男「合わせ鏡の世界って知ってるか?」女「…え?」(660)


―――――――――――――――――――――――----

モブ女1「…ねえ、合わせ鏡の噂って知ってる?」

モブ女2「…合わせ鏡?」

モブ女3「知ってるそれ~!都市伝説のやつでしょ!?」

モブ女1「うん!それそれ!」

モブ女2「…都市伝説?」

モブ女3「何かね~、鏡をたくさん重ねて夜中にそれに覗きこむと何かが起こるとかいうやつ!」

モブ女2「ふ~ん。…で、その合わせ鏡の噂がどうしたの?」

モブ女1「うん。…これはね、この前聞いた噂話なんだけど、その合わせ鏡の噂が…どうやらマジモノらしいの!」

モブ女3「うそ~!?」


モブ女1「ほんとほんと!…でも、私が聞いた話はその有名な都市伝説とはかなり内容が違ってくるんだけどね。」

モブ女2「…どういうこと?」

モブ女1「私が聞いた話によると、とある鏡の前で、もう1枚鏡を重ねて…つまり合わせ鏡の状態にして、それを覗きこむと…」

モブ女2・3「覗きこむと…?」

モブ女1「…その鏡の中に引きずりこまれるんだってー!!」

モブ女3「…ぷっ!あはははは!」

モブ女1「ちょ、ちょっとぉ!!笑わないでよ!!」

モブ女3「はははっ…っ、ご、ごめん…あまりにも…くくく…あはははは!」

モブ女2「ふふふっ」

モブ女1「ちょと!モブ女2まで~!!」

モブ女3「ははは…でも鏡の中に引きずり込まれるなんてそんな漫画みたいな!そもそも何で合わせ鏡!?…っ…ぷはははっ!」

モブ女1「…も~…モブ女3ったら~…」

モブ女3「くくく…だ、だってぇ」


モブ女2「…で、その話はそれで終わりなの?」

モブ女1「…! ううん!まだ続きがあるの!これ聞いたら二人とも絶対ビックリするよ!」

モブ女3「…へ~、そんなに自信あるのなら続きを聞こうじゃない!」

モブ女2「ふふ、そうだね。」

モブ女1「ふふん!聞いてビックリしないでよ!?」

モブ女1「…実はね、その『とある鏡』ってのはね…」

モブ女2・3「うんうん」

モブ女1「うちの学校の北校舎の…」

………………
………


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―2012年/2月/14日/香川――――――――――――----

男「屋上なんかに呼び出してどうしたの女?」

女「うん…ごめんね、急に。」

男「はは…まさか俺にチョコを渡すために?」

女「ま、まぁそれはですね…」

男「でも去年とかは普通に教室で渡してくれたじゃん?」

女「…も~!!空気読みなさいよ!!!」

男「な、何だよ急に…」

女「…ねぇ、男。」

男「…ん?」

女「…私たちここずっと仲良かったじゃない?」


男「うん、そうだな。」

女「それでね、このままじゃ駄目かな~っていうか、進展させたいな~って思って…」

男「…って思って?」

女「…もう!! …だから…その…」

男「…」

女「…私、男のことが好きなの!中学のときからずっと好きだった!付き合ってください!」

男「…女。」

女「…だめ…かな?」

男「…あはは。駄目なわけないだろ。…俺も好きだよ、女。付き合おう。」

女「…ほ、ほんと!?」

男「もちろん。」

女「そ、そっか~!男も私のこと好きだったんだ~!ま、まぁ分かってたけどね!」

男「あはは、さっきまでビクビクしてた奴がいえるセリフじゃなくないか?」


女「…ビ、ビクビクなんてしてないよ!…まぁ、緊張はしてたけど」ボソッ

男「ま~、とにもかくにも、これからよろしくな女。」

女「…! うん!よろしくね男!」ニコッ

男「おう!」

女「えへへ。 …あ!これ、順番が逆になっちゃったけど…」ゴソゴソ

女「…はい!…そのぉ…いわゆる本命チョコってやつ!」スッ

男「おお~!毎年義理以上の質のチョコくれてたけど今年はさらに凄そうだな~!」

女(…毎年本命だったんだけどなぁ…)アハハ

男「ありがとうな女!今食べたほうがいい!?」

女「あっ、別に今じゃなくてもいいよ。家に帰ってからゆっくり食べて。」

男「あっ、そう?それは助かる!」

女「助かる?」


男「いや、実はさ、今日、姉さんが京都の下宿先から家に引越してくるというか、帰ってくるというか、その手伝いに行かないといけなくて。」

女「…あっ、そうだったんだ。…ご、ごめんね、時間取っちゃって」

男「いや、こっちこそごめんな。でも、せっかく女がくれた本命のチョコを慌てて食べたくないというか、家でゆっくり堪能したくてさ!」

女「…/// そ、そう言ってもらえたら作った甲斐があったよ///」

男「あはは、照れてる照れてる。でもせっかく付き合えたっていうのに一緒に帰れなくてゴメンな…」

女「…! ううん。気にしないで!それにこれからはずっと一緒に帰れるじゃない!」

男「まあ、そうなんだけど… …あっ!よし!それじゃあ明日早速デートに行こう!」

女「…デート?」

男「ああ、デート!明日はうちの高校の創立記念日で休みだし!」

女「…え?引越しのお手伝いは明日はないの?」


男「ああ!手伝いって言っても、トラックから姉さんの家具とかを家に運ぶだけだし今日中には終わるからさ!だから明日遊ばない!?」

女「そ、それじゃあ… …遊んじゃう!?」ニコッ

男「おう!デートだデート!そんじゃ、明日駅前の公園に朝の10時に待ち合わせでいい?」

女「うん! でも、どこ行こっか?」

男「そうだな~…無難に遊園地とかどう?」

女「行く行く!!私、遊園地大好き!!」

男「それは良かった。…あ、俺そろそろ行かなきゃ!それじゃあ、詳しくはまたメールででも!」


女「うん。あっ、ごめんね、時間取らせちゃって。」

男「気にしない気にしない。…でも、女と付き合えることになって、俺本当に嬉しいよ」ニコッ

女「!! わ、私も!!すごく幸せだよ!!」ニコッ

男「うん!それじゃあまた今晩メールするよ。バイバイ!」

女「あ、ばいばーい!」

タッタッタッタ

女「…明日、男とデートかぁ…」ニヤニヤ



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女母「…どうしたのよ、女。今日はやけに嬉しそうな顔してるじゃない?」

女「え?そうかな~?」ニヤニヤ

女母「そうよ~」

女「あっ、お母さんおかわり!」サッ

女母「はいはい…」ガタッ

女「あ~今日の味噌汁美味しいな~」ズズッ

女母「…あんた、もしかして…男くんと付き合った?」

女「ブフォッ!? …え!?ななな何で分かったの!?」

女母「いや、誰だって分かるわよ今のあんたを見てたら…。はい、ごはん。」コトッ

女「そ、そうかな!?」


女母「それに今日はバレンタインデーだし…しかもあんた昨日夜遅くまでずっと台所でチョコ作ってたじゃない。」

女「あ、ばれてた?」

女母「ばれてるわよ。もちろんお父さんにもね。お父さん楽しみにしてたわよ~。『女、明日俺にどんなチョコくれるんだろ~』って。もちろんお父さんの分も作ってるんでしょうね?」

女「………あっ」

女母「…はぁ…だろうと思ったわ。あ~あ、お父さんかわいそ~。」

女「…も、もぉ~!昨日はいつも以上に必死になってたんだから仕方ないじゃない!」

女母「ふふ。『いつも以上に』か~。へ~そうなんだ~。まあ、お父さんのことはどうでもいいとして良かったじゃない。男くんと付き合えて。前から『男がー、男がー』って言ってたもんね。男くんって確か男姉ちゃんの弟でしょ?」

女「…あ、ありがと/// ん?お母さん、男のお姉ちゃんのこと知ってるの?」

女母「知ってるわよ。だって男姉ちゃんは女兄の同級生だったから。」

女「あ~、男姉さんはお兄ちゃんと友達だったんだもんね。…あっ、そういえば男姉さんは下宿先から今日帰ってくるらしいんだけどお兄ちゃんはいつ帰ってくるの?もう大学の授業も終わってるはずだよね?」


女母「それがあの子、『卒業式までは大学の友達と遊びつくすから帰らない』ってさ。まぁ、あの子、就職先が東京だし、神戸の下宿先から家具とかも東京にそのまま持って行くことになったからねぇ。」

女「え~、じゃあ、お兄ちゃんそのまま東京に行っちゃうんだ~、香川と神戸なんて橋渡ったらすぐなのに~」

女母「あっ、でも確か来月にこっちで高校の同窓会があるからそのときに一度帰ってくるって言ってたわ。日付は確かカレンダーに…」ガタッ

スタスタッ ペラッ

女母「…え~っと、そうそう、3月の21日、祝日の春分の日に同窓会って言ってたから、その日らへんで帰ってくるわ。」

女「そっか~、まぁそのときは色々お兄ちゃんに文句言ってやらないとね。『お兄ちゃんのせいで家計が火の車だったんだよ!』って。」

女母「ふふ、そうね。まぁ、生活費はこの3年半は自分で稼いでたみたいだし許してあげたら?」

女「え~、でもお兄ちゃんったら5年前にうちがこのマンションを買ってからローンとかで色々と大変だったのに1回生の秋に急に『神戸で一人暮らしする』って言い出して…そのおかげで私たちも色々と大変だったじゃない!」

女母「でも香川から神戸まで半年、毎日通うのは大変だったと思うわよ。女兄も頑張ったほうよ。」

女「ええ~、でも言ってバスとか乗り継いだら3時間で済むじゃない…」


女母「も~。過ぎたことをいつまでもぎゃーぎゃー言わないの。まあ、一人暮らしの甲斐があってかは分からないけど有名企業に就職できたんだしお母さんとしては女兄に下宿させて良かったって思ってるわよ。」ニコッ

女「ま~、そうなんだけどね~」

女母「そうよ。まぁ~でも、だから女兄がいっぱい稼げるようになったときにはたくさんお金をたかってやりなさい。」二ヤッ

女「おっけー!そうする~!」ニヤッ

女母「ふふ。…それで、男くんとはこれからデートとか行かないの?」

女「行くよ!明日!さっきメールでレ○マワールドに行こうって決めたの!」

女母「え、このすごく寒い時期にレ○マワールドに行くの?」

女「え?まぁ~うん。」

女母「寒い時に乗るジェットコースターは地獄よ~明日はすごく冷え込むみたいだし。」

女「た、確かに…でもな~他に行くところなんてな~」


女母「あっ、そういえば近くの水族館で最近たくさんの新しいお魚やペンギンとかが集まってて盛況らしいわよ?女、確か水族館とかも好きだったんじゃないの?」

女「え!?そうなの!?行きたい行きたい!!遊園地も好きだけど水族館も大好き!」

女母「水族館なら屋内だしね。あんた、寒いところにずっといたらすぐ風邪引いちゃう体質なんだし、男くんに迷惑掛けないためにもお母さんは水族館をお勧めするわ。」

女「うう…さすがお母さん。私のことをよく分かってらっしゃる。」

女母「当たり前よ。あと、その水族館はここんとこ土日は人がいっぱいで混雑してるみたいなのよね~。でもあんたたちは明日は創立記念日でしょ?そして世間では平日なわけだから、明日行っておいたほうがお得よ。平日だから空いてるだろうし。」

女「お~!なるほど!さすが主婦!それじゃあ、お母さんの言う通り明日は水族館に行ってみようかな!?」

女母「あ、ちゃんと男くんに了承を取りなさいよ。」

女「も~分かってるよ~!今から男にメールを…」ピッ

女母「こ~ら。そういう急な予定変更の時は電話にしなさい。まだ20時ぐらいだし、そんな迷惑な時間帯じゃないでしょ?」

女「え~…でも恥ずかしいよ~…今まで男との連絡はずっとメールだったんだし。」


女母「付き合ったんならもっと積極的にコミュニケーション取っていきなさい。それに、男くんも女から電話をもらったら絶対に嬉しいと思うわよ。男女の付き合いは最初が肝心。最初からそんな遠慮のし合いをしてたら上手くいかないわよ。」

女「…うっ…お母さんのその一言一言が胸にズキズキと…。でも確かにそうだね。…よし、それじゃあ男に電話してくる!」

女母「そうよ。電話なんて告白に比べたら簡単なものじゃない。」

女「あはは、確かに!それじゃ自分の部屋で電話してくるね!」タッタッ

女母「いってらしゃい」ニコッ

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prrrrrr prrrrr

男『はい、もしもし』

女「もしもし?男?」

男『お~、どうしたの女?』

女「えっとね…あ、あの~」

男『…ん?あ~、もしかして、初電話で緊張してるの?』

女「も、も~う!からかわないでよ~!!」

男『あはは、ごめんごめん』

女「…それでね、…あっ、今時間大丈夫?忙しくない?」

男「大丈夫だよ。今は自分の部屋でのんびりしてたところだったし。」

女「そ、そっか!…ねえ、明日のデートなんだけど…水族館に行かない!?」

男『水族館?」


女「うん!水族館!最近近くの水族館が最近すごく盛況らしくてね!土日じゃ混んでるみたいなんだけど明日は平日だから快適だと思うの。それで、やっぱり遊園地よりも水族館に行きたいな~って… …だめ…かな?」

男『あ~!あそこの水族館ね!いいじゃんいいじゃん!行こうよ!明日は今日のお詫びのためのデートでもあるんだし女が行きたいところに行こう!』

女「ほ、ほんと!?良かった~!!それじゃあ、私が水族館までの行き方とか調べておくね!」

男『あ、ほんとに?気が利くな~女。それじゃあお言葉に甘えてお願いしようかな。』

女「うん!任せて!それじゃあ、明日、公園に朝10時待ち合わせね。」

男『了解。それじゃあおやすみ、女。』

女「うん、おやすみ、男。」

ピッ

女「ふ~…」

女母「ふふ、もっと喋らなくて良かったの~お姉さん?」ニヤニヤッ


女「きゃ!? お、お母さん!?いつからこの部屋に!?」

女母「ん~、あんたが『ほ、ほんと!?良かった~!!』って言いながらニヤニヤしてたところから。」ニヤニヤッ

女「も、も~///、盗み聞きなんて趣味悪いよおかあさん!」

女母「だって、水族館までの行き方をpcで調べて印刷してきたから、電話が終わる前に渡してあげようとここに来たのよ。まー電話もう切っちゃってるけど、はいこれ。良かったわね、調べる手間が省けて。」パサッ

女「…あ、そうだったんだ、ありがと。…で、でも、部屋に入るときはノックしてよね!」

女母「はいはい。それじゃあ明日のためにも早くお風呂に入ってとっとと寝なさいよ~」

女「は~い」


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もぞもぞ

女(…ん~…緊張して寝れないよぉ…)

女(…明日、楽しみだな…)

女(…中学の時に男と出会ってから色々あったなぁ…)

女(…中1の時に私が男に一目惚れしたんだよね…)

女(…男ってちょっとインテリぶってるところがたまに鼻に付くけど、根は優しいし、何より本音で色々話してくれるし…)

女(…それにしても男と付き合えるまで長かったな~)

女(…他にも男のことを好きな子何人かいたもんな~)

女(…それを考えるとちょっと申し訳ない気持ちに…)

女(…ま~、何はともあれ男と付き合えたんだし、これから高校卒業まであと1年とちょっと、男とたくさん思い出作らなきゃ!)

女(…そして明日はその最初の思い出となるであろう初デート♪)

女(…遅刻しないためにも早く寝ないと!そして早起きして準備準備!)


女(…あ、そういえば…)

ゴソゴソッ

女(…危な~い、目覚ましのセットが朝の7時のまんまだった…)

女(…いや、7時でもいいかな?早く起きて準備万端にしておきたいし。)

女(…うん!明日は7時起き!よし!寝る!)

………
………………

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―2012年/2月/15日/香川――――――――――――----

………………
………


ジリリリリリリリリ

もぞもぞ

カチッ

女「…う~ん。まだ7時~?…待ち合わせは10時だからぁ…もう少しだけ寝よっかなぁ…」ふぁ~

女「…zzz。」


………
………………

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―――――――――――――――――――――――----

トントン

ガチャッ

女母「女~、もう9時だけど起きなくていいの~?待ち合わせは何時なの~?」

女「…ん~…まだ大丈夫~…」むにゃむにゃ

女母「…遅刻しても知らないわよ~…」

バタンッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

………………
………



女「もおおおお!何でお母さん起こしてくれないのよおおお!!!」

女母「起こしたわよ~。それでも起きなかったあなたが悪いんでしょー。」

ガチャッ

女「行ってきまああああす!!」

女母「は~い、行ってらっしゃい。」

女「やばいやばい!!男との初デートなのに遅刻なんて!!しかもろくにお化粧も出来無かったよ~!!」タッタッ

タッタッ…ポチッ

女「…あああ~!何でこんな時に限ってエレベーターが二つとも1階にいるのよ!早くエレベーター上がってきて~!!」


ゴオオオオオ…

女「…も~!相変わらずこのマンションのエレベーター遅いのよ!!」

…オオオン

ウィーン

女「よし!!」タッ

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―――――――――――――――――――――――----

ゴオオオオオ…

女(ふう…あっ、髪の毛ぐちゃぐちゃのまんまだった…)

女(エレベーターに鏡が無かったら気付かないままだった、危ない危ない。)

女(とりあえず、櫛で整えないと…持ってきたかなぁ…)ガサゴソ

女(…あった!これで髪を梳いてっと。)サッサッ

サッサッサ…グッ

女(…あれ、後ろ髪で櫛が引っ掛かるなぁ…)グイグイッ

女(…もしかして変な寝癖でもついてるのかな…もしそうだったら最悪…)

女(…これだからショートって嫌なんだよなぁ…これからはセミロングぐらいまで伸ばそうかな…)


女(…とりあえず、どうなってるか確認しないと…ん~…見えない…)

女(…あ。手鏡も持ってきてるから、それとエレベーターの鏡を重ねて後ろ髪を見れるかな?)ガサゴソ

女(…あったあった!これを…開いて…)パカッ

女(…そして、エレベーターの鏡に背を向けて…手鏡を前に掲げて…2枚をこう重ねて、合わせ鏡の状態にしt…



?『この時を待ってたよ。』



女「え?」


フッ



………
………………

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―2012年/2月/15日/香川/ @ 1週目―――――――――――----

【-裏々の世界-】

………………
………






女(…あれ?何今の?)

女(…どこからか声が聞こえて…それで意識が一瞬…)

女(…ん?エレベーターの中ってこんなに暗かったっけ?)

女(…気のせいかな…?)


ゴオオオオン…

ウィーン

女(…! とりあえず寝癖を直しながら急がないt……っ!?)


スタスタッ

女(…ん? 気のせいかな?体が…)スタスタッ

女(…!? 気のせいじゃない!?…体が…体が…勝手に動いてる!?)スタスタッ

スタスタッ ウィーン

女(…!?)

女(…どうしてまだ朝なのに…今日は晴れなのに…)

女(…どうしてこんなに暗いの!?)



女『…うわーやっぱりこっちは明るいね!』


女(…え!? 『明るい』? 私、今、勝手にしゃべった!?)


女『…ふふ。でも、まさかこんな偶然があるとはね。…それじゃあ、裏々の世界で色々楽しんでね。…“表の世界の私”。』ニコッ


女(表の世界?裏々の世界?どういうこと?それに何で私、そんなことを勝手に…)


女(………っ!?)

女(…私、今、喋れろうとしてるのに…)

女(…『喋れ』と脳から口に命令してるはずなのに…)

女(…どうして…)

女(…どうして、私は今、自分の意志で喋ることが出来ないの!?)

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

タッタッタッタ

女(本当にどういうことなんだろう…)タッタッタ

女(私は今、男との待ち合わせの場所に向かって走ってる。)タッタッタ

女(走りながら、寝癖も丁寧に直した。)タッタッタ

女(待ち合わせ場所まで走ることと、寝癖を直すことは、私がエレベーターから降りてやるつもりだったことで、実際にそその2つを行っている。)タッタッタ

女(…でも、そこに私の意志は無かった。『勝手』にそれらが行われた…。)タッタッタ

女(そして、マンションから出る直前、私は喋ることが出来なかった。)タッタッタ


女(…私であるようで、私ではない…そんな感じ…)タッタッタ

女(…ただ、今、走っていることによる疲れや、寝癖を直すときの感覚…というか痛覚はいつもと同じ…。)タッタッタ

女(走っててすごくしんどいし、寝癖を直そうとして髪の毛を引っ張った時に痛みを感じたし…)タッタッタ

女(…あと、おかしいことと言えば…やっぱり周りが暗い。この暗さは、晴れた日の朝の明るさのそれじゃない…その半分ぐらいの…)タッタッタ

女(…私、どうなっちゃったんだろ…)タッタッタ

女(…それに、さっき私の口から突然出た言葉の『表の世界』や『裏々の世界』ってのはいったい…)タッタッタ

女(…! もうそろそろ男との待ち合わせ場所の公園だ。)タッタッタ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「…お!来た来た!ぎりぎりだな女!」

女(…男。)

男「…ん?どうしたんだよ女?表の世界のお前が行きたがってた水族館に今から行くって言うのに。」

女「…え?表の世界ってどういうk…」

女「……っ!?」

女「…あれ!?私今喋れてる!?」

男「…はい?」

女「私は今喋れてるかってことを聞いてるの!」

男「おいおい、そんなの当たり前だろ?ここの公園には鏡もガラスもないんだし。」

女「…鏡とガラス?」


男「…? はは、どうしたんだよ女。もしかして初デートだから気が動転してるのか?」

女「…っ!? …そんなの…そんなの動転するに決まってるじゃない!!!!!」

男「…お、女?」

女「…さっきから急に体が動くし、勝手に変なことを口にするし…でもさっきまで喋れなかったし…それに周りはすごく暗いし…男もこの暗さに疑問を感じないの!?」

男「…!? …お前、もしかして…」






男「…『表の世界』の女か?


女「!? …その『表の世界』って言葉!私が勝手に口にした…」

男「…やっぱりそうか…。 …あいつ、やりやがったな…」

女「…『あいつ』?…あいつって…」

女「……っ!?」スタスタッ

女「ま、また体が勝手に!?」スタスタッ

男「安心して女。おそらく電車に乗るまでは、まだ『喋ること』は出来るから。」スタスタッ

女「で、電車に乗るまでってどういうこと?」スタスタッ

男「電車には窓ガラスがあるからな。そこでは喋れなくなるんだ。」スタスタッ

女「…言ってる意味が分からないんですけど…」スタスタッ

男「…はは。そうだな。…それじゃ今から駅に着いて電車に乗るまでの…15分ぐらいかな?その15分ぐらいで今、お前に起きていることとこの世界についてを簡単に説明するよ。」スタスタッ

女「…この…世界?」スタスタッ

男「…ああ。」スタスタッ


男「…女、合わせ鏡の世界って知ってるか?」スタスタッ

女「…え?…合わせ鏡の世界?何それ?」スタスタッ

男「…じゃあ入学当初に旧校舎の噂は聞いたことないか?」スタスタッ

女「旧校舎…あっ!知ってるそれ!確か旧校舎の鏡に近づいたらその中に引きずりこまr…!! …まさか!?」スタスタッ

男「…ああ。詳しくは、うちの高校の北側にある旧校舎の東側の、そのまた2階と3階を結ぶ階段の踊り場にある鏡、その鏡の前で合わせ鏡をするとその鏡の中に引きずりこまれるという話だ。」スタスタッ

女「…!? それじゃあ私は…」スタスタッ

男「…ああ。お前は…」スタスタッ





男「……合わせ鏡の世界に引きずり込まれたんだよ。」


----―――――――――――――――――――――――


また、来ます。


―――――――――――――――――――――――----

女「…そんな…。そんなことがありえるの!?」

男「ありえるんだから仕方ない。今はとにかく合わせ鏡の世界に引きずり込まれたってことを受け入れろ。…まあ、正しくは『入れ替わった』んだけどな。」

女「…『入れ替わった』?」

男「…ああ。まあ、それも後でちゃんと説明する。…とりあえず、ここが普通の場所ではないということを受け入れてくれ。」

女「…もし私を驚かそうとしてこんな冗談を言ってるのなら本気で怒るよ?」

男「冗談なんて言うかよ。しかもおまえ自身今の状況がおかしいってことに気付いてるだろ?だから、とりあえずは俺の話を聞いてみてそれから、冗談かどうかを判断しろ。いいな?」

女「……うん、分かったわよ。…でも何なの合わせ鏡の世界って?鏡の世界とは違うの?」


男「鏡の世界の一種であることは間違いないんだけど、ちょっと違うんだよな。その違いの証拠は目の前にたくさんあるだろ?」

女「…目の前?」

男「もし鏡の世界なら全てのモノが『反転』しているはずだろ?」

女「…あっ!」

男「…そう、この世界では『反転』してないんだ。何故なら合わせ鏡だからな。」

女「…合わせ鏡だから『反転』していない?」


男「ああ。…そうだなー。それじゃ、ここでちょっとした理科のクイズを出そう。」

女「クイズ?」

男「ああ。中1レベルの問題だ。まず、自分自身の目の前に全身が映るくらい大きな鏡があるとしよう。この鏡に映っている自分の『像』は反転しているか、してないか、どっち?」

女「それは…反転して…る?」

男「正解。それじゃあ、さらに自分の隣に同じぐらいの大きさの鏡をもう一つ置いたとしよう。そして『自分』『目の前の鏡』『隣の鏡』をv字に配置させて合わせ鏡の状態にするんだ。イメージできる?」

女「…え~っと、例えば自分が左にいて、鏡が目の前と右隣りにあるって感じ?」


―【イメージ図】―――――――――――――――----

    鏡a
  ______

↗  ↘

●   __ 
 女   鏡b

----―――――――――――――――――――――――


男「ああ、そのイメージでオッケー。v字に配置することで、その隣の鏡にも目の前の鏡を経由して自分の姿が映るよな。」

女「うん。…てか、昔トリビアの実験でやってたような感じ?」

男「そう!トリビアでも昔合わせ鏡の実験をしてたな。とりあえずイメージ出来たな?」

女「出来たよ。v字になってるのよね。」


図がずれたのでやり直します。


―【イメージ図】―――――――――――――――----

    鏡a
  ______

    ↗  ↘

  ●   __ 
  女   鏡b

----―――――――――――――――――――――――


男「ああ、そのイメージでオッケー。v字に配置することで、その隣の鏡にも目の前の鏡を経由して自分の姿が映るよな。」

女「うん。…てか、昔トリビアの実験でやってたような感じ?」

男「そう!トリビアでも昔合わせ鏡の実験をしてたな。とりあえずイメージ出来たな?」

女「出来たよ。v字になってるのよね。」



男「ああ。そして、ここで問題だ。自分の隣にある鏡には今、どんな『自分の像』が映っている?」

女「…ええ~、目の前の鏡には反転した像が映っていて、その像が反射して隣の鏡に映るんだから……あっ!そういうことか!」

男「うん。反転した像が更に反転するんだから…『反転していない像』が映っているんだ。」

女「なるほど! …ん~、でも『反転していない像』ってのがいまいちイメージ出来ない…」

男「あはは。そのまんまだよ。例えば、女が何か文字が書かれたものを持ったままその実験をしたら、隣の鏡に映っているその文字は反転してないからちゃんと読めるわけ。まあ、言うなれば、隣の鏡には女と『向きが全く同じ女の像』が映っているってこと。」

女「あー、なるほど。」

男「そう。『合わせ鏡』…つまり『2枚目の鏡の世界』では目の回りのモノは反転しないんだ。」

女「そっか。それで…」


男「…そして、この合わせ鏡の状態を作り、あと『3つ』の条件を満たすことで、『合わせ鏡の世界の住人との入れ替わり』が発生する。」

女「…3つの条件?入れ替わり?」

男「ああ。お前は入れ替わったんだ。もともとこの合わせ鏡の世界に居た『お前』と。」

女「…! 待って!それってこの合わせ鏡の世界にいた『もう一人の私』と入れ替わったってこと?」

男「ああ。」

女「そんなことってあるの!?もう一人の私が存在してたって言うの!?」

男「そうだよ。彼女はこの世界で存在し、生きていた『お前』なんだ。」

女「そんな…じゃあ、その『もう一人の私』が私と…」


男「…そう、入れ替わったんだ。まあ、入れ替わったとは言っても、入れ替わったのは『意識』だけで肉体ごと入れ替わったんじゃないんだけどな。」

女「…『意識』だけ?」

男「ああ。肉体はそのままで意識だけ鏡を経由して入れ替わったんだ。」

女「噂で聞いた話では体ごと引きずりこまれるってことになってたのにそれとは違うんだ。」

男「ああ。あの学校での噂とこれとは異なる点がかなり多いんだ。」

女「…それで、入れ替わりのための『3つ』の条件って何?」

男「一つ目は『場所』、二つ目は『閏年』、三つ目は『意志』だ。」

女「『場所』と『閏年』と…『意志』?」


男「ああ。まず『場所』について。合わせ鏡による入れ替わりはどこでも出来るというわけではない。いわゆる『パワースポット』『心霊スポット』と呼ばれる場所にある鏡であることが条件だと考えられる。旧校舎の鏡がそれに属するみたいだ。」

女「…え、でも私旧校舎なんかに行っt…」

男「気になることもあると思うが説明を続けるぞ。次は『閏年』についてだ。女、今年は西暦何年だ?」

女「…え?…2012年でしょ?」

男「そう。そして今年2012年は4年に1度の閏年。この閏年の年にのみ、入れ替わりを起こすことが出来る『時期』がある。何故、閏年なのかは話が長くなるから今はやめておく。」

女「…『時期』?」

男「ああ。そして閏年だとしても1年中入れ替わりが出来るとは限らないんだ。閏年の『1月1日』から『3月21日』までの期間にのみ入れ替わりが行える。」


女「…何で3月21日?」

男「そこらへんの説明はまた今度だ。それよりも伝えるべきことが沢山ある。」

女「…うん。分かった。」

男「次は『意志』についてだ。今まで話した条件が揃っていたとしても、当の『本人たち』に『意志』が無ければ入れ替わりは起きない。つまり、入れ替わりの対象になる2人のどちらかに『入れ替わりたい』という『意志』があった場合に入れ替わりが発生するってことだ。」

女「…じゃあ、私の場合は、元々この世界にいた『この世界の私』が入れ替わりたいと思ったから……」

男「…そう…なるな。」

女「…。」


男「…話を続けるぞ。次はこの世界についてだ。お前がもともといた世界を『表の世界』と呼び、今、俺たちがいるこの合わせ鏡の世界を『裏々の世界』と呼んでいる。」

女「表と…裏々?」

男「ああ。詳しく説明すると、お前がもともと居た世界を『表の世界』とし、それを基準に1枚目の鏡の世界を『裏の世界』、2枚目の鏡の世界を『裏々の世界』と区別して呼んでいるんだ。」

女「…1枚目が裏で、2枚目が裏々。 …っ!! ちょっと待って!!それじゃあ『裏の世界』も存在するってこと!?」

男「ああ、存在するよ。小説や漫画とかでよくある、俗に言う『ミラーワールド』ってやつだ。『裏の世界』ではもちろん全てが反転した世界になっている。」

女「…そうなんだ。」


男「それだけじゃない。3枚目の鏡の『裏々々の世界』、4枚目の鏡の世界の『裏々々々の世界』といったように合わせ鏡の世界は半永久的に続き、そして存在しているんだ。ちなみに『合わせ鏡の世界』っていうのは『裏々の世界』、『裏々々の世界』などそれ以降の合わせ鏡によって出来る鏡の世界のことの総称だからごっちゃにしないようにな。」

女「…待って。それじゃあ、もしかしてそのたくさん存在するっていうそれぞれの鏡の世界ごとに…私も…」

男「ああ。鏡の世界の数だけ、『鏡の世界のお前』も存在し、生きているんだ。」

女「そんな…」

男「まあ、驚くわな、こんな話をいきなりされたら。…さて、話は変わるんだが、女。お前、さっき『何でここはこんなに暗いの?』って言ったよな。」

女「…! …うん。」

男「この世界が暗い理由は、反射物の特性ゆえなんだ。」

女「…反射物の…特性…?」


男「ああ。鏡やガラスといった反射物は光を反射するが、全ての光を反射しきれるわけじゃないんだ。」

女「…あ。確か鏡って光を反射するたびに暗くなっていくんだっけ?それのことを言ってるの?」

男「そう。反射物が反射できる率のことを『反射率』というんだが、その反射率が100%ではない限り、光は鏡に反射されていく度に光量が減り、その明度が小さくなっていく。つまり暗くなっていくってわけだ。」

女「なるほど。じゃあ、この裏々の世界が暗いのは…」

男「ああ。鏡を2枚経由しているわけだから、光量が表の世界よりも減っている。だから暗いんだ。」

女「なるほどね…」


キィーーーーーン

女「!? えっ!?なn…!?」

女(…急に耳鳴りがしたと思ったら…また喋れなく…!?)

女『…あははっ、ねえ、私たち学校とかじゃあんまり会わないようにしようよ~。』

男『え?何で?』

女(…!? 私も男も急に脈路もないことを…!?)

女『だって、皆に付き合ってるってばれたらめんどくさいじゃない。』

男『ん~別に良くない? まあ、女がどうしてもって言うなら…てか、お互い部活が忙しいからどうせあんまり会えないかもな。』


フッ

女「…あっ、また喋れるようになった。」

男「…! …ああ、あれか。あの道端のカーブミラーに一瞬、俺たちが映ってたから喋れなくなって、『表の世界』にいる俺とお前の話した内容が俺たちにも反映されたんだ。」

女「…? カーブミラー? 反映?」

男「カーブミラー自体に深い意味は無いよ。『映ってた』ことに意味がある。…よし、それじゃ、次はこの世界での『体について』説明するよ。」

女「…『体』?」


男「ああ、体だ。まず、もう分かっているだろうけど、この世界では『体の自由がほとんど効かない』。」

女「っ! …うん、そうみたいだね。」

男「何故なら体の『行動権』は『表の世界』の『主』にあるからな。」

女「…?」

男「『裏』であろうと『裏々』であろうと鏡の中の世界にいる俺たちはこの世界では自分の思い通りに体を動かすことは出来ない。表の世界にいる『主』が絶対的な存在であって、その『主』の行動が鏡の世界の人間にも反映されるんだ。」

女「…主…の行動。」


男「…だけど、俺たちにも唯一体の自由を許された『部分』が2つある。」

女「……部分?」

男「ああ。それは『脳』と『口』だ。」

女「…脳…と…口………あっ!」

男「気付いたか?体は動かなくても、今は考えることが出来て、話すことも出来ているだろ?つまりこの『考えること』と『話すこと』が鏡の世界の住人に許された数少ない自由なんだ。」

女「…数少ない自由…かぁ。 …っ! で、でもさっきみたいに急に喋れなくなって、勝手に自分の考えたこととは全く違うことを喋りだしたのは何で!?」

男「それは『表の世界』にいる『主』が反射物に映ったからだ。」

女「…どういうこと?」


男「考えてみろ。もし、お前が『表の世界』にいるときにふと鏡を見て、鏡の中の自分の像が急に動き出したらどうだ?」

女「どうだ?って…そりゃビックリするわよ。」

男「だろ?そして鏡の中の自分の像が勝手に動き出したところを見たことなんてないだろ?つまりそういうことだ。表の世界の主が反射物に映っている時、鏡の中の住人の動きは表の世界の主と全く同じになる。」

女「…」

男「それは『口』も同じだ。鏡の中の自分が口だけ勝手に動いてるなんてことも絶対に起こらない。つまり、表の世界の自分が反射物に映っている時は鏡の世界の住人は『口』も自分の意志では動かせなくなる。また、表の世界の主が反射物に映っている時は『表の世界の主の口の動き』と『喋っている内容』が鏡の世界の人間にも反映されるんだ。」

女「…なるほど。だからさっき道端のカーブミラーに映ってたときに私たちは喋られなくなって、そして表の世界の自分が喋った内容が私たちにも反映されたってことね。…じゃあ、あの耳鳴りは何なの?」

男「あれは合図だ。」

女「合図?」


男「ああ。あの耳鳴りは表の世界の主が反射物に映ることを知らせてくれる合図みたいなもんだ。だいたい5秒くらい前に鳴り響く。」

女「…へえ…でも何のために?」

男「さあ…それは分からん。…まあ、鏡の世界からのせめてもの優しさの表れなんじゃないかな?耳鳴りのおかげで喋れなくなることが事前に分かるし。はは。」

女「…いらないわよそんな優しさ。」

男「はは、違いない。」

女「…でも、さっきの耳鳴りが今後も続くって思うと鬱になりそう…」

男「…ん? もしかして耳鳴りは今のが初めてだったのか?」

女「…え?そうだけど…?」


男「旧校舎前にたくさん窓ガラスあるんだし、さすがに1度は耳鳴りがしただろ?…ん?そもそも、お前何でデートの前にわざわざ旧校舎に行ったんだ?」

女「…え? い、行ってないわよ旧校舎なんか!」

男「…はい?じゃあ、お前どこで入れ替わったんだよ?」

女「私が異変を感じたのはさっきうちのマンションのエレベーターの中で合わせ鏡をしちゃってからだよ!」

男「…!? エレベーターの中?でもお前ん家のマンションって5年ぐらい前に出来たばっかりだよな…いわくつきのエレベーターか何かなのか?」

女「…さあ…変な噂は聞いたことないけど…。」

男「…そうか。でもまさか旧校舎以外にも入れ替わりが出来る場所があるとは…てか何でエレベーターの中で合わせ鏡をしたんだ?」

女「…うっ。…そ、それは…。」

男「…それは?」


女「…後ろ髪の寝癖を…見ようと…」ボソッ

男「…? …! …ああ~…なるほど…それで…」

女「…うん。」

男「…でも何で家で寝癖を直さなかったの?」

女「…そ、それは…」

男「…ん?」

女「…今日のデートが楽しみで昨日寝つけなくて…それで…ね、寝坊…しちゃって///」

男「…あははは!やっぱりお前は表の世界の女だな!」

女「ちょっと!バカにしないd…ん?『やっぱり』ってどういうこと?」

男「あははっ…なあ、女、俺って『誰』だと思う?」

女「…? …誰って…あなたは男でしょ?」


男「そうじゃなくて…俺はどの世界の『男』だと思う?」

女「…! …それはもちろん…この『裏々の世界』の男でしょ?」

男「あはは、普通そう思うよな。」

女「……どういうこと?」

男「…俺は…この『裏々の世界の男』じゃないんだ。」

女「…? …っ! …ま、まさか!?」

男「…ああ。 …俺もお前と同じ…」





男「『表の世界』の男だ。」

----―――――――――――――――――――――――


また、来ます。

つまり『表の世界』に存在する主が反射物に映ると合わせ鏡の世界にいる同一個体は主とリンクするってことでおk?



>>66

その解釈で合ってるんじゃね?
反射物に映ってない時→体の動きは表の主とほとんどリンクしている。でも口と思考はある程度自由。
反射物に映っている時→体の動きは口も含めて完全にリンク。でも思考はある程度自由。
ってことだろ。


>>66
それで、okです。ただ、>>67さんの言ってる通り『思考』だけはリンクしません。
あと、この『反射物によるリンク』については他にもまだ出てきていないルールもあります。
それについては今後このssの中で分かっていきますので。


―――――――――――――――――――――――----

女「…ど、どういうこと!?じゃあ…じゃあ男も合わせ鏡で…!?」

男「…まあ…『色々』とあってな。」

女「…『色々』…って?」

男「それに関してもまた追々話す。…っと、もう駅に着いたみたいだぞ。これからは電車に乗るからほとんど喋れなくなるからな。」

女「あっ、ずっと話に夢中だったから気付かなかった…。電車で喋れなくなるのは窓ガラスに私たちが映るからってことだったよね。」

男「ああ。その通り。だから、電車を降りるまではまたしばらく我慢タイムだ。」

女「分かった。また電車から降りたら色々教えてよ!」

男「了解。」


----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

○○エキ~ ○○エキ~ 
オオリノサイハ ゴチュウイクダサイ

スタスタスタッ

男「…よし、『口』に自由が戻った。予定通り、表の世界の俺たちはここの駅から歩いて水族館に行くみたいだな。…ん?どうした女?」

女「…楽しそうだったね…電車の中での表の世界の私たち。会話もすごく盛り上がってたし。」

男「…! …まあな。初デートなんだしお互い楽しいだろうな…」

女「…でもあの2人はどっちも裏々の世界にいた私たちなんだよね。」

男「…ああ。」

女「…て、ことは私が昨日告白した男は…」

男「…裏々の俺だな…」


女「…だよね…。 …なんか複雑。 …男はいつこっちに入れ替わってきたの?」

男「…2週間前だ。」

女「…そっか…。結構最近なんだね…」

男「…まあな。」

女「…ねえ、男?」

男「…ん?」

女「…私たち、どうなっちゃうの?このままこんな不自由な世界でずっと生きていかないといけないの?」

男「…それは…」

女「…どうして…どうしてこんなことになっちゃったんだろ…」

男「…女。」

女「…悲しいのに涙出ないんだね…これも鏡の世界だからなのかな…」

男「…女、そんな落ち込むな。ちゃんと表の世界に戻る方法はある。」

女「…! ほんと!?」


男「…ああ。だけど、その戻る方法を教える前に、お前にはまずこの鏡の世界についてしっかりと理解してもらう必要がある。」

女「…! うん、分かった。…確かに今はまず、この世界について理解することが先だよね。…あっ、ねえ男、ふと不思議に思ったことがあるんだけど聞いていい?」

男「何だ?」

女「この裏々の世界には私たち以外にも、今周りにたくさん人がいるじゃない?電車の乗客や駅員さん、あとほら、そこの私たちと同じように水族館に向かって歩いてる他のカップルや家族連れとか。」

男「ああ。」

女「その人たちの会話を聞いてたらさ、ごく普通の会話と言うか…表の世界の人たちとなんら変わらなさそうな会話をしてるみたいなんだけど…ほら!そこの親子、今赤ちゃんに高い高いしてあげてるでしょ?それで、あのお父さんは高い高いの動きをしながら『たかいたかい~い』って言ってて、私たちと違って口と体の動きが一致してるというかなんというか…」

男「ああ、そういうことね。あの親子は『自我』を持っていないだろうからな。だから、反射物に映っていないところでも、表の世界の自分と全く同じ行動になっているんだ。」

女「…『自我』?」


男「ああ、『自我』だ。鏡の世界では『脳』と『口』が唯一許された自由だってことはさっき話したよな?」

女「うん。」

男「でも、それは『自分が鏡の世界の住人だということを自覚した上』での自由なんだ。だから、それを自覚できない限り、脳と口が使えることに気付けない。」

女「鏡の世界の住人だという自覚?」

男「ああ、自分が鏡の世界という異端な世界の住人で、表の世界の自分とはまた別の存在だということに気付けば、脳と口が使えることに気付ける。そしてそれに気付いた人間は反射物に映る直前に耳鳴りがなるようになる。っていうわけだ。」

女「…ここが鏡の世界の中だということに気付けば表の世界の自分とは別の思考が出来るようになって、それによって『自我』が生まれるっていうことね…するとあの親子は?」

男「…あの親子は自分たちが鏡の世界の住人だということに気付いていないから自我も持っていないのだろう。だから、表の世界の自分と同じ言動になっているんだ。」

女「…そっか。…そうなんだ。」


男「…女、お前もしかして今あの親子のことを哀れんだか?」

女「…え!? …それは…まあ…。…だって鏡の世界だとしても自我を持てば、少しだけ自由がもらえるんだし…」

男「…気持ちは分からんでもないが、真実に気付かないほうが幸せなこともあるんだぞ、女。」

女「…どういうこと?」

男「もし、今からあの親子にこの世界の真実や表の世界の存在について教え、自我を持ったらあの親子はどうなると思う?」

女「…え?どうなるって…?」

男「『私たちも表の世界に行きたい』って思うようになるだろ?そしてあわよくば入れ替わりを試みようとするだろうな。」

女「…あっ」

男「そして、『表の世界』のあの親子が『俺たちと同じ状況』に巻き込まれるんだ。」

女「…。」


男「しかもそれだけじゃない。その小さな『自由』を得ることが大きな『不自由』を抱えることにも繋がる。」

女「『不自由』?」

男「ああ。もしも自我を持ってしまったら、体が自分の意志で動かすことが出来ないことにも気付くだろ?」

女「…!」

男「それまでは自分の意志で動かしていたと思っていたものが本当は『表の世界の自分』のコピーでしかなかったなんて夢にも思わないだろう。その『意志』と『体』の不一致によって以前よりも不自由に感じてしまう。」

女「…それが『小さな自由が大きな不自由』ってこと…」

男「そう。だから、この世界の人々は真実を知らないほうがいいんだ。『表の世界の自分自身』のためにも、そして『自分自身』のためにも。」

女「…でも……だけど…」

男「…。」


女「…ううん、ごめん。何でもない。…でも、この世界に自我を持っている人はどれぐらいいるの?」

男「…さあな、俺も詳しくはまだ分かってないが…『ほとんどいない』と言っていい。」

女「…え?ほとんど?」

男「ああ。俺の知る限り、この裏々の世界で自我を持つことに成功したのは『俺とお前』、そして元々この世界にいた『裏々の俺とお前』だけだ。」

女「…そんな。…それは本当なの?」

男「…ああ。 …あと…。」

女「…ん?」

男「…あっ、いや、やっぱり何でもない。」

女「…? …ん?待って。元々この裏々の世界にいた裏々の私と男は自我を持っていたから入れ替われたんだよね?」


男「ああ。そうなるな。自分たちが裏々の世界の住人だと気付き、自我が生まれ、さっき話した入れ替わりの条件が揃ったから入れ替わりが出来たんだ。」

女「じゃあ、裏々の私と男はどうやって、自分たちが鏡の世界の住人と気付き、自我を持つことが出来たの?」

男「…おそらく、2人とも『自力』で自我をもったんじゃない。」

女「…自力じゃなかったらどうやって?」

男「…鏡の世界の住人が、自分自身が鏡の住人だと気付き、そして自我を持てるようになるための方法が2つある。」

女「2つ?」

男「ああ、一つ目が『自我を持っている人間に教えてもらう』という方法。例えば今の俺やお前が、あの親子にこの世界のことを教えてあげることによって、あの親子は自我を持つことが出来る…みたいにな。」

女「それがさっき言ってたやつだよね。」

男「ああ。そして2つ目は…『表の世界のオリジナルが鏡の世界のことの存在を知る』という方法だ。」


女「…オリジナル?オリジナルって何?」

男「『オリジナル』ってのは俺やお前みたいに、表の世界で生まれ育った者のことを指す。」

女「『主』とは違うの?」

男「ああ。『主』は『今現在、表の世界に居る者のこと』を指すんだ。」

女「…じゃあ、私と男は『オリジナル』で、今表の世界に居る裏々の私と裏々の男が『主』ってこと?」

男「そうだ。『主=オリジナル』という状態が普通なんだが、俺たちみたいに入れ替わった場合、その『主』の立場も入れ替わる。」

女「…そうなんだ。」

男「話を戻すぞ。表の世界のオリジナルが、鏡の世界の存在や今まで俺が話したような鏡の世界のルールを知ることによって、その知識は裏、裏々、裏々々といったそれぞれの鏡の世界に存在する自分自身に連動的に共有される。それによって得た知識から、彼らは『自分は鏡の世界の住人だ』と気付き、そして自我を持てるようになるんだ。」

女「…なるほど。…でも、私は表の世界にいた時に鏡の世界のことなんて全く知らなかったから、『裏々の私』は誰かから教えてもらって自我を持ったんだよね?」

男「…そうなるな。」

女「…でも、誰n…男「裏々の俺だよ。」

女「…!?」

男「『裏々の俺』が『裏々のお前』に鏡の世界のことを教え、自我を持たせたんだ。」


女「…! …裏々の男…が?でも、その裏々の男はどうやって自我を…」

男「…それは…。」

男「…俺が表の世界にいた時に…正確には半年前に鏡の世界のことを知ったからだ。」

女「…!? …半年前に男が?」

男「ああ。俺は『とある出来事』によって鏡の世界の存在やその世界の住人との入れ替わりの方法を半年前に知った。その情報を知ったことによって、この裏々の世界、いやそれだけじゃなくて『全ての鏡の世界の俺』に自我を持たせることに繋がってしまったんだ。」

女「…そう…なんだ…。 …私ね、ずっと疑問に思ってたことがあったの。『どうして男はこんなに鏡の世界の仕組みとかについて詳しいのだろう』って。」

男「…。」

女「つまり男はその『とある出来事』によって鏡の世界についての知識を得たからこんなに詳しいってことなの?」

男「ああ。」


女「でもその『とある出来事』って一体なんなの!?」

男「…それもまたまた追々話すよ。」

女「…!? …また『追々』…かあ。」

男「…すまん。話すべき時期が来たら必ず話すから。」

女「…うん、分かった。 …とにかく、『裏々男』がその出来事によって『自我』を持つことになって、2週間前に入れ替わりのための『意志』や他の条件が『裏々男』に揃ったから男との入れ替わりが起きてしまった…ってこと?」

男「…いや、入れ替わったのは…」

男「…俺自身の意志だ。」

女「…!? 男自身の!?」

男「…俺自身がその『とある出来事』によって鏡の世界に興味を持ち、鏡の世界に行ってみたいと考え、そして俺は2週間前に学校の旧校舎の鏡で入れ替わりを自分の意志でしてしまったんだ。」

女「…。」


男「…今思えば、俺のその行為はあまりにも愚かだった。そして、その行為は更に最悪なことに女も巻き込む結果になってしまった。…女に入れ替わりが起きたのも俺のせいだ。本当にすまない。」

女「…男。」

男「…でも…いや、だからこそ…俺にお前を何が何でも表の世界に戻す責任がある…女、お前だけでも絶対に表の世界に戻す、だから安心してくれ。」

女「…男。 …ううん!戻る時は2人一緒だよ!絶対に2人で戻ろうね!」

男「…女…。 …ああ、そうだな、二人で戻ろう!」


男「…っと、もう水族館に着いたみたいだな。これからしばらくはあまりしゃべれないと考えた方がいいな。水槽のガラスが反射体になっているから。」

女「ほんとだ。…ねえ、そういえば、その反射体ってのは鏡や窓ガラスだけなの?」

男「いや、俺が言っている反射体ってのはあくまで『反射率』が高いものを言っているんだ。反射率ってのはその文字通り、光を反射する率のこと。つまりこの反射率が高ければ高いものほど、光を多く反射する。つまり、より一層像がくっきりする。分かるか?」

女「うん。」


男「でも、地球上の多くの物質は光を反射する性質を持っているんだ。そこらへんの石ころも木もアスファルトも。一応反射率が何%かあるんだ。でも、俺たちは今それらに囲まれていてもしゃべれているだろ?」

女「うん、確かに。」

男「つまり、反射率が低いものに映ったとしても喋っていられるんだ。じゃあ、その喋れるか、喋られないかの境い目はどこかといったら、アバウトになるがおそらく反射物に映った自分の像が自分の顔などがくっきり映っているかどうかというところがポイントになるだろうな。」

女「…本当にアバウトなんだね。」

男「あはは。まあ、たとえば光沢のある黒いタイルとかの前に立ったらそのタイルに自分の像がぼやぁっと映るけど、ぼやぁっとしてるだけで自分の姿はくっきりと見えないよな。つまり、この場合だと喋れる。」

女「なるほどね。まー、とにかくよく光を反射するものじゃなかったら喋っていられるってことね。」

男「ああ。そんな認識でオッケーだ。…っと、チケットを買い終えて今から水槽のほうへと行くみたいだな。」

女「…みたいね」

男「今からしばらくはまた我慢タイムだ。それじゃあ、また後でな、女。」

女「うん」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女『ねえ!男見て!あの魚、かわいいよ!』

男『そうか~?不細工じゃないか?』

女『え~、ブサかわいいじゃな~い!』

男『あははあ、なんだそれ』

女『ふふ!』

女(…二人とも楽しそうだなぁ…)

女(…私はこうやって見てることしかできないのかな…)

女『…あっ!ねえ見て見て男!あの魚まるで…』

女(…あっ、あの魚、まるで…物理の…)

女『物理の先生みたいな顔してない!?』

女(…!? …私と全く同じ感想を…)


男『…いやいや、似てないだろ…』

女『え~、嘘~!似てるよ~!』

男『…似てるところって体が細いところだけじゃん。』

女『えへへ、まあそうなんだけどね~。』

男『あはは、適当だな~女。』



女(…そっか、『裏々の私』も『私』であることには変わらないんだ…。だから、さっきみたいな感性だったり、言動もいつもの私とほとんど変わらないんだね…)

女(…しかも、私は男が2週間前から『裏々の男』に変わっていることに気付くことが出来なかった。)

女(…そう。今、表の世界にいる『裏々の私と男』は私たちとは『別の存在』だけど、紛れもなく『私』と『男』なんだ。)


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―――――――――――――――――――――――----

スタスタスタッ

男「楽しかったな~、水族館」

女「…いやいや、表の世界の2人が盛り上がってただけじゃない。」

男「まあ、女。時には『割り切る』ことも大切だぞ。」

女「『割り切る』って…私、こっちの世界に来てまだ1日も経ってないんですけど…」

男「あはは、確かに。」

女「それに、暗くてよく見えなかったし…魚。こんなことになるんだったら遊園地にしとけば良かった。」

男「はは、違いない。遊園地だったら周りに反射物が少ないだろうから俺たちも喋れたのにな。」

女「…ねえ、男。」

男「ん?」

女「男は2週間前に入れ替わったんだよね?」

男「…ああ。」


女「…じゃあ、今、表の世界にいる『裏々の私』とも2週間はある程度喋ったことがあるんじゃないの?」

男「……ああ、あいつとも何回か喋ったよ。」

女「やっぱり…。どんな子だった?」

男「どんな子って…お前であることには変わらないよ。」

女「そう…だよね。 じゃあ、その子と鏡の世界のこととかについてとかの話をしなかったの?」

男「ほとんど話さなかったな。あいつも俺が表の世界から来た男ってことに気付いてなかったみたいだし。」

女「…え?『気付かなかった』? じゃあ、男からも『俺は表の世界から来た』ってことを言わなかったの。」

男「ああ、言ってない。もし言ったら、裏々の女が『じゃあ私も』ってことで入れ替わりに躍起になってしまうかもしれないし、もしそうなったらお前に迷惑がかかると思ってな。」

女「そう…。」


男「だから、俺はあいつに入れ替わりを勧めるようなことはしてないんだ。あいつはおそらく半年前に裏々の俺から鏡の世界のことを教えてもらい、自我が生まれた。その時に入れ替わりの方法についても知ったはずだ。でも入れ替わりについては半信半疑だったんだろう。けど、今朝、たまたま入れ替わりのチャンスがめぐってきて、そしてやってみたら偶然にも成功した…って流れだろうな。」

女「…そういえば、あの子、『まさかこんな偶然があるとはね』って入れ替わった直後に…」

男「…あいつもそう言ってたのか。とにかく俺はあいつは鏡の世界についてなどは一切話さなかったよ。あいつとは『表の女がね~』とか他愛もない話とかばっかりしてたわ、あはは。」

女「…そう…。 …でも…。」

男「…ん?」

女「…でも、不安じゃなかったの男は!?こんな世界に一人で迷い込んで、自由もほとんど効かないこの世界に戸惑わなかったの!?」

男「…それは勿論最初は戸惑ったさ。でも俺には元々予備知識があったし…それに裏々の女もいたしな…」

女「…裏々の私…。 …ねえ、男。」

男「ん?」

女「もしかして『裏々の私』のほうが…好きだったり…するの?」


男「…! …あはは、そうだな。まあ確かにお前もあいつも『女』であることには違いないし、最近一緒に過ごしてたのはあいつだ。」

女「…。」

男「…でも、俺が好きなのは中学からずっと『表の世界』で一緒に過ごしてきたお前だよ。」

女「…お、男。」ホッ

男「じゃあ、逆にお前はどうなんだよ?」

女「…へ?私?」

男「うん。お前、昨日、『表の世界』で『裏々の俺』に告白してたけど、どっちが好きなんだよ?」

女「…! …そ、それは///」

男「ん?」

女「…た、確かに私が告白したのは裏々の男だったけど、私も男と同じで、好きなのはずっと『表の世界』で一緒だった男よ!///」

男「…そっか、それ聞いて安心したよ。」ニコッ


女「…男。 …あっ、もう電車に乗るみたいだよ。」

男「おっと、ほんとだ。このままあいつら帰るのかな?」

女「だとしたら…今日はもう…」

男「昼飯も水族館で食ったし、時刻ももう15時ぐらいだしな…まあ向こうの駅に着いてからも家に帰るまではある程度一緒だろうから安心しな。」

女「…だといいんだけど…。」



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スタスタスタッ

女「どうやらこの道順は今から公園に行くみたいだね。」

男「みたいだな。」

女「あ、お昼の話に戻るんだけど、お昼ご飯の時は違和感が凄かった…ご飯食べる時は『自分で』噛まなくてもいいんだね。というか、反射物に映ってないのに勝手に口が動くなんて…」

男「あはは、まあな。あくまで『口』の自由ってのは『話す』ことにのみ自由が効くみたいで、ご飯だとか飲み物を口に入れるときは自由が効かなくなるな。でも視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感はちゃんと働くから味は分かっただろ?」

女「うん。…でも、何で『口』と『脳』だけ自由なんだろ…どうせなら手足も自由にしてくれたらいいのに…」

男「あはは、そんなことしたら鏡の世界の住人が動き放題になってしまうじゃんか。」

女「いいじゃない、動き放題になっても。」


男「そんなことになったら、表の世界のやつが驚くだろ?鏡、もしくは合わせ鏡に『自分の姿が映ってない!!』って。」

女「まあ…そうだけどさ。」

男「もし、『足』や『手』が動かせることになってしまったら鏡の世界の住人が『鏡に映らずにどかに行ってしまう』ということになってしまう。でも人は『口』と『脳』だけでは体をその場から動かすことが出来ない。だから『口』と『脳』だけがある程度自由なんだろうな。」

女「ふ~ん…なるほどね。 …あっ、公園に着いたみたい。」

男「…お、ベンチに座るのかな?…よっこらしょっと。ってあっちの俺も言ってるかな?」ストンッ

女「…ふふ、今の男、おじさんみた~い」

男「え?そうか?」

女「そうよ~」


男「…でも良かった。」

女「え?何が?」

男「…女、今日初めて笑ったな。」

女「…え? …嘘、今私、笑ってるの?表情もほとんど自由が効かないんでしょ?」

男「…まあ、表の世界にいる『裏々女』の笑っている表情が反映されてるってのもあるけど、今の女の口調は楽しそうだったよ。まるで笑ってるみたいだった。」

女「…そう…。でも、今男も笑ってるよ。まあ正確には表の世界にいる『裏々男』が笑ってるんだろうけど…。」

男「あはは、だろうな。くそー、あいつら楽しそうに会話してるんだろーなー。」

女「…だろうね…。 …ねえ、男。」

男「ん?」

女「…私も今すぐに笑いたい。」

男「…!」


女「今すぐにでも男と一緒に自由に笑いたい!笑い合いたい!」

男「…。」

女「…だから…だからそろそろ教えて!表の世界に戻る方法を!!」

男「…女。」

男「…ああ、分かった。教えるよ。…実は『表の世界』に戻る方法は『2つ』ある。」

女「…2つ!?」

男「ああ。その2つはどちらも『入れ替わり』による方法なんだ…でも、今すぐには出来ない。」

女「え?どういうこと?」

男「実は一度入れ替わりをしたら、『1週間』入れ替わりが出来なくなるんだ。」

女「…1週間?」


男「ああ。入れ替わりは連続して出来ない。おそらく入れ替わりの乱発を防ぐためのブランク的なものだろう。」

女「…1週間のブランク…じゃあ私が次に入れ替わりが出来るのは?」

男「…来週の『2月22日の午前10時』頃になるな。」

女「…そんな。」

男「…そう、だから今焦っても入れ替わりが出来るのは来週になるんだ。それまではこの裏々の世界で過ごさないといけない。それを覚悟してくれ。」

女「…1週間も。」

男「…それじゃあ、本題の『表の世界』に戻る方法についてだが…」

女「…うん。」

男「まず、一つ目は『合わせ鏡による入れ替わり』だ。これは分かるな?」

女「…! …私が『やられた方法』だよね?」


男「ああ。朝にも話したが、合わせ鏡の状態で『場所』『閏年』『意志』などの条件が揃った場合にのみ起きる現象だ。」

女「…」

男「…でもこの『合わせ鏡による入れ替わり』の方法の成功率は限りなくゼロに近いな。」

女「…え!?どうして!?」

男「やっとの思いで、『裏々の世界』から『表の世界』にやってこれた奴がそんなシチュエーションを創り出すと思うか?」

女「…! …そっか。」

男「おそらく今の表の世界にいる裏々女、あと勿論裏々の俺もこの『合わせ鏡の入れ替わり』の状態を創り出さないように細心の注意を払っているはずだ。」

女「…普通考えればそうだよね…。じゃあ、その方法は厳しいか。」

男「ああ。」

女「…じゃあ、もう一つの方法は何なの!?」

男「…2つ目の方法は実は『合わせ鏡による入れ替わり』よりもかなり簡単なんだが…」


女「…え?簡単なの!?」

男「…でも、問題もあるんだ…」

女「…問題?…とにかくその方法っていったい何なの!?」

男「…それは…」







女「…………待って男。」

男「…ん?どうした女?」

女「私たちの顔、さっきからどんどん近づいてない?」

男「…! …言われてみれば…話に夢中だったから…」


女「…! …ちょっと!?急に真っ暗になったんですけど!?」

男「おい!お前目瞑っちゃってるよ!!」

女「ねえ!もしかしてこの雰囲気って!?」

男「…あれしかねーだろ…」

女「ちょっと本気なの『あの子たち』!!」

男「あっ!やばい!女!覚悟を決めろ!」

女「へ!?…んっ/////」


----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「…大丈夫か?女?」

女「…体の自由は効かないくせにストレスは溜まるのね…」

男「…は、ははは……。」

女「…私の…私のファーストキスが…」

男「…でも、まあ相手は俺だったんだしいいじゃんか、な?」

女「そういう問題じゃないの!!!!!」

男「…ご、ごめん…。」

女「…ったく…ムードもへったくれもないわよ…」

男「…まあ…確かに…。」


女「…! …やばい!そろそろうちのマンションだから別れるみたい!」

男「…あっ…ぐだぐだと話してたら…」

女「ちょっと!『ぐだぐだ』ってキスのこと!?」

男「…あっ、いや、別にそういう意味では… …とにかく、表の世界に戻る方法についてはまた次に会ったときに話すよ。」

女「…分かってるわよ。」

男「あと、むやみやたらに家族に話しかけるなよ!ちょっとした会話でも『自我』を生み出すきっかけになるかもしれない!『表の世界』の『裏々の女』に会話を合わせろよ!」

女「…分かった。 …ん?ちょっと!『あの子』と会話を合わせるってどうやるのよ!?」

男「なあに、『裏々女』もお前なんだから、いつもどおりお前で話したらいいんだよ!まあ、多少会話がずれても大丈夫だ!」

女「でも…」

クルッ

男「…おっと、表の世界では話が終わったみたいだ!それじゃあな女!!」タッタッタ

女「ちょっと男!!」

タッタッタッタ

女「…行っちゃった…。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

スタスタッ

女(あっ…マンションに着いたみたい。)

キィーーーーーン

女(…耳鳴り!? …! …そっか、うちのマンション玄関がガラス張りだから今朝、エレベーターから降りた後も少しの間、喋ることが出来なかったのか、そして今も…)

女(…でもこのままエレベーターに行ってくれればもしかしたらチャンスが…)

女(…! 駄目だ!やっぱり『この子』階段に向かってる…っ!)

