドカッ! ガスッ!

兄「う、くっ……」

悪童(く、くそっ! コイツ、思った以上にやりやがる!)

兄(さすが、ぼくよりケンカ慣れしてる……。剣の稽古を思い出すんだ!)

悪童「――おいっ! だれか! オレに加勢しやがれ!」

金髪「だああっ!」バキッ

手下A「うぎゃっ!」ドサッ…



妹「ふっふーん! どうよ、女の子に馬乗りにされて殴られる気分は!?」ボカッ

手下B「さ、最高でしゅっ!」ハァハァ…





悪童「くっそォ~! 役立たずどもがァ~~~~~!」

……

……

……

ドカァッ!

悪童「ぐああっ……!」ドザッ

兄「ハァ、ハァ……さぁ、どうだ! まだ……やるか!?」

悪童「ま、まいったよぉ……! オメェにゃかなわねぇ……!」

悪童「“ぶっ壊し団”は解散するよぉ……!」

兄「よし!」



妹「やったぁ! 兄者が勝ったぁ!」

<世直し団アジト>

兄「さぁ、今日は勝利を祝ってお酒……じゃなくてジュースでカンパイだ!」

金髪「さすがボス! あの悪童をやっつけちゃうなんて!」

デブ「いい気味だぜ!」

出っ歯「あいつら、大人もビビらすほどのワルだったッスからねえ」

妹「かんぱーいっ!」

カチンッ!

<城>

執事「王子! 姫! いったいどうされたのですか、そのおケガは!?」

王子「いや……なんでもないよ。ねえ?」

姫「う、うん! こけちゃっただけだから!」

執事「いやいや! いくら私でも、さすがにそんなウソには騙されませんぞ!」

姫「なんでもないったら! 行こっ!」スタタッ

王子「それじゃあね、じいや!」スタタッ

執事「あっ……」

執事「――というわけなのです。少々心配になりまして……」

国王「そうか……よく報告してくれた」

国王「元々は王妃とともにこの国に来てくれて、王妃付きの執事であったというのに」

国王「あのヤンチャな二人の面倒を見させることになってしまって……苦労をかける」

執事「いえいえ、そんなことはありません。私とて、楽しませてもらっています」

執事「それでは、私はこれで」スッ…

国王「うむ」



国王「私が……出るしかないか……」

………………

…………

……

“ぶっ壊し団”との決闘から数日後――



<城下町>

主婦「きゃあっ!」

大男「へっ、あばよ!」スタタタッ



兄「ひったくりだ! こんな白昼堂々と……!」

妹「追いかけよう、兄者!」

兄「コラーッ!」タタタッ

妹「待てーっ!」タタタッ

大男「!」

妹「ちょっとアンタ、さっきおばさんからひったくったカバン、返しなさいよ!」

大男「ふん、お前らが世直し団か」

大男「だれが返すかよ!」グイッ

妹「いたたっ! 放して! なにすんのよぉ!」

兄「やめろ!」

大男「おっと動くなよ!」サッ

兄(ナイフ!?)

大男「さあ、どうする!? そっちのお兄ちゃんよ!?」

兄「くっ……!」

大男「子供のくせに、変な正義感を持つからこうなるんだぜ!」

妹(兄者は未来の王様……! ムチャはさせられない……!)

妹「兄者、逃げてぇっ! あたしは刺されてもいいから!」

兄「そんなことできないよっ!」

兄(でも、どうする……! どうすればいいんだ……!?)



ピピーッ!

