エルフ「もう、共には生きられない」 (60)


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青年「ああ、認めるよ……」

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と言うのを書きました。


よろしくお願いします。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369661900



魔者と赤国の戦争は、魔者側の勝利で幕を閉じた。


戦後、武器、技術は失われ、全ての者達に新たな時が訪れた。


赤国の研究所によって造られた種族を含めた


人間・魔者・獣人・エルフ・ドワーフ。


これら五つの種族は悲劇を繰り返さぬ為、


目を逸らさず、互いを認め、共に歩み出した。


しかし七十年後、大陸全土を未曾有の大災害が襲う。


大陸に住む者半数以上が、大災害によって命を落とした。


生き残った者達の中には、


それは穢れを浄化するべく起こった。


これは神の意思なのだと、そう信じる者も居た。



こうして、


それまでの諸々が消え去り、本当の意味で、新たな時が動き出した。


荒廃した土地で生きる事を余儀無くされた者達。


彼等は種族関係無く、生きる為、生き残る為に手を取り合った。


だが二十年、四十年…徐々に生活が安定して行き、


人口は増え、遂に一つの集落では収まりが付かなくなる。


百数十年が経つ頃、人間と他四種族は居住地域を分けた。


この頃は種族関係は良好、


交易も盛んで、多くの者が互いの住む地域を行き来していた。



………それから数百年………


皆は、


犯した罪を忘れ、


先人が築き上げた絆を忘れ、


気高く、誇り高く戦った、彼等の意志も忘れ去られた。





……過ちは、再び繰り返されようとしていた。





【魔の者】


「あぁ眠い…何匹斬りゃあ良いんだよ」


コイツ等、殺しても食えねえんだよな。


魔物、大災害後に現れた罪の証し。


俺達にとっちゃあ本当に迷惑な奴等だ。口に出したら区別が付かねえ。


……ったく、ご先祖サマは人の為に戦って、人として戦って、戦争に勝ったってのに、


何で未だに蔑称で呼ばれなきゃなれねえんだよ。


魔人って呼ぶ奴も少しは居るけどよ、でも元は人間なんだよな?


まあ、いいや。


周りから見れば確かにヒトじゃねえだろう、瞳は紅いし、滅茶滅茶強い……


けど、だから何だってんだよ。


あぁダメだ…うるせぇ、アタマん中がうるせぇ。そんでもって面倒臭い。



何が、


我々より貴方達は優れている、魔物討伐は頼みますぅ……だよ。


ふざけんなボケが、お前等ヒトは変わらねえな。


ジジイに聞いた昔話じゃ、多くの人間は魔者に協力したとかって聞いたのに。


「つまんねえよなぁ」


早く帰って寝たい、別にこの森で寝ても良い。


けど寝てる間に魔物に噛まれたら痛いからな、


さっさと…ん? 誰だアイツ?


初めて見る奴だな。ヒトか? 人間か?


ココに魔物が出る事ぐらい知ってる筈だ。しかも武器も持たずに…馬鹿かアイツ?



「……っ、オイ!! 逃げろ!!」




【恥】


「はぁ…」


本当に情けない。


人間には力が無いからと、魔人に魔物を押し付けて……


たかが数百年で、ヒトの罪が消えたとでも思っているのだろうか?