女(…ってことはあのエレベーターでの入れ替わりは無理と考えたほうがいいか…)

女(…でもこれからしばらく毎日ずっと階段になるのかぁ…うちの部屋は10階だから相当ヘビーだよぉ…しんどさも反映されるんだからこっちのことも考えてよね…)

女(…まあ、ダイエットになるからいっか…って何のん気なこと考えてるのよ私…)


管理人『あっ、1002号室の女ちゃんじゃないか。お帰り~。』

女(…あっ!管理人のおじいさん!?あいさつしないと…って、今はガラス張りの玄関の前だから私は喋れないのか…)

女『こんにちは、管理人さん。』

管理人『あれ、今日は階段で上がるのかい?しんどくないかい?』

女『えへへ…実は最近そっちの左側のエレベーターが気味悪くて…。』

女(…気味が悪い…かぁ…)

管理人『ん?気味が悪い?おばけでも出たのかい?』

女『出てはないんですけど…なんかこう…薄気味悪いというか…』

管理人『へ~、そうなのかい。…あ、そういえば、他の人も今の女ちゃんみたいなこと言ってたな~。誰かに見られてるような気がするとか何とか…。』

女(…! …じゃあやっぱりあのエレベーターには何か霊的な…)


女『それ!それなんです私も!あのエレベーター絶対に何かおかしいですよ~!』

管理人『はっはっは。私はまあこのマンションはまだ建ってから5年ぐらいしか経ってないし幽霊がいるなんてことはあんまり信じられないけどね。』

女『こういうのは理屈じゃないんですよ!管理人さん!』

管理人『はいはい。まあ、階段での上り下りは女ちゃんにとってはダイエットにもなるだろうし調度いいんじゃないかい?』

女『ちょっと管理人さん!女の子にそういうこと言うのは失礼ですよ!』

管理人『あはは、すまないすまない。まあ、無理はしないようにね。』

女『は~い。それじゃあ管理人さん、さよ~なら~!』

管理人『はい、さようなら。』


----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

ガチャ

女(うちの玄関には反射物はないから自分で言わないと…)

女「…ただいまー」

スタスタッ

母「おかえりなさ~い。どうだったのデート?」

女(…お母さんに自我を持たせるわけにはいかない。いつもどおりの『私』で話さないと…)

女(…思い出せ、今日のデートを。水族館や電車の中での『あの2人』の会話を…)

女(それをいつもの『自分の口調』で話すんだ。『私』ならおそらく…)

女「…すごく楽しかったよ~!水族館も空いてて快適だった!」

母「ふふ、良かったわね。それじゃあ、もう夕飯用意出来てるから部屋に荷物置いてらっしゃい。」

女「は~い」


スタスタッ

女(よし!自分の部屋に向かってる!今の会話で問題なし!)

ガチャッ

女(…でも、これからもこれが続くと思うと…)

ガサゴソ

女(…ん? バッグから何探してるんだろ『この子』?)

キィーーーーーン

女(…耳鳴り!? もしかして…手鏡!?)

ヒョイッ

女(…やっぱりそうだ!でも手鏡なんてもってどうするの『この子』…)


女『…安心してね。』


女(…安心? どういうことだろう…)


スタスタッ

ガチャッ

女(リビングに入った…)

コトッ

女(…!? リビングの角に鏡を!?)

女(これじゃあ、リビングにいる限り私は…)

女『ね~、お母さん、ここに鏡置いてい~い?』

母『ん?別にいいけど何で?』

女『最近朝弱いからさ~、もしもの時のために朝、ここでご飯食べながら髪の準備とかするため!』


女(…本当にそれが理由なの…?)


母『あんたが早く起きればそんなもん置く必要ないじゃない。』

女『ま~、そうなんだけどさ~、でもいいでしょ?』

母『別にいいわよ~。…あ、朝と言えば、今日間に合ったの?』

女『うん!ギリギリ!』ニヤッ

母『も~、あんまり男くんに迷惑掛けるんじゃないわよ~』

女『分かってるよ~。あっ、あとお母さん、玄関にも姿見様の鏡置いてよ~!』


女(…玄関にも!? …っ! もしかして…)


母『え~?姿見の鏡は確か押入れにあったと思うけど…でも何で?』

女『え~、玄関にも鏡があったほうが便利じゃない?』

母『ま~、昔は玄関に置いてたしね~…まあ女の好きにしなさい。』

女『やった~!ありがとうお母さん!』

母『はい、それじゃあ夕飯冷めちゃうから食べましょ。女もいつまでも立ってないで座りなさい。』

女『は~い』ガタッ

女・母『いただきま~す』



----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女『ごちそうさま~』

スタスタッ

ガチャ バタンッ

スタスタッ

ガチャ バタンッ

女(…私の部屋に戻ってきた。)

女(私の部屋には鏡とかないからちょっとは自由に…)

スタスタッ

女(…! どうしたんだろ『この子』、窓辺に近づいt…まさか!?)

キィーーーーーン

女(…耳鳴りってことは!?)


シャーッ

女(…!? …やっぱり『この子』、カーテンを…)

女『ふふ、夜の窓は光をよく反射するからね。てか、今朝、寝坊したからってカーテンを閉めっぱなしにしておくのはどうかと思うよ。』

女(…!?)

女『ふふ。リビング、玄関、洗面所、自室、これで、この家の中であなたが喋れる場所はほとんど無くなった。どう?『喋る自由』もない苦しみは?』

女(…っ。)




女『…な~んてねっ! ふふっ!ビックリした?』ニコッ

女(…! …やっぱり『この子』…)


女『まあ、オリジナルの『あなた』なら気付いてるか~。リビングや玄関に鏡を設置させたのは『私』と『あなた』の『喋り』を合わせるためってことに。』

女(…。)

女「さすがに元『主』でかつオリジナルの『あなた』でも、私と一字一句『喋り』を合わせることは出来ない。その『ずれ』によってお母さんたちが自我を持つことになってしまうかもしれないしね。だから、鏡を各所においてこっちから強制的に同じことを話させるために、そして『裏々の世界』のお母さんやお父さんに自我を持たせないためにリビングと玄関に鏡を置かせてもらったの。』

女(…確かに私が両親と会話をする場所はリビングと玄関ぐらいだもんね。)

女『…まあ、『裏の世界』や他の鏡の世界の人たちからしたら凄く迷惑かもしれない、それは本当にゴメン…』

女(…他の鏡の世界の人たち? もしかして他にも自我を持った私がいるっていうの!?というか、こんなに鏡の世界のことについて連発して言ったら、たとえ自我を持っていない『他の私』でもこれをきっかけに自我を持ってしまうんじゃ…!?)

女『…でも。』


女(…?)

女『…それでも、やっぱり私の本当のお母さんとお父さんは『裏々世界の2人』だから…。』

女(…! …やっぱり『この子』も『私』なんだ… …お母さんとお父さんが大好きなんだよね。 …でも、じゃあ何で…)

女『…じゃあ何で両親を放って、自分だけ抜け駆けしたの?…って思ってるでしょ?』

女(…!)

女『まあ、それだけはオリジナルのあなたには分からないだろうな~。いや、ちょっとは分かるかもしれないけど、根本からは理解できないと思うよ。今の時点じゃ。』

女(…今の時点?)

女『まあ、お話はここまで!…あ!さすがにこの部屋でも自由が無いのは鏡の世界のみんなに申し訳ないからカーテンはこれからはずっと閉めておきま~す!だから安心してね!』

女(…! でもそれじゃあ…)


女『…あっ!それと、もしこの部屋にお母さんが来ても、すぐに予備の鏡を出せるように準備しておくから安心してねオリジナルの私!それで会話がずれることは多分ないから!』

女(…お見通しかぁ…)

女『それじゃあね~!』

シャァーーッ

女「…! 口に自由が… でも口が自由になっても…」


女「…『話し相手』がいないんじゃなぁ…。」


----―――――――――――――――――――――――


―2012年/2月/16日/香川/ @ 1週目―――――――――――----


スタスタッ

女(…昨日はなんとか切り抜けられたけど今日からどうしよう…)

女「はぁ…」

オ~イ!!

女「ん?男の声?」

タタタッ

男「よ~、女。昨日はよく眠れたか?」


女「不安で眠れなかったわよ!!…って言いたいところだけど、ぐっすり眠れたわ。」

男「あはは、やっぱりそうか。」

女「こっちが頭の中で色々考え事してるのに、強制的に眠らされるのね…」

男「まあな。表の主が眠くなればそれが鏡の世界の住人にも連動するからな。」

女「やっぱりそうなんだ。」

男「…で、昨日家に帰ってからはどうだった?」

女「それが…」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「…なるほど。『裏々女』も気がきくじゃんか。」

女「まあ、そうなんだけどさ…」

男「まあ。そこまでしなくても大丈夫だと思うんだけどな。まあ、念には念をってことなんだろう。」

女「…?」

男「まあ、とは言っても、とりあえずいつも通りの自分でいけよ。」

女「でも、表の世界の自分と話を合わせるなんて難しいよ…。」

男「まあ、コツとしては『何も考えない』ことだな。考えすぎると逆に喋りづらくなる。それに、ちょっと、会話がずれたぐらいで自我は生まれないから安心しろ。」

女「…でも、例えば、『主』が『そこにあるペンを取って』って友達に言うとするじゃない?それに私が会話を合わせられなかったとしたら、その『裏々の友達』は私に何も言われてないのに『ペンを取る』という行動をとっちゃうんじゃないの?その『裏々の友達』は絶対にキョトンってなるよ。」

男「ああ。それは十分にあり得る。そうなった場合は、その後に『ごめん、ペンを取ってって言ったんだ~』とか言ってアフターフォローで頑張るしかない。」

女「アフターフォローって…」


男「だーかーら、あんまり考え過ぎんな。お前と裏々の女は『99%』同じなんだ。こう言うのも何だか変だが『自分』を信じろ、な?」

女「はあ…」

男「おっと、俺の教室は1階だし、そろそろお別れだな。そんじゃあな!」

女「あっ!男! …はあ、やっていけるのかな私…。あっ、そういえば、入れ替わりのもう一つの方法を男に聞くの忘れてた…。」

女「…もう嫌…。」

----―――――――――――――――――――――――


―2012年/2月/21日/香川/ @ 1週目―――――――----

【-女の自室-】

女(…この1週間、『主』と会話を合わせるってのは何とかやって来れた…)

女(…『裏々の私』も他人と喋るのを控えてくれてるみたいだし…)

女(…でも、結局あれからはろくに男と喋れてない…)

女(…学校の中でもあんまり会えないし、会えたとしてもうかつに鏡の世界のこととか学校の中で喋れないだろうし…

女(土日もお互い部活で会えなかったし…)

女(…そういえば、15日に『裏々の私と男』が『あんまり会わないでおこう』って言ってたなぁ…)(>>55)

女(携帯での連絡もメールだけだし…電話をしてさえくれれば…)

女(とにかく、明日で『あの入れ替わり』から1週間が経つのに…明日から入れ替わりが可能だっていうのに……どうしたら…)


女(…早く…)

女(…早く戻りたいのに…)

女(…早く表の世界に戻りたいのにっ!!)

prrrrrr prrrrrr

女(…!? 男から電話だ!!)

女(…でも鏡の世界で電話って繋がるのかな?)

女「…はい、もしもし」

男『あ、女か。』

女「…表にいる『裏々男』じゃないよね?」

男『はは。違うよ、こっちに今いる『オリジナルの男』だよ。』


女「…そっか、なら良かった。でも鏡の世界でも電話って繋がるんだね。」

男『まあな。いやあ、それにしても『裏々の俺』がお前に電話かけてくれて助かった。』

女「そうだね。…そういえば男の部屋には反射物はないの?」

男『ああ。反射物はないからこうやって喋れてるんだ。』

女「そっか。ラッキーだね。」

男『ははは、ラッキーだな確かに。…ところで、お前がこっちに来てから明日で1週間経つよな。』

女「…! …うん。」

男『この前言いそびれたもう一つの『入れ替わりの方法』を『あいつら』が電話を終えるまでに伝えておく。次、いつこうやって電話できたり、会えたりできるか分からないからな』

女「…そうだね。」

男『それじゃあ、言うぞ、もう一つの入れ替わりの方法は…』

女「…うん。」


男『…っと、その前に、女、お前、こっちに来てから反射物を見たことはあるよな?』

女「…はい? それがどうしたのよ、そんなことより早く入れ替わりの方法を教えてよ。時間ないでしょ?」

男『それを教えるために確認しないといけないんだよ。…で、見たことはあるよな』

女「…そりゃあるわよ、当たり前じゃない。毎日、洗面台の鏡の前で『あの子』が髪とかセットするんだし」

男『あはは、だろうな。それで、お前が反射物を見ていたその時、その目の前の反射物には『誰』が映っていたと思う?』

女「…誰がってそりゃあ今、『表の世界』にいる『裏々の私』じゃないの?」

男『…目の前の反射物の像は反転してるのにか?』

女「…! 確かに…反射物には反転した私の姿がいつも映ってる…じゃ、じゃあ誰なのあれは?」

男『それは『裏の世界』のお前だ』

女「え、裏の?」


男『ああ。実は、こっちの『裏々の世界』の反射物には裏の世界の像が映し出されていているんだ。』

女「そうなんだ…反射物には裏の世界の私が映っているってことは分かったけど、それが入れ替わりと何の関係が?」

男『…実は元々表の世界にいた、つまりオリジナルの人間には『特権』というものがある。』

女「特権?」

男『ああ、『オリジナルが表の世界以外にいる場合、反射物に対して念じれば、表の世界に近い世界へと移動できる』という『特権』がな。』

女「…それって!?」

男『ああ。つまり、鏡の前で念じるだけで俺たちは今より表の世界に近い世界、つまり『裏の世界』に行ける。』

女「でもそれも旧校舎とかの特別な鏡じゃないと出来ないんじゃないの?」

男「いや。これの場合はどんな反射物でも出来る。」


女「え!? それじゃあ、そこらへんにある鏡とかでも出来るってこと!?」

男「ああ。」

女「…そうなんだ。でも、裏の世界になんか行っても…」

男『…じゃあ、『裏の世界』の反射物にはどの世界が映り、どの世界に繋がっていると思う?』

女「…!? …もしかして!?」

男『ああ。『裏の世界』の反射物には『表の世界』が映り、そして繋がってもいるんだ。』

女「…じゃあ、裏の世界に行って、1週間待ってから鏡に念じたら…」

男『ああ。表の世界に帰れる。つまり裏々→裏→表と、一方通行ではあるが反射物を通して移動できる『特権』を俺たちオリジナルは持っているってわけだ。』

女「…でも何でオリジナルにはそんな『特権』が?」

男『おそらく、『世界を元に戻そうとする外的な力』が働いているからだな。』

女「…がい…てき?」


男『俺たちオリジナルはこの『鏡の世界』にとってはイレギュラーな存在だ。だからこそ、そのイレギュラーな存在を出来るだけ迅速に表の世界に戻そうと外的な力が働いてるのかもしれない。そして、そのイレギュラーな存在を表の世界に戻すための一つの手段としてこの『特権』が生まれたんだろう。まあ、これはあくまで俺の推論だ。』

女「…なるほどね…でも、この方法なら合わせ鏡とかのややこしい条件を揃えなくても簡単に表の世界に戻れるってことだよね?」

男『ああ。だから言ったろ?簡単だって。』

女「ほんと!すごい簡単!じゃあ、早速明日しないとね!!」

男『待って女、でも実はこれには問題もあr…』

ピッ

女「…あっ、切れた…タイミング悪すぎ…。男、最期に何を言いかけたんだろ。聞き取れなかったな…まあ明日聞けばいっか!」

女「でもこの方法なら早くて来週の29日には表の世界に帰れるってことだよね!」

女「な~んだ、そんなに悲観する必要もなかったじゃない、ふふ。」

----―――――――――――――――――――――――


―2012年/2月/21日/香川/ @ 1週目―――――――----

【-教室-】

女(今日も登校中に男に会えなかったなぁ…)

女(昨日の話の続きを聞きたかったんだけど…)

女(…え~っと、確か1週間前はエレベーターの中で9時50分ぐらいに入れ替わったんだよね…)

女(その時間は授業中か~、今は9時。10時30分からの2時間目後の休み時間にトイレに行ってくれればすぐにでも出来るのに…)

----―――――――――――――――――――――――


―2012年/2月/22日/香川/ @ 2週目――――――――----

ジャー

女(ふ~…)

女(よし、私が望んだ通り2時間目後の休み時間にトイレに来てくれた。)

女(あとは、洗面台の鏡の前に立ったときに…)

女(…男には結局言って無いけどいいよね。)

女(…男も多分後から来るだろうし。)

女(…ん?でも何で男はこの3週間『特権』を使わなかったんだろ…それに、男、昨日の電話の最後に何か言いかけてたな…)

スタスタッ

キィーーーーーン

女(…!? そろそろ鏡に映るみたい!)


女(…よし!鏡の前に立った!あとはこの鏡に向かって念じるだけ!)

女(…でも、ちょっと不安になってきた。やっぱり、男ともう一度話してから…でも出来るだけ早く戻りたいし…)

女『…ふふ。ちょうどあれから1週間経つね。『特権』を使うのかな?オリジナルの私は?』ニヤッ

女(…!? 完全に見透かされてる!? …でも、この自信は何? 『自分』はもしかしたらあと1週間後には『主』じゃなくなるかもしれないっていうのに!?)

女『でも、やっぱり、ビビってるんだろうな~、何せ『私』なんだから。ふふ。』

女(…っ! …ビビってなんかないわよ!!)

女(…いいわ…やってやるわよ!!私は『あなた』と違うんだってところを見せてやるんだからっ!!)

女(鏡よ…)

女(私を…)



女(私を『裏の世界』へ……!!)


フッ


………
………………
----――――――――――――――――――【起】――


―【鏡の世界でのルール(no.1)】―――――――――----

● 体について
① 体の自由はほとんど効かない。表の世界にいる『主』が絶対的な存在であり、その『主』の行動が鏡の世界の住人にも反映される。(>>57)
② 表の世界で『行動権』を持つ者を『主』、表の世界で生まれ育った者を『オリジナル』という。(>>81)
③ 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感は働く。(>>93)
④ 鏡の世界では『考えること』と『喋ること』が出来る。(>>58)
⑤ 鏡やガラスといった光を反射させるもの(反射物)に表の世界の『主』が映っている場合は鏡の世界の住人は『喋ること』が出来なくなる。『考えること』は可。(>>59)
⑥ 『主』が反射物に映っている時は『主』の『喋る』内容が鏡の住人にも反映される。(>>59)
⑦ 飲食時は反射物に映っていない時でも、表の世界の『主』の口の動きと同化する。(>>93)
⑧ 反射物に、自分の像が映し出されるその5秒前に、脳に合図が走り、『喋ること』ができなくなる。ただし、これは自我を持った人間のみに起きる現象である。(>>60)

● 自我について
① 鏡の世界の人間が自我を持つためには、鏡の世界の人間自身が『鏡の世界の人間』だと自覚する必要がある。(>>76)
② 自我を持つことによって鏡の世界の住人は『考えること』と『喋ること』が出来るようになる。(>>76)

④ 鏡の世界の住人が自我を持つためには『他に自我を持った人間から鏡の世界についてを教えてもらう』もしくは『表の世界のオリジナルが鏡の世界のことの存在を知る』必要がある。(>>80)

----―――――――――――――――――――――――


―【鏡の世界でのルール(no.2)】――――――――----

● 鏡の世界の特徴について
① 鏡の世界は半永久的に存在する。(>>53)
② 鏡の世界は、裏の世界、裏々の世界、裏々々の世界と、表の世界から遠ざかっていくにつれて、明度が小さくなっていく。(>>54)
③  
④  



● 入れ替わりについて
① オリジナルが表の世界以外にいる場合、反射物に対して念じれば、表の世界に近い層へと移動できる。(『特権』による入れ替わり)(>>124)
② 2枚での合わせ鏡の状態を創り出した時、表の世界と裏々の世界の人間が入れ替わりを起こすことが出来る。(合わせ鏡による入れ替わり)(>>48)
③ 入れ替わるのは、あくまで『意識』のみであり、肉体はそのままである。(>>49)

⑤ 入れ替わりは連続して行うことが出来ず、1週間のブランクを必要とする。(>>96)
⑥ 入れ替わりにはどちらかにその『意志』があることが必要となる。(>>51)
⑦ 入れ替わりは閏年の一時期に行える。(2012年は3月21日まで)(>>50)
----―――――――――――――――――――――――



―【鏡の世界でのルール(no.3)】―――――――――――----






● ○○○○○○○○○○○○○○


③  
④  






○○ ○○○○○ ○○ ○○○○○○○ ○○○ ○○○…
----―――――――――――――――――――――――


起編、終了です。
編が終わるごとに上のようにそれまでに出てきたルールなどをまとめたものを載せます。どうぞ、参考程度に。

では、また、来ます。

乙!
嫌な予感しかしねぇwww

すみません、レスが欲しくて自演してしまいました。
もう消えます!!!!


―2012年/2月/22日/香川/ @ 2週目―――――――----

?『私の事は気にしないで…』

………………
………


【-裏の世界-】

女(…!? …意識が戻った。)

女(…!? すごい!本当に反転してる!)

女(…それに裏々の世界よりも明るい!)

女(…よし、とりあえず、私はこっちにこれた。とりあえず男に一度会わないと…)

女(…それにしても…)

女(…さっきの声ってもしかして…)

キンコンカンコーン

女(…っと、チャイムだ。教室に戻らないと…3時間目は物理だっけ…)

スタスタスタッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

【-教室-】

女(…ヤバい…。文字が全部反転してるから混乱する…。)

女(…思ってた以上にキツいねこれ…授業の内容、ほとんど頭に入ってこないや…)

女(…それにしても、今日の物理の先生、すごいエネルギッシュだなあ…いつもはクールな感じの先生なのに…)

物理「…ってわけだからここの法則は絶対に頭に叩き込んどけよ~、いいな~?」

モブ男「せんせぇ~、こんな授業しなくても『オリジナル』の自分が勝手に覚えてくれるんだからいいじゃないですか~。」

女(…? 今、『オリジナル』って言った? 何でモブ男君がそんなことを?)

女(それに、モブ男君っていつもおとなしい感じの人で、先生とかにタメ口なんてきかないのに…)


先生「まあそう言うなってモブ男。俺も一応これが仕事なんだし。それに、ずっとぼ~ってしてても暇だろ?」

モブ男「はは、違いないや。」

アハハハハ

女(…!? みんな、今の2人の会話に違和感を感じてない!?何で!?)

女(それにみんな『口』だけ笑ってる…)

女(もしかして…)

女(もしかしてみんな…)

女(…自我を…持っているっていうの!?)

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

【-昼休み-】

スタスタスタッ

女(…3時間目、4時間目とみんなの様子を見てたけど、やっぱりあれは自我を持っているとしか考えられない…)

女(…誰かに、理由を聞いてみた方が…)

女(…でも、もしそれで自我を持っていなくて、私が自我とかの事を聞く事が、彼らに自我を持たせるきっかけになるかもしれないし…)

女(…だけど、どう考えたってあれは…)

女(…それにみんなの性格も何だかおかしい。いつもおとなしい人がすごいやんちゃで、逆にいつもやんちゃな人がおとなしく…)

女(…まるで…性格が…)

女(…反転してしまったような…)

女(…それにしても、お弁当忘れるなんて最悪。『裏々の私』が寝坊なんてするから…)

女(…はあ…購買にパンまだ残ってるかなあ)


スタスタッ

女(…ん?あれは…男だ!体操服を着ているってことは体育の後なのかな?)

女「男ー!!」

男「…!? …僕の事を呼び捨て? …もしかして」

女「男!私こっちに来れたよ!でも、色々大変だね裏の世界って。」

男「…君は…もしかしてオリジナルの女か?」

女「!? …え、もしかして、あなた…」

男「…僕は」

男「…この裏の世界の男だよ。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----
(以下『男』→『裏男』に名称変更)

女「!? …え、それじゃあまだ男、こっちに来て…」

裏男「…はあ。何てことだ。『彼女』が言ってたことが本当だったなんて…」

女「…彼女?」

裏男「…君はオリジナルの女で、裏々の世界から『特権』を使ってこの『裏の世界』に来た…ってことでいいよね?」

女「え…う、うん。」

裏男「はぁ…やっぱりそうか…先週から『もしかしたら入れ替わるかもしれない』とは言ってたけど…今、裏々の世界にいる『僕』は何してるんだよ…この子に『特権』を使わせるなんて…」

女「え、え…ど、どういうこと…?」

裏男「…君、こっちに来たのはいつだい?」

女「…2時間目の後の…休み時間…。」


裏男「…そうか。…それで、入れ替わったときに彼女は何て言ってた?」

女「…え?彼女? …誰、彼女って…」

裏男「…この『裏の世界』に元々いた『裏の女』のことだよ。」

女「…!? …じゃあ、あの時の声って…」(>>140)

裏男「…で、何て言ってか覚えてるかい?」

女「…え、うん。『私の事は気にしないで』…って。」

裏男「…!! …あの子は…全くどうしていつも…。」

女「…男?」

裏男「…僕の事は『裏男』って呼んでくれていい。そっちの方が君も区別しやすいだろ。そして、僕も君の事を『表女さん』って呼ばせてもらう。」

女「…!? …わ、分かった。」


裏男「…そろそろ表の世界の二人の会話も終わりそうだから、最後にこれだけは言っておくよ。」

女「…?」



裏男「僕は君の事が嫌いだ。」

女「…え?」

裏男「それじゃあね。」スタスタッ

女「…嫌いって…あっ、待って男!!」

男「…。」スタスタッ



女「…どういうことよ、男…」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

【-体育館-】

女「はあはあ」ダンダンッ

部員1「女!こっち!」

女「…っ!はいッ!」シュッ

部員1「ナイスパス!」パスッ

ダンダンダンッ

女(…っ!左側のモブ部員2のマークが薄い!)

女「部員1!左にパス!」

部員1「へ?」シュッ

部員2「ナイス!部員1!」パスッ

部員2「ほいっ」シュッ

パスンッ

ナイッシュー!!

ピーッ ゼンハンシューリョー


女「ふう…」

部員1「女~」

女「ん?何モブ部員1?」

部員1「あんた、さっきのプレーで何で『左』って言ったの?」

女「…へ? …っ!」

女(…あっ…そうか…。『こっち』は反転してるんだから、『左』の場合は『右』って言わないといけないのか…)

女(今の場面、『表の世界』ではモブ部員2は『右』にいたんだ。でも『裏の世界』では反転してるから『左』にいた。だから、私からはさっき『左』って言ったけど、裏の世界の人達にとっての『左』は私にとっての『右』であって、あの場面じゃ『右』って言わないといけなかったんだ…ここはとりあえず誤摩化さないと…)

部員1「…女?」

女「…はは、ちょっと間違えちゃって…」


部員1「そう…。まあ、『表の私』がちゃんと『右』にパスしてくれたから別に良かったんだけどね~。」

女(…『表の私』ってことは、やっぱりモブ部員1も自我を…)

部員1「それにあんた、プレー中でも絶対に誰にでも『さん付け』するのにさっきは呼び捨てだったし…」

女(…『さん付け』…?)

部員1「…もしかしてあんた…」



部員1「…オリジナル?」

女「…っ!?」

女(ばれた!? …ん? でも、別にバレたところで何のデメリットも…よし、こうなったら…)

女「…あ、あのね…じ、実は…」



部員1「…な~んてね、オリジナルがここにいるわけないか!」


女「…っ!」

部員「冗談だよ冗談!まあ、本当にあんたがオリジナルなら『引っ叩いてやりたい』ところだけど…あ、でも体の自由は効かないから無理か!あはは!」

女「…っ!?」

部員1「さあ、そろそろ後半も始まるし、行こうか!」

女「…うん。」

タッタッタッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

【-女の自室-】

女「…はぁ。」

女(…『引っ叩いてやりたい』…か。)

女(…裏男にも『君の事が嫌いだ』って言われたし…。)

女(…こっちじゃ『オリジナルの私』は嫌われているのかな…)

女(…でも、何で嫌われているんだろう…)

女(…それに、やっぱり、みんなの『性格』がおかしい…)

女(…あと、裏男も自分の事を『僕』って言って…いつもは『俺』なのに…)

女(…そもそも何でみんな自我を持ってるのよ…)

女(…もう何が何だか…)


prrrrrr prrrrrr

女(…っ!? …男からの電話だ!)

女(…もう、男こっちに来てるかな? でも、もしまだ裏男だったら気まずいなぁ…)

ピッ

女「…もしもし。」

裏男「…表女さんかい?」

女(…!? …『表女さん』ってことは裏男…)

女「…うん。…裏男…だよね?」

裏男『うん。本当は君のことは嫌いだから喋りたくないんだけど、表の『主』が今、君に電話してるから仕方なく僕も今こうやって喋っている次第だよ。』

女(…何なのよコイツ。そんな、堂々と『嫌い』って言わなくてもいいじゃない…でも、今はコイツから色々と聞き出さなきゃ…)


女「…ねぇ、裏男。私こっちに来てから分からないことばかりで…だから色々と教えてくれない…かな?」

裏男『…『色々』ねぇ…まあ、いいよ。どうせ今暇だから教えてあげる。』

女(…『どうせ今暇』とかいちいち一言多いし、ムカつくのよコイツ…)

裏男『…でもその前に、僕から質問をさせてくれ。』

女「…? …な、なに?」

裏男『…君は何でこの『裏の世界』に来たんだ?』

女「何でって…それは『表の世界』に戻るために…」

裏男『…裏々の世界にいる僕は君に、君にその入れ替わり方法を教えた後に言わなかったかい?『特権』による入れ替わりによる問題点についてを。』

女「…問題? 問題なんて… …っ!」

―――――――――――――――――――――――----
男『待って女、でも実はこれには問題もあr…』
----――――――――――――――【回想】(>>126)――

女「…そうだ…あの時…。」

裏男『…どうやら訳ありのようだね…』

女「…実は…」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

裏男『…成る程。…で、君は裏々の世界にいる僕からのその『問題』を聞かず、そして表の『主』からの挑発に乗って『特権』による入れ替わりをしてしまった…と。』

女「…うん。…じゃあオリジナルの男も『問題』があるって分かってからこの3週間、『特権』を使わなかったんだ…」

裏男『…オリジナルの男? 今、裏々の世界には『オリジナルの僕』がいるのかい?』

女「…? そうだよ、私も男も裏々の世界に押し込まちゃって…」

裏男『…君だけじゃなく『オリジナルの男』も?』

女「うん。え? 3週間前に旧校舎で合わせ鏡をして入れ替わったんじゃないの?」

裏男『…! …そういえば、旧校舎で合わせ鏡をしたな。やっぱりあれで入れ替わっていたのか。』

女「…みたいだよ。 …でも、その問題って何なの?」


裏男『…なあ、表女さん。…君がこっちに来たことで、『元々こっちにいた女』はどうなったと思う?』

女「…『裏の私』のこと?」

裏男『ああ。彼女は君との入れ替わりによって裏々の世界へと飛ばされてしまったんだ。それを分かっているのかい?』

女「…あっ。」

裏男『裏々の世界はこの裏の世界よりも明度が低い、そして反転している。』

女「…反転?」

裏男『僕らにとってはこの裏の世界が『基準』なんだ。僕らからしたら表や裏々の世界は反転した世界なんだよ。』

女「…あ、そうか…」

裏男『…君も今日1日苦労したはずだ。本来とは『逆』なこの世界に。』

女「…うん。」

裏男『そして、君はこのまま1週間経って、再び『特権』を使えば、表の世界に戻れる。でもね、『彼女』は今後一生『裏々の世界』で生きていかなくちゃいけないんだよ。』

女「…っ!」

裏男『僕らはこっちで平和に暮らしていたのに…君たちの『いざこざ』に巻き込まれてしまったがために…』

女「…そんな…でも私だって…」


裏男『…『私だって被害者だ』とでも言いたいのかい? まあ、君も確かに『被害者側』であることは間違いない。でもね、何の関係もない『裏女』を巻き込んでしまった君も僕らからしたら、裏々の女と同じ『加害者側』なんだよ。』

女「それは…」

裏男『そもそも、オリジナルの僕からその『問題』を聞かなくても、『入れ替わり』なんだから『裏女』が『裏々の世界』に飛ばされることぐらい普通気づくだろ?それを君は『早く表の世界に戻りたい』という自分勝手な欲求を優先させて…。』

女「…。」

裏男『…ほんと…相変わらず、早とちりで、傲慢で、自己中心的な性格だな君は…。まあ、そのおかげで裏女は謙虚で心やさしい女の子だったんだけど…』

女『…え? …それってどういうこと?』

裏男『…どうせ、オリジナルの僕から『裏の世界』についての話を聞いてないんだろう?』

女「…うん。ここ最近喋れる時間がなかったから…」

裏男『まあね。先週のデートの日と昨日の電話の時しかろくに話す時間がなかったからね。仕方ないか。それじゃ、教えてあげるよ、この世界について。』

女「…ごめん、おねがい。」


裏男『オッケー。と言ってもまあ、『裏の世界』と『裏々の世界』との違いは3つだけなんだけどね。』

女「3つ?」

裏男『1つ目は、『明度の違い』だ。』

女「あ、それは分かる。こっちの方が裏々の世界よりも明るい。」

裏男『うん。まあ、裏の世界の方が表の世界に近いからね。だから明るいんだ。』

女「みたいだね。」

裏男『2つ目は『自我』を持っているかどうかだ。』

女「…!」

裏男『オリジナルの僕から『自我』についての説明は軽く受けたかい?』

女「うん。…でも、こっちに来てびっくりした…こっちではみんな自我を持っているの?」

裏男『…やはり『自我』については全部聞いてないみたいだね。…ああ。こっちの『裏の世界』では…というか『偶数世界』の人間はほぼ全員が自我を持っているんだ。』

女「偶数…世界?」


裏男『何だ、それもまだ教えて貰ってないのかい?まあいいや、教えるよ。『表の世界』を含める全ての世界は『奇数世界』と『偶数世界』に分けられているんだ。』

女「奇数と偶数…」

裏男『ああ。表の世界を『1』と基準して、裏々、裏々々々、裏々々々々々、といった奇数番目の世界は、『奇数』の世界と定義される。』

裏男『また、裏の世界を『2』と基準して、裏々々、裏々々々々、裏々々々々々々、といった偶数番目の世界は、『偶数』の世界と定義され、これらの世界では、君たちに奇数世界の人間にとっては全てのモノが反転して見える。』

女「そうなんだ…じゃあ、その『偶数世界』の人達はみんな『自我』を持っているってこと?」

裏男『その通り。』

女「…でも、何でその偶数世界ではみんなが『自我』を持ててるの?」

裏男『それは偶数世界の『特性』の影響だね。『偶数世界』では君たちオリジナルの人間がすむ『表の世界』からしたら『目に見えるモノ』が全て反転している。でも、偶数世界では反転しているのは『目に見えるモノ』だけじゃない。『性格』も反転しているんだ。』

女「…!? そう…やっぱり性格も…」


裏男『おや、性格が反転していることには気づいてたのかい?』

女「うん。みんないつもと違うし…」

裏男『まあ、オリジナルの君からしたら違和感ありまくりだろうね。そりゃ気付くか。てか気づかなかったら相当のバカだね。』

女(…何でコイツはこんなムカつく口の聞き方しかできないのよ… …んっ?)

女「…でも、『性格が反転していること』と『偶数世界の人がみんな自我を持てること』と何の関係があるの?」

裏男『関係ありまくりだよ。性格が反転していることによって、自分がオリジナルの自分とは違う存在なんだってことに気付けるからね。』

女「…? よくわかんない…。」

裏男『人間は生まれてすぐ『性格』が形成されるわけではない。日々の成長の中で徐々に徐々に形成されて行くんだ。その形成の過程で偶数世界の人間は、オリジナルの自分とは真逆の性格が形成されていく。そして、いつの日か気付くんだ。『何かがおかしい』と。』

女「…。」

裏男『その『おかしい』と思った時点で鏡の世界の住人にはもう『自我』が生まれているんだ。そして、その時から『脳』と『口』の自由を得るってこと。分かったかい?』

女「う~ん…まあなんとか。」


裏男『まあ、でも他の偶数世界は知らないけど、実はこの『裏の世界』では幼い頃に保護者から自分がそのことを教えてもらって徐々に理解していくってのが慣習としてあるんだ。だから、みんな幼い頃から、自分がオリジナルではないこと、性格が反転する事を保護者から教えてもらって理解しているし、それを承知した上で成長して行くんだ。まあ、無理矢理オリジナルの自分と性格を矯正しようとする人も稀にいるけどね。まあ、ということで、この『明度』と『自我』、『性格』の3つがその違いだ。』

女「…へえ。…でも、そんな慣習がこの裏の世界にはあるんだ。」

裏男『そうだよ。ずっと、ず~っと昔から口伝いで伝えられてきたんだ。確かにこっちは『口』と『脳』しか自由がない。でも、それでも、この『裏の世界』にしかない慣習だってあるし、コミュニティだってある。』

女「…そう。…ん? …でも、ちょっと待って。幼い頃からそうやって『自我』を持っているってことは分かったんだけど、そうやって幼い頃から『自我』を持ってしまったら反射物がないところで口伝いに身につけた『知識』にばらつきや差が生まれてしまうんじゃないの?」

裏男『お、鋭いじゃないか表女さん。そう、『自我』を持ってしまったら鏡の世界の住人は反射物のないところでの『主』たちの会話などがさっぱり分からなくなってしまう。そして、それによって身に付く知識とか記憶も『主』とは全く違ったものになってしまう…って普通思うよね?でも、実は、その心配は全くないんだ。』

女「…え、何で?」

裏男『何故なら『自我』を持った鏡の世界の住人は『主が反射物に映るごとに、主が新しく所得した知識や記憶が共有される』からね。』

女「…知識と記憶の共有?」


裏男『ああ。例えばとある人物『a』の『主』が反射物がないところで『魑魅魍魎』という四字熟語の読み方をとある人物『b』から『口伝い』で覚えたとしよう。『口伝い』だとそれは『視覚的』な情報じゃなく『音』による情報になるから『自我』を持った鏡の世界の人間は知ることが出来ないよね?』

女「うん。」

裏男『でも、その後に『a』の『主』が反射物に映った瞬間、その『主』がさっき覚えた『魑魅魍魎』についての読み方の『ちみもうりょう』という知識はもちろんのこと、その反射物に映るまでの表の世界での『b』との会話の記憶が一字一句全て、『自我』を持った鏡の世界の『a』に共有されるんだ。』

女「…なるほど。じゃあ、あなたも反射物に映るごとに…?」

裏男『ああ。僕の場合、今、表の世界にいる『裏々男』の『新しい記憶』が反射物に映るたびに頭の中に流れ込んで来る。』

女「そうなんだ。…ん?ちょっとまって!私が反射物に映っても今の『主』の『裏々女』の記憶が共有されてないよ。」

裏男『それは君がオリジナルだからだ。』

女『オリジナル…だから?』


裏男『オリジナルは本来、こっちの世界にいてはならないイレギュラーな存在だろ?だから、鏡の世界からしたらとっとと『表の世界』に帰ってほしいわけだ。だから、オリジナルには記憶の共有の権利を与えず、それによって焦らせ、早く表の世界に帰りたいと思わせるのが狙いだ。…っていうのが『僕のオリジナル』の考え。まあ、こればっかりはこの鏡の世界の創造主にでも聞かないと分からないよ。』

女「そっか…」

裏男『まあ、だから君の行動は正しいっちゃ正しいんだよ。オリジナルが早く表の世界に戻るための行動としては。』

女「…。」

裏男『でも、『奇数世界』同士でのいざこざをこっちにまで持ち込まないで欲しいっていうのが僕たち裏の世界の住人の本音。僕たちは何も悪い事してないんだぜ?なのにオリジナルのせいで裏々の世界に飛ばされるかもしれないっていう理不尽な立場にいるんだ。』

女「…。」

裏男『現に裏女は君たちのせいで裏々の世界に飛ばされてしまった。裏々の世界はこっちよりも暗いし反転もしているってことはもちろんのこと、周りがほとんど『自我』をもっていない。そんな環境で彼女は今後一生、生きていかないといけないんだぞ。その罪の重さを理解しているのか君は?』

女「…。」

裏男『まあ、いいよなー、君は。来週にまた『特権』を使えば表の世界に戻れるんだし。ほんっと不平等だよ…。』

女「…も、元の…裏々の世界に戻る方法はないの?」


裏男『ん?何だ?今頃、罪の意識を感じたのか?『残念』だけど無いね。『特権』はあくまで『表の世界』に戻るための方法だし、『逆行』することなんて出来やしない。』

女「そんな…」

裏男『まあ、もし裏々の世界に戻る方法があったとしても君はどうせ使わないだろ?何せ君は自己中心的な人間なんだし、とっとと表の世界に帰りたいってのが本音なんだろ?』

女「…ち、違うわよ!!」

裏男『いいや、違わなくないね。君の性格は十二分に理解している。『君の性格』に対して悩んでた裏女とこれまでずっと一緒にいたんだから、それぐらい分かる。』

女「…悩んで…た?」

裏男『…裏女はいつも悩んでた。君の傲慢で常に自分を優先させるようなその性格に。』

女「…?」

裏男『君、表の世界でオリジナルの僕に告白したらしいけど、その際に他にもオリジナルの僕のことを好きだった他の女の子たちのことを覚えているかい?』

女「…!?」


裏男『その中の一人から相談されたらしいじゃないか?『男くんに告白したいから手伝って』って。でも、君はそこで困ったわけだ。何故なら君もオリジナルの僕のことが好きだったからね。』(>>19)

女「…。」

裏男『君はそのとき、自分がオリジナルの僕の事を好きだという事を誰にも話さずにいた。まあ、それによって、その女の子からしたら君は『男くんと仲の一番いい存在』だと思われたから相談されたんだろうけど。』

女「…。」

裏男『さあ、困った表女さんは考えた。もしこの子が私よりも先にオリジナルの僕に告白し、そして付き合ったらどうしよう…と。そして、君が悩んだあげくとった行動は…』

女「…。」

裏男『…まあ、君もある程度自覚しているようだからそのことについては今、とやかく言わないけどさ。とにかく、そういった君の性格に彼女は悩んでた。彼女は君の性格の反対なんだから『謙虚』で『思いやり』のある優しい子なんだ。そんな子がオリジナルのそんな『行為』を目の当たりにしたらどうなると思う?』

女「…。」

裏男『しかも彼女は『そんな君』に対しても入れ替わりのときに『気にしないで』と言ってみせた。自己犠牲を惜しまない姿勢を彼女は見せただろ?』

女「…。」


裏男『そんな心優しい子をこの僕から…いやこの裏の世界から君は奪った。だから僕は君の事が大嫌いなんだよ。』

女「…。」

裏男『…おっと、そろそろ電話を『主』たちが切るみたい。それじゃあね、『表女さん』。』

女「…あっ。」

ピッ

女「…。」

女(…はは。言われっぱなしだったな私…。)

女(…あそこまで…あそこまで言わなくたって…)

女(…でも、裏男の言う通り、私のせいで『裏女ちゃん』が…)

女(…今、裏々の世界にいる男も、『こうなること』が分かってたから『特権』を使わずにいたのかな…)

女(…1週間後にまた『特権』を使えば、私は表の世界に戻れるけど…)

女(…でも、男に何も言わず一人で表の世界に行くのは…それに…裏女ちゃんのことも考えると…)

女(…私…どうしたらいいの…)

----―――――――――――――――――――――――


―2012年/2月/24日/香川/ @ 2週目―――――――----

【-登校中―】

スタスタッ

女(…この『裏の世界』に来て2日が経った。)

女(…あの電話以来、裏男とは会ってもないし、電話で喋ってもない。)

女(…そして、私は未だに周りに自分がオリジナルだって事をカミングアウトしていない。裏男も黙っててくれてるみたい…。)

女(…もしカミングアウトしてしまったら、すごく責められるだろうし…)

女(…って、何考えてるのよ、私。)

女(『責められる』のが恐いからカミングアウトしない? …やっぱり私は自分が可愛いだけじゃない!!)

女(…これじゃあ、裏男に傲慢だとか自己中心的だとか言われても仕方ないや…)

女(…はあ…)

スタスタッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

【-4時間目-】

ココモオボエトケヨー

女(…ん~、まだ反転した文字に慣れないや。)

女(…というか一生無理な気がする。)

女(…裏女ちゃんも今、裏々の世界で私と同じように反転した世界に苦しんでるんだろうな…いや、私以上に…)

女(…男、ちゃんとフォローしてあげてるかな…。)

キィーーーーンッ

女(…ん?耳鳴り?でも、教室には反射物なんか…窓のカーテンもしまってるし…)


物理『…え~っとですね。実は思った以上に授業の進行ペースが早くてですね。今日の残り時間は息抜きがてらにちょっとしたお遊びをしたいと思います。そのお遊びとは…これです。』コトッ

女(物理の先生の口調が『いつもの』に戻ってる…? …それに、あれは…?)

センセー ナンデスカーソレー

物理『はい、説明しますね。これは…』



物理『魔法鏡(マジックミラー)です。』



女(………マジック……ミラー?)

----―――――――――――――――――――――――


ついに書き溜めが…
また、来ます。



一回表に戻った後で合わせ鏡を使ってまた裏々→裏→表って行けば元通りじゃね?
裏女には3週間ツライ思いをさせるが

>>171
それは不可能なんです。
その理由は明後日の投下分で判りますので。


―――――――――――――――――――――――----

物理『魔法鏡とは、片方が鏡で、片方が窓ガラスになっているもののことです。』

物理『魔法鏡は映画やドラマ等でよく使われています。例えば、取調室の壁が魔法鏡で、隣の部屋からその取調室の中の様子を他の刑事さん等が観察している場面とかありますよね。なので皆さんも少しはマジックミラーとうものをそういった映像を通じて見た事があると思います。』

物理『…ですが、以外と魔法鏡について皆さん『ちゃんと』は理解してないと思うので、今日はこの残り時間で、色々と実験をしながら魔法鏡について学んで行きたいと思います。』

物理『魔法鏡は、入射した光の一部を『反射』し、一部を『透過』させる性質を持っています。これは皆さんご存知ですよね?じゃあ、ここで問題です。魔法鏡には『裏表』が存在するでしょうか?』

ソリャー、ソンザイスルンジャナインデスカー

物理『…と思いますよね、普通。…でも、実は魔法鏡には『裏表』が存在しないんです。』

女(…?)


エー ナンデデスカー

物理『何故なら魔法鏡は『光量の差によって光を反射する面が変わるから』です。』

女(…光量…?)

物理『魔法鏡を明るい部屋と暗い部屋の間に置いたとしましょう。すると、明るい側からの光の一部が反射することによりそちらからは『鏡』に見え、暗い側からは『半透明な窓』に見えるんです。』

物理『そして、次は魔法鏡の面の向きは変えずに、先ほど明るかった部屋を『暗く』、そして先程暗かった部屋を『明るく』します。そうすると、先程と同じように明るい部屋ではその魔法鏡は『鏡』に見え、暗い部屋では『半透明な窓』に見えるんです。』

物理『まあ、構造上では『裏表』が一応あるにはあるのですが、基本、魔法鏡は光の量を調節する事によって光を『反射する面』と『透過する面』を変えることができるんです。』

ヘー、シラナカッター

物理『だと思います。魔法鏡について誤解したままの人がほとんどだと思いますので。まあ、夜の窓ガラスと同じ原理です。』

ヨルノマドガラス?

物理『はい。例えば、夜に部屋の電気が付いた家があるとします。外からは窓ガラス越しに部屋の中がよく見えますよね。一方、部屋の中から窓ガラス越しに外の景色は光が反射して見にくいっていう経験を皆さん一度はしたことがあるはずです。』

女(…あ、1週間前の私の部屋での状況のようなことかな…)(>>112)


物理『そして、この魔法鏡(マジックミラー)という『名前』についてですが、日本ではこの『magic mirror』の名前で定着しているのですが、これはあくまで和製英語なんです。正しい英訳は『one-way mirror』といいます。』

モブ男『でも、先生。それだと『一本道の鏡』って意味になりませんか?』

物理『そうなんです。今現在、確かにこの魔法鏡は『one-way mirror』と呼ばれることが比較的に多いですし、辞書にもこう書いているのですが、モブ男君の言う通り、これだと『一本道の鏡』になってしまいます。なので、この英訳は『厳密』には間違いなんです。』

物理『何かしらの誤解があって『one-way mirror』という名前が付いたという風に聞いています。そして、魔法鏡の本当に正しい英訳は『two-way mirror』といいます。『two-way mirror』…つまり『二つの道がある鏡』という意味ですね。』

女(…!? …二つの…道…。)

物理『もう皆さん分かってくれていると思いますが、『一つ目の道』は『反射』のことです。そして、『二つ目の道』は『透過』のことを指しています。『反射』と『透過』…はたから見たら全く『逆』の現象ですが、それを二つとも起こす性質を持ったもの、それが『魔法鏡』なんですね。それでは今からこの魔法鏡を使って実験を…』

女(…『魔法鏡』…『二つの道を持つ鏡』…)

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―――――――――――――――――――――――----

【-女の自室-】

prrrrrr prrrrrr

裏男『もしもし…』

女「あ、裏男?…ごめんね、私の『主』があなたの『主』に電話をかけたみたいで…」

裏男『みたいだね…まあ、そろそろ電話が来る頃だと思ってたよ。』

女「そう…」

裏男『ちなみに僕から君に『裏の世界』についてで教えられることは前回の電話でほとんど伝えたからね。それでも聞きたい事があるのなら聞いてあげてもいいけど。』

女「…じゃ、ちょっと聞きたい事があるから聞いてもいいかな?」

裏男『何だい?』

女「あのね…魔法鏡で『特権』による入れ替わりをしたらどうなるの?」

裏男『…魔法…鏡?』

女「うん。今日、物理の授業で先生が魔法鏡について紹介してくれて…」

裏男『……ふぅん。』


女「魔法鏡って『反射』と『透過』の『逆の性質』をあわせ持っているらしくて、それに魔法鏡を英語に直すと『two-way mirror』…『二つの道を持つ鏡』だって意味らしくて…それで、もしかしたら…」

裏男『…『裏々の世界に行けるのではないかと考えた』…ってことかい?』

女「…うん。 …無理…かな?」

裏男『…魔法鏡と『特権』の応用か…考えた事もなかった。』

女「…。」

裏男『…ん、待って。表女、君、さっき『逆の性質』って言ったかい?』

女「…え、うん。…先生が言ってた事をまんま引用しただけだけど…」

裏男『…『逆の性質』…『二つの道』…それに…っ!!』

女「…裏男?」

裏男『…表女さん!次の物理の授業でも先生は魔法鏡を持ってくるって言ってたかい!?』

女「…え、うん。…結局、実験が最後まで終わらなかったから、次の授業の冒頭でやります…って。」

裏男『…次の物理の授業日はいつだい!?』


女「え?…えっ~と確か…あ、次の水曜日の3時間目だよ。」

裏男『…水曜…日…。』

女「うん。一昨日、入れ替わった後が物理だったからよく覚えてる。」(>>140)

裏男『…っ! …来週の…来週の水曜日って何日だい!?』

女「…何日?…え~っと、一昨日が22日だったから…」

女「…『29日』じゃないの?」


裏男『…っ!?』


女「…裏男…? 」





裏男『…………『閏日』だ。』


女「…え? …『閏日』?」

裏男『来週の29日は4年に1度の『閏日』の日だ。そして…』

女「…? そして…?」

裏男『…表女さん、君は表男から『入れ替わりが出来るのが閏年の3月21日まで』の理由は聞いたかい?』

女「…え? それはまだ聞いて…ないかも。でも、それ気になってたの、何で3月21日なの?」(>>50)

裏男『…表女さん。3月21日がとある人物の『命日』だってことを知っているかい?』

女「…とある人物? 誰、そのとある人物って?」

裏男「それは…」



裏男「…『弘法大師』だ。」

女「…っ!?」





女「…誰? 『弘法大師』って?」


裏男『…っておいおい、弘法大師を知らないのかい?日本史で習ったろ?』

女「…だって私一応理系コースだし…」

裏男『…いや、それは知ってるけど…。まあいいや…弘法大師は『空海』の諡号(しごう)だ。』

女「…へ? しご…う?」

裏男『諡号とは、主に貴人の死後に奉る、生前の事績への評価に基づく『贈り名』のことだよ。』

女「はあ…でも空海のことは知ってるよ。え~っと確か、何かの宗教をはじめた…何て宗教だっけ…」

裏男『真言宗。』

女「そうそれ!…でも、空海の命日と入れ替わりの最終日って何の関係があるの?」

裏男『表女さん、『お遍路』は知ってるよね?』

女「お遍路?お遍路って私たちが住んでる四国にあるお寺とかを巡ることでしょ?」

裏男『その通り。その空海は讃岐の国、つまりここ香川の出身でね。『お遍路』は四国にある88か所の『空海』のゆかりの札所を廻ることなんだ。そして、この四国八十八箇所を巡拝することを四国遍路、四国巡拝などとも言う。』

女「へぇ…」


裏男『遍路の巡礼者は札所に到着すると、本堂と大師堂に参り、およそ決められた手順に従い般若心経などの読経を行い、その証として納札を納める。境内にある納経所では、持参した納経帳、または掛軸か白衣に3種の朱印と、寺の名前や本尊の名前、本尊を表す梵字の種字などを墨書してもらう。まあ、つまり現代で言う、スタンプラリーみたいなものさ。』

女「はあ…」

裏男『この四国遍路には様々な廻り方があるんだけど、札所を決められた順番を『時計回り』に廻ることを『順打ち』というんだ。』

女「ふぅん…」

裏男『さらに、決められた順番を『逆向き』、つまり『反時計回り』で廻る『逆打ち』というものがある。』

女「逆打ち?」

裏男『この『逆打ち』は特殊でね、『逆打ちを閏年に行うと御利益がある』と言われているんだ。』

女「……閏年!?」

裏男『ああ。…さらに、『逆打ち』をすることによって「生まれ変われる」とか「死者に会える」とさえも言われている。』

女「…!?」


裏男『まあ、とにかく昔からこの『逆打ち』には何かしらの『力』が働いていると考えられているんだ。』

女「…つまり、裏男は『閏年』の『逆打ち』に働くその『力』の影響によって、『入れ替わり』が出来る…って言いたいの?」

裏男『その通り。…表女さん。毎年、3月21日に行われる『大窪寺』でのお祭りは知ってるかい?』

女「…? 『大窪寺』って近所のあの?」

裏男『ああ。このお祭りは『春分祭』として催されているが、実はその『起源』に深い理由が込められていると考えられるんだ。』

女「…深い理由?」

裏男『大窪寺は『お遍路』の『88番目』…つまり『最後』の札所なんだ。更にこの大窪寺の宗派は『真言宗』で、空海の『錫杖』というものも納められている。これは、空海が『唐』から持ち帰った三国伝来のものと伝え、本尊とともに祀られているんだ。』

女「…へえ。」

裏男『そもそも逆打ちの『力』は四国圏内でしか働かない。何故ならその逆打ちの力はこの『大窪寺』から発信されているからね。』

女「…どういうこと?」


裏男『逆打ちの『力』の源は『約3年9ヶ月分』の巡礼者の『願い』の凝縮されたエネルギーなんだ。』

女「…『願い』?」

裏男『ああ、『願い』だ。巡礼者は閏年以外はオーソドックスな廻り方の『順打ち』で1番目の『霊山寺』から順に88カ所の札所を廻って行き、巡礼者は各札所を廻る度にそれぞれの札所から『印』(>>184)をもらうんだけど、この『印』には『念力』が込められているんだ。』

女「…念…力。」

裏男『ああ、念力だ。巡礼者は四国を一周し『印』とともにその『念力』も集めて行き、そして最後の札所である『大窪寺』で『結願』をするんだ。大窪寺は『結願所』とも言われているからね。『結願』とはその文字通り『願いを結ぶ』ことだ。』

女「…。」

裏男『そして、巡礼者は溜めた『念力』を大窪寺で『願い』というカタチで『結ぶ』。…でも、表女さん。この『願い』を『結ぶ』って表現に違和感を感じないかい?』

女「…え?」

裏男『『願い』って『結ぶ』ものじゃなくて『叶える』ものだろ?』

女「…!? …確かに言われてみれば…」

裏男『そう。『願い』を『結ぶ』という日本語はちょっとおかしい。…でも実はこの『願い』を『結ぶ』ってのは『正しい』んだ。何故なら、本当に『願い』を『結ぶ』んだからね。』

女「…どういうこと?」

裏男『何故なら巡礼者の溜めた『念力』は『願い』となり、その『願い』は大窪寺に祀られている空海の『錫杖』に『結合』されるからだ。』

女「…!? …『錫杖』ってさっき話していた…」


裏男『そう。まあ、『結合』って言い方じゃ分かりにくいと思うから『結合』=『吸収』と考えてくれていいよ。』

女「吸収…」

裏男『そうやって『約3年9ヶ月分』の巡礼者の『願い』は叶えられることなく『錫杖』にエネルギーとして吸収され、閏年の時期に『凝縮』された『力』として『放出』される。』

女「…」

裏男『更にこの大窪寺から放出される『力』は四国全土に『反時計回り』…つまり『逆打ち』の方向に放出される。『逆打ち』は88番目の大窪寺をその出発点とする。『逆打ち』によって『御利益がある』だとか『生まれ変わる』、『死者にあえる』という伝承も、この大窪寺から反時計回りに放出される『力』によるものだと考えられるんだ。』

女「…なるほど。」

裏男『…だけど、『凝縮』された状態で放出されるがためにその『力』は長くは保たない。そして、その『エネルギー』の放出が途切れる最後の日が…』




女「…3月21日。」


裏男『そういうこと。その『力』は『お遍路』の象徴的人物である『空海の命日』まで続く。大窪寺の『春分祭』も本来は空海の『慰霊祭』と、『力の放出期間』が終わるその『締め日』を兼ねた祭事だったと考えられる。』

女「…つまり、それが『閏年』の『3月21日』まで…ってことの理由?」

裏男『ああ。しかも僕たちの住むこの町はその『大窪寺』に近い場所に位置している。よってその『大窪寺』からの『力』を『モロ』に受けている。だから、『入れ替わり』というものが出来るんだ。』

女「…それじゃあ、四国でも、この香川…というか『この付近』の方が…」

裏男『うん。『力』の発信地から近い分、『入れ替わり』が起きやすい。他の四国の県でも出来るかもしれないけど、成功率は下がると思うよ。』

女「…なるほど。…でも、その期間に特別な『力』が働くってのは分かったんだけど、それと『鏡による入れ替わり』に何の関係があるの?今までの話を聞いてる限りじゃ、『鏡』とは何の関係も…」

裏男『…実は、関係なくもないんだよ、それが。』

女「…え?」


裏男『まず、この『お遍路』は別名、『うつし』とも呼ばれている。』

女「…うつし…?」

裏男『そう。歴史上の記述ではその『うつし』の意味を、『写経』の『写し』、もしくは『移動』の『移し』という意味で解釈されているんだが…実はそれが『鏡に映す』の『映し』のほうではないかとも考えられているんだ。』

女「…!?」

裏男『それだけじゃない。四国遍路の87番目である『長尾寺』のことを知っているかい?』

女「『長尾寺』って確か…『鏡餅』のお祭りで有m…っ!?」

裏男『その通り。『長尾寺』では毎年150キロもの重さの『大鏡餅』をいかに速く運ぶかというお祭りがある。『かがみもち』って『鏡を持つ』…つまり『鏡持ち』っていうふうにも解釈できるよね?』

女「…確かに。」

裏男『そう…実はあの祭りは昔は『大きな鏡を持ち運ぶ行事』だったとも考えられているんだ。今ではもうその面影は『かがみもち』という名前にしか残っていないが、当時は『鏡』をそれだけ特別視していたんだ。』

女「…。」

裏男『また、空海は『文鏡秘府論』という当時の中国の『唐』の詩文の創作理論を取りまとめたものを遺している。内容は別として、注目すべきはその『題名』だ。当時は『文字』にはそれを遺した人物の魂が宿るだとか特別な力が働くだとか信じられていて、特に書物の『題名』をつけるのはみんな慎重だったんだ。そんな時代に空海は『鏡』という文字を書物の『題名』としてわざわざ遺した。まあ、空海がどういう意図でこの文鏡秘府論に『鏡』という文字を遺したのかっていうところまでは分からないけど、『鏡』に対する何かしらの『意味』が込められているはずだ。』

女「…。」


裏男『こういった様々な背景から、オリジナルの僕は『お遍路』と『鏡』、そして『空海』というこの3つの間には、何かしらの『特別な関係性』があると考えた。…まあ、根拠づけがまだちょっと弱い気がするけどね。』

