恒一「まず怜子さんを振ってから他の女子を口説こう」 (19)

夜11時。自宅にて

怜子「恒一くぅん……」

恒一「なんど迫って来ても無駄ですよ」

怜子「どうして遠慮しちゃうのぉ?
    おじいちゃんたちはとっくに寝てるのよ?」

恒一「そういう問題じゃないんです。自宅ならともかく、
    学校でもイチャイチャしてるもんだから
     みんなにバレるのも時間の問題ですよ」

怜子「とっくにバレてるんじゃない?
    クラスでも普通に恒一君にボディタッチとかしてるしね」

下着姿の怜子。ベッドで大人しくホラー小説を読んでいた甥っ子に
寄り添ってる。いやらしい笑み。官能の世界へ誘う視線は、
すでに2人が男女の仲になっていたことを示していた。

恒一「美術の時間とか本当にやりすぎですよ。
    デッサンしてる僕の隣の椅子に座って10分も雑談したりして」

怜子「画の相談をしていたつもりだったのだけど?」

恒一「望月がすごい睨んでたじゃないですか!!
    心臓が止まるかと思うくらいでした良い」

怜子「彼は心がピュアなのよ。しょせん若造ね」

恒一「あいつの恋心を知っておきながらひどい言いようですね」

怜子「……キスしよ?」

恒一「いやです」

怜子「どうして!!」

恒一「うわっ、急に怒鳴ったからびっくりした」

怜子「みんなに秘密でこういう仲になるって約束したじゃない!!
    あの時の約束は嘘だったの!?」

恒一「状況が変わったんですよ。クラス中に近親相姦してる
    クソ野郎と思われたら僕は終わりです。
    見崎にも悪いし……」

怜子「なーんでそこで見崎さんの名前が出てくるのかしらぁ?」

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恒一「いたっ、腕をつねらないでくださいよ」

怜子「つーか敬語使うのやめてよ。よそよそしくなるから」

恒一「……転校して間もないころは見崎のことが気になって仕方なかった。
    いつしか向こうも僕のことを良く思うようになってくれた。
     いないもの同士だったこともあるし、赤の他人ってわけじゃない」

怜子「なに? 浮気でもするつもり?」

恒一「というか別れましょう」

怜子「!?」

その後、深夜の2時まで喧嘩は続いた。

罵倒され、物を投げられ、足をけられた恒一。

15歳としては信じられないほどの強じんな精神力で翌日平然と登校する。

見崎鳴を廊下で待ちぶせし、一言。

恒一「久しぶりにお昼ご飯一緒に食べないか?」

鳴「……どうして?」

恒一「たまには見崎と話がしたいと思ってさ」

鳴「わかった。屋上でいいの?」

恒一「いや、教室にしよう」

鳴「え……?」

そして、お昼時になった。

恒一「見崎。僕の席においで」

鳴「えっと……うん」

恒一「今日は見崎の分もお弁当作って来たんだ」

鳴「そうなんだ。言ってくれれば良かったのに。
   今日は霧化が珍しくお弁当持たせてくれたの」

恒一「じゃあ食べさせっこしようか」

鳴「え/// それはちょっと……」

恒一「いやなの? 僕のこと、嫌になっちゃった?」

鳴「私は嫌じゃないんだけど、その……周りのみんなの視線が……」

勅使河原「……」

望月「」

赤沢「……」

水野「……」

恒一「僕って入院生活が長かったからこういうの全然気にしないんだよね」

鳴「……私は、ちょっときついかも。特にむの…赤沢さんの視線とか」

赤沢「ちょっと、いま思いっきり無能って言いそうになったでしょ!!」

望月「それより問題なのは榊原君の態度だよ!!」

風見「ま、待つんだみんな!! 今騒いだら大変なことになるぞ!!」

水野「これが黙っていられるか!! 久保寺先生が過労で入院してから
    怜子先生が担任になって以来、俺たちはへどが出るような
     イチャラブシーンを見せつけられてきたんだ!!」