現在、大災害前の歴史は、伝説やお伽話の様に扱われている。


まるで過去など存在しなかったかの様に…


人間は、時の流れと共に、過去の過ちから目を背けた。


今や人間と他四種族の絆など形だけで、交流も少ない。


大陸は大災害で隆起した山脈により、南北に分断されている。


南側に人間を含めた五つの種族が暮らしているのだが、


近頃は北側に移住する案も出始ているらしい。



人間は他種族の意思を無視して開拓、発展を目指している。


発展を目指す、それは良いだろう。


でも、他四種族に断りもなく開拓を始めるのは無礼にも程がある。


彼等は自然を愛し、自然と共に生きている。


それを無視して自分達の未来だけを考えてるなんて、


同じ人間として恥ずかしい。


だから僕は変えたい、証明したい。


別段、腕が立つ訳でも何でも無いけど、どうにかしたい。


「種族は違っても共に歩めると、彼の英雄は証明した…なのに、今はこの有り様か」


いや、諦めるな。祖父も父も、種族は違えど共に歩めると説いてきた。


その為か、僕は変わり者扱いされているけど、そんなのは一切気にしてない。


僕は、一人の人間として、現在を変えたい。



【不注意】


「あれ? 森……」


考え事をしている内に森に着いてしまった。この森には魔物が出るから近付くなと言われているのに…


「ん? あれは…」


赤い制服…大戦の最中、魔の者達が着用していたと言われる物に似ている。


随分着崩してはいるけど間違い無い、彼は魔人だ。


この森の魔物は彼が一人刈っているのか…魔人の中でもかなりの強者に違いないだろう。


何やらだらけているけど、あんな大剣を振り回したのだから疲れて当然か。


まるで分厚い板の様だ。僕一人くらいなら、少し屈めば隠れる事も出来るだろう。



此処に来て彼を見つけたのも何かの縁、人間としてきちんと御礼を言わないと…


『オイ!! 逃げろ!!』


彼は振り向き様に叫んだ。明らかに僕に向けた言葉だ。


瞬時に状況を理解した僕は振り返らず走った。


「はぁっ…はぁっ…危なかった」


……何かが、後頭部を掠めた。


この、独特の重圧、そして背筋が凍る様な感覚、これは間違い無く、


「「 ググ…ヴルル 」」


「魔物……」


どの生物にも該当しない異形の獣、怪物。



「「 ハッハッ…ググルゥ 」」


動けない、足が竦む、彼はこんな怪物と……


魔物は凶悪な爪を掲げ、僕に振り下ろそうとしたが、



「くたばれ、バケモノ」



僕の横を、正に、目に追えぬ速度ですり抜けた彼の一振りで、


「「 ギェアぁ!! 」」


一撃で絶命した。


「この、クソ馬鹿野郎!! 何でココに来た!! 近付くなって言われてんだろうが!!」


歳は僕と同じ位かな?


うなじまで伸びた癖の無い黒髪、そして赤い瞳、


端正な顔立ちだが気怠げで、目の下には隈がある。


見るからに不健康そうだ。きちんと食べているのだろうか?


「オイ!! 聞いてんのか? あ?」


「え? ああ、ごめん。少し考え事をしてた」


まるでチンピラの様な話し方だ。でも悪い人では、無い。



【自己紹介】


「なる程な……で、考え事しながら歩いてたらココに来たのか? この森には魔物が出るって知ってんだろうが、バカじゃねえの?」


「それは……ごめん。でも助かったよ。ありがとう」


悪態に反論する事も無く、童顔の青年は柔和に微笑み手を握った。


その所作に違和感は全く無く、馴れ馴れしさや厭らしさも無い、純粋なものだった。


避ける間も無く手を掴まれた魔者の青年は、


「いいのか? 怖い魔者に手を握り潰されちまうぞ?」


と、脅かすが


「種族が違うから怖い? そんなのは怖れる理由にはならない」


間を置かずに告げられたその言葉を聞き、満更でもなさそうな顔で、頭をぼりぼりと掻いた。


「なあ…お前の名前は? ああ、オレはブラッズな」


「僕はリナト。よろしく、ブラッズ」


こうして、種族の違う、二人の青年は出会った。


行間あけすぎ?



