商人「勇者様と私」(25)

勇者「なあ、商人」

商人「なんですか?」

勇者「これ見てくれよ」

商人「大きな宝石……どうしたんですか?」

勇者「ちょっとそこの洞窟の敵倒したら貰った」

商人「あ!また私を置いて行きましたね」

商人「私だって仲間なのに」

勇者「商人は商人だからさ、俺は戦うの専門だし」

勇者「商人が居なかったら、俺もっと前に野垂れてるだろうし」

勇者「でさ、これどうよ?」

商人「どうって言われましても」

商人「たぶん、かなり高額の値が付きますよ」

商人「このサイズは、市場でもあまり見ませんし」

勇者「いやいや、そういう話じゃなくて」

勇者「商人は気に入った?」

商人「私ですか?」

商人「…まあ綺麗だと思いますけど」

勇者「そうか!」

勇者「それじゃあ商人にプレゼントするよ」

商人「え?」

勇者「次の街で細工屋探して、ネックレスにでもしてもらえばさ」

商人「そんな、もったいないですよ」

勇者「何で?」

商人「こんな綺麗な宝石、私には似合いませんし」

勇者「大丈夫、絶対似合うって」

商人「そ、そんなことありません」

勇者「俺が保証するよ」

商人「うう……」

勇者「商人、ちょっといい?」

商人「はい、いいですよ」

勇者「今度のお城なんだけど」

勇者「いい装備があるみたいなんだけど、結構高いみたいなんだ」

勇者「貯金大丈夫かな?」

商人「ちょっと待って下さいね」

商人「……多分平気だと思いますよ」

商人「ほら、今この位残ってますから」

勇者「…うーん、やっぱりやめておこうかな」

商人「どうしてですか?」

商人「道中もありますし、問題無いですよ?」

勇者「だって、ここで使っちゃうと将来の為のお金が無くなっちゃうし」

商人「将来?」

商人「ああ、魔王の城付近なら、もっと高い装備があるかもしれませんね」

商人「でも、その時はもう少しやりくりしておきますよ?」

勇者「そうじゃなくてさ」

商人「?」

勇者「ほら、旅が終わったら、さ」

勇者「二人の家とか、ねぇ?」

商人「いや、私を見られましても」

勇者「と、とにかく今回は装備いらないから!」

商人「あっ……」

商人「どういうことかしら?」

勇者「商人、商人」

商人「どうしました?勇者様」

勇者「一緒にご飯食べに行こうぜ」

商人「もうそんな時間ですか……」

商人「はい、行きましょう」

勇者「何か食べたいものあるか?」

商人「あまりお値段が張らないものなら、何でもいいですよ」

勇者「……はあ」

商人「どうかしましたか?」

勇者「そういう夢の無いこと言わないでさ」

勇者「ほら、俺がこの前闘技場で手に入れた賞金もあるだろ?」

商人「あれは、勇者様の次の装備の為に貯金です」

勇者「ええっ!?かなりあったはずだけど」

商人「勇者様がまた駄々を捏ねないように、多めに貯めておくんです」

勇者「せっかくの大きな街なんだぜ?いいもん食って、いい酒飲もうよ」

商人「そんなこといって、お酒弱いんですから」

商人「また酔っ払って、朝辛くなりますよ」

勇者「あ、あれは商人が……」

商人「私が?」

勇者「……呑んでる姿がかっこ良いって」

商人「はい?今何て言いました?」

勇者「……別に何でもねぇし」

商人「どうして怒るんですか?」

勇者「怒ってねぇよ」

商人「怒ってるじゃないですか」

勇者「…ごめん」

勇者「……じゃあ、そこのレストランでいい?」

商人「はい、いいですよ」

勇者「…いつもこれだもんなぁ」

商人「勇者様、勇者様」

勇者「ん?どした?」

商人「ここ、食料がかなり安いです」

商人「多めに買っておきませんか?」

勇者「そうなのか?」

勇者「まあ、商人に任せるよ」

商人「それでは、必要なものを揃えてきます」

勇者「あ、俺も一緒にいくよ」

商人「大丈夫ですよ」

商人「私、こう見えて結構力持ちですから」

勇者「でも、二人の方が楽だろ?」

商人「それはそうですが」

商人「勇者様は今日の戦いでお疲れでしょうし」

商人「…私は後ろにいただけですから」

勇者「いや、商人が後ろにいてくれると、俺も頑張れるからさ」

勇者「とにかく、俺は全然疲れてないし」

勇者「買うものとかお金の管理任せちゃってるし、手伝いくらいしてもいいだろ?」

商人「そうですか?」

商人「そうおっしゃるのなら、一緒に行きましょうか」

勇者「ああ、よろしく頼むぜ」

商人「ふふ、頼むのは私ですよ」

勇者(可愛いなぁ……)

