女「病弱萌え?」(47)


女「え、友ちゃんなにそれ? 火葬の一種?」

友「いや違うよ。ほら、お前がこないだ好きだって言ってた奴がさ、どうもそうらしくて」

女「え? あの人火葬されちゃうの? 嘘でしょ? だってまだ死んでないのに」

友「いやそうじゃないってば。ほらあの、あれだよ。風邪ひいてたり、熱があったりして、相手が弱ってる姿を可愛いって思う人のことらしいよ」

女「何それ! 元気な方がいいに決まってるじゃん。おかしいよそんなの!」

友「そうそう。だからさ、女もそんな変な奴のこと好きになっちゃダメだってば」

女「え? 変な奴って誰?」

友「だからさ、お前がこないだ好きって言ってた奴」

女「え、あの人が!?」

友「やっとわかったのか!?」


女「……」

友「ん? おい、どした? 女ー?」

女「ねえ、風邪ってどうやったらひけるのかな?」

友「え」

女「私さ、今まで一回も病気したことないんだけどさ。やっぱり、コツとかあるのかな?」

友「えーっと、いや、……女には、無理だろ」

女「意地悪なこと言わないでよ! 教えてったらぁ」

友「だって、お前バカじゃん」

女「へ?」

友「バカは風邪をひかないんだぞ?」


女「そんなこと、……そんなことあるわけないもん! 友ちゃんの嘘つき!」

女「まーいいや。こういう時はgoogle先生に聞くのが一番」

女「こないだ[ピーッ]が大発生した時にもお世話になったし。今回もいい答えを教えてくれるはず……」カチャカチャ

google先生「バカは風邪をひきません」

女「え……」


女「そっ、そんな馬鹿な!」カチャカチャ

google先生「そういうことを検索する人は、たいていの場合バカであり、普通の人より丈夫である可能性が高いです」

google先生「風邪というものは、ひきたいと思う時にひけず、ひきたくない時に限ってひくものです」

google先生「従って、その両方の要素を兼ね備えているあなたは、何をしようが風邪をひけません。よって、バカは風邪をひかないのです」

女「う……嘘だ嘘だ!」カチャカチャ

google先生「」

女「せ、先生! google先生、答えてくださいよ、ねぇ!」

google先生「www」

女「先生……? せ、せんせぇえええー!!!」


女「はぁ。一日中探したけど、google先生笑いっぱなしだったよ……。結局、あきらめるしかないのかなぁ」

女「でも、そしたら男さんのハートを射止められないし……」

女「って、今薬局から出てきたのは友ちゃんでは? おーい、友ちゃぁーん!」

友「……あ、あれ? 女じゃん……奇遇、だな……」ゲホゲホ

女「どしたの? 声ガラガラだよー。あとさ、なんか厚着すぎない? 今日あったかいのに」

友「……風邪、……ひいた、から……」ゴホゴホ

女「」

友「……移したら、悪いし……じゃーな……」ゲホゴホ

女「」


女「と……友ちゃんの裏切り者ぉお!!!」

女「なんだよ! なんだよ、自分だけ風邪ひきやがってさ、マスク着けてさ、咳してさ、おまけに頬っぺた真っ赤でさ! なんだよ、なんだよ! 友ちゃん男さんのこと趣味悪いって言ってたくせに、……くそぅ!」