【名を継ぐ者】


「ブラッドリーよ、お主は最近、頻繁に人間と会っているそうだな?」


「わりぃのかよ?」


「いや、儂とて人間は皆愚かな者だとは思っておらんよ。じゃが、次代のロイと呼ばれるお主には、少し考えて貰わねば困る」


「ロイ、ね。そりゃあ俺だって尊敬してるさ」


「うむ、我々魔の者の中で白髪なのはお主だけ、そして一族の中で最も優れた力を持っている」


「それだけで英雄の名を押し付けられるのは、確かに気持ちの良いものでは無いだろう」


「だからお主は髪を染めた。じゃがな、皆は信じて止まぬのだ。英雄の再来を」


「よく俺みてえな奴に期待出来るな、まして英雄なんざ、なろうと思ってなれるもんじゃねえだろうが」



「いくらお主が愚か者を演じようと、分かる者には分かる」


「そう思いたきゃ思ってりゃいいさ。でも俺はロイじゃない、俺は俺だ」


「いずれ問われる時が来る……儂もそう長くない。出来るなら、全ての者が幸せに生きて欲しい」


「じゃが儂は、お主の祖父として、一族の希望などと言う荷を背負わせたのは、済まないと思っとるよ」


「いいさ、ジジイは良くやっ


「馬鹿者!! お爺ちゃんと呼べ!! 孫に蔑ろにされる爺や婆の気持ちを少しは考えんか!!」


「ああ、悪かったよ。爺ちゃん」



「良し。ならば行くが良い。友が待っておるのだろう?」


「……ありがとな、爺ちゃん。じゃあ、行ってくる」


儂等は大戦の遺物、人間の中に嫌う者が居るのは厳然たる事実。


彼等にとっては、犯した罪を突き付けられている様に感じるじゃろう。


なんと身勝手極まりない理屈だ。


魔獣を刈り、平和を齎した我等が祖に武器を向けた時と、何ら変わらんではないか。


だが、未来は在る。


新しい世代、新しい時代、新しい絆…


この鬱々とした今を変える者は、必ず現れる。



【同い年】


「なんだリネット、また来たのか。アタシ以外に友達いないのか?」


そう言ったのは、ドワーフの女性。


すらりとした長身で浅黒い肌、


背中に届く赤茶の長髪を後ろで結び、袖無しの作業着を着用、手には鉄槌。


男勝りで気の強い感が顔に出ていて、溌剌とした女性だ。


「カティアだって、私以外に友達居ないくせに」


此方は白いローブを着たエルフの女性。


白い肌、肩にかかるふわりとした金髪、


背は標準なのだろうが、身体の一部は標準以上に発達している。


子犬のような人懐っこい顔立ちで、男女問わず否応無く庇護欲をそそられるだろう。



「うっ…友達と言うか、何人かに友達以上の感情を持たれている気がするんだが」


どうやら、女性には人気らしい。


「女の子なのに鍛冶してるし、格好いいし、仕方ないよ」


「男がしっかりしないから、こんな事に…」


何やらぶつぶつと言っている。時折、友人の一部を見ながら。


「だ、大丈夫だよ!! カティアだってまだ成長期だから!!」


「もうすぐ二十歳だ…諦めてるよ。何故なんだ…お前も同い年なのに」


その言葉は、ある一点に向けられている。



「し、仕方ないでしょ? それに、私はそこまで大きい方じゃないよ?」


「なら私はどうなるんだよ!!」


「それは、えっと……祈る、とか」


「お前をか!! お前の胸を拝めばいいのか!?」


「あうっ、ち、ちょっと、そんなに揺、らさ、な、いでよぉ」


肩を掴んで揺さぶれば、それは弾むように上下に揺れた。


「はぁ…アタシだって、女性らしくありたいのに」


「えぇ、格好いい女の子がいても良いと思うけど?」


「……ありがとな。で? 今日は何があったんだ?」

うーんこの



【唯一】


「今日、近所のお婆さんが熱を出して、いつもの感じで治したら」


『神様が遣わした天使様じゃあ!!』


「なんて言われて、何だかいずらくなっちゃって…」


「巫女に救世主、今度は天使様か…直に見たら確かにそう思うかも知れないな」


アタシの友達、リネットには不思議な力が在る。


傷を治したり、枯れた樹を元に戻したり色々だ。


拾われた子だと言うこともあって、神の子、何て言われてる。


「気味悪がられるよりは良いんじゃないか? みんな慕っているみたいだし」



「慕れてる、と言うより……なんか怖くて」


アタシは女で鍛冶をやっているから変わり者扱いされて、あまり人付き合いが無い。


仲良くなったのは、互いに共通する部分があったからだと思う。