勅使河原「まーたしかに、三神先生とのスキンシップは過剰だったな。
      話しかけるたびにサカキにボディタッチしてたしな」

望月「怜子さんというものがありながら、なぜに見崎さんと浮気する!?
    答えろよ、榊原恒一!!」

恒一「キリカさんの作ってくれた卵焼き、おいしいね。
    中に明太子が入ってるんだ」

鳴「ええっと……今食べてる場合なのかな?」


恒一「僕のから揚げも食べておくれ」

鳴「う、うん」

水野「人の話を聴けよこらああ!!」

高翌林「こんなの、全然フェアじゃない」

桜木「ちょっと三神先生に報告してきます」

恒一「ちょ……」


放課後。恒一は怜子に呼び出された。


怜子「クラスの子たちに聞いたわ。
    見崎さんにセクハラしたんですって?」

恒一「はぁぁ……? いつ僕がそんなことしましたか?」

怜子「嫌がってる見崎さんを無理やり食事に誘ったそうじゃない!!」

恒一「食事って……言い方が悪いですよ。ただ一緒にお昼ご飯を
    食べただけじゃないですか!!」

怜子「見崎さんが嫌そうな顔してたって望月君が言っていたわ」

恒一「はっ、あんな奴の証言がアテになりますか?
    深夜、僕のラインに殺害予告とか襲撃翌予告とか送ってくるやつですよ?」

怜子「この時代にラインはないでしょ。いい加減にしなさい」

恒一「そっちこそいい加減にしてくださいよ!!
    だいたい今日の呼び出しとか無意味じゃないですか!!」

怜子「なんで!?」

恒一「本当にセクハラしたって言いたいんだったら
    当事者である鳴を連れてくればいいんですよ!!」

怜子「めい……ですって? いつから下の名前で呼ぶようになったの!!」

恒一「うっせー!!」

怜子「ちゃんと答えなさいよ!!」

ズガアアアン

机をたたき、怜子の手に血がにじんだ。

他の教員もこの職員室には勢ぞろいしてるのだが、
誰もが見てみぬふりをして仕事してる。

恒一「たしかこの学校は恋愛自由でしたよね!?」

怜子「それがどうかした!?」

恒一「なら僕と鳴が一緒にご飯食べても誰も文句を言えないわけだ!!
    なんで担任のあなたがズケズケ文句言ってくるんですか!!」

怜子「恋愛なんかしてたら勉強に支障が出るから!!
    あなた今年受験生だって自覚あるの!?」

恒一「くっ……だったらここで突っ込んでおきたいことがあるが、
    職員室で言ってしまったら2人とも首になってしまう……」

怜子「見崎さんだって受験で忙しいはずよ?
    あなたなんかに付きまとわれて迷惑してるはずよ?」

恒一「うるせー!! これ以上聞いてられるか!!」

怜子「ちょっと!!」

怜子の静止を振り払い、扉を開けて出ていってしまった。

怜子が追いかけてきたので全力出かける。

どうせ外に出てもつかまるだけなので旧校舎へ旅に出る。

ここは文科系の部活が活躍してる場所だ。

トランペットやトロンボーンなどの金管楽器特有の音色が聴こえてくる。

恒一(怜子さんの香水のにおいもここまでは匂ってこない……。
    さて。どこに隠れようかな)