女「くそぅくそぅく……はっ! そ、そうか。頬紅とマスクと咳のまねっこで、風邪と同じことになるじゃないか。やったー私って天才!」

女「よし。これで頬っぺた真っ赤、マスクは真っ白、コートに帽子にマフラーで厚着! そして咳。げほげほげほげほっ!」

女「さっそく明日、学校で男さんにアタックだ!」


女「げほげほっ、げほげほ! お、おはよー、げほげほっ!」

先生「おいおい、女。どうしたそんな変な化粧して。おかめみたいになってるぞ」

女「お、おかめじゃないです。風邪です! げほげほ」

先生「口でげほげほ言ってもダメだろ。もっと肺から息を出さんと」

女「ひゅ、ひゅほー」

先生「あと、その恰好暑くないのか? まあいいが、化粧は落とせよ。校則違反だからな」

女「ひょほー……」


女「うーん、何が悪かったのかなぁ。あーあ、せっかく準備したのに落とさないと……」

男「あれ? 女さん大丈夫?」

女「あっ、お、男さん!?」ドキーン

男「その恰好……もしかして女さん」

女「!?」

男「花粉症? お大事にねー」

女「……」


女「男さん、優しいけど、優しいけど、そんなところに惚れたんだけど、でも違うんだよ! 花粉症じゃないんだよ。なんかちょっと違うんだよ。しかもまだ花粉飛んでないよ男さん!」

女「どうしよう。ほんとに風邪をひかなきゃダメみたいだけど、私はバカだしなぁ。うーんどうしようどうしようどうしよう! いったい、いったいどうすればいいんだぁーあ!」

女「はっ、待てよ。そういえば……」

――友『……移したら、悪いし……』

女「こ、これだぁああー!」


ピンポーン

友「う……ん……?」ゲホゲホ

ピンポーン ピンポーン

友「……誰だろ、……よいしょ」ゲホゴホ

ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン

友「はーい、どちらさ……」フラフラ

女「か、風邪……移して、もらおうと……思って、」ゼエゼエ

友「……」パタン

女「待ってよ待ってよ! ドア閉めないでよひどいよ! せっかく一生懸命走ってきたのにそれはないよ! 開けてよ友ちゃーん開けてよぉー! 開けてったらぁああー!!!」ドンドンドン

ピンポン ピンポン ピンポン ピンポン ピンポン ピンポン


女「中に入れてくれてありがとう」

友「……お前、うるさすぎ……」ゲホゲホ

女「あっ、受け止めそびれたー! もう一回咳してプリーズ」

友「……帰れよ……」ハアハア

女「そうだそうだ。ちょっと待って、今服脱ぐから」

友「……」ゲホゲホ

女「そうだそうだ。ねえ、キスしてもいい?」


女「すごいね。友ちゃんの部屋に入ってから、わずか二十三秒で追い出されたよ」

女「まぁ、風邪ひきさんと同じ空間で同じ空気を吸えただけでよしとするかな。でもこれだけじゃ不安だなぁ。そうだ、体を冷やせば熱が出るって誰か言ってたような」

雨 ザー

女「ナイスタイミング! 傘を差さずに散歩しよう。よし、ずぶ濡れの濡れ鼠になろう」

雨 ザザザー

女「冷たい! 雨が冷たい! ふぅーっ!」ビチャビチャ

女「最初は濡れるのが嫌だったのに、なんか慣れてきたら楽しくなってきたなぁ」ブルブル

女「あっめ、あっめ、ふっれ、ふっれ~♪」ザバザバ

男「あれ? 女さん?」

女「って、お、男さんー!!?」ドキーン


男「傘、持ってないの? びしょ濡れだよ?」

女「い、今の歌、聞いてました……?」

男「このままじゃ風邪ひいちゃうよ。俺の傘を使って」

女「だ、ダメですダメ! それじゃあ、男さんが風邪をひいてしまいます! そ、それに、私今濡れたい気分だし、」

女(そんなことになったら、私が風邪をひいても学校で男さんに会えなくなっちゃうよぉ)