でも、こいつが独りになった理由はアタシとは違う。


今、人間との関係がぎくしゃくして来て、四種族はぴりぴりした感じになっている。


戦になる可能性も視野に入れているらしい。


その所為か、こいつは救世主などと崇められる存在になってしまった。


「大丈夫だ。アタシがいるだろう?」


「ふふっ、やっぱりカティアは格好いいよ。ありがとう」


アタシは、こいつが居ればそれでいい。力なんて関係無いし、勿論利用もさせない。



リネットは、アタシの大事な友達だから。


>>13 見やすいかな、と思って…自分はこんな感じで書いてます。

今日は終了します。ありがとうございました。

乙です

自分はこの書き方好きですよ


>>24 ありがとうございます、嬉しいです。

前に書いた物より時間がかかりそうですが、

一日に一話二話は書いて行こうと思ってます。ありがとうございました。



【描く者】


「わりぃ、遅れた。ちょっと爺ちゃんと話してた」


「いいよ、僕もさっき着いたばかりだし平気」


あれから俺達は、森の入り口付近ににある大岩に座りながら話す様になった。


コイツと話すのは楽しい。


俺には難しい事は分かんねえけど、コイツは何かをやり遂げる…そう思った。


「僕は今を変えたいんだ」


開拓やら何やらで、人間と他四種族の間はピリピリしてんのに、


こんな事を、真っ直ぐに言えるヤツだからな。



「やっぱ変わってんな、お前」


「それでも、だよ。今は間違ってる」


へぇ…ん? 確か爺ちゃんも前にそんな事言ってたっけな。


「でもよ、一人じゃ無理だろ? どうする気だよ」


「伝えるんだよ」


「はあぁ…随分地道だな、オイ」


「いや、中々馬鹿には出来ないよ?
 確かに最初は無視したり、馬鹿にする人も居たけど、今は僕の考えに共感してくれる人間も居る」


「そりゃあすげえな、でも俺にゃ無理だな」


「あははっ、いや、そんな事は無いよ。ブラッズ、君は剣術を使えるよね?」


「それだって地道な鍛錬の繰り返し、僕がしている事と何も変わらない」



コイツの言葉には不思議な力がある。


そして真っ直ぐな意志がある。なら、俺は?


まあ、今はいいや。


「まっ、頑張れ」


「ああ、必ず変えてみせるよ」


コイツは俺に、協力してくれ、なんて言った事は一度も無い。


会話の中で、こんな事を言った。


『考え、悩み、決断し、自分の意志で行動するんだ』


『大衆の意見に流される者は信用出来ないから…』


『だから僕は、一人一人と向き合って話すんだ』



クソ真面目で、言った事は曲げない頑固者。


コイツは語るだけじゃない、大抵理想を口に出すヤツは、何も行動しない。


でもコイツならやるだろう、どんな困難に直面しても、必ず。


だから、俺みたいな面倒臭がりで、ずぼらなヤツと付き合ってるのが不思議だった。


始めの頃に聞いたら、


『僕は、同志では無く、友達が欲しかったのかも知れないね…』


なんて言いやがった。


………友達、か。


なあ、リナトよ。もう少し、付き合うヤツは選んだ方がいいぜ?


まあ、なんだ…お前と居るのはおもしれぇから良いけどよ。

また夜に更新します。ありがとうございました。

毎度の事だが、今回も楽しみに読ませてもらう



【年頃】


「ねえカティア、最近ブラッズ見ないね?」


「ん? ああ…あいつは人間と会ってるらしいぞ?」


「に、人間かあ…怖いなぁ。昔怖い目に遭ったし」


「助けてくれたのも人間なんだろ?」


「それは、そうだけど…怖いよ」


私に乱暴しようとした人達……あの目は、未だに忘れられない。


「ブラッズは元々人間が嫌いだったしな…何かがあったんだろうな」


「可愛い女の人を助けた、とか?」


「そうかもな」



まずい、これはまずい。


「……どうしよう」


好きになった理由は些細な事だけど、私は彼が好きだ。


いつもだらしないけど、本当は優しくて、本当は格好いい。


「私に聞くな、少しは自分で考えろ。試しに誘惑でもしてみたらどうだ? あいつ免疫無いだろう」


誘惑。誘い、惑わすと書いて誘惑。


……そんな事はどうでもいい。


同い年なのに年下扱い、妹扱いされている私に、そんな事が出来るのだろうか?


ううん。出来る出来ないじゃない、やるんだ!!



