貴音「響は太陽の如く」 (69)


  何時からでしょうか、貴女が泣かなくなったのは

  何時からでしょうか、貴女が此方を振り向かなくなったのは

  何時からでしょうか、貴女が私を必要としなくなったのは

  貴女の残した暖かさに、遠く小さくなるその背中に

  一抹の寂しさを、覚えるようになったのは


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過去作

【響×P】自分は今、プロデューサーに「恋」をしている
【響×P】自分は今、プロデューサーに「恋」をしている - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1389719970/)
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響「さみしいぞ、プロデューサー、」
響「さみしいぞ、プロデューサー、」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1392/13920/1392048558.html)
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3784565

↑の続きだったりします


  貴女は言いました

  私はプロデューサーが好きだ、と

  だから私は、プロデューサーの為に頑張る、と

  私はその言葉を聞き、嬉しく感じたことを覚えています

  私を真っ直ぐに見つめる貴女の目

  其処には、確固たる意志が見えました


  貴女は何時も強がります

  私は完璧だ、私なら何でも出来る、と

  強がりと言うと、少し違うのかもしれません

  貴女は、そう言えるだけの実力を持っていましたから

  しかし貴女自身は、そうは思っていないようでした


  貴女は何時も自分に言い聞かせていました

  舞台袖で、何度も何度も

  私は完璧だ、私は完璧だ、と

  本当はこう、言うべきなのでしょう

   あんなに練習したんだから、完璧だ

   大丈夫、私は完璧だから

  その言葉は虚言というより、願望に近いものでした


  貴女はそう言って、何時も自らを奮い立たせます

  しかし私には貴女が、自ら首を絞めているように思えました

  私は完璧だ、その裏には言葉が隠れていました

   私は完璧でなければならない

   完璧にならなければならない

  さらに、それらの言葉の頭にもう一言

   プロデューサーの為に


  貴女は何時も、言葉通りに仕事をこなしました

  本当は貴女は、冗談半分に聞いて欲しかったのかもしれません

  実際、その言葉を本気にする人は多くありませんでした

  悪い意味ではありません

  皆、貴女が失敗しても構わない、そう思っているのですから

  寧ろ、貴女の失敗を許さない人など、貴女の周りには居ません

  貴女の失敗を許さないのは、


  貴女自身、唯一人でした


  貴女は何時も、周りの期待に応えます

  努力しているのですから、当たり前です

  周りの人は次第に、貴女が期待に応えてくれると認識します

  彼女なら良い仕事をしてくれるだろう、と

  しかし貴女はそうは思いません

  自らに自信が無く、毎回何とか乗り切ったと考えます

  周りの期待は高く、重くなるばかり

  貴女は期待に潰されそうになっていました



  そんな時

  貴女は初めて、仕事で失敗をしました

つづきは夜あげてきます


  撮影での、ほんの些細な失敗

  焦る貴女は更に失敗を繰り返します

  厳しい監督の怒鳴り声

  

