姫「約束よ」 馬丁「約束だ」(982)

昔書いた物をセルフリメイク

・オリジナルファンタジー物

・欝予定無し

・エロ予定無し

・遅筆

未熟な部分が多々あるかと思いますが、お付き合いしていただければ幸いです

「行け! そして我ら王国騎士団の力を見せつけるのだ!」

「一匹たりとも逃すな! 全力で孅滅せよ!!」

「魔物を滅ぼせさえすれば良い! 村の者に構うな!」


 村から上がる火

 悲鳴

 怒号

 金属音

 そして、断末魔

 静けさの後、響き渡る歓声

「……終わったようですな、騎士団長殿」

「ふん、我ら王国騎士団の手に掛かればこの程度造作も無い」

「……」

「我々は帰還する。事後処理は任せたぞ、兵士長」

「はっ。了解しました」

兵士長「……ったく」

兵士長「ひでぇ有様だな……」

兵士長「野郎共手を貸せ、生存者を探すぞ!」

青年「お手伝い致します、兵士長殿」

兵士長「あんたは……、騎士団の副長さんか。気持ちは有り難いが、貴族様の手を煩わせる訳にはいきやせん」

男性(以後副長)「手伝わせて下さい。騎士ではなく、一人の人間として」

兵士長「……仕方のない人だ。団長殿にどやされても俺は知りませんぜ?」

副長「覚悟の上ですよ」

兵士長「じゃ、お願いしますわ」

副長「ありがとうございます兵士長殿」

兵士長「しっかし、本当に酷い有様だな。民家はほぼ全焼か……」

副長「申し訳ありません……」

兵士長「副長さんが謝る事じゃありませんぜ」

副長「ですが……」

兵士長「魔族数匹倒すのに村一つで済んだんだ、安いもんじゃありやせんか」

副長「……」

兵士長「あ、いや、なんかすいやせん……」

副長「……生存者を捜しましょう」

兵士長「へぇ、了解です」

―村郊外―

兵士1「兵士長! 子供だ! 子供が居る!!」

兵士2「まだ息があるみたいです! 直ぐに術師様を読んで下さい!」

兵士長「わーかったーっ! 直ぐ連れてくから待ってろーッ!!」

副長「兵士長殿、私は先に子供のもとへ行きます」

兵士長「任せて良いのかい?」

副長「はい。低級神聖魔法の心得があるので、応急措置くらいは可能です」

兵士長「分かった、副長さん。頼んだぜ?」

副長「はい。尽力致します」

子供「……」

副長「(怪我はそれほど酷くない。が、煤だらけという事は煙を吸った可能性があるな)」

兵士1「何とかなりそうかい、副長さん?」

副長「はい。目立った外傷は見当たりませんし、煙を吸っただけなら浄化の魔法で治療できます」

兵士2「お願いします、副長殿」

副長「尽力します……っ」スッ

・神聖魔法:浄化

子供「……うぅ」ゴホッゴホッ

兵士1・2「おおっ!」

副長「肺の煤は浄化できたと思います。あとは彼の生命力に期待しましょう」

兵士長「術師様を連れて来た! 子供はまだ大丈夫か!?」

兵士2「はッ! 副長さんの魔法でどうにか息を吹き返しました!」

兵士長「そうか! ありがとうよ副長さん」

副長「そんな、私はただ……」

兵士長「っと、いけねぇ。術師様、頼みます」

術師「うむ」

―王国兵士団キャンプ―

術師「傷は癒した。応急措置のお陰で順調に回復しておる」

兵士長「そうか、そいつは良かった!」

術師「しかし良いのか?」

兵士長「何がです?」

術師「村はこの有様じゃ。小僧一人助けたところで……」

兵士長「そいつは……、そうだけどよ……」

副長「一人でも命は命です。それに村をこの様にした王国騎士団の一員である私には、彼を助ける義務があります」

術師「ふむ……」

兵士長「……」

副長「……」

兵士長「よし、分かった」

副長「兵士長殿?」

兵士長「この坊主は俺が預かる。事情説明するには騎士の副長さんには厳しいだろ?」

副長「それは……」

兵士長「治ったからって捨て置く訳にもいかねぇしな。なあに、子供の一人くらい食わせてやれるさ」

術師「ほっほっほ。相変わらずじゃのう兵士長」

兵士長「茶化さないで下さいよ、術師様」

副長「ありがとうございます兵士長。ですが、私にも出来る限りの事はさせて下さい」

兵士長「ああ。副長さんの力が必要になった時は頼むわ」

副長「はい!」

 とある大陸の南部に位置する王国

 その王国の騎士団遠征によって幾つかの村が魔物と共に消えた

 記録にも明確に示されない遠征の中で、一人の少年が随伴した兵士団によって助けられる

 故郷と家族を失った少年は、全てを奪った国の兵士長に引き取られながらも、馬丁として健やかに育っていった……

―王国騎士団遠征より数年後の朝―

馬丁「親父! 馬のエサやり終わったよ!」

兵士長「おう。相変わらず手際が良いな!」

馬丁「へへっ。なあ親父、まだ時間あるだろ? 今日も剣を教えてくれよ!」

兵士長「朝礼にはまだ早いからな……。よっしゃ、一丁揉んでやるか」

馬丁「今日こそ親父から一本取ってやるからな!」

兵士長「おう、言ったな? やれるモンならやってみろ!」

馬丁「はっ、その鼻っ柱へし折ってやるよ! さ、早く訓練場に行こうぜ!」

兵士長「おうよ! お前こそまた負けてべそかくなよ?」

本日分終了

―兵舎訓練場―

馬丁「早速始めようぜ、親父」

兵士長「おう。何時でもかかって来な」

馬丁「なら遠慮なく……!」ダッ

馬丁「攻めるッ!!」ヒュッ!

兵士長「相変わらず早い剣筋だ、だがなッ!」カンッ

兵士長「お前の剣は軽いッ!!」ゴォッ!!

馬丁「くッ!!(受け流さないとマズイッ!)」チャキッ

ガチッ!!

馬丁「……ッ」

兵士長「へっ、これを受けきったか」

兵士長「だが手が痺れて、もう勝負にならんだろ」

馬丁「……そうでも無いぜ」ジャキッ

兵士長「こいつは長い稽古になりそうだ……」ブンッ

兵士長「ガキの成長ってヤツは目まぐるしいね、全く」ジャキッ

―一時間後―

兵士長「おう、そろそろ時間だ。上がるぞ」

馬丁「……」ゼーゼー

兵士長「立てるか?」

馬丁「……」コクリ

兵士長「はは、根性だけは一人前だな」

兵士長「……なぁ、馬丁」

馬丁「なん……だよ……」ゼーゼー

兵士長「お前は身軽な分、筋力に欠ける」

兵士長「早さじゃお前の方が遥かに上手だ。だが、その早さを活かしきれてない」

兵士長「今の面を打つ剣じゃなく、線を斬る太刀筋を身に付けな」

馬丁「……ああ」

兵士長「そいじゃ後始末は任せたぜ。厩舎の老いぼれに宜しくな」

―厩舎―

厩長「それで今朝もコテンパンにノされて来たってわけか」

馬丁「悪いですか……」

厩長「げっしっしっしッ。別に悪かぁねぇよ? ただお前さんがあんまりにも仏頂面でよお」

馬丁「趣味悪いですよ、厩長」

厩長「すまん、すまん。しかしあの兵士長が12、3のガキにアドバイスとはなぁ」

馬丁「俺、そんなに弱いのかな……」

厩長「ああん? そりゃ逆だろう。見込みがあるから指針を見せたんだと俺は思うがねぇ」

馬丁「……」

厩長「機嫌治ったんなら馬のブラッシングしてこい! そいつが終わったら休憩入りなッ」

馬丁「……分かりました」

―王宮の一室―

女の子「退屈……」ファ~

女の子「毎日、お稽古お稽古って煩いのよね、近衛ちゃんは!」プンプンッ

女の子「お勉強面倒臭いなぁ……」

女の子「……抜け出しちゃおっかな」キョロキョロ

女の子「ちょっとくらい良いよね?」

女の子「よし!」

~扉向こう~

近衛騎士見習い(以後近衛)「はぁ……」

近衛「扉ごしに聞こえているというのに」

近衛「また脱走ですか、姫様……」

近衛「仕方ありませんね。姫様、姫様?」コンコン

近衛「失礼します。お勉強は順調に……って、もう居ない!?」

近衛「まさかバルコニーに!?」ダッ

近衛「……やられた」

近衛「ロープの結び方より覚える事があるでしょう、姫様……」ガクッ

―厩舎付近―

馬丁「悶々として食欲が沸かないな……」

馬丁「しゃーない、軽く体動かすか!」スラッ

馬丁「……面じゃなく線……」グッ

ヒュン

馬丁「(遅い。それに空気抵抗も大きい)」ググッ

ヒュッ

馬丁「(軽い。けど抵抗は無かった)」

馬丁「線を斬る、か。親父め、簡単に言いやがって」チャキ

馬丁「……頭使ったらなんか疲れたな。少し横になろう」ゴロン

馬丁「……」

Zzz……

女の子「~~♪」

女の子「やっぱり机の前よりお外よね♪」

女の子「さってと、今日は何しようかしら」

ヒュン

女の子「?」

女の子「何の音……?」キョロキョロ

ヒュッ

女の子「あ……」

女の子「すごい……」

ジー……

ツンッ

馬丁「……」

ジー……

チョン、チョン

馬丁「ん……」

女の子「ねえ、起きて」ユサユサ

馬丁「誰だよ、一体……」

女の子「起きなさいってば!」ユッサユッサ

馬丁「お、起きる。起きるから揺すらないでくれ……」ムクッ

女の子「……」ニコニコ

馬丁「……で、誰だよアンタ」

女の子「さっきの素振りすごいわね」

馬丁「え? ……あ、ああ。それよりアンタは」

女の子「私の事は良いのっ! それより貴方の事聞かせて?」

女の子「あんなすごい剣の使い手ってことは、貴方騎士なの?」

女の子「それとも近衛騎士候補?」

女の子「はたまた兵士団の新人さん?」

馬丁「待ってくれ、一辺に聞かれても答えきれないって」

女の子「あ、うん。じゃあ名前教えて?」

馬丁「……馬丁」

女の子「馬丁ね。馬丁は何をしているの?」

馬丁「馬の世話や、軍馬の調教」

女の子「騎士でも兵士でもないの!? あんなにすごい素振りをするのにっ」

馬丁「俺なんか、まだまだ未熟だよ……って、素振り見てたのか?」

女の子「うん! でも、もっと見たかったのに、直ぐに横になるんだもん」

馬丁「あ、ああ」

女の子「それで、なかなか起きないから私が起こしてあげたのっ!」

馬丁「(なんでこんなに偉そうなんだ……)」

女の子「ねぇ馬丁、素振り見せて!」

馬丁「別に構わないけど」

ぐぅ~~

馬丁「あ」

女の子「馬丁、お腹空いたの?」

馬丁「ああ、昼飯まだなんだ。しゃーない、干し肉で済ますか」ゴソゴソ

女の子「干し肉?」

馬丁「そ、これ」ガジガジ

女の子「……」ジー

馬丁「……食うか?」

女の子「良いの!?」

馬丁「貴重品だからちょっとだけな」

女の子「うん!」ハミハミ

馬丁「食えるか?」

女の子「硬い……。けど近衛ちゃんのパイよりおいしいよ」

馬丁「ははっ。近衛ちゃんって奴のパイはきっと、親父のシチューよりマズイんだろうな」

近衛「何がマズイって?」

馬丁「おわぁっ!?」

女の子「あ、近衛ちゃん」

近衛「一体何を口にしてるのです、姫様!」バッ ポイッ

女の子(以後姫)「ああっ、馬丁の干し肉! 酷いよ近衛ちゃんっ!」

馬丁「ひ、姫さま……?」

近衛「っ!」キッ

馬丁「う……」

姫「近衛ちゃん!」

近衛「王国第五王女であられる姫様が、なぜこの様な卑しい身分の者と居られるのです!」

姫「ひっ……」

馬丁「ッ、おい!」

近衛「黙れ蛮族!」

馬丁「てめっ、姫が怯えてんだろッ」

姫「馬丁……」グスッ

近衛「姫様を呼び捨てにするばかりではなく、更には惑わすか! 蛮族めッ」

近衛「抜けっ! この場で処断してくれる!!」スラッ

馬丁「蛮族、蛮族って……ッ」ギリッ

姫「馬丁、ダメ! 近衛ちゃんも止めて!」

馬丁「姫……(どうする……、相手は貴族だ。抜けば親父達にも迷惑が……)」

近衛「動くなよ、蛮族ッ!」ダッ

馬丁「くそっ、なる様になれッ!」チャキッ

キンッ

近衛「弾いただとッ!?」

馬丁「軽い……」

馬丁「(こいつ近衛騎士のクセに、兵士団のみんなより弱い……?)」

近衛「貴様……ッ」ブンッ

馬丁「(動きが教本通り過ぎる)」ガキッ

近衛「くっ、これならッ!」シュッ

馬丁「(浅い。ひょっとして面を打つ剣って……)」スッ

馬丁「やってみるか……」

近衛「当たれ! 当たれッ!!」ブンッ ブンッ

馬丁「線を……」スッ

馬丁「(斬るッ!)」カッ!

キィィィンッ……

近衛「け、剣を……」

姫「斬った……」

馬丁「もう、止めにしないか」

近衛「そんな……」

姫「すごい! すごいよ馬丁っ!」

近衛「私はまだっ」

副長「そこまでです、近衛」

馬丁「ふ、副長さん!?」

副長「申し訳ない、馬丁君。妹が迷惑を掛けたみたいで」

馬丁「い、妹!?」

副長「ああ。君と年が近いから何時か紹介しようと思っていたんだけど」

副長「まさか、こんな形で会う事になるとはね。それに近衛は騎士団も一目を置く使い手なのですが……」

近衛「……」ギリッ

馬丁「(こいつ女だったのか……)」

本日分終了

副長「近衛、姫様を王宮へお連れしなさい」

近衛「……承服しかねます兄上。私はまだ姫様を惑わす蛮族を処断していません」

副長「彼は兵士長の息子だ。私の友人の息子を蛮族と呼ぶのは感心しないな」

近衛「……」

副長「近衛、君はまた任務を放棄する積もりかい?」

近衛「くっ……」

副長「この場で抜刀した件は不問にします。早く任務に戻りなさい」

近衛「分かりました兄上」

副長「姫様も宜しいですね?」

姫「は、はいっ!」

姫「またね、馬丁!」

馬丁「……。ああ、またな」

近衛「……」キッ

馬丁「う……」

副長「すまない馬丁君。妹の非礼を許して欲しい」

馬丁「あ、頭を上げて下さい、副長さん! あれは俺も悪いんですからっ!」

副長「……」

馬丁「得体の知れない平民の男が王族と一緒に居たんです。近衛騎士だったらああしてますって。あの子の判断は間違って無いですよ!」

副長「……ありがとう、馬丁君」

馬丁「あ、いや、どうも……」

副長「君は、人間が出来ているな。蛮族と罵った相手を庇うのだから」

馬丁「俺は……、その、穏便に済ませたいだけです」

馬丁「ただ、あの逆上の仕方は驚きましたけどね。ちょっと普通じゃないと言うか……」

副長「馬丁君もやはりそう思うかい?」

馬丁「……はい」

副長「あの子にも色々あってね。平民の、特に男性に強い拒否感を抱いているんだ」

副長「……昔はおとなしくて優しい、とても良い子だったんだよ」

副長「いや、今も優しいからこそ、か……」

馬丁「……」

副長「ああ、すまない。詰まらない話を聞かせてしまったね。それでは私は失礼するよ」

馬丁「あの、副長さん」

副長「なんだい?」

馬丁「色々とありがとうございます」

副長「構わないよ、君は友人の息子だしね。それに……」

馬丁「それに?」

副長「いや、何でもない。それじゃあね、馬丁君」

馬丁「はい。さようなら、副長さん」

―兵士宿舎―

馬丁「ただいま……」

兵士長「珍しいな、随分遅かったじゃねぇか」

馬丁「色々あるんだよ、俺にも」

兵士長「なんだぁ? 色気付いて来たってか、まったくマセガキめ」

馬丁「違うって!」

兵士長「……一体どうした?」

馬丁「……実は――――」









兵士長「なるほど……、姫さんに会って近衛騎士相手に抜刀か……」

馬丁「ごめん、親父。貴族相手に剣抜いちゃって」

兵士長「そいつは、まあ……やっちまったモンは仕方ねぇ。幸い副長の妹だったからお咎め無しで済んだしな」

馬丁「……なあ、親父」

兵士長「なんだ?」

馬丁「近衛って奴の事何か知らないか?」

兵士長「なんだ、罵られたってのに惚れたか?」

馬丁「俺は真面目に聞いてるんだけど」

兵士長「……近衛か」

兵士長「確か初陣が14歳の時で騎士団山賊討伐遠征だったな」

兵士長「規模の小さい勢力だったが、ほぼ一人で山賊を孅滅。その活躍で正式に騎士の称号を受勲したらしい」

兵士長「しかし騎士団には入らず、王国近衛騎士見習いとして第五王女の護衛に就いたと聞いている」

馬丁「山賊討伐……」

兵士長「騎士団は近隣の村から物資を……、その……、徴収してから活動するんだ」

兵士長「それに山賊のアジトに突入したって事は、見たくも無いもんを見たのかもしれん」

馬丁「……」

副長『……昔はおとなしくて優しい、とても良い子だったんだよ』

馬丁「だから、か……」

兵士長「どうした?」

馬丁「ん、なんでも無い」


兵士長「(しかし、一言助言しただけで線を斬る事の本質に近付くとはな……)」

兵士長「(副長さんよ、こいつは本物かもしれねぇぞ……?)」

―数時間前・兵舎隊長室―

兵士長『あんたから顔を出すとは珍しいな、貴族がこっちに寄ったら周りが何かと煩くないか?』

副長『問題ありませんよ、騎士団では変わり者で通していますから』

兵士長『そうかい。で、何の用だ。顔見に来たって訳でも無いんだろ?』

副長『馬丁君の近況を知りたくて来ました』

兵士長『毎度毎度、熱心なこって』

兵士長『あいつは相変わらずだよ。剣の腕はもう兵士団で俺と兵士1以外でかなう奴が居ないほどの恐ろしい成長っぷりだ』

兵士長『厩舎の仕事も覚えが早いって厩長が誉めてたぜ』

副長『そうですか……』

兵士長『ただ、ちょっとな……』

副長『何か気になる事が?』

兵士長『ああ。心の成長に体が追い付いてないっつーか、ガキのクセに落ち着き過ぎてんだよ』

兵士長『俺の前じゃガキっぽく振る舞っているみたいなんだけどな』

副長『それは……』

兵士長『ああ。きっとあいつの原動力の所為だろうな』

副長『……危険ですね。私の方で彼の役に立てる事があったら言って下さい。協力は惜しみません』

兵士長『ありがとうよ、副長さん。しかし、なんで馬丁をそんなに気にしてくれるんだ?』

副長『……希望でしょうか』

兵士長『希望?』

副長『はい。彼からは希望の匂いがする、そんな気がするんです』

兵士長『希望か……。副長さん、あんたは本当に変わっているな』

副長『誉め言葉として受け取りますよ。それで、私は何をしましょうか?』

兵士長『そうだな……。年の近いダチが居りゃ、気晴らしになると思うんだが』

副長『友人、ですか』

兵士長『ま、こいつは無茶な話か』

副長『いえ、心当たりがあります。馬丁君と同じものを抱えている彼女なら、きっと……』

兵士長『……そうか、じゃ信じて任せるぜ?』

副長『ええ、お任せ下さい』

―兵士宿舎―

兵士長「……希望、か」

馬丁「どうした、親父?」

兵士長「あん? 何でもねえよ、それより飯だ。シチュー作ってあるから、さっさと食えッ!」

馬丁「うへぇ、今日は親父のシチューかよ」

兵士長「なんだぁ? 文句があるなら食わなくて良いんだぞ」

馬丁「食う、食うよ! 今日はちゃんと物食ってないから腹ペコなんだッ!」

兵士長「がっはっはっはッ! だったらさっさと食って来い!!」

―翌日・厩舎―

厩長「珍しくケガしてないと思ったら、随分暗いじゃねぇか」

馬丁「色々あったんですよ」

厩長「色々ってなんだ?」

馬丁「色々は色々です」

厩長「……」

馬丁「……」

厩舎「カァーッ! 朝っぱらからガキの暗い顔見て仕事出来るか!」

厩長「馬ってのは繊細な生き物なんだ。てめぇが気落ちして馬に何かあったらどうする?」

馬丁「す、すいません」

厩長「すいませんじゃねぇ! 仕事したけりゃ顔でも洗って気分変えて来いッ!」

馬丁「わ、分かったよ……」

厩長「……」

厩長「ったく、世話の焼ける奴じゃわい」

―厩舎近辺―

近衛「……早かったな」

馬丁「な、お前何でもここに!?」

近衛「ここならお前が来ると思って、な……」

馬丁「(なんだ、昨日と随分様子が違うな……)」

馬丁「姫の護衛は良いのか?」

近衛「護衛は兄上が代わってくれた。それと、ここに来る事は姫様も承知している」

馬丁「……」

近衛「昨日あの後姫様に叱られたよ。『同じ人間なのに、なぜ彼を悪く言うの!』とな」

近衛「兄上は怒る事は無かったが、代わりにお前の境遇の事を話してくれた」

馬丁「……」

近衛「済まない。私は何も知らず、何も聞こうとせず、お前をただ傷付けた」スッ

馬丁「なっ!? 貴族が平民の前で膝をつくなんて止めてくれよ! こんな所誰かに見られたら俺の首が飛んじまうって!!」

近衛「見られてもそうならない様に私が弁護する! 頼む、私の非を謝罪させてくれ……」

馬丁「分かったよ、でも頭を上げてくれ!」

近衛「……すまない」

馬丁「昨日の事は気にしてない。って事は無いけどさ、こういうのは止めてくれ」

馬丁「嫌なんだ。権力を振りかざすみたいで……」

近衛「馬丁、だったな」

馬丁「ああ」

近衛「許して、もらえるだろうか」

馬丁「俺もケンカを買ったし剣まで折ったんだ、おあいこだろ?」

近衛「おあいこ、か。ふふっ、そうか。そうかもしれないな」

馬丁「ああ、いや。俺の方が悪いか?」

近衛「ふふっ、……姫様の言葉は間違いではなかったな」

馬丁「ん?」

近衛「馬丁、私は平民の男も騎士も嫌いだ。兄上にお前と友になれと言われたが、はっきり言って気が進まなかった」

近衛「だが今は、それ程悪く無いと思っている」

近衛「その……、兄上の頼みだ」

近衛「私を……」

近衛「その……」

近衛「えっと……」

近衛「……」

近衛「馬丁よ、私を、貴様の友とせよッ!」

馬丁「は?」

近衛「これは決定事項だ、文句は許さないぞ!」

馬丁「はあ」

近衛「では、友よ。早速訓練場に向かうぞ!」

馬丁「な、なんで!?」

近衛「決まっているだろう? 勝ち逃げは許さぬ」

馬丁「な、ちょっと待てって! 俺には仕事が!!」

近衛「……馬丁は、友の頼みを断る器の小さい男なのか?」

馬丁「……くそっ、手加減しないからなッ!」

近衛「ああ、当たり前だ」クスッ

馬丁「……ッ」




厩長「……若いねぇ」

本日分終了

閲覧感謝。投下開始

―兵舎訓練場―

近衛「馬丁」

馬丁「なんだ?」

近衛「言わねばならない事があった」

馬丁「なんだよ」

近衛「……有り難う」ボソ

馬丁「は?」

近衛「気にするな。行くぞ」チャキッ

馬丁「……ああ!」

兵士1「お、朝稽古してないと思ったら近衛騎士団のルーキーと勝負か」

兵士2「見た所実力は拮抗していますね」

兵士1「いいや、お嬢ちゃんの方がやや優勢だな」

兵士2「そうなんですか?」

兵士1「動きに無駄が無い。それに型も完璧」

兵士2「ほう」

兵士1「理想的な王国剣技のスタイルだな。噂以上だ」

兵士1「あのお嬢ちゃん、並みの使い手じゃ太刀打ち出来ないだろうな」

兵士2「おい、あれッ!」

キィィィンッ

兵士1・2「!」

兵士1「おいおい、マジか……」

兵士2「今のは、剣閃……」

近衛「なっ……」

馬丁「また、俺の勝ちだな」

近衛「なんなのだ! 昨日といい、今の技は!?」

馬丁「技?」

近衛「どう見ても王国剣技ではなかろう!」

馬丁「そう言われてもなぁ」

兵士1「剣閃だな」

近衛「……!」バッ

馬丁「落ち着けって近衛。この人は兵士団の兵士1さん。口は悪いけど悪い人じゃないよ」

兵士1「紹介どうも。しっかし驚いたな。馬丁、お前何時剣閃なんて身に付けたんだ?」

馬丁「剣閃?」

近衛「剣閃……」

近衛「ひょっとして剣閃って、東天騎士団に伝わるあの剣閃ですか?」

兵士1「さすが優等生。そう、双王国東天騎士団領で使われる異国の剣技、剣閃だ」

兵士1「まさか隊長が剣閃まで叩き込んでるとはな。こりゃ俺もうかうかしてられねぇや」

馬丁「『面を打たず線を斬れ』が剣閃ねぇ……」

兵士1「なるほどね、隊長らしい言い回しだな」

兵士1「剣閃は居を合わせ、最大効率の点で両断する技だからな。馬丁の身軽さと早さがあれば、それっぽい事を出来るって踏んだわけか」

近衛「瞬発力を重視する事で体格の不利を覆す、か……」

近衛「馬丁、先程の技をもう一度見せてくれ」

馬丁「なんだよ急に」

近衛「王国剣技は鎧の上から叩き衝撃を与える事を目的とした剣なのは知っているな?」

馬丁「あ、ああ」

近衛「対して剣閃は居を合わせる剣。つまり距離角度タイミング全てを合わせる剣みたいだ」

近衛「筋力を必要とする王国剣技と比べ、早さを阻害する過度の筋力を不要とする剣閃は……」

馬丁「体格で劣る俺達向きって事か」

近衛「ああ、そうだ。私達が使う王国剣技は、知っての通り衝撃を重視し剣の腹で打つ」

近衛「しかし剣閃は性質上切っ先で払うと推測する。切っ先で払うのであれば遠心力により、本来の筋力以上の効果が得られるはず」

馬丁「何言ってるか分からねえけど、とにかく切っ先で斬れば良いんだな!」

近衛「……そうだな。王国剣技と当て方が根本的に違うから、馬丁の剣閃の成功率が低いと私は考える」

馬丁「当て方を意識すりゃ成功率は上がるって事か」

近衛「その通りだ。試してみる価値はあると思うが、どうだ?」チャキッ

馬丁「やらない訳無いだろ?」チャキッ

馬丁・近衛「行くぞッ!」ダッ

―兵舎訓練場・遠方―

兵士長「へぇ……」

兵士長「(何もかも未熟だが、間違い無く剣閃の体を成してやがる)」

兵士長「ライバル効果って奴かねぇ」

兵士長「(しかし昨日の話と違って随分仲が良いじゃねぇか。副長さんの野郎、一体何を吹き込んだ……?)」

兵士1「隊長」

兵士長「おう、なんだ」

兵士1「良いんですかい?」

兵士長「良いんだよ」

兵士1「……隊長が構わないなら、俺も別に良いんですがね」

兵士長「……」

―厩舎近辺―

近衛「さすがに一日で物に出来はしなかったか」

馬丁「俺より先に様になってる奴に言われると滅入る」

近衛「そう腐るな。才能の差は努力で埋めれば良い」

馬丁「分かってるよ……」

近衛「しかし私も努力を怠る積もりは無い。簡単に差を埋められると思うなよ」クスッ

馬丁「お前なぁ……」ハァ

馬丁「……近衛。お前さ、良い奴だな」

近衛「ど、どうした。急に」

馬丁「あ、いや。貴族にも良い奴が居るんだなって思ってさ」

近衛「ふふっ、貴族全てが利己的な虚飾の徒では無いよ」

馬丁「……凄い事言うな、お前」

馬丁「あ、そういや俺、お前と普通に喋ってるけど良いのか」

近衛「今更なんだ、馬丁」

近衛「しかし、そうだな……。私と対等に話している姿を他の騎士や貴族に見られると、馬丁が何らかの処罰を受ける可能性がある」

近衛「よし、ならば見知った者同士の時のみ対等で居よう。それ以外はお前の為、貴族として接してくれ」

馬丁「分かった」

近衛「今日は有意義な一日だった。対等に言葉を交わすというのが、これほど心地良いものとは思わなかったよ」

馬丁「そんなもんか?」

近衛「ああ。最初は不安だったが、今はお前に引き合わせてくれた姫様と兄上に感謝している」

近衛「そして、馬丁の器の大きさにもな」

馬丁「へへ……」

近衛「そうだ、姫様が馬丁に会いたがっていた。姫様が脱走して来たら相手をして欲しい」

馬丁「平民の俺が相手して良いのか?」

近衛「節度さえ守ればな」

馬丁「なんか怖いな」

近衛「ふふっ。さて、ではそろそろ失礼しよう。また会おう、馬丁」

馬丁「ああ。またな、近衛」

―厩舎―

馬丁「……」

厩長「……へっ、良い面構えになって帰って来たじゃねぇか」

馬丁「今日はすいませんでした!」

厩長「げっしっしっしッ、随分素直になりやがって。ま、明日からまた頼むぜ」

馬丁「はい!」

本日分終了。地味な内容で申し訳ない

―数ヶ月後・厩舎―

馬丁「厩長、厩舎の清掃と餌の補充終わりました!」

厩長「おう、次は馬車の補修をやってくれや」

タッタッタッタッタッタ…………

馬丁「了解、工具取って来ます!」

ガバッ

馬丁「おわッ!?」

姫「馬丁!」ギュー

馬丁「ひ、姫……!?」

姫「馬丁、助けて! 悪い魔王が私を攫いに来るのっ!」

姫「魔王は私をお部屋に閉じ込めてお勉強をさせるのよ。馬丁、お願い! 魔王をやっつけて!!」

馬丁「勉強って……。あー、なるほどね……」

馬丁「姫、その馬車の幌にお隠れ下さいませ」

姫「ありがとう馬丁! 私を魔王の城から連れ去ってくれるのね?」

馬丁「はいはい。ほら、掴まって」サッ

姫「うんっ!」ギュッ

姫「すごい広い! それに椅子が無いわ!」

馬丁「この馬車は端にある木の台に座るんですよ」

姫「木の椅子なのね? 私クッションの無い椅子、初めて見たわ!」

馬丁「じゃ、俺は馬車を補修するんで適当にくつろいで下さい」

姫「補修?」

馬丁「馬車の壊れたとこや、傷んでる場所を治すんですよ。そうしないと使えないんで」カンッ カンッ

姫「治さないと使えないの? じゃあ治ってから私達の逃避行が始まるのね!」

馬丁「魔王が見逃してくれりゃの話ですけどね」カンッ カンッ

姫「大丈夫よ、魔王が現れたら馬丁がやっつけてくれるものっ!」

馬丁「やっつける、ねぇ……」カンッ カンッ


近衛「馬丁ッ、姫様を見なかったか!?」バッ

馬丁「よっ」

姫「馬丁、魔王よ! 早くやっつけて!」

近衛「ま、魔王?」アセッ

馬丁「姫は悪い魔王に攫われて勉強させられるのが嫌だそうだ」カンッ カンッ

近衛「その悪い魔王って……」

姫「馬丁、早くっ!」

馬丁「だそうだ。近衛、幌を縫い終わったら一段落だから、ちょっと待ってくれないか?」

近衛「私が、魔王……」

馬丁「聞こえてないか」チクチク

姫「ねぇ馬丁、近衛ちゃんどうしたの?」

馬丁「貴女が言いますか……」チクチク

―厩舎付近―

近衛「私が、魔王……」ブツブツ

馬丁「大丈夫か?」

近衛「ははは……。良いのだ馬丁。確かに日々厳しく稽古事を強いている私は、姫様とって魔王なのだろう……」

姫「ごめんね、近衛ちゃん」

近衛「勿体ない言葉にございます……」

馬丁「ところで、どうして魔王なんて話が出たんだ?」

姫「神王国のお勉強をしたの!」

近衛「正確には神王国領北方、獣さえ棲まぬ不毛の地にある門についてです」

姫「門の向こうには魔王がいて、魔族を操って神王国と戦争しているのよ!」

近衛「今は魔族や魔物の勢力は弱まり小競り合い状態ですけどね」

姫「近衛ちゃん、なんかイジワル……」

近衛「その様な事は決してありません」

馬丁「はぁ……」

馬丁「ところで城に戻らなくて良いのか?」

姫「イヤよ。私もっと馬丁と居る!」

近衛「姫様。本日は夜に食事会に出ていただく以外、予定はありませんよ」

姫「ほんと?」

近衛「はい。ですからもう少しだけ馬丁と遊んでも構いません」

姫「ほんと?」

馬丁「良かったな」

近衛「あと、姫様が昼食の為に王宮に戻らないと思っていたので、パイを焼いて持って来ました」

姫「ええー」

近衛「そんな露骨に嫌な顔をしないで下さい」

姫「だって近衛ちゃんのパイおいしくないんだもん……」

近衛「姫様、このパイには姫様が大きくなる為に必要な物が沢山入っているのです。」

姫「でもぉ……」

近衛「ちゃんと食べずに姫様が何時までも小さいままだと、馬丁に嫌われてしまいますよ?」

馬丁「え、俺に?」

姫「それは、イヤ……。本当、馬丁?」

馬丁「あ、ああ。そう、かなー……」

姫「……わかった、食べる」

馬丁「そうか。じゃ、シーツと飲み物持ってくるよ。つってもミルクぐらいしか無いけどな」

姫「やった! ミルクっ!」

近衛「姫様……」

―数分後―

馬丁「近衛、藁の上にシーツ敷くから手伝ってくれ」

近衛「分かった」

姫「これ好きーっ」ボフッ

近衛「あ、姫様!」

姫「私のベッドもこれだったら良いのに」ゴロゴロ

近衛「お止め下さい姫様! ドレスが藁まみれになってしまいますっ!」

姫「ええー」ゴロゴロ

馬丁「姫、近衛を困らせたら駄目だぞ」

姫「はーいっ」

近衛「……」

馬丁「近衛……」

近衛「いや、分かっている。分かっているんだ……」

馬丁「さ、早く近衛の焼いたパイ食べようぜ!」

近衛「そうだな。では私が切り分けよう」

馬丁「はい、姫、ミルクをどうぞ」

姫「ありがとう、馬丁!」
馬丁「ほら、近衛も」

近衛「ああ、そこに置いてくれ。はい、切り分けましたよ姫様」

姫「はーい」

馬丁「おっし、早速食べようか」

近衛「ああ」











馬丁「ご馳走様」

近衛「ふふっ、綺麗に食べたな」

馬丁「旨かったからな。それにしても貴族も肉のパイを食うんだなぁ」

近衛「お前は貴族を何だと思っているんだ?」

馬丁「それは……」

近衛「あ……、す、すまないッ、今のは……!」

馬丁「お前が気にするなよ」

近衛「……すまない」

馬丁「……」

近衛「……」

馬丁「……姫、寝ちまったな」

近衛「朝からずっと机に向かっていたから疲れていたのだろう」

馬丁「そうなのか」

近衛「お前と会う様になってから、真面目に勉学に励む様になったからな」

馬丁「さては俺をダシに使ったろ」

近衛「ふふっ、それはどうだろう?」

馬丁「ったく……」

近衛「……姫様がお前と会う事は、良い気分転換になっていると私は思う」

馬丁「でも俺は……」

近衛「ああ。平民のお前が姫様と密会している事が公になれば、お前だけではなく、姫様にも何らかの処分が下るだろう」

馬丁「お前だって罰せられるだろ」

近衛「私は構わないさ」

馬丁「俺が気にする」

近衛「馬丁……」

馬丁「俺が平民じゃなけりゃな……」

近衛「私は馬丁が平民で良かったと思っているよ」

近衛「お前と出会わなければ、私の目は偏見に曇ったままだった」

馬丁「そんなもんかな」

近衛「そんなもんさ」

近衛「それに姫様も、お前が平民だからこそ懐いたのだと思う。姫様の周りには媚びへつらう貴族ばかりだったからな」

近衛「私も姫様も、馬丁に救われたのだ」

馬丁「そりゃ大げさ過ぎないか?」

近衛「大げさなものか。私は本当にそう思っている」

近衛「馬丁よ。この国が、騎士が、貴族が。お前の故郷と家族を奪った事は到底許される事ではない」

馬丁「……」

近衛「それでも姫様を受け入れ、私を友として接してくれるお前に私は救われたのだ」

近衛「だから私は、お前を救いたいと思っている」

近衛「傲慢だ。そうお前が笑おうが、これが偽らざる私の本心だ」

馬丁「……へへ、恥ずかしい奴」

近衛「なっ!?」

馬丁「でも嬉しいよ、俺の事をそんなに考えてくれてるなんてさ」

近衛「馬丁……」

姫「ふーん」

近衛「ひ、姫様、お目覚めでしたか!?」

姫「近衛ちゃんの話し声で目覚めたのよっ」

近衛「申し訳ありません……」

姫「それよりね、私良い事思い付いたの!」

近衛「良い事と言いますと?」

姫「馬丁が王宮に入れる方法っ!」

馬丁「は?」

姫「馬丁が魔王を退治するのよ! そうすればお父様も馬丁を認めて王宮の出入りを自由にしてくれるわ!」

馬丁「そ、そりゃ魔王なんて退治したら世界の英雄ですからね……」

姫「名案でしょ?」

近衛「姫様……」

姫「ねぇ馬丁、魔王を退治して。そしたら私のお婿さんにしてあげるっ!」

馬丁「え」

近衛「な、なんでそうなるのですか!?」

姫「約束よ!」

馬丁「は、はあ……」

姫「約束っ!」

馬丁「分かりました、約束です」

姫「うんっ!」

本日分終了
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―ある日の兵舎訓練場―

近衛「良いか、私が勝ったら月が変わるまで私をお姉様と呼ぶのだぞ」

馬丁「へっ。近衛こそ俺が勝ったら月が変わるまで俺をお兄ちゃんって呼べよ」

近衛「この剣に誓って二言は無い」

馬丁「負けられねぇ、絶対……ッ」

兵士長「お前らなに楽しそうな話してんだ。おら、さっさと構えろ」

馬丁「……」チャキ

近衛「……」チャキ

兵士長「準備は良いな? ……始めッ!」

―前日・兵舎会議室―

兵士長「資料は受け取った、ありがとよ副長さん」

副長「礼には及びません。今の私にはこれくらいしか協力出来ませんから」

兵士長「謙遜しなさんな。おかげで被害が最小限に抑えられそうなんだからよ」

兵士長「しかし、どうやってあの騎士団長を説得したんだ?」

副長「少しお話しただけですよ」

兵士長「少し、ねぇ……」

副長「彼が単純で助かりましたよ、本当に……」

―回想・騎士団長私室―

騎士団長『討伐遠征の地に先に兵士団を派遣する?』

副長『はい。近頃の魔物の増大は年々深刻化しています』

副長『現在の騎士団の精鋭であれば魔物に遅れを取る事はありませんが、万が一という可能性も考慮し兵士団に露払いをさせるのが得策かと』

騎士団長『ふむ……』

副長『魔物討伐ごときで騎士団が損耗するのは国の損失です。それに魔物討伐を無傷で終了させれば、陛下の信頼もより厚くなると思われます』

騎士団長『ふっ。良いだろう、手配は貴様に任せる』

副長『はっ。お任せ下さい』

騎士団長『家畜には主人の為に死力を尽くして貰わねばな。上手くやれよ?』

副長『はい。それでは失礼します』

―回想終了―

兵士長「ともあれ、遠征先が分かれば徴収の被害は最小限に抑えられる。手段はともかくたいしたモンだよ、あんたは」

副長「お誉めに与り光栄の極み」

兵士長「どうして皮肉で返すかね……」

兵士長「兵士2、こいつを元に遠征先の徴収対策を練ってくれ。手段は任せる」

兵士2「了解です」

副長「宜しくお願いします。では兵士長、私はこれで」

兵士長「ああ。そちらさんの大将に、こっちが喜んで任務を受けた様に伝えくれ」

副長「分かりました。それでは……」

バタンッ

近衛「失礼しますっ! こちらに馬丁は居ますかッ!?」

副長「どうしました、近衛?」

近衛「あ、兄上? どうしてここに!?」

副長「仕事で寄っただけですよ。ところで馬丁君がどうかしたのですか?」

近衛「はっ! そうでした。兵士長殿、馬丁はこちらに居ませんか?」

兵士長「馬丁なら厩舎に居るんじゃねぇか?」

近衛「それが厩舎に居ないのです」

兵士長「厩舎に居ない。と、なると……。ああ、あそこか」

近衛「どこに居るか分かるのですか!?」

兵士長「……俺に聞いたって言うなよ?」

近衛「約束します。それで馬丁は?」

兵士長「あいつならきっと、街の高台にある鐘付き堂に居る」

兵士長「兵士宿舎の裏手に、ガキがギリギリ通れる抜け道があるから、そこから行きな」

近衛「鐘付き堂ですね? ありがとうございますッ!」ダッ

兵士長「慌ただしい娘さんだねぇ」

副長「お恥ずかしい限りです……」

―鐘突き堂―

馬丁「やっぱりまだ見えないな……」

カツン、カツン、カツン……

馬丁「……近衛」

近衛「偶然だな、馬丁」ハァ ハァ ハァ…

馬丁「息切らして偶然を装うなよ」

近衛「偶然だ。私はただ街の景色を見たく、高台の鐘突き堂に寄ったに過ぎない」

馬丁「……そうかい」

近衛「何を見ていたのだ?」

馬丁「景色だよ」

近衛「そうか」

馬丁「でかい街だよな」

近衛「王国の首都だからな」

馬丁「……」

近衛「私には言えないか?」

馬丁「何を?」

近衛「はぐらかすな」

馬丁「……」

馬丁「この方向に、俺が生まれた村があったんだ」

近衛「……そうか」

馬丁「もっと背が伸びたら、見えるかな……ってさ」

近衛「馬丁、お前……」

馬丁「親父くらいでかくなれば見えるかな」

近衛「……そうだな。きっと見える」

馬丁「ま、差し当たって近衛よりでかくならないと話にならないけどな!」

近衛「……」

馬丁「帰ろうか、近衛」

近衛「……馬丁」

馬丁「どうした?」

近衛「私ではお前の友として役者が不足しているか?」

馬丁「いきなり何だよ」

近衛「……何でもない」

馬丁「何でもなく無いだろ」

近衛「馬丁よ。私を友と思うなら、もっと頼ってくれ」

馬丁「……ああ」

馬丁「それで、偶然鐘突きき堂に来た近衛は、俺に用事でもあったんじゃないのか?」

近衛「そうだ!」

馬丁「いきなり大声出すなよ……」

近衛「馬丁、姫が修道院の視察に参加する事が決まったのだ!」

馬丁「視察?」

近衛「ああ。それで視察の護衛を選抜する為、兵士団や騎士団の訓練を見たいと姫が進言した」

馬丁「それって……」

近衛「聡いな、馬丁。そうだ、上手くお前が護衛に選ばれる事が出来れば、姫に隠れて会う必要が無くなる」

近衛「それに視察での活躍次第では、専属の護衛になれるかもしれないぞ!」

馬丁「俺が、姫の護衛……?」

近衛「お前が専属の護衛になれば姫も喜ぶ。無論、私だって嬉しい」

馬丁「はは、夢のある話だな」

近衛「馬丁!」

馬丁「無茶言うなよ……。礼儀作法も知らない無知なガキに勤まる仕事じゃないだろ」

近衛「知らなければ学べば良い! なぜ私を頼ってくれない、私は友ではないのか!?」

近衛「さっきだってそうよ! 言えない辛い事があるかもしれないけど、友達なら分かち合えるでしょ!」

近衛「どうして一人で抱え込むのよ、バカッ!!」

馬丁「ば、バカって……」

近衛「ああああっっッ! す、すまない。取り乱してしまった……」

馬丁「……」

近衛「……馬丁」

馬丁「なんだよ」

近衛「もっと私と姫を信じてくれないか?」

馬丁「……分かった」

馬丁「やれるだけやってみるよ、近衛」

近衛「そうか、やってくれるか!」

近衛「姫もきっと喜ぶ。早く戻って報告しなくては」

馬丁「気が早くないか」

近衛「そんな事は無い。お前の実力を以てすれば、護衛選抜官の目に止まるのは確実だ」

近衛「そうだ! 訓練で私が馬丁の相手になれば、より注目されないか?」

馬丁「そりゃ、目立つだろうけど」

近衛「決まりだな。ふふっ、まったく手の掛かる奴め」クスッ

馬丁「なんだそりゃ」

近衛「強情で手の掛かる弟みたいだと思っただけだ」

馬丁「お、弟?」

馬丁「いやいや、そりゃ無いって」

近衛「そうか? 年は近いがお前の方が年下であろう」

馬丁「年はそうだけど、どっちかって言ったらお前の方が子供っぽいだろ」

近衛「私が……子供っぽいだと……?」

馬丁「世話焼きで、怒りっぽくて、頑張って大人を演じてる所なんて特にな」

近衛「ほう……」

馬丁「俺にしてみりゃ、近衛は妹みたいなモンだぞ」

近衛「確かに馬丁は精神的に老成している節があったが、まさか私をその様に見ていたとはな……」

馬丁「……あ、あれ?」

近衛「馬丁よ。ただ選抜訓練で戦うのは、少し面白味に欠くと思わないか?」

馬丁「……」

近衛「馬丁。明日の訓練で私が勝ったら、月が変わるまで私をお姉様と呼べ」

馬丁「は?」

近衛「何か飴があった方が気が入るであろう?」

馬丁「……だったら」

馬丁「近衛。俺がお前に勝ったら、俺をお兄ちゃんって呼べよ」

近衛「お、お兄ちゃん!?」

近衛「……良いだろう。だが私が勝った時には」

馬丁「ああ。お姉様でもお姉ちゃんでも、何とでも呼んでやる!」

近衛「(この勝負……)」

馬丁「(負ける訳には行かない!)」

本日分終了
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―兵舎訓練場―

開始の合図と共にぶつかり合う剣閃と剣閃

馬丁「考える事は同じだな」

近衛「ふっ。お前が剣閃を放てる間合いは、私の間合いでもある事を忘れたか?」

馬丁「だったらッ!」ブンッ

近衛「ぐっ」ガキッ

近衛「さすが兵士長流……。だが、腕力だけで押し通せると思うなッ」ゴオオオォォッッ!!