男「そうか。……じゃあ、仕方ないね」グイッ

女「えっ!?」

男「一緒の傘じゃ狭いけど、我慢してね。家まで送ってあげるよ」

女「あ、あの、男さんの服、濡れちゃいます、けど……」

男「女さんと同じなんだ」

女「え?」

男「俺も、少し濡れたい気分なんだよ」


女「お、男さんかっこいいー!!!」

女「相合傘してしまった……。相合傘、人生初の相合傘を、男さんとしてしまった……! やん、恥ずかしいっ!!!」

女「か、顔から火が出そう。顔だけじゃなくて体中ぽっかぽっかだよもう……。これじゃあ体冷やせないよぉー」

女「ということで水ぶろを用意しましたっ」

女「そこへ、冷凍庫で作っておいた大量の氷を投入ー! トゥルルットゥルットゥットゥ~♪」

女「さあ、一気に飛び込むぞっそれっ」ジャボーン

女「ひゃ、ひゃっこーい! ひゃふい……ひゃああああっ! あ、なんかちょっと楽しい。ひゃああー!」

女「うんうん、このまま……。一時間入ってたら死んじゃうかもなぁ。死にたくはないから、三十分くらい我慢しようかなぁ」ガタガタ


女「あれ? 上がった後、逆に体がぽかぽかしているような……。あ、熱が出たのかな!」

女「よし、熱を上げるために、このまま床に裸で寝よう!」

女「……」モジモジ

女「は、裸はやっぱり恥ずかしいから、パジャマ着ようっと……」

女「ふふふっ、でもこれで、朝になれば風邪をひいて熱があるはず……うふふふははははぁっ!」


女「……」

女「36.2℃……」

女「い、いや違う! きっと、電子体温計を読み間違えてるんだ。ひっくり返せば、」

女「……598℃?」

女「あーもう、わかったよ! 認めるよ、認めればいいんだろ? そうだよ平熱だよ。熱なんか出てないよ出なかったよ、最初から私に体温なんてなかったんだよ! うわああああーん!」

女「……ぐす」

女「もうどうでもいいや。どうせ男さんのハートを私が射止めるなんて、はなから無理だったんだよ……」

女「よし、ダイエットもヤメだ! やけ食いに行こう!」


女「わぁーここのお店のケーキおいしー」パクパク

強盗「動くなぁー!」

店員「ひええええっ!?」

女「ひょええええっ!?」

強盗「この店の売り上げをすべてこの袋の中に入れろ! そうしないと、このペットボトルに入れてある、研究所から盗んだ世にも恐ろしい殺人ウイルスを、店内にたっぷりばらまくぞ!」

店員「ひ、ひいいいいい!」

女「う、ウイルス……?」


強盗「さあ、命が惜しければさっさとやれ!」

女「はい、質問です!」

強盗「うおっ!? お、おい勝手に動くな! 死にたいのか!?」

女「そのウイルス、風邪みたいなものですか?」

強盗「ち、違うぞ。風邪よりもっと酷いんだ。えーと、えーとだな、熱が出て、咳が出て、頭が痛くなって、最後には死んじまうんだ! わかったか!」

女「それ、人に移りますか?」

強盗「ふふふ、ワクチンをしている俺たちには移らない。しかも、このウイルスを直接吸ったものしか発症しないのだ! つまり、お前らが感染しても国家はお前らを見捨てるぞ! 無駄な抵抗はしないことだな!」

女「わかりましたっ」

強盗「ならいい」

女「では頂ます!」


強盗「な……なにぃいー!!?」ガビン

女「……」ゴクゴクゴク

店員「ひっ、ひえええええええ!!? お、お客様ぁあー!!?」

女「……ぷはぁー」

強盗「お、お前っ、命が惜しくないのか!?」

女「……は? 命? 命なんて、そんなもの!」

女「男さんへの愛のためなら! 男さんに、一度でも好きって言ってもらえるんなら! 捨てたって本望だぁああああ!!!」

強盗「な、なんだと……!? くっ、やはり、女子高生という生き物は、意味が分からん!」

警察「動くな、警察だ!」

女「ひょえっ!?」

強盗「うおっ!!?」


警察「武器の類は持ってないのか……? おい、この空のペットボトルはなんだ!?」

強盗「くっ、ばれてしまっては仕方がない。それは普通のカルピスだ!」

女「う、嘘です! 中身はウイルスのはずです!」

強盗「おい、飲んだそこのお前。この中身、どんな味がした?」

女「カルピスみたいな味がしました」

強盗「その通りだ」

女「え、えええええー!!?」

強盗「そもそも、こんな小太りのオタクを絵にかいたような俺が、研究所からウイルスを盗めるはずがないだろう」

女「いえっ、Tシャツがいかしてたので、てっきり実はできる人なのかと……」

強盗「お前……いい奴だな」


女「もっと早く出会いたかったですねー。五世紀前とか……」

強盗「ああ、まったくだ」

警察「逮捕する」

強盗「初めてなんだ。優しくしてくれ」

警察「君、被害者? 君にも、事情聴取する」

女「え」

警察「署までご同行願おう」

女「えー? えええー!?」


女「お、同じ話を何度も何度も何度も何度も……。こってり絞られちゃったし。もう何も残ってないよぉ。残ってるのは、男さんを好きだっていう、この胸の奥の方のトキメキだけだよぉ」

