ことり「美術室の白い虹」 (42)

大きなキャンバスの上半分。大きなオレンジ色の太陽

大きなキャンバスの下半分。遠くまで広がる青い海

そして、その真ん中には…

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1440411755

ことり「あれ? 白い絵の具が…ない?」

大好きな穂乃果ちゃんと海未ちゃん、そしてことりの絆がいつまでもつづきますように、と願いを込めた絵の中心には最後に真っ白な小鳥を描こうと思っていました。
放課後の美術室に1か月近く通って絵を描き続けて、今日はその仕上げをしようと思っていたのに残念です。

ことり「はぁ…どうしよう。今日はもう帰ろうかなぁ」

そう思ったその時でした。

ガラッ

にこ「はぁ…はぁ…。こ、ことり!? ちょっとだけ、かくまってくれないかしら…?」

ことり「にこちゃん? そんなに慌ててどうしたの?」

にこ「細かい説明は後よ。…その大きなキャンバスの後ろがいいわね。ここにちょっと隠れさせてもらうわ」

ことり「…また何かやったの?」

にこ「べ、別に大したことじゃないわよ」

ことり「もしかして、絵里ちゃん?」

にこ「うっ…。そうよ…絵里に無理やり勉強会に参加させられそうになったの。文句ある!?」

ことり「う~ん…絵里ちゃんはにこちゃんのためを思ってやってくれていると思うけどな~」

にこ「ふん! にこはできないんじゃなくてやらないだけなの。いざという時はしっかりやるから大丈夫にこ♪」

ことり「あはは…。まあほどほどにね?」

にこ「ふう…どうやら追いかけては来なかったみたいね」

ことり「にこちゃん、透明化魔法すっごい上手だもんね。絵里ちゃんも諦めたんじゃないかな?」

にこ「あれは透明化じゃなくて姿くらまし。相手の視線誘導と気配減退で…って、まあどうでもいっか。確かにその手の魔法では負ける気がしないわ」

ことり「あの絵里ちゃんを出し抜けるんだもん。凄い才能だよね」

にこ「まあ、穂乃果と凛にはなぜか見つかるんだけどね…。あれこそまさに魔法よ…」

にこ「…それにしても、ことりはこんな場所で何をしていたの?」

ことり「うん、実はね。この絵をずっと描いていたんだ」

にこ「ああ、このばかでかいキャンバスの…。……もしかして手書き?」

ことり「もちろんだよ?」

にこ「それは大変ね…。魔法で描けばあっという間なのに」

ことり「魔法なんかで描いても意味がないよ」

にこ「ふぅーん…そういうものなのかしら。…でも、きれいな絵ね。よく描けてるじゃない」

ことり「ありがとう♪ 穂乃果ちゃんと海未ちゃんのことを考えながら描いたんだぁ」

にこ「本当にあんたたち仲がいいわね…。あれ、でもこの絵って…」

ことり「うん、まだ完成じゃないんだ。あとはこの真ん中に白い絵の具で小鳥を描こうかなって」

にこ「ことりって…自画像!?」

ことり「違うよ! 鳥だよ、鳥!」チュンチュン

にこ「わかってるってば、冗談よ…」

ことり「…(・8・)」

にこ「その顔やめなさいよ…。…まあ、でもそれじゃああとちょっとね。完成が楽しみね」

ことり「そうなんだけど…、実は白い絵の具がなくって…」

にこ「そっか~…。それじゃあ今から買いに行かない?」

ことり「ええっ、今から!?」

~♪~♪~

ことり「~♪」

にこ「随分とご機嫌ね」

ことり「ふふっ♪ だってにこちゃんと二人きりでお出かけなんて初めてで…嬉しくって!」

にこ「そう…」

にこ(どうしよう…。絵里のいる学校から抜け出す口実だったのに…)