女「なるほど…」



裏男『…とまあ、ここまで長々と話したけど、これらはあくまで『オリジナルの僕』の推論であって、僕は『あいつ』からもらった知識を元に話しているに過ぎないから、あまり鵜呑みにはしないでくれよ。』

女「…うん、分かった。」

裏男『よし、ここで、話を『閏日』に戻そう。『閏日』は『閏年』の象徴的な日なんだ。この『閏日』の『2月29日』は、その『逆打ち』の効力が最も高まる日とされ、それに伴って、所謂『逆』の『行為』に対しての『力』も大きくなる日なんだ。』

女「…!? …『逆』の…力…。」


裏男『更に話を『魔法鏡』に戻すよ。物理の先生が言うには、魔法鏡には『2つの道』があるみたいだね。一つは『反射』、もう一つは『透過』だったよね?』

女「うん。先生がそう言ってたよ。」

裏男『よし。…そして、本来、鏡による入れ替わりは、『鏡の反射』という現象に反応して起きる。だけど、『閏日』に『魔法鏡』で『特権』による入れ替わりをすれば…?』

女「……『逆』の『行為』に『力』が働くから、『反射』の『逆』の現象である『透過』に『力』が働く…ってこと!?」

裏男『その通り!『特権』による入れ替わりは『一方通行』ではあるけど、『裏々の世界』から『裏の世界』に来れたわけなんだから、その『道』はあるはずなんだ!その『道』を『閏日』の魔法鏡による入れ替わり…つまり、『反射』の『逆』の性質である『透過』の性質を利用して『逆行』することが出来るかもしれない!』

女「…ということは、私が来週の閏日に魔法鏡によって入れ替わりをすれば…?」

裏男『ああ。君は…』





裏男『裏々の世界へ行けるかもしれない。』

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―2012年/2月/29日/香川/ @ 2週目―――――――----

【-登校中-】

スタスタスタッ

裏男「表女さん。」タッタッタ

女「あ、裏男…。」

裏男「とうとう、今日だな…。」

女「…うん。」

裏男「…それじゃあ、念のために今日の君のやるべき事をもう一度整理するぞ。」

女「…そうだね。」

裏男「いいかい?チャンスは1度だけだ。それは今日の3時間目の物理の授業中。君は幸運な事に先週、2時間目後の休み時間に入れ替わりをしたから、その3時間目が始まる前にはそのブランクの期間が終えているはずだ。」

女「うん。」

裏男「3時間目になったら物理の先生が教室に魔法鏡を持ってくる。そして、耳鳴りがなる…つまり魔法鏡に映ることが確定した瞬間から念じる準備を怠らないように。そして、魔法鏡に映ったら…」

女「…『裏々の世界の裏女ちゃんと入れ替われ!』…と念じる…だよね?」

裏男「そう。」


女「…うん。大丈夫!タイミング次第だけどなんとかなると思う!」

裏男「…そっか…。」

女「でも、これって魔法鏡じゃないとやっぱりだめなの?夜の窓ガラスとかも魔法鏡と同じようなものだって先生が言ってたよ。」

裏男「それでも出来るかもしれないが成功の確率が減るだろうね。窓ガラスはあくまで『ガラス』だし。『鏡』として作られている『魔法鏡』の方が成功する確率が高いと思う。」

女「そっか…」

裏男「表女さん…」

女「…ん?何、裏男?」

裏男「本当にいいのかい?このまま『表の世界』に行かなくて…。」

女「…うん。いいの。この4日間しっかり考えた上で出した結論だから。」

裏男「…確かに、僕は先週、君には裏女を裏々の世界に追いやった罪があるといったことを言ったが、君にはオリジナルとして表の世界に帰る自由もあるし、権利もある。それでも裏々の世界に行くのかい?」

女「ふふ。急にどうしたの?…今日の裏男、何だかすごい優しいね。まるで私のことを気遣ってくれてるみたいで。」


裏男「…!? …それは…。…僕は先週、裏女を奪われたことにすごく怒りを感じて正直冷静に君と話を出来ていなかったと思う…。君が傷つくようなことも沢山言ってしまったし…」

女「ううん、いいのいいの別に。先週、裏男が私に言ってくれたことは全部正しかったと思う。私のせいで、裏女ちゃんを裏々の世界においやってしまったんだから、私はその責任を取らなくちゃいけない。」

裏男「…。」

女「それに…」

裏男「…?」

女「『私たち』決めてたの!『二人で一緒に表の世界』に帰ろう!って。だから、『男』を裏々の世界に置いて、一人だけで表の世界になんて帰れない!だから私はまた男と合流するために裏々の世界に行く!」

裏男「…そっか。 …でも、裏々の世界に戻ってからどうするんだい?」

女「それなんだよね~…まあ、オリジナルの男もいるわけだし何とかなると思う!」

裏男「…何とかって…はは、君は相変わらず『傲慢』で『自己中心的』で『適当』な性格だね。」


女「ちょっと!!何か増えてない!?しかも今の内容に『傲慢』とか『自己中心的』な要素があった!?…『適当』な部分はあったと自分でも認めるけど。」

裏男「はは、ないけどね。」

女「…!? …あんた…相変わらずムカつく性格してるわね…」

裏男「…でも、僕は君のことを誤解してたみたいだ。」

女「…え?」

裏男「君は確かに『傲慢』で『自己中心的』で『適当』な性格の人間かもしれない。でも、その性格のおかげで君は誰にも負けない『強さ』を持っている。」

女「…強さ…?」

裏男「その『強さ』を上手く使いこなすんだ。そして、常に先を見通して行動することを忘れるな。そうすれば『見えないモノ』も見えてくるはずだ。」

女「…見えない…モノ?」

裏男「…そして…それでも…その君の『強さ』が発揮されないまま、もし『特権』による入れ替わりのタイムミリットの『3月14日』までに表の世界に戻る方法が見つからなければ、君と『オリジナルの僕』と二人一緒に『特権』を使ってくれ。」

女「…!? …え、それってどういう…こと?」

裏男「そのまんまの意味だよ。タイムリミットになったら『特権』を使ってくれてもいい。14日と21日に『特権』を使う事によって君たちはギリギリタイムリミット内に表の世界に戻れるはずだ。」

女「…そんな…でも、特権を使ったらあなたと裏女ちゃんが…」


裏男「…まあ、『一人』で裏々の世界に行くのは確かに寂しいけど、『君たち』と一緒で『僕たち二人』で一緒なら『裏々の世界』でもやっていける気がするんだ。それに僕たちは君たちよりも鏡の世界に慣れているしね。」

女「…でも…。」

裏男「まあ、裏女がいないところで勝手に僕が決めるのも何だか悪い気がするけど、あの子なら絶対に『こう言わないと』怒ると思うし。」

女「…信頼し合ってるんだね、お互い。」

裏男「当たり前だよ。何せ、僕たちが付き合ったのは『中学の頃』からだぜ?」

女「…へ? …今何て?」

裏男「だから、僕たちが付き合ったのは中学の時からって言ったの。」

女「…う…そ…。 …じゃあ、もう2年近く…?」

裏男「そうだよ。中3のときに僕から告白したんだ。だから、実のところ、君たちオリジナルが一向に付き合ってくれなくて結構焦ってたんだぜ?」

女「…何よ、あんたたち、ただのバカップルじゃない…。」


裏男「おいおい、僕たちのどこがバカップルなんだよ。…まあ、そういうことだから、僕たちの事は心配しなくてもいい。だから、心置きなく『特権』を使ってくれ。…あっ、でも、君たちが表の世界に戻ってから『破局』しないでくれよ!そんなことになったら、僕たちまで離ればなれになってしまうからね。」

女「あっ、そうか…もし、私たちが表の世界で別れたら、裏男たちもそうなるのか…ふふ、まあ心配しないで!私たちなら大丈夫だと思う!」

裏男「…そっか、ならいいんだけどね。」

女「…それに…もう『特権』は絶対に使わないから安心して!」

裏男「…! …でも。」

女「絶対大丈夫!だって私には裏男お墨付きの『強さ』があるんだから!」

裏男「…! …ああ、そうだったね。」

女「あと、私も裏女ちゃんみたいに『謙虚』で『思いやり』のある心優しい女の子になれるように頑張るね!」

裏男「!? …それは絶対駄目だよ表女さん!」

女「え?何でよ?」


裏男「偶数世界の住人の性格は『表の主』の性格と反転しているって言っただろ?実はこれは『反比例の関係』にもなってるんだ。」

女「え?反比例?」

裏男「そう!だから君がもし『表の世界』に帰れた後に、『心優しい』性格になってしまったら裏女は…」

女「…『傲慢』で『自己中心的』で『適当な』性格に変わってしまうってこと?」

裏男「そう!だから君はそのまま『傲慢』で『自己中心的』で『適当な』性格のまま突っ走ってくれ!裏女のためにも!」

女「…ええええええ!?何よそれ!?私に悪い性格を極めろってことを言いたいの!?」

裏男「う~ん。まあそうなるね。」

女「何よそれ!!それって完全にあんたのためみたいなものじゃない!『傲慢』で『自己中心的』な性格なのはあんたじゃない!」

裏男「まあ…確かに僕も『傲慢』で『自己中心的』な性格かもね。『適当』ではないけど。」

女「…今日、あなたの事を一瞬でもすごくいい人だと思ったのが間違いだった!!やっぱりあなたのこと嫌い!!大嫌い!!」

裏男「はは、逆に僕は君の事、好きになってきたけどね。…それと何故だろう…。何だか、またいつの日か君と再び会うような気もするよ…。」


女「無い無い。絶対に無い。もう来ないわよ『こっち』には!」

裏男「はは。 …おっと、そろそろ僕の教室だからお別れだ。…なんだかんだで、君に会えてよかったよ。」

女(…『なんだかんだ』とか一言余計なのよあんたは…。)

裏男「あと、あっちの僕にもよろしく言っておいてくれ。」


女「…分かったわよ。」

裏男「…あと、表女さん。」

女「…ん?何?」

裏男「…これは裏の世界の僕から君への最後のメッセージだ。」

女「…メッセージ?」

裏男「ああ。」





裏男「…『線路』だ。…『線路』がいるかもしれない。」


女「…? …『線路』?」


裏男「…ああ。」

女「…『線路』が何に必要なの?」

裏男「…向こうに行ったら表の世界に戻る方法を考えることを優先してくれ。これについてはその後にでも考えてくれたらいいから。」

女「…意味が分からないんだけど…。」

スタスタッ

裏男「…おっと!もう本当にお別れみたいだ!それじゃあ!」

女「あっ、ちょっと!!!」

女(…『線路』が必要?…『線路』が何のために必要なのかな…うちの近くに一応電車は走っているけど…)

女(…表の世界に戻るための手段の一つなのかな…)

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今回から歴史上の人物や本当に実在するお寺が出て来ていますが、
あくまでこれはフィクションなのであしからず。
また、明後日に来ます。


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キンコンカンコーン

女(今からの15分の休み時間が終われば3時間目…)

女(…う~ん、緊張するな~、もしかしたら失敗するかもしれないし…)

女(…そもそも本当に魔法鏡での入れ替わりが出来るのかどうかさえ分かんない訳だし…)

部員1「お~い、女~」

女「…あ、部員1…さん?」

部員1「いや~、『表の私』があんたに今日の放課後の部活の事について話があるみたいでね。」

女「あっ…そうなんだ…」

部員1「…なあ、女。」

女「ん? …何?」




部員「…あんた、やっぱりオリジナルでしょ?」


女「…!?」

部員「どうにもおかしいんだよね、先週からあんたの様子が。」

女「…。」

部員1「…否定しないってことは…。」

女「…………うん。…今まで隠しててゴメンなさい。」






部員1「…いや~やっぱりそうだったのか!聞いてみて良かった良かった!」

女「…怒ら…ないの?」


部員「ん?何で怒らないといけないのよ?まあ、そりゃ、裏女を裏々の世界に飛ばしたのはあんただけどさ、まああんたも被害者の訳なんだし。」

女「でも部員1さん、この前…『オリジナルだったら引っ叩いてやりたい』って…」(>>151)

部員1「ああ、あれ?あの『引っ叩いてやりたい』ってのはあんたの『後押し』をしてやりたいっていう意味の誇張表現というか…」

女「後押し?」

部員1「そう!実はあんたがこっちに来る前に、私、裏の女から頼み事をされていたの。」

部員1「頼み事?」

部員1「うん。あの子は『もしかしたら自分は裏々の世界に行く事になるかもしれないけど、もしそうなったとしてもオリジナルの私を責める事はしないで、表の世界に行く手助けをして欲しい』ってね。」

女「…!?」

部員1「その役は本当は裏男の方が適任のがはずなんだけど、あいつって『あんな性格』でしょ?もし、裏女がいなくなったと分かったら、たとえ裏女から『責めないであげて』って言われても絶対責めるだろうし…ってことで、あの子は私に頼んできたの。」

女「そうだったんだ…。」

部員1「…で、実際に裏男に結構色々と責められたんじゃないの!?」

女「…うん。そりゃあもう完膚なきまでに…。」


部員1「はは、だろうと思った。私がもっと速くフォローしてあげれば良かったんだけどね。予想以上にあんたと喋る機会が無くて…まあ、そもそもあんたがオリジナルだってことを確信出来たのが一昨日ぐらいだったからね…。」

女「そう…。」

部員1「どうせ裏男のやつ、あんたのこと『傲慢』で『自己中心的』な性格だとか言ってたでしょ?」

女「え…う、うん。」

部員1「あんなの裏男のいつもの『口癖』だから気にしなくていいよ。私や裏の女はそんな風には全く思っていないからさ。」

女「え…でも、私は確かに自己中というか…その性格のせいで裏女ちゃんを悩ませたとか…」

部員1「…まあ、悩んでたってのは本当だけどね。でも、それ以上に裏の女はあんたのことを尊敬もしていたんだよ。」

女「…え? …私の事を…?」

部員1「そうだよ。あんたの『強さ』にね。」

女「…!?」


部員1「あんたって、確かに自己中な部分がちょいちょいあるかもしれないけど、それをカバーするほどの『強さ』と『ポジティブさ』を持っているじゃない。」

女「…。」

部員1「まあ、あの子って確かに謙虚で優しいけど、本当に『優しすぎる』のよ…。だから、あの子は自分が持っていない、そんなあんたの強みに憧れていたし、尊敬もしていたのよ。」

女「…そうなんだ。」

部員1「あと、あんたも裏男から、あの子の話を聞いて、あの子の性格のことを羨ましいとか尊敬するな~って思った事あるんじゃないの?」

女「…え、…う、うん。」

部員1「でしょ?結局、人間って『無い物ねだり』するものなんだと思う。そして、あんたら二人はお互いの性格のことを羨ましくも思っているし、尊敬もしている。…そんな『無い物ねだり』し合える素晴らしい関係じゃない。」

女「…ふふ、そうかもね。」


部員1「…あとね、実は私もあんたにはすごく感謝してるんだよ。」

女「え?」

部員1「私のオリジナルって、いっつもオドオドしてるだろ?まあ、『あの子』があんなんだから私はこういう性格でいられるんだけど。」

女「…ふふ、みたいだね。」

部員1「そんな私のオリジナルを引っ張って行ってきてくれたのは他でもない、『あんた』じゃないか。特に部活ではオリジナルの私に丁寧にサポートしてくれたり、話を聞いてあげたりと…」

女「そんなの当たり前じゃない…部活の仲間なんだし。」

部員1「まあ、あんたからしたらそれは当たり前のことかもしれない。でも、『あの子』は本当に心の奥底からあんたに感謝しているんだ。反射物に映る度に『あの子』のそういったあんたに対する『感謝』の気持ちも流れ込んできてさ。まあ、『あの子』すごく恥ずかしがり屋だからさ、今ここで『あの子』の代わりに言わせて!」




部員1「…ありがとう!」

女「部員1…」


部員1「…さてと、私の話はここらへんにしといて…で、女は『表の世界』には行くの?」

女「…! …それが」



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部員1「へえ…裏の世界から裏々の世界に行く方法があったなんて…裏男もたまには役に立つじゃない。ただのウンチクと文句をたらすだけの野郎だと思ってたけど…」

女「ふふ。…部員1も『入れ替わり』のこととか知ってたんだね。」

部員1「まあね。でも、『入れ替わり』についての知識を持っているのは裏男の周りにいる私たちしかいないよ。」

女「え?そうなの?」

部員1「うん。裏の世界の住人は『鏡の世界』についての仕組みとかについては知っているけど、『入れ替わり』についてはほとんどの人達が知らないと思う。私は裏男から半年前に教えてもらったから知ってたんだけどね。」

女「そうだったんだ…」

部員1「裏男は自分のオリジナルが『鏡の世界』と『入れ替わり』について知ってしまったから、もしかしたら自分が『オリジナルの特権で入れ替わられるかもしれない』ってことで危機感を覚えて、それで『もしも』の時のためにってことで、周りの信頼出来る子達に『入れ替わり』の知識を教えたみたい。」

女「なるほど…」


部員1「…でも、あんた、本当にいいの? 表の世界に戻らないで…。」

女「…うん。やっぱり、裏女ちゃんを裏々の世界においやったまんま自分だけ表の世界になんて戻れないよ。それに、裏々の世界にはオリジナル男が残ったまんまだし。」

部員1「え!?オリジナルの男も裏々の世界にいるの!?」

女「…うん。」

部員1「…知らぬ間にすごく複雑な状況になっていたのね、あんたたち…」

女「はは…まあね…。」

部員1「じゃあ、裏々の世界に行くっていう決心はもうついているんだ。」

女「うん。まあ、あっちに行ってからどうなるかは分からないけど…まあ何とかなると思う!!」

部員1「…あはは。その『適当』でポジティブなところはやっぱりあんたオリジナルの女だな!」

女「も~!『適当』は余計だよ~!」

部員1「はは!」


キンコンカンコーン

部員1「あっ、チャイムだ。自分の教室に戻らないと…それじゃあ、女!頑張りなよ!」

女「うん!」

部員1「…あっ、そうだそうだ。…女、最後に伝言頼んでもいい?」

女「…伝言?」

部員1「うん。あんたが表の世界に戻ったら『私のオリジナル』に伝えてくれない?」

女「…! いいよ!何?」



部員1「…『もっとシャキっとしなさいよ!』って!」

女「…!」



女「…ふふ、了解! 絶対に…絶対に伝えるからね!」

部員1「うん!絶対だよ!あんたなら絶対に表の世界に戻れる!信じてるからね、私!」

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―2012年/2月/29日/香川/ @ 3週目―――――――----


物理『…それでは、先週の実験で使った魔法鏡を端っこから回していきますので、皆さんもこの『魔法鏡』に直に触れてみたり、覗いてみたりしてみてください。黒板の方ではもう1枚用意したこの魔法鏡を参考にしながら、先週の実験の図解等を書いて行きますので、それをノートにとるように。』

女(…! 先生ナイス!これで私の元に魔法鏡が回ってくる!)

物理『…で、こういったことから…』


女(早く…)

女(早く…!!)








ハイ オンナサン

スッ

女(…来た!!!!)


キィーーーーン

女(…!! 耳鳴りも鳴った!!5秒後に…映る!!)

スッ

女(…『裏々の私』が魔法鏡を自分に向けるぞ……っ!!)

女(…今だッ!!)

女(魔法鏡よ!!)

女(私を…)

女(私を『裏々の世界』へ!!!!)



フッ


………
………………

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―――――――――――――――――――――――----








裏女『…ありがとう。』



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―2012年/2月/29日/香川/ @ 3週目―――――――----

【-裏々の世界-】

………………
………


女(…意識が戻った。)

女(…っ!)

女(…暗い、そして反転していない。)

女(よし!…魔法鏡での入れ替わり…成功だっ!!)

女(…入れ替わったときのあの声って…やっぱり裏女ちゃんだよね…)

女(…入れ替わりのときにちょっとコミュニケーション取れるのかな…)

女(…私も何か言えば良かった…)

女(…でも、あの子何で『ありがとう』って…)

女(…もしかして…入れ替わる前から私が魔法鏡で入れ替わろうとしてたことを…判ってた?)


女(…とりあえず、それらを確認するためにも男と話をしないと…)

女(…でも、今日、会えるかな…)

女(…まあ、会えなくてもいつかは『主』のどっちかが電話するだろうし。)

女(…あと、裏々の世界から表の世界に帰る方法を考えないと…)

女(…いざ、こっちに来れたはいいものの、全くそれについては考えてなかったからなぁ…)

女(…やっぱり『合わせ鏡』での入れ替わりしか方法はないよなぁ…)

女(…でも、こっちは体の自由が効かないのにどうやって合わせ鏡をすればいいのか…)

女(…他に何か方法はないかな…)

女(…と言っても、他の方法としては『特権』しか残ってないんだけど…)

女(…ん? …待ってよ。)


女(…こうして…こうして…)

女(…それで…あっちで…ああして…そうしたら…)

女(…あっ。)

女(…あああああああああああああ!?)

女(…もしかして…)

女(…もしかして、私…)




女(…ミスっちゃった!!!!????)


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【-放課後-】

スタスタッ

女(…。)

女(…あっ! 前に歩いてるのは!)

女「男!!」

男「…!? 俺のことを呼び捨てにするってことは…表女か!?」

女「うん、私、裏の世界から戻って来たの!」タッタッタ

男「…そっか…良かった…」

女「…あのね!私…」

男「魔法鏡で入れ替わったんだよな?」

女「…え!?知ってたの!?」


男「ああ。裏女が教えてくれたんだ。『もしかしたら、魔法鏡で女ちゃんがこっちに戻って来るかもしれない』って。」

女「…!? でも、何でそれを!?」

男「多分お前と同じだよ。お前も物理の授業で魔法鏡のことを知ったんだろ?」

女「あっ、そうか。じゃあ、女ちゃんも…」

男「ああ。あの子が俺に聞いてきたんだ。『魔法鏡で特権を使ったらどうなりますか?』って。」

女「…私と同じだ…。」

男「それで、俺は自分が持っていた『知識』と魔法鏡の性質を照らし合わせて、もしかしたら魔法鏡で入れ替わりが出来るかもしれないと考えた。」

女「…それも全く同じだ…」

男「ん?てことは裏の俺から、その入れ替わりの根拠…というか『空海』のこととか色々聞いたのか?」

女「うん。色々と難しい話を…でも、あれって男が調べたことなんだよね?」

男「まあな。…でも、お前、そのまま表の世界に行こうと思わなかったのか?」

女「…え? それは…裏女ちゃんのことが心配だったし…それに…」

男「…?」

女「私たち『一緒に表の世界に戻ろう!』って決めてたじゃない!だから、男を置いて一人で行けるわけないじゃない!」

男「……女。 …そうだな!決めたもんな俺たち!」


女「そうよ男! …あ、でも、男が裏の世界に来なかったのって、裏男に配慮してってことなんだよね?」

男「…ああ。裏の世界ではもとから皆自我を持っているってことは知っていたし、自分勝手な事情で、そんな裏の世界の自分に迷惑を出来るだけ与えたくなかったからな。」

女「…そっか。」

男「でも、裏女ちゃんからは早く『特権を使ってあげてください』ってすごくお願いされたんだよ。『自分や裏男のことはいいから』って…」

女「…!? …裏女ちゃん…。」

男「でも、お前が入れ替わった2日後に魔法鏡のことが分かって、何とか俺は『特権』を使わずに済んだんだ。」

女「そっか…」

男「まあ、俺の話もまたするから、先に女から『裏の世界』での話を聞かせてくれないか?」

女「あ、うん。分かった。」

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―――――――――――――――――――――――----

男「あはは、裏の俺ってそんな奴なのか!」

女「そうなの!意地悪で嫌みばっか言ってくる超イヤな奴!!…で、裏女ちゃんはどんな子だった?」

男「ああ、すごく良い子だったよ。文句のつけようの無いほどに。」

女「…そっか。…本当にあの子には悪いことしちゃったな…。」

男「…。 …で、他にも裏男から何か色々聞いたのか?」

女「…うん。3月21日の理由とか、偶数世界だとか、あと自我についての詳しい事も。」

男「…そうか。それじゃあ、俺が説明する手間が結構省けたな。あはは。」

女「…あ、あと、裏男が最後に…」

男「…ん?」

女「…『線路』が必要だとかなんとか…」

男「…線路?」

女「…うん。多分、私たちが表の世界に戻るためのヒントなんだと思うんだけど…男はどう思う?性格が反対だとはいえ、知識や思考は裏男とあんまり変わらないんだから分かるんじゃない?」

男「…いや、表の世界に戻るために線路が必要だなんて俺も初めて聞いたぞ。そもそもどっから線路が出てきたんだか…近所に電車は走ってはいるけども。」

女「だよねぇ…」


男「まあ、その裏男からのアドバイスについては今後一緒に考えていこう。」

女「うん! …あ、それでね、男…私、もしかしたら…」





女「…ミスっちゃったかもしれない…。」

男「…ミス?」

女「あのね…『特権』と『合わせ鏡』を組み合わせたら、元通りになるんじゃないの!?」

男「…!」


女「まず、私が裏の世界にいる時は『表』に裏々女。『裏々』に裏女ちゃんがいるでしょ?それで、今日また私が『特権』を使っていれば、表に私、『裏』に裏々女、『裏々』に裏女ちゃんがいることになる。」
―――――――――――――――――――――――----

      2/22  → 2/29 
『表』  裏々女     女
『裏』   女     裏々女
『裏々』  裏女     裏女
----―――――――――――――――――――――――


女「それで、次に3月7日に私が『表の世界』でまた『合わせ鏡』での入れ替わりをするの。それで、『表』に裏女ちゃん、『裏』に裏々女、『裏々』に私がいることになる。」
―――――――――――――――――――――――----

      2/29  → 3/07 
『表』   女     裏女
『裏』  裏々女    裏々女
『裏々』  裏女     女
----―――――――――――――――――――――――


女「…で、私が『裏々』に行ってから3月14日と3月21日に連続して特権を使えば…裏女ちゃんを裏々の世界に押し込めることなく、元通りになるでしょ!?」
―――――――――――――――――――――――----

      3/07  →  3/14  → 3/21 
『表』   裏女     裏女     女
『裏』  裏々女     女     裏女
『裏々』  女     裏々女    裏々女
----―――――――――――――――――――――――


男「…あ~…まあ…な。」

女「でしょ!? それで私、ミスったって思って…私が今日魔法鏡での入れ替わりをせずにそのまま『特権』を使っていれば…」

男「…女。実はその方法は不可能なんだよ。」



男「何故なら『偶数世界』の住人は『主』になることは出来ないからな。」

女「…!? な、何で!?」

男「その原因は…『性格』だ。」

女「性格?」

男「おそらく『主』になれるのは『主』と性格の酷似した『奇数世界』の住人だけなんだ。オリジナルと性格が近ければ近いほど、『主』になりやすいし、オリジナルと性格が違えば違うほど『主』にはなれない。」

女「…!?」

男「そして、何故、わざわざ『合わせ鏡にしないと入れ替わりが出来ない』のか…それの理由もこれと同じで、『主』になるためにはオリジナルと性格が酷似した奇数世界の人間でないといけないからだってことなんだ。」

女「なるほど…だから『合わせ鏡』だったんだ…。」

男「ああ。…まあ、そういうわけで、その方法は不可能なんだ。…それに、もしその方法が可能だったら俺や裏男が気付かないはずないだろ?」

女「…あ…それは…まあ…」


男「まあ、他の方法を考えるしかないな…」

女「…でも、それじゃあもう残された方法は…」

男「…ああ、『合わせ鏡』での入れ替わりにかけるしかないな。」

女「…!? …でも、そんなのどうやって…」

男「…俺も、裏女からお前がこっちに戻ってくるかもしれないと聞いてからずっと考えていたんだけど…」

女「…けど…?」

男「…すまん、何も思いつかなかった…。」

女「…!? …そっか…。」

男「…だけど…」

女「…?」

男「…この現状を打開するための『ヒントを得られる方法』はある。」

女「…ヒント? どういうこと?」


男「…出来るだけこれはやりたくなかったんだが…もうこれしかないな…。」

女「…?」

男「…『第3者』に協力を仰ぐぞ。」

女「…? …『第3者』? 第3者って裏男や裏女ちゃんのこと?」

男「…違う。…この『裏々の世界』にいる人間のことだ。」

女「…? …この世界? え、でもこっちの『裏々の世界』にいる人で今、自我を持っているのは私と男だけって言ってたじゃない?」

男「…いや、俺はこの前『ほとんどいない』と言っただけで、『一人もいない』とは言ってない。」(>>79)

女「…!? …嘘…。 …じゃ、じゃあ、誰なの? 他にも自我を持っているっていう人は!?」

男「それは…」








男「俺の姉さんだ。」

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女「…男の…お姉さん?」

男「…ああ。俺の姉さんがこの裏々の世界で3人目の自我を持っている人間だ。」

女「そんな…でも、何で男のお姉さんが!?」

男「…おっと、『主』たちは公園によっていくみたいだな。」

女「…!ほんとだ。」

男「その話は公園のベンチに座りながらゆっくり話すよ。」

女「…わかった。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「ふう…」ドサッ

女「…早速さっきの話の続きなんだけど、男のお姉さんは何で自我を…もしかして裏々女みたいに男から!?」

男「…いや、違う。」

女「じゃあ、どうやってお姉さんは自我を…」

男「…女、3週間前に俺、話したよな。俺は『とある出来事』をきっかけにこの鏡の世界のことを知った…と。」(>>82)

女「…え…う、うん。」

男「あと、俺が半年前、夏休みに一人で京都に観光に行ってたのを覚えてるか?」

女「…あ、そういえば…確か、抹茶のシュークリームのお土産をくれたよね?」

男「…ああ。そのとき、俺は姉さんの下宿先に泊めさしてもらったんだ。そして、そのときに俺はそこで『あるもの』を見つけた。」

女「あるもの?」

男「…鏡の世界のルールが書かれた紙だ。」

女「…!?」


男「そこには、俺がお前に教えた『鏡の世界についてのルール』のほとんどが書かれていた。」

女「…。」

男「…俺が鏡の世界のことを知ったのはこのときだ。」

女「…そう…だったんだ。」

男「その紙を見つけてから、今までのこの半年間、俺はその情報を基に色々と調べた。『3月21日』の理由等は俺が自分で調べ上げたものだ。お前に説明するときに『~だと考えられる』とかの表現を何回か使っていたが、それらも、『その紙』に書かれたものじゃなくて自分の憶測にしか過ぎなかったらそういう風な表現の仕方をしていたんだ。」

女「…なるほど。…でも、男、家でお姉さんとあってるよね?自我を持っているのなら、こっちでの会話が…」

男「…いや、姉さんは家の中では表の世界の自分と合わせた会話をしている。」

女「…!?」

男「…でもそれは演技だろう」

女「…けど、それが演技って分かってたなら、何で今まで本人に確認しなかったの?お姉さんって3週間前に京都の下宿から帰ってきてたんでしょ?」(>>7)

男「…やっぱり今まではやましい気持ちがあったからな。勝手に姉さんの『モノ』を覗いてしまったという。」

女「…。」

男「…あと、できるだけ俺と女以外の人を巻き込みたくはなかったから…二人で何とかしようと考えていたけど、もうそんなこと言ってられなくなった。」


女「…でも、お姉さんだって、自我を持っているとしてもこの鏡の世界じゃ体の自由が効かないわけだし…」

男「確かにそうだ。でも、今回の女が裏の世界から戻って来れたことで俺は確信した。」

女「…確信? 何の?」

男「鏡の世界にはまだ俺たちの知らない『ルール』があるということに。」

女「…!?」

男「俺が手に入れた情報には今回の『魔法鏡』での入れ替わりのことは書かれていなかった。だから、他にも何か違った入れ替わりの方法があるかもしれないと思ってな。」

女「…なるほど。」

男「俺がこっちにきてからは自力でどうにかしようと俺自身考えていたが、女と一緒に表の世界に戻ると決めたんだ。そのためにも…」

女「男…。…でも、どういう風にお姉さんに話すの?」

男「…今日は幸運なことにも『主』たちは公園に来てくれた。」

女「…?」

男「そして今は夕方の6時前、この時間に姉さんは犬の散歩で必ずこの公園に寄る。」

女「…!?」


男「だから、もしタイミングがよけれb…」

トントンッ

男「…!?」

女「…え?どうしたn…!?」

男姉「よっ!何してるのお二人さん♪」

犬「わんわん!」

女(…まさか、こんなタイミングでお姉さんが…)

男「…願っても無いチャンスだ。」

女(…!? 男、もしかして本当に!?)


男姉「…ん?どうしたの二人とも?」

男「…なあ、姉さん。」

男姉「ん?」

男「…『鏡の世界』について教えてくれないか?」

女「…っ。」






男姉「…………『鏡の世界』? 何それ? 小説かなにかの題名?」


男「…とぼけないでくれ、姉さん。『表の世界』の姉さんは鏡の世界のことを知っていた。なら、『あなた』も自我を持っているはずなんだ。」

女「…。」




男姉「…。」





男姉「…ちょっと、男。それについてはまた後で話そうか。…ごめんね、女ちゃん、うちの弟が変な話をして♪」

女「…!?」

男「…無駄だよね姉さん。女も既に自我を持っている。というか、俺たちはどっちも…オリジナルだ。」

女「…。」


男姉「…!?」



男姉「…………女ちゃん、本当なの?」

女「…はい。」

男姉「…はあ。 …どうして『あなた』まで…。」

男姉「…! …もしかして男。あんた、半年前に私の下宿に来たときに…あれを見たの?」

男「…ごめん。」

男姉「…はぁ、なるほど…そういうことね。 …今、表の世界の3人も話し込んでるみたいでもうちょっと時間があるから、とりあえずこれまでの経緯を『簡潔』に私に話しなさい。」

男「…分かった。」

男「実は…」

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―――――――――――――――――――――――----

男姉「…なるほどね~、それで裏の世界から、女ちゃんが鏡戻って来れた…と。」

女「…はい」

男姉「…そしてこれから、どうやって表の世界に戻ろうと。」

男「…うん。俺たちのどっちかが戻ることが出来れば、あとのもう一人は無理矢理合わせ鏡をさせてらなんとかなると思うんだけど…」

男姉「無理矢理…ねぇ…」

男「…で、姉さん。単刀直入で申し訳ないんだけど、『合わせ鏡』と『特権』の入れ替わり以外に表の世界に戻る方法はないの?」

男姉「ん?」





男姉「ないよ?そんなの。」


女「…え!?ないんですか!?」

男姉「ないない。入れ替わりの方法はその2つだけだよ。」

男「…。」

女「そんな。 …! …じゃあ、お姉さん。『線路』って何だかご存知ですか?」

男姉「線路?」

女「私が裏の世界にいたときに裏男がメッセージとして『線路』が要るって言ってきたんですけど。」

男姉「…ふ~ん。線路ねえ…。」

女「何か…関係ないんですか?」




男姉「…さあ、私も分かんない。」


女「…! …そんな…じゃあ、やっぱり私たち、もう表の世界に戻るためには…」

男姉「うん。『元通り』の状態にしたいのなら『合わせ鏡』しかないね。」

男「…。」

女「…そんな。」

男「…また、振り出し…か…」

女「…」

男姉「…ちょ、ちょっと、そんな暗いオーラ出さないでよ。只でさえ、この世界は暗いのに…。」


男・女「…………。」




男姉「…はあ。」








男姉「…分かったわよ。私が手伝ってあげる。」

男「…?」

女「…手伝う?」

男姉「あんたたちが表の世界に戻るための手助けをしてあげるって言ってんの。」

女「…お姉さんが?」


男姉「そう。…まあ、この事態に巻き込まれているのが男だけなら『自力』でなんとかしろって言ってるところなんだけど、女ちゃんまで巻きもまれてるんじゃね。」

男「…。」

女「わ、私?」

男姉「うん。まあ、女ちゃんがこんな事態に巻き込まれたのは男のせいだけど…そもそもその男にきっかけを作ったのが私自身なんだし…あと、女兄くんの可愛い妹をこのままにしておけないでしょ?」

女「あ、お兄ちゃんのこと覚えてくれたんですね?」

男姉「うん。まあ、そこそこ仲良かったからね、あなたのお兄ちゃんとは。まあ、というわけだからこの私が協力してあげる。」

女「あ、ありがとうございますお姉さん! …ん? …で、でも、表の世界に戻るためには合わせ鏡をしないと…」

男姉「すればいいじゃない。『合わせ鏡』を。」

男「…!? でもどうやって…?」

男姉「だから、そのシチュエーション作りを手伝ってあげるって言ってんの。」

女「…『シチュエーション作り』?」


男姉「うん♪ …え~っと、今日は閏日だから29日だっけ?」

男「あ…うん。」

男姉「よしよし♪ そんじゃ~…あっ♪良いこと思いついた~♪」

女「良い事?」

男姉「…よし♪決行は今日からちょうど2週間後の3月14日♪」

男「…『決行』って何を決行するの、姉さん?あと、何で3月14日なんだ?」

男姉「ふふ♪ 3月14日って何の日でしょう?」

男「何の日…?」

女「あっ…」



女「…ホワイトデー。」


男姉「そう、ホワイトデー♪ あんたたち今付き合ってるんでしょ?」

女「…え、は、はい。…一応。」

男姉「よしよし♪」

男「…でも、ホワイトデーと入れ替わりに何の関係が?」

男姉「…ん?特に関係はないわよ。」

女「…え、『関係ない』? じゃあ何で…」

男姉「…ん?それは『釣りやすい』から。」

男「…釣りやすい?」

男姉「…そう。ホワイトデーに『あの子たち』を釣ってみせるわ。」









男姉「この私がね」

----――――――――――――――――――【承】――


―【鏡の世界でのルール(no.1)】―――――――――----

● 体について
① 体の自由はほとんど効かない。表の世界にいる『主』が絶対的な存在であり、その『主』の行動が鏡の世界の住人にも反映される。(>>57)
② 表の世界で『行動権』を持つ者を『主』、表の世界で生まれ育った者を『オリジナル』という。(>>81)
③ 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感は働く。(>>93)
④ 鏡の世界では『考えること』と『喋ること』が出来る。(>>58)
⑤ 鏡やガラスといった光を反射させるもの(反射物)に表の世界の『主』が映っている場合は鏡の世界の住人は『喋ること』が出来なくなる。『考えること』は可。(>>59)
⑥ 『主』が反射物に映っている時は『主』の『喋る』内容が鏡の住人にも反映される。(>>59)
⑦ 飲食時は反射物に映っていない時でも、表の世界の『主』の口の動きと同化する。(>>93)
⑧ 反射物に、自分の像が映し出されるその5秒前に、脳に合図が走り、『喋ること』ができなくなる。ただし、これは自我を持った人間のみに起きる現象である。(>>60)

● 自我について
① 鏡の世界の人間が自我を持つためには、鏡の世界の人間自身が『鏡の世界の人間』だと自覚する必要がある。(>>76)
② 自我を持つことによって鏡の世界の住人は『考えること』と『喋ること』が出来るようになる。(>>76)
③ 自我を持った鏡の住人は、反射物に自身の姿が映る度に表の世界の『主』の記憶が共有されるようになる。ただし、オリジナルには共有されない。(>>161) ←new!!
④ 鏡の世界の住人が自我を持つためには『他に自我を持った人間から鏡の世界についてを教えてもらう』もしくは『表の世界のオリジナルが鏡の世界のことの存在を知る』必要がある。(>>80)

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―【鏡の世界でのルール(no.2)】――――――――----

● 鏡の世界の特徴について
① 鏡の世界は半永久的に存在する。(>>53)
② 鏡の世界は、裏の世界、裏々の世界、裏々々の世界と、表の世界から遠ざかっていくにつれて、明度が小さくなっていく。(>>54)
③ 表の世界を『1』として、裏々、裏々々々といった奇数番目の世界は、『奇数世界』と定義される。(>>159) ←new!!
④ 裏の世界を『2』として、裏々々、裏々々々々といった偶数番目の世界は、『偶数世界』と定義され、これらの世界では、全てのモノが反転している。(>>159) ←new!!
⑤ 偶数世界では、ほとんどの者が自我を持っており、その『性格』はオリジナルのものとは反転したものになっている。(>>159) ←new!!
⑥ 偶数世界の鏡の住人が『主』になることは出来ない。(>>227) ←new!!

● 入れ替わりについて
① オリジナルが表の世界以外にいる場合、反射物に対して念じれば、表の世界に近い層へと移動できる。(『特権』による入れ替わり)(>>124)
② 2枚での合わせ鏡の状態を創り出した時、表の世界と裏々の世界の人間が入れ替わりを起こすことが出来る。(合わせ鏡による入れ替わり)(>>48)
③ 入れ替わるのは、あくまで『意識』のみであり、肉体はそのままである。(>>49)
④ 入れ替わる時に、一瞬だがお互いにコミュニケーションが取れる。(>>218) ←new!!
⑤ 入れ替わりは連続して行うことが出来ず、1週間のブランクを必要とする。(>>96)
⑥ 入れ替わりにはどちらかにその『意志』があることが必要となる。(>>51)
⑦ 入れ替わりは閏年の一時期に行える。(2012年は3月21日まで)(>>50)
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―【鏡の世界でのルール(no.3)】―――――――――――----






● ○○○○○○○○○○○○○○


③  
④  






○○ ○○○○○ ○○ ○○○○○○○ ○○○ ○○○…
----―――――――――――――――――――――――


また来ます。


今日から再開します。
長期間放置していて本当にすみませんでした。
必ず完結させますので。
では、貼っていきます。


―2012年/2月/29日/香川/ @ 3週目―――――――----

女「…釣るって…でも、どうやって!?」


男姉「…そのことについて話す前に、あなたたちに約束してほしい事があるの。」

男「…約束?」

男姉「そう、約束。…いや、約束というよりは『条件』と言った方が正しいかな?この『条件』を飲んでくれない限り私はあなたたちに手助けしてあげないからね。」

女「…!?」

女(…お姉さんの雰囲気が…急に変わった…)

男「…何なの?その条件って?」

男姉「…その『条件』とは…あなた達が表の世界に無事に戻れたら、それ以降、『鏡の世界に付いて絶対に鏡の世界に関わらない事』。それと、『鏡の世界についてこれ以上調べない事』の二つよ。」

男・女「…!?」


男姉「この『条件』を飲む事が出来るのであれば私はあなた達の手助けをするわ。」

女「な、何で鏡の世界に関わったら駄目なんですか!?」

男姉「何でって、そりゃこれはあなたたちのためよ。」

女「私たちの…ため?」

男姉「そう、あなたたちのため。…あなたたちも実体験してるから分かってると思うけど…鏡の世界ってロクでもない場所でしょ?」

女「…!? …ええ、まあ。」

男「…。」

男姉「でしょ? こんな世界、関わらない方が絶対に幸せなのよ。関わったらロクなことが起きない。だから、あなたたちを鏡の世界に今後関わらせないためにもこの条件を私は提示したのよ。」

女・男「…」

男姉「まあ、今すぐ答えを出しなさいとは言わないわ。でも悩む必要は無いと思うけどね、私は。表の世界に戻れて、尚かつ、鏡の世界に関わることも私によって禁止され、危険な目に遭わなくてすむようになるんだから。」


女(…お姉さんの言う通りだ。鏡の世界に関わることはすごく危険なことだと思うし…それに表の世界に戻るためにもお姉さんの手助けは絶対に欲しい。…だから私はお姉さんの条件を呑みたい…。)

女(…でも、男はどうなんだろ…)チラッ

男「…」

女(…男は自分で鏡の世界に興味を持った上で調べてたりしてたわけだし、『調べるな』っていう条件がもしかしたらネックになっているかもしれない…だって、あんなに詳しく調べてたんだから最後まで突き詰めて調べたかっただろうし…)

女(…どうしたら…。)



男「…姉さん、その条件、呑ませてもらうよ。」

女「…!?」

男姉「…いいのかい?」


男「ああ。姉さんももう気付いていると思うけど、俺は『あの紙』をもとに鏡の世界について色々調べていたし、これからももっと調べたいと考えていたよ。でも、そんな『情報』よりも表の世界に帰りたいという『願望』の方が圧倒的に強い。それに女とも約束したしな。表の世界に一緒に帰る…って。…な?女?」

女「…男。」

男「ごめんな、女。お前、俺に気を使って今も条件を呑むか悩んでたんだろ?もうそんなこと気にしなくていいから安心してくれ。」

女「…男。…うん、分かった!」

男姉「…どうやら二人とも答えは決まったようね。」

男「ああ、姉さん。俺と女は姉さんのその条件を呑むよ。…だから、表の世界に戻るための手助けを…頼む!」

女「お願いします!」



男姉「…よ~し、了解した。…さあ!二人の気持ちが固まったところで、それじゃあ早速ホワイトデーの作戦について軽く説明しておこうか♪」

女(…あ、また明るい感じのお姉さんに戻った…)


男「…でも姉さん。さっき姉さんはあの二人を『釣る』って言ってたけど、どうやって釣るんだい?こっちの裏々の世界じゃ体を動かせないんだぜ?」

男姉「そうね。確かにこっちじゃ体は動かせない。…けど、『動かすつもりもない』わ。動いてもらうのは『あっち』。」

女「…? …『あっち』って『主』たちのことですか?」

男姉「そう。」

女「…じゃ、じゃあどうやって『あっち』の体を動かすんですか!?」



男姉「…実は私には表の世界の『主』と連絡をとる『手段』があるの。」

女「…!?」

男「…表の『主』と?」


男姉「そう。だから、私が練った『作戦』を表の世界の『主』に伝え、そしてその『作戦』をあっちで実行してもらって、あの二人を釣る…っていう流れになるって考えておいて。」

男「…そうか。つまり、姉さんがさっき言ってた『こっちは動かず、あっちに動いてもらう』っていうのは、姉さんが考えた作戦を姉さんの『主』が実行して、それで俺たちの『主』を動かすってことか。」

男姉「そういうことよ。」

女「なるほど…。 …でも、お姉さんはその『主』にどうやって連絡するんですか?『主』が鏡を通して鏡の世界の住人にメッセージを一方的に送るのは可能だと思いますが、鏡の住人から『主』に連絡をすることなんて…」

男姉「ふふ♪ それはねぇ」



男姉「…って言いたいところだけどそれは内緒♪」

女「…!? な、何でですか?」


男姉「まあ、あんたたちにその方法を教えたところで、それが役に立つとは思えないけどね。」

男「…! …あ、確かに。」

女「…? どういうことですか?」

男姉「知ったところで、あんたたちには何も有効な活用はないと思うよ。「どうか合わせ鏡をそっちにしてください」って頼んで効く相手ならまだしも、そうもいかなさそうでしょ?」

女「…! あっ、そっか…。言われてみればそうです。…あっちと連絡とったところで…」

男姉「でしょ?しかも、もしその方法を教えて、私が考えた作戦を実行する際に、もしあんたたちのどっちかがむこうにそれを漏らしてしまったら元も子もないでしょ?」

女「…! …そんなことは絶対にないですよ。」

男姉「物事には絶対は無いのよ、女ちゃん。そういう危険性もあるってことは間違いないんだから、出来るだけその危険を避けられる道を選ばなきゃ。そういった恐れもあるっていうことで教えられない。…分かってくれた?」

女「…はい。」


男姉「男もその『連絡手段』について知りたいだろうと思うけど、さっきの『表の世界に戻ったら鏡の世界に関わらないという条件』を呑んでもらった以上、これ以上知ったところで無駄でしょ?…っていうわけだから教えない。いいわね?」

男「…ああ。分かった。」


男姉「さあ~ってと、それじゃ『作戦』の本題に…」

犬「わんわん!」

男姉「…っと、ごめんごめん、あんたのことすっかり忘れていたわ。お~よしよし♪ …あ、まずいな。多分、私の『主』はこのタイミングで帰ろうとすると思うから今日のお話はここまでね。」

女「…え、でもこのままお姉さんとはぐれたらその作戦を聞けなく…」

男姉「安心して。必ずあなた達と会う機会を作ってみせるから。まあ、もし無理だとしても最悪、男に作戦を伝えておけば、2週間以内には女ちゃんには伝わるだろうから。」

女「わ、わかりました。」

男姉「それと、女ちゃん。」

女「…はい?」

男姉「あなたと男はこの私が絶対に表の世界に戻してあげるから安心しておいて。私に任せなさい。」

女「お姉さん…」


男姉「それじゃあ、男。私は先に帰ってるわよ~。」

男「ああ。」

男姉「それじゃあね、女ちゃん」

女「…お、お姉さん!!」

男姉「…ん?」

女「…最後に…最後に聞いてもいいですか?」

男姉「…な~に?」

女「…お姉さんは…」





女「…今、ここにいるお姉さんは『どの世界』のお姉さん…なんですか?」

男「…!?」

男姉「…」


男姉「…それはね…」





男姉「内緒♪」

女「…!!」



男姉「それじゃ~ね~♪」スタスタッ

男姉「じゃあ行くわよ~、犬~。」

犬「わんわん」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女「…行っちゃったね、お姉さん。…『主』との連絡手段…か…。男はその連絡手段とやらは知らないんだよね?」

男「…ああ。俺もさっき知ったよ。…でも、これではっきりしたな。」

女「…?」

男「やっぱり鏡の世界にはまだ俺たちの知らない秘密があるってことに。」

女「…! …そうだね。でも、これ以上調べることは…」

男「…! …ああ。そうだな。」

女「…男、もしかして後悔してるの?」


男「いや、そういうわけじゃないんだ。でも、もし、姉さんの作戦とやらが失敗したら…」

女「…! …そうだね…もしホワイトデーに失敗したら、入れ替わりの最終日まで1週間しか無いもんね…。」

男「まあ、まずは姉さんの作戦を聞いてみないとな。」

女「…ん? でも、これからどうすればいいの? 14日までにお姉さんに会えることなんて本当にあるのかな?」

男「まあ、そこらへんについては俺が家に帰って姉さんに聞いてみる。最悪、姉さんが言ってたように、俺が姉さんから全部話を聞いて女に伝えるよ。」

女「分かった、お願いね。」

男「おう。」

----―――――――――――――――――――――――


―2012年/3月/14日/香川/ @ 4週目―――――――----

女『行ってきま~す。』ガチャ

バタンッ

女「ふぅ…」

スタスタッ

女(…とうとう、この日が来た。)

カンカンッ

女(…うまくいけば…)

女(…こうやって階段で上り下りするのも…)

女(…)

女(…これで最後だっ!)

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―――――――――――――――――――――――----

スタスタッ

女「…」スタスタッ

女母「女~」タッタッタ

女「…!? …お、お母さん?」

女母「あれ?私の方が後から出たのにまだマンション前で会うってことは…あんた、もしかして階段で降りてきたの?」

女「え…あ~…うん。ちょっとダイエットがてらに…ね?」

女(まずいな~…よりによって家の外でお母さんと話をすることになるとは…自我を持たせないように気をつけないと…)

女「…でも、お母さんどうしたの?出かける用事でもあるの?」

女母「何言ってるのあんた?さっき、朝食の時に『今日はptaの用事でお母さんもちょっと遅れて学校に行くからね』って言ったでしょ?」

女「あ…」

女(…しまった。リビングは裏々女の置いた鏡があるし、自分で会話しなくていいからってことで、今朝はずっと『これからの事』を考えてしまっていたから、今朝のお母さんとの会話がほとんど頭に入ってない…)

女母「お母さんの方がちょっと遅れて行く予定だったけど、まあこうやってばったり会ったんだし一緒に学校に行きましょうか。」

女「う、うん。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女(…今、おそらく『表』では全く違う会話をしていたはず。会話の内容を修正していかないと…)

女(…でも、今、『表』の二人はいったいどんな話をしてるんだろう…)

女(…駄目、全く思いつかない…)

女(どうすれば…このまま、もし変な事を言って『こっちのお母さん』に自我を持たせてしまったら…)

女母「…女?」

女「…! …ご、ごめん。ちょっと考え事をしてて。」

女母「そうなの?何か悩み事でもあるの?」

女「いや、別にそんなの無いよ!」

女(…とっさに『無い』って答えたけど…)


女母「…そう。それじゃあ、お母さんの悩みを聞いてもらおうかな!?」

女「…お母さんの…悩み?」

女母「……お母さん、最近変なの。」

女「…! …変?」

女母「…ええ。最近…よく耳鳴りがするの。」

女「…!? …耳…鳴り?」

女母「…そうなの。それで、その耳鳴りが鳴った後は急に喋れなくなって…」

女「!?」

女(…まさか…)

女(…まさか!?…)

女(…お母さんも既に自我を…!?)

女母「…女?どうかしたの…?」

女(…これは…もう話した方が…こんなふうに『こっち』のお母さんと話せる機会も、もうないだろうし…)

女「…あのね、お母さん…」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女母「なるほど…ここは鏡の世界で…それで、私は鏡の世界の住人ってことね。」

女「…うん。」

女母「そして、あんたはここの世界の人間じゃない…っていことなんだよね?」

女「…うん。あくまで簡単に説明しただけだけど…」

女母「はぁ、とてもじゃないけど、そんな話信じられないわ。」

女「…だよね。」

女母「…でも、信じざるを得ないわね、この状況は。」

女「…!」

女母「…で、あんたはいつからこっちに来たの?」

女「…1ヶ月ぐらい前。」

女母「1ヶ月前…ああ、もしかしてバレンタインデーの次の日かい?」

女「…!? 何で分かったの?」

女母「あの日のことや、その前日の事はよく覚えてるのよ。色々とあったから。」

女「…いろ…いろ?」


女母「バレンタインデーの日の夜にあんた、男くんと付き合ったっていう話を私としてたでしょ?」(>>10)

女「…う、うん。」

女母「…で、『こっち』でも、その話を『あの子』としてたわけ。もちろんこっちもその時はすごく盛り上がったわ。」

女「…そうなんだ。」

女母「それでね、ずっとその話をしてたら…急に女が携帯を持ちながら立ち上がって部屋に行ったの。」

女「…え?」

女母「女はその時に『ちょっと電話しないといけないを思いついたから』と言ってたけど、あきらかにあれはおかしかったというか…」

女(もしかして…表の世界の私たちの会話と違っていた…ってこと?)


女母「で、その後、私の体も急にお父さんの書斎に向かったの。」

女「…お父さんの書斎?」

女母「お父さんの書斎にはpcがあるでしょ?」

女「…あっ!」

女母「で、お父さんの書斎には鏡もあるでしょ?だから、その書斎の鏡に映ったときに、『あっちの私とあんた』のその直前の会話が頭に流れ込んできたの。で、その時初めてあっちの私はあっちの女と水族館に行こうって話をしてたんだって気付いててね。」

女「…」

女(…そうか。お母さん達は水族館にデート変更っていう話の流れにならなかったんだ。(>>14) それで、表の世界の私が男に電話を掛けようと自分の部屋に移動した時に裏々の私とお母さんが違和感を感じたんだ…。)


女母「でね、その時にもう一つ気付いたことがあったの。」

女「…もう一つ?」

女母「『こっち』の女も、もしかしたら私とおなじような状況なんじゃないかってことに。」

女「…!」

女母「普通、体が急に動き出したら驚くでしょ?でも、女はその時に『ちょっと電話をしないといけない用事を思い出したからって』って言ってその状況に対応してたわ。でも、その対応の仕方はどう見ても急場凌ぎのものだったし」

女「…」

女母「で、鏡に私が映って『あっち』の会話が流れ込んできた後に、私は水族館までのアクセスをプリントアウトして女の部屋にもって行ったわ。(>>18) そして、私は電話が終わったと同時に女の部屋に入ったの。すると、あの子すごくビックリしててさ。」

女「そういえばあの時は私もすごくビックリしてたね。」

女母「うん。あなたがビックリしてたのもあったと思うけど…『こっちのあの子』も相当驚いてたわ。だって私がいきなり水族館までのアクセスのプリントを持って現れたんだから。」


女「…その時はどんな会話をしたの?」

女母「私は、『今、水族館が盛況みたいだし、もし良ければ明日のデートの参考にして。』とだけ言って、あの子は…『ありがとう。』とだけ言ってたわ。」

女「そうだったんだ…。」

女母「…で、これはもう女に話すしか無いなと思ってあんたがデートから帰ってきたら思い切って相談しようと思ってたの。でもあんた、あの日、帰ってきてすぐリビングや玄関に鏡を置き始めたでしょ?」(>>108)

女「…それは、わたしじゃなく『あの子』がやったことだよ。」

女母「…やっぱりそうだったのね。どうりでおかしいと思ったのよ。そのおかげで、家であんたと話すことが出来なくなっちゃったから相談することが出来なかったのよ。じゃあ、やっぱりあの日のデートの時に入れ替わったのね、あんた達。」


女「…うん。 …でも、そもそも何で会話がそんなにずれちゃったんだろ…表の世界でも裏々の世界最初は同じ話題だったはずなのに…」

女母「…ん?何?こっちの世界のことを『裏々の世界』っていうの?」

女「…え、うん。まあ…。」

女母「ふぅん。で、あんたさっきの説明のときに『あっち』の人と『こっち』の人の性格は全く同じって言ってたけど、どれくらい一緒なの?」

女「…え?確か男が言うには99%って…」

女母「じゃあ完全に一緒ではないわけだ?」

女「…?」

女母「99%同じでも、1%同じでないのならそれはもう『別人』よ。」

女「……別人…。」

女母「そう、別人。確かにある程度の趣味趣向は同じかもしれないけど、それでも1%は違うわけなんだし、そこに絶対に異なった個性が存在するはずよ。」

女「…違う個性…。」


女母「例えば…ほら、『あっち』の私ってちょっとズボラじゃない?」

女「…ぷっ! …ふふ、そうかなぁ?」

女母「絶対そうよ!…まあ、なんだか自分の悪口を言ってるようで嫌だけど…まあ、でも実際に会話にこうやってズレが生じている以上、あっちとこっちじゃ別人だってこと。別人だってことはあっちとこっちじゃ会話がずれるということ。そういうことなんじゃないの?」

女「…うん。そうだね。私も『こっち』で会話を合わせるのにすごく苦労したし。他にも『心境』や『状況』が全く違うことで会話の内容にズレが生じてくるだろうし。」

女母「確かに。お母さんもそのバレンタインデーの日はまだかなり混乱していたからね。頻繁に起こる変な現象に。まあ、それが鏡の世界の影響だっていうことがこうやってあんたに教えてもらうことでわかったんだけど。…そんな心に余裕が無い状態だったから、『水族館を勧める』というあの子への配慮に至らなかったのかもしれないわ…。」

女「…そっか。…ねえ、もしかして…お父さんも自我を持っていたりするの?」

女母「ん~、どうだろうね。多分持ってないと思うよ。」

女「そ、そっか。…良かった。」ホッ


女母「このことはお父さんには相談してないからね。あと、あんた、ここんとこお父さんとあんまり喋ってないでしょ?」

女「…え。…そ、そうかな?」

女母「そうよ。お父さん寂しがってたわよ。まあ、お父さんとはあんまり喋らず、私とよく喋っていたからこそ私がその自我とやらを持つことになったんだろうけどね。」

女「…!」

女母「『あの子』はいつ頃から自我を持っていたの?」

女「…おそらく半年くらい前から。」

女母「そっか。半年前か。まあ、『あの子』とは毎日のように喋ってたんだから、半年もあれば、私にもその影響が来るわね。」

女「…そうだね。」

女(…お母さんの言う通りだ。半年もあれば、裏々女との会話のズレに違和感を感じてそこから自我が生まれるのも十分考えられること。)

女(…そう考えるともしかしたら他にも…特に学校で私の身の回りにこの裏々の世界で自我を持ってしまった人が居るかもしれないな…大丈夫かな…)


女母「…で、あんたはどうするんだい?」

女「…え?どうするって?」

女母「このままこっちの世界にいるつもりなのかい?戻りたいんでしょ?あっちの世界に。」

女「…!? …実はね…今日、わたし、表の世界に戻れる…かもしれないの。」

女母「…!? そうなの?」

女「うん。男や男のお姉さんが協力してくれて。」

女母「…男くんのお姉さんって男姉ちゃんのこと?」

女「うん。お兄ちゃんの同級生だった人。」

女母「へえ~、そうなんだ。でも良かったじゃない。あっちに戻れるんだから。」

女「…うん。でもまだ、本当に戻れるかどうか分からないけどね…。」

女母「まあ、戻れなかったとしても大丈夫よ。私がいるんだから安心しなさい!」

女「…ふふ。そうだね」


女母「…あ、でも今のうちには鏡だらけだから会話出来ないのよね。というか、あれもあの子の仕業なのよね?」

女「…うん。さっきも言ったけど、そうだよ。」

女母「ったく、あの子ったら…。」

女「お母さん…でも、あれはね、裏々女がお母さんやお父さんが自我を持たないようにするために置いたの。鏡を置けば会話が表の世界とリンクするから自我を持たせるリスクを減らせるっていう理由で。」

女母「…! …そうだったんだ。…まあ、でも、あの時点で既に私は自我を持っていたから、あの子の取り越し苦労になっちゃったわけだけど。…でも、そっか。…あの子。」

女「…お母さん。」

女母「…女。私、さっきあんたに『戻れなかったとして大丈夫よ』って言ったけどそれ撤回!」

女「え?」


女母「…絶対に…絶対にあっちの世界に戻りなさい!戻れなくてもお母さんがいるから大丈夫だとか、甘ったれた考えは捨てなさい!!」

女「…え…ええ~」

女母「…それで。」

女「…?」

女母「…それで、絶対にあの子をこっちに戻してちょうだい。あの子はやっぱり私の娘なんだし、私の娘だからこそ、あんたをこんな大事に巻き込んだことを叱ってやらないといけない。」

女「…! …お母さん。」

女母「もちろん、あんたも私の娘よ。でも私はあんたの本当のお母さんじゃないし、あんたの本当のお母さんはあっちにいる。だから、あんたにはあっちの世界に戻ってもらわないと!『あっちの私』のためにも!」

女「…うん!そうだね! …私、絶対に戻ってみせる!」

女母「ええ、その意気よ!」


女「…でも、お母さん。 お母さんは表の世界に行ってみたいとは思わないの?」

女母「…ん?私?」

女「うん。普通は表の世界に行ってみたいと思うのが普通なんだと思うんだけど…。」

女母「…う~ん、どうだろうね。確かにあっちの世界にはちょっと興味あるけど。でも、私はこの世界に生まれてこの世界でここまで育ってきたんだから、これからも私はこの世界で生きて行くわ。」

女「そっか…」

女母「でも、今のままじゃ楽しめないかもね。やっぱり『あの子』に帰って来てもらわないと。」

女「…! …任せといてお母さん!私が必ずあの子をこっちの世界に戻してくるから!」

女母「ふふ、頼んだわよ、女。…ごめんね、さっきは『あなたは私の本当の娘じゃない』って言い方しちゃったけど、あなたも紛れもなく…私の娘よ。」

女「…お母さん。」

女母「っと、もう学校に着いたわね。それじゃあ、私はこっちだから。頑張るのよ女。それとあの子のこと…お願いね。」

女「うん!任せておいて!」


----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

キンコンカンコーン

女(…よし、4時間目が終わった…)

女(…予定通りなら…)

女(…そろそろ…)

女(…あのメールが…)



ブーン ブーン



女(…! …来た!!)パカッ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

from:男
件名:re;
本文:



10分後に旧校舎の音楽室まで来て。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






女(…よし!予定通り!)



