姫「お父様、花嫁修業に飽きたので世界を散歩してきますわ」 (11)

王様「えっ、旅に出たい? 普通に駄目じゃよ?」

姫「駄目?」

王様「駄目じゃ。自分の娘にそんな危険なことをさせとうないわ」

姫「うぅん…」

姫「でもお父様、私はもう城に篭りっきりの生活は嫌なのです」

王様「そうか、ならば数日に一度だけお供をつけての散歩を許可しよう」

王様「それで良いだろう? な?」

姫「いいえお父様、私は旅がしたいと言っております」

王様「なあ、姫。何故お前がそこまでして旅に行きたいのかがわしには理解できんぞ」

姫「…お父様、私の読んだ書物にはこんなものがあると書かれていました…」

姫「…清涼な風が吹く谷、地獄の業火を噴き出す山、変わった人々の棲む村……」

王様「……」

姫「お父様。世界はこんなに沢山の宝物を用意してくれているのです…それを私は、この目で見たい…!」

王様「…おお、わが娘よ。愛娘よ」

王様「どうかわしを困らせないでくれ。どうか、おとなしく嫁いでいってくれ」

姫「お父様はどうしても私の言葉に耳を傾けれないようですね…」

姫「…ならば、私にも考えがあります」

王様「…?」

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姫「んっ、こほんっ」

姫「私姫は、これより宣言いたします。お父様と『離縁』するということを…!」

王様「…!? いかんぞ姫、一時の感情に流されては取り返しがつかんぞ!」

王様「お前には幼少の頃より言ってあったはずじゃ! 冷静になれと、穏やかになれと!」

姫「……感情、なんかじゃ」

姫「一時の感情なんかじゃありません!!」

王様「…!」

姫「ずっと、ずっと胸に隠してた…! 小さい頃からそういうものだって、教えられてきた…!」

姫「それでも、抗いたかった! もっと外の世界を見たかった!」

姫「…普通の幸せなんていらない。私は、私の幸せを手にいれたい!!」

王様「……姫」

王様「ならんぞ姫!! それ以上言うのであれば……っく」

王様「即刻『勘当』だ!! 二度と城には入れさせんぞ、それでもいいのか!?」

姫「ええ構いません。今日私があなたの前に立った瞬間から……」


姫「私は一人の探求者ですからッ!」


王様「…ええいッ! 衛兵、この女を城から叩きだせぃ!!」

衛兵「し、しかし…」

王様「こ、こんな頑固者はわしの娘ではないから!」

王様「はよせんかァ!!」

衛兵「は、はっ!」

姫「……」


姫 (これで、良いのです…これで…!)


王様 (何で勘当なんか言っちゃったのわし…わしの馬鹿ッ!)



*……。


衛兵「姫…城門の前まできてあれですが、その…」

姫「良いのです。私は後悔していません」

衛兵「そう、ですか…ですがお一人で平気ですか?」

姫「……?」

姫「…はいっ?」

衛兵「いえ、ですから。誰かお供をつけたらどうでしょうか…?」

姫「誰かって…そんなの決まってますわ」

衛兵「?」

姫「…あなたはか弱い女性を外に放るのですか?」

姫「まあ!酷いわぁ!」

衛兵「か弱い女性って…いや、でも……」

姫「私はあなたに守って欲しいのですよ…?」

姫「駄目……?」無垢な瞳キラキラ

衛兵「……」


衛兵「…ッ!」

衛兵「ええ、私がお守りしますよお姫さま!!」


姫「まあ嬉しい」

衛兵 (クソッ…衛兵なんかやるんじゃなかった…)

姫 (花嫁修業やってて良かったですわぁ)

ガヤガヤ…


姫「城下町に出たものの…」

姫「さて、どうしますか」

衛兵「何で俺にきくんすか…」

姫「こういうときに頼りになるのは殿方でしょう?」

姫「ナニがついてるならしゃきっとしてくださいよ…もう…!」

衛兵 (え…? 今下ネタ言った…?)

姫「…返事は!?」

衛兵「あ、はいすいません!」

姫「それでどうしましょうか」

衛兵「ええと…じゃあまずは服装をどうにかしたほうが良いと思いまっす…」

姫「服装?」

衛兵「はい。俺もそうですけど姫の服装は一際目立ちます」

衛兵「服屋かなんかに寄って旅人らしい服装に着替えたほうが良いかと…」

姫「ふぅむ…」

姫「…名案ですわね。それじゃあ案内してください、その服屋とやらに」

衛兵「はい」

衛兵 (ホントこの人人任せやな…)

衛兵「ここですね」

姫「まあ、ここが服屋なのね…!」

カランカラン…

店員「あ、いらっしゃー…い」

衛兵「どうも」ペコリ

店員 (うわっ…めっちゃ変な二人組が来たんだけど…)

姫「ちょっと宜しいでしょうか?」

店員 (特にこの女の子から凄い変人オーラが…)

店員「は、はい、なんでしょう」

姫「ここにお金があります」

ジャン!