ことり「しかも、にこちゃんの方から誘ってくれるなんて、ことり感激です!」

にこ「まあ、たまには悪くないか…」

ことり「?」

にこ「よ~し、とりあえずこの辺りで絵の具を売っていそうなお店へ行くわよ!」

ことり「うん!」

ことり「売り切れ…ですか?」

「申し訳ございません…。ちょっと前に白い絵の具を全部買い占めて行ったお客さんがいまして…」

にこ「白い絵の具を全部? そんなピンポイントで買い占めるなんて…」

ことり「仕方ないから別のお店に行こう?」

にこ「ま、そうするしかないわね」

~~~

「申し訳ございません…」

にこ「まさか、ここも完売とは…」

ことり「2件連続売り切れなんて、普段はこんなことないんだけどなぁ…」

にこ「他の色はたくさんあるのによりによって白だけないなんてね」

ことり「あの…絵の具を買い占めて行った人はどんな人だったんですか?」

「う~ん…そういえば頭からすっぽりとマントをかぶっていたから顔はよく見えなかったね…」

ことり「そうですか…ありがとうございました」

にこ「…聞いた? 頭からマントなんて怪しすぎるわ! これは…事件のにおい!」くんくん

ことり「そんな…事件だなんて…」アハハ

にこ「いいえ、事件よ。…私の推理が正しければ白い絵の具を買い占めていったのは同一人物…マントマン(仮)よ!」

ことり「マントマン(仮)…!?」ガビーン

にこ「そう。そして、そのマントマン(仮)の正体はこの伝説の名探偵にこにーが必ず暴いて見せる!」

ことり(なんか変なスイッチ入っちゃってるよぉ…)

にこ「ふっふっふ。それでは早速捜査を開始しようではないか、ことそん君」

ことり「ノリノリだね…」

にこ「いいじゃない、ちょうど退屈してた所なんだし」

ことり「まあ、それもそっか! それじゃあ、ことりが精一杯助手を務めさせていただきます!」

にこ「ふふ、それじゃあこの周辺の絵の具屋をしらみつぶしにあたるわよ!」

ことり「おー!!」

~喫茶店~

にこ「それでは、ことそん君、結果を報告してくれたまえ」

ことり「はい! …調査した結果全7件、全て白い絵の具は売り切れでした。そして、絵の具を買い占めていったのは全てマントマン(仮)であるとの情報を得ることができました!」

にこ「やっぱり私の予想通りだったわね」

ことり「流石名探偵にこにーです!」

にこ「まあ、当然といったところかしら? この私を相手にしたのが運の尽きね」

ことり「なるほど!…それじゃあ、もう犯人の目星もついているんですね?」

にこ「へ…?」

ことり「それに犯人は一体何の目的で白い絵の具ばかりを狙った犯行を繰り返したのか…?」

にこ「え、えーっと…それは…その…」

ことり「にこちゃ~ん?」

にこ「ちょ、ちょっとタンマ! …糖分よ、糖分が足りないわ!」

ことり「糖分?」

にこ「そう、糖分! やっぱり頭には甘いものがいいじゃない? 糖分を摂取することで名探偵にこにーの天才的頭脳を活性化させるのよ!」

ことり「なるほど! さすがにこちゃん!」

にこ「よし、決まりね! …すいませーん! 注文お願いしまーす!」

「お待たせしました。ご注文どうぞ~」

にこ「このデラックスいちごパフェをひとつお願いします」

ことり「わたしは鬼チーズケーキをお願いします」

「はい、デラックスいちごパフェと鬼チーズケーキですね。少々お待ちください」

ことり「チーズケーキ楽しみだねっ♪」

にこ「いやいや…なによその禍々しいネーミングのチーズケーキは…」

ことり「えぇ~? 普通のチーズケーキだよ? 1時間以内に完食できたらお値段無料! さらに豪華景品まで付くんだって!」

にこ「それってどう考えても普通のチーズケーキではないわよね!? チーズケーキ食べるのに1時間の時間制限なんて聞いたことないわよ!?」