………
………………

----―――――――――――――――――――――――


また来ますね。

待ってる

>>289
ありがとう


―【回想~1週間前~】――――――――――――----


男姉「あの後、男に詳しく聞いたわ。あんたたちの置かれた現状について。で、それに基づいて、作戦の内容を考えたわ。そして、今日、あんたたちが一緒に帰るってことを男から聞き、そしてそれを『表の私』に伝えてばったり遭遇するようにしてもらい、そして今に至るって感じね。」

男「上手くいったね、姉さん。」

女「でも、今日もこの前みたいに長話出来るとは限らないんじゃ…」

男姉「そこんとこは大丈夫。ちゃんとあっちでも話を長引かせるように『あっちの私』に言っておいたから。…とは言っても、何が起きるか分からないからさっさと説明を始めるわよ。」

女・男「はい」

男姉「まず、決行は予定通り3月14日のホワイトデー。ここに変更点はなし。」

男姉「ホワイトデーはバレンタインデーにチョコを貰った男の子が女の子にお返しをする日。そのイベントを利用するわ。」

男姉「先に『釣る』標的は『裏々女』ちゃん。女の子はこういうイベントにはすごく弱いもの。もしかしたら、何かすごいサプライズがあるんじゃないかって、期待に心を膨らませる日…それがホワイトデー。…だよね~?女ちゃん?」

女「…え。…あ…は、はい。」

男姉「…そして、そんな期待とメルヘンチックな気持ちで充ち満ちた乙女心に大きな隙があるわ。…ってなわけで『裏々女』ちゃんを釣るための説明をしていくわよ。」


男姉「まず最初に、女ちゃんに男から『プレゼントがあるから昼休みに会おう』というメールをホワイトデーの『前日』に送らせる。」

男姉「もちろん男にはプレゼントを準備させるわ。まあ、メールを送るようには促すけど、プレゼントの内容には『表の私』から干渉はしないつもり。」

女「…え?何でですか?」

男姉「プレゼントの内容はこの作戦には無関係だしね。それに、女ちゃんも男がどんなプレゼントを用意するか楽しみでしょ?まあ、男は男でも『裏々男』なんだけど。」

女「…まあ、そうですね。」

男「…なんかごめんな、女。」

女「…! 気にしないで男! …あ!じゃあ、もし表の世界に戻れたら改めて何かちょうだい!」

男「…女。 …ああ、分かった!」

男姉「…お熱いとこ申し訳ないけど、話の続きをしてもいいかな?」

女「…! ご、ごめんなさい。」

男「続けてくれ、姉さん。」


男姉「…よし。で、ホワイトデー当日の昼休みが終わる直前に『あっちの私』が動くわ」

女「…動くって…もしかしてお姉さんも学校に来るんですか?」

男姉「もちろん。じゃないとこの作戦は不可能だからね。」

女「でも、『昼休みが終わる直前』に『あっちのお姉さん』は何をするんですか?」

男姉「…その『昼休みが終わる直前』に『あっちの私』には…男の携帯を盗んでもらう。」

女「…盗む? …盗むって、あっちのお姉さんが、裏々男から携帯を盗むってことですか?」

男姉「そう♪」

女「でもどうやって…それに何のために…?」


男姉「男、あんた14日、というか水曜日の4時間目は体育なのよね。」

男「ああ。」

女(あ、そういえば、この前の水曜の昼休み体操服を着てたな…)(>>144)

男姉「よしよし。…で、体育の時、教室の戸締まりはどうなっているんだっけ。そこんとこ改めて説明してくれる?」

男「うちの高校では体育の時は男子と女子、別々の教室で着替えるんだけど、その日の日直が貴重品を袋に集めて、それを職員室に預けた上で教室の鍵を閉める。」

男「…でも、そのルールはもう『男子』ではほとんど守られてないというか…みんな財布とかの貴重品は預けるんだけど、教室の鍵は閉めなくなってる。『財布以外盗まれるもんなんてないだろ』っていうふうに皆思っているから。」

男姉「まあ、男子ってそんなもんよね。私があの高校にいた時も男の子たちは結構適当だったわ。」


男姉「よし、話を戻すわよ。…つまり、男のクラスが体育の時、男の教室には鍵はかかっていない。そして、携帯は学生服のズボンか鞄に入れたまんまってこと。あと、男の教室は中校舎の1階だったわよね?」

男「うん。」

男姉「よしよし♪ これだけの条件が揃っていれば携帯一つ盗む事なんて簡単。そういえば、あんた、携帯にパスワードはつけてるの?」

男「あ…一応。」

男姉「よし、後で教えなさい。」

男「…!? …え、本当に教えないといけないの…?」

男姉「あたりまえじゃない。パスワードが分からなかったら携帯のロックを解除出来ないじゃないの。」

男「いや…それは…まあ、そうなんだけど…」

男姉「……はは~ん、あんた、もしかして携帯に何か『やましい』ものでも入ってるんでしょ~?」


男「…!? …そ、そんなんじゃないよ!!」

男姉「ふふ、そんなに必死に否定するってことは図星ね~」

女「……へぇ~…。」

男「…! …だ、だって俺も一応男子高校生なんだし仕方ないだろっ!」

男姉「認めたわね~♪」

女「…。」

男「…あっ…。いやっ…その…。」

男姉「ふふ♪ まあ、仕方ないわよね、あんたも『男の子』なんだし♪ まあ、あんたのお姉ちゃんは『卑猥なもの』があったとしてもそれを口外するようなことはしないから安心しなさ~い♪」

男「…いや…全く安心出来ないんだけど…」

男姉「…まあ、男をいじるのはここまでにしておいて…そういう手順で『あっちの私』が男の携帯を手に入れる。そしてその後に、裏々女ちゃんにメールを送らせるわ。」

女「…! …メールにはどんな文章を?」


男姉「メールの文章は『旧校舎3階の音楽室前に来て』っていう文章を送るつもりよ。」

女「3階の音楽室?」

男姉「そう。旧校舎の『あの鏡』は旧校舎東側階段の2階と3階の間の踊り場にあるでしょ?『そこ』を通らすためには3階での待ち合わせにしないといけないからね。」

女「…! …そうか、音楽室を待ち合わせ場所にするのは『あっちの私』を旧校舎の鏡に誘導するためなんですね。」

男姉「ええ。」

男「…でも、姉さん。そのメールの内容だとちょっと危険じゃないか?そんな『旧校舎に来てくれ』とだけの文章だと『あっちの女』もかなり警戒してしまうんじゃないかな?『あっちの女』も旧校舎の鏡が入れ替わりの出来る鏡だということを『こっち』にいた時点で既に知っているわけだし。」

男「それよりも『ホワイトデーのプレゼントを渡したいから旧校舎に来てくれ』っていうふうにもうちょっと柔らかい感じの文章にしたら、まだちょっとは誤摩化せるんじゃないかと思うけど…」

男姉「…はぁ。 …男。あんた、『乙女心』というものを何にも分かってないわね。」

女「…ですね。」

男「…へ?」


男姉「前にも言ったでしょ?女の子は『サプライズ』といった類いが大好きなんだって。」

男「はぁ…」

男姉「そんな、『プレゼントがあるから来てくれ~』…何て言われてわくわくする!?それよりもちょっと謎めいたメールの方が『え、何があるんだろう!?わくわくしちゃう!!』…ってなるでしょ?」

男「…はぁ、そんなもんなんすかね…。」

女「…でもお姉さん。男の言ってることもすごく分かります。絶対に『あっち』だって旧校舎に対して警戒しているだろうし、そう上手く旧校舎まで誘い出せるとは…」

男姉「…ふふ。大丈夫よ、あの子は絶対に来るわ。」

女「…どうしてそう断言出来るんですか?」

男姉「…あなたたちにとって今回、『幸運』とも言えることが一つある。」

女「…幸運?」

男姉「それは『あっち』のあんたたちがお互いに『元鏡の世界の住人』、つまり『オリジナルではない』ということに気付いていない事。」

女・男「…!」


女「…そういえば、反射物の前での会話とかを聞いてる限り、『あっち』では鏡の世界の話題を聞いたことがない…。」

男「まあ、俺は女よりさきにこっちに来たけど、俺は裏々女に俺がオリジナルだということを伝えなかったからな。」

女「…! そういえば、そんなこと言ってたね。」(>>89)

男「だから、裏々女は『あっちの俺』がオリジナルだと思い込んでいる。裏々男の方ももちろん、裏々女が『自分も裏々の世界から来た』ってことを申告してない訳だから当然『あっちの女』をオリジナルだと思い込んでいる。…ってことだな。」

男姉「そういうことよ。『お互いに気付いていない』、そして『お互いに申告していない事によって鏡の世界の話もしていない』…この『状況』はかなり使えるわよ~。」

男姉「もし、『裏々女ちゃん』がそのメールを男から受け取って、『旧校舎』に対して疑問に思ったとしても、それを男にその疑問をぶつけることは絶対にない。」

男姉「もし、そんなことをしたら、『裏々男』は『何故女が旧校舎の鏡の危険性を知っているんだ?』ってなる。『裏々男』は『オリジナルの女ちゃん』がそのことを知っているはずがないと思い込んでるだろうからね。」

男姉「そして、『裏々女ちゃん』も、『あっちの男』がオリジナルだと思い込んでいるから、もしそんなことを聞いて男に自分が『オリジナルではないこと』がバレたら、あきらかに不利な状況になる。もし、『オリジナルの男』に知られたら、男が『オリジナルの女を返せ』と無理矢理合わせ鏡をしてくるかも知れないからね。」

男姉「だから、裏々女ちゃんはそのメールを受け取り、それを疑問に感じたとしてもその疑問を解消する術は無く、また、そのメールを無視して旧校舎に行かなかったら『男との関係が気まずくなってしまうのでは』という不安にかられ、そして最終的にあの子は必ず足を旧校舎に向ける。…これが私が『断言出来る』といった理由よ。」


女「…なるほど。」

男姉「それと、念のために保険を掛けておいたわ。」

男「…保険?」

男姉「そう。実は今、『表の世界』では『あっちの私』から、『あっちのあんたたち』に『私が高校生のときは音楽室前でプレゼントの受け渡しをするのが流行だった』っていう話をしているはずよ。」

女「…流行?」

男姉「そうよ。これは本当の話でね。旧校舎って来週から取り壊し工事が始まるから今はもう立ち入り禁止になっているらしいけど、私が高校生の時はまだ使われててね。…でも、旧校舎に立ち入る人自体少なくなっていたから、プレゼントの受け渡しだとか告白のスポットとして流行っていたの。」

男「…へぇ。」

女「…! 今のお姉さんの『立ち入り禁止』ってとこで気付いたんですけど、上手く裏々女を旧校舎に誘い出したとしても立ち入り禁止じゃ中に入れないんじゃないですか?」

男姉「それは大丈夫よ。…ね?男?」

男「ああ。…実は旧校舎の東側の入り口近くの窓は壊れていて、そこから中に入れるんだ。」

女「え?」


男「俺が入れ替わりを旧校舎でしたときもそこから旧校舎に侵入したんだ。しかも、そこの鍵が壊れていることを教師連中も知らない。」

女「…そうだったんだ。 …! …でもその『壊れた窓』のことを裏々女は知らないんじゃ…」

男「いや、あいつも知っているはずだ。裏々女と1度だけ旧校舎のことを話したことがあったんだが、その会話のときにあいつは『壊れた窓』のことも自分で口にしていたからな。おそらく俺が『こっち』に来る前に裏々男から教えてもらったんだろ。」

女「…なるほど。」

男姉「まあ、男が言っている通り、旧校舎に入れるかどうかの問題は大丈夫なはずよ。まあ、もしものために『あっちの私』が当日の朝にその『壊れた窓』の確認をするわ。最悪の場合はもうドアの鍵を壊しておくから安心しなさい。」

男「…姉さん、さすがにそれはやりすぎじゃ…」

男姉「どうせ来週には取り壊される建物なんだし今更大丈夫でしょ?」

男「…まあ、それは…。」


女「…で、お姉さん。話は戻るんですけど、その『音楽室での流行』のことをあっちの私達に話すことが何で『保険』になるんですか?」

男姉「実はね、この話には続きがあって、そのプレゼントや告白が『男の子』側からのものなら、その日を境にそのカップルはずっと幸せになれるっていうメルヘンチックなお話があるの。」

女「へぇ~…素敵ですね。」

男姉「その話を聞くのと聞かないのとでは、旧校舎に対する警戒心も大きく変わるでしょ?」

女「…! …確かに。私、そういう話にすごく弱くて…私が弱いのであれば裏々女も弱いかも…」

男姉「あっちの私がこの話を今することによって裏々女ちゃんの旧校舎に対するイメージがそっちの方に大きく様変わりするはず。そして、ホワイトデーに男から旧校舎に来てというメールを受け取っても『旧校舎は危ない』っていう『警戒』ではなく、『男があのお姉さんの話を体現しようとしているのかもしれない』という『期待』に変わるはずよ。」

女「なるほど。」


男姉「まあ、そうやって、裏々女ちゃんを旧校舎に誘導し、音楽室に行くためには階段を上ってもらう。そして、裏々女ちゃんが音楽室までの道程にある『あの鏡の前を通るその瞬間』が入れ替わりのチャンスよ。」

女・男「…!」

女「でも、どうやってそれを…」

男姉「『あっちの私』が事前にその踊り場の『例の鏡』の反対側にもう1枚鏡をセットしておくわ。」

女・男「…!」

男姉「そして、裏々女ちゃんがその踊り場を通れば…」

男「入れ替わりが…起きると?」

男姉「そうよ。もちろん裏々女ちゃんがそこを通った瞬間に入れ替わりが起きるよう角度もちゃんと調整するわ。あとは、合わせ鏡になった瞬間に女ちゃんが入れ替われと念じさえすれば入れ替わり完了よ。」

女・男「…」

男姉「以上が第一段階の裏々女ちゃんを釣るための作戦。どう、簡単でしょ?」


女「…確かに、それなら入れ替わりは可能だと思います。…でも、繰り返しになっちゃうかもしれないんですけど、本当にそんな上手くんですかね…」

男「…女の言う通りだ。もし裏々女にその『もう1枚の鏡』を見つけられたら…」

男姉「…まあ、あんたたちの言うことも分からんでもわ。」

男姉「でもまあ、私も繰り返しになるけど、この作戦で絶対に上手く行くから『安心しなさい』。」

女・男「はぁ…」

男姉「よし、それじゃあ、第二段階の裏々男を釣る話なんだけど………

----――――――――――――――――【回想終了】―


―――――――――――――――――――――――----

………………
………




女(とりえず、予定通りメールは来た)

女(問題はここから。この子がこのメールの通り、旧校舎に行ってくれるかどうか…)

女(一応、表の世界の方のお姉さんが『音楽室前でのプレゼントの受け渡し』の話をしてくれたはずだから…)

女(…でも、この子は旧校舎で入れ替わりをしたわけではないけど、自我を持った際に裏々男から旧校舎の鏡のことを聞いたみたいだし、旧校舎自体に対してはかなりの警戒心は持っていることも間違いない…)



女(さあ…どう動く!?)


スタスタッ


女(…動いた!?教室から出たぞ…)スタスタッ


女(…ここは中校舎の3階…)スタスタッ


女(…旧校舎に行くには東側の階段で降りて…)スタスタッ



スタスタッ


女(この進路は…)スタスタッ


女(ビンゴ!東側の階段に向かってる!!)スタスタッ



女(…このまま…)スタスタッ


女(このまま…!!)スタスタッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----


スタスタッ


女(よし、中校舎を出た。このまま北側の旧校舎へ…ん?…あれは?)


タッタッタッ


女(…! 裏々女も気付いたみたいね。)タッタッタ


タッタッタ


女「お母さん!お姉さん!」




女母「…あ、女じゃないの。」

男姉「あら、女ちゃん」


女「2人一緒でどうしたの?」

女母「いやね、実はさっきのptaの会議で男姉ちゃんと偶然会ってね。それで会議が終わった後もこうやって外で話してるのよ。ほんと偶然すぎてビックリしたわ~。」

男姉「ふふ、私もビックリしましたよ。いきなり『実は私、自我を持っているんです。今日は娘のためにもよろしくお願いします』って仰られるんだから。」

女「…え?」

女母「ふふ、今朝、女からあなたに協力してもらうってことは教えてもらってたからね。」

男姉「まあ、でも今の会議の時間を使って私からお母さんにはこの世界のことや女ちゃんの詳しい状況のことは説明しておいたからね。」

女母「ほんと助かったわ男姉ちゃん。これでもやもやしてたものが取れたというか。」

女「そっか…ありがとうお姉さん。…でもいったい何の会議だったんですか?ptaの会議のはずなのに何でお姉さんが?」


女母「今日は旧校舎取り壊し工事の最終確認のための会議だったの。私はもちろんpta役員としてで。…で、男姉ちゃんは…」

男姉「私は代理として来てたのよ。」

女「代理…ですか?」

男姉「そうよ。もともとこの学校はね、とある地主から土地を借りて、そしてその人の援助によって創られたの。で、その地主も今回の会議で出る予定だったんだけど、今日はどうしてもはずせない用事があるということで、その人の知り合いであるこの私が代理人として出席することになったの。」

女「へぇ…でもお姉さん、地主とし知り合いとかすごいですね。」

男姉「ん~、まあちょっとね。でも偶然お母さんと席も隣だったから、会議そっちのけでお母さんにこの世界のことについて話してたから、参加してた意味は全くなかったけど。」

女母「ふふ、そうね。…女、聞いたわよ。今からが『勝負』なんでしょ?」

女「…! …うん。」

女母「頑張りなさいよ!」

女「うん!…まあ、でも私はただ状況が過ぎていくのを見ているしかできないんだけど…」

男姉「ふふ、確かにそうかもしれないわ、女ちゃん。でも、そんな弱気だったから勝てる試合も勝てないわよ?あなたもん部活しているんだからそれぐらい分かるでしょ?」

女「…! …はい、そうですね。」


男姉「旧校舎での『入れ替わりのシチュエーション』はあっちの私が今朝バッチシ準備しておいたから、大丈夫よ。だから、自信を持って『相手にのまれないように』入れ替わる『その時』をあなたは待っておきなさい。…ふふ、まあ『最初』はちょっと驚くかもしれないけどね。」

女「…最初?」

男姉「…さて、ここで女ちゃんを長居させるわけにいかないってことを『あっちの私』も分かっているだろうから、そろそろお別れよ。…それじゃあ、頑張ってね女ちゃん。」

女母「…私は今朝あなたに伝えたいことは十分伝えたし、それ以上言うことも無いわ。でも、やっぱりお別れって寂しいわね。…短い間だったけど楽しかったわ。…頑張ってらっしゃい、女。」

女「お姉さん…お母さん…」

スタスタッ

女(…! 体が動き出した!)

女「お姉さん!お母さん本当にありがとう!…さようなら!」


スタスタッ


----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----


スタスタッ

ピタッ

女(…よし、旧校舎前についた。)

女(…あとは、あの『壊れた窓』に…)


スタスタッ


女(よし!『壊れた窓』にまで来てくれた!)

ガラララッ

女(窓に鍵は掛かってない!中に入るぞ!)

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----


スタンッ


女(…よし、旧校舎の中に入れた…)

女(…ここは1階のどこかの教室…かな?)


スタスタッ


女(…どうやら廊下に出るみたいね。)


ガララッ


女(よし、教室のドアの鍵は空いてるみたい!)


スタスタッ ピタッ


女(いいぞいいぞ。それで、このまま東側の階段へ…)


クルッ


女(…ん? …待って…。 …何で西側を向くの?)


スタスタッ


女(…!? …ちょ、ちょっと!東側の階段は反t…!?)スタスタッ



女(…………しまった!この子もしかして…)スタスタッ




女(…西側の階段に向かってる!?)スタスタッ


女(…あの鏡があるのは東側の階段…)スタスタッ

女(…これじゃあ…入れ替わりが…)スタスタッ


女(…どうすれば…)スタスタッ



女(…どうすればいいの!?)スタスタッ


スタスタッ


ピタッ



女(…!?)


女(…え!?何これ!?)

女(…西側の階段が…)

女(…たくさんの荷物で埋め尽くされている!?)

女(…体育祭とかで使う大玉やイスや大道具が…)

女(…こんな大きな荷物を女の子一人でどけるなんて不可能だわ。こっちからじゃ上にあげれそうにない。……!!)

女(…もしかしてこれ、お姉さんが!?)

女(…絶対にそうだ。さっきお姉さんが言ってた『最初は驚くかもしれないけど』ってのもこのことだったのか…)(>>310)

女(…何はともあれ、こっちからじゃ上には上がれないよ裏々女!!)



女(…さあ、どう動く!?)


スタスタッ


女(…!! …動き出した!!)スタスタッ


女(…よし!東側へと向かってる!!)スタスタッ


女(…『壊れた窓』のある教室を通り過ぎれば…)スタスタッ


女(…よし、通り過ぎた!旧校舎から出る気配はない!このまま、このまま順調に行けば…っ!!)スタスタッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女(東側の階段に着いた…)

女(…あとはこれを上っていって、そして2階と3階の間の踊り場にあるあの鏡の前まで行けば…)


ギィ ギィ


女(…! …上り始めた!)ギィ ギィ


ギィ ギィ


女(…それにしても、一段上がる度に階段の軋む音がすごい…私達が入学した頃にはもうここは立ち入り禁止になっていたし、やっぱり相当古いんだなこの校舎…)ギィ ギィ


ギィ ギィ


女(…よし、まずは1階と2階の間の踊り場まで来たぞ。…それにしても階段の周辺やここの踊り場に色々と物が散乱してるけど、これは何なんだろ…)


ギィ ギィ


ギィ ギィ


女(もお、物が邪魔だな…)


ギィ ギィ


ギィ ギィ


女(…2階まで来た…)


女(…いよいよだ!)


ギィ ギィ


ギィ ギィ


女(よし、もうちょっと…)


ギィ ギィ


女(…あ、踊り場が上に見えてきた!!)


ギィ ギィ


女(…!? ここの踊り場にも物が散乱してる……。)

女(…でも、『もう1枚の鏡』はいったいどこに………っ!!)

女(…そうか。もしかしてさっきから物が散乱してるのもお姉さんの手回しなんじゃ…わざと東側の階段に色んなものを散乱させておいて肝心の『もう1枚の鏡』が見つからないようにカモフラージュしてるんだ…。)

女(…!! …あの古びた段ボール…こっちからじゃ普通の段ボールに見えるけど、もしかしたらあの中に鏡があって、それで例の鏡の方向に穴が空いていてるのかもしれない。角度的にもあれの中に入ってる可能性が高い!)


キィーーンッ


女(…!! 耳鳴りだ!これで5秒後に『例の鏡』か『もう1枚の鏡』のどちらかに映ることは確定した!)

女(あとは上手い具合に向かい側にあるこの2つの鏡が合わせ鏡の状態になれば…)


ギィ ギィ


女(…よし、踊り場に着いた!『例の鏡』も目の前にある!あとはもう数歩進んでくれれば、あの段ボールの中の鏡と…!!)


スタッ


女(…よし!)


スタッ


女(…あと2歩前へ!!)


スタッ


女(…や、やった!!これで私達の…)














女『「勝ち」…とでも思った?』ニヤッ


----―――――――――――――――――――――――

また来ます

>>1です。支援、本当にありがとうございます。
おかげで元気も書き溜めも溜まりました。
それでは貼っていきます。

―――――――――――――――――――――――----

女(…!?)

女『でも、ば~ればれ。あの段ボールの中に鏡が入っていることなんて。…私が気付かないとでも思った?その段ボールの中に鏡が入っていることに…』

女(…そんな!?)

女『まあ、あと一歩進んでたら危なかったかもしれないわね。まあ、とりあえずあの段ボールの中を確認してみましょうか。映らないように気をつけながら近づかないとね。』クルッ


スタスタッ

ヒョイッ

女(…! …鏡が。)

女『…ふふ、ほ~らね。段ボールを持ち上げてみたら鏡があった♪ これを被せてカモフラージュしたつもりだったんでしょうけど残念だったわね。』

女『それじゃあ、申し訳ないけどこの鏡は伏せさせてもらうわよ。』パタッ

女(…! …これじゃ合わせ鏡に…。)

女『…やっぱり、東側の階段に散乱していたモノもこれに気付かれないようにしたものなんでしょうね。』

女(…。)


女『ふふっ…でも、一体誰がこんなことをしたんだろうね。』

女『…男かな? 男が私がオリジナルじゃないと気付いて…。 …いや、男ならこんな回りくどいことしなさそうだし…』

女『…って考えると』

女『…やっぱりお姉さんかな?』

女(…!? お姉さんに協力してもらったってことに気付かれた!?)

女『ここ2週間で、お姉さんとぐらいしか男以外とは綿密に絡んでないし。それにさっきもお姉さん学校にいたしね。』

女(…。)

女『旧校舎でのプレゼントの受け渡しとかの話とかをお姉さんに聞いたときからちょっと怪しいとは思ってたんだよね。いや~、でも危なかった危なかった。』

女『ん~、でもお姉さんにどうやって協力してもらったのかしら?さっきの男からのメールもお姉さんの仕業なんでしょ?どうにも、そこんとこがよくわかんないのよね~…』

女(…! …そうか、裏々女は『お姉さんが自我を持っていること』や『鏡の世界に詳しいこと』、そして『表の世界との連絡手段を持っているってこと』を知らないんだ。)

女『…っと、これが噂の『旧校舎の鏡』かぁ。段ボールの方にばっか気を取られてたから気付くのが遅れたけど、ずいぶんと立派な鏡ね。』

女(…確かに。…凄く立派な鏡…)


女『…ふふ。ちょっとおしゃべりしましょうか?』

女(…!)

女『あなたには色々と言いたいこともあったし、この際に…ね。まあ、おしゃべりと言っても私が一方的にこっちから話すだけなんだけどね。』

女(…おしゃべり…か。…でも、この間に…)

女『…この間にお姉さんが来てくれればまだチャンスはある!…とでも思ってるんでしょ?』

女(…!)

女『ふふ、もしお姉さんが来る気配がしたらそりゃもちろんすぐ退散させてもらうわ。』

女『あなたもさっき気付いたと思うけどここの階段ってすごく古くて軋む音がすごかったでしょ?(>>317)だから、たとえ、どんだけ抜き足で下の階から上ってきたとしてもすぐ分かる。』

女『もし、お姉さんが来たら力ずくで逃げさせてもらうわ。何たって私にはあなたがバスケで鍛え上げてくれたこの『脚』があるんだから。』

女(…これじゃあどうしようも…)

女『…ふふ。まあ、何はともあれ、あなたにはこれでもう入れ替わりのチャンスは無くなったわ。今日を以て、私がこの旧校舎に近づくことなんて絶対にない。当然マンションの鏡も現在進行形で近づくことはない。』

女(…っ。)


女『…まあ、でも今日中にあなたが『オリジナルの特権』を使って、裏の世界に行き、そして来週の3月21日にもう1度特権を使えばこっちに戻って来れるわよね?でも、あなたは絶対にそれはしない。…でしょ?』

女(…。)

女『私も『半年前』まではあなただったから分かる。あなたは一見、図々しいように見えるけど『根』はとても優しい子。だから、裏女を裏々の世界に押し込んでしまうことになる特権での入れ替わりは絶対にしない。』

女(…。)

女『特権のことを聞いた時、あなたは不思議に思ったはずよ。『裏々女はどうしてこんなに余裕でいられるのか』…と。』

女(…! …あの時のことか。)(>>130

女『ふふ…まあ、もし、あなたが自分のことばかり優先するような人間ならば、2週間で私は裏々の世界へと戻されてしまうわけだし、その2週間でめいいっぱい表の世界を楽しもうと思ってたわ。』

女『…でも、あなたは『私が思った通りの子』だったわ。だから、余裕を持っていられたのよ。』

女(…じゃあ、あなたも…根が優しいのではないの?)

女『…「あなたも私と一緒で根が優しいのなら、何故自分のことを優先させるようなことをしてるの?」と思ってるでしょ?』

女(…! …また見透かされた…)

女『…確かにそうよね。おかしいわよね。…でもね、1ヶ月前、私があなたと入れ替わる前の時点で、あなたには無くて、私にしかないものが既に有ったの。』

女(…私には無くて、裏々女には有ったもの?)

女『…それは「嫉妬心」よ。』

女(…!)


女『入れ替わった初日に窓越しで私からあなたに伝えたメッセージを覚えてる?「オリジナルのあなたには私の気持ちなんて理解出来ない」って言ったこと。』(>>114)

女(…!?)

女『…私は羨ましかった。…私と同じ性格の『もう一人の私』が鏡のむこうで楽しそうに自由に生きていることに対して。』

女『…正直、自我を持ってからの『そっち』での生活は苦痛でしかなかったわ。それまで『自分の意志』で動かしてたと思っていた体が、ただの『思い込み』の上で動かしていたに過ぎなかった。』

女『そんな不自由な私とは一方的に、表の世界で自由気ままに、そして幸せそうにあなたは生きていた。…だから私は『オリジナルのあなた』を羨み、そして…妬むようになったのよ。』

女(…。)

女『…あなたもこの1ヶ月間、そっちで暮らしてみて分かったでしょ?裏々の世界がどれだけ不自由で息苦しい世界か?そっちの男も自我を持っていると言っても、裏の世界のように自我を持っている人が他にもいるわけでもないし、孤独な世界に変わりはない。』

女(…それは…)

女『そして、そんな裏々の世界で過ごしたあなたにも生まれたはずよ。私に対する『嫉妬心』がね。』

女(!?)

女『この1ヶ月、私が羨ましかったでしょ?妬ましかったでしょ?憎かったでしょ? そんな嫉妬心以上の複雑でモヤモヤした気持ちがあなたを今の心の中を支配しているはずよ。私が1ヶ月前そうだったように。』

女(違う! …そんなこと…)

女『ふふ…確かにあなたは根は優しいわ。…でもね、あなたの「本性」はそんな嫉妬心に従順であり、自分が不利な状況になれば自分自身を優先させる…そんな人間なのよ。今回の「コレ」だって、自分が表の世界に戻り、自分を陥れたこの私を裏々の世界に押し込めたいがためにしたんでしょ?』

女(…!! …そんな…そんなことない!! 私は…私は…!!)


女『…ねぇ、そういえば覚えてる?…3ヶ月前の「あの出来事」を。』(>>165)

女(…!?)

女『あなた…っていうか私達ってすごく明るいから相談とかされやすいもんね。そんなあなたの魅力に引かれて、その子もあなたに相談した訳だけど。』

女『…「男くんが好きなんだけどどうしたらいい?」っていう相談をね。』

女(…。)

女『でも、あなたは、その子に相談される前の時点で、男と自分が両思いかもしれないということを友達伝いで知っていた。そして不幸なことにその子はそのことを知らなかった。』

女(…)

女『でも、あなたはその「両思いかもしれない」ことをその子に伝えなかった。まあ、それを伝えちゃ気まずくなるもんね。その子もまさか、相談相手が恋敵であることなんて思いもしないだろうし。』

女『…そんな、気まずさからあなたはそのことをその子に伝えられなかった。そして、あなたはあの子に男のことを諦めさせたんだよね。『男には好きな人がいるらしいよ。』と伝える事によって。』

女(…)

女『まあ、あなたは別に嘘は言ってないわよね。男には本当に好きな人がいたんだから。ただ、その好きな人は『あなた』のことで、そのことまではあの子に教えなかったんだけど。』

女(…)


女『まあ、そうやってあの子に、男に告白しても成功する見込みは薄いよということを分からせることによってあの子が告白するのを防いだ。まあ、いくらあなたと男が両思いだったとしても、この世の中何が起きるか分からないしね。男がもしかしたら心変わりをしてあの子の告白を受け入れたらどうしようと考えていたからこその行動だったのよね?』ニヤニヤ

女(…そ、それは…!!)

女『あと、あなた、私にも感謝してよね?』

女(…感謝?)

女『あなたと入れ替わった後すぐに、男と付き合っている事を周りにバレないように出来るだけ配慮してあげたんだから、この私がね。』(>>55)

女(…!!)

女『ふふ。男と付き合ったってのが彼女に知られたら流石にまずいもんね。だから、私が男と付き合っているのがバレないようにしてあげたのよ?まあ、あのまま私とあなたが入れ替わらなくてもあなた自身もそうしてたと思うけど。』

女(…そんなことしないわよ私は!!)

女『…まあ、つまりあなたは…いや、『私たち』は周りからは思った事をすぐに口にするタイプの元気な女の子だと思われているみたいだけど、『本性』は自分が一番可愛くて、自分が不利となるようなことだけは絶対にしない・口に出さない、『傲慢』で『自己中心的』で『陰険な女』なのよ。』

女(ち、違う!! 私は…私は…)


女『ふふ、でも私、この性格嫌いじゃないわよ。だってすごく『便利』じゃない?今後も色んな状況で上手く立ち回っていけるような、そんな性格だと思うわ。』

女(私は…私は…)

女『まあ、そんな性格のまま、これからは私がこの表の世界で生きていくからね。あなたはそっちでただただ眺めていればいいわ、私の人生を。『勝ち組』の人生をね。』

女(…っ。)

女『ふふふ…あははははは!!』







マァ、ナガメルコトニ、ナルノハ、アナタノホウナンダケドネ


女『…っ!?』バッ

女(…後ろから声が!? それにこの声って…!?)

女『…な!? …な、何で後ろに…』

女『…目の前に鏡が!?』

イマヨ!!

女(…!! 鏡よ!!!)

女『…し、しまっt』

女(私を表の世界へ!!!)

フッ


………
………………
----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

裏々女「…あの声はおそらく…あ~あ、やっぱりお姉さんに協力してもらってたか~。とっととあそこから離れておけばよかったわね。」

裏々女「…ん?何で裏々の世界に戻らないの?入れ替わりが起きたのに…それにここって…」

……々女!

裏々女「…ん?この声って…」

女「裏々女!」

裏々女「…!? あ、あなた、とっととあっちに行かないと危ないわよ。ここは表と裏々との狭間の空間みたいだからで何が起きるか分からないし。」

女「…どうしてもあなたに言いたい事があって、今留まっているの。入れ替わる時にお互いにコミュニケーションは出来る(>>218)って知ってたから、もしかしたら私がこの空間に留まっていればあなも連動してここに留まるんじゃないかって思って。」

裏々女「!? …ふ~ん、そういうことか。で?私に言いたい事って何?」

女「…まず…まず先に…。」

女「……お母さんのことよ。」

裏々女「…お母さん?」


女「知ってる?…あなたのお母さん、自我を持っているのよ。それも1ヶ月以上も前から。」

裏々女「え…?」

女「…あなたが表の世界に行く前からお母さんは自我をもう既に持っていたの!この半年間のあなたとの会話によってお母さんにも自我が生まれたのよ!!」

裏々女「そん…な。」

女「無駄だったのよ、あなたが表の世界でやったお母さんたちに自我を持たせないためにやった対策(>>113)もね。むしろ、それによってあなたのお母さんは家の中で自由を奪われることになってしまったのよ。」

裏々女「…う…そ。…わたしの…せいで…」

女「…でもね、あなたのお母さんはそれに関しては何も起こってなかったわよ!むしろ勝手に表の世界に行ったことに怒ってた!!『早く帰ってきなさい、馬鹿娘!あなたは私の娘なんだから!』って。」

裏々女「…そんな…わたし…わたし…」

裏々女「………お母さん…わたし…。」

女「…。」


裏々女「………はぁ…そっか。…そうだったんだ。…でも確かに入れ替わるあの前日におかしいと思ったんだよね。」(>>275)

女「…。」

裏々女「…はぁ、なんかそれを聞いたら表の世界とかもうどうでも良くなってきちゃった。…はやく私、お母さんに謝りに行かなきゃ。」

女「…裏々女。」

裏々女「この1ヶ月間で十分表の世界を楽しんだしね。…悪い事したね、女。…本当にゴメン。」

女「…! …ううん、いいの。私も鏡の世界での生活を経験したからさっき裏々女が言ってた「嫉妬心」とかも全部分かる。」

裏々女「…そう。…で、他にはもう言う事無いの?無いのならもうあっちに行くけど。」

女「…! …あのね、裏々女。私、さっき裏々女に色々言われてさ、すごく考えたの…これからどうすれば『あんなこと』を起こさずに済むのかと…それでね私…」

裏々女「…私?」

女「…私…変わる。変わってみせる。」

裏々女「…変わる? 変わるって性格を変えるってこと?」


女「そうじゃない。性格は変えない。この性格こそ私の個性であり、強みなんだから。それを自ら壊すような事はしない。」

女(…私の性格が変わったら裏女ちゃんの性格まで変わっちゃうもんね。)(>>198)

裏々女「…じゃあ、どう変わるって言うのよ?」

女「変わるって言い方はおかしかったかな。…私はもっと強くなる。人間的にもっと成長する。」

裏々女「ふーん。…強く…ねえ。…じゃあ、もしこれから『あの出来事』みたいなことに…自分にとって不利な状況に陥ったときにはどうするのよ?その強さでなんとかなるの?むしろその強さが周りを傷つけることになるんじゃないの?」

女「…そう。そんな状況に陥らないためにも、不利な場面に見舞われないようにするためにも強くなるの!」

裏々女「…?」

女「恋愛も…勉強も…スポーツも、遊びも!仕事も!これからの人生すべてが自分にとって最高の道筋をなぞっていけるような…不利な状況になんか一度も見舞われないくらい強くなる!」

裏々女「…っぷ!あははははは!何よそれ!?スーパーマンにでもなるつもり?」

女「ふふ、まあ…そんな感じかな? …そう、周りから見ても清々しいくらい自分勝手で…でもむしろそれが尊敬されるような…そんな魅力たっぷりの完璧な人間に私はなりたい!」

裏々女「…ふふ、いいよ。…いいよ!すごくいいよそれ!気に入った!!そうよね、私達みたいな性格の人間は『攻め』あるのみ!『前進』あるのみ!『能動的』であるのみ!むしろそれらを私たちから取ったら何も残らないしね。」

女「でしょ?」


裏々女「強くなりなさい!なってみせなさい女!周りから有無も言わせないくらいの強い女に!やりたいこと全てが上手くいくようなそんなサクセスストーリーを続けていきなさい!」

女「ええ、言われずとも!」

裏々女「ふふ、面白くなってきたわね。…それじゃあ、そんなあなたが成長していく姿を私はあっちの世界で…いや、違うわね。」

女「…違う?違うって何が?」

裏々女「…私も…私もあなたと一緒にそんあ人間に成長しないとね?」ニコッ

女「…!! うん…うん!そうだね!一緒に…一緒に強くなろう!!」

裏々女「ふふふ。」

女「あはは。…あ、でももう入れ替わりはこりごりだからね!?」

裏々女「う~ん、どうかな~?もしも隙やチャンスがあればやっちゃうかもよ~?」ニヤニヤ

女「…!! もう駄目!!絶対に駄目だからね!!」

裏々女「ふふ、冗談よ冗談!」

女「なら、いいんだけど。」


裏々女「…ふう。さあ、そろそろ行きなさい。これ以上この空間にいたら危険よ。」

女「…! …そうだね。」

裏々女「でも、まさかあなたとこんなに話が盛り上がるとは…仲が良くなるとは思ってもいなかったわ。」

女「ふふ、私も。まあ、私たち『似た者同士』だもんね!」

裏々女「『似た者同士』か…。ふふ、間違いない。決して『全く同じ』ではないもんね。」

女「そうよ!みんなそれぞれが『自我』を持っている以上、全く同じ人間なんているわけない!だから私とあなたは『似た者同士』!」

裏々女「ええ、その通りだわ。…私は『私の人生』をこれから裏々の世界で歩んでいく。お母さん達とともに。そしてあなたはあなたで表の世界であなたの人生を歩んでいってね。」ニコッ

女「…ええ!…あっ、あと、あっちのお母さんによろしくね。」ニコッ

裏々女「…! ええ、絶対に伝えておく。お母さんのことも本当にありがとう。…あなたとこうやって会話出来るのはもうこれで最後だけど話せて本当に良かったわ。やっぱり話さないと分からないこともあるのね。」

女「…私も裏々女と話せて本当に良かった!」

裏々女「…。」

女「…。」

裏々女「…それじゃあ。」

女・裏々女「さようなら!」

----―――――――――――――――――――――――


―2012年/3月/14日/香川/ @ 5週目―――――――----
………………
………


【表の世界】

女「…あれ!?私…戻れてる!?」

女「手も…足も…自分の意志で動かせる!!」ヒョイヒョイ

女「…私…戻って来れたんだ!!」

ギィ ギィ

男姉「…ふ~、上手くいったわね。」ギィ ギィ

女「…!! お、お姉さん!?」

男姉「やあ、女ちゃん。よかったね、こっちに戻って来れて。」

女「あっ、はい!ありがとうございますお姉さん!…でもお姉さん、今のは一体何が起きたんですか? それに何で…」

女「何で3階から今、『降りて』きたんですか!? というか…もしかしてずっと3階に『居た』んですか!?」


男姉「ええ、そうよ。…まあ、色々と混乱していると思うけど…まず何から聞きたい?」ニコッ

女「…! お姉さんの仰る通り今、『何が何だか』状態なんですが…じゃ、じゃあまずこれを教えて下さい!『一体何が起きたんですか!?』」

男姉「ふふ、了解。…ただ、まあ『何が起きた?』って言われても、『入れ替わりが起きた』っていうのが答えなんだけどね。」

女「そ、それは分かっているんですけど、確かあの時、後ろから急にお姉さんの声がしたんです。で、振り返ってみると…そこにはお姉さんの姿は無くて…というかお姉さんがもし背後に居たら目の前あるこの『旧校舎の鏡』で丸わかりなんですけど。」

男姉「ふふ、でしょうね。ここは足音もすごくするからバレるでしょうしね。」

女「…はい。…でも、お姉さんの代わりにあるものが目の前に浮いてたんです…『鏡』が。」

男姉「その鏡ってのはこれのこと?」ヒョイッ

女「…! …それは…??」

男姉「ふふ、これって何だと思う?」

女「…!? …それは…」

女「…釣り…竿?」


男姉「正か~い♪ まあ、これはこの旧校舎にあった体育祭の棒引き用の『棒』と音楽室にあった『ピアノ線』、そして女ちゃんが見たこの『手鏡』で繕った手作りバージョンの釣り竿だけどね。」ニコッ

女「…棒と…ピアノ線?」

男姉「この釣り竿はね、この棒の先端にピアノ線を結びつけて、上からテープも貼ってほどけないようにしてあるの。更に、ピアノ線の棒に結びつけてない片方の先端側とこの『手鏡』をこれまた外れないようにテープで固定してあるの。」

男姉「ちなみにこの棒の先端から手鏡までのピアノ線の長さは約2,5メートル。ちょうど3階から女ちゃんの目線の高さまでの長さになっているわ。で、このピアノ線を棒の先端にこうやって…ぐるぐるまいたら準備完了。ふふ、それじゃあ、今からもう一度やってみせるね。ちょっと3階に上るわよ。女ちゃんはそこに居てね。」

女「あ、はい。」

ギィ ギィ

ギィ ギィ

男姉「よし着いた。それじゃあ始めるね。まず、ここ3階から棒を私が女ちゃんの立ち位置まで伸ばした状態を維持したまま、こうやって棒をゆっくり回す。」クルクルッ

男姉「棒をまわすことによって棒に巻き付いていたピアノ線が伸びていき、同時にピアノ線の先端に取り付けていた鏡も下がっていく。」

男姉「…で、裏々女ちゃんに気付かれないぐらいのギリギリの場所まで下ろしておいて…」

男姉「…そしてタイミングを見計らって、いっきに鏡を下ろす!」パッ


男姉「最後に一気に下ろしたのは裏々女ちゃんの背後に下ろすまで、いつまでもちょろちょろ下ろしてたら鏡を見ている裏々女に気付かれる可能性があるからよ。」

女「…なるほど。…ん?でもそれじゃあお姉さんはやっぱりずっと3階に至って事ですよね?でもあの時の『声』は確かに背後から…」

男姉「ふふ、女ちゃん。その『手鏡』の裏を見てみなさい。」

女「…裏?」ヒョイ

女「…!! …スマートフォン!?っというかこれって確か…!?」

男姉「ええ、それは私が昼休みに盗んでおいた男の携帯よ。さっきの入れ替わりのために有効活用したの。」

女「そうだったんですね…確かにあの時お姉さんの声はしたんですけど、『普通の声』とはちょっと違うとは思ってたんです…まさか電話越しの声だったとは。…ん?でも何でお姉さんはこんなことをしたんですか?携帯を鏡の裏に取り付けることに一体なんの意味が?」

男姉「だって私が3階から声を掛けたら、裏々女ちゃんは3階の方を見ちゃうじゃない?」

女「…どういうことですか?」

男姉「裏々女ちゃんには『真後ろ』をみてもらう必要があったからね。」

女「…真後ろ?何で真後ろを向く必要が…?」

男姉「ふふ、ごめんね。それは『教えられない』の。」

女「…!? 教えられないってどういうことですか?」


男姉「…察しなさい。」ニコッ

女「察しろって………っ!!」

女(…お姉さんが『教えられない』ということは、『鏡の世界』の秘密に関わる事に触れようとしている事か…あっちのお姉さんは『鏡の世界』に関わる事について追求しないことを条件に協力してくれたわけだし…)

女(…ん? …『あっち』の…お姉さん? …っ!!)

女「…すみません、お姉さん。今、気付いたんですけど…もしかして…今、私の目の前に居る『お姉さん』は…」

男姉「…ふふ、気付くのが遅かったわね。」

女「…!!」

男姉「『久しぶり』ね、女ちゃん。私がこの『表の世界』の…『オリジナル』の男姉よ。」ニコッ

女「…!? あなたがオリジナルの? それじゃあやっぱり、あっちの…裏々の世界にいたお姉さんは…」

男姉「ええ。あの子は裏々の世界の私よ。」

女「そうだったんですか…え、でも何でそれを教えてくれるんですか?『あっち』のお姉さんは自分がどの世界出身かを教えてくれなかったのに…」

男姉「ふふ、別にあの子も悪気があったわけではないのよ。まあ、ちょっといたずらが過ぎたというか。だから、あなたがこっちに戻ってきたらこっちにいる私が『オリジナル』であっちが『裏々』だということをちゃんとカミングアウトするように裏々の私からも頼まれてたし。それに…」

女「…それに?」


男姉「私がオリジナルだということが分かった方が安心するでしょ?」

女「…! …はい、確かにそうですね。もし、今目の前に居るのがオリジナルのお姉さんではなく他の鏡の世界のお姉さんだったとしたら…ちょっと複雑な気持ちになるというか…あっちのお姉さんも優しかったんですけど…何と言うか…すみません…上手く言い表せないんですけど…」

男姉「分かるわよ、その感覚。居るべき人がここに居ない。在るべきものがそこに無い、という状況は不安要素にしかならないからね。」

女「でも、入れ替わる直前のあの電話越しのお姉さんの声って、どっちのお姉さんだったんですか?あ、でも鏡の世界では喋る事や電話での会話は可能だからあの声は『あっち』のお姉さんだったのかな?…もしそうだとしたらすごい連携プレーでしたね。」

男姉「ふふ、どうやら『あっち』の私も上手くやってくれたようね。この計画でも一番不安だったのがそこだったのよ。まあ、私がもう1枚鏡を持って自分自身を映した状態にすれば電話越しの声を連動させることも出来てタイミングを合わせることも簡単にはなったんだけど、もし『あっち』で不測の出来事が起きた場合に『あっち』の私に対応させる必要があったからそれはしなかったのよ。」

女「…不測の出来事…ですか。まあ私にとって、この2~30分は不測の出来事しか起きていないんですけど…」

男姉「あははは、そうでしょうね。」

女「…そうだ、不測の出来事といえば、お姉さんは何で3階に居たんですか!?西階段は大荷物で封鎖されていたし…というかあの大荷物はお姉さんが仕掛けたことですよね!?」

男姉「ええ、もちろん。西階段を裏々女ちゃんに使わせないために私が事前に仕掛けたものよ。」

女「じゃあ、お姉さん西階段は使えないはずですよね?…でも、お姉さんは3階に居た…というか、私よりも先に3階に潜んでいたとまで言ってましたよね?」

男姉「ええ。」

女「お姉さんは私が旧校舎に入る直前までお母さんと中校舎の前に居た。なのにどうやったら私よりも先に…」

男姉「…ふふ、あったじゃない?」


女「…『あった』って何がですか?」

男姉「あなたよりも先に3階に上がれるタイミングが。」

女「…私よりも先に上がれるタイミング?」

女「…タイミング……。」

女「………………あっ!」

男姉「気付いた?」

女「も、もしかして『私たち』が…西階段に向かっていた時に…!?」

男姉「ふふ、正解♪」

女「じゃ、じゃああのタイミングでお姉さんは!?」

男姉「ええ。実は裏々女ちゃんと中校舎で別れた後に私もすぐに旧校舎に向かったのよ。で、裏々女ちゃんが旧校舎に入り、西階段に向かうのを確認して私は出来るだけ音を立てないように旧校舎に入り、そして東階段を上って3階で待機してたのよ。」

女「今の言い方ですと、まるで裏々女ちゃんが西階段に行く事が最初から分かってたみたいですけど…」

男姉「ええ、もちろん。というか、あの子が3階の音楽室に行くために東階段ではなく西階段を経由しなければこの計画は成功しなかったんだけどね。それと、中校舎前にあなたのお母さんと居たのも『ワザト』なんだけどね。」

女「…!? どういうことですか?」


男姉「女ちゃんの教室は中校舎で、旧校舎に行くためには必ず私とあなたとお母さんが居た場所を必ず通るはずだから、私はあそこであなたのお母さんと一緒にいたのよ。まあ、その時『こっち』では世間話をしただけで特にたいした会話はしてないんだけどね。」

女「…でもあそこにお姉さんが居たことに一体何の意味が…?」

男姉「それは裏々女ちゃんに油断させるため。そして心的優位に立たせるためよ。」

女「…心的…優位?」

男姉「裏々女ちゃんはここ最近の私からのアプローチを受ける事を通じて少なからず私に対して警戒心を持っていたはず。…だから、あそこで私の姿を見せる必要があったの。」

女「…でも、待って下さい。それだと逆効果じゃないですか?裏々女が旧校舎に行く前にお姉さんが姿を見せてしまったら、油断どころか逆に警戒心が高まるはずだったと思うんですけど…」

男姉「ふふ、その通りよ。当然裏々女ちゃんは私を見たことによって警戒を強めたはずよ。『もしかしたら、この人何か企んでるんじゃないのか』と。そして、警戒心マックスの状態であの子は西階段、そして東階段へと向かい、そして…」スタスタッ

男姉「これを見破った。」ヒョイ

女「…! …それは…」

男姉「そう。このバッレバレの段ボールの箱を。これはもともと見破ってもらうようにこんな分かりやすい場所に置いておいたの。…女ちゃん、私はあのときには既に3階に潜んでて見えなかったんだけど、あの時の裏々女ちゃんの様子はどうだった?」

女「…『どうだった』?」

男姉「すごい勝ち誇った顔をしてたんじゃないの?」

女「…! …はい、確かに。」


男姉「まあ、誰だってトラップを未然に防ぐ事が出来たら嬉しくなるわよね。さらに『あなたたち』の性格を考えたらその感情を表現せずにはいられない。そんな時に目の前に鏡がある。敵である『あなた』に対して勝利のメッセージを届けられる環境が整っている。そりゃあ、もう『あの子』は喋られずにはいられないわよね。」

女「…! それがお姉さんがさっき言ってた『心的優位に立たせる』ってことですか?」

男姉「そういうこと。更に西階段は封鎖されていて、私は中校舎の前にいた。だから『3階にお姉さんがいるはずがない』…と思い込んだ。まあ、もし、下から私が来ても階段の上から逃げるのと階段の下から捕まえるのじゃあ、絶対に前者のほうが優勢だしね。そもそも私はろくに運動もしてない大学生だし、現役運動部の子を捕まえるのはなかなか厳しいしね。」

女「…」

男姉「そういった状況があの子を油断させた。『まあ、ちょっとぐらい敗戦相手と喋ってもいいか』と。」

女「それじゃあ中校舎前でのお姉さんたちとの遭遇も、西階段封鎖も、このトラップも全て…」

男姉「ええ。それら全ては、裏々女ちゃんを油断させ、心的優位にたたせる、『その状況を創りだすこと』…それが私の今回の目的だったのよ。そしてその隙に私がこの釣竿で釣る。…『あっち』で『あっちの私』が言ってたでしょ?『私が必ず釣ってみせる』って。」(>>244)

女「…! あれってそういうことだったんですか…でも、何で事前に教えてくれなかったんですか!?」

男姉「こんなの事前に全部教えてたら時間がかかりすぎて怪しまれるでしょ?それに女ちゃんにもちょっとしたスリルを味わってもらいたくってね♪」ニコッ


女「スリルって…本当にどうなるかと思いましたよ… でも、今回の作戦の目的が裏々女を油断させる事ってのは分かったんですけど、さっきのこの段ボールに隠した鏡によるトラップにもし裏々女が気付かなかったら、普通に成功してましたよね?」

男姉「…それは、無理よ。」

女「…無理?」

男姉「それじゃあ入れ替わりは『起きない』のよ。」

女「…! それってどういう…」

男姉「…おっと、さすがに話すぎたわね。もう30分も経ってるじゃない。」

女「え!? …うわ!ほんとだ!!昼休みあと15分しかないですよ!!」

男姉「それじゃあ、今から第二段階へと移る事にしましょうかね。」

女「あ、でもお姉さん、その第二段階って…」

女「…一体何をするんですか? 確か1週間前…」


………
………………

----―――――――――――――――――――――――


―【回想~(>>304)の続き~】―――――――――----

男姉「よし、それじゃあ、第2段階の裏々男を釣る話なんだけど、それは第1段階が成功した後のお楽しみということで♪」

男「…えっ!? な、何でだよ姉さん!?」

男姉「これ以上、『あっち』で『あっちの私』が話込みすぎたら怪しまれるだろうし、そろそろ時間切れなのよ。それと、この第2段階…というか第1段階についてもだけど、男に話したところで『何にもならない』のよ。だって、あなたはずっと見ていることしか出来ないからね。」

男「…!? いや、それは何となく気付いてたけどさ…でも『心の準備』っていうもんが必要じゃないか?」

男姉「そんなもん必要ないわよ。あんたはただ入れ替わりのチャンスが来るのをただ待っていればいいのよ。」

男「え~…」

女「お、お姉さん、さすがに言い過ぎじゃ…というか本当に大丈夫なんですか?今の時点で第2段階の作戦を私達が知っておかなくて…」

男姉「大丈夫よ。第1段階が終わったら女ちゃんには電話、もしくは直接それを伝えるから、それまでは第1段階のことだけを考えていなさい。」

女「は、はぁ。」

男姉「…ふふ、男。まあ、この私を信用しなさい。この私を誰だと思ってるの?」

男「…ああ、そうだな姉さん。姉さんはいつも『有言実行』出来なかった事なんて無かったもんな。…俺はただひたすら『その時』を待っている。…それでいいんだな?」

男姉「そういうこと♪」

----――――――――――――――――【回想終了】―


―――――――――――――――――――――――----
………………
………


女「っていう感じで、第2段階についてはまだ私は聞いてないんですけど…」

男姉「らしいわね。『裏々の私』から第2段階について話してない事は聞いてるわ。…それじゃあ話すわね。」

女「…お願いします。」

男姉「…実のところ第2段階については何にも考えていません♪」

女「……え?」

男姉「だから、考えてないの♪」

女「…えええええええ!? そ、それってどういうことですか!?」

男姉「ふふ♪ だから、自分の力でなんとかしてみなさい、女ちゃん♪」

女「…! …自分の…力…?」

男姉「ええ、そう、自分の力。…だって、あなたたち『二人の力で戻ってみせる』って決めたんでしょ?」

女「…! …はい。」


男姉「でしょ? さっきまでは『何が何だか』な状態だったかもしれないけど、今からは『何が何でも』男を取り戻すことだけを考えて行動しなさい♪」

女「…! …『何が何でも』…。…はい。そうですよね、最後くらい自分たちで!…それに最後までお姉さんに迷惑を掛けるわけにもいけませんし…」

男姉「ふふ、別に迷惑だなんて思ってないけどね。それにさっきはああ言ったけど最低限のサポートとアドバイスはしてあげるわよ。」

女「サポートとアドバイス?」

男姉「ちょっと待っててね」ピッ ピッ ピッ

女「?」

prrrrr prrrrr

男姉「…あ、もしもし。男姉です。ええ、こっちの方はもう済んだので旧校舎前に…そうですね5分後に来るように伝えてくれますか?…ふふ、本当にありがとうございました。…あ、はーい。ではでは。」ピッ

女「…誰に電話してたんですか?」

男姉「ふふ、女ちゃんのお母さんによ。」

女「…!? お、お母さんに!?でも何で??」

男姉「実は今、お母さんと男は一緒にいたのよ。」


女「…! でも何で男とお母さんが??」

男姉「だって男、今携帯持ってないでしょ??」

女「…! …そういうことですか。」

男姉「男の携帯は今ここにあるからね。そして、男の携帯がここにあるということは『裏々男』との連絡もとれないということ。だから、『裏々男』との連絡手段として、そして『裏々男』が変な動きをしないよう監視してもらうためにもあなたのお母さんに協力してもらったの。もちろん『こっち』のあなたのお母さんには鏡の世界について等は話してないわよ。『私が女ちゃんとちょっとお話があるから、その間、男の相手をして下さい』っていう風な頼み方をしたわ。」

女「なるほど…じゃあ、今の電話は?」

男姉「うん。こっちの話が終わったから男に旧校舎まで行くように誘導してほしいとお願いしたの。」

女「そうだったんですか…」

男姉「さあ!準備は整ったわよ!男が旧校舎前に来る前までにちゃんと旧校舎から出ておかないとね!じゃないと怪しまれるかもしれないし。」

女「…! …そ、そうですね!…でも、私一体どうしたら…」

男姉「大丈夫よ女ちゃん。…それじゃあ、さっき言ってたアドバイスをあげるわね。」

女「アドバイス?」


男姉「女ちゃん、『女の子』にとっての『最強の武器』って何だと思う?」

女「…女の子の最強の武器??」

男姉「ふふ、それは『色気』よ♪」

女「…! い、いいい色気!?」

男姉「ええ。あんな童貞野郎、女ちゃんがハニートラップを仕掛けてやったら一発よ♪そうやって隙を創りだしてその隙に力ずくで入れ替わりをしてやんなさい♪」

女「そそ、そんなの無理ですよ!!/// 色気だなんて…///」

男姉「ふふ、何とかなるわよ!さあ、早く行きなさい!男先に来ちゃうわよ!…あと、これ持っていきなさい!」ヒョイ

女「…!」パスッ


女「あ、これってさっきの釣り竿もどきの手鏡…?」

男姉「ええ。それが無いと合わせ鏡出来ないでしょ?」

女「…あ、そうですよね。 そ、それじゃあ行ってきます!」

男姉「いってらっしゃい♪ …ちゃんと私との会話を反芻しながらシチュエーションを作るのよ。」

女「…え?」

男姉「も~早く行きなさい!」

女「あ、はい!」タッ

タッタッタッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

タッタッタ

女(よ、良かった。まだ、裏々男来てない。あの壊れた窓から出たところも見られてないよね。 でも、これからどうしたら…)

女(お姉さんはああ言ってたけど…私に色気なんか…『そういう経験』も全くな、無いし…///)

女(…そもそもどうやって『あの鏡』の前まで裏々男を連れて行けば…)

オーイ

女(…! き、来た!)

男「ごめんごめん」

女「…や、やあ男!」

女(…この子が…裏々男…。)

男「てか、お前どこ行ってたんだよ。お前のお母さんと一緒に探してたんだぞ?」

女「え!? あ、それはですね…」

女(え、何?お母さんは、私がお姉さんと一緒にいること知ってたはずだから…あ、そういう設定になってるのか。)

女「いや~、ちょっと…ね」


男「しかも姉さんと一緒にいたんだろ?何してたんだよ?」

女「い、いや~、ちょっとガールズトークをですね、ははは。」

男「ふ~ん。まあ、でも俺の方こそゴメンな。体育終わったら携帯が無くなっててさ…いったいどこにいったんだろ…」

女「へ、へ~そうだったんだ…」

女(お姉さんが携帯を盗んだなんてとても言えないわね…)

男「…まあ、そんなことはいいとして、姉さんはどうしたの?」

女「…! …お、お姉さんは…か、帰ったよ!何でも用事があるとか何とかで…」

男「そっか。まあ、あの人いつも忙しそうだからな~。でも何でお前、旧校舎前に来てって言ったんだ?」

女「…! …い、いや、それは…」

男「…まあ、どうせこの前、姉さんが言ってた『ホワイトデーの旧校舎でプレゼントの受け渡し』の話を聞いて、それを俺にさせるためなんだろ?お前はプレゼントを貰う側なのに欲張りな奴だよな~まあ、女らしいけど!あはは!」

女(……な、なんか傷つく…で、でもこれに乗じれば…)


女「そ、そうなの!どうせプレゼントを貰うのなら旧校舎がいいと思って!」

男「はは、そっかそっか。まあ、俺ももともと旧校舎で渡すつもりだったしね。よし、それじゃあ中に入ろうか!」スタスタッ

女「あ、うん。…あ、でも」スタスタッ

男「『どうやって中に入るの?』だろ? はは、実はね旧校舎には壊れた窓が一つあってね、そこから入れるんだぜ。」スタスタッ

女「へ、へぇ~、そうなんだ。」スタスタッ

男「…お、やっぱりまだここは壊れたまんまだ。それじゃあ中に入ろうか。人に見られないうちに早くしないとな。」

女「あ、うん。わかった。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

スタッ

男「…よっと。大丈夫、女?」

女「うん。」スタッ

女(まあ、入るのは2回目だしね)

男「うわ、相変わらずホコリっぽいな中は…そんじゃ3階の音楽室の前まで行こうか。」スタスタッ

女「…。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「よし、廊下には出れたし、3階に上がろうか。」

女「うん。」

男「それじゃあ、行こう。」スタスタッ

女「…! 男、そっちの方は西階段だけど…」

男「え?」

女「…確か旧校舎の音楽室って東階段から上った方が早いらしいけど…」

男「あ、いや、それは…」

男「…き、旧校舎って来週には取り壊されるだろ?だから、せっかくだし、探索しながら3階にあがろうぜ!」

女(…間違いない。この子、あきらかに東階段を避けようとしている…)

女(…けど、ここは拒否反応せずにこの子の意見に従っておいた方がいいかも。まあ、西階段はどうせ封鎖されてることだし…)

女「…そうね、せっかくだし遠回りしながら行きましょうか。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「…おいおい、何だよコレ。」

女「…これじゃあ、階段上れないね…」

女(…さあ、どうする!?)