「いやいや、無理無理!!」


「なら諦めるんだな。初恋は実らないらしいぞ?」


「いじわる」


「なあ、リネット」


「は? なに?」


「ふてくされた顔をするな。安心しろ、相手は男だ」


……私は、時々からかわれる。


こうして狼狽える私の姿を見て笑う彼女の顔は、正に外道。


私には、復讐する権利がある。


「ぺったんこ」


「今日は泊めてやろうかと思っていたが、気が変わった。帰れ」


「ごめんなさい」



【急襲】


「それで、同志はどれくらい集まったんだ?」


「まだ始めたばかりだし、少ないよ? でも…」


「なんだよ? なんかあんのか?」


「えっ!? いや、決してそう言う訳じゃないんだ」


なんだよ、急にあたふたしやがってコイツらしくねえな。


ろくでもない連中でも仲間に…いや、それはありえねえな。


殴られようが何されようが、コイツに限ってそんな奴を仲間にするとは思えない。


気になるな……ん?



「「随分捜したぜ? リナト様よぉ」」



なんだアイツ等? 見るからにチンピラじゃねえか。


斧、槍、剣、リナトを殺す気か?



「なあ、アイツ等は?」


「僕を邪魔に思うヒトの手下か何か、だと思う」


なるほど…コイツは弱いからな、狙いは間違ってない。


オレがアイツ等をぶちのめせば良い話しだが……


「貴方達は、何故こんな事を?」


「「ギャハハ!! 金と女と酒の為に決まってんだろうが!!」」


「「テメエをやればたんまり貰えるぜ!!」」


アイツ等は素直に生きてんなぁ…どうする? 話しは通じねえぞ?


「「…ッ!? 痛っ!! な、何だ!?」」


……ったく、何が『まだ始めたばかりで少ないよ?』だ。


茂みから出て来たのは一人だが、放たれた矢はかなりの数だ。


「あの方を殺すと言うなら容赦はしない。どうだ? まだやるか?」


あの赤髪の姉ちゃんすげぇな、速いし、巧い。


「「わ、分かった。もう…いい」」


だろうな、首筋に短剣を突き付けられて、


更に、腕と尻を弓で射られて戦う馬鹿は流石にいねえだろう。


「リナト殿、ご無事ですか!?」


それにしても驚いたな…この赤髪姉ちゃんも相当だが、


「助かったよ、皆ありがとう。でも、着いて来ないでって言った筈だよ?」


『……申し訳有りません』


ざっと二・三十か? 殆ど女、男も多少居るが、どいつもこいつも顔付きが良い奴等ばかりだ。


短期間でよく此処までの奴等を集めたもんだ。


「分かっているだろうけど、君達が見つかると色々拙い。皆、町に戻ってくれ。僕も直ぐに戻る」


『はっ!!』



【秘密】


「随分と洗練された戦闘集団だな? 言い辛かったのはその所為か?」


「彼女達、彼等達は…その、特殊な職業だったんだ」


あの動きは暗殺、隠密の類だろうな。


「国に、捨てられたのか?」


「ああ。でも、獣人族の人に助けて貰って、暫く世話になったらしいんだ」


「その後は、僕が色々と世話…と言うか、何と言うか」


綺麗事を通す奴だと思ってたが、助ける為には手段は選ばねえ質だな、コイツ。


「今の国を変える事が、その人への恩返しになる、そう言ってたよ」


「それに、僕の綺麗事に賛同してくれたから共に居る」


よく言うぜ、綺麗事も真っ直ぐ通せば綺麗事じゃねえ、正義だ。


コイツのそういう所に、アイツ等は惚れたんだろうな。


つーか獣人? あんな頭の堅い連中が助けたのか? 不思議でならねえ。



「へぇ、獣人が助けた、か。そんな話し聞いたことねえな」


「確か、名前は……」


ーーーーーー


「ゼノ、お前はどう見る?」


「人間の出方次第で変わるでしょうね。此方が歩み寄る必要などありません」


長老、これが貴方の望む言葉だろう?