商人「それでは、参りましょう」

勇者「お、おう!」

商人「勇者様ー?」

勇者「あ、商人ここにいたのか」

商人「人通りが多い街ですね、ここは」

勇者「ここは魔王の影響をあまり受けてないからな」

勇者「人も集まってるんだろ」

勇者「今度ははぐれないようについて来るんだぞ?」

商人「あ、それでは」

商人「こうして手を繋げば大丈夫ですね」

勇者「そ、そそそそうだな」

商人「あれ?どうかしましたか?」

勇者「べ、べべべべ別に?な、何でも無いですぜ?」

勇者「そ、そそそれじゃあ宿に行こうか」

商人「え?情報収集はいいんですか?」

勇者「ほ、ほら、休憩も必要だし?」

商人「どうして私に聞くんです?」

勇者「へ、へへへ、目の前が霞んで来やがった」

商人「大丈夫ですか?」

勇者「お、おう」

勇者「……商人の手、柔らかいな」

商人「はい!?」

勇者「うん、女の子の手って感じする」

商人「と、突然何を言うんですか」

商人「それは、確かに私は算盤しますし、手も荒れがちですけど」

商人「あんまり言われたら恥ずかしいです」

勇者「あー、もう一周回ってどうでもよくなってきたなぁ」

商人「ゆ、勇者様、落ち着いて下さい」

勇者「暫く手は離さないぞ」

商人「勇者様が変になっちゃいました!」

勇者「商人、商人」

商人「はい、何でしょう?」

勇者「商人はさ、旅が終わったらどうするんだ?」

商人「そうですねぇ」

商人「せっかく、こうして世界中をまわったことですし」

商人「どこかにお店を持って、貿易とかしたいですね」

勇者「お、いいね」

勇者「他にはないのか?」

商人「他ですか?」

商人「可愛いお家を建てて、大きな犬も飼いたいです」

勇者「そうそう、そう言う感じ」

勇者「他は?」

商人「まだ必要なんですか?」

勇者「ほら、家族のこととかさ」

商人「あ、そうですね」

商人「お父さんとお母さんにはキチンと親孝行しないと」

勇者「ああー、確かにそれも大事だけど」

勇者「ほら、ね?」

商人「うーん」

商人「あ、子供は男の子と女の子一人ずつ欲しいです」

勇者「うんうん、その調子その調子」

勇者「ほら、その為に必要な人がいるじゃん?」

商人「必要な人?」

勇者「だって、子供は自然に産まれてこないだろ?」

商人「……そうですね」

商人「素敵な旦那さんが私を貰ってくれないとですね」

勇者「そうだね、それが一番大事でしょ」

商人「出来れば優しくて、包容力があって」

商人「落ち着いた人がいいですね」

勇者「そ、それはそうだね」

勇者「んんっ、僕、そういう人に心当たりが……」

商人「もし旦那さんが出来たら、お祝い期待してますよ、勇者様」

勇者「え?あ、うん、任せといてよ」

商人「それじゃ、明日早いのでもうねますね」

勇者「ん?どこで何がどうなった?」

商人「勇者様!」

勇者「な、何だよ商人」

商人「また、私を置いてダンジョンに潜りましたね!」

商人「それに、こんな怪我までして」

勇者「た、大したことないって」

勇者「俺一人でも十分だったし」

商人「そんなボロボロじゃ信用できません!」

商人「私だって戦えます」

商人「連れて行ってくれれば、おとりにくらいなれますから」

勇者「そ、そんなこと出来ないって」

商人「私が女だからですか?」

勇者「いや、そうじゃなくて……」

商人「とにかく、次に私を置いて一人で戦いに言ったら」

商人「もう勇者様とは口をききません」

勇者「ええっ!?それは困る」

商人「そう思うなら、連れて行って下さい」

商人「……私の知らないところで勇者様が怪我したり、……死んじゃったら」