男「…なあ、女。…もうプレゼントここで渡してもいいんじゃね?」

女「!? …ど、どうして!?」

男「いや、だって…もしかしたら東側の階段もこうなってるかもしれないし…」

女「そ、そんなのまだ分かんないじゃない!それに、せっかく来たんだし、3階まで行こうよ!!」

男「…わ、分かったよ。」

女「ほら!それじゃあ行くよ!」グイッ

男「あ、ちょ、ちょっと女!そんなに引っ張るなって!」スタスタッ

女(…なんとか『旧校舎から出る』という最悪の状況は切り抜けられた…)スタスタッ

女(…あとは『あの鏡の前』で力ずくでもいいから合わせ鏡をしてやれば…!)スタスタッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女「…」ギィ ギィ

男「こっち側の階段は色々とモノが散乱してるな…」ギィ ギィ

女「…。」ギィ ギィ

男「…女?」ギィ ギィ

女「…! …ええ、そうね。…さあ、時間も無いんだし、早く行くよ!」グイッ

男「だ、だからそんな引っ張るなって!」タタタッ

女(もう今の時点で2階近くまで上ってきた…)ギィ ギィ

女(もう少しで『あの鏡』がある踊り場に着く。)ギィ ギィ

女(あの踊り場に着いてから…私はどうすればいいんだろ…)ギィ ギィ

女(お姉さんは、は、ハニートラップを仕掛けろとか言ってたけど、そんなのどうやってやるのよぉ…)ギィ ギィ

女(…ハニートラップ以外に何か…っ!)ギィ ギィ

女(…そういえばお姉さん、最後に言ってたな…『私との会話を反芻しなさい』って…でも、結構長い時間話していたし…)ギィ ギィ


女(…ただ、お姉さんとのさっきの会話の中で未だに解消出来ていない疑問がいくつかある…)ギィ ギィ

女(…お姉さんは『何で入れ替わりの際に私を後ろに向かせたのか』(>>349)、『何でそれの理由を教えられないのか』(>>349)、そして『何であらかじめ仕掛けておいたトラップでは入れ替わりは出来ないと言ったのか』(>>355)…)ギィ ギィ

女(…!! もしかしてこの3つの疑問は全て繋がっている!?)ギィ ギィ

女(…っ! そ、そうか…も、もしかしたら…! …いや、絶対にそうだ!!…だとしたら、『それ』を踏まえた上でやらなくちゃ …っ! 考えてたらもう踊り場に…!?)ギィ ギィ

ピタッ

女(…ど、どうしよう…)

男「…? …どうしたんだ女?急に立ち止まって?…って、ここは…」

女(…ええーい!!なるようになれッ!!)クルッ

グイッ

男「ちょ、ちょっと女!急に引っ張るなっt…」タタタッ

ガバッ

男「…!? ど、どうしたんだよ女!き、急に抱きついてきて…///」


女「…ご、ごめんね… …でも、どうしても…こ、こうしたかったの…/// 男とは学校とかじゃあんまり会えてなかったし…それに…き、キスも最初のデート以来してなかったし…///」グッ

男「お、女…///」

男「…うん、そうだよな…何かゴメンな、そこんとこ気付いてやれなくて…」ギュッ

女「…。」

男「はは、ずっとこうしてたい気分だな…」

女「…ええ。」

男「…でも、まあすぐそこに音楽室があるんだし、とりあえず音楽室前まで行こうか。今、俺の真後ろに鏡があるだろ?それって実はあの噂の…」

女「…男。」

男「…ん?何だ?」

女「………………………ごめんなさい。」ガサッ


グイッ

男「…!? …お、お前…何で手鏡なんか!?」

女「今よ!!男!!」

男「…ッ!?」


男「………………ふぅ。上手くいったみたいだな。」

女「ええ。予想以上に上手くいったわ。」

男「意外とあっけないもんなんだな…。」

女「まあ、いいんじゃない?こういうのも?」

男「はは、そうだな。」

女「ふふ…おかえり、男!」

男「…ああ。」




男「ただいま、女。」


男「ていうか、お前もちゃんと帰って来れたんだよな?」

女「ええ。…まあ、お姉さんが1週間前に伝えてくれた計画とはかなり違った事になったけどね…。」

男「…? そうなのか?まあ、戻って来れたんだし良かったじゃないか。」

女「ふふ、まあそうなんだけどね。」

男「ただ、結局俺はお前や姉さんにやってもらうことしか出来なかったな…何だか不甲斐ないや…」

女「いいじゃない別にそんな事!…まあ、でも『感謝』はしてほしいわよね♪」

男「はは、感謝してるよほんと。でも、お前が急に抱きついてくるんだからマジでビックリしたぜ。あれは裏々男を油断させるためだったんだろ?」

女「自分でもビックリしてるわよ。まあ、油断させるためでもあったし、あと立ち位置の調整と入れ替わりの条件を満たすように手鏡の角度やその他諸々のためよ。」

男「そっか…でも本当に助かったよ…ありがとうな女!」ギュッ

女「ちょ/// お、男!?///」

女「…も~、男ったら…///」ギュッ



男姉「ひゅーひゅー!熱いねー!青春してるねー!少年少女よ!」ギィ ギィ


女「…!? …って、おおおおお姉さん!?」バッ

男「ね、姉さん何でここにいるんだよ!?」

男姉「え?何でって私ならずっと3階にいたわよ?」

女「え?今回も3階に居たんですか??」

男姉「ええ。もし女ちゃんがしくじったときのために今回も3階でスタンバってたのよ。まあ、その必要はなかったみたいね。いや~、女ちゃん、なかなかの演技だったよ。そしてさすが童貞。『ただ抱きついただけ』なのにモノの見事に隙だらけになってくれて。」

男「ま、まあ、俺なら引っかからなかったけどね。」

女「ふふ、どうだか。」

男姉「そうよ、あんたもあいつと一緒なんだから引っかかるに決まっているじゃない。」

男「そ、そんなわけないよ!」

男姉「ふふ、まあ何はともあれ無事戻って来れてよかったわね。女ちゃん、本当によくやったわね。」

女「いや、私は別に大した事は…」

男姉「いいえ、あのことに『気付けた』ことは本当にファインプレーだったわよ。」

女「…!?」

男「…あのこと?」


キンコンカンコーン

男姉「あら、昼休みが終わったみたいね。さあ、予鈴もなった事だしとっとと戻りなさいあなたたち。」

女「あ…はい。」

男「…あ、俺、っていうか裏々男のやつ、次の数学の宿題してなかったっけ!早く戻らないと!行こう女!」

女「あ、うん!」

男姉「あ、ちょっとだけ待ちなさい、二人とも。」

男・女「?」

男姉「あなたたち、『私たち』との約束のこと忘れてないわよね?」

女「…! …はい、もちろんです。」

男「…ああ。」

男姉「第1段階でどういうことがあったのか…といったことについてはまあ、女ちゃんから男に話しても構わないわ。男も第1段階でどんなことがあったのかって気になってると思うしね…でも、話してもいいのはそれだけ。今後は鏡の世界について一切関わらないこと。そしてお互いにそのことについての話題も絶対にしない事。いいわね?」

女・男「はい。」


男姉「よろしい。それじゃあ行きなさい♪さあ、5時間目遅刻しちゃうわよ!」

男「あ、宿題!行こう女!それじゃあ姉さんまた!」タッ

女「あ、待って!…お姉さん、本当にありがとうございました!」タッ

タッタッタ









男姉「…。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「やべ~、数学の先生、宿題のことについては厳しいからな~」タッタッタ

女「ふふ、ドンマイ男」タッタッタ

女「…あ、そう言えば…ねえ男!」タッタッタ

男「んん~??」タッタッタ

女「今、私へのプレゼント持ってるんじゃないの!?」タッタッタ

男「プレゼント?…ああ、裏々男が用意したやつの事か?」ピタッ

女「そうそうそれ! ねえ見してよ!」

男「え、何で?『あっち』で言ったろ?俺が改めて用意して渡すって。」(>>292)

女「いいじゃない!裏々男が私にどんなプレゼントを用意してくれたのか気になって!別にそれを頂戴って言ってるわけでもないし!」

男「…ったく。こっちは数学のことで頭がいっぱいだっていうのに。」ガサゴソ

女「やった~、見せて見せて~♪」

男「ほい。」


女「…へ~、奇麗な箱だね。開けてもいい?」

男「…好きにしろよ。まあ、俺は中身はもう知ってるけど。」

女「それじゃあ開けま~す。」パカッ

女「…これって…ネックレスだ…うわぁ~奇麗…」

男「…ったく、俺がそれよりももっといいものをプレゼントしてあげるよ。」

女「え、ほんと?…ふふ、楽しみにしてるね!…でも男もそうやって嫉妬することもあるんだね~?意外~」ニヤニヤ

男「ばっ…/// 別に嫉妬なんかしてないって!もともとそういう約束だっただろ!?」

女「ふふ、そうだったね。…はい、それじゃあこれは一応返しておくね。」ヒョイ

男「おう。…さあ、早く行こう!」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「それじゃあな、女。また放課後の部活が終わった後に!またその時に今日何があったのか教えてくれよ。」タッタッタ

女「うん、わかった!またね!」ふりふり

女「さてと…私も教室に戻るか」スタスタッ

女(…ここ30分ぐらい激動の時間がずっと続いてたからあまり実感が無かったけど…)

女(…こうやって一人になってから実感がわいてきた…)

女(…私、本当に、自分の意志で今、体を動かせてるんだ…)



女(…私、本当に、表の世界に戻って来れたんだ!!!!!)


----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

キンコンカンコーン

女(…さあ、授業も終わった事だし、部活に行くか。)

女(…でも、表の世界での…というか『自分の意志』で運動するのはちょうど1ヶ月振りだからちょっと不安だな~)

女(…いや、違う。部活に行くのは『後』だ。それよりも先に私は会わないといけない人が『二人』いる。)

部員1「女ちゃん、部活行こ~」

女「…! 部員1…」

部員1「…? どうしたの女ちゃん?固まっちゃって。」

女「…っ」ガバッ

部員1「え、えええ!?お、おお女ちゃんどうしたの急に抱きついたりして!?/// み、みんな見てるよ!?///」

女「しばらくこうさせて…」

部員1「…女ちゃん?」


女「…私ね、もう一人のあなたにすごく勇気をもらったのよ…」(>>210)

部員1「へ?もう一人の私???」

女「本当にありがとう…」グスッ

部員1「…よ、よく分かんないけど、泣かないで女ちゃん。」

女「…ふふ、ありがと。…あ、それでね、実は『もう一人のあなた』からあなた宛に伝言を預かってるの。」

部員1「…伝言?」

女「…『もっとシャキっとしなさいよ!(>>214)』ってね!」ニコッ

部員1「…へ?」

女「それじゃあ、私行かないと行けない場所があるからちょっと行ってくるね!だから部活は遅刻しちゃうかも!」タッタッタ

部員1「え、あ、わ、分かった。」

女「また後でね!部員1!」タッタッタ

部員1「…行っちゃった、女ちゃん。」ふりふり

部員1「でも、一体何だったんだろ?」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女「はあはあはあ」タッタッタ

女(…そうだ。表の世界での生活を始める前に、私には会わないと…謝らないといけない人がいる!)タッタッタ

女(…私自身がこれから先に進むために…成長していくためにも…!!)タッタッタ

女「はあはあはあ…っ!! 居た!!」タッタッタ

女「待って!!!」



女「女友!!」

女友「…あ、女ちゃん?」


女「はあはあ…よかった…まだ帰ってなくて…」

女友「…どうしたの?そんなに息を切らせて…」

女「はあはあ…どうしてもあなたに言わないといけないことがあって…」

女友「…」スタスタッ

女「…女友?」

女友「とりあえずこのベンチに座らない?」ニコッ

女「…うん。」

スタスタ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女友「こうやって女ちゃんと一緒に話すの久しぶりだね。」

女「うん…。」

女友「…どうしたの?そんな暗い顔してる女ちゃん初めて見たよ?」

女「…! …ご、ごめんね。」

女友「…ゆっくり。」

女「…え?」


女友「ゆっくりでいいんだよ。」ニコッ

女「…ゆっくり?」

女友「焦る必要なんて何も無いじゃない?女ちゃんが言いたい一つ一つの言葉をゆっくりと焦らず紡いでいって。紡ぎ終わるまで私、ずっと待っててあげるからね。」ニコッ

女「…女友。」

女友「ふふ」ニコッ

女「…ふぅ…ありがとう、女友。女友のおかげで大分落ち着けた。」

女友「そう?」


女「…ねえ、女友。」

女友「な~に?」

女「…私、女友に謝らないといけない。」

女友「何で?」

女「…私、男が好きなの。」

女友「…。」

女「…ずっと前から好きだったの。女友に『男のことが好き』ってことを相談された時よりも前から好きだったの。」

女友「…。」

女「…それで…実は男もその時点で私の事が好きで…それで私達、1ヶ月前から付き合ってるの。」

女友「…そうなんだ。」

女「…そう、だから私、女友に最低な事を…ぐすっ…したの…。私も男のことを好きなのに安易に女友の相談に…乗っちゃって…ぐすっ…」ポロポロッ

女友「…。」

女「…そ、それで男も私の事が好きだという事を知っていたにも…か、関わらず…ぐすっ…それを女友に伝えなかったり…」ポロポロッ


女友「……………泣いたら…」

女「…っ?」ポロポロッ

女友「…泣いたら許されるとでも思ってるの?」

女「…っ!」

女友「…許さない…絶対に許さない…っ。」

女「…! ……………女友…わたし…」








女友「…な~んてね」ニコッ


女「…へ?」

女友「どう?私の演技上手かった??」

女「…え? え?」

女友「ふふ、私、女ちゃんが男くんのことを好きなのを知ってたよ。」

女「…え!? い、いつから!?」

女友「女ちゃんに相談した一番最初の時。」

女「…最初?」

女友「うん。私が女ちゃんに男くんが好きだってことを打ち明けた時、女ちゃんの様子が明らかにおかしかったんだもん。」

女「!?」

女友「で、その時の反応から、『あ、女ちゃんも男くんのこと好きなんだな』…って気づいたの。」

女「…。」

女友「…私ね、それまで誰かを好きになった事なんてあんまりなかったからよく分かんなかったの。」

女「…何が分からなかったの?」

女友「好きになった人との接し方。」

女「…接し方?」


女友「うん。…私、男くんのことを好きなったのはいいけど、恥ずかしくて全然接することが出来なくて…でも、女ちゃんは私とは『逆』で沢山男くんと接してたでしょ?」

女「う、うん。」

女友「私も本当にその時は無知でさ…女ちゃんも男くんのことが好きなら『私みたいに恥ずかしくなるはずだ』…って思ったの。でも、女ちゃんは当たり前のように男くんと絡んでたから…でも、本当に女ちゃんってすごいよね。好きなひと相手にあんなに…」

女「…まあ、私からアグレッシブさを除いたら何も残らないしね…。…そっか、だから私に相談したんだね。」

女友「うん…でも、一番最初に相談した時の女ちゃんは明らかに動揺しててさ…その時に私、とんでもないことをしちゃったんじゃないのかって思って…」

女「…」

女友「…だけど、私も言い出しちゃったもんだから、あとに引けなくなってしまって。女ちゃんも私の相談に全力で答えてあげようとその後振る舞ってくれたから断る事も出来なくて…」

女「…そうだったんだ。」

女友「…だから、謝らないといけないほうは私なの。…本当にゴメンね…女ちゃん。」


女「…! な、何で女友が謝るのよ!謝らないといけないのは私なのに!」

女友「ううん。私が謝らないといけない。だって私、男くんが女ちゃんのことを好きなのも知ってたんだもん。」

女「え?」

女友「私も男くんが好きだったからさ、男くんの方によく目が向いてしまっていたんだけど、男くんの目線の先にはいつも女ちゃんがいたの。…それで、男くんも女ちゃんのことが好きなんだな…ってわかって。」

女「…。」

女友「それにね、その時にもう一つ気付いた事があったの。」

女「…気付いた事?」

女友「私が好きな男くんはね、女ちゃんと楽しそうにしている男くんだってことに。」

女「…!」

女友「私には女ちゃんの代わりになれないってことは十分に分かってたし、それに何よりもその男くんと女ちゃんの関係を壊したくなかった。…それぐらい女ちゃんと男くんが二人で居る様子は微笑ましかったの。」

女「…。」

女友「それで、告白するのをやめたの。だからね、あきらめはすぐについてたんだよ!…でも、それをなかなか言い出す事が出来なくて…」

女「そう…だったんだ…」

女友「…本当にゴメンね…ぐすっ…女ちゃん。もっと早く男くんに…ぐすっ…自分の想いを伝えたかったはずなのに…こんな…こんな私のせいで…」ポロポロッ

女「そ、そんなことない!そんなことないよ女友!!」ジワッ


女友「…でもね、私、さっき本当に…ぐすっ…ホッとしたんだ。女ちゃんと男くんが付き合ったって聞いて…本当に…本当に良かった…私が大好きな二人が結ばれたって分かって…」ポロポロッ

女「…女友。」ポロポロッ

女友「………っ。」ゴシゴシッ

女友「…女ちゃん…男くんと幸せになってね!」ニコッ

女「…! …女友。…うん!約束する!私、絶対に幸せになる!!でも女友も幸せにならなきゃ!」

女友「…ふふ、そうだね。まずは新しく好きな人を作らないとね♪」

女「ふふ、男よりもいい奴なんてこの世の中にはいっぱい居るわよ!」

女友「はは、いいの?自分の彼氏のことをそんな風に言っちゃって?」

女「いいのよあんな奴!」

女・女友「…っぷ。あははははは」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

ただいま~

女母「あら?おかえりなさい。…あら?目元赤いわよ?」

女「…ちょとね♪」

女母「…? それにしても遅かったじゃない?」

女「うん。ちょっと男と長話しててさ。」

女母「そうだったの?あ、私も今日、お昼に男くんと喋ったわよ。」

女「みたいだね」

女母「何だかよく分かんなかったけど、男姉ちゃんに『女ちゃんと話さないといけないことがあるから、女ちゃんを捜すフリをしながら男を足止めしておいてもらえますか?』って言われたもんだから一応その通りしたけど…あんた男姉ちゃんと何話してたのよ?」

女「…う~ん、まあ色々と…ね。」

女母「色々…ねえ。まあ、でもその間男くんと話してたわけだけど、あの子やっぱり良い子ね!今度うちに連れておいで。」

女「ふふ、了解。男がそれを聞いたら喜ぶと思う。」

女(…まあ、お母さんが今日話してたのは裏々男なんだけど。)

女(…! …そうだ、やることやっておかないと。)


スタスタッ

女母「…?どうしたの女?」

女「お母さん、やっぱり玄関やリビングに置いてる鏡のけよう。」

女母「…? まあ、元はあなたが言い出しっぺだし、のけてくれても全然いいけど、急にどうたの?」

女「…もう必要ないかな…って思って。」

女母「まあ、あんたがそう言うなら…さあ、とにかく荷物を自分の部屋に置いてきなさい。ご飯はもう出来てるんだから。」スタスタッ

女(…もう必要ないよね? 裏々女。)

女(…あなたはそっちの世界でそっちのお母さんと一緒にあなた達だけの人生を歩んでいくんだから。だから、鏡なんてもう要らないわよね。)

女(…ねえ、裏々女。私、女友と仲直り出来たよ。むしろ前よりもすごく仲良くなれた気がする。裏々女が私にああやって言ってくれなかったら、私、女友に話しかけること出来なかったと思う…。これで私、またちょっと成長出来たかな?)

女(…これからも、私もっともっと強くなる!そして幸せになってみせる!)

オンナー ナニシテンノー ハヤクオイデー

女「…! はーい!今行くー!お母さーん!今日のご飯何ー!?」

タッタッタ


----―――――――――――――――――――――――


―2012年/3月/20日/香川/ @ 5週目―――――――----

校長「ええ~、今年もあっという間に…」

女「ふぁあ~…」

女(…長くなりそうだな~、終業式の校長先生の話。…でも本当にあっという間だったな、今年は…)

校長「二年生は三年に、一年生は二年生にとなるわけですが、生徒の皆さんは…」

女(…特にこの1ヶ月はほんと大変だった…色々と起きっぱなしで…)

校長「また、明後日から旧校舎の取り壊し工事が始まり…」

女(…まあ、何はともあれこにて一件落着だよね。)

校長「それに伴い、校内に建材を運び込むためにトラックや作業員の方々が校内を行き来することに…」

女「…でも何だろう…この違和感…」

校長「…ですので部活等で学校に来る生徒はケガのないように細心の注意を…」

女「…何か」


女「…何か…忘れているような…」

―――――――――――――――――――――――----


―2012年/3月/21日/香川/ @ 最終週―――――――----

女母「女!いい加減起きなさい!今日は昼から部活でしょ!?」

女「ん~…今何時~??」

女母「もう12時前よ!!」

女「12時~? 部活は~確か12時半かr…あああああああ!!」ガバッ

女母「とっとと仕度しなさい!!」

女「もお!お母さん何で起こしてくれないのよ!!」

女母「起こしたわよ!!何度も!!」

女「嘘だー!!」アタフタ

女母「嘘じゃないわよ!一応部下行く前にご飯食べていきなさいよ!ご飯食べないと力でないでしょ?それじゃあお母さん台所で準備してるから。」スタスタッ

女「は~い!やばいやばい!早く仕度しないと!!」


prrrrr prrrrr

女「…! もう何よこんな時に一体誰よ。」パカッ

女「…ん? 見た事無い番号だけど誰だろう……?」ピッ

女「もしもし?」

男姉『もしもし、女ちゃん?』

女「…!? …お、お姉さんですか??」

男姉「ええ。1週間ぶりね。男から…というか男の携帯を盗んだときに女ちゃんの番号を控えておいてね。」

女「は、はあ。…でも、どうしたんですか急に…?」

男姉「…女ちゃん、あなたが裏の世界で裏男から言われたこと覚えてる?」

女「…! 裏男から言われたこと? ……っ!」


―【回想(>>199)】――――――――――――――----
裏男「…『線路』だ。…『線路』がいるかもしれない。」
----―――――――――――――――――――――――


女「…『線路』がどうとかって私が言われたことのやつですか?」

男姉「…ええ、そうよ。それをあなた『裏々の私』に『線路』について知ってるかってことを聞いたらしいわね?(>>239) だから、私も『裏々の私』からそのことは一応聞いてたの。」

女「そうだったんですか…」

女(…そうだ…ここ最近私の中でずっと引っかかってたのはそれだ。裏男からのその言葉の意味が分からないままだったことに違和感を感じてたんだ…でも…)

女「…でも、お姉さん、何で急にそのことを?…それに、お姉さん約束させたじゃないですか私達に。もう鏡の世界には関わるな…って。」

男姉「あら、そうだったわね。まあ、今回に限ってそれは見逃してあげるということで♪」

女「……どういうことですか?」


男姉「その話は一度置いておきましょう…で、女ちゃん。もう一度聞くけど、裏男は『線路がいる』って言ったのよね?」

女「え、はい。でも、線路が一体何に必要なんですか…」

男姉「…その前後に裏男は何か言ってなかった?」

女「前後に?」

男姉「ええ。その時の会話を出来るだけ忠実に思い出してみなさい。」

女「…ん~、確かあの時…」

―【回想(>>199)】――――――――――――――----

裏男「…これは裏の世界の僕から君への最後のメッセージだ。」

女「…メッセージ?」

裏男「ああ。」



裏男「…『線路』だ。…『線路』がいるかもしれない。」

----―――――――――――――――――――――――

女「…確か『線路』について言い出す前に『これは裏の世界の僕からのメッセージ』だとか言ってた気がします。」


男姉「…それよ、女ちゃん。」

女「…それって何がですが?」

男姉「よく考えなさい、その文章に込められた意味を。」

女「…? 考えろって、何の意味も込められてないと思うんですけど。…も、もしかしてお姉さんには分かったんですか!?」

男姉「…大丈夫。あなたなら『気付ける』わ。それの本当の意味について。」

女「本当の…意味…?」

男姉「…それじゃあね。…頑張りなさい。」ピッ

女「…あ!お姉さん!? …駄目だ、切れちゃった…。」


女(…『線路』…)

女(…でも近所に線路なんて無いし…)

女(…『これは裏の世界の僕からのメッセージ』には何の意味が…)

女「…ん?待って。」


女(…何で裏男は『メッセージ』っていう言葉を選んだろう…もしもああいうう状況で何かを助言したいときは『メッセージ』じゃなくて『アドバイス』って言葉を使うんじゃ…)

女(…つまり、『線路』っていうのは『助言』じゃなくて、私に対しての『伝言』的な何かだということ。)

女(…っ! …それに裏男は『僕からのメッセージ』ではなく『裏の世界の僕からのメッセージ』と、わざわざ『裏の世界』という言葉を付け加えていた…。)

女(裏の世界…裏の世界の特徴は『反転』、『逆』、『自我を持っいる』…)

女「…っ!! 待って!!『線路』って確か!!」タタタッ

女「ええ~っと、確かここに…」ガサゴソッ

女「…! あったあった!ええ~っと…」ピラッピラッ

女「…これだ! ………。」

女「……っ!!」

女「…そうか…そういうことだったんだ。」

女「…でも」

女「…でもこれって…」



女「…どういうことなの!?」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女(…裏男の伝えたかったことは分かった。でもその『伝えたかった事自体』の意味が分からない…)タッタッタ

女「…ってそんなこと考えてないで急がないと!このままじゃ間違いなく遅刻だぁ~!!」タッタッタ

オ~イ

女「…ん?何だか聞き覚えのある声が…」ピタッ

オンナ~

女「あっ…!あれは!!」

女「お…」



女「…お兄ちゃん!!」


女兄「いや~、久しぶりだな~、女~」

ドゴォッ

女兄「かはっ!?な、なんで…いきなり腹パン?」ピクピクッ

女「あ~、すっきりした~。あ、今のは今までのお兄ちゃんに対する恨みの分の腹パンだから。」(>>12)

女兄「い、いや…だとしても不意打ちはマジで勘弁…」

女「そういえばお兄ちゃん同窓会か何かで帰ってくるんだったね。」(>>12)

女兄「う、うん。…ああ、まだ痛みが…」

女「で、お兄ちゃんいつまでこっちいんの?」

女兄「ん~、俺?俺は今日の夕方から同窓会でそのままオールの予定。そんで明日の朝にそのまま家に帰らず神戸の下宿に帰るよ。」

女「え!?何で!? 2、3日泊まっていかないの!?」

女兄「いや~それはだな~」

女「お兄ちゃん春からは東京に引っ越すんでしょ!?だとしたらまた当分かえって来れないじゃない!?」(>>12)

女兄「…」



女兄「…嫌なんだ。」


女「…え?」

女兄「俺、この町にいるのが嫌なんだ…」

女「お兄…ちゃん?」

女兄「…な~んてな!!実のところ、大学の友達と明日の昼から旅行の予定だからとっとと帰らりゃなならんのよ!だからすまんな妹よ!!あっはっは!!」

女「…! …ったく、だろうと思ったわよ~、急にお兄ちゃんがシリアスなこと言い出してびっくりしたじゃない。」

女兄「あはは、演技上手いだろう俺って! あっ、そういえばさっき部活帰りの男に会ったぞ~」

女「え?男に? というか何で男のこと知ってるの?」

女兄「まあ、あいつは少年野球やってたころに知り合ったけど、まさかあいつとお前が付き合う事になるとはな~。」

女「へ~、お兄ちゃん。男のこと知ってたんだ。って何で私達が付き合ってる事知ってるのよ!?」

女兄「それもあいつから聞いた♪」ニヤッ

女「ったく、男のやつぅ…」


女兄「ははは!それだけじゃないぜ!お前たちが最初に水族館にデートに行った事やそこの公園でファーストキスをしたことも聞いたったぞ~」ニヤニヤッ

女「…!? 男のやつ…よりにもよって何でお兄ちゃんに…」プルプルッ

女兄「あっはっは!いいじゃんかいいじゃんか!熱いね~!!」

女「…お兄ちゃん、それ以上からかったらまた殴るよ?」

女兄「…ちょ!ご、ごめんって!…でも、女。ちょっと暴力的になったな…」

女「ん~何か言った~お兄ちゃん?」ニコニコッ

女兄「いえ、何も!」

女「ったく…」

女兄「…ん? それはそうと、お前部活だろ?早く行かなくていいのか?」

女「…あっ! そ、そうだったんだ!もおおお!お兄ちゃんのせいで大遅刻じゃない!!」ドコォ!!

女兄「かはっ!? な、何でまた…腹…パン……」ガクッ

女「それじゃあねお兄ちゃん!」タッタッタ

女兄「お、おう…またな~」ふりふり

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

タッタッタ

女「はあはあはあ」タッタッタ

女(…お兄ちゃんったら…本当に相変わらずなんだから…おかげでさっきから全力するはめになったじゃない…)タッタッタ

女(…そういえば、あの時も…最初に鏡の世界に行った日もこうやって走ってたな…)タッタッタ

女(…そして公園で最初に男に…)タッタッタ

女(…………っ!!)ピタッ

女(…そうだ……)はあはあ

女(…確か…)はあはあ


女(…確かあの時…)はあはあ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

prrrrrr prrrrrr

男『…もしもし?』

女「ねえ男!?ごめんだけど今から会えないかな!?」

男『今から? 俺はちょうど部活終わって今帰ってきたところだけど、今日女バスは昼から部活なんじゃ?』

女「…分かったのよ!」

男『…分かったって何が?』

女「鏡の…鏡の世界の秘密が!」

男『…!? 鏡の世界の秘密って…でもお前、俺たちはもうこれ以上鏡の世界には関わるなって姉さんと…』

女「そんなこと言ってる場合じゃないの!とにかく今すぐ旧校舎前まで来て!」

男『…!? …分かったよ。旧校舎前に行けばいいんだな!?』

女「うん!私も今、向かってるから。」

男『了解。すぐ行く。それじゃあまた後で。』

女「うん、また後で。…よし。私も急がなきゃ!」タッタッタ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女「…。」

オ~イ

女「…男!」

男「ごめん!遅くなった!」タッタッタ

女「ううん、私もさっき来たところだから。」

男「はあはあ…そっか。…でも、本当なのか?鏡の世界の秘密が分かったって!?」

女「…うん。そして、それを確認するためにも…入るわよ。」

男「…? 入るってどこに?」

女「旧校舎に決まってるじゃない。」

男「!?」

女「さあ、行くわよ、男。」スタスタッ

男「ちょ!? 待てって女!」スタスタッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

ギィ ギィ

男「おい女。いい加減教えてくれよ。一体鏡の世界のどんな秘密を知ったんだよ?」ギィ ギィ

女「…ああ、そんなこと言ってたわね。」ギィ ギィ

男「…はい?」ギィ ギィ

女「…ごめんなさい、さっきの秘密が分かったってのは…嘘なの。」ギィ ギィ

男「…!? ちょっとお前何ふざけたこと言ってんだよ!?」ギィ ギィ

女「…さあ、着いたわよ。…『あの鏡』のある踊り場に。」ピタッ

男「おい女!どういうことなのか説明しろよ!!」


女「…嘘をついてたことには謝るわ。でも、あなたが『やってきたこと』に比べたらとっても小さな『嘘』じゃない?」

男「…俺が『やってきたこと』?」

女「…とぼけるのもいい加減にしなさいよ、男。」

女「いや…」









女「…………裏々男!!!!」

----――――――――――――――――――【鋪】――


―【鏡の世界でのルール(no.1)】―――――――――----

● 体について
① 体の自由はほとんど効かない。表の世界にいる『主』が絶対的な存在であり、その『主』の行動が鏡の世界の住人にも反映される。(>>57)
② 表の世界で『行動権』を持つ者を『主』、表の世界で生まれ育った者を『オリジナル』という。(>>81)
③ 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感は働く。(>>93)
④ 鏡の世界では『考えること』と『喋ること』が出来る。(>>58)
⑤ 鏡やガラスといった光を反射させるもの(反射物)に表の世界の『主』が映っている場合は鏡の世界の住人は『喋ること』が出来なくなる。『考えること』は可。(>>59)
⑥ 『主』が反射物に映っている時は『主』の『喋る』内容が鏡の住人にも反映される。(>>59)
⑦ 飲食時は反射物に映っていない時でも、表の世界の『主』の口の動きと同化する。(>>93)
⑧ 反射物に、自分の像が映し出されるその5秒前に、脳に合図が走り、『喋ること』ができなくなる。ただし、これは自我を持った人間のみに起きる現象である。(>>60)

● 自我について
① 鏡の世界の人間が自我を持つためには、鏡の世界の人間自身が『鏡の世界の人間』だと自覚する必要がある。(>>76)
② 自我を持つことによって鏡の世界の住人は『考えること』と『喋ること』が出来るようになる。(>>76)
③ 自我を持った鏡の住人は、反射物に自身の姿が映る度に表の世界の『主』の記憶が共有されるようになる。ただし、オリジナルには共有されない。(>>161)
④ 鏡の世界の住人が自我を持つためには『他に自我を持った人間から鏡の世界についてを教えてもらう』もしくは『表の世界のオリジナルが鏡の世界のことの存在を知る』必要がある。(>>80)

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―【鏡の世界でのルール(no.2)】――――――――----

● 鏡の世界の特徴について
① 鏡の世界は半永久的に存在する。(>>53)
② 鏡の世界は、裏の世界、裏々の世界、裏々々の世界と、表の世界から遠ざかっていくにつれて、明度が小さくなっていく。(>>54)
③ 表の世界を『1』として、裏々、裏々々々といった奇数番目の世界は、『奇数世界』と定義される。(>>159)
④ 裏の世界を『2』として、裏々々、裏々々々々といった偶数番目の世界は、『偶数世界』と定義され、これらの世界では、全てのモノが反転している。(>>159)
⑤ 偶数世界では、ほとんどの者が自我を持っており、その『性格』はオリジナルのものとは反転したものになっている。(>>159)
⑥ 偶数世界の鏡の住人が『主』になることは出来ない。(>>227)

● 入れ替わりについて
① オリジナルが表の世界以外にいる場合、反射物に対して念じれば、表の世界に近い層へと移動できる。(『特権』による入れ替わり)(>>124)
② 2枚での合わせ鏡の状態を創り出した時、表の世界と裏々の世界の人間が入れ替わりを起こすことが出来る。(合わせ鏡による入れ替わり)(>>48)
③ 入れ替わるのは、あくまで『意識』のみであり、肉体はそのままである。(>>49)
④ 入れ替わる時に、一瞬だがお互いにコミュニケーションが取れる。(>>218)
⑤ 入れ替わりは連続して行うことが出来ず、1週間のブランクを必要とする。(>>96)
⑥ 入れ替わりにはどちらかにその『意志』があることが必要となる。(>>51)
⑦ 入れ替わりは閏年の一時期に行える。(2012年は3月21日まで)(>>50)
----―――――――――――――――――――――――


―【鏡の世界でのルール(no.3)】―――――――――――----






● ○○○○○○○○○○○○○○


③  
④  






○○ ○○○○○ ○○ ○○○○○○○ ○○○ ○○○…
----―――――――――――――――――――――――

【鋪】編、終了です。
ちなみに残りの更新は3回で、なんとか年内には終わらせたいと思います。
では、書き溜め頑張ってきます。

乙乙
てか、鋪って何ぞ?転ではないの?
あ、ネタバレに関わるならスルーで頼む


>>415
鋪は「起承鋪叙結」という5段構成の内の「鋪」のことです。ちなみに、
起は「発端」
承は「葛藤」
鋪は「危機」
叙は「頂点」
結は「結末」
を表していると、どっかのサイトで見たのでそれを今回参考にしてます。


―2012年/3月/21日/香川/ @ 最終週―――――――----

男「…っ!」


男「…。」


男「…っぷ! あははは!おいおい、何の冗談だよ、女!?」

女「…冗談じゃないわ。あなたはオリジナルの表の男じゃない。この1ヶ月、私が一緒に居たのは『裏々の世界の男』よ。」

男「……。」

女「まんまとこのまま騙されるところだったわ。もう少し気付くのが遅かったら『あと4年間』、あなたと過ごさなきゃいけないところだった…。」

女「…私が鏡の世界に初めて行く2週間前にあなたは既に入れ替わりを使ったと言ったわよね。そして、私はその2週間、オリジナルの男かどうかを見抜くことが出来なくて自分を恥じてた…でも、それは見抜けなくて当然だったのよね。だって…あなたたちはあの時は『まだ入れ替わってなかった』んだから。」

男「…。」

女「あと、裏々女と裏々男はお互いに表の世界に来ていた事を気付いていないという話をお姉さんを交えてしてたけど、あれも気付けなくて当然よね。というかその考えが根本から間違っていたのよ。だってあの時、男はまだ…『オリジナルの方』だったんだから。」

男「…。」

女「…私はこの1ヶ月間、あなたのことを『オリジナルの男』だと思い込まされていた。そして先週…本当のオリジナルの男を裏々の世界に追いやってしまい、それと引き換えに裏々の男…あなたを表の世界に連れてきてしまった。…でも、これも全てあなたの計画だったのよね。…だけど、あなたのその計画もここまでよ!裏々男!!」







男「……………おいおい、いつまで冗談を言ってるんだよ、女。」

女「…。」

男「何で俺が裏々男になるんだ? そもそも、何を根拠にそんなことを言っているんだよ?」

女「…ねぇ、あなた。…裏男が私に伝えたメッセージを覚えている?」

男「メッセージ? 何を突然に?」

女「質問に答えて。」

男「…ったく。 …ああ、『線路』がなんとかのやつの事だろ。それがどうした?」

女「あれにはどういう意味が込められているか分かる?」

男「…いや、分かんないな。『線路』が何に必要かなんて」

女「…そういう意味じゃなかったのよ。『線路』なんて必要じゃないの。」

男「…? どういうことだい?」


女「あの時、裏男は私に『線路がいるかもしれない』と言ったの。そう、つまり線路が『必要』なんじゃなくて線路が『居る』って意味だったの。」

男「…ますます分かんないな。『線路』が居るなんて日本語としておかしいと思うし。」

女「ええ、確かにそうね。でも、あの時、裏男はそのメッセージを伝える前に『裏の世界の俺からのメッセージだ』と言ったの。」

男「…裏の世界。」

女「ねえ、裏の世界…というか偶数世界の特徴って何だと思う?」

男「偶数世界の特徴? …そうだなぁ…『反転』や『逆』とかか?」

女「その通り。偶数世界は私達にとって『逆』の特徴を持った世界。 つまり、裏男はこの『線路』をその『逆』の特徴を利用して、本当の意味を読み取ってもらおうとしたの。」

男「…本当の意味?」


女「ねえ、『線路』を英語に訳したらどうなると思う?」

男「……英語?」

女「『線路』って和英辞書で調べたら(>>)、 “track” だとか “line” って訳せるんだけど、実は他にもいくつか訳し方があって “rail”とも訳すことが出来るの。」

男「……っ!?」

女「気付いた? そう、”rail”のアルファベットを『逆』から読むと “liar”。 」

女「そして “liar” の日本語訳は…」






女「………『嘘つき』。」

男「…。」

女「つまり裏男は私に『線路が必要』ってことではなく、『嘘つきがいるかもしれない』ということを伝えたかったの。」

男「…。」


女「ただ、私もこれの意味に初めて気付いたときには、『嘘つきが身近にいる』っていうことが全然ピンと来なくて戸惑ったわ。」(>>398)

女「でも、よくよく考えてみたら、『裏男からメッセージを貰ったあの時点』までで、鏡の世界に私が来てから、私の周りで嘘つきの可能性があるのは…唯一会話をこなせていた男、あなた以外考えられないのよ。」

男「…なるほどね。で、女は俺が裏々の世界の男なのに、オリジナルの男だと偽っていたのではないかと考えた…ってわけか。」

女「ええ。そう考えるとあなたの今までの言動でいくつか不自然だった事がいくつか浮かんできたわ。」

男「…。」

女「男、あなた、私が裏の世界に行った時にあなたは裏男のために自分は『特権』を使わなかったと言ってたわよね。」(>>223)

男「…ああ。」

女「でも、それは裏男のためとかじゃなくて、本当は私を『追ってこれなかっただけ』なんじゃないの?」

男「…!?」

女「何故なら…あなたはオリジナルの『特権』を持っていなかったんだから。」

男「…。」

女「あの時もおかしいと思ったのよ。『何で男は私の事を追って裏の世界にまで来てくれないの?』って。いくら鏡の世界のもう一人の自分が裏々の世界に押し込まれるとしても、自分の彼女を放っておいて自分はそのまま裏々の世界にいるなんて…男らしくない。」

男「…。」


女「まあ、でもそれはあなたがオリジナルの男ではなく、裏々男だから出来なかっただけだったみたいだけど。」

男「…ちょっと待ってくれ、女。今の話を聞いている限り、どうにも府に落ちない点があるんだが聞いていいか?」

女「…いいわよ。」

男「女の言う通り、仮にも俺が『裏々男』だったとしよう。…でも、女が裏の世界にいる時点で裏男が、俺がオリジナルじゃないと分かってたのなら何でお前にそのことを言わなかったんだよ?」

女「それは裏女ちゃんを取り戻すためだったと思う。」

男「裏女?」

女「だって、もしも私が裏の世界に居る時点で、裏男に『実は今、裏々の世界にいるのはオリジナルの男ではなくて裏々の男』だよ言われたら、私はどんな行動を起こすと思う?」

男「…!」

女「おそらく私なら躊躇なくもう一度特権を使って表の世界に戻ろうとするわ。オリジナルだと思っていた男が実は裏々男だと知ることによって、鏡の世界の住人に対しての不信感が一気に高まるだろうからね。」

男「…。」

女「あの時の裏男はどうにかして裏女ちゃんを自分のもとに取り戻したい一心だったと思う。…でも、それと同時に裏々の世界に居る男がオリジナルではないかもしれないということを私に言うか言わないか相当迷っていたはず。ただ、そんな時に私から新しい情報が舞い込んできた。それが…『魔法鏡による入れ替わり』についてよ。」

男「…。」


女「魔法鏡によって私が裏々の世界に行けるかもしれないと分かり、裏男は相当安堵したはず。裏女ちゃんが自分の元に戻ってくるかもしれないと分かったんだからね。でも、このまま裏々の世界にいる男がオリジナルではないと告げないまま私を見送るのにも躊躇した。裏男、最後の方は私にかなり情を移してくれてたしね。」(>>195)

女「でも、私が裏々の世界に戻る前にそのことを告げてしまったら、私が裏々の世界ではなく『特権』によって表の世界に行ってしまうかもしれないと考え、そして悩んだあげく彼は…その情報を『変換』して私に託すことにした。21日までに私が気付いてくれることを願って…それが私が裏男から受け取ったメッセージだったのよ。」

女「この裏男がとった手段は正しかったと思う。おかげで、裏女ちゃんを裏々の世界に押し込めることも防げたし、メッセージを難しくしすぎなかったおかげで私もなんとか『ぎりぎり』、今日、この『21日』までに気付く事ができたんだから。」

女(…まあ、気付けたのはほとんどお姉さんのおかげだったんだけど…)

男「…なるほどね。確かに話の筋は通ってる。…でも、女は俺が『特権』を使わなかったことだけで、裏男が俺をオリジナルではないと疑っていたって断言出来るのか?」

女「…そうね。確かにあなたの言う通りよ。…でもね、私が裏男と会ってから間もなく一度だけ、裏男の様子がおかしかったときがあったのよ。」

男「…裏男の様子?」

女「…それは私が『今、裏々の世界にはオリジナルの男がいる』と伝えた時よ。」

男「…!?」


女「あの時の裏男は驚いていたわ。…まるで、『あの時初めてそのことを知った』ような様子だったわ。そして、その後、彼はこう言ってたの。」

女「…『…そういえば、旧校舎で合わせ鏡をしたな。やっぱりあれで入れ替わっていたのか。』ってね。」(>>155)

男「…それのどこがおかしいんだ? むしろ、はっきりと合わせ鏡をして入れ替わったって事を言ってるじゃないか?」

女「私も『その時』は裏男のその言葉を聞いても何も思わなかったわ。でも、ついさっきピンと来たの。」

男「…『ピンと来た』って一体何が?」

女「…ねえ、入れ替わりにはどんな条件が必要だったっけ?」

男「…条件? また急に何を…」

女「いいから一つずつ言っていってみてよ。あなたならすぐ答えられるでしょ?」

男「…入れ替わりを起こすためには、『場所』と『閏年』、『意志』が必要だ。」

女「…ふ~ん」

男「…これがどうしたって言うんだ?」



女「…ねえ、『それだけ?』」


男「…!? …それ…だけ?」


女「入れ替わりに必要な条件って本当にそれだけ?」

男「…何が言いたいんだ、女。」

女「他にも必要な条件があるとしたらどうする?」

男「…! …他にもあるっていうのか!?」

女「ええ、あるわよ。」

男「…何なんだよそれは?」

女「それは…『特殊な鏡が『2枚目』に位置し、その2枚目に位置する特殊な鏡に映った自分と『目を合わせる』こと。…それが合わせ鏡による入れ替わりに必要なもう一つの条件よ。』

男「……目を…合わせる…。」

女「特殊な鏡ってのはこの旧校舎の鏡みたいなやつのことね。その特殊な鏡が『2枚目』になるように位置どるためにはどうすればいいと思う? …それはこの『特殊な鏡に背を向ける』ことよ。」

男「…!」

女「特殊な鏡に背を向け、そして自分の目の前にもう一つの鏡をかざす。そして目の前の鏡(1枚目)を経由して特殊な鏡(2枚目)に映った自分の像と目を合わす。そうすれば入れ替わりを起こせるのよ。」

女「あと、私、今まで入れ替わりを4回経験してるけど、それらを全部思い出してみるといつも鏡の自分の像、つまり入れ替わる相手と目が合ってたのよ。つまり、『特権』や『魔法鏡』での入れ替わりのときでも目を会わせることは必要不可欠だったのよ。」

女「私は先週、こっちに戻ってきてからそれらについて気付けたの。まあ、私が一番最初に入れ替わった2月15日の時は偶然にもそのシチュエーションが整っていて、2回目である先週の3月14日の時はお姉さんが『そのこと』を知っていたおかげもあって成功したわ。でも、私があなたを入れ替わせた時は、それまでのお姉さんとの会話や経験から『そのルール』に気付く事ができた。」(>>369)

女「…だから、あなたも『こっち』に来れたのよ。わざわざ、あなたの手を無理矢理引っ張ったり、抱きついたのもあなたに立ち位置を調整させるのはもちろんのこと、『あの鏡』に背を向けさせるための行動だったの。」(>>369)

男「…。」


女(…そう。1回目は私が後ろ髪を見ようとするためにあの鏡に背をたまたま向けたおかげで入れ替わりが偶然にも起きてしまった(>>26)。そして、2回目はお姉さんがあの釣り竿もどきの背面に取り付けた携帯から声を出す事によって、裏々女が後ろを振り向いたことによってその条件が整った(>>339)。)

女(…あの時、お姉さんが後ろを向かせた理由を言えないと言ったのは、それを言えば入れ替わりの条件、つまり鏡の世界の秘密について教えてしまう事になるから言えなかったということ。あと、お姉さんがあの時、あらかじめ仕掛けておいた入れ替わりのトラップでは入れ替わりが起きないと言っていたのは、あのトラップでは『目線を合わせる』のはかなり厳しかったから。)

男「…。」

女「…でも、おかしいわよね。私よりも鏡の世界に熟知してるはずのあなたがこのことを知らないまま、入れ替わりが出来たなんて…」

男「…っ! …そ、それは…」

女「あなたはあの時、私があなたをあの鏡に背を向けた状態したことについて何も言って来なかったわ。つまり、あの時の時点でもあなたはそのルール似ついて知らなかったという事。」

女「それでね、裏男との会話からピンと来た話に戻るんだけど。」(>>425)

女「オリジナルの男は確かに合わせ鏡ををしたんだと思う。でもそれは…」



女「…失敗に終わった。 …違う?」

男「…っ。」


女「あの時、裏男は確かに『合わせ鏡をしていた』とは言ってたけど、『入れ替わりが起きていた』とは断言してなかった。」(>>155)

男「…。」

女「でもおかしいわよね、裏男だって鏡の世界の住人なんだから、鏡に映る事によって主の記憶が共有されるはずでしょ?なのに裏男が勘付けないっていうのはやっぱりおかしい。」

女「私はオリジナルだから『知識や経験の共有』っていうのを体験した事はないけど、もしもあの時本当に裏々男が表の世界に行けてたのなら、『やった!とうとう表の世界にやって来れたんだ!』っていうふうに考えるはず。そして、そういうふうに考えたことも反射物に映ればそれも『経験』として共有されるはずでしょ?実際に私と裏々女が入れ替わったときは裏女ちゃんはすぐに入れ替わった事に気付いたみたいだったし。」

男「…」

女「だから、裏男は驚いたのよ。私から男が入れ替わったって聞いて。『主』の心境になんら変化が無くて入れ替わった事に気付けなかったから。」

女「裏男が『主』が入れ替わった事に気付いていなかったこと、そしてあなた自身が入れ替わりに必要なもう2つの条件を知らなかったこと。以上の事から、オリジナルの男は入れ替わりを失敗していたと考えられる。」

女「…そして、それはつまり、あなたが『裏々男』だとも言えるということよ!」


男「…っ!」







男「…………たまたまだ…。」ボソッ

女「…たまたま?」

男「そうだ!実は俺が初めて入れ替わりを起こしたあの日、この旧校舎の鏡にたまたま背を向けて入れ替わりを起こしたんだった!いや~忘れてたよそのこと!」

女「…。」

男「『知識と経験の共有』についてもあの時『主』だった裏々男が頭の中で『そういったこと』を全く考えていなかっただけだって!」

女「…。」

男「それに、今女が話してきた内容全てに俺が裏々男だという確固たる『証拠』が無い。あくまでお前の考えは『推論』に過ぎない。…違うか?」

女「…ええ。確かに今まで言ってきた事には『証拠』は含まれていないかもしれない。」

男「そうだろ? だからもうこれ以j…女「でも!!」

男「…?」

女「…『証拠』ならちゃーんとあるわよ!!」

男「…!?」


女「…あの日の…」

男「…あの日?」

女「…私たちの初デートの前日。私は表の世界でお母さんとリビングでデートのことで盛り上がり、そして水族館に行く事を勧められたの。」(>>14)

男「…それがどうしたっていうんだ?」

女「…でも、その時『裏々の世界』の裏々の私とお母さんは水族館の話はしなかったらしいの。」(>>275)

男「…!?」

女「先週の放課後に裏々のお母さんが以前から自我を持っているって話はしたでしょ?…そしてもちろん、裏々の女も自我を持っていて、その二人が鏡の無いところで会話をしたらどうなるかは想像出来るわよね?」

男「…」

女「たとえ、性格が同じだとしても、ちょっとしたズレから会話は最終的に大きなズレへと発展するわ。当然、その時の二人の会話も表の世界での私とお母さんの会話とは全く違ったものになってたらしいの。」
        
女「そして、その後、私はすぐに男に電話した。(>>16) その電話をするまでの間、私は反射物に一度も映らなかった。もちろん私の部屋のカーテンも閉められていたわ。」

女「そう、『裏々女』はその時点では反射物に映ってないんだから、私との『知識と経験の共有』は成されていない。つまり、翌日のデートの行き先が水族館に変更された事を知り得ていなかった。そんな状態のまま裏々女はあなたと電話をした。」

女「裏々女がデートの行き先が水族館に変更されたと知ったのはその電話が終わった直後に、お母さんが私の部屋にわざわざ水族館までのアクセスについての紙を持ってきてくれた時。その時、初めて裏々女はデートの行き先が水族館に変更になったのではないかと気付いた。」

女「そして、翌日私は入れ替わりを起こしてしまい、そして裏々の世界にやってきて、そしてあなたと出会った。」


女「…でもね、あなたはあの時、確かにこう言ったの。『表の世界のおまえが行きたがっていた水族館に今から行くっていうのに』(>>33)ってね。」

男「…っ!?」

女「確かあの夜、『私が電話で話していた男』は確かに『自室にいる』ってことを言っていた。(>>16) あと、男の部屋には反射物は無いってことをあなた自身が言ってたわ。(>>122) 更に『鏡の世界』でも電話は、反射物が無い場所でなら鏡の世界の住人同士で出来ることは周知の事実よね。」

男「…。」

女「もう私が言わんとすることは分かったわよね? そう、もしもあなたが『オリジナルの男』だったのなら『知っているはずがない』のよ!!デートの行き先が水族館に変更になったことを!!」

男「…。」

女「どうしてあなたがあの時点で水族館に変更になったことを知っていたのか。何故ならそれは、あなたが『裏々の世界』の住人であり、鏡の世界の住人が持っている『反射物に映るごとに『主』の知識や経験の共有出来る』という特性によって知る事が出来たからよ!」

女「もしも、あなたがオリジナルだったのなら、あなたがあの2月14日に電話した相手は『裏々女』でその電話越しでは水族館に変更になったということを聞けているはずがない。更に電話が終わった後もオリジナルには『知識と経験の共有』の特性は持ち得ていないから当然私と出会うまでは水族館について知ることも出来るはずがない。」

女「そして、確かあの電話のときに男に『水族館について私が調べるから男は調べなくていいよ』と私が言っておいたし、わざわざ男が水族館について自分で調べたとは考えられないわ。」

男「…。」

女「これがあなたがオリジナルではなく『裏々男』だということを証明する何よりもの『証拠』よ!!!!」

男「…。」

女「…全ての答えは『最初』にあったのよ。あの日、あの時、私とあなたが鏡の世界で出会ったあの瞬間にね。」








男「…………………ふぅ…。」



男「…しくじったなぁ。…まぁ、あの時は俺もまだ『君』のことを、まだ裏々女だとおもっていたからなぁ。」

女「…!」

女「…じゃあ、認めるのね。」

男「ああ、もうここまできたら反論しても意味が無いと思うからね。」

男「…君の言う通り俺は…」



男「…『裏々男』だ。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「見事。君がさっき述べていたことは全て『正解』だ。まさか、『君』がこんなに頭が切れる奴だったとは。…いや、頭が切れるように『なった』と言った方が正しいか。」

女「…ねえ…何で?」

男「…『何で?』って?」

女「何でこんなことを…?」

男「…? 『何で』ってそれはもちろん全てはこの表の世界に行きたかったからの行動に決まってるだろ? 自分がオリジナルの男と嘘をついたのも俺自身が表の世界に行くために最も都合が良いと考えたからだ。なんせあの時の『君』は『鏡の世界』の右も左も分からない状態だったからな。出来るだけ、辻褄が合わなくなるようなことさえ言わなければ、『君』を信じ込ませることなんて簡単だと思ったんだ。」

女「…。」

男「まぁ、本当はあの日、俺のオリジナルが『2月2日』に入れ替わりを起こしてくれるはずだったんだが、『君』の言ってた通り、それは失敗に終わった。失敗した理由も『君』がさっき言ってくれた入れ替わりの条件が足りなかったからみたいだ。その時は何故失敗したのかが分からなくてイライラしたもんだよ。」

女「…いつから嘘を…演技をしようと考えたの?」

男「それは、『君』がオリジナルだと知ったあの時からだよ。俺たちは入れ替わり出来なかったのに、何も知らないはずの『君』たちは入れ替わりを成功させていた。それで、俺は、『この子からうまく情報を引き出しつつ、自分をオリジナルだと偽ることによって、もしかしたら表の世界に行けるかもしれない』と思ったんだ。」

女「…。」


男「でも、『君』が僕の忠告を聞かないまま、裏の世界に言ってしまったときはさすがに焦ったよ。」

男「もちろん初めから『君』を裏の世界に行かせるつもりなんて微塵たりとも無かった。でも、『特権』のことを教えておかないと、もしかしたら君自身がふと反射物に映ったときに念じたりして、もしかしたら偶然にも裏の世界のに行ってしまったりするかもしれない。それを防ぐためにも、裏の世界へ行くことの『危険性』をプラスで教えることによって『君』に『特権』を使わせないつもりだったんだ。」

男「でも、『君』はその『危険性』を教える前に行ってしまった。俺が演技してたのも無駄に終わったとさえも思ったよ。…でも、『君』は…戻ってきた。」

女「…。」

男「そして、その後に俺は姉さんに協力を仰ぐ事を『君』に提案したわけだが、あれはもともと決まっていたことだったんだ。俺一人が裏々の姉さんに頼んでも自力でなんとかしろとお払い箱にされるのが目に見えていた。ましてや、裏々の姉さんに俺がオリジナルだという嘘を貫き通せる自信が無かった。『あの人たち』は本当の天才だからな。だが、『君』とセットならどうだろうか、『あの人たち』もおそらく『君』には情けをかけるはず。何故なら『君』は女兄さんの妹だからな。」

男「直接ではないにしろ、自身の知り合いの妹をこんな事態に巻き込んでしまったんだから絶対に手助けをしてくれると思っていた。そして、そんな『君』が俺のことをオリジナルだと信じてくれている状況を裏々の姉さんに見せればもしかしたら…と思ってね。」

男「そしたら、『姉さん達』は俺たちに手を差し伸べてくれたじゃないか。いや~、それまで上手くいきすぎて正直自分がこわくなったくらいだよ。」

男「更にあの時、『鏡の世界に関わるな』って条件を出されたけど、それはむしろありがたかった。もし、表の世界に行った後に『君』に色々調べて俺の正体を突き止められたら一巻の終わりだからな。それに表の世界に行ければ鏡の世界になんてもう関わろうとは思わなかったし。」

男「そして俺は無事、『こっち』にやって来れた。全ては俺の想い通りに事を運べてきた。」

男「…でも、それもここまでのようだ。…まさか、『君』に今日、この21日に見破られることになるとは思ってもいなかったよ。」

女「…。」


男「…さあ、それじゃあ、一通り話が終わったところで…やりますか?」

女「…『やりますか?』って何を?」

男「『何を』って入れ替わりに決まってるじゃないか。そのためにここに『君』は俺をつれてきたんだろう。な~に、往生際の悪いようなことなんてしないし、とっとと終わらせようぜ。」

女「…ええ。」

女「…でも、その前に聞かせてくれないかしら?」

男「…ん? 何だ?」

女「…ねぇ、何で…」



女「…何で反論しなかったの?」

男「…反論? 何の?」


女「水族館のくだりことよ。私はあれが『証拠』だと言い張ったわけだけど、実はあれにも『穴』がたくさんあったわ。」

男「…。」

女「例えば、反射物の前でたまたま家族の誰かに『今日は女と水族館に行ってくる』ってシーンにたまたま遭遇したとか、実は水族館のことを携帯で調べていたとか、日記をつけていたとか。他にも言い逃れ方はいくつもあったはず。」

男「…はは、まあそうだな。そう言えばよかったかもな。」

女「…ねえ、裏々男。あなた、私が昼に電話をした時にはひょっとしたらもう気付いていたんじゃないの?」

男「…何を?」

女「私があなたを疑っているってことをよ。」

男「…。」

女「…あなたさっきから私が聞いてないことまでべらべらと喋ってくれたじゃない? それは端から見たら正体を見破られて自暴自棄になっているようにも捉えられるかもしれない。」

女「…でも、私はそんな風には思えなくて…まるでそれは『はじめから全てを話すつもりのような口ぶり』だったというか…」

男「…ははっ。そんなわけないさ。『君』の言う通り俺はさっき自暴自棄になってただけだ。」

女「…じゃあ、何で!? 何で今日旧校舎に来たのよ!?」

男「…!?」


女「あなたは表の世界でこれからもずっと生きていきたかったんでしょ!? でも、旧校舎に来るということはもしかしたら裏々の世界に戻るかもしれないというリスクも背負っている。更にお姉さんとの約束を破れば、お姉さんから何かしらのペナルティがあるかもしれない。」

男「…。」

女「しかも私は電話で『鏡の世界の秘密が分かった』と言ったけど、分かったところで何もあなたにメリットなんて無いでしょ?だってあなたさっき『表の世界に行ければ鏡の世界になんてもう関わろうとは思わなかったし』って言ってたじゃない!」

男「…。」

女「あなたにとって今日、旧校舎に来るという行為はリスクしかないはずなのに…それなのに、今日あなたはここに来た…。」

男「…。」

女「…裏々男。…あなたもしかして…」



男「…はは。俺の事を買いかぶりだよ『君』は。俺は今日ただ単に鏡の世界の秘密がやっぱり知りたくなって来ただけで、さっきの暴露も自暴自棄になっていただけだよ。」

女「…でm男「でも…」

女「…!?」

男「…でも、ハッキリしていることは、ここ最近、俺の心の中でとてつもない『罪悪感』が渦巻いているってこと、そして『裏々女』に会いたいってことだな。」

女「…!? …裏々男。」


男「…さあ、そろそろ始めようか! 『君』、手鏡持ってるんだろ? 貸してくれ。」

女「…! …う、うん。確か鞄の中に…」ガサゴソ

女「…あった。…はい。」

男「おう、サンキュー。」

女「…ねえ、最後に聞いてもいい?」

男「何?」

女「あなた、私が裏々の世界に行った初日に私のことを好きって言ってくれたじゃない?あれは…嘘だったの?」(>>91)