・精霊魔法:強風

馬丁「風ッ!?(まずい、飛ばされる!)」

近衛「足を止めたなっ!」ダッ

近衛「食らえッ」ガッ

近衛が振り上げた剣は地を掻き土煙を上げる

馬丁「あぶねぇッ」

近衛「避けられたと思ったか?」

巻き上げられた土煙に雑ざった無数の砂利は一瞬動きを止め

・精霊魔法:矢操作

一斉に馬丁に降り注いだ

馬丁「!」

近衛「同時に防いでみせろっ!!」

剣閃

そして、剣閃

近衛「止めた!?」

馬丁「……」

近衛「シュートアローの回避を捨てるとはな」

馬丁「頑丈さには自信があんだよ」

馬丁「(どうする? 使える条件が同じなら剣閃は切り札にならない。それにシルバーチェイルのみの近衛は精霊魔法が使える……)」

馬丁「(冷静な時の剣の腕はあいつの方が上だ。なんとか冷静さを奪えないか……)」

近衛「どうした馬丁。来ないなら私から行くぞっ!」

馬丁「……ああ、かかってきな。お姉様」

近衛「へ? お、お前っ!?」

馬丁「今だッ!」ヒュンッ

近衛「……なっ!?」ヒュッ

ガキッ

馬丁「防ぎやがった……ッ」

近衛「……ふふ」

馬丁「……っ」ゾクッ

近衛「馬丁……」ユラッ…

・共通語魔法:鋭さ

・共通語魔法:正確さ

・共通語魔法:筋力強化

近衛「私の隙を突く良い作戦だ。だが……」

馬丁「……」ゴクッ…

近衛「覚悟はできているな……?」ギロッ

馬丁「は、はい……」







―同刻・兵舎訓練場特別席―

文官「ふむ……流石は兵士長自ら鍛え上げた兵士達です。練度は申し分ありませんね」

姫「(やっぱり馬丁も近衛ちゃんもすごい……)」

文官「しかし姫様の護衛と考えると……、少々無骨な者が多い様に見受けられますな」

姫「ぶ、文官。あそこで近衛と戦っている、ばて、少年はいかがでしょう?」

文官「どれ……」

姫「(馬丁かっこいい……)」

文官「や。剣だけなら近衛と遜色な無いとはやりますね。それに他の兵士と違い中々の美丈夫」

文官「(姫様が食い入る様に見ておられる。流石は近衛ですね)」

姫「(あ、近衛ちゃんズルい!)」

文官「ほう……。あの少年、近衛に魔法を使わせるとはやりますね」

姫「あ、ずっこい! あーっ! ……終わっちゃった……」

文官「ふむ」

姫「……」ムッスー

文官「兵士長!」

兵士長「はい、何でございやしょう」

文官「あの少年の名は?」

兵士長「あいつですかい? あいつの名は――――」

―兵舎救護室―

馬丁「いつつ……」

近衛「情けない声を出すな」

馬丁「もう少し優しく包帯を巻けないのか、お姉様」

近衛「お、おねっ」ギュッ

馬丁「いってぇっ!」

近衛「急に変な呼び方するからだ、バカ!」

馬丁「お前が呼べって言ったんだろ……」

近衛「しかしだな……」

馬丁「じゃあお姉ちゃん」

近衛「う……、それもちょっと……」

馬丁「おを抜いて、姉ちゃんは?」

近衛「……」

馬丁「姉さん」

近衛「う、うむ。それで妥協してやろう」

ギィ…… バタンッ

兵士長「手当ては済んだか?」

近衛「はい、この通り」

兵士長「はっはっはッ。馬丁、随分こっぴどくやられたなあッ!」

馬丁「からかいに来たのかよ」

兵士長「まあ、そう腐るな。せっかく良い知らせを持って来たんだからよ」

近衛「まさか馬丁がもう選ばれたのですか!?」

兵士長「あー、そいつはまだ分からねぇ。でもな」

馬丁「……」

兵士長「今日来ていた文官が、お前の名前を聞いて来た」

近衛「!?」

馬丁「え、そんな事?」

近衛「そんな事だと、馬丁!? これは凄い事だぞ!!」

兵士長「ああ。わざわざ貴族のお偉いさんが、平民の見習い兵士の名前に興味を持ったんだからな」

馬丁「……!?」

近衛「こうしては居られない。手合わせした私からもお前を推薦して来ねば! しっかり傷を癒せよ、馬丁!!」ダッ

馬丁「あ、ああ」

兵士長「慌ただしい娘さんだねぇ」

馬丁「それだけ俺の事を考えてくれてるんだよな、きっと」

兵士長「ああ、そうだな。さあて、手当て終わってんなら帰るぞ。今日はめでてえから好きなモン作ってやる!」

馬丁「本当か!? じゃあ俺、肉が食いたいっ!」

兵士長「おう、任せとけ!」

―数日後・厩舎―

近衛「失礼します。こちらに兵士長の子息である馬丁殿は居られるでしょうか」

厩長「ん? どうした近衛の嬢ちゃ……」

近衛「(し、シーッ!)」コソコソ

文官「……」

厩舎「あ、ああっ。これは近衛様と文官様。馬丁ですね、呼んで参りますので少々お待ち下さい」

厩長「おーい、馬丁よーいっ!」バタバタ

馬丁「はーい、なんですかー!」タッタッタ

馬丁「あ。おね、じゃなくて近衛様と文官様……」

文官「ふむ。貴方が馬丁ですね。先日の練習試合、素晴らしい戦いでした」

馬丁「は、はい! こ、光栄でごごございますッ」

文官「や。12歳にして近衛に追随せんばかりの腕、実に将来有望です」

馬丁「ありがとうございますッ」

文官「さて、前置きはもう良いでしょう」

文官「兵士団見習い馬丁よ。汝に修道院視察に於ける姫の護衛を言い渡します」

馬丁「俺が……、護衛……?」

文官「姫は随分貴方を気に入った様子。手合わせした近衛からも貴方を強く推薦を受けまして」

文官「幼い兵士団見習いと言う事を考えれば異例かと思われますが、私も貴方の将来性を買わせていただきました」

文官「正式な手続きは近衛に引き継ぎます。では、期待してますよ、馬丁」

近衛「それでは今後は私から説明を……」

馬丁「……」

近衛「行ったか……?」

厩長「行ったようじゃの」

馬丁「……みたいだな」

近衛「……っ」クスクス

厩長「くっくっく……」

馬丁「……」

近衛「やったな、馬丁!」

厩長「よくやった! まさか本当に護衛になれるなんてなあッ!」

馬丁「あ、ああ……ああッ! お、俺。俺ッ!」

近衛「良かった、本当に……」

近衛「だが、これはまだ第一歩だ。まだ先は長いぞ?」

馬丁「ああ! 分かってるよ、姉さんっ!」

厩長「姉さん?」

近衛「な、なんでもありません! それじゃ手続きがあるから馬丁借りますねっ!!」

―厩舎付近―

姫「馬丁!」ダキッ

馬丁「姫!?」

姫「えへへ……抜け出して来ちゃった」

近衛「姫様……」

姫「おめでとう、馬丁」

馬丁「知ってたのですか?」

姫「うん! 大臣たちが話してるの聞いたの!」

姫「実力で平民が王族の護衛に付く事は凄い事なんだって!! だから平民に対して良い影響を与えるって言ってた!」

近衛「……っ」

馬丁「……そっか」

姫「どうしたの? どこか痛い?」ギューッ

馬丁「何でもありませんよ。ありがとう、姫」ナデナデ

馬丁「俺を護衛に推薦してくれた姫と姉さんには、感謝してもし足りません」

姫「姉さん?」

近衛「ば、馬丁!」

馬丁「約束なんです。俺が負けたら、近衛を姉さんって呼ぶって」

姫「そうなの? なら私も呼ぶっ! 良いよね、近衛お姉ちゃん?」

近衛「え、は、それは……」

姫「馬丁にだけずるい……」ウーッ

近衛「ひ、姫様……」

馬丁「諦めろよ、姉さん」

姫「そうだよー。ね、お兄ちゃん!」

馬丁「お、お兄ちゃん!?」

姫「近衛ちゃんがお姉ちゃんで、馬丁がお兄ちゃん! 良いでしょ?」

近衛「ぷっ……。ああ、そうだな。仕方ないよなあ。馬丁お兄ちゃんっ」

馬丁「こ、近衛っ」

近衛「これからも姫を頼むぞ、馬丁お兄ちゃん」

姫「これからも私をお願いねっ、お兄ちゃんっ!」

馬丁「はは……。宜しくな、二人とも……」

本日分終了 次回少年期編終了予定
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予定は未定
舞台説明メインなので流し読み推奨かも

―図書館―

近衛「さて」

馬丁「おう」

姫「はいっ」

近衛「本日から馬丁には姫様の護衛の為に必要な知識と礼儀作法を学んでもらう」

近衛「資料や文献に目を通す事があると思うが、馬丁は共通語の読み書きは出来るか?」

馬丁「一応、な」

近衛「素晴らしい。ではせっかくですので姫様、なぜ彼の様な貴族階級以外の者が文字の読み書きが出来るかを答えて下さい」

姫様「え、私?」

近衛「はい」

姫様「えっと……。王国は特産が無く商業によって発展した為、商売に重要な共通語の読み書きが商人達を中心に市民層へ浸透していった……。かな?」

近衛「正解です、姫様。王国は世界でも数少ない識字率の高い国です。おかげで商売や学問という分野で発展する事が出来ました」

馬丁「他の国じゃ、平民は文字の読み書きが出来ない事が普通なのか?」

近衛「ああ。支配層によって規制されている国もあるくらいだ」

姫「なんで?」

近衛「都合が良いのですよ、姫様。労働力に知恵を与えてしまう事は、支配層にとって不利になる事も多いので」

馬丁「勝手だな」

近衛「……ああ。だが、それが当たり前だという国もあるんだ」

近衛「さて、話が逸れたが本題に戻ろう」

近衛「馬丁には姫様の護衛をするにあたって、他国の事も知っておいて貰う。馬丁は近隣三国は知っているか?」

馬丁「東方の隣国、西方の双王国、北方の神王国だろ。子供だって知ってるぜ」

近衛「ああ。この国の民ならば、子供だって知っている事だな」

馬丁「あ……」

近衛「話を続けるぞ。まずは北方の神王国から説明を始めようか」

近衛「現在王国は第一王女様が嫁いだ神王国と友好状態にある」

近衛「神王国とは神と言う物を信仰する国だ。神とは王国で言うところの精霊王の様な物らしい」

近衛「遥か昔から神の命により北限の門を通り現れる魔族を討伐してきたと言われている」

姫「一姉様も戦っているの?」

近衛「いえ、神王国は男性のみが戦場に赴く国ですので、第一王女様は戦場に出ませんよ」

姫「よかったぁ……」

馬丁「この国も戦場に出るのは男だけじゃなかったか?」

近衛「馬丁は私を何だと思っている」

馬丁「あ」

近衛「……まあ良い。私は王国にとって例外なんだ」

近衛「馬丁の言う通り王国も男性のみが戦場に赴く国だ。だが私は姫様の護衛という事で、特例として騎士になった」

近衛「それに私の主君は陛下では無く姫様だからな」

馬丁「なんか、ややこしいな」

近衛「そういう物だと認識する程度で構わないさ」

近衛「では続けるぞ」

近衛「神王国とは第一王女様が嫁いだ事もあり友好関係にある。おかげで神王国退魔師団が王国国境付近の魔族や魔物を優先的に討伐してくれ、王国はこれらの被害が最小に抑えられているのだ」

近衛「退魔師団は双王国の四方天騎士、王国の騎士団を遥かに上回る実力と噂だ。心底友好国で良かったと思う国だな」

馬丁「へー」

近衛「次は西方の双王国の説明をしよう」

姫「常に双子の王様が生まれる国なんだよね」

近衛「はい。不思議な事に双王国王家には常に双子の男子が生まれ、兄王と弟王の二人が武と政に分かれて統治している国です」

近衛「双王国は四方天騎士と呼ばれる騎士団によって守護された遺跡の国だそうです」

近衛「私と馬丁の使う剣閃は、四方の一角である東天騎士団が扱う特殊な剣技の一つだとか」

近衛「おそらく高い武力を持っているのでしょうが、他国へ攻めたという記録は無く、王国とも地理的に竜の狩場を挟んでいるので危険視はされていません」

馬丁「竜の狩場って何だ?」

近衛「南西にある山脈を支配する赤竜の餌場となっている平原だ」

近衛「肥沃な大地だが、赤竜を恐れ人だけでは無く魔族も近寄らない」

近衛「そのおかげで竜の狩場付近は魔族や魔物が少なく、王族や貴族の療養場などが建てられているな」

近衛「長くなったが最後に東方の隣国の話をしよう」

近衛「隣国は現在王国と休戦関係にある国だ」

近衛「王国が神王国と友好関係にあるおかげで、戦力を国境付近に多く配備出来る為休戦が保たれているが、隣国も戦力を蓄えているとの噂がある」

馬丁「隣国ってどんな国なんだ?」

近衛「それがな……、隣国についてはあまり情報が無く詳しく分からないのだ」

近衛「姫の護衛の際、国内のパルチザン以外で敵対する可能性があるのは、隣国の者である可能性が高い」

馬丁「パルチザン、か……」

近衛「さて、と。今日はここまでにしておこうか」

馬丁「やっと終わったか」

近衛「姫様を護衛する為に必要な知識の基礎となる部分だ。頑張って覚えてくれよ」

馬丁「姫の護衛をするなら、何から姫を守るのか知っておかなきゃいけないもんな。頑張って覚えるよ」

姫「私を守る為に覚えるなら、私は覚えなくて良いの?」

近衛「姫様も政に関わる事ですのでしっかり覚えて下さい」

姫「うう……」

馬丁「頑張ろうな、姫」

姫「うん、頑張るっ」

近衛「(馬丁、姫様の扱いが巧くなったな……)」

近衛「そうだ。馬丁には知識以外にも、その使い慣れない言葉使いや立ち振舞いを学んで貰わなくてな」

馬丁「げっ」

近衛「『げっ』とは何だ。姫様の側に立つなら最低限必要な事だぞ?」

馬丁「王族の護衛って大変なんだな……」

近衛「少しは私の苦労が分かったか?」

馬丁「ああ、姉さんは凄いよ。心底そう思う」

近衛「普段からそのくらい殊勝なら可愛げがあるのだが……」

馬丁「俺に可愛げを求めんなよ」

姫「そうよ、お兄ちゃんは格好良いんだから!」

馬丁「それも何か違います」

姫「そうなの?」

近衛「ふふっ」

馬丁「なんだよ、人を見て笑って……」

近衛「まあ拗ねるな。なに、姫様と馬丁が本当の兄妹みたいだと思ってな」

姫「私とお兄ちゃんが?」

近衛「ええ。失礼ながら」

姫「ううん、そんな事無い! すごく素敵な事よっ!」

近衛「姫様……」

姫「私、本当に近衛ちゃんがお姉ちゃんで、馬丁がお兄ちゃんだったらって思っていたの」

姫「だから、すごく嬉しいっ!」

馬丁「だってさ、姉さん」

近衛「勿体ないお言葉です……」

姫「えへへ」

近衛「よし、馬丁。私が必ず姫様の兄として相応しい男にしてやるぞ!」

馬丁「お手柔らかにお願いします。割りと本気で」

近衛「いや、やるからには全力でやる」

馬丁「うへぇ」

姫「私も頑張るからお兄ちゃんも頑張ろ?」

近衛「姫様がやる気を出しておられる……」

馬丁「ナチュラルに退路断ちますね、姫」

姫「?」

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―後日・図書館―

馬丁「今日は姉さんだけなんだな」

近衛「ああ。姫様にもやることがあるのでな」

近衛「それに今日は姫様が居られるとし難い話題だ」

馬丁「し難い?」

近衛「昨日は外部、今日は内部と言う事だ」

馬丁「そういう事か」

近衛「昨日の国内での危険要素としてパルチザンを上げたが、他に注意すべき者達も居る」

近衛「山賊や盗賊もそうだか、何より危険視すべき相手……」

近衛「それは貴族だ」

近衛「姫様は第五王女。本来なら様々な継承権から遠いのだが、第一王女は神王国へ嫁ぎ、第三第四王女は幼い頃に病で亡くなっている」

馬丁「それって第二王女と姫しか選択肢が無いんじゃ……」

近衛「その通りだ。全く、なぜ男子を授からなかったのか!」

馬丁「ひでぇ」

近衛「……」コホン

近衛「姫様は継承権に近い位置に居る事は分かってくれたな?」

馬丁「ああ」

近衛「第二王女はお優しく、年の離れた姫様をとても可愛がっておられる」

近衛「しかし、第二王女を取り巻く貴族達は違う」

近衛「連中の多くは第二王女に取り入り、甘い蜜を吸う事にしか興味がない」

馬丁「そいつらにとって姫は邪魔者って事かよ……っ」

近衛「その通りだ。残念ながら、な」

近衛「今回の視察、姫様が同行する以上、何等かの刺客が送られて来る可能性が高い」

近衛「そもそも姫様が視察に加わった事自体、罠だと考えるのが妥当だろう」

馬丁「……ああ」

近衛「だから馬丁、私達以外は全て敵だと疑うくらいの覚悟で護衛に臨んで欲しい」

馬丁「分かった」

近衛「この話はここまでにしよう。さて、今日の講義は礼儀作法の基礎にしようか」

馬丁「う……、お手柔らかにな」

近衛「ふっ。それは馬丁次第だ」

―翌日・王宮近衛私室―

馬丁「すげぇ、姉さんって王宮に住んでたのか」

近衛「ああ。いつ何時でも姫様を護れる様にとの計らいだそうだ」

馬丁「それで、今日は何をやるんだ?」

近衛「今日はお前の服を仕立てる為に寸法を計ってもらう」

馬丁「服?」

近衛「馬丁……、お前その服で護衛の任につくつもりだったのか?」

馬丁「確かに王族の護衛に平民感丸出しはまずいか」

近衛「当たり前だ。だから馬丁に姫様の護衛に相応しい正装を仕立てる」

馬丁「姉さんにそこまでして貰わなくても……」

近衛「私は上から馬丁の世話を任されているんだ、諦めて世話されろ」

馬丁「……分かった」

近衛「よし、序でに散髪もしておこうか。どうせ一度も櫛を通した事が無いのだろう?」

馬丁「髪かぁ、兵士2さんがたまに切ってくれるくらいしか弄ってないなぁ」

近衛「ふふっ。今の馬丁、私は嫌いじゃ無いのだがな。しかし視察に同行する者と、視察先の目がある事も理解して欲しい」

コンコン

近衛「うむ、どうやら仕立て屋が到着した様だ。多少窮屈だろうが我慢するんだぞ?」

―王宮姫私室―

コンコン

近衛「失礼します、姫様。この度護衛に付く者のお目通しに参りました」

ガチャ

姫「近衛ちゃん! お兄ちゃん連れて来てくれたの!?」ダッ

近衛「ひ、姫様っ」

近衛「(まだ他の者の目があります、気持ちは分かりますが落ち着いて下さい)」コソコソ

姫「あ、そっか!」

近衛「……では姫様。入室しても宜しいでしょうか」

姫「良いよ!」

近衛「はぁ。馬丁、入れ」

馬丁「失礼します。自分はこの度姫様の護衛を務める事にあいなりました、兵士団見習いの馬丁であります!」

近衛「ぷっ」

馬丁「なっ」

近衛「くくっ……。馬丁、姫様が直々にお前に話がしたい様だ。さ、奥へ」

馬丁「はっ、了解であります!」

近衛「姫様、もう宜しいですよ」

姫「お兄ちゃん!」ダキッ

馬丁「ははは、久しぶり」ナデナデ

姫「うん、一日ぶり!」

姫「……あれ、お兄ちゃん何時もと違う?」

馬丁「髪切って整えて貰いました。あと近衛から服を借りてます」

姫「そうなんだ。私は前のお兄ちゃんの方が好きだったのに……」

馬丁「似合わないかな?」

姫「ううん。今のお兄ちゃんも大好きっ!」

馬丁「へへ。ありがとう、姫」ナデナデ

姫「えへへぇー」

近衛「姫様、良かったですね」

姫「うんっ!」

馬丁「ん、何が良かったんだ?」

近衛「姫様は以前から馬丁を部屋に呼びたがっていたんだ」

馬丁「そうだったのか……」

姫「うん、だからすごく嬉しいよっ!」

近衛「ふふっ。馬丁よ、姫様の次の予定までエスコートを頼むぞ」

馬丁「お、おう。分かった」

姫「お兄ちゃん、遊ぼっ! 何かご本読んで!」

馬丁「良いですよ、何を読みましょうか?」

姫「じゃあこれっ!」

馬丁「どれ、英雄譚か」

馬丁「えっと……。遥か昔、無限の魔法の力で栄えた霊唱期」

姫「うんうんっ!」

馬丁「人々は魔法の力を使って、平和で豊かな生活を送っていました。ですが虚空より邪悪な者達が現れ――――」

―兵舎付近―

馬丁「今日は色々ありがとな」

近衛「なに、私は自分の任を全うしたに過ぎないさ」

馬丁「そうだ、この借りた服どうしようか?」

近衛「そうだな、気に入ったなら馬丁にやろう」

馬丁「良いのか?」

近衛「ああ。お前の服が仕立て上がるまで礼服は必要だろう? それに、私には少し小さいからな」

馬丁「お、俺だって直ぐにデカくなるぞ!」

近衛「あ、いや、身長では無い。その……、胸周りが小さいんだ……」

馬丁「……」

近衛「……」

馬丁「えっと……」

近衛「ま、まあ私が袖を通した物で良かったら貰ってくれ」

近衛「袖を通す事の無い私が持つより、馬丁が着た方が服も喜ぶしな!」

馬丁「そ、そうだな。折角だから記念に貰っとくよ!」

近衛「えっ、記念!? 一体何のっ!?」

馬丁「え、えええっと、ほら、俺が姫の部屋に入った記念とか?」

近衛「う、うむ。そうだな。姫様にとって今日は記念すべき日になったものな」

馬丁「ああ。じゃ今日はもう遅いからまた明日な!」

近衛「ああ。また明日!」

近衛「……」

近衛「あれ? 姫様の記念……?」

―兵舎馬丁自室―

バタンッ

馬丁「……なんで俺焦ってたんだ」

馬丁「はあ……。意識して無かったけど近衛って女なんだよな……」

馬丁「女だけど騎士で、姫の護衛で、魔法も使える……」

馬丁「はは、なんだよ、完璧人間じゃんか」

馬丁「……寝よ」ポスッ

馬丁「(……この服、なんか甘い香りがする)」

馬丁「(何か落ち着かない。着替えよう……)」

―修道院視察当日―

兵士長「とうとうだな」

馬丁「ああ、行ってくる」

兵士長「へっ、知らない間に成長しやがって」

馬丁「俺だって何時までもガキじゃ無いって」

兵士長「そうだな」

馬丁「じゃ、行くぜ?」

兵士長「おっと、ちょっと待ちな。兵士団全員からの餞別があるんだ」

馬丁「餞別?」

兵士長「おうよ。ほれ」ヒョイ

馬丁「危ねっ……、ってこれ……!」

兵士長「ロングソードとマンゴーシュだ。武器屋のオヤジに無理言って上質な奴を見繕って貰ったんだぜ」

馬丁「良いのかよ。高いんだろ、これ」

兵士長「がっはっはっはっ!! んな事ガキが気にすんな! それに息子の出世くらい祝わせろや」

馬丁「……そうだな。ありがとう、親父」

兵士長「おうっ。行ってこい、馬丁!」

馬丁「ああ。行って来ます!」

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―街道―

馬丁「ふぁ……」

近衛「欠伸とは随分余裕だな」

馬丁「馬車に追従するだけで、何か思ったより暇でさ」

近衛「気持ちは理解出来るが、最後尾の我々の役割は重要なんだ。あまり気を抜くなよ?」

馬丁「分かってるって。しかし視察って結構な規模でやるんだな」

近衛「王族の護衛に騎士4名と術師様。それに馬丁と私だぞ? 寧ろ少ないくらいだ」

馬丁「そうなのか。なら王族の護衛なんだし、騎士団総出で先導してやれば良のにな」

近衛「確かに王族の護衛ならば騎士団が食い付くだろう話だ」

馬丁「なんか引っ掛かるんだよ」

近衛「なんかとは曖昧な」

馬丁「んー、姫の初視察なのに護衛が少ないだろ?」

近衛「そうだな。この規模は精々下級貴族の護衛だ」

馬丁「そんな規模で姫の護衛。訓練見て選別したってのに、先導する騎士は馬にもまともに乗れない奴等ばかりってのがな」

近衛「良く見てるじゃないか、馬丁」

馬丁「そうか?」

近衛「ああ。馬丁の言う通り今回はおかしな視察だ」

馬丁「だよな。まるで誘ってるみたいだ」

近衛「姫様が同行する事は公になってはいない。だが……」

馬丁「情報を流した奴が居れば話は別だな。それに小規模の護衛なんて自分から貴族だって言ってる様なモンだ」

近衛「姫様を疎ましく思う輩には、二重に好ましい状況という訳だ」

馬丁「……随分と冷静だな、姉さん」

近衛「私はこの視察が仕組まれた物と疑った時点で、ある程度この辺りの状況を想定していた」

近衛「だからと言って私に何か出来るという訳ではない。私はただ、全力で姫様をお守りするだけさ」

馬丁「……そうだけどよ」

近衛「だからと言って、何もしない訳では無いぞ。馬丁、受け取れ」スッ

馬丁「この護符は?」

近衛「敏捷性強化のコモンルーン。共通語さえ読めれば特殊な訓練を積まずに使える魔法の護符だ」

近衛「私は精霊魔法で同じ魔法が使える。だから馬丁が使ってくれ」

馬丁「良いのか?」

近衛「勿論。だが受け取ったからには、命に代えても姫様を護るのだぞ」

馬丁「……分かった」

近衛「日が傾いてきたな」

馬丁「本当だ。半日も馬に乗ってたのかー」

近衛「予定ではそろそろ修道院の筈だ」

馬丁「無事付きそうで良かったよ」

近衛「そうだと良いが」

馬丁「姉さんは心配性だな」

近衛「パルチザンならば日がある内に襲撃してくるが、暗殺者であれば日が沈んでから襲撃して来る可能性がある」

馬丁「……気は抜けないって事か」

近衛「ああ。それに今は馬も人も疲労した状態だ」

近衛「私が襲撃側ならば今のタイミングをねら――――」

ドスッ

騎士A「グハッ」

騎士B「っ! 襲撃だ! 騎士Aが射られたっ!!」

騎士C「くそっ、蛮族め! どこだ、どこに居る!」

近衛「弓、か。馬丁、お前はここで背後からの襲撃に備えてくれ」

馬丁「姉さんはどうするんだ?」

近衛「練度の低い騎士などに姫様を任せられる筈無い。私が切り込む!」

近衛「術師様、ミサイルプロテクションを馬車と我等に!」

術師「あい分かった!」

・精霊魔法:矢返し

近衛「馬丁、私の馬を預かってくれ」

馬丁「おう、任せとけ!」

近衛「おとなしく待っているのだぞ」ポフポフ

近衛「術師様の魔法で矢は効かなくなった! 襲撃者を孅滅するッ!!」


騎士B「術師様、騎士Aを頼みます」

術師「うむ。任せておきなさい」

騎士C「見習いに遅れを取るな、我等も行くぞ!!」

騎士D「ああ。分かった」

近衛「……馬丁、背中は任せるぞ」ボソ

近衛「どこだ……? どこから射って来た……」

ドスッ

近衛「足下を狙って来た!?」

近衛「(まさかこの僅かな間で、矢が効かなくなった事知覚し足止めに来たのか?)」

騎士D「矢はこちらを向いているな。近衛騎士よ、襲撃者はあの茂みに居る様だ」

近衛「……分かった。私が切り込む」

騎士B「俺も行こう」

近衛「了解しました。では、一気に行きます!」ダッ

騎士B「ふん」ダッ


ガサッ

騎士B「そこかっ!」ブンッ

少女「キャアアァァァッッッ!!」ドサッ

近衛「子供だと!?」

騎士B「構うな、襲撃者は全て殺せ!」

農夫「よくも少女をっ!」バッ

騎士B「出てきたなパルチザンども、家畜は家畜らしく殺されろォッ!」ブンッ

農夫「つっ……。簡単にやられるものかッ」シュッ

ゴンッ

騎士B「カハッ……」フラッ…

農夫「家族の、村のみんなの仇だッ!」ガシッ ドスッ

騎士B「……ッ」ドサッ

農夫「次は、お前だ……っ」ジリ…

近衛「くっ……」チャキッ

騎士C「何をしているッ、見習い!」バッ

ゴスッ

農夫「かはっ……、っ……くっそおおおぉぉぉおっっッ!!」ブウンッ

ガキッ

騎士C「甘いんだよ、犬畜生がああぁぁっッ!」ヒュン

ズシャッ

農夫「……くそっ……貴族め……、呪われろ……っ!」バタッ


騎士C「まだ居る筈だ! 見つけ次第全員殺せッ!」

近衛「……」

近衛「今は……、今はやるしか無い。やるしか無いのよ……ッ」

姫「術師、外はどうなっているの?」

術師「戦況は劣勢の様です。騎士D殿、加勢向かわなくて宜しいのですかな?」

騎士D「ええ。彼等だけで十分ですよ、術師様」

ドスッ

術師「……い、一体何を……?」ガクッ

姫「……っ」

騎士D「フッ……」

術師「姫様っ、お逃げ下さい! 騎士Dは――――」

ザシュッ

騎士D「しぶとい老いぼれだ。だが、まあ良い」

姫「い、いや……、来ないで……っ」

騎士D「あとは姫、貴女だけだ……」

馬丁「貴女だけ、何て心外だな」

騎士D「おっと、まだ野良犬が残っていたか」

姫「馬丁っ!」

馬丁「……」チャキ

騎士D「先ずはお前から始末してやる。貴族の手に掛かって死ぬ事を光栄に思えッ!」ヒュン

馬丁「……遅え」ヒュッ

キンッ

騎士D「パリィングダガーかっ!?」バッ

馬丁「姫に手を出すなら、容赦しない」チャキッ

騎士「容赦? 笑わせるなよ野良犬がァッ!」ダッ

馬丁「簡単に死線を越えるなよ」スッ…

・剣閃

ズシャァァアァッッ!!

騎士D「ぐあああぁぁぁっっッ」ボタボタ

ドサッ

騎士D「腕がっ、俺の腕がぁ!?」

馬丁「姫、目を閉じていて下さい。貴女には見せたくない」

姫「……」コクリ

馬丁「反逆者騎士D、今ここで貴様を処断する」

騎士D「や、止めろ! 助けてくれ!」

馬丁「……」

騎士D「金でもなんでもやる、だから殺さないでくれっ!」

馬丁「……」ギリッ

騎士D「頼むっ!」

馬丁「死ね」ヒュッ

ズシャッ

ゴロン……

馬丁「お前に助けを乞う資格なんか無ぇ……」

チリン……

馬丁「!?」

チリン……

馬丁「まだ誰か居るのか……?」

チリン……

馬丁「姫、俺の後ろに」

姫「う、うんっ」

馬丁「必ず守ります。だから安心して」

姫「……信じてるからね、お兄ちゃん」

馬丁「ああ」

コツ、コツ、コツ……

馬丁「……」チャキ

フードを目深に被った小柄な人(以下フード)「情報提供者は討ち取られたみたいだね」

馬丁「(女、いや子供の声?)」

フード「騎士に」

フード「貴族に」

フード「国に」

フード「それらに住む場所と家族を奪われた君が、王家の者の守護者とは全く皮肉だねぇ……」クスクス

姫「え……?」

フード「本来なら君はこちら側の人間だと思うのだけど」

馬丁「……黙れ」

フード「そこの騎士を殺した時、気分が晴れただろう?」

馬丁「黙れよ……っ」

フード「次は姫を斬ったら、もっと気分が晴れると思わないか?」

馬丁「……」ギリッ

姫「お、お兄ちゃん……」

フード「お兄ちゃん? これは、これは……」クスクス

フード「素晴らしいね。君は姫を誑かし国を乗っ取る積もりなのかい?」

馬丁「黙れえぇっッ!!」ザッ

・剣閃

フッ

馬丁「消えた!?」

フード「短気はいけないな。そんなに気色張らなくても良いじゃないか」クスクス

馬丁「お前……魔術師か」

フード「ふうん、君の目は節穴じゃ無いみたいだね。まあ良いや」

フード「その通りだよ、ボクは魔術師」

フード「そうだね。塵、とでも呼んでくれないか。馬丁君」ニヤッ

少ないけど投下終了

sageチェック外してた。恥ずかしい///

馬丁「何で俺の名前を……」

塵「なぜだろうね」

馬丁「馬鹿にしてるのか」

塵「そんな事は無いよ。これでもボクはキミに最大限の敬意を払っているんだから」クスクス

馬丁「……」

塵「やれやれ。キミって愛想悪過ぎるんじゃないかな」

塵「そんなんじゃお姫様に嫌われちゃうよ?」

姫「そ、そんな事無いもんっ!」

塵「あらら、お姫様はもうキミに夢中の様だね」

馬丁「お前、何が狙いだ」

塵「お前とは酷いなぁ。ちゃんと塵って自己紹介したじゃない」

馬丁「ふざけるな!」

塵「……まあ頃合いか」バサッ

馬丁「(やっぱり子供か。でも、どっちだ……?)」

塵「お姫様、我々は王国の政策に異を唱える者です。騎士による略奪、領主の課せる重税にはもう耐えられません」

塵「貴女達は我々の住む場所や家族、掛け替えの無い友人達を奪いました」

塵「故に我々は鋤を取り、鎌を持ち、弓に矢をつがえ」

塵「ただ、生きる為に戦います」

姫「わ、私は……」

塵「良く周りを見て下さい。お姫様を守る騎士は、貴女と歳のそう変わらない少女を殺し、その親を殺し、その友人を殺し――」

馬丁「止めろ! 姫には関係無いだろ!!」

塵「あるよ。彼女が来なければ彼等は死ななかった」

姫「――――っ」

塵「心外だよ。同じ様に全てを奪われたキミが彼女を庇うなんてね」

馬丁「そんな事ッ!」バッ

塵「無駄だよ」

フッ

塵「キミの剣はボクには届かない」

馬丁「一刀で断つッ!」ダッ

・剣閃

ヒュッ!

塵「っ!?」

フッ

塵「……ふふふ」ポタ ポタ…

塵「すごいよ馬丁。コモンルーンでこれ程に動きが変わるとは思わなかった!」

馬丁「浅かったか……」

塵「こんなに胸が高鳴ったのは初めてだ。ふふふ……これはもう、恋と言って良いね!」

馬丁「なっ、何言ってやがる!」

姫「駄目よお兄ちゃんっ!」

馬丁「当たり前だろッ」

塵「さあ、愛しい人。続けよう、ボク達の戦いをッ」

・古代魔法:魔力波

ゴオオオォォォォッッ!!

馬丁「(衝撃波!? この起動じゃ姫も危ない!)」

馬丁「姫、伏せろッ!!」

馬丁「がはッ」

姫「キャッ!」

騎士A「ウオオオオォォォッッ!!!」バッ

ガキィッ!

馬丁「騎士Aさん!?」

騎士A「無事ですか、姫」

姫「う、うんっ。大丈夫よ!」

騎士A「見習い、俺が盾となり姫を守る。お前は奴を斬れ!」

馬丁「でもあんた、傷が!」

騎士A「止血は済んでいる。良いから行け!」

馬丁「……はいッ!」ダッ

塵「お姫様には壁ができちゃったか、つまらないな」

馬丁「ふざけんなよッ!」ヒュンッ

塵「おっと、危ない」フッ

塵「だめだめ、当たらないよ。馬丁がボクを狙う限り、ね……」

馬丁「……」

塵「あらら、ちょっとヒントになり過ぎたかな? でも仕方ないよね、愛しい人には甘くなってしまうもの」

馬丁「お前、どこまで俺を馬鹿にするつもりだ」

塵「ボクは本気だよ」

馬丁「俺にそんな気は無えッ!」ヒュン

塵「子供の身体には欲情出来ないかい? それとも男は抱けない?」フワッ

馬丁「!?」

塵「悪く無い顔だろ? ボクならそこいらの薄汚い女より、ずっと馬丁を満たせて上げられるよ」

馬丁「二重の意味でそんな趣味は無えッ!!」

塵「ふふふ……恋は障害がある程燃えるとは本当だね」

塵「さあ、行くよ」

・古代魔法:魔力波

ゴオォッ!

馬丁「ぐあああぁぁっッ」

騎士A「くっ!」ガキンッ

姫「馬丁!」

馬丁「……くそッ」ボタッ ボタッ

塵「たとえ騎士が盾になろうと、お姫様に届かない様に自分を盾にするとはね」

馬丁「気のせいだろ」

塵「恋慕、いや愛情かな?」

馬丁「知らねえよ」

塵「可哀相。平民には永遠に届かないと言うのに」クスッ

馬丁「……」ギリッ

塵「ボク達は多くを望んではいけない存在なんだよ、馬丁。望めば不幸になる、不幸だと知ってしまう」

馬丁「俺は――」

ドスドスドスドスッ

塵「……残念、加勢の登場みたいだね」

近衛「シュートアロー程度では足止めにもならないか、魔術師め」

馬丁「近衛!? お前、顔真っ青じゃねえか!」

近衛「大丈夫だ」

馬丁「……!」

馬丁「ごめん、辛い役回り任せて」

近衛「良いんだ。もう、覚悟は決めた」

塵「王国若手のエースの登場だね。これは分が悪い」

馬丁「近衛、あいつは瞬間移動で攻撃を躱す。気を付けろ」

近衛「瞬間移動、か……」

近衛「ならばッ」

・精霊魔法:矢操作

近衛「一の太刀は私が切り込む。二の太刀は預けるぞ、馬丁」バッ

塵「矢との同時攻撃かい? さすがだね」フッ

ドスドスドスドスッ

近衛「チッ、踏み込みが足りないっ」

近衛「だが、連続で転移できるものかッ!」

ダッ

馬丁「はッ!」ヒュッ!

塵「!?」フッ

馬丁「(あいつ自身を狙ったら躱される。なら、その先を返す太刀で)」

馬丁「薙払うッ!」ブンッ!

ブシャッ!

塵「……はは」ボタボタボタ…

塵「参ったな。当り、だよ……」ガクッ

馬丁「……」

塵「でも、急所を外したらダメじゃないか……」バタッ

馬丁「お前を殺したら証言が取れ無いだろ、塵」

塵「ありがとう、馬丁。キミに名前を呼ばれると満たされるよ……」

馬丁「近衛。こいつは術師を殺し、姫を手に掛けようとした騎士Dを情報提供者と呼んだ。拘束し王国へ連行しよう」

近衛「なんだと!?」

騎士A「ああ、俺も見ていた」

騎士C「なんと言う事だ。誇り高き騎士が反逆とは……」

姫「馬丁……」

馬丁「お怪我はありませんか、姫?」

姫「うん。でも、馬丁が……」

馬丁「この程度の怪我、訓練では日常茶飯事です。大丈夫ですよ」

姫「……あのね、馬丁」

馬丁「なんでしょうか」

姫「私やお父様が馬丁の家族を奪ったの?」

馬丁「……っ」

近衛「ひ、姫様っ、一体何を?」

姫「本当なの、馬丁?」

馬丁「俺の家族を奪ったのは魔族です。姫が気に病む様な事は何一つありませんよ」

姫「本当?」

馬丁「はい」

姫「なら、もうそんな悲しい顔をしないで」

姫「馬丁の悲しい顔を見ると、私も悲しい気持ちになるよ……」

馬丁「申し訳ありません、姫……」

姫「(なんで謝るの?)」

姫「(馬丁、どうして苦しそうなの?)」

姫「(大切な人が苦しんでるのに何も出来ない)」

姫「(なんて無力なんだろう、私は……)」

近衛「……」

投下ミス
>>111 >>112間にこれが入ります


塵「どこまで話したかな? ……まあ、良いや」

塵「ボク達は貴族が憎い。だから牙を剥く」

塵「はい、終わり」

馬丁「終わりって……」

塵「パルチザンだって名乗り上げは終わり。貴族に何もかもを奪われた仲間達は、みんな殺されただろうし」

塵「最後はボクだけだよ、どうする?」

馬丁「……」

姫「お兄ちゃん……」

馬丁「俺は何があろうと姫は護ります。だからそんな心配そうな顔しないで」

姫「うん、絶対だよ?」

馬丁「勿論」

姫「約束よ」

馬丁「……ああ」

馬丁「約束だ」

・共通語魔法:敏捷性強化

塵「良いね。すっかり悪の親玉の気分だ」

塵「さあて、キミはボクを倒し、無事にお姫様を救えるかな?」

投下終了
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―――――――――――
――――――――
―――――
――