商人「…私、生きていけません」

勇者「商人……」

勇者「分かった、もうしない」

勇者「ちゃんと連れて行くよ」

商人「約束ですよ」

勇者「おう」

商人「……じゃあ許します」

商人「今日は栄養価の高いもの食べさせてあげますからね」

勇者「商人、料理作ってくれるのか?」

商人「はい、頑張ってきた勇者様への労いです」

商人「早く元気になって、また旅を続けなくちゃいけませんから」

勇者「ありがとう、商人」

商人「同じパーティなんです、当然ですよ」

勇者「……」

勇者(本当は回復魔法つかえば全然平気なんだけど)

勇者(心配されたかっただけなのに、失敗したなぁ)

勇者(でも、商人の言葉は嬉しかったし、料理も食べたいから)

勇者(もう少しこうしておこう)

勇者「おい、商人、大丈夫か?」

商人「……少し風邪をひいてしまったようです」

商人「歩けますし、問題無いです」

勇者「いやいや、その体じゃ無理だって」

勇者「ほら、少しくらい遅れても大丈夫だからさ、休もうぜ?」

商人「…でも、私たちが行かないと、魔王が」

勇者「魔王の所に行く前に倒れたら、意味無いだろ?」

勇者「体調を万全にして戦わないと、勝てるものも勝てないし」

商人「……申し訳ありません、足を引っ張ってしまって」

勇者「そんなことないって」

勇者「商人はいつも頑張りすぎだ」

商人「……勇者様」

勇者「ん?どうした?」

商人「…こんなお願いをするのは、少し恥ずかしいですが」

勇者「何でも言ってくれ」

勇者「俺にできることならやるよ」

商人「……その」

商人「寝るまで、手を握っていてくれませんか?」

商人「何だか、不安で…」

勇者「いいぜ、任せとけ」

勇者「商人が寝てる間は、俺が守ってやる」

商人「……ありがとうございます」

商人「……んっ、朝?」

商人「……あ」

勇者「……すぴー」

商人「ふふ、ずっと居てくれたんですか」

商人「本当、優しい人なんですから」

商人「よく見たら小さな傷が結構あるなぁ」

商人「…手、大きい」

商人「あ、風邪は……」

商人「良かった、治ったみたい」

商人「これで、また冒険に行けるね」

商人「……」

商人「昔から無茶ばっかりして」

商人「本当、いつも振り回されてるんだからね?」

商人「聞いてる?」

商人「ふふ、聞いてたら言えないけど」

商人「勇者君が勇者になって」

商人「私は剣も魔法も出来なかったから、商人になってついて来ちゃったけど」

商人「ごめんね、全然役に立てなくて」

商人「でも、他の人が勇者君を取っちゃうのも嫌だから」

商人「仲間を探そうって言えないんだ」

商人「これからも、私に出来ること」

商人「精一杯頑張るから」

商人「……もし、それでこの旅が終わったら」

商人「……そうしたら」

商人「また昔みたいに、敬語もなくて」

商人「勇者君って、呼べるようになったら」

商人「一緒にお店、やれるといいね」

商人「……顔、洗ってこようっと」

勇者「………」

商人「それじゃ、また後で、勇者様」

勇者「………」

勇者(うわぁ、絶対聞いちゃいけないこと聞いちまった……)

勇者(言えねー、商人の顔見てたら起きそうになったんで寝たふりしたなんて言えねー)

勇者(ああーっ、あいつそんなこと思ってたのかよ……)

勇者(くそっ、今すぐ抱きしめてぇ)

勇者(でも、そうしたら聞いてたことバレるだろうし)

勇者(でも、今を逃すとまた他人行儀に戻りそうだし……)

勇者(ぐぬぬ…)

商人「……ふふ」

おしまい

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