幾らオレが人間に歩み寄れと言った所で、獣人の誇りだ何だと言うに決まってる。


「ふむ、そうじゃな。下がって良いぞ、誇り高き狼よ」


「では、失礼します」


「ああ、待て」


「何でしょう?」


「夕刻、人間の探索隊が北側へ向かうらしい」


これで三度目か、懲りない奴等だ。



「……分かりました」


「うむ、頼むぞ」


誇り高い狼は、魔物を装って暗殺などしない。


オレは物心付いた頃から、そう言う類の訓練を受けてきた。


特殊な体質も含まれるだろうが、随分大事にされた。


この様な時に使う、暗殺道具として。


オレ自身には確固たる意志、信念なんて物は無い。


だから、あんな爺様に従って居るんだろうな。獣人の長老、歳を取れば長か? オレが考えた所で何も変わりはしないな…


もしこれから何かが起こるとして、オレは何を求める?


自由か? 友か?


無理だ。オレは何かを求める事が許される立場じゃない、死ぬまで此のままだ。


……奴等は、今頃どうしているだろう?


国に追われた暗殺者、一時的に助けたが、自由は手に入れたのだろうか?



【夕刻・逢魔】


「よう、ゼノ。相変わらず目つきわりぃな」


此の道を知っているのは、情報を掴んだ獣人と、人間だけの筈。


最近人間と頻繁に会っていると聞く、まさか人間側に付いたのか?


