ジャンル……男女間の認識の差を考えるクール僕ッ娘ラブコメ
5千字程度
なるべく地の文を排除してます。SS的記号、効果音等の表現はありません。
ここで登場する統計、仮説、理論等は、実際にあるものもありますが、筆者が適当に書いてます。
女「だから君も僕の体がほしいのかい? って聞いたんだ」
男「……」
男(聞き間違いではなかったか)
男(それにしても体がほしいのか? っだって!)
男(ほしいに決まってるじゃないですか!)
男(そのおっぱいを揉ましてほしい!)
男「……」
俺は思わず彼女の胸を無言で眺めた。
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男(いかん、いかん)
男(彼女の自分の性別が女であることを忘れているような言動に驚くことは多いけど、今回もまた驚かされる)
男(何を思っての発言かは今の段階では掴めないから、ここは慎重にこちらも返答を選ぶ必要がある)
男(俺のような男には尚更だ。俺はイケメンとか男前の範疇に入る男ではない)
男(俺をそのように呼ぶのは、田舎の婆ちゃんと食堂のオバちゃんくらいだ)
男(イケメンが『髪型変えた? 可愛いね』と発言するのは問題ないが、キモメンが同様の発言をしたら、セクハラ案件である)
男(前者は『女の子の変化をしっかり見てくれる。すてき』となるが、後者は『ジロジロ見てんじゃねーよ。きもい』となる)
男(ここは慎重に質問の意図を探るべきだ)
男「私がその質問に答える前に、何でそんなことを急に言い出したんですか?」
女「僕が読んだ本に書いてあったんだ」
女「統計をとると、男性は女性の体に執着する傾向にあり、女性は男性の心に執着する傾向があることがわかっているんだってさ」
女「それで君はどうなのかな?って思ってね」
彼女は新しいおもちゃを見つけた子供のように笑った。
男「……」
男(危なかった)
男(いつもの悪い癖で相手がどう思うか考えずに、本音をぶちまけないで本当によかった)
男(つまりはいつもの好奇心からくる発言で、俺を特別に異性として意識しての発言ではないということか)
男(なら彼女の好奇心を満たす返答がベターかな)
男(それにしても男は体に執着するなんて統計結果を見ても特に思う所はなさそうだ)
男(一般的の女性なら、『やっぱり男は体目当てなのね!』と怒りそうだけど)
男(そんな短絡的な思考の持ち主ではない。こういうところが素敵だ)
彼女の魅力を再確認して満足し、彼女の意図をより深く探る質問をする。
男「それでその本にはどうしてそのような結果になるのか書いてありましたか?」
女「仮説だけど、単純に生物としてのオスとメスの体の構造と役割の問題なんだって」
女「あるつがいの男女を例にすると」
女「どんなに女が心のなかでつがいの男を好いていても、もしも淫奔な女だったなら」
男「インポンな女?」
聞きなれない単語に思わずオウム返しになる。
女「文字通りに淫らなことに対して奔放なことだよ。性関係にだらしのないことで、貞淑の対義語だよ」
女「それで淫奔な女で、あちこちで別の男と行為を行っていたとしたら」
女「それはつがいの男、いやオスにとっては非常に好ましくない状況なる」
女「もし妊娠でもしたら、その間は自分の子孫を残すことができないし、最悪、他人の子を育てることになるからね」
女「だからなによりも男は女の体に執着するんだってさ」
女「自分の子孫を残すという命題に沿って考えれば心に執着するより、体に執着するほうが合理的だから」
男「そうなんですか」
俺はあることを連想する。
男「そういえば、昔、私の母が見てたドロドロの昼ドラもその仮説と一致するようなシーンがありましたよ」
女「へぇ、どんなシーンなのかな」
男「女性の浮気がバレて、修羅場なシーンなんですけど」
男「本命の男性に対しての浮気の弁解で、こんなことを言って火に油を注ぐんです。」
男「『違うの! 一番好きなのはあなただけなの!』って」
男「女の体に執着する男にとって、他の男と肉体関係にあるだけでとんでもない裏切りなのに、そんなことを言われてもですね」
女「なるほどね」
彼女は創作物とはいえ、仮説を裏付けるような話を聞いて満足そうだった。