馬丁「(結局、姫の初の視察は取り止めとなり、俺達は直ぐに帰る事になった)」

馬丁「(拘束した塵は抵抗する事もなく、騎士Dから情報を提供された事を供述し)」

馬丁「(その後の調べで騎士Dが第二王女支持の過激派と判明した)」

馬丁「(王族に刃を向けた騎士Dの一族は財産没収のうえ追放。パルチザンである塵は投獄され)」

馬丁「(そして、俺は今――――)」

―謁見の間―

大臣「この度の視察では大義でした、兵士見習い馬丁」

馬丁「……」

大臣「近衛と騎士Aからの報告によれば、魔術師を拘束したのは馬丁だとか」

大臣「姫を守りパルチザンの魔術師を拘束した功績、陛下も大変喜んでおられます」

大臣「父である兵士長も、さぞ鼻の高い事でしょう」

馬丁「(長い口上だな……)」

大臣「これからも鍛練を欠かさず、より王国の為に――――」

馬丁「(早く終われー)」

大臣「――――以上です。では、下がって宜しいですよ」

馬丁「はっ。失礼します」

―王宮・回廊―

近衛「ふふっ。一気にやつれたな」

馬丁「これは近衛様。自分には過ぎた評価だったので緊張しました」

近衛「そう謙遜するな。あの場で魔術師を倒したのはお前なんだぞ」

馬丁「あの勝利は近衛様や騎士様の援護のお陰です」

近衛「やれやれ。兵士見習い馬丁よ、姫様がお前に労いの言葉を掛けたいと仰っている。着いてこい」

馬丁「了解であります」

―王宮・姫の部屋―

近衛「姫様、馬丁を連れて参りました」

姫「……」

近衛「場丁、行って声を掛けてくれないか」

馬丁「ああ、分かった」テクテク

馬丁「……姫」

姫「……ばてい?」

馬丁「はい」

姫「……」ギュッ

馬丁「……」ギュ

姫「もう平気?」

馬丁「ああ。姫こそ平気か?」

姫「私は……」

姫「平気じゃ……ない……」

馬丁「だったら、平気になるまで側に居ます」

姫「うん……」

―回想―

馬丁『姫が鬱ぎ込んでる?』

近衛『そうだ。あの場で見た事、知った事が余りに重すぎたのだろう』

馬丁『そうだよな……』

近衛『姫様は幼いながら聡明なお方だ。あの件が今後どう影響するかも考えているだろう』

近衛『悲しい事だが私が姫様を励ますより、お前が側に居た方が姫様も元気になると思うのだ』

馬丁『俺なんかで?』

近衛『お前以外では無理だ』

近衛『姫様はお前に好意を。いや、お前に恋心を抱いているからな』

馬丁『……そっか』

近衛『驚かないのだな』

馬丁『いくら俺が馬鹿でも気付くって』

近衛『……お前が愚鈍では無くて良かったよ』

―回想終わり―

姫「ばてい……ずっと側に居て」

馬丁「姫が望むなら」

姫「本当?」

馬丁「ああ」

姫「ありがとう」

馬丁「……」ナデナデ

姫「……」ギューッ

姫「……馬丁。私、がんばるよ」

姫「がんばって、馬丁が悲しい顔しなくて良い国にする」

姫「家族を奪われないでいい国にするよ」

姫「だから馬丁、私を支えて。ずっと、ずっと……」

馬丁「ああ。俺の命が尽きるまで、ずっと姫を支えるよ」

姫「絶対よ?」

馬丁「絶対だ」

姫「馬丁、貴方の剣を貸して」

馬丁「……はい」カチャ

姫「……」スラッ

姫「兵士見習い馬丁よ」チャキ

姫「騎士とは慢心を喚ぶ身分ではなく、精神であり資格です」

姫「如何なる時も弱き者達の庇護者となり」

姫「敵に背を向けず、人を欺く事無く」

姫「常に己の魂を磨き、信念に従い」

姫「不義と悪を断つ、正義と善の勇者である事を誓いなさい」

近衛「(姫様……)」

馬丁「……はい」スッ

馬丁「今、この時より君の臣」

馬丁「如何なる時、如何なる所」

馬丁「友等しく敵となろうとも」

馬丁「我が誠実、揺るぎなく」

馬丁「貴女の騎士となる事を誓います」







また少ないですが投下終了
閲覧感謝です

成り行きでVIPでSSを書いてしまい、本日予定分が投下できなくなってしまいました
申し訳ありません

確か
許嫁「はぁ?クリスマスになに?」
で合ってるはずです

今確認したら
許嫁「はぁ?クリスマスがなに?」
でした。しかもageてるし……

―――――――――――

「何故、我等に尋問の許可が降りない!」

「……貴方だからですよ、騎士団長殿」

「我々は仲間を奴に殺されているのだぞ、我等にも奴を尋問する権利があるッ!」

「や、分からない人だ。尋問と称して殺されては困るのですよ」

「それに死亡した騎士二名は共に第二王女派だと言うではないですか」

「貴様は騎士団が信用ならないとでも言うのかッ!」

「ええ。信用していません」

「貴様……ッ」

「ある経緯で手に入れた資料によると、騎士団討伐遠征で徴収が行われた村の多くが廃村と化し、近隣の山賊被害が増えたとあります」

「これはどういう事でしょうか、騎士団長殿。行き過ぎた徴収は看過しかねますね」

「このことが陛下の耳に入ればどうなるでしょう」

「……」

「もう宜しいですか? 私にも仕事があるので、早々に退室願いたいのですが」

「……ふん、文官風情がッ」

バタンッ

「……もう、出て来ても宜しいですよ」

「助かりました、文官殿」

「や。今、貴方の姿をこの部屋で見られるのは、非常に好ましく有りませんからね」

「確かにそうですね」

「資料は確かに預かりました。この件、時間を掛けてでも確実にやり遂げましょう」

「協力感謝します」

「や。私も彼等の蛮行には腹を据え兼ねていた所です。実に丁度良い」

「では、今後も資料の提供をお願いしますよ、副長殿」

―退魔陣式牢獄―

「今日は面会も拷問も無いんだね」

「…………」

「キミ、無口だね」

「…………」

「退屈だから話し相手くらいにはなってよ」

「…………ああ」

「ふふっ、ありがとう」

「傷、もう良いのか」

「心配してくれるの? やさしー」

「…………」

「ボクは特別製だからね。爪を剥がされようが、皮膚を焼かれようが直ぐに治せるんだ」

「化け物め……」

「傷付くなぁ」

「……ねぇ」

「…………何だ」

「退屈しのぎにボクと遊ばない?」

「この牢屋じゃ精霊の力が及ばない。それにボクは拘束されている」

「交代まで、ボクを好きにしても良いよ……」

「…………何を馬鹿な」

「…………ッ」

「ふふっ。本当、人間は愚かだね」

「来て。せめて痛み無く逝かせてあげる……」

―第二王女私室前―

そこにあるのはボロ布を纏った塵と砂の山

塵「脆い……」

塵「本当に脆いなぁ」クスクス

塵「次は悲劇のお姫様とのご対面だね」スッ

・古代魔法:解錠

カチリ

塵「ふふっ…………」


―第二王女私室―

塵「ご機嫌よう、傷心の第二王女様」

第二王女「……! 何者です!?」

塵「この国に囚われた魔術師ですよ、第二王女」クスッ

第二王女「護衛は……っ」

塵「無駄だよ。邪魔者は全て壊したからね」

第二王女「……私も殺すのですね」

塵「まさか。ちょっと一緒に散歩して欲しいだけ」

第二王女「ふざけているのですか」

塵「ボクは何時でも本気だよ」

第二王女「……」キッ

塵「自分を支持する者の暴走に気を病んで床にふせていると聞いたけど、なかなか気丈そうじゃない」

第二王女「……ッ」

塵「ボクと一緒に来てよ。きっとキミはボクに感謝すると思うよ?」

第二王女「選択肢は無いのでしょう、魔術師」

塵「ふふっ、もちろん……」

―兵舎前通り―

馬丁「(良かったのかな、これで)」

馬丁「(あの叙勲が正規のモノで無いとは言え、俺は姫の騎士になると誓いを立てた)」

馬丁「(俺が最も憎んでいる存在に自ら為る選択をした)」

馬丁「(俺の憎しみは、その程度のモノだったのか)」

馬丁「(それとも自分が思う以上に、姫を大切に思っているのか……)」

馬丁「(分からない。分からないよ、父さん、母さん……)」

「やあ、随分遅かったね」

馬丁「!」

馬丁「お前は……ッ」

塵「久し振り、良い月夜だね」

馬丁「(塵と、貴族……?)」

馬丁「塵、どうしてお前がここに居るんだ」

塵「この国が魔法に無知だったおかげで、簡単に抜け出せたんだ」

塵「ほんと、愚かだね。精霊魔法を封じても意味無いのに」

塵「まあ……、遥か昔に失われた古代魔法の対策なんて、普通は無理なんだけどね」

馬丁「古代魔法……?」

塵「そう。『いつわりのかみ』による事象操作の力だよ、馬丁」

馬丁「塵、お前は一体何者なんだ」

塵「ただの魔術師。と言っても信じなさそうだよね、キミは」

塵「そうだなぁ……、魔族になり損ねた者。かな」

馬丁「魔族……ッ」

塵「空の星にも、太陽になり損ねた天体があるだろ? それと似たような物さ」

塵「うん。例えるならボクは、虚ろの星だね」

馬丁「その虚ろの星が俺に何の用だ」

塵「冷たいな、ボクはキミを迎えに来たのに」

馬丁「迎えに……?」

塵「そう」

塵「馬丁。ボクと共に貴族を殺し、王を殺し、国を殺そう」

馬丁「!?」

塵「ボク達から何もかもを奪った者から、何もかもを奪おう」

塵「ボクにはその権利も力もある」

塵「だから、馬丁。ボクと共に来て欲しい」

馬丁「国を、殺す……」

塵「馬丁だって憎いだろ? キミから何もかもを奪ったこの国が」

塵「その憎しみだけを糧に腕を研いて来たんじゃ無いのかい?」

馬丁「俺は……」

塵「行こう、馬丁。何もかもを奪いに」

馬丁「……」

『ねえ馬丁、素振り見せて!』

『すごい! すごいよ馬丁っ!』

馬丁「俺は……ッ」

『ありがとう、馬丁!』

『ねぇ馬丁、魔王を退治して。そしたら私のお婿さんにしてあげるっ!』

馬丁「(何で姫の顔ばかり浮かぶんだよ……ッ)」

『私やお父様が馬丁の家族を奪ったの?』

『……馬丁。私、がんばるよ』

『がんばって、馬丁が悲しい顔しなくて良い国にする』

『家族を奪われないでいい国にするよ』

『だから馬丁、私を支えて。ずっと、ずっと……』




『約束よ』




馬丁「――――ッ」

馬丁「……塵、俺はお前と行かない。俺は、俺は――――」

馬丁「俺は、姫の騎士だッ!!」

塵「……ッ」

馬丁「たとえ自分が最も憎んでいるモノになったとしても、俺は俺自身を認めてくれた姫を絶対に裏切らない!」

塵「ふふふ。それでこそ、だよ」

塵「それでこそ、ボクの愛しい人だ!」

馬丁「……」チャキ

塵「そうでなくちゃ、キミに殺される意味が無い」

塵「さあ馬丁、ボクを殺すんだ」

塵「ボクを殺し、この第二王女にかけられた魅了を解くんだ!」

馬丁「第二王女だって!?」

塵「そうさ。今ボクを殺さないと彼女を救う事は出来ないよ」

塵「王家の血には幾らでも利用価値がある」

塵「ボクを止めてみせろ、馬丁ッ!!」

馬丁「くっ……」

馬丁「(なんで。なんでそんな悲しそうな顔で、そんな事言うんだよッ)」

馬丁「(塵、お前は……)」

馬丁「……ッ!」ダッ

ドスッ

馬丁「……なんで躱さなかったんだ」

塵「決まってるだろ」ゴフッ

塵「キミが……好きだからさ……」

馬丁「馬鹿げてる……」

塵「馬鹿か……」

塵「確かにね」クスッ

塵「でも、これで良いんだ」

馬丁「なんでだよ……、死ぬのがなんで良いんだよ!」

塵「復讐が……実るからね」ゲホッ

塵「馬丁はボクを倒し第二王女を救った英雄になる。平民のキミが、王族を二度救うんだ……」

塵「やがてキミは、本物の騎士になって……お姫様とこの国を変える……」

塵「それが、ボクの、この国に掛ける呪い……」

馬丁「お前、始めから殺されるつもりで……」

塵「ふふっ、どうかな……」

塵「馬丁……愛しい人の腕の中で逝けるなんて、ボクは幸せだよ……」

塵「ありがとう、馬て……い…………」ニコ

馬丁「塵……ッ」

塵「…………」

馬丁「自分を刺した相手に、なんで笑顔を向けるんだよ……」

馬丁「俺に、そんな価値なんか無いのに……」

馬丁「他人の想いを利用しようとした俺に、想われる価値なんか…………ッ」

投下終了
閲覧感謝

投下開始します

「また、ここに居たのか」

「……」

「良い天気だな」

「……そうだな」

「今日は空気が澄んでいるのか、遠くまで良く見える」

「……ああ」

「今日は墓地には行かないのか?」

「止めておく。午後から王女の我が儘に付き合わなくてはいけないしな」

「ふっ、そうか。姫様に見つからない様にな」

「王女に言ってくれ」

「……」

「…………」

「良い天気だな」

「……ああ、良い天気だ」

 鳴り響く正午を報せる鐘

 突然の鐘の音に思わず耳を塞ぐ俺と近衛

 ふいに目が合い、お互い照れ笑いをする

「……馬丁」

「なんだ?」

「冷えてきた。そろそろ城に戻らないか」

「ん、そうだな」

 帰り際、何気なく遠くを見やる

 何時の間にか近衛より背が高くなり、もっと遠くが見える様になったのに

 まだ、故郷は見えない

―第二王女私室―

第二王女(以下王女)「遅いっ! レディを待たせるなんて従者の自覚が足りないんじゃない!?」

馬丁「申し訳ありません。王女に会う為、少々身嗜みを整える事に手間取ってしまいました」

王女「……嘘じゃないでしょうね?」

馬丁「はい」

王女「……それなら仕方ないわね」

馬丁「僭越ながら、王女」

王女「なによ」

馬丁「言葉使いに地が出ております」

王女「良いわよ、別に。馬丁も楽になさい」

馬丁「……分かった」

王女「さあ、今日は何処に行きましょうか?」

馬丁「また変装して城下に行くつもりか」

王女「当たり前でしょ? これくらいしか楽しみ無いんだから」

馬丁「ばれたら俺の首が飛ぶんだって事を忘れるなよ」

王女「バレなきゃ首は飛ばないわよ?」

馬丁「あのなぁ……」

王女「馬丁は行きたい所ある?」

馬丁「そうだな……今日は少し冷えるから、部屋に居ないか」

王女「なによ、つまらないわね」

王女「……あっ」

王女「そうね、今日は城下ではなく兵舎前通りに行きましょう」

馬丁「……ああ」

王女「なによ、ノリが悪いわね。せっかく私達が運命的に出会った場所に誘っているのに」

馬丁「運命的って、俺が偶然王女を助けただけだろ」

王女「運命よ!」

馬丁「……」

王女「あたしはあの時の事をはっきり覚えてる。魔術師に攫われ魅了の魔法で自由意志を奪われたあたしを馬丁が救ってくれた事を」

馬丁「……」

王女「あたしを抱きかかえて『ご無事でしたか、愛しの君』と囁いてくれた時の事をっ!」

馬丁「言ってない」

王女「……チッ」

王女「とにかくっ! あたしは運命の出会いをした兵舎前通りで馬丁とイチャコラしたいのっ!」

馬丁「まったく……、どこでそんな俗な言葉覚えて来るんだ……」

王女「フフン、すぐ支度なさい。気分転換のお散歩をするのだから、しっかり護衛してよねっ」

馬丁「分かってる」


 数年前のあの日

 俺が塵を殺し王女の魅了を解いた時、俺は王女に気に入られたらしい

 始めは上品でお淑やかだった王女も、次第に俺に気を許したのか地を出す様になっていった

 王女も俺と同じ『周りの望む自分』を演じる子供だったから、何か感じるものがあったんだろう

 そうだからなのか、俺と王女は自然と自分をさらけ出せる仲になっていた

―王宮廊下―

「これは第二王女様、お出掛けですかな」

王女「ええ。日々の疲れを取る気分転換にと思いまして」

「それは結構な事ですな」

「いや、しかし、何か臭いますなぁ」

「……おや、失敬。馬小屋の臭いがすると思ったら護衛の方でしたか」

王女「……」チッ

王女「もう宜しいでしょうか? 王宮は息苦しいので、早く外の空気に当たりたいのですが」

「これは失礼した。ごきげんよう、第二王女様」

王女「ごきげんよう」ニコッ

王女「……」

王女「……あの野郎ぶっ飛ばしてやろうかしら」

馬丁「気にすんなよ」

王女「けど……っ」

馬丁「大丈夫。俺はもう慣れたからさ」

王女「……うん」

王女「(ごめんね、私の我が儘のせいで……)」

姫「……あ、二姉様」

王女「あら姫じゃない。図書室からの帰り?」

姫「はい。午後は自室で勉強しようと思いまして」

王女「姫は勤勉ねぇ」

姫「……そんなこと」

姫「ところで、お出掛けですか?」

王女「ええ。ちょっと散歩に」

姫「……わたくしもご一緒して宜しいでしょうか?」

王女「もちろん良いわよ」

姫「ありがとうございます、二姉様」

姫「護衛……頼みますよ、馬丁」

馬丁「はい」

姫「二姉様。支度をするので少々お待ち下さい」

王女「良いわよ。序でに近衛ちゃんも誘って来なさいな」

姫「わかりました」

―兵舎前通り―

馬丁「で、結局いつもの面子か」

王女「二人きりも素敵だけどね」

姫「わたくしはお邪魔でしたか、二姉様?」

王女「そんな事あるわけ無いじゃないっ! 姫の様にちっちゃくて可愛い子が傍に居るなんて最高に幸せよ!」ギューッ

姫「くるしいです。二姉様」

近衛「苦労してそうだな、馬丁」

馬丁「自覚を促す様な事を言わないでくれ」

近衛「……ふふっ」

馬丁「どうした?」

近衛「姫様が馬丁達と出掛けると言っていた事を思い出してな」

近衛「ここの所ずっと勉学に励んでおられていたから、良い気分転換になるだろう。済まないな、馬丁」

馬丁「誘ったのは俺じゃないぞ」

近衛「お前が居るのだから大差無いさ」

馬丁「そんなもんかな」

近衛「ああ。そんなもんだ」

王女「それにしてもホント良い天気ね。馬で駆け回ったら気持ち良いんだろうなーっ」

馬丁「頼むから厩舎には行ってくれるな」

姫「……馬丁、厩長は元気にしてる……?」

馬丁「ん? 厩長なら相変わらずだよ」

王女「そうね。相変わらず新人さんに厳しい言葉を掛けてたわよ」

姫「どうして二姉様が知ってるの……?」

王女「あ……あー、アレよ、アレ。馬丁から良く愚痴を聞いてるの!」

姫「……馬丁、二姉様に迷惑掛けちゃだめよ」

馬丁「あ、ああ。すまん」

近衛「そういえば最近顔を合わせる機会が無いが、兵士団の皆はどうしてる?」

馬丁「親父達も相変わらずだ」

馬丁「ただ兵士1さんは俺に訓練で負けたのが相当効いたのか、真面目に稽古してるって兵士2さんが言ってたな」

姫「兵士1さんに勝てたの?」

馬丁「ああ。勝ったと言っても、半ば運も絡んでの勝利だけどな」

馬丁「俺はもっと強くならないと……」

姫「凄いね、馬丁は」

馬丁「そんな事無いって。沢山勉強してる姫と比べたら、俺はまだまだ努力が足りない」

姫「そんな事無いよ」

姫「私はまだ、何も出来ないもの……」

王女「……風が冷たくなって来たわね」

近衛「そろそろ戻ってお茶にしましょうか」

王女「そうね。姫、馬丁、戻りましょう」

姫「はい、二姉様」

馬丁「おう」

姫「……馬丁」

馬丁「どうした?」

姫「……ん」スッ

 差し出される手

馬丁「……ああ」ギュ

 握り返す手

姫「えへへ……」

馬丁「行こうか」

姫「うん」

姫「……ねえ、馬丁」

馬丁「なんだ?」

姫「ううん、なんでもない」

 強く握られる手

姫「……行こう、馬丁」

馬丁「ああ、行こう」

 それに応える手

姫「……っ」

姫「えへへ……」

姫「(ずっと。ずっと、このままでいられたら良いのにな……)」

投下終了
中々プロット通りに行かないものですな
閲覧感謝

投下開始します

―王宮―

?「まったく……。あの様な獣臭い平民を王宮に出入りさせるなど、陛下は一体何を考えておられるのだ」

「本当ですね。この王宮に平民ごときが出入りされては、王国が築き上げた伝統と誇りに傷が付くと云う物です」

?「あの平民には自分が家畜同然だと教え込む必要があるとは思わないか」

「……ほう」

?「上手く行けば野蛮な兵士団を追い出す事も出来る」

「素晴らしいですね。確かにこの国に必要な戦力は騎士団だけで十分です」

?「その通りだ。この国に必要な物は誇り高き騎士団のみ。忌々しい平民の部隊など必要無い」

?「そうだ、忌々しい平民など……ッ」

―郊外―

兵士2「……なんと惨い……」

商人「今朝仕入れに行く途中で見つけたんでさぁ」

商人「この服、城の女中の物ですな。一体誰がこんな……」

兵士2「商人。私の名でこの件の捜査を、盗賊ギルドの方に依頼して下さい」

商人「あっしがですかい?」

兵士2「お願いします。私はこの近辺の調査を続けたいのです」

商人「旦那の頼みなら仕方ありませんね。良いでしょう、あっしに任せてくださいな」

兵士2「助かります」

兵士2「(行方不明になっていたメイドが遺体で発見されるとは……)」

兵士2「(それに、このお腹……)」

兵士2「(この件の犯人、決して許す訳にはいきませんね)」

―兵士団兵舎―

兵士2「――――報告は以上です」

兵士長「……そうか」

兵士2「この件、どう処理致しますか」

兵士長「姿を眩ましたメイドの斬殺死体が見つかり、しかも腹にはガキが居た……」

兵士長「十中八九、貴族の仕業だろうな」

兵士2「はい」

兵士長「街の治安を守るのも俺達の仕事だ。だが……」

兵士長「貴族が関わるとなると、大っぴらには動けねぇ」

兵士2「では、この件は……」

兵士長「ああ。お前に全て任せる」

兵士長「あらゆる最善を尽くせ。頼んだぞ」

兵士2「了解しました。必ずや、期待通りの結果を残します」

―王宮・護衛兵詰所―

コンコン

近衛「馬丁、入るぞ」ガチャ

馬丁「どうした、詰所に来るなんて珍しいな」

近衛「ああ。急を要する用があってな」

馬丁「急を要するって、何か有ったのか」

近衛「ああ。兄上が明日に行われる姫様の城下視察に急遽選ばれた」

馬丁「副長さんが?」

近衛「そうだ。だから馬丁は護衛から外される事になった」

馬丁「本当に急だな……」

近衛「それと、明日……」

馬丁「なんだよ、口籠もって」

近衛「明日、騎士団と兵士団で合同訓練が行われるらしい」

馬丁「らしい……ってはっきりしないな」

近衛「これはまだ、はっきりしないのでな。だが、信頼出来る情報源からの話だ」

馬丁「……訓練、ね」

近衛「どうにも事が急過ぎて嫌な予感がする。馬丁、気を付けてくれ」

馬丁「分かった。ありがとな、近衛」

近衛「ああ、では失礼するぞ。人手が減って、姫様に関する雑務が増え忙しいからな」ガチャ

馬丁「……騎士と訓練、か」

馬丁「胡散臭え……」

本編投下終了

 人物が増え分かりにくくなって来たので、現在登場しているキャラクターの簡単な説明を記載したいと思います。


・馬丁 16歳 男 護衛兵
 貴族嫌いの王族護衛兵

・姫 14歳 女 王国第五王女
 馬丁に想いを寄せている

・近衛 19歳 女 王国近衛騎士
 馬丁の友

・王女 21歳 女 王国第二王女
 仮面淑女

・塵 外見年齢12歳 男 魔術師
 王女誘拐時死亡

・兵士長 35歳 男 王国兵士団長
 馬丁の親代わり

・兵士1 27歳 男 王国兵
 兵士長の右腕

・兵士2 28歳 男 王国兵
 兵士団参謀

・厩長 58歳 男 厩舎長
 馬丁の元上司

・騎士団長 26歳 男 王国騎士団長
 貴族史上主義者

・副長 28歳 男 王国騎士団副長
 近衛の兄

・騎士A 22歳 男 王国騎士
 熱血漢

・騎士B 享年17歳 男 王国騎士
 修道院視察時死亡

・騎士C 21歳 男 王国騎士
 貴族史上主義者

・騎士D 享年24歳 男 王国騎士
 修道院視察時反逆者として処断される

・文官 42歳 男 王国執務官補佐
 野蛮人嫌い

・術師 享年55歳 男 宮廷魔術師
 修道院視察時死亡

・国王 43歳 男 王国国王
 本編未登場

以上本年の投下終了
閲覧感謝
皆さん良いお年を

あけましておめでとうございます
未熟者ですが、本年もお付き合いして頂ければ幸いです
では投下開始

馬丁「……俺が考えても何も出来ないよな。仕事に戻るか」ガチャ

姫「あ……」

馬丁「姫、この様な場所に何か御用ですか?」

姫「休憩おわり?」

馬丁「はい。これから護衛の引き継ぎを行います」

姫「それなら私の部屋まで来るのね。じゃあ部屋までのエスコートをお願い」

馬丁「了解しました」

―王宮・第二王女私室前―

馬丁「引き継ぎです。護衛兵さん」

護衛兵「もうそんな時間か。では自分は上がらせて貰おう」

姫「何時もありがとう、護衛兵」

護衛兵「勿体ないお言葉にございます、姫様」

護衛兵「……馬丁、ちょっと良いか?」

馬丁「構いませんか、姫」

姫「ええ」

馬丁「ありがとうございます。それで、何でしょうか」

護衛兵「……何やら不穏な噂が流れている」コソコソ

馬丁「噂?」

護衛兵「ああ。まだ詳しくは分からないが、騎士団が兵士団に喧嘩を吹っかける積もりらしい」コソコソ

護衛兵「練度の低い騎士に何が、とは思うが奴らは貴族だ。権力を盾に何をしでかすか分からない、気を付けろ」コソコソ

馬丁「分かりました。ありがとう、護衛兵さん」

護衛兵「優秀な後輩に何かあって、仕事が増えては困るんでな。それでは失礼する」

馬丁「はい」

姫「……どうしたの?」

馬丁「なんでもありませんよ、姫。男同士の他愛ない話です」

姫「……」ジー

姫「……扉を開けて」

馬丁「はい」ガチャ

姫「部屋の警護、頼みます」

馬丁「はっ」パタン

馬丁「(わざわざ心配させる様な事、言えないよな……)」

近衛「随分沈んだ顔しているな」

馬丁「近衛か。雑務はもう良いのか?」

近衛「ああ。ある程度は落ち着いた」

馬丁「そうか。しかし、何だって急に雑務なんかやってるんだ」

近衛「数日前に女中が一人抜けてしまってな。そのしわ寄せさ」

馬丁「女中一人抜けたくらいでか」

近衛「王宮で働ける女中はそうは居ない。一人抜けるだけでも大変なのだ」

馬丁「そうなのか」

近衛「……それで、お前の表情の理由はなんだ」

馬丁「別に。ただ疲れが溜まってるだけだよ」

近衛「また、私に言ってはくれないか……」シュン

馬丁「……分かった、言うよ。だからそんな顔しないでくれ」

近衛「……うむ。では聞こうではないか」

馬丁「とは言っても、粗方見当付いてるとは思うけどな」

近衛「……明日の訓練の事、だな」

馬丁「ああ。さっき護衛兵さんから、騎士団が兵士団にケンカを売るみたいな事を聞いたんだ」

近衛「愚かな。そんな事になんの意味が?」

馬丁「騎士が動くんだ。きっと面子の問題じゃないかな」

馬丁「遠征で兵士団に比べ成果が劣り、平民の兵士上がりが王族の護衛をやっている」

馬丁「生意気だ。ってな」

馬丁「奴等には、それだけでケンカを売る理由になるんじゃないかな」

近衛「……」

馬丁「俺は自分がどんな目で見られているか知っている」

馬丁「きっと騎士団の狙いは俺だ」

近衛「それは……そうかもしれん」

馬丁「俺を潰して『所詮平民に王族の護衛など勤まらぬ』なんて言うつもりなんだろう」

馬丁「そして俺を潰され逆上した親父達からわざと報復を受け、兵士団に制裁を与える」

馬丁「ま、連中の書いたシナリオはこんなとこだろ」

近衛「……笑えないシナリオだ」

馬丁「ああ」

近衛「だが、有り得ない話じゃない」

馬丁「ああ」

近衛「馬丁、明日は……」

馬丁「良いさ。どんな事考えたって、明日にならなきゃ分からないんだ」

馬丁「ただの杞憂かも知れないだろ?」

近衛「……そうだな」

近衛「そうであって欲しい」

姫「(………………)」

―王都内某所―

兵士2「調査、進んでますか」

「旦那、ちょうど良かった。少しばかりネタを掴みましたぜ」

兵士2「報告をお願いします」

「……そいつがですね。この件、ちょいとばかりヤバい奴がやらかしたみたいで」

兵士2「貴族ですね」

「へえ。確かに貴族です」

「しかし、ただの貴族じゃない。上級貴族ですよ、上級貴族」

兵士2「……王宮に出入り可能な階級程、ですか?」

「さすが旦那だ」

「それでですね……旦那。この件から手を引いた方が良いかもしれません」

兵士2「そうはいきません。報告を聞かせて下さい」

「……分かりました」

「聴き込みした仲間の話なんですがね、酔っ払いが昨日の夜中に、死体があった方面で人を見たって言ってたんでさあ」

「たいそう身なりの良い男だったそうでしてね。もし貴族なら難癖付けかねられん、と考えすぐに隠れたらしいんです」

「で、その時チラッと見たそうなんですよ。男の顔を」

兵士2「見たのか?」

「酔っ払い相手だから話半分かも知れませんぜ」

兵士2「構わない。続けて下さい」

「へい。……で、見た顔ってのが、何でも騎士団長らしく……」

兵士2「なんだって!?」

「酔っ払いの話じゃ、何時も偉そうな面で遠征に出向くのを何度も見てるから、見間違える筈が無いって言ってたそうで」

兵士2「……」

「旦那。今回ばかりは相手が悪過ぎる」

「納得出来ないかも知れないが、引き下がった方が良い」

兵士2「……出来ません」

「旦那……」

兵士2「引き下がるなど、出来ません」

兵士2「貴方は引き続き情報を集めて下さい。たとえ相手が上級貴族だろうと、必ず罪を償わせてやります」

「……了解。信じますぜ、旦那」

兵士2「ええ。信じて下さい」

兵士2「必ず、断罪してみせます」

―夜・共同墓地―

墓守「おや、今日も献花に来ましたか」

馬丁「はい」

墓守「なんとも仲間思いな方だ。では奥へどうぞ」

馬丁「ありがとう」

馬丁「(仲間思い、か)」

―共同墓地・地下―

墓守「では私は上に居ますので、献花が終わったら声を掛けて下さい」

馬丁「分かりました」

馬丁「……」

馬丁「先ずは戦いで散った兵士団の皆の所に行くか」ツカツカ

馬丁「……前の花、もう萎れてるな」

馬丁「……」サッ サッ

馬丁「みんな、毎回花ばかりでごめんな。酒や食い物の方が好きなんだろうけど、ここには持って来られないからさ」

馬丁「戦いの中散った仲間達よ、どうか安らかに眠っ下さい……」

馬丁「……よし」

馬丁「行こう、あいつの所に」

―地下墓地・最下層―

馬丁「よ、また来たぜ」

馬丁「相変わらず暗くてカビ臭い所だな」

馬丁「重犯罪者を押し込める所だから、仕方ないっちゃ仕方ないか」

馬丁「……なんてな」

馬丁「なあ……お前は何で俺の為に死んだんだ」

馬丁「俺にはお前が命を投げ出すだけの価値があるのか?」

馬丁「お前みたいな凄い魔術師なら、自分の力で国を変えられたんじゃないのか?」

馬丁「……俺にはお前が分からないよ」

馬丁「……どうして、俺なんだろうな」

馬丁「…………」

馬丁「明日、騎士団と合同訓練があるらしいんだ」

馬丁「お前に言うのもおかしいけど、何事も無い様に草葉の陰から見守っていてくれよな」

馬丁「……さてと、もう行くよ。あまり長居すると墓守さんに悪いから」

馬丁「じゃあ、またな。塵」

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―翌日・兵舎―

兵士長「訓練の取り止めだあ?」

騎士C「そうだ」

兵士長「急に訓練だと言われた側から中止とはな」

騎士C「次回遠征が予定より早くなる為、準備に忙しく合同訓練に割く時間が無くなった」

兵士長「へえ、そいつは大変な事で」

騎士C「……だが、我々とて訓練を怠りたい訳では無い」

兵士長「……へえ」

騎士C「兵士団内で優秀な剣士と名高い、護衛兵馬丁に剣術の指南を頼みたい」

兵士長「馬丁……ね。確かにあいつは兵士団所属だが、王族護衛って特務があるからなぁ」

騎士C「これは騎士団長直々の提案だ」

兵士長「……了解しました、騎士C殿。この件は直ぐに馬丁に伝え、即刻騎士団訓練場に向かわせましょう」

騎士C「話の分かる男だ。それでは私は報告に戻らせてもらおう」ガチャ バタン

兵士長「……チッ、そう来たか……」

―――――――――――

馬丁「――そうか、分かった」

兵士長「まさかお前一人を指名とはな」

兵士1「行くのか?」

馬丁「行くしか無いだろ?」

兵士1「だよなぁ……」

兵士長「連中、八つ当たりで何しでかすか分からないからな。十分注意してくれ」

馬丁「分かってるよ、親父」

兵士1「ったく。副長の旦那と近衛の嬢ちゃんが、急に城下視察の護衛に駆り出されたと思えばこれだ」

兵士長「連中は俺達が手を出せない場所に、お前一人を呼びだした」

兵士長「碌でもない事を考えているのは容易に想像が付く。油断すんじゃねえぞ、馬丁」

馬丁「……ああ」

―騎士団訓練場―

「ようやくお出ましか」

「平民の分際で……」

「身の程を弁えない家畜め」

ガヤガヤ

馬丁「……」

騎士C「久しぶりだな、馬丁」

馬丁「お久し振りです」

騎士C「今日は貴殿に剣術の指南を受ける為に招いた」

騎士C「貴殿にはこの訓練用の剣を渡しておく」スッ

馬丁「了解しました」

馬丁「……」チャキ

馬丁「……ッ」ピクッ

馬丁「(この剣、刃が潰されていない……ッ)」

騎士C「準備は良いな、馬丁」

馬丁「……ああ」

騎士C「うむ。それでは騎士団長様」

騎士団長「フッ……では早速始めようか」ニヤッ

騎士団長「我こそはと云う者は、この兵士団の精鋭に手合わせして貰え!」

「「「「オオーッ」」」」

「どうした!? 守ってばかりが貴様の剣か?」ブンッ

「まともに切り合う事も出来ないで精鋭とは笑わせる!」ブンブン

馬丁「……ッ」キンッ

馬丁「(クソッ、こう言う事かよ!)」

騎士C「王族護衛ともあろう君がその程度の腕とはなッ!」ヒュンッ

馬丁「(真剣で反撃なんか出来る訳無いだろ!)」カンッ

馬丁「(しかも一対多かよッ!)」キンッ キンッ

騎士団長「…………」

騎士C「ふん、守りだけは一流だな」

馬丁「お褒めに預かり恐悦至極」

騎士C「チッ……行け!」

「「「「ウオオォッ!!」」」」

馬丁「(くっ……、どうする? このままじゃ体力が保たない)」









馬丁「……」ゼーッ ゼーッ

騎士C「……こいつ、どんな体力してやがる……ッ」ゼー ゼー

騎士団長「腑甲斐ない者共だ……」

騎士団長「そろそろ私にも剣を指南して貰おうか」チャキ

馬丁「くっ……」ゼー ゼー

騎士団長「一応言っておくが、剣の指南で貴族を傷付けたらどうなるか、分かっているな?」ニヤアッ

馬丁「……」ゼー ゼー

騎士団長「貴様だけでは無く、兵士団にも責任を取って貰う」

馬丁「!?」ゼー ゼー

騎士団長「……では、手合わせ願おう」

馬丁「(駄目だ、もう体力が……)」フラッ

ゴスッ

馬丁「かはっ……!」

ドスッ!!

ゴンッ!!

バキッ!!

騎士団長「弱いッ! 弱いなぁ、護衛兵ッ!!」ドスッ バキッ

馬丁「ぐっ……」

騎士団長「平民風情が出過ぎた真似をするからこうなるのだッ!」ゴスッ

馬丁「ゲホッ……」

騎士団長「家畜は家畜らしく貴族に飼われていろッ!」バキッ ゴンッ

馬丁「…………ッ」

騎士団長「身の程を知れッ!」ブンッ!

ゴッ!

馬丁「…………」ドサッ…

騎士団長「さて、どんな事にも不慮の事故と言う物はある」ニヤッ

騎士団長「止めだ」スッ

騎士C「!? 騎士団長様、それはさすがに……」

騎士団長「下級貴族の分際で私に意見するつもりか?」ギロッ

騎士C「は、はっ。申し訳ありません!」

騎士団長「……安心しろ、ここには穏健派の副長は居ない。誰も我等を咎められぬ」

騎士C「……はい」

騎士団長「では……さよならだ、護衛兵」

「なにが、さよなら何でしょうか」

騎士団長「!?」

騎士団長「……どうして貴様がここに居る」

副長「将来有望な騎士に手柄を譲ったのですよ。少々引き継ぎに手間取りましたが」

副長「それよりも、この状況の説明をお願いします」

騎士団長「……ただ、兵士団の有望株に剣の指南を受けていただけだ」

騎士団長「しかし、騎士Cが暴走し必要以上に痛め付けてしまった」

騎士C「そんな!?」

騎士団長「そうだな?」ギロッ

騎士C「ひっ……」

騎士団長「私は護衛兵を助け起こそうとしていたに過ぎん。そうだな、護衛兵?」

馬丁「…………」

副長「……分かりました、騎士Cにはおって処分を伝えます。他の者は各員持ち場へ戻って下さい」

騎士C「そんな……」ガクッ

騎士団長「ふん……私は疲れたので帰らせていただく」ツカツカ

副長「……」

副長「馬丁君、失礼しますよ」

 副長は馬丁を抱きかかえた

馬丁「…………」グッタリ

副長「(済まない、私がもっと早く来る事が出来れば……)」

―兵舎・医務室―

兵士1「クソッ! 騎士団の奴等、絶対に許せねえッ!」バンッ

兵士長「ちったぁ落ち着け、兵士1」

兵士1「弟分がこんなにされたんだ、黙って居られる訳がッ!」

兵士長「馬丁がゆっくり休めねぇだろうが……ッ」

兵士1「……すまねぇ隊長」

兵士長「今は隊長は止せ」

兵士1「……」

兵士長「で、副長さんよ。馬丁の様子はどうだ?」

副長「魔法での治療は終わりました。主に打撲傷で、骨や内臓に異常が無かったのは不幸中の幸いですね」

兵士長「そうか……」

副長「馬丁君の生命力なら、数週間で全快出来ると思います」

兵士長「ありがとうよ。副長さんが神聖魔法の使い手で本当に助かったぜ」

副長「自分でもそう思いますよ」

副長「まさか医療班が騎士団員の治療に全て駆り出されているとは思いませんでした」

兵士1「連中、どこまで汚ぇんだ……ッ」グッ

副長「……申し訳ありません」

兵士1「なっ、旦那が謝る事なんかねぇよ!」

兵士長「ああ。副長さんは最善を尽くしてくれた」

副長「ですが……」

バタンッ

近衛「馬丁ッ!!」ダッ

兵士長「嬢ちゃん?」

近衛「兵士長殿、馬丁は? 馬丁は無事ですかッ!?」

兵士長「落ち着け、嬢ちゃん。馬丁なら奥の部屋で眠っている」

近衛「私……ッ、あのっ!!」

兵士長「ああ、会うなら静かにな」

近衛「ありがとうございますっ!」ダッ

兵士長「毎度、毎度。騒がしい嬢ちゃんだ」

副長「申し訳ありません……」

兵士長「悪かぁ無ぇって。特に今みたいな時には、な……」

副長「…………」

兵士長「それに俺らが側に居るより、嬢ちゃんみたいな美人が側にいた方がケガの治りも早いだろうよ」ガッハッハッ

兵士長「まったく。本当に良い友を持ったな……あいつは」

副長「……はい」

兵士長「ありがとうよ、副長さん。息子に最高の友と出会わせくれて」

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近衛「馬丁、入るぞ」ガチャ

近衛「……っ」

近衛「ボロボロじゃないか……」

近衛「どうして……お前なんだ」

近衛「……何故だ。何故、馬丁だけが苦痛を受け続けなくてはならない……っ」

近衛「騎士とは……弱きを救う者では無いのか……っ」

近衛「民を護るのが騎士の務めではないのか……!」

近衛「馬丁、何時もの調子で答えてくれ……」

近衛「お願いだ……冷めた調子で私を諫めてくれ……」

近衛「そうでなくては、私は貴族を……騎士を、自分自身を許せなくなる……っ」

近衛「馬丁……!」

 唇を噛み締め感情を押さえ込む近衛

 そして深く息を吐き、昂ぶった思いを押さえ込んだ

 静寂

 瞳を閉じ、再び深呼吸

 近衛は馬丁の寝顔を覗き込む様に身を乗り出した

近衛「…………」スッ

近衛「馬丁の手は、いつの間にか私より大きくなっていたのだな」ギュ

近衛「背も、剣の腕も……」

近衛「気が付けば、お前は私よりずっと高い所に居た」

近衛「私はそんなお前が誇らしく、そして……焦がれていたんだ」

近衛「私の想いは生涯秘めるつもりだった。だが、今だけは許してくれ……」

近衛「馬丁……私はお前を……」

近衛「…………」

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―同時刻・兵舎医務室―

兵士長「馬丁の怪我が大事に至らなかったのは良いが、今後どうなるか考えると頭が痛てぇな」

兵士1「確かに血の気の多い奴が多いからなぁ……」

兵士長「まったくだ。報復に乗り出そう何で騒いでなけりゃ良いが」

兵士1「兵士長、ウチの連中ですぜ? 騒いでない訳無いでしょうや」

兵士長「へっ。それもそうだ」

副長「待って下さい。報復など始めれば、騎士団の思う壺じゃないですか」

兵士長「分かってるよ、副長さん」

兵士長「でもな、下の連中も馬丁がガキの頃からの付き合いなんだ」

兵士長「家族同然の奴がここまでされて、黙ってると思うか?」

副長「……」

兵士長「俺だって立場がなけりゃ、直ぐにでも殴り込みたいくらいなんだ」

兵士長「連中は、そこまでの事をやったんだよ……ッ」

副長「私だって彼をここまでされて、黙っているつもりはありません!」

兵士1「副長の旦那……」

副長「ですが今はその時じゃありません。騎士団長を確実に断罪するには手が足り無さ過ぎる」

兵士長「副長さん……あんた……」

「あら。手が足りないのなら、作れば良いのではなくて?」

副長「第二王女様!? それに姫様まで……」

王女「話は聞きました。馬丁の様子は?」

兵士長「はっ。副長殿の尽力により快方へ向かっております」

王女「楽になさい、兵士長」

王女「それで……馬丁は無事、と言う事で良いのかしら?」

兵士長「はい。今は眠っていますが、数日で全快するかと思われます」

姫「良かった……」

王女「大義でしたね副長」

副長「勿体ないお言葉……」

王女「まあ良いじゃない。礼は素直に受け取るものよ」

副長「え……」

姫「に、二姉様!」

王女「なに?」

姫「喋り方っ!」

王女「良いわよ、面倒臭い」

王女「彼等にはこれから、私の憤りを晴らす為に役に立って貰うんだから」

姫「……もうっ」

兵士長「こりゃまた随分と親しみ易い事で」

王女「でしょ?」

副長「これは一体……」

王女「これが私の本性よ。これから一緒に悪巧みする貴方達に、上品なお嬢様演じる必要無いじゃない」

姫「悪巧みって……」

副長「それはそうと、どうやって兵舎に来たのですか? 夜間に王宮を出るなど、余程の事が無ければ難しいのでは」

「余程の事があったから、ボクが連れ出したのさ」

副長「君は……!?」

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塵「初めまして。騎士団副長と兵士長」

塵「ああ、兵士長さんはお義父さんと呼んだ方が良いかな?」クスッ

王女「馬鹿な事言ってないの」

塵「厳しいな、キミは」

王女「はいはい」

副長「……パルチザンの魔術師が何故」

兵士長「4年前に死んだんじゃなかったのか。それにその姿、当時のままじゃねぇか……」

塵「死んでいたよ。馬丁に殺されて、月が一回りする位はね」

副長「まさか、生き返ったとでも?」

塵「ふふっ。そのまさか、さ」

塵「何しろボクはしぶといからね。心臓を突いたくらいじゃ簡単には殺せない」

塵「一応、死ぬには死ぬんだけど。あの程度の傷なら、一時的に生命活動を休止させるだけで十分に再生可能なのさ」

王女「本当、化け物ね」

塵「ふふっ。褒め言葉と受け取っておくよ」

王女「と、まあ。彼の協力で城を抜け出したのよ」

姫「……直ぐに馬丁に会いたかったから、仕方なく……」

塵「仕方なく、ねえ……」

姫「貴方は嫌い」

塵「そうだろうね」

王女「どうやってここ迄来られたか、分かってくれたかしら?」

副長「はい。かつて容易く第二王女を連れ去った魔術の使い手ですからね」

塵「ふふっ……」クスクス

兵士長「何が目的だ。魔術師」

塵「ふふっ……」

兵士長「何が面白い」

塵「だって皆同じ事を聞くから……」クスクス

兵士長「同じ事、ねえ」

王女「……」

姫「……」

塵「ボクの目的は一つ。愛する人を傷付けた者への報復だよ」

兵士長「はぁっ?」

塵「愛する馬丁を私刑擬いの手段でいたぶった糞野郎共に制裁を。って事」

兵士長「いや、愛するって……」

塵「おかしい?」

兵士長「だってお前、男じゃ……」

塵「お義父さんは小さい事を気にするんだね」

兵士長「小さくないだろう」

塵「そう? 性別なんて些細な物だと思うけど。馬丁が望むなら女の身体に作り替えるつもりだしね」

兵士長「魔術師ってのはすげえんだな……」

王女「どうせ男のままでは結ばれ無いのだから、もう女に作り替えても良い様な気がするけど」

塵「ダメだよ」

王女「あら、どうして?」

塵「この姿じゃないと、一目でボクだと気付いて貰えないじゃない」

王女「……貴方、本気なのね」

姫「……」

塵「さて。ボクがかつて命を狙った者と攫おうとした者に対し協力している理由は分かって貰えたかな?」

副長「……良いでしょう。信じます」

兵士長「大丈夫なんですかい、副長さんよ」

副長「処刑以前の彼の敵は貴族達でした。塵が馬丁君の為に行動しているなら、ある程度は納得出来ます」

副長「なにより……何時でも蘇る事が出来た様な口振りでありながら、馬丁君の危機に対してのみ立ち上がったみたいですからね」

兵士長「……分かった、俺も信じてやる。だが、息子はやらん」

塵「あらら、手厳しいお義父さんだね」

兵士長「へっ、野郎なんかに自慢の息子をやれるかってんだ」

兵士1「兵士長、話ずれてる」

副長「しかし、魔術師君。まだ分からない事がある」

塵「塵で構わないよ、副長さん。それで、何が分からないの?」

副長「王女様達をここに連れて来る理由です。まさか、馬丁君の善き友人だから連れて来た。と言う訳では無いのでしょう?」

塵「ふふっ……」

副長「はぐらかさないで下さい」

塵「頭に血が登っている割りに冷静だね、副長さんは」

塵「そう。ボクは彼女達に利用価値があるから連れて来た」

塵「何しろ彼女達の協力無しでは、報復が成り立たなくなるからね」

副長「報復が、成り立たない……?」

塵「上級貴族を叩き潰せるのは王族だけだって話」

塵「ほんと、騎士団長が浅はかで良かったよ。証拠をろくに隠さずオイタをするんだもの」

兵士長「……まさか塵、お前……」

塵「ふふっ。お義父さん、あの事件は良い手札になると思わない?」

兵士長「だが、あの事件だけじゃ手が足りないぞ。もっと、切り札になる何かが……」

兵士長「……!」

塵「ふふっ……」

兵士長「切り札が、姫様達なのか……」

塵「正解。最初に王女が言ったよね」

塵「造れば良いのさ。騎士団長、そして彼に加担した騎士達を陥れるだけの罪を」

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副長「罪を造ると言った件は分かりましたが、あの事件とは?」

兵士長「そいつは……」

塵「ああ、キミは知らないんだったね」

塵「うーん」チラッ

姫「?」

塵「姫、そろそろキミの愛しの騎士様の所へ行ってはどうかな?」

姫「いいの?」

王女「(愛しの騎士様で分かるのね)」

塵「ボクはインビジリティの維持で疲れたから、あとで行くよ」

姫「二姉様は?」

王女「危険人物を放置する訳にはいかないわ。姫は先に行きなさいな」

姫「うん。ありがとう二姉様……と、魔術師……」タタタッ

塵「ふふっ……」

王女「意外と紳士じゃない、貴方」

塵「彼女を傷付けたら馬丁が怒るからね」

副長「どうやら姫様が居ては話し難い内容の様ですね」

塵「お察しの通りさ」

兵士長「一応口止めしていた筈なんだがな……誰から聞いたんだ」

王女「兵士2から聞いたわ」

兵士1「口の硬いあいつから? 何かの間違いじゃ……」

王女「ちょっと前に彼が貴族の情報を集めているって、盗賊ギルドから聞いたのよ」

塵「ふふっ……意外な人脈だよね、王国の第二王女が盗賊ギルドと繋がっているなんてさ」クスクス

王女「利用出来る物は利用する主義なのよ」フンッ

副長「……」クラッ

兵士長「おい、大丈夫か副長さん」

副長「あ、いえ、少し目眩が……」

塵「まぁそうなるよね、普通なら」

兵士長「で、どうやって兵士2から聞いたんだ?」

王女「盗賊ギルドから話を聞いた後、兵士2を捉まえて直接聞いただけよ」

王女「秘密裏に協力する約束をしてね」クスッ

兵士長「成る程な……」

副長「それで、件の内容とは?」

王女「……騎士団長が城のメイドを孕ませて殺したのよ」

副長「……ッ」

王女「利発で、可愛らしい、とても良い娘だったわ」

王女「妹を良い学校に通わせる為に、お給金を実家に送ってるって言っていた」

王女「本当に、素敵な娘だった……」

王女「苦しい筈なのに、それをおくびも見せず一人で抱え混んで……」

王女「許せる筈が……無いじゃない……ッ」

王女「そうよ、許せない……ッ」

王女「あの娘だけじゃなく、馬丁にまで大怪我をさせたあの男を、許せる筈がないッ!」

塵「……」

兵士長「王女様……ッ」

副長「そんな事が……」

王女「……少し、熱くなりすぎたかしら」

副長「……王女様。自分にも出来る事があれば、なんなりと仰って下さい」

王女「うふふ。良い心掛けね、副長」

副長「王女様のお心遣いに胸を打たれましたッ」

兵士長「……俺もだ、王女様」

兵士1「兵士2が口を割るのも頷けるよ、王女様。一介の下働きをそこまで大事に思ってくれてるなんて……」

塵「ふふっ。人気者だね、王女」

王女「うふふ、当たり前じゃない。私を誰だと思っているの?」

王女「私は私の大切な人達の味方なんだから」

―――――――――――

姫「ここ……かな」

『――――――』

姫「……?」

近衛『私の想いは生涯秘めるつもりだった。だが、今だけは許してくれ……』

姫「近衛ちゃんの声……」

近衛『馬丁……私はお前を……』

近衛『…………』

近衛『ごめんね……馬丁。私、貴方が好き』

姫「!?」

近衛『私を救ってくれた貴方を好きに……。ううん、愛してるの』

近衛『……格好悪いよね、私。貴方が聞いてないって分かってないと、告白すらまともに出来ないんだから』

近衛『……早く元気になってね、馬丁』ギシッ

近衛『ん……』

姫「……そんな…………」

近衛『早く元気になって、姫様の側に居てあげて。貴方の居場所はそこなんだから……』ガタッ

姫「え……」

姫「近衛ちゃん……」

姫「……」

姫「……よしっ」コンコン

ガチャ

姫「馬丁、いますか?」

近衛「ひ、姫様!?」

姫「近衛も来ていたのですね。馬丁の容態は?」

近衛「はい。傷は魔術により治療されましたが、消耗が激しかったらしく今は眠っています」

姫「そう……」ツカツカ

姫「馬丁、わたくしが必ずこの事を彼等に償わせます」

姫「今はゆっくり休んでください」スッ

近衛「え……」

姫「……ん…………」

姫「続きは目覚めた時、ですよ」

近衛「姫……様……?」

姫「近衛、わたくしは貴女にも二姉様にも馬丁を譲りません」

姫「だから近衛、わたくしに遠慮せず奪いに来てください」

姫「わたくしはそれを全力で退けます」

近衛「姫様、まさか……」

姫「……近衛ちゃん」

近衛「……」

姫「私達はこれで平等。同じ立ち位置よ」

姫「お兄ちゃんは絶対渡さないからね」

近衛「……!!」

近衛「はいっ。私だって……私だって負けません!」

―深夜―

塵「……」

塵「やっぱりボクの思った通りだ」

塵「キミは本当に運が良いね。生命の精霊と親和性が高いんだから」

塵「初めてキミと戦った時、コモンルーン程度であれだけ動きが変わったのも頷けるよ」

塵「ねえ、馬丁……」

塵「毎日の様にボクに懺悔し、毎日の様にボクに花を手向けてくれた変り者」

塵「……ボクに本気の火を着けたんだから、責任取ってよね……」ゴソッ

塵「さあ、少しだけ命を分けてあげる」

塵「人のままでいられる、ギリギリの量だけね……」

塵「……ありがとう、愛しい人」スッ…

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―朝―

馬丁「……うっ…………」

馬丁「ここは……?」

馬丁「俺は……」

馬丁「……」

馬丁「……そうだ、俺は騎士達に……っ」モゾッ

馬丁「なんだ……?」

塵「……ん…………」スゥ スゥ…

馬丁「……な……っ?」

馬丁「何で、お前が……?」

馬丁「まさか……俺は死んだのか」

塵「う……ん……?」モゾッ

馬丁「塵……。お前、塵だよな?」

塵「ふぁ……」

塵「……ん? やあ、おはよう」

馬丁「塵っ!」ガシッ

塵「急に肩を掴んでどうしたんだい、馬丁?」

馬丁「やっぱり、あの時のままの塵だ……。じゃあ俺は本当に死んだのか……」ググッ
塵「情熱的なのは嬉しいけどね、お互い病み上がりの生き返りたてなんだから、おとなしくしなきゃ」

馬丁「病み上がりの生き返りたて……?」

塵「そう。キミは騎士達に暴行を受けて瀕死だったのさ」

塵「傷は副長クンが治したけど、治療で失われた体力はボクが補ったんだよ」

馬丁「そんな事が……」

馬丁「でも、お前が生き返ったってどういう事なんだ?」

塵「前に言ったよね、ボクが魔族の成りそこないだって」

馬丁「……忘れるはず、無いだろ」

塵「ボクが魔族の成りそこないだから生き返れたのさ」

塵「そう。キミの為に、ね……」クスッ

馬丁「俺の……為に……」

塵「そう。馬丁の手助けをする為に、ボクは生き返ったんだよ」

馬丁「……どうして俺の為にそこまで出来るんだ」

塵「愛する人の為に尽くす事に、理由は要らないだろ?」

馬丁「愛するって、お前なあ……」

塵「ふふっ……」

馬丁「……はは」

馬丁「本当に塵なんだな。変わらない、本当に変わらないよ。お前……」

塵「安心した?」

馬丁「呆れたんだよ」

塵「酷いなぁ……それにしても、さすが馬丁」

馬丁「さすがって何だ」

塵「普通なら暫く起き上がる事すら出来ない傷だったと聞いていたんだ」

塵「キミの尋常じゃない生命力は、本当に素晴らしいね」

ガチャ

近衛「馬丁、入るぞ」

馬丁「あ……」

近衛「……っ」

塵「おはよう、近衛騎士ちゃん」

近衛「馬丁よ……お前が目覚めた事は嬉しく思う。今この状況で無ければ、涙を流しお前に駆け寄ったところだろう」ワナワナ…

馬丁「あ、ああ……」

近衛「だが先に……同じベッドの中で裸の塵と居る事の説明をして貰おうか」ギロッ

馬丁「ま、待ってくれ近衛! 俺も状況が良く掴めてないんだ! それにどうして近衛が塵の事を知ってるんだよ!?」

近衛「昨夜姫様達に紹介されたッ! さあ、説得しろ!」

塵「嫉妬かい、近衛騎士ちゃん?」クスッ

近衛「嫉妬して何が悪い!」

馬丁「は?」

近衛「!?」

塵「ふふっ……ゴメンゴメン。昨夜、馬丁の体力を補う為の魔法を使ったんだよ」

塵「それが消耗の激しい魔法でね。隣のベッドに行くのも面倒だから、そのまま馬丁のベッドで就寝したのさ」

近衛「……理由は分かったが、なぜ裸なんだ」

塵「服を着て眠る習慣がなくてね。無意識の内に脱いだんじゃないかな」

塵「誓ってやましい事はしてないよ。するなら、馬丁が元気な時じゃないと」

近衛「貴様と云う男は……っ!」

馬丁「や、止めろ近衛っ! 剣に手を掛けんなって!」

近衛「……」ムスッ

馬丁「塵。近衛は真面目なんだから、あんまりからかわないでくれ」

塵「ふふっ……彼女が余りに可愛くて、つい、ね……」クスッ

近衛「か……かわ……っ!?」カァッ

塵「可愛いよ。キミはとても魅力的な女の子だね」

近衛「貴様! いい加減に……ッ!!」

馬丁「近衛落ち着けッ! 塵も止めろって!!」

近衛「す、すまない。病み上がりなのに騒いでしまって……」

塵「ごめんね馬丁。少しふざけ過ぎた」

馬丁「まったく……」

馬丁「それで、近衛は見舞いに来てくれたのか?」

近衛「そうだ。それと塵に服を持って来た」

塵「助かったよ、近衛騎士ちゃん」

近衛「姫様の頼みだからな」

馬丁「姫の?」

近衛「ああ。姫様達が少々悪巧みをしているのだ」

馬丁「悪巧み……か」

馬丁「……そうだ!」

近衛「どうした、馬丁」

馬丁「俺が騎士達にやられたんだ。親父達、無茶な事してないか!?」

馬丁「兵士団の連中、血の気が多い奴ばかりなんだ。今、どうなってるッ!?」

近衛「安心しろ、馬丁」

近衛「傷が大事に至らなかった事と、王女様の説得で兵士団は平静を保っている」

馬丁「王女がなんで兵士団を……?」

近衛「それを含め、後ほど今後の事の話をしよう」

近衛「昼には姫様達も来る。それまで馬丁は休んで回復に努めてくれ」

馬丁「……分かった」

塵「じゃあ、ボクが添い寝してあげるよ」

馬丁「あのなあ……」

近衛「塵は服を着て準備しろ!」

塵「ええー」

近衛「姫様が待っているのだ。早くしろ!」

塵「ふう……仕方ない。馬丁、またね」

馬丁「(姫が……一体何を始める気なんだ……)」

近衛「そうだ、馬丁」

馬丁「どうした?」

近衛「お前が助かって良かった。心配……したんだからな」

馬丁「……迷惑掛けたな、近衛」

近衛「迷惑じゃないさ。だが、余り心配させるな」

馬丁「努力する」

近衛「その努力、怠るなよ?」

馬丁「出来る限りは、な」

近衛「ふふっ。では塵、行くぞ」

塵「はいはい」

近衛「おやすみ、馬丁」

馬丁「ああ。おやすみ、近衛」

塵「そうだ、忘れてた」

馬丁「塵?」

塵「ちょっと前髪たくしあげて」

馬丁「こうか?」

塵「うん、そんな感じ」

馬丁「何するんだ?」

塵「ボクの額と馬丁の額を合わせるんだ。大丈夫すぐ終わるよ」

馬丁「そうか」

塵「……アクセス」ボソ

近衛「な、なんだ……?」

古代魔法・想身変異

馬丁「光が……!?」

塵「……」

塵「……ん、終わった、かな」

馬丁「塵……お前、その姿……?」

塵「どう……かな?」

近衛「な……なに……!?」

馬丁「…………」

近衛「なぜ女性の姿に!? それに、その容姿……」

馬丁「ああ……。髪の色は違うけど、幼い頃の姫みたいだ」

塵「変異魔法だよ。今までの姿じゃ行動に何かと制限があるからね」

塵「どうかな、馬丁。キミの好みに合わせてみたつもりなんだけど」

馬丁「な!?」

近衛「ば、馬丁……お前まさか、少女にしか興味が無いのか?」

馬丁「そんな訳あるかッ!」

塵「ふふっ……。あ、そうそう」

塵「この魔法。変異と言っても所詮快楽追及の魔法だから、本来女性に備わった機能までは再現出来ないんだよね」

馬丁「機能……?」

塵「子を宿す事が出来ないのさ」

馬丁「へ、へえ」

塵「どれだけ馬丁がボクを凌辱しようと問題無いって事だよ」

馬丁「ば、何言ってんだお前ッ!」

近衛「……」フラッ

馬丁「こ、近衛!?」

近衛「はっ……!?」

馬丁「大丈夫か?」

近衛「ああ。幼少期の姫様に似た姿から下世話な言葉発っせられて、少々意識が遠退いただけだ」

塵「純情可憐な近衛騎士ちゃんには、凌辱なんて言葉は耐えられなかったのかな?」

近衛「貴様、その姿で下世話な言葉を使うな! あといい加減服を着ろッ!」

塵「本当に可愛いね、キミは」クスクスッ

近衛「くっ……」

馬丁「塵、目のやり場に困るから、せめて服を着てくれ」

塵「ふふっ……馬丁がそう言うなら仕方ないね」

近衛「私が手伝う、別室へ行くぞ。それまでそこの予備のシーツを纏っていろ」

塵「はいはい」シュルッ

近衛「騒がせて済まなかった。今度こそゆっくり休んでくれ、馬丁」

塵「またね、愛しい人」

馬丁「あ、ああ。じゃあな」

バタン

馬丁「……つ、疲れた…………」

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―王宮・姫私室―

姫「近衛ちゃん! 馬丁の容態は?」

近衛「ご安心下さい。無事意識を取り戻しました」

姫「本当っ? 良かった……」

塵「ま、ボクの魔法のおかげだね」

近衛「兄上の神聖魔法の力もある」

姫「近衛ちゃん、その子……」

塵「おはよう、お姫様」

姫「……だれ?」

塵「うーん……。あ、そう。ボクは馬丁の想い人だよ」

近衛「馬鹿を言うな、塵ッ」

塵「嘘は言って無いんだけどなぁ……」

姫「え、ち、塵なの?」

近衛「詳しくは歩きながら説明します。さ、王女様の待つ離宮に行きましょう」
姫「う、うん……」

―離宮・王女私室―

塵「やぁ、待たせたね」

王女「遅かったじゃない、塵の魔術師さん……あら?」

王女「……誰、貴女?」

塵「お姫様、お義父さん、兵士1クン、副長クンに続いてキミもかい? 王女様」

王女「塵、なの?」ジッ…

塵「ふふっ……」

王女「可愛いっ!」

塵「え?」

王女「小さい頃の姫みたいで可愛いわっ! ほら、お姉さんの所においでー」カムカム

塵「キミねぇ……」

文官「や。戯れはそこまでにして、本題に入って頂きたいのですが」

王女「はっ、つい……って文官!?」

副長「文官殿は私が同行を願いました」

副長「彼は数年間私と共に騎士団を監視してきた協力者です」

文官「ご機嫌麗しゅうございます、王女様」

王女「ええ、ご機嫌よう。って、協力者?」

文官「騎士団相手に何やら企てていると聞き、一枚噛ませて頂きに参りました」

王女「そう……」

王女「良いわ。この作戦の成功の為なら、一枚でも二枚でも噛ませてあげる」

塵「しかし、結構な人数だね」

兵士1「この国の王女が二人、騎士団副長、兵士長、文官。要人だらけじゃねぇか」ボソッ

塵「肩身狭そう……」クスッ

兵士1「俺には場違い過ぎて、実際肩身狭めぇよ」

王女「ふふふ。ここには居ないけど兵士2も協力者よ」

王女「彼には盗賊ギルドと連携して、引き続き事件の調査をして貰ってるわ」

文官「や。ある程度聞いていましたが、なかなか刺激的ですね」

王女「私のこと?」

文官「王女の口から盗賊ギルドという言葉が出ましたので」

王女「幻滅したかしら」

文官「まさか、そのような事は。寧ろ気概に感服致しました」

王女「ふふふ。口が上手いわね、貴方」

姫「二姉様、かっこいい……」

兵士長「で、王女様。俺達を集めて何をおっぱじめようってんだ?」

王女「何って、悪巧みに決まってるじゃない」

副長「悪巧みですか……」

塵「全員にインビジリティを掛けて疲れているから、出来れば手短にして欲しいなー」

近衛「貴様という男は……」

文官「や。てっきり女性かと思っていましたが……失敬、男性でしたか」

塵「面倒だから説明しなくて良い?」

近衛「……後で私がしておく」

塵「ありがと、近衛騎士ちゃん」ニコッ

近衛「くっ……その姿で微笑むな!」

王女「はいはい。じゃ、始めるわよ」

王女「この国の膿を絞り出す楽しい悪巧みを、ね……」クスッ

―――――――――――
――――――――
―――――
――

―謁見の間―

轡「ごきげんよう。この度宮廷魔術師として招かれ、姫様の教育係を努める事となりました、轡と申します」

姫「(……くつわ?)」

姫「ええ、ごきげんよう。遠路神王国から、よくお越し下さいました」

文官「神王国からの親書、確かに確認しました。以後、宜しくお願いします」

轡「はい、こちらこそ……」クスッ

王女『塵。貴方はこの親書を使い、宮廷魔術師として姫を護りなさい』

塵『親書、ねぇ。この封印、神王国の紋章だけど本物かい?』

王女『盗賊ギルドに行った時に偽造したのよ。本物の紋章を複製した物だから、かなり精巧よ』

塵『ふふっ……。キミって、とんでもない王女様だね』

文官『ふむ。その件、私も一芝居打ちましょう』

王女『助かるわ、文官』

姫『でも、なんで塵を宮廷魔術師にするの?』

王女『王宮であるていど自由に動いて貰う為よ。毎回透明化の魔法を使う訳にはいかないでしょ?』

姫『あ……。さすがです、二姉様』

王女『それに馬丁が護衛出来ないから、代わりでもあるわけ』

姫『……はい』

塵『宜しくね、姫様』

姫『私、貴方は嫌い……』

王女『姫……我が儘言わないで、お願い』

姫『……うん、分かった…………』

―兵舎―

兵士長「おう、野郎共ッ!」

「「「「へいッ!」」」」

兵士長「お前達にこれから頼みたい事がある。聞いてくれ!」

ザワザワ……

兵士長「(あんたの言葉を信じますぜ、王女様……)」

王女『兵士長は兵士団内から馬丁が完治したという事を外部に漏らさない様にして』

兵士長『へえ、分かりました』

王女『理由を知りたいって顔ね』

兵士長『何分、学が無いもんで。王女様の意図が見え無いと、ちょいと動き難いと言うか……』

王女『端的に言うなら、騎士団を油断させる為よ』

兵士長『油断……ですかい』

王女『そう。それと、私の切り札の為』

兵士長『……よく分かりやせんが、今は王女を信じやしょう』

王女『ありがとう。お願いね、兵士長』

王女『副長は引き続き騎士団の監視をお願い』

副長『心得ました』

王女『近衛は姫の護衛と、馬丁の看病よ』

近衛『看病? 馬丁はほぼ完治していますが……』

王女『兵士長に頼んだ事の延長よ。馬丁が完治した事を外部に漏らしたくないの』

近衛『了解です、王女様』

姫『近衛、馬丁に宜しくね』

近衛『はい、姫様』

王女『それと、塵ちゃん』

塵『なんだい?』

王女『今夜馬丁と共に私の部屋まで誰にも見つからずに来なさい』

塵『うん、良いよ』

姫『夜……』

王女『……そうね、姫も連れて来られるかしら?』

塵『構わないよ』

姫『いいの?』

王女『ええ、勿論』

王女『では、兵士1を除いて各自行動開始よ!』

―郊外―

兵士1「またこいつを抜く事になるなんてな」

兵士1「故郷なんざ捨てたつもりなんだがね……」

兵士1「へっ。どうにも血が騒いで仕方ねぇ……ッ」

兵士1「ま、悪く思わないでくれよ。騎士さん達」

兵士1『で、一般兵の俺は何をやりゃ良いんで?』

王女『貴方には騎士を闇討ちをして貰うわ』

兵士1『闇討ちだあッ?』

王女『使える物が無いかと、昨日の夜のうちに兵士団員の事を調べたのだけど……』

兵士1『……』

王女『兵士長と貴方は元々外国から来た傭兵のようね』

兵士1『ああ。しかしなぁ、それと闇討ちが何の関係があるんで?』

王女『貴方、双王国人よね? たぶん、東天領旧阿国人』

兵士1『……たまげたね、こりゃ』

王女『特殊な経歴だったから記録が残ってたのよ。気を悪くした?』

兵士1『そんな事で気を悪くはしませんて』

王女『あら、意外と懐深かったりする?』

兵士1『……はあ』

王女『……闇討ち、頼めるかしら?』

王女『隣国との戦いの記録を見る限り、貴方以外にこの件を任せられる人は居ないの』

兵士1『ま、俺も未練がましく刀をまだ持ってますからねぇ』

兵士1『…………へっ』

兵士1『……やりましょう。で、王女様。俺はどいつを殺りゃあ良いんで?』

王女『……』ゾクッ

王女『そ、そうね――――』

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細かくミスや誤字脱字が……
王女は馬丁の意識が戻った事を聞いていたという事にして下さい
あと話は全体で500レスくらいで纏める予定です

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 時間はやや巻き戻り

―兵舎・医務室―

馬丁「……もう日が暮れたのか」

塵「起きて大丈夫かい、馬丁」

馬丁「姫? いや、塵か」

塵「ふふん。今は宮廷魔術師の轡ちゃんでーす」

馬丁「お前が宮廷魔術師!? それに轡ってなんだよ?」

塵「王女のくれた紹介状を使って、さらに文官クンがちょちょいと報告を改竄してみました」

馬丁「なんて滅茶苦茶な……」

塵「ボクとしても往来を自由に歩けるのは魅力だったからね。乗せられてあげたのさ」

馬丁「宮廷魔術師は分かったけど、轡って随分変わった名前だな」

塵「素敵な名前でしょ?」

塵「宮廷魔術師という馬に噛まされた轡」

塵「そして、その手綱を取るのは馬丁」

塵「なかなか洒落てるとは思わない?」クスッ

馬丁「お前のセンスは良く分からない」

塵「残念、キミの事を想って名付けたんだけどなぁ」

馬丁「……そうかい」

塵「……ふふふ」

馬丁「なんだよ」

塵「キミは何も聞かないね」

馬丁「……ああ。お前と話すのは疲れるんでね」

塵「今朝の事は近衛騎士ちゃんも含んだ疲労じゃ無いの?」

馬丁「今朝のはな」

塵「今朝のは、ねぇ」クスクス

馬丁「……真意が見えないんだよ、お前」

馬丁「目的も、動機も。何もかも不自然で、何もかもが茶番に見えるんだ」

馬丁「だから、疲れる」

塵「……うふふ」

馬丁「何だよ」

塵「嬉しいよ。馬丁はボクを良く見ている」

塵「ボクが茶番に興じている事を、ちゃんと見ていてくれた」

馬丁「塵は何が目的なんだ?」

塵「ボクの目的はずっと変わらないよ」

馬丁「あの時のまま、この国を滅ぼす事なのか?」

塵「違うよ。いや、違わないかな」

塵「結果、国は滅ぶかもしれない。でも、それが究極的な目的じゃない」

塵「ボクの目的は、キミと同じだよ」

馬丁「……俺と同じ」

塵「そう。復讐さ」

塵「何もかもを奪った者に報復を」

塵「家族を、故郷を奪った者に裁きを」

塵「ボクの目的は決して変わらない」

塵「キミだってそうだろ、馬丁……?」

馬丁「……そう、かもな」

馬丁「俺も頭のどこかで、それを望んでいる」

馬丁「心の何処かで今の自分を拒絶しているんだ」

馬丁「この手で敵を討ちたいとさえ願う事がある」

塵「でも、それは出来ない。何故ならキミは」

馬丁「俺は、姫の。姫だけの騎士だから……」

馬丁「例え子供の約束だとしても」

馬丁「正式な叙勲じゃなくても……あの時俺は、姫に騎士の誓いを立てたんだ……ッ」

塵「……ふふっ」

塵「ねえ、馬丁」

馬丁「……」

塵「なぜボクが茶番に興じるか分かるかい?」

馬丁「お前の真意なんて分かるかよ」

塵「ボクは馬丁を愛している」

馬丁「そりゃどうも」

塵「馬丁は姫を愛している」

馬丁「……ああ」

塵「ボクは愛しい人の悲しむ顔が見たく無い」

塵「だからね、彼女達の悪巧み……茶番に付き合うのさ」

馬丁「……姫達は何をやる気なんだ?」

塵「騎士団長の失墜。そして騎士団内でキミに暴行を加えた者への報復だよ」

馬丁「随分な事を考えるんだな、あいつら」

塵「ふふっ……彼女達が本気で動けば結果は決まっているのにね。本当、酷い茶番」

馬丁「ああ。確かに茶番だ」

馬丁「王族が動けば騎士団長と云えども、ただじゃ済まないだろうよ」

塵「駄目押しにボクの協力」

馬丁「連中、憐れな事で」

塵「勿論ボクも彼等を許すつもりは無いけどね」

馬丁「……だろうな」

塵「キミだって出来るなら仕返ししたいと思ってる」

馬丁「……ああ」

塵「なら決まりだね」

馬丁「決まり?」

塵「まだ早いけど、お姫様の所へ行こう。キミの出来る事をやる為に」

馬丁「俺の出来る事、か。分かった、行こう」

塵「王女様は騎士達に動向を探らせたく無いみたいなんだ。だから姿隠しの魔法、インビジリティを使うよ」

馬丁「了解、やってくれ」

塵「……そうだ、馬丁」

馬丁「なんだ?」

塵「ボクが使った変異魔法ね」

馬丁「その姿に変わったやつか」

塵「そう、その魔法」

馬丁「その魔法がどうしたんだ」

塵「ふふっ……」

塵「件の変異魔法、本来は浮気を調査する為に開発されたそうだよ」

馬丁「……っ」

塵「ふふふ……それじゃ、エスコート宜しくね?」クスクス

精霊魔法・姿隠し

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おかしい、主人公とヒロインが空気だ……
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―王宮・姫私室―