  貴女は、まるでこの世の終わりであるかの様な顔をしていました


  その後貰った休憩で、貴女はずっと俯いていました

   やってしまった、やってしまった

  何度も、呟きました

   私は、完璧じゃないといけないのに、

  何度も、何度も、

   完璧じゃないと、完璧じゃないと

  そう一人、呟いていました


  私は貴女に、声をかけました

  失敗など、誰にでもあることだ、と

  気にしているのは、貴女だけなのだ、と

  そう言うと、貴女は私に飛びついてきて、泣きます

  ありがとう、と

  私は頑張る、と


  しかし今回はそうはなりませんでした

  ただ黙って私の言葉を聞き流します

   ああ、私ではもう駄目なのだ

  私は理解しました

  貴女の心の拠り所はもう、私ではないことを


  私は急いで探しました

  貴女を助けられる存在を

  貴女の今の、拠り所を

  私は怒っていました


  貴女の思い人は、何をしているのだ、と


  先程の撮影現場で、談笑している集団がいました

  監督やスタッフに混じり、プロデューサーが笑っていました

  楽しそうに、笑っていました


  気が付くと私は、プロデューサーの頬を叩いていました


  私の仲間が傷ついているのに、なんだ

  私の友達が泣いているのに、なんだ

  私の親友が苦しんでいるのに、なんなんだ、お前は

  私には何もできないのに、貴方には、彼女を救うことが出来るのに

  貴方にしか…できないのに、何故


  何を言ったのかはあまり覚えていません

  ただ、酷く腹立たしく、悲しかったのです


  気がづくと私は、スタッフに取り押さえられていました

  涙が出ていました、汚い言葉も出ていました

  心の内をすべて、吐いていました

  プロデューサーは鼻血を垂らして、こちらを見ていました

  ぽかんと口をあけて、倒れていました


  私は、理解しました

   この人は何も、知らないのだ

   貴女の苦しみも何も、この人は知らないのだ

  なんだか、気が抜けました

  拘束を解いてもらい、プロデューサーを連れてその場を去りました

  貴女の話をするためです


  プロデューサーは、驚いていました

  貴女はよっぽど強がっていたのでしょう

  プロデューサーに弱さを見せたくなかったのでしょう

  彼は言いました

   そんなことを考えていたなんて

   完璧である必要なんてないのに

  彼の表情は驚き、焦り、さらに心配へと変わりました

   すぐに、行かないと

  私も、同意見でした


  扉のしまる音

  数分の静寂

  その後の、泣き声

  私は扉の外で、聞いていました

  安心するとともに、少し、寂しいような気もしました


  出てきた貴女の目は赤く、優しくなっていました

  貴女がようやく肩の荷を下ろせたのかと思うと、ほっとしました

  貴女は一言、私に言いました

  ありがとう、と

  その一言に私は、涙が止まらなくなりました

  その一言に、貴女の安心と

  私との別れの意味も込められている気がしたからです


  私も、プロデューサーに言いました

  ありがとう、と

  私にはできないことを、してくれて

  響のことを、助けてくれて


   響のことを、大切に、してあげてください


  プロデューサーはこくりと、頷きました
  
  私の役目は、ここまでだと、理解しました

  外では雪が、溶けはじめていました


  数週間後、貴女はオーディションを受けました

  ドラマの主役を決める、大事なオーディションです

  そこには貴女と私の他、水瀬伊織も参加していました

  久しぶりに見た貴女の顔は、笑顔でした

  何も考えていないわけではない

  でも、何かを負っているわけでもない

  とても良い、清々しい笑顔でした


  結果として受かったのは、水瀬伊織でした

  貴女はオーディションを落とされました

  しかし貴女は、以前とは違いました

  落ち込むことも、泣き喚くようなこともせず

  ただ、結果を受け止めていました

   私に勝つなんて、さすがは伊織だ

  その言葉は、笑顔は、自信に溢れていました


   貴音も、凄かった

  ふと、貴女と話すのは久方ぶりだと気づきました

  そして、私は理解しました

  貴女に私は、必要なかったことに

  貴女が私を必要としていたのではなく

  私が貴女を必要としていたことに

  私に顔を見せなくなったあの日から、貴女は強くなりました

  心も、体も、精神も

  依存していたのは私だけだっ

「ちょっとまって!」


静まった会場を突然割った声

その声の主は、この会場の主役だった

「自分には貴音が必要ないってどういう事さー!」

ざわめく会場

隣の男が、立ち上がろうとする女性、我那覇響を止める

「貴音のこと、親友だと思ってたのは自分だけだったのか!」


響はステージの上の女性、四条貴音に向かって声を荒げる