女「心に執着する女にとって一番好きな男性が誰なのかは重要だけど」
女「体に執着する男には重要ではない」
女「恋愛要素を含む創作物にはありがちなシーンだけど、男女の認識の差がよく表れているね」
女「逆に男の浮気がバレたときは『愛しているのはおまえだけ』とでも言うのが効果的なのかもね」
彼女はそんな軽口を叩く。
男「その通りなのかもしれないですね」
俺は肯定するような相槌を少しだけヘラヘラしながら打つ。
女「もっとも」
男「?」
女「僕は絶対に、許さないけどね」
男「」
彼女は満足そうな顔から一変して、冷たい表情で吐き捨てた。
男「……」
女「……」
男(俺は彼女と二人なら、会話の中の、無言の時間も嫌いじゃない)
男(でも)
男「……」
女「……」
男(怖い、怖いよ)
俺は賢くて美人でスタイルの良い彼女に男の影が見えない理由の一端を知った。
彼女は冷たい表情から戻り、何事もなかったかのように話を続ける。
女「ついでに男性が女性の心に執着しない理由を、さらにいえば」
女「仮に女性がどんなに貞淑な女性であったとしても」
女「内心その女性に、死ぬほど嫌われていたとしても」
女「男性が無理やりにでも、力づくでも行為を迫れば」
女「自分の子孫を残すという命題は達成できるからね」
彼女は特に気分を害した様子もなく、またも返答に困るような言葉を発した。
男「……」
女「……」
男(俺は、いや、男は確かに好きな女性と無理やりにでも行為をしたい)
男(そういう欲求を確かに持ってる)
男(でもそれは誰かや、何かを傷つけてまで求めるようなものじゃない)
男(それに女性を、なにより彼女を傷つけるような行為だけは、絶対にしたくない)
俺は何とか返答をしようとする。
男「……でも、……それは……」
女「そうだよ」
女「現代の人間社会の在り方として、法的にも倫理的にも決して許されることではない」
女「でも法律も倫理も人間がいるから存在する」
女「法律と倫理が先に存在して、その後に人間が生まれた、わけではないよね」
女「だから僕は男性が女性に、無理やりにでも行為をしたいという欲求をもっていること事態は許容するよ」
女「もちろん性犯罪を許容するわけではないし、そういう行為を実際に行う男性は唾棄すべき存在だよ」
女「思うだけなら許すけど、行動に移すのはだめだ」
男「……」
女「……」
男「私も女性を自分の欲望のために、傷つけるような行為を行う男は軽蔑します」
女「そうか」
男「そうです」
男「……」
女「……」
男(……ああ……)
男(俺の好きな無言の時間だ)
男(もちろん彼女の話を聞くのも好きだけど)
男(できれば彼女にとっても、この時間が苦痛じゃないと良いんだけど)
女「さて共通の見解を得られたところで」
男「?」
彼女は新しいイタズラを考えついた子供のような顔で笑う。
女「自分の欲望のために傷つけるような行為とは、具体的にはどのような行為までを指すのかな?」
男「どのような行為って、例えばセクハラ発言とかですか?」
男(『おっぱいは何カップ?』とかか?)
男(すっごく聞いてみたいけど、絶対に聞けない)
俺は彼女の質問の要領を得ず、思いついたことをそのまま発言する。
女「それもあるけど、例えば」
女「……で……っぱいを眺めるのは?」
男「え? 何て言ったのですか?」
いつも淡々と話す彼女にしては、俯いて妙に歯切れの悪い言い方だった。
女「……っチな……しせんで、……っぱいを眺めるのは?」
今度も消え入りそうな声だった。
男「ごめんなさい。もう一度お願いします」
女「くっ」
男「?」
顔を挙げた彼女は今まで見たことがないような顔をしている。苦虫を噛みつぶしたような顔だ。
そしてまた俯いてしまう。
女「だから!」
突然、彼女は顔を挙げ、声を張り上げる。
女「エ、エッチな視線でおっぱいを眺めるのは、女性を傷つける行為には、入らないのかな!?」
彼女はなんだか、いっぱいいっぱいになりながら、今度こそ聞こえる声で言葉を発した。
男「!?!?!?!」
男(バァ、バレてたぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!!!!)
男(終わった!? 嫌われた!?)
男(どどど、どうしよう!?)