団員A「なにをしてるんだ!」

団員B「やめろ!」



大男「くそっ、覚えてやがれ! カバンは返してやる!」バッ

タッタッタ……

妹「うう……助かった……」

兄「大丈夫!?」

妹「うん、平気。ところで、あの二人はだれ?」

兄「あれは……自警団の人たちだね。彼らのおかげで助かったよ」

団員A「君たちは世直し団だね?」

兄「……はい、そうです」

団員B「聞いてるぞ! 悪ガキを集めて、ケンカばかりしてるって!」

妹「そんなことない! ちゃんと世直ししてるわよ!」

団員B「世直しだと? この町にはちゃんと自警団があるんだ!」

団員B「子供が作った組織なんかいらねえんだよ!」

妹「なにいってんのよ! アンタたちが役に立たないから、兄者が――」

兄「わわっ!」ガシッ

妹「むぎゅ……」

団員A「君たちのことは知っている」

団員A「町のために、よく働いてくれてるそうじゃないか」

団員A「だが……やりすぎはよくない」

団員A「これからは、町の平和は我々に任せて、君たちは大人しくしていなさい」

兄「!」

妹「な、なんでよ!」

団員B「ガキに好き勝手やられちゃ、オレたちが迷惑するんだよ!」

団員B「今だってオレたちがいなきゃどうなってたか分からねえぞ!」

兄「それは……そうですが……」

妹「うう……」

団員A「とにかく、今後は君たちの行動をよく監視させてもらうよ」

団員B「バカなことしたら、承知しねえからな!」ギロッ

兄「はい……」

妹「べ~っだ!」

妹「行こ、兄者!」

兄「う、うん……」

<城>

姫「なっによ、あれ! ムッカつく!」

王子「まぁまぁ」

王子「危ないところを助けられたのはたしかなんだから……」

姫「でも、あんなこと二度とないって! 次は気をつければいいんだから!」

王子「そうだね、気をつけなくちゃ」

王子「それにしても……監視するなんていわれたけど、どうするつもりだろう?」

姫「ふん、どうせハッタリでしょ!」

姫「これからもガンガン世直ししてくわよ! 兄者!」

王子「うん……ここで引き下がるわけにはいかないからね」

今回はここまでとなります

ところが――

<城下町>

兄「よ~し、今日は少し遠くの町まで遠征しよう!」

妹「うんっ!」



団員A「ちょっと待った! 君たちは城下町を出てはいかん!」

団員B「団長からキツくいわれてるんでな! 活動するなら城下町でやれ!」



兄「うう……」

妹「そんなぁ……」

団員C「ダメだダメだ! 転倒した馬車の片付けをしてるんだから!」

団員D「入ってくるな!」



兄「でも、ぼくたちだって片付けのお手伝いぐらいはできますよ!」



団員C「子供の手を借りるまでもない!」

団員D「破片が飛び散っていて、危ないからな! さぁ、どいたどいた!」



妹「ちぇっ、なによー!」

<城>

姫「どうなってんのよ、兄者ァ! このヤロウ!」

王子「ひっ! ご、ごめんっ!」

姫「……なんで兄者が謝るのよ!」

王子「いや、つい……ビックリして……」

姫「ここ一ヶ月、自警団のせいでまともな活動ができてないじゃない!」

姫「世直し団が何かしようとするたび、いちいち突っかかってくるんだもん!」

姫「いつまでもこんなんじゃ、たまったもんじゃないわよ!」

王子「…………」

姫「ちょっとぉ! なに黙ってんの!? 悔しくないの!? ねぇ、兄者!」

王子「悔しいに決まってるよ」

姫「!」ビクッ

王子「いくらなんでも……これはやりすぎだよ」

姫(うう……兄者ったら、兄者のくせにあたしをビビらすなんてやる時はやるじゃない!)