ことり「そうだよね、1時間なんて正直余裕すぎるよね?」

にこ「あぁ…天然って怖いわぁ…」

ことり「にこちゃんは心配性だなぁ。ことりはどんなにお腹がいっぱいでもチーズケーキだけは残したことがないんだよ?」

にこ「そう、頑張ってね(適当)」

ことり「うん、頑張る!」

ことり「テーブルと同じ大きさのチーズケーキが運ばれてきました」

にこ「でかい…」

ことり「これはさすがに…」

にこ「…」

ことり「にこちゃん、ごめんね?」

にこ「あ、謝らないでよ! なんか…なんか怖いから!」

ことり「こんなに大きいと思わなくて…」

にこ「本当にね…ウエディングケーキかっての」

ことり「あのね、にこちゃん。二人までなら一緒に挑戦できるみたいなんだけど…」

にこ「…まったく、しょうがないわね」

ことり「! ありがとう…」

にこ「そんな暗い顔しないの! それに私は諦めてないわよ? 絶対完食してやるんだから!」

ことり「そうだよね…! 私たちの挑戦はまだ始まったばかり…」

ことにこ「(チーズケーキと)ファイトだよ!」

~30分経過~

にこ(なんとか順調に半分まで食べ進めたけどもう限界ね…。正直ことりならぺろりと平らげるんじゃないかと一瞬思ったけど人生そんなに甘くなかったわ…。チーズケーキは死ぬほど甘いけど…フッ)

ことり「…」モグモグ

ことり「…」モグモグ

ことり「…」ピタ

にこ(ことりのフォークが…止まった…? ふっ…もはやここまでね…。ごめんなさい、チーズ農家の人、ケーキ職人さん、チーズケーキの神様…。私たちはもうだめです…。心残りがあるとすれば、ことりのチーズケーキお残しゼロの経歴に傷をつけてしまったこと…)

「とべるよ」

にこ(えっ?)

「いつだって、とべる」スッ

にこ(そんな…嘘でしょ…? もう限界はとっくに超えたはずなのに…)

ことり「あの頃のようにっ!」バクバクバク

にこ「み…見える…!ことりの背中に翼が…!!」

チーズケーキを食べながらことりは思い出していた。

「おかあさ~ん…おなかすいたよ~…。チーズケーキがたべたいよぉ…」グスッ

「…我慢しなさい」

子供の頃、どんなにチーズケーキが食べたくても食べられなかったあの頃を。

ことり(もうあんな思いはしたくない…!)

「おかあさん…ことり、いいこにするから…だから…おねがぁい…」

「駄目よ…」

「なんで…なんで…チーズケーキたべさせてくれないの…?」

「そ…それは…」

「ねぇ! おかあさんってば!」

「もう、どうして言う事が聞けないの!? ダメだって言ってるでしょ!? 3時までは…3時のおやつの時間までは…!!」

ことり(もうあんな思いはしたくない…! いつでも自由にチーズケーキが食べられる!)

ことり「今が最高!!」ムシャムシャ

にこ「いっけぇぇえええ!!!」

カラン

ことり「ごちそうさまでした」

パチパチパチ

スゴーイ!オメデトー

にこ「やった…やったわ…」

ことり「にこちゃん!!」

にこ「ことり!!」

ぎゅっ

ことり「やり遂げたよ…最後まで…!」

にこ「よく頑張ったわね…」

ことり「にこちゃんが側に居てくれたから頑張れたんだよ」

にこ「あら、調子のいいこと言っちゃって。何もでないんだからね?」

「お待たせしました。デラックスいちごパフェです」

ことり「…」

にこ「…いちごパフェなら出るけど?」

ことり「今食べたら別の何かが出ちゃうよ…」

にこ「わたしも…」

にこ「あの…すいません。あそこの角の席のご家族にあげてください…」

「かしこまりました」

アチラノセキノカタカラ…

オネーチャンアリガトー!!

にこ「…」テフリフリ

にこ「…いやーいいことしたわ」

ことり「すっごい個人的な理由だけどね」アハハ…

にこ「別に細かいことはいいのよ!」

ことり「あ、そういえば豪華景品をもらったんだった。何かな~?」ガサゴソ