男(あああ、謝らないと)
俺は溜まらず、頭を下げる。
男「……ごめんなさい」
俺は顔を挙げて、言い訳めいたことを呟く。彼女の顔は俯いてしまっていて良く見えない。
男「……俺は、……その無意識で見てしまっていて……その……君を傷つけるつもりは……」
男(いや)
男(これじゃ彼女が嫌っていた自分の欲望のために女性を傷つける唾棄すべき人間そのものじゃないか)
男(もっとしっかり謝らないと)
男「いや、ごめん。もう軽蔑されてるだろうけど、俺が君を傷つけたことに変わりはない」
男「君がもう俺と話したくないなら、話しかけないようにする」
男「俺が視界に入るのが嫌だというなら、もう君に近づかないようにする」
男「俺にできることならなんでもする」
男「本当にすまなかった」
俺はもう一度深く頭を下げる。
男「……」
女「……」
男「……」
女「……」
男(彼女との無言の時間は、例外はあったけど、好きだった)
男(それがこんなに辛い時間になるなんて)
男「……」
女「……」
女「……『俺』って言った」
男「……へっ?」
彼女の予想外の返答に思わず変な声がでた。
顔を挙げるといつもの淡々とした表情の彼女だった。
女「ずっと気になってた」
女「君は男友達と話すときは、『俺』って自分を呼ぶのに」
女「僕や女性、目上の方と話すときは自分を『私』って呼ぶよね」
女「僕は女なのに、自分のことを『僕』って呼ぶ変な奴だから、余計に気になった」
女「目上の方に対して、『私』を使うのは敬語の表現だから良いけど」
女「僕にたいして使うのは、距離を取られているみたいで嫌だった」
男(なんだ? 傷ついて怒ってるんじゃないのか?)
彼女は続ける。
女「それに僕と話すとき、すごく言葉を選んでいる気がする」
男(それもバレてる)
女「でもそれって、君の優しさだよね」
男「……」
女「僕に対して敬語で話すのは、失礼がないように」
女「僕と話すときに言葉を選んでるのは、僕を傷つけないようにするためでしょ」
女「だから君の優しさに免じて、許してあげる」
男「許して……くれるんですか?」
女「だって僕がいったんだよ」
女「『君も僕の体がほしいのかい?』って」
女「それで僕の体をまったく意識しないのは、なんか腹が立つよね」
女「それにさ、『話しかけないようにする』」
女「『近づかないようにする』ってさ」
女「君から話しかけたり、僕に近づいたことなんてあったかな?」
男「うっ!」
女「それに『なんでもする』っていったよね」
男「ううっ!」
彼女に痛い所を突かれる。
女「なんにしようかな~」
女「どうしようかな~」
彼女は新しいイタズラを考える子供みたいな表情をしている。
女「まずはこれから僕と話すときに、『私』って言うのやめてもらおうかな」
女「女が『僕』で、男が『私』だと、ややこしいし」
女「次に敬語禁止」
女「それと次の休みにショートケーキが有名なお店に付き合ってもらおうかな、あとは――」
男「えぇ、……まだあるんですか?」
女「『まだあるんですか?』っだって」
彼女は怒気の孕んだ声をあげ、不機嫌な顔をする。
男「……」
男「……まだあるのか……」
女「ついでに僕の部屋の模様替えでも、してもらおうかな」
男「もういいよ。俺の体で、できることなら」
男「俺の体を好きにしろ」
女「ええ、君の体はもう僕のものだよ」
彼女は満足そうに笑っている。
女「さあ、話の続きを聞いてもらおうかな」
女「次はどうして女性が男性の心に執着する傾向にあるのか? ってことさ。それは――」
彼女は饒舌に語り出す。
男「……」
男(一時はどうなることかと思ったけど、また彼女の話を聞けるだけでこんなにも嬉しい)
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女「まあ、あくまでも傾向ってだけだからね」
女「僕みたいな欲張りな例外もいる」
男「?」
女「ついでにいうと、僕はイチゴが好きなんだ」
男「??」
女「そして僕はショートケーキのイチゴは、最後にとっておいて食べるんだ」
男「???」
女「ふふふ、分からないかな?」
女「ああ、次の休みが楽しみだよ!」
男「????」
女「そのときに僕の質問の答えも、もらおうかな?」
男「?????」
彼女にとってのイチゴがなんなのか、俺にはまだわからない。
女「君も僕の体がほしいのかい?」男「えっ!?」~私と僕と欲張りショートケーキ~
終わり
読んで頂き本当にありがとうございました。
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