「そんなことなら…挨拶なんて、頼まなかったぞ!」

響は半分、泣いていた

「響、待ってください」

そんな響とは対照的に貴音は、落ち着き、笑う

「まだ、続きがあります」

そう一言、響を嗜め、祝辞を続ける

「…だから、」


  だから

  だからこの挨拶の話を持ち掛けられた時

  とても、嬉しかったのです

   貴音、お願いがあるんだ

  貴女は、頬を染めて言いました

   私の結婚式の挨拶をして欲しい

   仲間である、貴音に

   私の親友である

   私の一番の親友である貴音に

   挨拶をお願いしたい

  親友だと思っていたのは、私だけではありませんでした

  私だけが、貴女だけが互いを必要としていたのではなく

  互いが互いを、掛け替えの無い相手だと

  そう思っていたのです


  改めて、響は私の親友です

  そして私は、響の親友です

  その親友が保証します

  響は優しく、明るく、楽しく、可愛らしい

  私の知る限り、いえ、私が知らない人達を含めても

  貴女に勝る人はいないでしょう


  貴女が選んだ彼は、それはそれはいい人なのでしょう

  私も、彼はとてもいい人なのだと思います

  何故なら、そうでなければ13人分の我儘など聞けるはずがないからです

  これまで、私たちの我儘を聞いて下さり、ありがとうございました

  これからは、貴方の隣の女性の我儘だけを聞いてあげてください

  そして…



…今、寧ろ大変そうだという声が聞こえましたが、続けます


  そして、私達765プロのアイドルからの最後の我儘です

  隣の女性、響を、幸せにしてあげてください

  きっと響も、貴方のことを幸せにしてくれることでしょう

  時には失敗することもあるでしょう

  しかし、そんなときもへこたれず

  二人抱き合い、泣き合い、笑い合い

  貴方たちならその壁を乗り越えていけます

  何回転んでも、何回だって起き上がれます

  貴方たちなら、大丈夫です

  …長くなりましたが、之にて、祝辞とさせて頂きます

  二人とも、どうか末永く、お幸せに


「たかねぇぇぇ!」

大きな拍手とともに会場を白い塊が横切る

「響、化粧が崩れてしまいますよ」

涙をボロボロと流し、貴音に抱き着く響

その笑顔には先程の怒りは微塵も感じられない

貴音もそれに応え、微笑む


「響、戻らないと、新郎が寂しそうですよ」

新郎新婦席にぽつりと佇むプロデューサー

「そんなのいいさー」

「よくありません、貴女が待たせてしまったのですから」

例の約束のことを言っているのだろうか

渋々、響は離れる


「響、結婚、おめでとうございます」

「へへへ…ありがとう、貴音」

駆け足で席に戻る響

貴音もステージから降り、席に戻る

「…貴音!」

貴音の背中に声をかける

振り返ると同時に、貴音の腕の中に塊が収まる

手で抱えられるほどの大きさの、花束


ぶんぶんと手を振る響

新婦席の飾りが一つ、無くなっている

「次は、自分が!お祝いするからねー!」

貴音はクスリと笑い、手を振り返す

 結婚、おめでとう、響

スポットライトの当たる彼女は白く眩しく

まるで太陽の様に、輝いていた



おわり

ちょっとつづきます


「ああああああ……」

「小鳥さん、うるさいですよ」

「ブーケトスぅぅぅぅ……」

「小鳥さん、大丈夫でしょうか…」

「やよい、ほっときなさい」


「音無さぁ~ん…」

「なんか同じようなのがもう一人いるの」

「美希ちゃんは平気なの?」

「ミキ?平気だよ?ちょっとだけ悔しいけど、響ならーって」

「そっか」

「えっと、今日で響が18ってことは、あずささんが23で小鳥さんが…」

「真ちゃん言わないでぇぇぇぇぇ」

「小鳥がかわいそうだから、雪歩、行ってあげてなの」

「あ、うん、そうだね」


「あずささぁぁぁぁん真ちゃんがぁぁぁ…」

「音無君…」

「社長、お注ぎしますよ」

「お、おお、すまないねぇ律子君」

「いえいえ」

「律子君は飲まないのかい?もうお酒は飲めるんだろう?」

「はい、でも車で来たので」


「りっちゃんが運転できないと亜美たち帰れないしねー」

「ねー」

「こーら、行儀悪いことしないのー」

「はっはっは!しかし、タクシー代くらい出すが、いいかい?」

「はい…ああはなりたくないですし」

「音無さぁぁ~ん…」


「…音無さんとあずささん、大丈夫かしら…」

「あはは…そうだね…」

「それにしても、あんなブーケトス見たことないよ」

「あ、真、小鳥さんいじめはやめたの?」

「雪歩に止められちゃって」

「えへへ…」


「確かに、あんな高速ブーケトス見たこと……ぶふっ…」

「あ、千早ちゃんツボっちゃった」

「しょうがないよ、ボクだって笑っちゃったもん」

「次は四条さんかぁ…」

「よりによって一番わからない人に…」

「ふ…ふふっ」

「で…あれ?その貴音さんは?」

「あれ本当だ、いないね」