友「え、ええっ!? 女、それって、……え?」

女「ねー、びっくりだよねぇ。かつ丼出してくれなかったんだよ?」

友「そっちじゃないよ! あのさ、お前……男友が好きなんじゃないの?」

女「え?」

友「あの中で一番いかしてる、男友が好きって言ってただろ?」

女「ううん。やだよあんなチャラそうな人。あの中で一番いかしてる、男さんが好きなんだよ」

友「……って、おい、女!」

女「えっ、男友さんが好きだと思ってたの? やだなーそんな訳ないじゃん!」

友「おいってば! 後ろ!」

女「私は前から男さん一筋で、大大好きだって前々から」

友「後ろに男が居るっての……」

女「」


女「……」クルッ

男「」

女「」

友「あ、あちゃぁー」

女「……」

男「……」

女「……」

男「俺も」

女「……!?」

男「俺も女さんが好きだよ」

女「!」


女「じゃあ、結婚しましょうっ!」

男「二年待ってくれるなら」

女「一万と二千年だって待ちます、男さんのためなら」

男「それは、ちょうど縄文時代に入ったあたりだね」

女「はい……!」

男「明日の予定、空いてる?」

女「いえ、何も……」

男「俺が、その隙間を埋めてもいいかな?」

女「はい……!」

男友「? ? え、え? 何の話? ねえねえ、友ちゃーん、これ何の話?」

友「知るか」


友「よ、よかったな。デートの約束までできて……」

女「うんうんっ! うわぁ嬉しいなぁ。たぶん、今なら車にひかれても痛くないんじゃないかな!」

友「それはちょっと大げさなんじゃあ」

車「」キキーッ

ドンッ!

友「お、……女ぁあああー!!!」

女「」


車「」ブオオオオー

友「女、しっかりしろ! 女! って、あの車ひき逃げしやがった!」

女「……すごいよ。ほんとに痛くないや。車にはねられたのと同時に地面にうつ伏せに倒れたおかげで、しかも車が改造車でタイヤが普通の奴より大きかったおかげで、タイヤとタイヤの間、地面と車体の間にうまく入って通り抜けられて無傷だったよ」

友「確かにすごいよ。車にはねられたのと同時に地面にうつ伏せに倒れたおかげで、しかも車が改造車でタイヤが普通の奴よりでかかったおかげで、タイヤとタイヤの間、地面と車体の間にうまく入って通り抜けられて無傷だったなんて」

女「いやぁそれほどでも」

友「それはそれとして、気をつけなよ? 明日は大事な日なんだからさ、事故も含め体には気を付けないと」

女「ふふふ……。例え何者であっても、私と男さんとの障害にはなりえないよ!! ふはははははぁっ!!!」

友「ならいいんだけどさ……」


女「あー、不思議だなぁ。男さんのこと考えると、体がぞくぞくして眠れないや……」

女「あ~いた~くって、あ~いた~くって、ふるぅ~え~るぅ~♪」ブルブル

女「ああ、男さん……。ああ男さん、男さん」

女「明日、楽しみだなぁああー!!!」


チュンチュンッ

女「うぅーん! ……いつの間にか寝てたみたいだなぁ。って、」

女「うひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

女「ね、寝坊した寝坊した寝坊した寝坊した寝坊したぁあああー!!!! どうしよう、待ち合わせまで、あと三時間しかないよ!!!」

女「その間に、お風呂に入って勝負服を着て髪をセットしてっ。できるかな? いや、やるしかない! やるしかな、い……。あれ、なんだろう急に、クラクラ、す、る……」クラッ、