店員「わっ! す、すっごい大金…!」

姫「なので、どうか私達に合うような服を見繕って頂けませんか?」

衛兵「お願いします」

店員「あっ、は…はい! 少々お待ちを!」


*……。


店員「…お待たせしましたぁ!」

姫「早いですね」

店員「ええ、そりゃあもう張り切っちゃいましたから!」

店員「私ら店員はお金がある人の味方です!」

姫「そ、そうなんですか…」

姫「ところで、服はどこに?」

店員「あっ、こちらです!」

ジャン!

衛兵「…二着ともすっごい庶民的なやつっすね」

店員「へっ!? 駄目ですか!?」

衛兵「いや、このほうがむしろ…」

姫「動きやすそうで良さそうですわね」

姫「気に入りました。買いますわ!」

店員「あ、ありがとうございまーっすっ!」

*さっそく着替えた。


姫→女旅人「…庶民の服も悪くない…いやむしろこっちのほうが良いですわね!」

衛兵→青年「俺は鎧のほうがまだ良かったっすけどね」

青年「つうか俺この格好じゃほとんどモブなんですが…」

女旅人「さっ! 服装も整えたところで行きましょう!」

女旅人「世界が私らを待ってますわー!!」タタタッ

青年「ああっ姫様! 走ると転びますって!」

女旅人「ウフフッー!」ダダダ…

青年「ちょっ…姫様ってば意外に足が速い…!」

青年「ま、待ってくださいよー!」ダダダ…


*……。


青年「ゼェ…ハァ……ゼェ…」

青年 (結局追い越せなかった…なにこの人……本当に外に出たことないの? 実はこっそり陸上大会に出てたりしない?)

女旅人「わぁ…! 見てくださいよ衛兵!」

青年「なんすか…?」

女旅人「これっ!」

青年「…ってこれ酒場じゃないすか。駄目ですよ、昼間からなんて」

女旅人「でも冒険の始まりといったらここでしょう?」

青年「確かに…っていや、でも!」

青年「姫様みたいな高貴な人が入るところじゃあ…」

女旅人「お邪魔しまーす」

カランカラン…


青年「ってもう入っちゃったァ!?」

青年「す、素早い…! 実に俊敏な動きだ…!」

青年「…あっと感心してる場合じゃない! 姫様ー!」


カランカラン…

青年「…うわぁ。やっぱり酒場の臭いってのには馴染めないなぁ」

青年「それより姫はどこに…」キョロキョロ


戦士「おお姉ちゃん色っぺえなあ!」ヤンヤ

遊び人「新人さんなのー?」ヤンヤ

女旅人「うふふ違いますよ…って今お尻触ったの誰ですか!」

戦士「グヘヘ」


青年「ぎゃ…ぎゃーっ! 姫ェーッ!」

女旅人「あっ、衛兵…」

戦士「あん? なんだこいつ…」

青年「姫! こんな獣の近づいたら駄目っすよ!」

女旅人「獣…?」

青年「そうです! 昼間から酒場に居るなんていうのは大体暇人か犯罪者か獣しか居なっ…」

ガシッ!


青年「……へ?」


戦士「おうおう兄ちゃん言うじゃねえか…? んんー?」

遊び人「あんたこの女の彼氏か何かかぁ? んんー?」

女旅人「あちゃー…絡まれちゃいましたね」

青年「えっ何でそんな姫冷静なの…というか離して! 俺一般人だから!」

戦士「許せねえなあ…こいつはめちゃ許せねェーッ!」

青年「止めてェー! 俺の体を揺らさないでえっえっえっえっ…!」

青年「ちょっ…姫様助けて!」

女旅人「はぁ…」

女旅人 (女に助けを求めるとは。情けない男ですわね……)

訂正

誤→「こんな獣の」

正→「こんな獣に」

戦士「フーッ! フーッ!」

女旅人 (猫ですか己は…)

女旅人「…コホン、ええと。私の連れが大変粗相を働きました」

女旅人「私が頭を下げますのでどうかお許し下さい…」ペコッ

青年「姫様…!」ウルッ

遊び人「んーどうしよっかねェ」

戦士「……」

戦士「…ッチ! しょうがないな」

パッ!

青年「あっ…」

青年 (意外に早く離して貰えた…? 姫様パワーすげえ!!)

遊び人「ん? おいおい離しちまっていいのかよ?」

戦士「…こいつの言ったことは確かに正しい」

遊び人「…?」

女旅人「……?」

戦士「…そうさ、俺らは昼間から酒場に居る駄目人間なんだ……ブラブラしていて落ち着きがねえ…!」

戦士「だから何も俺らは言い返せねえ…! だがな…だからってこんな乱暴して良いわけねえんだよッ!」

遊び人「……」

青年 (えっ? 躁鬱病患者……?)

戦士「…クソッ! 俺だってこんな駄目人間になりたかった訳じゃあ…!」


女旅人「……なら」

女旅人「変わればいいじゃないですか」

女旅人「変わって、堂々とお酒を呑めば良いじゃないですか」


戦士「…!」

遊び人「そんな簡単なことじゃあねえんだぜッ! お嬢ちゃん!」

女旅人「いいえ! 簡単です!」

女旅人「仕事をすればいいのですよ!!」

遊び人「だからそれが簡単じゃあねえんだってば!!」

遊び人「何年もプラプラしてた俺らに働き口なんて……!」

女旅人「…ありますよッ!!」


女旅人「ここに!!」バンッ!



戦士「……は?」

青年 (???)プシュー

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