塵「お姫様、失礼するよ」

姫「宮廷魔術師轡、如何なさいました?」

塵「貴女の想い人をお連れしました」

近衛「まさか……」

姫「……馬丁の事?」

塵「そう。馬丁、もう自由に動いて構わないよ」

馬丁「……ああ」フッ

姫「馬丁っ!」ダッ

馬丁「うわっ、急に抱きつくなって!」

姫「だって、だって……!」ギュウッ

近衛「もう動き回っても平気なのか?」

馬丁「ああ。心配掛けたかな」

近衛「心配したさ、当たり前だろう?」

姫「そうよっ! 馬丁ずっと眠ってて……」グスッ

姫「心配……したんだから……っ」ググッ

馬丁「……ごめん、姫。近衛」ナデナデ

近衛「私の方も済まない。昼には顔を出せると思ったのだが、王女様の提案に時間を使い、お前の所へ行く事が出来なかった」

馬丁「それは構わないさ。お蔭でゆっくり休めたしな」

近衛「……そうか。お前がそう言ってくれる男で良かったよ」

姫「……」ギュッ

馬丁「どうした、姫」

姫「なんでも無い……」ギューッ

近衛「馬丁。男なら姫様の気持ちを察するべきではないか?」

馬丁「……ああ」ギュッ

姫「えへへ……」

馬丁「姫。心配をお掛けし、申し訳ありませんでした」

姫「ん……許します。でも、もう心配掛ける様な事は避けるのですよ?」

馬丁「心得ました、姫」

塵「君達は不思議な関係に見えるね」

馬丁「不思議?」

塵「主従関係でありながら、まるで恋人……いや兄妹かな。そういう風に見えるよ」

姫「……兄妹、かぁ」

近衛「(なかなか鋭い……)」

馬丁「子供の頃から一緒だからかもな」

姫「子供の頃と言っても、わたくしと馬丁が出会ったのは4年程前です。兄妹と言うには日が浅いのでは?」

塵「なら幼馴染みって所かな」

塵「お姫様が幼馴染みで妹分なんて、とんでもない関係だね」

塵「しかもお付きは近衛騎士のお姉さん」

塵「これは壁が厚いなあ……」

近衛「何の話だ?」

塵「個人的な事だよ。でも、性別の不利は無くなったから、ボクにも付け入る隙がありそうだし良いや」

姫「……そういえば塵の変異魔法は解けないの?」

塵「この姿は日の出から日の入り。或いは日の入りから日の出まで持続するよ」

塵「この身体の情報は記憶したから、馬丁から情報を得なくても直ぐ掛け直せるけどね」

近衛「事実上、永続的に効果する様な物か……」

姫「むう……」

馬丁「俺から情報って、まさか……」

近衛「どうした、馬丁」

馬丁「いや、何でも無い」

近衛「(何か隠しているな)」

姫「(馬丁、何か隠してる)」

馬丁「そういえば、塵は何で俺を此処に連れて来たんだ?」

近衛「(誤魔化したな)」

姫「(誤魔化したよね)」

塵「お姫様に会わせる為にだよ」

馬丁「それだけじゃ無いんだろ」

塵「ふふ……、正解」

塵「今日からしばらく、馬丁には此処で暮らして貰おうと思ってね」

近衛「な……!?」

姫「馬丁と此処で……」

近衛「何を考えている、塵! そんな事できる筈……」

塵「だーめ。馬丁が此処でしばらく暮らしてくれないと、一々移動が面倒だもん」

近衛「しかし……!」

近衛「姫様っ、姫様は宜しいのですか? 男性と同じ部屋で暮らすのですよ!?」

姫「近衛、わたくしも子供ではありません。勿論構いませんよ」

近衛「子供では無いから宜しく無いのです!」

姫「わたくしも王族。物事の分別はついています」

馬丁「なんだ、俺。信用無いな」

近衛「馬丁だって男であろう!」

塵「ならボクの部屋にするかい?」

姫「それは駄目っ!」

姫「あ……、それは成りませんっ」

塵「だってさ、どうする?」

近衛「くっ……」

馬丁「なあ。話が見え無いんだが、何で俺が此処で暮らす必要があるんだ?」

塵「あれ、説明してなかったっけ」

馬丁「ああ」

塵「結論だけ言うと、キミが王女様の駒だからだよ」

馬丁「駒……そういう事か」

塵「駒が手元に無いと不便だろ?」

馬丁「だったら王女の所でも……」

姫「二姉様の所に行くの……?」

馬丁「え、それは」

塵「気を利かせたって分かってくれたかな」

馬丁「……ありがとよ」

近衛「しかし、幾ら何でも姫様と夜を共にするなど……」

馬丁「間違いを起こす様な真似はしないって」

近衛「……そうだな。馬丁が間違いを起こす様な男では無い事は、私も良く分かっている」

姫「では構いませんね、近衛?」

近衛「……はい。馬丁、信じているからな」

馬丁「おう」

塵「はいはい。じゃ、馬丁の滞在先が決まったし、夜になったら王女様の所に行こうか」

―姫私室・バルコニー―

近衛「……馬丁」

馬丁「なんだ?」

近衛「済まないが、私は今夜同行出来ない」

馬丁「予定があるのか」

近衛「ああ。実家から呼び出されてな」

近衛「明日の朝には帰る。それまで姫様を頼む」

馬丁「実家……か。分かったよ、近衛」

近衛「お前が姫様の部屋に滞在するのは、かえって都合が良かったのかも知れないな」

馬丁「渋ってたクセに」

近衛「私も女だという事だ。察しろ」

馬丁「善処する」

近衛「お前らしい言い回しだな」クスッ

近衛「少し……安心した…………」

馬丁「なあ、近衛」

近衛「馬丁よ。済まないが、何も聞かずにいてはくれないか」

馬丁「……分かった」

近衛「本当に済まない」

馬丁「気にするなよ」

近衛「ああ。有り難う」

馬丁「……少し冷えるな」

近衛「……そうだな」

馬丁「部屋に戻らないか?」

近衛「……うむ。そうしようか」

―王宮・姫私室―

塵「お帰り。気分転換は出来たかい?」

馬丁「まあな。やっぱりベッドの上で退屈するより、外の空気触れている方が気分が落ち着く」

塵「それは良かった」

馬丁「お前は姫と何やってたんだ?」

塵「ああ、それは……」

姫「秘密ですっ」

塵「ああ、そうだったね。ごめん馬丁、秘密なんだ」

馬丁「秘密……」

姫「はい、秘密です」

馬丁「……危ない事は駄目ですよ」

姫「うんっ! ……あ」

姫「えっと、危険な事ではありません。心配しないで下さい」

馬丁「分かりました、姫」

馬丁「……塵、あまり姫に変な事教えるなよ」

塵「ふふっ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

馬丁「…………」

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―夜・離宮・王女私室―

馬丁「……大体の状況は把握した。それで、俺は何をやれば良い」

王女「さすがね、馬丁。話が早くて助かるわ」

塵「ある程度はボクから話しておいたしね」

姫「……」

馬丁「王女が俺を切り札と言うって事は、俺が騎士団長に何かしらの行動を起こす必要があるんだろ」

王女「ええ。馬丁が倒れてると思い込んだ騎士団にとって、貴方の行動は最高の不意討ちなのよ」

馬丁「確かにな」

王女「馬丁だけじゃなく、メイドにまで酷い事をしたあの男を許す訳にはいかないわ」

王女「だから確実に事を運びたいの」

姫「メイド……?」

王女「(しまった……!)」

姫「二姉様、メイドって?」

王女「その……えーっと……」

塵「王女様、お姫様も子供じゃない。汚いものから遠ざけるんじゃなく、ちゃんと話した方が良いんじゃないかな」

馬丁「汚い……? 塵、何の話だ」

塵「ボクが話して良いのかな」

王女「いえ、私が。私から話すわ」

―――――――――――

姫「そんな……騎士団長がそんな酷い事を……」サアッ…

馬丁「姫、大丈夫か。顔が青いぞ」

姫「……」ブルブル…

塵「無理も無いよ、馬丁。今まで温室で隔離されてたお姫様には厳しい話なんだし」

馬丁「……そうかもな」

姫「馬丁……」ギュッ

馬丁「……」ギュ

姫「ん……ありがとう、馬丁」

王女「姫……」

姫「……二姉様。わたし……わたくしも騎士団長が許せません」

姫「だから、わたくしにも何かお手伝いをさせて下さい」

王女「それは駄目よ」

姫「そんな!」

王女「貴女を危ない目に合わせたく無いの。分かって」

姫「また……」

塵「……」

姫「また、私は何も出来ないの?」

姫「(私はまだ、護られるだけの無力な存在なの……?)」

塵「ねえ」

王女「なによ」

塵「キミは残酷だね」

王女「どういう意味かしら」

塵「どうして現実を教えても尚、お姫様を蝶よ花よと可愛がるのかな」

王女「……!」

馬丁「それだけ姫が心配なんだよ」

塵「心配?」

王女「そうよ! 妹を大切にして何がおかしいのっ!」

塵「ふうん……」

塵「ボクには良く分からない感情だね」

馬丁「塵……」

塵「大切だから汚いものを見せず、大切だから痛いものから遠ざける」

塵「それがキミの護る事なのかな」

王女「……そうよ」

塵「協力を申し出たのに?」

王女「言いたい事があるならはっきり言いなさい……!」

塵「お姫様はキミの人形じゃない」

王女「!?」

姫「……塵」

塵「フラスコで生まれ育ったホムンクルスは外気に触れると死んでしまう」

塵「今のままなら、お姫様がキミという庇護を失えば、ホムンクルスの様に死んでしまうだろうね」

王女「そんな事無いわ!」

塵「メイドの話程度で顔面蒼白になっているのに?」

王女「それは……」

塵「別にキミを責めたい訳じゃないんだよ。ボクはただ、お姫様も悪巧みの仲間に入れるべきだと言いたいだけ」

馬丁「……塵の言いたい事も分かるけどさ、姫は良いのか?」

姫「……うん。わたしにも出来る事があるなら、みんなの力になりたい……!」

王女「姫……」

姫「わたしはもう、護られるだけは嫌なのっ!」

王女「……ごめんなさい、姫」

姫「二姉様?」

王女「私もまだまだね。貴女の事を考えずに自分の価値観を押し付けるなんて」

王女「改めて今後の作戦を説明するわ。姫、手伝って貰える?」

姫「はい!」

塵「良かったね」

姫「うんっ」

馬丁「姫、無理はするなよ」

姫「もうっ。馬丁は心配性なんだから」

馬丁「心配するって」

塵「大丈夫だよ、馬丁。彼女はもう子供じゃない」

馬丁「そうは言ってもなあ……」

塵「ふふ……」

王女「そこ、話聞いてる?」

馬丁「あ、悪い」

王女「もう。じゃあ始めるわよ、悪巧み最後の仕上げの説明を」

投下終了
月末にやる事になったTRPGのシナリオが漸く仕上がったので、今後投下ペースをある程度早く出来そうです
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―深夜・王国郊外―

「うう……気持ちわりい……」

「幾ら何でも呑み過ぎじゃないか」

「めでたいから良いんだよ!」

「めでたいって、あの話だろ」

「仲間痛め付けられた連中がだんまりなんだぜ? 所詮平民の有象無象の集団だよな」

「……俺には、そのだんまりが不気味に思えるけどな」

「ははっ、連中に何が出来る物かよ。何かあっても騎士団長サマに任せておけば問題無いしな!」

「その騎士団長サマが保身に騎士Cを売ったんだがな……」ボソッ

「ん? なんだ、何か言ったか?」

「いや、別に」

パキッ

「……なあ」

「おう、なんだあ?」

「誰か、着けて来て無いか?」

「……ああ」

「誰だ、其処に居るのはッ!」

?「……」チャキ

「!?」

「魔物ッ!?」

魔物?「……」ヒュッ

ズシャッ

「あがッ」ドサッ

「ひっ……何で魔物が剣を……ッ」

魔物?「……」ヒュッ

「かはッ……」ドサッ

魔物?「……一丁上がり、っと」

―翌日・兵舎―

副長「兵士長殿!」

兵士長「おう、副長さんか。そんなに勢い込んでどうしたんですかい?」

副長「街に魔物が現れ、騎士二名が襲われました」

ザワッ

兵士長「魔物だぁ? 警備の連中は何やってやがるッ!?」

副長「それが、おかしな事に魔物が侵入した形跡は無く、街の人もその姿を見ていないとか」

兵士長「ん? じゃあ何で魔物だって分かったんだ?」

副長「襲われた二名が大事に至らなかったので、直接聞く事が出来ました」

副長「二人は夜間哨戒の際に不意を討たれた、と……」

兵士長「そうか。で、何の魔物だったかは分かったいるんで?」

副長「コボルドだそうです。それも、見た事の無い長剣を使う」

兵士長「コボルド……?」

副長「はい」

副長「兵士長殿。魔物はまだ討伐されていないので、団の方々に警戒する様に伝えて下さい」

兵士長「ああ、わかった。オラっ、お前等も騒いでねぇで訓練に戻れ!」シッシッ

副長「(……こんな感じで宜しいですか?)」ボソ

兵士長「(上々だ。副長さん、あんた芝居の才能あるんじゃねぇか?)」コソコソ

副長「(ご冗談を。しかし、これで兵士団の方々が多少でも静まってくれれば良いのですが……)」コソコソ

兵士長「(騎士が無様にやられりゃ連中も多少は溜飲が降るってモンだろうよ)」コソコソ

副長「(王女様も随分な手段に出ましたね……)」コソコソ

副長「では兵士長殿。私は今後の対策の為の会議に出なくてはならないので失礼します」

兵士長「分かった。こっちは何時でも出られる様にしておく」

副長「はい。それでは」

兵士1「……くくくっ」

兵士長「おう、兵士1か」

兵士1「王女様のお使いを済ませて来ました」

兵士長「そうか。しかし、なあ……」

兵士1「へへっ、まさかコボルドとは、ねぇ」

兵士長「せめてライカンスロープくらいは言って欲しいモンだな」

兵士1「王国人の認識なんてそんなモンって事なんでしょうよ」

兵士長「ガイジンに無知だからこその王女様の案なんだろうよ」

兵士1「一応、阿国の誇り高きウルフリングの血統なんですがね」

兵士長「だったら普段から狼獣人の姿で居ろいッ」

兵士1「毛深いとモテ無いんだから勘弁して下さいって」

兵士長「がははッ。お前は普段から女っ気がねぇだろうが」

兵士1「隊長がそれを言いますかッ!?」

兵士1「……さて、後は騎士団が餌に掛かるのと、兵士2が情報を掴むのを待つばかりですか」

兵士長「ああ。で、お前はどうすんだ?」

兵士1「離宮で馬丁に稽古を付けに」

兵士長「……」

兵士1「アイツの今後の為にも、軒の雫以外の剣閃を叩き込んでやろうと思いましてね」

兵士1「多対一の立ち回り、ディザーム、パリィ。アイツにはその辺を叩き込む必要があると思うんでさぁ」

兵士長「……そうか。任せるぞ、相棒」

兵士1「了解。小隊長」スタスタ

兵士長「……ふん」

兵士長「もう隊は無いって何度も言ってるだろうが……」

少ないですが投下終了
頭がちょっとおかしい幼馴染のSSを長時間に渡って書いたり、18時間耐久TRPGマスタリングした時のダメージが中々抜けない
体調管理甘いわぁ
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―離宮・王女私室―

兵士1「毎度毎度、手間掛けるな」

轡「仕方ないさ。通常、平民の一般兵士が立ち入れる場所じゃないのだから」

轡「それに、キミに恩を売っておくのも悪く無いしね」クスッ

兵士1「はぁ……。可愛い顔して宮廷魔術師様は腹黒いこって」

轡「ふふっ。可愛いって所だけ聞いておくよ」

兵士1「あんた、色々勿体ないな」

轡「キミは色々残念だよね」

兵士1「へいへい」

轡「うふふ……」クスクス

王女「なに楽しそうにしてるのよ」

兵士1「こりゃ王女様。ご機嫌麗しゅう」

王女「はいはい。社交辞令は結構よ」

兵士1「了解。昨夜の事の報告に来ましたぜ」

王女「そう。もう王宮でも噂になってるわよ」

兵士1「はあ」

王女「一先ずありがとう、兵士1。約束通りに動いてくれて」

兵士1「どうにか、ね。まさか殺すなと言われるとは思ってなかったからな」

王女「いくら騎士団長に肩入れしていても、殺してしまったら面倒多いじゃない」

兵士1「まあ……確かに」

王女「それにしても阿国には非殺の剣があると聞いていたけれど、本当に見事なものね」

兵士1「阿国の剣技は多芸が売りなんでね。ま、曲芸みたいなモンですよ」

王女「……それで。朝から来たのは、何か用があるのではなくて?」

王女「まさか報告だけって事は無いのでしょう?」

兵士1「ええ、まあ」

兵士1「中途半端に身に付けた阿国の剣技で怪我をした弟分に、稽古でもつけようかと思いまして」

王女「なるほどね」

兵士1「で、馬丁の奴は居ますか?」

王女「馬丁は姫と昼頃に来る予定よ」

轡「時間が惜しいなら、ボクが呼びに行こうか?」

兵士1「今は姫様と一緒に居るんだろ。邪魔する様な野暮はしねぇよ」

轡「へぇ……なかなか紳士じゃない」

王女「意外ね」

兵士1「そりゃどうも」

投下終了
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投下開始

―姫私室・書斎―

姫「ここの構成式のサーキットが……」ブツブツ

姫「ううん、これじゃ供給量が足りない。基礎構成から考え直さないと……」ブツブツ

馬丁「姫、何やってるんだ?」

姫「キャッ!?」ビクッ

馬丁「うわっ」

姫「ば……馬丁ですか」ゴソゴソ

馬丁「(何か隠した?)」

馬丁「お茶をいれたから呼びに来たんだ」

姫「ありがとう、馬丁。すぐ向かいます」

馬丁「勉強か?」

姫「はい」

馬丁「切りが悪いなら、後でいれ直すぞ」

姫「いえ。少し煮詰まっていましたので、お茶をいただいて気分を変えようと思います」

馬丁「分かった。姫、手を」スッ

姫「ありがとう。では、行きましょう」

馬丁「近衛程上手くいれられないから、余り期待しないでくれよ」カチャカチャ

姫「うふふ。それなら一層の期待を寄せないと」クスッ

馬丁「参ったな……」コポコポコポ

馬丁「さ、どうぞ」カチャ

姫「ありがとう」カチャ

馬丁「……」

姫「……良い香り」

姫「……うん。美味しいわ。馬丁」ニコッ

馬丁「良かった……」ホッ

姫「温度と味。近衛の煎れる物と比べても遜色無いわ」

姫「わたくしは馬丁のいれるお茶……好きよ」

馬丁「姫が喜んでくれるなら、覚えたかいがあるってもんだな」

姫「えへへ……」

馬丁「あ……」

馬丁「(あの頃と変わらない、姫の笑顔だ)」

姫「どうしたの、馬丁?」

馬丁「なんでもないよ」

姫「ほんと?」

馬丁「ああ。それと姫、口調が戻ってる」

姫「あっ」アセッ

馬丁「(王族に相応しい喋り方を身に付ける)」

馬丁「(近衛は姫の口調の変化を、そう説明していた)」

馬丁「(姫が勤勉となり、口調と振る舞いを変えたのは、初視察以降の事だ)」

馬丁「(思う所があるのだろう。姫は変わろうとしている)」

馬丁「(この変化は彼女の騎士として嬉しい反面、どこか寂しくもあった)」

姫「馬丁、考え事?」

馬丁「ああ。ちょっと、な」

姫「悩みがあるなら、相談してね?」

馬丁「ありがとう。それはそうと、口調が……」

姫「今日はもう、お姫様お休みなの! 良いでしょ、お兄ちゃんっ」

馬丁「また懐かしい呼び方を……」

馬丁「でも、休みなら仕方ないか」

姫「えへへ……。うんっ、お休みだから仕方ないよね!」

馬丁「そういえば勉強煮詰まってたみたいだけど、今は何の勉強をしてるんだ?」

姫「うーんとね……」

馬丁「?」

姫「秘密!」

馬丁「またか。前に塵と話してた時も秘密って言ってたよな」

姫「ごめんね、お兄ちゃん。でも、今お勉強している事は自分の力だけでやりたいの」

姫「わたしもお兄ちゃんの力になりたいから……」

姫「だからね、まだ秘密。言ったらお兄ちゃん絶対助けてくれるもん」

馬丁「そりゃ、俺も姫の助けになりたいからな」

馬丁「でも自分の力だけでって言うなら何も言わない」

姫「お兄ちゃん……ありがとう」

馬丁「けどさ、応援くらいはさせてくれよ」

馬丁「まあ、お茶を煎れるくらいしか出来ないけどさ」

姫「ううん、嬉しい。嬉しいよ、お兄ちゃん」

馬丁「へへ……」

姫「えへへ……」

姫「(わたしだって大切な人の力になってみせるんだから……!)」

コンコン

近衛「姫様、只今戻りました」ガチャ

馬丁「よ。おかえり」

近衛「ば、馬丁!? なぜ此処にッ!?」

馬丁「なぜって……連れてきた奴がそれを言うか?」

近衛「そ、そうだったな。済まない、失念していた」

姫「おかえりなさい、近衛。実家はどうでしたか?」

近衛「……ッ」

近衛「はい。何時も通りでした」

姫「……そう」

近衛「はい」

馬丁「……なあ、近衛。実家で何かあったのか?」

近衛「!?」

近衛「……何かとは?」

馬丁「いや、何か顔色良く無いしさ」

近衛「これは、久し振りの実家で上手く寝付けなくてだな……」アセアセ

姫「……」

馬丁「そうか。なら良いんだ」

近衛「そういえば姫様、そろそろ離宮へ向かう時間では?」

姫「そうだったわ。馬丁、着替えるので席を外して下さい」

馬丁「ああ」ガチャ

姫「近衛は着替えを手伝ってちょうだい」

近衛「はっ」

近衛「では……」シュルッ

姫「今日はあのドレスにします」

近衛「はい」

姫「……ねえ、近衛」

近衛「なんでしょうか、姫様」

姫「涙の跡、赤くなってる」

近衛「……やはり姫様は誤魔化せませんね」

姫「何があったの?」

近衛「申し訳ありません。たとえ姫様でも、こればかりは……」

姫「……聞いてはいけないの?」

近衛「私だけの問題では無いものでして……」

姫「そう……。分かった、もう聞かない」

姫「けど、何かあったら必ずわたくしを頼って下さいね?」

近衛「……はいっ」

姫「後の着付けは一人で出来ます。近衛は塵を呼んできて下さい」

近衛「分かりました」

近衛「(ありがとうございます、姫様)」

ガチャ

馬丁「もう着替え終わったのか」

近衛「馬丁……。いや、後は一人で着付けられると言われたので、これから塵を迎えに行く所だ」

馬丁「そうか。姿隠しの魔法がないと、俺も離宮に行けないもんな」

近衛「ああ」チラッ

馬丁「どうした?」

近衛「あ、あの、馬丁……」ボソッ

馬丁「……」

近衛「馬丁……ッ、私は、私はっ……!」ジワッ

馬丁「どうした、近衛」

近衛「あ、いや。その……何でもないッ」ゴシゴシ

馬丁「何でも無い様には見えない」

近衛「さてっ! 早く塵を呼びに行かねばな!」ガチャ

馬丁「あ、おい!」

近衛「直ぐに戻る」

バタンッ

馬丁「……」

馬丁「何があったんだよ、近衛……」

投下終了
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投下開始

―――――――――――

「旦那、やはり旦那の睨んだ通りでしたぜ」

「野郎、案の定郊外に別荘を幾つか持ってました」

「野郎お付きの御者の話じゃ、馬車に件の使用人だけじゃなく、どこから連れて来たのかも分からない娘も、その別荘の内の一つに何人か乗せて行ったって話です」

兵士2「……そうですか」

副長「やはり叩けば埃が出ましたね」

「ったく、胸糞悪い野郎ですぜ。いっそ始末しやしょうか?」

兵士2「それは駄目です。暗殺をしては彼の罪を暴く事が出来ないばかりか、貴方達にも危険が及びます」

兵士2「例え盗賊ギルドであっても、暗殺などという行為に手を染めてはなりません。分かりますね?」

「……分かっちゃいますが…………」

副長「今は王女様を信じ、悪辣な虚飾の徒の罪を白日の下に晒し、彼に正当な罰が降るよう動きましょう」

「……どうも熱くなると口が滑っていけねぇや」

「旦那。依頼人の希望に応える情報を完璧に集めて、あの糞野郎を磔にしてみせましょうぜ」

副長「はい。必ず彼に裁きを」

―夜・離宮中庭―

塵「馬丁、立てるかい?」

馬丁「今は芝生の匂いが心地良いんだ。暫く横にさせてくれ……」グッタリ

塵「キミがあっさり負けるとはね」

馬丁「動きがまるで違った……」

馬丁「(それに今朝の近衛の様子も気になったし。とは言わない方が良いか)」

馬丁「……俺の剣閃なんて、ただの擬い物だったんだな」

塵「ならボクは擬い物の剣に負けた事になるのかな」

馬丁「……悪い」

塵「ふふ。キミが腐ってるからからかったんだよ」

馬丁「お前なぁ……」

塵「ふふふ……」

塵「それにしても凄かったね」

馬丁「ああ」

塵「急拵えのクレイゴーレムとはいえ、一瞬でその5体全ての首を刎ねたあの技。えっと、なんて名前だったかな」

馬丁「……天車引留」

塵「まるで曲芸だったね」

馬丁「ああ。でも――」

馬丁「綺麗だと……。そう思った」

塵「――分かるよ」クスッ

塵「キミの太刀筋を初めて見た時、ボクもそう思ったからね」

馬丁「はは……」

馬丁「……はぁ…………。なぁ、塵」

塵「何だい?」

馬丁「俺も、あの高みに行けるかな」

塵「……ボクに聞いて来る様じゃ無理だろうね」

馬丁「そうか。そう……だよな」

塵「でもね」

塵「キミがお姫様の騎士であろうとする精神が擬い物では無いのなら、全く無理とは言えないんじゃないかな?」

塵「ボクは、そう思うよ」

塵「ねえ、馬丁」

馬丁「なんだ?」

塵「愛してるよ」

馬丁「……何だよ唐突に」

塵「ふふ。なら……」

轡「ねえ、馬丁」

馬丁「!?」

轡「愛してるわ」

馬丁「……止めろ……止めてくれ…………」

轡「本心だよ?」

馬丁「……」

轡「はぁ……」

轡「これでもダメ、かぁ……」

轡「キミはつくづくガードが硬いね」

馬丁「本気でも冗談でも、その姿で言わないでくれ」

轡「なにを?」

馬丁「……愛してるって言葉をだ」

轡「イヤ」

馬丁「即答かい」

轡「ボクはもう誰にも縛られない。だから、イヤ」

轡「それに、キミを好きだという感情は隠したくない」

馬丁「……そうか」

轡「ま、クサってるキミをからかう一環だったんだけどね」クスッ

馬丁「そうかい」ハァ…

轡「そろそろ部屋に戻ろうか?」

馬丁「ああ」

轡「よし。ボクが温めた葡萄酒を用意してあげるよ」

轡「キミはそれを飲んで、ゆっくり休んでくれ」

馬丁「……ああ」

轡「それじゃ、行こうか」スッ

馬丁「……塵」グッ

轡「なんだい?」

馬丁「ありがとう」

轡「……っ」ドキッ

轡「ズルいな、キミは……」

―離宮・王女私室―

王女「あら、もう反省は終わったの?」

馬丁「まあな。今後の事もあるし、そう長い間腐ってる訳にもいかないし、塵に励まされたしな」

王女「ふぅん。仲のよろしい事ですわね」

馬丁「殺しあった事も、殺した事もあったのにな。縁ってのは分からないもんだ」

王女「ふふっ。本当ね」

王女「(そういえば、私と馬丁の出会いも塵のおかげなのよね)」

馬丁「ん、どうした?」

王女「いえ、別に何でもないわ。そういえば塵は?」

馬丁「ホットワイン作りに厨房に行ったよ」

王女「あら甲斐甲斐しい」

王女「好きな男性に尽くすなんて、姿だけじゃなくて中身も完璧に乙女ね」

馬丁「おいおい……」

王女「(塵……中身は男だと思ってたけど、これは意外かも)」

轡「お待たせ」

近衛「……」

馬丁「近衛……」

轡「さっきそこで会ったんだ」

近衛「馬丁、同席しても構わないだろうか?」

馬丁「歓迎するよ。王女も塵も構わないよな?」

王女「ええ。勿論」

轡「ボクも構わないよ」

近衛「ありがとうございます、王女様。塵も」

馬丁「そういえば姫は?」

近衛「まだ勉強が残ってると言っていたので、先に部屋まで送って来た」

馬丁「じゃあ、わざわざ戻ってきたのか」

近衛「ああ。お前と……、その、なんだ。話をしたくてな」

轡「へぇ……」

王女「ふぅん……」

馬丁「と、取り敢えず塵の作ってくれたホットワイン飲もうぜッ」

近衛「ああ。そうしよう」

轡「(今朝から様子がおかしいとは思ってたけど……)」

王女「(今日は随分積極的ね……)」

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そろそろ一区切り
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轡「話は席に着いてからにしようよ。折角温めたワインが冷めちゃうじゃないか」

近衛「そうだな」

馬丁「ああ」

王女「それにしても、ワインを温めただけとは思えないくらい良い香りね」

轡「蜂蜜にスパイス、それと果汁を少々加えているから只のワインと違うよ」

近衛「随分と手が込んでいるんだな」

轡「このくらいフツーさ」クスッ

近衛「ううむ……意外な一面だ。しかしワインを温めるなんて初めていただくぞ」

轡「下流層の贅沢品だからね。キミ達貴族には縁が無いんじゃないかな」

馬丁「俺も久し振りだよ。寒い時期の安息日によく飲んだっけ……」

轡「ボクは安息日の屋台にある、安い葡萄酒で作ったヤツが好きだったよ」

馬丁「ああ、俺もだ。あの安酒を砂糖で無理矢理甘くしたって感じが、かえって子供舌には堪らないんだよな」

轡「ふふっ。果物の砂糖漬けもあるから、一緒にどうぞ」

馬丁「凄いな。これもお前が作ったのか?」

轡「まあね。まだ春先で新鮮な果物は手に入らないから、乾燥果実で代用したけど」

王女「……」

近衛「……」

王女「近衛」

近衛「はっ。何でしょうか、王女様」

王女「今程、王家に生まれた事を悔やんだ日はないわ」

近衛「……はい」

王女「それにしても本当に意外ね、塵」

轡「なにがかな?」

王女「貴方って、料理とかそういう事に疎そうに見えたから」

轡「師匠に炊事洗濯夜伽、何でも出来る様に仕込まれたからね」

轡「それにボク、甘い物好きだから」

王女「あなた、さらっと凄い事口にしなかった?」

轡「さあ?」

馬丁「ま、まあ話は飲みながらにしようぜ」

近衛「う、うむ。そうしよう」

轡「そうだね。じゃ、用意するよ」

王女「……あら、美味しい」

近衛「はい。初めて飲みましたが、これはなかなか……」

轡「ありがと。一度沸かしているから酔う事は無いと思うけど、あまり飲み過ぎないでね」

馬丁「懐かしい味だな。身体も暖まるし、何か落ち着く」

轡「まだ飲むならおかわり作ろうか?」

王女「ええ、お願い」

轡「いいよ。ちょっと待ってて」

王女「塵、後でレシピを料理長に教えてくれない?」

轡「気が向いたらね」クスッ

馬丁「自分が覚えるんじゃないのか」

王女「立場上、余り簡単に厨房へは入れないのよ」

馬丁「そうなのか……」

近衛「王族や貴族は面倒な事も多いのだ。馬丁」

馬丁「……だろうな」

馬丁「そういや近衛、話ってなんだ?」

近衛「ああ、そうだったな」

王女「……」

近衛「これを、受け取ってくれないか」スッ

馬丁「鍵?」

近衛「私の部屋の鍵だ」

王女「!?」

馬丁「……どうしたんだよ、お前」

近衛「何時でも構わないから、二人きりで話しがしたい」

近衛「……その、お前に相談したい事があってな…………」

馬丁「……分かった。預かるよ」

王女「へぇ……」

王女「(預かる、ねぇ……)」

近衛「あ、あの。王女様?」

王女「ふふ。頑張りなさいな」

近衛「……」

馬丁「(なんか微妙な空気だ)」

近衛「そ、それと!」

馬丁「お、おう?」

近衛「また私の使い古しで悪いのだが、筋力強化のコモンルーンをお前に渡しておく」

馬丁「コモンルーン? どうして俺に?」

王女「……作戦最終段階の成功率を上げる為よ」

馬丁「え、でも俺は魔法苦手だぞ」

近衛「お前の特性上、必要らしいのだ。だから実家から予備を持って来た」

王女「予備を渡したのじゃないの?」

近衛「は、あ、いや、その……っ」

王女「(この子意外と面白い……)」

王女「そうね。良い機会だし説明は塵にさせるから、彼が戻って来たら続きをしましょ」

馬丁「ああ。分かった」

近衛「うう……」

轡「で、何で近衛クンは赤面してるんだい?」

近衛「!?」

近衛「の、飲み過ぎたのかもしれないな! 私は酒が余り得意では無いしな!」

王女「ふふふ……」

轡「それにしても、キミ達は無防備だよね」

王女「そうかしら?」

轡「元パルチザンのボクが毒を盛るとか考えないの?」

王女「貴方が馬丁に出す物にそんな事するとは思えないもの。それに私達を殺すつもりなら、もっと前に幾らでも隙があったのではなくて?」

轡「ふふっ……。ま、いいや。それで、何故馬丁にコモンルーンを預けたか、だっけ?」

馬丁「ああ。俺、前に近衛から貰った敏捷強化のコモンルーンしか使えないんだ」

馬丁「適性属性も無いし、魔法なら俺以外が使った方が良くないか?」

轡「そう……」

馬丁「ああ。だから」

轡「キミはね、馬丁」

馬丁「……」

轡「キミは先天属性を持たないタイプなんだ」

轡「熱、星、大気、水……。いや、精霊だと火氷地風水だったかな」

轡「生き物なら生まれ落ちた時、何らかの精霊の加護を得る」

轡「でも、キミはそれが無い」

轡「俗に言う、生命の精霊との親和性。それがキミの特性なんだ、馬丁」

馬丁「生命の精霊は、精霊じゃないのか?」

轡「便宜上、精霊となってる。でも実際は未解明のモノだよ」

轡「噛み砕いて言うなら、肉体と精神を結び付ける魂の力」

轡「キミは他人よりその力が強いんだ」

馬丁「はあ……」

轡「生命の精霊。それの力が強い者は、他の精霊の力を行使し難い」

轡「耐性も無く、精霊魔法の効果も容易に受けてしまう」

馬丁「……それって、ヤバいんじゃ」

轡「そうだね。ファイアボルト程度でも大火傷になると思う」

馬丁「そうなのか……」

轡「でもね、馬丁。身体強化魔法も強く影響するんだよ」

轡「初めてボクとキミとが戦った時、キミが敏捷強化のコモンルーンを使ったのは覚えてる?」

馬丁「……ああ」

轡「ボクは魔法使いだからね。キミの身のこなしから、どの程度身体能力が強化されるか想定できる」

轡「どの程度間合いを図ればキミの動きに合わせられるか、通常通りの効果であれば推し量れたんだ」

轡「でも実際は違った」

馬丁「俺の……特性か」

轡「そう。キミはボクの想定を遥かに上回る強化率で動いた」

轡「ボクがエナジーブラストで牽制した所為で、キミの特性に気付く事が遅れたのさ」

轡「だからボクはキミに太刀を浴びせられた」

馬丁「……」

轡「キミの特性なら、身体強化魔法の効果を誰よりも引き出せる」

轡「つまり……」

王女「姫を騎士団長から護る為に、貴方が想定を上回る力で動く必要があるのよ」

馬丁「なッ!?」

轡「あらら」

近衛「姫を、騎士団長から? 何故ですか!」

王女「……あの子が言いだしたのよ。私の代わりをする、と」

王女「私の代わりに騎士団長を誘惑して、彼を陥れるって……」

馬丁「ど、どうして!?」

王女「姫が貴方を護る為よ」

王女「貴方に護られるだけじゃなく、自分も役に立ちたい。馬丁を護りたい。そう言っていたわ」

馬丁「なんで、そんな……」

近衛「姫様……どうして私に何も言わずに……ッ」

王女「馬丁」

馬丁「……」

王女「姫を、妹を護って。お願い」

馬丁「当たり前だ!!」

王女「当たり前、ね。ありがとう、馬丁」

王女「姫はこの事を秘密にしているわ。だから、馬丁達は秘密裏に行動して」

王女「作戦は副長達の情報収集が終わり次第開始よ。最終的な手順は後日説明するわ」

馬丁「……分かった」

轡「それじゃ、これを飲んだら解散だね」

近衛「そうだな。体調を万全にする為、しっかりと休んでおかねば」

王女「ええ、そうね」

王女「……馬丁」

馬丁「なんだ?」

王女「本当なら私がやる筈だった役割なのに、ごめんなさい……」

馬丁「姫が言い出したなら、王女が謝る事無いだろ」

王女「それでも!」

馬丁「……なあ」

王女「……」

馬丁「俺は姫を護る事が当たり前で、姫は護られる事が当たり前だと思っていた」

馬丁「だから、姫が俺を護りたいって聞いてさ。凄い驚いた」

馬丁「けど、さ」

馬丁「すげぇ……嬉しかったんだ」

王女「馬丁……」

馬丁「上手い言葉が浮かばないけど、姫の想いを大事にしたい。踏み躙りたくない」

馬丁「だからこそ必ず姫を護る。俺を護ろうとする姫を」

馬丁「俺に価値を見出だしてくれた大切な人を」

轡「そして騎士団長に報復を、かな」

馬丁「……ああ」

轡「それじゃ、王女。ボク達は王宮へ戻るよ」

王女「ええ。馬丁をお願いね」

轡「うん」

馬丁「それじゃ、おやすみ」

王女「おやすみなさい、馬丁。それと、近衛と塵もおやすみなさい」

近衛「はい。おやすみなさいませ、王女様」

塵「おやすみ、王女サマ」

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―姫私室―

馬丁「さすがに姫はもう寝てたか」

姫「……」スー スー

轡「ぐっすりだね」

馬丁「こんな小さい体で何時も必死に勉強して、そして俺を守ろうって覚悟を決めてるんだな」

轡「キミは幸せ者だねぇ」

馬丁「本当だよ。今この時、俺より幸せな奴なんて居ないだろうな」

轡「妬けるなぁ」

馬丁「妬くなよ」

轡「ふふ……。馬丁、あまり声出してると姫を起こしちゃうよ?」

馬丁「あ、ああ。そうだな」

姫「……ん」スー スー

馬丁「……さて、と。姫が寝てるの確認したから、ちょっと近衛の所行って来る」

轡「浮気かい?」

馬丁「浮気って……、俺と近衛はそんな関係じゃねえよ。あいつ、何か思い詰めた顔してたから心配でさ」

馬丁「相談ごとなら、早めにした方が良いだろ?」

轡「……そう」

馬丁「そういう訳だから、行って来る」

轡「気を付けてね」

馬丁「ああ。見つからない様にしないといけないもんな」

轡(色々な意味で、だよ)クスッ

―――――――――――
――――――――
―――――
――

―近衛私室―

近衛「むぅ……」

近衛(姫の話を聞いた馬丁は、私の部屋に来てくれるだろうか……)

近衛(あいつの事だ。今頃姫が心配で眠れないだろうな)ズキッ…

近衛(……ふふっ)

近衛(この痛みは嫉妬か、恋慕か。どちらにせよ誉められた感情ではないか)

近衛(姫様……。馬丁……)

近衛「会いたいな、馬丁に……」

近衛「……会いたいよ、馬丁…………」グスッ

近衛「こんな気持ち抱えたままじゃ、私……」

近衛「馬丁……」ポロッ

近衛「ごめんなさい……ごめんなさい……」ポロポロ…

コンコン

近衛「!?」

近衛(ウソっ!? まさか、馬丁……?)ゴシゴシ

コンコン

近衛「……馬丁か」

馬丁『ああ』

近衛「今開ける」ガチャ

馬丁「遅くに悪い。でも相談なら早い方が良いと思って……って、うわ!?」グイッ

バタンッ

馬丁「えっ、こ、この……え?」

馬丁(な、なんで近衛が俺に抱きついてんだ)

馬丁(それに、泣いて……)

近衛「急に来るな、馬鹿者!」ギューッ

馬丁「……」

近衛「私にも心の準備という物があるのだっ。それを何でっ、お前の顔を見たい、お前に会いたいと思っている時に来る!!」

馬丁「えっと、なんて言うか、ごめん……」

近衛「男が簡単謝るな!」

馬丁「どうすりゃ良いんだよ……」

―――――――――――

馬丁「……落ち着いたか?」

近衛「……ああ」

馬丁「なら、放してくれないか」

近衛「だめだ」ギュッ

馬丁「……分かった」

近衛「済まない。今、顔を見られたくないのだ」

馬丁(だろうな。上着を通して胸元に湿り気が伝わって来てる)

馬丁「分かったよ。このままで良い。だから、話してくれないか」

近衛「……」

馬丁「相談……あるんだろ?」

近衛「ああ」

馬丁「何でも聞くよ。これでも聞くのだけは得意なんだぜ?」

近衛「……」

馬丁「……近衛」

近衛「ふっ」クスッ

馬丁「……」

近衛「これだけ強く抱き締めても、お前からは抱き締めてくれないのだな」

馬丁「それは、なんと言うか……」

近衛「良いんだ。さ、馬丁は奥で待っていてくれ。飲み物を持って来る」

馬丁「……分かった」

投下終了
着々とトロイメライ
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投下開始

―――――――――――

近衛「待たせたな」カラカラ

馬丁「……」

近衛「林檎酒だ。お前も飲むだろ?」

馬丁「……ああ」

馬丁(部屋に連れ込まれた時は気が動転して気付かなかったが、近衛の奴薄手の寝衣一枚じゃないか……)

近衛「どうかしたか」ズイッ

馬丁「い、いや。そんな格好で寒く無いのか?」

近衛「なんだ、私の見慣れぬ姿に照れているのか」クスッ

馬丁「んな訳っ……、いやあるけどさ……」

近衛「はははっ。悪いな、慣れろ」

馬丁「慣れるかよっ」

近衛「私とて寝る時くらいは楽な姿で居たいのだ」

馬丁「そうかい……」

近衛「ほら飲め。酔えば気にもならなくなるぞ」カチャ

馬丁「そういうもんか? でもまあ、一杯貰うよ」カチャ

馬丁「……で、相談ってのは何なんだ?」

近衛「その前に、少し昔話をしないか」

馬丁「昔話? 別に構わないけど……」

近衛「馬丁よ。私達が初めて会った時の事、覚えているか?」

馬丁「……忘れる筈が無いって」

近衛「くくっ。それもそうだな」

馬丁「俺の大事な干し肉捨てて、蛮族蛮族って罵ったかと思えば、いきなり抜刀だぜ? 忘れろって言われたって忘れられない」

近衛「厩舎の小間使いが姫様を誑かしている様に見えたのだ。仕方なかろう」

馬丁「だからってなぁ」

近衛「それにあの時の私は、貴族側の思考に寄っていた」

近衛「……いいや。男を嫌悪していた。か」

馬丁「……どうしてか、聞いても良いか」

近衛「うむ……」グイッ

馬丁「近衛、飲み過ぎじゃ」

近衛「悪いな。酔わずに話せる事じゃ無いんだ」

馬丁「…………」

近衛「お前と出会う前、私は一つの遠征に参加した」

近衛「任務は山賊退治。至極簡単な任務だ」

近衛「そして私は、その任務で初めて騎士団による徴収という物を目の当たりにした」

近衛「暴力と脅迫で物資を強奪し、若い娘を攫う騎士の姿をな」

近衛「彼等にとっては当たり前の事だっからか、それとも私が“女”だから幾らでも口を封じる手段があると踏んだのか、私が居ようと構わずに徴収を行ったんだ」

近衛「悲惨な光景だった。許せなかった」

近衛「騎士団の行いも、己の無力さも……」

近衛「そんな私の心情など関係無く、私達は山賊の拠点へと向かった」

近衛「村落にも満たない、規模の小さな拠点。でも、一生忘れようが無い場所……」グイッ ゴクッ ゴクッ

近衛「……私達は日が落ち、天に惑いの星が現れる頃合いに拠点へと突入した」

近衛「私は勇んで先陣を切り進んだよ。何しろ初陣だったからな」

近衛「しかし、そこで私は見てしまった」

近衛「山賊達が酒をあおり、攫った娘達を犯している姿を」

近衛「騎士達の行いだけではなく、山賊達のそれまで見てしまったんだ」

近衛「……その後の事はよく覚えていない。ただ、沢山殺した。そんな漠然とした記憶だけが残っている」

近衛「我に帰った私は、直ぐに攫われた者が他に居ないか探した」

近衛「一刻も早く救いたかった」

近衛「だが、私が目にしたのは……人間としての尊厳を全て打ち砕かれた姿をした者達だけだった」

近衛「足首を切り落とされた者、顔中腫れ上がり歯を砕かれた者、言葉に出来ない程の凄惨な仕打ちを受けたであろう者達しか居なかった……!」

近衛「それでも私は救いたかった! だから駆け寄ったっ!」

近衛「けれど、彼女達は……」

近衛「声さえ出ない、その口で『殺して』と……」

近衛「何度も、何度もっ。殺してと口を動かすんだっ! だから、私は……っ」

馬丁「もう良い。もう良いよ、近衛」

近衛「だから殺した! 全員、全て、山賊も攫われた娘達も!!」

馬丁「近衛ッ!!」ガシッ

近衛「……済まない、少し……昂ぶってしまった」

馬丁「ごめんな、俺がお前に聞かなければ……」

近衛「良いんだ。本音を言うと、一度吐き出してしまいたかった思い出だからな」ゴクゴク

近衛「……ふふっ。お前に救われるのは、これで二度目だな」

馬丁「救う? 俺が?」

近衛「ああ。知らなかったのか? 私はお前に救われていたんだ」

近衛「今と、初めて会った時に、な」

馬丁「初めて会った時って、ただ喧嘩しただけじゃなかったか……?」

近衛「分からないか?」

馬丁「正直、分からない」

近衛「……くくっ、はははははっ」

馬丁「近衛?」

近衛「くくくっ、いや、済まない」

近衛「だからこそ。なんだな」

近衛「そんなお前だからこそ、私は救われたのだな……」

馬丁「どういう事だよ……」ムッ

近衛「ふふっ。まあ、そういう事さ」

馬丁「全っ然訳分かんねぇって。何で出会った時に、俺が近衛を救った事になってるんだ?」

近衛「お前が、私の剣を折ってくれたから」

馬丁「剣を折るのが、何でだ?」

近衛「あの剣は……私の遠征が決まった時に、父上から戴いた物だ」

馬丁「……そうか。そういう事か」

近衛「あの時、剣と同時に私の心に貯まった澱も払ってくれていたんだよ、馬丁は」

近衛「悪夢の様な出来事の中、幾つもの命を切り伏せた剣」

近衛「それを、お前が折ってくれたんだ。私の澱みごと」

近衛「まあ、あの時は感情が昂ぶり戦いを続けようとしたがな」クスッ

馬丁「だいたい分かったよ」

馬丁「近衛が男を嫌ってた理由も、俺に救われたって話も」

近衛「うむ。私はこれでも馬丁には深く感謝しているという事が伝わったか?」

馬丁「まあね。でも何でこの話を?」

近衛「私が馬丁に感謝しているという事を、改めて知って欲しかった。では駄目か?」

馬丁「……いや。駄目じゃないさ」

近衛「ありがとう、馬丁」

馬丁「へへ。何か照れ臭いな、こういうの」

近衛(まあ、今でも馬丁に兄上、兵士長殿や厩長殿以外の男性は苦手なんだがな)

近衛「あー、っと。それで、だ……」

近衛「相談というのは、だな……」

馬丁「何でも言ってくれ。俺に出来る事なら、なんだってやるよ」

近衛「本当か!?」

馬丁「当たり前だろ」

近衛「そうか。ふふっ、良かった……」

馬丁「さ、聞くぜ。どんと来い!」

近衛「ならば言うぞ」

近衛「……その、馬丁」

近衛「私を、その……」

馬丁「何だよ。はっきりしないなんて、近衛らしくない」

近衛「むっ。ならばはっきり言う。良く聞け!」

馬丁「よし来い!」

近衛「馬丁っ、私を……私を抱いてくれッ!!!!」

馬丁「……」

近衛「……」

馬丁「…………え?」

投下終了
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投下開始

馬丁「抱けって……近衛、どういう……」

近衛「お前も子供じゃないのなら分かれっ!」カアッ

馬丁「分かってるから聞いてるんだ!」

近衛「ならば私を抱いてくれ! 何だってやるというさっきの言葉は偽りか!?」

馬丁「……っ」

近衛「馬丁……私は女としての魅力が無いか?」

近衛「私は姫様の様に淑やかでも、王女様の様に明朗でも無い」

近衛「愛嬌も無い、可愛げも無い、いつもお前には口煩くしている。だけど……!」

馬丁「落ち着けよ!」ガシッ

近衛「ば、馬丁っ、急に何を!?」

馬丁「近衛。俺が言ったのは、聞きたい事はお前の女としての魅力の事じゃ無い」ギュッ

近衛「あ……」

馬丁「どうして抱けなんて言ったかだよ」

近衛「馬丁……」ギュウゥッ

近衛「すまない……馬丁……」

馬丁「ああ」

近衛「だ、駄目なんだ……お前じゃないと……」

近衛「お前じゃないと、怖いんだ……」

馬丁「俺じゃないと怖い?」

近衛「……」

馬丁「近衛……」

近衛「……うう」グスッ

馬丁「……」ググッ

近衛「ん……」

近衛「(馬丁の匂い……馬丁の体温……)」

近衛「(心が溶かされそう……)」

近衛「……馬丁」

馬丁「うん」

近衛「私は……」

近衛「私は、結婚しなくてはいけなくなった……」

馬丁「……そうか」

近衛「冷たいな、馬丁は」

馬丁「ごめん」

近衛「むっ……もう知らんっ」ギュウッ

馬丁「どう言って良いか分からなくて……」

近衛「知らん知らんっ」ギュウゥ

馬丁「無神経だった。ごめん」

近衛「お前など知らんと言っているっ」ギュウウゥッ

馬丁「……近衛は俺の大切な人だから、幸せになって欲しいんだ」

近衛「!?」

馬丁「だからどう言って良いのか分からなかった。祝福すれば良いのか分からなかった……」

近衛「馬丁……」

近衛「馬丁。私、結婚したくない」

近衛「顔も知らない男に嫁ぐなんて嫌」

近衛「誰とも知らない男に身体を許すなんてしたくない」

馬丁「ああ」

近衛「だから馬丁を利用しようと思った……」

馬丁「利用か」

近衛「相手は上級貴族。だから婚前に堂々と不貞を働く女など妻に取らぬであろう?」

馬丁「……そうだな」

近衛「呆れたか?」

馬丁「どうかな」

近衛「軽蔑しただろうな」

馬丁「軽蔑なんかしない」

近衛「何故?」

馬丁「お前がどれだけ男を嫌悪してるか知ったから」

近衛「……」

馬丁「お前がどれだけ俺を頼ってくれているかも分かったから」

近衛「……お前は不意に欲しい言葉を寄越すのだな」

馬丁「なぁ、近衛」

近衛「馬丁に迷惑は掛けない」

馬丁「……」

近衛「私が契った相手がお前だとは絶対に言わない。お前に私の伴侶となれとは迫らない」

近衛「だから……その、駄目、か……?」

馬丁「口で言うだけじゃ駄目なのか?」

近衛「確かめられる可能性があるんだ……」

馬丁「……」

近衛「それに万が一相手が不貞を許した時、お前が抱いてくれたという思い出があれば何をされても耐えられる」

馬丁「何をされてもって、近衛……」

近衛「…………」

馬丁「(近衛……目に涙を浮かべて、体は小刻みに奮えてる)」

近衛「それとな、馬丁……」ギュッ

馬丁「……」

近衛「これは言うか悩んだのだがな……」

馬丁「ああ」

近衛「私は……お前が好きだ。たぶん、愛している」


馬丁「……うん」

近衛「驚かないのか?」

馬丁「ああ。まぁ、な……」

近衛「私の想いに気付いていた。なんて事は……無いか」

馬丁「抱けなんて言われたからな。少なくとも好意を抱いてないと、そんな事言わないだろ?」

近衛「うむ。違いない」クスッ

馬丁「(本当はものすごい驚いてるんだけどな)」

半端だけど投下終了
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変な時間に起きてしまった……
投下開始