女「く、くっそぉおお! こんな、クラクラに負けて、たまるかぁあああ!!!」フラッ、

バタッ

女「あっ! し、しまった。足元がフラフラして……っ! くそぅ、こんな風に、こんな風に床に寝そべってる場合じゃないのにぃ!」

女「くっ、体が……体が動かない! まるで鉛のようだぜ! くっそぉおおお!!!」

女「こ、こうなったら……浴室まで匍匐前進だ! いけ、いけぇええー!」ズリズリ

女「なんでだろ、はぁ、関節が痛い……! はぁはぁ、ふぅ。なっ、情けないぞ! こんなことで、はぁ、筋肉痛になるとはぁっ!! ぜはっ」

女「も、もう……はぁ、動きたく、ないよ……はぁはぁ……」グタッ

女「……はぁ……はぁ……」

女「だ、ダメだダメだ! 男さんとのデートが……デェエトがかかっているんだからぁあああー!!!」ズリズリズリズリズリッ

女「こんなすぐに、はぁ、息が上がるなんて、はふ、おかしいなぁ……。頭洗ってるだけで、はぁ、持久走してるみたいだ、ぜぇ」

女「はぁはぁ、はしれぇ~はしれぇ~っ、おれぇ~たぁ~ちぃ~っ♪」ドライヤー ブオー

女「しっ、しまったぁ! た、立てないから……鏡が見えないっ! ドライヤーやブラシ、くし、整髪剤は棚を揺らして床に落として何とかなったけど……洗面所の鏡が見えないっ!!!」ハアハア


女「うーん、うぅーん。立てない、立てないよぉ……。はっ! そうか! 自室の姿見ならっ。右手にブラシ、左手に整髪剤、くしは、くひひふわへへいほう(口にくわえていこう)……っ!」ゼエゼエ

女「すきなふくを、きてるぅ~だ~けっ♪ わぁ~るいゲホッ、してないよぉ~っ♪」

女「せ、整髪剤でむせた、……うへっ! やだ恥ずかしいっ」ゲホゲホゲホッ

ピンポーン

女「だ、誰……?」ハアハア

男『女さーん、迎えに来たよ。今、女さんの家の前に居るんだ』

女「えっ、お、男さんの声がインターホンから。そんなっ、一時間も前なのに!?」

男『ごめんね、女さんに会うのが待ちきれなくて』

女「そっ、そんな! 全然悪くなんかないですっ」ズリズリ

女「待っててください、今……開け、ます、……から」ズリ…

女「……」


女(あ、あれ……私、今何してるんだろう……ここはどこ? 学校? 田中さんの家……?)

男「女さん、大丈夫? 廊下で寝てたけど」

女「おっ、お、おおおお男さん!? どうしてここに!?」

男「俺の自転車の鍵で、女さんの窓の鍵が開けられたからね。窓から入ったんだよ」

女「あ、そ、そうだ! 今日はデートでしたねっ! って、ああ、立てない……」フラフラ

男「女さんの額、すごく熱いよ。まるでフライパンを強火で熱してるみたいだ」ジューッ

女「男さんっ、手が……! 焼肉になっちゃいますよ!?」

男「いいんだよ。もうすでに、女さんのせいで俺の心は黒焦げだから」

女「やっ、やだ……っ! でも、いいよ。男さんが触りたいんなら、いくらでも触って。でも、優しくしてね?」ゲホゲホ

男「もしかして、風邪かな? 今日はやめて、他の日にしようか」

女「ダメですそんなのっ。今日できることは今日やるべし、昨日も明日も違った日っ! 私には、私にはっ、今日しかないんです!」


男「わかった。女さん、立てる? 手を貸してあげるね」

女「い、いいい、いいですっ! こ、こうやって移動するのが好きなんですっ」

男「そうか。……じゃあ、仕方ないね」ペタッ

女「えっ!?」

男「俺も、匍匐前進で移動するよ」ズリズリ

女「あ、あの、男さんの服、汚れちゃいます、けど……」

男「女さんと同じなんだ」

女「え?」

男「俺も、こうやって移動したい気分なんだよ」


男「ほら、女さん。スケートリンクに着いたよ」

女「……はふっ……ぜはっ……」ズリズリ

友「そろそろ女たち、来るはずなんだけどなー」

男「ああ、友さん。あなたも来てたんですね」

友「お前が変なことしないように見張ろうと思ってさ。……まあ、すでにかなり変だけど。お前、なんで床に這いつくばってるんだよ」

男友「なあ男ぉ、女ちゃんってどこー? ……ん? 今なんか踏んだか?」ムギュッ

靴 ボッ!