「ブラッドリー、何故此処に居る」


返答次第によっては戦闘も避けられない、勝ち目は無いだろうが。


「お前が行く必要は無いって、伝えに来たんだよ」


「どういう事だ?」


「北側への探索は中止になる。人間の手でな」


出鱈目だ。我々獣人でさえそんな情報は掴んでいない。



「証拠は在るのか?」


「いや、止めてる最中なんじゃねえの? 多分」


「詳細を言え、聞かずして退く訳には行かない」


「いいぜ。まずは…」


『種族間の対話も無く北の地を探索するなど、してはならない行為だ』


「これは俺の友達からな?」


「後はお前に伝言、ん…ああ、これだ」


『ゼノさん、貴方が手を汚す必要は在りません』


『人間の問題は人間が解決します。貴方の心を縛っているのは貴方自身。自由に生きて下さい』


『あの時の恩、我々は決して忘れはしません』


「だってよ? お前なら、分かるよな」


「ああ、分かる」


奴等を助けたのはオレだ。それに、他の者には一切口外していない。



「その言葉は、有り難く受け取ろう」


「だが、オレに自由など無い。やれと言われれば、やらねばならない……奴等も同じだった」


「へぇ、それで?」


「人間は信用出来ない。オレは行く」


「なら、アイツ等を助けたのは何でだよ?」


「オレと同じ暗殺、隠密を生業とする者達。自由への憧れも、情が湧いたのも事実だ」


「ゼノ…お前が助けたアイツ等は、国と人間を変えようとしてる馬鹿に味方してる」


「勿論、自分の意志でな。お前の意志は、其処に在るのか?」


「黙れ…幼い頃からそうやって育てられた。オレの意志など、初めから無い」


英雄として扱われたお前とは、違う。



【狼】


「やんのか?」


「命令だからな。それに…」


逆立った銀髪、体毛、尻尾がざわざわと揺れ、


身体は、ごきごき…と不気味な音を鳴らしている。


「あ? なんだよ?」


変貌していく、最早目つきが悪いなどと言う表現では済まない。


その瞳は正に、野獣、猛獣のそれ。


犬歯が目立つ痩せぎすの青年は、筋骨隆々の人狼へと変貌した。


「以前から、お前が気に入らなかった」


「俺も、お前みてえな奴が大嫌いだ」


「……参る」


発した言葉は人狼の後方へ置き去りにされる……それ程に速い。



「その剣は、飾りか? 抜け」


風を切り裂く音と共に振り下ろされた豪腕、


「はっ、お前みたいなアホは素手で十分なんだよ」


それを容易く、片腕で受け止める。


「オレが暗殺していた事を、知っていたのか?」


「いや、さっき聞いた」


あっけらかんと答え、人狼の腹に拳を放つ。


「がハッ!!」


「けどよ、今からでも遅くねえだろ? 別に、お前の事なんざどうでもいいけどな」


「そう言う所が、気に入らない。お前は自由だった。オレに


「うっせえ!! お前は自分から何かしたのかよ!?」


「ゼノ!! お前は今の自分を認められるか!? あ!? 言ってみろ!!」


「黙れ!! 選べる自由など無かった!!」



叫びと共に突き出された爪は、腹を貫いた…


「いってえな……あと一つ、獣人としての誇りとか何とか、そんなもんはな……」


腹に突き刺さる腕を掴みぐいと引き寄せる、


「なっ…!?」


この間、凄まじい脚力で何度となく蹴れてはいるが、魔は離さない。


「腐った奴等が、犯した罪から逃げる為に作った、綺麗事だ!!」


「ぐぶッ!!…ぁぐ……」


「暫く寝てろボケが……あぁ、いってえな。まあいいや、後でもう一発殴ってやる」


魔者の青年は、


気を失い、徐々にヒト型に戻っていく彼の側で膝を突き、


「悪かったな、気付いてやれなくて……」


「爺ちゃん、だから言ったんだよ。俺は、英雄になんざなれねえって」



そう、呟いた。



>>31 ありがとうございます。

今日はこの辺で終了します。ありがとうございました。



【探索隊】


下山中の探索隊、その中の二人が何やら言い合っている。


「隊長、本当に良いのですか!? この事が王に知れれば!!」


「がははっ、安心しろ!! 失うのはオレの首だけだ。まあバレたら、の話しだけどな」


顎髭を伸ばした熊のような大男、豪快に笑う彼が探索隊の隊長。


「しかし、あんな青臭い理想を聞いて引き下がるなんて、隊長らしくありません」


恐らく隊内で最年少であろう隊員は、納得出来ない様だ。


「そんな事は無いぞ? あの小僧は面を外したな?」


「ええ、外しました。まして名を名乗るなど馬鹿としか……我々が王に告げればどうなるか、分からない筈は無いのに」


当然、反乱分子と見なされるだろう。だが、その青年はそれを承知で面を外した。


「其処だ。あの小僧は理想の為に命を懸ける男」



「王から勅命を受けた我々探索隊に顔を晒し、名を名乗る。こんな事、並みの奴には出来ん」


「それは、側に腕の立つ仲間が居たから出来た事では?」


その青年には二、三十の仲間が居た。彼がその気であれば戦闘になっていてもおかしくは無い。


「だったらオレが小僧の腕を刺した時点で、お前等全員の首が跳んでるよ」


隊長と話す彼以外の隊員は、理解し、認めている様だ。


一切口を開かず、隊長の言葉に耳を傾けている。


「と言うか、本来なら生かす筈がない。お前の言う通り、王に告げれば奴は終いだからな」


「それは…確かに」


そう、本来なら生かす筈が無い。


隊の誰かが告げれば、即座に身元が割れ、捕らわれる。