姫「そうと決まれば――」

王子「自警団の団長さんに直談判しに行こう!」

姫「おーっ!」

<城下町>

兄「自警団の本部は、たしかこっちだったはず」

兄「町の大人がかわるがわる勤務してるんだ」

妹「へぇ~、ちゃんと勉強してるんだ」

兄「元々、世直し団自体が、自警団をモデルにしてる部分も多いからね」



大男「…………」スタスタ…

団員A「…………」スタスタ…



兄「あっ、あれは!」

妹「あの時のひったくり犯だわ! ついに捕まったんだ!」

兄「だけどそのわりには、仲良く並んで歩いてるけど……」

大男「最近、あの世直し団の子供たちはどうだい」

団員A「団長の命令で、厳しく動きを監視させてもらってるよ」

団員A「おかげでだいぶ大人しくなってきた」

大男「ならオレも、女房と猿芝居をしたかいがあったってもんだ」

大男「あんなオモチャのナイフまで使ってよ」

団員A「ああ、あれがいいきっかけになったよ」

大男「団長さんのアイディア、大成功ってところだな」



妹「…………」ピクピクッ

兄「…………」

妹「ちょっとぉ!」

団員A&大男「うわっ!?」ビクッ

妹「今の、どういうことよ!」

兄「あのひったくり事件は……自警団による自作自演だったんですか?」

兄「ぼくたちの活動を制限するきっかけを作るための……」

団員A「あ、いや……」

大男「えぇと、なんというか……」

妹「もういい! 兄者、自警団本部にゴーよ! 殴り込みよ!」

兄「そうだね」

兄「あんな目にあわされて、活動を制限させられて、このままじゃいられない!」

タッタッタ……



団員A「ああ……」

大男「しまったなぁ……」

<自警団本部>

団員B「お前たちは、世直し団の! いったいなんの用だ!?」

兄「さっき他の団員の方に聞きましたよ」

妹「あのひったくり事件は、ここの団長が考えた自作自演だったってね!」

団員B「な!?」ギクッ

兄「あなたがたの主張は分かります……」

兄「ぼくたちはムチャをしすぎていた部分があったのかもしれません」

兄「だけど、こんなやり方は我慢ならない! 一言いわなきゃ気が済まない!」

兄「ぼくたちを団長さんに会わせて下さい!」

団員B「ふざけるな! 団長は忙しい人なんだ! お前らみたいな子供が……!」

兄「だったら、ひったくり事件のことをいいふらしますよ」

兄「町には世直し団のファンも多いんです。はたしてどうなることか……」

団員B「脅す気か、小僧!」

兄「脅しじゃありませんよ、ぼくは本気です」

団員B(コ、コイツ……子供のくせになんて迫力だ……!)

団員B(ちょっとでも気を抜くと、思わずひれ伏しちゃいそうだ……!)



妹(兄者、やるぅ~)

団員B「チッ……ちょっと待ってろ!」

バタン……



妹「やるじゃん!」

妹「なんかもう完全に、悪の組織のボスって感じの迫力だったよ!」

兄「褒められてる気がしないなぁ……」

兄「だけど、これで団長さんと話すことができれば……」

しばらくして――

団員B「……団長はお前たちと会う気はないそうだ」

兄&妹「!?」

妹「な、なんで!?」

兄「どうしてです!?」

団員B「ひったくりの件をバラしたければ、バラしてもいいそうだ」

団員B「そのことが何をもたらすか、お前たちなら分かるはず、ともいっていた」

兄「!」

団員B「とにかく……団長は会わない! ――以上だ!」

妹「なによそれー!」

<城>

姫「むぅ~、どうする、兄者!」

王子「弱ったね……」

姫「こうなったら、自警団と全面対決よ! 全面対決!」

姫「ひったくり事件のこととか、あることないこと全部バラして――」

王子「いや……自警団と争っても意味がないよ」

王子「ぼくが世直し団を作ったのは、あくまでも町の人たちのため」

王子「同じく町のために働いている自警団の足を引っぱるようなことはしたくないんだ」

王子(さっき団員の人がいってたことも、そういうことなんだろう……)

姫「じゃあ、どうするの?」

姫「会ってすらもらえないんじゃ、どうしようもないじゃない!」

王子「う~ん……」

姫「だったらさ、こういうのはどう?」

姫「あたしらが姫と王子だって明かして、ムリヤリ会うの!」

王子「それはマズイよ……」

王子「下手したら、ぼくらが城を抜け出してることも父上や母上にバレちゃうもの」

王子「そうなったら、もう世直し団どころじゃなくなってしまう」

姫「そっか……」

王子「……いや、待てよ」

王子「それ、案外いいアイディアかもしれない!」

姫「じいや、じいや」

執事「おやおや、なんでございましょう?」

姫「手紙を送りたいの!」

執事「ほう、手紙! どなたにですかな?」

姫「城下町の平和を守って下さってる、自警団の団長さんよ!」

執事「え……!?」

姫「どしたの? ダメ?」

執事「い、いえっ! か、かしこまりました。すぐに手配いたしましょう」

姫(やった!)