男友「って、アチアチアチアチアチッ! なんじゃこりゃっ、急に靴が発火しやがった!?」

女「……あ、あううう……」

友「お、女っ!? 女を踏んだ靴が発火したのか!? ってそれどころじゃない!」

女「と、友ちゃん……」

友「女、おい、どうしたしっかりし……って、熱っ!? なんだこれ、人間の温度じゃないぞ!?」

女「さ、寒い……はあはあ、……寒いよぉ……」


ドロドロドロ・・・

客「たっ、大変だ! リンクが溶けていくぞ!」

監視員「みなさん、速やかにリンクから離れてくださいっ!」

男「女さぁあああーん!!」

友「おっ、女ぁー!!!」

男友「ダメだっ、女ちゃんはもう助からねぇ! 俺たちだけでも逃げるぞ!」

客「り、リンクがプールに……」

監視員「いや、それだけじゃないっ! あれを見ろ!」

女「うーん……うぅーん……寒いよぉー……」ブルブル

グラグラグラ

ゴポゴポゴポ

客「あの女子高生の熱で、リンクの水がぐらぐらに煮立っている……!?」

監視員「ああそうだ。このままでは、モノの五分もしないうちに、リンクが干上がってしまうぞ!」


女「お、男さん……男さぁーん……」ハアハア

男「女さんが俺を呼んでいる……!」脱ぎっ

男友「おいっ、なにする気だ!?」

男「決まってるじゃないか。助けに行くんだ」

男友「正気かよ!? 死ぬぞお前!?」

男「それでも……それでも、俺は行かなきゃいけないんだ」

男友「なんだってそこまで」

男「好きだからさ!」

男友「……」

男友「そ、そうか」

友「おい、みんな大変だぞ! スマホでニュース見てみろ!」


ニュース『現在、超高速で地球に近づいている惑星が、あと三十分ほどで日本列島に衝突することがわかりました―――』

政治家「なんとか、回避する方法はないのか!?」

科学者「……超高温の物体を宇宙空間に打ち上げ、惑星にぶつけることができれば、なんとかなるかもしれませんが……。今からでは物体の用意が間に合いません!」

監視員「たっ、大変です! 女子高生の熱のせいでリンクが一瞬で干上がりました! 今も、周りはさながら灼熱地獄です!」

警察「なん、だと……!? 政治家先生につないでください」

政治家「なんだとっ!? 科学者、女子高生ならどうだ!?」

科学者「なんですって!? 人道に反しますが、理論上は全然大丈夫です!」

政治家「警察、拳銃で地面を打って火山を刺激し、女子高生を宇宙空間に打ち上げるんだ!」

警察「私はそんなことをやったことがありません。本当にそんなことが可能なのでしょうか」

政治家「大丈夫だ。このあいだアニメで見た」


警察「という訳で、あなたにはお国のために死んでもらうことを強く望みます」

友「なっ、何言ってんだ! 女だけ犠牲にするなんて、そんなこと私が許さない!」

男「そうだ! 女さんを打ち上げるというのなら、俺を倒してからにしろ!」

警察「」パンッ

男「Oh……」バタッ

男友「お……男ぉおおおおー!!?」

警察「安心しろ、ゴム弾だ」

女「はぁっ、はぁっ、……わ、私……行きます……」ヨロヨロ

友「ダメだ女! そんなの……そんなのダメだ!」

女「いいんだよ、友、ちゃん……はぁはぁ」

女「だって私……男さんの、ためなら……」

女「死んでもいいって、思えたんだ……」ゲホゲホッ

友「女……お前……」


警察「」パンパンパンッ

火山 ゴゴゴゴゴゴ・・・

どっかぁーん

女「ひょええええええええええええええええええええええええ!!!?」ビューンッ

女「い、息が……宇宙空間は、息が……あれ? できるよおかしいな」

女「あ、あんなところに惑星が……! 女、いっきまぁーす!!!」


男友(女ちゃんが打ち上げられてからすぐに、地球に接近していた惑星は姿を消した……。でも、女ちゃんは戻ってこなかった)