ことり「!! にこちゃん!」

にこ「!! それって!」

ことにこ「絵の具100色セット!!」

にこ「白は!? 白はもちろんあるんでしょうね!?」

ことり「ちょ、ちょっと待って……あ、あった~!!」

にこ「くぅ~!! 苦労した甲斐があったわ!」

ことり「本当にこんな偶然あるんだね!」

にこ「チーズケーキの神様ありがとうございます…!」

ことり「ありがとうございますっ」

~♪~♪~

ことり「はぁ~…お腹もいっぱいだし絵の具も手に入ったしもう満足…」

にこ「なんだか一年分くらいの運を使い果たした感じがするわ…だいじょうぶかしら…」

ことり「鬼チーズケーキもちょっと量が多かったけどすごく美味しかったし、文句なしだね!」

にこ「…ねぇ、そのチーズケーキなんだけど。ことり、あなたひょっとして魔法使ったんじゃないの?」

ことり「魔法…?」

にこ「そう。胃の中のものを空間転移させたりとか」

ことり「ええ~…ずるしてないよ~」

にこ「だって後半のペースのあがり方は異常だったわよ?」

ことり「あれは本当ににこちゃんが応援してくれたからだって! それに空間転移なんて難しくてまだできないよ…」

にこ「ふぅーん…まあ今回はそういうことにしておくわ。それにしてももっと早くその方法に気付いていれば…」

ことり「ず、ずるしちゃいけませんっ!!」

にこ「じょ、冗談よ…。私もそんなに得意じゃないし、第一そんな技ばれずにやってのけるレベルの人なんてそうそういないわ」

ことり「ばれなくても絶対だめだからね?」

にこ「はいはい」

ことり「よし。……それじゃあ、用事も済んだし学校に戻ろうか?」

にこ「はぁっ!? それ本気で言ってるの?」

ことり「? だって、街には白い絵の具を買いに来たんだよ?」

にこ「はぁ…。わかってないわね…。マントマン(仮)よ、マントマン(仮)!」

ことり「(仮)がうっとうしい!! もう(仮)外すよ? ……それで、そのマントマンがどうかしたの?」

にこ「正体、気にならない?」

ことり「正体かぁ…。う~ん…確かにちょっと気になるかも…?」

にこ「そうでしょ? 正体を暴くまで帰れないわよ!」

ことり「えぇ~…あ、そういえば、にこちゃんにいい考えがあるんだっけ?」

にこ「ええ! 糖分の充電ができたから閃いたのよ! マントマンをおびき出すいい作戦を!」

ことり「それで、その作戦がこれ…?」

にこ「そのとおりよ!」

ことり(道端にぽつんと置かれた白い絵の具…。さっきの景品の絵の具です。これでマントマンを誘き寄せるらしいんだけど…)

ことり「そんな、魚釣りじゃないんだから!」

にこ「平気よ! 白い絵の具のあるところにマントマンあり! 奴は必ず現れるわ」

ことり「ほんとかなぁ…」

にこ「奴が現れたところを取り押さえる。完璧な作戦ね」

ことり「先が思いやれるよ…」

にこ「あ、さっそく誰か来たみたいよ?」

ことり「誰かっていうか…犬だよね…?」

犬「…」ハッハッハッ

犬「…」クンクン

犬「…」パクッ

犬「…」ダッ

ことにこ「…!!」ダッ

ことり「に、にこちゃ~ん? これも作戦のうちなの?」ハァハァ

にこ「ちょ…ちょっと予想外だったかしら?」ハァハァ

ことり「ふぇ~ん…速いよ~…追いつけない…」

にこ「はぁ…はぁ…。諦めるのは…まだまだ早いわ…」

ことり「うぅ…さっきのチーズケーキのせいで…」ウプ

にこ「うっ…お腹が痛い…」

ことり「だ…誰か…誰か止めて~!!」

ザッ

「…」

犬「…!?」

ことり(マントを被った人…)

にこ(あれは…マントマン!?)

犬「うぅー…わんわん!!」ポロッ

にこ(! ラッキー!絵の具を落としたわ! 今のうちに回収を…)

犬「わんわん!!わんわ

マントマンが犬に向かって手をかざし、何かを唱えると犬の姿はたちまち消えてしまった。