執事「う~む……」

執事「お待たせいたしました、姫様」

姫「あれ? ずいぶん早いね。まだ一時間ぐらいしか経ってないのに」

執事「――あ」

執事「なにぶん急いだもので……! ほっほっほっほっほ」

姫「ずいぶん、“ほ”が多いわね」

執事「ほっほっほっほっほっほっほ、そ、そうですかな!」

執事「おっとそれより、自警団の団長からは、快諾をいただけました」

姫「ホント!? で、日時は?」

執事「明後日の午後を希望されておりました」

姫「あさっての午後ね! 分かったわ!」

姫「やったわ、兄者!」

姫「あさって、自警団の団長に直談判するのよ!」

姫「世直し団のジャマするなってね!」

王子「うん……ぼくらの気持ちをありったけぶつけてやろう!」

王子「もちろん、王子としてではなく――」

王子「“世直し団のボス”としてね!」

姫「それと、姫としてではなく“世直し団のアイドル”としてね!」

王子(……アイドル? いや突っ込むのはやめとこう)

………………

…………

……

今回はここまでです

明後日――

<自警団本部>

団員A「緊張するなぁ……」

団員B「ああ、まさか王子と姫がいらっしゃるなんてな……」

団員A「直接お二人と話すらしい団長は、特に緊張してるんじゃないか?」

団員B「いや、いつも通りだったぜ」

団員A「まったく……あの人はマイペースというかなんというか」

団員A「自警団始まって以来の大事件だってのに――」



王子「こんにちは」

姫「こんにちは!」



団員A&B「!」シャキンッ

団員A「これはこれは……ようこそいらっしゃいました!」

団員B「団長が中でお待ちです。ささ、どうぞ!」



姫「失礼するわ」

王子「おじゃまします」



団員A「…………?」

団員A「……王子と姫を間近で見るのは初めてだけど」

団員A「なんだろう……どこかで見たことがあるような……?」

団員B「た、たしかに……。なんでだろう……」

<団長室>

団長「お待ちしておりました。王子様、姫様」ギシッ…

団長「座ったままで失礼させてもらいますよ」

姫(む、あたしらに背を向けたまま話す気? 失礼なヤツ……!)

姫「やっと会えたわね、団長さん」

王子「ぼくたち、今日はあることを伝えにきたんです」

団長「ほう? あることとは?」

姫「はっきりいわせてもらうわよ」

姫「実はね、お兄様とあたしは、世直し団のボスとその妹でもあるのよ!」

団長「ほう、そうだったのですか」

姫(あ、あれ……!? なんで驚かないの……?)