「なんであれでブーケトス終わりなのよぉぉぉ…」



「美希」

「ああ、貴音どうしたの?こんなところに」

「こちらの台詞です」

「ミキは、少し夜風に当たろうかなって」

「そうですか、では、私も」

「…うん」


「星が、綺麗ですね」

「月も出てるの」

「少し、冷えますね」

「そうだね、寒いの」

「……」

「まだ秋なのに、すっごく、寒いの」

「そう、ですね」

「寒いよ……ハニー…」

「…」


「あんた、響を泣かせたら承知しないんだからね」

「わかってる、もう二度と、響に寂しい思いはさせない」

「二度とって…あんたこの二年で何回響を泣かせたと思ってるのよ」

「うう…」

「響さん、助けなくていいんですかー?」

「うん、ほっといて大丈夫さー」


「そうですか……はわっ!?」

「おやおやおや~さっそく夫婦の亀裂ですかにぃ」

「う~重いよ真美~」

「がんばって!やよいっち!あんたならできる!」

「亜美も意味わかんない~」


「おい、亜美真美、怪我するなよー」

「ちょっとプロデューサー!聞いてるの!?」

「まあまあいおりん、その続きはまた今度でもいんじゃない?」

「そうそう、別に兄ちゃん、事務所辞める訳じゃないんだし」

「そ、それはそうだけど…」

「自分からも言っとくさー」

「それなら…いいんだけど…」


「まあ少しだけ社長に休みをもらったけどな」

「え?そうなの?」

「ああ、二週間くらいだけど」

「そう…」

「おやおや~?もしかしていおりん、寂しいの~?」


「ばっ…そんなわけないでしょぉー!」

「うあうあ~!いおりんが怒ったー!」

「ちょっと!亜美!真美!待ちなさーーーい!」

「こーーーらぁ!騒がないの!!」

「音無さぁぁん~」

「あずささぁぁぁぁん…」


「なんだか、いつも通りって感じだな」

「ああ、そうだな」

「でも、それが一番、楽しい」

「ああ」

「一番それが、いい」

「ああ」


「…プロデューサー」

「ん?」

「ごめんね?二年も、待たせて」

「いやいや、本当はまだ全然早いくらいだぞ?」

「そう?」

「せめて高校卒業してからでも…」

「そんなの、自分が待てないぞ」

「…そっか」


「…プロデューサー…」

「どうした?」

「…えへへへ」

「何かおかしかったか?」

「もう、プロデューサーじゃなくていいんだ…」

「…ああ」

「もう、我慢しなくて…いいんだ」

「ああ」


「ねぇプロデューサー…」

「好きだ」

「……ふぇ!?」

「俺も…大好きだ、響」

「……うん、自分も」

「自分も、幸せ、だぞ」


「響…」

「あ…」

「……」





「って何してんだみんな」

「え?……ふぇ?」


「あれ、止めちゃうの?」

「面妖な…」

「ほらー春香がごそごそうるさいからー」

「え、私のせい!?」

「私は何も、見てませんから」

「私もですぅぅ」

「千早お姉ちゃん、カメラ」


「ま、いいんじゃないですか?夫婦なんですし」

「はっはっは、そうだねぇ」

「伊織ちゃんなにー?見えないよー」

「いおりーん、さすがにやよいっちも高校生なんだから」

「う、うるさいわね!」

「響ちゃぁぁぁんもう一回ブーケ投げてぇぇ」

「プロデューサーさんでもいいですから~」


「…もおおおぉぉぉぉ!!!!」

「なぁ、響、響」

「え?なにさ…………」

「ん…」




「ぷは」




一同「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」パシャッパシャッ


「響、幸せになろうな」

「もう、うるさい、皆、ばか」

「皆…」



「…大好き」



一同「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」パシャッパシャッシャシャッ



「もおおおおお!うるさぁーーーい!」



おわり

すいません、前回からの続きで完全に自己満足です
読んでくれた人、ありがとうございます

pixivにまとめたのでよろしければ
貴音「響は太陽の如く」
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4496465

他のもよろしければ

自分は今、プロデューサーに「恋」をしている
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3303355

響「さみしいぞ、プロデューサー、」
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3784565

雪歩「私、真ちゃんのことが好き」
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4011483

響話以外の短編
http://www.pixiv.net/series.php?id=464471

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