ことり「!? そんな……ひどいっ!!」

にこ(これは……空間転移…!?)

にこ「取り押さえるわよッ…!!」

「…」

「…」ブツブツ

ことり「えっ…! 今度はマントマンの姿が消えた…?」

にこ(これも空間転移…? いや…自分自身を空間転移するのは訳が違う。つまりこれは…)

にこ「まだ近くにいるわよ…!」

ことり「う…うん!」

にこ(十中八九これは姿くらまし。だとしたら私の得意分野。私と同じような視線誘導を使ったものは稀なケースだから、幻覚、あるいは光学迷彩のどちらかね)

にこ「ことり、ここら一帯に風を送り込むことはできるかしら?」

ことり「うん、やってみる…!」

ごぉぉぉ……

にこ(風の流れ……わずかながら揺らぎが見える…!)

にこ「そこだぁ!」ヒュッ

「…くっ!」バッ

「…」ヒュン

にこ「ふぅ…」

ことり「えっと~…どうなったの?」

にこ「ああ、逃げたわよ」

ことり「えぇ!? 逃げちゃったの!?」

にこ「大丈夫、ちゃんとマーキングしたから後を追えるわ。私を誰だと思っているの?」

ことり「ほぇ~…さすがにこちゃんだよ」

にこ「ふふん、あれは光学迷彩のようなものね。自分の周りの光を屈折させて背後に像を繋いで姿を隠すの。でも、実体は存在するわけだから風なんかを起こして砂やほこりの動きを見てやれば空間に揺らぎが生まれて一発で見破れるわ」

ことり「にこちゃんが珍しく難しいこと言ってる…」

にこ「大きなお世話よ!!」

ことり「あはは……あ、ということはさっきのわんちゃんもその光学迷彩っていうやつで姿が見えなくなっちゃっただけなの?」

にこ「いや、あれは空間転移ね。光学迷彩なら鳴き声まで消えることはないし。それにしても空間転移も生物に使えばもはやテレポーテーションね、初めて見たわ…」

ことり「それじゃあ、わんちゃんは無事なんだね? よかったぁ…」

にこ「ええ、よっぽどへんな場所に飛ばされていなければいいんだけど…。地面の中とか」

ことり「怖いこと言わないで!?」

にこ「大丈夫よ、きっと。……そういえば、私たちが仕掛けた絵の具もなくなっているわね。まんまとマントマンに持っていかれたってわけか。…さてと、それじゃあそろそろマントマンの後を追いましょうか」

ことり「うん。でも、また逃げられたりしないかな?」

にこ「さっきからマーキングをたどっていたんだけど、ようやくマントマンの動きが止まったの。位置的には街の大分はずれの方みたいだから、多分奴の隠れ家ね。ここまで追い詰めればもうどこにも逃げられやしないわ」

ことり「そっか。危なくないよね?」

にこ「…」

ことり「ねぇ、やっぱりやめた方がいいんじゃ…」

にこ「ここまで来て引き下がることなんてできないわ。それに私たちは騎士団の候補生じゃない。これくらい訳ないわ」

~♪~♪~

にこ「ここのようね。隠れ家というか…まあ、なんていうか見た目は普通の家ね」

ことり「それにしても思ったより歩いたね…。周りには他に一軒も家なんてないし、もうすぐ夕方だよ…」

にこ「普通なのは見た目だけね。こんなところに住んでいるなんてやっぱり怪しさ満点だわ」

にこ「さて、裏口から入るか…それとも煙突から? 作戦ももう一度見直して…」ブツブツ

ことり「こんにちは~」コンコン

にこ「ちょっと、ことり!? なにしてんのよ!!」

ことり「やっぱり、こそこそとしたり敵意をむき出しにするよりも、まっすぐ正面からお願いするのがいいんじゃないかなって。白い絵の具を買い占めていた理由を聞くだけだし」

にこ「まあ、一利はあるけど…」

ガチャ

「あなたたちは…」

マントを被っていないその人は、とてもきれいな女の人でした

ことり「あ、あのっ! さっきはごめんなさい! わたしたち、怪しい者ではなくて…白い絵の具がどうしても必要で…それで、えーっと…」