姫「とにかく! 世直し団のジャマ、しないでちょうだい!」

王子「そうです!」

王子「自警団の皆さんが一生懸命働いて下さってることは分かります!」

王子「だけど、ぼくたちだって人々のために働きたいんです!」

団長「なるほど、それで今の監視状態を緩和して欲しい、と」

王子「おっしゃるとおりです」

団長「…………」

団長「ダメだ」

姫&王子「!」

姫「なんでよ! なんでダメなのよ!」

王子「ぼくたちの気持ちを分かって下さい! 団長さん!」

団長「君たちの気持ち? 分からんなぁ」

団長「城から勝手に抜け出して、地位を利用して私に会おうとする輩の気持ちなどな」

姫「!」カチン

姫「なんなのよ、アンタ! そっちがあたしたちに会ってくれなかったくせに!」

姫「あたしらが王子と姫ってことに関係なく、失礼すぎよ!」

姫「ええい、いい加減そのツラ見せなさいよ!」ガシッ

姫「こっち向け!」グイッ



姫&王子「!!!」

姫「お、お父様!」

王子「父上!?」

団長「ふっふっふ、驚いたか?」

姫「ど、どういうことよ、これ!?」

王子「なんで、自警団の団長室に父上がいらっしゃるんです!?」

姫「ホンモノの団長さんはどこにいるの!?」

団長「なにをいっておるか」

団長「そんなもの、私が自警団の団長だからに決まっておろうが」

姫「えええええっ!?」

王子「そ、そんな……!」

姫「じゃあなんで、お父様はあたしと兄者……お兄様のジャマをしたのよ!」

団長「それはもちろん、世直し団でムチャをするお前たちが心配だったからだ」

姫「!」

団長「お前たちはいずれ、この国を背負って立つ身」

団長「町の事件にあれこれ首を突っ込んで、大ケガなどされたら困るからな」

姫「でも!」

団長「それに、もし城の外へ出たお前たちになにかあったら」

団長「お前たちのお忍びを“黙認”してくれている執事や兵士、城の召使いたちにも」

団長「重罰を与えねばならなくなるのだぞ」

王子&姫「…………!」

団長「分かってくれたようだな」

王子「はい……」

姫「うん……」

団長「ならば私ももうなにもいうまい。お前たちを信じることにする」

団長「世直し団の活動も認める。ただし絶対にムチャはするなよ」

姫「は~いっ!」

王子「分かりました!」

団長「まったく、分かりやすい奴らだ」

団長「よし、ならば帰るとするか。ついでに私も“国王”にチェンジだ!」バサァッ

国王「ふむ、決まった」ビシッ

国王「自警団や町の人間に気づかれぬよう、こっそりと城へ戻るとしよう」



姫「着替えるのはっや!」

姫「こりゃ相当、王の仕事をほっぽり出してフラフラしてるよ、この人」ボソッ…

王子「うん、間違いないね……」

帰り道――

姫「ところで、お父様はなんで自警団を作ったの?」

国王「私が他国から王妃を迎え、結婚してすぐに――あの仮面剣士が現れた」

王子「ぼくらが生まれる前にいたという、伝説のヒーローですね!」

国王「仮面剣士は強く、優しく、しかも正体は分からない」

国王「三拍子そろった、まさに理想のヒーローだった」

国王「かつてこの国は軍備も乏しく、あまり治安がよくなかったのだが」

国王「彼のおかげで壊滅した盗賊団や山賊団は数知れない」

国王「だから……私も彼のような活躍をしてみたくて、自警団を設立したのだ」

姫「ようするに、仮面剣士のパクリってことね」

国王「パクリっていうな!」

王子「謎の仮面剣士から自警団へ、自警団からぼくら世直し団へ……」

王子「正義の心は脈々と受け継がれてる、ということですね」

国王「うむ、そういうことだな」





すると――





「王と王子……それと、姫だな……」ザッ…

国王&王子&姫「!?」

仮面剣士「…………」

姫「な、なによ! なによ、アンタ!」バッ

王子(何者だ、この人……ものすごい威圧感だ……!)ゾクッ

国王「むむむ……こやつは、仮面剣士!」

王子「ええっ!?」

姫「ウ、ウソ!? ウソでしょ!?」

国王「いや、私は若い頃、本物の仮面剣士を見たことがあるが――」

国王「あの仮面のデザイン、そしてなによりあの迫力、紛れもない本物だ!」

姫「伝説のヒーローが……なんでこんなところに!?」

仮面剣士「決まっている……。制裁に来たのだ」

仮面剣士「政務を怠け、このようなところで油を売る愚かな王どもをな」

国王「うぐっ……!」ジリ…

仮面剣士「悔やむのだな」ヒュッ



ズバァッ!



姫「きゃっ!」

王子「じ、地面に亀裂が……!」

王子(あんなこと、騎士団長だってできるかどうか……!)

仮面剣士「平和なのをいいことに、護衛もつけず、自警団だの世直し団だのに」

仮面剣士「うつつを抜かしていたことを」チャキッ

仮面剣士「王族が三人も揃っているのは好都合だ」

仮面剣士「ここでキサマら三人を斬れば、この国はきっと生まれ変われよう」

国王「むうっ……!」

国王(なんということだ……! まさか、仮面剣士が暗殺者として現れるとは……!)

国王(しかも、私と子供二人が揃っているタイミングで……! 狙っていたのか!?)