馬丁「けど……本当に俺で良いのか?」

近衛「何度も言わせる気か? 馬丁は意地が悪いな」

馬丁「……そうだな、俺は意地悪だよ。それに意気地無しだ」

馬丁「だから、お前との関係が壊れる事が怖い」

近衛「……」ギュッ

馬丁「お前との関係だけじゃない。姫とお前の関係だって……」

近衛「やはり姫様の気持ちは分かっていたのだな」

馬丁「……分かっていても、どうにも為らないんだけどな」

馬丁「平民上がりの俺が、姫の想いに応える訳にはいかない。そうだろ?」

近衛「……」

馬丁「……何か言ってくれよ」

近衛「済まぬ……」

馬丁「なあ、近衛……」

近衛「なんだ?」

馬丁「俺は姫の想いに応えられない意気地無しで、近衛との関係を壊すのが怖い臆病者なんだ」

馬丁「こんな俺で、本当に良いのか?」

近衛「ふふっ」

馬丁「なんだよ……」

近衛「私を抱く腕を緩めずに良く言う。と、思ってな」クスクス

馬丁「それは……」

馬丁「(それは……手を離せば、近衛と二度と会えない様な気がするから……)」

馬丁「なんて言え無いよな……」ボソ…

近衛「どうした?」

馬丁「何でも無い……」ギュウゥッ

近衛「むう……はっきりせん奴め。こうしてくれる!」チュッ

馬丁「――――っ!?」

近衛「良いか、聞きたければ何度でも言ってやるっ」

近衛「私はお前が好きだ!」

近衛「馬丁が好きだっ!」

近衛「馬丁と契りたい! 馬丁と抱き合いたい! もっと唇を交わしたい!」

近衛「お前に触れて欲しい! お前に触れていたい! お前に求められたい!」ウルッ

馬丁「こ、近衛……」

近衛「お前と共に生きたい! お前と共に老いたい! お前に想われ、お前を想い逝きたい!」ポロッ

近衛「私は馬丁と一緒に居たいんだ! お前じゃないと駄目なんだ!! 私は……、私は……っ!」ポロポロ…

馬丁「……近衛」

近衛「でも、それ以上に、馬丁の負担に為りたくないのっ!!」グスッ

近衛「馬丁の足枷になんか為りたくないの! 分かってよ、ばかぁ……」ポロポロポロ…

馬丁「……ん」ギュッ

馬丁「(分かんねぇよ、近衛……)」

馬丁「(あの理知的な近衛が、無茶苦茶言い分なんてな……)」

馬丁「……ずっと、我慢して来たんだな」

近衛「……うん」グスッ

馬丁「ごめんな」ナデナデ

近衛「えへへ……」

馬丁「!?」ドキッ

馬丁「(ああ、そうか。ずっと近衛に抱いてた感情が。ずっと見ない振りしてきた想いが漸く理解出来た)」

馬丁「(俺は近衛に恋をしそうになって居たんだ)」

馬丁「(近衛が女の子なんだって意識した時からずっと……)」

馬丁「(どんな辛い時でも真っ先に俺の側に来てくれたこの女の子を)」

馬丁「(俺は好きになろうとして居たんだ……)」

馬丁「(でも……)」

馬丁「(でも俺は、あいつの騎士になると誓ったんだろ)」

馬丁「(それを……姫の想いを裏切る様な真似をして良いのか?)」

馬丁「……」ギリッ

馬丁「(俺は……どうしたいんだよ……っ)」

近衛「馬丁?」

馬丁「……近衛」ググッ

近衛「……」ギュウウウゥッ

馬丁「俺は姫を傷付けたくない」

近衛「うん……」ズキッ

馬丁「だけど……」

近衛「だけど?」

馬丁「お前を失いたくないんだ」

近衛「馬丁……」

馬丁「何時も強がってる、お前が心配なんだ」

馬丁「弱い所を必死に隠しているお前が心配なんだ」

馬丁「何時も俺を気遣ってくれる近衛が。自分よりも姫や俺に尽くしてくれる近衛が」

近衛「馬丁……」

馬丁「近衛……。俺も近衛が好きだ。たぶん、きっと、ずっと前から」

近衛「……ありがとう、馬丁」

馬丁「初めてだから上手く出来ないと思う。それでも構わないか?」

近衛「良いよ。馬丁が初めての相手なら、私、怖く無いから」クスッ

馬丁「分かった。辛かったら言ってくれよ」

近衛「うん……」チュッ

馬丁「ん……」

近衛「(馬丁……貴方の想いが愛じゃなくても良い。だから今は……)」

近衛「馬丁……今は私だけを見て……」

馬丁「……ああ。ベッドに寝かせるぞ」スッ

近衛「あ……」ポスッ

馬丁「近衛」

近衛「馬丁……来て。お願い……」

馬丁「(ごめん、姫……)」

近衛「(ごめんなさい、姫様……)」

投下終了
なんか思ってたよりドロドロしてきた

あ、遅筆のクセに近い内、以前ぼんやり書いた幼馴染物?の後日談を書く予定
こちらの進行には影響出さない様に頑張ります

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―――――――――――
――――――――
―――――
――

馬丁「……まだ痛むか?」

近衛「ん……ちょっとだけ……」ギシッ

馬丁「あまり無理するなよ」

近衛「ふふっ」

馬丁「どうした?」

近衛「女性として扱われるのも悪くないな。って思ったの」

馬丁「そ、そうか……」

近衛「馬丁はどうだった?」クスッ

馬丁「聞くなよ、恥ずかしい」

近衛「顔赤いよ?」

馬丁「お前なあ……」

近衛「ね、馬丁」

馬丁「なんだ、近衛」

近衛「馬丁の全部、受け取ったから」サスサス

馬丁「あ、ああ……」

馬丁「しかしなぁ……逃げられない様に足で固定しなくたって良いんじゃないか?」

近衛「あ、あれは感極まってつい……っ」

馬丁「そんな事しなくても俺は近衛が望む様にするよ」

近衛「うん……」

馬丁「それとな。近衛は俺に迷惑掛けないって言ってたけど、俺はちゃんと男として責任を取るつもりだから」

近衛「……ありがとう。馬丁」

馬丁「当たり前だろ、近衛」

近衛「うん……っ」

近衛「(精霊よ……生命の精霊よ)」

近衛「(願わくば我が身に新たな生命を宿らせたまえ……)」

近衛「……ねえ馬丁」

馬丁「何だ?」

近衛「今夜はこのまま一緒が良いな……」

馬丁「良いのか?」

近衛「うん。馬丁に傍に居て欲しい」

馬丁「はは……。すっかり甘えん坊になったな」

近衛「馬丁と二人きりの時だけよ? ね、良いでしょ?」

馬丁「近衛の頼みを断る訳無いだろ」

近衛「えへへ……」ギュッ

馬丁「……」ギュッ

近衛「……大好きよ。馬丁」チュウッ

馬丁「ん……」

近衛「この温もり、忘れ無いから」ギュッ

馬丁「ああ。俺もだ」ググッ

近衛「(ごめん。ごめんね……)」

近衛「(ねえ馬丁。サヨナラを言えない私を、貴方は許してくれる?)」

近衛「(貴方の未来が幸せに満ちてる様、祈ってるからね……)」

馬丁「どうした? 人の顔じっと見て」

近衛「秘密っ」クスッ

馬丁「秘密、か」フフッ

近衛「うんっ」

近衛「(この時間が永遠なら良いのに……)」

馬丁「…………」ギュッ

投下終了
続きがちょこっと残っているので今夜投下します
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―同日・前近衛騎士長家屋敷―

「これは副長様。お帰りならば迎えを出しましたのですが」

副長「社交辞令は不要です。あの男は居ますか」

「……旦那様でしたら執務室に」

副長「ありがとう」ツカツカ

「副長様。旦那様に御用でしたら、私めがご用件を伺います」

副長「……退きなさい」

「申し訳ありません。旦那様に副長様は通すなと仰せ付けられております」

副長「場所は伝えても、そこには行かせないと」

「ご理解下さい」

副長「貴方にも立場がある事は分かっています。ですが、ここは押し通させていただきますよ」スッ

精霊魔法:足掴み

「か、影が足をっ? これは……」

副長「ただのスネアです。暫く地の精霊と戯れていて下さい」

「くっ……お待ち下さい、副長様!」

―執務室―

バタン

?「いやに騒がしいと思ったが、やはりお前か」

副長「ええ。期待に添えるのが私の役割ですから」

?「ふん、良く言う」

副長「……お久しぶりにございます父上。いえ、前近衛騎士長」

前近衛騎士長「くくく……貴様が私を父と呼ぶか」

副長「形式的な物ですよ」

前近衛騎士長「……それで、何の用だ? 貴様は通さない様にと言った筈なのだが、ここに来たと言う事は相応の用なのだろう」

副長「ええ。妹の事で参りました」

前近衛騎士長「……近衛の事か」

副長「婚約を強行したそうですね」

前近衛騎士長「強行……? ふん。あれは喜んで受けていたぞ」

副長「……喜んで、ですか」

前近衛騎士長「話はそれだけか」

副長「ええ。婚約を強行したと言う事実が確認出来ましたので」

前近衛騎士長「……貴様」

副長「前近衛騎士長。何もかも貴方の思い通りになると思わない事です」

前近衛騎士長「何の事だかな……」

副長「私が何も知らないとでも?」

副長「妹の事、貴方の事、全て知らないとでも思っていましたか?」

前近衛騎士長「くっ。忌々しい淫魔の子め!」

副長「淫魔の子……ですか」

副長「ならば貴方は淫魔殺しですね。そして、母を死に追いやった死の使いそのものです」

前近衛騎士長「なにを馬鹿な事をっ! 私が妻を死に追いやった? あれは勝手に死んだのだ! 私に落度は無いっ!」

副長「傲慢な貴方らしい言葉だ。私が何時までも無知だと思わない事ですよ。知は血に関係無く平等に与えられるのです」

前近衛騎士長「貴様……っ」ギリッ

副長「もう一度言わせて貰います」

副長「貴方の思い通りにはさせない」

副長「近衛を傀儡に国の政を掌握など、絶対にさせない」

副長「貴方の野望は、私が打ち砕きます」

前近衛騎士長「何処までも私を邪魔を……!」チャキ

副長「変わりませんね。逆上したら暴力に訴える」

副長「老いたその身で、実力のみで騎士になった私に勝てるとでも?」

前近衛騎士「口を謹め! 汚らわしい淫魔の子がっ!!」

副長「本当に愚かな人だ。事実をねじ曲げなければ精神を保つ事すら出来ないとは……」

投下終了
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文官「や、感心しませんね」

副長「文官殿……」

文官「貴方は足が早すぎます。少しは私の歩調に合わせて下さい」

副長「申し訳ありません」

文官「以後、気を付けて下さい」

前近衛騎士長「文官、貴様何をしに私の屋敷まで出向いた」

文官「や、前近衛騎士長殿。久しい再開だと言うのにつれない物言いですね」

前近衛騎士長「ふん。相変わらずふざけた奴だ」

文官「……私はただ、近衛様に関して調査していただけですよ」フフッ

前近衛騎士長「!?」

文官「確か……近衛様は後妻の連れ子、でしたよね?」

文官「ええ。不思議な事もあるもので、後妻がこの家に嫁ぐ時と同じ時期に、あるやんごと無きお方の従者が一人殺害されて居るのですよ」

文官「それはもう凄惨な遺体でした。顔は完全に潰れ、身に付けていた服にあった家紋から、かろうじて個人を特定しなくてはならない程」

文官「そういえば前近衛騎士長殿は、前妻を病で、後妻を事故で亡くしているそうですね」

文官「実に偶然とは恐ろしい」

文官「聞けば後妻は式当日に馬車から落ち亡くなったとか」

文官「御遺体は顔も分からぬ程に損壊していたそうですね……」

前近衛騎士長「貴様、何を言いたい……!」

文官「や、事実の確認ですよ。これが仕事ですから」

前近衛騎士長「私の妻と近衛、貴様の仕事とやらに何の関係があると言うのだ」

文官「それを調査中なのですよ」

前近衛騎士長「……ふん。後妻は社交界で知り合った下級貴族だ。あれの事を知りたければ、後妻の家の者に聞くのだな」

文官「ふむ。では、そうさせていただきましょう」

文官「それと副長殿は自身の立場をもう少し考えるべきですね」

副長「……はい」

文官「では失礼します。行きますよ、副長殿」

副長「了解です」

文官「それでは前近衛騎士長、ごきげんよう」

前近衛騎士長「くっ……狸と淫魔の子め……」

―――――――――――
――――――――
―――――
――

文官「や、少し挑発し過ぎましたかな」

副長「私個人としては足りないくらいです」

文官「ふむ。私情を挟むとは珍しい」

副長「私情だと言う事は理解しています。ですが、私はあの男を許せないのです」

文官「ほう」

副長「……」

文官「何やら複雑な家庭の事情がある様ですね」

文官「しかし今は王女様の為に不安材料を全て断つのが目的です。分かりますね?」

副長「はい。心得ています」

文官「や、殊勝な心掛けです」

文官「さて、次は前近衛騎士長殿の後妻に関してですが……」

副長「突然修道院から帰って来たそうですよ。そして、直ぐにあの男と婚約した」

文官「ほほう。それは面白い」

副長「一体どれだけの金貨が動いたのでしょうね」

文官「や、先行投資の可能性も否定できませんよ」

副長「……確かにそうですね」

文官「さて、餌は撒きました。あとは彼が尻尾を出すのを待ちましょう」

副長「はい。了解しました」

―前近衛騎士長屋敷―

前近衛騎士長「チッ……あの狸め、どこまで調べ上げているのだ……」

前近衛騎士長「だが、奴等がどれだけ真実に近付こうと、最後の切り札は私の手にある」

前近衛騎士長「ククク……私を裏切った妻同様、何も出来ずに絶望するがいい、副長」

前近衛騎士長「ひひっ……許すものか、裏切りなど、絶対に……!」

―王宮・近衛私室―

近衛「ん……」ゴソッ

馬丁「ふぁ……もう朝か」

近衛「……あれ、馬丁……?」

馬丁「おはよう、近衛」

近衛「馬丁……なんで……?」

近衛「あ。あの後そのまま寝ちゃったんだっけ」

馬丁「俺は戻ろうと思ったんだけど、その、近衛が……な」チラッ

近衛「私が?」

馬丁「ずっと抱きついて来てたからさ」

近衛「イヤだった……?」

馬丁「そんな事無い!」

近衛「ふふっ」

馬丁「な……」

近衛「良かった、イヤじゃなくて」

馬丁「……当たり前だろ」

近衛「当たり前なんだね。なんか嬉しいな」

馬丁「……近衛口調変わってから、なんかズルいぞ」

近衛「二人きりの時は飾らないって決めたの。本当の私はこんなものよ。幻滅した?」

馬丁「する訳無いだろ、その程度の事で」

近衛「うふふ。良かった」

近衛「ね、馬丁」

馬丁「なんだ?」

近衛「もう少し、このまま抱き付いていて良い?」

馬丁「ああ」

近衛「うん。それじゃあ、キスもして良い?」

馬丁「駄目な訳無いだろ」

近衛「えへへ……」チュッ

馬丁「ん……」

近衛「もう少し、もう少しだけ……」

馬丁「はは……本当に甘えん坊になったな」

近衛「うん。私が甘えられるのは馬丁だけだから。馬丁は私の特別だから……」

―――――――――――
――――――――
―――――
――

轡「随分遅いから迎えに来てみれば……」

近衛「済まないな、塵。馬丁に酒を付き合って貰ったら、こんな時間になってしまった」

馬丁「……」

轡「まったく。酒に呑まれるなんて子供じゃないんだから」

馬丁「悪い。塵」

轡「ボクは別構わないけどね。ただ、お姫様は馬丁の姿が見えないって不安がってたよ」

近衛「……」ズキッ

馬丁「……悪い事したな。それじゃ、一旦姫の部屋に顔出してから王女の所に行くか」

轡「分かったよ」

馬丁「近衛はどうする?」

近衛「私は……」

近衛「そうだな。私は一度酒の臭いを抜く為に、湯で身体を拭いてから向かう事にする」

馬丁「……そうか。じゃ、またな近衛」

近衛「うむ」

近衛(さよなら、馬丁……)

―王宮・姫私室―

轡「お姫様はまだ寝室かな」

馬丁「分かった。行ってくる」

轡「待って、馬丁」

馬丁「なんだよ、塵」

轡「血と雌の臭い……」

馬丁「……!?」

轡「昨夜は気を付けてねって言った筈だけど?」

馬丁「……俺自身が望んだ事だ」

轡「キミの選択を非難したいんじゃないよ」

轡「ただ、キミも一度湯で身体を拭いて、着替えた方が良いと思ってね」

馬丁「……そうか」

轡「女って自分以外の女の臭いに敏感って聞くしね」

轡「キミから近衛ちゃんの香水の匂いがしたら、きっとお姫様ショック受けちゃうよ?」

馬丁「……」

轡「お湯貰ってくるよ。馬丁は着替えの用意をしておいて」

馬丁「ああ。分かった」

馬丁「……悪いな、塵」

轡「ふふっ。ボクは理解ある方だからね」

轡「キミが誰を愛そうと、ボクがキミを愛する事は変わらないよ」クスッ

投下終了
更新遅れてすみません。親知らず治療してました
閲覧感謝

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―――――――――――
――――――――
―――――
――

姫「やったっ。この構成式ならサーキットに負荷も無いし、わたくしにも使えそう!」

轡「ふふっ。おめでとう、お姫様」

姫「貴方のお蔭よ、塵」

轡「ボクは指針を示しただけだよ。結果に結び付けられたのはお姫様の力だ」

姫「ううん。塵が指針を示してくれなければ、わたくしは何も出来ないままでした」

姫「だから、ありがとう」

轡「……キミはとても良い子だね」

姫「?」

轡「ふふっ。なんでも無いよ」

轡「さて、と。構成式が完成した事だし、馬丁にお茶の準備をして貰おうか」

姫「ええ。それは良い提案ね」

轡「馬丁、お茶の用意をお願い」

馬丁「分かった。直ぐに用意する」

轡「手伝おうか?」

馬丁「俺だけで問題無いよ。それより塵は姫の勉強を見ててくれ」

轡「その勉強が一段落着いたんだ。だからティータイムって訳」

馬丁「そうなのか。なら姫の好きな焼き菓子も用意したいな……」

轡「焼き菓子ならボクが取りに行くよ。馬丁はお茶の用意をお願い」

馬丁「済まないな、塵」

轡「ふふっ。キミとボクの仲だろ?」

馬丁「……そういう事にしておくよ」

コンコン ガチャ

王女「入るわよー」

馬丁「お、王女?」

王女「可愛い妹の様子を見に来たわ」

轡「そう」

馬丁「俺達が遅いから待ちくたびれたのかと思ったぞ」

王女「んー、半分当たりね。塵、姫の方はどう?」

轡「たった今、準備が完了した所」

王女「うんうん、さすが我が妹ね。これなら間に合いそうよ」

馬丁「間に合う?」

王女「ええ。作戦は今夜決行するわ」

轡「急だね」

王女「……急ぐ必要が出来たのよ」

馬丁「何かあったのか?」

王女「……ええ」

轡「(……ふぅん)」

王女「近衛が婚姻の為に王宮を離れたわ」

馬丁「!?」

馬丁「王女! 近衛が、なんで!?」

王女「今朝、私の所へ来たのよ。家の為にって言ってたわ」

王女「昨夜見た時から様子が変だったのは、この事だったのね……」

轡「……それで近衛クンが嫁ぐのと、作戦を急ぐ事がどう繋がるんだい?」

王女「それが繋がるのよ。なにしろ、その嫁ぎ先が騎士団長の血筋に連なる貴族なのだから」

馬丁「……嘘だろ……?」

王女「本当よ」

馬丁「近衛、何で……」

姫「……その話、本当なのですか?」

姫「近衛ちゃんが、家の為って……本当なのですか?」

王女「ええ。確かに聞いたわ」

姫「そんな……」

王女「それと、この手紙を姫に渡して欲しいって」サッ

轡「一国の王女に手紙を、ね。彼女なかなかに強かじゃない」

王女「……きっと私にしか頼めなかったのよ」

轡「そうだろうね」クスッ

王女「はい。受け取って、姫」

姫「はい……」スッ

姫「あ、あの。今読んでも宜しいでしょうか?」

王女「ええ、構わないわ」

馬丁「……俺はお茶の用意をする」

轡「ならボクはお茶請けの用意をしようかな」

王女「ええ、お願い」

姫「…………」

―――――――――――
――――――――
―――――
――

姫「…………近衛ちゃん……」

馬丁「……」

姫「二姉様、用意を」

王女「ええ」

姫「馬丁と塵はわたくしの部屋で待機して下さい」

馬丁「……待機?」

姫「馬丁、今は何も聞かずに指示に従って。お願い……」

馬丁「分かった。指示に従うよ」

姫「ありがとう、馬丁」

姫「塵、タイミングは以前話した様にお願いします」

轡「任せておいて」

王女「私は副長君達に状況を知らせるわ」

姫「お願いします。二姉様」

王女「馬丁」

馬丁「……なんだ」

王女「姫を護ってね」

馬丁「ああ。分かってる」

投下終了
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夜だと言ったの朝になっていたでござるの巻

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―夜・王宮―

姫「(近衛ちゃん……)」

轡「お姫様、雑念は精霊の流れを淀ませるよ」

姫「分かっています、分かってはいるのです。だけど……」

轡「キミの心を騒がせている物は今朝の手紙?」

姫「……自分がまるで周りを見ていなかった事を思い知りました」

轡「手紙に何が書いてあったかボクは知らない。だけどね、キミは今キミが自分からやると言った事に為に集中すべきじゃないかな」

姫「……」

轡「それに、言いたい事もあるんじゃない?」

轡「それを本人に伝える為に、今キミが何をすべきかを良く反芻するんだね」

姫「ふふっ、今日は一段と饒舌ですね」

轡「そうだね。なにしろボクの願いの一つが叶うかも知れないから」クスッ

轡「だからこそ、お姫様には失敗して欲しくないのさ」

姫「願い……?」

轡「そう、願い」

轡「ボクの願い、ボクの為すべき目的……」ニヤッ

姫「塵、貴方なにを……?」ゾクッ

轡「なんてね」

姫「え?」

轡「雑談で少しは気が紛れたかな?」クスクス

姫「か、からかっていたのっ?」

轡「ふふっ。失敗してキミに何かあったら馬丁が悲しむからね」

姫「もうっ」

轡「お姫様、馬丁という剣が必ずキミを護る。だから気圧わずに、だよ」

姫「……はいっ」

時間無いので続きはまた明日の同じ時間くらいに

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見ている人が居たことに感動

投下開始

姫「(やるんだ。わたくしが)」

姫「(やれる。きっと出来る)」

姫「(護られるだけは、もうおしまいにするんだ……!)」

姫「塵、今騎士団長は何処に?」

轡「副長クンの話だと騎士団を襲った魔物の対策の為に詰所に居るみたいだよ」

姫「わかりました」

轡「行くのかい?」

姫「ええ。準備は万全にね、塵」

轡「キミもね、お姫様」

―王宮・廊下―

姫「(対策会議が終われば、必ずここを通るはず)」

姫「(ここで偶然を装って、なんとか騎士団長に近づかないと……)」ウロウロ

姫「廊下暗いなぁ……」ボソッ

姫「(……そう言えば夜に一人きりで部屋を出歩くのって初めてね)」

姫「(いっつも馬丁と近衛ちゃんが側に居たっけ)」

姫「(でも、今は二人共居ない。わたし、今本当に一人なんだ……)」

姫「……」

「これはこれは。第五王女様ではありませんか」

姫「!?」ビクッ

騎士団長「こんな遅くに従者も伴わず如何なさいました?」

姫「(来た……っ)」

姫「(落ち着いて、わたし。出来る、きっと、必ず、絶対!)」

姫「ごきげんよう、騎士団長。わたくしは明日の予習にと図書室へ行き、たった今帰って来たところです」

騎士団長「この様な夜遅くにまで勉学とは、頭が下がりますな」

姫「これも王族の勤めです。ただ、夜の城がこんなにも暗いとは思いませんでした」

姫「普段は近衛達が伴って明かりを持たせていたから、気が付きませんでしたわ」

騎士団長「ふむ。この暗がりを王女一人で出歩かせるとは、随分な従者達ですな」

姫「(むっ……)」

姫「……ええ。肝心な時に役に立たないものです」

姫「ですが、ちょうど良かったわ。騎士団長、わたくしを部屋までエスコートしてくださらない?」

騎士団長「私で良ければ喜んで」

姫「ありがとう、騎士団長」ニコッ

姫「(掛かった! ここまでは予定通りよ、わたしっ)」

騎士団長「では参りましょう、第五王女様」スッ

姫「……ええ」スッ

姫「(馬丁以外の男の人の手……)」

姫「(……)」

姫「(気持ち悪い……)」

少ないですが投下終了
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ひっそり再開

―騎士団兵舎・資料室―

見張り「」

塵「ふふふ……」クスッ

塵「騎士襲撃と対策会議のおかげかな。手薄過ぎるよ」ゴソゴソ

塵「表の収支記録は……これだね。なら、本当収支記録は、彼が言った通りなら……」カチッ ガチャッ

塵「ふふっ、大当たり。意外と分かり易い場所に隠すなぁ。油断し過ぎだよ」

塵「……ふぅん」ペラッ

塵「どうやら副長クンの睨んだ通りだね。前騎士団長と現騎士団長の元に随分と流れてる」

塵「……さて、と」

塵「(これで詰めの布石は出来た。後はボク自身の為に動かせて貰うよ)」ゴソッ

塵「(あった。遠征記録……)」ペラッ

塵「!?」

塵「……」

塵「……くくくっ……ふふっ……ふふふふふっ」

塵「そうか、彼だったんだね。彼が……」クククッ

塵「まさかこんなに近くに居たなんてね」

塵「必ずボクの手で始末する、だからお兄ちゃんを見守っていておくれ……」グッ

―王宮・姫私室前―

騎士団長「では私はこれで失礼します」

姫「……お待ち下さい」

騎士団長「なんでしょうか、姫様」

姫「貴方とわたくしの未来の為にも、一度しっかりと話をしておくべきだとは思いませんか?」

騎士団長「未来……ですか」

姫「ええ。不甲斐ない従者などではなく、貴方の様な尊い血と力を持つ者と。ですよ」ニコッ

騎士団長「そういう事ですか。ククッ……良いでしょう、お互い善き未来の為に、深くまで語らうとしましょう」

姫「では、わたくしの部屋へ 」ガチャ

姫「双王国より取り寄せた貴重なお酒もあります。今夜は存分に語らいましょう?」

騎士団長「ほう、それは素晴らしい。今宵は忘れられぬ夜になりそうですな」

姫「……ええ、本当に」クスクス…

一旦終了
続きは今夜

再開

―王宮・姫私室―

騎士団長「ほう……阿国領の酒とは珍しい」

姫「我が国では珍しいでしょう? さ、グラスを」

騎士団長「ふっ。姫様直々ですか」

姫「では、二人の明るい未来の為に」スッ

姫・騎士団長「乾杯」チンッ

騎士団長「ふむ……甘く良い香りだ。どれ……」クイッ

騎士団長「ぐっ!?」ゴホッ

姫「あら、どうなさいました?」

騎士団長「ゴホッ……これはまた、随分と強い酒ですね」

姫「そうかしら?」クイッ

姫「貴方はお酒が弱い方でしたか?」クスクス

騎士団長「くっ……慣れぬ酒に少々驚いただけですよ」グイッ

騎士団長「しかし、私を酔わせてどうする積もりですかな?」

姫「酔いましょう? お酒にも、わたくしにも……」クスクスクス

騎士団長「……ふっ」

騎士団長「確かにそうですね。この強い酒、寝衣姿の姫、そして輝かしい未来」

騎士団長「これは酔わずにいられない」ニヤッ

姫「……」

騎士団長「誘ったのは貴女ですよ。姫」ガタッ

姫「……ええ」

騎士団長「必ずや私が貴女をこの国を統べる者へ導きましょう」グイッ

姫「あ……」

姫「(まだ……まだよ……)」

騎士団長「姫……」スッ

姫「……騎士団長」スッ

騎士団長「?」

バシャッ

騎士団長「ぶっ。な、なにを!?」

姫「貴方は侍女もそう言ってたぶらかし殺したのですか?」

騎士団長「!?」

姫「侍女を殺し、馬丁を傷付け、徴収の名の下に民を傷付ける。その様な者とわたくしが本気で手を取り合おうと思いまして?」

騎士団長「くくっ、ほほう……?」

姫「騎士ならば、罪を認め罰を受けなさい」キッ

騎士団長「……何の事だか分かり兼ねますなぁ」ニヤニヤ

姫「貴方という人は……!?」ドサッ

騎士団長「護衛の居ない貴様に何が出来る?」グッ

姫「(抑え込まれた!?)」

騎士団長「貴様も痛みと恐怖を植え付け、逆らえない様にしてやろう!」ビリッ

姫「きゃっ!?」

騎士団長「さすが王族、家畜や奴隷とは訳が違う」

姫「おどきなさい」

騎士団長「美しい。実に美しいですよ、姫」

姫「もう一度言います。おどきなさい」キッ

騎士団長「黙れ」ゴスッ

ガタッ

姫「うぁッ」ゴホッ

姫「(ま……まだ駄目……っ)」ゴホッ ゴホッ

騎士団長「まったく……折角白く美しいお腹に痣が出来てしまったではないですか」

姫「……しき……こ……い……」ブツブツ

騎士団長「おや、何の真似ですかな」

姫「これが最後の忠告です」

騎士団長「ほう?」

姫「おどきなさい」

騎士団長「……やれやれ。まだ立場が分かって無い様ですね、この雌は!」ゴスッ

姫「かはっ……こ、構成式展開……」ゴオォッ

騎士団長「なっ? 精霊魔法だと!?」

姫「ティンダー!!」カッ!

精霊魔法・着火

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騎士団長「な、なんだ!? 服が燃えるッ!?」

姫「……精霊魔法です。早く脱がないと火傷しますよ?」ケホッ

騎士団長「くそっ、まさか私に酒を浴びせたのもッ!」バサッ

姫「さあ、どうでしょう?」

騎士団長「貴様ァ……ッ」ギリッ

姫「騎士団長」キッ

姫「次は火傷では済ましません。覚悟してください」

騎士団長「ふん。素人の魔法など、手の内が分かれば恐れるに足りぬ」スラッ

騎士団長「くくく……安心しろ、見える所は刻まないでやる」

姫「…………」

騎士団長「大人しく私の物になっておけば、痛い思いをせずに済んだのになァッ!」ニタァ

姫「……ふふっ。抜きましたね」クスッ

騎士団長「なんだ、その余裕は! 貴様の様な小娘などわぶッ!?」ミシッ

姫「…………」

騎士団長「な……なぜ、貴様がここに……?」ゲホッ

馬丁「……あまり無茶しないでくれ、肝を冷やす」

姫「ごめんなさい。それと、ありがとう」

姫「わたくしを信じてくれて」ニコッ

馬丁「騎士団長。この状況、言い逃れ出来ると思わないで下さい」スッ

共通語魔法・敏捷性強化
共通語魔法・筋力強化

騎士団長「チッ……」ジャキッ

騎士団長「(どんな手を使ったかは知らないが、奴の剣を知る私に病み上がりの家畜が勝てる筈など無い)」

騎士団長「(この男を殺し、罪を被せてくれる……ッ)」

騎士団長「……言い逃れなど必要無い! 丸腰の貴様などッ!!」ダッ

馬丁「……」シュンッ

ミシッ……

騎士団長「ガハッ……」

馬丁「姫に手を上げた事、許されると思うな……ッ」シュッ

騎士団長「な!?」

騎士団長「(動きが目で追えないだと!)」

メリ……ッ

騎士団長「ッ……」

騎士団長「ぐぼっ……うぶっ」ビチャッ

馬丁「この程度で終わると思うなよッ!」ゴッ!

騎士団長「ひぃっ!?」ビクッ

馬丁「眠っていろ!!」

メゴッ

騎士団長「…………」ドサッ

投下終了
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投下開始

姫「し……死んじゃったの……?」

馬丁「大丈夫。気を失っただけだよ、姫」

姫「良かった……」

馬丁「それより姫、俺の上着を」バサッ

姫「……あ」

姫「(そういえばわたしの寝衣破られたままだ……っ)」カアァッ

馬丁「……つッ」ズキッ

姫「え、馬丁、手が!」

馬丁「うわ……」ボタッ

馬丁「(拳が裂けて骨が……)」ズキンッ

姫「血が出てる……直ぐ止血しないと!」

馬丁「駄目だ、姫。血が付いてしまう」

姫「構いません!」シュルッ

姫「ハンカチですが止血くらいには使えます」

馬丁「……ありがとう」

姫「ありがとう。じゃないよ……わたし、また馬丁に痛い思いさせた……」

姫「わたし……また馬丁に……」グスッ

馬丁「姫、そんな顔しないで」

姫「でも!」

馬丁「こんな怪我より姫が辛そうな方が俺とっては苦痛なんだ」

姫「でも、でも……」

馬丁「それより、やる事が残ってるだろ?」

姫「…………」グスッ

馬丁「俺は大丈夫。こんな怪我、直ぐに治るって」ナデナデ

姫「……ほんと?」

馬丁「ああ」

姫「ん……」ゴシゴシ

姫「終わったらちゃんと治療してね、約束よ?」

馬丁「分かってる。約束だ」

姫「うん。それじゃ……」スウゥゥゥッ




姫「きゃあああああああああああああああっ!!!!!!」



護衛兵「姫様!! 何事ですか!?」バタバタ

馬丁「護衛兵、騎士団長殿が……」

護衛「馬丁!? お前大怪我してたんじゃ……?」

姫「騎士団長がわたくしを襲って……」

姫「馬丁が駆け付けてくれなかったら……」ギュウッ゙

護衛兵「なんと……その様な事が。馬丁、良く姫を護ってくれた」

馬丁「あ、ああ……」

護衛兵「衛兵、騎士団長を拘束しろ!」

衛兵「はっ」

護衛兵「姫様、大事に至らず何よりであります。馬丁も無事で良かった」

馬丁「心配掛けたみたいですみません」

護衛兵「まったくだ。お前が居ないと仕事が滞って敵わん」

馬丁「はは……」

護衛兵「姫様。現場の保存の為、申し訳ありませんが今夜は離宮にてお休み下さい」

姫「……はい」

護衛兵「馬丁、姫様を頼むぞ」

馬丁「心得ております」

護衛兵「ああ。詳しい話はまた明日だ」

姫「……」

馬丁「姫……?」

姫「……うっ」クラッ

姫「(解毒の魔法……切れちゃったのかな……)」

姫「(きもち……わるい……)」

馬丁「だ、大丈夫か!?」

姫「(……もお……ぜったいにおさけなんか……のまないどこう……)」カクッ

馬丁「ひ、姫!?」

護衛兵「姫様!?」

―――――――――――
――――――――
―――――
――

―離宮・王女私室―

王女「あー、こりゃ二日酔い確定ね」

姫「くらくらします……」

王女「馬丁の前だからって格好付け様と張り切ったんでしょ」

姫「……しりません」プイッ

王女「もうっ。スネちゃって可愛いんだから!」ナデナデ

姫「むーっ」

王女「でも……」

姫「?」

王女「良く頑張ったわね、姫」ギュッ

姫「二姉様……?」

王女「痛かったでしょう? 青痣出来る程強く叩かれて……」ヨシヨシ

王女「後は私達がやるから、ゆっくりお休みなさい」

姫「……はい」

王女「飲める様なら水をたっぷり飲むのよ。お休み、姫」

姫「はい。二姉様」

カチャ

馬丁「姫の容態は?」

王女「今眠ったところよ。我が妹ながら、本当に無茶をするわ」

馬丁「大丈夫……なのか?」

王女「二日酔いよ。慣れないうえに強いお酒を体に入れたのだから仕方ないわね」

王女「予め解毒魔法を掛けておいたお陰で、大事には至らないから安心して」

馬丁「そうか、良かった……」ホッ

王女「良かった……って、貴方も怪我したのでしょう?」

馬丁「あ、ああ。魔法で強化した分、加減が分からなくて拳をちょっと……」

王女「まったく……姫といい馬丁といい……」

王女「ほら、簡単な治療なら出来るから見せなさい!」

馬丁「い、いや。見て気持ちの良い物じゃ無いし、後でちゃんと治療するからいいよっ」

王女「良いから見せる! なに、私に任せるのが恐いの?」

馬丁「皮膚が裂けて骨が露出してたんだぞ、人に見せられる物じゃ無いだろ!」

王女「だったら尚更早く治療しなきゃ駄目でしょう!」ガシッ

馬丁「ま、待てって!」

王女「……なによ大袈裟に言って。傷らしい傷なんて無いじゃない」

馬丁「……え?」

王女「ハンカチに血は付いてるけど、傷なんて全然無いわよ?」

馬丁「ほ……本当だ」

馬丁「(確かに拳が裂けてたのに、何で……?)」

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王女「……どうしたの、難しい顔して」

馬丁「あ、ああ……ちょっと、な」

王女「煮え切らないわね」

馬丁「拳の怪我、確かにあったんだ。けど、もう殆んど治ってるのが不思議でさ」

王女「気分が昂って見間違えたって事は無い?」

馬丁「それは無い……と思う。強い傷みがあったし、ほら」

王女「ハンカチがどうしたのよ」

馬丁「かすり傷で付く血の量には見えないだろ?」

王女「ええ、確かにそうね。血の量もそうだけど、馬丁がつまらない嘘を吐くとは思え無いし……」

馬丁「もしかしたら生命の精霊の力が強くなったのかもしれないな」ハハハ

王女「……」

王女「(精霊の力だけで自然治癒力が高まるのかしら。もどかしい違和感ね……何か引っ掛かるわ)」

王女「って、いけない! 早く次の行動に移さないと!」

馬丁「次?」

王女「ええ。例え小者だろうと全力で叩き潰して捩じ伏せる。後々の憂いを断つ為にも必要な事よ」ニコッ

馬丁「……」

王女「馬丁は姫の傍に居てあげて。姫もきっと安心して休んでくれるから」

馬丁「……ああ。分かった」

王女「……ねえ、馬丁」

馬丁「なんだ?」

王女「貴方、少し思考が散漫としていない?」

馬丁「……そう見えるか」

王女「見えるわね」

王女「さっきから生返事ばかりだし、普段の馬丁ならしない様な怪我」

王女「それに素手で気を失わせるまで殴るなんて、貴方らしく無いわ」

馬丁「あれは姫の事で逆上して、つい……」

王女「本当に姫の事でつい。だけ?」

馬丁「それはっ……その」

王女「別にあるのじゃなくて? 貴方が気を揉んでいる事が」

馬丁「……ああ。あるよ」

王女「そう。それは近衛の事ね」

馬丁「!?」

王女「馬丁、よく聞いて」

馬丁「……ああ」

王女「貴方と近衛の関係は歪な物なの。勿論、姫や私とも」

王女「貴方が近衛にどんな感情を抱いているか、私は想像するしか無いわ。だから想像から結論だけ言わせて貰います」

王女「馬丁、近衛の事は諦めなさい」

王女「近衛の事は諦めて」

馬丁「なッ……」

王女「貴方は平民なの。これは覆しようの無い事実よ」

王女「平民が貴族と結ばれるなんて有り得ないのよ、馬丁」

馬丁「……平民だから、諦めろ……か」

王女「そうよ」

馬丁「…………っ」ググッ

王女「近衛は由緒正しい血筋のご息女よ。それを平民である貴方がどうこう出来る筈が無いの」

王女「たとえ二人がどれだけ愛し合っていたとしても、社会がそれを赦さないわ」

馬丁「……だからって!」

馬丁「だからって諦められる訳が無いだろ!!」

王女「……やっぱり近衛の事で思い悩んでいたのね」

馬丁「あ……」

王女「ふふっ、貴方が声を荒らげるなんて久し振りに見たわ」

王女「馬丁、平民だから駄目と言われるのが悔しい?」

馬丁「……当たり前だろ」

王女「そう」

馬丁「悔しく無い筈なんか……ない」

王女「そうね。王宮に居ても、武勲を挙げても、貴方が平民だというだけで要らぬ中傷を受けていたのを私は知っているわ」

馬丁「……」

王女「馬丁、聞いて」

王女「貴方が悔しく思う様に、私も悔しく感じているの」

馬丁「王女が?」

王女「当たり前じゃない。私の命の恩人であり、何時も姫を大切にしてくれる貴方を悪く言われて悔しくない筈が無い!」

王女「近衛の事だってそう。あんな良い娘を、血筋しか取り柄の無い様な凡骨貴族になんて嫁がせたくないに決まってるッ!」

馬丁「王女……」

王女「…………だから。だからね」

王女「馬丁、私の駒になって」

馬丁「こ、駒になれってどういう事だよ!?」

王女「私の周りは頭の固い貴族ばかりなの。だから、心から信頼出来る者なんて居ないわ」

王女「でも貴方は違う」

王女「本来貴方にとって憎むべき存在である私や姫を護り、近衛を友とする貴方は特別なの」

馬丁「特別なんて、そんな事……」

王女「そんな事無いとは言わせないわ!」

王女「少なくとも、私にとって貴方は特別よ。信頼出来る人材としてだけじゃなく、一人の男性としても」

馬丁「…………」

王女「だからこそ、貴方には私の駒になって欲しいの」

王女「姫を護る盾だけではなく、私の剣として」

馬丁「俺が、剣……?」

王女「そうよ、私が貴方を正しく振るってあげる。私の敵、尽くを凪ぎ払う為に」

馬丁「王女の敵を凪ぎ払う、剣。か……」

王女「貴方を振るい、貴方が煩わしい思いをしなくて済む未来を私が作るわ」

王女「だから馬丁、私の駒になりなさい」

馬丁「……分かった」

王女「ふふっ。よろしい」ニコッ

王女「では駒として最初の指示よ」

馬丁「ああ。何でも言ってくれ」

王女「姫の事をお願い。あの子、少し頑張り過ぎたみたいだから」

馬丁「……了解」

王女「ありがと。それじゃ宜しくね」

馬丁「ああ。王女はこれからどうするんだ?」

王女「次の指示を出す為に副長と兵舎へ向かうわ」

馬丁「そうか」

王女「貴方もゆっくり休みなさい。まだ、悪巧みは始まったばかりよ?」

馬丁「……そうだな」フフッ

馬丁「ありがとう、王女。励ましてくれて」

王女「……ッ」ドキッ

王女「え、ええっ、感謝しておきなさいッ! でで、では行って参りますわッ」ツカツカツカ

―――――――――――

王女「…………」

王女「……はあ」

王女「辛いなぁ……」

王女「私に勝ち目なんか無いのに……」グスッ

王女「……何が『ありがとう』よ」

王女「私、あんな嫌な言い方したのに」

王女「あんな、何でもお見通し、みたいな笑顔しちゃってさ……」

王女「……ばか、ばか馬丁」

王女「……ばか…………」

王女「私の……馬鹿……」

投下終了
閲覧感謝
あと忘れがちかもしれませんが塵は男の子です(迫真)

冬になると鬱・胸糞系のSSが増える現象に名前はあるのでしょうか
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―離宮・寝室―

カチャ

姫「……馬丁?」

馬丁「ごめん、起こしたか」

姫「ううん」

馬丁「でも、暗がりでよく俺だって分かったな」

姫「わかるよ」

姫「馬丁は足の運びが綺麗だから、足音で直ぐわかるの」

馬丁「そうなのか。凄いな、姫は」

姫「えへへ……わたし、馬丁の事だったら何でもわかるよ?」

馬丁「……そうか」

姫「馬丁、こっち来て」ポフポフ

馬丁「ああ」ポスン

姫「ん」

馬丁「?」

姫「えいっ」ガシッ

馬丁「うわっ!?」

姫「えへへ、つかまえた」ギュッ

馬丁「な、なにを、一体、ひ、姫?」

姫「つかまえたの!」

馬丁「は、はあ……」

姫「……馬丁はどこにも行かないよね?」

姫「近衛ちゃんみたいに勝手に居なくならないよね?」

馬丁「姫……」

姫「わたし、嫌だよ? そんなの」

馬丁「俺だって……嫌だ。勝手に居なくなられるのは」

馬丁「だから俺はどこにも行かないよ、姫」

姫「……うん」

姫「ね、馬丁、馬丁」

馬丁「ん?」

姫「明日、一緒に近衛ちゃん迎えに行こ?」

馬丁「え?」

姫「わたしね、沢山考えたの。立場とか、家とか、沢山」

姫「でもやっぱり納得出来ないよ」

姫「だからね、近衛ちゃんを迎えに行きたい」

馬丁「……」

姫「それでね、いっぱい文句言って、いっぱい我が儘言って……」

姫「いっぱい……甘えるんだ」

姫「だから一緒に寝て迎えに行こうよ、馬丁」ギュウッ

馬丁「……そうだな、迎えに行こうか。姫と俺で」

姫「うんっ」

姫「近衛ちゃんには言わなきゃいけない事、いっぱいあるんだからっ」

姫「手紙の事……とか」

姫「……手紙…………」

馬丁「姫、どうした? 具合悪いのか?」

姫「……わたし、近衛ちゃんの前に馬丁に言わなきゃいけない事、あったんだ」

馬丁「ひ、姫?」

姫「……ドライヴ」ホワン

精霊魔法・筋力低下

馬丁「!?」

馬丁(ち……力が抜ける……!?)

姫「精霊魔法が効きやすいって本当なのね」

馬丁「姫……一体何を……」

姫「……おしおき」

馬丁「お、おしおき?」

姫「ううん、おしおきじゃなくて……なんだろ、嫉妬……かな」カプッ

馬丁(く、首に甘噛みしてきた!?)

姫「馬丁は……近衛ちゃんとしちゃったんだよね?」ペロッ

姫「その……えっと、契りを……」

馬丁「な……!?」

姫「近衛ちゃんだけ、ずるいよ……」グスッ

姫「わたしだって馬丁の事、ずっと……ずっと好きだったのに」

馬丁「姫、俺は……」

姫「言わないでっ」

馬丁「……ッ」

姫「聞きたく……ないよ……」

馬丁「…………」

姫「……ん」チュッ

馬丁(!?)