「そう…よかったら中にどうぞ?」

にこ(ど、どうするの!? 罠じゃないでしょうね?)こそこそ

ことり(わ、わからないよ~。でも、思ったより悪い人ではなさそう?)こそこそ

「どうぞ?」

ことにこ「………お、おじゃましま~す…」

ことり(なんだかフラスコとかきれいな色の薬品がいっぱいで、学校の薬学室みたいだなぁ)

「紅茶でよかったかしら?」コトン

ことり「は、はい、ありがとうございます」

にこ(ことり! 飲んじゃダメよ? きっと眠らされてどこかへ連れて行かれるに違いないわ)ヒソヒソ

「あら、毒なんて入ってないわよ?」クス

にこ「!! で、ですよね~…」

ことり「……いただきますっ」ズズ

にこ「ちょ、ちょっと!!」

ことり「大丈夫だよ、にこちゃん?」

にこ「…みたいね」

「さてと…さっきの白い絵の具はあなたたちに返すわね?」

ことり「はい…ありがとうございます」

「でも、ただ白い絵の具が欲しかったってわけではなさそうね。それなら、こんなものを道端に置いて誰かさんを誘き寄せようなんてしないだろうし」

ことにこ(全部ばれてるーー!?)

「理由、聞かせてくれるかしら?」

ことり「えーと、それは…」

にこ「街中の白い絵の具、買い占めて回っていたのあなたですよね? それでわたしたちはすっごい迷惑したの。なんで白い絵の具だけを買い占めるような真似をしたのか。その理由を聞かせてもらえます?」

「あらあら、それは確かに悪いことをしたわね……。うーん…誰にも言わないって約束してくれるなら教えてあげてもいいわよ?」

にこ「ええ、約束するわ」

ことり「わたしも誰にも言いません」

「ふふ、じゃあ特別に教えちゃおうかな。実はね、わたし……ここで虹を作っているの。きゃー!言っちゃった♪」

ことにこ「……虹??」

「うっ…思ったよりリアクション薄いわね…。誰にも言ったことないし絶対びっくりすると思ったんだけどなぁ…。もしかして信じてない?」

にこ「え、え~と…虹って、あの虹? 雨が降った後なんかに空に架かる…」

「それ以外にないでしょう?」

ことり「虹を作るって…どういうことですか?」

「そのままの意味よ。私の仕事は空に虹の橋を架けることなの。どう、素敵でしょ?」

ことり「ふわぁ~…凄い…」

にこ「虹を作るって…それと白い絵の具がどう関係あるの…?」

「…光の三原色って知っているかしら?」

にこ「光の三原色…?」

ことり「確か、青・赤・緑ですよね?」

「そう。そしてその3色を合わせると白い光になる。白い絵の具を水に溶かして、それを特別な魔法で光の粒に変換するの。白い光からはどんな色の光でも作ることができるから、そこから好きな色をブレンドして虹を作るのよ」

にこ「なんだかさらっとものすごいこと言っている気がするんだけど…」

「あはは、あくまでイメージの話だから気にしないで。実際はもっと複雑な処理を加えているから」

ことり「それじゃあ、あのフラスコの中のきれいな色の薬って…」

「そうよ、あれが虹の元よ。赤橙黄緑青藍紫、この地域の虹は七色も作らないといけないから大変なのよね…」

ことり「地域によって虹の色が違うんですか?」

「ええ、多いところで8色だったかしら? 逆に少ないところは2色なんてのもあるわ。…それでね、聞いてほしいのがわたしの知り合いの職人なんだけど、そいつ虹に黒色を混ぜるのよ? 黒よ、黒! 信じられる? あのセンスにはついていけないわ…」

ことり「あはは…確かに黒はちょっと…。…それじゃあ作ろうと思えば何色の虹でも作れるってことですか…?」

「そうね、全部その地域の職人のセンス次第ってところかしら。このあたりも昔は5色だったらしいし。伝説の虹職人「雨坊」なんて108色の虹を作ることに成功したと古い書物に書かれているわ」

にこ「108色も識別できる気がしないわ…」