男友(スケートリンクの修理代は、国が立て替えてくれた。けど、特にお礼も謝罪もなくて、女ちゃんのご両親は裁判を起こそうとかいろいろ言っていたけれど、黒い服の男の人達が女ちゃんの家に行ってから、何も言わなくなった。あと、そのころから羽振りがよくなってて今はグアムに行ってる)

男友(男は、さびしそうにしている。さびしくてしょうがないのか、今も女ちゃんを真似て匍匐前進で移動している……)

男「あ、おはよう男友! いい朝だね」ズリズリ

男友「お、おう」

男友(俺も……、さびしいよ、女ちゃん)

手 ズボッ

友「ぎ……ぎぃやぁああああああ!!!? じ、地面から、地面から、地面からぁあああ!!?」

男「こ、これは……この地面から出ているのは、まさか、女さんの手!?」


女「お、おひさー……」

男「女さん! 会いたかった……。星の数より多く、俺は女さんのことを愛していたよ。もちろん今も」

女「わ、私、も……」ゲホ、ゲホゲホッ

友「ん? 女、顔色悪いぞ大丈夫か?」

女「へ、平気……ゲホッ、ゲホゲホゲホッ、プシャァー!!!」ドサッ

男「お、女さん!? 女さん、しっかりして、女さぁーん!」


男友(女ちゃんは生きていた。惑星に衝突して粉々にした後、他の惑星にぶつかって跳ね返り、地球に墜落して地面にめり込んでいたらしい)

男友(ただ、その後遺症でとんでもない虚弱体質になってしまったらしく、地面に埋まっていた女ちゃんが発見されたあの日に、女ちゃんがめちゃくちゃな量を喀血してからずっと、ベッドに寝たきりだ)

女「はぁ……はぁ……」ゲホゲホ

男友(三歩歩くごとに喀血して、辺りを血まみれにしてしまうので、最初は通っていたものの、学校には休学を求められてしまった。今は、男も一緒に休学して、女ちゃんの看病をしている)

男「キスしてもいいかな?」

女「う、移っちゃうよ……?」

男「それでもいいよ」

女「お、男……さん……ゲホゲホッ、プシャーッ!」

男「……」ポタポタ


女「ゴホゴホゴホッ……。ご、ごめんな……さい、……ケチャップが……」

男「いいよ。俺は気にしないから」

女「お、男……さん……。プシャーッ!」

男「……」ポタポタ

女「ご、ごめんな……さい、……トマトジュースが……」ゲホゲホ

男友(本当に男はすごいと思う。尊敬する。あんなにかけられてるのに喋れるのは、ほんとにすごい)

男友(でも、女ちゃんはもう長くはないと医者に言われている)

男友(熱のせいでキラキラしている瞳に、ほんのり紅潮した頬と、白い肌に浮かぶ汗、その汗に濡れて額に張り付いた細かな前髪……。カサカサになった唇から除く白いもち米のような歯、そこを通る息が、ひゅーと細い音を立てている)

男友(緩慢な動作、乱れた髪、苦しそうに歪んだ眉、呼吸に合わせて上下する胸……)

男友(だがしかし、その美しさも一瞬だけ。水の上に張った薄い氷の膜のように美しく、雪の結晶のように儚い)

男友(なぜなら……)


女「……男、さん、……会えて……よかっ」カクッ

男「お、女さん……? 女、さん……」

男「女さん、俺こそ、ありがとう……」


お墓 チーン

男友「女ちゃん……。安らかに眠ってくれ……」

手 ズボッ!

友「!?」

男「こ、これは……女さんの手!?」

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