姫「……馬丁、今なら魔法が効いてるから抵抗できないよね?」クスッ

馬丁「だ、駄目だ姫! これ以上は!!」

姫「ふふふっ、やーだよっ。聞こえないもん!」ガバッ

馬丁「なっ!?」ドサッ

一端終了
残りは夜か朝に投下します

残り分投下開始

姫「ん……馬丁の首、ちょっとしょっぱい」ペロッ

馬丁「姫、駄目だって!」

馬丁「(くそっ、力が全然入らない!)」

姫「何が駄目なの?」

馬丁「それはッ」

姫「わたし、もう子供じゃないよ?」

馬丁「子供じゃ無いから尚更駄目なんだよ!」

姫「ふふ……分かってるよ、馬丁」

馬丁「分かってるなら何で!?」

姫「だって……こうしないと馬丁逃げちゃうんだもん……」ギュウッ

姫「馬丁が逃げちゃったら、おしおき出来ないよ?」

馬丁「おしおきって……」

姫「それにね」

姫「騎士団長に触られた手が、ずっと気持ち悪いの」

姫「泥がまとわり付いて取れないみたいに、ずっと気持ち悪いの……」

馬丁「姫……」

姫「馬丁……」スルッ

馬丁「なっ」

姫「ねぇ馬丁。騎士団長が触れた手、お腹、同じ部屋の空気を吸った口……」

姫「この気持ち悪いの全部、馬丁が塗り潰して。お願い……」

馬丁「…………」

姫「わたしを大人にして、馬丁……」

馬丁「……駄目だよ、姫」

姫「どう……して……?」

馬丁「姫が俺にとって掛け換えの無い人だから」

馬丁「それに、俺は姫を護る騎士だから……」

姫「……」

馬丁「だから姫の望む事は出来ない。けど」

姫「……けど?」

馬丁「手を握って添い寝する事や、抱き締める事は出来るよ」

姫「……」

馬丁「今はそれだけじゃ駄目かな」

姫「……キス。キスもしてくれる?」

馬丁「……ああ」

姫「約束……よ?」

馬丁「約束するよ」

―――――――――――
――――――――
―――――
―――

姫「えへへ……」ギューッ

馬丁「苦しいよ、姫」

姫「だって嬉しいんだもん、馬丁と寝られるのが」

馬丁「はは……」

姫「昔はよく一緒にお昼寝したよね?」

馬丁「俺が干し草にシーツ掛けて昼寝してたら、いつの間にか横で寝てたんだよな」

姫「あんなふかふかで良い匂いのベッド、独り占めしてるんだもん」

馬丁「昼寝の後、ドレスに干し草付けて近衛に怒られてたよな」

姫「うん。あの時の近衛ちゃん、すっごく怖かったよね」

馬丁「あの時、何故か俺まで説教されたんだよな」

姫「そうそう『お前が昼寝などするからだ!』っと、近衛ちゃんカンカンで……」

馬丁「はは……」

姫「……馬丁」

馬丁「どうした?」

姫「明日、近衛ちゃんを迎えに行こうね」

馬丁「……ああ」

姫「それとね」

馬丁「ん?」

姫「もしわたしが結婚させられそうになっても、ちゃんと迎えに来て……」

馬丁「……難しいな、それは」

姫「我が儘だって分かってる。けど、約束して欲しいの」

馬丁「…………」

馬丁「昔さ……」

姫「?」

馬丁「子供の頃、姫が俺にこんな事を言ったの覚えてるかな」

馬丁「魔王を倒したら、お嫁さんになってあげる。だったかな」

姫「!!」

馬丁「それだけの功績を挙げれば、平民の俺でも爵位を貰えるって」

馬丁「そうしたら、結婚してあげるって……さ」

姫「昔の話じゃない、そんなの……」

馬丁「俺は平民だ。だから姫を奪いに行くなんて出来ない」

馬丁「だけど、生涯姫に仕える事は出来るよ」

姫「……」

馬丁「今はこんな事しか言えない。ごめんな、姫」

姫「……うん」

チリン……

姫「……あれ」

姫「馬丁……わたし、眠くなってきちゃった……」

馬丁「酒が抜け切って無い体で俺を押し倒したんだ。疲れたんじゃ無いのか?」

チリン……

姫「うん……きっとそうだね」

姫「馬丁、おやすみのキス……して」

馬丁「ああ」チュッ

姫「ん……おやすみなさい、馬丁……」スゥ…

馬丁「おやすみ、姫」

馬丁「…………」

馬丁「もう姫は眠ったぞ」

「…………」

馬丁「俺に用が有るんだろ、塵」

チリン

塵「……ふふっ」

塵「ああ、君を迎えに来たよ。愛しき人」

馬丁「……」

塵「行こう。悪巧みの結末を眺めに、ね……」クスッ

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―郊外―

塵「君と初めてのお出掛けが、月明かりが照らす夜の街なんて素敵だね」クスクス

馬丁「お出掛け、ねぇ……」

塵「目的が要人暗殺じゃなければ、もっと素敵なんだけどな」

馬丁「要人暗殺、か。悪巧みを見届けるんじゃなかったのか?」

塵「……驚かないんだね」

馬丁「驚いてるよ、これでも」

塵「……ふふっ。キミらしいよ」

馬丁「そうかい。で、誰を暗殺するんだ」

塵「気になる?」

馬丁「ああ。相手によっては全力で止めるからな」

塵「前近衛騎士長だよ」

馬丁「なッ!?」

塵「王女達が騎士団長の別荘に行くのを見届けたら、近衛ちゃんの居る前近衛騎士長の屋敷に向かう」

馬丁「……何故、近衛の父親を殺すんだ」

塵「仇だからだよ」ニコッ

塵「家族と故郷を奪われたのは、キミだけじゃ無いって事さ。馬丁」

塵「余り楽しい話じゃ無いけど、少しだけ昔話をして良いかな」

馬丁「ああ」

塵「ふふっ、即答だね」

馬丁「……」

塵「まだ地図にボクの故郷が載っていた頃ね…………」




―回想―

ボクは王国の辺境にある貧しい村で生まれた
家族は父さんと母さん、ボクと妹の四人
生活は苦しかったけど、それなりに幸せな暮らしだったよ

けど、その生活は長く続かなかった
ある時、村の領主が重い税を要求して来たんだ

税を払えば生活は儘ならない
かと言って税を払わなければ何をされるか分かった物じゃない……

そんな中、一人の魔術師が村にやって来たんだ

―回想・村長宅―

魔術師「……成る程、それはお困りでしょう」

父「はい。このままでは村人全員が飢えてしまいます」

魔術師「ふむ……」

母「魔術師様、何か知恵は無いでしょうか?」

魔術師「知恵……ですか」

ガチャ

少年「魔術師さん、暖かいものです」

魔術師「麦茶ですか。村が大変だと言うのにありがとう」ニコッ

少女「……お兄ちゃん、この人だれ?」

少年「魔術師さんだって。さ、少女も挨拶して」

少女「ん……初めまして、魔術師さん」ペコッ

魔術師「はは、中々礼儀正しい兄弟ですね」

父「はぁ、ありがとうございます」

魔術師「少年、君は読み書きは出来るかい?」

少年「はい、コモンなら」

魔術師「ほう、それはそれは」

父「どうしました、魔術師様?」

魔術師「……お父上、この少年を私の弟子として譲ってはくれませんか?」

父「弟子……ですか」

魔術師「ええ」ゴソゴソ

ジャラッ

父「……!!」

魔術師「ここに銀貨が100枚程あります。彼を譲ってくれるのならば、村を救う為にこの銀貨を差し上げましょう」

母「息子を売れと……」

少女「…………」ギュッ

魔術師「悪い話では無いと思いますよ」

魔術師「銀貨100枚。枯れた土地の農民では一生掛かっても稼ぎ出す事の出来ない大金です」

魔術師「このお金があれば、村もきっと救われるでしょう」

父「……」

母「……」

少女「お兄ちゃん……」

少年「ボクが魔術師さんの弟子になれば、そのお金をくれるんですか?」

魔術師「ああ、そうだよ」

少年「ならボク、弟子になります」

父「お、おいッ」

母「……」

魔術師「本人は良いと言ってますが、どうしますか?」

父「しかし子を売る様な真似……」

母「お父さん……」

少年「父さん、母さん。ボクは弟子になるだけだから大丈夫だよ」

少年「ボクが弟子に行けば大金も貰えるし、ボクが居ない分、食べられる御飯も増やせるんだ」

母「少年……」グスッ

少女「わ、わたし、お兄ちゃんが居なくなるの、いや……」

魔術師「…………」

少年「大丈夫だよ、二度と会えなくなる訳じゃ無いんだから。そうですよね、魔術師さん?」

魔術師「そうだね。たまに里帰り出来る様配慮するよ」

少年「だから父さん母さん、ボク……」

父「……分かった。息子を宜しくお願いします、魔術師様」

魔術師「ええ、分かっていますよ……」ニコッ

少女「お兄ちゃん、やだよぉ……」グスッ

少年「はは。ボクが次に帰って来る迄に、その泣き虫を治すんだよ?」ナデナデ

少女「やだ、やだよぉ……お兄ちゃんが居ないのやだぁ……」ポロポロ

父「少女……」

母「………………っ」グスッ

この時、何故両親が弟子にやる事を渋っていたのか、ボクは分かって居なかった

父さん達は弟子にやるって事がどういう事なのか、きっと知っていたんだろうね
弟子と言う名の奴隷にされるって事を

でもね、たとえボクがその事を知っていたとしても、弟子になる事を選んでいたと思う

貧しい思いで家族を、何より妹を苦しめずに済むんだから……

こうして、ボクは魔術師の弟子になった




けど、まさか師匠の屋敷に着いた初日に犯されるとは思わなかったよ

ふふふ……師匠はね、少年性愛者だったんだ



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続きは明日投下します

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師匠は昼夜を訪わずボクを犯し続けた
幾日も、幾月も

勿論、魔法を教わる事なんて無い

可笑しいよね、弟子なのに

でも……それが普通なんだよ

魔術師は魔法を教えない
魔法を教えれば立場を変えてしまうかも知れないからね
だから弟子に魔法を教える魔術師なんて普通は居ないんだ

ボクは魔法を教わる事無く、ただ師匠の歪んだ劣情を満たす為だけに犯され続けた

そういえばね、師匠の屋敷にはボクと同じ境遇の子が何人か居たんだよ

だけどみんな壊れてしまった

生きているだけの肉塊になった子
色情に狂い、ただ情交を求めるだけの人形になった子
理性が狂気に勝ってしまい自ら命を断った子

新しく弟子が来ても直ぐに壊れて、またボクだけが師匠に抱かれる

ずっとそれの繰り返し

ふふっ。やっぱり気付いた?
ボクが師匠に犯されるんじゃなくて、抱かれるって言った事

そう。ボクは師匠に求められ続ける内に、彼を愛していたんだ

きっと、そうする事で自分の心を守ったんじゃないかな
愛してしまえば苦痛ではなくなる
愛しいから求められる事が悦びになる

この時にはもう、ボクも狂っていたんだろうね

気が付けばボクは師匠のお気に入りになっていた

取り繕った偽りの愛の言葉じゃなく、心からの求愛に師匠も満たされてくれたんだと思う

ボクが甘え、師匠が応える

師匠が求め、ボクが受け入れる

初めての時の様な獣の情交ではなく、恋人の営み

お互いに満ち足りた愛の営み

それはボクにとって、とても、とても幸せな時間に感じられたんだ

もうこの頃には師匠はボクを常に傍に置く様になっていたよ

魔法薬を作る時も、魔道書を読み漁る時も

少しずつだけど、魔法を教えてくれたりもしたんだよ?
本当、愛って偉大だよね

まあ、ボクは出来の悪い弟子だったから魔法はからっきしだったんだけどさ

え? 本当だよ、ボクは初歩の魔法すら満足に使えなかったんだ

ふふ、信じられないって顔してる

けどね、本当だよ。ボクには魔法資質なんて無かったんだ

だからかな、余計にボクは師匠に依存して行った。師匠を満足させられる様努力した

不出来だからと捨てられるのが怖くて、ね……

そんなこんなでボクが弟子になって季節が一巡りした頃、師匠が一人の女の子を屋敷に連れて来たんだ


―――
――――――



―回想・魔術師の屋敷―

弟子「お帰りなさい師匠。双王国はどうでしたか?」

魔術師「ただいま。流石は遺跡の国だね、双王国は。中々実入りの多い旅だったよ」

弟子「それは何よりですね! でも……」

魔術師「でも、何だい?」

弟子「出来れば……ボクもご一緒したかったです……」

魔術師「済まないな。危険がなければ連れて行ったんだが」

弟子「師匠がボクの身を案じた事は分かってます。けど、寂しかったんですよ?」

魔術師「はは、この分だと今夜は眠れそうに無いかな」

弟子「ふえぇっっ!? ボ、ボクはそんなにはしたなくありませんよっ!」

魔術師「そうだ、遺跡調査の成果を弟子に紹介しよう」

弟子「成果を……紹介?」

魔術師「尸、おいで」

尸と呼ばれた少女「……はい」

弟子「女の子……」

魔術師「自己紹介しなさい」

尸「かばね……そういう名前みたい」

魔術師「これは尸。偽神の器にして、天遣の入れ物だ」

尸「…………」

弟子「……浮気、ですか?」

魔術師「ぬっ……そんな訳無いぞ!」

弟子「ふふっ、分かってますよ師匠。師匠はボクに夢中ですもんね」クスッ

魔術師「ぬう……」

弟子「さ、早く着替えて下さい。直ぐに食事の支度を始めますから!」

魔術師「ああ。行くぞ、尸」

尸「はい。痴話喧嘩は失笑で流しましょう」フッ

魔術師「ぐぬっ……」

師匠は双王国の遺跡から天遣の入れ物を連れて来た

古代霊晶期を滅ぼした偽神の魂を封じる器。尸を

何故そんなものを連れて来たのか

その答えを師匠はあっさりと打ち明けてくれたよ



弟子「ボクを……永遠にする……?」

魔術師「そうだ」

弟子「よく意味が分からないのですが……」

魔術師「人は老いる。弟子もやがて老いてしまう」

魔術師「愛しいお前が醜く老いてしまうなんて、私には耐えられない。愛する弟子を永遠にしたい。だから尸を探したんだ」

弟子「師匠、そんなにまでボクの事を……」

魔術師「尸に内包される偽神の魂をお前に宿せば、魔族に等しい肉体を得られる筈だ」

魔術師「魔族は若さを保ちながら永遠とも言える時を過ごせる。魔族に等しい肉体を得る事が出来れば、お前を永遠にする事だって……」

弟子「永遠の若さ……」

尸「…………」

魔術師「そうだ。弟子、共に生きよう。私と共に」

弟子「……はい。師匠が望むなら、ボクは貴方の永遠になります」ニコッ

魔術師「ありがとう。ありがとう、愛しい弟子……」ギュッ

尸「…………先に就寝しても宜しいですか」

魔術師「あ、ああ。空いている部屋を自由に使ってくれ」

尸「……では」スタスタ

魔術師「そうだ、儀式の前に一度弟子の故郷へ里帰りしよう!」

弟子「良いんですか!? えへへ、ありがとうございます、師匠っ」




ガチャ

パタン……

尸「……愚か、ね…………」

尸「ですが、ここは冷笑で流してあげましょう……」クスッ



投下終了
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ホモ展開申し訳ありませんでした

乗っ取りは登場人物全員メンヘラかボダか自己愛性人格障害か性同っていう変な話です。タイトルは勘弁して下さいお願いします
あと今回はあまり気分の良い話じゃ無いです
では投下開始

ところで馬丁、キミは神様を信じるかい?

聞いた事はあるけどよく知らない?

……ああ、そうだったね。神様って言うのは全知全能の救い主であり、世界の創造主なんだって

神王国で信仰されてる偶像だよ

……ふふ。神をよく知らないキミに聞いても仕方ないか

エレメントでもオリジンでも無いただの偶像
それを本気で信じている人も居るんだよ

どんなに祈ったって意味なんか無いのに、ね……

ボクは信じてるのかって?

そうだな、ボクは……

―回想―

尸「また馬車で移動ですか」

師匠「まさか歩いて行く訳にもいくまい」

弟子「尸は馬車は苦手なの?」

尸「双王国からずっと馬車だったので乗り疲れただけです」

師匠「半日で着くから我慢なさい」

尸「仕方ないですね。楔から解き放ってくれた恩がある以上従いますよ」

弟子「ふふふっ。口が悪い娘だね、師匠」クスクス

師匠「幼い少女の外見に反して酷く辛辣だろ? 帰路の最中、私の心労たるや……」

弟子「心中御察ししますよ、師匠」ピト

師匠「どうした?」

弟子「ボクが寄り添う事で少しでも負担が和らげば。と、思いまして」スリスリ

師匠「……すまないな」ナデナデ

弟子「えへへ……」

尸「……如何わしい」

弟子「ふふふ。そうだ、手綱はボクが握りますから、師匠達は休んで下さいよ」

師匠「良いのか、弟子よ?」

弟子「昨夜は遅くまで……その、えへへ……ね? 長旅の疲れ、まだ取れて無いですよね?」

弟子「だから、少しでも休んで欲しいんです」

尸「ここは甘えるべきでは?」

師匠「……そうだな、頼もうか」

弟子「はいっ。お任せ下さい!」

尸「……今は休んで温存するべきよ」

尸「空気が……澱んでるもの…………」

―――――――――――
――――――――
―――――
――

師匠「……なんと言う事だ…………」

尸「血の臭い……まだ新しいわね」

弟子「……な……なんで…………」

弟子「なんで村が、こんな事に…………」

尸「この死体、刃物による裂傷ね。抵抗した気配は無いのは何故かしら」

師匠「……この道の荒れ様、馬か」

尸「みたいね。蹄の大きさから察するに軍馬、或いは訓練された常用馬」

弟子「ぐ、軍馬がなんで!?」

師匠「…………」

弟子「何も無い村だったんだ! 土地は塩の大地からの風で枯れて! 本当に何も無い村なのに……!!」

師匠「……村長の家に行こう。まだ生存者が居るかもしれない」

弟子「!?」

弟子「そうだ、妹は!?」ダッ

師匠「弟子!」




弟子「……うそ、だよね…………」

弟子「お父さん……何で動かないの?」

弟子「お母さん、なんで服を着て無いの……」

弟子「なんで……二人とも動かないの……?」



尸「酷い有り様ね」

師匠「……」

尸「先程から黙り込んでいるけど、何か思う所でもあるのかしら?」

師匠「確かにこの村には何も無かった」

師匠「私が弟子を迎え入れるまでは……」

尸「……彼は貴方の奴隷?」

師匠「ち、違う! 弟子は……」

尸「買ったのね、彼を」

師匠「…………そうだ。だが奴隷じゃない、私は弟子を……ッ」

尸「……そう。分かったわ」

尸「まったく……何時の時代も支配層と言うのは愚劣極まり無いわね。他人の物を奪う事が当たり前なんて……」

師匠「私が、あんな大金を出さなければ……」ググッ

尸「……着いたわ」

師匠「……ああ」


ガチャ

師匠「弟子……居るか?」

弟子「…………」

尸「……酷い臭い」

弟子「うん……雄の臭いだからね……」

師匠「……」

弟子「ボクがいくら出来の悪い奴でも分かるよ。毎日、口からもお尻からも受け入れて来た物の臭いだ」

尸「……そう」

尸「(村長の妻は村長の目の前で犯されて殺されたみたいね。村長は妻が犯される姿を見せ付けられた後に殺されたといった所かしら)」

尸「(……それにしては血以外の染みが多い様な気がするけど)」

師匠「……血痕が納戸の方まで続いているな」

弟子「…………血痕?」

師匠「弟子は外で待ってなさい。私一人で見に行こう」

弟子「ボクも行きます!」

師匠「だが……」

弟子「お願い、師匠……」

師匠「……仕方ない。無理はしないでくれよ?」

弟子「はい。師匠」

―納戸―

弟子「あ……ああ…………ッ」ガクッ

師匠「もういい、見るな。見てはいけない!」ギュッ

弟子「妹が……妹が……ぁぁああああ…………ッ」

尸「……自らを絶ったのね。鎌で首を裂いて」

弟子「うあぁああぁぁ……」

師匠「弟子……」

尸「……」ドクンッ

尸「!?」

尸「(澱みが……濃すぎる……)」

弟子「妹……」フラッ

弟子「なんでそんな汚い肌着着てるんだよ……女の子なんだから、綺麗にしておけって言ってたろ……?」

弟子「髪もボサボサじゃないか。ちゃんと櫛を通さなきゃ駄目だろ?」

弟子「もっとしっかりしないと、せっかくの美人が台無しだぞ……」

弟子「……妹」

弟子「返事……してよ…………」

弟子「なんで……なんで…………!!」

弟子「ボクは、ただ家族に楽をして貰いたかったんだ」

弟子「ボクが居ない分たくさんご飯を食べて、ボクが居ない分綺麗な服を着て」

弟子「ボクが……」ギリッ

弟子「……ボクが望んだのは……こんな事じゃない!!!! こんな未来じゃないッ!!!!!」

ならばどうする

弟子「!?」

師匠「なんだ、今の声は!? いや、声なのか? 意識に直接響いて来る様な……」

尸「……不味いわ」

師匠「不味い?」

尸「ここは澱み過ぎている。偽神の魂が活性化しつつあるみたいね」

師匠「なんだと……」

ならばどうする

弟子「……」

しきみをくらいかばねとかせ

弟子「……」

われをくらいかばねとかせ

弟子「……」

まはおまえのふわをみたす

弟子「ボクが……満たされる……?」




やつめさすなりそこない

かみよのもり

ひのひまでかれ

いのいをくさらせのみ

しきみくらいてかばねとかさん



尸「謌が始まったわ」

師匠「……」

尸「止めないの?」

師匠「……都合が良い」

尸「……そう」

師匠「お前の偽神の魂を弟子に移す儀式の手間が省けた」

尸「さすが魔術師ね」

師匠「これで弟子がお前同様の存在になれば、永遠になれば……」

尸「……」

師匠「私は弟子の痛みを生涯をかけて癒す」

弟子「し……しょう……?」

師匠「共に生きよう、弟子」

弟子「ボ……ボクは……」

師匠「偽神よ! 望み通り樒を喰らってやるぞ、私と弟子で!!」

尸「…………」

尸「(ヒトは何時までも変わらないのね)」

尸「(貴方達に、資格があるのかしら……)」

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――――。――、―――

弟子「(意識の中に……何かが…………)」

弟子「(何かがボクの内側に……ボクの殻を抉じ開けて流れ込んで来る……)」

――、―――――――――、――。

弟子「(…………きもちわるい)」

弟子「(不快だ)」

弟子「(きもちわるい……きもちわるい……ッ)」

弟子「(師匠……)」

―ろかな。―――こそが、―いのほんしつ

弟子「(師匠……たすけ……っ)」

こわれたうつわ

弟子「(?!)」

あしきうつわ、よきうつわ

こわれたうつわ

ゆかい

こわれたうつわ、おさまるに、ゆかい

ならば――

あしきうつわには

てんしとしてのめざめを





めざめを





尸「くっ……」

尸「(謌が止んだ……)」

尸「(偽神が……私から漏れ出している……っ)」

うつわを

尸「ふぁっ?!」ビクンッ

尸「ぎ……偽神の魂が……」

あしきうつわを

尸「だ……だめ……堪えきれないっ」

てんし

尸「!?」

めざめ

尸「……そ、そう…………」

尸「やはり穢れ過ぎていたのね、魂が」

めざめを

尸「……術式構成…………!」

てんしのめざめを

尸「……天遣を生み堕とす訳にはいかないの」

尸「だから……目覚めさせてくれた貴方には悪いけど、塵へと還って貰うわ」

尸「…………師匠」

師匠「……素晴らしい」

師匠「素晴らしい魔力の奔流だ」

師匠「この魔力の奔流を儀式で再現するにはどれだけの供物を要する?」

師匠「ふ……ふふ……」

師匠「労せずして私と弟子は永遠となれる……いや、永遠と生るのだ!!」

師匠「さあ偽神よ、尸という器を脱ぎ捨て我等に。我等に!!!!」

めざめを

師匠「!?」ドクン

師匠「な……なんだ、今の感覚は……」

てんしのめざめを

師匠「ぐっ」ドクンッ

師匠「これが……魔を得る感覚……?」

めざめよ

うつしよのてんし

師匠「――――ッ?!??!!」

師匠「ち、違う、違うぞ。これは、この魔力は――!?」

尸「手後れよ」

師匠「手後れ……どういう事だ!?」

尸「貴方の魂は穢れ過ぎていた」

尸「貴方は……天遣に堕ちるわ」

師匠「ば、馬鹿な!? そんな筈が! 私の魂が穢れている筈が無い!!」

尸「尸と偽神を知る以上、遠からずこうなるとは思っていたけれど……」

師匠「美しき物を愛したい様に生きている私の魂が穢れているなど!」

弟子「……物…………?」

師匠「弟子!」

尸「貴方の欲望で天遣が生まれ堕ちてしまっては、私の造り出された意味が無いの」

師匠「わ、私は――!!」

尸「構成式展開」

師匠「私は――ッ!!!!」

尸『……ディスインテグレート』

古代魔法:塵は塵に

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続きは今夜投下します
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シャワーを浴びた後の記憶が無い
投下開始

あの時のボクは頭の中がグチャグチャで、何が起きているのか分からなくなっていた

はっきりと覚えているのは、師匠がボクを物として見ていたという事

……分かっているつもりだったんだけどね

うん

辛かったよ。本当に

……ありがと。じゃあ、続けるね

尸が発した魔法で師匠は閃光に包まれた

ディスインテグレート

物質を分解し消去する、古代魔法の中でも高位の魔法を尸は使ったんだ

ボクは何も出来ぬまま、師匠の肉体が塵へと還る様を傍観していた

……けどね、手後れだったんだよ。尸が言った通り

手後れ、だったんだ……

尸「……偽神を抑え込んで使う魔法では無い……か」フラッ

尸「失笑……では済みませんね」

あしきうつわ、ふかんぜんなるうつわ

尸「……くっ」

尸「(何が何でも出て来たいという事?)」

にく

ちにく

ことたりるにく

ちにくを

尸「……これ以上は…………」

かばねをのみ

ちにくえる

尸「――――ッ」ビクンッ

尸「(澱が……溢れ出す……っ)」




尸の身体から何か得体の知れない物が抜け出た事が分かった

それは半身を失った師匠とボクの中へ滑り込み

師匠とボクは、ヒトである事を奪われたんだ



師匠「……ヲ……ヲォオオォオオォォォォオオ」ビキビキッ

始めは人の姿だった

尸「……私の身体は余程居心地が悪かったみたいね」

けれど

弟子「し……師匠……」

師匠の姿は

天遣「ヲォオオオオォオオォォッ」ビキッ

半身の再生と共に、皮膚は真っ白な陶器の様に硬質で滑らかな物へ変わり

弟子「そんな……こんなことって…………」

胸からは赤色の輝石が浮き上がり

目も鼻も無く、肩甲骨から突き破った骨は、皮膜の無い蝙蝠の翼の様に広がって……



ボクの愛した人は、天遣へと変質した



尸「貴方は……資格があったようね」

弟子「……」ブルブル

尸「(壊れた器……心が壊れていたから無事だったという事?)」

弟子「しかく……?」

尸「天遣を破壊するわ。手伝って」

弟子「……はかい」

尸「(いくら資格があっても、変質直後ではさすがに動けないかしら)」

弟子「……ふ、ふふふ…………」

尸「!?」

弟子「ふふふっ。そうだね、壊さなきゃ」

弟子「こんな神の成り損ない、壊してあげなきゃダメだよね?」スッ

弟子「確か、こうだっけ。術式構成、構成式展開」

弟子『ディスインテグレート』

カッ

天遣「オグァアアアァッ!!」ガクッ

尸「ま、まさか見ただけであの魔法を!?」

弟子「ははっ。やっぱり片足消し飛ばしたくらいじゃダメか」

弟子「だったら、腕も翼も足も全部消し飛ばしてあげるよ!」バッ

古代魔法:塵は塵に

天遣「ゴァッアアアァッ!」グラッ

尸「いけない!」

弟子「?」

ドシュッ

弟子「……は、はは」ボタッ

弟子「やっぱり師匠は刺すのが上手いや」

弟子「消し飛ばした欠片で、不意討ちなんて、ね……」

弟子「……でも」

弟子「こんなのじゃ足りませんよ、師匠」ニコッ

古代魔法:塵は塵に

天遣「ガァアアッ!?」

尸「……っ」ハッ

尸「その魔法では天遣を滅ぼせないわ!」

弟子「……?」

弟子「ああ、そう。なるほどね」

弟子「確かに無理そうだ。もう完全に再生してるんだもん」

天遣「ヲォオオオオ……」

弟子「ボクの傷の治りも随分早いね。これが偽神の、魔の力か……」

尸「距離を取って。近付くと塩の柱にされるわよ」

弟子「それは嫌だな」ヒョイ

尸「(私の魔法で完全に破壊するのは難しそうね。どうすれば……)」コトッ

尸「これは……水差し?」

尸「……!」

尸「貴方、まだ魔法は使える?」

弟子「たぶんね」

尸「なら天遣の動きを止めて。あとは私が何とかするわ」

弟子「良いよ。師匠にボクを刻み込んであげる」

弟子「たっぷりと、ね……」クスッ

投下終了
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あと魔晶石さえあればスリープクラウド達成値+20とか出来る文庫版は大味ながら好きなシステムでした
分からない方はごめんなさい

投下開始

弟子「狭い納屋じゃボクも動き難いな……」チラッ

弟子「妹、少し待っててね。後で綺麗にしてあげるから」ボソッ

尸「あまり悠長にしてる隙は無いわよ」

弟子「ふふっ。分かってるよ」クスッ

弟子「ここじゃ、妹が巻き添えになるから……」スッ

弟子『これでもくらえ!』ゴオオォォオオオオッ!!

古代魔法:魔力波

天遣「!?」

ガッ

弟子「そのまま吹き飛んでください、師匠」

弟子『これでもくらえ!』

ゴオォオオオォォオッ!!!


尸「……目覚めて間もない緩慢な天遣とは言え、魔力波で強引に吹き飛ばすなんて無茶をするわね」

尸「でも、時間は稼げたわ。水差しは……良かった、コップ一杯程度の水は入ってる」チャプ

弟子「ふぅ……破壊の魔法は疲労に対して効果が薄いなぁ」

弟子「でも、殺さない程度に痛めつけるにはちょうど良いかな」クスッ

天遣「……」

弟子「……師匠。ボクは貴方と居て幸せでした」

弟子「貴方はボクと居られて幸せでしたか?」

天遣「……ア……アァ…………」

弟子「……愛してましたよ、師匠」ニコッ

天遣「アア……アァァア……アァアアアアァァッ!!」バッ

カッ

弟子「光線!?」

弟子「……ほんとう、師匠は挿すのが上手ですね」ガクッ

弟子「だからって、ボクの身体に風穴を空けないで下さいよ……」ゴフッ

ビュウウウゥッ

精霊魔法:風縛り



弟子「風?」

天遣「……!」ギチギチッ

尸「もう十分よ」

弟子「……遅いよ。怪我しちゃったじゃない」

尸「胸部の風通しが良くなっている割りに元気ですね」

弟子「……お陰さまで」

弟子「それで、その水差しで何をするつもり?」

尸「禁術の再現。ですよ」

弟子「再現、ね」

尸「では……」

尸「えいっ」ポイッ

弟子「え?」

弟子「(水差しを師匠に投げつけた……?)」

尸「『四方』に『障壁』を展開」

古代魔法:障壁×4

尸「『天地』を『封じ』『六方』を『閉ざせ』!」

古代魔法:障壁×2

弟子「(水差しの水が障壁魔法に包まれて……これが禁術の再現なの?)」

尸「次は障壁魔法で天遣を囲います。ディスインテグレートが使えるのなら出来るでしょう? 手伝って」

弟子「う、うんっ」

弟子「(禁術の再現……これが?)」


ボクと尸は障壁魔法で天遣を何重にも囲った

この時は障壁で天遣の動きを完全に封じるつもりだと思ったんだけどね

けど、違ってたんだ

彼女は被害を最小に抑える為に障壁で天遣を囲っていたんだよ

尸「弟子は障壁を展開し続けて」

弟子「うん、分かった」

尸「独立した構成式の無い魔法は面倒ね」フゥ

尸「……『加熱』!」

ジュウッ

弟子「(障壁内の水が蒸発した?)」

尸「……『加圧』!」

キィイイイイィンッ!

尸「座標、障壁内の水蒸気。術式を『固定』」

尸「……仕込みは完了よ、跳ぶわ」

一旦終了
今夜か明日の朝にまた投下します

投下開始


僕はあの時なぜ尸が遅れてやって来たのかを考えなかった

彼女があの水差しになにを入れたのか

水差しに入れたそれをどうやって抽出したのか

……考える時間なんて無かったのかも知れないけどね


それにしても古代の人は凄いと思うよ

燃える鉄と水で偽神を……いや、天遣を滅ぼすだけの破壊の力を生み出せる事を知っていたんだから

尸「臨界に達する前に早くここを離れる必要があるの。跳ぶわよ」

弟子「……そう。なら父さん達も連れて行かないと」

尸「時間が無いと言ってるの、分からない?」

弟子「……妹だけでも連れて行くよ」スタスタ

尸「ええ。”それなら”構わないわ」

弟子「……」クルッ

弟子「さよなら、師匠」

天遣『…………ユケ……ッ…………ハヤ……く…………」

弟子「師匠……?」

天遣「…………」

弟子「……はい。さようなら、師匠」タッ

―納屋―

弟子「服は屋敷にある物で構わないよね。さ、行こう妹」グイッ

尸「準備は出来た?」

弟子「うん。何時でもどうぞ」

尸「……跳ぶわ。自分の足と頭が何処に向いているか、はっきりとイメージするのよ」

弟子「え?」

尸『……ゲートッ』ヴゥン

シュンッ

古代魔法:長距離空間転移

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

尸「……ここは……彼の屋敷ね」

尸「(曖昧なイメージではあったけど良かった……)」

尸「……それで、大丈夫なの? 貴方」

弟子「おぶぇぇえっ」ビチャビチャ

尸「……酷い転移酔いね」

弟子「……あんな……空間抜けて……まともな方が、おかしいよ…………ッ」

尸「何度も跳べば慣れるわ」

弟子「……うっ」ゲホッ

尸「……もう少ししたら強い光と地響きが来るわ。それが止んだら休みましょう」

弟子「光と地響き……?」

尸「かつて大陸の一部を塩と化し術体系から排除された、禁術の再現よ」

尸「もっとも……燃える鉄を僅かにしか抽出出来なかったから、百分の一にも満たない威力でしょうけど」

弟子「よく分からないけど、そんなのであの再生力を上回れるの?」

尸「不完全な天遣を滅ぼすには十分の筈よ」

尸「……おそらく、だけど」

彼女の言う通り強い光と地響きは程無くやって来た

天を白く染める光

世界の断末魔の様な地響き

その日ボクの故郷は地図の上から消え、塩の大地に塗り潰されたんだ

水と燃える鉄。あとほんの少しの魔法でね

―現在―

馬丁「村が地図から無くなるって、そんな恐ろしい威力の魔法があるのか……?」

塵「魔法……とはちょっと違うけどね」

馬丁「……でも待てよ、そんな大事件を俺は知らないぞ」

塵「あははっ、当たり前じゃないか。だってキミが生まれるよりも、ずっと前の出来事だよ?」

馬丁「な……っ」

塵「ふふ……」クスクス

馬丁「(こいつ……何歳なんだ……?)」

塵「ダメだよ、聞いちゃ?」

馬丁「……」

塵「ともあれ、尸。今のボクの師の力で天遣を倒す事は出来たんだ」

馬丁「……なあ、そういや燃える鉄ってどうやって用意したんだ?」

塵「……」

馬丁「そんな珍しい物、水みたいにそこいらにある物じゃ無いだろ?」

塵「……抽出したんだよ」

馬丁「抽出?」

塵「そう。抽出したんだ」

塵「人の……ボクの両親を錬成して、ね」

馬丁「な、なんだよ……それ……」

塵「ほんの少しだけ。銅貨一枚にも足りるか分からないくらい、人の体にも含まれているそうだよ」

塵「死者は物だからね。反発する精霊力が無いから、抽出するのは容易なんだって」

馬丁「それじゃ……塵が家族を連れて行くのを止めたのは……」

塵「……見せたく無かったのかな、きっと」

馬丁「塵……」

馬丁「あのさ……」

塵「なんだい?」

馬丁「どうして、こんな話を俺にしたんだ」

塵「……同情して欲しかったんだ、キミに」クスッ

塵「愛した人はボクを人形だと言い、裏切られたカワイソウなボクを」

塵「僅かな銀貨の為に家族を蹂躙されたアワレなボクを」

塵「天遣の澱を内包し化け物になってしまった、チリアクタ程の価値もないボクの事を」

塵「キミに、憐れんで欲しかったんだ……」ニコッ

馬丁「茶化すなよ!」

塵「ッ……」

馬丁「……」

塵「話せば……」

塵「話せば、キミは絶対にボクを止めないと確信してるから。だよ」

塵「ボクが復讐するべき相手が直ぐ近くに居る」

塵「かつての地方領主の息子であり、ボクの母と妹を凌辱し殺した村の駐留部隊の隊長」

馬丁「お、おい……まさか、それって……」

塵「後に近衛騎士団の隊長となった……」

塵「近衛ちゃんの父親」

塵「ボクはこれから彼を殺しに行くんだ。キミと共に」

投下終了
閲覧感謝

投下開始

―同時刻・騎士団長別荘前―

兵士2「盗賊ギルドの調査によると冒険者崩れの傭兵が数名程護衛に就いているそうです」

兵士長「はっ。正規の護衛じゃなく冒険者崩れ雇うなんざ分かり易い野郎だな、おい」

兵士2「奴隷が監禁されている様な場所は見当たらなかったそうですが……」

王女「そんなの隠し部屋があるに決まってるじゃない」

兵士2「はい。ギルドの方でもそう判断した様です」ペラッ

兵士長「ん? なんだ、そいつは」

兵士2「侵入した盗賊の報告から、簡単ながら見取り図を用意させました」

王女「ふーん。別段怪しい場所は見当たらないけど……」

兵士1「部屋と部屋の間に不自然なスペースは見当たらねぇな」

兵士長「ってこたぁ……地下か」

兵士2「はい」コクッ

兵士長「そうなると……」チラッ

兵士1「俺の鼻の出番ですね、隊長」ニヤッ

―同時刻・騎士団長別荘―

ガチャ

「ひひひっ。随分と長い便所だったなぁ」

「おう。あんまりクスリ寄越せってせがむからよォ、少し焦らしたら離してくれねぇでやんのな」ゲヒヒヒッ

「あんまヤり過ぎんなよ? 直ぐ壊すとお下がり貰えなくなっぞぉ」

「おいおい、そんなんじゃ酒くらいしか楽しみ無くなっちまうだろ」

「ふひひッ。てめぇの頭ん中は酒と女しか無えのかよ!」

「当たり前だろうが。それ以外何があるってんだ!」ガハハハハッ

「……亜人の方はどうなってる」

「あん?」

「亜人の奴隷はまだあの調子なのか?」

「ちっ。ああ、まだ水すら手を付けてねぇよ」

「惜しいよなぁ。一番の上玉だってのに、下手に近付きゃ殺され兼ねねぇからよぉ」

「あのクソ猫にはもう二人殺られてるって話だからな。だが、堕ちるのは時間の問題だろ」

「ああ。喉の渇きも限界だろうしな」

「うぇへへへへッ。楽しみだなぁ、オイ。あのクソ生意気な猫女がだらしない面晒して堕ちるのがよォ!」

ドンッ

「な、なんだ!?」

「だっ、誰だてめぇらッ!?」



兵士1「よう。ちょっくら邪魔するぜ」



兵士2「この屋敷に国内で取引先が禁止されている奴隷が居ると報告があり調査に参りました」

「は!? んなもん居ねえよ!」

兵士1「酒くっせぇ野郎だな、こっちはお上の命令で来てんだよ、分かる?」

「んだとォ!?」

兵士1「っせえな、一々喚くなよ」

「て、てめぇ……」ギリッ

「……」

兵士2「余り挑発しないで下さい。飲酒と怒りで気の毒なくらい顔を真っ赤にしてるではありませんか」

兵士1「ん? ああ、まるで雪猿のケツだな。みっともないったらありゃしねぇ」

「ば、バカにしやがって!」ジャキッ

「な!? おい!」

兵士1「へへっ。抜いたな」ニヤッ

兵士2「ええ。抜きましたね」ニヤリ

「兵士様だか何だか知らねぇが、貴族サマの屋敷に二人で踏み込んだ事を後悔させてやる!」シュッ

パシッ

「へ?」

ドゴォッ!!