「みんなは私たちみたいに目がよくないもんね…。結局2~8色くらいで落ち着いたって感じね」

にこ「なるほどね。それにしても虹の原料が絵の具だなんて、衝撃的な事実だわ…」

「そのことなんだけど、実は私は最近ようやく虹職人の免許皆伝したばかりで、絵の具からしか虹を作れないの…。」

にこ「そっか、それで…。虹職人ってのも案外大変なのね」

「私が未熟なばかりに迷惑かけてごめんなさい。早く別の方法で作れるように努力するわ」

ことり「いえいえそんな…」

「そうだ! 迷惑かけたお詫びと言ってはなんだけど、見せてあげるよ。私の虹」

少し小高い丘に出てきた私たち。虹職人さんの手には七色の試験管。
空は一面のオレンジ色。ここに今から虹を架けるそうです。

「それじゃあ見ててね」

何か呪文を唱えながら試験管をひっくり返すと、中から出てきたカラフルな液体は地面に落ちることなく美しい弧を描きながら街の方まで伸びていきました。

にこ「きれい……」

ことり「すてき……」

「ほらほら、見とれている場合じゃないよ? 30分くらいで消えちゃうから、早く渡った渡った」

ことり「え?」

にこ「わ、渡れるの!?」

「もちろんよ。虹はどこにでもすぐに架けられる便利な橋として昔から使われてきたのよ」

にこ「そんな現実的な使い道があったなんて…」

ことり「虹の橋を渡れるなんて夢みたい…」

「うんうん。たくさんの人に笑顔を届けるのも虹職人の大事な仕事よね」

にこ「笑顔を届ける…か」

ことり「それにしてもすっごく大きな虹だなぁ。こんな大きな虹初めて見たかも」

「安全第一ってね!」

ことり「これなら安心して渡れますね♪ にこちゃん、早速わたってみよ?」

にこ「ええ! ……それじゃあ、最初の一歩はふたりで同時に踏み出しましょう?」

ことり「それいいね! …じゃあ、せーの、でね?」

にこ「わかったわ」

ことにこ「せーの!!」

タッ

にこ「す…すごい!! 本当に渡れている…!!」

ことり「わぁ~…なんていうか…しあわせ~♪」

にこ「空を歩いているみたい!」

ことり「夕日もきれい…。夕暮れのオレンジ色の空を空中散歩できるなんてロマンチックだね♪」

にこ「これ以上にない贅沢よね! ちび達にも見せてやりたいけど内緒っていう約束だから…仕方ないわね」

ことり「にこちゃんとの2人だけの秘密かぁ~」ニコニコ

にこ「ふふっ、そういうのも悪くないわね」

「それじゃあ気を付けてねー!!」

ことり「はーい! 素敵な虹をありがとうございました!」

にこ「ありがとうございまーす!!」

夕方のオレンジ色の空の下。大きな虹の上をふたつの小さな影が並んで歩いていく。

ことり「あっ! もうお月様が出てるよ!」

空にはちょうど半分くらいになった月。そして、それを追いかけるようにすぐ隣にもう一つの紅い月。

ことり「ちょうど1か月くらい前だったっけ? あの紅いお月様が来たのって」

にこ「叛逆の紅月『リベリオン』…。不気味よね…」

ことり「そう? ことりは結構好きなんだけどな。赤くてきれいだし、二つのお月様が並んで仲良しみたい♪」

にこ「仲良しって、あんたねぇ…。…なんで叛逆の紅月なんて呼ばれているか知らないの?」

ことり「う~ん…そういえば聞いたことないな。確かにちょっと物騒な名前だよね…」

にこ「ふぅーん…、じゃあ、知らない方がいいわ」

ことり「ええ、なんで!? 教えてよ!」

にこ「だーめ。世の中には知らない方が幸せなこともあるの。私にはことりの甘々な夢を壊すのは荷が重すぎるわ」

ことり「むぅ…。にこちゃん意地悪…。ちょっとことりのこと馬鹿にしてるし…」

にこ「別に知らなくても死ぬわけじゃないんだからいいの。私だって前に真姫に聞くまで知らなかったし」

ことり「ふーん…じゃあいいもーん。真姫ちゃんに聞こっと」