そんな時であった。恒一が密かに憧れていた黒髪の美少女が
音楽室から廊下へ出てきた。

多々良「あっ」

恒一「同じクラスの多々良さんじゃないか。
    こんなとこで会うなんて珍しいね」

多々良「そうですね。榊原君はたしか帰宅部のはずですから」

sageれてなかった
いったん切ります

恒一「実は家に帰れなくて困ってるんだ」

多々良「もしかして……三神先生が原因ですか?」

恒一「どうして分かったの?」

多々良「だってさっきから……」

実は怜子は校内放送で27回くらい恒一を呼び出していた。
逃げるのに必死だった恒一は気づかなかったのだ。

恒一「職権乱用か……」

多々良「なんで」

恒一「ん?」

多々良「なんで……見崎さんとお昼ご飯食べてたんですか?」

恒一「ええっ、それってそんなに気になること?」

多々良「見崎さんとは別れたんじゃないんですか?」

恒一「ちょっと待ってくれ。落ち着いて話しをしよう」

多々良「はい」

恒一「まず僕と見崎は最初から付き合ってない」

多々良「……?」

恒一「嘘じゃないよ?」

多々良「てっきりよりをもどしたのかと」

恒一「誤解されるのも無理はないけどね。
    転向してからずっと見崎にべったりだったし」

多々良「今は三神先生のことが好きなんですよね?」

恒一「違うね」

多々良「違うんですか?」

恒一「ああ、違うね。あの人は僕の叔母なんだよ。
    それ以上でもそれ以下でもない」

多々良「ふぅん」

恒一「信じてくれないの?」

多々良「いいえ。榊原君はともかく、三神先生はどう思ってるのかなって」

恒一「こういち」

多々良「はい?」

恒一「名字で呼ばれるのは好きじゃないから名前で呼んでくれ」

多々良「……いいんですか?」

恒一「頼むよ」

多々良「じゃあ……こういち、くん?」

恒一「うん。そんな感じで。慣れてくれば気軽に呼べるようになるよ。多々良さん」

多々良「私の名前は呼んでくれないんですか?」

恒一「周囲に誤解を生むといけないからね」

そっけない態度の恒一だが、ちゃっかり連絡先は交換したのだった。
名目上は恋愛相談となっているが、
そもそも好意と信頼のある異性じゃないと成り立たない。

ちょうど部活も終わる時間だったので校舎の裏口を多々良と一緒に歩いた。
家が反対方向なので門で別れたのだが、恒一は多々良がさみしそうな
顔で一瞬振り返ったのを見逃さなかった。

恒一「ふぅ……ただいまぁ。今日もつかれたな」

怜子「待ってたわ」

恒一「仕事終わるのずいぶん早いんですね。試験前なのに」

怜子「夕食後、話があるから」

恒一「そうですか」

恒一は、旅に出るから探さないでくださいとテーブルに書置きし、家を後にした。

怜子からの着信はすべて無視し、浮浪者のように街をうろつく。

夜見北は田舎なので都合の良いホテルが見当たらない。

赤沢「この世の終わりのような顔してるけど、悩み事?」

恒一「こんばんわ……。こんな道端で合うなんて奇遇だね。
    実は泊まるところがなくて困ってるんだ」

赤沢「あらそうなの? 私は買い物帰りだったんだけど、
    良かったらうちに泊まる?」

恒一「女の子の家だとハードルが……」

赤沢「うちの家広いから安心して?」

派手な夕食を振舞われた後は、赤沢の部屋に招待された。

恒一「まさか僕がここに泊まるわけじゃないよね?」

赤沢「今空き部屋を用意させてるから。ベッドでも大丈夫よね?」

恒一「それは問題ないよ。むしろ助かる。それより僕の悩みを聞いてくれないか?」

恒一は多少脚色を加えながらも怜子との馴れ初めを語っていった。

話の途中で赤沢の表情が険しくなることに恐怖を覚えるのだった。

赤沢「あの人、甥っ子に色目使うとかどうかしてるわ。
    今日の呼び出しも職権乱用じゃない」

恒一「それに学校関係者もなぜか怜子さんを注意しようとしない。
    僕らのクラスの担任でもあるわけだし、手に負えないよ」

赤沢「あとで私が直接文句言ってあげるわ」

恒一「ありがとう。赤沢さんがそういってくれると頼もしいよ」

赤沢「こういちくん……?」

自然と赤沢の身体を優しく抱きしめていた。

赤沢から気にいられてることは気づいていたから、
こうしても抵抗されないことは何となくわかっていた。

1分ほどこうしていると、

赤沢「なにしてるの? ずっとそのままでいるつもり?」

恒一「今日のところはここまでが限界かな。いちおう僕ら中学生だし」

赤沢「私は別に……」

恒一「僕は赤沢さんを傷つけたくないんだ」

翌朝。登校すると怜子がマスクをしていた。

恒一「お、おはようございます」

怜子「……おはよう。昨日は赤沢さんの家にお泊りですって?
    自分が学生だってこと分かってるの? あとで説教だからね」

恒一「それより怜子さんの目が腫れあがってるのはどういうことですか?」

怜子「花粉症なのよ。医者から化粧するなって言われちゃってね」

恒一(絶対うそだ。どうせ夜中中泣いていたんだろ)

鳴「恒一君……」

恒一「おっ、見崎じゃないか。おはよう」

鳴「……」

恒一「無視?」

鳴「いつから赤沢さんと付き合ってたの?」

恒一「また誤解させちゃったかな?
    豪邸に空き部屋があるって言うから泊まらせてもらっただけなんだ」

鳴「ごうてい……」

恒一「それに赤沢さんのご両親だってお兄さんだっているんだよ?
    僕と赤沢さんが変なことしてるように思えるかな?」

鳴「うーん」

恒一「今日もお昼ご飯一緒に食べようか?」

鳴「いいの? 赤沢さんに怒られない?」

恒一「平気だよ。向こうも僕との関係は割り切ってるから」

赤沢「本当にそう思ってるの?」

恒一「うわっ、別々に登校したはずなのにばったり会ってしまうとはね」

切ります

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