「へぶっ!?」

兵士1「ったく。腰が入ってねぇよ、腰が」

「て、てめぇ……」

「くそっ、二人しか居ねえんだ、殺っちまうぞ!!」

「おいおい、マジかよ……」

「やっぞ、オラァッ!!」

兵士1「上等だよ、上等。掛かって来な、チンピラ共」スッ

兵士2「何人かは生かしておいて下さいよ。聞くことがありますから」

兵士1「善処すらぁなァッ!」ダッ

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

「……降参だ」カラン

兵士2「賢明ですね」

「く、くそ……っ」

「兵士の癖に……」

兵士1「兵士の癖に、ねぇ……」グイッ

「!?」

兵士1「こっちは四六時中訓練と実戦に明け暮れてんだ。明け方近くまで酒かっくらってる凡骨に後れ取る道理は無えんだよ……ッ」ギロッ

「ひっ」

兵士長「おいおい、あんまり苛めんな」

王女「使用人達への聞き込みが終わったから来てみれば……」

「お、王女!?」

王女「あら、傭兵にも顔が知られているなんて光栄ね」

「なんでこんな所に……」

王女「身内の不祥事を暴きに来たの。貴方達には悪いけど、雇い主はもう牢の中よ」

「な……」

兵士2「王女様、使用人達からは……」

王女「彼等は何も聞かされていないみたいね。行商人と取引する時は執務室に誰も入れさせてなかったそうよ」

兵士長「だからコイツらから話を、な」

「……」

兵士1「だってよ」グイッ

「ぐっ……」

兵士2「止めて下さい。どちらがチンピラか分かりませんよ」

兵士1「はいはい、これ以上手荒な真似はしねえよ」パッ

「くそっ……」ゲホッ ゲホッ

兵士2「話してくれませんか? こちらとしても、余り手荒な真似をしたくはないので」

「へっ。知らねぇなぁ?」

兵士1「てめぇ……っ」

「……」

「……雇い主。この屋敷の主人が牢の中って事は、もう報酬は出ないよな」

兵士長「だろうな」

「一応、俺にも傭兵としての信用ってもんがあるから詳しくは言えないが……」

「て、てめっ!?」

兵士1「うるせぇ、黙れ」ゴリッ

「んがっ!?」

兵士2「……続けて下さい」

「……詳しく言う訳にはいかないが、ここの連中が便所に行くと行って執務室の方に向かっているのを見た」

兵士長「……そうか」

兵士1「チッ、便所かよ……ッ」

兵士長「兵士2、外で待機してる兵達を呼んでコイツらを連行しろ」

兵士2「はっ」

兵士長「王女様は兵士2と共に一度城にお戻り下さい」

王女「見届けさせなさい……」

兵士長「……」

王女「……とは言わせてくれなさそうね。分かったわ」

兵士長「すみません、王女。残った兵士1は俺と共に執務室に行く」

兵士1「了解」

兵士長「以上だ。行くぞ、兵士1」

王女「兵士長!」

兵士長「……なんでごさいやしょう?」

王女「……お願いします」

兵士長「分かってます。こいつも俺等の仕事ですよ」

一旦終了
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寝坊した…
投下開始

―執務室―

兵士長「分かるか?」

兵士1「……すえた臭いが漂ってますぜ。何処かに階段が……と、これか」ガタッ

ギギギ……

兵士1「くっ……」

兵士長「ひでえな。階下に降りてねぇのに臭いやがる」

兵士1「まったくでさぁ。この姿で臭い嗅ぎ続けたら鼻がバカになっちまう」

兵士長「ああ。今の内に戻っておけ。階下の臭いはもっと酷いだろうし、その姿を捕まってる奴等に見られるのも面倒だろ」

兵士1「遠慮なく戻らせて貰いますよ。正直なところ、臭いで胸まで悪くなってるんで」ミョイン


カツカツカツ……

兵士1「しっかし酷い臭いですね」

兵士長「空気口がまともに無いんだろうよ。ロクなもんじゃねぇや」

兵士長「……扉か」

兵士1「鍵は……外から掛ける系統みたいです。って事は……」

兵士長「どうやら、ここに間違いなく無さそうだな」


ガチャ

兵士1「…………ッ」

兵士長「……こいつは…………」

チャリッ

兵士1「!?」

兵士長「ッ!? 下がれ、兵士1!」バッ

ザシュッ

兵士長「チッ、かすったか!?」ボタボタ

「グルルルルルルッ!!」

兵士1「隊長!?」

兵士長「腕にかすっただけだ、心配ねぇ!」

「…………これ以上近付くなら……次はその腕を食い千切る」

兵士長「おいおい。助けに来たってのに随分なもてなしだな、まったく」

「…………来るな」ジリッ

兵士長「そうおっかない顔しなさんな、フェルプールのお嬢ちゃん」

猫獣人「…………」

兵士1「おいガキ、こんな中で鼻がイカれたのか?」

猫獣人「く、来るな……!」

兵士1「ったく。てめえの爪に付いてる血の臭いを嗅いでみろっ!」

猫獣人「なにを、言って……」クンクン

猫獣人「……!?」

兵士長「分かってくれたか?」

猫獣人「お前……人じゃ……? な、なんで……?」

兵士長「だから助けに来たって言っただろ、フェルプールの嬢ちゃんよ」

猫獣人「……ほ、本当に……?」

兵士長「ああ。俺達獣人種は同胞を裏切らない。そうだろ?」

猫獣人「同胞……」

兵士長「まずはその枷を外す鍵を探すとするか」

兵士1「たぶん壊した方が早いですぜ」

兵士長「……それもそうだな」

少ないけどここまで
残りは今夜か明日に投下します

投下開始

兵士長「枷を壊すから動くなよ」スッ

猫獣人「わかった」

ミシッ

兵士長「ぬぅ……存外頑丈だな」ミシミシミシッ

兵士長「……ふんっ」パキッ

猫獣人「と……とれた……」

兵士長「手のはな。足のも壊すぞ」

猫獣人「うん……」

兵士長「……これで全部か」

猫獣人「すごい……」

兵士1「はは、良かったな」

猫獣人「ん。ありがとう、クマさん」

兵士長「……クマって俺の事か?」

猫獣人「うん」

兵士長「……はあ」

猫獣人「ちがうの?」

兵士長「俺はカーカルだ。豹であって熊じゃねえよ」

兵士1「熊並にガタイ良いですがね」

兵士長「うっせえ。せめて獅子にしろい」

猫獣人「(やっぱりクマっぽい……)」ジーッ

兵士長「そういえば、お前以外の捕まってる奴は何処に居るんだ?」

猫獣人「……あっちの部屋」

兵士長「そうか」

猫獣人「いっても、意味ないよ」

兵士長「……どういう意味だ?」

猫獣人「もう……手遅れだから」

兵士1「そいつは……」カチャ

兵士1「この器に入った水のせいか?」

猫獣人「……うん」

兵士1「どんなに鼻が曲がろうが、こいつの臭いは分かる。こいつは……禁制の薬だ」

猫獣人「ウチは砂漠の民だから渇きに強いけど、他の子は我慢出来なかったの……」

兵士長「……そうか」

兵士1「これを体に入れちまったら、もう正気には戻れない」ギリッ

兵士1「隊長、いっそここで楽にしてやった方が……」

兵士長「駄目だ」

兵士1「……」

兵士長「俺達は兵士だ。傭兵とは違う」

兵士長「個の判断で動くな。助かる、助からないの問題じゃねえ。助けんだよ」

兵士1「……了解」

兵士長「嬢ちゃん、この奥で良いんだな?」

猫獣人「……うん」

兵士長「兵士1はこの嬢ちゃんと上がって、使用人に湯と体を拭く布を用意させろ」

兵士長「奥へは俺一人で行く」

兵士1「了解です。行くぞ、ガキんちょ」

猫獣人「馴れ馴れしいぞ、イヌコロ」

兵士1「俺はイヌコロかよ……」

猫獣人「クマさん。お願い、あの子たちも助けてあげて」

兵士長「おう、任せとけ」

猫獣人「……うん」

兵士長「それと俺はクマじゃなくて兵士長だ。カーカルは熊じゃねえからな?」

猫獣人「うん、わかった」

投下終了
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投下開始

兵士長「この扉の向こうか」ガチャ

兵士長「(鍵、か。臭気でこんな事にも考えが行かないなんてな)」

兵士長「鍵を探す時間が勿体ねえな。壊すか」グッ

兵士長「ふんっ!」バキッ

兵士長「……よし。おう、邪魔するぞ」キイィ

「ま、まま、また、き、ききき来た、の?」カチャリ

兵士長「ッ!?」

「お……おおおお、おにぃさん、だだだだだ、だれ?」ビクッ

「られれもイイよぉ……はやくぅ……」

「ううう、う、うん。はやく、しよ? なな、な、な、なんでもするから、だから」

「はやく、おくすりぃ……ちょーらいよぉ……」ニヘラァ

兵士長「……」グッ

兵士長「(こいつら、年端も行かないガキじゃねえか……ふざけやがって……ッ)」

兵士長「何も……何も、しなくて良い。そこに転がってる毛布を巻いて俺に着いて来い」

「おそと……? おそとでするのぉ?」

「ななな、なんでもする、から、はや、はやく、おくすり、くく、くださいっ」

兵士長「……黙って着いて来い」

「はぁい」ニコニコ

「はははは、はい」オドオド

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

兵士1「監禁されてた二人は女中に頼んで湯で体を拭いて貰ってます。あのガ……フェルプールは……」

ガチャッ

猫獣人「くまさん!」バタバタバタッ

兵士1「……隊長以外の言う事を聞きたくないそうで、裸で駆け回ってる次第っす」

兵士長「……」

猫獣人「尾無しの服に尻尾の穴無い! こんなの着れないぞ!」

兵士長「……兵士1」

兵士1「なんすか」

兵士長「鋏を借りて来てくれ」

兵士1「……了解」

兵士長「嬢ちゃん、まだ薄汚れてるじゃねえか。ちゃんと湯で体を拭いたのか?」

猫獣人「うっ……」

兵士長「用意してあっただろ?」

猫獣人「……お湯なんかでふいたらヤケドする」

兵士長「は?」

猫獣人「ウチは尾無しとチガウの! お湯なんかあついのでふいたらヤケドしちゃうっ!」

兵士長「そんな熱い湯じゃねえだろ」

猫獣人「へ? そおなの?」

兵士長「(これが文化の違いか……)」

兵士長「ほれ、服は何とかしとくから、嬢ちゃんは体拭いて来な。やり方分かんねえなら、そこいらの使用人に手伝わせるからよ」

猫獣人「いや」

兵士長「嫌って、お前なぁ……」

猫獣人「尾無しは信用できないもん。いや」

兵士長「(ま、そりゃ信用出来る訳ねぇよな)」

兵士長「だからって汚ねえまんまは嫌だろ?」

猫獣人「……うん。でも、尾無しに教わるのはイヤ!」

兵士長「まいったね、こりゃ……」

猫獣人「あっ。だったら、くまさんが教えてよ!」

兵士長「はあっ!? な、なにバカな事言ってやがる!」

猫獣人「ワンコロじゃ頼り無いし、尾無しは信用できないなら、くまさん以外いないよ?」

兵士長「…………本当に参ったな、こいつは」


―どこかの屋敷―

ピキッ

身なりの良い女「……あら」

端正な顔立ちの少年「どうされました、ご主人様?」

女「……犬の鎖が切られたみたいね」

少年「犬……ですか?」

女「ただ鎖が切れたのなら良いのだけど……」クスッ

女「余計な事を吠えられると面倒だわ。野良になる前に始末してきて頂戴」

少年「……分かりました」ガタッ

女「頼んだわよ」クスクス

「おや、何か用事かね」

女「いえ、連れの物が所用で席を外すだけですわ」

「ふむ……」

女「では、私達だけで続けましょうか」

「ああ。そうしよう」

女「あら、色気の無い人」

「……年代物のワインを空けよう。これで君の口と気持ちが緩くなれば良いのだがね」

女「ふふっ。そうね、では商談を続けましょうか」

女「前近衛騎士団長様……」クスッ

一旦終了
残りは近い内に
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投下開始

前近衛騎士長「早速だが例の物を改めさせて貰おうか」

女「まだグラスを空けてもいないのに、せっかちね」クスクス

前近衛騎士長「回りくどいのは嫌いでな」

女「ふふ……もっと勿体付けた方が素敵だと思ったのだけど」

前近衛騎士長「君は無意味な時間を過ごすのが好きみたいだな」

女「そう? 欲望の弦を引き絞るなら、もっと内に混沌を熟成させる方が解放の快感が増す物よ」

前近衛騎士長「ふん……」

女「本当、せっかちね」クスッ

ゴトッ

女「はい。これよ」

前近衛騎士長「ほう……これが、か。見た所、ワインの瓶にしか見えないが」

女「加工したのよ。こうすれば、簡単に器に飲ませる事が出来るでしょう?」

前近衛騎士長「ふっ。そう言う事か」

女「お酒に擬装するなら、気の聞いた名前が欲しいわね……」

女「ふふっ。ねえ、天遣の心臓なんてどうかしら?」

前近衛騎士長「名前などに興味は無い」

女「……つまらない人」

前近衛騎士長「詰まらなくて結構だ、それより――」

女「気になるの?」

前近衛騎士長「…………ああ」

女「本物である証明をしましょう。何か小さな生き物は無い?」

前近衛騎士長「……厨房に行けば鷄くらいは在るだろう」

女「そう。なら厨房に行きましょう。これが本物だって証明してあげる」

前近衛騎士長「……良いだろう。見せて貰おうか」

―厨房―

「だ、旦那様!? こんな夜更けにどう致しました?」

前近衛騎士長「生きた鷄を直ぐに用意しろ」

「はいッ、かしこまりました!」

「旦那様、一番活きの良い奴を用意しました」

前近衛騎士長「うむ。これで良いか?」

女「ええ」

前近衛騎士長「ふん。良くやった、お前はもう下がれ」

「は、はい!」

女「ふふっ」

前近衛騎士長「何が可笑しい」

女「……だって。ねえ? 他人に冷たい様で、身内には随分と優しいんだもの」

前近衛騎士長「信頼出来る者には相応に接しているだけだ」

女「ふふふ……そう。そうなんだ」

女「さて、と。無駄話はさておき、本物である事を証明しないといけないわね」キュポン

女「天遣の心臓を一滴だけこの鷄に飲ませて……」ポタッ

前近衛騎士長「ッ!?」

前近衛騎士長「……こ、これは…………!?」

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

前近衛騎士長「間違い無く本物だと判断した」

女「当たり前よ。貴方に偽物を掴ませる優位性は無いもの」

前近衛騎士長「……幾ら欲しい」

女「ふふっ。本物にせっかちなんだから」

前近衛騎士長「言い値で買おう。幾らだ」

女「……ふう。そうね、王国金貨100枚でどうかしら」

前近衛騎士長「100……か」

女「あら、不服?」

前近衛騎士長「良いだろう。王国金貨100枚で国を掌握出来るなら安いものだ」

女「うふっ、商談成立……ね」クスッ

女「ああ、そう言えば――」

前近衛騎士長「なんだ」

女「器の用意は出来ていて?」

前近衛騎士長「問題無い。今朝到着した」

女「そう。それは資格のある器なのかしら」

前近衛騎士長「あれには幼い頃から男に対しての嫌悪感を植え付けてある。何の問題も無い」

女「……ふぅん」

前近衛騎士長「話はそれだけか?」

女「……ええ」

前近衛騎士長「金は執事に用意させる。悪く無い取引だった、今後も良い関係でありたいものだな」

女「こちらこそ。最高のお酒と最高の取引だったわ。それではごきげんよう」

前近衛騎士長「ああ。ごきげんよう、最果ての魔女よ」

女「ええ。では良い夜を」

女「(……穢れとは身体だけでは無いのよ、前近衛騎士長サマ…………)」クスクス

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使用人「これは女様、もうお帰りですか?」

女「ええ。早く次の商談に向かわなくてはならないのよ」

使用人「左様でございますか」

女「良い商談だったわ。それではね」

女「(次は砂漠か。用意は王子様にさせて、早くこの国を出ないといけないわね)」

女「(塩漠のせいで舟は使えないし、本当面倒な国だわ)」

女「さて、と。犬の始末は済んだかしら」

―郊外―

兵士2「キリキリ歩いて下さい、そんな調子では夜が明けてしまいますよ」

「チッ、わぁーってるよ」

王女「……」

兵士2「王女様、気分がすぐれませんか?」

王女「え? いえ、そんな事は無いわ」

兵士2「この様な時間まで起きているのです。自覚が無くとも疲労が蓄積してるのかもしれませんね」

王女「そうね。王宮に戻ったら少し休もうかしら」

王女「でも、先ずは彼等を詰所まで連行するのが優先よ。私を気遣って休憩するなんて言わないでね」

兵士2「そう言われてしまうと、急ぐ他ありませんね」

王女「貴方達もキリキリ歩きなさい! 素直に吐けば悪い様にはしないわよ!」

「へーい」

兵士2「……!?」

兵士2「全員足を止めて下さい!!」

王女「え? な、なに!?」


ピカッ

「ぐわあああぁぁっ!」ビリビリビリビリッ

ドサッ

「な、なんだ!?」

兵士2「王女様はお下がり下さい!」

王女「わ、分かったわ」

兵士2「あの光、魔術か……?」

「聡いですね」

兵士2「子供……!?」

少年「はい、子供ですよ。無力な、ね」

兵士2「笑えない冗談ですね」

少年「笑わなくて結構です」スッ

兵士2「(あれはアミュレット? まさか……!?)」

少年「失われし叡智よ、マナと共に顕現せよ……ライトニングバインド!」

古代魔法・雷縛

ピカッ

「ひっ」ビリビリビリッ

兵士2「やはり魔法……」

「や、やべえよ、こいつ! アンタ兵士だろ? なんとかしろよ!!」

兵士2「言われなくとも!」チャキッ

少年「魔法を見ても怯まないとは、やはり噂通り兵の錬度は高いようですね」スッ

少年「ですが……」

王女「また魔法!?」

少年「地霊たち、その手を僕に貸してくれ……スネア!」

精霊魔法・地霊の手

モブ兵士「うわっ」ドタッ

兵士2「くっ!?」

少年「暫くそこで寝ていて下さい」

兵士2「まずい……! 王女様、お逃げ下さい!!」

王女「!?」

兵士2「早く!」

少年「王女……?」

王女「……ッ」キッ

少年「……僕の目的は鎖の切れた犬の始末です。貴女に危害は加えませんよ。手を出さない限りは、ね」

王女「どういうつもり……?」

少年「言われた以上の事はしない主義なんです」スッ

「た、たすけっ」

少年「さよなら」

古代魔法・魔力の矢

「ひぃっ!」

「……」

王女「……容赦無いわね、仲間では無いの?」

少年「違いますよ」

王女「だったら何が――」

少年「では失礼します」スッ

王女「ま、待ちなさい!」

シュン

兵士2「消えた……」

王女「(何者なの、あいつ……)」

兵士2「大丈夫か!?」

「……」

モブ兵士「傭兵達は全員やられてしまいましたね……」

兵士2「……不覚です」

「……お、おい…………」

王女「!?」タタタッ

王女「貴方は……兵士2、来て!」

「……悪い事は……するもんじゃ…………ねえな……」ゴフッ

兵士2「君は奴隷達の事を話してくれた……」

「へっ……旨い話にゃ……裏があった訳だ…………」

王女「直ぐ手当てするわ、だからっ」

「兵士さんよ…………あいつは……行商人の付き人だ……」

兵士2「行商人の付き人?」

「ヤバいクスリも奴隷も、みんなそいつが持ち込んだ……」ゲホッ

王女「話は手当てしてから聞くわ、だから無理をしては駄目よ」

「……死に行く奴の……話は……ゲホッ…………黙って聞いて……くれ…………」

王女「!?」

「この国の貴族相手……商売してる行商人だ…………」

「連中は……隣国の……!?」ゴフッ

ガクッ

「………………」

兵士2「……」

王女「…………っ」

兵士2「……一度戻って兵士長と合流し、この事を報告しましょう」

兵士2「魔術師が裏に居るのであれば、早急に対策を考える必要があります」

王女「……兵を何人か貸して頂戴」

兵士2「兵を?」

王女「せめて葬儀屋に引き渡してあげましょう」

兵士2「……分かりました」

王女「(どんな者であれ、目の前で人が死ぬのは悲しいものなのね……)」

投下完了
やっと夏休みが貰えたので更新頻度上げます
閲覧感謝

うあ、精霊魔法・地霊の手じゃなくて精霊魔法・足掴みだった

ちょっとだけ投下

―王宮・尖塔―

コンコン

「……こんな夜更けに誰だい?」

文官「報告に参りました、陛下」

陛下と呼ばれた無精髭の男「君か。こちらからは開かないから、好きに入ってくれ」

ガチャ

陛下と呼ばれた無精髭の男「戸に楔でも挟んでおいてくれよ。出られなくなるからな」

文官「心得ております、国王陛下」

王「くくっ……君は相変わらずだな」

王「しかし、こんな夜更けに報告とは珍しいな。いや、初めてじゃないか?」

文官「や、急ぐ必要が有りましたので」

王「急ぎ、ねえ……」

王「そいつは、ここ最近の慌ただしさと関係するのかな?」

文官「はい」

王「……俺が書類に掛かりっきりにさせられている間、何があった」

文官「それが…………」

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

王「……おいおい、随分と愉快な事になってるな。隠れてこそこそと何をやってるのかと思えば…………」

王「にしても血なのかねえ、淑やかと思わせてかなりのお転婆とは。まったく、我が娘ながら……くくっ」ニヤニヤ

文官「如何なさいますか、陛下」

王「声の大きい老人達を黙らせる材料にはなるだろう。文官はそのまま手助けを続けてくれ」

文官「や、仰せのままに」

王「それにしても……」

文官「どうなさいました?」

王「馬丁とかいう坊主、なかなか興味深いと思ってな」

文官「…………」

王「この幽閉状態から抜け出せたら、是非とも顔を合わせてみたいものだ」

文官「ふむ。ならば遠からず会えるかと」

王「はっ、そいつは楽しみだ。なら俺もこの書類の山を片付けて準備しないとな」

文官「や、では失礼致します」

王「ああ。娘を、あいつの子を頼んだぜ」

文官「……お任せ下さい」

―前近衛騎士長屋敷・近衛私室―

近衛「ふう……今日は疲れたな…………」ポフッ

近衛「………………」

近衛「(婚約……か。愛想笑いの上手い男だったな」

近衛「(…………本当にするんだ、私……結婚…………)」

近衛「(……くっ、駄目だ駄目だ! 私がこんな調子でどうするッ!)」

近衛「(こんな調子では馬丁にからかわれてしまうだろう、こんな調子では馬丁に心配されてしまうだろうが!)」ググッ

近衛「…………」

近衛「……馬丁…………」ボソッ

コンコン

近衛「!?」

執事「近衛様」

近衛「は、はいっ」ビクッ

執事「旦那様から贈り物があります。開けても宜しいでしょうか?」

近衛「あ、ああ。構わない」

ガチャ

執事「失礼します」

近衛「……お父様からの贈り物とは?」

執事「近衛様と同じ生まれ年のワインです」

近衛「そうか。お父様らしい洒落た計らいだな」

執事「どちらにお運びしましょうか」

近衛「手元にあれば飲んでしまいそうだ。屋敷の酒蔵に保管してくれ」

執事「分かりました、ではその様に」

近衛「……ああ、酒蔵に行くのなら果実酒を一本持って来てくれないか」

執事「はい。直ぐに用意致します」

ガチャ パタン

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

馬丁「でかい屋敷だな」

塵「異様に厳重な警備、流石は貴族様だね」

馬丁「どうやって侵入するんだ?」

塵「近衛ちゃんに手引きして貰うんだよ」

馬丁「近衛に?」

塵「入口から入るのは無理そうだからね。インビジリティで敷地内に入って、近衛ちゃんの部屋から屋敷に入るんだ」

馬丁「簡単に言うけど、近衛の部屋の場所は分かるのかよ」

塵「ふふっ。任せてよ、キミの魂の残滓が放つ気配を探るからさ」

馬丁「魂の……って、まさか、おい!?」

塵「はいはい静かにしてね。見つかりたくないでしょ?」

馬丁「っ……」

塵「さ、行こうか」クスッ

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

カチャ

塵『そこだね』

近衛「どこに居る」

塵『周りに人は……うん。居ないみたい』

近衛「なにを訳の分からない事を言っているッ」

塵『少し黙っててくれないかな』

近衛「……ッ」ゾクッ

塵『浮くからしっかり掴まっててね、馬丁』

近衛「ばっ……!?」ハッ

近衛「(馬丁、だと!?)」

塵『しっかり掴まって。ん……良いよ、離さない様にもっと強く抱きしめて』

精霊魔法・浮遊

一旦終了
閲覧感謝

みす
>>651>>652の間に抜けが有りました
以下のもねが入ります



近衛「……生まれ年のワイン、か」

近衛「出来れば馬丁と杯を交わしたかったな……」

『誰と何を交わしたいって?』

近衛「なっ!?」

『キミは本当に可愛らしいね』

近衛「この声……塵か!? 何故ここに……? いや、そもそも何処に居る!」

『ふふっ……夜遅いんだから静かにしようよ』クスクス

近衛「むっ……」

『風の精霊にお願いして声を飛ばしているんだ。テラスに出てくれないかな』

近衛「……聞きたい事は山程あるが、良いだろう。テラスに出れば良いのだな」

神様は底意地が悪いと思う
投下開始

近衛「(姿は見えないが気配は感じる。塵の魔法で此処まで上がって来るみたいだ)」

ストン

近衛「……来れたのか?」

塵「うん、なんとかね。人一人荷重が増えると流石にボクの腕力じゃ厳しいな」

近衛「居るのか、馬丁」

馬丁「……ああ」

塵「魔法を解きたいから中に入って良い?」

近衛「あ、ああ。構わない、入ってくれ」

―前近衛騎士長邸・近衛私室―

塵「ふぅ……流石に連続で魔法を使うと疲れるね」

塵「……って、聞いてないか」

馬丁「……」

近衛「……」

塵「何時まで黙って見つめ合ってるの?」

馬丁「……そうだな」

近衛「……ああ」

馬丁「近衛、その……なんて言うか……」

近衛「済まない、馬丁。私の我儘に煩わせてしまって」

馬丁「良いんだ。俺は来たいから来たんだから」

近衛「そうか……ありがとう」

馬丁「おかしいな。近衛に言いたい事、沢山有ったんだ」

近衛「……私もだ。また会えたのなら、多くを語らいたいと願っていた」

馬丁「でも……な」

近衛「うん……」

馬丁「近衛の顔を見たら、全部飛んじゃって、さ……」

馬丁「情けないな。俺なりに、色々考えてた筈なんだけど」

近衛「……私だって同じだ。馬丁に言うべき言葉が沢山あるんだ、馬丁に伝えたい事が…………」

近衛「なのに言葉が、言うべき言葉が紡げない。想いだけが心に届けば何れ程の事か……!」

馬丁「……儘ならないな、本当に」

近衛「……ああ」

馬丁「だから、今言いたい事だけ言うよ」

近衛「……」

馬丁「会いたかった。近衛」

近衛「……私も、馬丁に会いたかった。会えて、良かった…………」

塵「(少しだけ二人きりにしてあげるかな)」

馬丁「一晩会ってないだけなのに、不思議だな」

近衛「……うん。もう、ずっと会って居ないかの様に感じる」

馬丁「近衛が居なくなってから色々あったんだぞ?」

近衛「そうなのか?」

馬丁「ああ。だけど、その辺は本人から聞いた方が良いだろうな」

近衛「それは……」

馬丁「なあ、近衛」

近衛「……なんだ」

馬丁「姫が俺に言ってくれたんだ。俺が、俺の様な奴が悲しまなくて良い国を作るって」

近衛「姫様が……?」

馬丁「だから一緒に考えてくれないか、俺達の事を。護衛選抜の時みたいに諦めないで前に進める様にさ」

近衛「手紙を読んだ筈の姫様が……」ボソッ

馬丁「それに俺は近衛と一緒に居たいんだ。これからも、ずっと」

近衛「わ、私だって馬丁と一緒に居たい! だが……」

塵「そろそろ良いかな」ヒョコッ

近衛「うわっ」

塵「あ、勝手に休ませて貰ったよ。幾らボクでも魔法を立て続けに使うと疲れるからね」

近衛「そ、それは構わないが……」

塵「本当はもう少し二人きりにしてあげたいんだけどね」チラッ

馬丁「何だよ……」

塵「なんか妬けるから、おしまいって事で、ね」クスッ

近衛「なっ……!?」

馬丁「お、お前なあ……」

塵「冗談はさて置いて、嫌な気配がするから早く行動に移したいんだ」

近衛「嫌な気配? 行動……?」

近衛「お前達、一体何をするつもりなんだ? 察するに私に会いに来ただけでは無いのだろ?」

馬丁「それは……」

塵「ボクが言うよ、馬丁。これはボクのやるべき事だから」

馬丁「……分かった」

塵「近衛ちゃん、ボクはね。前近衛騎士長を……」

塵「ボクの家族と村の人たちの仇である、キミの父を殺しに来たんだ」

塵「あ、本当に父と呼べる人なのかどうかは知らないんだけどね……」クスッ

一旦区切り
閲覧感謝

>>677
5時頃からメンテで落とすらしいよ

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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382282036/946)

>>678
メンテ把握です
一応書き込める様なら投下


近衛「(平民と貴族の間には埋められない溝がある)」

近衛「どういう……ことだ……?」

近衛「(乃ち貴族とは絶対者)」

塵「言葉のままさ。前近衛騎士長はボクの故郷を最悪の形で滅ぼした仇だ」

近衛「(乃ち……平民とは生み育てる家畜)」

塵「数十枚の銀貨の為か、別の理由があるかなんて知らない」

近衛「(即ち、平民とは人に非ず)」

塵「だけどね」

近衛「お父様が……」

塵「前近衛騎士長と、その腰巾着共はボクの母と妹を犯し、殺した」

近衛「!?」

塵「……母と妹だけじゃない。きっと、村の女は全員同じ目にあって殺されただろうね」

塵「(妹は自決だったけど)」

近衛「……そうか」

塵「意外。もっと取り乱すと思ってたよ」

近衛「そう……だな。だがお父様ならば、貴族ならばやっても不思議じゃない…………と、思う」

塵「……ふぅん」

近衛「(たとえ貴族であっても。家族であっても、女であるならば利用する)」

近衛「(それが当たり前の価値観なのだ。貴族にとっては)」


近衛「馬丁」

馬丁「なんだ?」

近衛「私の手を握ってくれ」

馬丁「ああ。分かった」ギュ

馬丁「(近衛、震えてるじゃないか)」

近衛「済まない」

近衛「(温かいな馬丁は。安心出来る暖かさだ)」

馬丁「大丈夫か?」

近衛「……大丈夫になるさ。馬丁が居るのだからな」

馬丁「そうか」ギュッ

近衛「ああ。そうだ」ギュウッ

塵「……仲が良いね、キミたち」

近衛「当たり前だ。私が操を捧げる程度には愛している」

馬丁「んなッ!?」

塵「程度、ねぇ」

近衛「私は馬丁を誰よりも愛している。揺るぎなく、確かな想いだ」

塵「ふふっ……素敵だね、羨ましいよ。眩しいくらいに真っ直ぐだ」クスッ


塵「でもそれだけ愛しているのに、何で別の男の物になりに行ったんだい?」

近衛「私が貴族の娘だから。では答えにならないか?」

塵「……そう。理解は出来るよ、不快だけどね」

近衛「だが、それ以上に」

塵「?」

近衛「姫様も馬丁の事を愛しているから……というのが大きい、かな…………」

馬丁「近衛、譲るなんて下らない考えじゃないよな?」

近衛「見くびるなよ馬丁。譲るつもりならばお前に抱かれなどしない」

近衛「それに譲る気であれば、私の素の姿を見せる事などしなかった」

馬丁「だったら、なんで何も言わずに」

近衛「お前と姫様に幸せになって欲しいからに決まっているだろう!」


近衛「馬丁が姫様の騎士として名声を上げれば男爵の地位だって不可能ではないんだ」

近衛「王女が国を継げば婚約者の居ない姫様と馬丁が結ばれる未来だって有り得ない話じゃない」

近衛「家を継がなくてはいけない私では、馬丁を幸せなど出来ないんだ。分かれ馬鹿っ!」

馬丁「…………ッ」

塵「……よく一息で言えたね」

近衛「……馬丁」

近衛「私はお前と姫様に幸せになって欲しかった。そして、ほんの少しでも良いから馬丁に愛されたかった」

馬丁「……愛してるさ、俺だって」

近衛「ありがとう。その言葉は何よりも嬉しい」

近衛「けれど私はもう抱え切れないくらいの愛を貰った。この想いだけで生きて行ける程の」

塵「……だから、次はお姫様を愛してやれって事かい?」

近衛「……そうだ」

塵「くだらないな。詰まらないし、下らない」


近衛「貴様……ッ」

塵「キミの気持ちが分からない訳でも無いよ」

塵「だけどね、下らないよ。それは」

近衛「下らなくなど無い!」

塵「キミは馬丁の気持ちを何一つ考えて無いじゃない」

近衛「!?」

塵「好きな人に棘を残して別の女と幸せになれって話、下らないな。少なくともボクにとっては」

塵「それに馬丁も納得出来ないから来たんだよね?」

馬丁「……ああ」

近衛「馬丁……私は…………」

塵「キミが本気で馬丁が好きなのは見て分かるよ。でも、やり方が大人で貴族的過ぎる」

塵「ボクの愛しい人を、そんなやり方で傷付けるのは……面白くないな」

馬丁「傷付ける、か」

近衛「馬丁……」

馬丁「なあ、近衛。俺はお前と生きる未来が欲しかった」

近衛「わ、私だって……本当は…………」

馬丁「俺も近衛と共に生き、老いて、添い遂げたいんだ」

近衛「その言葉……っ」

馬丁「同じ想いなんだよ。俺だって」

近衛「だ、だが私は姫様にだって幸せになって欲しい。どこの馬の骨とも分からぬ男に姫様を任せられるものか!」

馬丁「俺はどこの馬の骨とも分からない男に近衛が抱かれるなんて考えたくもない」

近衛「そ、それを言うのか……」

馬丁「失いたく無いんだ、大切な人を」


馬丁「……そっか。こんな単純な事だったんだな」

馬丁「大切な人を失いたくなかったんだ、俺は」

近衛「(そうか……馬丁は家族も故郷も貴族の勝手で失っていたんだ)」

近衛「(それなのに私は、貴族の考えを通して馬丁の事を傷付けて……)」

馬丁「姫は生涯守ると誓った大切な人だ。だけど俺が愛しているのは――――」

馬丁「近衛、お前だけなんだよ」

近衛「馬丁……私も…………」

塵「はい、そこまで」


馬丁「……?!」

塵「気配殺せてないよ?」

近衛「な、なんの事だ!?」

塵「いやいや、キミじゃないよ。ボクが言ってるのは扉の向こうに居る人」

近衛「扉……」

塵「ちょうど良いや、折角だから案内して貰おうかな。良いよね、近衛ちゃん?」

近衛「だから何の……」

塵「副長クンじゃなくキミが家を継がちゃいけない理由も分かるかもしれないよ?」

近衛「なんだと……!?」

ギイ……

塵「そうじゃない。ね、執事さん?」

執事「…………」

投下終了
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見てる人が居る事に感謝
投下開始


執事「参りましたな。御所望の品をお持ち致しましたら、この様な状況を目の当たりにするとは」

近衛「(迂闊……馬丁の事で頭がいっぱいになって忘れてた……)」

塵「かえって都合が良い、かな」ボソッ

馬丁「何をする気だ?」

塵「安心して、手荒な真似はしないよ」クスッ

塵「執事さん、ボク等をこの屋敷の主人の下へ連れて行ってくれない?」

執事「……主人の下、ですか」

塵「素直に連れて行って欲しいんだけどな」クスクス

塵「じゃないと……」

近衛「!?」ゾクッ

塵「ボク、手段を選らばないよ?」ゴゴゴゴゴッ

馬丁「(な、なんだ、この気配……!?)」

塵「馬丁、怪我はもう大丈夫だよね?」

馬丁「あ、ああ」

塵「良かった……」スッ

馬丁「どうした?」

塵「ちょっと耳を貸して」クイクイ

馬丁「分かった」

塵「あのね……」スッ

近衛「何をしている、二人とも」

塵「返して貰うよ、ボクの一部を」チュッ

近衛「んなっ」

馬丁「(な、なんでいきなり口付けをッ!?)」

塵「ん……」チュルッ

馬丁「!?」ビクンッ

馬丁「(力が……抜ける…………)」

塵「ふふっ」チュプッ

塵「貸してたモノ、返して貰ったよ」クスッ

近衛「…………ッ」

執事「……」

塵「これで、ボクはもう、殺しても死なない」

塵「選ばせてあげる」ニコッ

塵「魅了の魔法で自由意思を奪われ従うか、自らの意思で従うかを、ね」

近衛「塵……貴様ッ」

馬丁「……」フラッ

近衛「馬丁!」

塵「大丈夫?」ギュッ

馬丁「お前……何を……」

塵「キミの傷を治すのに入れた偽神の魂の欠片を返して貰っただけだよ」

馬丁「そうかい……」

馬丁「(成る程な……そのせいか、何もかも……)」

塵「それで、どうするのかな。執事さん?」

執事「……分かりました、従いましょう」

塵「そう、ありがとう。無駄に魔法を使わなく済んで良かったよ」

近衛「……馬丁、無事か?」

馬丁「ああ。少し体が怠いだけで問題無いよ」

近衛「そうか、なら」スッ

馬丁「どうし」

近衛「ッ……」チュウッ

馬丁「(は?)」

執事「なんと……

塵「……ふぅん」

近衛「……ん……ふぅ…………」

馬丁「こ、近衛……」

近衛「上書きだ。このままでは釈然としないのでな」

執事「近衛様、なんという事を……」

塵「くふふ……っ」

塵「良いね、力を抑え込んで無いボクを前にしてオンナノコの感情を優先する」クククッ

塵「キミもつくづくなヤツだなぁ……」

近衛「何とでも言うが良い」

塵「キミも災難だね」クスッ

馬丁「お前が言うのかよ……」

近衛「さ、行くぞ。私もお父様に問いたい事があるんだ」

塵「そうだね。さ、執事」

執事「……仰せのままに」

執事「(不味い事になりましたぞ、旦那様)」

執事「(近衛様はもう、器の資格を失ってるやもしれません……)」

投下終了
閲覧感謝

投下開始

カツン…… カツン…………

塵「外から見た時も思ったけど、随分広いお屋敷だね」

執事「王国創設からある名家ですので」

塵「ふぅん」

近衛「名家、ではあるな」

塵「含みのある言い方だね」

近衛「貴族は時世によって影響力が大きく変わる。影響力が強ければ強い程、な」

塵「(成る程、ね)」

執事「到着致しました」

近衛「執務室? まだお休みではなかったのか」

塵「そう。まだ起きて、一体何をやっていたんだろうね」

執事「……」

馬丁「(話についていけない……)」

執事「旦那様」コンコン

前近衛騎士長『どうした』

執事「近衛様が旦那様にお話があると仰っております」

前近衛騎士長『……いいだろう、通せ』

執事「はい。では失礼します」キィ…

前近衛騎士「こんな夜更けに、一体何の用……」

塵「はじめまして、おじさん」クスッ

前近衛騎士長「これは……どういう事だ」

近衛「お父様……」

執事「申し訳ありません、旦那様……」

前近衛騎士長「ふん……貴様、何者だ」

塵「……そうだよね、家畜同然の娘の顔なんていちいち覚えてないか」

前近衛騎士長「なんの事だ」

塵「あーあ。この時、この瞬間の為に容姿を損なわない様苦労したのに。甲斐がないなぁ」

前近衛騎士長「……」

執事「旦那様」

前近衛騎士長「なんだ」

執事「祝宴の杯が欠けているやもしれません」

前近衛騎士長「!?」

執事「……」チラッ

馬丁「……」

前近衛騎士長「…………そうか」

前近衛騎士長「執事、客人をもてなす用意をしろ。そうだな、先程仕入れたあのワインがいい」

前近衛騎士長「そうだな、あと良い鶏があった筈だ。それも用意しろ」

執事「かしこまりました」

前近衛騎士長「ふむ。では、話を聞こうではないか」

塵「へえ……随分潔いなあ」

前近衛騎士長「生まれ変わってまで化けてこられたのではな」

塵「(あれ? なんか噛み合ってない?)……そう。なら、ボクがやりたい事も分かるよね?」

前近衛騎士長「ああ。だが、その前に一つ聞かせて貰おう」

塵「うん、なに?」

前近衛騎士長「この屋敷の警備は厳重な筈だ。にもかかわらず侵入出来たのは誰の力だ?」

塵「……彼の力だよ」

馬丁「は?」

塵「(良いからボクにあわせて)」ヒソヒソ

馬丁「(あ、ああ)」

前近衛騎士長「そうか」

前近衛騎士長「……少年、名を聞こう」

馬丁「馬丁、です」

前近衛騎士長「ほう、噂に聞く平民上がりの護衛兵か」

馬丁「ッ……」

近衛「お、お父様っ」

前近衛騎士長「どうした、近衛」

近衛「この者から聞きました。お父様がこの者の故郷を滅ぼしたと」

前近衛騎士長「……そうだ」

近衛「!?」

塵「あっさりと認めるんだね」

前近衛騎士長「お前が居たのでは嘘を吐いたところで意味があるまい」

近衛「お父様……どうして……」

前近衛騎士長「あれは仕方なかったのだ、悲しいがな」

近衛「え……」

塵「仕方ない……?」

塵「(やっぱり噛み合ってない。ここは様子を見る方が良いかな)」

前近衛騎士長「……思えば、全てお前の死から始まったのだな」

塵「(……うん。何かがおかしい)」

前近衛騎士長「全く……私の人生は平民の手で何度狂わされればいいのだ」

前近衛騎士長「お前も、妻も……そして今度は貴様か、少年」

コンコン

前近衛騎士長「……入れ」

執事「用意が出来ました」

前近衛騎士長「分かった、下がれ。それと屋敷の者も休む様に言っておけ」

執事「はい、かしこまりました」

前近衛騎士長「では行こうか」

塵「どこに?」

前近衛騎士長「聞いていたであろう。良いワインがある、少しばかり付き合ってもらおうか」

―迎賓室―

塵「すご……」

前近衛騎士長「あれを持って来い」

執事「既にお持ちしてます」

前近衛騎士長「ふむ。では下がれ、執事」

執事「いえ、私は最期まで旦那様の下に」

前近衛騎士長「……ふん、好きにしろ」

執事「では杯を」コトッ

馬丁「(凄い……銀じゃなく硝子の杯だなんて)」

塵「(……何だろう……この部屋、変だ)」

近衛「お父様、その瓶は?」

前近衛騎士長「今日仕入れたワインだ」

塵「(魔力も精霊の力も感じない)」

近衛「そうですか。お父様がお酒を仕入れるなんて珍しいですね」

塵「(違う。魔力を感じないんじゃない、魔力が失われいるんだ……!)」

執事「どうぞ、近衛様」トクトクトクッ

近衛「ありがとう、執事」

馬丁「!?」ゾクッ

塵「馬丁?」

馬丁「嫌な……気配がする」

前近衛騎士長「近衛、それはお前の為に用意した物だ。まずはお前から飲んでくれ」

近衛「そうなんですか?」

前近衛騎士長「ああ。遠慮は要らない」

近衛「わ、分かりました。では失礼して」コトッ

塵「(魔力の流れ、この気配……あのワインから?)」

馬丁「だ、駄目だ! 近衛!!」

近衛「えっ?」コクッ




塵「……そうか」

塵「余りに身近過ぎて気付けなかったよ」

塵「はは……参ったなぁ」






塵「まさか、天遣の核をワインに偽装するなんてね」



投下終了
明日も投下したい所存
閲覧感謝

投下開始

近衛「ッ!?」

馬丁「近衛!」

塵「やってくれるね。実の娘相手にキミは何をしたか分かってるのかい?」

前近衛騎士長「何を言っている。これはお前も望んでいる事だろう?」

塵「ボクが?」

前近衛騎士長「王族の血を以て始まる浄化だ」

塵「王族……だって」

前近衛騎士長「器が欠けてしまったのは誤算だったが」

前近衛騎士長「全く……幼い頃より男子に嫌悪感を植え付けておいた筈なのだがな」

前近衛騎士長「完全でなくては制御出来ないが、仕方あるまい」

前近衛騎士長「この理不尽に満ち狂った理の上に成り立つ国を滅ぼせるのだからな」

塵「キミは一体何を言ってるんだ…………?」

馬丁「近衛、大丈夫か!?」

近衛「ば……馬丁」

馬丁「直ぐに吐き出せ!」

近衛「それは……難しいな……思う様に体が動かないのだ…………」

馬丁「塵、魔法でどうにか出来ないのか!」

塵「……無理だよ」

馬丁「なッ……」

塵「近衛ちゃんが飲んだのは天遣の核なんだ」

馬丁「天遣って……お前の師匠が取り込まれた?」

塵「うん。だから、ボクの力ではどうにも出来ない」

馬丁「そんな……」

塵「魔法使いは万能じゃないんだ。もしそう見えていたのなら、それはボクが万能を演じていただけなんだよ」

塵「けど」キッ

前近衛騎士長「なんだ」

塵「誤算、それは本当だね。近衛ちゃんは天遣と適合出来ない」

前近衛騎士長「なんだと……?」

塵「近衛ちゃんは恋をした」

塵「近衛ちゃんは愛を知った」

塵「近衛ちゃんは愛する人と交わった」

塵「俗に染まった近衛ちゃんには、樒を喰らい尸に至る資格は無いんだよ」

前近衛騎士長「まさか……そんな……」

塵「馬丁、ゴメン。彼が娘に対してこんな事をするなんて考えてなかった。ボクは浅はかだ」

馬丁「お前が謝る事じゃないだろ! それより今は近衛を何とかしないと!!」

塵「…………うん、そうだね。馬丁、近衛ちゃんを看ていて」

前近衛騎士長「……私の」

前近衛騎士長「私の人生とは何だったのだ」

執事「旦那様……」

前近衛騎士長「お前の無念を晴らす為、父を斬り、兵共を葬ったのだぞ」

塵「ボクの無念? ひょっとしてキミは……」

前近衛騎士長「妻を間男に奪われようと、お前の為ならばと泥水を啜る思いでここまで来たというのに……」

前近衛騎士長「その結末が、これか」

前近衛騎士長「……私の最愛の人よ、もう疲れた。私をお前の元へ連れて行ってくれ」

塵「……そうか」

塵「ありがとう、今分かったよ。もうキミがボクの代わりに仇を討ってくれていたんだね」

塵「けど、ボクは妹じゃないんだ。化けて出たワケでも、生まれ変わったワケでも無いんだよ」

前近衛騎士長「なん……だと………」

塵「妹の仇を討ってくれたのは嬉しいよ。だけど、キミはやってはいけない事をやってしまった」スッ

塵「偽神に列なる者を目覚めさせてはいけなんだ」

前近衛騎士長「な、なにを」

塵「妹の兄であるボクが、キミを大いなる流れの下へ送るよ」

前近衛騎士「兄……妹では無いと…………?」

塵「『肉を土に』」

前近衛騎士長「!?」

執事「旦那様!」

塵「『土を石に』」

前近衛騎士長「か、体が!」

塵「さよなら」

古代魔法・石像破壊

執事「だ……旦那様……」

塵「ねえ」

執事「ひっ」

塵「天遣の核、どうやって手に入れたの?」

執事「き、貴族のみを相手にする行商人からでございますッ」

塵「そいつは何処に居るのかな。さっき、ワインを仕入れたのは最近みたいな事を言ってたよね」

執事「わ、私には分かりませんッ」

塵「そっか。じゃあもう行って良いよ」

執事「は、はい?」

塵「そうだね、なるべく遠くに行った方が良いかな」

執事「は、はあ……」

塵「行きなよ。巻き添えは嫌でしょ?」

執事「……」

塵「行かないの?」

執事「……私は」

塵「?」

執事「私は最期まで旦那様と共にと約束しました」

塵「……そっか」

馬丁「塵、近衛の様子が!」

塵「近衛ちゃん!」

近衛「……め……れは…………しの…………」

馬丁「さっきから誰かと話してるみたいにうわごとを言ってるんだ」

塵「良くないね、これは」

馬丁「一体どうしたら……」

塵「馬丁」

馬丁「塵?」

塵「何時かボクを必ず殺してくれないか」

馬丁「なに言って……」

塵「近衛ちゃんが適合できなければ、天遣は別の器を求めるんだ」

馬丁「別のって、まさか!?」

塵「うん」クスッ

塵「天遣がボクの中へ入って来たら、ボクがボクである間に出来る限りうんと遠くへ翔ぶ」

馬丁「……」

塵「ボクの中には既に偽神の澱が宿っている。もう一つ偽神が入ってしまったらどうなるかはボクにも分からない」

塵「ましボクが完全に天遣と化してしまったら、貴族も平民も関係なく災厄を振り撒くだろう」

塵「馬丁、お願いだ。そうなってしまったら、キミがボクを殺してくれ」

最後誤字るとかアホス
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明日も投下出来ると良いなあ

おはようじょ
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馬丁「…………そんなの、俺に出来る訳無いだろ」

塵「出来るよ。キミなら、ね」クスッ

塵「だってキミはボクを一度殺しているんだから」ニコッ

馬丁「……」

馬丁「(分かってはいるんだ。近衛を助ける為には必要な事だって)」

馬丁「(俺の剣は一度だけ塵に通用した。だから塵は俺に賭けているって)」

馬丁「(でも……出来るかどうかじゃ無いんだ)」

馬丁「また……」

馬丁「また俺は、あんな想いをしなきゃいけないんだな」

塵「……うん。ごめんね、キミに全部押し付けて」

馬丁「悪いって思うなら、少しは抗ってくれよ」

塵「ふふっ。出来る限りはやるよ」

馬丁「けど、本当に塵に乗り移るのか?」

塵「大丈夫だよ」

塵「この場で器になれるのはボクしか居ない。たった今、資格のありそうな人は送ったから」

馬丁「前近衛騎士長の事か」

塵「彼の心は壊れていた。気付いてた? 彼、最初ボクを幽霊だと思ってたんだよ」

馬丁「そう、なのか?」

塵「うん。それでね、心が壊れた……狂ってしまった魂は偽神を呼び込む可能性があるんだ。ボクみたいにね」

塵「だから、ちゃんと人のまま送ってあげた」

塵「当初の目的通りだね」アハハ…

馬丁「……お前、そんな風に悲しげに笑う事があるんだな」

塵「ふふふっ悲しくもなるよ。自分の浅慮さにも、思い込みにもね」

塵「ねえ」

馬丁「なんだよ」

塵「こんな筋書きはどうかな」

塵「城に潜伏していたパルチザンの魔術師が、前近衛騎士長を殺害し魔術の力で異形化した」

塵「キミがボクを倒せば、キミは英雄だ。前近衛騎士長も名誉を傷付けないで済む」

塵「ね、どうかな?」

馬丁「……どうかな、って」

塵「良い考えだと思わない?」

馬丁「(そんなんじゃ、お前が救われなさ過ぎるだろ……)」

近衛「……ば、馬丁…………」

馬丁「近衛!?」

馬丁「近衛!」

近衛「そこに、いるのか……?」

馬丁「ああ! ここに居る、必ず助ける。だからしっかりしてくれ!」

近衛「へんな、うた……が、聴こえるんだ……」

塵「!?」

馬丁「歌?」

近衛「かんぜんなる……うつわ、って」

塵「そ、そんな……」

馬丁「塵……?」

塵「なんて事だ……」

馬丁「お、おい! どうしたんだよ、塵!」

塵「……ボク達には歌が聴こえ無い。でも、近衛ちゃんには聴こえる」

塵「完全なる器。って」

塵「ごめんよ、馬丁。あの晩、ボクがもっとしっかり引き留めていれば、こんな事にはならなかった」

塵「余裕なんか見せず、問答無用で彼を始末しておけば……!」

馬丁「いきなりなに言ってるんだよ! どういう事なんだ!?」


塵「……馬丁、落ち着いて聞いて」

馬丁「わ、分かった……」

塵「天遣は……キミ達の間に生まれた新な生命を器にしようとしている」

馬丁「ッ……!?」

塵「天遣は無垢なる魂を求める。ボクみたいな例外もあるけれど」

塵「そして今この場には、芽生えたばかりの無垢な魂が、近衛ちゃんの体に宿っているんだ」

馬丁「うそ……だろ…………」

塵「……嘘なら、何れ程良かっただろうね」

馬丁「近衛は!? 俺達の子供はどうなるんだ!!?」

塵「子供は天遣に。近衛ちゃんは……分からない」

馬丁「そんな……」

近衛「……ば、馬丁」

馬丁「近衛?」

近衛「よく分からないけど、私、天遣って物になってしまうの?」

馬丁「そ、それは……」

近衛「ごめんなさい、私のせいだね」

近衛「私が貴方と結ばれたいって。貴方との子供を精霊様に願ったせいで、こんな事になっちゃって……」

馬丁「馬鹿な事言うな! お前のせいなんかじゃないッ!!」

近衛「……ありがとう。こんな時まで、私を想ってくれて」

近衛「歌が……止んだわ。馬丁、私がおかしくなってしまったら、貴方と姫様だけでも良いから逃げて」

馬丁「逃げるだなんて、出来ないよ!」

近衛「私、塵が狼狽える程の物になってしまうのでしょう? お願いよ」

馬丁「だからって、近衛を置いてなんてッ」

近衛「馬丁が姫様を護らなければ、誰が姫様を護るの?」

馬丁「でも!」

近衛「今まで辛かった分、幸せになってね。たくさん、いっぱい……」カクンッ

馬丁「近衛!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ

塵「始まった……」

馬丁「近衛! 近衛ェェェェッ!!」

塵「対抗魔法による障壁を展開するよ。馬丁、それと執事さんもこっちに」

馬丁「どうにも……ならないのかよ…………」

塵「早く!」

執事「…………」

塵「くっ。時間が無いんだ、馬丁!」

馬丁「クソッ、俺は……!」

塵「お姫様を護るんだろ! しっかりしろ、馬丁!!」

馬丁「ッ!?」

塵「執事さんも、早く!」

執事「……私は、旦那様と共に居ます」

塵「それが、約束だからかい?」

執事「はい」

塵「そっか……」

塵「でもね、ボクはこれでも近衛ちゃんの事を気に入ってるんだ」

塵「ボクが命を奪うなら構わない。だけど、彼女にキミを殺させたりはしないよ」

塵「全力で……退けるッ!!」カッ

古代魔法・魔法障壁

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おまけ

青年編現在までのおおまかなあらすじ

騎士団「平民上がりのクセに最近目立ち過ぎじゃね? 一回シメとくか」

馬丁「ウボアー」

兵士長「人の息子になにしやがる」

副長「誠に遺憾」

王女「やっぱ貴族主義ってクソだわ。これは復讐ね」

姫「馬丁かわいそう」

塵「同意」

中略

騎士団長「姫に誘惑されたと思ったら火傷したうえボディに良いパンチを貰ったでござるの巻」

衛兵「逮捕ー」

姫「もうお酒はこりごりです」

兵士1「騎士団長の別荘真っ黒過ぎワロタ」

傭兵「兵士つええ」

兵士2「誠に遺憾」

兵士長「変なのになつかれた……」

猫獣人「くまさん!」

少年「傭兵の口封じに来ました」バリバリー

兵士2「魔法使いとか聞いてないぞ」

王女「みんな死んじゃった」クスン

塵「どうやら故郷の仇が前近衛騎士長みたい」

馬丁「近衛に会いたい」

現在に至る


イメージ壊れた方が居たら申し訳ありません

投下開始

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

塵「くッ……!!」

塵「(目覚めただけで、この魔力の奔流。これが完全なる器なんだね)」

馬丁「こ、近衛が!」

塵「ダメだ、馬丁! 今障壁から出たら、ありとあらゆる情報を喰われて塩の柱にされるよ!!」

馬丁「なッ!?」

塵「執事さん、この屋敷に精霊銀の武器はある?」

執事「それならば……」スッ

塵「短剣……自害用にしては随分と豪華だね」

執事「魂が迷わぬ様に、との配慮にございます」

塵「そう。でも良かった、短剣ならボクでも使える」

馬丁「塵、どうする気だ」

塵「顕現した天遣に普通の武器は効かないんだ。だからキミは精霊銀の武器を探してきてくれないか」

馬丁「まさかその間、塵が近衛の相手をするつもりなのか?」

塵「うん」

馬丁「出来るのかよ、お前一人で!?」

塵「この場でアレの相手はボクにしか出来ないよ。大丈夫、短剣とはいえ精霊銀の武器があれば少しは保てる筈だよ」

塵「それと、馬丁」

馬丁「……なんだ」

塵「アレはもう、近衛ちゃんじゃない」

馬丁「………………ッ」ギリッ

塵「いいかい、馬丁。魔力の奔流が治まったらキミにフルポテンシャル・アジリティの魔法を掛ける。そうしたら、執事さんを担いで全力で駆けるんだ」

執事「なっ、私は……!」

塵「キミには色々と聞きたい事が出来たからね。それに、足手まといは要らないよ」

執事「……」

塵「聞かせて欲しいんだ。キミはカレに長年仕えていたんだろ?」

執事「……はい」

塵「お願いするよ、馬丁」

馬丁「分かった。城の宝物庫でも何でも漁ってでも、必ず精霊銀の武器を持って来る」

塵「ありがと。信じてるよ」クスッ

ミス
>>749>>750の間にこれが入ります



塵「(近衛ちゃんの胎を突き破る様に現れ彼女を包み込んだ、陶器を思わせる硬質で光沢のある肌の異形)」

塵「(忘れはしない。ボクをこんな体にして……)」

塵「(そして、ボクの師匠を変異させた偽神の眷属)」

塵「あれは……近衛ちゃんでも、キミ達の子供でもない」

塵「奴は、天遣だ」


塵「あ、そうだ」

馬丁「まだ何かあるのか?」

塵「執事さんは兵士や騎士と協力して、市民の避難を誘導してくれないか」

執事「はい。確かに仰せつかりました」

塵「ふふっ、ありがとう。二人ともお願いね」

馬丁「……塵、少し変わったな」

塵「そうだね、そうかもしれない」

塵「(……だからボクには、歌が聴こえなかったのかな…………)」

塵「それじゃ、そろそろ……」

馬丁「執事さん、しっかり掴まってくれよ」

執事「はい。では宜しくお願いします」

塵「いくよ。構成式展開……フルポテンシャル・アジリティ!」

精霊魔法・臨界強化/敏捷性

馬丁「……!?」

馬丁「(体が羽毛みたいに軽い……これならッ)」

塵「走れッ、馬丁!!」

馬丁「ああ!!」

馬丁「(必ず……必ず戻るからな。近衛、塵ッ)」




塵「……さ、ボク達もやろうか」

天遣「……」

塵「少しの間、ボクと遊んでもらうよ」

天遣「…………――――――――ッッっッッっっ!!!!」









「ね、ねね、ねえ」


「なあにー?」


「ななな、なにか、なにか聴こえない……?」


「あれえー、ほんとだー」


「う、うた、かかかか、かな」


「うん、おうただー」


「きれ、きき、きれい……」


「あははははははははははははっ、ほんとー。きれいだねえー」






一旦終了
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―市街・王城前広場―

馬丁「城が見えてきた!」タッタッタッタッタ…

馬丁「執事さん、かなり無茶な走り方したけど大丈夫か?」

執事「は、は、はいっ」

馬丁「(この様子だと厳しそうだな)」

馬丁「あー、丁度良いからここで分かれよう。俺は王城に向かうから、執事さんは国民の避難を誘導して下さい」

馬丁「兵舎に行って俺と塵の名を出せば、兵士団のみんなは協力してくれる筈です」

馬丁「それと執事さんなら騎士団も協力してくれる筈です。それじゃ、時間惜しいから俺はこれで!」タッ

執事「は、はいっ」

執事「……行ってしまわれましたか。まるでつむじ風の様な青年ですね」

執事「では私も成すべき事を成しましょう。伝える者としての責任を果たす為に」

―王城・尖塔―

王「……なんだ、あの光の柱は」

王「(あそこは確か前近衛騎士長の屋敷がある方向だったか)」

王「(何か起きようとしているのか。それとも……)」

コンコン

王「誰だ」

文官「文官にございます」

王「君か。構わない、入れ」

文官「失礼します」ガチャ

王「……あの光の柱の事か」

文官「や、お気付きでしたか」

王「ここは城下を見渡せるからな。それで、あれが何か分かったのか?」

文官「いえ。警備の者が観測したので」

王「形の上でも俺に報告、という事か」

文官「はい」

王「文官、お前にはあれが何か分かるか?」

文官「残念ながら」

王「そうか」

文官「ふむ……陛下はあれをご存知で?」

王「近しい物なら、な」

文官「なんと」

王「隣国との戦いで見た魔術兵器、その光に似ている」

王「あれは閃光だったが、気配は同じ物だ。人が触れてはいけない禁忌の領域、その類いの」

文官「成る程……陛下、これを」スッ

王「こいつは……」チャキ

文官「では、私はこれで失礼します」

王「ああ」

文官「そうそう。戸の蝶番が少々脆くなっている様なので、お気をつけ下さい」

王「脆く、ねえ……」

王「(確かに脆いだろうよ、こんな上質の小剣の前じゃあな)」

―王宮―

副長「文官殿、今までどちらに?」

文官「これはこれは、副長殿。陛下に例の光の報告をして来たところですよ」

副長「やはり。あそこは前近衛騎士長の屋敷近辺です。あの男が何か始めたのかもしれません」

文官「そうですね、彼には何か手があった様に見受けられました。恐らく、魔術的な何かを行使したのでしょう」

副長「まさか近衛の身に何か良からぬ事が!?」

文官「や、落ち着いて下さい。これからそれを確かめる為に偵察を出すつもりです」

副長「偵察には私が向かいます!」

文官「……そうですね、その方が良いでしょう。直ぐにお願い出来ますか?」

副長「ええ。それでは――」

「副長さん!」

副長「君は……!?」

馬丁「良かった、副長さん達なら!」

文官「如何致しました? 随分と急いでいる様子ですが」

馬丁「大変な事になってるんだ! 武器が、精霊銀の武器を探さなくちゃいけなくて!!」

副長「落ち着いて、馬丁君」

文官「精霊銀の武器が必要とは、一体何があったのですか?」

馬丁「それが――――」

―――
――


副長「近衛が……そんな…………」

文官「成る程、分かりました」

馬丁「すいません、俺が着いていながら……ッ」

副長「い、いや、君の責任じゃない。あの男……前近衛騎士長が仕組んだ事なのだから」

馬丁「だけどッ」

文官「や、悔いている時間は有りませんよ。近衛様を救うのに精霊銀の武器が必要なのでしょう?」

馬丁「はい! 塵が精霊銀の武器なら天遣にも効くって」

文官「ふむ……では馬丁君は尖塔に向かって下さい。そこに居る無精髭の生えた冴えない男性なら、城に精霊銀の武器があるか知っている筈です」

馬丁「尖塔ですね、分かりました!」

文官「副長殿は騎士団を率いて執事殿と協力し民の避難を」

副長「避難を、ですか?」

文官「彼の者に対する憤りと、近衛様を救いたいという気持ちは分かります。ですが今は各々の最善を尽くすべきですよ」

副長「くっ、ですが……!」

文官「今、騎士団を正常に動かせるのは貴方しか居ないのです。判断を誤ってはいけません!」

副長「!?」

文官「分かってくれますね?」

副長「……はい」

文官「私は王女様へ現状の報告に向かいます。急ぎましょう、最悪の事態を避ける為に」

一旦終了
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―王宮・尖塔―

馬丁「文官さんの言っていた場所はここか」

馬丁「でも、こんな城の外れに居る人が、本当に精霊銀の武器の事を知ってるんだろうか」

馬丁「……考えても意味は無いか。とにかく今は急ごう」

「動くな」

馬丁「!?」

「……どうやら見張りの連中とは違うみたいだな。少年、お前の所属はどこだ」

馬丁「(背後を取られたッ。それに首に当たる鉄の感触、短剣か何かか……)」

馬丁「護衛兵です、第五王女の」

「姫の護衛、か。なるほど、お前が……」

馬丁「(剣を取り下げた?)」

「もう振り返っても構わないぞ、少年」

馬丁「……」

「そう警戒するな、とはいかないか。何分、外に出てる所を見られると面倒な身分でな」

馬丁「(暗くてよく見えないけど……ボサボサの頭に無精髭、まさかこの人が!?)」

無精髭の男「悪かったな少年。で、こんな外れに何か用でもあるのか」

馬丁「そ、そうだ! 文官さんから聞いたんです。貴方なら精霊銀の武器が何処にあるか知ってるって!」

無精髭の男「文官? 精霊銀の武器? そいつはまた……」

馬丁「あいつを、天遣を倒す為に必要だって仲間が!!」

無精髭の男「(天遣……?」

無精髭の男「(おいおい冗談だろ。天遣っていやあ、お伽噺の化物だろうが)」

馬丁「お願いです、知っていたら教えて下さい!」

無精髭の男「(この焦り具合、ホラでもなさそうだな。まさか、あの光の事か?)」

無精髭の男「確かに精霊銀の武器の在処なら分かるが……」

馬丁「本当ですか!?」

無精髭の男「ああ。だが簡単に渡せる様な代物じゃない」

馬丁「……ッ」

無精髭の男「そう睨むな。精霊銀の逸品ってのは、銀貨で数千枚っつう価値があるんだ。そう易々と城仕えの兵士に渡して良い物じゃ無いんだよ」

馬丁「それでも、それが無いと天遣を倒せない!」

無精髭の男「……どうして倒すんだ? 今なら逃げる事だって出来るだろうに」

無精髭の男「天遣って言えば、お伽噺に出てくる化物。古代王国を滅ぼした連中の尖兵だ。無理に戦わず、主君と民を率いて逃げるのが少年の役割じゃないのか?」

馬丁「それは……っ」

無精髭の男「ほう、あるんだな。逃げない理由が」

馬丁「助けたい人が居るんです。助けなきゃいけない人が」

馬丁「そいつを、近衛を置いて逃げるなんて、俺には出来ないッ!!」

無精髭の男「(……青いな。羨ましい程に青々として、生きた目をしている)」

無精髭の男「女か」

馬丁「大切な人だ!」

無精髭の男「ははっ。はっきりと言うじゃないか」

無精髭の男「さて。じゃあ行くか、少年」

馬丁「え?」

無精髭の男「その様子じゃ、一刻を争うんだろ? 俺の私物を隠した宝物庫がある。ついて来な」

無精髭の男「(本来は俺の役目なんだろうがな。だが、俺は俺の役目を果たし、少年には少年の役目を果たして貰うとするか)」

無精髭の男「(そうするべきなんだろ、王妃)」

書きため残りは明日投下します
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―王宮・隠し宝物庫―

無精髭の男「ここに来るのも久しぶりだな」

無精髭の男「よしよし、人工精霊も問題無く動いてるみたいだ。さすが高いだけの事はある」

馬丁「(人の形をした靄が宝物庫を掃除してる……)」

無精髭の男「さて、件の得物は……と、これか」チャキ

無精髭の男「あと、こいつもだな」ゴトッ

馬丁「……」

無精髭の男「どうした、少年?」

馬丁「貴方は……何者ですか」

無精髭の男「そいつは今更過ぎやしないか、少年」

無精髭の男「ま、俺が何者だろうと構わんだろ。少年は必要な物を手に入れられるんだから」

馬丁「それは確かにそうですけど……」

無精髭の男「本来なら俺は此処に居たら不味い立場だって事で察してくれ」

無精髭の男「なにしろ混乱に乗じて暗殺され兼ねない立場なんでな」

馬丁「あ、暗殺?」

無精髭の男「少年を襲ったのも自衛の一つだ。それより、ほら」ヒョイ

馬丁「おっと」

無精髭の男「あったのはブロードソードとメイス、ジャベリンだけみたいだ。こいつで足りるか?」

馬丁「た、たぶん大丈夫です! ……これが精霊銀の剣」

無精髭の男「それだけで地方の土地を買って領主になれるくらいの価値があるんだ。大事に使えよ」

馬丁「なッ!?」

無精髭の男「なあに。使い終わったら返してくれりゃ文句は言わないさ」

馬丁「(し、慎重に扱おう)」

無精髭の男「さて、ついでだから良い物も見せてやろう。来な」

馬丁「良い物? でも俺、もう行かないと」

無精髭の男「少しくらい付き合え。城を出る地下道を使わせてやるからよ」

馬丁「……分かりました。それで、良い物って?」

無精髭の男「おう、良い物だぞ。俺が見つけた最高の絵描きに書かせたくらいだ」

馬丁「絵画、ですか」

無精髭の男「ああ。それも、世界一良い女のな」

無精髭の男「人工精霊、絵画の保存状態は?」

人工精霊「リョウコウニゴザイマス」

無精髭の男「そりゃ良かった、保存の魔法は絵画にも有効か。これは使えるな」

無精髭の男「さ、見てくれ少年」

馬丁「!?」

無精髭の男「良い女だろ?」

馬丁「……はい。凄い、綺麗な方だと思います」

馬丁「(美人、なんて言葉だけじゃ言い現せない。それに上品な雰囲気なのに、どことなく楽しげな表情。こんな人物画を見たのは初めてだ)」

無精髭の男「本来なら俺みたいな商人上がりの下級貴族には、到底手の届かない人だったんだぞ」

無精髭の男「それに、文官っつう婚約者も居たしな」

馬丁「ぶ、文官さん!?」

無精髭の男「おうよ。あいつとは随分と派手にやりあったもんだ」

無精髭の男「ま、結果は俺の勝ちだったがな」

馬丁「……」

馬丁「(この人、もしかして)」

無精髭の男「ただ、文官は今でもこいつの事を愛している」

無精髭の男「こいつの言葉を、約束を守る為に、国を良くしようと努力しているんだ」

無精髭の男「そして、恋敵との間に生まれた娘達を見守っている」

馬丁「(娘達、か。この人やっぱり……)」

馬丁「(それに絵画の女性の顔立ち、王女や姫と雰囲気がだぶる様な)」

馬丁「(でも、姫達というよりは)」

馬丁「近衛……?」

無精髭の男「どうした、少年?」

馬丁「い、いえ。なんでもありませんっ」

無精髭の男「……そうか。なあ少年よ」

馬丁「はいっ」

無精髭の男「どうした、突然畏まって」

馬丁「い、いえ……」

無精髭の男「まあいい。お前は大切な女の為に化物と戦いに行くんだな?」

馬丁「はい」

無精髭の男「そうか。だったら勝て、勝って己れの価値を示してみせろ」

無精髭の男「俺はそうやって王妃と結ばれた。だから少年、お前も勝ち取ってみせろ」

無精髭の男「結果を残し、利権にしがみつく老人達や、喚くしか能の無い貴族共を黙らせてみせるのだ」

無精髭の男「そして願わくは、妻の……王妃の愛したこの国を化物から守ってくれ」

無精髭の男「半ば幽閉の身にある私にかわって、な」

馬丁「は。心得ました、こくお……」

無精髭の男「おっと、それ以上は無しだ。王は本来なら執務に励んでいる筈だからな」

馬丁「そう……なんですか」

無精髭の男「足止めして悪かったな。地下道に案内する、着いて来い」

もうちょっと続く

投下開始

―地下道―

馬丁「こんな所に地下道があったのか……」

無精髭の男「ああ。有事の際に要人を逃がす為の物だ」

無精髭の男「最も、今この地下道を知ってるのは俺か文官くらいのものだがな」

馬丁「(それじゃこの地下道が余り役に立たない様な……)」

無精髭の男「中は暗いからな、場内の照明を一つ拝借してきた。使いな」

馬丁「は、はい」

無精髭の男「俺が同行出来るのは此処迄だ。上手くやろうとせずとも、しくじる様な真似はするなよ」

馬丁「はい。ありがとうございました」

無精髭の男「おう。頑張れよ、少年」




無精髭の男「……さて、ここからは俺の戦いだな」



―郊外―

兵士長「どうだ、見つかったか?」

兵士1「いや、まだっす。匂いも手繰れやしません」

猫獣人「むう、役に立たないワンコロだなー」

兵士1「うっせえよ、ニャンコロ」

兵士長「それにしてもあの嬢ちゃん達、いったい何処に消えやがったんだ」

猫獣人「夜に出歩ける様な体力がある様には見えなかったし、シンパイだよ……」

兵士長「そうだな。それに……」チラッ

兵士1「あの嫌な気配撒き散らす光、なんなんすかね」

猫獣人「うう……あの光、逆毛立つからキライ……」

兵士長「とにかく、だ。兵士2が戻る前に二人を見つけて保護するぞ」

兵士1「了解、暫くは闇夜に紛れるんで獣化しときますよ。その方が鼻が利くんで」

兵士長「おう、頼んだぞ。俺はもう一度屋敷の中を調べる」

猫獣人「ならウチもくまさんと一緒に屋敷の中を調べる!」

兵士長「お、おう……」

兵士1「へっ。邪魔者はさっさと行きますかね。足引っ張るなよ、ニャンコロ」

猫獣人「うっさい! オマエこそちゃんと捜すんだぞ、ワンコロっ」

兵士長「(めんどくせえ……)」

ガサッ

兵士長「!?」

猫獣人「ダレっ!?」

「ここは……」

兵士1「おいおい、なんでお前が此処に居んだよ」

馬丁「兵士1さん? それに親父も」

兵士長「どういうこった、お前城に居たんじゃなかったのか?」

馬丁「それが……」

猫獣人「くまさん、ダレ? この尾無し」

兵士長「せがれだ、俺の」

猫獣人「くまさんの? 尾無しなのに?」

兵士長「色々あんだよ、色々」

猫獣人「そっか。わかった!」

馬丁「親父、この子は?」

兵士長「騎士団長の屋敷に監禁されていたのを保護した。そうだ馬丁、お前コイツと同じ歳くらいのガキ二人を見なかったか?」

馬丁「見てないけど……って、ここでのんびり話をしてる場合じゃなかったんだ!」

兵士1「どうしたよ、急に慌てて」

馬丁「それが――――」

兵士長「……そうか」

馬丁「だから俺、早く行かなきゃ!」

兵士長「ああ。行ってこい」

猫獣人「あの光が、テンシ……」ボソッ

兵士1「それが本当なら、そうとう不味いな」



「みつけた」

「うん、見つけた」



馬丁「!!」ゾクッ

兵士長「この声……何処だ、何処に居る!?」

「ここよ、おじぁさん」

「ここだよ、おじさん」

兵士1「上か!」

馬丁「なッ……子供が浮いてる……?」

「おさんぽしてたら、おじさんいなくなってるんだもん」

「捜しましたよ」

猫獣人「……ッ」ギリッ

兵士1「……チッ」

兵士長「……お前達、魔法が使えるのか?」

「ううん、つかえなかったよぉ」

「うん、使える様になったの」

猫獣人「フゥ――――――ッッ!!!!」

兵士長「き、急にどうした!?」

兵士1「隊長、あれは――」

猫獣人「アレはもうヒトじゃない!!」シュバッ

「あぶなーい」ヒラッ

「これだから亜人は」スッ

馬丁「この気配……やっぱり……!」

「おじさぁん、やめさせてよぉ」

「うん。私達は薬が欲しいだけだから」

「おくすりくれたら、なにもしないよ?」

兵士長「こいつら……」

兵士1「やれる訳ねえだろ! あの薬がどんなモンか知ってるだろうがッ!!」チャキッ

「なんでぇ?」

「私達は良い子にしてました。良い子にしてたら薬をくれるんですよね?」

「そうよそうよ、うそついたの?」

兵士長「それはお前達を閉じ込めていた連中が言った事だ、だからもう薬はやれない」

「うそつき」

「酷いですね」

「うそついたら、おしおきされるんだよ?」

「そうね、私達がされた様に」

「ねえ……おしおき、するぅ?」

「うん。お仕置き、しましょう」

「「この詩が囁くままに」」ニタァ

投下終了
また明日

投下開始

『響け、滅びの詩』

『奏でよ、忘我の旋律』

馬丁「この言葉……ハイエンシェント!?」

『『我と我らを紡ぐ虚ろの者、幽世より管を手繰れ』』

兵士長「な、なんだ馬丁! 魔法か!?」

「おいで、そこは暗くて寒いよね」

「うふふ……こっちは、たのしぃよぉ…………」

『『サモン・サーヴァント』』

……ォォオォ…………

……シテ……カエシ…………オウチ……カエシ……テ……

イタイイタイイタイイタイ

…………オォォオオォォォオォォオッ……

ア゛ア゛ア゛ァア゛ア゛ァアアァァアアアア゛アァァァア゛ア゛ァア゛ア゛ッッッ!!!!