死罪になってもおかしい話しでは無い。



「あれは虚勢じゃない、理想を語るだけの愚か者でもない」


「ならば隊長はどう見たのですか?」


「王になる男、人を導く者。欲や争い、それらを正当化する為の大義名分など、あの小僧には無い」


「馬鹿な、二、三十の仲間で国を変えられる訳が…」


鼻で笑っているが、顔には焦りや困惑が見て取れる。


「侮るな。認めたくないだろうが、お前も見ただろう? 
 奴の瞳を、奴の覚悟を、あの歳で同じ事が出来る奴は…まあ居ないだろうな」


「……随分、高い評価ですね」


彼は、先程出会った童顔の青年を思い出していた。


腕を刺され血を流しても一切敵意を見せず、仲間の力も借りず、


己の言葉のみで隊を退かせた青年の姿。




「惚れちまったんだろうな。遣える身で言いたくはないが、今の国の在り方は間違ってる」


彼は遂に黙ってしまった。


「否定しないのか? でもな、求めてるのさ」


「オレもお前も、あの場で奴を見た隊員全員、きっと民衆も、皆が変化を求めてる」


彼等が真実を語る事は無いだろう。


彼等は見たのだから。


青年の言葉と行動に、未来を、希望を、そして決して揺るがないであろう信念を。


>>48 ありがとうございます。

また夜に更新すると思います。ありがとうございました。



【芯】


戦闘は何とか避ける事が出来た。


探索隊の人達は、それ程忠義がある風でも無かったし。


それに、今の国に疑問を持っているのも見て分かった。


彼等の心は、揺れている筈だ。


「……いっ!? 痛い痛い!!」


「我慢して下さい。消毒と止血をきちんとしなければ、後に酷い事になります」


「怒ってるの?」


「当たり前です!! それにリナト殿、貴方は甘過ぎます!! 今からでも遅くはありません、彼等は始末すべきです!!」


本来ならそうすべきだろう。でも、それじゃあ駄目なんだ。


「大丈夫だよ。彼等は僕の名を出したりはしない」



「はぁ…何故言い切れるのですか?」


呆れられた。


でも、これから言う言葉を聞けば、怒るかも知れないな…


「彼等の目を見て、そう思ったから」


「分かりました」


あれ? 意外だな、凄く怒るかと思っていたのに。


「戦闘を避けた理由を、聞いても宜しいですか?」


「それは簡単な話だよ。過去二回の探索隊は魔物によって殺害された事になっている」


「でも実際は君達の恩人、ゼノさんが魔物を装って殺害していた。
 彼は、敢えて一人逃がす事で、魔物の仕業だと認識させたんだ」


「もし僕達が戦っていたら、それは成り立たなくなる。
 それどころか他種族の妨害によって命を落とした…何て事になりかねない」




「人間と他種族の間はとても不安定だ。
 他種族の仕業だとでっち上げる事も、有り得ない話しじゃない」


「考え過ぎでは?」


「可能性が在る以上、考慮すべきだよ」


「それは…確かに」


「それに、ゼノさんは此処に来なかった。君達の願いは叶ったんだよ?」


「はい。ブラッズ殿には感謝しています」


……ブラッズ、済まない。


友達だなんて言いながら、利用する様な真似をしてしまった。


「彼が、心配ですか?」


「……心配と言うより、申し訳無いんだ。結局、力を借りてしまったから」



「彼が何と言っていたか、お忘れですか?」


『そうか、ゼノが……分かった。コレは俺等の問題でもある。気に病む必要はねえ』


「覚えているよ。でも


「彼が考え、悩み、決断した事では?」


「……っ、そうだね。彼には彼の想いがある。君の言う通りだよ」


「……さあ、戻りましょう」


「うん。あれ、他の皆は?」


「えっ!? いや、これは…気を利かせてくれたと言いますか……」


顔が真っ赤だ…可愛い所もあるんだ。


凄く綺麗な人なんだけど、何時も表情が硬いからなあ、凄く新鮮に感じる。



「あぁ…僕達を二人っきりにする為に?」


「あっ…は、はい」


「そっか……」


こんな時、何と言えば良いんだろうか?


「あのっ、リナト殿」


「えっ? な、なに?」


「我々は穢れていると、お思いですか?」


「……!! 穢れているのは、この国だ!! 君達の心は、決して穢れてなど無い!!」


「有り難う、御座いますっ…」


……人が人を殺す。そんな事をさせるのは絶対に間違ってる。



彼女達に出会えた事で、僕の想いは更に強くなった。


「さあ、行こう? 皆が待ってる」


「……はいっ」


国に作られた暗殺集団、


彼女達は利用され、挙げ句捨てられた。


何だそれは? 人間のする事か? ふざけるな。


そんな事は、決して許す訳には行かない。


それに、


こんな辛い思いをする人を、これ以上増やす訳には行かない。



【帰宅・就寝】


「で、獣人族の長老は?」


「死罪じゃろうな」


まあ、そうだろうな。裏で色々やってたみたいだし。


「ゼノはどうなる?」


「お主の従者に決まったぞ」


「はぁ!? 何でだよ!?」


「話しの流れを強引に変え、英雄には従者が必要だと言ったら一発じゃった」


「まあ、生きてんなら、いいか」


「ほう…一日で随分変わったのぉ。友の影響か?」


「そうかもな」


人を変える…そんな力が在るなら。それは、アイツが持ってんだろうな。


「爺ちゃん、今日は疲れた。寝る」


「うむ、ゆっくり休め」

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