男「…ああ、うそだな。」

女「…じゃあ、オリジナルの男も…私の事…」

男「…!? …『君』、それは違うぜ。」

女「…え?」

男「…ごめんな、俺が好きなのは『裏々女』なんだ。…これが答えになっているはずだ。」

女「…!?」

男「それとコレだけは言っておかないといけない。…俺は今回多くの嘘をついてしまった。でも、それはあくまで自分自身が持っていた表の世界に行きたいという『憧れ』の気持ちに従ったまでの行動だった。」

女「…『憧れ』」

男「だから、オリジナルの俺は『君』にそんな深刻な嘘なんてこれまでついたりしていない。まあ、冗談での嘘はよくつくけどな。だから、俺とオリジナルの男はお互い奇数世界の人間だけど、二人とも『別人』なんだ。それを分かっておいて欲しい。」

女「…! …うん、それすごく分かるよ。私と裏々女だって『別人』だもん」

男「……そうだな。 はぁ…てか、裏々女やつカンカンだろうなぁ…」

女「…! …ふふ、でしょうね。今も鏡の向こう側で私達の会話を聞いていることだし。」

男「…だよねぁ。それじゃあもう行くよ。とっとと行かないとヤバいかもしれないし。…女もオリジナルの男と仲良くやれよ。」

女「…うん。裏々女によろしくね。」

男「ああ。…この1ヶ月間…本当に申し訳なかった。」

女「…うん。」

男「それと『君』のファーストキスを奪った事も…」

女「…! …ったく、ほんとそれよ。」

男「…じゃあな。」

フッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----





男「………ん? 戻って来れたのか俺…。」

女「男…?」

男「…! ああ、久しぶりだな女。」

女「……本当に男?」

男「…ん?何だよ信じられないのかよ?」

女「…一応、念のために確認しとかないと…」

男「…確認っつってもなぁ、俺が『オリジナル』だと証明できるものなんて…あ、そうだ。」

女「…?」

男「…12時起床。」

女「…はい?」

男「そしてお母さんと口論をした後に俺の姉さんから電話が来た。」

女「…!? …それって!?」


男「更に部活に行く途中にお兄さんと出会ってまたまた口論したあげくに3回腹パンを喰らわす。」

女「…も、もぉ~!!わ、分かったからそれ以上言わないで!!!」

男「あはは、さっき旧校舎前からこの踊り場に来るまでに裏々女に教えて貰ったんだ。今日のお前のここまでの行動についてな。『おそらく証明するときに役立つだろう』って。でも、お兄さんに3回も腹パン喰らわすなんてお前ひでぇな。」

女「…さ、3回じゃないわよ!2回よ2回!!」

男「え? そうなの?」

女「…ったく、裏々女のやつ、水増しして教えてくれちゃって…でも、確かにその情報は私は裏々男には教えていないし、オリジナルの男なら、ここに来るまでの反射物に映っていない時間を使えば、今日私の行動をずっと見ていてた裏々女から教えて貰えるわね。」

男「そういうこと。」

女「それじゃあ…やっぱり今目の前にいるのは…」

男「ああ。久しぶりだな女。」

女「男…。」

男「1ヶ月振りか?…いや一応先週表の世界で会ってるか?」

女「…!? …ええ、そうね。…あの時は本当にごめんなさい。」

男「いや、気にしないでくれ。俺の方が色々と謝らないといけないことがあるからな。…よし、それじゃあ、状況を整理するためにもお互いのこれまでの出来事を話そうか。」

女「…! そうね。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「…成る程。やはり、裏々女が言っていた通り…すごいことになっていたんだな。」

女「裏々女から…?」

男「ああ、彼女には本当に世話になったよ。」

女「…?」

男「俺が先週、裏々の世界に言った時、本当にパニックになっていたんだけど、そんな時に裏々女が助けてくれたんだ。」

女「…!?」

男「ただ、そのちょっと前から裏々女もかなりパニックになっていたらしい。だってオリジナルの自分が今から『オリジナルの男』を取り戻すとか言ってるんだから。」

女「…! そっか、裏々女はあの時は表の世界にいる男がオリジナルだと思ってたから…というかそれが正しかったんだけど…。」

男「そういうこと。でもその後、俺との待ち合わせ場所に向かう途中に一瞬窓ガラスに映った事によって裏々女はその時の事態を理解したらしい。更に、お前が再び『主』に戻った事によってお前が裏々の世界や裏の世界で経験してきた事が全て裏々女にも共有され、オリジナルの女が今からやろうとしていることも分かったらしい。」

女「…なるほど。」


男「でも、その後裏々女は裏々の世界に来た俺を見て異変に気付いたんだ。『何かおかしい』と。まあ、裏々の世界に戻ってきた裏々男だと思ってたやつがまさかのオリジナルだったんだから。」

女「…。」

男「そしてお前達が旧校舎から教室に向かってる時に俺たちはお互いに色々話して、俺自身も状況をつかむ事が出来た。そして裏々女もいくつか俺に確認することによって俺をオリジナルだと分かってくれたんだ。そしてあの日の放課後にお前に起きていた出来事などを全て裏々女に教えてもらって、やっと自分が今どういう状況にいるのかってことを理解出来たんだ」

女「…そうだったんだ。でも、本当に危なかったね。こう言っちゃ悪いけど、あと1日遅ければ、裏々男のせいで…」

男「…!? それは…」

女「…あ、ごめんなさい…。」

男「…なあ、女。」

女「…? …何?」

男「ちょっと上に行かないか?」

女「…上って?」

男「音楽室だよ。」ニコッ


----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

ギィ ギィ

女「…でも、男。音楽室なんかになんの用事が…?」ギィ ギィ

男「渡したいものがあるんだ。」ギィ ギィ

女「…渡したいもの?」ギィ ギィ

男「よし、音楽室前に着いたぜ。」

女「…ねえ、男。渡したいものっていったい…」

男「…はい、女。」ヒョイ

女「…!? …男、これって…」

男「…ああ。本当は俺がお前に『1週間前』に渡すはずだったあのネックレスだ。」(>>377)

女「…!? …でも、何で男が今日これを持ってきているの!?だってついさっきまで『こっち』にいたのは…」

男「…分かってたんだよ、あいつ。」

女「…え?」


男「女が言っていた通り、昼の電話の時点であいつ、もう分かってたんだよ。女にはもう正体がバレているってことに。」

女「…!? …やっぱり…。」

男「…ああ。だから、あいつはコレを持ってきてくれたんだ。旧校舎は明日から取り壊し工事が始まるからな。(>>392) まるで『あれ(>>300)を実現するには今日しかないぜ』ってことを俺に訴えてるように感じたんだ。」

女「…。」

男「それだけじゃない。あいつ、家を出る前に鏡越しに『すまなかった』って言ってきたんだ。それは果たして裏男に宛てたメッセージなのか俺に宛てたメッセージなのか、はたまた他の鏡の世界のやつに宛てたメッセージなのかということは定かではないが…」

女「…そう…。」

男「…確かにあいつは今回沢山の嘘を付いた。…でも、そもそもの発端は俺が鏡の世界について知ってしまい、そしてあいつらに自我を持たせてしまったことからなんだ」

女「…!? …男。」

男「…しかもそういった裏々男が嘘を付きやすい性格になったのも、俺が隠し事をよくしていることに起因があったんだ。」

女「…。」

男「…だから、全ては俺のせいなんだ。…本当に…本当にゴメン!!」

女「…男。」


女「…男、顔をあげて。…確かに今回の騒動は男にも色々と悪かった点はあると思う。でも、あなたのおかげで私は裏々男や裏々女、そして裏男たちとも出会えることが出来た。」

男「…っ。」

女「…男はさっき『自我を持たせてしまった』って言ってたわよね。1ヶ月前、裏々男も『自我を持つ事は不自由になるだけだ』(>>78)とも言っていた。…でも、それってやっぱり違うと思う。」

男「…女。」

女「私はやっぱり、皆それぞれ一人一人にしかない人生を歩んでいって欲しい。こんなことを言ったら『そんな身勝手な事、表の世界にいるお前だからこそ言えるんだろ』って思われるかもしれないけど…それでも、皆には、皆の、皆にしかない人生を…!」

男「…。」

女「男はそんな皆が新しい人生のスタートのきっかけを作ってくれたの。そう考えれば、男がしたことも決して悪い事ではなかったんじゃないかな!?」

男「…女。 …はは、ほんとお前ってポジティブだよな。」

女「ふふ!私からポジティブ取ったらとんでもない人間になっちゃうわよ!」

男「はは、確かに。…でも、ほんとありがとうな。お前のおかげでちょっと救われた気がするよ。」

女「どういたしまして。」ニコッ

男「…でもケジメはつけないとな。」ボソッ

女「…え? 今何て?」


男「…女。」

男「俺と別れてくれ。」

女「…!? …ど、どうして!?」

男「…女は今、俺の事を100%信頼出来るか?」

女「…!? …そ、それは…。」

男「信頼出来ていなくて当然だ。だって、俺はあまりにも自分の事を言わなすぎていた。特に鏡の世界のことについて。」

女「…。」

男「男女が付き合っていく上で信頼関係を築くということはとても重要な要素だ。言い換えるとその信頼関係を築く事を疎かにしてしまったら付き合っていく事はより難しくということ。」

女「…。」

男「今回のことで女の俺に対する信頼度は全く無くなったとは思えないがかなり下がったはずだ。だから1度別れて欲しい。」

女「…1度?」

男「ああ。それでもやっぱり俺がお前を好きという気持ちに揺るぎは無い。だから見ていて欲しいんだ。コレからの俺を。」

女「…これからの…男。」

男「うん。そして、もしまた女が俺とまた付き合ってあげても良いと思えるようになったその時は、そのネックレスをつけて欲しい。」

女「…男。」


男「すごくあつかましいことを言ってると思われるかもしれない。でも…」

男「…それでも俺は…」

女「…男。」

女「…うん!分かった。…私、ちゃんと見てるから!」

男「…! …女、ありがとう。」

女「でも、とっとと早く私にネックレス着けさせてよね!? 他の男の子に目がいかないうちにね?」ニヤニヤッ

男「はは、分かってるよ。」

女「でも、何はともあれ…これからはお互いに隠し事は無しだよ!男!」

男「…! …ああ!そうだな!」

女「ふふ。」

男「…さてと、それじゃあそろそろ帰るか。」

女「そうだね。…って、うわぁ…もう3時じゃん!今日、部活なのに遅刻するってこと連絡するの忘れてた!部活に早く行かないと!」タッ

男「あ、女!」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女「やばい!やばい!」タッタッタ

男「おい女!階段を走って降りたら危ないぞ!まだそこらへんに姉さんがバラまいたモノが散乱してるんだし!」タッタッタ

女「大丈夫よ!よっよっよっと!」シュタッ

女「ね?見てた?上手いもんでしょ?」ニコッ

男「…ったく。でも、その踊り場より下はもっと散乱してるんだから普通に歩いていけって。」

女「も~、大丈夫よ大丈b…!?」ガタッ


トトトッ


ガンッ!!


男「…!? だ、大丈夫か女!?」タッタッタ

女「いった~…平気平気。ちょっと鏡にぶつかっt…………?」

男「…? どうした女? 頭でもぶつけたのか…?」

女「…。」コンコンッ

男「…? 何してんだよ女? 鏡なんか叩いて…?」

女「…。」スタスタッ

ゴンゴンッ

男(…? 今度は壁?)

スタスタッ

ゴンゴンッ

スタスタッ

ゴンゴンッ

男「…お、おい女? さっきから壁を叩いては移動してってことを繰り返してるけど一体どうしたんだよ?」


女「…。」スタスタッ

…コンコンッ

女「…!? …やっぱり…。」

男「おい女! いったい何しt…女「…ス。」

男「…!? …何て?」

女「イス!!今すぐイスを持ってきて!!」

男「…? …イスなんか何に使うんd…女「いいから早く!!」

男「…!? わ、分かったよ。」

タッタッタ

女(………まさか)



女(…………まさかっ!?)

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「はいよ。近くの教室に残ってたイスを見つけて持ってきたぜ。」ヒョイ

女「…ありがと。」パシッ

男「でもイスなんかここで一体何に…」

女「…。」グイッ

男「…使うんd…っておい女お前まさk…!?」



ガッシャアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!



男「~~~~っ!? …って女!!!!」



男「お前!! 一体…何……し………て…………」



男「…………………ッ!?」



男「………………何で…」



男「………………何で鏡が…」



男「………………何で鏡が『あった』ところに…」



男「………………『入り口』があるんだよ…」

女「…さっき」

男「…!?」

女「さっき私が鏡にぶつかったとき、その衝撃が明らかに『軽かった』の。」

男「…軽かった?」

女「…ええ。『まるで裏には何もないんじゃないか』ってぐらいにね。…それでもしかしたら…この鏡の裏には壁はないんじゃないかと思って。」

男「…!? じゃ、じゃあ、さっき周りの壁を叩いてたのは?」

女「ええ。鏡の裏にも壁があるのなら叩いたときの衝撃は重いはずだと思って、周りの壁の叩いてみてその衝撃を確認していたの。で、最後にもう一度この鏡を叩いてみたらやっぱり明らかに軽くて…だからこの鏡の裏には『空間』みたいなものがあるのでは…っておもってね。」

男「…そういうことだったのか。」

―【~回想~(>>195)】―――――――――――――----
裏男「その『強さ』を上手く使いこなすんだ。そして、常に先を見通して行動することを忘れるな。そうすれば『見えないモノ』も見えてくるはずだ。」
----―――――――――――――――――――――――

女(…強さを使いこなせば見えないモノも見えてくる…か。まさに裏男が言っていた通りだったわね。)

男「…女、どうかしたか?」

女「…ううん。…それじゃあ入るわよ。」

男「…? 入るってどこに…?」

女「決まってるじゃない。この『入り口』の中によ。」スタスタッ
----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「何なんだこの部屋は…」

女「…。」

男「天井が低いな…1.8メートルくらいか? 奥行きもあまりないな。広さはだいたい3畳ってぐらいか」

女「それに…電気…というか明かりを照らすものもない…」

男「…!? 確かに…でも、何なんだよこの部屋は…何かモノが置いているってわけでもないし…」

女「男、一回ここから出て私は3階に行くから男は2階に行って、この部屋がどの位置にあるか確認しましょう」

男「…! 分かった。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女「どうだった?」

男「ちょうどこの部屋の下、というか斜め下かな?とにかくこの下は2階の化学準備室の物置になっていたんだけど、そこに不自然なスペースがあった。腰から下のあたりまでは、実験器具の収納スペースっぽい感じになってたんだけど、それよりも上がこの部屋の下半分?になっているみたいだ。」

女「3階の音楽室も同じような感じだったわ。ちょうどこの部屋の上あたりが準備室になってて、腰より下から不自然なスペースがあった。おそらくそれがここの上半分になっているのね。」

男「…つまり、ここは2階と3階のちょうど間にあるということか…」

女「…みたいね。」

男「…でも、この部屋は一体何のたm…」




?「こら!!!君たち!!!」

女「…っ!?」


男「やばい!! 誰かに見つかっ……」

?「…ってあれ? 君たちって確か…」

女「…!? あなたは…」



女「…物理の…先生…!?」

物理「な~んだ。やっぱり、2年の女さんと男くんじゃないか。」

男「…物理の先生が何でこんなところに?」

物理「それはこっちの台詞だよ男くん。君たち一体ここで何をしてるんだい?」

男「あ、いや~、これはですね…」

物理「旧校舎の方から、鏡が割れる音がしたと思ってすぐ来てみたら…ったく一体どういうことだいこれは?」

女「…!?」

男「…え~っとですね、先生…コレは…何と言うか…」

女「…ねえ先生、今『旧校舎の方から、鏡が割れる音がしたと思ってすぐ来てみたら』って言いましたよね?」

物理「…!? …うん、そう言ったね。」


女「何でさっきの音が『鏡が割れる音』だって分かったんですか?鏡が割れる音なんて窓が割れる音と大差は無いと思うんですけど…?」

男「…!?」

物理「…。」

女「…どうなんですか、先生?」

物理「いや~、なかなか鋭いね女さん。…まあ、別に隠しておくほどのことでもないし、君たちには言っても良いかな。」

男「…隠しておくほどのこと?」

物理「実はね僕も今日『この部屋』に用事があったんだ。」

女「…!? 用事…?」

男「…用事って一体何なんですか?」

物理「…それはね…。」



物理「見納めのためだよ。」ニコッ

女「…みお…」

男「…さめ?」


物理「ああ。…実はね僕はこの高校の出身でね。」

女・男「え?」

物理「あれ?知らなかったのかい?まあ授業中にこのことは言った事無かったかもしれないな~。」

女「先生、ここの卒業生だったんですか…。」

物理「うん。僕は今ちょうど30歳だから12年前にここを卒業したんだけどね。」

男「へ~、知らなかった。」

物理「それで、僕がこの高校に在学してた時にこの部屋をよく使っていたんだ。」

女「…!? …一体何のために…?」

物理「…いや~…これだけはあんまり言いたくないんだけどなぁ…」

男「…!? お、教えて下さい!一体何にこの部屋を使ってたんですか!!」

物理「…う~ん。それはだな…」

女・男「…」

物理「…授業をさぼるために使ってたんだ。あっはっは。」

女・男「…へ?」

物理「実は当時の僕はかなり『素行が悪い生徒』でね。毎日のように授業をサボっていたんだ。」


女「嘘…? 先生が?」

男「すごいまじめそうなのに…?」

物理「いや~、だからこの話をしたらみんなに驚かれるから話すのは嫌なんだよ。」

女「…じゃ、じゃ、当時先生は授業をサボるために…?」

物理「ああ。この部屋は当時、周りでも知っているやつがほとんど居なくてね。僕はたまたまこの部屋を見つけることが出来て、仲のいい3人組でここをたむろの場所として使っていたんだ。」

女「そうだったんですか。」

物理「あ、そうだそうだ。ちょっとここの床を見てみて二人とも。」

女・男「?」

物理「実はここの床は一部分が一部分だけひっくり返すことが出来てね。そしてそれをひっくり返してやると…」パタッ

女「!? それって…」

男「…スイッチ?」

物理「ああ。このスイッチを押してやると…」カチッ

カチッ

男「…!? 今、入り口の方で何か音が…」


物理「そう。実はこのスイッチを入れると鏡のロックが外れるんだ。そして、まあ今はもう割れて無いけどロックが外れた鏡の下を持ち上げてあげると、この部屋に入れるってわけだ。鏡が持ち上がるのは鏡のてっぺんに蝶つがいがついているからなんだ。まあ、その蝶つがいは塗装で分からないようにしているから気付きにくくなってるけどね。」

男「…!? ほんとだ。鏡の上をよく見ると何か盛り上がってる部分が…あれが蝶つがいか。でも先生、この部屋って一体何のために作られたんですか?」

物理「う~ん。それについては僕もよく知らないんだ。」

男「…! …そうですか。」

物理「…でも」

女・男「…?」

物理「…そうだ。君たちはこの学校の創始者が誰だか知っているかい?」

男「いえ、俺は…」

女「私ちょっとだけ聞いた事があります。確かこの付近の地主さんが…」(>>309)

物理「うん。その通り、この学校は地主さんの出資によって創られたんだ。で、その地主さんがすごく遊び心あふれる人だったらしくてね。その地主さんはこの旧校舎の設計にかなり関わっていたということだったし、もしかしたらその地主さんのちょっとした遊び心から出来た部屋なんじゃないかな、ここは。」

女「なるほど…」


物理「まあ、というわけで、ここは僕に取っては高校の思い出を象徴するような場所なんだ。そして、そんな思い出の場所が明日から取り壊されるということもあって、それまでに一度ここに来ておこうと思っててね。…で、そのつもりでさっき旧校舎に行こうと思ったその時にここの鏡が割れる音がして…それで急いで駆けつけて来たってわけだ。」

女「でも何でそれが鏡が割れる音だと…?」

物理「あんな大きな音、ここの鏡以外で出せるわけないよ。この旧校舎にある窓ガラスや鏡はこれよりもずっと小さいしね。」

男「なるほど…」

物理「…で、ここに来てみると君たちが居た…というわけだ。でも、一体どうなってるんだここの踊り場は? 窓の破片はともかく他にも沢山モノが散乱してるし…」

女「…!? あ、それは…」

男「…まあ…い、色々ありまして…」

物理「…? とにかくこの散らばった鏡の破片を放置しておくと明日から工事に来る作業員の方々に迷惑になるからさすがにこれだけでも片付けるよ。」

女・男「は、はい。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「…ったく、女があんな豪快に割るから…」

女「し、仕方が無いじゃない!あれ意外他に方法を思いつかなかったんだから!…でも鏡って案外もろいのね。」ヒョイッ

男「あ、おい女。素手で割れた鏡を持つと危ないぞ!」

女「な~に、大丈夫よ大丈b……!?」

男「…? どうした女?」

女「…これってもしかして…」





女「………………魔法…鏡…?」

男「…え? 何言ってんだよ? 何でこんなところ魔法鏡なんかが…」

物理「おおー。女さんよく気付いたね。」

男「…!?」


物理「実は女さんが割ったここの鏡は魔法鏡なんだよ。でも、ほんとよく気付けたね。」

女「…はい。この破片、どっちの面から見ても透き通って見えるので、それでもしかしたらと思って…」

物理「そうだね。ここは光量が分断されていない場所で、魔法鏡は裏表がない。魔法鏡は明暗がはっきりと分かれた場所のちょうど間に置くことによってその効力が最大限に発揮されるからね。」(>>177)

男「…でも、どうしてこんなところに魔法鏡が!?」

物理「僕が高校生のときにここの部屋を使ったってことはさっき言ったよね。実は当時僕たちはこの部屋に出入りするところを先生たちに実は「1度」も見られたことがないんだ。何故ならそれは、ここの鏡を魔法鏡にすることによって部屋を出るときに人が部屋の外にいるかどうか確認できたからなんだ。」

女・男「!?」

物理「まあ、でもここの鏡を魔法鏡にしたのは僕自身なんだけどね。」

女「…!? 先生が?」

物理「ああ。ここの部屋を見つけた時、ここの鏡は普通の鏡だったんだ。でも普通の鏡だったら出るときに外に人が居るかどうか確認しにくいだろ?」

男「確かに…」


物理「あと、当時は魔法鏡が世間では流行っててね。もちろん僕もその一人だった。あの当時の僕は勉強は疎かにしてたけど魔法鏡とかのマジックには夢中だったんだ。まあ、物理の先生を目指すきっかけもその魔法鏡に没頭する事によって物理光学の魅力に気付いたからだったんだけど。」

女「へぇ…」

物理「そして、ここを魔法鏡にすることによって他の楽しみも増えたんだ。」

女「…他の楽しみ?」

物理「実はこの上にある音楽室の前の廊下は告白スポットとして有名でね。」

男「…!? それって…」

女(…お姉さんが言ってたやつだ(>>300)…12年も前からあったんだ。)

物理「だから、放課後とかには男女がその音楽室の前まで行くためにこの踊り場をよく通るんだ。で、僕たちは『誰が』音楽室に行き来したのかってことをこの部屋から調べていたんだ。」

男「点調べていたって何のために?」

物理「当時はね『そういった情報』が売れたんだ。まあ、はした金だけどね。だから、僕たちは小遣い稼ぎとしてそうやってこの部屋で張り込んでいたのさ。」

女「…先生。相当悪だったんですね。」

物理「いやぁ、ほんとそうだよな、あはは。まあでもあれはあれで良い思い出だよ。…とまあ、この話はもういいとしてここの鏡を魔法鏡にしたことによってもう一つメリットがあったんだ。」

男「…メリット?」


物理「『明かり要らず』っていうメリットがね。」

女「明かり?」

物理「二人ともこの部屋に電球の類いが全くない事に気付いたかい?」

男・女「!?」(>>455)

物理「もともとこの部屋には電気が通ってなくてね。ここの鏡を普通の鏡のまんまで中に居たら絶対に光源が必要だったんだ。でも、ここを魔法鏡にすることによって踊り場の上にある電球や、踊り場の上部にあるの窓から差し込む光によってこの部屋に光が入ってくるんだ。まあ、ちょっと薄暗いけどね。」

男「なるほど…だから『明かり要らず』…か。」

女「でも、本当に誰にもここを使っていることがバレなかったんですか?」

物理「…いや、実はね一度だけ、他の生徒に見つかりかけた事があったんだ。」

男「へえ。」

物理「僕たちは当時、3人組で行動してたんだけど、もしもここの部屋の中に誰か一人でも居るときは、外にいるやつに確認を求めるようにしてたんだ。」

女「確認?」

物理「ああ、周りに誰かいないかっていう確認をね。それをこれでやっていたんだ。」ヒョイ

男「…!? それって…」

女「…手鏡!?」


物理「ああ。これは僕が当時から使ってるものでいつも常備してるんだけどね。…で、話は戻るけど、外に居る者はこうやって手鏡を使って2階、3階の様子が部屋の仲間に見えるように角度を調節して、それで中にいるやつが周りに誰もいないということを確認したら『コンコンッ』っていう音で『入ってもよし』という合図を送っていたんだ。」

男「…へえ。」

女「…!? 待ってその話って…」

男「…ん? どうしたんだ女?」

女「…男、覚えてる?私達が入学当初に流行った旧校舎の鏡の噂。」

男「ん? 覚えてるけど…それがどうした?」

女「…あの噂って、うちの高校の北側にある旧校舎の東側の、そのまた2階と3階を結ぶ階段の踊り場にある鏡、その鏡の前で合わせ鏡をするとその鏡の中に引きずりこまれるという話だったでしょ?」(>>36)

男「ああ、そうだけど…」

女「…この噂は入れ替わりのことを指しているってずっと思ってた。でも一方で『引きずり込まれる』って部分に違和感も感じていた。…でも、この噂って『本当のこと』だったんじゃないの!?」

男「…!?」

物理「ああ、やっぱり君たちもその噂を知っているのか。」

女「…!? それじゃあ、やっぱり…」


物理「ああ。女さんの思っているようにその噂の原因は『僕たち』なんだ。さっき僕らが1度だけ見られたって話をしたよね? あの時、僕がこの踊り場で合図として手鏡を掲げて、そしてこの部屋の中に入るところを不注意もあってその生徒に見られてしまったんだ。」

物理「その生徒からしたら僕が合わせ鏡をして鏡の中に入ったように見えたもんだから、そんな内容の噂が校内に広まったんだ。まあ、そのおかげでここに近づく人も減って僕たちはここの部屋で快適に過ごす事が出来るようになったんだけどね。」

男「…じゃあ、あの噂は入れ替わりとは全く関係無かったってことか…」

物理「…ん?何だい?入れ替わりって?さっき女さんもそんなこと言ってたけど。」

男「…! あ、いや、別に何でもないです!気にしないで下さい!」

物理「…? まあ、いいけど。」

女(…男の言う通り、あの噂は入れ替わりに全く関係が無かったということなのかな…)

女(…でも確かにここでは入れ替わりは起こす事は出来た…それは何故…)


女(………っ!? )


女(………ちょっと…。)


女(………ちょっと待ってよ…。)


女「………ちょっと待ってよ!!!!」

男「…!? ど、どうしたんだ女?」

女「………ねぇ……男。」

女「もしかしたら…」

女「もしかしたら合わせ鏡での入れ替わりには…」








女「……『魔法鏡』がいるんじゃないの!?」


男「…!?」


女「旧校舎は何かそういう特殊な力が働いているって考えてたけど…でも、そうじゃなくて、ここの鏡が『魔法鏡』だったから入れ替わりが起きたんじゃ…」

男「…!? おいおいまさか…」

女「でもそう考えるのが普通じゃない!?第一、『魔法鏡』には特別な力が働くってことは私が『裏の世界』で証明したわけだし!」

男「…!? …でもなぁ、女…。」

女「もしも、合わせ鏡による入れ替わりに魔法鏡が必要だとしたら…」

男「…?」


女「もしそうだとしたら…」



女「私の…」





女「私のマンションのエレベーターの鏡も…!?」

男「…!?」


男「…はは、な~に言ってるんだよ女。そんなわけないだろ? エレベーターの鏡を魔法鏡にして何の意味があるんだよ!? エレベーターはものすごいスピードで動くんだぞ!!上下に!!」

女「…それはそうだけど……っ!?」

女「…でも、そう、1ヶ月前、マンションの管理人さんが言ってたの。」

―【~回想~(>>104)】―――――――――――――----
管理人「そういえば、他の人も今の女ちゃんみたいなこと言ってたな~。誰かに見られてるような気がするとか何とか…。
----―――――――――――――――――――――――

女「…って。」

男「!?」

女「最初は霊か何かの類いがあのエレベーターにいるのかなって思っていたけど、でもそれは間違いで…本当に『誰かに見られていた』としたら…!?」

男「…でもやっぱりエレベーターに魔法鏡なんて現実的じゃねえよ。」

女「…確かに、男の言う通り、もしかしたら私の考えすぎかもしれないし、この考え方は現実的ではないかもしれない。…でも、この1ヶ月間は私達にとって非現実的なことばかり起きてきたじゃない!? だから…確認してみる価値は絶対にあるわ!!」

男「…!? …女。」


男「…ああ、そうだな。もしかしたら女の言う通り本当に入れ替わりには魔法鏡が必要かもしれない。そして、本当に女のマンションのエレベーターの鏡が魔法鏡だと考えると…」

女「…うん。誰だかは分からない。でも、あそこの鏡を『魔法鏡』にした『人物』を…そしてその『目的』を追求するためにも…」



男「…ああ、行こう!!」







女・男「あのマンションへ!!!!」

----―――――――――――――――――――――――

今日はここまでです。
残りの更新は2回。やっと終わりが見えてきた…
では、次回は29日に。
おやすみなさい。


―――――――――――――――――――――――----

女「そうと決まれば急ぐわよ、男!」

男「ああ!」

物理「き、君たち!!」

女「…あ。」

男「…やっべ、先生のこと忘れてた。」

物理「今の話はどういうことなんだい?? 入れ替わりって一体?」

男「え~っと…それはですね…。」

物理「それは?」



女「…!?」バッ

男「…? どうした女?」

女「…。」

男「…女?」


女「………今…」

女「………2階の陰から誰かに見られていたような…」

男「…2階?」

女「…っ。」タッタッタ

男「あ、女!」タッタッタ

タッタッタ…

女「…誰も…いない…?」

男「ただの気のせいだったんじゃないか?」

女「…そうかな…」

男「ってかお前いつも『いきなり』だよな。今といい、さっきの鏡を割ったときといい…」

物理「こら!!君たち!!」タッタッタ

男「…! ヤバい、さすがに先生もさっきから蚊帳の外にされっぱなしで怒ってr…女「男。」

男「…?」


女「先生に説明している暇は無いわ。だから…」

男「だから…?」

女「…逃げるわよ!!!」ダッ

男「…ちょ!? 女!? だからお前いつも『いきなり』すぎるんだって!!」ダッ

物理「…!? こら!待ちなさい!」タッタッタ

タッタッタ…










?「………。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

シュタッ

女「…よし、旧校舎から出れたし、このまま先生から逃げ切るわよ。」

男「オッケー。じゃあ、とりあえず校門に向お…」

校長「おい!!君たち!!」

男「…げっ!?」

女「校長先生!?」

校長「君たち今、旧校舎から出てこなかったか!? 旧校舎は今、立ち入り禁止なんだぞ!一体何していたんだ!?」

女「…男。」

男「…ああ、『もう』分かってるよ。」

女「ここは…」

男「逃げるが…」

女・男「勝ち!!!!」ダッ

校長「…あ!こら!待ちなさい!!」


ガチャ

校長「…ん?」

物理「…はぁはぁ。…も~二人とも何で逃げるんだよ…。」

校長「…!? ぶ、物理君!? 何で君まで旧校舎から!?」

物理「…ん?」

物理「…!? こここここ校長先生!? な、何でここに!?」

校長「それはこっちの台詞だ!! 立ち入り禁止の旧校舎で君はあの生徒2人と一体何をしていたんだ!!!」

物理「あ…い、いや…そ、それはですね…」

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―――――――――――――――――――――――----

ギィ ギィ

ギィ ギィ

ギィ ギィ

ギィ ギィ

ギィ ピタッ

?「…まさか、ここの鏡が魔法鏡ってことに気付かれるとはね…」

?「しかも、それを女ちゃん『が』気付くことになるとは思ってもいな…いや、でも『もしや』…とは心のどこかで思っていたかもね…」

?「ふふ…ただ、さすがに『このまま』だとやばいわね。」



?「…とりあえず連絡しないとね、『あの2人』に。」ピッ

prrrrrr prrrrrr

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「はあはあ…ラッキーだったな。あそこで校長先生が来てくれたおかげで物理の先生に追われなくて済んだし。」タッタッタ

女「はあはあ…でも、物理の先生、校長先生に色々言っちゃわないかしら…。」タッタッタ

男「ま、大丈夫だろ。物理の先生ってなんだかんだ口は達者な方だし、俺たちの事もちゃんと考えた上で言い訳してくれるだろ。」タッタッタ

女「だといいんだけどね~」タッタッタ

男「…でも、女…何で俺たちまだ走ってるんだよ?もう歩いてもいいんじゃないか?」タッタッタ

女「…いえ、まだこのまま走りましょう。」タッタッタ

男「…何で?」タッタッタ

女「…何だか嫌な予感がするの。」タッタッタ

男「…嫌な予感?」タッタッタ

女「…うん。口ではうまく言い表せないんだけど…とにかく早く行かないといけない気がして…」タッタッタ

男「…そっか。…分かったよ、女。俺はお前のその直感を信じるよ。」タッタッタ

女「…ありがと。」タッタッタ


プップー

男「…おっと車のクラクションか?」タッタッタ

女「…私達に対して?」タッタッタ

男「…俺たちは歩道を走ってるのか?」タッタッタ

女「…でも他に車とか周りにもないし…」タッタッタ

ブーン キキッ

男「…おい、俺らの横で止まったぞ。」ピタッ

女「…まさか、校長先生たちが追ってきたとか?」

男「…!? おいおいもしそうだとしたら洒落になんないぞ。」

ガチャッ

男「…! 出てきた。」

女(…あれ? 校長先生でも物理の先生でもない…)

男「…!? あなたは…」

女「…? 男、知り合いなの?」


男「ああ。一応な。」

男「…お久しぶりです。」



男「姉友さん。」



姉友「なっはっは!いや~久しぶりだね~男く~ん!」

女「…男、誰なのこの人?」ボソッ

男「この人は…姉さんの友達だ。」ボソッ

女「お姉さんの?」ボソッ

女(…何だ。お姉さんの友達か…でもお姉さんと同様ですごく美人…ちょっと日焼けしてるけど…背が高くて…ロングの奇麗な茶髪で………)

姉友「男くん、そこのかわいらしい女の子は…もしかして彼女~?」ニヤニヤ

男「…!? い、いや~、彼女というかなんというか…なあ、女?」

女「…付き合ってはないんですけど…まあ、それに近い感じですかね?」

姉友「プッ…何それ~!?意味分かんな~い!」

男「ま、まあ、ちょっと複雑な事情があるんです。」


姉友「…ふ~ん。まあ、いいや。それじゃあ、あなたは女ちゃんっていうのね?」

女「あ、はい。はじめまして、女っていいます。男姉さんと友達ってことは…私の兄の女兄ってご存知ですか?」

姉友「…え~!?あなた女兄くんの妹だったの!?…ど、どうりで可愛いわけだわ。…ってか、私の自己紹介が遅れたわね。私は姉友って名前で、関東のw大の2回生。男くんのお姉ちゃんとは小さい頃からの友達で、高校はあなたのお兄ちゃんや男姉とも一緒だったの。」

女「w大ですか!? お姉さんといい、姉友さんといい皆さん頭がいいんですね。」

姉友「いやいや、あなたのお兄ちゃんだってkb大なんだし、十分頭いいわよ。」

女「…ん? でも待って下さい。姉友さん、さっき『2回生』っておっしゃいましたよね? でもお兄ちゃんもお姉さんも確かつい最近まで4回生だったはずじゃ…」

姉友「いや~、実は私はね2回生が修了してから2年間休学しててね、それでこの春から復学することになってるんだ。だから、今は一応2回生ってことになってるの。」

男「へ~、姉友さん休学してらしたんですか? でも何のために?」

姉友「私、海外にすごく興味があってね。だからこの2年間はずっと南半球を中心に世界中を旅してたの。で、日本に帰ってきたのもつい最近でね。」

女「あ、だからこの時期でも姉友さんは日焼けしているんですね。」

姉友「あ~、やっぱり私黒い~? まあ、日焼けするのは仕方の無い事だっただけど早く白い肌に戻したいな~」

女「…な、なんかすごい『軽いノリ』の人ね。」ボソッ

男「…ああ。だから、俺も結構苦手なんだよこの人。」ボソッ


姉友「…おっと。立ち話もなんだし2人ともさあ乗った乗った!」

女「…? 乗った乗ったって車にですか?」

姉友「もちろん!早くしないと終わっちゃうわよ!」

男「終わるって何がですか?」

姉友「決まってるじゃない!お祭りよ!」

女「…お祭り?」

男「…あ、そうか。今日3月21日は大窪寺の春分祭の日だ。」(>>185)

女「…! …あ、そういえば…すっかり忘れてた。」

姉友「な~に?2人とも地元民なのにお祭りのこと忘れてたの!?」

男「いやあ…ちょっと最近色々とごたごたしてまして…ってか何で俺たちが姉友さんとお祭りに行くことになってるんですか!?」

姉友「あっはっは。本当は男姉でも誘って行く予定だったんだけど、あいつ今日全然連絡が取れなくてね。…で、車を走らせてたらたまたま暇そうな男くんを見つけたもんだから。」

男「いやいや、さっきの俺のどこが『暇そう』だったんですか!? あんなに必死に走ってたじゃないですか!?」


姉友「う~ん…あ、そういえば。」ニコッ

男「…おいおい。」

姉友「てか、2人ともそんなに急いでどこに行くつもりだったの?」

男「…! …えっと、それは…」

女「…。」

女「…実は私のマンションに行く予定だったんです。」

男(…! …女)

姉友「女ちゃんのマンションに? 2人で? 何をしに? マンションに『帰る』わけではなくて?」

女「…! そ、それは…」

姉友「…ふふ!まあ、せっかくなんだしお祭りに行きましょうよ!春分祭は1年に1度だけなんだから!さあさあ乗った乗った!」グイグイッ

男「ちょ!?姉友さん!?そんな押さないで!」

女「私達本当にいそいd…って、きゃ!?」バタンッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

ガヤガヤガヤガヤ

姉友「いや~楽しかったわね~お祭り~♪」

女「…結局」

男「…姉友さんのごり押しに負けたな」

姉友「ん~?何か言った?2人とも?」

女・男「い、いえ!何も!」

姉友「そう? それにしてもこのたこ焼き美味しいわね~♪ 女ちゃんもいる?」もぐもぐ

女「いえ、私はいいです。」

姉友「そう? …ねえ、女ちゃんってどんな食べ物が好きなの?」

女「好きな食べ物ですか?そうですね~」

姉友「ふふ!当ててみようか!?」

女「…え?」

姉友「女ちゃんの好きな食べ物は…」

姉友「…! ひ、閃いた!!ズバリ女ちゃんの好きな食べ物はミートp…」

prrrrrr prrrrrr

姉友「…あら? 電話来たからちょっとゴメンね。」タタタッ

女「あ、はい。」

姉友「もしも~し? …あ、うん。…もういいの?」

姉友「…うん。…うんうん。…オッケー。…それじゃねー。」ピッ

女「…!」

男「…何の電話だったんですか?」

姉友「…いや~!ごめんね2人とも!実はちょっと用事が出来ちゃったから私はおさらばしなきゃならないみたい!」

男「…は!?」

姉友「それじゃ2人ともば~いば~い♪ 楽しかったよ~♪」タッタッタ

男「ちょ、ちょっと姉友さん!!! …いやいや、本当に行っちゃったよ。」

女「台風のような人だったわね…。…あ、てかあの人俺たちに徒歩で帰らせるつもり!?」

男「…あ!!本当だ!! うわぁ…ここの大窪寺って女のマンションの反対側にあるからまた戻るのにすごく時間がかかるぞ。」

女「そうね…まあ、あの人からこれで自由になれたわけだし…。 とにかく向かいましょう。日が暮れる前までに。」

男「…! ああ、そうだな。あやうく本来の目的を忘れるところだった。」タッタッタ
----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「はあはあ…よし、着いたぜ、マンションに。」

女「はあはあ…ええ。」

男「…でも、これからどうするんだ?」

女「そうね…とにかくまずはエレベーターの中の鏡が魔法鏡かどうかを確認するためにも…」

男「…! なあ、女。」

女「…? 何?」

男「ここのマンションの管理人はいつも何時まで管理人室にいるんだ? あと、ここのマンションには裏口はあるのか?」

女「…何時? 確かいつも18時前まではいたような…裏口はあるよ。」

男「そうか。…よし。ついてるな。」

女「…何が?」

男「女、とりあえずあと20分ここで待機しておくぞ。そして20分後にこの玄関ホールではなく裏口から入るぞ。」

女「…? 何で20分待つの?」

男「今の時刻は17時50分だからあと、10分すれば管理人さんは管理人室からいなくなるからな。そして念のために10分余分に待った上で入れば気付かれる可能性は減るはずだ。」

女「…!? それってつまり管理人さんがいない時間を盗んで調べるってこと?」


男「ああ、そういうこと。ここのマンションは5年前に出来た比較的新しいマンション(>>12)だし、エレベーターホールはもちろんのこと、エレベーターの中にも監視カメラがついてるんだろ? もし俺達が調べている間に管理人さんに見つかったら摘まみ出されるかもしれないしね。」

女「…でも、男。今回の場合は管理人さんに協力してもらった方がいいんじゃないの? 管理人さんだったらエレベーターを止められるかもしれないし、その方が調べやすいと思うんだが。」

男「…確かに。…でも…その管理人さん本人が鏡を魔法鏡にした『張本人』だったとしたらどうする?」

女「…! はは、そんなまさか。…管理人さんが? ないない。」

男「…そんな『まさか』といった非現実的な出来事がここ最近起きているじゃない…って言ったのはお前だったろ?」(>>471)

女「!?」

男「だから今はとにかく目の前の全てのものに対して『疑い』の姿勢でいどまないと、もしかしたらとんでもないことになるかもしれないんだ。…そうだろ?」

女「…ええ、そうね。男の言う通りだわ。」

男「よし、それじゃあマンションに入るのは20分後だが先に裏口に回っておこう。」

女「了解。…そういえば裏口から入るのは何でなの?」

男「ここや玄関にいたら業務を終えた管理人さんとばったり会ってしまうかもしれないだろ?」

女「あ、そうか。」

男「それじゃあ裏口に回るぞ。」

女「うん。」スタスタッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女「…男、20分たったよ。」

男「そうか。…よし、それじゃあ入るぞ。出来るだけ他の人に見られないように慎重に行くぞ。」

女「うん。」

ガチャ

スタスタ 

スタスタ

----―――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――----

女「…よし、エレベーターホールに着いた。周りには誰もいないね。」

男「おし、順調だな。で、女。」

女「ん?」

男「お前が入れ替わったエレベーターは『どっち』なんだ?」

女「…!? あ、そうか。うちはエレベーターが二基あったんだっけ。(>>23)…え~っと、あの時どっちに乗ったっけなぁ…」

男「女、どっちのエレベーターにも鏡はついてたのか?」

女「…! そういえば『片方』にしかついてなかった気がする!!」

男「そうか。それなら鏡がついているエレベーターは…『左』だな。」ポチッ

女「え? 何で『左』って分かるの?」

男「エレベーターが2基ある場合の鏡ってどっちにもついている、もしくは『左』につけるっていう決まりみたいなものがあるらしいんだ。」

女「へぇ。 …でもそもそも何でエレベーターに鏡があるの?」

男「鏡をつけることによって奥行きが広く見えるだろ? あと、車いすを利用する人が乗り込んだ状態で、かごの中で回転ができない際、後ろ向きで出るときに後方を確認するためらしい。まあ、ちょっとした豆知識だな。」

女「へぇ~。」

男「よし、エレベーターが来た。早速入るぞ!」


―――――――――――――――――――――――----

ガタンッ

男「この鏡が…」

女「…うん。この鏡で私は入れ替わりを起こしたの。」

男「見た感じ至って普通の鏡なんだけどな…。」

女「そうなのよね…。てか、男、エレベーターはどうする?このまま1階に居たまんまじゃ誰か来るかもしれない…」

男「そうだな。とりあえず適当にどっかの階に行ってエレベーターの開放維持ボタンを押しておけばエレベーターは動かなくなるだろう。まあ、一応保険としてドアの間にモノでも挟んでおけば大丈夫なはず。」

女「なるほど、じゃあ1番人が少なそうな4階にでも行きましょうか。」ポチッ

ゴォォォ…

男「さてと。…なあ、女。普通の鏡か魔法鏡かを見分ける方法とかはないのか?」

女「見分ける方法? …ん~、見分ける方法かぁ…あっ!そういえば!」

----―――――――――――――――――――――――


―【回想~(>>178)の続き~】――――――――――----

物理『それでは今からこの魔法鏡を使って実験を行っていきたいと思います。』

物理『でもその前に、まずは魔法鏡を『魔法鏡』であるかどうかをいかに見分けるか…についてを説明しておきたいと思います。』

女(…見分ける?)

物理『魔法鏡は端から見たら普通の鏡と何ら変わりません。…ですが、あることをすることによってそれが『魔法鏡』であるかどうかを簡単に見分けることが出来るんです。』

ドーヤルンデスカー?

物理『それはですね…『ギリギリまで近づく』ことです。』

女(近づく?)

物理『自分自身が魔法鏡だと思われる鏡に近づき、そして覗き込む事によってですね、実はうっすらと奥が見えるんです。なのでもしそのように鏡が透けて奥が見えればそれが魔法鏡であるということが分かるんです。』

ナンデスケテミエルンデスカー?

物理『それはギリギリまで近づくことによって自分の体によって、『こちら側』の光が遮られるからです。光を体で遮る事によって魔法鏡に反射する光量が減り、そして魔法鏡の向こう側の空間の光量に近くなります。それによってうっすらとですが魔法鏡の向こう側が見える…というわけなんです。』

----――――――――――――――――【回想終了】―


―――――――――――――――――――――――----

女「…っていうふうに物理の先生が言ってたの!だから…」

男「成る程。近づいてみればいいんだな。」

女「うん。」

男「よし、それじゃあ俺が見てみるよ。」

女「…! うん、お願い。」

男「…。」スタスタッ

ピコーン

女(…あ、4階についたみたい。開放維持ボタンを押して入り口に何か挟んでおかないと…)ガサゴソ

女「…よし、鞄でも挟んでおけば大丈夫かな? …あ!男、どうだった?」



男「………。」



男「………見えない。」

女「…え!?」


男「…透けて見えない。…これは…」

男「……普通の鏡だ。」

女「…嘘!?」

男「嘘じゃないさ。女もこっちに来て見てみるといい。」

女「……。」スタスタッ

女「…本当だ。透けて見えない…ただ目の前に自分の顔が映ってるだけ…。」

男「…。」

女「…でも何で!? ここも魔法鏡のはずじゃ…」

男「…やっぱり、俺たちの考え方が間違ってたんだよ。」

女「…!? そんな!?」

男「よく考えてみたら、エレベーターに魔法鏡をつけるということはその魔法鏡の裏に『何も無い』状態をしないといけない。でも、これはエレベーターだぜ? もしもエレベーターにそんな『大穴』を開けた状態で鏡なんかつけたら上下移動の際に隙間風やそれに伴って音が発生するはずだろ?」

女「…!? …確かに。」

男「でも、今乗ってる限りじゃ隙間風は感じられなかった。それにエレベーターに『大穴』を開けるということ自体、並大抵のことじゃできないしな。だってエレベーターの壁って10センチくらいの厚さはあるだろうし…。」

女「…。」

男「…まあ、でも俺たちの思い過ごしで良かったじゃないか。エレベーターの鏡が魔法鏡じゃないってことも分かったんだし安心したろ? …ただ、入れ替わりについてはまた一から考えてみないといけないけどな…。」




女「…まだ。」

男「…?」

女「…確かめるための『方法』はまだある!!」ズザッ

男「…ちょ!?女!!!!」

ガンッ!!!!!

女「………っ!」

男「~~~~っ!? お前何鏡を蹴ってんだよ!!もし割れてたらヤバかったぞ!!旧校舎の鏡はもう取り壊されるだろうからまあなんとかなるだろうけど、ここの鏡は他の人の『所有物』なんだぞ!!…でも良かった、割れてなくて。」

女「……。」

男「…女?」

女「……『軽い』。」

男「…!? …おいおい『軽い』ってまさか!?」

女「…ええ!やっぱりこの鏡の裏には『空間』があるわ!!旧校舎の鏡の時と同様に!!」


男「…!? …ちょっと待て。」スタスタッ

男「…。」ガンガンッ

男「…!! 確かに『軽い』な。かなり分厚めの鏡みたいだけど、手で思いっきり叩けば裏に『空間』があるってことは分かる。…ってことはつまり…」

女「…ええ。…ここには確かに魔法鏡が『あった』かもしれない。」

男「…そういうことになるかもな。まあ、今は普通の鏡みたいだけど。」

女「…男。」

男「ああ、分かってるよ。『これ』をはずすつもりなんだろ?」

女「うん。でもどうする…?」

男「う~ん、見た感じ鏡のふちに強力な接着剤をつけてるみたいだ。だから外すのにはかなり苦労しそうだが…」

女「…じゃあ、『やる』しかないわね。」

男「…!? おいおい!本気で言ってるのか!?もしもこの鏡を割ったら器物損壊罪で通報されてしまうぞ!?」

女「そんなの理由をちゃんと言えば警察だって分かってくれるわよ。」


男「…!? だとしてもだな…」

女「…男!!」

男「…ああ~~~っ!!もう分かったよ!! でも『やる』のは俺だ!!」

女「…え?何で!?私がやるよ!?」

男「お前を犯罪者にするわけにはいけないからな。…あ、でも一緒に居たらそれでもうアウトか? まあ、いい!とにかく俺がやる!女にケガさせるわけにはいかないし!!」

女「…男。」

男「よし、そうと決まったら一度エレベーターを1階に下ろすぞ。」

女「1階?」

男「エレベーターをこんな中途半端な階で浮かした状態で鏡を割ったらその破片がエレベーターの外側にパラパラと落ちるだろ? それがエレベーターのワイヤーを傷つけることになるかもしれないからな。だから出来るだけ、エレベーターが1番下にある状態でやったほうが安全だ。」

女「…成る程。」

男「よし、それじゃあ1階に降りるぞ。」

女「分かった。」

ポチッ

ゴォォォ…

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

チーン

男「よし、1階についたぞ。」

ウイーンッ

女「…1階には誰も居ないみたい。」

男「よし、それじゃあドアを閉めてくれ女。」

女「了解。」ポチッ

ウイーンッ

男「よし、それじゃあ、女は下がってろ。」

女「…あ、てか何か丈夫なモノを持ってきてそれで割った方がよくない!?」

男「大丈夫だ!」

女「!?」

男「中・高とサッカー部で鍛えてきた脚力を…」

男「なめんなよ!!!!」ブンッ



ガッシャアアアアン


女「~~~~っ!? だ、大丈夫、男!?」

男「な~に、へっちゃらへっちゃら。…それよりも…見てみろよ、あれを。」クイッ

女「…?」クルッ

女「……………………っ!!!!」

女「…………………や、やっぱり…。」

男「…ああ。お前が思っていた通り、鏡の裏には…」







男「…『穴』があったみたいだ。それも70センチ四方もある大きな『穴』が。」


女「本当に穴があったなんて…」

男「…!! …成る程、そういうことか。」

女「…? どうしたの?」

男「…女、この穴の奥に腕を伸ばしてみろよ。」

女「…腕?」グイッ

ピタッ

女「…!? こ、これって!?」

男「ああ、それは『透明な窓ガラス』だ。これが隙間風が入らなかった理由だな。」

女「…!?」

男「このエレベーターは外壁の厚さが10センチ近くある。外側に窓ガラスをつけ二重構造にすることによって隙間風を出来るだけ入らないようにしていたんだ。でも、その鏡と窓ガラスの間の10センチの空間があったことによってさっき俺たちは叩いたら『軽い』と感じることができたんだ。」

女「なるほど。…じゃあやっぱりここには…」

男「…ああ。ここに『魔法鏡』が『あった』ことは間違いないな。少なくともお前が入れ替わった『あの日』までは。」

女「…で、でも何のために。」

男「…『魔法鏡』は」

女「…?」

男「…俺たちにとって『魔法鏡』は入れ替わりに必要なアイテムっていうふうな認識だが…」

女「…だが?」

男「他の人…というか一般の人にとっての『魔法鏡』の認識はやはり『気付かれないように覗く』ことだ。」

女「…!? それじゃあやっぱり…」

男「…ああ。おそらくこのエレベーターの中を覗き込むためにここに魔法鏡があったんだ。」

女「…うそ。…でも一体誰が!?」

男「…それを確認するためにも…さあ行こう。」

女「…? 行くってどこへ?」

男「『上』に決まってるだろ?」

女「…『上』?」

男「だって、エレベーターの中を覗き込むためには、エレベーターの『向こう側』から見ないと無理だろ?つまり、このままエレベーターで上に…」

女「…!! そうか、上に行けばどこかに…」

男「ああ。上に上っていけば必ずこの『穴』の向こう側にもう一つの『穴』があるはずだ!!」
----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「よし、それじゃあ1階ずつ上がっていくぞ。」

女「うん。」

ポチッ

ゴォォォ…

チーン

男「2階には…何もないな」

女「ええ。」

男「次は3階だ。」ポチッ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

チーン

男「…3階にも何もないな。」

女「…。」

男「…よし、次は4階だな。」ポチッ

ゴォォォ…

チーン

男「5階も…」

女「何も無いね。」

男「…」ポチッ

ゴォォォ…

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

チーン

男「6階もはずれか…」

女「…みたいね」

男「…」ポチッ

ゴォォォ

女「…本当にあるのかな、『穴』なんて…」

男「…さあな。…でも、可能性は高いと思うよ。」

チーン

男「…7階もはずれだな。」

女「…」

男「…」ポチッ

ゴォォォ…


----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

チーン

男「…8階も何も無しか…」

女「…ねぇ…もしかしたら、見逃したんじゃないの?」

男「え?」ポチッ

ゴォォォ…

女「私達、さっきからエレベーターが止まるごとに確認してるけど、もしかしたらエレベーターが動いている間に『穴』があったんじゃ…」

男「いや、俺もその可能性があるから動いている間も『穴』をこうやってちゃんと覗いてきたけどそれらしきものは無かったぜ。」

チーンッ

男「…9階まで何もなしか…」

女「…ぜ、絶対見逃したのよ!」

男「…? どうしたんだよ女?見逃したも何もまだ10階が残ってるじゃないか。」ポチッ

女「………だからよ。」ボソッ


男「え?」ポチッ

女(…だって10階は…)

ゴォォォ…

女(…10階は………)

チーン

女(!? 10階に着いt………っ!?)


女「…う…そ……。」



男「…あったな、『10階』に。」



女「…。」



男「…どす黒い…『大穴』が。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「…女、大丈夫か?」

女「…うん、もう平気。」

男「…まあ、10階はお前の家がある階だからな。ショックなのは当然か…」

女「…。」

男「…でも、これからどうする…?」

女「…どうするって?」

男「あの『穴』の向こうに何があるか確かめるか?」

女「…! …ええ、そうね。」

男「…よし、じゃあその前に…一度整理しよう。」

女「…整理?」

男「女、この階の…というかこのマンションの各階の見取り図は見たことあるか?」

女「…見取り図? いいえ、見た事はないけど…」

男「…そっか。じゃあ、ちょっと図を書いてみよう。」ガサゴソ

女「…図?」


男「ああ。そのために紙とペンを…っと。」ガサゴソ

男「…! あったあった。それじゃあ、見ておいてくれ。」

女「う、うん。」

男「このマンションの玄関は北側にあって裏口は南側にあった。そしてエレベーターはマンションの南西の端っこにあるってことであってるよな?」スラスラッ

女「うん。」

男「そしてこのマンションの部屋は太陽の光を効率的に浴びるためにも全て南側にある。そして通路は北側だ。」スラスラッ

女「そうね。」

男「そして、このマンションは10階建てで、各フロアの部屋は『西側』から1号室、2号室と続いていき、全部で…え~っと…」スラスラッ

女「15室よ。」

男「オッケー、15室だな。そして今俺たちの乗っている『左側』のエレベーターはもう一つのエレベーターよりも『東側』にあって、隣の『右側』のエレベーターは西側の端に位置している。」スラスラッ

女「うん。」

男「…で、ここでお前に聞きたいことがある。」

女「…?」

男「…1号室から15室までは全て同じ間取りか?」

女「間取り? …う~ん、どうだろう…他の人の家には入った事無いし…あっ!でも!」


男「…でも?」

女「確か私が住んでる部屋の隣はかなり大きめになってるってここに引っ越してくる前に不動産屋さんが言ってたのを聞いたような…」

男「…! その隣ってのは…ここか?」トンッ

女「…! う、うん。たぶ…っ!? も、もしかして!?」

男「…ああ。おそらくそこの『穴』はこの部屋に繋がっているんだ。」

男「…この1001号室にな。」

男「おそらく、このマンションのほとんどの部屋が縦長の長方形のカタチになっているはずだ。でも、このエレベーターの隣にある各階の1号室は『逆l字型』のになっているんだろう。」

女「…『逆l字型』?」

男「ああ。エレベーターは一応南側にあるけどそれに必要なスペースって最大5メートル四方ってとこだろう。でも各部屋は南北に12メートルくらいはある。つまり、エレベーターの南側には縦に7メートル、横に10メートルの余分なスペースがあるってこと。だから、1001号室の部屋がエレベーターの南側まで伸びている可能性が高い。」

女「…『逆l字型』ってそういうことね…。」

男「ああ。…まあ、その余ったスペースは配管だとか柱などが入ってるだろうから伸びていたとしても今、俺たちが乗っているエレベーターの南側までだろうな。」

女「…。」

男「まあ、とにかくこの『穴』が1001号室に繋がっている可能性が高い。…っ
てことは、もう犯人探しは簡単だろ。」

女「…!? 簡単って何が??」


男「…? だってそりゃこの『穴』の犯人が1001号室の人ってことはお前も知ってるんじゃないのか?だってお前の家の『隣』なんだし。お前の家は1002号室なんだろ?」(>>104)

女「…!?」

女「…私…」





女「…私、知らない。」

男「…え?」

女「私、というかウチのみんなは知らないのよ。1001号室に誰が住んでるのかってことを。というか誰も住んでないと思う…。」

男「…いやいや、冗談だろ。隣なのに? てか、ここのマンションってかなり人気あるだろ?だから、空き家があったらすぐに埋まるはずなんじゃ?」

女「本当よ!!1001号室には誰にも住んでない!!………気がする。」ボソッ

男「…『気がする』?」

女「…うん。実はここに引っ越してきた当初は誰か住んでたらしいのよ。」


男「…それっていつ頃だ?」

女「このマンションに越してきたのが5年前だったから多分その時ぐらい…」

男「5年前か…で、それからは?」

女「私達も最初、何度か挨拶にいこうとしたんだけどいつも留守で…で、管理人さんに1001号室に誰が住んでるんですかって聞いたら『お金持ちの人がセカンドハウスとして購入したマンションだからまんまりこっちのマンションには帰って来ないみたいだよ』って言ってて。」

男「…金持ちねぇ…」

女「で、その後もお母さんが何度か挨拶として訪ねてみたらしいんだけど1度も出た事がないらしくて…」

男「…成る程。で、そのまま今に至る…と。」

女「…うん。」

男「…よし、とりあえずインターホンを鳴らしにいってみよう。」

女「…! そ、そうね。」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

ピンポーン

女・男「…………。」


ピンポーン


女・男「…………。」


シーンッ…


女「出ないね…」

男「…みたいだな。これ以上鳴らしても無駄だな。」

女「…どうする?」

男「とりあえず一度エレベーターに戻ろう。あのまま放置しておくのはまずい。」

女「そうね…」

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―――――――――――――――――――――――----

男「…さて、どうしたものか…」ボソッ

女「…男。」

男「インターホンを鳴らしても出ないし…そもそも家にはもう既に誰もいないか…」ボソボソ

女「…ねえ、男!」

男「これはもう警察に…いや、警察に通報したら鏡を割った事についての追求が…」

女「男!!!!」

男「…!? な、何だよ大声だして?」

女「…もう」

女「…もう『やる』しかないよ!!」

男「…!? おいおい『やる』ってまさか…」

女「もうそこの『ガラス』を割ってあっちの『大穴』に渡って入るしかないよ!!」

男「…!? お前、あの中に入るつもりか!? ……てか、お前は何でそういつもいつも『割り』たがるんだよ…。」

女「だってあの『大穴』の中に入れば、ここの鏡を魔法鏡にした秘密が分かるかもしれないんだよ!!」

男「…それはそうなんだが…」


女「…。」

男「…はぁ。…だがな、女。あの中に入るってことは不法侵入、つまり『住居侵入罪』も犯すことになるんだぞ。」

女「…!? そ、それは…」

男「更に俺たちは既にマンションの鏡も割ってしまっているからそこに『器物損壊罪』もセットでついてくる。俺たちはまだ18歳未満で成人ではないけど、警察に連れて行かれれば…学校を退学はどころか…」

女「…。」

男「それでもいいなら俺は何も言わない。でも、その覚悟が無いのならもうこれ以上はやめておけ!お前自身、ここが魔法鏡だったからって何の被害も受けてないんだろ?さっき、お前は警察なんてうまく言い訳すれば大丈夫よと言ってたがそんなあまいもんじゃないからな!」

女「…。」

女「…確かに、私はここの鏡が魔法鏡だったからと言って別に何かの被害があったわけではないわ。」

男「だろ? じゃあ…女「でも!!」

男「…!?」

女「…最初はね、ここの鏡を魔法鏡だって分かって、覗かれていたことに対して『怒り』だとか『恐怖』を感じてたの。」

男「…。」

女「…でも、今はそんなのじゃなくて…何故だろう…今、ワクワクしている自分がここにいるの。」

男「…!? …ワクワク?」


女「ええ。…私、この1ヶ月間、他の人が体験出来ないようなすごいことばかり体験してきたわる。そして、今、更なる『謎』が今、目の前に、ほんの1メートル先に迫ってきているの!」

男「…! …女。」

女「確かに私が今からしようとしていることは犯罪になるかもしれない。でも、私はこの先に迫っている『謎』にもっと近づきたい!そして自分の手によってその『謎』を知りたい!!」

男「…。」

女「男はどうなのよ!?」

男「…!? …俺?」

女「私でさえこんなにワクワクしてるのよ!!それなら男もワクワクしてるはずじゃないの!?だって男も半年前に鏡の世界について知り、それに対してワクワクしたからその『秘密』に迫ろうと夢中になってたんじゃないの!?」

男「…! …そ、それは…」

女「…男!!」

男「………。」

男「………はぁ。負けた負けた!…お前の言う通りだよ!俺も正直ずっとワクワクしてた!!今目の前の『これ』に対してな!!」

女「…! …男。」

男「ただ、俺はどうしてもお前にこれ以上危険なことをしてほしくなくて…まあ、それも無駄みたいだな。」

女「…ふふ。ええ、無駄よ!」


男「…ったく、お前ってやつは…ああ、いいだろう!やってやるよ!!」

女「…よし!それじゃあ早速!!」

男「いや、待て女!」

女「…?」

男「あの『大穴』に入るためにはおそらく準備がいる。」

女「…準備?」

男「ああ。女、申し訳ないがお前の家から『バット』と『懐中電灯』、『新聞紙』、それと『ガムテープ』を持ってきてくれ。」

女「…バットと懐中電灯は何となく用途は分かるけど、何で新聞紙とガムテープが?」

男「いいから俺の言った通りのモノを持ってきてくれ。」

女「…? 分かった。」タッタッタ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

ガチャ ただいま~

女母「ん? 女、帰ってきたの?」スタスタッ

女「あ、お母さんただいま。でも、ちょっと今は必要なモノを取りに戻ってきただけなの。」ガサゴソ

女母「必要なモノ?」

女「よし、懐中電灯と新聞紙とガムテープはあった。ねぇ!お母さ~ん!確かうちにバットってあったよね~??」

女母「バット?? 多分女兄が少年野球で使ってたバットが女兄の部屋の押し入れに残ってたと思うわよ。でもバットなんて何に使うのよ?」

女「ん~、ちょっとね~」タッタッタ

ガサゴソ

女「おお~!あったあった!…あれ、てかお兄ちゃんは~??」

女母「女兄ならもう同窓会に行ったわよ」

女「あ、そうか今日は同窓会だったっけ。」タッタッタ

女母「女、すぐに帰ってくるの?」

女「う~ん、もうちょっとかかるかもしれないから先にご飯食べておいて。」

女母「わかったわ。」


女「そんじゃ行ってきま…そうだ、お母さん。」

女母「ん?」

女「ここ最近、1001号室の人を見たりしてないよね?」

女母「1001号室? ああ、おとなりの? いいえ、一度も無いわよ。」

女「だよね~…じゃあ、となりの部屋で物音がしたり、エレベーターで何か変なこととか無かった?」

女母「エレベーター? ううん、別に。」

女「…そっか。」

女母「…あ、でも。今日のお昼過ぎ位からエレベーターが点検工事してたわね。」

女「点検工事?」

女母「ええ。いやね、いつもなら点検工事がある際はマンションの掲示板と回覧板でお知らせが事前にあるんだけど、今日のは無くてね。それでいつもと違うな~と思って不思議に思ってたのよ。」

女「…!? …教えてくれてありがとう、お母さん!行ってきます!」タタタッ

ガチャ バタン

女母「…? どうかしたのかしらあの子?」

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

タッタッタ

女「男!持ってきたよ!」

男「お!サンキュー!」

女「でも、よく知ってたわね、私の家にバットがあるってことに。」

男「ああ、お前のお兄さん少年野球してたろ?それで、もしかしたら持ってるかもって思ってな。」

女「あ、そうか。男も小学生の時は野球してたのか。」(>>402)

男「ああ。まあ、俺もお前の兄さんと同様で中高ではサッカー部だけど。よし、とりあえず1階に戻ろう。」ポチッ

女「1階?」

男「うん。1階に戻るのはさっきの鏡を割ったときと同じ理由だよ。」

女「あ、そうか。今度は間違いなく割った破片が外に飛び散るもんね。さっきは『窓ガラス』のおかげで外に出なかったけど。」


男「そういうことだな。」

女「でも新聞紙やガムテープは何に使うの?」

男「…よし、それじゃあとりあえず新聞紙を1枚くれ。」

女「…? はい。」ガサガサ

男「サンキュー。とりあえずこれに、さっき割った鏡の破片を包んでおこう。散乱したまんまだと危ないからな。」ガサガサ

女「あ、なるほど。私も手伝うね。」ガサガサ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「よし、1階についたし、鏡の破片も掃除出来たな。1階の外には誰も居なかったよな。」

女「ええ。運良く、みんな隣りのエレベーターに乗り込んでってくれてるみたい。」

男「よし。それじゃあまずはこの窓ガラスを割るぞ。バットを貸してくれ。さすがに足蹴りはもう危ないからな。」

女「はい。」

男「サンキュー。ドアはちゃんと閉まってるよな?」

女「ええ。」

男「オッケー。それじゃあ行くぞ!!!!」ブンッ

ガッシャアアアアアア!!!!