兵士1「こいつら、アンデッドを喚びやがったッ」

猫獣人「チガウ、喚んだんじゃない! このコたち、みんな……」

兵士長「騎士団長の……犠牲者か……ッ」ギリッ

「わるいことするとね、みぃんなこうなるの」ニヤニヤ

「だからおじさんもぉ……」

「この子達と同じ様にしてあげます」

兵士1「隊長ッ! 死霊相手なんて俺等だけじゃ旗色が悪い、退きましょう!!」

兵士長「そうも言ってられんだろ、この数じゃあ」ブウンッ

猫獣人「ゆ、幽霊は爪じゃ斬れないぞ」ブルブル

兵士長「チッ、やはり魔化されてない武器は効かねえかッ」

馬丁「…………」

馬丁「(早く近衛の所に行かなきゃいけないのに、このままじゃ……ッ)」

馬丁「……クソッ、邪魔を……するなあああああああぁぁぁぁッ!!」ザンッ

「!?」

馬丁「死霊を……斬れた……?」

「うそ……」

「神聖銀ですか、その剣は」

馬丁「(神聖銀? いや、そんな事より)」

馬丁「親父! こいつを!」ポイッ

パシッ

兵士長「こいつは……精霊銀の手槍か!?」

馬丁「それなら死霊でも斬れる! だからッ!!」

兵士長「おうッ、任せておけ!」ジャキンッ

ブンッ!!

「――――――ッ!?」シュウウウウゥ゙…

兵士長「すまねえ、嬢ちゃん方。迷わず成仏してくれ」

猫獣人「セガレ!! ウチにもソレを寄越せ!」

馬丁「……」

馬丁「(どうする、精霊銀の武器が無いと……でも、最悪この剣があれば)」ブツブツ

猫獣人「くまさん一人じゃ危ないの!!! 早く!!」

馬丁「……分かった、これを使って!」

猫獣人「コレ、棍棒か? 使ったコト無いけどまあイイや。くまさん、加勢するよ!」ダッ

兵士1「良いのか? 近衛の嬢ちゃん助ける為に使うんだろ、あの武器」

馬丁「大丈夫、まだこの剣があるから」

兵士1「……そうかい。さて、と」チャキッ

兵士1「せっかく弟分が格好つけたんだ。道くらいは作ってやらなあ、兄貴分として面子が立たねえよなァッ!!!!」シュンッ

・剣閃:風刃

「――――――ッ!!?!?」シュウウウウゥゥッ

兵士1「今だ! 走れ、馬丁!!」

馬丁「兵士1さん、俺もッ」

兵士1「女の為に急いでんだろうがッ!!」

馬丁「!!」

兵士1「ここは俺等に任せろよ。あんな魔族の出来損ない、直ぐに片付けてやらぁ」

馬丁「――――はいッ」ダッ




兵士1「さあて……」

兵士長「やれるか?」

兵士1「これ以上死霊を風刃で消し飛ばすのはキツいっすね」

兵士長「なら死霊共は俺がやる。お前はあの嬢ちゃん方の動きを止めてくれ」

兵士1「了解。後ろは頼んますよ、隊長!」



投下終了
閲覧感謝

投下開始

兵士1「(どういう理屈かは分からねえが、あのガキから感じる気配は魔族そのものだ)」

兵士1「(だったら……)」スッ

兵士1「狼化で突き崩すッ!!」ダッ

「!?」

兵士1「ヅェアッ!!」ザンッ

「なっ!?」スゥ…

兵士1「避けたつもりか? 悪りぃな、初撃は囮だ」ブゥンッ

ベキッ

「あ……が……っ」

「さ、鞘でなんて……」

兵士1「加減はしてねえ。相方は暫く動けねえぞ」

「……い、たい……いたいよぉ…………」

兵士1「大人しく捕まってくれ。ガキを斬るのは趣味じゃないんだ」

「残念ですが、そういう訳にはいきません」

「そ……そぉだよ……まだ、あいつにしかえししてない……もん…………」ヨロッ

「貴方達を見くびり過ぎました。誤算ですね」

兵士1「仕返し、か」

兵士1「俺が兵士じゃなけりゃ、諸手を上げて賛同したろうよ。あの外道には手を下すべきだ」

兵士1「だけどな、俺はこの国の兵士だ。だから貴族サマを守らなきゃなんねえし、ガキが人殺しをすんのを止める義務がある」

「そんな言葉で私達が止めるとでも?」

兵士1「はっ、思っちゃいねえよ」

「そうですか」

兵士1「なあ、あの外道には国からじきに裁きが下る。わざわざお前達が手ぇ汚す必要は無えぞ。それでも殺るのか?」

「愚問ですね」

「そぉ……だよ……」

「貴方は私達がどれ程の苦痛と屈辱をあの男から受けたか分かりますか?」

兵士1「……」

「許せる筈がない……絶対に、この手で、私達の手でッ」

「かみさまがくれた……このちからで……!」

兵士1「そうかい。分かったよ」

「死霊は還します。お互い無駄に怪我をしない為に手を引いてくれませんか?」

「此方から仕掛けておいて都合の良い話だとは思います。ですが、私一人でも結構強いですよ?」

兵士1「俺個人としては有り難い申し出なんだがな。けど悪りいな、時間は稼がせて貰った」

「時間……? な、死霊が殆んど居ない!?」

兵士長「待たせたな」ジャキッ

兵士1「言い付け通り足止めしときましたぜ、隊長」

兵士長「すまねえ。あのガキ共のケジメは俺が付ける、援護してくれ」

兵士1「援護は苦手なんですがね」チャキッ

「や、やっぱり……おとなは……ずるい」ゴホッ

「あの数の死霊を捌ききるとは……貴方の様な人が、もっと早く私達を助けてくれれば…………」

兵士長「すまねえ、本当に」ググッ

兵士長「……行くぞ、兵士1。これより魔族討伐任務を開始する」

兵士1「あまり気乗りしやせんがね。了解、任務ならきっちりやりますよ」

一旦切り
休み貰えたんで一気に書く所存

投下開始

兵士1「って、あいつ等を魔族で確定して処理するんですかい!?」

兵士長「あいつ等の気配はヒトが眷族化した連中と同じだ。一息で片ァ付けるぞ」ザッ

兵士1「淫魔や吸血鬼と同じって事ですかい。こいつァ容易じゃなさそうで」スッ

「……させない」ヨロッ

兵士1「なっ!? もう動けるってか、とんでもねぇ」

「じゃま……は、させない……っ」フラフラ…

兵士長「……っ!?」ゾクッ

「かみさまがくれたんだ……わたしのために…………」

「あいつをころすためのちからを、もうくるしまなくていいちからを!」ゴッ

「な、なに……この詩は!?」

「なグられなくてイいんだ。もう、たたカれなくてもいイんダ」

「わらワれなくてモすムんダ、こわクない……おなカだってスカなイ……ッ」

「コノちからガアレバ!!!!」

「いけないっ、適合が進み過ぎてる! 抑えて!!」




「ネエ、ワタシヒトリジャタリナイノ」ニコッ




「なっ」ビクッ

「アナタヲチョーダイ、ネ?」ヒュンッ

ザンッ

ズル……ッ

「な……なん、で……」

ドサッ


「ど、どうして……こんな……」ボタタッ

兵士長「冗談だろ……半身を切り裂いただと……」

「ウフフフ…………」ニタァ

「あぁ……がッ……」

「コレナラ」ガシッ

「や、止めてっ! たすけッ」

グジュッ


兵士長「お、おいおい……」

兵士1「仲間殺して融合しやがった……」

グジュ……ビキッ……

双頭の眷族「……ン…………」ググッ

双頭の眷族「思っていたより悪くない気分ね」

兵士長「……双頭三つ足とは随分と悪趣味だな」

双頭の眷族「ふふふ……確かに酷い姿ね。でもお陰で記憶の混濁も無くなったし、思考の混乱も無くなったわ」

双頭の眷族「こっちの頭は随分と支離滅裂な事を口走っていたし、こっちはヒトとしての意識が残り過ぎていた」

双頭の眷族「でも、もう問題無いわ。詩だってはっきりと聴こえる。姿は最悪でも気分は最高よ」

兵士1「化け物になってでも、あの野郎を殺したかったのかよ……」

双頭の眷族「そうよ。でも絶望で染まった欠けた器だからこそ、この力を得られた」

双頭の眷族「私達はただ、種を蒔いた張本人を刈り取りに行くだけだよ」

双頭の眷族「だから、そんな顔しないで。兵士のおじさんと猫のお嬢さん」

猫獣人「……」グスッ

兵士長「くっ……」ギリッ


猫獣人「やっと死霊達を倒して止めに来たのに……こんなのって無いよ……!」

兵士長「……お前は下がれ」

猫獣人「で、でも!」

兵士1「隊長の言う通りだ。ガキは下がんな」

猫獣人「ウチだって戦えるよ!」

兵士長「死霊共を始末してくれたのは助かった。だがな、これ以上は流石に兵士の領分だ」

猫獣人「でも……」

兵士1「でもじゃねえよ、ガキ。隊長はせめてお前だけでも守らせろって言ってんだ。大人しく下がっとけ!」

猫獣人「ウチ……だけでも?」

兵士長「ああ。まあ、そういうこった」

猫獣人「……死んじゃヤだからね、くまさん。あとワンコロも!」

兵士長「おう。任せとけ」

兵士1「へっ、俺はついでかよ」


双頭の眷族「お優しいですね」

兵士長「すまねえ。待たせたな、お嬢ちゃん」

双頭の眷族「お気遣いなく。私としても、あの子は見逃しても構わないと思っていたので」

双頭の眷族「私達を庇って何人か傭兵を殺してくれたもんね、あの子」

兵士長「……そうか」

双頭の眷族「では、肩慣らしを始めましょうか」

双頭の眷族「どんな魔法が使えるか試させてね、おじさん」

兵士長「…………」ジャキッ

兵士長「やるぞ、相棒」

兵士1「へっ。任せとけよ、隊長ォッ!!」チャキッ

休憩

投下開始


双頭の眷族「これを試しますか」スッ

兵士長「仕掛けて来るぞ、足を止めるな!」ザッ

兵士1「分かってまさぁッ!」ダッ

双頭の眷族「『四方』に『障壁』を展開」

古代魔法:障壁×4

兵士1「なッ? こいつは!?」

双頭の眷族「『天地』を『封じ』『六方』を『閉ざせ』」

古代魔法:障壁×2

兵士1「クソッ、閉じ込めやがった!」

双頭の眷族「ヒトは賢いわね。良い情報は御馳走よ」クスッ

兵士長「兵士1!!」

兵士1「隊長ッ、構わず奴を!!」

双頭の眷族「『失われよ』『大気』」

古代魔法:空気破壊

兵士1「ッ!?」

ブシュッ

兵士1「(な……なにが、起きた?)」

兵士1「(息が出来ない……目の前が真っ赤だ……声も、音も聞こえない…………)」

双頭の眷族「閉じ込めてしまえば完全な真空。あの魔法の真似は素材が無いから無理でも、これなら有効的ね」

双頭の眷族「アハハハッ! 噴水みたいに目や耳から血が出てる、おっかしーっ」


兵士長「ダラッシャアあああぁぁッ!!」ダダダッ

ガンッ

双頭の眷族「アガッ!?」

双頭の眷族「くっ、集中が」クラッ

パリンッ

兵士1「ガッ……ハ……ゴホッ、ゲホッ! チッ、目が……ッ」ボタボタボタッ

双頭の眷族「石突きで殴打とは嘗められた物ですねッ」

兵士長「……」ジリッ

双頭の眷族「我が腕よ『肉を石に』!」

古代魔法:肉を石に

双頭の眷族「その短槍ごと磨り潰してあげる!」ブンッ

兵士長「どりゃああああっッ!!」ゴンッ

ミシ……ッ

双頭の眷族「な、なんて馬鹿力なの!?」

双頭の眷族「まずっ、腕が折れちゃうッ」

ミシミシッ

兵士長「ぜりゃあッ!!!!」

バキィッ!!


双頭の眷族「うそ……右手が?」

兵士長「流石は精霊銀だ。本気で振るおうと曲がりもしねえ」シュンッ

双頭の眷族「よくも!」ブンッ

兵士長「あぶねぇッ」ガシッ

双頭の眷族「は、離しなさッ」

兵士長「オラァッ!!」ガンッ

双頭の眷族「イ゛ッ!?」

双頭の眷族「(ず……頭突き!?)」

兵士長「止めだ、悪く思うなッ」

双頭の眷族「させない!」ガシッ

兵士長「!?」

双頭の眷族「『甘き死よ、来たれ』!!」

古代魔法:死の手


兵士長「グアアアアァァッ!!」

双頭の眷族「頭一つ潰したくらいで勝った気にならないで! このままおじさんの情報も食べ尽くしてやるッ!!!!」

兵士長「ク……ソが……ッ」

兵士長「(掴まれた所が尋常じゃなく痛てえ、魔法か?)」

双頭の眷族「このまま楽にしてあげるからね、おじさん」ニタニタ

ドスッ

双頭の眷族「え……」

兵士1「手応え……ありだ」

双頭の眷族「目も耳も使い物にならない筈、なのに何で……?」

兵士長「フンッ」バッ

双頭の眷族「きゃっ」

兵士1「隊長、動かないで下さいよ」スゥッ

兵士1「何分、気配だけ探ってやってるんでね、っと」タッ

双頭の眷族「!?」

兵士1「首斬りの妙技、貰って笛吹きな」



――――ッ



双頭の眷族「」

ゴロン

兵士1「剣閃、もがり笛。俺のとっておきだ」チャキン


兵士1「……しかし、まあ。首一つじゃ仕損じるよなあ」

兵士長「どうやら、まだ終わっちゃいないな」

生首「信じられない強さですね、仮にも眷族である私をたった二人で追い詰めるとは」

兵士長「首だけで喋る方も、たいしたモンだと思うがね」

兵士1「(気配はまだある。流石に魔族の類いはしぶてえな)」

生首「この首はくれてやります。丁重に埋葬して下さい」

兵士長「!?」

生首「さあ、行きなさい!!」

双頭の眷族「」サッ

古代魔法:変身

バサササッ

兵士長「な!? 蝙蝠に化けやがった!?」

兵士長「(しかも奴が飛んで行った方向は王宮のある方向じゃねえか。本当に騎士団長を殺りに行ったのか……?)」

区切ります

投下開始

兵士1「(気配が遠ざかって行った。どういう事だ?)」

兵士1「隊長、取り敢えず危機は去ったって事で良いんですかい? そうなら肩を一度叩いてくだせえ。なにしろ目も耳も使い物になってないんで」

兵士長「取り敢えずは、だな。本当に」ポン

兵士1「そいつは助かった。正直、これ以上は無理なんで」

生首「追わないのですか?」

兵士長「お前を埋葬するのが先だ。それに消耗が激し過ぎる」

生首「埋葬が先とは義理堅いですね」

兵士長「……俺なりのケジメだ」

猫獣人「くまさん……」

兵士長「おう、終わったぞ。取り敢えずだけどな」

猫獣人「良かった……それで、ワンコロは大丈夫なの? 目も耳も使い物にならないって」

兵士長「直ぐに医者に見せる必要があるな。一先ず応急措置をして、兵士2達と合流次第病院に運ばせる」

猫獣人「そんな酷い状態なんだ……」

兵士長「兵士である以上、負傷するのは仕方ねえんだ。そんなショゲた顔してねえで、応急措置を手伝ってくれ」

猫獣人「ん。分かったよ、くまさん」

生首「応急措置のついでに、私の裂かれた体も持って来て欲しいのですが」

猫獣人「ひあっ!?」

生首「失礼な。生首くらいで驚かないで下さい」

兵士長「生首が喋ったら普通驚くだろうが」

猫獣人「ビックリした……」

生首「失敬。さておき体を運んで下さい。私を体まで運ぶのでも構いませんが」

兵士長「半身と融合して、また俺達とやりあう気じゃねえだろうな」

生首「私に勝ち目の無い戦いをしろとでも? 心配せずとも私は切られた蜥蜴の尻尾ですから、じきに魔力が底をついて土塊に戻りますよ」

兵士長「土塊って、お前……」

生首「適合出来たのは彼女だけだったので」

兵士長「……そうか。嬢ちゃん、兵士1の応急措置をしてくれ。俺はこいつを体まで運ぶ」

猫獣人「う、うん。分かった」

兵士長「しかし、まあ、なんだ。お前が不死者だったとはな」

生首「私は壊れきってなかったんです。頭を殴られて酷い吃音にはなりましたが」

兵士長「……そうか」

兵士長「で、お前の体……死霊を操る魔術、あれと同じ様なモンか」

生首「私が適合出来ず朽ちる事に堪えられなかったのです、彼女は。だから私を……」

兵士長「それで不死者として使役してたのか……あったぞ、お前の体」

生首「側に私を置いて下さい」

兵士長「ああ。これで良いか?」

生首「はい。では……」

グジュ……

生首「欠損部位を補えば接合出来そうですね、では……」

古代魔法・土を肉に

―――
――


不死者「見てくれは最悪ですが……まあ、生首のままよりは良いでしょう」

兵士長「欠損部位を魔法で作り出すなんざ、とんでもねえな、おい」

不死者「せめて人の形で埋葬されたいんです。魂はもう還る事が出来ないでしょうから」

兵士長「魔族や眷属化した人間の魂は大いなる流れへ還らず、その存在諸とも消滅するって奴か」

不死者「はい。不死者も同様に、魂は失われます」

兵士長「……そうか」スッ

パサッ

不死者「外套? なぜ私に」

兵士長「お前が何であれヒトとして埋葬する。ヒトとして埋葬するなら、お前は人間だ」

不死者「――――ッ」

兵士長「だいたい年頃の嬢ちゃんを、何時までも裸同然の格好のままにはさせられねえよ」

不死者「あ……ありがとう。貴方達に討たれたのは、私の人生で最も幸せな出来事ね」

兵士長「……すまねえ。こんな事になる前に助けられなくて」

不死者「そう思うなら私と同じ様に、あの子もヒトとして葬ってあげて」

兵士長「おう。任せておけ」

不死者「お墓は私と同じにしてね。あの子、寂しがりだから」

兵士長「だろうな」

不死者「……ふう。肉体を作るのに少し魔力を使い過ぎたみたい。肩、貸してくれませんか?」

兵士長「構わねえよ。少し休みな」

不死者「ありがとう。おやすみなさい、優しい兵士さん」

兵士長「ああ。ゆっくり休みな」

投下終了
土日休めるって素晴らしい
閲覧感謝

3レス投下

猫獣人「くまさん!」タタタッ

猫獣人「来てっ、知らない尾無しがイッパイ来たの!」

兵士長「知らない尾無しだあ?」

猫獣人「うんっ。ワンコロとおんなじ鎧着てた!」

兵士長「同じ鎧か。へっ、随分遅かったじゃねえか」

猫獣人「仲間なの?」

兵士長「おう。同じ鎧なら俺の仲間だ、安心して良いぞ」

猫獣人「こ、恐くなんかナイし!」

兵士長「そいじゃ、ま。コイツを連れて戻るとするか」

猫獣人「その子……寝てるの?」

兵士長「あー、まあ、なんだ。まだ眠ってるだけだ」

猫獣人「……そっか」

兵士長「あんまショゲた顔すんな。さ、仲間が何処から来たのか案内してくれ」

猫獣人「……分かった、着いて来て」

兵士1「おっ、回復魔法すげえな。もう耳が聞こえらあ」

副長「事情はあの獣人の少女から聞きましたが、何をどうやったら眼球が飛び出し掛けて、鼓膜が破れる様な事があるんですか」

兵士1「魔法でしょうなあ。門外漢なんで、何をされたかなんて分かりゃしませんて」

副長「……全く。飛び出し掛けた眼球を強引に押し戻したり、視界が閉ざされたまま戦う何て無茶苦茶ですよ」

兵士1「相手が相手だったんでね。出し惜しみする余裕なんざ、欠片も無かったんでさぁ」

副長「命があったか良かった物を……さ、後は綺麗な水で眼を洗って下さい。それで応急処置は完了です」

兵士1「手間掛けました……あーやっぱりまだ視界が滲みやがるか」

副長「当たり前です。本来なら失明してもおかしく無いのですよ」

兵士1「そりゃ困りますね。自分の頑丈さに感謝しねえと」

兵士2「副長殿、兵士長が戻りました」

副長「分かりました。直ぐ向かいます。兵士1さん、暫く安静にしていて下さいね」

兵士1「分かってますって。俺だって自分が可愛いんですから」

兵士2「加減はどうです?」

兵士1「よ、兵士2。話は聞いたぜ。そっちも大変だったみたいだな」

兵士2「私は貴方程じゃありませんよ。ただ、傭兵達は全滅してしまいましたが」

兵士1「ガキの魔法使いにやられたんだってな」

兵士2「ええ件の魔法使いのせいで証人が全滅です」

兵士1「また面倒臭そうなのが出て来やがって」

兵士2「それにしても、君程の使い手が深手を負わされるとは思いませんでした」

兵士1「眷属相手にこの程度の怪我で済んだんだ、上々だろ?」

兵士2「君という人は……」

兵士1「そんな呆れた顔しないでくれ。心が抉られる」

兵士2「……私達も兵士長と合流しましょう。会わせなくてはいけないお方も居られますし」

兵士1「ん? 誰か居んのか?」

兵士2「ええ。会えば流石の君でも驚きますよ」

副長「お待たせしましたか、兵士長殿」

兵士長「よお、副長さん。アンタもこっちに来たのか」

副長「ええ。本来ならば騎士団を率いて民の避難をさせねばならないのですが……」

「お前と協力する様、俺が頼んだんだよ」

兵士長「!?」

王「久しいな、兵士長」

兵士長「お久し振りです、陛下。老人達からの監視は大丈夫なんですかい?」

王「知らん。何しろ抜け出して来たからな」

王「それに勘の良い貴族共は、今頃国外脱出でも企ててるだろうよ」

兵士長「……でしょうなあ」

王「お前の息子から話は聞いている。今は老人共より、あれをどうにかする方が先決すべき事だ」

兵士長「馬丁に会ったんで?」

王「ああ。精霊銀の武器が必要と言ったからくれてやったよ」

兵士長「じゃあ、こいつは……」ジャキ

王「なんだ。そのジャベリン、俺が渡した物じゃないか」

兵士長「先刻まで眷属とやりあってたんでさあ。その時、馬丁から預かりました」

王「眷属……天遣覚醒の影響がもう出てるのか」

兵士長「ええ。こいつが目覚めりゃ、何か聞けるかもしれやせんが……」

王「その娘は?」

兵士長「被害者です。騎士団長と、天遣の」

王「……そうか」

兵士長「今は魔力を消耗して眠ってますが……」

王「魔力を完全に失えば息を引き取る、と言ったところか」

兵士長「そうなりますね」

王「兵士長、その娘は敵か?」

兵士長「……被害者ですよ、この子は」

王「分かった。宝物庫に霊晶石があった筈だ、それを使う事を許可する」

兵士長「へ?」

王「二度同じ事を言わせるな」

兵士長「あ、ありがとうございます、陛下ッ」

王「ついでと言っては何だが、姫がまだ王宮に居ると聞いている。霊晶石回収と一緒に姫も王宮から避難させてくれ」

兵士長「分かりやした。直ぐ事に当たります」

王「ほらよ、鍵と俺の印だ。面倒な連中に絡まれたらそいつを見せて黙らせろ」

兵士長「確かに。丁重に預からせて頂ますぜ」

王「で、何時まで遠巻きで見てるんだ。戦闘狂」

兵士1「俺は狂人扱いですかい」

兵士長「おう、傷はもう良いのか?」

兵士1「お陰様でね」

王「暫く見ない間に随分と角が取れたじゃないか」

兵士1「へえ。見本に為らないと不味い立場なんで」

王「くくっ。見本に為るなら、先ずはその乱暴な御国言葉を治すべきじゃないか」

兵士1「郷の言葉は簡単に抜けませんて」

王「違いない。俺も海千山千の商人とやり合ってた時の言葉が抜け切ってないからな」

兵士1「左様で」

王「お陰で神皇陛下と会談した時は恥をかいたよ。全く情けない父親だ」クククッ

兵士1「下手すりゃ戦争沙汰になり兼ねん事を、笑いながら言わんで下さいよ」

王「済まんな。気を抜いて話せる事が思いの外楽しいみたいだ」

副長「……」

兵士2「絶句したくなる気持ちは分かりますよ。私も始めて見た時は閉口しましたから」

くぎり
また明日

兵士長「傷はもう良いのか、兵士1」

兵士1「副長さんの魔法で何とかなりました。ま、本調子とは程遠いですがね」

兵士長「そうかい。減らず口叩ける程度には上々そうでなりよりだ」

王「さて、だ。何時までも立ち話している訳にはいかない。騎士団長の屋敷を一時徴収しに行こうか」

兵士長「それもそうですね。じゃあ自分は姫様の保護と霊晶石回収に向かいやす」

猫獣人「あ……」

兵士長「ん? どうした、嬢ちゃん」

猫獣人「く、くまさん……あの……」

兵士1「あー、隊長。そのガキこっちに居ても邪魔なんで、荷物持ちにでも連れて行って下さいよ」

猫獣人「――ッ」ピクッ

兵士長「……陛下、構いませんか?」

猫獣人「……」ジーッ

王「兵士長が責任持って監視するなら、王宮でも離宮でも好きに連れて構わんさ。悪さする様な子には見え無いしな」

猫獣人「!!」

兵士長「だそうだ。来るかい、嬢ちゃん」

猫獣人「うん! 着いてく!」

兵士1「はっ。分かりやすい奴」ケラケラ

猫獣人「う、うっさいワンコロ!!」

王「くっくっく……そこの戦闘狂を泣きそうな顔で手当てしてた時と比べて、随分と元気じゃないか」

王「では事に当たろうか。兵士1は兵士団の残り全員を徴収する騎士団長の別荘に集めろ」

兵士1「了解」

王「兵士2はスカウトギルドの連中と協力して民の避難にあたれ」

兵士2「はい。了解致しました」

副長「陛下、自分は……」

王「お前では騎士団の半分も動かせまい。騎士団は文官と王女に任せ、天遣討伐の任に着け」

副長「はい。仰せのままに」

王「適材適所だ。納得出来ずとも理解しろ」

副長「御意にございます、陛下」

王「兵士長とつるんでる割りには堅苦しい奴だな……」

兵士長「変な色眼鏡で見んで下さいよ。副長さんは生真面目なんですから」

兵士長「っと、そうだ副長さん」

副長「何でしょうか、兵士長殿」

兵士長「この子を騎士団長の別荘で休ませて貰えるか? 出来れば使用人に服を着せる様にとも頼んでくれると助かるんだが」

副長「構いませんよ」

兵士長「助かる」

猫獣人「あ……くまさん、これ」スッ

兵士長「どうした?」

猫獣人「セガレから借りた棍棒。おーさまの物なんだよね、だから返さなきゃ」

兵士長「……そうだな。副長さん、このメイス預かってくれるかい?」

副長「ええ。でも何故陛下ではなく私に?」

兵士長「何かあった時、陛下より副長さんが持っていた方が有効活用出来るからな」

副長「成る程……では責任持って預かります」

兵士長「頼んだぜ。さあて、行こうか嬢ちゃん」

猫獣人「うんっ!」




兵士1「隊長!」

兵士長「…………」

兵士1「始末、お願いします」

兵士長「ああ。任せろ」



くぎり
投下量少なくてごめんね
また明日

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

ダいジョウぶ わタシは まダ ヒトりじャなイ

ダいジョウぶ この からダは コワれなイ

だかラ ダいジョウぶ

ダイじョウぶじャ なクなっタら――――

タベて げんキに なれバ いい






たべれば すぐに もとどおりだかラ






ほらね、赤くて、美味しい、生きた肉

少し汚れたけど、もう痛みは飛んじゃった




眷属「でも次は、もっと柔らかくて、良い匂いのお肉が食べたいなぁ…………」

眷属「ご馳走さま、衛兵さん。そうだ、そのマントもう要らないなら貰って良いよね?」

眷属「うふふふふっ……赤くて綺麗。ねえ、似合う?」

眷属「……そっか、頭を最初に食べちゃったから、見え無いんだよね」

眷属「残念。でも、もう私行かないと」

眷属「剥がした半身だけじゃ足りないからって、頭から食べちゃってゴメンね。衛兵さん」

眷属「バイバイ。貴方の血肉と魂、とても美味しかったわ」

眷属「うふふっ。次は食べてもちゃんと使い物になる食べ方をしないとね」




眷属「綺麗なお庭……あれ?」

眷属「ねえ、貴女」

眷属「なぜ、そんな悲しそうな顔をしてるの?」

眷属「そう……」

眷属「貴女も苦しいのね。苦しめられたのね」

眷属「教えて。何が貴女を縛っているの?」



眷属「誰が貴女を殺したの?」




眷属「ふふふふ……」

眷属「見つけた」

眷属「やっと、見つけた」

眷属「教えてくれて、ありがとう」

眷属「お礼に貴女を苦痛から解き放ってあげる」

眷属「行きましょう。貴女を殺した男の居るところへ」

眷属「貴女にも、仕返しをする力をあげるから」スッ

スペクター「…………」

眷属「さあ、私の手を取って」

スペクター「……ハイ。オジョウサマ」

―王宮―

兵士長「……昼間とは随分と様子が違うじゃねえか」

猫獣人「?!」

兵士長「どうした?」

猫獣人「血の臭い……タクサンの血と脂の臭いがするよ、くまさん」

兵士長「やはりか。あの嬢ちゃん、随分と食い散らかしたみたいだな」

猫獣人「どうしよう、このままじゃ……」

兵士長「離宮……あっちの方からは臭うか?」

猫獣人「あっち? ううん。アッチからは、葡萄や林檎の良い匂いがするダケだよ?」

兵士長「そりゃ良かった。先ずは姫様を救助に行くぞ」

猫獣人「ヒメサマ?」

兵士長「ああ。着いて来な」

猫獣人「ま、待ってよ、くまさんっ」

くぎり
酒は飲んでも飲ませるな。ですよね

投下開始

―離宮・寝室―

姫「……ううん…………」モゾッ

ドンドンッ

姫「ひゃあ!?」

『姫様、無事ですか!?』

姫「え? えっ? なに、なにがあったの?」

『異形の魔物が郊外に現れました。避難するので準備して下さい!』

姫「その声、兵士長? 分かりました。直ぐ支度致しますっ」

姫「どのくらい眠ってたのかな……」ボソッ

姫「(蒼天の光りはあそこだから……一つと半刻くらい、かな)」ゴソゴソ

姫「(お腹は……うん、平気みたい)」

姫「これでよし、と」クラッ

姫「……っ」

姫「(お酒、まだ抜けてないかあ……)」

姫「でも……」グッ

ガチャッ

姫「兵士長、状況の説明を」

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

姫「…………」

姫「(近衛ちゃん……)」

姫「兵士長、鍵を」

兵士長「姫様?」

姫「わたくしが霊晶石を届けます」

兵士長「そりゃ不味いですよ。姫様には避難を……」

姫「わたくしも王家の者です。お父様と二姉様が指揮を執る中、わたくしだけが逃げる訳にはいきません!」

兵士長「そうは言いますがね……参ったな」

猫獣人「(オヒメサマ綺麗な匂い……でも少しお酒の臭いもする?)」

猫獣人「!?」ピクッ

兵士長「どうした?」

猫獣人「お城からスる血の臭いが、腐った血の臭いに変わってきてる」

兵士長「死霊か」

猫獣人「……うん。たぶん、ソウ」

姫「どうしました?」

兵士長「姫様、やはり鍵は渡せません。宝物庫のある城に死霊が現れた様でして」

姫「……死霊、ですか」

兵士長「へえ。ですから……」

姫「わかりました。ならば近衛ちゃ……近衛の私室まで護衛して下さい」

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

―王宮・近衛私室―

兵士長「無事着いたは良いんですが、ここに何があるんで?」

姫「近衛の持っていた武具を借ります」ゴソゴソ

姫「(あったっ。近衛ちゃんのシルバーチェイル! それにコモンルーンもっ)」

姫「そこの貴女」

猫獣人「……え、ウチ?」

姫「これを着て下さい」

猫獣人「チェインメイル? なんでウチが?」

姫「ただのチェインメイルではありません。銀製なうえ、魔法による祝福が施されています」

姫「そしてこれは魔力附与のコモンルーン。これがあれば精霊銀でなくとも死霊を倒す事が出来ます」

兵士長「姫様、まさか……」

姫「兵士長、鍵をわたくしに。彼女の護衛と、この魔法があれば、霊晶石を届ける事くらいわたくしにも出来ます」

姫「それに宝物庫の近くには、郊外へと続く王族のみが知る隠し通路があります。必ずや霊晶石を届けてみせますわ」ニコッ

兵士長「……なんとまぁ、参ったね。こりゃあ」

兵士長「分かりました。嬢ちゃん、すまねえが姫様を頼む」

猫獣人「クマさん……一人で平気?」

兵士長「どうにかするさ。あの娘さんと約束したしな」

猫獣人「ん……わかった。オヒメサマ、なにか武器は無い?」

姫「ここには予備の小剣くらいしか無いみたいですね」

猫獣人「カタールかセスタスはないの?」

姫「それは流石に。宝物庫にならあるかもしれませんが」

猫獣人「ならコレで良いや。行こう、オヒメサマ!」

姫「はいっ。護衛をお願いしますね」

猫獣人「クマさん、行ってくるね!」

兵士長「おう、頼んだぜ。姫様もお気を付けて」

姫「ええ。さあ、行きましょう」

猫獣人「ウんっ!」

一旦句切り
また明日

―王宮―

兵士長「酷えな、こりゃ」

兵士長「(至る所に血飛沫がこびりついてやがる)」

兵士長「(それに死体が見当たらねえって事は、そういう事なんだろうな……)」

兵士長「ん? こりゃ足跡か」

兵士長「(血糊で汚れた子供程の足跡、ね)」

兵士長「へっ。大当たりじゃねえか」ジャキッ

兵士長「この奥は……地下牢獄か」

―王宮・地下牢獄―

騎士団長「ぐっ……クソッ」ギリッ

騎士団長「何故、私がこの様な目に……ッ 貴様、早く私をここから出せ!」

衛兵『……』

騎士団長「聞こえ無いのか! 私は騎士団長だぞッ!! 貴様の様な平民に声を掛けるだけでも有り難いと思えッ!!」

衛兵『……王族に無礼を働いた者を出す訳にはいきません』

騎士団長「王族……クソッ、あの女ァ……ッ」

騎士団長「……そうだ、あの護衛兵はどうした!? 貴族に手を上げた、あの男こそ牢に入れるべきでは無いのかッ!」

衛兵『……』

騎士団長「私はこの国に必要な人間だ。だが、あの男はどうだ。平民どころか出生さえ不明と言うでは無いか」

騎士団長「本来ならば、穢らわしいあの男を牢に入れるべきなのだ。そうだろう!!」

騎士団長「……ああ、良い考えを思い付いた。私の力であの男に罪を着せれば良いではないか」

騎士団長「おい、貴様も平民なら金が欲しかろう? 一生遊んで暮らせるだけの金貨をくれてやる。だから私をここから出すのだ」

衛兵『……チッ』

騎士団長「ッ!? 貴様、その態度はなんだ! 私にその様な態度をして、ただで済むと思うなッ!!」

衛兵『……少し黙れ、反逆者の外道』

衛兵『お前の様な屑に、彼を愚弄する権利は無い……ッ』

騎士団長「反逆者だと……ふざけるな、私は貴族だぞ! この国に必要な尊い存在なのだぞ!!」

衛兵『いい加減だまッ…… どうして子供がこんな場所に…………』

衛兵『な!? なんだ、そいつらは!』チャキッ

ドンッ

衛兵『……ッ』

ブチッ

ベキッ ボキッ

ジュル ズズズ……ッ

騎士団長「な、なんだ! おい、どうした! 何があった!!」

カチャン

騎士団長「(鍵が……何者かが私を助けに来たというのか)」

キイィ……

騎士団長「……」

ズル……

首の無い死体「」

騎士団長「ひっ」

ドサッ

騎士団長「こ、これは……」

ヒタッ

騎士団長「!?」

キイイイイィッ




「みいつけた」



句切り
また明日

3レス投下

眷属「やあっと、見つけたあ……」ニタニタ

騎士団長「……!」

騎士団長「(顔中血塗れの小娘? 何者だ、こいつは)」

眷属「あんなに偉そうにしてたのに、牢屋に居るんだもん。分かりにくいのやめて欲しいなあ」ゴシゴシ

騎士団長「その顔はッ……!」

眷属「鎖に繋がれて、まるで逆の立場だねえ」クスクス

眷属「……まあ、この方が都合良いんだけど、ね」スッ

騎士団長「ムグっ!?」

眷属「……ん」

眷属「ふふ……なんでそんな怯えた顔をしてるの?」

眷属「あなたが何度も無理矢理してきた事だよ?」

眷属「どんなに拒んでも、有無を云わさず強引に、そう。何度も、何度も」

眷属「何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もッ」

眷属「あなたが、私達に!」ドスッ

騎士団長「ごふっ」

眷属「そうだ、こんな風に何度も私達のお腹の中を掻き回して!!」グジュッ グチャッ

眷属「ねえ? 痛い? 苦しい?」クスクス

眷属「私達はもの凄く痛かった、苦しかった。けどね」ブチブチッ

騎士団長「うごぁぁあああアアアアアアァッ!!!!」

眷属「この子達はもっと痛くて苦しかったんだよ……ッ」ゴキッ ボキッ

スペクター「………………」

眷属「ねえ……」

騎士団長「……あ……がっ…………」コヒュー コヒュー

眷属「聞いてんだから、ちゃんと答えてよ」

騎士団長「…………っ!?」ブジュジュッ

眷属「あははっ。良かったねえっ! もう傷が癒えてるよ」ケラケラ

騎士団長「ど、どうなっている? 一体、何が……?」

眷属「ふふっ。ヒ・ミ・ツ」

騎士団長「きき、貴様ッ、私に何をした! 裂かれた腹が即座に癒えるなど有り得んッ。一体どんな魔術を使ったのだ!!?」

眷属「うるさい」シュッ

ズバンッ!

騎士団長「」

ゴロン

眷属「やっぱりあなたの声は耳障り」ガシッ

眷属「暫く首だけになっててよ」ニヤァッ

騎士団長「ッ――! ――――!!」

眷属「あははははははははははははははははははっ!!!!」ケラケラケラ

眷属「不思議? 不思議でしょ? 首だけになっても死なないんだよ?!」

眷属「あなたはもう死ねないの。死ぬなんて許さないから! ずうっと私達が遊んであげる!!」

眷属「さあ、みんな。こいつの身体もう食べて良いよ! あ、でも少し残してね。再生に時間掛かっちゃうから」

スペクター「……ハイ」

オオオオォォオオオッ

眷属「私達が生きながらに食べられる様な恐怖を味わったんだもん。あなたにも、この恐怖をたっぷり味わって貰うんだからねっ」キャッキャッ

グチャッ グチャグチャッ ガリッ ゴリッ



――

―――

一旦終了
残業なければ続きは夜に

てす

兵士長「ここも血溜まりはあれど死体は無しか」ボソッ

兵士長「(いよいよもって、不味い事になってやがるな)」

――――、――。――――!

兵士長「ん?」

兵士長「(話し声、だな。この声は……)」

兵士長「…………」

兵士長「手遅れ、だったか。あの野郎も、嬢ちゃんも……」

眷属「……飽きてきちゃった」グシャ

眷属「つまんない」ミシミシッ

眷属「なんでこいついたぶりたかったんだっけ」ブチャッ

眷属「ねえ、なんでだっけ?」

騎士団長「……もう……やめッ」ゴリッ

騎士団長「――ッ」

眷属「耳障り。やっぱり喋らないで」

眷属「頭を潰しても」

眷属「腹を裂いても」

眷属「手足を千切っても」

眷属「直ぐ元通りになって」

眷属「同じ事しか言わなくて」

眷属「…………」

眷属「つまんない」グシッ

ビチャッ

眷属「私達だって、何度もやめてって言ったのにやめなかった」

眷属「だから同じ事してるのに……」

眷属「やっぱり……つまんない」

「なら、もう終いにして良いんじゃねえか?」

眷属「!?」

兵士長「ひでえ有り様だな、騎士団長サマよお」

兵士長「(言うなりゃ再生し続ける肉の塊か。えげつねえ)」

眷属「無駄よ。再生したそばから喉を潰してるから喋れないの、これ」

兵士長「……そうかい」チラッ

兵士長「(死霊だけじゃなくゾンビまで居やがるか)」

眷属「それより、遅かったね」

兵士長「ちょいとばかり野暮用があってな」

眷属「ううん。来てくれたからいい」ニコッ

眷属「これを潰し続けるの飽きてきたの。ねえ、おじさん……」

眷属「私と遊んでくれる?」

兵士長「……ああ、構わねえよ。嬢ちゃんも、騎士団長サマも」チャキッ

兵士長「俺が……楽にしてやる」

眷属「…………」

眷属「うふふふふっ……私、おじさんの事、好きになっちゃったかも」ニタァ

眷属「みんなはこれを食べて待っててね。さあ、おじさん」スッ

兵士長「……」ジリッ

眷属「始めましょう? 楽しい楽しい時間を」バッ

眷属「『早き風』よ『熱光』と共に『吹き抜け』よ!!」

古代魔法・炎の嵐

兵士長「!?」




……ドゴオオォンッ…………



姫「……?」

猫獣人「どしたの、オヒメサマ?」

姫「いえ、遠くで爆発音が聞こえた様な気がしたので」

猫獣人「ウン、あっちからだね」

姫「……兵士長は無事でしょうか」ボソッ

猫獣人「…………」

猫獣人「急ご、オヒメサマ!」

姫「は、はいっ。急ぎましょう」

猫獣人「(クマさん、無理しちゃヤだからね……ッ)」

一旦区切り
閲覧感謝

病み上がった
3レス投下

―地下道―

姫「すんなり霊晶石が見つかったのは良いのですが……」

猫獣人「いるね。おかしな気配のヤツら」スチャ

姫「(これも天遣という者が現れた影響なの?)」

姫「駆け抜けましょう。猫さん、貴女の武器に魔法を」スッ

姫「コモンルーンよ、力を貸して……ッ」

精霊魔法・火炎賦与

猫獣人「スゴい! 剣が燃えてる!」

姫「さあ、行きましょう」タッ

猫獣人「ウんっ。ウチから離れないでね、オヒメサマ!!」

猫獣人「イくよッ!」タンッ

姫「(小剣二本を自在に操り、隙の無い剣捌きと無駄の無い足運び……)」

猫獣人「つぇりゃッ!」ザンッ

姫「(この人……すっごく強い!)」

猫獣人「ほいっと。これでヒトマズかな? オヒメサマはだいじょーぶ?」

姫「はい。それにしても凄いですね。まさか、一呼吸で障害となる異形を排除出来るとは思いませんでした」

猫獣人「そうカナ。剣は苦手だから、よくワかんないや」

姫「(あれで苦手? 亜人種特有の才なのかな)」

猫獣人「それより、イそご。その石を待ってるコのとこに」

姫「え、ええ。急ぎましょう」

―郊外―

姫「蒼天? はふっ……やっと着いた……」

猫獣人「まだ外にデただけだよ! オヤシキに案内するからツいてきて!」

姫「ううっ、休んでる暇は無い……ですよね」

猫獣人「オヒメサマ疲れたの? おかしな気配はナいから、おんぶしようか?」

姫「い、いえ、弱音を吐いている場合ではありません。お屋敷に急ぎましょう!」

猫獣人「ん、ワかった。コッチだよ、いこ!」タタタッ

姫「わっ。ま、待って下さい!」タッ

頭痛外来有能
閲覧感謝

2レス投下

―騎士団長別荘―

兵士1「よ、随分と早かったな」

猫獣人「ワンコロ!」

兵士1「隊長が一緒じゃないって事は……」

猫獣人「うん。あのコを止めにいった」

兵士1「……そうか。で、お使いは出来たのか?」

猫獣人「まかせてよ。オヒメサマ! ハヤくハヤく!」

兵士1「オヒメサマ?」

姫「や、やっと追い付いたぁ……」ゼーゼー

姫「――と云う訳で、わたくしが霊晶石を持って参りました」

姫「兵士1、この霊晶石を待っている者が居るのでしょう? これを、その者に」スッ

兵士1「あ、は、はい了解です」

猫獣人「ヘンなの。どうかした?」

兵士1「うっせ、少し驚いただけだっての。それより姫様、中へどうぞ。応接室に陛下と副長さんが居ますんで」

姫「お父様がここに?」

兵士1「はい。俺は霊晶石を持って行きます」

姫「わかりました。では……」チラッ

猫獣人「オヒメサマ、ウチはワンコロと一緒にいくよ」

姫「わんころ……?」

兵士1「あー、俺の事です」

姫「そ、そうなのですか?」

猫獣人「うん、だってワンコロはワンコロだし」

兵士1「こいつの言う事は余り深く考え無いで下さい。行くぞにゃんころ」

猫獣人「うんっ」

兵士1「応接室へは使用人が案内してくれます。では」

姫「は、はい。わかりました」



姫「(……わんころ?)」



投下終了
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―騎士団長別荘・迎賓室―

姫「お、お父様!?」

王「よっ」

姫「「よっ」ではありませんっ。何故こちらに居られるのですか!?」

王「抜け出す機会があってな。それより……」ギュッ

姫「あっ……」

王「無事でなによりだ」

姫「……はい」

王「――城に死霊、か」

副長「兵士長殿が戦っていた者の仕業ですね」

王「そうだな。天遣……アマツ、或いは天よりの遣い、その眷属」

王「お伽噺や伝承に語られる異形の者が次々と現れるとはな……」

姫「脱出用の隠し通路にも死霊は居ました。もしかしたら街に現れているかもしれません」

副長「だとしたら不味いですね」

王「ああ。スカウトギルドの面々はともかく、いくら王女と文官が居ても駒が凡愚の騎士団では避難に手間取りかねん」

副長「でしたら私が騎士団との連係を」

王「駄目だ。悪いがお前を駒にするつもりは無い」

副長「ですが……」

王「理解しろ、お前は戦力だ。兵士2の言っていた魔術師の件もある以上、お前という優秀な騎士を誘導に使う訳にはいかないのだ」

王「それに現状では手札も駒も足りないからな。神聖魔法の使える者を誘導に使う筈が無いだろう。それに……」

バタンッ

「大変です! 天遣が出現した位置を中心に周囲の白化現象を目視しました!!」

王「……伝承通り塩化が始まったか。少年とパルチザンが無事だと良いが」

姫「塩化……?」




「天遣に情報を喰われ塩と化す現象よ、お姫様」



王「……目が覚めたか」

不死者「お陰様で」

姫「貴女は?」

不死者「不死者。貴方達に知恵を授ける者」

王「くくっ……」

姫「お父様……?」

王「俺の望む通りの言葉だ。そうでなくては霊晶石を運ばせた甲斐が無い」

王「さあて不死者よ、お前に満たされた叡智で我々が今何を成すべきか説いて貰おうか」

不死者「ええ。あの子と安らかに眠る為、私の血に宿る知の全てを授けるわ」

姫「…………」

――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
――

塵「……せっかく借りた精霊銀の短剣がもう真っ黒だよ」

塵「ふふっ。これが完全な依り代を得た天遣の力なんだね」

『聴かせて』

塵「!?」

カッ

塵「『壁よ』!」ヴンッ

古代魔法・防御障壁

塵「正体不明の攻撃なんて、ホンっと厄介だねッ」

『教えて』ユラァ

塵「(近い!?)」

『観せて』

塵「(不味い、触れられるッ)」

ザンッ

塵「えっ」

ゴトッ

「悪い、待たせた」

塵「……あはは、遅かったじゃない。結構ギリギリだったんだよ、ボク」

馬丁「だから悪かったって」

塵「許さない」クスッ

馬丁「約束通り精霊銀の武器を持って来たんだ。良いだろ?」

塵「ダーメ。ホントに危なかったんだから」

塵「ふふふっ。許して欲しかったら、その剣でアイツ倒してよね」

馬丁「初めからそのつもりだ。塵、頼む」

塵「……うん。ボクの魔力、ありったけをキミに託すよ」

馬丁「(間に合って良かった)」

馬丁「(綺麗だった塵の髪は塩化でボロボロで、細い指先も白くなり始めている。きっと限界が近いんだ)」

馬丁「……塵」

塵「なんだい?」

馬丁「ありがとな」

塵「キミと近衛ちゃんの為だからね」クスッ

『……せて』

馬丁「くそっ、もう再生しやがったか!」

塵「再会を喜ぶ暇も無いなんて、まったくカミサマって奴は不粋だなぁ」

『おし……えて』ギチギチギチッ

馬丁「こいつ、姿が!?」

馬丁「(魚の化け物みたいな姿が……)」

塵「今度は胎児、か。いよいよ完全に目覚めようとしてるね……」

投下終了
閲覧感謝

投下開始

塵「天遺が形態移行で完全体に近付いているみたいだ。馬丁、少しで良い、時間を稼いでくれる?」

馬丁「分かった」ジャキ

『お……あ……ああ……』

馬丁「化物の姿のままなら、幾分か踏み込み易かったんだけどな」ボソッ

塵「(心苦しいよね、やっぱり。異形と化したって自分の子供に手を掛ける様なものなんだから)」

塵「……複合術式、構成」

塵「(それでもボク達はアレを倒さなきゃいけない。近衛ちゃんの為に)」

塵「なにより、キミの為にね。馬丁」クスッ

馬丁「くそっ、一撃が重いッ」ガキンッ

馬丁「陶器みたいな見た目通りの頑丈さかよ、コイツは!」

『おな……じ……にお…………い…………』

馬丁「!?」

『あなたは……だれ?』

馬丁「俺が……分かるのか……?」

『だれ…………なの……』

馬丁「……ッ」ギリッ

馬丁「(どうして、こんなッ)」

塵「耳を傾けちゃ駄目だ、馬丁!」

馬丁「塵!?」

塵「構成式展開、フルポテンシャルパワー・ストレングス!」

精霊魔法・臨界強化/筋力

塵「複合式てんか……ッ」ゴフッ

馬丁「塵!!」

塵「複合式……展開ッ、フルポテンシャルパワー・アジリティッ!!」

精霊魔法・臨界強化/敏捷性

塵「はは……足りない魔力を命で補うには限界があるね」ケホッ ケホッ

塵「さあ馬丁、今のキミならアイツにも攻撃が通じる筈だ、だから!」

馬丁「……ああ。任せろ!!」




馬丁「(迷うな!)」ダッ

馬丁「(惑うな!)」ガキン!

馬丁「(躊躇うなッ!!)」ザシュッ!



塵「(剣が通じてる、これなら近衛ちゃんと天遺を切り離せそうだね)」

塵「これで、ボクも……」

オオオオォォォオオオォォォォ……

塵「この気配……まさか」

『たす……け……』

塵「召喚魔法……? いけない! 馬丁、下がって!!」

天遺「助け……て、お母さん」

■■■魔法・眷属召喚

一旦終了
次回投下時に次スレ立て予定