国王「逃げろ、お前たちっ!」

王子「ダメです! 父上は王なんですよ! ここはぼくがっ!」

姫「ダメよぉ! お父様は王、兄者は後継ぎ! あたしがオトリになる!」

国王「なにをいっておるか、私は王である前に親だ! 早く逃げろ!」

王子「イヤです!」

姫「あたしも!」

国王「バカモノ! お前たちは王妃を一人にしてしまう気か! ゆけっ!」





仮面剣士「…………」

仮面剣士「ほっ――ふっふっふ……」

仮面剣士「なかなかの親子愛ではないか」

仮面剣士「この場で斬り捨ててやろうと思っていたが、まだ見どころはあるようだ」

仮面剣士「それに免じて、今日のところは見逃してやろう」

仮面剣士「しかし、城外を護衛もつけずうろつくのは程々にしておくことだ」

仮面剣士「私のように、そのスキを狙う者が他にもいないとは限らないのだからな」

国王「は、はいっ!」

王子「ご忠告、ありがとうございます!」

姫「分かりましたぁっ!」

仮面剣士「では、さらば!」スタタタッ

国王「……仮面剣士、みごとな男よ」

王子「活動時期を考えると、もう若くはないはずですが、すごく身軽でしたね……」

姫「でも、な~んかどこかで見たことあるような気がするんだけどな」

国王「気のせいに決まっておろう」

国王「仮面剣士の活動時期はお前たちが生まれるより前なのだからな」

王子「どことなく嬉しそうですね、父上」

国王「そりゃな! 仮面剣士はヒーローだったからな!」

国王「怖かったが、久々に姿を見られて、嬉しかったぞ!」

姫「ふふっ……なにしろ、憧れて自警団を作っちゃうぐらいだもんねえ」

国王「さぁ、我々も帰ろう」

姫「うん!」

王子「はい!」

<城>

国王「これからは、城での仕事もきっちりこなしつつ、世直ししていこうな」

国王「でないと、仮面剣士にホントに斬られてしまう」

王子「はい!」

姫「は~い!」

王妃「あらあら、三人揃ってどうしたの? なんの話?」

国王「いやなんでもないよ、ハッハッハ」

王妃「まあ! 私はこういう時、いつも蚊帳の外なんだから!」

王子「すみません、母上……。でも、母上のご迷惑になることじゃありませんから」

姫「そうそう!」

王妃「そうなの? なら、あなたたちを信じるわ」

王妃「さ、みんなでお食事にしましょ」

王子「はいっ!」

姫「今日はいっぱい食べるぞーっ!」

……

……

……



その夜――

執事「全て、おっしゃられた通りにいたしました」

執事「久々にあの姿になったので、気持ちも若返ってしまいましたよ。ほっほっほ」

王妃「ありがとう」

王妃「これで、あの三人も少しは懲りたでしょ」

王妃「お城の外で“自警団”や“世直し団”を率いて正義の味方をするのもいいけれど」

王妃「ちょっとぐらい自分の立場ってものを自覚させなくちゃね」

執事「ほっほ、さすが王妃様」

王妃「あなたは、私がこの王国に嫁ぐ時、執事を兼ねた護衛としてついてきてくれたけど」

王妃「色々と苦労をかけるわね」

執事「いえいえ、この国は本当にいい国です」

執事「もはや、二度と“仮面剣士”を必要とすることはありますまいて……」



………………

…………

……

そして――



<城>

大臣「来期の予算の件ですが……」

国王「うむ、この城下と国内各地方をつなぐ交通路を早く整備せねばならんな」

国王「さらに、各都市や町の常駐兵も増強して、今の平和を盤石のものとする」

国王「福祉政策についても、他国をモデルに研究を重ねていこう」

大臣「は……ははっ!」

大臣(このところ、陛下が政務に力を入れてくれるようになった……)

大臣(一時期は自警団の活動にのめり込みすぎていたところがあったからなぁ)

大臣(ありがたや、ありがたや……)

姫「さぁて、今日はバレエのお稽古しなくっちゃ!」

王子「ぼくも剣術の稽古と勉強しないと!」

執事「お二人とも、無理はなさらないで下さいね」

姫「大丈夫よ、別に嫌いじゃないし!」

王子「それに、ぼくら……父上と、あの仮面剣士と誓ったんだ!」

王子「きっちり自分のことをこなすって!」

執事「…………」

執事(いい子たちだ……)

執事(あなたたちなら、仮面剣士などよりずっとすごいヒーローになれますよ)

王子「さぁて、やることもやったし――」

王子「じいや、出かけてくるね!」

姫「行ってきまぁっす!」

執事「行ってらっしゃいませ」



国王「どれ、私も……」ススッ…

王妃「あなた」

国王「すみません、出かけません」

<世直し団アジト>

ワイワイ…… ガヤガヤ……

金髪「ボス! 近頃、顔を見せないんで心配してたんだよ!」

デブ「よかったぁ!」

出っ歯「やっぱボスと妹さんがいないと、イマイチ盛り上がらないんスよ!」

兄「ごめん、みんな。色々あったけど……もう大丈夫だよ」

妹「そうそう!」

兄「それじゃ今日もはりきって、世直しに出発だ!」

妹「オーッ!」





                                 ~ おわり ~

これにて完結となります

どうもありがとうございました!

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