にこ「やめときなさいって。ことりには刺激が強すぎるわ」

ことり「えぇー、そんなことないよー……って思うよ~?」

にこ「自信ないんじゃない…」

そんな話をしながら歩いているとあっという間に虹の橋を渡りきってしまいました。
虹の橋は街のちょっと外れの方まで伸びていて、渡り終わって少しすると段々と薄くなっていって、そして消えてしまいました。

ことり「なんだか名残惜しいね」

にこ「そうね…。まあ、こういうものはほんの一瞬だけ見られるからいいのよ」

ことり「おお~。にこちゃんいいこというね!」

にこ「伊達に人生長く生きてないわよ」

ことり「一年だけだけどね」アハハ

にこ「…さて、もう大分暗くなってきたしさっさと学校にもどるわよ」

ことり「うん、そうだね」

「おーい!! にこちゃーん!! ことりちゃーん!!」

にこ「ん? あれは…凛? それに……げっ!!」

絵里「あらぁ~、矢澤にこさ~ん? 私との勉強会を放ったらかしてこんなところで何をしているのかしら?」

にこ「え…えーっと…これは…ことりに無理やり…」

ことり「にこちゃん?」

にこ「にこぉ…ごめんなさい…」

絵里「はぁ…全く…」

凛「ねぇねぇ! そんなことよりさっき虹を見なかった? こーーんなにおっきいやつ!」

ことり「うん、もちろん! 大きな虹だったよね~♪」

凛「だよねだよね! 凛ね、虹の上を誰かが渡っているのが見えた気がしたんだ。それを確かめに虹のふもとまで行こうと思っていたんだけど、あとちょっとのところで消えちゃって…。ちょうどことりちゃんたちが歩いてきた方なんだけど何か知らないかにゃ?」

ことにこ「!!」

凛「あっ、その反応! もしかして何か知ってるの!?」

ことりとにこちゃんはお互い目配せをして、ふっと笑って言いました。

ことにこ「内緒♪」

~♪~♪~

大きなキャンバスの上半分。大きなオレンジ色の太陽

大きなキャンバスの下半分。遠くまで広がる青い海

そして、その真ん中には…

ガラッ

にこ「邪魔するわよ」

ことり「あ、にこちゃん。いらっしゃ~い♪」

にこ「あら、この絵、完成したのね」

ことり「うん。ちょうどさっき完成したところ」

にこ「大きな虹…か」

ことり「結局白い絵の具は使わなかったよ…」アハハ

にこ「そっか、でもことりらしくて素敵な絵よ?」

ことり「えへへ、ありがとう♪ …この絵はね、μ'sのみんなのことを考えながら描いたんだ」

ことり「赤は真姫ちゃん、橙は穂乃果ちゃん、黄は凛ちゃん、緑は花陽ちゃん、青は絵里ちゃん、藍は海未ちゃん、紫は希ちゃん」

にこ「……白とピンクは…虹の色にないもんね。まあ、仕方ないか」

ことり「うん、だからね。ほら、虹の上を見て?」

にこ「虹の上…? ………よく見ると、小さく何か…。これは、わたしとことり…?」

ことり「そう! この作品はノンフィクションです。実在の人物、団体、事件 などにはいっさい関係あります!」

にこ「ことり…ありがとう…」

ことり「ふふん。どういたしまして♪」

にこ「…みんなにも早く見せましょ?」

ことり「うん♪ あ、でもにこちゃんとことりのことは秘密だよ?」

にこ「ええ、任せて! 早速みんなを呼んでくるわ!」

いつまでも消えることのない虹がここにある

以上です
続編も一応予定してますがいつになるやら

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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1435501872/)

一応前作です。微妙につながっています
魔法が存在する世界というのは裏設定に留めるつもりだったんですが前面に出しすぎましたね

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