女「~~~~~っ!? 割れた??」

男「おう。木っ端みじんだ。ただ、さっきよりも音がなり響いてしまったし、誰かに聞かれたかもしれないな。」

女「…かもね。」

男「…とにかく、第1段階は完了だ。よし、それじゃあ10階にあがるぞ。」ポチッ

ゴォォォ…

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―――――――――――――――――――――――----

チーン

男「着いたな。」

女「でも、男。本当に新聞紙とガムテープって何に使うのよ?」

男「今から使うよ。でもそのために…」グイッ

男「…! …やっぱりな。」

女「…やっぱりって?」

男「女も見てみろよ。向こうの穴を。」クイッ

女「…?」グイッ

女「…あ!? もしかして向こう側の『穴』にも!?」

男「ああ。あっちにも『窓ガラス』がついているみたいだ。さっきはガラス越しでしかも向こう側が暗かったから分からなかったけどな。でも、こっちの穴のガラスを無くして、近づいて『生』で見てみれば窓ガラスが向こうに着いていることも分かる。」

女「なるほど…」

男「…でだ!今からお待ちかねの『新聞紙』と『ガムテープ』を使うぞ。」

女「…え、今?」


男「ああ。その二つを貸してくれ。」

女「あ、うん」ヒョイ

男「まずガムテープを4枚くらい適当な長さに切ったやつそれを半分の長さまで新聞紙に貼っておく。」ペタペタ

男「そしてガムテープの余った部分を向こうの窓ガラスのちょっと下ぐらい貼ってっと…そして新聞紙の反対側にも同様にガムテープを貼ってエレベーターの『穴』のふちに貼付ける…」ペタペタ

女「あ、もしかして割った破片を落とさないため!?」

男「そういうこと。まあ、繰り返しになるが、もし割れた破片がワイヤーを傷つけたりしたら大惨事に繋がりかねんからな。だからこういうことはちゃんとしておかないと。」

女「男って本当に細かいよね。」

男「お前が『適当』すぎるんだよ、女。」

女「え~、そうかな?」

男「そうだよ。…よし!これで、準備完了だ。それじゃあ割るぜ。女、エレベーターの入り口を今だけ閉めてくれ。」

女「了解。」ポチッ

男「バットを持った状態で上半身をエレベーターの穴に突っ込んでっと…」もぞもぞ

女「大丈夫?」


男「ああ。…よし!それじゃあ、いくぜ!女は下がってろ!」

女「う、うん。」

男「…ふぅ。…せ~の!!」

ガッシャアアアアアアアン!!!!

男「…ふい~、相変わらずすっげ~音だな。」

女「大丈夫、男!?破片で怪我とかしてない!?」

男「ああ、平気だ。破片の大部分も『あっちの穴』の向こう側にいってくれたみたいだし、新聞紙の上に載った細かい破片を新聞紙で包めば…よし、オッケー。」

女「ご苦労様、男。」

男「おう。」

女「それじゃあ、これで…」

男「ああ、やっと行けるぜ。『穴』の向こう側に。」

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―――――――――――――――――――――――----

男「…よし、それじゃあ行こうか!」

女「ええ!」

男「とりあえず、俺が先に行ってちゃんと渡れるかどうかってことと、向こうの様子を見てくるよ。」

女「分かった。」

男「ただ、『こっち穴』と『あっちの穴』の間には50センチくらいの幅が在るからな慎重に渡らないと…急降下の末、お陀仏になってしまうからな。」

女「…! うん、分かった。」

男「…女、大丈夫か?」

女「…? 大丈夫って何が?」

男「…恐くないのか?」

女「…ううん。 男は…?」

男「…! …ああ、俺も何故か恐くないな。…むしろ、よりいっそうワクワクしてきたぜ。」

女「…ふふ。私も一緒よ、男!」

男「だと思ったよ。…よし、それじゃあ俺から行くぞ!」

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―――――――――――――――――――――――----

男「…うわ~ やっぱ高いな…」

男「…っと、早く渡ってしまわないと…」モゾモゾ

男「…よし、もうちょっと…」モゾモゾ

シュタッ

男「…ふぅ。何とか渡れたな…。」

女「男~、大丈夫~?」

男「ああ、大丈夫だ! …!?」

女「…?」

男「な、何だ…」

女「…男?」




男「何なんだこの部屋は…」


女「…どうかしたの男!?」

男「…!? あ、いやすまん。女もとりあえずこっちまで渡ってきてくれ。説明するよりもそっちの方が早い。」

女「わ、分かった!」

男「あ、ちょい待ち!一応、こっち側のガラスの破片をよけるからちょっと待ってて!」

女「も~、そんなのいいわよ~。本当に細かいわね~。」

男「…よし、オッケーだ!それじゃあ俺の手をしっかり掴んで。それで慎重にそっちの穴をくぐって渡るんだぞ!あと、下は絶対に見るな!」

女「…何か絶対に見るなって言われたら逆に見たくなるわね。」

男「いやいや、そんなのいいから、今はちゃんと渡ることだけを考えろ!」

女「も~、分かってるわよ。」モゾモゾ

男「…よし、その調子だ。あと、ちょっと!」

女「…よっと。」ドサッ

男「よし、何とか無事渡って来れたな。」

女「ええ。…でも、この部屋真っ暗で何も見えないわね。」


男「そうだな。 女、さっき持ってきてもらった懐中電灯を出してくれ。」

女「あ、うん。確かポケットに…」ガサゴソ

女「はい、これ。一応二本持ってきたよ。」ヒョイ

男「お、気が利くな。よし、それじゃあつけるぞ。」カチッ

女「うん」カチッ

女「…う~ん、何も無いわね。ここは一体どこなんだろ?リビングとかじゃないよね?」

男「ああ。おそらく、普通部屋だろうな。でも女、やっぱりここ、『おかしい』ぞ。」

女「…? 『おかしい』って何が? 何も無いのに?」

男「懐中電灯で周りをよく見てみろ。」

女「周り…?」キョロキョロ

女「……………っ!?」

女「……か、壁が……………!?」

男「…ああ。さっきまで真っ暗で分からなかったけど…この部屋の壁紙は…」



男「…全て『黒色』で埋め尽くされているみたいだ。」


女「…あ、悪趣味にもほどがあるわよ…。」

男「…いや、これはおそらく『趣味』とは関係ないぞ。」

女「…?」

男「壁紙を黒色で埋め尽くしているのはおそらくこの部屋をできるだけ暗くするためだ。」

女「…!?」

男「こっちのカーテンも見てみろよ。」

女「…カーテン?」クルッ

女「…!? カーテンも真っ黒だ。」

男「それだけじゃない。」

女「…!?」

男「このカーテンは『2重』になっていて、しかもどっちのカーテンも黒色だ。」ピラッ

女「!?」

男「だから、この部屋はたとえ昼間だろうと真っ暗闇を維持出来るんだろうな。つまり、この部屋は『魔法鏡』の向こう側を覗くための最高の環境が整っているってわけだ。」

女「じゃ、じゃあやっぱり…!?」

男「…ああ。ここの住人は間違いなくここから『魔法鏡』の向こう側を覗き込んでいたはずだ。」


女「…でも、なんのために…?」

男「…それを探るためにもここの部屋から移動しよう。もしかしたらその『答え』がどこかにあるかもしれない。」

女「…! ええ、そうね。」

スタスタッ

ガチャッ

バタン…

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

女「…どういうことよ、リビングや和室、そしてトイレ、浴室の全ての壁紙が…」

男「…ああ。まさか、全部『黒』で統一しているとはな…さっきの部屋はともかく、他の場所まで…」

女「…でも、おかしいのはその『壁紙』だけで、他には本当に何もモノがないわね。」

男「そうだな。それに電球も全て取り外されているから電気をつけれないな…やはり、ここには誰にも住んでいないっていうことなのか。」

女「…でも、ここのマンションの家賃って相当高いのに…それにこの1001号室は他の部屋よりも広いわけだし…明らかに何かおかしいわよ。」

男「…確かに。まあ、でもおそらく『ここの住人』は最近は戻って来てないのだろうな。」

女「…! …いや、男。それは多分違うわよ。」

男「…!? 何でだ?」

女「まず、間違いなく『誰か』がここ最近この家に来てるわ。」

男「…!? 何でそんなことが言えるんだ?」

女「だって…」

女「さっきから床にホコリが一つたりとも落ちてないんですもの。」

男「!?」


女「おそらく、『ごく最近』に誰かがここに来て掃除をしたはずよ。じゃなきゃおかしいわ。あまりにも床が奇麗すぎるもの。」

男「確かに…」

女「もうちょっと、この家を探ってみましょう。もしかしたら何か見落としているかもしれない。」

男「ああ、そうだな。」

女「そうと決まれば………ん?」

男「…? どうした女?」

女「ここの壁紙…だけ何か違…」




ガチャガチャッ!!

女・男「…!?」


男「お、おい女!? い、今!?」

女「…ええ。玄関の方でドアノブを回す音が…」



カチャンッ…



男「…!? か…!?」

女「…鍵が!?」

男「おいおいヤバいぞ!! 鍵が開けられたってことはここの『住人』が帰ってきたってことか!?」ボソボソッ

女「と、とにかくこのままだとマズいわ!!どこかに隠れましょ!!」ボソボソ

----―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――----

男「…なんとか押し入れに隠れはしたが…どうする?」ボソボソ

女「シッ!!今は喋ったら見つかるわよ!!」ボソボソ

男「す、すまん」ボソボソ

ギィ ギィ

ギィ ギィ

ガチャッ…

バタンッ!

ギィ ギィ

ガチャッ…

バタンッ!

女(…まずい…あきらかに『何か』を捜している。)

女(…!? もしかして『エレベーター』を見られたんじゃ!?)

女(…やっぱりあのまま放置しておくんじゃなかった…)

女(…このままじゃ見つかるのも時間の問題…)


ギィ ギィ

ギィ ギィ

ガチャ…

バタンッ!

男「…女、もうすぐ『奴』が俺たちのいる部屋に…」ボソボソッ

女「…男。」ボソボソッ

男「…!」

女「…覚悟を…決めるわよ。」ボソボソッ

男「…! …ああ、そうだな。もう逃げられそうにないしな。」ボソボソッ

女「…よし、それじゃあ『奴』がこの押し入れの戸を開けた瞬間に飛びかかって、あっちがひるんだところを見計らって逃げるわよ。」ボソボソッ

男「了解だ。」ボソボソッ

ガチャッ

女「…入ってきた!それじゃあカウントをとるわよ。」ボソボソッ

男「頼んだ。」ボソボソッ


ギィ

女「3…」

ギィ

女「2…」

ギィ…

女「1…」

ガタッ

女「今よ!!!!」

女・男「うわああああああ!!」ダダッ

?「…!?」ヒョイ

ドターンッ

女・男「…!?」


女「よ、避けられた!?」

男「女!!そいつにもう構うな!!逃げr…ぐわ!?」グイッ

女「男!!!!」

男「は、離せ!!」

?「こらこら、逃げなさんな。」

女「…!? あ、あなたは!?」

?「やれやれ、やっぱり女ちゃんたちだったか。」

男「女! だ、誰なんだよこいつは!?」

女「男、その人は…」




女「このマンションの管理人さんよ。」

男「…へ?」

管理人「まったくもう、一体こんなところで何をしておったんだ、女ちゃん。というかこの男の子は誰だい?もしかしてコヤツに襲われてたのかい!?」


女「あ、その子は私の高校の友達で…別に襲われたりはしてないので大丈夫です。」

男「い、いい加減、はなして下さい!」

管理人「なんだ、女ちゃんの友達だったのか。すまないことをしたね。」ヒョイ

男「うわっ!」ドテンッ

女「…でも、何で管理人さんがここに?」

管理人「いやね、私の今日の仕事は終わったから自分の家に帰ってきたんだけど、10階の○○さんから緊急の電話がついさっき来たのさ。『エレベーターがとんでもないことになっているから来てくれ』ってね。」

女・男「あ…」

管理人「それで、このマンションに戻ってきてもう一つのエレベーターで10階まで上がってみたら、なんとエレベーターとその奥に『穴』が空いてるじゃないか。」

女(あちゃ~…)

男(やっぱり他の人に見られたか…)


女「…ん?でもさっき管理人さん、私を見つけて『やっぱり女ちゃんだったか』って言ってましたけど、何で私だと分かったんですか?」

管理人「いやね、ちょうどそのエレベーターの中に女兄くんの名前が書かれたバットがあったからね。最初は女兄くんの仕業かな?ともおもったんだけど、女兄くんは私が16時頃に久しぶりに戻ってきたという事で挨拶に来てくれてね。その後1時間ぐらい喋った後にそのまま女兄くんは同窓会のために出かけて行ったから、女兄くんではなくもしかしたら女ちゃんじゃないのかと思ったのさ。」

女「あ、なるほど…」

管理人「…で、やっぱり、あのエレベーターの惨状は君たちの仕業なんだな??」

女・男「…!? …は、はい。」

管理人「はあ…全く…。とにかく!話は管理人室でするから2人とも着いてきなさい!」

女・男「…はい。」


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―――――――――――――――――――――――----

管理人「…なるほどね。それで、鏡とその奥にある窓ガラスを割って、1001号室に入ろうとした…というわけだね?」

女・男「…はい。」

管理人「…でも、本当にあそこには魔法鏡があったのかい?ワシがエレベーターに落ちていた鏡をさっき見た限りは『普通』の鏡だったが…」

男「だから、以前まで『あった』って言ってるじゃないですか!」

管理人「…う~ん。でもそれを証明出来るものは何も無いだろ?」

男「…! それはそうなんですけど…」

女「…でも、管理人さんもあの『穴』を見ておかしいと思ったでしょ?」

男「…!」

管理人「それは…まあ確かにな。」

女「それに管理人さんもさっきのあの1001号室を見たでしょ!!辺り一面真っ黒なあの壁を!!あきらかに『異常』ですよあの部屋は!!」

管理人「…。」

女「そもそも管理人さんはエレベーターやあの部屋があんな状態になっていることを知らなかったんですか!?」

管理人「…ああ。ワシも今日初めて知って正直ビックリしてるんだよ。あくまで管理人っていうのはマンションの『管理』と『維持』がその役割だからね。だからエレベーターのこととか部屋の内装のことなどにはほとんど関わることがないのさ。」


女「…!? …じゃあ、あそこには一体誰が住んでいるんですか!?それぐらいは分かるでしょ、管理人さんなら!!教えて下さい!!」

男「お、女。ちょっと落ち着けって…」

管理さん「…ごめんね、女ちゃん。それは教えられないんだ。」

女・男「…!?」

女「な、何でですか!?」

管理人「一応そういった情報も『個人情報』に含まれるからね。プライバシーの面からもそう簡単に教えられるもんじゃないんだよ。それにその『住人』本人からおういうことを絶対に口外しないで欲しいと頼まれているんだ。」

男「…!? …本人から…?」

女「…。」ガタッ

男「…女!?」

女「…プ、プライバシーって!? 私や他の10階の人達はもしかしたらあの『穴』から覗かれてたかもしれないんですよ!?あそこの『住人』に! それこそプライバシーの侵害じゃないんですか!?」

管理人「…そうだね。もし、覗かれていたのが『個人の部屋』だったら犯罪になるかもしれない。でも今回覗かれていたのはその『個人の部屋』ではない。『エレベーター』なんだよ、女ちゃん。」

女「…!?」

管理人「エレベーターのその扱いは一応『公共の場』とされているからね。それにこれまでで誰かが、あの穴から覗かれて何かしらの被害を受けたとは考えにくい。まあ、もしあの『穴』がもうちょっと下にあれば女性のスカートの中を覗き見ることとか出来たかもしれないけどあの『穴』の位置だとそれは無理じゃろ?」

女「…!? でも!!」


管理人「…なあ、女ちゃん。」

女「…!?」

管理人「今回君たちがやったことは目をつむってあげるつもりだよ、ワシは。」

女・男「!?」

管理人「だから、これ以上騒ぎを広げるようなことはやめてくれないかい?他の住人の皆さんを不安にさせるようなことはしないで欲しいんだよ。」

女「!? そ、そんな!!私は別に騒ぎを広げようとしているわけじゃ…」

管理人「今回、君たちが壊した鏡や、元々あった『穴』はワシがマンションのオーナーにお願いしてちゃんと修復してもらうようにしてあげるからね?だから君たちは弁償しないで大丈夫。もちろん君たちを警察に連れて行くつもりもこれっぽちもないんだ。鏡はエレベーターの中ではしゃいでいたらわれてしまったことにすればいいし、1001号室に侵入したのも悪戯心が働いてしまって…ってことにすれば1001号室の『住人』も警察に通報はしないだろうし…だから…ね?」

女「…!?」

女(…これじゃあ…)

女(…これじゃあまるで…『今回は許してやるからこれ以上踏み込んでくるな』っていう『取引き』じゃない…。)

男「…。」


管理人「どうかな?ワシのお願いを聞いてくれるかい?」

女「…!? …それでも私h…」

男「女!!!!」

女「…!? な、何よ男!?止めないでよ!!」

男「…お前の気持ちはすごく分かる。…でもな、ここは管理人さんの話に乗っておけ!お前、本当に犯罪者になりたいつもりか!?」

女「…!? …いいわよ!!別に!!犯罪者だろうがなんだろうが!!それよりも私は『謎』を優先するわ!!」ガさっそくですが

ピッピッピ

prrrrrr prrrrrr

男「…!? お前どこに電話してるんだよ!?」

女「…警察に決まってるじゃない。」

男「…!? お、おいよせって!!」

女「…あ、もしもし警察ですか?」

管理人「…。」

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―――――――――――――――――――――――----

警察官「…なるほど。つまり、その1001号室の『穴』から覗かれていた可能性がある。というわけだね?」

女「…はい。」

警察官「今、女さんの言ってたところに相違点などはありませんでしたか、お二方?」

男「はい。」

管理人「ええ。」

警察官「そうですか。…ん~、でもつまりは今のところ『これといった被害』はまだ報告されていないんですよね~。これはちょっとね~…」

女「…!? でも、これも立派な『覗き』という犯罪じゃないんですか!?」

警察官「う~ん…そこのところが結構曖昧なんだよね~今回は。」

女「…曖昧?」

警察官「『覗き』っていうのは『軽犯罪法第1条:正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所、その他、人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者』に該当する者にその罪を問うことが出来るんだ。でも、今回はエレベーターという『公共』の空間で、しかもほとんどの人が『衣服』を装着していたはずだろ?だから、これを立件するのはなかなか難しそうなんだよ。」

女「…!? そ、そんな…じゃあ…あれは『犯罪』ではないということですか!?」

警察官「まあ、そうなるかなぁ…でも、女さんが言っていることも確かに分かるんだよ。だから、今回で『覗かれていた』ということが分かってショックで『鬱』になるような人が現れれば、立件できる可能性はある。ただし、その場合はかなりの時間を要することになるだろうね。」


女「そんな…じゃ、じゃあ、エレベーターと部屋の壁に『穴』を開けた事についてはどうなんですか!?あれこそ『器物損壊罪』なんじゃないですか!?」

警察官「う~ん。それなんだけどね~…管理人さん。その1001号室に住んでらっしゃる方はその部屋を賃貸としてかりてるんですか?それとも分譲購入されてるんですか?」

管理人「購入されています。」

警察官「なるほど…つまり、部屋の所有権はその方に…。う~んでも壁を突き破ってしまっていたら、それはもう器物損壊になるのかな? う~ん…」

女「…!? で、でもエレベーターの『穴』は間違いなく器物損壊なんじゃ!?」

警察官「でもその人がエレベーターの『穴』をあけたとは断定出来ないだろう?」

女「!? いやいや、絶対にその人ですよ!!」

警察官「それはどうだろう? その人はもしかしたら、ひょんなことでエレベーターに『穴』があいてることを知り、その後に自分の部屋に『穴』をあけた、という可能性も考えられるだろ?」

女「…!? そ、それは…でも、そうだとしても…!!」

警察官「…う~ん、とりあえず管理人さん。エレベーター関連の資料と1001号室に住んでる方の資料を見してもらえませんか?」

管理人「…!? そ、それは…」


警察官「あ、もしプライバシーがどうとかのことであれば『しかるべき場所』にちゃんと書類を申請した上で要求させていただきます。…まあ、でもそれはめんどくさいので出来たらここで見せてもらいたいのが正直なところなのですが…」

管理人「…分かりました。…ですが…。」チラッ

警察官「…ああ、大丈夫ですよ。拝見させてもらうのははもちろん私だけですので。この2人には外で待機してもらいます。…ってなわけだから、2人ともごめんだけど外にちょっと待っててくれないかい?」

女・男「…はい。」ガタッ

ガチャッ

バタン

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女「…なんだか頼りない警察官ね、あの人。」

男「…だな。 …でも、どうするんだ、女?」

女「…どうするって?」

男「もしもこの後、管理人さんが俺たちが鏡を割った事や1001号室に不法侵入した事を『被害』として報告されたら一巻の終わりだぞ?今はまだ管理人さんも黙っていてくれているが…」

女「…その時は…その時よ。」

男「…! …おいおい。」

女「…でも」

男「…?」

女「…やっぱり怪しいわ、あの管理人さん。」

男「…! …ああ、確かに。」

ガチャッ

女・男「…!!」

警察官「いや~、2人とも待たせて悪かったね。…で、早速なんだが。」

女・男「…?」


警察官「本件に『事件性』はないと判断させてもらった。だから、君たちももう帰ってくれていいよ。」

女・男「!?」

女「ど、どういうことですか!?」

警察官「ん? どうもこうも、言っただろ?『事件性はない』って。」

男「…。」

女「だから何で『事件性はない』と判断出来たんですか!?」

警察官「さっき管理人さんに見せてもらった資料を見て私がそう判断したんだ。」

女「だから!!その資料のどういった情報から判断を!?」




警察官「…ったく。五月蝿いなぁ…」

女・男「!?」


警察官「警察が『事件性がない』って言ったら本当に事件性はないんだよ。それとも何か?君たちは『犯罪者』になりたいのか?」ギロッ

女「…!?」

男「…。」

警察官「…さて、それじゃあ私は帰らせてもらうよ。こう見えても忙しいんでね。まあ、2人とも管理人さんに感謝するんだな。」

女「!? そ、それって…」

男「…。」

警察官「…いや、管理人さん『ではない』か。…はは、まあいいや。それじゃあね。」スタスタッ


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―――――――――――――――――――――――----

ガチャッ!!

管理人「!?」

女「管理人さん!あの人に一体なにを吹き込んだんですか!?」

管理人「!? い、いや、ワシは別に何も…。」

女「嘘だ!!何か『取引き』をしたんじゃないんですか!?じゃないとおかしいですよ、あの人があんな急に帰るなんて!!」

管理人「わ、ワシは本当にただ資料をみせただけで…」

女「じゃあ私にも見せて下さいよ!!その資料を!!」

男「…女!!!!」

女「…!? 何よ男!!また止めるk…」

バシーーーンッ!!


女「~~~~~~っ!?」ジーンッ

管理人「!?」

女「…男、何で…」

男「…いい加減にしろ!!女!!みっともないぞ!!」

女「…!? …で、でも」

男「でももクソもない!!ほら、もう用事は済んだんだ!!行くぞ!!」グイッ

女「…あっ。」

ガチャッ

バタン

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―――――――――――――――――――――――----

ガコガコンッ

男「…はい、これ。ジュースでほっぺを冷やしておけ。」ヒョイ

女「…あり…がと…」パシッ

プシュッ

ゴクッゴクッ

男「…っふぅ…。」

女「…。」

男「…さっきはごめんな、女。殴ったりして…。『男』のくせに女の子に手を挙げるなんてほんと最低な野郎だ俺は。」

女「…。」

男「…でもな、さっきのあの場面ではああでもしないとお前を止められなかった…。あれ以上女を放っておいたらおそらくお前、管理人さんに飛びかかっていたぞ。そんなことになったら今度はお前に『暴力罪』を背負わせることになってしまう。だから…。本当にゴメン……」

女「…ううん。男の言うとおり、さっきの私はすごくみっともなかったし、あのままだと何をするか分からなかった。だから…すごく感謝してる。」


男「いや…だとしてもだ……。よし!!女!!俺を殴れ!!思いっきりな!!」

女「…え? わ、私が??」

男「そうに決まってるだろ!? さあ、さっきの仕返しだと思っておもいっきり殴ってこい!!」

女「…で、でも…」

男「さあ、早く!!あの旧校舎の鏡を割ったときのように!!」

女「~~~っ!? …うう~、えい!!」ペチ

男「…っておいおい何だよこのへなちょこパンチは!? な~に可愛子ぶってんだよ!?お前の本気をみせてみろよ!!お兄さんに3発喰らわしたという腹パンをよ!!」

女「…か、可愛こぶってなんかないわよ!!てか3発じゃなくて2発よ!!」ドコォ!

男「かはっ!?」ガクッ

女「…って、男!? だ、大丈夫!?」

男「や、やればできるじゃんか…」ピクピク

女「…ぷっ。あはははははは!」

男「…くくっ…あははははは!」


男「ははははっ…さあ、落ち着けたか、女?」

女「…!? うん、大分ね。ありがとう、男。」

男「いえいえ、どういたしまして。」

女「…でも。」

男「…?」

女「いったいどういうことなんだろう…」

男「…! …そうだな。」

女「…やっぱりおかしいわよ『あの2人』。エレベーターや壁に穴が空いている事はもちろんの事、1001号室の壁紙が真っ黒だっていうことを普通の人が知ったらもっと驚くか怖がるもんじゃない!? でも、『あの2人』は終始冷静だったわ。」

男「…確かにな。正直あれは『異常』だったもんな。」

女「ええ。本当にあれは異じょ……」

男「…ん? どうした女?」

女(………『異常』………?)


男「女?」

女「…。」スタスタッ

男「…!? おいおいどこに行くんだよ女!? …っておいまさか!?」

女「…大丈夫よ、男。」クルッ

男「…!?」

女「今回は冷静だよ、私。ただ、あの管理人さんに一つ確認するだけ。」

男「…確認?」

女「…ええ。大事な大事な『確認』をね。」

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―――――――――――――――――――――――----

ガチャッ

管理人「!? 女ちゃん?」

女「良かった、管理人さんまだ帰ってなくて。」

管理人「こ、今度は何の用事だい?」

女「さっきは取り乱してしまって本当にすみませんでした。ただ、どうしても聞きたい事がありまして。」

管理人「…聞きたい事?」

女「今日、お母さんから聞いたんですけど、今日の昼過ぎにエレベーターの点検工事をしていたって本当ですか!?」(>>)

管理人「…!? …あ、ああ。そういえばしてたね。」

女「でも、点検工事っていつも事前に住人に連絡があるんですよね?でも、お母さんが言うにはその連絡が無かったらしいじゃないですか。何で今日の点検工事ではその連絡が無かったんですか?」

管理人「…そ、それは急にエレベーターの調子が悪くなって…それで点検してもらう事になったんだ。」

女「…ふ~ん。エレベーターの調子がねぇ…でも、そんな急に調子が悪くなるものなんですか?5年前に出来たばっかりのエレベーターなのに?いったいどんな『異常』があったんですか?」


管理人「あ、ああ。ちょっとエレベーターの電子機器にトラブルがあったみたいでね。それで部品交換してもらったんだ。」

女「そうだったんですか。…で、その工事って何時から何時までだったんですか?」

管理人「う~ん…どうだったかな…ワシ、今日は夕方から管理人室に居ないことが多かったからな~。」

女「え?でもさっき管理人さん、私のお兄ちゃんと16時頃から1時間話していたって言ってたじゃないですか?16時から17時って『夕方』じゃないんですか?」(>>545)

管理人「…! …あ、ああ~!そ、そうだったな!いや~すっかり忘れてたよ。うん。夕方も管理人室に居たな~そういえば。いや~、もう歳だから忘れっぽくてね。」

女「ふ~ん…で?」

管理人「…『で』って?」


女「だから、点検工事は何時から何時までだったんですか?」

管理人「…! あ、こ、工事ね。え~っと確か15時から17時すぎまで掛かってたと思うよ!」

女「…! 15時から17時過ぎ…」

管理人「…女…ちゃん?」

女「…ふふ、教えてくれてありがとうございます、管理人さん。それじゃ♪」ニコッ

管理人「…! …あ、ああ。また…ね。」

スタスタッ

ガチャッ

バタンッ

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―――――――――――――――――――――――----

男「…! 女!どうだったんだ!?」

女「ビンゴよ、ビンゴ。やっぱり私の思ってた通りだったわ。」

男「ほっ…。でも何がビンゴだったんだ?」

女「おそらく、あのエレベーターの鏡は今日の昼過ぎまでは『魔法鏡』だったのよ。」

男「な!?」

女「今日、何故かうちのマンションでは15時からマンションの点検工事が『告知無し』で行われたらしいの。」

男「…告知無し?」

女「そして、その点検工事の間にあそこの魔法鏡を普通の鏡に変えたのよ。」

男「…!? おいおい、マジかよ!?でも、何で今日の工事で鏡が変えられたって断言出来るんだよ?いくら今日の工事が『急』なことだったとしてもそうと決めつけるのは…」

女「…ええ。確かに判断材料がそれだけなら、そうと決めつける事は出来ないと思うわ。でも、もう一つの私達の身の回りで起きた出来事がそれを『正しい』を証明するための鍵になるわ。」

男「もう一つの出来事?」

女「それは…姉友さんとのあの出来事よ。」

男「…!? 姉友さんだと?」


女「…ええ。私達と姉友さんが今日出会ったのはちょうど15時過ぎ、そして姉友さんが私達の前から急に去ったのは17時過ぎ。」

男「…!? その時間帯って…」

女「…ええ。エレベーターの工事の時間と私達が姉友さんと居た時間帯がぴったり合致するの。」

男「…でも、それがどうだっていうんだ?」

女「…決まってるじゃない。姉友さんは私達をこのマンションに行かせないように『時間稼ぎ』をしていたのよ。」

男「!?」

女「姉友さんとの出会い方や別れ方、そしてお祭りへの連れて行き方のあの強引さ。全てがあまりにも不自然だったわ。だから、おそらく姉友さんはあのエレベーターの工事が終わるまで、私達の足止めをするように急に『指示』されたのよ。」

男「!? し、指示って誰に…!?」

女「………。」

男「…!? …お、おいまさか…」

女「…ええ。あの人以外考えられないわ…」







女「…あなたのお姉さん以外には…ね。」


男「…い、いや。でも姉友さんに指示していたのが姉さんだとは限らないだろ!?」

女「…でも、私や男、物理の先生以外で周りに、鏡について精通している人なんて他にいる!?」

男「…!? そ、それは…」

女「それに、男言ってたわよね。『今はとにかく目の前の全てのものに対して『疑い』の姿勢でいどまないと、もしかしたらとんでもないことになるかもしれないんだ』ってね。」(>>494)

男「…!?」

女「…確かに、今回のマンションの件の黒幕がお姉さんだと決めつけるのは早いかもしれない。けど、ちょっとでも怪しいと思った時点で『疑い』の姿勢でいどまいといけない。違う?」

男「…。」

男「…ああ、そうだな。女の言う通りだ。たとえ、自分の姉だとしても、怪しいと思ったら疑わないとな。」

女「…。」

男「…よし、そうと分かったらどうする、女!?」

女「…!? そうね…とりあえずお姉さんに電話しましょう。」


男「…電話…か。はあ…てか、姉さんとの約束を破った事、何て言い訳しよう…」

女「…!! ちょっとそんなのもうどうでもいいじゃない!!守らなかったらこういうペナルティがあるとは別に言われてないんだし大丈夫よ!!」

男「だと、いいんだけど…よし、とりあえず掛けるか。」ゴソゴソ

女「お願い。」

男「…よし。」ピッピッピッピッ

ブーッ

男「あれ?」

女「…?どうしたの?」

男「い、いや。ちょっと待って。」ピッピッピッピッ

ブーッ

女「…どうしたのよ??」

男「いや…携帯のパスワードが…」

女「パスワード?」


男「…! あ、そうか!!」

女「…何なのよさっきから?」

男「いやさ、確か俺先週姉さんに携帯を盗まれただろ?」(>>293)

女「ああ、そういえば。」

男「で、その前に裏々男が裏々の姉さんにパスワードを教えたんだろ?それで表の姉さんもそのパスワードを教えてもらってお前の入れ替わりに使ったんだよな?」(>>349)

女「そうだけど、それがどうしたの?」

男「それでその後、俺は裏々の世界に行ってしまい、裏々男が表の世界に来たわけだけど、あいつ入れ替わった直後に姉さんから携帯を返してもらうの忘れやがってさ。」

女「…あ、そういえば返してもらってなかったかも…」

男「だろ?で、返してもらったのは家に帰ってからだったんだけど、実は返してもらったら携帯のパスワードが変わっててさ。」

女「パスワードが?」

男「ああ。で、その新しいパスワードはすぐに姉さんに教えてもらったんだけど、裏々男のやつパスワードをめんどくさがって元に戻さずそのままにしてたんだ。…で、今日俺がこっちに帰ってきたわけだけど、表の世界に戻ってから携帯を触るが今が初めてなんだ。」

女「…あ! だから…」

男「そう!俺は携帯を自分自身で使うのは1週間ぶりで、さっき入力してたのも1週間前までの使い慣れたパスワードだったんだ。でも、今のパスワードは新しい方のだから、さっきからエラーが続いていたんだ。」

女「なるほど。…で、もしかしてその新しいパスワードを忘れたってオチじゃないでしょうね?何ならもう私が掛けましょうか?お姉さんの番号は一応知ってるし。」


男「覚えてるってそれぐらい!ええ~っとたしか…あ!そうだそうだ!」

男「確か…」ピッピッピッ

男「…ん?」ピッ


男「~~~~~っ!?」

男「………。」

女「…どうしたのよ、男?またエラー?」

男「…そんな…でもこれって……」

女「…?」グイッ

女「…何だ、ちゃんとロック解除出来てるじゃない。何をそんな驚いてるんだよ。」

男「……女。」

女「…ん?」

男「……姉さんは多分黒幕なんかじゃない…」

女「…え?」

男「…黒幕じゃない…むしろその『逆』かもしれない…」


女「…どういうことよ?」

男「…何故ならさっき俺が入力したパスワードの番号は…」

女「…番号が?」

男「…『1』」

男「…『0』」

男「…『0』」

男「…『1』」



女「ふ~ん。『1001』ねぇ。  ……えっ!?そ、それって!?」



男「…ああ。あの『1001号室』の部屋番号と同じだ…」


女「嘘…でも、『1001』なんて結構ありきたりな数列だと思うし…偶然なんじゃ…」

男「でも、パスワードは10000通りあるんだぞ!? そんな偶然があるもんか!」

女「…! そ、それか…もしかしたらうっかり…」

男「姉さんがそんなポカするわけない。あの人は正真正銘の『天才』だ。それに…」

女「…?」

男「もしも姉さんがマンションの件の黒幕ならこんな重要な『ヒント』を俺の携帯に残しておくようなことをするか!?もしも姉さんが姉友さんに時間稼ぎを本当にさせたのなら、それとこれはあきらかに矛盾した行為だろ!?」

女「…! そ、それは…」

男「むしろ、姉さんは俺たちの味方じゃないのか!?だって今朝、女が裏々男
を見破ったのはそもそも姉さんが電話してくれたおかげなんだろ!?」

女「…! うん。」

男「…だろ? やっぱり姉さんはやはり黒幕じゃないと思うぜ。」

女「…でも、じゃあ姉友さんのあれは…一体…?」

男「…! 確かに姉友さんが時間稼ぎをしていたのは本当かもしれない。でも、それと姉さんは関係はないはずだ。」

女「そうなのかな…」

男「絶対そうだって!」


女「…。」

女(…男はこう言ってるけど、やっぱり私はお姉さんが…)

女(…だって…)

女(…だってあの時…姉友さんが大窪寺での電話を切るときに…見えてしまったんだから…)(>>492)

女(…携帯の画面の通話相手が…)

女(…『男姉』ってなってるのを…)

男「…女?」

女「…あ、ご、ごめん。どうかした?」

男「とにかく一応姉さんに電話してみるな。敵であれ味方であれそれを確認するためにも。」

女「…!! え、ええ、そうね。」

女(…そうだ。敵であれ、味方であれ、まずはお姉さんと話してみないと何も進まないんだし。)

男「よし…」ピッ

prrrrrrr prrrrrrr

男「…駄目だ。出ないな。ちょっと家に電話してみるよ。」

女「…あ、うん。」


男「…あ、もしもし母さん? 姉さんいる? え、いない? え、どこに? 同窓会?」

女(…! あ、そうか。今日はお兄ちゃん達の高校での同窓会だったんだ。)

男「いつ帰ってくるとか聞いてる? え?帰って…来ない?」

女「!?」

男「え、それってどういうことだよ…!? 明日から友達と海外旅行!?え、それでそのままこっちに帰って来ずに東京に!?」

女(…!? ってことはお姉さんとはもうしばらくは会えないということじゃ!?)

男「ちょっと待ってよ!俺、その話全然聞いてないぞ!? え、『言ってないもん』って!? な、何で言ってくれなかったんだよ!? え…『姉さんが男には言うなって言ってた』って!?」

女(…なんだろうこの感覚…『謎』が…『謎』がどんどん私から遠ざかっていく。)

女(…すぐそこにまで近づいたと思っていたのに…どうして? どうして私の元から…)

女(…そもそも私…)

女(…いったい『何』と戦ってるの??)


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―2012年/3月/21日/香川/ ―――――――----

【香川市内、居酒屋】

ガヤガヤガヤガヤ

カンパ~イ!!!!!

ガヤガヤガヤガヤ

女兄「…」ゴクゴクッ

兄友「よ~女兄!!久しぶりじゃねえか!!」

女兄「…! あ、ああ。久しぶり。」

兄友「…? どうしたんだよ元気ねーなー。ちゃんと飲んでるのか!?」

女兄「はは、飲んでるよ。」

兄友「そっか?ならいいんだけど。…ってか、おめえ何でこの4年間香川に帰ってこなかったんだよ!!神戸と香川なんてすぐそこじゃねえか!!寂しかったんだぞ!!」

女兄「あははは、悪い悪い。まあ、色々と忙しくてな。」

兄友「マジか~…まあ、お前kb大で色々頑張ってたらしいもんな。就職もいいとこに決まったんだろ?」

女兄「ああ。おかげさまでな。」


兄友「くぅ~~!!いいな~!!東京だろ!?俺なんかこれからもずっと香川だぜ!?いい加減、とっととこの町から出たいぜ!!」

女兄「…はは、いい町じゃないかここは。」

兄友「ええ~??そうか~??もう俺は飽きちまったよ…」

女兄「あはは!まあ、兄友は飽き症だもんな!趣味も女の子も!」

兄友「あ!?てめ!?一言よけいなんだよ!!」グリグリッ

女兄「ちょ!痛い痛いって!!」バタバタ

兄友「この4年間戻って来なかった罰だよ!!おらおら~!!」グリグリッ

女兄(…! …罰…。)

兄友「…ん? どうした女兄?」

女兄「…! あ、いや。別に何も…無いよ。」

兄友「…そうか? ならいいんだけど…ん??何か入り口の方が騒がしいな。」

ワー! ワー!

女兄「…ほんとだ。」

兄友「…お!!どうやらあの『美女3人組』が来たみたいだぜ!!女兄もあっち行ってあいつらと絡もうぜ!!」

女兄「…ああ。先行っててくれ兄友。俺はもうちょいここで飲んでおくよ。」


兄友「そうか? なら、先に行っておくぜ~! 早くこいよ~!」タッ

女兄「…ああ。」

タッタッタ

女兄「…」ゴクゴクッ

コトンッ

女兄(…『良い町じゃないか』…か。どうして思っても無い事を…)

女兄(…ただ、女には今日、思わず本音を漏らしてしまったな…)(>>402)

女兄(…いつからだっけな…この町を嫌い…そして怖がるようになったのは…)

女兄(…! …そうだ…あの時からだな…)

女兄(…ちょうど4年前のあの日…)

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―2008年/3月/21日/香川/ ―――――――----


女兄「ただいま~!!」

女母「おかえりなさ~い」

女「おかえり~、お兄ちゃん。…ん。お兄ちゃん汗臭い!!」

女兄「あははは!友達と汗だくになるまでサッカーしてたからな。いや~、でもさすがにあったかいなあ。」

女母「ふふ、桜ももう咲いてるしね。さあ、女兄。夕飯の前にお風呂に入ってきなさい。」

女兄「ああ、そうするよ。」

女「お兄ちゃん!今日はお母さんとミートパイ焼くんだよ!」

女兄「おお~ミートパイか!?俺、女の作るミートパイ好きなんだよな~、楽しみにしてるぜ。」ニコッ

女「ふふ、任せておいて♪」ニコッ

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ガラガラッ

女兄「ぷは~!!良い湯だった~」ホカホカ

女兄「ドライヤー♪ドライヤー♪っと。」カチッ

ブォォォォォォン

女兄「ふんふんふん♪」ブォォォォォォン

バチンッ

女兄「…あれ?」

女「きゃー! お母さん停電だよー!!ミートパイがー!!」

女母「女兄ー! もしかして今ドライヤー使ってたー!?」

女兄「おーう! 使ってたよー!」

女母「あちゃー、やっぱり。オーブンとかハロゲンヒーターとか電気を大量に使う物を一緒に使ったからブレーカーが落ちたんだわ。」

女兄「みたいだねー。」

女母「女兄ー!ちょっと悪いけどあんたがブレーカー戻してくれない!?」

女兄「…え!?何で俺が!?」


女母「そっちの洗面所の方がブレーカーに近いでしょー!?うちのブレーカーは洗面所出たすぐの場所にあるんだし。」

女兄「あ、そういうことね。オッケー!任せろー!」

女母「お願いねー!」

女「お母さーん!!私のミートパイがぁぁ…」

女兄「はは、女のやつパニックってるな。あとでおちょくってやるか!あっはっは!」

女兄「…でもその前に、やんと電気をつけてあいつを助けてやらないとな。」

女兄「…とは言ったものの…暗くて全く何も見えん。何か明かりは…」

女兄「…お! そうだ、確かさっき脱ぎ捨てたズボンのポケットに…」ゴソゴソ

女兄「おお~!あったあった!携帯発見!これのライトをつけてっと…」ピッ

女兄「よし、これで前が見えるぜ。」

女兄「とりあえず廊k……………」クルッ

女兄「…………ん?」


女兄「~~~~~~~っ!!!????」

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―2012年/3月/21日/香川/ ―――――――----

女兄「…」ゴクッゴクッ

コトンッ

女兄(…あの時からだ。俺がこの町に居心地の悪さを感じるようになったのは…)

女兄(…最初は気のせいだと思っていたけど…)

女兄(…でも、やっぱりあれは…)

女兄(…神戸に行ってからも正直ろくなことがなかったな。)

女兄(…俺が好きになった人や付き合った人とは必ずと言っていいほど、すぐに関係がわるくなるし…)

女兄(…良かった事と言えば、成績と就活ぐらいか…)

女兄(…ただ、就活も正直何で俺が採用されたか分からないんだよな…)

女兄(…面接じゃろくに喋れなかったし…)


女兄(…今、振り返ってみると本当につまらない学生生活だった…)

女兄(…まあ、でもそれも俺が負うべき『罪』なのかな…)

女兄(…あの日、俺が『見たもの』を家族に言わず、そしてあの家から逃げ出した俺の『罪』はそんなに安くないってことか…)

女兄(…でも、言ったところで信じてもらえるわけないよな…)

女兄(…………あの日…)

女兄(…………『洗面所』の鏡の向こう側に…)











女兄(…………『6つ』の光る目が見えたことなんて…)



オーイ!! オンナアニー!!


女兄「…! …ああ、今行くよ。」

女兄(…まあ、あれはもう忘れよう。)スタスタッ

女兄(…鏡の向こう側に…)スタスタッ




女兄(…人なんているわけないじゃないか。)スタスタッ

スタスタッ

----―――――――――――――――――――【叙】―


―【鏡の世界でのルール(no.1)】―――――――――----

● 体について
① 体の自由はほとんど効かない。表の世界にいる『主』が絶対的な存在であり、その『主』の行動が鏡の世界の住人にも反映される。(>>57)
② 表の世界で『行動権』を持つ者を『主』、表の世界で生まれ育った者を『オリジナル』という。(>>81)
③ 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感は働く。(>>93)
④ 鏡の世界では『考えること』と『喋ること』が出来る。(>>58)
⑤ 鏡やガラスといった光を反射させるもの(反射物)に表の世界の『主』が映っている場合は鏡の世界の住人は『喋ること』が出来なくなる。『考えること』は可。(>>59)
⑥ 『主』が反射物に映っている時は『主』の『喋る』内容が鏡の住人にも反映される。(>>59)
⑦ 飲食時は反射物に映っていない時でも、表の世界の『主』の口の動きと同化する。(>>93)
⑧ 反射物に、自分の像が映し出されるその5秒前に、脳に合図が走り、『喋ること』ができなくなる。ただし、これは自我を持った人間のみに起きる現象である。(>>60)

● 自我について
① 鏡の世界の人間が自我を持つためには、鏡の世界の人間自身が『鏡の世界の人間』だと自覚する必要がある。(>>76)
② 自我を持つことによって鏡の世界の住人は『考えること』と『喋ること』が出来るようになる。(>>76)
③ 自我を持った鏡の住人は、反射物に自身の姿が映る度に表の世界の『主』の記憶が共有されるようになる。ただし、オリジナルには共有されない。(>>161)
④ 鏡の世界の住人が自我を持つためには『他に自我を持った人間から鏡の世界についてを教えてもらう』もしくは『表の世界のオリジナルが鏡の世界のことの存在を知る』必要がある。(>>80)

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―【鏡の世界でのルール(no.2)】――――――――----

● 鏡の世界の特徴について
① 鏡の世界は半永久的に存在する。(>>53)
② 鏡の世界は、裏の世界、裏々の世界、裏々々の世界と、表の世界から遠ざかっていくにつれて、明度が小さくなっていく。(>>54)
③ 表の世界を『1』として、裏々、裏々々々といった奇数番目の世界は、『奇数世界』と定義される。(>>159)
④ 裏の世界を『2』として、裏々々、裏々々々々といった偶数番目の世界は、『偶数世界』と定義され、これらの世界では、全てのモノが反転している。(>>159)
⑤ 偶数世界では、ほとんどの者が自我を持っており、その『性格』はオリジナルのものとは反転したものになっている。(>>159)
⑥ 偶数世界の鏡の住人が『主』になることは出来ない。(>>227)

● 入れ替わりについて
① オリジナルが表の世界以外にいる場合、反射物に対して念じれば、表の世界に近い層へと移動できる。(『特権』による入れ替わり)(>>124)
② 2枚での合わせ鏡の状態を創り出した時、表の世界と裏々の世界の人間が入れ替わりを起こすことが出来る。(合わせ鏡による入れ替わり)(>>48)
③ 入れ替わるのは、あくまで『意識』のみであり、肉体はそのままである。(>>49)
④ 入れ替わる時に、一瞬だがお互いにコミュニケーションが取れる。(>>218)
⑤ 入れ替わりは連続して行うことが出来ず、1週間のブランクを必要とする。(>>96)
⑥ 入れ替わりにはどちらかにその『意志』があることが必要となる。(>>51)
⑦ 入れ替わりは閏年の一時期に行える。(2012年は3月21日まで)(>>50)

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―【鏡の世界でのルール(no.3)】―――――――――――----






● ○○○○○○○○○○○○○○


③  
④  






○○ ○○○○○ ○○ ○○○○○○○ ○○○ ○○○…

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叙編終了です。
やっとここまで来た…。次回の更新で最後です。
おそらく賛否両論の終わり方になると思いますが、どうか最後まで見届けていただけたらと思います。
では12月31日の22時頃に。おやすみなさい。


―2012年/3月/21日/香川/ ――――――――――----

ガヤガヤガヤガヤ

ソレジャーネー!

バイバーイ!

オツカレー!

モブ女1「いやぁ~、楽しかったね~同窓会!久しぶりに皆と会えたし!」

モブ女2「この後、皆は2次会行くみたいだけど…良かったのモブ女1?行きたそうだったけど?」

モブ女3「モブ女2、元々同窓会の後、3人で集まろうって話だったし、モブ女1なんかにそんな気を遣わなくったっていいよ。」

モブ女1「ちょっとーモブ女3!それちょっとひどくなーい!?」

モブ女2「ふふ。」

モブ女1「…まー、私も2人に話があるし気にしなくていいよ!…2次会行きたいってのは本当だけど…てか、私よりもモブ女2の方が残りたいんじゃないの?だって2次会には…」

モブ女2「…いいの、気にしないで。…それよりもモブ女1も話があるの?モブ女3からは『今日のこと』で色々と話があるからってこと聞いてたけど…」


モブ女1「そりゃあ~、2人にも今日、久しぶりに会ったんだし、私の海外放浪記についてた~んと聞いてもらおうと思って!」

モブ女2「わ~、楽しみ~」

モブ女1「でも、今から朝までどうする?どこか居酒屋でも行く? あ、でも明日朝から飛行機乗るし、これ以上お酒はまずいか。」

モブ女3「う~ん、そうね~…」

モブ女2「…あ、ねえ久しぶりにあのファミレスがあるしそこで話そうよ。」

モブ女3「…お、あそこね。あそこなら24時間営業だし、朝までゆっくり喋れるわね。」

モブ女1「おっけー、そんじゃ、行きますか、久しぶりに♪」


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店員「ご注文をお伺いします。」

モブ女1「二人ともホットコーヒーでいいよね~?」

モブ女2「うん。」

モブ女3「いいよ。」

モブ女1「それじゃあホットコーヒーを2つと、…え~っとストロベリーパフェとティラミスと…ミックスジュースで!」

モブ女3「わお。」

モブ女2「ちょっとモブ女1ちゃん、この時間帯にそんなにデザート食べたら太るよ?」

モブ女1「大丈夫大丈夫!それにさっきの飲み会でご飯全然食べれなかったからおなか減ってるんだよね~」

モブ女3「ふふ、相変わらずねモブ女1。」

モブ女2「ほんとだね。」

モブ女1「え~!? そう!? …あ、でも今日あんたたちのために『お遣い』をしてあげたんだからここは2人の驕りね♪」


モブ女3「はいはい。分かってるわよ。」

モブ女2「ふふ、いくらでも食べていいよモブ女1ちゃん。」

モブ女1「やった~♪ それじゃ後でオムライスも食~べよ♪ ここのオムライスとろふわで美味しいんだよね~♪ 4年振りだな~♪」

モブ女3「お、オムライスって…」

モブ女2「そんなに食べてもそのスタイル維持出来てるんだから凄いよね、モブ女1ちゃん。」

モブ女1「まあ、その分運動もちゃんとしてるしね~。…でっと。」

モブ女2・3「?」

モブ女1「…『何から』話す?」

モブ女3「…そうね~、まあ『話す事』はいっぱいあるけど…」

モブ女2「モブ女1ちゃんは何から話したい?」

モブ女1「う~ん…そりゃやっぱり『今日のこと』を2人に色々聞きたいかな~? 私も何が何だが分かんなかったし。」

モブ女3「そりゃそうよね。それじゃあ、順を追って説明していきましょうか。ね、モブ女2?」

モブ女2「そうだね。」

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―――――――――――――――――――――――----

モブ女1「…なるほどね~。女ちゃんと男くんはどっちも鏡の世界のことを『ある程度』知っていて、そして北校舎とあのマンションのエレベーターの鏡が『魔法鏡』だってことがバレちゃったっていうわけね。」

モブ女3「そういうこと。てか、モブ女1、もうあそこは『北校舎』じゃないわよ。今は『旧校舎』って呼ばれてるのよ。」

モブ女1「へ?そうなの?4年前は『北校舎』って名前だったからそのまんまだと思ってたよ。」(>>3)

モブ女3「まあ、あんたは東京の大学に行ってからはこっちにあんまり帰って来なかったし知らないのも無理ないか。」

モブ女1「しかもその半分は海外に居たしね。 …で、話は戻るけど、エレベーターの鏡が『魔法鏡』だってことがバレたから私が『時間稼ぎに回された』ってことでいいのよね?」

モブ女3「ええ。あんたが時間稼ぎしてくれている間になんとかモブ女2が『色々』と対処してくれたから。」

モブ女2「もお~…モブ女3ちゃんはあたかも簡単に私が対処したみたいな言い方してるけど、こっちは本当に大変だったんだからね?」

モブ女1「へ?そうなの?」

モブ女3「ふふ、まあいいじゃない。『エレベーターじゃない方の鏡』は無事バレずに済んだから今回おおごとに発展しなかったわけだし。」

モブ女2「まあそうなんだけどさ…でも、あの『2時間』で鏡を取り替えたり、壁紙を『上から』貼ってもらったり、…あと『手回し』とかも本当に大変だったんだよ?」

モブ女3「ふふ、まあでもその手回しをした『エレベーター業者』も『壁紙内装業者』も『管理人』、そして『警察』までもがもともとあなたの『手中』なんだから、なんら問題は無いでしょ? …ね、『お嬢様』?」


モブ女2「も~…モブ女3ちゃん、私の事、『お嬢様』って言わないでって何度も言ってるでしょ?」ムスー

モブ女1「あはは。でも、あんたらまだあのマンションの部屋使ってたの? もうとっくに飽きてやめてるもんだと思ってたよ。」

モブ女3「私も全くノータッチよ。やってるのは『この子』だけ。」

モブ女2「わ、私だってこの4年間はほとんど行ってなかったよ!…でも、今日は久しぶりに…」








モブ女2「…女兄くんが神戸から帰って来る日だったから。」

モブ女1「あ、そうか。あいつ大学入ってからすぐに神戸に引っ越してたんだっけ。」

モブ女3「ええ。」


モブ女1「まあ、4年前は『何だか面白そう』だから一緒にあの部屋で覗いてたりしてたけど…一体『あれ』の何がいいのよ? 監視カメラとかじゃだめなの?」

モブ女2「…うん。監視カメラだと『斜め』からの角度からしか撮れないし…それに『画面越し』ってのがどうしても嫌で…」

モブ女1「はあ…そうですか…」

モブ女2「…うん。」

モブ女1「…ほんと…久しぶりに会ったけど相変わらずなのね。」

モブ女3「でしょ? まったく改善されてないでしょ?」





モブ女3「モブ女2の極度の『シャイさ』は。」

モブ女2「…///」

モブ女1「みたいね~。でも、5年前も私達ほんとビックリしたよね、この子から『女兄くんが好きなんだけど、恥ずかしすぎて直視出来ない。でも、どうしても女兄くんの顔を直接真っ正面から『生』で見たいから2人に強力して欲しい』って話を聞いたときは。」

モブ女3「ふふ、ほんとね。」


モブ女2「も、も~、2人ともまだあの時の事覚えてるの!?///」

モブ女1「さすがにあれは忘れられないわよ。そしてあの後のあんたのすごい『行動力』もね。だって、マンションの1室を買って、そして色々改造しちゃうんですもの。」

モブ女2「ま、まあ、あのマンションももともと『私の家』が持っていた土地だったし…おじいちゃんに相談したら『あげる』って言われたから…。」

モブ女1「いや~、さすが『地主』はやることが違うわね~。」

モブ女3「まったくだわ。ここら一体の地域の土地を所有しているのはもちろんのこと警察や自治体までにも『多大な影響力』を持っているんだから。」

モブ女2「も~、それ以上は言わないで。」

モブ女1「でも、まあ『洗面所』の鏡を魔法鏡にしてそれを『裏』から覗けば、女兄くんの顔を魔法面から見れるっていうのはなんとなく分かるんだけど、何でエレベーターまで魔法鏡にしたんだっけ? あと、鏡越しでもやっぱり恥ずかしいんじゃないの?」

モブ女2「そ、それは…『洗面所の前』と『エレベーターの中』じゃ、また違った女兄くんの表情が見れるかな…って思って/// あと、鏡越しなら『私自身が見られている』っていうわけじゃないからなんとか大丈夫なの。」

モブ女1「…は、はあ…『違う表情』ねぇ…」

モブ女2「…うん。エレベーターの中って一応『密室』で、もしも他に誰も乗ってなかったら鏡の前でほとんどの人が油断して身だしなみとかをチェックするでしょ? だから、男くんも学校に行くときとかにエレベーターの中に入ってきてすぐに鏡があればそういう油断した顔やキメ顔でこっちを見てくれるかもって思って…///」

モブ女1「キメ顔って…ま、まああいつイケメンだしなぁ…あと、ちょっとナルシストな部分もあるかもしれないからエレベーターで一人きりになったらそういうこともするかもね。」


モブ女3「あれ? モブ女1はエレベーター越しで女兄くんのこと見た事無かったっけ?」

モブ女1「うん。そもそも私は3回くらいしかあそこに行った事ないし。」

モブ女2「あれ?そうだっけ?」

モブ女1「うん。え~っと確か…私が行ったのは、一度バレかかった時と、あとの2回はいつだっけな…もう忘れちゃった。まあ、あんな『真っ黒』な部屋好き好んで行くような場所じゃないし。」

モブ女3「バレかかった時?」

モブ女2「モブ女3ちゃん、あの時だよ。1002号室が停電した時。」(>>580)

モブ女3「あ~、あの時ね。」

モブ女1「あの時はさすがにバレたかと思ったよね~、だって女兄くんの様子が明らかにおかしかったし。」

モブ女2「うん。まさか『向こう側』で停電が起きるなんて思ってもなかったし。停電によって向こうとこっち側の光量がほとんど同じになっちゃったからね…」

モブ女1「でも結局女兄くんにバレなかったよね? 何でだっけ?」

モブ女3「おそらくあの時女兄くんの携帯のライトの光を私達の『目』が反射したのよ。だから、女兄くんはその『目』に驚いたんだけど、『裏』に私達がいるってことまでは分からなかったんだと思う。」

モブ女1「あ、そうだったっけ。」


モブ女2「も~、モブ女1ちゃん、さっきから色々と忘れすぎじゃない? あの時にも何で『バレなかった』のかってこととか3人で結構話し込んだじゃない?」

モブ女1「いや~、ごめんごめん。ほんと私最近物忘れが激しくて。」

モブ女3「モブ女1が物忘れが激しいのはずっと前からでしょモブ女2。」

モブ女1「ちょっと何よモブ女3!!そんなことないよ!!」

モブ女2「ふふ。そういえばそうだったね。しかもモブ女1ちゃん、自分が物忘れが昔からひどかったこと自体忘れちゃってるし。」

モブ女1「も~!!モブ女2まで…あ、そうだ。そろそろ私おなか減ったからさっき言ってたオムライス注文しても良い??2人は何か注文する??」

モブ女3「私はいいわ。」

モブ女2「私も。」

モブ女3「…! モブ女2、ちょっとここ電波悪いみたいだからちょっと外に出て一度『確認』してくるわ。」

モブ女2「あ、お願い。」

モブ女1「?」


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モブ女1「いや~、食った食った~♪」

モブ女2「モブ女1ちゃん。それ女の子が言う台詞じゃないよ。」

モブ女1「いいのよ、別に。…あ、というかさ、女ちゃんと男くんに旧校舎の鏡が魔法鏡だということがバレたってことはさっき聞いたけど、何で女ちゃんと男くんは今日、旧校舎に行ってたのよ?」

モブ女2「あ、そういえば言ってなかったね。あの2人が旧校舎に行ってたのは女ちゃんがオリジナル男くんを取り戻すためらしいよ。まあ、私もあくまでモブ女3ちゃんに聞いただけだけど。」

モブ女1「取り戻す?」

モブ女2「うん。実はオリジナルの男くんが昼までは裏々の世界にいて、それを旧校舎の鏡を使って入れ替わりを起こさせることによってオリジナルの男くんをこっちに戻したんだってさ。で、その後に偶然にその鏡が魔法鏡だってことがバレちゃったんだけどね。」

モブ女1「成る程ね~…でも、まだいまいち状況が分からないな~。」

モブ女2「そうだろうね。じゃあ、モブ女3ちゃんが外から帰ってくるまで、私がこの約1ヶ月間のあの2人の出来事を教えてあげる。」

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ズズズー

モブ女1「…ぷは~。 …成る程ね。1ヶ月前に女ちゃんは偶然にもあのエレベーターの中で入れ替わりを起こしてしまい、そして裏々の世界へと行ってしまった。そして、そこで自分のことを『オリジナル』と偽る裏々男と出会い、2人で表の世界に行こうとした。で、先週のホワイトデーの日に『無事』表の世界に来れた。そして、モブ女3がそれに協力してあげたということね。」

モブ女2「うん。」

モブ女1「でも、何でモブ女3は2人がそういった自体に気付く事が出来たの?」

モブ女2「実はね、ちょうど2月の29日はモブ女3ちゃんが裏々の世界にいる『週』だったのよ。」

モブ女1「あれ?『週』ってことは今年も『ローテーション制』にしてたの?」

モブ女2「うん。まあ、4年前はモブ女1ちゃんも居たから『3人』で回せてたんだけど、今年はモブ女1ちゃんは帰ってくる気配がなかったから、仕方なく『2人』で回してたの。」

モブ女1「そうだったんだ。…じゃあ、つまりモブ女3が裏々の世界に行く当番の『週』にそこであの2人と『偶然』にも遭遇して、2人に起きている事態を把握した…っていうわけだ。」

モブ女2「そういうこと。で、モブ女3ちゃんが2人に協力してあげるって申し出たわけ。」

モブ女1「へ~。でも、じゃあその時にモブ女3は自分がオリジナルだってことをあの2人に言ったわけだ?」

モブ女2「ううん。それは言わなかったの。言ったら言ったで『何でオリジナルのお姉さんが裏々の世界にいるんだ』って色々聞かれたら答えるのに面倒でしょ?」

モブ女1「まあ、確かに。『実験』のために来ているなんて言ってもポカーンってなるだけだろうしね。じゃあ、それを言わずに何とかやり過ごすことが出来たんだ。」


モブ女2「うん。モブ女3ちゃんは『自分には主との連絡手段を持っている』って言うことによって『矛盾』をなくしたの。」(>>262)

モブ女1「…っぷ!あははは!『主との連絡手段』!?何それ!?そんなのないよね!?」

モブ女2「もちろん。まあ、でもあそこではそう言うことによって、モブ女3ちゃんが鏡の世界を行き来していることを上手く隠す事が出来たのよ。そして、そうやって女ちゃんや男くんに『自分たちがまだ知り得てないことをこの人は知っている』っていうことをアピールする事によってあの2人からの尊敬と信頼を得ることが出来たの。」

モブ女1「なるほどね~。嘘も方便とはこのことね~」

モブ女2「で、モブ女3ちゃんはその29日の夜に自分の家にある『魔法鏡』を使って戻ってきた。で、その後に私にはもちろんのこと鏡越しに『他の鏡の世界の自分』に状況を説明したの。」

モブ女1「ふむふむ。」

モブ女2「で、その後に私とモブ女3ちゃんで作戦を練って、そしてそれを『1週間後』に裏々のモブ女3ちゃんに言ってもらうように鏡越しで伝えたの。」

モブ女1「…じゃあ、女ちゃんと男くんがその1週間後に出会ったモブ女3はもうその時からは裏々のモブ女3に変わっていた…というわけだ。」

モブ女2「ええ。あの子もよくやってくれたんだよ。」

モブ女1「そっか。まあ『信頼関係』があるからこそ出来る手法ね。…でも『ローテーション制』の影響もあるか。」

モブ女2「…『ローテーション制』はもともと、『鏡の世界の住人に主導権が奪われないように3人のうち誰かが必ず表の世界に残っておき監視するため』のものだけど、まあでも今では私達は鏡の世界の住人ともかなり良好な関係を築けているから大丈夫だと思うけどね。」

モブ女1「まあ、私は今年入れ替わりしてないから良好な関係を築けているかどうか分からないけどねー。しっかし、4年前は『色々』と荒れたよねー。」

モブ女2「ふふ、そうだったね。ほんと今回の女ちゃんと裏々女ちゃんみたいな関係みたいなんもんだったもんね、私達と『向こうの私達』は。」

モブ女1「ほんとねー。まあ、後半からは仲良くなれたし、今では良い思い出だわ。」


モブ女2「まあ、元はと言えば、モブ女1ちゃんが仕入れてきたあの噂がきっかけで鏡の世界のことを知ったんだよね。」(>>1)

モブ女1「…ああ~、そうだったかも~! で、あの後、早速あの北校舎…じゃなくて旧校舎の鏡のところに行ったら、モブ女2がすぐに『これ魔法鏡だよ』って言って見抜いたんだっけ。」

モブ女2「うん。あの部屋に行く前から1001号室で毎日のように魔法鏡を見てたからね。だからあの裏の部屋を見つけられたんだけど、あの部屋は私のおじいちゃんが作ったやつだったっていうオチも忘れちゃだめだよ。」

モブ女1「あはは、そうだったね。でも、何でおじいちゃんはそれまでその部屋があるってことをあんたに教えてくれなかったんだっけ?」

モブ女2「おじいちゃんもあんな部屋を作ったことを完全に忘れていたらしいの。まあ、作ったのは何十年も前だし。」

モブ女1「はは、そりゃ忘れても仕方ないね。…てか、あんたのおじいちゃん、亡くなられたんだっけ…」

モブ女2「…うん。1年前にね。」

モブ女1「そっか…ごめんね、私ずっと海外にいたからお葬式に行けなくて…」

モブ女2「ううん、いいのいいの。気にしないで。」

モブ女1「…そう。でも、また今度お仏壇に顔をあわせにいかせて。」

モブ女2「うん、いつでもいいからね。」


モブ女1「ありがとう。…あ、話をまた戻すんだけど、先週の女ちゃんと裏々男くんの入れ替わりにはあんたも同席したの?」

モブ女2「ううん。私は行ってないよ。というか、私が行く意味はないし。」

モブ女1「そりゃそうか。あんた女ちゃんはおろそか男くんともほとんど面識ないもんね。」

モブ女2「うん。…でも、あの日の『作戦』のために私の家の『従者』に旧校舎の西階段を封鎖させたり、東側の階段のシチュエーションを整えてあげたりと、色々してあげたんだよ。モブ女3ちゃんが自分で用意したのは変な釣り竿もどきだけだったし。」(>>348)

モブ女1「あ、そうなの?」

モブ女2「うん。それにあの『作戦』には『女ちゃんのお母さん』が重要なキーパーソン(>>359)になっていたんだけど、お母さんをptaに入れたのも、そしてあの会議に参席させたのも全部私の計らいだったんだから。」

モブ女1「へ?どういうこと?」



モブ女3「お~いこら、モブ女2。」

モブ女2「あ、おかえり、モブ女3ちゃん。遅かったね。」

モブ女3「…ったく。そんな言い方じゃまるで私があんたにそうさせたって言ってるみたいじゃない。女ちゃんのお母さんをpta議員になるように『操作』したのも、旧校舎の取り壊し工事の会議をあの日に『した』のも、その会議に女ちゃんのお母さんを『参席』させるようにしたのも、元はと言えばみ~んな、あんたが『あの日にあのマンションの1001号室のセッティングをするため』でしょ?」

モブ女2「まあ、そうなんだけどね。」

モブ女1「…どういうこと?」


モブ女3「女ちゃんのお母さんを家から外出させ、そして1001号室と1002号室の鏡を『また魔法鏡に戻そう』と思ったら、1002号室にも入っての作業必要になるでしょ?もちろんその作業をしようとおもったら1002号室を誰もいない状態にする必要があるしね。だから、わざわざあの日の女ちゃんのお母さんを外出させるためにあの会議をあの日にしたのよ。」

モブ女1「あ~、そういうことね。…あ、じゃああの日はモブ女2はあのマンションに居たわけ?」

モブ女2「うん。この3年半くらいは女兄くんは帰って来なかったから、あの洗面所の鏡は普通の鏡に戻してたんだけど、今日帰ってくる事だからその日に取り替え工事をしてたのよ。エレベーターの鏡はバレないだろうからずっとそのままにしておいたし、工事の必要はなかったんだけど。」

モブ女3「…で、そのことを私はもとから知ってて女ちゃんのお母さんが学校に来るって分かってたから、それを上手く利用させてもらったっていうわけ。まあ、もともとあの会議には私が出席する予定だったしね。『地主の現代表であるモブ女2お嬢様』の代わりにね。」

モブ女2「モブ女3ちゃん、一言多いよ。」

モブ女3「ふふ、ごめんごめん。」

モブ女1「ふ~ん。…あ、そういえばモブ女3、さっきまで何してたの?」

モブ女3「…私? 私はこれを聞いてたの?」ヒョイ

モブ女1「…? スマフォ? スマフォで音楽でも聞いてたの?」

モブ女3「違う違う。このスマフォでこのアプリを使ってたの。」ピッ

モブ女1「…? 何このアプリ?」

モブ女3「これ? これは『盗聴アプリ』よ。」

モブ女1「と、盗聴!?」


モブ女3「ええ。ついさっきまでこのアプリに1時間ぐらいの録音が溜まってたからそれを受信するために外にでて、そしてそれを早送りで聞いてきたの。」

モブ女1「でも一体誰を盗聴してたのよ?」

モブ女3「そりゃもちろん男に決まってるじゃない。」

モブ女1「男くん?」

モブ女3「うん。さっきの先週の旧校舎での『作戦』のために実は男の携帯を拝借する機会があってね。で、その時に男の携帯に専用のソフトをあいつの携帯にインストールさせておいたの。そのソフトを入れておけば男の携帯が電源をつけている限り、男の携帯自体の集音マイクが周りの音を集音し、そして男の携帯から発せられる電波によってこのアプリにその集音された音情報を記録出来るというわけ。もちろん、そのソフトは携帯画面にアイコン等で表示されることなてないからバレることなんてほとんどあり得ないの。」

モブ女1「へぇ~、すごいわねそれ。もしかしてそれあんたの自作?」

モブ女3「ええ。このアプリもその専用ソフトもね。」

モブ女1「でも何のために?」

モブ女3「そりゃもちろん、男と女ちゃんの会話を聞くためよ。『さっき』もこれのおかげで色々と助かったんだから。ね、モブ女?」

モブ女2「うん。」

モブ女1「ん? さっき何かあったの?」

モブ女3「いやね、さっきの同窓会の最中に、男と女ちゃんがあのマンションの管理人と一悶着あってね。で、女ちゃんが警察に連絡しちゃったのよ。」

モブ女1「ほう。」


モブ女3「で、警察があのマンションに来て、管理人と警察官が2人きりになるチャンスがあったから、そのタイミングで管理人のモブ女2に管理人の携帯に電話して、そしてその警察官と話してもらったのよ。」

モブ女2「まあ、『私の家』と警察は『仲が良い』からね。」

モブ女1「ほっほー、成る程ね。その『一悶着』をその盗聴器で聞けていたからこそ、そこにこっちから介入出来たわけね。…あ、てかそういえば同窓会の時にあんたら何度か抜けて電話とかしてたわね。」

モブ女3「そういうこと。」

モブ女2「で、モブ女3ちゃん。さっき聞いてきた録音の中に何か収穫でもあった?」

モブ女3「…いや、特に無かったわ。あの後は2人とも諦めてそれぞれの家に帰ったみたい。」

モブ女2「そっか。じゃあしばらくは大丈夫そうね。」

モブ女3「ええ。」

モブ女1「…でもモブ女3、あんたの専門って物理光学じゃなかったっけ?なのにこんなアプリさとか作れるの?」

モブ女3「こんなのちょっとした知識があれば簡単に作れるわよ。それに私、最初は物理光学が専門だったけど、今じゃ生体工学とかにも手を出してるしね。」

モブ女1「…いや、ちょっとした知識って…あんたと私を一緒にするんじゃないわよ。」


モブ女3「何言ってんのよ。あんただって『語学』はピカイチじゃない? 今は何カ国語喋れるようになったのよ?」

モブ女1「今? え~っと今はだいたい12カ国語ぐらいなら…」

モブ女2「え~!すご~い!2年前の2倍じゃないモブ女1ちゃん!」

モブ女1「…!? で、でしょ~!?まあ、高校のときからこつこつ頑張ってきたからね~♪」ニヤニヤ

モブ女3「…ほめたらすぐに調子乗るのも相変わらずね。…で、モブ女1もそうだけど、モブ女2だって考古学と史学のスペシャリストなのよ。モブ女2が大学で書いた論文は軒並み受賞したし。」

モブ女2「た、たまたまだよ~、私の場合は。」

モブ女3「つまり、3人とも分野は違えど、そのそれぞれの分野に特化していて、それぞれが『素晴らしい個性』を持っている非常に良いバランスの3人だと思うわよ、私は。」

モブ女2「うん。私もそう思う。」

モブ女1「ま~、確かにね! …いや~、しかし、話は戻るけど、男くんも女ちゃんもほんとこっちに帰って来れてよかったわね。でも、モブ女3は先週こっちに来たのが裏々男だってことに気付いてなかったの?」


モブ女3「いや、初めから怪しいなとは思っていたんだけどね。…ただ、確証が持てなかったからあんま手出しを出来なかったのよ。まあ、流石に今日、女ちゃんにヒントをあげたけど。」(>>397)

モブ女2「そうだね。あと1日遅れていたら鏡の世界に取り残されるところだったし。」

モブ女1「…? 何で今日?」

モブ女2「だって今日が鏡での入れ替わりが出来る最後の日だからね。」

モブ女1「え?うそ?」

モブ女2「うそなんかつかないよ。」

モブ女1「…え、でも4年前の最終日は…」








モブ女1「…たしか『4月5日』じゃなかった?」


モブ女3「も~、モブ女1。日付は覚えてるくせに、『最終日の法則』は忘れたの?」

モブ女1「法則?」

モブ女3「もお、…モブ女2、一から説明してあげて。」

モブ女2「ふふ、了解。 入れ替わりは『閏年の旧暦の1月1日から2月29日までしか起こせない』っていうのが『最終日の法則』なの。思い出した?」

モブ女1「…! ああ~、確かに4年前にそんなこと言ってたような…」

モブ女2「今年2012年の『新暦』、つまり『グレゴリオ暦』での『3月21日』は、『旧暦』である『天保暦』に変換すると『2月29日』になるの。『2月29日』は『閏日』だよね?そもそも、閏年は閏日をもってその役目を終えるの。『29日』という余分な1日が終わった後の3月1日からは閏年じゃない年と全く同じ日数になる。つまり、その閏年としての役目が終える『2月29日』までが入れ替わりが出来る期間なのよ。ちなみによくカレンダーに載っている『旧暦』はこの『天保暦』のことだからね。」

モブ女1「ああ~、思い出した思い出した。だから、4年前と今年とじゃ『ズレる』のか。」

モブ女2「そういうことだね。4年前の2008年は『2月7日~4月5日』が『旧暦』の『1月1日~2月29日』にあたるの。でも、今年の2012年は『1月23日~3月21日』がそれにあたるわけ。よって2012年の『新暦』での入れ替わり可能期間は1月23日~3月21日になるの。そして、この期間に3年と10ヶ月分の多くの従者による遍路参りによって蓄積された『念力』が大窪寺から放出されるわけ。」

モブ女1「はいはい。成る程ね~。そのことって女ちゃんや男くんは知ってたの。」

モブ女2「う~ん、一応今年が3月21日までってことは知ってたんだよね、モブ女3ちゃん?」

モブ女3「うん。ただ、完全に違う『解釈』をしてたけど。」

モブ女1「違う『解釈』?」


モブ女2「男くんは入れ替わりが出来るのが『3月21日』までなのは『空海の命日』だということ、そして、空海とも『一応』ゆかりのある八十八箇所目の寺の『大窪寺』での伝統的な春分祭の日というこれらの背景から3月21日を入れ替わりの期限の日と定義したみたいなの。」

モブ女1「成る程ね~。いや~、でも私からしたらそっちの方が『本当の理由』に感じるけどな~」

モブ女2「ふふ確かにそうね。でもこの『解釈自体』にも間違いがあるの。」

モブ女1「解釈自体に?」

モブ女2「うん。まず、空海の命日が『3月21日』なのは正解。でも、その3月21日は『空海が生きていたその時代の旧暦』、つまり『宣明暦』においての3月21日なの。」

モブ女1「宣明暦?」

モブ女2「ええ。そしてその『宣明暦』の3月21日を今現在の『新暦』に変換するとかなりずれることになるの。」

モブ女1「ほほ~。」

モブ女2「また、その春分祭が21日だからっていうのもあくまでこじつけにすぎないしね。」

モブ女1「なるほどね~。まあ、あくまで春分祭なだけで、空海とはあんまり関係無いもんね。」

モブ女2「そうだね。まあ、私ももし今年初めて鏡の入れ替わりについて知ったのだったら男くんみたいな勘違いをしてたかもしれない。まあ、私達のときは『4月5日』っていう中途半端な日だったからすぐに『旧暦』との関連性に気付く事が出来たけど。」

モブ女1「はは、私も勘違いするわそりゃ。」


モブ女2「あと、女ちゃんが一度、『閏日』に裏の世界で『魔法鏡』を使って裏々の世界へ行くという出来事があって、あの2人はそれが『閏日には逆の力が働くから起こせたんだ』と思い込んでるみたいだけど、それもただの勘違い。今年の閏年は天保暦に変換したら『2月8日』で、全く関係のない日だからね。」(>>191)

モブ女1「あ、そんなこともあったんだ。でも4年前は私達期間中なら『いつでも』魔法鏡で『逆行』出来たもんね。」

モブ女2「うん。入れ替わりにとっての『閏日』というものは、その日『に』特別な力が働くんじゃなくて、その日『まで』力が働くという関係なの。だから、魔法鏡を使って『特権』での入れ替わりも期間中ならいつでも可能なんだよね。」

モブ女1「ふむふむ。…てか、モブ女2、さっきから『宣明暦』だとか『天保暦』だとか言ってたけど、…何だっけそれ?」

モブ女2「も~、モブ女1ちゃん、完全に忘れてるんだね…」

モブ女3「ふふ、頑張れ~モブ女2~♪」

モブ女2「…はあ。『宣明暦』っていうのは平安時代から江戸時代まで、『天保暦』は江戸時代末期から明治時代初期まで使われた『暦』よ。」

モブ女1「ふ~ん。…で、入れ替わりを起こせるのは『天保暦』での1月1日から2月29日なんだよね? そもそも何で『天保暦』と『入れ替わり』が関係あるの?『天保暦』って江戸時代に作られたんでししょ? 何で空海とかが生きてた時代の『宣明暦』じゃなくて『天保暦』なの?」

モブ女3「モブ女1にしたらいいところに目をつけたわね。」

モブ女2「ふふ、そうだね。…そう、確かにこの『天保暦』は江戸時代の暦。しかもこの暦って当時に30年くらいしか遣われなかったの。」

モブ女1「さ、30年!? 短っ!?」


モブ女2「短いよね? じゃあ、何故入れ替わりが出来るのが『天保暦』での暦換算なのかってことなんだけど…理由は『暦としての完成度の高さ』、『日本人が作成した最期の暦』であること、そして『渋川景佑と伊能忠敬の関係』がその理由よ。」

モブ女1「…へ? 渋川…誰って?」

モブ女2「『渋川景佑』。…この『天保暦』は江戸時代の天文学者の渋川景佑という人物が作ったものなんだけど、西洋天文学の成果を取り入れて完成させた暦で、実施された太陰太陽暦としてはそれまでで最も精密なものであるとして評価されているの。」

モブ女1「はぁ…」

モブ女2「でも、この暦は結局30年後の明治初期にはグレゴリオ暦導入に伴い、使われなくなってしまったんだ。」

モブ女1「ふ~ん。何で使われなくなったの?完成度が高かったんでしょ?」

モブ女2「新暦導入の理由は当時参議であった大隈重信の回顧録『大隈伯昔日譚』に書かれているわ。それによれば、政府の財政状況が逼迫していたことがそもそもの原因みたい。旧暦のままでは明治6年は閏月があるため13か月となる。すると、月給制に移行したばかりの官吏への報酬を1年間に13回支給しなければならない。これに対して、新暦を導入してしまえば閏月はなくなり12か月分の支給ですむっていう感じで…」

モブ女1「ああ~!!もう分かった分かった!!あんた歴史の事になったら話が長くなるんだからほんとに…とにかく『色々』あってグレゴリオ暦に移行したから天保暦が『日本人が作成した最期の暦』ってことよね?」

モブ女3「ふふ。」

モブ女2「…なんだか納得いかないけど、…まあそういうことだね。とにかく『鏡の世界』は海外から来た『グレゴリオ暦』を受け入れなかったみたい。」


モブ女1「…で、あと渋川なんちゃらとかと誰かの関係がとか言ってたけど…」

モブ女2「『渋川景佑』と『伊能忠敬』ね。渋川はともかく『伊能忠敬』はモブ女2ちゃんも知ってるんじゃないの?」

モブ女1「う~ん、名前は聞いた事があるような気がするんだけど…」

モブ女2「ほら、江戸時代に日本地図を初めて作った…」

モブ女1「…!! はいはい!日本地図を作った伊能忠敬ね!!思い出した思い出した!…でも、その渋川と伊能忠敬が何の関係があるの?」

モブ女2「モブ女1ちゃん、この伊能忠敬ってどうやって日本地図を作ったと思う?」

モブ女1「…? どうやったって…そりゃあ日本中を歩き回って測量?ってやつをすることによって作ったんじゃないの?」

モブ女2「うん、そうだね。でもその測量ってのはねすごい時間がかかるの。伊能忠敬もこれを短期間で日本地図を完成させたわけじゃなくて20年以上の長い年月をかけ、そして最終的には自分自身が生きているうちには完成させることは出来ずに弟子がその『大日本沿海輿地全図』を完成させたの。」

モブ女1「ふうん。」

モブ女2「そして、この長期間の測量調査は約20年間に第1次から第10次にかけて行われたんだけど…さあ、ここからが本題。」

モブ女1「…?」

モブ女2「この天保暦を作製した渋川景佑は実は、『天保暦』を作成する前に伊能忠敬の日本地図測量調査団に参加したことがあるの。」

モブ女1「…ほう。」


モブ女2「そして、渋川は第5次調査に参加して当会や中国地方を廻ってその1回きりだと言われてるんだけど、実は第6次調査にも参加していたという説もあるの。」

モブ女1「…! その第6次では一体どこを…」

モブ女2「その第6次調査で回ったそれが…」







モブ女2「『四国』だったのよ。」

モブ女1「…! …なるほどね~。」

モブ女2「その第6次では主に四国と紀伊半島を廻ったわ。そのときに空海のゆかりの地でもある真言宗の総本山の金剛峰寺や、四国八十八箇所の各寺院に廻ったと伊能忠敬が残した日記に記されている。つまり、渋川景佑と四国八十八箇所や空海は意外にも繋がりがあるの。四国を『一周する事』の重要性はモブ女1ちゃんも分かってるでしょ?」

モブ女1「まあね。…つまりは、その『渋川景佑と伊能忠敬の関係性』ってやつと『暦としての完成度の高さ』、『日本人が作成した最期の暦』っていう要素が組み合わさった結果、『天保暦』と『入れ替わり』に『繋がり』出来たというわけね。いや~、さすが史学のスペシャリストだね。詳しく調べてらっしゃる。」


モブ女2「あくまで今の説明は要所要所を搔い摘んだだけだから本当はもっと説明することがあるんだけどね。」

モブ女1「いや!もう十分!十分理解したよ!」ニコッ

モブ女2「そう?なら良いんだけどね?」

モブ女3「ふふ、モブ女1、笑ってるつもりかもしれないけど苦笑いになってるわよ、それ。」ボソッ

モブ女1「…! もう!モブ女1!余計な事言わなくていいの!」ボソッ

モブ女2「…?」

モブ女1「…ん、でもさ、そもそも男くんは入れ替わりが3月21日までだってことをどうやって知ったの?」

モブ女2「…!」




モブ女3「…それは、私のせいなの。」


モブ女1「…? モブ女3が男くんにもしかして教えちゃったとか?」

モブ女3「そうではないんだけどね。実は半年前に男が私の京都の下宿に泊まりにきた事があってね(>>231)、その時に…」ガサゴソ

モブ女1「…?」

モブ女3「これを見られたの。」パサッ

モブ女1「…ん? …『鏡の世界でのルール(no.1)』と『鏡の世界でのルール(no.2)』…? え、これ思いっきり鏡の世界のルールが書かれてる紙じゃない!?」

モブ女3「そうなの。4年前に3人で纏めたやつのコピーなんだけどね。それを男に見られちゃったみたいなの。」

モブ女1「なるほど…男くんはこれを見たから鏡の世界のことを知る事が出来たのか。…ん、しかもこれの2枚目に『2012年の入れ替わりは3月21日まで』って書いてあるじゃない!?」

モブ女3「ええ。だから、男は『入れ替わりは3月21日』までだってことも知ってたのよ。」

モブ女1「そういうわけね…ん? でもさ、これって…」







モブ女1「…1枚足りなくない?」


モブ女3「よく覚えてたわね、モブ女1。…そう、男に見られたのはあくまで『2枚』でこっちの…」ガサゴソ

パサッ

モブ女3「こっちの『鏡の世界でのルール(no.3)』の方は見られてないのよ。」

モブ女1「ん~、どれどれ。あ、こっちには『⑧合わせ鏡による入れ替わりには魔法鏡が必要』とかもちゃんと書いてあるわね。」

モブ女3「ええ。だから、あの2人は最初、魔法鏡の必要性などについてを知ってなかったのよ。」

モブ女2「『目線』とかについてもね。」

モブ女1「なるほど! でもこれを見られなくてラッキーだったわね。」

モブ女3「ん~、まあ…ね。」

モブ女2「…。」

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―――――――――――――――――――――――----

モブ女1「…ふぅ。もうあらかた話し終わったかな?」

モブ女3「そうね。まあだいたいわ。」

モブ女2「うん。」

モブ女1「…あ、そうだそうだ。これを聞いてなかった。」

モブ女2・3「?」

モブ女1「…『実験』の方は上手くいったの?」

モブ女2・3「…!?」

モブ女3「それは…」

モブ女2「…。」

モブ女1「…あ、っていうかさ…」




モブ女1「あんたたち一体何の『実験』をしてたんだっけ?」


モブ女3「…は?」

モブ女2「ちょ、ちょっとー!!それまで忘れてるの、モブ女1ちゃん!?」

モブ女1「いやぁ…ほんと!ほんとごめん!」

モブ女3「これに関しては4年前からはもちろんのこと、あんたが海外に行く2年前にも何回か話してたでしょ?」

モブ女1「ほんとゴメン!…うっすらとは覚えてはいるんだけど…」

モブ女2「…ってくも~、仕方ないんだから。…じゃあ、説明してあげる?」

モブ女3「そうね。」

モブ女1「さすが私の親友!よろしくお願いします!」

モブ女3「…ったく、ほんと調子いいんだから…それじゃあ説明するわよ。」

モブ女1「はい!」

モブ女3「私達が今、そしてこれからやろうとしていること…」





モブ女3「それは『mirror rim』、…これは覚えてる?」


モブ女1「…『mirror rim』? …ああ~!!『mirror rim』って『palindrome』になってるやつね!」

モブ女3「…ん? ペリ何て?」

モブ女1「『palindrome』! 日本語で『回文』って意味よ。」

モブ女3「あ、成る程ね。てか、最初から『回文』って言いなさいよ。ここは日本なのよ?」

モブ女1「ごめんごめん。つい癖で。」

モブ女3「…で『mirror rim』の意味は覚えてる?」

モブ女1「いや~!『全く』!あっはっは!」

モブ女2「…モブ女1ちゃん、とうとう開き直っちゃったよ…」

モブ女3「はあ…ほんと調子いいんだから…とにかく説明するわよ。『mirror』はそのまま『鏡』って意味。ここまでオッケー?」

モブ女1「okay♪」

モブ女3「そして『rim』とは“reaction injection molding”の略称のこと。」

モブ女1「reaction injection molding?」


モブ女3「ええ。日本語で言ったら『反応射出成形』なんだけどね、その『反応射出成形』ってのは2種類以上の反応性に富む低分子・低粘度の原料を密閉金型中に同時注入して反応させる射出成形法のこと。この成形法の最も代表的な用途が自動車のバンパーとかを作る時とかなの。」

モブ女1「はあ…バンパーねぇ…」

モブ女3「まあ、もちろん私達はバンパーを作ろうとしているわけじゃなくて、『2種類の反応性・反発性に富む素材』を『1つの型』にぶち込んで、『新たなモノ』を成形させる。私はこの『成形法』に4年前に目を付け、『鏡』に応用しようと考え、そしてそのrimっていう名称を拝借したの。」

モブ女1「…! あー!やっと思い出してきた!『鏡による2つの人格の混在を目指す』ってのが目的だったよね!?」

モブ女3「思い出した? そう、私たちは4年前に鏡の世界のことを知り、自分自身とは正反対の人格の『自分』がいることも知った。そして考えた…『もしも、表と裏の人間の意識・人格を一つの身体に混在させることが出来たらどうなるのか』…と。」

モブ女1・2「…。」


モブ女3「ねえ、モブ女1。人の『人格』って体のどこに『在る』と思う?」

モブ女1「人格?… う~ん…『脳』…とか?」

モブ女3「その通り。人間の『人格』は『脳』に存在するの。そもそも『人格』や『性格』というものは『脳』に日々溜まっていく『経験』や親から授かった『dna』の特性によって成り立っているの。まあ、そんな『脳』だけど、実はあまり『使われていない』のよ。モブ女1、人って毎日の生活の中で脳の何%を使用していると思う?」

モブ女1「何%? え~…30%とか?」

モブ女「ううん。もっと低いの。人間の脳は常に『10%』程度しか使われていないの。更に脳の寿命は180年とも言われているわ。まあ、『これら』に関しては諸説あるからはっきりと断言出来るわけじゃないけどね。…とにかく、私は何が言いたいのかというと『脳には多大な空き容量』があるということよ。」

モブ女1「空き容量…」

モブ女3「ええ。そして、もしこの余った容量に『もう一つの人格』を入れることが出来たらどうなると思う?」

モブ女1「…!」

モブ女3「二つの人格を混在させてもその使用率は最大でも20%程度で何ら人間活動に問題をきたすとは考えられない。ただ、2つの人格を混在させることによって脳細胞を2倍のスピードで酷使するんだからその脳の寿命は半分になる。でも、脳の寿命が半分になっても脳の寿命は180年から半分の90年になるだけ。人間90年も生きれれば十分でしょ?」

モブ女1「まあ、90年になったとしても平均寿命よりも一応上だしね。でも、そういった脳の寿命が半分になるという『デメリット』の一方で、1つの脳に人格を二つ混在させることには一体どんな『メリット』があるの?」

モブ女3「『核』はそこよ。私の想定では、脳に2つの人格を混在させることによって、『脳が不眠不休でも生きていける休息要らずの人間』と『他人よりも2倍近くの能力を常に出す事が出来る人間』が誕生するはずよ。」

モブ女1「…『休息要らず』と『2倍の力』…」


モブ女3「前者の『休息要らずの人間』っていうのは、片方が『休む』、もしくは『睡眠する』間にもう片方が『活動』する、それを『サイクル』させることによって傍から見たら『休息要らずの人間』の完成するっていうわけ。まあ、これはいかに2つの人格同士が上手くスイッチできるかってところが鍵になるんだけど。」

モブ女1「なるほど。それで『不眠不休の休息要らずの人間』っていうわけね。」

モブ女3「そして後者の『他人よりも2倍近くの能力を常に出す事が出来る人間』っていうのは前者とは違って一緒に『活動』し、お互いの意識を集中させることによって本来は10%しか出せない力を20%…つまり2倍まで出せるということ。まあ、でもいくらなんでも2つの人格の意識を完全に集中させるのは正直難しいだろうから最高でも1.75倍くらいまでだろうけど、それでも十分でしょ?」

モブ女1「ふふ、十分ね。」

モブ女3「そして、そういった進化した人間を生み出すためには、自分の人格とは『正反対の性格』を持った『人格』が必要になるの。」

モブ女1「…で、そこで目をつけたのが『鏡の世界の住人の人格』…っていうことね。」

モブ女3「そういうこと。」

モブ女1「今、モブ女3は、そういった人間を生み出すためには自分の性格とは『正反対』の人格が必要って言ってたけど、それって『裏の世界』というか『偶数世界』の住人のこと?」

モブ女3「ええ。」


モブ女1「でも、何で『偶数世界』じゃないとだめなの? 『奇数世界』の住人の方が自分の人格と近いから、『意識のスイッチ』とか『意識の集中』をしやすいと思うんだけど。」

モブ女3「その通りだわ。…ただ、それだと問題があるの。」

モブ女1「問題?」

モブ女3「ええ。…それは『自身とほぼ同じ人格が混在することによって混乱する』ことよ。」

モブ女1「混乱?」

モブ女3「もしも全く同じ人格が1つの脳に在った場合、『今どっちが考えているのか』、『今どっちが体を動かしているのか』、そして『そもそもどっちか自分だったのか』ということが『あまりにも似すぎて』分からなくなってしまい混乱してしまう恐れがあるの。」

モブ女1「…なるほど。」

モブ女3「そして最悪、二つの人格が1つに『同化』してしまうことも考えられる。また、似たもの同士を一つに混在させることによってそれぞれの人格や肉体にストレスを与えてしまうこともね。だから自分の人格とは『逆』の人格の方がいいのよ。『表』と『裏』のように真逆の人格を混在させれば、自分自身がどっちなのかという区別は容易いし、同化することも前者と比べたら少ないだろうしね。」

モブ女1「だから『偶数世界』の住人の人格の方がいいのね。」

モブ女3「ええ。『n極』と『s極』が存在するから地球の『地磁気』が安定し成り立つように、『富裕層』と『貧民層』がいるからこそ『経済』が安定し成り立つように、『強者』と『弱者』がいるからこそ『社会』が安定し成り立つように…全ては『両極』のモノがあるからこそ『安定』するのよ。そして『mirror rim』もそれらと同じで、『表』と『裏』の人格を一緒に存在させることによって『脳』は安定するの。そもそも、『mirror rim』っていう名称自体も、『正しい方向』から読んでも、『反対の方向』からも読んでもその『意味』が成り立つ、そんな『正反対』で『両極』の要素を持つ、最高にピッタリな名前なのよ。」


モブ女1「なるほどね…でも、そうやって人間を進化させることで、一体私達にはどんなメリットがあるのよ?」

モブ女3「それは、私達自身がそういった人間になれるのはもちろんのこと、そのやり方のサクセスケースを増やし、『mirror rim』をマニュアル化出来れば、それを欲しがる人が必ず現れるわ。」

モブ女1「…それを欲しがる人って誰よ?」

モブ女3「決まってるじゃない。『軍』よ、『軍』。」

モブ女1「…軍!?」

モブ女3「最近の軍もハイテク化が進んでるけど、『不眠不休でも大丈夫な人間』や『火事場の馬鹿力を出せる人間』を欲しがらないわけ無いでしょ。」

モブ女1「なるほどね…」

モブ女3「他には例えば、『スポーツ選手』等も手を欲しがるでしょうね。自身の脳の使用率が2倍になることで、スポーツでいい記録を残せたりするだろうし。しかも、たとえその『力』を怪しまれ検査されたところでドーピングとは違って何も証拠が残らない。脳を検査されたとしても検査時に片方の人格が『休み』に入ればバレることもないしね。」

モブ女3「すごいわねそれ…」

モブ女3「でしょ? まあ、私達がこれからしようとしている『mirror rim』ってのはそういうこと。…どう、思い出してくれた?」


モブ女1「うん。だいたいわね。でもさ…そもそも『偶数世界』の住人は『主』になれないってルールがあるじゃない?…あ、ていうか今年はその『偶数世界の住人の人格をいかに表の世界に持ってくるか』ってことを実験してたんじゃないの?」

モブ女3・2「…!?」

モブ女3「…ええ、そうね。」

モブ女2「…。」

モブ女1「…あれ? もしかしてその感じだと…」



モブ女1「上手くいかなかった感じ…?」

モブ女3「…ええ。認めたくないけど、正直その通りよ。」

モブ女2「…。」

モブ女3「この4年間で私は物理光学と生体工学の方面から、いかに『偶数世界の住人の人格』を表の持って来させられるかということを色々と調べていたわ。そしてモブ女2は史学と考古学から過去にそういった『事例』が無かったか調べてもらって、その調査で集めた資料を元に交代で鏡の世界を行き来し、色々試したんだけど…」

モブ女2「…。」


モブ女1「上手くいかなかった…と?」

モブ女3「…ええ。」

モブ女1「そっか…まあ、やっぱり鏡の世界のルールの壁は厚かったということね。…うん、仕方ない仕方ない!」

モブ女2「…仕方なくなんかない…。」

モブ女1「…?」

モブ女2「…本当は成功していたはずなの…でも…」

モブ女3「……。」

モブ女1「…でも?」

モブ女2「…モブ女3ちゃんが計画よりも早く入れ替わりを起こしちゃったから、最期まで実験が出来なかったの…。」

モブ女3「…。」

モブ女1「…? 『予定よりも早く入れ替わりをした』って、さっき言ってた男くんや女ちゃんのを助けるためにモブ女3が表の世界に戻ってきた時のこと?」(>>603)

モブ女2「…うん。あれのせいで実験のスケジュールが完全に狂ったの。しかも、モブ女ちゃん3はその後もずっと女ちゃんと男くんのことばっか気にかけるようになって『こっち』が疎かになっていた。しかも、その結果、女ちゃんを助けられたのはまあいいとして、裏々男をこっちに連れてきちゃったのは完全にモブ女3ちゃんの『ミス』だよね。」

モブ女3「…。」


モブ女1「…!? ちょ、ちょっとモブ女2、何そんな怒ってるのよ。」

モブ女2「…別に怒ってなんかいないよ。」

モブ女1「…そう? 私には怒っているようにしか見えないけど… というか、何で『あんた』がそんなにその実験に固執してるのよ。そもそも、あんたらのそれぞれの目的は何なの? まさか『金』とか言うんじゃないわよね?」

モブ女3「ええ、もちろん。まあ、『お金』は目的ではないって言っても嘘になるわ。でも『お金』はあくまで副産物的なもんよ。それよりも私はもっと『色々』なことが知りたいの。そしてもっともっと興味関心を駆り立てられるようなことに突っ込んでいきたい。で、今現在、私が『突っ込んでみたい』と思っていることが『mirror rim』なだけ。」

モブ女1「…うん。予想通りというか、ほんとモブ女3らしい目的ね。…で、モブ女2は? あんたこそ『金』なんて言う筈が無いわよね? だってもう既にお金は腐る程もっているんだし。」

モブ女2「…私も最初はモブ女3ちゃんみたいに『興味』があったから取り組んでいたの。でも…」

モブ女1「…でも?」


モブ女2「ある日、思いついちゃったのよ、『凄い事』を。」

モブ女1「凄い事…?」

モブ女2「…私が『mirror rim』によって実現したいこと、それは…」













モブ女2「…『女兄くんの人格と私の人格を一体化させること』なの。」

モブ女1「…は? 今、何て言った?」


モブ女2「も~、だから、女兄くんの脳の中に私自身の人格を入れて、女兄くんと本当の意味で『一体化』したいの。それが私が『mirror rim』を取り組んでいる理由よ。」

モブ女1「…ごめん、あんたの言ってることさっぱり分かんないんですけど…モブ女3は知ってたの、そのこと?」

モブ女3「…一応ね。」

モブ女1「え…じゃあ、この子本気で言ってるの?」

モブ女3「みたいよ。」

モブ女1「あ~、やっぱり? …って、いやいやちょっと待ってよ!さっき話してた『mirror rim』ってのはそれぞれが『同じ肉体』を持っている正反対の2つの人格を1つまとめるって話だったでしょ!? でも、あんたと女兄くんは『肉体』が違うじゃない!」

モブ女2「そうだね。正直『dna』の壁はあるかもしれないけど、でも要は『女兄くんの性格』と『私の性格』が『正反対』であれば可能性はなきにしもあらずでしょ?」

モブ女1「…!? そりゃ言ってることは分からなくはないけど…でも女兄くんの正反対の性格にあんたがなれるわけないじゃない!?」


モブ女2「…ふふ。モブ女1ちゃん、今日の女兄くんと喋ってたよね?今日の女兄くん、以前に比べて『暗く』なかった?」

モブ女1「…!? …そういえば、確かに。」

モブ女2「一方で私の性格は昔よりも『明るく』なったと思わない?」

モブ女1「…!? それも言われてみれば…あんた以前はもっと暗かったもんね。…でも、そうだとしても…」

モブ女2「…それでね、実は私、モブ女1ちゃんに『言ってなかった事』があるの。」

モブ女1「…『言ってなかった事』?」

モブ女2「実は私…」










モブ女2「…この4年間、ずっと『裏の世界』にいたの。」


モブ女1「…は? …え、何それ? 何の冗談?」

モブ女3「…。」

モブ女2「冗談なんかじゃないよ。本当に私、この4年間は『裏の世界』で過ごしていたのよ。」

モブ女1「…あんた、それ『マジ』で言ってるの?」

モブ女2「うん、『大マジ』だよ。」

モブ女1「…モブ女3は知ってたの?」

モブ女3「…私も2ヶ月前に知ったわ。」

モブ女1「そうなんだ…でも、確かに4年前の『最期の2週間』は誰も入れ替わりをしなかったはずじゃ…」

モブ女2「…ごめんね。実はこっそりと『最期の2週間』の間に合わせ鏡での入れ替わりと特権での入れ替わりで裏の世界に行ってたの。もちろん、『裏々の私』に強力してもらってね。」

モブ女1「…!? じゃあ、この4年間、私達がモブ女2だと思っていたのは…裏々のモブ女2だったっていうこと?」

モブ女2「そういうことだね。」

モブ女1「…でも、何でそんなことを!?」

モブ女2「それはもちろん自分のこの性格を『裏の女兄くん』の性格に限りなく『近付けるため』よ。私自身が『裏の世界』に行けばそれが効率的に行えると思ってね。」

モブ女1「…!?」

モブ女3「…。」


モブ女2「4年前の『最期の2週間』の前にはもう既に『mirror rim』の構想は固まっていたでしょ?だから、私もうその時から思い切って『裏の世界』に行って、で、あっちで『裏の女兄くん』を監視し、その情報を元に自分の性格を矯正しようと考えてたの。」

モブ女1「…『裏の女兄くん』を監視?」

モブ女3「…。」

モブ女2「ええ。まあ、女兄くんは大学1回生の途中から神戸に行っちゃったんだけど、『監視』は継続してたの。もちろん、それは『裏々の私』にやってもらってたんだけどね。でも、『裏々の私』が『表の女兄くん』を監視していれば、それに連動して『裏の世界』にいる私も『裏の世界』で『裏の女兄くん』を監視出来たってわけ。でも、裏の世界に行ってから『ある問題』が発生したの。」

モブ女1「…問題?」

モブ女2「思ってた以上に『裏の女兄くんの性格』と『私の性格』が離れていたの。だから、『表の女兄くん自身の性格』も『矯正』する必要があったの。」

モブ女1「…!? …『矯正』ってあんた何したのよ…?」

モブ女2「そんなたいしたことはしてないよ? ただ、女兄くんに群がってきた『糞ビッチ』どもを『駆除』して、ちょっと表の女兄くんにネガティブになってもらっただけ。まあ、もちろんそれは『裏々の私』に『駆除』してもらったんだけどね。」

モブ女1「…だから女兄くん、あんなに『暗く』なっていたのね。」

モブ女2「まあ、正直私はああした方が女兄くんにとって絶対に幸せだと思ったんだけどね。でも、その代わりにちゃんとご褒美もあげたんだよ? 『優良成績』と『一流企業の内定』っていうご褒美をね。」(>>581)

モブ女1「…あんた、知らない間に学校や企業にまで『圧力』かけてたの?」

モブ女2「『圧力』なんかじゃないよ~、ただ『援助』してあげただけ。」

モブ女1・3「…。」


モブ女2「まあ、話が脱線しちゃったけどね、私は本当に女兄くんと1つになりたい。それも『付き合う』だとか『結婚』とかそんな『しょうもないカタチ』で1つになりたいんじゃなくて、『本当の意味』での『1つ』に私と女兄くんはなるべきだと思うの。それにね、私が女兄くんと1つになれれば、『内側』から監視出来るし、女兄君に変な虫が群がらないように見守ってあげられるんだよ?」

モブ女1「…………はぁ。」

モブ女1「…相変わらず『狂ってる』わね、あんた。私達じゃなかったらどん引きよ。いや、私達でも正直引くわ、それ。 ねえ?」

モブ女3「…そうね。」

モブ女2「うん、私もちゃんと自覚してるよ、それくらい。だから、この話は2人以外には誰にもしてないの。」

モブ女1「…てか、あんた女兄くんの一体何にそんな惹かれてるのよ?」

モブ女2「それを話しだしたらすごい時間がかかるけどいいの…?」

モブ女1「…!? …う~ん、そんじゃ、それはまた今度ゆっくり聞こう…かな?」

モブ女2「ふふ、それが正解だと思うよ。」

モブ女1「…てか、あんた女兄くんと『1つ』になるってことはどっちかがどっちかの肉体に入らないといけないわけでしょ? どうするのよそれ?」

モブ女2「それはもちろん私の人格を女兄くんの脳に入れるつもりよ。」

モブ女1「…じゃあ、あんたの『肉体』はどうするのよ?」

モブ女2「そんなの鏡の世界の誰かにあげるわよ。」

モブ女1「…!? いいの?それで?」

モブ女2「うん。」


モブ女1「…あんた、そうとう『本気』なのね。」

モブ女2「…!? …当たり前だよ。何たって、そのためにこの『4年間』、暗くて自由の利かない『裏の世界』で過ごしたんだから。」

モブ女1・3「…。」

モブ女2「…私、今年に本当に賭けてたんだから。」

モブ女2「なのに…」







モブ女2「なのに…モブ女3ちゃんのせいで…」



モブ女3「…。」


モブ女1「…!? こ、こらこら、またそんなふうに怒って~…」

モブ女2「…元はと言えば、モブ女3ちゃんが、半年前に男くんにあの鏡の世界のルールの紙を見られさえしなければこんなことにならなかったんじゃないの。」

モブ女3「…。」

モブ女2「そんなポカさえなければ、1001号室の鏡もバレることはなかったし、それに『実験』もスケジュール通り最期まで出来ていたはずなのに。」

モブ女3「…モブ女2、本当にごめんね。」

モブ女1「ほ、ほら~、モブ女3もこうやって謝ってるんだし、許してあげなよ!それにそもそもその『実験』が成功していたとは限らないでしょ!?『偶数の世界』の住人の人格は表の世界に持ってこれないっていうルールの壁は相当高いわけだし!」

モブ女2「…それは…そうなんだけどね…」

モブ女1「でしょ~!? それにモブ女3だってちゃんと謝ったことだし!モブ女3!もう一回くらい謝っときなさい!」

モブ女3「そうね…、モブ女2、本当にゴメンね…」

モブ女2「…確かに私もちょっと言い過ぎたかも…。でも、モブ女3ちゃん、本当に申し訳ないって思ってる?」

モブ女3「もちろん。」


モブ女2「…それじゃあ…許してあげる」ニコッ

モブ女3「ありがとう、モブ女2。」ニコッ

モブ女1「オッケーイ!!これで仲直りね2人とも!!良かったわねモブ女3!」

モブ女3「ええ。」





















モブ女3(………な~んて、『申し訳ない』とか思ってるわけないでしょ? この…『雌豚』が。)


モブ女3(………『女兄くんと1つになりたい~』? ふざけたこと言ってんじゃないわよこのカス。『狂ってる』にもほどがあるわ。)

モブ女3(…そもそも『半年前に私の下宿で男がルールの紙を見つけるようにした』のも、それによって『裏々男、そして裏々女ちゃんに自我を持たせるようにした』のも、『旧校舎の鏡が魔法鏡だと気付けるようにした』のも、そして『あのマンションの1001号室に誘導した』のも、それで『実験のスケジュールが滞るようにした』のもみ~んな『ワザと』に決まってるでしょ?)

モブ女3(そう…全てはあの2人が協力して鏡の世界の秘密に迫らせることによって、これからの『私の計画』のための『使える駒』へと成長させるための『布石』…)

モブ女3(…ここまでのプロセスで所々予定とは異なったことがいくつかあったけど、それでも、もともと決めていた獲得目標である『2人とも鏡の世界に行かせ、そこでの生活を経験させ、ちゃんと戻って来させること』と『1001号室にまで到達すること』は達成出来たから十分満足しているわ。)

モブ女3(…いかに、私があの子達を誘導していることをモブ女2に気付かれないようにするかが鍵だったけど今のところ順調ね。まあ、女ちゃんたちに一方的にヒントを与え続けていたらヤバかったかもしれないけど、ちゃんとモブ女1を使ってちゃんと『足止め』してみせたり、鏡の世界に関わるなっていう『無意味』なルールを約束させることでうまくカモフラージュできたしね。)

モブ女3(…まあ、あの『足止め』ももともとあの2人が管理人がいない時間帯にエレベーターに乗り込めるようにっていう『意図』もあったんだけど、おめでたいことにこの『馬鹿』はその『意図』には全く気付いてないし。)(>>493)

モブ女3(…それに鏡の世界に関わるなってルールも、それを破ったら何かペナルティがあるよっていうわけでもなかったから、予想通りあの2人は破ってくれたわ。そもそも、私はルールや約束の中でしか動けない人間が『大嫌い』だからね。ルールや約束を破ってでも『やらなければならないことがある』と考えた時、それを実行に移せる『駒』が私は欲しいの。)

モブ女3(…今回、そういった意味では…というか『嬉しい誤算』として挙げられるのが、『女ちゃんの予想以上の成長』ね。まさか、あの子にあんな爆発的な『強さ』と『行動力』、そしてあの『気付ける力』があるなんてね。あの子、これからも私の『誘導の仕方』次第でもっと成長する筈よ。)

モブ女3(…まあ、男も『私の弟』なだけあって『知識量』や『分析力』、『危機察知』には長けているけど、どうも他がいまイチなのよね。だから、正直、男よりも女ちゃんに今後期待しているわ。それに、女ちゃんは他の誰もが持っていない最高の『利用価値』を持っているしね…)

モブ女3(…『女兄くんの妹』という『血縁関係』をね。)


モブ女3(…さっき盗聴アプリに残っていた録音を聞く限りじゃ、女ちゃんは私を疑っているみたいだったし、今後も接触を計って来るでしょう。まあ、しばらくは会えないだろうけど。というか男のやつ、携帯のパスワードのヒントに気付くのが遅すぎるのよ。しかも、そのパスワードの『意図』を勘違いしちゃってるし。まあ仕方ないか…あ、さっきの録音をモブ女2に聞かれる前にとっとと消しておかないとね。バレたら色々とヤバいし。)

モブ女3(…とまあ、女ちゃんを初めとする最高の『利用価値』を持った駒をいくつか用意した上で、私はこれから『復讐』を決行する。)

モブ女3(…そう、全ては4年前の『復讐』のため。結ばれるはずだった私と女兄くんの仲を引き裂いたこの雌豚へのね…『あんた』というとんでもない存在が女兄くんのことを好きになっていなければ今頃私達は…)

モブ女3(…もちろん、あんたに『女兄くんとの一体化』なんてさせないわ。むしろ、あんたが二度と女兄くんと関われないように、鏡の世界の『はるか奥底』に閉じ込めてやるんだから覚悟しておきなさいよ。)

モブ女3(ふふふふふ…。 ……ん?)


モブ女1「…。」ジーッ


モブ女3「…!?」


モブ女3「…な、なに?」


モブ女1「…。」







モブ女1「……………………んふっ♪ べっつに~♪」



モブ女3「…!?」



モブ女2「ん? どうしたの?」

モブ女1「別に何にもないよ、ね~、モブ女3?」ニコッ

モブ女3「…。」

モブ女2「…?」


モブ女1「いや~それにしても何と言うか……くくくっ…」

モブ女2・3「…?」



モブ女1「くくくくくく…あははははは!」

モブ女2「…ど、どうしたのモブ女1ちゃん? 急に笑い出して…?」

モブ女1「くくくくく…い、いやね…あなた達、思ってた通り面白いな~って思って。」

モブ女3(…!? …『あなた』達? …『思ってた通り』…?)

モブ女2「…? 私達、そんな面白いこと言ったっけ?」

モブ女1「いや、面白いっていうか、『刺激されっぱなし』なの、さっきから。」

モブ女2「…?」

モブ女3(…やっぱり『おかしい』わよ、今日のこの子。急に笑い出したり、色々忘れてたり…そもそも、いくらなんでも『忘れすぎて』いる。まるで脳内の記憶が欠…ら…k…)

モブ女3(…!? …まさか…いやでも、そんなことが…?)

モブ女3(…でも、待って…。さっきの『冷徹な笑い方』…どこかで…)

モブ女3(…!? …い、いや、でもやっぱり『それ』はありえないわ。だって、『さっき』までは間違いなくこの子は…)


モブ女1「…くく。さすが、モブ女3ね。このたった10秒間でもうかなり『いいところ』まで気付いてるみたいね。」

モブ女3(…!? …『こいつ』…。)

モブ女2「ど、どういうこと?」

モブ女1「ふふ、心配しないでいいわよモブ女2。今からちゃんと『それ』についての説明をあなた達にとっての最高の『刺激』として提供してあげるから。」

モブ女3「…『刺激』?」

モブ女1「ええ。『私』ね、さっきから本当に2人には刺激されっぱなしなの。だから、そのお返しとして、今度は私からあなた達に『刺激』をあげようと思って。私が『南米』のとある国で遭遇した『ある現象』の話をね。」

モブ女3「南米…」

モブ女2「…ん? 南米って明日からの私達の海外旅行先なんじゃ…」

モブ女1「ええ。だから、今日あんた達にこれを話す必要があるの。それに夕方も言ったでしょ?私も今日2人に話す事があるって。」(>>591)

モブ女2「そういえば…」

モブ女3「…。」

モブ女1「そして、これからはこの『私』があなた達を『次のステージ』へと導いてあげる。」

モブ女3「次の…」

モブ女2「…ステージ?」


モブ女1「ふふ…」





モブ女1「ねぇ…」



















モブ女1「くぐらせ鏡って知ってる?」

----―――――――――――――――――――【結】―


―【鏡の世界でのルール(no.1)】―――――――――----

● 体について
① 体の自由はほとんど効かない。表の世界にいる『主』が絶対的な存在であり、その『主』の行動が鏡の世界の住人にも反映される。(>>57)
② 表の世界で『行動権』を持つ者を『主』、表の世界で生まれ育った者を『オリジナル』という。(>>81)
③ 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感は働く。(>>93)
④ 鏡の世界では『考えること』と『喋ること』が出来る。(>>58)
⑤ 鏡やガラスといった光を反射させるもの(反射物)に表の世界の『主』が映っている場合は鏡の世界の住人は『喋ること』が出来なくなる。『考えること』は可。(>>59)
⑥ 『主』が反射物に映っている時は『主』の『喋る』内容が鏡の住人にも反映される。(>>59)
⑦ 飲食時は反射物に映っていない時でも、表の世界の『主』の口の動きと同化する。(>>93)
⑧ 反射物に、自分の像が映し出されるその5秒前に、脳に合図が走り、『喋ること』ができなくなる。ただし、これは自我を持った人間のみに起きる現象である。(>>60)

● 自我について
① 鏡の世界の人間が自我を持つためには、鏡の世界の人間自身が『鏡の世界の人間』だと自覚する必要がある。(>>76)
② 自我を持つことによって鏡の世界の住人は『考えること』と『喋ること』が出来るようになる。(>>76)
③ 自我を持った鏡の住人は、反射物に自身の姿が映る度に表の世界の『主』の記憶が共有されるようになる。ただし、オリジナルには共有されない。(>>161)
④ 鏡の世界の住人が自我を持つためには『他に自我を持った人間から鏡の世界についてを教えてもらう』もしくは『表の世界のオリジナルが鏡の世界のことの存在を知る』必要がある。(>>80)

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―【鏡の世界でのルール(no.2)】――――――――----

● 鏡の世界の特徴について
① 鏡の世界は半永久的に存在する。(>>53)
② 鏡の世界は、裏の世界、裏々の世界、裏々々の世界と、表の世界から遠ざかっていくにつれて、明度が小さくなっていく。(>>54)
③ 表の世界を『1』として、裏々、裏々々々といった奇数番目の世界は、『奇数世界』と定義される。(>>159)
④ 裏の世界を『2』として、裏々々、裏々々々々といった偶数番目の世界は、『偶数世界』と定義され、これらの世界では、全てのモノが反転している。(>>159)
⑤ 偶数世界では、ほとんどの者が自我を持っており、その『性格』はオリジナルのものとは反転したものになっている。(>>159)
⑥ 偶数世界の鏡の住人が『主』になることは出来ない。(>>227)

● 入れ替わりについて
① オリジナルが表の世界以外にいる場合、反射物に対して念じれば、表の世界に近い層へと移動できる。(『特権』による入れ替わり)(>>124)
② 2枚での合わせ鏡の状態を創り出した時、表の世界と裏々の世界の人間が入れ替わりを起こすことが出来る。(合わせ鏡による入れ替わり)(>>48)
③ 入れ替わるのは、あくまで『意識』のみであり、肉体はそのままである。(>>49)
④ 入れ替わる時に、一瞬だがお互いにコミュニケーションが取れる。(>>218)
⑤ 入れ替わりは連続して行うことが出来ず、1週間のブランクを必要とする。(>>96)
⑥ 入れ替わりにはどちらかにその『意志』があることが必要となる。(>>51)
⑦ 入れ替わりは閏年の一時期に行える。(2012年は3月21日まで)(>>50)

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―【鏡の世界でのルール(no.3)】―――――――――――----

⑧ 合わせ鏡による入れ替わりには魔法鏡が必要になる。(>>469) ←new!!
⑨ さらに、合わせ鏡による入れ替わりの場合、この魔法鏡が『2枚目』に位置しなければならない。(>>426) ←new!!
⑩ 入れ替わる際は入れ替わる相手と『目を合わせる』ことが必要となる。(>>426) ←new!!
⑪ 魔法鏡と『特権』を組み合わせて、表の世界から逆方向の世界へと移動することも可能。(>>191) ←new!!

◆ 入れ替わりの時期に関する情報
① 入れ替わりの出来る時期は『旧暦』での『1月1日』から『2月29日』までであり、その時期に入れ替わりが行える。(>>611) ←new!!
② この場合での『旧暦』は『天保暦』のことである。(>>611) ←new!!
③ 『天保暦』が入れ替わりの時期の繋がりは『暦としての完成度の高さ』、『日本人が作成した最期の暦』であること、そして『渋川景佑と伊能忠敬の関係』によって成り立っている。(>>614) ←new!!
④ 『旧暦』の『天保暦』は渋川景佑によって作成されたものである。そしてこの渋川景佑は伊能忠敬と共に本地図測量調査団として第6次調査(四国調査)にも参加した。(>>617) ←new!!

in order to realize the m-rim ...
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ここまで読んでくれた人お疲れ様。
そして本当にありがとう。

have a happy new year !!
今年もよろしくお願いします。

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